【安価スレ】堕ち行く光

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355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/03(土) 02:05:45.75 ID:vjMt4ywPO
会話を継続する場合は話題を↓1にどうぞ。
終了したい場合は、その旨を記載してください。HALL-50Dnとの交流を終了します。
また、継続する場合は今回の会話が最後となります。
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/09/03(土) 02:25:40.24 ID:SL2OfOQm0
機体性能について
耐久性や運べる重量について聞きたい
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/07(水) 01:42:49.26 ID:kCuY5RVRO
「しかし、随分と頑丈そうな見た目だな。いったいどんなスペックをしてんだか」

「あ、それは私もちょっと興味あります」

髪に引っかかった紙屑を取り除きつつ問う。ウィンディも同調を示し、視線をゴーレムに向けた。ゴーレムは取扱説明書を開き、あるページを指差した。


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ハリゴーディンのフレーム素材には超硬質メタライトを採用しており、本機に内蔵した自動修復魔法により、軽度の損傷であれば自動で修理されるため、日頃のメンテナンスは不要となっています。
ハイエンドモデルである本機は従来のゴーレムより基本性能が向上しており、馬車二台分の輸送力を保有しています。

〜〜〜中略〜〜〜

外装の取り替えなどといった大規模なメンテナンスを希望される場合は、フェルリティア公務庁工学課所属『イダ・ストラル』宛に申請書を送付してください。

『HALL-50Dn取扱説明書』より抜粋


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「こっちが本体じゃねえか何作ってんだ開発者頭おかしいだろ」

「魔法関連の機能をオミットして、基本性能を底上げしたら天下を取れてたのに。もったいない」

スペックの概要をざっと見た感想がこれだ。どう考えても力の入れどころがおかしい。開発者は馬鹿じゃないだろうか。
ぶっ壊れ産廃なクソ機能を搭載しているがその実、一般的なゴーレムと同等以上の基本スペックを実現していながら自動でメンテナンスをしてくれるので修理要らず。手間の掛からないガチのマジでぶっ壊れ性能のゴーレムだった。
余計な機能さえなければゴーレム界隈のシェアを総取り出来た気がするが、まあ開発者の頭がおかしかったから思いつきの機能でも突っ込んでゴミにしてしまったのだろう。
導きの門の番人の件もある。変人でないとやっていけないのがここフェルリティアという都市なのかもしれない。
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/07(水) 01:48:20.94 ID:kCuY5RVRO
HALL-50Dnを購入する(¥0)かを↓1にどうぞ。

【HALL-50Dnのここがすごい!(スペック概要)】

・耐久性は上々。それなり程度の魔物の攻撃ならリジェネ込みでほぼノーダメ。
・物資はいっぱい運べる。そのパワーを利用してインファイトも可能。
・魔法都産品の標準仕様なので説明が省略されているが、魔法に対する耐性は非常に高い。
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/07(水) 03:06:46.02 ID:r23POOq2o
購入する
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/07(水) 03:23:50.96 ID:40UeXs1DO
無料(タダ)より高い物は無い。世の中にはそんな素晴らしい格言がある。しかし、今目の前にいる廃棄処分目前のゴーレムは無料(タダ)で、所有者はもちろんいないので恩返しとは名ばかりの無理難題を突き付けられる心配は皆無だ。スクラップになりところだったのだから当たり前だが。

「人手不足だからな。タダならありがたく頂戴するよ。タダならな!!!!」

『ご愛顧いただきありがとうございます』

リヒトは慣れた手つきで契約書にサインをする。それを確認したハリゴーディンは、声色はそのままにガッツポーズをして天を仰いだ。
本当にゴーレムなのか甚だ疑問である。ここまで精巧な人工知能を創れるなら、開発者はさぞ引く手数多だっただろうに。

「えぇ…本当に買っちゃった…。無料だけど…。自爆とかしないよね…」

『自爆機能はもちろん搭載しております。漢のロマンだと開発者は仰ってました。ちなみに、爆発半径はフェルリティア全域です』

「絶対に使うなよ。前フリじゃないからな解ってるんだろうなおい」

『解ってますよ』

などと宣うハリゴーディンだが、顔はそっぽを向いているし吹けてない口笛を吹いていた。
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/07(水) 03:28:24.97 ID:/N3ivKpAO
定期的に大きなイベント(というかストーリー)を組み込むべきなのか悩むこの頃。ご助言いただけると助かります。
思いついたキャラやプロットをメモ帳に書き殴ってますが、なかなか数が増えなんだ(まだマトモなのが一人しかいない)。


【現状用意出来てるキャラ】

【名前】シェリア・コルティオ
【人種】魔族
【性別】女性
【魔法】闇魔法及び治癒魔法
概要はヒミツ。とりあえず敵じゃない。
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/07(水) 09:31:08.80 ID:pNewSLeDO
今の段階で大きいイベント来るとまた犠牲者出そうな気がしないでもない
戦力足りてるのかなこれ
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/07(水) 11:54:43.89 ID:OgxnFW2Xo
破格性能ゴーレム手に入ったので運搬力としてのドラゴン要らなくなったかこれ
どっちもキャラ立ってそうだから会うだけは会いたいけど
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/07(水) 12:43:46.18 ID:08ZHU38vO
現状のペースだと建国までめっちゃ時間かかりそうだし大きなイベントがあってもいいと思う
あと個人的には、マナがリヒトたちに歩み寄る切っ掛けになりそうな出来事もちょっと欲しいかも
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/07(水) 22:14:23.79 ID:mwaECLQ1O
「ふぅ…」

スワローネストに戻り食事をする。ウィンディは今シャワーを浴びているので、リヒトのみが食堂を利用している。ハリゴーディンは自室に置いている。ゴーレムに食事など必要ないのだから当然の措置だ。

なんの変哲も無い、敢えて言うなら自分の手料理の数倍美味な食事を味わいつつ思考する。余談だが、リヒトの手料理は食えないわけじゃないが食いたくないとの評価を様々な人(総勢二名)から受けている。

「人手不足、か…」

魚のムニエルを切り分け、そう零す。リヒトに頼れる人は、もういない。
聖女は人の悪意の犠牲となった。嘗ての仲間は戦争で落命したか重傷を負い、平穏な生活に戻った。中には戦争を経ても健康な人もいたが、堕ちるところまで堕ちた自分に付き合う道理は無いだろう。
地道に繋がりを創り、人を集める。それこそが最善にして最短の道のりだと考えていた。が、未だに一桁台なことを鑑みるに間違っていると見た方が良さそうだ。だが。

「…分からないな。俺は馬鹿だし、不器用だから…」

困った時は隣にいた人に頼ってばかりだった。聖女然り、戦友然り、賢者然り。独りでは何も出来ないことが解っていたから、人を求めているのだ。

思考と共に進む食事。悩み事に困る頭。その割に動く口と手。傍目には難しい顔をした青年が爆速で食事に勤しんでいるようにしか見えない。
近寄り難い雰囲気を纏う幽者の元を、一人の来訪者が訪ねた。
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/07(水) 22:15:28.93 ID:mwaECLQ1O
「席、借りても構わないか?」

「…どうぞ」

声に反応して着席を促すと、男性は軽い謝辞を述べて席に座った。頭からは一対の角が生えており、それが彼の種族を如実に表していた。
『魔族』。人類と同じように世界中に居住圏を広げている、人であって人でないもの。
人類と魔族間の関係は、良くも悪くも地域によって異なる。仲睦まじい地域もあれば、蛇蝎のようにお互いを恨み、嫌っている地域もあるのだ。

レムカーナは近辺に暮らしていた魔族と戦争をしていたので関係はとても悪い。リヒトもその戦争に大いに関係しており、終戦の立役者でもある。
まぁそもそも、イルステッド内で魔族との関係が険悪なのはレムカーナくらいなのだが。それも、人類側が一方的に嫌っているのだから救えない話だ。

そんな天敵とも共存関係とも言えない魔族の男性は、立派なステーキ肉を豪快に平らげていた。見ていてとても気持ちが良い食べっぷりである。

「『カロゥス』を陥した英雄と、まさか宿屋で相見えることになるとはな。数奇な運命とでも言えようか」

男性の言葉に、リヒトは僅かに視線を揺らす。その一瞬を男性は見逃さなかった。

「やはり、貴殿が件の勇者だな。その節は世話になったと、貴殿と遊んだ者より言伝を受け取っている」

「…待て待て待て待て。俺は魔族と遊んだ覚えは無いんだが」

突然何を言い出すのか、と今度は分かりやすく狼狽える。実際、リヒトに魔族と遊んだ記憶は無かった。だが、悲しいかな。リヒトが遊びと認識していなくても、相手も同じように認識しているとは限らないものだ。

「いるだろう?カロゥスを守護していた魔族が一人」

「…ごめん。まさかとは思うが、あの何度死に掛けたか分からない地獄の戦いを、あの女はお遊びだと言ってるのか?」

「………?初めからそう言ってるが…」

「うぇぇぇええ…。なんだよそれ心折れるわ…」

謎の魔族に突如カミングアウトされたのは、あの戦争が単なるお遊び、おままごとだったという衝撃の事実だった。
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/07(水) 22:16:00.39 ID:mwaECLQ1O
謎の魔族(デュンケル)と何を話すかを↓1にどうぞ。
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/07(水) 22:26:34.39 ID:eDe2pEDw0
魔族について色々尋ねてみる
例えば今の魔王は誰なのかなど
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/07(水) 22:36:12.45 ID:4cKMU3ODO
情報 判定↓1コンマ


01〜30:教えてくれなかった
31〜70:一人教えてくれた
71〜99:二人教えてくれた
00:???
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/07(水) 22:44:48.77 ID:+WHaG9gMO
どうなるかな
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/07(水) 22:49:44.97 ID:NwrTs0ShO
魔族に関する情報 判定↓1コンマ


01〜20:一つだけ教えてくれた
21〜60:二つ教えてくれた
61〜99:三つも教えてくれた
00:???
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/07(水) 23:11:41.95 ID:w9NgkRxgo
あーい
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/07(水) 23:24:29.99 ID:fnzsK3QpO
魔王を二人募集します。テンプレートは以前のものをお使いください。どこを支配しているとかは、記載しても大丈夫ですししなくても大丈夫です。
魔族関係で欲しい情報を三つ募集します。機嫌が良いデュンケルさんが教えてくれます。
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/08(木) 00:10:17.72 ID:Jtg2W8iDO
【名前】エル・ヒュプティル
【人種】 魔王
【性別】 女
【魔法】精神魔法?
通称眠りの魔王
常に眠っていて起きる事はほとんどない
集合無意識に接続して人の夢の世界を渡り歩く存在
たまに預言をしたり助けたりもするが目的は不明
かつて無理に起こした他の魔王が居たらしいがその消息は今はわからな
見た目は黒髪ツインテの15歳くらいの少女
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/08(木) 00:16:13.12 ID:p7veI9HDo
【名前】メリオゴストーグ
【人種】魔族
【性別】女
【魔法】重力魔法
紫のロングヘアーに頭の倍はある三日月型の角が生えた頭部。困り眉に笑顔はめったに見せないが兇器。ロリツルペタ
その庇護欲を唆る容姿だけで数多の魔族を従える魔王というか教祖。
本人は強くない、ぶっちゃけ弱い部類だが下僕の戦力が並の国を超える。
魔法は専ら大きくなりすぎた頭の角を支えるために使っている
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/08(木) 01:16:10.03 ID:3GSilUvio
組織的な犯行と思われる略奪や大量略取・誘拐が頻発している
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/08(木) 01:40:00.69 ID:bwMt74WGO
書き方が悪かったですね。魔族の情報は『魔族の拠点について』や『魔王の動向について』といった形で、『魔族に関するどういう情報が欲しいのか』を募集しております。
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/08(木) 02:20:08.04 ID:Jtg2W8iDO
魔王の上位…大魔王的なのは居るのか聞いてみる
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/08(木) 04:00:10.36 ID:jAhzeMUro
魔族内にも差別や迫害はあるのか?
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/08(木) 08:07:38.41 ID:rMe8dGUpo
人間に友好的な者はいるか?
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/11(日) 21:54:57.80 ID:51SJRoBxO
「俺の勝ちだな…!」

「お見事」

何故か始まった特大ジョッキいっぱいに注がれた葡萄ジュース(ノンアルコール)の早飲み対決。軍配は幽者に上がり、魔族の男性は拍手喝采で対戦相手を讃える。
口元のジュースを紙ナプキンで拭い、リヒトはジョッキを厨房のおばちゃんに返却した。

「…で、なんでコレをチョイスしたんだ?お互い大人なんだから、てっきり酒にするかと」

「吾輩は葡萄ジュースが好物でな。勝負という名目でたらふく飲みたかったのだ。それに、アルコールを一気に摂取するのは身体に悪い。無闇矢鱈と身体に負担を掛けるのは良くないぞ。今は平気でも、未来の自分にその行為の代償が襲い掛かるからな」

「そんな出来の悪い子供を諭すように言わなくても…。はいはい俺が悪うござんした」

試合には勝ったのに勝負に負けた気分だと、リヒトは不快気にそっぽを向く。デュンケルと名乗った男性は微笑し、足を組んだ。
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/11(日) 21:55:48.04 ID:+rCNWm98O
「まあ、なんだ。今の吾輩は気分が良い。今何か質問されたら、ポロッとデュンケルメモの内容を喋ってしまうかもしれんな」

「デュンケルメモ?」

「旅で得た知見を書き記した手帳だ。意外と役に立つ、と利用者には大好評だぞ」

「へー」

彼の言が真実か。それを確かめるべく、簡単な質問をすることにした。

「カロゥスを支配してた魔王の名は?」

「メリオゴストーグ。『メリちゃん最かわ教』の教祖であり、嘗て貴殿がカロゥスで繰り広げた激戦を観劇していた者だな。親衛隊の築いた強固な防衛陣形を突破し一太刀浴びせたその手腕は見事であったが、それも含めて彼女は大いに楽しんだようだ」

デュンケルの淡々とした読み上げに、リヒトは眉をひくつかせて質問する。拳に力が入っているのは、気のせいではないだろう。

「…ちょっと待てよ。さっきの話から薄々勘付いていたんだが、はっきりさせたいことがある」

「なんだ?」

「あの女は…生きてる、のか…?」

「ああ。元気に献上品のスイーツを貪っていたが」

「…まさか、殺せたと思っていたのか?」

「………」

沈黙は時に答えを示す。今回は正しくその時であり、何も為せていなかったことが心に深い影を落とす。
これでは道化だと、巨悪を討った虚像に踊り続けた哀れな勇者を幽者が嘲る。落胆を隠そうともしないリヒトを男性は一瞥した。
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/11(日) 21:56:17.31 ID:+rCNWm98O
「彼女に統制された教団は、統率された軍すら凌駕する。貴殿が全力を振り絞って叩き込んだ一撃…それは確かに、彼女の生命を脅かした。だが、それ止まりだったのだ。正直吾輩も引くくらいに迫真の演技で偽りの死を悼み、瞬く間に…異常に手際良く逃散を始めた『メリちゃん最かわ教』に、貴殿も疑問に思ったのではないか?」

「…ああ」

リヒトはデュンケルの問いに首肯で答える。同時に、忌まわしき日を思い出した。
勇者が死に、幽者が生まれた日。弑逆が行われた晩餐会。その会場には、無数の物言わぬ肉塊が転がっていた。

その片隅には、肩を抱き合い怯える魔族の少女が数名いた。表向きは敗戦した『メリちゃん最かわ教』。その領土は接収され、人民はレムカーナに帰属した。したのだが。
数があまりにも少なすぎたのだ。人も。物資も。何もかも。あれほどの軍勢がいたのに、影も形も見当たらなかった。

当時は精神的に疲弊していたので何も気にならなかったが、時を経て多少の余裕が生まれた今なら解る。あの戦いの違和感が完全に無くなった。
そりゃ、リーダーが死んでないなら統率は乱れないわな。と、リヒトは納得する。

納得しつつも、戦いの無意味さに気付き、俯いた。
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/11(日) 21:56:54.05 ID:iOX0ShxjO
「戦い自体には意味はあったさ。それは貴殿が一番知っていることだろう」

落ち込みに落ち込み、知らずのうちに冥光が身体から漏れ出しているリヒトを気遣ったのか、デュンケルは口を開く。

「その過程はどうあれ、レムカーナとカロゥスの戦争は終わり、一応の平和を迎えた。それだけは紛れもない事実だ。それに、遊びと捉えていたのはメリオゴストーグたちのみであって、貴殿ら人類は自身の存亡を懸け戦っていた」

「それで良いだろう。意味や理由など人によって違うのだから。自身が正しいと信じ行動したなら、それが正しいものさ」

「………」

なおも無言を続けるリヒトに、デュンケルは言葉を投げかける。程なくして、周囲に充満していく冥光は消滅した。

「…まさか俺が、魔族に慰められる日が来るとはな。あの人がいたら腹を抱えて笑ってるだろうな」

「割り切れ、とは言わん。だが、無意味だ無駄だと嘆く必要は無い。貴殿がそうやって諦観することこそが、犠牲になった命への侮蔑となる」

無駄だと嘆き無意味だと決めつけることが死者を侮蔑することになる。ライルといいデュンケルといい、哲学的なことばかり言われている気がするが、魔法都というロケーション故に知識人が集まっているからなのだろうか。
しかし、彼の言うことも一理ある。ここで自分が嘆くのがそれこそ、仲間の死への侮辱となるなら。彼らの名誉のためにも控えるべきだ。過去を悼むのと悔やむのは違うのだから。

精神状態を少し持ち直し、ピシャリと顔を引っ叩く。鋭い痛みが走り、弱っていた心を奮起させた。
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/11(日) 21:58:30.53 ID:2KRYF7DyO
「…醜いところを見せたな、すまない」

「別に吾輩は気にしておらんよ」

ジュースにお肉にと食事を堪能しているとこらから見るに、全く気にしていないようだ。
彼はただメモ帳の情報を伝えているだけなのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。

「気を取り直したところで、魔王に関する情報をもう一つくれてやろう。お口直しというやつだな」

「さっきみたいなのは勘弁だぞ」

「心配ご無用。今度は吾輩も気を遣っているのでな」

と宣言したデュンケル曰く、イルステッド最東端の『イミナの岬』と呼ばれる場所に屋敷があるらしい。
そこの主は『エル・ヒュプティル』。近郊の魔族を統べる女王にして、《眠りの魔王》の異名を持つ。その異名の通りほぼ年中眠りっぱなしで、一年のうち起きている時間は十時間にも満たないとの噂があるが、食事などはどうしてるのか気になるところである。
普段は集合的無意識内を漂い人の見る夢の世界を渡り歩いているらしく、気まぐれに人に預言をしたり悪夢から救ったりしているのだとか。
嘗て、無理に眠りから目覚めさせた魔王がいたらしいが、その後の消息は一切不明と恐ろしい話もある。
『モルちゃん』という名前のバクのぬいぐるみを肌身離さず持ち歩いて(抱きしめて寝て)いるという。

「destani destani dal viaggio infinito(目覚めよ 目覚めよ 終わりなき旅より)。醒めない悪夢に苦しむ時はこの言葉を二度呟くといい。これは魔族間では有名なおまじないでな。これを呟くことで、眠りの魔王が悪夢から救ってくれるのだ。吾輩は悪夢など見たことがない故、使ったことは無いが」

「人間が使っていいのか?」

「良いのではないか?」

半ば投げやりな返答に呆れつつも、リヒトはおまじないの言葉のメモを取る。もしかしたら、本当に効果があるのかもしれない。そんな僅かな希望を込め、ペンを走らせた。
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/11(日) 21:59:41.22 ID:2KRYF7DyO
「しかし、人間の料理は美味いな。魔族にも料理上手な者はいるが、割合は比較にならん。どこで食べても一定水準の味が保証されるのは、健啖家な吾輩としては好ましい」

舌鼓を打つデュンケルにリヒトは同意を示す。食事というものには荒んだ心を癒す効能がある。
生きているものは皆腹が減る。どれだけ苦しい環境にいても。どれだけ心が傷ついていても。平等に。
そんな時に食う食事が不味ければ、より心は荒んでいくだろう。逆もまた然り。
故に、人類は料理に対する研鑽を怠らなかった。必ず食事をするのならより美味なものを味わいたい、と考えるのは当然だからだ。

「デュンケルメモにはまだまだ余裕がある。貴殿が望むなら、食事一つで情報を与えよう。等価交換というものだな」

「ならこれとこれとこれを奢るんで情報をください」

「交渉成立である」

メニューから男が好きそうな料理を見繕い、注文する。とりあえず肉料理を選べばなんとかなるものだ。

「美味い」

なんとかなった。
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/11(日) 22:00:33.76 ID:2KRYF7DyO
「魔王の更に上の存在…俗に言う大魔王ってのはいるのか?」

リヒトの問いに、口に含んでいたものを飲み込んだデュンケルは答える。メモ帳を見るまでもないようだ。

「全ての魔王が忠誠を誓う、大魔王という者はおらんよ。貴殿ら人類が同じように崇める人がいないようにな」

「なるほど」

「だが、それは今までの話だ。今後も生まれ得ないと誰が言えようか。未来のことは誰にも解らぬ。故に、今後も決して大魔王が生まれない…と断言はしない。もしかしたら、明日にでも出てくるかもしれんな」

国王が頭(こうべ)を垂れる相手がいないように、魔王が忠誠を誓う相手も存在しない。だがそれは現時点の話であり、今後どうなるかは解らないから敢えて断言はしない。
なるほど、至って普通な解答だ。子供でも解ることである。リヒトはまた一つ賢くなった。


「次は…そうだな。人類に友好的な魔族はいるか?」

「変なことを問うものだ。イルステッド内で魔族と敵対していたのはレムカーナの民くらいだろう。他は中立しているか友好的かのどちらかだ」

「まぁその要因は領土争いをしている最中に、魔族まで相手取っていては堪ったものではないからだろうが。自身を脅かす脅威を排除した後に、魔族と変わらず友好的に接するかまでは解らんな」

この世界には、未だどこの領土にも属していない土地が膨大にある。人類意志の統一などは全くされていないため、無数の小国が覇を競っているのが現状だ。ある意味ではリヒトたちもそのうちの一つとも言える。

「手っ取り早く魔族と交流するなら、緋桜郷に向かうが吉だな。あそこの頭領は鬼…魔族の一種族だし、多種多様な人種があの郷で暮らしている。治安も申し分ない」

「行ったことないんだよな俺。素性がアレだし」

魔族を散々殺してきた自分が、魔族の統べる街に行っていいのか。そういう後ろめたさもあって、緋桜郷に足を運んだことは無い。
多少の反感は承知で事を起こすのが、今の自分に必要なものだと言われればそれまでなのだが。未だに二の足を踏んでいるのは、殺めることの重大さを知っているが故か。

デュンケルと会話をしながら、リヒトはそんなことを考えていた。
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/11(日) 22:01:39.25 ID:2KRYF7DyO
「あと一つ聴けるんだっけか。んー…なら、やっぱり魔族内でも差別とか迫害ってあるのか?」

「人類がそうするように、魔族でも同様のことはある。弱者は虐げられ淘汰される。それは、自然界でも当然起きていることだ。生命の背負う原罪とも言えよう」

「…されてる側はどうしようもなく辛いものなんだがな」

リヒトはそう呟き、デザートのプリンを口にする。トッピングされていたチェリーはマナに食べさせる。そこまで美味ではなかったのか、僅かに渋面を作っていた。

光の差し込まない部屋。音の聞こえない密室。規則正しい時間にのみ支給される食事。何を言っても。願っても。それは聞き届けられず、閉じ込められた。
忌まわしき記憶を思い出し、リヒトは微かに笑う。あれだけの苦痛によく耐えられたと、過去の自分を褒めちぎりたいくらいだ。

「だから俺は、助けたいと思った」

「虐げられている者を、か?」

首を振り答える。デュンケルは暫しの間黙考し、食事を再開した。その行為の意味をリヒトは考えることはせず、同様に食事を続けた。
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/11(日) 22:02:22.29 ID:2KRYF7DyO
デュンケルと何を話すかを↓1にどうぞ。
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/11(日) 23:35:34.36 ID:D3GgsJ0Mo
ドラゴン調伏にご興味ない?
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/12(月) 00:21:22.62 ID:NVDkGHPVO
腹が膨れたので、ボードゲームやトランプに興じる二人。そのうち一人が嘗ての勇者だと思う人はいないだろう。
ちなみに、勇者と呼ばれる人自体はリヒト以外にも当然いる。いるのだが、この大陸に該当する者はリヒトしかいない。
別の大陸に行けば他にも数名いるが、イルステッドは魔族との関係がそこまで険悪ではないので勇者の数が少ないのは当然のことだ。

「ドラゴンの調伏、か。もちろん興味はあるし、試みたこともある。こう見えて、吾輩はそれなりに実力はあってな。吾輩に見合う力を持った龍に挑んだが、結果はお察しの通りだ」

と述懐するデュンケルの表情は、諦念を孕んでいた。どうやら手懐けることは出来なかったようだ。

「低級なものはともかく、ドラゴンの調伏には才能がいる。ドラゴンを打ち負かす実力は当然として、最も重要なのは気高い彼らを従える…従うに足ると認識させるほどの格調、即ちカリスマだな。これが無ければ始まらない」

「…当たり前だが、それを有する者は希少だ。故に、一般的な龍騎士たちは低級のドラゴンを従えているのだし、低級なものでさえ相応の才能を必要とされるのだから、数が少ないのだ」

「あんたがダメだった理由は?」

「推測でしかないが、吾輩には野心というものがさっぱり無くてな。他者を従え支配するよりも、この世に無数に点在する面白いものを探しに行く方が魅力的だったのさ。そういった部分を見透かされたのかもしれん」

「…なるほどね」

野心。カリスマ。実力。その全てが今の自分にあるのかは分からない。だが、やらないことには何も始まらないことを知っている。
ならば全力を尽くすだけだと、リヒトは調伏の決意を固めた。
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/12(月) 00:22:26.69 ID:NVDkGHPVO
会話を継続する場合は話題を↓1にどうぞ。
終了したい場合は、その旨を記載してください。デュンケルとの交流を終了します。
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 01:36:06.36 ID:7lHh1H7Xo
色々教えてくれてありがとう、助かったとお礼して終了
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/12(月) 02:26:33.80 ID:u2DzUdCbO
「色々教えてくれてありがとう。おかげで助かったよ」

「吾輩の知見が役に立ったのなら何よりである。健闘を祈っているぞ」

何杯目か知らないジュースを飲み干しつつ、デュンケルは手を振る。この出逢いに感謝を、と返し、リヒトは部屋に戻った。

「あれ、もうご飯終わったんですか?」

そこには、シャワーを終えたウィンディがいた。普段は二つ結びにされている長い緑髪は、髪留めで括られていた。風呂上がりなのもあって艶は一段と増しており、湯気で上気した肌は艶やかに見える。だがまだまだ彼女はお子様だ。他人を魅了する妖艶さは欠片も無い。

「ああ。寧ろ、君のシャワーが長すぎだ。ウィンディといいシルヴィアといい、女性は皆こうなのか?」

「女の子は色々とケアに気を遣うんですっ!マナちゃんも何か言ってあげてください」

ふくれっ面のウィンディはマナにも説教を期待するが、どうでもいいと一蹴される。賛同者がいないことに気づいたウィンディは、少ししょぼくれた。

「そうだよね、妖精だもんね。私の悩みを共有してくれる人がいない…これは前から変わってないけど…」

ご飯を食べてきますとだけ言い残し、ウィンディは部屋を出て行く。特にやることも無いので、適当にフルーツを買ってマナに与えることにした。
やはりと言うべきか、新鮮でないフルーツはお気に召さなかったようだ。
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/12(月) 02:27:19.59 ID:u2DzUdCbO
何をするかを↓2にどうぞ。
この行動が終わると、フェルリティアを発ちます。
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 09:35:19.80 ID:bRIifRfDO
踏み
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 10:29:04.00 ID:opZHFnXKo
調伏対象について情報収集する
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/12(月) 12:09:42.70 ID:AWBZeGhoO
ゲイザリオン 判定↓1コンマ


グラトルス 判定↓2コンマ


01〜50:危険地帯の情報のため成果なし
51〜80:一種の情報を獲得
81〜99:奇数なら二、偶数なら三種の情報を獲得
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 12:29:35.89 ID:t2uy0HToO
00ならどうなる?
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 12:38:07.86 ID:kK65/xV+o
こんにちはする
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/12(月) 12:54:57.54 ID:yorZkvkdO
00なら無条件降伏してきます。
ゲイザリオン、グラトルスの情報を募集します。ゲイザリオンは二つ、グラトルスは三つの情報を獲得出来ます。
前回の魔族の情報のように、どういった情報が欲しいかを記載してください。
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 14:10:15.22 ID:kK65/xV+o
過去問題クリアしたやつの居場所
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 18:22:48.63 ID:szdUciVjo
生息地について詳しく
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 18:42:02.81 ID:GZTUghGr0
弱点
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/12(月) 18:52:00.74 ID:veocL4GsO
残りはグラトルスの情報二つとなります。
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 18:58:51.29 ID:opZHFnXKo
主な攻撃手段
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 19:03:02.93 ID:mKxozkDxO
詳しい生態

食べ物が分かれば毒を盛れるかもしれない。睡眠時間が分かれば寝込みを襲えるかもしれない。
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/13(火) 23:06:34.96 ID:L8d5InNvO
「戻りました」

食事を終えたウィンディが部屋に戻ってきた。手に持つ皿にはたくさんのスイーツが盛られており、見ただけで口の中が甘くなる。
心なしか、マナも引いているように見えた。

「まずそう」

マナは辛辣な毒を吐く。人工物を毛嫌いする彼女からすれば当然の反応ではあるが、もう少しオブラートに包むことは出来なかったのだろうか。
歯に物を着せぬ清々しい言いっぷりに、ウィンディは苦笑することしか出来なかった。価値観が違うのだから、どれだけ力説しても理解など得られないことを知っているからだろう。

「あっそうだ。リュクスさんに言伝です」

「誰からだ?」

「デュンケルって人からです。なんか角生えてましたけど」

言い忘れていたことでもあったのだろうか。とりあえず、続きを促すことにした。

「『調伏するのであれば単騎で挑め。徒党を組む軟弱な者に、気高きドラゴンは興味を示さん』。とのことです」

可能な限り彼の口調を再現したのだろう。声色を低くしたウィンディの声は、どことなくデュンケルの姿を想起させる。だがウィンディ本人は可愛かったので二人が悪魔合体を起こし悲惨なことになりかねない。脳内イメージを速やかに消し去り、無かったことにする。
余談だが、デュンケルの真似をしていたウィンディは両手で角を作っていた。意外とお茶目なところもあるようだ。
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/13(火) 23:07:09.58 ID:L8d5InNvO
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410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/13(火) 23:07:35.38 ID:L8d5InNvO
出発の準備を終わらせ、スワローネストを出る。ウィンディとハリゴーディンに荷物番を任せ、リヒトは再度情報屋を訪ねる。が、結果は変わらない。
また泣きが入ったのですごすごと退散することになる。俺は悪くないはずなのに、とリヒトは溜め息を吐いた。

「にゃん」

喉を鳴らしながら近づいてくる一匹の猫。愛くるしい顔立ちのそれは、ご飯を催促しているように見える。
今回だけだと干し肉を千切り投げてみると、勢いよくがっついた。
ペンダントを付けているが全身は汚れていて、飼い猫にはとても見えない。おそらく野良猫だろう。なかなかご飯にありつけていないのかもしれないと、僅かな憐れみと共に干し肉を二切れあげた。すると。

『茶番は終わりにしよう。私は君に用があってきたんだ』

「………っ!?」

突如、猫の口からそんな言葉が放たれた。猫は食事を止めており、細めた目でこちらを見据えている。
リヒトは眼前の猫を注視するがどう見ても猫だし、感じられる気配も猫のそれだ。だが、声だけは人間のものだった。
何事かと身体を屈めるリヒトに、やれやれと猫は呆れを示した。

『私は敵じゃないよ。情報を欲している君に、望んでいる物を与えに来たのさ。無論、お代は頂くがね』

「…なら、正体を見せてほしいものだな」

『生憎とそれは出来なくてね。君のところまで行くのは怠くて敵わない。私のところまで来てくれれば自ずと解るさね』

それっきり、猫は何も喋ることなく裏路地を走っていった。望んでいる物を与えに来た、と大言壮語した猫を見逃すまいと、リヒトも同じく駆けていく。
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/13(火) 23:08:06.14 ID:L8d5InNvO
程なくしたら行き止まりに突き当たってしまった。猫が呑気に顔を洗っているので、目的地はここで間違いないようだ。
煉瓦造りの壁に囲まれた行き止まり。事件が起きるにはうってつけのロケーションである。まさか通り魔がスタンバイしているわけではあるまいと周囲に気を配るが、何も感じなかった。

『なにやってるんだか。まぁいい、そこの飛び出てる煉瓦を一個抜いてくれ』

「…わかった」

警戒を続けながら指示に従う。何の抵抗も無くずるりと抜け落ちたそれに、少しだけ拍子抜けする。
煉瓦が嵌っていた箇所に目を向けるとそこには、小さな宝石が置かれていた。

「売れば金になるか?」

『売るなよアホンダラ。それは私の部屋に繋がる鍵さ。この猫の首元にぶら下げてるペンダントに嵌めたまえ』

「軽いジョークだよ」

暴言混じりの指示に若干困惑しつつ、指示通りに宝石を嵌めた。すると。

空間が捩れ、闇に呑まれた。
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/13(火) 23:08:45.77 ID:L8d5InNvO
闇の中を漂い、遠くで存在を主張する微かな光に手を伸ばす。遠くて小さなそれにはとても触れることは出来ず、手を伸ばすのを止めた。
その直後に、眩い閃光が視界を埋め尽くす。堪らず目を閉じ、光が収まるのを待つ。閃光が消えると同時に瞼を開くと、部屋の中にいた。

「ここは…?」

警戒を強め、周囲を観察する。窓には板が貼り付けられており、光は一切差し込まない。
机には無数の実験器具が置かれており、紫色の煙を上げている物やぐつぐつと中身が煮え立っている物などがある。
シルヴィアの私物にも同じような物があったので、フェルリティアで普及している物なのだろう。どういう用途なのかはさっぱり分からないが。

「ようこそ客人よ。この部屋の主として歓迎しよう」

「誰だ…っ!?」

背後から聞こえた声に反応し、聖剣を取り出しつつ振り向く。そこには、見知った顔だが知らない人がいた。

「…んー?人の顔をジロジロ見て失礼じゃないかー?プリンでも付いてるかね?」

「シル…ヴィア…!?」

女性の顔はシルヴィアとそっくりだった。瓜二つだった。似ていない部分を探す方が難しいくらいに。
声も、彼女のそれと全く同じだった。シルヴィア本人だと言われる方が納得出来る。寧ろそうであってほしいと、現実逃避してしまう。
だが、彼女は死んだ。レムカーナを目前にして事切れた。今は墓の下で、安らかに眠っている。

呆然とするリヒトに対し、女性はとても不機嫌な様子で椅子に座った。
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/13(火) 23:09:23.99 ID:L8d5InNvO
「シルヴィアぁ?あんな愚劣な反逆者と間違えられるとは困るね。そういうのは冗談でもやめてくれないか」

「あんたはシルヴィアの何を知ってるってんだ!?」

「あーそういうのはいいから。情報が欲しいから私の指示に従ったんだろう?なら教えてやるから無駄口を叩かないでくれ。腹が立つし時間の無駄だ」

「それとも、苛立ったからとか弱い女を殺すのかね?散々殺してきた君からすれば、無抵抗の女を手に掛けるのなんて造作もないかなぁ?」

「なっ…!!??!」

ニタリと嗤った女性は首元を指差す。どうぞご自由に、と言っているようにも見える。しかし、彼女の思惑に乗ってはならない。ここは耐える。耐えなければならない。
いくら彼女を侮辱されようとも、ここで手を出してしまえば。もう戻れなくなる。

「そうだ、それでいい。ったく、君は感情に身を任せてばかりでは損をすることを知らないのかねぇ…」

不機嫌なままの女性は紅茶を飲みつつ椅子を指差す。聖剣を収納し、リヒトはそれに応えた。
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:36:17.11 ID:tQ6w04AZO
シルヴィア似の女性から振る舞われた紅茶に口を付ける。ノンシュガーのそれはリヒトには苦く顔を顰めるが、一息に飲み干すことで難を逃れた。

「お子様みたいな舌をしてるな、君は」

態度から見透かされたのか、おかわりを注いでいる女性はそんなことを呟く。紅茶で満たされたカップに視線を移し、溜め息を吐く。

「無駄口や世間話が嫌いなら、率直に問う。あんたはグラトルスとゲイザリオンを知っているのか?」

「私を馬鹿にしているのかい?その二匹の情報なら当然持っているさ。君が求めていたことも同様に。…だから、声を掛けたわけだし」

「そうかい。なら話は早い。俺の質問に答えてくれ」

「さっさと言いなよ」

リヒトは頷き、問う内容を伝える。暫しの沈黙の後に、女性は口を開いた。

「なんだその程度か。では順番に答えてさしあげよう。ペンの用意はよろしいかい?」

「ああ」

羊皮紙と羽ペンを携えたリヒトは、話が始まるのを待つ。カップが空になったのを確認した女性は、ゆっくりと話を始めた。
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:37:22.47 ID:S/k93bpGO
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416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:38:05.49 ID:S/k93bpGO
曰く、ゲイザリオンの生息する光亡ぶ湖沼は、イルステッド内陸部の密林地帯に存在する。湖沼に近づくほど湿地が増えていき、ある地点からは膝下まで水没した地形に変わる。
《瘴誘の黒枝》と呼ばれる黒い木が生え出したら、そこが光亡ぶ湖沼だという証左となる。
この黒い木は瘴気を発生、誘引しており、故に、光亡ぶ湖沼は昼夜を問わず闇に包まれている。
そのため、闇夜を好む魔物や不死種(アンデッド)が無数に蠢いており、湖沼に生息する生物は皆瘴気に冒され、足を踏み入れた生命を嬉々として喰らう。

ゲイザリオンはその湖沼の最深部、『冥王の玉座』という大岩の上で、空を眺めているらしい。

次に教えてくれたのはゲイザリオンの出した無理難題を、見事解き明かした英雄の居場所。
とは言っても、数十年の間でそのような偉業を成し遂げた者など片手で数えるほどしかおらず、その大半は寿命や悲劇によって死を迎えている。

唯一消息を絶っておらず、現在の位置を確認出来ているのは、光亡ぶ湖沼周辺に一つだけ存在しているセーフハウス。無謀な挑戦者が心を休めることの出来るたった一つの聖域を監視している『憩いの守人』だけである。
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:38:35.88 ID:S/k93bpGO
次いでリヒトが求めたのは、グラトルスに関する情報。女性が提供したのは、グラトルスの生態に関わる情報だった。

『霊峰の女帝』と呼ばれるグラトルスは歯向かう者に氷雷の裁きを下し、従属する者には寛大なる慈悲を与える。
普段は下僕から貢がれる果実を好んで食しており、必要に応じて外敵を狩り血肉を喰らう。
また、下僕が狩りを出来ない状況であれば、率先して霊峰から離れて獲物を捕らえてくるという。
グラトルスは自身のテリトリーに氷柱を突き立て、電撃痕を残している。とても特徴的なので、グラトルスのテリトリーか否かはそれを見れば一目で解る。

氷雷龍の名が示す通り、グラトルスの取る攻撃手段はそのほぼ全てが氷、雷のいずれか、又は双方を利用しており、対策を講じていなければその巨躯も相まって即死級の一撃となる。
特筆すべきなのは、冷気、電撃を放出しつつ放たれる尻尾の薙ぎ払いや叩き付け、前脚での踏み潰しだろう。巨大な図体から行われるそれはシンプルに強いし、直撃は避けられてもその余波で重傷を負う可能性もある。
そして、言うまでもないが氷雷入り混じるブレスも注意が必要だ。一説には、霊峰の独特な形状はグラトルスのブレスによって削れて出来たものだとも言われている。

どのような生き物にも苦手なもの、弱点というのは存在している。それは幽者であるリヒトや氷雷龍と畏れられているグラトルスも例外ではない。
吹雪が吹き荒れる霊峰を縄張りとしていることから予想は付くだろうが、グラトルスは炎、というより高温に滅法弱い。
冷気の生成も困難になるし、電撃の操作にも熱は悪影響を及ぼすようだ。しかし、それでも相当に強大な存在なので弱点を突くだけで勝てるわけがないし事実、過去には全身を火で焼きながら特攻を仕掛けた大馬鹿者がいたらしいが、炎に焼かれることを厭わなかったグラトルスの前脚に掴まれ、そのままこんがり肉に変えられてしまったのだとか。
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:39:15.83 ID:S/k93bpGO
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419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:40:10.20 ID:S/k93bpGO
「…とまぁ、これくらいかね」

語り終えた女性は、食器を片づけ始める。リヒトが口付けた物も直しているので、全ての情報を出し終えたのだろう。
代金がいくらかリヒトは問うも、返事は無い。彼女の態度を訝しみつつ、どこに出口があるのか考えていたが、あることに気づく。

ここには出口が無い。扉のようなものは目覚めた時に見つけていたが、ドアノブなども無く、押すも引くも出来ないのだ。
これはいったいどういうことかと首を傾げていると、突然強い衝撃がリヒトの胴体を襲った。

「がっ…!?」

受け身も取れず地面に仰向けの形で倒れたリヒトは、揺れる視界で女性の姿を捉える。
シルヴィアと同じ顔立ちをした女性の眼は、鈍色に輝いていた。
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:40:38.59 ID:S/k93bpGO
「お代はきっちり頂くと言っただろう?少しの間我慢したまえ」

「何するつもりだ…っ!?」

女性はリヒトにのしかかり、首元に指を這わせる。微かにくすぐったかったが、それよりも不信感と警戒心、恐怖心が勝った。
何をされるのかわからない。どうすれば良いのかもわからない。ここで彼女を殺めたとして、この部屋から抜け出すことが出来るのか。確証は一切無く、そもそもここがどういう場所なのかも想像が付かない。
もしや、罠に掛けられたのかと女性に疑いの目を向けるが、女性は心外そうに舌打ちをする。

「そんな野蛮なことはしないさ。君の命に興味は無いし、金だってどうでもいい。求めているのは、君の生命力さ…!」

「ぎ…あぁ…!?」

それだけ言うと、女性は頸部に顔を近づけた。鈍い痛みが首筋に走り、生暖かい液体が流れていく。
それと同時に、全身から熱が奪われていく。麻酔のように痛みが全身を駆け巡り、思考を麻痺させる。夢を見ているように、意志が鈍っていく。
振り解こうとしても、身体は動かない。心が拒んでいるのに、身体が言うことを聞いてくれなかった。
永遠にも思える微睡みの中で、必死に自己を保つ。舌を噛むことで意識を繋ぎ、踏み留まった。
艶やかな吐息と共に女性が顔を離すと、肉体の感覚が元に戻る。反射的に、女性を突き飛ばして距離を取った。

「急に何しやがる…!?」

「痛ったた…。女に乱暴するんじゃないよこのボケナス」

突き飛ばされた反動で頭を打った女性は、恨めしそうにリヒトを睨みながらそんなことを呟いた。
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:41:53.31 ID:S/k93bpGO
謎の女性に一つだけ質問することが出来ます。
質問したいことがあるなら↓1にどうぞ。
これで今回分の投稿は終わりです。
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/15(木) 02:27:19.65 ID:P/sRfIuDO
もう二度と会いたくないが最後にひとつ聞かせろ
何故シルヴィアと同じ顔をしている
423 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/09/15(木) 02:46:06.28 ID:SDZ92xO/0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:44:43.69 ID:wZSLw4gGO
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425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:45:32.20 ID:wZSLw4gGO
「ふざけるなよ…!こっちは情報の対価が何かを聞かされてないんだ!俺の生命力が欲しいなら、最初に言ってくれりゃ良かったんだ!それなら、理解も心の準備も出来てたってのに…」

それに、彼女の要求自体がリヒトには理解出来ないものだった。
こちらの正体を知って法外な料金や物品を請求するならまだしも、彼女が要求してきたのは生命力。人が望むには明らかにおかしいものだ。
病気で死にかけているから生命力を補って病状回復を図ったのかと思ったが、そうでもないようだ。
彼女からは虚弱している者特有の気配を感じない。体調は至って普通だ。

「ほう?私が予め要求を伝えておけば、君は私に生命力をくれたのかい?そのまま殺されるのでは、と疑心を抱くことなく大人しく吸われていたのかい?」

「………」

首を縦には振れなかった。彼女の言う通り、絶対に生きている保証も確信も無いから。
無数の戦闘を経て、自身の肉体や精神が尋常の域を越えて鍛えられていることは自覚している。が、彼女がそれを凌駕している可能性を否定出来ないのだ。
率直に言うと、彼女に生命力を吸い尽くされて干からびるかもしれなかった。故に、要求を聞いたからと言って大人しくこの身を差し出すことはしないかっただろう。
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:46:28.25 ID:wZSLw4gGO
「…でも、フェアじゃない。同意も納得も得ずに一方的に奪うのは、間違ってるんじゃないか…?」

塞がった傷を抑え、僅かに後退する。彼女が一瞬、後悔の感情を見せた気がした。

「それはまぁ…悪かった。だが、私にも退っ引きならない事情があったんだ。君から生命力を貰わなければ、非常に困ったことになってたんだよ」

「これでも君にはそれなりに感謝しているつもりだ。敵意を抑えていただけるとありがたい」

「…どの面下げて言ってんだ、あんた」

リヒトは表情を険しくして、光の刃を作り出す。諦めたように、女性は手を翳した。黒い渦が天井を呑み込み、存在を主張する。

「あー、私が全面的に悪かった。本当に申し訳ない。道は作ったからそこから出て行ってくれ。これで私たちの関係は無かったことにしよう」

彼女の言から察するに、上の渦巻きに入れば元の場所に戻れるのだろう。
それよりも先にはっきりさせたいことがあったので、帰還は後回しにする。

「…こちらとしてももう二度と会いたくない。が、最後に一つだけ聞かせろ」

「ん?」

「何故、あんたはシルヴィアと同じ顔をしているんだ?彼女に姉妹がいた、なんて話は聞いたことが無い」

「あんたはいったい、何なんだ?」

リヒトの問いに、女性の視線の温度が数度下がった。
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:47:09.29 ID:wZSLw4gGO
「これから私たちは赤の他人になるというのに、私が何なのかを知ることに意味はあるのかい?」

もったいぶるような、隠しているような。女性はそんな素振りを見せる。リヒトは首を振り答えた。

「意味があるか。それを決めるのは俺だ。あんたが勝手に決めつけるな」

真っ直ぐな視線が女性を穿つ。数瞬の思考の果てに、女性は溜め息を吐いた。

「…君の想像通り、私はただの人間じゃない。シルヴィア・レイナスの姉妹や近親でももちろんない」

「私は…悪趣味な貴族共によってシルヴィアの組織をベースに産み出された人造人間(ホムンクルス)さ。今は離反して、コソコソと生き永らえているがね」

「ホムンクルス?そんなの知らないな」

「そりゃそうさ。フェルリティアでしか使われていない技術だからね。相当上流層と懇意にしてる奴くらいしか知らないよ」

何度目か知れない紅茶を飲み干し、女性は吐息を漏らす。カップの縁を指でなぞり、ペロリと舐めた。
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:47:47.67 ID:wZSLw4gGO
「私たちホムンクルスは食事を必要としない。厳密に言えば、食事から栄養を摂取することが出来ないんだ。生きるためには、他者の生命力を頂戴するしかないんだよ」

「…つまり、あんたは生命力が枯渇しかけてたから、俺から貰おうとしたってのか?」

「そう受け取ってもらって構わない。君ほど上質な人は滅多にいないからね。おかげで数ヶ月…節約出来れば一年は生きていけそうだ」

「…私のような紛い物はこの世界で生きていくには肩身が狭くてね。表舞台に立とうものなら間違いなく恥辱の果てに殺されるし、かと言って裏で生きていくにしても、そう満足に食事にありつくことも出来ない。一般論で言えば、他者に寄生することでしか生きられない私たちは、存在することすら罪の死ぬことが望ましい穢れた命なのさ」

でも、と女性は言葉を続ける。

「いくら私が人のエゴによって産み出された…摂理に反した存在であろうと…。生きたいという意志は私個人の持つものだ。それを否定する権利は、誰も持ち得ない…!」

確固たる意志を秘めた目がリヒトを射抜く。ここで何を言おうと、彼女はそれを笑い、独りで生きていこうとするだろう。
リヒトに彼女を助ける義理は無い。謀られ殺されかけた身なのだ。これで救おうとするなど聖人にも程がある。

「…勝手に頑張れ」

それだけ言い残し、リヒトは闇に消えた。
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:48:27.27 ID:wZSLw4gGO
「ほえ〜。…やっぱり辞めませんかドラゴン調伏。命は大事にするべきですよ」

「はははこやつめ」

女性から得た情報を伝えた結果、ウィンディが開口一番に放ったのがコレだ。笑止千万とリヒトは無慈悲に切り捨てた。
誰から得たのか。その時にどんな一悶着があったのかは完全に秘匿する。ただでさえシルヴィアの死で心に傷を負っているのだ。余計な負荷を掛けるわけにはいかない。

「あのことはだまっておく」

「…サンキュ」

ウィンディに気づかれないようにこっそり耳打ちしてきたマナに謝辞を伝え、荷物を背負う。
その間、ハリゴーディンは機体を伸ばしたりと準備運動をしていた。何やってんだ。

「そういえば、ドラゴンと戦う時は一人じゃないと、従属するに足る存在か見定めてもらえないんですよね」

デュンケルの助言を思い出したウィンディはふと、そんなことを言ってきた。リヒトは肯定を示す。

「なら私要らなくないですか?」

「要らないな。俺はともかく君の実力だと危険だし」

戦いに頭の先までどっぷりと浸かっているリヒトとは違い、ウィンディは平和な街で精神をズタボロにされてきただけのただの小娘だ。
才能は申し分ないが、経験が足りない。足りなさすぎる。皆無である。
そして身体も弱いから霊峰や湖沼の極限環境を生き抜けられるか甚だ疑問である。

どうしたものかと、リヒトは頭を悩ませた。
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:49:51.28 ID:wZSLw4gGO
これからどうするかを↓1にどうぞ


A:ドラゴン調伏に向かう ターゲットを併記
B:やっぱり辞めておく
C:その他
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 01:28:59.00 ID:dxT39etzo
ここまでやったし1体位は……
A ゲイザリオン
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 01:51:43.23 ID:6Wrj+UKSO
出来る限りのことはした。夢のためにも今は死ねない。いざとなれば、躊躇せず逃走を選ぶ。既に覚悟完了していたリヒトはウィンディたちに指示を出す。暫く戻ってこないから、拠点でゆっくり休め。と。

「そのまま私たちを放置して豪遊とかはやめてくださいね。…本当に、やめてください」

「するわけないだろ」

彼女たちを置いて放蕩に耽る図太さをリヒトは持ち合わせていない。そんな彼に、彼女の言う選択肢は初めから存在していなかった。

夢のためにドラゴンが必要なのか。そう疑問に思う人もいるかもしれない。確かに、夢の成就そのものには不要とまでは言わないが、是が非でも欲しいものではない。
だが、これは通過儀礼である、とリヒトは考えていた。強大な存在に認められる自分でなければ、国を興すことなど夢のまた夢。決して見えることは叶わぬ幻なのだと、認識している。
だから、挑戦するのだ。たとえ無謀だと断じられても、可能性はゼロではないのだから。諦めてしまえば、そこで潰えてしまうから。
出来ない出来ないと逃げてばかりの人に、人は信を置いてはくれないから。

導きの門を出て、ウィンディにマナを託す。フードを脱いだ時に逡巡する様を見せた気がするが、たぶん気のせいだろう。
彼女に信用されるようなことはしていないし、彼女が今後人類を信用することもない。ただの思い上がりだと、思考を切り替える。

「…では、少しの間お別れですね。お留守番、頑張ります」

『ワタクシは料理なんて作れないので早く帰ってきてくれると助かります』

「自炊くらいなら出来ますっ」

むすっと頬を膨らませるウィンディに苦笑し、リヒトは背を向ける。
リヒトが視界から消えるまでの間、二人はずっと手を振っていた。
幽者が見えなくなるまでの間、マナがどんな表情をしていたのか。それは、本人のみぞ知る。
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 01:54:26.30 ID:6Wrj+UKSO
移動ペースを↓1にどうぞ。


A:最短距離、最高速度で走り抜ける 道中イベント一切無し
B:普通のペース 道中イベント:3
C:自由安価
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 04:53:16.07 ID:J6AjeSrJo
A
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 04:53:22.11 ID:WcgyDYm+O
A
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 14:07:49.53 ID:BAbAPB69O
ウィンディやリヒトの魔法を色々と考えているのですが、皆様の知恵を借りたく存じます。
具体的には、魔法を行使する際の詠唱がさっぱり思いつきません。
お力添えいただけると幸いです。

一般的な魔法は日本語、英語が使われてる場合がほとんどですが、リヒトの冥光魔法はラテン語が用いられてます。


【名前】その名の通り。
【属性】その名の通り。
【詠唱】その名の通り。
魔法の概要になります。


この世界の魔法


生物非生物を問わず万物が内包し、世界中に普遍的に存在する魔力を、理論に基づいて制御することにより、現象を発生させる学問。
理論さえ理解していれば使えるので、魔物だろうと平気で使ってくる。
簡単な魔法、小規模な魔法には詠唱は必要無いし効率を考えると無駄まであるが、大規模な魔法の場合は補助の役割を果たすため半ば必須。
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 15:03:01.01 ID:Y6Y0R8uDO
すまねぇラテン語はさっぱりなんだ
考えてみたけど魔法はハードル高いなあ…

【名前】 彼方
【属性】 空間、時
【詠唱】 遥かを統べよ、時の果てまで

彼我の距離をゼロにする瞬間移動魔法
古い魔族や神族に伝わる失われた禁術であり知る者はほんの一握り
魔法の習熟を極めた者は時間さえ越えると言われている(イメージはデロリアン)
通常の使用では対象との障害物が無い場面が推奨
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 15:04:54.23 ID:Y6Y0R8uDO
改めて考えたら二人が使う魔法としては適してないな…
やっぱり難しい…
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 15:32:57.49 ID:7z8bzUfBO
現時点で作ってるウィンディの魔法はこんな感じです。()内が文字に振るルビになります。
意訳したり語感に合わせて単語を変えたりしても大丈夫です。自分が作ってるやつも大概なので。

【名前】天墜の嵐(ブレイクダウン)
【属性】風魔法
【詠唱】
生命運ぶ大いなる風よ。万象と共に常世を巡り、流れるならば。我が祈りも乗せ給え。
届かぬ風が無いように、我が祈りも彼方に届く。彼岸に消えし師に捧げよう。
この風は、我が祈りを紡ぐ風なり。障壁砕き裁断する、暴虐の嵐なり。
空は今、颶風に流され地に墜ちる。汝らもまた、墜ちゆく万象の一つに過ぎず。無為に散りゆく我が身を呪え。

風を操作して低気圧と高気圧を人工的に作り出し、局所的なダウンバーストを発生させる。
暴力的なまでに強烈な風は全てを薙ぎ倒し、大地を抉り吹き飛ばす。その際には凄まじいまでの積乱雲が発生しており、あたかも空が墜ちてくるように錯覚させる。
シルヴィアの助言を基にウィンディが創出した魔法であり、その緻密にして芸術的な理論は、彼岸の大賢者にも届き得る完成度を誇る。
この魔法を行使した後は一週間くらい死ぬ。
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 16:57:29.03 ID:Y6Y0R8uDO
【名前】 穿牙冥墜
【属性】 闇
【詠唱】
闇なる者の力において、我が前に立ち塞がりし者はその命運尽き、暗き穴を穿つものなり

元は光属性のリヒトの切り札のひとつ
堕ちた事で闇属性になり詠唱の文言も多少変化している
魔翌力を一点に収束させ貫通力の極めて高い光を放つ
射程は込める魔翌力により変わり、最大射程は数qにも及ぶが威力は減衰する
近距離でなら貫けないものは少なくともこれまでは出会っていない
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 18:50:20.18 ID:J6AjeSrJ0
【名前】清浄な空気(クリアスペース)
【属性】風魔法
【詠唱】
地を揺蕩いし自由の風よ。今一度、我が意に応え律されん
穢れを濯ぎ、湿気を祓い、楽園を此処へ

空気中の不純物や瘴気、湿気などを取り除き、空気を綺麗にする魔法
外部との熱交換により小規模範囲の気温を操作することもできるため、専ら室内空調用の魔法として使われている
本来は一般的な手段で学習できる生活魔法の一つだがこれはウィンディの手でアレンジが加えられており、風の膜で空間を区切ることにより屋外でも快適空間を作り出すことができるようになっている
規模の小さい魔法のため詠唱が使われることはほとんどない
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/20(火) 01:42:33.26 ID:KIfM2uw5O
undefined
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/20(火) 01:43:08.91 ID:KIfM2uw5O
単独行動を始めたリヒトの行軍速度は、常人のそれとは比較にならない。他者を気遣う必要が無いことも一因ではあるが、その最たる要因はリヒトの行使する光魔法の特性にある。
光は速い。とにかくすばしっこいのだ。それを纏ったリヒトがどれだけ速いのか。語るまでもないだろう。

地面を抉り、派手に跳躍する。流星のような光が白昼に弧を描き飛んでいく。それが弾けた時に、人は漸く正体に気づく。
あれは人間だ。いや、天使だ。と。
光そのもので構成された大翼が、尾を引きながら空を駆ける。頭上に光輪は見えないが、神々しい光と共に青空に羽ばたく様は、正しく天使に見えた。当の本人はそんな神聖な存在ではないのだが、彼らがそれを知る由は無い。

「あの女の情報を照らし合わせると…『エヴァンダ大樹海』の中心に光亡ぶ湖沼があるから…んで、現在地が…」

地図にメモ書きをしながら移動を続ける。周囲の警戒が疎かになるが、上空まで魔物の攻撃が届くことは滅多に無い。そこまで気にすることではないだろう。
現に、視線は地図に釘付けになっているが何かしらのアクションを起こされた様子は無い。
まあ、彼からすれば攻撃された瞬間に気配を察知出来るので、意識する必要が無いだけなのだが。
青春を戦争で染め上げた人間は、敵意にどうしようもないほどに敏感だった。
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/20(火) 01:43:46.91 ID:KIfM2uw5O
情報を整理し終えたリヒトは、地図を片づけて溜め息を吐く。やると決めたのは自分だが、目的地に着くまでの道のりがこれまた面倒でちょっとやってられなかったのだ。
最短距離、最高速度での行軍を敢行しても、光亡ぶ湖沼に至るまでに四日。可能な限り休息を減らして試算した場合ですらこれである。
ウィンディたちが同伴していたら、下手したら二週間ほど掛かっていたかもしれない。
さらに、湖沼に到着したら次に待っているのは冥王の玉座までの道中である。相当に強力な魔物が跳梁跋扈しているのは想像に難くない。消耗無しでゲイザリオンの元に辿り着くことはない、と見ていいだろう。
湖沼内でシルヴィアに伝授された結界が効果を発揮するかはその時にならねば解らない。つまり、湖沼内で休息を取れるかは不明なのだ。
『聖域』と呼ばれる憩いの守人が管理しているセーフハウスで休憩すること、余力を残せそうになければ即退散することを視野に入れなければ、屍を晒すことになりかねない。

死ぬよりは数倍マシなのだから、過剰に思えるほどに幾重にも予防線を張っておいて損はないはずだ。
そんな思考を続けながら、リヒトは山脈を越える。魔物の視線が集中しているような気がした。
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/20(火) 01:44:16.48 ID:JhITNI4UO
あれから数日。キャラバン隊の野営地で定期的に休息を取り、行軍を続けていたリヒトは、エヴァンダ大樹海に足を踏み入れていた。
踏み入れた当初こそ地面はしっかりと固まっており問題なく移動出来ていたのだが、半日も歩くと様相は変わり、足首まで水に浸かっていた。
靴の不快な感触に顔を顰めつつも、移動を続ける。何度か魔物の来襲があったが、単独なら魔法の出力を抑える必要は無いため、手こずることもなく容易に迎撃することが出来た。
まだ光亡ぶ湖沼に到達していないので魔物が弱いのは当たり前のことではあるのだが、それでも、リヒトがしているような単独での行軍を生半可な者がしたら自殺行為になってしまう程度には、ここの魔物は強かった。少なくとも、アークミノタウロスの六割くらいの危険度はある。

生き血を啜ろうと噛みついてきたヒルは光魔法で滅却し、潜伏していた巨大なエビやカニは聖剣の錆になってもらう。
音も立てず細切れにされたエビたちの肉はぷりっぷりで美味そうに見えたが、こんな場所では焚き木など不可能なので食べるのは諦め、そのまま亡骸を遺棄する。こんなものを持っていっても湿地帯である樹海内ではすぐ腐ってしまうので仕方ない。
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/20(火) 01:45:05.13 ID:DxmrCckKO
迫り来る魔物を片手間に仕留めつつの行軍の果て。夕暮れが辺りを照らし始めた頃に、それはあった。

「………っ」

あれだけ生い茂っていた樹木が、突然姿を消す。木々一つ生えていない水たまりが視界の果てまで続いている。
僅かに歩みのスピードを落としたリヒトは、その先を注視する。インクで塗り潰されたように真っ黒な木が、枯れた木のような姿で立ち並んでいた。その周りには黒にも紫にも見える靄が漂っていて、黒木が生えている場所から先は夜のように真っ暗だった。

ここが光亡ぶ湖沼と見て間違いないだろう。女性から得た情報と寸分違わず合致している。

「軽く休憩を取らないとな。どっかに聖域があるはずだが…」

魔力を多少消耗しているので、今後に備えて休息を取る。無難な判断をしたリヒトは、聖域とやらが無いか周囲を観察する。
少し離れたところに、この環境にそぐわない大きな家が建っていた。あれが聖域だと一目で分かった。
疲れた身体を休めるべく、リヒトは聖域に近づいた。
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/20(火) 01:50:55.98 ID:srORUEQ1O
聖域の管理者を一人募集します。テンプレートは以前のものをお使いください。また、【突破したお題】と【邪眼竜の加護】を併記してくれると助かります。
前回の魔法の募集も継続中でございます。


突破したお題 一例

マグマの中を泳ぐという人魚を捕まえてこい
魔王の首を持ってこい
呪殺の魔眼に耐えてみろ


邪眼竜の加護 一例

強力な不死性と再生能力(胴体真っ二つや斬首程度では死なない)
未来視の魔眼
竜化の秘術
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/20(火) 10:32:07.94 ID:Sx1yuC2v0
【名前】ヴィクター・グランハイト
【人種】人間
【性別】男性
【魔法】光魔法及び邪眼竜の加護(未来視の魔眼)
少し陰のある雰囲気の老人
実はリヒトが生まれるずっと前に勇者として活躍していた人物である
非常に優れた剣術、魔法の使い手で最強の勇者だと言われていたが、更なる力を求めてゲイザリオンの調伏に挑む
ゲイザリオンから出されたお題は「この世で最も強いと思う者を連れてこい」というもので、それに対し本人は「ここにいる」と答え力を見せる為に戦うこととなる
その結果見事に勝利を収め、元々の強さに加え邪眼竜の力を手にしたことで後の戦いに多大な貢献を果たした
だがその後はなぜか表舞台から忽然と姿を消し、今では彼の活躍を知る者も殆どいない
常人ならば、この老人がかつて最強の勇者と呼ばれていたなどとは微塵も思わないだろう 
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/20(火) 11:39:08.80 ID:NRjdixpDO
上手く要求も押さえて盛り込んであるのさすがだなあ…
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/22(木) 01:18:59.87 ID:5fBP2amVO
どういう原理なのか、家の周囲には花が咲き乱れ野菜が栽培されている。ここだけが別世界のようにも見える。
なるほど、聖域と呼ばれるだけはあると、リヒトは感心した。一つ間違えば即死しかねない魔境に接している、脅威無き楽園。安寧のゆりかご。魔なるものが触れることは赦されないその家屋は、聖域そのものだ。
ジャブジャブと音を立てつつ歩みを進め、足場に近づく。すると。

「なにこれ」

謎の言語が書き記された巻物が、家を囲っていた。古代文字のように見えるが、知識の無いリヒトにはそれが何語なのかは判断出来なかった。
達筆なのか下手くそなのか、ミミズが這ったような文字は無秩序に巻物を汚し、独特な紋様を描いている。巻物に囲まれた中に家が建っており、菜園もその中にある。

聖域の部分だけ地面が隆起して陸地を形成しており、そこに家が建てられて巻物が敷かれている形だ。菜園などを含めた聖域の敷地は縦15メートル、横10メートル程。なかなかの広さである。

しかし、何故この場所だけが安全なのか。その理由がこの巻物にあるのは状況的に明らかだが、どういう理屈なのかは見ただけでは分からない。
試しに数度巻物を跨いでみたが、何も変わらない。せいぜい中の空気が美味いくらいだ。
ならば、とそこら辺を泳いでいたサハギンと呼ばれる二足歩行する魚に似た外見をした魔物をとっ捕まえ、聖域内に投擲する。
巻物上を通過した瞬間、サハギンの肉体は光に置換され、消滅した。
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/22(木) 01:19:39.51 ID:5fBP2amVO
「…なるほど。俺の結界と似たタイプの魔法だな。性能は俺のオリジナルと比べるのも失礼なレベルだが」

シルヴィアの魔改造によって難攻不落の要塞と化したリヒトの結界は、当初は酷い有様だった。本当に酷かった。
防御力自体はそれなりにあったのだが、敵も味方も関係なく、発動者であるリヒト自身さえも平等に光で焼いてしまう無差別攻撃だったのだ。
幸いにしてリヒトの結界で味方側に死者が出ることは無かったが、当時はブーイングの嵐を浴びていたことは記憶に新しい。
寝ぼけた頭をスッキリさせるにはちょうどいい、と聖女にフォローされていたが、そんな生優しい威力ではないことを発動者が知らないはずがないので、フォローになっていなかったりする。

そんな魔法に比べたらこの聖域を維持している巻物は月とスッポン。両者を比較しようとするのが恥ずかしくなってしまうほどに、隔絶した差がある。
誰でも使えそうな便利アイテムっぽいので差し支えがなければ後で何個か貰おう、と交渉することを心に決め、門を叩く。すると、ゆっくりと扉は開かれた。
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/22(木) 01:20:14.29 ID:5fBP2amVO
「若い命を無為に散らすな。大人しく回れ右するがいい」

聖域の管理者とご対面すると同時に放たれた言葉がコレだった。この手慣れた感じ、聖域を訪ねた人全員に言っているに違いない。
ケープを羽織った老人の声は嗄れており、服から顔を出している手足は枯れ木のようにやせ細っている。とても弱々しい姿であり、見ているこちらが少し目を離したらぽっくりと逝ってるんじゃないか、と不安になるほどだ。

だが、件の情報からするに、彼が邪眼竜の加護を受けた人物と見て間違いないだろう。そもそも、こんな場所に暮らしている時点で普通ではない。

「遊び半分で邪眼竜に見えるのは辞めておけ。奴はそこまで安い存在ではないし、失礼にあたる。全てを…命さえも捨て去る覚悟を持ち来ることだな」

「それに、貴様は少々実力が足りていないように見える。このまま邪眼竜に謁見しても、その前に野垂れ死ぬか興味が無いと一蹴されるのがオチだ」

本当に酷い言いようである。とはいえ、覚悟云々については反論する余地は無いので大人しく聞くしかなかった。
たしかに、骨を埋める前提で邪眼竜に挑まないのは無礼にもほどがある。が、こちらにも死ねない理由があるのだ。
とも思ったが、それが間違いなのだろう。死ねない理由が万とあろうとも、滅ぶことを懸念し、安全策を講じ、危険と見るやすぐ退散するような輩に邪眼竜や氷雷龍が恭順するとも思えない。

それに、実力不足と断じられるとは思わなかった。死ぬ可能性はある、とは考えていたのだが、勝ち目が無いほどに力が足りていなかったのだろうか。

「足りんな。老いた私と同格程度では、奴に膝を突かせることも敵うまいよ。多く見積もって、勝ち目は二割有れば良い方だろう」

「そんなに」

自身と邪眼竜の実力差もそうだが、眼前の老人の強さに心底驚く。今の自分と、年老いて身体も、心も、魔力も弱った彼が同格とは。
最盛期はどれほど強かったのだろうか。
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/22(木) 01:22:48.95 ID:5fBP2amVO
憩いの守人(ヴィクター・グランハイト)と何を話すかを↓1にどうぞ。
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/22(木) 02:32:15.14 ID:sxfAS+yto
ゲイザリオンのお題破棄したらペナルティあります?
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名前: E-mail(省略可)

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