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右京「タイムパラドクスゴーストライター?」
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33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/01(水) 01:20:29.02 ID:A7tKNGJh0
とりあえずここまで
続きは近うちにあげます。
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/07/01(水) 21:02:16.64 ID:IYtSzWsl0
乙でした、菊瀬も救われそうで嬉しい
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/07/01(水) 21:33:54.86 ID:BhLtC2Il0
乙、最初斜め読みしてジャンプでGペンが暴れてるって間武士でも出て来たのかと思ったが
あっちは丸ペンだったか
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/07/02(木) 01:44:47.41 ID:Ck2azYKxo
相棒クロスとは面白いな
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:20:24.98 ID:0AxqYuWp0
集英社を出てから一時間後、冠城の愛車でシルバーのカラーが特徴なスカイラインがあるアパートの前で止まった。
コーポ谷岡、木造建ての古いアパートだ。車をアパート付近の駐車場に停めると右京、冠城、それに伊月の三人はアパートのとある部屋の前に立った。
部屋のドアにある名札には『佐々木』という苗字が記されていた。
編集部の菊瀬から教えてもらった佐々木哲平の部屋がここだった。
「ここが佐々木哲平のアパートですか。見たところ古そうな建物ですねぇ。」
「大金を持っているような様子は見受けられませんね。これだと佐々木哲平の懐事情はかなり苦しいんじゃないですか。」
これなら佐々木哲平が窃盗を行っていたとしても不思議ではない。
現段階で佐々木哲平が罪を犯したのだとすればそれは高知の伊月の自宅に忍び込み窃盗を行ったかもしれないという可能性。
確かにこれなら辻褄が合うかもしれない。だが…
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:21:12.10 ID:0AxqYuWp0
「右京さんの推理ですけど俺としてはどうにも納得がいかないんですよね。」
「はぃ?そう思う根拠は何ですか。」
「ホワイトナイトですよ。佐々木哲平が窃盗犯だとしたらアシが付かないようにわざわざ高知に出向くほどの用心深い人間なんですよね。
それなら伊月ちゃんから盗作した漫画をタイトルやキャラの名前も変えずにそのまま載せるのはおかしいと思いませんか。」
冠城が右京の推理に疑問を思うのはそこだった。
何故地方まで遠出して窃盗を行う用心深い人間が忍び込んだ先の家で盗作した漫画をタイトル名も変えずにそのまま載せているのか?
これではホワイトナイト自体が窃盗した証拠になってしまい自ら犯した窃盗が明らかになる恐れがあるはずだ。
その疑問について実は右京も同じことを考えていた。
「実は僕も自分の推理に疑問を感じています。佐々木哲平が盗作を行ったとして何故そのまま雑誌に載せたのか?
用心深い人物にしてはかなり間が抜けています。」
「まさかバレないとタカを括っているとでも?」
「どんな犯罪者でも恐れるのは自身の犯行が明らかになることです。
ホワイトナイトが連載してしまったら自分が犯した窃盗を行ったと宣伝しているようなものです。
それなのにこの杜撰さはどうしても引っ掛かります。」
佐々木哲平の部屋を前にして彼が盗作を行ったことについて今ひとつ確信を持てない右京と冠城。
そこへ遅れながら伊月が駆け寄ってきた。
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:22:21.20 ID:0AxqYuWp0
「自宅にいるお母さんに連絡を取りました…けど…盗られたモノは何もないって…」
右京は伊月に自宅へ連絡して何か盗られた物はないか確認をしてもらった。
だが盗られた物は一切ないという。つまり佐々木哲平は窃盗の目的で伊月の家に忍び込んだという疑いはないということ。
しかし伊月のホワイトナイトを佐々木哲平が盗作したという疑惑は晴れてはいない。
「あの…部屋に入らないんですか…?」
そんな考え込む右京と冠城に伊月が思わずそんなことを聞いた。
そのことを聞かれて二人は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
実を言うとそこが問題だった。伊月には関係のないことだが特命係は捜査権限がない。
そのため今の段階で家宅捜索を行うなど出来るはずもない。
精々出来ることがあるとすれば聞き込みくらいだが…
いきなり乗り込んで『藍野伊月のホワイトナイトを盗作しましたか?』と尋ねたところで認めるはずがない。
なのでここはひとまず後回しにして他を当たることにした。
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:23:22.14 ID:0AxqYuWp0
「佐々木哲平さんについて変わったこと…?」
「ええ、なんでも構いません。少しでも気になることがあれば答えて頂けませんか。」
右京が訪ねたのはこのアパートの大家だ。
佐々木哲平の周囲で何か異変は起きていないかと尋ねた。
すると大家は考え込んだ末にあることを話した。
「そう言われても佐々木さんは一ヶ月前に部屋を空けてつい最近戻ってきたばかりだから何もわからないよ。」
「部屋を空けた?どういうことですか。」
「詳しい事情は知らないけど漫画がどうとかで一度実家に戻るとか言っていたよ。」
一ヶ月前といえばホワイトナイトの読み切り掲載が決まった頃だ。
つまり佐々木哲平は実家で読み切り用の漫画を描いていたということになる。
しかしここで疑問に思うのは何故わざわざ実家に戻ったのかだ。
漫画を描くだけならこの東京のアパートでも十分のはず。
それなのにどうして…?
「ところで佐々木さんの部屋だけど大丈夫なのかい?」
「それはどういう意味でしょうか。」
「あの人が実家に戻る数日前に大きな落雷があったんだよ。
各部屋の住人に何か異常はないか確認を取ったけどあの人だけまだなんですよ。」
どうやら佐々木哲平はその確認を後回しにして部屋を空けてしまったようだ。
これはいいことを聞いたと右京は再び佐々木哲平の部屋を訪ねた。
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:24:38.08 ID:0AxqYuWp0
一方でこのアパートのとある部屋で机に向かって黙々と執筆活動をしている青年がいた。
髪型はボサボサで後ろ髪を縛り服はまるで何日も洗濯してないかのような不衛生さを漂わせる青年。
彼の名は佐々木哲平。現在自分があらぬ容疑を掛けられているとは予想もせずある作業に追われていた。
「よし…それで…ここは…いいぞ。順調だ。」
そんな哲平が机の前でせっせとホワイトナイトの連載に向けて執筆を行っていた。
既に一夜ほど徹夜しているが漫画家として初めての連載だ。力が入ってしまうのも無理はない。
ちなみに哲平は原稿用紙の傍にあるモノを置いて作業に取り掛かっていた。
モノ書きであれば傍にネタとなる資料を置くのは必然。だがこれは単なる資料とはわけがちがう。
「これがあればもう何も恐くない。こいつは神さまが俺に与えてくれた奇跡なんだ。」
まるで希望の将来に夢見る少年のように目を輝かせる哲平。
そんな哲平が見つめるのは自身で奇跡の産物だと思う資料だ。
「俺はこの使命をなんとしても全うしてみせるぞ。」
そう自分に言い聞かせながら作業に取り組む哲平。
すると部屋の玄関からノックの音が聞こえてきた。こんな時に一体何の用だと面倒ながら扉を開けると…
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:25:51.21 ID:0AxqYuWp0
「佐々木哲平さんですね。警視庁特命係の杉下と冠城です。少しお話があります。」
そこに現れたのは右京と冠城だ。するとどうだろうか。
刑事を名乗る男たちが訪ねてきた瞬間、哲平は思わず顔面蒼白となり額には冷や汗がビッショリと垂れていた。
何故このタイミングで警察が現れたのか…?
一瞬で頭の中が真っ白になり思考が停止してしまうほどだ。
「あの…警察が何のご用で…?」
「佐々木さん、あなたこの一ヶ月間留守にしていたそうですね。
大家さんが一ヶ月前に起きた雷で部屋に異常がないか訪ね回ったのにあなたの部屋だけ確認が取れていないそうです。
そこで何か異常がないか調べさせてください。」
そういうと右京たちは強引に部屋の中に入り込んだ。
いくらなんでも唐突すぎるがこれはあくまで体のいい口実に過ぎない。
右京たちにしてみれば要はこの部屋に入れれば口実なんてなんでもよかった。
ちなみに哲平の部屋だがワンルームの間取りで机とベッド以外には少年ジャンプの雑誌がぎっしりと詰まっている本棚くらいしかない。
一通り部屋の中を見回すと右京はこの部屋である異様なモノを見つけた。それは冷蔵庫に置かれた電子レンジだ。
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:26:49.47 ID:0AxqYuWp0
「何ですか…これは…?」
さすがの右京も部屋にある電子レンジを見た瞬間に思わず躊躇した。
この部屋の台所付近に設置された冷蔵庫の上に置かれた電子レンジ。
何故ならこの電子レンジは溶解したかのような状態。
明らかに火事を起こして焼き焦げてしまった状態で置かれていた。
この電子レンジの上に置かれていいるロボットの玩具も禍々しく溶解して酷い惨状だったことが伺えた。
「これは…一ヶ月前の落雷によるものですね。」
右京から問われると哲平は思わず目を背けてしまった。
どうやらそのようだ。それにしても酷い有様だ。一歩間違えば全焼していたかもしれない。
それを哲平はこんな大事なことを一ヶ月も放置して実家に戻っていたという。
まだ親元を離れたばかりの学生ならわからなくもない。
だが哲平はもう25歳と成人した大人だ。このような事態に陥れば大家に連絡する義務がったはずだ。
これはもう知らなかったでは済まされない問題だ。直ちにこの現状を大家に報告しようとした時だ。
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:27:44.19 ID:0AxqYuWp0
「右京さん…これを見てもらえますか…」
机の方を調べていた冠城があるモノを発見する。
その冠城だがどういうわけか様子がおかしい。一体何を見つけたのかと尋ねるとそこには一冊の雑誌が置かれていた。少年ジャンプだ。
「少年ジャンプですね。これがどうかしましたか。」
「よく見てください。この雑誌の年号が十年後の2030年になっているんですよ。」
冠城の指摘するように確かにそのジャンプは2030年と記されていた。
馬鹿な…ありえない…今は2020年だ…
気になった右京は雑誌をペラペラと捲ってみた。
誰かの悪戯かと思ったが雑誌のレイアウトはほとんど既存の少年ジャンプと同じものだ。
これは素人に出来る行いではない。さらに注目すべきは雑誌の巻末に載っている連載陣だ。
今とは全く異なる顔ぶればかりで現在活躍している作家の名前がひとつもない。
まさかこれは本当に十年後の少年ジャンプなのか?
すると巻末の作品タイトルにひとつだけ見知ったタイトルが載っていた。
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:29:00.55 ID:0AxqYuWp0
「ホワイトナイト…何故…?」
巻頭に『ホワイトナイト』と記されていた。内容を読むとホワイトナイトの第一話が掲載されていた。
一体どういうことだろうか。ホワイトナイトまだ読み切りのみで一話などジャンプには掲載されていないはずだ。
だがこの少年ジャンプには既に一話が掲載されている。
ちなみに読んだ感想だがこちらの方が圧倒的に面白い作品に仕上がっていた。
作画においても話の構成でもすべてこちらの方が圧倒的に上だ。
ところでだがこちらのホワイトナイトだが内容の他にもうひとつ異なる点があった。
「アイノイツキ…まさかこのホワイトナイトは伊月さんが描いたものですか…」
右京はすぐに今週号の少年ジャンプを取り出して作者名を確認した。
今週号のジャンプには『佐々木哲平』の名が記されている。対してこちらの十年後のジャンプには『アイノイツキ』の名があった。
「そんな…私…描いた覚えなんて…」
同行している伊月に確認を取ってもらったが本人は描いた覚えがないという。
だが先ほど伊月が持ってきた原稿と見比べると絵のタッチは明らかに伊月のモノと酷似している。
まさかこれは本当に未来の少年ジャンプだとでもいうのか。
だとしたら哲平は未来のジャンプをどうやって手に入れたのか?
すると哲平がなにやら時計を確かめていた。そしてなにやらレンジの方をキョロキョロと見回していた。
ちなみに現在時刻は午後4時59分を指している。
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:30:30.55 ID:0AxqYuWp0
(チーン)
今度はレンジから音がした。まさかあの壊れた電子レンジがまだ動いているのか?
気になった右京はすぐにレンジの中を開けた。
「これは…少年ジャンプ…?」
中を開けるとそこには少年ジャンプがあった。すぐに日付を確認すると2030年と記されていた。
同じく十年後の雑誌が現れた。それも電子レンジの中からという不可解な現象。
「電子レンジ…もしかして佐々木先生が言っていたことは本当なんですか…?」
「伊月さんそれは先ほどの集英社での一件についてですね。」
「はい。あの時佐々木先生は私に電子レンジがどうとかタイムパラドックスしたとかわけのわからない話をして…」
「佐々木先生これはどういうことなのか説明してもらえますか。」
まさかタイムパラドックスなど本当にありえるのか?
だが現にこうして異常事態が起きているのは確かだ。
そしてこの場にいる全員から詰め寄られてた哲平は観念したのかようやく真相を語りだした。
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:31:08.56 ID:0AxqYuWp0
「実はあの落雷のあった日から電子レンジからこうして未来から少年ジャンプが送られてくるんです。」
落雷のあった日、つまり徹平が集英社にホワイトナイトを持ち込む前日のことだ。
渾身の出来だった作品を菊瀬からボツを喰らい哲平は絶望していた。
「俺…25歳までに漫画家になった成功したかった…
けどいつもボツばっかりで正直もう限界だった。それで諦めようとした時だ。
落雷が起きて電子レンジから未来の少年ジャンプが届いたんだ。」
それが一連の真相だった。その後は簡単に推理できた。
哲平は届いたジャンプを読んで本来のホワイトナイトに感動した。
それから何を思ったのかホワイトナイトを自分で描いてそれを編集部に持ち込んだ。
そして哲平のお惑通りホワイトナイトは佐々木哲平の作品として世に出回ることになった。
「それじゃあ…これは…私のホワイトナイト…」
未来から送られてきた少年ジャンプを読みながら伊月は改めて自分こそが本当のホワイトナイトの作者だと実感した。
今から十年後に自分はホワイトナイトを描く。それは競合多いジャンプで人気1位を獲得するほどだ。しかし…
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:32:16.82 ID:0AxqYuWp0
「その未来はもうないんだ…」
哲平は伊月に懺悔するかのようにあることを告げた。
「俺がキミのホワイトナイトを描いてから…多分だけど時間軸が変わったんだ。」
「だから本来ならキミがホワイトナイトを描くはずだった未来はもうない。今あるのは俺がホワイトナイトを描いてしまった時間軸なんだ。」
哲平は自身の付け焼刃でしかない拙いSF知識でこの現象について語った。
確かに本来ならホワイトナイトはアイノイツキの作品として世に出回るはずだった。
それを哲平が描いてしまったことにより本来の世界との時間軸がずれた。
問題は哲平がホワイトナイトを描いてしまったことにある。
「もう俺の名前でホワイトナイトは世に広まってしまった。」
「こればかりはどうにもならない。本当にすまないと思っているよ。」
「俺のことを罵りたければ好きにすればいい。けど…」
「俺はこの罪の十字架を背負う覚悟だ。もしこの罪に報いることがあるとすれば…」
「それはキミが描こうとしたホワイトナイトを描き切ることだと思うんだ。」
「俺はこれからもホワイトナイトを描こうと思う。どうかそれを許してほしい。」
それが哲平の懺悔だった。その話を聞いて伊月もようやく理解した。
既にホワイトナイトは自分の手から離れてしまったことを…
今更どう足掻こうともホワイトナイトは佐々木哲平が世に出してしまった。
もうどうすることも出来やしない。それでもホワイトナイトは伊月にとっては我が子も同然の作品だ。
引きこもりだった自分がみんなを笑顔にしようと作品を生み出しそれに生命を与えて惜しみない愛情を注ぎ込んだ。
そんな生みの親である伊月にとってここで哲平がホワイトナイトを描かなくなればこの物語はここで終わってしまう。それだけは絶対に受け入れられなかった。
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:33:24.53 ID:0AxqYuWp0
「…わかりました。佐々木先生、改めてあなたにホワイトナイトを託します。だから…」
最後まで言おうとしたところで伊月の瞳から涙が零れ落ちた。
本当なら最後まで自身の手で結末まで描こうとした。けれどそれはもう望むことは敵わない。
今の自分に出来ることは後のことを哲平に託すだけしかない。
「…ああ、俺は罪の十字架を背負いホワイトナイトを描いていく。」
「俺たちは同類かもしれないな。俺もみんなの笑顔のために描きたかった。」
「だから代筆していく。それが俺の使命だから…」
そんな伊月に哲平はまるで誓いを立てるかのようにそう告げた。
哲平が伊月にしてあげられる唯一の誠意だとでもいうかのように…
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:35:44.97 ID:0AxqYuWp0
「ひとつよろしいでしょうか。」
一連の流れを遮るかのように右京があることを哲平に問いかけた。
哲平もこんな時に一体何だと迷惑そうにするが…
「佐々木さん。あなた罪の十字架と仰いましたがその言い回しは可笑しい。
十字架というのは元々罪の象徴、それなのに『罪の十字架』では二重の意味になってしまいます。
言いたくはありませんが作家として語彙力が浅はかなのではありませんか。」
こんな時につまらない指摘をされて哲平は思わず不快そうな顔で右京を睨みつけた。
今はそんなことどうだっていいだろう。こっちは仕事に追われているんだ。
早く出て行けと言おうとした時だ。
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:37:07.31 ID:0AxqYuWp0
「それともうひとつ訂正させてください。」
「あなたは先ほど代筆と仰った。」
「ですが敢えて言わせてください。あなたの行いは代筆ではなく盗作です。」
「それなのにまるで自らの正当性を主張するかのように代筆と言ってのける。」
「まさに盗人猛々しいとはこのことですね。」
盗人猛々しいとそこまで貶された。何でそこまで言うのかと訴えようとしたが…
「もう少し誠意ある対応をしてみせてはどうですか。これではあなたの独りよがりですよ。」
「仕方ないじゃないですか!俺は…まだ駆け出しで…どうすることも…」
「どうすることも出来ないですか。本当にそうでしょうか?
本来ならあなたの行為は盗作であり本来なら著作権侵害に当たるでしょう。
ですがこの雑誌が未来のモノならばそれは敵わない。現在の法律ではホワイトナイトはまだ存在していない。
よってあなたを訴えることは不可能です。」
右京がそこまで指摘すると哲平は思わず安堵した表情を見せた。
恐らくこう思っているのだろう。罪に問われなくてよかったと…
だが杉下右京が相手ならばそうはならなかった。
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:38:09.29 ID:0AxqYuWp0
「しかし盗作が行われたことは事実です。だからこそあなたがこの件に対して本当に誠意を持って応じるのならば今すぐに編集部に行ってご自分が盗作を行ったと伝えるべきではありませんか。」
真実を打ち明けることこそが今の哲平に出来る唯一の誠意ではないか。そう告げる右京。
だがそれは哲平の望むことではない。何故なら…
「そんなこと出来ません…それで今回の連載がもしも流れるようなことになればホワイトナイトが世に出なくなるんですよ。」
「だからといって真実を隠すつもりですか。そうすれば結局得をするのは佐々木さん、あなただけではありませんか。
あなたは念願の連載を得て既に将来を約束されたも同然。それは本来なら伊月さんが得るものだった。
まさに盗人の如き犯行、そのようなことが許されると本当に思っているのですか。」
右京からの追求に哲平は無言で目を背けた。
そんなことはわかっている。けれどどうにもならないんだ。
その態度はまるでそのような自己弁護を言っているように思えてならなかった。
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:39:06.32 ID:0AxqYuWp0
「それでは伊月さんはどうですか?真実を知った今こそお聞きします。彼にホワイトナイトを託せますか。」
右京に問われた伊月は突然のことで戸惑うしかなかった。
正直なところ今は考えがまとまらない。まだこの事態に混乱していた。
電子レンジでタイムパラドックスが発生して自分の描いたホワイトナイトが自らの手から離れた。
それだけでもショックだというのに自分にどうしろというのか。
「そもそも伊月さんに対して今この場で許しを乞うのは余りにも不利ではありませんか。
既にホワイトナイトをジャンプに掲載させて世に送り出しさらには連載に踏み切る時点で今頃になって謝罪する。
こんな事態になってから謝罪されてどうしろというのですか。」
「それは…俺だって一度は躊躇しました!けど編集部に送られてきたファンレターを読んだんです!
それで俺の描いたホワイトナイトがみんなが楽しみにしてくれている!だからそれに応えたいんです!」
「何を言っているのですか。そのファンレターは本来なら十年後にホワイトナイトを描く伊月さんに送られるはずだったものですよ。
それを自分のものだと勝手に解釈するなど以ての外です。」
右京による辛辣な否定がなされる中で伊月は改めて哲平という人間を見つめ直した。
先ほど集英社で会った哲平はみんなを笑顔にするために漫画を描いていると言った。
だが今はどうだろう。彼は本当にみんなを笑顔にするために漫画を描いているのだろうか。それに…
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:40:21.66 ID:0AxqYuWp0
「ところであなたはホワイトナイトをこれからも描いていくつもりだと言っていますね。
それは勿論電子レンジの恩恵によるものでしょう。しかしそんな溶解した状態ではいつ動かなくなるかわかりませんよ。
そうなった時にあなたはどうするつもりですか。ご自分でホワイトナイトを描き続けることが出来ますか。」
そう右京から問われると哲平は再び目を逸らして口篭ってしまう。
そして今の話を聞いて伊月も改めて思うところがあった。
先ほど集英社で読ませてもらった哲平の原稿。あの某海賊漫画の擬きが哲平の実力だ。
恐らくは今の自分すら下回るレベル、その哲平に自身が苦心の末に生み出したホワイトナイトを託さなければならない?
彼にこの先を描く実力など絶対にない。そのことをようやく確信した伊月は哲平を前にして改めてこう告げた。
「返して…」
「え?藍野さん何を言ってるんだ。」
「だから返してよ…私のホワイトナイト…」
「ダメだ。もうホワイトナイトは俺じゃないと…」
「馬鹿言わないでよ!あなたに続きなんて描けない!
もしレンジが壊れて続きが描けなくなったらどうするの!?嫌よ…お願いだから返してよ…」
困惑する哲平に涙ながらに訴える伊月。その悲痛な感情はまさに鬼気迫るものだった。
そんな伊月を哀れに思いながら右京は再度哲平にあることを尋ねた。
55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/07/02(木) 22:46:06.68 ID:k8n/UKWh0
話が早くて助かる、ここならまだ哲平も戻れるだろうか
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:52:18.35 ID:0AxqYuWp0
「佐々木さん、いつもどうやって原稿を描いてますか。
先ほど冠城くんはあなたの机から未来の少年ジャンプを見つけた。
そしてあなたが描いている原稿のタイトルもキャラクター名もすべて同じ。
つまりあなたは未来のホワイトナイトをそのまま写しているわけですね。」
「だから…それはホワイトナイトを完璧に仕上げたくて参考に…」
「そこが意味がわからないんですよ。完璧に仕上げたいのなら伊月さんのホワイトナイトをそのままコピーして載せればいい。
ですが敢えてそれを行わない理由、それはあなた自身が漫画家を体験したいだけにしか僕には思えないんですよ。」
右京は自分で推理しながら哲平の行いに呆れるしかなかった。これが作家の姿かと…
本来作家とは膨大な資料と自身の発想力を用いて執筆作業に取り組む。
だが哲平はそうではない。未来のホワイトナイトを盗作して我が物顔でいる。
ネタなど電子レンジの前で突っ立っていれば未来のジャンプが届いて何の苦労もせず作画を描ける。
その作画も届けられたジャンプを参考にして描けばいい。正直なところ哲平の負担は他の作家よりもかなり軽いものになるだろう。
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:52:49.46 ID:0AxqYuWp0
「いい加減にしてください!さっきから何なんですか!これは俺と藍野さんの話だ!アンタには関係ないだろ!?」
ここまで問い詰められてとうとう堪えきれなくなった哲平は右京たちを部屋から追い出そうとした。
仮に盗作を行ったとしてそれは当事者たちの問題でしかない。部外者は引っ込めとでもいうつもりだろう。
「まさかあなたは今回の件が自分と伊月さんのみが当事者であるというつもりですか。まだ自分が何を仕出かしたのか自覚してないようですね。」
右京がそう告げると同時にこれまで事態を静観していた冠城が哲平に携帯を手渡した。
実は冠城だが右京が哲平を追求している間、密かにある人物と連絡を取っていた。
それから哲平が手渡された携帯を受け取ると…
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:55:24.93 ID:0AxqYuWp0
「なんてことをしてくれたんだッ!」
携帯から突然怒鳴り声が響いた。
哲平は思わず耳を塞いでしまうがこの声には聞き覚えがある。
以前まで自分の担当をしていた少年ジャンプ編集部の菊瀬だ。
「菊瀬さん…どうして…」
「刑事さんから聞いたぞ!ホワイトナイトは盗作だったそうだな!」
まさか…バレたとは…
すぐに哲平は右京と冠城を睨みつけるがそんなことをしている場合ではない。
一刻も早く弁解しなければならなかった。
「これは…誤解なんです…話を聞いてください…」
「ふざけるな!何が誤解だ!ずっとおかしいと思っていたんだ。
これまで中身空っぽだったお前がある日突然作風の異なった漫画を持ってきた。
こんなの盗作したに決まっているだろ!」
「だからこれには事情が…」
「そんな言い訳聞きたくもない。今は編集部も対応に追われている。一刻も早く謝罪文を載せなきゃいけないんだぞ!」
謝罪文と…菊瀬が何を言っているのか哲平はまったく訳がわからなかった。
「当然でしょう。大手出版社が盗作を載せてしまった。
謝罪文を出さなければ被害者の伊月さんや読者のみなさんに示しがつきませんよ。」
右京が補足するように説明してくれたが今の哲平にはそんなことは頭に入らなかった。
この件を秘密にしたくてもそんなことは出来やしない。
何故なら部外者の…それも警察の右京たちにカラクリを暴かれてしまったからだ。
だがこのまま黙っているわけにもいかない。とにかく誤解を解かなければと必死だった。
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:56:53.03 ID:0AxqYuWp0
「そうだ…担当の宗岡さんに話をさせてください…彼ならわかってくれるかも…」
「馬鹿言うな。宗岡はとっくに上層部に呼び出された。何で盗作を見抜けなかったと糾弾されてるぞ!」
「じゃあ…編集長を…編集長ならわかってくれるはずです…」
「編集長だって同じだよ。今回の件で責任取らされるに決まってるだろ!」
まさかここで自分の理解者になってくれた人たちが挙って処分されるとは…
余りにも意外な展開にもう哲平はパニックだった。誰か他に頼れる人間はいないかと必死に探った。
だがこれまで漫画を描くことのみに必死でそういった人脈を培ったことなど一度もなかった。
「とにかくこっちはお前のせいで大変なんだ!今回の盗作で集英社はお前に損害賠償を訴えるかもしれないから覚悟しておけッ!」
この話を最後に菊瀬からの連絡は途切れた。残った哲平は唯一人愕然とした。
まさかこんなアッサリと夢への第一歩が絶たれるとは…
それも突然現れた刑事たちによってだ。長年の夢が見事に打ち砕かれた。
そのことで哲平の怒りが爆発した。その矛先は突然現れた特命係の二人に向けられた。
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:58:08.06 ID:0AxqYuWp0
「アンタたちどうしてくれるんだ!おかげで全部台無しじゃないか!」
「台無しとはおかしなことを言いますね。元々はあなたが勝手に盗作しただけの話じゃないですか。自業自得ですよ。」
「自業自得だと?ふざけるな!これは俺に訪れた奇跡だったんだ!」
それから哲平はこれまでのことを語りだした。幼い頃から漫画家を志て学校を卒業後はこの東京へと上京した。
だがこの4年間はいつまで経っても努力は報われなかった。
プロの漫画家のアシスタントやアルバイトで生計を立て食費も切り詰めながら漫画家人生を夢見て生活を送ってきた。
どれだけ漫画を描いても担当の菊瀬によってボツにされてきた。
それがようやく叶おうとしたというのにすべて台無しにされた怒りは相当のものだった。
「ところでわからないことがあります。何故そこまで必死だったのですか。」
「は?何を言ってるんだよ。」
「確かに4年間芽が出なかったのは事実です。ですが何故ここに来てあなたはそんなに焦っていたのですか?
原稿をボツにされたその翌日にあなたは送られてきたホワイトナイトを写した。
写すだけでも相当な労力があるはずです。それをひと晩かけて行った理由は何ですか。」
「それは…俺が25歳を迎えるからで…だから連載を…星を掴みたかったんだ…」
そう、哲平はホワイトナイトの読み切りを掲載した頃に25歳を迎えた。
夢を追う者なら誰もが25歳までになんらかの成果を挙げたいと望む。
哲平もそのうちの一人だった。だからこそホワイトナイトを盗作してまでジャンプでの連載を望んでいた。
「…つまり全部あなたの都合だったわけですか。ハッキリ言って実に身勝手な行いです。」
だが哲平の事情を知った右京からは単なる身勝手だとバッサリ切り捨てられた。
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 22:59:18.06 ID:0AxqYuWp0
「だってしょうがないじゃないか!俺はみんなを楽しませる漫画を描きたかったんだ!」
それでも哲平は拘った。みんなを楽しませる漫画を描きたいと…
そんな哲平に右京はあることを尋ねた。
「ひとつお聞きします。みんなを楽しませたい。その気持ちは分かりました。
しかしあなたが描いた漫画と十年後から送られてきたホワイトナイトを読み比べましょう。
完成度は未来の伊月さんが描いた漫画が圧倒的に上です。
つまりあなたの漫画、お話はそこそこ成り立ちますが本物と比べれば劣化版でしかない。
そんな劣化版を読んで読者は十分に楽しめるでしょうか。」
このことを指摘されて哲平は図星を突かれた。
それは同じ漫画家として嫌というほど思い知らされた。
今の哲平では十年後の伊月の画力に追いつくことなど出来やしない。
いや、ひょっとすれば一生を費やしても不可能かもしれない。
「そんなこと…わかっていた…それでも俺は…ホワイトナイトを世に送り出そうと…」
そんな自分が本当にホワイトナイトを描くことが出来るのかという不安はあった。
事実哲平は一度連載を断念しようとした。
だがそれよりも自分がホワイトナイトを世に広めようという使命感が優ってしまった。
だから連載に踏み切ってしまった。
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:00:03.81 ID:0AxqYuWp0
「今更誰かのせいにするのはやめなさい。すべてはあなたが招いた結果ですよ。」
「仕方ないだろ!あんな名作を読んでしまったんだ!そしたら世に広めたくなるのは当然じゃないか!」
「そのためならこのアパートを全焼させてもいいと思ったのですか。」
は?何を言っているんだ。右京から突然そんなことを言われて哲平は戸惑った。
「あなたまだ理解していないようですね。今回の件であなたが迷惑を掛けたのは伊月さんと集英社だけではありませんよ。
このアパートに住む他の住人ですよ。あなたホワイトナイトを実家で仕上げるため一ヶ月間留守にしていたそうですね。
その間にアパートが、あの溶解した電子レンジのせいで火事にあったらどうするつもりだったのですか。」
一ヶ月前の落雷で電子レンジはタイムマシンと化した。
恐らくこれは偶然の産物だろう。まさに存在自体が奇跡だ。
だがこの電子レンジは不安定なものだ。おまけに溶解したことで耐久性はかなり脆くなっている。
そんな電子レンジでタイムトラベルにあと何回耐えられるのかなど誰にもわかるはずがない。
正直なところいつ爆発するかもわからない危険な代物だ。
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:01:21.77 ID:0AxqYuWp0
「そんな…危険なんかない!この一ヶ月間ずっと使っているんだから!」
「これまでは運良く稼働していただけでしょう。
しかしレンジがいつまで未来からの転送に耐えられますか。
この未知の機械が安全だとあなたに保障できるのですか?
この電子レンジについてそう問われると哲平はまたもや口を塞いだ。
今まで考えもしなかった。何故ならこの一ヶ月間は順調に未来から少年ジャンプが送られてきたからだ。
「佐々木さんにしてみれば未来からジャンプが届けさえすればそれでいいのでしょう。
ですが他の住人のみなさんはどうですか。あなたが実家で呑気に漫画を描いている間にこのアパートが大爆発を起こしてみんな死んでいたかもしれないんですよ。
そうなった時にあなたは全ての責任を取れますか。それともご自分が盗作した漫画でも読ませて被害にあった人たちを楽しませればいいと思いましたか。」
「ハッキリ言いましょう。あなた作家のくせに想像力が欠けていますね。」
「菊瀬さんが才能はないと見限っていましたがその通りですよ。あなたには作家になる才能はない。」
そう右京から断言されてしまった。なんとか反論しようとしたが何も言えなかった。
想像力の欠如、それは以前からずっと指摘されてきたことだ。
自分は明らかに想像力が欠けている。作家としてはまさに致命的だ。
それでもみんなを楽しませる漫画を描きたいと思ってきた。それなのに…
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:06:31.73 ID:0AxqYuWp0
「それなら…俺はどうしたらよかったんだ…才能のない凡人はどうしたらいいんだよ…」
哲平は涙を流しながら右京にそう訴えた。そんな哲平を隣で見ていた冠城は正直なところみっともないとしか言いようがなかった。
ここまで自業自得だというのに25歳を過ぎたいい大人が涙を流し鼻水を垂らしながら惨めに縋り付いてくる。
こんな無様を晒してまだ自らの夢とやらを諦めていないのだろう。余りにも未練がましい姿だ。
「僕に訴えられても困ります。ですがひとつあります。今のあなたでもみんなを楽しませることが…」
「それは…本当なんですか!教えてくださいどうしたらいいんですか!」
右京からその答えがあると聞かされて哲平はまるで藁にもすがる思いでいた。
しかし本当にそんなことが哲平に出来るのかと冠城は疑問だが…
すると右京はこの部屋にあるモノを指した。
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:08:53.84 ID:0AxqYuWp0
「あれです。あの電子レンジのコンセントを抜いてください。それだけであなたは人を楽しませることが出来ます。」
その答えを聞かされると哲平の思考が一旦止まってしまった。
突然何を言い出すのかと…あの電子レンジは今や自分になくてはならないものだ。
さらに言えば哲平は落雷があった日から今日まで電子レンジを一切弄ってはいない。
当然だ。これは未知の産物、何か弄って機能しなくなっては未来から少年ジャンプが転送されなくなってしまうからだ。
「嫌だそんなの…大体何でそんなことでみんなが笑顔になれるんだよ!?」
「わからないなら説明しましょう。今やこの部屋はいつ爆発してもおかしくないんですよ。
それで住人の皆さんが被害に遭われたら大怪我を、最悪の場合は死に至るでしょう。
ですがあなたがこのコンセントを抜くだけで住人は被害に遭わずこれから楽しい未来が待っている。
つまり今のあなたがみんなを楽しませる唯一の方法はこの不安定な電子レンジのコンセントを抜いて機能を停止させることなんですよ。」
右京からの説明を受けて哲平はようやく理解した。
哲平がみんなを楽しませたいのならこの電子レンジを止めろと…
これは右京や冠城がやってもいい単純にコンセントを引っこ抜くだけなら誰でもできる簡単な作業。
だが敢えて哲平にやらせる理由は彼がこの部屋の住人でありこの電子レンジの所有者であるからだ。
つまり自分の仕出かした過ちを自分の手で決着を付けろと要はそういうことなのだろう。
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:10:05.71 ID:0AxqYuWp0
「嫌だ…」
「こんなのやりたくない…」
「このレンジがなきゃ…俺はもう駄目なんだ…」
とうとう哲平は大声を上げながら泣き出してしまった。
他の部屋の住人たちも一体何事かとぞろぞろと集まってきた。
冠城が玄関の前でなんでもないと呼び止めるがいつまでもこうしてはいられない。
「いい加減にしてください。コンセントを引っこ抜くだけの簡単なことです。何故それが出来ないのですか。」
「だって…やりたくない…俺には夢が…みんなを楽しませたいから…」
「だから言っているでしょう。みんなを楽しませるにはあなたがコンセントを抜く必要があるんですよ。」
哲平がどんなにみっともなく喚こうとも右京は一歩も譲らなかった。
何故ならここで哲平に同情して見逃せばどうなるだろうか。
今後も哲平は転送されてくる少年ジャンプの恩恵を受けようとするだろう。
今回の件で集英社を追い出されたのなら余所の出版社に当たるはずだ。
その際に彼は未来のジャンプから他の人気漫画を盗作するのは確実だ。
また伊月と同じく悔しい思いをする人間が出てくる。
それだけではない。この電子レンジが稼働している限りアパートの住人は常に危険に晒されている。
アパート住人の生命を守るためにはどんなに非情と思われようとなんとしても哲平にこのコンセントを抜いてもらう必要があった。
だが哲平はいまだにコンセントの前で泣きじゃくったままだ。こうなれば仕方がないと見かねた右京が自分の手で引っこ抜こうとした時だ。
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:11:27.95 ID:0AxqYuWp0
『フューチャーサンダー』
突然電子レンジが光りだした。それだけではない。
これまで電子レンジの置物だと思われていたロボットの玩具がフューチャーサンダーと音声を発した。
そしてどういうわけかまたもや未来からの転送だ。だが何やら様子がおかしい。
するとレンジになにやらメッセージが浮かび上がった。
何故このタイミングでと読んでみるとそこにはとんでもない記述が載せられていた。
[描け 佐々木哲平]
[死の源流は未だだだ消失をしてません]
[ホワイトナイトを継続させ。]
[イツキチャン〕》を救って。]
一見怪文書にしか見えないが恐らくはこういうことだ。
これは未来において藍野伊月の死を意味している。
十年後の未来で彼女は死ぬ。その死を回避するには佐々木哲平がホワイトナイトを描くしかないという記述だった。
「伊月さんの…訃報…こんなことになっていたとは…」
まさかこのタイミングで伊月の訃報が来るとは右京も想定外だった。
どうやら未来からジャンプを送ってくる人間は伊月の死を回避するためになんとしても哲平にホワイトナイトを盗作させようと必死のようだ。
その行いが藍野伊月の死を回避する唯一の方法であるのだろう。
「そうか…俺は今まで藍野さんを…じゃあ俺は正しかったんだ…」
この事実を知らされた哲平は今までの自分の行いを正当化した。
これまでの行いは全て伊月を救うことにあった。つまり自分は正しかった。
だがその時だった。
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:12:13.48 ID:0AxqYuWp0
ブチッとコンセントが外れる音がした。誰かがいきなり哲平を押しのけて外した。
一体誰が…?右京は哲平の傍らにいるし冠城も玄関の前で他の押しかけてくる住人たちの対応に追われている。
それでは誰なのかと見てみると…そこには伊月がいた。なんとコンセントを外したのは彼女だった。
「何をしているんだ!キミは自分が何をしたのかわかっているのか!」
哲平はすぐ伊月を問い質した。何でこんなことをしたのかと…
この電子レンジは奇跡のタイムマシンだ。それがコンセントを引っこ抜いただけでどんな影響を及ぼすのか…
もしかしたら二度と使えなくなるのかもしれない。
いや、問題はそれだけではない。これでは伊月が死ぬ未来を変えられなくなってしまう。
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:14:26.73 ID:0AxqYuWp0
「…余計なお世話です。」
「は?何を言っているんだ。キミは十年後に死ぬんだぞ!だからそのために俺が未来を変えなきゃならないんだ!」
「だから余計なお世話です!そのために私の漫画を潰すんですか!?それなら殺された方がまだマシですよ!!」
これ以上哲平に漫画を潰されるくらいなら死んだ方がマシだと伊月はハッキリとそう断言した。
それを聞いた哲平は呆然とした。何を言っているんだと…
この世で死ぬこと以上に残酷なことはないはずだ。それなのにどうして…
「それは彼女が作家だからですよ。作家ならば作品は我が子も同然。
その作品を奪われるのは作家としての死を意味する。伊月さんは…いえ…作家アイノイツキは己の命よりも作品を守る選択を取った。
つまり佐々木哲平、あなたの行いはこれで肯定されることは決してありません。」
伊月は自らの生命よりも彼女が生み出した作品を守る選択を取った。
同時にそれは哲平がようやく掴んだはずのホワイトナイトという星が彼女の手に戻ったことを意味する。
「それにしても皮肉ですねぇ。最後くらいはあなた自身がこの電子レンジを停止させてこれまでの行いに決着をつけると思っていましたが…
漫画でいうところの最大の見せ場を伊月さんに取られてしまった。
まあこれまで伊月さんの漫画を盗作してきたあなたには当然の報いなのでしょうが。」
最後にその場で一切の希望を絶たれ愕然とする哲平に右京がそのような皮肉を述べた。
右京としては哲平が電子レンジを停止することで盗作を行ったことへのケジメをつけさせる意味合いも含めていた。
だが哲平にそこまでの成長を求めることは適わなかった。
結局最後はこれまで作品を盗作された伊月に見せ場を奪われ哲平は罪に報いることすら出来ずに終わった。
すべてが終わった後もその場で泣き崩れる哲平の姿は余りにも惨めで、そして滑稽でしかなかった。
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/07/02(木) 23:14:36.75 ID:k8n/UKWh0
原作通りだけど知ったばかりのぽっと出の情報で自己正当化するのすげぇなこいつ…
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:16:25.08 ID:0AxqYuWp0
一週間後―――
「右京さん、これを見てください。」
特命係の部屋で冠城が今週号のジャンプで気になるページを見つけた。
それは謝罪文だ。ホワイトナイトが盗作された作品だったということを公表した内容だ。
既に決まっていた連載も急遽中止となったことの報告。
そして本来の作者である藍野伊月への謝罪も含まれていた。
「菊瀬さんから連絡がありましたが今回の件でホワイトナイトの連載を決めていた編集長は左遷されたそうです。
それで佐々木哲平も一連の騒動による損害で賠償金は勿論ですが集英社の出入りも一切禁止となり他の出版社にも根回しして彼が原稿を持ち込んでも相手しないように注意を呼びかけていましたよ。」
冠城からの話を聞いて右京は紅茶を飲みながらまあ当然の結果だと言ってのけた。
「けど伊月ちゃん大丈夫ですかね。ホワイトナイトはこれじゃあ続きが描けないでしょう。」
「ええ、彼女が十年後に描くはずだった本来のホワイトナイト。どんな内容だったのか少し興味はありましたね。」
佐々木哲平が盗作するきっかけとなった本来のホワイトナイト。
読書家の右京にしてもそれほどの名作なら一度はしっかりと読み込んでみたかったと後悔していた。
ちなみに哲平の部屋にあった未来のジャンプはすべて処分させた。
あのようなものが存在していれば哲平は再度盗作する可能性が高い。
その理由から右京と冠城がすべて処分したが本来なら名作となるはずだったホワイトナイトがどのような作品だったのかは今となっては佐々木哲平だけしか知りえないのだろう。
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:18:05.31 ID:0AxqYuWp0
「ですが彼女なら大丈夫でしょう。本来の未来で名作を描けたのです。
漫画への情熱があればこの程度のことで挫けたりせずきっともう一度立ち直ると僕は信じています。」
「そういえば彼女、自分を虐めた相手も楽しませるなんて素敵な夢を持っていましたね。」
「ええ、だから信じましょう。この先何があろうと伊月さんが夢を叶えることを…」
ジャンプに載せられた謝罪文を読みながら右京は伊月の成功を願った。
電子レンジから転送された未来からのメッセージは彼女の死を暗示していたがこの世界が既に本来の時間軸と異なっているのなら
その死を回避することも可能かもしれない。
すべては伊月次第、夢を掴むのも大事だがその生命も大事に守ってほしい。
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:19:13.45 ID:0AxqYuWp0
「それにしても右京さん今回は結構感情的でしたよね。」
「感情的…?この僕がですか。」
「そうですよ。あんな小悪党相手にずっと凄んでいましたからね。」
自分は常に冷静沈着だと言い張る右京だが冠城は今回の件で右京から鬼気迫るものを感じていた。
その理由について心当たりがあった。
「理由はやはり鬼滅の刃にありますよね。」
「まあ…そうかもしれませんね。実は今回の件で少し思うところがありました。
もしも佐々木哲平がホワイトナイトではなく鬼滅の刃を盗作していたらと思うとゾッとします。」
「やはりそうでしたか。誰だって自分の好きなものにケチがつくのは嫌ですからね。」
こんなことで右京の人間味が感じられることに冠城は少しマウントを取れた感じになれた。
だが右京の懸念はあながち的外れでもない。今回佐々木哲平が行った盗作とはそういったものだ。
もしも佐々木哲平が鬼滅の刃を盗作したとしよう。既に完結している物語だ。何の問題もなく描こうとするだろう。
だが彼にあの悲壮感を描写することは可能だろうか。あの感動を再現することなど出来るのか。
そのことを冠城は右京に尋ねようとしたがすぐにやめた。
きっと右京はこう言うのだろうと既にわかりきっていたからだ。
そう、答えは否。佐々木哲平にあの感動を表現することなど決して出来ない。
結局いくら外見を整えようとも中身が空っぽならそんなモノに意味などない。それを哲平は理解出来なかったからこそこのような事態に陥ってしまった。
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:21:11.51 ID:0AxqYuWp0
「ところで右京さん、もうひとつ聞きたいんですが佐々木哲平はどうして盗作に踏み切ったんですかね。」
「それはどういう意味でしょうか…?」
「だってそうでしょ。こんな盗作がバレたリスクを考えられなかったのがちょっと不思議で…
今にして思えば佐々木哲平がホワイトナイトをそのまま書き写したのは
あれが十年後の作品でまだ作者の伊月ちゃんが生み出していないとタカを括ったからですよね。
けど何かのきっかけですべてがバレる可能性だって考えていたはずです。それなのに敢えてホワイトナイトをそのまま持ち込んだ。
これってどうして何ですかね?」
今回の件で冠城が疑問に思ったのはまさにそこだった。
盗作など行った哲平は本当に何のリスクも考えられなかったのか?
それに未来のジャンプが今後も送られてくるなど保障はどこにもない。
小心者の哲平なら期待よりもまず不安に思うはずだ。
それなのに連載に踏み切ったことにはどういうことなのかという疑問だった。
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:21:57.93 ID:0AxqYuWp0
「…それは恐らく夢を見てしまったせいでしょう。」
「夢…ですか…?」
「そう、夢です。才気溢れる若者が夢見ることはとても素晴らしいことです。
自ら目標を見つけてこれからの将来に突き進んでいく。まさに希望といえます。
ですが才の無い者が見る夢は残酷です。いつまでも辿り着くことのない頂きをよじ登らなければならない。
何度躓き転げ落ちようとも次こそはと挑み続けて登る。それはまさに呪いといえるものです。」
右京の話を聞き終えた冠城は今回の騒動がなんとも皮肉なものかと感じずにはいられなかった。
佐々木哲平と藍野伊月、二人は似たような夢を見た。
[みんなを楽しませたい]
そんな二人の夢は異なる結果となった。
伊月は才能があった。まだ荒削りだがこれから研鑽を積めば立派な漫画家になるだろう。
反面哲平には才能がなかった。どれだけ努力しようと報われず…
たったそれだけの違いだった。ある意味で哲平は被害者だったのかもしれない。
夢という呪いを受けた哀れな被害者。そう思えてならなかった。
end
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/07/02(木) 23:25:35.65 ID:0AxqYuWp0
これでおしまいです。
相棒といまジャンプで最も話題の男佐々木哲平くんとのお話でした。
あと後日談をやりたいのでその続きはpixivで
それでは!
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/07/02(木) 23:25:48.12 ID:k8n/UKWh0
乙でした
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/07/02(木) 23:26:46.02 ID:R6YyIKtD0
乙
イツキに哲平自身の原稿を読ませたのは良かった
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/07/02(木) 23:31:38.72 ID:4FRxY9eoO
乙
素晴らしかった、掛け値なしに
…いや本当「お前らここ突っ込めよ、疑問に思え」って所を的確にやってくれたよ
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/07/04(土) 03:55:45.28 ID:+gDSraRd0
最後の最後でpixiv宣伝とか……(ウンザリ)
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/07/05(日) 13:50:34.26 ID:AoD1tz19o
>>80
最近こういうのほんと増えたよな……。
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/07/05(日) 17:15:03.57 ID:2kBuUbrg0
読者の鬱憤を右京に代弁させただけやんけ
相棒ssも地に落ちたな
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