【艦これ】神風「最初の一人」

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802 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2023/03/01(水) 00:33:45.06 ID:fFXJOFQl0
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次の日。俺は行動を開始した。

男「本当に音は出ていないんだな」

レポートを眺める。

彼女の声についてのものだ。

声。つまり音は波なわけだが艦娘の発する声にはその波がないらしい。

あるいは観測できていないのか。

男「聞こえてはいるんだけどなぁ。でも波がないなら鼓膜じゃ聞き取れない。どこで聞いてるんだ俺」

あるいは解剖されるべきは俺の方なのかもしれない。

…嫌な想像しちゃったな。

男「どう思う?」

目線をレポートから向かい側に座る彼女に移す。

「…」

彼女は相変わらず黙ったまま不思議そうに俺を見ている。

ひょっとしたら喋ってるのかもしれないが。

場所も変わらず例の取調室の中。

何をするにも取っ掛かりがないので俺はとりあえず彼女と一緒に過ごしてみることにした。

男「でも俺の言ってることはわかるんだよな?」

こくりと小さく頷く。

これも不思議だ。

艦娘側も普通の人間の言葉をうまく聞き取れないらしい。

これはどうやら訓練で聞き取れるようにはなるらしいが。

目の前の彼女もそうだとレポートにはある。筆談のみが可能だと。

なのに俺の声は聞こえているようだ。

やっぱ解剖すべきは俺なんじゃ…
803 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2023/03/01(水) 00:34:36.45 ID:fFXJOFQl0
男「そうだ。こっちから一方的に話すってのも嫌だろ?筆談用に紙とペンがいるな」

とりあえず手元にあった手のひらサイズのメモ帳とペンを渡す。

男「明日ホワイトボードとか買って来るか、ん?」

早速何やらメモ帳に書き込んでいる。会話の意思はあるようだ。

そう長くない文章の書かれたメモ用紙がそっと渡される。

【書くのは面倒なのでタブレットでお願いします】

男「…あぁ、うん」

意外とはっきり主張してくる娘だった。
804 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2023/03/01(水) 00:35:41.81 ID:fFXJOFQl0
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男「眠くならないってどんな感じなんだい?」

【眠くならないが分からないように、私にも眠いが分かりません】

男「そりゃそうか」

タブレットに素早く文字が入力されていく。

流石に研究施設。タブレットやらの機材は置いてあった。

【でも睡眠が必要なのは不便そうです】

男「まあな。睡眠が不要になれば一日6,7時間も増えると考えるとその通りだな。食事も不要なんだろ?」

【こうしてじっとしている分には。艦娘として活動するには燃料が必要なようですが】

男「そう考えるととても生き物とは思えないよなぁ。心臓の鼓動もないんだし」

【確かめてみます?】

男「んーそうだな。レポートだけじゃなくて実感として知るってのも大事かもな」

席を立って彼女の前に行く。

彼女もタブレットを置いてからこちらを向き奇麗な姿勢で待つ。

男「では失礼して」

床に膝をつき小柄な体に高さを合わせそっと心臓近くに右耳を押し当てる。

うん、確かに鼓動はないな。

『…なんで直接』

男「え」

「?」

慌てて体を話し顔を合わせる。

向こうもきょとんしていた。
805 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2023/03/01(水) 00:36:17.63 ID:fFXJOFQl0
男「今喋った?」

「!」

男「なんで直接、って」

「   」

少し顔を赤くしながら何かを発する。でも先程と違いいつものノイズにしか聞こえない。

【聞こえちゃいました?】

諦めて少し残念そうにタブレットに文字を打つ。

男「聞こえ、たな。なんでだ?」

身体の接触、いや耳か?

【一ついいでしょうか】

面倒な文字入力なのにわざわざ前置きをしてきた。なんだろう。

【いきなり人の胸に顔を押し当てるのはどうかと思います】

男「…ごめん」

凄い冷たい目で怒られた。
806 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2023/03/01(水) 00:37:10.80 ID:fFXJOFQl0
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色々検証した結果、お互い頭が接触した状態が最もクリーンに声が聞こえると判明した。

男「でもこれ会話し難いな」

『男さんは身長が高すぎます。もっと私に合わせてください』

男「縮めと?」

『はい』

男「無茶苦茶言うな」

だが取調室で椅子を並べ左右で頭を突き合わせての会話は確かにキツイ。

俺は寝違えそうなくらい首を傾けなきゃだし、彼女も首が伸びそうなくらい背筋を伸ばしている。

男「まぁ実験としては十分だし、基本はやっぱタブレットで」

そうして寄り添いあうと表現するにはお互いに負荷の大きい姿勢を止めようとした。

すると見た目からは考えられないくらい強い力で引っ張られた。

『文字入力は面倒です。このままでお願いします』

男「えぇ…」

これまで会話らしい会話がなかったからなのか、単純に会話が好きなのか、あるいは両方か。

ともかくお喋りがしたいらしい。

いやでもこの態勢はやっぱきついなぁ。

『あ』

男「ん?あ」

取調室の窓の外に教授がいた。

たまたま通りかかったのか、いつもの黒衣とコーヒー入りのカップを片手にこちらをじっと見ていた。

そして外にある会話用のマイクのスイッチを入れた。

教授「何してるんだ君ら」
807 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2023/03/01(水) 00:38:41.07 ID:fFXJOFQl0
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教授「へぇ面白い。頭かぁ、それはまた。ふふ、見込み以上だね」

男「でもいいんですか?この娘外に出しても」

教授「別に元から出しちゃダメってことはないよ。びくついてる連中が出そうとしなかっただけさ。

馬鹿だよねぇ、気持ちはわかるけど。

あぁちなみにこの娘のNGはただ一つ。存在が部外者にばれる事。それ以外ならどうとでも」

共有スペースにある例のやたらと座り心地の良い長ソファ。

そこに三人並んで腰かけていた。

体重差から深く沈む俺と軽くしか沈まない彼女で頭の高さが程よく並べることができた。

確かにここでなら楽に会話できる。

男「教授は違うんですか。他の連中ってのとは」

教授「理解にも色々な種類がある。猫を理解するにも、殺して解剖する、野放しで観察する、施設で検査するとかとかだ。

でも私なら一緒に暮らすね。そしてどれも正解だ。方向性の違いだよ」

『実際この人くらいでしたよ。私と会話をしようとしたのは』
808 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2023/03/01(水) 00:40:05.37 ID:fFXJOFQl0
男「へぇ、あれ?この人の声は聞こえてるのか?」

『はい』

男「え」

教授「聞こえてるのかい?私の声」

男「そのようですけど」

教授「おいおい一体いつからだい。観葉植物に話しかけるOL気分で毎日接していたというのに」

『最初からですね』

男「最初からだそうですよ」

教授「なんと。しかし何故反応しなかったんだ」

『最初は私も返答してましたけど、こっちの声は聞こえていないようだったので諦めていました。

 声が届くのが一方的なだけなら筆談でもいいと思って』

男「自分の声は聞こえていないようだから諦めたと」

教授「なんてことだ。この程度の事にも今日に至るまで気づかないままとは。こうなると自分を解剖台に送るほかないな」

俺にも飛び火するからやめてほしい。

男「そんなに話しかけていたんですか?貴方だけが会話を試みてきたと言っていますが」

教授「ははは、だろうね。最も私もこちらの声は聞こえていないと思って諦めてしまったがね。あの時のコーヒーはおいしかったかい?」

『苦すぎでした』

男「あー、えっと、口に合わなかったと」

教授「それは残念」

不思議な光景だろうな。

二人に挟まれながらそう思った。

言葉はアレだが、言ってしまえば実験体と研究者が並んで腰かけて話しているのだから。
809 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2023/03/01(水) 00:41:24.44 ID:fFXJOFQl0
教授「そうだ。私もそれ試していいかい?」

「…」コクリ

少し不満げながらも承諾された。

教授「よし」

教授が移動し俺に頭を預けて動かない彼女に頭を押し当てる。

教授「…」

『…』

教授「…だめかぁ。ま、仕方ない」

男「…オイ」

仕方ないも何もこいつは一言も発していない。

『だってもし通じてしまったらこの人何するかわからないじゃないですか』

男「…」

それは何かわかる。

『でも折角に機会なので一つ質問があります』

男「質問があるそうですよ」

教授「お、なんだい」

『その黒い白衣一体何なんですか』

あ、やっぱこれ黒い白衣って認識なんだ。だよな。
810 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2023/03/01(水) 00:42:21.68 ID:fFXJOFQl0
男「その黒い白衣はなんなのか、だそうです。自分も気になってましたけど」

教授「これかい?研究者なら白衣だろうと昔は普通のを着てたんだがね、コーヒーのシミが目立つから黒にしたんだ」

『え、それ意味ないのでは』

男「白衣って薬品とかこぼしても目立つための白なのに目立たなくしちゃったんですか…」

教授「え、そうなの?」

男「研究職の白衣はそういう理由だったかと」

教授「そうだったのかぁ。でもシミがなぁ」

『そもそもこの人どういう分野の専門家なんでしょう』

男「教授の専門分野って何なんですか。その反応から薬品とかを扱う類ではないとは思いますが」

教授「それは秘密だよ。白衣よりミステリアスを纏っていた方がかっこいいだろう?」

『実はここの管理人とかだったりしませんかねこの人』

男「気持ちはわかる」

教授「おや、彼女はなんて」

『秘密でお願いします』

男「秘密です」

教授「おっとこれはしてやられた」

はははと事も無げに笑う教授。

この人ホントに教授を名乗るだけのただの面白お姉さんなんじゃあるまいな。
811 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2023/03/01(水) 00:46:39.56 ID:fFXJOFQl0
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そんな感じで研究とは名ばかりの緩い生活が始まった。

男「おはよう」

朝エレベーターを降りると彼女が出迎えてくれる。

そっと俺の胸に額を当て

『おはようございます』

そう言ってスッと離れていく。

少し消え入りそうな声だが短い会話ならこの程度の接触でも可能だった。

朝食は共有スペースで食べることにしている。

少しでも同じ環境にいることで何かわかるかもしれないと考えたからだ。

教授「やぁやぁ待っていたよ」

男「え、これ教授が作ったんですか」

大きな皿にこれでもかとフレンチトーストが乗せられている。

銀色のおしゃれなシロップの容器。簡素な装飾の真っ白なお皿に銀のフォークとナイフ。

レストランの朝食としか思えない光景だ。

教授「フレンチトーストは得意料理なんだ。ほらお掛け。コーヒーでいいかい」

男「お願いします」

教授「君もかい?」

「」ブンブン

激しめの否定。

教授「ではミルクか」

「」コクリ

恐い、とは言っていたが基本的に二人の仲は良好に見える。
812 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2023/03/01(水) 00:47:51.08 ID:fFXJOFQl0
「「いただきます」」

男「美味しい」

教授「何よりだ」

『なんでこんな無駄に美味しいんでしょう』

左側に座る彼女は小さな口にしっかりとトーストを頬張りながら頭を押し付けてくる。

お互いに食べにくいと思うのだが会話したくて仕方ないようだ。

教授「お気に召したかい?」

男「そのようです」

彼女は話す度に俺にくっつく必要があるので聞こえなくても何か言っていることは伝わってしまう。

男「料理好きなんですか?」

教授「好きと言うのは違うかな。美味しいものは好きだがね。

   閃きのきっかけとして別の作業をしようと考えてな、手近なのが料理だったんだ。繰り返すうちに色々出来るようになってしまった」

男「なんだか伝記に乗ってそうなエピソードですね」

教授「もし味を聞かれた時は是非褒め称えてくれたまえ」

男「変人であることもしっかり答えておきますよ」

『コーヒーは微妙なのにどうしてこんなに美味しいんでしょう』

男「…俺に言わせる気かそれ?」

『ご自由に』

教授「なんと?」

男「秘密です」

教授「うーん歯がゆいなこれは」
813 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2023/03/01(水) 00:51:24.52 ID:fFXJOFQl0
気づいたら次のイベントが来てる

リアルが落ち着いてきたので少しずつ更新していきます。
漏らす神風が書きたかっただけなのに凄い長くなってる…
814 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/03/01(水) 01:23:13.89 ID:vZxFpfEKo
815 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/03/12(日) 04:09:53.34 ID:+oQTgGEQ0
おつ
長くなりそうだが面白くなりそう

しーちゃん(推定)かわいい
816 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/03/17(金) 11:52:35.61 ID:ugaywt9a0
おつです
この独特の距離感ある会話のテンポが心地よいですね
817 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/07/31(月) 11:36:18.49 ID:56qQ3N810
楽しみに待ってる
818 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/12/15(金) 00:30:23.15 ID:DcSCM0HpO
更新待ってます

819 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/02/10(土) 18:23:43.55 ID:wu/6Dwb20
松輪いつまでも松輪(更新を)
820 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/08/09(金) 23:12:25.69 ID:nF6IEOyj0
保守
821 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2025/01/22(水) 13:19:30.21 ID:e78lT4Z20
保守らねば
822 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2025/03/17(月) 03:05:06.75 ID:M9RqgT2M0
保守......
まだ待ってます
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