みほ「ガールズ&ライスカレー?」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/01/15(金) 20:42:43.93 ID:+gLJjSpd0

エリカ「はい」

まほ「そしてほうれん草、アボカド、牛ハラミ。いずれも声優の田中理恵の大好きな食べ物だ」

エリカ「!?」
(※ちなみに本当です)

まほ「これがインドカレーとしては失格なのは承知している。だがどうしても食べたかった」

まほ「ほうれん草たっぷりのカレーで、ハラミとアボカドでお腹いっぱいになりたかった!」

まほ「このひと皿には、私と、私を構成するものの『好き』がたくさん詰まっている」

まほ「名づけて『田中・まほカレー』だ。この命名センスも含めて、私らしさが存分に発揮されたカレーだろう?」

オオー スゴーイ

沙織「なんか、意外だったね〜」

みほ「う、うん。なんだかお姉ちゃんらしくないというか、新しい一面が見えたっていうか」

麻子「完璧な高級インドカレーを作れる腕前と知識は持っているのに、あえてそれを打破し、自分の『好き』を優先したとは」

優花里「ですがさすがの姉上殿です。普通のカレーにほうれん草などをトッピングしても田中・まほカレーは成立するのに、妥協のない味でしたね」

華「伝統を忠実に守りながらも、それを変化させることを恐れないカレーでした。西住流に対するお姉様の考えが少し出ているかもしれません」

まほ「そしてこれが、エリカのカレーに対する私の答えでもある」

エリカ「どういう、ことでしょう……?」

まほ「エリカのカレーは素晴らしい味わいだった。カレー対決を純粋に『どれだけスパイスを使いこなせるか』という基準で見れば、圧勝だったろう」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/01/15(金) 20:43:42.53 ID:+gLJjSpd0

エリカ「そ、そうです! 多種多様なスパイスの性質と、お互いにもたらす作用を理解し、研究を重ねた結果があの一皿でした!」

まほ「だが票は割れ、引き分けに持ち込まれた。自分の調合したスパイスこそが正しいカレーの味のはずなのに。そう思ったろう?」

エリカ「!!」

まほ「おいしいという感情は、必ずしも味の正しさだけで決まるわけではない」

まほ「大洗のカレーには地元の名産のあんこうを入れた『大洗らしさ』や『生徒会が作ったカレーらしさ』があった。それが魅力となり、食べた人たちの心を動かした」

まほ「もしあれに、エリカらしさ……たとえばエリカ手作りの特製ハンバーグが乗っていたなら、結果は変わったかもしれない」

まほ「エリカ。正しいだけでは、人は動いてはくれないぞ。正しさの中にも自分らしさを混ぜることで、相手に親近感をもたらすことができる」

まほ「新しい隊長になって苦労するだろうが、私から伝えられることはこれくらいだ」

エリカ「た、隊長……!」

まほ「──さて、話が長くなってしまい申し訳ない」

まほ「あんこうチーム。君たちの『自分らしさ』はどんな形だ? それを私に見せてほしい」

みほ「……ッ!」ビクッ

華「一気に空気が変わりましたね」

優花里「ううっ……。なんだかあのカレーの後に出すのは少々気おくれします……」

麻子「だが、お姉さん自身が言っていたな。味の正しさがすべてではないと」

沙織「そうだよゆかりん! 自信もっていこう!」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/01/15(金) 20:44:59.36 ID:+gLJjSpd0

柚子「それではファイナルバトル、後攻はあんこうチーム!!」

優花里「はいッ! それでは不肖・秋山優花里がチームを代表して、カレーを発表します!」

優花里「これは私がふだん食べている、母の作るカレーをアレンジしたものです」

優花里「秋山家は学園艦という特殊な環境に住んでいますから、水や食料はとにかく大切に扱うというルールがあります」

優花里「したがってうちのカレーの作り方はですね、特に決まったものではなく、そのときにあるものを材料にして食材の無駄を出さないことが第一なんですよ」

エルヴィン「ほほう」

カエサル「確かに巨大な学園艦とはいえ船の上は孤立した環境だ。そういう生活の知恵ができたんだな」

優花里「今回はその中でも、特に思い出深い材料で作ります!」

優花里「まずフライパンで牛肉を炒めて、しょうゆ、砂糖、お酒、みりんなどの調味料を入れますね」

ケイ「なるほど牛肉……ん?」

優花里「それから玉ねぎ、焼き豆腐、えのき、しらたきなども炒めて、さっと火が通ったらお鍋に移します」

ダージリン「あら? これって……」

優花里「お水を入れてアクを取りつつしばらく煮込んで、和風のだしも入れて……」

カチューシャ「ちょっとっ! あなたいま何を作ろうとしてるのよっ!?」

優花里「何って……カレーですよ?」

アンチョビ「すき焼きだろっ! その手順と材料はどう見てもすき焼きだろっ!!」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/01/15(金) 20:45:59.05 ID:+gLJjSpd0

エリカ「いったいどういうつもり? ふざけてるんじゃないでしょうね」

優花里「ここからカレーになるから大丈夫ですよ。これにいまからルーを入れるんですから」

絹代「なんとっ! すき焼きをカレーにしてしまうんですか!」

安藤「これはアレだ。お笑いコンビ『千鳥』の大悟が作っていたカレーに似ているな」

押田「そうなのかい?」

安藤「ああ。みんなが大好きなすき焼きでカレーを作れば、絶対においしくなるという発想で作られた」

安藤「その名も『うまいもんにカレーぶちこみゃ そりゃあうまいカレーになるに決まっとろうじゃろうがカレー』だ」

押田「げ、下品な……。教養のかけらもない安直な名前……」

マリー「でも、誰もが好きなカレーに誰もが好きなものを足し算するっていう発想は面白いわね」

安藤「このカレーは相方のノブに試食してもらったんだが、そのときの評価が100点満点中どれくらいの点数だったとおもう?」

押田「どうだろう……意外といいところまでいったのかい? 85点とか?」

安藤「500点だ」

押田「!?」

マリー「!?」

優花里「うちでは倹約と隠し味を兼ねて、夕食の残り物をカレーと一緒に煮込むことがあるんですが、すき焼きの日の翌日にカレーを作ってみたらこれが大当たり!」

優花里「母が若い頃に発見したそうなんですが、それからいまでも秋山家のごちそうといったらこれなんですよね!」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/01/15(金) 20:48:04.86 ID:+gLJjSpd0

優花里「ハイできあがり! 名づけて『秋山流 必殺カレー』です! まだまだ母の腕前には及びませんが、召し上がってください!」

みほ「どうして必殺?」

優花里「母が言うには、これで狙った獲物を一撃で仕留めたから、だそうです」

沙織「それってもしかして……そういうこと?」

優花里「えへへ……はい」

沙織「キャーッ! あたしも絶対これ作ろ! あとで教えて!」

エリカ(cv:生天目仁美)「必殺カレー……ToHeart2……ううっ頭が……!」

まほ「そういえば必殺カレーの本来の使い手である春夏さんも、髪にクセがあったな。秋山好子との髪型を見比べてみると意外にけっこう似ているぞ」

小梅「何の話ですか!?」

まほ「さて、それでは試食といこうじゃないか。和風の味がベースのカレーというわけだが……」

みほ「ちょっと待ってお姉ちゃん」

まほ「?」

優花里「西住殿?」

みほ「優花里さん。お母さんがこのカレーを作り始めたのって、いつからかわかる?」

優花里「ええっとそうですね……このカレーのおかげで心と胃袋をつかんだっていう話ですから、結婚して間もない頃の、お料理を覚え始めたころじゃないでしょうか」

みほ「結婚してすぐ……そっか。わかった!」バッ!

優花里「どうしたんですか? 急に席を立って……ってアレ?」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/01/15(金) 20:49:02.22 ID:+gLJjSpd0

沙織「お姉さんの方に歩いて行ったよね」

華「それも、カレーを手に持って……どういうことでしょう?」

みほ「お姉ちゃん」

まほ「どうしたみほ? 何か言いたいことが……」

みほ「はい、あ〜ん♪」

まほ「!?」

エリカ「!?」

小梅「みっ みほさん!? いったい何を……」

みほ「私たちのカレー、食べてくれるよね♪ はいあ〜ん♪」

まほ「あ、ああ……いただこう」

みほ「どお? おいしい?」

まほ「うむ……予想外の旨さに驚いている。和風のだしが、まるでお蕎麦屋さんで出てくるようなカレーを思わせるよ」

みほ「そっか。よかった……うれしい♪」ニッコリ

まほ「ッ!?」ドキッ

優花里「あっ ああっ 西住殿の顔が……!」

沙織「おいしいって言葉だけで、あんなにうれしそうになるなんて…!」

華「まるで、すべてを尽くしてあげたい新妻のような輝きを放っています……!」

麻子「なるほどな。実際に若い頃の2人がそうして食べたかもしれない状況を再現してこその必殺カレーというわけだ」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/01/15(金) 20:50:05.41 ID:+gLJjSpd0

杏「こりゃ、同じようにみんなお互いがお互いに食べさせ合うしかないねえ」

柚子「ほら桃ちゃん、あ〜ん♪」

桃「柚子ちゃん顔が近いよ……っ」ドキドキ

カルパッチョ「ねえ、たかちゃん。わたしに食べさせてくれる?」

カエサル「あ、ああ……」ドキドキ

エリカ「こ、こここ小梅……やるわよ? い、いいわね……?」ドキドキ

小梅(エリカさん顔真っ赤……スプーンを持つ手も震えてる……)

ノンナ「カチューシャ、カチューシャ私にお願いします」ドキドキ

クラーラ「いいえここは私に。ぜひニッポンのスキヤキカレーを」ドキドキ

カチューシャ「ここぞとばかりににじり寄ってこないでよっ!」

アリサ「ナオミあ〜んして。……はあ。これをする相手がタカシだったらいいのに」

ナオミ「……ねえアリサ、それスプーンじゃなくてもいいよ?」

アリサ「へ? なに……それはどういうこと……?」

ナオミ「手ですくって、わたしの口に食べさせても、いいよ」

ナオミ「指についたカレー、ちゃんと残さず舐めとってあげるから」

アリサ「ちょっ!?」ドキッ

アハハ ウフフフ

みほ「はいっ あ〜んして♪」

まほ「み、みほっ! これ以上甘やかされると、なんだか私が私でなくなるような……」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/01/15(金) 20:51:00.70 ID:+gLJjSpd0

みほ「だいじょうぶだよ♪ お姉ちゃんはね、ここではがまんしなくていいんだよ♪」

みほ「ごはんもぜ〜んぶ、わたしが食べさせてあげる♪」

みほ「ほら、カレーがあとすこし残ってる♪ がんばれ♪ がんばれ♪」

まほ「あっ ああっ ああ〜〜っ……」

華「まあっ……あのお姉さんが、みほさんにされるがままに……」ドキドキ

沙織「なんというか……見ちゃいけないものを見てるような……」ドキドキ

アンチョビ「あれは……『伊東ライフ』!?」

カルパッチョ「?」

ペパロニ「どーいう意味ッスか?」

アンチョビ「簡単にいえば『骨抜きにされてしまうほどいろんな意味で甘やかしてもらう』といったところか」

アンチョビ「もともとは包容力のある大人のお姉さんキャラのやることだったが、次第にマザコンとロリコンを併発した情けない男たちが意味を拡大していき、バブみの概念と結びつき……いや、ここではよそう」

アンチョビ「とにかく、大洗には母性や包容力のある生徒が多い。副会長の小山柚子をはじめ、戦車をあやしながら修理したナカジマに、とても同じ学年には見えないぴよたん」

アンチョビ「そして、戦車道のメンバーを率いて優勝に導いた西住みほ……!」

アンチョビ「これはまさに大洗による伊東ライフ……大洗ライフ(おおあライフ)だ!!!」


カレー対抗戦 第9回戦
○ あんこうチーム VS 西住まほ ×


沙織「すっご〜いっ! やったねっ!!」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/01/15(金) 20:52:19.95 ID:+gLJjSpd0

ケイ「オッドボールの家庭に伝わるカレー、堪能させてもらったわ!」

ナカジマ「どっちもおいしかったけど、他人から食べさせてもらうなんて新鮮だったよ」

ノンナ「料理は愛情。それを例え話でなく形で表現したところに大きく惹かれました」

ダージリン「美味なカレーは数多く食べてきましたが、このような楽しみ方は初めてだわ」

アキ「それに、すき焼きのカレーがあんなにおいしいとはおもわなかったもん!」

絹代「日本人の本能に突き刺さる味わいでした!」

エリカ「た、隊長が……負けた!?」

まほ「世界一おいしいカレーを出されたんだ。負けたとしても悔いはない」

優花里「うええっ!? そ、そんな大げさに言い過ぎですよう……」

エリカ「そうです! 確かに味は良かったですが、これは家庭料理の域を出ていません! 隊長が作ったカレーのほうがよっぽど……」

まほ「エリカ。私がさっき言ったことを忘れたか?」

エリカ「ッ!?」

まほ「『おいしい』とは旨さの話ではない。このカレーは夫婦の思い出深い料理であり、その娘がその思いを受け継いで作っているという『愛する人のために作られた』カレーだ」

まほ「自分の好きな人が愛情を込めて作ってくれる料理。これに勝るものがあるだろうか」

まほ「単に材料や腕前を磨いただけでは、この味にはたどり着けない。完敗だよ」

みほ「お姉ちゃん……」

まほ「そ、それに……あんな食べさせ方をされては身も心もふやけて……ゴホン!」

みほ「うう〜っ……。思い出したらこっちも恥ずかしくなってきちゃったよう〜っ!」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/01/15(金) 20:53:10.83 ID:+gLJjSpd0

アハハ ワハハハ

華「さて、これで全員分のカレーが出そろいましたね」

杏「よ〜しここからはフリータイムってことでさ、みんな好きなカレーを選んで思いっきり食べよう!」

ミッコ「おおっ!」

アキ「やったあ! 食べ放題っ!」

ケイ「チハタンズのチャーシューカレー、ダイナミックね! 好みのタイプだわ」

絹代「恐縮です! そちらのハトシとは初耳でしたが、地元の味を大切になさっているのですね!」

アキ「ねえミカ、この大きな戦車カツで金沢カレーってどうかな?」

ミカ「なんでも盛りすぎればいいってもんじゃないさ」

ミッコ「そんなこと言っておきながらいちばんでかい皿で食ってるじゃん」

まほ「カレーの味もさることながらこの自家製ソーセージ、なかなかの出来栄えだ」

ムラカミ「おっ? 良さがわかるクチかい?」

お銀「うちのカトラスが手塩にかけて作ったんだ。ま、実際に手に塩は、かけてないけどね!」

ラム「うほっ!」

ナカジマ「うちのカレーも手で食べてみよっか」

ツチヤ「うへ、ふふ……生たまごを手でつぶすとなんかヘンな感じ〜♪」

梓「カレーの鍋って、洗うの大変だよね」

あや「うんうん。スポンジが黄色くなるし、ほかの食器にもカレーの色がついちゃうもんね」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/01/15(金) 20:54:13.03 ID:+gLJjSpd0

ペパロニ「そんなときは鍋に残ったカレーにめんつゆを入れてみたらどうッスか」

カルパッチョ「そうするとカレーうどんの汁ができる上に、お鍋もきれいになります」

アンチョビ「やっぱり、その汁をごはんにかけて食べるのが地味に楽しみだよな! 1回で2度おいしく味わえるのが、カレーの良いところだ!」

ザワ…!?

みほ「ふえっ?」

沙織「へ?」

麻子「どういう意味だ?」

ザワザワ ヒソヒソ

華「カレーうどん用の汁なのに、なぜごはんを……?」

アンチョビ「えっ!?」

アンチョビ「うええっ!!? 私だけなのかカレーうどんの汁にごはんの文化って!??」

カルパッチョ「え、ええ……」

ペパロニ「すんません。聞いたことないッス」

アンチョビ「ええ〜っ……。いままで信じてきたことって何だったんだよう……」

杏「そーいやチョビ子の出身は愛知だったね」

柚子「名古屋めしの文化でしょうか。これはこれでおいしそうです」

アハハ ワハハハ

ワイワイ ガヤガヤ
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 20:55:03.66 ID:+gLJjSpd0

────

───

──

杏「いや〜お疲れ〜。やっぱ他校のみんなを呼んでよかったね」

沙織「わたしたちだけじゃぜったい思いつかないようなカレーが出てきて、面白かったね!」

華「はい。こうして皆さんのカレーをあらためて見てみると、ひとつひとつに個性が出ていることがわかりましたね」

優花里「知波単は具が意外でしたし、サンダースのように地域性を押し出すのも良かったです」

華「アリクイさんやレオポンさんのように『再現』する方法もありました」

麻子「そど子の『食べ方を変える』アイデアには正直驚いたぞ」

みほ「多種多様な考えがそのままカレーに表れていますね」

柚子「これだけ案が出れば、どんなカレーが相手でも怖くはないわ」

杏「これはいける。いけるぞお〜っ! よ〜しさっそく大会にエントリーだ!」

『 おーーッ!! 』


──全国学園艦カレーグランプリ 会場


『 勝負あり! Aブロックの勝者は 大洗女子学園!! 』

ワー ワー パチパチパチ

桃「か、勝った……!?」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 20:57:14.45 ID:+gLJjSpd0

柚子「出場した8チームのトーナメント戦で、初戦はコアラの森学園。ユーカリの葉っぱを隠し味にした『ユーカリカレー』が有毒だったので相手の失格で勝利」

杏「つづいて準決勝に当たったのは青師団高校。インドカレーの『チングリマライ』の料理名と制服がなんかいやらしすぎて反則負け。順調に駒を進めていったね」
(※:インド東部ベンガル地方の、ココナッツミルクを使ったエビのカレーのこと)

みほ「ええ〜っ……」

優花里「テレビシリーズ本編のアンツィオ戦ばりの秒殺でしたね」

沙織「ま、まあこれで決勝に行けたわけだし、結果オーライだよ」

華「ところで決勝戦のお相手は、どなたになるのでしょう?」

麻子「Bブロックは……広島県の呉(くれ)市を母港にする学園艦のようだな」

杏「カレー大会では常勝の強豪みたいだねえ」

桃「く、呉といえば海軍カレーの本場じゃないかっ! そんなところに対抗できるカレーを私に作れるだろうか……」

杏「だいじょ〜ぶだって河嶋〜」

柚子「みんなが桃ちゃんのために力を合わせてくれるもの。きっとだいじょうぶだよ」

『 皆様 たいへん長らくお待たせいたしました 』

『 これより 全国学園艦カレーグランプリ 決勝戦を開催いたします 』

ワー! ワー!

『 Aブロックを勝ち抜いたのは、なんと初出場の学校です。大洗女子学園「河嶋桃となかまたちチーム」!! 』

パチパチパチ

桃「ううっ……緊張するう……」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 20:57:59.88 ID:+gLJjSpd0

『 そしてBブロック、準決勝を制したのは前年度優勝校! 』

オオー パチパチパチ

『 今年は大型の新人をリーダーに迎え、連覇に向けさらなる飛躍を目指します 』

『 天才少女が率いる「島田流チーム」です!! 』

杏「!?!?」

桃「!?!?!?」

愛里寿「みほさん。久しぶり」

みほ「愛里寿ちゃんっ!??」

愛里寿「いろいろと検討した結果、ここの高校に編入したの」

優花里「戦車道とは無縁の学校のようですが、なぜ……?」

愛里寿「私は飛び級で大学に行ってるから、学園艦というものに乗っていない。つまり学園艦の名物といえるカレーを味わっていない」

愛里寿「より良い女性を育成する島田流の門下生として、戦車道だけでなくカレー作りも修めておくのが乙女のたしなみとお母様にすすめられたから」

愛里寿「ちょっとこれを見てほしい」スッ

みほ「?」


おんなのこって なにでできてる?
おんなのこって なにでできてる?

おさとう スパイス すてきななにもかも
そういうもので できているよ


67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 20:58:51.08 ID:+gLJjSpd0

麻子「マザーグースの歌だな」

華「ですが、これがカレーとどういった関係を?」

愛里寿「実はこの歌、カレーのことを指している説がある」

みほ「!?」

おさとう ←カレーの隠し味として実際に使われることがある
スパイス ←いわずもがなカレーの材料
すてきななにもかも ←具材やトッピングで千変万化の味わい

愛里寿「つまり、女の子はカレーでできているといっても過言ではない」

沙織「過言だよう……」

麻子「意味が分からんぞ……」

優花里「孤独のグルメの『ソースの味って男の子』に匹敵する、新たな概念ですね……」

亜美「ハーイみんな! 今年もまた個性あふれるカレーを擁する学園艦がたくさん現れたわね!」

みほ「教官!」

沙織「蝶野教官がどうして?」

亜美「そりゃカレーといえば自衛隊の名物ですもの。その縁であたしが決勝戦の審判をつとめることになったの!」

優花里(それは海自の話で、蝶野教官は陸自のはずでは……?)

亜美「では決勝戦を開始します。お互いに、礼!」

愛里寿「よろしくお願いします」

桃「よ、よろしくお願いします……」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:00:10.70 ID:+gLJjSpd0

亜美「両チームはそれぞれ腕によりをかけた最高のカレーを作って頂戴。それを実食し、味・見た目・個性などの様々な要素から採点。その総合点数を競い合ってもらうわ!」

亜美「それでは、調理開始!!」

ワー! ワー!

優花里「西住殿、これは意外な展開になりましたね」

みほ「まさか、愛里寿ちゃんとここで出会うことになるなんて……」

桃「ど、どうする西住……相手が島田流とは全く予想してなかったぞ」

杏「いや〜、どんなカレーを出してくるのか気になるねえ」

柚子「やっぱり、料理の腕前も天才少女なのかしら」

沙織「ど〜しよ〜っ! ただでさえカレーが強い学校なのに、島田さんまで相手なんて〜っ!」

カエサル「──これはまるで『あのとき』の再来といったところか」

典子「うん。経験も実力も上の隊員たちに、それらを束ねる島田愛里寿ちゃん」

ねこにゃー「も、もはやこれまでかと諦めかけたその瞬間に、奇跡は起きたにゃあ」

梓「戦車道で戦った学園艦の隊長たちが大洗に短期転校して、力を貸してくれました!」

ナカジマ「この前のカレー発表会もまさしく『学園十色』のバリエーションだったよねえ」

そど子「今回の私たちも、たったひとりで戦うわけじゃないわ!」

杏「そ〜そ〜。みんなの力をじゃんじゃん借りて、にぎやかなカレーにしちゃおう〜」

ムラカミ「さらにだ! あたしたちのチームも忘れちゃいけないよ!」

カトラス「たとえ天才少女といえども、学園艦には編入してきたばかり。何年も艦に乗っている私たちのほうが学園艦カレーのことは詳しい」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:00:58.36 ID:+gLJjSpd0

お銀「ま、あたしたちが何年生かは、最終章で早く明らかになってほしいけどね!」

ラム「うほっ!」

みほ「確かに。私たちは、私たちにできる戦いをしましょう!」

ワイワイ ガヤガヤ

「何だか相手チーム、すごいやる気だね……」

「島田さんは、どういうカレーを作るつもりなの?」

愛里寿「私がここに転校してきたのは、『日本一』のカレーを作れるところだと考えたから」

愛里寿「それにはカレー大会の優勝校という意味と、もうひとつの意味がある」

愛里寿「私が考える日本一の学園艦カレー。その真髄を味わってほしい」

亜美「さあ、タイムリミットが近づいてきたわよ! 両者ともおいしいカレーはできたかしら?」

みほ「できました!」

愛里寿「こちらも完成です」

亜美「オッケーそれでは張り切ってどうぞ!! 先攻は大洗女子学園!!」

ワー ワー

みほ「河嶋先輩、さあ」

桃「う、うむ……ど、どうぞ。『河嶋桃スペシャルカレー』です」

亜美「ふむ。これはカツカレーのように見えるけど……トッピングのフライは台形っぽい形に盛り上がっているわね」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:01:58.84 ID:+gLJjSpd0

亜美「それに、そこへ細くて小さなビスケット菓子が刺さっていてまるで戦車の主砲みたい。この盛り付け方は『クック・ファン』の戦車かつを参考にしたのかしら?」

優花里「はいっ! トッピングは、河嶋先輩が乗るヘッツァーを模してみました!」

亜美「なるほど! でもあの独特な形を再現するとは、いったい何を揚げたのかしら? さっそくいただくわ!」

サク… モグモグ…

亜美「!!」

亜美「グッジョブベリーナイス! 外はサクサク中はふわふわっ! これはおそらく魚をすり身にしたものね!」

亜美「でもただのすり身じゃないわ。間違いなくお魚の味がするのに、まるで居酒屋で食べる軟骨入りの鳥つくねを思わせるようなコリコリとしたものがあるのよ」

亜美「この食感がカレーにアクセントを加え、あとを引く旨さとなって次のひと口を呼び寄せるわ! これはいったい何かしら?」

お銀「あたしたちのシンボルでもあるサメ! それをすり身にして、軟骨も砕いて『サメのつくね』を作ったのさ」

ムラカミ「それを戦車の形に成形し、カレーと合うように下味をつけて揚げたものだ」

カトラス「サクサク・ふわふわ・コリコリの口当たりは、カレーと混ざり合うことでさらなる味の変化をもたらし、食べる人を飽きさせない」

杏「ちなみにカレーは、あたしが発明したあんこうカレーのレシピ完全版を採用したよん」

柚子「白身のあんこうが具になることを想定して調合されたスパイスカレーだから、サメ肉との相性も抜群です!」

亜美「なるほど納得ね! カレーのために調合されたスパイスと、フライの下味のスパイスの多重構造! 口の中で渾然一体となり、爆発的な旨さを呼んでいるわっ!!」

優花里「ちなみに、大洗でサメを揚げたものといえば『シャークナゲット』がありますよね!」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:02:45.68 ID:+gLJjSpd0

華「アクアワールド茨城県大洗水族館の名物ですね」

沙織「あそこから着想を得て、同じくうちを代表する隊長の戦車と組み合わせてみました!」

亜美「素晴らしいわ! まさしく大洗らしさにあふれた、大洗女子学園にふさわしいカレーといったところかしら!!」

ワー ワー

沙織「すごいすご〜いっ! 大絶賛だよ!!」

華「大洗の観光名所と、戦車道の両方をアピールできました。これならきっと……!」

麻子「ああ。これ以上ないくらいの大成功だ。だが……」

愛里寿「……!」ゴゴゴゴ

みほ「あの愛里寿ちゃんの燃えるような瞳……!」

優花里「編入したばかりで地元のことも学園艦も詳しくないはずですが、彼女はどういうカレーを……!?」

亜美「それじゃ、島田さんのカレーをさっそく試食といくわね! 出して頂戴!」

愛里寿「これが私のカレー道。日本一の『島田流 学園艦カレーライス』です」

亜美「日本一! これは大きく出たわね。それではさっそく……アラ?」

みほ「なんというか……」

優花里「にんじん、じゃがいも、玉ねぎ入りの、見た目はふつうのカレー、ですよね……?」

桃「ど、どういうことだっ? これのどこが日本一なんだ?」

愛里寿「日本一の学園艦カレーというものを考えてみたら、行き着いた結論はこれ」

愛里寿「学園艦カレーのルーツは海軍カレー。つまり、日本一の学園艦カレーのルーツは、日本一の海軍カレーということになる」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:03:52.54 ID:+gLJjSpd0

愛里寿「日本一の海軍カレーとはつまり、日本一の軍艦にて作られるカレーだということ」

愛里寿「日本一の軍艦といえばすなわち大和」

愛里寿(cv:竹達彩奈)「大和型戦艦 一番艦、大和。推して参ります!」

ドサッ

沙織(cv:茅野愛依)「うッ……戦艦……!?」
麻子(cv:井口裕香)「艦これ……急に頭が……!?」
お銀(cv:佐倉綾音)「ぜかましッ……!」
紗希(cv:小松未可子)「……ッ!」

みほ「みなさん!?!?」

ドサドサッ

ノンナ(cv:上坂すみれ)「ふぶきっ……!」
カチューシャ(cv:金元寿子)「うぐっ……!」
カルパッチョ(cv:早見沙織)「あ゛っ……!」
絹代(cv:瀬戸麻沙美)「ううっ……!」
エリカ(cv:生天目仁美)「るいッ……!」
ケイ(cv:川澄綾子)「ああッ……!」
ナオミ(cv:伊瀬茉莉也)「しおいッ……!」
ミカ(cv:能登麻美子)「まるゆッ……!」

杏「へえ〜なるほど〜。戦艦の前世もちの人けっこう多いね〜」

優花里「いやいやみなさんどこから出てきたんですか!?」

愛里寿「私がここに転校してきたのは、カレーを復活させるため」

愛里寿「これは、戦艦大和において残された証言や、当時のレシピを探ることで現代によみがえった大和の士官食カレーです」

亜美「まあっ!! これが、あの士官食カレーですって!?」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:05:00.37 ID:+gLJjSpd0

桃「どういうことだ? 蝶野教官はなぜあんなに驚いているんだ?」

優花里「2000人以上の船員がいたという大和ですが、その中で士官であった人は全体の5パーセントにも満たなかったといわれています」

優花里「つまり、大和の士官食カレーを食べられた人は日本じゅう……いえ、世界じゅうでも100人程度といったところでしょうか。そんな貴重なカレーを作りだすとは……」

杏「なんというか、もう食べる前からすっごいワクワクするね」

亜美「これは軽い気持ちで食べるわけにはいかないわね! では実食!」パクッ

亜美「!!!」

亜美「なんて上品な味わいかしら! カレーらしい辛さに加えて奥行きのある旨味! それに、スパイスとはまたちがった香ばしさを感じるわ!」

亜美「そしてこの具がまた不意打ち! じゃがいもかと思いきや、リンゴを煮たものだったのね!!」

愛里寿「調理を担当していた烹炊兵(ほうすいへい)だった人の証言によると、大和ではリンゴ入りのカレーが振る舞われていたことと、ピリピリとした辛さがあったことがわかっています」

愛里寿「そして、大和の調理室では艦を動かすための蒸気タービンの熱源を使うことができたということ。なので時間をかけて鶏ガラや野菜などを煮込み、本格的なスープストックをいろんな料理に使っていたそうです」

亜美「そう! そうなの! このカレーには風味の根底に、フランス料理のブイヨンを彷彿させるのよ!!」

愛里寿「そして、ふしぎな香ばしさの正体はよく炒めた小麦粉」

愛里寿「当時の文献によると、カレー粉の分量は現在のものより少なく、それに対して焙煎小麦粉の割合がかなり多かったことが特徴でした」

愛里寿「大和の食事はとても美味であったと評判でしたが、あくまでも大和は有事に備えての軍艦。長い海上生活での健康に配慮されたものであったに違いありません」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:05:54.93 ID:+gLJjSpd0

愛里寿「大洗とは逆にカレーの味はカレー粉のみ。スパイシーな風味は物足りないかもしれませんが、その代わりに余計なものを入れず、すっきりと、かつ、ぜいたくに仕上げました」

亜美「グレイト! エクセレントよ!! なんというカレーだったのかしら!!!」

ワー! ワー!

優花里「西住殿、彼女はもしや……?」

みほ「うん。愛里寿ちゃんはきっと『誰が食べて評価するか』までを考えて、このカレーを作ってる」

華「あのカレーを前にしたときから、蝶野教官のようすが急に変わったように感じますね」

沙織「なんか、すっごいうれしそうだったね」

麻子「心証を大きく動かしたな」

杏「そっか〜蝶野さんも自衛官だからな〜。歴史的なもの食べられてテンション上がるよねえ」

桃「あわ、あわわわ……もうだめだあ〜っ……」

柚子「みんなを信じようよ桃ちゃん」

亜美「それじゃあ評点に入るわね! まずは両者のカレーの『個性』よ!」バン!

大洗:○
島田:○

愛里寿「一本目は互角……!」

亜美「地元に実在する料理をアレンジした大洗に、歴史のロマンを感じさせた島田流! どちらも、ここでしか食べられない独自性というものを存分に発揮していたわね」

亜美「そしてお次は見た目『外形』よ!」ババン!
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:06:55.36 ID:+gLJjSpd0


大洗:◎
島田:○

愛里寿「!!」

桃「お、おおおっ!!!」

杏「島田ちゃんのカレーも素晴らしかったけど、パッと見のインパクトならうちのほうに分があったようだねえ」

柚子「頑張ってヘッツァーの形にするために苦労した甲斐があったね、桃ちゃん!」

フリント「これは、勝ったね」

ムラカミ「ああ。残りは味の項目だが、向こうのチームは出す順番が悪かった。この差を跳ね返すことは不可能さ」

みほ「順番?」

沙織「どういうこと?」

カトラス「私たちのカレーはスパイスをふんだんに使い、現代人のカレーマニアでも満足がいくレベルまで刺激と旨味を追求している」

お銀「ところがあちらは昔の海軍カレーの再現だ。さっき彼女自身が言っていたようにカレー粉は少なかった。長い海上生活に負けない身体を保つため、日々の料理の塩分も少なかっただろうね」

ラム「ってことはさ〜、濃い味のカレーのあとに薄味のカレーがきたら、さすがに見劣りしちゃうんじゃない〜?」

桃「な、なるほどっ!!」

杏「こりゃあ、もしかしたらもしかするかも!」

亜美「それじゃあ最後の項目よ! 課題はズバリ『味』!!」バン!!
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:07:44.19 ID:+gLJjSpd0

大洗:○
島田:◎

杏「なっ……!」

桃「何故だあッ!?!?」

華「こ、これはどういう……?」

みほ「互角ではなく、向こうのほうがおいしかったということ……!?」

お銀「納得がいかないね! 理由を教えてもらおうか!!」

沙織「そーだよう! あれだけおいしいカレーができたんだもん!」

亜美「確かに、あれだけ本格的なスパイスの調合技術を見せられては、ただのカレー粉から作られるカレーではとても物足りなかったかもしれないわね」

亜美「──そう。大洗はスペシャルで素晴らしい『カレー』だったわ」

亜美「もう一度、お互いの料理名を比べてみて頂戴。島田さんは『カレーライス』を作ったということよ」

みほ「教官……?」

亜美「あのカレーを食べたとき、大洗のカレーにはないふしぎな感覚があったの」

亜美「それは『ごはんが進む』という感情。もっとこのカレーをかけて白いごはんを食べたい! という、日本人として突き動かされる情動に近いものだった」

華「!!」

優花里「ごはんとの、取り合わせ、ですか……!!」

亜美「おそらくあれは、本来の大和のレシピにはない、島田さん独自の隠し味ね?」

愛里寿「はい。カレーの味が薄いという問題は、私も承知していました。なのでそれを打破する新しい味を用意する必要がありました」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:08:39.75 ID:+gLJjSpd0

愛里寿「それが、これ」

みほ「!!!」

愛里寿「この学園艦の母港である呉市に寄港したときに、その隠し味を教わりました」

愛里寿「大和が呉で生まれたなら、その解答もまた呉にあり」

愛里寿「現在の海上自衛隊 呉基地業務隊の給養員の人がこっそりとカレーに入れているという秘伝」

愛里寿「日本人の本能に刺さる調味料『味噌』です」

柚子「大和のカレーという幻のメニューを再現したばかりか、それをさらに改良するなんて……!」

杏「それをまたさらに推し進め、出来上がったカレーをごはんをおいしく食べてもらうための『おかず』として扱ったとはねえ」

桃「や、やられた……!」

沙織「えっ!? でもでも待ってよ。勝負はどうなるの!?」

麻子「確かに。マルと二重マルの数はどちらも同じだ」

お銀「まさか2人同時に優勝かい!?」

ザワザワ ガヤガヤ

亜美「お静かに! いまから説明するわね」

亜美「結果はご覧のとおり、双方とも総合的な評価は同じとなりました」

亜美「カレー大会がこれほどのレベルであったこと。審査員としてこれほどの喜びはありません」

亜美「願わくば、2人とも優勝させてあげたいわ」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:09:52.91 ID:+gLJjSpd0

亜美「しかし、大会の規定につき優勝者はたった1人!」

亜美「……とはいえ、勝負はこれ以上もう何もありません」

亜美「したがってもう一度、大洗と島田さんには改めて勝負を行なっていただきます」

亜美「全国学園艦カレー大会、史上初のプレーオフ! それぞれの学園艦から代表者を選び、1対1の勝負で真の優勝者を決定することといたします!!」

桃「えっ ええっと、つまり……?」

愛里寿「私とあなたで、またカレー対決ということ」

亜美「課題はひとつ! 学園艦カレーで一騎打ち!!」

亜美「材料、トッピング、サイドメニューなど制限はありません! とにかくあなたたちが作れる最高のカレー同士で真っ向勝負よ!!」

亜美「勝負の日はまた後でお知らせするから、そのあいだにおいしいカレーを用意しておいて頂戴!!」

亜美「それでは全国学園艦カレー大会はいったんこれにて閉幕です。皆様ありがとうございましたーーーっ!!!」

ワー! ワー!

愛里寿「ねえ」クイッ

桃「えっ あ、な、なにか……」

愛里寿「次の勝負、私はもう一度『大和』のカレーを作るから」

桃「!?」

愛里寿「それじゃ、また会いましょう」

スタスタ トコトコ
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:10:40.36 ID:+gLJjSpd0

──大洗女子学園 学園艦

みほ「愛里寿ちゃんが、そんなことを……」

杏「自分の大和カレーに絶対の自信を持っていたのに引き分けたのが、よほどこたえたようだねえ」

優花里「島田殿のことですから、ただ単に同じカレーを出してくるとはおもえません」

華「おそらく改良に改良を重ね、さらなる高みへと押し上げられたカレーとなるでしょう」

沙織「ええ〜っ!? あのカレーがもっと美味しくなるっていうこと〜っ!?」

麻子「味だけではない。私たちに敗れた見た目の部分も研究してくるだろうな」

杏「とはいえ、やりようはあるよね」

みほ「会長?」

杏「向こうが『大和のカレー』にこだわるなら、こっちはそれ以外の部分で勝負できるところはないかなあ?」

杏「ホラ、大会の最後に蝶野さんが言ってたじゃん。トッピングとか、サイドメニューとか無制限だって」

杏「あれってさ、要はカレー以外のものを出してもいいってことだよね?」

お銀「なるほど! それならあたしたちに考えがあるよ」

ラム「うほっ!」

ムラカミ「大和の偉い軍人さんでも、さすがにカレーの後にデザートは食べなかっただろう?」

フリント「それを逆手に取り、うちではカレーとセットで特別に何かを出そうじゃないか」

カトラス「でも、そのデザートづくりでカレー大会の制限時間が費やされては元も子もない。ある程度手軽で、実際の学園艦の食堂でも採用できそうなもの」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:11:39.85 ID:+gLJjSpd0

お銀「というわけで、ひとつ特製のドリンクはどうだい?」

沙織「カレー屋さんで出てくる、チャイとかラッシーみたいなものってこと?」

華「そこはもっと自由で、うちらしい独自性を出したいところですね」

杏「デザートにドリンクつきかあ、いいねえ。採用!」

柚子「問題は、カレーをどうするかだけど……」

華「角谷会長たちが作ったカレーの完成度は素晴らしいものがあります。下手にあれこれと手を加えるよりは、このままでよいかとおもいますが」

優花里「ですが、真正面で挑んでも分の悪さは否めません。こちらはまったく新しい味をぶつけて衝撃と感動を与える方策はどうでしょうか」

麻子「いまからオリジナルのカレーを開発して、イチかバチかに賭けるのか? そのほうが分が悪そうだが」

典子「じゃあ、トッピングとか具材をもっと豪華にしてみる?」

カエサル「カレーはそのままで、アツアツの鉄板で出してみるのはどうだろう? ジュワーッという音が聴覚を刺激する!」

ねこにゃー「逆に、ごはんに味をつけるってのはどうかな……?」

ナカジマ「半分食べたら特製のスパイスをかけてもらってアジヘン(味の変更の意)できるってのは?」

ワイワイ ガヤガヤ

沙織「ちょっとちょっと! こんなにいっぱいアイデアが出ても、全部を採用するのはとても無理だよ〜っ!」

沙織「こんなにいっぱいありすぎても、ひとつのカレーじゃ収まりきらないもん!」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:12:34.70 ID:+gLJjSpd0

みほ「……それだ、それだよ沙織さん!」

沙織「へっ?」

みほ「ひとつのカレーでダメなら、もうひとつカレーを用意すればよかったんだ!」

沙織「それってどういう……? 2種類のカレーを混ぜて出すってこと?」

みほ「ううん、お皿の中央にごはんを縦断させるように盛り付けて、その両側に別々のカレーをかけるの!」

優花里「なるほどっ! 一皿で二度おいしい作戦というわけですね!」

華「ですが、ひとつは角谷会長のあんこうカレーでよいとして、もうひとつにふさわしいカレーはどうすれば……」

麻子「たしかに、あのレベルにつり合った味を生み出すのは容易ではないぞ」

桃「──そのことだが、私にひとつ思い当たるものがあるんだ」

みほ「河嶋先輩?」

桃「ちょっと、待っててくれ。レシピを取ってくる」


──数十分後


みほ「これは……」

優花里「色が濃くて、どろりとした感じで、いわゆる一般的なカレーライスの姿ですね」

華「確かに、会長のスパイスカレーとは対(つい)になるような格好ですが……」

沙織「でもどうしてこれをいきなり作ることができたんですか?」

桃「まあ、お前たちにとっては初めて見るものかもしれんな」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:13:20.18 ID:+gLJjSpd0

みほ「?」

桃「さあ、召し上がれ。味見をお願いしたい」

モグモグ ムグムグ

杏「!」

柚子「まあっ!」

ナカジマ「おっ! 懐かしい味!」

ホシノ「ほほう」

スズキ「なるほど〜」

そど子「そういうことね!」

ぴよたん「納得ぴよ」

梓「ねえ、わかる?」

あや「ぜんぜんわかんな〜い!」

あけび「キャプテン、どうですか?」

典子「う〜ん、見当がつかないなあ」

麻子「ああなるほど。みんなの反応でなんとなく察しはついた」

沙織「麻子?」

麻子「アニメ本編の8話で言っていた。『わたしたち1年生の時から生徒会やってて』という小山先輩の言葉を思い出した」

麻子「つまりこれは、先輩たちが生徒会をやる前の、いわゆる『先代』の生徒会があみ出したカレーだな?」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:14:06.41 ID:+gLJjSpd0

杏「さっすが冷泉ちゃん〜何もかもお見通しってわけだ」

華「なるほど。だから3年生の方々だけが、この味を知っていたというわけなんですね」

沙織「でもこれフツーに、いや、相当おいしいカレーだよう!」

優花里「このレベルの高さ……平凡な材料の裏にとてつもない工夫が込められていますね」

杏「ま、このカレーに勝てるような味を目指したかったから生徒会に立候補したところがあったよね」

柚子「学園艦の暮らしを支えるカレーだもんね。私たちもだいぶ研究した思い出があるわ」

みほ「かつての生徒会のカレーと、現在の生徒会が作り上げたカレー……」

優花里「この組み合わせ! 大洗女子学園の歴史と伝統を感じませんか!?」

みほ「うん。学園艦カレーというふさわしさにおいて、これ以上ないくらい!」

沙織「よしっ! このカレーのテーマは『学園艦の現在・過去・未来』でいくよっ!」

『 おーーッ!! 』

柚子「となると、残りはオリジナルのドリンクを考えないといけないんだけど……」

桃「──柚子ちゃん。実はそれについても、考えていることがあるんだ」

柚子「桃ちゃん?」

杏「河嶋?」

桃「これは私の大会だ。だからここはひとつ、私に任せてもらいたい」


──某学園艦 調理室内


グツグツ… グツグツ…
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:15:05.11 ID:+gLJjSpd0

「島田さん、何を?」

愛里寿「戦艦大和には冷凍庫があった」

愛里寿「そこには、牛の内臓を取り除き、背骨から2つに分けた枝肉の状態でいくつも積んであったという」

愛里寿「当然、その骨や脂肪も料理に使っていたことだろう」

愛里寿「私はこの牛の素材を使い、カレーの『現在・過去・未来』を表現してみようとおもう」

愛里寿「さらに、大和の『名物』を加える。これで勝負」


──全国学園艦カレー大会 本番会場


亜美「日本の国民食カレーライス」

亜美「子供から老人まで、男女を問わず人気があり、大衆的でありながらちょっとおしゃれをすればご馳走にもなる」

亜美「それも、この国に取り入れられてわずか100年余りでその地位を得たふしぎな食べ物」

亜美「作る人によって千差万別の味になるこのカレー。頂点となるのはどちらか!?」

亜美「ただいまより 全国学園艦カレー大会のプレーオフを開催いたします!!」

愛里寿「よろしくお願いします」

桃「よ、よろしくお願いします」

亜美「それじゃあ、細かい前置きは抜きにしてさっそく始めて頂戴! 調理開始!!」

ワー! ワー!
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:15:59.74 ID:+gLJjSpd0

杏「ついに始まったね」

柚子「手はずどおりカレーを作って、サメ肉の特製フライをトッピングだけど……桃ちゃん頑張って」

お銀「どうやら桃さん……カレー作りに手こずっているようだねえ」

ムラカミ「でも、材料に制限はないんだろう? だったら最初からあらかじめ出来上がったカレーを用意しておけばよかったんじゃないかい?」

ラム「それがね〜、片方の先代生徒会カレーはそうなんだけどさ〜」

カトラス「もうひとつのあんこうカレーはスパイスカレー。やはり新鮮なスパイスの風味を考えると、直前に香りを引き立たせなければいけない」

みほ「ところで、愛里寿ちゃんのほうはどうなっていますか?」

沙織「見てっ! あの大きな牛肉のかたまり!」

華「材料にも制限がないということでしたから、向こうも一切の出し惜しみがありませんね」

麻子「あれは肩肉……つまりロースの部位といったところか」

杏「どうするつもりだろ? 厚切りを焼いて、豪快にステーキとしてトッピングとか?」

優花里「なるほどそうやって大和の大鑑巨砲主義を表現というのもじゅうぶんに考えられますね」

愛里寿「……」スッ スッ

みほ「牛肉を、包丁で薄く切り分けてる……?」

亜美「さあ、そろそろ時間が近づいてきたわよ! 両者とも用意はいいかしら!?」

愛里寿「もうすぐ完成です」

桃「あっ ちょ、もうちょっと待ってください……」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:16:46.35 ID:+gLJjSpd0

フリント「おや? 桃さんようやくフライを揚げはじめたのかい?」

優花里「カレーを完成させ、フライを揚げ、それらをできるだけアツアツの状態で供すことがポイントとなりますが、そのタイミングが難しいようですね……」

麻子「サメのフライを戦車の形にひとかたまりで形成したのは、改善の余地があったかもしれん。火が通ったか分かりにくい大きさになってしまったな」

柚子「なんとか時間内に……ううっ お願い……!」

ピピーッ

亜美「終〜了〜っ! では早速試食と参りましょう。まずは先に仕上がった島田流!」

愛里寿「これが私のカレーライス。推して参ります」

亜美「ふむ……見た目は前回と同じ士官食カレーのようだけど、そこへ牛肉の薄切りがトッピングされているわね」

愛里寿「はい。カレーの具としてだけでなく、さらにこの薄切り肉を追加し食感に変化を与えようと考えました」

みほ「えっ……?」

沙織「それだけ……?」

桃「な、なんだ……拍子抜けだ」

亜美「とにかく食べてみないことにはわからないわね。では実食!」パクッ

亜美「!!」

亜美「な、なにこれは……牛肉の味がまったく違うわ!!」

みほ「!?」

桃「!?」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:18:00.83 ID:+gLJjSpd0

亜美「調理の現場はわたしも見ていたわ。島田さんは大きな肩ロースをひと口大に切ってカレーの具とし、その残ったかたまりを薄切りにしていたわね」

亜美「同じ牛肉の同じ部位なのに、なんというか……風味が違うのよ」

愛里寿「薄切り肉のほうの、色をご覧ください」

みほ「牛肉の、色……?」

華「カレーがかかっていてよくわかりませんが、いったい……?」

優花里「でもよく見ると、うっすらとピンク色に見えますね」

麻子「ピンク、だと……!?」

沙織「えっ? それってつまりどういうこと?」

愛里寿「カレーは煮込む料理。だから当然、牛肉も長時間煮込むのが当たり前とされてきた」

愛里寿「でも牛肉の料理は、ステーキならレア、ローストビーフの中央はロゼ色と、『半生』に仕上げるほうが良いとされることがある」

優花里「確かに、焼肉屋でこだわりのある人なんかは、焼きすぎるなとやかましく言いますよね」

愛里寿「大和に積まれていた牛肉はむろん和牛。輸入牛との違いは、『和牛香』と呼ばれるあの独特の香りにあります」

亜美「そういうことだったのね! この風味の正体は、生の牛肉特有のもの!」

亜美「でも、ただ単に生肉というわけではないわね。うっすらと火を通した跡がうかがえるし、何よりちゃんとした味がついているのよ。この味がまた白いごはんに合う!」

愛里寿「だしを張り、砂糖やしょうゆなどで味付けたものを煮たたせ、そこへさっとくぐらせました」

愛里寿「いわば牛丼のつゆのようなものといったところでしょうか」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:19:02.45 ID:+gLJjSpd0

愛里寿「牛丼といえば、声優の竹達彩奈(たけたつ あやな)さんも大好物。そこから着想を得ました」

愛里寿「なお、牛肉をレア仕立てにしたのは、先日の大洗のカレーに影響されたものです」

桃「どういう、ことだ……?」

愛里寿「トッピングのフライ。食べる人を飽きさせない食感の変化。あれを私も取り入れたかった」

愛里寿「薄桃色のなまめかしい食感。官能的で繊細な味わい。たとえるなら艦これの大和の唇のよう」

亜美「これはマジヤバね! カレー自体も味に奥行きというか、複雑な旨味があってさらなる進化を感じるわ!」

愛里寿「材料に制限がないとのことだったので、牛骨や牛脂、野菜などをひと晩かけて煮込んだスープストックを作って持ってきました」

亜美「具に使われている以上の凝縮された牛の旨味の正体はそれだったのねっ!!」

愛里寿「そして、大和で作られていたのはカレーだけではありません。これを」スッ

亜美「アラこれは……ビンのラムネ?」

愛里寿「戦艦大和の内部には専用のラムネ製造室があったそうです。その製法は、広島の呉にある食品製造販売会社『中元本店』の創業者が伝えたものだといわれています」

愛里寿「そしてこの中元本店は現在でも続いており、大和ラムネの名でこれを売っています。カレーのお供に呉市の名物をぜひどうぞ」

桃「な、ななっ……! 向こうもドリンクを……!?」

杏「こりゃあ一本取られたねえ」

亜美「ゴク……っぷは! いまも昔も変わらないラムネの味! 大和の船員も味わったかもしれないと考えると、感慨深いわね」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:20:29.13 ID:+gLJjSpd0

愛里寿「そして、このカレーは現在・過去・未来を表しています」

愛里寿「このカレー自体がかつての大和の食事を再現した『過去』のもの。ラムネはそのまま、中元本店の商品を取り寄せた『現在』のもの」

愛里寿「トッピングの牛肉が『未来』です」

亜美「過去と現在はわかる話だけど、牛肉が未来?」

愛里寿「材料の和牛。ふつうはなかなか手に入らないぜいたく品です」

亜美「ええ」

愛里寿「今後の食肉産業界を見据えると、5年後、10年後はさらに手に入りにくくなるでしょう」

愛里寿「高価になりすぎた和牛は一般的に扱えなくなり、やがてスーパーの精肉コーナーから、ひいては、日本の食文化から姿を消すかもしれません」

愛里寿「この国の食文化は類を見ないほどの多様性と独自性を保ち続けてきました。ですがその一方で、失ってはならないものをどんどん失いつつあるのではないでしょうか。この和牛もそのひとつといえます」

愛里寿「私は国産の和牛を用いることで、この国に伝えられた大事な食文化を未来に伝えるのが我々の務め、責任であると考えるのです」

愛里寿「つまり大和のカレーに日本(やまと)の牛肉。この取り合わせこそが私の結論です」

オオー

パチパチ パチパチパチ

みほ「……」

沙織「……なんていうか、すごいね」

優花里「天才少女ここにあり、といったところでしょうか」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:31:15.23 ID:+gLJjSpd0

華「1杯のカレーに、そこまで意味を込められたとは……」

麻子「素直にいい話だった。感動したぞ」

桃「あわ、あわわわ……ドリンクどころか、現在過去未来のくだりまでかぶるなんて……」

柚子「大丈夫かなあ桃ちゃん」

杏「う〜ん。わかってはいたけど、簡単に勝たせてはくれないよね」

亜美「さあ、感動的なカレーを食べ終わったところで後攻の番よ! 出して頂戴!!」

桃「は、はい……どうぞ」

亜美「なるほど。ごはんをタテに盛り、皿の両側に2種類のカレーをかけたというわけね」

亜美「そして前回でも使用した戦車カツも健在ね。ごはんの部分に乗っていて、まるでヘッツァーが白い道を走っているようだわ」

優花里「そうなんですよ! この見た目は、エンディングのアレをイメージしたんです!」

優花里「実はヘッツァーは大洗女子で唯一、ガルパンのエンディングで出演できていないんです。カメさんチームが映った回の当時はまだ話の前半で、改装前の38(t)の状態でしたからね!」

沙織「そういえば、あたしたちは2回出てたよね」

華「実は微妙にあんこうのメンバーの位置が違いますから、比較してみるのもいいかもしれませんね」

みほ「えっ? 誰に向けて言ってるの?」

麻子「気にしたら負けだ」

亜美「さて気になるのはやっぱり……この新しいカレーの味よね。こちら側からいただくわ」

パクッ
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:32:07.59 ID:+gLJjSpd0

亜美「ッ!?」

亜美「から〜い!! 見た目によらずなかなかホットじゃない!!」

亜美「でもただ単に辛いだけじゃないわね。カレーとしての旨さも確かに感じるわ!」

桃「し、使用した唐辛子は『バーズ・アイ』という品種です。名前のとおり鳥の目のように小さくて、2センチほどの小粒なもの」

柚子「激辛マニアの間では、辛さの中に旨味を楽しめると評判の品種だそうです」

ダージリン「こんな言葉を知っている? 『カレーは 辛いからこそおいしいのだ!!』」

オレンジペコ「『包丁人味平』の、味平くんですね。伝説のブラックカレーと対決したときの」

みほ「!?」

優花里「どこから出てきたんですか!?」

亜美「前回の大会からわずかな期間でこれほどのカレーを生み出すなんて! いったいどうやったのかしら?」

桃「かくかくしかじかで……」

亜美「なるほど先代の! 河嶋さん自身が生徒会役員ならではの発想ね!!」

亜美「それからこっちのスパイスカレーもいい味してるわね! 清冽で新鮮な風味!」

華「新生徒会長としての権限を最大限に発揮し、スパイスの産地まで学園艦を動かせました」

沙織「直接取り寄せたスパイスの素晴らしさ! 香りのレベルは前回よりも上をゆくとおもいます!」

亜美「これはどちらのカレーでお米を食べるか迷うわね! 見た目も味もまったく別物なんだけど、ふしぎとどちらもごはんに合っていてスプーンを持つ手が止められないの!」

みほ「愛里寿ちゃんのカレーに影響を受け、わたしたちのカレーも白米に合うように微妙に味を調整しました」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:32:53.28 ID:+gLJjSpd0

亜美「まあっ! お互いがお互いのカレーに影響を受け、進化したというわけ!? グッジョブベリーナイス!!」

桃「実は、私たちもこのカレーで学園艦の現在・過去・未来を表現したいとおもっていました」

亜美「ほほう? 過去は先代生徒会のカレーで、現在はこっち側のあなたたちがあみ出したというスパイスカレーね? となると未来はどういうふうになるのかしら」

桃「このドリンクです」

亜美「アラこれは……ほんのりと黄色くて、さわやかな香りがするわね。ゆずかしら?」

桃「大洗まいわい市場にて販売している『大洗限定ガルパンドリンク』その中のゆず味です」

亜美「さっそくいただくわ。ゴク……ん? んんっ?」

愛里寿「……?」

亜美「優しい味で飲みやすいけど、その奥にピリピリとしたものが残るわね? 何かを混ぜたということ?」

桃「これはガールズ&パンツァー最終章のパンフレットに載っていた『ハバネロクラブを作ってみた!』のコーナーにて試作された、ペッパーソース×ゆずドリンクの飲料です!」

杏「作り方はどれも、ペッパーソースと何かしらの飲み物を1:2の割合で混ぜるだけ」

柚子「さまざまな飲み物とペッパーソースを混ぜてみた結果、最も飲みやすいのがこのゆずドリンクでした」

お銀「学園艦。すなわち大洗女子学園の未来とはそのままガールズ&パンツァー最終章の未来にほかならない」

お銀「その始まりとなった1話のハバネロクラブの飲み比べ! そのモチーフを据えることで、大洗の今後の未来を表現しているのさ!」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:33:43.15 ID:+gLJjSpd0

オオー パチパチパチ

亜美「なるほど納得ね。過去から現在。現在から未来へと筋の通った一皿! 感激だわ!!」

桃「それから、ドリンクのほかにデザートも用意しました。ぜひどうぞ」

亜美「これは、白桃の缶詰と、アンズの砂糖漬けね。いただくわ」

亜美「あむ、モグ……辛いカレーのあとに甘い物というのは、味が引き立ってておいしいわね」

亜美「ああ堪能したわ! それでは最後の評価に移るまえにちょっと時間を頂戴」

ワー ワー

ザワザワ ガヤガヤ

柚子「どうなるかなあ〜っ……」

杏「精いっぱいやりきったよ。あとは待つだけだね」

お銀「なあに、桃さんの勝ちに決まっているさ」

フリント「そうですよ! そうに決まってます!」

桃「いや……もしかしたらこの勝負、私は負けるかもしれん」

カトラス「!?」

ムラカミ「な、なんで……」

桃「最後のデザートさ。あれは学園艦とも、地元の大洗のことともなんの関係もない。唐突に出てきた不釣り合いなものだ」

お銀「じゃあ、どうして……」

桃「学園艦を象徴する2種類のカレーに、ヘッツァーの戦車」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:34:50.38 ID:+gLJjSpd0

桃「そのかたわらに置かれた、ユズ、モモ、アンズたち」

桃「これは私たち3人の思い出がつまった、私にとっての学園生活そのものを表した『学園艦カレー』だ」

みほ「……!」

桃「私は会長と柚子ちゃんの2人がいたからここまでやってこれた。だからこそ、このカレーとデザートを作りたかった」

桃「そのせいで負けてしまっても、悔いはない」

杏「河嶋……」

柚子「桃ちゃん……」

ザワザワ ザワザワ

亜美「皆様たいへん長らくお待たせいたしました」

亜美「それでは、全国学園艦カレー大会の優勝者を発表いたします」

亜美「最後の最後まで迷いました。どちらかに決断するのはほんとうに難しかった」

亜美「ですが、泣いても笑ってもこれが最後。発表します」

桃「……!」

愛里寿「……!」

柚子「ううっ……お願い……」

杏「神様……」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:36:01.10 ID:+gLJjSpd0

亜美「優勝者は」
















亜美「大洗女子学園 河嶋桃!!!」

桃「え……」

柚子「え……?」

杏「……やった」

『 やったーーーーっっっ!!! 』

桃「あ、ああっ……か、勝った……!?」

ワー ワー

パチパチ パチパチパチ

亜美「カレーの発想、味、込められた思い。すべてにおいてどちらもほぼ互角の実力でした」

亜美「ですが心を動かされたのは、最後のデザートとドリンクだったわ」

桃「えっ……?」

亜美「学園艦は特殊な環境です。中学・高校とひとつの船に乗り続け、青春のひとときをそこで過ごすことになる」

亜美「その中ではぐくまれた友情は、とても固いものとなるでしょう」

亜美「この料理は、そんな河嶋さんの友達を想う心が形になったかのようだったわ」

柚子「桃ちゃんっ! わああーーっ!! 桃ちゃあんっっ!!!」ギュー

杏「やった……っ グスッ やったよう……あきらめないで、よかった……」ポロポロ

桃「ゆ、ゆずちゃん……会長……」

愛里寿「……その2人が、あなたのお友達?」

桃「えっ? あ、あっ、そうです」

愛里寿「友達のために一緒に泣いて、一緒に喜べる。そんな人たちがいてうらやましい」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:37:03.16 ID:+gLJjSpd0

愛里寿「また、あのときと同じ。私はひとりで戦ったけど、あなたたちは『ひとつ』になって挑んだ。ゆえに勝利をつかめた」

愛里寿「いつか私にもできるだろうか? 美しい思い出の中に、ともに歩んでくれたといえる友の存在が」

みほ「愛里寿ちゃん……」

亜美「さあ、河嶋さんは壇上へ。優勝旗を受け取って頂戴!!」

パチパチ パチパチパチ

亜美「さらに、副賞としてこれをどうぞ。カレー漫画の代表作『華麗なる食卓』全49巻をプレゼントよ」

杏「ええ〜っ!?」

桃「会長、何をそんなに驚いてるんですか?」

杏「カレーの描写は間違いなくおいしそうなんだけど、けっこうエッチなシーンがあるから女子高生には微妙にオススメしづらい内容の漫画だよコレ」

亜美「ちなみに、あたしがチョイスしたわ!」

杏「!?」

柚子「な、なんで……」

亜美「途中から出てくるキャラの嘉手納碧琉(かでな へきる)ちゃんは、声優の椎名へきるの名前をもとにしているからよ!」
(※漫画家の先生がラジオで言っていました)

桃「!?」

亜美「もうひとつ。副賞としてボコカレー1年分をプレゼントするわ」

愛里寿「えっ?」

みほ「えっ! ボコ!?」

沙織「甘口・中辛・辛口のいずれもパワー10,000,000,000,000,000(1京)倍アップって書いてあるけど、どういう意味?」

麻子「ゼロは何倍してもゼロってことだろうな」

華「微妙にウテナの9000億倍カレーを彷彿させますね」

優花里「こんなパワーインフレ、いまどき小学生でも言いませんよ……」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 21:38:07.18 ID:+gLJjSpd0

みほ「こうして、カレー大会は河嶋先輩の優勝で幕を閉じました」

みほ「初出場で、それも強豪を降(くだ)しての優勝ということでこのことは大きく取り上げられ、大洗女子はカレーでも名を上げることになりました」

みほ「校内の反響もすさまじく、大会でのカレーをぜひ学食で取り入れたいと大騒ぎになりました」

みほ「でも、あれは大会用にかなり贅沢をした特別メニュー。そう簡単に出すことはできません」

みほ「それでも、何とか食べたいという要望にこたえ、生徒会はある提案をしました」

みほ「それは『金曜日だけにあのカレーを提供すること』でした」

みほ「逆転の発想というか、原点回帰というべきか、このアイデアは大成功。金曜をカレー曜日としてあらためて認知させることに成功したのでした」

みほ「ですが、生徒会の仕事はこれだけで終わりません」

みほ「会長の華さんは、先代の角谷会長たちのカレーと、大会で知ることができた先々代の生徒会のカレー、この2つを超えるカレーを開発中だそうです」

みほ「最初は手探り状態の華さんでしたが、沙織さんや優花里さん、それにわたしや麻子さんの手助けもあって、徐々に形になってきているようでした」

みほ「完成したあかつきには、生徒みんなを巻き込んだ、大がかりなカレー大会を開催する予定だそうです」

みほ「あ、河嶋先輩の進路ですが、カレー大会の実績が内申にも加味され、大きな一歩となったようです」

みほ「ただ肝心の学力に心配点があるということで、角谷会長と小山先輩がつきっきりで勉強を見てあげているそうですよ」

みほ「ちなみに、この大会が終わってすぐに戦車道の冬季大会『無限軌道杯』が開催される運びとなったのですが」

みほ「その結果はまた、別のお話です」



おしまい
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/15(金) 21:56:15.21 ID:c0oK1/nDO



ちなみに、インドでは水牛なら牛じゃないから(へりくつ?)ヒンドゥーでも食べます

あと、インドにもジャポニカ米があるのはあまり知られてないんご
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 22:07:20.33 ID:+gLJjSpd0

おまけの没ネタ

亜美「それでは、これより全国学園艦カレー大会を開催します」

亜美「開会宣言は、日本戦車道連盟理事長、児玉七郎様です」

パチパチパチ

児玉「ゴホン! えー、……」

児玉「……」

児玉「……ミックス」

みほ「!?」

児玉「……フフフ、ミックス」

児玉「ミックス!」

児玉「ミックス ミックス!」

児玉「みんなミックスし続けろ!」

児玉「激しく! もっと激しく!!」

児玉「甘口と辛口をこすり合わせ 米とカレーを混ぜあって!」

児玉「肉と野菜がとろけ合うまで煮込み続けろ!」

児玉「いずれは学園艦の生徒も参加させてやる」

児玉「美食家気取りの教師たちもだ!」

児玉「学校じゅうの生徒たちの飯という飯すべてにカレーを流し込んでやる!」

児玉「校長も教頭もみんな 子供のように喜ばせ かわいい教え子たちの胃袋に手料理の味をぶちこむのさ!」

児玉「……学校の次はこの町すべてを巻き込んでやる」

児玉「ただすれ違っただけの見ず知らずの奴ら同士を いきなり相席(ミックス)させてやる!」

児玉「たとえそれが親子であろうと 兄弟であろうと!」

児玉「女同士であろうと 男同士であろうと!」

児玉「子供だろうと 老人だろうと 赤ん坊だろうと!」

児玉「全員残らずカレーを食べさせて スパイスの香りにまみれさせてやる!」

児玉「ミックス!」

児玉「ミックス ミックス!」

児玉「 ミ ッ ク ス !! 」

児玉「どいつもこいつもミックスさせてやる!」

児玉「生のスパイスの在庫が切れ カレー粉しかなくなっても調合させ続けさせてやる!」

児玉「カレーの材料にまみれながら のどが渇けば茶をすすらせ 腹が減ったら具の肉を噛みちぎらせる!」

児玉「そして永遠に続けさせてやる! ミックスを! ミックスだ!!」

児玉「ミックス ミックス ミックス ミックス」

児玉「ミックス ミックス ミックス ミックス……」

ワー!! ワー!!

ミックス! ミックス!

ミックス! ミックス!

みほ「な、なんなんですか? コレ……」

杏「いや〜、声優さんって大変だね〜」

みほ「何の話ですかっ!!?」



ほんとにおしまい
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/01/15(金) 22:08:14.57 ID:+gLJjSpd0

以上です
最終章3話が楽しみですね

過去作↓

みほ「プロ戦車道1日訓練?」

みほ「未公開シーン?」

みほ「笑ってはいけない西住流?」

みほ「笑ってはいけない西住流の未公開シーン?」

みほ「○んしゃ道?」

みほ「ガンシャ・ウォー!」

みほ「逆ドッキリ?」

みほ「愛里寿ちゃんスイッチ?」

みほ「抜き打ちテスト?」

まほ「抜き打ちテストだと?」

みほ「ガールズ&ラーメン?」

みほ「笑ってはいけないあんこう祭り?」

みほ「コンプライアンス・ウォー!」
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/17(日) 01:12:48.66 ID:a05BpF2Po
乙ー
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/18(月) 02:34:00.83 ID:5A7UwOMl0
130.90 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)