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男「旧校舎の伝わる六つの暗号?」
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30 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:34:50.67 ID:dH/mvw+70
――帰り道
男(黒髪さん)スタスタ
男(旧校舎)スタスタ
男(暗号)スタスタ
男(やっぱりなにか隠してるよな)スタスタ
?「――」スッ
男「え!?」ピタ
男(あれ!?今すれ違ったのは……!)
男「黒髪さん!?」
?「え??」クルッ
男「あ……」
?「なんですか?」
男「黒髪さん……じゃない……?」
?「え?」
男「す、すみません、人違いでした」
?「……」クルッ スタスタ
31 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:36:14.42 ID:dH/mvw+70
男(よく考えたら黒髪さんなわけがない)
男(俺の方が先に学校を出たんだ、ここですれ違うのはおかしい)
男(それに制服も髪の長さも違ってたし)
男(顔も黒髪さんよりもっと幼い感じだった)
男(だけど……雰囲気が似てたな)
男(黒髪さんの妹かなにかか?)
男(ん?)
男(幼い?似てる?)
男(なんか最近聞いたようなフレーズだな……)
男「ま、いっか」
32 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:39:01.51 ID:dH/mvw+70
三日目 木曜日
――朝 教室
友「なぁなぁ、お前の言ってたセーラー服の先輩ってどんな人なの?」
男「んー……普通っていえば普通なんだけど……うーん」
友「んで、可愛いの?」
男「まぁ……綺麗な人だと思う」
友「へー」ニヤニヤ
男「なんだよその顔」
友「旧校舎で先輩と逢引とは、男も隅におけないね」ニヤニヤ
男「そんなんじゃないから」
友「でも昨日の放課後も会ってたんだろ?」
男「まぁ……うん」
友「ほら!」ニヤニヤ
男「……」
友「あ、大丈夫!邪魔するつもりはないから安心して!」
友「それに、旧校舎に好んで行くのは男ぐらいだし!」
33 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:40:50.86 ID:dH/mvw+70
――昼休み
委員長「男くん、ちょっといいかしら?」
男「委員長?」
委員長「最初に謝っておくけど盗み聞きをするつもりはなかったの、ごめんなさい」
男「……なんの話?」
委員長「単刀直入に聞くわ。放課後、旧校舎に出入りしているの?」
男「なっ!?」
委員長「旧校舎は立ち入り禁止よ。もし出入りしているなら今後一切立ち入らないように」
男「……」
委員長「今回は私だけの注意に留めておくけど……もし今後も続くようなら先生方に報告させてもらうわ」
男「はぁ」
委員長「話は以上よ。それでは」
34 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:42:49.71 ID:dH/mvw+70
友「あちゃー、今朝の会話が聞かれてたか……ごめんね男」
男「んや、気にすんな」
友「委員長なぁ……堅苦しいんだよね」
男「ああ」
友「まぁそこが可愛いいんだけど!」
男「……」
友「で、今後どうするつもりなの?」
男「バレないように注意するよ」
友「結局行くんかい!」
男「もちろん」
友「男がそのつもりなら、俺もバレないように協力するよ!」
男「ああ」
友「男は安心してセーラー先輩と愛を育んでくれ!」
男「だからそういのじゃないっての!」
35 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:43:45.50 ID:dH/mvw+70
――放課後 旧校舎
男(周りの目に注意しながら来たから、バレてないはず)
男(今後は細心の注意を払って――)
黒髪「おーい!男くんー!」
男「げ」
黒髪「男くーん!」ブンブン
男(あの人は!また三階から大声で!!)
男「しー!!」
黒髪「??」
男「しー!!!」
黒髪「なあにーー??聞こえないわーー!!」
男「くそ!」
ダダダダダ
36 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:44:52.38 ID:dH/mvw+70
男「はぁはぁ!黒髪さん!」
黒髪「あら?」
男「一体どういうつもりですか!?」
黒髪「あ!そっかそっか、ごめんなさいね」クスッ
男「ったく……バレたら二人ともただじゃ済まないんですよ?」
黒髪「次から気をつけるわ」
男「はぁ……」
黒髪「でもまた会えたね」ニコニコ
男「……」
黒髪「ふふっ」
男「それで暗号の書かれた紙は持ってきましたか?」
黒髪「持ってきてないけど、一つ思い出したの!」
男「なぜ持ってこない……」
37 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:45:56.44 ID:dH/mvw+70
黒髪「じゃあ言うからちゃんと覚えてね」
男「はい」
黒髪「えーと……『叡智の楽園にて、案内人を導く光の元に潜む』だったかな?」
男「ん?……なんですかそれ?」
黒髪「さあ……なんの事だか私にはさっぱり!」
男「ふーむ……叡智の楽園ねぇ」
黒髪「……」ジー
男「……」
黒髪「……」ジー
男「見つめないでください」
黒髪「ふふっ」
男「とりあえず行ってみますか」
黒髪「え?もう分かったの!?」
男「いえ、おおよその場所くらいしか」
黒髪「すごーい!どこどこ!?」
男「叡智の楽園ってのは恐らく図書室ではないのかと」
黒髪「図書室!!」
男「行きましょう」
黒髪「はーい!」
38 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:47:07.11 ID:dH/mvw+70
――旧校舎 図書室
黒髪「ここの何処かにあるのよね?」
男「恐らく」
黒髪「棚以外なにもないね」
男「……」
黒髪「おまけに薄暗いし」
男「……」
黒髪「男くん何か分かりそう??」
男「『叡智の楽園にて、案内人を導く光の元に潜む』か」
男「うーん……」
黒髪「……」
男「探すにしてもこうも薄暗いとなぁ」
黒髪「電気が付けばいいのだけど」
男「電気……」
黒髪「?」
男「あ!」
黒髪「ん??」
39 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:48:31.97 ID:dH/mvw+70
男「黒髪さん、図書室の案内人って誰のことを指してると思いますか?」
黒髪「えーと、貸し出しとかしてる人、かな?」
男「うん。じゃあその人は普段どこにいます?」
黒髪「受付のカウンター?」
男「ですね」
黒髪「やったー!正解ー!ふふっ」
男「導く光はこれの事かと」スッ
黒髪「あ……照明!なるほど!」
男「そして、『導く光の元に潜む』とは」
男「よい、しょっ!」ガタッ
男「この電球ソケット周りの反射板が怪しいと思うんです……」ガサガサ
黒髪「……」
男「ビンゴ……!」ペリッ
黒髪「わぁ!!」
40 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:50:11.16 ID:dH/mvw+70
男「よいしょ、っと」スタッ
黒髪「すごい!すごいわ、男くん!!」
男「いえ……暗号というにはあまりにも簡単過ぎだと思います」
黒髪「それでも凄いわ!私には全然わからなかったもの!」
男「……じゃあ開きますよ」
黒髪「うん!」
男「……」スッ
黒髪「これは……『た』、だね」
男「これで見つけた和紙は二枚」
黒髪「ええ」
男「一枚目は『の』二枚目は『た』」
黒髪「……」
男「六つの暗号ってことは全部で六枚の和紙が隠されてるってことでいいんですか?」
黒髪「ええ、そうね」
男「じゃあ残りは四枚か」
41 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:51:03.56 ID:dH/mvw+70
男「この感じだと、六枚の和紙を集めるとなんらかのメッセージになる……のか?」
黒髪「うん。私はそれが知りたいの」
男「…………」
黒髪「どうしたの??」
男「いえ」
黒髪「あ!結構いい時間、今日も夕焼け見るのよね??」
男「あ、はい、もちろんです」
黒髪「じゃあ行きましょ」
男「はい」
42 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:52:24.51 ID:dH/mvw+70
――帰宅 通学路
男(やはりおかしい……)
男(転校生の黒髪さんがなぜ六つの暗号を知っているのか?)
男(さらに……隠されているのが和紙で、なんらかのメッセージだという事も知っていた)
男(そもそも黒髪さんの存在からして怪しい……)
男(俺は彼女を旧校舎以外の場所にいる所を一度も見ていない)
男(今日も旧校舎の前で解散したし、思い返せば今までも――)
「女ちゃん、今日も病院に行くの??」
女「うん」
男「え?」クルッ
43 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:53:20.03 ID:dH/mvw+70
男(あの子は……黒髪さんに雰囲気が似てる子……)
「じゃあ私はここで!また明日学校でね!」
女「うん!ばいばーい!」
男「……」ジー
女「……?」
男「あ」
男(しまった、思わず凝視してしまった!)
女「あなたは、昨日の……」ジト
男(“女ちゃん”って呼ばれてたっけ)
男(こうしてマジマジ見るとやっぱり黒髪さんに似てるなぁ……)
男(いっそ直接この子に聞いてみるか)
44 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:54:34.30 ID:dH/mvw+70
男「突然すみません、一つお尋ねしたいことがあります」
女「な……なんですか?」サッ
男(あー、すごい警戒されてる……まぁそれもそうか)
男「あなたに兄弟は……お姉さんはいませんか?」
女「は??」
男「あなたのお姉さんについて聞きたい事が――」
女「私は一人っ子です」
男(一人っ子?そんなバカな……他人の空似でここまで似るか?)
女「もういいですか?」
男「では……親族に“黒髪さん”って方は居ませんか?」
女「えっ!?」
男(この反応……もしかして!)
45 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:55:28.53 ID:dH/mvw+70
女「……」
男「僕の知人である黒髪さんと、あなたがとてもよく似ていて……兄弟、もしくは親族の方ではと思いまして」
女「ええ!?私と……似てる……?」
男「はい」
女「人違いだと思います!!」
男「え?」
女「失礼します!!」タタタタ
男「あ……」
男「な、なにか怒らせるようなこと言っちゃったかな?」
男(でもあの反応は……なにか知ってそうな気がする)
男(明日、黒髪さんにも聞いてみよう)
46 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:58:31.94 ID:dH/mvw+70
四日目 金曜日
――放課後 旧校舎
黒髪「あ、男くん!今日は上から叫ばなかったのよ!偉いでしょ?」
男「そうですね」
黒髪「むー、君は愛想が悪いなぁ」
男「……」
黒髪「ほらもっと愛想良くして!」
男「……」
黒髪「とりあえず笑顔!」ニコッ
男「……」
黒髪「はい、男くんも!」ニコッ
男「はぁ」
黒髪「こら!笑顔は基本だぞ!」
男「言わせてもらいますが」
黒髪「なに?」
男「愛想が悪かったら暗号解きなんて手伝いませんよ」
黒髪「た、たしかに!」
47 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 20:59:33.63 ID:dH/mvw+70
男「じゃあ次の暗号を教えてください」
黒髪「次のは覚えるの大変だったなぁ……えっとねぇ」
男「なぜ暗号が書かれたメモを持ってこない……」
黒髪「『んしつ』と『けとの』と『ほっべ』」
男「はい?」
黒髪「この言葉が三行で並んでるの」
男「え?どういうことです?」
黒髪「メモ用紙があると分かり易いと思うわ」
男「はあ……それなら」ゴソゴゾ
黒髪「じゃあ説明するから書いていってね」
男「え?俺が?」
黒髪「ええ」
男「黒髪さんが書いた方が早いと思いますが」
黒髪「ふふ、こういうのは自分で書くことに意味があるのよ!」
男「……」
48 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:00:55.16 ID:dH/mvw+70
男「『んしつ
けどの
ほっべ』」
黒髪「そう!それ!」
男「……」
黒髪「わけわからないよね?」
男「……」
黒髪「これは男くんでも解くの大変なんじゃないかな?」
男(一見すると意味がなさそうな文字列)
黒髪「あ」
男(それにこの形……きっとこの形に意味があるはず)
黒髪「考えてる時の顔……本当あの人みたい」ボソッ
男(縦読み……ではない。斜めも違う)
黒髪「……」ジー
男(変則的な読み方なのか?例えば……)
黒髪「……」ジー
男「あ!!」
49 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:02:03.50 ID:dH/mvw+70
黒髪「え!?解けたの!?」
男「はい。間違いないと思います」
黒髪「もしかして……君って頭良い?」
男「いえ、普通です」
黒髪「ふふ、じゃあ教えてくれる?」
男「それはですね……」
黒髪「うんうん!」
男「あー……その前に」
黒髪「?」
男「もしこれで和紙を見つけたら、俺の質問にも答えてください」
黒髪「えっ……?」
男「嘘偽りなく、正直に答えると約束してください」
黒髪「……」
男「いいですか?」
黒髪「もしかして……えっちなコト……?」
男「ち、ち、違いますっ!!」
黒髪「ふふ、じゃあまずは暗号から済ませちゃいましょう」
50 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:14:04.42 ID:dH/mvw+70
――保健室
黒髪「あれ、ここって……保健室?」
男「そのはずですけど……」
男(なんで保健室にスコップが置いてあるんだ?工事関係者が置いていったのか?)
黒髪「ね、男くん、暗号はどういう事なの?」
男「あ、はい」スッ
んしつ
けどの
ほっべ
男「これを『ほ』から時計回りに読んでみてください」
黒髪「えーっと……『ほけんしつのべっど』」
黒髪「あ!!」
男「問題はベッドのどこにあるか、ですが……」
黒髪「すごい!君はなんていい子なの!偉いわ!」
男「なんすか、その子供を褒めるみたいな言い方」
黒髪「ふふふ」
51 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:15:59.58 ID:dH/mvw+70
男「えーっと、目につかない所に隠してあるはずなので」スッ
黒髪「ベッドの裏とかかしら?」
男「それはないと思います」
黒髪「どうして??」
男「ここのベッドは隙間が狭いので、隠す方も大変ですから」
男「あった」ペリッ
黒髪「ベッドの脚!」
男「はい、じゃあ開けますよ」
黒髪「う、うん」
男「」ピラッ
黒髪「今回は……『さ』!」
男「これで『の』『た』『さ』の三枚になりましたね」
黒髪「ええ」
男「……」
黒髪「これだけではまだ何かわからないわね」
男「そうですね」
黒髪「でも、ありがとう男くん」ニコッ
男「……」
黒髪「この調子で残りもよろしくね!」
男「……」
52 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:17:01.75 ID:dH/mvw+70
――旧校舎 3-1
男「では質問に答えてもらいますよ」
黒髪「そんなに真剣な顔して……そんなにえっちなコト聞きたかったの??」
男「茶化さないでください」
黒髪「ふふ、ごめんなさい」
男「ではまず、暗号によって隠された和紙は相当古いモノです」
男「転校生である黒髪さんがなぜ旧校舎の暗号の事を知っているんですか?」
黒髪「……」
男「正直に答えてください」
黒髪「……」
男「……」
黒髪「……」
男「黒髪さん!」
53 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:18:23.43 ID:dH/mvw+70
黒髪「ね、男くん……今日も綺麗な夕焼けよ」
男「そうですね……って、話を逸らさないでください」
黒髪「なんで暗号を知ってるか?だっけ?」
男「はい」
黒髪「ごめんね、今は答えたくないの」
男「なぜですか?」
黒髪「今それを教えてしまったら、私はここに居られないような気がして」
男「はい?どういうことですか?」
黒髪「暗号が全て解けたら……正直にお話します」
男「……」
黒髪「約束します。だから……もう少し付き合ってください」ペコ
男「他の人にも協力してもらえばもっと早く解決できるのでは?」
黒髪「ううん、男くんじゃなきゃ駄目なの」
男「え?」
黒髪「男くんと巡り会えたのは、きっと運命だと思うから」
54 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:20:14.04 ID:dH/mvw+70
男(悲しそうな顔であんな事を言われたら……何も言い返せなくなってしまう)
男(街で偶然会った“女”って子の事も聞けなかった)
男(全ての暗号を解くか……)
男「ここで解散ですか?」
黒髪「ええ、もう少し残ってから帰るわ」
男「そうですか」
黒髪「また明日ね」
男「明日は土曜日で学校休みですよ?」
黒髪「あ!そ、そっか!」
男「また月曜日ですね」
黒髪「月曜……」
男「はい。そして来週いっぱいで夏休みに入ります」
黒髪「……」
男「それまでに暗号を解かなければ……謎は残ったままココは取り壊されます」
黒髪「うん……」
男「ちゃんと協力しますから、黒髪さんは暗号を忘れずに!」
黒髪「うん……わかった!よろしくね、男くん!」
55 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:22:09.58 ID:dH/mvw+70
――校門前
委員長「随分遅いご帰宅だこと」
男「げ……委員長」
委員長「帰宅部の男くんがこの時間までなにを?」
男「……」
委員長「あ、答えなくても分かってるわ」
男「は?」
委員長「旧校舎から出てくる貴方を目撃したのよ」
男「!!」
委員長「この事は担任の先生に報告します」
男「ま、待ってくれ!」
委員長「はい?私は注意したよね?」
男「それはそうだが、理由があるんだ!」
委員長「理由?女子生徒と“逢引”することが?」
男「は?」
委員長「友くんがそう言ってたじゃない!」
男「違う!あれは友の嘘!逢引なんてしてないから!」
56 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:23:21.77 ID:dH/mvw+70
委員長「じゃあ一人旧校舎でなにをしてたのよ?」
男「夕焼けを見にいっていただけだ!」
委員長「夕……焼け……?」
男「……」
委員長「ぷふっ……男くんが夕焼けを?」
男「なんだよ、悪いか?」
委員長「いえ……ぷ、くくっ」
男(このまま教師に報告されるのはマズい)
男(なにか、なにか逃れる術は……)
男「そうだ!」
委員長「はい?」
男「委員長も一緒に見ないか?」
委員長「……へ?」キョトン
男「旧校舎から見える夕焼けはすごく綺麗なんだ」
57 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:25:01.02 ID:dH/mvw+70
委員長「え、で、でも――」
男「夏休みまで残り少ない、その綺麗な夕焼けを委員長と二人で見たいんだ」
委員長「ええ!?わ、私と……!?」
男「うん、委員長と……ダメか?」
委員長「え?で、でも……二人っきりでなんて……」
男「二人っきり……」
男(黒髪さんのことは……うん、その時考えよう)
男(とりあえず今を切り抜けなきゃ!)
男「月曜日の放課後、俺と一緒に旧校舎に行こう」
委員長「え?え??」
男「いいね、委員長」
委員長「う、うん……///」
男「じゃあまた来週ね」
委員長「わ、わかった……!」
男(よし、これで今すぐ教師に報告されることはないだろう)
男「……」
男(……あれ?)
男(これで良かったのか?)
58 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:26:12.91 ID:dH/mvw+70
五日目 土曜日
――朝 男宅
男(黒髪さんと委員長が遭遇したらどうしよう)
男(月曜までに黒髪さんに会って事情を説明できれば……)
男「うーん……そもそも俺って黒髪さんのこと全然知らないんだよなぁ」
ピロン
男「ん、メッセージか」スッ
友『今から会えないかな?』
男(友からお誘いが……特に予定もないし、いいかな)ポチポチ
男『いいよ』
友『じゃあ駅前のファミレス待ち合わせで!』
男『了解』
男「よし、行くか」
59 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:26:59.49 ID:dH/mvw+70
――駅前 ファミレス
友「やっほー男!」
男「おー」
友「急に呼び出してごめんね!」
男「いいよ、俺も暇してたし」
友「ならよかった」
男「でもどうした?」
友「実は気になって色々調べたんだよねー」
男「ん?なにを?」
友「男が言ってたセーラー服の先輩のこと」
男「!!」
友「いいか男、驚かないで聞いてくれよ」
男「ああ」コクン
60 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:27:50.84 ID:dH/mvw+70
友「いないんだよ」
男「は?」
友「ウチの学校にセーラー服の女子生徒は一人もいないんだ」
男「まじか……」
友「三年にも二年にもいなかったよ」
男「……」
友「つまり男が旧校舎で会ってる人は、ウチの学校の生徒ではないってこと」
男「可能性としては……他校の生徒か、それか――」
友「幽霊」
男「……」
友「……」
男「ははは!いやいや、そんなまさか」
友「……」
61 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:28:45.13 ID:dH/mvw+70
友「なぁ男」
男「ん?」
友「旧校舎でセーラー先輩と何をしてるんだ?」
男「なにって……」
男(友になら話してもいいか?)
男(黒髪さんの事を調べてくれたんだ、話すべきだろう)
男「セーラー服の先輩、黒髪さんと俺は……」
友「うん」
男「暗号を解いてる」
友「…………は?」
男「黒髪さんが解こうとしてる暗号を手伝ってるんだ」
友「……いや、意味がわからない!」
62 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:29:36.64 ID:dH/mvw+70
男「ってわけだ」
友「なるほど、旧校舎の六つの暗号ねぇ……」
男「ちなみに残り三つだ」
友「黒髪さん、だっけ?」
男「うん」
友「男から見て怪しいところはないの?」
男「あー……むしろ怪しいところだらけというか……なんというか」
友「ええ!?」
男「まず一つ、旧校舎の床は軋むのに足音がしない」
友「……」
男「次に、物に触れているのを見たことがない」
友「……」
男「更に、旧校舎から出ようとしない」
友「……」
男「……」
友「それ確定じゃん!!」
63 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:30:33.83 ID:dH/mvw+70
男「でも悪い人ではないんだ」
友「……」
男「幽霊……にしてはハッキリしすぎてるし」
友「いや!」
男「え?」
友「過去に旧校舎で亡くなった女生徒の幽霊!」
男「……」
友「未練を残して彷徨っているところに男と遭遇したんだよ!」
男「んー……」
友「間違いないって!」
男「なんなら友も来て確認する?」
友「は?嫌だ!!ムリムリ!!」
男「別に怖くないよ?」
友「俺マジでそういのムリなんだよ!!」
男「でも」
友「あー!もう俺帰るね!じゃあな男っ!!」
男「ええ……」
64 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:31:50.62 ID:dH/mvw+70
六日目 日曜日
――昼 市街地
男「ここは……」
男「総合病院……か。結構歩いたな」
男(散歩がてらに黒髪さんの事を考えてたらこんな所にまできてしまった)
男「帰りはバスでも――」
男「ん?」
男(病院の自動ドアから見覚えのある人が……)
女「え!?」
男「あ……ども」ペコ
女「な、なんでここに!?」
男「え?」
女「なんでここにいるの!?」
男「えと……散歩してた」
女「……」
男「?」
女「ちょっと来て下さい」
男「えぇぇ!?」
65 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:33:32.99 ID:dH/mvw+70
――公園 ベンチ
男(黒髪さんに似てる“女”って子に連れられて)
男(何故か並んでベンチに腰掛けている)
男(なんだこの状況)
女「初めてまして……ではないですよね」
男「あ、はい」
女「私は“女”っていいます」
男「あ、俺は“男”です」
女「男!?ウソ……そんなことって……」
男(ん??なんだその反応)
女「むむ……」ジロジロ
男「な、なんですか?」
女「いえ……」
男(本当なんなんだ!?)
66 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:34:42.50 ID:dH/mvw+70
男「えー、女さんはどうしてここにいるんですか?」
女「あの!私の方が年下なので敬語じゃなくていいです!」
男「あ、うん」
女「“さん”もやめてください」
男「わかった。じゃあ女ちゃん……どうしてここに?」
女「……答えたくないです」
男「じゃあ質問を変えるね。どうして俺の方が年上ってわかったの?」
女「そ、それは……」
男「……」
女「あ!制服!!」
男「へ?」
女「前に道であった時、あそこの高校の制服だったから……」
男「……」
女「私は中学生なので年上だと思ったんです」
男(後から取ってつけたような言い方だ……気になるな)
67 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:36:07.15 ID:dH/mvw+70
男「女ちゃんは中学生なんだ?」
女「はい。中学三年で男さんの一つ下です!」
男「あれ……どうして俺が高校一年って知ってるの?」
女「う……」
男「……」
女「ネ、ネクタイの色……?」
男(たしかに学年毎にネクタイの色は違うけど)
男(そんなに自信なさそうに言われたらなぁ)
男「まぁいいけど……」
女「男さん……前に会った時、“黒髪さん”と知り合いかどうか聞いてきましたよね?」
男「え!?うん、そうだけど……まさか知り合いなの!?」
女「そ、それは……」
男「……」
女「はい」コクン
男「!!!」
68 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:37:40.36 ID:dH/mvw+70
男「女ちゃん!黒髪さんについて聞きたいことがあるんだ!」
女「はい?」
男「彼女は実在するのか!?」
女「は、はい、実在してますけど……」
男「生きてる人間ってこと?」
女「当たり前じゃないですか!失礼ですね!」
男「ご、ごめん」
男(あれ?だとしたら……それはそれで疑問が……)
女「男さん!私からも色々質問したいのですが」
男「ん?」
女「男さんは、えと、黒髪さんとどうやって知り合ったんですか……?」
男「ああ。それは――」
男(女ちゃんは黒髪さんの知り合いだ)
男(今までの経緯を説明しておこう)
男(もちろん幽霊云々は置いておいて)
69 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:38:47.46 ID:dH/mvw+70
男「ってわけなんだ」
女「…………」
男「あれ?女ちゃん?」
女「…………」
男(驚いたような顔で固まってるぞ)
男(なんだ?……本当に黒髪さんと知り合いなのか?)
女「そう……だったんですね……」
男「女ちゃん、疑うわけではないんだけど……本当に黒髪さんと知り合いなのか?」
女「はい……」
男「詳しくはどういった関係で?」
女「……」
男「……」
女「ごめんなさい……私もまだ頭が混乱してて……」
男「え……?それってどういうこと?」
女「ごめんなさい、失礼します」タタタタタ
男「ええええ!?」
70 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:40:04.94 ID:dH/mvw+70
――夜 男宅
男「あーわけわかんねー」ゴロン
男「情報を整理しよう」
男(黒髪さんは旧校舎に現れる自称高校三年生のウチの生徒で、旧校舎にある六つの暗号に挑んでいる)
男(しかし友によって、黒髪さんはウチの学校の生徒ではないことが判明した)
男(そして俺の感じた疑問から“幽霊”疑惑が浮上するも……)
男(黒髪さんと知り合いである女ちゃんによって、それも否定される……と)
男「……」
男「あー、わっかんねーなー!」
男「暗号なんかより、よほど難解だぞこれ!」
71 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/22(土) 21:41:43.33 ID:dH/mvw+70
男「女ちゃんにしてもよく分からない」
男「病院に居たってことはどこか調子でも……」
男「……あれ?」
男「待てよ……今日は日曜だろ」
男「一般外来は休診のはず……まさか……!!」
男「入院患者との面会……!?」
男(女ちゃんは黒髪さんの面会の為に病院に訪れていた)
男(それなら女ちゃんが俺のことを知っている理由に説明がつく)
男(そうなると黒髪さんは病院から抜け出して旧校舎に?)
男(そんな事が可能なのか?)
男「すべての情報と照らし合わせると……それしかないよなぁ」
72 :
◆7O7c5wT9T.
[sage]:2020/08/22(土) 21:53:15.07 ID:dH/mvw+70
前半終了でキリがいいので本日はここまでです
暇つぶしに読んで頂ければ幸いです
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/23(日) 08:51:07.74 ID:mJaSRqMao
おつおつ
期待
74 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 12:48:52.03 ID:9tOKrB/Y0
七日目 月曜日
――教室
友「なぁ今日も旧校舎に行くつもりか?」
男「ああ、もちろん」
友「お前なぁ……呪われてもしらんぞ!」
男「黒髪さんの事もあるけど、暗号についても気になるし」
友「暗号ねぇ」
男「それに今日は委員長とも行く約束をしてるんだ」
友「委員長!?なんで!!?」
男「色々あるんだよ」
友「はあ?」
75 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 12:50:41.26 ID:9tOKrB/Y0
――放課後 旧校舎
委員長「なるほど、男くんはここから侵入しているのね」
男「うん」
委員長「でも……夕焼けまでまだ時間があるようだけど……」
男「いつもは読書して時間を過ごしてるんだよ」
委員長「読書……?なにもこんな不気味な場所でしなくても……」
男「じゃあ入るよ」
委員長「う、うん……」ビクビク
男(黒髪さんは……いた!!)
黒髪「あ!男くん……ってあれ?今日はお友達も一緒?」
男「やあ黒髪さん。彼女は委員長、俺のクラスメイトです」
委員長「え?え?え?」
黒髪「クラスメイトかー、女の子を連れてくるなんて……君もなかなかやるねぇ」ニヤニヤ
男「いやいや、そういうのじゃないですから」
黒髪「ふふ、ほんとうに?」
76 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 12:51:54.99 ID:9tOKrB/Y0
男「委員長にも紹介するね、彼女は黒髪さんといって――」
委員長「お、男くん……!!」
男「はい?」
委員長「あ、あなたは一体……だ、だれと話しているの??」
男「え」
委員長「な、なによこれ……気味が悪いわ……!!」
黒髪「…………」
男「何言ってんだよ委員長!そこにセーラー服の女の人がいるだろ?」
委員長「そ、そんな人いないわ!!」
男「!!!」
委員長「わ、私は帰ります!!」
男「待って!まさか先生に報告するつもりか!?」
委員長「当たり前じゃない!!」
男(まずい!このままじゃ!!)
黒髪「男くん、『もし報告するようなら貴女を呪うわ』と伝えてくれるかしら?」
男「ええっ!?」
77 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 12:52:57.97 ID:9tOKrB/Y0
男「委員長……」
委員長「な、なに!?」
男「黒髪さんが『報告するようなら貴女を呪う』って言ってる」
委員長「!!!?」
黒髪「……」スー
男(え?黒髪さんが委員長に近付いて)
黒髪「……」サワッ
男(首筋を撫でた!?)
委員長「ひぃぃ!!」ゾクゾク
男「今、黒髪さんが委員長の隣に……」
委員長「い、いやぁぁぁぁぁ!!」タタタタタ
男「……」ポカーン
黒髪「ふふ、大成功っ!」
男「ええぇぇ……」
78 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 12:55:53.10 ID:9tOKrB/Y0
男「突っ込みどころが多過ぎて何がなんだか……」
黒髪「ほんと不思議な事もあるのねぇ」
男「いやいや!元凶は黒髪さんですから!」
黒髪「ま、これで彼女が報告することはないんじゃないかしら」
男「まぁ……そうでしょうね」
黒髪「色々と聞きたいことがあるよね?」
男「はい」
黒髪「先に暗号を解いてからでいいかしら?」
男「え?で、でも……」
黒髪「お願い、時間がないの」
男「わかりました」
黒髪「ありがとう!!」
男「そのかわり!今日の暗号が解けたら今度こそ俺の質問に答えてください!」
黒髪「ええ。約束するわ」
79 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 12:57:48.41 ID:9tOKrB/Y0
男「それで暗号は?」
黒髪「『ようたときんたのついすとのうちら』」
男「……」
黒髪「それとたしか……狸のイラストが横に書いてあったわ」
男「狸……ああ、この暗号は簡単ですね」
黒髪「ええ!?本当に!?」
男「“た”を抜けばいいんです。タヌキなので」
黒髪「えーっと……『ようときんのついすとのうちら』??」
男「んー……タ行を抜いてみましょうか」
黒髪「う、うん……『ようきんのいすのうら』」
男「ようきんの椅子の裏……ようきんってなんだ?」
黒髪「洋琴……ピアノの事だわ!」
男「ピアノって洋琴っていうのか……初めて知った」
黒髪「ふっふーん」ドヤァ
男「いや、そんな誇らしげな顔されても……」
80 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 12:59:11.09 ID:9tOKrB/Y0
――旧校舎 音楽室
男「あったあった」ペリッ
黒髪「いえーい!今回は楽勝だったね!」
男「えーっと、『し』です」ヒラヒラ
黒髪「『し』かぁ……これで四枚だよね?」
男「『の・た・さ・し』です」
黒髪「あと二枚だけど……全部見つけなきゃ分からないかなぁ……」
男「そうですね、でもこの調子ならすぐ見つかりますよ」
黒髪「うん。それもこれも全部男くんのおかげよ、本当にありがとう」ペコリ
男「じゃあ聞かせてもらえますか?」
黒髪「うん」
男「ではまず、黒髪さん自身の事を聞かせてください」
黒髪「いつもの教室行かない?そこで話したいの」
男「……わかりました」
81 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:01:02.05 ID:9tOKrB/Y0
――旧校舎 3-1
男「じゃあお願いします」
黒髪「……」
男「アナタは一体何者なんですか?」
黒髪「……」
男「初めて会った時、アナタは自分で死んでないと言ってました」
黒髪「うん」
男「でも今のアナタはまるで……幽霊のようです」
黒髪「……」
男「聞かせてください」
黒髪「ええ」
黒髪「私は……私の本体は、街の総合病院で入院しているの」
男(やっぱり!!でも本体ってなんだ?)
黒髪「つまり私は生き霊?ってことになるのかな?多分、今の私はそんな感じの存在」
男「い、生き霊……!?」
黒髪「うん」
82 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:04:20.06 ID:9tOKrB/Y0
男「なぜ旧校舎の暗号を知っていたんですか?」
黒髪「……」
男「なぜ暗号を解きたいんですか?」
黒髪「……」
男「教えてください」
黒髪「それは……」スーー
男「!?」
黒髪「あ、あれ?意識が……!?」スー
男(意識?って、黒髪さんが透けていってる!?)
黒髪「あ!男くん……!」サー
シーーン
男「あ、あれ?」
男「黒髪さん!?」キョロキョロ
男「そんな……まさか……」
男「消え、た……?」
83 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:06:09.06 ID:9tOKrB/Y0
八日目 火曜日
――教室
男(昨日、黒髪さんが目の前で突然消えた)
男(生き霊だとかオカルトな話は一切信じてないけど)
男(目の前でそれが起きたら信じないわけにはいかないっつーか……)
男(他にもまだ疑問はあるんだ)
男(暗号も残り二つ。今日の暗号を解いたらまた黒髪さんに話を聞こう)
男(てか黒髪さんいるよな?)
男(まさかこのまま……)
84 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:09:27.25 ID:9tOKrB/Y0
――放課後 旧校舎 3-1
男「あれ?」
男「黒髪さーん!」
男「まさか……」
男「いや、どこかに行ってるの可能性も……」
男「夏休みまで残り少ないのに……このままじゃ暗号が……」
男「とにかく、探してみるか」
――――
――
男「ダメだ……どこにもいない」
男「本当にこのまま二度と現れないのか?」
男「……そんなこと……ない、よな?」
85 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:11:13.22 ID:9tOKrB/Y0
――帰り道
男「……」トボトボ
男「……」トボトボ
「――さん」
男「……」トボトボ
女「男さんってば!」
男「あ……れ?君は……女ちゃん?」
女「男さんに大事なお話があって、ここで待ってました」
男「大事な話……まさか黒髪さんのこと!?」
女「はい」
男「昨日は一緒にいたんだ……でも生き霊だって聞かされて、目の前で突然消えて」
女「……」
男「今日は旧校舎にも現れなかった……」
女「……」
男「女ちゃんは黒髪さんの事を知ってるんだよね?」
女「はい。私の知ってる全てをお話します」
男「全てを?」
女「なので少しお時間よろしいですか?」
男「あ、ああ」
86 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:12:44.98 ID:9tOKrB/Y0
――女宅 玄関前
女『すぐ戻ります、ここで待っててください』
男「とは言われたものの……」
男「まさか女ちゃんの自宅前で待たされるとは」
ガチャ
女「お待たせしました、どうぞお入りください」
男「え……?」
女「リビングでお話しします」
男「で、でも」
女「親は病院にいるので心配しなくても大丈夫ですよ」
男「病院に?」
女「それを含めてお話します」
男「わかった」
87 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:13:37.48 ID:9tOKrB/Y0
――女宅 リビング
女「どうぞソファに」
男「う、うん」
女「お茶です」
男「ありがとう……」
女「……」
男「それで話っていうのは?」
女「はい。まずは」
男「……」
女「これを見てもらえますか?」スッ
男「これは……」
女「家族写真です」
男「家族……写真?」
女「どうぞ」
88 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:14:33.51 ID:9tOKrB/Y0
男「まさか……この中に黒髪さんも写ってるのか?」
女「はい」コクリ
男「でも一人っ子だって……」
女「まずは見てください」
男「あ、ああ」
男(女ちゃん・両親・祖母の四人で写った写真だ)
男(黒髪さんの姿はない)
男「これのどこに黒髪さんが?」
女「……ここです」ピタッ
男「…………は?」
女「黒髪は……私の祖母の名前です」
男「…………」ポカーン
女「つまり男さんは旧校舎で私の祖母と会っていたんです」
男「え……?」
男「ええぇぇぇぇぇぇ!!!?」
89 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:15:34.72 ID:9tOKrB/Y0
男「……」
女「信じられませんよね?」
男「……」
女「入院中の祖母から男さんの話はよく聞いてました」
男「……」
女「私はてっきり変な夢でも見ているんだろうなぁって思ってたんですが……」
男「……」
女「実際に祖母の事を知る男さんが目の前に現れて……すごく驚きました」
男「……」
女「それから病院前で男さんの話を聞いて、さらに祖母に詳しい話を聞き確信したのです」
男「……」
女「祖母の話は本当なのだと」
男「……」
女「って聞いてますか!?」
90 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:17:24.08 ID:9tOKrB/Y0
男「女ちゃんのお祖母さんだったのか……」
女「はい」
男「そう考えると色々と辻褄が合うんだよな」
女「……」
男「それにしても驚いた……だって、ねぇ……」
女「本当に私もビックリですよ……信じられません」
男「ああ、本当に信じられない……」
女「いい情報を教えてあげましょうか?」
男「いい情報?」
女「祖母曰く、学生時代に恋をしてた人に似てるらしいですよ」
男「へ?誰が?」
女「男さんが、です」
男「マジっすか……」
女「どう?嬉しいですか??」ニヤニヤ
男「いやぁ……うん、ありがたいけど複雑です……」
女「ふふふ」
91 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:19:22.55 ID:9tOKrB/Y0
男「でもなんで昨日はいきなり消えてしまったんだ?」
女「それは……恐らく容態が悪化したからだと思います」
男「容態が!?嘘、だろ……」
女「私も昨日、親から電話で聞かされました」
男「!」
男「だから親は病院にいるって言ってたのか」
女「はい、何かあった時のために泊まり込みで病室にいます」
男「……」
女「男さん、お願いします!」
男「え?」
女「祖母が……おばあちゃんが生きているうちに暗号を全て解いてください!!」
男「それはもちろん、そのつもりだけど肝心な暗号が……」
女「次の暗号の事はおばあちゃんから事前に聞いてます!」
男「へ?それなら教えてくれたらすぐにでも!」
ヴーン ヴーン ヴーン ヴーン
女「あ、お母さんから電話が……」
男「ああ、どうぞ」
92 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:21:05.51 ID:9tOKrB/Y0
女「本当に!?よかったぁ……」
男「……」
女「うん。うん、わかった」
男「……」
女「はーい」ピッ
男「なんだって?」
女「おばあちゃんの容態、落ち着いたって!」
男「おお!よかった!」
女「なのでお母さん達はこれから帰ってくるみたいです!」
男「え?じゃあ俺がここにいたらマズイのでは?」
女「はい、私から家に上げて申し訳ないんですが」
男「ううん、貴重な話を聞けてよかったよ。すぐ帰るから」
女「あ!連絡先を交換しませんか?」
男「連絡先を?……そうだな。暗号のやりとりも出来るし、その方がいいね」
93 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:22:15.59 ID:9tOKrB/Y0
――男宅 自室
男「えーっと」
男(黒髪さんは女ちゃんの祖母で、俺が会ってたのは若い頃の黒髪さんで……)
男(つまりあの暗号は……黒髪さんが学生時代の頃のやつってことか)
男「……」
男(なんで黒髪さんはその暗号を解きたがってるんだ?)
男(生き霊になってまで未練があるって事なのか?)
男(女ちゃんは何か知ってんのかなぁ)
男「あー……頭が、パンクしそうだ……」ゴロン
男「……」ウトウト
男「女、ちゃんから……あん、ごうを……zzz」
94 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:23:40.87 ID:9tOKrB/Y0
九日目 水曜日
――教室
男(女ちゃんから暗号は送られてこなかった)
男(早く解いてって言ってたくせにどういうつもりだ?)
男(今日は旧校舎に黒髪さんは来るのかな)
男(容態は安定したっていってたから……もしかしたら)
友「男!」
男「ん?どうした?」
友「委員長に旧校舎の話をしたらブルブル震えだしたんだけど何があったんだ!?」
男「あーそれは……」
友「それは?」
男「幽霊と遭遇したから、かな」
友「ゆ、幽霊!?や、やっぱりそうなの!?」
男「うん」
友「うん、ってお前……」
95 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:24:57.22 ID:9tOKrB/Y0
男「あ、そうだ!」
友「ん?」
男「昔の卒アルって学校に保存してないかな?」
友「昔って、どれくらい?」
男「んー……六十年くらい前……かな?」
友「六十年!?てかその時代に卒アルなんて存在してるの!?」
男「いや、わからないけど」
友「昔の写真かぁ……ちょっと調べてみるわ」
男「おお!色々と悪いな!」
友「いんや、単純に昔の学校がどんなんだったか俺も気になるし」
男「もし見つけたらすぐに連絡してほしいんだけど」
友「はは、了解!」
男「頼んだ」
友「おう!」
96 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:26:06.68 ID:9tOKrB/Y0
――昼休み
男(女ちゃんからメッセージが届いたが……)
女『暗号は直接会って教えます!』
男『直接って……まさか旧校舎にくるつもり!?』
女『はい!』
男『ウチの生徒でもないのにどうやって……』
女『裏門がありますよね?』
男『あるけど……常時閉まってるよ』
女『むしろ好都合です!』
男『女ちゃん……暗号さえ教えてくれれば俺がなんとかするから』
女『放課後、裏門で待っててください♪』
男「……」
男「なんてこった……」
97 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:27:25.43 ID:9tOKrB/Y0
――放課後 裏門
女「よいしょっ!」スタッ
男「はぁ……」
女「早く旧校舎に向かいましょう!」
男「ああ、裏門からならすぐだから……こっちにだよ」
女「はいっ!」
――旧校舎 入り口
男「ここまできたら一安心かな」
女「へー……雰囲気ありますねぇ」
男「どうしてこんな無茶を!?」
女「だって……おばあちゃんの事だもん。私も力になりたいです」
男「……」
女「それに若い頃のおばあちゃんに会えるかもしれないし!」ワクワク
男「黒髪さんがいればね」
女「んー、楽しみだなぁー!!」
男「結局それが目的か……」
女「うんっ!」
98 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:29:36.06 ID:9tOKrB/Y0
――旧校舎 3-1
男(あれは……黒髪さん……!また会えた!)
男(窓の外を眺めててこっちには気付てないみたいだけど)
女「……」
男「女ちゃん、見える?あそこに黒髪さんがいるよ」
女「……あれが……おばあちゃん?」
男「よかった、ちゃんと見えるんだ」
黒髪「?」クルッ
男「!!」
黒髪「あら?あらあら?」
女「あっ!」
黒髪「女ちゃんも来たのね」ニコッ
女「ほ、本当に若い……」
黒髪「でしょ?ふふ」
女「わぁ……」
黒髪「どうどう?可愛い?」
女「すっごく可愛いし、すっごく美人!!」
黒髪「ふふふ、女ちゃんもとても可愛いよ」ナデナデ
スカッ
女「あ……」
黒髪「あー、触れないの忘れてた」
99 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:30:56.55 ID:9tOKrB/Y0
男「じゃあ暗くなる前に暗号を解いてしまいましょう」
黒髪「そうね」
女「おばあちゃんから聞いた暗号をメモで書いてきました!」スッ
男「それは助かる」
男「どれどれ……」
『えきざゅいねテバヨねいう』
男「……」
黒髪「これはさっぱり分からないのよねぇ」
男「これはって、黒髪さんはどの暗号もさっぱりじゃないですか」
黒髪「ががーん」
男「だからそれ古いですって」
女「ちょっと男さん!おばあちゃんに冷たくないですか!?」
男「え?」
黒髪「そうなのよ、いつもこんな調子で……」シクシク
女「おばあちゃん……可哀想……」
男「はいはい、嘘泣きはやめましょう」
100 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:31:57.56 ID:9tOKrB/Y0
女「でもこの暗号難しくないですか?」
男「……」
女「男さんはどんな暗号でも簡単に解いちゃうっておばあちゃんが言ってたけど」
男「……」
女「これは流石に――」
黒髪「しー」
女「え?」
黒髪「男くんは今、考え中だから」
女「う、うん」
男「……」
黒髪「……」ジー
女「あ、そっか……真剣な表情が似てるって前に言ってたよね」ヒソヒソ
黒髪「そうなの、カッコいいでしょ?」ヒソヒソ
女「えー、カッコいいかなぁ……?」
男「……」
女「……」ジー
黒髪「ふふっ」
101 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:32:49.65 ID:9tOKrB/Y0
男「……」
黒髪「……」ジー
女「……」ジー
男「……」
黒髪「……」ジー
女「……」ジー
男「あの……」
男「なんで二人してこっちを見てるんですか?」
黒髪「ふふ、私たちの事は気にしないで」
女「そうです!早く解いてください!」
男「もう解けました」
女「嘘っ!?」
黒髪「ね、男くんは凄いでしょ?」
102 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:33:56.52 ID:9tOKrB/Y0
男「黒髪さん、屋上まで案内してください」
黒髪「え?屋上?」
男「はい」
女「男さん」クイクイ
男「ん?」
女「暗号ってどうやって解いたんですか?」
男「あー、この暗号は一文字ズラして作られてるんだ」
女「一文字ズラして……?」
男「うん」
黒髪「どういうこと??」
男「まずこれが暗号の書かれたメモね」スッ
『えきざゅいねテバヨねいう』
男「で、これを五十音順に一文字づつズラすと……」カキカキ
『おくじょうのトビラのうえ』
男「と、なる」
女「おおー!」
黒髪「おおー!」
男「そういうわけで、屋上まで案内してください」
103 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:35:29.06 ID:9tOKrB/Y0
――旧校舎 屋上前
女「な、なんだか薄暗いですね」
男「外からの光がほとんど当たらない場所だからね」
黒髪「お化けがでそうで怖いわ……」
男「黒髪さんも似たようなモノじゃないですか」
黒髪「たしかに!えへへ……///」
男「今の照れる要素ありました?」
女「わぁ……」
黒髪「ん?女ちゃんどうしたの?」
女「男さんと若いおばあちゃんが仲良くしてるのってなんだか不思議だなぁ……って」
黒髪「ふふ、羨ましい?」
女「うん!私も若いおばあちゃんと仲良くなりたい!」
黒髪「!!」
黒髪「ね、ね、今の聞いた男くん!?」
男「はい?」
黒髪「可愛いでしょ、私の孫!!」
男「そうっすね」
104 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:36:42.01 ID:9tOKrB/Y0
黒髪「女ちゃんはね、とっても優しい自慢の孫なのよ」
女「だって私おばあちゃんのこと大好きだもん!」
黒髪「女ちゃん……私も大好きよ」ウルッ
女「おばあちゃん……」ウルッ
男「このトビラ……鍵が閉まってたらアウトだな……」ブツブツ
女「え……?」
男「いや、待てよ……職員室に鍵が保管してあるはず……でも使われてない旧校舎だしな……」ブツブツ
女「……」
男「いや、まずは開くかどうかの確認から――」
ガチャ
女「開きましたけど」
男「おお!よかった!」
女「ていうか!今とても感動的な雰囲気だったのに!」
黒髪「男くんはそういうところがあるのよねぇ」
男「ええぇぇ……」
105 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:37:51.10 ID:9tOKrB/Y0
――旧校舎 3-1
男「五枚目は『ら』です」
黒髪「これでついに残り一枚ね」
男「今まで見つけた順に並べると……」ササッ
男「『の・た・さ・し・ら』ですね」
黒髪「うーん、なんだろう?」
男「……」
女「あっ!!こ、これは!」
黒髪「え!?何かわかったの!?」
女「これって並び替えると『したのさら』もしくは『さらのした』になるよね!?」
男「……」
黒髪「本当だ……!」
女「『下の皿』じゃ変だから、『皿の下』かな?」
黒髪「皿の下?お皿のことかな?」
女「うん!きっとそうだよ!」
男「いや……まだ一枚残ってるんだ。決めつけるのは早いと思う」
106 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:38:43.59 ID:9tOKrB/Y0
女「で、でも!六枚のうち五枚は見つけたんです!」
女「ある程度の文章にはなるはず……!」
男「そこに一文字加わることで意味が大きく変わるから、文字の並び替えは全て揃ってから行うべきだよ」
女「うう、でも……」
黒髪「女ちゃん、ありがとう」
女「え?」
黒髪「私のために必死になってくれて……それだけで胸がいっぱいだよ」
女「おばあちゃん……」
男「黒髪さん、夏休みまでのタイムリミットは明後日の放課後までです」
男「今日を除くと残り二日しかない」
黒髪「残り二日……」
男「最後の暗号、もし分かるなら教えてください」
107 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:39:41.15 ID:9tOKrB/Y0
黒髪「……」
男「……」
黒髪「ごめんなさい……思い出せない」シュン
男「そうですか……」
黒髪「ごめんなさい……」
男「いえ……暗号は残り一つなので明日までに思い出してくれれば大丈夫です」
黒髪「明日……か」
女「わぁ……綺麗……!」
男「え?」
女「おばあちゃんの言ってた夕焼けってこの事だよね?」
黒髪「ええ、そうよ」
女「すごい……街も見渡せるし、すごく綺麗な景色……」
男「うん、この景色を見るために俺はここに通ってたんだ」
女「通いたくなる気持ちわかります!」
黒髪「…………」
108 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:41:00.98 ID:9tOKrB/Y0
女「――!」ニコニコ
男「――」
黒髪「男くんと女ちゃん……」
黒髪「まるで……」ジワッ
黒髪「……」ポロ
女「あれ?おばあちゃん?」クルッ
男(え?黒髪さんが……泣いてる?)
女「どうしたの!?大丈夫!?」
黒髪「いえ、違うの、これは……ただ懐かしくて」ゴシゴシ
男「懐かしい?」
黒髪「ええ……昔ね、よく“あの人”とここから夕焼けを眺めていたの」
男「あの人……」
黒髪「二人を見ていたらそれを思い出しちゃって」
女「おばあちゃん……」
黒髪「ふふ、歳を重ねると涙脆くなってだめね」
109 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:42:44.57 ID:9tOKrB/Y0
男(初めて会った頃に泣いてたのはそういう理由があったからか)
男(似ている俺に当時の面影を重ねたんだろう)
男「黒髪さん」
黒髪「はい?」
男「この和紙に書かれた文字は、黒髪さんに向けて書かれたメッセージですか?」
黒髪「ええ、そうよ」
男「やはりそうでしたか」
黒髪「転校する“あの人”にもらった手紙なの」
女「転校?おばあちゃんの好きな人って転校していなくなっちゃったの?」
黒髪「ええ」
男「その手紙がなぜこんな事に?」
黒髪「“あの人”はとても奥手な人でね、手紙も手渡しじゃなく机にそっと置かれていて……」
黒髪「それを私より先に同級生に見つかっちゃって、手紙の一部を切り取って隠されてしまったのよ」
男「ああ、それで暗号なのか……」
女「“あの人”も直接おばあちゃんに渡せばよかったのに」
黒髪「ふふ、本当にね。でもそれが“あの人”らしいというか……ふふっ」
110 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:44:00.99 ID:9tOKrB/Y0
男「それにしても、人の手紙に悪戯するなんて随分と悪趣味な」
黒髪「私と“あの人”の事が気に食わない男子がいてね」
女「ええー最っ低!その男子、絶対おばあちゃんの事を好きだったんだよ、そうに決まってる!」
男「ちなみにですが、“あの人”というのは後の旦那さんですか?」
黒髪「いいえ、違うわ」
男「そうですか……」
男「てか、女ちゃんはこの話を聞いて複雑じゃないの?」
女「へ?なぜです?」
男「今の状況は黒髪さんの過去の恋愛が絡みなわけで、孫の君からしたら複雑な気分じゃない?」
女「えー!素敵じゃないですか!それはそれ、これはこれ、です!」
男「そういうもんなのか……?」
女「そういうもんです!」
黒髪「ふふ、きっと叶わなかったからこそ私の中で美化されてしまった部分もあるのよ」
黒髪「だからこそずっと気になってしまっていてね」
男「……」
111 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:44:58.47 ID:9tOKrB/Y0
黒髪「二人とも、本当にありがとう」ペコ
女「え?」
黒髪「特に男くんには感謝してもしきれないわ」
男「突然どうしたんです?」
黒髪「多分、私がここに居られるのは今日で最後だと思う」
男「!?」
女「!!」
黒髪「なんとなくね、分かっちゃうのよ」
女「そ、そんな!だってまだ全部解いてないんだよ!?」
黒髪「女ちゃん、自宅にある私の引き出しを調べてみて」
女「え……?」
黒髪「暗号のメモはそこにあるはずだから」
女「なんで……そんなこと言うの……?」ジワッ
黒髪「ごめんね、女ちゃん」
112 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:45:51.49 ID:9tOKrB/Y0
男「黒髪さん……その……」
黒髪「ほら、男くんもそんな顔しないで」
男「……」
黒髪「私ね、こうやって男くんに会えて本当によかったと思ってるの」スー
男「え、黒髪さん!?」
女「嘘!?消えかけてる……!」
黒髪「大丈夫よ、この状態で会えなくなるだけだから」
女「おばあちゃん……」
男「意識を保てなくなってるって事ですか?」
黒髪「…………」
女「そんな……!」ポロ
黒髪「泣かないで女ちゃん」
女「ううぅぅ」ポロポロ
113 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:46:44.23 ID:9tOKrB/Y0
黒髪「男くん、後の事はお願いしていいかしら?」
男「わかりました。全ての暗号を解いて黒髪さんに直接伝えに行きます」
黒髪「えー、男くんに年老いた姿を見られるのは嫌だなー」
男「ダメです」
黒髪「むー」
男「なので約束してください」
黒髪「約束?」
男「全てが解決したら会いに行きます。だから……必ず待っていてください」
黒髪「男くん……」
男「お願いします」ペコ
黒髪「ふふ、わかった。待ってるね」
女「うう……」ポロポロ
黒髪「女ちゃんにも今日ここで会えてよかった……また病院でね――」サー
女「!!?」
男「……」
114 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:47:48.46 ID:9tOKrB/Y0
――帰り道
女「うん……うん……わかった……」
男「……」
女「……」ピッ
男「お母さんはなんて?」
女「病院から呼び出されたから行ってくるって……」
男「……」
女「おばあちゃん……大丈夫かな……?」ジワッ
男「それは……」
男(一昨日、黒髪さんが消えた時も容態が悪くなったからだ。今回もきっと……)
女「ねぇ、男さん……グスッ……大丈夫だよね?」
男「さっき……黒髪さんは……」
男「『この状態で会えなくなるだけ』と言っていた」
女「ぐすっ……うん……」
男「大丈夫とは言い切れないけど、黒髪さんの言葉を信じよう」
女「…………」
男「それに俺らにはやるべき事がある。そうだろ?」
女「うん……」
115 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:48:28.97 ID:9tOKrB/Y0
――夜 男宅
男「もしもし」
女『男さん!ありました!』
男「あったって……もしかして……」
女『はい!暗号です!!』
男「おお!」
女『今までの暗号もちゃんと書いてあるのでこれで間違いないと思います!』
男「さっそくだけど最後の暗号を教えてくれないか?」
女『それが……その……』
男「?」
女『口で説明するのが難しいので、画像を送ります』
男「うん、わかった」
116 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 13:49:13.71 ID:9tOKrB/Y0
ピロン
男「きたか……どれどれ」ピッ
男「ん……?」
男(太陽と蝶々の絵が書かれている……だけ?)
男(いや、本来ならそれ以外も何か書かれていたはずだが、文字が滲んでわからない状態になっている)
男(紙が不自然に皺になっているから、水か何かを溢してしまったんだろう)
男「手がかりはこの蝶々の絵だけ……か」
男「……」
男「太陽の下を飛んでいる蝶々……」
男「……」
117 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 14:10:24.71 ID:9tOKrB/Y0
十日目 木曜日
――教室
ザー ザー
男(まいったな……)
男(天気予報によると今日は一日雨だ)
男(天気が悪い日の旧校舎は……暗くて怖いから極力近付かないようにしてたが……)
男(そんな事も言ってられないよな、タイムリミットは明日だし)
男(それに黒髪さんの容態も気になる)
友「男!」
男「ん?」
友「この前の件だけどさ」
男(この前……卒アルのことか?)
友「昔の写真はいくつか発見したんだけど、卒アルは難しいかもしれない」
男「ああ……そっか」
友「役立てなくてごめんよ」
男「いや……調べてくれてありがとう、友」
118 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 14:17:05.20 ID:9tOKrB/Y0
――昼休み
ピロン
女『いよいよ今日で最後の暗号が解けますね!』
男(女ちゃんからのメッセージだ)
男『うん。後はなんとかするから、女ちゃんは黒髪さんの側にいてあげて』
女『イヤです!』
男『でも今日は雨だし』
女『暗号を解いて一緒に病院に行きましょう?』
男『わかった。でも本当にそれでいいの?』
女『もちろんです!それがおばあちゃんの願いですから!』
男『じゃあまた放課後』
女『はい!裏門で待っててくださいね』
119 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 14:17:54.60 ID:9tOKrB/Y0
――放課後 旧校舎前
女「な、なんていうか……あ、雨だとより一層雰囲気がありますね……」ジー
男「ああ。旧校舎の中はもっと凄いよ」
女「ええ!?」
男「電気が通ってないから薄暗いんだ。場所によっては真っ暗だし」
女「ふぇ!?」
男「おまけに懐中電灯も携帯のライトも使えない。バレる可能性があるからね」
女「……うう……そんなぁ……」
男「正直、俺一人じゃ心細かったから女ちゃんが来てくれて助かったよ」
女「ど、どうしてそれを早く言ってくれなかったんですか!?」
男「え?それを分かってて来たんじゃないの?」
女「そこまで深く考えてなかったです!」
男「暗号はもう解けてるんだ、すぐに済ませちゃおう」
女「は、はい」
120 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 14:19:02.50 ID:9tOKrB/Y0
――旧校舎 廊下
男「……」ギシギシ
女「ひっ!」ビクビク
男「……」ギシギシ
女「ひゃぅ!」ビクビク
男「大丈夫?」ギシ
女「は、はい」
ヒュー ガタガタ
女「ひぃぃぃ!!」ストン
男「……」
女「な、なんですか今の音は……」ビクビク
男「ただの風だよ。建て付けが悪いから物音がしただけで」
女「ううぅぅ……」
男「さ、行こう」
女「お、男さん……立てない……」
男「え?」
121 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 14:20:50.23 ID:9tOKrB/Y0
女「うう……」ギュッ
男(腕にしがみつかれてしまった……)
女「お、男さんはよく平然としてられますね」ビクビク
男「たしかに……意外と平気かも。俺以上に怖がってる人がいるからかな?」
女「むー」
男(あ、この表情……黒髪さんにそっくりだな)
女「で、でも……こうしてると少し落ち着きます」ギュッ
男「そ、そっか、なら良かった」
女「暗号は解けたんですよね?」
男「うん。太陽と蝶々の絵でしょ?」
女「はい」
男「太陽の光を浴びる蝶々、つまり光蝶」
女「こうちょう……あ!!」
男「うん、校長室にあると思うんだ」
女「校長室……」
男「でも残りの暗号が滲んで見えないから隅々まで探す事になる。そして恐らく校長室は……」
女「こ、校長室は?」
男「今日の天気だと真っ暗だと思うから覚悟しておいて」
女「ひぃぃぃ!」ギュッッッ
122 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 14:21:43.92 ID:9tOKrB/Y0
――旧校舎 校長室
男「いい?開けるよ?」
女「は、はい……」ギュッ
ガチャ
男「!!」
女「う、嘘……空っぽ……」
男「物が……何もない……」
女「ま、まさかメモごと捨てられちゃったの?」
男「その可能性はかなり高い……トビラには……」ゴソゴゾ
女「……」
男「何もない……」
女「そ、そんな……あと一枚だったのに……」
男「とりあえず中を調べてみよう」
女「う、うん……」
123 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 14:22:51.54 ID:9tOKrB/Y0
男「調べるまでもなく何もないな……」
女「……」
男「いや待てよ、蝶々の絵は校長室じゃなかった可能性も……」
女「あれ?」
男「太陽……蝶……」
女「男さん、少しだけ足元を照らしてもいいですか?」クイクイ
男「ん?まぁ足元ならいいよ」
女「……」スッ
ピカッ
男「?」
女「ねぇ男さん、これって……」
男「これは……」ペリッ
女「やっぱり!」
男「凄い!よく気が付いたね!」
女「えへへ〜、お役に立てて良かったです」
男「あれ」カサッ
女「?」
男(なんだこの違和感は……)
女「と、とりあえず明るいところに移動しませんか?」ギュッ
男「そうだね」
124 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 14:24:14.41 ID:9tOKrB/Y0
――ファミレス
男「……」
女「じゃあ最後の紙を確認しましょう!」
男「ああ」スッ
女「あれ?この紙は……」
男「そうなんだ、これは“和紙”じゃない」
女「どうして……?まさか間違ってたの?」
男「わからない……けど床に貼り付けてあったことにも違和感がある」
女「……」
男「今まで隠してあった和紙とは違い、この紙が貼り付けてあった場所は元々何も置かれていない場所だった」
男「これじゃあまるで『見つけて下さい』と言ってるようなもんだ」
女「とりあえず中身を確認してみませんか?」
男「うん」
125 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 14:25:36.47 ID:9tOKrB/Y0
女「これは……『へ』?『く』?」
男「『く』……じゃないかな」
女「これで……全部揃いました、よね?」
男「ああ、釈然としないけどそう考えるしかない。じゃあ並べてみるね」ササッ
女「『の・た・さ・し・ら・く』」
男「これは……」
女「う〜ここから更に並び替えですか……」
男「……」
女「これじゃあ六つの暗号というより七つの暗号だよぉ」
男「いや、女ちゃんがある程度解いてくれたから並び替えは苦労しなくて済みそうだよ」
女「え?」
男「これはきっと『さくらのした』だ」
女「さくらのした……桜の下!?」
男「ああ」
126 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 14:27:53.89 ID:9tOKrB/Y0
男「昨日『皿の下』って言ってたのがヒントになったよ」
女「わぁ……今日の私、役立ちまくってますね!」
男「うん、女ちゃんのおかげだよ」
女「ふひひ」ニコニコ
男「桜の木か……グラウンドの近くに一本あるな……」
女「きっとそこです!掘り起こしましょう!」
男「女ちゃん」
女「はい?」
男「黒髪さんって今いくつ?」
女「え?八十四ですけど……」
男「そうなると大体、六十五年前か」
女「六十五年前……数字にすると結構昔ですね」
男「うろ覚えだけど、今ある桜の木は移植されたって聞いたことがあるんだよなぁ」
女「ええ!?」
127 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 14:28:48.77 ID:9tOKrB/Y0
男「うーん……」
女「昔の写真とかあればいいんですけど、おばあちゃんの部屋にアルバムとかないかなぁ」
男「昔の写真……そうかそれだ!」
女「ふぇ?」
男「女ちゃん、ちょっと確認したい事があるから今日は解散しよう」
女「え??ど、どうしてですか?」
男「というか黒髪さんのお見舞いに行って、容態を確認してほしいんだ」
女「男さんは一緒に来ないんですか?」
男「俺は解決してから行くって約束したから」
女「……」
男「今日は女ちゃんが居てくれて本当に良かったよ、ありがとう」
女「あの……後で電話してもいいですか?」
男「もちろん、お互いわかった事を報告しよう」
128 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 14:29:38.18 ID:9tOKrB/Y0
友『もしもし!珍しいね男から電話してくるなんて』
男「ああ、ちょっと聞きたい事があって」
友『なになに?』
男「昔の学校の写真を見つけたって言ってたけど、あれって今手元にある?」
友『あー、あれは学校の図書室にあるよー』
男「図書室か……」
友『なになに、どうしたのさ?』
男「友が見た写真に、桜の木は写ってた?」
友『桜の木?んー……』
男「……」
友『ああ、たしか旧校舎と一緒に写ってたと思う』
男「旧校舎!?具体的にどの辺に!?」
友『どの辺だったかなぁ……実際自分の目で見た方が早いと思うぜ?』
男「ああ……うん……その通りだ、また明日な友」
129 :
◆7O7c5wT9T.
[saga]:2020/08/23(日) 14:30:25.58 ID:9tOKrB/Y0
――夜 男宅
男(明日が最終日だ)
男(なんとしても明日中に桜の下に埋まってる“何か”を手に入れなきゃいけない)
男(図書室にある昔の写真で桜の位置を確認して、人気がなくなった夜に桜の下を掘り起こす)
男(上手くやれるか?いや……)
男(なんとしてもやり遂げるんだ)
男(そして桜の下の“何か”を必ず黒髪さんに届ける)
男(問題は黒髪さんの容態だが……)
男(こればかりは女ちゃんから連絡を待つしかない)
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