【艦これ】神風「最初の一人」

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450 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 04:53:45.25 ID:vgJpznfL0
眺めているとなんとなく二機の違いがわかってきた。

オレンジはともかく暴れている。獲物を前にした猛獣のようにひたすら青に食らいついていく。

一方青は冷静だ。最低限の動きで猛攻を躱している。

だが二機の本質は恐らく逆だ。

青は一度躱し攻めに転じると途端に動きが激しくなる。獰猛と言ってもいいようなそんな何かが感じられる。

オレンジは躱されると途端に動きが鋭くなる。それまでの激しさが嘘のように、自分に食いついてきた相手を冷静に狩るような雰囲気があった。

『わかるの?』
男『オフォア!?』ビクッ

右後ろから急に声がした。空に夢中になっていたので驚いて妙な声が出る。

不思議な声だった。

右耳に入ったそれは確かに声だったがしかし気づかなければそのまま左耳から出ていって何も残る事がなく消えていく、そんなそよ風の様な声だった。

少し心を落ち着けてから振り向く。
451 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 04:54:42.67 ID:vgJpznfL0
その少女は一階の窓の縁に組んだ両腕を乗せそれを枕に空を見つめていた。

セミロングで太陽の光を内側で反射するような薄く透き通った茶髪。紅白の鉢巻でまとめられた少し長めの前髪がいくらか暖簾のように顔にかかっている。オレンジに近い瞳は俺ではなく空に向けられていた。

純白の弓道着が彼女のその存在の薄さを際立たせているようにも思えた。

男『…』

軽空母瑞鳳、だよな。知識としては合っていると思うのだが空母は実際に目にした事がない艦娘が多い。先程の衝撃もあって確証が持てなかった。

こうして目線の高さが一緒になってはいるが瑞鳳という艦娘の背丈は随分と小さかったはずである。

瑞鳳『アレ、見えるの?』

相変わらず俺の方を見ずに質問を続ける。

だがいつかの川内とは違うように思えた。

川内は、いや川内に限らず俺と一線を引いている者は多い。嫌いという感情だけでなく深入りはしないという意識からそうするのだろう。それは別に珍しくもない。

だが彼女は違う。そう確信できた。きっと瑞鳳にとって俺と目を合わせることと空を見つめることに大差は無いのだ。

もし瑞鳳がこちらを向いていたとしても恐らくその目は今空を見つめるオレンジの瞳と同じ、焦点の合わないぼんやりとした形になっていただろう。

何故だかそう思えた。不思議とそう感じた。
452 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 04:55:15.64 ID:vgJpznfL0
男『オレンジと青だろう?さっきからあれを見ていたんだ。演習かい?』

瑞鳳『…ふーん、そっかぁ。そうね、演習よ』

男『初めて見るよ。こういうのは』

瑞鳳『青が烈風、オレンジが紫電改二』

男『えっと、艦上戦闘機だよな』

瑞鳳『そ。オススメは零式の三二型』

男『艦載機には疎くてな』

瑞鳳『お好みは?』

男『強いて言うなら水上機かなぁ』

瑞鳳『そっち派かぁ』



沈黙が訪れる。

なんだ、何だこの状況?

明日の天気を気にする乙女のように空を見上げる瑞鳳とそれに並んで壁にもたれかかりながら空を見上げる俺。

別に何も問題は無いはずなのにこの沈黙が妙にきまずい。上司に呼び出された上に目の前で無言だった時と同じくら緊張してしまう。
453 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 04:55:53.38 ID:vgJpznfL0
瑞鳳『普段はしないのよ、ああいう演習は。艦載機の訓練ならもっと他にあるもの』

男『これに載ってたよ。俺には少し難しかったから流し読みだったが』

瑞鳳『それは?』

ここで初めて瑞鳳が俺の事を見た。相変わらずぶれたままのオレンジの瞳が光るその小さな顔は無表情だった。

男『飛龍から借りたんだ。こういう知識はいつか役に立つかもと思ってな』

瑞鳳『あー指南書。勉強熱心ね』

男『仕事だからな』

瑞鳳『うそ』

男『…本当だよ』

瑞鳳『ふーん』

瑞鳳がまた空を見上げる。

再びの沈黙。
454 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 04:56:24.34 ID:vgJpznfL0
瑞鳳『どうしてここに?』

男『飛龍と約束しててな。これを返しに来たんだが一向に現れなくて』

瑞鳳『そうね。まだ飛んでるもの』

男『あぁ、ん?飛んでる、ってまさかあの艦載機…』

瑞鳳『オレンジが蒼龍、青が飛龍よ』

男『色逆なのか…でも演習があるならそう言ってくれれば』

瑞鳳『二人とも熱くなってるだけよ。たまにああしてずっと二人で飛び回ってるの』

男『つまり俺はすっかり忘れられてるだけか』

瑞鳳『そ』

瑞鳳に習って俺も空を見上げる。

青の方から煙が出ていた。決着はもう少しで着きそうだ。
455 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 04:57:08.91 ID:vgJpznfL0
瑞鳳『それ、私が預る?』

男『ん?』

瑞鳳『あの分じゃいつ戻ってくるか分からないもの』

男『そうか、そうだな。そうしてくれるならありがたい』

瑞鳳『なら』スッ

組んでいた腕を解き右手をこちらに伸ばしてくる。

飛行機の翼に纏う飛行機雲のような振袖が腕のラインをくっきりと露わにしていた。細くて、そして思ったよりも長い腕だった。

男『頼んだよ、瑞鳳』

マニュアルを手渡す。しかし何故か瑞鳳はそれを掴まなかった。
456 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 04:57:38.86 ID:vgJpznfL0
瑞鳳『…』

男『?』

瑞鳳『もう一回』

男『え』

瑞鳳『もう一回言って』

なんで?言う、何を言う?頼み方か?頼み方がダメだった?

男『えっと、お願いします』

瑞鳳『そうじゃなくて』

何がそうじゃないんだ。表情が読み取れない。怒ってはいないようだが。

男『頼みます、瑞鳳、さん?』

瑞鳳『…』

え、怖い。パワハラ上司か?無表情による圧が凄い。

心臓がすげぇバクバク言ってる。

瑞鳳『ありがと』パッ

しかし瑞鳳はそう言うとマニュアルを受け取り素早く顔を引っ込めてしまった。

背中を目で追うことも呼び止める事も出来たがしなかった。勝手に部屋を覗くのも悪いし。

それに
457 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 04:58:58.43 ID:vgJpznfL0
男『いい匂いだったな』

いや、この言い方は違うな。表現が違う。というかマズい。変態か俺は。

そういうのではなく、なんだろう、空気というか、雰囲気だろうか。

いなくなって初めて気づいた。彼女が漂わせていた空気。

どこか落ち着くような、それでいて心臓の鼓動が高鳴るような。表現に困るが、その懐かしさだけははっきり覚えていた。

俺が艦娘に憧れるようになったきっかけ。かつて同じような体験をして、俺は艦娘に惹かれたんだ。

これに触れたくて、憧れたんだ。提督に。
458 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 04:59:36.89 ID:vgJpznfL0
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秋雲「なんかあったの?」

画面の向こうから秋雲が問いかけてくる。

俺の画面には資料しか映っていないが秋雲はこのPCのカメラから俺の表情を見ているようだ。

こちらも画面を切り替えれば今秋雲がどんな表情をしているかは見れるが、それをしたら負けな気がした。

男「何も無かったよ。ただ会って少し話しただけだ」

部屋に戻って俺は瑞鳳の資料を漁った。空母に関する知識が足りないと感じたのと、単純に気になって仕方なかったからだ。言わないけど。

秋雲「でもめっちゃ乙女な顔してるよ?」

男「…なんだよ乙女って。馬鹿にしてんのか」

秋雲「おちょくってはいるけどね〜。でも質問はマジよ」

男「だから別に何も」

と言いかけたところで廊下から音がした。

何時もの騒音が。

男「一旦切るぞ」

秋雲「あいは〜い」
459 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 05:00:08.82 ID:vgJpznfL0
『課長ッ!!』

スリープボタンを押したところで扉のノブに思い切り負荷がかかった音がした。

壊れたろこれはと思ったがどうやら無事だったようだ。

PCのスリープを確認してからドアを開ける。

案の定ヤツがいた。

飛龍『生きてる!?』

男『とりあえず一旦落ち着け?な?』

滅茶苦茶焦っているらしい飛龍を前に逆に冷静になって来た。何やってんだこいつ。
460 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 05:00:45.88 ID:vgJpznfL0
男『で、何があったんだ』

飛龍『何があったというか、何も無くて良かったというか』

男『意味がわからん。それよりも俺に言う事があるんじやないか?』

飛龍『言う事?えっと、ドア壊しかけてごめん?』

男『それは叢雲に言え。そっちじゃなくて、今日は随分と熱心に演習してたらしいじゃないか』

飛龍『あ゛、あはは〜』

男『別にそれは構わないんだが、せめて事前に言ってくれ』

飛龍『ごめんごめん今度埋め合わせするからぁ。ってそうじゃなくて!』

男『おう?』

飛龍『課長、瑞鳳に会ったってホント!?』

男『ホントだが、瑞鳳からマニュアル受け取ったろ?』

飛龍『それで!何もされなかった!?』

男『はあ?別に何も無かったが』

なんだ?何か危険な事だったのか?瑞鳳という艦娘にそんな危険性があるようなデータはなかったが。
461 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 05:01:20.91 ID:vgJpznfL0
男『一体なんの話をしてるんだ』

飛龍『んーっと。課長はさ、私達空母が艦娘の中でも特殊だってのは知ってるわよね』

男『あぁ、艦載機だろ?』

艦娘は不思議な力を持っている。不思議な力としか言いようがないくらいの力を。

それは例えば海に浮くだとか推進力、爆発力や耐久力だとか艤装の操作だとか、様々な物理法則を無視する物だ。

しかしその力にも制限がある。そのひとつに自身にしか力を使えないというものがある。

艦娘はどうしたって俺を海に浮かせることは出来ないのだ。

だが艦載機に関しては少しは違う。明確に船とは別の物でありながら操ることが出来る。艤装のようにどこからともなく取り出すことが出来る。視界の共有が出来る。

そして艦載機を搭載できる艦娘自体は数多くいるがその中でもそれに特化した空母という艦種は特殊なのだ。

男『宿舎なんかが離れているのもそうだと聞いてる』

飛龍『流石にそこら辺は知ってるか。話が早いっ』
462 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 05:01:58.91 ID:vgJpznfL0
飛龍『私達空母はね、なんてゆーかこう、第六感?的な?そういう外向きな力というかさ、そーゆーのが大なり小なりあるわけよ』

男『第六感か。艦娘の中でもそういう認識なんだな』

飛龍『まあね。私達からしたら当たり前なんだけど、他の娘達からしたらこっちが変だって言われるわけよ』

男『それが何か関係してるのか?』

飛龍『このシックスセンスね、個人差があるのよ。と言ってとこれの強さは艦娘としての強さには直接関係なくて。ボクサーが幽霊見えてもしょうがないでしょ?』

男『そりゃ確かにな。後なんでシックスセンスって言い替えた』

飛龍『カッコイイから。で、このシックスセンスなんだけどづほちゃんすっごく強いのよ!』

男『…ほう』

飛龍『なんて言うかなぁ。見えてる世界が違うのかなぁ?普段は別に何も感じないんだけど、ふと目を合わせて話してる時に気付くのよ。

あ、この娘と私は見えてるものが違うって。

目を合わせてるはずなのに目が合ってないというか…ごめん意味わかんないねこれ』

男『いや、分かるよ』

まるで自分の事のように。

飛龍『そう?づほちゃん自身は別に人間を好きでも嫌いでもないって感じなんだけど、そういうわけのわからない所があるからさ。なんか人を取って食ったりしそうというか』

男『おいおいいくら何でもそりゃないだろ』

飛龍『それは分かってるけど!けど、本当に分からないのよ、あの娘』
463 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 05:02:29.66 ID:vgJpznfL0
男『この通り何も無かったよ』

飛龍『だからまあ私の杞憂に終わったってことね』

男『そんなに心配だったのか』

飛龍『なんでかね。直感が告げて、シックスセンスが告げてたのよ!』

男『第六感でいいと思うんだけどなぁ』

心配か。この場合心配だったのは俺ではなく瑞鳳の方なのだろう。

飛龍『まあいっか。マニュアルありがとね』

男『心配なら瑞鳳に直接聞いてみればいいんじゃないか?』

飛龍『えー聞にくいじゃーん。私が何を心配してるのかとか多分伝わんないし。一応それとなく話はしてみるけど』

男『それもそうか。あ、ドアはそっと閉めろよ』

飛龍『分かってるって』
464 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 05:04:33.56 ID:vgJpznfL0
男『そういや演習は結局飛龍の負けだったのか?』

飛龍『え!なんで分かったの!?』

男『瑞鳳が教えてくれたよ。青が飛龍だってな』

飛龍『うわめっちゃ恥ずかしい…でも通算なら私勝ち越してるから!強いから!』

男『なら次やる時は観戦させてもらおうかな』

飛龍『よぉうし特訓だ!てわけで私は、ん?青って?』

男『艦載機だよ。青が飛龍でオレンジが蒼龍だって。青は最後らへん煙噴いてたからな』

飛龍『あーづほちゃんが言ってたのか、だから色なんて。それじゃまた』

男『おう』

ドアをそっと閉めたあと廊下をダッシュしていく。この後特訓とやらをするのだろう。
465 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 05:05:15.44 ID:vgJpznfL0
秋雲「やっぱ何かあったんじゃん」

男「うわっ!あれ、スリープにしたはずじゃ」

秋雲「それはそっち側の画面操作を閉じてるだけで私の方は動かせるの」

男「そうだったのかよ」

秋雲「で、づほちゃんと何があったのかしらあ?」

男「話してただけだって。それは嘘じゃない。妙な雰囲気を感じたりはしたけど」

秋雲「それがシックスセンスってやつ?」

男「かもな」

秋雲「艦娘にも色々いるのねぇ」

男「まったくだ」

秋雲「…惚れた?」

男「お前らには惚れっぱなしだよ。昔からな」

秋雲「あはは、ヒューかっこいぃ」

男「そんなんじゃねえって」
466 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 05:05:53.43 ID:vgJpznfL0
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叢雲『はぁ』

間宮がやけに賑わっているので覗いてみるとどつやら賭けが行われていたようだった。

それ自体は別に咎める事では無かったのだけれど、問題はその賭けの対象だった。

演習。しかも蒼龍と飛龍の一騎討ち。

叢雲『まぁたやったわねあの二人』

今日の演習はあくまで艦載機を使った艦隊防空の訓練だった。しかしその後二人は勝手に試合を始めた。

弾薬ボーキ燃料。二人分など微々たるものだが許可なく使用するというのは問題だ。しかも前科…何犯だったかもう覚えてないわね。

皆も上空を飛びまわる予定にない一騎討ちを見てまたあの二人だと賭けを始めたらしい。

谷風『二人ならそのまま寮に戻ったよ。間違いないね。何せ賭けの結果を確かめる為に見に行ったもんだからさ』

嵐『落ち込んだ飛龍さんと満面の笑みの蒼龍さんが並んで歩いてたよ。語るに落ちるってやつだったな』

との証言が得られた。

というわけで空母寮。

叢雲『加賀がいたら巻き込んで説教してもらおうかしら』

常習犯を相手にどう切り込むかを考えながら入口の戸を開ける。
467 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 05:07:00.38 ID:vgJpznfL0
『本当なの!?』

叢雲『…あら』

『あ、叢雲』

それはあまりにも意外な光景だった。

いつも通りのふわふわとした様子でこちらを向く瑞鳳と、深刻な顔をして声を荒らげる加賀がいた。

加賀『ッ!…ごめんなさい、少し冷静ではありませんでした』

瑞鳳『それはいいけど、どうする?』

加賀『詳しくは後で聞くわ。それで叢雲、何か用かしら』

叢雲『用はあったんだけれどね。悪いけど優先順位が変わったわ。何かあったの?』

加賀はあまり感情を表に出さない、ということは無い。むしろめちゃくちゃ表に出る。顔には出ないけど。

だからこそ意外だった。

MVPを取って涼しい顔でステップを踏んでしまっている時も、ミスをして何食わぬ顔をしながら箸を動かす手が止まっている時も、仲間を傷つけられて澄まし顔で手にした弓をへし折らんばかりに握りしめている時も、

声を荒らげるなんてことは殆どなかった。
468 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 05:07:32.69 ID:vgJpznfL0
加賀『…』

瑞鳳『いいんじゃない?別に話しても』

あまりにも対称的な二人の反応に事の重大さを測りかねる。瑞鳳はこういう時でも本当にブレない。

加賀『…あの人間の話しよ』

課長。そう呼ばれている、あの男。人間嫌いな加賀が言うのだからよっぽどの事だろう。

叢雲『その話、ここで出来るかしら』

瑞鳳『あ!じゃあ私のお部屋来る?夕方まで私だけだし』

頭の中でスケジュールを漁る。そうだ、同室のメンバーは5:30まで護衛任務の予定だ。

叢雲『そうね』
加賀『お邪魔しましょう』

瑞鳳『じゃぁ先行ってて。私お茶とお菓子持っていくから』

叢雲『あー、うん、お願い』

完全に遊びに誘う感覚のようだけれど、大丈夫よね?これ、シリアスな話なのよね?
469 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/10/25(日) 05:10:48.94 ID:vgJpznfL0
無印瑞鳳の右手の振袖がクシャッとなってる感じが非常にえっち

決して初めて嫁を書くから色々悩んで一ヶ月も経ったとかじゃないんです本当です。
異色度で言えば潜水艦がぶっちぎりだと思いますが以前別のお話で触れたので今回は出てこないと思います。
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/25(日) 05:19:12.08 ID:XFsnfJgDO
おつおつ
なんか面白い展開になってきた
浮世離れづほってなんかいいな…
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/10/25(日) 13:20:08.95 ID:B9+e88VHo
乙でした
そこまでは見えないのかな本来は
課長さん、なんで提督やってないのだろう
472 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/11/23(月) 05:04:41.07 ID:gL4z5twS0
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瑞鳳の部屋は基本的にシンプルだ。生活に必要な最低限のものだけが置いてある。

ガラス張りの棚と艦載機の模型意外は。

加賀『あら、これは…』

加賀が作業机の上にあったものを眺めている。

叢雲『また新しい模型?』

加賀『スピットファイアね。MK.1かしら。こういうのはあまり詳しくはないのだけれど』

瑞鳳『お待たせー。あー!加賀さんそれ作り途中だからね!お触り厳禁です』

加賀『ふむ、これはなかなか。でも貴方にしては珍しいわね』

瑞鳳『脚はあんまり好きじゃないのよ。好きじゃないんだけどぉ、頭の部分が可愛くてぇ、つい』

加賀『あぁ、なるほど』

瑞鳳『オラついてるように見えて可愛い所もある感じがいいのよ!』

叢雲『はいストップー艦載機トーク終わりー』

砲塔や魚雷、電探など艦には様々な装備があるが艦載機程バラエティに富んだものは無い。

そのせいもあってか多くの空母は艦載機に対するこだわりというか並々ならぬ情熱を持っている。
473 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/11/23(月) 05:06:26.30 ID:gL4z5twS0
叢雲『で、何があったわけ』

丸テーブルを三人で囲む。お茶とお菓子でいざ女子トークといった様相だが恐らくそんな話ではない。

加賀『叢雲がここに来た理由ですが、飛龍と蒼龍の件で合ってますよね』

叢雲『えぇ、その通りよ』

教科書に乗せられるくらい綺麗な正座をしてこちらを向く加賀は完全に仕事モードだ。

加賀『あの試合は私も見ていました。瑞鳳も見ていたそうですし、他にも多くの娘達が見ていたでしょう』

瑞鳳『ぅんぅん』モグモグ

一方綺麗に正座こそしているがお菓子を頬張りながら頷く瑞鳳はいつもと変わらない様子だ。まあこの娘はこうじゃない時が珍しいのだけれど。

加賀『それをあの人間も見ていたんです』

叢雲『課長が』

見ていた、という事自体はそれほど不思議なことではないはずだけれど。
474 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/11/23(月) 05:08:20.86 ID:gL4z5twS0
瑞鳳『私はね、最初机で模型作ってたの。そしたら空が暖かかったからなんだろーって思ってそこの窓のとこにいったのよ』

叢雲『それはいつ頃?』

瑞鳳『ん〜時間はわかんない。でも多分二人が飛び始めた辺りよ。それで窓は開けてたから空を見てみようとしたらね、すぐ横に課長さんが居たの』

この部屋は一階の奥にある。もし外に誰か立っていたなら丁度窓の辺りに見えるだろう。

瑞鳳『まあ別にあの人に興味はなかったから無視するつもりだったのだけれど、近寄ってこう並んでみたらね、分かったのよ。あー見えてるんだなって。アンテナある感じだったもん』

叢雲『見えてる?艦載機の事?』

瑞鳳『そう、とも言うかな?青とかオレンジとか』

青にオレンジ?機体の色かしら。

ともかく課長も艦載機を見ていたって事よね。それほど高度は高くないはずだし別にそれも特に不思議な事ではないと思うけれど。

瑞鳳『それで話しかけてみたの。そしたら飛龍に借りた本を返しに来たって。だから私がその本を受け取って飛龍に返したの』
475 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/11/23(月) 05:09:55.42 ID:gL4z5twS0
叢雲『それで、その。何が問題だったの?』

瑞鳳『ん?あの人にも見えてたってとこが』

叢雲『艦載機なら別に誰にでも見えるじゃない』

瑞鳳『ぅうん。見えてたのはそっちじゃなくて。なんて言うかなぁ、本来形の無い力の形を保つ為の構造力、構想力?あるいは指向性の存在しない意志を飛ばすための意志力かなぁ』

叢雲『!?』バッ

いっぱいいっぱいなので助けを求める為慌てて加賀の方を向く。

何もこれだけじゃない。空が暖かいとかアンテナがどうとか色々と理解の限界を超えてるのよさっきから!

加賀『…残念ながら瑞鳳の言っていることは全て本当です』

叢雲『う、嘘でしょ』

瑞鳳『本当だってばぁ!』プンスコ

加賀『ねぇ叢雲。今回の問題、私と瑞鳳の二人がという点でなにか思い当たりませんか?』

叢雲『二人…!』

そうだ。以前に

バタン

飛龍『づほちゃーんちょっと訓練のギャァアアア!!??』ビクッ

叢雲『あ』

問題児と目が合った。

飛龍『アディオス!』ピュー
叢雲『待てコラ!』
476 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/11/23(月) 05:10:50.75 ID:gL4z5twS0
加賀『先に飛龍からでいいわよ』ハァ

瑞鳳『ひりゅーなんかしたの?』

加賀『勝手に試合』

瑞鳳『あ〜あれ無許可だったのかぁ』

叢雲『でも』

加賀『私達の話自体は先程ので全てですから』

叢雲『ま、急を要するのは確かに飛龍達のほうだけれど』

加賀『だから私からは一つだけ。あまりこういうことに私見を述べるのは良くないとは思いますが』

叢雲『構わないわよ』

加賀『あの人間は危険よ。悪意等の有無ではなく存在が、という意味で』

叢雲『…一応聞いておくわ』

瑞鳳『私も賛成』

加叢『『え』』

思わず声が重なってしまった。まさか瑞鳳が今の意見に同意するなんて。

瑞鳳『殆ど事故みたいな話だけど、やっぱり灯台がいくつもあるのは危ないと思うのよ。私は嫌いじゃないけどね』

叢雲『?』

加賀『そう』

あ、これフォローないやつね。

叢雲『じゃあ行ってくるわね。お菓子ありがとね』

瑞鳳『またね〜』ノシ
477 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/11/23(月) 05:11:37.67 ID:gL4z5twS0
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瑞鳳と加賀。

一見特に繋がりのない二人だが意外な共通点がある。

元は噂だった。

艦娘にも噂はある。

一応世間的には他の鎮守府の艦娘との交流はせいぜい演習くらいなもので基本的に各々自分の鎮守府からは出られないということになっている。

いるが、実際は違う。

護衛する船のいる港や遠征先、担当海域を超える際に護衛を他の艦隊に引き継ぐ時や海でたまたま遭遇する時。

他の鎮守府の艦娘と出会う時は頻繁ではないがそれほど珍しくもない。

そしてそんな時、本来業務的な連絡しかしない事になっているがまさかそれで終わるわけもなく、私達は貴重な交流をしているのだ。
478 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/11/23(月) 05:12:44.16 ID:gL4z5twS0
噂は文字通り海を流れる。

護衛の際に会うのは比較的近い鎮守府の艦娘だが遠征や出撃時に出会う場合はかなり遠くの鎮守府の艦娘にも出会える。

そんな時私達は可能な限り話をする。

世界情勢や愚痴や趣味、そして色々な噂を。

私達にとってそれは最も刺激の強い娯楽と言える。

夕餉に他の艦娘と話したなんて娘がいようものならまるで尋問でもしているのかと言うほど皆集まり根掘り葉掘りその内容を聞いてくる。

そんな漂う噂にあったのだ。

数年前。"艦娘の、特に空母に特別不思議な感覚を持った者が稀にいる"という噂が。

確か最初に聞いた時は第六艦覚(ships sense)とかいうクソダサい名前があった気がする。ウチでは流行らなかったけど。

元々艦娘は不思議な存在。自分達ですらそう自覚している。だからこの噂は妙な信憑性がありそれがみんなの興味を引いた。

でも噂は一年も経たずにピタリと止んだ。
479 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/11/23(月) 05:13:40.06 ID:gL4z5twS0
実在したからだ。

その広まった噂に、あぁ自分のコレはきっとその噂のモノと同じだと、そう名乗り出るものが次々現れたそうだ。

実在してしまっては噂も何も無い。

そしてそれこそがこの鎮守府では瑞鳳と加賀だった。

叢雲『これね』

廊下を歩きながら端末を操作する。以前加賀から提出された報告書だ。

一時はどうなる事かと思ったけれど日常生活にも戦闘にも寄与しないこの不思議な感覚にお偉方も「あー不思議だね。でも艦娘だしね」程度の反応しか示さず何も分からないまま今まで放置されている。

まあ今更不思議の一つや二つというのは確かにその通りだけれど。

"コレ"というのは大体が普通は感じないものを感じるという内容だった。

見えないものが見える。

感じられないものが感じられる。

それが、課長もそうだというの?
480 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/11/23(月) 05:14:45.87 ID:gL4z5twS0
提督になれる条件のひとつは私達と話せるという事にある。

私達の声が聞こえて、私達に声が聞こえる。

司令官も普通に話していても艦娘にその言葉が伝わる。

でも課長は私達の声こそ聞こえているようだけれど、私達に聞こえる言葉は言うなればカタコトだ。

聞こえると言うよりどうにか聞こえるように話している感じ。そんな事が出来る人間は初めて見たけれど。

だから資質としては司令官の半分というか、中途半端な感じだと思っていた。

それでも普通の人間とは少し違うのだろうから何か見えるとかそういう事があっても不思議ではない、のだろうか。

叢雲『でも加賀の忠告なのよねぇ』

加賀の人間嫌いは相当なものだ。本人も私見と言っていたが実際それは入りまくりだろう。流石に気にし過ぎだとは思うけど。

ま、課長に対しては今まで通りそれなりに警戒って事で。
481 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/11/23(月) 05:16:53.40 ID:gL4z5twS0
叢雲『ただいま〜』

提督「あぁお帰り」

叢雲『あら、珍しく忙しそうね』

提督「これだよ」

叢雲『深海棲艦…出たの?』

提督「お陰で航路変更やらなんやら」

叢雲『って事は予定組み直しかぁ』ガックリ

提督「何時でも出撃出来るようにもしとかなきゃだしね」

叢雲『飛龍にも話とかないと』

提督「そう言えばさっき艦載機が飛んでたけど、また飛龍達かい?」

叢雲『えぇまたよ、また』

提督「元気だねぇ。今回はどっちが勝ったんだい。僕にはどっちも同じような緑色の機体にしか見えないからね」

叢雲『あぁそれなら…司令官も見てたの?』

提督「うん。あ、いや、サボってたわけじゃなくてね」

叢雲『そうじゃなくて、何が見えたの!』

提督「え?だからなんか飛んでるなって。僕はほら、艦載機あんまり詳しくないからさ。違いとかこの距離じゃ分からないよ」

叢雲『そう…』

提督「?とりあえず民間船にはあらかた連絡したから問題は輸送船だね。こっちの方頼むよ」

叢雲『えぇ、任せなさい』

頭の中でスケジュールを整理しながら窓の外を見る。

大分気温が上がってきた暖かな空を見ながら、少しゾッとした。

あの男、一体何が見えたのだろうか。
482 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/11/23(月) 05:19:04.31 ID:gL4z5twS0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

緋色『課長さん、何か好きな歌ってあるかしら』

訓練から戻った緋色がふと話しかけてきた。

男『好きな歌?んー流行りの曲とか有名なのは知ってるけど、これといって好きってのはないかなあ』

緋色『そっかぁ』

男『なんでまた』

緋色『今日訓練中にね、江風が歌ってたのよ。航行しながら』

男『ほほう、歌を』

緋色『とっても上手だったからどうして歌を?って聞いたの』

男『そしたら』

緋色『これは挨拶のために練習してるんだって』

男『あいさつ?』

緋色『海上で他の艦隊とすれ違う事があるって言ってて、すれ違うと言っても距離はすごく離れてるらしいんだけど』

何も無い広大な海の上ですれ違うとは具体的にどの距離からなのだろうか。目視できる距離とかか?

緋色『余裕がある時は通信したり直接話をしたりするらしいのだけれど、そうじゃない時。数分で別れてしまう時に歌を贈るらしいの』
483 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/11/23(月) 05:21:30.24 ID:gL4z5twS0
男『歌、か』

そういえば歌は艦娘でも人間でも聞こえるんだったな。しーちゃんが音楽関係のイベントなんかから活動を始めたのもそれが所以だったはずだ。

緋色『サビだけだったり前半だけだったり、ともかく相手に歌を贈るって言ってたわ。中には海外の歌を聞いた娘もいるらしいわよ』

男『艦娘の文化ってわけか。初めて知ったよ』

緋色『それでね!私も歌を練習してみようかなって思ったの』

男『緋色は何か知ってる歌は…あ』

緋色『民謡とかいくつか思い浮かぶものはあるのだけれど、他には、なんでか…あまり…』

しまったと思った時にはもう遅かった。記憶を探るような仕草をしたかと思うと緋色の身体がグラりと揺れる。

緋色『ぁ』
男『うお!』ギュッ

倒れかけた緋色をどうにか支えてベットに寝かす。

男「はぁ…迂闊だった」

しかし歌かぁ。後で秋雲にでも聞いてみるか。

きっといつか緋色も海の上を歌いながら駆けていくのだろう。

でもそれだけじゃない。緋色はまだそれを知らない。俺だってそれがはたしてどんな世界なのか知りはしないのだから。

あの青い世界は戦場なんだ。

横たわる緋色を艦娘だと理解していてもそんな世界を知らずにいて欲しいと願わずにはいられなかった。

緋色の髪をそっと撫でてみる。

男「子守唄の一つでも歌えればなぁ」
484 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2020/11/23(月) 05:26:41.49 ID:gL4z5twS0
月イチとかマジかよ

来月からはもう少しペース上がるはず。
瑞鳳は一時期特攻パワーでとんでもダメージ連発していた印象が強いので何かそっち系の感覚というかがぶっ飛んでるというイメージになりました。
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/23(月) 13:12:10.84 ID:CSVd8msjo
おつおつ
艦娘同士の掛け合いほんと好き
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/11/24(火) 02:52:52.68 ID:VSDxUMYDO
おつです
ひとつの鎮守府でダブスタになりかねないという事かな…
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/02/17(水) 15:44:44.93 ID:rEJ+boZE0
そろそろ来てくれ...
488 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:46:44.27 ID:3gV1RL+U0
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提督「貴方も見ていたんですか」

男「えぇたまたま」

提督「あれ一応ルール違反なんですよね」

男「え、そうなんですか」

提督「空も警戒対象ですから。事前通達のない飛行は混乱を招くので本来禁止なんですよ。ここは空の脅威が薄いので大目に見てますけど」

コーヒーを飲みながらいつもの夜の報告会。私はミルクだけど。

正直毎日やるほど報告する内容もないのだけれど、こうして課長と交流するのを目的としてやっている部分がある。

普段外の世界と接点のない私や司令官にとって彼は貴重な存在だ。実際司令官も殆ど彼との会話を目的にこの時間を当てている所がある。

まあ私もだけれど。

単に外の情報が欲しいわけじゃない。そんなものは今時ネットでいくらでも手に入る。

この場合貴重なのは外の世界の価値観だ。

叢雲「大目に見るなって私は言ってるのだけれどねぇ」

提督「まあまあ。あの二人だって超えちゃいけないラインは弁えてるよ」

叢雲「いや普通に考えたらそのラインは既に超えてんのよ」

提督「え」

叢雲「え、じゃないわよ」
489 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:47:27.71 ID:3gV1RL+U0
提督「今緋色ちゃんは?」

男「寝てますよ。何か歌を知らなかと聞かれて
思わずこちらから聞き返したらパタリと」

提督「歌?」

男「艦娘は海で歌うという話を聞いたらしく」

提督「あぁあれか。そんな話もしてたとは、随分皆とは仲良くなっているようで安心しますね」

男「えぇ」

あぁそういえば、司令官にとっては貴重な同性の相手でもあるのかしら。私達がはたして異性と見られているのかは知らないけれど。

でも私は彼と穏やかに話せる気はしなかった。

彼の何かが見えているという事実。加賀の忠告通り警戒する他になかった。

叢雲「それと明日の訓練なのだけれど、少し予定を変更してもいいかしら」

男「変更?」

司令官「教官役を変更せざるを得なくなったんですよ」

男「勿論その辺はそちらの都合に合わせてもらって構いませんけれど、何かあったんですか?」

叢雲「深海棲艦が出たのよ」

男「!」

提督「と言ってもあくまでここの担当する海域付近で見かけた、という程度です。危険なレベルではまだない」

叢雲「いくら制海権を取り返した海域と言っても海は奴らのホームだもの。こうして発見された以上警戒レベルは引き上げる他ないのよ」

男「それで予定変更と」

提督「一般人を乗せた交通のための船は欠航。運搬のための船は迂回したり日時をずらす事になるので、こっちの予定も大きく変わるんですよ」

叢雲「もぉ大変だったのよ今日…というか今日からしばらくなんだけれどね…」

男「そういった苦労もあるのか…」
490 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:48:12.42 ID:3gV1RL+U0
提督「ま、ここに危険が及ぶことはないので安心してください」ハハハ

叢雲「やめてよフラグみたいな事言うの」

男「フラグ?」

提督「いえ、気にしないてください」

叢雲「あぁ、それで明日の教官役なのだけれど」

課長を見る。いつもと変わらずリラックスした感じで座っている。

さぁ、どんな反応を見せる。

叢雲「秋雲に代わってもらったわ」

ピタリ、と課長の動きが止まる。

一瞬。こうして意識して観察していなければ気にもとめないほど僅かに。

だがだからこそハッキリとその硬直が私には見えた。

男「ほぉ。秋雲ですか」

そう言って机のカップを手に取る。まだコーヒーの残るそれをしばらく意味もなく揺らしてまた机に置いた。

人は中々意図してリラックス出来ないものだという。落ち着かなくてはならない時じっとしているのではなく何か他のことをしようとしてしまう。

課長は分かりやすく動揺していた。
491 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:48:49.02 ID:3gV1RL+U0
提督「秋雲なら緋色ちゃんともすぐ馴染めるでしょう。と、それは知ってますか」

とはいえ司令官には何も違和感を覚えさせない程度の行動でもある。でなければ私が困る。

男「まあ、他の鎮守府でも会いましたから」

部下である事は依然隠したまま、か。

叢雲「暇が出来たら私も覗きに行ったげるわ」

提督「暇、暇かあ。暇が出来たらいいね…」

叢雲「ホントにね…」

男「…お疲れ様です」

そんな感じで今晩の報告会は終わった。
492 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:49:26.53 ID:3gV1RL+U0
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叢雲「どうだった?」

提督「何がだい?」

叢雲「課長の様子」

提督「んー?別に何もないけど、何かあったの?」

叢雲「ないならいいわ」

提督「まあたそうやって警戒して。少しは気を抜きなよ」

叢雲「そんなんじゃないわよ。さて、もう一仕事よ」

提督「その前に、コーヒーお代わりいいかな」

叢雲「はいはい、ミルクは?」

提督「多めで」

叢雲「たまには苦いのも飲むべきよ」

提督「甘さは大切だよ」
493 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:50:02.24 ID:3gV1RL+U0
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男「ま、そんな感じだな」

秋雲「ん〜進展ないね〜」

いつもの報告会の後、自室でもいつもの報告を行う。

男「そろそろ別の方法を考えないとな」

秋雲「戦闘訓練じゃない?やっぱ」

男「それは…」

秋雲「緋色ちゃんがどうにもその手の話題が苦手そうなのはわかるよ。でもこのままじゃダメなのは確かでしょ」

男「でももしかしたら「私を見てそう言えるの」…」

秋雲「別に責めてるわけじゃないの。でも逃げちゃダメ」

男「手厳しいな」

秋雲「ありがたぁく思いなさい」

男「なら締切から逃げるなよ」

秋雲「あれは戦略的撤退だから」
494 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:50:36.42 ID:3gV1RL+U0
男「それじゃ、また明日」

秋雲「待って」

男「な、なんだよ」

秋雲「明日の教官役、私聞いてないけど」

男「…秋雲」

秋雲「私?」

男「秋雲だ。ただしお前じゃないな」

秋雲「あぁ、そういう事」

男「うん」

秋雲「それで黙ってたんだぁ」ニヤニヤ

男「なんだよその顔は」

秋雲「んーっとね、なんか嬉しいのと、ムカつくのと、イラッとするのが混じった顔」

男「つまり怒ってると」
495 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:51:07.79 ID:3gV1RL+U0
秋雲「大丈夫?」

男「大丈夫さ。分かってるよ、お前とは違う秋雲だ」

秋雲「私が、秋雲とは違ったと言うべきかもだけどね」

男「かもな…」

秋雲「課長は大変だねぇ。逃げちゃえばいいのにさ」

男「そうもいかないさ。もう逃げられないよ俺は」

秋雲「優しいねぇ」

男「そんなんじゃねえよ」

秋雲「ううん、優しい」

断言された。

秋雲「優しいよ」ニヒ

楽しそうな顔で。
496 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:51:45.00 ID:3gV1RL+U0
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夕張『ちょぉっと聞きたいこともあるんで今日の午後、工廠来ません?』

次の日の朝、そう連絡が来たので久々に工廠にやって来た。

夕張『じゃん!おニューの訓練用艤装です』

男『これは、夕雲型?でもなんか違うな』

夕張『大正解。陽炎型をベースに夕雲型のを組み込んだ形です』

男『こんなの作れるんだな』

夕張『兵装を積まなきゃ船としての艤装部分は案外どうにでも出来るんですよ。だからあくまで訓練用ですけど』

男『それで、こいつの意味は』

夕張『艤装を変える事で緋色ちゃんに何か変化が起きないかなぁって。だからこれを使用していいか課長さんに確認を』

男『確認は必要ないよ。海の事は専門外だからな。現場に任せるさ』
497 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:52:17.73 ID:3gV1RL+U0
夕張『そう言ってくれると信じてました!では早速訓練中の緋色ちゃんに付けてもらいましょう』

男『いきなり艤装変更しても大丈夫なのか?』

夕張『戦闘するわけじゃないですし平気だと思いますよ。そもそもこれ航行用に組み上げたばっかですし負担になるような要素はありませんから』

男『いや待て待て、組み上げたばっかってそれダメなんじゃ』

確か装備は登録された物でないとダメだったはずだ。

夕張『ふふーん、ルールが適応されるのはあくまで正式に着任した艦娘のみです。緋色ちゃんは書類上浮いた存在なのでセーフ!船だけに!』

男『別に上手くないし笑えない』

夕張『それに今回はちゃんと叢雲も呼んでありますから。課長さんだって何かきっかけが欲しいでしょう?』

男『それはそうなんだが…』

それを言われると弱い。

男『はぁ、仕方ないな』

夕張『よっしでは行きましょう』
498 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:52:50.62 ID:3gV1RL+U0
夕張が艤装の乗ったカートを押す。

男『なあ』

夕張『はいはい?』

男『艤装ってなんで皆そうやって吊るしてあるんだ?』

工廠にあったのもそうだが、この運搬用のカートも艤装を乗せるのではなく四隅の柱にある鎖で吊るして固定する形になっている。

夕張『波風とかの衝撃には当然強く作られてますけど、こうして地上にいる想定はされてませんからね船って』

男『それはそうか』

夕張『卵みたいなもんですよ。縦で割るのは難しいけど横ならあっさり割れます。艤装もこういう地面からの細かな振動で不具合とか出やすいんですから』

男『結構管理大変なんだな。丈夫なものだし、はっきり言って雑に扱ってるものだと』

夕張『色々あるんですよ。調子悪いなーってぶっ叩いて見る事もあれば、地震の揺れで倒れて壊れる事もあります』

男『色々だな』

夕張『色々です』
499 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:53:25.27 ID:3gV1RL+U0
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夕張『おーーいあっきぐもー』

いつもの訓練場所である工廠裏の入江のようになっている港。緋色と秋雲はまさに訓練中だった。

さて、俺はもう

夕張『あれ、戻るんですか?』

男『あぁ…』

そうだ、と言いかけてやめた。

きっと声をかけられなかったら戻っていただろう。でもここで肯定してしまったら自分が逃げていると認めることになる。

まあ逃げ出したくて仕方ないんだが、それでも認めるのはなんだか癪だった。我ながら子供じみた理屈だが。

男『いや、見学していくか』

夕張『折角ですからこいつの感想を課長さんにも聞きたいんですよ』

男『見てるだけじゃないも分からないがな』

夕張『何かありません?特に艦橋とマスト辺りはこだわったんですよぉ。艦橋は陽炎!マストは夕雲のハイブリットです!』

男『分かんないって』

目を輝かせて語り出す姿は秋雲を彷彿とさせる。
500 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:54:02.70 ID:3gV1RL+U0
秋雲『なになに?何の話ぃ?』

男『!?』

いつの間にか桟橋までやって来ていた秋雲がこちらにやってくる。

まるで玄関で靴を脱ぐような気軽さで足に装着した艤装を解除し事も無げに陸に上がった。

夕張『ね!秋雲なら分かるわよね!この煙突部分とか!』

秋雲『あーそういう話しね。うんうんワカルワカル』

夕張『他にもねぇ内部もまだ試行錯誤中だけどこだわっててねぇ』

秋雲『こりゃスイッチ入ってますな〜。ごめんね課長さん、オタクは火ぃ付いたらとまんなくってさ』アハハ

男『あ、ぁあ…慣れてるよ』

秋雲『んあ、そうなの?ならいいけどさ』

意外と小さくて、そのくせ妙に細い。姿勢を正すと首がスラリと長く、腰の位置が高い。

歯をのぞかせ笑う口はいつも大きく、楽しそうな瞳に右のホクロが付いてくる。妙に耳につく特徴的な声が不思議と心地よい。

よく知っている、見慣れている。数年ぶりでも鮮明に思い出せる。
501 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:54:33.36 ID:3gV1RL+U0
秋雲『どったの?』
男『秋、雲』

緋色『ちょっと待ってよ〜秋雲先生ぇ』

緋色がようやく陸に上がってきた。彼女はまだ艤装を背負っているだけで扱いきれてはいない。足の艤装を解除するにもしっかりと固定されたスキーブーツを外すように手間がかかる。

秋雲『あ〜ゴメンゴメン。つい』

脱ぎ終えた艤装を桟橋に綺麗に並べてこちらに向かって

男『え』
秋雲『あ』
夕張『お?』

緋色『あれ?』グラッ

ベチャッ、と言う音がしたんじゃないかと言うくらい綺麗に顔面から転んだ。

男『緋色!?』ダッ

一度廊下で見た光景だがここは桟橋。木の板とは違う。この程度で傷つく身体出ないと分かっていても冷静ではいられなかった。

秋雲『あっちゃ〜忘れてたねこれ』

夕張『大丈夫?一応明石に見てもらう?』

緋色『ん゛〜いったぁぁ…』

男『大丈夫、そうだな。流石艦娘』

緋色『うん。痛いけど、痛いだけよ』グス

涙目だが確かにそれだけのようだった。
502 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:55:04.73 ID:3gV1RL+U0
男『でも何だって転んだんだ?』

段差はない。足や服にひっかけた様子はなかった。いや、

そもそも緋色は転ぶ寸前足を動かしてすらなかった。

艤装を外し、こちらを向き、まっすぐ立って、そしてこちらに来るような素振りを見せてそのまま倒れ込んだ。

秋雲『たまにあるのよこういうの。私も一度経験したことあるのよねぇ』

男『こういうのとは』

夕張『"脚離れ""陸離れ""浮き輪"、とかとか呼び名は色々あるんだけど、要するに歩き方を忘れちゃうんですよ』

男『歩き方を、忘れる?』

秋雲『長時間の海上活動。もしくは海と陸の切り替えになれていないと起こる現象。海じゃ足は踏み出さないからね』

男『それであの倒れ方か。確かに理屈はわかるが』

スキーの後なんか暫く歩く時に変な感覚になるが、それのさらに酷い症状って事だろうか。

緋色『自分でもびっくりしちゃった。立ってるだけなのに前に進んでるつもりで身体が前に出ちゃったもの』

秋雲『それだけ航行に慣れてきた証拠とも言えるわけだし気にしない気にしなぁい』
503 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:55:36.80 ID:3gV1RL+U0
夕張『ちょっと休憩する?』

緋色『ううん大丈夫。それで、その艤装は?』

秋雲『おニューの艤装よ。緋色ちゃんのね』

緋色『えぇ、でも大丈夫かしら』

夕張『同調率は高いし、緋色ちゃん飲み込み早いから問題ないわよ。それにそのために秋雲が教官の日を選んでるわけだしね』

秋雲『装着の仕方は同じ?』

夕張『同じ同じ。違うのはFFCとリングの重さくらいかな』

秋雲『あーそこは夕雲型準拠なのね。オーキードーキー』

夕張『それじゃ早速いってみましょう!』
504 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:56:09.41 ID:3gV1RL+U0
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叢雲「どう?緋色は」

桟橋で秋雲と緋色を眺めていると後ろから声をかけられた。

男「仕事はいいのか」

叢雲「なんとか一段落付いたの。で休憩がてらね」

男「お疲れさま。緋色の方は順調だよ。こうして見る分には」

叢雲「へぇ、流石秋雲ね」

男「最初からあの艤装があるから教官を秋雲にしたんじゃないのか?」

叢雲「アレをいずれ緋色に試そうと考えてたのは事実よ。でも予定がズレて秋雲が今日になったから艤装を急ピッチで完成させてもらったのよ」

男「そういう事か」

叢雲「秋雲が選ばれた理由は分かってるみたいね」

男「陽炎型と夕雲型。そのどちらでもあったって事だろう?」

叢雲「正解」

男「知ってるさ。よく知ってる」

叢雲「ふぅん」
505 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:56:45.08 ID:3gV1RL+U0
叢雲『二人ともー!そろそろ休憩よー!!』

叢雲の号令を受けて二人が戻ってくる。

叢雲『どうだった?』

秋雲『問題なし。でも細かいところで気になる点が幾つかあるのよね〜』

叢雲『夕張に聞いてみれば?』

秋雲『でも今は一応訓練中だし』

叢雲『構わないわよ。調整に時間かかるなら今日の訓練はここまでにしてもいいし』

秋雲『ならそうしよっと。緋色ちゃん、艤装一度ここに戻してもらっていい?』

緋色『はーい』

緋色が慎重に足を一歩踏み出す。

男『今度は大丈夫そうだな』

緋色『足が棒みたい…』

叢雲『どうしたの?』

秋雲『あれあれ、陸離れ』

叢雲『あぁ』
506 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:57:12.22 ID:3gV1RL+U0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

秋雲が艤装を工廠に持っていったのでしばし休憩となった。

緋色『陸離れって何か対策とか、コツってないのかしら』

叢雲『こればっかりは慣れね。後は手で足に触れるとかかしら。海でも手は自由に動かすから』

緋色『なるほど!』

叢雲『とりあえず今は暫く歩いて慣らしていったほうがいいわ』

緋色『はーい』

少しよろめきながら緋色が歩き出す。

男『大丈夫かな』

叢雲『大丈夫でしょ』
507 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:57:41.00 ID:3gV1RL+U0
緋色『ねーねー二人ともぉ!』

少し行った所でこちらに声をかけてきた。

叢雲と顔を見合せながら緋色の方へ向かう。

緋色『これって何かしら』

緋色が桟橋の側面、海水に浸っている部分を指さした。

男『あーフジツボだな』

緋色『これが。食べられるのかしら』

男『食えない事は無いだろうけどあまりオススメはしないな』

緋色『ふぅん。ねえ叢k…叢雲?』

男『ん?』

叢雲『…』

凄い顔をしてた。

苦虫を纏めてすり潰して煎じて飲ませれた様な凄まじい表情だった。

叢雲『私、それ嫌い』

嫌悪感100%の声でそう言った。

緋色『ど、どうして?』
508 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:58:17.32 ID:3gV1RL+U0
叢雲『船の底の方って赤かったり青かったり、ともかくその材質とは違う色が意図的に塗られているのは分かるわよね』

緋色『そうね。私がさっき履いてた艤装も底は赤かったわ』

男『確かにそうだな。艦娘は大抵赤かな』

叢雲『では問題です。何故色が塗られているのでしょうか』

緋色『何故って言われると難しいわね』

男『話の流れから考えるとフジツボが原因だよな』

叢雲『それは合ってるわ。では理由は何でしょうか』

緋色『ここまで波に浸かりますよ〜って印とか?』

叢雲『当たらずしも遠からずって感じね』

男『…フジツボが付かないように?あ、フジツボが苦手な色とか』

叢雲『んーまあほぼ正解ね』

緋色『えぇ!?そんな理由なの?』
509 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:59:12.11 ID:3gV1RL+U0
叢雲『そんなってレベルじゃないわよ。深刻な理由よ』

男『フジツボがか』

叢雲『フジツボは子供を海に放流するの。そしてそれは岩や船底なんかにくっついて成長し、それみたいにピッタリ張り付くフジツボになるの』

緋色『この子達も頑張ってるのね』

叢雲『頑張ってるなんてもんじゃないわよ。フジツボの幼生はね、何かにくっつく時その材質に合わせた接着剤を自分で作って張り付くのよ。とんでもない吸着力よ』

男『わざわざそんな事してるのか。自然って凄いな』

叢雲『凄いのは認めるけれどね。まあそんな感じで船底にビッシリ張り付いてくるのだけれど、当然そんな余計な突起物付けていたらその分スピードは落ちるし燃費も悪くなるわ。靴にガムつけて歩きたくはないでしょう?』

緋色『ガムかぁ。どうなの?』

男『幸いガムを踏んだことはなくてな』

叢雲『私もないけど多分そんな感じよ』

緋色『今度試してみようかしら』

叢雲『ごめん言い出しといてなんだけれどそれはやめておきなさい』
510 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 01:59:38.21 ID:3gV1RL+U0
叢雲『とにかく、この赤色はそのフジツボが付かないように塗られているものなのよ。細かい原理は省くけれど、そうね、防水スプレーのイメージね』

男『って事はかけ直したりしなきゃいけないのか』

叢雲『ええ。だから色々と研究開発されてるのよ』

緋色『生き物って凄いのね。海にとって私達は環境の一つでしかないって事だもの』

男『ちなみに赤には理由があるのか?』

叢雲『成分の問題かしらね。でも他にも緑や青なんかもあるからあくまで目印だと思うわ』

緋色『青はいいわね。カッコイイ』

男『自分と同じような赤じゃなくてか』

緋色『違うからこそよ。隣の芝生ね、青だけに』

叢雲『港で聞いた話じゃ、昔と違ってフジツボ対策も随分と進化してるみたいよ。元から船の材質をフジツボが付きにくいものにしてるんだとか』

男『船ってのは本当に色々な技術が詰まっているんだなぁ』
511 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 02:00:14.16 ID:3gV1RL+U0
緋色『えいっ』コツン

男『落ちるなよ』

緋色『うーん本当に取れないわねフジツボ。岩と変わらないわ』

叢雲『これが身体に付くとか悪夢よ悪夢』

緋色『私達の艤装にも付くのかしら』

叢雲『流石にそれはないわ。小さいし、私達は船と違ってずっと海に浸からず陸に上がるもの』

男『そうか。確かに本来船は一度海に出たら余程の事がない限りずっと海にいるからな。そりゃ手入れも大変なわけだ』

叢雲『そゆこと。だから別に艦娘にとってフジツボは特に気にする事もない相手なんだけれど、ねぇ…』

緋色『苦手?』

叢雲『トラウマというか、本能的に嫌悪感が溢れちゃうのよ…』

男『艦娘にも色々あるんだなぁ。ちなみに一番苦手なものとかってあるのか?』

叢雲『一番、一番ねぇ。そうね、やっぱり潜水艦かしら』
512 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 02:00:56.09 ID:3gV1RL+U0
緋色『あ、戻ってきたみたい』

叢雲『残念、休憩終わりね』

秋雲『なになにぃ?何の話してたの〜?』

男『フジツボについての話を』

秋雲『あー…』

夕張『チッ』

舌打ちした。すっげぇ表情で舌打ちした。整備とかする側からしたら憎むべき相手なんだろうなぁ。

叢雲『ハイハイそんな顔しないの。艤装は?』

秋雲『ちょこぉっと調整した。緋色ちゃんまたよろしくね〜』

緋色『はーい』

叢雲『私は少し工廠に行くわね。課長はどうするの?』

男『俺は、少しここで見ているよ』

叢雲『了解。じゃ秋雲、後よろしく』

秋雲『あいあいさー』
513 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 02:01:32.70 ID:3gV1RL+U0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲『どうだった』

工廠に戻ると同時に尋ねる。そのために今日をセッティングした面もある。正直気になって仕方なかった。

夕張『秋雲と会った時凄く動揺してたわ』

叢雲『そんなに?』

昨晩は必死に動揺を隠そうとしていたけれど。

夕張『暫く言葉も出せないってくらい固まってた。やっぱり何かあったんじゃないかしら』

叢雲『んー、だとしても何かって何かしら』

夕張『…駆け落ち?』

叢雲『そういうのいいから』

夕張『でも現時点じゃなんともって感じね』

叢雲『やっぱりあの箱を調べるしかないかしら』

夕張『でもそれって最終手段じゃ』

叢雲『そうなのよねー。さてどうしたものか』

これ以上は揺さぶっても何も出てこない気がする。もっと具体的な手段で調べる他にない。

叢雲『あ』

端末から音が鳴る。この音は司令官からだ。

夕張『暫くはそっち優先ね』

叢雲『緋色の艤装、任せたわよ』

夕張『はい。そちらも頑張って』
514 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 02:02:08.63 ID:3gV1RL+U0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

秋雲「でぇ?そっちの秋雲さんと出会っちゃってドキドキしちゃったわけぇ?」

男「うるせぇ」

秋雲「平気だーみたいな事言っといて結局それか〜。ダメだなぁ課長は。まだまだお子様ねぇ」

すごくイキイキした表情で煽ってきやがる。なんかいい事でもあったのかこいつ。

男「好き放題いいやがって…そもそもなんでそんなに楽しそうなんだよ」

秋雲「え〜だってだってさ、そんなに秋雲さんの事を想ってくれてたなんて、キャーもうまいっちんぐ〜」

男「当たり前だろ」

秋雲「…あるぇ」

男「お前の事を、そんな軽く見れるかよ」

秋雲「急にそんな真面目にされると、あはは参ったなこりゃ」

その時画面の奥から音がした。何か軽いものが落ちた音が。

いやこの場合音の内容はそれほど重要じゃない。"音がする"という事が問題だ。
515 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 02:02:44.59 ID:3gV1RL+U0
男「なんだ今の?」

秋雲「あーちょっと待ってて〜」

秋雲がわざわざ画面から消える。戻ってきたその手にはA4位の封筒が握られていた。

男「なんだそりゃ」

秋雲「メールだね。お、しーちゃんからじゃん」

男「は?メール?」

秋雲「いいっしょ。なんか個人探偵に来る依頼書みたいでさっ」

男「そのためにわざわざ音まで付けたのかよ」

秋雲「こういうのは雰囲気が大切なの。えーっと内容はっと」

男「というかそれ、俺宛には来てないのか」

秋雲「…どうも急いでたからここにしか送ってないみたいね」
516 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 02:03:26.20 ID:3gV1RL+U0
男「急ぎ?どんな内容だ」

秋雲「例の深海棲艦の動きが活発になって来たみたい。近々大規模作戦が発令されるかもって」

男「マジかよ…」

秋雲「どうする?」

男「と言ってもこっちに出来ることなんて殆どないからなぁ。作戦中緋色をどうするかだけでも考えておくか」

秋雲「今する?」

男「いや、もう寝るよ」

秋雲「オーキードーキー」

男「…」

秋雲「何、その顔」

男「なんでもないよ。おやすみ」

秋雲「おやすみ〜」

画面が消える。昼間見たのと同じ、あの顔が消える。

やっぱりお前は秋雲だよ。
517 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/03/08(月) 02:05:46.57 ID:3gV1RL+U0
余計なもの書いた上に遅れやがったコイツ!

艦娘雑学みたいなお話。
海にいると色々と弊害でそうですよね。
距離感とかもおかしくなりそうです。
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/08(月) 02:16:38.29 ID:iwCpmLkLo
乙でした
丁寧でいてすっと入ってくる世界観構築お見事
課長〜秋雲さんとナニしたんですかね〜?(浮いた話ではなさそうな感じに目をつぶりながら)
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/08(月) 03:15:07.18 ID:HUl8hUxko
秋雲ユニットって事か……?
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/04/01(木) 17:46:34.39 ID:BpapJjW+0
まだ続いてたか
毎回面白く読んでる 頑張って完結させてくれ
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/17(火) 08:36:47.48 ID:KTvo57O3O
待ってる
522 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:13:07.47 ID:vCzKEuQSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

叢雲「起きてる?」

翌朝、寝癖を整えていたら廊下から叢雲の声がした。

時計を見ると時刻は丁度六時。総員起こしの時間ではあるが叢雲が俺の部屋に来るには少し早い。

男「おはよう、どうした?」ガチャ

叢雲「おはよ、悪いけど急用よ」

男「ん?」

叢雲「上から作戦命令が出たわ」

男「!?」

ウソだろ。しーちゃんからの連絡を受けたのは昨日だぞ。それだけ緊急事態って事なのか?

叢雲「開始は四日後。しばらく慌ただしくなるわ」

男「四日って…短すぎないか?」

叢雲「えぇ。普通短くても一週間、いえ、それでも短すぎるくらいよ」

男「そりゃそうだろうな」

いきなりデカい仕事を振られてそれが一週間後とかゾッとする。

叢雲「前に近場で深海棲艦に動きがあった話はしたでしょう?アレを追っていた別の鎮守府の艦隊が敵の補給線を見つけたのよ」

男「敵の攻勢を見据えての作戦、か?」

叢雲「というより先手必勝ね。体制を整えられる前に潰すってことらしいわ」

男「そのための四日か」

本来ならば今すぐにでも動きたい位なのだろう。
523 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:13:52.35 ID:vCzKEuQSO
叢雲「幸い通常任務の哨戒や護衛はその影響で減らしていたから準備は比較的楽ではあるのだけれどね。それでも四日は大変だけれど」

男「こうして俺と話す時間も勿体ないくらいじゃないのか」

叢雲「本当はね。でもこういう話は直接するに限るから」

男「こちらとしては助かるよ」

叢雲「貴方、こういった事態の経験は?」

男「三度目だ」

叢雲「なら」

男「大体は分かるよ」

叢雲「OK。詳細はまた連絡するわ。とりあえず今日は二人とも部屋にいてちょうだい」

男「あぁ、了解だ」

叢雲「それじゃ」

男「あ、叢雲」

叢雲「ん?何?」

男「…ありがとな」

叢雲「いいわよ」ヒラヒラ

なんてことない風に手を振りながら戻っていく叢雲。しかしその足はいつもより速かった。
524 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:14:36.61 ID:vCzKEuQSO
頑張れ、なんて無責任に言いかけてやめた。

叢雲がずっと頑張ってるのは見ればわかるのに。

俺にかけれる言葉なんてない。

男「何にせよまずは仕事だな」

秋雲と相談するためにモニターの電源を入れる。

男「おい秋「っしゃヘッショ!突っ込め突っ込めえ!」……」

なんか盛り上がってる。

秋雲「あ゛ーーニトロがあ!?」

男「…」

秋雲「うわぁタイミング悪すぎじゃんクソ〜」

男「…」

秋雲「あ〜萎えるぅ」チラッ

男「…」

秋雲「」

男「おはよう」

秋雲「おやすみなさい」
男「寝るな」
525 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:16:17.58 ID:vCzKEuQSO
秋雲「申し訳ございませんでした」

カメラ越しの土下座って滑稽なだけで何の効力もないという事がわかる。

そもそもこいつの土下座は両手で足りない程度にはもう見てる。

男「いや、いいんだよ別に。仕事に問題が出なければ勤務時間外に何しようがさ」

秋雲「えー顔に文句あるって書いてあるぅ」

男「ルール上何も問題は無いけど心象的に言いたいことは山ほどある」

秋雲「是非墓まで持ってってねっ」

男「お前次第だ」

秋雲「ぅう…で、何さ急に」

男「昨日話してた作戦が四日後に開始らしい」

秋雲「はあ四日後!?早っ!これが締切なら私逃亡手段を探し始めるレベルよ!?」

男「もう少し粘れよ」

秋雲「しーちゃんの感じから急を要するとは思っていたけど、まさか翌朝に来るとはねぇ」

男「緋色をどうするか早速話し合わなきゃな」

秋雲「鎮守府の方はどうなのさ」

男「詳細は後でって言ってたが、ここから出られないのは確実だろうな」

秋雲「そりゃそうか」
526 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:16:55.32 ID:vCzKEuQSO
秋雲「で、緋色ちゃんどーすんのよ」

男「部屋で勉強みてやるしかないだろう」

秋雲「まぁた部屋分けてやるの?」

男「いや、今回はちゃんと教えるよ。これを機に鎮守府や出撃時の事も教えなきゃだしな」

秋雲「すっごい嫌そうな顔してる」

男「マジか」

秋雲「何、ヤバいの?」

男「大丈夫だよ。まだ大丈夫だ」

秋雲「ふぅん」

男「なんだよその顔は」

秋雲「アドバイスしてあげよっか?」ニヒヒ

男「…癪だが頼む」

秋雲「そばに居るのがダメってんならさ、一度近づいて背中を押してあげるの。そして自発的に進ませて結果的に離れる。中途半端に距離とるのが一番ダメ」

男「珍しくマトモな意見だな」

秋雲「抗議するー今の発言には断固として異議を唱えるー」
527 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:18:40.83 ID:vCzKEuQSO
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秋雲との話し合いの結果、とりあえず鎮守府の動向を見てからという事になった。

男『緋色、おはよう』コンコン

ドアを叩くと中からか細い声が返ってきた。

緋色『おはよぉ課長ぉさん』

男『入るぞー』

緋色『ぅん〜』

いつものピンクのパジャマに身を包んだ緋色がベットに座っている。

男『眠いのか?』

緋色『なんていうのかしら、重いというか…ブレてる?そんな感じがするの』

少し虚ろな瞳は確かに眠さとは違う何かがあるようだった。

男『ほぉ。まあ体調が悪くないのであれば問題ないさ』

緋色の睡眠状態も依然謎のままだ。

艦娘は夢を見ないはずだし、心音も止まるはずだ。それなのに緋色は

緋色『そうだ。ここが何だかポカポカしたの』

男『ポカポカ?』

緋色『ええ。ほら、何か変じゃないかしら?』スッ
男『ブッ!?』

緋色がパジャマの首元を下げ胸元をさらけ出す。正直若干見なれつつある気もするがとにかく反射的に目を背ける。

緋色『課長さん?』

男『大丈夫だ、大丈夫だからとりあえず服を着てくれ』

飛龍『おっハロー朝食だよ〜ってうわあ!服ぬがせてる!!ロリコンだあ!!』

男『待てえ!!』
528 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:19:08.83 ID:vCzKEuQSO
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飛龍『なぁんだそういう事かぁ。私ゃてっきり』

男『てっきり何だよ、おい』

緋色『ろりこんって何?』

男『気にしないでくれ。それよりも』

飛龍『ん?なになに』

男『朝からこれか』

緋色『豪華ね!』

飛龍が持ってきたのはイクラ丼三人前だった。

飛龍『元々ねぇ、普段からあっちゃこっちゃ遠征でばらばらになってる吹雪型姉妹がさ、ほら!深海棲艦が出たからって出撃や遠征が減ったじゃない?』

男『らしいな』

緋色『いただきま〜す』

男『いただきます』
飛龍『いっただきまーす』
529 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:19:59.44 ID:vCzKEuQSO
飛龍『で!久々に姉妹で揃うからちょっとしたパーチーやろってなったの。長女自ら遠征先のお土産、イクラを持ってね』

男『って事はこれ凄く新鮮な物だったりするのか』

飛龍『多分そうじゃないかなぁ。よくわかんないけど』

緋色『こういうオレンジ色でプリっとしてるのは鮮度が良い証拠よ』

飛龍『へ〜そうなんだ。知らなかった、な』チラッ

男『俺も正直わからん』

飛龍と目が合った。おそらく考えてる事は同じだ。

緋色、こういう知識はあるのか。

飛龍『でねでね!こんな事になっちゃったじゃん?もうパーチーどころじゃないじゃん?』

さっきから物凄い勢いで喋り倒している飛龍だが同じくらいの勢いでイクラ丼も食べている。凄いな。しかも食べ方が綺麗だ。どうやって両立してるんだこれ。

飛龍『悲しくもパーチーはお流れ。でも作戦後までイクラはもたない!でも適当に食べるのはそれはそれで辛い。

という事で吹雪ちゃんが間宮さん達に"託してたイクラは他の人に振舞って上げてください"って哀愁漂う表情で言ってきた』

緋色『…』ピタッ

緋色の手が止まった。まあ今の話聞いたら無邪気に食えなくなるわな。

後どうでもいいけど飛龍の吹雪のマネが妙に上手い。
530 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:20:57.84 ID:vCzKEuQSO
飛龍『という話が鳳翔さん繋がりで入ったから私が少しもらってきたわけ。食べたかったんだけどさ、堂々と貰って食べるのは流石に後ろ髪引かれるものがあってね…』

男『だからここで誰にもみられないように食べたかったと』

飛龍『いぇす!』

十分に図太いのではなかろうか。

緋色『艦娘のお仕事って大変なのね…』

飛龍『普段はそんな事ないよ〜。最前線ならともかく、ここら辺は戦闘自体殆どないし、そりゃあ長期間の遠征とかで中々会えない娘がいたりもするけど、基本的に休みはタップリ取れるから』

そうだ。艦娘は出撃に際してどうしても燃料や弾薬等を消費する。イタズラに出撃してもマイナスになる場合もある。

飛龍『ただ私達が本当に求められるのって緊急事態だからさ。何時どこでそれが起こるか分からないって覚悟してなきゃいけないの。普段の余暇の多さはそういう事態に備えてとも言えるわね』

男『消防士みたいなものだよな。何も起きないなら平和かもしれないが、それでも次の瞬間にはそれが起こっているかもと気を張ってなきゃいけない』

緋色『それは、辛いわ、きっと』

飛龍『こ〜ら箸が止まってるわよっ』ツンッ
緋色『ぁうっ』

飛龍『大変っちゃ大変だけど、私達ヒーローだからねぇ。その分色々なものを貰ってるしイーブンよイーブン』

艦娘の皆が皆この飛龍みたいに力強く笑えるわけではないだろう。それでも少なからずこういった信念があるからこそ戦えている。

それはとても尊い事のはずなのに。

飛龍『ご馳走様』

男緋『『早っ』』
531 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:21:41.30 ID:vCzKEuQSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男『ご馳走様』
緋色『ご馳走様でした』

イクラ丼は非常に美味しかった。非情にも。

緋色『ところで、その。一つ質問いいかしら』

飛龍『何何改まっちゃって〜。ドンと来い』

緋色『さっき飛龍さんの言ってたこんな事って何?』

飛龍『あー大規模作戦のk』ハッ

ほぼ言い終わったところで飛龍が慌てて口を塞いで俺を見る。

緋色『なんだか鎮守府の雰囲気も変な感じで、何かあったのかなって』

男『その事については説明するつもりだったんだ。飛龍が来てくれたから手間が省けたし』

飛龍『あ、なんだ話してよかったんだ。はぁー焦ったー』

緋色『大規模作戦?』

男『悪いが飛龍、説明をお願いしてもいいか?』

飛龍『んぇ?いいけど、なんで私』

男『俺は知識だけだからな。現場の声の方が伝わると思って』

飛龍『なるほどなるほど。なら私に任せて!』
532 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:22:29.31 ID:vCzKEuQSO
飛龍『まず上から命令の来る作戦ってのは大きく分けて2種類あってね。一つは鎮守府単体で行うもの。もう一つが複数の鎮守府共同で行うもの。今回はこっち』

緋色『複数ってどのくらい?』

飛龍『場合によるかなぁ。今回は即応性、機動性を考えて近場の四鎮守府での作戦だけど、例えば深海棲艦共がわっと押し寄せてきたとかなら十や二十の鎮守府でって事になると思う』

男『実際本土近海を取り戻すまではずっと総力戦だったらしいからな。いずれそういう時も来るだろう』

飛龍『他の三つの鎮守府とは交流もあるし連携は楽だと思う。でも流石にいきなりすぎだからな〜。何が起こるか分からないってのが怖いかも』

緋色『ん〜お仕事って大変なのね』

飛龍『大変よ、とってもね。辛いかどうかはそれぞれだけど、とても大変だって所は確か。私はそれが誇りなんだけどねっ』

男『…なぁ、こういう質問はするべきでないかもと迷ったんだが』

飛龍『なになに遠慮しないでドンと来てよ』

男『作戦の期間はどれくらいだと思う』

飛龍『それ聞くの躊躇する内容?』

男『機密かなって』

飛龍『あ〜まぁダメって言われてないしだいじょうビッ』

不安だ…
533 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:23:09.29 ID:vCzKEuQSO
飛龍『て言ってもそもそも期間は決まってないのよね』

緋色『そうなの?』

飛龍『推測、経験則でなら補給線潰しに三日ってとこかな。これは三日かかるじゃなくて三日以上かけるのはマズイって意味ね』

男『後は敵の戦力次第か』

飛龍『そゆこと』

緋色『飛龍さんも行っちゃうの?』

飛龍『へ?あー大丈夫大丈夫。ウチは戦力少ない方だから、一番ヤバいのは別んとこが引き受けてくれるって』

男『鬼ヶ島の所だろ。噂なら聞いたことある』

飛龍『へぇそんな有名なんだあの鎮守府。まそんなだからウチらはせいぜい乙くらいの難易度よ。楽じゃないけどそんな身構える程でもないって』

緋色『そ、そう』ホッ

嘘だな。乙というのは十分に身構える必要がある難度だという。

でもありがたい嘘だ。緋色に心配をかけさせたくは無い。
534 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:23:44.68 ID:vCzKEuQSO
男『助かったよ。色々話してくれて。それに悪いな、時間取ってしまって』

飛龍『いいっていいって。むしろここに逃げてきたいくらいでさ』ハハハ

緋色『ありがとう、飛龍さん』

飛龍『…抱きついてもいい?』

緋色『え゛っ、い、いいけど…』

飛龍『緋色ちゃぁぁあ゛あ゛ん゛』ガバッ
緋色『〜〜〜〜ッ!!??』

再び二つの圧倒的な弾力に挟まれて悶える緋色。

今回は許可取ってるから止めるに止められない。

飛龍『よっし元気でた!それじゃあばっはは〜い』シュバッ

男『ずっと元気100パーセントじゃねぇか』

緋色『』

男『…大丈夫か、緋色?』

緋色『おっきぃ…』

何が、とは聞かない。
535 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:24:13.68 ID:vCzKEuQSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男『そろそろお昼か』

緋色『もうそんな時間なのね』

男『続きは後にして休憩にしよう』

緋色『もうちょっと、もうちょっとだけやるわ』

男『やる気だな』

緋色『皆も、頑張ってるから。私も負けてられないわ』

男『そうか。なら頑張ろう』

緋色のやる気は日を追う事に増しているようだった。他の艦娘を見て、なにか思うところがあるのだろう。

男『ん?』

廊下から足音が聞こえてきた。昼食を誰かが持ってきてくれたのだろう。こんな時に申し訳ない。

飛龍『はいはーい飛龍入りまーす!』

男『え』

緋色『あら?』

またお前かよ。
536 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:24:47.07 ID:vCzKEuQSO
飛龍『イクラ丼美味しかった?』

男『何だ急に』

飛龍『美味しかった?』ズイッ

緋色『えぇ勿論。また機会があったら食べたいわね』

飛龍『ならちょうど良かったぁはいこれ』

イクラ丼が再び机に並べられた。

男『どういう事だこれ』

飛龍『みんな忙しそうでさ、余ってるっぽかったからつい』

男『お、おう』

お前は忙しくないのかよ。

緋色『やったぁ!早く食べましょう!』

飛龍『おーおー気に入ってくれてるようでお姉さん嬉しいな〜』

男『まあ美味いしいいんだけどな』

緋色『これなら幾らでも食べられるわよ』

飛龍『上手いっ!』

緋色『え?』

飛龍『あれ?』

ダジャレでは無かったらしい。
537 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:25:14.90 ID:vCzKEuQSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男『まさか二回連続で飛龍が来るとはな』

緋色『忙しいでしょうに、わざわざ持ってきてくれるなんて』

男『あれは本人が食いたいだけな感じもあるけどな』

緋色『でも美味しかったわ』

男『それはまあ。でも三回目は流石に勘弁だ』

緋色『いくらなんでも三食同じにはしないでしょう』

男『だな。さて昨日の続きだ。法律と軍規のどっちからやりたい?』

緋色『航海術がやりた〜い』

男『それでもいいっちゃいいんだが、やるなら海に出てやりたいものでもあるからなぁ』

緋色『…暫くはお預けかしら』

男『残念ながらな』
538 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:25:51.70 ID:vCzKEuQSO
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飛龍『こんばんわ〜〜』

男『』
緋色『』

飛龍『え、あれ、何この空気』

男『そんな気はしてたけど』
緋色『あ、でも丼じゃない』

飛龍『そうそう!流石に三連続は飽きると思ってイクラ巻きにしてみたの!作ったの私じゃないけどね!』

すっげぇ楽しそうに話すな。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

緋色『ご馳走様』

飛龍『お粗末さま〜』

男『まさか本当に三食イクラとは。明日も持ってくる気じゃないだろうな』

飛龍『残念ながら在庫切れで』

緋色『あら』

男『食べたかったか?』

緋色『えへへ、正直ちょっとありかなって』

飛龍『それと伝言ね』

男『伝言?』

飛龍『叢雲から。今夜は忙しいからいつものはなしって。なになに毎晩何してたのぉ?』

男『知ってて言ってるだろ』

飛龍『さぁてねっ』
539 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:26:25.31 ID:vCzKEuQSO
緋色『皆、大変ね』

飛龍『怖い?』

緋色『え』

緋色の何気ない一言。それを飛龍は真っ直ぐ捉えた。

緋色『怖くは、ないわ。でも不安で、少し怖い』

男『緋色…』

かける言葉が見つからなかった。一体何に不安を抱いているのか、何に恐怖しているのか皆目見当がつかなかったから。

飛龍『わかるなぁ、私もそういう時あったもん』

緋色『そうなの?』

飛龍『うんうん。昔ね、置いてかれそうな気がして怖かった』

緋色『置いて…そう!そうなのよ!多分それだわ!!』

どうやら緋色の中にあった何かを飛龍は知っていたらしい。緋色自身でも理解していなかった何かを。

飛龍『そういう時はともかく勉強と訓練!ただ闇雲に進むには海って強大すぎるから、まずは自分を鍛えよう』

緋色『はいっ!』

何にせよ緋色のやる気が出たなら問題ない。
540 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:26:52.68 ID:vCzKEuQSO
男『今のは飛龍の経験談か?』

飛龍『まあね。海って目的もなしに立ってられる場所じゃないからさ、その目的を見つけるまでが大変なのよ』

男『艦娘にも色々あるんだな』

飛龍『誰だって色々あるのよ。課長もそうじゃないの?』

男『ま、そうかもな』

緋色『そうなの?』

男『多分』

飛龍『それじゃ私はこれで、おやすみ〜』

男『おやすみ』
緋色『おやすみなさい』
541 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:27:39.80 ID:vCzKEuQSO
男『緋色は何か目的があるのか?』

緋色『分からないわ。まだ』

男『そりゃそうか』

緋色『課長さんの目的って?』

男『秘密だ』

緋色『え〜』

男『もし緋色の目的が見つかったら、それを教えてもらう代わりに俺も言うよ』

緋色『なら私、課長さんから目的を聞くのを目的にするわ!』

男『却下』

緋色『えぇ〜』

男『ほら、風呂入って寝るぞ』

緋色『は〜い』
542 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:28:35.34 ID:vCzKEuQSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

男「さてと」

翌朝、緋色用の教材を見直しながら支度をする。

秋雲に頼んでおいた物だが流石に出来がいい。普段からこういう真面目さを発揮して欲しいものだが、オンオフが激しいのがあいつの良さでもある。

そんなことを考えていると扉から聞きなれた声がした。

叢雲「おはよ」

男「おはよう」

廊下にいた叢雲は、なんだか昨日とは雰囲気が違っていた。

なんだろう、柔らかいというか。

叢雲「部屋、お邪魔してもいいかしら」

男「それはもちろん構わないが、いいのか?今忙しいんだろ?」

叢雲「えぇ。昨晩遅くまで忙しくした結果、今日の午前中は何も動けないと分かったのよ。だから司令官は部屋で休息中」

男「叢雲は?」

叢雲「ここなら誰にも見つからないでしょう?」

男「なるほど」

つまりリラックス状態なわけか。彼女の負担を少しでも和らげられるのならいくらでも手を貸したいところだ。
543 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:29:23.02 ID:vCzKEuQSO
叢雲「意外と日当たりいいのねここ」

男「住んでみると快適なもんだよ。でここで何する気だ?」

叢雲「棚上げしてた仕事片付けるの」

男「それ休めてないだろ…」

叢雲「別に休む気は無いわよ」

男「なら何しにここに来たんだ」

叢雲「私、鎮守府じゃどこにいても秘書艦叢雲なのよね。だからこうしてただの叢雲としていられる場所って実は貴重な事に気づいたのよ」

男「イマイチわからんが、まあ落ち着けるんなら別に構わんさ」

叢雲「あ、せっかくだしその黒い箱見せてよ」

男「ダメだ企業秘密だ」

叢雲「ざ〜んねん」
544 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:29:49.92 ID:vCzKEuQSO
特に残念そうな素振りも見せず、当然のようにベットに腰かけ端末をいじり始める叢雲。

いつもの何処かピリピリとした、背筋を伸ばしてるような感じはない。これがただの叢雲という事なんだろうか。

叢雲「コラムとかって書いた事ある?新聞なんかにあるような」

男「コラム?普通ないだろそんな経験。なんでコラム」

叢雲「鎮守府内の新聞用にね。ネタが浮かばなくって」

男「そんな仕事まであるのかよ…」

叢雲「面白いわよ案外」

男「息抜きとしてか?」

叢雲「そんなところね」
545 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:30:30.41 ID:vCzKEuQSO
男「そういや昨日三食全部飛龍が持ってきてくれたんだが」

叢雲「なに、なんかやらかしたあの娘?」

男「そういうんじゃなくてな。作戦前で皆忙しいんだろ?なのにアイツ随分暇そうというか、その」

叢雲「あーそういう。実際暇なのよあの娘」

男「え、そうなのか?」

叢雲「むしろそうして暇にしてるのが仕事と言ってもいいわね」

ますます分からん。

叢雲「駆逐艦や軽巡は遠征や護衛やらで忙しいわ。戦艦や空母はこういう時の重要戦力。艤装の整備や作戦前の打ち合わせやらで忙しい。重巡は数が少ないから普段から地味に忙しいわ」

端末に素早く文字を入力しながらもこちらとしっかり会話をする叢雲。

男「皆忙しいわけだ」

叢雲「そ。作戦が始まれば更にね。でも、みんな忙しかったらダメでしょ?」

男「ん?」
546 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:31:12.28 ID:vCzKEuQSO
叢雲「作戦中、出払った鎮守府に敵が攻めてくるかもしれない。突如救助を求める船がでてくるかもしれない。戦況が一変して即時出撃する必要があるかもしれない。そういう想定外な緊急事態に対応出来る艦隊が必要なのよ」

男「つまり予備選力ってことか?」

叢雲「そう言ってもいいかもしれないわね。飛龍はウチでもかなりの古参で腕も立つわ。だから基本的に鎮守府近辺に留まって、後輩の指導や演習をしてるの」

男「それは、俺の考えが甘かったよ…すまん」

叢雲「私に謝っても仕方ないでしょ。というか飛龍に謝っても意味ないわよ」

男「ああ、そうだな」

叢雲「あの娘はね、どんなに楽しい時でももしその緊急事態が起こったら誰よりも早く出撃しなきゃならないの。

敵の戦力が一切不明でも、無事に帰れる保証なんてまるでなくても、誰かに見送られたり決心したりする間もなく出撃するのよ」

飛龍は言っていたな。自分達が求められるのは緊急事態の時だと。本当に文字通りだったわけか。

それなのにあんなに力強く笑えるのか、あいつは。

男「凄いな」

叢雲「ええ。それが飛龍が選ばれてる理由でもあるわ。飛龍以外の艦隊メンバーもそう。皆何よりも心が強いわ」
547 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:31:46.78 ID:vCzKEuQSO
叢雲「ま、そーゆーわけでアナタ達の事あの娘達に任せる事は多くなると思うの。よろしくね」

男「俺はむしろ任される側だよ」

叢雲「それで、作戦中はどうするつもり?」

男「部屋で勉強だよ。記憶の方は一旦置いといて、艦娘としての勉強に集中しようかと」

叢雲「そ。海に出られるようになった以上そっちは確かに大切ね。分かったわ。なにか入り用なら今のうちに準備しときなさい。飛龍は好きに使っていいわ」

男「そうさせてもらうよ」

叢雲「そうだ、せっかくだから写真撮ってもいいかしら?記事に使えるかも」

男「残念ながらNGだ」

叢雲「あらら、何処の事務所に電話すればいいのかしら」

男「あー、しーちゃんのとこにでも頼むよ。情報扱いだろうしな」

叢雲「彼女の説得は私じゃ無理そうねぇ」

男「手強いぞあいつは。じゃ俺は緋色の所行ってくるよ」

叢雲「はいはーい」
548 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:32:23.63 ID:vCzKEuQSO
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

…誘われてるのかしら。

されげなく部屋を撮ろうとしたけれどしっかりNGされたし、所属なんかを期待して聞いてみたけれどはぐらかされた。

かと思えばこうして部屋に私だけを残して行ってしまった。

写真でも動画でも取り放題、なのだけれど。

叢雲「ムカつくわね」

誘い受けの罠にしか見えない。この状況で賭けをする理由は、流石に無いわね。

叢雲「あ〜ぁ」パタン

どうにも遣る方無くなってベットに寝転んでみた。

ん、司令官と同じ匂いがする。なんで?

あーシャンプーとか司令官の買い置きの渡したからか。

叢雲「…同じね」

今まで司令官の匂いと思っていたけれど、つまるところシャンプーやらの匂いでしかなかったというわけか。

なんか癪だわ。知らなきゃ良かった。
549 : ◆rbbm4ODkU. [saga]:2021/09/06(月) 01:33:19.75 ID:vCzKEuQSO
そういえば加齢臭なるものがあるらしいけれど流石にそういったものはなさそうね。

司令官もいつか臭くなるのかしら。

今まで、司令官のものだと思っていたアレやコレやは、大半が鎮守府において人間が司令官しかいないから勘違いしていただけで、人間にとっては極々普通の事なのかもしれない。

叢雲「…」スーハー

それは少し、嫌だわ。


緋色『ぁ、あのー』

叢雲「ん?」

振り向くと入口に不思議そうな顔をした緋色と怪訝な面持ちの課長がいた。


あれ?私今これこの姿勢というか状況というか他人の部屋のベットで俯せで枕に顔突っ込んでてそしてそのえっと


叢雲『…課長』ムクリ

男『アッハイ』

叢雲『休憩終わったから帰る』

男『アッハイ』

叢雲『じゃ』

男『アッハイ』


扉をそっと閉めて全速力でその場を離れた。
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