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高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「今日も、私とあなたとの時間を」
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66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:46:25.42 ID:WDIZ97tn0
加蓮「はい。そこ修正。私のことをじゃなくて、藍子と私のことを、でしょ?」
藍子「う……。自分のことを書いていると、つい。私と加蓮ちゃんのことを、っと……」
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:46:59.20 ID:WDIZ97tn0
私と加蓮ちゃんのことを、よく知ってくれていて、コーヒーって言うだけで、今の気分にピッタリな種類や味のコーヒーを淹れてくださるんです♪
「常連の特権だね」
顔を少しだけ近付けた加蓮ちゃんが、くすりと笑います。私も同じように、ちょっぴり顔を近付けて。これで、秘密のお話をしている気分。
私たちは、コーヒーを淹れてくださった店員さんにお礼を言って、同時に、いただきます、って言いました。
口にしたコーヒーは、ほんのり柔らかくて、だけど後味がじんわりと引いていくような、余韻に浸っていたくなるような味でした。
しばらく目をつぶって、体の中からコーヒーの感じが消えるまで、ゆっくりと待ちます。
ちいさく息を吐いてから、目を開けたら、加蓮ちゃんの分のコーヒーがもうなくなっていました。
もったいない、って言ったら、加蓮ちゃんは「すごく飲みやすかったから、つい」って。
よく考えてみると、私の分と加蓮ちゃんの分の味付けが違っていたんですね。そういえば、持ってきてくださった時の香りも微妙に違ったような……?
もしそうなら、加蓮ちゃんの分をひとくちもらえばよかった……っていうのは、よくばりでしょうか?
加蓮ちゃんの為に、店員さんが淹れてくださったコーヒーですもん。最後の一滴まで、加蓮ちゃんが飲むべきですよね。
……でも、ちょっぴり気になるな。どんな味だったんだろう。次は、さっきの加蓮ちゃんのコーヒーで、って注文しちゃおうかな?
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:47:25.66 ID:WDIZ97tn0
「藍子さん、なんか格好いい……!」
「いいですよね。いつもの! で通じるのって」
「わ、私も試してみよっかな。いつものコーヒーで! って。常連っぽく……。まだ早い?」
「うーん……。……よし、じゃあ私もやる。恥をかく時は2人でだよ!」
加蓮「私もやるー」
藍子「じゃあ、私も一緒にっ」
「ンッ」
「……いやもう今のはコイツが悪いです。スミマセン。おふたりは、やらなくても結果分かるような?」
加蓮「わかんないよ? 私たち4人で言ってさ。店員さんがポカンってなったらどうする?」
藍子「その時は……みんなでいっせいに、ごめんなさいっ、って言っちゃいますか?」
「イッショニ!?」
「いや、分かった。もういっそ思い切って言うんだ。さっき加蓮さんに言ったみたいに、一緒にやろうって言うんだ! それで駄目になるのを克服しろ!」
「ムリ!」
「……あっちょ、どこ行くの!? すみません加蓮さん藍子さん、ちょっと追っかけてきます!」
<バタン
加蓮「……たまに、ツッコミ役なのか熱血なのかどっちかにしてほしいって思うんだけど。シンパシー感じたりついていけなくなったりで、感覚が変になりそう」
藍子「? 最近の加蓮ちゃんも、クールだったり、熱血だったりしませんか?」
加蓮「あれほどじゃないって」
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:47:54.90 ID:WDIZ97tn0
コーヒーを飲んだ後は、なんだかぜんぜん違うお話をする雰囲気になります。
加蓮ちゃんも同じことを考えていたみたい。この間、一緒に遊んだ――
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:48:25.79 ID:WDIZ97tn0
この間、一緒に遊んだ未央ちゃん(アイドルの本田未央ちゃんのことです)とのお話を聞かせてくれました。
「遊んだんじゃなくて、あくまで準備なんだけどさ。今度のイベント用の」
って、加蓮ちゃんはすました顔で言うんですけれどね。
「その時は、イベントで栄えるアイテムは何っていう議論になったの」
「議論?」
「小さい物とか細かい物だと伝えきれないでしょ? 何をやってるかさえ分からないことがあるじゃん」
「ふんふん」
「でも、それを紹介しなきゃいけないってこともあって……そういう時って難しいね、って話になった感じ?」
加蓮ちゃんと未央ちゃんがやっていたらしい相談は、なんだか高度な内容みたいです。
もし、その場に私がいたら、私はついていけていたかな?
って、ときどき思っちゃいます。
「藍子がいたら、そこに藍子がいる時の話し合いになるだけだよ?」
思ったことを素直に口にすると、加蓮ちゃんはそう言いました。
「区別とか差とかじゃなくて、そういうものなの。藍子といる時の私と、凛や奈緒といる時の私が少し違うのと同じこと……かな? 分かる?」
(アイドルの渋谷凛ちゃんと神谷奈緒ちゃんのことです)
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:49:56.15 ID:WDIZ97tn0
>>69
〜
>>70
の間に1つ文章を入れ忘れました。大変申し訳ございません。
>>69
→これ→
>>70
とさせてください。
藍子「……ふふ。私、本当に、わがままになっちゃったな……」
加蓮「藍子?」
藍子「ううんっ」
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:50:26.25 ID:WDIZ97tn0
加蓮「気持ちは分かるけど、いちいち注釈入れるの読みにくくならない?」
藍子「やっぱりそうですよね。でも、私や加蓮ちゃんのことを知らない方にも、読んで頂きたいなぁって。どうしたらいいでしょう……?」
加蓮「んー……米印を置いておいて、下の方でちょこっと紹介するのは?」
藍子「あっ、それいいかもっ」
加蓮「ついでに未央とか凛と奈緒の紹介もしとこっか。分かんない人がいるかもしれないからね。私が書いといてあげるー♪」
藍子「……その文章、あとでチェックしますからね?」
加蓮「えー」
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:50:56.03 ID:WDIZ97tn0
「う〜ん……なんとなくは、分かったつもりです」
「気にしなくていいってことだけ覚えてくれたらいいよ」
「はいっ」
返事をすると、あいまいな部分がなんだか分かってきました。霧が晴れるように、って、今のような心境を表しているのでしょうか。
加蓮ちゃんは、そのことも解説してくれました。
「分かったフリをするのって、案外効果があるから。ま、分からないってことを認めないと逆効果なんだけど」
私は……分かったフリのまま、終わっていないかな?
「不安に思ったら、答え合わせをしていこ? もしかしたら、私と藍子で全然違う答えになっていたりして」
答え合わせ。なんだか学校の宿題みたいっ。……って言ったら加蓮ちゃん、ちょっぴり嫌な顔になっちゃいましたけれど。宿題って聞いて、思い出してしまったのかも?
あっ。ちょうど今が、答え合わせをする時かもしれませんね♪
「学校の宿題、終わっていないんですか?」
「……提出日までは終わらせるし」
どうしても間に合わないなら手伝いますよ、加蓮ちゃん。
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:51:25.79 ID:WDIZ97tn0
加蓮「……今何時? 2時半……。あれ、さっき紅茶を注文したばっかりな気がするけど、もう結構経ってる」
藍子「加蓮ちゃん、お疲れですか?」
加蓮「ちょっとね。なんか体を動かしたくなってきちゃった。ちょっとその辺歩いてこよっかなー……。藍子は?」
藍子「私は、まだまだ大丈夫。いいですよ。そういう時は、少し歩くだけでもけっこう違うみたいです。モバPさんもそう言ってましたっ」
加蓮「あの人デスクワークしてる時はとことんしてるもんね。気付いたらコーヒーの飲んだ跡がたくさんあってさー」
藍子「そうそう。お休みしてください、って言ってもなかなか聞いてくれませんよね」
加蓮「私にはすっごくうっさく言うのにね!」
藍子「あははっ。今度、干したてのブランケットをかぶせてみようって思っているんです。おひさまをいっぱいに浴びたブランケットに勝てる人は、いませんからっ」
加蓮「えー、そういうことする? Pさんきっと1時間、いや10時間は寝ちゃうよ」
藍子「10時間も寝てしまったら、お仕事が遅れてしまうかも……」
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:51:55.70 ID:WDIZ97tn0
加蓮「起こしてあげる?」
藍子「そうしますね。私も、つられて眠らないようにしなきゃ」
加蓮「じゃ私は藍子を見張る係かな」
藍子「くすっ。それ、Pさんを見張る係でもありませんか?」
加蓮「2人とも大人びてるのに、子供っぽいとこあるからなー。私が見てあげなきゃ!」
藍子「加蓮ちゃんこそっ」
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:52:26.12 ID:WDIZ97tn0
「小さな物をみなさんの前で紹介する、ということだと、何か工夫が必要そうですね」
「拡大できるカメラを準備物に加えよう、って結論になって」
「ふんふん」
「カメラを持つ係ということで藍子を召還することになりました。よろしくー」
「……え? いつの間にっ。あ、プロデューサーさんから連絡が来てます。も〜。手伝うのはいいですけれど、ひとこと相談してくださいよ〜」
「だから今した」
加蓮ちゃん、また急なことをっ。それも言うだけではなくて、ちゃんとしっかりプロデューサーさんに根回し(と言うのでしょうか?)をしているのが、加蓮ちゃんらしいところです。
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:52:56.62 ID:WDIZ97tn0
「あ、あのぉー……」
加蓮「あ、お帰り。……あれ、1人?」
藍子「追いかけて行ったんじゃ……?」
「ええ、はい。追いかけてったんですけど……えーと、あの、ですね」
「なんだろ。……お互い違うって分かってるんですけど、あいつ、店から飛び出そうとして……その、食い逃げ、みたいな形になりかけてて……」
藍子「大変っ」
加蓮「じゃあ今、店員さんか店長さんと揉めてる感じ?」
「いやっ! 店員さんもすぐ違うって分かってくれて……ほらあいつ店員さんとも仲良いし、私と2人で来たことも思い出してくれましたから。ただ、ちょっと気まずい感じなんです……」
「……ほんっっっっとにごめんなさい! 加蓮さん、藍子さん、助けてください!」
加蓮「大丈夫。藍子、ちょっと行ってくるね」
藍子「はい。行ってらっしゃい。……ね、焦らないで? こういう時は、加蓮ちゃんに任せておけば、絶対に大丈夫ですから」
「はわぁ……じゃない! は、はいっ! ……すみません。こっちですっ」
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:53:26.65 ID:WDIZ97tn0
<バタン
藍子「……」チラ
藍子「……あはは。急に静かになっちゃった」
藍子「加蓮ちゃんやお2人が戻って来るまで、待ってみようかな?」
藍子「ううんっ。かえって気を遣わせてしまうかもしれないから……書くのを、再開しましょう!」
藍子「……」
藍子「……何ページか前に戻って……あった。ここ、ここっ♪」
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:53:56.14 ID:WDIZ97tn0
>そうそう。加蓮ちゃんって、ああ見えてすっごく真面目さんなんですよ。
>周りの人にはなかなか見せませんけれど、レッスンの時は、誰よりもいっぱい頑張って。
>いつもは周りの人をちょっと困らせたりもしますけれど、本当に困っている人がいたら、すぐに手を差し伸べてあげるんです。
>あとは……他のアイドルのみなさんに聞いても、見習いたい、お手本にしたい、という声が、いっぱいあって♪
>もしかして、普段ちょっとふざけているのは、本心を隠すためなのかも――
>……くすっ♪ もしかして、知っていましたか?
>でも、加蓮ちゃんが真面目さんであることで、1つ、悩んでいることがあるんです。
>加蓮ちゃん……好き、っていう言葉を、なかなか言ってくれないんです。
>ステージの上ではよく、ファンのみなさんに言いますよね。でもオフの時には、本当にぜんぜん言ってくれないんですよ!
>きっと、加蓮ちゃんにとっては言葉の重みがあるんです。
>軽々しく言って、約束を破る人のことを、大嫌いだって、よく言っていますから……。そして加蓮ちゃんは、嫌いな人のようにはなりたくない、っていつも言っていますから。
>そうですよね。好き、という言葉って、大事なものだと思います。
>でも、たくさん言ってもいいと思いませんか?
いつもせがんでも、全然言ってくれないんです。
それだけは、ファンのみなさんがちょっぴりうらやましい……なんて?
私も、みなさんと一緒に、加蓮ちゃんのステージを観客席から見たら、好き、って言ってもらえるかな?
……ううんっ。
そんなことしたら、絶対加蓮ちゃんに怒られちゃう。
加蓮ちゃんはきっと、アイドルをちゃんとやっている私のことが、好きでいてくれるハズだから――
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:54:26.64 ID:WDIZ97tn0
藍子「……さ、さすがに、ちょっといろいろと書きすぎちゃったかも」
藍子「ええと……まずは、せがんでもっていうのはやめておきましょう。そこまで……そ、そこまでよくばりにはなっていない、ハズっ」
藍子「なっていないよね……?」ウーン
加蓮「ただいまー」
藍子「わひゃあ!?」
加蓮「……は?」
「ううぅ……すみません、ホントすみませんっ!」
「もう。心配したんだよ。……加蓮さん、ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます! 一生の恩だと思います!」
加蓮「一生の恩って……もう。ちょっと話題を振ってあげただけでしょ? っていうか、私が行った時にはだいぶ緩い感じだったし」
藍子「び、びっくりしたぁ……。ええと、加蓮ちゃん、それに2人とも。おかえりなさいっ。無事に解決しましたか?」
加蓮「うん。きっかけが欲しかっただけだったみたい。お互い死ぬほど謝ってたし」
藍子「それならよかったっ」
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:54:55.28 ID:WDIZ97tn0
加蓮「私が話題を振ったら、店員さんとこの子で盛り上がっちゃって。私達、蚊帳の外だったよねー」
「あー……あはは。ほら、私達も私達で話していましたから」
「えっ、加蓮さんと何話してたの!? 教えて!」
「うわっ、ちょ! あんた反省してるんでしょうね!? 店員さんが優しかったからよかったものの……」
「う……。それは……反省しています。ごめんなさい……」
加蓮「こら。それはさっき何回も言ったでしょ? やっちゃったことは、もうおしまい。ねっ?」
「……はいっ!」
「……本当に、ありがとうございます。加蓮さん!」
藍子「ふふ♪」
藍子(……加蓮ちゃんがお2人と話している間に、ページを一番最後のところまで戻して……)パラパラ
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:55:25.07 ID:WDIZ97tn0
加蓮ちゃんの出ている番組をご覧になっている方は、ご存知かもしれませんね。
最近は、加蓮ちゃんが企画を作ったり、アイディアを出したりしているんですよ。
だから、ただ面白いことや斬新なことを言うだけではなくて、こうして連絡をとったり、スケジューリングをしたり、しっかりしているんです。
なんだかそのうち、アイドル&マネージャー、みたいなことになりそう?
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:55:55.63 ID:WDIZ97tn0
加蓮「どうだろうね?」
藍子「私が加蓮ちゃんを見ていて、思っていることですよ?」
加蓮「事実とは関係ありませーんって?」
藍子「言ってしまえば、そうなっちゃいますっ」
加蓮「でもそーやって外堀を埋めて来てる可能性もあるんだよねー。藍子、侮れないから」
藍子「ふっふっふ。どうでしょうか〜」
加蓮「あ、これ考えてなかった時の顔だ」
藍子「……むぅ。ちょっとくらい悩んでくださいよ」
加蓮「あははっ。……でもま、私って自分勝手で冷たい人間だし。自分の為のマネージメントはいくらでもやるけど、人の為に尽くすっていうのは……ちょっとできないかもね」
藍子「そうですか。……残念。加蓮ちゃん、優しくて賢いからうまくできるかもって思っちゃっていました」
加蓮「能力と適性は違うからね」
藍子「それは……言い換えたら、才能とか、先天的? って言いますよね。そういう言葉、嫌いなんじゃないですか?」
加蓮「あはははっ!」
藍子「?」
加蓮「いや、……ホント、藍子ってさ。……ほんっと言ってくれるよねっ」
藍子「え、えっ?」
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:56:25.96 ID:WDIZ97tn0
加蓮「違う違う。怒ってるんじゃなくて。むしろ受け止めきれないくらいに嬉しいかも」
加蓮「そこまで的確に、私の中に踏み込んでくれて。しかも堂々と正面から言ってくれて? もうさ、そういうのって……」
加蓮「藍子。さっきの藍子のセリフじゃないけど、これ他の人にやっちゃダメだよ。好かれる通り越して依存までされるヤツだから」
藍子「はい。でも、加蓮ちゃんにだから言ったことですけれど……」
加蓮「ならよし。ほら、続き続きっ」
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:56:56.88 ID:WDIZ97tn0
(後日、加蓮ちゃんに実際に言ってみたら、やらないって言われてしまいました。ちょっぴり残念です)
ふと、加蓮ちゃんが喋るのを止めて後ろの席をちらりと見ました。
そこにいるのは、さっきカフェにやってきた2人組です。
加蓮ちゃん、何やら聞き耳を立てているもよう。私もつられて、できるだけ物音を立てないようにします。
しばらくして、加蓮ちゃんはくすくすと笑います。「気のせいだったみたい」、だって。
「名前を呼ばれた気がしてさー。違ってた」
「そうなんですか?」
「うん。私の話じゃなくて、藍子の話をしてたもん」
「え、私のお話っ?」
つい語尾が上がってしまって、そうしたら向こうの席の2人にも気が付かれてしまったみたいです。
マナー違反ですよね。ごめんなさいって言いに行ったら、大丈夫、って答えてくれました。
それから、2人は本当に私のお話をしていたみたいで……。
「藍子さんのことばっかり話すんですよ。あのテレビに出てた藍子さんが、このラジオに出てた藍子さんが、って。私まで詳しくなっちゃいました。あーっと……私も、はい。応援してます!」
「ふふ、ありがとうございます。あなたも、いつも見てくれてありがとう♪」
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:57:25.49 ID:WDIZ97tn0
藍子「…………あ〜」
加蓮「私もこの時のことは覚えてるけど……。白目剥いて魂吐き出したことって、どう書けばいいんだろうね……」
藍子「それなら、ちょっとだけお話を飛ばしてしまって――」
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:57:55.50 ID:WDIZ97tn0
席に戻ると、加蓮ちゃんがからかうようにして言います。
「今日もサービス精神豊富だねぇ?」
だって、私のことを応援してくださる方には、できるだけ応えたいですもん。
「加蓮ちゃんだってそうでしょ? この前の小さなLIVEで歌い終わった後、しばらくステージの上でみなさんを見渡していて、進行の方にマイクを渡されてた時……あの時、ファンのみなさん1人1人の顔を、じっくり見ていたでしょ? 目を見れば、わかりましたよ」
ほっぺたをつねられました。
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:58:55.98 ID:WDIZ97tn0
>>87
申し訳ございません。2行目を訂正させてください。
誤:「今日もサービス精神豊富だねぇ?」
正:「今日もサービス精神が旺盛だね」
加蓮「藍子?」
藍子「はい。何ですか?」
加蓮「……次のラジオのフリートーク、覚えておきなさいよ?」
藍子「へっ? ……待って、加蓮ちゃんっ。何のお話をするつもりですか? 加蓮ちゃん!?」
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:59:25.39 ID:WDIZ97tn0
時計の音が、3時だって教えてくれました。ぼーん、ぼーん、ぼーん……聞いていると、少しだけ眠たくなってきちゃう。
ふわ、と小さくあくびをすると、加蓮ちゃんが座っている隣をぽんぽんってしてくれて。
「ちょっとだけ寝とく?」
それはとっても魅力的な提案ですけれど、今は、もう少しお話していたい気分かも?
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:59:56.45 ID:WDIZ97tn0
「あのぉ〜」
「書いているところにすみません。私たち、そろそろ帰ります」
加蓮「そっか。2人も、またね」
藍子「今日はあまりお話できなくてごめんなさい。また、ここでお話しましょうね」
「アヒッ」
「…………」
加蓮「……頑張って?」
藍子「あ、あははは……」
「えぇ……まぁ。おかげ様で体力までついてきた始末ですから……。よしっ。じゃ、失礼します!」
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:00:25.62 ID:WDIZ97tn0
<くそぅ……! 分かってはいたけどやっぱりキツイ……! しかも最近また太ったでしょコイツ! ぐんぬぬぬ……!
<
加蓮「目が覚めるまで待てばいいのに……」
藍子「何か用事があったのでしょうか。今は……わ、もう5時半っ」
加蓮「道理でちょっと寒くなってきちゃったんだ……。コラム、あとどれくらい書く予定?」
藍子「だ、大丈夫です。今日中には、今日中には絶対に……!」
加蓮「……なんか前奈緒が手伝ってた比奈さんがこんな感じだったって言ってたような……。別にそれは大丈夫なんだけど、そろそろ中に入らない?」
藍子「あっ……そういうことだったんですね。そうしましょうかっ」
加蓮「んじゃ先に行って店員さんに伝えてくる」
藍子「ありがとうっ」
加蓮「もう少しの辛抱だよー、って。あっ。どうせなら今日の藍子のことを少し話しちゃおっかな? 店員さんうらやましがるかなー」
藍子「……あの、優しくしてくれるのはすごく嬉しいんですけれど、普通に中に入りますよとだけ伝えてあげてください」
加蓮「ふふっ。しょうがないなぁ。そうするね」
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:00:56.97 ID:WDIZ97tn0
――おしゃれなカフェ――
加蓮「はい。コーヒー。それから店員さんからのメッセージ。頑張ってください、だってさ」
藍子「ありがとう、加蓮ちゃん。店員さんも……。これが終わったら、いっぱいお礼を言いたいな……」
加蓮「ふふっ。藍子がお礼を言われる側なのに」
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:01:55.73 ID:WDIZ97tn0
こころなしか、カフェ全体が静かな雰囲気になりました。
キッチンの方からも、皿や水の音、調理の音が聞こえなくなってきて……。
店員さんが、カウンターの向こうでゆっくりしています。
なんとなく、何もしない時間をみんなで共有しているみたい。
けれど、加蓮ちゃんを見るとまた違った感じがして……ここに、私と加蓮ちゃんしかいないような気分になります。
最初は、落ち着きませんでした。でも、今はそういうものだって……そういう世界なんだって思ったら、ちょっとずつ、心地よさの方が上回って……。
加蓮ちゃんのことを、じ〜っ、と見ると、加蓮ちゃんは小首を傾げて、それから私のことも、じ〜っ、と見てくれます。
今、加蓮ちゃんは、何を考えているのかな……?
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:02:26.22 ID:WDIZ97tn0
藍子「……」
加蓮「藍子?」
藍子「……こうして、1日のことを思い出しながら書いていくと……私の周りには、色んな人がいるんだなぁって、改めて思ったんです」
藍子「ここだって、加蓮ちゃんがいて、店員さんがいて。普段はあまり姿を見せませんけれど、店長さんがいて」
藍子「ときどき、あのお2人がいらっしゃって。他のお客さんもいて。たまに、見たことのある方もいらっしゃったりします」
藍子「私の周りには……私の過ごしている時間には、色んな人がいるんだ、って。……ふふ、今さらかもしれませんね」
加蓮「あははっ。今更」
藍子「や、やっぱり?」
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:02:55.86 ID:WDIZ97tn0
加蓮ちゃんが、メニューに手を伸ばそうとして、途中で引っ込めてしまいます。
「何か、飲みますか?」
「ううん、いい。そういう気分じゃない」
それからはずっと、机の真ん中の辺りを、ずっと見つめてばかり。
ちょっとだけ、悩みました。顔を上げて? って言うか、それともこのまま待つか。
悩んでから、私は待つことにします。その代わりに、できるだけ笑っていられるようにして……加蓮ちゃんがいつ、私の顔を見てくれてもいいように。
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:03:25.60 ID:WDIZ97tn0
加蓮「でも、いいんじゃない? 今更の話を何度したって。そこにある大事な物を、意地を張って見落としたり、捨てちゃったりするよりは、ずっと」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「私が聞いてあげる。……ほら、答え合わせ。何回やったっていいんだよ」
加蓮「自分の周りには誰がいるんだろう、って。何度確かめても、聞いてもいいんだよ」
加蓮「ま、加蓮ちゃんのことだけは、せめて覚えててほしいけどね?」
藍子「忘れませんよ。加蓮ちゃんのこと……言葉だって、顔だって。忘れる訳、ないじゃないですか」
加蓮「そっか……」
藍子「……」
加蓮「……ほら、続き。その続きって――私が、あの話をした時のことでしょ?」
藍子「……はい。そうですね」
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:03:55.71 ID:WDIZ97tn0
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「ん」
藍子「少しの間だけ、何も言わないで。でも――ずっと、そこにいてください。そうしたらきっと、私は……私を見失わないで、向かい合うことができるから……」
加蓮「……いいよ。でも、さっきの言葉は忘れないで――あははっ。忘れる訳ないって言ったばっかりか」
藍子「そうですよ〜。加蓮ちゃんの方こそ、忘れないでくださいっ」
加蓮「ごめんごめん。じゃ……頑張れ、藍子」
藍子「……はいっ」
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:04:25.67 ID:WDIZ97tn0
「何が不安なんだろうね、私」
加蓮ちゃんが、ぽつりと呟きました。
「アイドルとしてこんなに輝けて……夢だって叶って。ううん、やりたいことがどんどんできてさ。みんなも私のこと、見てくれて……それなのに、なんで不安なんだろうね」
「それは……何かあったから、ですか?」
「本当に何もないの。全部が順調。うまくいっていないこともない。……だからなのかな」
やっと顔を上げてくれた加蓮ちゃん。けれど――
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:04:55.57 ID:WDIZ97tn0
藍子「……」
藍子「…………」
藍子「…………………………」
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:05:26.45 ID:WDIZ97tn0
けれどその顔は、私が見たい顔ではありませんでした。
「ときどき、現実がぜんぶ嘘になってしまうような……そんな予感がして、ずっと拭えないの。ある時一瞬にして全部が終わっちゃうんじゃないかって」
ちいさな女の子が、お母さんとはぐれてしまって、探しているような顔。
「その時はきっと、藍子も隣にはいてくれないの。プロデューサーさんも、凛も奈緒も、他のみんなだって。……そんな未来なんて訪れる訳がないって、思えば思う程に、世界が真っ白になる想像がもっとリアルになるの」
なんの音もしなくなってしまったカフェを見渡して、掠れた声で。
「なんなんだろう」
と最後に言って、また俯いてしまいました。
得体の知れない不安を、どうすればいいのか分からないで、私にまで伝わってしまいます。
思わず、胸の前でぎゅっと手を握りました。そのまま、どこかへ消えてしまいそうな気持ちになって……。
でも、何も言わないでいると、加蓮ちゃんがいなくなってしまうような、そんな気すらしたんです。
答えは分からなくても、何かを言うことはできます。
だって加蓮ちゃん、何かを言ってほしそうにしているから。
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:05:55.80 ID:WDIZ97tn0
「加蓮ちゃん」
時計の音さえも静まり返る中、私が名前を呼ぶと、加蓮ちゃんはぴくりと肩を震わせました。
「大丈夫ですっ。……そうやって不安に思うことは、私にもありますから」
思っていたのとは、違う言葉だったからでしょうか。ゆっくりと、顔を上げます。
それが……なんだか睨まれているように思えて、正直に言って、ちょっぴり怖かった。
でも、怖がっていたら、今加蓮ちゃんのことを分かってあげられる人はきっといなくなっちゃう。
……大丈夫。
覚悟は決めました。傷ついてでも、ちゃんと話そうっていう、覚悟を。
「うまくいっているからこそ、ですよね。失敗している時は……落ち込んだりするけれど、目標があるから、不思議と足を止めずに済むんです。でも、うまくいっている時は、そういうのもないから――」
「違うっ! ……だって……藍子は独りぼっちになったことがないから! こういう感覚なんて知らないでしょ!」
「……」
「分からない癖に分かるのをやめなさいよ! 知らない癖に、私のことに気付くの、やめてよ……!」
……私、ときどき、加蓮ちゃんのことが分かってしまって……普段は冗談で、その見抜くのをやめて、って言われたりするんですけれど。
分からない癖に分かるのを、知らない癖に気付くのを……。
そうですよね。
私と加蓮ちゃんとでは、そこがあまりにも違うんです。
だって私の側には、いつも誰かがいてくれるから。
加蓮ちゃんは……きっと、そうじゃない時間の方が長かったから。
それは今埋めているものだとしても、まだ埋めきったものではありません。
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:06:26.09 ID:WDIZ97tn0
「あ……」
加蓮ちゃんが、歯をぎゅっと食いしばります。謝ろうとするその口の動きを、手で制しました。
「……加蓮ちゃん。私は、加蓮ちゃんのことを知らなくて、分からなくて、加蓮ちゃんも、私のことを知らなくて、分からなくて……最初は、そうでしたよね」
「でもっ」
「うん。たくさんの時間を一緒に過ごして、分かることや知っていることが増えてきました。でも……それはきっと、全部じゃありません」
「っ……」
「そしてきっと、これからも、全部にはなりません。……もしも全部になった時は、その時はきっと、一緒にいたくなくなっちゃいますから」
私と加蓮ちゃんはよく同じことを考えたりします。メニューを選ぶ時に、同じものを指さすことだってよくあります。
同じところがあって、違うところもある。
だからこうして、喧嘩をして、ぶつかって……傷ついて。
傷つきたいとは思いません。けれど、傷つくことを拒んではいけないんだって思います。
だって、そうしたら。
「でも、違うからって、知らないからって気付くなって言うのなら、誰が加蓮ちゃんの本音に気付いてあげられるんですかっ!!」
私でなくてもいい。……ううん、それは嘘。私でいたい。
心が寂しがっているのなら私が包み込んであげたい。優しくしてあげたい。
お返しなんていらない。……ううん、それも嘘。同じだけ優しくしてほしい。
誰かに助けてもらったことを、覚えていてほしい。加蓮ちゃんがいつか、優しくしてあげられることになるから。
「……」
「……」
「……」
「……藍子」
「はい。何ですか?」
「1回だけ言わせて」
「どうぞ」
「ごめん」
「いいえ。私の方こそ、ごめんなさい」
「……ねえ、教えて。この不安は、どうすればなくなるの?」
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:06:57.18 ID:WDIZ97tn0
「そうですよね。そのお話でしたっ」
「……もう。忘れちゃってたの?」
「ふふ。つい」
いつの間にか、カフェに音が戻ってきていました。他のお客さんの話し声や、お皿の音。遠くから、じゅう、って音がして……いい匂いは、うぅ。お腹が鳴っちゃいそう。
あ……さっき、私が大声を出した時にみなさんがびっくりしてしまったようで、それについては謝り回りました。
いつもごめんなさい……。
「加蓮ちゃん」
「うん」
「いつも努力を続けている加蓮ちゃんに、これ以上頑張れ、なんて言ったら、プロデューサーさんやファンのみなさんに怒られてしまうかもしれませんけれど」
「みんなサボってても過保護でうるさいから大丈夫だよ」
「えぇ……。……どこに行けばいいか分からなくなった時。なんとなくで、不安になった時は、道を見つけましょ?」
「道――」
「新しいことをやってみたり、これまでのことを振り返ってみてもいいかもしれませんね。その中に、今度はこれをやってみたい、って思うことがあるかもしれませんよ」
「見落としてるもの、ってことかな……」
「はいっ」
加蓮ちゃんは、額に手を置いて何やらぶつぶつ言い始めました。これまで立ったステージや頑張ったレッスンのことを思い出しているのかな?
「それから、加蓮ちゃん?」
「うん。……え、なんか怒ってる?」
「はい。勢いで言ってしまうのはわかりますけれど、いきなり「違う」って叫んだら、びっくりしちゃいますっ」
「……ぁー」
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:07:26.17 ID:WDIZ97tn0
「加蓮ちゃんは……加蓮ちゃんのことを知らない人が、分かったようなことを言ったら、腹が立ってしまうかもしれませんね」
「いや、待って。あれホントに勢いっていうか藍子は知らない人じゃな、」
「加蓮ちゃん」
「ハイ」
「その時は、叫ぶ前に1度だけ落ち着きましょう。もし、それでも違うって思ったら、怒鳴るのではなくて、落ち着いて言いましょ? ほら、加蓮ちゃん。クールで、ミステリアスさんになるんですよね」
「あ……ははっ。そうだった。うん、そうそう。ミステリアスガール、まだ諦めてないんだっ」
こんな感じ? って言いながら、加蓮ちゃんは不敵に笑います。でもそれはちょっと違う気がして、じゃあ真似してみてよって言われました。
真似……クールな人の真似。ええと、凛ちゃんや蘭子ちゃんを真似すればいいのかな?
思い浮かべて試しにやってみたら、加蓮ちゃんから大笑いされちゃいました。そして、それはただの中二病だって言われちゃいました。
(さすがに何をやったのかは許してください! 凛ちゃんや蘭子ちゃんがやったら格好いいのにっ)
私と加蓮ちゃん、一緒に深呼吸して落ち着いた頃には、もう夜の8時。
外はいつの間にか真っ暗で、カフェには他のお客さんがいなくなっていました。
店員さんも、閉店時間は9時ですけれど、そろそろお店じまいムードです。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:07:55.81 ID:WDIZ97tn0
藍子「…………っ。う、ぁ〜っ!」
加蓮「お疲れ様。……本当にありがとう、藍子」
藍子「なんだか疲れちゃいました……」
加蓮「あとは最後のところだけでしょ? ほら、パッと書いちゃお?」
藍子「うん……。でも、ちょっとだけ。……10分だけっ」
加蓮「はいはい。……にしても、……冷静になって考えると酷いなぁ、私」
藍子「こらっ」ペチ
加蓮「あたっ」
藍子「それは言わないお約束です♪ 不安になってしまうことなんて、自然なことです。それで怒ってしまうのも……」
加蓮「でもさ、……いや。ううん」
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:08:25.81 ID:WDIZ97tn0
加蓮「あのさ。もっかいだけ言っていい?」
加蓮「……ありがとう、藍子。いつも話を聞いてくれて、想いを受け止めてくれて」
藍子「どういたしまして。そして、私もっ。加蓮ちゃん、ありがとう。いつも一緒にいてくれて。お話を聞いてくれて♪」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……たははっ」
藍子「ふふっ」
加蓮「だからさ、そーいうのこっ恥ずかしいからやめよ?」
藍子「本当。加蓮ちゃん、顔が真っ赤ですよ」
加蓮「はー? ほら、さっさと続きを書けっ。持ち帰って夜遅くまでとか絶対ヤダだからね!」
藍子「きゃ〜っ。完成まで付き合ってくれるって言ってくれたのに〜っ」
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:08:55.80 ID:WDIZ97tn0
晩ご飯をここで食べようかな、とも思いましたけれど、今日はやめにします。
スマートフォンで、お母さんに連絡を……開いたら、たくさんのメールが来ています!
お母さん、ものすっごく怒ってるっ。
思わず助けを求めようとすると、加蓮ちゃんもげんなりとした顔をしていました。どうやら、お互い同じことが起きちゃってるみたい。
「今日は藍子の家に泊めてっ」
「加蓮ちゃん。今日お邪魔してもいいですか?」
私たちは同時に言いました。このままではキリがないので、お互いにお母さんからのメールを見せあって……。
まだ、あまり怒っていなさそうな加蓮ちゃんの家に私がお邪魔することにしました。
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:09:25.30 ID:WDIZ97tn0
加蓮「……ちなみに今も同じことが起きてたりするんだよね」
藍子「えっ? わ、7時! 外は、まだ明るいのに……」
加蓮「この時よりは夏に近付いたからかな。まっ、今日は遅くなるってあらかじめ言ってるからお母さんもうるさくは……」
加蓮「……」
藍子「メールが届いていたんですね……」
加蓮「何なの……。藍子ちゃんに迷惑かけてない? って。1時間おきに送ってくるとか何がしたいの……??」
藍子「あははは……。あっ、私の方にも届いてます。そろそろ迎えに行った方がいい? だそうですよ」
加蓮「藍子のお母さんが優しくてうらやましいよ……」
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:09:55.17 ID:WDIZ97tn0
連絡をすると、もうなんだか今日が終わってしまったように、そして、さっきまでお話していたのが別の日の出来事のように、私も加蓮ちゃんも、ほとんど話さなくなりました。
加蓮ちゃんのお母さんが迎えに来た時も、静かすぎて、「加蓮が何かしちゃったの?」と言われてしまうくらい。
でも、加蓮ちゃんの顔を見て、それは違うんだって分かってくれたみたい。
加蓮ちゃんの家にお邪魔して、晩ご飯をいただいて、お風呂をお借りして……その間も、何もお話することはありませんでした。
それは、カフェの中であった無音の世界とはぜんぜん違う、一緒にいるんだってことが分かる時間で、心地よかったですっ。
11時を回った頃、一緒にお布団に入って。
今日は、これにておしまい……。またカフェに行った時は、いっぱいお話しましょうね。加蓮ちゃん。
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:10:25.70 ID:WDIZ97tn0
藍子「お母さん、そろそろ迎えに来て。加蓮ちゃんが泊まりたいって言っているけれど、いい? ……はい、送信っ♪」
藍子「あとは、最後のあいさつを書いたら完成です!」
加蓮「ふふっ。……たった1日しか使ってないのに、なんだかすごく時間をかけた気分」
藍子「加蓮ちゃんも? 私もっ。……どうでしょうか。私の見ている世界、みなさんに伝わるかな?」
加蓮「えー、そこで不安になる?」
藍子「つい……」
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:10:55.67 ID:WDIZ97tn0
加蓮「伝わるよ。絶対に。だって藍子のファンだもん。きっとみんな優しくて、藍子の言葉を受け止めようって思ってくれるよ」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「んー?」
藍子「今日は、ありがとうっ。あとは……胸を張って、みなさんのもとにお届けします!」
加蓮「どう致しまして。……あははっ。もうっ。お礼を言うの、今日で何回目?」
藍子「何度だって確かめていいって言ったの、加蓮ちゃんじゃないですかっ」
加蓮「まぁね? ほら、藍子。締めの挨拶を書かなきゃ。藍子のお母さんを待たせることになっちゃうでしょ?」
藍子「ああっ、そうでした。え〜っと――」
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:11:26.13 ID:WDIZ97tn0
――これが、私のある1日のことです。
もちろん、別の日には違うことがありました。
1人でお散歩する日もあれば、みなさんと一緒にお仕事に行ったり、未央ちゃんや茜ちゃんと遊んだり、学校でクラスメイトとお話したり。
もしかしたらその時のことも、いつかこうしてみなさんにお話する時が来るかもしれません。
色々な出来事が起こる日々の中で、一番印象に残っている時間は……カフェで、加蓮ちゃんと過ごす時間。
これまで、たくさんの時間を過ごしてきました。この時みたいに、回りでのできごとに笑い合ったり、時には、大喧嘩もしてしまいます。
加蓮ちゃんに、やってほしいなって思ったり、なってほしいなって思うことは、今でもたくさんあります。
好きってたくさん言ってほしかったり、自分のことを悪く言う癖を直してほしいなって思ったり。
色んなことがあって、色々なことを考えますけれど……。
それを一言で表すなら、きっとこの言葉になると思います。
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:11:55.58 ID:WDIZ97tn0
『今日も、私とあなたとの時間を』
【おしまい】
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 19:12:26.95 ID:WDIZ97tn0
【あとがき】
4年ほど前、第28.5話『北条加蓮と高森藍子が、静かなカフェテラスで』のあとがきで、
私は「加蓮と藍子が一緒にいるところを、ちょっとだけでも想像してほしいなって思います」と書きました。
あの時に比べて今、
加蓮と藍子の2人のことを好きだと言ってくださる方が、いっぱい増えました。
「蓮藍」という呼び方が主流にもなりました。
2人の映るスクリーンショットを見る機会が増えました。
ここが好きだというお話もたくさん見るようになりました。
すごく、嬉しいです。
この2人のことを好きになってくださったこと、心から感謝します。
ありがとう。
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/12(火) 00:31:31.34 ID:/jhXamT20
普段から拝見しています
元々藍子Pでしたが、このシリーズをきっかけに加蓮Pにもなりました
加蓮に出会えたこと、本当に感謝致します
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