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【艦これ】神風「最初の一人」
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702 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:41:11.53 ID:CLLeU+aS0
男「もしもし」
スピーカーに切りかえ電話に出る。
「あぁよかった。もう寝ているかとも思ったのだけれど、遅くに申し訳ない」
男「それは構わないが、一体どうしたんです」
「もし迷惑じゃなければ少し話せませんか?執務室で。いいお酒もありますし」
男「…わかりました、今から向かいます」ピッ
秋雲「随分と急だね」
男「作戦が終わるまで待っていた、ってことか?だとしてもこんな時間に呼び出す必要はなさそうだが」
秋雲「ん〜見当がつかんね」
男「行ってみるほかないか」
秋雲「気を付けてね」
男「そういうのじゃないことを祈るよ」
703 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:41:44.51 ID:CLLeU+aS0
長屋を出る。
すっかり沈んだ日の光は満天の星空を照らし、地上はそこから僅かに零れ落ちた明かりで辛うじて形を保っていた。
さっきまでの喧騒の反動かいつもより鎮守府は静まり返っている。
比喩じゃなく本当に。
というか建物真っ暗じゃん。どうやって執務室まで行こう。明かり付けたら怒られるかな?
男「ん?」
唯一明かりがついているところがあった。
その明かりはゆっくりと動き、長屋に通じる扉を開けた。
男『貴方は』
『どうも。初めまして、になりますね』
その明かりはぺこりとお辞儀をした。
男『鳳翔、だよな』
鳳翔『はい。軽空母鳳翔です。提督から貴方の案内をするようにと』
瑞鳳程ではないが軽空母の中でもかなり小柄な彼女が懐中電灯を片手に立っていた。
男『助かった…どうやって向かおうかと悩んでいた所だったんだ』
鳳翔『どうぞこちらに。足元にお気を付けください』
704 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:42:23.29 ID:CLLeU+aS0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
鳳翔『失礼します、提督。お客様のご到着です』コンコン
「どうぞ」
鳳翔が丁寧に扉を開ける。
提督「こんばんは」
提督は奥の仕事机ではなく手前のソファに座っていた。
目の前のテーブルにはお酒やつまみなどが並んでいる。
提督「鳳翔さんもありがとう」
鳳翔「私が言い出したことですから」フフ
あれ?さっき提督に言われて迎えに来たと言っていたが。
男「というか話せるのか、鳳翔も」
鳳翔「はい。ひぃちゃんから教わったんです。先程は他の方が近くにいたので控えていました」
ひぃちゃん?
男「…飛龍?」
鳳翔「正解。流石ですね」
男「流石って」
意外とお茶目だなこの人。
705 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:43:01.45 ID:CLLeU+aS0
提督「どうぞ、遠慮せずかけてください」
提督の向かいのソファに座る。
一見するとただの飲み会のような風景だ。
夜の密会でさえなければ、だが。
男「それで、一体どういったご用件で」
提督「いやぁちょっと愚痴を聞いてもらおうかと思いまして」ハハハ
男「…はい?」
既にいくらか酔っているらしい。
冗談、だよな?
鳳翔「あ、課長さんも何か食べますか?卵とイカと、オクラ枝豆なんかがありますけれど。卵焼きくらいであれば作りますよ?」
給湯室から鳳翔が顔を出す。その部屋コンロとかまであるのか。
男「え、えっと、じゃぁ卵焼きで」
鳳翔「少々お待ちください」
何このゆるい感じ。マジで飲み会?
提督「あ、何飲みます?ワインとかはないですけど」
男「じゃぁ、これで」
机にあった適当な酎ハイを手に取る。
提督「それでは、乾杯」
男「か、乾杯」
706 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:44:12.14 ID:CLLeU+aS0
提督が手にしたグラスを一気に飲み干す。随分な飲みっぷりだが。
男「てっきりお酒は宴会でたらふく飲んでいるものと」
提督「飲むには飲みますけどね。ほんの少しですよ。彼女たちに合わせていたら肝臓がいくつあっても足りませんから」
男「確かに…」
艦娘はアルコールで酔わない。強いとか弱いという領域ですらない。
提督「だからこうして宴会の後にささやかに楽しむのが趣味なんですよ。宴会は宴会で、皆の事を見ているだけでお腹いっぱいですから」
男「それはまた、贅沢な話だ」
鳳翔「お待たせしました。卵焼きです」
男「どうも」
鳳翔「それでは私も失礼します」ヨイショ
男「あれ?」
鳳翔「はい?」
男「いや、提督の隣でなくていいのかなと」
ちょこんと俺の横に座る。その落ち着いた雰囲気を除けば本当に子供に思える程小さい。
鳳翔「先約がいますからね。それに貴方の話を聞きたいですし」
男「俺の?」
707 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:45:02.43 ID:CLLeU+aS0
提督「鳳翔さんの提案なんですよ。貴方を呼ぼうというのは」
鳳翔「提督が課長さんの事を気にしていたようだったので、だったら呼んでしまえばいいと思っただけですよ」
男「それでわざわざ」
提督「ここでは僕は常に提督ですからね。それは別にいいんですけど、どうしてもただの人間と飲む機会が欲しいと思う時があるんですよ」
男「それが俺なんかでいいのか?」
提督「例えば組織の人間としての愚痴なんかを話す相手が欲しくてね」
男「あぁ、それなら色々ある」
提督「でしょう?」
嬉しそうな表情で提督が再びグラスをこちらに傾ける。
俺もゆっくりと缶を差し出しグラスにこつんと押し当てた。
708 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:45:45.95 ID:CLLeU+aS0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
提督「民間の組織を手下か何かと勘違いしてるんだよねぇ。軋轢によるしわ寄せは殆ど実際に関わる僕らに来るってのに」
男「そうなんだよなぁ。そりゃ有事なんだし協力を拒むことはしないだろうが、それを当然とか思ってやがる」
提督「自分達は命令だけ降ろして報告には何から何まで上に上げろってんだから殿様が過ぎる」
男「そのくせ欲しいもの以外は読まずに責任丸ごとポイ。胃に入れるだけ山羊の方がまだマシだ」
提督「そして山羊役だけが僕らに回ってくる」
鳳翔「山羊?」
男「あぁgoatか」
鳳翔「あ、スケープゴート」
提督「そう」
男「美味い。鳳翔さんの卵焼きくらい」
鳳翔「おかわりをご所望ですか?」フフ
男「それはまたの機会に」
提督「鳳翔さん自分で色々作るのにつまみはいつもスナックですよね」
鳳翔「作れるからこそ、こういう作れない味が好きなのかもしれませんね」
提督「説得力あるなぁ」
709 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:46:44.03 ID:CLLeU+aS0
鳳翔「お酒もなくなってきましたし、私もそろそろ戻りますね」
提督「酒ならまだありますよ。飛龍に隠してたとっておきのが。えっと確か給湯室に」
たらふく飲んだ割にはそこそこな足取りで隣の小部屋に向かう提督。
それを無視して鳳翔さんはお皿を片付け始めた。
男「もういいんですか?」
鳳翔「普段は見れない貴重な提督を見せてもらいましたから。役得というやつですね」フフ
男「悪い人ですね。お皿も持って帰るんですか?」
鳳翔「食堂に置いておけば明日の当番の娘が洗ってくれますから」
結構強かだなこの人。
鳳翔「それに、これ以上独り占めしたら怒られちゃいますし」
男「怒られる?」
鳳翔「それでは、おやすみなさい」
男「えぇ、おやすみなさい」
そそくさと部屋を出て行ってしまった。
怒られるっていったい何の話だろうか。
時計を見るととっくに日付を回っていた。
俺もそろそろ戻るべきか。
提督は、まだ給湯室で何か探しているようだ。
妙に物音がうるさい。一体どこにしまったんだか。
710 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:47:48.78 ID:CLLeU+aS0
叢雲『ちょぉっとぉ。五月蠅いわよ〜』
男「え」
執務室の奥。給湯室の反対側。つまり提督の寝室へつながる扉がゆっくりと開いた。
いかにも起き抜けといった具合の声を発しながら叢雲が真っ暗な部屋から出てくる。
そこまではいい。いいんだが、
男「む、叢雲さん?」
叢雲『ん〜?』
いつもの流水のような髪は今さっきまで寝ていましたと言わんばかりにふわりと癖がついているし、
見慣れた制服ではなく青白いワンピースのような寝間着。しかもその一着だけ、に見える。
少なくともぱっと見は他に何か着用しているように見えないという非常に際どい恰好。
さっき鳳翔さんが言っていたのはこいつの事か!
というかこれ知ってたなら先言えよ!あの人茶目っ気が過ぎないか流石に!?
提督「酒ない…なんで…あ叢雲、おはよう」
叢雲『…?』
本来この部屋には提督一人しかいない、という先入観から俺に話しかけていたらしい叢雲が本物の提督を認識したようだ。
叢雲『?』
寝ぼけた頭がフリーズする。と、同時に眠気が徐々に覚め思考が加速していく。
叢雲『』
目が大きく開く。とりあえず状況は理解したようだ、がさてここからどうするのか。
叢雲『ッ〜!?』
色々と吹き出しそうなのを堪え徐々に赤くなりながらもゆっくりと元の部屋に戻り戸を閉める。
711 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:48:21.41 ID:CLLeU+aS0
男「どうすんだこれ…」
帰ろうか。それはそれで後が怖いけど。
提督「アレ、なんで戻るの」
男「え、あ、おい」
提督「お〜い叢雲〜」ガチャ
男「待っ!」
当然のように扉を開ける。
どう考えても地雷原でタップダンスするレベルの愚行。
あまりによどみない動作に静止は間に合わなかった。
叢雲『バカアァ!!!』
提督「グェッ」
扉の中からすっ飛んできた叢雲の頭部ユニットが提督のみぞおちに深々と突き刺さる。
提督「」
静かに床に転がる阿保を見つつ、とりあえず残っていた缶に口を付けた。
712 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:49:04.85 ID:CLLeU+aS0
男「表情豊かだな、叢雲は」
提督「ん…?」
腹部をさすりながらどうにかソファに戻った提督に問うてみる。
提督「元々感情豊かな方ではあったけど、ここまで色々な反応を見せるのは君が来てからだよ」
男「俺が?」
提督「良い刺激になってるんだと思う。彼女達にはそういうのが必要なんだ」
男「良い刺激、なのかね」
提督「皆最初から個としての人格を有しているし、ある程度知識や記憶もある。でもそれは船としての部分だ。人としては生まれて数年の子供と同じ。感情というものとの付き合いはとても浅いんだ」
男「子供か。言いえて妙だな」
提督「それが彼女達にとって良い事なのかどうかはわからないけれどね。それでも僕はもっと人と触れ合ってほしいと思ってるんだ」
男「色々考えているんだな。まるで父親だ」
提督「余計なお世話かもしれないけど」
男「結果的にどうなるかはともかく、考えることは大事だよ」
静かに扉の開く音がした。
男「お」
提督「あ」
713 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:49:36.18 ID:CLLeU+aS0
叢雲「死にたい…」
普段の服装に戻った叢雲が提督の横に座り両手でジュース缶を握りしめながら項垂れている。
提督「さっきまで鳳翔さんもいたんだけど、ついさっき戻ったみたいで。あ、彼を呼んだのも鳳翔さんの提案でね」
叢雲「あの野郎…」
まさかのあの野郎呼ばわりである。多分間違ってないけど。
男「そもそも叢雲はその、寝てたのか?」
提督「流石に作戦中はずっと気が張りっぱなしだからね。いつも宴会後はスイッチが切れたみたいに寝てるんだ」
男「なるほどそれで」
エネルギー残量10%以下といった感じに見える。
叢雲「死にたい…」
提督「さてせっかく揃ったんだしやはりアレが欲しいな」
落ち込む叢雲をガンスル―する提督。
再び席を立ち給湯室に酒を探しに行く。そんなに大事なのだろうか。
714 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:50:04.18 ID:CLLeU+aS0
叢雲「…なんでいんのよ」
恨みがましそうな目で俺を睨みつけてくる。
男「今あいつが言ってた通りだよ」
叢雲「せっかく二人きりになれるところだったのに」
男「邪魔だったか?」
叢雲「えぇそうよ邪魔よこの上なく邪魔よ」グビッ
開き直ったのかムスッとした顔でブドウジュースを飲み込む。
男「鳳翔さんは普段は見れない提督が見れるとか言ってたが、お前もそのくちか」
叢雲「鳳翔が?ふぅん。知ってる?彼女結構強敵よ」
男「それはなんとなくわかった」
叢雲「…ねぇ、さっきの私の恰好、どうだった」
男「…どう答えたら生きて帰れる」
叢雲「私の事なんだと思ってるのよ」
男「ん〜メンヘラ?」
叢雲「…貴方酔ってる?」
男「そこそこは」
715 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:50:36.24 ID:CLLeU+aS0
叢雲「お酒って嫌ね。酔うってのは、私にはよくわからないわ」
再びジュースを飲む。今度は一口だけ。
男「艦娘ってのは雰囲気に酔うそうだな」
叢雲「そうね。アルコールの影響は受けないもの。逆に言えばこうしてジュースを飲むだけで私達には十分」
男「酔ってる?」
叢雲「少し」
男「…さっきの格好だが、奇麗だったよ。流石に少し驚いたが」
叢雲「ムラっとした?」
男「例えしててもはいとは言えないだろそれ」
叢雲「あらぁ否定しないの?」
男「断固として否定する」
このダル絡みは秋雲を思い出す。艦娘ってこういうの多いんだろうか。
716 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:51:30.15 ID:CLLeU+aS0
叢雲「人間の男女って不思議よね。司令官に触れながら寝るととても心地良いけれど、それは多分私が艦娘だから感じられるものなのよ」
男「それは人間でも同じ気もするけど、人になりたいのか?」
叢雲「さぁ、わからないわ」
俯いて手元の缶を見つめる小さな少女の表情は、俺には窺い知れなかった。
叢雲「わからないわよ」
男「わからない、か。俺も自分が分からなかったことがあるよ」
叢雲「あら、今はわかってるのかしら?」
男「さてどうだかな」
ガシャンと大きな音がする。また給湯室からだ。
男「あいつまだ探してんのか」
叢雲「何やってるの」
男「なんかいい酒が取ってあるとか」
叢雲「あぁ。司令官〜、それ飛龍が持ってったわよ〜」
提督「え゛」
給湯室から断末魔が聞こえた。
叢雲「そういえば、貴方達随分と仲良くなったわね」
男「ん、そうか?」
叢雲「そうよ」
提督「話してみれば、僕ら結構立場が似通ってるからね」
男「中間管理職か?」
提督「そんなところさ」
叢雲「ふぅん」
眠さからなのか、さっきのことが尾を引いているのか。
随分とおとなしい叢雲はいつもと違いすぎてなんだかやりにくい。
717 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:52:15.23 ID:CLLeU+aS0
提督「仕方ない。アレを出すしか」
今度は寝室のほうへ向かう。
男「なんでそんなに隠してあるんだ…」
叢雲「勝手に持ってくやつが多いのよ」
男「提督はやめろって言わないのか?」
叢雲「予算で買ってるから強く言えないのよ」
男「注意されるべきはあいつのほうかよ」
叢雲「調査だけじゃなく監査までやる気?」
男「あんな面倒な仕事誰がやるか」
叢雲「同感」スッ
叢雲が席を立つ。そしてそのまま向かい側、俺の隣に座る。
男「さっきまで鳳翔さんが座ってたよ」
叢雲「なんて言ってた?」
男「俺の話を聞きたいとかなんとか」
叢雲「そういうことよ」
男「そういうものなのか」
叢雲「そういうものよ」
718 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:52:43.82 ID:CLLeU+aS0
男「え」
何の脈絡もなく至極当然のように村雲が静かに俺の右肩に寄りかかってくる。
男「どうした?」
叢雲「対して違わないわね。アンタも司令官も」
男「同じくらいの体格だしな」
叢雲「そうじゃなくて、それもあるけど」
男「じゃあなんだ」
叢雲「…同じ人間なんだなって」
男「そりゃあまぁ」
提督「あったよあった」ガチャ
叢雲「!」バッ
凄まじい速度で俺から離れる叢雲。
そこは見られたくないのか。
提督「あれ、叢雲もそっち側?」
叢雲「今日は私もお客人よ」
提督「なら改めて乾杯といこう」
久々に楽しい時間だった。
最後にこんな時間を過ごしたのは、いつだったろうか。
719 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:53:16.14 ID:CLLeU+aS0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
男「…ん」
身体が重い。なんだこれは。瞼を開けると、瞼?
部屋が暗い。明かりは消えている。
だが真っ暗ではない。窓の外から、カーテンから指しているのは日差しか?
寝ていた?寝たのか?いつ?
金剛『〇〇〇〇』
男「」
目の前に金剛がいた。しかも流れるように口汚い英語をぶつけられたような気がする。
男「えっと、ここは」
金剛『話すならその喋り方はNGデスよ、酔っ払いさん』
男『…これは失敬』
段々と頭が起きてくる。
どうやら金剛は目の前のソファで座ったまま仲良く眠っている提督と叢雲に毛布を掛けているようだった。
いつの間にかみんな寝て
寝て?
720 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:54:33.73 ID:CLLeU+aS0
男『ひょっとしてとっくに日が昇ってる?』
金剛『残念ながらまだMorningネ。その様子だとかなり遅くまで飲んでたみたいだけど』
男『あぁ、いつ寝たかわからないくらいには…』
金剛『そう』
冷たい対応だった。
いや、金剛は俺に対してかなり警戒的なタイプだ。今すぐに追い出されないだけマシなのかもしれない。
男『手伝おうか?』
机の上に散乱した飲み会の跡をテキパキと片付ける金剛に思わず声をかける。
金剛『No Problem.お客様はじっとしててくだサーイ』
そう言ってまとめたゴミや容器を器用に調理場へもっていく。
…なんか、思ったより対応が柔らかい?
じっとしてろと言われてしまったので目の前の二人を眺める。
提督のほうは口を半開きにして随分とだらしない寝顔をしている。
叢雲のほうはまるで人形のように静かに、微動だにせず提督に寄りかかって寝ている。
提督の左腕の中に潜り込み、左胸に耳を押し当てるような形で。
じっと見れば、鼓動に合わせて叢雲の身体が小刻みに揺れていた。
721 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:55:01.86 ID:CLLeU+aS0
金剛『素敵な寝顔ネ』
男『俺もこんなだらしない寝顔してたりしたか?』
金剛『さぁてどうでしょうかネ〜』ニヤリ
不安だ。
金剛『…二人のこんな表情見たのは初めてデース』
男『普段はこんなに飲まないのか』
金剛『そうじゃなくて…はぁ、嫉妬しちゃいマース』
男『嫉妬?なんで』
金剛『乙女にあまりあれこれ聞くものじゃないデスよ〜』
あからさまにはぐらかされた。
いつもより話しやすい雰囲気のせいでつい色々聞いてしまいそうになるが、確かに分をわきまえるべきか。
金剛『Heyカチョー。昨日の今日なので鎮守府はお休みmodeデスが、それでもこの時間には出撃や遠征に行く娘もそこそこいマース』
男『は、はい』
いきなり真面目な顔で話が始まるのでつい身が強張る。
722 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:55:38.48 ID:CLLeU+aS0
金剛『つまりこのまま長屋に戻ろうとすれば誰かとEncountする可能性が大デース』
男『む、そういう話か』
確かにそれはまずいな。
それなりに交流が増えたとはいえ艦隊の俺に対する警戒度はまだ高いだろう。
それをまさか提督の部屋から朝帰りする所を見られでもしたら、瑞鶴なんか即爆撃してきそうだ。
金剛『ということで、私がちょっとした裏道を案内してあげマス』
男『それはありがたいが、いいのか?』
金剛『不満ですカ?』
男『まさか』
提督ではないが、戦艦金剛の頼もしさくらいは知っているつもりだ。
723 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:56:23.31 ID:CLLeU+aS0
男『そうと決まれば早めに』
ソファから立ち上がろうと凝り固まった体を少し伸ばしていると
金剛『ちょっとじっとしててくだサーイ』
男『へ?』ヒョイッ
持ち上げられた。
両脇をがっしりつかまれ幼児でも持ち上げるかのように軽々と。
流石艦娘。
男『え、あの、金剛さん?』
眼下の金剛は俺のことをじっと見つめている。
かと思うとそっと俺を地面に降ろした。
男『???』
金剛『ホラ、行きますヨー』
まるで何もなかったかのように執務室を後にする。
なんだったんだ、とは今度は聞かないことにした。
724 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:57:30.44 ID:CLLeU+aS0
外はすっかり明るくなっていた。まだ少し肌寒い朝の気温が寝ぼけていた体に刺さる。
男『外にも階段があったのか』
執務室を出て、来た方向とは逆に行くと外へ通じる扉があった。
非常階段なのだろうか。確かにここなら多少はエンカウントし難いだろうが、
そこまで案内が必要なルートとも思えない。
金剛『課長は提督より少しHeavyネ』
男『一応脂肪じゃなくて筋肉のはずだ。というかさっきのでそんなことまでわかるのか』
金剛『なんとなくデスヨ。ただなんとなく、提督と同じ人間なんだなぁって』
男『それ、似たようなことを昨晩叢雲も言ってた気がする』
金剛『叢雲も?ふぅん、そう』
前を歩く金剛の表情は俺からは見えなかった。
725 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 00:58:20.06 ID:CLLeU+aS0
金剛『私達は皆囚われのPrincessデスからネ。外のことはどれも物珍しんですヨ』
茶化すような口調でそんなことを言う。
金剛『貴方はさしずめ王子様ってところデスネ』
男『俺があ?』
心にもないことを、そう思ったがどうやら違うようだった。
金剛『彼女を助けたいんでしょ?』クルッ
金剛が足を止め振り返る。
俺をまっすぐ見つめるその瞳は、確かに軍艦の眼だった。
男『あぁ』
それだけは確かだった。
金剛『なら、私も協力しマース!』
一転、普段のテンションに戻って歩き始めた。
男『そりゃありがたいが、協力って具体的に何をだ』
金剛『私こう見えても鎮守府の中ではかなり影響力のあるほうなんデース』
むしろ金剛の影響力が低い例を知りたいくらいだが。
726 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 01:00:02.18 ID:CLLeU+aS0
金剛『だから艦隊の皆と貴方との間にある壁を私がBleakしてあげマス!』
男『…いいのか?』
金剛『貴方を認めると、そう言っているつもりデス。多分叢雲も同じようなことを考えていると思いますヨ』
男『でも、ほかの皆がどう思っているかは別だろう』
金剛『勿論全員がとはいかないでしょうケド、瑞鶴とか』
男『だろうな…』
金剛『でもそうでない娘のほうが多いネ。壁といっても、殆ど薄氷のようなものデース。興味はあるのにギリギリで保っている最後の一線ってやつネ。小突けばすぐヨ』
男『金剛がそう言うなら、多分そうなんだろうな』
金剛『頼みましたよ。あの娘のこと』
男『約束はできないが、やれるだけのことはやるよ』
金剛『ならOKネ。さて、Navigateはここまで』
見れば長屋はすぐ目の前だった。建物の外側を通っできただけにしては幸運な事にエンカウントはしなかった。
男『ありがとう』
金剛『こちらこそ』
727 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 01:00:42.06 ID:CLLeU+aS0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
男「はぁ…」
秋雲「あー帰ってきたぁ、って何その顔」
男「普通に二日酔いだこれ。軽い奴だけど」
秋雲「え、なに、普通に飲んでたの昨日?」
男「うん」
秋雲「なにそれ怖い」
男「詳しくは、また今度な」バタッ
布団に倒れこむ。
二日酔い自体は確かに軽いものだったが、座ったまま寝てたことによる体への負担がすごい。
思い切り体を伸ばせることがこんなにも気持ちいいとは。
秋雲「そろそろ緋色ちゃん起きるけど」
男「…そうだった」
秋雲「どうすんの」
男「…午前は休暇にするか」
秋雲「なんて横暴な…」
728 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 01:02:43.80 ID:CLLeU+aS0
男「うるせー」ゴロン
仰向けになり少し目を閉じる。
金剛が言っていたことがまだ頭に残っている。
男「囚われの姫か」
自分達を、あるいは緋色の事を指しているのだろう。
しかし、その言葉に俺は昔のしーちゃんの事を思い出していた。
まだしーちゃんと呼ぶ前の彼女を。
秋雲「何耽ってんの緋色ちゃん起きるって言ったじゃん。昔の女でも思い出した?」
男「そういう関係じゃねぇって」
秋雲「え、何々ホントに誰か思い出してたの!?誰々!?」
男「…」
メンドクセェ…緋色起こしに行こうかな。
秋雲「で、飲み会で収穫はあったわけ?」
男「…久々に友達ができたよ」
秋雲「へぇ、良かったじゃん」
男「だな」
それだけは間違いない。
729 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/06/30(木) 01:06:33.70 ID:CLLeU+aS0
絶賛イベント攻略中(E3-3甲)
弊鎮守府では艦娘は人間の構造を模しているだけで生命としての機能は有していない存在となっております。
いくら飲んでも平気っていいですよね。
バカみたいに熱くても平気なのも。
残念ながら我々は人間なので皆さん熱さには気をつけましょう。
730 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/06/30(木) 10:53:57.82 ID:K77F31lg0
乙乙
731 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/06/30(木) 13:23:23.75 ID:2yjzIaZvo
乙です
732 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/06/30(木) 18:12:06.76 ID:dTfNMN+4o
おつ
733 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/07/18(月) 17:28:03.17 ID:feObpqRG0
乙
雪解けの気配……?
吉と出るか凶と出るか
734 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:13:42.80 ID:GEaWwL4j0
金剛『さぁて折角なので提督の寝顔を〜』ガチャ
叢雲『あら、悪いけどシャッターチャンスはなしよ』
金剛『げっ』
執務室に戻ってきた金剛を出迎える。
司令官はまだソファまで寝こけているけれど、この寝顔をおいそれと渡すつもりは無い。
それに
金剛『起きてましたカ…』
叢雲『アレだけ騒がしかったらねぇ』
トントンと自分の頭を指さす。
金剛『uh…』
叢雲『許可なく鎮守府内で艤装を使った通信を行ってはいけない。わかってるでしょ』
金剛『正直バレないかなぁって』
叢雲『アンタそういうとこ結構適当よね…』
艤装には船の機能が概ね詰まっている。
船として浮く力、進む力は勿論、砲撃雷撃、装甲や電探、それに通信機能。
海上でわざわざ端末を使用してメッセージを打つなんて事はしない。通信は全て艤装の、つまり頭の中で行う。
735 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:15:02.24 ID:GEaWwL4j0
叢雲『で、一体何話してたの』
金剛『比叡達に、外階段から長屋にかけて人払いをしてってお願いを』
叢雲『何故』
金剛『聞いてたんじゃないんデスか』
叢雲『ここでの会話くらいはね』
金剛『あの人に協力しようと思ったからデス』
叢雲『意外な理由ね』
金剛『そうデスカ〜?個人的には悪くないと思ってますけど。叢雲だってそうでショ?Faseにそう描いてありマース』
叢雲『寝顔に?』
金剛『Cuteでしたヨ』
叢雲『…そりゃどーも』
金剛『…ちなみに最初の方って本当にsleepしてマシタ?』
叢雲『絶ッ対誰にも言わないでよ、お願いだから』
金剛『モチのロンネ!』イェイ
不安な回答だけど金剛ならば大丈夫でしょう。多分。
金剛『私や比叡達が協力したと知れば、皆さんこれまでのようになんとな〜く距離を置くのではなく自分の判断で立ち位置を決めるようになる、と私は踏んでいマース』
叢雲『それでわざわざ連絡を。まぁ悪くはないんじゃない。嫌いじゃないわよそういうの』
金剛『それはよかったデス』
叢雲『それはそれとして無許可で通信の罰として宴会の片付けしてきなさい』
金剛『それはよくないデース…』
736 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:15:59.43 ID:GEaWwL4j0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
金剛は言っていた。
俺と個々の艦娘との間にある壁を壊してやる、と。
彼女ならきっとできるのだろう。
期待はしていた。していたが、
飛龍『いっぱいいるけどいい?』
蒼龍『ども』
葛城『ども』
男『急すぎるだろ』
元々叢雲と話してはいた。
ここしばらく緋色の状態は安定していたし、記憶の糸口が全くつかめない以上他の艦娘ともっと接触を計った方がいいと。
駆逐艦、軽巡洋艦以外との接触はほぼしてないからな。
737 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:17:26.55 ID:GEaWwL4j0
願ったり叶ったりな状況ではあるんだろうけど。
葛城『わぁかっわいぃ〜!』グリグリ
緋色『ちょっと!くっつきすぎくっつきすぎだからぁ!』
飛龍『やはり緋色ちゃんの魔力には勝てなかったか』
蒼龍『ヘアセット持って来たから後で髪いじらせて〜』
男『あんまり羽交い絞めにしてやるなよ』
緋色『いえ、飛龍さんほどじゃないし大丈夫よ』
葛城『…今どこ見て言った?』
飛龍『緋色ちゃん意外とあるもんねぇ』
蒼龍『葛城よりあるんじゃない?』
葛城『酷い!流石にそんなこと』フニ
緋色『ヒャッ?』
葛城『…意外とある』
男『…』
地獄かここは。
この空気の中で昼飯食わなきゃいけないのか俺。
まさか金剛と話して半日も経たずにこんな状況になるとは。
738 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:22:33.54 ID:GEaWwL4j0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
葛城『ぶっちゃけ警戒する理由って軍関係者って所なのよね』
金剛が言っていた話をするとそんな答えが返ってきた。
飛龍『あ〜ね』
男『やっぱそういうものなのか』
蒼龍『9割はろくでなしってイメージ。で残りの1割がやたらと良い人。そこに0.1%位の変人を少々』
飛龍『料理か!隠し味は?』
蒼龍『え、え?えと、愛情?』
飛龍『くぅ〜見たかねこのピュアリティ』
俺に振るな。
男『俺はどっちだった?』
葛城『どっちでも。なんか一般人って感じ。一般人知らないけど』
男『喜ぶべきなんだろうか』
蒼龍『提督に近いよね雰囲気は』
緋色『そんなに怖い人多いの?』
飛龍『怖くはないけど、嫌な奴〜って感じ』
葛城『大丈夫大丈夫。私達が守ってあげるから〜』ナデナデ
緋色『ん〜…葛城はなんだか頼りないわ』
葛城『ん、え?え、と、えぇ…』
飛龍『ブフッ!」
蒼龍『ッーー!」バンバン
葛城『そんなに笑わないでくださいよぉ!』
男『飯冷めるぞ』
739 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:23:09.68 ID:GEaWwL4j0
蒼龍『じゃそろそろ戻ろっか』
男『緋色は航行訓練だな』
緋色『う、うん…』
男『久々で緊張するか?』
緋色『え、えぇ、そうよ!ちょっとね』
葛城『私達もついてこっか?』
飛龍『空母は他の艦とはわけが違うんだしあんまりアドバイスも出来ないんじゃない?』
蒼龍『はいはい大人しく戻りましょうねぇ』
葛城『ちぇ〜』
緋色『私も、行ってきます』
男『おう、行ってらっしゃい』
記憶の方はまったくだが鎮守府には大分慣れてきているように思える。
こうして皆と接触していればそれだけ早く溶け込めるだろう。
それだけでも十分な成果だ。
740 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:25:13.26 ID:GEaWwL4j0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
男『お、いたいた』
緋色を見送って小一時間程して、叢雲から連絡があった。港に練習を見に来てほしいと。
久々だし上手くいっていないのかなと、そんな風に思っていた。
男『って、なんだその恰好』
緋色『えへへ』
男『何故その恰好』
体操服。しかもブルマー。
緋色『練習中に濡れちゃって…服は夕張さんに借りたの』
男『なんでこんなもん持ってるんだよ』
夕張『いずれ滅ぶ貴重な装備だと見込んでたくさん確保してあるのよ』
男『滅びるべきはその思考だ』
夕張『感想は?』
男『何かあったのか?』
変態からのインタビューはとりあえずスルー。
緋色『なんだかうまく出来なくて、海にドボンって』
男『それって大丈夫なのか?』
緋色『訓練用の艤装に浮がついてるから。びしょ濡れはどうしようもなかったけれど』
男『そうか…久々だもんな。焦る必要はないさ。ゆっくりやればいい』
緋色『そう、そうよね!うん!』
男『あ、そういや叢雲は?』
夕張『あっちあっち、工廠のほう』
男『一体何の用なんだ?ブルマーみせたいわけじゃあるまいに』
夕張『それは、向こうで叢雲に聞いてきて…』
夕張の表情が妙に暗い。なんなんだ?
741 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:26:16.80 ID:GEaWwL4j0
順調だったとはいえしばらくのブランクがあったんだ。
上手くいかないのは仕方ないだろう。
そういうもんだ。そう思って疑っていなかった。
叢雲「あの娘、大丈夫なの?」
男「え」
工廠の日陰の下で、間髪を入れず叢雲にそう言われた。
男「緋色の件、だよな」
叢雲「私はこういった場合の知識がないから判断はできない。だから貴方に聞くしかない」
男「でも、しばらく間があったからブランクとかで」
叢雲「生まれたばかり、あるいは改装なんかで航行がうまく出来ないって場合はあるわ。だから訓練用の艤装もある。でもそういうのは少し歯車がずれているだけですぐにできるようになるわ」
男「でも緋色は特殊なケースだろ。何も思い出せないんだから」
叢雲「そうね。だから私も判断に困ってるのよ。でも、ねぇ、航行がうまく出来ないってどういうものだと思ってる?」
742 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:27:30.83 ID:GEaWwL4j0
男「どうって、うまく進めないとか、転ぶとか」
叢雲「上手く進めないってことはある。改装でバランスなんかが変わって波を受けたり曲がったりが今まで通りにできなかったりね」
男「お、おう」
叢雲「でも転ぶってことはないわよ」
男「ない?」
叢雲「貴方の想像している転ぶってサーファーがバランスを崩して海に落ちるようなことでしょ?」
男「あぁ、そうだけど」
叢雲「そんなのおかしいじゃない」
男「待て待て、全然意味が分からん」
叢雲「確かにこれは私達ならではの感覚なのかもしれない。けど考えても見てよ。私達は艦よ。名前が分からないとしても船は船。それがただ海に浮かぶことも出来ないなんてありえないのよ」
男「!?」
叢雲「航行訓練ってのは人間でいえば歩行訓練かしらね。でもそれってまずもって自分で立っていることが前提でしょう?」
男「じゃぁ、緋色が転んだってのは…」
叢雲「人なら、例えば骨折とかでまず立つ訓練ってこともあるのかもしれないけど、私達にとって浮くってのは呼吸と同じようなことよ」
脳裏にあの時の光景が蘇る。
叢雲「前提がおかしいのよ」
嫌な記憶程よく覚えているものだ。
叢雲「浮けないって、それだけ異常なことよ。出来るとか出来ないじゃなく、存在としての根本からおかしいのよ」
多分最も恐れていた状態。
叢雲「だからこう尋ねるしかないのよ。大丈夫なのかって」
秋雲の時と同じだ。
叢雲「ちょっと!」
工廠を飛び出し港の緋色に駆け寄る。
743 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:28:48.21 ID:GEaWwL4j0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
課長が急に駆けだした。
港で一応艤装のチェックを行っている夕張と緋色に向かって。
その表所は険しいなんてものじゃなかった。
血相を変えて、それこそ血の気が引いていると言うべきかもしれない。
慌ててそれを追いかける。
男『緋色!』
緋色『わっビックリした。どうしたの?』
男『その脚!脚は、大丈夫なのか?その、感覚とか…』
緋色『脚?えぇ、別に捻ったりはしていないと思うけど…』
夕張『えぇ、特にそういった異常は見られませんけど』
男『そう、か』
少し安心したのか徐々に落ち着いていく。
夕張『?』
夕張と目が合う。
彼女も不思議に思っているようだ。
こんなことは初めてだ。
私も夕張も。
だからこそ妙だ。
脚の感覚とやらを聞いた。
まるでこの現象に心当たりがあるかのように。
叢雲『…』
何を知ってるの?
いえそれよりも、何故それを言わないのか。
緋色の事が心配なのは間違いない、と思う。
なればこそ私達に隠している何かが一体何なのか、何故なのかが分からない。
叢雲『とりあえず今日はこの辺にしときましょう。緋色も、お風呂入ってらっしゃい』
緋色『はぁい』
叢雲『服は後で洗って持ってくわ』
男『あぁ、助かる』
744 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:30:14.28 ID:GEaWwL4j0
叢雲『夕張』
課長が長屋に戻るのを見届けてから夕張に話をする。
夕張『はいはい?』
叢雲『仕掛けたやつ、まだ機能してるわよね』
夕張『え゛、そりゃ勿論、してるけど』
叢雲『今すぐ聞きに行くわよ』
夕張『…了解』
確信がある。きっと課長は彼女に連絡する。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
部屋に戻り電源を入れ画面を開く。
秋雲「んぁ?もー夜ぅ?」
男「昼間だアホ」
秋雲「うっわほんとだ、何々何の用?」
男「緋色の件だ」
秋雲「…何があったの」
745 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:31:41.38 ID:GEaWwL4j0
秋雲「ふぅん。なるなる」
男「どう思う」
秋雲「課長は私の時と同じだって思ったんでしょ?」
男「あぁ」
秋雲「どうだろうね。モデルケースが私だけだし、今回の件もまだ詳しい原因がわかってないし。ただ感覚っていうか、ただの勘だけど私の時とは少し違う気もするかなって」
男「なんでだ?」
秋雲「勘だよ?でも、艦って沈もうが陸に打ち上げられようが真っ二つになろうが、艦は艦でしょ」
男「叢雲とは逆の見解だな」
秋雲「現役バリバリの叢雲とは感覚が違うのは仕方ないっしょ。本人にとっては沈んだりしたらそれで終わりなんだから」
男「立場の違いか。確かに、俺が叢雲って艦に乗っていたらそうだろうな。でも第三者であるならたとえ水底だろうとそれは叢雲って艦に変わりないと思う、か」
秋雲「そんなわけで秋雲さんとしては、まあ予断を許さない状態ではあると思うけど同じには思えないわけ」
男「参考になったよ。助かる」
秋雲「ほんとにぃ?あんまり抱え込まないでよ」
男「本当だよ。随分楽になった」
746 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:32:52.55 ID:GEaWwL4j0
秋雲「ならよし、とは思わないのでしーちゃんに連絡しときました」
男「は?」
秋雲「返事もう返ってきてんだよね。はっやーい」
男「はあ?」
秋雲「お、近日こっちに来るってさ」
男「…は?」
秋雲「マジか」
男「マジか」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
叢雲『…マジか』
夕張『なんて?』
叢雲『しーちゃんが近々こっち来るって』
夕張『マジか』
叢雲『いえ、ひとまずそれはいいわ。本来私達は知らないはずの情報だし。聞かなかったことにしましょう』
夕張『あーそっか。知ってたらバレちゃうものね』
747 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:34:26.82 ID:GEaWwL4j0
叢雲『問題は緋色の状態が秋雲と似ているって話よ』
夕張『転んだところが?』
叢雲『そういうニュアンスではなかったけれど、少なくとも確信できる点が一つあるわ』
夕張『えっと…秋雲も元は緋色ちゃんみたいに名無しの艦娘だったって事?』
叢雲『恐らくね。そしてその過程で今回のような事があった』
夕張『で結果として課長さんの部下?しかもどっかから通信って。他の鎮守府にいるとか?』
叢雲『それは少し考えにくいわね。聞く限りいつでも連絡とれるみたいだし、事務所みたいなところにいる風だけど』
夕張『でも基本的に艦娘って鎮守府以外での所持って認められてないわよね』
叢雲『しーちゃんのところみたいな例があるから考えられなくはないわ。それに上層部と繋がりがあるならどうにでもできるって前にも言ったじゃない』
夕張『うわぁ一気にきな臭くなってきたわね』
叢雲『ただ…』
夕張『ただ?』
叢雲『やっぱり緋色を助けたいって姿勢に嘘はなさそうなのよね。根本的にお人よしよ彼』
夕張『それはわかる。ロリコンね』
叢雲『そこには一応同意しないでおくわ』
748 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:35:18.16 ID:GEaWwL4j0
課長の話を信じるならこれまで数度名無しの艦娘に会っていることになる。
そして緋色のようなケースは初めてだとも。
名前の判明した艦娘は当然その艦隊にそのまま所属しているはず。
現に緋色も艦隊に溶け込めるようにしようとしている。
なのに秋雲だけ部下?どうして、何処に?
同じケースってどういうこと?
課長を怪しいとは思わない。ただただ不思議で、謎だ。
叢雲『しばらくは様子見するしかないわね』
夕張『情報が少なすぎるものねぇ。とりあえずは緋色ちゃんなんとかしないと』
叢雲『艤装はどうだった?』
夕張『オールグリーン。なーんにもなし。むしろ出力は上がってたくらい』
叢雲『そう…名前が見つからないと、どうなるのかしらね』
夕張『さぁ。本来なるはずだった誰かになれないのかもしれないわね』
叢雲『そうね』
それだけじゃない。
もしかしたら、艦娘ですらなくなってしまうのかもしれない。
少なくとも私は"叢雲"でなくなったら自分を保てる自身はない。
749 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/08/31(水) 00:39:12.83 ID:GEaWwL4j0
気がつけば夏も終わりそうで
艦娘ってどうやって浮いてるんでしょうみたいな話。
海上では十数メートルの波なんて当たり前ですけれど、
艦娘はどう対処しているんでしょうね。
あまり上手い考えは出てきませんでした。
750 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/08/31(水) 02:03:00.17 ID:ueVK6dbAo
久々乙 多分だけど、鎮守府を出るくらいまでは飛沫で濡れたりしながら航行してるけど、戦術目標の海域自体が現実の『海』じゃなくて
『海』という名の異界であるし、アニメとかでもそうだけど浮いてるんじゃなくて『飛んでる』んじゃないかと
751 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/08/31(水) 10:58:02.10 ID:jBvTsGm+0
乙乙舞ってた
752 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2022/09/01(木) 00:42:41.11 ID:sBJ3zub10
スパイクタンパク単体で心臓やその他臓器に悪影響を及ぼすことがわかっています
何故一旦停止しないのですか
何故CDCが接種による若い人の心筋炎を認めているのに情報発信がないのですか
20代はたった1ヶ月で接種後死亡がコロナ死と同等になってます
因果関係の調査は?
753 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/09/08(木) 17:01:01.31 ID:pnMFxpla0
クソ待ってた 面白い
754 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/09/13(火) 03:12:54.35 ID:RunMN67GO
この軽妙な掛け合いとサスペンス色がたまらん…
755 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:24:34.88 ID:WbElbDnF0
>>750
この考え方好きです
756 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:26:33.45 ID:WbElbDnF0
緋色は誰とでも仲良くなれた。
最初のころの人見知りはどこへやら。
あれから数日、毎日初対面の艦娘に会いながらもすぐに打ち解けた。
緋色『よろしくお願いします。赤城』
赤城『えぇ、よろしくお願いします』
飛龍『相変わらず最初は呼び捨てよね』ヒソヒソ
男『分かっていてもちょっとびっくりするよな』ヒソヒソ
慣れてくるとさん付けだったりちゃん付だったりになるんだが、なぜか最初は呼び捨てになる。
まだ艦娘という意識の薄い彼女からすれば駆逐艦も正規空母も等しく艦娘という括りでしかないということなのだろうか。
まあ実際難しい所ではあるよな。
船という意味では皆俺よりはるかに昔に生きていた年上と言えるし、
艦娘としては少なくともここの鎮守府じゃ俺より年上の艦娘はいないだろうし。
噂じゃ大戦初期から現役のままでいる百歳近い艦娘もいるらしいが。
何にせよ呼び方は相手の容姿や雰囲気次第になるものな。
だけどそんな事は問題じゃない。
緋色は作戦終了からずっと航行がうまくいかないままだった。
757 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:27:56.77 ID:WbElbDnF0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
叢雲「どうも浮けないってわけじゃないみたいなのよね」
男「というと?」
二日間、航行不能の原因を探ろうと訓練に付き合ってくれた叢雲が言った。
叢雲「本当に艦娘としての力がないなら、それこそあなたと同じで足を海面につけた途端ドボンでしょ?」
男「そりゃそうか。浮力自体はあると」
叢雲「浮いている以上艦娘としての特性がなくなってるわけじゃないと思うのよ。ただ航行だけがうまくいかない。ただそれが制御できてない。発散している、いえ反転してる?何とも言い難いけど」
男「そんな事ってあるのか?」
叢雲「人間だって怪我や病気で上手く走れない事はあっても勝手に変な方向に走り出しちゃうなんて事にはならないでしょ。わけが分からないわよ」
こと技術の話となると俺には判断のしようがないが、叢雲がそういうのなら本当に分からないのだろう。
758 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:30:10.18 ID:WbElbDnF0
男『海が怖いか?』
訓練終わりの緋色にそう聞いてみた。
緋色『怖くはないわ。そりゃ、夜の海はちょっと怖いけど、それだけよ』
確かに航行訓練自体を嫌がったりはしなかった。だから余計に分からない。
明石に頼んでいた様々な種類の単装砲、連装砲レプリカでの練習も特に変わらなく続けていた。
それでも彼女は一向に変わらなかった。
変わらないだけならまだいいかもしれない。
何時アレが起きるかわからない。
自分では何もできない現状が歯がゆくて仕方なかった。
緋色『ごめんなさい』
男『どうした急に』
緋色『私、その、落ちこぼれでしょう?』
男『うーん、そうだな』
緋色『はっきり言われた!?』
男『事実だしな』
緋色『うぅ…』
男『でも謝る事じゃない。皆が皆優秀ってことはないんだ。やる気があるなら手は貸すよ」
緋色『本当?』
男『本当だよ。緋色は頑張ってるじゃないか』
緋色『えぇ、そうね。頑張ってる。頑張ってるわ』
そうだ。緋色は積極的に訓練をしている。本人の意思の問題とは思えない。
なら一体何が原因なんだろうか。
759 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:31:10.68 ID:WbElbDnF0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
提督「おぉこれが例のレプリカか」
男『気をつけろよ。迂闊に撃つと眼鏡割れるぞ』
提督「そんなに反動強いのかい?」
緋色『すっごいわよ。私何度もおでこ打ったもの』
作戦終了以降、提督もよく緋色と顔を合わせるようになった。
暇なんだそうだ。それもどうかとおもうが。
緋色『司令官はどれか好きなのある?』
提督「砲の違いとかはよく分からないんだよねぇ。強いて言えば大口径が好きだね」
金剛『私の35.6p砲撃ってみますカ?』
提督「全身の骨粉々になりそうだね」
緋色『私も!私も撃ってみたい!』
男『乗せるだけで沈みそうだな』
提督「ははは、重いものね金剛は」
金剛『テートクゥ…』
提督「え」
緋色『今のはデリカシーがないと思います』
提督「あれ」
男『ノーコメントで』
特別なことなど何もないように思えた。
鎮守府にいる普通の艦娘のように皆と過ごしている。
そう思えた。
でもこれは半分、あるいはそれ以下だ。
彼女たちにとって海こそが居場所であり、そこに緋色はまだ一歩も踏み入れていないのだ。
760 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:32:12.49 ID:WbElbDnF0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
そんなある日、唐突に執務室に呼ばれた。
男「え」
いつの間にかすっかり慣れてしまった執務室の扉を開けると、そこには二人の人物がいた。
机を挟んで置かれた二つのソファに向かい合うようにして。
提督「やぁ」
しーちゃん「ども」
男「…え?」
761 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:33:05.10 ID:WbElbDnF0
男「何故いる」
提督「僕もそれを何度も聞いてるんだけど、答えてくれなくてね…」
しーちゃん「まあまあ、とりあえず座っちゃってください」
男「…」
言いたいことは色々あるが確かにこのままでは埒が明かない。
俺は提督の隣に
しーちゃん「え!」
男「え?」
提督「ん?」
しーちゃん「え、そっち座るんですか?」
男「え、ダメなのか?」
しーちゃん「課長さんは私側の人だと思っていたのに!」ガックリ
男「この状況下で相対するべきはどう考えてもお前だよ」
提督「ははは」
反応に困った提督から乾いた笑いが漏れた。
762 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:34:10.28 ID:WbElbDnF0
しーちゃん「そうそう、どうですか今日の私」
男「ん?」
言われて改めてしーちゃんを見る。
別に何も、
男「あ、夏服か」
暑い時期に会うのは別段これが初めてという訳では無いが、思い出してみるとこれまで彼女が夏服を身につけていることは無かった。
しーちゃん「一応制服ですからね、いつもの。なのであれ一種類で済ましていたんですけれど、いい機会があったので夏服作っちゃいました」
提督「へぇ、制服だったのか」
しーちゃん「ロゴ入りなんですよ〜。ほら、これも。ちょっと分かりにくいですけど」
男「いいんじゃないか。他の娘も喜ぶだろ」
しーちゃん「いえ、これ着るのは私だけです」
男「は?」
しーちゃん「艦娘は扱いが違いますからね。後皆自由にしてもらってますから」
提督「それ制服の必要性ないのでは」
しーちゃん「一応ですよ一応。それに予算使って好きにデザインできますからね。役得役得」
男「職権乱用もいいとこじゃねぇか…」
別に今回に限ったことじゃないが。
763 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:34:50.66 ID:WbElbDnF0
しーちゃん「で!どうですかこれ?」
男「流行とかオシャレはよく分からんが、似合ってると思うぞ。元々短髪でサッパリしたイメージがあるし、髪色も合わせて、上手く言えんが夏らしくていいと思う」
始めてみるのにそんな気がしないのは街中で見かける学生のような格好だからだろう。
こいつが着ていると全く違和感がない。言わないけど。
子ども扱いするなとか文句を言われそうだし。
しーちゃん「…こういうとこ意外としっかりしてますよねこの人」
提督「それ僕に振るのかい?」
しーちゃん「まあいいでしょう。本題は以上です」
男「待て、本題と言ったか?今本題と言ったか?」
しーちゃん「これ課長さんにもお土産です。おまんじゅう」
男「ついで感覚で鎮守府入れるのはお前くらいだよ…」
提督「おいしかったよそれ」
男「もう食べてんのかよ」
764 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:36:01.44 ID:WbElbDnF0
しーちゃん「ご安心を。話したいことが無いわけじゃありません。ほら、もう少しで選挙あるじゃないですか」
提督「あぁ、そういう話かい」
男「つっても別に何処にって程関心はないんだよなぁ。そりゃ投票は行くけどさ」
しーちゃん「いやそんな凡俗の民草みたいな話題がしたい訳ではなくてですね」
男「お前は何処ぞの王様か何かか」
いや、よく考えたら今この場にいる二人って一応どちらも組織の長なんだよな。王様というのは別に間違いということもないか。
しーちゃん「なのでその確認というか、今回は使者みたいなものですね私」
提督「僕の方は変わらずだよ」
しーちゃん「規制派から何か来たりしてます?」
提督「全く。こんな小さな鎮守府に用はないだろうしね」
しーちゃん「今回ばかりはそんなこともないと思いますよ〜」
男「待ってくれ、何の話だ」
しーちゃん「…課長さん一応元政界関係者でしょう。どれだけ艦娘に現を抜かしていたらそんなに鈍くなるんですか」
男「言い方…」
765 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:37:18.54 ID:WbElbDnF0
提督「政界関係者?」
男「えっと、これ言っていいのか?」
しーちゃん「いいんじゃないですか?元ですし」
男「別にそんな大した話じゃない。政治家の下っ端をやってたってだけの話だ」
提督「へぇ。それがまたどうして今の仕事に、なんてのは僕も同じか。艦娘に関わる人は妙な縁が多いからね」
男「そんなところだよ」
しーちゃん「…あれ?なにやら随分と親しい感じになりましたね」
提督「ちょっとした飲み仲間になりまして」
男「似た立場だもんな」
しーちゃん「へぇ、いいですねぇ。そういうのは大事ですよ。そういうのは」
男「それはいいって。で一体何の話なんだ」
しーちゃん「軍といえど国民の理解が必要な時代です。幸運にも近海の戦況は徐々に落ち着いてきており、不幸にも国民は非常事態が続いている状況を忘れつつあります」
提督「船の護衛ですら民間からは大袈裟だなんて声が出始めているくらいなんだ」
しーちゃん「そんな中世論の中心は艦娘に人権は必要か、という点で盛り上がってるんですよ」
男「そういや前にあk、部下からそんな話を聞いたな」
766 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:38:08.69 ID:WbElbDnF0
しーちゃん「政治家もここぞとばかりに色々な意見を出していますが、なにせ世論も三つ巴四つ巴と意見が大いに割れてますからねぇ。この観点で何処に票が集まるか誰も読めない状況なんですよ」
提督「軍としても国民の支持は欲しい。けどどういったスタンスが正しいかわからない状況なんだ。それに元々艦娘の扱いをどうするべきかは内部でも意見が割れていた。今回の事でそれが表面化しているんだ」
しーちゃん「ざっくり人権派と兵器派で派閥ができてまして。私は元帥殿から派閥の鎮守府に使者としてお使いに来てるんです」
男「この間の作戦。やけに世間にへの発表が早かったのは政治的アピール込だったってことか」
しーちゃん「そんな感じです」
提督「面倒な話だよねぇ」
男「でも艦娘の扱いについてこうして議論が起きるのはお前としては望むところじゃないのか?」
しーちゃん「さてどうでしょうね。私としては彼女たちの行く先は彼女たち自身に決めて欲しいというのが望みですから」
提督「嬉しくはないんですか?」
しーちゃん「結局のところ外野が好きかって言ってるだけじゃないですか。悪いとまでは言わないですけど」
男「そんな面倒な話になっているのなら、あそこから離れて正解だったかもな」
しーちゃん「課長さんはどこからかお誘いとか来ていないんですか?」
男「幸運なことにこっちの世界じゃ知り合いが少なくてな」
しーちゃん「ぼっち」
男「隙を見ては刺してくるのやめろ」
767 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:38:48.70 ID:WbElbDnF0
提督「貴方のいる三課はこういう時政治的なアピールに向いているのでは?」
しーちゃん「向いてますよ。ただ私達はあくまで軍の広報です。軍内で意見が割れている以上どちらかに偏った広報はできません。こっちの立場が危うくなるので」
男「何もしないと?」
しーちゃん「まさか。でも色々と工夫しないといけない立場なんですよ」
提督「大変ですね」
しーちゃん「そりゃもう、私も彼女達も戦場が海でないだけで戦いに変わりはないですからね」
提督「なるほど」
768 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:39:19.84 ID:WbElbDnF0
しーちゃん「さて、そろそろお暇しますかね」
提督「もうですか?」
しーちゃん「ついでに寄っただけですから」
男「だからついでで鎮守府来るなよ…」
しーちゃん「あ、せっかくなので緋色ちゃんに会ってもいいですか?」
提督「僕は構いませんけれど」
男「問題ないよ」
しーちゃん「では。またふらっと来ることもあると思うのでその時はよろしくお願いします」
提督「できれば事前に連絡くださいね」
しーちゃん「失礼しまーす」
社会人として当然の提案を流れるようにスルーして部屋を出ていきやがった。
苦笑する提督を部屋に残し俺もしーちゃんの後を追う。
769 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:41:47.84 ID:WbElbDnF0
しーちゃん「今緋色ちゃんは?」
男「部屋にいるよ」
しーちゃん「では一度男さんのお部屋にお邪魔しても?」
男「あぁ」
緋色の部屋の一歩手前。早くも二か月近く滞在していることになる俺の部屋の扉を開ける。
しーちゃん「おぉ相変わらず異様な光景ですねこれ」
男「目立つからなぁ」
部屋の中央に鎮座する黒い物体は異様と言われればそ通りでしかない。
しーちゃん「あ、秋雲さん喋っても大丈夫ですよ」
秋雲「マジ?しっかししーちゃん相変わらず行動が早いねぇ」
しーちゃん「元々ここには来る予定だったのでタイミングが良かったんですよ」
男「それで、なんの話だ」
しーちゃん「緋色ちゃん、あまり状態が良くないとか」
男「かもしれないって話だよ」
秋雲「それは十分に危険な状態ってことでしょ」
しーちゃん「この件について私はあまり言及できる事はありません。お二人の方が詳しいですからね」
770 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:43:41.97 ID:WbElbDnF0
男「でももし、緋色が"緋色"になってしまうとしたら?」
しーちゃん「さて、状況が違うのでなんとも」
秋雲「ん?どゆこと?」
しーちゃん「現状最悪なのは秋雲さんと同じパターンになる事でしょう。でも現状維持も問題です。もし他に名無しの、例えば戦艦クラスなんかが現れたら優先度はそちらの方が高いですからね」
男「その場合緋色は」
しーちゃん「研究対象として何処かに、というのがオチでしょうね」
秋雲「それはそれでサイアクだね」
しーちゃん「そもそもそうならないため、名無しの艦娘を保護するというのが課長さんの役割でもありますから」
秋雲「え!そうなの!?」
男「まぁ、一応な。鎮守府に所属できない名無しは管理するルールがなかった。だから連中好き勝手出来たんだよ。勿論それも決して無駄なことじゃないんだろうが、やっぱり艦娘は艦娘であるべきだ」
しーちゃん「佐世保のおじさまと元帥のバックアップで調査員なるものができたんですよ」
秋雲「えー私初めて聞いたんですけどぉ!」
男「別にいいじゃねぇか」
秋雲「良くなぁい!そういう話全然してくれないじゃんかぁ。佐世保のってあの狸爺でしょ?何時そんな大物と知り合ったのよ」
771 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:44:21.86 ID:WbElbDnF0
しーちゃん「ひょっとして私の話もしてないんですか?」
男「…うん」
秋雲「秘密なんじゃないのそれ?」
しーちゃん「私は別にいいですよ?」
秋雲「うわ課長の一存かよぉ!」
しーちゃん「あ、話すときは男さんが話してくださいね。私からは言いませんから」
秋雲「ほらほら〜白状しちまったほうが楽になるぜぇ」
男「その話は後だ後!しーちゃん、お前のところで緋色を預かるってのはできないのか」
しーちゃん「最終的な手段としては、まあアリではありますね。あまりお勧めはしませんけど」
男「なぜ」
しーちゃん「彼女の場合も上手くいくなんてのは希望的観測が過ぎるからですよ」
男「…そりゃそうか」
772 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:45:18.55 ID:WbElbDnF0
しーちゃん「さて、そろそろ帰ります」
男「あれ、緋色には会ってかないのか?」
しーちゃん「あれは建前ですよ。私は健康診断のお姉さんですから、そうホイホイ会いに来ちゃダメじゃないですか」
男「どの口が言ってるんだか」
しーちゃん「運転の北上さんも待たせてますし、あら?」
秋雲「どったの?」
しーちゃん「北上さんからヘルプが」
男「ヘルプ?」
端末で何か連絡が来たようだ。
しーちゃん「そうだ。これ提督さんに渡し忘れてしまったのでお願いします」
男「なんのファイルだこれ」
しーちゃん「大したものじゃありませんよ」
男「わかった。後で持っていっておくよ」
しーちゃん「今お願いします、なう」
男「今!?」
しーちゃん「ほらほら」
男「わかったわかった、またな」
しーちゃん「えぇ、お互い息災で。秋雲さんも、久々に直接会えてよかったです」
秋雲「今度はゆっくり時間を取ってくれると嬉しんだけどね〜」
しーちゃん「こう見えて多忙ですからね私」フンス
男「余計なことっばっかしてるからだろ」
773 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:46:17.33 ID:WbElbDnF0
男「そういや今回は何できたんだ?例のトラックか?」
しーちゃん「まさか、アレですよアレ」
男「んー、え、うわフィアットだ」
しーちゃん「えっとなんでしたっけ、あばると?ってやつです」
男「お前のとこにまともな車両はないのか」
しーちゃん「アレは私じゃなくて北上さんのですよぉ。車はよくわからないので」
男「自費か?」
しーちゃん「半分は経費で出来ています」
男「お前なぁ、ん?」
車の方をよく見ると叢雲がいるようだった。
どうやら運転席の北上と話しているらしい。
男「これが理由か」
しーちゃん「ええ。できれば男さんはいない方がよさそうだなと」
男「了解、またな」
しーちゃん「はい」
小さく手を振るしーちゃんはやはり学生にしか見えない。
男「学生か」
再び提督室に向かいながら考える。
艦娘はそういった世界を知らない。
今後も、きっと知ることはできないんだろうな。
774 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:47:12.68 ID:WbElbDnF0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
しーちゃん「お久しぶりです」
叢雲「久しぶりね」
私達は基本的に変わらない。
改装等で見た目や性能が大きく変わることはあるけれど、
それはどちらかと言えば進化であり、
こうして夏服に身を包み髪形を変えた彼女を見て感じる変化とは別のものだ。
最もそんな人間らしさとは裏腹に目の前のしーちゃんをやはり微塵も人間とは思えないのだけれど。
北上「し〜ちゃ〜ん助けてぇ…この小姑がぁ」
叢雲「誰が小姑よ!」
しーちゃん「一体何の用ですか小姑さん」
叢雲「ちょっと」
運転手と少し話していただけなのにこの仕打ち。
しーちゃん「立ち話もなんですし車入ります?私達にはちょうどいい大きさですよ」
叢雲「遠慮しておくわ。それとも貴方にはこの暑さは応えるのかしら?」
しーちゃん「もうすぐ夏ですからねぇ。幸い暑さには強いほうなので大丈夫です」
叢雲「あらそう」
確かにまだ暑いといえるかは意見の分かれる気温だ。
こうしていても汗一つかかない彼女は確かに暑がりというわけではないらしい。
あるいは、生き物じゃないのか。
775 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:48:03.19 ID:WbElbDnF0
叢雲「よかったの?課長と別れて」
しーちゃん「てっきり私と話がしたいのかと思ってましたけど」
北上「おっとこれオフレコな感じ?私引っ込んどくね〜。巻き込むなよ?」
しっかりと念押しして北上が車の窓を閉め音楽をかけ始める。
凄い激しい曲。ロックってやつかしら。
叢雲「首都圏の勢力図はどうなってるの」
しーちゃん「幹事長の更迭から半年、随分とキレイになりましたよ」
叢雲「早いわね」
しーちゃん「元から準備していたみたい、ですか?」
叢雲「そうは言ってないわよ。それとも心当たりでもあるの?」
しーちゃん「まさか。首都圏は元帥というイコンがあるのでそう難しい話じゃありませんよ。だから問題なのは地方ですね」
叢雲「ここは?」
しーちゃん「ご安心を。鬼ヶ島の提督を筆頭にまとまりがありますから。問題なのは太平洋の方ですかね」
776 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:48:39.48 ID:WbElbDnF0
深海棲艦の脅威が近い所程鎮守府の影響は大きくなる。
港やその近隣、あるいは県そのものと深く関わりを持つことになる。
しーちゃん「まさに一国一城。その長が提督という才能だけで選ばれた人間なんだから大変ですよ」
叢雲「でしょうね。そういった話は私もいくらか聞いてるわ」
本来なら提督という一本柱で成り立つ鎮守府の仕組みを見直すべきなのでしょうけど、
戦線に影響が出ては元も子もないとその辺はほったらかしになっていた。
しーちゃん「ま、そちらはまた別の話です。この鎮守府は大丈夫ですよ。貴方の提督も」
叢雲「なら、いいわ」
それなら問題ない。それならば、国や軍の事など私にとっては細かい些事でしかない。
777 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:49:40.55 ID:WbElbDnF0
しーちゃん「他には何かあります?」
叢雲「本題の方が」
しーちゃん「先程までのは?」
叢雲「世間話よ」
しーちゃん「ふふ、そうですね」
叢雲「緋色の事、貴方はどう考えてるの」
しーちゃん「私に対してどういう印象を持っているかはわかりませんけれど、この件に関して私ができることは何もないですよ。本当にね」
叢雲「でも、無関係というわけでもないんでしょう?」
しーちゃん「私にできるのは、そうですね。事後処理くらいです」
事後。嫌な言葉ね。
しーちゃん「緋色ちゃん、皆さんとは仲良くやっているそうじゃないですか」
叢雲「それはまぁそうね」
しーちゃん「だったら、そういうのもアリなんじゃないかって私は思うんですよ」
叢雲「緋色のままでいることになっても?」
しーちゃん「ええ」
叢雲「でもそれは緋色のままでいられたら、でしょう」
以前少し考えた事。
名前を見つけることが私達の存在の証明になると課長は言っていた。
それが見つからず、緋色という仮の名で代用したとして、それで足りるのか。
足りなかったら、どうなるのか。
778 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:50:17.95 ID:WbElbDnF0
しーちゃん「…課長さんから何か聞きました?」
叢雲「え」
驚いた。
しーちゃんからの質問にではない。
その質問をする彼女の顔が、心底以外で驚いたという表情だったからだ。
しーちゃん「おっと失言失言」ガチャ
素早くドアを開け車に乗り込むしーちゃん。
止めるのはそう難しくはないけれど、止めたところで話してくれるとは思えない。
叢雲「ねぇ」
しーちゃん「なんでしょうか」
叢雲「何が一番大切なことだと思う?」
しーちゃん「ん〜そうですねぇ」
彼女は少し考えこみ、ゆっくりと眼鏡を外した。
その行動の意味はさっぱり分からないけれど、彼女にとってそれが何か大きく意味を持つことであると、そういう確信があった。
しーちゃん「目的じゃないですかね」
そう言って車のドアを閉める。
叢雲「目的…」
フィアットがゆっくりと進みだす。
779 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:51:00.87 ID:WbElbDnF0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
男「で、これがそのだしに使われたファイルだ」
提督「ラブレターかな」
男「あいつからのラブレターなら下手な脅迫文より怖いぜ」
提督「ならそうでない事を祈ろう」
男「叢雲が気になるか?」
提督「そうだね。色々と考えすぎるきらいがあるからね」
男「言ってやればいいじゃないか」
提督「なんて言うんだい」
男「…考えすぎだーって」
提督「彼女が自分で決めた事だよ。僕がどうこう言うことじゃないさ」
男「でも心配だ」
提督「そうなんだよねぇ」アハハ
男「ややこしい関係だな」
提督「そう見えるかい?」
男「客観的には」
提督「提督としてじゃないんだ。船はほら、船長が舵を取らなければ流されるだけだろう?でも彼女は自分で目的を決めて動いてる。僕は個人としてそれを応援したいんだ」
男「あぁそうか。それならわかるよ」
随分と自由で勝手になった夏服の少女を思い浮かべた。
男「よくわかる」
あいつは誰に言われるまでもなく自分で目的を持って動いている。
それはきっとすごい事だし、応援したい。
780 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:52:19.20 ID:WbElbDnF0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
男「待たせたな」
しーちゃんが来たその日の晩。改めて秋雲と話をした。
秋雲「そのセリフ、もっと伝説の傭兵みたいに言って」
男「は?」
秋雲「うん、ごめん。気にしないで」
咳ばらいを一つしていつもの茶化すような雰囲気を止める。
秋雲「まったくよ。何年待ったと思う?」
男「3年か?」
秋雲「そ、3年。短い?」
男「3年を短いといえる程歳は食ってないつもりだよ」
秋雲「私にとっては生まれてから今日までよ」
男「そりゃあ、長いな」
秋雲「そう?あっという間だったかも」
男「そうか、ならそうなんだろうな」
781 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:53:09.66 ID:WbElbDnF0
秋雲「で、まさか事ここに及んでまだ話さないとか言わないでしょうね」
男「流石にな。さてどこから話したもんか」
秋雲「あーっと!その前に一つ」
男「?」
秋雲「これ秋雲さん的にはかなり重要な事なんだけどさ、その話するのって私が初めてだったりする?」
試験の合格発表を前にする学生のような恐れと不安を抱いた表情でそんな事を聞いてきた。
男「んー当事者を除けばそうなるかな」
一体何がそんなに気になるのかさっぱりわからないので一切偽らずに答えてみる。
秋雲「ならよしっ!」
今度は原稿が無事に終わった時と同じくらいやり切った表情に変わる。
男「なんだそりゃ」
秋雲「なんでもな〜い」
なんでもない事はないんだろうが、まあ今は別にいい。
男「さてどこから話そうか」
秋雲「once upon a timeってのはどう」
男「そこまで昔じゃないよ。5年くらい前か」
忘れられないなりに忘れようとしていた当時の事を少しずつ思い出しながら言葉にする。
782 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/12/03(土) 02:57:24.62 ID:WbElbDnF0
三ゲージバーゲンセールが悪い
書き溜めてはいましたが書き込むタイミングがですね…
いつの間にかいつ海も始まってしまって、
相も変わらず秋刀魚を集めたり。
一瞬でしたがアニメ瑞鳳が見れたので悔いは無いです。
783 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/12/03(土) 03:55:31.48 ID:8DwOlyKUo
おつ
784 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/12/05(月) 08:23:45.25 ID:VRZTjH4Xo
おつ
785 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/12/07(水) 13:36:13.66 ID:pRYSr+Fx0
おつです
786 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/01/04(水) 21:43:32.67 ID:2WI36oZ80
おつ 更新続いててありがてぇ
しーちゃん過去編に入るのかな
787 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:13:45.33 ID:fFXJOFQl0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
男「待たせたな」
しーちゃんが来たその日の晩。改めて秋雲と話をした。
秋雲「そのセリフ、もっと伝説の傭兵みたいに言って」
男「は?」
ヨウヘイ?誰だそれ?
秋雲「うん、ごめん。気にしないで」
咳ばらいを一つしていつもの茶化すような雰囲気を止める。
秋雲「まったくよ。何年待ったと思う?」
秋雲はよく笑う。
大きく口を開けて笑う。あるいは白い歯を見せながらニヤリと笑う。
だからこうして口角を少し上げて優しく笑う秋雲は中々珍しい。
男「3年か?」
秋雲「そ、3年。短い?」
男「3年を短いといえる程歳は食ってないつもりだよ」
秋雲「私にとっては生まれてから今日までよ」
男「そりゃあ、長いな」
秋雲「そう?案外あっという間だったかも」
なんてことはないというその表情がはたして本心かどうかは俺にはわからなかった。
男「ならそうなんだろうな」
それでも秋雲がそういうのならきっとその通りなんだろう。
秋雲「で、まさか事ここに及んでまだ話さないとか言わないでしょうね」ズイ
画面いっぱいに秋雲の顔が広がる。勿論そんなつもりはないがその圧に少したじろいでしまう。
男「流石にな。さてどこから話したもんか」
秋雲「あーっと!その前に一つ」
男「?」
788 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:14:50.05 ID:fFXJOFQl0
急に真面目なトーンからいつもの声に戻る。
画面から目をそらし、締め切りを過ぎた言い訳をしようという時と同じおずおずとした感じで話し出す。
秋雲「これ秋雲さん的にはかなぁり重要な事なんだけどさ、その話するのって私が初めてだったりする?」
試験の合格発表を前にする学生のような恐れと不安を抱いた表情でそんな事を聞いてきた。
男「んー当事者を除けばそうなるかな」
一体何がそんなに気になるのかさっぱりわからないので一切偽らずに答えてみる。
秋雲「ならよしっ!」
一転して今度は原稿が無事に終わった時と同じくらいやり切った表情に変わる。
男「なんだそりゃ」
秋雲「なんでもな〜い」
なんでもない事はないんだろうが、まあ今は別にいい。
男「さてどこから話そうか」
秋雲「once upon a timeってのはどう」
男「そこまで昔じゃないよ。5年くらい前か」
忘れられないなりに忘れようとしていた当時の事を少しずつ思い出しながら言葉にする。
789 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:16:07.51 ID:fFXJOFQl0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
男「調査員?」
「と言うようなもの、だ。まだ正式な名前も決まってはいない。だが今後間違いなく必要となる重要な仕事だ」
上司の、いわゆるお偉いさんにそう言われた。
勉強していい学校に通い、エリートコースを真っ直ぐ順調に進み、あとは金を貰って余生を楽しむだけの人間。
俺も同じだった。選ばれたエリート。幸福な人生。
毎日着るのが少し憚られる高いスーツと胸につけるバッチはその証みたいなものだった。
男「ふむ」
まだ未開拓の重要な役職か。これはチャンスかもしれない。
男「分かりました。しかしなぜその話が私に?」
そう。結局のところ俺はこれまで艦娘とほとんど関わってこなかった。いや、関われなかった。
なのに艦娘の調査とは。
「お前、妖精が見えるんだろ?」
男「あぁ。ええ、そうですよ。一応、ですが」
あくまで一応だ。才能はあったが弱すぎた。
もう少し才能が強ければ今頃は提督になれていただろう。
790 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:16:55.71 ID:fFXJOFQl0
男「それが何か関係あるんですか?」
「ん?なんだ知らなかったのか。てっきり自分で情報を得ているものだと」
必要な情報は求められる前に己で手に入れる。どんな手段を用いても。
それがここで教わった事だ。
情報戦に負けたものは落とされる。
男「艦娘の事は専門外でして」
なんて、かつて諦めざるをえなかった夢に触れたくなかっただけだ。
「なら丁度いい。それも含めて説明してやる」
エレベーターに乗る。
重役しか使えないという暗黙の了解がある建物奥にあるエレベーター。
駕籠と呼ばれているのを聞いたことがある。
「次からはお前もこれを使うことになる」
そう言うと胸元からカードを取り出し、エレベーターの階層ボタンの下の何もない場所にかざす。
するとドアが閉まり階層ボタンに存在しない地下へ向けて動き出した。
男「なんというか、あまり穏やかじゃないですね。遺言状でも残しといた方がいいですか?」
「はは、問題ないさ。お前の口が清掃員のババア共のように軽くさえなければな」
男「ははは」
笑えねえ。
791 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:19:17.56 ID:fFXJOFQl0
地下には思っていたよりも大きい空間が広がっていた。
パッと見ただけでもたくさんの部屋が並んでいる。
奥に伸びる廊下からみてそこそこの広さらしいが人の気配はない。
不気味な雰囲気に反して全体的に白く明るい地下室は、しかし何故だか妙に不安を抱かせる。
資料室、空き部屋、何かの器具が並ぶ保管室のような部屋。
そういえば大学にあった研究練なんかがこんな感じだったなと思い出しながら上司の後をついて行く。
そしてモニターやマイク、その他俺には理解の及ばない様々な機械の置かれた部屋の隣の部屋に、一人の少女が座っていた。
分厚い壁の中、少女はその机と椅子二つしかない狭く白い部屋で椅子に座りじっとしていた。
部屋は廊下からも隣の部屋からも窓で見えるようになっている。
取調室。いや、海外の映画で見た覚えがある。
超能力者かなにかを収容した、実験室か。
792 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:20:15.31 ID:fFXJOFQl0
「入ってみろ」
男「え、自分がですか?」
チラと少女を見る。
危険はなさそうに見えるが、目に見える何かならきっとこんな所には入れられまい。
男「命の保証は?」
「それは問題ない。今のところは、な。取り扱い次第だよ。言われたとおりにすれば大丈夫だ」
そう言って小型の無線機を渡してきた。
「耳に入れとけ。指示はこちらがする。お前はこちらの指示に対してYESかNOで答えろ」
指でYESとNOのサインを作る。
なるほど、相手には聞かれたくないと。
男「アレは、艦娘なんですか?」
「そうだ。いや、まだそうとは言えないのかもしれないな」
男「まだ…」
「だがまあ、人間ではないよ」
人間ではない。それこそ映画やドラマでしか聞かない台詞だった。
793 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:21:06.44 ID:fFXJOFQl0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
男「さてと」
椅子を引き少女と向き合う形で座る。
白いTシャツと黒の短パンという運動部の学生がするような簡素な服装。身長もまさに学生といった程度か。
肩の高さで揃えられた茶色っぽい髪。突然の来訪者に対して一切変化のない無表情と黄緑色の不思議な目。
そういった容姿と、それに関係なく直感からわかる。
人じゃない。
取り調べ、なんて言い方をせず二者面談の気持ちでいこう。
無線から聞こえる指示に従って最初の言葉をかける。
男「はじめまして。私は男というんだ。君は?」
柔らかい感じでごくごく普通に自己紹介をする。
何が返ってくるのだろうと、最悪ダッシュで出口に行けるようにと身を固めつつ少女を見つめる。
すると少女は以外にも少し驚いた表情になり、振り絞るように話し始めた。
少女「??・??サ??ッ?ソコ??ョ?ォ?」
男「は?」
794 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:22:06.47 ID:fFXJOFQl0
英語はできるほうだ。
と言ってもあくまで紙の上だけでいざ会話しろと言われれば恐らく無理だろうが。
それでもまぁ聞き取るくらいは多分できると思う。
だがそういう類の話ではなかった。
街中で全く知らない言語が聞こえてきても、普通○○語っぽいなとか、そういう感想を抱くものだ。
違いはあれど同じ人類の使う言葉。根っこの部分は同じなのだ。
言語。そう認識する。
少なくとも野良猫やカラスの鳴き声と同じに捉えるものはいまい。
でもこれは違う。
目の前の少女から発せられたそれは、まるでノイズのようで、
少なくともそれを言語であると認識できなかった。
「何か聞こえたか?」
耳に入れた無線機から声がした。
少女に見えないようにYESのハンドサインを作る。
「何と言っていたかわかるか?」
NO
「…触れてみる気はあるか?」
…NOだ
「部屋を出ろ」
短い面談だった。
だが椅子から立とうとして気づいた。
脚が少し震えていた。
男「またな」
黙って出るのは何となく後ろめたかったので無責任にもまたなどと声をかけてしまった。
再び無表情に戻った少女の緑色の双眸は、そんな俺をじっと見つめたままだった。
795 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:23:26.38 ID:fFXJOFQl0
男「アレは、なんですか」
誰も答えられない質問だと分かっていてもそう聞かざるを得なかった。
「残念だがこれ以上の情報を開示はできない」
そう言って例のエレベーターのカードキーを取り出す。
「知りたいのならコレを受け取るしかない。勿論受け取れば引き返すことは出来ないが」
初めてだ。
人生の分岐点、と言えば例えば受験や就職なんかを思い浮かべる。
でもそれらは結果が周りに左右されるものばかりだ。
無論自分の実力も大事だが肝心な部分は結局他人に決められてしまう。
だけどこれは、目の前のこの分岐点は、自分で決めるものだ。
全ては自分の判断に委ねられている。責任も結果も、全て。
どちらに舵を切るにせよ100%自己責任だ。
男「何故自分なんですか、と問うてもいいでしょうか」
「駄目だ、と言うところだが、まぁいいか。無論理由は色々あるが、こうして私自身が鍵を差し出す理由はお前に見込みがあると思ったからだ。
お前は優秀だよ。でも何か違和感があった。だからこの話を聞いたとき、お前には他にいるべき場所があると思ったんだ」
この人はこれまで俺に良くしてくれた。恩師と言ってもいいだろう。
だからその言葉はよくよく響いた。
昔諦めた、ずっと意識しないようにしていた憧れを思い出す。
艦娘。
もし許されるのなら、俺は彼女達に触れたい。
男「わかりました」
しっかりと鍵を握りしめる。
「だと思ったよ」
始めてみる恩師のその少し嬉しそうでどこか寂し気な表情は今でも覚えている。
796 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:24:45.41 ID:fFXJOFQl0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
男「全然わからん」
地下の研究施設。
その共有スペースらしい部屋の無駄に座り心地の良い長ソファに座り机に突っ伏す。
そこで俺は映画やドラマでしか見た事ないような書類の山に囲まれていた。
今まで行われてきた彼女に関わる研究結果の書類だ。
これが兎に角わからん。
そもそも俺は研究職じゃない。
その上レポート内容は物理とか科学とか生物とか様々な分野での研究内容がまとめられている。
生物は履修した事があるから辛うじて上っ面を理解はできるが他はダメだ。
というかそもそもレポートとして読み辛すぎる。
ハッキリ言ってメモかそれ以下なものも多い。
結局一通り目を通して分かったのは彼女に関して何もわかっていないと言うことだった。
男「動かないな」
彼女は昨日と同じく部屋の中で椅子に座ったまま微動だにしていなかった。
知識として知ってはいたが改めて認識する。
艦娘はその個体の維持に食事も睡眠も必要としない。
少なくともその点でいえば彼女は艦娘らしい。
男「しっかしこんだけ専門家が調べつくした後に素人の俺がどうしろってんだ」
797 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:26:11.63 ID:fFXJOFQl0
「おやおや、ドラマの撮影現場かいここは」
男「!?」ガバッ
突然降ってきた女性の声に跳ね起きる。
相変わらず広さのわりに人の気配のない施設で、てっきり自分以外の人間はいないものと思っていた。
顔を上げるとそこには、
男「…えっと、初めまして」
「初めまして。君もコーヒーはいるかい?」
腰まで伸びた長い髪、手にはどうやらコーヒー入りらしい白いカップを持ち、そして何より、
黒い。黒い、白衣?いやそれはもう白衣ではないが材質やデザインはどう考えても黒く塗りつぶした白衣だ。そんなものあるのか?
身長は俺と同じくらいだろうか。女性としては背の高いほうに見える。
年齢は、年上なのは間違いないがどうだろうか。30代と言うには妙に貫禄があるが40代と言うには若く見える。
僅かに茶色の混ざった長い黒髪と黒衣の組み合わせでとにかく黒い。
教授「私は教授というものだ。君もそう呼ぶといい。先輩でもいいぞ」
男「ど、どうも。俺は」
教授「あぁ君はいい。十二分に知っている」
男「そう、ですか」
教授「ブラックでいいか?」
男「え?あ、はい」
教授「そうか」
俺が返答するとカップを机に置き何処かに行ってしまった。
何なんだあの人。ここの研究者、でいいんだよな?
そういやこの施設に関する情報一切貰ってないな俺。
798 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:27:55.88 ID:fFXJOFQl0
教授「ほれ」
思いのほか早く戻ってきた教授が目の前にコーヒーを置く。
缶の。
男「…」
新人いびり?
教授「ツッコミどころだぞ」
なるほど、自覚のない新人いじめだなこれ。
教授「そうだ。せっかくだしここを案内してやろう」
男「え」
急だな。後コーヒーの話はもういいんですか。
教授「秘密主義は結構だがC2の連中施設に案内板やパンフレットを用意しないからな。私も初めて来た時は苦労したものだ」
男「なるほど。正直右も左も分からず困っていたので助かります」
でもパンフレットは流石にないと思う。
教授「ならば付いて来い。そんなものを読んでいるよりは有意義な時間にしてやろう」
教授は以外にも面倒見の良い人だった。
一通り施設を案内してくれた。
その後給湯室に何があるかとかおいしいコーヒーの入れ方を妙に熱心に教えられた。
ここに入り浸るなら給湯室が最も重要な施設になる、とかなんとか。
そのままの流れで俺が諦めていた書類に関しても解説をしてくれた。
研究者というより大学の教授を思い出す。
799 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:28:54.05 ID:fFXJOFQl0
教授「10点だな。勿論100点満点中だ。もっと修行しろ」
教授の指示、というか命令の元俺が淹れたコーヒーを飲みそう言い放った。
男「自分で飲む分にはこれで十分おいしいんですが」
教授「私はこれでは満足できない」
俺にコーヒー作らせる気かこの人。
教授「少し前に私よりコーヒーを淹れるのがうまいやつがいたんだがね」
男「そういえばどうしてここは人が少ないんですか」
教授「少ないんじゃない。君と私の二人だけだ。大規模な組織改編があってな。ここにいた連中も皆他の施設に移ってしまった」
男「教授は何故まだここに?」
教授「この施設を独り占めできるからな。気分がいい」
なるほど。
教授「冗談だ」
納得しちまったじゃねぇか。
教授「アレがいるからな」
そう言って壁を指をさす。
ここからでは見えないがその指が何を指しているかは分かる。
彼女だ。
教授「C21YB0204。アレがここに来てからまる1年だ。結局何もわからなかったが」
管理番号だそうだ。色々と細かい区分けがあるそうだが、最後の04は同じような個体の4番目ということらしい。
教授「滑稽な話だ。名だたる研究者達が皆匙を投げた」
男「でも改めて凄い話ですよね。こんな非科学的な存在を皆がこぞって研究するんですから」
教授「ん〜?それは違うな」
男「違う?」
800 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:31:03.69 ID:fFXJOFQl0
教授「朝の占いが良かった。故に今日は宝くじが当たる気がする。これは科学的か?」
男「それは非科学的でしょう」
教授「だろうな。ならリンゴは地面に落ちる。故に地面には何か物を引っ張る力がある、というのが科学的と言えるだろう」
急になんだ?妙に回りくどい言い方をする。
教授「ではタイムマシンはどうだ?あるいは15世紀頃における地動説だ。どちらも当時は突拍子もない妄言だった。
当然だろう。今立っている地面が自分ごと高速で回転しているなど私だって頭がおかしいと思うだろう」
男「それは…」
地動説は理屈が通っている。科学的、と言えるのだろう。
タイムマシンは、ブラックホールがどうとか光より高速で動けないとかそんな話を聞いたことがある。
でも結局は実現は不可能だみたいなオチだった気がする。
だから、だから非科学的?実現できないから?
教授「他にもニュースで聞いたことはないか?ある数学の問題が証明された。ある理論否定された。ある説が提唱された。
ではどうだ。証明されなければそれは非科学的か?否定されたらそれは非科学的か?証拠のないただの説では非科学的か?」
男「それは、違います」
教授「科学とはルールだよ。そこには何か法則があり、その通りにすれば誰でも再現ができる方程式。それを求めること。何かルールがあるはずだと調べることが科学なんだ。
子供の命だけを奪う洞窟だって、空気より比重の重い有毒ガスが充満していたという科学だったりするんだ。
艦娘なんていう存在が観測された以上、人身御供で雨が降るなんて神様チックな話ですら科学的に証明できてしまうかもしれない」
人類は火を得て、燃料による動力を経て、今や電子世界が当たり前になっている。
もしかしたらその次は艦娘のような、今はまだ不思議な力としか言いようのないソレを操る時代が来るのかもしれない。
801 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2023/03/01(水) 00:32:35.93 ID:fFXJOFQl0
教授「非科学的なものこそ科学として研究すべきなんだよ。
そしてそれは科学的かどうかを調べるためじゃない。人類の科学として取り込むためなんだ」
男「教授も研究者なんですね」
教授「おい待て、今までなんだと思っていた」
男「でもならなおさら素人の自分に何ができますかね」
教授「かのメンデルだって本来は司祭だぞ。大事なのは発想だ。それに君は声が聞こえるんだろう?」
男「聞こえてはいますけど、声と言うか音と言うか」
艦娘の声を聞くことができる人間は少ない。
だからその貴重な人材は基本的に提督となる。なにせ相手は海全体にいる。提督は何人でも欲しいそうだ。
そんなわけでこんな成果が保証されていない研究に貴重な提督を配属はできない、だから中途半端とはいえ一応聞くことができる俺が呼ばれたと、そういうことらしい。
教授「好きにすればいいさ。なんなら首を撥ねてもいいぞ。それだけのことが君には許されている」
男「そんな物騒な」
だけど教授は冗談とは言わなかった。
ここはそういう場所なんだと、ようやく理解した。
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