P「あいつらに会いたい」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

107 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 20:26:36.61 ID:WLf+yO4T0
 「では、次回も杏ちゃんを起用する方向で話を進めたいと思います。
  日程は決まり次第、追って連絡します」

P「はい、よろしくお願いします」

 「そういえば最近の杏ちゃん、らしくないですけどなにかあったんですか」

P「らしくない?」

 「なんていうか、仕事熱心というか」

P「……仕事熱心が、らしくない?」

 「ああ、いえ、すみません。
  決してCGプロさんのアイドルを乏しているわけではありませんよ。
  ただ、杏ちゃんはそういうタイプではなかったでしょ」

 「手を抜けるところは抜いて、おさえるべきところはしっかりおさえる。
  いかに自分を動かさないようにまわりを上手く転がしていたじゃないですか」

 「まだ17歳であんな処世術を覚えるなんてむしろ感心してしまいますよ。
  業界内にもファンが多いんですよ。できるサラリーマンの手本みたいだって」

P(……)



…………………
………………
…………
……
108 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 20:27:22.51 ID:WLf+yO4T0
P(どういうことだ……)

P(俺の知る杏は何事にも真摯に精力的に取り組む、それこそ仕事熱心な女の子)

P(だが、それとまるでかけ離れた人物像……、
  どちらが本当の杏なのか、今の俺にその判断が下せない)

P(知らないことが多すぎる。俺は杏のなにを知っている?)

P(俺はまだ杏の表層、それも一部分しか知らない。
  心の機敏を、僅かな違和感を察することなんてとてもできない)

P(彼女たちをプロデュースするようになってふた月と少し。
  彼女たちと真剣に向き合うようになったのはつい先日のこと)

P(今まで杏たちを知る機会はあっても、自らそれを放棄してきた。
  今更後悔したって遅すぎる)

P(これが春香たちのことだったら目敏く気付けたんだろうけどな……)
109 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 20:28:37.47 ID:WLf+yO4T0
まゆ「どうしました、プロデューサーさん。浮かない顔して」

P「え……」

まゆ「なにかお困りですか。まゆでよければお話しください。
   必ず貴方の力になれるわ。だからどうか、一人で抱え込まないで……」

P「ああ、いや、そんな大袈裟なことじゃないんだ。少し気になることがあって」

まゆ「気になること、ですか」

P(……まゆに杏のことを聞いてみても大丈夫だろうか)



まゆ『まゆは大人げないと思いつつも莉嘉ちゃんに嫉妬しちゃいました。
   だって恋人のように写るお二人の姿を見せられたら……ねえ?』



P(この子に他の子の話題を口にするのは避けた方がいい気がする……)

まゆ「もしかして、杏ちゃんのことですか」

P「……!」

まゆ「やっぱり」クスッ

P「ど、どうしてわかった?」

まゆ「まゆはプロデューサーさんのことならなんでもわかるもの。
   隠し事したってまゆには全部お見通しなんだから」

P「……」

まゆ「……うふ、冗談です。そんな顔なさらないで」

まゆ「本当のことをいえば、そろそろプロデューサーさんも
   杏ちゃんの異変に気付く頃合いだと思っていたの」

P「異変? それじゃあ、やっぱり……」

P「……詳しく聞かせてくれるか」
110 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 20:29:21.78 ID:WLf+yO4T0
P「――責任を感じてる?」

まゆ「はい。杏ちゃん、口を開けば『働きたくない』『休みたい』なんて、
   プロデューサーさんをよく困らせていましたから、
   そのせいでプロデューサーさんが
   記憶障害に陥ってしまったと思い込んでしまって……」

P「それで心を入れ替えて、仕事熱心に?」

まゆ「心を入れ替えたというより、罪悪感に苛まれているのではないかと」

P(罪悪感……)

P「……それは、蘭子もか」

P「蘭子、俺には敬語で話すけど、もしかして以前は
  俺にもあの独特な言葉遣いで話していたんじゃないか」

まゆ「そうですね。蘭子ちゃんも自分の言葉遣いが
   プロデューサーさんを苦しめていたのではないかと悩まれていました」

P「そういうことか……」



…………………
………………
…………
……
111 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 20:31:33.09 ID:WLf+yO4T0
愛梨「わっ、外暑いですね。日差しが強い……」

P「天気予報によれば、
  梅雨明けの猛暑で30度近くまで気温が上がるらしいからな」

愛梨「えぇ、そうなんですかぁ。今朝は結構涼しかったのになぁ。
   幸子ちゃんと莉嘉ちゃんが羨ましいです。
   私も水着の撮影だったらよかったのに……」

P(……)

P(杏も蘭子も本来の彼女たちではない)

P(背負うことのない罪に囚われ、必要以上に俺を気遣い、
  結果、自らの個性を殺してしまっている)

P(杏にしてはその影響が仕事に顕著に出てしまっている。
  蘭子もいずれはあの言葉遣いを完全にやめてしまうかもしれない)

P(そうなる前に、二人には話しておく必要があるな)

莉嘉「Pくーん!」タッタッタッ

幸子「莉嘉ちゃん、走ったら危ないですよ!」アワワ

莉嘉「どぉどぉ? アタシの水着姿。ちょーセクシーっしょ!」

P「セクシーというよりは可愛いかな」

莉嘉「えー、そっかぁ。やっぱ胸とかお尻とか全然足りてないからかなぁ。
   アタシも愛梨ちゃんみたいになれるといいな」

愛梨「私みたいに? えっと、ケーキ作りが得意になりたいの?」

幸子「いや、今の話の流れ的に体形のことかと……」

P「まあ、どちらにせよ、とても似合ってるよ。幸子も」

幸子「へ? ……あ、フフーン! 当然ですよ!
   カワイイボクが水着姿になれば、それはもう、マーメ――」

莉嘉「PくんPくん、撮影終わったらプールで遊んでもいい?
   確かこの後ってリハまで時間空いてたよね」

P「そうだな、疲れを残さない程度になら」

莉嘉「やったー!」

愛梨「……」ソワソワ

P「どうした、愛梨」

愛梨「え……、えへっ、なんでもないです、なんでもないです。
   別に暑いからってカーディガン脱ぎたいわけじゃないですよ?」

P「……いや、カーディガンくらい、暑いなら脱いでもいいんじゃないか」

愛梨「そ、そうですか。じゃあ、お言葉に甘えて……」ヌギヌギ

P(……?)


幸子「……マーメイドのように……美しい……」



…………………
………………
…………
……
112 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 20:32:13.26 ID:WLf+yO4T0
未央「プロデューサー、今日は外回りが多いんでしょ。熱中症に気をつけてね」

卯月「これ、スポーツドリンクです。小まめに水分補給を取ってください」

P「あ、ああ。助かるよ、ありがとう」



美嘉「プロデューサー、体調はどう? 無理してない?」

アナスタシア「具合が悪くなったらすぐにいってください」

P「いや、大丈夫、だけど……」



楓「疲れた時は甘いものを食べるといいですよ。ほら、チョコをちょこっと」

P「……」
113 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 20:33:07.54 ID:WLf+yO4T0
P(杏や蘭子だけじゃない。みんな、俺を気遣ってくれている)

P(当然か。俺の置かれた現状を正確に把握しているのは俺だけだ。
  みんな、俺が記憶障害に陥ったと思い込んでしまっているんだから、
  責任や罪悪感を感じてしまうのも無理もないのかもしれない)

P(だからといって彼女たちに本当のことは話せない。
  凛のシークレットライブが控えたこの大切な時期に、
  わざわざ混乱を招くような話をしてどうする)

P(今は……いや、765プロのことは俺の胸のうちにだけ秘めておくべきだ)

P(だが、それでも、彼女たちに話しておかなければならないことはある)



…………………
………………
…………
……
114 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 20:53:33.14 ID:WLf+yO4T0
ちひろ「プロデューサーさん、全員揃いましたよ」

未央「どうしたの? 急に呼び出したりして」

P「みんなにあらためて話しておきたいことがあって」

アナスタシア「話しておきたいこと、ですか」

P「俺が、その……、記憶障害のことなんだけど」

一同「……」

P「みんな、俺をすごく気遣ってくれてるよな。
  本来であればプロデューサーの俺がみんなを気にかける必要があるのに、
  今は逆に心配ばかりかけて本当にすまなく思ってる」

卯月「そ、そんな、謝らないでください。
   私たちだってプロデューサーさんにはいつも心配かけてばかりなんですから」

美嘉「そうだよ、こんな時くらいアタシたちを頼ってよ。
   みんな、プロデューサーの力になりたいんだから」
115 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 21:03:43.37 ID:WLf+yO4T0
P「ありがとう。みんなの気持ちは素直に嬉しい。
  だけど、俺を気遣うあまり本来の自分を抑制してはいないか」

莉嘉「ヨクセー?」

P「みんなを見ていると無理をしているように感じる時がある。
  特に杏と蘭子は俺に遠慮があるよな」

杏「……」

蘭子「……!」ドキッ

P「以前の二人のこと、聞いたよ。
  俺の知る二人とはまた随分と違う印象を受けたよ」

P「二人を変えてしまった原因は俺の記憶障害か」

杏・蘭子「……」

P「二人のせいなんかじゃない。これは俺自身の問題なんだ」

P「俺の自己管理の甘さが、
  自分のキャパシティを超える仕事量を続けてきた当然の結果だ」

P「全ては俺の責任なんだ。
  だから二人が、みんなが気に病む必要はない」
116 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 21:16:39.47 ID:WLf+yO4T0
蘭子「……」

杏「……どうして、どうしてそんなことがいえるの」 

杏「プロデューサー、まだ記憶戻ってないじゃん。
  杏がどれだけプロデューサーに迷惑かけてきたのか
  なにも覚えてないくせに、どうして自分の責任だなんていえるの?」

杏「杏のこと……なにも知らないくせに……」ジワッ

蘭子(杏ちゃん……)

P「……そうだな」

P「確かに俺は杏のことを知らないし、記憶だって未だに戻らない。
  だけどこの2か月、みんなと接してきてよくわかった」

P「みんな、素敵な女の子たちばかりだ」

P「豊かな感性を持ち、アイドルとしての情熱を絶やさず、
  誰もが光り輝く可能性に満ちている」

P「そんな素敵な子たちを俺が重荷になんて思うはずがない。
  こんな素敵な子たちをプロデュースできて誇りにすら思ってるよ」

蘭子「プロデューサー……」

P「だからもう無理して自分を抑え込まなくていい。
  本当の素顔を俺に見せてくれないか。
  二人のこと、みんなのことをもっとよく知りたいんだ」

 ギュッ

蘭子「あ……」

P「杏、自責の念に囚われないでくれ。
  自分を偽らず、ありのままの杏でいてくれていいんだ」

杏「で、でも……」

P「それにな、杏のような子の扱いには慣れてる」

杏「慣れてる?」

P(昔の美希には散々手を焼かされてきたからな)

P「蘭子も、蘭子自身の言葉で話してほしい。
  遠慮はいらない。蘭子の心の声を聴かせてほしいんだ。
  今はわからなくても、必ず蘭子の想いを汲み取れるようになるから」

蘭子「あ、ああ……!」

P「たとえこの先、記憶が戻らなくても、この想いだけは決して変わらない」

P「みんなまとめてトップアイドル……。
  それはきっと、過去の俺と共有する唯一の想いだ」

P「誰一人欠かさない。輝きの向こう側へ、みんなを連れていくよ」
117 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 21:19:22.23 ID:WLf+yO4T0
蘭子「……」プルプル

蘭子「ク、ククク……」

未央「お!」

蘭子「ついに目覚めたようね。この時を待っていたわ……!」

蘭子「たとえ記憶の牢獄が閉ざされても、我らの絆が断たれることはない。
   貴方の魂は今もなお強く鼓動し、この終わらない暗闇にもやがて星々が瞬く。
   我が友よ、最果てのさらなる向こう側へ、ともに行こう!」

P「…………えっと」

未央「つまりね、要約すると『これからもよろしく』ってこと」

美嘉「大丈夫、そのうちわかるようになるから」

アナスタシア「蘭子の言葉はロシア語を覚えるよりも簡単ですよ。……多分」

P「そ、そっか。まあ、その、こちらこそよろしく頼むな、蘭子」

蘭子「うむ! えへへ///」
118 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 21:21:41.36 ID:WLf+yO4T0
凛「……プロデューサー」

P「ん?」

凛「いつまで握ってんの」

P「……え?」

凛「手。そんな長々と女の子の手を握らないでよ。セクハラだから」

莉嘉「Pくんのエッチー」

P「え、……あ、いや、違う! 決してそんなつもりで握ったわけじゃ……!」パッ

蘭子(あっ……)シュン

美嘉「大丈夫、みんなわかってるから。凛の嫉妬だってわかってるから」

未央「しぶりんってああ見えて独占欲強いから、プロデューサー気をつけてね」

凛「……は、はぁっ!? ただ注意しただけじゃん!
  別に嫉妬なんかしてないし! 誰が独占なんて!」

楓「そうやってむきになっていい返すところがまた……」

志希「見苦しー」

アナスタシア「ですね」

凛「〜〜っ! み、みんなだってそうじゃん! 
  みんなだってプロデューサーのことになるとすぐ目の色変えるくせに!!」

 ギャー ギャー

愛梨「……」

愛梨「そっか、ありのままの自分でいいんだ」

愛梨「よぉし!」
119 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 21:23:04.90 ID:WLf+yO4T0
杏「……本当にいいの」

杏「杏を真人間にする唯一のチャンスかもしれないよ。後悔しない?」

P「後悔の仕様がない。だって、俺は杏を知らないんだからな」

杏「……そっか。そうだった。それじゃあ後悔したくてもできないね」

杏「ふふ、あはは」

P「ははは」

杏「はあ……。というわけで杏、ここのところずっと働き詰めで疲れちゃったから、
  凛ちゃんのライブではステージの端っこでタンバリン叩いてる係でいいよ」

P「そんな係はない……って、愛梨? いつの間になんでそんな薄着に?」

愛梨「え? だってこの部屋暑くて……。
   それにプロデューサーさん、今ありのままの自分でいいって」

P「いや、違うぞ! そんな意味でいったんじゃない!」

凛「プロデューサー!」

莉嘉「Pくんのエッチー!」



幸子「なんだかみなさん、順応早いですね……」

卯月「でも私、こっちのみんなの方がらしくて好きです」

まゆ「同感だわ。親しみ慣れた光景がようやく戻ってきたみたい」



…………………
………………
…………
……
120 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/21(水) 21:23:31.09 ID:WLf+yO4T0
続き明日
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/21(水) 21:36:23.74 ID:8+LmYrW2o

おもしろいよー
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/22(木) 00:15:53.63 ID:vvdex8Qro
面白い
Pと両プロダクションのアイドルがどんな結論にたどり着くのか期待
123 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 12:49:26.15 ID:DnTx6MCm0
P「ほら、起きるんだ杏。収録に遅れる」

杏「うぅ、あと少し……もう、ご――」

P「五分も待てないぞ」

杏「……後日」

P「おい」

蘭子「我が友よ、刻(とき)は満ちた! 
   闇の愚者が集いし深淵の古城へといざ参らん!」バーン

P「や、闇の愚者? 深淵の古城? えーと、待ってくれ。
  その言葉前にも出てきたな。確か……って、こら杏、寝るな!」




卯月「クスッ、杏ちゃんも蘭子ちゃんもすっかり元通りですね」

未央「だね。やっぱり今の二人の方がずっといいよ。 
   働き者の杏ちゃんなんて、こっちも調子狂っちゃうし」

凛「ふふ、いえてる」

未央「それにさ、最近のプロデューサー、すごくいい感じじゃない?
   私たちのこと、ちゃんと知ろうとしてくれてるというかさ」

凛「うん、真剣に向き合ってくれるようになった」

卯月「はい! プロデューサーさん、とってもいい感じに……」
124 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 12:53:05.47 ID:DnTx6MCm0
P「愛梨、暑がりなのはわかったが、着替える時はもう少し人目を気にしてくれないか。
  そうも容易く脱がれるとこちらも目のやり場に困るというか……」

愛梨「え? でも私、プロデューサーさんになら見られても平気ですよ?」

P「愛梨が平気でも俺が平気じゃない。
  愛梨は自分がどれだけ魅力的な容姿をしているのか、少しは自覚した方がいい」

愛梨「私、プロデューサーさんの目にはそんなに魅力的に映ってるんですか。
   えへ、嬉しいな///」

P「……あのな愛梨、俺がいいたいのはそういうことじゃなくてだな……」
125 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 12:55:19.45 ID:DnTx6MCm0
卯月「……いい感じに振り回されてますね」

未央「ま、まあ、最初はこんなもんでしょ。記憶が変わる前だって初めはこんなだったし」

卯月「そ、そうですね。でも私、嬉しいです!
   ようやく私たちの日常が戻ってきたみたいで……」

未央「あとはしぶりんのシークレットライブに向けて突っ走るのみ! だね」

凛「二人とも、まるで全てが元通りみたいにいってるけど、
  プロデューサーの記憶がまだ取り戻せてないから」

未央「あ、そ、そうだね、ごめん。
   もちろんプロデューサーの記憶は取り戻さないとなんだけど……」

未央「……」

凛「未央?」

未央「なんかさー、自分でも不思議なんだけど、プロデューサー、今の状態が正常に見えるんだよね」

卯月「え……」

凛「正常って?」

未央「だからその……、
   記憶のない今の状態が普通というか、私たちを知らなくて当然というか……」

凛「……」

卯月「じ、実は私も、未央ちゃんと同じように感じる時があって……」

未央「えっ、しまむーも?」

卯月「はい……」

未央「……マジ?」

凛「……そんなわけないじゃん」

凛「これが正常なわけない。
  プロデューサーにはちゃんと、記憶を取り戻してもらわないと」

未央「だ、だよね? ごめん、変なこといって……」

卯月「私もごめんなさい……」

凛(……)



…………………
………………
…………
……
126 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 12:57:07.51 ID:DnTx6MCm0
P「空、だいぶ曇ってきたな。これは一雨降るかもしれないぞ」

凛「いいじゃん別に。たまには歩いて行こうよ。
  次のロケ地まで歩けない距離じゃないんだし」

P「しかし傘がなぁ」

凛「折りたたみ傘ならあるよ。……降ってきたら入れてあげてもいいけど」

P「いいよ。近くのコンビニで買ってくるから少し待っててくれ」

凛「……あっそ」



…………



凛「あ、プロデューサー待って」

P「どうした」

凛「こっち」

P「……?」
127 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 12:59:35.49 ID:DnTx6MCm0
凛「ここの坂道、私が中学生だった頃の通学路なの」

P「へえ、そうなのか」

凛「2年生の春だったかな。学校の帰り、
  今みたいに信号待ちしてたら誰かさんに声をかけられたの。
 『アイドルに興味ありませんか』って」

P「……それって」

凛「差し出された名刺には『シンデレラガールズプロダクション』って
  誰もが知ってる大手の芸能事務所。それから誰かさんの名前に肩書きは……」

P「……」

凛「話だけでも聞いてほしいっていわれたけど最初は断った。
  その時はアイドルなんて大して興味なかったし、そういう世界にいる自分が想像できなかった。
  結局、名刺も受け取らず仕舞い」

凛「だけどその誰かさんは次の日もその次の日も私をここで待っていて、
  まるで相手にしない私を必死に説得するの」
128 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 13:01:11.82 ID:DnTx6MCm0
凛「いくら断っても毎日懲りずにやって来るんだから、
  そのうち、うんざりしちゃって――」



 『ねえ、アンタに私のなにがわかるわけ。
  調子のいい言葉ばかり並べて、それで私がなびくとでも思ってんの?
  子どもを相手にしてるからって無責任な台詞吐かないでくれる?』



凛「そしたらさ――」



 『そう聞こえたのなら謝る。確かに君のことはわからない。
  だけどこれだけははっきりいえる。
  俺は、ステージで輝く君の姿を見てみたいんだ』



凛「笑っちゃうでしょ。誰もアンタの願望なんか聞いてないってのにさ」

凛「そう思わない? 誰かさん」

P「……」
129 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 13:02:32.35 ID:DnTx6MCm0
凛「でも、結局はその言葉が決め手だったかな。私がアイドルになる決意をしたのは」

P「……凛」

凛「プロデューサー、『記憶が戻らなくても』なんていわないでよ」

P「え……」

凛「この前、みんなを集めた時にいったでしょ」



P『たとえこの先、記憶が戻らなくても、この想いだけは決して変わらない』



P「ああ……。いや、あれは決意の表れというか、たとえでいっただけで」

凛「たとえでもいってほしくない」

P「……すまない」

凛「お揃いの記憶なのにさ、覚えてるのが私だけなんて寂しいよ」

P「……」

凛「ごめん、プロデューサーのこと責めてるわけじゃない。
  記憶が一朝一夕で戻るなんて思ってないし」

凛「ただ、私にとってかけがえのない大切な記憶だから、
  プロデューサーにとってもそうだったらいいなって」

凛「本当に大切なものならさ、
  なにと引き換えにしても取り返したいって、そう思えるでしょ」

P「……そうだな、そのとおりだ」

凛「うん、そろそろ行こっか。さっきより曇ってきた。空がゴロゴロ鳴いてる」

P(……)



………
……
130 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 13:03:27.79 ID:DnTx6MCm0
杏「……」

志希「……」

P「二人とも、まだ帰ってなかったのか」

杏「だって見てよ、窓の外」


 ザ――…………


P「土砂降りだな」

志希「さすがに帰る気失せちゃうよねー」

杏「梅雨明けたと思ったらこの雨だもん。やんなっちゃうよ」

P「そうだな。ここまでひどくなるとは思わなかった」

志希「雨の匂いは嫌いじゃないんだけどねー」

P「……そうだな。俺も嫌いじゃない」
131 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 13:04:24.07 ID:DnTx6MCm0
凛(すっかり遅くなっちゃった。卯月たち、もう帰ったかな)

凛(外、ひどい雨……。歩いて帰りたくないな)

凛(……あ)

凛「プロデュ――」



P「なあ、記憶が変わる前の俺ってどんな人間だった」



凛「……」ピタッ
132 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 13:07:23.07 ID:DnTx6MCm0
杏「変わる前?」

P「俺さ、凛をスカウトしたらしいんだ」

杏「ああ、うん、知ってる」

P「その時凛にかけた言葉がさ、なんていうか、その……、
  俺がいいそうな台詞だなって」

杏「そりゃそうでしょ。プロデューサーがいったんだから」

P「まあ、そのとおりなんだが。ともかく、その話を聞いて思ったんだ。
  以前の俺はどんな人間だったんだろうって」

志希(……)

杏「んー、変わらないかな」

P「変わらない?」

杏「うん、ずっと不思議だったんだよね。
  杏たちCGプロの記憶がごっそりすり替わってるんだよ。
  少なからずプロデューサーの人格にその影響が出そうなものじゃない」

杏「でも、それが全然ないんだよね。まるで変わってない。
  違いなんてそれこそ記憶のあるなしくらいだと思うし」

杏「案外、記憶を変えたくらいじゃ、
  その人の人格にまでは影響を及ばさないのかもね。ねえ? 志希ちゃん」

志希「さー?」

杏「さー? って……」

志希「志希ちゃんはフツーの女子高生だから難しいことはわからないのです」

杏「よくいうよ、このギフテッドは」
133 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 13:08:27.65 ID:DnTx6MCm0
P「……」

P(なにも変わらない、違うのは記憶だけ……)

P(記憶だけが違う……同一の人間……)




莉嘉『Pくんと一緒に写ってるのを色々持ってきたの! なにか思い出せるかなーって』


アナスタシア『前はよく天体観測をしていました。プロデューサーと二人で』


まゆ『プロデューサーさん、過去が消えることは決してありません。
   プロデューサーさんがCGプロで過ごされた日々は確かに存在したんですから』


ちひろ『ええ。アイドルたちのことがなによりも大切で、
    彼女たちを輝かせるためならどんな労力も惜しまない。
    そんな人でしたよ、プロデューサーさんは』


凛『ナムコプロなんて……!
  そんな居もしないアイドルなんかにいつまでも囚われないで!』
134 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 13:09:28.94 ID:DnTx6MCm0
 「プロ――……」

 「……――デューサー」



志希「プロデューサー!」

P「…………え」

志希「どしたの、大丈夫? 顔真っ青だよ」

P「……」

杏「私、もしかしてまずいこといった?」

P「いや……、なんでもない。少し立ち眩みしただけで」

杏「ほんとに? 無理してない?」

P「大丈夫。それより、二人とも寮住まいだったよな。
  雨止みそうにないし、車で送るよ」

杏「いいの? 仕事は?」

P「今日はもう終わりにするよ。
  千川さんにいってくるから先に駐車場で待っててくれ」

杏「う、うん」

志希「……」
135 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 13:10:32.15 ID:DnTx6MCm0
P「それじゃあ、お先に上がらせてもらいます」

ちひろ「はい、お疲れさまでした」


 ――トントン


P「ん……?」クルッ

P「凛? まだ残ってたのか」

凛「ちょっとね。これから帰るとこだけど」

P「それならちょうどいい。これから杏と志希を寮まで送るところだったんだ。
  よかったら凛も一緒に送るけど」

凛「……うん。じゃぁ、そうする」
136 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 13:13:42.27 ID:DnTx6MCm0
 ブウウゥゥン……

P「さて、誰から先に送ろうか。寮と凛の家、どっちが近いんだ」

凛「私も寮住まいだけど」

P「そうなのか。でも確か凛は元から東京住まいだよな。家が遠いのか」

凛「全然。家からでも普通に通える距離。
  ただ寮の方が事務所に近いし交通の便がいいからそうしてるだけ。
  それに一人暮らしもしてみたかったし」

P「一人暮らしか。CGプロの子たちは偉いな。
  まだ十代の子が大半だというのに親元を離れて上京し、
  ひとりアイドル活動を頑張ってる。立派だよ」

杏「そうでしょー。杏は自分で自分を褒めてやりたいくらいだよ。
  プロデューサーも頑張る杏に褒美をくれてもいいんだよ?
  主に休暇というかたちで」

P「そうだなあ。それじゃあシークレットライブを頑張ってくれたら、
  7日くらいまとめた休暇が取れるよう、スケジュールを調整しようかな」

杏「7日!? マジで!? ウソつかない!!?」

P「ああ、約束するよ」

P(まあ、もとからその予定だったけど)

杏「おおう! 双葉杏、シークレットライブ頑張ります!!」

志希「にゃはは、杏ちゃん、卯月ちゃんみたーい」

凛「ひとりじゃないよ」

P「ん?」

凛「仲間のみんながいてくれるから頑張れるの。
  プロデューサーだってそうでしょ」

P「そうだな。俺も凛たちがいてくれるから頑張れ……」

P「……」

凛「プロデューサー? どうしたの」

P「ああ、いや、それより寮までの道案内頼まれてくれるか」

凛「うん、いいけど」

P「……」

P(なんで俺、仲間と聞いて真っ先に凛たちを思い浮かべたんだ)

P(春香たちじゃなく……)



………
……
137 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 13:15:22.01 ID:DnTx6MCm0
凛「そこの交差点を右に曲がって」

P「交差点を右……」

凛「あとは道なりに進んでいくと……ほら、見えてきた」

P「もしかしてあれか?」

凛「うん、うちの寮」

P「……これは寮というより、高級マンションだな」

凛「私も初めて見た時は驚いた。40階立てで346戸あるんだって」

P「事務所の高層ビルといい、寮といい、
  あらためてCGプロの巨大さを思い知らされるな……」

杏「アイドルって役得多い仕事だけどさ、CGプロ所属だとまた別格だよねー」

志希「ねー」



………
……
138 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 13:16:47.61 ID:DnTx6MCm0
P「なあ、本当に大丈夫なのか、俺が中に入っても。ここ男子禁制なんだろ」

杏「大丈夫でしょ、プロデューサー関係者なんだし。
  ロビーまでならいいんじゃない」

凛「一応、管理人に許可取ってくる」

P「すまない」


卯月「あれ……、プロデューサーさん?」

未央「ほんとだ。プロデューサーじゃん」

P「卯月、未央」

未央「どったの、寮に来るなんて珍しいじゃん」

杏「雨ひどいから送ってもらったの。ついでの寮見学」

卯月「見学、ですか」

未央「そっか、記憶変わってからここに来るのは初めてか。
   どう? すごいでしょ、うちの寮」

P「もう溜息しか出てこないよ。まさにシンデレラが住まう城って感じだ」

杏「まぁ、王子さま不在の城だけど」

P「二人も寮住まいなのか」

未央「うん。CGプロ所属タレントなら家賃タダだし、住まなきゃ損」

卯月「前にここに来たことは思い出せませんか」

P「……どうかな。正直、ここに来るのは初めてとしか思えない」

未央「そりゃあね。前のプロデューサーだって寮には滅多に来なかったし、
   ここになにか特別な思い出があれば話は別なんだろうけどさ」
139 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 13:18:48.01 ID:DnTx6MCm0
莉嘉「あ! Pくんだー!」タッタッタッ ダキッ!

P「おっと、莉嘉? 莉嘉もここに住んでるのか」

莉嘉「そだよー。お姉ちゃんと一緒の部屋に住んでるの」

美嘉「この子に一人暮らしはまだ早いよ」

P「美嘉」

美嘉「ヤッホー。寮に来るなんて久しぶりじゃん、どうしたの」

莉嘉「遊びに来たの?」

美嘉「……!」

P「いや、さすがに遊びには来ないよ。ここ本当は男子禁制なんだろ」

莉嘉「大丈夫だよ、だって前にもうちに遊びに――」

美嘉「莉嘉!!!」ガバッ

莉嘉「〜〜っ」モガモガ

P「……俺、二人の部屋に行ったことあるのか」

美嘉「ないないない! そんなの一度もないから!!」

卯月「……」

未央「美嘉ねえ……」

美嘉「な、なによその目は。なんでもないっていってるでしょ……」

杏「派手な外見とは裏腹に中身はCGプロきっての乙女なくせに、
  プロデューサーを部屋に連れ込むとは大したもんだ」

美嘉「だから違うっていってるでしょ!」

P「なあ、前に莉嘉に見せてもらった写真の中に
  俺と美嘉が一緒に写っている写真があったけど」

美嘉「……!」ギクッ

P「あれってもしかして二人の部屋で撮ったものか」

美嘉「ア、アハッ★ 写真? なんのこと? そんなのあったっけ?」

杏「うわー、白々しい」

卯月「美嘉ちゃん、目が泳いでます」

未央「美嘉ねえ、もうバレてんだから白状して楽になりなよ」

美嘉「白状もなにもそんな写真知らないもん!」

未央「往生際悪いぞ、ニセ純情ギャル!」

凛「なに騒いでんの」

未央「しぶりん、いいところに! 実は美嘉ねえがさぁ……」

美嘉「わ――ッ!! ダメッ!! 凛にだけはいわな――」

莉嘉「お姉ちゃーん、Pくんがうち来たいってー」

美嘉「……」

凛「……どういうこと」



……
140 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 13:19:31.24 ID:DnTx6MCm0




141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/22(木) 13:47:03.37 ID:OTAX0q78o
おっつおっつ
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/22(木) 15:15:28.97 ID:x/qOcqPDO
あんた(美嘉)はここで、凛としぬのよ
143 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:27:30.54 ID:OiSWsscG0
莉嘉「Pくんいいよー、あがってー」

美嘉「いらっしゃい。ごめんね、待たせちゃって」

P「いや、俺の方こそ急に押しかけて……」

P(……)

美嘉「いいよ。プロデューサーの記憶のためだもん、協力する」

美嘉「……で、なんでアンタたちもいるわけ?」

卯月「えぇと、それはその……」

未央「後学のため?」

美嘉「なんの後学よ」

凛「なに、私たちがいると困ることでもあるの?」

美嘉「な、ないでーす……」

杏「あれ、そういえば志希ちゃんは」
144 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:31:28.45 ID:OiSWsscG0
P「……」

莉嘉「どう? Pくん。うちに来たこと思い出せない?」

未央「ねぇ、前にプロデューサーがここに来た時はなにをしてたの」

莉嘉「んとねー、フツーに喋ってー、写真撮ってー……、そのくらい?」

美嘉「うん、まぁ……。正直、特別思い出に残るようなことはなにも」

凛「プロデューサーがここに来ただけでも十分特別だと思うけど?」

卯月「どんなことを話したんですか」

莉嘉「コイバナ! Pくんに色々聞いたんだー。Pくんの前カノのこととかー」

未央「前カノ!? プロデューサー、彼女いたの!?」

P「……まあ」

凛「いつ!!?」

P「俺の記憶が正しければ、ナム……CGプロに就職して間もない頃じゃないか」

莉嘉「うん。でもソエン? だっけ? 
   それになっていつの間にかシゼンショーメツしたっていってた」

卯月「疎遠ですか」

美嘉「ほら、その頃はまだプロデューサーもかけ出しの新人だったから、
   凛のプロデュースでいっぱいいっぱいで、
   彼女にまで気をかけてやる余裕がなかったんだってさ」

莉嘉「それっきりずっとフリーなんだって。お姉ちゃんちょー喜んでた」

美嘉「莉嘉、余計なこといわない」

未央(な、なんだ……)ホッ

凛「……」

凛(つまりプロデューサーは彼女よりも私を優先してくれてたってこと……?)


凛「…………」


凛「ごめんねプロデューサー! 私のために彼女と別れることになって!」パァァッ

杏「謝ってるわりにはすんごい笑顔」

美嘉「ていうか、凛のために別れたわけじゃなくない?」

未央「ねね、他にはどんなこと聞いたの。
   プロデューサーの恋愛事情とか超気になる」ウキウキ

莉嘉「えっとねー、他にはぁー……」



……
145 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:33:02.20 ID:OiSWsscG0
美嘉「じゃあ、いい? プロデューサー、いくよ?」

P「ああ」

 ――ギュッ

美嘉「ど、どう? ///」

P「……」

凛「はい、駄目ー。プロデューサーなにも思い出せないみたいだね、残念。
  じゃぁ美嘉、さっさと離れて」

美嘉「ち、ちょっと待ってよ、早いって! まだ写真も撮ってないじゃん!」

凛「じゃあ早く撮れば? 撮って1秒でも早くプロデューサーから離れてよ」

未央「しぶりん、抑えて。言葉の端々から嫉妬が滲み出てる」

凛「だっておかしいでしょ! まるで恋人みたいに腕絡めちゃってさ!」

美嘉「こ、恋人だなんてそんな……///」テレテレ

凛「……」イラァッ

未央「しぶりん、堪えて。これもプロデューサーの記憶のためなんだから」
146 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:34:45.08 ID:OiSWsscG0
莉嘉「お姉ちゃん、Pくん撮るよー。はいチーズ……」

 ――パシャッ

未央「どれどれ、どんな感じ?」

卯月「大体前の写真と同じ感じで撮れてますね」

莉嘉「どう? Pくん。一緒に写真撮ったこと思い出せた?」

P「……いや」

未央・卯月・莉嘉「はぁ……」

未央「駄目かぁ。他にしてないことってなんかある?」

莉嘉「あとはぁー、ツアーの話とか?」

P「ツアー?」

美嘉「去年の秋から今年の春にかけてアリーナで全国回ってたんだ。
   その時の写真見ながら思い出話なんかしてさ。
   ……ほら、これがその写真」

P「……この写真」

卯月「あ、ツアーファイナルで撮った集合写真ですね。私も自分の部屋に飾ってあります」

P「俺の部屋にも飾ってあったよ。大切な思い出か」

美嘉「一番の思い出だよ。アリーナツアーはアタシたちの夢だったんだから」

P「夢……」

美嘉「プロデューサーが叶えてくれたんだよ」

P「……俺は」

莉嘉「他にも写真いっぱいあるよ。見てみる?」



………
……
147 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:36:35.99 ID:OiSWsscG0
未央「結局、記憶は戻らず仕舞いかぁ。どうしたもんかね」

杏「気長にやるしかないでしょ。焦ったって仕様がないし」

P「……」

杏「ねえ、さっきから口数少ないけど、
  あまり思いつめない方がいいんじゃないの」

P「……ああ、いや、そんなんじゃないんだ。ただ前の俺が羨ましいなって」

杏「羨ましい?」

P「俺には、みんなとの思い出がない。楽しかったことも辛かったことも、
  共有しているのは全て前の俺だ」

杏「……」

未央「いやいやいや、思い出がないんじゃなくて忘れてるだけでしょうが」

莉嘉「Pくん元気出して。記憶なら絶対戻るって!」

P「……そうだな」

未央「ところで美嘉ねえとしぶりんは?」

卯月「凛ちゃんが美嘉ちゃんに話があるって二人で部屋に残ってます」
148 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:37:03.68 ID:OiSWsscG0
凛「美嘉さぁ、ちょっとプロ意識欠けてんじゃないの。
  アイドルが部屋に男を連れ込むとかなに考えてるわけ」

美嘉「す、すみません……」←正座

凛「おまけになんなのこの写真。腕なんか組んじゃってさ。
  フンッ、胸まで押し付けていやらしい!」
149 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:37:37.66 ID:OiSWsscG0
未央「あぁ……、よっぽどツーショット写真が羨ましかったんだろうね」

莉嘉「なんで? 写真くらい一緒に撮ればいいじゃん」

未央「しぶりん、あれでいて奥手なところがあるからなぁ。
   好きな人に自分から告白できないタイプ」
150 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:38:52.09 ID:OiSWsscG0
P「すまなかったな莉嘉、こんなことに付き合わせてしまって。みんなも」

莉嘉「ぜーんぜん、またうちに来てよ。Pくんならいつでも大歓迎!」

P「歓迎してくれるのは嬉しいが、
  プロデューサーの俺が進んで規則を破っては
  他の男性スタッフに示しがつかないからな。今回限りにしておくよ」

莉嘉「えー、でも記憶戻すには同じこと繰り返さないといけないんでしょ?
   もしかしたら次来た時はなにか思い出せるかもしれないじゃん」

P「それはそうかもしれないが規則は規則だからな。
  莉嘉もどうして寮が男子禁制なのか、その理由はわかるだろ」

莉嘉「スキャンダルってのになるからでしょ。ちぇー、つまんないの」
151 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:42:29.00 ID:OiSWsscG0
杏「ねぇ、それならさ、
  今度みんなでプロデューサーと思い出の場所とか巡ってみない?」

杏「なにも思い出があるのは莉嘉ちゃんだけじゃないんだし、
  杏たちだってプロデューサーとの思い出があるんだから、
  一つ一つ巡って記憶が戻るか確かめてみようよ」

未央「いいねそれ! 行こうよ、思い出巡り!」

卯月「私もプロデューサーさんとの思い出沢山あります!」

莉嘉「さんせーい! アタシも行きたい!」

杏「シークレットライブが終わったら7連休くれるんでしょ。
  その時になったらみんなで一緒にさ。ね、いいでしょ」

P「気持ちは嬉しいが、休暇は自分のために使ってくれないか。
  ただでさえみんなにはタイトなスケジュールをこなしてもらっているのに、
  俺のために時間を割いては休暇を与える意味がなくなってしまうしな。
  休める時にきちんと休んでおかないと俺の二の舞になるぞ」

未央「……これはすごい説得力」

杏「別に7日全部使ってやるわけじゃ……、2・3日くらいなら……」

P「みんなは楓さんと違って学生なんだから、仕事はなくても学校があるだろ。
  7日とはいっても本当に休めるのは土・日くらいだ。
  貴重な休みを俺のために消費してもらいたくないんだ」

未央「貴重な休みときましたよ、杏さん」

杏「……」

P「思い出巡りは次の機会にして、まずはしっかり英気を養ってくれないか」

杏「……プロデューサーが、そういうなら」

P「ありがとな、杏。俺のために」
152 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:44:42.09 ID:OiSWsscG0
P「それじゃあ、みんな、また明日。おやすみ」

莉嘉「バイバーイ。おやすみなさーい」

 ブウウゥゥン……



未央「いやはやー、それにしてもさっきは驚いちゃった。
   まさかプロデューサーのためとはいえ、
   あの杏ちゃんが自分の休みを返上してまで協力しようとはねぇ。
   明日は槍が降るかも」

杏「失礼な。杏だってそこまで薄情な人間じゃないよ。
  優先すべき事情はちゃんと見極めてるつもり」

未央「……もしかして、プロデューサーの記憶障害のこと、
   まだ自分のせいだって思ってる?」

杏「……」

卯月「でも、それは前にプロデューサーさんが……」

杏「『気にするな』といわれて『はい、そうします』とはいかないよ。
  プロデューサーは優しいからああいうけどさ、
  少なからず杏が記憶障害の原因になってるのは確かなんだから」

杏「蘭子ちゃんだって、きっとまだ気にしてるんじゃないかな」

未央・卯月・莉嘉「……」

杏「だからって杏のアイデンティティを壊すような真似は二度としないよ。
  けど、プロデューサーの記憶を取り返すためなら休みの一つや二つ惜しくない」

卯月「杏ちゃん……」

莉嘉「杏ちゃん、エライ!」
153 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:51:37.50 ID:OiSWsscG0
杏「――と、思ってたんだけど、なんかよくわからなくなっちゃった」

卯月・莉嘉「へ?」

未央「わからなくなったって?」

杏「プロデューサー、どうして莉嘉ちゃんたちの部屋に行ったと思う?」

未央「そりゃ、記憶を取り戻すためでしょ」

杏「でもその割には消極的だったと思わない?
  未央たちが主導で動いていたことを差し引いても、
  プロデューサー自身は積極的に動こうとしなかったっていうかさ」

杏「思い出巡りだって本当なら断る理由なんてないはずじゃん。
  杏たちもうすぐ夏休みなんだし、
  2・3日休みがなくたって十分お釣りがくるよ」

未央「……いわれてみれば、確かに」

莉嘉「どーゆーこと? Pくん、記憶取り戻すのやめちゃったの?」

杏「そうかもしれないし、そうじゃないのかもしれない」

莉嘉「……ドッチ?」

卯月「つまり、記憶を取り戻すとは違う、別の目的があって、
   プロデューサーさんは莉嘉ちゃんたちの部屋を訪れたということですか」

杏「杏はそう思った。
  事務所を出る前、プロデューサーに聞かれたんだよね。
 『記憶が変わる前の自分はどんな人間だったか』って」

杏「それで『記憶以外なにも変わらない』って答えたら、プロデューサー、顔真っ青」

未央「真っ青……ショックだったってこと? 変わらなかったことが? なんで?」

杏「わかんない。でもきっとそれが
  莉嘉ちゃんたちの部屋に行った本当の理由なんだと思う」

杏「さっきプロデューサーがいってたじゃん、『前の自分が羨ましい』って」

杏「なんかさ、杏にはまるで、他人を羨んでるように聞こえた……」
154 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:54:53.04 ID:OiSWsscG0
 ブウウゥゥン……


P「……」



P「……」



P「……どうすればいい」




志希「次の交差点を左に曲がればいいと思うよ」ヒョコッ



P「うわあっ!!!」

 キキーッ!

志希「キャアッ!」

P「し、志希!? なっ!?」

志希「ちょっと前! 前! 対向車線はみ出してるって!」
155 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:56:08.85 ID:OiSWsscG0
P「ど、どうやって車に忍び込んだ。
  まさか、寮で降りずにずっと車の中に潜んでいたのか」

志希「いやー、待つってあたしの性分じゃないね。
  『忍耐』なんて言葉あたしの辞書には載ってないし」

P「君はいつも俺を驚かせてくれるな……」

志希「『驚きは、知ることの始まりである』ってね」

P「誰の言葉?」

志希「プラトン。ささ、落ち着いたなら発進どうぞ。
   あ、ちょい待ち。助手席に移動させて」

P「どこへ連れいてくつもりだ」

志希「それは着いてからのお楽しみってことで。
   それまでは志希ちゃんとステキな夜のドライブデートを
   お楽しみくださいませ」

P「……君が未成年でアイドルでなければ楽しめたんだけどな」
156 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:57:29.92 ID:OiSWsscG0
志希「――ふーん、それで美嘉ちゃんの部屋に行ってたんだ。面白かった?」

P「……遊びに行ったわけじゃない」

志希「雨止んでよかったー。あ、次、右ね。曲がったらすぐだから」

P「……」



……
157 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:58:28.27 ID:OiSWsscG0
志希「とぉちゃーく。車ここでいいよ。降りて降りて」

P(……車庫?)

 ガチャッ バタン

志希「今から魔法見せたげる」

P「魔法?」

志希「ゴホン、ゴホン。ん゛、ん゛んっ。えー、では……」

志希「開けー……にゃん!」ピッ


 ――シーン


P「……」

志希「にゃん! にゃん!」ピッ ピッ

志希「にゃん……」ピッ

志希「……」

P「……」

志希「……にゃんで?」
158 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 20:59:06.04 ID:OiSWsscG0
P「せーの……ふっ!」

 ガラガラガラ ガシャン

志希「ふぅ……。ごめんねー、ここのガレージ古くてさー、
   シャッター壊れちゃったのかな。リモコン利かなくなっちゃった」

P「シャッター下ろすぞ」

 ガラガラガラ……――
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/22(木) 21:00:17.11 ID:mWjmEPD2o
にゃーん(笑)
160 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 21:01:03.55 ID:OiSWsscG0
志希「あらためまして、ようこそ、志希ちゃんの秘密基地へ」

P「秘密基地?」

志希「または研究室ともゆー。ここで香水作ってんだー。ちょいこっち来てみ」

志希「これ、志希ちゃんの夏の新作。
   ブラッドオレンジのミドルノートが
   ローズアブソリュートと交わって生き生きと香り立つの。
   柑橘類と爽やかさの古典的な組み合わせだけど、この時期にはピッタリ」

P「ブ、ブラ……、アブソ……?」

志希「で、こっちがローズベースの花ずいだけで作ってみたパルファン。
   ラズベリーとバーベナを添えてよりローズの香りが引き立つようにしてみたの。
   苦労したんだー。出来は上々だけど面倒くさいからもう作らないけどね」

P「カ、カズイ?」

志希「でーでー、これが――」ペラペラ

P「……」

P(蘭子とは違った意味でなにをいっているのかわからない……)
161 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 21:02:45.15 ID:OiSWsscG0
P「――志希、この香水は?」

志希「お、それに目をつけるとはお目が高いですな」

志希「それはねー、ピザ」

P「ピザ?」

志希「自信作なんだー。嗅いでみ嗅いでみ?」

P「……」スンスン

P「……」

P「ピザだ」

志希「でしょ?」

P「なにに使うんだ」

志希「たとえばー……、ミーティングが長引いたりするでしょ?」


  『少し休憩挟もっかー』


  『お腹空いたねー』


  『なにか食べるー?』


志希「――で、そんな時にこの香水をさりげなーく散布しておけば――」


  『あれ? なんだか私、ピザが食べたくなってきた……』


  『そうだ、ピザにしよう! そうしよう!』


志希「――ってな感じで、みんなを誘導できる」

P「……」

P「……じゃあ、これは?」

志希「それは香水じゃなくて惚れ薬」

P「惚れ……」

志希「未検証だから効果のほどはわからないけどね。
   ねえ、それよりもお腹空かない? ピザでも取ろっか!」



……
162 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 21:05:07.23 ID:OiSWsscG0
志希「ふんふーん♪」パッパッパッ

P「タバスコかけすぎじゃないか」

志希「えー、そう? このくらいかけた方が美味しいよ?
   そういうキミは食が進んでないみたいだけど、ピザはお嫌い?」

P「いや、好きだけど」

志希「あたしのことが? いやぁ、照れるなぁ///」

P「……」

志希「『どうすればいい』」

P「なにが?」

志希「車の中、キミのひとり言」

P「……ああ」

志希「食が進まないのはそれが理由? 美嘉ちゃんの部屋にキミの過去はなかった?」

P「……あったよ。結局は思い出せなかったけど」

志希「そっか」

P「……」



P(もしかして、と思った)

P(もしかして俺は本当に記憶障害に陥り、
  765プロという妄想の産物を作り出していたとしたら)

P(だが、美嘉たちの部屋に入った瞬間、直感した)

P(あの部屋に、俺の過去はない)

P(美嘉たちの語る過去の俺は別人だ。俺にCGプロの過去はない)
163 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 21:06:34.36 ID:OiSWsscG0
P「そういえば、どうして俺をここに連れてきたんだ」

志希「キミに思い出をあげようと思ったの」

P「思い出?」

志希「いったでしょ、ここはあたしの秘密基地だって。
   誰も知らない、あたしだけの場所」

志希「ここならキミだけの思い出ができるでしょ。
  “前”のキミも知らない、正真正銘“今”のキミだけの思い出が」

P「俺だけの……」

志希「あ、ここのこと誰にも話しちゃダメだかんね。
   今日からはあたしとキミの秘密基地なんだから」

P「はは、ありがとう……」

P「……」

P「なあ、もし俺の記憶がこのまま戻らなかったとしたら、
  その時みんなは、そんな俺を受け入れてくれると思うか」

志希「……キミはどうなの」

志希「それでもキミは、あたしたちのそばにいてくれる?」

P「……俺は……」



…………………
………………
…………
……
164 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 21:08:25.53 ID:OiSWsscG0
P(765プロの存在、その確信は得た。だが取り返す術は依然わからない)

P(俺はなにを見落とし、なにに気づいていないのだろう……)



幸子「ほら、このポロシャツならカーディガンと組み合わせられますし、
   ガーリーっぽさも出てると思うんですよね」

美嘉「でもそのカーディガンと組み合わせるなら
   こっちのブラウスの方がイケんじゃない?」

莉嘉「アタシはこのワンピがイイって思うな!」

幸子「プロデューサーさんはどう思います?」

P「……え、ああ、そうだな、幸子に合いそうなのは……」



P(この子たちと向き合うと決めたのは765プロを諦めたからじゃない。
  だけど、あれだけ切望していた765プロへの気持ちがいつしか薄れてしまっている)

P(本当は自分でも気づいているんだ。
  765プロのみんなにはもう、二度と会えないんじゃないかって)

P(会えることなら今すぐにでも会いたい。
  だけど今は、この子たちの行く末を見届けたいと思う自分がいる)

P(俺は選択を迫られているのではないのか。
  この765プロのなくなった世界で、CGプロのプロデューサーとして生きていくことを)

P(765プロを、忘れて生きていくことを……)
165 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 21:09:25.46 ID:OiSWsscG0
ちひろ「プロデューサーさん、そろそろ」

P「はい」スッ

莉嘉「Pくん、どっか行くの?」

P「ああ、これから病院に」

美嘉「病院?」

幸子「な、なんで、まさか、症状が……」

P「違うよ、定期検査」

幸子「あ、な、なんだ……」

P「心配することはなにもないから。千川さん、あとはよろしくお願いします」

ちひろ「はい、気をつけていってらっしゃい」

 ガチャッ バタン――

P(行ったって、意味なんかないんだけどな……)



………
……
166 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 21:10:26.46 ID:OiSWsscG0
P「ただいま戻りました」

ちひろ「おかえりなさい。どうでしたか、検査の方は」

P「千川さん、そのことでお話が……」


………


ちひろ「……そうですか」

P「このことはまだ内密に。
  あの子たちには時機を見て俺から話を――」

ちひろ「あら?」

P「どうしました」

ちひろ「今、そこに人影が……」



…………………
………………
…………
……
167 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/22(木) 21:16:39.09 ID:OiSWsscG0



168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/22(木) 21:17:39.43 ID:OTAX0q78o
おっつおっつ
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/22(木) 21:18:21.96 ID:mWjmEPD2o
また明日
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/22(木) 21:32:21.00 ID:x/qOcqPDO
実は平行世界とか

もしくは少しずれた過去(未来)の世界とか
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/22(木) 23:21:41.55 ID:LXXraw4Yo

グリマス終わってモバマスをやってる俺の……うっ……うぅっっ……
172 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 12:56:52.61 ID:vTqC38JC0
楓「心ここにあらず」

アナスタシア「心……アラズ?」

幸子「どうしたんですか、急に。また新しい駄洒落でも?」

楓「プロデューサー、最近物思いに耽ることが多いと思って」

愛梨「あ、それ、私も思いました。この前、私が目の前で着替えてたのに、
   プロデューサーさん、ずっとこっちを見てるだけで」

卯月「み、見てる、だけ……? ///」

未央「そっか、プロデューサーも男の子だもんね。
   とときんの生着替えを目前にしてついに自制心が……」

アナスタシア「なるほど、それが『心アラズ』なんですね。
       プロデューサー、エッチです……」

莉嘉「Pくんのエッチー!」

杏「違うっつの。プロデューサーの目には入ってなかったってことでしょ」

愛梨「うん、いつもみたいに注意されなかったんだよね。
   なんだか私が着替えてることに気づいてないみたいだった。
   ちょっと心配かも」
173 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:00:54.98 ID:vTqC38JC0
まゆ「実はまゆも気になっていました」


幸子「うわっ!!」

楓「あら、まゆちゃん」

まゆ「ごめんなさい幸子ちゃん、驚かせてしまったかしら」

幸子「い、いえ……、ボクは別に驚いてなんか……」ドキドキ

未央「さっちー、裾引っ張らないで。伸びる伸びる」

まゆ「だからまゆ、直接プロデューサーさんに訊ねてみたんです。そしたら――」



P『ありがとな、まゆ。いつも俺のことを気にかけてくれて』



まゆ「――と、優しく語りかけてくれるプロデューサーさんの
   慈しむような眼差しにまゆはもう……!」

杏「なんだ、ただの惚気か」

まゆ「いえ、この後続きがありまして――」



P『だがもう少し待ってくれないか。もう少し、一人で考えたいんだ。
  これは俺が自分で決めないといけないことだから……』



まゆ「――いえる時がきたら必ずみんなにはいうと、そう仰っていました」

愛梨「自分で決めないといけない……」

楓「十中八九、記憶障害のことでしょうね」
174 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:02:43.14 ID:vTqC38JC0
幸子「まさか、記憶を取り戻すのを諦めるとか、そういうことじゃないですよね?」

一同「…………」

幸子「どうして誰も否定してくれないんですか!」

未央「ご、ごめん。そうじゃないって思いたいけど……」

幸子「そうだ! 今度みなさんで一緒に
   プロデューサーさんと思い出巡りしてみませんか?」

幸子「ボクたちプロデューサーさんとは数え切れない思い出があるんだし、
   一つ一つ巡って記憶が戻るか確かめてみましょうよ!
   さすがはボク! ナイスアイディア!」

杏「残念だけどそれ、バッドアイディア」

幸子「へ? どうしてですか」

杏「すでに杏が同じ話を持ちかけて断られてるから」

幸子「え……」

杏「シークレットライブが終わったら連休くれるっていうから、
  その時になったら一緒にどうかって誘ってみたんだけど」

アナスタシア「ダーティシトー! 驚きです!
       まさかあの杏がプロデューサーのためとはいえ、
       自分の休みを減らしてまで協力しようとは……」

まゆ「明日は槍が降るかしら」

楓「いえ、杏ちゃんならきっと“飴”が降るわね」

杏「なんでみんなして未央と同じ反応するんだよ! そんなに意外か!?」
175 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:03:55.91 ID:vTqC38JC0
莉嘉「やっぱPくん、
   うちに来てなにも思い出せなかったのがショックだったのかなぁ」

未央・卯月(げっ……)



楓・アナスタシア・幸子・愛梨・まゆ「…………」


楓・アナスタシア・幸子・愛梨・まゆ「うちに来て?」



まゆ「莉嘉ちゃん、どういうことかしら。
   プロデューサーさん、莉嘉ちゃんのご実家へ行かれたことが?」

莉嘉「んーん、来たのは寮の方」

愛梨「あれ、でも確かうちの寮って男子禁制じゃなかったっけ。
   男性スタッフは別だとか?」

楓「いえ、そんな例外はないはず」

アナスタシア「莉嘉、どういうことか説明してくれますか」

未央「あー、待って、それは私たちから――」



……
176 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:07:01.13 ID:vTqC38JC0
楓「――なるほど、そんなことが」

幸子「まったく、油断も隙もありませんね、城ヶ崎姉妹は。
   どうしてそんな大事なことを今まで黙っていたんですか」

アナスタシア「美嘉をかばったんですね」ムスッ

未央「あはは、まあ、その……、
   すでにしぶりんから散々絞られた後だったし、
   これ以上責められるのも酷かなって」

未央「現に今の話を聞いてまゆちゃん飛び出して行ったし……。
   しぶりんに続いてまゆちゃんだよ? 美嘉ねえ搾りかすになっちゃうよ……」

アナスタシア「それは美嘉の自業自得です。
       私だって美嘉に一言いわせてほしいくらいなんですから。
       莉嘉も、寮の規則はきちんと守らないといけません」

莉嘉「ゴメンなさい……」シュン

杏(珍しくアーニャが怒ってる……)

愛梨「やっぱりプロデューサーさん、記憶取り戻すの諦めっちゃったのかな……」

幸子「そう決めつけるのは早計だと思います!
   日をあらためてもう一度誘ってみましょうよ。
   もしかしたらなにか都合があって断られたのかもしれませんし」

杏「どうかな。結局もっともらしい理由つけて断られるのが落ちな気がする。
  少なくとも思い出巡りに乗り気じゃないのは確かなんじゃないかな」

楓「杏ちゃんのいう、
 『莉嘉ちゃんたちの部屋を訪れた本当の理由』も気になるわね。
  話を聞く限り、プロデューサーが探しているものは、
  そもそも記憶ではない可能性も出てきたみたいだし」

莉嘉「記憶じゃないなら、なにを探してるの?」

杏(……)

楓「いえ、憶測で語るのはやめましょう、きりがないわ。
 『必ずいう』とプロデューサーがいっていたのなら、
  その言葉を待ちましょう」

楓「それより、こうなってくると別の問題も出てくるわね」

未央「別って?」

楓「これこそ憶測で語りたくはないけれど、
  もしプロデューサーが本当に記憶を諦めるとしたら、
  それを私たちは受け入れることができるかしら」

愛梨「それは……」

楓「気持ちの整理をつけなければいけないのは、プロデューサーだけじゃないわ」

卯月(……)
177 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:08:46.89 ID:vTqC38JC0
凛「プロデューサー、志希見なかった」

P「いや、見てないけど……、その花束は?」

凛「志希に渡す約束してて」

P「志希に?」

凛「志希が香水作ってるのは知ってるでしょ。その実験材料にって」

P「ああ……、でもどうして凛が花を?」

美嘉「凛の実家、花屋」

P「花屋? 凛が?」

凛「今、似合わないって思ったでしょ」

P「そんなことないよ。よく似合ってる」

凛「……//」

P「けど、これだけきれいに咲いているのに、
  実験材料にされるのもなんだかもったいない気がするな」

凛「は、花が完全に開ききってるのは売れないから処分するしかなくて、
  それなら香水作りに役立ててもらった方がこっちも助かるっていうか……」ゴニョゴニョ

P「なるほど、お互いに得ってわけか。
  もしかしたらまだ事務所には来てないのかもしれないな。
  電話してみたらどうだ」

凛「さっきした。音信不通」

蘭子「ふむ、おそらく彼の錬金術師は真理を求め、
   虚空の狭間へといざなわれたのかもしれない」

P「……つまり?」

美嘉「失踪したってこと」

P「失踪?」

美嘉「たまに誰にもなにもいわず、ふらっと消えるんだよ。
   行き先聞いても適当に濁して教えてくれないし、
   ま、いつものこと」

P「教えてくれない……」
178 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:10:08.70 ID:vTqC38JC0
まゆ「あら、こんなところにいらしたのね、美嘉ちゃん。探したわぁ」



美嘉「ああ、まゆちゃん、お疲れ。アタシになにか用事……で、も……」

まゆ「ええ、とぉっても大事なお話があるの。二人きりで」

美嘉「え、ちょっと、なんなのその意味深な笑顔は? アタシなんかした?」

まゆ「うふ、ご自分の胸に聞かれてみては? 美嘉ちゃんお借りしても?」

凛・蘭子・P「どうぞ……」

美嘉「え、え、なに、ホントなんなの!?
   待って、今考えるから! 考えるから! ねぇ、ねぇったら!」


 ズルズル…… ガチャッ バタン――


蘭子「まゆちゃん、目が笑ってなかった……」

P「……凛、その花束、俺が預かるよ。
  俺も志希には用事があるし、ついでに渡しておくよ」

凛「別にいいけど……、行き先わかるの?」

P「いや、まあその……、とにかく色々あたってみるよ。
  偶然会えるかもしれないし」

凛「……わかった、お願い」



………
……
179 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:11:13.66 ID:vTqC38JC0
 ガラガラガラ ガシャン……


P「志希? 志希いるか」

P「……ん」

志希「zzz」

P「……」

P「志希、おい、志希、こんなところで寝てたら風邪ひくぞ」ユサユサ

志希「ん……」

志希「……あれ、なんでキミがここにいるの。てゆーか、どーやって入った?」

P「お前なあ、この前ここのスペアキー、俺に渡したろ」

志希「あぁ、そーだったぁ、そーだったぁ……」モゾモゾ

志希「……」

P「志希?」

志希「…………すぅ……」

P「お前は杏か」
180 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:12:30.80 ID:vTqC38JC0
P「ほら、コーヒー」

志希「ふわぁ、サンクス……」ムニャムニャ

P「徹夜か」

志希「まーね。調合してたら寝落ちってよくあるパターン。
   でもキミにここのスペアキー渡しておいて正解。
   これからはキミが起こしに来てくれるから安心して寝坊できるね。
   これ、依存性の兆候」

P「そういうことならこのスペアキーは返すぞ」

志希「あー、ウソウソ、ちゃんと自分で起きるよぉ。……タブン」

P「はぁ……。それよりその格好、微妙に目の毒だから着替えてくれないか」

志希「ん、別に見たいなら見てもいいけど。
   大丈夫、訴えたりしないよ? そーゆーの面倒だし」

P「愛梨もそうだが、志希はもう少し男への警戒心を持った方がいい」

志希「無防備な姿をさらすのは愛梨ちゃんもあたしもキミの前だけだよ。
   この意味わかるでしょ?」

P「信頼してくれるのは嬉しいが……」

志希「ちなみにここは10歳くらいからふっくらと……、キョーミない?」

P「……いいから着替える」
181 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:13:44.60 ID:vTqC38JC0
志希「――で、その花束はなに? あたしへのプレゼント?」

P「ああ、これは――」

志希「もしかしてあたしにプロポーズ?
   にゃふふぅっ! キミもケッコー古風なんだね、嫌いじゃないよ?
   いいでしょー、謹んでお受けしま――」

P「凛からのプロポーズだよ、ほら」ポフッ

志希「おわっと。……あー、そっかー。今日もらう約束してたんだった。
   そーだったー、そーだったー。あとでお礼いっとかなきゃ」

P「俺からのプレゼントはこっち」

志希「なにこれ、台本?」

P「おめでとう、志希。この前の舞台のオーディション、
  志希のやりたがってた役に決まったぞ」

志希「ほんとに? 嬉しいっ!」

P「“百年牢に閉ざされた聖女”か。
  よくもこんな難しそうな役に挑戦しようと思ったな」

志希「……まーね」パラパラ

志希「きっとこの人、牢から出てさぞビックリしただろうね。
   町並みは変わってるし、誰も知らないし」

志希「どんな、気持ちなのかな……」

P「……」
182 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:16:37.48 ID:vTqC38JC0
 ――バンッ!


未央「うわっ、ビックリしたぁ……って、ゲッ! 美嘉ねえ……」

美嘉(誰よ! まゆちゃんに寮のこと話したのは! 超怖かったんだから!)

未央(ええっと、それはその……)

莉嘉(ゴメンなさい、お姉ちゃん……)

美嘉(莉嘉、またアンタか! あれだけ誰にもいうなっていったじゃない!)

アナスタシア「美嘉、なにをコソコソと話しているんです。内緒話ですか」

美嘉「へっ? べっ、別に? なんでもないですけど?」

アナスタシア「プロデューサーが美嘉たちの部屋に行ったことなら、
       もうみんな知っていますよ」

美嘉「なっ!」

幸子「その様子だとまゆさんにだいぶ絞られたようですね」

美嘉「〜〜っ! もぉっ! なんなのよ!
   どうしてアタシばかりこんなに責められなきゃいけないわけ!?
   アタシそんな悪いことした!?」

幸子「したでしょ」

アナスタシア「しましたね」

美嘉「だってプロデューサーと二人きりだったわけじゃないんだよ!?
   やましいことなんかなにもしてないのに!
   かなり健全なお付き合いだったのにぃ!」

幸子「いや、プロデューサーさんを部屋に入れた時点ですでにやましいですから」

アナスタシア「抜け駆けした罰です」

美嘉「抜け駆けって……、じゃぁ訊きますけど?
   二人は人にはいえない、プロデューサーとの思い出がないってわけ?」

幸子「……」サッ

アナスタシア「ヤ、ヤーニェズナーユ……」

美嘉「あーっ! 顔逸らした! ロシア語で誤魔化した!
   二人だってやっぱあるんじゃない!」

莉嘉「ハイハイ! アタシもある! Pくんと二人だけの思い出! たっくさん!」

杏「莉嘉ちゃん、ノリノリで自己申告しなくていいから。ややこしくなるから」

未央「……私もある。プロデューサーと二人だけの思い出」

杏「ちょっと未央まで……」

未央「けどさ、諦めちゃったらそれは私一人だけの思い出になるってことだよね?」

未央「だってそうでしょ? 
   どんなに大切な思い出でもプロデューサーは永遠に思い出せないまま。
   二度と過去の共有ができない……」

杏「……」

美嘉「……なに、なんの話、諦めるって」



……
183 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:18:28.93 ID:vTqC38JC0
美嘉「――プロデューサーの様子が変なのはアタシも気にはしてたけど……」

美嘉「……凛はこのこと知ってるの」

未央「知らない……、と思う」

美嘉「じゃあ、凛にはこのまま黙っておくこと。来週にはシークレットライブがあるんだし」
   
美嘉「あの子、ああ見えて脆いところあるし、
   プロデューサーのことに関しては殊更敏感なんだから、
   教えるにしても終わってからじゃないと……」

美嘉「それにアンタたちも、プロデューサーが記憶を諦めるって
   まだ決まったわけじゃないんだからあまり深刻に考えない。
   そんな暗い顔してたら凛に悟られる」

美嘉「未央、アンタは一番のムードメーカーなんだから、
   こういう時こそ明るく振る舞ってみんなを元気づけなさいよ。
   アンタから明るさ取ったらなにが残るわけ」

未央「私から明るさを取ったら……」ハッ!

未央「クール・ビューティー・未央ちゃんの完成……?」

杏「ないわー」

卯月「……」

幸子「あの、卯月さん」

卯月「……え」

幸子「大丈夫ですか。さっきからずっと黙り込んでいますけど」

アナスタシア「卯月も『心アラズ』ですか」

卯月「えっと、あの、その、なんでもないです、なんでも……」

杏(……?)

卯月「そうだ、私、お仕事があるのでそろそろ行きますね」


 ガチャッ バタン……


杏「……どーしたの、卯月ちゃん」

幸子「さぁ……」

アナスタシア「あれは『なんでもある』時の『なんでもない』ですね」
184 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:22:15.33 ID:vTqC38JC0
卯月「……」ツカツカ



楓『もしプロデューサーが本当に記憶を諦めるとしたら、
  それを私たちは受け入れることができるかしら』


未央『どんなに大切な思い出でもプロデューサーは永遠に思い出せないまま、
   二度と過去の共有ができない……』



卯月「私って薄情なのかな……」


P「誰が薄情だって?」


卯月「ひゃあっ!」ビクッ

卯月「……あ、プロデューサーさん」

P「悪い、そんなに驚かれるとは思わなかった。
  卯月はこれからデレラジの収録だったか」

卯月「あ、はい。実は今日のパーソナリティ、私一人なんです。
   一人の収録って初めてだから少し緊張しちゃって……、えへへ」

P「そっか。それじゃあ、卯月の緊張がほぐれるよう、これをあげよう」スッ

卯月「……飴ですか」

P「実は杏のために買ってきたんだ。杏、飴が好物だって聞いたから、
  それなら飴を出しに仕事のモチベーション向上を図ってみようかと」

卯月(あ……)

P「さすがに食べ物につられる年齢じゃないのはわかってるけど、物は試しで」

卯月「それ、前のプロデューサーさんも同じことをしていました。
   駄々をこねる杏ちゃんに飴と引き換えにしてよく交渉を……」

P「そ、そっか。まあ、同じ人間だしな。考えることも一緒か、はは」

卯月「口には出さないけど、杏ちゃん、その一連の流れが好きだったみたいです。
   今はそれがなくて少し寂しそうで。だからきっと喜んでくれると思います」

卯月「……けど、やっぱり寂しくなると思います」

P「どうして?」

卯月「プロデューサーさんが、思い出したわけじゃないから」

P「……」

卯月「……あ、ご、ごめんなさい! 私、なんてことを……」

P「いや……、きっとそのとおりだ」

卯月「……」
185 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:22:58.30 ID:vTqC38JC0
P・卯月「あのさ」「あの!」

P・卯月「あ……」

P・卯月「どうぞ……」

P・卯月「……」

P・卯月「あはは……」

P・卯月「……」



P「俺の記憶が戻らないっていったらどうする」


卯月「プロデューサーさん、記憶、諦めるんですか」



P・卯月「……」



……
186 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:25:57.08 ID:vTqC38JC0
P「……そっか、みんな不安がってるか」

卯月「……」

P「本当は凛のシークレットライブが終わったら
  話そうと思っていたんだが、そうもいかないか」

卯月「じゃあ……」

P「そうだな、結果的に俺は記憶を諦めることになる」

卯月「……!」

P「この前の定期検査で医師にいわれたよ。
  ここまで月日が経って記憶が戻らないとなると
  もはや戻る可能性はないだろうって。
  おそらく俺の記憶は一生このままだろうって」

卯月「……」

P「すまなかったな。
  今まで色々協力してくれたのにこんな結果になってしまって。
  みんなにはまた辛い思いを……」

卯月「あ、あの、私たちのプロデュース、やめたりしないですよね……?」

P「……正直、怖い」

卯月「怖い?」

P「もう、みんなが望む前の俺には戻れない。
  だけど俺はこれからもこの飴のように、
  記憶が変わる前の俺がしたことと同じことを繰り返すだろう。
  なまじ記憶が違うだけの同じ人間だしな」
  
P「その都度みんなには寂しい思いをさせることになる。
  きっと今までだって何度もあったんだろ」

P「俺がそばにいるだけでみんなを苦しめる……。
  そんな俺を、みんなは受け入れてくれると思うか」

卯月「……」
187 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:27:55.28 ID:vTqC38JC0
卯月「正直にいうと、私はそんなにショックじゃないんです」

P「え……」

卯月「自分でも不思議なんです。
   私にも前のプロデューサーさんとの思い出は沢山あります。
   どれもかけがえのない大切な私の記憶です」

卯月「今思い出しても心が温かくなって元気が出てくるような……。
   プロデューサーさんにとってもそんな記憶だったらいいなって、
   えへへ……」



凛『私にとってかけがえのない大切な記憶だから、
  プロデューサーにとってもそうだったらいいなって』



P「……」

卯月「でも、もしプロデューサーさんが記憶を諦めるとしたら、
   私はそれをすんなりと受け入れられる気がしたんです」

卯月「……実際、そのとおりでした」

P「だからさっき、自分が薄情だって……」

卯月「……」コクッ

卯月「寂しいと感じたこともそんなにないから、
   余計にみんなとの温度差を感じちゃって……」

卯月「だからみんなが私みたいに受け入れられるかどうかはわかりません。
   だけど一つだけ、確かなことがあります」

卯月「私もみんなも、プロデューサーさんと絶対に離れたくはないです」

卯月「それだけは、確かです」

P「……」

P「少し、話し込んでしまったな。そろそろ切り上げよう、ラジオに遅れる」スッ

卯月「あっ……」

P「卯月、このことは俺から話すまでみんなには黙っていてくれるか」

卯月「は、はい」

P「……卯月は薄情なんかじゃないよ。薄情な人間はそんな風に思い悩んだりしない」

P「優しい子だよ、卯月は」

卯月「プロデューサーさん……」

P「あ、もしかして卯月だったか。俺と千川さんの話を聞いていたのは」

卯月「話? なんの話ですか」

P「いや……、知らないならいいんだ」

P(……)



…………………
………………
…………
……
188 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 13:29:17.87 ID:vTqC38JC0







189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/23(金) 14:57:19.87 ID:oTE6wCjDO
しまむぅ〜 ナデナデ
190 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:40:49.19 ID:RFnWBlsF0
トレーナー「――オッケー、いいでしょう。
      みんな、この短期間でよくここまで形にできた。
      さすがは第一線で活躍するアイドルたちといったところかしら」

幸子「フフン! 当然ですよ、ボクにかかればこのくらい」

美嘉「ま、半端な出来じゃ自分が許せないし」

トレーナー「ふふ、そうね。
      本会場でゲネプロができなかったのは悔やまれるけど、
      その分、明日の最終リハできっちり詰めていきましょう」

凛「……あの、私からも」スッ

凛「みんな、あらためて本当にありがとう。
  私のわがままにここまで真摯に付き合ってくれて」

未央「しぶりん、礼をいうのはまだ早いんじゃないの。本番は明日なんだから」

アナスタシア「そうですね。感謝の言葉は全てが終わってからまた聞かせてください」

楓「雑炊は締めにあるから美味しいのよ」

美嘉「なんの話……」

凛「うん、明日はよろしくお願いします」ペコ

トレーナー「それじゃあ、今日はここまで。
      みんな、お疲れさま。明日は頑張ってね」

一同「ありがとうございました!」



………
……

191 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:42:22.50 ID:RFnWBlsF0
 ――ガチャッ

凛「お疲れさまです」

ちひろ「あら、凛ちゃん、お疲れさま」

凛「ちひろさん、プロデューサーはまだいる?」

ちひろ「プロデューサーさんなら……」


P「……」スースー


凛(寝てる……)

ちひろ「もう少ししたら先行してアリーナへ向かうから、
    今のうちに寝てもらっているの。
    現地に着けば明日が終わるまで寝れないでしょうし」

ちひろ「もしかしてプロデューサーさんに用事でもあった?」

凛「ううん、なんとなく顔が見たかっただけ」

凛「……無理、させちゃってるよね」

ちひろ「明日のライブを成功させるためだもの、多少の無理も今は仕方ないわ。
    みんなの仕上がりはどう?」

凛「バッチリ。みんなのおかげで最高のステージになりそう」

ちひろ「そう、よかったわね」

凛「明日のステージ観たらさ、プロデューサー、思い出してくれるかな」

ちひろ「……今日はもう帰った方がいいわ。明日に備えて早めに身体を休めないと」

凛「うん、でももう少しだけここにいてもいい? もう少しだけ、ここに……」


P「……」スースー



…………………
………………
…………
……
192 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:43:55.76 ID:RFnWBlsF0
未央「アリーナよ、私は帰ってきた!」

莉嘉「きたーっ!」

蘭子「今宵、灰かぶりの娘は蒼穹の歌姫に生まれ変わるのだ!」

志希「のだーっ!」

美嘉「アンタらうっさい。
   なんで主役の凛よりアンタたちの方がはしゃいでんのよ」

未央「いやぁ、だって、こんなにも早くアリーナに戻ってこれるとは
   思ってもみなかったから、もう嬉しくて嬉しくて」

志希「アドレナリンが過剰分泌しますな!」

莉嘉「しますな!」

愛梨「なんだか思い出すなぁ。一人でここに立ったのが懐かしい」

蘭子「あの日のことを忘れたことはないわ……」フッ

未央「お、初代・二代目シンデレラガールが語る!
   どうでしたか、一人で立つアリーナのステージは?」

蘭子「ククク、緊張しすぎて吐きそうだった」

未央「……」ガクッ

愛梨「私も。人生の中で一番緊張したかも。
   でもここから見る景色は本当に最高だった。きっと一生忘れない」

幸子「……そっか。
   シンデレラガールになれば、この景色全部ひとり占めにできるんだ……」


 「…………」


美嘉「俄然、ヤル気が出てきわね。次のシンデレラガールの座に就くのはアタ――」

未央「私だーっ!!」

莉嘉「アタシだーっ!!」

志希「志希ちゃんだーっ!!」

幸子「ボクだーっ!!」


美嘉「……ア、アタシだー……」


まゆ「なにを叫ばれているんです」

愛梨「えーと……」

蘭子「栄光を掴む魂の咆哮!」

まゆ「……?」



………
……
193 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:45:35.16 ID:RFnWBlsF0
凛『渋谷凛です、今日はよろしくお願いします』

 『よろしくお願いしまーす。ではマイクテスト始めまーす』



P「……」

 ――ツンツン

P「……?」クルッ

楓「お疲れサマー……」

P「お、お疲れさまぁ……」
194 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:46:48.17 ID:RFnWBlsF0
楓「これ、差し入れです」

P「ああ、ありがとうございます。
 『エナドリ』……、栄養ドリンクですか」

楓「うちの事務所が製薬会社とコラボして作った栄養ドリンクです。
  なぜかちひろさんが監修されているみたいです」

P「へえ、千川さんが」

楓「一度飲んだら“やめられない、とめられない”と評判なんですよ」

P「それは……、栄養ドリンクとしてどうなんですか」

楓「栄養は取れてるみたいだからえーよー」

P「……」

楓「ふふ、私、プロデューサーのその
  どう反応したらいいかわからない表情を見るのが好きなんですよね」

楓「でももっと好きな表情があるんです。なんだと思います?」

P「……さあ」

楓「それは――」

 ――ニュッ

P「うぇっ?」



凛『――アー、アー、チェック・ワン・ツー……』

 『はい、オッケーでーす。では歌お願いしまーす』



楓「プロデューサーの笑顔です」

P「……」
195 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:47:55.76 ID:RFnWBlsF0
楓「いけない、いけない。“笑顔”は卯月ちゃんの専売特許でしたね」

楓「……私、凛ちゃんには感謝しているんです。
  今日のシークレットライブに出演させてくれて」

P「どうしてですか」

楓「今日の主役は凛ちゃんで私たちはあくまでサポートする立場ですが、
  アイドルとしての本分がなくなったわけではありません」

楓「アイドルとは人々に希望や勇気を与え、笑顔にさせることができる存在であり、
  それこそが全うすべきアイドルの本分である、と私は考えています。
  誰かさんの受け売りですけど」

楓「今日でいえば私が凛ちゃんをサポートすることで
  会場に来てくださったお客さんたちを笑顔にすることができれば、
  私はアイドルとしての本分を全うすることができたというわけです」

楓「ですが今日、笑顔にすべきはお客さんだけではあらず」

楓「プロデューサー、あなたもです」

P「……」
196 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:49:18.75 ID:RFnWBlsF0
楓「私、プロデューサーが記憶障害に陥ってから今日まで、
  プロデューサーの心からの笑顔って久しく見ていないんです」

楓「プロデューサーの心情を察すればそれは当然のことだと思います。
  未だ記憶の回復の兆しもない現状では、
  心から笑うことなんてできないですよね」

楓「だけど今夜の私たちは魔法使いです。魔法使いならば
  プロデューサーを魔法にかけ、笑顔にすることもできるはず」

楓「今夜くらい、全てを忘れ、夢のようなひと時を……」

P「……楓さん」

楓「悔しいですが、私一人の力では
  今のプロデューサーを笑顔にすることはできないみたいです」

楓「ですが一人では無理でも、私たち13人の力を合わせればきっと……。
  凛ちゃんもそう思ったから私たちに出演を依頼したのではないでしょうか」

楓「それに最も身近にいる人を笑顔にできないでアイドルとは名乗れませんからね。
  私のプライドにかけて、プロデューサーを心からの笑顔にしてみせます」

P「……ありがとうございます、期待しています」

楓「はい、期待していてください。
  それにしてもプロデューサーの頬触っちゃった。
  みんなに自慢しちゃおっと」

P「え、それ自慢になるんですか」



………
……
197 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:50:23.86 ID:RFnWBlsF0
幸子「あ、プロデューサーさん!
   ズルいじゃないですか、楓さんに頬を触らせて!
   ボクにも触らせてくだいさいよ!」

未央「そーだ、そーだー! 不公平だー! 私にも触らせろーっ!」

莉嘉「アタシも触りたーい!」

志希「唇で触らせろー」

杏「人、それをキスという」

まゆ「志希さん? どさくさに紛れてなにをいっているのかしら?」

P(本当に自慢になってる……)

P「なんていうか、みんな、いつも通りだな。緊張してないのか」

美嘉「もちろんしてる。でもいい緊張感だよ」

アナスタシア「そうですね。適度な緊張感は実力を引き出すために必要ですから」

P「頼もしいな」

愛梨「でも凛ちゃんは違うと思います。きっと――」

蘭子「彼の魂は今、瘴気にあてられ、渦巻く混沌の闇を彷徨っている……」

P「……つまり、極度の緊張状態にいる、という解釈であっているか?」

愛梨「あってます」

蘭子「さあ、行くがよい。彼の魂を救済せよ。導きの矢を放て。
   さすれば闇に一筋の流星が降り注ぎ、光の道が開かれるだろう……!」

P「……つまり、俺に凛の緊張を和らげろ、という解釈であっているか?」

愛梨「あってます」

P「わかった。じゃあ、行ってくるよ」
198 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:51:22.44 ID:RFnWBlsF0
P「凛、入るぞ」コンコン

  ガチャッ――

P「……ん」

卯月「お疲れさまです、プロデューサーさん」

P「お疲れ、卯月もいたんだな」

卯月「はい。では私そろそろ戻りますね。凛ちゃん、また後で」

凛「うん、ありがと」

 ガチャッ バタン

P「なにを話してたんだ」

凛「まぁ……、他愛のない話」
199 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:52:30.82 ID:RFnWBlsF0
P「緊張してるか」

凛「まぁ、それなりに。なに、励ましにきてくれたの」

P「そのつもりだったけど、思ったより平気そうだな」

凛「伊達にライブをこなしてませんから。
  それに今日はみんながいるし、それだけでも大分違う。
  一人だったら……、きっと震えてた」

P「そっか、いい仲間を持ったな」

凛「うん……。
  だからプロデューサーの励ましの言葉は必要ないかな。
  なんか効かなそうだし」

P「そ、そっか……」

凛「ふふ」

凛「……」

P「どうした」

凛「ううん、なんでもない。プロデューサー、ありがとう」

凛「プロデューサーのおかげで無事今日を迎えることができた。
  一時はどうなるか不安でいっぱいだったけど、万全を期してライブに臨める。
  ちゃんと私の期待に応えてくれたよね」

P「それが俺の仕事だからな」

凛「今度は私が応える番……。
  ねえ、プロデューサー、私のことちゃんと見ててね?
  私、キラキラ輝いてみせるから」

P「ああ、もちろん。凛の輝く姿をこの目に焼き付けるよ」



凛「もう、忘れないでね」



………
……
200 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:56:09.69 ID:RFnWBlsF0
P「――時間だ。みんな、準備はいいか」

莉嘉「オッケー☆」

愛梨「いつでも行けます」

幸子「むしろ待ちくたびれましたよ」

P「……」

P「魔法使い諸君、今夜はシンデレラをよろしく頼む。
  みんなの魔法で最高のステージにしてあげてほしい」

楓「合点承知の助」

蘭子「今こそ我が魔翌力を解放し、『蒼の世界』を創造してみせようぞ!」

美嘉「あとはアタシたちに任せてプロデューサーは安心して見ててよ。
   ばっちり凛をサポートしてくるからさ」

志希「凛デレラや、
   零時で魔法が解けてしまうからそれまでには帰ってくるんじゃよ」

凛「いや、そんな長いことライブやんないし」

楓「さぁ、えんじ……凛グになりましょう、凛グに」

凛「円陣でいいから。わざわざいい直さなくていいから」

  アハハ ゾロゾロ……
201 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:56:56.45 ID:RFnWBlsF0
未央「しぶりんデレラ、掛け声の前になにかひと言」

凛「普通に呼んで、普通に」

凛「……みんな――」

愛梨「あ、そういえば凛ちゃん、シンデレラガールおめでとう」

凛「今さら!?」

愛梨「今度お祝いのケーキ焼いてくるね」

凛「え、あ、ありがとう……」

幸子「凛さん、余裕を見せてられるのも今のうちですよ!
   すぐに追いついてやりますから!」

凛「な、なに急に」

未央「玉座に座ってられるのも今のうちってことよ!」

アナスタシア「そうです、せいぜい首を洗って待っていることです」

杏「アーニャ、それ意味わかっていってる?」

美嘉「ストップ。今はアンタたちの思いの丈を主張する場じゃないから。
   凛、どうぞ」

凛「え、あ、うん」
202 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:57:51.16 ID:RFnWBlsF0
凛「みんな、ケガにはくれぐれも気をつけて」


一同「……」


凛「……」


一同「……?」


凛「……あ、以上です」


一同「……」ガクッ
203 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 19:58:43.34 ID:RFnWBlsF0
未央「しぶりんさぁ……」

凛「なに、大切なことでしょ」

未央「そりゃ大切だけど! 大切なことだけども!
   もっとこう……! 私たちを鼓舞する言葉をさぁ!」

凛「鼓舞する必要ないくらい、もうみんな十分ヤル気じゃん」

美嘉「じゃあ、今日のライブにかける思いを語るとか」

凛「それ散々インタビューで答えたし」

未央「なんで!? なんでこれからって時にそんな冷めてんの!?」

凛「いいじゃん。今の私冷静ってことでしょ。
  そういう未央こそもう少し落ち着きなよ」

未央「ぬわぁにぃっ!!?」

幸子「……なんていうか」

まゆ「締まらないわね」

卯月「あはは……」
204 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 20:00:21.12 ID:RFnWBlsF0
楓「凛ちゃん、グダグダ筆頭の私がいうのもなんだけど、
  こういう時はきちんと締めた方がいいと思うの」

アナスタシア「凛、楓にいわれてはお終いですよ」

杏(さらっとひどいことをいう)

凛「わ、わかった……」

凛「……」チラッ

P(……ん?)

凛「私は……決めた。私は過去よりも今を選ぶ。みんなはどうする」

卯月(……)

志希(……)

美嘉「なにそれ……、どういう意味?」

凛「別に。なにも」

凛「今日という日が誰かにとって、一生の思い出になるような、そんなライブにしたい」

凛「そのためにも、みんなの力を貸してほしい」

蘭子「フッ、その言葉を待っていた……!」

未央「ほんとだよ。最初からその言葉つけといてよ」
205 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 20:01:14.61 ID:RFnWBlsF0
凛「じゃあ、みんな、手を出して。いい? いくよ……」


凛「すぅ……」


凛「ハナコ!!」


一同「ワンッ!!!」
206 : ◆nx90flyJCa6p [sage]:2020/10/23(金) 20:02:01.44 ID:RFnWBlsF0
P「……」

P「……え、なにそれ」

卯月「ハナコちゃん。凛ちゃんの飼ってるワンちゃんです」

莉嘉「ワンワン!」

志希「ニャンニャン!」

凛「可愛いよ。今度見せたげる」

P「そ、そっか。
  まあ、それで気合が入ったというならなにもいうまい……」

P「……よし! それじゃあ、みんな、行ってこい!」

一同「はい!」


 ワァァァァァ……



…………
………
……
386.70 KB Speed:0.3   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)