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高森藍子が一人前の水先案内人を目指すシリーズ【ARIA×モバマス】
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55 :
◆jsQIWWnULI
:2020/08/30(日) 19:04:10.45 ID:s2H4XrND0
しばらく無言で水路を通る。大回りをするためには、裏道的な水路をいくつか通らなくてはいけないから、その間は観光案内もできない。いや、出来るのかもしれないけど、今の私にはできない。誰も何もしゃべらない。ただ、ゴンドラのきしむかすかな音が、オールが水を切る音が、水路の上を撫でるように過ぎていく風が、そこにはあった。
けれど、なんだかこのゴンドラの空気感が少しいたたまれなくなって、私は再びまゆさんに話しかけた。
「……まゆさんは、今どうして逃げてるんです?」
「え?」
「いえ、先ほど二人の女性から逃げてらしたから、どうしてかなって……たしか、明後日に公演があるって言っていましたよね。彼女たちはお友達ですか?」
「……はい。アイドル仲間です……そうですね、どうして私、逃げているんでしょう」
まゆさんはそう言うと、少しだけ空を見上げた。
「いえ、わかってるんです。どうして自分が逃げ出したのか。どうしてプロデューサーさんのところから逃げ出したのか」
そしてまゆさんは私の方を見る。
「わたし、今回の公演を最後に、アイドルを辞めようと思っているんです」
「え!?」
いきなりの発言に、私は耳を疑った。まゆさんは喋り続ける。
「アイドルを辞めて、正式にプロデューサーさんとお付き合いをしようと、そう思っていたんです。だけど、プロデューサーさんは首を縦には振りませんでした。プロデューサーさんは、私の好意は嬉しいと言ってくれました。だけど、『まだまゆに見せてない景色があるから、もう少しだけアイドルをやらないか』って、そう言ったんです。私、その時思ったんです。私の大好きなプロデューサーさんは、つま先から頭のてっぺんまでプロデューサー業で詰まっていて、そんな彼だからこそ、私は好きになったんだ、だけど、そうするとプロデューサーさんと一緒になることは出来ないのかもしれないって。でも、プロデューサーさんを困らせたくもない……だんだん考えているうちに、わからなくなっていって。自分で自分がわからなくなって……気が付けば部屋を飛び出していました」
そこで、まゆさんはふぅと一息つく。
「……ごめんなさい。こんなことを話してしまって」
「いいえ。全然大丈夫ですよ……まゆさんって、優しくて、本当にそのプロデューサーさんが大好きなんですね」
「……え」
「だってそうじゃないですか。悩んでるときでも、そのプロデューサーさんのことを考えているじゃないですか。大好きだけど、困らせたくないって。たぶん、それがまゆさんなんですよ。自分で自分がわからなくなっても、プロデューサーさんのことを考えてしまう。そんな姿がまゆさんなんです。そして、それで良いんだと思うんです。まゆさんにとっても、プロデューサーさんにとっても」
裏水路を抜けると、大きな水路に戻ってきた。目の前には、マルコ・ポーロ邸宅跡の建物がある。
「目の前に見える建物、マルコ・ポーロの邸宅跡なんですよ。マルコ・ポーロは中国の皇帝の娘と恋愛の末結婚してイタリアに帰った後、すぐにまたどこか違う国へ行ってしまうんです。当然、結婚した皇帝の娘はヴェネツィアに独りぼっちです。当時はそんな時代ではありませんでしたから、旦那であるマルコ・ポーロに自分も連れて行ってくれとは言えません。結局彼女は寂しい思いをしながら運河に身を投げ出したとされています。そして、その日からマルコ・ポーロ邸宅には、夜な夜な女性の幽霊が現れるようになったと言われています」
だんだんとマルコ・ポーロ邸宅跡に近づいていく。まゆさんはじっと私の話を聞いている。
「彼女は、大好きな人に何も言えないまま、一人寂しく水の底に沈んでいってしまいました。だけど、まゆさんならそんな風にならなくても済むはずです。だって、まゆさんだから」
ゴーン、ゴーンと鐘の鳴る音が響く。辺りにいた鳥たちが一斉に飛び立つ。沈みかけている夕日が、なんだか今日初めて会ったみたいな表情をする。
「まゆ、だから」
「はい」
「……そうかもしれませんね」
「はい!」
56 :
◆jsQIWWnULI
:2020/08/30(日) 19:07:24.56 ID:s2H4XrND0
「まゆ!」
マルコポーロ国際空港広場前で、そんな男性の声が聞こえた。
「……プロデューサーさん……?」
私は船着き場に黙ってゴンドラを寄せる。しばらくして、先ほどまゆさんの名前を叫んでいた男性が駆け寄ってきた。
「……まゆさん、お手をどうぞ」
「……はい」
まゆさんは私の手を取り、ゴンドラから降りた。
「まゆ……」
この人がまゆさんの言っていたプロデューサーさんであろう。少し困ったような顔をしながら、まゆさんの目の前に立つ。
「プロデューサーさん」
「……うん」
「まゆ、決めました」
「……そうか」
プロデューサーさんは、少し悲しそうな顔をする。そんな表情を見て、まゆさんは「うふふ」と笑った。
「……まゆ?」
「そんな顔しないでください、プロデューサーさん。まゆ、アイドル辞めませんから」
「え」
プロデューサーさんの顔が困惑の表情へと変わる。
「アイドルは辞めません。プロデューサーさんが、まゆにまだ見せていない景色を観るために。でも、プロデューサーさんとお付き合いすることもあきらめません」
「ええ!?」
さらに驚きの表情になるプロデューサーさん。
「だって、まゆですから。アナタが見つけた、アナタが好きな、アナタが好きな、アイドル・佐久間まゆですから」
そう言って、まゆさんはプロデューサーさんに抱き着いた。
「あ、ちょ、ま、まゆ!?」
「うふふ♪」
まゆさん今日見た中で、一番の笑顔を見せた。
57 :
◆jsQIWWnULI
:2020/08/30(日) 19:08:55.71 ID:s2H4XrND0
しばらくして、プロデューサーさんから離れると、私の方に来た。そしてまゆさんが口を開く。
「藍子さん、ありがとうございました」
そして、深々とお辞儀してくる。
「い、いいえ、そんな!私なんて、なんて差し出がましいことを言ってしまったんだろうって……」
「そんなことないですよ、藍子さん。藍子さんのおかげで、私は私を見つけられたから」
まゆさんはそう言ってほほ笑むと、プロデューサーさんに何かを言った後、私に紙を渡してきた。
「これ、明後日の公演のチケットです。時間があったらぜひ見に来てください。私のアイドルの姿を」
「い、いいんですか!?」
「もちろん」
私は恐る恐る二枚のチケットをまゆさんから受け取った。
「絶対に観に行きますね!」
「ありがとう」
まゆさんは再び微笑むと、プロデューサーさんを呼んだ。プロデューサーさんはアイさんと何かを話していた。
「…………あ、領収書って……すいません、ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ、うちの藍子の良い機会になりましたから……」
「プロデューサーさん?」
「あ、うん。今行く」
プロデューサーさんはそう言うと、まゆさんのそばに駆け寄る。
「藍子さん、今日は本当にありがとうございました……また、公演で」
まゆさんはそう言うと、プロデューサーさんの腕をとりながら歩いていった。
「……よかったですね、まゆさん」
私はまゆさんの後姿を見送りながら、そう言った。
「そうだね……お疲れ様、藍子ちゃん」
いつの間にゴンドラから降りていたアイさんが、私の肩をたたきながらそう言った。
「特別に今日は、私のゴンドラで帰ろう!」
アイさんはそう言うと、素早くゴンドラに乗りこみ手を差し伸べてくる。私はそんなアイさんの手を取ってゴンドラに乗った。
「その公演、何時から?」
「えっと、18時からですね」
「……なんとか行けるか?」
「本当ですか!?」
「まかせなさい!」
夕暮れの中、アイさんの流れるようなゴンドラで、私たちはARIAカンパニーへと帰っていった。
58 :
◆jsQIWWnULI
:2020/08/30(日) 19:09:41.42 ID:s2H4XrND0
二日後
「……次で、私のソロパートはラストです」
「……実は私、今日でアイドルを引退しようと思っていたんです。あ、今は全然そんなこと思ってないですよ。安心してください、今日で引退はしないですから……」
「それで、一昨日、ある素敵な方と出会ったんです。その方は、出会って数時間しか経っていないのに、『それがまゆさんだと思います』って、私に言ってくれたんです。不思議でしょう?出会って間もない人にそんなことを言われるなんて、普通は何言ってるんだ、知りもしないくせにって思うじゃないですか。でも、その言葉は、その人は違ったんです……」
「……すごく救われて。私は私なんだって思えて……だから、今日ここに立つことができるし、明日も明後日も皆さんの前に立つことができる……」
「今から唄うのは、その人のことを想像して、私が歌詞を書いた歌です。昨日無理言って完成させた曲を急遽入れてもらったので、完成度はそれほど高くないかもしれません。そこは、皆さんに申し訳ないです。でも、唄わずにはいられないから……」
59 :
◆jsQIWWnULI
:2020/08/30(日) 19:10:37.55 ID:s2H4XrND0
「だから、聴いてください。『ウンディーネ』」
60 :
◆jsQIWWnULI
:2020/08/30(日) 19:11:37.68 ID:s2H4XrND0
今日はこれでおしまいです。先週は更新できず今日に至ったのですが、来週は更新できそうです。よろしくお願いします。
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/31(月) 22:53:10.28 ID:ZsVV9OxAo
続けて
62 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/07(月) 18:55:47.83 ID:2lWBzScl0
機能更新できなかったので今日更新します。よろしくお願いします。
63 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/07(月) 18:56:58.30 ID:2lWBzScl0
浜口あやめ「鳳天の舞!」アーニャ「……シベリア送りです!」
前略
ただ今ネオ・ヴェネツィアは夏真っ盛りです。夏の気候は、私たちの心を高翌揚させて止みません。ただ、あんまり浮かれ気分になるのも……
64 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/07(月) 18:58:52.21 ID:2lWBzScl0
「はああああああああ!」
夏になってだいぶ日が長くなってきたとはいえ、今の時刻は17時40分前後だから、暗くなってきている。昼間の照り付けるような暑さは今は和らいでいて、時折海の方から涼しい風が吹いてくるのが心地よい。合同練習を切り上げた、あやめちゃん、あずきちゃん、私といういつものメンバーは、帰路についていた。そんな中、あやめちゃんがいきなり大きな声を出したかと思うと、オールを高く掲げた。そして再び叫ぶ。
「秘奥儀・鳳天の舞!」
そして、あやめちゃんは高く上げていたオールを振り下ろす。オールが水面にぶつかり派手な水しぶきを上げる。
「きゃっ!?」
水しぶきがもろにかかってしまった。あずきちゃんはいつの間にかあやめちゃんのそばから離れていた。いつのまに……
「……あれ、全然進みませんね……」
あやめちゃんは自身にかかる水しぶきなんて気にも留めていない様子で首を傾げながらそう呟く。
「あやめちゃん、急にどうしたの?」
私はいきなり奇行に走ったあやめちゃんに尋ねる。
「いやあ、それがですね。昨日部屋の片づけをしていたら、『プリマをねらえ!』を最初から読み直してしまいまして……」
「『プリマをねらえ!』?」
「あれ、藍子ちゃん知らない?ネオ・ヴェネツィアで昔っから流行ってる水先案内人のマンガ」
いつの間に戻ってきたあずきちゃんが私にそう尋ねてくる。
「ううん、知らない」
「そっかぁ。面白いんだよ、『プリマをねらえ!』。女王カンパニーってところの水先案内人・アイリスちゃんが主人公でね、レースしたり、オールで波を起こしたり、空を飛んだり、巨大な津波をたたき割ったりする熱血スポコン超絶ド派手アクションバトル少女漫画なんだよ」
「……な、なんだかすごそうなマンガだね……」
「その通りです!そして私を水先案内人への道に誘った作品でもあります!」
あずきちゃんの説明を受けて、あやめちゃんが声高に叫ぶ。
「昨年の三月を最後に『Nice!プリマをねらえ!』は休載していますが、私の心の中には確かにクイーンカンパニーの血が流れているのです!」
「……そ、そうなんだ……」
「そ。見ての通りあやめちゃんは大の『プリマをねらえ!』ファンだから、こうなると止まらないんだよね〜。忍者好きにバトル水先案内人好き……戦闘民族かな」
「時には忍び、時にド派手に。これが私のモットーですから」
「で、さっきの鳳天の舞って言うのが、その『プリマをねらえ!』の主人公・アイリスちゃんが使う技なんだけど。あやめちゃん、高まるとよく技の練習をするんだよね」
「その通りです!」
あやめちゃんはそう言ってオールを横にして両手で持って掲げた。
65 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/07(月) 19:01:38.97 ID:2lWBzScl0
「……だけど、現実にはなかなか上手くいきませんね……」
そう言って、あやめちゃんはぐったりとうなだれる。
「その、『鳳天の舞』っていうのは、どういう技なの?」
私は少し気になったので聞いてみた。すると、あやめちゃんは「よくぞ聞いてくれました!」というような表情で語り始めた。
「鳳天の舞は、失われた禁断の書・『天華』に伝わるという秘奥義なんです。詳しい説明は作中で話されないのですが、初めてアイリスが鳳天の舞を使ったときの様子や、綾音先輩とのレース対決の際の描写などから、オールで思いっきり水を掬い上げることによって爆発的な推進力やブレーキ力を生み出す技だと考えられています」
「なるほど……」
「ね。私も『プリマをねらえ!』は読んでるけど、そこまで細かいことは知らなかったなぁ」
私とあずきちゃんは、あやめちゃんの熱弁にただただ感心していた。
「私、この技は何度か試しているのですが、どうしてもオールが水に負けてしまうんですよね……実際アイリスはこの技を習得する前に、女王カンパニーに代々伝わる鐵のオール・韶凪を扱えるようになってますから、足りないのは筋力なのだと思うのですが……」
「あ、ちなみに韶凪って言うのは、金属でできた重た〜いオールの名前ね」
「ああ、なるほど」
ああずきちゃんの説明でようやく理解できた。要するに、オールで大量の水を押し出す力がその技を再現するためには必要だということだ。
「だったら……」
私は今までの話を聞いて思ったことを口にした。
「オールを水面に着地させるときはオールの面を立てておいて、オールの面がすべて水に入った瞬間に90度回転させて水を押し出せば良いんじゃないかな?そしたら、少なくともさっきみたいに水面に負けて水しぶきが上がる、みたいなことはなくなると思うよ」
私がそう言うと、あやめちゃんは感激したような顔をした。
「……確かにそうですね!ありがとうございます!藍子殿!」
「い、いやあ。そこまで感激されるようなことはしてないよ……?」
ものすごく感激しているあやめちゃんを尻目に、あずきちゃんは
「あんまり真面目に考えなくて大丈夫だからね?」
と私に言ってきた。あやめちゃんは私の言葉を受けて、未だにあーでもないこーでもないとうんうんうなっている。……確かに、真面目に考えなくても良いかもしれない。
「あやめちゃん、帰るよ!」
あずきちゃんはそう言いながら、ゴンドラを滑らせる。私もそれに続く。
「あ、お二人とも、ちょっと待ってください!」
あやめちゃんが急いで私たちの後ろを付いてくる。
66 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/07(月) 19:03:46.27 ID:2lWBzScl0
「……そうか、縦にオールを入れる、か……」
藍子殿とあずき殿と別れてオレンジぷらねっとの社屋付近まで来ました。ここ間⒟家売れば後は体が自動的にゴンドラを運ぶことができます。私はもう一度藍子殿の言った言葉を思い出しました。そして、周囲を二、三度確認し、誰もいないことを確かめました。
「……よし」
誰もいないことを確認すると、私はゴンドラを漕ぐ手を止め、一度深く大きく深呼吸をしました。その間にオールの軌道を頭の中にありありと思い描く。オールを振り上げ、斜め45度の角度で縦にしたオールの面を水中に入れ込み、すべて入ったところで回転させ、そのまま押し上げる。大量の水が掬い上げられ、ゴンドラが勢い良く前進する姿が見えました。
「見えた!秘奥義・鳳天の舞!」
叫びと共にシミュレーション通りに体を動かす。面を立てたオールは水しぶきを上げずに入っていく。じゃぼんという音が鈍く響く。面がすべて入ったことを確認すると、オールを回転させ振りぬく!
「んなああああああ!」
叫びと共にオールによって水がかきだされる。ゴンドラがグンと進む。
「やった!」
私は思わずガッツポーズをしまた。後ろで水しぶきが水面に落ちる音がしました。そして
「あ〜や〜め〜?」
という声も。
「ひっ」
私は恐る恐る振り返りました。するとそこには、びしょぬれ姿のアーニャ・ドストエフスカヤ殿があったのです。
67 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/07(月) 19:05:20.30 ID:2lWBzScl0
「私、この前も注意したわよね?」
「……はい」
「それで、『反省してます、もうしません』って言ったわよね?」
「…………はい」
「じゃあ、私がびしょぬれになったのはどうしてなの?」
「………………私が鳳天の舞の練習をしていたからです……」
「そうよね。でも、この前もうしないって言っていたのに、どうして鳳天の舞を練習していたの?おかしいわよね?」
私の先輩であるアーニャ殿をびしょびしょにしてしまってから十数分後。アーニャ殿はお風呂に入って制服から着替えた。私はもちろんその間正座をしてアーニャ殿の部屋で待っていました。そして今、こってり絞られている最中です。普段のアーニャ殿は、とても優しく親しみやすい千歩愛なのですが、その分怒るとものすごく怖いのです。
「そ、それは……」
「それは?」
「それは……その……」
「……はぁ」
アーニャ先輩はため息をつくと、私にこう尋ねた。
「あやめ、私のこと嫌いなの?だったらしょうがないわよ?やらないって言ったことをやっていても」
「い、いえ、そんなことは!」
「じゃあ、どうして?」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「シベリア送りです!」
「えええええ!そんなぁ……」
「当たり前でしょう?約束を破ったんだから」
「そうですけど……ところで、シベリアってどこなんです?」
「さあ?」
「し、知らないのですか?」
「ええ。でも構わないわよ。あやめ。あなたは明日から一週間私の仕事の手伝いです。当然よ」
「は、はい……」
「このままあなたを送り出したらいつ怪我するかわかったもんじゃないんだから……やぶさか?」
「い、いいえ。やぶさかではございません」
「じゃあ、明日からね」
アーニャ殿はそう言って、私の頭をポンと軽く叩いた。
「今日は早く寝なさい。明日は朝から早いんだから」
そう言った後、私の頭に置いたままの手で頭をくしゃくしゃっとした。
「はい……」
私はそう言って、アーニャ殿の部屋を出る。部屋を出る前にもう一度言う。
「アーニャ殿……すいませんでした……」
「……明日朝しっかり起きるのよ」
「はい」
こうして絞られが終わりました。この後本当に一週間みっちりアーニャ殿のお仕事を手伝ったのはまた別の機会に……
68 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/07(月) 19:05:57.78 ID:2lWBzScl0
今日はこれで終わりです。今週中にもう一本更新出来たらします。よろしくお願いします。
69 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/07(月) 19:14:40.22 ID:2lWBzScl0
誤字がひどいな。すまん。
70 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/13(日) 20:06:40.85 ID:AmsHkCZS0
高森藍子「夜光鈴市?」
前略
連日の茹だるような暑さにへとへとになりつつ、今日もゴンドラを漕いでいます。今日はいつもの三人で合同練習です。
71 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/13(日) 20:14:03.36 ID:AmsHkCZS0
「あっつ〜い」
あずきちゃんが膝を抱えるようにしてうずくまる。
「あずき殿、身体を密着させては余計に暑くなるばかりです」
「たしかにー」
溶けた表情のあずきちゃんとは正反対に涼しい顔をしているあやめちゃん。
「あやめちゃんは暑くないの?」
私が尋ねると、あやめちゃんは
「暑くない、といったら嘘になりますが、心頭滅却・火もまた涼しの気持ちでいますから」
と答えた。
「何それ?しんとーめっきゃく?」
「心頭滅却・火もまた涼しです」
「どういう意味なの?」
「そうですね……アーニャ殿から教わった言葉なので詳しくはわかりませんが、心を落ち着かせれば火も涼しく感じる的な感じだと思います」
「へー。アーニャさんは相変わらず難しい言葉を知ってるよね」
「そうですね」
あずきちゃんとあやめちゃんの二人がそんな話をしているのを聞きながらゴンドラを漕ぐ。いつもの楽しいひと時。だけど……
「……心を整えても暑いよねぇ……」
私はそう呟いた。
「あ、暑さで思い出した」
するとあずきちゃんはいきなりそう言った。その顔は言葉通り、何かを思い出したようだった。
「明日から三日間、夜光鈴市だよ」
「夜光鈴市?」
私は聞き返す。
「そう。藍子ちゃんは風鈴って知ってる?」
「聞いたことは」
「夜光鈴っていうのが、火星の海底だけでとれる石を使った風鈴のことで、その石が夜になると光るから夜光鈴っていうんだ。夜光鈴市は夜光鈴を売ってる市のことだよ」
「へー。夜光鈴……どんなのなんだろう……きっと素敵なんだろうなぁ……」
「では、明日三人で行ってみましょうか」
「良いね!夜光鈴は夜光鈴市でしか販売されないし、夜光鈴市は明日からの三日間しかやらないから、可愛いのはすぐに売れちゃうんだよね。だから、早めに行こうよ」
「そうしましょう」
そんなわけで。あれよあれよというまに夜光鈴市に行くことが決まった。
72 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/13(日) 20:17:25.04 ID:AmsHkCZS0
「おはよー、藍子ちゃん!」
「おはようございます、藍子殿」
昨日の約束通り、ARIAカンパニーで待ち合わせをしていた私たちは、時間通りに集まった。
「二人ともおはようございます」
「では、早速行きましょうか!」
「おー!」
私たちは夜光鈴市の会場へと向かった。
「そういえば、どうして夜光鈴は光るんです?」
私は昨日気になっていたことを二人に尋ねた。
「あー、それはねぇ……なんだっけ?」
「あずき殿。この前の試験の範囲だったのにもう忘れたのですか?」
「だって〜」
「オッホン。では私が解説いたしましょう」
あやめちゃんはそう言って右手の人差し指を立てながら話し始めた。
「夜光鈴には夜光石という、火星でしか取れない石が使われます。この夜光石にはルシフェリンというものが含まれていまして、ルシフェラーゼという酵素作用によって酸素と結合することによって分解されます。その時に効率よく光るのが、夜光鈴の光る理由です。ちなみに夜しか光っていないわけではなく、常時光っているのですが、微弱な光しか発しないので夜にしか見えないのです。光の減少と共に夜光石も小さくなっていき、一カ月弱で完全に消えてなくなってしまうのも特徴の一つですね」
「へー。石にそんなものが含まれてるんだね。不思議……」
あやめちゃんのものすごく詳しい説明を受けて、私はまだ見ぬ夜光鈴へ思いをはせた。
「よく細かいところまで覚えてたね、あやめちゃん。含有物の名前なんて、授業じゃプラスアルファ的な内容としてあつかわれてたのに」
「追加点狙いで覚えましたからね」
「実際の点数はどうだったの?」
「追加点なしでしたね」
「あらー……あ、見えたよ!」
あずきちゃんのその言葉で我に返る。今まで何故か聞こえていなかった音が一斉に聞こえてくる。
チリーン リリリーン チリーン リリリーン チリーン リリリーン
「わぁ……」
そよ風が吹くたびに、無数の出店に飾られてある夜光鈴の、ガラスに夜光石がぶつかりながら響かせる音が渡る。その音色はとても澄んでいて涼しげな音だった。
「いつ見ても壮大ですね」
あやめちゃんが言う。サン・マルコ広場には、見たことのないくらいたくさんの屋台が、見えなくなるまで並んでいる。そして、そのすべてに夜光鈴が並べられ、一斉に風に揺られている。
「さっそく可愛いの、見つけよう!」
あずきちゃんは腕まくりをしながら進み始めた。私とあやめちゃんもそれに続く。
73 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/13(日) 20:21:53.80 ID:AmsHkCZS0
「あ、これかわいいかも」
「こっちもなかなか……」
「これなんかはどうでしょう……」
長く奥まで続いている屋台を、一つ一つ見ていき、自分のお気に入りの夜光鈴を探す。初めての夜光鈴だから、自然と選別にも力が入る。
「……ちょっと、一回みんなバラバラになって自分のお気に入りのやつを探そう」
今まで一緒に行動してきた私たちは、あずきちゃんのその言葉で別行動することになった。
「あっ、これかわいい…・・」
しばらくして、今まで見てきた中で一番気に入る夜光鈴を見つけた。その夜光鈴は薄い緑色で流れるような模様の入ったものだった。舌には噂の夜光石がぶら下がっている。
「すいません。これください」
私がその夜光鈴を指さしながら屋台のおじさんにそう言うと、おじさんは驚いたような表情をした。
「おお。お嬢ちゃん、お目が高いね。これは有名なガラス工房で作られたものなんだよ。シンプルなデザインだけど、いい雰囲気だろう?よくこれを選んだね」
「はい。これが今まで見てきた中で一番かわいかったので……」
「そうかいそうかい。こいつは普通なら夜光鈴にしてはいい値段するんだけど、今回はセンスのいいお嬢ちゃんに特別出血大サービスで、普通の夜光鈴と同じ値段で売ってやるよ」
「本当ですか!?」
「もちろん。この夜光鈴も、そういう人の下に行くのが幸せってもんだかんな」
「ありがとうございます!」
おじさんに夜光鈴を渡してもらう。近くで見ると、より一層かわいく、愛おしく見える。
74 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/13(日) 20:24:21.31 ID:AmsHkCZS0
「お待たせ、二人とも」
今年の夏の相棒を手に持って、あずきちゃんとあやめちゃんの下へ向かった。
「ちゃんと買えた?」
「うん。ばっちり!」
「それは良かったです。私たちも、ほら」
あやめちゃんはそう言って、夜光鈴を見せてくれた。あずきちゃんもそれに続く。
「私のは小ぶりの薄ピンク色に、花びらが誂えてあるの」
「私のは七宝柄で縁起のよさそうなものにしました」
「本当だ。二人とも個性が出ててすごく良い夜光鈴だね」
「そうでしょ!?夜光鈴は火星の夏の風物詩だから、一個は持っておかないとね〜」
私たちは、お互いの夜光鈴を褒め合いながら帰路についた。
75 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/13(日) 20:27:12.63 ID:AmsHkCZS0
夜光鈴を買ったその夜。アイさんに夜光鈴の話をしたら、
「そういえば、私も買いに行かなくちゃ!」
と言って、今日は早く帰ってしまった。私は夕飯を済ませた後、日中の熱さが引いて少しはましな風が吹いているのを確認すると、ARIAカンパニーの看板に夜光鈴をぶら下げた。
「本当に光ってる……」
チリリーン、と涼しげな音を出しながら、舌とともに揺れる夜光石が、青白っぽく淡い光を放つ。
「LEDとはやっぱり違う……摩訶不思議……」
私は夜光鈴を写真に収めようとしたが、フラシュをたくと夜光石の光が映らず、暗いままだと夜光鈴そのものが映らないというジレンマを抱えることになったのであきらめた。
「今年の夏、めいいっぱい楽しめば良いですもんね、アリア社長?」
「ぶいにゅ!」
隣にいたアリア社長も頷く。カランと氷の溶ける音がして、私はピッチャーの紅茶が飲み頃になったことを知る。
「はい。これがアリア社長の分」
私はアイスティーをアリア社長に差し出し、その後自分の分を注ぐ。
「いただきます」
リリリーン
その日から、夜中に夜光鈴を眺めながらアイスティーを飲むのが日課になりました。
夏は、まだまだ続きそうです。
76 :
◆jsQIWWnULI
:2020/09/13(日) 20:31:59.11 ID:AmsHkCZS0
今週はこれでおしまいです。来週はたぶん更新できないので再来週に更新します。
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2020/11/01(日) 20:23:38.41 ID:WRPSV1YI0
保守
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/11/14(土) 00:20:23.76 ID:5FptOKZA0
再来週(再来月)
79 :
◆jsQIWWnULI
:2020/11/29(日) 18:43:41.75 ID:RCe5Jm+v0
高森藍子「秋の始まり、みーつけた!」
前略
あんなに暑かった夏の夜も、気が付けば少し肌寒く感じるようになりました。そういえば、先日一人でネオ・ヴェネツィアの水路を探索していた時なのですが……
80 :
◆jsQIWWnULI
:2020/11/29(日) 18:45:23.10 ID:RCe5Jm+v0
昨日よりも涼しい風が吹いているなぁという感じが三日間連続で続いているということは、そろそろこの長かった夏が、私が火星に来てから初めて体験する夏が、終わりを迎え始めているのかと思うと、なんだか少しだけ切ない感じがして、オールを漕ぐ手が少し緩む。
「ゴンドラ通りまーす!」
十字の水路に差し掛かった私はゴンドラを減速させながら他の人に聞こえるようになるべく大きな声で叫ぶ。水路はなにもウンディーネのゴンドラだけが通るのではない。郵便屋さんのゴンドラやみんなの荷物を運ぶ運送用のゴンドラ、はたまた小さなおばあさんが運転する小さな小さな自動操作船なんかも通る、みんなの水路なのだ。
「ゴンドラ通りまーす!」
もう一度叫び、自分がここを曲がる意思表示をする。そうすることによって未然に事故を防げる確率が高まる。もう何十年と続いてきたこの街のルール。
何事もなく無事に水路を曲がりきることができた。私の厳踊らが渡りきると、すぐに八百屋さんのゴンドラが私とは反対方向に曲がっていく。ふと、近くにある橋を見ると、観光客らしき人が、さっきの一連の流れを興味深そうに眺めていた。ネオ・ヴェネツィアの人間からすれば、本当に何でもないようなただの日常風景。だけど、そうじゃない人たちからは、先ほどの流れが不思議に見えるのだろう。私も最初はそうだった。マンホームではまず見受けられない状況だから、戸惑いもあった。マンホームでは、何か乗り物を人が操縦するなんてことはないから。歴史の授業で習った、昔のマンホームの交通状況がこんな感じだったんだろうなと思ったことを、今思い出した。
そして、まだまだ自分はネオ・ヴェネツィアの一員に成り切れていない気がして、少しだけ寂しくなった。そんな気持ちを吹き飛ばすかのように、オールを強く握りしめて思いっきり漕ごうと手に力を籠める。しかし、それはしてはいけないことだと思い出して、慌てて手の力を緩めた。
81 :
◆jsQIWWnULI
:2020/11/29(日) 18:48:16.98 ID:RCe5Jm+v0
「藍子ちゃん。水先案内人が意識しないといけないものの中で、一番忘れがちになってしまうものってなんだと思う?」
アイさんとのやり取りを思い出す。
「忘れがちになってしまうもの、ですか……?」
「うん」
「……時間……ですか?」
「時間管理は重要だけど忘れがちにはならないかなぁ。確かに、藍子ちゃんといるとなぜか時間が吹き飛んでることはあるけれど」
「そうなんですか?」
「そうだよ。藍子ちゃんは可愛いんだから」
「へ?」
「……さ、時間じゃないとすればなんだ、って言うとね。答えはスピードなの」
「スピード」
「正確にはゴンドラを漕ぐ速さ。どうしてスピードが重要かわかる?」
「……いいえ、わからないです」
「何故かって言うとね、ここがネオ・ヴェネツィアだからなの。……藍子ちゃんは、このネオ・ヴェネツィアがどうやってできたかは知ってるよね?」
「はい。ネオ・アドリア海に浮かぶ島の一つだったこの土地に、マンホームのヴェネツィアを移転したことによって、ネオ・ヴェネツィアが誕生した……」
「その通り!ということは、ネオ・ヴェネツィアはヴェネツィアの歴史を歩んできた建造物が多いってことになるよね。そしてその建造物の多くは石造りになってる。当然水路をはさむ建物も」
「はい」
「ここで重要なのは、水路を使って水面を移動するにはどうしたって振動を発生させてしまうということ。つまり、波が発生してしまうということなの」
「波、ですか」
「そう。この波ってやつがなかなかの曲者で、アーニャ風に言えば『水滴岩をも穿つ』なわけよ。要するに波が石造りの建物をどんどん削っちゃうんだ。けど、さっきも言った通り、船で移動すると波が起こる。だからこのネオ・ヴェネツィアでは、原則として大きな波を立てないスピードで運転をするようになっているの。これから先のネオ・ヴェネツィアを守っていくために」
「なるほど……将来のネオ・ヴェネツィアを守るため……」
「だから、水先案内人には一定のスピードを保ちながらゴンドラを運転する技術が求められるの。だけど、意外とみんなスピードのことは忘れがちになっちゃうんだよねぇ……。逆漕ぎ女王もいるしね」
アイさんはそう言うと、ニカッと笑った。
82 :
◆jsQIWWnULI
:2020/11/29(日) 18:50:51.09 ID:RCe5Jm+v0
「……あれ、ここは……?」
アイさんの教えを思い出してるうちに、いつの間にか知らない遠くの場所に来てしまったらしい。見たことのない並木水路が目の前に広がっていた。
しばらくゴンドラを漕いでいると、どこからかとても良い匂いが辺りを漂わせていることに気が付いた。
「なんか、すごく、いい匂い……」
グルルルル
「…………」
あずきちゃんとあやめちゃんに聞かれたら絶対に爆笑されるだろう大きな音が私のお腹から響いた。私はゆっくりとあたりを見回す。誰もいないということを確認するために。順番に首を回し、最後の最後まで目を凝らして…・…
「あ」
ばっちりと目が合った。しかも、人の。
「お嬢ちゃん、おなかすいてんのかい」
私と目が合ったそのおじさんは川辺に出店している屋台のおじさんらしく、先ほどの良い匂いの総本山の主だった。おじさんは受付に肘をつきながらそう私に尋ねてきた。
「……聞こえてたんですか?」
「おう、バッチリ」
「……恥ずかしい……」
「豪快な腹の鳴りようだったなぁ」
おじさんはそう言いながら大きく笑った。そして、私に背を向けて屋台で何か作業をしたかと思うと、「ホイ」と私に何かを手渡そうとしてきた。私はおじさんが渡してきたものを受け取るために、ゴンドラを屋台の前に着ける。そして、おじさんからものを受け取った。
83 :
◆jsQIWWnULI
:2020/11/29(日) 18:52:14.78 ID:RCe5Jm+v0
「……あれ、ここは……?」
アイさんの教えを思い出してるうちに、いつの間にか知らない遠くの場所に来てしまったらしい。見たことのない並木水路が目の前に広がっていた。
しばらくゴンドラを漕いでいると、どこからかとても良い匂いが辺りを漂わせていることに気が付いた。
「なんか、すごく、いい匂い……」
グルルルル
「…………」
あずきちゃんとあやめちゃんに聞かれたら絶対に爆笑されるだろう大きな音が私のお腹から響いた。私はゆっくりとあたりを見回す。誰もいないということを確認するために。順番に首を回し、最後の最後まで目を凝らして…・…
「あ」
ばっちりと目が合った。しかも、人の。
「お嬢ちゃん、おなかすいてんのかい」
私と目が合ったそのおじさんは川辺に出店している屋台のおじさんらしく、先ほどの良い匂いの総本山の主だった。おじさんは受付に肘をつきながらそう私に尋ねてきた。
「……聞こえてたんですか?」
「おう、バッチリ」
「……恥ずかしい……」
「豪快な腹の鳴りようだったなぁ」
おじさんはそう言いながら大きく笑った。そして、私に背を向けて屋台で何か作業をしたかと思うと、「ホイ」と私に何かを手渡そうとしてきた。私はおじさんが渡してきたものを受け取るために、ゴンドラを屋台の前に着ける。そして、おじさんからものを受け取った。
84 :
◆jsQIWWnULI
:2020/11/29(日) 18:59:59.07 ID:RCe5Jm+v0
「これは?」
「これは見ての通りじゃがばたよ。おじさんは、じゃがばた屋さんだかんな。看板にも書いてあるだろう?」
言われて私は屋台の看板を見ると、確かにそこには「じゃがばた」の文字があった。
「あの、じゃがばたって、なんですか?」
「なに、お嬢ちゃん、じゃがばた食ったことないんか?じゃがばたって言うんは、ジャガイモを蒸かした上に美味しいバターを乗っけて溶かしながらジャガイモと一緒に食べる料理だ」
「へぇ〜」
「いいから、食ってみな」
「……いただきます」
おじさんに催促されて、私はじゃがばたをひとくち食べてみた。
「……っあっふあっふ!?」
一口食べると、ジャガイモの甘さとバターしょっぱさ、そしてものすごい熱さが口を襲った。
「あーあー、お嬢ちゃん、本当にじゃがばた食ったことなかったんだなぁ」
おじさんは笑いながらそう言った。
「どうだ?熱いけど、うまいだろ?」
「はふっ……はひっ!」
「そうかそうか……まあ、おじさんのじゃがばただかんな」
何とか熱さを逃がしながら、じゃがばたを飲み込む。
「……っはー……想像だにしなかった熱さだったけど、とても美味しいです」
「そいつは良かった」
私はゴンドラを足で押さえて流されないようにしながら、岸辺に座って残りのじゃがばたをのんびりと食べた。その時、少し強めの風が水路の上をかけていった。そして、葉っぱが私の目の前にひらりと舞い落ちてきた。
「あ、これ……」
私の声に、じゃがばた屋のおじさんが顔をのぞかせていった。
「お、お嬢ちゃん、良いじゃねーか。今年で一番最初の落ち葉かもな」
私の目の前に落ちてきたのは、小さいながらも黄色が鮮やかなイチョウの葉だった。
「ここはイチョウ並木だかんよ。秋も深まってくると、辺り一面が黄色くなるんだ」
「そうなんですか」
私はこの水路一面がイチョウで黄色くなるところを想像した。
「うふっ」
自然と笑みがこぼれてくる。
「秋の始まり、みーつけた!」
85 :
◆jsQIWWnULI
:2020/11/29(日) 19:02:24.68 ID:RCe5Jm+v0
今回はこれでおしまいです。前回の更新から気が付いたら二カ月たっていました。
今度はそんなに期間を開けないようにしたいです。よろしくお願いします。
86 :
◆jsQIWWnULI
:2020/12/12(土) 20:12:08.50 ID:frt3HOpI0
高森藍子「今年の夏を、海に還す」
前略
今日は夜光鈴を海に還す日です。これが終われば、本格的な秋がこのネオ・ヴェネツィアに訪れます。
87 :
◆jsQIWWnULI
:2020/12/12(土) 20:13:23.55 ID:frt3HOpI0
しゃぼしゃぼ
桃井あずきちゃんの漕ぐオールの音が響く。
しゃぼしゃぼ
しゃぼしゃぼ
オールに弾かれた水の音が、なんだかあずきちゃんの心を表しているみたいに、淋しく鳴く。
「あずき殿、どうされたのですか?」
ゴンドラに乗っている、私の隣にいる浜口あやめちゃんが、あずきちゃんにそう尋ねる。
「そうだよ。あずきちゃん、今日は元気ないね。どこか具合でも悪いの?」
私もあやめちゃんに続いてあずきちゃんの顔を覗き込みながら言った。
「……二人は悲しくないの?」
あずきちゃんは口を開くなりそう言った。
「悲しい?」
「うん。悲しくないの?」
「何が悲しいのですか?何かありましたか?」
「ううん。これから悲しいことが起こるの」
あずきちゃんがそこまで言うと、あやめちゃんは合点が言ったように頷き始めた。
「どういうこと?」
私はあやめちゃんに尋ねる。
88 :
◆jsQIWWnULI
:2020/12/12(土) 20:14:40.43 ID:frt3HOpI0
「もうそろそろ、この前三人で買った夜光鈴の夜光石が落ちてしまう時期になりつつあるんですよ。確か夜光鈴市が開催されたのがあの日だから……うん。今日、明日あたり、夜光石を還しに行かなくてはなりませんね」
「夜光石を……還す?」
「はい。夜光鈴の夜光石は発光するたびに小さくなっていく話はこの前したと思います」
「うん。覚えてるよ。その儚さが愛おしさにつながるんだなって思ったから」
「そうなんです。夜光石は最後には消えてしまう。夜光鈴から落ちてしまうのです。だから、このネオ・ヴェネツィアでは、そんな夜光鈴との最後の別れを惜しんで、水辺に繰り出す風習があるんです」
「へぇ〜」
「アクアの海底でしか、夜光石は採れません。だから、最後の輝きを見ながら海に還すんです」
「なるほど〜。私は良い行事だと思うなぁ」
「……良くないよ」
私があやめちゃんの解説に感心していると、あずきちゃんはそう呟いた。
「そういえば、あずき殿は今まで一度も夜光石を還しに行ったことがないんですっけ」
「……うん。私があんまり泣くもんだから、親が還しに行ってたんだ」
「そうだったのですか……でも、今年はあずき殿が返さないといけませんね」
あやめちゃんの言葉を受けたあずきちゃんのその顔は、大切なお人形をなくしてしまった小さな女の子のようだった。
89 :
◆jsQIWWnULI
:2020/12/12(土) 20:17:12.36 ID:frt3HOpI0
その後もあずきちゃんは意気消沈したままだった。いつもの練習を終えた私たちは、今夜一緒に夜光石を海に還しに行く約束をした。そして、その約束の時。
あずきちゃんが来るかどうか、少し不安だったけれど、それは杞憂だった。あずきちゃんはあやめちゃんと一緒にいつもの集合場所にやって来た。あずきちゃんの目が赤いところを察するに、部屋でひとしきり泣いてきたんだと思う。そういうところがあずきちゃんらしくて、良いなと思った。
「それじゃあ、行こうか」
私たちはゴンドラに乗った。
水路を抜け、ネオ・アドリア海に出ると、そこにはすでにたくさんのゴンドラが海面で揺れていた。その一つ一つに、夜光石の青白い光が灯っている。
「ここら辺にしようか」
私はゴンドラを動かすのを止め、辺りを確認しながら言った。他のゴンドラから、光が落ちるのが見える。
「そうですね。良い場所だと思います」
あやめちゃんはそう言いながら七宝柄の夜光鈴を持ち、ゴンドラのへりへかざした。その夜光鈴の夜光石は、青白い淡い光を断続的に放ちながら、次第に光の強さがなくなっていくのを目の当たりにさせた。
「あ」
ぽちゃん
夜光石が、ゆっくりと沈んでいく。光りながら沈んでいった夜光鈴が、ついに見えなくなった。
「……これで、今年の夏も終わりですね……」
あやめちゃんはしみじみとそう言った。
「あ、私のももう落ちそうかも……」
私は慌ててゴンドラのへりに近づいた。この夜光鈴との思い出が、スピードをもって徐々に思い出す。初めて夜光鈴を買った日のこと、アイスティーとお菓子を持って夜の海で開いた夜光鈴との秘密のお茶会のこと、何気ない風が優しい音色を与えてくれたこと。
ぽちゃん
夜光石が沈んでいく。私はそれに向かって、「またね」と呟いた。
すると今まで何も言わなかったあずきちゃんが口を開いた。
「……どうしてそんな平気そうな顔をするの……?淋しく、ないの?」
あずきちゃんの瞳には涙がいっぱいにたまっていた。そしてついに決壊を起こし、一筋涙がこぼれた。私はあずきちゃんに言った。
「だって、また会えるって、信じてるから」
「……あ、会える……?」
涙をぬぐいながらあずきちゃんはそう返してきた。
「うん。さっき、あやめちゃん言ってたでしょ?アクアでしか採れない夜光石をもとに還すって。私、こう思うの。私が今海に還した夜光石は、海底でゆっくりお休みするの。そして、来年の夏に向けて力を蓄えて、また私に会いに来てくれるって。だから、悲しくないって言ったら嘘になるけど、涙を流してしまったら、夜光石が心配しちゃうでしょう?」
私はそう言いながら、あずきちゃんにハンカチを渡した。あずきちゃんはそのハンカチを受け取りながら言う。
「本当に……また会える?」
「うん。私は絶対に合えるって、信じてる」
私がそう言うと、あずきちゃんは涙を拭きとり、ゴンドラのへりに向いた。そして、自分の夜光鈴を海に向けた。
ぽちゃん
夜光石はしばらくして海の底に沈んでいった。
「絶対に……また、会いに来てね!」
あずきちゃんは、沈みゆく夜光石に向かってそう叫んだ。沈んでいく夜光石が、少しだけ強く光ったように見えた。
90 :
◆jsQIWWnULI
:2020/12/12(土) 20:19:51.06 ID:frt3HOpI0
「あっつぅううい……」
ゴンドラを漕ぐ腕にじっとりと汗が噴き出しているのがわかる。夜光石を見送った次の日、私たちはまた朝から合同練習をしていた。
「夜光石が落ちていっても、気温は落ちていかないですね……」
あやめちゃんがうまいんだかうまくないんだか、わからないことを言う。
「じゃーん!」
そんな中、あずきちゃんは元気に何かを取り出して見せた。
「こんな日もあるかと、風鈴を持ってきました!」
あずきちゃんが手に持っていたのは、夜光鈴だった。
「昨日で夜光石がなくなっちゃったけど、亜子さんに頼んで小さなガラス玉を付けてもらったの!これで少しは涼しくなるよ!題して、風鈴で涼しくなろう大作戦!」
「……安直な作戦名ですが、風鈴が与えてくれる清涼感にしがみつきたいほどの暑さなのには間違いないので良しとしましょう」
チリーン
暑い日はもう少し続きそうです。
91 :
◆jsQIWWnULI
:2020/12/12(土) 20:21:11.23 ID:frt3HOpI0
ようやく夏が終わりました。秋はすぐ去り、早めの冬が訪れるでしょう。
また今度。
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/12/12(土) 21:55:23.53 ID:BmkCmbVbo
読んでるぞ乙
93 :
◆jsQIWWnULI
:2021/03/03(水) 22:56:42.98 ID:el0a9pqn0
明日更新する
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/03/04(木) 03:39:35.24 ID:Zhrpagc3O
いきわれ
95 :
◆jsQIWWnULI
:2021/03/04(木) 20:04:13.62 ID:+fCS+15r0
高森藍子「金木犀の庭」
前略
あれだけ暑かった夏が、まるで夢だったかと思うほど日々が涼しくなってきました。ネオ・ヴェネツィアには今、秋が到来しています。
96 :
◆jsQIWWnULI
:2021/03/04(木) 20:06:04.59 ID:+fCS+15r0
「すっかり涼しくなってきたね」
アイさんが朝食のハムエッグをお皿に盛りつけながら言う。
「そうですね。これから秋が来るんですね」
ネオ・ヴェネツィアに来て初めての秋。春も夏も素敵な季節だったから、秋もきっと素敵に違いない。そう思うと、今から胸がわくわくしてくる。
「そうだよ〜。秋と言ったら……焼き芋にじゃがバタ、かぼちゃケーキにきのこの炊き込みご飯……うん、お仕事頑張らなくっちゃ」
「食欲の秋ですね」
「そう! 藍子ちゃんも育ち盛りなんだから、たくさん食べようね……ってことで今日はハム三枚!」
「わぁ……! 朝から豪勢ですね」
「当然。なんてったって今日は藍子ちゃんとお出かけだもの。ピクニック用のお弁当もあるんだから」
あ、これ食卓に持っていってね、とアイさんは言いながら、先ほどまでハムエッグを作っていたフライパンを素早く洗う。そして再び火をつける。流れるように、あらかじめ準備してあった材料を入れる。ジャーという音が鳴り響く。その隣のコンロでは、鍋が湯気を立ち昇らせていた。私はハムエッグのお皿をテーブルに運びながら、昨日のことを思い出した。
97 :
◆jsQIWWnULI
:2021/03/04(木) 20:06:57.98 ID:+fCS+15r0
昨日の晩。いつもの通り仕事から帰ってきたアイさんと晩御飯を準備した後、今日どんなことがあったのかをご飯を食べながら報告した。
「……それで、いつものルートを使って三人で練習していたんですけど、その時、凄く甘い香りがしたんです」
「いつものルートってことは、外回りができるルートだね?」
「はい。それで、その匂いは、お菓子みたいな匂いではなくって、どちらかといえばお花の香りっぽい感じだったんです。でも、そこには特に香りを発するようなものは見当たらなかったんです」
「ふむふむふむふむ……気が付きましたか藍子ちゃん」
「え?」
アイさんは腕を組みながらうんうんと頷くと、口を開いた。
「明日、その匂いの正体を探しに行ってみない?」
「匂いの正体、ですか?」
「そう。周りには何もなかったのに、辺りに漂う甘い香りの正体! それは……」
「それは……?」
「明日のお楽しみに! ってことで、藍子ちゃん、明日は何か予定はある?」
「いえ、ありません」
「じゃあ、明日は二人でお出かけに決定!」
そんな流れで、今日はその甘い香りの正体を探しにアイさんと二人で出かけるのだ。アイさんは何か知っているような口ぶりだったけれど、一体あの香りの正体は何なんだろう。
98 :
◆jsQIWWnULI
:2021/03/04(木) 20:08:50.61 ID:+fCS+15r0
「さあ、お弁当も準備はばっちり!アリア社長の準備も?」
「ぷいちゅ〜!」
アイさんに尋ねられて、アリア社長が元気に返事をする。
「藍子ちゃんの準備も?」
「準備万端です!」
普段練習には持って行っていないが、今日はカメラも首にぶら下げて、いつでもシャッターを押せるようにしている。
「それじゃあ、藍子ちゃん。ゴンドラを出して」
「はい!」
ピクニックとは言いつつ、しっかり私のゴンドラ練習にも付き合ってくれるアイさんは、やっぱり素敵な人だと思う。私はいつも使っている練習用のゴンドラを解き放つと、船着き場ぎりぎりまでゴンドラを寄せた。
「お手をどうぞ」
「ありがとう」
アイさんは私の手を取ると、ゴンドラへと乗り込んだ。
「アリア社長も、どうぞ」
「ぶいちゃい!」
アリア社長も私の手を取ると、ゴンドラに乗りこんでいった。二人が座るのを確認した後、私は言う。
「それでは、出発します!」
ゆっくりとゴンドラを漕ぎだす。オールから伝わる水の感触は上々。昨日よりも鋭角さを感じるということは、気温と同じで水温も下がっているのだろう。二人を乗せて、私はいつもの練習コースへと向かった。
99 :
◆jsQIWWnULI
:2021/03/04(木) 20:15:44.57 ID:+fCS+15r0
「あ、藍子ちゃん。ここの水路を左に曲がってくれる?」
しばらく練習用コースを進んだ後、アイさんがそう言った。甘い香りがした場所は、ここからそう遠くはなかった。
「あ、はい」
私は言われた通りにゴンドラを漕ぐ。家々が立ち並び、少しだけ影がちになっている水路を進む。しばらくすると、風に乗って鼻にかすかな甘さが通った。
「あっ……昨日とおんなじ匂い……」
「うんうん。甘い匂いが香ってきたね」
アイさんも匂いに気が付いたらしく、頷いている。アリア社長も鼻をひくひくさせている。
ゴンドラを進めるたびに、その匂いは強くなっていく。しばらく水路を進んでいくと、光が強い場所が見えてきた。
「もうちょっとだよ」
アイさんが言う。私はその言葉を受けて、少しだけゴンドラを漕ぐスピードを上げる。
「わぁ……!」
その水路を抜けると、急に視界が開けた。そして、目の前には緑色のキャンパスにオレンジ色の点々をまぶしたような光景。息をするたびに鼻に抜ける甘い香り。これが、昨日の甘い匂いの正体だった。
「これが、匂いの正体だったんですね」
「そう。これはね、キンモクセイって言う植物なの。秋の始まりになると、必ず花を咲かせるんだよ。その時には必ず、この甘い匂いも出てくるんだ。マンホームにはない植物だね。昔はあったらしいんだけど」
「キンモクセイ、ですか……」
私はオールを片手で支えながら、もう一方の手で首からぶら下げたカメラを持ち上げると、今見えている風景を写真に収めた。
「キンモクセイの匂いは私たちにとっては甘い香りがしてとても良い匂いなんだけど、虫にとっては嫌な匂いなんだって。蚊とかも寄り付かないらしいよ」
「そうなんですね……不思議……」
キンモクセイは中庭のような場所に生えていた。ゴンドラを付けて上陸すると、キンモクセイの様子がよく分かった。こんもりした緑は木から生えている葉っぱであり、そこから小さいオレンジ色をした花が顔をのぞかせている。
「ここは日当たりも良い場所だから、良く育ってるね。前に来たときよりも大きくなってるんじゃないかな」
アイさんはキンモクセイの花を見ながらそういった。
「前にも来たことがあるんですか?」
「うん。偶然ここを見つけたの。それこそ、私がまだシングルだった時、藍子ちゃんたちと同じように、アーニャとあずさと見つけたんだ。それ以来、秋になるとここに来てるの」
「そうだったんですね。だから、昨日の私の話を聞いて、ここに連れてきてくれたんですね」
「うん。私もちょうど来たかったから」
アイさんは微笑みながらそう言った。
「さて、それじゃあお日様も出てて暖かいし、もう少し行ったところに同じような中庭があるから、そこに行こうか」
「はい」
私たちはゴンドラへと戻る。最後にめいいっぱい空気を吸い込んで肺をキンモクセイの香りで満たす。そんなはずないのに、口から出す息がなんだが甘くなったような気がして、少し可笑しかった。
100 :
◆jsQIWWnULI
:2021/03/04(木) 20:59:42.34 ID:+fCS+15r0
少し離れたところにある中庭に着くと、アイさんはアリア社長にせかされながらお弁当を広げた。
「キンモクセイの香りが強いから、今日はそれに負けないくらい味を濃くしてみたんだ」
今日のお弁当は、ナスの揚げびたしにきのこのスープ、おにぎりだった。アリア社長はいの一番におにぎりに手を出すと、はぐはぐと美味しそうに頬張った。
「アリア社長は相変わらず食べるのが早いですね〜」
アイさんは笑いながら言う。
「それじゃあ、私たちも食べようか」
「はい!」
「「いただきます!!」」
お弁当を食べ終えると、軽やかなキンモクセイの香りと、暖かな日差しに包まれているからか、何だか眠たくなってきた。そんな私を見たからか、アイさんは
「お昼寝しちゃおっか?」
と言った。アリア社長はすでに夢の中に入り込んでいた。私たちはアリア社長を間にしながら横になった。今度はあずきちゃんとあやめちゃんをここに連れてこようなどと考えているうちに、まぶたがどんどん重くなっていって、いつの間にかまどろみのなかに包まれていった。
101 :
◆jsQIWWnULI
:2021/03/05(金) 02:48:20.27 ID:POOKzrsD0
あ、今日はこれでおしまいです。次回はもっと早く更新したいです。
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/04/14(水) 16:31:16.21 ID:o4S43zXA0
保守
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/05/29(土) 19:37:38.01 ID:NlRqKLJJ0
保守
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/07/17(土) 19:55:31.32 ID:8oeExMUl0
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