【ミリマス】まつりのスタンドお披露目タイムなのです!【ジョジョパロ】

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22 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:51:38.22 ID:ArvRQigk0
「はいほー!」
23 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:52:09.21 ID:ArvRQigk0
バンドマン「……あ?」

まつり「今日はポカポカいい天気なのです」

まつり「こんなわんだほー!な日に怖い顔は似合わないのです」

まつり「さあ、まつりと一緒に皆がニコニコになれる魔法の言葉を唱えるのです。大きな声で、さん、はい、」

まつり「はいほーーー!」

バンドマン「なんだてめーーはーーーッ! イカれてんのかーーーーーッ!」
24 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:52:45.48 ID:ArvRQigk0
バンドマン「いい気になってでしゃばりやがってーーーっ! これはこのガキとオレたちの問題だぜ、すっこんでな! さもねえと」

まつり「さっきあなたは『ポリ公に』と言いましたが」

バンドマン「あ?」

まつり「このような駅前広場で路上ライブをする際は基本的に『土地の所有者』に許可を得るのです。もちろんここも。『ポリ公』ではないのです」
25 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:53:11.21 ID:ArvRQigk0
バンドマン「そ、それがどうしたァーーーーーッ」

まつり「ここで路上パフォーマンスをしたことがある人なら誰もが知ってることなのです」

まつり「『義理』や『ルール』を大事にするお兄さんがまさか『許可』を得たことがないなんてことはないのです……ね?」

バンドマン「ぐ…ぐぐ……」

バンドマン「ウダウダ言ってんじゃねーーーーーーっ! このヴォケがッ!!」

まつり「ほ?」
26 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:53:39.43 ID:ArvRQigk0
バンドマン「とことん見下してくれたなイカれ女がァーーーーーーーーッ! まずはてめーからぶち殺すことに決めたぜーーーーーっ!」

異国の少女「や、辞めて!」

異国の少女「私のことはいいから逃げて! 逃げてください!」
27 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:54:07.57 ID:ArvRQigk0
まつり「うーん」

まつり「いい人も悪い人もみんなニコニコ、なんてそんな奇跡のような魔法」

まつり「やっぱり、なかなか『本物のお姫様』のようにはいかないのです」
28 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:54:34.81 ID:ArvRQigk0
バンドマン「そのトンチキな面にナイフぶち立ててやらァァーーーーーーーっ!」

異国の少女「ダメぇぇーーーーーーーっ!」

まつり「だからここは一つ」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
29 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:55:02.44 ID:ArvRQigk0
まつり「この九条まつり流の『魔法』の」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「すーぱーお披露目タイムなのです!」

 ドギャン!!
30 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:55:32.96 ID:ArvRQigk0
バンドマン「くたばりやが――」

 ドグシャア!!

31 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:56:03.96 ID:ArvRQigk0
バンドマン「へ」

異国の少女「え」

まつり「……」
32 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:56:39.95 ID:ArvRQigk0
バンドマン「ぎ、」

バンドマン「ぎゃあああァァァァーーーーーーーーーーーーーー!?」

異国の少女「……!? ???」
33 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:57:16.91 ID:ArvRQigk0
 まつりを貫こうとしていたナイフは、まるであらかじめ爆弾でもセットしてあったかのように突如として砕けた。

 それを握った男の右手ごと!

 バンドマンの男、異国の少女、そして野次馬……誰一人としてこの不可解な光景を理解するものはいない。
34 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:57:47.23 ID:ArvRQigk0
 しかし!

 我々はこの『魔法』を知っている!

 いや! この『破壊力』とまつりの『そば』から現れたこの『拳の幻影』を知っている!
35 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:58:25.17 ID:ArvRQigk0
バンドマン「いでえェエエーーーーーーーーーーーっ! あ、ががっ、ががーーーっ! て、テメー! お、俺に何をしやがったーーー!?」

まつり「ほ? さっきから何を慌てているのです?」

バンドマン「と、とぼけてんじゃねーーーーーーっ! 俺の右手がぁあああーーーーーー!」

まつり「右手? 右手がどうかしたのです?」

バンドマン「バキバキに砕けてッ! 砕け…………へ?」

まつり「お兄さんは怪我なんてしてないのです。…………ね?」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
36 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:58:59.92 ID:ArvRQigk0
バンドマン「なっ、なんでェーーー!? 俺は確かに……! お、お前らも見てただろ!?」

まつり「そ・れ・と」

まつり「ブスリ!」

バンドマン「ひ!? う、うわああああああーーーーーー!」
37 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 10:59:26.18 ID:ArvRQigk0
バンドマンの仲間「なあああ!? こ、こいつ! マジに刺しやがったーーっ!?」

バンドマン「ああああああ……あ、あれ……?」

バンドマン「な……」

バンドマン「なんともないッ!?」
38 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:00:04.81 ID:ArvRQigk0
まつり「なんちゃって、なのです」

まつり「はい、お返ししておくのです」

バンドマン「……!?」

バンドマンの仲間「お、おい……お前のそれ……なんか……おかしくないか……?」
39 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:00:30.93 ID:ArvRQigk0
バンドマン「え……ハッ!?」

バンドマンの仲間「お前のナイフ、まるで『アイスの棒』か『医者がベロを抑えるときに使うアレ』みてーになってるぜーーーっ!?」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
40 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:01:42.98 ID:ArvRQigk0
バンドマン「――ッ???」

まつり「ところでお兄さん」

バンドマン「ひ!?」

まつり「まつりは昨日も今日も明日もとーってもお暇なのですが」

まつり「まだ一緒にお喋りしてくれるのです?」

バンドマン「ヒィィィーーーーー!?」
41 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:02:10.77 ID:ArvRQigk0
バンドマンの仲間A「や、やべえよこの女! なんかわからんがとことんやべえ臭いがプンプンしやがるぜーーッ」

バンドマンの仲間B「おそろしいーーッバケモノーーっ」

まつり「ほ? 行ってしまったのです」

まつり「それとまつりはバケモノではなく姫なのです。失礼しちゃうのです」
42 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:02:42.55 ID:ArvRQigk0
 まつりが首を傾げて、バンドマンたちの背中を見送っていると、通報を受けた警官たちが慌ただしく駆け寄ってきた。

警官A「こらーっ! 何をやっとるかーーっ!」

警官A「女の子が絡まれてると聞いて来てみたらあんな男どもを相手に無茶して! 何かあったらどーする!?」

まつり「ほ? おまわりさん、まつりたちはちょっとお話をしていただけなのです。ね?」
43 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:03:09.38 ID:ArvRQigk0
警官A「お話って君ねえ!」

まつり「おまわりさん、もう何もかも済んだことなのです……ね?」

警官B「あー、オホンオホン!」

警官B「どうやらそのようだな。ワシらもパトロールに戻らんと」
44 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:03:38.37 ID:ArvRQigk0
警官A「(はあ? いいんですかい?)」

警官B「(バーカ! ありゃ『九条』の跡取りだ! そんなことも知らんのかお前は!)」

警官A「(ゲェ!? それって頭がおかしくなったって噂の……)」

警官B「(わかったらゴチャゴチャ言わんと話合わせとけ! 行くぞ!)」

 警官たちはまつりに愛想笑いを向けながら、そそくさと去っていった。

 野次馬たちも徐々に散らばっていき、駅前広場は健全な騒々しさを取り戻していた。

45 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:04:13.86 ID:ArvRQigk0
異国の少女「あ、あの!」

異国の少女「助けていただいて本当にありがとうございます」

異国の少女「私のためにあんな危険な目に合わせてしまって……なんとお詫びしたらよいものか……」
46 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:04:48.88 ID:ArvRQigk0
異国の少女「でも……」

まつり「あなたの方こそ大丈夫なのです?」

異国の少女「え? あ、はい、おかげさまで……」

まつり「それは何よりなのです……あ、そうそう」

まつり「あなたも落とし物なのです」
47 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:05:14.36 ID:ArvRQigk0
異国の少女「ありがと……ああ!?」

異国の少女「そ、そんな……」

まつり「ほ? ……あ」

 手鏡にはヒビが入っていた。

 バンドマンの乱暴な扱いからいって無理からぬことだったが、異国の少女は自分が襲われていたことよりも鏡が割れたことのほうが一大事と言わんばかりに取り乱していた。
48 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:05:41.75 ID:ArvRQigk0
まつり「大切なものだったのです?」

異国の少女「これは曾祖母から祖母、祖母から母、そして私へと代々受け継がれてきた、いわば『血統と絆』の証だったんです……」

異国の少女「それを、私が……」

 少女は体を震わせ、その瞳からは涙が滲み出ていた。
49 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:06:08.37 ID:ArvRQigk0
まつり「あなたのせいじゃないのです」

異国の少女「いいえ! 私がもっと注意していれば、私が、もっと、大事に持っていれば……」

まつり「(暴漢に絡まれた時でさえ泣かなかったのに)」

まつり「……」
50 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:06:35.38 ID:ArvRQigk0
まつり「お嬢さん、あなたはとってもらっきー! なのです」

異国の少女「え?」

まつり「何を隠そうこの九条まつりは『魔法使い』なのです」

異国の少女「??」
51 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:07:09.58 ID:ArvRQigk0
まつり「嘘ではないのですよ。ちょっと借りるのです」

まつり「こうして鏡に手をかざして、魔法の呪文を唱えるのです。『イルミイルミルルミネーション☆』」

異国の少女「る、るみるみ?」
52 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:07:37.13 ID:ArvRQigk0
まつり「さあ、あとはお立ち会い」

まつり「月の光の不思議な力が鏡に伝わって……ほら!」

 まつりが手鏡から手を放すと……、
53 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:08:08.35 ID:ArvRQigk0
異国の少女「Wow!」

異国の少女「し、信じられません!」

異国の少女「鏡が『直って』ます! あんなに大きなヒビが入っていたのにキズひとつない!」

異国の少女「それどころか、まるで磨いた後のようにピカピカです!」
54 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:08:37.58 ID:ArvRQigk0
まつり「ね? 本当だったでしょう?」

異国の少女「すごいです! 先ほどのことも私の目の錯覚かと思いましたが……」

異国の少女「まるで『シャーロット・イン・ザ・ミラー』に出てくる魔法みたいです!」

まつり「……ほ?」
55 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:09:13.12 ID:ArvRQigk0
まつり「鏡の中のシャーロット(シャーロット・イン・ザ・ミラー)』を知っているのです?」

異国の少女「もちろん! 私の祖国の子どもは誰もが夢中になるとっても素敵な絵本で……はっ!?」

異国の少女「す、すみません。あまりに驚いたからついはしゃいじゃって……はしたないです」

異国の少女「申し遅れました、私は『エミリー・ランカスター』といいます。改めて、助けていただいてありがとうございました」
56 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:09:54.09 ID:ArvRQigk0
まつり「エミリー……」

エミリー「? どうかなさいましたか?」

まつり「いいえ、可愛いあなたにピッタリの素敵なお名前なのです」
57 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:10:24.23 ID:ArvRQigk0
まつり「まつりは九条まつりなのです。見ての通りお姫様なのですよ」

エミリー「日本のお姫様! まあ! ということはまつりさんは皇族関係のやんごとなきお方なのですね! お会いできて光栄です!」

まつり「ほ、ほ? これは予想外の反応なのです。そこはやんわりと否定しておくのですよ」

エミリー「あれ? でもさっき魔法使いと」

まつり「それはそれ、これはこれ、なのです」
58 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:10:53.27 ID:ArvRQigk0
まつり「エミリーちゃんはここで路上ライブをしていたのです?」

エミリー「そうなんです。実は私、立派な『大和撫子』を目指して修行中の身でして」

まつり「ほ? 大和、撫子?」

エミリー「あの、まつりさん。お会いしたばかりの上に助けていただいた後に差し出がましいとは思いますが」

エミリー「ぜひ、私の舞台を見ていってくださいませんか?」
59 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:11:30.63 ID:ArvRQigk0
 意外にも、異国の少女が披露したのは『和』の色を前面に出した全編日本語のバラード曲だった。

 歌も、踊りも、まつりの目から見ればまだまだ拙く、未熟。

 しかし、そんなこととは無関係に、まつりはエミリーのステージから目を離せなかった。

60 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:12:02.61 ID:ArvRQigk0
 彼女の振舞いには人を惹き付ける『華』があった。

 彼女の歌には聞く者の心を癒やす『優しさ』があった。

 何よりも、舞台とも言えぬ場所で精一杯パフォーマンスを披露する彼女の瞳には『光』があった。暗闇の旅路で夜空の星を見上げるような『夢』と『希望』があった。

 素通りされて然るべき無名の少女の路上ライブに、しかし行き交う人々は知らず、一人、また一人と足を止め、魅入る。

 舞台上で花咲く笑顔に惹かれるように、ギャラリーの間にも次々と笑顔が広がっていく。
61 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:12:30.38 ID:ArvRQigk0
エミリー「ご清聴、誠にありがとうございました! エミリー・ランカスターでした!」

 パフォーマンスを終えて多くの喝采を浴びるエミリーの笑顔に、

まつり「――――――――」

 まつりは拍手も忘れて、『在りし日の面影』を見出さずにはいられなかったのだった。
62 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:13:03.86 ID:ArvRQigk0
 時を同じくして――。

「…………」

 遠くからエミリーのライブを見つめる濁った視線があった。

バンドマン「…………チッ」

バンドマン「ちくしょーー……」
63 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:13:34.09 ID:ArvRQigk0
バンドマン「面白くねーぜ、クソッ、クソッ!」

バンドマン「俺はただスカッとしたかっただけなのによぉぉーーーー」

バンドマン「あんな女どもにまで見下されるなんて、スカッとするどころか余計イラつくじゃねーかヴォケがッ!」

 ガン! ガラガラガラ!
64 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:14:01.73 ID:ArvRQigk0
『ねえ、何アレヤバくない?』『シッ! 目ぇ合わせるな』

 バンドマンが蹴飛ばしたゴミ箱が虚しい音を立てて転がる。

 散らばったゴミは、彼の心の内そのものであるかのようだった。

バンドマン「…………」

バンドマン「どいつもこいつも俺を見下しやがって……!」
65 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:14:36.58 ID:ArvRQigk0
バンドマン「俺の才能にはもっと称賛の目が向けられるべきなんだ、あんなゴミを見るような目じゃねーーっ」

バンドマン「そうだ! 世の中のボケどもから万雷の拍手が送られるべきはあんなガキのパフォーマンスじゃねーーっ、俺のサウンドの方なんだッ!」

66 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:15:03.77 ID:ArvRQigk0
「才能に自信があるのか?」

バンドマン「……へ」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
67 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:15:31.59 ID:ArvRQigk0
 『男』は、まるでずっとそこにいたかのように現れた。

 仕立ての良い『黒のスーツ』を無理なく着こなし、背筋の通った洗練された立ち姿は、ゴミがぶちまけられた路地裏の暗さにそぐわないようでいて、その実一体化するように違和感なく溶け込んでいた。

 『影』のような男は、まるで業務連絡でも読み上げるように、淡々と言葉を続ける。
68 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:16:10.45 ID:ArvRQigk0
「『自分』を『信じる』……言葉にするのは簡単なことだが」

「無闇に己を卑下せず、それでいて決して驕り高ぶらず、『過不足』なく自分を肯定し、貫けるとしたら……」

「それだけで十分、『才』。見込みある人間と言えよう」

「君はどうなんだ?」
69 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:16:38.03 ID:ArvRQigk0
バンドマン「い、いきなり何言ってんだテメーはぁーーー!」

バンドマン「テメーも俺を見下すのか?」

バンドマン「ゆるさねーっ、俺を見下すやつは誰だろーと許さ――」

 ドボォ!!

バンドマン「ぐげっ――!」
70 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:17:05.07 ID:ArvRQigk0
 『スーツ姿の男』から現れた『幻の手』がバンドマンの額をえぐり、『宝石』のようなものを頭に埋め込んでいく!

「君を『プロデュース』してやろう」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
71 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:17:37.20 ID:ArvRQigk0
「この世の法則は『等価交換』。もし君の才能が私のプロデュースに過不足無く見合うものなら」

「君の才能が君自身信じるだけの大きなものなら」

「私が与えた『ピース』は君を新たなる段階へと引き上げる」
72 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:18:15.34 ID:ArvRQigk0
 男の声が聞こえているのかいないのか、バンドマンは虚ろな目で何事かをつぶやき、やがて薄汚れた路地裏に倒れ込んだ。

「……」

 早くもバンドマンに興味を無くしたかのように、スーツ姿の男は首を背ける。

「『Lesson1』だ。――――まつり君」

 その視線の先には遠く、異国の少女と連れ立って歩くお姫様のような少女の姿があった。
73 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:18:43.84 ID:ArvRQigk0
●九条まつり!大和撫子に会う そのA●

 まつりはエミリーを連れて近くのファミレスを訪れていた。

エミリー「やっぱり申し訳ないです……。たくさん助けていただいたのにその上甘味を御馳走だなんて……」

まつり「大丈夫なのですよ。まつりは暇とお金だけはたくさん持て余してるのです」
74 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:19:10.94 ID:ArvRQigk0
エミリー「そ、そうなのですか? でも……」

まつり「無理やり連れてきたのはまつりなんだから、エミリーちゃんは遠慮なんてしなくていいのです。それに」

まつり「まつりはエミリーちゃんともっと仲良くなりたいのです。ね?」

エミリー「……! はい!」

エミリー「私ももっとまつりさんとお話がしたいです!」
75 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:19:37.70 ID:ArvRQigk0
まつり「大和撫子というのは『アイドル』のことだったのですね」

まつり「エミリーちゃんはどうしてアイドルに?」

エミリー「両親、特に父が日本贔屓で、幼い頃からこの国の素晴らしさを聞かされてきました」

エミリー「そして以前、神社で舞を奉じるアイドルの凛とした美しさを見て、私の心にさわやかな風が吹くのを感じました。その時から不肖エミリー・ランカスターは」

エミリー「『大和撫子』に憧れるようになったのです!」
76 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:20:07.04 ID:ArvRQigk0
エミリー「……まだ公式初舞台も踏んでいない新参者ですが」

まつり「つまり、デビュー前の新人さんなのです? でもさっきのステージはそうとは思えないほど堂々としててとってもわんだほー! だったのです」

エミリー「い、いえ、私なんてまだまだ未熟者です! うう……お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」

まつり「そんなことはないのです。エミリーちゃんは将来立派なお姫様になれるのですよ。この九条まつりが保証するのです」
77 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:20:35.79 ID:ArvRQigk0
エミリー「お姫様、ですか? でも私は大和撫子に」

まつり「『お姫様』と『大和撫子』は同じ場所を目指しているのです。少しばかりアプローチの仕方が違うだけなのですよ、きっと」

エミリー「はあ……。まつりさんのお話はちょっと難しいです」
78 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:21:30.29 ID:ArvRQigk0
まつり「ところでずっと気になっていたのですが……エミリーちゃんには『プロデューサー』はついていないのです?」

エミリー「プロデューサー……ですか?」

まつり「さっきの現場はエミリーちゃん一人だったのです。もしちゃんとエミリーちゃんの面倒を見てくれる人がいたなら、危ない目にも合わなかったかもしれないのです」

エミリー「そうですね……。一応予定を管理してくださる方はいますが、何分私の所属事務所はごく小規模なものですから。私のような新人に付きっきりというわけにはいかないのだと思います」
79 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:22:07.07 ID:ArvRQigk0
まつり「そうなのですか。むむむ、それはわんだほーに由々しき事態なのです」

エミリー「まつりさん、プロデューサーとはそんなに大事なものなのでしょうか」

まつり「もちろんなのです!」
80 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:22:36.42 ID:ArvRQigk0
まつり「アイドルにとってプロデューサーは例えるならお姫様を守るナイト! 諏訪彩花ソロ曲の作詞作曲を手掛ける松井洋平! 井口達也の原作に対する歳脇将幸の『チキン』! 女の子が輝き、立派なお姫様になるためのお手伝いをしてくれる一蓮托生のパートナーなのです!」

エミリー「そ、それほどまでに……! 今まであまり困ったことはなかったのですが……。なんだかちょっと不安になってきました」
81 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:23:04.15 ID:ArvRQigk0
まつり「大丈夫なのですよ。きっとすぐにでもエミリーちゃんを見初めた素敵なナイト様が迎えに来てくれるのです。ね?」

エミリー「だといいのですが……いえ! つまりはどなたかの目に留まるように精進あるのみ、ということですよね!」

まつり「ぐっど! その意気なのです!」
82 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:23:34.38 ID:ArvRQigk0
エミリー「それにしてもまつりさんはアイドルにとてもお詳しいのですね……ハッ!?」

エミリー「まつりさんは『お姫様』なんですよね」

まつり「ほ?」

エミリー「ひょっとして同業のお方、それもご先輩だったりするのでしょうか!?」

まつり「…………」
83 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:24:01.17 ID:ArvRQigk0
まつり「まつりはお姫様で魔法使いですが、アイドルではないのです」

まつり「ただ、まつりの身内がアイドルだったから、ちょっと知る機会があっただけなのです」

エミリー「まあ、ご家族が! 素敵です! 今もご活躍されているのですか?」
84 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:24:31.26 ID:ArvRQigk0
まつり「……いえ」

まつり「『姉』はもう、アイドルは、辞めちゃったのです」

エミリー「……そう、なんですか」

まつり「………………」
85 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:25:22.89 ID:ArvRQigk0
店員「お待たせいたしました。『花咲夜の贈り物〜和甘味三種盛り合わせ〜』と『娼婦風スパゲティ』でございます」

エミリー「あ、ありがとうございます」
86 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:25:58.12 ID:ArvRQigk0
まつり「さあさあエミリーちゃん、立派なお姫様になるなら甘くてフワフワしたものをたくさん食べないといけないのです」

エミリー「そうなんですか? あれ? でもまつりさんの方は」

まつり「まつりは生まれたときからお姫様だからいいのです」

エミリー「なるほど、まつりさんはもう遥か高みにおられるのですね、尊敬します! それでは、いただきます」

エミリー「ん〜♪ 苺の甘みと絡み合った抹茶の苦味が芳醇な香りとなって鼻から抜けて……はう〜……幸せでしゅ……♪」

まつり「すぐにでもお仕事が来そうなわんだほーな食レポなのです」
87 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:26:32.51 ID:ArvRQigk0
エミリー「さっきのまつりさんの『魔法』、あのような力は初めて見ました。あれはどういった仕組みなのでしょう?」

まつり「魔法……、ああ、あれは……そうですね、むむむ」

エミリー「ああいえ! お答えしにくいことでしたら別に構わないんです、ちょっと興味が湧いただけで……。私ったらまたはしたないことを……」
88 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:27:00.67 ID:ArvRQigk0
まつり「…………エミリーちゃん」

 スゥゥゥ…
 ドン!!

まつり「『これ』、見えるのです?」
89 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:27:27.66 ID:ArvRQigk0
エミリー「……え? 何がですか?」

まつり「……いえ、なんでもないのです」

 スゥゥゥ……

エミリー「??? まつりさん?」

まつり「実はまつりにもよくわからないのです」

エミリー「え?」
90 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:27:57.05 ID:ArvRQigk0
まつり「ある日、突然さっき見せたようなことが出来るようになったのです」

まつり「わかるのは、まつりの魔法は『破壊されたものを治せる』ということだけ」

エミリー「『治す』……」
91 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:28:30.16 ID:ArvRQigk0
まつり「今までに同じような力を使える人には会ったことがないのです」

まつり「(『これ』が見える人も)」

まつり「だから、これが本当に魔法なんて呼べるようなものなのかも――」

エミリー「すごいです! とっても素敵な力だと思います!」


92 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:28:58.51 ID:ArvRQigk0
まつり「……ほ? ……素敵?」

まつり「気味が悪い、とは思わないのです?」

まつり「お話の中の魔法使いは悪い人もたくさんいるのです」
93 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:30:51.69 ID:ArvRQigk0
エミリー「とんでもない!」

エミリー「まつりさんがいなければ私はどうなっていたかわかりません」

エミリー「運良くこの身は無事だったとしても、割れてしまった大切な手鏡を前にただ途方に暮れるしかなかったでしょう」

エミリー「赤の他人であるはずの私を助けてくださったまつりさんの魔法は、私にとってこの世のどんなものよりも強くて優しい力です」

まつり「……優しい、力……」
94 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:31:19.62 ID:ArvRQigk0
エミリー「何度でも言わせてください。本当にありがとうございました。まつりさんは私の恩人です」

まつり「……………」

まつり「エミリーちゃん」

まつり「まつりは、『あの日』からずっと、この力の意味を考えてきたのです」
95 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:31:55.25 ID:ArvRQigk0
エミリー「え?」

まつり「『優しい力』。そんな風には考えたこともなかったのです」

まつり「私の『魔法』は、本当にそうやって誰かを……、」

まつり「………………?」
96 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:32:23.51 ID:ArvRQigk0
エミリー「まつりさん?」

まつり「エミリーちゃん、頭に糸くずが……」
97 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:32:50.39 ID:ArvRQigk0
 まつりには、エミリーの金髪に紛れる『糸』の煌めきが見えたような気がした。

エミリー「え? 糸くず? どこですか?」

まつり「ほら、そこ、に…………!?」
98 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:33:20.61 ID:ArvRQigk0
 僅かな違和感はゾッと肌が粟立つようなおぞましさに!

 今までけっこう呑気してたまつりに、一気に緊張が走る!

まつり「(違う!!)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
99 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:33:48.11 ID:ArvRQigk0
まつり「(こ……、これは…………!)

まつり「(糸くずなんてものじゃあないッ!)」

まつり「(エミリーちゃんに『糸』が絡みついている! どうして気付かなかった!?)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
100 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:34:14.85 ID:ArvRQigk0
まつり「(いいえ、エミリーちゃんだけじゃない)」

まつり「(私にも、奥のテーブルにも、天井から床まで……!)」

まつり「(『糸』は……)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

まつり「(この店内の至るところに張り巡らされているッ!)」
101 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:35:12.99 ID:ArvRQigk0
エミリー「ま、まつりさん? どうしたのですか? いきなり怖い顔をされて」

まつり「……!?」

まつり「エミリーちゃん……この糸が…見えていないのです……?」

エミリー「糸……?」

まつり「(見えていない!)」

まつり「(エミリーちゃんだけじゃなく、店の中の誰にもッ!)」
102 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:35:45.43 ID:ArvRQigk0
まつり「(何が何だか分からないけれど)」

まつり「(この糸は、何かマズイ!)」

まつり「伏せてエミリーちゃん!」

エミリー「へ? ……キャッ!?」

 キョトンとするエミリーを、まつりは有無言わさず床へ押し倒す。

 二人が床に倒れた一瞬の後、『それ』は起こった!

 ギュワワワ〜〜〜〜〜〜ン!!!
103 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:36:22.57 ID:ArvRQigk0
 耳障りな音色がまつりの耳朶を打つと、遅れて店中から次々と音が炸裂した!

 テーブルの料理がぶち撒けられ、グラスや照明が割れ、誰も座っていない椅子の足が折れる!

 それらはすべて、糸が走っていた場所だった!
104 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:36:50.85 ID:ArvRQigk0
まつり「(い、今のは……!)」

まつり「(張られた糸に衝撃波のようなものが伝って……そこに触れていたものを破壊した!)」

まつり「(そしてなんてこと! 糸に触れていたのは、『もの』だけではない!)」
105 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:37:18.58 ID:ArvRQigk0
『キャアアアアアッ!』

『いってえええっ! な、なんだこりゃあああ!』

『いきなり血が、血がァァ!!』

 昼下がりの穏やかな空気に包まれていた店内は一転、次々とものが破壊され、人々が傷つき、悲鳴と怒号が飛び交う阿鼻叫喚の様相を呈していた!
106 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:37:46.69 ID:ArvRQigk0
まつり「怪我はないのです? あればすぐに治すのです」

エミリー「ま、まつりさん……!? 一体何が……!」

まつり「わかりません。わかりませんが……」

まつり「こいつはわんだほーに危険な状況であることは間違いないのです!」
107 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:39:27.62 ID:ArvRQigk0
エミリー「そ、そんな……!」

まつり「エミリーちゃん、絶対にまつりから離れないでいて欲しいのです。ね?」

エミリー「……っ!(コクン)」
108 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:39:54.22 ID:ArvRQigk0
まつり「(さて、どうしたものかしら?)」

まつり「(怪我人も出てるみたいだから治療にいきたいところだけど……)」

まつり「(今はエミリーちゃんがいる。一刻も早くこの子の安全を確保しなければ)」

まつり「(幸い重傷者はいないみたい。救急車を呼べばあとはなんとかしてくれるはず)」

109 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:40:23.06 ID:ArvRQigk0
まつり「というわけでエミリーちゃん」

エミリー「え?」

まつり「スタコラ逃げるのですよ!」

エミリー「は、はい!」
110 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:40:57.42 ID:ArvRQigk0
 既に出入り口に殺到している人々にまつりたちも続く。

 が、

まつり「――――ッ!?」

 まつりはブレーキを掛けるように唐突に足を止めた。
111 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:41:34.11 ID:ArvRQigk0
エミリー「まつりさん!? どうしたのですか、私たちも早く逃げないと!」

 まつりは出入り口の扉を凝視したまま動かない。

 いや、動けない。

 外への脱出口は、格子状に編まれた糸で塞がれていたのだ!

 しかし、それ以上にまつりの足を留めさせるもの、それは!

まつり「(偶然や、ましてや自意識過剰なんかじゃあ断じてない!)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
112 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:42:04.59 ID:ArvRQigk0
まつり「(今、私たちが出ていこうとする瞬間に合わせて糸が張られた!)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 

まつり「(まさか……)」

まつり「(狙いは、私たち!?)」
113 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:42:34.57 ID:ArvRQigk0
『おい、こんなところに突っ立てるんじゃあねーぜ!』

『ど、どいて! 邪魔よ!』

 糸は先ほどのように衝撃波を発することもなく、逃げようとする人々をすんなりと素通りさせる。

 それがかえって不気味!

 目の前の光景は、まつりの懸念を裏付るものに他ならない!

 さらに周りを見渡して、まつりは戦慄する。
114 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:43:01.49 ID:ArvRQigk0
まつり「くっ……!」

 既に糸は、出入り口だけでなく窓やカウンター正面のガラス張り……外にアクセス出来そうな場所を全て塞いでいた。
115 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:43:35.82 ID:ArvRQigk0
エミリー「ま、まつりさん……」

 エミリーには、『糸』が不気味に張られた異様な光景は見えない。

 しかし、強張ったまつりの表情を見て、エミリーも直感で理解した。

 自分は、自分たちは、逃げることすらままらない、袋小路の真っ只中にいるのだと。

 ナイフを持った暴漢にも怯まなかったまつりでさえも、この状況に恐怖しているのだと。
116 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:44:06.16 ID:ArvRQigk0
まつり「わんだほー」

 だが、この少女は!

 この物語の主人公『九条まつり』は!

 囚われた檻の中でただ己の運命を嘆くだけのか弱いお姫様などではない!
117 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:44:54.94 ID:ArvRQigk0
まつり「逃げ道は全部塞がれたのです」

まつり「どうやらこの『何か』はどうあってもまつりたちを無事に店から出す気はないみたいなのです。万事休すってやつなのです」

118 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:45:23.50 ID:ArvRQigk0
 言葉とは裏腹に、まつりは至って冷静だった!

 それどころか、小首を傾げ、頬に人差し指を添える彼女特有の所作は、『余裕と不敵さ』さえ漂わせていた!
119 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:45:49.44 ID:ArvRQigk0
まつり「理想は素敵な王子様が白馬に乗って助けに来てくれること。でも今はちょっと期待できそうにないので……」

まつり「自分で、檻から出るのです!」
120 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:46:16.22 ID:ArvRQigk0
 そう言うやいなや、まつりはエミリーの手をとって駆け出した、が、

エミリー「ま、まつりさん!? どこへ行くんですか!?」

 エミリーが戸惑いの叫びをあげるのも無理はなかった。なぜならば、

エミリー「そちらは、『壁』です!!」
121 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:46:50.55 ID:ArvRQigk0
 エミリーの忠告にも構わず、まつりは出入り口に殺到する客を避けながら、明後日の方向へひた走る。

 まつりがある種の確信とともに、一瞬だけ振り向くと、

まつり「……! わんだほー!」

 案の定、背後から無数の『糸』が追いかけてくる!
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