シンジ「君が、葛城ミサトちゃんだね」

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595 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/05(土) 16:18:01.61 ID:bn13i2TRo
シンジ「もうエヴァには乗らないの…?」

ミサト「破棄してください。パスコードも、部屋の荷物も…」

アスカ「でもあんたは乗った。エヴァンゲリオン初号機に」

ミサト「はっ!」

アスカ「一瞬一瞬の積み重ねなのよ、人の歴史は」

シンジ「僕らは人を守るのが仕事で…君もその一人なのに」

アスカ「後悔しないの?そんなとこに突っ立ってて」

シンジ「僕たち大人を……恨んでくれてかまわない」

アスカ「あんた逃げてるだけじゃないの」

シンジ「ごめんね……勝手な大人ばかりで」

アスカ「サードチルドレン!」

シンジ「この先…立ち向かえない現実があったとしても……君自身のことは、嫌いにならないでほしい」


ミサト「……シンジさん!」
596 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/05(土) 16:19:03.01 ID:bn13i2TRo
シンジ「う…っ、う、ぅ……!」

シンジ「何が科学だよ……!…人一人、助けられなくて…!」

シンジ「返してよ…!ミサトちゃんを…!」

シンジ「返してよ…っ」




ミサト「匂い…人の匂い…」

ミサト「シンジさん…?」

ミサト「リツコ…?」

ミサト「いや、違う…」

ミサト「そうだ、お母さんの匂い…」



母「……ふふ、可愛いわね、きっと世界で一番、可愛い子よ…」

葛城「ああ…そうだな」


ミサト「お母さん…」
597 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/05(土) 16:20:04.95 ID:bn13i2TRo
母「抱いてあげて?」

葛城「…抱き方が分からない」

母「こうするの…ほら」

母「優しく…」

母「支えてあげるのよ」

母「あなたにもできるわ」

母「ほら…」

葛城「……」


ミサト「……お父さん」


パシャッ


シンジ「…!」

シンジ「…ミサトちゃん!」
598 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/05(土) 16:21:03.40 ID:bn13i2TRo
カーラジオ「そりゃ分かるんだけど、オーラルステージの…心理学者が…つまり、母親といつまでも一緒にいたがる… 」



レイ「初号機の修復、明後日には完了するわ」

シンジ「結局、めでたしめでたしか…。科学…人間は不滅なのかもしれないね、神様の力まで利用しちゃうんだから…」

レイ「…どうかしらね…。委員会では凍結案も出ているそうよ」

シンジ「不安要素が大きすぎるって?今さらだよ…やめるんなら初めから手を出すべきじゃなかったんだ」

レイ「……」

シンジ「人造人間、エヴァンゲリオン……ミサトちゃんが助かったのも、エヴァの意思かな?それとも、人の力?」

レイ「少なくとも……私の力じゃないわ、あなたの存在が大きかったんじゃないかしら。彼女の深層心理において」

シンジ「僕が?」

レイ「人は傍らの存在に温もりを感じるものよ。それにあなたは…愛を持って彼女に接してる。影響がなかったとは思えないわ」

シンジ「そうかな…?なんだか綾波にそう言われると、照れるな…」

レイ「素直な感想よ。感謝してるの、あなたにも…ミサトちゃんにも」

シンジ「綾波……」
599 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/05(土) 16:22:03.83 ID:bn13i2TRo
レイ「一杯奢らせてくれない? サルベージ成功のお祝いに」

シンジ「あ…」

レイ「?」

シンジ「…ごめん!今日は、…約束があって」

レイ「そう… 」



シンジ「それじゃ…!」





レイ「……あれだけ泣いていたのに」

レイ「ミサトちゃんが無事だと分かったら、今度はアスカのところか…」

レイ「……」

レイ「忙しい人ね…」
600 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/05(土) 16:23:01.51 ID:bn13i2TRo
アスカ「あいつは今ごろ、いやらしい女だって軽蔑してるわね。きっと…」

シンジ「誰…っ、あいつって…」

アスカ「…馬鹿ね。さすがにあいつに同情するわよ…」

シンジ「…あ、アスカ、もう…っ」

アスカ「だーめ。あんたまだ言ってないでしょ?」

シンジ「…言えないよ…!こんな、ところで…っ」

アスカ「あたしには言わせたクセに」

アスカ「人類補完計画…人を滅ぼすアダム…あんたの知らないこと、ほらぁ…聞き出しなさいよ、それが仕事でしょ?」

シンジ「アスカ…っ、言わないでよ。信じるから。僕はアスカを信じるって、決めたから…」

アスカ「……」

シンジ「……もう危険な橋を渡るのはやめてよ…アスカ」
601 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/05(土) 16:24:02.05 ID:bn13i2TRo
シンジ「まだやめてなかったんだ…たばこ」

アスカ「だったら何?もうお小言はウンザリよ、耳にタコ」

シンジ「体に悪いのに…」

アスカ「……こういう事のあとにしか吸わないんだから、セーフよ」

アスカ「それともなぁに?シンちゃん、物足りなかったのかな?」

シンジ「あ、アスカ…!」

アスカ「……。…あんたってホンットに、昔っからこういうとこは…」

アスカ「……んっ」
602 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/05(土) 16:25:02.63 ID:bn13i2TRo
ベッドが軋む音


シンジ「!」

シンジ「ちょっ…!アスカ…!」

アスカ「…あによ?こっちイジられんのも、好きなくせに…」

シンジ「やめてよ……変なもの入れないでよ」

シンジ「……? なに、これ」


アスカ「プレゼントよ、8年ぶりの」

シンジ「?」

アスカ「最後かもしれないから。…大事にしまっときなさいよ」





弐拾話分終わり
603 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/05(土) 16:26:07.30 ID:bn13i2TRo
続きは明日
604 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:01:02.20 ID:3d5dCKQ9o
シンジ(留守番電話)「はい、ただいま留守にしています。発信音の後にメッセージをどうぞ」

アスカ「最後の仕事か…」

アスカ「まるで血の赤ね」




シンジ「拉致された!?副指令が?」

諜報部員「今より2時間前です。西の第8管区を最後に、消息を絶っています」

シンジ「うちの署内で…!?消えようがないじゃないか」

諜報部員「身内に内報、および先導したものがいます。その人物に裏をかかれました」

シンジ「身内に内報……?…まさか!」

諜報部員「惣流・アスカ・ラングレー。この事件の首謀者と目される人物です」

シンジ「………!」

諜報部員「首謀者とあなたの過去の経歴を考えると…致し方ない処置かと思われます。作戦課長を疑うのは、同じ職場の人間として心苦しいのですが…」

シンジ「いいよ…。それが諜報部の仕事だもの…」

諜報部員「ご協力感謝します。お連れしろ!」
605 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:02:01.61 ID:3d5dCKQ9o
カヲル「……お久しぶりです、キール議長。ずいぶんと手荒な歓迎ですね」

キール「非礼を詫びる必要はない。君とゆっくり話をするためには、当然の処置だ」

カヲル「相変わらずですね……僕の都合はおかまい無しですか?」

ゼーレ「議題としている問題が急務なのでね。やむなくの処置だ」

ゼーレ「分かってくれたまえ」

カヲル「やれやれ…委員会ではなく、ゼーレのお出ましとは」

ゼーレ「われわれは、新たな神を作るつもりはないのだ!」

ゼーレ「ご協力を願いますよ、渚先生」

カヲル「……」

カヲル(渚先生、か…)
606 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:03:01.87 ID:3d5dCKQ9o
学生「先生!渚先生!」

カヲル「ん?ああ、君たちか」

学生「これからどないです?鴨川でビールでも」

カヲル「またかい?学生の本分は勉学じゃなかったのかな」

学生「そない言わんと。リョウコらが先生と一緒なら行くゆうとりますんや」

学生「教授もたまには顔出せゆうてはりましたで」

カヲル「……ああ、分かったよ」
607 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:04:02.85 ID:3d5dCKQ9o
教授「たまにはこうして外で飲むのも良かろう」

カヲル「えぇ…まぁ…」

教授「…君は優秀だが、人の付き合いというものを軽く見ているのがいかんな」

カヲル「恐れ入ります」

教授「ところで渚君、生物工学部の葛城という生徒を知っているかね?」

カヲル「? いいえ、存じませんが」

教授「成績はいいのだがね…色々と悪い噂を耳にする。君のことも嗅ぎ回っているようだ」

カヲル「僕のことを?」

教授「おそらく…君の後ろにある組織にくみいろうという魂胆だろう。気を付けたまえ」

カヲル「……」

カヲル「肝に銘じておきます」
608 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:05:02.07 ID:3d5dCKQ9o
ゼーレ「S2機関を自ら搭載し、絶対的存在を手にしたエヴァンゲリオン初号機!」

ゼーレ「われわれには具象化された神は不要なのだよ」

キール「神を作ってはいかん」

ゼーレ「まして、あの男に神を手渡すわけにはいかんよ!」

ゼーレ「葛城。あの男、信用に足る人物かな?」
609 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:06:01.51 ID:3d5dCKQ9o
論文に没頭するカヲル

カヲル「……おっと」

カヲル「すっかり時間を忘れていたな…」

カヲル「……」

カヲル「…この時間なら、学食も空いてるか…」




葛城「B定を」

カヲル「B定食を」

葛城・カヲル「………」

おばさん「すみませんねぇ、B定こちらの学生さんで終わりなんですよ」

カヲル「そうですか……ではA定食を」

おばさん「すみません」

葛城「………」
610 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:07:02.08 ID:3d5dCKQ9o
葛城「あの……取り替えましょうか?」

カヲル「え?」

葛城「迷っていたんです。だから…どちらでもよくて」

カヲル「ああ……定食のことか。気にしなくていいよ、僕もそんなに拘って決めたわけではないんだ」

葛城「そうですか……それじゃあ…」

カヲル「……おや、君は…」

葛城「?」

カヲル「その資料、生物工学部の子かい?」

葛城「はい、まぁ…」

カヲル「では、僕の講義は?」

葛城「…取っています」

カヲル「ちょうどよかった。意見を聞かせてくれないかな」

葛城「…自分のですか…?」

カヲル「そう。論文で行き詰まっててね、新しい風を入れたいんだ」

カヲル「君、名前は?」
611 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:08:06.78 ID:3d5dCKQ9o
カヲル「そう…彼の第一印象は、不思議な男だった…」

カヲル「影のあるようにも見えるが…どこか人を惹き付ける」

カヲル「言葉少なで、人と距離を置きたがるために…誤解されることも多いが、少なくとも僕の目には善人に見えた」




カヲル「そしてあの時はこの国に季節、四季があった」
612 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:09:02.56 ID:3d5dCKQ9o
カヲル「いいことじゃないか。…パートナーの存在は人生をより良いものにしてくれるよ」

葛城「…しかし」

カヲル「何か問題が?」

葛城「彼女を……幸せにできる自信がありません」

カヲル「……」

カヲル「…ふふ、葛城君。そういうことは直接本人に聞くべきだよ」

葛城「?」

カヲル「自信があるとか、ないとかは関係ないんだ。人を変えるのはいつだって変わりたいという人自身の意思だからね」

葛城「…人自身の、意思…」

カヲル「彼女が君を愛しているならば、彼女自身が君の隣を選ぶだろう。それが幸せの道だからね」

葛城「……」

カヲル「そして君自身が選ぶ、幸せの道でもある」
613 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:10:01.62 ID:3d5dCKQ9o
カヲル「…彼らは籍を入れた」

カヲル「その直後だった」


カヲル「セカンドインパクト。20世紀最後の年に、あの悲劇は起こった」

カヲル「そして、21世紀最初の年は、地獄しかなかった…他に語る言葉を持たない年だ」
614 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:11:01.88 ID:3d5dCKQ9o
2年後、南極調査船内


カヲル「これがかつての氷の大陸とはね。見る影もない…」

カヲル「…君があの日、帰国していなかったらと思うと…ゾッとするよ、葛城君」

葛城「…自分は、難を逃れましたが……多くのものを失いました」

カヲル「そうだね…その通りだ」

カヲル「何も取り戻せはしないが…少しでも情報を得ないと。二の舞だけは御免だからね」

葛城「……先生」スッ

カヲル「? …なんだい?」

葛城「…これを。妻からあなたへ渡すように言われています」

カヲル「これは、奥さんと…息子さんの写真かい?」

葛城「…娘です」

カヲル「なぜ僕に?」

葛城「…妻は、よく溢しています…自分たちより渚教授が大切なのか?と」

カヲル「はは…それは…一度怒られに行かなくてはね」
615 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:12:01.78 ID:3d5dCKQ9o
カヲル「…最近、ゼーレについて良くない噂を耳にするよ。…力で、理事会を押さえ込んだとか」

葛城「………」

カヲル「たしかに、口利きをしたのは僕だが。情報はすべて入れるという約束じゃなかったかな?」

葛城「……すみません」

カヲル「……まぁ、いいさ…こんな時代だ。綺麗なだけの組織では生きていけないだろう」

葛城「…おっしゃる通りです。今回のセカンドインパクトの正式調査、これも…ゼーレの人間だけで調査隊を組めば、いろいろと面倒な事になります」

カヲル「僕たちはそのための間に合わせというわけか…」

葛城「…気を悪くされましたか…?」

カヲル「いいよ。……他ならぬ君の頼みだ」

葛城「…ありがとうございます」
616 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:13:02.53 ID:3d5dCKQ9o
暗闇で膝を抱えるシンジ


シンジ「暗いとこは、まだ駄目だな…いやな事ばかり思い出す…」






カヲル「……彼は?」

男「例の調査団ただ一人の生き残りです。名は、碇シンジ」

カヲル「碇?碇博士のご子息か…!」

男「はい、もう2年近くも口を開いていません」

カヲル「なんて…むごい…」

男「ええ…それだけの地獄を見たのです。体の傷は治っても、心の傷はそう簡単には治りませんよ」

カヲル「……」

カヲル「……あとは本人の生きる意思の問題か…」


カヲル「…こちらの調査結果も、簡単には出せそうにないな。この光の巨人…謎だらけだよ」
617 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:14:05.03 ID:3d5dCKQ9o
カヲル「その後国連は、セカンドインパクトは大質量隕石の落下によるものと正式発表した」

カヲル「だが、僕の目から見れば、それは…あからさまに情報操作をされたものだった」

カヲル「その裏にはゼーレ、そして、キール議長の姿が見え隠れしていた」

カヲル「疑いたくなかった。葛城君を。彼の背中は、僕が押したのだから…」

カヲル「だが衝動は抑えきれず…」

カヲル「僕は、あの事件の闇の真相を探った」
618 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:15:01.37 ID:3d5dCKQ9o
カヲル「なぜ巨人の存在を隠すんだい?…セカンドインパクトを知っていたんじゃないのか、君らは。その日、あれが起こる事を…!」

葛城「……」

カヲル「君は運良く事件の前日に引き揚げた……では、全ての資料を一緒に引き揚げたのも、幸運の内かい?」

葛城「……」

カヲル「…君の資産、いろいろと調べさせてもらったよ。子供の養育にお金はかかるだろうが、個人で持つには額が多すぎる」

葛城「……」

カヲル「……何か言ってくれ…!このままでは…セカンドインパクトの裏に潜む、君たちゼーレと、死海文書を公表することになる。あれを起こした人間たちを、許すわけにはいかない」

葛城「……お怒りはごもっともです。ですが…お別れの前に、お目にかけたいものがあります」
619 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:16:02.51 ID:3d5dCKQ9o
カヲル「随分潜るんだね…」

葛城「心配ですか?」

カヲル「得体が知れないからね」



カヲル「これは…!」

葛城「われわれではない、誰かが残した空間です。89%は埋まっていますが…」

カヲル「もとはきれいな球状の地底空間か…」

葛城「…あれが、人類がもてる全てを費やしている施設です」



ナオコ「あら、渚先生」

カヲル「赤木君……君もなのか」

ナオコ「ええ、ここは目指すべき生体コンピュータの基礎理論を模索する、ベストな所ですのよ」

カヲル「これは…」

ナオコ「MAGIと名づけるつもりですわ」

カヲル「MAGI?東方より来たりし三賢者か…見せたいものというのは、これかい?」

ナオコ「いいえ、こちらです」
620 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:17:01.87 ID:3d5dCKQ9o
カヲル「これは…まさか、あの巨人を…!?」

ナオコ「あの物体をわれわれゲヒルンではアダムと呼んでいます。が、これは違います。オリジナルのものではありません」

カヲル「では…」

ナオコ「そうです。アダムより人の造りしもの、エヴァです」

カヲル「エヴァ…!」

葛城「われわれのアダム再生計画、通称E計画の雛形たる、エヴァ零号機です」

カヲル「神のプロトタイプか…!」

葛城「…先生、力を貸していただけませんか。…人類の、新たな歴史のために」

カヲル「……」
621 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:18:02.95 ID:3d5dCKQ9o
レイ「……」

ヒカリ「綾波さん?」

レイ「あぁ、ごめんなさい、リツコちゃんの再テスト、急ぎましょう」

ヒカリ「今日……碇くん、見かけないわね」

レイ「…そうね」





レイ「碇くん?」

シンジ「うん。碇シンジっていうんだ…よろしく」

(手紙)

レイ「先生、先日碇くんと言う子と知り合いました」

レイ「他の人たちは私を遠巻きに見るだけで、その都度先生の名前の重さを思い知らされるのですが、なぜか彼だけは私に対しても屈託がありません」

レイ「彼は例の調査隊ただ一人の生き残りと聞きました。一時失語症になっていたそうです。そのせいか…今も言葉少なですが、どこか優しさを感じます。彼の一挙一動から、心の内側が暖かくなるような、何かを…。これがロジックじゃないということでしょうか?」

ナオコ「レイちゃん、あなたにもとうとう春がきたんですね。こっちは相変わらず、地下に潜りっぱなしの男日照りです。支給のお弁当にも飽きました」

ナオコ「上では第二遷都計画による第三新東京市の計画に着工したようです」
622 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:19:01.95 ID:3d5dCKQ9o
レイ「このところ碇くんが大学に来ないので、理由を問い詰めたら、呆れてしまいました。ずっと彼女とアパートで寝ていたそうです」

レイ「飽きもせず、一週間もだらだらと。彼の意外な一面を知った感じです」

レイ「今日紹介されました。可愛い子ですが、気性が荒く、私はどうも好きになれません」



ナオコ「恋に嫉妬…、順調ね。勉強以外でもあなたの成長が見られて嬉しく思います。たくさん悩んでください。大丈夫、あなたは気づいてないでしょうけど、周りの男の子はみんなあなたを気にしています。あなたがその気になれば、きっと碇くんをあなただけのものにすることもできるはず…」

ナオコ「…駄目ね、恋愛観を押し付けるのは。あなたの思う通りにやってみてください。決して後悔のないように。あなたのことを娘のように思っています。いつでも相談してください」


ナオコ「……」


ナオコ「…娘か…」


机の上、碇調査隊の写真
623 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:20:01.77 ID:3d5dCKQ9o
電話中の葛城

葛城「ああ、分かった……手続きは明日、お互いの弁護士を通してやろう」

葛城「ああ……それじゃあ」

カヲル「……」

カヲル「…これで良かったのかい」

葛城「彼女が決めたことです…自分はそばにいてやれなかった」

カヲル「しかし…」

葛城「…先生、幸せの道ですよ。彼女の道は、きっとまたどこかに続いている…」

カヲル「………」





レイ「先生、MAGIの基礎理論、完成おめでとうございます。そのお祝いと言うわけでもないのですが、私のゲヒルンへの正式入所が内定しました」

レイ「来月から、E計画勤務となります」

ナオコ「レイちゃん、おめでとう。これであなたも一人前ですね。優秀な助手を持てて嬉しく思います」

ナオコ「私もあなたに伝えたいことがあるのだけど…それは研究所で。きっと驚きますよ」
624 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:21:05.28 ID:3d5dCKQ9o
零号機、機動実験日

オペレータ「L.C.L.変化、圧力、プラス0.2」

オペレータ「送信部にデストルドー反応無し」

オペレータ「疑似回路、安定しています」



カヲル「なぜ、実験に零号機を?」

ナオコ「そのことですが、われわれは考えを改めました。初号機だけでは使徒には勝てない…」

カヲル「それは…」

ナオコ「使徒との戦闘は必ず厳しいものになります。そのためには…この子にも動いてもらわないと」

傍らの子どもを見つめるナオコ

ナオコの視線を追うカヲル


カヲル「……その子は…?」

レイ「赤木先生のお子さんです」
625 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:22:01.55 ID:3d5dCKQ9o
カヲル「赤木君の…?」

ナオコ「リツコといいますのよ」

ナオコ「ほら、リッちゃん。ご挨拶して?」

リツコ「…こんにちは」

カヲル「こんにちは」


カヲル「…どういうことだい?君は独身のはずでは?」

ナオコ「あら。今時分、父親がいないことなんてそう珍しくはないでしょう?」

カヲル「それは…そうだが、今日は…」

ナオコ「大丈夫です。ちゃんと言って聞かせますから。ねっ?リッちゃん」

リツコ「はい」

カヲル「赤木君……君の実験なんだよ?」

ナオコ「だからこそですよ。この子には明るい未来を見せておきたいんです」

レイ「先生…」
626 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:23:01.90 ID:3d5dCKQ9o
ナオコ「レイちゃん…葛城所長に、渚先生も」

ナオコ「…私に、もしものことがあったときは…その時は娘を頼みます」

リツコ「ママ…」

ナオコ「大丈夫よ。…必ず帰ってくるから」





レイ「それが先生の最後の言葉でした。イレギュラーな事件は、先生をこの世から消し去ってしまった…」

レイ「先生の右腕となって、先生を支える…」

レイ「そんな願いとは裏腹に。私だけではない…いったい誰が組織の頭脳を失うことを望んだでしょうか。ゲヒルンは一時騒然としました」

レイ「ただ…葛城所長だけは、平静を保っているように見えました」
627 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:24:01.56 ID:3d5dCKQ9o
内線「所長、弁護士の方からお電話ですが。お繋ぎしますか」

葛城「繋いでくれ」

葛城「……」

葛城「…!」





レイ「何をおっしゃっているんですか…!先の事件で先生を失ったばかりなのに…、あまりに危険すぎます!」

葛城「時間がないんだ、どいてくれ…!」

レイ「あっ…!…渚教授、教授からも言ってください!」

カヲル「……」

レイ「教授!」
628 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:25:07.06 ID:3d5dCKQ9o
葛城「本当にいいんだな?」

妻「いいわ…あの子といられるなら…」

葛城「……」

妻「それに…今度は、あなたの仕事場だもの…」

妻「きっともう、寂しくない…」

葛城「…!」

葛城「すまない…」




レイ「そして…「無事に」事件を起こすことに成功した葛城所長は、姿を消した」
629 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:26:03.35 ID:3d5dCKQ9o
カヲル「…ずいぶんと長かったじゃないか。赤木君もいない、所長の君もいないでは、ここは回らないよ」

葛城「…分かっている」

カヲル「…それで?話はつけてきたのかい」

葛城「ああ…今日から新たな計画を推奨する」

カヲル「始めるのか…あれを」

葛城「連中はもう止まらない。我々も止まるつもりはない…」

カヲル「…かつて誰もが為し得なかった神への道」

カヲル「人類補完計画か…」
630 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:27:01.79 ID:3d5dCKQ9o
ゲヒルン本部

レイ「おはようございます」

リツコ「おはようございます」

葛城「ああ、おはよう」

レイ「所長…今日は面会の日では?」

葛城「いいんだ…私に会う資格はない」

葛城「……リツコ。調子はどうだ?」

リツコ「…げんき、です…」

葛城「そうか…」

レイ「………」




カヲル「赤木リツコに関する全ファイルが、抹消済み?どういう事だ…」

レイ「その件については、私からお話しします」
631 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:28:09.64 ID:3d5dCKQ9o

(ナオコ「MAGI-CASPER、MAGI-BALTHASAR、MAGI-MELCHIOR。MAGIは三人の私。科学者としての私、母親としての私、女としての私」)


レイ「その3つがせめぎあっている…」

レイ「3人の先生か…。後は電源を入れるだけね」



レイ「あら…リツコちゃん、どうしたの?」

リツコ「…ママは迷子なの…?」

レイ「……!」

リツコ「どこにもいないの…ママはどこへ行ったの」

レイ「……リツコちゃん。私も、ずっと前にママがいなくなって…ママを探してたの」


リツコ「…あやなみ博士も?」

レイ「そう。ママは見つからなかったけど…赤木先生…あなたのお母さんと出会えたわ。私のママの代わりになってくれたのよ」

リツコ「ママが…?」
632 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:29:02.61 ID:3d5dCKQ9o
レイ「そうよ。リツコちゃん、あなたのママは本当に素晴らしい人だったの…姿は見えなくても、今もこの場所を支えてる。科学の礎となって、隅々にまで存在しているのよ」

リツコ「……いるのに、会えないの」

レイ「リツコちゃん…。今はまだ分からないかもしれないけど、必ずお母さんの存在を感じるときがくるわ…」

レイ「……それまで、私がママの代わりじゃ、ダメかな…?」

リツコ「……」

リツコ「…いい。……ママは、ママひとりだから」

リツコ「会えるまで…まつ」

レイ「そう……」

レイ「そうね……先生は、ひとりよね…」

リツコ「……」
633 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:30:02.63 ID:3d5dCKQ9o
リツコ「泣いてるの…?」

レイ「え……?」

リツコ「……だいじょうぶ、だいじょうぶ」

レイの手を撫でるリツコ

レイ「リツコちゃん…」

リツコ「泣いてるとき、ママがこうしてくれると、悲しくなくなるのよ」

(ナオコ「大丈夫よ、あなたなら…」)

レイ「リツコちゃん…!」

リツコ「だいじょうぶ…だいじょうぶ、」

レイ「うっ…う、う…っ」

リツコ「…だいじょうぶ」



カヲル「……」
634 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:31:03.75 ID:3d5dCKQ9o
カヲル「キールローレンツを議長とする人類補完委員会は、調査組織であるゲヒルンを即日解体。全計画の遂行組織として特務機関ネルフを結成した」

カヲル「そしてわれわれは、そのまま籍をネルフへと移した。二人の女性の魂を宿した、エヴァ零号機、初号機と共に…」





監禁を解かれるカヲル

カヲル「君か…」

アスカ「ご無沙汰ね。少し痩せたんじゃない?」

カヲル「…さすがに老体には堪えるよ」

アスカ「外の見張りには、眠ってもらってるから。逃げるんなら今よ」

カヲル「分からないな……僕を拐っておいて、また助けるのかい」

アスカ「こっちにも色々と都合があんのよ。どうやらゼーレや委員会より、ネルフのほうが真実に近いみたいだし」

アスカ「私はそれが知りたいだけよ」

カヲル「真実か…しかし、この行動は君の…」

アスカ「もとより、覚悟の上よ」
635 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:32:02.03 ID:3d5dCKQ9o
諜報部員「ご協力、ありがとうございました」

シンジ「……もういいの?」

諜報部員「はい、問題は解決しましたから」

シンジ「そう…」

シンジ「……彼女は?」

諜報部員「存じません」
636 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:33:01.23 ID:3d5dCKQ9o
諜報部員「ご協力、ありがとうございました」

シンジ「……もういいの?」

諜報部員「はい、問題は解決しましたから」

シンジ「そう…」

シンジ「……彼女は?」

諜報部員「存じません」






アスカ「遅かったじゃないの。…さっさと済ませなさいよ」


響く銃声
637 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:34:01.83 ID:3d5dCKQ9o
シンジ「ただいま…」

ミサト「……」

シンジ「……!」


留守電の再生音


アスカ「…シンジ?あたしよ。あんたがこれを聞いてるときは…ずいぶん迷惑かけた後でしょうね。まぁ、あんたのことだから、自分より私の心配してるんでしょうけど」


アスカ「大丈夫よ、後悔はしてないわ…自分のためにやったことだもの。だから…シンジ、あんたもうじうじしてんしゃないわよ?」
638 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:35:03.44 ID:3d5dCKQ9o
アスカ「あんたが胸張らないから…あたしが叱らなきゃいけないんじゃない」

アスカ「次会うときくらい、優しくさせなさいよね」

アスカ「……」

アスカ「信じてるって言ってくれて…嬉しかった。…それじゃあ」


電話「午後、0時、2分、です」

シンジ「………うっ」

シンジ「うっ、く……アスカ…!どうして…」

ミサト「……」



ミサト「その時私は、シンジさんから逃げる事しかできなかった。他には何もできない、大人になったつもりでいても…大切な人を支えることもできない、子どもなんだと…私は分かった」



弐拾壱話分終わり
639 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:41:01.80 ID:3d5dCKQ9o
「兄ちゃん!」


「任せろ…ここで待ってろ」


「言え!コソ泥め」



「……坊主。仲間の居場所を言え。そうすれば…」




「加地リョウジくん、ですね?」



「605号室の患者。あなた知らないの?」

「…お兄さんがよくお見舞いに来られてますよね。それが?」

「もう長くはないでしょう……衰弱しきってる」




「……おれのせいだ」
640 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:42:01.94 ID:3d5dCKQ9o
「民間から?信用できるのかね」

「ですがコアとのシンクロ率は基準値を上回っています」

「…連中か。まったく得体の知れない…」

「気味が悪いよ」


「無理はしてないかな?君の心のケアも私の仕事の内だ」

「必要ない。必要のあるやつはみんな死んだ…」

「俺は生きるんだ 俺が殺した分も…」



「我々も誇らしいよ」

(「お前すげぇな」)

「頑張ってね」

(「頼むぞー!」)


「俺が必要なんだ…」

「………」
641 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:43:02.75 ID:3d5dCKQ9o
レイ「聞こえる?加持くん。シンクロ率が低下してるわ。いつも通り、余計な事は考えずに…」

加持「ああ……分かってる」


ヒカリ「シンクロ率8も低下…加持くん、最近調子悪いですね」

レイ「ええ…困ったわね…この余裕のない時に。やはりリツコちゃんの零号機を優先させましょう、今は同時に修理できるだけのゆとりはない」

アナウンス「弐号機左腕のマイトーシス作業は数値目標をクリア」

アナウンス「ネクローシスは、現在0.05%未満」

アナウンス「アポトーシス作業、問題ありません」

アナウンス「零号機の形態形成システムは、現状を維持」

アナウンス「各レセプターを第2シグナルへ接続してください」



シンジ(…あのアダムより生まれし物、エヴァシリーズ…)

シンジ(セカンドインパクトを引き起こした原因たるものまで流用しなければ…僕たちは使徒に勝てない)

シンジ(逆に…生きるためには、自分たちを滅ぼそうとしたものをも利用する)

シンジ「それが人間なんだ……」


トウジ「センセ!」
642 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:44:02.97 ID:3d5dCKQ9o
シンジ「……エヴァ13号機までの建造開始?世界七個所で?」

トウジ「上海経由の情報や。ソースに信頼は置ける」

シンジ「…なぜこの時期に量産を急ぐの?」

トウジ「……エヴァを過去に2機失い、現在は2機も大破…。第2次整備に向けて予備戦力の増強を急いどるんやないか?」

シンジ「どうだろう…ここにしてもドイツで建造中の5・6号機のパーツを廻してもらってるから…。最近、ずいぶんお金が動くね」

トウジ「ここに来て予算倍増やからな。それだけ上も、せっぱ詰まっとる、って事やろ」

シンジ「……委員会も焦ってるんだ…」

トウジ「…ほなら、今までみたいな単独やなく、使徒の複数同時展開のケースを設定した…?」

シンジ「そうかもしれない…でも、非公式に行う理由がないよ。何か別の目的があるんだ…」
643 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:45:05.01 ID:3d5dCKQ9o
シンジ「あ……煮付け、どうだったかな? いやっ、失敗したってわけじゃないけど。今日味見してなくて」

加持「すごく旨かったよ。いつも通り、な?」

ミサト「……うん」

シンジ「…あ、よかった……」


シンジ「……」

電話がなる

ミサト「あ、」

シンジ「あっ、いいよいいよ。僕が出るから」
644 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:46:02.71 ID:3d5dCKQ9o
加持「先輩かな?最近ご無沙汰みたいだし、ここいらで…」

シンジ「……」

ミサト「ごっ、ごちそうさま!あたし、部屋に…」

シンジ「……加持くん」

ミサト「!」

加持「うん?」

シンジ「電話だよ…お母さんから、国際電話」ニコ

ミサト(………ぅ…、)


ミサト(シンジさん……)


加持「はいはい。母さんね…」

加持「(外国語)」
645 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:47:02.69 ID:3d5dCKQ9o
ミサト(…浮いている。加持くんの明るい声だけ…)

ミサト(違う。浮いているのは私。シンジさんも加持くんもいつも通りにしようとしてくれてる。情けないのは私…)

ミサト(私の知っている加持くん、知らない加持くん…)

ミサト(家族と話す彼。…家族? 相手がお母さんなのに)

ミサト「……嬉しくないのね」

加持「ん? 何か言ったか」

ミサト「ううん、電話、終わったの?」

加持「ああ」

ミサト「…お母さん?」

加持「向こうでのね。血は繋がってないが、ずいぶん良くしてもらってる。たまに恋しくなるよ」

ミサト「嘘ばっかり…」

加持「……なんでそう思う?」

ミサト「分かるわよ」

加持「……」
646 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:48:01.73 ID:3d5dCKQ9o
ヒカリ「シンクログラフ、−12.8。起動指数ギリギリです」

レイ「……昨日より更に落ちてる」

シンジ「ごめん、綾波。最近気を遣わせることが多くて…疲れてるんだよ」

レイ「シンクロ率は表層的な身体の不調に左右されない。気のほうでしょうね…問題があるのは。ただしもっと深層の部分…」

レイ「…変更もやむを得ないわ、弐号機のコア…」

レイ「加持くん。上がっていいわよ」
647 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:49:02.24 ID:3d5dCKQ9o
アナウンス「第8動力システムの復旧作業は、本日18:00より再会の予定です」

レイ「酷く傷ついてるみたいね……彼の心」

アナウンス「第1発令所処理問題に関する定例会議は、定刻より行われます」

シンジ「昔のことは…もういいみたいに話してたのに。どうしたんだろう、加持くん…」


レイ「……暴かないことと、治すことは違うわ」


アナウンス「総務担当者は第2会議室にお集まりください」

シンジ「離れたほうがいいんだろうか……彼らにとって負担なら…」


レイ「…あなたもよ」

シンジ「え…?」


レイ「顔色が悪いわ…ここのところずっと」

シンジ「……」

シンジ「……ごめん、もう少し考えてみる」
648 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:50:01.91 ID:3d5dCKQ9o
加持「ウッ……」(吐瀉)

加持「………」


加持「……すまない、みんな…」





エレベーター前。

アナウンス「第7環状ルートは現在事故のため閉鎖中です。迂回ルートは12号線を利用してください」


加持「おっと、」

加持「調子はどうだい?って…俺が聞くことじゃないか」

リツコ「……」

加持「はは…」
649 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:51:02.72 ID:3d5dCKQ9o
リツコ「あなたは悪いみたいね、調子…」

加持「まぁね。スランプってやつかな? 望むところだよ」

リツコ「何か悩みごと」

加持「……なんで、そう思う…」

リツコ「元気がないみたい、あなたも、ミサトも…」


リツコ「エヴァは………いえ」

加持「なんだよ、気になるじゃないか」

リツコ「エヴァには心がある」

加持「何?」

リツコ「心があるから…心を開かなければ、動かないわ」

加持「……馬鹿な。あれは俺たちが動かして…」

リツコ「分かっているはずよ」
650 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:52:01.70 ID:3d5dCKQ9o
加持「………リッちゃん、君は…」

加持「…ウッ」

口許をおさえる加持

リツコ「大丈夫、」

加持「大丈夫、大丈夫だ……すまない、」

加持「……聞こえないんだ。昔は聞こえていた声が…」

加持「自分の声が煩くて…」

リツコ「……」

リツコ「聞こえるはずよ」

加持「……!はは…厳しいな」

リツコ「……」
651 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:53:07.24 ID:3d5dCKQ9o
加持「そんな顔で見ないでくれ……泣きたくなってくる」

リツコ「……、」

リツコ「いけないの」

加持「……ッ」

リツコ「泣いてはいけないの?」


リツコ「あっ、」

リツコに抱きすがる加持。

抱き返そうとするリツコの手が回る前に加持が体を離す

加持「すまない。……また」

閉じるエレベーター

リツコ「………」



加持「ないさ…そんな資格はない」

加持「……」
652 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:54:05.17 ID:3d5dCKQ9o
青葉「葛城、今日も来ないな。赤木はいつもの事として…」

マヤ「それに加持くんも…。日向くんもまだ退院できないみたいだし」

青葉「…学校どころじゃないんだな、今や」




アナウンス「エヴァ弐号機のシグナル、問題なし」

アナウンス「VAの接合および融合は正常。増殖範囲は予定通りです」


加持「さぞ憎んでいるだろう……俺を」

加持(お前のせいで死んだ、お前が殺した)

加持「お前は俺の誇り…生きる意味」

弐号機 (沈黙)

加持「………もう誤魔化しはきかないな」

(沈黙)

ケンスケ「総員、第一種戦闘配置。対空迎撃戦用意!」

加持「…お出ましか」
653 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:55:01.64 ID:3d5dCKQ9o
ケンスケ「使徒を映像で確認、最大望遠です!」

トウジ「衛星軌道から動かん」

ケンスケ「ここからは、一定距離を保っています」

シンジ「ということは、降下接近の機会をうかがっているのか、その必要もなくここを破壊できるのか…」

トウジ「こりゃ迂闊には動けんな」

シンジ「…どの道目標がこちらの射程距離内にまで近づいてくれないと、どうにもならない。エヴァには衛星軌道の敵は、迎撃できない…」

シンジ「リツコちゃんは?」

ヒカリ「零号機共に順調。行けます!」

シンジ「了解、零号機発進、超長距離射撃用意、弐号機、加持くんはバックアップとして…」

加持「待ってくれ」

シンジ「加持くん」

加持「射撃は俺が。」

リツコ「……」

加持「………シンジさん。最後にチャンスをくれ」

シンジ「……分かった…」
654 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:56:04.89 ID:3d5dCKQ9o
トウジ「…ええのか」

レイ「本人がそう言うのなら。…覚悟があるのはありがたいわ」

シンジ「……」

ヒカリ「そんな……これまで、ってことなの…」

レイ「失敗したときは。…弐号機パイロットの変換、考えておかなくてはね」

ヒカリ「…ええ…」

トウジ「初号機は?出さんのか」

シンジ「凍結なんだよ、葛城司令の絶対命令で」

シンジ(…無理ないか、あんな事の後じゃ…)


待機する初号機、ミサト。

ミサト(……加持くん…!)
655 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:57:01.97 ID:3d5dCKQ9o
加持「これで駄目なら、所詮俺はそれまでの男…」

加持「……よくやったさ。もういいだろう」


ケンスケ「目標、未だ射程距離外です」

加持「…………」


加持「来る…!」



天から光線が注ぐ。



加持「……!」



シンジ「これは…!敵の指向性兵器…?」

ケンスケ「いや、熱エネルギー反応無し」

ヒカリ「心理グラフが乱れています、精神汚染が始まります!」

レイ「使徒が心理攻撃…まさか、使徒に人の心が理解できるの…?」
656 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:58:01.96 ID:3d5dCKQ9o
加持「…ッグ!アアアアッ!」


オペレータ「陽電子消滅」

ケンスケ「だめです、射程距離外です!」

ライフルを乱射する弐号機

ケンスケ「弐号機、ライフル残弾ゼロ!」

シンジ「光線の分析は!?」

トウジ「可視波長のエネルギー波!A.T.フィールドに近いが、詳細は不明!」

レイ「加持くんは」

ヒカリ「危険です、精神汚染、Yに突入しました!」
657 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 15:58:57.06 ID:3d5dCKQ9o
加持「っぐ、ぅ…ア……!」


加持「…め、ろ…」

加持「やめろ…ッ」


加持(!)


加持「やめろ!」


加持「駄目だ、そこは…嫌だ!!!」


加持「ぐ…ッ」


加持「…やめろ、それは…!」

加持「暴かないでくれ、」

加持「それだけは」



加持「俺を見るな!!!!」
658 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:00:01.87 ID:3d5dCKQ9o
シンジ「加持くん!!」


ヒカリ「心理グラフ限界!」

レイ「精神回路がズタズタにされている…これ以上の過負荷は危険過ぎる」

シンジ「加持くん!戻って!!」


加持「うっ、う、ウッ……」


シンジ「加持くん!!加持くん!命令だ、撤退して!」


加持「……ォ、ア……」


シンジ「加持くん!!!」
659 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:01:02.09 ID:3d5dCKQ9o
オペレータ「加速器、同調スタート」

オペレータ「電圧上昇中、加圧域へ」

オペレータ「強制収束機、作動」

オペレータ「地球自転および重力誤差、修正0.03」

オペレータ「薬室内、圧力最大」

トウジ「最終安全装置、解除!全て、発射位置!」


リツコ「くっ…!」

弾道は使徒を捕らえるが、A.T.フィールドに阻まれ、分散する
660 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:02:01.96 ID:3d5dCKQ9o
ケンスケ「だめです!この遠距離で、A.T.フィールドを貫くには、エネルギーがまるで足りません!」

トウジ「すでに最大出力や、これ以上はない…!」

ヒカリ「弐号機、心理グラフシグナル微弱!」

レイ「L.C.L.の精神防壁は」

ヒカリ「だめです、触媒の効果もありません!」

レイ「生命維持を最優先、エヴァからの逆流を防いで!」

ヒカリ「はい!」


レイ(…この光は、まるで…加持くんの精神波長を探っているみたい……まさか、使徒は人の心を知ろうとしているの?)
661 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:03:07.21 ID:3d5dCKQ9o
加持(泣いている……)

加持(泣いているのは誰だ?俺か…)

加持(弟か……)



加持「どうしたんだ?男の子だろう…泣いてちゃだめだ」

加持「泣いてたって誰も助けちゃくれない。自分で何とかするんだ。でもお前は…」

加持「俺が守るから。待ってろ。食い物をとってくる」



加持「……どうした?泣いてちゃ分からないだろう…」


加持「はっ」



加持「泣かないんだ。死人は泣かない」


加持「俺が殺した…死ぬはずだった俺が」
662 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:04:02.76 ID:3d5dCKQ9o
加持「俺の…身体だけが大きくなる。仲間たちを置き去りにして」

加持「大きくなりたかったはずだ…その権利があった、」


加持(俺が置いてきた)



加持「……死人じゃない」


加持「これは俺だ…」


膝を抱えている加持。
663 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:05:03.36 ID:3d5dCKQ9o
オペレータ「弐号機、活動停止!生命維持に問題発生!」

ヒカリ「パイロット、危険域に入ります!」

ケンスケ「目標、変化無し、相対距離、依然変わらず!」

トウジ「零号機の射程距離内に移動する可能性は、0.02%」

シンジ(零号機を空輸、空中から狙撃するか…?いいや駄目だ、接近中に撃たれたら、おしまいだ…)

ミサト「……!」

ミサト「私が初号機で出ます!」

カヲル「いけない、目標はパイロットの精神を侵蝕するタイプだ」

葛城「今、初号機を侵蝕される事態は、避けねばならない」

ミサト「やられません!」

葛城「確証がない」

ミサト「でも、このままじゃ加持くんが!」
664 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:06:04.55 ID:3d5dCKQ9o
葛城「……」

葛城「構わん。リツコ、ドグマを降りて、槍を使え」

カヲル「ロンギヌスの槍を…?葛城君、それは…」

葛城「A.T.フィールドの届かぬ衛星軌道の目標を倒すには、それしかない。急げ!」

シンジ「しかし!アダムとエヴァの接触は、サードインパクトを引き起こす可能性があります!あまりに危険です、葛城司令、やめてください!」

葛城「……」

シンジ「……!」

シンジ(なぜ…危険はないのか…?セカンドインパクトは使徒の接触が原因ではない…?)


アナウンス「セントラルドグマ10番から15番までを開放、第6マルボルジェ、零号機、通過。続いて、16番から20番、開放」


シンジ(嘘…欺瞞だったんだ。そんな事でサードインパクトは起こらない……だったら、セカンドインパクトの原因は…?)
665 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:07:02.79 ID:3d5dCKQ9o
カヲル「…早計なんじゃないかい」

葛城「抵抗手段はひとつではない」

カヲル「しかし…」

葛城「…渚。時計の針は止まってはくれないんだ」

カヲル「……」

葛城「今セカンドを失うわけにはいかない」

カヲル「老人たちが黙っていないよ」

葛城「ゼーレが動く前にすべて済ませる」

カヲル「かと言って、ロンギヌスの槍をゼーレの許可なく使うのは面倒だ」

葛城「理由が存在すればいい」


カヲル「…そううまく丸めこまれてくれるかな」


槍を引き抜く零号機

リツコ「……」
666 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:08:01.77 ID:3d5dCKQ9o
トウジ「弐号機のパイロットの脳波、0.06に低下!」

ヒカリ「生命維持、限界点です!」

ケンスケ「零号機、二番を通過、地上に出ます!」


シンジ「……!」

シンジ「あれが、ロンギヌスの槍…!」

ケンスケ「零号機、投擲体制!」

トウジ「目標確認、誤差修正よし」

ヒカリ「カウントダウン入ります、10秒前、8、7、6、5、4、3、2、1、0!」


リツコ「…、……っ!」

投擲。
667 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:09:03.01 ID:3d5dCKQ9o
ケンスケ「目標、消滅!」

ヒカリ「エヴァ弐号機、開放されます」

カヲル「ロンギヌスの槍は…」

トウジ「第一宇宙速度を突破、現在、月軌道に移行中」

カヲル「回収は不可能に近いな…」

トウジ「…今のところは。あの質量を持って帰る手段はない」





ヒカリ「弐号機健在、グラフ正常位置」

ケンスケ「機体回収は、2番ケイジへ」

オペレータ「第67番ルートを使用してください」


シンジ「加持くんは?」

トウジ「パイロットの生存は確認。汚染による防疫隔離は解除されとる」

シンジ「……そう」
668 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:10:02.42 ID:3d5dCKQ9o
回収される弐号機

加持「………」


ミサト「良かった、加持くん。本当に…」

加持「……ああ…」

ミサト「…加持くん…?」


加持「悪い。少し…休ませてくれ」


ミサト「……」





加持「…これは俺だ」

加持「死人じゃない……」



弐拾弐話分終わり
669 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:11:01.71 ID:3d5dCKQ9o
アスカ「…シンジ?あたしよ。あんたがこれを聞いてるときは…ずいぶん迷惑かけた後でしょうね。まぁ、あんたのことだから、自分より私の心配してるんでしょうけど」

アスカ「大丈夫よ、後悔はしてないわ…自分のためにやったことだもの。だから…シンジ、あんたもうじうじしてんしゃないわよ?」

アスカ「あんたが胸張らないから…あたしが叱らなきゃいけないんじゃない」

アスカ「次会うときくらい、優しくさせなさいよね」

アスカ「……」

アスカ「信じてるって言ってくれて…嬉しかった。…それじゃあ」




シンジ「…鳴らない電話、か…」




ミサト(シンジさん、今日も部屋から出てこない…)

ミサト(……加持くんも…)

ミサト「…今日も帰らない気かしら…」
670 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:12:02.30 ID:3d5dCKQ9o
加持(学校にも行かず、家にも帰らず、ずっと…)


「んっ………ねーえ、」

「うん?」

「寝よっか?」

「…お望みとあらば」

「ふふっ」

携帯のバイブ音

「ごめんね…私、邪魔かな?」

「そんなことないさ。こうやって俺を置いてくれてる」

「…それだけ?」

「どうかな…」

「…あっ…」


加持(……ここに俺はいない)

加持(いるのは誰でもいい、誰か…)
671 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:13:02.11 ID:3d5dCKQ9o
(通話)

レイ「そう…いなくなったの、あの子…」

レイ「そうね……猫ってそういうところ、あるもの…」

レイ「でもまだ分からないじゃない。いつもの場所は探したの?…うん、うん…」

レイ「分かったわ…時間ができたら一度帰るから…。それじゃ、また」



レイ「……そう、あの子が…」

レイ(…嫌な予感がする…)
672 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:14:01.93 ID:3d5dCKQ9o
ゼーレ「ロンギヌスの槍……回収はわれらの手では不可能だよ」

ゼーレ「なぜ使用した」

ゼーレ「エヴァシリーズ。まだ予定には揃っていないのだぞ」

葛城「使徒殲滅を優先させました。やむを得ない事情です」

ゼーレ「やむを得ないか。言い訳にはもっと説得力を持たせたまえ」

ゼーレ「最近の君の行動には、目に余るものがあるな」


葛城「…渚、審議中だぞ」

葛城「……分かった」

葛城「使徒が現在接近中です。続きはまた後ほど」


ゼーレ「その時君の席が残っていたらな」

キール「葛城、ゼーレを裏切る気か?」
673 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:15:02.64 ID:3d5dCKQ9o
車を走らせるシンジ

シンジ「後15分でそっちに着く。零号機を32番から地上に射出、弐号機はバックアップに廻して」

シンジ「そう……初号機は葛城司令の指示に。僕の権限じゃ凍結解除はできない」

シンジ「……!」

シンジ「使徒を肉眼で確認、か…」



オペレータ「零号機発進、迎撃位置へ!」

トウジ「弐号機は現在位置で待機!」

葛城「いや…発進だ」

トウジ「司令…!」

葛城「必要があるときにいなかったでは遅い。発進だ」

トウジ「…了解」
674 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:16:02.01 ID:3d5dCKQ9o
オペレータ「エヴァ弐号機、発進準備!」


加持(また乗っている…どうして?)

加持(誇りであるはずのエヴァ。自分であるはずの身体…)


ヒカリ「弐号機、第8ゲートへ。出現位置決定次第、発進せよ」


加持(発進…なんのため?)


ケンスケ「目標接近、強羅絶対防衛線を通過」


加持(俺のため…人類のためか どっちだったか…)

加持(……)
675 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:17:01.81 ID:3d5dCKQ9o
ケンスケ「目標は、大涌谷上空にて滞空。定点回転を続けています」

トウジ「目標のA.T.フィールドは依然健在」


レイ「遅いわ」

シンジ「ごめん、状況は!」

ケンスケ「膠着状態が続いています」

トウジ「パターン青からオレンジへ、周期的に変化しとる!」

シンジ「どういう事…!」

ヒカリ「MAGIは回答不能を提示しています!」

ケンスケ「答えを導くには、データ不足か」

レイ「ただあの形が固定形態でない事は確かだわ」

シンジ「先に手は出せないか…」
676 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:18:01.65 ID:3d5dCKQ9o
シンジ「リツコちゃん、しばらく様子を見よう」

リツコ「…いえ、来る……!」


変形する使徒


シンジ「リツコちゃん!応戦して!」

トウジ「間に合わん…!」

応戦する零号機。

ライフルを撃ち込むが、効かない

リツコ「……!」

ケンスケ「目標、零号機と物理的接触!」

シンジ「零号機のA.T.フィールドは?!」

ヒカリ「展開中、しかし、使徒に侵蝕されています!」

レイ「使徒が積極的に一次的接触を試みているの?零号機と…!」


リツコ「……っ、う……っ!」
677 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:19:02.11 ID:3d5dCKQ9o
ヒカリ「危険です!零号機の生体部品が侵されて行きます!」

シンジ「エヴァ弐号機、発進、リツコちゃんの救出と援護を!」

ヒカリ「目標、さらに侵蝕!」

レイ「危険よ…!すでに5%以上が生体融合されている」



シンジ「加持くん!後300接近したらA.T.フィールド最大で、パレットガンを目標後部に撃ち込んで!」

シンジ「エヴァ弐号機、リフトオフ!」


シンジ「…加持くん…!どうしたの、加持くんは…?!」

ヒカリ「だめです、シンクロ率が二桁を切ってます!」

シンジ「まずい…!」



加持「動かない…」


加持「死体だ。死体は俺……」




シンジ「駄目だ!このままじゃ餌食にされる」

シンジ「戻して!早く!」
678 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:20:04.42 ID:3d5dCKQ9o
リツコ「誰…?」

リツコ「私。エヴァの中の私」

リツコ「いいえ、あなたは私じゃない…」

リツコ「あなたは誰?…使徒?私たちが使徒と呼んでいるヒト…?」

使徒「私を抱いて。私とひとつにならない?」

リツコ「嫌よ。あなたとは繋がりたくない」

使徒「そう。でもだめ、もう遅いわ」

使徒「あなたを抱いてあげる。抱き返してあげる…私の心を分けてあげるわ」

使徒「温かいでしょう、ほら、心がポカポカする…」

リツコ「温かい…?違うわ、寂しいのね」

使徒「サビシイ?分からないわ」

リツコ「寂しいから隙間を埋めようとするの」

リツコ「隙間が埋まったら、心も埋まった気がするから…」

リツコ「それを、寂しい、というのよ」

使徒「それはあなたの心よ。悲しみに満ち満ちている。あなた自身の心よ」
679 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:21:03.49 ID:3d5dCKQ9o
リツコ「私の心…?」

リツコ「……あ、」

リツコ「泣いているのは、私…」


変容し膨れ上がる零号機


シンジ「リツコちゃんっ!」




葛城「…初号機の凍結を現時刻をもって解除、直ちに出撃させろ」

シンジ「え…」

葛城「出撃だ」

シンジ「…はい!」




加持「……声なんてない」

加持「…死人は口を利かないんだ…」
680 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:22:01.89 ID:3d5dCKQ9o
シンジ「A.T.フィールド展開、リツコちゃんの救出急いで!」


ミサト「はい!」



リツコ「…ミサト…!」


シンジ「ミサトちゃんっ!!」

使徒が初号機を襲う

シンジ「プログナイフで応戦してっ!」

ミサト「はっ!」

悲鳴を上げる使徒

リツコ「これは、私の心…!」

リツコ「ミサトを…?」

リツコ「だめ…っ!」
681 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:23:02.41 ID:3d5dCKQ9o
ヒカリ「A.T.フィールド反転、一気に侵蝕されます!」

レイ「まさか、使徒を……!」

シンジ「駄目だリツコちゃんっ!機体は捨てて、逃げて!」

リツコ「いいえ……私がいなくなったらA.T.フィールドが消えてしまう…!」

レイ「……!」

シンジ「リツコちゃん!!」

ヒカリ「コアが潰れます、臨界突破!」



リツコ「!」

走馬灯。人々の温かな笑顔
682 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:24:01.53 ID:3d5dCKQ9o
光の輪を宿す零号機

消滅。辺りが光に包まれる


ミサト「……、…」



ケンスケ「目標、消失…」

シンジ「……現時刻をもって、作戦を…終了します。第一種警戒態勢へ移行」

トウジ「了解、状況イエローへ、速やかに移行」

シンジ「零号機は……?」

ヒカリ「エントリープラグの射出は、確認されていません…」

シンジ「…生存者の確認と救出、急いで」

レイ「……」
683 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:25:03.02 ID:3d5dCKQ9o
男「綾波博士…」

男「レベルCの…は、南西方向に広がっています」

レイ「…この事は極秘とします。プラグは回収、関係部品は処分してください」

男「了解」

男「作業、急げ!」

レイ「……」
684 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:26:01.60 ID:3d5dCKQ9o
ゼーレ「ついに第16の使徒までを倒した」

ゼーレ「これで、ゼーレの死海文書に記載されている使徒は、後一つ」

キール「約束の時は近い。その道のりは長く、犠牲も大きかったな」

ゼーレ「左様。ロンギヌスの槍に続き、エヴァ零号機の損失」

ゼーレ「葛城の解任には十分すぎる理由だな」

ゼーレ「渚を無事に返した意味の分からぬ男でもあるまい」

ゼーレ「新たな人柱が必要ですな、葛城に対する」

キール「そして事実を知るものが必要だ」




レイ「……」

机の上。ゲヒルン時代の写真
685 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:27:01.31 ID:3d5dCKQ9o
シンジ「ミサトちゃん、入るよ…」


ミサト「……シンジさん。涙、出ないんです……どうしてだろう とても悲しいのに…」


ミサト「…もう嫌、もう忘れたい…シンジさん」

ミサト「忘れさせて…」


シンジの手に自分の手を重ね、身体を預けるミサト

シンジ「っ、」


シンジ「……ミサトちゃん…!」

ミサトの肩を押し身体を離すシンジ

シンジ「ミサトちゃん…自分を捨てちゃ駄目だ」

シンジ「…僕には何もできないよ。ごめん……」


ミサト「……」
686 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:28:06.68 ID:3d5dCKQ9o
ミサト(アスカさんのことがあるから?違うわね。私がいけないんだわ…)

ミサト「ペンペン、おいで…」

ペンペン「……」

ミサト「……最低だ、私って…」






ネルフ地下、3号分室

散乱した書物。倒された机


カヲル「……綾波博士か…」

カヲル「…愛する者を失った今…彼女の心は深い絶望の底だろう」

葛城「……」

カヲル「……話してはやらないのかい」

葛城「彼女が望んだのは…ここで生きた赤木リツコの未来だ」

カヲル「……」

カヲル「希望の依り代とはならないか…」
687 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:29:05.79 ID:3d5dCKQ9o
シンジ「はい…もしもし………えっ…!」

シンジ「ミサトちゃん!」



アナウンス「第一内科のウガイ先生、ウガイ先生、至急、第二会議室へご連絡ください」




ミサト「リツコ!」

リツコ「……」
688 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:30:01.74 ID:3d5dCKQ9o
ミサト「ばか、バカァ!心配したじゃないのよ…!」

ミサト「良かった。本当に良かった…」ギュ

リツコ「……」

ミサト「…あ、ごめん…まだ体キツいわよね」

リツコ「……」

ミサト「他は誰も来てないの?薄情ねえ みんな忙しいのかしら…」

リツコ「……」

ミサト「……まだ、ちゃんとお礼言ってなかったわね」

ミサト「ありがとう、助けてくれて」

リツコ「…何が」

ミサト「……何が、って…零号機を捨ててまで助けてくれたじゃない」

リツコ「私が?」

ミサト「そうよ!……覚えてないの…?」

リツコ「…いいえ、知らないの」

リツコ「多分私は二人目だと思うから」
689 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:31:03.33 ID:3d5dCKQ9o
リツコの部屋。

リツコ「……」

眼鏡を手に取るリツコ

リツコ「これが、涙…?初めて見たはずなのに、初めてじゃないような気がする。私、泣いてるの?…なぜ、泣いてるの…?」





葛城「そうだ、ファーストチルドレンは現状維持だ。新たな拘束の必要はない。セカンド、サードに関しても同様だ。監視だけでいい」

カヲル「赤木リツコが生きていると分かれば、議長らが黙っていないだろうね」

葛城「………」


カヲル「それで……彼女を代わりにか。つくづく君は…敵を作る」

カヲル「だが恨んではくれないだろうね」

葛城「……」
690 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:32:01.80 ID:3d5dCKQ9o
キール「われわれも穏便に事は進めたい。君にこれ以上の陵辱、辛い思いはさせたくないのだ」

レイ「私は何の屈辱も感じていません」

ゼーレ「気の強い女性だ。葛城がそばに置きたがるのも分かる」

ゼーレ「聞けば…君は自ら名乗り出たそうじゃないか。代理人として」

ゼーレ「零号機パイロットの尋問を拒否…では、君なら応えてくれるのかね?」


レイ「私で……代わりになるのなら」
691 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:33:01.70 ID:3d5dCKQ9o
アスカ「あんたが欲しがっていた真実の一部よ」


アスカ「他に36の手段を講じてあんたに送ってるけど、そっちはたぶん駄目ね」

アスカ「確実なのはこのカプセルだけ」

アスカ「これは私のすべてよ。あんたに託す。好きにしなさい」

アスカ「パスコードは私たちの最初の思い出」

アスカ「それじゃ、しっかりやんなさいよ」




シンジ「鳴らない電話を待つのはもうやめだ…」

シンジ「アスカの心は無駄にしない…」
692 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:34:02.25 ID:3d5dCKQ9o
ゼーレ「良いのか?綾波博士の処置」

ゼーレ「渚とは違う。彼女は返した方が得策だ」

ゼーレ「さよう…まだ利用価値はある」

ゼーレ「いま少し役に立ってもらうか。われわれ人類の未来のために…」

ゼーレ「エヴァンゲリオン、すでに八体まで用意されつつある」

ゼーレ「残るは後四体か」

キール「第3新東京市の消滅は、計画を進める良き材料になる」

キール「完成を急がせろ」

キール「約束の時は、その日となる」
693 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:35:01.68 ID:3d5dCKQ9o
ミサト「はい、もしもし」

レイ「そのまま聞いて。あなたのガードを解いたわ。今なら外に出られる」

ミサト「レイさん……」




ターミナルドグマ入り口。カードキーを差し込むレイ

レイ「……、…!」

シンジ「無駄だよ。僕のパスがないと」

レイ「……そう…アスカの仕業ね」

シンジ「綾波博士。…ここの秘密、見せてもらうよ」

レイ「…いいわ。ただしこの子も一緒に…」

ミサト「……」

シンジ「…分かった」
694 : ◆gcWj88zLkc [sage saga]:2020/12/06(日) 16:36:02.24 ID:3d5dCKQ9o
ミサト「……まるでリツコの部屋…」

レイ「…彼女の部屋よ。生まれ育ったところ」

ミサト「ここが?」

レイ「そうよ、一人目のね」

ミサト「…、……!」


レイ「リツコちゃんの深層心理を構成する光と水は、ここのイメージが強く残っていたのでしょうね…」

シンジ「何を……!言ってるんだ、綾波…!目的の場所はここじゃない!」

レイ「…分かっているわ」
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