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高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「今日も、私とあなたとの時間を」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:13:21.98 ID:WDIZ97tn0
――おしゃれなカフェテラス――
『今日も、私とあなたとの時間を』
みなさん、こんにちは。
アイドルの高森藍子です。
今回は、私のある1日のことを、できるだけそのまま、自然体で書こうかなって思います。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1589102001
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:13:56.99 ID:WDIZ97tn0
レンアイカフェテラスシリーズ第118話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
〜中略〜
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「再認識するカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「時計の音が聞こえたカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「アイドルのいるカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「言葉を探すカフェで」
※いつもの3倍ほどの量があります。よろしければお時間ございます時に、ゆっくり読んでくださいませ。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:14:28.11 ID:WDIZ97tn0
高森藍子「……なんだか、緊張しちゃいますね」
北条加蓮「こら。自然体って話はどこに行ったの。肩に力が入ってたら意味ないでしょ?」
藍子「そ、そうでした」
加蓮「はい。深呼吸」
藍子「すぅ〜、はぁ〜……」
加蓮「どう?」
藍子「……朝の森の側って、やっぱりいい空気……。テラスの木の匂いが、春の風に乗って、かすかに届いて……」
藍子「今日は快晴なのに、ほんのちょっぴり湿った匂いもしますね。今年の梅雨は、早く来るのかな……?」
加蓮「今から傘を用意しとかないとね。予定もちょっとでいいから空けといてよ?」
藍子「くすっ♪ そうですね。今のうちに確保しておかなきゃ」
藍子「……うんっ。大丈夫!」
加蓮「じゃ、書こっか」
藍子「はいっ」
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:14:56.56 ID:WDIZ97tn0
今日は1日お休みです♪
朝からお日さまが照らしてくれる、ぽかぽか陽気。
家にいるばかりでは、たいくつですよねっ。
お気に入りのカメラと、お気に入りの靴を履いて、外へお出かけしに行きましょう!
午後からは予定があるから、今日は、遠出はなしで。
私は、いつもの公園にお散歩に行くことにしました。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:15:26.08 ID:WDIZ97tn0
加蓮「そういえば、これって実際あった日のこと?」
藍子「そうですよ。この前のお休みの――」
加蓮「午後から予定、ってことは……。もしかしてそれって」
藍子「はい。加蓮ちゃんと、カフェで待ち合わせです♪」
加蓮「じゃあこの前のかぁ。……この前のかぁ……」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「……書くって分かってたらあんな話しなかったわよ。もう。先に言っといてよ」
藍子「それでは、つくられた加蓮ちゃんってことになってしまいますよ?」
加蓮「そうだけどさぁ」
藍子「今日の加蓮ちゃんは、どんなお話をしてくれるのでしょうか。楽しみですね♪」
加蓮「……あははっ。書いてる側なのか読んでる側なのか分からなくなっちゃいそう」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:15:55.46 ID:WDIZ97tn0
雨の日に、傘をさして歩く道も、冬の日に、手をこすり合わせながら雪をふみしめる道も、私は好きです。
ある時にだけ見られる光景が、たくさん広がっていたり、たまにはみなさんの顔が見えにくくなって、それはちょっぴり寂しくて……。
けれど、また晴れた日に、なんて思うと、それだけで明日が楽しみになってしまいますから!
でも、やっぱりお散歩日和って感じのこの天気が、私はいちばん好きですっ。
道を歩いていたら、1匹の猫さんと出会いました。
茶色のふちが、なんだかカフェラテを思い出す猫さんです。目つきが少し鋭くて、私の顔を見るとすぐに、にゃー、にゃー、と鳴くんです。
でも、カメラを向けると、すぐに鳴きやんで。撮ってほしいな、撮ってほしいな、ってせがむように、右足をすりすりと動かします。
誰かさんを思い出しちゃうなぁ。ふふっ。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:16:25.34 ID:WDIZ97tn0
加蓮「誰よ」
藍子「加蓮ちゃんですよ?」
加蓮「……ほー」
藍子「きゃっ。痛いです痛いですっ。ぐりぐりしないで〜っ」
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:16:55.45 ID:WDIZ97tn0
猫さんが満足するまで、シャッターを切ってからは、また公園への道を歩いていきます。
いつも歩く道ですけれど、いろんな景色がちょっとずつ違います。
洗濯物を干している家と、干していない家があったり。
通りすがる子どもたちが、すぐに走って行っちゃったり、私の顔を見て、あいさつしてくれたり。
昨日まで咲いていなかったお花が、顔を出しているのを見つけると、私まで笑顔になっちゃいますっ。
ときどき、この前まであったものがなくなっちゃったりもして……。それは、少しだけ寂しいかも。
でも、それだって変化の1つ。
寂しいからって、探さなくなって、何も見つけられなくなっちゃう方が、もっと寂しいですよね。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:17:25.71 ID:WDIZ97tn0
加蓮「ね、これって私も書いちゃダメ? 前のカフェコラムだって、私に一言を入れさせてくれたじゃん」
藍子「う〜ん。どうなんでしょうか……。ちなみに何を書くつもりですか?」
加蓮「それはねー。お散歩してる藍子はいつもきょろきょろしてばかりで歩くのは遅いし危なっかしいので――」
藍子「それなら駄目です」
加蓮「えー。加蓮ちゃんが手を繋いであげたエピソードとかは?」
藍子「それは……ええと、では、どこかで書けるようにはしますね」
加蓮「その前フリとして藍子はのろまでたまーに電柱に頭をぶつけそうになってその度に慌てて、」
藍子「やっぱり駄目っ」
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:17:56.05 ID:WDIZ97tn0
公園には、誰もいませんでした。いつもは子どもたちが、ブランコや砂場で遊んでいて、それをお母さんやお父さんたちが見守っていたりするのに……。
今だけは、私がひとりじめ♪ ベンチに座って、空を見上げて……。
とてもあたたかくて、つい、私はベンチに寝転がってしまいました。
ちょっとだけ、はしたなかったかも。でも、全身で受け止めた太陽の光って、とっても気持ちいいんですよ。
今度、お休みの日に晴れることがあったら、みなさんもぜひやってみてくださいねっ。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:18:26.17 ID:WDIZ97tn0
藍子「……ちらっ」
加蓮「まずは私がやれってこと? もー、しょうがないなぁ」
加蓮「……店員さんが――まぁ藍子がコラム書き終わるまでは来ないと思うけどさ、一応、こっち来ないか見といてよ?」
藍子「は〜いっ」
加蓮「…………見ても言わないでおいてやろーとか思ってないでしょうね?」
藍子「ぎくっ」
加蓮「…………」ジトー
藍子「ええっとぉ……続き、続きっ」
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:18:56.33 ID:WDIZ97tn0
それから、少しの間だけ、なにがあったのか覚えていなくて……。
10分くらいかな、それとも20分くらい? ベンチに寝転がったまま、眠っちゃってたみたい。
次に目がさめた時、ボールを持った男の子が私のことをのぞきこんでいました。
「お姉ちゃん、なにしてるの?」
ひなたぼっこだよ、って返事をすると、ふーん、ってあまり興味がなさそうにあっちへ行ってしまいます。
公園には、いつの間にかちいさな子どもたちが集まってきていました。
楽しそうにかけまわっているのを見て、つい、カバンからカメラを取り出した時、さっきとは別の男の子が私のことに気がつきます。
「写しん、とるの? とってとって!」
1人がこっちにやってくるのを見て、他の男の子たちもいっせいにやってきました。
さっき、興味がないって風にしていた子も、最後尾にまざっていて……ふふっ。ちょっぴりおかしくなっちゃいました♪
いつも、意地っ張りな子の側にいるからでしょうか。
素直じゃない子が、なんだか可愛く見えちゃうんです♪
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:19:25.68 ID:WDIZ97tn0
加蓮「…………」グリグリ
藍子「痛い痛い、痛いですっ! 無言でぐりぐりしないで〜っ」
加蓮「あのね……。そーいう時に私のことばっかり書くのやめなさいよ! 私がそういう子だって誤解されちゃうでしょ?」
藍子「誤解も何も、みなさん知っていること――わあっ。ごめんなさい、ごめんなさいっ。手をグーにしないでっ」
加蓮「もうっ」
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:19:55.68 ID:WDIZ97tn0
藍子「だって、このコラムは日記と同じで、その時に私が思ったことをそのまま書いているだけなんですよ?」
加蓮「って言ってもさ――ん? じゃあ何。藍子は休みの日のお散歩の時でも、猫とか男の子とか見て私を思い浮かべたりしてるの?」
藍子「はい、そうですよ?」
加蓮「……そ」
藍子「もしかしたら、午後から加蓮ちゃんに会う予定があったからかもしれませんね」
加蓮「…………じゃあさ、例えば昼から未央とか茜とのお仕事があったら、あの2人を思い浮かべたりする訳?」
藍子「う〜ん、どうでしょうか。ときどきは、そうかも?」
加蓮「ふぅん……。ま……それも藍子らしくていっか」
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:20:25.67 ID:WDIZ97tn0
写真を撮ってあげた後は、大きく背伸びをして……もうそろそろ、お昼の時間。
約束までは、あと1時間くらいありますけれど、どうしようかな……。
うん。もうちょっと、歩いてみましょう。何かいいお店が見つかったり、面白いものが見つけられたりするかもっ。
そういえば、路地の向こうに新しいお店が何軒かできたって、クラスのみんなが言っていました。
ふっふっふ。これでも、私はアイドルですから。流行の話題には、敏感のつもりなんですよ?
……でも、詳しい場所までは聞くのを忘れてしまっていました。
調べてみるのもいいですけれど、あえて詳しくは調べないで、ゆっくり歩くのって楽しいですよね。
寄り道したり、一緒にいる人といろんなお話をしたりして。
それなら、お店を探すのはまた今度。
次のオフの日の予定が、できちゃいました♪
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:20:55.81 ID:WDIZ97tn0
加蓮「んっ……。寝転がって空を見ると……あははっ。不思議ー。空しか見えないや。空の青一色しか見えなーい」
藍子「そうでしょっ?」
加蓮「たまにはこういうのもいいかもね。あったかいし……あぁでも、梅雨に入ったらできなくなっちゃうかな。その後は夏で、さすがに暑すぎるし。熱中症とかあるしなー……」
藍子「だからこそ、今を楽しむんです。先のことではなくて、今を、ねっ」
加蓮「今を、かぁ。……日光を浴びながら梅雨の予定の話をするのは?」
藍子「う〜ん。それも、いいかもしれませんっ」
加蓮「春風に吹かれながら、梅雨用の傘を探しに行くとか!」
藍子「ふふっ。それって、お散歩のお誘いですか?」
加蓮「違うって言ったらー?」
藍子「その時は……残念ですけれど、加蓮ちゃんが違うって言うのなら、私1人で探しに行きますね」
加蓮「……へぇー? どんなダサいの買ってくるか楽しみにしてやろ」
藍子「私1人では、選ぶのに苦労してしまうかもしれませんから……加蓮ちゃん、付き合ってくれますか?」
加蓮「あははっ。そう来るんだ」
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:21:25.30 ID:WDIZ97tn0
表通りには、いっぱいの人で溢れています。さすが、都会のお休みです。
ここからいつものカフェまでは、歩いて10分くらい。
……私がアイドルだってこと、バレちゃわないかな?
今日は帽子をかぶっているだけで、これといった変装はしていません。
もしバレてしまって、声をかけられたりしたら……加蓮ちゃんとの約束の時間には、遅れてしまうかも。
なんだか、少しだけドキドキです。できるだけ、目立たないように、ゆっくり歩いて……。
なんてしていたら、横断歩道が目の前で赤信号になってしまいました! ちょっとだけ、がっかりです。
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:21:55.60 ID:WDIZ97tn0
藍子「う〜ん……」
加蓮「あ、詰まった。どしたのー?」
藍子「この後、どうしたかなって……。カフェに行くまでのことを、あんまり覚えていないんですよね。何もなかったとは思うんですけれど……」
加蓮「スキップしちゃう?」
藍子「スキップ? 私、普通に歩いていましたよ。周りにバレたらいけないって思っていたから」
加蓮「えっ」
藍子「あれっ」
加蓮「……」
藍子「……」
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:22:26.81 ID:WDIZ97tn0
加蓮「……えーと、じゃあこっそり別の日のことを混ぜてみるのはどう?」
藍子「それだと、嘘をついているってことに――」
加蓮「違う違う。謎解きっぽくするの。あとから、実はこのコラムには1ヶ所だけ別の日のことが混ざってました! それはどこでしょう? みたいなっ」
藍子「あ、それ面白そうっ。それに、最後にそう書いたら、どこにあるんだろ? って、もう1回読んでくれるかもしれませんよね♪」
加蓮「謎解きのカフェのおじいさんも満足するくらい、うまいことしなきゃ」
藍子「ええっ。それは難しそう……。あっ、じゃあ加蓮ちゃんも一緒に考えてくださいよ〜。ほら、あの時のコラムだって、加蓮ちゃんが謎解きを作って載せてくれましたよね?」
加蓮「加蓮ちゃんはただいまお日さまを浴びることに忙しいので無理です。またおかけ直しください」
藍子「さっきまで相談に乗ってくれていたのに!?」
加蓮「すやー」
藍子「ぜったい寝たフリですよねそれ!」
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:22:56.43 ID:WDIZ97tn0
――それから、私はいつものカフェに到着しました。
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:23:26.43 ID:WDIZ97tn0
加蓮「謎解きはー?」
藍子「ちょっと考えたんですけれど、……面白そうだけれど、それはまた今度ってことでっ」
加蓮「オッケー。そうだよね、フェアじゃないもん。今は、そのまま書き進めよっか」
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:23:55.42 ID:WDIZ97tn0
ドアを開けると、涼しいベルの音に混じって焼きたてのご飯の香りがします。
カウンターの奥から店員さんが、ぱあっと笑顔になってやってきました。
私も、自然と頬が緩んで……ちょっとだけお話したんですけれど、店員さんは、すぐにぱたぱたと厨房の方へ。
どうやら、他のお客さんの注文をとっていたみたいですね。
今日は、何に食べようかな?
いつもの席に座って――
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:24:25.80 ID:WDIZ97tn0
藍子「あっ。いつもの席、って言っても分からないのかも……。じゃあ、ここは消しゴムで消してから……」
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:24:56.05 ID:WDIZ97tn0
今日は、何を食べようかな?
入り口から向かって右側の、一番奥の席。そこが、私たちがいつも使う席なんです。
今日はまだ、加蓮ちゃんは来ていないみたい。
席に座ってメニューを開くと、最初に目に飛び込んできたのはお昼の定食セットでした。
ここのカフェは、ときどき内装が変わったり、季節限定のメニューが登場したり、来るたびに何かが変わっているくらいなんです。
同じメニューでも、写真や紹介の文章が違っていたりしていることもあったりしてっ。
今日は、定食の写真が前とは変わっていました。
こっちの方が、もっとおいしそうな写真……。
ご飯から立ち上がる湯気がほんのり映り込んでいて、お味噌汁のお豆腐もぴょっこり顔を出していて。
卵焼きなんて、これ、ぜったい写真を撮るほんの少し前に焼いたばかりに決まっています! トマトのみずみずしい断面もばっちり収めていて、見ているだけでお腹が空いてきます。
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:25:26.53 ID:WDIZ97tn0
加蓮「…………」
藍子「『加蓮ちゃんが来るまでは、あと10分くらいかな? 私は――』……? 加蓮ちゃん?」
加蓮「……ねぇ、藍子?」
藍子「は、はい。何でしょうか……?」
加蓮「このコラムは、藍子が感じたものとか見たものとか、それにやったことまで全部素直に書くべきだって、最初に話し合ったよね」
藍子「そうですね。日記のように……でも、できるだけ分かりやすく。そうしているつもりですけれど……何か、足りませんでしたか?」
加蓮「お腹は鳴ったの?」
藍子「……はい?」
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:25:55.88 ID:WDIZ97tn0
加蓮「お腹は鳴ったの? 涎を垂らしたりはした? 唾を飲み込んだりしてない?」
藍子「ちょっ」
加蓮「藍子1人に任せてずんずん書いてるとそーいう都合の悪い所をすぐ飛ばすんだから! で、どうなの。ほら、素直に言いなさい?」
藍子「そんなの覚えていませんよ! ちょっとくらいお腹は鳴ったかもしれませんけど……」
加蓮「じゃあお腹を鳴らしましたってちゃんと書きなさいよっ」
藍子「……な、鳴ってないかもしれません」
加蓮「いいからお腹が鳴りましたって書きなさい! この食いしん坊っ」
藍子「そんなに食べてないもんっ! 私、そんなにいやしんぼじゃないっ」
加蓮「はー?」
藍子「も〜っ!」
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:26:26.02 ID:WDIZ97tn0
加蓮ちゃんが来るまでは、あと10分くらいかな?
スマートフォンを確認してみたら、ちょうど、加蓮ちゃんからのメッセージが来ていました。
『少しおくれる』だそうです。急いで打ったのかな。スタンプやデコ文字もありません。
大丈夫。ゆっくり来ていいですよ。
そう送るとすぐに既読がついて、『ごめんね』って返事が来ました。
……加蓮ちゃんって、普段は自信まんまんって感じなのに、こういう時にはすぐに謝っちゃうんです。
私はぜんぜん気にしていないのに。大丈夫だよ、って言っても、ぜんぜん聞いてくれないんですよ。
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:26:56.03 ID:WDIZ97tn0
加蓮「だってさ……」
藍子「だって?」
加蓮「……私、なんかまだ、こう……そういう所があるっていうのかな……」
加蓮「悪い所とか、ワガママとか。言っていいんだって分かってるし、隠す方がよくないって知ってるけどさ」
加蓮「それとこれとは別じゃない? ちゃんと言うべきところは言わないと、って感じで――」
藍子「……、」
加蓮「っと……なんか暗くなる話をしちゃったかも。ごめんね? 手を止めてまで聞いてもらっちゃって」
藍子「それはいいんですけれど……。加蓮ちゃん。また謝ってる」
加蓮「あ……」
藍子「もう」
加蓮「……」
藍子「……じゃあ、加蓮ちゃん。そうですね……おわびに、何か注文をしてきてください。ずっと書き続けてて、ちょっとだけ疲れちゃいましたから、元気の出るもので♪」
加蓮「……ふふっ。気を遣っちゃって。ちょっと行ってくるね?」
藍子「は〜いっ。……ようしっ。今のうちに!」
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:27:25.42 ID:WDIZ97tn0
そうそう。加蓮ちゃんって、ああ見えてすっごく真面目さんなんです。
周りの人にはなかなか見せませんけれど、レッスンの時は、誰よりもいっぱい頑張っていて。
いつもは周りの人をちょっと困らせたりもしますけれど、本当に困っている人がいたら、すぐに手を差し伸べてあげるんです。
あとは……他のアイドルのみなさんに聞いても、見習いたい、お手本にしたい、という声が、いっぱいあって♪
もしかして、普段ちょっとふざけているのは、本心を隠すためなのかも――
……くすっ♪ もしかして、知っていましたか?
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:27:56.13 ID:WDIZ97tn0
加蓮「ただいまー。はい、店員さんからの差し入れ。ミルクココア、もらってきたよ」
藍子「おかえりなさい、加蓮ちゃん。差し入れなんて……。ちゃんとした注文でよかったのに」
加蓮「ま、1杯くらいはいいんじゃない? 次からは注文ってことで」
藍子「……そうですねっ。あとで、お礼を言っておきます」
加蓮「残念。私が先に言っちゃった」
藍子「ふふ♪ やっぱり加蓮ちゃん、すっごく真面目さんです!」
加蓮「……やっぱり?」
藍子「あっ」
加蓮「やっぱりって、そんな話してたっけ? ……ちょっと。もしかして私がいない間にコラム書き進めてた? 何書いたのよ、見せなさい!」
藍子「そ、それは出来上がりをお楽しみにということで――あっ、待って。やっぱり出来上がりを読むのも駄目〜っ!」
加蓮「どうせ後で苦しむか今苦しむかでしょ! 両手で隠そうとしないで、観念して見せなさい!」
藍子「く、苦しまないっていう選択肢をくださいっ」
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:28:25.61 ID:WDIZ97tn0
定食を注文しようと思ったんですけれど、加蓮ちゃんが急いで来るって言うなら、もしかして、走って疲れちゃうかも? って思ったので――
注文は、食べやすいサンドイッチで♪
店員さんを呼んでみたんですけれど、ちょうど手が離せない時だったみたいで。来るのを待っている間に、ふと、窓際の小物が気になりました。
だるまの置物が、少しだけ傾いてる……。起こしてあげたいな。でも、勝手に触ったら駄目だよね。
悩んでいる間に、店員さんが注文を聞きに来てくれて。私はすぐに気が付くことはできませんでした。
後ろから、「何か気になるものでもありましたか?」と聞かれて、私は思わず飛び上がってしまって――
膝を、ちょっとだけテーブルにぶつけてしまいました。お恥ずかしい……。
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:28:55.89 ID:WDIZ97tn0
藍子「……やっぱり、こういうのってぜんぶ書かないといけませんか?」
加蓮「ん? うん、もちろん」
藍子「うぅ。当たり前、って顔〜」
加蓮「ま、ほら。人に話して恥ずかしくなくなることとか、自分の中で終わらせれることってあるでしょ?」
藍子「人に話すことで――」
加蓮「すっごく深刻な悩みでも、実は大したことないって気付いたり。重大なことでも、誰かに話すだけで気分が軽くなったりするよね。それと同じ感じかな」
加蓮「……ま、藍子の場合は話してるうちに1時間とか2時間とかなって、ふわって終わるタイプだろーけど」
藍子「あはは……。いつも付き合ってくれてありがとうございます、加蓮ちゃん」
加蓮「どう致しまして」
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:29:25.39 ID:WDIZ97tn0
店員さんは、なんだかお話したくてうずうずしている感じでした。でも、右足の後ろ側がせわしなく動いていて、やっぱり忙しいのかな? って思っちゃいます。
サンドイッチを注文してから、「私でよければ、あとで聞きますよ」って言ってみました。
すると店員さんはすごく嬉しそうにして、でも、すぐにいつもの、きりっ、とした顔に戻って伝票に注文を書き込んでから、キッチンの方へと帰っていきました。
置いてくれたお水を少しだけ飲んで、窓から外を見上げます。
空模様は、かわらず快晴♪
でも……今の私にとっては、ちょっぴり悩みのたねです。
だって……このままカフェでのんびりするか、外をお散歩するか、どっちにすればいいだろうって、悩んでしまいますから♪
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:29:56.63 ID:WDIZ97tn0
加蓮「……にしても、それって才能だと思うんだよね」
藍子「才能ですか?」
加蓮「いや、才能って言うとムカつくから藍子の能力――能力って言うとなんかファンタジーっぽい気がするなぁ。ほら、特殊能力的な?」
加蓮「って、なんで普通に生きてるのに特殊能力がって話が前提になるんだろ……。アイドルって不思議だねー」
藍子「えっと、加蓮ちゃん……? 結局、何のお話ですか?」
加蓮「あ、ごめんごめん。1人で完結しちゃってた。ほら、そのなんでもない話っていうかさ、身の回りのこと、1時間も2時間も話せたり、こうしてコラムにできるのって、改めて考えたら1つの能力だなって」
藍子「も〜っ。そんな大したものじゃありませんよ〜」
加蓮「十分凄いと思うんだけどなぁ……。なんかこう、それを活かしたお仕事! とか考えてみたくなっちゃうよ」
藍子「ふんふん。ちなみに……それはどんなお仕事ですか? 教えてください、加蓮ちゃんプロデューサーさんっ」
加蓮「言い辛!」
藍子「では、加蓮さんでっ」
加蓮「略すとこそこ? せめて加蓮プロデューサーにしようよ」
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:30:25.90 ID:WDIZ97tn0
ずうっと悩んでいるうちに、加蓮ちゃんがやってきました。髪をひとまとめにして、ふりふりって揺らしながら♪
私と目があって、「やっほー」って片手を挙げてくれます。
他のお客さんが、ちらり、と加蓮ちゃんのことを見ました。ひょっとして、気付かれた? でも声をかけられていないからセーフですよねっ。
荷物を席の隅に置いて座った加蓮ちゃんに、私は言いました。
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:30:56.12 ID:WDIZ97tn0
藍子「う〜ん……。さすがに、あの時言ったことをそのままに書くのはちょっと難しいかも……」
加蓮「あー……まぁ一言一句合わせろって言われるとね。録音とか当然してない訳だし」
藍子「加蓮ちゃんの言葉なら、頑張れば思い出せますけれど――」
加蓮「いやそれもおかしいからね? そろそろ気付いて? ……じゃあ、今から再現しながら書いてみるっていうのはどう?」
藍子「なるほどっ。そうしましょうか。では、加蓮ちゃん。あの時と同じように……あの時は、私がまず提案したんですよね」
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:31:26.80 ID:WDIZ97tn0
「今日はどうしますか? カフェでのんびりしますか、それともお散歩に行きますか?」
加蓮ちゃんは、少しだけ呆れたように返事します。
「あのね。今来たばっかりでしょ? なんでもう、どこかに行く話になるのよ」
確かにその通りですっ。
加蓮ちゃんがやってきたのを見て、加蓮ちゃんの分のお水を持ってきてくれた店員さんが……少しだけ、がっかりした顔になっていました。
「藍子が、今日はどこ行く? なんて言うからー」
ああっ。そういえば、さっき後でお話を聞くって言ったのに……!
店員さんにごめんなさいって言うと、店員さんの方が逆に慌ててしまって、手をぶんぶんと振りながら大丈夫って答えてくれました。
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:31:55.38 ID:WDIZ97tn0
加蓮「あの時やけにあたふたしてるって思ったら、そーいうことだったんだね」
藍子「うぅ……。悪いことをしちゃいました」
加蓮「ホント。期待させるだけさせといてさー。突き放されるのって、結構しんどい物なんだよ?」
藍子「あっ……」
加蓮「なんてっ。ごめんごめん。そういう話じゃないよね。……ね。そんなに俯かないで?」
藍子「……うんっ。大丈夫。でも、……もうっ。加蓮ちゃん。冗談にしては、冗談になってませんっ」
加蓮「あはは……。自分でも言ってから、やっちゃった、って思ったよ」
藍子「くすっ。……それ、他の人にやっちゃ、駄目ですからね? なんてっ」
加蓮「……あははっ」
藍子「な、なんてっ……」
加蓮「言ってからじわじわ顔を赤くするのやめてよ……。こっちまで意識しちゃうじゃんっ」
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:32:26.39 ID:WDIZ97tn0
少したってから、店員さんはサンドイッチを持ってきてくれました。
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:32:55.81 ID:WDIZ97tn0
藍子「……、」
藍子「……」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「いいよ、注文してきてあげる。ちょっと待っててね」
藍子「ありがとうっ♪」
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:33:25.41 ID:WDIZ97tn0
……。
…………。
加蓮「注文、ちょっとかかるってさ。中の方に結構人がいるみたいだし」
藍子「では、休憩にしましょうか。……わっ。もう、お昼すぎなんですね。いつの間にっ」
加蓮「そゆこと。ずっと書いてたもんね。どう? 今日1日で書けそう?」
藍子「それは大丈夫だと思いますけれど……書いているうちに、あれも書きたいな、これも書きたいな、ってなっちゃうのを我慢するのが、ちょっとだけ大変です」
加蓮「そして今日はここまでって決めて、次に書く時までに書きたいことが10倍になって」
藍子「ああああ〜〜〜っ!」
加蓮「その時はその時だよ。モバP(以下「P」)さんに改めて相談でも何でもすればいいし。完成するまでいくらでも付き合ってあげる」
藍子「……ありがとう、加蓮ちゃん♪ ……えへ」
加蓮「……ちょおっと優しくするだけで、すーぐ笑顔になるんだから。藍子ってばちょろいんだー」
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:33:55.37 ID:WDIZ97tn0
サンドイッチにはあふれるくらいの卵が挟んであります。ほんの少しだけ見える黒いつぶつぶは、ピリッと辛い黒胡椒。
同じ胡椒でも、私が家で使っているのとはちょっと違う味付けです。どうやら珍しい調味料みたいで。
どこのものを使っているのか、そのうち突き止めようと思ってますっ。
一緒に入っているレタスは、小さくいるのにぱりっとしていて、味と食感のアクセントになるんです。
サンドイッチと言えば朝食って感じですけれど、お昼に食べても夕方に食べても、すっごく美味しいですよ! もちろん、夜でもっ。
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:34:26.77 ID:WDIZ97tn0
藍子「いただきます。……ん〜♪ おいしいっ」
加蓮「私も、いただきまーす。……うんっ。おいしいね。いつ食べてもおいしい、か……」
藍子「もぐもぐ……うんっ。いつ食べてもおいしいんですよ」
加蓮「……ふふっ」
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:34:55.72 ID:WDIZ97tn0
お腹がいっぱいになって、それからは、のんびりする時間。
加蓮ちゃんが、私にたずねました。
「この前の私のLIVE、見てくれた?」
最前列で応援していたよ、って答えると、少し目を丸くします。
周りにバレないようにしていたとはいえ、加蓮ちゃん、気付いてくれなかったみたいです。
ほんのちょっぴり、ほっぺたを膨らませてみたら、加蓮ちゃんはすぐに気が付いて苦笑い。
それから、「トップアイドルは足元ばっかり見てる訳にはいかないからね」なんて言い始めたんですっ。
もう。どういう誤魔化しかたなんですか〜。
だけど加蓮ちゃんも、私が気付いていることに気付いてるって感じの言い方だったから、私もそのお話に乗ることにしました。
「じゃあ、加蓮ちゃんがうつむいているのを見かけたら、ぐいっ、って顔を上げてあげますね」
加蓮ちゃんは、両手で自分のほっぺたを掴んで、ぐに、ぐに、と顔の位置を確かめるようにします。
その時の顔がなんだかおかしくて、写真に撮りたかったけれど、スマートフォンに手を伸ばす前にバレちゃいました。
ほっぺたを、ぐに〜、ってへこませたまま、「何してるのよ」……って言いたかったのでしょうか。
「ふぁにしふぇるのよ」、みたいな言い方になって、私、思わず笑っちゃって……!
45 :
お知らせ:あらすじの1行が吹っ飛んでいることに今気付きました。……そんな感じのお話です!
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:35:27.11 ID:WDIZ97tn0
加蓮「ふぁにしふぇるのよー」
藍子「もっ……加蓮ちゃんっ、もうそこ書き終わりましたから! 実践してくれてありがとうございますっ。だから、元に戻っていいんですよ?」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……ふぁにしふぇるのよ」
藍子「あははっ、も……もうっ! 加蓮ちゃん〜っ!」
加蓮「今度テレビでこの顔見せてみよっかな」
藍子「やめてあげて〜っ! 加蓮ちゃんのファンが、みんな笑い転げちゃう……っ!」
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:35:55.70 ID:WDIZ97tn0
ちょうどよかったので(それと、お話を変えないと私がずっと笑っちゃいそうだったので)、写真の話をしてみることにしました。
「加蓮ちゃん。ここ、知っていますか? 事務所の側の駅から、少し行ったところの自然公園です」
写真を覗き込んだ加蓮ちゃんは、少しびっくりします。
「都会にこんなところがあったんだ。いつかの田舎っぽいカフェじゃないけど、なんかびっくりだね」
田舎っぽいカフェっていうのは、前に私がコラムを書かせてもらった場所のことです。読んでくださいましたか?
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:36:26.09 ID:WDIZ97tn0
加蓮「読んでない人は、この号に乗ってるよー、っと」
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:36:56.28 ID:WDIZ97tn0
郊外にある、辺りを自然に囲まれたロッジのようなカフェなんです。店内には、子どもが書いたような絵があって……窓から外には庭が広がっていて、まるで自分の家にいるような気分に――
加蓮「はい、ここまで。続きは特集してる回を読んでね」
藍子「加蓮ちゃんっ。売り切れている時はどうしたらいいですか?」
加蓮「……どしたらいいだろ?」
藍子「あれっ」
加蓮「前に書いたコラムを1冊の本にまとめて、みたいなのってやってないの?」
藍子「やっていませんね……。今度、お話してみようかな?」
加蓮「生殺しじゃ可哀想だもん。そうしてあげて」
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:37:31.21 ID:WDIZ97tn0
>>48
下から2行目の藍子のセリフを一部修正させてください。
誤:藍子「やっていませんね……。今度、お話してみようかな?」
正:藍子「やっていませんね……。今度、相談してみようかな?」
……と、こんな風に、都会にも意外な自然スポットがいっぱいあるんですよ。
たまには電車に乗って、普段行かないところまで足を運んで……ゆっくり、歩いてみましょう♪
もしかしたら、意外な発見もあるかも……?
私が知らなさそうなことや、私が好きになれそうなものを見つけた方は、ぜひ、教えてくださいねっ。
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:38:25.23 ID:WDIZ97tn0
<こんにちは!
加蓮「おっ?」
「ふわぁ……。久しぶりの藍子さんだ……!」
「いやいや、天使じゃないんだか……、……天使かもしれないけどさ」
藍子「お2人とも、こんにちはっ」
「ンッ」
「――危なあっ。私までトぶとこだった……。おい? 死ぬの早いよ? あ……こんにちは。お邪魔します」
藍子「お邪魔だなんて。私と加蓮ちゃんも、お邪魔している立場ですから」
加蓮「で、そっちは……久しぶりに見た藍子ちゃんに興奮してぶっ倒れた的な?」
「」
「です。なんかスミマセン。……書き物ですか?」
加蓮「うん。ちょっとね。藍子の過ごす時間っていうテーマの――ん、そういえばさ。この日も確か、ちょうどこの頃に2人が来たんじゃなかった?」
藍子「はい。だから、すごくいいタイミングなんですっ」
「」
「……?」
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:38:55.83 ID:WDIZ97tn0
……。
…………。
「エッ」
「なるほど……。藍子さんの過ごした時間を、そのまま書くですか。そういうのって、なんだかすてきですね」
「マッテ、ソレッテワタシモハイッテ」
「そうみたいだね。よかったじゃん! ……おーい、死ぬなー?」
「ワタシナンカガメッソウモナイ」
「あとその異星人みたいな喋り方はやめな……」
加蓮「ま、そーいう感じ」
藍子「嫌なら、書くのはやめておきますけれど……」
加蓮「ざんねーん。拒否権はありません」
藍子「こらっ。加蓮ちゃん」
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:39:27.43 ID:WDIZ97tn0
加蓮「だって、あなた達も既に藍子の世界の一部なんだよ。カフェによく来る、藍子のファンで、藍子の友達」
加蓮「書く書かないに関係なく、それを否定するのは……私はちょっと嫌だな? 藍子だってそうでしょ」
藍子「それは、そうですけれど……でも」チラ
「えうえうえう」
「……大丈夫ですので、遠慮なく書いちゃってください。たぶん、喜ぶと思いますし……」
加蓮「だってさ」
藍子「……それならっ、遠慮なく書いちゃいますね♪」
「はっ。あれっ? ね、ねえ。私今藍子さんに世界の向こうから見られてる夢見た」
「どういう夢……? ある意味で現実かもしれないけど」
「???」
加蓮「……もう1回説明してあげるね?」
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:39:56.09 ID:WDIZ97tn0
自然公園のお話から、その近所にあるアクセサリーショップのお話になった時、加蓮ちゃんが身を乗り出しました。
「そこって髪飾りとかある? ちょうど新しいのを探しててさー」
残念ながらお店には入っていません、って言うと、ちょっとだけ不機嫌になります。
「何それー。アイドルなんだから、そーいうのはチェックしなさいよ」
「ごめんなさいっ。私も行ったことがないから、加蓮ちゃん、今度一緒に行きませんか?」
「デートのお誘い? 困るなー。事務所を通してもらわなきゃ♪」
「では今度、プロデューサーさんにお願いしてみますねっ」
「いやマジで言われてもなんだけど……」
おかしなところに着地したお話に、私たちはお互い苦笑いしました。
その時、カフェの入口のベルが、ちりん♪ と鳴ります。
ちょうど入口側を見ている私は、やってきたお客さんが、知っている――
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:40:25.31 ID:WDIZ97tn0
藍子「ううんっ」
55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:40:55.75 ID:WDIZ97tn0
やってきたお客さんが、友だちであることに気がつきました。
向こうも、私に気がついてくれたみたいです。小走りで駆け寄ってくれて、もう1人の子が後からついてきます。
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:41:26.31 ID:WDIZ97tn0
加蓮「ちょっと喉が乾いてきちゃったかも……。何か注文してこよ。藍子は?」
藍子「私は、紅茶でお願いしますっ」
加蓮「オッケー。ついでにあの2人にも――おーいっ。私注文してくるけど、2人はどうする?」
「えっと」
「注文……? 店員さんを呼ぶんじゃ?」
加蓮「まー色々あってね。今日だけはドリンクバー的な?」
「な、なるほど? じゃあ……」
「私っ、私も行きます! いいですか?」
「おぉ……!? よく言った!」
加蓮「ふふっ。もちろん。じゃ、行こっか」
「あ、私もっ……? え、あっと、あ、はい! ととっ」
「うふふっ。加蓮さんに誘われて、焦ってる」
「それ言う!? それ藍子さんの前で毎度死んでるおまえが言う!?!?」
「最近、よく一緒に加蓮さんの歌とか聞いているんです!」
加蓮「そうなの? 嬉しいなぁ」
<バタン
藍子(……い、今のうちっ)パラパラ
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:41:55.55 ID:WDIZ97tn0
>そうそう。加蓮ちゃんって、ああ見えてすっごく真面目さんなんですよ。
>周りの人にはなかなか見せませんけれど、レッスンの時は、誰よりもいっぱい頑張って。
>いつもは周りの人をちょっと困らせたりもしますけれど、本当に困っている人がいたら、すぐに手を差し伸べてあげるんです。
>あとは……他のアイドルのみなさんに聞いても、見習いたい、お手本にしたい、という声が、いっぱいあって♪
>もしかして、普段ちょっとふざけているのは、本心を隠すためなのかも――
>……くすっ♪ もしかして、知っていましたか?
でも、加蓮ちゃんが真面目さんであることで、1つ、悩んでいることがあるんです。
加蓮ちゃん……好き、っていう言葉を、なかなか言ってくれないんです。
ステージの上ではよく、ファンのみなさんに言いますよね。でもオフの時には、本当にぜんぜん言ってくれないんですよ!
きっと、加蓮ちゃんにとっては言葉の重みがあるんです。
軽々しく言って、約束を破る人のことを、大嫌いだって、よく言っていますから……。そして加蓮ちゃんは、嫌いな人のようにはなりたくない、っていつも言っていますから。
そうですよね。好き、という言葉って、大事なものだと思います。
でも、たくさん言ってもいいと思いませんか?
いつもせがんでも、全然――
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:42:25.42 ID:WDIZ97tn0
加蓮「ただいまー」
「お、お邪魔しま〜す」
「……さっきまでイキイキしてたのはどこに行ったの。あ、……お邪魔します」
藍子「わ、もう?」
「お、同じこと言ってるじゃん!」
「うっさいな!」
加蓮「はい。紅茶。それから、クッキーをミニサイズで注文したの」
藍子「ありがとう。美味しそう……♪ ちょっと疲れちゃった時には、やっぱりこの味ですよねっ」
「ん〜♪」
「……ふふ。幸せそうな顔で食べるなぁ。うんっ。私も美味しい!」
加蓮「ね」
藍子「――ようしっ。お陰さまでリラックスできました! 続き、頑張って書きますね」
加蓮「頑張れ。……あれ? なんかページが違わない?」
藍子「ぎくっ」
加蓮「どっか見直してたとか?」
藍子「そ、そうなんですよ〜。ええと、今書いていたのは……」パラパラ
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:42:55.33 ID:WDIZ97tn0
「こんにちは、藍子さん!」「お邪魔します」
「こんにちはっ。今日も一緒になりましたね♪」
その子は私の友だちで、同時に……
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:43:25.59 ID:WDIZ97tn0
加蓮「いいんじゃないの? ……それで藍子のことをどうこう言う人がいたら、私とPさんがどうにかしてあげるから」
藍子「……、」チラ
藍子「うんっ」
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:43:55.33 ID:WDIZ97tn0
その子は私の友だちで、同時に、私のことを応援してくれる子でもあるんです。
大人って感じの落ち着いた子と、しっかりものだけれど時々熱くなる子。
ときどき、このカフェでご一緒して、お話したり、お話を聞いたりして。
私の影響を受けて、お出かけしたり、写真を撮ったりするのにハマってくれているみたいですっ。
「やっほー。ふふっ、よかったね。藍子に会えて。顔に出てるよ?」
なんて加蓮ちゃんが、ちょっぴりからかい気味に言ったりして。そうそう。お2人は、加蓮ちゃんのことも応援してくれているんです。
だから……加蓮ちゃんこそ、出会えて嬉しいって気持ちが、顔に出ています♪
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:44:25.67 ID:WDIZ97tn0
加蓮「……私のことはともかく、あの2人の……特にこっち。こんな冷静じゃないでしょ」
藍子「一応、私なりに忠実に書いているつもりですけれど……。だって今も、ほらっ。眼鏡をかけてきりっとした感じがなんだか大人っぽくて、落ち着いていて……今も、クールな女の子って感じに見えますよ?」
「」
「……えーっと」
加蓮「それクールっていうより、藍子に褒められて気絶寸前なだけだと思うけど……」
藍子「……も、ものは言いようですから」
加蓮「えぇ……。まぁ、藍子からはそう映ってるってことにしていいけどさ」
「ウヘヘ...アイコサンガホメテクレタ。ウヘ、ウヘヘ」
「そんな顔してたら、女子がやっちゃ駄目な顔してますって藍子さんに書いてもらうよ」
「うえぇ!?」
「……いや、なまはげじゃないんだから」
「違うよ! 藍子さんはそんなのじゃなくてもっとこう、秘境の奥にひっそり住んでるけどたまに人の世界の楽しみに来る天使のような――」
「…………藍子さんにずっと会ってなかったせいで悪化してない?」
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:44:55.82 ID:WDIZ97tn0
お2人は違う席に座って、私は手を振って、それからまた加蓮ちゃんとお話します。
今度は、アクセサリーショップのそのまた近くにある、ジャンクフードのお店のことです。
加蓮ちゃんはポテトが大好きで、キャンペーンのことや期間限定のことも詳しくて、よく私に教えてくれるんです。
私も、ときどき加蓮ちゃんに付き合っているんですよ。
体によくないのかもしれませんけれど、たまにはいいですよねっ。
「加蓮ちゃんが、行きたいって言うと思って、その場所もちゃんとチェック済みですっ」
「さっすが藍子。加蓮ちゃんのことをよく分かってるね」
こうして、次のお出かけの予定がどんどん埋まっていきます。1日で、ぜんぶ行くことができるかな?
もしかしたら、最初の自然公園でずっとひなたぼっこをして、そのまま1日が終わってしまうかもしれませんね。
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:45:25.69 ID:WDIZ97tn0
加蓮「って言いながら、あの日藍子は加蓮ちゃんを色んな場所に振り回したのでしたっと」
藍子「あ、それはっ……秘密にしておいてください!」
加蓮「えー、なにそれ。表ではゆるふわアイドルなんて言ってる藍子ちゃんは実は休日に病弱な子を振り回しまくる子だってみんなに教えてあげなきゃいけないでしょー」
藍子「嘘を教えようとしないでくださいよ〜。それに、お出かけした時は、……私もはしゃいじゃったかもしれませんけれど加蓮ちゃんだって、次はそこに行こう、あそこにも行こう、って手を引っ張ってくれたじゃないですか」
加蓮「あははっ。そうなんだけどね。その日の話は……また別の機会にしよっか」
藍子「はい♪」
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 18:45:56.41 ID:WDIZ97tn0
ずっとお話していると、喉が乾いてきましたね。
ここのカフェの店員さんは、加蓮ちゃんのことをよく知ってくれていて――
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