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魔王「勇者殺人事件」
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67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/18(火) 01:40:32.00 ID:7FneSLuDO
乙
コレクサ欲しいww
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/18(火) 06:58:07.42 ID:RBHItui9O
作者はミチクサしてないで続きを大量投稿するんだ待ってる
69 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 19:43:46.71 ID:gV06jpjD0
魔王「……2つ、質問したい。
1つ目。勇者は生前、毎晩歯を磨いていたか?」
神官「え? なんでそんなこと聞くん」
魔王「馬鹿げた質問に聞こえるかもしれぬが、大事なことなのだ。答えてほしい」
魔法使い「……そう言われてみると、歯を磨いてるところは一度も見たことないかも」
弓兵「私も見たことないデスネ…。騎士サンはどうデス? 幼馴染ですよネ」
騎士「うーんと……確か子供のころは一緒に磨いてたな。嫌々ではあったけど」
魔王「最近はどうだ」
騎士「……そういえば見てないな」
神官「魔法使いや騎士、弓兵とは夜によく洗面所で顔を合わせとったけど、勇者は……そういや一度も」
70 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 19:45:46.69 ID:gV06jpjD0
魔王「理解した。では、2つ目の質問に移ろう。
この中に、勇者の手のひらを見たことがあるものはいるか」
弓兵「手のひら、ですカ?」
神官「そんなの、ずっと一緒に旅してきたんやからあるに決まって……あれ?
そういやあいつ、ずっと手袋はめとったな」
魔法使い「今思い返してみると、勇者様は片時も手袋を外さなかったよね。騎士はどう?」
騎士「もちろんあるさ。……しかし、そう言われてみると、ある時から勇者は手袋をつけ続けるようになったな。
食事時は失礼だから外せと神官が何度言っても、頑として外そうとしなかった」
魔王「そのある時とはいつのことだ」
騎士「大体三年前くらいだな。……あれ? そういや勇者が武者修行から帰ってきたのも三年前だったな」
魔王「武者修行?」
71 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 19:47:18.40 ID:gV06jpjD0
騎士「ああ。勇者は二年ほど村を出て修行したことがあるんだ。帰ってきたらまるで別人みたいになってた。
眼光は鋭く、性格も厳しくなって……そのころから私や村人を遠ざけるようになった」
神官「よっぽど辛い修行やってんな」
騎士「ああ。数え切れない程のドラゴンを倒したって言ってたな」
魔王「! ……なるほどな。
少し調べたいことがある。30分ほどこの場を離れるが、よいか」
神官「えっ……そりゃもちろん、ええけど」
魔王「すまぬな。待っている間退屈であろう。音楽でも聴いているといい。『コレクサ、音楽かけて』」
スタスタ
コレクサ『了解しました。プレイリスト「魔王様のおすすめ」を再生します』
魔法使い(プレイリスト作ってるんだ……)
72 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 19:48:16.75 ID:gV06jpjD0
〜♪
弓兵「あれ? これ聴いたことありマス」
騎士「城下町で人気の曲だな」
神官「どんだけミーハーやねん。人類滅ぼす気ないやろあの人……」
騎士「ららら夢の中を駆け抜けてー♪」
神官「って歌うんかい! ごっつ上手いやんけ!」
──
スタスタ
魔王「待たせたな」
神官「あーおかえり。どこ行ってたん?」
魔王「図書室で調べ物をな。おかげで分かったぞ、弓兵を襲った何者かの正体が」
73 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 19:49:43.41 ID:gV06jpjD0
弓兵「えっ」
騎士「本当か!?」
魔王「ああ、分かった。……残念ながら、な」
神官「……まさか……」
魔王「コレクサ、勇者のステータスを表示して」
ヴウン
魔王「さて。これは先刻『究明』でスキャンしたものだが……ここを見てほしい」スッ
特殊スキル 魔を祓う者、光の王、『ドラゴンスレイヤー』
魔法使い「ドラゴンスレイヤーって、竜殺し……だよね。竜騎士とはどう違うの」
74 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 19:52:28.96 ID:gV06jpjD0
魔王「勇者の死体が消えた件でも説明したな。竜騎士は一定数のドラゴンを倒した者に与えられる、呪いの職だと。
竜を倒すごとに自身の体が少しずつ竜化していく。体表の半分まで竜化が進んだときに追加されるのが、この『ドラゴンスレイヤー』という特殊スキルだ。
正の効果としては主に筋力向上、五感の発達、動物やモンスターが無条件に従う、などが挙げられる」
騎士「それだけ聞くといいこと尽くめだな」
魔王「確かに戦闘能力は大幅に向上するだろう。しかし負の側面も強い。
魔力・知力の低下、凶暴化など。最も辛いと思われるのが肉体面での変化だ」
魔法使い「竜騎士のときも言ってたよね、体が竜化していくって」
魔王「うむ。『竜騎士』による肉体の変化は、あくまで体表。しかし『ドラゴンスレイヤー』のスキルがつくとさらに竜化が進む。
例えば手の爪が鉤爪に変化する、などだな」
弓兵「……ちょっと待って下サイ。まさか」
魔王「そう。弓兵を襲ったモンスターの正体は、勇者だ」
75 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 19:54:25.52 ID:gV06jpjD0
魔法使い「そんな!」
神官「……」
騎士「勇者が弓兵を襲ったモンスター、か。強く否定できないのが悲しいところだな」
弓兵「ちょ、ちょっと待って下サイ。確かに私のお尻を触った手の鱗と鉤爪はそれで説明がつきマス。
でも、あのヌルヌルとした穴はどうですカ? あの感触、明らかにモンスターでしタ!」
魔王「それも説明がつく。神官よ、勇者が好んだという菓子の名を挙げてはもらえぬか」
神官「え? えっと……プリン、ゼリー、ソフトクリーム、マカロン」
魔王「これらの共通点は、柔らかいということだ。歯が一本もなくても食べられるほどに」
神官「! じゃあ勇者は」
魔王「歯がなかった、もしくはそれに近い状態だったと考えるのが妥当だろう」
76 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 19:55:17.42 ID:gV06jpjD0
騎士「歯を失くした原因はたぶん、虫歯だろうな。昔から甘いもの好きな割に歯磨き嫌いだったからなあ……」
弓兵「えっ……ナラ、私が腕を突っ込んだのっテ……」
魔王「うむ。勇者の口内である可能性が高い」
弓兵「……」フラリ
ドサッ
騎士「きゅ、弓兵!」
サッ
神官「大丈夫、脈はある。すぐ回復させたるからな」キンッ
魔王「……!」
77 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 19:56:23.26 ID:gV06jpjD0
弓兵「……はっ!」パチッ
騎士「おお……いつもながらさすがだな」
魔法使い「無詠唱で回復魔法使わせたら、神官の右に出る者はいないね」
神官「おだてすぎやって。ウチはこれくらいしか取り柄ないからな。
……大丈夫か、弓兵」
弓兵「……は、はい……ありがとう、ございマス……」
魔王「弓兵よ。まっすぐ行った突き当りに休憩所がある。一人になりたいであろう? しばらく休んでくるがいい」
弓兵「ハイ……」
ふら……ふら
騎士「……結果的に、勇者を殺したのは弓兵、ってことか。
何度も麻痺や毒を打ち込まれたら、ひとたまりもないよな……」
78 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 19:57:31.53 ID:gV06jpjD0
魔法使い「……」
騎士「怒らないのか?」
ふう……
魔法使い「怒んないよ。誰が見ても、悪いのは勇者様──勇者の方だもの。
弓兵は痴漢野郎を撃退しただけだ。
君こそどうなの? 幼馴染だったんでしょう」
騎士「うーん。勇者が死んだことは悲しい、それは確かだ。
でもまさか暗闇に乗じて性犯罪に手を染めるなんて……そんな卑怯な方法で性欲を満たそうとした男に、同情する気はない」
魔法使い「厳しいね。ま、分かるけど」
神官「なんでこんなことになったんやろな……昔の勇者は、あんなにいい奴だったのに」
79 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 20:02:53.50 ID:gV06jpjD0
騎士「そうだな。数年前、竜に襲われていたお前の村を救ったときが懐かしい。
あのときの勇者は本当にカッコよかった」
魔王「……『ドラゴンスレイヤー』の負の効果として、性欲の増大がある。
凶暴化・知力低下と組み合わさると、性的衝動を抑えるのは非常に困難だったろう。
仮に竜化が大幅に進んでいたとすれば、よく耐えたほうかもしれぬ」
神官「魔王……」
魔王「しかし、だからといって勇者の行為が許されるとは思わぬ。
勇者の死体は手袋をしていた。わざわざ手袋を外し竜化した手で犯行に及び、またすぐにつけ直したということは、罪を免れようとした可能性を示している。
さらに、例え完全に我を忘れていたのだとしても、弓兵が感じた恐怖や不快感を無くすことは不可能だ。
……願わくば、生きた状態で裁きを下したかったのだがな」
騎士「そうだな」
魔法使い「……」
80 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 20:05:07.11 ID:gV06jpjD0
──
魔王「さて、真相をまとめると次のようになる。
暗闇に乗じて痴漢をしてきた勇者に驚いた弓兵。抵抗するが、その際彼の口内に手を突っ込んでしまう。
モンスターの体内のごとき感触にパニックを起こした彼女は、ありったけの古代魔法を勇者の体内に打ち込んだ。
そのショックで心肺が停止、勇者は死に至った。
……なにか付け足すことはあるか」
魔法使い「ううん」
騎士「ないな」
魔王「神官、お主はどう思……どうした」
ぽた、ぽた
騎士「神官、お前……」
神官「なんで、やろな……ウチら勇者一行はただ、世界を救いたかっただけやのに」ポロポロ
騎士「そうだな。魔王を勇者の隠し奥義『星間爆殺』で倒して、世界を救うつもりだったもんな」グスッ
魔法使い「『星間爆殺』は魔王にしか効かない技で、相手の能力が高いほど威力を発揮するんだったよね。これなら絶対行けるって、皆で盛り上がった夜が懐かしいな」スン
魔王(盛大なネタバレを食らった気分だ)
81 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 20:06:22.06 ID:gV06jpjD0
魔王「……そういえばずっと気になっていたのだが、世界を救う、とはなんのことだ」
神官「えっ」
魔王「前回現れた勇者も、その前の勇者も似たようなことを言っていた。
魔族に村を滅ぼされた、とか、人間を奴隷にしているとか。
ずっと不思議だったのだ。何故なら、そのような事はありえないのだから」
神官「ありえないってどういうことや。現にウチの村はドラゴンに──」
魔王「それだ」
神官「?」
魔王「ドラゴンは魔族ではない。
『竜族』という別の種族で、魔族とは敵対関係にある」
騎士「!」
魔法使い「そ、そうなの!?」
82 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 20:08:20.60 ID:gV06jpjD0
魔王「うむ。闇の瘴気から生まれたのが我ら魔族、大地の気から生まれたのが竜族だ。
尊大で傲慢な種族でな。世界には自分たちドラゴンのみが君臨すべきだと考えている。
我のダイバーシティ(民族多様性)構想とは全くもって相容れぬ」
騎士「で、でも、知り合いの村がゴブリンの大群に襲われたって」
魔王「ゴブリンやオーガは亜人種であろう? 魔族ではないし、関わりもないぞ」
皆「……」
魔王「そもそも魔族は魔界でしか存在できぬ。一歩人間界との境界をまたいだ瞬間消滅してしまうのだ。
それは強大な力を持った魔王も例外ではない。
逆に言うと、我を倒す最も簡単な方法は、遠距離テレポーテーションで人間界に移動させることだ。
そうすれば自動的に消滅するからな」
神官「なんで……なんでそんな大事なこと教えるんや。ウチらはアンタを倒す為に来たんよ!」ポロポロ
魔王「お主らなら信頼できると、この数時間で確信したからだ。
きちんと説明し誤解が解ければ、必ず分かりあえると思った。
どうだ、まだ我を倒したいか?」
83 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 20:10:26.21 ID:gV06jpjD0
騎士「決まってる。もう私たちには戦う理由なんてない」
魔法使い「勇者の死の真相も明らかになったし、魔族の真実も理解できた。
もう僕らに敵対する理由はない。そうだよね?」
ごしごし
神官「……最初はアンタのこと、誤解してた。
人の命なんてなんとも思ってない、悪の化身やって……でも、アンタすごく優しい魔王なんやね。
勘違いしてた。ほんまにごめんなさい」
魔王「……優しい、か」ボソ
神官「え?」
魔王「いや、誤解が解けたなら何よりだ。
騎士、魔法使いよ。すまぬが弓兵を迎えに行ってはもらえぬか。
その間に、我と神官はお茶会の準備をしておこう」
騎士「お茶会?」
魔王「うむ。そろそろティータイムだからな……」
84 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 20:11:52.55 ID:gV06jpjD0
『真相』
魔王城裏庭 アトルムの庭園
スタスタ
魔王「古来よりお茶会では様々な話が交わされてきた。下世話な噂、高尚な議論。そして時には重大事件の真相が語られることもあった。
お茶会は不思議な場だ。思ってもいないことを言ってしまったり、胸のうちに秘めていた思いがポロリとこぼれ落ちたりする」
神官「……」
ピタリ
魔王「お主は先刻、我を優しいと言ったな。それは間違いだ。
なぜなら、我は今から事件の真相を暴くつもりだからな。それが例え、誰かの不利益になるとしても」
85 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/18(火) 20:13:59.43 ID:gV06jpjD0
ポウ……
神官「! ガーデンテーブルの上に、ひとりでに紅茶セットが」
魔王「テーブルに転移魔法陣が刻まれておってな。
ちなみにこの場所は完全防音、我とお主の二人しかおらぬ。
一足先にお茶会を始めるとしよう」
ピチチチ……
神官「小鳥が鳴いてる。それに、たくさん可愛い花が咲いてるんやな。魔界では毒々しい花しかないと思ってたわ」
魔王「他の場所はそうだ。だが、ここの空気は人間界に似せているからな」
神官「それで息がしやすいんやな。久しぶりや、こんなに清々しいのは」
魔王「勇者を殺したのはお主だな、神官」
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/19(水) 07:34:29.54 ID:0CkoXV4DO
乙
衝撃の展開!!
87 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/19(水) 20:09:07.01 ID:kWqaYFbl0
ピチチチ……
神官「うん。でも、なんで分かったん? 自分では上手いことやったつもりやってんけど」
魔王「実際、我も途中まで騙されていた。疑惑が確信に変わったのは、お主が弓兵に回復魔法を使ったときだ。
気づいたのだ。無詠唱で回復を行えるのであれば、本当に回復したのかどうか、傍目からは判断がつかない。
我は先入観に囚われていたのだと」カチャリ
コポコポ……
神官「いい香り」
魔王「最高級の茶葉を使っているからな」
カチャ コクリ
神官「! 濃い紅色やから苦味が出てるのかと思ったら……すごく飲みやすいな」
魔王「高地の涼しい場所で取れた葉には、芳醇な香りとすっきりとした甘みが備わる。見た目とは裏腹であろう。
……思えば我は最初から、お主の見た目に騙されていたのかもしれぬ」
88 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/19(水) 20:11:20.44 ID:kWqaYFbl0
神官「なんや人聞き悪いな。うちは騙したつもりちゃうけど」
魔王「分かっておる。全ては我が思い込んだだけのこと。神官は回復役に徹するものだ、とな」
神官「……」
魔王「まさか勇者が倒れてから『一度も回復魔法を使っていない』など、あの場にいた誰もが気づかなかった。仲間はおろか、我ですらも」
──
パッ
神官『!? 明かりが戻った……なんやったんや……』
弓兵『! あ、アア……っ』ガクガク
神官『? ……! ゆ、勇者!?』バッ
騎士『一体何が……!』
魔法使い『いや、勇者さま……勇者さまああああああ!』
ズゴゴゴゴゴ
魔王『ふはははは! よくぞ我の眼前まで辿り着いたな人の子らよ。
喜ぶが良い。儚い命を散らすのが、他でもない我の手によるものであることを……む?』
勇者『』
魔法使い『嘘……こんなの嘘だよねぇ!』
神官『なんでや、なんで死んでもうたん……勇者』ギュッ
──
神官「なんで回復魔法を使ってないって言い切れるん?」
魔王「計算が合わないからだ。先程コレクサに確認したところ、お主らがこの城に侵入してから使用された通常魔法の数は24。だが、もしお主が勇者に回復魔法を使ったとすれば、これより3、4回多くなるはずだ」
89 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/19(水) 20:12:38.75 ID:kWqaYFbl0
神官「……もう諦めてたって可能性もあるやんか。
どう見ても死んでる勇者を見て、ショックで体が動かなかったのかもしれんし。
それに、『誠実の誓い』で嘘がつけない騎士の証言もある」
──
騎士『……』
スッ
騎士『手首の脈が……ない』
弓兵『呼吸もしていまセン。残念デスが、勇者サンは……もう』
──
魔王「……コレクサ、神官のプロフィールを表示して」
コレクサ「了解しました」
ヴヴン
神官「いまさらこんなん出して、一体何を」
魔王「見るべきは、ここだ」トン
攻撃力 850
90 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/19(水) 20:14:13.51 ID:kWqaYFbl0
神官「!」
魔王「魔法攻撃力の数値は、その者の魔法ランクによって決まる。
対して攻撃力を決めるのは筋力だ」
神官「……」
魔王「攻撃力が高いということは、すなわち腕力が強い、ということ。
騎士が勇者の左手の脈を計ったとき、お主は勇者の左側の上半身に覆いかぶさっていたな。
人間種の脇の下を強く圧迫すると、一時的に脈を止められる、と以前読んだ推理小説に書かれておった」
神官(このミステリマニアめ……)
魔王「つまりあのとき、勇者は生きていた。窒息と麻痺に苦しみながらも、持ち前の生命力で耐えていたのではないか。
だが我々は勇者が死んだものと思い込み、彼をそのままにしてしまった。
勇者が本当に事切れたのは、恐らく我が回復魔法を使う数分前であろうな」
91 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/19(水) 20:15:49.57 ID:kWqaYFbl0
神官「なんでわかるん」
魔王「勇者の死体がダンジョンのルールに従って消えたとすれば、死亡してから5分後に消失が始まる。逆算すると、ちょうどその頃だろう」
魔王(あのとき……)
──
……ザワッ
魔王(む? なにか、我は大切なことを見落としている気がする……なんだ?)
──
魔王(あのときに気づくべきだったのだ。
勇者の消えたタイミングが通常よりも遅かったのは、モンスターと人が混ざっているからだと誤解していた。
ダンジョンは正常に処理していたのだ、勇者をモンスターだと認識して)
神官「……」
魔王「どうだ。ここまでで何か間違っているところはあるか」
92 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/19(水) 20:16:40.67 ID:kWqaYFbl0
神官「合ってんで。うちが勇者を見殺しにした。直接手を下したんと違うけど、似たようなもんやな。
……紅茶のおかわりもらってもええ?」
魔王「もちろんだ」カチャン
コポコポ
神官「おおきに。おっと」
ポトッ
神官「ごめん、スプーン草の上に落としてしもた」
魔王「よい、我が拾おう」スッ
神官「……」ゴソッ
ポチャン
93 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/19(水) 20:18:16.48 ID:kWqaYFbl0
魔王「『洗浄』」コオッ
神官「そんな生活魔法も使えるんやな」
魔王「我は魔法のエキスパートゆえな。攻撃魔法も生活魔法もそれぞれの良さがある。……使うがいい」スッ
神官「ありがと」
カチャッ クルクル
魔王「……一つ分からないことがある」
神官「ん?」
魔王「勇者が倒れたとき。彼の左手側に騎士が、右手側に弓兵がいた。お主は勇者の左肩に覆いかぶさっていたな。勇者の脈を止めるために」
神官「うん」
魔王「だが、お主の位置からでは左手の脈は止められても右手の脈はそのままになる。
結果として、右手側にいた弓兵は脈ではなく呼吸を確かめた為に、問題はなかった訳だが」
神官「なんで騎士が脈を、弓兵が呼吸を確かめるって事前に分かったのかって話か」
魔王「うむ」
神官「分かってなかったで」
94 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/19(水) 20:20:11.95 ID:kWqaYFbl0
魔王「なに?」
神官「単純に、もし脈をとるとしたら騎士しかあり得なかったんよ。弓兵が脈をとることは絶対にないって知ってたし」
魔王「それは何故だ」
神官「あんた、ホンマに人間界の種族に詳しくないんやな」
魔王「む……」シュン
神官「ううん、責めてるんとちゃうよ。魔界のことに知識が偏ってるのは、魔族の将来を真剣に考えてるからやろ。
あんたのそういうとこ尊敬してる」
魔王「そ、そうか」カアッ
神官「……弓兵はエルフや。エルフは長命な種族やから、脈もすごくゆっくりなんよ。
エルフが他者の生死を確かめるときは、呼吸を確認するのが伝統なんや。呼吸もゆっくりやけど、脈よりは分かりやすいから」
魔王「なるほど! それで右手の脈は無視できたのだな」
神官「そういうこと」カチャッ
コクリ
魔王「もう一つ聞いてもよいか」
神官「ええよ。でも、あと一つだけやで」
神官(それ以上は時間がもたへんやろからな)
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/19(水) 21:18:33.29 ID:xyd32M/40
金田一シリーズにも、脇を圧迫して脈を止めるトリックがあったな〜
96 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/20(木) 20:16:10.43 ID:XBoWocTD0
魔王「推理小説において、読者に提示されうる謎は大きく分けて3つある。
1、誰が殺したのか(犯人)
2、どうやって殺したのか(方法)
3、何故殺したのか(動機)
1と2は判明した。残るは3つめ、何故勇者は殺されたのか?」
神官「動機、か……。わがままな話やけど、魔王だけの胸にとどめてもらえへんか。そしたら話すわ」
魔王「それは……」
神官「分かってる。そんなん内容によるもんな。聞いてから判断してくれてええよ」
フウ……
神官「勇者を殺そうと決めたんは、光が戻ったときや。
倒れてる勇者を見て、すぐ麻痺状態で息ができないんやって分かった。
このまま何も処置を施さなければ、数分で死に至るってことも」
97 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/20(木) 20:17:49.15 ID:XBoWocTD0
魔王「やはり衝動的な犯行だったのだな」
神官「うん。弓兵はもちろん、騎士も魔法使いも関係あらへん。
偶然が重なって、奇跡みたいな状況が生み出されたんや。うちが何もしなければ、勇者が死ぬっていう」
魔王「よく勇者の状態を正確に診断できたな」
神官「神官は医師の役割も担ってるからな。患者の状態を診るのは慣れてるんよ」
魔王(ヒーラーである神官の言葉を信じ、勇者は死んだものと決めつけてしまうとは。我もまだまだ修行が足りぬ)
神官「……でもな。勇者にこの世から消えてほしいと思い始めたんは、魔王討伐の旅が始まる直前やったよ」
魔王「聞こう」
神官「神官てのは、代々勇者に仕えてきた家系でな。うちはもちろん、母も祖母もそうやった。
人生のすべてを勇者に捧げることが、神官の義務なんや。……身も心も、な」
魔王「……」
神官「もちろん死ぬほど嫌やった。好きでもない相手と、なんて拷問と同じや。でもこれも神官の務めやと我慢してた……あの日までは」
98 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/20(木) 20:19:11.61 ID:XBoWocTD0
──
ライカ村 宿屋
勇者「ふう……おいなんだよ、もう行くのか」
神官「夜の祈りの時間やからな」シュル
勇者「ふうん、仕事熱心なことで。……なあ、そういえば何歳になったんだっけ」
神官「知ってるやろ一個違いなんやから。もう行くわ」ギシッ
勇者「ちげーよ、妹の方」
ピタッ
神官「……14やけど、何」
勇者「へえ、もうそんなになるか。子供の成長は早いねえ」
クルッ
神官「あんた、まさか……」
99 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/20(木) 20:20:17.20 ID:XBoWocTD0
勇者「ん? ああ、心配すんな。別に今すぐってわけじゃねえよ。たださ、お前ら神官は俺の所有物みたいなもんだろ。どうせそのうち食うんだし、ちょっと味見するのも悪くねえかなって」ヘヘッ
神官「……」
勇者「遅れるぜ、お祈り」
──
魔王「……」ピキッ
ズゴゴゴゴ……
神官「魔王、小鳥たちが怯えてる」
魔王「おっと」
シュウウ……
魔王「なるほど、妹のために」
神官「……そうやったんかな。自分でもわからん。ほんまはただ、勇者を独り占めしたかっただけなんかも。
今となっては、もう……」ギュッ
100 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/20(木) 20:22:18.55 ID:XBoWocTD0
魔王「そうか」
神官「きっと皆、うちのこと許さへんやろな。特に弓兵には謝っても謝っても足りん。
うちが勇者を治療していれば、一生消えない心の傷を負うこともなかった」
魔王「それは──」
弓兵「それは違いマス!」バッ
神官「弓兵!?」ガタッ
魔王「なっ……お主、どうやってこの庭園に入ったのだ。ここは隔離魔法で遮断していたはず」
魔法使い「ごめん魔王様。レベルがあがったおかげで魔法解除技術が飛躍的に伸びたみたいで……つい」テヘッ
魔王「抜かった……もっと高レベルの隔離をしておくべきだった。すまぬ神官」
弓兵「神官サン!」
ギュッ
101 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/20(木) 20:23:26.91 ID:XBoWocTD0
神官「! なんで」
弓兵「許しマス。許しマスから……死なないで下サイ!」
魔王「死ぬ? 一体なんのことだ」
弓兵「前に話してくれましたよネ。神官は異教徒に捕まったとき用に、自害するための毒を隠し持ってるっテ」
神官「……」
弓兵「責任感の強い神官サンなら、もしかして使ってしまうのではないかと思ったんデス。
私が傷ついてると思ってるなら、それは誤解デス。勇者の言動を聞いて、マジ消えて良かったとすら思ってマス」
魔王(辛辣だな……)
神官「でも、うちは……皆を利用したんや。弓兵はもちろん、騎士も」
騎士「それはそうだな。勇者殺しの片棒を担がされたといっても過言じゃない」
102 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/20(木) 20:24:21.54 ID:XBoWocTD0
弓兵「騎士サン!」
騎士「そういう訳だから、エール一杯奢ってくれ。それで勘弁してやる」
弓兵「騎士サン……」
魔王(勇者の命の軽さよ……まあ、仕方のないことか。それだけ奴の言動が最低だったということだろう)
神官「皆……おおきに」フラッ
ドサリ
弓兵「神官サン!」
騎士「お前まさか……!」
神官「さっき紅茶に入れて……飲んだんや。神に仕える神官が、人を殺すなんて……これがうちの、報いやな」
弓兵「……っ魔法使いサン!」
魔法使い「ごめん、無理だ。神官が持ってたのは白サソリの猛毒。どんな魔法でも助けられない……っ」
騎士「くそ、どんな毒でも一瞬で消える方法があれば!」
魔王「あるが」
103 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/20(木) 20:26:20.68 ID:XBoWocTD0
神官「ぅあんのかぁい! ……っげほ、あかん、つい癖で……」ガクッ
弓兵「神官サーン!」
魔王「前に話したであろう、無敵の秘薬だ。
魔界の高地にしか生えない「アスクレピオスの髭」という薬草は、この世にある全ての毒を消すことができる」
騎士「くそ、今から取りに行ったんじゃ間に合わない」
魔王「いや、間に合っている」
皆「え?」
スッ
魔王「アスクレピオスの髭は2つの意味で有名なのだ。
一つは全ての毒を消す無敵の薬草として。そしてもう一つは、世にも美味な紅茶として。
神官は紅茶に毒を入れたのだろう。なら、完全に中和されているはずだ」
104 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/20(木) 20:27:24.42 ID:XBoWocTD0
神官「そ、そういえば……もうとっくに死んでる時間なのに、うち……生きてる」
弓兵「神官サーン!」ギュッ
魔法使い「このバカっ!」ギュッ
騎士「良かった……良かった」ギュッ
神官「ふぐう」
弓兵「いいんデスよ」
神官「え」
弓兵「生きてても、いいんデス」
神官「……っ」
うわあぁああん……
──
魔王「さて。お主らに提案があるのだが……」
105 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/20(木) 20:29:39.88 ID:XBoWocTD0
『エピローグ』
数年後
女勇者「もうすぐ魔王城最深部だ。気合を入れていこう」
剣士「おう、俺の剣技を魅せてやるぞ」
盗賊「おーおー、血気盛んだこと」ケラケラ
僧侶「怖いのは、未だ幹部クラスのモンスターが現れていない点ですね。
出てくるのは低級ばかり。罠かもしれません」
踊り子「アラ。相変わらず心配性ね、坊やは」クスッ
僧侶「そ、その呼び方はしないでって、何度も言ってるじゃ──」
フッ
皆「!」
女勇者「皆止まれ! 明かりが消えたということは、仕掛けてくる可能性が高い。
基本陣営をとれ。いつでも対応できるようにしろ!」
皆「了解!」
106 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/20(木) 20:31:09.12 ID:XBoWocTD0
ゴゴゴゴ……
女勇者「なんだこの音。それにこの煙は一体」
僧侶「害はないようですが」
ズズズ……
女勇者「! 奴らは……!」
黒騎士Lv89「ほう、剣士がいるのか。久しぶりに楽しめそうだ」
闇の射手Lv90「後衛は任せて下サイ。今日もバンバン仕留めマスヨ!」
魔神官Lv91「ひいふうみい……ふうん、いいバランスのパーティやな」
暗黒魔道士Lv93「ここは魔王様が出るまでもない、僕たちだけでやるよ」
107 :
◆AhbsYJYbSg
[saga]:2020/02/20(木) 20:32:19.01 ID:XBoWocTD0
バサアッ
魔王「そういうわけにもいくまい。部下に全て任せたとあっては魔王の名が廃る」
ゴゴゴゴ……
僧侶「し、四天王と魔王が一気に!」
剣士「む、むう」
女勇者「狼狽えるな! 戦いは、ゴホ、臆したほうが負け、ゴホッ」
ズゴゴゴゴ……
魔神官「おっ? アカン、スモークが強すぎるみたいや」
魔王「おっと、それは失礼した。あーごほん。
『コレクサ、スモーク止めて』」
コレクサ『了解しました』
女勇者「!?」
end
108 :
◆AhbsYJYbSg
[sage saga]:2020/02/20(木) 20:33:48.85 ID:XBoWocTD0
ありがとうございました!
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/20(木) 20:36:05.23 ID:kcjbqcs6o
乙
こちらこそ、ありがとうございました
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/20(木) 20:37:50.08 ID:aNYYA/IDo
乙
面白かった
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/20(木) 21:12:21.10 ID:y7JbcXIJO
乙
面白かったよ〜
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/20(木) 22:11:48.11 ID:sm7nThjIo
おつ
よかった、ハッピーエンドや!
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/20(木) 23:22:48.25 ID:wGloYE57O
久々に面白かったな〜
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/20(木) 23:38:52.32 ID:I+ziHr1H0
いい読後感でした
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/21(金) 02:01:12.00 ID:Dti1okWDO
乙乙
面白かったまた頼む!
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage ]:2020/02/21(金) 06:34:28.39 ID:sE6lBPx+o
おつー
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