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【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.3

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176 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:33:30.70 ID:7IvLQWSG0
1 選択


ドン!!


思考はまとまっちゃいなかった。
目の前でくしゃくしゃになっていくそれを、何とか止めたくて、どこかに逸らしたくて。
声よりも先に、音よりも先に、脳が電気信号を走らせていた。


冬優子「……痛っ……ちょっとあんた何を……」


そして、感情がすぐにそれに追いついた。


ルカ「気持ち悪い真似してんじゃねーよ! てめェがナヨって何になるんだ……!!」

冬優子「は、はぁ……!? なんて言いぐさよ、それ!」

ルカ「何がちげーんだよ! 自分だけ傷ついてればそれで満足か!? ちゃんとお仲間の死に目を向けてる証拠だからって自分を慰められるもんな!」

ルカ「でも、そんなの……何にもならねーんだよ……!! 自分を傷つけたって、その傷を誰かが見てくれるわけじゃない……扉を開けて出て行かねえと……見てほしいやつにも届かねえって……そう、三峰結華に教えたばっかじゃねえのかよ……!?」

冬優子「でも、その結華は死んじゃったのよ……!?」

ルカ「知るかそんなこと!」

冬優子「あ、あんた……いい加減に____」

ルカ「てめェのくだらねえ自慰行為に他人の死を利用してんじゃねえ!!」

ルカ「見てると私がイライラしてくんだよ……ウジウジウジウジ……同じとこで足踏みばっかしてよ……!!」

ルカ「アイドルで輝きたいとか抜かすんだったら、ステップの一つでも刻んでみろよ……冬優子!」


口から出た言葉を確かめているその間も肩の息は収まらなかった。
全身を走る沸騰した血液、その熱は中々醒めそうにもない。
やけに力のこもった眼球が、へたり込んだ冬優子をずっと睨みつける。


冬優子「……生意気」

冬優子「どの口下げてそんなこと言ってんのよ……あんたが一番、ウジウジしてんでしょうが……」

冬優子「一度うまくいかなかったからって、緋田美琴との間で軋轢が生じるの、もうトラウマになってんでしょ? いつまでそんなくだんないことに拘ってんのよ」

冬優子「他人を利用して自傷行為で悦に浸ってんのはあんたもでしょ!」

ルカ「てめェ……!!」


冬優子に返される言葉はまさに図星。
鋭いナイフが今度は自分に向けられて、抵抗することもできず胸に深く突き刺さった。

177 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:34:18.05 ID:7IvLQWSG0

お互いが血を流しあった醜い顛末。
それを締めくくるような綺麗な仲直りという終幕も用意されてはいない。

お互いがまだ熱を帯びる中、冬優子はやをら姿勢を直して背をむける。


冬優子「……はぁ、くっだんない。こんなヘラってる二人組で口喧嘩なんてこの世で一番生産性のない口喧嘩よ」

ルカ「……」

冬優子「……でも、あんたの言う通りかもしれないわね」

冬優子「ふゆは……責任に言い訳して、その檻に閉じこもってるだけ、なのかもしれない」

冬優子「……本当は、何も向き合っちゃいないのかもしれないわね」


冬優子は私の目の前を後にした。

私の中のイライラはまだ収まるところを知らない。
それはきっと冬優子だってそう。

しかし……ただフラストレーションで終わらせてしまうには、この熱は少しだけ胸の空くような感覚を帯びていた。


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【親愛度が上昇しました!】

【黛冬優子の親愛度レベル…10.5】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…30個】

178 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:35:28.99 ID:7IvLQWSG0
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【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


夜が島を満たす頃、私は頭を抱えてベッドの上。
日中ずっと行動していたのに、美琴の影すら見ることがなかった。
今の美琴を一人にするわけにはいかない。
それなのに、今の美琴の行動はまるでわからない。
練習に打ち込むその背中ばかり追いかけ続けた代償が今になって降りかかる。
緋田美琴という人間の内面の奥底を、もっと覗いておくべきだったんだろう。

だが、後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
なってしまったからには状況を受け入れて、その上でできる行動を。
とにかく今は足を動かして、目を凝らす他ない。
この島のどこかにいるはずの、美琴を捕まえるために。

179 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:36:36.21 ID:7IvLQWSG0
________
______
________

=========
≪island life:day 19≫
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【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう〜!』


成果ゼロが齎した疲労はいっそう重たく、そしてしつこい。
一晩眠ったところで抜けることはなく、むしろ胸中にずっしりとした悪感情を募らせる。
ほとんど一晩探し回り、諦めて部屋に戻ったのは時計が三時を回る頃。
ジャバウォック諸島は今解禁されているだけでも5つも島がある。
その中で一人の人間を探し出すなんて到底容易なことじゃない。
姿を隠そうと思えば、どうとでもなる。
美琴が私の目を避けるようにしているのは、もはや火を見るよりも明らかだ。
殺意を膨らませた、次の段階に進んでいるような予感。
焦燥感で思わず肌がピリついた。


「……飯食ったら、すぐに探しにいくか」

180 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:37:46.79 ID:7IvLQWSG0
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【ホテル レストラン】

孤独な食事をしていた頃はどこへやら、もうすっかりレストランでの食事はルーティン化してしまった。
今日も一日美琴を追うための原動力を確保する、そう当然のように考えてレストランに足を踏み入れた。

……だが、その『当然』は『突然』に脅かされることとなる。


恋鐘「ない、ない、ない〜〜〜〜〜〜!!!!」

ルカ「ど、どうした……フライパンとフライ返しなんか振り回してよ」

恋鐘「緊急事態、エマージェンシーたい〜〜〜〜〜!!」

ルカ「だから、その中身を教えろって。まるで話が見えてこねーぞ」

恋鐘「ルカ、落ち着いて聞いて欲しか……!」

ルカ「お、おう……?」
181 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:38:31.71 ID:7IvLQWSG0





恋鐘「朝ごはんの材料が、一つも残っとらん〜〜〜〜!!」




182 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:40:10.33 ID:7IvLQWSG0

ルカ「……はぁ?」

恋鐘「レストランの厨房に、いつもやったらパンも卵も野菜も補充されとるはず! やけん、今日もみんなの分作っちゃろ〜って思って行ったのに……」

恋鐘「なんも……アスパラ一本すら残っとらんかったと!!!」

ルカ「……マジか」

雛菜「へ〜? それじゃ今日は朝ごはんないんですか〜?」

あさひ「え〜、嫌っすよ〜! 恋鐘ちゃんの朝ごはん、すごくおいしいのに〜!」

夏葉「材料がないなんて妙ね……今までも毎日ちゃんと補充されていたんでしょう?」

ルカ「ハッ、犯人なら分かりきってんだろ」

智代子「……ええっ?! な、なんでルカちゃん、私に疑いの眼差しを?!」

智代子「ち、違うよ?! 違うからね?! 流石に人数分も食べきれないし……そもそも材料から食べないよ?!」

ルカ「まあ……それもそうか」

冬優子「しかし変ね……ふゆ、昨日の晩にコーヒー飲みに来たけど、その時は材料も全部あったわよ?」

透「誰かが持ち出した感じですか」

恋鐘「うちは頻繁に出入りするからよく知っとるけど、とても一人で持ち出せる量じゃなかよ? 食べ切れる量でもなか!」

あさひ「……なんか、嫌な予感がするっす」

ルカ「……おい、まさか」
183 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:41:10.59 ID:7IvLQWSG0


バビューン!!


モノクマ「突撃隣の朝ごはん! どうもモノクマです!」

ルカ「やっぱりてめェの差し金か……!」

恋鐘「モノクマ、朝ごはんの材料をどこに隠したばい! 一日3食ちゃんと食べんと元気が出んし、困るばい!」

智代子「そうだそうだ! 私たちには食事の自由があります! 権利を主張します!」

モノクマ「クックックッ……随分と食欲オーセーなことで、いかにも育ち盛りって感じだね!」

冬優子「意味のわからない悪戯はさっさとやめてちょうだい。食い意地のはったコイツもさっきからうっさいのよ」

あさひ「お腹すいたっす〜!」

雛菜「このままじゃ雛菜たちのお腹と背中がくっついちゃいますよ〜」

モノクマ「うぷぷぷ……いいねえ、食欲という欲望を剥き出しにして、醜い獣のようだよ。でも、まだまだ足りないかな」

ルカ「はぁ? なに訳のわかんねーこと言ってやがんだ」

モノクマ「はぬ? これでも意味がわからないと?」

夏葉「……!」

智代子「夏葉ちゃん、どうしたの?」

夏葉「私の電子回路が最悪の試算を弾き出したの……モノクマが私たちに何かをけしかけるとき、これまでのデータから考えてみても行きつく結論はただの一つよ」

智代子「そ、それってもしかして……!?」
184 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:41:54.39 ID:7IvLQWSG0





モノクマ「そう! 今回ボクがオマエラに提示する動機は【コロシアイが起きるまで食事抜き】の学校規則だよ〜!」





185 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:43:16.05 ID:7IvLQWSG0

ルカ「……マジかよ」


モノクマの動機の悪意は加速度的に増している。
記憶を奪ったという事実で不安を煽り、その失われた記憶の中から更なる恐怖を引きずり出す。
かと思えば感染症で身の危険をチラつかせ、いよいよここまで来た。
食事なんてものはもはや生物としての根源的な営み。
この星に生きる者は例外なく須らくが経口での栄養補給を必須としている。
それを剥奪してしまうことの残酷さは誰にでも一瞬で理解できる。


モノクマ「流石は【令和最新版】最先端アンドロイド LEDディスプレイ残量表示 新規設計デザインモデル 快適な使用感 【高出力パワー充電】の有栖川さんだよね! すぐに結論を導き出せちゃうんだもん!」

恋鐘「ちょ、ちょっと待たんね!? 食事ばのうなったら、身も持たん……絶望病ん時とはわけが違うばい!」

モノクマ「人間って食事を摂らなくても水だけで二週間は生きていけるって言うでしょ? まあ栄養失調で搾りかすみたいな姿にはなっちゃうかもしれないけど、それでもお仲間を手にかけるよりはマシなんじゃない?」

あさひ「本当に、食事は一切なにも無いっすか?」

モノクマ「モチのロン! レストランの食材は当然の事、スーパーマーケット、ビーチのモノモノヤシーン、牧場の家畜などなど……口に入れられるものはぜーんぶ没収させてもらいました!」

透「今、もう結構お腹空いてるんだけど」

雛菜「雛菜も昨日は夜食もしてないから既にペコペコ〜……」

モノクマ「飽食の時代に生まれた若者たちに喝を入れる! うんうん、これもまた教育だよね! オマエラがステーキを口に運ぶその瞬間にも地球の裏側では泥水を啜る子供たちがいる……食事のありがたみを改めてよく知るいい機会になると思うんだ!」

ルカ「食事を取り上げるのとはわけが違うだろが……!」

186 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:44:30.90 ID:7IvLQWSG0

間違いなく、過去最悪の動機だ。
絶望病とは次元が違う。この島に生きる全員が一気に自分自身の命を懸けたチキンレースに参加させられるも同然。
体力も衰弱していき、判断能力も低下していく中で、否が応でも自分の本能的な欲望と他人の命とを天秤にかけさせられる。
ここまでくると、もはや殺人を強制されているも同然だ。


モノクマ「まあオマエラが今所持しているものに関しては無理くり取り上げはしないから、しばらくはそれで食いつないでから考えればいいんじゃないっすかね?」

智代子「そ、そんな無責任な……!」

モノクマ「ちなみに殺人が起きるまで食事提供の一切を行わない、このことを譲歩する気は微塵もないから理解しておいてよね。ルールは厳格に守らないと意味がないからね!」

夏葉「……あなた、本気なのね」

モノクマ「うぷぷぷ……オマエラがどこまで自分の命を切り詰められるのか、確かめさせてもらうよ。それじゃあね!」

バビューン!!

モノクマはそのまま姿を消してしまったが、誰もモノクマを呼び止めたり、抵抗しようとしたりはしなかった。
そんなことをしても無駄であることはこれまでの暮らしで嫌と言うほど理解しているし、今は無駄なエネルギー消費はしたくない。
食事を行えないことの恐怖が、行動を強く縛り付ける。

187 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:45:17.88 ID:7IvLQWSG0

ルカ「……クソッ、まずくねーか。流石に今回ばかりは……」

冬優子「とにかく無駄に体力を消費することは避けたほうがよさそうね。下手に動いて衰弱すると動けなくなるわけだし」

あさひ「……お腹すいたっすね〜」

智代子「あさひちゃん、我慢だよ……とにかく今は耐え忍ぶのみ!」


自分自身の腹もそうだが、私にとっての一番の懸念材料は美琴だ。
すぐに島の状況を見て理解はするだろうが、今の美琴は冷静な判断能力を有していない。
断崖の淵に立つあいつは、モノクマの動機によって今まさに強風に煽られている。
どうにかしないと、すぐに事は起きてしまうかもしれない。


ルカ「……一応、島を回って何か食えるものはねーか探してみるか。どうせ残っちゃいないんだろうけど」

夏葉「ええ……そうね。それなら私も協力するわ、今の私はアンドロイド……人間としての食事は必ずしも必要じゃない、体力の消費は私が請け負う」

ルカ「おう、頼むぞ」

冬優子「あさひ、あんたは部屋でじっとしてなさい。あんたすぐに腹空かすんだから」

あさひ「わたし、図書館で本読んでるっす。何もやることがないと空腹のこと考えちゃうし、別のことに集中してる方がマシっす」

ルカ「……なあ、お前もあんま部屋から出んじゃねーぞ」

透「……あー、うん。そうする」

雛菜「雛菜、しばらく透ちゃんの部屋に泊まってよっか〜? 一人でいるより、二人でいたほうが安心だよね〜?」

ルカ「おう、そうしてやってくれ。……こっちでも、どうにか動いてはみるけどよ」


……とは言ったものの、私もあいつを追いかけまわして体力を消費するのも望ましくはない。とんだ手づまりな状況になっちまったな。

188 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:46:49.44 ID:7IvLQWSG0
-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

「……あぁ、クソ」


朝飯を完全に食らうつもりでいたから、お預けを食らった分余計に空腹に気が向いてしまう。
腹の虫が喧しいことに苛立ちを覚えながら、時計を見た。
まだまだ一日が終わるには時間がある、別の事でもして気を紛らわせないことには私もこの空腹に思考が支配されてしまう。


「……適当に、時間を埋めてみるか」


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…30個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/28(木) 22:49:21.43 ID:iDW/96Zv0
1.冬優子
190 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 22:53:24.98 ID:7IvLQWSG0
1 冬優子選択

【冬優子の部屋】


冬優子「……あんた、肝座りすぎじゃない? 昨日のがあってすぐ来る? 普通」

ルカ「普通じゃねえだろ、私も、冬優子も」

冬優子「……言えてる」


冬優子の言う通り、昨日の今日だ。
冬優子の顔を見るなりフラッシュバックする衝突と感情とが、途端に頬を熱くした。

その感情の所在は怒りなのだろうか、それとも……

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‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【希望ヶ峰の指輪】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【クマの髪飾りの少女】
【バール】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/28(木) 23:00:56.28 ID:iDW/96Zv0
1.【希望ヶ峰の指輪】
192 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 23:16:28.24 ID:7IvLQWSG0
1 選択

【希望ヶ峰の指輪を渡した……】

冬優子「……」

ルカ「……」

冬優子「……」

冬優子「………………」

冬優子「………………………………………………………………ありがと」

【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

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居心地の悪い静寂が続いて、もうどれだけ経っただろうか。
一応の気遣いから入れてくれた珈琲にも手付かずで、あれだけ主張の激しかった湯気すらもうほとんど観測されない。
冷め切るだけの時間はもう十分に経ってしまっていた。


冬優子「……前回あんたに謝ったの、結構後悔した。あんたはふゆのこと気遣って拙い言葉で励まそうとしてくれてたと思ってたのに、まさかあんな罵倒のされ方をされるとはね」

ルカ「……冬優子こそ、私と美琴のことであんな風に思ってたなんてな」

冬優子「まどろっこしいのはお互いもうやめにしましょ、今ふゆたちがお互いに求めているのは謝罪なんかじゃない。お互い腹の内をさらしたんだから、やることはただ一つ、そうじゃない?」

ルカ「……おう」


同族であることの因果は思ったより強烈らしい。
どれだけお互いを傷つけあっても、憎しみあっても、お互いの考えてしまっていることは分かってしまう。
冬優子の口にする、ただ一つの結末なんてのも、もう分かり切っている。


ルカ「絶交だな」

冬優子「当然、あんたと友達なんてやってられないっての。自分自身を見てるようで気持ちが悪いのよ」

ルカ「こっちもだ、目障りな存在がいなくなってせいせいする」


関係の清算。それしか行きつく先はなかった。
お互いこのままズルズルと負の感情を引きずったまま行くよりは、よっぽどマシ。
それぞれが目隠しをして、耳をふさぐことで穏便に事は収まる。
人間関係ってのはそういうものだって、私たちは痛いほどよく知っている。

193 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 23:17:27.61 ID:7IvLQWSG0



冬優子「……」

ルカ「……」


……知って、いた。



194 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 23:18:28.51 ID:7IvLQWSG0

冬優子「……何よ、さっさと出ていきなさいよ。まだ用事?」

ルカ「……いや、別に。そっちこそ、なんだよ人の顔をじろじろ見やがって」

冬優子「なんでもないわよ、もうその面二度と見せないでちょうだい」

ルカ「こっちこそ願い下げだっての」


それでも、脚は動かなかった。
感じる視線は変わらなかった。
時計の針が奏でる音も、耳には入ってこなかった。
聞こえてくるのは、二人の呼吸音だけ。
妙に昂る心臓が、リズムの早い呼吸をさせた。
それがすごく耳障りで、でも耳の穴を防ぐことはできなかった。



冬優子「……」


冬優子「…………」


冬優子「……………………ねえ」


それに先に耐え切れなくなったのは、冬優子だった。
195 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 23:19:41.20 ID:7IvLQWSG0

ルカ「……」

冬優子「これ、ただの所感だから反応とか要らないけど。口喧嘩らしい口喧嘩、すごい久しぶりだったの。愛依もあさひも、他の連中も……口汚く罵るとか論外って感じで。あんな風にふゆを悪くいう奴、久しぶりに見た」

冬優子「小学校以来かしら、猫被ってるとか、いいカッコしいだとか。流石に罵倒のレベルもあのころとは大違いだけど」

冬優子「……気づいたのよね、あのころに比べると言い返せるようになってるって」

冬優子「同じ立場で、本気でムカついて喧嘩ができて……」

冬優子「それって、案外悪くないのかもって」

冬優子「……あんたと絶交出来て、楽しかった」


絶交と言う言葉を国語辞典で引いた方がいい。
そこにプラスのニュアンスなんて一つもない。
人と人の交わりを完全否定する言葉、それにどんな価値を与えるというのか。

本当にこいつは気分屋で自分勝手な女だと思う。
思わずその滑稽さに頬が緩んだ。


ルカ「お前、バカじゃねえの?」

冬優子「……はぁ?」
196 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 23:20:44.01 ID:7IvLQWSG0



ルカ「そんなに楽しかったんなら、また絶交するか」




ルカ「何回も絶交して絶交して……そのたびに本音を言い合って、本気で罵倒して……そんで楽になる」

ルカ「私たちに求められてる関係って、友達だとかそんな下らねえもんじゃねえんだろ」

冬優子「……流石、同族さんはよくわかってるわ」


滑稽なのは、私もそうだった。
あの時感じた胸の空くような感覚。
それに早くもとりこになっている自分がいた。
親相手にも、美琴相手にも、あんなにぶちまけたことなんてない。
自分とそっくりの鏡だからこそ言えた言葉、聞けた言葉。
その不細工な言葉の数々がとても新鮮で、手放すには惜しいと思った。

私も大概に、自分勝手な女だと思う。

197 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 23:21:46.01 ID:7IvLQWSG0



冬優子「お互い、利用しあいましょ。ストレスの発散先として」



自分勝手なもの同士、それを繋ぐのはエゴイズム。
あくまでこれは自分のため。
自分にとって都合のいい時間を過ごすためだけの、都合のいい関係。
そこに絆なんて生易しいものはないし、美談めいた話もない。
現実主義を練り上げたような紐帯は、かたむすびをしたように妙に強固だ。


ルカ「おうよ、そんじゃま……とりあえずのところは」

冬優子「ええ、今日の所は」

ルカ「絶交、しとくか」

冬優子「ええ、あんたなんか大っ嫌い」

ルカ「……ハッ、身の入ってねえ言葉だこと」

冬優子「……うっさい」


私たちの関係は変わった。
ただの他人が友達になり、絶交してまた真っ白に。
その白さに、愛おしさを感じるなんて……


_____そんな日が来るなんて。


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【黛冬優子との間に確かなつながりを感じる……】

【黛冬優子の親愛度レベルがMAXに到達しました!】

【アイテム:魔法のステッキを獲得しました!】

・【魔法のステッキ】
〔幼少期に冬優子が見ていたアニメのヒロイングッズ。可愛らしい効果音とともに夢と希望を振りまいたステッキは、誰にも愛される彼女自身のルーツ〕

【スキル:アンシーン・ダブルキャストを習得しました!】

・【アンシーン・ダブルキャスト】
〔学級裁判中誤答するたびにコトダマの数が減少する〕

198 :この安価でおしまいにします ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 23:24:15.07 ID:7IvLQWSG0
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【ルカのコテージ】

何度だって絶交しあう関係、か……

なんともちぐはぐな収まり方をしたものだ。
千雪の命令には背く形になってしまったけど……きっとあいつなら、この終わり方をきっと認めてくれる。
そう思うんだ。

私は、一歩を踏み出すことができたんだって今はそう思わせてくれ。


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…31個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/28(木) 23:30:04.52 ID:jq56BIj90
1 透
200 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/28(木) 23:36:01.53 ID:7IvLQWSG0

というわけで透選択となったところで本日はここまで。
シャツの効果ちょっと強すぎたかもしれない……?
まあいいでしょう……多分

三連休となりますが金土は夜予定が入っているので更新厳しいかと思います。
5月1日の21:30ごろ目安で更新予定です。
シーズのイベコミュ実装を挟むので色々とこのSSも不安ですが……

それではお疲れさまでした。
またよろしくお願いいたします。
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/28(木) 23:41:56.33 ID:jq56BIj90
お疲れさまでした
202 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/04/30(土) 22:59:32.91 ID:/2bj0wOO0
明日の更新なのですが、ライブアーカイブ視聴会との兼ね合いで夕方の更新にさせていただきたく…
16:00〜ぐらいに考えています
203 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:00:50.19 ID:/h8laeKX0
1 透選択

【透の部屋】

ピンポーン

どうして、私はこいつの部屋のインターホンを鳴らしているのだろう。

透「……あれ」

ルカ「……よう」

透「珍しいね。うち、なんも食べるものとかないよ」

ルカ「別に集りに来たわけじゃねぇ……ちょっとだけ、入れてくれよ」


どうして、こんな得体のしれない奴に、ずっと私は付き合っているのだろう。

どうして、どうして……

その答えをどうしても知りたい……きっと、そういうことなんだろう。


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‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【クマの髪飾りの少女】
【バール】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 16:03:41.65 ID:CYEyM7vd0
1.【バール】
205 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:12:25.80 ID:/h8laeKX0
1 選択

【バールを渡した……】

透「おー、これ。ゾンビとか殴るやつじゃん」

ルカ「……ゾンビ?」

透「知らない? これで首引っかけてガッやるの」

ルカ「いや、そんなバイオレンスな趣味はねーんだけど……」

透「これ、いいね。気に入った。これあれば生きていける」

透「ビバ、世紀末」

(映画趣味があって助かったな……)

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより親愛度が多めに上昇します!】

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思えば私は、こいつと会話をしたことがなかった。
私が言葉を交わしていたのはこいつを取り巻く情報。
島の外の人間と繋がっている、こいつは浅倉透のコピー、そういう表層に回遊しているものだけを掬って、そのことばかり気にしていた。

今目の前に立っている存在、そこに触れようとはしなかった。
触れてはいけないと、そう思っていたのかもしれない。



だってこいつは________



透「……昔見た映画なんだけどさ」

ルカ「なんだよ、急に」

206 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:14:18.57 ID:/h8laeKX0

透「なんか、魔法みたいなすごろくで。子供たちはそこに吸い込まれちゃうんだよね」

透「すごろくの中は、漫画とかアニメとか、そんな感じの世界で。でも、すっごく危ない場所で」

透「クリアしないと出られないのに、何年も、何十年もクリアするまでに時間がかかるの」

透「やっとの思いでクリアしたら、そのときの時間ごと……その世界はなくなっちゃうんだ」

ルカ「それって、プレイする前の状態に戻るってことか?」

透「うん、大きく成長した身体も、そこで育まれた愛とか、思いも全部ね」

ルカ「……やるせないな」




透「……そうかな」



207 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:16:06.96 ID:/h8laeKX0

ルカ「……え?」

透「そのゲームで、そうやって時間を過ごせたってことはさ。何度だって同じ道を歩けるってことでしょ?」

透「たとえ、その記憶が無くなろうとも、人格が無くなろうとも……その人はそれができるだけの何かを、持ってるってことでしょ?」


私たちの記憶を奪って、この島に連れてきた犯人の一人。
ほかならぬこいつ自身がそう言っていた。
そんなやつが口にしたとは思えない、古臭い映画とそのあらすじ。
そこからつかみ取った青臭いメッセージが何だか妙に私の耳に残った。
耳孔を跳ねて反響して、その奥に届く。

私たちが失って、必死に取り返そうとしている記憶の数々。
それを拒絶するでも否定するでもなく、そこに隠されている可能性を、浅倉透は肯定した。

自らを投げうち、忘れ、浅倉透に【なった】……こいつが。

208 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:17:32.00 ID:/h8laeKX0

透「……もしかしたら、忘れた記憶の中で世界救ってたりするかもじゃん」

ルカ「ハッ……だったらこの島に集まったのは英雄たちの同窓会、ってか」

透「かもね」


それは自己肯定だったのかもしれない。
自分自身の生き方を他人にとやかく言われたくないとか、そういう思春期丸出しの主張だったのかもしれない。
でも、たとえそうだったとしても、こいつが自分の立場からものを言ったのは、これが初めてだったのかもしれない。



透「私、ドラゴンだって狩れるから」



____そう感じることができたのは、その笑顔があまりにも自然だったから。


-------------------------------------------------

【浅倉透との間に確かなつながりを感じる……】

【浅倉透の親愛度レベルがMAXに到達しました!】

【アイテム:10年後のカセットテープを獲得しました!】

・【10年後のカセットテープ】
〔時を超えて音声とともに大事なものを結ぶ方舟。彼女がそこに吹き込んだ言葉は10年の時を待っている〕


【スキル:つづく、を習得しました!】

・【つづく、】
〔学級裁判中発言力がゼロになった時、一度だけ失敗をなかったことにしてやり直すことができる(発言力は1で復活する)〕
209 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:21:28.28 ID:/h8laeKX0
【ルカのコテージ】


記憶を失った自分、失った記憶の中の自分。
その二つをどちらも肯定して生きていく、なんてとんだ棚上げだと思う。

でも、映画のあらすじに駆け付けて話したそれが、不思議と悪くないプランに聞こえて、それが我ながらこっぱずかしくて、
話を早々に切り上げて私は撤収してしまった。

「……にしても、つくづくよくわからないやつだよ。オマエは」

今のあいつは、浅倉透という影もぶれて見える。
能天気女が言っていたように、ここで過ごしたあいつとしての時間が……じきに成熟しようとしているのだろうか。

本当に、読めないものだ。


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…32個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 16:25:41.13 ID:CYEyM7vd0
1.あさひ
211 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:30:39.46 ID:/h8laeKX0
1 あさひ選択

【第2の島 図書館】

ルカ「……オマエ、またここにいたのか」

あさひ「あ、ルカさん! こんにちはっす!」


モノクマの動機提供があり、事態は大きく動き出す。
そうなると真っ先に注意を向けるべき対象が、こいつだ。
以前として狸の嫌疑のかかる中学生が、何かをしでかしやしないかと胸騒ぎがずっとしていたのである。


ルカ「なにをそんな熱心に読んでんだ……?」

あさひ「何か食べられる植物はないか探してたっす! お腹、やっぱり空いちゃってるっすから」


……でも、小宮果穂の処刑の時に見せたあの顔。
あの悲痛な叫びも、どれもこれも……偽物には見えなかった。

こいつの、正体って……本当は……?

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【クマの髪飾りの少女】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 16:33:15.74 ID:CYEyM7vd0
1.【神の砂の嵐の角】
213 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:44:28.18 ID:/h8laeKX0
1 選択

【神の砂の嵐の角を渡した……】

あさひ「な、なんっすかコレ……!?」

ルカ「何の動物かもわからねえガラクタだ。いらねえしやるよ」

あさひ「すごい……ロマンっすよ、これ!」

あさひ「なんの動物の角なんっすかね……!? ユニコーン、それともケルピー!?」

あさひ「これ、風が読めるような気もするっす……これ持って外行ってくるっすよ!」

ルカ「あ、おい……ちょっと待て!」

ルカ「ちょっ……足、はや……!?」

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより親愛度が多めに上昇します】

-------------------------------------------------

ひとまずの監視を行うかと近くの席に着座。
空腹を紛らす目的もあり、適当な文庫本を手に取ったのだが……視界の端でこいつはちょこまかと。

さっきまでご執心だった可食植物の本はどこへやら、机の上には人体の解剖図のようななんとも目に優しくない色合いのページが広がっていた。


ルカ「……おい、何やってんだ」

あさひ「え? ああ、これは研究っす。ほら、夏葉ちゃんの身体……変わっちゃったじゃないっすか?」

ルカ「……! お、おう……」

あさひ「だから、この人体と見比べてみようかなと思って。筋構造とか骨格とか、どう変わったのかなって気になったっす!」

ルカ「……」


私はもう齢20を過ぎる身だ。
かつてあった童心も随分と色あせてしまったし、興味関心なんてものも鳴りを潜めて久しい。

でも、そうだとしても……年頃の少女と言うのはここまで自分の好奇心に振り回されるものだろうか。
仲間の肉体が変わり果ててしまったという悲痛を差し置いて、その身体構造に目を向けて爛々と目を輝かせる。

それは果たして、健全な興味なのだろうか。


あさひ「あのロケットパンチとか、自分の意志で制御してたから脳神経と繋がってるっすかね?」

あさひ「神経回路の電気信号で動いてるんだとしたら、すごい技術……義手とかの技術の応用っすかね」

ルカ「なあ、おい」

あさひ「……? どうしたっすか?」

ルカ「オマエ、そもそもで引っ掛からねえのか? 仲間がロボットになった、なんて言われちまって」

あさひ「……」


私の問いかけを耳にした瞬間。

空気が突然に変わった。
眼からはハイライトが消えて、空調の音だけが空間に響く。


あさひ「それ、どういう意味っすか?」

あさひ「わたしが……夏葉さんの身体に、果穂ちゃんの死に何も感じてないって言いたいっすか?」

ルカ「……!」


1.オマエは自分の感情から逃避しようとしてるだけじゃねえのか
2.あの時の涙はなんだったんだよ

↓1
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 16:51:11.65 ID:CYEyM7vd0
2
215 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:55:19.03 ID:/h8laeKX0
2 選択

ルカ「……あの時の涙は何だったんだよ」

あさひ「……!!」

ルカ「小宮果穂と死別するときの、オマエのあの感情はどこに行ったんだ……メカ女が現れるなりそれに執心しやがって」

ルカ「ガキは時々残酷だっつーけどよ……オマエの振る舞いは、それにとどまらない」

ルカ「……小宮果穂の気持ち、本当に分かってやってんのか……?」

あさひ「……」

あさひ「……わたしだって、ずっとずっとつらいっす」

あさひ「起きる度に、体がなんだか重たいし、胸のあたりがずっとズキズキしてるっす」

あさひ「気を抜くと、愛依ちゃん、果穂ちゃん……みんなの顔が思い浮かぶし」

あさひ「夏葉さんの、あの優しくて、筋肉質な腕の感触が……蘇るっすよ」

あさひ「でも、だからって……それに縋ってちゃダメだって……冬優子ちゃんが戦えって、そう言うから……」

あさひ「……わたしは、負けられないっすよ」

あさひ「ストレイライトの芹沢あさひでい続ける限り、愛依ちゃんとも、プロデューサーさんとも約束したっすから」

あさひ「だから、凹んでいるよりも……もっと、次に続く何かがしたいっす。わたしに何ができるのか、わたしに何がわかるのか、ずっとずっと、考えたいっす」

あさひ「それに、果穂ちゃんが言ってたっす」

あさひ「わたしたちは大きくなれる、変わっていけるって」

あさひ「……なら、わたしがやるのは泣くことじゃないと思うっす」


こいつの振る舞い、わたしはその中で揺れ動いている感情が見えちゃいなかった。
こいつだって、年頃の子供でこの島に起きている出来事にかき乱されない道理なんてない。
脳を揺さぶられるような情報と感情の奔流に、こいつは必死に抗っていた。
自分自身の好奇心と言う逃げ道を用意して、それに縋ることで、やっとここまで歩いていた。

……残酷な仕打ちを受けているなと思う。


ルカ「……悪い」

あさひ「いいっすよ、別に。気にしてないっす」


こいつという人間に近づけば近づくほど、知れば知るほど……どんどん狸のイメージから遠ざかっていく。
この島で暗躍している影、その輪郭はどんどんぼやけていく一方だった。


-------------------------------------------------

【芹沢あさひの親愛度が上昇しました!】

【芹沢あさひの親愛度レベル…8.0】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…33個】
216 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:56:37.22 ID:/h8laeKX0
-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


時間がいくら経過しようとも胃を満たすのは消化液の蒸発した気体のみ。
ただでさえ痩せ型の体型の私は、この一日何も口にしないだけで目眩のするような感覚を覚えた。


「これは……想像以上に体力を持っていかれるな」


美琴の状況は気になるが、それ以前に私自身の身が危ぶまれる。
静かになれば部屋にはすぐに腹の虫が響く、耳栓をしたところで体の内側から聞こえるこの声はどうしようもない。
一人になったこの瞬間、空腹感が荒波のように押し寄せた。

……美琴が暴走をする前なら、二人で気を紛らわせる何かもあったかもしれないのに。
水槽のヤドカリを指先でつつく私は、空腹に加えて孤独を痛感せずにいられなかった。
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 16:58:05.40 ID:c3x8LfoP0
218 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:58:26.48 ID:/h8laeKX0
____
______
________

=========
≪island life:day 20≫
=========

-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう〜!』


目が覚めて、まず体に違和感を覚えた。とりもちに引っ付いたように、体が布団から持ち上がらない。
いっせーので目を覚ます、上体を起こすだけの動作が日ごろどれほどのエネルギーを消費して行っているのかをはじめて知った。
腹に意識して力を込めることでようやく持ち上がった体、気怠さがその先を継げない。


「レストランには……行ってもしょうがねえか」


どうせ行ったところで食事の支度はない。なら、無駄に歩くよりも他に時間の過ごしようがあるだろう。
そう思ったのも束の間。


『あ、ここでアナウンス! 朝ご飯が食べられなくなってオマエラも退屈してるだろうから、オマエラのために新しいレクリエーションを考案いたしました! 目を覚ました奴から順次中央の島のジャバウォック公園に集合ね、来なかった奴は分かってるよね〜?』


最悪だ。
いや、モノクマの事だ。ただ食事を抜くだけで終わらないのはある程度想像もついたといえばついたか?
空腹に苛まれて思考の幅が狭まってしまっていたのだろう。
これだけほどのアナウンスに過大なショックを受けながら、私は千鳥足で中央の島に向かった。
219 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:59:35.28 ID:/h8laeKX0
-------------------------------------------------

【中央の島 ジャバウォック公園】


元から朝は得意な方じゃない。
こちらの都合などお構いなしに照り付ける太陽には毎朝舌打ちをしながら中指を立てていたというのに、
食事もナシにこう島の移動で歩かされると余計に苛立ちが募る。
イライラと鬱憤が溜まっていく状況だというのに、中央の島へと渡ると、更にそれに拍車をかけるようなレクリエーションが私たちを待ち受けていた。


モノクマ「はい、そのままゆっくりと状態を右から左へ回してくださいね!」

あさひ「はいっす!」

モノクマ「そのまま5秒間キープ! 気をため込んで……あ、片足はちゃんと上げたままね!」

智代子「ひ、ひぃ〜〜〜〜! バランスが、保てないよぉ〜〜〜〜!」

夏葉「智代子、しっかりと丹田に力を籠めるのよ!」

ルカ「機械で制御された体のやつが何を言ってんだ……」

モノクマ「はい、今度はお腹に力を入れて左腕を突き出して〜?」

雛菜「このポーズ、可愛くないし雛菜やりたくない〜……」

透「なんか昔映画で見た気がするかも。なんだっけ、あの……ジョッキー?」

恋鐘「それやと馬に乗ってしもうとるたい……」


220 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:01:09.08 ID:/h8laeKX0

モノクマが私たちに強要したのはまさかの太極拳。
緩慢な動作、されど肉体への負荷はかなり大きい。
原理は良く知らないが、はじめて十分と経たないうちに私たちは汗だくになっており、体力もゴリゴリと削られた。
動作が静かな分、嫌でも自分の空腹と向き合うことになるあたりが性格も悪い。


モノクマ「ふぅ! 朝からいい汗かきましたね! この調子で続けていけばみんなもきっと海王を名乗れるほどの実力が身に着きますよ!」

冬優子「何よ……黒曜石を球体にでも削らせる気?」

あさひ「何言ってるんすか、冬優子ちゃん」

モノクマ「モノクマ太極拳は毎朝10時からこの公園で全員参加! やむを得ない理由がある場合を除き、参加しなかった不届き者にはペナルティが課されるので覚悟しておくように!」

雛菜「えぇ〜〜〜! 面倒くさい〜〜〜〜!」

ルカ「……チッ、無駄に毎日運動させやがって」

恋鐘「運動自体は悪くなかやけど……ちゃんとした食事があってこそのもんばい……!」

あさひ「やる前より更にお腹が空いた気がするっす〜……」


モノクマの目論見通りと言ったところだろう。
口々に不満を漏らす私たち、いかにも噴出する寸前といった様相だ。
これが毎朝続くとなると私も気が気でいられない。

221 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:03:53.56 ID:/h8laeKX0

だが、こんな無意味な太極拳にも一つだけ大きな利点があった。
それは、美琴も必ずこの太極拳には参加しなくてはならないという点だ。
この島で暮らす以上はその規則の中でしか生きられない。
全員参加のイベントには必ず美琴も顔を出す。公園の端で一人ぽつんとではあったものの、確かに参加しているのを私も目撃していた。
モノクマが姿を消すと、すぐに美琴の元へ向かった。


美琴「……ふぅ」

ルカ「み、美琴……」

美琴「……!」


だが、声をかけるとすぐに美琴は背を向けて、その場を立ち去ろうとする。
美琴の体力も削られているようだ、その足取りはいつかに比べるとずいぶんと拙い。
今なら、聞いてもらえるかもしれない。


ルカ「待てよ、お前も体力だいぶ削られてんだろ? 無理すんなって」

美琴「……」

ルカ「なあ、頼む……もう一度、話をさせてくれ。浅倉透のことは置いといてもいい、私の気持ちだけでも聞いてはもらえねーか……?」

美琴「……」


それでも美琴は振り返らなかった。私たちと言葉も交わさずに去っていく。
その背中を追う力は、今の私には残されていなかった。
無力感と疲労感がこみあげて、地面にぺたりとへたり込む。


冬優子「ルカ……あんた、大丈夫?」

ルカ「……おう、悪い」

冬優子「……モノクマのやつ、あんたたちの決別のタイミングを狙ったのかしらね」

ルカ「かもな……クソッ、つくづく嫌な野郎だぜ」

冬優子「ええ、ドブネズミ以下ってところかしら。腐り切ってるわ」


タイムリミットは、そう長くない。

222 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:05:16.97 ID:/h8laeKX0
-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

部屋に戻って、ベッドの上。
空腹を無理やり眠って誤魔化そうとも考えたが、太極拳のせいで変に目が冴えてしまっている。
運動というのは健康な時には何よりの味方だが、肉体に異常が起きているときは毒になりうる。
運動が体を蝕んでいく感覚に、虫が全身を這い上がるような言い知れぬ不快感を覚えた私は、時間を埋める術を求めた。


「……一人でいたら、気が狂いそうだ」


【自由行動開始】

【事件発生前最終日の自由行動です】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…33個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 17:10:29.69 ID:CYEyM7vd0
1.夏葉
224 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:14:04.79 ID:/h8laeKX0
1 夏葉選択

【第1の島 牧場】

牧草地帯の緑の中に一人立ち尽くす……金属光沢。
明らかに異様な存在なので、数十メートルはあろうかという距離でもすぐに見分けがついた。


ルカ「……よう」

夏葉「ルカ……あなた大丈夫? だいぶげっそりとした様子だけど」

ルカ「しょうがねえだろ……腹も減ってるし、さっきのよくわからねえ太極拳でじり貧だっての……」

夏葉「そうよね……人間は体力的に厳しい段階よね……」

ルカ「……アンドロイド目線が沁みついてきたな」

夏葉「……! やだ、私ったら……」

ルカ「照れるのはそこなのかよ……」


-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【クマの髪飾りの少女】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 17:16:18.40 ID:CYEyM7vd0
1.【ジャパニーズティーカップ】
226 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:28:41.97 ID:/h8laeKX0
1 選択

【ジャパニーズティーカップを渡した……】

夏葉「あら、随分風情ある贈り物ね。凛世が好みそうな装丁が施されてあるわ」

ルカ「ただの湯飲みってわけじゃないらしい。これを使うとただの水でも甘く感じるんだと」

夏葉「それはすごいわね……! ぜひ試してみたいわ!」

夏葉「惜しむらくは、今の私の味覚はあくまで再現品だということ。生身のうちに試してみたかったわ」

夏葉「でも、とても嬉しいわルカ。ありがとう」


【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

-------------------------------------------------

ルカ「……ああ、くそ」


元から健康体でない身体に食事抜きと言うのは思っていた以上に大きな影響を与えているようで、思わずよろけてしまった。
らしくもねえ、弱弱しい素振り。
そのままメカ女の手を取ってしまったのが余計に癪。


夏葉「ルカ……あなた、本当に大丈夫なの? 無理はせずちゃんと休んでちょうだい」

ルカ「別に無理なんかしてねー、それに何かしてねえと逆に空腹を意識しちまって頭が狂うんだよ」

夏葉「……そうよね、気持ちは分かるわ。でも……」

ルカ「南国の陽気が余計にきついんだろうな、日差しが体力を持っていきやがる」

夏葉「もう……すぐそこの小陰で少し休みましょう。備蓄していた水ならあるから……」


メカ女に促されるまま、木の下で座り込む。
私をエスコートするその間も、ずっとエンジンの駆動音が聞こえていたのがなんとも妙な感覚だ。


夏葉「……ごめんなさいね、私も体が変わってしまってから体調管理に少しだけ鈍感になってしまっているのかもしれないわ」

ルカ「自己意識の変化ってとこか」

夏葉「お恥ずかしい限りよ」

ルカ「いや、そういうもんだろ……もうオマエは管理の要らない完全体なんだから」


休息も栄養も、電気ですべて事足りる。
生物の高燃費で小回りの利かない生活よりは、よっぽどスマートだと言えるだろう。
でも、それを改めて口にすると……こいつは切なそうな顔をする。


夏葉「……完全、ね」

夏葉「私は、もともとカンペキな人間……トップを目指してここまで歩んできたわ。何をするにしても、やるからには頂点が信条だったの」

夏葉「でも……私はその景色を見る前に、道を違えてしまった。私の意志ではないにせよ、もう戻れないところまで来てしまった」


それは、おそらく体のことを指しているのだろう。
あれほどまでに自信に満ちた佇まいはすっかり錆びついて、しおらしくなっていた。
伏し目がちに、排気をしているその様子は、年季の入った旧車にすら重なって見える。


(……自信、か)

夏葉「誰かを守るため、この体になったことに後悔はないわ。でも……」

夏葉「生活が変わることに少しだけ寂しさを感じるのは、ダメなことなのかしら」

夏葉「こんな体では、もう元々の生活には戻れないでしょうから」


1.前例がないだけだろ?
2.オマエの周りの連中が、受け入れてくれないと思うか?

↓1
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 17:31:25.09 ID:3NZpndnO0
228 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:39:17.62 ID:/h8laeKX0
2 選択


ルカ「……らしくないんじゃねーの」

夏葉「……えっ」

ルカ「オマエは相当に周りに恵まれてる、そうじゃなかったのか? まあ、私からすりゃただの仲良し集団のお節介でしかねえんだけど……」

ルカ「あれだけ殺害予告しといた私を能天気に迎え入れた連中、それがオマエの周りにもいるんだろ?」

ルカ「だったら、何を心配することがあるんだよ。オマエの姿が変わったからって、他の連中の反応が変わるかよ」

ルカ「……実際、今ここにいる連中はオマエを化け物扱いはしてねーぞ」

夏葉「ふふっ……まさか、あなたにそれを教わることになるとはね」

ルカ「教えてねー、思い出させただけだ」


こんな青臭いことを師事したと恩義を持たれるのは御免だ。
私は友情だの絆だのとは無縁。
あくまで今の関係も、利用しあって生き延びるため、それだけの一時的な繋がり……

それなのに、メカ女はそのカメラレンズ越しの瞳を、無邪気に転がして私に微笑みかけた。


夏葉「……そうね、有栖川夏葉という存在をこの世界に、この歴史に刻み付けるうえではいいアクセントになるのかもしれないわ」

ルカ「かもな、私みたいな腫物でもやっていけてんのがこの業界だから」

夏葉「ふふっ、そんなことないわ。あなたのものも、れっきとした立派な個性よ」

ルカ「……うるせー」

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【有栖川夏葉の親愛度レベル……11.0】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…34個】
229 :この安価で終わりにします ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:43:39.67 ID:/h8laeKX0
-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

「……ハッ」

あんな安っぽい言葉ですぐに元気になるんだからお気楽な連中だ。
アンドロイドになったところでそれは変わらない、さぞ機械化するときの回路とコードも簡単だったことだろう。

それだけ簡単で単純なものなのに……きっと、作り出すのは難しい。

私は少なくとも、普通に歩んでいるだけじゃああはならなかった。

一体、どこから違うんだろうな。


【自由行動開始】

【事件発生前最終日の自由行動です】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…34個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 17:45:19.79 ID:CYEyM7vd0
1.夏葉
231 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:48:57.86 ID:/h8laeKX0

というわけで夏葉選択で本日はここまで。
次回更新は5/4(水)を予定しています。

シーズの追加コミュ読みましたがルカのパーソナリティにちょっと違いがありましたかね
大幅な路線変更とかはする予定もないですし、影響はないと思いますが

それではお疲れさまでした、またよろしくお願いいたします。
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 17:58:31.96 ID:CYEyM7vd0
お疲れさまでしたー
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/01(日) 22:07:30.24 ID:zpsyyAER0
乙です
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/05/04(水) 18:54:23.36 ID:vyWuNfFPO
本日更新予定でしたがまとまった時間が取れそうにないので明日に返させてください……
235 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 16:56:06.60 ID:S6n2p1Il0
1 夏葉選択

【夏葉の部屋】

さっきの今、空腹と南国の陽気に当てられて。
時間を持て余しているからといってどこへ行けるでもなく、私の足は自然と休息を求めていた。
時間潰しと休息の兼ね合いという贅沢を前に、思考は一つの結論を導き出す。
「さっき一度迷惑をかけたのだから1回も2回も同じ」。


夏葉「あなたが部屋に来てくれるなんて珍しいわね」

ルカ「……嫌ならそう言え」

夏葉「とんでもない! 歓迎するわ、ルカ。あいにく飲み物はオイルしかないのだけど」

ルカ「……だと思って持ってきた。空調だけ効かせてくれれば結構だ」

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【クマの髪飾りの少女】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/05(木) 18:01:59.18 ID:Nl54n6u10
1:竹刀
237 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:20:58.50 ID:S6n2p1Il0
1 選択

【蒔絵竹刀を渡した……】

夏葉「これは……随分と凝った装飾の為された竹刀ね」

ルカ「オマエんとこのユニット、確か和服のやつがいただろ?」

夏葉「あら、それじゃあこれは凛世に言づけておけばいいのかしら?」

ルカ「……言づけるも何も」

夏葉「……意地悪を言ってしまったわね。ありがとう、ルカ。あなたの気持ちはよく伝わったわ」

夏葉「ありがとう、大切にさせてもらうわね」

ルカ「おう」

(まあ、普通に喜んだか)

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ワックスのかけられたフローリングはゴム製のソールとの摩擦でアザラシの鳴き声のような音を立てる。
それに時折混ざるのが、金属質な者が奏でる駆動音。
熱気で思わず汗ばむ空間の中央で舞っているのは、彼女だった。


夏葉「……どうかしら、ルカ。振りも歌唱も衰えていないでしょう?」

ルカ「……おう」


いつだったかにテレビで見た通り。
有栖川夏葉は相変わらず画面の中とまるで同じな溌剌として愛らしいパフォーマンスをしてみせた。
完全すぎるほどの再現で。

238 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:22:14.29 ID:S6n2p1Il0

夏葉「この体になってからも練習は欠かしていないの。いつ元の生活に戻ってもすぐに人前に出れるようにしておきたいじゃない?」

ルカ「……」


果たしてその練習に意味はあるのだろうか。
元通りの生活に戻るとか、そういう文脈だけではない。
機械仕掛けの存在が、練習なんてことをするのに意味があるのか?
プログラムされた通りに同じ動作を繰り返す、その再現性には寸分の狂いもない。
1回目のパフォーマンスも、10000回目のパフォーマンスも全て同じはず。
本人がどれだけ力を込めようとも、どれだけ力を抜こうとも、そこに差異はない。
こいつがやっているのは、ただ自分の体に寿命を近づける……


______自傷行為だ。

239 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:23:13.30 ID:S6n2p1Il0

夏葉「私、こんな体になったからといって諦めるつもりはないの。一度決めたからには頂点を掴み取るまで妥協しない。有栖川夏葉の名前をこの世界に轟かせるわ」

ルカ「……」


やっぱり、こいつは美琴に似ていると思う。
高みを目指すという口実のもとに、目の前にある練習という麻薬に依存しているだけの空虚な存在。



『私には、これしかないの_________』




本当は練習の『その先』なんて、てんでぼやけているのに。



ルカ「なあ、そんなに盲目的になる必要は______」

240 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:24:21.13 ID:S6n2p1Il0



夏葉「そのための、最高のステージは自分自身で作り出してみせる」

ルカ「……!」




夏葉「わかっているわ、私の置かれた境遇が元通りを許してくれないことぐらい」


夏葉「好奇の目に晒され……同情だって向けられるかもしれないわね」


夏葉「だから、自分のパフォーマンスを磨くこと以上に……私は私自身の居場所を作り出すことに努力したい」


夏葉「私を待ってくれる仲間と、私を待ってくれるファンの人たちがいるのだもの。彼女たちと一緒に私は頂点に行く」


夏葉「可笑しいわね、初めは一人で登り詰めようと思っていたのに……それでは寂しく感じてしまうの」

241 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:26:44.49 ID:S6n2p1Il0


『アイドルでいられない人と私は組めない』


ルカ「……見当違いだったよ」

夏葉「ルカ?」

ルカ「いや、なんでもない。オマエはオマエの思う通り練習を続ければいいと思う」

ルカ「それぐらいしか、この島じゃ時間を潰す方法もないしな」

夏葉「ええ! もちろんよ! 1秒も時間を無駄になんてしていられないわ!」

ルカ「……皮肉が通じねえ」


人間のように豊かな表情筋は持たない。
機械的に口角が上がって目尻が動くだけ。
ただ、その先のライトの発光がほんの少しだけ柔和なものになったような気がするのは……


きっと電池の残量のせいなんだろうな。

-------------------------------------------------

【有栖川夏葉との間に確かなつながりを感じる……】

【有栖川夏葉の親愛度レベルがMAXに到達しました!】

【アイテム:極上の赤ワインを獲得しました!】

・【極上の赤ワイン】
〔彼女の生まれ年に醸造させられた上質な赤葡萄のワイン。突き抜けるような爽やかな酸味が、20年と言う時の蓄積を感じさせる〕

【スキル:cheer+を習得しました!】

・【cheer+】
〔発言力ゲージを+5する〕
242 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:30:22.67 ID:S6n2p1Il0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

全てがすべて、人間が人間たる部分まで変えられてしまったというのに、変わらないものというのはあるらしい。
私たち生身の人間の方がよっぽど脆弱で、よっぽど変化させられている。

それほどまでに、あの機体に一本通った芯と言うものが強固なようだ。


「有栖川夏葉……か」


私と同世代で、対極にいるアイドル。

いや、対極に『いた』アイドル。

……今の立ち位置がどうなったかなんてのは、言うだけ野暮な話だろう。


【自由行動開始】

【事件発生前最後の自由行動です】


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【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…35個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/05(木) 21:32:20.90 ID:jkNcRtH/0
1.雛菜
244 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:40:48.80 ID:S6n2p1Il0
1 雛菜選択

【第1の島 ロケットパンチマーケット】

雛菜「はぁ〜……お腹すいた〜……」

ルカ「……よう」

雛菜「あ、こんにちは〜……何か雛菜にご用事ですか〜?」

ルカ「用事かって言われてもな……」


常にお腹を押さえて前かがみ。
視線はどこか伏し目がちにため息交じり。
いつものこいつらしからぬ様子に、思わず声をかけずにはいられない。

空腹が不調を招いているのはもはや火を見るよりも明らか、と言った様相だった。


ルカ「ま、気を紛らわすのぐらいは手伝うってこった」

雛菜「……そうですか〜?」


まあ、こいつはまた違った悩みもあるんだろうが。

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‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【ジャパニーズティーカップ】
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【クマの髪飾りの少女】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/05(木) 21:43:14.82 ID:jkNcRtH/0
1.【クマの髪飾りの少女】
246 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:01:38.19 ID:S6n2p1Il0
1 選択

【クマの髪飾りの少女を渡した……】

ルカ「オマエ、確かクマのキャラ好きだったよな?」

雛菜「あ〜、ユアクマちゃんですか〜?」

ルカ「そう、よく知らねーけど……この絵にも似たようなキャラが書かれてて……」

雛菜「え〜?」



雛菜「……こ、これ……何、この絵……」

ルカ「……え?」

雛菜「わかんない……雛菜、この絵に描かれている人も、キャラクターもまるでわからないけど……」

雛菜「見た瞬間から、寒気が止まらない……」

ルカ「お、おいどうしたんだよ……急に……!?」

雛菜「こんなの要らない……雛菜、この絵大嫌い〜〜〜〜〜〜〜!!!」

ドンッ!!

ルカ「な、なんだよあいつ……突き飛ばしやがって」

ルカ「……こ、この絵……なのか? な、なんだったんだ……?」

(その絵に視線を落とすと)

(ピンクのツインテールに白と黒のクマの髪飾りをした少女がほほ笑んでいた……)


(……どうやら最悪のプレゼントだったらしい)

【BAD COMMUNICATION】

【親愛度が減少します……】

-------------------------------------------------

【市川雛菜の現在の親愛度レベル…5.5】
247 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:03:02.19 ID:S6n2p1Il0
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【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


はぁ……クラクラする。
ほんの二日、食事を抜く。それぐらいのことはこれまでにもあったかもしれない。
完全な断食ではないにせよ、多忙を極めた時はゼリー飲料を流し込んで終わらせるようなことだって何度かあった。

状況はそれとそう変わらないはずなのに、これほどまでに苦しいのは、きっとこの島のせい。
自分の身の上、過去にあったかもしれないコロシアイ、美琴との仲違い……
そういう漠然とした広大な不安感は私の精神をスリップダメージのように削り取り、肉体も内側から食い破っていた。
空腹はそこにトドメを指す最悪の一手。

自分の部屋でさえもぐんにゃりと粘土のように歪み始めた。
私も相当に来ているらしい。

なんでもいい、早く何かを口に入れたい……


「ああ、ダセェダセェダセェダセェ!! こんなの、私じゃねえっての……!!」


自分相手に自分を取り繕えなくなったらもうお終いだ。
こんな自分、見ていたくない。起きていたら余裕の無くした自分に気づいてしまって、いつか気が狂う。
ぐうぐうと喧しい腹の虫を無理やり押さえつけて、瞼を必死に下ろした。
248 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:04:13.50 ID:S6n2p1Il0
____
______
________

=========
≪island life:day 21≫
=========

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【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう〜!』


昨日よりも更にごりっと体力が持ってかれている。
もはや瞼を開けることも厳しいぐらい、口にまともなものがここ二日一度も入っていない。
食物を消化するために本来分泌されるであろう唾液は行き場を失い、口の中は妙な感触を作り出す。
頬と歯茎がくっつくように、妙に粘着質だ。
そんな中から迫出されるため息が清々しいものであるはずもなく。


「……そういや、ヤドカリって……あの見た目でカニの仲間なんだったか」


なんてクソみたいな考えもよぎるほど。
すっかり落魄れてしまったカミサマの姿がそこに在った。


「……落ち着け、とりあえず冷静になって……太極拳に行かねーと」


ぼんやりした思考に無理やりに行動の目的と言う核を埋め込んで、体を動かした。
顔を洗って服を着替えて、出る支度を整えるまでに幾度となく腹は鳴った。
もはや腹の音は聞きなれて環境音にも等しい。
『お腹が減った』という認識から、『何かを食さねば』という義務感に徐々に変わりゆく、そのフェーズの途中だ。


「……はぁ、行くか」
249 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:05:31.91 ID:S6n2p1Il0
-------------------------------------------------

【中央の島 ジャバウォック公園】


智代子「おはようブラックサンダーちゃん! 今日も甘そうだね!」

ルカ「……あ?」

恋鐘「智代子はさっきからこげん感じたい……もう目に入るものすべてが食べ物に見えとるとよ」

智代子「あはは、ちゃんぽんちゃん! そんなに私が食い意地を張ってるみたいな言い方はやめてよ〜!」

あさひ「冬優子ちゃん、昨日図鑑で調べたんすけどゴキブリってエビみたいな味がするらしいっすよ」

冬優子「あんたそれ行動に移したら絶縁だから」

透「どっか芋とか埋まったりして無いかな」

雛菜「最悪土でも食べればお腹は膨れそうだよね〜」


絶食状態もここまで続くと地獄絵図だ。
全員がその欲望を包み隠そうともしなくなり、荒唐無稽なことばかり口にして現実逃避。
そのやつれた頬も相まってかなり悲壮感の漂う光景、これまでの日常からは想像もしなかった世界だ。

250 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:07:32.79 ID:S6n2p1Il0

冬優子「はぁ……こんなでも太極拳はやらなきゃならないって、ほんと終わってるわ」

ルカ「……だな、腹の足しになるどころかマイナス……このままじゃマジで衰弱死しちまうんじゃねーのか」

冬優子「それだけは御免よ……死ぬ前の最後の食事ぐらい、選ばせてほしいわ」

ルカ「ハッ、言えてるな……」


だが、私たちがいくら愚痴を言おうとも……その日の太極拳は中々始まらなかった。
つい先ほど召集のアナウンスだって流れたはず、それなのにモノクマは一向に姿を現さない。


雛菜「もしかして、昨日の一回で飽きちゃったとか〜?」

智代子「だとしたらアナウンスは普通やらないよね……?」

冬優子「……ていうか、なんかヘンよね?」



あさひ「人数、足りてないっすよ」



ルカ「……!?」

251 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:09:00.88 ID:S6n2p1Il0

空腹から来た眩暈でよく見えていなかったが、辺りを見渡してみると確かにその通りだ。
私たちから距離を置こうとしていた美琴……そして、この状況下で誰よりも元気なはず、食事を必要としない存在になった……



【有栖川夏葉】の姿が見えていない。



ルカ「お、おい……モノクマ! この状況……説明しやがれ!」


カメラに向かってそう叫んでもまるで応答はない。自分の叫び声が周辺の木々に吸収されて終わり。
ここしばらくの絶食で完全に抜けきっていた体の力が俄かに蘇る。
体力を維持するためにパフォーマンスを落としていた体の器官という器官が過剰なほどに活動を始めた。
視界は開け、耳は音をよく拾い、そして肺は必要以上に酸素を取り入れる。

それは活力なんて前向きなものではない、脳裏によぎった最悪な予感を検証するための……義務としての活動力。

252 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:10:19.40 ID:S6n2p1Il0

ルカ「急いで探しに行くぞ……!! 胸騒ぎがしやがる……!!」

冬優子「分かった、でも……どうするの? どこにいるかまるで見当もつかないじゃない」

あさひ「智代子ちゃんは夏葉ちゃんと一緒じゃなかったっすか?」

智代子「昨日の夜に会ってからはそれっきりだから……そ、そんなわけないよね!? 夏葉ちゃんが……そ、そんなわけないよね?!」

透「……確かめないと、絶対」

冬優子「しょうがない、片っ端から探し回りましょう。分担して、複数人で残り四つの島を調べるわよ」


冬優子の言う通りに私たちは少数グループをいくつか作り、第1の島から第4の島に至るまで、その全てを捜索する事にした。

私が請け負ったのはもっとも新しいエリア……第4の島。
遊園地なんて、訪れる理由は早々ねーはずだが……万が一のことだってあり得る。
嫌な胸騒ぎを感じつつも、私は島を渡った。

253 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:11:36.46 ID:S6n2p1Il0
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【第4の島】

第4の島の広大な敷地、アトラクションのすべてを見ていたら正直キリがない。
ある程度見当をつけてから調べに行くべきだろう。

そう、思った。

調査にかける労力だけで見れば、この結末は幾分か助かるものだったかもしれない。
今のこの衰え切った体力と思考力では、いつ見つけられるかもわかったものではない。

そう、発見は早ければ早いほどいいものだ。それは間違いない。
でも、対面が早ければ早いほどいいというものでもない。


対面には必要な準備、【覚悟】と言うものがある。


……すっかり忘れていた。
この島がそんな覚悟なんてものに猶予を与えてくれるはずがない。
そんな慈悲があるのなら、私たちがこんな状況に陥っているはずがないのだから。



254 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:12:44.41 ID:S6n2p1Il0


「……嘘、だろ」


こいつだけは、死ぬはずがないと思っていた。
誰も殺せるはずがないと思っていた。
殺していいはずがないと思っていた。
だって、こいつはかけがえのないものを守るために、一度その身を挺して肉体を滅ぼしたのだ。
死の淵からよみがえった人間を改めてもう一度殺すなんて、そんな胸糞の悪い話が、あってたまるかよ。
きっと犯人は、人間として大事なものが欠落している存在なんだろう。



____そうでもなきゃ、


255 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:14:00.75 ID:S6n2p1Il0





【有栖川夏葉の身体をバラバラにして殺害】なんて、できるはずもない。





256 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:15:09.90 ID:S6n2p1Il0
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CHAPTER 04

アタシザンサツアンドロイド

非日常編



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257 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:18:33.08 ID:S6n2p1Il0
というわけでやっと事件発生まで行けました……
チャプタータイトルで想像はついていたとは思いますがこうなりました

ちなみに雛菜に渡した【クマの髪飾りの少女】はいわゆる地雷アイテムです。
原作のあの少女と思しき肖像画は誰にとってもトラウマとなりうる品として作用します。

次回更新は5/6(金)の21:00前後を予定しております。
今章の非日常編は例のゲームがある都合で少し長くなります、是非ご参加ください。

それではお疲れさまでした、またよろしくお願いいたします。
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/05(木) 22:36:42.53 ID:jkNcRtH/0
お疲れさまでしたー
原作の方だと何人かは地雷だから危なそうだしダメそうな気もするけどせっかくならクマつながりで雛菜の反応見たいなー
って興味本位で選んだけどまさかの全員に地雷だとまでは思ってなかったですね……
ふふっ、ごめん
でも絵を見ただけで寒気に襲われる雛菜は正直かわいかった
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/05(木) 23:56:02.65 ID:Nl54n6u10
>>1乙!
やっぱりファイナルデッドルームあるんか・・・
そして参加するのはあいつだろうな・・・
ホントシャニPたちはシーズに闇を持たせたがるんだなぁ・・・
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 17:17:17.55 ID:rYV+b3N9O
SS避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 18:26:14.36 ID:UlYkOM+i0
取り巻きがうるさいなぁ
262 :少し早いですが再開します ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:39:03.45 ID:rCMCDoJ90
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CHAPTER 04

アタシザンサツアンドロイド

非日常編



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263 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:41:29.70 ID:OQT/+f4M0

よくテレビで世界の衝撃映像なんてくだらない番組をやっている。

世界中から集めたハプニング映像だとか、規模の大きな化学実験だとか、
そういうのを集めて出演者のリアクションを集めるのが目的の省エネルギー番組。
子供の時から、やる気のないバラエティだと思っていた。

そんな番組で時々、プレス機を使った実験をする動画が流れた。
水風船やスイカなんかをプレス機にかけてスロー再生したりだとか、子供のおもちゃを押しつぶしてその形態変化っぷりを笑ったりだとか。

なんというか、悪趣味だなと思った。

既に完成された形あるものを、抵抗もできないほどの圧倒的な力で捩じ伏せて破壊する。
その絶対的な力関係を体現したような動画を嬉々としてみる人間の気が知れなかった。



____普段見ているものが拉たり歪んだり、形を変えられてしまうことの気色悪さを、改めて噛み締めていた。



私の目の前に散らばっているのは人体ではない。

だが、人型であったはずのそれは……見る影もないほどにバラバラの鉄の塊となってしまっていた。


「嘘……だろ……? なんだよ、これ……」

264 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:42:45.00 ID:OQT/+f4M0

気がつけば私は両膝をその地面につけていた。
ここ暫くの断食による肉体の疲労も相まって、肉体の虚脱感は凄まじく、意識はもはや肉体の外にあった。
有栖川夏葉のその成れの果てを今のか細く弱りきった体ではとても受け止めきれず、空っぽになった臓物を絶望と困惑が埋め尽くした。

どうして、よりによってこいつなんだ……?
本当にこの島では不条理なことしか起きない。
一度助かったから、もう無事……なんて物語のお約束ごとなんてこの島では守られやしない。
小宮果穂を庇い、肉体を完全に失ったというのに、それに飽き足らず機械の体すらも引き裂いての殺害。
ただ命を奪うだけに終始しない、犯人の手口とそこに交じる感情に苦々しい液体外から迫上がる。
つい昨晩まで言葉を交わした口と言葉を生み出す咽喉は距離を隔て、
機械の体になってから筋肉もないのに鍛えていた自慢の肉体は無残に断裂し、血管のようなケーブルがその間間に垂れ下がる。
肉体を繋ぎ、エネルギーを運んでいただろう液体は地面を黄緑色に染め上げ、私の鼻を刺激的な臭いが刺した。


「……クソッ」


茫然としかける自分を何とか揺り戻す。
今私が死体を発見したこの瞬間から、命を懸けた戦いの火ぶたは切って落とされているのだ。
嘆いているような時間などない。
力の抜けきった膝は、不格好に震えながら上体を持ち上げた。
265 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:43:43.56 ID:OQT/+f4M0
____
______
________


恋鐘「な、夏葉……!? な、なんね……!? なにが起きとる!?」

冬優子「……惨いわね」

透「これ……エグいなぁー……」


これまでに死体を発見する事、三回。
そのいずれも凄惨という言葉を用いるに足る現場ではあった。
死を迎えた人間とはそうした修飾語を用いなくては表現のしようもない有体である。

だが、バラバラの死体ともなるとまた事情が違う。
これまでの凄惨とはまた尺度の異なる凄惨。
自分自身の身体の節々が妙にソワソワするような、そんな心地の悪い感触を抱かずにはいられない。

266 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:44:29.57 ID:OQT/+f4M0

智代子「なつ、はちゃん……?」


甘党女はその、頭部だったものを持ち上げて抱き抱える。
かつて眩しすぎるほどに輝いて、私たちを導いていたその瞳のランプはもう灯ってはいない。


智代子「どうして……どうして夏葉ちゃんが殺されなくちゃいけないの……」


甘党女の瞳から涙が滴り落ちて、その無機質な金属面を伝う。
これは感動的な御伽噺でも、ファンタジーのご都合話でもない。
いくら故人を偲んで涙を流そうが、命失し者はもう戻ってはこない。


智代子「なんで、犯人は2回も夏葉ちゃんを殺したの……? もう、果穂のおしおきで一度死んじゃってるんだよ……?」


その質問には誰も回答を返せなかった。
267 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:46:19.83 ID:OQT/+f4M0

ピンポンパンポ-ン!!

『死体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』


黙りこくる私たちの背後で鳴り響くアナウンス。
すぐにモノクマもその姿を表した。


モノクマ「死……それは何よりも平等なもの……動物だろうと植物だろうと、有機物だろうと無機物だろうと等しく平等に訪れるのです……」

モノクマ「人間の魂を持った無機物だった有栖川さんにも、それは訪れる……回路の機能停止という絶対的な死がね……」

ルカ「来やがったなモノクマ……!」

モノクマ「いやはや、驚いたね。誰よりも強力な肉体と精神を手に入れた彼女がこんなカタチで退場しちゃうなんてさ、ユウェナリスもおったまげでしょ」

美琴「彼女が破壊された場合でも、やっぱり事件としてみなされるんだね」

モノクマ「当然! オマエラにとってかけがえのないお仲間だったことは変わりないでしょ?」

智代子「夏葉ちゃんはどんな姿に変わろうとも、夏葉ちゃんだったもん……その命を奪った犯人、絶対に見つけ出さないと……!」

ルカ「おう……こんな胸糞悪い事件、犯人をみすみす見逃すわけにはいかねえ」

雛菜「それに、雛菜たちの命だってかかってますからね〜」

モノクマ「おっ、ノリノリですなぁ! でも、そんな体調で本当に犯人を見つけ出すことなんてできるのかな?」

268 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:47:27.94 ID:OQT/+f4M0

私たちを一瞥して首を傾げるモノクマ。
何を熱を冷ますようなことを言い出すのかと思うと、そのすぐ後に意図を介した。
仇を討とうと奮起する心情とは裏腹に、肉体は悲鳴を上げている。
ここ数日何も食事を口に運んでいないその体は、不自然なほどに震えていた。
事件に対する恐怖や不安とはまた別の震え、肉体に貯蔵されていた栄養素を分解しているであろう、見たことのない痙攣を前にして自分自身でギョッとした。


モノクマ「空腹は最大の敵! そんな状態じゃ捜査のために駆けずり回ったり、頭を働かせて推理したりなんて出来ないでしょ?」

あさひ「うぅ……お腹はずっと空いてるっすよ〜……」

恋鐘「そげんこつ言うたって仕方なかよ……無茶をしてでも事件に向き合わんと!」

モノクマ「肉体に鞭を打ってでも学級裁判に向き合おうというその姿勢! いかにも日本人らしい社会の歯車精神ではございますが……」


モノクマ「今回はその必要はございません!」


そう言うとモノクマは仰々しく右手を高々と掲げてみせた。
そこに握りしめられていたのは……



モノクマ「あんパンと牛乳〜〜〜〜〜!!」



269 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:49:45.79 ID:OQT/+f4M0

ルカ「お、お前……それって……」

モノクマ「約束だったからね、今回の動機は事件が起きるまで食事抜き! 事件が起きた今、オマエラには食事を口に運ぶ権利があるんだよ」

モノクマ「ほら、ここに段ボールに入れてきたのがあるから一人一セット、捜査の前にしっかり栄養補給してから臨んでよね。そうじゃないと学級裁判どころじゃないでしょ?」

ここ数日ずっと探し求めていた食料。
私たちは考える間もなくその箱に群がって飛びついた。

ずっと何も口に入れておらず、唾液ばかりを何度も味わい続けた口の中で、あんパンの優しい甘さがじんわりと広がっていく。
だが、そんな甘さを嚙みしめているような間はない。
本能と肉体とが、味の検証よりも栄養の補給を優先した。
両手に収まらないぐらいの十分な大きさがあったあんパンはみるみるうちに小さくなっていき、
瓶いっぱいにそそがれていた牛乳も、何のつっかえもなく咽喉へと注ぎ込まれて一瞬にして空。

食事と言うにはあまりにもお粗末な咀嚼をし終えて、一呼吸。
腹を満たす満足感、指の先まで染み渡る息を吹き返したような感触。
270 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:50:45.00 ID:OQT/+f4M0

そして、メカ女に対する並々ならぬ思いがこみ上げてくる。
今この体に入っていった栄養は、こいつの死があってこそのもの。
感謝なんてするわけではない、それは死の冒涜に他ならない。

かといって、謝るのも違う。私とメカ女との関係性をはき違えた言葉は送るべきじゃない。



____では、死を犠牲にして生き永らえた私たちから送るべき言葉はなんなのだろうか。



その答えがどうしても見つからず、私はただ手を合わせた。
何もしないのも気が済まず、手持ち無沙汰になった体で無理やりできる表現のかたち。
何を表現しているのかもわからないが、祈りとは元来そういうものなのだろうと悟った。
言葉にできない万感の思いと言う奴だ。
共に同じ時間を過ごしてきた人間として、私にできるのはそれくらいのものだった。


ルカ「……ごちそうさま」


他の連中も、一通り食事をし終えると不思議と手を合わせていた。
食前食後のただの習慣のやつもいたんだろうが、少なくとも甘党女のそれは私と同じ文脈にあるものだったんだと思う。
そうじゃなきゃ、わざわざメカ女の方に体まで向けはしないだろう。

271 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:52:22.67 ID:OQT/+f4M0

モノクマ「食事というのは間接的な他殺に他なりません。生きとし生けるもの、常に殺しと共にある。ぼかぁそういう営みの尊さを、この同期提供で噛み締めてもらいたかったんだよね」

モノクマ「どうだい? 有栖川さんを犠牲にしたあんパンのお味は」

ルカ「……クソまずい」

モノクマ「そうかいそうかい! 罪悪感のソースはお口に合いませんでしたか!」


モノクマには好きに言わせておくことにした。
私たちが感じているのは罪悪感なんかじゃない、せいぜいその見当違いな解釈ではしゃいでいればいい。
その余裕ぶった態度にできる油断の隙、それをいつか必ず穿ってみせると決めて、私は背を向けた。


ルカ「……美琴」

美琴「……」


美琴はなおも私と協力する気はないらしい。
言葉に何の反応も見せぬまま、死体のそばにより、一人で捜査を開始した。
寂しさよりも申し訳なさが先に立つ。
あんなに千雪が世話焼いて取り持ってくれた仲を守り続けることができなかったなんて、千雪の墓前でどんな顔をすればいいんだろう。


でも、それもこれも嘆いている暇などない。
手から零れ落ちてしまうのなら、それを掬い上げる何かを用意しなくてはならない。
この島において、それは事件の真実になるだろう。
間違った選択をしないこと、自分たちが生き延び続けること。
その道を歩み続ける限りは、対話の瞬間がきっと生まれるはず。

それを信じるほかないんだ。

気合入れろ、頼れるのは……自分だけだ。


【捜査開始】


-------------------------------------------------
272 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:54:42.40 ID:OQT/+f4M0

さてと、まずは事件の概要から確認しておくか。
電子生徒手帳を取り出して起動してみると、案の定既にモノクマによってデータが共有されていた。
指先で画面をつつき、モノクマファイルを展開する。


『被害者は有栖川夏葉。被害者は先日の学級裁判によるおしおきの巻き添えに遭い、身体機能の多くを失ってしまったため、機械の体に意識を移植する手術を受けていた。死亡推定時刻は昨日深夜3時ごろ、死体は第4の島の外周、砂地の上で発見された。人間にあるはずの臓器の類いを被害者は有してはいないが、全身に強い衝撃を受けたことにより回路系統を損傷して機能停止を起こしたことをもって死亡したと判定した。損壊は激しく、四肢と胴体部、頭部などはバラバラになっており、凹みも激しい』


なるほど、人間ではない被害者ということでどんな記述になると思ったが、
機械の体に埋め込まれている回路の損傷をもって死亡したと断定するらしい。
人間の心臓が拍動して体中に血液を巡らせ、栄養を運ぶように、アンドロイドの身体は回路が電気信号を走らせて情報を運ぶ。
まさに心臓部と呼べる部分があったんだろう。

死因と死体の有様とは矛盾しない。
死体はまさにバラバラ死体と言うべき状態で、ボコボコに凹んだ死体のパーツが辺りに散らばり、オイルもその場に撒き散らされいる。
その光景を人間に置き換えてみるとぞっとする。
……いや、そんなことを考えている自分の方が残虐か。

ともかく、今回の事件は特殊なんだ。
このモノクマファイルはいつも以上に有力な証拠になるだろうな。


コトダマゲット!【モノクマファイル4】
〔被害者は有栖川夏葉。被害者は先日の学級裁判によるおしおきの巻き添えに遭い、身体機能の多くを失ってしまったため、機械の体に意識を移植する手術を受けていた。死亡推定時刻は昨日深夜3時ごろ、死体は第4の島の外周、砂地の上で発見された。人間にあるはずの臓器の類いを被害者は有してはいないが、全身に強い衝撃を受けたことにより回路系統を損傷して機能停止を起こしたことをもって死亡したと判定した。損壊は激しく、四肢と胴体部、頭部などはバラバラになっており、凹みも激しい〕


273 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:56:21.98 ID:OQT/+f4M0

今回は、とにかくここを重点的に調べないことには進まないよな。
こういう言い方をするのもなんだが、人体ではなく機械の体だから、今回は自分自身で触って調べることもできそうだ。
まあ、流石につい昨日まで動いているところを見ていたから胸は痛むけどな。

死体を調べてみるとして……パーツごとに調べてみようか。

【頭部】……有栖川夏葉の人間だったころの名残を色濃く残しているパーツだな。あんなに饒舌だったのに、今となっては一切の言葉を発さない。

【胴部】……一番大きな胴体部のパーツだ。やっぱり頑丈なつくりになっているのか、そのまま切り出したような形でゴロンと転がっている。様々な機能がここに集中していたはずだ、確認しておこう。

【腕部】……この第4の島を解放したロケットパンチだ。……大丈夫だよな? 突然、暴発とかしないよな?

【脚部】……あの鋼の肉体を支えていただけあって、他のパーツとは違った構造の断面図が見え隠れしているな。詳しいことは分からねえけど。

-------------------------------------------------

さて、どのパーツから調べるか……

1.頭部
2.胴部
3.腕部
4.脚部

↓1

274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 20:57:53.83 ID:Ubtp7SOH0
275 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:01:53.62 ID:OQT/+f4M0
1 選択
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【頭部】

溌溂とした笑顔、はきはきとした喋り口、つい後ろをついていきたくなるような温かくも力強い眼光。
そうした彼女らしさに満ち溢れた顔は機械の体になってからも変わらない彼女のアイデンティティであり続けた。
構成する物質が変わりこそすれ、不思議とそれを受け入れられたのはきっと彼女自身が変わらなかったからなんだろうと今になって思う。

そんな、有栖川夏葉のなれの果てがこれなのだ。
大きく凹んだ頭頂部からはオイルがだくだくと溢れだし、カメラレンズとなった眼球は閉じることもなく光を失ってそこに鎮座する。
その表情は、どこか苦悶の色をにじませた。


智代子「……」

ルカ「……なあ、その……調べても、いいか」


甘党女の肩に触れる。載せた手が、彼女の肩に合わせて小刻みに上下した。
私の要求を聞いた甘党女は、しばらく自分の顔と同じ高さに有栖川夏葉の亡骸を持ち上げる。

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