貴方「僕がヒロインを攻略するまどか☆マギカ…オカルト?」マミ「それは終わったわ」

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464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/13(土) 18:55:03.66 ID:idQXZh4z0
sage忘れたゴメン…
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/13(土) 18:56:39.48 ID:ttJDvRef0
供養されたお話たちに合掌・・・

スレ主さん、W主人公はありですか?
ありでしたらなぎさ編のなぎさとあすみ編のあすみが出会って、コンビを組んで活躍する話を希望
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/13(土) 19:02:39.27 ID:ttJDvRef0
>>465は神様に助けられたなぎさが再び活動し始める頃にあすみが見滝原に流れてくる、と言った感じでお願いします
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/13(土) 19:18:32.71 ID:eseD7RZhO
ありなら465
ダメなら1で小巻
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/13(土) 19:42:31.52 ID:dqw2gO3r0
1で小巻
469 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/13(土) 21:28:29.61 ID:1Hp1tyQE0
ID別だと4レス分だけど5レスくらいで多数決とも書いてないので、
今でてるとこから多数決とっちゃいます


1ほむら主人公(アニメ本編ベース)
2なぎさとあすみのW主人公もの(過去作なぎさ編ベース?)
3小巻主人公

 下3レス中多数決
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/13(土) 21:40:40.27 ID:ttJDvRef0
2
ベースはなぎさ編とあすみ編のMIXでも他の話がベースでも構いませんよ
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/13(土) 21:42:44.89 ID:eseD7RZhO
ありみたいだから2
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/13(土) 23:16:19.48 ID:G/F+DGqI0
2
473 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/13(土) 23:45:39.97 ID:1Hp1tyQE0
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二つの編そのままは合わせられないので設定は練り直します
神様出すならなぎさ編ベースになると思うけど、出ないかも

・詳細が判明してない(あすみに至っては嘘キャラ)から時系列とかは気にしなくていいはず
・今後原作できっちり描写されたら供養入りになる可能性
・今度こそ多分短め

---------------------------------------------------------------------------------------



「――――……こうやって毎日来て、いつも手を握っていてくれる」

「これだけで、お母さん本当に元気になれる気がするわ」


なぎさ「……うん。早く元気になってね」


 隠し持った薄紫の宝石が光る。

 なぎさの魔法少女としてのあかし。ソレに秘められた魔法の力を母に流し込みながら祈るのは、なぎさの日課でした。



 病院の廊下を歩く。病室から出たらひとりぼっちの帰り道。


なぎさ(魔女と戦って怪我をしちゃったときの自分のケガはすぐ治せるのに……)


 悪くはなってないから、たぶんぜんぜん効いていないわけじゃない。でもぜんぜん良くならない。


 それはきっとなぎさの魔法がまだ弱いから。もっと強い魔法少女になれば、治せるかも。

 そうと決まれば今日も魔女をやっつけにいこう!

 ……どうせおうちに帰ったって一人。一人は寂しい。


なぎさ(続けていれば、きっとまたおうちにも帰れるようになるはず!)


 なぎさの願いが違ったら、すぐに治すこともできてたのかな?


――――――
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/13(土) 23:53:43.58 ID:eseD7RZhO
そういやあすみとなぎさは母親を亡くしたって共通点があるのか
475 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/14(日) 00:29:00.43 ID:cW32b/rq0



 ――――私の願いは復讐だった。

 幸せすら奪われた私を更に不幸にした人への、『当然の報い』であった。


 ――――そして、願い<呪い>は叶ったのだ。

 男たちもクラスメイトも、同業の魔法少女でさえも全て腐ってた。私はあの街の全てが嫌いだった。


あすみ(……本日の魔女発見か。ま、悪くはないわね? この街も)


 この街は狙った通り魔女が居つきやすく、育ちやすい。魔法少女としてはそれだけで十分。

 ここが私の新天地。この世界に綺麗な場所があるなんて期待してないけど、同業が少なくて腐ってなければもっと良い。



あすみ「キュゥべえからは一人だけしか聞いてないけど……」



 結界の中、聞こえてきた“声”に振り向いた。そこに悪意はない。



なぎさ「あれっ! 巻き込まれちゃったひと――――じゃないのです?」

あすみ「なーんだ、こんな子供だなんて。警戒して損した」

なぎさ「いきなりなんなのです!? 初対面のひとにする挨拶じゃないと思うのです!」

あすみ「……ねえ、お嬢ちゃん。譲ってくれる気はある? この魔女と、これからこの縄張りに出る魔女の一部」


 一応、向こうから来るならすぐに武器を振るえるくらいには警戒はしていた。

 断られたからって激昂はしないさ。この魔女を取引道具として扱うならそれもやり方としては間違ってない。


あすみ「……」


 この返答で相手を見定めていた。

 見た目で侮って殺されるなんて愚の骨頂。そんな相手をたくさん見てきたから、その一員にだけはなりたくなかった。

476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/14(日) 00:33:16.31 ID:Ze6v5qPu0
2人とも子供なんだよなぁ
477 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/14(日) 00:55:01.90 ID:cW32b/rq0

なぎさ「いいのですよ! おねーさんが先に見つけたならおねーさんのものなのです」

あすみ「……あっ そう」


 ……拍子抜けするような返事だった。

 今まで見てきた魔法少女は腐ったような奴ばかりだった。新人いびりも縄張り争いも経験したことがある。


なぎさ「でも、いっしょに戦ったほうがはやくたおせると思うのですよ?」

あすみ「そんなこと言ってグリーフシード横取りするつもりだったりしない?」

なぎさ「しませんよっ! 疑り深すぎなのです!」


 見た目で侮ることの危険性はさっきも考えた。

 小柄な姿はナメられるのは癪だが騙しやすいのだ。無条件に人を信じることなんて出来ない。


 ……だから、聞こえてくる【悪意】がないことが信じる根拠。現時点では――だけど。


なぎさ「べつに魔力に困ってないです。魔法はたくさん練習したいですが……」

あすみ「……?」

なぎさ「なぎさ一人じゃ魔女を倒しきれないと思ってたところなのですよ」

なぎさ「魔法少女の仲間なんてはじめてなのです! これからよろしくなのですよ!」

あすみ「……はあ。私は一人で戦うほうがいいけど」

なぎさ「あっ、『やくわりぶんたん』って方法もありますね? たしかにいっしょだと一人のときと同じにしか回れないから……」

なぎさ「――――じゃあ、なぎさは他のところを回ってくるのです! ごぶうんをーです! 次も会ったらよろしくなのです!」


 そう言うと、なぎさは駆けて行った。

 なんだかやたらと嬉しそうな様子だった。


あすみ(……同業者が見つかったことがそんなに嬉しかったのか?)


 ……私にはわからない。


――――――
478 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/14(日) 00:55:29.43 ID:cW32b/rq0
------------------
ここまで
次回は14日(日)18時くらいから
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/14(日) 00:58:27.79 ID:Ze6v5qPu0
乙です
あすみは4〜6?でなぎさは3〜5?といったイメージですね
あすみの方がちょい年上かな?
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/14(日) 11:49:46.88 ID:74m3U2j7O
なぎさもあすみもまだ原作開始前だからベテランではないのか
確か一年ぐらい間があるんだっけ?
マミと杏子もこれからか
481 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/14(日) 19:22:18.52 ID:cW32b/rq0
――――――


 街を駆け回って魔女をたおして、あくる日もお見舞いと魔女の退治。

 おうちに帰っても一人。お父さんは忙しい。

 魔女退治も一人だけど、前よりも気にならない。このまちにはなぎさの他にも魔法少女がいるって知ったから。


 今日も病院から出て魔女退治にいこうとしてたら、この前のひとに会った。


なぎさ「あっ、この前のひと!」

あすみ「……この前の子供」

なぎさ「こども――で言ったらなぎさたちどっちも子供じゃないのです?」

あすみ「私はあんたほど子供じゃない。アッチのほうの知識も…………なんてね」

なぎさ「アッチ? それはおねーさんのほうがおねーさんですけど……こどもって呼ばれ続けるのもイヤなのです!」

なぎさ「同じ街にいる魔法少女仲間同士、名前くらい知っておくべきなのですよ!」

あすみ「なぎさ」

なぎさ「なんで知ってるのですか!?」

あすみ「自分で言ってんじゃん。あすみ、それも聞いてないほど耳遠くないよ」

なぎさ「あすみ!」

あすみ「はいはい」

482 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/14(日) 19:56:54.37 ID:cW32b/rq0


 ちょっとふしぎな自己紹介が終わると、あすみはどこかへ行こうとする。


なぎさ「あすみは魔女退治中なのです?」

あすみ「いんや。今日は早めに切り上げて休みにいこー思ってたとこ。大体、魔女狩りは昼からやってたし」

なぎさ「お昼から……ですか?」

あすみ「そうだけど? 悪いー?」

なぎさ「あすみはどこの学校に通ってるのです?」


 疑問に思ったのは、お昼にはまだ学校があるってこと。

 でもそれを聞くとあすみは少しの間押し黙った。


あすみ「……言わなきゃいけない?」

なぎさ「べつに答えたくないならいいのですよ。『こじんじょーほー』ってやつですし」

あすみ「そう。学校に通ってないヤツなんて別に珍しくもないんじゃない? 特にこの業界は」

あすみ「それと、魔法少女同士が仲間だとか思わないほうがいいから。そんなんだとナメられて酷い目に遭うよ?」

あすみ「アンタみたいな子供はただでさえ相手を調子づかせやすいんだ。賢く生きるには、逆手にとって騙せるほど強かにならなくちゃ」

なぎさ「……舐められるですか? くさそうです」

あすみ「そう、小さな子をペロペロしたいロリコンはいっぱいいるってこと」

なぎさ「??」


 あすみは最後に茶化したように言った。

 それが冗談だってことはわかったけど、それ以外はよくわからなかった。


なぎさ「よくわからないけど、忠告してくれたのですね!」

あすみ「アンタ見てると色々言いたくなる。子守なんてガラじゃないし子供なんて好きじゃない」


 あすみはつっけんどんに去っていった。

 せっかくお互い名前を知ってるのに全然呼んでくれないなぁ。


――――――
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/14(日) 20:11:59.55 ID:Ze6v5qPu0
現時点であすみは杏子みたいにホテル暮らしかな?
484 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/14(日) 21:17:00.61 ID:cW32b/rq0
――――――



 『なぎさ』とかいう子供と知り合ってから二週間くらいが経った。

 それはこの街に来てからの期間ともちょうど同じだ。

 やることはほとんど変わらないけど、同業者もあの子供一人しかいない分、ここでの活動は幾分穏やかだった。


 思い切ってあの家を出たけどやっていけてる。やっぱりこの世は強い者が勝つように出来てる。



あすみ「……こんなとこで何してんの」


 街を散策していると、その外れに魔力の気配を感じた。

 魔女はいないが魔法少女の魔力だけがあった。


なぎさ「魔法の練習……です」

あすみ「ご苦労なことね。練習に使う魔力があるなんて」


 私が来るまで独占できてたのだから、余裕はあるのだろう。

 そういえば、魔法をたくさん練習したいとか言ってたっけ。


なぎさ「……あすみっていつから魔法少女やってるのです? なぎさが見かけたのは最近ですが」

あすみ「ここに来る前は別の街に居た。数ヶ月くらいってとこ」

あすみ「でも契約したての頃から自分よりも経験長いヤツ伸してるよ。経験で全部が決まるわけじゃないから」

なぎさ「そうだったのですね。なぎさもそのくらいか……もうちょっと長いかもです」

あすみ「へー、その間ずっと一人でいたの? 随分と平和な街なのね」


 正直、経験で全部が決まらないとはいえ、こいつより短いとは思ってなかった。

 私も表社会で平穏に暮らしながら魔女を狩ってる奴らよりは実戦経験は多い自信がある。

 魔女だけ狩って平和に過ごしてきた奴よりは私のが戦いを知ってる。しかしなんでこんなこと聞いて来たんだろう。雑談の一種?

485 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/14(日) 22:04:29.15 ID:cW32b/rq0

あすみ「アンタ、強くなりたいの?」

なぎさ「はい。なぎさはもっともっと強くならないといけないのです」

あすみ「そうだね。強さは大事だよ。強ければ痛い思いしなくて済む」

なぎさ「……それもそうかもしれませんが、なぎさがもっと強ければ痛くさせないで済むんです」

あすみ「……?」


 返ってきた答えが予想外で、意味が分からない。


なぎさ「あすみは『回復の魔法』って得意ですか?」

あすみ「……いや。むしろ苦手。そんなのいらないし」

なぎさ「そうですか……。なぎさにはまだできなくても、頼めないかと思ったのですが」

なぎさ「なぎさのお母さん、病気なんです。なぎさが魔法で治そうとしても治らなくて。それどころか……」

なぎさ「―――――悪化したって、お医者さんが言ってたのです」

あすみ「……あのさ、練習って」


 よく見てみるとなぎさの手には切ったような傷がついていて、手には血がついたするどい石が握られていた。


なぎさ「病気とこんなケガじゃ違うのはわかってます! でも少しでも治さないと練習にはならないのです!」

あすみ「自ら傷なんて作ってどうするのさ。自傷行為なんて馬鹿のやることだよ!」

なぎさ「なぎさはこのくらい痛くてもいいんです! それに消えます! お母さんのほうがもっとずっと痛いはずです!」

なぎさ「お母さん、少し前まではまだ大丈夫だったんです。ずっと良くも悪くもならないままでした」

なぎさ「余命って言われてたのはもう過ぎてて、でも良くならなくて、今治せないときっと……!」

あすみ「…………」


 誰かを助けるために何かしたいなんて、そんな気持ちはもう長い事忘れ去っていた。

 ……まだ『痛い』んだ、その感覚すら忘れた――忘れようとしてる私と違って、自ら痛みを感じたいと思ってる。


 でもきっとどうにもならないだろう。魔法少女の魔法でも治せないのなら。

 現に手についた傷は魔法で消せている。経験だけで決まらないと言った通り、契約した時から得意不得意は分かれてる。

 なぎさの魔法ではそれ以上治せないんだ。もちろん、私の魔法でも。


 少し練習したくらいでその限界を超えられるものか。



*現実を…
1つきつける
2何も言わない

 下2レス
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/14(日) 22:07:22.43 ID:qDut2qsU0
1
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/14(日) 22:10:36.04 ID:Ze6v5qPu0
あすみなら1かな?
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/14(日) 22:15:43.30 ID:74m3U2j7O
無関心なら選択肢でないでスルーしてただろうな
489 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/14(日) 22:48:50.75 ID:cW32b/rq0


あすみ「……無理だよ。魔力の無駄だ」

なぎさ「そんなことないです……! 強くなれば……! 諦めなければ……!」

あすみ「諦めなければ報われる? 現実はなるようにしかならない。奇跡なんて起きないよ。アンタも新人じゃないんだ、薄々気づいてるんじゃないの?」

あすみ「奇跡は……もう『使っちゃった』でしょう?」

なぎさ「――! で、でも! そんなこと、やってみなければわからないです! キュゥべえに頼らないでも奇跡が起こせるって!」


 ……ああ、こいつ。魔女になるな。

 無駄な練習のおかげで魔力を使い切って、トドメに母親が死んで、絶望するんだろうな。


 現実を見ればそんな未来が容易に予想できた。


あすみ「あぁもう、頑固だな……。こんなとこで自分を傷つけてるの知ったらお母さんどう思うよ?」

あすみ「奇跡を祈るなら時間が許す限り隣に居てやれよ。……じゃないと多分、後悔するよ」

なぎさ「ううぅぅぅ…………!」


 なぎさは傷を治した拳を握って、かたくかたく握りしめて、それから走り出していった。

 ……その背中を眺めてため息をつく。


 あいつが魔女になればグリーフシードが1つ増えて、この縄張りは私だけのものになる。

 考えてみればこの状況は悪くないはずなのに、今回ばかりはそんな冷めた思考をする自分が嫌に思えた。


あすみ「何やってんだろうなー……」


 まだ奇跡を信じてた頃の自分と被るから、か。


――――
――――
490 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/14(日) 23:21:08.62 ID:cW32b/rq0

――――


 ……あれからめっきりなぎさの姿を見かけなくなった。

 あれだけ言ってやったのに、その辺で野垂れ死んでないだろうな。

 所詮は他人が何を言おうと本人次第。どうにもならないことがあるのを知っていた。


あすみ「ねえ、キュゥべえ。あいつってまだ生きてんの?」

QB「あいつ?」

あすみ「……なぎさ」

QB「ああ、なぎさか。さっき見た時は街外れのほうにいたと思うけど」

あすみ「そう」


 生きているらしい。『まだ』、かもしれない。

 でも少しだけ安心してしまった。


QB「あすみはなぎさが魔女になると踏んでいたのかい?」

あすみ「まあ、そうだね。条件は揃ってたでしょ。……契約した時から」

QB「なぎさの願いは病気そのものを治す願いではなかった。身近な人の死というのは人間の心理に大きな影響を与えるからね」

QB「病を魔力で治そうとしてたみたいだけど、それも条件の一つだ。希望を抱いてからのほうが絶望は大きくなる」

あすみ「やっぱり、アンタもアレは無駄な努力って思ってたんだ?」

QB「他人のための祈りではあるとはいえ、癒しの祈りで契約しなかったなぎさが病気を治せるとは思ってなかったよ」


 無駄だとわかっていて何も言わなかったのもこいつらしい。

 こいつに至っては、現実を突きつけるのは可哀想だから――とかそんな理由もありえない。

 ただその時が来るのを待っていたんだ。


あすみ「そうね」


 だから適当に相槌を打って、それ以上は何も言うことはなかった。こんなのに振り回されていても仕方ない。

491 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/14(日) 23:47:24.85 ID:cW32b/rq0


 なぎさはあの時と同じ場所に居た。

 なにもせず、ただぽつんとそこに居るだけだった。


あすみ「……こんなとこで何してんの」

なぎさ「…………」


 返事は返ってこなかった。

 心がどっか行ってしまったような目でどこかを見つめている。


なぎさ「……お母さんが死にました」

あすみ「……そうか」

なぎさ「ホントははじめから覚悟してたはずだったのです。どうにもならないってわかってたから、願ったのです」

なぎさ「もう長く生きられないから、せめて元気があるうちに食べたいものをプレゼントしたい――って」

なぎさ「それだけを考えていました」


 最初は、契約した時にはまだ病気が発覚してなかったのかもしれないと思ってた。

 さっきキュゥべえと話してからずっと、なぎさが病気を治すことを願わなかった理由がわからなかった。

 でもやっとその理由が分かった。


あすみ「後悔してんの?」

なぎさ「キュゥべえに会ったときは願いで病気が治せるなんて考えてなくて……」

なぎさ「でも、魔力で人のケガを治せるって知って、お母さんの病気もなぎさが治せるんじゃないかって思ったのです」

なぎさ「無理、でしたね。こんなことならはじめから病気を治すことを願っていればよかった……!」

492 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/15(月) 00:23:59.49 ID:MS4P1Dr90

あすみ「私もお母さんが死ぬ前に願えたなら、どんな願いをしてただろうな」

あすみ「そしたら今も生きてるか、自分がどうなってるのかってのはわからないけど、今よりも後悔してないかもな」

なぎさ「あすみも、お母さんが……」

あすみ「でもその時私のところにキュゥべえは来なかった」

あすみ「文字通りアイツとの契約は『奇跡』で、しかも気まぐれなんだよ。その時願ってることしか叶わない。……考える時間でもあれば別だがな」


 キュゥべえは素質のあるヤツをマークするだけでなく、願いがありそうなタイミングを見計らっているのだろう。

 その瞬間に願いがあれば大抵考える時間など置かずに願ってしまう。多くの人は二つ返事で契約すると前に聞いたが、そういうことなのだろう。

 ……私もそうだった。既に取り返しのつかなかなくなった今となっては、そこに後悔もないけれど。


なぎさ「……そうですね。なぎさはお母さんを治せなかったけど……」

なぎさ「最後までいっぱいいっしょにいることができた。美味しいチーズケーキも食べさせてあげられた。それだけでも奇跡なんですよね」

なぎさ「この前はありがとうでした」

あすみ「ん」


 久しぶりに感傷に浸った。こいつにもまだしばらく時間が必要だろう。

 けれど、もうこいつは時間をかけてでも立ち直れる。

 空虚の中に少しだけ光を取り戻した瞳を見て、そう思った。



―なぎさとあすみ『出会いと救い編』END―
493 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/15(月) 00:27:06.45 ID:MS4P1Dr90
-------------------
まずはここまでー
この二人(+QB)しかいない話終了。続きやるなら時間が飛ぶよ。
次回は多分17日(水)くらい。平日の開始時間は20時くらいになりそう。
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/15(月) 08:08:14.82 ID:BzzeD7Vv0
あすみは少しだけなぎさに自分を重ねたのか
これは続きが読みたい
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/15(月) 21:49:29.57 ID:KgW+yp+l0
乙です

なぎさちゃん、救いの言葉を掛けてくれたのは神様ではなくあすみでしたね。
境遇が似たもの同士、どことなく通じるものがあった感じですね。
このまま続く場合、マミと杏子は仲間になりそうですがあすみとは相性が悪そうなのでどうなることやら・・・
あすみはあすみでどこかあか猫(キリカ)拾ってきたりしてw
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/16(火) 03:25:05.28 ID:dI2nJhkF0
ギャルゲーと言うから期待して読み直してみたら
告白してエンドばっかりで萎えた
恋人になった後の話はみんな興味ないのか
497 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/17(水) 20:38:13.76 ID:MCldcWw00
------------------------------------


一区切りつきましたが、まだ続きやります…?


1続・なぎさとあすみの見滝原
2新しい話
3ほかの続編とか


 下3レス多数決
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498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/17(水) 20:44:23.15 ID:IIgba+vMO
続き見たいので1でお願いします
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/17(水) 20:48:26.39 ID:CDj4gtSN0
1で。
この2人のコンビがどうなるか期待!
なぎさちゃんが見滝原の管理者、あすみが裏番になりそうw
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/17(水) 21:17:44.00 ID:w09UZGaX0
念のため1
501 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/17(水) 22:03:43.87 ID:MCldcWw00
――――――――――
――――――


「う…………」


 身体中が痛い。何が起きたかわからなかった。

 いや、わかりたくなかった。

 自分のことも、ずっと一緒にいた人のことも、なんでこんなことになってしまったのか受け入れられないでいた。

 ついさっきまであったはずの日常があっさりと消えてしまった。


 さっきまで見ていた景色と同じ世界。なのに、自分たちだけがこんな目に……。


 ――――ここはどこ。


『――――』

「……ぁ……」


『……困ったね。喋れるかい?』


 大きなしっぽを揺らす、獣の影が見える。

 そこに手を伸ばしかける。


『まだ意識はあるみたいだから、急がないとね。間に合ってよかった』



 ――――あなたは、誰?



「――――叶えてほしい願いを言ってごらん」



―――――――――――――――


 続・なぎさとあすみの見滝原


―――――――――――――――
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/17(水) 22:09:51.44 ID:CDj4gtSN0
これは状況的にマミさんかな?
503 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/17(水) 22:16:19.61 ID:MCldcWw00
――――――
――――



なぎさ「…………」

あすみ「ありゃー、こりゃダメだよ。どう見ても死んでる。使い魔がいないと思ったらそういうことだったのね」

なぎさ「治せない、ですか」

あすみ「この世界じゃよくあることでしょ。今までが平和すぎたんだ」


 結界の中、奥地に足を踏み入れた途端になぎさの目は『ある一か所』に釘付けになった。

 人の死体。それだけなら見ることはある。こいつだって魔法少女としての活動は短くはない。

 いくら助けようとしたって間に合わないことなんていくらでもある。……私は助けようとしてるってわけでもないけれど。


 そして、これはなぎさにとって初めてだったらしい。結界の中で転がってるヤツは、少し前に見かけた魔法少女によく似ていた。

 数日前、初めて新人と会ったなぎさは後輩ができるって喜んでいたところだった。だが、それもほんの束の間で終わってしまった。


あすみ「……集中できなくなったんなら帰ってもイイんだよ? それよりやられ方から戦略でも考えたほうが建設的だと思うけど」

なぎさ「なぎさも戦えますよ! 魔法少女なのですからっ!」

あすみ「なら、足だけは引っ張んないでね」


 ようやく二人は魔女と戦う態勢に入う。

 なぎさは遠くから、私は距離を詰めていっての攻撃。一緒に戦ったことはいくらかあった。


 ――ほんの最初だけは自分の力を見られるのを警戒したけれど、こいつを見てればすぐに馬鹿らしい気分になった。

 今では魔女狩りの途中で会えば一緒に行くこともある。おかげで二人で戦うのも慣れたものになってきた。


 正直、私としてはいてもいなくてもどっちでもいいってとこだけど。

 今回みたいなことがあってツマンナイことで死なれても、それはそれでイヤな気はした。


あすみ(せっかく私のおかげで助かったんだもんね)

あすみ(……ま、本人は知らないだろうけど)

あすみ(しかし、『このこと』もいつまで隠しておけばいいのやら。こうしてその場を見たりしない限り、知らないままになるのかね?)

504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/17(水) 22:19:21.02 ID:IIgba+vMO
新人さん、魔女化したのか
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/17(水) 22:22:36.56 ID:CDj4gtSN0
使い魔がいない=羽化したての魔女結界ってことか
この新人さんがマミだったら活躍の場もなく終わるのか・・・

そして何だかんだ言ってもなぎさを気にかけてるな、あすみん
506 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/17(水) 22:53:58.96 ID:MCldcWw00


 なぎさはまだどうしようもなく平和ボケしたところにいるけれど、戦いの腕は悪くない。

 魔女との戦いはさほど長引かずに幕を閉じた。


なぎさ「ど、どうしよう! 消えてしまいました……!」

あすみ「何が?」

なぎさ「戦いが終わったら、せめて遺体だけでも帰してあげようと思ったのです! なのに!」

あすみ「あー……、一般人の犠牲者が取り込まれた時も死体って残んないじゃん? 生きた人しか帰れないってことじゃない?」


 言われてみれば、あんまり考えたことなかった。

 だとすれば魔女結界は不法投棄にもってこいの場所ってこと。


あすみ「それに、あんなやられ方した遺体なんて見つかったら絶対騒ぎになるよ?」

なぎさ「そ、それは……動物園から猛獣でも脱走したのかと思われちゃうかもですね……」

あすみ「そう。つまりどうしようもないってこと。死ぬな、としか言えない。もう遅いけど」

なぎさ「そ、そんなぁ……」

あすみ「…………」


 戦ってる時はまだ大丈夫だったけど、なぎさは結構マジな落ち込み方してるみたいだった。

 これは連れ回してても足引っ張るんじゃないかな?

 なにより、横でウジウジされるのはうざい。


なぎさ「……なぎさは運がよかったんですかね」

なぎさ「今なら負けない自信がありますが……契約したてで一人で魔女と戦っても、こうして生きています」

あすみ「あぁ、そうだね。結局運だよ運。生きるのも死ぬのも、どんな目に遭うかも」

なぎさ「なぎさが先輩としてついてあげてれば死ななかったのでしょうか」

あすみ「次に会う後輩にはそうしてやったら? 恩を売れば利用は出来るかもよ。まあ、あんたじゃ逆に利用されるかもしれないけど」

なぎさ「お、恩を売りたいわけじゃないのです!」


 この世界はこいつが思ってるより残酷で、強くないと生きていけない。

 でも、残酷なものを見ても心が動かなくなるのが強くなること? 私は少なくとも、そう思ってきたところはある。

 動揺しないから力を出し切れる。自分の強さを否定したくない。


 この先何度も見ていればいつかはなぎさも慣れてしまうのだろうか。……人の死も、絶望でさえも。


あすみ(そんな時が来るとしたら私が話すのはその時、か?)

507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/17(水) 23:01:33.62 ID:CDj4gtSN0
あー、神様が助けてくれたわけじゃないから魔女化とかキュウベェの本性とか色々と知らないままなのか
508 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/17(水) 23:22:14.37 ID:MCldcWw00


あすみ「今日はもう帰ったら?」

なぎさ「はじめたばっかりです! まだ帰りません!」

あすみ「何ムキになっちゃってんのよ」

なぎさ「……それに、この時間じゃ帰ってもどうせ一人です。魔女退治が終わったら大きなケーキを出しますから、あすみも一緒に食べてください」


 母親が居なくなったこともあって、あれからなぎさはどうにもこっちに依存しているような節があった。

 同じ縄張りの魔法少女ってだけの関係の相手に、どうしてこんなにベタベタと懐けるのかわからない。もう少しマシな相手はいるだろうに。


あすみ「ん、まー……食欲があるんなら大丈夫そうね」

なぎさ「人をくいしんぼみたいにっ! でも、食べることは大事なのですよ。人生の楽しみになります!」


 どうせ一人……か。

 私も一人だけど、特に気にならない。むしろ解放された気分だったから。

 これも、強さに入るのだろうか。


なぎさ「そういえば、あすみはどこに住んでるのですか? 駅の方でよくおみかけするのですがっ」

あすみ「じゃあそこらへん」

なぎさ「じゃあとは!? ……うー、あすみにはお世話になっているので、ご家族やお友達がいればそのひとたちにもおすそわけしようと思ったのです」

あすみ「いや…………いないよ。家族も、友達も」


 そう言うと、なぎさはどう返したらいいものか悩んだような顔をした。

 どっちも当たり前にいるのが普通なのかと改めて思わされる。孤独に耐えらえるのは強さ? でも、これじゃその真逆だ。全然強そうじゃない。


なぎさ「そ、そうですか……」

あすみ「……惨めに思うのはやめて」

なぎさ「まあ友達はいますけどね」

あすみ「はあ? えーっとまさかそれ……」

なぎさ「なぎさたち、お友達ですよ! そう言ってくれなきゃ悲しいです!」


 言うと思った。でも、まるで漫画の中みたいな安っぽいセリフに思えてしっくりこなかった。

 ひねくれてる、とは思う。

 『友達』も『孤独じゃない』も、もう私にはわからなかった。


――――
――――
509 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 00:17:20.87 ID:55VJKCSg0


 お家に帰ったあと、最近――ひと月くらい前に新しくできたお友達とさっきまでなぎさはいっしょに居ました。

 魔女退治の後は、とびきり大きなケーキをたいらげて、今日はおひらきです。


 ケーキは作ったのでも買ったのでもありません。火はあぶないし、手作りなんてとてもできません。

 これが、なぎさの魔法。

 『ひとつきりのチーズケーキ』を願ったなぎさが得た、皮肉ともいえる魔法。



 ……一人じゃなくなるまでいてくれるようにあすみに頼んだのですが、お父さんが来る前に帰ってしまいました。

 でも、待っていたら夜になってしまうから、それが正解だったかも。お父さんも最近忙しいみたい。

 それに、あすみはあまり会いたくないって言ってた。



*「なぎさ、ご飯はちゃんと食べたか?」

なぎさ「それはもうたくさん! そうだ、お父さんの分もあるんだった。 ケーキ!」

*「ケーキか……ありがたいけど、お父さんも食べてきたしもう夜遅いから、余ったなら明日にでもとっといたらいいんじゃないか」

*「でも、なぎさを信頼してお金を渡してるけど、お菓子ばっかりじゃダメだぞ」

なぎさ「う、うん。お菓子だけ食べてるわけじゃないよ。お弁当とかも買ってるから」

*「そうか。ちゃんとお留守番出来てて偉いな。なぎさはもう小さくないもんな」

なぎさ「うん……」



 寂しい、とは言えない。

 あすみのことを聞いたらますます言えなくなった。

 家族も友達もいないなんて。……それを、あんなに平然と言うなんて。



なぎさ(今度、料理とか習ってみようかな? あすみはおねーちゃんだからできるかも)


――――――
510 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 00:42:52.16 ID:55VJKCSg0


あすみ「料理を習いたい?」

なぎさ「はい。なぎさは大体お弁当か魔法でつくったケーキですましちゃうので、これってあんまりよくないんじゃないかなあ……と」

なぎさ「あと、なぎさが料理できるようになればお父さんも安心しますし、早く帰ってきた日には食べさせてあげることもできるのです!」

あすみ「今はどのくらい出来んの?」

なぎさ「今……今は……この前学校できゅうりを切ってサラダをつくりました」

なぎさ「あと、ねるねるね○ねならつくれます……以上なのです」

あすみ「それ料理じゃないし。てか、金もあって魔法で腹も満たせるならよくない?」

なぎさ「うー、んー、ですから……」


 話がループしそうになったところで、ある可能性を思いつきました。


なぎさ「あっ! さてはあすみもできないんですね?」

あすみ「いや、できるし。今は必要ないからしないだけ」

なぎさ「またまたー、そんなこと言っちゃって」

あすみ「はぁぁぁぁぁああ?」


 かかってきた。目標が食いつきはじめているのがわかります!

 あすみはこう見えて負けず嫌いっていうことまで計算済みなのです。


あすみ「そこまで言うなら今日の夕飯だけ作ってやらんでもないけど? てか、食いたいだけでしょ?」

あすみ「市販の弁当なんて添加物まみれの贅沢品! 魔法で作るのは魔力の無駄!」

なぎさ「わーい!」


 ……ずいぶんと市販品をボロクソに貶しましたが、あすみはいつもどうしているのか気になります。

511 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 00:43:20.49 ID:55VJKCSg0
-------------------
ここまで
次回は18日(木)20時くらいからの予定です
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/18(木) 02:50:12.57 ID:uc+eqb1VO
前の読み返したけどあすみって料理は得意ではなかったよね
まぁなぎさよりかは作れるっぽいか
513 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 20:49:12.17 ID:55VJKCSg0


 ――――今日の魔女退治をすませると、所変わってさっそくうちの台所へ。

 その冷蔵庫の前。


あすみ「……何もないんだけどー」


 中を開いたあすみが呆れた声で言いました。

 お母さんが入院してから、うちの冷蔵庫はガラガラです。


なぎさ「ありゃりゃ、普段料理なんてしないから。あってもなぎさのおやつくらい……」

あすみ「そういやこれ、昨日のケーキの残り?」

なぎさ「あ……そういえば忘れていました。お父さんにあげようと思ったのですが、食べる暇ないから食べていいって」

あすみ「ふーん。ちなみに魔法で出したケーキってどのくらい持つの?」

なぎさ「言われてみればわからないのです……そんなに日を置いたことはなかったので」

あすみ「自分の魔法くらい把握しなよー。まあ、この魔法じゃ戦いに役立ちそうもないけど」

あすみ「……ねえ、毒入りケーキでも出せれば攻撃になるんじゃない?」

なぎさ「それはパティシエールのプライドがゆるさないのですよ。それに魔女や使い魔に食べさせるよりフツーに攻撃したほうが早いのではないのですか?」

あすみ「魔女や使い魔が相手ならね」

なぎさ「……」


 あすみがなにかよからぬことを考えています。


なぎさ「だ、だめなのですよっ。あすみは魔法少女を敵視してますが、なぎさは仲良くしたほうがいいと思うのです!」

なぎさ「なぎさたちだって仲良くなれました。魔法少女とは言ってももとは人間なのです。ほかのひとたちと変わりなく……」

なぎさ「なぎさには、魔法少女だからってそんなに悪い人がいるとは思えません。むしろ、同じ使命を持った仲間なんじゃないのですか?」
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/18(木) 21:02:48.73 ID:uc+eqb1VO
なぎさ、その考えは甘い
鹿児島名物のかるかん饅頭よりも甘いぞ
515 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 21:41:15.74 ID:55VJKCSg0

あすみ「変わりなく……ね」

なぎさ「はい。なぎさは昨日みたいなことはもう起きて欲しくありません。そのためにも、助け合わないといけないのですよ」

あすみ「あー、昨日のねえー……それで張り切っちゃってんのか」

あすみ「まあ、仲良くなれるかっつったら相手次第じゃない? まずは警戒するに越したことはない」

なぎさ「こっちから信じないと仲良くなれるものも仲良くなれません!」

なぎさ「それでもなぎさは仲良くしたいですが、そういう人ばっかりじゃないのはなぎさも知ってますから……」


 あすみはどうしてこう頑ななのでしょうか。

 あすみは寂しくないのでしょうか?

 なぎさはあすみのおかげで少し寂しくなくなりました。それに、はじめて後輩に会った時だって……。


あすみ「……別に敵意向けろって言ってんじゃないよ。アンタが今言ったのとは逆で、誰彼構わず敵意向けてたとしてもいつかやり返されるしそりゃアホだ」

あすみ「ま、よほど自分の実力に自信があればそれでもいいかもしんないけどね?」

なぎさ「だめですって!」

あすみ「でもさ、変わらないって言ったけどさ、そもそも人間だってクズくらいいるんだよ」


 あすみはリビングでついているテレビの画面に目を向けました。

 ……やってたのはちょうど殺人事件の報道でした。


あすみ「こうして見えてる範囲なんてほんの一握りだよ。世の中の人がみんないい人なら防犯なんて必要ないしいじめも起きない」

なぎさ「で、でも……魔女退治は人助けの活動なのです。悪い人が契約できますか!?」

なぎさ「それに、みんななぎさたちと変わらないくらいの普通の女の子なのです。悪い事しようとしてる人がいたとしたら、止めてあげるのが仲間ってものですよ!」

あすみ「…………」


 なぎさが熱弁すると、あすみはそれ以上言い返してきませんでした。

 しぶしぶって感じですが……。


あすみ「……買い物行くでしょ? 早くしないと夜になるよ」


 あすみに言われて思い出しました。すっかり忘れかけていたのです。

 出会ってもいない魔法少女のことなんて、今話しててもしょうがないのかもしれません。

 なにせ、なぎさが契約してから見滝原で出会った魔法少女なんて、まだ二人だけなのですから。次の出会いがいつになるかもわかりません。


なぎさ(……でも、あすみももっと仲良くしようとしてくれたらな)

516 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 21:53:58.64 ID:55VJKCSg0
――――
――――


なぎさ「お買い物、お買い物♪ そういえば、あすみの得意料理ってなんですか?」

あすみ「得意料理?」


 返事がなかなかかえってきません。


なぎさ「あのー、やっぱり料理できないのです……?」

あすみ「違う! ……まあ、何作るかは決めないとね。で、アンタは何食いたいの」

なぎさ「それはなんでも作れるってことで!?」



・リクエスト
 自由安価

 下2レス
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/18(木) 22:08:47.90 ID:tNAviXB10
あすみ、やっぱりこの時点では料理あまり出来ないのかw

ここは無難に野菜炒めカレーではない普通のカレーライス
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/18(木) 22:09:40.82 ID:uc+eqb1VO
??
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/18(木) 22:10:41.23 ID:uc+eqb1VO
文字化けした
安価517
520 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 23:06:45.23 ID:55VJKCSg0


なぎさ「じゃあ、今晩はカレーがいいです」

あすみ「うん、そうだね」

なぎさ「だってちゃっかりルー持ってますし。なぎさが何と言ってもカレーにする気でしたよね?」

あすみ「一応聞いてやるつもりはあったけど、あんまりご大層なものを言われても無視する気だったよ」

あすみ「目的忘れた? ただ作ってやるんじゃないんだよ。アンタが作れるくらいのにしないと意味ない」

なぎさ「それもそうでした……」


 リンゴとハチミツのパッケージ。みんな大好きカレーライス。

 お手伝いではじゃがいもの皮剥いたくらいかな? なぎさからすれば十分すぎる難易度なのですが。


なぎさ「でも、甘口じゃなくていいですからっ! 子ども扱い、求めてません!」

あすみ「あー、そうだった?」

なぎさ「もしかして……なるほどなるほど、あすみが甘口しか食べられないのですね。それなら無理しなくていいのです!」

あすみ「そんなことないよ。じゃ、こっちにしよう」

なぎさ「あっ!? だからって急に辛口にしなくても!」

あすみ「ほらほら、強がるなよ」

なぎさ「極端なのです」


 ……他の材料も揃えてから帰りました。

521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/18(木) 23:13:40.27 ID:tNAviXB10
カレールーの箱に書かれてる作り方通りに作ると水っぽくなるんだよね・・・
522 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/18(木) 23:39:25.29 ID:55VJKCSg0


あすみ「――じゃあ肉と野菜を一口大に切って。一応包丁は使えるんでしょ」

なぎさ「らじゃー!」


 台所に立つと、野菜の皮を剥いて、あとは切るだけの状態になりました。

 お料理を作るとなると全体像がつかめませんが、ここまでひとつひとつは手伝ったことのある作業でした。

 お米はその間に炊いてくれました。


なぎさ「あの〜。玉ねぎが目に染みるのですが」

あすみ「……魔法。魔法で痛覚切れば」

なぎさ「魔法で? そんなことできるのです……?」

あすみ「出来ると思えば出来るよ、多分」

なぎさ「まあいいのです。せっかく魔法を使わないお料理なんですから、頼らないことにします」

あすみ「まあ、そんならそれで。それより、ヘタのまわり切りすぎ」

なぎさ「あすみって意外と所帯じみてますよね……倹約家というのでしょうか」

あすみ「貧乏魂って言いたきゃ言えば」


 ……とまあ、そういうところを見ると本当に料理が出来ないってことはないのかな―と思ったりしますが、

 豪勢な料理を作る感じイメージからも離れていきます。


あすみ「全部切れたねー。じゃああとはタイマーでもかけて待つか」

なぎさ「煮えたら終わりなのです?」

あすみ「ルーも溶かしてね。またちょっと煮たら」

なぎさ「たしかにこのままじゃ肉野菜スープですね」

あすみ「味つけ変えれば別の料理になるってことだよ。レパートリーが増えたね」

なぎさ「なるほど、これが応用ってやつなのですね。初めてすぐに応用編がわかるなんて、なぎさも料理の腕がランクアップした気がするのです」

あすみ「……まあ、野菜とかまだ残ってるしやってみたら」

523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/18(木) 23:46:34.93 ID:tNAviXB10
肉は何だろ?ここはチキンで
524 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/19(金) 00:14:46.15 ID:i4cDoZ5k0


 タイマーが鳴ったあと、鍋にルーを溶かしてさらに煮込むと良い匂いがしてきました。

 まさにこれはカレーのにおい! とろみ! よそってみても食べてみても、まさしくカレーなのです!


なぎさ「ちゃんとカレーですよ! 美味しいチキンカレーなのです! 二人で食べてもまだ鍋にありますね」

あすみ「四皿分だからね。残せるくらいがいいって言ってたでしょ」

なぎさ「はい。これを見せて、なぎさも料理できるんだよってお父さんに自慢して、安心してもらって……」

なぎさ「……できたら食べてもらいたいな。今日も遅いのかな」


 魔法で作ったお菓子はわかりませんが、これは普通のお料理です。

 きっとそんなに持つわけじゃありません。


なぎさ「あっ、そうだ、今度はお休みの日になら……!」

あすみ「……まあ、頑張れば」

なぎさ「それにしても、あすみは本当にお料理できたのですね。疑ってごめんなさいなのです」

あすみ「出来るって最初から言ってたでしょうが」

なぎさ「なぎさも火とか使っても大丈夫なのでしょうか? 今まで包丁もお母さんや先生が見てるとこでしか使ってないのです」

あすみ「危ないからって理由なら私達には理由にならないでしょ。最悪怪我したって治せるんだし」

なぎさ「ああ……魔法ですか。そういえば料理の最中にも言ってましたね」

なぎさ「あすみは料理しないって言ってましたが、普段はどうしてるのです?」

なぎさ「ボロクソ言ってましたが、結局出来合いや外食です?」

あすみ「いや…………食べてなかった。面倒くさくて」

なぎさ「ええ!?」

あすみ「アンタは魔力でお菓子を出せるでしょ。私は怪我を治す要領で魔力そのもので補うってだけ。同じようなものじゃない?」


 あすみは魔法の力をかなり身近に考えてるみたいです。

 なぎさもお菓子作りの魔法は普段の生活にも取り入れてました。

 でも、それ以外にはやっぱり魔法は戦うために使うものってイメージのほうが大きいのです。

525 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/19(金) 00:37:29.88 ID:i4cDoZ5k0


なぎさ「でも……それはやっぱり味気ないですよ。それに、『魔法のケーキは魔力の無駄だー』って言ってませんでしたっけ?」

あすみ「今いるとこキッチンもないし。てかあったとしても、空腹を満たして栄養補給するだけの行為って考えたら一人じゃ面倒になるよ」

あすみ「大体、飯買うための金得るのだって魔力使うのにさ」

なぎさ「そういえば、家族がいないって……。自分でお金を稼いでるのです? 魔法を使ってお仕事でもしてるのですか……?」

あすみ「……。まあ、そんなとこ」


 あすみはどこか影のある様子で言いました。まるで詳細は語りたくないというように。

 真実はわかりませんが、あまり良い雰囲気ではありませんでした。そもそもあすみもまだお仕事なんてできない年齢。

 なぎさも後ろめたい世界にある仕事の事情はろくに知りませんが、悪い方に想像は膨らみます。


なぎさ「まさか、けしからんことでもして稼いでるのでは……!?」

あすみ「何想像した? 魔力だよ? 身体は使ってないからねー?」

なぎさ「い、いえ……! とにかくまた一緒にお料理しましょう。あすみもまた新しいお料理教えてください!」

なぎさ「そして応用を身につけて、なぎさはいつかあすみを超えてみせるのです!」

あすみ「……また気が向いたらね」


 そう言うと、あすみもまんざらではなさそうでした。一人だから面倒くさくなってしまうのです。

 それに……なぎさも一人は嫌でした。


――――――
526 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/19(金) 00:37:59.70 ID:i4cDoZ5k0
-------------------------
ここまで
次回は20日(土)18時くらいからの予定
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/19(金) 00:42:12.37 ID:m9a8d8n40
乙でした。

やっぱりなんだかんだ言ってもなぎさのことを突き放したりしましんね、あすみ。
なぎさの言う性善説?みたいな事、あすみの過去からしたら鼻で笑う偽善ですからね・・・・・・
なぎさのこと嫌ってたらその時点で見限って二度と会わないぐらいの態度とってもおかしくないと思うので。
528 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 19:36:36.39 ID:eLbM5oP20



 ――――今日もお父さんは会社で、なぎさは学校です。



 昨日は本当に久しぶりの家でのカレーライスでした。

 学校の給食でもカレーは出ますが、一年生の子も同じものを食べるのでかなり甘くしてあるのです。

 それも美味しいのですが、市販のルーを使った昨日のカレーのほうが『家の味』に近い味でした。


なぎさ(昨日はお父さんもいつもより早く帰ってきたし、カレーも食べさせてあげられたのです!)

なぎさ(お休みの日に作るのはまた別のお料理を考えなくてはいけませんね……)


 褒めてもらえた。安心してもらえた。

 なのにまだ何かが『足りない』気がするのはどうしてなのでしょう。

 ……お父さんには安心してもらいたいけど、なぎさは一人でも大丈夫なんだって安心してもらうほど、離れていくんじゃないかとも思ってしまうのです。


なぎさ(今日はまだカレーがあります。でも昨日よりは少ないくらい)

なぎさ(二日目も普通のカレーにするか……あすみをさそって一緒にアレンジを考えてみるのも楽しいかもです!)


 なぎさには学校があります。授業は退屈なこともありますが、学校は楽しいです。

 お昼はみんなといっしょに給食を食べます。

 休み時間は友達といっしょに遊びます。


 ……それでも。


なぎさ(魔法少女のことを話せるのも、お母さんのことを知ってるのも、あすみだけなのです)


――――――
529 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 20:41:54.21 ID:eLbM5oP20
――――――



あすみ「…………今、何時だろ」


 起床時間はとくに決めていない。

 ここを出る時間は人が来るような時間にならないうち。



あすみ(学校行かなくなってから、ホント時間を気にしなくなったよな)


 夜更かししてやることは特にないし、そんなに遅く起きることもないだろう。

 最悪、人が来たとしても部屋を間違えたとでも言って出ればなんとかなるだろう。……子供だから。

 本当だったら一人でこんなところに来るはずもない。


 私は『子供のくせに』や『女のくせに』という言葉が嫌いだ。“アイツ”がよく言っていたからだ。

 侮られたくないと思いながら、結局子供らしさというものを盾にして頼っていることに気づくと癪に障った。


あすみ(とはいえ、毎日真っ当に泊まれるくらいの宿泊代を手に入れるとなるとシャレにならないし、見た目も細工しないと一人じゃ泊まらせてくれないだろうな)

あすみ(……今日は何して過ごそー。魔女狩りは放課後なぎさが誘ってくるかもしれないし、軽く街うろつくくらいにするか?)


 街を見回るついでに魔女がいたら狩る。使い魔もあらかじめ見つけて目を付けてたほうが後々狩りやすい。

 ……しかし、知らない地で見聞きするものが新鮮だったのはほんの最初の頃だけ。

 ひと月程度もすればここにもそろそろ慣れ始めていた。


あすみ(慣れてる方が魔女を狩るにはいいんだろうけど)


 なぎさの母親のことがあってから、一緒に狩りに行くことも増えた。

 狩りの途中で偶然会ったときだけだったが、大体どのくらいの時間にどの場所に行けば会えるかは決まってきている。

 昨日は連絡があって待ち合わせた。


 今まではどちらも好きなように魔女を狩っていたが、こうなると、一緒に居る間だけはどちらかに合わせなきゃいけないことも出てくる。

 まず第一の問題は使い魔を倒すかどうか、だった。なぎさは私が見逃そうとした使い魔も倒そうとする。魔女と使い魔の区別がつかないとかでもなく。


 ……そんなことで悩むことがあるなんて思いもしなかった。

 何度も不思議に思ったが、なぎさはもう新人ではない。正義に燃え滾った新人ならありえない話じゃないけれど。

 あすみの最初に居た街では、そんな人は真っ先に意地汚い人たちに潰されて死んでしまったから。

 それが普通なんだと思うようになってた。

530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/20(土) 20:58:38.30 ID:TsCUyrlpO
一応どちらも必要としてる感じかな
なぎさの方はやや依存気味に感じるけど
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/20(土) 21:29:21.09 ID:J+S7M3MD0
あすみは杏子みたいにホテルに忍び込んでるのか
お金はどうしてるんだろ?
あすみ編ではATMから盗ってたりはしてなかったみたいだけど、はたして今回は……
532 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 21:38:30.86 ID:eLbM5oP20


あすみ(……そうだ。この街だって、いい魔法少女だけが現れるなんてありえないんだよ)


 なぎさはああ見えて頑固だ。前にも思ったことがあるが、昨日話を聞いてさらにそう思った。

 あの新人のことで、他の魔法少女に対しても仲良くなるだの助けるだのと意固地になっているようだった。

 その思いが良い方に作用すればいいが、現実はそうはいかない。


 見て見ぬフリは同罪だ。意地汚い輩が勝つ世界なんて嫌だ。

 それでも、それがこの世界の真理であることはよく知っていた。――だから私は、この世界が嫌いだった。

 そして、そんな世界でも私は何者にも負けたくはなかった。


 あすみには自分に向けられた『悪意』を察する力がある。そして、その『呪い』を向け返す力がある。

 当然、自分以外に向けられたソレにはその力は及ぶことはない。


あすみ(つまんね……マジで飽きた。街なんてどこも同じような景色だ。人だらけ、建物だらけ)

あすみ(いっそもっと田舎のほうでも行くか? でもそしたら魔女は減るだろうな)


 魔女は『悪意』と『呪い』の塊である。人もいないのどかな場所じゃ魔女も少ない。

 ――【魔女】はその二つに呑まれた魔法少女の成れ果て。


あすみ(いや、意外と田舎の村とか陰湿って聞くな。少なくもなかったりして?)


 ……ともかく、田舎云々は冗談だ。一時の気の迷い。心の中で思うだけなら、冗談みたいなことを思うことだってある。

 そんなどうでもいいことを考えながら歩いていると、病院のほうから一人の女が出てくるのが目に留まった。


 通行人なんて普段一々気にしないが、それが目に留まったのは、キュゥべえが隣にいて手にはソウルジェムを持っていたからだった。

533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/20(土) 21:57:57.43 ID:J+S7M3MD0
新たな魔法少女か……誰かな?
534 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 22:12:11.40 ID:eLbM5oP20


あすみ(…………)


 思わず隠れて様子を窺う。ここからだと声は聞き取れない。

 だが、魔法で心を読み取れば声以上のものも聞き取れる。


『――――この宝石が光るところに魔女がいるのね?』

QB『そうだよ。ソウルジェムは魔力を感知することができるんだ。光の明滅が強くなるほど近くにいることになるよ』

『思ったよりも足だのみなのね。魔女探しというのは……』


 どうやら女は契約したてらしい。


あすみ(女……なぎさより年は上だろうけど、そもそもなんでこんな時間にこんなとこにいるんだ? 入院でもしてたのか?)


 言葉とともに読み取れたのは漠然とした『恐怖』と『不安』だった。

 言葉としてまとめられていないままの感情の中に、短い言葉がとぎれとぎれに思念となって現れる。


『怖い――そんなの無理――死にたくない――……お父さんとお母さんみたいに』


あすみ(両親を失ってるのか。『死』を身近に感じて見てる。それで恐怖が焼きついてるんだな)

あすみ(……どーりで暗い顔してると思った。これから戦いに行くって顔じゃない。いや、死地に行く少年兵みたい)


 新しい魔法少女との出会い。その時は思っていたよりも早くに訪れた。

 それも契約したて。だからといって性根などわからないのだからすぐに信用はできない。


あすみ(『後輩』、か)


 『次に会う後輩にはそうしてやったら?』……なんて、前言ったっけ。

 軽いこと言わなきゃよかったかも。


あすみ(これから付き合うかもしれないんだし、探っといてやるか)


あすみ「おーい、お姉さん。これから魔女狩りなら一緒にどう? そいつよかいいサポートになるよ?」



あすみ(……クズならその場で潰す)



――――――
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/20(土) 22:25:01.79 ID:J+S7M3MD0
これはマミさんですね、多分
あすみが自分から助けに入るとは……
打算があるとはいえなぎさの事を考えてのことなので、やはり心境の変化があるみたいですね
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/20(土) 22:39:55.14 ID:TsCUyrlpO
マミはあすみとは相性悪そうだけどな
この後合流したなぎさが喜びそうだがあすみに潰されなきゃ良いけど
537 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 23:11:23.06 ID:eLbM5oP20
――――――



 学校が終わった放課後。

 携帯を手にして待つこと数十分……時間を見直してみたらそろそろ一時間というところでした。


なぎさ(返事がこない……。あすみ、気づいてないのですかね)


 今日もお誘いしたのですが、今日はお返事がいっこうに来ません。

 昨日はすぐにお返事きたのに。


なぎさ(まさか、何かあったんじゃ…… ううん。そんなの、考えすぎですよね)

なぎさ(仕方ない、一人で魔女退治に出かけましょーか……)


 少し寂しさを感じますが、なぎさは出発します。

 もしかしたら、途中でどこかで会えるかもしれません。お返事がくればまた場所を考え直して会えばいいのです。


 そう思ったところで、知らないおねーさんから声をかけられました。


「――きみが百江なぎさちゃんだよね?」

なぎさ「はい、そうですけど……おねーさんは?」

「キュゥべえから聞いたんだ。『魔法少女のセンパイ』がここにいるって」

なぎさ「あ、新しい魔法少女さんですか! はじめまして! なぎさはなぎさっていうのです! ……って、もう知ってましたね」

なぎさ「おねーさんの名前はなんて言うですか?」

「おねーさんでいいよ。その呼び方は可愛くて好きだから」

なぎさ「えへへ、可愛いなんてー」

「じゃあ、どうしたらいいか案内してくれる? 魔女っていうのを倒すんだよね? 契約したばっかでどうしたらいいかわからないの」



――――――
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/20(土) 23:15:31.12 ID:TsCUyrlpO
なんかなぎさの方は胡散臭いのが来たな
539 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 23:40:44.33 ID:eLbM5oP20
――――――



あすみ「お姉さん、入院でもしてたの? どこも怪我とかしてるようには見えないけど」

マミ「ええ。といっても検査入院だけ。……見た通り私は本当に怪我なんてしてないのよ。検査でも何も悪いところなんて見つからなかった」

マミ「キュゥべえに『助けて』って頼んだから。本当に怪我が治って助かったの。……私だけ…………」

あすみ「怪我、してたんだ」

マミ「……事故に遭って」


 移動しながら怪しまれない程度に探りを入れる会話をする。

 この新人は『巴マミ』という名前らしい。自己紹介はさっき済ませた。


 この言いぶりとさっき読心で聞いた声からすると、事故で家族全員怪我を負って、自分は願いのおかげで助かったものの親はそのまま死んだってことなのだろう。

 哀れだとは思うが同情するほど心は動かない。


 この世界でよくある、ありふれた不幸。魔法少女には不幸な身の上が多い。そのほうがインキュベーターが付け入りやすいからだ。

 私やなぎさも含めて、なんだろうな。

 だが、哀れな身の上だからといってソイツが善良な人間かどうかは別問題。むしろそのほうが性根が歪みやすいともいえる。


あすみ(……それこそ、私みたいに?)


 そんな私が新人のサポートなんてしてやってるのは、害がないかどうか選別する為だけだ。

 害がなさそうならなぎさに引き渡してやってもいい、くらい。そのあとの世話はなぎさに丸投げしてやる。

540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/20(土) 23:43:33.65 ID:TsCUyrlpO
やはりマミだったか
541 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/20(土) 23:56:16.55 ID:eLbM5oP20


マミ「私や神名さんのほかにも他にも魔法少女っているの?」

あすみ「ええ、そうだけど。……なんでそんなこと気にするのよ」


 他の魔法少女のことまで聞かれると思わず目は厳しくなる。探るのはいいが探られるのは抵抗がある。


マミ「キュゥべえから魔女のことを聞かされたのだけど……その時に、グリーフシードっていうのを巡って競争が起きることがあるって言ってたから」

マミ「争いや強盗の被害に遭わないように気を付けてくれって」

あすみ「へえ、珍しく忠告をしてくれてるのね」


 キュゥべえがわざわざ言うなんて、本当にその問題が差し迫ってるか……もしくはマミの言っている理由がでっちあげかのどっちかだろうか。

 いや、読心で見て怪しい点がないのだから、契約したてというのは信じられる。


あすみ「そんなこと聞かされて、よくいきなり現れた私を信じられたね?」

あすみ「聞かされた通り、私に潰されるかもしれないのに」

マミ「私……契約したのは数日前だけど、今までは入院してたから、まだ魔法って使ったことはないの」

マミ「本当に神名さんがそうする気なら、私にはどうすることもできないわね……。でも、魔女に一人で戦って勝てるかどうかもわからないんだもの」

マミ「グリーフシードというのを差し出せば済むのなら、それでもいいわ。二人で倒すのならあなたのほうが受け取るべきなんじゃないかしら?」


 なるほど、剥がされるような身ぐるみはないし、報酬ならくれてやってもいいってことか。


あすみ「そうね、それで私という名の戦力が手に入るならたしかに安いものでしょうね?」

あすみ「でもね、まだ甘いよ。本気で新人をいびる気ならもらうのはグリーフシードだけじゃ済まない」

あすみ「競争相手になる可能性のある芽は確実に摘む。そういうものだよ」

マミ「…………」


 そんなことを言ってやったらマミはちょっと青ざめた顔してたけど、なぎさみたいな甘い考えを持つ前に教えてやったほうがいいだろう。

 話しているうちに魔女の反応を見つけて、マミのほうを見やる。

 ……話に気を取られて明滅に気づいてない。


あすみ「魔女がいるよ。ほら、レッツゴー」

マミ「え、ええ……」


 なんとも頼りない返事がかえってきた。

542 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 00:25:43.58 ID:fWNF2+br0


マミ「どうして神名さんは魔女がいることがわかったの?」

あすみ「あぁ、それね」


 結界を目前にしてマミが聞いてきた。


 マミが言ってるのは、『ソウルジェムを持ってないのに』ってことだろう。

 ……そりゃそうだ。いくら新人の前とはいえ、自分の弱点を晒して歩く気にはなれない。


あすみ「勘だよ。もうちっとやってりゃ誰でもわかるようになるよ」

マミ「そう……そういうものなのね」

あすみ「もういい? 逃げられるから行くよ?」

マミ「待って、さっきも言ったけど魔法ってまだ一度も使ったことがないのよ? 一度確認だけでも……」

あすみ「中でやれ!」


 入口を開き、手を掴んで中に飛び込む。


マミ「きゃっ、きゃああ!」



 自分の時を思い返したってこんなにウジウジしてなかったのに。――……ああ、やっぱり新人の世話なんて面倒だ。

 ――それから結界に入って変身しても、マミはいちいち驚いてた。
543 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 00:29:17.29 ID:fWNF2+br0


マミ「すごいわ。本当に子供の頃に見たアニメみたい!」

あすみ「そう。少しは戦える気になった?」

マミ「ええ……少しね」

あすみ「大体アンタは考えすぎなの。常識的にありえないとか考えるから枷がかかるの。出来ると思ったことは出来るのよ」

あすみ「……もちろんなんでもとは言わないけど。出来ることはわかるように出来てるはずなんだから」

マミ「魔女って……あれ? あれが敵なの?」

あすみ「あれは使い魔。敵には変わりないね。魔女がいるのはいちばん奥」


 ちんたらしているうちに使い魔がこっちに迫ってた。

 自分で倒してしまおうかと思ったが、こいつに倒させてみたほうがいいと思い直す。


あすみ「ほら、倒しなよ。いい練習台がいるじゃないか」

マミ「た、倒すって、どうやっ……――」


 マミの顔つきがその一瞬で変わったのがわかった。さっき私が言ったことを思い出したらしい。

 多分、真面目なタイプ。ありえない不思議現象とかそのまま受け入れたりできないような。

 でもその分、完全に自分のものにしてしまった後は化けるかも。


 手の先からリボンが伸びて、使い魔を切り裂いた。威力はあんまりなさげ?

 『もう一発!』と私が掛け声をかければ、もう一発リボンが伸びて、今度は魔女を絡めた。そこに私が鉄球を当てて倒す。


あすみ「アンタの魔法って、リボンで縛ってSMプレイってとこ?」

あすみ「動きを止めた後どうやってやっつける気だったのさ。こんなのに手間取るな。次行くよ」


マミ(さっそく帰りたくなってきたわ……教官が厳しすぎます……)


――――
――――
544 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 00:30:41.32 ID:fWNF2+br0
-----------------
今回はここまで
次回は21日(日)18時くらいから
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 19:08:20.44 ID:Ktgz36+gO
マミの方は鬼軍曹が着いてるからいいとして、なぎさの方はヤバ気だな
546 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 19:32:41.34 ID:fWNF2+br0


 使い魔を試し斬りさせながらの道のりは、普段よりかなり時間がかかっていた。

 ……あれこれと苦戦しながら、やっと魔女の住み処へと辿りついた。


あすみ「さっさと倒して終わりにしましょ。アンタは出来るとこだけ参加すりゃいいから!」

マミ「え、ええ……」

あすみ「まあ……出来るだけ敵の動き止めといてくれると助かるわー」


 試し斬りといってももう少し、剣でもナイフでも斧でも槍でも――わかりやすいものがあっただろうってのが正直な感想。

 なぎさのシャボン玉ラッパも一見武器に見えないが、あれはあれで使い勝手のいい武器ではある。

 そして、私の『モーニングスター』というのは実にわかりやすく武器らしいものだったのだと思った。


あすみ(なんていうんだろ。こういうのって…… 攻撃性の差、とか?)


 ――――力を込めて踏み出すと、こちらを見た魔女の攻撃をかわして横に跳ねる。

 マミの動きにも気を配って見るが、まだ動けないでいるようだった。構えだけして、戦況を目で追うのみ。


マミ「……!」


 マミもやはり大してその武器を使いこなせてはいなかった。

 リボンの一番わかりやすい使い方は、やっぱり縛り上げること……だ。

 支援向きだが、もしこの初陣も私がついていなかったらどうなっていたのだろうか。今以上に時間がかかって苦戦する?


あすみ(……死ぬ? こんな早く?)


 近くに居た使い魔をフレイルの柄で払い、続けて蹴りを入れる。

 鉄球を魔女に向けて大きく振るう。――しかし、それは当たらなかった。


あすみ「今こそ、縛っといて欲しかったんだけど……ッ!」


 まあ、初陣で戦況を的確に読んで敵の隙を突くなんて、そうそうできないのはわかってる。

 再び魔女の攻撃を避け、外れた鉄球を敢えて更に遠くへ……鎖を長く伸ばして飛ばす。

 そもそも、縛り上げることならこいつに頼らずとも私にも出来る。


あすみ「まあ、いいよ! さっきのは遊び球だし……これで完全試合だから!」


 縛り上げるのに使ったフレイルの柄はもういらない。

 それを放り捨てて新たな獲物を手にすると、高く跳びあがって、鎖に絡め取られた魔女の頭を粉砕する。

547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 19:41:10.94 ID:Ktgz36+gO
弱いマミはなかなか新鮮だな
548 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 20:22:27.19 ID:fWNF2+br0



 ……潰れた魔女は汚い色の液体を撒き散らす。思わす顔を顰めたが、その液体ごと結界とともにすぐに消え去った。

 液体が消えて露わになったグリーフシードを拾い上げる。


マミ「……倒したの?」

あすみ「うん。これがグリーフシードってやつ」

マミ「そう。あ、もちろん神名さんが持ってていいから。私には受け取れないわ」


 確かにこいつはこの戦いでろくなことはしてない。

 魔女との戦いじゃただ見てただけだ。……まあ、私があれ以上マミを立てて戦わせるのも面倒臭くなったからっていうのもあるが。


あすみ「うん、そうだね。でも……これから先、いつも誰かがついてるわけじゃないよ。一人で戦える?」

マミ「……!」


 結局のところこいつも、さっきは私がいるから手出ししなくていい――と思ってたところはあるんだろう。


マミ「……私には無理よ。まだ今日は最初だったんだし、次だってそんなに変わらないわ」

マミ「この街に一緒に戦える人がいるなら、一緒に戦ったほうがいいんじゃないかしら? また次も一緒に行きましょうよ!」

あすみ「ずっとそう言うの?」

あすみ「このままじゃ変わらないよ。ずっと誰かが横に居るから……って思ってたら、いつまでも変わらないんじゃない?」

マミ「そ、そんなこと……」

あすみ「本心じゃさ、極力危険な目に遭わないようにしたいって思ってない?」

あすみ「戦うのも本当は嫌だし、他に自分より戦える人がいるなら本気なんて出さなくていい――――って」

あすみ「ま、追い込まれなきゃ本気になれないのは人間の性みたいなもんだししょうがないよ」


 契約も強い意志やら覚悟やらがあったわけでもなく、どうしようもない状況で流されたような願いだ。

 闘争心がない分無欲ではあるんだろう……――今のところは無害なほう、だとは思った。

 少なくとも、臆病なだけではまだ断じられるほど罪深くはない。


あすみ「でもいざ追い込まれた時……どうしても一人で戦わなくちゃいけなくなった時って、死ぬの? 逃げるの?」

あすみ「うまく逃げられればいいね」

マミ「……そ、それでもやっぱり今のままじゃ無理よ」

あすみ「…………」



 ま、面倒見るとして、それはなぎさに丸投げするし。



1受け入れる
2突き放す

 下2レス
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 20:32:27.56 ID:Ktgz36+gO
まぁ1で
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/21(日) 20:33:13.85 ID:XgCymOcQ0
1かな?
丸投げするって言ってるしw
551 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 21:49:09.13 ID:fWNF2+br0

あすみ「……戦い方を見てくれる人ならいないでもないよ」


 ふと携帯を取り出してみると、いつのまにかお昼どころか放課後の時間も越してたことに気づく。

 未読が一件あった。もちろんなぎさからだ。それ以外に『私が』連絡を取る相手はいない。


あすみ(気づいてなかったな……)


 もう諦めて一人で魔女狩りに出てるだろうか。

 気づくと、マミが手元を見ていた。


マミ「それってもしかして親御さんから借りてるの?」

あすみ「あん?」

マミ「あまり女の子が使うイメージのある携帯に見えなかったから聞いてみただけ」

あすみ「…………あすみのだよ」

マミ「そうなの。別に趣味に文句を言うつもりはないんだけど……それより、そろそろお腹がすいてこない?」

あすみ「そりゃもう夕方手前だからね」

マミ「ええっ!? ……時間が経つのは早いわね。そうだ、今日はお世話になったし、よかったらご馳走しましょうか?」

あすみ「タダ飯なら悪くないわねー、んー……」


 さっそくなぎさと会わせて引き渡してもいいが、この後でもいいか。

 そう思って歩き出そうとしたところで、不審な声が聞こえた。


『――……“大きい方”のおチビちゃん。コイツは次でいいわ。確実に、一匹ずつ潰していきましょう』


あすみ「は?」


 急に振り返った私をマミは不思議そうに見る。もちろん巴マミじゃない。

 声の主を探して見回すと、通りの向こうになぎさと――……知らない女が隣にいた。

552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 21:53:09.88 ID:Ktgz36+gO
やっぱりね
あすみに見つかったからジ・エンドだな
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/21(日) 22:28:00.92 ID:XgCymOcQ0
謎のおねえさんん、やっぱり悪党だったのか・・・
まぁ、あすみんに始末されるんでしょうね。
でも『大きい方』とは?
554 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 22:38:30.14 ID:fWNF2+br0


なぎさ「あっ、あすみー! 会えてよかったのですよ! 連絡したのに返事もこないから心配したのです!」


 信号が変わると、向こうからなぎさが駆けてくる。

 隣の女も。やっぱり偶然じゃなく同行してるらしい。


あすみ「メールはさっき見た……そっちの人は?」

なぎさ「このおねーさんとはさっき知り合ったのです! 魔法少女の……って、あ。言っちゃダメな状況でした? あすみこそそっちの人は?」

あすみ「こいつも魔法少女だから平気。それより、ソイツは?」

なぎさ「もー! ソイツーとかコイツーとかダメなのですよ。初対面の人に向かって!」

あすみ「はいはい……で?」

なぎさ「魔法少女の新人さんなのです。契約したばっかりでなにもわからないと言うのでレクチャーしてるところなのです!」

「まぁ、可愛らしいお嬢さんも魔法少女やってるんだ。二人ともこれからよろしくね」

マミ「ええ、よろしく……」


 表面上は取り繕っているが、内面までは繕えない。さっき聞いた声と似たり寄ったりの『悪意』が漏れていた。

 恐らくコイツ、新人ですらない。今までこんなのは散々見てきた。分かりやすいと思えるくらいのクズだ。


あすみ「…………私はよろしくしたくないんだけど」

なぎさ「えっ……?」

あすみ「だってそりゃあ、思ってもないことばっかり言われてもね。なぎさは騙せても私は安い芝居には引っ掛からないよ。縄張り荒らしさん」

なぎさ「なっ……何を言ってるのですか! 落ち着いてください!」

「そ、そうだよ。私はそんなつもりじゃ……!」


 なにかそういう問題が近づいてそうな雰囲気はあると思ってた。

 コイツは子供の魔法少女が二人見滝原に居ることを知っているらしい。大方キュゥべえが私たちの情報を売ったのだろう。

 こんなのに私が騙されるわけはない……が、なぎさはこんなのでも信じている。仲良くして、救う気でいる。


 私へ向けられる『悪意』ならどうにでもできるが、私以外へ向けられるソレには何の力も作用しない。


 ――それに歯噛みする。人の心はどうせ簡単に変えられない。そんなのはわかっていた。本当に痛い目を見ない限りは。

 善良だろうと愚か者は救えない。だったら、放っておけばいい。しかし、本当に痛い目を見ることになればその時は、もう……終わりだ。

555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/21(日) 22:55:53.67 ID:XgCymOcQ0
ここでバラすという事は前みたいになぎさに現実を突きつけるのか。
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 23:13:44.87 ID:Ktgz36+gO
新人かどうかなんてここできゅうべぇ呼んで聞けば一発でバレるのにな
557 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/21(日) 23:56:32.88 ID:fWNF2+br0


あすみ「落ち着くのはそっちだよ」

なぎさ「なぎさは落ち着いてます! 魔法少女だからって意地悪しちゃダメだって言ったのに……」

なぎさ「どうしてなぎさの時みたいに仲良くできないのですか!? そっちのおねーさんとはどうなのです?」

あすみ「コイツは別。一応見極められるくらいには一緒にいたから。あとの世話はアンタに任せようと思ってたし」

なぎさ「だったらおねーさんとも一緒にいなきゃわからないはずです! 会ったばかりで悪く言うなんて、よくないです! あやまってください!」


 ……自分の魔法の力を全て正確に伝えていなかったことを後悔する。

 いや、それがなくたって最低限信用できるかくらい見る目はあるつもり。最悪突然襲われた場合の警戒だって怠ったことはない。

 怠るべきではないのだ。一見無害そうな相手だったとしても、まだ断じるほどの罪はなくても、心は変わるものなのだから。


「なぎさちゃん、私のことはいいよ。何が怒らせちゃったのかわからないけど、もういいから……」

なぎさ「ダメなのです!」

「なぎさちゃん……」

なぎさ「なぎさはあすみにもみんなと仲良くしてほしいだけなのです……どうしてわかってくれないのですか……」

なぎさ「もしもおねーさんが悪いことをするならなぎさが止めます……それが仲間だから。その力くらいなぎさにはあるつもりです」

あすみ「…………」

なぎさ「も、もういいです! おねーさんのことはなぎさがついてるって決めてたのです!」

なぎさ「そうやって周りを敵視ばっかりするから……――――あすみには友達がいないのですよっ!」

あすみ「……は……?」

なぎさ「あ…………」

あすみ「あぁ……そうかもね。別に友達が欲しいとも思ってないし、一人で生きることにももう慣れたから」

あすみ「それでいいよ。その方が、誰に裏切られるとも誰かを喪うとも考えなくていいんだから」



 ――私を嘲り笑う『声』が響く。

 ――――忌々しい下品な笑い声が、一見澄ました様子の女から発せられていた。


 殺意を込めて睨む。それには、優しげな微笑みを返された。



 ……騙されたフリでもしてればよかった? いや、コイツは一人ずつ仕留める気だった。

 どうせ私が居る間はしっぽは出さないんだろう。

558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/21(日) 23:59:02.47 ID:XgCymOcQ0
なぎさちゃん、それは失言だ・・・
559 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/22(月) 00:26:01.98 ID:E59wa3LZ0

あすみ(……殺す。なぎさがどうとかは関係ない。あの女は私を馬鹿にした。ただそれが不快なだけだ)

あすみ(次は私の番? 笑わせるなよ。私に狙いを変えた瞬間がアイツの命運が尽きる時だ)


 元々、キュゥべえはなぎさは死んでも私は死なないと思ってたんだろうな。

 縄張りの魔法少女を皆殺しにされるのは不利益でも、一人死んで入れ替わることで波乱が起きるならそのほうがいいとすら企んでたかもな。


 アイツはそういう奴だ。利用できる時は利用できるけど、味方としてはまったくアテにならない奴。

 アイツのこともなぎさはまだ信じてるんだと思うと……なぜだろう。悔しく感じた。


マミ「え、ええと……神名さん?」


 マミが横から戸惑ったように見ていた。……怖い顔しすぎてた。


あすみ「昼だっけ? 遅いけど。食いいく?」

マミ「さっきの子たちのことはいいの? あ、あの人は結局味方なの? 敵なの?」

あすみ「敵だよ。私は心が読めるんだ」

マミ「ええ!?」


 さっきは隠しすぎて後悔したことを、巴マミには言ってしまった。

 ……いつも最大限の警戒を怠らない私らしくもない、早まった発言であると後で思った。



――――――



なぎさ「……ごめんなさいなのです、おねーさん」



 ――――思わず早足で歩き出してしまいましたが、おねーさんはちゃんと隣についてきました。

 なぎさにとっては早足でしたが、おねーさんからすれば普通の速さだったようです。



「さ、さっきの子のことなら気にしなくていいからね? 行きましょう?」

なぎさ「はい…… そのことも……なのですが」

なぎさ「今はちょっと……戦う気にも教える気にも、なれません……」

560 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/22(月) 00:26:33.53 ID:E59wa3LZ0
-------------------
ここまで
次回は24日(水)20時くらいからの予定
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/22(月) 00:36:25.77 ID:KEn2Q5Ox0
乙でした

なんだか喧嘩別れみたいになってしまいましたが、あすみはまだなぎさの事を見限ってはいないようですね。
マミに自分の読心を話してしまったのはあすみらしからぬミスですが、なぎさとの事で多少動揺してたからかな?
562 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 21:08:47.80 ID:M7lmf0rA0


「…………そう、そっか。そういうことなら今度でいいよ」

なぎさ「はい、また今度…… で、でもっ、一人で魔女と戦ったり危ないことはしないでくださいねっ!?」

「あー……、うん。そうだね」


 やっぱり浮かぶのはこの前の光景。知り合ったばかりの人が、魔女の結界の中であんな……。

 ……それからしばらく二人とも喋りませんでした。

 何を言っていいのか迷ってしまうような、なんだかぎこちない空気です。


なぎさ「……そうだっ! そのかわり、これからうちにきませんか?」

なぎさ「せっかく魔法少女の友達が増えたのです。戦いとか以外でも、おねーさんにもなぎさのこといっぱい知ってもらいたくて……!」

「まあ、なぎさちゃんのお家に招待してくれるの? うれしい!」

なぎさ「はい、こっちなのですよ!」


 おねーさんもまた笑ってくれたので安心しました。

 なぎさもむくれてちゃダメですね……。あすみのことはいったんおいといて……。


なぎさ(あすみ……)


 足を止めたなぎさに、おねーさんは不思議そうに振り返りました。


なぎさ「な、なんでもないのですっ」

563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/24(水) 21:28:06.09 ID:UDZ5oLZX0
なぎさちゃん、今日始めて会った相手を家に招待とか流石に無用心すぎるぞ・・・
564 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 21:56:12.98 ID:M7lmf0rA0
――――
――――



 なぎさの家に着くと、おねーさんと二人きり。

 この前のカレーの残りをどうするかと相談したところ、おねーさんが何か思いついたようで。



なぎさ「――――わぁ、おねーさんお料理上手なのですねっ!」

「大げさだよ」

なぎさ「おおげさなんかじゃないのです! なにもないと思ってたうちのキッチンからカレードリアができるなんて、夢にも思いませんよ……!」


 冷蔵庫にあった牛乳となぎさのおやつのチーズ、あとお母さんがいなくなってから棚の奥に眠っていた小麦粉……。

 それらを使って作ってくれたのです。


なぎさ「まるで魔法のようです!」

「だから大げさだって……ほら、出来上がったから、火傷しないように食べてね?」

なぎさ「出来上がりもすばらしいです! さっそくいただきます!」


 ……チーズ、お母さんが好きだったから前はこういう料理も作ってくれたな。

 食べた瞬間、そんなことを思い出しました。

 お母さんの好物でもあるけど、なぎさも。


なぎさ「おいしい! これ、なぎさの大好物です!」

「そうなの? よかった」

なぎさ「なんだかお母さんを思い出して…… もう作ってくれないから」

「何かあったの?」

なぎさ「死んでしまいました」

「それは辛いね……。ところで、お父さんは?」

なぎさ「今日はいつ帰ってきますかね……少し早い時もあれば、遅い時も多くて」

「そうなんだ」
565 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 22:36:28.50 ID:M7lmf0rA0

なぎさ「……今度、作り方を詳しく教えてください」

「難しいと思うけど、大丈夫なの?」

なぎさ「だ、大丈夫です! なぎさはもう小さくないので……!」

なぎさ「お母さんがいなくなってしまったので、早く家事は覚えないと困るのですよ。ご飯がお菓子とお弁当と外食だらけなのです!」

「このカレーは?」

なぎさ「これは昨日あすみと一緒に作ったのです」

「……さっき会った子ね」

なぎさ「はい……」


 あすみの話が出てきて、さっきのこともまた思い出しました。

 あすみとの思い出はたくさんあります。そのほとんどは良い思い出です。あんなふうに喧嘩してしまったのは初めてでした。


なぎさ「なぎさもあの時は言い過ぎたのはわかってるのです。なぎさにとってもかけがえのない友達だったのに」

なぎさ「もう……友達でいられないんでしょうか」

「なぎさちゃんはどう思ってるの?」

なぎさ「なぎさは……友達でいたいです。でも……」

「でも、あの子の言ってたことは間違ってると思ってる」

なぎさ「そりゃそうですよ! おねーさんがよくても、なぎさがよくないのです……」

なぎさ「会ったばっかなのに、おねーさんのこと何も知らないのにあんなこと言って!」

なぎさ「? む……」


 その時、ポケットに振動を感じました。


「あらあら、お食事中に携帯はマナー違反だよ?」

なぎさ「……それもそうなのですね」

「まあ、『そろそろ』かもしれないけど」

なぎさ「なにがですか?」

「ううん? 何でもないよ?」

566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/24(水) 22:38:34.65 ID:UDZ5oLZX0
毒か?
567 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 23:33:49.36 ID:M7lmf0rA0


 夕食を食べ終わった頃、なぎさは少しウトウトとしかけていました。

 このまま眠ってしまったら気持ちよさそうですが、今はお客さんも来てますし、お父さんが帰る前に寝たくはありません。


「眠くなっちゃった?」

なぎさ「ん〜、まだそんな時間じゃないのに……ちょっとお水を取ってくるのです」

なぎさ「――――うわっ!?」


 椅子から立ち上がろうとしたのですが、転んでしまいました。

 奇妙な感覚でした。どこにぶつけたわけでもなく、足から力が抜けるようにして崩れたのです。

 ただ眠いだけではこんなふうにはならないと思うのですが……。


なぎさ「いたた……あれ? 何か、おかしい……」

「横になってくれば?」

なぎさ「い、いえ。――……そうだ、治癒魔法を!」

「……ねえ、やっぱりなぎさちゃんは『小さい子』だよ」

なぎさ「え?」

「ダメじゃない。知らないおねーさんに着いてっちゃって、そのうえ知らない人の作ったお料理食べてるんだもん」

「でも、ヘンにマセてるより子供は馬鹿で素直なほうがカワイイと思うよ? なぎさちゃんは悪い子だけど、良い子だね」

なぎさ「ど、どういう意味……なのです?」


 立ち上がろうとしても力がうまく入りません。


「小さいから回りも早いよね。そうして段々感覚もなくなって……最期は眠るように死んじゃうんだ〜」

「『優しい』毒でしょ? 痛みもなく気づかれないままソウルジェムを蝕んで殺すの」

「たっぷり時間を稼げてよかったよ。本当は看取るまでしたかったんだけど……治癒されたら困るものね」

なぎさ「毒……って、まさか……!?」

「料理だけじゃないよ? 毒は二つあるの。一つはさっきの料理に……もう一つはこの空気全体に溶けた霧に」

「毒霧のほうはソウルジェムを蝕み、ついでに魔力を察知する能力を鈍らせる毒。そのおかげで魔法なんて使ってたこと気づかなかったでしょ?」

「料理に使ったのは身体と感覚を麻痺させる毒。毒霧だけでも似たような事は出来るけど、効きを確かめづらいしちょっと時間かかるから」

なぎさ「な、なんで……そんな……契約したてでなにもわからないって……」


 そう言うと、おねーさんはくすくすと笑いはじめました。


「そんなのまだ信じてたなんて! 油断させるための嘘に決まってるのに! 簡単に信じちゃうから〜、なぎさちゃんは小さい子なの」

なぎさ「……!」



――――――
568 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/24(水) 23:35:05.87 ID:M7lmf0rA0
-----------------
ここまで
次回は27日(土)18時くらいからの予定です
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/24(水) 23:37:06.27 ID:UDZ5oLZX0
乙です

やっぱり毒か・・・この自称新人さんは毒使いだったのか。
そういえば毒に特化した魔法少女って珍しいかも?マギレコの方にもいなかったと思うし。
570 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 20:16:57.14 ID:R/3nOHzG0
――――――



マミ「……お口に合わないかしら?」

あすみ「別に。オシャレそーな店らしくなんかオシャレな味してるよ」

マミ「褒めてるのかしら……?」


 こんな微妙な時間じゃファミレスでもランチはやってないだろう。

 安いバーガーでいいと言ったのだが、育ち盛りの子がそんなんじゃダメだとマミが一蹴。

 マミに連れられて入ったのは、今まで縁のなかったようなカフェだった。……まあ、奢りだからいいんけど。


マミ「ねえ、心が読めるってことは本当にあの人は悪い人なんでしょう?」

あすみ「……」

マミ「このままじゃきっと、あの子危ないわよ」

あすみ「私が何言っても聞かないんだし、しょうがないじゃん。忠告はしたんだから私にしては優しいほうだよ」

あすみ「……なぎさに読心のこと言ってなかった以上証拠を提示することもできなかった」

あすみ「そうなりゃ後は考え方と経験の違いってやつじゃん? 私も誰に何言われようが今の考え方を変えるつもりないしね」

マミ「じゃあ、なんで私にだけ話したの」

あすみ「気まぐれ。かもね」


 迂闊だとは思ってた。

 話しすぎるのも、話さないで不利になるのも……だ。後者のことについてはさっきまで考えもしなかったけど。


マミ「……やっぱり気になってるんじゃない? だって、さっきからすごく不機嫌そうな顔してるわ」

あすみ「元からこういう顔だ」


 他人なんか助けようとしたから食われる。この世界で当たり前のことが当たり前に起きてるだけだ。

 ちょっと前に世話してやったからって、一生世話なんてしきれない。

571 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 21:05:32.75 ID:R/3nOHzG0


あすみ「…………やっぱこういうとこって値段の割に量少ないね。もう食い終わっちゃった」

マミ「食後には紅茶がついてくるみたいよ?」

あすみ「そうなの? じゃあまだ待ってなきゃいけないのー?」


 ……暇になって、携帯を手に取ってみた。

 手持無沙汰に携帯持ってる奴って多いけど、何やってるのかまったくわからない。最近まで携帯を持ったこともなかった。


 マミには女の子が持ちそうな携帯じゃないと言われたが、そりゃそうだ。

 今持ってるのは前にいた家から取ってきただけだから。いつまで使えるかもわかったものじゃない。


あすみ(もう何か月も経つしそろそろ潮時かもな。そしたら……どうしようか?)

あすみ(なければないでも困んないか。元々大して使う予定もなかったけど、思ったよりは使ったな)


 元はアイツがいなくなったことを怪しまれないためにとチェックしてたはずだった。

 でも今では元から入ってたデータは全部消した。メールのやりとりを見返せば、なぎさとのやりとりばっかり。

 今日の放課後。それ以降のメッセージはない。……一通り見返して、一言だけなぎさに送ってみた。


 『今どこ』


 最後になるかもしれないメッセージ。もう死んでたって何もおかしくないんだから。


あすみ「……ね、暇だからなんか面白いこと言ってよ」

マミ「その無茶ぶりは無理があるわよ……? せっかくだから魔法少女のことについて聞かせてもらえたら」

あすみ「えー、私に話振るの?」

あすみ「魔法少女のことって言われてもなー。この後はなぎさに丸投げするつもりだったし……」


 ……あれ。でもなぎさが死んだらこいつのことはどうする?

 そう思ったところで、さっそく、予想を反してお早いお返事が来たことに気づく。

 いつもとちょっと違う、無愛想な一言で。


あすみ「……はあ?」

マミ「ど、どうしたの? さっきより輪をかけて不機嫌そうな顔をして」

あすみ「そりゃ不機嫌にもなるっての! こんなの予想の斜め上! あいつはどこまで……!」

あすみ「紅茶嫌いだったの思い出したわ。もう出る」



 ――――返ってきたメールには、『なぎさのいえ、おねーさんと一緒』とだけ書かれていた。


572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/27(土) 21:08:34.84 ID:bsjF1IVh0
間に合うか?
573 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 21:41:34.75 ID:R/3nOHzG0


あすみ「……何故アンタまでついてきてる?」

マミ「心配してないって言ってたけど、なぎさちゃんのこと助けに行くんでしょう?」

あすみ「別に」

マミ「……違うの?」

あすみ「私はあの女のことが嫌いなんだ。居場所がわかったから殺しに行くだけ」

あすみ「私に狙いが向いてからって思ってたけど、一人潰して浮かれてるとこ想像しただけでも腹が立つ」

マミ「うーん……素直じゃないのか判断しづらいけど……」

あすみ「アンタこそ、死にたくないんだろ。戦いには間違いなくなるよ。標的の家にまで来てその場で決着着けない理由はないもの」

あすみ「だからこそ私も、なぎさに邪魔されずに殺せる現場を狙ってるんだし」

マミ「でも、私も仲間がピンチなのに見捨てるわけにはいかないわよ。なぎさちゃんはせっかく仲間になれそうな人なんだし」


 あー、こいつ。臆病のくせに無駄に正義感あるタイプなんだ。

 面倒くさい。


あすみ「自分が戦力になるとでも思ってるの? 人質にでもとられたらその時は真っ先に無視するわ」

マミ「……っ」

あすみ「居てもいいけど、邪魔はするなよ。それに……私たちが行くころにはなぎさはもう死んでるかもね。それ見ても動揺しない?」

マミ「神名さんこそ……しないの? なぎさちゃんが本当に、死んでても。交友はあったんでしょう?」

あすみ「もちろんしないわ」


 ……そうなってもきっと心は動かない。

 私は今までだって色んなものを失ってきた。あんな最近知り合っただけの子供なんかよりずっと大切なものを。

 そして私は、契約した日からもう何者にも動揺しない力を手に入れたんだ。


 でも、もしも助けられた時はどうかな。そういう意味での『心が動く』は、長らく忘れ去っていて想像もできないけれど。



――――――
574 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 22:19:01.53 ID:R/3nOHzG0
――――――



「じゃ、もう種明かしもしたし、さくっとやっちゃおうねー」

なぎさ「!」


 変身したおねーさんの手から魔力の光が洩れます。その直後に放たれたのは針でした。

 それを横に転がって避けます。


「チッ……あぁいけない。まだ動ける力あったの? でも次こそ終わりよ」

なぎさ「おねーさん、治癒魔法は効くって言ってましたよね……? たくさん練習しといてよかったのです!」

なぎさ「少しずつでも回復は出来てる……少し苦しいけど、そんな細い針くらいならっ!」

「掠りでもすればいいのよッ! 今度こそ眠ってもらうわ!」


 足に重点的に魔力を流したおかげで、なんとか動くようには回復しました。

 それでもハンデを負ってるのは事実。その上で――。

 魔法の衣装に身を包み、武器を片手に持って立ちます。


「なぎさちゃ〜ん? お注射の時間だよ〜ッ!!」

なぎさ「っっ!」


 動かれてもどこかには当たるように広範囲に飛ばしたのでしょう。

 掠っただけで効く毒は恐ろしいですが、この針は物理的な破壊力は強くなさそうです。

 ラッパを吹いて自分をシャボンの膜に包みます。


「なにそれ、ずるいっ!」


なぎさ(とはいえ、シャボン玉に針というのは……相性がよくないですよね)


 何発かは耐えられても、防戦一方では勝てない。


「篭もってたっていつかは割れるのよ。諦めなさいよ」

「足掻くのなんて辛いだけだよ……全部諦めて寝ちゃおうよ。苦しまず死させてあげるよ?」


 ……そんなことは、わかっています。



なぎさ「死んでたまるか――――なのですよっ!」



575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/27(土) 22:31:30.31 ID:FiDN+yipO
確かに針にシャボン玉は相性が悪いな
576 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/27(土) 23:29:51.74 ID:R/3nOHzG0


 身に纏うシャボン玉を大きくし、渾身の突撃をかましてやります。

 おねーさんもそれは予想していなかったようで横に倒れて…… そこでシャボンの膜を破りました。

 この隙に再びラッパを吹いて、今度は逆に閉じ込めてやります。


なぎさ「形勢逆転ってやつですよね? これ。えへへ……なぎさも魔女との戦いでピンチになった時にはよく使うわざなのです」

なぎさ「でも、おねーさんには……同じ魔法少女の仲間には使いたくありませんでした」

「仲間……ですって……?」

なぎさ「はい! こんなことしたらメッなのですよ!」

「メですって…………なによ、チビっ子のくせに説教して」

なぎさ「そういうのよくありませんー!」


 新たな針でシャボンを割ろうとしてるのを見て、慌てて追加のシャボンを外側に被せます。


なぎさ「うわわっ、もう! 油断も隙もないのです!」

「それがいつまでも続けられる?」


 おねーさんの声とほぼ同時に、くらっとするような眩暈のような感覚がしました。

 これも毒のせいなんでしょうか?


なぎさ(集中が乱れて、魔法が……)


「ほーら、やっぱり。私の毒霧は『ソウルジェムを蝕む』って言ったよね?」

なぎさ「ソウルジェム……?」


 確認してみれば、見たことのない黒色をしてました。

 咄嗟にグリーフシードを取り出しましたが、飛んできた針に弾かれます。


なぎさ「なっ……!」

「回復なんてさせてあげなーい」

577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/27(土) 23:47:57.69 ID:FiDN+yipO
騙すようなやつだから当然だが性格も悪いな、こいつ
578 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 00:02:50.57 ID:PDF/oUon0


 くすくすと笑う声。


なぎさ「そ、それでも負けません!」


 飛んでくる針。

 この時わずかに反応が遅れてしまいました。


なぎさ「あっ…………!?」


 針が一本腕に掠ったようで、血が滲みます。

 『よう』というのも、その感覚すら遠くなって見てから気づいたから。

 感覚を鈍らせる毒、と言ってましたか。痛みもなく死ぬというのは本当らしいのです。

 ……そんなのはイヤです。痛くなくとも死んでたまるかなのです。


「何、誰?」


 それとほぼ同時にチャイムが鳴り、おねーさんが顔を顰めました。


「あー、父親かぁ。言ってたもんね」


 なぎさもお父さんかと思いましたが、その直後のものすごく乱暴な開け方をされたので違うことはすぐにわかりました。

 当然、おねーさんの意識もそっちに向きます。掠りでも針を命中させたなぎさのことはもう放っておいてもいいと思ったからというのもあるのでしょう。


 ――――その瞬間、響いたのは小爆発の音。

 それと、なぎさにとっては聞き馴染みのある鎖の音でした。

579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 00:27:33.34 ID:FnVYvW6HO
あすみ間に合ったけど流石荒っぽいな
580 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 00:28:10.85 ID:PDF/oUon0
--------------------------
ここまで
次回は28日(日)18時くらい
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/03/28(日) 00:31:51.59 ID:FnVYvW6HO

次で決着つきそうな感じだな
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 00:33:24.57 ID:FnVYvW6HO
sage出来てなかった、ごめん
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 15:02:26.93 ID:O5qE7UGn0
ほい
584 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 18:21:42.29 ID:PDF/oUon0


あすみ「何普通にチャイム押してんのさ! こういうのは大体力づくでいけば開くのよ」

マミ「え、それは……なんとなく。でもここなぎさちゃんの家でしょ? ドア壊れてない?」

あすみ「律儀か。どう見てもお取込み中な魔力反応してたんだからこれでいいの」

「あら、あなたたちさっきの……」

あすみ「先手必勝の一撃は防がれちゃったけど、防ぐのに使った腕は壊せたからよしとするわ」

あすみ「にしても、明らかに腕折れてんのに表情変わんないね」

「危険を察知するためにはないと困るものだけど、痛いのが好きな人なんていないでしょ?」

あすみ「おねーさん、あすみよりオトナなのにわかってないなぁ〜。痛いのがイイって変態さんも中にはいるんだよ。私は違うけど」

あすみ「でもそういう人って倒錯しすぎていきなりSとM入れ替わるのも多いから気を付けてね?」

「はぁ、何? きも……」

あすみ「あはは、ごもっとも! それよりなぎさ、よく生きてたね。……あれ? 瀕死? ギリで死んじゃった?」

なぎさ「…………」

「ザンネンだけど、もうすぐ『孵る』よ。なぎさちゃんがいなくなったらきみ友達いなくなっちゃうんだっけ? ダッサい子」

「こうやって喋ってるうちにも――――……」


 おねーさんもなぎさを見ます。そして、言葉を途切れさせました。


「こいつ、なんでこんな怪我を……? ――てっ、ていうか何よこれ! なんでシュークリームなんて口に咥えてるの!?」

あすみ「ふーん……このオモシロ死体、アンタがやったわけじゃないんだ?」

あすみ「まあ、わかってたけどね。お菓子出す魔法なんてなぎさしかいないだろうし」

なぎさ「ひたいじゃないれふ!」


 残りをそしゃく。

 みっともない食べ方になったのは反省ですが、このシュークリームはあすみの想像通り、魔法で出したものです。

 みなさんは中身のクリームだけ先に吸い出すなんて食べ方やっちゃいけませんよ。

585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 18:47:51.45 ID:FnVYvW6HO
孵るって言ったのは魔女化の事は知ってるのか
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:16:00.03 ID:1N6gZpAB0
なぎさちゃん、何をしたんだ?身代わりか何かかな?
シュークリーム、たまに中身だけ吸い取ったりしてますw
587 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 19:22:19.78 ID:PDF/oUon0


なぎさ「もぐ……――っ、この前あすみに毒入り菓子を作ってはどうかと言われましたが、これは『ハンタイ』にしてみたのです!」

なぎさ「といっても万能な解毒薬にはなりませんが、毒の成分はおねーさんが喋ってくれましたでしょ? それなら反対の効果にすればいいわけです!」

なぎさ「おかげで痺れも取れてきました。なぎさにはおねーさんみたいな毒よりこっちのほうが合ってると思うのです」

なぎさ「悪いことするなら止めるくらいの力はあるって言いましたよね! なぎさはそこまで弱くはないのですよ!」

あすみ「……はぁ、すっかり忘れてたけど、そういえばアンタも新人じゃなかったわね」

「針が掠った周辺を自分で抉り取るくらい肝が据わってたとはね……正直見くびってたわ」

なぎさ「なんて痛々しい表現! ちょっと爆破して吹きとばしただけです!」

マミ「そっちも十分痛々しいと思うけど」

「でもここはもう私のテリトリー。下準備はとっくに終わってるんだから、増えたって私の有利は変わらないわよ」

「一人は本当にただの新人みたいだし」


 戦いが長引けばそれだけでなぎさたちは負けてしまうということです。

 なぎさもたしかにソウルジェムを蝕むという毒霧のほうは解毒できませんでした。他の毒と違って簡単じゃないからです。

 一度は注意が逸れてる間に魔力を回復できたものの、二度目はそうそうできないでしょう。


あすみ「マミ! アンタはこの家を出来るだけ換気しなさい!」

マミ「わかったわ!」


 魔法少女が二人もいれば足止めはできます。

 後はいつも通りあすみと二人で、決戦を仕掛けるのみ――――なのです。

588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:34:45.18 ID:1N6gZpAB0
なるほど解毒剤シュークリームだったのか
周りごと傷口を吹っ飛ばすとか、なぎさちゃん根性据わってるなぁ・・・・・・
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:35:46.99 ID:1N6gZpAB0
なるほど解毒剤シュークリームだったのか
周りごと傷口を吹っ飛ばすとか、なぎさちゃん根性据わってるなぁ・・・・・・
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 19:36:48.89 ID:1N6gZpAB0
あれ?二重投稿にになってる。
申し訳ないです。
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 20:28:39.93 ID:FnVYvW6HO
なぎさとあすみの共闘がどれだけ習熟してるかだな
592 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 20:57:42.07 ID:PDF/oUon0

 おねーさんの狙いはやはり広範囲。でもなぎさも範囲には自信があります。

 たくさんのシャボンを周囲に浮かせます。小さい分は脆くはありますが、一発を防ぐには十分です。


あすみ「霧も針も地味だけどウザい攻撃ね……性格の悪さが反映されてるに違いないな」

あすみ「毒って知らなかったら負けてたかもね」


 イラついた様子のあすみ。

 あすみの戦い方といえば、破壊力十分の鉄球で必殺を決める派手な攻撃。おねーさんとは正反対なタイプです。

 普段見ていても、小さい攻撃は無視することも少なくありません。避けるということをあまり重要視してないようなのです。

 もちろん毒針は無視するわけにはいかないのですが、これも相性はよくないのかもしれません。……逆に、毒を無視できれば早い?


なぎさ「でももうなぎさにさっきの毒は効きません! それに解毒はなぎさができますから!」

あすみ「あー、それもそうだったわね? こんなチンケな針……毒さえ効かなきゃ攻撃にもならないよ!」

「あっそ……でももう『優しい』のは終わりだよ」


 するとおねーさんは一気に針の量を増やしてきました。

 なぎさのシャボンでもこの量を食らったら耐えられないでしょう。篭もるのは逆効果――今度は何が来るのか、身構えます。

 いえ、何が来たってやることは同じなのです。最大限に避ける。食らったらその効果と反対に打ち消す。


なぎさ「つっ…………!」


 最初に来たのは痛みでした。

 これは――――なんの毒? そもそも毒なんでしょうか? ただ針が刺さった部分がズキズキと痛んで、痛んで――――。


「単純だけど痛みに怯まない生き物なんていない。生きるのに必要な『痛み』も過ぎればショックで死んじゃうのよ」

「これで死ぬなんて不幸ね。これが一番『優しくない』毒。せめて感覚麻痺を解毒しなければよかったね?」


 新たな針が生成されるのが見えます。解毒――いや、まだ踏ん張れます!


なぎさ「……と、りゃあああ――――っ!」


 ええと、たぶん初めてラッパを鈍器として使いました。

 踏み込んだあとは、なぎさの全体重をかけて床に倒します。おかげで新しい針の攻撃はあらぬ方向に外れていくことになりました。


なぎさ「あすみ! トドメを――ッ!」

なぎさ「あすみ…………? ――ふぎゃっ!」

「いつまでも乗っかんな!」


 軽々と跳ね除けられてしまいます。なぎさの全体重は、おねーさんと比べたらかなり軽いのでしょう。

 いくらなんでもこんなに至近距離で針を食らったらまずい。今度こそ解毒を……!

593 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 21:53:31.04 ID:PDF/oUon0


なぎさ(あれ……?)


 口に鎮痛のシュークリームを咥えつつ、針山にされるのは覚悟してたのですが、攻撃が来ませんでした。

 見てみれば黄色いリボン? でラッピングされたおねーさん。


マミ「換気扇を回して、開けられるところは開けてみたわ! 二人とも無事!?」

なぎさ「なぎさはなんとか……。解毒もできましたし。それよりあなたがやったのです!? すごいですね!?」

マミ「え、ええ!」

なぎさ「それよりあすみは……――――」



――――――
――――――



 『痛み』……それは私が昔怯えていたもの。そして、契約してから感じることのなくなったものだった。


 痛くないから、痛みを与えてくる奴らにも恐怖しない。戦いで攻撃を受けようが恐怖しない。

 ソウルジェムと身体が離れてるから出来る芸当だとキュゥべえは言ってたが、リクツなんてどうでもいい。

 その真実を聞いて絶望する少女もいるらしいが、私は歓喜した。


なぎさ「はいこれ、解毒のシュークリームなのです!」

あすみ「…………っ」

なぎさ「……? 聞いてるのです? もう! こうなのですっ!」

あすみ「むぐっ!? うぐ――……っぶ、あっま……? ……なに、これ」

なぎさ「半分落としてますよ! クリーム吸い出しよりお行儀悪いのですっ!」

なぎさ「無理矢理押し込んだのも悪かったですけど……辛そうだったので。うんんー、もっと食べやすい形にできればよかったかなあ?」


 ……目の前で起きてることが遠くに見えてた。いつもの感覚が戻ってきて、思考も戻ってきた。

 いつのまにかあの女は縛られてて、なぎさとマミも無事だ。

 なにこれ。私だけが無様?

 痛みを味わったさっきから、来なければよかったと心の中で後悔しはじめてた。その気持ちは怒りへと変わる。


 毒の内容は読心でわかってたはずだった。

 ――――魔法少女の使う魔法なら、痛覚を切り離していても効いてもおかしくはない。


 しかし、覚悟していたら私はなぎさのように出来ただろうか?

 いや……踏ん張れないのはきっと私だけじゃない。


あすみ「…………」

なぎさ「……ま、まだ痛いですか? 今小さいの作りますからねっ」

あすみ「ああ、うん。受け取っとく」


 私にプチシューを渡すと、なぎさはリボンで縛られた女のほうに向き合った。

594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 22:01:31.82 ID:1N6gZpAB0
あすみは常時痛覚を切ってたけど今回の「痛み」を伴う攻撃でトラウマが呼び起こされたのか
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 22:14:18.02 ID:FnVYvW6HO
この後確実に血の雨が降るな
596 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 22:38:22.24 ID:PDF/oUon0


なぎさ「おねーさん……もうこれで決着つきましたよね?」

「……これから私をどうする気? 痛いことされた腹いせに、私を嬲り殺しにでもしてみる……?」

なぎさ「怖い事言わないでください! そんなことしたいわけないじゃないですか!」

「私は殺す気だったのに、なんでここまでされて私のこと殺さないの……逆に怖いよ。わけわかんない」

なぎさ「おねーさんもあすみに片腕やられてるので、それでおあいこなのです」

あすみ「……それでいいの?」

なぎさ「おねーさんもあすみも勘違いしてるのです! 魔法少女同士は敵じゃありません!」

なぎさ「ピンチの時は助け合えるし、仲間は多い方がたくさんの人を助けられます! 友達だって多いほうが楽しいのです!」

なぎさ「戦うのも殺し合うのも悲しいだけですよ。なぎさが死にたくないように、おねーさんだって死にたくないでしょ? どうしてわかってくれないんですか!」


 マミは何も言うことなく一歩引いて見守ってた。

 何? なぎさは相変わらず甘い気持ちを引きずってるみたいだけど……本当にこいつもそれでいいわけ?


「グリーフシードは欲しくないの?」

なぎさ「なぎさは必要な分だけあればいいです」

「……なぎさちゃんが欲しくなかったとしても、そういう人がいることを考えられないのはやっぱ小さい子だよ。そのせいで私にやられて」

「でも……こんな子ばっかりだったら平和なのかもね。私だってそりゃあ……死にたくはないよ。本当に、本当に許してくれるの?」

なぎさ「なぎさはおねーさんに裏切られたってわかった時、すごく悲しかったです。でも……許したいのです」

なぎさ「元はと言えばおねーさんを止めるために戦ってたのです! だから……今度こそおねーさんが仲良くしてくれるって言ってくれるなら」

なぎさ「おねーさん、強かったのですよ。これから一緒に戦ってくれるなら心強いです……!」



 ――ああ、わかった。

 今回マミはとくに自分が被害を受けてなかったから、どうでもいいと思ってるのか。



「他の人も……そうなの?」

なぎさ「お願いします! 信じてあげてください!」

マミ「私は他の人に任せる、けど……」

あすみ「いいよ、お友達になりましょう。誰にだって改心の機会は必要よね」
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 22:41:48.55 ID:FnVYvW6HO
マミはあすみの読心を知ってるからあえて様子見してるんじゃね?
598 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/28(日) 23:31:47.59 ID:PDF/oUon0


あすみ「――――お姉さんってお嬢様なんでしょう? え、父親は県知事やってるの? 私生活窮屈なんだね」

「は…………」

あすみ「あぁ、珍しい苗字だ。そりゃ素性バレかねないし頑なに隠すわけね。そりゃどっかから非行のことがバレたらまずいものね?」

あすみ「学校ではいじめっ子の金魚の糞やってるんだって? 主犯じゃないのがどっか地味なお姉さんらしいなー。でもどっちもクズだとは思うよ?」

「何を言ってるの! で、デタラメ! こいつの言ってること全部デタラメ!」

あすみ「友達になるつもりなのに隠し事ばっかなんておかしいよ!」

「あ、後で言おうと思ってたのよ! でもまだ心の準備が……!」


 それだけは一応本当だ。まあ『先読み』してしまったが。

 そして、つつけばつつくだけ埃のように溢れてくるものだ。


 ……ちょっとイラついてるみたい。でも殺されるわけにはいかないから表に出すまいとしてる。

 もともと強い人には逆らえないタイプみたいだから。


あすみ「ねえ? 自分でも気づいてるみたいだけど、表面上の友達しかいないなんてヘンだよね」

あすみ「お嬢様学校のことも強そうな友達のことも、本当は嫌いなのにアクセサリーにしてるの虚しいね」

あすみ「私たちのこともこれからはアクセサリー扱い? この中の誰よりもおねーさんなのに誰より薄っぺらくない?」

「そ、そんな……こと……!」

あすみ「内心嫌ってるいじめの主犯には逆らう度胸もない癖に、うっかり殺してから変な度胸だけついちゃったんだね……」

あすみ「魔法少女のほうも学校生活のほうも、どっちも自分可愛さに裏切ったり傷つけたりすることばっかり」

あすみ「そんなお友達ができるなんてステキ! ――なんて言うわけねぇだろ!!」


 横っ面に鉄球を一つお見舞い。可愛らしく澄ました顔が醜く歪む。

 正直わざわざ探るまでもないくらい、印象通りの中身だった。


「がは…………っ!!」


 間髪入れずに次を振りかぶる。

 こいつも痛覚切ってるみたいだし私の魔法では嬲り殺す手はないが、私の気が済むまで――――醜く潰れるまで叩き潰してやろうか。


なぎさ「なっ……なにしてるんですか! やめてください――――!!」

あすみ「こんな奴が改心する? 無理だね」

あすみ「クズはクズ肉になるのがお似合いだよ!」

あすみ「どうしても友達になりたいなら、地獄に行ってキレイになってから生まれ変わってこい!」
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/28(日) 23:42:54.58 ID:FnVYvW6HO
やっぱりね
あすみが許すわけないんだよな
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/28(日) 23:51:00.26 ID:1N6gZpAB0
あすみ編の不届き者さんの時みたいに呪いが発動しなかったのは、そこまで殺意を持ってなかったのかね?
といってもあすみに内心を見透かされてボコボコにされるか・・・・・・
クズ人間は絶対に許さないからな、あすみ
601 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/29(月) 00:47:15.21 ID:z/3KaO4P0


 返り血に濡れる。

 血も涙もない……なんてよく言うけど、それだったらなんでどんなクズにも血が流れてるのだろう?


 『こんな子ばっかりだったら平和なのかもね』


 それには同意するよ。なぎさみたいな人間ばかりだったら、私もこうなってないもの。



 ―――ソウルジェムはもちろん、身体のほうも原型をとどめない肉塊と化した頃にはなぎさもマミも目を覆っていた。

 なぎさも途中まで私を止めようとしていたが、手遅れと判断したのか途中から立ち尽くすだけになってた。



なぎさ「なんでこんなことに……」

マミ「そ、そうよ。これはあんまりだわ……何も殺さなくても」

あすみ「マミには最初から殺すって言ってなかったっけ?」

マミ「だからって……」

あすみ「安っぽい暴言だと思われてたならちょっと癪なんだけど」

なぎさ「一つ聞かせてください……。さっき言ってことって本当なんですか? おねーさんのことどこかで調べたんですか?」

あすみ「実はなぎさには言ってなかった魔法があるんだ。心を読む魔法……といっても自動的に使われるのは私に向けられた『悪意』を含むものだけなんだけど」

なぎさ「じゃああすみは最初からわかってたのですね。なぎさが裏切られるって」

あすみ「うん」

なぎさ「じゃあもう一つ聞かせてください。……さっきはどうだったのですか? さっきも、なぎさたちのこと本当は裏切るつもりだったのですか?」


 そうだと言えばなぎさは納得するのだろうか。


あすみ「いや? 表面上は友達になるつもりだったよ? 少なくとも『あの場では』ね。でもそれだって自分可愛さなんだよ?」

あすみ「あの女の行動原理は全部自分が可愛いから。なぎさを騙して殺そうとしたのも、学校でいじめに加担するのも全部」

あすみ「ならいつか自分が可愛いからって理由で私達を裏切ったり見捨てたりすることくらい想像つくよ。なにより私はクズと一緒に居たくなんてないし」

なぎさ「……」

あすみ「それでもまだいい人になれる可能性はあったって言える?」

あすみ「前言ってたけどさ、魔法少女になるのに必要なのは正義の心じゃなくて『願い』と『素質』だよ。……これでわかっただろ」

602 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/29(月) 01:20:31.46 ID:z/3KaO4P0


あすみ「いざというときに頼れない友達なんて欲しい? そんなの友達だと思わないけど」

なぎさ「なぎさには……っ わかりません」


 なぎさの声が涙で揺らぐ。

 なんか、似合わない臭いこと言ったな。友達なんていらないって思ってたのに。

 でも、なにが友達かっていうなら……ひとつ気づいたことがあった。


なぎさ「信じたかったです。最初のときも、さっきのときも…… 本当に騙されちゃったけど、でも殺すよりは信じたかったんです」

なぎさ「可能性ならあったと思うんです……どんな悪人だってきっとそれは同じで、なぎさがそうできたら一番いいとは思います」

なぎさ「でも……そのせいで傷つく人がいる可能性もきっとあるんでしょうね。それはなぎさかもしれないし、あすみやマミ……もっと違う人かもしれない」

なぎさ「…………だから、わからない」

あすみ「……うん。アンタにしてはよく考えたじゃん」

マミ「私もそれで納得はするけど……もう少しどうにかならなかったのかとは思うわ」

マミ「……殺すにしても、そんな殺し方をする必要はなかったんじゃないの?」


 ……正義感の面倒臭い部分が出た。


あすみ「まぁそこは考え方の違いさね。なぎさの家をどう見ても殺人現場にしちゃったのは素直に謝るよ」

なぎさ「ひっ、そういえばそうです! お父さん帰ってきたら失神しますよ! なぎさだって今にも吐きそうなのに!」


 とまぁ、こんな時にチャイムが鳴った。


あすみ「噂をすれば?」

なぎさ「あああっ、なぎさが出てきます!」


 慌ただしく駆けていくなぎさの腕には、まだ痛々しい怪我があった。

 ……今はあのシュークリームで痛みも抑えられてるかもしれないが、よくあれを耐えて戦ってたものだ。


あすみ「……なぎさのことは頼れるって認めてやるよ。私も正直見くびってた」

なぎさ「えっ? 何か言いましたか?」

あすみ「なんでも!」


 考え方は子供そのものだけど、私より強い一面もあった。

 そんなところは尊敬することにした。


 ――いざっていう時に頼れる。そういうのを『友達』って言うんだろ?

 他人から言われてもしっくりこなかったけど、やっとそう実感をもって思えたから。

――――
――――
603 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/29(月) 01:23:41.29 ID:z/3KaO4P0
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ここまで
次回は31日(水)20時くらいからの予定です
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/29(月) 08:10:57.19 ID:syiESJIBO

想像以上に血生臭くなったな
605 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 20:45:54.68 ID:VcfUkZhS0


なぎさ「……まさかさっそくこういう使い方をすることになるとは思わなかったのです」


 出迎えついでに『よく眠れる』シュークリームを口に押し込んできたらしい。

 一家の主をすやすや寝かせている間に、私がリビングの惨状をあらかた片づけたところだった。


あすみ「まあ、薬も毒も似たようなもんだからねぇ。今回は毒寄りの使い方だけど」

なぎさ「パティシエールのプライドがー」


 それにしても、なぎさもマミもお通夜みたいな顔してるな。

 私からすれば自業自得としか思えないけど。


あすみ「じゃ、ひととおり片づけもも済んだし帰るかな」

マミ「…………」


 なぎさは私の前で空元気出せるだけまだ元気だろうが、あきらかに血の気が失せてるのはマミのほうだった。

 ……さすがになぎさは甘くても『魔法少女』だ。ただの一般人より戦いそのものに慣れてるし、度胸もある。


あすみ「あとなぎさ、こいつのお世話は頼んだから」


 メンタルケアまでしてやる気はないから、ここらでなぎさに丸投げしておくことにした。


マミ「……魔法少女って、あんな人ばかりなの?」

マミ「グリーフシードが欲しいからってあんなふうに殺そうとしてきて……殺しちゃった。しかも、あんなに酷く……」


 マミはまだ心を痛めているようだ。あんな奴の死に。

 私のことも、なんて冷酷な奴だとでも思ってるんだろう。


マミ「こんなのまるで無法地帯よ! こんなことがこれからも起きるの?」

なぎさ「そ、そんなこと……!」

あすみ「無いとはもう言えないよね? 私が見てきた中じゃ一般的な部類だよ」

なぎさ「そ、それじゃ、あすみはあんなことを、何回も……」

606 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 21:54:53.32 ID:VcfUkZhS0


あすみ「魔法少女になるのに正義の心は必要ないけど、あれが他の人と違う特別な人間ってわけじゃない」

あすみ「魔法少女は悪い事が簡単に出来てバレない力があるから本性が暴きだされやすいってだけ」

あすみ「契約さえしなければあの女も普通の人生を送れたかもねえ。薄っぺらい友情のもとに人を裏切って虐げ、何の報いも受けない普通の人生を!」


 不要な人はいない、どんな命も尊いなんて綺麗事。

 本物の悪意も憎悪も知らず、想像もできずに生きてきたから言えることだ。

 そう思うと腹が立つ。さっさと帰ろうと思ってたのに。……やっぱり私はメンタルケアなんて似合わないようだ。


あすみ「マミの言う通り無法地帯なんだよ、魔法少女の世界は。強いベテランほど染まってるだろうし、弱い奴は淘汰される」

あすみ「アンタも気をつけなよ? 今は怖い怖いって思ってるかもしれないけど、いずれは力の使い方に慣れて、気づいたらすっかり染まってないように」

あすみ「不正、略奪、闘争……と来たらじきに殺しだってなんとも思わなくなるよ。人によっては最後じゃないけど」

あすみ「……まあ、私はそうなんだよね。『最初』に殺したから」

マミ「それも……殺されそうになったから仕方なく、なの?」

あすみ「ええ。私だって初っ端からそれ以外で殺したいと思うほどクズじゃなかったからね」


 しんと静まり返る。今回のことでみんなも何かを察したんだろう。誰も責めようとする人はいなかった。


なぎさ「……なぎさももう悪い人がいないとは言いません。それでも、誰も信じられる人がいないわけじゃないですよ」

なぎさ「いい人ばかりじゃなくても、きっとあすみの言うような人ばかりでもない。だって、この街にはちゃんと仲間がいるじゃないですか」


 ちょっとだけ世間の苦さを知ったとはいえ、相変わらずの甘く眩しいくらいのなぎさの言葉。

 でも、その一言で不思議と怒りは鎮まった。

 碌でもない世界だと思ってたし、今でもそう思ってる。でも――。


あすみ「……まあ、そう言われたら、それについては綺麗事だとは返せないか」


 ……経験の伴わない綺麗事は嫌いだけど、私も少しは変わったのかもしれない。

607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/03/31(水) 22:00:24.69 ID:F6datCgf0
魔法を使えることで自分が特別な存在だと思い込んでしまいやすいよね
このマミさんはどんな考えの魔法少女になるのかねぇ
608 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 22:38:37.25 ID:VcfUkZhS0

なぎさ「マミもそんなに怖がらないでください! なぎさが守りますから!」

なぎさ「怖い思いはさせないようにします。悪い魔法少女になるのも許しません」

なぎさ「街を守るのは魔法少女の大事な仕事なのですよ。ここは無法地帯にはさせません。なぎさたちで見滝原を守っていきましょう」

マミ「なぎさちゃん…………ええ。よろしくお願いするわ」


 なぎさがマミの手をとる。

 なぎさがあの女に向けようとしてた情熱は、尚更熱量を増してそのままマミに向いたらしい。


 それから、なぎさはどこかへと寂しそうな目を向けた。――空の皿が置いてあるテーブルの上だった。


なぎさ「おねーさんのことも守るって思ってたのにな……やっぱり、すごくショックです。ドリアの作り方教えてくれるって言ったのに……」

マミ「……私が教えましょうか?」

なぎさ「マミもお料理できるですか?」

マミ「ちょっとした趣味程度だけど、それでよければ」

なぎさ「お願いしますです!」


 なんだよ、仲いいじゃんかよ。

 おまけにお洒落料理まで作れるときた。


あすみ「……やっと帰れそうだ」

なぎさ「あすみ、もう帰るです?」

あすみ「うん。お先に」

なぎさ「じゃあまたなのです!」





――――――
――――――
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/31(水) 22:49:45.87 ID:bbwW2JTRO
なぎさとマミはやっぱ相性良いのか
610 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/03/31(水) 23:41:52.84 ID:VcfUkZhS0



 契約してからずっとなぎさひとりだったこの街にあすみがやってきて、そしてまた新しい仲間がふえました!

 マミは最近契約したばかりの後輩だけど、この街のさいねんちょうなのです。


なぎさ「マミ、リボンをつかうの上手になってきましたね! できることも増えてるのです!」

マミ「そうかしら? ふふ……」


 あれからマミとは特訓をしたり、魔女退治に出かけたり、お料理を習ったり。

 特訓は街外れでやってるのですが、ここにはたまにあすみも顔を出しにきます。


あすみ「お、やってる」

なぎさ「あすみ! 見ていくといいのですよ! マミ、とても器用にリボンを操れるようになってきたんです!」


 とはいえ、あすみは本当に顔と口を出す程度。

 直接教えたり一緒に特訓をすることはありません。任せると言ってましたが、本当に任せきりなのです。


あすみ「SMプレイでもすんの?」

なぎさ「じしゃくであそびたいのですか?」

あすみ「え、む! ……どうせわかんないか。つまんないの。マミはわかってそうだけど」

マミ「さあ、なんのことやら……」

あすみ「でもさ……少し過保護すぎない? なにからなにまで面倒見てやって」

なぎさ「マミはまだ新人だし、大切な後輩ですからー。なにかあったら困るのです」

あすみ「まー、任せるけど」

なぎさ「それにマミはちゃんとなぎさが教えたや気づいたことはノートとってるし、えらいのですよ!」

あすみ「……ふーん?」


 そう言うと、あすみもちょっと興味を持ったようす。


あすみ「思った通り細かいわね。わざわざノートにまとめるなんて思いつかなかったわ」

なぎさ「マミはとても真面目なのですよ」



 ……みんなでノートを覗きこんでいると、ふいに、ゴムボールがどこかから転がってきました。


611 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/01(木) 00:03:14.26 ID:ItAIUqyj0


「ねえ、そこの人! 悪いんだけどそのボール取ってくれない?」

なぎさ「これですか?」


 転がってきたボールを投げ返します。向こうには二人の人影が見えました。姉妹でしょうか。

 そのうちの一人、お姉さんのほうがこっちにきたみたいでした。


「ありがと!」


 お姉さんはお礼を言いましたが、そのあと何かが気になるようにこちらを見つめてます。

 言うまでもなく、魔法少女の衣装です。あすみじゃないけど、『変わった格好……』という心の声が聞こえてきそうです。


 ……いつのまに人がいたのでしょうか。これはうかつです。

 ともあれ、ほどなくして軽く頭を下げて去って行きました。ボールと同じ赤色の髪が揺れています。


なぎさ「場所変えたほうがいいですかね?」

マミ「そうね……」

あすみ「じゃあ私は魔女狩ってくるから。さすがに三人は多いでしょ?」

なぎさ「んん、そうですね……また今度なのです、あすみ!」



 マミという新しい後輩ができたのはいいのですが、あすみとの行動も少なくなってきています。

 あんまり三人での行動というのはしないから。

 それをちょっと寂しく思いつつも、なぎさはこの前までより寂しくはなくなりました。


 見滝原を守るという新しい目標ができて、守りたい人ができて、なぎさはまた強くなれた気がします。

 これからこの街はどうなるのでしょうか? また新しい出会いもあるのでしょうか。


 その出会いがいいものだったら、とてもうれしいなと思うのです。



―続・なぎさとあすみの見滝原 『はじめての後輩』END―
612 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/01(木) 00:05:18.45 ID:ItAIUqyj0
-------------------
ここまで
次回は3日(土)18時くらいからの予定です
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/01(木) 03:01:09.63 ID:g+XI450XO

最後のは杏子姉妹?
一区切りついたけど続き希望
614 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 19:42:41.69 ID:asx4JwnA0
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戦いの決着がついたため区切りましたが、続きはほぼ決まってるのですぐにやりましょうか。


ちなみに余談ですが、
無名オリキャラのおねーさんは『悪党すぎないレベルで性格の悪い奴』がテーマでした。
オリジナル魔女図鑑の毒の魔女が原型ですが、能力が使いやすく素性を隠したがる性質が使い勝手が良かったための起用です。
一応白女在学の良家のお嬢様設定ではあるものの、
マミより年上なのでマミが中3になる頃には生きてても誰とも学校が被らない年齢。

すがすがしく悪く描ける使い捨てキャラはなかなかいないのでそういう子は貴重です。
そういう役に出来るのは沙々かオリキャラくらい。

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615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 20:28:59.36 ID:Pe0LLK0wO
すがすがしい悪党扱いは良い意味で草
616 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 20:40:22.62 ID:asx4JwnA0
――――――――――――――――――
――――――――



 お母さん、お母さん。きいてください。

 あの日お母さんとおわかれしてからもう一年くらいたちました。

 なぎさはこの前の春に新しい学年になりました。今は新しいクラスにもなじんで楽しく過ごしています。


 そうそう、魔法少女のことも、ずっと隠してたけどここなら話してもいいよね。

 この街には魔法少女のお友達が二人もいます。

 途中、あらそいごとが起きたり、友達になりたかったのに拒まれてしまった人もいたけど……この三人は無事です。――この三人は。


 契約したのもあすみと出会ったことも、なぎさにとってはもうすごく前のことに思えます。

 なぎさはたぶん、前より強くなりました。もちろん、あすみもマミもすごく強くなったのですよ!

 魔法少女のことは楽しいことばかりじゃないけど……。きっとこれからもがんばっていけます。



 ……目をあけると、目の前にはお母さん――のお墓があります。

 今日はお父さんと一緒にお墓参りにきていました。



なぎさ「…………」

「なぎさ、もういいのかい?」

なぎさ「うん。いっぱい話せたよ。…………またね、お母さん」



 声は聞こえないけど、ここにいるんだよね? そう思っていても、今でもふと寂しくなる時があるのです。



――――――――――――――――――


 続々・なぎさとあすみとマミの見滝原


――――――――――――――――――
617 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 21:50:41.26 ID:asx4JwnA0
――――――
――――



なぎさ「――――マミ! 今ですっ、ぐるぐる巻きお願いするのですよ!」

マミ「ええ!」


 合図とともにまわりの使い魔ごと魔女を捕えるリボン。

 そこになぎさがバツグンのタイミングで仕掛けます。


なぎさ「よしっ! やってやったのです!」

マミ「やってやったわね」


 シャボンが一斉に弾けると、魔女はあとかたもなく消えます。

 マミと二人の魔女退治は今日も無事に終わりました。


なぎさ「使い魔と魔女の動きも味方の動きも、よく見られるようになりましたね。今日もこんびねーしょんはバッチリなのですよー」

マミ「なぎさちゃんが特訓してくれているおかげよ。契約してから今まで、なぎさちゃんがいるから怖くないんだもの」


 怖い思いはさせないって約束したのです。

 それをちゃんと守れてると思うと安心しました。


なぎさ「でも、『れがーれ・ばすたありあ』ってなんなのですか? この前はノートにも書いてありましたけど」

マミ「それは……必殺技よ!」

なぎさ「ひっさつわざ? ゲームみたいなのですか??」

マミ「見滝原は私たちが守るって決めたんだから、この街の魔法少女はこういう魔法少女でもいいんじゃないか……って思ってね」

なぎさ「なるほど……でもそれは一つ大きな問題がありますよ……」

マミ「なにかマズかったかしら?」

なぎさ「なぎさはラッパがあるのでしゃべれません! なぎさもやりたいですー!」

マミ「あぁ、あー……確かにそうだったわね」


 何気ない会話をしながら、魔女結界を抜けたなぎさたちは日常へと帰ります。

 具体的に言うと、マミの家へ。

618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 21:55:33.31 ID:Pe0LLK0wO
このマミは銃使いじゃないから火力低そうだな
619 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 22:17:44.79 ID:asx4JwnA0


 もちろんなぎさにはなぎさの家があるのですよ。

 でも、マミと知り合ってからはマミのおうちで食べていくことも多くなりました。

 夕方には紅茶を飲んだり、お料理の練習をしたりします。おかげでなぎさもかなりお料理が上達しました。


マミ「今日は作りたいものがあるの。私も初めて試すのよ」

なぎさ「新レシピですか! 楽しみなのです!」


 魔法の特訓はなぎさが教えてますが、料理のほうはマミのが先輩です。お勉強もマミに教えてもらうことがあります。

 たいていのことはマミのほうが先輩なのは仕方ないのです。人生の先輩ですから。


 マミと出会ってから仲良くなるのに時間はかかりませんでした。

 マミは契約してすぐに事故で両親を亡くしていて、一人で住んでいます。

 なぎさのようにお母さんだけじゃないのです。なぎさも寂しいですが、お父さんまでいなくなってたらなんて想像するのも怖いのです。


 でも、一緒にいるときは寂しくないのです! ……きっとマミだって、そう思ってくれてるのです。


なぎさ「必殺技、なぎさにはどんなのが合うでしょうか?」

マミ「そうね……なぎさちゃんだったら、やっぱりシャボン? いえ、ラッパ、トランペット、あえて角笛と捉えても戦場っぽいかしら?」

なぎさ「あすみはどんなのになりますかね?」

マミ「……モーニングスター?」

なぎさ「考えたら使ってくれるかな?」

マミ「断られちゃいそうね」

なぎさ「あすみももっと楽しんで魔法少女やればいいのに」

マミ「そう思ってくれたらいいけどね。途中から考えを変えるのは難しいのかも」


 考え出したら夢がふくらみます。この街の魔法少女はこうでいいというのにはなぎさも賛成でした。

 ――とはいえ、あすみも丸くなったのですよ? 最初からしたら……ですが。

620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/03(土) 23:27:24.85 ID:eGG3mVGA0
なぎさがあすみと出会ってから約1年か・・・
あすみはまだホテル暮らしとかしてるのかな?
621 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/03(土) 23:49:15.28 ID:asx4JwnA0


なぎさ(今は携帯もつながらないし……本当にいろいろと大丈夫なのでしょうか?)


 魔女退治の途中で会うこともあります。

 向こうから来る時は訓練場所に顔を出したり、家や学校の近くまで来たりします。

 でも、こっちは普段あすみがどこにいるのかもわかりませんし。聞いてみてもはぐらかした答えしかもらえませんでした。


 マミと同じく家族がいないと言ってましたし、一人なのはあすみもいっしょなのです。なのに寂しくないなんて言うし……。


マミ「家に着いたら、まずは紅茶を淹れるわね」

なぎさ「はい! わーい、楽しみ!」



――――――
――――――



 ――――外は暗くなってきた。



 日付や季節の感覚なんてとっくに狂っているが、時間だけは太陽が教えてくれる。それだけで困ることはない。

 私は気付けばひどく原始的な生活を送っているようだった。


あすみ(そろそろ宿行くか。でも、この前のとこはちょっと怪しまれてきてそうだな……新しいとこにする?)


 宿に長居も出来ないので日中は基本的に外だ。かといって街並みの中に興味を引かれるものもない。

 野宿はさすがにできないから、暗くなれば宿を探す生活。

 安定して居られる場所がない……というのもなかなかにストレスだ。これは1年ほど体験してみての気づき。

 最初は何事にも縛られない自由を謳歌していたが、この無駄に文明の進んだ街の明かりの中ではそううまくもいかなかった。


 街中で寝るのはごめんだけど、案外野宿も悪くなかったりして。なんて、冗談は半分で半分は本気で考えてみる。

 ……そもそも、私は街並みというのが嫌いだ。この街で信用できる仲間が出来たとはいえまた別問題だ。



 実のところ、安定した住み処が欲しければどっかの家を襲って奪うのが一番良い。

 けど、この街に来たばかりの頃だったら実行に移してたかもしれないが、今は躊躇があった。


622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/03(土) 23:53:45.82 ID:Pe0LLK0wO
1年も宿無しとかすげーな、あすみ
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/03(土) 23:58:22.63 ID:eGG3mVGA0
あすみん、やっぱりホテル暮らし(?)なのか
怪しまれてるって魔法でのごまかしが効きにくくなってるのかな?
マミに頼めば泊めてくれそうではあるけど・・・
624 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/04(日) 00:25:38.10 ID:L4Y/CL/90


なぎさ『街を守るのは魔法少女の大事な仕事なのですよ。ここは無法地帯にはさせません。なぎさたちで見滝原を守っていきましょう』


 ……なぎさの言った言葉は本当だ。あれから本気でこの街の治安を守ろうとしてるし、実際守れてる。

 最近はみんなベテランになったから狙われにくいが、最初になぎさを襲った奴以降にも無法者が沸いたことは何度かあった。


 そりゃ私だってクズなんて嫌いだ。クズに殺されないためにクズになるより、クズを許さないって考えるほうが良い。

 
あすみ(それでも私ももう戻れない。結局潔白にはなりきれない…… 矛盾してるのが腹立つ)


 正しいことだけして負けないのは恵まれてる人だけ――そして私はそうじゃない。そんなこと、前からわかってたことだけど。

 幸い、無駄遣いする癖はついてないから前の家から持ってきたお金は結構もってた。でもそれもこの前尽きたし。


 ……そういえば、思ったよりは使えていた携帯ももう使えなくなったんだった。ただのガラクタだ。

 データだけは入ってるから、昔のメールを見て懐かしむ……くらいには使えるが、位置情報とか取られてもマズい。

 社会からほとんど接点の消えたアイツがこの世からいなくなったのに気づかれるのは時間がかかったが、ついに行方不明扱いになったらしい。



 街中から遠ざかり、外れまで足を進めてきた。

 人目の届かない草原とかなら寝転んでも心地よさそうかもしれない、と思い始めたところで、ぽつんと建物の明かりが見えた。



あすみ(教会……? こんなところにあったんだ)



 もうこの街は探索し尽くしたと思ってたのに、まだ知らない場所があったのか。

 この辺りって、なぎさがマミに特訓つけはじめた頃に最初だけ使ってたとこだったか。人がいたから移ったんだった。

625 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/04(日) 00:28:22.09 ID:L4Y/CL/90
---------------------
ここまで
次回は4日(日)18時くらい…にできたらいいなあ
626 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/04(日) 00:40:24.73 ID:L4Y/CL/90
---------------------------------------------------
>>623
地の文にどのくらい詳細盛るか迷って没にしたんですが、
毎日同じところに通ってるとさすがに…って感じですね
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/04(日) 00:43:17.42 ID:pePDi2aa0
乙です

あすみが必要以上になぎさやマミに近づかないのにはやっぱりあんな過去があるからだよね
形態も止まりお金も尽きたとなるとそろそろヤバいかも

ここで杏子の実家の教会登場か・・・
なぎさ達の様子から杏子はまだ契約していないみたいだけど、杏子にあすみが関わることになったらどうなるのか
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/04(日) 00:45:09.10 ID:pePDi2aa0
>>626

なるほど、わざわざありがとうございます
629 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/04(日) 20:27:54.29 ID:L4Y/CL/90
-----------------------
本日時間とれなさそうでした…
次回は7日(水)20時くらいからの予定です
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/04(日) 20:36:20.33 ID:pePDi2aa0
>>629
了解です
水曜お待ちしております
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/04(日) 20:45:06.09 ID:pePDi2aa0
>>629
了解です
水曜お待ちしております
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/13(火) 19:15:30.95 ID:FPa9YJ/AO
あ、直ったみたいですね
633 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/14(水) 02:54:00.73 ID:GMWpDg/G0
-------------------
ふっかつ!!
次回は14日(水)20時くらいからの予定です
634 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/14(水) 20:44:22.10 ID:GMWpDg/G0


「もしかして信者さん!?」


 ……どうしようかな、なんて考えてたら声をかけられた。


 見たところマミと変わらないくらいの年に見えるけど、信者って言ったし、そこの教会の人なんだろう。

 勧誘でもされたら面倒そうだしさっさと立ち去ったほうがいい。


「って、違うか…… あれ?」

あすみ「……何?」


 面倒そうって思いが顔に出て伝わったのか、落ち込んだと思うと上を見上げた。

 日が落ちかけて、薄暗く少し濁った色の空。

 ついに私のほうにもぽつりと一粒水滴がおちてきて、こいつが何を気にしてるのか私も理解することとなった。


「やっぱり雨だ。そういえば暗くなったら雨が降るからって言われてたんだった」


 雨はちょうどパラパラと降り始めてしまった。

 たったさっきまで晴れてたのに。天気予報も見ることがなくなってたものだ。誤算だった。雨じゃ野宿はできない。

 というか、傘も持ってない。


あすみ「じゃ、さっさと帰れば? 気づいてるかもしんないけど私は信者じゃないし」


 こいつはすぐそこに家があるんだから。


 ……私のほうは、廃工場とかならあるかもしれないが、さすがにそこで寝泊まりするのは本格的にみすぼらしい。

 本格的にどうしようかと思い始める。街に戻る間にも濡れるだろう。

 このあたりにはろくな建物もないし、トコトンついてないな。そんなイラ立ちを顔には出さないようにして去ろうとする。


 ――なんて思ってたら、急に、雨が止んだ。

 いや、違った。困ってる人に手を差し伸べるように、こいつが私のほうに傘を向けていた。

635 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/14(水) 22:18:32.79 ID:GMWpDg/G0


「傘ないんでしょ? うちによってきなよ。うち、すぐそこなんだ。ほら、そこの教会」

あすみ「……なんのつもり?」


 わざわざ人に差し出しているせいで自分が入りきれてない。

 それはつくづく愚かで、やすやすと信じたくない行為に見えた。


あすみ「勧誘されても興味ないものは興味ないよ」

「勧誘は……ホントは父さんの教えを信じてくれたらいいけど、ムリにはしないよ。止むまで雨宿りに使ってってくれればいいから!」

「父さんと母さんだって、困ってる人はほっとくなって言うだろうしさ」



 行く宛に困ってたのは本当だ。だからまあ、ここまで言われればひとまずどんなものか乗ってやらないこともない。

 もちろん雨宿り以外はする気はなかった。……いつまで降り続くかはわからないが。


 教会の中に足を踏み入れてみると、そこに信者らしき人はいなかった。奥にいるのは項垂れた様子の神父が一人だけ。

 なんとまあ寂れた場所だろうか。その雰囲気には暗いイメージすら感じた。それとも、この手の場所に寄ったことは今までなかったがどこもこんなものだろうか。



「杏子、おかえり。おや、そちらの子は……?」


 それでも神父はこちらに気づくと、明るい顔で出迎えた。


杏子「そこで会った子。雨降ってきちゃったから、うちで雨宿りしていったらどうかって言ってみたんだ」

神父「そうか。それならゆっくりしていきなさい。でも、もう暗いしあまり遅くなると心配だね……」

「おかえり、杏子。帰っていたのね」

「お姉ちゃんおかえり!」


 奥からまた人が出てくる。どことなく杏子に似た女と、杏子より小さい子供だった。


「少し濡れているじゃない。今タオル持ってくるからね。ちゃんと拭かないと風邪を引いちゃうわよ」

杏子「はーい。でも本当、折りたたみもらせてもらってよかったよ。さっきまで晴れてたのに」


 しばらく自分とは無関係な会話だと思って眺めてたけど、こっちにも視線が向いた。


「あなたは濡れていない?」

あすみ「……私はべつに」


 振り始めてすぐに傘に入れてもらったし。

636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/14(水) 22:25:45.06 ID:uUcnYqIh0
あすみが契約前の佐倉家と関わるのは銅転ぶかわからないなぁ
そういえば契約前の杏子と杏子の家族が登場したの何気に初めてですかね?
637 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/15(木) 00:12:25.00 ID:AYjAczSh0


 ああいうとき、人はその行動に聖女でも思い浮かべるだろうか――私は聖職者というものを大して信用してなかった。

 胡散臭そうなイメージ。弱い人たちから集めた金で楽に儲けてるやつら。そいつらもただの人間の一部にすぎない。


 信じるほうが馬鹿らしい。どうせ、困ってるときに神などなんの役にも立たないのだから。


夫人「杏子、最近帰りが遅いみたいだけど何をしてるの?」

杏子「待ってても全然信者さん来ないでしょ? 前まで来てた人も来なくなっちゃったし……」

杏子「父さんはここを空けるわけにはいかないだろうから、あたしも『布教』ができないかって」

神父「気持ちはうれしいが、杏子……お前はそんなこと考えなくてもいいんだよ」

杏子「でもあたしも少しは役に立ちたいからさ! きっと、もっといろんな人に聞いてもらえばわかってくれる人もいると思うんだよ」


 この空間はどうだろうか。教会や聖職者、というよりも――。

 ここに足を踏み入れてからまず抱いた印象は――――『家族』。世界にはありふれていて、でも私が失ったものだった。

 それに私には兄弟もいないしお母さんと二人だけだったから、記憶の中のそれよりとても賑やかに見える。


 私はガランと空いた椅子のひとつに座って、離れたところで会話を聞いていた。

 さっき来たばかりの時以上に自分とは無関係な立ち位置で。

 言ったとおり私に勧誘はしてこない。でもこれって、勧誘や説法を聞かされるよりも面倒そうな会話かも。

638 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/15(木) 00:20:57.98 ID:AYjAczSh0


夫人「……お客さんがいる前でする話じゃありませんよ」

神父「それもそうだ。とにかく、あまり帰りは遅くならないように。心配をかけてはいけないよ」

杏子「わかった……」


 ――雨はまだ降っている。

 暗くなった空の下で輝くステンドグラスからは外の様子はよく見えないが、ザアザアと音がしていた。

 雨を凌げるのはありがたい。しばらくそのまま過ごしていたが、神父が私のほうに寄ってきた。


神父「雨、まだ止まないみたいだね。おうちには連絡できるかい? 今の子は携帯とか持ってるのかな」

あすみ「……いや」

神父「番号がわかるなら、電話を貸すよ。もう遅いし、迎えに来てもらったほうがいいからね」

あすみ「あすみのお母さんは忙しいの。まだまだ……、家には帰らない」


 ……当然嘘。でも前まで本当だったことだから、スムーズに口から出てきた。

 お母さんはいくつも仕事を掛け持ちしていたから、遅くまで帰らないことはよくあった。

 それに遅い時間のほうがお金を稼げるらしい。


神父「そうか……それは困ったね」

夫人「今日はうちで食べていく? これから夕飯の支度をしてくるから」


 断ったほうが面倒くさい相手なら受けてもいいが、さすがにそこまで世話になるのは――と思う。


杏子「で、でもさ……ねえ、分けるぶんってあるの?」


 しかし、杏子が気まずそうに言った一言で察した。

 ガラガラの教会。教会というのは弱い人から集めた金で儲けるものだと思ったが、その人もいなければ成り立つわけがない。

 他人に分け与える余裕もない奴らから毟り取る気はなかった。私は魔力で空腹を凌げるんだから。


あすみ「やっぱいいよ。帰るから。……お母さんが帰った時にあすみがいなかったら心配するだろうし」

あすみ「家に帰ればご飯くらいあるよ。へーき」

杏子「えっ…… あっ、そうだ、傘! それなら傘くらい持っていきなよ! 風邪引いちゃうよ!」


 それすら持っていかないと納得してくれなさそうだから、傘だけ借りることにした。

 自分たちも恵まれてないくせに。持たない者のくせに。身を削ってまで人のために捧げようとするから愚かなんだ。



 …………それにしても、この嘘はあんまりつきたくないな。嘘をつくたびに、心がきゅっと締め付けられている気がした。



ーーーーーー
639 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/15(木) 00:23:58.24 ID:AYjAczSh0
------------------
ここまで
次回は17日(土)18時くらいからの予定です
640 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/17(土) 22:33:20.41 ID:YedeZINr0
--------------------
(普通に忘れて別の予定入れてたことに今気づく…)
(次回は18日(日)18時くらいからの予定です…)
641 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/18(日) 18:50:31.55 ID:jTjW8wNW0
ーーーーーー




モモ「おなかすいたー! 今日のごはん何!?」

夫人「今日はハンバーグよ」

杏子「ハンバーグ!? やった、ごちそうじゃん!」

モモ「……」

杏子「……どうしたんだよ、モモ。うれしくないのか? モモも好きだろ?」

モモ「だって……どうせまたお豆腐なんでしょ?」

夫人「え、ええ。でも美味しく作るから」

モモ「やっぱり! 本物のお肉が食べたいよ!」

杏子「こ、こら。わがまま言っちゃだめだって。そりゃあたしも本物のがいいけどさ……食べられるだけでも感謝しないといけないんだぞ」


神父「……そうだ。我々が口にするものはすべて、神様がお恵みくださった命なんだ。感謝して頂かなければいけないよ」

神父「今日も皆で祈ろう。神への感謝を忘れれば心まで貧しくなってしまう。それが一番恐ろしいことだ」

モモ「……」

杏子「うん……」



 ――教えを説く神父は、子供たちの目にどう映っただろうか。二人は神妙な顔で見つめていた。



神父「心さえ満たされていれば、神はきっと私達を見捨てはしない」



ーーーーーー
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 19:58:43.63 ID:wu5QQGIOO
あすみが佐倉家の事情を知ったら、杏子の父親を嫌いそうだよな
大人の身勝手な理屈で子供を飢えさせるな!って
643 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/18(日) 20:00:12.27 ID:jTjW8wNW0
ーーーーーー



 日の高い昼過ぎ、一見外から見えない土手からはよく知った人の気配があった。

 なぎさとマミが訓練場にしている場所だ。


 昨日の雨は朝には止み、すっかり晴れている。



なぎさ「あすみも来てたのですね」

あすみ「あぁ、ちょっと寄り道してみただけ」

なぎさ「どこかにいく途中でしたです?」

あすみ「……いや別に?」


 行き先が辛気臭い教会だなんて似合わない。当然信者になったわけでもない。

 今日はちょっと、用事があるだけだった。


なぎさ「今日こそは一緒に訓練しませんか?」

あすみ「やらない」

なぎさ「え〜っ、なんでですかー」

あすみ「訓練なんて今更だし、実戦で事足りてるよ。それにマミのことは私は面倒見ないから」

なぎさ「じゃあ昨日考えたことがあるので聞いてほしいのです! あすみの必殺技なんですけど――」

あすみ「却下」


 こいつらは真面目に訓練してるのかと思ってたら、私には考えつかないようなことをしてたりする。

 おそらく何かの波長が合ってしまったんだと思うが、ますますわからない世界になってきた。


なぎさ「……なぎさたちが訓練をはじめてから一年も経ちました。あすみも油断はできないかもしれないですよ?」

あすみ「は? なにそれ、何が言いたいの?」

なぎさ「ふふふ、一回マミと手合わせをしてみたらどうかってことです! マミは一年の間コツコツと修行を積み重ねてきたのです。なぎさの指導のもと」

なぎさ「マミにとっても力を測るいい機会になると思うのです。もちろんあすみにとっても……悪くないと思うのですが?」

あすみ「…………」

644 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/18(日) 20:53:46.20 ID:jTjW8wNW0


 私もこいつと付き合ってきて一年超。

 負けん気でも刺激して乗らせようって魂胆は大方読めた。


 さっきから何も言わずに後ろにいる巴マミを見る。それを理解した上でも……あまり興味が沸かない。


あすみ「あー無理無理、そっちでやってて。私はちょっと見に来ただけなんだって」

なぎさ「そ、そうですか……どうしてもというなら仕方ないですが……」


 なぎさは少し残念そうだ。肝心のマミのほうはどうだか。


なぎさ「ところで、どうして傘なんて持ってるのです?」

あすみ「これ、私のじゃないんだ」


 昨日借りた傘。

 ずっと持ってても荷物だからさっさと返しておきたいところだった。

 借りがあるから、というよりは邪魔だから返すってのが大きかった。それだけの用事だ。


あすみ「……もういいかね? 行くよ?」

なぎさ「は。はい。でもちょっとまだ聞きたいのですが……」

あすみ「ん?」

なぎさ「普段って何をしてるのです?」

あすみ「……。何をって」

なぎさ「気になっただけなのです。でも、知り合ってからたくさんたつのにあすみのことは知らないことばっかりなので……」


 そう聞かれれば、今日もいつもの言葉を返す。


あすみ「さあ。テキトー」



 ……なぎさはやっぱり残念そうだった。


645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 20:57:19.36 ID:wu5QQGIOO
あすみ、誘いには乗らなかったか
646 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/18(日) 23:14:07.96 ID:jTjW8wNW0



 ――――なぎさたちがいたトコよりもさらに風見野側に寄った街外れ。

 昨日と同じあの場所は、暗かった時と違い、昼間の光の透き通るステンドグラスが立派な教会らしい雰囲気を作っていた。

 扉の前まで来ると中から声が聞こえる。


あすみ(……歌声? なんかのイベントの最中?)


 合唱というには少ないものの、明るい声に昨日の寂しげなイメージが遠のく。昨日は誰もいなかったけど、ほかの日は少しは信者もくるんだろうか?

 しかし、その中を見れば昨日見たのと変わらなかった。



杏子「あっ、信者さん……じゃ、ないか」



 広い教会の中にいるのは神父の家族だけ。

 扉を開くと歌は止まり、杏子が昨日と同じ期待から落胆に変わるような声をあげていた。……こっちに期待をかけられても困るんだよ。


あすみ「昨日の傘を返しに来ただけだから」

神父「ああ、ありがとう。昨日は何事もなく帰れたかい」

あすみ「あー、おかげさまでね……」

あすみ「ていうか、さっきまでなにかやってたんじゃなかったの? 人、いないように見えるんだけど」

神父「日曜日は礼拝の日だよ。残念ながら信徒の姿はないが、私達だけでも祈りは必要だからね」


 そんな行事のことは知らなかったが、どおりで太陽も高いのにみんな外にいたわけだ。こいつらも、学校はあるだろうし。

 礼拝ってたぶんメインの行事。そこに人がいないってことは楽観的な思考を持つまでもなくほぼ壊滅状態ってことだ。これで成り立ってると言えるのか。

 こんな宗教に興味はないが、疑問はいろいろ沸いた。

647 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/18(日) 23:22:23.15 ID:jTjW8wNW0


あすみ「何を祈ってるの?」

神父「世界がよりよくなることだよ。飢え、貧困、戦争、病気……あらゆる不遇の運命と苦しみにあえぐ人々をお救いいただけるように」

あすみ「その中に自分たちは入ってないの?」

神父「苦しむ人々は大勢いる。自分たちのことだけを考えていてはいけない。きっと、神も耳を傾けてくださらないだろう」

あすみ「……祈ったところでどうにかなるの? 苦しむ人が救われるのが神様のおかげなら、救われないのも神様のせいじゃないの?」

神父「…………」


 神父は、黙った。

 今まで優しげに語っていたその表情も、声色も、消え去って。――ただただ、悲しそうな目をしていた。


杏子「……教えを信じない人に押し付けることはしないけど。ただ、一人でも多くの人が他人のことを思って、この教えを信じていれば……苦しむ人も減る」

杏子「そうは思わない?」


 そうだな。そういうことにしておいてやろう。


 けど、現実問題無理な話じゃないか? 現にこの教会には誰も集まっていないのだから。

 土台無理なことを唱えていたって意味がない。


神父「礼拝を再開しようか」

あすみ「私は出てったほうがよさそうね」

神父「教会は自由な場所だ。神は皆を平等に愛しておられる。好きに出入りして構わないよ」


 神父もこの一家もいい人ではあるんだろう。

 とはいえそう言われたところで、今のこの雰囲気の中で過ごしたいとは思わなかった。

 けど、この建物の外ならしばらくはいてもいいかもしれない。都会よりは居心地がいいし、小さく聞こえる歌を環境音にするくらいなら悪くはない。


 ……やること、ないもんなぁ。


648 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/04/18(日) 23:30:29.78 ID:jTjW8wNW0
-------------------------
ここまで
次回は23日(金)20時くらいからの予定です
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 23:32:15.71 ID:wu5QQGIOO
人の悪意を散々見てきたあすみに神の教えなんて現実を見ない綺麗事に過ぎないからなぁ
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/18(日) 23:34:04.47 ID:wu5QQGIOO

651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/04/29(木) 20:52:58.19 ID:SLIgD1nH0
またVIPが繋がらなかった為か更新きてないなぁ・・・
652 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/08(土) 20:09:18.04 ID:QSjDHuiE0
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私事ですが、少し前に目を手術しましてしばらくお休みしてました
ぼちぼち再開します
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/08(土) 22:39:46.35 ID:uhwJLzBi0
目の手術って・・・スレ主さん、大丈夫なんですか!?
ご無理はなさらないでくださいね。
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/09(日) 19:52:38.82 ID:ChMpD05+0
再開は嬉しいけど無理はしないで
655 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/09(日) 21:38:07.07 ID:TdKu0VZq0
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視力矯正目的なのでとくに怪我とかではないですよー
心配してくださってありがとうございます
656 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/09(日) 22:03:38.55 ID:TdKu0VZq0



あすみ(……魔女でも狩ってくるか、魔法少女らしく)



 ――――しばらくボーッと時間を潰していたが、思い立って立ち上がる。

 いつまでもこうしてても仕方ない。やるべきことは大してないが。


 街の方へ足を向けて歩いていると、その途中でばったりと見知った人物に出くわす。それは、まだ日が高かった時にも見た顔だった。



なぎさ「あっ、あすみ」

あすみ「…………訓練終わったんだ」



――――――
――――――



 ――――あすみとはさっきぶりです。

 あすみの言うとおり今は訓練が終わって、その帰りでした。


なぎさ「はい! さっきぶりなのです!」

あすみ「で、帰るの?」

なぎさ「はい。今日はおやすみの日なので、あまり遅く帰るとお父さんもきっと寂しくなっちゃうのです」

あすみ「あー……そーだね」


 いつもどおり、興味のなさそうなそっけない返答です。

 あすみのほうは、訓練の途中に会った時に見た傘はさすがにもう手元からなくなっています。


なぎさ「あすみのほうももしかして今帰りなのです? お友達に会ってきたんですよね?」

あすみ「友達ィ? いや違う。別にそういうんじゃないから。そういうのいないって前言わなかったっけ?」

なぎさ「でもそれけっこう前ですよ?」

あすみ「その時から何も変わんないよ」


 あすみはそう言いましたが、あすみの場合は照れ隠しもあるので勘違いなのかはよくわかりません。

 たしかに前に友達がいないとは聞きました。でも実際その直後に一人は増えたのです。あすみもなぎさのことを友達だと言ってくれたのですから。


 ……でも、あれからなぎさがマミと一緒にいるようになって、今はあすみとは少し離れてしまったように感じます。

 というより、二人なら変わらなくてもマミがいると少し遠慮しているような。マミとはまだそこまで親密になれていないのかもしれませんが――。

 マミがいても、それはやっぱり寂しく思うのです。それに、もっと遠慮せずに頼ってほしいですから。

657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/09(日) 22:54:16.36 ID:+XKjsuNi0
>>655
怪我とか病気でなくてよかったです。
658 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/09(日) 23:30:17.96 ID:TdKu0VZq0

あすみ「じゃ、こっちはこれから魔女狩りだから」

なぎさ「あっ、これからですか? じゃあなぎさも行きます!」

あすみ「帰るんじゃなかったの? お父さん待ってるんでしょ。帰ってやりゃいいじゃん」

なぎさ「んー、さっきはそう言ったけど…………」


 一緒に行くことも減ってしまったから、行けるときには一緒に行きたい。

 けど、そう言われると。


なぎさ「なら明日でどーでしょうか? 放課後の時間、マミも誘って三人でいくのです」

あすみ「三人も要る? いつも二人で行ってるんでしょ? 遊びじゃないんだし、余計に人増やしても意味ないよ」


 ……こういうところの考え方はあすみは本当に厳しい。でも、ちゃんとメリットがないわけじゃないはず。


なぎさ「手合わせは断られちゃいましたけど、同じ街にいるからにはほら、たまには連携とか! 試してみても損はないと思うのですよ」

なぎさ「こっちは『前に見た時と変わらない』、とは言わせませんから! なぎさもマミも毎日鍛えてますからねっ」

あすみ「…………」



 数秒の考えるような間。考えるまでもなく一蹴されないのなら上出来です。



あすみ「……そこまで言うならわかった。明日ね」

なぎさ「はい! では詳しいことはまた連絡を――――……って、そういえば今ってどうなってるのです? 携帯は使えないのです?」

あすみ「ああ、そうだった。詳しいことは今決めてくれる?」

なぎさ「というか……何かあったのですか?」

あすみ「さあ? なんだろう? 私も携帯には詳しくないしなー」

なぎさ「だったら誰かに相談したほうがいいのじゃないのですか!?」

あすみ「……」


 あすみは肝心なことは何も言いません。今のも明らかにはぐらかしているのだとはわかるのです。

 本当の理由は、別に専門的なところにはないはずで。


なぎさ「……なぎさに相談してもいいのですよ。『友達』なので」



 ……『明日の約束』を決めて、今日は別れました。

 あすみは本当に頑固です。



――――
――――
659 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/09(日) 23:36:30.89 ID:TdKu0VZq0
----------------------
ここまで
次回は10日(月)20時くらいからの予定です
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/10(月) 00:24:11.49 ID:QePXqFF/o
待ってた
レーシックかな?
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/10(月) 20:26:56.74 ID:R4GbBCMoO

次回の魔女狩りで何か起きそうだな
無理のない範囲で続きを
662 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/10(月) 21:21:47.95 ID:qwAanwFA0
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レーシックではないですね、コンタクトをインプラントするやつです
663 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/10(月) 22:00:12.84 ID:qwAanwFA0




 ――――昨日マミにメールを送って、放課後になると先に二人で無事合流することができました。

 マミとは普段からこうしてよくやりとりしています。訓練や魔女退治の連絡も、それ以外も。


 雑談を交わして、途中でマミがふと時計を確認しました。


マミ「約束の時間まではあと少しね。今日は神名さんもくるんでしょう?」

なぎさ「はい。時間になって見つけられなかったら、とりあえずテレパシーを試してみることはできますけど……」


 連絡手段のないあすみとの待ち合わせは、昨日くわしいことを決めたとはいえ不安になってきます。

 今までは魔法なんて使うまでもなくできてたことだから、日常生活で魔法に頼るのは少し気が引けます。

 でもまあ、使えなくなったのならそうも言ってられません。


マミ「なるほど、そういえばそういうやりとりの方法もあるわね」

なぎさ「でも、近くにいなければどうしようもないのです。もしなにも返ってこなかったらまたもう少し待ってみますか」



 話しているうちにも時間が経ち、待ち合わせの時間になりました。

 ……テレパシー。結果は返事こず。



マミ「まあ、まだちょうどだもの」

なぎさ「……前はそんなに遅れるほうじゃなかったんですけどね。遅れるにしても連絡はきましたし」



 それからもテレパシーを試しながら待っていたものの、何度目かになるとちょっと心配になってきます。

 今は何かあっても連絡はとれない。もちろん、あすみがそうそう戦いで負けるとも思えませんが。

 魔女はもちろん、悪い魔法少女に狙われた時もえげつなく返り討ちにしてるのを知っているのです。


 ――――そんなことを考えていると、なぎさの心配をよそにあすみはひょこりと現れました。


あすみ「お、もう揃ってるか」

なぎさ「揃ってるって、そりゃあっ」



 しかも拍子抜けするような態度の軽さですっ。人の気もしらないでっ。


664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/10(月) 23:04:49.28 ID:vkr41D7B0
お、続き来てる!
なぎさは最近あすみと関わってなかったせいで過保護ぎみかな?
665 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/10(月) 23:19:39.70 ID:qwAanwFA0


あすみ「そんなに過ぎてた? あーごめんごめん」

なぎさ「もーーっ。今来たのです? 何度かテレパシーまで試したのですよ!」

あすみ「最近あんまり時間を気にすることもなかったからさー」

なぎさ「むむむ……」

あすみ「怒るなよ、その分魔女をさっさと倒してやるからさ。さ、行くよ」


 遅れてきたのになぜかあすみが仕切ろうとしてます。それだけ見れば怒りが湧いてもおかしくないと思うのですが。

 久しぶりの待ち合わせで、前と違って……そう考えると、怒るよりも前よりどこかが変わってしまったような違和感を覚えてしまうのでした。


なぎさ「別にそんなに怒ってるわけじゃないのです」

あすみ「そう? ならいいや」

なぎさ「よくはないですけど!」


 そんななぎさたちを見て、なぜかマミは笑っています。


なぎさ「ま、マミまでなんなのですか??」

マミ「仲良さそうだなって。二人だけの時にはこんなの見られないもの」

なぎさ「マミは優等生さんですからねえ……それに、二人だとなぎさのほうが師匠なので」

あすみ「……師匠なんて、いつのまにかずいぶんと楽しそうな関係になってるのね」

なぎさ「楽しそうですか? あすみも混ざってもよいのですよ!」

あすみ「それはエンリョしとく」




 そんな会話をしながら、なぎさたちはようやく歩き始めます。

 ――――ほどなくして魔女の結界を見つけました。



なぎさ「ここは空き地みたいですけど、人のすんでる家も近くにあるしほっといたら危なかったのです」

なぎさ「でも見つけたからにはもうアンシンなのです!なぎさたちでやっつけちゃいましょう!」

マミ「ええ!」


666 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/10(月) 23:24:33.16 ID:vkr41D7B0
師匠といえばマミに最初に戦い方を教えたのはあすみなんだよね
667 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/11(火) 00:26:04.35 ID:Z314tfrJ0


 あすみが横から何かを言いたそうな、呆れたような目で見ていました。


あすみ「いつもそんなテンションなの?」

なぎさ「え? まあ……マミとはいつもこんな感じですけど、あすみと一緒のときはこういうのはなかったですね」


 言われてみると、なぎさも前より少し変わっていることに気づきます。


なぎさ「あすみはこういうの好きじゃないかもしれないですが、やってみると気合が入るものですよ?」

あすみ「マミ、アンタも?」

マミ「そ、そうね。こういうふうに言ってくれるのは助かってるわよ。気合が入るし、自分の力で人助けできるんだって思えば恐怖だって薄らぐから」

あすみ「あぁそう」


 三人いれば使い魔が出てきてもすぐに倒せます。

 順調に進みながら、段々と深層へ近づきつつあすみがマミに問いました。


あすみ「……ねえ、アンタってたまには一人でも魔女狩りに行ってるの?」

マミ「一人ではないわよ?」

あすみ「まだ過保護してんの? マミももう一年くらいでしょ? 新人でもないのに」

なぎさ「そう言っても……せっかく仲間がいるんですし、なぎさのほうが師匠です。マミのことはなぎさが守るって言いましたから」

なぎさ「それはいつまでも変わらないのです!」

あすみ「……」


 足を進め、たどり着いた小部屋の奥には、広い空間と魔女と思わしき姿がありました。

 それを取り囲む使い魔たちも。


 ひと呼吸の後、いよいよその奥へと踏み入れます。


あすみ「確かに戦い方はマシになってるように見えるけど、最初に見た時からやっぱ変わってないね」

マミ「……?」

なぎさ「え?」


 あすみの言葉がきになりましたが、今は魔女に集中です。

 ――広間に足を踏み入れた瞬間、魔女がこちらを見てけたたましい鳴き声を上げます。

668 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/11(火) 00:44:09.12 ID:Z314tfrJ0
------------------
ここまで
次回は12日(水)20時くらいからの予定です
669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/12(水) 22:24:46.56 ID:YmhiDaZ90
何があったんだ?
670 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/12(水) 23:45:08.19 ID:e3/XKApQ0


 「!」


 それを合図に、使い魔が一斉になぎさたちのほうに目を向けます。

 前方から襲い来る影多数。

 数を相手にするならこちらも数。ラッパを構えて吹きます!


なぎさ「そっちから来るなら早いのです! シャボンでおでむかえしてあげるのですよ!」


 虹色に光るシャボンは足止めにも攻撃にもなります。

 新しいシャボンがぷくぷくと浮かんでは弾け、使い魔とともに消えていく。タイミングや威力の調整も今では完璧に操ることができるようになったのです。


 一気に残り少なくなった使い魔の軍勢に、ついに奥で構えていた大型の魔女が動き出します。

 ――思ったよりも速い動き。


なぎさ「マミ、まずは魔女の動きを封じちゃってください!」

マミ「ええ!」


 あすみがすかさず突進してきた魔女の動きを殺すように頭を一発重い鉄球で殴りつけ、よろめいた隙にマミのリボンで完全に確保。

 
 あとは煮るなり焼くなり、というやつです。

 二、三発さらにあすみが攻撃を入れると魔女はグリーフシードを残して消えました。


 ほっと一息つきます。すべては順調でした。今日も誰も傷つくことがなく終わってよかった。


なぎさ「やりましたね、あっという間でしたよ! みんなの力です!」

あすみ「ちなみに参考までにさ、マミだけでトドメを刺すとしたらあれからどうしてたの?」

なぎさ「マミにはリボンで縛ったあと魔力をこめて爆発させる、『フィナーレ』って技があるのですよ! リボンもほどけちゃうので本当に最終奥義なのですけど」

なぎさ「まあそれで終われなくてもなぎさがいるので大丈夫なのです。なぎさがいるかぎりぜったいに傷つけさせませんから」

あすみ「……ふーん」


 聞いておいてなんだか興味なさそうな返事です。

 まあ、あすみはいつもこんな感じなのですが。

671 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/12(水) 23:47:53.65 ID:e3/XKApQ0


あすみ「でもそれ、前にも聞いたけど、一人のときはどうするの?」

あすみ「いざ追い込まれてどうしても一人で戦わなくちゃいけなくなった時は、全力で戦えるの?」

あすみ「……それとも、死ぬの? 逃げるの?」

マミ「それは……」

なぎさ「……なんでそんなことを? それでも今なら戦えますよ。きっと。たくさん練習してきたし、一緒なら戦えてるのですから」

あすみ「私が変わってないって言ったのはそういうことだから。わざわざ手合わせなんて試さなくてもわかるの」

あすみ「年月以上に、その覚悟の違いって大きいよ? いざという時を経験してきてない人に負けることなんてないって」

なぎさ「そんなの、経験する必要なんてないです!」

あすみ「まあそうかもしれないね。守ってもらって生き延びられるなら、それでもきっと間違ってはないんでしょうよ」



 ……あまやかしてる、のかな?

 でもやっぱり、一人で戦う意味なんてないし、それが良いことだとも思いません。


 なぎさは強くなれました。魔女に苦戦することもそうそうありません。マミを傷つけさせることがないように守ることができるのです。

 それは師匠としての、なぎさの役目ですから。



――――――
――――――
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/12(水) 23:49:22.27 ID:pHGsJJM40
12日ギリギリ来てくれましたねw

やっぱりマミは攻撃手段がリボンだけか・・・
サポート役に徹しれば強いけどソロだと火力が無くてキツそうだなぁ
673 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/13(木) 00:40:03.70 ID:ntiGv1dh0



 ――――魔女狩りを終えて、さっきまで三人で歩いていた道を一人で歩く。


 なぎさが提案してきたマミと一緒の魔女狩り。三人といっても、戦ってる時には二人のときとほとんど大差はなかった。

 補助的な拘束能力は強いかもしれないけど、動きを止める手段も叩きのめす手段もすでに足りている。ある程度強くなれば大抵は身につくものだ。

 マミのことはなぎさが過保護なほどに気にかけているとは思っていたが、イマイチ主体性が見えてこなくてあまり興味が持てなかった。


あすみ(いや……もともと任せるつもりだったんだし、私が口を挟むことでもないな)

あすみ(あいつがどんな魔法少女になろうが勝手だ。少なくとも悪事に手を染める方向に走ってないだけかなりマシな部類)

あすみ(ただ、そういうのがあまり好きになれないだけ)


 一方で、なぎさは強くなってた。

 それにマミのことやら街のことやら、『守りたいもの』とやらができたからか。



あすみ(……まだ、明るい。これからどうするかな)



 なんとなく歩いてみて、なんとなくまたあの教会に向かってることに気づいた。

 一応、好きに出入りしていいと言われた場所。

 ヒマではあるが雨風しのげて、人気がない分落ち着いて過ごせる場所ではあった。

 扉を開ければ優しく出迎えてくれる。そんな場所が他にないというのも事実で。



 ……教会の人たちもあれこれと事情を聞いてくることはない。ただ、どんなふうに思われているかは察しはつく。

674 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/13(木) 00:44:29.82 ID:ntiGv1dh0
-----------------------
ここまで
うーん、開始も終了も遅くなって申し訳ない…
次回は15日(土)18時くらいからの予定です
675 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/16(日) 00:00:53.56 ID:WA9aFN+R0



杏子「ただいまー! あ、今日も来てくれてるんだ」

あすみ「来ていいって言われたから来てるだけだよ。どこにいても暇なのは変わんないけど、同じ暇ならこのくらい人気がないほうが落ち着けるし」


 そう言うと、人気がないってのに引っかかったのか複雑そうな顔をする。


あすみ「……あぁ、皮肉言ったつもりはなかったんだけどね? 今日もまた布教とやらをしてきたの?」

杏子「まあそうなんだけど……ダメだったよ」

あすみ「そっか」

杏子「いきなり話しても怪しまれるから街で困ってる人がいたら助けて、そのついでに……っていうふうにしたんだけど、話そうとした途端逃げる人ばっかりで」

杏子「ひどい人だと暴言まで吐かれちゃって、ちょっと参ってきちゃったよ」

あすみ「まあー……そうだろうね」


 それは私だってそうする。

 関わり合いになりたくないと思えば必要以上にキツい言葉を言ってでも断って逃げる人がいるのもわかる。

 けど、善意を仇で返されるのはそりゃまあ堪えるだろう。


杏子「でもたしかに、下心ありきで助けるのは良くない気もしたんだ。どうしたらいいと思う?」

あすみ「私に聞かれてもな」

杏子「そこをなんとか! 信者じゃない人から意見を聞いてみたくて!」


 杏子が切実に頼んでくるものの、少し考えてみてもまともなアイデアは浮かばなかった。


あすみ「……敷居が高いのはしょうがないよ。断って逃げる人はどう接したって興味持たないだろうし、話に乗る人ってのは大体最初から興味を持ってる人だけだ」

あすみ「いきなり増えやしないよ、洗脳でもしない限りは」

杏子「魔法の力でもないと無理ってこと?」

あすみ「どうかな、現実的にも洗脳ってあるもんだよ? 拉致って囲んで信じるまで説得する宗教団体もあるって聞くけど」

杏子「そんなのがしたいわけじゃないよ。うちはそんなのとは違うし!」

あすみ「……魔法だったらクリーンなわけでもないでしょ」


 取り繕っても仕方ないと率直に言ってやれば、杏子は目に見えて落胆した。

 そこに、「無理を言って困らせるものじゃない」とやりとりを見ていた神父がなだめに入る。



 ……よく見れば、みんな最初に見た時よりもやつれていた。

676 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/16(日) 00:52:17.70 ID:WA9aFN+R0



 遅くなりすぎないうちに立ち上がる。

 ここの人たちは、探ってはこないがあれこれと世話を焼くのが好きな人たちだ。

 あまり居座ってたら自分たちの分もろくにない物をまた分けてこようとしかねない。



あすみ「いつのまにか私みたいなのが一人で居座る場所になってて悪いね? なんだか貧乏神みたいになってきちゃってるかも」

神父「構わないよ。ここを居場所に思ってくれるのなら、何者だって拒まないさ」


 私の魔法で洗脳はできないが、私の力は『呪い』だ。人を害するためのもの。そう考えれば、この場所はなんて私には似つかわしくない場所だろうか。

 ……果たしてそれを知ってもこの優しい神父と家族は拒まないのだろうか?



 教会を出れば、再び煩雑とした街中へと戻っていく。


 そんな日が数日続いて――――。


 教会の家族の顔色は日ごとに酷いものになっていった。

677 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/16(日) 01:03:25.00 ID:WA9aFN+R0
------------------------
ここまで
18時とはなんなのか…
次回は16日(日)できれば夕方に…!
678 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/16(日) 20:12:27.06 ID:WA9aFN+R0


神父「――――どうしてこんなことをしたんだ!」


 ある日の教会は珍しく騒がしかった。

 まったくいい意味じゃない。神父が怒ってて、シスターが泣いてた。

 どうやら杏子が何か食べ物を盗んできたらしい。

 ……私からすればちっぽけな悪事だけど、神父にひっついて世の中を良くするだとかなんとか言ってたアイツが、ねえ。


神父「こんなことをして私達が喜ぶと思ったのか? 人様に迷惑をかけてまで腹を満たしたいなど思わない! もしバレなかったらどうするつもりだったのだ!?」

神父「私達の神はいつでも見ている。盗みを働き、嘘をつき、神を裏切ったまま平気な顔をして過ごすつもりだったのか!」

杏子「……」

モモ「お姉ちゃん……」

夫人「私は悲しいわ……杏子がこんなことをするようになるなんて……こんなことをさせてしまうなんて」


 私は冷めた目で見ていた。神なんていやしないし、ましてや助けてくれるわけがない。

 こんな場所だというのに、わかりやすいほどにそれが証明されていた。そりゃこんな場所に信者は増えない。

 やつれて見えたのは勘違いなどではなく、本当に限界だったのだ。もちろんそれは行動を起こした杏子に限ったことじゃない。


 ――でも本当に餓死したほうがマシ? プライドのために死ぬなんて馬鹿らしくない? 相手はそれで死ぬわけでもないのにさ。

 杏子の行動は綺麗事言って怒ってる神父サンより理解できた。なんの力もない人間がこの状況で、こうするしかなかったってわけだ。


神父「反省していなさい」

杏子「……はい」


 杏子は祈りのポーズでうつむいている。あれが懺悔とやらのつもりなんだろうか。

 なぎさならこんなカワイソウな家族を見れば、汚れのひとつもない魔法のケーキでもポンと差し出してやったりするだろうか?

 私にはそんなことはできない。



あすみ「なんかやらかしてきたの?」

杏子「……聞かれてたんだ。幻滅したよね。これじゃ父さんの教えを広める資格もない」

あすみ「そう? 私はよく知らないけどさー……バレないようにやればよかったのに」

杏子「あ――あんたも物盗んできたことあるの!?」

あすみ「さあねー」

679 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/16(日) 21:06:38.82 ID:2jwCK4oX0
説法だけではお腹は膨れないからなぁ・・・
状況的にそろそろキュウベェが営業しに来そうだけど。
680 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/16(日) 22:01:18.12 ID:WA9aFN+R0


 杏子はまだ疑うような目で見ている。


あすみ「あーあ、この場所もそろそろおしまいか。せっかく気兼ねなく足を休められる場所ができたと思ってたんだけど、仕方ないか」

杏子「ど……どうして!? あたしのせいでそこまで!?」

あすみ「いやいや、それ以前の問題だよ。こんなガタガタでこれ以上続けてられないでしょ?」

あすみ「強いて言うなら、家族のために盗んでこなきゃ食える物もないような状況になる時点でもうおしまいってやつ」

杏子「そんな……」

あすみ「そもそも、なんでこうなったわけ? 最初からこうだったら生きてこれてないだろうし」

杏子「……もともとうちは今とは違うもっと大きい宗派だったんだ」

杏子「でも父さんはどうしたら世界がより良くなるかって考えて、本部の教えにないことも言い始めるようになって……そしたら本部から破門されて、人も離れた」

あすみ「ふーん、あぁそう……難しい世界なのね」


 もとより私は教会も神父も善とは見ていない。所詮人間だし、ソイツらの中身なんてわからないからだ。

 大きな組織ともなれば何かしがらみでもあったんだろう。足並み外れたことをしはじめるのは大抵気に入られないものだ。


あすみ「まー、ダメだったならしょうがない。ちゃんと頼めば少しは国も面倒見てくれるみたいだよ。早めにこの教会と下手なプライドを捨ててそうするように言ってみたら?」

杏子「いやだ……そんなのいやだ」

あすみ「でもアンタはプライドよりも生きることを考えたから盗みに手を出したんじゃないの?」

あすみ「祈ったってなんにも起きないよ。ていうか、誰かが助けてくれる、誰かがなんとかしてくれるって思いながらなんにもできない弱い人たちって――――……」

あすみ「私は嫌いなんだ」

杏子「……!?」


 ……むっとした感情が伝わってくる。

 まだ悪意ってほど強いわけでもないけど。

681 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/16(日) 23:31:36.58 ID:WA9aFN+R0

あすみ「ま、私を恨まないほうがいいよ? これ以上不幸になりたくはないでしょ?」

杏子「は……? なにそれ」

あすみ「私がアンタたちの世界をよく知らないように、アンタにも知らない世界があるってことかなあ」


 私が煽ったせいで悪い事が起きるのは面白くないので一応それとない忠告をしてみる。が、よくわからなそうな様子だ。

 わからないならそれでもいい。……あるいは。もしかしたらこいつにも素養はあったりして?

 それならそれで、自力で生きられるようにはなるかもしれない。死も身近にはなるけど。


あすみ「私のこと、他に居場所がなくていつも一人でいるカワイソウな子供だと思ってたんだよね? まあ……どう思われるのかくらいは察してたさ。そんなに間違ってはないし」

あすみ「見下してるつもりはないのかもしれないけど、自分よりか弱いと思ってた相手に強く出られると『なんでアンタなんかにそんなことを言われなきゃいけないんだ』って思っちゃうものだよね」

杏子「そんなつもりじゃ!」

あすみ「嘘だ、図星って顔してるもん。まるで心の中で思ったセリフを読み取られたみたいにさ?」

杏子「いや……なんでそんなこと言われなきゃいけないんだとは思ったよ。でも、そうだな、あたしには……なにもできないな」


 ……怒った後は落ち込んだ。

 忙しいやつ。


あすみ「……どうせなるようにしかならないもんだよ。その中で後悔しないように選ぶしかないわけじゃん」


 とはいえ、杏子には選ぶことすらできないのかもしれないけど。

 これからどうするかを一番に握っているのはあの神父サンだ。綺麗事の真綿で自分たちを締め続けるような理想をどこまで追いかけるつもりだろうか。


――――――
――――――
682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/16(日) 23:55:14.48 ID:2jwCK4oX0
まぁ、杏子の父親が貧困の元凶・・・じゃない原因なのはあすみもわかってるか、さすがに
683 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/17(月) 00:17:23.51 ID:rQjth1so0


 ふわふわと浮かぶシャボン。

 そこを次々とリボンが切り裂いていきます。――――今日もマミとの訓練。小さな動く目標に狙いをつけるトレーニングです。


なぎさ「今日の狙いも正確ですね! 前よりも短い時間でシャボンをすべて割れるようになってます!」

マミ「ええ!」

なぎさ「これならもぎせんとーでなぎさに勝つ日も近いかもですね〜」


 最初の頃はなかなか狙った場所にリボンを当てられなかったものでした。

 マミのノートには狙う位置やコツなど、その時感じたことが細かく注意書きしてあります。このノートはこれまでの経験の積み重ねなのです。


 訓練に一区切りがつくとマミはノートを見返して、それからなぎさに聞いてきました。


マミ「私、ちゃんと強くなってるわよね」

なぎさ「当然なのですよ! これだけ訓練してますし、実際にいろんなことができるようになってるじゃないですか」

マミ「ええ。そうよね」


 『わざわざ手合わせなんて試さなくてもわかるの。いざという時を経験してきてない人に負けることなんてないって――』


 ――……あの時あすみに言れた言葉。あれをまだ気にしているのでしょうか。


なぎさ「じゃ、今日も魔女退治に行くのですよ!」

なぎさ「終わったらお茶会にしましょう! あと……ちょっと今日の宿題も見てほしいところがあるのです」

マミ「ええ、あとで一緒にやりましょうか」



 二人で陽々と訓練場所を離れていきます。

 最初の頃のマミは、魔女退治となると緊張で顔をこわばらせていました。

 でも今はにこやかで楽しげ。それに安心します。

684 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/17(月) 00:23:15.16 ID:rQjth1so0
---------------------
ここまで
次回は18日(火)20時くらいからの予定です
685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/17(月) 00:27:02.56 ID:N/zcfhgU0
うーん、マミさんは原作のような挫折を経験してないからちょっと危なげかな?
といってもなぎさ編でも多分なぎさが付きっ切りになってたと思うから、この話だとどうなるんだろうか
686 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/17(月) 00:29:39.95 ID:N/zcfhgU0
乙でした

杏子の実家の方もですが、一見順調に行ってるように見えるなぎマミ組の方も不安が見えかくれしますね
687 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/18(火) 23:29:59.32 ID:tKjpxPlg0
------------------------
今日は無理そうですね…(日付変わるまで30分)
次回は19日(水)夜に。多分。
688 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/18(火) 23:31:21.04 ID:tfqEfo320
スレ主さん、お忙しいのでしたらご無理はなさらずにー
689 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/19(水) 22:40:27.29 ID:eJ3A4uvo0
うーん、今日も時間がないですねぇ…
今週平日はとれなさそうなので多分次は休日になります。
690 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/22(土) 19:48:30.67 ID:UEEFsOu20



 ――――街を回り、その先で出会った魔女や使い魔を倒し、そろそろ帰ろうかと思い始めた時のことです。

 見覚えのある友の姿を見つけて手を振ります。



あすみ「……ああ、奇遇」

なぎさ「あすみ! あすみも魔女退治なのです?」

あすみ「いや、別に。散歩?」

なぎさ「一人でお散歩ですか?」

あすみ「そうだけど悪いー? 暇つぶしにやるこことしちゃ健康的だと思うけど」


 まあ、一人の暇つぶしといえばゲームや漫画などのインドアなものが浮かぶので、それよりは健康的かもしれませんが。

 ……それにしても、それだけというのもどうにも違和感があるわけです。


なぎさ(そういえば前の時も……)


なぎさ「あっちに用事があったのです?」

あすみ「まあ少し。じゃ、引き続き頑張って」

なぎさ「じつは、こっちもそろそろ終わろうかと思ってたところなのです」

あすみ「ああそうなの」

なぎさ「この後マミの家でお茶会する予定なのですよ! 用事が終わったならあすみもどうです?」

あすみ「私はいい」


 相変わらずつれない返事です。でも、珍しくあすみのことが少しだけわかりました。

 この辺には何もないと思ってましたが、あすみの来た方向を見てみると立派な教会の建物があることに気づきます。


なぎさ「教会……?」

マミ「え?」

なぎさ「ああ、いえ。あすみ、あっちから来たのかなって」

マミ「ええ、多分そうね……」

なぎさ「ちょっとだけ見てみてもいいですか?」

マミ「教会を?」

なぎさ「あ、イヤなら先に帰っていてもいいのですよ! ちょっと気になっただけなので!」

マミ「嫌ってことはないのだけど……でも少し帰りに買い足したいものがあるからそっちを見てきてもいいかしら?」

なぎさ「もちろんです。なぎさも長居はしないと思うので!」


 そう言って、マミと別れます。


 ……なぎさも少し興味が沸いただけです。いつも何かとドライなあすみが通うところはどんなところなのだろう、と。

 同時に、怪しいところではないんだろうとも思いましたから。

691 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/22(土) 20:52:39.60 ID:UEEFsOu20


 とはいえ、扉はしまっています。教会というと自由に出入りできる場所かとは思っていたのですが……勝手に開けちゃってもいいものなんでしょうか。

 どうしたらいいものかと思っていると。


「あれ? ……お客さん?」


 箒を持ったお姉さんが中から出てきて、声をかけられました。シスターさん? って格好にも見えませんが。


なぎさ「は、はい! といってもちょっと気になって来ただけで、とくに祈りにきたとゆーわけではないのですが……!」

「あ、あぁ……ああ! 構わないよ! うち、そうそうお客さん来ないしさ……! でもできれば父さんの話も少しは聞いてってほしいな」


 お姉さんはすごく嬉しそうにして、父さん……こと、神父さんを呼びに行きました。

 ……うーん、気軽に来てよかったのかな? ちょっと寄ってみるくらいのつもりだったので、あまり遅くなるとマミを待たせてしまうかもしれません。


 それにしても、気になることがあるのです。


なぎさ「あの……、ちょっといいですか?」

「?」

なぎさ「顔色がよくないように見えるのです。どこか具合が悪いのですか?」

「……」

なぎさ「ちゃんと食べてますか……?」

「……いや、最近余裕がなくて」

なぎさ「……あ、そうだっ、よかったらどうぞです! もらいものですが、食べきれなくて困っていたのです!」

「えっ……!?」


 もちろん理由は嘘ですが、カバンに入るくらいのエクレアを魔法で作って差し出してみました。

 するとお姉さんは目を輝かせます。


「えっ、いいの!?」

なぎさ「はい!」

「ありがとう!」


 こうしてここに来たのは偶然ですが、喜ばれるのは嬉しいものです。

 しかし、わざわざ家族を呼んで小さなエクレアを分けている姿を見ていると……なんともいえない気持ちがこみ上げてきました。


なぎさ「……」



 神父様はお礼にと心を込めてお話してくれましたが、正直難しくて内容はよくわからないところもあります。

 神様が本当にいるかもなぎさにはわかりません。それでもきっと。


なぎさ(…………魔法は人を助けるためにあるのです。それなら、こういう使い方だってアリですよね!)



 ……教会から出た後、そっと、メッセージを添えて教会の裏に箱を置いていきました。



――――
――――
692 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/22(土) 21:22:02.93 ID:qQnfB1g90
お、続き来ましたね!
なぎさの魔法なら魔力さえあればお菓子類は出せるからね
とはいえご飯ではないから栄養が偏るなぁ
693 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/22(土) 22:12:40.59 ID:UEEFsOu20


なぎさ「マミ、遅くなってごめんなさいなのです!」


 マミの家につくと、エントランスからマミを呼び出してみましたが、返事がありません。


なぎさ「……あれ? まだ帰ってないのかなあ」

マミ「なぎさちゃん、もしかして待たせちゃった?」


 携帯を取り出して連絡しようかと思ったところで、ちょうどマミが来ました。


なぎさ「なぎさも今来たところなのです」

マミ「どうだった? 私、教会って行ったことないから」

なぎさ「なぎさのほうはですね――――」



 マミと話しながら上にあがって、お茶会をはじめます。

 こっちも思ってたより遅くなってしまいましたし、マミも買い物が長引いたのかなとしか思ってませんでした。



なぎさ「マミのほうはどうでしたか? 時間かかってたみたいですが、どこまで買い物に行ってたのです?」

マミ「そんなに遠くには行ってないけど……ちょっと、魔女を見つけたから倒してたの」

なぎさ「魔女……一人でですか!?」

マミ「え、ええ。大丈夫よ。前は怖かったけど、今はなぎさちゃんのおかげでもう戦い方もわかるようになったから」

マミ「なぎさちゃんや神名さん……他の魔法少女も普通は一人で倒すんでしょう?」


 一人でも今ならきっと大丈夫。

 この前あすみと話したときにはそう言いましたが、今までずっと二人でやってきたから、驚いたのです。


なぎさ「そうですね……も、もうベテランさんですからね。うーん」


 大丈夫……とは言いましたが。やはり心配になってしまうものです。

 一人で戦うほうが危険なことには代わりはないし、仲間がいるなら危険を冒す必要はない、というのはマミも最初の頃から言ってたものですから。

 とはいえ、マミももう契約したてではありません。あの頃から今までで、何かしらの心の変化があったのかもしれません。

 もしかしたら、やっぱりこの前あすみに言われたことも気にしているのかも。


なぎさ「で、でも! 何かあったらすぐになぎさを呼んでくださいね!?」

マミ「……ええ。わかってるわ」


――――――
――――――
694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/22(土) 22:52:49.89 ID:qQnfB1g90
うーん、そこはかとなく不安が・・・
695 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/22(土) 23:14:35.32 ID:UEEFsOu20



 まだ太陽の光が差す午後、私はまたあのみすぼらしい家族の住む教会に向かってみて、そして――――。

 ここ数日の空気とは違い、いつになく元気な声に出迎えられた。


モモ「あっ、あすみだ! いつも気になってたの! 今日こそ一緒に遊ぼうよ!」

杏子「お姉ちゃんが遊んでやるから迷惑かけちゃダメだよ。ほら、いつもの丘の木まで競争するか?」

モモ「うん!」

神父「ようこそ。賑やかで悪いね。驚かせちゃったかな。前はいつもこんな感じだったんだけどね……」


 相変わらず人気はないが、青白く痩せこけた顔で、力の入らない声で語るよりはよほどご利益がありそうな場所になった。


あすみ「いや? 元気そうでなにより」


 それより私が気になったのは、微かに魔力を感じたことだ。


 ……まさか、こいつが契約した?

 そう思って杏子を見る。


杏子「? ……一緒に遊ぶ?」

あすみ「かけっこ? そんなの……」


 魔法少女がやれば勝負にならないことだ。まあ、こいつはそれでもおねーちゃんだから手加減するんだろうけど。

 私は身内でもないヤツ相手に手加減してやったって楽しくない。


あすみ「……違う。箱?」


 魔力の元はあれだ。ちょうど、夫人が持ってきた箱に目を移す。そこからよく知った魔力を感じた。


夫人「また今日も贈り物よ。わたしたちの女神様……から」

あすみ「女神様ぁ――!?」

杏子「何? またケーキ?」

モモ「甘い匂い! ケーキだよ!」

杏子「でも、本当に神様からなのかな? ていうか、うちにいるのって女神様だったんだ?」

神父「人がやることにしては不自然な点はある。ケーキは傷みやすいはずだが、外に置かれていても傷んでもいないし、そもそも直接渡せるならそのほうが早いからね」

神父「なんであれ、感謝していただかなければいけないね。さあ祈りを捧げよう」


 …………呆れた。

 どこでここのことを知ったのかは知らないが、よりによってこんな形で施しを与えるなんて。なぎさのやつ。

696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/22(土) 23:57:35.33 ID:XyxjtxieO
あすみからしたら偽善に見えるのかねー
問題の解決にはなってはいないわけだし
697 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/23(日) 00:26:14.58 ID:1n00ondX0


杏子「……もしかしたら、昨日来た子って関係ないかな」

モモ「エクレアくれた子のこと?」

杏子「箱を見つけたのってあの子が来てからだし、あの時もらったのも生菓子……考え過ぎかな」

夫人「ありえない話ではないけど、でもさっき言ったみたいに不自然なところはあるし、あの子の家がもしケーキ屋さんだったとしてもこう立て続けには無理じゃないかしら?」

夫人「あの子が女神様でもない限り……ね」

あすみ「……」

神父「よかったら、君も一緒にどうかな?」

あすみ「……私はいい。今日は帰る」


 来た早々で帰る私は、遠慮しているようにでも見えたかもしれない。

 しかし、あいつの仕業なら私が食べる意味なんて本当にないからだ。


あすみ(……こんなことしたところで自分たちで何もできないんじゃその場しのぎだ。結局何も解決しない)

あすみ(まさかずっと面倒見るつもりか?)



 人がやることにしては不自然ってのは神父サンも言ってた。

 魔法でやったことだからだ。今のなぎさの魔法なら腐らないようにすることも出来るだろうし、薬すら作れるのだから栄養だってコントロールできる。


 魔法を施しに使うのはまだいい。わざわざ神を名乗って、人間技じゃできないことをやって――――。


あすみ(……こりゃタイヘンなことになるかもね)


698 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/23(日) 00:29:14.54 ID:1n00ondX0
-------------------------------
ここまで
次回は23日(日)夜の予定
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/23(日) 00:34:07.56 ID:R/S5IPfJ0
乙です。

あすみが危惧したことって大抵起こるんだよなぁ・・・
あすみがなぎさに今回の件、どう始末をつけるのか問い詰めそう
700 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/23(日) 21:45:21.04 ID:1n00ondX0


 いつもの場所に寄れば、すぐに訓練してる二人の姿を見つけられた。


あすみ「…………」

なぎさ「あっ、あすみ! 来てたなら声をかけてくれればよかったのに」

あすみ「まだ見てただけ。用ができたら声かけるよ」

なぎさ「それなら、気が済むまで見ていってくださいなのです!」


 訓練の内容は二人での組み手のようだった。

 なぎさのほうがだいぶ余裕で、師匠らしくアドバイスなんかしてる。

 私と一緒の時には見えないような姿だ。師匠と弟子なのだから当然ではあるが、それ以外にも私の知らないような世界はあるんだろう。


 出会った頃からいろんな敵と戦って、目的を持って、なぎさは確実に成長してる。でも変わらないところもある。良い部分も、悪い部分も。

 むしろ目的持ってからさらに青臭くなった部分だってありそうだ。


あすみ「ねえ、なぎさ」

なぎさ「はい!?」


 仕切り直して二戦目をはじめた途中で声をかけられて、なぎさは半分こちらに意識を向ける。まだ余裕そうに澄ましてる。


あすみ「教会の奴らのこと……余計なことするのやめておいたら」

なぎさ「なっ、なんのことやら!」

あすみ「私にはごまかせないのわかってるでしょ。あくまで“女神様”の仕業にしたいってつもり?」

なぎさ「それでいいのですよ。見えないところでも人助けするのが、なぎさの思う魔法少女の役目なのです」

あすみ「……まだ続けるんなら、最後まで責任持ちなよ。どんなことになっても」

なぎさ「……!?」


 どう思ったのか、なぎさはまだ真剣な表情で訓練を続けてる。


あすみ「なぎさ……こっちから見るとパンツ丸見え!」

なぎさ「ふわあっ!?」


 気が逸れたであろう瞬間を狙うようマミにアイコンタクトしといた。

 すると、不意打ちの拘束は成功したように見えたが、

 縛り上げる前にいつのまにやら仕込んでいたシャボンが次々にぶくぶくと膨らんでリボンを破って弾けた。


あすみ「……こんくらいじゃ隙は突けなかったか。つーまんない。残念だったね、マミも」

なぎさ「丸見えなわけないじゃないですか!? 変なこと言わないでください!」

あすみ「あれ、じゃーもっと生々しいの攻めたほうがよかったかな? パンツなんて水着と変わんないし、子供だましって思っちゃうか」
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/23(日) 21:57:02.11 ID:R/S5IPfJ0
なぎさちゃんの魔法少女衣装は元々パンツは見えないようなw
702 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/05/23(日) 22:12:18.46 ID:+lEja0lfO
あすみは契約したのか云々言ってたから杏子が素質持ちだと気づいてるくさいか?
703 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/23(日) 23:28:18.54 ID:1n00ondX0

なぎさ「そういう意味じゃないんですけど……っていうか、マミだってそんなことでなぎさに勝ってもうれしくないですよ」

マミ「え、ええ。まあ……そうね?」

あすみ「本当に? まぐれでも一回くらい勝ちたくないの? まだ勝ったことないんでしょ?」

マミ「魔法少女同士で競うのは本来の目的でもないし、なぎさちゃんは師匠なんだから私より強くて当然よ。仕方ないわ」

あすみ「そう? 純粋な実力なんて、本当の戦いじゃ覆ることはいくらでもあるけどね」

あすみ「……要は機転ってやつだって。頭使って、一回くらい本気で勝ちにいってみなよ。負けっぱなしの試合なんてつまんないじゃん?」


 なぎさも過保護だがマミはマミで真面目だから、今までこんな感じだったのかもしれない。


あすみ「で、なぎさならさらにその細工をも捻り潰してみせるんだろうね」

なぎさ「あ、あたりまえです! 師匠ですから! ……なので、マミも遠慮せず来てくださいなのですよ?」

マミ「……ええ。遠慮はしてないわよ?」


 ……まあでも、真面目なほうが寿命は長いのかもしれないな。

 徹底して守られてるのなら、いざっていう時だって来ないんだろう。


 二人を突っついて、ちょっとだけ忠告をして、深くは関わらずに去っていく。


 これがいつもどおりの距離感だった。

 これからどこへ行こうか。まだ明るい。また教会に戻るにも早いし、時間を潰せることといえば魔女狩りに街を見て回るくらいだ。


なぎさ「……」



 …………去り際を見つめるなぎさは少し寂しそうな目で見ていて、でもそれに気づくことはなかった。

 いや、そんなの気づいていたって無視していた。


704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/23(日) 23:41:54.99 ID:R/S5IPfJ0
あすみの方から歩み寄ることはよほどのことがない限り無理だと思うけど・・・
なぎさと関わりを持たないことが悪影響を生んでるよね、多分
705 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/24(月) 00:20:07.27 ID:T9pvnxi10


 だって、私ならアンタのほうが心配だって返すだろう。

 一応、心配はしてるんだろうな。


あすみ『……とりあえずケーキの件、正体バレるような滑稽なことにはなるなよって言っておく』



 姿は見ないまま、最後に気にかかってたことをテレパシーで伝えてから行った。



――――――



なぎさ「――――――……また言いたいことだけ言って、行ってしまいました」

マミ「なんだか、自由そうよね。神名さんって。あんなに思ったこと言うことってできないもの」

なぎさ「自由そう、ですか…… たしかにそう言うことも出来ますけど」


 もっと一緒にいろんなことしたいのに。もっとあすみのことも知りたいのに。

 あすみにはずっとモヤモヤとした気持ちを抱いていました。

 だって、ゼッタイ困ってるのはわかってるのです。


なぎさ「マミは何か言いたいこと、我慢してるのですか?」

マミ「えっ? いえ、そういうわけではないんだけどね?」

なぎさ「そうですか? それならよかったのです」


 些細な雑談でマミと笑い合って、それからまた少し訓練をして。

 そうして、夕焼けを見ながら帰り道を歩きます。

 なぎさにとってはこれがかけがえのない日常です。



なぎさ(そうだ。あすみの話でケーキがちゃんと届いてるのはわかったけど、みんなが元気にしてるか今日も見に行こう!)


706 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/24(月) 00:51:55.56 ID:T9pvnxi10




 それからも教会の人たちの顔色は良くなってて、みんな元気そうで、安心します。

 またちょっとむずかしいお話を聞いて、年の近いお姉さんたちとは普通の雑談をしたり、遊んだりもしました。

 女神様の話もしてくれました。本当はなぎさのことなので、ちょっと照れくさい気分になったけど……。



――――
――――



 ……顔を合わせて会いに行くのはたまにですが、毎日こっそりとケーキは置きに行っています。

 腐ることがなくて、できるだけ栄養満点のものをと念じて。

 それが終わると、文房具を取り出して今日もいつものメッセージを添えます。



なぎさ(見えないところでも人助けするのが魔法少女の役目……)

なぎさ(……そうですよね。感謝されたくてするわけじゃないから、こうして正体を隠しているのです。今日も見られないうちに――)



 その時、誰もいないと思っていた教会の裏――この場所に足音がして、声がしました。



「女神様……?」

707 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/24(月) 00:54:55.90 ID:T9pvnxi10
-------------------
ここまで
次回は24日(月)夜からの予定
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/24(月) 01:01:36.19 ID:jTbVHQ9v0
乙です

あーあ、あすみの危惧通りばれちゃったか・・・
佐倉家が原作みたいな流れにはならないとは思うけど拗れはしそうだなぁ
709 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/24(月) 22:02:28.95 ID:T9pvnxi10


なぎさ「ええっ!?」


 驚きました。そして……何かしなくてはと考えます。

 しかし、戸惑ったところでなぎさには人目をごまかす魔法なんてありませんし、都合よく忘れさせる魔法もないのです。

 そんなのは、たしかに、考えるまでもなく…… とっくにわかってたことでした。


なぎさ「い、いえ! なぎさですよ! 一緒に遊んだ……! 知ってますよね!?」

モモ「知ってる、けど…… 見たもん。なぎさ、なんでそんなほうに行くんだろうなって、また遊びに誘おうかなって思ってたら……」

モモ「キラキラ光って箱が出てきたの。なぎさが女神様なんでしょ!?」

なぎさ「それは……――――」


 そこまで見られてしまっては言い逃れができません。


 仮面のヒーローの素顔がバレるのは、いつかあすみが言ってたように『こっけい』なことでしょうか?

 それどころか今のなぎさは…… この人たちにとっては女神様、なのです。

 感謝されたくてしてたわけじゃないですが……。


モモ「あのね! 女神様に会ったら、ずっと言いたかったことがあるの!」

なぎさ「な、なんでしょうか?」

モモ「いつもおいしいケーキをありがとう……ございます! 私たち家族のことをいつも見てくれて、見捨てないでくれて……!」

なぎさ「そ、そんな、改まらなくても……!?」

モモ「だって、神様なんだもん! これからもどうか……!」

なぎさ「は――はいっ! これからももちろん、なぎさの助けが必要ならお助けしますので!」


 ……頬が熱くなります。

 感謝されたくてするわけじゃなくても、感謝されるのは悪いことじゃないんじゃないか――そう思ったのでした。



――――

――――
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/24(月) 22:42:11.15 ID:jTbVHQ9v0
即効でバレましたなぁ・・・
このなぎさちゃんはすみみとの事とかで心に余裕がないせいか、色々と隙がありますね
711 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/24(月) 23:34:08.49 ID:T9pvnxi10



 約束通り、次の日もマミとの訓練の前に教会へケーキを置きにいきます。


 バレてしまったものはしょうがありません。見られたのはモモだけですが、一家に広まってたらと思うとどうしたらいいか。

 それでも前よりも気を張らなくてよくなったぶん、気分的には楽になりました。

 こっそり、っていうのも意外と疲れるのです。



なぎさ(今日はチョコレートケーキ……)


 ケーキの入った箱を置いて、文房具を取り出していつものメッセージを書きます。

 それから戻ろうとすると、待っていたようにモモがいました。


なぎさ「あのっ、なぎさのことって他のみんなにも話しました?」


 モモは首を横に振ります。ちょっとホッとしました。

 さすがに一家の全員から女神様と崇められたら気後れしてしまいます。


なぎさ「じゃあ、ヒミツにしててくれませんか? みんなと会うときのなぎさは、ただのなぎさだと思ってほしいのです」

モモ「女神様ってすごいです! こんなによくしてくれるのに謙虚で。本当に今日もありがとうございます!」

なぎさ「えへへ……」


 ……他の人からは女神様と呼ばれないで済むみたいですが、モモの態度は元には戻らなさそうです。


モモ「これからはもっとお祈りを頑張るので……!」

なぎさ「は、はい」

モモ「……明日はモンブランがいいな、なんて」


 何かかしこまった雰囲気と思ったら。


 これも、すがおがバレたっていうのでしょうか。

 たしかに見られてしまったけど、ホントのなぎさは女神様ではないのです。

 でも、女神じゃなくても魔法で叶えることはできます。なぎさの得意な、幸せのお菓子の魔法。


モモ「あ! ごめんなさい、わがまま言っちゃって!」

なぎさ「いえいえ、そのくらいならお安い御用なのですよ! 女神様にまかせなさいなのです!」

712 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/25(火) 00:35:04.91 ID:LUNAnkwB0

モモ「もう行っちゃうんですか?」

なぎさ「はい、これから予定があるので…… それが終わったらまた来るのです!」

モモ「はい! いつでも待ってます!」


 ふかぶかとお辞儀をする姿に手を振り、訓練場所へと行くことにします。

 ――……その時、なぎさの背後では、モモの姿を探して杏子が外を見に出てきていました。


杏子「……モモ、そんなとこでなにやってんの?」

モモ「ううん、ヒミツ! それより今日も裏見てみてよ。女神様に感謝の祈りを捧げなきゃだよ!」

杏子「お、今日も来てるんだ! 今日は何かな?」



 素直に喜んでいた杏子でしたが、なぎさの行ったほうを見て、少しだけ不可解な表情を浮かべます。

 とはいえ、その場を見ていない杏子にはすぐに正体と結びつけることは出来なかったのですが――――というのは、なぎさの知らない部分のおはなし。



――――



なぎさ「マミ、遅くなってごめんなさいなのです!」

マミ「いえ。でも、最近少し来るのが遅いことが多いけど……もしかしてまた教会に?」

なぎさ「ま、まあそうですね!」

マミ「お祈りでもしてるの? そんなにハマるような場所なのかしら……?」

なぎさ「え、ええと! お祈りもしてませんし怪しいものにハマったとかっていうわけじゃないのですよ!? むしろなぎさが祈られてるっていうか……」

マミ「……え?」

なぎさ「なんでもないのです! さあ訓練訓練!」



 半ば強引にごまかすように訓練に移ります。

 マミは同じ魔法少女ですし、モモに女神様……なんて呼ばれてることは、なんとなく恥ずかしいので知られたくありませんでした。



 ――――モモにも言ったので、訓練が終わったらまた教会に向かいます。今度はただのなぎさとして。



なぎさ(あ。あすみ……?)


 扉を開けた途端にまず目に入ったのは、教会の家族ではなくあすみの姿でした。

 ガラ空きの椅子の端にぽつりと座っていて、なんだか寂しそうに映ります。

 そうでした。最初にここに来たのもあすみがきっかけだったことを思い出します。

 特に何をしている様子でもなく、ただそこにいるだけ。


あすみ「…………」


 あすみもこちらに気づいただろうに、目を合わせてくれません。

 話しかけるなオーラと言いましょうか……意図的に無視している雰囲気を感じました。



なぎさ(さすがになぎさもそのくらいは読めますけどね……)


 そうしていると、あすみが席を立ちました。なぎさと入れ違いになるように去っていくつもりみたいです。

 モモたちがいるので厳密には一人じゃないですけど、一人になりたかったんでしょうか……? そんな感じにも見えました。

713 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/25(火) 00:40:23.58 ID:LUNAnkwB0
------------------------------
ここまで
次回は27日(木)夜の予定です
714 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/28(金) 00:52:16.44 ID:5lUs1dkn0


 しばらくあすみのことを考えてましたが、声をかけられます。


夫人「あら、ようこそ。今日もきてくれたのね」

モモ「わあ! いらっしゃい!」


 ひときわ明るい声で寄ってきたモモの手には分厚い本があります。勉強中だったのでしょうか?


なぎさ「むずしそうな本を読んでるんですね〜」

杏子「まあそうだね。これは聖書だよ。だから、神様の勉強。なんだかモモったら急に精を出しててさ。今日なんて遊ぶより勉強するって言うから驚いたよ」

神父「あのケーキのこともあって、目覚めたのかもしれないね。もちろん私としては嬉しい限りだ」

モモ「うん! だって今こうしているのも全部神様のおかげなんだもん!」


 モモはそう言って満面の笑みをなぎさに向けます。

 それは、なぎさを神様と思ってのことです。


なぎさ「ふふ。あ、あんまり無理はしなくて良いのですよ」


 ――なんて、ちょっと調子にのって言ったら、モモ以外からは『?』というような反応を返されてしまったのですが。


神父「まあ、ずっと本を読んでいたら目を悪くしてしまうかもしれないし、小さい頃は外で遊ぶことも大事だね」

神父「せっかくなぎさちゃんも来てくれたんだし、一緒に遊んできてもいいんだよ」

モモ「うん。じゃあ、遊びに行きましょう! めが……、なぎさ!」

なぎさ「は――はい!」



 それから、今日は暗くなるまでモモと杏子と一緒に三人で遊びました。

 学校の友達との遊びとなるとゲームなどのインドアになることが多いので、めいっぱい身体を動かす遊びはむしろ新鮮に感じます。

 もちろん、手加減はしなくちゃならないのですが……。


 魔法少女になってから近い年の子と遊ぶこと自体減ってしまったので、一緒に遊ぶ時間は楽しい時間でした。

715 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/28(金) 01:00:48.86 ID:5lUs1dkn0
-------------------------------------------------------
亀更新すぎるんですがとりあえーず1レスだけ投稿しつつ…
次回は28日(金)夜からの予定です
716 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/28(金) 23:19:05.45 ID:5lUs1dkn0
――――――



あすみ「…………」


 ……なんとなく暫く外から眺めてたら、なぎさと教会の娘らが飛び出していくのが見えた。


 ケーキの件からなぎさがここの奴らに関わってることは知ってた。

 飢えなくなって多少賑やかになってからも私一人だとまだ静かだが、なぎさが来たら空気はまるで別物へと変化してしまった。


 なぎさはああいうやつだから。マミが来てから余計に元気になってるみたいだし。

 あの空気の中にいる気はなかった。忠告ならこの前に済んでる。



あすみ(寂しい? 違う。別にそんな感情を埋めるために立ち寄ってたわけじゃない)



 ――だけど、なんか。

 なにかが気に入らなくて、立ち去った。


――――――
――――――




モモ「め…… なぎさ、ちょっとあっちで話せる?」



 ――――また次の日も教会に行くと、みんな歓迎してくれて、とくにモモはリクエストのモンブランのケーキを喜んでくれました。

 本当にすごい、ありがとうって。

 わざわざモモは教会の裏で感謝を伝えてくれたのです。


 でも、なんだか、昨日よりも少し元気がないようにも見えました。


なぎさ「あっ、またリクエストあったら聞きますよ?」

モモ「えっと、じゃあ、すっごくひさしぶりに豆腐じゃないホンモノのお肉とかも食べたいなぁ……って」

なぎさ「あ……それはできないのです。ごめんなさいなのですが……実はなぎさ、お菓子しか出せないのです。それもチーズを使ってないお菓子だけで……」

モモ「えっ、い、いいえ! ケーキ大好きです! こちらこそわがままを言ってしまってすみませんでした!」

717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/28(金) 23:35:40.23 ID:z3gxEXvB0
なぎさはお菓子しか出せないからね
ケーキばかりなのは流石にね

あとあすみが何か複雑な感情抱いたね、嫉妬?
あすみも意地張らないで少しでもなぎさに歩み寄れればねぇ・・・
718 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/29(土) 01:14:39.12 ID:TAt5j0GZ0


モモ「……本当にごめんなさい、女神様。全然信仰を増やせなくて……。こんなに良くしてくれてるのになにもできてないです」

なぎさ「そ、そんなの、全然気にしてないのです……! ――――あ、というか……」


 なんと言っていいかわからず、言いかけた言葉を引っ込めます。それと同時に胸が痛みました。

 こうやって申し訳なさそうにされると困ってしまいます。

 なぎさは本当は女神様じゃないから……。


モモ「このままじゃうちは教会じゃなくなってしまうかもしれません……だから、少しでいいので、協力してもらえませんか?」

なぎさ「ええと、なぎさはなにをすれば……?」


 モモのことは今ではただ純粋に、なぎさのお友達だと思ってます。

 だから、神も魔法少女も関係なく、できることなら協力はしたいと思うのです。……でも、何か嫌な予感がします。


モモ「『神様として』布教を手伝ってほしいんです!」

なぎさ「でも、それは……」

モモ「お願いします! こんなにすごい神様がいるんだって知ってもらえれば、みんなも信じてくれるはずだから……!」


 いつになくモモは食い下がります。

 当たり前です。自分の家の命運がかかっているのですから、そう簡単には引けません。

 なぎさが『神様として』魔法少女の力を見せつければ、信仰してくれる人は増えるかもしれません。モモの家は教会を続けていけるかもしれません。


なぎさ「……………あの、ですね」


 ……でも、もう限界だと思いました。

 これ以上自分を神様だなんて言い続けたら、人を騙してるのと同じ。



 そう思って言いかけた言葉は、不意に表のほうから響いた声のせいで遮られました。


719 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/29(土) 01:18:30.05 ID:TAt5j0GZ0
>>718 【訂正】 数行抜けてる!
------------------------------


モモ「……本当にごめんなさい、女神様。全然信仰を増やせなくて……。こんなに良くしてくれてるのになにもできてないです」

なぎさ「そ、そんなの、全然気にしてないのです……! ――――あ、というか……」


 なんと言っていいかわからず、言いかけた言葉を引っ込めます。それと同時に胸が痛みました。

 こうやって申し訳なさそうにされると困ってしまいます。

 なぎさは本当は女神様じゃないから……。


モモ「みんなが話を聞いてくれないのは、きっと、神様なんていないと思ってるからです。神様はこうしてちゃんといるのに」

モモ「今日は、学校でも神様のこと馬鹿にされてモモの家がヘンだって言われて……すごく悔しかったんです」


 今まで見たことがない怒りの表情を見せます。それにきっと、その怒りはなぎさのためでもあるのです。

 モモが元気がないのはそのことがあったせいでした。


モモ「このままじゃうちは教会じゃなくなってしまうかもしれません……だから、少しでいいので、協力してもらえませんか?」

なぎさ「ええと、なぎさはなにをすれば……?」


 モモのことは今ではただ純粋に、なぎさのお友達だと思ってます。

 だから、神も魔法少女も関係なく、できることなら協力はしたいと思うのです。……でも、何か嫌な予感がします。


モモ「『神様として』布教を手伝ってほしいんです!」

なぎさ「でも、それは……」

モモ「お願いします! こんなにすごい神様がいるんだって知ってもらえれば、みんなも信じてくれるはずだから……!」


 いつになくモモは食い下がります。

 当たり前です。自分の家の命運がかかっているのですから、そう簡単には引けません。

 なぎさが『神様として』魔法少女の力を見せつければ、信仰してくれる人は増えるかもしれません。モモの家は教会を続けていけるかもしれません。


なぎさ「……………あの、ですね」


 ……でも、もう限界だと思いました。

 これ以上自分を神様だなんて言い続けたら、人を騙してるのと同じ。



 そう思って言いかけた言葉は、不意に表のほうから響いた声のせいで遮られました。


720 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/29(土) 01:21:49.91 ID:TAt5j0GZ0
---------------------------------------
ここまで
次回は30日(日)夜からの予定
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/29(土) 01:22:44.43 ID:XlhuLAgC0
あすみが危惧した通り、なんかめんどくさい展開になってきましたね
722 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/30(日) 21:30:57.29 ID:J12IF2ye0



*「ここがアイツの家? こんな町外れのド田舎みたいなとこにホントーに住んでるヤツなんていたんだな!」

*「おい、嘘つきモモ! きてやったぞ! 歓迎しろよ!」


 なにやら乱暴な声です。

 モモと一緒に表に駆け寄ってみると、モモと同じくらいの年の男の子二人がいました。


モモ「あ、あんたたち…… 何しに来たの!?」

*「お前がクラスの人みんなに『お願いだから来てください〜』って頼んでたから見にきてやったんだよ」

*「てかマジで来たのオレらだけ? オレらってやさしー。みんなモモの家はおかしいから近づいちゃいけませんって言われてるもんな」

モモ「みんな? そんなはずない!」

*「ホントだよ。モモと違って嘘つきじゃないし。モモには言わないだけだよ」

なぎさ「あ、あなたたちはバカにするためにここまできたのですか……?」


 ムッとして尋ねます。興味がないなら来なければいいのに。

 モモは学校でも広めようとしてたみたいです。モモを馬鹿にした人たちというのはこの二人なのでしょう。


 表で騒いでいたのに気づいたのか、神父さんと杏子も出てきました。


神父「何やら声がしたが、お客さんかね……?」

杏子「あんたたちモモのクラスメイト?」

*「あ、嘘つき宗教の神父だ! 逃げろー!」

*「神父さん! 信者を増やすためなら嘘言ってもいいんですか?」


 嘘……。さっきも『嘘つき』って言われていました。

 もしかして、それなぎさのしたことが関わっているのでしょうか。


神父「嘘……とは何のことかな? 嘘はもちろん良くないよ。娘たちにもそう言って聞かせているが」

*「じゃあこの教会に困ったときに助けてくれる女神様って本当にいんの? 女神様が毎日ケーキくれて、願いを聞いてくれるって!」

神父「ああ、ケーキのことは心当たりがあるが、願いというと……――」

モモ「本当だよ! 今日のモンブラン、私がお願いしたんだもん」

杏子「モモ、それホントに!? 偶然とかじゃなくて?」


 モモの言う願いとは、あのリクエストのことだったのです。

 なぎさは大した事はできませんし、大したことをした気もありませんでした。でもモモにとっては十分すぎるほどの奇跡で――。


モモ「女神様、お願いします! 嘘つきじゃないって証明してよ!」

723 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/30(日) 23:18:39.75 ID:J12IF2ye0


なぎさ「………………」


 なぎさがここで何もしなければ、モモは嘘つきって言われ続けるのでしょう。

 もしかしたら神父さんや杏子にも怒られてしまうかもしれません。


なぎさ「…………」


 それに……、

 モモからは『見捨てられた』と思われてしまうでしょう。そう思うといても立ってもいられず――。


 ……ソウルジェムから魔力を練りました。


なぎさ「……これ、明日の分のケーキなのです!」

杏子「な、何もないところから!」

神父「なんと…… 人の力ではないのかもしれないとは薄々思っていたが、君が…… いや、貴女が……」

なぎさ「き、気づいてると思いますが、腐ったりしませんので……受け取ってください」


 メッセージはないけれど、いつもと同じ箱入りのケーキです。


*「う、嘘だろ!? なんかの手品だよな!?」

*「いやいや……信じらんないけど、これ手品とかじゃないって! 神様って本当にいたんだぁ……」

なぎさ「……」

モモ「あ、ありがとうございます! ほら、わかったでしょ!? 嘘つきなんかじゃないんだから!」

*「あ、あの……神様? お、オレらのこと祟ったりしないですよね?」

なぎさ「……きょ、今日のところは許しててあげるのです。ただし、これからモモのことをバカにしたら許しません」


 男の子たちは、ぺこぺこと謝って帰っていきました。


 ……やってしまいました。これでもう、モモ以外からも今までのように接してもらえなくなるかもしれません。

 でも、騙したままじゃ、やっぱりダメだと思うのす。


杏子「モモは知ってたんだな」

モモ「うん。たまたま見ちゃって……」

なぎさ「あの、モモ。また少し話してもよろしいでしょうか……?」

モモ「?」

724 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/05/30(日) 23:34:59.17 ID:+oCQ2JHR0
魔法バレしちゃったか
725 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/31(月) 00:41:05.49 ID:g+caFouE0


 教会の裏。ふたりになると、なぎさは決心します。


なぎさ「実は……なぎさは神様ではないのです」

モモ「え……!? で、でもっ、ケーキを出してずっと助けてくれたじゃないですか!? さっきだって!」

なぎさ「あれは魔法なのです!」

モモ「魔法……?」


 こんなことを急に言われたって混乱するでしょう。

 モモの前にソウルジェムを見せます。手に乗せて差し出した宝石をモモは呆然と見ていました。

 思い切って変身してみせると、更に驚いた表情になりました。


なぎさ「今まで隠しててごめんなさい。なぎさは……魔法少女なのですよ。今見せた宝石が魔力のモトで、こうやって変身して魔女と戦って街の平和を守っているのです」

なぎさ「なぎさもただの人間なのです。キュゥべえと契約すればみんな魔法少女になれるのですよ」

モモ「み、みんなって、モモもなれるの……? モモもケーキを出せるように……?」

なぎさ「ケーキを出したのはなぎさの願いから生まれた魔法です。キュゥべえが願いを叶えてくれて、その代わりに戦うことになるのです。だから、そう願えば……」

なぎさ「……お、怒ってませんか? 騙してたこと!」

モモ「ごめんなさい…… まだ混乱してて…………」

なぎさ「そ、そうですよね! こんなこといきなり言われても困ってしまいますよね……」

モモ「…………」

なぎさ「では……もう行きますね。みんなの前で話す勇気はなくて。でもモモには知っていてもらいたかったのです」



 ……落ち着かない気持ちのまま変身を解いて表のほうに向かい、教会から離れていきました。

 みんなと今なんて話したらいいのかわかりません。

 明日からどうすればいいのでしょうか。


726 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/05/31(月) 00:52:59.00 ID:g+caFouE0
---------------------
ここまで
次回は2日(水)夜の予定です
727 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/03(木) 22:48:22.10 ID:pVwAJIwe0
――――――
――――――


 中に戻ってみると、みんなまだ女神様――なぎさからもらったケーキの箱を神妙な表情で眺めてた。


神父「神様は私達を見捨てないはずだとは信じていたが……こうして目に見える形で姿を現すことがあるとは、正直思っていなかったな」

夫人「そうね。でも、目の前で見てしまったもの。まさか本当にあの子が女神様だったなんて……」


 まだみんな不思議そうにしてるみたい。

 人の力じゃありえないこと。それを神の力だと思っていたけれど、さっきの話はそれを否定した。


モモ「おねえちゃん」

杏子「モモ、どうした? そういえばなんか話してきたの?」

モモ「うん。……ちょっと」



 みんなより一足先に部屋のほうに戻っていく。そこでお姉ちゃんにさっきのことを話してみた。

 まだ整理がつかないから、まずは聞いたことをそのまま。



杏子「実はさ、前にモモが裏で話してるの知ってからちょっと怪しい気はしてて、もしかしたらなぎさが女神様なんじゃないか……とか考えたりはしてたんだ」

杏子「だって、あんなタイミングよくなぎさが来てすぐケーキ見つけるって普通ないでしょ。……でも、ホントに合ってたって思ったら今度は魔法少女って」


 今も信じられない。でも、そんな変な嘘つく意味もない。

728 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/03(木) 23:36:10.26 ID:pVwAJIwe0

モモ「女神様だと思ってたなぎさは魔法少女で……じゃあ女神様は本当はいないの?」

杏子「あのメッセージに書いてあった『女神様』はいないだろうけど、神様はいるよ。最近熱心に祈ってたのもきっと無駄じゃないさ」

モモ「う、うん。そうだよね……」

杏子「それにしても、人間と魔法の力を与える契約なんてするやつがいるっていうのか……?」


 そしたら、このプライベートな空間で聞くはずのない知らない声とともに小さな影が現れた。


「うん。いるよ」

杏子「わ、わぁっ!?」

モモ「も、もしかして……」

QB「僕がなぎさの言ってたキュゥべえだよ。魔法の使者さ。願い事があれば叶えてあげることができる」

杏子「……」

モモ「……」



 お姉ちゃんと二人で顔を見合わせる。そのときわたしたちが思いついた願い事は“ふたつ”だった。



――――――

―――
―――



なぎさ「み、みなさんこんにち……あ、あれ? お客さん?」


 あれからなぎさは気まずくて、昨日はついに顔を出しませんでした。

 あの時は渡したのは『翌日の分』でした。だから、まだ今日の朝までは足りているはずなのです。


 今日はちょうどお休みなので、朝に来てみました。

 だって、助けてほしいというのはモモからの頼みでもあるのです。今から見捨てるわけになんていきません。


 ――――でも、そこにあったのはいつもとは違う光景で。


神父「ちょうどよかった。……どうぞお入りください」

なぎさ「ふえ……?」

神父「日曜日は礼拝の日。皆様は神様……いえ、『貴女』のためにお集まりいただいているのです」

なぎさ「……ふぇぇ!?」


 中にいるのは決して大人数ではありませんが、今までと比べれば多い人数です。

 子連れの家族も多く……あの時の男の子も来ていました。

 その視線が一斉にこっちに向きます。


729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/04(金) 00:08:15.73 ID:Q8p8joRH0
あー、杏子がひょっとしたらモモっも契約しちゃったのか・・・
この話だとなぎさは魔法少女の真実知らないままだし、こりゃとんでもないことになりそう
730 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/04(金) 00:22:20.27 ID:DRJfaEhv0


*「この子がその!?」

*「信じられない……見た目は普通の子供なのに! でもそれも聞いたとおりだわ……」

*「お祈りすれば私達にも奇跡が起こるの!?」


 たしかになぎさの魔法で、ここのみんなのことは助けることができました。

 でもなぎさはこんなに多くの人の『神様』にはなれません。どう答えようか迷っていると、神父さんが制しました。


神父「静粛にお願いします。お祈りや信仰とは下心を持ってするものではありません」

神父「『していただく』のではなく、神の為、人の為――ひいては世の中の為に自らが奉仕すること。そう考えているからこそ神様は目を向けてくださるのだと信じています」

神父「……そう、ですよね?」

なぎさ「は、はい。なぎさもそう思います」

なぎさ「すぐにみなさんの悩みが解消するわけじゃないかもしれませんが……きっと、良いことしてればいつかは報われると思います」


 ……結局なぎさは曖昧なことしか言えませんでしたが、みんなは納得してくれたみたいでした。


*「今日はお試しのつもりだったけど、これからもお祈りしてみようかな……」

*「でも……女神様? 怒られるかもしれませんが今は本当に困ってるんです。これから大事なピアノの発表会が控えてるのに指を骨折してしちゃって」

なぎさ「おケガですか……それくらいなら、なぎさの力でも治せるかも」

*「ほ、本当ですか!?」

なぎさ「――はいっと、これでどうでしょう?」


 女の子の差し出した手を包み込み、その中で見えないようにソウルジェムを具現化して魔力を使いました。


*「あ、あ! 治ってる! ありがとう、ありがとうございます!」


 その言葉に教会内は一斉に沸き立ちました。

 ……なぎさの魔法を見た男の子もいるし、戻れないのは今更です。でも。

 治ってよかったという安堵と、文字通り神様のように称賛されるてれくささ。それと同時に、騙しているという罪悪感が膨らみます。


モモ「…………」


 モモのほうを見ると目が合いましたが、すぐに隣にいる杏子のほうを見てしまいました。

 二人は何を考えているのでしょうか。それはなぎさにはわかりません。


――――
――――
731 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/04(金) 00:25:45.05 ID:DRJfaEhv0
--------------------------
ここまで
(水)はちょっと仮眠とろうとおもったら朝まで寝てました
次回は5日(土)夜からの予定です
732 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/06(日) 00:14:20.79 ID:Zsqn73UJ0


 礼拝が終わるとお客さんが神父さんと話しにきました。この前見た男の子も一緒にいますし、その子の母親なのでしょう。

 なんとなくやりとりを見ていると、何かを渡して頭を下げてから帰っていきました。


 ……なぎさは今日は、初めて見る人たちに注目されてすっかり疲れてしまいました。しかし、ここにきた目的を忘れるわけにはいきません。


神父「神様――いえ、本来ならこうして直接話すことすらおこがましいのですが……」

なぎさ「そ、そんなにかしこまらなくてもいいのです……! それで、なんでしょうか?」

神父「うちの教会にもあれからこうして私達の教えを聞いてくれる人がきてくださるようになりました」

神父「一昨日のことがあってから、あの男の子が広めてくれたみたいでね……モモから聞いた話だと、あの子たちはクラスでも発言力の高いガキ大将だったらしい」

神父「あの子たちの友達、親、そのつながりから興味を持ってもらえたようで、あのご婦人は息子がモモをいじめてすまなかったとお詫びまでしてくれて……」

なぎさ「そうだったのですね……」


 あの時神父さんや男の子たちの目の前で力を使ったことがきっかけでこんなことになるなんて。

 みんなを騙してしまうことにはなりましたが、めでたし……なのでしょうか?


神父「なんと感謝すればいいのか……。これからはなんとか暮らしていけそうです。貴女のおかげで私達は、生活していける力まで手に入れることができました」

なぎさ「! そ、そうですかっ。よかったのです!」

神父「これからもどうか私達を見守りください」


 そんなとき、向こうから家族を昼食に呼ぶ声がしました。

 今までずっと魔法のケーキを差し入れてきましたが、ついになぎさが何かをしなくてもよくなったのです。


 あの時は叶えてあげられませんでしたが、モモもやっと本物のお肉を食べられます。

 ……すれちがいざま、モモはこっちを見てそっとつぶやきました。



モモ「……ありがとう」



 真実を知っているのはモモだけ。

 モモはまだなぎさが話したことは胸に留めたままのようです。少なくとも、神父さんには話していません。

 これからもずっと、本当のことは知られないままなのでしょうか……?

733 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/06(日) 00:17:47.84 ID:Zsqn73UJ0
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次回は6日(日)夜に…
734 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/06(日) 21:04:20.12 ID:Zsqn73UJ0
――――――
――――――


 ――――……わたしたちが思いついた願い事は“ふたつ”だった。


モモ「……ぜんぶ叶っちゃったね」

杏子「……そうだね」


 ひとつは、なぎさのようにたべものを生み出す魔法を手に入れること。なぎさは本当は神様じゃなくてモモたちにもできるなら、モモたちがやるべきだ。

 そしてもうひとつは、うちが教会を続けていけるようにすること。


 結局その時にはまだキュゥべえには願わないで、その次の日になったら、なぎさが力を見せつけたときの話が広まってた。


モモ「早まらないでよかったの、かな?」

杏子「じゃあ……他の願いにする?」

杏子「まだ叶えられるんだよね。どんなことでも」

モモ「他のこと……」


 あの時すぐに浮かんだのはふたつで、他のこととわれるとすぐには浮かばなかった。

 美味しいものを食べたり、キレイなお洋服を着たり、たくさんのお金をもらったり……とか。

 今よりさらにイイ思いをすることもできるんだろうけど、そのために願うってどうなんだろう? なんだか、ズルしてるような気がした。


モモ「お姉ちゃんはなにか思い浮かぶの?」

杏子「いや……。でも」

モモ「?」

杏子「なぎさのことも契約のことも、父さんたちに話さないでいいのかな。あたしたちだけで抱えていていいことじゃない気がするんだ」

モモ「…………」


――――――
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/06(日) 22:32:56.17 ID:SbtzUd9Q0
杏子たちはまだ契約してなかったのか
話さないと原作同様に禄でもないことになりそう・・・
まずはあすみに話して欲しいなぁ
736 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/06(日) 23:24:39.18 ID:Zsqn73UJ0


 あれからはなぎさも毎日教会に行くことはなくなって、今までどおりマミと訓練したりパトロールに行ったりして過ごしました。


なぎさ(思えば最近は訓練で見てられる時間も減ってしまってて……マミには申し訳ないことをしてしまいました)

なぎさ(今日も訓練しようってマミにメールしてみますか。でも、たしか今日は――)


 一週間ぶりの礼拝の日。みんなは元気にやれているのでしょうか。

 マミとの予定は午後にして、あの教会のある街の外れのほうに向かうことにします。


 すると、その途中であすみと鉢合わせます。そしてなぜか……引き止められてしまいました。


あすみ「……今あいつらに近づかないほうがいいよ」

なぎさ「な、なんでですか?」

あすみ「教会は閉まってる。畳むことにしたんだってさ」

なぎさ「え……!? そんな、どうして? この前ちゃんと人も来てたのに?」

あすみ「人は来てるよ。だからアンタが近づいたらヤバいことになるんだって」


 あすみはそう言いますが、なぎさにはなにがなんだかまったくわかりませんでした。

 でも、わからないままにしたくはありません。


なぎさ「……何かが起きているのですね。もしかしたら、それってなぎさのせいでしょうか?」


 わからないなりに思い至ったのは、なぎさの嘘がバレる日が来てしまったのかもしれない――ということでした。

 なぎさにもみんなを騙してた自覚はありました。おそらく、それがみんなにバレた時には良くないことが起こるだろう、ということも。


なぎさ「そうだとしたら、なぎさがなんとかしないとです! もちろんそうでなくても……何かあったら助けるって約束しました」

あすみ「…………」


 あすみの横を抜け、さらに道を進んでいきます。

737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/06(日) 23:29:33.77 ID:SbtzUd9Q0
あ、これは・・・
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 23:51:26.83 ID:wu2qOrfTO
なーんか杏子の父親の矛先がなぎさに向かいそうだな
739 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/07(月) 00:37:29.53 ID:0B5p2dYf0


*「あ、女神様だ!」

*「女神様!」

なぎさ「え?」


 教会の建物の前にはたしかに人が集まっていて、それを見た時なぎさは責められるんだと覚悟していました。

 でも、その反応は予想と違いました。この前と変わらない照れくさくなるような呼ばれ方。バレてはいないのでしょうか?


 そう思った時、扉にある大きな貼り紙が目に入ります。


なぎさ「これは……」


 『申し訳ございません。私達は皆様を騙してしまいました。
  女神と名乗った者は神などではありませんでした。魔女だったのです。
  償いとして今日でこの教会は終わりにします』


 貼り紙には目立つ赤い文字でこう書かれていました。

 正体がなぎさたちが倒すべき“魔女”として書かれているのには悲しみを覚えましたが、ますます疑問がわきました。


なぎさ「どうしてこれを読んだのに、みんな……?」

*「女神様でも魔女様でも本当に力はあるなら教会なんてどうでもいいわ。もともと神なんか信じてたわけでもないもの」

*「そうだそうだ。あいつらなんか何もできないくせに!」

なぎさ「…………」


 ……教会に来てくれた人たちは魔法の力で起きた奇跡に興味を持ったのであって、教えに興味を持っていたのではなかったのです。

 それならもう、これで神様ごっこはちゃんと終わりにすることにします。


なぎさ「みなさん、まだ騙されてますよ。……ここまでバレちゃったらしょうがないから言いますけど!」

なぎさ「傷が治ったなんてサクラです! ほんの冗談だったのですよ。魔女っていうのは……たぶん、『嘘つき』って意味なのです」

なぎさ「……だから、ごめんなさい。魔法なんてあるわけないのですよ」


 みんなしばらくざわめいていましたが、なぎさにそう言い張られては仕方ないと思ったのか、次第に興味をなくしたように帰っていきます。

 ……良くも悪くも、彼らの多くは目に見えるものしか信じようとしない人たちでした。

 教会という大人の関わる組織がついていればまだしも、なぎさだけでは神というにも魔女というにも、常識を覆すには説得力が欠けるというものです。


 結局最後の最後まで、なぎさは嘘つきになってしまいました。でも神父さんたちだけが悪く思われたままになるのはあんまりだと思ったのです。

740 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/07(月) 00:40:42.06 ID:0B5p2dYf0
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次回は8日(火)夜の予定
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/07(月) 00:43:20.65 ID:4MRhPWBD0
やっぱりこんな感じになったか
>>738の通り神父がなぎざに何か言いそうだなぁ・・・
742 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/08(火) 23:22:51.29 ID:YTdhnism0


 やがて表は静かになって、なぎさはしばらく扉の前に立ち尽くしていました。

 いつもは開放されていたはずの扉でしたが、今は鍵がかけられているようです。


なぎさ「…………」


 もう一度貼り紙の字に目を向けます。

 なぎさはもう、ここには来てはいけないのでしょう……。友達だと思っていたモモとも、もう……。


 そんな時、中から声がしました。


モモ「……なぎさ、外にいるんだよね?」

なぎさ「! ……モモ?」

神父「やめなさい……モモ」


 もう一つ聞こえてきたのは、それを制止する神父さんの声でした。


神父「あの子は神を騙った。許されない事だ。それに、その力は神の力ではなかった」

神父「私達は日々祈っている。しかしそれは、すべてが叶えられるわけじゃない。世の為に奉仕する行為こそが重要なのだ」

神父「聞くところでは、例の契約は『何でも叶える』のだろう? 彼女が何を願ったかは知らない。だが、もし平和のための布教を願ったらどうなる?」

神父「文字通り、叶えられるのだろう。だがそこにはなんの過程もない。どんなに良いことを願ったとしても、自らの思い通りになる奇跡など……私達にとっては邪悪でしかないんだよ」

なぎさ「…………っ」


 神父さんたちからすればなぎさたちは卑怯に見えるのでしょう。

 しかし、そう言い切られてしまうと何かモヤモヤとした気持ちが沸き起こりました。

 ……怒りでしょうか、悲しみでしょうか。なぎさは叶えてもらったことに後悔なんてしてないから。でも、なんと言い返せばいいのかわかりません。


神父「得体の知れぬ存在に望みを叶えてもらう契約なんて、古より伝わる悪魔に魂を売り渡す契約と何も違わない」


 キュゥべえは得体の知れない存在だなんて……――そう口に出そうと思いましたが、

 よく考えればキュゥべえについて知ってることなんてほとんどありませんでした。


神父「そして、そんな力に頼らなくては誰も寄り付かぬ教会など……もう私達も諦めるべきだったんだ」

なぎさ「こ、これからどうするのですか?」

神父「仕事でも探すさ。君が心配することではないよ」


 なぎさは突き放されたのでしょうか。

 しかし、神父さんの声は悲しげでありながらもどこか吹っ切れたようにも聞こえました。


 ……多分、なぎさはもうこの家に関わることはなくなるのです。

743 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/09(水) 00:21:44.00 ID:Qe7EciPy0


あすみ「邪悪な力だとしてもそれに命拾われたのは事実だろーが! なんて思っててもいいけどまずはそれに感謝するのが人の心じゃーないわけ?」

あすみ「でも一応やっと現実見たみたいで良かったよ! 現実見えてない正論振りかざすとことか嫌いだった!」

なぎさ「へっ?」

あすみ「……ヒトツだけアドバイスしとくと、そういうとこ直さないと次の職場でも浮いちゃうよ?」


 なぎさがしんみりしていると、急にあすみが割り込んで扉に向かって言い放っていきました。最後のチャンスとばかりに……。

 いつのまについて来てたんでしょう?


なぎさ「あ、あすみ……!?」

あすみ「いこっ」


 ……あすみの物言いはキツいですが、なぎさが言葉にできなかったモヤモヤがちょっとすっきりしました。

 あっけにとられてましたが、ようやくなぎさも教会に背を向けようとします。

 そのとき、背中のほうから再びモモの声が聞こえてきました。


モモ「……この前も言ったけど、ありがとう! なぎさは神様じゃなかったけど助けてくれたし助けようとしてくれたよね……」

杏子「ああ、あんな美味しいケーキなんて食べたことなかったし夢のようだったよ。あれがなかったら……」

杏子「なぎさと会えてよかった。思えばそれだって奇跡だ。だから、モモもさ、神様に祈ってたのは無駄じゃなかったんだよ」

モモ「うん!」


 奇跡……キュゥべえに願ったものじゃない、ホンモノの奇跡。

 考えたことはなかったですが、人との出会いも奇跡なのでしょう。だったら、きっとなぎさは恵まれています。



神父「確かに、そういう考えも出来るね。 ……ありがとう」



 ……少し遅れて、神父さんの声も聞こえました。

744 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/09(水) 00:26:12.27 ID:Qe7EciPy0
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ここまで
次回は12日(土)夜の予定です
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/09(水) 00:29:56.99 ID:B0Fag+980
あすみ、なぎさについて来てくれてたのか
言ってることはキツくても、あすみはなぎさや佐倉家のことちゃんと気にかけてくれてたんだね
アニメ本編とは違い心中にならなくてよかった・・・
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/09(水) 19:08:54.64 ID:8FuU47DdO

佐倉家、これはこれで救いのある終わり方かな?
あすみがしっかりなぎさをサポートしてるのも良し

747 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/12(土) 20:42:59.14 ID:BrQl52Dp0
――――――



 “あなたたちの女神より”……手書きで可愛らしいメモ帳に書かれたメッセージは拙く、

 上等な造りの箱とその中身のケーキがなければ、子供のイタズラとすら思いかねないようなシロモノだった。


 ……神? そんなのいないから代わりにやってるんだ。何もしてない神に感謝されることになっても。

 でも『女神』なんて、どうしてちょっとだけ自分を出すような書き方をしたんだ。神を名乗るならただ神とだけ書けばいいのに。


あすみ「本当は最初からさ、感謝されたいって気持ちもあったんじゃないの? 『神様』って讃えられるのはイイ気持ちだったでしょ?」

あすみ「やり方だってずさんだよ。身を隠すのに特化した魔法を持ってるわけでもないんだし、毎日コソコソ置きにいってたらそりゃいつかバレる」


 きっと、深く考えていなかったんだろう。助けたらどうなるかもバレた時のことも、あの家族の前で神様を名乗る意味も。


なぎさ「……そうですね。ちょっと浮かれてたとこはありました。でも、段々と騙してるって気持ちのほうが大きくなりました」

あすみ「まー、感謝されていいようなことしてるんだからそう思うのは当たり前なんだけど」

あすみ「良いことしても上手くいかないもんだよね? 恩が仇で返ってくるようなことだってあるしさ?」

あすみ「私は優しさなんて誰かに付け入られるだけの『弱み』だと思ってたよ。今も思ってる」

なぎさ「だからですか? あすみがなぎさたちとは離れて活動しているのって」

あすみ「……」


 たまに通りがかりにでも訓練場に顔を出すようにはしたり、露骨に避けたりしてないつもりだったけど、さすがにそう思われてたんだ。


なぎさ「前はよく一緒にいろんなことしてたけど、今はあすみがどうしてるのか全然わからなくて」

なぎさ「そんなときあすみがあの教会に行ってたことを知って、なぎさも行ってみたのです。そしたらちょっとわかるんじゃないかって」

あすみ「私のことを知るために……?」

なぎさ「はい。あすみはどうして行ってたのですか? お祈りにきてたわけではないのですよね?」

748 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/12(土) 22:08:11.72 ID:BrQl52Dp0


 そう問われると答えに困った。

 最初は傘がなかったからって流れ的に。それからは……他に行くとこがないからだった。しいていうなら。


あすみ「そうだね、なんとなく? 何も言われなかったし」

なぎさ「なんとなくで教会に通いますかね……」


 さすがにこんなんじゃ納得しないかな、と思ってたらなぎさはこんなことを言いはじめた。


なぎさ「……でも、何も言われないからっていうのは納得しました。前見かけたとき、そんな感じがしたのです」

あすみ「あぁ、そう? 納得してくれたならいいけど……」

なぎさ「もしかしたら…… 今、そういう場所がほかにないってことですよね」

あすみ「!」

なぎさ「あすみが自分のことを言わないのは前からでした。でも今は携帯も使えなくなったって言うし本当に心配で」

なぎさ「もしかしたら出会う前から何か抱えてたのかもしれないけど……何かが起きてるんじゃないですか?」


 やめてよ、見透かされたくない。

 人を見透かすのは得意だけど見透かされるのは嫌いだ。なんだかみじめな感じがする。

 でも、そんな心まで読んだかのようになぎさは言う。


なぎさ「あすみは前、『いざというときに頼れるのが友達』だって言ってくれましたよね。今がそうなんじゃないですか? だったらもっと、頼ってほしいのです!」


……そりゃ読めちゃうか。

 もう付き合いも長いし、『友達』――って認めちゃったんだから。諦めるしかないようだ。


あすみ「言ったとこでなんもできないと思うよ? 嫌な気持ちになるだけだよ? それでも聞きたいの?」

なぎさ「それでも何も知らないままよりいいはずです!」

あすみ「もう、仕方ないなぁ」


――――
――――
749 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/12(土) 22:23:37.32 ID:DwGpGjmC0
あすみの過去はなぎさにはキツいだろうな
それと魔法少女の真実も話すかね?
そろそろ知っておかないとヤバいだろうし
750 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 00:29:06.46 ID:IsKfL80Q0


 契約する前のこと、契約してからのこと……――――



あすみ「多分まぁ私のもありふれた不幸だよ。心読んでみると家庭環境とかやべーのってたまに見たし。そのほうがキュゥべえがつけ入りやすいでしょ」

なぎさ「つけ入るって……あすみも神父さんが言ってたようにキュゥべえを悪魔みたいに思ってるのですか?」

あすみ「あぁ、あれに関してはほぼ同意だったよ。神父サンやってたからかしんないけど、そこそこ真に迫ってるなぁと思ってた」


 そんな前置きをして。


あすみ「私もお母さんいないってのは言ったじゃん。そのときにキュゥべえは来なかったってのも」

なぎさ「そうですね……聞きました」

あすみ「私の場合、お父さんも最初から家にいなかったんだ。じいちゃんばあちゃんもいない。だから、わけわかんないとこに飛ばされた」

なぎさ「ま、まさかそれでロトーに!?」

あすみ「……結論は合ってるんだけどね。さすがにそんなに簡単には路頭に迷わせられないかなー。おせっかいなことに、子供には大人が必要だってことでどっかにはあてがわれるから」

なぎさ「け、結論は合ってるのですか……?」

あすみ「うん。マミくらい大きくて家に金があれば一人暮らしもできたんだろうけど、私は無理だった。……私の場合は、父親がテキトーに友人に手を回したんだって」

あすみ「私からすれば知らない人。父親でさえよく知らないのに。向こうからしても、知らない子供なんてサンドバッグ兼ダッチワイフが手に入ったくらいにしか思ってなかったわけね」


 ……そのことはごくざっくりとだけ。

 特にあの男のことなんか詳細に話しても嫌な気持ちになるどころじゃないし、大して話したくもない。


あすみ「しかもその時の私って暗かったから友達もいなかったんだ。前まで普通に話してた人まで離れるどころかいじめる側に回った」

あすみ「そうなるともう、目に入るもの全部、醜いなー……って思って。だから、そいつら全員『不幸』になるようにって呪って契約してやった」

なぎさ「呪いって……どうなったのですか?」

あすみ「あの男は魔女に食われて死んだ。私も途中で『口づけ』に気づいて見送ったよ。念入りに他の魔法少女がいないことも確かめて」

あすみ「いや、私が助けなきゃ助けられるはずないんだよね。それが不幸というものだから。他も……事故に遭った奴とかいたかな。全部の末路は知らないけどね」

なぎさ「殺されそうになって殺したって……そういうことだったのですね……」

あすみ「そう。心を削るような暴力も、いじめも、見殺しも立派な殺しだよ。それで私は今晴れて路頭に迷ってるとこ」

あすみ「でももちろん前よりはいいよ。あの家に居続けたくもないし、あの街の魔法少女と醜い小競り合いしてるよりはアンタみたいなのに出会えた分よかったと思う」


 誰かにこんなこと話すのははじめてだった。

 なぎさがどう思ってるのか気になる。でも、魔法で覗きたくはない。

751 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 00:31:56.19 ID:IsKfL80Q0


あすみ「家にあったもの持ち出してこっちに来たんだけど、そろそろ色々と使えるものがなくなっちゃってさ」

あすみ「それに心置きなく休める居場所ってのも結構大事だったんだなって思った」

なぎさ「居場所……ですか…… あと携帯やお金?」

あすみ「不便だけど、携帯はなければないで慣れるよ。前まで携帯なんて持ったことなかったし」

なぎさ「たしかにとりあえずお金とおうちのほうが重要ですよね……うーん」


 なぎさはあれこれと考えているようだった。

 なんとかしようと考えてるのか? どうせ何も出来ないって言ったのに。


なぎさ「でも、居場所なら…… 訓練場所は好きにいてくれて構わないのですよ。訓練中も気にしませんから。たまにアドバイスとか、参加してくれたりすると嬉しいですし!」

なぎさ「そうでした。今日もマミに訓練しようって誘ったんでした。多分もうすぐ……」



 ……私達はいつも訓練に使ってる場所からも少し離れたところにいた。

 もしマミが偶然ここに来たりしても大丈夫なようにと思って選んだ場所だ。もちろん関係ない人がよく通る場所でも話しにくいし。



なぎさ「ここからちょっとですし、あすみも来ませんか? マミのことだしちょっと早くにきて訓練はじめてると思うのですよ!」

あすみ「……まあ、いいけどさ」



 行く場所もないし、行ってやってもいいか。

 ――――……そう思ってついていったが、なぎさの予想に反してマミの姿はまだなかった。

752 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 00:35:43.16 ID:IsKfL80Q0
-----------------------
ここまで
次回は13日(日)夜の予定です
753 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/13(日) 00:57:18.59 ID:cKhhSFlT0
乙です

あすみの事情、なぎさにはまだ理解できないところがあるのはどうしようもないですからボカして正解かな、と
マミはなぎざにマンツーマンで訓練受けてたから、もう弱くはないとは思うけど逆に無理しちゃうかも?
754 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 22:01:17.43 ID:IsKfL80Q0


あすみ「私達だけみたいだね」

なぎさ「うーん、予想はずれちゃいましたねー……」


 それならそれで、訓練中しててもそうじゃなくても居るだけなら関係ない。

 すると、なぎさは思いついたように言い出した。


なぎさ「そういえば、さっきの話を聞いてもわからなかったことがあるのですが……」


 ……なんだ。もしかしてダッチワイフってなんですかとでも言うつもりか。

 そんなことを考えたが、それも違うようだった。


なぎさ「結局どうしてキュゥべえのことを嫌ってるのです? あすみは神父さんのような理由では嫌わないんじゃないかと思ったのです」

あすみ「あー……」


 どう返したものかと悩む。そういえばそこには一切触れていなかった。その真実自体は、『私の過去』ってわけじゃないから。

 たしかに私は心を読むまで、キュゥべえのことは助けてくれた恩人だとすら思っていた。


あすみ「……まあそれもいつか、話すよ」



 私が話すのと自ら知ってしまうのと、どっちが早いだろうか。

755 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 22:10:45.55 ID:IsKfL80Q0
――――――



 約一年。……それは、私が契約してからの期間だった。

 でもそんなの、特に実感は沸かない。その間に私の中で何かが変わったとも思ってなかった。

 たしかに一人の生活は大変で、今でもたまにまだ心細くなる。でもそんなとき――――私は本当の意味で一人じゃなかったから。


 自分より経験の長い人しかいない中で、自分がベテランだとも思えない。

 でも――。


 最初の頃に感じていた“死と隣合わせの恐怖心”というものはいつしか薄れ始めていた。

 ずっと訓練してきたし、魔女とも戦ってきた。確実に強くはなれている。



 『年月以上に、その覚悟の違いって大きいよ? いざという時を経験してきてない人に負けることなんてないって』



 だから、この言葉に反感を抱いていたんだと思う。

 そろそろ自分の腕を試してみたい気持ちもわき始めていたんだと思う。


 ずっと大事に守られてきた。でも、頼ってばかりじゃなくてもう一人でもやれるんじゃないかって。やってみたいって思った。


 ――――……多分それは覚悟なんかじゃなくて、慢心だったんだ。

756 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/13(日) 23:33:39.12 ID:IsKfL80Q0


 甲高い笑い声が結界内に響き渡る。

 それは倒すべき魔女の声。今私は結界の奥地にまでたどりつき、頭に角を生やした大柄な魔女と対峙していた。


 その姿をもう一度確認して、手に持った斧の他に攻撃手段がないことを確認する。


マミ(大きいのに動きはすばしっこいのね……セオリーからは外れてるわ。でも、縛ってしまえばこっちのものよ)


 手から出したリボンで攻撃を受け流しつつ、相手の隙をうかがう。

 比較的攻撃の軌道は読みやすい。それに、振るった後は隙が必ず生まれる。敵の動き自体が速めだから僅かな時間だけど、狙うならそこしかない。


マミ(今!)


 手足からすばやく絡め取ることに成功する。斧が手から落ちたのを見て、私は勝利を確信した。

 でも時間をかけるわけにはいかない。

 そこに魔力を集中していく。なぎさちゃんと一緒に考えた必殺技。絡め取った相手を爆発四散させる技。


マミ「――――『フィナーレ』!」


 技を打つ魔力を充填し、これで仕留められたはず……だった。

 しかし再び斧は振りかぶられる。


マミ「つっ……――!? え…… どうしてまだ動けるの?」


 いつのまにか斧はまた魔女の手の中にあって。私の渾身の必殺技にも、ものともしてないみたいだった。

 避けきれなくてできた傷が痛んだけど、それも気にしてる場合じゃない。思えば、なぎさちゃんと一緒に戦ってた時はケガなんてほとんどしたことがなかった。



 『アンタも気をつけなよ? 今は怖い怖いって思ってるかもしれないけど、いずれは力の使い方に慣れて、気づいたらすっかり染まってないように』


 ――――これまで魔法少女の力があっても悪いことはしていない。私たちには目指す道があるから。

 でも、力の使い方に慣れたことで変わってしまっていたことに気づいたのは、再び『死と隣合わせの恐怖心』を味わってからだった。


757 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/14(月) 00:16:50.11 ID:oFrl1bZU0
-----------------
ここまで
次回は15日(火)夜からの予定です
758 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/14(月) 01:29:59.57 ID:RPhOmzOzO

ここまで順調過ぎたのが慢心になっちゃったわけか
リボンだけだと火力低いまんまくさいな
759 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/14(月) 20:50:40.51 ID:Jf2wKIYq0
乙です

やっぱりあすみにとってなぎざは特別な存在なんだと改めて思いました。
このあすみが過去を話すなんてとても考えられないことですからね・・・

>>私が話すのと自ら知ってしまうのと、どっちが早いだろうか。

なんか嫌なフラグが立ってるような・・・マミさん、ピンチだから早く助けてあげて!
760 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/15(火) 23:40:46.75 ID:rDoTqNWE0


マミ(私の必殺技は一度使えば拘束が解ける。もう一度縛ってもこんなにすぐ回復されるんじゃ……)


 実際にやってみれば一人で魔女を倒すことはあっけなくできていた。

 そこで薄れはじめていた恐怖はほとんど消えてしまってた。


マミ(……最初に抱いた恐怖はいつでも持ってなきゃいけないものだったのよね)

マミ(もしここで負けたらどうなるの? ……誰にも気づいてもらえないの?)


 ケガをリボンで止血する。

 魔女は攻撃のペースを緩めない。小細工でどうにかなる相手じゃない。

でも、きっとこんな時でも――。


 なぎさちゃんがいてくれれば。いつもならちょっと苦戦することがあったって最終的にはなんとかなってた。

 それってきっとすごいことだったんだ。


 一人前になったつもりで突っ走ったのは私なのに。


マミ(ダメだわ……いくら隙を狙ってもこのくらいじゃ全然倒せない。こっちは怪我を治す暇もないのに)

マミ(ダメ元で、もう一度大技を当ててみましょうか……?)


 でも、それで勝てればいいけどもし倒せなかったら。

761 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/16(水) 00:06:04.05 ID:wR508BNU0



 リスクの高い選択のほかに、もう一つ浮かんだのは逃げるということ。

 ……すごく情けないし、よくないことだというのはわかっているけれど。


 逃げてなぎさちゃんに連絡したほうが戦いも長引かず、犠牲が出る前に決着がつけられるかもしれない。

 ここで私が負けたって街の人を危険に晒すのは同じだもの。


 結局、勝てなくて悔しいのはプライドの問題で……他に考えなきゃいけないことはたくさんあって。

 それに、私はもちろんまだ死にたくない。こんな形で死んだら死んでも死にきれない。


マミ(それにしても……重そうな見た目に反して軽々振り上げてるのに、攻撃の重さは見た目通りだなんて反則だわ)

マミ(大技でも効かなかったのに、ちょっと攻撃を当てたくらいじゃすぐに回復されて……)


 まるで『実体がない』かのよう。


マミ(――?)


なぎさ「――――あすみ、ちょっと魔女縛っててください!」

あすみ「はいよ、言われなくても」


 …………私が逃走を決めたその直後、突然声がして、鎖が“斧だけを縛り上げていった"。


なぎさ「あっ、やっぱり見分けついてました?」

あすみ「とーぜん。私の魔法なんだと思ってんの。それよりアンタのほうが『そんな』魔法もないのにさすがじゃん」

なぎさ「伊達に見滝原のヒーローやってないのですよ!」


 それはついさっきまで絶望感溢れる戦場だったこの場に似つかわしくない声だった。

762 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/16(水) 00:29:19.08 ID:wR508BNU0
----------------
次回は16日(水)夜からの予定です

比べやすい戦闘なのでわかると思いますが、このマミは本来のマミより戦闘面でもメンタル面でも弱いです。
というより、強くなる必要がなかった…というある意味平和な姿です。
あくまでこの話はあすみとなぎさがメインということで…。
763 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/16(水) 09:19:10.22 ID:splyNrO0O

斧の魔女だったか
マンガ同様風見野から流れて来たのかね?
764 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/16(水) 22:40:06.50 ID:wR508BNU0
――――――
――――――



なぎさ「って、マミ! 怪我してるじゃないですか! 下がっててください!」

マミ「え、ええ……」


 武器を取り上げられた魔女はシャボンの中に溺れてもがき、

 斧――不快な呪いを発する魔女の本体は即座に鉄クズと化した。


あすみ「いくら擬態したって魔女なんて“ダダ漏れ”で駄目だね。茶番に付き合ってやる気なんてないよ」

あすみ「マミが苦戦するくらいには身体能力も高……く見せかけてるみたいだけど? ハリボテ殴って鍛えるならなぎさとやってたほうがまだマシ」


 グリーフシードを手の上で回しつつつぶやく。


 マミが遅いせいでついに特訓なんてものに巻き込まれ、こんなところにまでついてくるハメになったのだから機嫌は悪い。

 こいつがマミの家まで迎えに行くなんて言い出さなければ念願の原っぱで昼寝でもしてたんだけど。


なぎさ「じゃあもう一回やりますか!?」

あすみ「当分いい」


 最近この街も平和だし、スポーツみたいなものとはいえなぎさと全力でやりあってみるのは興味がなくはなかった。

 ……けど、敗因があるとしたら最終目標が『拘束』だったことかな。呪いをぶつけ合う戦いしかしてこなかったから。



 ふとなぎさとマミのほうに目を向けてみれば、手当てされてたマミはまだ呆然としていた。



なぎさ「よしよしっ、治ったのですよ! もう痛いとこないですか?」

マミ「ありがとう、なぎさちゃん。二人が助けに来てくれてよかったわ。もう駄目だと……」

なぎさ「もー、なぎさも心配したのです! これからは無理しちゃ駄目です! 一緒に戦いましょ!」

あすみ「……」


 ……相変わらず過保護だなあという感想しか出てこない。

 いつのまにか親鳥の巣から抜け出そうとしてた雛は、今回の一件でまた巣に籠もるのだろう。

 でもそれは悪いことじゃない。仲良しのまま一緒に暮らしていくのもきっといいことだ。ここは厳しい野生ではないのだから。


あすみ「……じゃ、戻るよ。まあ、私はただあの場所に居座るだけなんだけど」

なぎさ「はいっ! 行きましょ!」


――――
――――
765 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/17(木) 00:06:47.68 ID:BilfRiJR0



 それから訓練場所に戻って、私は言ったとおり何もせず二人の様子を眺めてた。

 教会と違ってひとつ難点なのは、ここが野外だってことか。雨風を凌ぐには良い条件じゃない。


 二人はまた前みたいに模擬戦をやっていた。


なぎさ「さてっ、ぜひとも破って近づいてみてくださいなのですよ! なぎさはここからでも捕まえられるのです!」


 大量のシャボンに阻まれると近づくのも難しい。

 ああ見えて結構器用なコントロールまでやってたらしいから、油断してると誘導されてとっ捕まりかねない。攻撃範囲の広さは大きいメリットだ。


 私なら力任せに破って突き進めるけどマミには難しいだろう。そもそも見てた限りじゃ……あいつのリボンは狙いが読みやすすぎる。

 ――そろそろまた負けるかと思っていた矢先に魔力の小爆発が起きて、シャボンの群れが一気に弾けていった。


なぎさ「!」

マミ「毎回敵を縛って安全を確保してからじゃ、本当に最後にしか使えない。それに、『最後』になるかもわからないわよね」

マミ「だから、遠くからでも必殺技が使えないか考えてみたの。名前はまだつけてないけど……」


 どうやら、先に魔力を込めたリボンの塊を作っておいてパチンコのように跳ばしたらしい。

 なぎさの態度からして、いつもマミに危険が迫る前になぎさがなんとかしてるんだろう。

 さっきの戦いでマミは何かを考えたらしい。……巣立つことはできなくても、無駄な経験にはならなかったようだ。


マミ「はじめて近づけたわ!」

なぎさ「ありゃ、でも近づけたからって終わりじゃないのですよ? 勝負はこれからです!」


 なぎさはというと、拘束のリボンを寸手で回避。

 そりゃそうだ。私相手に勝っておいて、接近戦に持ち込まれたくらいで負けてもらっちゃ困る。



あすみ(……まあでも、思ったよりは面白い試合が見れたかな)


766 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/17(木) 00:10:44.12 ID:BilfRiJR0
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
次回は17日(木)夜からの予定。多分あと少しのはず。
767 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/06/17(木) 02:49:05.37 ID:10BBjVZ80
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768 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/17(木) 23:10:13.51 ID:BilfRiJR0


 ――――しばらくすると、真上にあった太陽はいつのまにか傾いていて、二人ももう訓練をやめにして帰る支度をはじめているところだった。


 平日だったらもう少し遅くまでやってただろうか。今日は礼拝の日の予定だった日曜日だ。長いこと曜日なんて気にしてなかったけど。

 なぎさは家族の時間を大切にしたいと言ってたし、最近はあの教会のことばかり気にかけていたからさっさと日常に戻ったほうがいいんだろう。


あすみ「……ねえ、アンタもこれから帰るんでしょ。いつも一人で何してんの」

マミ「えっ? そうね……授業の予習をしたり、紅茶に合うおやつを作ってみたりとか」

あすみ「ふーん」


 聞いてはみたものの、こいつとも違いすぎた。


なぎさ「あすみったらいつもこうなのですよ。聞いておいて興味なさそうにするのです!」

あすみ「私そんな高尚な趣味ないし」

マミ「やってみたら楽しいと思うのだけどねぇ……」

なぎさ「あ、でも今度久しぶりに一緒に料理してみるのはどうです?」

あすみ「私はいい。マミに聞けばいいでしょ」

なぎさ「たしかにマミはいっぱいおいしくて見た目もキレイな料理を知ってますが……なぎさはただ、またあすみとも一緒に色んなことしたいだけなのですよ」


 ……確かに言われてみれば、マミが来てから暇でしょうがない時間が増えたんだった。

 だからって別にマミを疎んだり、拗ねてるわけじゃない。

 ただ、一年前のほうが居場所がないとか、何をするか悩むような暇もなかったのかもしれないな。


あすみ「はあ。……じゃあ今度ね」

なぎさ「! ホントですか! 約束ですよ!」

769 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/17(木) 23:39:48.75 ID:BilfRiJR0


 そんな約束をして、なぎさは帰っていく。するとこの場に残ったのは私とマミだけだった。


マミ「……神名さんはまだいるの?」

あすみ「そっちこそ」


 私がマミを見かける時は大体なぎさも一緒にいた。

 こいつと二人になるのって最初の契約したての時以来かもしれない。


あすみ「私はこれでもアンタのこと一応は認めてるよ。なぎさがついてるからってのもあるだろうけど、クズにはならなかったみたいだし」

マミ「ええ、私もできるだけこの力はいい事に使いたいしね……。でもあなたは私のことはあまり認めてくれてないのかと思ってたわ」

あすみ「あいつが張り切って甘やかしすぎてんのよ。自分が守るんだって。何でも危険を摘み取ってやってたらそりゃ、自分以上になるわけないじゃん」

あすみ「でも、今日はちょっとだけ自分で戦いの中から何か掴んだみたいね」

マミ「あの新技のこと? あなたにそう言ってもらえると嬉しいわ。本当に褒められてるって気がするから」

マミ「なぎさちゃんにはありがたいと思ってるわよ。今日のことは本当にどうしようかと思ったもの……」


 今日の戦いでも魔女の正体に気づかずチンタラやってたようだけど、本当に一人だったらいつか自分で気付けるポテンシャルはあったかもしれない。

 でも、やっぱりそうはいかずに死んでたかもしれない。今となってはわからないことだ。


あすみ「で? まだ一人で訓練でもすんの?」

マミ「いえ、そこまではいいかしら。私もそろそろ帰るわね」


 少しだけ話してからマミも帰っていく。

 ……――みんなそれぞれの道へ帰っていった。



あすみ(私はもう少し暗くなるまでここにいるかな)



 明日からはまた平日だ。なぎさも少しは暇になるだろう。

 そしたらさっきの約束でも果たしに行ってやろうか?


 私の生活はこれから大きく変わることはないだろうけど、その時のことを考えたら少しは暇つぶしになった。




―『続々・なぎさとあすみとマミの見滝原』END―
770 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/17(木) 23:49:15.71 ID:BilfRiJR0
--------------------------------------------
ここまで
次回は21日(月)夜からの予定

『続々』まで無事終了
これからどうするか(続きor別の、もしくはカットされたあすみVSなぎさの詳細みたいなおまけパートとか)は次回までのレスの流れ見て決めますー。
引き続きの場合は時間が飛びます。もう過去ではなくなるのでさすがに最後になると思います。
771 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/18(金) 20:01:32.75 ID:zCR/Y+H9O

一先ず続けて欲しいけど、カットされたあすみVSなぎさを見たいね
でもそんなシーンあったっけ?
772 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/20(日) 19:54:49.09 ID:hY/gRfvi0
遅くなりましたが『続々』終了おつかれさまです。

あすみとなぎさの関係やっぱり強い感じですね。
さぎさは神様がいなくても頑張ってますし、あすみもマミも事も一応認めたとかあすみ編のときよりも若干まるくなってうかな?


自分も続きを希望しますが、次は原作時間軸かな?
773 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/20(日) 20:31:46.06 ID:e1CGrOq+o
おつ
実はそろそろ安価に戻りたい
774 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/21(月) 08:39:24.53 ID:h0QDMqAQO
あすみVSなぎさってマミを助ける前の模擬戦のことか
続きの前にそのカットされた模擬戦を見たいね
775 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/22(火) 00:27:04.96 ID:FZ0SctsH0
----------
日付変わってた。今日はもう寝よう…
次回は22日(火)夜の予定ですー、おまけからで。
776 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/06/22(火) 02:54:16.91 ID:BgKaeewY0
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777 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/22(火) 23:09:59.90 ID:FZ0SctsH0
---------------------------------------------
おまけ * あすみとなぎさの模擬戦のようす
>>755 あたりの二人のほうの視点
---------------------------------------------


 人目につかない訓練場所。

 いつもなら私の代わりにこの場にいたマミがまだ来てないから、この場所はいつになく静かだった。


 両者ともにまだ動きはない。


あすみ「で、合図は? こっちはいつでもいーよ」


 余裕を醸し出して笑む。

 私もなぎさも素早さに自信のあるタイプではないが、わずかでも先行して動けたほうが有利なのは変わらない。

 ただ、余裕がないと思われるのは癪だった。……いまさら、こいつ相手にそんなこと気にする意味もないかもしんないけど。


なぎさ「なんだか余裕そうなのです! これは今のところ模擬戦不敗のなぎさも負けてはいられませんね」


 それに対するなぎさの調子はいつも通り。


 ――これまで一緒に魔女や不届き者と戦ったことならあったが、武器を構えて向かい合うのは初めてだった。

 特訓と言うが、マミが来るまでの暇つぶしの一つだ。マミの面倒を見るのは興味がないが、なぎさとだったらやってみてもいい。

 戦いは好きだし得意なほうだと思ってる。私のほうは、もちろん“模擬戦”なんて初めてなんだけど。


なぎさ「それならふかーく息を吸い込んで……1,2の3ではじめるのです!」


 カウントがはじまる。

 きっかり三秒―――ののち、虹色をした小さな球体が視界を飛び回って吹き出してきた。


あすみ(へえ、こんなに出せるようになってたんだ……ちょっと驚き)


 数は多いがシャボンの一つ一つは小さめで、魔力に任せた物量作戦というわけでもないのだろう。

 そのシャボンができるだけこちらに届かないうちに、踏み出した勢いを止めることなくなぎさとの間合いを詰める。

778 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/22(火) 23:28:26.86 ID:6DKrrd4Y0
なぎさは遠距離、あすみは近距離型。
互いにシャボンと鎖で牽制が可能だしこの2人が組むと普通に強いよね
779 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/23(水) 21:57:37.45 ID:+atVmq5q0


 虹色に包まれた幻想的な景色を突き進む。


あすみ(勝負を仕掛けるなら――このタイミング!)


 途中で足を止めて鉄球を振りかぶると、破裂音とともに虹色は破れ、空気を裂くように鋭く正面へと鎖が伸びていく。

 小さく密度の高いシャボンは相手に届かせることを重視した牽制だろう。攻撃の勢いまで防げるものじゃない。

 一度勢いをつければ私が足を止めても鉄球は加速したまま前へ進む。うまくいけば一発で拘束を決めることもできるかもしれない。


 どうせシャボンはこれから増える一方。鉄球が当たれば簡単に破れるとしても、妨害にはうってつけの武器だ。囲まれるのは厄介。


あすみ(……なら、速いうちに)

なぎさ「あわわっ、思ったよりも強引に突破してこれるんですね〜……!?」


 なぎさは飛び退いて避けると、こちらに向けていたシャボンをその場に留めて守りを固め、さらにシャボンを追加してくる。

 さっきと同じ小さいシャボン。これならまだ次を打てる。


 そう思った瞬間、周りのシャボンが次々と弾けていく。小さいけれど、鎖を巻き込んで爆発されると狙い通りの軌道にならない。

 ……正直ちょっと、油断してた。鎖の軌道を曲げるほど的確に位置やら弾けるタイミングやら調整できると思ってなかったから。


あすみ「ま、こんなに早くは決まらないか」


 武器を引いて鉄球を戻す。その過程でもできるだけシャボンは破って“道”を作る。ますます囲まれたら厄介ってわかったし、それだけでも収穫としておこう。

 そして、鎖を巻取り――――鉄球が柄の先にカチリとはまる音がした。

 離れた位置から狙うには繊細なコントロールが必要だ。だったら、さらに自ら距離を詰めればいい。フレイルは最後の一手のためにとっておく。


あすみ「インファイトのがやっぱ燃えるでしょ?」


 さらに踏み込む。勝つのに必要なのは、自分のペースを作ること。

 それはなぎさにとっては相手をできるだけ多くのシャボンで囲って安全な位置まで遠ざかること――私は逆だ。

 中距離くらいまでなら戦えるが、なぎさの得意としてない接近戦に持ち込んだほうが隙は突ける。


 もちろんシャボンにも囲まれやすくはなる。でも、こんなのちまちまと破ってたらいつまでたっても勝てない。

 この戦い、長引かせたほうが不利になるのは最初に思った通りみたいだから。


あすみ(――それにしても)


 ――戦術を考えながらふと思った。いつもなら『聞こえてくるもの』が今はない。

 いくら遊びったって、『ミスしろ!』くらい思ってもいいもんなのに。


あすみ(久しぶりに静かな戦いだな)


――――――
780 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/23(水) 22:02:53.10 ID:QOhlLJQL0
なぎさにはあすみへの悪意がないわけだから、あすみの固有魔法は発動しないのは当然か。
781 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/23(水) 22:11:33.35 ID:VF64MWBbO
ここでなぎさがトランペット超音波出したら意表をつけそうだな
あすみが超音波知らなければだけど
782 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/23(水) 23:05:58.21 ID:+atVmq5q0
――――――



 シャボンを敷き詰めて遠ざけるつもりが予想に反して、あすみはこちらへ急接近してきました。

 鎖のないモーニングスターを携えて。


あすみ「インファイトのがやっぱ燃えるでしょ?」


 ……いや、やっぱりこういう大胆な戦い方があすみらしいのかもしれません。

 とはいえ、接近戦の間合いに入られるといくらか焦ります。新しくシャボンを出して位置を調整するのにも時間はかかるわけですし、戦いづらいのです。

 あすみとの間にあったシャボンはいつのまにかキレイに消されています。


 あすみはダイナミックにバトンでも扱うかのごとく鉄球を振り回します。

 攻撃に巻き込まれたシャボンはあっけなく破られ、避け続けるのは長くは持たないでしょう。さっきみたいに鎖を狙って軌道を曲げることもできません。


 どうやらなぎさは、このままではちょっとまずい状況のようです。ですが、このままでいる気もありません。


なぎさ「いーえっ――悪いですが、それはおことわりなのですっ!」


 重い武器を振りかぶるタイミングを見計らって、脇をすり抜けます。

 懐に潜り込むというのは一番に接近する瞬間でもあります。あすみもむしろ、このタイミングは狙ってくるでしょう。

 同時になぎさはいっぱいに息を吹き込み、いつもの笛の音とともにシャボンの嵐を吹かせます。……これを至近距離で聞かせるのも、もしかしたら集中妨害になるでしょうか。


 重い武器を振るうのはただでさえ体制を崩しやすい瞬間。なぎさの狙い通り、足元で起こった『小さな衝撃』にあすみはバランスを崩します。


あすみ「なっ……!」


 最初のよりもさらに小さいシャボンを混ぜたのです。威力はありませんが作るのも狙った位置にすぐに届かせられますし、注意をそらして忍ばせやすいのです。


 それに……怪我をさせるほどの威力がないからこそ、安心してぶつけられます。

 さすがのあすみもこんな小さなシャボンにやられるとは思っていなかったでしょう。

 今まで手早さ重視の小さいシャボンしか作っていませんでしたが、やっと人一人覆えるくらいの大きなシャボンを作る暇ができました。


なぎさ「これでかくほ! なのです!」

あすみ「…………あーあ、参りました」



 あすみは負けても余裕そうでした。そこになんだか安心します。

 ――――こうしてあすみとの初めての勝負は決着がついたのでした。

783 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/23(水) 23:18:27.44 ID:QOhlLJQL0
なぎさ、こうやって勝ったのか。
あすみはちょっと油断してたのと悪意が聞こえないので少し調子が狂ったかな?
784 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/23(水) 23:48:43.59 ID:+atVmq5q0


あすみ「接近戦に持ち込めれば勝てると思ったのになぁー」

なぎさ「そういえば、あすみはさっきの戦いでも心を読んでたのですか?」

あすみ「……いや。そんな手もあったね。でもそんなヒマなかったよ」

なぎさ「意外と集中力が必要だったりするのです? 最後のは割と思いつきでしたが、それでもあすみなら途中で読めてれば対応できた気もするのです」

あすみ「買いかぶり過ぎじゃない?」

なぎさ「そうでしょうか?」

あすみ「まあ、読むのはやろうと思えばできたかもね。……勝手に読めるのは悪意だけ。いつもはそれで十分だから」


 あすみもさすがにあの棘鉄球で殴ろうとしてたわけじゃありませんし、余計に大ぶりに動く必要があったのも見て取れました。

 きっと、本当はあすみにとっては殴り倒す戦いのほうが早いのでしょう。


 ……でも、これは特訓なのです。お互いに。


あすみ「ていうかまだあいつ来ないじゃん。また暇になっちゃったね」

なぎさ「そうですね……ちょっと遅すぎるのです。家に行ってみませんか?」

あすみ「えー、私は別に」

なぎさ「そんなこと言わずに! なぎさのほうが勝ったんですし、ちょっとくらいわがまま聞いてくださいなのですよ!」

あすみ「そんな約束してないし。……はあ、しょうがないな。確かにこれはなんかあったかもね?」

なぎさ「な、何かあったら困るのです! マミ、今迎えに行くのですよ!」


―END―

>>761に続く…
785 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/23(水) 23:52:05.98 ID:+atVmq5q0
---------------------
ここまで
次回は26日(土)夜からの予定です。
786 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/23(水) 23:58:23.23 ID:QOhlLJQL0
乙です。

次はあすみ・なぎさコンビの続きですかね?
またあすみにキリカが傷物にされて織莉子はしばかれるのか・・・w
契約しなかった杏子が再登場してくれたらうれしいかも。
787 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/26(土) 21:02:45.04 ID:YdAb+cdf0
――――――――――――――――――
――――――――



 そういえば、いつ何をきっかけで知ったのかすらもう覚えていないものが多いのですが……。

 長いこと魔法少女をやっているなら知っていて当然の知識というものがいくつかあります。

 最初の頃は魔法少女はなぎさ一人だったのでそういうのに疎く、あすみに世間知らずだってばかにされることも多かったのですが。



なぎさ「あすみは『ワルプルギスの夜』って知ってますか?」

あすみ「……何、どうしたのさ急に?」


 これもいつかの会話。

 みんなが揃ういつもの訓練場所で、ふと口にしたことでした。


なぎさ「あ! あすみもこれは知らないのです?」

あすみ「知ってるよ。結界を持つ必要がないくらい強い超弩級の魔女――とかいうやつのことでしょ」

なぎさ「なーんだ、やっぱり知ってたのですね」

マミ「私は聞いたことないんだけど、そんな魔女がいるの?」

なぎさ「噂ですけどね。過去に世界で起きた大災害がホントはこれの仕業だって……ホントなんですかね」

あすみ「さあね。私はキュゥべえから聞いたし存在自体は疑ってないけど、どれがそうだってのは眉唾だよ」

なぎさ「じゃあワルプルギスの夜の弱点って知ってます?」

あすみ「それは知らないけど」

なぎさ「実は…… 」


 そう言って溜めると、二人は食いついてきました。


なぎさ「なぎさも知らないのです!」

あすみ「はぁ〜、呆れた。昼寝するから起こさないでくれる?」

マミ「……訓練、再開しましょうか」

なぎさ「いや、そんなにがっかりさせる気はなかったのですよ!? みんなで考えてみたら面白いかなって!」



 ……これが『こわいはなし』なら怪物の弱点までセットになっていることは珍しくはありません。

 今まで戦ってきた魔女も、どれだけ強い敵だと思えても探ってみれば弱点があったりしたのです。




――――――――――――――――――


 最終・なぎさとあすみの見滝原


――――――――――――――――――
788 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/26(土) 21:59:21.24 ID:sKOM2Egb0
ワウプルギスの名前が出たと言うことは原作時間軸に突入ですね。
あすみはまだ野宿してるのかな?
789 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/26(土) 22:51:36.23 ID:YdAb+cdf0


*「なぎさちゃん、これからわたしの家で遊ばない? **ちゃんと***ちゃんも来るって」

なぎさ「ごめんなさい、今日も予定があるので」


 ――――今日も学校での一日が終わりました。

 せっかくのお誘いですが、今日もお断りの返事をかえします。


*「ああ、それならいいの。なぎさちゃん忙しそうだもんね」

なぎさ「また休みの日にでも!」


 予定とはもちろん訓練のことです。マミと出会ってからずっと続けてきたそれは、今でももちろん続いています。

 それに今はあすみもよく訓練場所に来てくれるのです。

 学校のお友達と遊ぶことは少なくなったものの、みんなで一緒にいる時間はなにより安心する時間になっていました。


 この見滝原の街にあすみがやってきて、マミと仲良くなって――――あれからなぎさたちはほとんど変わらない毎日を過ごせています。

 しかし、今までであった魔法少女はそれだけではありませんでした。


 縄張りを奪おうとする魔法少女。ちょっとだけ話すことのあった他の町の魔法少女。それに、守れなかった新しい魔法少女。

 訓練にさそったりしてみても、考え方の違いでそれを拒まれたり、最初のうちは来てくれてもいつのまにか来なくなることもありました。

 その結果が、今の『変わらない毎日』になっているのです。


なぎさ(あれ? マミからメッセージが……)



 そして今日、久しぶりにその日々が少し変わりそうな予感がしました。


790 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/26(土) 23:32:32.72 ID:sKOM2Egb0
いきなりまどかとさやかを助けてほむほむと遭遇した知らせかな?
もしくはあすみが危険な存在(キリカ)を連れてきたとか?
791 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/26(土) 23:40:09.89 ID:Fxizy5N8O
あすみ・なぎさ・マミと戦力的にはそうそう引けを取らない面子だよな
なぎさとマミが魔女化の事とか知らないのは不安要素だけど
あとそろそろ安価欲しいね
792 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/27(日) 00:20:31.88 ID:y9P6nhPt0
――――
訓練場所



 訓練場所にやってくると、マミの隣に見知らぬ人がいることに気づきます。

 マミと同じ制服。きっと見滝原中学校の生徒なのです。


なぎさ「マミ! メッセージに書いてあった子って……!」

マミ「ええ、この子よ。今朝契約したんだって。学校で会ったの」

まどか「はじめまして。わたし、鹿目まどかっていうの」

なぎさ「よろしくなのです! マミ、後輩ができましたね!」

マミ「え、ええ。そうね」


 まだ挨拶だけですが人当たりの良さそうな人です。これからも一人で危ないことをせず、訓練に来てくれるといいのですが……。

 すぐに来てくれなくなったりした人のことを思うと不安もあるのです。

 その人たちが全員どうなったかは知りません。会っていませんから。でも、表向きに『行方不明』となってしまった人もいました。


なぎさ「まどか、魔法少女のことはキュゥべえやマミからどのくらい聞いていますか?」

まどか「魔女と戦わなくちゃいけないってことくらいかな。まだ魔法も使っていからワクワクしてるの!」

マミ「自分の衣装が気になるって言ってたわ。まずは変身してみましょうか。私も初めてのときはいきなりで戸惑ったから」

なぎさ「そうですね! なぎさもまどかの変身した姿気になりますし!」


 まどかはマミと違って怖がったりするよりも、希望でいっぱいみたいです。なぎさも最初の変身のときはワクワクしたことを思い出します。

 まず変身してもらったり、魔法の力でできそうなことを一通り披露してもらっていると、奥の木陰のほうからあすみがこちらを覗いていたことに気づきます。

 多分訓練がはじまるより前に来ていたのでしょう。そういうことも多いみたいですから。

793 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/27(日) 00:26:01.79 ID:oZjs2SHsO
いきなりまどか契約してて草w
このまどかが最初のまどかならまだ大丈夫なんだが
794 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/06/27(日) 00:30:47.61 ID:Ot4TgdU50
>>793
ほむらがメガほむならまだ手遅れじゃないんですけどね・・・
あすみが木陰からジッと見てるのが不安感バリバリで怖い・・・

>>まだ魔法も使っていからワクワクしてるの!

まだ魔法も使っていないからワクワクしてるの!、かな?
795 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/27(日) 01:03:18.40 ID:y9P6nhPt0


なぎさ「あっ……、あすみもいたのですね。居るならこっちに来てくださいよ! 新しい仲間なのですよ!」

あすみ「新しいやつね。……あー、うん。よろしく」

まどか「うん。よ、よろしく」


 あすみは見定めるような目で見ています。

 あすみが新人を見て快い反応をすることって、前からあんまりありません。


あすみ「またずいぶん浮かれてるのが来たけど、『大丈夫そう』なの?」

なぎさ「……さっそくなのですが、まどかにお願いがあるのです。出来るだけでいいので訓練は来てほしいのです」

なぎさ「それと……一人では戦わないでほしいのです。危ないですから」


 多分マミと出会う前に会った魔法少女も含めて、マミと他の魔法少女との違い……――――。

 それは、戦いへの考え方だと思うのです。


 魔法の力って、ワクワクするほどすごいです。特に慣れかけの頃ほど、魔女なんて軽く倒せるのが当たり前なんじゃないかって気がします。

 でもマミは最初から『魔法少女』も『魔女』も怖がっていました。戦いも力も、軽く考えたことはなかったのです。


まどか「うん、わかった。約束するね。訓練にもたくさん出るようにするから!」

なぎさ「はい! 約束ですよ!」



 あすみはきっと忠告をしようとしていたのです。思っているより危険だぞって。

 ――――それから今日は基礎的な戦いの訓練だけをして解散としました。


796 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/27(日) 01:05:49.44 ID:y9P6nhPt0
-------------------------------
ここまで
次回は27日(日)夜からの予定です
797 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/27(日) 22:14:27.03 ID:y9P6nhPt0


あすみ「新人はまだ連れて行かないんだ」


 この場所を発とうとするなぎさたちを見てあすみが声をかけてきました。


なぎさ「まだやっと魔法の使い方がわかったくらいですから。急に戦えっていわれてもきっとなにをしていいかわからないと思うのです!」


 これからなぎさたちは魔女退治に出かけます。

 まどかも……次くらいには一緒につれていってみましょうか。頭の中で計画を立てます。


あすみ「そういうもんかね…… いや、あいつも戦いとか得意そうには見えなかったな。今まで見た中でも大分どんくさそうな部類じゃない?」

なぎさ「はじめてならしょうがないのですよ。きっと、要領を掴んだら立派に戦えます」

あすみ「また甘いんだから。でも後輩増えたらさすがに一人で全員の面倒見なくてもいいんじゃない? 魔女退治行くにもそろそろ多いでしょ」

なぎさ「! ……じゃあ、あすみが見てくれるのですか?」

あすみ「え、やだよ。そんなことは言ってないって。じゃなくて、後輩の世話は後輩に任せてみたらってこと」

マミ「……私が?」

あすみ「新人ももっと慣れてからのほうがいいだろうけど、二人もいれば前みたいなことになっても安全に逃げられるくらいの余裕はあるでしょ」

あすみ「てか、あれからだってもう……――たしか一年くらい? その時よりは強くなってんでしょ」

なぎさ「訓練ではそれもいいですけど、実戦のほうはまだ無理にしなくても……」

マミ「いえ、私もちょっと頑張ってみたいわ。後輩ってはじめてですもの」

あすみ「なぎさにばっかり先輩としてイイとことられたくないよね?」


 ……またあすみは焚きつけるようなことを言います。

 それに今回はマミも乗り気みたいです……これは困りました。大丈夫でしょうか?


なぎさ「で、でも。それはもうちょっと、まどかが戦えるようになってからなのですよ」

あすみ「まあそうね。それよりまずはバックレないで来てくれることが条件だよね。今度のこそ」


 たしかにそれはずっと気にしていたことでした。一緒に戦う仲間になるという以前のことです。

 あすみは軽く言いましたが……。


なぎさ「とりあえず、まどかとは約束ができましたから! この前の子とは出来なかったですけど……」

なぎさ「まどかは素直そうな子ですし、きっと大丈夫ですよ。なぎさが守ってあげられます」

あすみ「…………」


 そう言うと、あすみは少しだけ何か考えるようにしましたが、こう言いました。


あすみ「まあ、そうかもね」

なぎさ「はい!」



 それから、今日の魔女退治に出発しました。


798 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/27(日) 23:13:11.59 ID:y9P6nhPt0
――――
――――


 まどかと出会った次の日も――そのまた次の日も。

 同じように訓練は続き、まどかは来てくれました。……心配事は杞憂に終わりました。最初に信じた通りだったのです。


 そして、まどかもなぎさたちと一緒に戦いに参加できるようになった頃でした。

 あすみが提案したように、マミとまどかが二人で魔女を倒してきたというのです。

 しかしそれは偶然のことでした。通学路で襲われてた人がいたから。なんでもそれはまどかのクラスメイトだそうで。


なぎさ「それで、二人が無事なのは本当によかったと思うのですが…… ほむらも魔法少女になりたいのです?」

ほむら「いっ、いえ、まだそこまでは……!」


 ……ほむらには素質があるのだそうです。

 魔法少女と会ったことはありましたが、その『候補』と顔を合わせるのははじめてです。

 どう話せばいいのでしょう?


ほむら「でも、鹿目さんと巴さんに話は聞いて。……力になれたらとは、思います」

なぎさ「そう言ってくれるのはうれしいですけど……」


 正直、そう言われてもしてもらいたいことが何も思い浮かばないのです。

 なぎさは魔法少女の新人のことを守らねばならぬ立場です。魔法少女ですらない人を危険に巻き込むのは言語道断。



1力になれることはありません
2だったら契約してください
3あすみに助けを求める
4自由安価

 下2レス
799 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/28(月) 00:41:57.05 ID:e3WHPiY1O
確固たる願いがないなら契約をさせる訳にはいかない、と諭す+3
800 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/28(月) 01:30:33.91 ID:GM47767zo
魔法少女になりたいわけじゃないなら引き返すべきだ
1
801 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/28(月) 02:17:54.34 ID:L5dej0rZ0

なぎさ「無理なのです。力になれることはありません」

ほむら「え……っ」


 ハッキリ告げるとほむらは表情を引きつらせました。


ほむら「も、もちろん鹿目さんや巴さんのように戦うことはできないとは思いますけど……こう、武器とか持ってきたりしたら、少しくらいは……」

なぎさ「武器って、そのへんで調達してきたものが魔女に効くわけないじゃないですか!」

ほむら「そ、そうなんですか……」

なぎさ「いいですか? まどかとマミだってまだ二人だけで戦わせるのは不安だったのです! これ以上不安を増やさないでください! 引き返して!」

あすみ「あははははは! なぎさ、よく言ってやったじゃん! ていうかアンタ面白いこと言うね〜、そんなこと言い出すやついると思わなかった」

まどか「ほむらちゃんって意外とアグレッシブだったんだね!」

マミ「心意気はいいけれど……ちょっと無謀だと思うわよ。身体強くないんでしょう?」

ほむら「うう……」

なぎさ「強かったとしてもダメですよ」

ほむら「…………はい」


 シュンとしてしまいましたが、仕方ないです。曖昧に言ってついてこられても困りますから。きっと強く言うことも必要だったのです。

 あすみは他人事みたいに面白そうに笑っています。


ほむら「そうですよね。今日少し動いただけでめまいがしたのに、私なんかじゃ、契約したってきっと……鹿目さんたちみたいには」


 ……しかし、ちょっと落ち込みすぎてしまったでしょうか?

 契約したときのことならさっきのこととはまた関係のない話になるのですが。


 そんなときキュゥべえがなぎさの肩の上に飛び乗って、存在をアピールするようにひょこりと顔を出します。そういえばついてきていたんでした。


QB「まあまあ、そんなに邪険にすることないじゃないか。このまま戦うのは無謀だけど、ほむらだって契約すれば戦えるようになるよ」

QB「魔法少女になれば契約前より強くなれるし、身体を強くすることを祈ったっていいんだからね。なんなら、今ここで叶えることだってできるよ?」

ほむら「……いえ、やめておきます。今はまだ……。変なこと言ってすみませんでした」


 ほむらは縮こまるように頭をさげると、卑屈そうにトボトボと去っていきます。

 その後ろ姿にまどかが声をかけました。


まどか「ほむらちゃん! 契約のことは関係ないとして、これからも仲良くしようね! 戦いについてこなくてもここには来ていいから!」

まどか「今は考えてなくても魔法少女のことだって無関係じゃないでしょ? 訓練の風景とか見てたってきっと損はないよ!」


 まどかの言葉に、ほむらは足を止めます。

802 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/28(月) 02:21:03.23 ID:L5dej0rZ0
-------------------------
ここまで
次回は30日(水)夜の予定
803 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/30(水) 21:20:45.62 ID:SMw/4MZs0


あすみ「おい、バカ!」

まどか「え……?」


 あすみが嗜めるように口を挟むと、まどかは困惑したような声を上げました。

 ダメなこと言っちゃったかなって感じの顔です。

 ……まあ、あすみの考え方からして、新人が増えてほしくないんだろうなってことはわかります。繋がりを持たせるようなこともしたくないのでしょう。


ほむら「…………」


 ほむらは背を向けて立ち止まったままです。


あすみ「勝手に余計なこと言わないでくれない? ココ以外でどれだけ仲良くしてたって構わないけど、ここはそういう場所じゃないから」

まどか「えっと、じゃあどういう……?」


 しかしまどかが困惑するのも無理はありません。

 ここは『訓練場所』ですが、こう言ったあすみ本人が訓練せず専らぼーっとしてたり、読書をしてたりするのですから。


あすみ「なぁに? 新入りがいっちょ前に口答えしないの」

まどか「ご、ごめんなさい。でもさっきも言ったとおり、いつか契約するかもしれないんだし見てる分にはいいんじゃないかなって」


 まどかも負けていません。

 物腰は柔らかいですが、威圧だけで適当に丸め込めるタイプじゃないみたいです。


マミ「確かにそれもそうよね。ここは秘密の場所だし一般人に見られたら困るけど、暁美さんはもうこの場所のことも魔法少女のことも知っちゃったんだもの」

なぎさ「うーん、なぎさもここは同感ですかね。戦いは危険ですが、見る分には安全なのです。訓練中はなぎさが見てますし、危険なことはさせませんから」


 ……そう言うとあすみの鋭い視線が突き刺さりましたが、見なかったことにします。


ほむら「……は、はい。ありがとうございます」


 ほむらはこちらを振り返ると、消え入りそうな声で言いました。

804 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/30(水) 22:18:22.50 ID:SMw/4MZs0


あすみ「――そもそもなんでもここに連れてくればいいと思ってんのが悪い」


 ほむらの姿が見えなくなってからあすみが言いました。

 あすみはまだ不機嫌なようすです。


あすみ「候補者なんてただの一般人でしょ?」

なぎさ「でも……『ただの』では、ないのでは?」

あすみ「同じだよ。というか、どうせただの一般人でいたほうがいいんだよ。せっかく願いもないってのに、下手にこっちの世界に引き込んだせいで契約する可能性が出てくる」

まどか「それって悪いことなのかな?」

あすみ「悪いよー。まどかが増えてうちの縄張りももう4人。今までみたいに余裕はないよ?」

マミ「グリーフシード……ね」

あすみ「それにさ、この場合、単純に興味持ってとかよりそういう状況に追い込まれてする可能性のほうが大きいしヤバいと思うけど」

あすみ「たとえばこの中の誰かがちょっとでもピンチになったりしたらそれが契約理由になるかもしれないんだから。アンタら人の命運背負えんの?」


 あすみは損得だけでなく、もっと重いことを考えていたんだとわかります。

 でも、そういうことなら。


なぎさ「それなら大丈夫なのですよ! みんなのことはなぎさが守りますから!」

なぎさ「だから…… やっぱりまだマミもまどかも別行動で魔女とは戦わないでください。信じてないとは言いませんが、心配なのです」

マミ「ええ……そうね。今回みたいに上手くいくとも限らないものね」

まどか「で、でも、今回のこともわたしたちが駆けつけるのが少しでも遅かったら……」

マミ「それは……緊急のときには仕方ないわね」

なぎさ「じゃ、じゃあそういうときはマミと一緒なら。でもやっぱり一人はダメです!」


 もちろん街の人を守ることは大事な役目です。

 ……だけど、マミもまどかも、なぎさにとってはどちらも大事な弟子ですから。



――――――
――――――
805 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/06/30(水) 23:49:30.80 ID:SMw/4MZs0



 その翌日、マミとまどかの二人の後ろにくっついてくるようにほむらはやってきた。


 マミとまどかは同じ学校だ。これまでも一緒に来ることが多かった。

 さらにまどかとほむらは同じクラスだと言う。まどかは関わらせる気みたいだし、三人一緒にくるようになるのは必然というべきか。


ほむら「…………」


 同じく訓練を傍観してる位置にいるが、私とはまた離れたとこにいる。

 ちょっとだけつつきにいってみる。せっかくだからいびってやる。


あすみ「ねえ、なんでついてきたの?」

ほむら「つ……ついてきていいと言われたから」

あすみ「いつか契約するかもしれないからってやつ? ……でもアンタってハナから契約する気なんてないでしょ?」

あすみ「コンプレックスがあってもその解消のために契約はしないし、よほどのことがなきゃ契約なんて選択肢にもないくせに」

あすみ「アンタはここに居ても自分が契約することなんて考えてない。考えたとしても子供じみた妄想程度。ただ漠然と『すごいなあ』って思って憧れてるだけ」

ほむら「…………」

あすみ「そうじゃない? 昨日なぎさも言ってたとおり、アンタに出来ることなんてないんだよ。だからついてくる意味なんてないの」

ほむら「……お見通し……なんですか」

あすみ「そう。アンタのチープな野次馬根性なんてお見通し」


 多少のぞかせてもらったが、ほとんど予想通りだった。

 それもそのはず。契約したって自分が戦えると思ってないんだから。『すごい人』にくっついて回りたいだけだ。

 『すごい人』に守られながら横で地味な応援だけして、その一員として役立ってるつもりになりたかったんだろう。


ほむら「……どうしてみんな、あんな怪物を目の前にして戦えるんですか? いくら魔法があったって、私には無理な気がして」

ほむら「契約する前から勇敢だったの? 私なら絶対に足がすくんでしまう。どうせみんなの足を引っ張ることになる……」

あすみ「そんなの人によるんじゃない。そう思うんなら帰れよ」


 とはいえ、どんなに臆病でもいつかは慣れるし、何かがきっかけで思い切ることもある。

 最初はビビってたマミだって今は戦えてる。……それに、私だって。

 だから万が一よほどのことが起きて思い切ってしまう前に離れさせる必要があるのだ。


なぎさ「あれ? あすみ、ほむらと仲直りしたのですか?」

あすみ「するわけないでしょ」


 訓練に区切りをつけたらしいなぎさがこっちに来る。

 ……いびるだけのつもりがこれ以上親近感を抱かれても困る。読書に専念することにした。

806 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/01(木) 00:11:47.03 ID:6/xnKkRA0


あすみ(さて、どこまで読んだっけな…………)


 暇で暇で堪らない日々の中で、読書は新しく身に着けた趣味といえるものだった。

 時間はつぶせる。金もほぼかからない。場所も取らない。


 そういえば学校に通っていた頃は、よく図書室に通っていたと思い出す。

 お母さんは遅くまで仕事してて暇だった。その時も暇つぶしに本を読んでいたんだ。


 ぼんやりと訓練の風景を遠目に捉えつつ、本の世界に入り込もうとする。その時、隣から声がした。


ほむら「その本……」

あすみ「……何? 本?」


 まさか今度は向こうから、またこいつに話しかけられるとは。


ほむら「いえ、読んでたなって……」

あすみ「そう。ネタバレしないでね」

ほむら「あ、もちろんです! ネタバレは一番つまらないので!」

ほむら「でも、下巻のほう読んでないんですよね……。休憩室にシリーズがあったけど、読まないうちに退院しちゃったから……」


 ……そういや身体弱いとか言ってたっけ。

 入院中か。それはまた暇そうだな。口には出さず、心の中でだけ思う。



 ほむらはそれ以上話してくることはなかった。でもたまにこっちを見ている視線を感じた。



 まさか、そんなことで話しかけてくるとは思わなかった。

 そんなことを話す相手がいるとも思ってなかった。でも、こっちが親近感を抱くわけにもいかない。……目を合わせず、冷たく対応することにした。



――――
――――
807 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/01(木) 00:15:44.64 ID:6/xnKkRA0
----------------------
ここまで
次回は3日(土)夜からの予定です
808 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/01(木) 03:44:44.99 ID:8vTVAGRUO

あすみとメガほむの絡みは新鮮だな
まさかのあすほむ来るのか?
809 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/03(土) 23:55:53.51 ID:JTXJbJf+0


 それからというもの、まどかに加えて一般人のほむらまで常連になった。

 ……なってしまった。私としては不本意なんだけど。


 しかし、この日は何か揉めてるらしかった。


なぎさ「――――じゃ、じゃあ、今はもう治ったんですね?」

まどか「うん。終わったあと、魔法で治せるってキュゥべえに教えてもらったから」

なぎさ「で、でも、怪我したのですよね!?」

まどか「でも本当にそんなに大したものじゃないの。怪我はちょっとつまづいて転んじゃったってだけだから!」


 まどかが怪我したとかなんとか。でも問題の中心はそこじゃなく。


なぎさ「結界の中で危険なのは使い魔や魔女だけじゃないのです! 足場が悪かったり罠があることだってあります!」

なぎさ「ただ転んだのとはわけが違うのですよ。戦うなら絶対にいっしょにって約束したのに……」

まどか「そ……そう思ってたんだけど、でも……」


 この前改めて言いつけられてからほんの数日だというのに、まどかがソッコーで約束を破ったってのが問題ってとこだろうか。

810 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/04(日) 00:05:57.13 ID:XselvCV60
ベテランの忠告を聞かないとかこのまどか、舞い上がっちゃってますね。
811 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/04(日) 01:03:57.06 ID:V77CPZQ70


マミ「どうして一人で魔女と戦ったの?」

まどか「友達が操られてたんです。それに、他の人も……いっぱいいて、集団自殺しようとしてました。わたしが戦わないと間に合わないんじゃないかって」

マミ「なるほどね……」

なぎさ「……だ、だからって…………」


 なぎさが第一印象で素直そうと評してた通り、私もまさかこいつがこんなに早く――とは思ったけど。

 一応納得できるほどの理由はあったらしい。なぎさは口ごもった。


まどか「や、やっぱり、わたしが戦うのをためらったせいで誰か傷つくと思ったら見逃せないよ……せっかく魔法少女になったんだから」

なぎさ「!」


 なぎさに反発して仲間になることを拒否した魔法少女たちとはまどかは考え方が違った。

 その考えは、むしろ人を助けるのが魔法少女だと正しさを謳ってたなぎさたちに近いはずだった。



あすみ(なんか面倒そうなことになってるな)


 私はその修羅場じみた光景をまだ遠巻きのまま見ていた。私は人助けのためなんて考えたことないし。同じ立場では話せない。



ほむら「やっぱり……、魔女と戦うのって危険がつきものなんですね……」

あすみ「……まあ、そりゃね。怪我くらいすることはあるよ」


 こいつも傍観しかできない立場だ。だからって、話に入れないからって私に話しかけないでくれないか。


ほむら「どうしたらいいんでしょうか……?」

あすみ「さあね。私に聞かないでくれる?」


 しょぼんとした、陰気臭い空気を横から感じる。……傍観者だからって『同じ』じゃない。

812 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/04(日) 01:08:57.18 ID:V77CPZQ70
--------------------
ここまで
次回は4日(日)夜からの予定
813 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/04(日) 23:40:57.90 ID:V77CPZQ70
――――――
――――――


 まどかから言われたことにハッとしてしまい、なぎさは言葉を返せませんでした。

 街を守るのが魔法少女の役目。なぎさはずっとそう思ってたつもりでした。――しかし、本当にそうだったのでしょうか。


 もうひとつ、なぎさには大きな役目があります。

 確かに魔女を倒すまでの時間が早いほど誰かが操られたり取り込まれたりする危険はなくなりますし、なぎさもいつでもすぐに駆けつけられるわけではありません。

 それでも弟子たちには一人で戦わせたくないと思うのです。危ない目に遭ったときになぎさが守ってあげられないから。


 知らず知らずのうちに、マミやまどかの安全と街の人の安全を天秤にかけていたのでしょう。


なぎさ「……それなら、友達を連れて逃げたっていいのです」

まどか「でも、それじゃ他の人は」

なぎさ「一筋縄で倒せない魔女だっているのです! 魔法少女であるまどかが死んでしまったら終わりなのですよ!」

なぎさ「それでも一人で戦うのなら……戦う前に連絡してください。そしたらなぎさも助けることができるかもしれません……もし、まどかに『何か』があったとしても」

なぎさ「約束を守ってくれれば、なぎさはまどかのことを絶対に守ってみせます。……でも、破るのなら守れないかもしれません。それも一つの考え方ですから、仕方ないです」

まどか「……あ……えぇと…………うん、ごめんね」


 まどかははっきりと何かを言い返すようなことはしませんでした。まだ色んなことを考えているのかもしれません。

 けど、どうして謝ったのでしょうか。

 再び同じ状況に立った時、なぎさにはまたまどかは同じ行動を取るのではないかと思えてしまいました。


なぎさ「……じゃあ、今日も訓練しましょう!」


 なぎさの合図で今日も訓練をはじめます。

 訓練中はいつもと変わりませんでした。まどかが来てから久しぶりに新人に教えるのは新鮮です。

 まだまだ教えなきゃいけないことはたくさんあります。



 ……ちゃんと、教えたいことを全部教えられるでしょうか。


814 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/11(日) 22:22:30.37 ID:oDu01kcW0


マミ「鹿目さんの弓って不思議ね」

まどか「そうですか?」

マミ「ええ。弓って扱いが難しそうだけど、思ったとおりの場所に飛んでいくんでしょう? 軌道が読みづらいのよね」

マミ「鍛えればいい武器になると思うわ」

まどか「はい。がんばります。マミさんのもすごいですよね」

マミ「少し狙い方は似ているのかしら? このリボンも狙う先を意識すると上手くいくの」

マミ「最初は私も上手く行かなくて苦労したのよ。たとえばさっきの一撃は――――」


 訓練ではマミとまどかが手合わせすることもあります。その延長で直接指導することも増えました。

 普段から同じ学校の先輩として接しているのでしょう。

 こういう時のマミを見ていると、なぎさに勉強やお料理を教えている時のような、頼もしくて優しいお姉さんの顔です。


 もちろんなぎさも見ています。もっとこうしたらいいんじゃないかって口を挟むことだってあります。

 でも、段々とそんな機会も少なくなってきている気がするのです。


あすみ「マミが巣立ってくみたいで寂しい?」


 ……気づいたらあすみが横に居ました。


なぎさ「は、はい。まあ少し……」

あすみ「私もあいつは一生コバンザメのようになぎさについてくのかなって思ってたけど、弟子ができたら意識も変わるよね。しかも同じ学校の後輩でもあるんでしょ?」

あすみ「……まあでも、本当の意味で離れてっちゃうようなことは多分ないよ」


 いつになくあすみが優しいです。いえ、出会ったときからしたらすでに大分トゲトゲは減っているのですが。

 直球で優しいをかけることは今でもあまりないのです。あれ、これってもしかして。


なぎさ「もしかして、なぎさを慰めようとしてくれてるのです?」

あすみ「……だって、ハブられたみたいな顔してたから」

なぎさ「そ、そんな風に見えてたのですか?」


 あすみは魔法がなくても心を読むのは上手です。間違いでもないのかもしれません。


あすみ「でもさ、こう思うようになってきてない? 自分の言うことを聞く人は守るけど、聞かない人はどうなっても仕方ない……って」

なぎさ「だ、だって……なぎさがどんなに守ろうとしたって限界はあるのです。まどかみたいな理由ははじめてだったけど……」

あすみ「現実的だとは思うよ。なんかちょっとらしくないなって思ってたけど……まあ、それも成長したってことなんでしょ」

なぎさ「…………」


 ……だって。どうしたらいいのでしょうか。

 みんなを死なせないためには、なぎさの手が届く範囲に居てもらうのが一番なのです。


――――
――――
815 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/11(日) 23:22:33.75 ID:8TcoY0VC0
お、続き来た!
816 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/12(月) 00:12:45.60 ID:iCqshFtl0


 ――――まどかとほむらが訓練の場に加わりましたが、それだけではありません。

 ついでにその後のお料理のトックンにも二人が加わりました。


マミ「――――湯煎してたチョコレートはもう溶けた?」

まどか「はい! こんな感じで大丈夫ですか?」

マミ「ええ。バッチリよ」

なぎさ「こっちも生地の準備出来てますー」

まどか「みんなでお菓子作りするのって楽しいですね」

ほむら「はい。自分たちでこんなにお菓子や料理を作れるなんて、魔法みたいですね」


 訓練後は魔女退治に向かうことも多いのでたまにですが、魔法少女の関係ないことにはほむらも参加してます。

 その代わり、相変わらずあすみはこういうのには来ないです。


 まどかはあまり遅くまでいられないので、一緒に過ごすのはティータイムだけです。

 それもあって、最近ではお菓子を作ることが増えました。

 今ではなぎさがおうちでも家事を任せられるくらいには上達したから――というのもあるのですが。


マミ「そういえば、鹿目さんと暁美さんにはまだ言ってなかったかしら。なぎさちゃんは魔法でお菓子も出せるのよ」

ほむら「戦うだけじゃなくて、そんな魔法もあるんですね……」



 マミは自分のことのように誇らしげに言いました。



 今のところはみんな無事で、問題は起きていないです。――だからって、安心していいわけじゃありません。



 まどかに対する、また約束を破るんじゃないかという不安。

 『破るのなら守れなくても仕方ない』――あすみの指摘どおりあの時まどかに言い放ったのはそういう真意があって、なぎさは心の底でその覚悟をしてたはずでした。

 でも、まどかはいい人です。これ以上仲良くなったら、そんなに簡単に切り捨てることなんてできなくなってしまいそうなのです。

817 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/12(月) 00:50:07.44 ID:iCqshFtl0


なぎさ「あの……ほむらはまだ契約って考えてないんですよね?」

ほむら「……。はい。まだ今は…………」


 オーブンをセットしてケーキを焼く間、ほむらにも聞いてみました。

 ほむらはずっと訓練についてきてはいますが、こうして話すのは今までほとんどありませんでした。


なぎさ「もし魔法少女になったら、ほむらはなぎさとの約束を守ってくれますか?」

ほむら「一人で戦わないこと……ですよね。守ると思います。私は一人で戦えるほど勇敢じゃないから」

なぎさ「そうですか……」


 ほむらはそう言いましたが、ちょっと疑問を抱いたのが出会って初日のあの発言があるから。

 ……契約しないまま武器持って魔女退治についてこようとした人の言葉とは思えません。

 それを指摘してやると、ほむらは慌てたようにして答えました。


ほむら「あっ、あれは勇敢なんかじゃなくって……むしろ逆です。みんなについていくだけだから。守ってもらえるから平気だと思ってたんです」

ほむら「本当は戦う覚悟なんてなかったくせに……それがどれだけ危険なことか、みんなに迷惑をかけるか考えてなかっただけなんです」

なぎさ「契約についてはゆっくり考えてくれればいいです。危ないことはしなくていいですからね」

まどか「うん。応援してくれる気持ちだけで十分助かってるよ」

ほむら「ちが……――、違うんです。私はそんなに立派な気持ちでここにいるわけじゃ……」

まどか「――?」


 話しているうちに、オーブンの電子音が聞こえます。

 ケーキが焼き上がりました。

818 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/12(月) 00:53:58.77 ID:iCqshFtl0
------------------------------
ここまで
次回は16日(金)夜から
819 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/16(金) 23:32:12.37 ID:frUFj8kf0



 出来上がったチョコレートケーキはなめらかで、今日も見事な出来でした。

 マミの淹れてくれた紅茶をお供にティータイムははじまります。紅茶の淹れ方もみんなで見させてもらっていました。

 今ではなぎさもマミと同じくらい上手に紅茶を淹れることができます。でも、二人のときは大体マミに任せています。

 紅茶でも料理でも……なぎさが完璧に覚えたと思っても、マミはよく今まで知らなかったようなことを見つけてくるので、マミにはずっと敵わない気がします。

 飽くなき探究心を感じるのです。


まどか「見た目も綺麗だし、ちょうどいい甘さで美味しいです! 今度家でも作ってみます!」

マミ「ええ。ご家族に作ってあげたらきっと喜ぶわよ」


 まどかは教わったレシピをノートにまとめていて、それを見たマミがメモを書き加えたりもしています。

 その光景にマミと訓練をはじめたての頃を思い出します。

 マミの訓練ノートはさすがに今は書き込む頻度は少なくなりましたがまだ続いています。そういえばまどかにも見せていました。


ほむら「私も練習したら作れるようになるのかな……」

マミ「こういうのって、やってみたらできるものよ。料理って出来るようになったら楽しいんだから」

まどか「ほむらちゃんも一人暮らしなんだよね」

ほむら「で、でも、全然こんな…… 巴さんみたいに立派じゃないです」

マミ「暁美さんもそうだったのね。それならこのあとお夕飯も一緒にどうかしら? 教えるわよ?」



 ……ふと、思いました。あすみは訓練や魔女退治のこと以外でも、こうして魔法少女と必要以上に関わるのにはまだ反対してるんだって。


 あのときなぎさはこう言いました。

 『大丈夫なのですよ! みんなのことはなぎさが守りますから!』 ――――でも。

 『破るのなら守れないかもしれません。それも一つの考え方ですから、仕方ないです』


 これじゃ大丈夫って、言えませんよね。

820 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/16(金) 23:58:25.39 ID:p3cTHUAB0
なぎさはなぎさ編と違って芯が定まってない感じですね
821 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/17(土) 00:37:43.72 ID:i3/HN3aL0


まどか「――――今日はありがとうございました。あの……っ 訓練、なぎさちゃんにも認めてもらえるようにもっとがんばるから!」

なぎさ「なぎさに……?」


 ティータイムが終わって、まどかが帰る時間になります。

 すると、帰り際にまどかが言いました。


まどか「うん。なぎさちゃんがわたしたちに一人で戦ってほしくないのって、安心して任せられないって思ってるからなんだよね?」

まどか「わたしは新人だしまだまだみんなより弱いけど、いつかはちゃんと肩を並べられるようになりたいの」

まどか「……なぎさちゃんとあすみちゃんみたいに」


 なんでここであすみの名前が? ――そう思いましたが、すぐに納得しました。

 一応魔法少女としてはなぎさのほうが少し長いとはいえ、出会ったときからあすみはなぎさの弟子だったことはありません。

 大切な『友達』ですが、『守らなければならない存在』と考えたことはありませんでした。


 マミとまどかは弟子で、守らなければならない存在です。

 でもそれって、二人のことを対等に見ていない、認めていないってことでもあるんじゃないか――そう、思わされてしまいました。


 ……なんだか、まどかの言葉にはハッとさせられることが多いです。


マミ「そうね。いつかはそうならなくちゃね」


 もちろんまどかは契約したてですし、今すぐに認めるわけにはいきません。

 でも、いつかは一人前に。信じて任せられるようにするのは師匠のつとめでもあるのです。


822 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/17(土) 01:56:58.57 ID:i3/HN3aL0



 まどかも帰ると、今日は三人になります。

 さっき話してた通りほむらもまだ残っていました。


ほむら「さっきのこと……なんですけど」

なぎさ「さっきのこと?」

ほむら「はい、ケーキ作りの時に話してたこと……みなさんは私に契約について考えるためについてきていいって言ってくれるけど、本当は全然そういうの考えてないんです」

ほむら「誰かと一緒に過ごしたり、おうちに招いてもらったり、そういうのって初めてで……それが嬉しくて」

ほむら「私はただ……ついてきてるだけ…… 本当はよくないですよね」


 ほむらはいつもよりさらに自信なさげに話します。

 契約する気がまったくないのなら遊び半分で覗かれるのはたしかにあまりよくありません。

 それに、遊び半分にしても訓練中はあまり構ってあげられるわけではありませんし、少し寂しそうにしてたのは見えていました。

 かえって疎外感やプレッシャーを与えてしまっていたかもしれません。


マミ「……そうだったの。それじゃ、私達の訓練についてくる必要はないわね。今後は暁美さんに合った特訓をするようにしましょう」

なぎさ「えっ? どういうことなのですか?」

マミ「暁美さんには、今日から私が先輩として料理を教えてあげるわ! どう? 私の弟子になってみない?」

マミ「なぎさちゃんも私の弟子なの。暁美さんは二番弟子ね」

なぎさ「!」


 マミは悪戯っぽく笑って言います。……料理の方でも、なぎさについに弟子ができるのでしょうか。


ほむら「……は、はいっ。よろしくおねがいします!」



 とりあえず、早くも『免許皆伝』を望んでいるまどかにはとくに厳しく鍛えるしかないのです。

 まどかのことを信じられるように。……『大丈夫』っていえるように。



 魔女には新人が一人で倒せるものから、ベテランでも危険な相手までいっぱいいます。相性にもよります。

 ――――でも、ベテランも相性の良し悪しも関係なくすべてを覆す最悪の『敵わない相手』は、それからほどなくしてやってきてしまうのでした。


823 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/17(土) 02:11:04.75 ID:i3/HN3aL0
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次回は17日(土)夜からの予定
>>820 なぎさ編は色々と端折ってきてるので葛藤とかはあまりないですね
824 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/07/17(土) 03:07:35.15 ID:3Kx4qjCo0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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825 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/18(日) 20:56:15.46 ID:nTZUtAnh0



 その前触れは本当に唐突で。



――――
――――



なぎさ(せっかくの休みの日なのに朝からお空がご機嫌ななめです…… 風、止むどころか強くなってるみたいですし)


 朝ご飯を準備していたところに外から放送が聞こえてきて、お父さんにつれられて一緒にここまで避難してきました。

 天気も悪そうなので、せっかく今日は訓練もなしにしてゆっくりとご飯を食べてお家で過ごそうと思っていたところだったのですが。

 予想していたよりもさらに天気が悪かったようです。


 ……いえ、本当はその前にやろうと思っていたことがありました。


なぎさ(家にいたときから感じていた魔力、ここまで来ても変わりませんね)

なぎさ(結界が近くにあったからというより、ここ一帯が包まれているような……それも段々と濃くなっているような気さえします)


 一帯を包み込むような魔力。それに併せたような災害。

 そんな魔女のことをなぎさは知っています。キュゥべえから聞いただけではありますが。


なぎさ「お父さん、ちょっと離れていい? お友達もここに来てるみたいだから!」

「あぁ、ずっとじっとしてるのもヒマだよね。でも絶対外には出ちゃダメだよ」


 おそらくあすみもマミもまどかも気づいてるはず。……そういえば、みんなもここに来てるのでしょうか?

 ただの台風じゃないのだから、元凶を退治しなければおさまりません。

 もしかしたら、もうそっちに行ってる可能性もあります。


なぎさ(お父さんにはダメと言われたけど……)


 なぎさは魔法少女だから。みんなを守るためです。

 覚悟を決めて外に出ようとすると、携帯から音が鳴りました。



――――――
826 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/18(日) 22:16:31.46 ID:3S/bqI7C0
いきなりワルプル戦ですか!?
827 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/18(日) 23:05:08.66 ID:nTZUtAnh0
――――――


 たぶん、朝?

 外が騒がしくて目を覚ました。スタッフが宿泊者全員に避難を呼びかけてるとか。


あすみ(ワルプルギスの夜……か)


 巻き込まれないうちにと早々に外に出てきて、私は宛もなく歩き始める。

 魔力の気配には起きてすぐ気づいてた。風は強さを増している。



*私は……
1魔力が強くなる方を目指して歩き始めた
2みんなが向かう方に歩き始めた
3魔力が弱くなる方に歩き始めた

 下2レス
828 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/18(日) 23:17:36.45 ID:3S/bqI7C0
2のみんなとは宿泊客のことで行き先は避難所かな?
避難所にはなぎさが居るみたいだけど、どうせ外に出てると思うので1。
829 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/18(日) 23:23:57.69 ID:O8G4lmM+O

ていうかまたホテルに潜り込んでたのかよ
830 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/18(日) 23:53:39.26 ID:nTZUtAnh0


 道行く人はみんな一つの方向を目指してる。多分避難所の方向なんだろう。

 でもそんなの意味がない。本当に避難したいなら今からでも街から遠ざかるべきだ。


あすみ「まあ、でも。そんな伝説級の存在、姿も見ないうちにビビって逃げちゃうのももったいないよねー」


 なにより無様だ。

 相変わらずどこへ向かうのかはわからないものの魔力が強くなる方向を目指して歩くと、街を使い魔が闊歩してた。

 簡単に倒せたし反撃すらしてこなかったけど、こんな動物が普通にいるはずもないし使い魔なんだろう。

 こいつら見るようになってからは風の勢いも更に荒れている。このあたりになると、人の姿もめっきりなくなった。


 すでにかなり中心部に来たはずだが、大ボスらしき姿が見当たらない。


 一旦足を止めて建物の上から見渡していると、空に強い力を持つ魔法陣が描かれ、人影――といっていいのかわからない巨大な影が現れた。

 一見ヒトのような顔、手足、胴があるが、大きなスカートの中からは歯車が覗いている。しかも、なぜか上下逆さに浮かんでいた。


あすみ「……そういうわけね」


 あの使い魔はショーの前座のようなもの。

 いつのまにか使い魔の姿も消えていた。



 ――――腕試しといこうか。



――――――
831 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/18(日) 23:57:41.84 ID:nTZUtAnh0
---------------------------
【訂正】>>830 「手足」はなかったわ
腕、くらいに脳内変換しといてください
832 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/19(月) 00:04:08.93 ID:Yvx1ZKeP0
>>831
足なんて飾りです!偉い人にはそれがわからんのですよ!
833 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/19(月) 00:33:32.63 ID:ytMEaxz10
――――――



 着信の相手はマミでした。マミも同じように魔力を感じ取っていて、避難所に行こうか迷っていたということでした。

 マミにはまだ近づかないように言いつけつつ、まどかとも話しておかなければなりません。


なぎさ(まどか、先走って向かってたりしなければいいのですが……)


 そんな心配をしましたが、その直後にまどかからも連絡がきました。

 まどかも家族と一緒に避難所に来ていたそうでした。まずは避難所の中で二人で合流しました。


なぎさ「まどか! ご無事でなによりなのです」

まどか「うん、なぎさちゃんも……! ところで、この魔力ってなんなのかな? 外に魔女がいるなら倒しにいかないと」

なぎさ「そのことについて話そうと思ってたのです。なぎさも実際に見たことはないのですが……――――」


 結界を持たない魔女、『ワルプルギスの夜』のことをまどかに話しました。


まどか「た、大変! そんなのが現れたなんて……! そうだ、マミさんとあすみちゃんは!?」

なぎさ「マミは外にいます。でもまだ暴風の中心部には近づかないように言っています。あすみのことは……わかりませんが」

まどか「倒しにいかないとだよね」

なぎさ「……」


 相手は伝説の魔女です。普通の魔女ならなぎさと一緒に戦う分には問題ありませんが、新人のまどかをできるだけ危険には晒したくありません。

 しかし、どのくらいの強さかもわからないとなると戦力が多いほうが助かるのも事実……。


1倒しに行きましょう
2待っててほしい

 下2レス
834 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/19(月) 00:39:27.68 ID:Y1GKM08LO
1
まどかは待てと言われても勝手に動きそうだからなぁ
835 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/19(月) 00:47:01.49 ID:Yvx1ZKeP0
ここは1かな?

1週目のまどかはアニメ本編でも魔法少女になったのが誇り云々言ってたし、ぜったい付いてきそうなんだよなぁ・・・
どうせ一緒に戦うことになるなら最初から身近に居てくれた方がいいよね、多分
836 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/19(月) 00:59:55.29 ID:ytMEaxz10
-------------------------
ここまで
次回は21日(水)夜からの予定
837 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/19(月) 01:10:41.85 ID:Yvx1ZKeP0
乙です。

>>828は2の方が良かったかな?
なんかあすみだけ先走っちゃった結果に・・・
838 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/21(水) 23:55:22.35 ID:FmB5ZX2f0


なぎさ「はい、行きましょう! では今からマミに連絡するのです!」


 ……まだまどかは未熟です。

 ですが、戦う意欲だけは人一倍あるのです。力にならないことはありません。

 でも。


なぎさ「……でも、とても危険な相手です。危ないと思ったときには逃げるのですよ」

まどか「……うん。頑張るから、みんなで倒そうね」


 ……そう言っても、少し不安の残るところはあります。

 するとその時、こちらに一人近づいてきました。

 覚悟を決めて外に出ようとしていたところを呼び止められます。


ほむら「鹿目さんに、なぎさちゃん……二人も来てたんですね」

ほむら「なんとか一人で避難してきたんですけど、心細くて」


 ほむらは一人暮らしですから、一人でここまで来て、それからもずっと一人でいたのでしょう。

 外は暴風、そんな中なぎさたちを見つけて安心しているのがわかります。

 でも、ついていてあげたい気持ちはやまやまですが、今に限ってはそれはできないのです。


まどか「ほむらちゃん、これからわたしたちがこの風を止めて来るから」

ほむら「え……? そんなことが……?」

まどか「これは、ワルプルギスっていう悪い魔女が起こしてる災害なの。だから倒さなきゃいけないの」

まどか「ほむらちゃんはここで待ってて」


 また不安そうな表情に戻ってしまったほむら。


なぎさ「……大丈夫です。ちゃんと帰ってきますよ」


 なぎさたちはそう告げて、避難所の出入り口のほうへと歩いて行くのでした。

839 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/22(木) 00:27:29.61 ID:ffQxHaM70


 外に出た時、わたしたちは驚きました。避難してきた時にはなかったはずの、魔女の姿があるのです。

 まだ遠くて、小さくしか見えないのですが……その魔力の強大さ、禍々しさたるやこれまでの魔女とは比べ物になりませんでした。


 それからマミと合流し、三人で目標へと目指していきます。

 魔力だけを頼りに近づくよりは姿が出ているほうがわかりやすいのですが、

 既に魔女が動き回るたびに被害が出ているようなので、急がなくてはなりません。


マミ「私も驚いたわ……。いきなり空に魔女が現れて、そこから明らかに魔力も風も強くなるのを感じたの」

マミ「それに、遠目に見ていたけれど、ビルくらいなら軽々となぎ倒しているみたいよ……恐ろしい相手だわ」

まどか「あすみちゃんは大丈夫なのかな……?」

なぎさ「! 誰か、もう戦ってる……!?」


 魔女に近づくにつれて、その周りを飛び回っている人の姿や、

 その攻撃によって、宙を舞うワルプルギスの夜の動きに不自然な動きが加わっていることも目に入りました。

 おそらくは、あれが……。


なぎさ「あすみならそう簡単にやられたりしないのです……! ですが、こっちも急ぎましょう! これ以上被害を出さないために!」



――――――
840 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/22(木) 00:43:52.90 ID:HNammaBE0
あすみは反転したワルプルギスをも倒す呪いカウンターがあるけど、ゆまちゃんとは会ってないみたいだから使えないよねぇ・・・
841 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/22(木) 01:09:52.13 ID:ffQxHaM70
――――――



 走る。


 ちょっと油断してると魔女との距離は開く一方だし、遠くから鉄球をぶつけるにも距離が開けば開くほど威力は弱まる。

 もっとも、全力でぶん殴ってやった時にも大したダメージを与えた手応えは得られなかった。


あすみ「あぁ……ッ、クソ……!!」


 元々私は足が速くない。

 普段から身軽さよりも武器の威力を重視するスタイルだし、物理的にも発育不良気味の短い子供の手足じゃ速度が出るはずもなかった。

 それでも普段の戦闘では戦い方でカバーするから気にならなかった。今になってコンプレックスを刺激されて腹が立つ。


 こんなに苦戦する魔女なんてはじめてじゃないだろうか。久しぶりにイライラが湧き出てきた。


 ただ走るだけでは宙を飛ぶ魔女には追いつけない。

 街の脇に立つ電柱に鎖を伸ばして巻き付け、巻き取りながら一気に飛び上がる。

 平面で追いつけないなら立体的な動きを交えるしかなかった。


あすみ「うらッ!」


 距離を詰めたところでワルプルギスの夜に向けて鉄球を振りかぶり、叩き落としたところで、

 更に長く鎖を張って地面に縛り付けては魔女の歯車部分に乗ってガンガンと殴り続ける。


あすみ「壊れちゃえ! 壊れちゃえ! このガラクタッ!」


 これまでに何本のフレイルを無駄にしたんだろう。ストックには余裕があるものの消費も馬鹿になってない。


 ――下からこちらを覗いてくる魔女と目が合った。いや、正確には目はないが、見据えられたのがわかった。

 直後にほとばしる熱気。


あすみ「バカかったくね……なんなのこいつ。さすが伝説の魔女っていうだけあるか」


 退避には成功したものの結局はまた振り出し。

 追いかけて殴って、どれだけ効いてるのかもわからない。飽きかけてきたな、なんて思った時、向こうから声がした。


なぎさ「あすみ! やっぱりもう戦ってたのですね!」

まどか「わたしたちも一緒に戦うから!」

マミ「それにしても、こうして見るとすごい状況ね……」


 知ってる声の勢揃い。どうやらまだ抜けるわけにもいかなさそうだった。

842 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/22(木) 22:47:09.58 ID:ffQxHaM70


 さっきと同じことの繰り返しに、三人の力が加わる。


 マミがリボンで足場を作り、まどかが離れたところから矢を打ち込み、

 できるだけ近づいたところでさっきみたいに強力な一撃で動きを止める。


 なぎさも範囲攻撃ではあるがシャボンじゃ着弾までに時間がかかりすぎるから、結局至近距離まで行くか、動きをとめないと当たらない。

 あれほどの巨体を包み込むのは難しいんだろう。炎を吹き出す頭だけでもシャボンで閉じ込めようとしてたが、一発分しか持たなかった。



 こちらの攻撃の手は増えた。しかし、まだ魔女の様子に変化は見られなかった。



なぎさ「あすみ……そういえば、ワルプルギスの夜の心も読めてたりするのですか?」


 戦いの途中、なぎさが聞いてきた。

 たしかに魔女は悪意の塊だし、超弩級のこいつの悪意はそれ以上だ。


あすみ「心っつーのかな……そう言えるほど単純じゃないよ。表現するなら、こいつ自身があらゆる悪意が絡み合った呪いの塊って感じかな」

なぎさ「な、なんと禍々しいのでしょう……!」


 いつもなら呪いに反応する私の『呪い』も、こいつには効いてるのかもわからない。意識しすぎれば気分が悪くなりそうだ。

 本気でやろうとすればやれるだろうか? しかし、上手くできる自信もなかった。

843 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/22(木) 22:53:58.82 ID:ffQxHaM70


 ――魔女の様子にまだ変化は見られない。それに引き換え、こちらはどうだ。



 見渡してみても、傷ついてない人はいなかった。

 風に乗って、細かい石や建築物の破片、車なんかがぶつかってくる。

 私は元々細かい攻撃は避けずに攻撃を優先したほうがいいと思っている。しかし、今の状況じゃ避けようと思っても避けきれないくらいだ。

 気にしてたら動けなくなる。みんなもその傷や疲労は蓄積していってる。


あすみ「……ねぇ、もう撤退しない?」

なぎさ「な、何を言うのですか!?」

あすみ「これ以上やると、私たち無事じゃなくなるかもよ」

なぎさ「……!」


 なぎさだって気づきつつあっただろうに。


マミ「でもそれじゃ、街が……!」

まどか「そ、そうです! 魔法少女のわたしたちが逃げたりしたら!」

なぎさ「いえ、でも、そうです…… だって、なぎさはここに来る前」


 なぎさが何かを言いかける。しかし、強い風が吹き抜けたと同時に異変に気づいた。


あすみ「! それより上……!」


 頭上から影が落ちてくる。魔女の攻撃によって破壊されたビルだ。

 私の合図と同時になぎさがシャボンを膨らませてガードを張る。

 それでも重みに耐えきれず、足元から崩落していくのがわかった。多分、ガードもこれ以上持たない。


なぎさ「みんな逃げてください!!」


 戦ってる最中に、飛んできた細かい石や建築物の破片、車なんかがぶつかることはよくあった。

 もはや気にしていられないくらいに。しかし、みんなその傷や疲労は蓄積していたのだろう。


 退避する準備ができていたのは私となぎさくらいで、元々攻撃の範囲にいなかったマミを除けば……、

 まどかがまだ対応しきれずにいた。


 それに気づいたなぎさは。


なぎさ「マミ、まどかの足場を!」

マミ「!」


 まどかを力強く突き落とし、身代わりとなっていた。

844 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/22(木) 23:07:54.08 ID:HNammaBE0
うーん、神様もいないしあすみもゆまと会ってなさそうだから劣勢だなぁ・・・
845 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/22(木) 23:18:38.23 ID:ffQxHaM70


まどか「うっ…… な、なぎさちゃんは!?」

なぎさ「なぎさなら大丈夫ですよ。やっぱりまどかは逃げてください」


 まどかはマミのリボンによって受け止められていた。

 けど、なぎさは……瓦礫と瓦礫の間に挟まれ足を潰されていた。


まどか「で、でも……!」

なぎさ「いいから! あすみの言うとおりこれ以上は危険です! 言いましたよね、危険だと思ったら逃げてって……!」

なぎさ「マミもです……! 今、まどかを守れてよかった。でももうきっと次は守りきれないから」

まどか「ま、待って。見捨てられないよ……」

なぎさ「まどかが死んだら、ほむらは契約しますよ。まどかのために。まどかはほむらの命運を背負えますか」

まどか「……!」

なぎさ「なぎさは怪我はしましたが、足を治せば戦えますよ。こんな時くらい先輩に任せるのです……!」

マミ「…………行きましょう、鹿目さん。私達じゃ足手まといよ」


 後ろ髪をひかれるような表情を浮かべながらも、まどかはマミに連れられて遠ざかっていく。

 マミまで返しちゃってよかったのだろうか。しかし、万が一にも弟子を失うことを恐れるなぎさからしたら当然の判断か。


あすみ「わかってるの? 私はともかく、なぎさだってほむらと仲良くしてたくせに」

あすみ「私達だけでも勝てると思う?」


 なぎさを瓦礫から引っ張り出す。治癒は得意じゃないから、あとのことはなぎさ任せだ。


なぎさ「……わかりません。でも、なぎさはやるしかないですよ」

なぎさ「まどかとマミは任せてくれたのです。負けちゃったらきっと、二人は戻ってくると思うのです。だから」


 広範囲に潰された足を治すにはそれなりに時間がかかるらしい。

 魔女はまだ気まぐれに街を破壊してる。

846 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/22(木) 23:33:16.43 ID:452182+oO
なぎさとあすみの2人だけになったか
847 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/23(金) 00:03:04.57 ID:e+k4D98V0


 私は魔法少女だから魔女を倒さなくちゃ――とか、街や人々を守らなくちゃ――なんて思ってるわけじゃない。

 もともとコイツに挑んだのも腕試しのようなもので、生きるか死ぬかの命がけで戦うつもりもない。


 正直に言えば、なぎさと出会ってからはちょっとくらい感化されてたところはある。

 ずっとわかった気で達観してたけど、私が思ってたのは全てじゃなくて、世界は、人間は思ってたほど汚いものばかりじゃないって気づいたから。

 あの男や私を虐めたクラスメイトは、きっと人間未満のナニカだったのだろう。

 私だって“いい人”になりたい。……でもみんなとは優先順位が違った。だって、私なんかが今更どうやったって偽善者にしかなれないじゃん?


 とはいえ。


あすみ「あんたがそう言うなら、私ももう少し付き合ってやるしかないかな」


 なぎさを見捨ててここを去ることは、どうしてもできなかった。


なぎさ「治療、終わりましたよ! またずいぶん離されちゃいましたけど……いきましょう!」

あすみ「うん、行くか」


 私達は再び走り出す。武器を携えて。


 暴風が起こされれば吹き飛ばされてしまうから過信はできないものの、短い距離であればシャボンを足場にも出来る。

 駆け上がり、距離をつめてなぎさがシャボンを吹き出す。更に私が勢いをつけた一撃をお見舞いする。

 次の瞬間には再び裂けた笑みを浮かべた顔がこちらを見た。


あすみ「鬱陶しいな」

なぎさ「大丈夫、閉じ込めてやるのですよ!」


 顔を包むシャボンはやはりすぐに破られたが、一発でも耐えられるなら上出来だ。

 その間にもう一発入れてやることが出来るんだから。


なぎさ「そろそろ引き時ですかね」

あすみ「ああ、また回り込むよ」



 ここまできたら、やれる限りはやってやる。人数は減ったがさっきみたいに未熟な仲間を庇う心配もなくなった分戦いやすくもなった。

 どうせこれ以上に強い魔女になんて会うことはないんだろうから。



あすみ「…………まったく、この風も鬱陶しいね。防ぐ手段でもありゃいいんだけど」

あすみ「どっから来るのか予測もつかないし、砂利と瓦礫のオマケまでついてくる。ま、ある程度気にしてらんないけど、さ――――」


 振り返る。


あすみ「――――」




――――
――――
848 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/23(金) 00:10:03.32 ID:rHeU85zy0
うわっ、なんか嫌な引きだけどどうなった!?
849 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/23(金) 00:30:34.95 ID:e+k4D98V0
---------------------------
ここまで
続きは23日(金)夜に。
850 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/23(金) 00:40:02.76 ID:rHeU85zy0
乙です。

うーん、流石にワルプルギスが相手となるとなぎさとあすみの2人でもキツイですよね。
ていうか、価値筋が全く見当たらないしほむらにとって1番最初の時間軸だと当然神様もいないからなぁ・・・
851 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/23(金) 00:49:04.65 ID:A90Fc1dXO

ここからどんでん返しが来るか?
852 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/23(金) 22:52:34.12 ID:e+k4D98V0


まどか「……ごめんね、ほむらちゃん」

ほむら「ううん、二人に何もなくてよかった。無事に帰ってきてくれただけでも嬉しいんです……!」

マミ「なぎさちゃんたちがきっと倒してくれるから。私達はここで祈りながら待っていましょう」

まどか「……そうですね。わたしたちが出来ることといったら、応援……くらいですよね」


 避難所の中はさらにざわついていた。

 暴風は強さを増し、施設や建造物が破壊され、人々の生活の中にも影響を及ぼしていた。


マミ(それにしても…… 風、まだ強まるのかしら)

マミ(屋内に居るのにわかる風の音……。それに、魔力も――)


 ――その時、天井から砕けるような嫌な音がした。


ほむら「ひっ……――――!?」


 破壊されるような音は続けざまに響き、ついに突き刺さった何かが顔を出す。

 人々のざわめきは悲鳴にも変わっていた。


マミ「近くで戦ってるの……?」

ほむら「こ、ここは本当に大丈夫なんですか……!?」

853 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/23(金) 23:32:19.48 ID:e+k4D98V0


 ほむらが抱いた疑問は避難所にいる全員が持ちはじめていた。

 ひとたび空いた穴をはじめにいずれは全て崩れ去ってしまいそうだ。

 民衆に混乱と絶望が渦巻くのを感じ取り、まどかは声を上げた。


まどか「あ、あの! 今ので怪我人はいませんか!?」


 こんな小さな女の子に話してどうなるといのか。まだ頼ろうとする人はいない。


まどか「ここにいたら危険です……! 隣町のほうまで逃げてください! わたしがみんなのことを守るから!」

マミ「……鹿目さん!」


 まどかはみんなの前で衣装を纏い、その力を、意思をアピールする。

 そして、はじめはあっけに取られていたマミもその意思を理解した。


マミ「……ええ、そうね。こんな時まで隠していたって仕方がないわ」

マミ「私達が守らなきゃ! 怪我人は私達が治します!」


*「お前たちは誰なんだ!」


 民衆の誰かが言う。


マミ「私達は――――魔法少女よ!」


 その時、二人の元にある親子がやってくる。そのうちの子供のほうが叫んだ。


*「あっちに落ちてきた瓦礫で怪我した人がいるの……! 治してあげて……!」

まどか「うん! 任せて!」

マミ「鹿目さん、お願い! 私は外を警戒しているわ!」


 二人の言葉が本当だとわかると民衆はついに動き出した。


*「……やっぱり、嘘なんかじゃなかったんだ」


 ……二人のもとに最初にやってきた子供がつぶやく。

 それは、なぎさが前に教会で指を治した少女だった。

854 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/23(金) 23:53:14.15 ID:rHeU85zy0
杏子の実家での話が伏線ときましたか。
855 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/24(土) 00:06:17.10 ID:yfDpyaAx0



 宙に浮かぶ魔女の姿は、かつて避難所があった場所の真上にあった。



 マミとまどかが防衛戦をはじめてから間もなく避難所は半壊し、大きな瓦礫と化した。

 暴風が吹くたびにそれは巻き上げられて小さく砕け、削り取られていく。


 幸い、逃げていく民衆を狙い撃ちにするほどの小賢しさは魔女にはない。

 しかし、この戦いには違和感があった。


マミ「おかしいわ…………」

マミ「……どうしてワルプルギスの夜がここにいて、なぎさちゃんと神名さんがどこにもいないの」


 ワルプルギスの夜を食い止め、その被害から守ることに必死になっていた時には考えないようにしていたことだった。


まどか「そんな……まさか……」


 まどかも同じことはずっと感じていた。

 その答え合わせとばかりに、無機質な声は告げる。



QB「死んでしまったよ。戦えるのは君たちだけだ」



 到底受け入れられない答え。

 しかし、ずっと薄々感じていたこと。


マミ「え…………」

856 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/24(土) 00:25:38.10 ID:NjvX638m0
えええええ・・・
キュウベェは嘘はつかないんだよなぁ・・・
857 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/24(土) 00:35:40.22 ID:yfDpyaAx0


まどか「マ、マミさん! 今は戦いに集中しましょう……!」

マミ「で、でも、なぎさちゃんと神名さんがやられちゃったのよ。私達だけじゃ、きっと……」

まどか「それでも…………わたしは戦います。わたしたちしかいないなら……」


 後輩の強い思いに、マミも頷いた。


マミ「ええ………… そうね」

マミ「私はなぎさちゃんに守ってきてもらってたけど、こんな時くらいは……なぎさちゃんのためにも」



 ――――二人が決意を固めかけた瞬間、鋭い罵声が割り込む。



「おい!! 適当なことばっか言いやがって! 死んでねぇよ!!」


 しかし、二人は息を呑んだ。


QB「…………」

まどか「あすみちゃん、それ……」

あすみ「生きてるだろ! ……私もなぎさも」



 二人の知ってる、いや、『知っていた人』は、血の気が失せたなぎさをそっと地面に下ろした。



――――――
――――――
858 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/24(土) 00:38:27.56 ID:yfDpyaAx0
-------------------------
ここまで
次回は24日(土)夜からの予定
859 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/24(土) 01:18:33.83 ID:NjvX638m0
乙です。

なぎさはほぼ死人同然の傷をおったからかな?
確かにキュウベェは嘘は言ってないよね。
『2人共』死んだとは言ってないね、安定のミスリードだけど。
860 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/24(土) 23:49:48.33 ID:yfDpyaAx0
少し前




 瓦礫の山で目を覚ます。



あすみ「――……うー」


 長く寝過ぎてしまった朝のような感覚だった。

 爽快な目覚めには程遠い。私は痛みをなくした身体で久々の倦怠感を覚えていた。


 僅かな間、寝ぼけたように意識が遠くにあった。意識が落ちる直前の記憶に思考を巡らせる。



あすみ『――――』


 何気なく振り返り、言葉を失った。

 なぎさは私なんかよりも身を守る術にも長けているし、勘も鋭い。

 まだまだ負ける気なんてなかったのだ。私は。


 人は脆い。少し当たりどころが悪かっただけであっけなく死んでしまう。

 どこから何が来るかなんかわかりようのない状況。勘だけじゃ防ぎきれない攻撃。

 運が悪かったって一言だけで片付けられる。


 私は違う。でもなぎさは――。


あすみ「……そうか」


 私はたぶん、動揺していたんだ。負ける気はなかったが、一人で戦う気もなかった。

 今までのような戦意はもう保てなくなっていた。



 ――――そこからは覚えていない。一人で戦って、いつのまにか瓦礫に埋もれてこのざまだ。



 意識のないなぎさの身体を抱きかかえて歩き始める。

 ワルプルギスの夜は随分と遠くの景色になっていた。


861 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/24(土) 23:55:06.31 ID:yfDpyaAx0
――――
――――



 ……やっと仲間を見つけたと思ったら、何という目で見られなきゃいけないんだ。



マミ「い、息をしていないわ。それに、もうかなり時間が経っていると思う。言いにくいのだけど……」

あすみ「生きてるよ」

マミ「あ、あのね……」


 頭のイカれた奴を宥めるみたいな。死んだことに気づいてない死者を宥めるみたいな。

 現実から目を背けるのは私が嫌いなことのひとつだ。


あすみ「私だって生きてるんだから、今更じゃない?」


 右の頭に手をやる。丸い形を描くはずの感触がなくなり、歪な線をなぞる。


あすみ「なんか、右の目が見えてないんだよね。ていうか触った感じ半分くらい頭が潰れてるんじゃないかと思うんだけど」

あすみ「息もうまく吸えない。鼻に血かなんかが詰まってるみたいで変な音がする」

まどか「あ……あすみちゃんは生きてるの……?」

あすみ「幽霊なんか私は信じないよ。目の前で喋ってる相手が生きてなかったらなんだっていうのさ」

マミ「生きてるにしても……。そんな状態で平気そうに喋ってられるなんて」

あすみ「私は痛みも切り離してるから。そのまま眠りこけちゃったのは、単純に欠損が大きいのとちょっと気が滅入ってたからかな」

あすみ「どんな攻撃食らったかわかんないけどさ、私に比べたらなぎさはまだ綺麗なもんでしょ」

あすみ「そもそもソウルジェムが無事なんだから死んでない。……そろそろなんとか言えよ、インキュベーター」


 黙りこくって様子を眺めてたキュゥべえに話を振る。

 すると、やはり悪びれた様子もなく言った。


QB「べつに嘘をつく気はなかったんだけどな。僕が確認した時点では二人共死んでたし、戦えるのはマミとまどかだけだった」

あすみ「魂のこと知ってる私がそのまま死んでやるわけないじゃん! ふざけるのもいい加減にしてくれる?」

QB「……なぎさは死んだと思い込んでいる状態だね。直接刺激を与えてみればじきに起きるだろう。本人の生きる意思にもよるけどね」

あすみ「生きる意思? 簡単な問題で良かった。それをアイツがあっけなく手放すわけがない」


 こいつは言い訳をするが、どう見ても確信犯だ。

 しかしさすがに観念したらしく、問い詰めればあっさりと態度を変えた。

 ……こうなるなら、半端な思いやりなんて持たずにちゃんと話しておくべきだった。いつから私はこんなに甘くなったのだろうか。

862 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/25(日) 00:50:45.90 ID:P910e1XH0


 キュウべえがソウルジェムに触れて何かの処置を施す。

 すると、なぎさは目を覚ました。


なぎさ「……ここは? あれ!? どうしてみんな!」


 しかし、その一部始終を見ていた二人の反応は、やはり死者を見るような目だった。


あすみ「おはよう。ちょっとの間死んでたんだ。仮死状態ってやつ」

なぎさ「菓子状態……ですか。おいしそうですね」

あすみ「……まだ寝ぼけてるんじゃない? それか死んでる間に脳みそ腐ったか」


 出会った頃からいくつか学年も上がって、年上とばかり接することの多かったなぎさは最近になって特にマセてきていた。

 ちょっと小難しいこと言うようになったというか。

 だから、これは久しぶりに気の抜けたやりとりだった。


 やっと目が覚めたらしいなぎさは、お前に言われたくないよって感じの険しい顔で私を見る。……アンタもか。

 もっとも、別に脳みそが腐ったって私達には何も問題はない。


あすみ「詳しいことは後。それより、そっちはどうなったの?」

マミ「見ての通り、ここは避難所があった場所よ。危なくなったから街の人は逃したの」

なぎさ「そうですか……街の人はみんな守れたわけですね! よくやりましたよ!」

まどか「でもまだワルプルギスの夜が……」

なぎさ「人々を守れたのなら、もう無理して戦わなくていいです。なぎさとあすみで勝てなかった魔女です。これ以上は……きっと勝ち目はありません」

なぎさ「街が壊されるのは悲しいですが、命を守ることが最優先ですよ」

マミ「でも放っておいたら、また街を襲いに行くんじゃないの?」

なぎさ「キュゥべえ。今までに現れた『ワルプルギスの夜』の伝承、最後にはどうなりましたか?」

なぎさ「きっと、物語のように誰かが倒して綺麗に終わりを迎えるだけではなかったのですよね?」

QB「……そうだね。今まで大勢の魔法少女が挑んだけど、勝てたケースが多いとはいえないね」


 思わぬところで話を振られたキュゥべえは渋々答える。


なぎさ「それでもワルプルギスの夜は、世界に破壊の限りを尽くす『魔王』ではなく『災害』……災害はいつか通り過ぎるのです」

なぎさ「今考えつきましたよ。『ワルプルギスの夜』の弱点。それはきっと、飽きっぽいところです!」

なぎさ「なぎさたちが戦うとすれば、再び人が危険に晒された時です。その時は再び人々を逃がすために戦いましょう!」

863 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/25(日) 22:16:46.44 ID:P910e1XH0


あすみ「その弱点いいじゃん。実を言うと、こっちも飽きてきてたとこだったしねえ」

なぎさ「もう一度言うけど、街の人を逃してくれたのは本当によくやりましたよ! 誇りを持ってください!」

あすみ「私達も逃げるよ」


 戦うにもすでに万全じゃない。魔力に余裕があるわけでもない。

 前までと違って縄張りに人が増えたことも多少響いてた。今後もあるし、余りは怪我の回復に当ててほしいところだ。


まどか「……うん!」

マミ「ええ、そうね」


 破壊された街の残骸を振り返る。これからどこへ向かおうか。

 私はこのまま人前には出られないが、敵地でゆっくりともしてられない。



 空高くに浮かぶワルプルギスの夜を眺めて、この場所に別れを告げた。


864 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/25(日) 22:54:54.74 ID:orEn5TOe0
確かにワルプルギルを天災だと思えばやり過ごすのもあいですよね。
一般人を逃がすことが出来れば無理にたたかう必要も倒す必要もないわけですから。
あすみはこのままおさらばしちゃうのかな?それはそれで寂しい・・・
865 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/25(日) 23:16:36.10 ID:P910e1XH0

――――
――――



 嵐が去った場所で、私達は再びバラバラになった。

 まどかとマミは、離れた避難所に行った家族や一人で待ってるほむらに会いに行ったらしい。

 家族や学校のみんなにもバラしちゃったんだから何と言われるか気にならないことはないが、それは私の問題じゃない。


あすみ「……で、アンタはなんでこっちにいるの? さっさと家族んとこ行きなよ」

なぎさ「そうなのですけど……少しは治してからにしないと、その姿をうっかり見られでもしたら」


 なぎさは顔色が戻って生者らしい姿になっているものの、今の私の姿じゃ言われたとおりゾンビにしか思われない。

 なぎさだって治療が得意な方ではあるものの、それに特化してるわけじゃない。

 完全に回復するにはそれなりに消費も時間も必要だろう。


なぎさ「結局なぎさたちの身に何があったのです? あとで話してくれるって言ってたのです」

あすみ「こうなったカラクリは簡単だよ。魔法少女の本体はソウルジェムで、これが無事なら本来死ぬことはないってだけ」

あすみ「身体が死んで、心まで死んだ気になってたから一時的に死んだようになってたけど、ようは気の持ちようってこと」

なぎさ「……前から知ってたのですか?」

あすみ「うん。魔法少女になったばっかりの時に知ってたけど?」


 けろっと言ってみせる。

 その真実は、本当に私にとってなんでもなかったから。


あすみ「そのおかげで嫌な感覚を切り離せるんだって。だから私にはちょうどよかった」


 他の少女は絶望することもあるって、そんな気持ち私にはわからない。

 こんな身体なんかどうでもいいし、死ぬことなく安全に戦えるほうがいいに決まってる。

 けど、言ったらどうなるかってことは考えないわけじゃなかった。それに私が騙されたと思ったのは『もう一つ』だ。


あすみ「本来って言ったのは、死ぬ条件はもう一つあるんだ。心が死んだら私達は死ぬから」

あすみ「それが私達が狩ってる、『魔女』ってやつ」
866 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/25(日) 23:24:23.73 ID:KfppxChBO
ここで魔女化バラして大丈夫か?
867 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/25(日) 23:54:14.37 ID:P910e1XH0


 それでも、それを知った時の私の心に大して響くことはなかったけど。


なぎさ「……!?」

あすみ「『心が死ぬ』ってのは、絶望するってことらしい」

あすみ「死は大抵の人にとって絶望だから。死ぬことが唯一の救い、ってレベルまで来ちゃってもそれはそれで絶望的だしねえ」

あすみ「でも、絶望したから契約したはずなのにおかしい話だと思った」


 契約したばかりの頃に思ったことをぽつりぽつりと話していくと、なぎさは納得したようにこれだけ言った。


なぎさ「なぎさは絶望してなかったから助かったんですね!」

あすみ「……まあ、そうなるね」


 きっと、響いていないなんてことはない。どうでもいいと思ってる私とは違う。

 でもなぎさはそれ以上に、そんなことじゃ揺るがないような『何か』を持ってるんだろう。

 それは私が出会った頃のなぎさは持っていなかったもので、そして――



 その『何か』は、私にも今ならわかる気がした。



なぎさ「……あすみはいつも無頓着なのです」

あすみ「別にいいじゃん。片目見えないのはちょっと不便だけど他に困ることもないよ。見た目もどう見ても死んでるってとこから脱せられればいい」

なぎさ「色んなことが終わって余裕が出来たら、いつかちゃんと治します」

あすみ「『ちゃんと』は治んないよ」

なぎさ「それも……いつか」

あすみ「………」

なぎさ「あすみのとこにもまた戻ってきます。だから、いつまでもこんなところでひとり寂しく隠れていないでください」

868 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/26(月) 00:18:51.51 ID:CUOtmzlr0


 ……どういう意味で言ったんだろうか。

 契約する前から元々ある傷はずっと癒えない。たとえ魔法で消せても本当の意味で消したと言えるだろうか。


 傷があるから恨みは消えない。恨みを忘れないから『呪い』は続く。


あすみ「――さて、と」


 なぎさの姿を見送って、ポケットに手を突っ込んだ。


あすみ「本の続きでも読むかな……」


 何年も住んでやっと落ち着けたと思った街は、伝説の魔女なんてものによってたった数時間で壊された。

 いつも本を読んでた訓練場所にももう当分は戻れないだろう。


 それでも私はずっと前から、同じように暇つぶしをしてる。

 全てを解決するような素敵な打開策なんてなくて、なるようにしかならないし、失ったものは戻らないし。

 でも。



あすみ(――……この日常まで失わなくてよかったかな)




―『最終・なぎさとあすみの見滝原』END―
869 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/26(月) 00:22:26.62 ID:CUOtmzlr0
---------------------
ここまで
次回は30日(金)夜からの予定
870 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/26(月) 19:14:45.14 ID:BeQRVJm8O

倒す方法ないから仕方ないけどなんかあっけない幕切れだな
871 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/07/31(土) 00:14:44.11 ID:wY+7NR7m0

いつかのはなし
――――――――

――――


 …………ワルプルギスの夜の襲撃以降、自分たちの街――見滝原は大きく変わってしまった。

 以前の訓練場所も使えなくなったから、適当な空き地を使うようになった。

 見滝原には人の居ない荒れ地がたくさんできたし、逃げた先の風見野は自然の多い町だ。使える場所はいくらでもあった。


 もちろん、本当は早く元の見滝原に戻るのがいい。それでもいつもの仲間と共に過ごす、変わらぬ日常はあった。

 魔力の余裕はなかなかできなかった。

 余裕が出来たなら、優先すべきは魔力の回復と負傷の回復へ――折角逃げきれたのに魔女になっては元も子もない。伝説の魔女との戦いで負傷したのは全員だった。

 『脳みそ半分なくなっても人は生きてられるんだって』と、多分本から得た雑学をあすみは披露した。

 『でもそもそも人じゃないし、痛くないしどうでもいいから』と、あの日あすみと約束したことは本人の言葉によって先延ばしに先延ばしになっていた。



 それからついに人々の生活も落ち着いて余裕を取り戻してきたある日、あすみはいつしか姿を見せなくなった。

 影のようにひっそりふわふわと街の中を生きてきた彼女は、元からいなかったかのように消えてしまった。



 ……でもまさか、あすみが簡単に消えることも、見捨てて去ることもないって。なぎさにはそれも、お見通しだったのですからね?

 あすみは結局他の人とは距離を取って深く関わることはしなかったけれど、なぎさにとっては一番付き合いの長い『戦友』ですから。



なぎさ「……これで約束は果たせましたよね? あすみ」

あすみ「まぁ、そう思っていいかもね。私はもう、人でも魔法少女でもないけれど――」

なぎさ「そんなことはどうでもいいのですよ! あすみの心は死んでないし、絶望もしてない。それが重要なのです!」

あすみ「そうだね。じゃあ、見えてないとこも確かめてみる?」



―――――――――
872 : ◆xjSC8AOvWI [sage saga]:2021/07/31(土) 00:21:44.71 ID:wY+7NR7m0
---------------------------
なんだかんだここまで書いて完結。
次スレでやることを決めつつ、1000まではこっちのおまけでも書きます。
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○今までのおはなし


【続編開始/指定場所からロード】
・なぎさ編【続編:あすみ編後から再開。あすなろ編】
・杏子編【続編:あすなろか安価】
・キリカ編2【続編:小話・ワルプル後新展開】
・あすみ編【続編:小話・ワルプル後新展開】
 ・+かずみ編【続編:小話・ワルプル後新展開】
・桐野編【キリカルート続編:小話】


○新しい話

★まどマギのほかに、おりマギ本編・かずマギ・漫画版まどマギ・TDS・PSP・劇場版のネタを含みます。
 それ以外からのネタは出さないか考慮しませんが、知ってるとより楽しめるネタはあるかもしれません。

★主人公は作品中のモブやオリキャラも可。

★同キャラでも前提設定やルートによって大分話が変わるので2回以上選択も可能。
 ただし同キャラで未完結が増えすぎても困るので前の話が完結している場合のみとします。

☆誰が何をする話、とかざっくりでもOK

☆マギカシリーズ外の作品の設定や世界観借りるみたいのもOK(作者が知ってるネタだけになるけど)
※もしかしたらキャラの設定とか個性が原作から崩壊するかもしれないけど、根底にある性質を大幅に変えてしまうことはしません
 あくまで持ち味を活かせる形で!


↓5レス程度来たらなんかかんがえる
873 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/31(土) 01:44:14.45 ID:4lUPWJHS0
乙です。

なぎさとあすみ、なんだかんだでもこの後見滝原でたくましく生きていきそうですね。

次は小巻を希望。
織莉子の陰口や嫌がらせが陰湿でイジメをしていた連中に堪忍袋が切れて暴力沙汰を起こしてしまう。



874 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/31(土) 13:44:13.79 ID:lm8Xmf5so
見滝原市周辺で起きる事件を調査している滝中生徒会が巻き戻りを繰り返す魔法少女ほむらに利用され
ワルプルギスの夜討伐まで付き合わされるif

そもそも見滝原中学校に生徒会ってないのかな・・・原作見ても必要だと思うんだがな
875 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/31(土) 19:09:30.26 ID:6aqCU5MFO
小巻はまだやった事ないからありかな?
>>873だと退学というより織莉子絡みで事を大きくしたくない学校側がなあなあで済ましそう
それに小巻が呆れ果てて自主退学して見滝原に転校とか?
この場合織莉子に一緒に来ないかと声をかけて一緒に転校したら契約しないかも
876 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/01(日) 18:04:13.46 ID:eqZuzjfSO
小巻ならあすなろ参戦を見てみたい
877 : ◆xjSC8AOvWI [sage saga]:2021/08/01(日) 19:41:20.85 ID:HkLCZvpB0
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4レスですが、流れ的につぎは小巻主人公ですかね。
>>873の経緯で>>875のように見滝原に転入する話とかならいい感じに原作と違う展開になりそうな気がします。
>>867だと、見滝原に住んでるっぽい小巻があすなろに行く理由付けがほしいところ…
見滝原の魔法少女なのにマミが知らないのもおかしいので、このスレだと他の地区と掛け持ちしてるとかの設定にしてましたが。
用事で通りかかったらソウルジェム奪われかけた…みたいな感じになりますかね。小巻一人であの街をどうにか出来るかはかなり不安が残るけども。

次スレ候補

小巻「見滝原中に転入したわ」

小巻「あすなろの魔法少女?」

 これも下3レスくらいで決定。新しい内容・スレタイ候補があればどうぞですー。

※これまでの通し番号タイトルはわかりやすかったのですが味気なく、新規お断り感が出てくる気がしたので
1レス目でサブタイトルくらいの位置に載せるようにしようかなと思ってます
878 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/01(日) 20:11:43.58 ID:HkLCZvpB0
>>867って何やねん、>>876だった
879 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/08/01(日) 21:49:16.61 ID:pR2qZ4VI0
次スレですが、小巻「見滝原中に転入したわ」に1票。
織莉子も一緒に転校となるとまどかは安全かもしれませんが、ほむプルギスの方が心配だなぁw
マミさんとはGS泥棒の杏子とやりあってる時に出会ったというのはどうですかね?
マミさんが来たとなると杏子は引くだろうし、そのままやりあっても負けてたと思うのでそこから知り合いになるとか?

あすなろの方はかずみ編と同じでかずみトランクを小巻が見つけて、ユウリに襲われてあすなろの戦いに巻きこまれるって感じかな?

880 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/01(日) 22:57:59.88 ID:eqZuzjfSO
理由考えるの面倒だから見滝原転入で
あすなろに関わるならかずみの入ったトランク拾うのが手っ取り早いよね
881 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/01(日) 23:56:11.27 ID:HkLCZvpB0
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次スレは小巻の見滝原中転入に決定。
多分次の休みくらいにはやります。

かずみin見滝原系は何回かやってネタがつきかけてるのと、かずみに主人公取ってかれそうな気がするんだ…
あと小巻があすなろ参戦というより、あすなろ組が見滝原の事情に参戦みたいになるかなって思った

・ここから「なぎさとあすみの見滝原」おまけ。
・登場したキャラの『その後』について書きます。
 下1レス(キャラ名指名)
882 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/08/02(月) 10:01:56.50 ID:ndpvVVoD0
あすみ。

次スレ楽しみにしております!
883 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/03(火) 09:41:01.72 ID:+jUMRxP30
小巻が転校すると取り巻きはどうなるんだろ?
確か小巻が魔法少女だと知ってる子いたよね
転校が原因でなんか拗らせたりしなきゃいいけど
884 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/05(木) 21:28:18.58 ID:bSZhhFMP0
おまけ ――後日談その@あすみ――




 ワルプルギスの夜が街を壊して、ついでに私が魔女になった後、それから何が変わったか。

 ……別に、私の生活は変わらない。


 見滝原の外の生きた街並みならどこでも似たようなものはあって、さらに瓦礫の街からは人が消えて、私からすれば好都合だった。

 私はその中の廃棄された建物を根城にしていた。


 周りを探せば物も出てくる。元が家だらけだったのだから、無事な状態の生活必需品もちょっとくらい拝借できた。

 ふと目に止まって、瓦礫の中からキラリと光る宝石のついたネックレスを拾い上げた。

 どうやら私以外にも、持ち主不明の品を盗みたがる火事場泥棒は沸いているようだ。そいつらが欲しがりそうなものだった。

 私はセコイ金稼ぎには興味はない。そんなことをしなくても生きていけるからだ。金の使い方なんて知らない。

 それに外見を飾り立てることにも。


あすみ(……今更私みたいのが飾り立てたって、綺麗になんかなれるっていうの?)


 たしかに私は最近までフードが必須だった。顔を覗いた人には驚かれた。その反応すらどうでもよかった。

 哀れみを向けられる分には無視して、不当な悪意には『呪い』の報復を。醜悪なものを前にすれば本性がわかりやすく表れる。無駄な皮を剥がして見極めるにはいい鏡だ。

 ――けど汚いのはそれ以前のことだった。


 だから魔力を食うばかりの私のことは後回しにさせたし、頭と顔面の傷どころか魔力の回復すら――――……一度は諦めたんだったっけな。


あすみ(そうだ)

あすみ(……今の私には傷はなくなったんだっけ)


 傷は消えた。だからって、過去が消えたわけじゃない。

 というか本当にコレはいらない。飾り付けるのならせめて自分のものにすべきだ。

 私にも泥棒にも似合いそうにない華美な宝飾品は、持ち主の元に届くか知らないが交番にでも持っていこう。


 ……うん、私は綺麗になった。見た目じゃなくて、心のほうはそう言ったっていいだろう。

 自画自賛に思われるかもしれないが、契約したての時は本当にクズになりかけてたし真っ黒に絶望してたんだから。

885 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/05(木) 22:51:33.57 ID:bSZhhFMP0


 皮肉にも、街が壊されたおかげで私は悪事を働かなくとも良くなった。

 希望自体はきっともっと前からあった。この街に来てから余裕ができて、緩やかに心は変わりはじめていたんだ。

 ワルプルギスの前と後では変わってないと思ってたけど――――たぶんそれが最後に引っかかってた部分で、それがなくなったから『こう』なったのだろう。



なぎさ「あれ? あすみ、奇遇ですね!」



 ――――瓦礫を抜けて歩いていると私の唯一の友人と出くわした。

 世の中は意外と狭いものだ。というか、今は街自体が狭くなってしまった。


あすみ「……ああ、奇遇だね」

なぎさ「これから訓練なのでよかったらあすみも来ませんか?」

あすみ「用事終わったらね」

なぎさ「はい! それとそれと……さらによかったら、その後のお茶会とお料理も。今日はマミが張り切っているのです」


 新入りのまどかと魔法少女じゃないほむらまで含めて、相変わらず訓練の後まで仲良くやってるらしい。

 ずっと前から、断られるとわかってるくせにこうしてたまに私にも誘ってくる。

 ……こいつらの能天気ぶりを見てると、意地張って一人だけ距離取ってるのも馬鹿らしくなってくるよな。


あすみ「いいよ」

なぎさ「や、やっぱりそうですよね――って、ええ!? ホントなのです!?」

あすみ「やっぱつまんないって思ったら帰るから」



 今更馴染めるとも思わない。けど、これからもこの街で生きていくんだから。

 なぎさの時と同じように、たとえ今から想像ができなくてもなるようにはなるとわかっているんだ。

 私なりの付き合いはしてみてやろう。

886 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/08/05(木) 23:44:31.45 ID:QLc+f+L60
え、あすみ魔女になったの!?
あすみ編みたいに魔女から人に戻ったのだとしたら、願ったのはなぎさ?
887 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/06(金) 22:09:14.20 ID:ImYZyQpC0
――――
――――



 ……で、誘われて来てみた『お茶会』とやらなんだけど。

 訓練の話なら私にも突っ込めるとこはある。それ以外は思ってたとおり私の感性には合わなかった。


まどか「――そうなの! じつはうちでもこの前自分で作ってみて、そしたらパパが褒めてくれたの!」

マミ「よかったわね。今度はまた新しいレシピにも挑戦してみる?」

なぎさ「お菓子作りのレパートリーが増えますね!」


 まどかが話すことといえば学校の話か家族のホンワカ話ばっかだし、一番話しづらい相手。

 お菓子作りもやったことないし。


あすみ「……ふぁ〜あ」


 ついでに、やっぱり味覚にも合わなかった。覚悟はしてたがなんか変な感じだ。記念日でもないのに。こんなお菓子も茶も今まで馴染みがない。

 気取った香りとか、そもそもお茶なのに甘くするって発想がズレてる。もちろん甘くしなきゃイイって言いたいわけじゃない。

 砂糖入れてもニガイのも問題だ。茶はジュースにはなれない。


 ……所詮貧乏舌。もっとチープなのでじゅうぶんなんだ。私にとっての『ごちそう』は今でも駄菓子や甘いジュースだった。

 あと出した後の茶葉を一回で捨てるのももったいない。まだ使えそうじゃん。飲みたくはないけど。


あすみ(ジュースってないのかな?)


 つくづく紅茶という飲み物と私は合わないと思った。

888 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/08/06(金) 22:31:55.91 ID:tX++SI9Q0
あすみは母子家庭で苦労した分舌が肥えてないいだよなぁ・・・
889 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/06(金) 23:04:04.28 ID:ImYZyQpC0


なぎさ「そうなのですよ! 今度はぜひあすみも!」

あすみ「そう、って、なにが? ジュース?」


 興味のない話がはじまって気が逸れかかってたところで、なぎさが唐突にこっちに話を振ってきた。

 なにか目を輝かせている。


なぎさ「いえいえ、あすみもお菓子作りに参加してみればいいのです! せっかくお料理できるんですから」

あすみ「それって見合うの? 料理は買うほうが高くつくけど、お菓子って大体自作するほうが手間も金もかかると思うんだけど?」

なぎさ「あすみはコスパばっかり気にするのです…… マミも何かお菓子作りのいいところを言ってやってください」

マミ「そうね? ……まず、自分好みの味にすることができるわ。市販品って万人受けを狙うのが多いけど、甘すぎたりすることあるじゃない?」

マミ「一発で成功はしないかもしれないけど、自分の好みを探すのも楽しみのひとつよ」

あすみ「好み……ねえ」


 そもそも口から物を食べるのってどのくらいぶり。

 今ならコスパが一番いいのは“魔力”だ。いつのまにか、他の人からしたら随分と味気ない生活を送っていたのだろう。

 縁の遠い言葉だ。私にも昔は好きな食べ物くらいあったけど、でも、それはもう……――。


なぎさ「……で、もしかしてジュースがほしいのです?」

マミ「あっ、そういえば前に紅茶苦手だって言ってたかしら……? 今日は何も用意してないわ」

なぎさ「あすみの好みって意外とおこちゃまなのですね!」

あすみ「そーいう問題じゃない。ただアンタたちとは合わないだけ」

なぎさ「じゃあどういう問題なのですか」

890 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/07(土) 00:12:49.12 ID:7UxVyEIi0


 いつもだったら飄々と流すけど、なぎさに言われるとちょっと腹がたつ……ってのは置いといてやる。

 あの頃から変わらないしこれからもきっと大して変わらないんだろう。


あすみ「まあでも、このまま何も口にしないといつかは味覚が消えてなくなりそうだしね?」

あすみ「……自分の好みってのはちょっとは考えてみてやってもいいよ。そしたら私に合わせてもらうことになるけど」

あすみ「今度から呼ぶならジュース用意しといてよ、やっすいのでいいから。……あとお菓子作るなら牛乳はあるでしょ。とりあえずそれちょうだいよ」

マミ「わかってたら最初からミルクティ用に作ったんだけどね。今度は一緒に見に行きましょうか」


 マミの考える『最適』ではないらしいが、一応、怒ったりするほどのこだわりはないらしい。

 仮に怒ったとしてもしらないし、無理に合わせてやるつもりはハナからない。


あすみ「そういや魔女って人間食ってたりするわけだけど、あいつらどんな感覚で食ってんだろうね? 味感じてんのかな?」

まどか「うう、急に生々しい話するね……」

なぎさ「結界自体に取り込むタイプもいますが、食べる魔女なら味もわかるんじゃないのです?」

マミ「そうでしょうね。生々しくて恐ろしい話だけど、美味しくなきゃ食べないと思うのよ」

あすみ「……美味しいのか。じゃあ私も食えたりすんのかな」

まどか「えっ!?」

あすみ「あっ、性的な意味じゃないよ」
891 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/07(土) 00:18:58.37 ID:7UxVyEIi0


まどか「えぇぇそんな補足はいらなくて…… どういうこと?」

マミ「どうせまた冗談かなにか……よね?」

あすみ「うん。冗談冗談」


 そもそも魔法少女が魔女になるってことも、私が魔女になったってことも知ってるのはなぎさだけだ。

 あの約束を、『叶えた』のは私らしいが『果たした』のはなぎさなんだから。

 当分はそれでいい。二人はなぎさがまだ『一人前』に鍛えあげてる最中で、いつか認めたらなぎさが教えるだろう。


 これもまた冗談って目で見られるんだろうけど。


あすみ「私は『奇跡』を叶える、良い魔女なんだから」


 クリーム色の水面を揺らしてカップを取り、口に含む。

 ……牛乳と砂糖をぶちまけたら茶っぽさはなくなった。ひとまず、これでよしとすることにした。


 『お茶会』はまだ続いていく。


 まどかがホンワカな話をして、マミがお洒落ぶった話をして、なぎさは……まあいつもどおりだけど、二人だけの時よりマミたち寄りの話し方。

 日が暮れたらまどかが帰って、ほぼ入れ違いにほむらが来た。マミが料理を教えてやってるらしい。


 みんなにとっての日常の一部。

 ――――……これから、もしかしたら私の日常の一部にもなるのかもしれない。



――後日談その@あすみ おわり――
892 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/07(土) 00:30:38.30 ID:7UxVyEIi0
----------------------------------
>>886
『いつかのはなし(>>871)』はかなり情報省いたけど、
一応『人でも魔法少女でもない』と言ってるんだ…

ところで、紅茶とスイーツ好きのキャラが多すぎると思うんだよね…一人くらい紅茶嫌いやスイーツ嫌いがいてもいいと思うんだ。そう言う筆者も貧乏舌寄り。



おまけA
・登場したキャラの『その後』について書きます。(※あすみ・なぎさ以外)

 下1レス
893 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/07(土) 13:17:56.09 ID:+VsUrElK0
なぎさがダメなら杏子
894 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/07(土) 22:10:24.04 ID:7UxVyEIi0
おまけ ――後日談そのA杏子――



 学校の帰り、玄関のドアを開けるとすぐに、リビングの奥で座ってる妹の姿が目に入った。



杏子「ただいまー」

モモ「お姉ちゃんおかえり!」

杏子「それ宿題? 勉強してたのか? えらいじゃん」

モモ「えらいでしょ! 聞きたいとこあるからあとでお姉ちゃんも見てよ」

杏子「ああ、後でな」


 制服から着替えに行く。

 4人で暮らすにはこの家の部屋は少ない。部屋なんてリビングと寝るところくらいだ。

 けど、夜になるまでは二人だけだし困るほどでもないか。

 今まではいつもみんな家にいたけど、今は外に働きにいっている。父さんだけじゃなくて母さんもだ。


杏子(最近モモの勉強も結構難しくなってきたんだよなぁ……こりゃあたしも力入れて頑張んないと)


 多分このほうが一般的なんだろう。

 代わりに面倒を見てやらなきゃいけないとこも増えた。気合を入れてからモモのとこに戻る。

895 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/07(土) 23:10:09.98 ID:7UxVyEIi0


モモ「そういえばこの前の強風の日、見滝原が大変なことになったんだって。今日学校で聞いたの」

杏子「……ああ、こっちも聞いたよ。かなりヤバかったらしいね」


 うちには今テレビも新聞もないけど、一応元教会の人間としては世間の情報に無関心になるのはよくないから、

 人より気にするようにはしてる。


モモ「教会があった場所って……いまどうなってるのかな」


 むかし教会があった場所はすでに売ってしまった。うちはもう教会をやめちゃったし、前のはただ住むだけには広すぎたんだ。


 街や学校でも見滝原の災害のことは聞いたし、たくさんの建物が倒れたらしいとも聞いた。でも想像はつかない。

 あの場所はもともと町外れだしずっと何も建ってなかったけど、ずっと暮らしてきたあの建物はもうない。

 ……それでも。もうなにもできなくても、あの場所が荒れ果ててるとなるといい気はしなかった。


杏子「でもさ、いいことも聞いたよ。死亡者や怪我人はほとんどいなかったんだって」

モモ「そうなんだ! 神様に祈りが通じたのかな」

杏子「そうかもね」


 もう教会もやってないし、あたしたち以外に父さんの教えを信じる人もいないけど――だからこそあたしたちは大事にしなきゃいけない。

 父さんがあたしたちや世の中のために思ってくれていることを。

 成功はしなかったけど、間違いではなかったんだって。

896 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/08(日) 00:42:56.20 ID:1tjKWCCC0


「ただいま。今日は何をして過ごしてたんだい?」

モモ「おかえりお父さん! 今日はね、お姉ちゃんに勉強教えてもらってたの」

「そうか。いい子にしてたんだね」


 しばらくモモと勉強してると、もう父さんと母さんが帰ってくる時間になってた。

 父さんが帰ってきてから少ししてから母さんも帰ってくると、あたしは立ち上がった。


「おなかすいたでしょう。今ご飯作るからね」

杏子「あたしも手伝うよ! 今日は何?」

「今日は生姜焼きよ。帰りにスーパーで半額のお肉が手に入ったの」


 それを聞くとみんなの顔がパッと明るくなった。

 美味しいご飯は人を元気にさせてくれる。きっと誰にだってそう。

 毎日ご飯が食べられる。特に困ってなければ当たり前のように感じることだけど、それはとてもありがたいことだ。


杏子「……モモ。今度さ、久しぶりに見滝原のほう行ってみない? 途中で前うちがあったとこにも寄れるし」

モモ「うん。気になる。あと、久しぶりになぎさにも会ってみたい。離れちゃったけど、友達だから」


 あたしもゆっくりと頷く。

897 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/08(日) 00:56:42.59 ID:1tjKWCCC0
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今回更新はここまで。多分本日中には新スレ出すと思います。おまけは引き続き並行で。
夏休みという特大チートが到来したので更新頻度増やせるといいな〜
898 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/08(日) 11:47:03.52 ID:EPcfftUJO

佐倉家は風見野だから被害は無しか
899 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/13(金) 00:40:07.91 ID:IrZxcVMF0
――――
――――


 あれから少し経った休みの日にバスで見滝原のほうまで出てみた。

 道路が壊された一帯があるせいでいくつかの路線は変わっていて、被害の大きかったところには行けなくなっていた。

 見滝原の街のほとんどを大きく迂回するようなルートだ。そんな状況を見ると街並みが壊されたって実感も沸いてくる。


 かろうじて前に教会があった街の堺のあたりまでは行けたから、そこで降りることにした。


杏子「うわ……木が倒れてる」

モモ「……ここで遊んだこともあったのに」

杏子「本当にここよりヒドいのか? 道路が壊されて、ビルが倒れるほどでしょ? 街のほうは……」


 教会の跡地や町外れを通り過ぎて、バスじゃいけなくなってる部分へと足を伸ばす。

 町外れのほうは破壊されてても面影くらいは残ってた。

 でも、進んだ先にあったのはただの瓦礫と更地。……そう表現するしかない光景だった。


モモ「なぎさちゃんは今どこにいるのかな? 街の人は無事なんでしょ?」

杏子「ああ、ほとんどは無事なはず……だけど」


 こんなのを見せられたら自信がなくなってきてしまう。

 それに、『ほとんど』って? 災害で怪我をした人が全くいないとは限らない。


杏子「……戻ろう。こんなの見てたら気が滅入る。さすがにこんなところには居るわけないんだから」


 行こうと言い出したのはあたしだ。でも、まさかここまでとは。

 被害の状況をこの目で見られただけ十分だ。……そう思うことにして去ろうとする。



あすみ「よう、久しぶりじゃん。ここ“私のうち”の近所だけど何か用でもあんの?」
900 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/13(金) 00:54:55.67 ID:IrZxcVMF0


 深くフードをかぶっているが、その声と姿はあたしたちの知っている人物のものだった。


杏子「うち? ここが?」

あすみ「そう。ここ一帯全部私のうちの近所。誰もいなくなったから私のものにしたの」


 あすみは冗談みたいなことを言いながら手を広げる。……本気なのか?

 ふとフードの中を覗き見ると、思わず驚愕した。


杏子「!!」

あすみ「……私が『ほとんど』に入れなかった怪我人だとでも思っとけばいいよ」

あすみ「でもなぎさのほうは無事だから。“あっちの荒れ地”にいるよ」


 方向感覚なんてなくなりそうな場所で、あすみは指を指す。


杏子「ホントに荒れ地に!?」

901 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2021/08/13(金) 01:45:27.00 ID:IrZxcVMF0


あすみ「うん。……んー、けど関わりすぎるのはよしときなさいよ」

あすみ「なんでそんな場所にいるかってーと、『普通じゃないこと』してるんだよ」

あすみ「アンタたちは絶対こっちの世界には関わらないでしょ。オヤジがああ言ってたもんね」

モモ「教えてくれてありがとう」

モモ「大丈夫! 魔法少女とかその前に、今日はただ、友達としてひと目会いたくなったの!」


 あたしも続いて礼を言って、“あっち”を目指すことにした。


杏子「ああ、あたしからも。 ありがと!」


 ……あすみはさらに深くフードを被ってしまった。

902 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/06/26(日) 20:41:37.97 ID:SiQ90L/v0


 進んでいくと、荒れ地の奥に多少開けた場所があることがわかった。

 人がいる。近づくほどにはっきり見えてくるのは、目を疑うような光景。『普通じゃないことをしてる』って言ってたから、確かにそうなんだろう。

 でも、前に父さんが言ってたような恐ろしさは感じなかった。印象でいえば――。


 『魔法少女』。アニメに出てくるようなそれだった。


なぎさ「あっ……!」


 瞬間、目が合った。

 あたしたちの存在に真っ先に気づいたのはなぎさで、それに合わせて他の人たちも振り返った。


「えっ、一般人!?」

「これってまずいんじゃ……?」


 金の髪の少女と、桃色の少女。なぎさとも雰囲気は似たようで違う系統の可愛らしい衣装を纏った二人。

 二人とも慌てた様子で、あたしたちは場違いなところに迷いこんでしまったのかもって思った。


 それでも、なぎさはあたしたちの知ってるなぎさだった。

903 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/06/26(日) 20:46:15.52 ID:SiQ90L/v0


なぎさ「モモ! それに杏子も! お久しぶりなのですー!!」

「知り合い?」


 金色の少女がなぎさに尋ねる。


なぎさ「はい。前に教会で知り合った人たちで…… でもどうしてここにいるってわかったのです?」

杏子「さっきあすみが教えてくれたから」

なぎさ「あすみが?」

モモ「今日はなぎさに会いにきたの。ほんとはもっと話したりしたかったんだけど、あれからすぐに引っ越しちゃったから全然機会がなくて」

モモ「このあたり、すごい災害があったでしょ? 無事でよかった」


 あすみの言ってたとおり、なぎさのほうは見た目も中身も変わらない。

 周りの景色は変わってしまったけど、それにひとまず安心した。


なぎさ「あすみもついてくればよかったのに。まったく、照れ屋さんもここまでくると困りますね!」

モモ「少しだけどあすみとも会えてよかったよ。でも、あすみは……」


 隠していた布の下を思い返す。『魔法でもなければ』治らないだろう、ひどい怪我を負っていた。

 なぎさは真剣な顔をして言う。


なぎさ「あすみのことはなぎさがいつか治します。あすみとそう約束したのです」

904 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/06/26(日) 20:49:34.47 ID:SiQ90L/v0


モモ「ところで、みんなとはここで…… 戦ってたの?」

なぎさ「なぎさたちはここで強くなるための特訓をしてるのです! でもマミ、まどか、今はちょっと休憩にしましょう!」

なぎさ「なぎさも久しぶりに話したいことがたくさんあります!」


 そして、今のなぎさはただの“なぎさ”ですから――そう言ってなぎさは魔法少女としての衣装を脱ぎ去った。

 もちろん、こんな場所で普通に服を脱いだわけじゃない。光ったと思ったら一瞬で変わってた。


モモ「私もなの! 聞いてほしいことたくさんあって……! なぎさのおかげでモモたちちゃんと暮らせてるんだよ」

モモ「学校から帰るとお姉ちゃんと二人で少しさみしいけど、でもみんな前よりも充実した顔してるの」

杏子「あたしもなぎさには感謝してる。それからあすみにも…… なんだかんだ、あのコがキツいこと言わなきゃ父さんの中でなぎさが悪者のままになってただろうし」


 ほかの二人も休憩となればいつのまにか普通の服装に戻ってた。

 やっぱりここにいるみんな、神でも魔女でも、そんな大層なものじゃないんだろう。


なぎさ「あすみに伝えておきます。あすみは素直じゃないけど、きっと喜ぶのですよ!」

モモ「そういえば二人が話してるとこって見たことなかったけど、なぎさはあすみとも仲良かったんだね」

なぎさ「はい! 教会で居合わせた時には避けられてましたけど…… これからあすみのことも話すのです!」




――後日談そのA杏子 おわり――
905 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/07/02(土) 13:47:47.27 ID:dKVr5q2kO
久しぶりの投稿おつです
早くあすみの傷治してほしい
つぎはマミかまどか視点の話かな?
906 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/07/15(金) 23:30:05.50 ID:Y/SO+aeC0
おまけ ――後日談そのBほむら――



まどか「じゃあ、ほむらちゃんも。また明日ね」

ほむら「うん。鹿目さん……また明日」


 放課後、通学路の途中で鹿目さんと別れる。

 学校も変わって、前とは環境が変わって、それでも私の周りが大きく変わることはなかった。


 鹿目さんは今日も訓練に向かうみたい。私がそれについていく必要はない。私がついていっても何もできないから。

907 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/07/15(金) 23:44:52.88 ID:Y/SO+aeC0


「それにしても今から習い事を増やすって大変ですわよね。でもまどかさん、なんだか充実してそうです」

「まどかは最近ツレないなあー。この後のショッピング、ほむらは来るでしょ?」


 それに、鹿目さんだけじゃなくてこうして他の人とも打ち解けることができた。


ほむら「はい。私も行きます」


 見滝原が壊滅した後、両親が迎えにきてた。このまま実家に戻ろうって。

 でも私はこっちに、鹿目さんたちと一緒にいることを選んだ。

 誰も知らなくても魔法少女のみんなは私の恩人で、やっと私にも大切な友達ができた。

 私がわがままを言うと両親はとても驚いていた。思えば今まで私が自分で何かを選ぶことって、あまりできなかったし、しなかったから。

908 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/07/16(土) 00:11:27.52 ID:f0iuklND0


 病室の外の世界は広くて、私の知らない人や物がたくさんあった。

 同年代の誰かと一緒にいることは何もかもが新鮮で、自分が変なことをしてないか不安になることもあるけど、そんな私でも受け入れてくれる人たちはいる。

 運が良かったのかもしれない。私の周りにいる人たちは優しかった。


 ――――みんなとのショッピングは、大体洋服や雑貨を見て回ったり、たまにCDや本を見たり。

 ふと立ち寄った書店で、二人が流行りの雑誌の話をしている傍ら、私は馴染みのある本のタイトルが目にとまっていた。


「ほむら、何見てんの? 欲しい本でもあった?」

ほむら「あ、いえ……」

「そう? ならいいけど」


 別に今買おうと思っていたものではなかった。けど…… 少し、ある人とした会話を思い出していた。

909 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/07/17(日) 20:29:19.22 ID:76ylTsDi0
お、続き来てる!
更新早くてうれしいです^^

まさかのメガほむ視点、メガほむと話した人って誰かな?
910 : ◆xjSC8AOvWI [sage saga]:2022/08/21(日) 23:35:02.36 ID:riBVnRo+0


 思い返す限り、私が見たのは冷たく素っ気ない態度。

 あのとき、あの子はきっと部外者の私をわざと遠ざけようとしていたんだろう。実際私はあの子のことをほとんど知らないままもう会うことがなくなっていた。


 一見何も同じところなんてなさそうなのに、小さな共通点を見つけて。でもそれから話なんて弾まなかった。


 病院で途中まで読んで、あれっきり結局また忘れていた本が偶然いま目の前にあった。

 彼女はもう最後まで読み終えたんだろうか?

911 : ◆xjSC8AOvWI [sage saga]:2022/08/21(日) 23:37:44.66 ID:riBVnRo+0


 ――――ショッピングの帰り際、みんなと別れてから携帯を見てみると、ちょうど巴さんから連絡がきてた。

 向こうの訓練も終わった頃みたい。


 巴さんは、魔法少女にならない私にも先輩になってくれた。魔法少女にならない私のために、私に合った訓練をしてくれるって。

 同じ一人暮らしだからって、お互いの家で集まって一緒にいて私に料理を教えてくれる。

 なぎさちゃんも。お母さんがいなくなって、お父さんは忙しくて、だからお料理を頑張るんだって。


マミ「いいじゃない。暁美さんも前と比べればかなり上達したわよね。手際がよくなったのがわかるもの」

ほむら「さ、最初は本当に何もできなかったし、ドジばっかりだったですから……」

マミ「慣れていなかっただけだったのよ」


 でもみんなと比べたら、私はどうだろう。

 たまに、私も同じだと思っていいのかな? とも考えてしまう。

912 : ◆xjSC8AOvWI [sage saga]:2022/08/21(日) 23:40:23.70 ID:riBVnRo+0


ほむら「……私、まだこの街にいてもいいんですよね?」

マミ「どうしたの? 急に」

ほむら「私がいま家に帰ったときに一人なのは、私が好きで選んだことだから」


 私は誰かの死を経験したことはないし、いざとなったら帰れるところがある。

 私がみんなと同じと言うには一人だけ『ずるい』気がしてしまって。


マミ「選べるっていいことよ。でももちろん、ご家族のことも大事にしてね」


 巴さんはいつもと変わらない穏やかな笑顔を向けてくれている。その言葉には重みを感じた。

 ……たしかにそのとおり。変なこと考えるよりも幸せだって思わなくちゃ駄目だ。それに心配かけさせないようにちゃんと連絡もしよう。


ほむら(さっそく、帰ったら電話してみようかな。今日のこととか話してみよう)

913 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/08/22(月) 00:25:17.34 ID:vpaYIlCZ0


 今日も色んな人と過ごして、帰り道は一人になる。


 スクールバッグのほかに手にあるのは小さな紙袋。

 ショッピングでは本屋にあった本を一冊買っていた。あのとき見ていた本だ。


 私があの子に会ったのは訓練についていかないことを決めた日が最後だった。

914 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/08/22(月) 00:41:29.92 ID:vpaYIlCZ0


 ワルプルギスの夜との戦いのとき、魔法少女のみんなと一緒にワルプルギスの夜と戦っていたらしい。

 それも鹿目さんたちが避難所に戻ってきた後も、なぎさちゃんと一緒に最後まで。

 それ以降もしばらく訓練には顔を出していたりしてたみたいだけど、大きな怪我を負っていて、それで……――。


 今はなぎさちゃんたちの前にも姿を見せなくなった、って。全部人から聞いたことだけど、私が知ってるのはそのくらい。

915 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/08/22(月) 00:50:43.12 ID:vpaYIlCZ0


 だから、

 今こうしてただの街角で、前と変わらない姿で、ちょうどそのことを考えた後で、

 彼女を見かけたのはきっとすごい偶然なんだと思った。


ほむら「え…………、神名さん……?」

あすみ「………………」


 私に気づいてもやっぱり冷たく素っ気なさそうだったけれど、

 珍しくどこか考え込んだような様子で何をするでもなく佇んでいるように見えたから少し不思議に思えた。

916 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/08/22(月) 00:59:19.02 ID:vpaYIlCZ0
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今回の投下はここまで、続きは多分今週中に
917 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/27(土) 14:48:48.87 ID:VCrEHp6i0
久しぶりの投稿乙です。

あすみとメガほむ、これまで関係は薄かったようですが何やら関わってきそうな感じですね。
お互い周りに関して疎外感を感じてる、自分から距離を置こうとしてる点が共通してるのがポイントですかね?
続きが楽しみです!
918 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/08/28(日) 19:58:42.40 ID:jYgpb0Nm0


ほむら「ひさしぶり……ですね」

あすみ「…………」

ほむら「なぎさちゃんたちとも最近は会ってないって聞きました。……なにかあったんですか?」

あすみ「べつに…………」


 やっぱりあの時と同じで、私となんか話したくないって思ってそうな雰囲気だ。

 でも、なぎさちゃんの名前を出したらたった一言だけどやっと反応してくれた。

919 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/08/28(日) 21:03:52.22 ID:jYgpb0Nm0


 少しの間沈黙が続いてから、気になっていたことを聞いてみる。あんまり自分からあれこれ話す気はないみたいだった。


ほむら「大怪我してたって聞きましたけど……」

あすみ「……あー、そんなことも聞いてたの」

ほむら「あ、はい。ちゃんと治ったんですね」


 私は見てないし、それがどの程度のものだったのかは知らない。

 とはいえ、魔法があってもすぐにどうにもできない程のものだったんだから、軽くはなかったんだと思う。


あすみ「私さぁ、ホントはもう会わないつもりだったんだよね。そのために行方眩まして……消えるハズだったのに、『怪我』治ったのも“奇跡”ってゆうか」

920 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/28(日) 21:11:05.67 ID:VjW5mTyP0
やた!久しぶりのリアルタイム更新に立ち会えた!
921 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/08/28(日) 21:45:53.31 ID:jYgpb0Nm0


 神名さんは言いたくないことを言うみたいに話し始めた。


ほむら「……誰かに話したんですか?」

あすみ「もちろん誰にも話してないよ。追ってこられたって困るじゃん」

あすみ「詳細省くけど……『あぁもう長くないんだな』って思ってたのにさ」

ほむら「で、でも、なぎさちゃんも鹿目さんたちも……」

あすみ「……『心配してくれるのに』? だからこそって話でしょ」

ほむら「……それは……そうなのかもしれないけど」

922 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/08/28(日) 22:11:04.40 ID:jYgpb0Nm0


あすみ「……そんなの置いといてよ。それで、一回死んだと思って気づいたらなぜか生きてたの」

あすみ「気にしてたこと全部解決して、怪我も治って――――いや。自分のことだから何が起きたのかはわかるよ? にしたって、あんまりにも都合がよすぎ」


 私たちの会話はゆっくりと、ときに間も空けながらポツリポツリと紡がれていった。

 彼女は気難しいとこはあるけど、話し方はもっと雄弁だったように見えた。なのに今はどこかぎこちなかった。


 私には何があったかは詳しくわからない。でもこの問題はきっと、もっと簡単なことだ。

 タイミングを失ってしまったとか、予想と違う結果になって意地を張ってどうしようか迷ってるとか。それなら私にもわかる。


 見た目通りというか、意外と子供っぽいところもあるんだと思ってしまった。……こんなことを言ったら怒られそうだけど。


ほむら「今から会いに行きましょう」

923 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/08/28(日) 23:04:26.41 ID:jYgpb0Nm0

あすみ「……はぁ!? 今から?」

ほむら「遅くならないうちに」

あすみ「充分遅いでしょ。別に明日とかでも……」

ほむら「だって……重大なことじゃないですか。結果的には無事でも。私だったら早く会って無事だったって知りたいって思って」


 思い切って提案する。

 私も悩んでばかりだけど、誰かの心を押すくらいのことなら私にも手伝える。

924 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/08/28(日) 23:16:01.76 ID:VjW5mTyP0
ほむらは一度決断すると頑固だからなぁ・・・
925 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/08/28(日) 23:36:10.23 ID:jYgpb0Nm0


 すると、神名さんは少し驚いた顔をして。


あすみ「…………はぁ、まあそうね。この先ずっと身を隠してくのもムリだし、一生離れるって選択肢なんかないんだから」

ほむら「一緒に行きますか?」

あすみ「一人で行けるっての! ……遅くなったら変なの沸くって聞いたことないの? 無防備にしてるといつか襲われたって知らないよ」


 突き放すようだけど、私のことも考えてくれているんだってわかった。


 また一人の帰路に戻ってから、そういえば本の話なんかできなかったな、と思い返す。

 私はもう『魔法少女』のことには関わらないって決めたけど、彼女もこの街にずっといるらしいからまた会う機会くらいあるだろう。



 こっちに来てから色んなことがあった。私の中や周囲の環境で、変わったところ、変わらなかったところ。

 街が壊れたりとか、決していいことばかりではなかったけれど……それでも今は幸せで恵まれてるって胸を張って言える。



ほむら「――――……うん」

ほむら「私はちゃんとやっていけてるよ。友達もできたの。料理だって習って作れるようになったんだよ。ちょっとずつだけど」

ほむら「だから心配しないで。……うん。お母さんも元気でね」



――後日談そのBほむら おわり――
926 : ◆xjSC8AOvWI [saga]:2022/08/28(日) 23:48:29.82 ID:jYgpb0Nm0
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きりがいいのでここまで
次で後日談は最後になると思います
927 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/08/30(火) 03:01:37.62 ID:m63ZmH8q0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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928 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/03/02(土) 11:48:16.21 ID:wildNdLrO
スレ主さん、もう続きは書かれないのかな?
お待ちしております。
929 : ◆xjSC8AOvWI [sage saga]:2024/03/17(日) 17:35:02.60 ID:jETTsTo80
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資格の勉強とかなんやらでなかなか時間とれてないですが、実はスレはちょこちょこきてます…!
とりあえずおまけ編締めくらいはやる!つもりはあるのでコメントは励みになります!
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