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【艦これ】神風「最初の一人」
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550 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/06(月) 01:33:56.02 ID:vCzKEuQSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
緋色『…叢雲、何してたのかしら?』
男『さーなんだろうなー』
よく分からんが深く突っ込んではいけないと本能が叫んでいる。
男『とりあえず、叢雲も帰っちゃったし一度部屋に戻るか。朝食が来たら緋色の部屋に行くよ』
緋色『はーい』タタタ
元気よく部屋に戻ってゆく。寝起きが悪いということはないようだ。
男「…でどうだった?」
「なーんもなし」
秋雲の声が箱から流れる。
男「何も?」
秋雲「写真も取らないしこっちを観察したり触ったりもなーんもなし」
男「そんなもんか。警戒しすぎたか?」
秋雲「どうかねぇ。でもなんか悶えてクンカクンカスーハーしてたよ」
男「いやその辺は、いいよ」
秋雲「見る?小型カメラだけどバッチリ映ってるわよ」
男「いいって。次会う時やりにくいからいいって」
秋雲「あーほら見て見て思いっきり枕に」
男「やめろマジで!」
551 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/06(月) 01:34:53.51 ID:vCzKEuQSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
提督「ふぁ〜…ぁ。ん?」
叢雲『…』モゾ
提督「おはよ、叢雲」
叢雲『おはよ…』
提督「どうしたのさ、こんな日の明るいうちから添い寝なんて。誰かに見つかるよ」
叢雲『精神衛生上必要な事だったのよ』
提督「それはそれでどんな状況なんだい」
叢雲『気にしなくていいわよ。もう大丈夫だから、ほら仕事よ仕事』
提督「はいはい」
司令官から見えないようにそっと胸に手を当てる。
間違いようがない。この鼓動だけは、唯一無二だ。
他の誰でもない司令官の。
552 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/06(月) 01:37:33.74 ID:vCzKEuQSO
叢雲は無自覚に依存度が高いタイプ
一時期のSS速報の不安定さからこちらでの更新は半ば諦めていたのですが、他所に移るにせよ一度書き始めたものは終わらせなければなと。
遅くなりましたが可能な限りは続けていきたいと思います。
553 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/06(月) 11:33:36.04 ID:JGpFMQ3n0
乙、更新ありがてぇ
554 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/06(月) 12:16:55.87 ID:uES6KTKYo
乙
もう見れないかと思ってた
555 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/07(火) 02:37:11.25 ID:NVzFkcFko
おかえり
556 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/08(水) 22:39:25.82 ID:OaQDVJZLo
乙です
557 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:46:59.74 ID:+6Bg2JYSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
男「今日か」
目が覚めた。
朝の鎮守府はいつも通り静かで、ザワついていた。
この雰囲気には覚えがある。
あれから数日。
今日は作戦の決行日だ。
ヒトロクマルマル。
叢雲は部屋には来ない。
男「秋雲」
秋雲「はいはい起きてますよーっと」
箱から秋雲の元気な声が聞こえる。
男「どうだ?」
秋雲「面白いニュースがあるわよ」
箱の画面が起動する。そこにはテレビの速報が流れていた。
558 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:47:35.20 ID:+6Bg2JYSO
男「こいつは確か、中央のトップだったか」
秋雲「他にも軍のお偉方が何人か」
男「このタイミングで会見ってことは」
秋雲「作戦の発表だろうね。大々的にさ」
妙だな。
普通この程度の規模の作戦をこんな大々的に発表したりしないはずだ。
男「今しーちゃんに連絡取れると思うか?」
秋雲「忙しそうだしなぁ。多分連絡自体は取れると思うけど、どうする?」
男「いや、やめとくか」
秋雲「それがいいと思うよ」
もう政界には関係のない身だ。気にしても仕方ないだろう。
559 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:48:24.72 ID:+6Bg2JYSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
男『おはよう』
緋色『…おはよ』
男『どうした?』
緋色『いよいよ今日なのね』
男『あぁ。何か思うところがあるか?』
緋色『重いわ、とても』
男『それは、俺にも何となくわかるよ』
緋色『私もいつか、向こうに立っているんでしょうね』
そう言って港の方を見る。
男『嫌か?』
緋色『ううん。でもやっぱり重いわ』
男『大丈夫だよ』
緋色『えぇ』
外は晴れ渡っていたが、鎮守府の空気は大雨の中外に出なくてはならない時のような気の滅入る重さがあった。
560 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:49:04.36 ID:+6Bg2JYSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
飛龍『いやぁ朝会だるかったァ』ノビー
作戦前の集まりの後、飛龍が朝食を運んできてくれた。
男『仮にも作戦中なのに早々にこんなところでくつろぐなよ…』
飛龍『私真面目な空気は壊したくなるタイプだからさぁ、我慢するの大変なのよ。あ、海の上は別ね!』
緋色『え、飛龍さん真面目な時あるんですか?』
飛龍『あるよ!?』
正直緋色の疑問はもっともだと思う。
飛龍『そんなこと言ってるとせっかくのプレゼントあげないわよ〜』
緋色『プレゼント?』
飛龍『そ!ちょっとまっててね〜』
そう言うとわざわざ部屋の外に隠していたらしい箱を持ってきた。
男『朝食と別にこんなもの持ってきてたのか』
緋色『何かしら!』
飛龍『そこはお楽しみよ。ほら開けて開けて』
561 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:49:50.22 ID:+6Bg2JYSO
片手で持てる程度のそこそこな大きさの箱を緋色が丁寧に開ける。
プレゼントとは言うがお店で買うような丁寧な包装の物とは程遠い、無骨な感じの箱だ。一体なんなんだろうか。
男『え?』
緋色『これって…』
飛龍『そう!単装砲よ!』
男『12cm単装砲、だよな』
ネズミ色の四角い箱から伸びる砲塔。見間違えることは無い。
飛龍『んーかな?正直私はよくわかんない』
緋色『わあ凄い!本物?』スチャ
男『待て待て!いいのかこんな物騒な物普通に持ってて!』
飛龍『大丈夫大丈夫。偽物だから』
緋色『そうなの?』
飛龍『夕張と明石が緋色の訓練用にって作ったんだって』
男『なるほどな。ビックリした…』
飛龍『でもタダのレプリカってわけじゃないわよ〜。なんせあの二人が作ったものだからね』ニヒヒ
男『なんだよその不穏な感じは』
562 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:50:29.71 ID:+6Bg2JYSO
飛龍『ちょっと構えてみて』
緋色『えっと、こうかしら』
左手で単装砲を持ち右手で側面を支える形で胸の前に構える。
飛龍『そうそう。じゃ私が合図したらトリガー引いてみて』
飛龍が緋色の後ろに回り込み、単装砲のセーフティーレバーらしきものを外す。
飛龍『てぇー!』
緋色『はい!』
トリガー。本来単装砲には存在しない部分だ。そこは練習用のレプリカ故だろう。
そのトリガーを緋色が引くと
緋色『キャッ!?』
ガイン、という妙な金属音と共に単装砲が上に跳ね上がった。
そのまま緋色の顎か鼻辺りに直撃しそうだった単装砲を飛龍が後ろから素早く押さえつける。
緋色『び、びっくりしたぁ…』
腰が抜けた緋色を支えながら飛龍が再びセーフティーレバーをかける。
飛龍『ふふ、どうだった?』
緋色『思ったよりも大きかったわ』
男『俺もだ。なんというか…』
563 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:51:26.81 ID:+6Bg2JYSO
例え小さくてもそれは軍艦に搭載されていた兵器。ちゃちな拳銃なんかとは別物だと理解していたつもりだった。
それでも軽々とこれらを操る艦娘を見て、それほどたいしたものじゃないと思っていたのも事実だった。
飛龍『普段は私達が腕力にもの言わせて押さえつけてるものだからさ、課長さんなんか撃ったら骨の一本二本は覚悟しなきゃよこれ』
男『肝に銘じておこう…それ中身はどうなってるんだ?』
飛龍『中身は知〜らないっ。でもなんかアレしてこれして上手いこと本物みたいな反動にしたんだって。あの二人の暇つぶし品だから無駄に凝ってるわよ』
緋色『このレバーが安全装置?』
飛龍『詳しい使い方は中の仕様書見てってさ』
男『ちゃんと仕様書まで作ってあるのか』
箱の中を見てみると中に小さな紙が入っていた。どうやら一枚の紙を折り畳んで冊子風にしたものらしい。
ご丁寧に表紙や中身には図以外に手順を分かりやすくするためのイラストがいくつか添えられている。
男『秋雲だなこれ』
飛龍『え、凄い、なんでわかったの?』
男『そりゃあ…なんとなくな』
緋色『前にイラストが得意って言ってたけれど、とても綺麗ねこれ』
男『だな』
単装砲のイラストはどの角度の絵も実に正確に描かれている。
それとは逆に添えられている夕張や明石のイラストは二頭身程の人形のようなディテールで、ポーズや表情のバリエーションに富んでいた。
きっとどちらも描いていて楽しかったのだろう。
564 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:52:05.05 ID:+6Bg2JYSO
飛龍『ちょくちょくこういう仕事やってるのよあの娘。新聞とか掲示板とか、あと艤装にペイントとかね!』
緋色『へぇ〜』
男『ん?艤装に無断で描くのって禁止じゃなかったか?』
装備は軍の所有物であり、その扱いは極めて厳格に定められているはずだ。
飛龍『おぉやっぱ詳しい。でもほら、魚雷とかは一度使ったら終わりでバレないからってさ』
男『そう来たか』
緋色『でもそれってなんだか勿体なくないかしら』
飛龍『験担ぎってやつよ。駆逐艦の間では恒例になってるわ。当たりますようにって』
男『当たるのか?』
飛龍『当たる』
緋色『おぉ!』
飛龍『と思って発射するからでしょうね。そういう心持ちが大切だから、効果は確かにあるわ』
男『理にはかなってるわけだ』
565 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:52:47.05 ID:+6Bg2JYSO
緋色『飛龍さんもペイントしてもらったりした事はあるの?』
飛龍『私はないのよねぇ。ほら空母って甲板と艦載機が装備なわけだけど、どっちも色とか書いてある文字なんかで見分けたりするからそういうのやると危ないのよ』
緋色『色?』
飛龍『あり?まだ未履修?』
男『レクチャー頼んでもいいか先生?』
飛龍『ラジャっ!』サッ
よく分からないポーズをとったかと思うと飛龍の左腕に今まで無かった飛行甲板があらわれた。
飛龍『私達はさ、艦載機を飛ばすのは弓だけど着艦はここなわけ。でも空母が複数いるとどの甲板に降りればいいかわからなくなるでしょ?だから目印とかがあって、コロコロペイントとかしてると艦載機達が分からなくなっちゃうのよ』
神風『うーん?』
男『…例えば飛龍と蒼龍が並んでたとして、分からなくなるものなのか?』
飛龍『んっとね〜、見た目は問題ないんだけど、んん、難しいな。例えるなら電波ね。私が橙色で蒼龍が青色の電波。これに余計な要素を足しちゃうと電波が変わっちゃって混線しちゃうーみたいな?』
緋色『ラジオのダイヤル調整みたいなものかしら』
飛龍『おぉそれいいわね。それでいきましょう!』
566 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:53:58.54 ID:+6Bg2JYSO
男『結構繊細なんだな。正直もっと自由に操れるものだと』
飛龍『艦娘は基本的に内に秘めてる力を放出するものだけれど、私達空母は放ったそれを繋ぎ止めて操らなきゃいけないもの。それも幾つもね。だから潜水艦に並んで特殊なのよ』
緋色『潜水艦…』
飛龍『潜水っ娘達とはまだ会ったことないんだっけ』
男『あぁ』
流石に潜水艦という線は無さそうなので特に接触の機会を作ってはいなかった。
飛龍『そのうち分かってくるわ。私達にも色んなのがいるってね』
男『そういえば、飛龍はこの後どうするんだ?』
飛龍『午前中はここにいるつもり。コレの撃ち方とか教えられるし。午後はちょっと野暮用が』
男『了解。なら緋色へのレクチャーは任せるよ』
緋色『よろしくお願いします!』
飛龍『まっかせなさぁい』
567 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:55:00.32 ID:+6Bg2JYSO
緋色『こう?』
飛龍『もうちょっと横で、そうそう。結構上に跳ねるから』
2人共楽しそうだった。
ふと、小学生くらいの時に上級生から輪ゴム鉄砲の打ち方を教わったのを思い出した。
こんな楽しそうに撃ち方を教わってていいのだろうか。深海棲艦を、命を軽く消し飛ばせるモノを。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
飛龍「そういうとこ、やっぱ気になる?」
午後になり緋色へのレクチャーを終え帰ろうとする飛龍に、その話をしてみた。
飛龍「私も最初は特に疑問には思わなかったわ。というか今も疑問に思ってはないけどね」
そう言いながら右手で銃の形をつくって俺に向ける。
飛龍「こういうのが当たり前だからさ、私達。怖いとか、そういうのはない。それが人とズレた感覚だってのは分かるけどね」
男「そういうものか」
飛龍「この国は武器を持つ感覚に疎いからね。善し悪しは別としてさ。だから」
左眼を瞑り、人差し指の狙いを定める。
飛龍「バァン」
男「…」
飛龍「こーゆーとこも含めてさ、だからきっとここに壁があるんでしょうねぇ」
コンコンと扉を叩くように俺との間をノックする。
男「壁なら壊せるさ」
飛龍「お、カックィ。期待してるからね〜、それじゃっ!」タッタッタッ
廊下を駆けてく飛龍にそれ以上何も言えなかった。追うことも、手を伸ばすことも。
きっとそれが壁なのだろう。
568 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:55:50.19 ID:+6Bg2JYSO
男「ま、確かにビビってたら戦場でやってけないもんな」
そういう意味じゃ緋色が武器に対して抵抗がないのはとりあえず良しとすべきなのかもしれない。
男「武器、か」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
男「武器だ」
秋雲「え、なに急に、どしたの」
すぐさま部屋に戻り秋雲に話しかけた。
男「艦娘にはそれぞれその艦に合った武器があるだろ?」
秋雲「あ〜そういう事。確かにね」
俗に言うフィット装備。生前からの馴染み深さやその艦の性能に沿った装備が本来のスペック以上の性能を発揮できるというやつだ。
男「でもそれだけじゃない。例えば初期装備なんかもそういう馴染みのある装備と言えるだろ?」
秋雲「初期装備ねぇ。私はそこら辺わかんないにゃぁ」
男「秋雲という艦娘は12.7連装砲だったよな」
秋雲「そそ。でも同口径の連装砲にも色々あっからね〜。私のは亀って呼ばれてたやつ。陽炎とかは像だったかな」
569 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:56:40.77 ID:+6Bg2JYSO
男「同じ口径でも色々種類があるからな。だから逆にそこから特定できるんじゃないかって」
秋雲「ふむふむ。記憶にはなくても身体に染み付いてるクセみたいなのって艦娘にはあるしね。実際に触ってみたら思い出す可能性はありよりのあり」
男「何より他に糸口もないしなぁ」
秋雲「でもどうすんの?実際に緋色ちゃんに装備持たせるってわけにもいかないし、何より今作戦中だしょ」
男「装備の方は夕張達がレプリカを渡してくれてな。反動まで再現した凄いやつ」
秋雲「流石ねぇあの拘り技術者ズ」
男「作戦中は無理でも、今後のことを考えて話してはおこうかと思ってな。後秋雲は装備についてもう一度今の視点で調べ直してくれ」
秋雲「オーキードーキー。夕張達にはなんて?」
男「今メッセージで送ったところだ。作戦が落ち着いたら何かしら反応をぉわっ!」
手元の端末から慣れない音が鳴る。
秋雲「連絡?」
男「お、おう」
秋雲「…夕張?」
男「…ぽいな」
はえぇよ。
570 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:57:54.06 ID:+6Bg2JYSO
男『もしもし』
明石『面白そうなこと言うじゃないですかあ!』
スピーカー機能をオンにしたんじゃないかという程に大きな声が部屋に響いた。
秋雲「…」
男「…」
画面の秋雲と無言で見つめ合う。
うん、このテンションには覚えがある。
男『あれ、この連絡先夕張じゃなかったっけ』
明石『あーこれ工廠共通アカなんですよ。つっし、秋津洲とか他にも数名いますよ』
アカウント名、メロン海峡なのにか。あ海峡って明石海峡か?分かりにくいわ。
男『待て待て、そっちは作戦中なんだろう?』
明石『皆が出撃やら作戦会議してる時は暇なんですよ。暇なんです』
二回言った。
男『あーつまり?』
明石『今すぐウチに来てください!』
工廠をウチと呼ぶその楽しそうな声は、何処の明石も変わらないな。
男『残念だが叢雲から一応軟禁を言い渡されていてな』
明石『…ではちょっと待ってて下さい』
通話を切らずに、端末を何処かに置いたような音がした。
秋雲「どうよ」
男「おい、声聞こえたらどうすんだよ」ヒソヒソ
秋雲「へーきっしょ」アハハ
男「…」
秋雲「ゴメンナサィ」
571 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:58:38.82 ID:+6Bg2JYSO
明石『あ、オッケーだそうです』
男『え?あ、なんて?』
明石『内線で聞いてきました!というわけで今すぐ来ちゃってください!』
男『いいのか?本当にか?』
明石『そ、そんなに疑わなくても…あーでも緋色ちゃんは絶対に部屋から出さないように〜と』
男『分かった、向かうよ』
明石『お待ちしてま〜す』ピッ
秋雲「行くの?」
男「のようだ」
秋雲「なら二人によろしく言っといてネ」
男「言えるわけないだろ」
誰にも、言う訳にはいかない。
572 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:59:04.42 ID:+6Bg2JYSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
叢雲から釘を刺されたので緋色には暫く部屋を空けることを伝える必要がある。
しかしなんでOK出したんだろうか叢雲。
男『緋色』ガチャ
緋色『あ』
男『え』
そこにはいつも通り机に座りプリントや本を広げる緋色の姿はなく、実に楽しそうに単装砲を構える艦娘の姿があった。
緋色『え、えっとぉ…』サァ
一瞬青くなって
緋色『これはそのぉ!』カァ
赤くなって
男『これはその?』
緋色『ほ、本能です!』バァン
開き直った。
余計な知恵付けやがって。
573 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 00:59:34.01 ID:+6Bg2JYSO
男『楽しいか?』
緋色『ごめんなさい!』
男『いや、違うんだ。サボっていたのはこの際いい』
緋色『いいの!?』
男『あ、うん』
つい許してしまうのは甘いのだろうか。でも見た目でいえば小中学生に当たる娘を怒るって中々難しいと思う。
男『そういうのじゃなくて、単純にそれを持ってみてどう思ったか知りたくてな』
緋色『楽しい、というより憧れかしら?私も早く一人前にならなきゃって』
男『なるほど。よし、なら勉強さぼっちゃダメだな』
緋色『うぅ…』
男『それと暫く出かけてくるから、部屋で待っててくれ』
緋色『はーい』
574 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 01:00:09.16 ID:+6Bg2JYSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
工廠は鎮守府の中心からは少し離れているが港に近い。だから近くに行くといつも艦娘達の声や音がした。
今はとても静かだ。
なんとなく海沿いを通りながら工廠に向かう、その途中だった。
男「…え」
伊401『』スヤァ
伊19『』スヤァ
伊14『』スヤァ
男「……え?」
そろそろ夏かぁと思える程にはじわりと肌に刺さるようになってきた太陽がさんさんと降り注ぐ港のコンクリートのその上。
打ち上げられたアザラシか、はたまた釣り上げられたマグロか、とにかくそんな感じで三人の潜水艦が川の字に並んで横たわっていた。
周りには何も無く日向ぼっこだと言われればそうとしか思えないような状況ではあるのだが。
男「…」
微動だにしない三人に何か声をかけるのは不味い気がしたのでそのままゆっくりと工廠に向かった。
575 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 01:00:41.28 ID:+6Bg2JYSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
明石『あ〜天日干し中ですね』
男『天日干して』
明石『陸離れの話は前に聞いてましたよね?』
男『あぁ』
明石『潜水艦達は水上艦よりも長く、またさらに地上と切り離されますから、個体によっては帰投後ああして日光とか地上の感触、重力に慣らさないといけないんですよ』
男『そんなものまであるのか』
宇宙飛行士が地上に戻った時なんかはリハビリが大変だという話があるが、それと同じようなものか。
明石『あの三人は特に重症でして。多分海と親和性がありすぎるんでしょうねぇ。ホントに何しても起きませんよ、あの状態だと』
男『まるで試したことあるような口ぶりだが』
明石『試したことあるんで』ドヤァ
男『…』
深くは聞くまい。
576 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 01:01:22.26 ID:+6Bg2JYSO
明石『それで、装備の種類でしたよね。まずは今と同じ単装砲で試していきましょうか?』
男『あのレプリカは、たしかハンマーってやつだろ』
明石『俗称の方を知ってるとは中々通ですねぇ。単装砲だと後はブリキ、?(オモテ)なんかがありますね。12.7連装砲だとA型、像、亀、ブラシ、箱等々色々ですし、でもハンマーで違和感なく使えてるのならブリキ辺からの方が馴染みやすい?そっちの方が作るのも早いし、あーでもでも連装砲の方も試したいからそれならブラシとかいっちゃう?後は反動かぁ、連装砲となるとぉ、いや敢えて逆にする?しちゃう?』ブツブツ
おっとこれはもう話してるんじゃなくて思考が漏れてるだけの状態だな。完全にスイッチが入ってしまっている。
どうしようか。考え中なら邪魔しない方がいいんだろうが…
明石『よし!』パンッ
男『うぉ!?』ビクッ
明石『暫く中で考えるんで他の話しませんか?』
そう言って自身のこめかみをコンコンと叩く。
艦娘お得意の並列思考か。
577 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 01:01:51.76 ID:+6Bg2JYSO
明石『ちなみに課長さんは何か要望あります?』
男『そちらに任せるよ。餅は餅屋だ』
明石『最っ高のご要望です』フフ
男『そういえば夕張は?』
明石『出撃があるみたいなので提督と話してると思いますよ』
男『ほぉ』
工作艦という特殊な艦首の明石と違って夕張は軽巡だ。当然出撃もあるわけか。
明石『そうだ、せっかくだし外の潜水艦達見に行きます?』
男『見に行くって、何かあるのか?』
明石『えぇえぇ、きっと面白いものが見れますよ』
正直かなり興味がある。ここは断る理由もないか。
男『よし行こう』
明石『では!』
明石がすぐ側にあった何の変哲もないバケツを掴んで外へ向かう。
何する気だよ…
578 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/09/29(水) 01:04:36.01 ID:+6Bg2JYSO
ギリギリイベント突破できた提督
同じ連装砲でも見た目はかなり種類がありますよね。
そもそも連装砲なんかを手に持って撃ったらどういう方向に反動が働くのでしょうか。
実物の知識はないのでそこら辺は適当こいてます。
579 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/29(水) 08:34:52.87 ID:7pCCxCj9o
乙
580 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/10/06(水) 03:09:43.84 ID:OejkVOKa0
乙
秋雲さん何処に居るのか今更気づいたわ・・・
581 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/23(火) 05:21:07.54 ID:kHStvoJCO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
伊401『』スヤァ
伊19『』スヤァ
伊14『』スヤァ
男『酷い絵面だ…』
並べられているのが港じゃなければ微笑ましい昼寝風景なのだが、やはりここだと魚市場にしか見えない。
明石『この状態だと殆ど何しても起きませんよこの娘達』
男『そんなに眠りが深いのか』
明石『眠り、という表現は適切じゃないでしょうね。では何が適切かというと上手い言い回しが出て来ないのですけれどね』
男『今どれ位ここで寝てるんだ?』
明石『大体四時間くらいですかね。平均で八時間くらいはこうしてますよ』
男『凄いな…ほんとどういう状態なんだ』
明石『例えば、ほい』グイ
男『うぉ!?』
明石が伊14の瞼を開ける。右の瞳に真上から日差しが差し込むが確かに反応する気配はない。
明石『起きないんですよね〜これでも』
男『怖いから瞼閉じてあげて』
582 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/23(火) 05:23:33.26 ID:kHStvoJCO
明石『課長さんも何かします?しおいちゃんならスク水脱がすくらいでも起きませんよ』
男『やったの?それ試したの?』
明石『あはは、それはともかくとして今回見せたかったのはですねぇ』
明石が一体何をしたのか何を置いてもまずたしかめるべき事な気もするが。
明石『ちょっと待っててください』
そう言って海の方へ行き海水をバケツに汲んでくる。
男『かけるのか?』
明石『そりゃもう盛大にっ!』バシャッ
打ち水感覚でバケツ1杯の、バケツいっぱいの水を三人にぶちまける。
日に焼かれた状態にいきなり海水というのはかなりの衝撃のはずだがそれで三人は微動打にしなかった。
だらしなく口を開けて眠る伊14の口にも海水がいくらか入るが少しも反応はない。少し細すぎる気もする身体に海水が走る。
伊19の、その、胸に思いっきり海水が直撃するがこちらも無反応だ。スク水は新品のように水を弾き、光を反射させながら滴り落ちる。
伊401も、
男『ん?』
583 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/23(火) 05:25:07.26 ID:kHStvoJCO
妙だ。気のせいかとも思ってもう一度じっくりと観察する。
他の2人と変わらずこちらも反応はない。
生まれつきの特徴とも言える程よく焼けた華奢でいて力強い手足や呼吸に合わせて上下するお腹や隣と比べるととても控えめな胸囲も変わらず海水が滴り落ちる。
いや、落ちていない。
弾かれ染み込むでもない海水は確かに動いてはいるが、それは明らかに重力に従っていなかった。
男『足先に向かってないか、これ?』
明石『今はしおいちゃんだけ見たいですね。ほか二人は結構慣れてきてるみたいです』
男『どういう事だこれ』
明石『課長さん、この娘達が海中で動く時、どうやってると思います?』
男『どうやってってそりゃ、泳ぐ?』
クロール?平泳ぎか?いやいや、そもそもそんな人間みたいなやり方で海中を動けるのか?
明石『私達海上の船と同じですよ。この娘達の場合はほぼ全身に推進力みたいな物が働くんです』
男『推進力?』
明石『厳密には全然違うんですけれど。つまりこの海水の動きみたいにって事です。海の中ではこんな水滴じゃなくて周りの水をどんどん掻き分けてるんですよ』
男『マジか…』
伊401の太腿に触れてみた。
軟らかい。
日光で焼けた身体は思ったよりも熱い。
身体を下に下にナメクジのように動く水滴が俺の指先にくっついた。
水滴のついた指をそっと持ち上げると、途中で重力に負けた水滴が再び太腿に落ちて、また足先を目指して進行を始めた。
584 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/23(火) 05:26:02.76 ID:kHStvoJCO
男『な、なんも分からん…起きてる事象一つ一つは子供でもわかる事なのに、こうして目にすると頭がおかしくなりそうだ』
明石『分かったら苦労しませんって。ちなみにこの海中モードの時はまだ陸に上がれてない証拠です。彼女達にとっての地上は、私達で言う海中か、あるいは宇宙空間に当たるのかもしれませんね』
男『つまり伊401、しおいはまだ海で泳いでる途中のつもりなのか』
明石『多分そんな感じです』
男『こんなふうに、泳ぐのか』
明石『さっきみたいに目に対する反応がないのもそれが理由です。海中じゃ目なんてなんの意味もないですから、潜水モードだと刺激を受け付けてないんですよ』
男『そりゃそうか。海なんて少し潜れば真っ暗だしな』
明石『ち な み に 、牛乳とかお酒とか醤油とかだとこうはなりません!』
男『試したってそれか!?』
明石『水はいけるんですけどねぇ。死海レベルで濃い塩水とか。あ、なんとプールの水はダメだったんですよ!ローションも!』
男『それちゃんと本人に許可取ってんだろうな…』
585 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/23(火) 05:27:25.40 ID:kHStvoJCO
伊14『ぅわあしょっぱ!!』カバッ
男『!?』
明石『あら、おはようございます』
伊14『暑い!眩しい!あれなんか濡れてる?』
目が覚めて口の中に入った海水に反応したらしい。
伊14『あー!明石さんまたなんかかけたでしょぉ』
明石『今日はただの海水よ』
伊14『本当にぃ?おしっことかとかじゃないよね…提督もさぁ見てないで止めてよね〜』ペッペッ
尿をかけかねないと思われてるあたりがまた。
男『ん?』
明石『あら?』
伊14『へ?あり?提督じゃない?えっとー、カチョーさんだカチョーさん。あれぇっかしいなぁ』
どうやら俺を提督と間違えたようだ。
間違えた?どうやって?
明石『…まあ鎮守府で男性って言えば提督位でしたもんね』
伊14『違う違う。浮上前だから薄らとだったけど、明るかったからさ。てっきり提督かと』
意味はよく分からないがどうにも起きる前から何かを認識していたらしい。しかし目は見えていないのに明るいとはなんだ?
男『…』チラリ
明石『?』
明石と顔を見合せる。向こうもさっぱりらしく分からないとジェスチャーを返してきた。
586 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/23(火) 05:28:12.37 ID:kHStvoJCO
伊14『は!今ならお昼間に合う!?』
明石『そうですねぇ。ギリギリ行ける?かな?』
伊14『こうしちゃいられない!っとと』フラフラ
男『お、大丈夫なのか?』
伊14『へーきへーき慣れてっから!』
まだ少し身体がふらついてはいたが転ぶこと無く建物へ戻っていく。
男『不思議な体験だった…』
明石『私も少し予想外でした。それとアイデアまとまったので工廠に戻りますね』
男『アイデア?あーそうか単装砲の件で来てたんだったな。なら俺も緋色の所に戻るか』
ずっと並列して考えていたんだったな。
男『実際どうだろうか。装備で記憶が戻るってのは』
明石『艤装の一部ですからね。フィットなんてのがあるように装備と艦娘の繋がりはそれなりに深いものがあります。記憶を戻すきっかけとしては、文字通りいい衝撃になる可能性はあると思いますよ』
男『期待したいところだな』
正直他は手詰まりだ。
587 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/23(火) 05:29:05.08 ID:kHStvoJCO
明石『それと、たまにはウチにも顔出してくださいよ。今日みたいに面白いものが見れるかもしれませんし』
男『興味が無いと言ったら嘘だが、あまり無闇に関わるべきじゃないだろ?』
明石『叢雲がそう言ったからですか?』
男『それもある、が俺も同意見だ』
明石『貴方のような外部の人間との接触は私達にとって良くも悪くも色々な影響がありますからねぇ』
男『あぁ、だから』
明石『だから私は良い方を見たいです。勿論立場のある叢雲や貴方が悪い方を気にするのも分かります。でも鎮守府にとって変化というのはそれだけで価値があると思うんですよ』
男『それは工作艦としての意見か?』
明石『それもあります、けど私個人の意見でもあります』
男『…ま、たまには顔を出すよ。叢雲に怒られない程度に』
明石『おお!それではまたのご来店お待ちしております』
するべきでは無い約束をしてしまった気がする。
でも嬉しかった。
俺と関わる事が何か良いきっかけになるかもしれない。自分で考えると自惚れや願望でしかないが、こうして艦娘から言われることに舞い上がっている自分がいた。
588 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/23(火) 05:29:50.59 ID:kHStvoJCO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
男『戻ったぞ〜』ガチャ
緋色『!』ビクッ
男『?』
緋色『お、おかえりなさぃ…』
部屋の角でこちらに背を向けたまま蚊の鳴くような声を出す緋色。
男『何やってんだ?』
緋色『そのぉ…あのぉ…』
泣きそうな声を絞り出す緋色の真後ろまで近づいてみる。
何かを隠そうとしているようだがこの小さな身体では限度がある。
男『壁、穴空いてないかそれ』
緋色『つ、机がぶつかって?』
男『お前の肩の高さだぞそれ』
緋色『あぅ…』
男『それにこの色…』
ペットボトルのキャップ位の凹みにはネズミ色の跡が残っていた。机じゃこんな色はつかない。
となると。
589 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/23(火) 05:30:54.71 ID:kHStvoJCO
男『何回撃った』
緋色『た、たくさん…』
部屋の隅に申し訳なさそうに置いてある12cm単装砲のレプリカを見る。確かに角がひとつ少しばかり禿げている。
男『怪我は?』
緋色『おでこに一回当たったわ…でも怪我はないわよ!』
男『ならまあ良、くはないが』
緋色『ゴメンナサィ』
男『明日は飛龍に頼んで多めに訓練してもらうか』
緋色『ホントっ!?』
男『目を輝かせるんじゃない』ポン
緋色『ぁう』
勉強を教えたり、ご飯を食べたり、そういう生活で忘れていた。
緋色にとってこういう事こそ日常なんだ。
今この時、水平線の向こうで戦っているその姿こそ艦娘なんだ。
男『お互い慣れていかなきゃな』
緋色『お互い?』
男『とりあえず壁の事を叢雲に話そう』
緋色『え゛』
男『俺も謝るから』
緋色『ぅん』
この後めちゃくちゃ怒られた。
590 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/23(火) 05:33:39.32 ID:kHStvoJCO
秋刀魚スコア99
艦娘がどうやって浮いていてどうして進めるのか、というのは人によって様々に解釈があって好きです。
とりわけ潜水艦は独特な解釈が多く見受けられる印象ですね。
591 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/11/24(水) 12:20:48.07 ID:AE2V9bQjo
おつおむ
592 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/11/25(木) 19:10:26.78 ID:LEJ6xd48o
乙
593 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/11/27(土) 02:25:43.90 ID:hCPCosElo
乙
594 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 03:45:53.16 ID:vgGQ1HgcO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
男『なあ飛龍』
飛龍『ん〜?』モグモグ
男『こうして毎朝、毎日来てくれるのはありがたいんだがな』
携帯画面「次は今週のお天気予報です」
緋色『ん、見て見てこれ』
飛龍『なになに?』
男『食べながら携帯を弄るんじゃありません』
緋色『はーい』
男『でな、飛龍』
飛龍『はいな』
男『毎日ここに入り浸り過ぎなのでは』
飛龍『あ、台風だ』
緋色『台風』
男『台風?』
緋色『四号だって』
飛龍『いつの間に四人も生まれてんだって話しよね』
緋色『こっち来るみたいね』
飛龍『こりゃあちょっと忙しくなるわよ』
緋色『どうして?』
595 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 03:46:38.38 ID:vgGQ1HgcO
飛龍『艦娘ってのは雑多に言えば本来の姿から百分の一とか二百分の一スケールになってるわけだけど、当然それだけ小さくなると色々影響があるわけ。はい緋色!』
緋色『えっと、戦闘距離、航続距離が短くなる。索敵の難易度が上がる。後は、海に弱くなる』
飛龍『正解!偉い!』
緋色『よし!』
飛龍『船は海に強いってイメージがあると思うけれど、実際はどうにかしがみついてる位なもので、自然がちょっと本気出したらあっという間に海の藻屑だものねぇ』
男『現代の船であっても嵐は脅威そのものだものな』
飛龍『極端な話デカけりゃデカいほど強いわけ。コスト無視するなら』
緋色『私達はヒト一人分の大きさだものね』
飛龍『波は怖いわよぉ。荒れた海なんて大口開けて襲いかかる化物同然だもの』
男『つまり』
飛龍『台風が来たらお休み!』
596 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 03:47:29.64 ID:vgGQ1HgcO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
作戦の一時中断、になるそうだ。
さらに鎮守府でも台風対策をしなくてはならない。
勿論海沿いの建物だ。そこら辺元々対策はあるのだろうが、それでも準備は必要なのだろう。
叢雲『で、問題はこの建物なのよ』
長屋とか呼ばれてる俺と緋色のいる建物に叢雲がやってきた。
叢雲『以前は全く使ってなかったから窓とか全部板打ち付けてお化け屋敷みたいにしていたのだけれどね』
飛龍『中々迫力ある見た目してたよね〜』
叢雲『で、今回それらをとっぱらっちゃったから、改めて台風対策しなきゃいけないわけ』
男『見るからに頑強さとは程遠い見た目してるものなここ』
緋色『具体的にはどうするの?』
叢雲『板貼るしかないわね。部屋の窓はシャッターがついているけれど、廊下の窓は塞ぐ他ないわ』
男『結構な仕事量になりそうだな』
叢雲『予報通りなら三日は時間があるもの。どうにかなるわ』
597 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 03:48:03.19 ID:vgGQ1HgcO
叢雲『というわけで飛龍よろしく』
飛龍『一人!?流石に私だけはちょっとキツくない?』
叢雲『と言ってもこっちも人員はあまり割けないし』
男『叢雲の方も忙しいのか?』
叢雲『鎮守府自体は別にいいのだけれど、作戦用に運んだ補給物資とか奪い返した海域の守りとかで外に出なきゃいけない人員が多いのよ』
飛龍『んー蒼龍空いてる?』
叢雲『他の空母はちょっと、あ、そうでもないか…うーん、行けるわね』
飛龍『別に無理にとは言わないわよ?』
叢雲『いえ。嵐となると基地航空隊も避難させなきゃいけなくなるし、そうなると後で基地に行く予定だった空母はこっちで待機になるわ』
飛龍『あそっか。なら蒼龍借りてくね』
緋色『ねえ私は?私はどうする?』
叢雲『勿論働いてもらうわよ。えっと、ここの板張りって誰がやってたかしら?』
飛龍『えっと、そーだ鈴谷だ鈴谷』
叢雲『そういえば得意だったわねこういうの』
598 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 03:49:37.03 ID:vgGQ1HgcO
飛龍『よっし早速呼ぼう』
叢雲『まずは板を取りに行ってもらわなきゃ』
男『ここの窓全部となると結構な量だよな』
緋色『どうやって貼るの?』
叢雲『釘とかで固定して』
男『壁に釘さしてもいいのか?』
飛龍『もしもし鈴谷?今暇?そうでもない?OKちょっと長屋来てくんない?そうそう。そこら辺は大丈夫。後ついでに蒼龍連れて来て〜。うんうん。じゃ後で』
叢雲『なんて?』
飛龍『暇だったから来るって』
叢雲『港の荷物運び手伝ってるはずなのだけれどね…』
飛龍『おっと、今の私から聞いたって言わないでね』
叢雲『まあいいわ。私は戻るから、あとは任せてもいいわよね』
飛龍『了解。なんかあったら連絡するから。板は小屋のでいいんだよね』
叢雲『ええ、それじゃ』
599 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 03:51:02.82 ID:vgGQ1HgcO
男『小屋ってのは何だ』
飛龍『物置よ。装備とか保管してるのとは別のちゃっちぃの』
緋色『何が入ってるの?』
飛龍『掛軸とか、クリスマスツリーとか門松、射的台鬼の面雪だるま連装砲、後なんだっけなぁ。ま色々あるわね』
緋色『え、え?』
男『なんだその空間…』
飛龍『たまに動く浮き輪とかカワウソみたいなよく分かんない着ぐるみもあったり』
緋色『そ、そこに今から行くの…?』
男『普通に怖いんだがそれ』
飛龍『あはは、別に何も無いわよ。動いた所で死ぬわけじゃなしに』
そりゃ深海棲艦と比べりゃそうなのだろうが、そう言われると何も言い返せない。
600 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 03:52:06.13 ID:vgGQ1HgcO
鈴谷『呼ばれて飛び出てチーッス。鈴谷宅急便で〜す』
飛龍『おー早い』
鈴谷『こちらお届け物』
蒼龍『ど、ども』
鈴谷『っと、そういえばはじめましてね。私鈴谷。ヨロシクね』
緋色『鈴谷、ね。ええ、こちらこそよろしくお願いします』
飛龍『よしよし早速取り掛かろう』
鈴谷『そもそもこれ何の集まり?』
飛龍『台風対策にまた板貼るんだって』
鈴谷『あーね』
飛龍『前やってたの鈴谷だよね?』
鈴谷『モチ!DIYならまっかせて!』
緋色『でぃーあいわい?』
鈴谷『日曜大工ってやつよ。えっとDは、大工…んー、日曜大工ってやつね』
正解はDo It Yourselfである。
蒼龍『私はなんで?』
飛龍『雑用?』
蒼龍『そんな役割!?』
飛龍『ウソウソ。じゃ私と飛龍と課長さんで小屋に荷物取りね!鈴谷と緋色はどうやって張ってくか相談しといて』
鈴谷『うぃーッス』
緋色『はーい』
601 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 03:55:20.07 ID:vgGQ1HgcO
蒼龍『そっかー台風対策だったのねぇ』
飛龍『懐かしいよね。前あそこで肝試しとかやったじゃん』
蒼龍『あったあった!ボヤ騒ぎになったやつ!』
男『ボヤ?一体何やったんだ…』
蒼龍『それがねえ』ニヤニヤ
蒼龍は俺相手でもよく話すやつだ。こうして並ぶと飛龍よりもお喋りかもしれない。
これが素なんだろうが、そういう蒼龍が見れるのはこうして周りに飛龍以外がいない時だけだ。
普段は空気を読んで俺とはあまり話さないようにしてるのだろう。先の鈴谷なんかは目も合わせてくれなかった。
蒼龍『あ、ほらほらアレが小屋』
男『思ったより小屋だな』
飛龍『元は何の建物だったのかな』
蒼龍『あそこにはねぇ板とか以外にも人を喰うと噂のカワウソみたいな着ぐるみがあったりして』
男『それはさっき聞いた』
飛龍『私が言った』
蒼龍『えーずる〜い』
飛龍『早い者勝ち〜』
蒼龍『そうだ!課長さん着てみる?』
男『俺が!?』
蒼龍『大丈夫誰にも言わないから!』
男『さっきの噂を抜きにしても普通に臭そうだし遠慮しとくよ…』
602 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 03:56:17.13 ID:vgGQ1HgcO
飛龍『おっと鍵持ってきてなかった』
蒼龍『鍵かかってたっけここ?』
飛龍『え、なかったっけ?』
男『とりあえず開けてみるか?』
蒼龍『てい』ガラ
飛龍『開いたし』
男『セキュリティ的にどうなんだ』
蒼龍『まあ取られて困るものもないし』
飛龍『さて必要なのは板と釘ね』
蒼龍『電気電気〜あった』カチ
男『中は意外と広いんだな』
飛龍『ちなみにあれが着ぐるみ』
男『うわ怖!なんて吊り下げて保管してるんだよ』
蒼龍『その方が雰囲気出るからって』
男『雰囲気出してどうする…』
603 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 03:57:40.51 ID:vgGQ1HgcO
飛龍『板、というか木材は結構あるわね』
蒼龍『保管状態もヨシ』
男『あとはどう運ぶかだな』
飛龍『どっか台車とかなかったっけ』
蒼龍『入口の横に2つあったわよ』
飛龍『流石に往復は避けられないかぁ』
蒼龍『重さはともかくこう大きいと私達持てないものねぇ』
艦娘の弱点だな。オリジナルと遜色ない馬力や火力はあってもその積載量は見た目通りだ。
1トンのダンベルは軽々持ち上げられるだろうが、軽自動車1台となるとバランスが取れず運ぶのは難しいだろう。
男『道具もここにあるのか?金槌とか』
飛龍『あー忘れてた!』
蒼龍『道具なら工廠かな』
飛龍『私ちょっと取ってくるから板台車に積んどいて』
蒼龍『オッケー』
604 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:00:15.61 ID:vgGQ1HgcO
蒼龍『じゃ始めましょっか』
男『しかしこれはまた重労働だな』
大小様々な板が煩雑に積み上げられている。安全性とかをまるで考慮していない。
蒼龍『まず上半分くらいガバッといきますか』ガシッ
男『え?おいいくら何でもそれは!』
艦娘からしたら重量的には問題ないのだろうが、こんな山積みの資材をぞんざいに持ち上げようものなら
蒼龍『あ』グラッ
男『ゲェッ!』
当然崩れる。
蒼龍『うぎゃっ!!』
身が縮こまる騒音と共に蒼龍の悲鳴が聞こえた。
605 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:01:35.72 ID:vgGQ1HgcO
男「おい!大丈夫か!?」
資材に下半身を飲まれて倒れ込んだ蒼龍に駆け寄る。
蒼龍『ったー…ん?なんて?』
男「あ、いや…『大丈夫かって』」
咄嗟の事でつい普通に喋ってしまっていたようだ。こんな言葉ですら、本来彼女達には届かない。
蒼龍『あーそっかそっか、うん!大丈夫大丈夫ほら、その…艦娘、だしね』
一瞬、彼女は目を逸らした。
実際平気なのだろう。彼女達がたかが崩れた木材の山で怪我を負う程ヤワなわけが無い。この雑な管理体制もそういう意識から来るものか。
男『…その、』
加賀『なんの音』
言葉が遮られる。慌てて振り向くと
男『あっ』
小屋の入口に立っていたのは、一航戦の加賀だった。
その瞳には凡人たる俺にも十二分に伝わる程の殺気があった。
蒼龍『げっ』
加賀『げっ、とは何よ二航戦』
蒼龍『たははー』
加賀『それに、何をしているの。人間』
男『いや、その』
蒼龍『板!板を取りに来たんですよ!長屋に台風対策するために!ほら撫子ちゃんとこの』
加賀『なでし、あぁ例の赤子ね。なるほど』
606 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:02:16.48 ID:vgGQ1HgcO
蒼龍『板をこうガバッと取ろうとしたら、見ての通りで』
加賀『把握したわ。それで、』
飛龍『道具一式借りてきったぅわお!!かっがさん!!』
加賀の後ろから今度は飛龍がやって来た。
加賀『相変わらずね、貴方達は』ハァ
飛龍『たははー。あれ?でもなんでここに?』
加賀『たまたま近くにいたら大きな音がしたからよ』
飛龍『大きな音?うわ、わー土砂崩れだ。大丈夫だった?』
蒼龍『へーきへーき』
男『俺も、一応な』
飛龍『ならいっか』
加賀『次からは気をつけなさい、二航戦』
飛蒼『『はーい』』
加賀『それに、アナタも、ね』
男『ああ、分かってるよ』
氷のような目で俺を一瞥し去っていく。
607 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:03:27.97 ID:vgGQ1HgcO
男『ふぅーー』ドサッ
蒼龍『大丈夫?』
男『死ぬかと思った』
飛龍『加賀さん怖いからなー。むしろよく耐えた、エライっ!』
男『死んだ方がマシなレベルだありゃ』
蒼龍『さてと、板運んじゃおうか』
飛龍『じゃあ、台車は私達やるから課長はこれお願い』
男『わかった』
力仕事をせっせとこなす少女2人を眺める道具箱を持った俺。どうにも居心地の悪い気分だがこれが一番効率的である。
飛龍『加賀さんね、強いから。空母代表みたいな感じでよくお偉いさんとかに会ってたりするの。だからかな、結構、いやかなーーーり人間嫌いみたいで』
男『それは、まあ分かるかな』
飛龍『赤城さんとかその辺全く気にしてなかったりするし、私もこんなんだから、余計に気を張るっていうかさ。そんな感じ』
蒼龍『飛龍は気にしなさすぎるのよ』
男『だろうな』
飛龍『ありゃ後でご機嫌取っとかないとかなぁ』
男『管理職は大変だな』
飛龍『私はそんなんじゃないって。加賀さんは、そうねぇ。手の焼けるお姉ちゃんって感じ』
蒼龍『アレで結構可愛いところも、っとこれは言ったら怒られるかな』
飛龍『だねー。秘密秘密』
男『それでいいさ』
それを知るのは、同じ艦娘か提督である彼の特権なのだろう。
608 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:06:19.07 ID:vgGQ1HgcO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
板張りの作業はかなりスムーズに進んだ。鈴谷が妙に手際がいい。指示通りに進めるだけで半分も終わった。
緋色『どうしてそんなに上手なの?』
鈴谷『鈴谷、元々手を動かすの好きでさ。なんとなーく暇潰しに初めて見たら趣味になっちったわけ』
とかなんとか。
そんな訳で残りは明日にまわし今日の作業は日が沈む前に終了となった。
しかし、俺は作業中も作業後もずっと集中出来なかった。
脳に焼き付いて離れない。
あの目が、ずっと見つめてくる。
加賀の目、じゃあない。そうじゃない。
蒼龍のあの目だ。
言葉が届かないという現実を前にしたあの目。
寂しそうで、悲しそうで。
普段意識してない現実を突き付けられた、絶望にも近いような、そんな目。
人とは違う。人ではない。人にはなれない。人でいられない。人間じゃない。
きっとみんなそれをわかっていて、その上で見ないふりをしている。
"艦娘だしね"
一体その言葉にはどんな意味がある。
明石は人と関わる事は良い面も悪い面もあると言っていたが、やはり俺は
609 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:08:07.69 ID:vgGQ1HgcO
男「やはり関わるべきじゃないように思えたよ」
秋雲「はぁーーーーーーくっっっっさ!!」
男「は?」
秋雲「くっさいわぁマジくっさいわー。何それ、高二病?今どきそんなの流行んないって。なんてんだろ、シンジ君タイプの主人公?古い古いって」
画面越しに物凄く馬鹿にされた。しかもまるで虫けらでも見るような目で。
秋雲「今どきはもっと熱く燃えるヒーロー的なのが流行りなわけ。暗くてうじうじした話とかそんなんリアルで溢れてるじゃんありふれてるじゃん?タダでさえ戦争中なんだから」
俺は、なんだ、これ、説教されてるのか?
秋雲「大体課長がどうこうできる問題じゃないじゃん。そりゃ自分が原因だっていうなら別だけどそうじゃないし」
男「でも、」
秋雲「デモも一揆もないのだってもへちまもないの。そんなのチラシの裏か便所にでも吐き捨てといてよね。私まで辛気臭くなるし」
男「すまん」
秋雲「あー?なんて?聞こえないなー」
男「悪かった!謝る」
秋雲「そーそー、それでよし。お人好しなのはいいけどさ、それで自分を追い込んでちゃ意味ないんだからね」
男「肝に免じておくよ」
610 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:08:40.22 ID:vgGQ1HgcO
秋雲「ま、そのお人好しに助けられた私が言っても説得力ないか」
男「秋雲」
秋雲「なに」
男「ありがとな」
秋雲「…ふっふ〜ん♪そういうのをもっと言うべきなのよ。もっと私を敬いなさぁい」
男「あぁそうだな。感謝してるよ、秋雲」
秋雲「お、おぅ、うん…//」
男「秋雲?」
秋雲「なんかこう改まって言われると恥ずかしいなぁって」
男「お前が煽ったんだろうが」
秋雲「えへへ。ではおやすみ!」
逃げるように画面を消す秋雲。それでも声は聞こえてるはずだ。
男「おう、おやすみ」
611 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:09:35.67 ID:vgGQ1HgcO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
同日、【某事務所】
しーちゃん「はぁぁぁ…」
時雨「…おはよう」
しーちゃん「あ、おはようございます」
時雨「部屋入ってきたのにも気づかない程の溜め息って相当だよ」
しーちゃん「そんなに大きかったですか…?」
時雨「幸せ逃げるよー」
しーちゃん「この程度で逃す幸せならいらないですよ。あと今日はそこのデスク使えますよ」
時雨「明石さんいないの?」
しーちゃん「出張です」
時雨「ふぅん。いやいいよこっちので。あの人の使った後ってデスクトップゴチャゴチャしてるし」
しーちゃん「弄ると怒られますもんねぇ」
時雨「殆ど専用だもんねこれ」
612 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:10:13.67 ID:vgGQ1HgcO
北上「おはよーさん」ガチャ
時雨「おはよ」
しーちゃん「おはようございます」ハァ
北上「おっと、幸せ逃げちゃうよしーちゃん」
しーちゃん「それさっき聞きました」
時雨「それさっき言った」
北上「え、マジかぁ」
しーちゃん「ガス抜きみたいなものなので気にしないでください」
北上「事務所にそんなもん撒かないでよ」
時雨「北上はここ使う?」
北上「明石さんいないの?ラッキー」
時雨「躊躇なく使うよねぇ」
北上「動作軽い方が嬉しいし」
613 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:10:58.97 ID:vgGQ1HgcO
時雨「ところで今回の溜め息の原因は?」
しーちゃん「こちらの要求に応える気はまるで無いのにそうは言いたくないからとりあえず返しとくかと送られてくる無意味なメールに辟易してるんです」
北上「あーね」
時雨「北上聞く気ないでしょ」
北上「その手の話はわかんないもん。大体私らでどうこうできる事でもないっしょ」
時雨「それは、どう?」
しーちゃん「現状交渉事の代表に艦娘を出す訳にはいきませんからねぇ。私なら戸籍ありますし。偽名ですけど」
北上「ほらー」
時雨「偽名って、一応そっちが正式な名前なんでしょ」
しーちゃん「偽名ですよ。そもそも自分でつけたものですし」
時雨「だから本名はしーちゃん?」
しーちゃん「えぇ。しーちゃんです」
北上「大切な名前かぁ。なんかいいねぇしびれるねぇ」
時雨「でもしーちゃんはどうかと思う」
北上「それはそう」
しーちゃん「ちょっと」
614 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:11:38.04 ID:vgGQ1HgcO
金剛「Good morning!!」バァァン
時雨「おはよう」
北上「God morgen」
時雨「え、なんて?」
金剛「あら、しーちゃんは?」
時雨「ん」クイッ
しーちゃん「…」ハァ
金剛「Hey,しーちゃん!そんなんだと幸せが逃げちゃいマスよ〜」グイグイ
しーちゃん「あ〜金剛さんおはようございます」
時雨「ちなみにそれさっきも言った」
金剛「oh」
北上「ちなみに私も言った」
金剛「wtf」
しーちゃん「ぇーん助けて金剛さ〜ん」ダキッ
金剛「おーよしよし、頑張ってマスネ〜」
時雨「僕らの時と反応が違いすぎない?」
北上「包容力かっこ物理が違うんでしょ」
時雨「確かに」
北上「デカいは正義だねぇ」
時雨「僕だって北上よりはあるのになぁ」
北上「あ?」
時雨「ん?」
615 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:12:49.05 ID:vgGQ1HgcO
金剛「ところでなんでこんなになってるんデス?」ヨシヨシ
しーちゃん「出張やなんです」
北上「どいつもこいつも舐め腐った目で見てくるしね」
時雨「この前もほぼセクハラなこと言われてたもんね」
しーちゃん「選挙前ですし、あんなのでも仲良くしておかないと損ですからね…砲撃でも当たってくれればいいのに」
金剛「おっとこれは重症ネー」
北上「いいぞー言ったれ言ったれ」
時雨「クソジジイ共は全員墓場行きだー」
金剛「そこ煽らない。ちなみに次はどこ行く予定なんデス?」
しーちゃん「えーっと、あら」
金剛「?」
北上「お、あれはなんか企んでる顔だ」
時雨「逃げておこうか?」
しーちゃん「ちょっとやる気が出てきました」
金剛「…ははぁん、しーちゃんも物好きデスネー」
北上「えーなになに教えてよ〜」
しーちゃん「今日の仕事ぶりで決めます」
北上「じゃあいいや」
時雨「えぇ…」
616 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:13:44.02 ID:vgGQ1HgcO
金剛「では出張決定デスか?」
しーちゃん「決定ですね〜。では北上さんと時雨さんでジャンケン」
北上「え、なんで!?」
しーちゃん「勝った方が私の付き添いです」
時雨「えーなら負けた方じゃない?」
北上「罰ゲームじゃんか」
しーちゃん「そんなに嫌ですか?」
北上「嫌だ」
時雨「ずっとそばに立ってつまんない話聞くだけだもんね」
北上「というかなんで金剛さんは抜きなのさ」
金剛「私はscheduleが埋まっているのデース!」
時雨「なら仕方ない」
北上「というか何時行くの?」
しーちゃん「もうちょっと先ですね。今は作戦中でしょうし、台風も来てますから」
時雨「作戦中って、また鎮守府行くの?」
北上「鎮守府の方がマシか。いや鬼ヶ島んとことかだとヤダな、アイツら怖いし」
617 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 04:14:41.72 ID:vgGQ1HgcO
しーちゃん「鎮守府はついでです。本命はこの間挨拶した議員さんの所」
北上「あーアイツか。ならまあ、ギリギリセーフかな」
時雨「何がセーフなの?」
北上「こうギリギリ殺意を抑えられる感じ」
時雨「護衛失格すぎる」
北上「そっかぁじゃあ仕方ない時雨に譲ろう」
時雨「うわズルい。じゃあ僕も殺意と嫌悪マシマシで」
金剛「ハイハイさっさとどっちか決めてくだサーイ」
北上「よしメジャーだ。胸が小さいヤツがお供だ」ガタッ
時雨「よし来た。後負けた方はバストサイズ晒す事」ガタッ
北上「上等」
しーちゃん「仕事放り出されても困るんですけどね…」
金剛「体良く逃げられましたネ」
しーちゃん「ふふ、あの二人もすっかり仲悪くなりましたね」
金剛「しーちゃんNO、言い方がNOデス。言いたいことは分かりマスけど」
しーちゃん「…バストかぁ。私課で一番小さい自信ありますね」
金剛「しーちゃんはそのままでいいんデスヨー」ヨシヨシ
しーちゃん「あ、そういえばそろそろ制服が届くんでした」
金剛「New uniformデスか?何のEventに使う物デース?」
しーちゃん「イベント用では無いですよ。ただちょうどいい機会なので、ふふ」
金剛「おっと、悪い顔ネー」
618 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2021/11/28(日) 16:21:29.50 ID:W0JqC9FuO
そろそろイベントやらねば
人間大の大きさで嵐は無理なのではという話。
何より高さが足りないので索敵の難しさが一番船と差が出そうだなと。
619 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/11/28(日) 17:26:20.38 ID:mPJYYi3Vo
乙
620 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/12/28(火) 05:07:19.35 ID:kQGNWjAm0
おつ 気づかないうちに再開してて嬉しい 続きを楽しみにしてる
621 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 00:43:58.05 ID:HJ8e5cO4O
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
提督「ようやく一段落ついたね」
叢雲「まだまだ課題は山積みだけれどね」
長屋の板張りは無事終わったとの報告を受け、ひとまず鎮守府の台風対策は終わった。
でも肝心なのはこの先。
提督「あと一時間で会議かぁ…」
叢雲「憂鬱そうね」
提督「あそこの提督怖いから」
叢雲「それは、否定しないけれど」
悪天候による作戦の一時中断。でも問題は海が静まったあと。
両軍とも嵐が過ぎるまで海には出れない。少し前まで制海権を争っていたあの海上には今荒れ狂う波と風しかいない。
つまりそれらが過ぎ去ったあと、どれだけ素早く部隊を展開できるかによって制海権が大きく揺れ動く。
叢雲「予報なら25時間後には航行可能なレベルまで波は収まるようね」
提督「でも台風は気まぐれだから。この先どんな進路を取ったとしても迅速に作戦を進められるように他鎮守府と連携を密にする必要がある」
叢雲「なら会議にはでなくっちゃね」
622 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 00:44:33.93 ID:HJ8e5cO4O
提督「…叢雲代理で出ない?」
叢雲「いいけど、どの道後が怖いわよ」
提督「だよねぇ」
ガタンッと窓が揺れた。
提督「大分風が強くなってきたね」
叢雲「煩くなるわよ。シャッター閉めたらどう?」
提督「いいよ。空が見えなくなる」
叢雲「台風の事なら正確な情報がリアルタイムで送られてくるじゃない」
提督「目で見るのも大事だよ。気分的な問題かもだけど」
叢雲「気分ねぇ」
黒に覆われ始めた空を見上げる。
空が見えないというのは船にとって実に恐ろしい事だ。
下は常に水面という僅かな境界を隔てた、全てを飲み込む深い深い海。
こうして空に蓋をされるとまるで閉じ込められたかのように感じる。
海という脅威から逃れられないような、なんていうのも実に気分的な問題だけれど。
623 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 00:45:11.01 ID:HJ8e5cO4O
叢雲「会議の方は任せるわ。私は最終確認してくるから」
提督「確認なら今し方終えたじゃないか」
叢雲「だから三度目は私がやるのよ」
提督「はいはい、任せたよ秘書艦殿」
叢雲「任されたわ、司令官」
執務室を後にする。
最終確認と言っても別に司令官を信用していないとかでは無い。
あくまで私が心配性という話。
秋雲『あ゛、っと叢雲じゃ〜んお疲れちゃ〜ん』
叢雲『何よあ゛って』
秋雲『気にしな〜い気にしな〜い。用意は終わったの?』
叢雲『えぇ、殆どね。そっちこそ倉庫の片付け終わったの?収納は出来たけど散らかったままとかはなしよ』
秋雲『そこは大丈夫大丈夫。んじゃ!』
624 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 00:47:17.71 ID:HJ8e5cO4O
叢雲『ストップ』
秋雲『ん゛!?』ビクッ
叢雲『そっちには執務室くらいしかないわよ。まさか資料室に用があるわけじゃないでしょう?』
秋雲『いやぁちょっと提督とお話がしたいな〜って』
叢雲『生憎これから作戦会議があるのよ。話なら私が聞いてあげるわ、ほら』
秋雲『え、えっ…とね』
叢雲『ん?』ニッコリ
秋雲『すんませんでしたあ!!』ドゲザッ
叢雲『ええ!?ちょ、ちょっと待って早い!それは早い!何よ何やらかしたの!今それは怖いからやめて!!』
秋雲『やらかし、てはないんだけどね。私が犯人でもないし』
あっさり土下座を決めたかと思うと直ぐに立ち上がってくる。なんで慣れてるのよこの娘は…
秋雲『倉庫の整理してたじゃん私達』
叢雲『そうね』
秋雲『そしたらさあ、奥の方からホコリ被った海外の艦載機出てきてさ』
叢雲『海外の…あぁそういえばあったわねそれ』
秋雲『そもそもアレなんであるの?』
叢雲『数年前から海外艦の運用が本格的に始まったでしょ?だから国外の規格の装備を扱えるようにって上から事ある毎に配備されるのよ』
秋雲『へぇそんな事情だったんだ』
叢雲『ただウチは海外の空母は未着任って事もあって艦載機に関してはあまり触れてなくて。技術屋の二人も、飛ぶヤツはよく分からんって興味無さそうだったし』
秋雲『なるへそ。でそれを今回私、というか赤城さんと翔鶴さんが見つけちゃってね』
叢雲『それで』
秋雲『見て触れてじゃ物足りず提督に飛行許可貰ってきてって無茶振りが私に』
叢雲『いや断りなさいよ…』
秋雲『いやぁ飛んでるのを見て描きたいなって気持ちがあるにはあったからねぇ』
叢雲『まったく、空母ってのは本当に艦載機好きよねえ。あの真面目な赤城や翔鶴ですらそうなんだもの。一体どういう気持ちなのかしら』
秋雲『我が子のようなってのが一番近いんじゃない?』
叢雲『我が子、我が子ねぇ』
秋雲『ま、私達にゃわからん話でしょ』
叢雲『そういうものかしら』
625 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 00:48:31.13 ID:HJ8e5cO4O
秋雲『私達はさ、砲塔から機銃、魚雷まで、その一つ一つに妖精さんがいるじゃん。点検装填発射、あらゆる工程につまりは人の手が必要なわけだし』
叢雲『それは艦載機も同じじゃない?』
秋雲『でも私達、つまり駆逐艦や軽巡重巡、戦艦なんかは砲塔を自分の手から離さないでしょ?』
叢雲『砲塔を、あぁそういう事』
言われてみればそうだ。
そもそも攻撃機のコンセプトというか、根本的な考えは攻撃の届かない所へどう攻撃するか。
艦載機なんて括りで忘れがちだけどやってる事は機銃や魚雷発射管を凧に括り付けて飛ばしてるのと同じ事だ。
より遠くへ、見えない、届かない位置への攻撃。
秋雲『放つって点で皆は砲弾や魚雷なんかと艦載機を同じ物だと考えがちだけど、実際はそっちなんだよね』
叢雲『そう考えると見方が変わるわね。長年使ってきた装備には愛着もあるもの。それを飛ばすとなると』
秋雲『艦載機のバリエーションの豊かさも拘りの一つになるんだろうけど、それ以上に未帰還って可能性があるのが決定的だろうね』
叢雲『壊れた砲塔や魚雷発射管と、撃ち落とされて海に消えた艦載機とじゃ比べようがないでしょうね』
右腕を見る。
こうして少し意識を向けるだけでいつも身に付けている魚雷発射管の感覚をありありと思い出せる。
壊れる事もある。投棄することもある。それは身体の一部を捨てる様な感覚だと思う。
でももしそれを空に放ち、帰りを待つとしたら。
それは確かに人で言う我が子という概念に近いのかもしれない。
626 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 00:49:21.63 ID:HJ8e5cO4O
秋雲『例えば猫、じゃなくてもいいか。犬でも魚でも植物でも。なんか育てるとしてさ、名前を付けるとしたら何にする?』
叢雲『名前?何よ急に』
秋雲『いいからいいから』
叢雲『…叢雲?』
秋雲『分かりにくいよそれ』
叢雲『それもそうね、叢雲二号…叢雲改とか?』
秋雲『そういう感覚の違いなんじゃないかなって。我が子っていう考え方が分からないの』
叢雲『??』
秋雲『だって子供なら名前つけるでしょ?』
叢雲『名前…』
名前なら私にもある。
私の大好きな名前が。
きっと誰かの願いの籠った名前が。
それと同じ事をするのが、我が子という感覚なら、名前は、名前をつけるとしたら。
叢雲『んんー…』
秋雲『あはは、すっごい顔してるよ叢雲』
叢雲『アンタは分かるっていうの?』
秋雲『私はほら、オリジナルとか描いてると名前付けたり愛着湧いたりってのは何となく分かってくるかな』
叢雲『?』
イラストの話、なのかしら。
627 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 00:50:24.51 ID:HJ8e5cO4O
秋雲『多分さ、船は海っていう隔絶された空間で、その船内だけで自己完結しなきゃいけない物だからさ、人みたいに自分以外との繋がりを感じるのに慣れてないんだよ』
叢雲『それは、悪い事だと思う?』
秋雲『そこまでは言ってないけど、というかそれは流石にテーマが重い』
叢雲『ごめん、ちょっと意地悪だったわ』
秋雲『気にしてないよ』
叢雲『貴方、意外と色々考えてるのね』
秋雲『今すごい馬鹿にされなかった私?』
叢雲『気のせいよ』
秋雲『さいで、それじゃ』
叢雲『あぁ待って、最後にもう一つ』
秋雲『なに?』
叢雲『飛ばすのはダメって伝えてきなさい』
秋雲『チクショウ誤魔化せたと思ったのに!』
叢雲『んなわけないでしょうが』
秋雲『ちぇ〜わかりましたよぉ』
叢雲『言っても聞かなそうなら私に言ってちょうだい。工廠にいるから』
秋雲『最後の確認ってやつ?大変だねぇ』
叢雲『大切でしょ?』
秋雲『そりゃね。いつぞやみたいに停電とかやだしね』
叢雲『…停電』
秋雲『叢雲?』
叢雲『いえ、なんでも、ないわ』
秋雲『あっそ』
628 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 00:52:12.76 ID:HJ8e5cO4O
叢雲「停電」
そういえばそんなこともあった。
叢雲「嫌な事考えてるわね、私」
それでもそれは必要なことだと私は判断した。
司令官はきっとそうは思わないでしょうけど、
私は違う。
anknouwnは暴かれなければならない。
見えた船影が敵なのか、味方なのか。
629 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 00:53:59.98 ID:HJ8e5cO4O
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
叢雲『へい工作犯いる〜?』
工廠の扉を開け呼びかける。
台風対策であちこちに置いていた道具や設備を全て格納したため、室内は普段よりも窮屈になっている。
声の通りも悪くなっているだろうしもう一度呼びかけるべきかしら。
明石『お呼びで?』ヒョイッ
叢雲『…なんでもまた全裸なのよアンタは』
明石『ちょっと埃ついてほしくない作業だったので』
叢雲『理由はわかるけどそれ他に対策ないの?』
明石『ないわけじゃないですけどぉ、手間もお金もかかりますよ?』
叢雲『なら仕方ないわね』
明石『流石秘書艦話が分かる。それで今日はどのようなご用件で?』
叢雲『用ってのはその、夕張のほうでね』
明石『ん、あれ?もしかしてさっきの工作班じゃなくて工作犯のほう?』
叢雲『音じゃわからないけれど多分あってるわよ』
明石『うわ〜また悪だくみですか?最近色々やってますもんね』
叢雲『加わってみる?』
明石『正直興味はありありですけど、ちょっとねぇ』
明石は基本的にルール外の出来事を好まない。
本人的には非常に興味があるのだが信条としてなるべく関わるまいとしている。
夕張のようにあれこれしでかすよりは有難いけれど。
630 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 00:54:44.51 ID:HJ8e5cO4O
夕張『ただま〜、あれ叢雲?どうしたの?』
叢雲『そっちこそ、何か抱えてるのよそれ』
夕張『浮き輪さん型観測機二号よ!』
叢雲『あぁ海上k『浮き輪さん型観測機二号』…そうそれ』
夕張『回収し忘れてたからちょっと沖合に出て取ってきちゃった』
叢雲『は?アンタまた勝手に出撃したの!?』
夕張『やだなぁ今回は兵装実験とかじゃなくてただ回収しただけだってば』
叢雲『それもアウトだっつってんのよおバカ!』
明石『まぁまぁ、それより夕張に話があるって』
夕張『私?』
叢雲『えぇ。ちょっと停電対策をね』
夕張『あーあったわねぇそんな事も。でもなんで今更?』
明石『停電なんてあったの?』
夕張『そっか明石が来る前か』
叢雲『あったのよ昔。ひどい嵐の時にね』
夕張『山の送電線がね』
明石『うわぁ最悪だそれ』
631 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 00:55:40.62 ID:HJ8e5cO4O
送電線が切れた、というわけではなかった。
強風で枝が奇跡的なくらい見事に電線をからめとり、システムが問題ありと判断して電力供給を絶ったというのが真実。
夕張『まだ覚えてるわ。あの嵐の中木によじ登って枝切り取ったの』
叢雲『幸い断線までは至らなかったからあとはシステム復旧をこちらでするだけで済んだけれど、そうでなかったと思うとぞっとするわ』
明石『ちなみに現在その対策は』
夕叢『『ない』』
明石『デスヨネー』
島国であるが故に周辺海域の奪還後問題となったのはその守りだった。
結果として各地に鎮守府が急ピッチで建てられたけれど、
粗製乱造、とまではいかないまでも設備は十分とは言えなかった。
仕方ないのはわかっているけれど。
叢雲『別に台風対策無しってわけじゃないのよ。前回のが色々ミラクルだっただけで』
夕張『だから今日までそのままなのよねぇ。やるからには大規模な工事だからこっちとしてもあまりやりたくはないし』
明石『そうよねぇ、送電線の改修をするなら…うわ考えただけで嫌になってきた』
夕張『でしょ〜』
明石『で、それが今回の悪だくみなの?』
夕張『え、悪だくみなのこれ?』
叢雲『…そうね、悪いけど今回は明石にも加わってもらおうかしら』
明石『え゛』
夕張『っしゃ!』
632 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 00:56:36.46 ID:HJ8e5cO4O
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
明石『…』
夕張『…』
明石『…』
夕張『マジすか』
叢雲『マジよ』
二人の顔が流石に険しくなる。
とはいえこれは予想済み。
私だってこれはまずいと思ってる。
叢雲『でも小手先の手段じゃ何も得られそうにないの。リスクを負ってでもやる価値はあるわ』
明石『で、でも、敵ってわけじゃないんですよね?』
叢雲『敵なら排除できる。でも現状敵なのかさえ分からない。だから危険なのよ』
明石『それは、提督のためって事ですよね』
叢雲『鎮守府の、艦隊全体のためよ』
夕張『ま、議論の余地はないんじゃない?』
明石『夕張はいいの?』
夕張『さあ』
明石『さあって…』
夕張『けれど、叢雲はやれというんでしょ?』
叢雲『あら、いやな言い方するわね』
夕張『私はその辺割り切ってるので。だから確認させて』
叢雲『いいわ、二人とも。やってちょうだい』
633 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/02/15(火) 00:58:53.94 ID:V2uFzKYH0
更新来た!!おつです
634 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 00:59:41.53 ID:HJ8e5cO4O
旗艦として艦隊を指揮する時と同じ。
必要だと思った事を選択していく。
慎重に、だけど迅速に。
迷ってはいけない。
判断はその瞬間に求められる。
目の前の船影は次の瞬間こちらに攻撃してくる敵かもしれない。
あるいは傷を負い助けを求めてる味方かもしれない。
私は、艦隊の為にどう判断を下すべきなのか。
明石『台風は明日の午後からよね』
夕張『間に合う事には間に合う、けどな〜、テスト出来ないのは怖いかな』
叢雲『可能な限りフォローするわ。必要なものがあったら言って』
夕明『『休暇』』
叢雲『…善処する』
635 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/02/15(火) 01:01:42.58 ID:HJ8e5cO4O
カワイイヤッターバレンタイン神風
当日秘書艦にしていたのは瑞鳳ですけれど。
毎年恒例ののチョコも気付けばそこそこの数になってきました。
636 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/02/15(火) 09:01:10.46 ID:XgAGmLvpo
乙
637 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/02/21(月) 00:24:40.03 ID:A/BmmMoTO
乙 不穏な気配は課長に吉と出るか凶と出るか
638 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/02/21(月) 07:24:39.81 ID:SHUxHxf6o
SS速報避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
639 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/03/21(月) 05:04:55.72 ID:0Hx+2bE/0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
昔から寝つきは良いほうだ。親から赤子の時夜泣きがなさ過ぎて不気味だったとか言われるくらいには。
出張の多い仕事柄、枕を選ばず眠れるこの体は非常にありがたいものだった。
とはいえ、限度がある。
男「うるさい」
絶えず窓に大粒の水滴が着弾し続けている。
カンザスに戻れなくなるんじゃないかと思える程の大風が長屋を揺らし、残った大地を飲み込まんと海が唸りをあげている。
つまり五月蠅い。
夕食時には大雨程度だったがすっかり台風に飲まれたらしい。
時刻は夜九時。そろそろ就寝準備に入る時間だが、今日はこの轟音の中でどう寝るかを考える必要もありそうだ。
秋雲「すんごい音ね」
上唇にペンタブを載せて至極どうでもよさげにそんなことを言ってくる。
この仕草をしている時はだいたい原稿の進みが芳しくない時だ。
男「そこは静かで羨ましいよ」
秋雲「今すぐそっちがマイク切ってくれたら静かになるんだけどねぇ」
男「俺が切ってもそっちで音拾ってるだろ」
秋雲「そんなにずっと聞き耳立ててるわけないじゃ〜ん」
男「ほんとか?」
秋雲「へ?」
男「 今 の 言 葉 は 本 当 か ? 」
秋雲「ひ、暇な時は、別、かなぁ」
男「だと思ったよ。別にいいけどな」
秋雲「ならそんな聞き方しなくてもいいじゃんかあ!」
男「いやお前文句言える立場じゃないからな?」
くだらない会話と報告を交えながら一日の業務を終える。
640 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/03/21(月) 05:06:26.77 ID:0Hx+2bE/0
後はさっさと寝て、寝る努力をするか。
その前にトイレに行こうと廊下へ出る。
男「あれ?まだ起きてるのか」
緋色の部屋から明かりが漏れていた。
いつもならもう寝ている時刻だが、流石にうるさくて寝られなかったか。
男『緋色〜起きてるか?』トントン
少し気になったのでドアをノックし声をかけた。
普通の声量だったがこの騒音の中ならもし寝ている場合は起こさずに済むだろう。
などと呑気に構えていたのだが、
言い終わる直前で中で物音がした。
この嵐の中でもはっきり聞こえる程大きな、何かそれなりの重量の物が転がり落ちたような音が。
男『緋色!?』
壁か何かが吹っ飛んだんじゃあるまいかと思い急いで鍵を開け扉を開いた。
すると
緋色『ッ!』ギュゥ
ピンクの物体が凄い勢いで俺に抱き着いてきた。
男『ど、どうした?』
あまりの勢いに二歩後ろに下がってしまう。
コアラの子供のように腰にひしと抱き着いてきた緋色の頭にそっと手を置く。
僅かに震えている。
怯えている?
男『嵐、怖かったか?』
しまった、口に出すべきじゃなかったか。
こういう時原因なんかを本人に聞くとそれを思い起こして余計にパニックになると聞いたことがある。
緋色『怖い、でも嵐じゃないの。それに近い何かが、迫ってくるみたいで、明かりが消せないの…』
男『そうか、そうか。どうしたい?』
緋色『えっと、その…しばらく一緒にいたい、かな…』
周りの音で掻き消えそうなほど小さな声でそう言った。
641 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/03/21(月) 05:07:27.17 ID:0Hx+2bE/0
男『分かった。俺もちょうど寝れなくてな』
原因の究明は後回しだ。今はまず緋色を落ち着かせることを考えよう。
男『あーだが、その、いったんトイレ行ってもいいか?』
緋色『え?え、えぇ。いいわよ』
腰から手を放し、しかし一度も俺から離れずそのまま右手をぎゅっと掴んだ。
え、このままトイレの中までついてくる気じゃないよな?
かといって今離れてくれ等と言うと不安に押しつぶされそうな雰囲気もあるし、どうしたものか。
男『叢雲に頼んで一緒に寝てもらうか?』
緋色『い、嫌よ!そんなことしなくても私一人で、一人でも…』
少しでも明るくしようと茶化してみたが、一人という言葉を口にした途端不安になったようだ。
男『だが、艦娘になるならこれくらいの事で怯えていられないぞ』
緋色『!』
男『俺だって戦場に立った事があるわけじゃないから偉そうな事は言えないが、想像はつく』
昔見た演習を思い出す。
陸地にまで響く砲撃音。吹き上がる水しぶき。どれもそこにいるだけで圧倒されそうなものばかりだった。
緋色『そうよね。皆、そうやって戦っているのよね』
右手をつかむ緋色の手から力が抜ける。
642 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/03/21(月) 05:08:32.39 ID:0Hx+2bE/0
男『それに俺だっていつまでもここにいるわけにはいかないだろ?』
緋色『え?』
男『お前が艦娘として海に立てるのを見送るのが俺の仕事だからな』
実際は少し違うが、俺自身がそうしたいという嘘偽りない本音でもある。
緋色『そっか…』
緋色がいよいよ俺の手を放しかけた、
その時だった。
男「!?」
フッと世界が消え去った。
明かりが消えた、と認識するのに少し時間がかかるほど一瞬で暗闇に覆われた。
慌てて周りを見渡すが暗闇に慣れていない目はもはや真横の壁すら認識できていない。
直前まで目に焼きついていた景色がぼんやりと幻覚のように周りを覆っている。
視覚が奪われたせいか雨音がよりいっそう大きくなったように感じた。
男「…」
停電、か。
真っ先に思い当たる原因は台風よりも深海棲艦の攻撃だ。
嵐で動けないとみせかけての鎮守府襲撃、なんて事があるとしたら。
身体が強ばる。
逃げるか?だとしたら何処に?
廊下に立ち止まったまま思考が堂々巡りを始める。
しかし、そんなことをしている間に何も起こらなかった。
仮にも軍の基地だ。不測の事態であればそれ相応の対応をとるはず。
未だにサイレンやらがならないということは単なる停電とみていいだろう。
男「ふぅ…」
腰の護身用拳銃にかけていた左手を離し緊張感をほぐす。
そこでようやく、右手が妙に締め付けられていることに気づいた。
643 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/03/21(月) 05:09:40.23 ID:0Hx+2bE/0
男『…緋色?』
『………』ギュゥ
男『イタタタ待て待て折れる絞られる一旦落ち着け!な?』
パッ、と。明かりが廊下を照らす。
電力が戻ったのか?
急な光度の差についていけずに目が眩む。
徐々にハッキリとしてきた視界に映ったのは、体を縮こませ俺の右腕に必死にしがみつく緋色だった。
男『お、おい?』
『…』
震えている。だが先程の比じゃない。
そんなに怖かったのだろうか。
男『もう明かりは戻ったぞ。あまり俺とベッタリしているところは誰かに見られたくないんだろ?』
軽口を叩きながら緋色の頭に手を軽くポンと置く。
『!?』ビクッ
男『うおっ!』
猫のようにビクンと体が反応した。驚かせるつもりはなかったのだが。
『…課長?』
男『お、おう。どうし』
どうした急に、まで言えなかった。
それほどに衝撃的だった。
腕にしがみついたままこちらを見上げた緋色の、あまりにも血の気の引いた顔は。
644 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/03/21(月) 05:10:41.53 ID:0Hx+2bE/0
男『おい!緋色?お前…何が』
混乱して言葉出てこない。何を、何をすればいい、なんて言えばいい。
左手を緋色の肩に乗せ軽く揺する。
『いや…その、私…私?………』
男『?』
そう言いながら今度は一気に血の気が戻り、いや戻るどころではない。
緋色どころか顔を真っ赤にし目には涙を浮かべ始めた。
もはや全くもって状況を理解出来なくなったがとりあえず彼女を安心させようと抱き抱えようとしてみる。
すると
『待って!!』バッ
男『うお?』
思いっきり突き飛ばされた、とはいえ緋色の思いっきりなどそう大したものでは無いのだが。
少しよろけてニ三歩下がる。
男『???』
分からない。何も分からない。声すらも出せない。
ただ、
『違うの…違うのよ…私じゃない…私こんなの知らない…違うの…違うのよぉ…』
俯きながらブツブツと呟き続ける。
腰が抜けたのか内股のまま、とうとうその場にへたりこんでしまった。
男『…』
限界だ。お互いに。
男『スマン』
一体もう何が何だか一切合切全く全然微塵に皆無にこれっぽっちもほんの少しも分かりゃしないが、
ともかくここに居るのはまずい。一度部屋に戻るべきだとようやくそれだけが思いついた。
645 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/03/21(月) 05:11:41.09 ID:0Hx+2bE/0
お姫様だっこで緋色を持ち上げる。
糸が切れたようにぐったりとした身体は普段よりも重く感じられた。
男『…』
『…』
目を合わせようとはしない彼女の顔は、やはりどういうわけか赤いままだ。
まあ今はいい。
落とさないようにまだ小刻みに震えている肩と濡れた足の部分をしっかりと手で固定し、
濡れた、
濡れた?
男『濡れてる?』
今濡れる要素があったか?
だが左手には確かに緋色の袴が濡れている感触があった。
脹脛まである桜の花びらを纏っているかのようなそれをよく見ると、下のほうに向かって確かに濡れた跡がある。
雨漏り、ではない。
むしろ温かくて
男『緋色…?』
『……』
男『えっと…』
『』ビクッ
目が、ようやく合った。
そして
『うぇぇぇぇぇん!!』ガシッ
男『うぉっ』
ガッチリと俺の胸にしがみつくとそのまま上からも大量の水を漏らし始めた。
男『…』
これ、誰かに見られたらヤバいなぁ。
半ばフリーズした思考でなんとか緋色を部屋に運んだ。
646 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/03/21(月) 05:12:27.05 ID:0Hx+2bE/0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
男『気分はどうだいお姫様』
『最悪よ、バカ…』
男『そりゃよかった』
『よーくーなーいー!』
ベットに腰掛けたまま足をバタバタする。
頬を膨らませてこちらを睨みつけるその顔はまだほんのり赤い。
泣き尽くした跡と羞恥心が入り交じっているのだろう。
男『身体の方は本当に大丈夫なんだろうな?』
『平気よ。今は』
そう言って着替えたばかりのパジャマのズボンをギュッと握りしめる。
普段は袴を履いているためわかり辛いがこうして洋服のパジャマを身につけていると意外にもスラリと長い足がよく映える。
まあ先程漏らしたわけだが。
この細長い足に、
男『いかんいかん』フルフル
『どうしたの?』
男『何でもないよ』
艦娘、しかもこんな子供相手に何を考えている。
647 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/03/21(月) 05:13:10.58 ID:0Hx+2bE/0
男『しかしこれどうするか』
大きめのビニール袋に詰め込んだ袴と下着、タオルを持ち上げる。
そういや廊下もまだ拭いていなかったな。どうしよ。殆ど布に吸われてるはずだしほっといてもバレないかな。
『どうするって、洗うんでしょ?』
男『そうだけど。どう洗うかなって』
『いつも通りじゃないの?』
男『そうすると皆に漏らしたってバレるぞ』
流石に濡れたまま洗濯カゴにぶち込むわけにはいかない。事前にこれがどう言ったものか説明がいる。
ばらすなって言ってもどうせ噂は広まるだろう。
『』
また顔が沸騰している。艦娘って血管破裂したりしないだろうなと心配してしまう。
男『俺が洗うか』
洗濯なんてろくにしたことはないが。袴って普通に手洗いでいいのかな。
一応確認のために緋色をチラと見る。
『…うん』コクリ
OKらしい。まだ温度が下がりきってないのか顔は赤いままだ。
648 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/03/21(月) 05:13:53.45 ID:0Hx+2bE/0
「ちょっと!いるの?」コンコン
男『叢雲か』
緋色の事ですっかり忘れていたが停電あったんだよな。心配で様子を見に来たのだろうか。
男『すまん、少し出てくる』
緋色『待って!』
男『?』
緋色『い、言わないで、よね?』
男『あー』
言わない、という選択肢はない。仕事的にも緋色のためにもだ。
だが
男『もちろんだよ』
心苦しいがここは嘘をつくほかない。
男『悪い、遅れた』ガチャ
叢雲『あら、そっちだったの』
嵐のせいで分からなかったが叢雲は俺の部屋をノックしていたようだ。まあそりゃそうか。
叢雲『てことは端末はこっちの部屋に置きっぱなしで携帯していないってところかしら?』
男『端末?あ!もしかして連絡あったのか…?』
叢雲『当たり前でしょ!こういう時に電波飛ばす施設さえ残っていれば連絡取れるのが強みなんだから』
男『申し訳ない。本当に…』
叢雲『で、お姫様は無事なわけ?』
男『あー、うん。何事もなかったよ』
言葉ではそう言いつつ手で俺の部屋を指さす。
叢雲『あらそ、重畳ね。とりあえず端末確認してもらうわよ』
本当に察しがいいし、行動が早い。秋雲ならここで余計な一言を挟むところだ。
そういえば秋雲大丈夫かな。
649 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2022/03/21(月) 05:14:59.74 ID:0Hx+2bE/0
男「なるほど、緊急時はこういう連絡が来るわけか」
端末を確認すると管理者からの連絡が来ていた。
叢雲「安否と状況は選択肢でさっと選べるようになってるわ。緊急の場合のみ直接私や司令官に連絡がいくの」
男「本当に申し訳ない…」
叢雲「いいわよ。今回はただの停電だったし。非常用電源がちゃんと生きてることが分かって良かったくらいよ」
男「電力のほうは大丈夫なのか?」
叢雲「システムの問題だったからすぐ復旧するわ」
男「そりゃよかった」
叢雲「大変なのはここからだけれどね…トラブルはトラブル、上に報告書出さなきゃだから」
男「作戦中なのにか」
叢雲「なのによ」
男「つまりわざわざここに来たのは」
叢雲「半分現実逃避」
男「どうりで」
叢雲「でもう半分がこれ」
男「それは?」
叢雲「スピーカー。今回は平気だったけれど緊急時は放送が流れるのよ。でもここにはスピーカーを設置していなかったから」
男「停電でも平気なのか?」
叢雲「緊急時の対策だから別になってるわ。それにこれは予備というか、応急処置だから乾電池式」
男「防災グッズってわけだ」
叢雲「まさにね。裏は太陽光パネルだし横にはライトもあるわよ」
男「無駄、とは言わないが妙に多機能だな」
叢雲「あって困るものじゃないでしょう?そうね、部屋の窓に近い所に置いておいてちょうだい」
男「わかったよ。ありがとう」
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