魔王「勇者殺人事件」

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1 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/02/10(月) 20:35:44.00 ID:ZEuYCnNT0

魔法使い「嘘……こんなの嘘だよねぇ!」

 おさげ髪の魔法使いが嘆く。
 震えながら立ち竦む彼女の足元には、黒髪の少年がうつ伏せに横たわっていた。
 こちらとは反対側に顔を向けているので表情までは分からない。
 しかし首元や頬は遠目からでも分かるほど青白く、生気がない。

神官「なんでや、なんで死んでもうたん……勇者」

 動かない少年の頭側で膝をついていた、白い衣の神官が呟いた。
 そして少年の上半身を守るように覆いかぶさり、静かに泣き始める。
 形の良い目からこぼれた雫が、勇者の衣服を濡らした。

騎士「……」

 甲冑に身を包んだ短髪の少女騎士が膝をつき、勇者の左手首をとった。

騎士「手首の脈が……ない」

弓兵「呼吸もしていまセン。残念デスが、勇者サンは……もう」

 反対側で勇者の口に手を当てていた背の高い弓兵が、ゆっくりと首を振る。

魔法使い「嫌だ……こんなの、嫌だああああっ!」

 魔法使いの少女が絶叫する。悲痛な叫びは魔王城の広間にこだましたあと、吸い込まれるように消えた。

 闇を具現化したごとき玉座の前で、我……魔王は呟く。

魔王「勇者が、死んだ……?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1581334543
2 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2020/02/10(月) 20:38:56.05 ID:ZEuYCnNT0

 ─五分前─

 〜魔王城 地下控室〜

 ゴゴゴゴゴ……

魔王「ふははは! よくぞここまで辿り着いたな勇者よ。我こそは魔王である。
 どうだ、世界の半分をくれてやるから、我の陣営に……──違うな」

 ゴゴゴゴゴ……

魔王「ふははは! 待ちくたびれたぞ。どれ、顔をよく見せるが良い。物言わぬ死体となる前にな! 
 ふははは……──うーむ」

魔王(どうも違う。もっと我の強さ、恐ろしさを口上で表現できればいいのだが……。
 こんなことなら副将軍をアドバイザーとして残しておけばよかった。奴はこういうのが得意だったはず)

 ポンッ

?『勇者一行が到着しました』

魔王「むう、時間切れか。仕方あるまい」

 バサアッ
3 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2020/02/10(月) 20:41:08.32 ID:ZEuYCnNT0

 〜魔王城最奥・謁見の間〜

 ズゴゴゴゴゴ……!

魔王「ふはははは! よくぞ我の眼前まで辿り着いたな人の子らよ。
 喜ぶが良い。儚い命を散らすのが、他でもない我の手によるものであることを……む?」


勇者「」

魔法使い「嘘……こんなの嘘だよねぇ!」

神官「なんでや、なんで死んでもうたん……勇者」ギュッ

騎士「……」

 スッ

騎士「手首の脈が……ない」

弓兵「呼吸もしていまセン。残念デスが、勇者サンは……もう」

魔法使い「嫌だ……こんなの、嫌だああああっ!」ポロポロ


魔王「勇者が、死んだ……?」


弓兵「! 皆サンあそこを、魔王デス!」バッ

騎士「貴様、よくも勇者を!」スラッ


魔王「いや違うぞ、我では」


弓兵「魔王とはいえナンテ卑怯ナ!」キリリッ


魔王「だから我ではないと」


 ゆらり

魔法使い「許さない、よくも僕の勇者様を!
 『ランク3、雷刃』」パリッ

 バリバリッ!
4 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2020/02/10(月) 20:43:49.45 ID:ZEuYCnNT0

神官「あかん、その程度の攻撃じゃ──」

 シュオッ

神官「くそ、やっぱり傷一つつかへんか」


魔王「話を聞かぬか。我は」


神官「魔法使い、弓兵! 魔力を結集して「聖なる光」を連発するんや。それで足止めくらいは……っ」


魔王「いい加減にせよ! 我が殺したのではない!」ダン

『闇のオーラ・ランク10』

 ゴオオオオッ

勇者一行「……っ」フウッ

 ドサドサッ

魔王「! む、むう……」

魔王(オーラを暴走させてしまうとは……我もまだまだ未熟者よ)

──


神官「っは!」ガバッ

魔王「気がついたか。お主が一番闇耐性が低かったのでな。目覚めぬのではないかと思ったぞ」スッ

神官「さ、触らんといて!」

 バシンッ

神官(! 魔力を感じない。ただ起こそうとしただけ……?)

魔王「ふむ、それほどの元気があれば大丈夫だろう」

弓兵「神官サン!」タタッ

神官「皆、無事なんか」

魔法使い「うん。なんでか、分かんないけど」グスッ

魔王(勇者以外全員女性か。珍しいパーティだな)
5 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2020/02/10(月) 20:46:04.56 ID:ZEuYCnNT0

騎士「神官が目覚める前にも聞いたが、魔王。本当に貴様が勇者を殺したのではないのか?」

魔王「我の手によるものではない。
 もし仮に我が何らかの方法で命を奪ったのであれば、知らぬふりをする理由はない。
 敵の首領を討ち取ったのだ、盛大に高笑いしつつお主らを全滅させる追撃を加えるのが普通であろう」

騎士「確かに……」

神官「だけど、魔族は信用できん。油断させて不意打ちするつもりかもしれん」

ダンッ

皆「!」

魔王「我をそこらの雑魚と一緒にするな。
 少なくとも勇者の死の理由が明らかになるまで、お主らに危害を加えるつもりはない。
 大切な容疑者だからな」

神官「容疑者?」

魔王「そうだ。名付けて、「勇者殺人事件」」キラキラ

騎士(この魔王……楽しんでいる)

神官(さてはミステリファンやな?)
6 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2020/02/10(月) 20:48:23.72 ID:ZEuYCnNT0

 ズゴゴゴ……

魔法使い「げほ、ごほ……ごめん、このスモーク止めてもらえない?」

魔王「おお、我の登場からずっと煙が出ていたようだ、すまない」

魔法使い(謝った……魔王なのに)

魔王「あー……『コレクサ、スモーク止めて』」

コレクサ『はい、了解しました』

 フシュゥウウ……

魔法使い「……えっ? い、今のは?」

魔王「なんだ知らぬのか。コレクサといってな。学習機能がついた音声認識AIだ」

弓兵「科学技術、デスネ。西方で発達した魔法の一種で、雷を動力にスル」

神官「大きな街では割と科学はメジャーやな。普通の魔法と半々ぐらいで使われてる場所もある……けど、ここまでの技術は聞いたことあらへん」

騎士「というか、なぜ口調が変わる? 『スモークを止めよ』とか、もっと重々しい言い方があるだろう」

魔王「……標準語でないとコレクサに音声認識してもらえぬのだ……」

騎士(魔王の威厳はどこへ……?)
7 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2020/02/10(月) 20:50:48.18 ID:ZEuYCnNT0

魔王「さて、まずは真に勇者が死んでいるかを確かめるとしよう」

神官「どうするんや?」

魔王「治癒魔法を試みて、効かなければ死体ということだ。治癒は生者にしか作用せぬからな。

 ランク3『治癒』」コオッ

 シン……

魔王「ふむ。ランク7『上位治癒』」コオオッ

 シン……

魔王「ランク12『最上位治癒』」カッ

 シン……

魔法使い(すごい、ランク12なんて初めて見た)ゴクリ

魔王「確認した。確かに勇者は死んでいるな」

神官「そんなん見たら分かるやろ。顔色は真っ白やし、脈も呼吸もなかったんやから」

魔王「過信は禁物だ。
 我は疑り深い質でな。一つ一つ丁寧に確認せねば前に進めぬのだ」

弓兵「うーん……死因が分かる魔法があれバ、すぐに解決するんデスけどネ」

魔法使い「そんな都合のいい魔法あるわけ」

魔王「あるが」

皆「!?」

魔王「ランク13の魔法、「真相究明」がそれだ」

魔法使い「ランク13? 魔法はランク12までじゃ……」

魔王「いや、13が一番上だ。人間界では知られていないらしいが」

騎士「なら、その魔法を使おう。勇者を殺した犯人が分かるんだろう?」

魔王「……」

神官「ん? どしたん魔王」

魔王「……そんなことをしたら、すぐ真相が分かってつまらんではないか」

神官「わがままか!」

魔王「むう……理由はそれだけではないぞ。ランク13の魔法は大量の生贄を必要とするのだ。
 とはいえ、「真相究明」はその中でも対価が安く済む方だがな。
 規模はそうさな……ざっと45万人いれば足りるか。お主ら、いくつか手頃な国に心当たりはあるか?」

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/10(月) 21:25:54.88 ID:IJ2NsG1x0
アカシックレコードにでも接続するんか
9 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/02/11(火) 17:40:02.13 ID:5wkq1Hma0

神官「う……やっぱいいわ」

騎士「生贄など論外だ……しかし、このまま何も分からないままにはしたくない。
 勇者は大切な幼馴染だ。あいつの無念を晴らしてやりたい。
 だから魔王、今だけあなたの力を貸してほしい」

魔王「いいだろう。我も仲間は大切にする方だからな、気持ちは痛いほど分かるぞ。
 ……まあ、ここに来るまでに全員お主らに倒されたわけだが……」

騎士(う……)


魔王「ではまず、死体の様子を見てみるとしよう。
 ランク3『究明』」キィン

 コオッ

魔王「ふむ、さすが勇者。その名に恥じないステータスを──」

 ポウ……

弓兵「エッ!? ちょっと皆サン見て下サイ、死体が!」

 スウッ

魔王「! 死体が消えた、だと……!?」
10 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2020/02/11(火) 17:42:13.40 ID:5wkq1Hma0

騎士「な、なんで」

神官「魔王、アンタ何かしたんか!?」

魔法使い「違うよ、魔力は感じなかった。魔王はなにもしていない……」

神官「ほな一体何があったんや」

魔王「まさか……なるほど……そうか!」

弓兵「何か分かったんデスカ?」

魔王「ダンジョンでは一定時間が過ぎると、倒したモンスターの死体が消えるのは知っているな?」

騎士「そうなのか?」

弓兵「騎士サン……冒険者の常識デスヨ」

魔王「この城もダンジョンの一種だ。ゆえに、勇者の死体はダンジョンのルールにより消されたのだろう」

魔法使い「ちょっと待って、それおかしくない?
 ダンジョンで消えるのはモンスターだけで、人間は消えないはずじゃ?」
11 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2020/02/11(火) 17:44:30.78 ID:5wkq1Hma0

魔王「ふむ……コレクサ、先程スキャンした情報を表示して」

 ヴゥン

魔法使い「す、すごい。空中に文字が……!」

魔王「うむ。コレクサと映写魔法陣を接続することで可能になるのだ。便利だぞ。
 この前開催した『ドキッ! 魔族だらけのしりとり大会・魔王様のポロリもあるよ』でもこの機能は大活躍であった」

神官「仲ええな魔族! うらやましいわ!」

魔王「まあ、そのときの参加者は我以外全員倒された訳だが……」

皆「うっ」

弓兵(ちょくちょく罪悪感刺激してきますネ……)

魔王「さて。ランク3「究明」で分かるのは簡単なステータスのみだが、我の予想が正しければ……」
12 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2020/02/11(火) 17:46:28.63 ID:5wkq1Hma0

『勇者のステータス』

──

「勇者(死亡)」Lv63 種族・人間(光の民) 18歳

名前 コウキ・ミツヅリ

職業 魔法剣士、剣聖、竜騎士、遊び人、ギャンブラー

HP 540
MP 400
攻撃力 500
魔法攻撃力 500
防御力 300

特殊スキル 魔を祓う者、光の王、ドラゴンスレイヤー

──

 スッ

魔王「ここだ」

騎士「え?」

魔王「『竜騎士』は一定数のドラゴンを倒すことで追加されるが、同時に体が徐々に竜化していく呪いの職でもある。
 ダンジョンのルールはモンスターの死体を消す、というものだ。竜と人が混ざった死体を、モンスターだと誤認した可能性が高い」

騎士「体が、ドラゴンに……」

魔王(竜騎士、か。ふーむ、何か引っかかるが……思い出せんな。あとで文献をあたるか)

魔法使い「そんな……それじゃもう、勇者様に会えないの?」
13 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2020/02/11(火) 17:48:20.25 ID:5wkq1Hma0

弓兵「気持ちは分かりますガ魔法使いサン。勇者サンは亡くなったんデスヨ。
 それに死体があったからといっテ、生き返るわけじゃありまセン」

神官「死者復活の魔法は存在せえへんからな」

魔王「あるが」

神官「ぅあるんかい!」

魔王「あることはあるが、例によって大量の生贄が必要になる」

魔法使い「どれくらい……?」ユラッ

騎士「おい、魔法使い!」

魔法使い「この際国の1つや2つ消してもいいじゃない。
 勇者様が生き返るなら、きっとみんな許してくれるよ……」フフ…

魔王「1つの命を蘇らせるには、対象の種族すべての命を捧げることが必要となる」

皆「え?」

魔王「勇者の種族は「人間」だったな。
 コレクサ、人間の世界人口は?」

コレクサ『約35億人です』

魔王「ほう、やはり他種族とは比べ物にならないほど多いな。
 さて……全人類の命を捧げれば生き返るが、どうする」

魔法使い「やります」
14 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2020/02/11(火) 17:50:15.77 ID:5wkq1Hma0

騎士「おい早まるな魔法使い!」

弓兵「すみまセン、この人ちょっと今おかしいんデス」

魔法使い「うっ……勇者、勇者ーっ!」ポロポロ

──

魔王「落ち着いたか?」

魔法使い「……うん。ご迷惑おかけしました。もう大丈夫」スン

魔王「うむ……魔法使いよ。辛いとは思うが、勇者の死の真相を突き止めることが彼の供養にもなろう。協力してくれるか」

魔法使い「もちろん。もう取り乱したりしないよ」

魔王「さて。勇者の死体が失われた今、頼りになるのはお主らの情報だけだ。
 まず、全員のステータスを知りたい。何かの参考になるかもしれんからな。
 「究明」を使用したいのだが、同意してもらえるか?」

皆「……」

魔王「抵抗があるのは分かる。そこで、まずは我自らステータスを開示しようと思う」

神官「! 魔王が、自分のステータスを……?」

魔王「神官の言いたいことは理解できる。敵に情報を知られるのは自殺行為に等しいからな。
 しかし、我はあえて危険を犯そうと思う。それがお主らへの誠意だと信じるからだ。
 ランク3『究明』」
15 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2020/02/11(火) 17:55:49.01 ID:5wkq1Hma0

 キィイン

魔王「コレクサ、究明の結果を表示して」

コレクサ「了解しました」

 ヴゥン


『魔王のステータス』

──

「魔王」Lv99 種族・最上位悪魔 478歳

名前 バエストロス・ゾル・(発音不可)ラ・ジェ(発音不可)・フェニグーダ ─中略─ パツィーゾ・ペルトリスク・ドム・カルカロドス・バスタ・ケイ

職業 黒魔術師、死霊遣い、毒の王、闇の主、他多数

HP 999
MP 999
攻撃力 890
魔法攻撃力 999
防御力 950

特殊スキル 闇のオーラ、死の眼、夢遣い、原初の王、悪虐のカリスマ、他多数

──

神官(うっ……なんやこれ。こんな化物を相手にしようとしてたんか、ウチらは)

魔王「さて、我は胸襟を開いた。お主らも応えてくれることを願う。
 もちろん、強制はしないが」ジッ
16 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2020/02/11(火) 17:58:36.43 ID:5wkq1Hma0

騎士「……仕方ない、勇者のためだ」

神官「騎士! 本気なんか」

騎士「ああ。魔王がここまでしてくれたんだ、誠意に応えなければ」

魔王「感謝する。では──」


『騎士のステータス』

──

「騎士」Lv52 種族・人間 19歳

名前 カサンドラ

職業 剣聖、槍使い、盾使い、拳闘士

HP 750
MP 8
攻撃力 650
魔法攻撃力 5
防御力 550

特殊スキル 誠実の誓い

──

魔王「この「誠実の誓い」というスキルは?」

騎士「ああ、「嘘をつけない代わりに体力と防御力が上昇する」というものだ。
 基本的に解除は不可能、私は死ぬまで嘘がつけない。スキルというよりは呪いに近いかもな」

魔王「そうか、理解した」

魔王(どうやら騎士の証言は信用できそうだ。
 何か抜け道がある可能性もあるが、今は置いておこう)
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