【ミリマス】まつりのスタンドお披露目タイムなのです!【ジョジョパロ】

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122 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:47:22.29 ID:ArvRQigk0
 さらにスピードを上げたまつりに手を引かれるエミリーは、足が縺れそうになりながらも必死で走る。

 エミリーにとっては絶望しかない『行き止まり』に向かって!

エミリー「まつりさん! ――まつりさんってばッ!」

まつり「大丈夫なのですよエミリーちゃん。何も問題は無いのです」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
123 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:47:55.30 ID:ArvRQigk0
エミリー「何がですか!? 逃げる方向が違います!」

まつり「いいえ、こちらで合っているのです」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「これがまつりたちの、『逃走経路』なのですッ!」

 ドギャン!!
124 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:48:22.55 ID:ArvRQigk0
まつり「はいほーーッ!!」

 ドゴォ!!
125 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:48:50.31 ID:ArvRQigk0
 エミリーは、三度、まつりの『魔法』に驚愕することになる!

エミリー「え、ええーーー!?」

 エミリーには見えない『拳の幻影』が、丈夫な壁をまるで重機のようにいとも容易くブチ抜く!

 先ほど店内で起こった破壊がちっぽけに思えるほどの、まるで規模の違うパワー。

 しかしまつりの作る『逃走経路』はここからが本番だった!
126 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:49:18.52 ID:ArvRQigk0
まつり「さあ、急いで『穴』から出るのです」

まつり「壁が『直る』のですよ」

 ドリュリュリュリュウン…

 ピッタァァッ!!
127 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:49:45.29 ID:ArvRQigk0
エミリー「こんなにあっという間に……」

まつり「これでしばらくは時間が稼げるのです」

まつり「エミリーちゃん、もう少し頑張れるのです?」

エミリー「は、はい! もちろんです!」

まつり「わんだほー。では、お転婆プリンセスたちの逃避行、始まり始まり、なのです」

まつり「お姫様がエスコートするのは本当はあべこべなのですがそうも言ってられないのです」
128 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:50:24.26 ID:ArvRQigk0
 『その男』は、レストランから道路を挟んだ向かい側のカフェから、まつりの『魔法』を目撃していた。

「逃れやがった……。俺の包囲網から無傷で逃れやがったぞ……」

「あの反応……やはりあのイカれ女は俺の『弦』が見えている……。それに……」

「遠目ではあるが……確かに見たぞ」
129 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:50:53.02 ID:ArvRQigk0
「奴が向かった先の壁が突然ぶっ壊れて、そして一瞬で元に戻ったッ!」

「同じだ……俺の右手と……! あれは俺の勘違いなんかじゃあなかったってことだッ!」

「『能力』! あのイカれ女も俺と同じ『能力』を持っている!」
130 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:51:23.13 ID:ArvRQigk0
「……」

「ク……、クックック……」

「なら、俺はあの女と同じ土俵に立ったということ」
131 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:52:07.01 ID:ArvRQigk0
「さっき好き放題やられたのはノーカンだ。あのイカれ女が卑怯な手ェ使いやがったってだけだからなあ〜〜〜。俺の才能が目覚めた今なら、同じ能力を持っている今なら! あんなイカれ女に負けるはずがねーーっ!」

「俺のサウンドにビビってひれ伏した客どもがその証拠! 心地いいぜ〜〜。あんな風にわーきゃー騒がれたことは一度もなかった。ようやく世の能なしどもが俺の才能に気づいたってわけだ!」


132 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:52:32.78 ID:ArvRQigk0
「今日は門出だ。約束されていたこの俺のスター街道のな!」

「俺自身の手で祝ってやるぜ〜〜。まずは俺を見下していい気になってやがるあのクソ女どもを血祭りにあげてなぁ〜〜っ。ヒ、ヒヒ! ヒヒヒヒヒ!」
133 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:53:00.50 ID:ArvRQigk0
●シャルロット・シャーロット その@●

 まつりはエミリーを連れて人気の少ない港まで逃れていた。

 もしも本当に狙いが自分たちなら、無関係の人たちまで巻き込んでしまう恐れがあった。

 まつりの想定する敵は、そのような蛮行を平気で侵す者だ。
134 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:53:41.87 ID:ArvRQigk0
まつり「エミリーちゃん、落ち着いて聞いて欲しいのです」

まつり「さっきのお店で起こったことは、ひょっとしたらまつりの魔法と同じ力によるものなのかもしれないのです」

エミリー「同じ、力……?」

まつり「まつりにはお店の中にびっしりと張られた『糸』が見えていたのです。それが、あの破壊をもたらした」

まつり「そしてここからが大事なのですが……」

まつり「あの力の持ち主は、明らかにまつりとエミリーちゃんに『悪意』を持っているのです」

エミリー「――っ!」
135 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:54:25.65 ID:ArvRQigk0
まつり「(私個人への悪意なら立場上想定できることではあるけれど)」

まつり「(『糸』は、『他はついで』という感じで、私と……エミリーちゃんを中心に張られていた)」

まつり「(そうなる心当たりなら、嫌というほどある)」

エミリー「……私が、演奏集団の方たちと揉めたことと関係があるのでは?」

まつり「……」

まつり「今日が初対面であるまつりたちが一緒に襲われる動機といえばあの諍い、もっと言えばまつりたちに強い恨みを持ちそうな人物は、ナイフを振り回したあのバンドマンただ一人なのです」
136 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:55:03.62 ID:ArvRQigk0
エミリー「……」

エミリー「本当に、」

まつり「え?」

エミリー「本当に、すみません」

まつり「エミリーちゃん? ど、どうして謝るのです?」

エミリー「私のせいで……私を助けたばかりに……本来無関係なまつりさんまで危険な目に巻き込んでしまって……」

エミリー「私……なんてお詫びしたらいいか……」

まつり「それは違うわ!」

エミリー「!」
137 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:55:38.88 ID:ArvRQigk0
まつり「私があなたを助けたのは他ならぬ私の意思。あの場面で傍観者を気取ることは九条の、そしてこの私の信条にもとること。だから、私は自分から無関係でいることを辞めたの」

 面食らった様子のエミリーに、まつりは首を傾げて頬に人差し指を添えながら笑う。

まつり「それに、おまわりさんの言う通り、まつりがあの人を刺激したから余計な恨みを買っちゃったのかもしれないのです。だから、巻き込まれたのはエミリーちゃんの方とも言えるのです」

エミリー「そ、それは違……」

まつり「はいストップ! なのです」

エミリー「!」
138 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:56:10.64 ID:ArvRQigk0
まつり「ここで『違う違う』と言い合ってもしょうがないのです。重要なのは、これからどうするかということ。だから、お互い謝るのはなしにするのです。ね?」

エミリー「……はい!」
139 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:56:36.87 ID:ArvRQigk0
まつり「(そう、問題はこれからのこと)」

まつり「(このままエミリーちゃんを一人で帰すわけにはいかない。所属事務所とご家族に話を通して私の家で保護する必要がある)」

まつり「(でも長期戦は避けなければならない。エミリーちゃんの生活に支障が出るし、そうじゃなくてもいつ襲われるかわからないストレスなんて、そう長く耐えられるものでもない)」

まつり「(顔がわかっているのは幸いね。公園には監視カメラもあるし、彼ほど目立つ存在なら近辺のスタジオや路上ライブできそうな場所を当たればすぐ見つかるはず。『九条』の名前の使い所かしら)」
140 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:57:03.24 ID:ArvRQigk0
エミリー「まつりさん」

まつり「はいなのです。エミリーちゃん、今後についてなのですが」

エミリー「まつりさんは、本当に頼りになるお方です」

まつり「……え?」
141 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:57:31.76 ID:ArvRQigk0
エミリー「私を助けてくれたときも、たった今も、まつりさんはいつも恐怖することなく、危険に立ち向かおうとされています」

エミリー「それに引き換え、私は、何も出来なくて……」

エミリー「悔しいです、情けないです……! 私も……まつりさんのような『勇気』が……」

エミリー「『強さ』が欲しい……!」
142 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:58:00.25 ID:ArvRQigk0
 ――――――まつりは本当に強くて頼りになるね
143 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:58:26.51 ID:ArvRQigk0
まつり「――――」

 フラッシュバックした『在りし日の思い出』は、自然とまつりの口を動かそうとしていた。

 悔し涙を流すエミリーに投げかける言葉を紡ぐべく。

まつり「エミリーちゃん、あなたは――」
144 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:58:57.08 ID:ArvRQigk0
 ギュワワワ〜〜〜〜〜〜ンッ!

 プシュッ
145 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 11:59:39.06 ID:ArvRQigk0
「――――――え」

 まつりとエミリーは、自分たちの間に飛び散った『それ』を、まるでスーパースロー再生されたものでも見ているように、ただ呆然と眺めていた。

 一瞬遅れて、理解の追いついたまつりが目を見開く。

エミリー「き、」

 そしてエミリーは飛び散ったものの正体を、

 己の手首から『血』が吹き出ている現実を、激痛とともに思い知った!

エミリー「きゃあああああーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
146 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:00:14.37 ID:ArvRQigk0
まつり「エミリーちゃん、エミリーちゃんッ! ――ッ!?」

 まつりの『心の目』は、血に紛れるかすかな煌めきを捉えた。

まつり「こ……」

まつり「これはッ!」
147 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:00:40.24 ID:ArvRQigk0
 まつりは己の迂闊さを呪った!

 エミリーの手首に、『糸』が巻き付いていたのだ!

 『糸』は目をこらしてようやく見えるかというほどの細さだったが、それは紛れもなく、レストランに張られていたのと同じものだった!
148 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:01:10.49 ID:ArvRQigk0
エミリー「あ、あああああああああああ!」

まつり「落ち着いて! 傷は浅いのです! いいえ、深くたって私が――!」

「傷が浅い? そいつは困るなぁ〜〜〜〜〜〜」

まつり「!?」
149 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:02:05.53 ID:ArvRQigk0
 まつりの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んで来る。

 振り向いた先では『糸の塊』が不気味に蠢いている。

「追跡に気づかれないように限界まで細くしたとはいえ、やはりあの程度じゃあパワー不足って感じか」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
150 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:02:39.48 ID:ArvRQigk0
「結構気合入れて『演奏』したのにちょっぴり手首を傷つけただけとはな〜〜〜」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

まつり「(『線』が固まって……)」

まつり「(『立体』に!)」
151 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:03:07.34 ID:ArvRQigk0
 まつりの目の前で、糸は徐々に『形』を為していく。

 最初は腹、次に胸、腕、そして顔!

 糸の塊は『人型』を形成し、腕を組んで下卑た笑みとともにまつりを見下ろしている。

 下半身は足の代わりに無数の糸が垂れ下がっていて、クラゲかタコを連想させる。

 だが、そんな不気味な外見よりも異質な点。

 まるで『亡霊』か『立体映像』だかが漂っているように、糸の像の向こう側が透けて見えた!
152 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:03:33.59 ID:ArvRQigk0
まつり「(この『像(ビジョン)』……この『エネルギーの形』……)」

まつり「(やはり私と同じ能力!)」
153 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:04:13.56 ID:ArvRQigk0
糸の像「まっ! かなりコツは掴めてきたからよぉ〜〜〜」

まつり「!」

糸の像「次は、確実に『始末』出来るぜぇ」

糸の像「行けッ! 『弦』ども!」

 糸の像は二人に向かって下半身の糸を伸ばした!

 束ねられた糸はまるで魚の群れを狙う投網のように、まつりたちを飲み込もうと襲いかかる!
154 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:05:02.97 ID:ArvRQigk0
まつり「…………」

 だが、まつりは逃げようとも隠れようともせず、ただ佇む!

 拳は強く握りしめられ、向かってくる糸を瞬きもせず見据えるその目には、氷のような冷静さと揺らめく炎のような輝きを讃えていた!

 まつりの瞳の中で青く燃える光の名、それは『怒り』!

まつり「ほッ!!」

 ドコドコドコドコ!!
155 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:05:34.73 ID:ArvRQigk0
 まつりが繰り出した『幻の拳』が周囲の地面を叩く!

 破壊されたアスファルトは淡い光に包まれ、即座に修復される。

 まつりとエミリーを守るドーム状の『シェルター』に形を変えて!

糸の像「何っ! 俺の『弦』を防ぎやがった……ハッ!?」
156 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:07:08.69 ID:ArvRQigk0
 ドゴォ!

 ガラガラガラ……

糸の像「うう……!」

 内側からシェルターを破壊して歩み出たまつりは、『糸の像(ビジョン)』を一瞬恐怖させるほどの『スゴみ』を放っている!

 像が怯んだ隙をつき、『拳の幻影』がシェルターに阻まれ行き場を無くしていた糸を鷲掴みにする。

糸の像「しまっ……!」
157 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:08:26.92 ID:ArvRQigk0
まつり「やああああああッ!」

 『拳』が糸を思いっ切り引っ張り、『糸の像』を引き寄せる!

 そして怒れる主人の心に応えるように、まつりの『魔法』は自らを真の姿へと変えた!

 ドギャン!!
158 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:09:11.33 ID:ArvRQigk0
まつり「はいほーーーーッ!!」

 ドゴォ!!!

糸の像「グゲェーーーーッ!」

 まつりの『そば』から現れた『人型の幻影』が、その右拳で『糸の像』を思い切り殴りつける!

 ふっ飛ばされた『糸の像』は、形を保てなくなったように再び『立体』から『線』へと四散した。
159 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:09:41.69 ID:ArvRQigk0
 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 『それ』はまつりが『魔法』と呼ぶものであり、まつりの『心』そのものであり、常にまつりの『そばに立つ』もの。

 『それ』は玉座に冷厳と君臨する『女王』のようでもあり、まつりというお姫様に付き従う忠実な『ナイト』のようでもある。

 『それ』の頭上では陽光を受けたティアラが煌めき、精悍な体つきにはある意味似つかわしくない純白のドレスを風向きとは無関係に靡かせる。

 女性らしい顔つきの上半分はバイザーのようなものに覆われ表情こそわかりにくいものの、『それ』は主たるまつりと同じく、全身から『悪に立ち向かう意志』を漲らせていた!
160 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:10:13.79 ID:ArvRQigk0
 ズキュン!!

エミリー「! 怪我が……!」

 まつりのそばに立つ『幻影』がエミリーの手を優しく握ると、血が吹き出ていたのが嘘のように、エミリーの傷が塞がり痕跡もなくなった。

まつり「少し離れていてください。ちょっと危ないのです」

エミリー「え? で、でも……ハッ!?」
161 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:10:54.53 ID:ArvRQigk0
エミリー「ま、まさかまつりさん……今私が怪我をしたのは、さっきのお店と同じことが起こったのでは……! 恐れていたとおり、あの演奏者の男が、襲ってきたのでは……!」

エミリー「そしてあなたは、こんな危険な力を振るう人と、戦おうとしている!」

エミリー「そんなのダメです! いくらまつりさんでも無茶です! もう私のためにあなたが危険に晒されるのは……!」

まつり「エミリーちゃん。さっきあなたは『まつりが巻き込まれた』と言ったのです」

まつり「ぐっど。百万歩譲ってその通りだとするのです」

エミリー「……!?」
162 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:11:39.41 ID:ArvRQigk0
まつり「だけど、『巻き添えの逃避行』は既に、『私自身の戦い』に変わっているのです」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「あの男はエミリーちゃんを怖がらせるだけじゃ飽き足らず、まるで道端のゴミ箱を蹴っ飛ばすように、なんの躊躇もなく傷つけたッ!」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「これ以上あの男がエミリーちゃんの身を脅かそうと言うのなら……」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

163 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:12:07.03 ID:ArvRQigk0
まつり「今ここで、倒さなければならない!」

 ドォォォーーーーーz__ン
164 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:12:41.41 ID:ArvRQigk0
まつり「すたんだっぷ、なのです。糸くずさん」

まつり「今のは手応えがイマイチだったのです」

 まつりに応えるように、バラバラになっていた糸が固まっていく。

糸の像「な、なんてパワーだ……。あとちょっと『弦』になるのが遅かったらやられていた……」

糸の像「イカれ女! それが、テメーの『スタンド能力』かッ!」

165 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:13:15.30 ID:ArvRQigk0
まつり「……ほ? 『何』能力ですって?」

糸の像「だがよぉぉ……今ので俺を仕留められなかったのはテメーの失敗だぜぇ……」

糸の像「テメーのスタンドはそんなに遠くにはいけねえようだなぁーーっ。じゃなきゃすぐさま追撃に来たっていいはずだもんなぁーーっ!」

 『糸の像』がニタリと笑う。

 対するまつりは表情を変えず、ただ黙して糸の像を睨みつける。
166 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:13:46.53 ID:ArvRQigk0
糸の像「それにさっき見せたように俺のスタンドは『弦の回避』も出来る! 単純なパワーでは俺を捉えることは出来ない!」

糸の像「つまり、同じ土俵に立っちまえば俺の方に分があるってことなんだなぁ!」

糸の像「ドゥー・ユー・アンダスタンンンドウ! さっきいい気になって俺をコケにしたこと、後悔させてやるぜーーーっ!」
167 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:14:23.14 ID:ArvRQigk0
まつり「わんだほー。とてもわかり易い解説だったのです」

まつり「解説ついでに一つ確認させて欲しいのです」

まつり「あなた、さっきエミリーちゃんに絡んできたバンドマンの人でいいのです?」

糸の像「だったらどーしたッ! そうさッ、俺は『ゼビ』! 才能が目覚めた今、すぐにでもこの名前がワールドワイドに知れ渡るぜーーー!」

まつり「ほ? 案外あっさり認めてくれるのです。それに聞いてもいないのにお名前まで」

バンドマン「おかしいか? いーや、全然おかしくねえなぁーー!」
168 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:14:52.14 ID:ArvRQigk0
バンドマン「俺の『スタンド』のやったことは無能のポリ公どもなんぞにはわかりゃしねぇーー。ってことはよぉ……」

バンドマン「ここでテメーらを始末して口を封じさえすりゃ、この先何をやっても誰にもバレねえってことじゃあねえか! ケケケ!」

 馬鹿笑いする糸の像だが、
169 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:15:19.29 ID:ArvRQigk0
まつり「ふむふむ、なるほど完璧な計画なのです」

 それに冷や水を浴びせるように、まつりは小首を傾げて頬に人差し指を添えながら、目を細めて笑う。

まつり「不可能という点に目をつむれば……ね?」
170 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:15:48.40 ID:ArvRQigk0
バンドマン「……何?」

まつり「かくいうまつりにも計画があったのです」

まつり「でもそれは『長期戦』かつ『あなたを探さなければならない』という問題があったのです。考えるだけでゲンナリしちゃうのです。でも――」

まつり「わんだほー、ここであなたを倒せば、一気に全てが解決しちゃうのです」
171 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:16:17.41 ID:ArvRQigk0
バンドマン「何だぁーーーーっ!? この期に及んでまだイキがる気か、このヴォケが!」

バンドマン「許さねえ…もう一秒たりともテメーがいい気になるのを許しちゃおけねえ……」

バンドマン「泣いて土下座して侘びたところでもうおせぇーーー! 覚悟しやがれ、イカれ女っ!」
172 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:16:44.28 ID:ArvRQigk0
まつり「口を慎みなさい、卑劣漢。覚悟が必要なのはそちらの方よ」

まつり「あなたはこの九条まつりが直々に叩きのめす」
173 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:17:10.67 ID:ArvRQigk0
●シャルロット・シャーロット そのA●

 まつりは『幻影』をそばに控えさせながら、『糸』に向かって駆け出す!

バンドマン「ケッ! 生意気にも向かってくるか! 俺の考えた通りみてーだなーっ」
174 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:17:38.45 ID:ArvRQigk0
まつり「(確かに)」

まつり「(私の『魔法』――バンドマンの男は『スタンド能力』と呼んでいた――はせいぜい1〜2メートルくらいしか私から離れられない)」

まつり「(あの糸の『スタンド』はどうやらそうではない。『スタンド』にはそれぞれ『射程距離』があるということ!)」
175 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:18:29.81 ID:ArvRQigk0
バンドマン「けどよぉ、その他大勢のファンごときがステージ上のスターに近付くなんざ、恐れ多いにもほどがあるんじゃあねえかぁ!?」

 まつりが嫌な予感とともに目線を下げると、敵スタンドの糸状の下半身は地面に向かって伸びていた!

まつり「――ッ!」

 まつりがスタンドの力を利用して遮二無二飛び退くのと同時、

 ギュワワワ〜〜〜〜〜〜ン!!

 耳障りな騒音とともに、地面の上でクモの巣状に広がっていた糸に衝撃波が走る!

 なんとかかわせたものの、まつりの態勢は大きく崩れる。
176 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:19:01.73 ID:ArvRQigk0
バンドマン「隙だらけだぜ!」

 まつりの元へ、『これが本命』と言わんばかりに、太く束ねられた糸の群れが襲いかかる!

まつり「なんの! なのです!」

 まつりのスタンドも負けじと両拳で応戦を試みる。

 高速のラッシュは鞭のようにしなる無数の糸を尽く弾き飛ばしていく。
177 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:19:31.00 ID:ArvRQigk0
バンドマン「チィ……!」

バンドマン「やはりパワーもスピードもテメーのスタンドの方が上……だが」

バンドマン「そんなことはハナっから想定内なんだよ、バカが!」

 まつりがハッとして目をこらすと、いつの間にかスタンドの右足に、エミリーの手首を傷つけたものと同じくらい細い糸が巻き付いている。
178 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:19:56.14 ID:ArvRQigk0
まつり「(『本命の本命』はこっち――!)」

 即座に糸を外そうとするも、『一手』遅れたまつりよりもバンドマンの方が早かった!

バンドマン「太く束ねた糸の中に一本だけ極細の糸を紛れさせた! そしてくらえ!」

 ギュワワワ〜〜〜〜〜〜ン!
179 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:20:23.48 ID:ArvRQigk0
まつり「ッ! あああッ!」

 糸の衝撃波がまつりのスタンドを傷付けると、体の同じ箇所に激痛が走り、血が吹き出した。

まつり「――痛ッ!」

 苦痛に顔を歪ませながらも、まつりは思考を止めることなくフル回転させる。
180 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:20:51.00 ID:ArvRQigk0
まつり「(スタンドが傷つけばそれを『心のパワー』で動かす自分自身――いわば『本体』にも返ってくる、か……。あまり気持ちのいい話ではないけれど……)」

まつり「(だんだん『ルール』がわかってきた! 同時に私がやるべきことも!)」

まつり「(倒すべきは『本体』の方だわ! 糸のスタンドに攻撃が通じにくいのなら、本体を直接叩く!)」

まつり「(私とは違うタイプみたいだけれど、同じ『スタンド能力』である以上、射程距離にも限界があるはず!)」

まつり「(そして対応や狙いの正確さから考えて、きっとバンドマンは近くで私達を見ている! なんとかして『本体』を探し出さなくては!)」
181 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:21:20.13 ID:ArvRQigk0
 まつりがさらなる決意を固めたとも知らず、糸のスタンドは満足げに下卑た笑いを漏らす。

バンドマン「ンッン〜〜〜〜♪ 実に! スガスガしい気分だッ!」

バンドマン「欲を言えばもうちょい悲鳴とかあるといいんだけどなぁーーーーーっ。ま、ノリの悪いクソ客がいるのもライブの常だもんなぁ!」

バンドマン「んーーーー♪ そうだなあ、俺のこの『才能』にも名前が必要だな」
182 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:22:21.16 ID:ArvRQigk0
バンドマン「どんなものにもそれにふさわしい『名前』があるもんだもんなぁーっ。バンドや曲みてえによぉ〜〜〜」

バンドマン「『ゼビ』って芸名を思いつくには一晩かかっちまったが、今の俺には自然とイカしたのがピーンと降ってくるはずだぜ。ん〜〜〜〜〜〜」

 ドリュデドリュデドリュドリュドリュラドギュギララ

 糸のスタンドが己の下半身をギターの『弦』のようにしてかき鳴らす。

バンドマン「! ククク……」
183 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:22:50.76 ID:ArvRQigk0
バンドマン「降ってきたぜ〜〜。俺の才能を表現するスンバラシイのがよぉ〜〜〜」

バンドマン「『ガストノッチ』ッ! 絶好調な俺にピッタリな最高の名前だぜッ!」

 ドギュギュウウゥゥウン(うっとり)
184 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:23:16.85 ID:ArvRQigk0
まつり「ほ?」

まつり「最高の絶好調というのはかよわい女の子の足にかすり傷を付けることを言うのです?」

まつり「これなら転んで膝を擦りむいた時の方が痛かったのです」

バンドマン「なんで最近の女ってやつはこうも生意気なんだ?」
185 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:23:48.62 ID:ArvRQigk0
バンドマン「まあいい。どれだけ減らず口を叩こうがダメージがあることには変わりがねえ」

バンドマン「これでお前はもう素早い動きが出来ないッ!」

バンドマン「あとは俺に狩られるだけのプルプル足震わせる小鹿も同然なんだよォォォーーーーーー!」

 勝ち誇った笑みでまつりを見下ろす糸のスタンド。

 右足から血を流して膝をつくまつり。

 バンドマンの言葉は両者の構図を正しく言い表しているようでもある。
186 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:24:16.26 ID:ArvRQigk0
 スタンドが見えないエミリーは、傷ついたまつりを目にして、もはや言葉すら挟めずにいた。

 なぜならば、

エミリー「(どうして)」

エミリー「(あなたはどうして、そこまで強くあれるのですか……?)」

 傷ついてなお、まつりの瞳には精神的動揺とは無縁の、『青く燃える勇気』が燦然と輝き続けていた!

 この気高き姿を前に、エミリーはまつりの戦いを留めさせる言葉を持たなかった!
187 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:24:43.76 ID:ArvRQigk0
バンドマン「もういつでもお前を倒せる状態になったんだしよぉ……。テメーだけに構っててもしょーがねーよなぁ……」

 糸のスタンドの言葉よりも早く、まつりは既に行動を開始していた!

 『ゲス野郎』のおキマリの発想などお見通しとでもいう風に!

エミリー「――え!?」

 『エミリーの元』へ、糸とまつりが競うように疾走る!
188 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:25:10.76 ID:ArvRQigk0
バンドマン「――! ふん! ならまとめてくたばれや!」

 右足の痛みに顔をしかめながらも、まつりは力を振り絞って足を動かす。

まつり「はいほーーーーッ!」

 糸の進路上に立ちふさがったまつりのスタンドが足元のアスファルトを割り、瓦礫が淡い光を纏って宙に浮かぶ。
189 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:25:46.84 ID:ArvRQigk0
バンドマン「はん! また石の壁で糸を防御しようってか?」

バンドマン「バカの一つ覚えが! そんなもんこうするだけだボケ!」

 糸の群れはまつりを避けるように軌道を変え、蛇のようにエミリーの元へ向かう。
190 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:26:15.73 ID:ArvRQigk0
まつり「ほ!」

 だがまつりはそれを読んでいたかのように、スタンドの手刀で糸の一本を断ち切る。

 他の糸はそれに構うことなく、なおもエミリーに襲いかかるが、

まつり「させないのです!」

 まつりはラッシュの要領で残っていた糸を全て掴み取った!
191 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:26:42.97 ID:ArvRQigk0
バンドマン「自ら掴むとはバカなやつ! さっきと違っていつでも攻撃の準備は出来てるんだぜ!」

バンドマン「『ガストノッチ』!」

 ギュワワワ〜〜〜〜〜〜ン!
192 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:27:10.97 ID:ArvRQigk0
まつり「――――ッッ!」

 スタンドを通して衝撃波のダメージがまつりの両腕を伝う。それはドレスの肩口まで裂くほどだったが、

バンドマン「んなっ……!?」

 それでもまつりは、歯を食いしばりながら決して糸を手放さなかった!
193 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:27:36.61 ID:ArvRQigk0
まつり「防御なんてすっとろいこと……」

まつり「最初から考えてないのです!」

 まつりは糸を掴んだ拳を自ら破壊した地面に叩きつける。

 その部分の修復は、まだ終わっていなかった!

まつり「アスファルトを『糸ごと』直す!」
194 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:28:11.10 ID:ArvRQigk0
 ギュギュウゥゥゥン…

 ピタァァッ!

バンドマン「な、」

バンドマン「何ィィーーーーーーーー!?」

 糸のスタンドは下半身の部分を地面に縫い付けられるようにして身動きを封じられる。

バンドマン「ヒィィィ! う、動けねェ!」
195 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:28:42.13 ID:ArvRQigk0
まつり「まるで昔のデパートの屋上にあったっていうアドバルーンみたいなのです」

まつり「あんまり可愛くないからお客さんが逆に離れていきそうですが」

まつり「さて、これでゆっくりと本体が探せるのです。エミリーちゃん、行きましょう」

エミリー「は、はい……。……!」
196 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:29:51.33 ID:ArvRQigk0
エミリー「まつりさん、酷い怪我です……」

まつり「ほ? 大丈夫なのです。ちょっと見た目が派手なだけなのです。あんまりパワーのない能力で良かったのですよ」

エミリー「でも……! あ、そ、そうですよ! まつりさんの『魔法』で治せばいいのでは?」

まつり「くればーな名案なのです! では、悪い人を懲らしめた後でゆっくり治すのです」

まつり「そこで神妙にしているのですよ。大人しくしていれば悪いようにはしないのです」

バンドマン「く、くくく……」

まつり「?」

バンドマン「ギャーーーーーーーーーッハッハッハッハ〜〜〜〜〜〜! なァんてなァァ〜〜〜〜〜!」
197 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:30:18.66 ID:ArvRQigk0
 敵スタンドは下半身の部分を切り離して地面の拘束から脱出すると、即座に新たな糸を生み出して瞬く間にまつりを縛り上げる!

エミリー「きゃああああっ!?」

エミリー「そ、そんな! まつりさん! まつりさーーーーーん!」
198 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:30:45.24 ID:ArvRQigk0
 エミリーにはまつりがまるで不可視の糸によって空に磔になっているように見える。

 その非現実的な光景は恐怖と絶望以外の何物でもなかった!

バンドマン「どマヌケが! あんな程度で俺を捕らえたつもりになりやがって!」

バンドマン「ギターと同じよ! 『弦』の部分なんていくらでも替えがきく消耗品に過ぎねーんだぜッ!」

まつり「く、ううう……!」

バンドマン「アドバルーンになるのはテメーの方だったなァァー! 俺様の偉大さを宣伝するためのよォォーーーーーッ!」
199 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:31:18.69 ID:ArvRQigk0
 糸のスタンドはギリギリとまつりの全身を締め上げる。

 首を締め付ける力を四肢よりも弱くしたのはまつりの悲鳴と命乞いを聞きたいという最低の発想からであったが、まつりは苦しげに喘ぎながらも決してバンドマンの思う通りにはならなかった。

 その点は少しばかり不満だったものの、しかし糸のスタンドは愉快げに口の端を歪める。

バンドマン「ウププ! クケッ! ウプップププププ!」

バンドマン「いい気になってたヤツの足元を掬ってやると今の俺みてーに笑顔が心の底からこみ上げてくるよなあ? 幸せってのはこういうことを言うんだろーなあーー!」
200 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:31:49.43 ID:ArvRQigk0
エミリー「お願い! 近くで見ているんでしょう? あなたの望みはなんでも聞きますから! だからもうやめて!」

バンドマン「ヒーーッヒッヒッヒ! ああァ〜〜〜〜心に染みる最高の歓声だぜ〜〜」

バンドマン「テメーもこのガイジンと同じくらいの可愛げがありゃちっとは俺様も優しくなれたかもしれねえのになあ。実に残念だァ〜〜〜」

201 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:32:16.58 ID:ArvRQigk0
バンドマン「次の攻撃で最後だ」

バンドマン「じっくり準備して最大のパワーで演奏してやる。そうすりゃあおめえ……」

バンドマン「完璧にイッちまうかもなァァァァーーーーーーーーーーッ! 『マイケル・ジャクソン』を前にしたファンのようによォォォーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 糸のスタンドは狂ったように笑いながらメチャクチャなリフを弾き出す。本命のメインフレーズの前フリというように!
202 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:32:48.04 ID:ArvRQigk0
エミリー「ごめんなさい……ごめんなさい……。もう……許して……。まつりさんを……まつりさんを……傷つけないで……」

まつり「エミリー……、ちゃん……」

エミリー「! まつりさん!」

まつり「許しを…乞う…、だなんて…、そんなことをエミリーちゃんが、する、必要、…全然…ない、のです」

エミリー「でもこのままじゃまつりさんが……まつりさんが……!」

まつり「エミリー、ちゃん」

まつり「『鏡の中のシャーロット』の結末を、覚えているのです?」
203 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:33:41.96 ID:ArvRQigk0
エミリー「……!? 今そんなことを話している場合では…………ッ!」

まつり「…………」

 まつりの目があまりにも真剣だったので、エミリーは危機的状況にはそぐわない質問に答えてしまった。

エミリー「主人公のシャルロットは……鏡の中のシャーロットが消えてしまったことで、一番のお友達とお別れをしなければなりませんでした」

エミリー「とても悲しくて…寂しい幕引きだったと思います…」

まつり「でもシャルロットは……『一歩を踏み出す』勇気と強さを……シャーロットに貰ったのです」
204 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:34:10.42 ID:ArvRQigk0
まつり「確かに寂しいけれど……決して悲しいだけの物語では……なかったのです」

まつり「今日までのまつりは……シャーロットを失ってもまだ屋根裏部屋に閉じこもって……窓からお花畑を眺めることしか出来ない……弱いままのシャルロットだったのです」

まつり「でも、エミリーちゃん」

まつり「あなたのおかげで、まつりは少しだけ前に進める気がするのです」
205 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:34:42.19 ID:ArvRQigk0
エミリー「…………え?」

まつり「私は『あの日』からずっとこの力の意味を考えていた。大切なものを救えなかったこの力は、『呪い』や『悪霊』に過ぎないのではないかと怯えたこともあった」

まつり「そんなまつりの力を、エミリーちゃんは『優しい』と言ってくれたのです」

まつり「本当に、本当に、救われたのです」
206 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:35:09.03 ID:ArvRQigk0
エミリー「まつりさん……」

まつり「それにエミリーちゃんは『強さが欲しい』、なんて言ったけれど」

まつり「あなたは既に、それを手にしているのです」
207 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:35:47.55 ID:ArvRQigk0
まつり「恐い目にあった後だというのに挫けることなくステージをやり切った『勇気』、自分の笑顔で他の誰かをも笑顔に変えてしまえる『強さ』」

まつり「こんなことが出来る女の子が弱いなんて、有り得ないのです」

まつり「エミリーちゃんはもう、立派な『アイドル』なのです」

まつり「あなたに『勇気』と『強さ』を分けてもらったまつりが保証するのです」
208 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:36:24.67 ID:ArvRQigk0
 エミリーが返す言葉を持たないでいると、(彼女に聞こえていないのは不幸中の幸いだったが)唐突に耳障りなリフがピタリと止んだ。

 『最後のフレーズ』の準備が出来たのだ!

バンドマン「フゥゥゥゥ……かなりテンションが上がってきたなァァァ……」

バンドマン「今なら『ジミヘン』だってチビッちまうくらいのヤバいプレイが出来るぜェーーーっ!」

バンドマン「アー・ユー・レディィィィーーーーーーーッ! スタンドパワーを全開で最大出力だ!」

バンドマン「遺言考えるくらいの時間を与えてやった慈悲に感謝するんだな、イカれ女!」
209 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:36:53.69 ID:ArvRQigk0
まつり「最大出力?」

まつり「それは…辞めておいたほうが……いいのです」

バンドマン「ああん?」

まつり「まだ気が付かないのです?」

まつり「あなたが独りよがりの演奏をしていた時間はまつりが遺言を考えるのではなく」

まつり「あなたが頭を冷やして反省する最後のチャンスだったことに」
210 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:37:21.90 ID:ArvRQigk0
バンドマン「ふぅ〜〜〜〜〜」

バンドマン「今更強がってどうする? ムカつく通り越してもはや哀れだぜェ〜」

バンドマン「手も足も出ないそのザマでイキがろうと俺様の勝利はもう決まっているゥゥゥーーーーーーーーーーーーーッ!」

バンドマン「テメーの身の程知らずを後悔してくたばりやがれーーーーッ!」

バンドマン「『ガストノッチ』ッ!!」
211 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:37:49.74 ID:ArvRQigk0
 ギュゴゴゴガガワワワワワワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!

 もはや『騒音』の域を超えた『音の暴力』とともに、より強烈な衝撃波が走った!
 
「あああああああああああああああああああああああああッ!!」
212 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:38:16.42 ID:ArvRQigk0
 エミリーにはスタンドの発する音は聞こえない。

 だが、耳をつんざくような絶叫が辺りに響き、エミリーは思わず目と耳を塞いでしまった。

 やがて絶叫が止み、辺りが静寂を取り戻す。

 目を開いたとき、そこにあるのはボロボロに傷ついた少女の姿。

 狂いそうな想像に苛まれながら、エミリーが恐る恐る目を開けると、

エミリー「……?」

エミリー「……………………え!?」
213 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:38:43.91 ID:ArvRQigk0
 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「結局」

まつり「ちっともお話が通じなかったのです」

まつり「みんなニコニコ、笑顔の魔法はとっても難しいのですよ」

まつり「ね? エミリーちゃん」
214 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:39:10.67 ID:ArvRQigk0
 まつりはさっきまでと変わらない様子で、小首を傾げながらエミリーにウインクを向けていた!

 何がなんだか理解できないエミリーだったが、もし彼女に『スタンド』が見えていたなら、何が起こったかなど一目瞭然だっただろう!

バンドマン「……ッ! …………ッ!(パクパク」

 ボロボロに傷ついて姿を保つのもやっとの、息も絶え絶えになっている糸のスタンドの有様が見えさえすれば!
215 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:39:53.80 ID:ArvRQigk0
まつり「糸を切り離せようが関係ないわ」

まつり「あらかじめ切っておいた『糸』を治した。あなたが自ら糸を切断して張り直した瞬間に」

まつり「そしてあなたの体に治りに戻った糸を上半身に巻き付けておいたのよ。ちゃんとあなた自身にも衝撃波が通じるように」

まつり「自分が張ったものではない細い糸は、離れた場所からスタンドを操作しているあなたには気づけなかったようね」

バンドマン「………………!」

まつり「こちらが手も足も出せないのなら、あなた自身にトドメのスイッチを押してもらうまで」
216 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:40:23.39 ID:ArvRQigk0
まつり「さて、声はこちらの方から……」

 エミリーを連れてまつりが軽い足取りで、港に積み上げられたコンテナの一つに向かう。

 その影には、スタンドと同じく言葉を発するのもままならない様子で地べたに這いつくばる一人の男の姿があった。

それは紛れもなく、エミリーを襲ったあのバンドマンの暴漢だった!
217 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:40:52.77 ID:ArvRQigk0
バンドマン「か……は……ぐ……ううう…………!」

まつり「はいほー、お兄さん。改めてお久しぶりなのです。ところで」

まつり「あなたが並べ立てた笑顔のお話ですが……こうして今のあなたを見下ろしてもちっとも笑顔なんて湧いてこないのです」

まつり「やっぱりあなた、最初から最後までエミリーちゃんの足元にも及んでいないのですよ」
218 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:41:19.79 ID:ArvRQigk0
●シャルロット・シャーロット そのB●

まつり「さあて、おまわりさんに突き出す前に聞いておくのです」

まつり「あなたのバックにいる人物について……ね?」

エミリー「? それはどういう……」
219 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:41:54.87 ID:ArvRQigk0
まつり「このお兄さんはエミリーちゃんに絡んできた時点では明らかにまつりの力が見えていなかったのです。つまりこの短時間で能力を身に着けたということ」

まつり「それ自体はまつりたちへの恨みがわんだほーなみらくるを起こした、と強引に解釈できるとしても……」

まつり「『スタンド能力』、と言いましたか。彼はどうやってこの力のことを知ったのでしょう? まつりなんて力の名前すら知らなかったというのに」

エミリー「あ……!」

まつり「答えは簡単。彼に『スタンド能力』のことを教えた『何者か』がいるのです」

バンドマン「…………ッ!」

まつり「そして恐らくその『何者か』は、彼が『スタンド使い』になった経緯にも関わっていると見るのが自然!」
220 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:42:30.61 ID:ArvRQigk0
まつり「素直に話してくれますよね? 話してくれたらまつりもあなたも皆はっぴー! なのです。……ね?」

 まつりのスタンドがバンドマンに触れると、ボロボロだった体が瞬く間に全快する。

 目を白黒させて驚いたのもつかの間、まつりのスタンドが放つ『スゴみ』を前にして、バンドマンは媚びたような笑みを浮かべた。

バンドマン「わ…わかった、話す、話すよ……。別に奴に義理立てする必要はねーし口止めもされてねーからなぁ〜。へ、へへ……」

バンドマン「そうだ……俺の『スタンド能力』の才能が目覚めたのは、あの『スーツの男』の『プロデュース』のおかげだ」

まつり・エミリー「『プロデュース』……?」
221 : ◆nzxhv4bDzU [sage saga]:2020/03/07(土) 12:42:56.86 ID:ArvRQigk0
 バンドマンは駅前広場から逃走した後に起こったことを話した。

エミリー「なんだか……俄には信じがたい不気味なお話ですね……」

バンドマン「テメーらがほら話と思おうがどうだっていいがなぁ〜〜。俺の話はこれが全てさ」

まつり「……」
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