渋谷凛「アイドルで」北条加蓮「大河ドラマ」神谷奈緒「源平物語!」

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106 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:16:36.25 ID:wJoYvkKh0
巴「どげなことじゃろかのう、法皇の方からウチらのシマまでやって来るいうんは」

茜「……拝謁を賜ろうとしたのですが!」

巴「なんて言うとった? 法皇は?」

茜「ここは仮の御所に過ぎぬ……とだけ、どういう意味でしょうか!?」

巴「わからんのう……」


志希「義仲はさ、宮仕えの経験もない地方出身者だから、法皇サマの深遠なお言葉では理解できないと思うよ〜」

フレデリカ「そっかー。早く本来の御所に帰りたい……都に行きたいって伝わらないか−」

志希「義仲には、あたしがそう言っておくから」

フレデリカ「うんうん。都育ちで宮仕えの経験もある行家ちゃんこと新宮十郎ちゃんを、ミーはこれからは頼りにするからね」

志希「ありがたき〜」


志希「てことで、法皇サマは京の都に戻りたいので警護せよ。拝謁はその時にネ、だって」

巴「なんじゃあ。そげならそげんて言えばよかろうに」

志希「まあまあ。これが都人の表現なんだよ」

茜「ともあれ、わかりました! いざ、法皇様をたてて京の都へ」

保奈美「こうして義仲は、都入りを果たしました。そしてすぐ後白河法皇に拝謁をし、都の警護を任されます」
107 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:17:28.54 ID:wJoYvkKh0
フレデリカ「それでそれで? ミーの義仲を討てという院宣に、頼朝ちゃんはなんて?」

志希「それがね、頼朝は『今はただ、私の罪が許されることを願うのみです』……と、こういう返事」

フレデリカ「フンフンフンフンフフーン♪ なるほどネ」

志希「これって遠回しに、義仲を討つつもりはナイって返事?」

フレデリカ「ノンノン! 逆だと思うな。頼朝ちゃんはまず、自分の官位を返せって言ってるんだよ」

志希「頼朝の官位……なんだっけ?」

フレデリカ「従五位下、が平治の乱の前の頼朝ちゃんの位だよ。いいよ、その官位復活させちゃう」

志希「頼朝もなんだかんだ言って、官位が欲しいんだね」

フレデリカ「位の欲しくない人なんていないよ。だからみんなミーを大事にしてくれるんだし」

志希「なるほどねー」

フレデリカ「そんでネ。この機会に平家との関係が深い安徳天皇は廃位して、次の天皇を立てようとおもうんだよネ」

志希「いいねいいね〜ん?」

フレデリカ「どうしたの?」

志希「安徳天皇……置いて来ちゃったんでしょ?」

フレデリカ「ウンウンそだよー」

志希「じゃあ三種の神器は今は〜?」

フレデリカ「あ!」
108 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:18:18.29 ID:wJoYvkKh0
美嘉「法皇はなんて言って来た?」

忍「うんとね、源頼朝を従五位下に復認する……だって」

美嘉「そうか……うん、良かった」

忍「あのさ、頼朝さん。やっぱり官位って欲しいもん?」

美嘉「全然」

忍「え?」

美嘉「アタシは官位が欲しいんじゃないの。欲しいのは……大義名分」

忍「どういうこと?」

美嘉「義時はさ、戦に勝つには何が必要だと思う?」

忍「え? うーん、やっぱりそれは実力というか武力?」

美嘉「そうだね。他には?」

忍「運も大事かな。平維盛に勝った時もあれは、運が良かったところもあるから」

美嘉「そう。運も大事。他には?」

忍「それ以外……まだなにかあるかな?」

美嘉「あるよ」

忍「なんです? それは」

美嘉「気分」

忍「気分……って、気分で勝てるの!?」

美嘉「この人は勝てる、そう思ったら味方する。この人は負けるだろうなと思ったら見捨てるか敵に回る。そういうものでしょ?」

忍「まあ、私たち地方の豪族はね」

美嘉「つまり、周囲の勢力に『この人は勝てる!』って気分にさせるのは重要なこと」

忍「うーん、なるほど。それで?」

美嘉「アタシは昨日まで、都で父と共に乱を起こした罪人で、流人。ところが今は、従五位下の官位を持ち、法皇からの院宣も賜っている……つまりアタシたちは今は官軍」

忍「そっか! 一夜にして頼朝様は賊から朝廷から認められた官軍になったんだ!」

美嘉「義時、すぐに東国中に文を送って。源頼朝は、朝廷よりを従五位下と認められたって。つまり頼朝の軍は朝廷より正式に認められた官軍だ、って」

忍「うん! わかった! みんなをそういう『気分』にさせるよ!」
109 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:19:29.77 ID:wJoYvkKh0
茜「平家を追討せよ、と!?」

フレデリカ「そうそう。それでネ。三種の神器を平家から取り返してきてよ」

茜「はあ。それでは近々、平家を追討いたします」

フレデリカ「なるはやでネ〜。頼りにしてるから、義仲ちゃんを」

茜「ありがたきお言葉!」


凛「前に茜が、どちらが源氏の大将として天下を取るか勝負ですよ、って言ってたけどこれで茜の勝ちなわけなの?」

奈緒「確かに義仲は、他の豪族を従えて京の都に入った。将軍にも任じられて、旭将軍と呼ばれるんだけど……」

加蓮「平家もいなくなった京は、義仲の天下になったんじやないの?」

P「では、義仲が入京したあとどうなったのかを見ていこうか」


巴「しゃけらもない! なんぽ血気盛んゆうて、京の都のモンを略奪したりしちょるんはウチの若いモンもどないな了見じゃ!! 見つけしだいそんなは、ササラモサラにしちゃるど!!!」

茜「……無駄ですよ、巴ちゃん!」

巴「殿……無駄っちゅうんはどういう意味じゃ?」

茜「京の人々から略奪をしているのは、我が兵ではないんです!」

巴「はあ? ほんなら……まさか!?」

茜「我々に協力したいと、京まで進軍してくる途中で集まってきた各地の豪族や“武士達(ギャルサー)”です!」

巴「あいつら、うちの組の看板使って略奪しよるんか! 許せんのう!!」

茜「しかし寄せ集めとはいえ、私の元に集まった数万の兵がこの京にいます。その兵を食べさせるご飯が、ないんです!」

巴「食うモンがないけえ、略奪しよるわけか……しかもその数万の兵は統制がまるでとれんのじゃから、どうにもならん……」

茜「私が何を言っても、聞いてもらえませんからね! 大軍を率いているはずが、その大軍が枷になって身動きがとれません!」

巴「どげんすりゃあええんじゃ……」
110 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:20:22.27 ID:wJoYvkKh0
茜「あはははははは!」

巴「な、なんじゃ? 殿」

茜「私はずっと不思議に思っていました! なぜ頼朝は動かないのか……鎌倉で各地の豪族を集め、御家人とし、忠誠を誓わせ、組織を作っている……なぜ京に攻め上らずにそんなことをしているのかが、ようやくわかりました!」

巴「実は、うちもわからんかった。そげか、兵の統制をとって、組織立ててそん上で動かしよるんが頼朝のやり方っちゅうことか」

茜「急いで攻めあがった私、ゆっくりと組織固めをした頼朝、ライバルとの対決は……私の負けというわけですね!」

巴「アホぬかせえ!」

パン

茜「巴……ちゃん!?」

巴「うちの惚れた男が、心底惚れた男が、そがあなことなんかぬかすなや!! うちの殿なら、弱音なんか吐かんと……なんとかせえ!!!」

茜「巴ちゃん……そうですね! 戦って……戦いだけでここまできた私です、戦うしかないなら戦いましょう!」

巴「そげじゃあ! よし、そんでどっちじゃ? 殺るんは平家か? 源氏か?」

茜「後白河法皇は、平家を討てと矢の催促です! ここは、平家をつぶしましょう! そうすれば、私にきちんと従う者も増えるかも知れません!」

巴「うちはあの後白河法皇っちゅうんは好かんが、殿が決めたならそげんしようか。よし、平家を討つんじゃ」


加蓮「あー、また茜ちゃんと戦うのかあ」

奈緒「そうは言っても、この先平家側も源氏側も戦いの連続だからなあ。誰かとは戦わないといけなくなるんだ」

凛「京の都から屋島に移った平家は、この頃どうなっていたの?」

P「四国や九州の西国からの援助を受けて、勢力を盛り返してきた。特に瀬戸内海での覇権は依然、平家の独壇場だった」

凛「力を取り戻してきたんだ」

奈緒「さあ、じゃあその力を盛り返してきた平家と義仲との対決だ」

保奈美「舞台は備中国水島。現在の岡山県倉敷市玉島です」ベベベン
111 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:20:59.64 ID:wJoYvkKh0
加蓮「義仲が、配下の大軍を備中に送り出した!? 遅かったかー……」

くるみ「なにがでしゅか?」

加蓮「こうなるとは思ってたんだよね。義仲が京の都に入っても、寄せ集めの大軍なんかじゃ都を治めることはできない、って」

乃々「以前、新中納言様がおっしゃっていた、義仲は身動きがとれなくなる羽目になるっていうのは、そういうことなんですね」

加蓮「うん。その困った時に、手を差し伸べたら和睦ができるかもって思ってたんだけど」

雫「和睦ー!?」

加蓮「私たちと義仲で、頼朝と戦うっていうのもプランにあったんだけどね」

くるみ「しょんなこと、義仲がのむわけないでしゅ! 同じ源氏でしゅよ!?」

加蓮「源氏は平家とは違う。一門という意識がない。源氏同士でも簡単に敵に回って戦う。だから義仲を味方に……とも思ったんだけど、義仲は私たち平家と戦う道を選んじゃったみたい」

くるみ「そんなしゃきまで、父上が亡くなられた時から考えてたんでしゅか……」

雫「すごいですー」

乃々「まだ……遅くないと思うんですけど!」

加蓮「え?」

乃々「今送り込んできている義仲軍を破ったら、義仲も平家の話を聞くかも知れないんですけど」

くるみ「しょうでしゅよ。この戦いに勝って、平家はやはり強いとわかれば、手を組んで頼朝と戦う気にかも知れましぇん!」

加蓮「兄上……」

雫「勝ちましょうー! そして和睦を申し込んでみましょう」

加蓮「能登も……うん。勝とうね、この戦い」
112 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:23:16.06 ID:wJoYvkKh0
乃々「新中納言様のこと、今更疑ったりはしないんですけど」

加蓮「うん。意味がわからないかも知れないけど、これが今回の必勝の策」

雫「言われたとおり、すべての船を綱で結びましたよー」

乃々「これでどうなんるんですか?」

加蓮「うふふ。さて、どうなるでしょうか?」

保奈美「平家側は、すべての船を綱で結び、それでも整然と木曽軍へと向かっていきます。木曽軍も、なんとか調達した船で平家側へと突撃してきます」

加蓮「源氏が、私たちみたいに自在に船を操れるわけがない。勢いに任せて進むしかないはずと読んだけど……やっぱりね」

乃々「木曽軍の船、突っ込んできたら……あわわ、こっちの船は綱で結んであるから突破できずに……むしろ綱が引っ張られてこちらの船が木曽軍の船を各個に包囲していくんですけど」

加蓮「さあ、取り囲んだ木曽軍の船をどんどん射ちゃって」

雫「狙いやすい的ですねー!」

保奈美「突撃しようとした平家側船に躱されると、船の間に張られた綱に引っ張られ、木曽軍の船は取り囲まれ、どんどん矢で射られていきます」

加蓮「逃げる船は追わないで! それが戦場とはいえ義仲に対するせめてもの誠意」

乃々「何人かは船伝いにやって来て、船上での戦いになったんですけど」

加蓮「そう。それでどうなったの?」

乃々「教経さんが、切り伏せてくださったんですけど。お陰でこちらの大勝利なんですけど。うう、もりくぼ初めて戦で勝ったんですけど……」

加蓮「さすが能登」

乃々「討ち取ったのは、足利義清に海野幸広の両大将。それから……足利義長と高梨高信と仁科盛家です」

加蓮「さて、義仲はアタシたちを手強い相手だと理解してくれるかな……」
113 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:24:05.55 ID:wJoYvkKh0
巴「足利に海野がタマ取られたじゃと!? ウチの若いモンの中でも命知らずの腕利きじゃぞ!?」

茜「やはり……私が行くべきでした!」

巴「くっ……殿がこの都から出てしもうたら、それこそ箍が外れたみたいに寄せ集めの“武士(ギャル)”どもが暴れ出して手がつけれんようになるわい……じゃが」

茜「その寄せ集め達の横暴も、もはや捨て置けません! こうなれば……」

巴「なんじゃ? どないするんじゃ?」

茜「あり余るご飯を持つ方に、ご飯を分けてもらいに行きます!」

巴「それはまさか……」

茜「法住寺へ行きます!」


茜「失礼いたします! 将軍の義仲です! 法皇様にお目通り願います」

志希「これこれ失礼だよ〜。いくら昇殿を許された身でも、いつでも法皇様にお目にかかれるワケじゃないんだよ〜」

茜「ですから、失礼いたします、と申し上げました! 法皇様、お米を……ご飯を分けてください! このままでは戦えません! ご飯がなければ兵は飢えるだけです!」

フレデリカ「なんの騒ぎカナ〜? あれ〜? 義仲ちゃん、平家追討はどうなったの〜?」

茜「その為に、ご飯が必要なのです!」

フレデリカ「水島でも負けたんだって〜?」

茜「それとても、十分なお米があれば勝てました!」

フレデリカ「じゃあねえ。平家に勝ったら、ミーも考えるから」

茜「それでは遅いのです!」

フレデリカ「ここは譲れないナ〜」

茜「では仕方ありません!」

フレデリカ「ン〜? どうするの〜?」

茜「法皇様を監禁します!」

フレデリカ「え?」

茜「失礼いたします!」

フレデリカ「え、ちょっとちょっと……ゆ、行家ちゃ〜ん?」

巴「新宮十郎じゃったら、都の警護に行くゆうて去ってったで」

フレデリカ「え〜!?」
114 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:24:55.88 ID:wJoYvkKh0
加蓮「義仲は法住寺を包囲して上皇を監禁してる!? やった!」

蓮実「どうしたらいいんでしょう?」

加蓮「皇太后様は、このまま潜んでいらしてください。能登、一緒に法住寺に向かって!」

雫「いいですけど、どうするんですかー?」

加蓮「義仲と上皇の間に亀裂が入った。義仲は追い詰められている。西の平家は手強い、都は抑えきれない、東からは頼朝の軍が向かっている。この中で平家が助け船を出せば、義仲も乗ってくると思う」


雫「知盛さんはー」

加蓮「え?」

雫「本気なんですねー。本気で義仲と手を組むおつもりなんですねー」

加蓮「能登……一門の中でも私の策に反対の人がいるのもわかってるよ。でもね、源氏も平家も“武士(ギャル)”で“武家(ギャルサー)”じゃない。それに、本当の敵は源氏じゃない」

雫「私は“武芸(メイク)”のことしかわかりませんけどー、本当の敵がいるならその人と戦いたいですねー」

加蓮「いずれ……ね。平家が勝ったら、そうするから。まあもしも源氏が平家に勝っても、源氏がその敵と戦うことになるんだろうけどね」

雫「……見えてきました。法住寺ですー……あれっ?」

加蓮「立派な鎧の"武士(ギャル)"が……まさか!?」

巴「おどれら何モンじゃあ。ここになんの用じゃ!?」

雫「私たちはー……えっと」

加蓮「義仲殿にお目にかかりたいの。お願い!」

巴「おどれら……いや、こんなは……平家のモンか?」

加蓮「……うん」

巴「まさか、一門のモンかいな?」

加蓮「平……知盛」

巴「なっ……! あっははははは!」

雫「? なんですかー?」

巴「世に噂の新中納言っちゅうんは、鬼みたいなモンかと思うとったが……とてもうちらを苦しめよった平家軍の大将とは思えんのう」
115 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:26:27.16 ID:wJoYvkKh0
加蓮「それはどうも。ううん、今はそんなことはいい。あなたこそ噂の巴御前よね? お願い会わせて、義仲に」

巴「会ってどげするんじゃ? まさかうちらを助けてくれる言うんか」

加蓮「うん」

巴「……なんじゃと?」

加蓮「平家は義仲軍と手を組みたい。西国を平家が、信州木曽や北陸は義仲が治めればいい。一緒に政をすればいい。それにアタシが奥州の藤原氏に声をかければ、頼朝を包囲することだって……!」

巴「なんでそげんことするんじゃ? アンタらん何の得がある?」

加蓮「頼朝は絶対に平家と組んではくれないから。頼朝は平家を憎んでいるから」

巴「まるでうちらがあんたらを恨んどらんような言い方じゃが、言いたいことはわかったわい」

加蓮「じゃあ!」

巴「ちいと遅かったのう……もうあと1日でも早くその話を聞いとったら、殿も考えとったかも知れん」

雫「遅かった……?」

加蓮「まさか、義仲は!」

巴「頼朝の軍が、もうそこまで来ちょる。宇治を超えたそうじゃ、殿は宇治川に向かったわい」

加蓮「遅……かった? そんな、いくらなんでもそんなに早く来られるはずが……!」

巴「九郎義経、瀬田で兄の範頼と分かれて山城田原方面へと回って、宇治に攻め入ったそうじゃ」

雫「宇治川って、私も倶利伽羅峠の戦いの後で義仲軍に備えて守りましたけど、あそこは守りやすく攻めにくい土地で、そんなにはやく抜けられるはずがありませんよー!?」

巴「ほんに、常軌を逸した早さじゃ。こっちはなんもせんうちに、攻め入られたわい」

加蓮「なんてこと……」

巴「新中納言!」

加蓮「え?」

巴「殿がのう、最期に言うたんじゃ……」
116 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:27:02.13 ID:wJoYvkKh0
茜「巴ちゃん! 私は……負けたんでしょうかね!?」

巴「殿……」

茜「負けたのなら……私は何に負けたのでしょうか!? 頼朝にですか!? 平家にですか!? それとも私の気づいていない誰かに、ですか!?」

巴「……」

茜「どうすれば……私は勝てたのでしょうか……」


巴「殿は死ぬ気じゃ。それでうちに、北陸に落ち延びよって言われた。なあ、新中納言……平家の大将よ。殿は負けたんか? 何に負けたんか? どげすりゃあ……勝てたんじゃろうのう?」

加蓮「その答えは、私にもわからない」

巴「そげか」

加蓮「誰にもわからないと思う。ただ、ひとつ思うのは……義仲の敵は平家でも頼朝でもない」

巴「……わかった。よおわかった。今頃になって、わかったわい。なんで平家がさっさと京を去ったんか。なんで頼朝が自分では京に登らんのかが」

加蓮「一緒に来ない? 屋島に」

巴「そげなこと言われるとは思わんかったわ。いや、せっかくじゃが殿に言われたように、北陸に落ちるわい。うちも"武士(ギャル)"じゃあ。負けたら落ち延びるトコはひとつじゃけんのう」

加蓮「そうか。うん、元気で」

巴「落ち延びるからには、うちは生き延びるで。生き延びて……源氏と平家のゆく末を見とどけるけぇのう。ま、がんばりんさい」

加蓮「悪いけど、勝つのは平家だよ」

巴「……さらばじゃ新中納言!」


加蓮「遅かった……アタシ遅かったね」

雫「新中納言様が遅いんじゃなくて、頼朝軍が早すぎただけですー」

加蓮「頼朝軍が、ね。あるいは……」

加蓮(九郎義経が、だね)
117 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:27:54.53 ID:wJoYvkKh0
莉嘉「はいはーい! アタシいちばーん☆ 宇治川でも勝ったし、お姉ちゃんとの義仲はアタシが討つって約束守ったよ。それで後は……ここが法住寺?」

フレデリカ「えっと誰、誰?」

莉嘉「え? アタシ? アタシ、源九郎義経☆」

フレデリカ「九郎義経……ああ、義朝の八男の。ミーをここから出して出して。そうしたら、いいコトあるから」

莉嘉「え?」

保奈美「木曽義仲こと源義仲。旭将軍と呼ばれながら、都人からの評判は悪く揶揄もされましたが、義仲自身は清廉で人品も卑しからなかったとも伝えられ、大軍で京に上らなければまた違った結果が待っていたのではないかとも言われています。義仲は最期は宇治川での戦いに敗れ、近江国粟津で討ち取られました。現在の滋賀県大津市です。


凛「茜も負けちゃったか。でもなんとなく茜、最後は平家と戦って負けるのかと思っていたけど、頼朝軍と戦って負けたのは意外だったかな」

奈緒「平家って、なにかがあると良くも悪くも一族が結束して事に当たるんだけど、源氏は逆に一族の中で争ったりするんだよ」

加蓮「茜ちゃんと組んで戦いたかったな、アタシも」

P「さてここで、忘れてはならないことがある」

奈緒「え? あ!」

凛「なに?」

P「木曽義仲が敗れた、ということは……」

加蓮「えっと……あ、嫡男の晴……は義高だっけ。あの子はどうなるの?」

P「それをこれから見ていくぞ」

奈緒「……」

凛「また奈緒が地蔵に」

加蓮「どうなるの?」
118 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:30:27.82 ID:wJoYvkKh0
美嘉「そっか。義仲は範頼と義経が倒したんだね」

忍「それであの、義高は……」

美嘉「この鎌倉にいる限り、義高はアタシの娘の婿殿だよ」

忍「良かったあ」

美嘉「鎌倉にいる限りは、ね」

忍「え?」

美嘉「この鎌倉から出て行くようなことがあれば、それはアタシに対する反逆の意志とみなすからね」

忍「それはつまり……」

美嘉「義高を父親の所に行かせるから」

忍「……」


日菜子「義高様」

晴「な、なんだよ、どうしたんだよ、その真顔は」

日菜子「これは大姫が普段している妄想をやめ、集中している真顔モード」

晴「へえ。真面目な顔も可愛いよな、大姫は」

日菜子「義高様、今すぐ逃げてください」

晴「え?」

日菜子「お父上、義仲様は討たれました。私の叔父たちに」

晴「……そうか。負けたのか。父上は」

日菜子「ここにいては義高様もきっと殺されます。逃げください」

晴「そんなこと、オレに教えていいのかよ」

日菜子「覚悟はできてます」

晴「そっか。サンキューな。でも、これでお別れじゃねえーからな」

日菜子「え?」
119 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:31:34.89 ID:wJoYvkKh0
晴「オレ、ここから逃げて木曽軍を再起させる。そしたら今度は、オレが頼朝を倒すから」

日菜子「……はい」

晴「そしたら大姫を、迎えに行くから」

日菜子「え?」

晴「大姫は、オレの宝だ」

日菜子「……待ってます。待ってますから」

晴「あんまり長くは待たせない、って」

日菜子「馬を用意しました。義高様の影武者も呼んでます。普段通り過ごしてると見せかけで逃げてください。馬は足音がしないよう綿を履かせてます」

晴「こんな周到な用意を……すげーな、真顔モード」

日菜子「そしてこれです……むふふ。あ、今は妄想は駄目駄目。女物の着物を用意しました」

晴「これ、オレが着るのかよ!」

日菜子「大姫がお手伝いしますから……むふ、むふふ、むふふふふふふ!!!」

晴「なんかヒラヒラするしスースーするけど、確かにこれならオレってわかんねーかもな」

日菜子「むふー! 今のこの義高様のお姿、大姫忘れません」

晴「なんか恥ずかしいけど……ありがとう。じゃあ、大姫……またな」

日菜子「待ってます。義高様!」

保奈美「義高が鎌倉より出奔したことは、その日の午後には露見。鎌倉中の街道に厳戒態勢が敷かれ、翌日には義高は鎌倉に連れ戻されました。ただし、その姿は……」ベベン
120 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:32:41.47 ID:wJoYvkKh0
まゆ「大姫、心して聞いてくださいねぇ」

日菜子「むふふ、義高様。はやく……はやく大姫をむかえに……白馬に乗って……むふふふふ」

まゆ「大姫!」

日菜子「むふ? あ、お母様」

まゆ「大姫、義高殿が……鎌倉に戻られました」

日菜子「え? もうですか? も、もしかして木曽にはまだ軍がいて、それを率いて大姫を迎えに……むふふ」

まゆ「義高殿は今、寺におらるんですけどぉ」

日菜子「むふふ……お寺?」

まゆ「せめて、丁重に弔いたいとまゆが父上に願い出たんですよぉ……」

日菜子「弔い? え? な? え?」

まゆ「大姫、心して聞いてくださいねぇ。義高殿は既にこの世の人ではありません……鎌倉に帰ってきた義高殿は……首だけだったんですよぉ」

日菜子「……むふ」

まゆ「大姫?」

日菜子「むふふ、むふふふ、むふふふふふふ!!! あははははははははははははははははははははははははははははははははは」

まゆ「大姫! 大姫、しっかり!! しっかりと気を……気を確かに……」

日菜子「むふふふふふふふふふふふふふふ!!! あはははははははははははははは!!! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃーーー!!! うううわあああーーーあああーーーあああーーー!!!」

まゆ「ああ、大姫……」

保奈美「源義高こと木曽義高は、鎌倉から出ることなく討たれました。そして義高を愛していた、その愛ゆえに義高を逃がそうとした大姫はこれ以降、心を病み、館から一歩も外に出なくなったのです」ベベベベベベン
121 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:33:50.43 ID:wJoYvkKh0
凛「ちょ、ちょっと!」

加蓮「かわいそうじゃない! 大姫!」

奈緒「だから言っただろ! このくだりのエピソードはやらない方がいい、って!」

P「しかし避けては通れない史実だしな」

凛「人質として来たのかも知れないけど、なんか可愛らしい恋をしていて微笑ましたかったのに」

加蓮「大姫だって、義高を心配して逃がしたわけじゃない。それに娘の愛してる人にそんなことしなくてもねえ!」

奈緒「しかも大姫のエピソード、これで終わりじゃないんだよ……」

凛「え?」

加蓮「これ以上まだなんかあるの!?」

P「まあそれはまた後で出てくるが……」

凛「い、いや、もういいよ!」

加蓮「これで終わりにしよ! ね! 大姫の話は」

奈緒「……」

凛「ほらまた奈緒が地蔵に!」

加蓮「話題を変えよう! 話題を! えっと、そ、そう義経ってそんなに速かったんだ」

凛「それが強さの秘訣なんだったよね」

奈緒「そうなんだよ!」

凛「よかった」ヒソヒソ

加蓮「あの雰囲気、耐えられないもん」ヒソヒソ
122 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:35:14.10 ID:wJoYvkKh0
P「ドラマ内でも少し触れられているけれど、とにかく頼朝軍というか義経が鎌倉から攻め上がってくるスピードは異常だった。一緒に出立した範頼たちを追い抜いて自分たちだけでドンドン進んでいったんだ」

凛「前に奈緒が言ってた、義経の強さの秘密って早さだったの?」

奈緒「これから先にも出てくると思うけど、とにかく義経は早いんだよ。行動が」

加蓮「でもさ、追い抜かれてドンドン先に行かれちゃった未央は、立場ないんじゃないの?」

P「そうなんだ。それで……」


未央「うん、あのさ義経。私、思うんだけどさ」

莉嘉「なに? かばのお姉ちゃん」

未央「団体行動、って知ってるかな?」

莉嘉「えっと……難しい宗教用語?」

未央「難しくない、難しくない。少しも難しくないんだよ。あのね、みんなで一緒に行動しよう、ってことなの」

莉嘉「ふーん。それで?」

未央「義経もさ、行軍や戦では一緒に行動して欲しいんだよね」

莉嘉「そんなの今から約束できないよ。戦って刻々と状況が変わって、その場その場の判断が必要になるんだから」

未央「ううーんと、でもね、軍を上手く率いるには必要なことなの」

莉嘉「そうなの? じゃあ、うん。なるべくそうする」

未央「なるべくじゃなくて、必ずお願いしたいんだけど……ね!」

莉嘉「はいはーい」

未央(わかってくれた……んだよね? 次はとうとう平家との直接対決なんだから……ううっ緊張する)
123 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:36:25.73 ID:wJoYvkKh0
奈緒「さて、いよいよ一ノ谷の戦いだな。源氏と平家が直接戦うことになるんだ」

加蓮「いよいよアタシ、利嘉ちゃんと戦うことになるのかー」

凛「役の上とはいえ、ちょっと複雑だよね。わかるよ」

P「その前にここでゲストとして、新たな登場人物に来てもらっている」

奈緒「え? 誰だ」

乙倉悠貴「こんにちはっ! 平知章(ともあきら)役をいただきましたっ! 乙倉悠貴ですっ!」

加蓮「平……ってことは、平家側の人間だね。やった! 仲間だ、よろしく」ギュッ

悠貴「えっと……あの、よ、よろしくお願いしますっ////」

凛「? なんで照れてるの? 悠貴」

奈緒「あはは。あのさ、平知章は平知盛の長男なんだよ」

加蓮「へえー平知盛の……ってアタシ!? 悠貴アタシの子供役をやるんだ!!」

P「平家物語には、身体の弱かった新中納言に似ず、身体創建で力も強く足が速かった……とあるな」

凛「なるほど、ピッタリだね」

P「加蓮は事務所の小さい娘たちに人気があるからな、みんなその子供役を希望して大変だったんだぞ」

奈緒「加蓮は年下の娘に対して面倒見がいいからなあ」

加蓮「そういうわけじゃあ……ほら、私は小さい頃は病院ばっかりだったし」

凛「じゃあ悠貴は希望者の中から勝ち上がったんだ」

奈緒「あたし知章役はてっきり、りあむさんとかかと思ってたんだけどな」

凛「知盛ママって呼ばれるんだw」

P「りあむはまだこの先、出番があるから今回は辞退してもらった」

加蓮「立候補はしてたんだ……w」

悠貴「それでは、いよいよ一ノ谷の戦い始まりますっ!」

保奈美「それじゃあ1184年の福原の都に、いってらっしゃい」
124 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:37:00.54 ID:wJoYvkKh0
加蓮「……できた。一ノ谷周辺の絵図」ツー

くるみ「知盛しゃん! また吐血で絵図面を描いて!」

悠貴「父上様、“懐紙(タオル)”をどうぞっ!」

加蓮「ありがと、知章。この方が気合いが入るから……見て、兄上。源氏は一ノ谷に、きっとこの東の生田口と西の塩屋口の両面から攻めてくると思うんだよね」

くるみ「そうなんでしゅか?」

雫「はいー。義経は塩屋口から来るというのが、新中納言様の予想なんですよねー」

乃々「東西からの挟み撃ち……を狙っているんですね」

加蓮「つまり……義経は大回りして塩屋口を目指すだろうから、その途中にある三草山に平家方の小松さんを配置。でもちょっと戦闘をしたら小松さんは高砂を目指してもらって、そこから船に乗り込むの」

くるみ「わかりましゅた」

雫「そうなると義経は、勢いに乗って進撃を続けるでしょうねー」

加蓮「うん。そして範頼は生田口から進軍する。源氏は平家を挟み撃ちの形にすると思う」

乃々「義経と範頼、思ったより……手堅い戦法をとるんですね。なんだか意外なんですけど……」

加蓮「挟み撃ちは私たちも想定の範囲内。それに対して兵に陣形をしくから、ここで膠着状態になる。すると義経はきっと動く。独断で。小勢で」

雫「なんでわかるんですかー?」

加蓮「義経は、とにかく早い。木曽と戦った時もそう。馬での移動も、戦いに取りかかる時も、戦場での判断も。早すぎるほどに」

くるみ「そんなにしゅごいんですか?」

加蓮「カップ麺も3分待たずにバリバリ食べてそうなイメージはある」

乃々「それってどんなイメージなんですか……」
125 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:37:45.72 ID:wJoYvkKh0
加蓮「とにかく機敏な人間なのは、間違いないよ。だから絶対に状況が膠着したら動き出す。たぶん、鵯越口にむかい、これを破って勢いに乗って夢野口を。さらにその先の福原を突こうとすると思う」

雫「でもー」

加蓮「うん。夢野口には能登を配置してる。だから能登は夢野口から鵯越口に向かって。能登ならそう簡単に義経でも突破はできない」

雫「もちろん、通しませんよー」

加蓮「そこで……」

悠貴「わかりましたっ! 海ですね」

くるみ「海?」

乃々「あ……」

加蓮「そう。三手に分かれた源氏をすべて足止めしたら、最初に海に撤退した小松さんが高砂から再上陸して塩屋口を源氏の背後から攻めてもらう」

くるみ「な、なるほどぉ」

雫「源氏方は、挟み撃ちにしたつもりが挟み撃ちにされているんですねー」

悠貴「平家は海を自在に使えますからっ!」

加蓮「そこでアタシと知章が鵯越口に向かい、能登と合流して源氏をすり潰していく。最初の三草山を再奪取して、残った源氏を再び挟んで壊滅させるの」

乃々「すごいんですけど! やれるんですけど!」

加蓮「3日寝ないで考えた策……たぶん、これしか勝てる手はないと思うよ」

くるみ「さしゅがです、新中納言。ではさっそく、策の通りに兵の配置を」

雫「わかりましたー」

乃々「こうなったらもう、やけくぼですけど!」
126 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:38:27.19 ID:wJoYvkKh0
悠貴「父上っ?」

加蓮「……なに? 知章」

悠貴「先刻の策を聞いてさすがは父上だって、私感動しましたっ!」

加蓮「……うん」

悠貴「? なにか不安でもあるんですかっ?」

加蓮「これしかないと……ううん、これなら勝てるという手を考えたつもりなんだけど……」

悠貴「?」

加蓮「あはは。アタシが弱気になっちゃダメだよね。盤外の一手を気にしてちゃいけない」

悠貴「盤外の一手……ですかっ?」

加蓮「碁の対局で、想定できない対戦者以外による盤外からの一手のこと……」

悠貴「盤外から……って、そんなのズルじゃんじゃないですかっ!」

加蓮「うん……でも、どんなズルをすればこの策を破れるのか……アタシにはそれがわからない。いくら考えても全然わからない」

悠貴「それはきっと、父上の策が完璧だからですよっ!」

加蓮「……ありがとう。誰に言われるより、知章に言われるのが嬉しいよ……」

悠貴「明日は、絶対に勝ちますっ!」

加蓮「うん……」


凛「なんか、すごい。加蓮とは思えない作戦を立ててる……」

加蓮「どういう意味!?」

P「新中納言知盛は、地の利と海、そして源氏の動きを予測してほぼ完璧な作戦を立てていた」

奈緒「そしてそれは、途中までズバリはまってた」

加蓮「そーでしょ、そーでしょ……え? 途中まで?」

P「義経は大回りして塩屋口、範頼は生田口から進軍して平家軍を挟み撃ちの形にして膠着状態になる。そして義経は動く。そこまでは予想通りだったんだが」

加蓮「そこで盤外の一手っていうのが出るの?」

奈緒「ああ。義経は、誰も予測できないような行動に出た」
127 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:39:03.79 ID:wJoYvkKh0
文香「義経様……いったいどこへ……?」

莉嘉「弁慶くん。今。何人アタシたちに付いてきている?」

文香「夢野口へ向かわせた兵から私たちは分かれましたから……今は50騎いるかどうか……」

莉嘉「えへへ☆ アタシね、気がついたんだ」

文香「なにをでしょうか……」

莉嘉「この山を越えたら、すぐ下に平家の本体がいるじゃない」

文香「この山……お待ちください、確か名前が……昨日見た絵図面では……名前が鉄拐山(てっかいさん)……」

莉嘉「まさかここからアタシたちが来るとは平家も思わないでしょ?」

文香「いえ、鉄拐山を超えると言いましても……急峻な崖しかありませんが……」

莉嘉「じゃあその崖、下りちゃえばいいんじゃない☆」

文香「今も申し上げましたが……崖ですよ?」

莉嘉「着いたー☆ ほら、真下に敵の本陣」

文香「ですからこの崖をどうやって……」

莉嘉「うんとね。落ちるより早く駆け下りる!」

文香「無理です……この崖を駆け下りることができる者など」

莉嘉「ねえ弁慶くん。見て見て」

文香「あれは……鹿が……崖を……あ、下りていきましたね」

莉嘉「ね。鹿が大丈夫なんだから、アタシたちも大丈夫だよ」

文香「鹿と騎馬では……あ、ま、待ってください義経様……」
128 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:39:37.25 ID:wJoYvkKh0
パーッパパーパパパーパー♪ パッパラー♪

保奈美「G1、鉄拐山を駆け下りるという難レース、後白河法皇賞。いよいよスタートです」

ガッコン

莉嘉「いっくよー☆」

保奈美「さあ、ゲート開いた。各“馬(ウマ娘)”いっせいに崖をかけおりる。最初に飛び出したのは“太夫黒(ユキノビジン)”、騎手の義経いいスタートをきりました」

文香「し……仕方ありません。者ども、義経様に続きます……よ」

保奈美「義経の家臣団も後を追う。追う! しかし義経の“太夫黒(ユキノビジン)”先行している。逃げる逃げる、大逃げ。おっとそこに追いすがるのは誰だ?」

安部菜々「ウサミン星では、いつもこういう所を駆けめぐっていますからね。ここは千葉……じゃなくて馬場のようなものですからねっ!」

保奈美「佐原義連騎手の“日朝(マーベラスサンデー)”だ! 言葉通り、崖をものともせず駆け下りていく」

文香「これは……意外に……いけるのですか……ね?」

保奈美「ここで1人、とんでもない騎手と“馬(ウマ娘)”がいるぞ。誰だ……誰だ? なんと騎手の畠山重忠、愛馬の“目茶喰(ヒシアケボノ)”を担いでいるぞ。人馬が逆の、逆“馬(ウマ娘)”だー」

諸星きらり「お馬さんをケガさせちゃいけないからぁ。きらり、担いで崖をおりるにぃ。おっすおっす、ばっちし☆」

保奈美「義経一団、ものすごいスピードで崖を駆け下りていく。先頭は変わらず九郎、義経。“太夫黒(ユキノビジン)”さあ、崖ももう終わりだ。このまま決まってしまうのか!?」

莉嘉「いっちばーん☆」

保奈美「強い、強すぎる、“太夫黒(ユキノビジン)”鉄拐山の断崖絶壁を下りきりました!」
129 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:41:21.28 ID:wJoYvkKh0
加蓮「え!?」

乃々「源氏の軍勢が、突然背後から現れたんですけど!」

加蓮「そんな……いったい、どこから……まさか!?」

雫「義経です。あの鉄拐山を駆け下りてくるのを見ましたー」

加蓮「鉄拐山を……そんな、そんなこと!」

保奈美「現れるはずのない場所から現れた源氏の騎馬軍に、平家は驚き、慌て、総崩れとなります」

加蓮「これじゃあもう……戦えない」

雫「まだまだ、盛り返せますよー!」

加蓮「……ううん、ここでこれ以上平家の優秀な人材を亡くすわけにはいかない。撤退を」

乃々「船に……海に逃げるんですけど!」

加蓮「崖から……崖を駆け下りてくる? そんな……そんな手を……」

保奈美「思いもかけぬ方角から。いや、安心できる壁として背中を預けていた鉄拐山という崖。その壁からの攻撃に、平家軍は動揺。総崩れとなります」ベベベン

加蓮「盤外の一手……」

保奈美「崩れた平家軍は、海へと逃れます。それを追う源氏軍。次々と名のある平家武者が討ち取られながら、それでも海へと多くの平家軍は逃げていきます」ベンベン

相川千夏「騎馬のまま海上の船に逃れんとする、そこな武将の方! “甲冑(コーデ)”の見事さからもさぞや名のあるお方と存じます! 私は武蔵国の熊谷直実(くまがい・なおざね)、名のあるお方が敵に背を向け逃げるのは卑怯でありましょう! お戻りなされ!」

?「……」クルリ

千夏「私の言を聞きこうして戻られたは、さすがに平家にもまだ“武士(ギャル)”がいると感服の至り。いざ、勝負!」

?「……」コクリ

ガッ! バタッ

千夏「なかなかの剣の腕前。しかしこうして組み伏せたからには、私の勝……えっ!? その顔は」

バッ

川島瑞樹「わかるわ」
130 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:41:57.00 ID:wJoYvkKh0
千夏「え、えっと……え、ちょっと、ぷ、プロデューサー」ヒソヒソ

P「なんだ千夏、本番中だぞ」

千夏「ここ、私が演じる熊谷直実が平家の武者を組み伏せてみたら、自分の子供と同じ年頃の若武者でビックリするシーンよね?」ヒソヒソ

P「そうだが?」

千夏「なんで若武者役が、瑞樹さんなの!?」

P「それは実は、本人の希望で」

瑞樹「わかいわ」

千夏「いや、おかしいでしょ!? 瑞樹さん、私より年上なのよ!!」

P「あー、いや、そこはほら、今回の大河ドラマは実際の年齢とかそういうトコあんまり気にしないように作ってるから」

千夏「いくらそうでも、瑞樹さんを相手に自分の子供と同じ年頃だって演じるの!?」

P「ああ、演技力を発揮してくれ。頼むな!」

千夏「あ、ちょっと、プロデューサー……も、もう。な、なんと……組み伏せてみれば青年いや、ま、ま、ま、まだ、幼さの残る顔立ちの若武者ではな、な、な、ない……か」

瑞樹「わかいわ」

千夏(キツ……ツキ)

千夏「ハッ! その“笛(リコーダー)”は、我が子も同じものを……そういえば年の頃も、我が子とお、おな、同じぐらいの、わ、わわわ、若武者ではないか」

水樹「わかいわ」

千夏「我が子と、おなじ……」


橘ありす「父上。ご活躍を期待しております」

千夏「ええ。あなたも元服したら戦に出るようになる。その時まで腕を磨いておきなさい」

ありす「私は笛の稽古の方が好きなんですが……」

千夏「ふふっ。まだまだあなたが一人前の“武士(ギャル)”になるのは先のようね……」


千夏「……なにもその若い身空で死ぬことはない。今ならまだ船に乗れるでしょう。お逃げなさい」

水樹「いいえ。戦場に立った以上、1人の“武士(ギャル)”。お討ち取りなさい」

千夏「我が子と同じ年頃の……この“若武者(ちびギャル)”を……」


ありす「父上!」


千夏「……許されよ」

保奈美「こうして熊谷直実は、平家の若武者を討ち取ったのです。後に若武者の名は平敦盛(あつもり)と知られることになります……」ベンベンベンベン
131 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:42:34.54 ID:wJoYvkKh0
乃々「生き残った兵は、ほとんど船に逃げ延びたんですけど……新中納言様もいそいで乗ってください」

加蓮「……アタシは残る」

雫「えー?」

加蓮「アタシの策は破れた……多くの平家の"武士(ギャル)"も亡くしてしまった……生きている者にも死んだ者なも顔向けができない……いっそここで……」

乃々「そんな……」

雫「新中納言様がいなくなったらー」

悠貴「父上!」

パン

加蓮「痛! と、知章!?」

悠貴「負けてませんっ! まだ平家は負けていませんっ!! この一ノ谷で負けたのなら、次で勝つんですっ!!!」

乃々「そ、そうなんですけど」

雫「その為には、新中納言様が必要なんですー」

未央「いた! あれが世に新中納言と呼ばれし、総大将の平知盛。いざ、尋常に勝負!」

乃々「な……何者なんですけど?」

未央「我こそは源の為朝が六男、源範頼! 平知盛、覚悟!」

悠貴「あなたの相手は私ですっ!」

未央「え? 誰?」

悠貴「新中納言平知盛が嫡男、平知章ですっ!」

加蓮「知章!」

悠貴「父上は、早く……早く船にっ!」

乃々「そ、そうです……!」

雫「急いでください、新中納言様ー!」

加蓮「待って、ひっぱらないで、知章ー!」

保奈美「維盛と経教に抱えられるように船へと乗せられる知盛。それを見とどけ、知章は範頼と相対します」

未央「あー逃げられちゃった」

悠貴「これで……平家は大丈夫ですっ! 父上さえおられれば、平家はきっと巻き返しますっ!」

未央「その為だけに、足止めを……敵ながら見事! でも、容赦はしないよ」

悠貴「望むところですっ!!!」

保奈美「知盛の嫡男、知章はここで討たれました。しかし、その死に顔は不思議と満足そうであったと伝えられています」ベンベンベベベン
132 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:43:07.27 ID:wJoYvkKh0
加蓮「うう……悠貴、ゴメンね」

悠貴「短い出番でしたけど、楽しかったですっ!」

加蓮「うわあっ! い、生きてる!?」

凛「いや、それはそうだよ。ドラマの中でのナレ死なんだから」

奈緒「でもなんかこう……ジーンとしたよな。一門の未来と父親のために、命をはった悠貴には」

加蓮「うん……そうだね。ここからアタシがんばらないと」

P「じゃあ悠貴の出番はここまでで、舞台は屋島に移るんだが」

凛「瀬戸内海にある平家の今の拠点だったよね」

奈緒「一ノ谷で負けた平家は、屋島に撤退したんだけど源氏側もこの戦いの後、一悶着があったんだよ」

加蓮「勝ったのに?」

P「じゃあそれを見ていくぞ。保奈美、頼む」

保奈美「勝った源氏は京の都に戻ります」ベベベン
133 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:44:11.82 ID:wJoYvkKh0
未央「なんで勝手に動いたの!? しかも自分の兵をほったらかして、単独で動くなんて!! 私が団体行動って言ってたでしょう!!!」

莉嘉「えー? 単独じゃないよ。仲間が五十騎ほど一緒だったもん」

未央「手勢だけ連れて、勝手に動いたのが問題なの!!」

莉嘉「勝ったからいいじゃん☆」

未央「良くない! あのね、将は軍全体を見て指示を出していかないといけないの。自分が最前線に出て、しかも手勢以外を放棄するなんてあっちゃいけないの」

莉嘉「でもあのままじゃ勝てなかったよ?」

未央「そんなことない」

莉嘉「このままじゃ負ける、って思ったからアタシあの山から下りること思いついたんだもん。間違ってなかったでしょ?」

未央「結果だけ見ちゃ駄目なんだよ」

莉嘉「負けたら意味ないもん! アタシたちがあの山から駆け下りなかったら、かばのお姉ちゃんは死んでたよ」

未央「なっ……!」

莉嘉「アタシわかるもん」
134 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:44:44.90 ID:wJoYvkKh0
未央「というわけなんだよ〜。義経ったら、ぜんっぜん私の言うこと効いてくれないし、戦場では勝手に動くし」

美嘉「……蒲の冠者」

未央「え、あ、は、はい」

美嘉「そうなるだろうとアタシ言ったし、だから頼むねとも言ったよね?」

未央「それは、でも……はい。ゴメンナサイ」

美嘉「とはいえ、義経の独断専行はやり過ぎだとアタシも思う」

未央「うん。とにかく立ち止まらない。速いことをなにより重んじてる。それがあの子の強さの源泉だとはわかっているけど」

美嘉「配下の者に目を配り、危機を取り除き、手柄を立てさせるのも将の役目。兵の集まりを軍にする事が必要。でもあの子は、その部分が見事にすっぽりと抜け落ちてる……」

未央「どうすればいいと思います?」

美嘉「前にも言ったけど、良くも悪くもあの子は幼子。九州征伐にはまた2人で行ってもらうから、その課程で言って聞かせて、そして目の前で実践してよ」

未央「私が……わ、わかった」

みりあ「頼朝様ー!」

美嘉「あら、景時。おかえり、どう? 都の様子は? 治安維持を任せた義経はちゃんとやってる?」

みりあ「義経さんは、検非違使に任官されたよ」

美嘉「……え?」

みりあ「後白河法皇様が、義経さんを検非違使に任官したんだ」

美嘉「なんですってえええ!!!」

未央「あわわ……」
135 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:45:19.83 ID:wJoYvkKh0
フレデリカ「というわけでね、ミーは義経ちゃんを検非違使に任官しちゃう」

莉嘉「えー? でもお姉ちゃんはアタシに、勝手に官位や官職についたりしちゃダメって言ってたんだけど」

フレデリカ「義経ちゃんは都にいたこともあるから、検非違使が何かを知ってるでしょ?」

莉嘉「え? 都の警備とかするんでしょ?」

フレデリカ「それって今、義経ちゃんがやってる、頼朝ちゃんからの指示そのものじゃない」

莉嘉「うーんと、そうかな?」

フレデリカ「それにね、頼朝ちゃんが朝廷から官位もらって任官されたら、義経ちゃんドー思う?」

莉嘉「そうしたら嬉しい! だってお姉ちゃんが偉くなるんでしょ?」

フレデリカ「僧、僧。だからネ、義経ちゃんが任官されたら頼朝ちゃんだって嬉しいと思うんだよ」

莉嘉「そっか」

フレデリカ「じゃあ、検非違使になってネ?」

莉嘉「うん! まかせて☆」


文香「左衛門少尉、検非違使に任ずる……な、なんということを……この綸旨、まさかお受けになってはおられませんよね……?」

莉嘉「え? 受けたよ」

文香「勝手に任官してはならない……と、頼朝様からあれほどきつく言われていたではありませんか!」

莉嘉「でもね、アタシは都の警備をお姉ちゃんから命じられてるし、実質それって検非違使かなって」

文香「全然、違います!」

莉嘉「それにアタシが任官されたら、お姉ちゃんも嬉しいかなって☆」

文香「頼朝様は、今や鎌倉で武家をとりまとめる御所様。義経様は、弟君とはいえ御所様にお仕えする御家人。単純な肉親の情では……」

莉嘉「ぶー! もういいよ、アタシちょっと出てくる」

文香「また白拍子ですか……義経様、とにかく今すぐ検非違使はお断りに……」

莉嘉「いってきまーす☆」

文香「義経様……ああ、もう。どうしたらいいのでしょうか……」
136 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:46:10.10 ID:wJoYvkKh0
未央「あ、あのぉー……兄上、いや御所様。義経の件、どうしましょう?」

美嘉「……とりあえず謹慎させようと思う」

未央「謹慎……ですか」

美嘉「よくないことだ、っていうのをわからせるしかないと思うんだ」

未央「待ってください。じゃあ九州へは誰が……」

美嘉「蒲の冠者、九州平定は1人でお願い」

未央「……ううっ、大役でしかも大変そうな仕事だよね」


莉嘉「きんしん、ってどういうこと!? アタシが一ノ谷で平家をやっつけたんだよ!? 納得いかない!!」

文香「ですから後白河法皇から官位や官職を受けてはいけないと……あれほど申し上げたではありませんか」

莉嘉「……お姉ちゃん、アタシのことキライになっちゃったのかな」

文香「……そんなことはないと思いますよ」

莉嘉「ホント!?」

文香「平家はやはり手強いです。それにまだ優秀な人材も残っている……簡単には倒せません」

莉嘉「ということはつまり、またアタシの出番がくるってことだね!」

文香「ですので、ここは大人しく命じられたとおり……謹慎をしてください」

莉嘉「うーん……わかった」

文香「白拍子も駄目……ですよ?」

莉嘉「……はーい」

文香「では私は、出かけてきます」

莉嘉「えー? 謹慎はどうするの?」

文香「謹慎しろと命じられているのは、義経様……ですから。ふふっ」

莉嘉「そんなあ。弁慶くん1人でどこ行くの?」

文香「これからの戦い……平家の土俵である海での戦いが必須となります」

莉嘉「え? あ、うん!」

文香「その力を借りに……アテがあるので行ってきます」

莉嘉「そっか! お願いね☆ 弁慶くん」

文香「お任せを……」

莉嘉(本当に……笑っていると、僮のような方ですね……ふふふっ)
137 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:46:47.16 ID:wJoYvkKh0
保奈美「ここは紀伊半島、今の和歌山県の熊野灘」ベンベン

文香「久しいですね……熊野湛増」

市原仁奈「クマの気持ちになるですよ! 仁奈はクマのたんぞーでやがるです。ほんとーでごぜーますよ、弁慶おねーさん。たまには帰ってきてほしーですよ」

文香「実は折り入ってお願いが……」

仁奈「なんでごぜーますか?」

保奈美「弁慶はここまでの事情を、兄弟分の熊野湛増に説明をします」ベベン

仁奈「じゃあ源氏の味方をしろって、弁慶おねーさんは言っているわけですか」

文香「いかがです……湛増さんが今は平家に味方をしているのは知っています……ですが、私に免じて源氏に!」

仁奈「クマの水軍なんて呼ばれているでごぜーますけど、仁奈たちはもともと漁師であり、商人でやがるですよ」

文香「知っています。その手練れの水手(かこ)が、戦でも強くなった……それがそもそもの熊野水軍」

仁奈「そうでごぜーますから、弁慶おねーさんも源氏も、商人としての腕をみせてくれやがるです」

文香「……?」

仁奈「船と水手を五艘だけ貸すですから、それを元手としてどう使うか見せてほしーです」

文香「その使い方次第では、今後……」

仁奈「源氏に力を貸してあげやがりますですよ!」
138 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:48:21.75 ID:wJoYvkKh0
乃々「新中納言様の見立て通り、源範頼は山陽を通って九州へ向かっているんですけど」

加蓮「やっばりね」

くるみ「知盛しゃん、なんでやっぱりなんでしゅか?」

加蓮「源氏の狙いは、私たち平家を瀬戸内海に封じ込めることなの。範頼が九州から中国地方を抑え、そして誰かが四国を制圧するつもり」

雫「誰か、というのはやっぱりー?」

乃々「義経……でしょうね。あう。あ、でも……」

くるみ「そうなんでしゅか?」

乃々「前に新中納言様に言われて、瀬戸内の船を出来る限り抑えたんですけど」

加蓮「そう。こうなるかもと思ってはいたけど、やっておいて良かった。義経が……ううん、源氏の誰かが四国や屋島を狙おうにも船がないはず」

乃々「さすが新中納言様なんですけど」

加蓮「屋島が安泰なら、手はある。範頼を逆に封じ込めちゃうの」

くるみ「えっ!?」

加蓮「彦島に、兵を置くの」


凛「屋島はわかったけど、彦島っていうのは?」

奈緒「彦島は、山口県下関市の南端にある島で、九州と本州を繋ぐ要所なんだ」

凛「範頼……つまり未央は中国地方から九州に行こうとしてるから、ここで迎え撃つつもりなんだね」

P「ところが」

凛「えっ?」

奈緒「新中納言の作戦は、ちょっと違ってた」

加蓮「むふふ」
139 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:48:53.78 ID:wJoYvkKh0
乃々「彦島に兵を置いて……どうするんですか?」

雫「源範頼を、九州に行かせないんですねー?」

加蓮「ううん、逆。範頼は九州に行かせる」

くるみ「え?」

加蓮「そうしたら、彦島に兵を動員して範頼を九州に封じ込めて出られなくするの」

雫「あー」

加蓮「反平家の動きがあるとはいっても、まだまだ九州には平家に好意的な武士も多い。それに今は慢性的な飢饉。その九州に、範頼を閉じこめれば……」

乃々「範頼は自滅するかも知れないんですけど」

加蓮「援軍や糧秣がもし九州へ向かっても、私たちは船からそれを襲えばいい」

くるみ「な、なるほど」

加蓮「彦島へは私が行く。能登、その間は屋島をお願いね。屋島という平家の今の拠点がなくなっちゃったら、逆に平家は瀬戸内海に封じ込められちゃうから」

雫「わかりましたー!」
140 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:49:49.96 ID:wJoYvkKh0
文香「5艘の船、どう使いますか……? 私としては、ゲリラ的に平家やそれに味方する船を襲っていき……」

莉嘉「見て。弁慶くん」

文香「はい……? なんですこれは……糸くずのような、タンポポの綿毛のようなものが風に流されて……」

莉嘉「奥州にいた頃に、何度か見たんだ。これって子蜘蛛が集まって糸を出して、それで風に乗って遠くに散らばるんだって」

文香「なるほど……はて、これがなにか?」

莉嘉「アタシ、すっごくいいこと思いついちゃった☆」


文香「摂津から阿波まで、武者と騎馬を船に乗せ海を渡る……? そこから陸づたいに屋島を目指すお考えでしょうが、その航路は3日はかかる海路ですよ?」

莉嘉「うん、だけどね。明日の夜、嵐が来るんだ」

文香「天台官が、そのように……?」

莉嘉「天台にも陰陽にも、アタシは知り合いはいないよ?」

文香「では……なぜ、嵐が来ると?」

莉嘉「弁慶くんも見たじゃない。ゆきむかえ」

文香「ゆきむかえ……とは、先刻のあの空を飛ぶ蜘蛛の糸……ですか?」

莉嘉「うんうん。あれってね、雪が降ったり大嵐の前の晴天に『今のうちに』って、子蜘蛛が飛び立つんだよ。アタシ、奥州でそう教わったし、確かに何度か見たゆきむかえはそうだった」

文香「では……あの、ゆきむかえから嵐が来ると義経様は……」

莉嘉「その嵐の大風に乗ったら、3日どころか一晩で阿波まで行けちゃうんじゃないかな☆」

文香「そんな……む、無茶で……」

莉嘉「……?」ニコニコ

文香(この方は……義経様は軍神だ。共につき従い、共に戦う度に……その想いは強くなる。ならば……)

文香「すぐに手勢に召集をかけます。出立は、明日の夜でよろしいですね」

莉嘉「うんっ☆」
141 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:50:33.96 ID:wJoYvkKh0
莉嘉「クマの水軍の水手(かこ)の人たち、なんか言ってたみたいだけど、なに?」

文香「この嵐の中を船で出るのは自殺行為だ……と。それでも名にし負う熊野水軍か……と一喝しておきました」

莉嘉「さすが弁慶くん☆」

文香「馬を3艘、武士を2艘に分けて乗せました。……よいのですね?」

莉嘉「いいよ。行こう! 阿波へ!! 一晩で!!!」


加蓮「摂津ってどこだっけ?」

P「今の大阪の北の方だな。そこから船で徳島へ向かったわけだ」

奈緒「この頃、通常は3日かかる航路だったそうだけど、なんと嵐の海に乗り出した義経は……」

保奈美「さあ、どのくらいで阿波まで……いえ、そもそも嵐の中を無事に阿波までたどり着けるのでしょうか……」ベベベンベン


莉嘉「とうちゃーく☆ やったね!」

文香「船の乗り心地としては、最悪でしたね……今、水手に確認しました。ここは……」

莉嘉「どこどこ? ちゃんと阿波に着いたの?」

文香「はい……ここは阿波国、勝浦……という土地だそうです」

莉嘉「勝浦……なんか縁起がいい名前だね、勝つ! って」

文香「出航したのが……確か、丑の刻。今が卯の刻ですから……なんと二刻で着いたわけですか」

莉嘉「さあさあ、この勢いで屋島まで駆けていくよー☆」

文香「あ、お、お待ちくだ……ふふっ、本当に早さ速さでは並ぶ者なきお方ですね。皆の者、義経様に続きますよ!」


凛「着いたんだ、ちゃんと。徳島に」

加蓮「じゃあ丑の刻、卯の刻、二刻が今の言葉で言うと……はい、奈緒!」

奈緒「丑の刻は今の午前2時。卯の刻は午前6時。そして二刻というのは、4時間だな」

凛「4時間!? 最初、3日かかる航路だって言ってなかった?」

P「これこそが、義経の真骨頂とも言える速さだな。敵に身構える時間も隙も与えないんだ」

加蓮「それにしても、3日を4時間って……それはアタシも読み違えるよね」

奈緒「うん。さすがの新中納言も、まさかそんなに早く、手勢だけで陸の方から源氏が攻めてくるとは想像もできなかった」

P「もちろん、源氏がどうにかして船を用意して屋島に攻めてくるだろうとは思っていたんだが、さすがに義経の行動は想定外だったんだ」

保奈美「さて、予想もしていなかった義経の屋島襲撃に、平家一門側は……」ベンベン
142 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:51:19.54 ID:wJoYvkKh0
雫「屋島の対岸が燃えている、ですってー!?」

乃々「民家が燃えて火の海なんですけど! まさか源氏が攻めてきたかもですけど!」

くるみ「ど、どうしましゅか!?」

雫「燃えているということは源氏だと思いますけど、直接攻めてこないということは大軍ではありませんねー。だから火を放ったんでしょうけど……。今は潮は?」

乃々「引き潮……ですけど……」

雫「では浅瀬から馬で攻めてこられますねー。迎え撃つ準備をー」

保奈美「こうして屋島の戦いが始まりました。小勢であることを平家側に見抜かれた義経でしたが、まさかの奇襲に平家側の体制は整わず、撤退することとなります」

雫「新中納言様に顔向けが……できませんー……」

くるみ「しょんなことありましぇん」

雫「宗盛様……?」

くるみ「兵だけではなく、女性も大勢いましゅ。平家一門全員を生き延びさせるのが先決でしゅ」

乃々「そうなんですけど。命が大事だと思いますけど」

雫「……わかりましたー」

くるみ「ひとつ、考えがありましゅ。源氏の武自慢を逆手に取るでしゅ」

乃々「?」
143 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:52:01.06 ID:wJoYvkKh0
莉嘉「な、なになに? みんな、なに騒いでるの?」

文香「あれです……」

莉嘉「平家の船……あれ? 一船だけ前に出て……竿の先に掲げているのは扇?」

文香「源氏の武士よ、その実力を見せてみよ。自信があるならこの扇を射てみよ……との挑発です。のってはなりません。外れて当然の難題を出し、いざ外れれば笑いものにするという策です」

莉嘉「えー? でもだって射なかったら源氏の名折れじゃない! お姉ちゃんにも申し訳ないからやる! アタシやる!!」

舞「おそれながら」

莉嘉「え?」

舞「弓矢ならばこの与一にお任せください」

莉嘉「そういえば弓にかけては天下無双だっけ。うん! じゃあ、お願い!」

舞「わかりました」

文香「……与一さん」

舞「は、はい」

文香「源氏も平家も注目しています。名を挙げる……手柄の、そして兄弟を助けるチャンスですよ」

舞「……ありがとうございます。がんばります!」


乃々「出てきたんですけど、源氏方から武者が」

雫「あの人が、源氏の弓自慢ですかー?」

くるみ「ずいぶんとまた、小しゃいでしゅね」

乃々「平家一の強弓兵の教経さんと比べると……殊更に小さく見えます……ね」

雫「でも、弓の大きさは私に負けてないみたいですねー」

くるみ「教経しゃん、実しゃいのところどうなんでしゅか? 教経しゃんなら、この扇を射落とせましゅか?」
144 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:52:44.72 ID:wJoYvkKh0
奈緒「いよいよきたな! 屋島の合戦の名場面、扇の的!!」

凛「古典の授業でやった覚えがある。陸の馬上から船の上の扇を射るんだよね?」

P「ここで那須与一の父親である那須資隆役を演じてくれて、シンデレラガールズ1の弓道の名手、翠に来てもらっている」

翠「こんにちは」

加蓮「あ、いらっしゃい」

翠「この名場面、扇の的を僭越ながら私が解説させていただきます」

奈緒「なるほど。あたしもどれくらい難しいのかは、ちょっとよくわからないもんな」

P「頼むな、翠」

翠「はい。まず平家物語によると2月18日の酉の刻……つまり午後6時頃、北風が強くて的となる扇を掲げた船は波で大きく上下に揺れていた、とあります」

凛「つまり的が大きく動いてるんだ」

翠「はい。それに、源氏方から見て北風ということは向かい風だったみたいですし」

加蓮「それってやっぱり難しいんだ」

翠「風は放った矢の軌道に、とっても大きな影響を与えますね。特に向かい風は飛距離に直接影響がありますし」

奈緒「そういえばこれって、扇まで距離はどのくらいあるんだっけ?」

翠「やはり平家物語に『磯へ七、八段ばかりになりしかば、舟を横さまになす』と、書いてあります」

奈緒「ということは……一段が六間で、一間が六尺で、一尺は30.3センチメートルだから……七段が76.356メートルで八段が87.264メートルか」

凛「えっ!?」

奈緒「? なんだよ」

加蓮「なんでそんなこと知ってて、しかも計算が早いの!?」

奈緒「いや鬼滅の刃でさ、大きな岩を一町先まで押して運ぶって修行があってさ、一町ってどのくらいかと思って色々調べてたら詳しくなったんだよな!!!」

凛「……ふーん」

加蓮「……そう」

奈緒「な、なんだよ! なんで急に無関心になるんだよ!!」

凛「なんかワクワクして見ていた手品のタネが、意外に単純過ぎてガッカリした時のような……」

加蓮「そうそう、それそれ。見直したところで一気に株が暴落しちゃったよね……」

奈緒「くうぅ……いつか2人に鬼滅の刃を見せて沼に引きずり込んでやるからな……」
145 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:53:30.65 ID:wJoYvkKh0
翠「ともあれ、おおよそ80メートル前後といったところでしょうか。距離は」

加蓮「それってやっぱり、難しいの?」

翠「現代の弓道では近的場と遠的場があるんですが、長い距離を競う遠的場でも的までの距離は60メートルですから、相当遠く感じますね。80メートル先の的を射るのは」

凛「正直、翠でも難しい? この扇の的を射るのは」

翠「80メートルの距離を強い向かい風の中、しかも的が波で上下に揺れているとなると懐中させる自信はないですね」

加蓮「懐中?」

奈緒「命中と同じ意味かな」

保奈美「さてこの扇の的、平家側の弓自慢である能登守教経による見立ては……」ベベン


雫「3本矢を射ていいなら、当てる自信はありますけど、1本だけで当てる自信はないですねー」

くるみ「3本でしゅか?」

雫「最初の1矢が外れたら、それで距離を修正して、次の一矢で風の影響と角度を修正して、最後の一矢は当てられますけど、最初の一矢でいきなり当てるのは……神業ですよー」

乃々「じゃあもし、あの源氏の弓自慢が一矢で扇を射落としたら……源氏に神業の使い手がいるということに……」

くるみ「教経しゃんでもできないなら、無理にちがいありましぇん!」
146 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:54:10.07 ID:wJoYvkKh0
加蓮「翠さんはどう? 3本射ていいなら当てられそう?」

翠「……4本にしてもらっていいですか?w」

奈緒「あはは。でも少しは自信があるのかな」

翠「弓矢の心得がある者として、ちょっとやってみたい気はしますね」

凛「わかるよ。私も心得なんかはないけど、挑戦してみたい気になるもの」

P「じゃあそろそろ本番テイク、いってみるぞ」

保奈美「那須与一は、騎馬のまま膝が濡れるまで海に入っていき、そこで弓をつがえます。平家側は並んだ船から、源氏側は馬を整然と並べて全員が彼に注目します。不思議な静寂と、異様な視線が与一に集まっています」ベンベン

舞「ギャル八幡大菩薩! どうぞこの矢、外させたもうな」

保奈美「与一が静かに念じ目を開くと、不思議と風が穏やかになりました。しかし与一、矢を射ません」

文香「何をしているのですか……せっかく風が凪いでいるというのに……ああ、また風が強くなりますよ……」

莉嘉「与一くんは、さ」

文香「え?」

莉嘉「戦っているんだよ、今。お兄さん達を助けるために」

文香「それはどういう……」

舞「弁慶さん!」

文香「え? あ、は……はい」

舞「鎌倉にお伝えください、そして軍功に記してください。那須与一宗隆は強風の中、矢を射たと。凪ではなく荒れる強風の中、矢を射たと」

文香「なんですって……では、名を挙げるため……功を高めるためにわざと凪ではなく強風の中を……」

舞「ひい、ふっ!」

保奈美「ひときわ風が強くなり、海が荒れ狂ったその時、与一はつがえた矢を射ました。射た矢は鏑矢。音を立てて与一の矢は天に昇るかと思われる高さで飛んでいきます」

文香「ほ、本当に強風の中を……ですが、これは……」

乃々「い、射たんですけど。ですけどですけど、これは」

くるみ「高いでしゅ!」

雫「高過ぎますねー。この風を、読み切れなかったみたいですー」
147 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:55:59.01 ID:wJoYvkKh0
加蓮「鏑矢(かぶらや)、ってなに?」

翠「鏑と言って、矢が飛ぶと空気の流れを受けて笛のように音の出るものが、矢の先端付近に付いている矢なんです」

凛「あ、それで音を立てて飛んでいるんだ」

奈緒「合戦の開始の合図に射て音を鳴らしたりしたんだっけ」

翠「はい。あと儀礼とか祭典でも使っていたようですね」


保奈美「放たれた矢の飛ぶ様を見て、1人義経は万歳をします」ベベン

莉嘉「あはは☆ やったね!」

文香「え? 今、なんと……」

莉嘉「さっすが与一くん。弓矢にかけては天下無双って、ウソじゃなかった☆」

文香「……えっ?」

乃々「なんですかこれ、音が……音が空から落ちてくるんですけど」

くるみ「ましゃか……あの矢が……」

雫「風を読み違えたのは、私だったってことみたいですー!」

保奈美「向かい風の中、その風に導かれるように、そして猛禽が獲物を狙うように、与一の射た矢は扇めがけて急降下してきます。そして」

カッ

くるみ「しょんな……」

文香「本当に……この嵐のような風の中を……波に揺らぐ扇を……」

乃々「当てたんですけど! 射落としたんですけど!」

雫「敵ながら……お見事ですー!」

保奈美「鏑矢は扇と竿を結んでいた鎹に当たり、金地に赤い日の丸の扇は、はらりひらりと風に舞い、夕日に輝く海に落ちると白波の間を漂います。その“光景(映え)”に、その場の"武士(ギャル)"、敵と味方……源氏と平家の区別なく、どっと歓声が上がります。戦う相手であってもやはり“武(アート)”を重んじる“武士(ギャル)”、興奮を隠せず平家側は船端を叩き、源氏側は“箙(ポーチ)”を叩いて与一を称えます」ベベベベベベン
148 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:57:52.99 ID:wJoYvkKh0
夢見りあむ「うわー。すごいすごい。感動。尊い。生きててくれてありがとう。もういっそ、ぼくも射♥て」

保奈美「その時、平家側の扇を掲げていた船から興奮した兵が1人飛び出し、興に乗ってその場で踊り始めます。その手には『射♥て』の“扇(うちわ)”と“篝火(ペンラ)”が」

莉嘉「なにあれ。与一くん、与一くん」

舞「あぁん!?」

莉嘉「あれも射ちゃって」

舞「射ちゃってじゃなくて、射てくださいでしょう。ひい、ふっ!」

保奈美「義経の命に、与一ためらわず矢をつがえ射ります。矢はまっすぐ兵の胸に突き刺さります」ベン

りあむ「うう……推しが尊くて死ぬ……ああ、痛た」ドボン


加蓮「いや。後で出番があるって言ってたりあむの出番、これ?w」

奈緒「色々と端折られている重要人物がいる中で、まさか名もなき兵にキャストが配されるとは……」

凛「でも心なしか嬉しそうに海に落ちていったよね、りあむw」

P「さて、こうして屋島の合戦は義経の勝利に終わった。残る平家側は彦島へと撤退した。源氏も海を追う手立てがなかった」

保奈美「そして3日後、船を調達した梶原景時が屋島を強襲しようとやって来たのですが……」ベベン

みりあ「な、なにこれー!? 誰もいないし、平家が作った内裏も焼け落ちてる?」

莉嘉「遅かったね景時ちゃん」

みりあ「義経ちゃん!? なんでここに?」

莉嘉「屋島は3日前に、アタシが陥としたよ」

みりあ「え?」

莉嘉「だからアタシのお手柄ね! えっへん☆」

みりあ「また……そんな……勝手なことーーー!!!」
149 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:58:26.57 ID:wJoYvkKh0
忍「……だって」

美嘉「……頭痛い」

忍「で、でもまあ、難攻不落と噂されて総力戦でも多大な被害が危惧されていた屋島攻略を、わずかな手勢でしかも被害も少なく成し遂げた義経さんはえらいよ。うん」

美嘉「それは認めるし、功も認めるけど……」

忍「今回は、追認での挙兵だったし、手勢だけで攻めるしかなかったわけだし、ね?」

美嘉「義時……」

忍「な、なんです?」

美嘉「宗時のこと、悪かったと思ってる。ゴメン」

忍「……兄上は、自分で源氏に賭けると判断して死にました。悔いは無かったと思ってるよ」

美嘉「弟っていう立場、義時はわかってるから義経をかばってくれるんでしょ?」

忍「まあ……あはは」

美嘉「義経だってさ、アタシになにかあれば自分が源氏を背負わなくちゃならなくなるかもって、わかって欲しい。御家人だけど、ただの御家人じゃないの」

忍「そうだよね」

美嘉「アタシの弟だから、1回は許した。2回目の今回は、義時に免じて許すよ。でも3回目はないから」

忍「わかった。じゃあ私も行くね。彦島へ」

美嘉「うん。頼むね。色々と」

忍「うん。色々とね」
150 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:58:57.79 ID:wJoYvkKh0
保奈美「彦島ではにげてきた一門を乗せた舟の到来について、新中納言知盛は唖然とします」ベン

加蓮「屋島が……陥ちた? またしても源氏の奇襲で? え? どうやって?」

くるみ「どうやら熊野水軍が、義経に船を貸したみたいでしゅ。その船で嵐のおおかぜに載って勝浦から陸伝いに屋島を攻めてきたんでしゅ」

加蓮「嵐の中を船で……って、難破したらどうするつもりだったの!?」

雫「おそれながらー」

加蓮「なに? 能登」

雫「源義経という男、大将の器ではありませんねー」

加蓮「そうか。世の常識や諸事、軍のしきたりとかそういったことは全然念頭にないんだ。ただ、戦って……勝つだけ」

雫「大将たるもの、配下や用兵にも気を遣うものです。でも、義経は手勢だけで思い通り好き勝手に動いていますー」

くるみ「頼朝は、よくあの義経を許してましゅね」

加蓮「……」

乃々「ともあれ屋島が燃やされて、もう平家にはここ彦島しかないんですけど」

雫「源範頼を九州に閉じ込める策も、屋島がなくなったからもうできませんし……」

加蓮「平家が矢島を抑えてるから、源氏は海路や四国を経由できなかったんだけど、それがなくなるとね」

くるみ「やるしかないでしゅ! 彦島で、背しゅいの陣でしゅ!」

加蓮「……うん。平家の命運、これからの一戦にあり。ここで勝てば、そして義経を討ち取れば呼応する四国九州の者もいるはず」

雫「やりますよー!」

乃々「こうなったらもう、やけくぼですけど!」
151 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 10:59:31.94 ID:wJoYvkKh0
仁奈「嵐の海を利用して、普通なら3日かかる航路を4時間で渡るとは、すげーですよ義経おねーさん」

莉嘉「えっと、誰?」

文香「こちらは……熊野水軍を束ねる熊野湛増。我らに五艘の船を貸してくれた者です……」

莉嘉「そうなんだ。ありがとうね☆ お陰で屋島で勝てたよ」

仁奈「約束どーり、これからクマの水軍は源氏に力を貸すですよ」

文香「誠ですか……では、彦島を攻めるための船や水夫(かこ)を……」

仁奈「もちろん、用意するでごぜーますよ!!!」


加蓮「熊野水軍が源氏についたとなると、瀬戸内の他の水軍も追随するかも知れないね」

くるみ「平家に与するよう、あちこちに文を書きましゅた」

加蓮「うん。とにかくこちらも、できる限りの水軍を彦島に集めるの」

雫「わかりましたー」


未央「ようやく九州も平定できた。義経がまた勝手したらしいけど、とにかく四国も源氏の勢力下に入ったし、残るは彦島だけ。九州の水軍を彦島に向けて出陣だよ!」


まゆ「すべてが、頼朝様の思惑通りにすすんでいるみたいですねぇ」

頼朝「……そんなことない。特に義経は、良くも悪くも想定の範囲外」

まゆ「心配なんですねぇ、義経さんのことぉ」

頼朝「あの子は知らないから」

まゆ「何をですかぁ」

頼朝「政子、義経はまだ経験していなくて、アタシがはもう経験してることがあるんだけどなんだかわかる?」

まゆ「……わかっちゃいました。そうですねぇ」

頼朝「いずれは知るのかな、あの子も……」

まゆ「……」
152 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:00:04.94 ID:wJoYvkKh0
奈緒「さあ、源平最後の戦いとなる壇ノ浦の決戦だ」

加蓮「平家もいよいよ追い詰められちゃったね」

凛「でもなんだか、源氏側も不穏な空気が流れてる気がするんだけど」

P「いずれにしても、日本の歴史上で最初の天下を分ける大戦の終わりが近づいてきた」

奈緒「源氏も平家も、彦島に持ちうる限りの船を戦力としてつぎ込んだ。その数、源氏側が830艘。平家側は500艘」

加蓮「源氏の方が多かったんだ」

P「やはり続く連勝と連敗で、様子を見ていた水軍も源氏に多く味方するようになったみたいなんだ」

凛「でも平家は海での戦いが得意なんでしょ?」

奈緒「そうなんだよ。何よりもう負けられない後がないという気概と、捨て身の雰囲気があったそうなんだ」

加蓮「じゃあ最後の戦い、壇ノ浦へ行ってらっしゃい。ううん、行こう!」

保奈美「ウォウォウヤァアヤァア、ヨォ〜ゥイェ〜ェ♪ ウォワォオイェ〜ェ、ヨォ〜ゥイェ〜ェ♪」ベンベン
153 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:00:49.06 ID:wJoYvkKh0
未央「それで義時さんが鎌倉から軍勢に加わるのは、どうしたわけなの?」

忍「実は頼朝さん、いや御所様から大事な言いつけを預かってきてるんだ」

みりあ「言いつけ?」

忍「此度の壇ノ浦での戦い、重要なミッションが私たちには課せられています」

未央「ミッション?」

忍「ミッション、そのいーち!」デデン

みりあ「え?」

忍「絶対に平家に負けてはならない」

莉嘉「そんなのトーゼンだよ」

忍「しかーし!」

未央「え?」

忍「無理に追いつめたりしなくてもいい。負けちゃダメだけど、引き分けとか痛み分けでも全然オッケーだからね、だって」

未央「それってつまり、勝てなくてもいいってこと? 平家を追いつめちゃダメって……そっか!」ピコーン

みりあ「どういうことなの?」

未央「あのね、平家はヘタに追いつめられたら安徳天皇や三種の神器も道連れにしちゃうかも知れないんだよ」

忍「そう。それを御所様は恐れている。なんなら平家は存続させたっていいってさ」

莉嘉「え? なんで? 父上の敵だよ?」

未央「そうなんだけど! ね、義経、先のことも考えて。先のこと」

莉嘉「先のこと?」

未央「平家はもう、今は海を漂う流浪の身。戦に敗れ続けて味方する勢力も少ない。でも安徳天皇という高貴な正当性だけはまだある」

莉嘉「今上の帝は、今は京にいる後鳥羽天皇でしょ?」

忍「そうだけど後鳥羽天皇は三種の神器がないのに即位したから、その正統性が疑問視されてる」

莉嘉「?」

未央「三種の神器もないのに即位していいの、ってみんなが思ってる。そもそも安徳天皇は退位していないのに次の天皇をたてていいのか、って」

莉嘉「???」
154 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:01:25.39 ID:wJoYvkKh0
忍「そこで御所様からのミッション、そのにー!」デデン

みりあ「もうわかった。三種の神器を平家から奪うか、譲る条件を付けて平家を長らえさせる交渉をしろってことだね」

忍「そういうこと。逆に言えば……三種の神器さえ平家から取り上げられるなら、平家は別にどうなってもいいってこと」

未央「兄上は、平家との決着よりも鎌倉に作る武家政府のことを重要視してるんだね」

みりあ「とにかく三種の神器を優先するんだね!」

莉嘉「はいはーい!」


文香「先ほどの会合、陰から聞いていましたが……おわかりになられましたか、義経様」

莉嘉「え? 要するに三種の神器を平家から奪っちゃえば、もう滅ぼしてもいいんでしょ? 平家」

文香「確かに理屈はそうですが……」

莉嘉「はいはーい。わかったからだいじょーぶ」

みりあ「ねえねえ義経ちゃん」

莉嘉「あ、なに? 景時ちゃん」

みりあ「明日の決戦だけど、わたしが先陣になるけどいいよね?」

莉嘉「ダメ」

みりあ「え?」

莉嘉「先陣はアタシ☆」

みりあ「義経ちゃんは、総大将でしょ?」

莉嘉「そうだよ」

みりあ「総大将が先陣なんて、聞いたことないよ! 総大将は先陣を命じる人なんだよ?」

莉嘉「じゃあ命じるね。先陣は、源義経!」

みりあ「だからそんなのダメだって!」

莉嘉「いいの。アタシが総大将なんだから、総大将のアタシが決めるの。先陣はアタシ☆」

みりあ「ダメだって言ってるでしょ!!」
155 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:02:08.24 ID:wJoYvkKh0
乃々「新中納言様、明日はどのように戦えばいいんですか……?」

加蓮「策はないよ」

乃々「はぃい!?」

加蓮「というより必要ないの。関門海峡のこの潮の流れ、アタシたち平家は熟知している。でも……」

雫「源氏がわかっているとは思えませんねー。あの水島の戦いの時でも、義仲の軍船は動くのがやっとでしたし」

加蓮「借りてきた水軍なら、あの時よりは動きはいいとしても潮の流れまではわからないはず」

乃々「それは……はい」

加蓮「なら、普通に潮の流れを活かして戦うのみ。そうすれば、勝てる」

くるみ「はい!」

加蓮(義経……今回の戦いに盤外の一手はあるの……? アタシにはわからない、予想できない手が、今回も……あるの?)


莉嘉「という作戦なんだよ。だから与一くん、お願いね☆」

舞「あ、あの……」

莉嘉「なに? 与一くん」

舞「それは卑怯では……?」

莉嘉「……弁慶くん?」

文香「……はい」

莉嘉「卑怯、ってなに?」

舞「えっ?」

文香「端的には、正々堂々としていないこと……を卑怯と言いますね」

莉嘉「ふーん。それで、与一くん」

舞「は、はい」

莉嘉「さっきの作戦、どう? やってくれる?」

舞「あの……それで勝てるのですね?」

莉嘉「うん。あのね、クマのたんぞーくんがね、細かな潮目はわかんないけど、明日の午の刻から彦島から私たちの陣に潮が流れるんだけど、一刻もしたら潮は反転して逆になるんだって」
156 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:03:41.81 ID:wJoYvkKh0
凛「奈緒、午の刻っていうのは何時頃?」

奈緒「午後12時だな」

加蓮「一刻は2時間だっけ?」

奈緒「そう。つまり平家としては、12時から合戦を始めて、2時間で決着をつけたいんだ。またその勝機も十分にある」

凛「平家は船の戦いに慣れてるし、彦島周辺は庭みたいなものだしね」

加蓮「アタシは、莉嘉ちゃんの作戦が気になるな。なにするんだろ」

P「では決戦の当日。寿永四年三月二十四日、西暦では1185年の5月2日の壇ノ浦。今の下関市から物語は始まる」


文香「与一さん……よく義経様のあの作戦、引き受けてくださいました」

舞「射るのは一矢でよい、と言われたので……でも、どうして一矢でいいんですか?」

文香「与一さん、あなたは……今や源氏平家を問わず、時の人なのですよ」

舞「?」


仁奈「ここの潮のながれをじゅくちしてやがる平家を相手に、一刻の間もちこたえるんでごぜーますか!?」

莉嘉「うん。羊の刻になったら潮の流れが逆になるんでしょ?」

仁奈「それはそうなんでごぜーますが、平家の猛攻を一刻も持ちこたえるのは無理でごぜーますよ」

莉嘉「だいじょーぶ☆ こっちには与一くんがいるんだから」

仁奈「与一くん……那須与一宗隆ですか? その名は武士ではない、クマの水軍にも知れ渡っているですけど」

莉嘉「へえ。なんて?」

仁奈「源氏には、神弓の射手がいる。その名は那須与一宗隆……でごぜーますけど」

莉嘉「うんうんそうそう。与一くんは、すごいんだよ」
157 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:04:14.52 ID:wJoYvkKh0
乃々「始まったんですけど、新中納言様の言う通り、源氏はなんの策もないみたいなんですけど」

雫「珍しいですねー。源氏が、というより義経が私たちの攻撃をただ待ちかまえているなんてー」

くるみ「総大将の知盛しゃん、進軍の下知を!」

加蓮「……」

くるみ「知盛しゃん?」

加蓮「あ、ご、ごめん兄上。全船、源氏方に向けて進軍。私の合図で矢を射て」

加蓮(どうしたの義経。本当に無策で戦うの? あなたらしくないけど……もう盤外の一手はないの?)


未央「へ、平家の勢いもの凄いんだけど!」

みりあ「平家からは乗り潮、こちらは受け潮なのはわかってるけど、それにしてもすごい攻撃! 矢が雨みたいに降ってくる!」

みりあ「きゃああああああ!!!」

未央「こんなのまともに受けられないよ。とりあえず、撤退を」

莉嘉「与一くーん」

舞「はい」

莉嘉「例の策、お願い☆」

舞「は、わかり……ました。いきます! ひい、ふっ!!」

未央「与一くん? あ、あの人が、あの扇の的を射たっていう那須与一? でも今はなにを射るつもりなの?」
158 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:04:50.31 ID:wJoYvkKh0
保奈美「与一の射た矢は、真っ直ぐに飛ぶと平家水軍先頭の船の水手(かこ)の胸を貫きます」

美由紀「水手のみんな、流れ矢に気をつけてよ! 戦いに加わらない水手を攻撃しないのは武家の習わしだけど、流れ矢に当たることはあるからね」

ひゆっ!

鷹富士茄子「む、胸に矢が……」

美由紀「言ってるそばから……もう、誰なの下手な矢で水手に当たっちゃったこの矢を射たのは……あ、矢に名が記してある。えっと……那須? 那須……なすって言ったら……」

茄子「なすじゃなくて、私は水手(かこ)ですよ〜……」ガクッ

美由紀「な、那須与一宗隆……屋島の扇の的で、神業を披露した源氏の弓矢の名手……」

「お、おい聞いたか」「あの那須与一が水手を射殺したんだってよ」「神弓の使い手が、狙いを外すはずがねえ!」「源氏は俺たち水手を狙ってるんだ!!」「俺たち、殺されちまう!!!」


加蓮「船の動きが……止まった!?」

雫「前の方の船、どうなってるんですかー!?」

乃々「あわわ……平家側の船が、どんどん動かなくなっていってるんですけど、いったい何が……」

加蓮「まさかまた……義経なの!?」


未央「止まっ……た? 平家の船が止まっていく……」

みりあ「なにを……なにをしたの義経ちゃん!」

莉嘉「えっへん! さあさあ、これで一刻の間耐えられるよ」
159 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:05:33.65 ID:wJoYvkKh0
加蓮「水手を……しかも一矢、一人だけを射抜いて、平家の水手全員に恐慌を引き起こして、全部の船を止めた……!?」

乃々「水手が恐れをなして、なだめてもすかしても、櫓を漕がないんですけど。船の中に入っちゃってるんですけど」

くるみ「那須与一の名は、今や"武士(ギャル)"の間で知らぬ者はいましぇんから! その名人が水手を狙ってるとわかったら……」

保奈美「そして時は無情にも、一刻が過ぎます」

莉嘉「さあ、潮の流れが逆になったよ! アタシ達の反撃かーいし☆」

加蓮「敵の船がものすごい勢いで襲来……矢も雨のように降ってくる。ここまでか……最後まで義経に……盤外の一手にやられちゃったな……」

雫「まだあきらめませんよー! えーい!!」

文香「あれは……能登守、平教経! あの巨躯でこちらの船に“跳躍(ジャンプ)”を。まずい……!!」

ガッ

雫「その“出で立ち(コーデ)”、武蔵坊弁慶さんですねー?」

文香「……いかにも」

雫「ということは、側にいるのが源義経で間違いないですねー!? ええーーいいっ!!」

莉嘉「! はっ……と!」

雫「一跳びで、あんな遠くの船まで……残念ですが、義経は討ち取れませんでしたー。私はここまでのようですが、せめて源氏を道連れにー!」

保奈美「そう叫ぶと、教経は源氏の武将を両脇に1名ずつ抱えると、そのまま海へと飛び込み沈んでいきます……」
160 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:07:58.42 ID:wJoYvkKh0
https://i.imgur.com/dXEwIYQ.jpg
平教経(能登守)
161 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:08:55.25 ID:wJoYvkKh0
乃々「二位の尼様、もはやこれまでなんですけど。お……お覚悟を……お願い……いたしますけど!」


凛「……乃々、がんばったよ。乃々は……」

加蓮「え? この最後の時に、まだ登場していなかった人がいるの? 二位の尼?」

奈緒「二位の尼は、清盛の正妻だった人で、平家一門にとってのお母さんみたいな存在なんだよ」

P「この二位の尼が、清盛亡き後は一門の精神的支柱だったんだ。当然、平家一門と共に彦島まで落ち延びており、安徳天皇を祖母として育てていた」

凛「安徳天皇……ああ、後白河法皇がほったらかしちゃったあの幼い天皇だ」

加蓮「清盛の孫の天皇なんだよね」

奈緒「そう。そしてあの後白河法皇がなんとしても欲しがっていた、三種の神器も二位の尼や安徳天皇と共にあった」
162 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:09:28.09 ID:wJoYvkKh0
持田亜里沙「……わかりました。平家もこれで最期。せめて見苦しくないよう、その時を迎えましょう。ね、帝」

浅利七海「なんれすか〜? おばあさま。これからどこかへ行くのれすか〜?」

亜里沙「そうですよ。これから都へ参りますからね」

七海「都、れすか〜? でもここは、海の上れすよ〜?」

亜里沙「心配は要りませんよ。さあ、みんなも一緒に参りましょうね〜私といっしょに、はい続いてね!」

保奈美「二位の尼の声に、場にいた女御達は涙を流しながら立ち上がります」

亜里沙「さあさあ。帝、みんなが一緒です。なにも怖くはありませんよ。海の……海の底にも、都はございます!!!」

保奈美「二位の尼は、そう言うと。走り出し、船の外へと駆け出ると、そのまま海の中へと落ちていきました。飛び込んだのではありません、落ちたのです。すべては幼い安徳帝を怖がらせまいとする心遣いでした」

くるみ「ぴ、ぴええ。み。みんないくんでしゅか? う、海の底に……い、いくんでしゅか?」

保奈美「女御達は、口々に『みなさまお先に』と言うと、二位の尼と安徳帝を追うように海に飛び込んでいきます」

くるみ「む、宗盛も……平家のみんなと一緒に……えいっ!」ドボン
163 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:10:08.76 ID:wJoYvkKh0
加蓮「負けた……負けちゃった。義経……あなたの勝ちだよ。平家はこれで……お終い。知章……ゴメンね」

莉嘉「うーんと、弁慶くん。あそこにいるのが総大将なんじゃない? 新中華一番の」

文香「新中華一番ではなく、新中納言……平知盛です。はい、間違いないでしょう……おや、こちらを見ました。向こうも私たちに気づいたようです……」

加蓮「あなたが義経……だよね。アタシの負け。でも、なんでかな、不思議とあなたのこと憎くない。平家一門滅亡はあなたの戦での活躍によるもの……なのに、ね」

莉嘉「なんか笑ってる……笑ってるよね? 弁慶くん」

文香「はい……なぜでしょうか……」

加蓮「義経、これからきっと大変だよ。あなたの本当の敵は、私たち……平家なんかじゃないんだから。負けないでよね、私たちに勝ったんだから……って、聞こえないか。遠すぎるし、波の音で」

莉嘉「何か言ってる……なんて言ってるの?」

文香「さすがにここからでは……おや、あれは何を……」

保奈美「平知盛は、腰に差していた刀をなんと両手に持つと膝に当てて折ってしまいます。握る刀が両掌から血を流します。しかし知盛はそれにも構わず、両手に持った刀を頭上で打ち鳴らします」

加蓮「わかったー!? あなたの本当の敵、そしてやってることが!?」

莉嘉「なんだろう……自分で自分の刀を二つに折って、それを両手に持って打ち合って」

文香「あの様子、何か意味があるとは思いますが……はて」

加蓮「さて。形見代わりにずっと持ってきていたけど、一緒にいこうか。知章」

莉嘉「今度は鎧の上にもうひとつ鎧を着てる」

文香「覚悟を決めたのですね。平知盛。立派な“武士(ギャル)”でした」

莉嘉「え?」

ドボン

莉嘉「……海に飛び込んだ……さようなら。アタシの宿敵。忘れないよ、新中納言平知盛……」

保奈美「戦いに打ち破れる者、自ら命を絶つ者、壇ノ浦の海は平家の赤い旗が波間に流されていき、まるで川に流れる紅葉のようであったと伝えられます。ひと時代の栄華を極めた平家の最期でした」
164 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:10:56.42 ID:wJoYvkKh0
凛「負けちゃったね、平家。加蓮お疲れ様」

加蓮「大変だったんだから。本当に海に飛び込んだんだよ、スキューバつけてその上から鎧着て」

奈緒「あたし達もナレ死ではあったけど、平家側だったからなんか感慨深いな」

加蓮「栄華を誇った平家一門も、この壇ノ浦で1人残らずいなくなっちゃったんだね……」

P「いいや」

加蓮「え?」

奈緒「平家という家格としては滅亡したけど、1人残らずいなくなったわけじゃないんだ」

凛「え?」

保奈美「ではここでクイズです」デデン

加蓮「え? なんで保奈美ちゃんいつもの琵琶法師じゃなくて、司会者みたいな衣装になってんの?」

凛「え? スタッフさんが回答ボタンとハットを持ってきてくれたけど……」

保奈美「平家一門生き残ったのは誰だクーイズ」パチパチパチパチ

凛「え?」

保奈美「問題」デデン

加蓮「え?」
165 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:11:32.30 ID:wJoYvkKh0
保奈美「今回のドラマ、壇ノ浦のシーンに登場したけれど『確実に』生き残った人がいます。さて……誰でしょうか?」

凛「えっと、はい!」ポーン

保奈美「凛さん」

凛「乃々」

ブー!

加蓮「わかった!」ポーン

保奈美「加蓮さん」

加蓮「雫と私は体を重くして海に飛び込んだから確実に生きてないし、乃々ちゃんじゃないとすると残るは……くるみちゃんこと宗盛兄様!」

ピンポンピンポンピンポーン♪

奈緒「やっぱり現場にいた加蓮は、よくわかってるよな」

凛「待って。今、私が誤答したから加蓮もわかったんでしょ?」

保奈美「第2問」デデン

凛「え? え? え?」

保奈美「今回のドラマ、壇ノ浦でのシーンで登場したけれど生き残ったかも知れないなー生き残ってるんじゃないかなー生き残ってるといいなーという人がいます。……誰でしょうか?」

凛「はいはいはい!!!」ポーンポーンポーン

保奈美「凛さん」

凛「乃々!」

ピンポンピンポンピンポーン♪

凛「やっぱり生きてるんだ! 乃々!!」

奈緒「というか、どこでどう亡くなったかっていう正確な記録がないんだよな」

加蓮「乃々ちゃんの維盛って、ドラマ内で何度も『都1のイケメン』って呼ばれてたけど、そういう有名な人でもそういうことあるんだ」

P「一ノ谷の戦いの後で、戦線から離脱したという記録もあるし、壇ノ浦の合戦にも参加したという資料もあり、定かではないんだ」

凛「大丈夫、きっと乃々は生きているよ。生き延びて、平家は続いている」

P「というか、逆に」

加蓮「え?」
166 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:12:46.20 ID:wJoYvkKh0
奈緒「平家一門でも壇ノ浦以降も、堂々と生き続けた人物もいる」

凛「それって平家の人なのに、頼朝に許されたの?」

奈緒「ああ。頼朝っていう人は、自分自身の経験から生き残った敵の大将には厳しい人だったんだけどさ」

加蓮「同じ源氏なのに、義仲を討ち取ったり、その子供の義高も討ったりしてたよね」

奈緒「それはやっばり、生き残りが力をつけて復讐してくることの強さ、怖さをよくわかってたんだと思うんだ」

P「それに頼朝は御家人、つまり自分に忠誠を誓う武士でも反抗したりする人には容赦がなかった」

加蓮「えー、なんか美嘉ちゃんのイメージと違う」

奈緒「だけどその一方で、受けた恩とか気持ちは絶対に忘れない人でもあったんだよ」

加蓮「へえ」

奈緒「さっきあたしが、平家でも壇ノ浦以降も堂々と生き続けた人物もいるって言っただろ?」

凛「うん。あれって誰のこと?」

若林智香「それは、アタシですっ☆」ジャーン

凛「え……誰?」

智香「凛ちゃーん。アタシですよっ、若林智香ですよっ!」

凛「いや、それはわかってるけどさ……」

加蓮「誰の役なの? 智香は?」

智香「アタシの演じる役は、平頼盛(よりもり)ですっ!」

加蓮「平……って、平家一門なの!? ここまで登場してなかった平家の人間が、平家が滅亡した今から出番があるの!?」

P「この頼盛という人は、平忠盛……つまり清盛の父親の五男にあたる人だ」

加蓮「ということは……父上である清盛の弟だから……え? アタシからは叔父さんになるの?」

凛「一門の中でも、めちゃくちゃ清盛に近い人じゃない!」

保奈美「それではここで、第3問!」デデン

凛・加蓮「「えっ!?」」
167 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:13:58.67 ID:wJoYvkKh0
P「ちなみにこのクイズ、2ポイント先取した方が来年の大河ドラマの主役に抜擢されるからな」

凛「ちょっとお」(1ポイント)

加蓮「そういうの、先に言ってよ」(1ポイント)

保奈美「智香さん演じる平頼盛は、平家一門でありながら命を奪われず、逆に領地まで頼朝からもらい子孫も続いてくのですが、それはなぜだったのでしょうか?」

凛「はい!」ポーン

保奈美「凛さん」

凛「平家のお宝とか財宝を、美嘉に献上したから」

ブー!

加蓮「はい!」ポーン

保奈美「加蓮さん」

加蓮「えっと、ものすごいお世辞が上手で、美嘉ちゃんのことをほめちぎったから」

ブー!

凛「はい!」ポーン

保奈美「凛さん」

凛「舞が演じた那須与一みたいに、何か武芸で優秀な腕前があって、それで許されたとか」

ブー!

加蓮「はい!」ポーン

保見「加蓮さん」

加蓮「平家と争っている最中から、こう……平家の情報とかを美嘉ちゃんに教えてたから」

ブー!

凛「智香ー! ヒントちょうだい、ヒント!」

加蓮「ヒント、プリーズ」
168 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:15:00.77 ID:wJoYvkKh0
智香「それじゃあ……えっとですね、アタシ自身は実はなーんにもしてません」

凛「えっ!?」

智香「アタシはなんにもしてないんだけど、頼朝こと美嘉ちゃんはアタシの命を助けてくれましたっ☆」

加蓮「はい!」ポーン

保奈美「加蓮さん」

加蓮「名前が頼盛で、頼朝と同じ『頼』っていう字が入ってたから頼朝も嬉しくて許してくれた!」

ブー!

凛「はい!」ポーン

保奈美「凛さん」

凛「顔が良かったから……美形だから許してもらえた!」

智香「えへへっ☆ ありがとうございますっ!」

凛「智香じゃなくて、平頼盛がね」

智香「……」ポチッ

ブー!

凛「今の私情が入ってない!?」

加蓮「はい!」

保奈美「加蓮さん」

加蓮「えっと……じゃあ……あ、本人じゃなくて、お父さんとかお母さんが世の中の為になる、いいコトをしたから」

……ブッブッ

凛「え?」
169 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:16:35.75 ID:wJoYvkKh0
保奈美「いいコト……具体的には?」

加蓮「え? えっと……都の困っている人にお米とか分けてあげたり?」

ブー!

保奈美「不正解ですが、惜しいというか近いです」

智香「アタシのお母さんが、何かをしたことでアタシは許されましたっ☆」

加蓮「もうちょっとヒント!」

凛「ヒントお願い!」

智香「それじゃあ……今回のドラマ、お2人はずっと見たり演じたりしてたとおもうんだけどっ、アタシのお母さんがしたその何か……実は、ここまでのどこかのシーンで出てきてますっ☆」

加蓮「えっ?」

凛「わかったあっ!」ポーン

保奈美「凛さん!」
170 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:17:09.74 ID:wJoYvkKh0
凛「智香のお母さんが、美嘉の命を助けるようつかさに頼んでくれたから!」

ピンポンピンポンピンポーン♪

凛「やった!」

加蓮「あー……そうか、あれかあ。池禅尼の、ハラペコクラリスさんかあ……」
 
智香「そうでーすっ☆ アタシのお母さん池禅尼が、断食をしてまで頼朝の助命をして助けてくれたこと、頼朝さんは忘れずにいてくれて、アタシの命を助けてくれたんですっ!」

加蓮「そうか。そうなんだ、頼朝は……美嘉ちゃんは命を助けてもらった恩を忘れていなかったんだ」

奈緒「これも頼朝という人物の人柄を伝えるエピソードだよな」

保奈美「さて、平家が滅亡した壇ノ浦。その報を頼朝は鎌倉で聞きます」ベベン
171 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:17:42.65 ID:wJoYvkKh0
美嘉「義時、範頼、壇ノ浦の合戦は大勝利だったってまずは早馬からの報告を聞いてるよ。よくやってくれたね★」

未央「えっと、あの……その……」

忍「なんと言いますか……」

美嘉「どうしたの? 大勝利とは聞いているけれど、詳しい戦果はどうだったのかを聞かせてよ」

未央「も、申し上げます!」

美嘉「え?」

忍「去る3月24日、長門国壇ノ浦にて我が軍は平家との合戦におよび、大勝利。平家は……め」

美嘉「め?」

未央「め」

美嘉「め?」

未央「滅亡いたしました!」

美嘉「そう。平家は滅亡……め、滅亡!? 滅亡ってどういうこと!? アタシ言ったよね、負けちゃダメだけど必要以上に追いつめるなって」

未央「それがその……九郎がまたも大活躍して……」

美嘉「義経が? あのね範頼、アタシがなんて言ったか……」

忍「平家は負けを認めて潔く、自刃や海へと投身沈におよび、一門は全滅。なお……」

美嘉「なに? まさかと思うけど……」

忍「三種の神器のうち、草薙の剣は海へと沈んでしまいました!」

美嘉「……義経ーーー!!!」
172 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:20:11.34 ID:wJoYvkKh0
くるみ「あ、あの、このあとどうなるんでしゅか?」

未央「まあたぶん、斬首だと思うよ」

忍「そもそもなんで他の一門の人みたいに、海に飛び込まなかったの?」

くるみ「飛び込んだんでしゅけど、胸が浮いて沈めなかったんでしゅ……」

未央「それはまた、なんというか……」

忍「うらやまご愁傷様……」

くるみ「びえーん」


保奈美「そして遅れて鎌倉に戻ろうとした義経は」ベベン

莉嘉「腰越から先に来ちゃダメ? なんで?」

みりあ「御所様からのめーれーだもん」

莉嘉「ごしょさま、ってなに? お姉ちゃんでしょ?」

みりあ「そうやって御所様の弟だからって好き勝手してるから、来るなっ言われちゃうんだからね」

莉嘉「なにそれー!」


文香「義経様……」

莉嘉「なんでお姉ちゃんはアタシに会ってくれないの? アタシ、がんばったのに……平家だって倒してお姉ちゃんやお父さんの敵もとったのに……ほめてもらえると思ってたのに」

文香(そう、義経様は軍神とも言える活躍をされた。しかしそれは……)

莉嘉「そうだ!」

文香「はい……?」

莉嘉「会ってくれないなら、そうだ手紙書いたらいいじゃん。アタシ天才☆」

文香「それは良い考えです……すぐに、文を」

莉嘉「うん! えっと……」


美嘉「文? 義経から?」

忍「うん。会ってもらえないなら、って」

美嘉「……背景。ふふっ」

忍「え?」

美嘉「やだもう。背景じゃなくて拝啓でしょ。まったく、文の書き方も……」

忍「どうしたの?」

美嘉「誰にも……ううん、そういうことを教えてくれる人が、義経にはいなかったんだろうね」

忍「お母さんと平家に捕らわれ、寺に送られて、それからは奥州で武芸を修めて……だもんね」

美嘉「……今回のこと、許すわけにはいかないけど、さ」

忍「うん」

美嘉「しばらく大人しくしてくれてたら、また鎌倉で一緒に話したりできるよね。きっと」

忍「そうだね」
173 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:20:48.38 ID:wJoYvkKh0
フレデリカ「なるほどなるほど。結局、文を書いても会ってはもらえなかったってわけだネー」

志希「それは義経クン、危ないよ〜」

莉嘉「そうなんだよー……え?」

志希「頼朝クンはさ、刃向かった人を絶対に許さないじゃナイ」

莉嘉「そうだっけ?」

志希「古くは大庭景親、木曽義仲にその息子の義時、平家一門ことに平宗盛」

莉嘉「うん……みんな殺されちゃったね」

志希「次は義経クンかも知れないよ〜」

莉嘉「そんな! まさかお姉ちゃんがアタシを殺すわけないよ!」

志希「頼朝クンに殺された人はみんなそう言ってたよ〜。あたし、全員とつき合いがあったから知ってるんだよね」

莉嘉「そんなあ……」

フレデリカ「そんな義経ちゃんに、これをあげちゃう。これでもう安心だからね」

莉嘉「なにこれ?」

フレデリカ「ミーからのありがたい院宣」

莉嘉「院宣?」

志希「頼朝を討て、という院宣ダヨ〜」

莉嘉「いやあっ! い、要らない!! こんなのアタシ要らない!!!」

志希「もう。義経クンはウブだなあ、本気にしなくてもいいんだよ」

莉嘉「えっ?」

志希「このままだと、義経クンは頼朝クンに殺されるじゃない? でもほら、こうして頼朝クンを討てという院宣がある限り、義経クンは官軍で頼朝クンは賊軍ってワケ」

フレデリカ「なにも本当に頼朝ちゃんを討たなくていいんだよ? でもこれを持っていれば、頼朝ちゃんは義経ちゃんに手を出せないという最強の護符になるから」

莉嘉「……ほんっとーに、お姉ちゃんと戦わなくてもいいんだよね? 持ってるだけでいいんだよね?」

志希「もちのろんだよ〜。さ、受け取って受け取って」

莉嘉「じゃあ……うん」
174 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:21:23.84 ID:wJoYvkKh0
美嘉「後白河法皇が、義経にアタシを討てという院宣を出したぁ!?」

未央「義経もそれをおしいただいた、って報告が景時からあって。なんかその場には行家もいたとかなんとか……」

美嘉「……」

忍「ま、待って。あの義経さんのことだからさ、きっとまたうまいこと言われて騙されてるんだよきっと」

美嘉「あの子は……今度は……今度という今度はもう許せない……ゆるさないから!!!」

忍「御所様、恐れながら申し上げますが!」

美嘉「そっちがその気ならこっちも本気出すから! 義経追討の兵を出すから!!」

忍「御所様、待ってくださいって!!」

美嘉「大将はアタシ。アタシ自らが、討って出る!!!」

忍「御所様!!!」
175 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:22:06.24 ID:wJoYvkKh0
凛「え、待って。別にこれ、お互い戦うほどのことじゃないんじゃないの?」

加蓮「そうだよ。ちょっと前まで、時間がたてば仲直りできそうな雰囲気だったじゃない?」

奈緒「このあたり、色んな説とか研究があるんだけど、結果として義経と頼朝は戦う事態になったんだ」

P「義経は平家との戦いで一世を風靡して、全国の武士の間や都の人々からヒーローとして認識されてたし、頼朝は鎌倉で政権を作ろうとしていたし、本当に両雄が同時に立つのは難しかったんだろうな、とは思う」

加蓮「というか」

P「ん?」

加蓮「アタシ、演じてる時から思ってたけど、この後白河って法皇がすべての元凶なんじゃない?」

奈緒「そうなんだよ」

凛「やっぱり」

P「義朝が頼朝に言っていたこと、覚えているか?」

加蓮「えっと、朝廷じゃない武士による政を目指す……とか」

P「あのシーンでも触れられていたが、この時代まで政は朝廷が行うものだった。だがその仕組みそのものが時代に合わず、破綻してきてこの源平の時代にはそれが限界に達していた」

奈緒「朝廷から派遣されてくる受領と呼ばれる国司は、税金を搾り取るだけの存在。それから逃れるには荘園という税を払わなくていい存在にみんながなろうとして荘園が増える。荘園は寺社や有力貴族の私物だったからそれが増えると国の税収が減る。このサイクルを破ろうと、武士は立ち上がったんだ」

凛「そっか。だから朝廷のトップの後白河法皇は、武士と武士を戦わせて勢力を削いだりして保身してたんだ」

加蓮「武士と武士との争いだと思っていたけど、武力の争いじゃなくてどういう政治をするかの戦いでもあったんだ」

奈緒「だから平家は福原に遷都したり宋と貿易をしたし、源氏は東国で武家政権を作ろうとしたんだな」

P「さあ、それじゃあこの頼朝と義経の戦いがどうなっていくのかを見ていこう。舞台は駿河国だ」

保奈美「ウォウォウヤァアヤァア、ヨォ〜ゥイェ〜ェ♪ ウォワォオイェ〜ェ、ヨォ〜ゥイェ〜ェ♪」ベンベン

加蓮「久々に聞いた。このいい声」
176 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:22:42.91 ID:wJoYvkKh0
保奈美「頼朝は駿河の国、今の静岡県の黄瀬川に陣を張ります」

未央「兵はすべて、かねて仰せの通りの陣に配しました」

美嘉「そう……」

忍「糧秣の運搬も終了しました」

美嘉「そう……」

未央「あ、あの、御所さ……兄上」

美嘉「……なに?」

未央「思い出すよね。この黄瀬川で、あの九郎と最初に会ったんだよね」

忍「そうそう。奥州からわずかな手勢で駆けつけてくれて。私は、お供の人を義経さんだと間違えちゃってさ」

美嘉「ふふっ……そんなこと、あったね」


未央「ここまで来たはいいけど、きっと兄上は後悔してるんだよ」

忍「私もそう思う。これでさ、義経さんが頭を下げたりでもしたら、丸く収まるんじゃないかなあ」

未央「ほんとに……義経、どうしてるんだろう」

忍「今が最後のチャンスかも知れないんだけどねえ……」
177 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:23:15.43 ID:wJoYvkKh0


美嘉「義経……なんで来ないの。来て、一言いいわけをすれば……頭を下げればアタシは許すのに……アタシは弟を許すのに……」


178 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:23:47.40 ID:wJoYvkKh0
保奈美「一方その頃、義経は」

文香「兵が集まりません。御所である頼朝様直々このご出陣に、各地の武士はみな恐れをなしたようです……」

莉嘉「戦う前から、アタシの負けだね。ううん、アタシそもそもお姉ちゃんとは戦いたくないよ」

文香「……」

莉嘉「お姉ちゃんが、鎌倉から動かなかったわけがようやくアタシわかった。武家をまとめて政をしたり、兵を動かして運用したり、今みたいに命令を行き渡らせる組織をずっとお姉ちゃんは作ってたんだ」

文香「そうですね……」

莉嘉「お姉ちゃんが、官位を勝手に受けちゃダメだって言ったわけもわかった。それを許すと鎌倉のお姉ちゃんの権威に関わるからなんだ。お姉ちゃんが官位を決めなきゃダメなんだ」

文香「そうですね……」

莉嘉「お姉ちゃんが、三種の神器を平家から奪うことを第一にしてたのは、朝廷に対抗する力を得るためだったんだ。今の後鳥羽天皇は、神器がないのに即位して肩身が狭いから……」

文香「はい……」

莉嘉「アタシわかった。新中納言が、平知盛が最後に見せたあの仕草の意味」

文香「! なんだったのですか、あれは……?」
179 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:24:24.84 ID:wJoYvkKh0
莉嘉「あれはアタシに、アタシの本当の敵を教えてくれてたんだ。武士の象徴である刀、それをふたつに分けてぶつけ合っている者がいる。気をつけるんだよ……って」

文香「あっ! そうだったのですか……清盛と義朝様を、義仲と平家を、義仲と頼朝様を、そして頼朝様と義経様を……その黒幕の存在を……そう……だったの……」

莉嘉「アタシわかった。今になってわかった。アタシはアタシの本当の敵に、いいように動かされてた。お姉ちゃんの邪魔するためにアタシは使われてたんだ」

文香「なんということ……私は義経様の家来失格です。あの新中納言の真意を……助言にあの時に気づけなかったなんて……」

莉嘉「弁慶くん……アタシわかったよ。お姉ちゃんに負けて、初めて戦で負けて、負けたら……急に色々わかるようになったよ」

文香「義経様……」

莉嘉「負けるって大事だね。こんなに色んなことがわかるようになるなら……アタシ……アダジね、弁慶ぐん」

文香「……」

莉嘉「もっど早ぐ、誰がに負げでればよがったのがな……うえええええええええん」

文香「義経様! お許しください……事ここに至るのを防げなかった愚かな家臣を、どうかお許しください……」

保奈美「主従は共に涙を流しながら抱き合います。完敗でした。義経主従の初めての敗北は、矢の一本刀の一合を交わすこともない。静かな、そして完膚なきまでの敗北であったのです……」
180 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:25:09.60 ID:wJoYvkKh0
莉嘉「……弁慶くん、アタシもうひとつわかったことがある」

文香「なんでしょうか……?」

莉嘉「木曽義仲が負けた時、北陸に向かおうとしてたじゃない」

文香「……? はい」

莉嘉「平家は一ノ谷で負けたら屋島に船で向かった。屋島で負けたら彦島に向かった」

文香「そうでしたね」

莉嘉「みんな負けたら、生まれ育ったところに、仲間のところに、自分の拠り所に逃げるんだ」

文香「なるほど……」

莉嘉「アタシにはないんだ。生まれ育ったところも、仲間のいるところも、自分の拠り所も……」

文香「ああ……そうなのでした。義経様は、生まれてすぐ戦乱で京に……」

莉嘉「お姉ちゃんだってそれは同じなのに、生涯で二度も負けたのに……自分で作ったんだよね。負けても戻れる場所を」

文香「それが、あの方が鎌倉から動かなかった、もうひとつの理由かも知れませんね」

莉嘉「アタシにはないんだ……逃げる故郷が……」

文香「……お待ちください。あります……! 逃げる場が、義経様にも!」
181 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:25:47.04 ID:wJoYvkKh0
美嘉「義経は、我が鎌倉軍に恐れをなし敗走した。これ以上の滞陣は無用。鎌倉に引き上げる」

未央「……来なかったか、義経」

忍「良かったのか悪かったのか……どうなのかな」

美嘉「今頃きっと、あの子も気づいているよね。源氏の嫡流として生まれたアタシたちには、負けたら落ち延びる故郷がないってことに……」

未央「え?」

忍「御所様、今なにか……」

美嘉「……なんでもない」
182 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:26:26.79 ID:wJoYvkKh0
保奈美「鎌倉に戻った頼朝でしたが、そこに意外な人物が京の都から送られてきます」

美嘉「白拍子?」

まゆ「義経さんの、お手つきだそうですよぉ」

美嘉「義経が!? 白拍子に手を出してたの!?」

忍「しかもお腹には、ややこが……」

美嘉「えええええっ!? じゃあ義経の子供……が?」

未央「どうなさいます?」

美嘉「ど、どう……って。どうしよう?」

忍「……とりあえず、その白拍子が鎌倉を、御所様をどう思っているのか確かめたらどうです?」

未央「どうやって?」

忍「近く、鶴岡八幡宮で祭事があります。そこで舞を舞わせてみたらどうかな。ちゃんと寿ぎ(ことほぎ)の舞を舞うようなら、それは心底鎌倉に忠誠の気持ちがあるってことで」

美嘉「そうか。そうだね、じゃあそうしよう」


奈緒「さてついに、義経の側室で美人で舞の名人だった静御前の登場だな」

加蓮「思い出した。都で莉嘉ちゃんが都で検非違使やってる時に、白拍子の所に通ってたっけ」

凛「そういえば……そんなことあったね」

P「ドラマ内でも言われてたが、白拍子っていうのは歌舞をする人でで静御前はその達人と呼ばれていたんだ」

奈緒「あの後白河法皇が京で日照りが続くので白拍子に雨乞いの舞を踊らせたんだけど、99人の白拍子が舞っても雨は降らなかったのに、最後の100人目の静午前が雨乞いの舞を踊るとたちまち雨が降った、という伝説のある人でさ」

P「後白河法皇はその時『かの者は神の子か』と驚いて、日本一の称号を授けたんだ」

加蓮「なんかものすごい人だね」

凛「誰がその役、演じるのかな?」

奈緒「いや、誰だろうな!? 楽しみだな!? ワクワクしてくるよな!!」
183 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:29:19.00 ID:wJoYvkKh0
美嘉「では静よ、寿ぎの舞を舞ってみよ。見事舞えたなら、その命助けてもいいから」

ヘレン「助命でもダンサブル!」ヘーイ!
184 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:30:44.63 ID:wJoYvkKh0
https://i.imgur.com/3CtK3iP.jpg
静御前
185 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:31:20.67 ID:wJoYvkKh0
奈緒「ぶっ!」

加蓮「いやまあヘレンさんのダンスはすごいけど」

凛「白拍子の舞って、そんなんじゃないんじゃないの?」

P「まあまあ、鬼気迫るヘレン渾身のダンスを見てくれ」


ヘレン「吉野山♪ 峰の白雪ふみわけて♪ 姿を隠していったあの人のあとが恋しい♪」ヘーイ!!

未央「あわわわわ……」

忍「どうしたの? 蒲殿」

未央「あの静って白拍子が歌って舞っているのは、恋しい人への想いを込めた歌と舞なんだよ」ヒソヒソ

忍「へえー……え? 寿ぎの歌と舞は?」

未央「だから、そういうんじゃないのを演ってるうえに、あの静の想う人っていうのは……」ヒソヒソ

忍「えっと……あ、義経さんか!」

未央「シーっ!!!」
 
美嘉「……」

まゆ「頼朝様ぁ」

美嘉「……なに?」

まゆ「あの方、許してあげてくださいませんかぁ」

美嘉「え?」

まゆ「命だけは、どうか……この通りですからぁ」

美嘉「まさか政子が、そんなことを言うなんて……ちょっと意外だったな」

まゆ「そんなことありませんよぉ。恋しい方を想う気持ち、まゆだってよぉくわかりますからねぇ」

美嘉「……そっか」

まゆ「まゆだって、必死で嵐の夜に灯りのない山中を歩いたんですもの。あの方の気持ちも、よぉくわかりますよお」

美嘉「そんことも……あったね」

まゆ「この通りです、頼朝様ぁ」

美嘉「政子がそこまで言うなら、助けないといけないね」

まゆ「まあ。ありがとうございますねぇ」

美嘉「ただし」

まゆ「えぇ?」

美嘉「お腹の子は……お腹の子が男の子だったらその時、その子は覚悟してもらうよ」

まゆ「そんな……」

ヘレン「妊婦でもダンサブル!」ヘーイ!!!
186 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:31:55.90 ID:wJoYvkKh0
保奈美「それからしばらく後、生まれた子は果たして……男の子でした」

美嘉「……そう。じゃあその子は由比ヶ浜の浜辺の砂の中に埋めて」

忍「え?」

美嘉「聞こえなかった? 由比ヶ浜の浜辺の砂の中に埋めてね」

忍「……わかりました。御所様」


まゆ「義時ぃ」ポン

忍「姉上。言いたいことはわかりますが、まずは私の話を聞いてよ」

まゆ「なんですかぁ? 義時は、まさか姉の夫の弟の子をあやめたりはしませんよねえ……?」ニコォ

忍「あのさ姉上。御所様はさ、目の前でこの子をどうしろとは言わなかったんだよ」

まゆ「え?」

忍「首を切れとか刀で刺せとかなんにも。ただ、由比ヶ浜に埋めろ、って。私だけに」

まゆ「?」

忍「由比ヶ浜の波と砂浜の音で、この子を埋めたなんて誰も気づかないだろうし、どこに埋められたかもわからないんだよ? 後から聞かれても私も広い由比ヶ浜のどこに埋めたのかなんて覚えてないしね」

まゆ「まあ!」

忍「ちゃんと報告状には記しておきますよ。由比ヶ浜のどこかに、義経の子供は埋められた、ってね」

まゆ「義時ぃ。あなた、やる時はやるんですねえ。お姉さん、見直しちゃいましたよぉ」

忍「まあ私も、都の貴人とひょんな事から義兄弟になって、平家を倒すなんて大それた事をして、鎌倉の武家政権で重職を担うようになったらそりゃあね」

まゆ「うふふ。じゃあこの子を、頼みましたよぉ」

忍「うん」
187 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:32:27.27 ID:wJoYvkKh0
莉嘉「そっか奥州か。そうだね、あそこはアタシの故郷みたいな気がするね」

文香「しかし奥州にたどり着くには安宅の関を超えねばなりません……私たちは山伏で、焼け落ちた東大寺の勧進の為に通る……ということにします」

莉嘉「わかった」

文香「さあ……見えました。あれが安宅の関です」


凛「安宅の関って今のどのあたり?」

奈緒「石川県だよ。ここを通って北陸から奥州に入るつもりなんだよ義経と弁慶は」

加蓮「勧進、ってなに?」

P「寺社に対する寄進……寄付を募ることを勧進と言う。そしてこの勧進をする人たちは、勧進帳という勧進をする証明証みたいなものを持っている」

加蓮「2人はその勧進帳を持っているの?」

奈緒「いいや持ってないんだ」

凛「え? じゃあどうするの?」

奈緒「さあ、それを見ていこうか」
188 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:33:02.15 ID:wJoYvkKh0
松尾千鶴「私は関守の富樫左衛門。勧進のためここを通りたいの?」

文香「はい……その通りです」

千鶴「このような大乱の後、まだ各地が騒然としている中を勧進に回るとは変じゃないかしら」

文香「失礼ながら、世が騒然としているからこそ、み仏の慈悲にすがろうと、勧進に努める次第です……」

千鶴「なるほど道理ですね。では、勧進帳を読み上げてくださいますか?」

莉嘉「弁慶くん弁慶くん」ヒソヒソ

文香「なんですか……?」ヒソヒソ

莉嘉「持ってるの? その勧進帳」ヒソヒソ

文香「いいえ」ヒソヒソ

莉嘉「えー!? じゃあどうするの?」ヒソヒソ

文香「どうぞ私に……お任せを」ヒソヒソ

痔ル「どうしたの?」

文香「いいえ。読み上げます……この巻物に記してあるので読み上げます。大恩教主の秋の月は、涅槃)の雲に隠れ生死長夜の長き夢、驚かすべき人もなし……」

保奈美「弁慶、何も書かれていない巻物を、天も響けと朗々と読み上げます。さしもの関守もその堂々とした読み上げに感じ入ります」

文香「……敬ってもうす。いかがですか?」

千鶴「確かに内容の確かな勧進帳」

文香「では……通していただけますか?」

千鶴「今ひとつ」

文香「は……?」

千鶴「近頃、都で噂のマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』。もしお持ちならそれを読み上げそうらえば、必ずお2人をお通しするものを」

文香「そのようなことは、いと容易きこと。よみあげます」
189 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:33:35.42 ID:wJoYvkKh0
保奈美「弁慶は、かのフランスの大長編、マルセル・プルーストの失われた時を求めてを、3日3晩かけて、真っ白な巻物を広げつつ朗々と読み上げます」

文香「……した。いかが」

千鶴「これはお見事。疑うべきもないわ。ささ、どうぞお通りを」

文香「では……」

莉嘉「……」

千鶴「……しばらくお待ちを」

ふみか「何か?」

千鶴「そちらの小柄な方、前にちらりと見た……源九郎義経に似ているような……」

バッ

千鶴「な、なにを……」

文香「ええい! あなたがあの罪人、義経に似ているばかりに足止めを食らったではありませんか……この! この!」

保奈美「弁慶は手にした錫杖で、いやとばかりに義経を打ち据えます。その強さ、勢いにさしもの関守も慌てます」

千鶴「お待ちあれ! こちらが余計なことを申したばかりにご迷惑をおかけした。この上は是非もなし、お通りあれお通りあれ」

文香「左様か。ではまかり通る……ごめん」

保奈美「関を超え、しばらく後に弁慶はその場に土下座をします」

莉嘉「え? どうしたの弁慶くん」

文香「関を超えるためとはいえ、とんでもない無礼を主君に対しいたしました。家来として不相応。お詫びする言葉もありません」

莉嘉「もー弁慶くんってば、アタシ最初に言ったじゃない」

文香「は……?」

莉嘉「弁慶くんは家来なんかじゃないよ。アタシ家来なんて要らないもん。弁慶くんは仲間☆ アタシの仲間だからいいんだよ」

文香「もったいないお言葉……」

莉嘉「さあさあ行こうよ。ううん、帰ろう。奥州平泉へ」

比奈「ちょっと待つっス」
190 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:35:09.26 ID:wJoYvkKh0
莉嘉「天狗さん! うわあ懐かしい☆ もしかしてアタシを迎えに来てくれたの?」

比奈「そうでもあり、そうでもないとも言えるっス」

莉嘉「え?」

鞍馬天狗「情勢は、奥州にも伝わっているっス。秀衡様は、牛若……失礼。義経さんが帰ってくるのを待ってるっス」

莉嘉「……帰ってくる、か。嬉しい。そう思われるの」

比奈「しかし秀衡様は今、病気っス。それももう、長くはないという医師の見立てっス。そして藤原家の中には、義経さんが奥州に帰るのを快く思わない者もいるっス」

文香「頼朝に……鎌倉殿に目をつけられるわけですものね」

比奈「正直、今の平泉に義経さんをお迎えしていいものか判断に迷うっス。藤原氏がいつ義経さんを討とうとするか、わからないっス」

莉嘉「いいよ。別に」

文香「義経様……」

莉嘉「別にアタシ、“自棄(ヤケ)”になってるわけじゃないよ? アタシは帰りたいんだ。“武士(ギャル)”が負けたら帰るとこが自分にもある、それを確かめに」

文香「……鞍馬天狗さん。お聞きの通りです。奥州に行き……いえ、帰ります。我々は」

比奈「わかったっス。じゃあ向かいますっスかね。懐かしの奥州平泉へ」

莉嘉「懐かしいな。みんな元気?」

比奈「日本中、飢饉が続いてたっスけど奥州は豊作だったから、お米がたくさん食べられるっスよ」

文香「それは……嬉しいですね」

莉嘉「帰ったら、また藤原家のみんなと遊びたい。山へさ、おっきなカブトムシ探しに行こうよ」

文香「……面白そうですね。お供いたします……」
191 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:36:07.51 ID:wJoYvkKh0
保奈美「義経が平泉に帰ってからしばらくして、藤原秀衡は死去。掌を返したように義経は討たれました。抵抗することなく、主従は潔い最期を迎えたと伝えられています。一代を風靡した、戦の申し子の儚い最期でした」ベン


奈緒「え?」

凛「なんで奈緒が驚いてるの?」

加蓮「この物語をよく知ってる奈緒にしては珍しいよね」

奈緒「義経の最期って、これで終わりなのかよ!?」

凛「みたいだね」

加蓮「でもまあ私たちアイドルだし、凄惨な描写よりナレ死の方がいいじゃない」

奈緒「そうじゃなくてさ! ジンギスカン伝説は!? やらないのかよPさん!?」

凛「ジンギスカン? お腹空いたの? 奈緒」

奈緒「あのさ、源義経は実は平泉では死んでなくて、蝦夷に落ち延びてそこから大陸に渡り、ジンギスカン……あの蒙古のチンギス・ハーンになったって伝説があるんだよ!」

加蓮「奈緒」ユサユサ

奈緒「え?」

加蓮「しっかりして! そんなことあるわけないじゃない。義経がチンギス・ハーン? やだもう、ふふふっ」

凛「そういう同人誌でもあるの?」

奈緒「いや真偽はともかく、メチャクチャ有名な説なんだよ! 悲劇の英雄が実は生きていたっていう浪漫なんだよ!! ドラマなんだからやってもいいんじゃないかなPさん!!!」

P「では頼朝がどうなったのかも、見ていこう」

奈緒「おおーーーい!!! あたしを無視するなよ!!! ジンギスカン伝説やろうよってばーーー!!!」
192 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:37:10.72 ID:wJoYvkKh0
フレデリカ「官位の斡旋に、宮中の行事に、全国の土地の差配権に……こんなに要求してくるのー? ミーこれはちょっと承服しかねないかなー」

智香「では、鎌倉殿にそのように伝えますっ!」

フレデリカ「平頼盛ちゃーん。頼盛ちゃんも、かつてはミーに仕えていたわけじゃない。そこんとこ斟酌とか伸縮しようヨー。ネ?」

智香「もうアタシは平頼盛じゃあありませんからっ!」

フレデリカ「え?」

智香「頼朝様、鎌倉殿に仕える御家人、池頼盛ですっ☆」

フレデリカ「池? 池ってもしかして、池禅尼の……」

智香「ふさわしい姓だよね、って鎌倉殿が。そして後白河法皇様に仕えたことがあるから、アタシを交渉係にされましたっ!」

フレデリカ「うえ〜ん。頼朝ちゃんは都には出てこないし、"武家(ギャルサー)"を全部配下としてまとめちゃったからミーの手駒で動く"武士(ギャル)"はいなくなっちゃったし、もうミー手詰まり」

智香「その代わり、三種の神器はお渡しするそうです」

フレデリカ「ホント? やった!」

智香(三種のうち、剣は“模造(レプリカ)”ですけどねっw)

フレデリカ「天皇の正統性が戻るなら……そだ。まだミーには、戦の力は弱いけどあっちこっちに顔が利いて、扇動の上手い行家ちゃんが……」

智香「あ、新宮十郎なら討たれましたよっ☆」

フレデリカ「え?」

智香「先日、山城国で」

フレデリカ「そんな……あの逃げるのだけは名人芸の行家ちゃんが……もうホントにミー手詰まり」ガクッ
193 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:37:42.41 ID:wJoYvkKh0
美嘉「そう。会ったこともないけど、あの法皇がそんなに落ち込んでたの★」

智香「さすがにもう打つ手がなくなりましたからねっ!」

美嘉「アタシは動かない。京の都は、公家の都。アタシは ここ鎌倉に"武士(ギャル)"の都を作るよ。ここから“武家(ギャルサー)”の政治をしていく」

忍「ついに頼朝さん……御所様は征夷大将軍に任じられましたし。その地位は揺るぎないよね」

智香「それから、ひとつ法皇様から提案がありましてっ」

美嘉「提案?」
194 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:38:14.08 ID:wJoYvkKh0
まゆ「大姫を入内!? じゅ、入内って天皇の奥さんにするってことですかぁ?」

美嘉「そう! 朝廷に政治はさせないけど、国の象徴としてはこれからも大事にするつもり。だからこの話は願ってもないよ。それを向こうの方から頼んでくるとはね」

まゆ「頼朝様ぁ?」

美嘉「ん? なに、政子」

まゆ「大姫は、まだ……義高殿を想って……それでもようやく心の傷が少しずつ癒え始めているところなんですよぉ? それを入内だなんてぇ……」

美嘉「義高のことはもう13年も前のことじゃない! 大姫だってもう20歳だよ? 恋の傷は新しい恋をすれば癒えるかもしれないじゃない!」

まゆ「でもぉ……」

美嘉「とにかく大姫は後鳥羽天皇に入内させるからね!」


まゆ「……大姫?」

日菜子「あ、お母様」

まゆ「身体の調子はどうですかぁ?」

日菜子「最近は少し、気分がいいです……む」

まゆ「少し、お話があるんですけど、いいですかぁ」

日菜子「はい。お母様……むふ」

まゆ「実は大姫に入内のお話があるんですよぉ」

日菜子「入内? え?」

まゆ「後鳥羽天皇に嫁ぐ……という……大姫?」

日菜子「むふ。むふふ。むふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」バターン

まゆ「大姫ぇ!!!」
195 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:38:48.69 ID:wJoYvkKh0
日菜子「あ」

まゆ「気がつきましたか、大姫ぇ」

日菜子「義高様」

まゆ「え?」

日菜子「義高様がそこに……お、お懐かしゅうございます。大姫です」

晴「誰だ? オレを呼ぶのは

まゆ「大姫? 義高殿はおられませんよ。義高殿は既に……」

日菜子「大姫です! 大姫ですよ!! あなたの大姫です!!」

晴「そうだ……オレは義高……源義高……そのように呼ばれていた……大姫……そうだ、その名にも覚えがある……いつもオレの側にいてくれた……小さな、可愛らしい姫だった……」

まゆ「大ひ

日菜子「そうです。それがこの私です! 大姫ですよ!」

まゆ「

晴「黙れ! 大姫ならここにいる! 小さな、まだ七つの可愛らしい幼い姫……お前なんか知るもんか!」

日菜子「大姫です! ここにいる私が大姫ですよ!!」

まゆ

晴「ええい! 知らぬと言ったら知らねえ! 大姫はここにいる! お前なんか大姫じゃない!」

日菜子「義高様! 義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様義高様」
196 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:39:31.03 ID:wJoYvkKh0
美嘉「大姫が……昏睡?」

まゆ「髪が伸びたから義高様にわからないんだ……と叫んで鋏で自分の髪を切り始めたかと思うと突然倒れてそれきりにぃ……」

美嘉「そんな……大姫!」


保奈美「そのまま目覚めず、大姫は亡くなりました。愛娘の死にさすがの頼朝も涙し、しばらくは政務も滞ったと伝えられています。大姫、享年20歳。せめてあの世では、木曽義高と結ばれているといいと願わずにはいられません」ベベベン


凛「ちょっとお!」

加蓮「なんてもの……なんてもの見せてくれてるの!」

奈緒「だから言っただろ! やらない方がいいって!」

凛「可哀想じゃない! 大姫!」

加蓮「これならまだ、奈緒の食べたがってたジンギスカンの話の方が良かったよ!」

奈緒「食べ物のジンギスカンじゃないけど、そうだろ!?」
197 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:40:03.74 ID:wJoYvkKh0
P「この後頼朝は、馬から落ちて亡くなる」

加蓮「え?」

凛「馬から落ちて、って……それだけ?」

P「そう記録されているな。馬から落ちて病を得たのか、病を患ったから馬から落ちたのかははっきりしないが、頼朝の最期だ」

奈緒「ちょっとあっけないよな」

加蓮「アタシたち平家を滅ぼして、割とすぐに亡くなったのか頼朝。まあでも鎌倉幕府は作って亡くなったんだから、この後は源氏の世の中になったんだよね」

奈緒「あ、いいや」

加蓮「え?」

奈緒「頼朝の後は、息子の頼家が鎌倉幕府2代目将軍になったんだけど、色々素行に問題ある人で、政務上の決定権を取り上げられる」

凛「将軍でしょ!? 誰に取り上げられたの? 決定権」

P「鎌倉幕府の重臣⒔人にって取り上げられ、ここから鎌倉幕府の13人の合議制という政権運営が始まる」

奈緒「将軍は事実上飾り物になって、13人の騙し騙されの陰惨な政治闘争や争いが繰り広げられる。政治と戦のバトルロワイヤルが始まるんだよな」

加蓮「ま、まあ飾り物でも源氏の幕府としては続くんなら、いいか」

奈緒「ところがこの頼家も、そして3代将軍となる実朝もさっき言った闘争に巻き込まれて暗殺され、頼朝の系譜はここで途絶えちゃうんだよ」

加蓮「ええっ!? 平家に続いて源氏も?」

P「付け加えると、実朝を暗殺したのは頼家の息子だったんだけど、その息子も嗾されただけで暗殺後に暗殺される」

凛「なにそれ」

P「13人と源氏によるドロドロの政治劇の末、最期に勝ち残るのは……」

加蓮「誰なの? 平家も源氏もいなくなった世で勝ち残ったのは」
198 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:41:16.61 ID:wJoYvkKh0
奈緒「北条義時だよ」

凛「義時……え、忍?」

奈緒「義時は13人の中では最年少だったんだけど、最期まで生き残り、後鳥羽天皇からの政治介入も退けて鎌倉幕府の執権……実質的な支配者になる」

加蓮「なんか意外だけど、色々翻弄されて大変だったもんね忍ちゃん」

凛「一番成長して、一番強くなったのは忍だったってことなんだ」

保奈美「さて、長き渡ってこのお楽しみいただきましたこのドラマ。これにて終了です。名残惜しき限りではありますが。お別れです」

加蓮「楽しかったよね。現場も面白かったし」

奈緒「次はあたしも、ちゃんと誰か演じたいな」

凛「私も」

P「あー、凛。それで希望があるなら、早めに教えてくれよな」

凛「え? なんの希望?」

奈緒「忘れたのかよ。来年の大河、凛は主役だろ?」

加蓮「クイズで私に勝ったじゃない」

凛「あ! そうだった!!」

P「誰がいい? どの物語をやる?」

凛「え? そんなこと言われても……えっと。ええと……」

加蓮「あれがいいんじゃない? 幕末とか」

奈緒「戦国時代もいいんじゃないか?」

P「時代的に連続して、次は太平記の物語とかどうだ? 鎌倉幕府滅亡と室町幕府の成立だ」

凛「ま、待っていっぺん言わないで……な、なににしよう!? そ、相談に乗ってよ!! みんなーーー!!!」



199 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:45:20.75 ID:wJoYvkKh0
https://i.imgur.com/nn768tX.jpg
池(平)頼盛
200 : ◆hhWakiPNok [saga]:2022/01/09(日) 11:47:35.45 ID:wJoYvkKh0
以上で終わりです。おつき合いいただきまして。本当にありがとうございました。
大河ドラマ大好きで、歴史特に平安後期鎌倉室町時代と大好きなので楽しんで書かせていただきました。
今年の大河ドラマも期待して楽しみにしています。
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2022/01/09(日) 12:24:22.85 ID:Pb20PcbDO
乙でした

結局、平家物語と吾妻鏡に玉葉は今でいう歴史小説だからね……



つか、みりあと莉嘉がもっと喧嘩すると思った(逆櫓のアレとか)けどな
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/09(日) 23:07:17.43 ID:jcYYrJhu0
配役がうまいと思いました
面白かったです
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/01/10(月) 16:56:39.12 ID:5mq8ULSw0
長かったけど読んでしまった
すごく面白かった
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/10(月) 19:38:29.93 ID:mkFSTVeO0
乙でした。一気に読み切ってしまいました
この頃の武士はマジで仁義なき戦いレベルw
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/10(月) 21:56:54.93 ID:oWzMDk8v0
乙乙。めっちゃ対策でびっくりした。
タイムリーなのでよかった。
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