他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
このスレッドは950レスを超えています。そろそろ次スレを建てないと書き込みができなくなりますよ。
【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」不知火「その3です」
Check
Tweet
310 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/12/25(金) 20:30:32.21 ID:BygBReQp0
乙
メジャーだけに悲しいね(那珂ちゃん嫁提督並感
311 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2020/12/26(土) 03:50:01.95 ID:3faEQDsg0
乙
なんだろう。利提督はそこまで悪ではない感じがするんよね...悪意があったわけでもないし、やってる事は...悲しいけど俺たちがやってることと変わらない。だからブラックってわけでもない。借金=課金ってことに思えるし、自分たちを見てる気分になった。
単に世間知らずだったってのと、調子に乗りすぎたってだけで...俺たちも、ただ仕事をしてただけなのに取材とかテレビ出演とかの話来たらテンション上がっちゃうしね
312 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2020/12/28(月) 06:11:20.21 ID:1BvciNMy0
そうやって浮かれて取材受けて実際の内容と違うー改悪されてるーってTwitterで騒いでたコスプレイヤーとかそういう類の奴らを思い出す
取材させてくれって言われて浮かれるやつとか底辺オブ底辺じゃん小学生かよ
313 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:11:17.59 ID:ENqWqgdKo
雑談するときはメール欄に sage と入力していただけるとありがたいです。
では続きです。
314 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:12:32.73 ID:ENqWqgdKo
* 午後 入渠ドック *
利根「明石! 筑摩が入渠しているそうじゃな!?」
明石「はい、来てますよ! 筑摩さんのいた鎮守府の話とかは聞いてます?」
利根「うむ、同行してきたという五十鈴から聞いておる。筑摩も、大変なところから逃げてきたのじゃな……」
明石「体の傷は治りましたから、ドックのプールからは出ましたけど、だいぶ疲れてるみたいでして、今はベッドに寝てもらっています」
明石「目を覚ますのは夕方くらいになるかもしれませんね」
利根「うむ、それも聞いてはおる」
利根「とはいえ、吾輩の可愛い妹じゃ。居ても立ってもいられなくなってな、寝顔だけでもと見に来たんじゃ」
明石「それもそうですよねえ」ニコー
利根「案ずるな、寝た子を起こすような真似はせん。少しだけ入らせてもらうぞ?」
明石「ええ、どうぞどうぞ!」
315 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:13:17.40 ID:ENqWqgdKo
* 入渠ドック内 医務室 *
利根(……こちらか)
筑摩「」スヤァ
利根(うむ。筑摩だ……間違いない)カオヲノゾキコミ
利根(……筑摩との再会を願ってはいたが、この島へ逃げ込まざるを得ない事態に追い込まれたのはいただけん)
利根(もっと違う形で……海上で見つけられれば、多少は良かったのかもな……)
筑摩「……ね……さん……」ムニャ
利根(目覚めたら、うんとねぎらってやらねばな)
利根「……ちくま。今はゆっくり休むのじゃ……」ヒソッ
筑摩「ん……」スヤ…
利根(笑っておる……可愛い寝顔じゃな)ニコ
利根(筑摩の顔も見られたし、長居は無用。戻るとするか)クルリ
グッ
利根「うん?」
(利根の服の裾を掴む筑摩)
筑摩「姉さん……」
316 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:14:02.81 ID:ENqWqgdKo
利根「お、おお、起こしてしまったか。すまんな、ちく」
グルンッ
ドサッ
利根「……ま?」
利根(なんじゃ!? 何が起こった!)
利根(筑摩の手に引っ張られたと思ったら、抱きかかえられてそのままベッドに転がされて……)
筑摩「うふふ……利根姉さん……!」
利根(筑摩に、覆い被さられておる……!)
利根「の、のう、筑摩? これはいったい」
筑摩「逢いたかった……」
利根「……」
筑摩「逢いたかったです、利根姉さん……!」ニコ…
利根「う、うむ、そうじゃな! しかし筑摩、どうしてお前は吾輩の両腕を押さえつけて」
筑摩「利根姉さん……!」ス…ッ
317 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:14:47.13 ID:ENqWqgdKo
利根「お、おい!? ちく」
ヴチューーー
利根「……ちくま?」
筑摩「んもう、ひどいです姉さん、寸前に横を向くなんて」
利根「頬に吸い付きながら喋るでない」
筑摩「そうですか。では改めて」スッ ンチューー
利根「ふおお!?」バッ
筑摩「利根姉さん、じっとしててください。キスできないじゃないですか」チュッチュッチュッチュッ
利根「するでない! というか顔中にキスするなと言うておるのだぞ!?」キスマークマミレ
筑摩「え……?」
利根「なんじゃその信じられないとでも言いたげな顔は」
筑摩「普通ですよね?」チュッ
利根「普通でないわ!」バッ
筑摩「もう、利根姉さんったら、そんなに照れなくてもいいんですよ?」ググググッ
利根「照れておるとかそういう問題ではないっ!」ギリギリギリ
筑摩「そう、問題はなにもないんです。利根姉さん、さあ……!」ンチューー
利根「さあではないわーーーーー!」
明石「んもー、何をうるさくして……うわあ、お取込み中でしたか。ごゆっくりどうぞー」パタム
利根「待つんじゃ明石いいいいいいいい!!」ギリギリギリ
318 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:15:32.01 ID:ENqWqgdKo
* それからしばらくして *
筑摩「初めまして、利根型重巡洋艦二番艦、筑摩です」ニコニコ
提督「……」
明石「……」チラッ
提督の背に隠れる利根「……」コソッ
五十鈴「……提督?」
提督「ん、ああ。こうやって見てる限りはまともだな?」
五十鈴「まあ、こうやって見る限りはね……」
利根「……」チラッ
筑摩「!」キラキラキラッ
利根「」ビクッ
五十鈴「……」
提督「前言撤回。ものの見事に利根を見るときだけ目が光り輝いてんな……」
明石「こんなマンガみたいな展開、本当にあるんですねー……」
319 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:16:17.53 ID:ENqWqgdKo
利根「提督よ……吾輩は、姉の唇を奪いに来る妹が世の中に実在するなんて聞いておらんぞ?」
提督「俺だって想定してねえよ。この鎮守府で姉妹でくっついて歩いてる連中だって、姉妹同士でキスするような間柄じゃねえ」
五十鈴「くっついて歩いてる……って、例えば誰が?」
提督「ぱっと思い付くのは金剛と比叡、暁と電、あと朝雲と山雲くらいか?」
提督「まあ、くっついてとは言ったが、普段から手をつないでるわけでもねえし、ずっとべたべたしてるわけでもねえ」
提督「扶桑の後をくっついて歩く山城も、物理的に触ってるわけじゃねえし……」
提督「ん? 待てよ? くっつかれてるのって、俺だけか?」タラリ
明石「今頃気付いたんですか。まあ提督はまだいいですよ、提督は男で艦娘は女だし、生物学的には普通ですよ。普通」
提督「我ながら示しがつかねえな……」アタマカカエ
明石(雲龍さんと龍驤さんはいつもべったりですけどね)
利根「ま、まあ、提督は仕方なかろう。艦娘同士ではさすがに……」
明石「……なくはないんですよねえ、今回みたいなケースも」
提督「あんのかよ」
明石「当然個人差はありますよ。こちらの筑摩さんも、利根さんに執着する理由があると思うんですけど」
五十鈴「それはあるわよ、当然だけど」
提督「あんのかよ……」
320 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:17:03.29 ID:ENqWqgdKo
明石「例えばどんなですか?」
五十鈴「例えばも何も、利提督鎮守府には利根さんが来なくって、筑摩さんがずっと寂しがってたの」
五十鈴「それで、五十鈴が利根さんと髪型が似てるから、居ない間の身代わりみたいにされてたわけなんだけど……」
五十鈴「その五十鈴が育てられるたびに電探剥ぎ取られて、近代化改修に回されたり、そうでなければ解体でしょ?」
五十鈴「育てた端から解体されて、新しい同じ顔の艦娘を育成して……」
提督「賽の河原かよ……」
明石「どこから出てきたんですか、それ」
提督「ああ? 小さい子供が死ぬと賽の河原で石を積まされるんだよ、親不孝だからってな。一つ積んでは親のため、って、知らねーか?」
提督「で、積んでも積んでも獄卒が途中で倒すから、また最初からやり直し。そういう地獄があるってのを思い出しただけだ」
明石「地獄って……」
提督「地獄だろ。五十鈴は五十鈴で自分が解体されることを諦観して当然のように振る舞ってるし」
提督「筑摩は筑摩でさっきから一言も発さず、にこにこしながら利根をガン視してるだけなんだぞ」
筑摩「……」ニコニコ
利根「ヒィ」
321 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:18:02.18 ID:ENqWqgdKo
提督「まともな鎮守府だったのか? 利提督とやらの治める鎮守府は」
明石「どうでしょうね〜。私もまともじゃない鎮守府にいましたから、まともの基準がわかりませんね。利根さんもそうでしょう?」
利根「う、うむ、吾輩が艦娘として活動できているのはこの鎮守府に来てからじゃからな」
提督「おい」ヒソッ
明石「どうしました?」
提督「昔話はその辺にしとけ。今の話で筑摩の目の色が変わったぞ」ヒソヒソ
筑摩「……」ギラリ
明石「……」
利根「……」
提督「あの様子じゃ利根の昔の鎮守府に殴り込みしに行っちまうかもしれねえな」
明石「も、もう少し落ち着いてから話したほうが良さそうですね」アセッ
提督「……仕方ねえ、長門と武蔵を呼ぶか」
明石「せ、戦艦のお二人ですか!?」
提督「出撃させてねえからいいだろ。長門は利根の事情を知ってるし、武蔵にはこの鎮守府のことを知ってもらういい機会だ」
提督「何かあったときに止められるかって意味でも、戦艦二人はオーバーじゃねえと思うが?」
提督「そもそも利根が俺の後ろに隠れるような状態だからな。でかいやつに守ってもらった方がいいだろ」
利根「う、うむ……」ビクビク
提督「俺はどうしようかねえ……筑摩を説得する方法でも考えるか?」
提督「何やっても藪蛇にしかならねえような気もするが……」
明石(そこまでわかってて、どうして愛情がわからないとか言い張るんですかねえこのひとは)ハァ…
322 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:18:48.08 ID:ENqWqgdKo
* *
霧島「姉妹でキスは一般的か……ですか?」
金剛「Hmm... Europe では、姉妹なら頬にするのが一般的デスネー」
金剛「夫婦や恋人でしたら mouth to mouth も普通デスけれど、姉妹の間でそこまでしたいと言われたら、私も少し心配になりマス」
提督「なるほど。霧島も意識に大差はないか?」
霧島「そうですね。お姉様たちをお慕いしてはいますが、だからと言ってキスをする文化は私たちにはありませんし」
霧島「それこそ金剛お姉様が常日頃から仰っている、時間と場所を弁えた行いだと思えません」
提督「……弁えなくてもいい時だったらどうだ?」
霧島「!? い、いえ、そうであってもそれはさすがに……!」マッカ
提督「だよなあ」
霧島「……し、司令、からかわないでいただけますか……!」
提督「からかっちゃいねえよ、むしろそういう場面だったらどうだったかって意味でも訊いておきたかったんだ」
霧島「そこまでの話なんですか!? それは深刻ですね……」
323 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:19:32.08 ID:ENqWqgdKo
金剛「Hmm, おそらく筑摩が利根に向けた思いは、なかなかheavyなようデスネ」
<コンゴウオネエサマー!
金剛「!」
比叡「お料理教室、終わりましたー!」コンゴウニダキツキー
金剛「Oh, 比叡は甘えん坊さんデスネー」ナデナデ
榛名「提督もいらしてたのですね!」
提督「ちょっと調べたいことがあってな」
金剛「さあ、比叡も榛名も tea time にしまショウ!」
比叡「はいっ!」スリスリ
提督「比叡は犬みてえだな……」
霧島「比叡お姉様は金剛お姉様を大変慕っておいでですが、やはり……」
提督「筑摩の態度は度が過ぎてる、ってことだよな?」
霧島「その認識で間違いないかと」
榛名「?」
324 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:20:18.64 ID:ENqWqgdKo
* *
那珂「姉妹艦で……そ、そんなことしないよ!? 絶対しませーん!」ブンブン
提督「だよなあ」
神通「あの、どうして私たちにそんな質問を……?」
提督「筑摩が利根にキスを迫ったんだよ。それが普通かどうかってのを聞き込みしたくてな」
提督「お前らには最初っからそういう答えを期待してて訊いたんだ。川内はよくわかんねえが、那珂も神通も常識的だし、貞淑でもあるしな」
那珂「貞淑……うわー、なんか品のある響き……!」ポ
提督「ま、那珂の場合はアイドルっつう肩書がある分、なおのことその手の話は御法度ってのもあるだろうが……」
那珂「提督さん、那珂ちゃんにそういう要素を求めてるんだ……!」モジモジ
提督「うん? 俺はそうだろうなと思っただけで、別にお前に貞淑さを求めてるわけじゃねえぞ?」
那珂「え? そうなの?」
提督「俺は那珂が何をセールスポイントにしてもかまわねえと思ってる。歌でも色気でも愛想でもな」
提督「どうせなら、那珂が好きなことややりたいことをやれりゃいいな、って思ってるだけだ」
那珂「提督さん……!」パァッ
325 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:21:02.46 ID:ENqWqgdKo
提督「あー……ただ、俺個人の好みで言やあ、無知そのものを売りにするのはちょっとな……」
提督「わかってて馬鹿な真似ができるのは構わねえが、馬鹿を曝け出して受けを狙うのは恥でしかねえ」
提督「あ、それから飯の食い方が汚いのも勘弁だ。見苦しくない程度の教養とマナーくらいは身に着けててくれると、俺としては嬉しいかねえ」
那珂「はいっ!」ビシッ
提督「変なこと訊いて悪かった。邪魔したな」
神通「いえ……」
那珂「お疲れ様でーす!」フリフリ
神通「……」
那珂「えへへ……そっかぁ、提督さん、ちゃんと那珂ちゃんを見ててくれてるんだ……」テレテレ
神通「……」
那珂「……神通ちゃん?」
神通「……貞淑……」マッカ
那珂(あー、これ、神通ちゃんも脈ありってことなのかなあ)
326 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:21:51.47 ID:ENqWqgdKo
* *
山城「姉妹で……んななな、んなぁああああ!?」
山城「そんなことしたら死ぬに決まってるでしょう!?」
提督「死ぬ……?」
山城「そうよ! 私が! 嬉しさで!! 心臓が破裂するわ!!」
提督「……」
山城「何よ、大袈裟だって言いたいの!? 私は大真面目よ!?」
山城「そうでなかったとしても、鼻血程度で済めばいいわ! あの麗しい扶桑お姉様の唇の柔らかさと色気漂うつや……!」
山城「私の唇と触れ合おうものなら、きっと幸せのあまり昇天して帰ってこられなくなるわ……!!」アワワワ…
提督「……」
山城「はっ! ちょっと提督、あなた扶桑お姉様に同じことを訊くつもりじゃないでしょうね!?」
山城「あああ、怖い! 怖いわ! 扶桑お姉様が私にキスするところを想像させるなんて……」
山城「頬を赤らめて恥じらう扶桑お姉様なんて、想像しただけで……なんて、なんて絵になるの……芸術よ!?」カァァ
提督「……」
327 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:22:34.01 ID:ENqWqgdKo
山城「……いえ、でも、もし! もしもよ!? 姉妹同士でキスだなんてと嫌悪感をあらわにでもされたら……いやあああああ!」ウズクマリ
山城「この私が扶桑お姉様にキスだなんてよこしまな妄想をしてしまったら……幻滅して、嫌われてしまわれても無理はないわ……!」
山城「あああ扶桑お姉様ごめんなさい……! この山城が不埒な妹であるばかりに……はっ! 妹でなければいいの!?」
提督「……」
山城「いいえ何を血迷ったことを言うの山城! 私は紛れもない扶桑型超弩級戦艦よ!?」スクッ
山城「この私が扶桑お姉様との縁を断つだなんて天地がひっくり返っても起こしてはならないことだわ!」
山城「そう、この山城……戦艦扶桑の妹の使命として、扶桑お姉様の唇を何人からもお守りしなければ……!」
提督「……」
山城「提督! 今の話、扶桑お姉様には絶対にしては駄目よ!? いいわねッ!?」ビシッ!
提督「まあ、いいけどよ……お前すげえな」タラリ
山城「は?」
328 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:23:18.37 ID:ENqWqgdKo
* *
三隈「普通ではありませんね。変だと思います」
提督「言い切ったな」
三隈「はい」
最上「僕もそう思うよ。そこまで行くと普通の姉妹の関係じゃないと思うなあ」
提督「……普通じゃない、ねえ」
三隈「例えばですけれど……」
(最上と手をつないで見せる三隈)
三隈「提督、いかがです? 今の私たちはおかしく見えますか?」
提督「……見た目の年相応かと言われると微妙だな。まあ、仲が良い程度には見えるか」
最上(手が恋人握りになってるんだけど……)
三隈「それでいいと思いますわ。今の私たちを見て不愉快に思われる人もいるでしょうし、そうでない方もいらっしゃるでしょう?」
三隈「当人がまともだと主張するより、皆さんから見てどうかのほうが重要だと思います」
提督「……だとすると、筑摩の利根に対する態度も許容する奴はいるってことか? 難しいな」
三隈「はい。ですが重ねて申し上げますけれど、私の主観としては姉妹でキスするのは変だと思いますよ?」
329 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:24:02.35 ID:ENqWqgdKo
三隈「例えばですけれど、こうやって腕を絡めたり……」ギュ
最上「!」
三隈「肩を寄せ合ってぴったりくっついたりしてるだけで、提督もくっつきすぎだって思うでしょう?」ピト
提督「……最上はどう思うよ」
最上「えっ? い、いや、ちょっと照れるかな……三隈にこうやってくっつかれたこと、今までなかったし」
提督「なるほど……」
三隈「……これ、いいですわね」
最上「三隈?」
三隈「……私、気付いてしまったんです」
三隈「部提督が最上さんにセクハラするのを忌々しく思っていたのは、嫉妬していたからだって」
最上「へ?」
三隈「最上さんが他の人に好き勝手されるのを嫌だと思う感情が、嫉妬ではなかったらなんだと思います?」ズイ
最上「そ、それは……」
三隈「……」ジーッ
最上「……」
チュッ
最上「ひょわあっ!?」ホッペオサエ
330 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:24:47.45 ID:ENqWqgdKo
三隈「……やっぱり変ですわ」フゥ
提督「三隈?」
三隈「私、やっぱり最上さんのことが普通じゃないくらい好きみたいです」
最上「え、えええ!?」
三隈「だって最上さんは私にキスされてこんなに驚いてらっしゃいますもの。私の好きの表現は、最上さんにはきっと普通ではないんでしょう」
三隈「そして、普通ではないことが変だというのなら、私は変だと言えますわよね?」
提督「そうかもしれねえが……お前は自分を自己否定すんのか?」
三隈「いいえ、自己否定しているつもりはありません。私は私が変であることを受け入れているだけですわ」
三隈「提督も、妖精さんとお話しできるのが自分だけだと気付いたときに、自分が他人とは違うと認識なさいませんでした?」
提督「……確かに、変だとは思ったな」
最上「なんていうか、提督が妖精さんと話せるのを『変だ』って思うのは嫌だなあ。いや、単に言い方の問題だけどさ?」プー
三隈「最上さんはお優しいんですね」ウフフ
提督「……」
三隈「なんにしても、行動であれ思想であれ、他人を不愉快にさせない思い遣りを持てば、何事も問題ないと思いますわ」
三隈「私の最上さんに対する気持ちも、最上さんが受け入れられないのなら自重すべきでしょう?」
331 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:25:47.06 ID:ENqWqgdKo
三隈「そうでないと、私の行為も、部提督やあの鎮守府にいた人たちと同じになってしまいます」
提督「拒まれたらどうすんだ」
三隈「その時は胸に秘めたままに致します。忍ぶ恋こそ至極なり、という言葉もありますし」
最上「僕がいる席でここまで言っちゃったら、忍ぶも何もないんじゃないの? ……まあ、いいけどさ?」
三隈「いいんですか!?」キラッ
最上「あー、うん……いいけど、いきなりチューはやめてよ?」
三隈「はい!」ニコニコ
提督「最上……いいのかよ」
最上「三隈のことは嫌いじゃないよ。ここまで好意を寄せられてるのは予想してなかったけど」
最上「でも、まあ……うん。やっぱり……僕は三隈のことを嫌いになりたくないしね」
三隈「それではお互い嫌いにならないように、少しずつ距離を縮めていきましょう?」ウデツカミ
最上「も、もうずいぶん近いと思うんだけどなあ……」テレッ
332 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/09(土) 13:26:52.63 ID:ENqWqgdKo
三隈「嫌なら振り払ってくださってもいいんですよ?」
提督「三隈……お前、最上が振り払えないってわかってて言ってるだろ?」
三隈「そんなことはありませんわ?」
最上「……うー……」
提督「お人好しってのは、こうやって篭絡されていくんだな。勉強になるぜ」ハァァ
三隈(そう仰る提督も大概だと思いますけれど)
三隈「あの、提督? だいぶ本筋から逸れましたけれど、筑摩さんは危険な状態にあると思いますよ?」
提督「……!」
三隈「筑摩さんは五十鈴さんを身代わりになさっていたんでしょう? そして、五十鈴さんは改装できる練度になるたび解体されたと」
三隈「筑摩さんは愛情を注ぐ相手を何度も殺されてきたわけです。私が筑摩さんの立場だったら、狂ってしまうかもしれません」
提督「一応だが、だからこそ戦艦二人を間に付けたんだが……」
三隈「心配ですわね……」
最上(僕はいつまで三隈に抱き着かれていればいいんだろう)セキメン
333 :
◆EyREdFoqVQ
[saga]:2021/01/09(土) 13:28:12.55 ID:ENqWqgdKo
というわけで今回はここまで。
334 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:04:45.71 ID:Zv5Aj/0to
それでは続きです。
335 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:05:50.16 ID:Zv5Aj/0to
* 夜 *
利根「……」
武蔵「利根、大丈夫か?」
利根「う、うむ……」チラッ
筑摩「どうしました? 利根姉さん」ニコッ
利根「い、いや、なんでもない」
武蔵「……」
利根「のう、武蔵よ……筑摩はいつ吾輩から視線を外しておるんじゃ?」
武蔵「……うむぅ……」タラリ
利根「こうも見つめ続けられると、そのうち吾輩の体に穴が開いてしまわないか心配になってくるぞ……」
長門「筑摩」
筑摩「はい?」
長門「……せめて話しかけられた時くらい、こちらを見ないか?」
筑摩「ええ、それはやぶさかではないのですが……」
筑摩「ついに出逢えた利根姉さんが愛おしすぎて、どうしても目を奪われてしまうんです」ポ
長門(これは聞く耳を持たないパターンか……)
筑摩「あ、武蔵さん、利根姉さんが見えないのでちょっと左に」
長門「筑摩……」ゲンナリ
336 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:06:34.80 ID:Zv5Aj/0to
* 翌日の午後 執務室 *
提督「……」ゲンナリ
五月雨「提督、しっかりしてください!」
提督「いやもうやってられっかよ、もうマジで面倒くせー匙ぶん投げんぞくそがー」
五月雨「もう匙どころじゃなく投げ遣りじゃないですか!」
大淀「そんなにひどいんですか? 筑摩さん」
五月雨「は、はい、何かお願いしようとしても『忙しいから後でお願いします』って言われてもうそれっきりで」
五月雨「何が忙しいのかと思えば、利根さんをじーっと見てるんです」
提督「あいつ、昨晩も利根と一緒の部屋に寝るとか言って聞かなかったうえに、利根の布団に潜り込んできたらしいからな」
提督「利根が俺の部屋に飛び込んできて助けを求められたんで部屋を分けたら、今度は夜通し壁に耳を付けて利根が寝てるか聞き耳立ててたそうだ」
五月雨「……」
大淀「……誰から聞いたんですか」
提督「利根の装備妖精。あれじゃ利根も休んだうちにはいらないって嘆いてたぜ」
337 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:07:34.87 ID:Zv5Aj/0to
扉< コンコン
黒潮「黒潮やー」
提督「おう、入れ」
黒潮「司令はーん、あれはあかんよー?」ガチャ
大淀「黒潮さん、今日は一日お休みのはずでは?」
黒潮「うん、だから筑摩はんたちが気になって見に行ったんやけど、あれはないわー」
黒潮「長門はんも言うてたけど、利根はんから絶対に20メートル以上距離取ろうとしてないんよ」
提督「一日経ってもそんな調子かよ……」
黒潮「なんか利根はんがトイレ行く時も、壁に耳付けて聞き耳立ててたって言うし?」
五月雨「」ドンビキ
大淀「」ドンビキ
提督「大淀はともかく、五月雨がこんな顔してるのは初めてだな」
五月雨「そ、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないですよ!?」
提督「わかってるよ、んなことは……ん?」
ドドドドドド バンッ!
白露「提督、大変だよ!!」
提督「……今度はなんだよ」
白露「筑摩さんが利根さんを連れ去ったって!!」
提督「あぁ!? 武蔵と長門はどうした!?」ガタッ
白露「長門さんがトイレに入ってる間に、武蔵さんが抜かれちゃったんだって!」
338 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:08:35.32 ID:Zv5Aj/0to
提督「っだああ、くそ! 武蔵に経験積ませるつもりが甘かったってか!?」
黒潮「ちゅうか、筑摩はん大和型を躱すとか何者なん……」タラリ
提督「大淀! 龍驤と雲龍に緊急連絡! 偵察機飛ばして筑摩を捜させろ!! 終わったら館内放送で全体連絡頼む!」
大淀「は、はいっ!」
提督「五月雨は五十鈴と一緒に筑摩を探せ! 五十鈴は由良と埠頭にいるはずだ!」
五月雨「わ、わかりました!!」
提督「白露! 武蔵たちが出し抜かれたのはどこのトイレだ! どっちに逃げた!」
白露「えっと、食堂の隣だよ! みんなの個室の方に逃げたって!」
提督「だとすると利根の部屋か!? 白露、利根の部屋はわかるな、急行しろ! 俺も行く!」
白露「了解! あたしに任せて!」ガシッ
提督「ん?」シラツユニツカマレ
白露「提督、しっかりつかまっててね!」ググッ
提督「お、おい、連れてけって意味じゃ」
白露「白露、出撃します!!」ダッ!
提督「ちょ待うおおおおおお!?」グイーー
ドドドドドド…
五月雨「だ、大丈夫なんでしょうか……」
黒潮「あかんやろあれは……」アオザメ
339 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:09:19.89 ID:Zv5Aj/0to
* 利根の部屋の前 *
ドドドドドド…
白露「いっちばーーん!」キキーッ
提督「うおおおお!?」ガクーッ
白露「はー、はー……提督、着いたよ!」
提督「……じ、ジェットコースターかよ……乗ったことねえけど……」ゼーゼー
提督「け、けど、思ってたよりくっそ早く着いちまったぜ……」ヨロッ
提督「よし、入るぞ……」ドアノブテヲカケ
白露「うん!」
扉<バンッ!
提督「利根!!」
シーン…
提督「……」
白露「……誰もいないね?」
提督「ここじゃねえのか?」
340 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:10:04.78 ID:Zv5Aj/0to
白露「提督、隣が筑摩さんの部屋だっけ?」ガチャ
白露「こっちにもいないね……気配なーし」
提督「……どういうこった」
ブルーン!
提督「!」
白露「あ、あれ見て、流星改! 多分龍驤さんのだよ!」
流星に乗った島妖精A「提督! あの二人は入渠ドックの方に向かったぞ!」
提督「ドックだと!?」
白露「なんでそっちに行っちゃったの!? 逆方向じゃない!?」
提督「筑摩は昨日来たばかりだ。道を間違えたってのも十分あり得る」
白露「そ、そっか……」
提督「それに筑摩は一緒に寝たがってたからな。ベッドがあるって意味ならそっちに行くのもわかるが……」
白露「でも、個室はないよね?」
提督「個室?」
白露「うん。二人きりになりたかったんじゃないの?」
提督「……なるほど、だとすると他人に邪魔されずに済む場所か」
白露「うーん……どこだろう?」
提督「個室……個室……そうか! あったぞ白露……!」
白露「え!?」
341 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:10:50.33 ID:Zv5Aj/0to
* 個人用浴場の一室 *
扉<バタン! ガチャッ
利根「んー! んむー!? ぷはっ、ち、筑摩! おぬし……!」
筑摩「……んふふふふ。利根姉さん……」ニィッ
利根「……」ゾクッ
筑摩「昨日はどうして、一緒にお風呂に入ってくれなかったんですか?」
筑摩「せっかく利根姉さんの背中を流してあげようと思っていたのに……頑なに拒否するんですもの。がっかりしてしまいました」
利根「……ならん」
筑摩「どうしてです?」
利根(吾輩は筑摩の姉じゃ……だからこそ、この体の傷は、見せられたものではない)
利根(姉が、妹に情けない姿を見せるわけにはいかん……!)
利根「吾輩の裸は、誰にも見せられん。見せたくないんじゃ……!」
筑摩「妹だとしてもですか」
利根「ああ」
筑摩「……」
342 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:11:34.97 ID:Zv5Aj/0to
利根「……」
筑摩「……」ハァ…
利根「……のう、ちく」
筑摩「姉さん」ガシッ
利根「ま……?」
筑摩「いけませんよ姉さん、姉妹の間で隠し事なんて」
利根「お、おい、ちく」
筑摩「私の利根姉さんは私に何でも打ち明けてくれるんです」
筑摩「私の利根姉さんは私を頼りにして甘えてくれるんです」
筑摩「私の利根姉さんは私にやさしく微笑んでくれるんです」
筑摩「私の利根姉さんは私のことを可愛がってくれるんです」
筑摩「私の利根姉さんは私をいつも気にかけてくれるんです」
筑摩「そうですよね、利根姉さん?」ニコッ
利根「……っ」ゾクッ
筑摩「そう、ですよね?」
利根「……」ジリッ
343 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:12:19.96 ID:Zv5Aj/0to
筑摩「大好きな大好きな利根姉さん」
筑摩「いつも前向きで朗らかで」
筑摩「ちょっぴりせっかちで子供っぽくて」
筑摩「私とずっと一緒にいてくれる」
筑摩「利根姉さんは、そういう艦娘ですよね?」
利根「……ちく、ま……」
筑摩「ですよね、利根姉さん?」
利根「ち……」
筑摩「私の利根姉さんは、きっと『さすが筑摩じゃ、よくわかっておるな!』と、褒めてくれるんです」
筑摩「そうですよね?」ズイ
利根「……」ビクッ
利根(筑摩の目が……どこかで……)
ドクン
利根「……あ」
――利根
利根「……ア……!」ガクガク
利根(貴様は……M提督……!?)ヘナヘナ ペタン
344 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:13:05.17 ID:Zv5Aj/0to
利根「……い、や……」ズザッ
筑摩「利根姉さん……!?」
利根「……く……るな……」ガタガタ
利根「……こ、な……いで……く、れぇ……!」ブルブルガタガタ
筑摩「え……!? ねえ、さん……!?」
――なんだ、つれないな。どうして逃げるんだ?
利根「っひ、ひぃいいいい!!」ズザザッ
――いいぞ、もっと怯えた顔を見せてくれ
利根「い……や……!」ボロボロボロ
利根「……もう……い……イ……」パクパク
利根(息が……声が、出ない……!)
利根「……ア……ガ……!」ピクピク
――どうしたんだ? 元気がないな
利根(来るな……来る、な……!!)
筑摩「姉さん、どうしたんですか!? 姉さん!?」ユサユサ
――利根は可愛いな、ふふふ……
利根(来ないでくれぇ……!!)
利根「……ッ…………ッ!」フルフル
筑摩「利根姉さんっ! しっかり……!」
利根「…………グ……ゲ……!」ガクンガクン
筑摩「なんで……どうして!? 姉さん! 姉さんっ!!」
扉<ガチャガチャッ
提督の声「くそ、鍵かかってやがる! おい筑摩開けろ! いるんだろ!!」ドンドン
筑摩「!」
345 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:14:34.65 ID:Zv5Aj/0to
* 入渠ドック内 医務室 *
利根「」スー…
明石「利根さんには鎮静剤を打ちました。今は薬も効いて落ち着いたようです」
提督「そうか」
扉<コンコン
武蔵「提督……!」ガチャ
提督「!」
武蔵「提督、申し訳ない……! この武蔵、不覚を……」ドゲザ
提督「やめろ武蔵、土下座なんかしてんじゃねえぞ。ほれ、立て」グイ
武蔵「し、しかし、私のせいで利根が……」
提督「筑摩の利根に対する執念が強すぎたんだ。俺の筑摩に対する見込みが甘かったんだよ、お前のせいじゃねえ」
提督「それとも、お前の練度が高けりゃ確実に防げてたってか? そうやって自惚れてたらもっと結果は酷くなってただろうな」
武蔵「くっ……」
ゾロゾロ…
龍驤「……利根、少しは落ち着いたんかな?」
提督「ああ、なんとかな。急だったのにありがとな」
346 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:15:19.87 ID:Zv5Aj/0to
雲龍「もっと早く捜せれば良かったんだけど……」
長門「提督、すまない……」
提督「しょうがねえよ、気にすんな。白露、筑摩はどうしてる」
白露「工廠へ連れてってからもずーっと動けないでいるよ。五十鈴さんが来てからも俯いたまんまだし……」
白露「ねえ、利根さんが前の鎮守府で殺されそうになったって本当なの?」
提督「まあな。ただ、寝てるとはいえ、利根の前で話すわけにもいかねえ。みんな工廠へ移動してくれ」
長門「……わかった」
ゾロゾロ…
提督「明石、利根を任せていいか?」
明石「はい、お任せくだ……」
利根「……かし……」ボソッ
明石「! 利根さん!?」
利根「……」ボソボソ…
明石「……提督。利根さんが提督と二人だけでお話ししたいそうです」
提督「俺とか? ……わかった」
347 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:16:04.77 ID:Zv5Aj/0to
提督「明石、工廠にいる奴らに利根の鎮守府の事件のこと、軽く話せるか?」ヒソッ
明石「……わかりました。本営が出した資料で説明します」スクッ
提督「頼む」
スタスタ パタム
提督「……」
利根「」スー…
(利根のベッドのわきの椅子に提督が座る)
提督「……」
利根「」スー…
提督「……利根? 寝てんのか?」
利根「……すまぬが……眠ったままで失礼するぞ、准尉」
提督「あ、ああ、そりゃ構わねえが……?」
提督(利根が俺を呼ぶときは『提督』って呼んでたよな?)
利根「吾輩は……いや、違うな。吾輩『たち』は利根である」
提督「たち……?」
348 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:16:50.42 ID:Zv5Aj/0to
利根「うむ。吾輩たちは利根ではあるが、貴様の知る利根ではない。吾輩たちは、M提督に殺された利根たちの魂だ」
提督「!!」
利根「吾輩たちはもとは5人であったが、今では自他の区別がつかん。もはや一人のようなものではあるが……吾輩たちと呼ぶ方がしっくりくる」
提督「雲龍が言ってた、利根に複数の霊が取り憑いているっていう話は、お前たちのことか……」
利根「ほう、吾輩たちの気配に感付いていたか。なれば今後は雲龍に助けを呼ぶべきか」
利根「過去にも何度か貴様に声を送ったが、まともに聞こえたのは一度か二度かであったからの」
提督「川内の様子がおかしいって警告してた時か?」
利根「いいや? さすがに覚えてはおらんか。朧が弱って取り憑かれたときに声をかけたのだが」
提督「あのとき、俺の部屋に出たやつか……!」
利根「……うむ、どうやらかろうじて声は届いておったようじゃの」
利根「神通に川内の異常を伝えたときは、こうやって眠っている利根の体を借りて神通に伝えたのだ」
利根「宿主であるこの利根から離れてしまうと、吾輩たちの力も弱まってしまうのでな。あの晩は運が良かった」
提督「……」アタマオサエ
利根「む、准尉よ、大丈夫か?」
提督「ちょっといろいろ頭が追い付かねえだけだ。まさか幽霊と話すことになるとは思いもしなかったぜ」
利根「なに、少し変わった妖精だと思えばよかろう。深く考えても埒は開かんぞ」
提督「……」
349 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:17:34.90 ID:Zv5Aj/0to
利根「さて、准尉よ。話というのは他でもない筑摩のことだ」
利根「利根がこのような事態になったのは、今回の件に限っては残念ながら筑摩がきっかけである」
利根「筑摩の利根を見る目が、M准将の目と同じであった。それゆえに利根はあやつを思い出し、錯乱したのだ」
提督「……フラッシュバックってやつか? 不知火が言ってたな」
利根「かくいう吾輩たちもM准将には酷い目に遭わされたが、この利根程ではない」
利根「この利根は、理不尽な責め苦の末に一度感情を手放しておる。壊れたところに体を焼かれ、挙句その身を食われそうになったのだ」
提督「食……!? それで、あの火傷の痕かよ……!」
利根「そんな相手が、吾輩たちに大真面目に愛を囁いておったのだから、まともでおられぬのは当然よな……」
利根「そして筑摩も同様に不憫である。この利根に対する愛を注ごうにも、その相手が愛に怯えてしまうのではな」
利根「ゆえに准尉、貴様に頼みたい。この利根と、筑摩を、どうか助けてやってくれ」
提督「……」
利根「……」
提督「助けてやれ、ってか」
利根「ああ」
提督「……」
350 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:18:20.16 ID:Zv5Aj/0to
利根「准尉……!」
提督「くあぁ、ああわかったよ面倒臭えな、くそっ。やるよ、やってやるよ、くっそ苦手分野な話だけどな……!」
利根「……!」
提督「で、一応訊くが、お前らはなにもしないんだな?」
利根「死んでいる吾輩たちの存在は混乱の種にしかならんよ。特に筑摩には気付かれるわけには行かぬな」
利根「吾輩たちも直接筑摩を助けたい気持ちはあるが、死者は生者の愛に応えてはならんのだ。生きている者を『こちら』に招いてしまう」
提督「幽霊がこの世に長いこと留まってると、人に害をなすとか雲龍が言ってたが……」
利根「おそらくは、死者が生者を羨むがゆえ、であるな。生きている者に対する嫉妬によって恨みが増すのだろうよ」
利根「そこへいくと吾輩たちは逆じゃな。日々利根とともに艦娘としての役割を疑似体験させてもらっておる」
利根「5人分あった怨念が日々の生活体験によって満足しておるのでな、六割か七割くらいは成仏したようなものじゃ」
提督「残りの三割はなんだ? まだ恨みがあるのか?」
利根「未練……じゃな。こうやっておぬしたちと吾輩たちがコミュニケーションを取れないのは、それなりにストレスになっておる」
利根「M准将とは真っ当な話もできなかったのだ。貴様とこうして会話できること自体、望外の喜びでもある」
提督「……」
利根「まあ、それはさておいてだ……あの筑摩を普通に説得するのは難しそうじゃの」
351 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:19:50.02 ID:Zv5Aj/0to
利根「吾輩たちの見立てでは、憧れが強すぎたが故に、筑摩は自分の中に理想の利根を作ってしまっておる。此度の暴走もおそらくそのためか」
利根「利根は利根で自らの弱みを筑摩に見せたり、心配させるのが恥ずかしいと思っておる。この体の傷も隠し通したいと思っているようじゃ」
提督「体の傷は筑摩だけに限ったわけじゃねえと思ってるがな。あれを他人に見せるのは相当に勇気がいるんじゃねえか?」
提督「利根もだいぶ落ち着いたと思うが、あの出来事を利根の口から誰かに話せちゃいないだろ」
利根「うむ……いずれにしても、説明や説得もなしに筑摩がこの利根へのスキンシップを止めるとは思えんな」
利根「同衾どころか風呂にも迫ってくる程だ、あの筑摩は少々クサレの気が見える。吾輩たちとしても心配である」
提督「腐れ……?」
利根「クレイジーサイコレズの略じゃぞ。男性の同性愛を好むことを『腐る』と言うこともあるようじゃが」
提督「……どっから仕入れてきてんだその知識」ヒキッ
利根「余所の艦娘が差し入れとして持ってきた、段ボール箱いっぱいの春画本からじゃな」
提督「卯月かよ……!」アタマカカエ
利根「貴様は好かぬかもしれんが、年頃の娘が集まれば姦しくもなる。見逃してやるが良い、貴様が同衾を許すのと同じ、いわばガス抜きじゃ」
提督「別に取り上げたりしねえよ……俺が巻き込まれなきゃあいいんだがな」
352 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/01/26(火) 23:24:47.40 ID:Zv5Aj/0to
利根「冗談はさておき、筑摩の利根に対する執着は相当なものだ。なんとかうまい落としどころを考えて欲しい」
提督「……落としどころねえ……」
利根「貴様は不器用ながらも人を案じてくれるし、それよりなにより運が良い……」
提督「運……?」
(利根の顔が提督の方を向き)
利根「でなくば吾輩たちと話すこともなかったであろうからな……!」
提督「……!」
(ゆっくりと開かれた利根の両目が青白い光を放っている)
利根「ふふふ……頼むぞ准尉。吾輩たちは草葉の陰から応援しておるぞ」
提督「……っ!」
利根「ではな……さらばだ、准尉……」
(目を開いたときと同じように、利根がゆっくりと目を閉じて、そのまま眠りにつく)
提督「……ったく。草葉の陰、か……幽霊が言うなよ、洒落が効きすぎだ」ハァ
利根「」スー…
提督「……良く寝てやがる。いっそ暁みたいに忘れられりゃ楽なんだろうけどな……体の傷もあることだし、そうはいかねえか」ハァ…
提督「とにかく、筑摩をなんとかしねえとな……」
353 :
◆EyREdFoqVQ
[saga]:2021/01/26(火) 23:25:51.75 ID:Zv5Aj/0to
今回はここまで。
354 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/01/27(水) 01:48:14.04 ID:bFb2lNbU0
乙です
355 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/02/06(土) 13:01:24.40 ID:DOuvdaS5o
続きです。
356 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/02/06(土) 13:02:16.88 ID:DOuvdaS5o
* 工廠 *
鉄扉<ゴンゴン
提督「……話は終わったか?」ギィィ
明石「あ、提督!」
長門「まあ、あらかたの話は終わったぞ……」
提督「……? やけに空気が重てえな」キョロ
白露「ちょっと提督! 聞いてるだけで鳥肌立ってきたんだけど!」ブルブル
武蔵「ああ、まったくもって信じられん……!」ガタガタ
黒潮「ほんま、洒落ならんて。五月雨なんか気分悪くしてずっとこんなんや」アオザメ
五月雨「……」ウズクマリ
提督「黒潮たちも来てたのか……って、何したらこんなことになってんだ?」
明石「不知火ちゃんから預かってた資料が思いのほかグロくて……」
提督「おいおい、こりゃ見せちゃ駄目なやつだろ。なんでこんなガチな資料貰ってきてんだよ、不知火のやつは」
明石「ですよねえ……軽い気持ちで見たらいきなりこれだから、びっくりしましたよ」
提督「これじゃ別のトラウマ産み付けかねねえぞ。精々におわす程度の話で済ませたかったんだ」
357 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/02/06(土) 13:03:01.46 ID:DOuvdaS5o
龍驤「キミもしかして、こうなることを予想しとったんやな?」
提督「ああ、知って気分のいい話じゃねえからな、さらっと流したかったんだが」
龍驤「うん……ま、そうなんやろなあ」チラッ
雲龍「」カチーン
龍驤「雲龍なんか、あんまりな話やったから固まって動かなくなってしもたんよ。ほら、起きやー?」ホッペムニー
雲龍「……あ」ムニー
提督「お、帰って来た。雲龍、大丈夫か」
雲龍「ごめんなさい、頭が理解するのを拒否していたわ……何の話だったかしら」
提督「まあ、これもある意味正しい反応だよな……」チラッ
筑摩「……」ウナダレ
提督「筑摩は動けねえか。さて……長門、五月雨と白露は休ませて欲しいんだが、任せていいか?」
長門「あ、ああ」
五月雨「い、いえ、私は、だいじょう……うぶっ」ヨロッ
提督「そんな真っ青な顔して大丈夫なわけねえだろ。いいから休んどけ」
358 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/02/06(土) 13:03:46.89 ID:DOuvdaS5o
白露「あ、あたしは大丈夫だよ!?」
提督「かもしれねえが大事は取っとけ。さっきまで俺を背負って猛ダッシュしてたんだ、大人しくしてろっての」
白露「うー……」
提督「黒潮もありがとな、非番だってのに駆けずり回ってくれて」
黒潮「うちはええよ〜」ヒラヒラ
提督「さてと……」
筑摩「……」
提督「おい、筑摩」
筑摩「」ビクッ
提督「とりあえず利根の事情は理解できたか?」
筑摩「ど……して……」
筑摩「私は……たた利根姉さんと一緒にいたかっただけなのに」
筑摩「どうして利根姉さんがあんな目に遭っていたんですか!」
筑摩「利根姉さんは、なにも悪いことをしてないじゃないですか!?」
筑摩「これじゃ……これじゃ利根姉さんが可哀想です……!」
提督「……可哀想、ねえ」
359 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/02/06(土) 13:04:46.82 ID:DOuvdaS5o
筑摩「提督!? なんでそんなあきれたような言い方をするんですか!?」
提督「利根が錯乱したのはお前のせいじゃねえのかよ」
筑摩「どうしてですか!? 私は何も知らなかったんですよ!?」
提督「知っていようがいまいが関係ねえよ。それを言ったらここにいる連中も知らなかったんだぜ?」
提督「だいたい夕べも、過度なスキンシップはやめろって利根から言われたよな? お前がそれを聞き入れてりゃあ良かったんだよ」
筑摩「そ、それは照れているだけだと……!」
提督「手前の都合のいいように解釈してんじゃねえよ。それが間違ってたから結果こうなったんじゃねえか」
提督「利根の錯乱を防ぐ術はあった。利根がお前を拒絶したのは、その予兆があったからだ」
提督「利根がああなったのは、お前がその警告を聞き入れず、お前が自分の欲を満たすことを優先した結果だろうが」
筑摩「……っ!」
提督「ただ、利根が何も悪いことをしていない、というのには同意する」
提督「こればっかりは、生まれてきた場所が悪かったとしか言い様がねえ」
筑摩「利根姉さんは、そんなこと、言わなかったのに……」
提督「言えるかよこんなこと。自分の口から話せるようになってたら、思い出してぶっ倒れたりしてねえよ」
筑摩「なんて……私は、なんてことを……!」ウナダレ
提督「……」
360 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/02/06(土) 13:05:31.80 ID:DOuvdaS5o
筑摩「……死んでしまいたい……」ポツリ
提督「そうかよ、好きにしろ」
武蔵「!?」
提督「どこへでも行って野垂れ死ね」
黒潮「!?」
龍驤「うおおおおい!?」
五十鈴「ちょっと!? 提督何を言ってるの!?」
提督「あぁ? 死にたいなら死ねって言ってるだけだぞ」
明石「また始まった……」アタマカカエ
武蔵「て、提督! 貴様、筑摩にフォローのひとつも入れてやれないのか!?」
提督「なんでだよ面倒臭え」
黒潮「」
五十鈴「」
雲龍「面倒……?」ドンビキ
龍驤「お、おお……アカン、もう本当にアカンわこの人……」クラクラ
武蔵「……い、い、言うに事欠いて面倒とは……っ!!」
明石「あー、武蔵さん、この程度でこの人に怒ってたら身が持ちませんよ」
武蔵「し、しかしだな……!」
361 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/02/06(土) 13:06:16.41 ID:DOuvdaS5o
明石「提督。ここに来る前に利根さんと話をしてきましたよね?」
明石「利根さんは筑摩さんについて、なんと言ってたんですか?」
提督「ああ? 利根たちからなら、筑摩を助けて欲しいと言われたさ。だが、筑摩がこんなこと言い出すようなら……」
筑摩「利根姉さんが言うなら生きます!!」シャキーン
提督「……」
明石「……」
筑摩「私は死にません! 利根姉さんが悲しむようなことはしません!」
提督「……」
明石「……」
五十鈴「……なんか、ごめんなさい」
武蔵「ま、まあ、いきなり死ぬとか言い出してびっくりしたが、良かったんじゃないか? なあ?」
提督「そいつはどうだろうな? 今んとこ、自分に都合のいい言葉しか拾ってねえぞ、筑摩の耳は」
明石「でも、提督は利根さんから助けて欲しいと言われたんでしょう?」
提督「……言葉ではそう言えても、実際はどうだかな」
武蔵「どういう意味だ?」
提督「見てりゃわかるさ。武蔵、悪いが明日以降も利根たちの様子を見ててくれ」
武蔵「あ、ああ……」
362 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/02/06(土) 13:07:01.48 ID:DOuvdaS5o
* 翌日の昼 執務室 *
提督「ま、当然だろーな」
武蔵「貴様はわかってて好きにさせたのか?」
提督「説明するよか早え。利根の精神状態が今どうなってるか、これ以上なくわかったろ」
武蔵「確かにそうだが……」チラッ
筑摩「……」ションボリ
提督「昨日あんだけ派手に利根を怯えさせたんだ、利根には避けられて当たり前だろ?」
提督「あいつのトラウマは俺たちが理解できるほど浅くねえぞ。昨日の今日で構ってもらえたら奇跡だと思ってるぜ俺は」
武蔵「……何かいい方法はないのか?」
提督「ないな。俺は、時間をかけて忘れさせてやるのが一番いい方法だと思ってる」
提督「利根に無理させてますますぶっ壊れたらどうするよ? 原因作ったのは筑摩なんだから、筑摩が退くのが筋だろ」
武蔵「む、むう……!」
提督「とりあえずもう昼だ。おとなしく食堂行って飯にしとけ」
筑摩「……利根姉さんが……」ボソッ
提督「!」
363 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/02/06(土) 13:07:46.87 ID:DOuvdaS5o
筑摩「……利根姉さんが、昼餉を取り終わってから……食堂に行きます……」
武蔵「筑摩……!」
提督「そうか。立ちっぱなしも疲れるだろ、ソファに座って待ってな」
筑摩「……はい……ありがとうございます……」ユラ…ストン
武蔵「おい! 筑摩がまるで幽霊みたいで見ていられないぞ……!」
提督「そうか? 利根のことを考えられるようになった分、昨日よりだいぶマシになったと思うがな」
武蔵「そ、そうかもしれないが……!」
提督「ところで利根はどうしてる」
武蔵「今は古鷹と朝雲と一緒に食堂に行っているはずだ。食べ終わったら気晴らしに散歩に連れて行くと古鷹が言っていた」
提督「……朝雲がいるんなら、心配しなくても良さそうだな」
武蔵「そこは古鷹じゃないのか?」
提督「古鷹もお節介焼きが過ぎるところがあって危なっかしいからな。おそらくこの島で一番常識人なのは、俺の感覚では朝雲だぞ」
武蔵「そうなのか!?」
提督「この島に着任した艦娘のほとんどが轟沈させられたり、前の鎮守府の事情で追い出されたり逃げざるを得なかったり……」
提督「ま、いろいろあるんだよ。朝雲はその中でも比較的、傷が浅いほうだと思ってる」
364 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/02/06(土) 13:08:31.53 ID:DOuvdaS5o
提督「明るいし気遣いができるし面倒見もいいし……如月みたいにべたべたくっついてきたり、朝潮みたいに俺を盲目的に全肯定しないのもいい」
提督「おかげでここじゃあ苦労人ポジションになっちまってるけどな」
電話<RRRR...
提督「うん? 内線か。執務室だ」ガチャ
通信『もしもし、大淀です。提督、そちらに筑摩さんと武蔵さんがいらっしゃいますね?』
提督「おう」
通信『そちらにこれから昼餉をお弁当にしてお持ち致します』
提督「なに?」
通信『朝雲さんから事情は聴きました。利根さんと筑摩さんが鉢合わせしないようにするのなら、この方法が無難だと思いますが』
提督「気が利きすぎだろ……ありがたいけどよ」
通信『お弁当は提督の分も含めて3人分でよろしいですね?』
提督「ああ、悪いが頼む」
通信『はい。お任せください』
チン
提督「というわけで、朝雲の提案で大淀が弁当を持ってきてくれるそうだ」
武蔵「……」
365 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/02/06(土) 13:09:17.16 ID:DOuvdaS5o
*
提督「……やっぱり、しばらくは筑摩が我慢するしかねえな」
武蔵「やはりそうなるか……応急処置にしても、なかなかいい方法がないものだな」
扉<コンコン
大淀「失礼します、お弁当お持ちしました」ガチャ
提督「おう、気を使ってもらって悪いな」
大淀「いえ」ニコ
提督「おい筑摩、お前も飯は食っとけよ。何かあったときに動けねえのは困る」
筑摩「……はい……」
武蔵「なんというか、痛々しくて見ていられないな……」
提督「なんならお前が利根の代わりになってみるか?」
武蔵「は……!?」
大淀「……似合いませんね……」ウーン
武蔵「何を想像してるんだ大淀!?」
筑摩「……」ジッ
武蔵「いや、そんなふうに見つめられても多分代わりは務まらんぞ!?」
シレイ! シレイー!
提督「!」
武蔵「この声は……!」
朝雲「司令っ! 大変よ大変!!」バンッ
提督「朝雲……!? なんだ、利根か!?」
筑摩「!」ガタッ
朝雲「利根さんじゃないわ、古鷹さんが……!」
提督「古鷹!? なんでそっちが大変なんだよ!?」ガタッ
366 :
◆EyREdFoqVQ
[saga]:2021/02/06(土) 13:10:06.39 ID:DOuvdaS5o
短いですが、今回はここまで。
367 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/02/06(土) 15:49:22.93 ID:JesVH9Tw0
乙です。
368 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/03/06(土) 08:43:29.50 ID:+uHD5SDm0
ほしゅ
369 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/03/10(水) 18:40:26.43 ID:lsIJ9jGy0
保守
370 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:05:32.37 ID:Apnnl4pjo
保守ありがとうございます。
体調崩していました、すみません。
おかげでうーちゃんと衣笠さんを取り逃がし……。
衣笠さん……ああ、駆逐艦衣笠さん……じゅうごまん……。
続きです。
371 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:06:24.66 ID:Apnnl4pjo
* 北東の砂浜 *
朝雲「こっちです!」タタタッ
提督「まだ息があるんだな!?」タッタッタッ
朝雲「はい!」
武蔵「おい、良かったのか!? 筑摩まで連れてきて!」タタタタッ
筑摩「……」タタタタッ
提督「四の五の言わずに今は手伝え!」
武蔵「……勝手なことを……!」
朝雲「いた……! 古鷹さん!」
古鷹「しっかり! しっかりしてえええ!」ウワーン
利根「おお! 来たか、ていと……!」ビクッ
筑摩「……っ」
提督「おい古鷹!」
古鷹「! 提督……! 加古が……加古が大変なんです!!」グスグス
加古(大破)「……」グッタリ
372 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:07:19.12 ID:Apnnl4pjo
提督「倒れていたのはこいつだけか?」
利根「い、いや……向こうにも、もう一人おる」
提督「武蔵、頼む。まずは入渠させるぞ、連れてくることができそうなら、そうしてくれ」
武蔵「む……わかった。利根、案内してくれ!」
利根「あ、ああ」
古鷹「加古、目を覚ましてええええ!」ウワーン
朝雲「古鷹さん落ち着いて!」
古鷹「で、でも!」
提督「古鷹、少し下がってろ。おい、加古っつったな?」
加古「……い」
提督「ん?」
加古「……ねむい……」ムニャァ
提督「……」
373 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:08:03.74 ID:Apnnl4pjo
加古「……おねがい……おねがいだから……ねかせてぇ……」
提督「……」
古鷹「ちょっ、眠っちゃ駄目ぇぇぇ!!」ウワーン
提督「……」アタマオサエ
朝雲「し、司令、どうしよう……?」
提督「こいつが寝るっつってんだから寝かせてやるしかねえだろ。ここで寝かせるわけにはいかねえけどな」
武蔵「提督、連れてきたぞ」
(武蔵にお姫様抱っこで抱えられている鳥海)
提督「ん……衣装が摩耶と同じか?」
武蔵「おそらく彼女は高雄型重巡の鳥海だ。気を失っているだけのようだが、無理に起こす必要はないな?」
提督「ああ、起こさなくていい。そのまま運べそうなら、そのままドックまで運んでやってくれ」
武蔵「わかった。こちらは任せておけ」スッ
374 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:08:49.20 ID:Apnnl4pjo
提督「それからこっちは……」
古鷹「加古ーー! しっかりしてぇぇぇ!!」ユサユサ
加古「うあぁあぁあ〜!?」ユサユサ
提督「……」
朝雲「あ」
バッヂィィィン!
古鷹「いったぁぁぁぁああい!?」ブットビ
朝雲(重巡でもぶっとぶんだ、あのでこぴん……)タラリ
提督「少し落ち着けこの馬鹿たれ! ったく……筑摩!」
筑摩「!」ビクッ
提督「加古を背負ってドックまで行けるか? 古鷹があれじゃ心配すぎる」
筑摩「……」チラッ
利根「!」ビクッ
筑摩「……」シュン
提督「筑摩、どうだ。頼めるか?」
筑摩「……わかりました……」コク
375 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:09:34.44 ID:Apnnl4pjo
提督「よし。ほれ加古、眠れる場所に移動するぞ」
加古「むにゃあ……」ムクッ
朝雲「あ、筑摩さん手伝います!」
古鷹「いたた……提督、なにをするんですか!」プンプン
提督「そりゃこっちの台詞だ、眠てえっつってんだからドックで好きなだけ寝かせてやれってんだよ」
提督「わかったら筑摩と朝雲手伝え。とっとと加古を入渠させろ」
古鷹「は、はい!」タッ
提督「さてと……利根、あとは他に誰もいねえんだな?」
利根「……う、うむ……」
提督「……」
利根「……」
提督「……おい」ズイ
利根「な、なんじゃ?」
ガシッ
利根「な、なにをする提督!? 手を離さんか!」アタマツカマレ
376 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:10:19.20 ID:Apnnl4pjo
提督「利根。お前は、俺が怖くないのか?」
利根「き、貴様は理由もなく他人を襲ったりせんだろう!」ジタバタ
提督「……」
利根「どうせこれも、筑摩のことを考えてのことじゃろう! 吾輩とてそこまで愚鈍ではないわ!」ンギギ…
提督「ふん……察しがいいのも困りもんだな」パッ
利根「や、やっと離したか、この馬鹿力め……ううむ、嫌な汗をかいたぞ」
提督「やっぱり怖かったんじゃねえのか」
利根「吾輩はまだ貴様の本気のアイアンクローをくらったことがないからな。未知の体験に少々緊張しただけである」
提督「それを怖いっつうんじゃねえのか。素直じゃねえな」
利根「貴様にだけは素直じゃないなどと言われたくないぞ! まったく……」
提督「ふん、元気そうだな。余計な心配だったか?」
利根「……そういうわけでもない。不本意極まりないが、筑摩の姿を見ると足がすくんでしまうのは認めざるを得ん」
利根「明石にも詫びを入れねばならん。せっかく作ってくれた個室の風呂も、怖くて入れなくなってしまったからな……」
提督「……」
利根「このままでは駄目なのは理解しておる。筑摩とも仲直りして、古鷹のように心配しあえる仲に戻らねばならん」
提督「……俺はドックに行くつもりだが、利根はどうする」
利根「うむ……吾輩も参ろうか。いつまでも目を背けてはおれん」
利根「いずれは筑摩と……この海を征きたいからな」
提督「……」
377 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:11:04.02 ID:Apnnl4pjo
* 一方の入渠ドック *
古鷹「加古は大丈夫かなあ……」ウロウロ
朝雲「もう、大丈夫だって明石さんも言ってたでしょ? 古鷹さん心配しすぎ!」
筑摩「……」
朝雲「筑摩さんがいて本当に良かったわ……ありがとうございます!」
筑摩「……いいえ……できることを、したまでだから……」ニコ…
朝雲「あの、筑摩さん、大丈夫なんですか? すごく元気がないですけれど」
筑摩「……利根姉さんには、本当に申し訳ないことをしたから……」
筑摩(……)
提督「今の筑摩は利根に警戒されてる。弁明どころか声をかけられただけで利根は逃げてくだろう」
提督「だったら筑摩が利根に危害を与えることはないことを証明し続けるしかねえ。あえて利根に姿を見せてな」
提督「だから、利根がいても絶対に筑摩からは近づくな。利根の方から近づいてくるまで、絶対にコンタクトを取ろうとするな」
提督「挨拶せざるを得ない状況でも、会釈までで我慢しろ。それができなきゃ、あの利根とは二度と話ができねえと思え」
提督「自分に危害を加えてきた奴が、どうやったら許せるか考えてみろ。多分、ひたすら頭を下げるしかねえんじゃねえか?」
提督「そして絶対に害意がないことを態度で示して、それで許せるかもしれない、って心変わりを待つしかないと思うぜ」
筑摩(……)
378 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:11:48.98 ID:Apnnl4pjo
朝雲「……利根さん、ここに来た頃は本当に元気なかったから……筑摩さんもそんな感じだと、心配です」
筑摩「……大丈夫。きっと……大丈夫になってみせるわ。姉さんも、そうだったんでしょう?」
朝雲「はい……!」
筑摩「そうね……利根姉さんを見習わないと」
古鷹「う〜……」ウロウロソワソワ
朝雲「ああもう、古鷹さんは落ち着いてー!」
扉<チャッ
武蔵「古鷹はまだ落ち着かないのか? それで加古が元気になるわけではないぞ」ヌッ
朝雲「武蔵さん……!」
武蔵「気持ちもわかるが、今はゆっくり休ませてやれ。加古に無理をさせて怪我を悪化させるのは古鷹の望むところではないだろう?」
古鷹「は、はい……」シュン
提督「だがまあ、今回の古鷹の心配は仕方ないと言えば仕方がないな」スッ
利根「うむ……」
古鷹「提督……利根さんも!」
摩耶「よっ。あたしも来たぜ」
朝雲「摩耶さん!」
379 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:12:34.80 ID:Apnnl4pjo
提督「摩耶にはあの艦娘が鳥海かどうかを確認してもらったんだ」
摩耶「まったく、びっくりしたぜ。明石からは鳥海も加古も助かるって言ってたから良かったけどさ」
武蔵「摩耶は落ち着ているな」
摩耶「そりゃあ、あたしが騒いだって鳥海が元気になるわけじゃねーからなあ。元気になってから、ゆっくり話を聞くさ」ニッ
古鷹「あ、あうう……す、すみません、私もそうします……」ショボン
摩耶「ああ、そうしたほうがいいぜ。でなきゃ、誰をぶちのめさなきゃいけねえか、聞き出せねーもんな!」バキバキ
朝雲「それはそうかもしれないけど!?」
利根「う、うむ……仇討ちが目的というのもな……」
提督「そうか? 俺はいいと思うが」
武蔵「ああ、同感だ」ウンウン
摩耶「だよな!」パァッ
朝雲「あーそうだったわ……武蔵さんも武闘派だし、司令もやり返さないと気が済まない人だったわ……」アタマカカエ
提督「そうじゃなくても無理もねえよ。加古と鳥海は轟沈してるらしいんだからな」
朝雲「え?」
筑摩「沈んだん……ですか!?」
380 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:13:19.18 ID:Apnnl4pjo
提督「明石の見立てではな。二人に当時の状況を聞かないと確定はできねーが、全身ずぶ濡れだったことを考えると、沈んでた可能性も否定できねえ」
提督「特に加古は足元の艤装の損傷がひどい。航行不能な状態になっていたからこそ、古鷹も狼狽えてたんじゃねえのか?」
古鷹「はい……!」
提督「まあ、あとは重巡がふたりも轟沈してるっつうのが気に入らねえ。何したらそんな被害になるんだ?」
武蔵「うむ……余程の無理をしない限り、2隻沈むというのは考えられないな」
提督「なんにしてもだ、目が覚めたらあいつらに生きる意志があるかどうか確認しねえとな」
武蔵「なんだそれは? せっかく助かったのに死にたいなんて言う艦娘がいるのか?」
提督「いたら困るから訊くんだよ。死にたい奴を助けて後から文句言われたくねえ」
筑摩「……あの……」
提督「ん?」
筑摩「あくまで老婆心ですが……加古さんをこちらへ運ぶ際に、死ぬほど寝たいと言っていましたので……誤解のないようにお願いします」
提督「なんだそりゃ? そんなに寝たかったのか、あいつ」
筑摩「いえ、その……もともとだと思います。前の鎮守府にいた加古さんも、暇さえあればお昼寝していましたから」
提督「……マジか」
古鷹「聞く限りはそうみたいなんです……」ハァ…
朝雲「L提督の鎮守府にいたときは加古さんいなかったから、写真でしか見たことなかったんだけどね」
381 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:14:08.72 ID:Apnnl4pjo
筑摩「私が知る限りでは、任務中もあくびしながら航行していたのは珍しくありませんでした」
筑摩「そういう意味で不真面目に見られていましたが、戦闘では真面目でしたよ。効率よく確実に戦うことを信条にしてましたから」
提督「ふーん……」
摩耶「もしかして、寝る時間を増やしたくて真面目に戦ってたとかか?」
全員「「!?」」
朝雲「そういう考えもあり得るわね……」
古鷹「そ、そんなわけないですよね!? ね!?」オロオロ
筑摩「……」メソラシ
古鷹「筑摩さん何か言ってぇぇぇ!?」ガビーン
提督「昼寝のために全力を出すってか……いいなそれも」
武蔵「いいのか!?」
提督「悪くはねえだろ。自分が後で楽になるために、今を一生懸命になるのはいいことじゃねえか?」
武蔵「……いや、まあ、確かにそうだが」
382 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:14:49.00 ID:Apnnl4pjo
提督「とりあえず寝るのが大好きだったんだな、お前がいた鎮守府の加古ってのは。じゃあ、鳥海はどんな奴だった?」
筑摩「そう、ですね……真面目を絵に書いたような艦娘でした」
筑摩「性格的には霧島さんに近い感じですが、普段は物静かで、こちらの摩耶さんとは対照的ですね」
提督「ふぅん……物静かで霧島に似てる、ねえ。言葉遣いはどうなんだ?」
筑摩「……丁寧で穏やか、大人しいといった印象です。荒っぽい感じはありません」
摩耶「あたしと違ってお淑やからしいからな、鳥海は!」フフン!
提督「……何でお前が威張ってんだ」
摩耶「ああ!? 自慢しちゃあいけねえのかよ、くそが!」
提督「お淑やかなのを自慢するんなら、そのお前の最後の一言はなんとかなんねえのかよ」
摩耶「んぐ……あ、揚げ足取りやがって。お前だって似たようなもんだろ!? ちょっとウザいぞ!」
提督「へーへー。まあいいや、ここへ流れてきた二人の性格がその通りかどうかも、まだわかんねえからな」
提督「早いとこ目を覚ましてもらって直接話を聞けりゃ、古鷹の心配も多少はなくなるだろ」
古鷹「は、はい、とにかく話ができるくらいに回復してくれれば、私も安心です」
383 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:15:34.14 ID:Apnnl4pjo
提督「じゃ、この場は明石に任せて、二人の回復待ちだな。武蔵、筑摩、戻るぞ」スクッ
朝雲「武蔵さんたちも戻るの?」
提督「昼餉がまだだからな。これだけ働かせて飯抜きはねえだろ」
筑摩「あ……!」
武蔵「……そういえばそうだったな。言われてみると確かに腹が……」
摩耶「あたしも戻るか。鳥海が目を覚ましたら、あたしにも声をかけてくれよ?」
提督「おう」
スタスタスタ…
筑摩「……」スクッ
利根「……」ジリッ
筑摩「……」スタスタ…
提督(利根はまだ筑摩に怯えてやがんな。こりゃ時間がかかるか……仕方ねえ)
384 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:16:19.21 ID:Apnnl4pjo
* 執務室 *
大淀「提督、お茶をどうぞ」コト
提督「ん……ありがとな」モギュモギュ
武蔵「それにしても、この短期間に4隻も艦娘が流れ着いてくるとは……」
提督「生きて4人は珍しいが、同時に何人も流れてくること自体はそんなに珍しくもねえ」
提督「新しい海域への攻撃が始まったとか、特別海域の攻撃命令が来たときとか、見たことない深海棲艦が現れたときとか……」
大淀「確かに、戦線に動きがあったときが多いですね」
提督「ま、そう考えると、場所や理由がバラバラでも、根っこを辿って行ったら原因は同じだった、ってのはあるかもしれねえな」
武蔵「ふむ……」ズズ…
提督「ただまあ、今回の筑摩たちの事情と、加古たちの状況は全然違うからな。別件と思っていいだろう」
提督「なあ大淀、不知火に頼んだ轟沈のリストはまだ来てないか?」
大淀「まだですね。おそらく明日以降になるのではないかと」
武蔵「轟沈艦のリスト? そんなもの何に使うんだ」
提督「公式に、筑摩たちが轟沈した扱いになってるかどうかを確認したい」
筑摩「!」
385 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:17:04.08 ID:Apnnl4pjo
提督「本営も一応は、各鎮守府で邂逅した艦娘の情報を収集してる。例えば艦娘が不法に取引されないようにな……それも怪しいもんだが」
提督「連中の本音はどうあれ本営は、各鎮守府の建造でも解体でも記録を取って、艦娘の在籍状況を逐一管理してるんだ」
提督「うちに流れてきた艦娘が元の鎮守府に戻していいかどうかも、それを見りゃあ判断できる」
武蔵「それは貴様が言っていた、轟沈した艦娘は元の鎮守府に戻れないという制約からか?」
提督「だな。リストに載りゃあ死んだも同然、戻ったところで解体だろう。それが嫌ならここに着任するか? って話になる」
提督「あとは身元確認の意味合いが強いな。その鎮守府の提督を要注意人物として把握しておきたい」
提督「そういや、筑摩は知ってたか? 昔、轟沈した艦娘が戻ってきて、ある日突然深海棲艦になって鎮守府が壊滅した話」
筑摩「……知ってはいますが、作り話だと思っていました……」
提督「知らないわけじゃない、か。ま、確かに、話が本当かどうかは確認してねえし、しようがねえな」
大淀「提督、この鎮守府はそれを確かめるために、轟沈した艦娘を運用する運びになったのではありませんでしたか?」
提督「それこそ建前ではな? そんなこと起こらねえと思ってるから油断しまくってるけどよ」
武蔵「では本音はなんだ」
提督「最初にこの島に轟沈してきた如月を、この鎮守府でそのまま運用するためだ。その後も轟沈艦が何人も流れ着いてきたし、結果的には正解だった」
提督「あとは、人間が俺たちに関わってこない環境を作りたかった。その条件は奇しくも中佐が御膳立てしてくれたわけだが」
筑摩「……どういうことですか?」
386 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:17:49.23 ID:Apnnl4pjo
提督「中佐は俺が邪魔なんだよ。俺が妖精と話ができるってのが、中佐にとっては相当に都合が悪いらしい」
提督「それで中佐は、こんな人の寄り付かないこの島に俺を幽閉して、誰も立ち入らないように手厚く手厚く保護してくれてるわけだ」
提督「ついでに艦娘が轟沈すると深海棲艦になるって噂も、真偽はどうあれ人を遠ざけるのにちょうどいいから遠慮なく利用してる」
提督「この島で轟沈した艦娘に自由を与えて、俺がその責任を取ると言えば、連中もノーとは言わないだろうさ」
筑摩「准尉は、それでよろしいんですか……?」
提督「ん? よろしいんじゃねえの? 俺は何も困らないぞ?」
筑摩「ええ……?」
提督「俺はそもそも人間と関わり合いになりたくないし、何より人間の勝手で轟沈した艦娘をそのままにしておく方が余程気分が悪い」
提督「そういう意味では、俺と中佐の利害が一致してるっつうのが気に入らねえが、そこは呑み込むとして」
武蔵「むう……」
提督「俺は基本、艦娘の味方だ。あいつらを見捨てた人間と同じになりたくないだけの……手前がかわいい身勝手な人間だよ」ハァ…
大淀「……それでどうして提督が落ち込むんですか」
提督「結局は自分のためなんだよなあ。よくよく考えりゃ、俺がいい気持ちになりたくて誰かを利用してんだよ」
提督「俺が救われたくて、俺に似た境遇のあいつらを助けようとしてるだけじゃねえか……」
387 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:18:33.91 ID:Apnnl4pjo
大淀「動機はどうあれ、ここへ来た艦娘が前の環境より良い境遇にあることは事実じゃないですか」
筑摩「そういう意味では、艦娘が自分の欲求を満たすため、未練を晴らすために提督を利用しているとも言えるのではありませんか?」
提督「それはいいんだよ。艦娘が俺を利用するのはいいんだ」
筑摩「失礼ですが、矛盾しています。それでは提督は、人間にも利用され、艦娘にも利用されることになるのではありませんか」
提督「……ああ、そういう意味か」ジロリ
筑摩「!」
提督「俺たちを利用した人間どもを、このままにしておくつもりはねえさ。いずれは、奴らも……!」ギリッ
筑摩「……!」ゾクッ
武蔵「提督……貴様!?」ガタッ
スパーン!
武蔵「」
筑摩「」
提督「……いてぇ……」
大淀「……」ゴゴゴゴ…
388 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:19:18.99 ID:Apnnl4pjo
武蔵「お、おい、大淀。お前、提督の頭をバインダーで思いっきり……」
大淀「ええ、叩きましたよ」ニコッ
武蔵「」
大淀「提督? これまでに何度も申し上げておりますけれど」ズイ
大淀「そのような不謹慎な発言は、くれぐれも、控えてくださいね?」ニコァ
武蔵(大淀が怖い)シロメ
筑摩「あの……い、いろいろといいんですか?」
大淀「本営の肩を持つ気はありませんが、提督の物騒な発言によって余計な波風が立つのを見過ごすわけにはいきません」
提督「……ったく、しゃーねーな……」ハァ…
扉<コンコンコン
霧島「霧島です。よろしいでしょうか」
提督「ん、いいぞ」
霧島「失礼致します」チャッ
提督(……なんか、霧島も殺気立ってるか?)
霧島「……摩耶の姉妹艦が流れ着いてきたそうですね?」
提督「おう。なんで流れ着いてきたかはわからねえから、鳥海の回復を待って事情聴取するつもりだ」
389 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:20:19.20 ID:Apnnl4pjo
霧島「……できれば、私も同席したいのですが」
提督「いいぞ。ただし、暴れるのは全部話を聞いてからだ」
霧島「!」
武蔵「……まあ、眉根にそんなしわを作っていては、提督にからかわれても仕方ないぞ」
霧島「顔に出ていましたか……失礼致しました」
提督「別にからかっちゃいねえよ、暴れたいんなら俺に断ってからにしろ。有耶無耶にしてやるからよ、俺ができる範囲で」
霧島「は、はあ……」
武蔵「提督、貴様が適当なことを言うから霧島がどう反応したらいいか困ってるぞ?」
提督「困るって言われてもな。俺の言葉は言葉の通りだぞ? うちの艦娘が間違ってないなら俺も暴れろって言うからな?」
武蔵「いかんだろうそれは……貴様は止める立場の方だぞ?」
提督「止めたくねえなあ……なんにしてもだ、まずは鳥海がちゃんと話を聞いてくれることが一番なんだが……」
武蔵「その辺は問題ないだろう。鳥海は真面目だと聞いたぞ?」
提督「そうか? 真面目な方が厄介な気がするぜ。真面目ちゃんは言い換えれば頑固で、融通が利かねえことが多いんだ」ハァ
提督「前の鎮守府の理不尽な命令を律儀に守り続けてたり、目的のために視野狭窄に陥ったり……言われたことを延々と気にしたり、なあ?」
霧島「!」ビクッ
390 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:21:03.96 ID:Apnnl4pjo
提督「自分でも言ってることが極端だとは思うが、その極端な奴が流れ着いてくるのがこの島だからな……」
大淀「そうですね……でも、最初から最悪を想定して話を進めなくても良いのではないですか?」
提督「そうは言うが、その最悪を飛び越えてくるケースが何度もあったろ……」
扉<コンコン
伊8「提督、戻りました?」ガチャ
提督「おう」
伊8「海底に散らばってた、二人のものらしい艤装の破片、集めて明石さんに預けてきました」
提督「そうか、ご苦労さん……って、そういえばはっちゃんもそうだったっけな」
伊8「なにがです?」
提督「前の鎮守府で無理矢理東オリョール海を往復させられて轟沈したってのに、それでも前の鎮守府に戻るとか言ってたの」
武蔵「んなっ!?」
霧島「そ、そうなんですか?」
伊8「あー、そうでしたね。はっちゃんがおかしくなってたときの話です」
391 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:21:49.03 ID:Apnnl4pjo
提督「真面目な奴ほど命令には逆らえなかったり……まあ、はっちゃんの場合は恐怖を植え付けられてたって感じだったが……」キョロキョロ
霧島「どうなさいました?」
提督「いや、メガネが多いな……と」
霧島「!」
大淀「!」
武蔵「!」
伊8「あー」
筑摩「そ、そうですね……」
提督「まあ、言わずもがな真面目なメンツが多いな……」
大淀「そ、それは、まあ、ふざけるわけにはいきませんので」
提督「……鳥海もこんな感じなのかねえ。一人くらいちゃらんぽらんなメガネがいてもいいだろうに……」
武蔵「さすがにおらんだろう、そんな奴は」
提督「……あ、いるわ。余所の鎮守府に」
伊8「え?」
提督「しかも俺に似てる」
霧島「ええええ……?」
392 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:22:36.17 ID:Apnnl4pjo
* V提督鎮守府 *
望月「ぅえっきしょ」
弥生「なに? いまの無気力なくしゃみ」
卯月「望月、風邪ひきぴょん?」
望月「うんにゃ、鼻がムズった」ゴロン
卯月「だったら早くパジャマから着替えるぴょん。もう11時だっぴょん!」
望月「えー、めんどくせ〜」ゴロゴロ
393 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/13(土) 21:23:20.53 ID:Apnnl4pjo
今回はここまで。
いろは順で行くと、次は「ぬ(奴)」なのですが、
「奴」の字はそれなりに使用しているので、次の「留(る)」「遠(を)」を使います。
394 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/03/14(日) 03:56:05.20 ID:EQfZpE5w0
続きキター!寿命が伸びるわぁ
保守
395 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/03/14(日) 17:08:14.53 ID:mJP0IZD+0
投稿乙です
過去スレで提督が叱られてましたが体調管理だけは気をつけて...
396 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:22:17.32 ID:yO92N9VFo
では、続きです。
鳥海と加古のお目覚め。
397 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:23:00.79 ID:yO92N9VFo
* その日の夕方 入渠ドック前 *
提督「よう、二人とも目を覚ましたんだな?」
明石「はい! 怪我の方もばっちり治しました!」
明石「摩耶さんや古鷹さんも呼んでいるので、少しお待ちください!」
提督「この島のことについては何か話したか?」
明石「説明したのはこの島に流れ着いてきたときの状況だけですね」
提督「そうか。んじゃ、俺の方からここがどういう場所か、簡単に話しとく」
提督「摩耶たちが揃ったら、これからどうするのかの話を始めるぞ」
明石「了解です!」
* *
加古「轟沈した艦娘が流れ着く島ぁ?」
鳥海「私たちが轟沈したと仰るのですか……?」
提督「明石が言うには、艤装の被害を見るに航行可能な状態にはなかったと言われたが、お前ら自分が沈んだかどうかの自覚がないのか?」
鳥海「も、申し訳ありません、私は無我夢中で……」
加古「あたしは准尉の言う通り、沈んだと思ってるよ」
提督「覚えてるのか?」
398 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:23:45.76 ID:yO92N9VFo
加古「この姿になって、初めて水の中から空を見た記憶があるんだけど……やっぱ、やだねえ。ははっ、思い出しただけで寒くなってきた」
提督「まあ、無理に思い出さなくていいぞ。で、鳥海は自分が轟沈していないと思ってるのか?」
鳥海「はい。私は、轟沈すると深海棲艦になるという噂を耳にしたことがあります」
鳥海「ですので、もし私が轟沈していたとしたら、艦娘としてこの場にはいないのではないかと思っています」
提督「俺はそっちの話の方が初耳だな。鳥海の話が本当なら、この島に漂着してきた艦娘の遺体が深海棲艦になってないと辻褄が合わねえ」
鳥海「! それは……」
加古「っていうかさあ、轟沈したかどうかの判断基準ってなに?」
提督「自力で水上に立てなくなった、あるいは浮き上がることができなくなったら、そうなんじゃねえか?」
提督「他人が判断する場合は、本営の判断でそういう扱いになる場合がある。あとは、その鎮守府の提督がその艦娘について虚偽の報告をした場合だな」
加古「ふーん……じゃあ、沈んでなくても沈んだことにできるんだ?」
提督「まあ、それもできるな」
加古「そっか……それなら……」
鳥海「それなら、沈んだかどうか誰も判断できない艦娘は、元の鎮守府に戻れる可能性もあるわけですね?」
加古「!」
提督「……多分、な」
399 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:24:32.41 ID:yO92N9VFo
鳥海「良かった……! それなら、加古さん! 私たちは早く鎮守府に戻りましょう!」
加古「!」
提督「お前は元の鎮守府に戻るつもりでいるのか」
鳥海「はい、皆さんに迷惑をかけるわけにもいきませんし。早く鎮守府に戻って、みんなを安心させてあげないと!」
加古「……」
鳥海「加古さん?」
加古「あのさ……本当に戻るの?」
鳥海「え、ええ……そのつもり、ですけど」
加古「悪いんだけどさぁ、あたしパス。あの鎮守府には戻らないよ」
鳥海「な、なにを言ってるの!?」
加古「鳥海こそ本気で戻るって言ってんの? あたしゃ今のあの人にはついていきたいと思わないよ?」
加古「鳥海は義理を重んじてるんだろうけどさあ、無茶な注文言われて轟沈して、それで戻って義理を果たそうってお人好しが過ぎない?」
鳥海「でも、司令官さんは司令官さんなりに頑張って……」
加古「あれで頑張ってるって言うの? あたしが言うんだよ? 相当なもんじゃないのかねえ?」
400 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:25:15.80 ID:yO92N9VFo
加古「あの一日提督の言うことに何も口を出さないくらいともなると重症だよ。お人好し通り越して他人任せになってんじゃないか」
鳥海「司令官さんには司令官さんのお考えがあります! それに、進軍の判断をしたのは私たちよ!?」
鳥海「加古さんだって、進むべきか退くべきかを訊かれたときに、進んでいいと言ったじゃない!」
加古「……」
提督「お前らの細けえ事情は知らねえが」
加古「!」
鳥海「!」
提督「加古が戻る意思を見せてない以上、今の状況なら戻るのは鳥海だけだな」
鳥海「そんな……!」
提督「鳥海は加古ともども元の鎮守府に戻る気でいた。加古、お前はどうだ? 鳥海は戻ったほうがいいと思うか?」
加古「……」
鳥海「……」
提督「……」
加古「……あたしは、引き留めないよ。けど、戻ったほうがいいなんて、あたしの口からは言いたくないねえ」
提督「……」
401 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:26:01.17 ID:yO92N9VFo
明石「提督ー!」
提督「!」
明石「提督、摩耶さんと霧島さん、来ましたよ!」
霧島「失礼いたします」
摩耶「よっ、悪りーな、遅くなっちまって」
鳥海「摩耶!? ど、どうしてあなたがこんな鎮守府に!? あなたも轟沈したの!?」
摩耶「してねえって。人の心配する前に鳥海は自分の心配しろよなー?」
鳥海「そ、それはそうかもしれないけど……でも、摩耶は轟沈したわけじゃないのね。良かった……」
明石「提督、摩耶さんと霧島さん、来ましたよ!」
明石「代わりに朝雲ちゃんが来るらしいですよ? 古鷹さん、加古さんが心配すぎて落ち着いていられないから、落ち着かせてから来るって」
提督「……そうか」アタマオサエ
加古「なに? ここの古鷹ってばお節介焼きなの?」
提督「まあな……今はそうでもないと思うが」
加古「ふーん……?」
タタタタッ
朝雲「ごめんなさい、遅くなりました!」
402 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:26:45.61 ID:yO92N9VFo
提督「古鷹はまだそわそわしてんのか?」
朝雲「あー……古鷹さんは、武蔵さんに無理矢理大人しくさせられた、っていうか……気絶させられたっていうか」トオイメ
加古「はあ!?」
提督「そうか。しょうがねえな」
朝雲「そういうわけだから、古鷹さんは武蔵さんと筑摩さんに任せてきちゃった」
加古「あー、ちょっと、余所様の艦隊に言うことじゃないかもなんだけど、大丈夫なの?」
提督「うちの連中もそこまで遠慮なしじゃねえから、大丈夫だろ。とりあえず朝雲も来たことだし、話を始めるぞ」
提督「まず、この二人にはこの島がどんなところか説明した」
提督「この島の砂浜に流れ着いたときには二人とも意識がなかったんだから、俺は二人とも轟沈したと考えるんだが、鳥海はその自覚がないらしい」
霧島「では、鳥海は轟沈したわけではないと?」
提督「主張はそういうことらしい。俺には自分の不始末を認めたくないだけに見えるがな」
鳥海「……」ムッ
提督「でだ、そもそもこんなことになった原因について、お前らに話してもらいたいんだが、できるか?」
加古「……」チラッ
鳥海「は、はい……わかりました」
403 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:27:31.06 ID:yO92N9VFo
提督「それじゃ、自己紹介と所属か。どこから来たんだ?」
鳥海「では、改めて。私は重巡洋艦、鳥海です。そして、こちらが同じく重巡洋艦、加古」
加古「……」ペコリ
鳥海「私たちは呉にある遠大佐鎮守府に所属する艦娘です」
朝雲「遠大佐……?」
霧島「呉で大佐ということは、大きめの鎮守府のようですね」
加古「いんや、呉にある鎮守府のなかでは小さいほうだよ。言っちゃあれだけど、いくつかある港の隅っこに追いやられてるし」
摩耶「そうなのか?」
鳥海「え、ええ……末席から数えたほうが早いのは本当よ。大将や中将の鎮守府もあるし、そちらと比べたら鎮守府の規模は小さいわ」
霧島「なるほど。かつて海軍工廠があった港だけあって、海軍の中でも重鎮が集まるのは当然と……」
提督「で、実力はどうあれ、その呉に居を構える遠大佐が、なんでまた重巡二人を沈めるようなヘボい指揮を執ったんだ」
鳥海「そ、それは……」
加古「その時指揮を執ってたのは遠大佐じゃなくて、留提督だよ。一日提督のね」
霧島「いちにち……?」
加古「そ。なんかねえ、留って人が今売り出し中の大人気男性アイドルなんだって。あたしは聞いたことないんだけどさ?」
404 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:28:17.03 ID:yO92N9VFo
加古「で、どっかのテレビが呉にある鎮守府を取材したいとか、一日提督をやらせて艦娘の指揮を執らせたいとか、そういう申し入れをしたんだって」
加古「それで引き受けたのが、うちの遠大佐なんだ」
明石「……一日提督、って、芸能人が一日警察署長とか、あの一日って意味ですか!?」
摩耶「それじゃ、何も知らねえド素人が、艦隊の指揮を執ってお前らを轟沈させたってのか!?」
霧島「……そんな馬鹿な」クラッ
鳥海「で、でも、進軍を決めたのは私たちで、別にその方のせいでは……!」
提督「加古。鳥海の話は本当か?」
加古「うん。無理を承知で進んだのはあたしたちの判断だよ。けど、最初から無理があったと言えば無理があったんだ」
加古「派手な砲撃戦が見たいっていうから戦艦や重巡をメインにしたのに、どうして潜水艦がいる海域を選んだんだ、とかさ」
霧島「潜水艦……もしかして、南方海域……?」
加古「そ。駆逐艦も一人連れてったんだけど、対潜装備も載せなかったもんだからひどい目に遭ってさぁ」
加古「あたし以上にうっかりが多すぎるんだよ、最近の遠大佐は……」ハァ
明石「ですが、どうしてそんな状況で進軍しようとしたんですか」
摩耶「そうだよ。引き返すことだってできたろ?」
鳥海「それは……」ウツムキ
加古「……」
405 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:29:01.47 ID:yO92N9VFo
鳥海「私たちの、慢心だと……」
明石「……」
霧島「……」
提督「加古はどうなんだ」
加古「……それ、あたしはちょっと違うと思うなあ」
鳥海「え?」
加古「多分あのとき、あたしたちは期待されてたんだよ。大破した艦娘もいながら、この窮地を無事乗り越えて、帰ってくる……」
加古「そういうストーリーを、あたしたちは暗に求められちゃったんだよ。で、おそらく鳥海は、その期待に応えようとしたんじゃない?」
鳥海「……そうかもしれないわ。でも……」
加古「それになにより、深海棲艦の侵攻は止めなくちゃいけない……!」
鳥海「そう……だから、私たちは進むことを決意したんです」
提督「……」
明石「でも、それで沈んでしまったら元も子もないでしょう!? なんでそんな無茶を、美談みたいに話せるんですか!」
加古「そうだねえ……沈んだら終わりだよねえ。今思えば、ほんと、あたしも馬鹿なことしたもんだよ」
406 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:29:45.98 ID:yO92N9VFo
提督「じゃあなにか? お前らはその一日限定の留提督とやらの綺麗事にまんまと乗せられたってことか?」
鳥海「っ!!」
摩耶「お、おい!」
霧島「司令、その言い方はさすがにどうかと……!」
加古「いや、その通りだよ」
全員「!」
加古「留提督は、そうやってあたしたちを鼓舞して、勝ってこいって無茶ぶりしたわけだもの」
加古「それであたしは、もう駄目だ、って思って、諦めたんだ」
明石「そ、それってどういう……」
加古「あたしはあのとき、最初から勝つつもりで進軍したわけじゃない。あたしは、最初から沈むつもりで先に進んだんだ」
鳥海「え!?」
摩耶「はぁ!?」
霧島「!?」
朝雲「……」
提督「どういう意味だそりゃ。そんなにその留提督が気に入らなかったのか?」
加古「いいや? どっちかっていうと遠大佐に愛想が尽きたっていうか、今回の件が決定打になったって感じかねー……」
407 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:30:30.77 ID:yO92N9VFo
提督「ほう。決定打ってのはどんなどこだ?」
加古「昔みたいに捨て艦するならいざ知らず、今は大破したら引き返すってのが鉄則でね。遠大佐はそれを守る人だと、あたしは思ってたんだ」
加古「それが今回、留提督がいいところを見せたいがための進軍の指示を、止めようともしなかったんだ。それで幻滅したってのが一番だね」
加古「あとは、留提督の進軍を促す言い方が気に入らなかった」
加古「途中撤退は海軍として恥ずかしくないかとか、目的を果たせないのは格好がつかないとか、まー聞いてていやらしい台詞が聞こえてきたんだ」
加古「さもあたしたちが進みたくて進んだと言わせたくて、そういう言い方をしたんだろうね」フン
提督「そいつらが責任を負いたくないからか」
加古「わかんないけど、そんなとこだろうねえ。それであたしもちょっとむかっと来ちゃって」
加古「本当ならさ? そんなことを留提督が言おうものなら、遠大佐が諫めてくれてもいいじゃないか」
加古「でも、遠大佐は何も言わなかった」ウナダレ
加古「だからあたしは、いいよ、進もう、って言ったんだ」
鳥海「……!」
提督「諦めの意味での、もういいよ、か」
加古「うん……なんていうかさあ、なんて言ったらいいかわかんないけど、糸がぷっつり切れちゃったんだよね」
加古「ああ、もうどうでもいいやって。もう暴れるだけ暴れて、終わっちゃおうってねぇ……」
提督「……」
408 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:31:16.13 ID:yO92N9VFo
加古「留提督への当てつけも少しはあったかな……」
加古「自分が指揮執ったときに艦娘沈めるのって、ああいう人たちにとってどのくらい痛手なのかもわかんないけど」
加古「でもさ、今思い起こしてみても、一番腹が立ったのはやっぱり遠大佐かなあ」
加古「ちょっと来ただけのやつに好きに言われて黙ってるって、あんたそこまで腑抜けたのかって」
鳥海「……」
加古「ま、あたしにゃいろいろ思うことあったんだけど、鳥海を巻き込む気はなかったんだ」
加古「落伍すんのはあたしだけで良かったんだよ。なんでぼろぼろの鳥海が、あたしをかばったりなんかしたのさ?」
鳥海「……昔を、思い出したの」
加古「昔……? ああ、艦だったころの……」
鳥海「二度も、私の目の前で沈むのを、見過ごせるわけないじゃない……」
加古「そっか……そだね。ごめん」
提督「……こいつらもあれか。艦だったころの因縁を覚えてるわけか」ヒソッ
明石「そういうことですね」ヒソッ
409 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2021/03/25(木) 20:32:00.77 ID:yO92N9VFo
提督「とりあえず、お前らんとこの遠大佐が何を考えてるのかって話になるんだが……」
加古「あーごめん、遠大佐についてはもう勘弁。あたしはもう関わりたくないっていうか、見せる顔がないっていうかさあ」
鳥海「加古さん!? それとこれとは話が別でしょう!? お別れするならするでご挨拶しないと!」
加古「えーー?」
摩耶「……鳥海ってこんなに面倒臭かったっけか?」
霧島「真面目な艦娘ね……」
朝雲「え、えーっと、話の途中でごめんなさい。ちょっといい?」
提督「? どうした?」
朝雲「鳥海さんと加古さんに聞きたいんだけど、遠大佐ってさ、もしかして……」
朝雲「秘書艦に、雷を連れてない?」
加古「!」
鳥海「そ、そうだけど……あなた、遠大佐を知ってるの?」
朝雲「あー、はい。まあ……そっか、そうなんだ……」
提督「朝雲?」
朝雲「あ、司令。もしかしたら気付いてるかもだけど……」
747.90 KB
Speed:0.5
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)