少年「アヤカシノート」

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360 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:25:54.38 ID:Yxrt9fKO0

少年「――猫又娘さん後ろ!」

猫又娘「!」パッ

ポン

「…チュー」

猫又娘「いつの間に後ろに…!」

ガッ

包帯少女「いっ…!」

包帯少女「…この!」ブン!

バキッ

少年「大丈夫!?」

包帯少女「うん、ちょっとかすっただけだから」

猫又娘「いやーしっかしまずいね…これまともに相手してたら永遠に終わんないんじゃないの…!?」

猫又娘「なーんかさっきより包囲網も狭まってるしさ…!」

包帯少女「あっちこっち動き回らなくて済むじゃない?」

猫又娘「少女さん、余裕ありますな…」

猫又娘「私もまだまだ負けてらんないねっ!」





――ドゴォ!





猫又娘・少年「「!?」」バッ

包帯少女「……」チラッ

派手娘「邪魔なのよ、あたしの前を塞ぐなっ!」ズシャッ

夢見娘「……」テクテク

猫又娘「えぇ…素手であんなに…」

少年「夢見娘さん!」

夢見娘「……//」ソッ(派手娘の陰に隠れる)

派手娘「?」

猫又娘「…何しに来たんさ?」

派手娘「決まってんじゃない。あんたらの情けない姿を見に来たのよ」

派手娘「なに?友達が消されたからってこんな化け物共と遊んでるわけ?ほんと見てて飽きないわ、あんたら」

猫又娘「なんでそういう言い方しか出来ないん!?事ここに至ってまでさ!」

猫又娘「私のこと嫌いでもいいよ!けどこういうときくらい邪魔しにこないで!」
361 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:26:55.11 ID:Yxrt9fKO0

派手娘「………」

派手娘「どうせ、あの神社に行くとか言うんでしょ?」

「ギャギャギャ!」

派手娘「」ドスッ

「グ…ギャ…」パタ

派手娘「…ふん」ザッ



ジジジジ...



少年(あれは…爆竹!?)

派手娘「耳、塞いでなさい」

派手娘「」ポイポイ、ポイ



パン!パン!パァン!



猫又娘「へ……にゃ……」クラクラ

少年(う…相変わらずすごい音だ)

包帯少女「……!」



(妖禍子の群れの一角に穴が空く)



派手娘「ほら、行くならさっさと行けば?」

猫又娘「……」アゼン

猫又娘「…少年君!少女さん!」

猫又娘「二人とも先に行って!」

少年「猫又娘さんは…!?」

猫又娘「私らはこの子たちの相手をしてから向かう!こんなのに追われてたら元凶君どころじゃないっしょ?」

猫又娘「分かったらとっとと走る!」

少年(……)グッ

包帯少女「ぅ…」ズクン...

少年「少女さん、立てる?」

包帯少女「う、ん……」

少年(やっぱりさっきので怪我を…?)

少年「……」

...ギュ(手を握る)

包帯少女「…!」

少年「…僕についてきて」

包帯少女「ん、エスコートよろしく」ニコッ



タッタッタッ...


362 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:27:40.39 ID:Yxrt9fKO0

猫又娘「ふぅ、ひとまず共倒れは避けられたかね」

猫又娘「で?どういう風の吹き回し?」

派手娘「別に。あんたたち、コレを終わらせる当てがあるのよね?だったら早く終わらせて欲しい、それだけよ」

派手娘「というかあんたも行きなさいよ」

猫又娘「……やーっぱ素直じゃないんねぇ」ポツリ

猫又娘「どーせ、ここの連中は自分だけで十分だとか言うつもりでしょ」

派手娘「分かってんならわざわざ訊くな」

猫又娘「確かに派手娘さんなら吹き飛ぼうが刺されようが死ななそうだけどさ」

「ミィ!」ヒュッ

猫又娘「」ダッ

ポンッ

猫又娘「…と」シュタ

猫又娘「猫の手くらいあっても損はしないよ?」ニシシ

派手娘「……勝手にすれば」




363 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:29:40.61 ID:Yxrt9fKO0
ーーー神社ーーー

(……まだ、足りぬか)

(………)

(更なる怪共の使役を要するというか)

(………)

(…躊躇いなど、一切不要)



...ズォオオオ



巨頭「……」ズシン...

(大小様々な妖禍子達)




364 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:30:10.48 ID:Yxrt9fKO0
ーーーーーーー



タッタッタッ



少年「思った通り、この辺に奴らはほとんどいない」タッタッ

包帯少女「ほとんどはさっきの所に集まってたみたいだね」タッタッ

少年「そりゃ多いはずだ…」

包帯少女「でもぼくたちも油断は――」

包帯少女「――少年君、止まって!」

少年「っ!」ピタッ...



巨頭「……」ズシ..ズシ..



少年「くそ…こんなときに…!」



巨頭「………」

巨頭「……」ズシ..ズシ..



少年「…?」

少年「襲ってこないのか…?」

包帯少女「こっちに気付いてはいるはずだけど…」



「グォ…」ズルズル

「」バサッ、バサッ

「キュ、キュ」カサカサカサ



包帯少女「それどころか、こっちを避けてる」

少年「さっきの場所に向かってるのかな…もしあそこに集まるように仕組まれてるんだとしたら…」

少年「…猫又娘さん…」

包帯少女「……」

包帯少女「行こう。ぼくたちは後ろを振り返っちゃダメだ」

少年「!…そうだね」



タッタッタッ



.........




365 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:31:58.37 ID:Yxrt9fKO0

少年「なんなんだろう、こいつ」

包帯少女「……」ミアゲ



(鎮座する黒塊)



少年(ドス黒い…って表現が似合う。よく聞く、吸い込まれそうな黒とかじゃなくて、もっと濁った黒)

少年(見てるだけで不安になってくる…)

包帯少女「この道、少年君と神社に来た時にも通ったよね。こんなに広い更地じゃなかったはずだけど」

包帯少女「…ここにあった家も住んでた人も、消されたんだ」

少年「……」

少年(こんな、滅茶苦茶にされた僕らの町が……本当に元に戻るのだろうか…)



ブルッ



二人「!」

包帯少女「…今、これ少し大きくなった?」

少年「僕にも見えた。こいつがここまで大きくなったのって、ちょっとずつ成長してるから…?」

二人「……」





黒服男「その通りだ、人間」





少年「……お前……」

包帯少女「……」




366 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:35:14.58 ID:Yxrt9fKO0
ーーーーーーー

ガンッ! ズシャッ!

派手娘「」ズガッ

猫又娘(おぉ…鬼神の如き、とはまさしくああいうのを言うのでは)

夢見娘「……」ポワッ

「ゥ゙……」パタン

猫又娘(あれは、眠らせてるんかな?)

夢見娘「……」チラ

夢見娘「……夢を見せてあげてるの。それだけ……」

猫又娘「そ、そなんだ」

猫又娘(気付かれてた…)

派手娘「無駄話してる暇あんなら手動かしなさい!」

猫又娘「なにさ!サボってんじゃないかんね!」ポンッ

派手娘「勝手にここに居残ったんだからもっと役に立ちなさいよ」

猫又娘「派手娘さんのために残ったわけじゃないですしー。自意識過剰なのん??」

派手娘「…あんたも一緒にぶちのめしてもいいのよ」

猫又娘「おーこわ」



ササッ

シュッ ドカッ

ヒョイッ

ポン、ポンッ



猫又娘「……派手娘さんはさ、なんでこいつらと戦ってたの?」

派手娘「あ?」

猫又娘「人助けをしようなんて考えてたんじゃ…ないよねっ」テイッ

派手娘「……」

派手娘「気に入らないのよ」バシ

派手娘「あたしらの前にいきなり現れて、荒らしてく」

派手娘「別に好き勝手生きる分には構わないわ。けどこそこそとあたしにちょっかいかけるってんなら容赦しない」

派手娘「あたしはあたしが気に入らないものをぶっ飛ばしてるだけよ!」ドスッ

派手娘「誰かさんみたく世界を助けるだの高尚な志なんか持ってないわ、残念だったわね!」ズガン

猫又娘「……へんっ」

猫又娘「私とおんなじじゃん」

派手娘「は?バカ言ってんじゃ――」

猫又娘「私だって、私が笑っていられるように」

猫又娘(キミともっと笑っていられるように)

猫又娘「私の世界を守ってるんだ。人のためじゃない、私のために私は動いてる」

猫又娘「だから、おんなじだ」サッ

ポンッ
367 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:36:58.69 ID:Yxrt9fKO0

夢見娘「………」

派手娘「…そういう顔で笑えるんじゃない」

猫又娘「よっ、それっ」ヒョイ、ポスッ

派手娘「だったらここには自己中が二人居るだけってことね」スッ..ドゴッ

猫又娘「え〜?三人の間違いじゃなくて?」

夢見娘「……否定はしない……」

派手娘「とんだ烏合の集まりだわ」

猫又娘「とか言いつつ、息はぴったりだと思わない?私ら」

夢見娘「……」テッテッ

派手娘「このアホ共がのろまなだけよ」ガスッ

猫又娘「またまた、照れちゃって〜」

派手娘「」ビュンッ

猫又娘「あぶなっ!?」ササッ

派手娘「わるいわるいてがすべったわー」

猫又娘「なんたる棒読み…」

猫又娘「…とは言え」



ゾロゾロ ワラワラ



猫又娘「捌いても捌いてもまるで減りませんな」

猫又娘「いい加減一休みくらいさせてほしいんだけど…」
368 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:37:42.23 ID:Yxrt9fKO0



..ズシン..ズシン



巨頭「……」

猫又娘「…まじ?」

派手娘「チッ、なによあのデカブツ」

猫又娘「ここに来て増援て…ちょっとばかしキツイんじゃないかなぁ…」

夢見娘「……あれは、大丈夫」

猫又娘「どこが!」



巨頭「…ガァア!」ブオッ!

ズシャン!

「キシャア!」



猫又娘「え……妖禍子同士で争ってる…?」

派手娘「ついにイカれたわけ?」

夢見娘「……」



ズシン バキィッ!



猫又娘「…なんだか分かんないけど、私らも便乗させてもらうよ!」

夢見娘「……」コクッ

派手娘「めんど…私の前に立つなら全員潰すわ」



ダッ――




369 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:40:26.05 ID:Yxrt9fKO0
ーーーーーーー

黒服男「その物体がなんだか、お前には分かるか?」

少年「……少女さん、僕の後ろに」

包帯少女「ありがとう。でも二人で、ね」

黒服男「…ほう。興味深いな」

黒服男「殺し殺された者の築く関係として、実に奇異ではあるまいか?」

少年「……」グッ...

黒服男「これはな、人間」

黒服男「人の憎悪の凝集体だ」

少年「憎悪…?」

黒服男「そうだ。如何なる人間の中にも存在する、人の本質。お前の中にも眠っていたろう。その女を憎く思う感情が」

少年「ふ、ふざけんな!あれはお前がそう仕向けたんじゃないか!」

黒服男「俺は助長をしたまでだ。もし本当に彼女を信頼していれば、あの悲劇は起こらなかっただろう」

少年「信頼って……僕は……」

少年(…僕が少女さんを信じていなかったから…?元を辿れば、結局僕の卑屈さが原因だってことかよ……)

包帯少女「それは違う」

包帯少女「他人を端から信じられる人なんていないんだよ」

包帯少女「みんな誰だって少しずつ相手を知っていって、時間をかけて信用出来る関係になっていく」

包帯少女「あなたがしたのは、その過程を踏みにじって無理矢理憎しみを向けただけ。そんなの、人の本質でも何でもないってあなたも理解していたんでしょう?」

黒服男「…知ったような口を利いてくれるな」

包帯少女「分かるよ。だってあなたのお母さんとお父さんがそうだったはず」

黒服男「っ!」

包帯少女「…ぼくたちは、あなたの過去を見たから」

黒服男「……そうか」

黒服男「ならば、今すぐ自害しろ」

包帯少女「……」

黒服男「俺の心情が分かるのだろう?俺が望むは唯一つ。世界の癌たる人間の根絶」

黒服男「残るはお前達を含めた三人だけ」

黒服男「いや、より正しくは二人と言うべきか」

包帯少女「………」
370 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:42:28.32 ID:Yxrt9fKO0

少年「…なぁ、お前」

少年「――泣いてるのか?」

黒服男「…?」

少年「泣いてはないか。けど…」

少年「さっきからずっと、悲しげな顔をしてる…」

黒服男「………」

黒服男「泣く、だと?」

黒服男「……そうだな。お前のような人間に馬鹿にされる事など、この上なく屈辱でしかない」

黒服男「人間よ、俺が今すぐお前を消せば何が起こるか分かるか?」

黒服男「お前の持つ憎悪が、この醜い塊に飲み込まれるんだ。そして僅かに肥大する……ごく僅かに」

黒服男「これはこの町の人間共が抱え持っていた憎しみの集体だ。どうだ?貴様の抱いた憎悪ですらこれを前には霞む」

黒服男「貴様らのような汚れた存在が俺を哀れむとは、何たる傲慢だ?」

包帯少女「…気付いてる?あなたは今、あなたの嫌う人みたいな考え方しか出来てない」

包帯少女「光があれば陰があるように」

包帯少女「勝者がいれば敗者がいるように」

包帯少女「暖かい感情があれば、目を背けたくなるような感情もある。それが人間なの」

包帯少女「そういう二面性ってね、必死な人ほど片方しか見えてないものなんだよね」

包帯少女「あなたも同じ。視野の狭い、可哀そうな"ヒト"」

黒服男「………小娘」

黒服男「生き損ないのお前が俺を焚き付けることに何の意味がある?」

黒服男「惨たらしい死を所望か?」

黒服男「否、横の男が苦しみのたうつ方がお前には堪えるか」

包帯少女「……」

黒服男「終焉に立ち向かう人間が如何程のものか、見極めるつもりであったが…蛇足だったな」

黒服男「どの道貴様らには消えてもらうが、最後に余興を見せてくれ」

黒服男「――娘、男を殺せ」

少年「っ…」

黒服男「……」ニィ...

黒服男「お前は一度、この男に殺されている。その報復をこやつに受けさせてやるべきだろう」

黒服男「或いはそれが出来ないとあれば…先に同じ、自害を選べ」

黒服男「さて、二つに一つだ」

包帯少女「……」

少年「……」

少年(………)

包帯少女「………いいよ」



包帯少女「――死んであげる」


371 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:44:11.66 ID:Yxrt9fKO0

包帯少女「それであなたの気が済むのなら」

少年「な、何言ってるんだよ!そんなの……!」

少年「少女さんが死ぬくらいなら俺が殺された方がマシだ!もう、きみが死ぬのは…!」

包帯少女「心配しないで」ニコッ

少年「……………」

包帯少女「さぁ、選んだよ。これでぼくが死ねばいいんだね?」

包帯少女「でもその前に聞かせて」

包帯少女「あなたは何のためにこの世界を終わらせるつもり?」

黒服男「…どこまでも、俺を嘲るつもりか?」

包帯少女「人を消すことだ、なんて、ぼくはそんなことが聞きたいんじゃない」

包帯少女「あなたは"誰のため"にそれをしているの?」

黒服男「……」

包帯少女「…お母さんと、お父さんのためだよね?」

包帯少女「ねぇ、もう一回考えてほしいんだ」

包帯少女「あなたがぼくたちを憎む理由にしている両親は、あなたに何をしてあげたのか」

包帯少女「お母さんがあなたを産んだ意味。お父さんがあなたに記憶を残した意味…」

包帯少女「…それでももう、止まれないって言うなら」

包帯少女「その悲しみも嘆きも全部、ぼくが受け止めてあげる」

黒服男(………気に喰わぬ)

黒服男(なんだその泰然とした様は。死が目の前に迫っているのだぞ。一度経験したであろう、苦しい死が)

包帯少女「……」

黒服男「……」ギリ...

黒服男「……気が変わった」

包帯少女「え?」



シュン!



黒服男「」ガシッ(首を掴んで持ち上げる)

包帯少女「あ゙…がっ……」

少年「少女さん!」ダッ

黒服男「っ」キィィン

バシュッ

少年「ぐぁ…!」ドサッ
372 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:45:10.65 ID:Yxrt9fKO0

黒服男「…ふ…はは」

黒服男「苦しいか、娘…!」

包帯少女「ぅ……ケホッ」

黒服男「このまま少しずつ縊り殺してくれようか!」

少年「や…めろ…」グッ...

黒服男「だが一つだけ助かる道をやろう」

黒服男「この男を身代わりにすると言え!そうすればその苦痛から解放してやる…!」

包帯少女「…ぃ…やだ……」

少年「少女さん…!頼む、もういいからっ…!」

黒服男「…っっ!!」

黒服男「何なんだ貴様は!!」ギュゥ!

包帯少女「――……」

黒服男「首を縦に振るだけでよいのだぞ!お前を苦しみの淵に追いやった輩なぞ、同じ目に遭わせてやればいい!」

黒服男(反吐が出る。上辺だけの好感情など今のお前の命を救ってはくれぬ。さぁ醜悪な本性を曝け出すがいい…!)

包帯少女「――」

黒服男(なのに何だ……全てを見透かしたような目……そんな目で)

黒服男「…俺を見るな!」

黒服男「さあ言え!断ればお前を殺し、この書物の妖禍子として朽ちるまで使い潰してやろう!」

少年(アヤカシノートを…!あいつ…!)

包帯少女「……、…」フル..フル..

黒服男「……………そうか」

少年(やめろ……やめてくれ……)

黒服男「なら望み通り…」

黒服男「――死ね」
373 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:45:48.51 ID:Yxrt9fKO0





少年「やめろぉおおおおおおお!!!」





――ピカッ!!





黒服男「!!」

少年(!?ノートが…これって…!)



...ゴォオオオオ!



「キシャアア!」

「」バサ、バサ...

「グゥゥウ…!」



少年(妖禍子が…)



ヒュオオオオオ!



「ギギギ…」

「ジッ!ジィッ!」



少年(吸い込まれていく…!)



.........




374 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:47:00.67 ID:Yxrt9fKO0

少年(………)

少年「………?」



(妖禍子の居ない南町)



少年(……さっきの、本当に全部ノートに…?)

包帯少女「……けほっ…」

少年「!少女さん!」タッタッ

包帯少女「…少年、くん…?」

少年「平気!?死なないよね!?」

包帯少女「…ふふっ、大袈裟だよ」

少年「――!良かった…!」ギュッ

包帯少女「……」...ギュ



黒服男「……」ウナダレ



少年「……あいつ……」

包帯少女「………」

少年「……」

トットットッ

少年「………」

黒服男「……」

少年「」スッ

ガサッ(ノートを手に取る)

少年「……」パラパラ...

少年(…どのページもびっしり、妖禍子で埋まってる)
375 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:47:35.66 ID:Yxrt9fKO0

少年「………」

少年「……お前――」

ポン

少年「!」

包帯少女「少年君」フルフル

少年「…けど」

包帯少女「きっと、もう何もしないよ」

黒服男「……」

少年(……全く動かない。そもそもこいつ、生きてるのか?)

少年(とにかく)

少年「…これで終わったんだよな…?妖禍子の奴らも消えて、いつも通りの日が戻ってくるんだよな?」

包帯少女「……」ミアゲ



(黒紫色の空)



包帯少女「まだ、みたい」

少年「え……」

少年「そんな…これ以上何をしろって…」

包帯少女「……」

包帯少女「…神社へ行かないと」

包帯少女「全てが始まったあの場所で、まだしなくちゃいけないことが残ってるんだ」

包帯少女「もうひと頑張りだね」

少年「……よし」



テクテク...




376 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:48:08.87 ID:Yxrt9fKO0
ーーーーーーー

猫又娘「おー…」

猫又娘「いやはや、あれだけの妖禍子がぜーんぶ吸い寄せられてくのは圧巻でしたなー」

派手娘「……手、きったな」

夢見娘「………」

猫又娘(上手くやってくれたんだね、少年君、少女さん)

猫又娘「……」フゥ...

夢見娘「」スクッ

...テクテク

猫又娘「あれ?夢見娘さん?」

夢見娘「……まだ、終わってない」

夢見娘「私たちも、行かないと……」

猫又娘「…ま、そうだよね」

猫又娘「ちょっとくらい休憩したかったなぁ…はぁーあ」

猫又娘「派手娘さんはどうする?多分ここに居ても家に帰っても、すぐ町は元通りになると思うけど」

派手娘「あたしも行くわ」

猫又娘「…ん」




377 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:50:04.17 ID:Yxrt9fKO0
ーーー石段麓ーーー

少年「…ここ登るの、何回目だっけ」

包帯少女「さぁ…でももう一生分は登った気がする」

少年「まったくだ」ハハッ

少年「……」キョロ、キョロ

少年「まだ屋台とか残ってるんだ」

包帯少女「お祭りやってたの昨日の今日だよ?人が居なくなって片付けられてないだけじゃないかな」

少年「そうかもね」

少年「…そういえば少女さん、結局昨日の花火見れなかったんだよな」

包帯少女「きみに助けてもらってたからね」

少年「……来年は」

少年「二人で来よう。ぐるっと屋台回って、花火見てさ。普通に楽しもうよ」

包帯少女「…今度は流されないようにね」クスッ

少年「!だ、大丈夫!今年ので学んだから!」

包帯少女「だといいけど、ふふっ」

少年「ぅ…登ろ」

包帯少女「うん」



トットットッ



少年「……」トットッ

包帯少女「……」トットッ



――トクン



包帯少女(…!)

包帯少女「……」トッ...

パッ(繋いでいた手を離す)

少年「…?少女さん?」

包帯少女「………」

包帯少女「…ごめん少年君」

包帯少女「どうやらぼくはここまでみたいだ」

少年「??…何が?」

少年「あ、もしかして手痛かった?悪い、配慮出来てなくて…」

包帯少女「自信を失くさないでね。後はきみ一人でも出来るはず」

少年「…?さっきからなんの話を――」

少年(―!)

少年「…その目は…?」

包帯少女「あぁ通りで。視界がさ、濁ってきたと思ったよ」

少年(包帯に巻かれてない左目が、奴ら…妖禍子の目にそっくりだ…)
378 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:50:42.37 ID:Yxrt9fKO0

...グリュ ビリビリ!

少年「!?」

少年「し、少女さん…腕が…!トゲみたいなのが…!?」

包帯少女「……きみには、あまり見られたくなかったんだけどな」

包帯少女「黙っててごめんね。見ての通り、ぼくはそろそろ行かなきゃいけない時間なんだ」

少年「行かなきゃ…って、どこにだよ!?」

包帯少女「本来居るべき場所に」

包帯少女「一度は死んだ命。きみに蘇してもらって、きみの成長を見守ることが出来て、ぼくは嬉しかったよ」

少年「……そんなこと、言わないでくれよ……」

少年「嘘だよな…?きみは居なくならないよな…?」

包帯少女「……」ニコッ

メリッ!

包帯少女「グゥ…!」

少年「!…やだ……少女さん…!」ポロ..ポロ..

包帯少女「…もう…強い人は、泣かないんじゃナかったの?」

少年「きみと居られないんじゃ強くても意味なんてない!」ポロポロ

少年「なぁ早く上へ行こう!?あの神社でトドノツマリ様が待ってるんだろ!?だったらまた頼めばいい!きみを元に戻してくれって!」ポロポロ

包帯少女「ううん、これは変えられないから」

少年「そんなこと言うなよ…!きみが諦めたら本当に間に合わなくなるだろ…!」

包帯少女「……大丈夫」

包帯少女「きっとまた会エルから」
379 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:51:35.23 ID:Yxrt9fKO0

包帯少女「そうだ、これ」スッ

少年「…バット」

包帯少女「うん。そんなオンボロでもさ、結構昔かラ使い続ケテきた相棒なんだ」

包帯少女「…きみニ預かってイテほしい」

少年「……………」



ベリベリ! バキッ!



包帯少女「ゥ゙ア゙!」

少年「少女さんっ!!」

包帯少女「…さ、ハヤク行っテ…!ぼクをミナイで!」

少年「で、も……」

包帯少女「早クッ!!」

少年「――……、っ……」

少年(……!)ギリッ

少年「」ダッ



タッタッタッ...



包帯少女「……ソレデ、いイノ……」

包帯少女(………)

包帯少女(…神様、聞こえていたら、どうかお願いします)

包帯少女(彼は十分にその責を果たしました。ぼくを守ろうとしてくれました)

包帯少女(ですからどうか…すくわれた結末を下さい)

包帯少女「………」ジッ

包帯少女(――例え繋いだこの手が離れても……大丈夫)

包帯少女(約束だよ)





また会える。





ベキベキッ!

バサッ――




380 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:53:27.52 ID:Yxrt9fKO0
ーーーーーーー



タッタッタッ



猫又娘「…!」タッタッ

猫又娘(…ちょっとだけ感じるこの気配…妖禍子?)

猫又娘(……)

猫又娘「……!?」ギョッ



黒服男「……」



猫又娘「………」

派手娘「…何してんの、置いてくわよ?」

猫又娘「あー、えと…」

夢見娘「……」ジッ...

猫又娘「先、行ってて。私もすぐ追いつくから」

派手娘「…そ」



タッタッタッ...



猫又娘「……」スタ、スタ

黒服男「……」

猫又娘「………」

ソー...

ポスッ(頭に手を乗せる)

黒服男「………失せろ」

猫又娘「!…びっくりした。てっきりもう植物状態になってるんかと思ってた」

黒服男「……」

猫又娘「あなたの髪、結構柔らかいんね。意外」ナデ..ナデ..

黒服男「何をしに来た。……嗤うなら嗤え、殺すなら殺せ」

猫又娘「んーじゃあ、なんで道の真ん中でへたり込んでたの?」

黒服男「…最早我が身を起こす事すら叶わぬ…骸も同然だ」

黒服男「……お前に情けがあるのなら、俺に構うな」

猫又娘「……」ナデナデ

黒服男「……」
381 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:56:53.87 ID:Yxrt9fKO0

猫又娘「…昨日のあなたの質問、私なりに考えてみたんだ」

猫又娘「人がなんで一方的にあなたたちを排除しようとするのか、だったよね」

猫又娘「……」



猫又娘「怖いから」



猫又娘「…じゃないかなぁ」

黒服男「………」

猫又娘「お化け的な怖さとかじゃないよ?多分それは知らないものに対する怖さなんよ」

猫又娘「何も人に限った話でもなくてさ、例えば臆病なワンちゃんは知らない人が来たら吠えて威嚇するよね?そーいうのと一緒」

猫又娘「得体の知れない存在に周りをうろちょろされるより、消してしまえーってなっちゃったんだよ」

猫又娘「…つまりそれってさ、裏を返せば、お互いちゃんと知ることが出来たら人と妖禍子が一緒に暮らすことも出来るってことなのでは?」

猫又娘「なんて考えてみたり」

黒服男「……また妄言か」

猫又娘「んーん、妄想なんかじゃないよ」

黒服男「人間の持つ俺達への感情は、容易には変えられぬ」

猫又娘「そーだね。だからゆっくりでもさ、歩み寄っていければいいんさ」

猫又娘「私みたいに」ニヒッ

黒服男「………おめでたい奴だ、お前は」

猫又娘「あなたがそれを言う?」

猫又娘「あなたのご両親が、そう出来たのに」

黒服男(――)

猫又娘「……」

黒服男「……」
382 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:57:38.39 ID:Yxrt9fKO0



ナデ..ナデ..



猫又娘「……ね。子守唄、覚えてる?」ナデ..ナデ..

黒服男「………」

猫又娘「………」ナデ..ナデ..

猫又娘(………)

猫又娘「…ねむれねむれやゆらりゆられ」〜♪

猫又娘「たなびくくものごとし」〜♪

黒服男「……」

猫又娘「おやまもさともよるのなか」〜♪

猫又娘「はかなきゆめみんとす」〜♪

黒服男(……お前は……)

猫又娘「あわれあわれやだれぞおにか」〜♪

猫又娘「てのなるところにおちて」〜♪

黒服男(……俺と、何が違う……?)

猫又娘「けものもとりもかごのなか」〜♪

猫又娘「うたかたのゆめみんとす」〜♪

黒服男(人でも、妖禍子でもない……歪な存在……)



広い背中を頼るしろい手

重なる刹那願いをかけた



黒服男(……)



年月も水屑も

流れ流れてめぐるあはれ


383 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:58:26.96 ID:Yxrt9fKO0



ーーーーー

――貴方への愛が途絶える事も無く

ケモノ「――この子と共に生きよう。それが我々に出来る恩返しだ」

――千代に流れ継いで行きますように

女「……はい。私が貰った愛を次はこの子に…」

――其の名を愛したふたつの花を

女「…そうです。この子の名前、今ようやく決まりました」

――どうか覚えてます様に

ケモノ「聞かせてもらおうではないか」

――もしも貴方の嘆きが闇を囲い

女「"ナガレ"。というのはどうです?」

――ヒトを愛せなくなったとしても

女「この子に注ぐ愛が、永遠に流れ継いで行くように…」

――貴方を変わらず愛する花を

女「貴方を愛する私達の事を」



――どうか覚えてます様に



ーーーーー



猫又娘「――どうか覚えてます様に」〜♪

黒服男(…知らなかった)

黒服男(己が授かった名……)

黒服男(そこに込められた愛の意味……)

黒服男(……俺の中は、何で満たされていたのだろうか…)

猫又娘「ねむれねむれやゆらりゆられ」〜♪

猫又娘「はかなきゆめもかごのなか」〜♪

黒服男(………眠い、な………)



ねむれねむれやゆらりゆられ

はかなきゆめもかごのなか…





スー...





猫又娘「……」

猫又娘「……」

猫又娘(………)

猫又娘「おやすみなさい」


384 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 22:59:21.73 ID:Yxrt9fKO0
ーーーーーーー



タッタッタッ!



少年「」タッタッ!



タッタッタッ!



少年「……っ」タッタッ!

少年(くそ……ちくしょう…!)

少年(なんで少女さんが消えなきゃならないんだ!)

少年(あの包帯――結局僕がどう足掻いたところで、こうなることは決まってたのか…!?)

少年「……」タッタッ

少年(……このノートは全部知ってたのかな)

少年(これがあったから少女さんと知り合って…猫又娘さん、派手娘さん、夢見娘さん……普通なら関わることもない人たちと過ごすようになっていって)

少年(…妖禍子を収束させたのもこいつだった)



(物言わぬノート)



少年(お前は一体なんだ。なんで僕の持ち物なんだよ)

少年(僕はどうすれば少女さんを助けることが出来たんだ…)

少年「……はぁ……はぁ」タッタッ
385 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:00:39.29 ID:Yxrt9fKO0

少年(……思えば)

少年(彼女はいつも僕のことを見ていてくれた)



ーーーーー

少女「――諦めないで、ちゃんと精一杯抵抗してるんだなって」

ーーーーー



少年(どんな時でも弱音を吐かずに)



ーーーーー

包帯少女「――ぼくも、またきみとお喋りしたい」

ーーーーー



少年(ふと気付くと、僕の前に立ってて…それが僕の道しるべになっていた)



ーーーーー

包帯少女「――ぼくはね、きみと出会えて良かった」

ーーーーー



少年(僕だって、少女さんに勉強を教わるのは分かりやすかったし、二人野球も暇つぶしなんかじゃないくらい楽しかったよ)

少年「はぁ…はぁ…」タッタッ

少年「はぁ……はぁ…」タッタッ

少年「!っと…」ヨロッ...

少年「……はぁ……は…」...タッタッ

少年(………)





――大丈夫。きっとまた会えるから。





少年(……)グッ...!

少年「……約束だよ……はぁ…」タッタッ

少年「はぁ……は…」タッタッ

少年「――絶対、忘れないから!」



タッタッタッタッ...



少年「はぁ……え゙ふっ」

少年「…っはぁ……はぁ……」

少年(着いた…)

少年(…階段、こんな短かったっけ?けど足がものすごく怠い…)
386 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:01:08.70 ID:Yxrt9fKO0

少年「……ふぅ……」

少年「…!」



幼女「……」



少年(……小さな女の子……)

少年(顔を見なくても分かる。きっとあの子が)

少年(トドノツマリ様)

少年「……」...ザッ

幼女「……」

少年「……」ザッ、ザッ

幼女「………」(そっと振り返る)

少年(!…この子もだ)

少年(あいつと同じ、どこか悲しげな顔をしてる)

少年「……」ザッ、ザッ

幼女「……」

少年(――そうか)

少年(あの時、きみから見た僕もきっと)



その時何を考えたかは正直あまり覚えてない。



少年「……」スッ(手を差し出す)



ただ、どんな疑問よりも先に口を衝いて出ていたんだ。





少年「友達に、なってくれませんか?」




387 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:02:14.94 ID:Yxrt9fKO0

幼女「………」

少年「………」

幼女「……これは、異な事を」

幼女「然し」



...キュ



幼女「感謝する、創造主よ」

少年「……うん」

少年(暖かくも冷たくもない、不思議な手だ…)

幼女「ふむ…」

幼女「付喪神の仕業でもあるまいが、何れも正しく所有者の元へ還る、か」

少年「…?」

幼女「其の書物も然り」

少年「アヤカシノート?」

幼女「些か、実直過ぎる名を付けたものよ」



...タッタッタッ



派手娘「やっぱり、あんたか」

夢見娘「……」

少年「二人とも無事だったんだ。よかった」

少年「…猫又娘さんは…」

派手娘「一緒。後から来るってよ」

少年(……)

少年「あのさ…ここに来る途中、少女さ――」

少年「……人の形をした妖禍子を見なかった?」

派手娘「……」チラリ

夢見娘「………」モジッ...

少年「あ、いや夢見娘さんじゃなくて…」



猫又娘「おい!おーい!」スタッ、スタッ



猫又娘「」バッ

クルクルクルッ シュタ!

猫又娘「…っと」

猫又娘「主役は最後に登場!」

猫又娘「…間に合った?遅刻?」
388 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:03:15.57 ID:Yxrt9fKO0

少年「猫又娘さん!」

少年「間に合ってるよ。僕もついさっき来たばかりだから」

猫又娘「丁度いい時に来れたかなー」

猫又娘「世界を救った英雄さんの話も聞けそうだしね」

少年「……え、僕のこと?」

猫又娘「もち」

猫又娘(……)

猫又娘(少女さんがいない)

猫又娘(さっきのはやっぱり…)

少年「……」

幼女「案ずるでない。役者は揃った」

幼女「嘆きに満ちたこの夜に、終止符を打とうぞ」

四人「……」

猫又娘「で、何をするのでしょうか」

夢見娘「……妖禍子の封印……」

幼女「是」

少年「妖禍子ならここに…」

夢見娘「……」フルフル

夢見娘「その子たちは、単純な存在だったからそこに納まったの……」

夢見娘「……私みたいに、少年くんに創ってもらったり、"違うもの"と混ざってたりすると、話は別……」

猫又娘「……」

幼女「今この世を停滞せしめている歪みは、放たれた妖禍子の消失により除かれる」

幼女「書物も合わせ、封じねばならぬ」

幼女「そして残すは二つ」

夢見娘「……」

猫又娘「……ふー」

猫又娘「なーんとなく、そんな予感はしてたけどねぇ」

猫又娘「封印される前に知っておきたいことがあるんだけど、いい?」

幼女「…言ってみよ」

猫又娘「どうして今になってこんなことが起きたのかなって」
389 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:04:12.04 ID:Yxrt9fKO0

猫又娘「あの男が産まれたのって大分昔なんよね?…あいつの親が殺された時、まだ赤ん坊だったみたいだけど、何百年も後のこの時代で恨みを晴らす理由があったんかな?」

幼女「……」

幼女「……彼の者は元より封じられていた」

少年「あの村長さんたち、あいつだけ殺すんじゃなくて封印したんだ…?」

幼女「封じたのは我だ」

猫又娘「!」

幼女「彼の者をあのまま生かしたとて、人間の手が迫る事は明白」

幼女「ならば、何人も触れられぬ様封ずる事が彼等の安寧となる」

幼女「其の浅慮に囚われた我は、同様にして妖禍子共を封じていった」

幼女「…この社の中へ」

猫又娘「じゃああのお札は」

幼女「我が施したものだ」

幼女「彼等を護る揺籠と思い、長い時の中見続けていた」

幼女「……だが、其れでは何も終わらぬ。彼の者の憎悪は徐々に、然し確実に渦を巻き…」

幼女「いつしか世を歪ませる螺旋となりて、外界へ放出した」

猫又娘「……」

猫又娘「あなたも…よく無事だったね」

幼女「彼の者の記憶に、我は無かったようだ」

幼女「其の事実が吉と出たか凶と出たかは…最早確かめる術はないが」

少年「………結局………」

少年「事の発端は何もかも……人にあったんだな」

少年「妖禍子だ化け物だって騒いでおいて……本当の"アヤカシ"は僕らのこの――」

少年「胸の中にあるんだろうな…」

派手娘「……」

幼女「………」

幼女「妖禍子とは、そなた達が付けた呼称。我等は単調な運動しか出来ぬ者、高度な思索を行う者であろうが、そこに在る事が全て」

幼女「元々善悪なる概念は存在せぬ」

幼女「…この言葉に、納得出来ようか?」

少年「え…納得出来るか、って?」

少年「あぁ…まあ襲ってきた奴らだってあいつに操られてただけで悪意があるようには見えなかった」

少年「むしろ助けてくれる妖禍子さんがいるくらいだし…」

夢見娘「………」

猫又娘「えへへ…」

幼女「…であれば、よいのであろう」

幼女「創造主よ、そなたが其れを忘れずにいれば、人の世の心地は変わって行ける」

幼女「…そう信ずるに値する」

少年「………」
390 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:04:51.39 ID:Yxrt9fKO0

幼女「……我も、そなたに謝罪せねばなるまい」

少年「…?」

幼女「――現世に戻した女。其の命、再び消ゆる事」

幼女「対価を欲したにも関わらず、間に合わせられぬ事」

少年「………」

少年(…少女さん…)

幼女「女の魂魄は…湖沼の底へと戻った」

幼女「あの湖沼には浮かぶ事の無い数々の念が漂っていたが」

幼女「今や一つとして残っておらぬ。何にも邪魔されず、洗われてゆく事だろう」

猫又娘(驚きだ……この子に人を生き返らせる力まであったなんて)

猫又娘(……だったら……そう願えばキミともう一度会うことも……)

猫又娘(………)

猫又娘(…いや、そうじゃないよね)フゥ...

派手娘「……」

派手娘(…善悪がないって何よ。そんなの無機物と変わらないじゃない)

派手娘(んなこじ付けに納得しろなんて…)

幼女「人間」

派手娘「…あたし?」

幼女「約束しよう」

幼女「人の――そなたの領域への侵食が金輪際無い事を」

幼女「人間との衝突は負の結果を生む。我等の存在の固定化が何時終わるかは分からぬ。だが、其れまでは此処で揺蕩い続けようぞ」

派手娘「それで…この町の守り神ってわけ?」

幼女「……我は、斯様な在り様しか見えぬのだ」

派手娘「………」
391 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:05:40.54 ID:Yxrt9fKO0

幼女「閑話休題」

幼女「…猫又よ」

猫又娘「うん、もう十分。サンキューね」

幼女「では…封印は一度に一つずつ」

幼女「先ず其の書物を、此方へ」

少年「はい、どうぞ」

幼女「……」スッ



...フワァ

ヒュウウゥゥ

フッ...



少年(光が湧いたと思ったら…ノートが消えた)

猫又娘「おぉ…綺麗…」

幼女「苦痛は無い」

幼女「次は――」

猫又娘「はいはい!私が先!」

派手娘「バカなの?給食のデザートじゃないのよ」

猫又娘「あれ?なに?心配してくれてるん?あ!もしかして私が居なくなると寂しいとかー?」ニヤ

派手娘「チッ…うざい…」

少年「――僕は、寂しいよ」

猫又娘「……」

少年「猫又娘さんが居てくれてから、ここまで来れたんだし……少女さんと仲直りするのだって……」

猫又娘「少年君」

少年「!」

猫又娘「湿っぽいお別れはなし!そんな長々と喋んないで、一言にぎゅっとまとめておくれよ」

少年「一言…??」

少年「…さようなら?」

猫又娘「んーん」

少年「お元気で」

猫又娘「変わってないなぁ」

少年「えー……」

少年(……!)

少年「…ありがとう」

猫又娘「いぇい♪」ピース

猫又娘「じゃー、封じちゃってくださいな」

幼女「……」スッ
392 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:06:30.29 ID:Yxrt9fKO0



猫又娘(人間社会は難しい)

猫又娘(色んなものがない交ぜになってて、ぐちゃぐちゃで、最初はびっくりしたっけ)



...フワァ



猫又娘(でも、キミが楽しい処世術を教えてくれたから)

猫又娘(……テストの点数は悪かったけど、私の生き方は何点だったんかなぁ)



ヒュウウゥゥ



夢見娘「……」

ポワァ...



猫又娘(………)

『――なんで暗い顔してるん?笑って笑って!』

猫又娘(……え?)

帽子『へへへっ』

猫又娘(あ……なんで……?)

帽子『お疲れ様』

帽子『僕の代わりにみんなを笑わせてくれたんだって?よく頑張ったね』

猫又娘『……っ……』

タッタッタッ! ギュッ

猫又娘『うん…うん…!頑張った…!』ギュー

猫又娘『私頑張ったんだよ…!』

猫又娘『だって!キミとまた、一緒に笑いたかったから…!』ポロ..ポロ..

帽子『とか言いながら泣いてんじゃん?』

帽子『僕と笑うんでしょ?ほら、せーの!』

帽子『にひひ』ニコッ

猫又娘『……にひひっ』ニッ



フッ...


393 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:06:56.43 ID:Yxrt9fKO0

子猫「……」

子猫「」クシクシ

少年「猫に、変身したのか?」

幼女「其奴は既にただの猫だ」

子猫「……」

ダッ

スタッ、スタッ、スタッ...

少年(行っちゃった…)

派手娘「…あんた、今何したの?」

夢見娘「……夢を見せた……」

夢見娘「それだけ……」

夢見娘「……」...テクテク

少年「…夢見娘さん!」

夢見娘「………」

少年「ずっと僕たちを助けてくれてたんだって、聞いたよ」

少年「ごめん…勝手に僕が作り出しておいて、僕たちの都合で封印なんてさ…」

夢見娘「……私は、きみのものだから、いいの……」

少年「でも…」

夢見娘「……少年くんが私のことを考えてくれた。それだけで嬉しいから」

夢見娘「……」ニコッ

少年「…!」

夢見娘「……お願いします……」

幼女「…もうよいのか?」

夢見娘「……」コクリ

幼女「……」スッ



夢見娘(……いつか……)

夢見娘(きみと同じ、人として生まれ変われたら……)

夢見娘(その時は、きみと一緒に……)



...フワァ

ヒュウウゥゥ

フッ...


394 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:07:36.35 ID:Yxrt9fKO0

少年「………」

幼女「………」

派手娘「………」

少年(これで、今度こそ終わった…?)

幼女「…後ろを見よ」

少年「?」フリムキ

少年「あ…」



(地平線に僅かにのぞく太陽)



少年「朝が……来たんだ」

派手娘「………」

派手娘「……」ザッザッ



ザッザッザッ...



少年(!…派手娘さん…)

少年(ろくに話せなかったな)

幼女「そなたも帰るがよい。直、世の再生が始まる」

幼女「…我が為せるのは此処まで。最早この場所に留まる意味はない」

幼女「さらばだ」...スッ

少年「…あ、あの!」

幼女「……」チラ

少年「さっき、少女さんはあの池に戻ったって言ってましたよね」

少年「それは…少女さんも封印されちゃったってことですか?」

幼女「……」

少年「また会おうって、言ってくれたんです」

少年「少女さんは、また戻ってこれるんですよね…?」

幼女「………我の力のみでは、不可能だ」

少年「……そう、ですか」

幼女「だが」

幼女「嘗てそなたが見せた意思を超え、想い続けられるのならば、或いは」

少年「想い、続ける…」

少年「……それが出来たらどうなり――」

シーン...

少年(…いない…)
395 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:08:08.66 ID:Yxrt9fKO0

少年「……」

少年「……」

少年「………」

少年「………」ミアゲ



(昇りつつある朝日)



少年「……眩しいな」

少年(僕にとってのきみは、この太陽みたいなものだったのかもしれない)

少年「…いや、ちょっと違うか」

少年(太陽に手は届かないけど、きみの手を握ることは出来たんだ)



スッ(手をかざす)



少年「僕の声、聞こえる?」

少年「待ってて。今度は僕がきみの手を引っ張ってさ、連れ出してあげる。きみをひとりにはしないから」

少年「"大丈夫、約束でしょう?"」

少年「だから、また――」





あの綺麗な声で笑って欲しい。




396 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:37:41.77 ID:Yxrt9fKO0
■終幕 友達■


ーーー9月3日 学校ーーー



ガヤガヤ



「おはよ!」

「久しぶりー!なんか焼けたね?」

「夏休み中ずっと外で部活してたからさ〜」



ワイワイ



少年「……」テクテク

「あ、先生おはようございます」

教師「おう、おはよう。結構遅刻ギリギリだぞ?始業式の日だからって甘く見てはもらえんからな」

「はーい」

少年「……」テクテク

少年(…皆、すっかり元通りだ)

少年(何事もなかったみたいに学校へやってきて、前と同じ日々を過ごしていく)

少年(事実、皆にとっては何もなかったんだろうけど…)

少年「……」テクテク

少年(夏休みの間、僕は少女さんを探し続けた)

少年(神社には勿論、あの池にも学校にも足を運んだ)

少年(結果は言わずもがな。手掛かりを見つけるどころか、日に日に薄れていく彼女の痕跡を忘れないようにするだけで精一杯だった)

少年(…いつの間にか、少女さんのLINEが消えていた。登録していたはずの電話番号も)

少年(少女さん家を訪ねてはないけど、行ったところできっと……)

少年「………」テクテク

少年(それでもきみは確かに存在していたんだ)

少年(きみから預かったこのバットが、それをはっきりと主張してくれる)

少年「……」テク...



(教室のドア)



少年(……)

ガラッ

「!…なんだ少年か。先生が来たのかと思ったぜ」

「なぁそれより続き話してもいいか!?夏祭りで見かけたそのめっちゃ可愛い子がさ──」

ザワザワ



(空いた少女の席)



少年「………」

少年(……だよな)
397 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:42:43.38 ID:Yxrt9fKO0

派手娘「ちょっと、邪魔」

少年「あ、ごめん」ススッ

派手娘「ボケッと突っ立ってないでとっとと席着けば」トットッ

少年「…うん…」

トットットッ

少年「……」

同級生A「そんでよー、──!」ペチャクチャ

同級生B「またあのアホから──」ケラケラ

少年(あいつらに絡まれなくなったこと以外は、進級したての頃と変わらないな)

少年「……」

少年(…前、何をして過ごしてたっけ)

教師「うーっす。HR始めるぞ」ガララ

教師「お前らちゃんと勉強してたかー?夏サボった奴は冬にかけてやらんと本当に行けるところなくなるからな?」

派手娘「……」フテブテー

教師「…派手娘」

派手娘「なんですか?」

教師「足、直しなさい」

派手娘「………」

ガタン

教師「連絡事項と配布物が大量にあるから、ちゃっちゃと片付けてく──おっと、まず出席か」

教師「あー、初っ端から来てない奴がいるな。あいつは夏期補習もサボってたなそういや…」

教師「まあいい」

教師「同級生A」

同級生A「うぃ」

教師「同級生B」

同級生B「はーい」

教師「二つ編み」

二つ編み「はい」
398 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:44:26.99 ID:Yxrt9fKO0

少年(…やっぱり、もう一回トドノツマリ様に掛け合ってみた方がいいのかな)

少年(あの人だけじゃ難しいって言ってたけど、もうそれくらいしか僕に思い付くのは──)

教師「猫──」





ダッダッダッ ガラッ!





猫又娘「ごめんなさーい!遅れましたー!」





少年「!!」

派手娘「……はぁ…?」

少女「もう…どうせ遅刻なんだから歩いてっても変わらないのに…!」ゼェ..ゼェ..

猫又娘「えー?出席終わるまでに着いたらセーフだよ!それくらいおまけしてくれるよね、先生!」

教師「ダメだ」

猫又娘「」ガーン

少女「ほら」

教師「ま、その心意気は褒めてやろう。早く席に行け」

猫又娘「うー…」トボトボ

教師「猫又娘、お前は後で職員室だ。夏の補習の件について話がある」

猫又娘「あんまりだっ!」

教師「自業自得だ」




399 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:46:47.23 ID:Yxrt9fKO0
ーーー始業式後ーーー

猫又娘「うぇー…少女さーん、信じらんないくらいの量の追加課題出されたー」

少女「気の毒にね。応援してるよ」

猫又娘「手伝ってー!」ウエーン

少女「無理だよ!ぼくも夏の課題全然やれてないのに」

少女「訊くならちゃんと夏休み満喫してた人にしなくちゃ」

少女「ね、少年君」

少年「……あ」

少年「え……少女、さん?」

少女「なに?」

少女「…お」

カラン

少女「バット、ちゃんと持っててくれたんだね」

少女「ありがと」フフッ

少年「ほ、本物?」

少女「……うん」



少女「約束。また会えた」



少年「──!」バッ

──ピタッ...

少年(…あっぶな)

少女「わ…よく自制してくれたね。教室の真ん中で抱き着かれるのはさすがにぼくでも恥ずかしいよ」クスッ

少年「ご、ごめん」

少年「でもなんで…いつから…?」

少女「気が付いたのはついさっき」

少女「起きたら今日だったんだ。戻ってこれたのが本当に今日なのか…そこはあんまりよく分からないけど、すくなくともあの日から今日までの記憶は無いし、宿題も真っさらだったから」

猫又娘「夏の補習もサボってることにされました…うぅ…」

猫又娘「だからせめて遅刻だけは避けたかったのにぃ…」

少女「夏休み過ごせてたところであなた、宿題なんてやらなかったでしょうに」

猫又娘「そそそ、そんなことないよ!生まれ変わった私の切れ味、甘くみてるなっ!?」

少年「切れ味ってそういう使い方するっけ…」

派手娘「ふーーん?是非見てみたいものね」

猫又娘「」ビクッ

猫又娘「やー…どーもどーも」アハハ...
400 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/18(火) 23:51:05.65 ID:Yxrt9fKO0

派手娘「どうせあのインチキマジックでお茶を濁すだけでしょうが」

派手娘「しかも、なーにさも何でもありませんでしたって顔で居るのよ。封印されたんじゃなかったの?」

猫又娘「封印されたんはさ、妖禍子じゃん?」

猫又娘「だから私も少女さんも人間の部分だけがこうやって戻ってこれたと思ってるんだー」

猫又娘「…まあつまり、私のマジックパワーはもう使えないんよね…」トホホ

派手娘「へぇ、そういうこと」

ガシッ

猫又娘「…にゃ?」

派手娘「じゃあ小賢しい真似はもう出来ないのね。残念だわー、あんたの手品楽しみにしてたのに」ニコニコ

猫又娘「ははは…それはどうも」

猫又娘「あの、この手は…?」

派手娘「ん?安心しなさい。最低限の勉強くらい、あたしが直々に仕込んであげる」ニッコリ

猫又娘「遠慮しますっ!!?」

派手娘「あんたのためを思ってやってやんだから感謝して欲しいわねー」ズルズル

猫又娘「いーやーだー!そもそも仕込むってなにさ!?教える、じゃないん!!?」ヒキズラレー

タスケテー!

少女「あーあ、行っちゃった」

少女「ま、あれくらい荒療治しないとやるようにならないから丁度いいかもね」

少年「………少女さん」

少女「ん?」

少年「また、よろしく」

少女「……」

少女「…友達として?」

少年「え?それはどういう…」

少女「ふふっ。さぁ?」

少年「なんだそれ…!気になる、教えてくれよ!」

少女「知らなーい。きみから言ってくれないならぼくも教えないよ♪」

少年「なっ…」

少年「………僕は………ただ、きみが………」

少年「……………」
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/18(火) 23:53:31.18 ID:Yxrt9fKO0

少女「…ね」

少女「今日、久々に二人野球しに行こうよ」

少年「!…いいけど」

少女「猫又娘さん、二つ編みさんと、派手娘さんも誘えば来てくれるかな?」

少年「それもう二人ではないよね…」

少女「始まりはきみとぼくの二人だったんだから"二人"でいいじゃない?」

少女「それより、さ!」



ギュッ(手を握られる)



少年(…あ)

少女「声かけに行かないと、二つ編みさん帰っちゃう」

少女「行こ?」

少年「…行くか」


402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/18(火) 23:54:51.92 ID:Yxrt9fKO0





『9月13日  眩しいくらい、夏晴れ

少女さんが案外、ずるい一面を持っていることを知った。包帯を着けていた頃の彼女は何となく大人しかったけど、今日は大分はしゃいでたのかな?でもそんなとこもひっくるめて、僕は……』





パタン

少年「………」

少年「………」

少年「………」

少年「……」フ...




403 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/19(水) 00:13:49.37 ID:qYbXnGr+0
ーーーーーーー

「C、帰ろうぜ……ってなんでそんなに菓子ばっか持ってきてんだ?」

同級生C「あれ…本当だいつの間に」

「どんだけ腹減ってたんだよ」

「ちょっと俺にもくれない?」

同級生C「おぉ、いいよ。あんま取り過ぎんなよ?」

「わーってるって。これとか懐いな〜。俺こっちのやつ好きな──…?お前、泣いてんのか?」

同級生C「え…?」ツー...

同級生C「は?え?なんだこりゃ…」ポロポロ

「お、おいおい…悪かったよそんなにお気に入りの菓子だと思わなくて…」

「馬鹿か、そうじゃねぇだろ絶対。どうしたんだよ?」

同級生C「分っかんね。なんだろうな」ポロポロ

同級生C「…あ、これあれだ。何となくだけどさ」ポロポロ

同級生C「──すっごい好きなものを、失くした気分、だ…」ポロポロ

同級生C「なん、だろうな…ほんと……」ポロポロ...

「何があったか知らんけどさ、元気出せよ」ポンポン

「話くらいなら聞いてやるぜ」

同級生C「……サンキューな……」




404 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/19(水) 00:15:02.09 ID:qYbXnGr+0
ーーーーーーー

二つ編み「お二人に話があります」

二つ編み父「おー、どうした?」

二つ編み母「あんまり暇じゃないから手短にね」

二つ編み「わたし、祖母の家で暮らします」

二つ編み母「……は?」

二つ編み父「…本気か?」

二つ編み「諸々の手続きはこちらの方で進めておきました。後はお二人の承諾と印鑑だけです」スッ

二つ編み「金銭のことでも一切あなた方に迷惑をかけないので安心して下さい」



ーーーーー

少女「──それ、あなたが我慢する必要ないよ」

少女「──おばあちゃんにお話してみたら?」



老婆「──ばあちゃんの家でかい?」

老婆「──…長いこと面倒見てあげられないかもしれんけども、それでいいならうちに来なさい」ニコ

ーーーーー



二つ編み(…ありがとう)

二つ編み「今までお世話になりました」ペコリ




405 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/19(水) 00:17:47.30 ID:qYbXnGr+0
ーーー神社ーーー



……………。



スッ...



幼女「………」

幼女「……」ジッ



(長い石段)



幼女「………」

幼女(心とは誠、関心の尽きぬ代物よ)

幼女(どれ程小さき存在であろうと、その在り様で如何様にも魅せる事が出来る)

幼女(…そして其れは、人のみが持つ特権に非ず)

幼女(碧のケモノ)

幼女(彼の者も又、今際の際己が心を強く鳴らし、自らの生涯と番の影を遺していった)

幼女(前者は彼等の子へ)

幼女(後者は猫又へ。……そして彼の書物へも)

幼女(なればこそ、あの書物は創造主の強き心に惹かれ、共鳴したのであろう)

幼女「……世界は、共に在る事を選択したのかもしれぬ」

幼女(そなた達が其の可能性を魅せた様に)

幼女(…住む世界異なれど、心を通わせた二つの命が在った様に)



ーーーーー

少年「──友達に、なってくれませんか?」

ーーーーー



幼女「勇む心を持つ者よ」

幼女「人と妖禍子、共存の道を示した其の所業」

幼女「礼を言う」

幼女(…ふむ、そなた達の言葉を借りるならば)





幼女「──ありがとう」





ー終わりー
406 : ◆7jwTcAQqF.Dj [sage saga]:2020/02/19(水) 00:26:07.52 ID:qYbXnGr+0
以上で完結となります。

元にさせていただいたのは、sasakure.UKさんが出しているアルバム「摩訶摩謌モノモノシー」と「不謌思戯モノユカシー」に収録された楽曲たちです。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
407 : ◆7jwTcAQqF.Dj [saga]:2020/02/19(水) 00:53:54.71 ID:qYbXnGr+0
長編を書くのは本当に難しいですね…。
五か月もかかるとは思いもしませんでした。
書ける人は尊敬します。

次回からはまた百数レスほどのSSに戻ります。
次回は以前書いた、

  少女「お兄、すき」男「そうか」

の続編を投稿していこうと思います。
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/05/30(土) 15:25:48.80 ID:yAByYbc8O
執筆お疲れ様でした。
私も3年程前にsasakure.ukさんのア(マ)ヤカシシリーズに魅せられて何回も曲を聞き、様々な人の考察を探し、sasakure.ukさんのインタビューなども読み漁りました。
そのなかで自分なりの解釈や物語の展開を思い描いたものですが、こうして同じように曲を考察されて、それを文章にされている貴方の作品を読んでみて、納得が行っていなかった点やぼやかされて分からなかった点が鮮明になった気がします。
恐らく、所々は予想に基づいて書かれているのだと思いますが、それにしても本筋としては、ちゃんと辻褄があっており、元の曲(原作)の歌詞なども踏襲されており、素晴らしいと感じました。

正直、ここまでしっかりと考察と本筋が形にされている文章に出会えて感動しています。
一人のsasakureファンとして、貴方の事を尊敬します。

二度目になりますが、執筆本当にお疲れ様でした。
409 : ◆7jwTcAQqF.Dj [sage saga]:2020/05/31(日) 18:31:53.44 ID:lJpQZ0d80
>>408

感想ありがとうございます。
正直なことを言うと、各登場人物の心理や価値観はもっと深く分かりやすく表現出来るはずだろうなとは思っています。自分なりに書いてはみましたが、sasakureさんのア(マ)ヤカシシリーズを描写し切れたとは言い難いですね…。
ですがやりたいことはやれました。元々このシリーズをSS化しようと思ったのは、猫又娘(サト)ちゃんに救われた結末をあげたかったからなんですよね。
長くなってしまいましたが、このシリーズを知っている方に読んでもらって、感想まで頂けるのはとても嬉しいです。
あなたの考察がSSになるのも待ってますよ。
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