【安価】安価ファンタジー冒険者で地の文多めのマジメなやつ

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105 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 22:17:43.98 ID:rjqTezbP0
ともあれ、ミア達は村落跡を見下ろす位置に到着した。
ヴォルフはミアをそっと降ろし、村の方向を示す。


「ほれ、見えるか?
 開拓村跡だ。
 いるなら間違いなくあそこだろうよ。
 人の建てた家は連中の大好物だ」

「は、はい、なんとか。
 あそこに、ゴブリンが……」


太い指が伸ばされた先、木々の密度が薄く幾分か見通しの良いそこからは確かに家々が見えた。
僅か二十軒ほどのほんの小さな集落がそこにある。

とはいえ規模の割には作りは堅牢だった。
道が消え去るほどの年月を経たとは思えないほどに家屋に綻びは少ない。
朽ち始めてはいるものの未だ原型をしっかり留めている。
周囲を囲う獣除けの柵も壊されたような部分はあるが自重で倒れたりはしていないようだ。
106 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 22:36:47.68 ID:rjqTezbP0
「普通は跡に棲み付かれねぇように壊すはずなんだがなぁ……。
 いやま、今は関係ねぇか」


ヴォルフはそう言って木に寄りかかり、この場での偵察を兼ねた休憩を告げた。

村内が見下ろした状態で一刻ほど待機し、おおよその数を把握。
問題がなければ山を一直線に下って殴り込むという。
それまでにしっかり息を整えておけと指示がされた。

ミアは了解の返事を返し、ヴォルフのすぐ隣に腰を下ろす。
山中の危険はすでに十分に把握している。
そばを離れる事は子供でも分かる程に無謀だった。
これまで感じていた巨体の頑健さから離された事が不安を生んでいたというのもある。


と、そこでミアは一つ気付いた。
地面に伸ばした足、靴の中にじりじりとした痛みがある。
107 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 22:43:40.26 ID:rjqTezbP0
もしやと思い靴を脱げば、そこには血がにじむ傷があった。

慣れない長時間の歩行に山歩き。
それが足に過度の負担をかけ皮膚を破ったのだろう。

今までは気が張り詰めて気付かなかったようだが、体を休ませようと気を緩めた途端に痛みが主張を始めたのだ。
目で見てしまった今、それは更に声を大きくする。


だが幸いな事に、ミアには簡単な治療の心得がある。
痛みに顔を歪めはしたものの慌てる事なく荷から道具を取り出し、傷で動きが鈍らないように手早く応急手当を行った。


――――――――

技能判定/手当

手当 Lv1



――――――――
108 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 22:54:24.13 ID:rjqTezbP0
「ほー、慣れたもんじゃねぇか」


感心したような声が頭上から降る。
腕を組んだヴォルフはミアの手際をじっくり確認していたようだ。


「は、はい。
 修道院では時々、医院に近い事もしていましたので。
 その、私はまだ真似事のようなものですが……」


見られていた事に気付いていなかったミアはおどおどと答えた。
それに対しヴォルフは、いやいやと続ける。


「そう卑下したもんでもねぇだろ。
 良い手際だったぜ」

「あ、ありがとうございます」


ヴォルフはにかりと歯を見せて笑っている。
どうやら本心からの称賛のようだった。

ミアの心に僅かだけ余裕が生まれた。
ここに来てようやく、小さくとも長所を見せられた事に安堵する。
109 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 22:59:57.89 ID:rjqTezbP0
人心地ついたミアだったが、少しすればどうしたものかと思考が回り始めた。

この場で村落跡を監視して一刻。
短くはない時間だ。
それまでをただ休むばかりで良いのだろうか。
何か他に出来る事はないだろうかと。



1/何もせずじっと休む。

2/ヴォルフと同じように村の様子を探る。

3/周囲の山中を警戒する。

4/ヴォルフに話しかける。



↓1
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/07(土) 23:00:40.23 ID:fM7k6quE0
1
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/07(土) 23:01:22.37 ID:1r+Dp/PDO
3
112 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 23:09:44.73 ID:rjqTezbP0
いや、とミアは思い直した。

余計な事はするべきではない。
指示に従って大人しく息を整えようと、ミアは自身の膝を抱え込む。
心を落ち着かせるように目を閉じて深く呼吸した。

山への恐怖は未だあるが道中ほどではない。
このままじっとしていれば回復も早いはずだ。


―――――
―――



「よし、そろそろ行くか。
 数も大体見て取れた」


ヴォルフの声にミアは顔を上げた。
促されるままに立ち上がり、荷を背負って杖を持つ。

疲労は完全に抜けたわけではない。
それでも「一歩も動けない」という状況からは随分と遠くなっていた。
これならば村落跡までの行程も大きな問題無く歩みきれるだろう。
113 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 23:22:29.83 ID:rjqTezbP0
山中、往路の最後をヴォルフに先導されミアは進む。

視界に移る村落跡は徐々に大きくなっていく。
屋外で行動している子供ほどの何かも捉えられるようになった。
ゴブリンだと、ミアも確信を抱く。

ミアの肌が粟立ち始める。
自分はこれから人食いの獣の前に立つのだと今更に実感が沸きだす。
疲労からではなく、今度は恐怖から脚が震えた。

ゴブリンは人を憎悪する。

囚われた者がどれ程凄惨な目に遭い、惨たらしい骸にされるか。
数多の逸話が世には残っており、それはミアとて良く知るところだ。


ミアは歩みながら手を祈りの形に組んだ。
簡易的な聖句を呟き、己を鼓舞する。
冒険の無事を信仰を捧げる主へと願わずにはいられなかったのだ。


―――――――――――

技能判定/祈念

祈念 Lv1

幸運 ★★ → ★★★

―――――――――――
114 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 23:42:29.95 ID:rjqTezbP0
そうして、やがて村落跡の至近に達する。

既に山は抜けた。
村と山の合間にある平地、その草むらに隠れ進んできたがここが接近の限界だった。
あと数歩も踏み出せば身を隠せるだけの高い草は無くなっている。
当然、村のゴブリン達にも気取られて襲撃を受けるだろう。

ヴォルフはここを戦場に選んだようだ。
周囲に障害物が無い開けた地形は奇襲の危険が少ない。
戦闘が始まってもミアに凶刃が届く可能性は限りなく低かった。


「……始めるぞ。
 まずは俺が適当に間引く。
 お前の出番はその後だ。
 絶対に先走るな」


ヴォルフはミアに伝える。
それは小声で静かな声音だったが、含まれる色はこれまでで最も強い。
自然、ミアも真剣に耳を傾ける。


「それと、下手に走り回るような事だけはするな。
 ダメだと思ったら首と頭だけ守ってうずくまれ。
 そうすりゃこっちでなんとでもしてやる」

「……っ」


ミアの心臓はいよいよもって鼓動を激しくしている。
体が強張り発声さえ難しく、ただコクコクと頭を上下させた。
115 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 23:55:54.88 ID:rjqTezbP0
「よし……いくぞ」


言葉と共に縮こまっていた巨体が立ち上がる。
そのまま大股で数歩進めば、ヴォルフはもう村からもハッキリと見て取れただろう。

その証左に、村は少しばかり騒がしくなったとミアにも分かった。
見張りに発見されたのは恐らく間違いない。
情報はきっとすぐに伝達される。
小鬼の集団が打って出るまではあっという間だと予想された。

……が、それよりも早く。


「オオオォォォォァァアアアア!!!」


咆哮が轟いた。

大気を揺らす大音声がヴォルフの喉から放たれる。
背後に立っていたというのにビリビリと肌を叩く感覚に襲われ、ミアは息を呑んで立ち竦んだ。



―――――――――――――――――――――――――

技能判定/咆哮

咆哮 Lv5

筋力 ★★★★★★★★ → ★★★★★★★★★★★



―――――――――――――――――――――――――
116 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 00:04:16.58 ID:JTH6wsVb0
音の波が去って数瞬。
反動のように静寂が広がる中に返答が返る。

金属同士を擦り合わせるような不快な音色。
それが十ほども重なって村から響く。
経験の無いミアにも含まれた憤怒が読み取れるそれはゴブリン達の鬨の声だった。

村落内のゴブリン達は全個体がヴォルフの声を聴いただろう。
最早彼らに情報の共有は必要ない。

殺すべき敵を知ったゴブリンは本能に駆り立てられるままに村を飛び出した。
その目が睨みつけるのは当然、咆哮の主であるヴォルフだ。
ミアになど目をくれている個体は存在しない。

不遜な大男を地に引きずり倒しその肉の全てを削ぎ落す事。
それこそが我らの悦びだと、憎悪に淀んだ醜悪な顔が明確に物語っている。


「はっ、綺麗に釣れたもんだ。
 おい、さっきも言った通りだ。
 こっちが終わるまで動くんじゃねぇぞ!」


対するヴォルフも獰猛に吼え、ギチリと音がするほどに武器を握りしめ吶喊する。

咆哮と、それに続くゴブリンの憤怒。
当てられて竦み震えるミアを一人置いて、戦闘は開始された。
117 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 00:08:14.91 ID:JTH6wsVb0
今日はこの辺で
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/08(日) 00:09:43.42 ID:Jaxckb3ro
おつでした
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/08(日) 00:10:14.55 ID:hELM+tGS0
うーっすおつ
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/08(日) 00:10:39.60 ID:GmRVBH8D0
乙です
121 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 21:22:56.15 ID:c4RcVj2E0
迫りくるゴブリンの群れにミアは声にならない悲鳴を上げた。
ギィィギィと耳障りな怨声を放つそれらが余りに醜悪だったためだ。

まず目につくのは濁った黄土色の眼球だろう。
まるで反吐か何かのような強膜の中央を黒い瞳孔が縦に裂き、青黒い血管が周囲を這う。
全身の皮膚もまたそのおぞましさは変わりない。
汚泥を思わせる斑な暗褐色の肌はどこもかしこも引き攣り歪んでいる。

人間と同じくするのは大まかな形だけ。
だというのにどこからか奪ったらしいボロの衣服を纏っているのも不快感を掻き立てた。


異形の群れは総身に憎しみをみなぎらせ汚らしい乱杭歯を剥き出しに吼え立て、走る。

体格は小柄で人の子供程度とはいえ、それは明確な人類の外敵だった。
この世の悪意というものを煮詰めた何かのようだとさえ思えた。
囚われたなら自死すべきとの教えは確かだったとミアは改めて思い知る。
確かに彼らであれば、どのような悪逆を犯したとて何の不思議もないと。
122 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 21:28:15.37 ID:c4RcVj2E0
ミアの歯がガチガチと鳴る。
持参した武器……冒険者の宿にて貸与されたメイスに縋る手は力が入りすぎ色を失った。
怖い、という一言だけがミアの頭を支配し、他の思考は一切差し挟まれない。

それは戦場に立つ人間として余りに不適格な無様さだった。

これでは抵抗さえできない。
ゴブリンがミアに到達した瞬間に全てが終わるに違いない。
一瞬の間もなく地に引き倒され、あらゆる苦痛と恥辱の果てに無惨な骸を晒す事になるだろう。


「オォォラァ!!」


……勿論それは、ヴォルフが居なければの話だが。

大気を弾く叫びと同時に先頭のゴブリン二体が宙を舞った。
矮躯は上下に寸断され、体液をバラまきながら遥か遠方に消え失せる。
それを認識してからようやくミアは、ヴォルフが握る斧槍が振るわれたのだと理解した。
123 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 21:36:36.82 ID:c4RcVj2E0
「ッシャァ!」


右から左へ。
振り切られた直後にあるはずの硬直さえ無く返った刃が更に二体を吹き飛ばす。

同時に踏み出された豪脚はただ間合いを詰めるだけに終わらない。
ミシリと音を立てて膨れ上がった脚は大地を砕きながら巨体を弾けさせた。
人体が出したとは信じがたい速度でヴォルフは跳び、長大なハルバードが天を指す。

踏み込みが超人的ならば、振り下ろしの一撃もまた同じく。
不運にもその標的とされた一体は頭から股までを割断された挙句に地にぶちまけられた。


僅か一瞬の間にゴブリンはその数を半分に減じた。

その余りの蹂躙劇にミアは一時恐怖も忘れた。
ヴォルフが動く度にゴブリンの体が砕けていく。
これは果たして現実なのだろうかと、固く閉ざされていた口がパカリと開いた。
124 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 21:45:20.16 ID:c4RcVj2E0
困惑の最中にも殺戮は続く。
ゴブリンの数はミアがろくに認識もできない内に更に減った。
今や残り僅か二体。

そのうち一体がようやく、初めての反撃に飛び掛かった。

別の一体が断ち割られた瞬間を狙っての攻撃だ。
振り切られたばかりのハルバードはまだ遠い。
いかに硬直が確認できないほどに戻りが早いといってもゼロ秒では返らない。

だから届くはずだとゴブリンはハルバードの間合いの内側、懐に飛び込んで……。


「ッカァ!!」


ゼロ秒に限りなく近い速度で振るわれた拳に打ち払われた。

まるきり岩と変わらないそれが叩きつけられた顔面は骨が砕け、勢い余って首がぐるりと捻じれ回る。
恐らくは頸椎も折られているだろう。
無論の事、即死だったに違いない。
125 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 21:53:24.67 ID:c4RcVj2E0
「っし。
 んー、まぁこんなもんか」


そうして、ゴブリンは何も出来ずに敗北した。

残った最後の一体もヴォルフに一切の痛痒を与えられず倒れた。
他と違い生きてはいるが、無様に地に転がって背を踏みつけられろくに身動きもできない。
それを殺すのに刃を振るう必要さえない。
ヴォルフが少し力を入れて足を踏み抜けばそれだけで骨が砕けて終わるだろう。

だが、そうはならない。


「じゃあ次はお前の番だ。
 今からこいつを離すが、覚悟はいいか?」


その言葉にミアは慌てて、再び気を引き締めた。

冒険者とは荒事稼業である。
当たり前の道理として武器を振るい敵を殺せなければ務まらない。
試験と聞いて、ミアもそこを試される事を理解はしていた。
126 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 22:01:14.71 ID:c4RcVj2E0
ミアの呼吸がまた乱れだす。

ゴブリンの悪意を見た。
ヴォルフに向けられたものの余波でさえ身を竦ませるのを確かに感じた。

命を奪う暴力を見た。
一瞬前まで動いていたものがただの残骸に変じる様を目に焼き付けた。


(……あれを、これから)


向けあうのだと理解が進む度にミアの心が凍えていく。

本当にできるのか。
やらねばならないのか。
何か別の方法は無いのか。

意識しないままにミアの意識は逃避の先を探し始める。
127 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 22:08:46.78 ID:c4RcVj2E0
「どうする、本当にやるか?
 やれないってんならそれでもいい。
 仕方ねぇよ。
 誰にも向き不向きってもんがある」


ヴォルフは気遣う声色で訊いた。
誰から見ても怖気づいていると分かるミアに出来るとは思わなかったのだろう。
自分でも出来るとは思えないのだから当然だと、ミアは場違いにも自嘲する。

武器を握るのは初めて。
殺意に晒されるのも初めて。
戦闘と言う行為の果てに命を奪うのも初めて。
これだけの未知が重なって、可能と思う方が間違いだ。

自身の心に出来るのかと何度問うても、一かけらの自信も見当たらない。
128 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 22:16:37.14 ID:c4RcVj2E0

―――――――――

能力判定

精神 ★★★☆



―――――――――



「……やり、ます。
 やらせてください……!」


それでも、ミアはメイスを手放さなかった。
縋るようにとはいえ武器を握りしめ、恐怖に目を潤ませながら一歩を踏み出す。

怖い、怖い、怖い、と。
やりたくない、逃げ出したいと震えながら前を向いた。


それは単純な理屈。
ミアにとって、殺し合いよりもなお怖いものがあったというだけ。

今この場で立ち向かう事を諦めれば冒険者にはなれないだろう。
そうなれば何も為せずに修道院に戻る以外に道は無い。

救うべき人を救う方法を知りながら、ただ祈るだけの日々を繰り返す。
それだけは、ミアにはどうしても許せなかった。
129 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 22:24:04.87 ID:c4RcVj2E0
「……ックソ!
 いいな! ダメだと思ったら首と頭だけ守れ!
 俺がどうにかしてやる!」


苦虫をまとめて噛み潰したような顔でヴォルフは叫ぶ。
それは先程も聞いた、最低限命を守るための方法だ。
決して命を落とす事のないようにと。

いよいよもって明白な、ヴォルフの威容に見合わぬ人の良さにミアは僅かだけ笑った。
怯えていた心に僅かに光が差す。
力の入り過ぎた体が、ほんの少しだけ余裕を取り戻した気がした。


そうして、ミアの初めての殺し合いはヴォルフの蹴撃から始まった。
130 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 22:32:16.71 ID:c4RcVj2E0
「ギィッ!?」


脇腹を強かに蹴り上げられたゴブリンが半ば飛ぶように地を転がる。
草をなぎ倒し土を巻き上げ、酷く無様に長く長く。

だがそれは致命傷には至らない。
殺傷力を抑え、ただ飛ぶように蹴ったのだろう。
転がり続けたゴブリンはしかし、勢いが減じると共に身軽に起き上がった。

跳ねるように持ち上げられた黄土色の視線には怯えも竦みも無い。
圧倒的なヴォルフとの力の差は理解しているだろうに、逃走は選択肢にさえないらしい。
呪いじみた憎悪と殺戮への飢餓が本能に刻まれているかのようだ。

寸毫の内に殺されると理解しながらもなお、ただ殺すと狂奔する。
それがゴブリンという生物だ。


そしてその本能はヴォルフを探し……その線上にあるミアの姿を捉えた。

ギィィ、と怖気の走る笑みを零してゴブリンは鋭い爪を構えた。
ヴォルフを殺せるならば最善。
しかし獲物は別に手頃な距離にいるミアでも良い。

そう判断されたのだというのは、至近で向けられた殺意からミアにも理解できる事だった。
131 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 22:40:31.24 ID:c4RcVj2E0

どうか今だけはと、震えが収まるようにミアは力を籠めた。

腕が竦めば敵を倒せず、足が竦めば殺される。
せめてどちらかだけでもどうか意のままになってほしいと、祈りとともに。



1/先制してメイスを振るう。

2/防御に専念して隙をうかがう。

3/大きく距離を取り心を落ち着ける。



↓1
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/08(日) 22:44:15.81 ID:fwQPUgV50
3
133 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 22:53:52.31 ID:c4RcVj2E0
しかし、ミアの体は満足に言う事を聞かなかった。

手も足も震えるばかり。
心臓は僅かにも鼓動を緩めず、視界は溢れる涙で霞み続ける。

このままでは戦闘にならない。
ミアはそう判断し、メイスを抱えたまま距離を取ろうと試みた。
視線だけはゴブリンから外さず、後方へと走り始める。



――――――――

敏捷経験点++

――――――――
134 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 23:02:15.51 ID:c4RcVj2E0
―――――――――

能力判定

敏捷 ★

不可

―――――――――



……しかし、それはハッキリと悪手だった。

逃げるミアに対し、ゴブリンも走った。
体を大きく前傾に腕も用いた四足走行。
その俊敏性は比べるべくもなくミアを上回っている。


(っは、速!?)


ミアの視界に映るゴブリンは瞬く間にその姿を大きくした。

その事実に更に怯え竦むミアと、歪んだ歓喜に猛るゴブリン。
二者の差は余りに大きく、そして無慈悲だった。


迫るゴブリンに向けて苦し紛れに振るったメイスは的外れに空を切り。
伸びきった腕の半ばを、薄汚い爪が引き裂いた。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/08(日) 23:08:56.44 ID:WgORnvbDO
素直に能力値が高い選択肢を選べばいいのかな(今回は耐久の2?)

全体的に能力を底上げしていきたい
136 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 23:08:57.23 ID:c4RcVj2E0
「――――いやあぁぁぁぁあ!?」


鮮血が舞い、悲鳴が上がる。
深く大きく裂けた傷は鋭すぎる激痛を伴っていた。
未だかつて経験したことの無い痛みに、ミアの思考は千切れ飛んだ。


(痛い! 痛い! 痛い!)


ミアの頭に残ったのはその三音のみ。
最早何も考えられない。
防御も、反撃も、逃走も。
あらゆる行動がただ痛みによって阻害される。

しかし、悪夢はそれで終わらない。

衝撃に白熱するミアの視界に、自身に飛び掛かる汚泥色の塊が映った。
137 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 23:18:28.28 ID:c4RcVj2E0
初めに胴に。
次に臀部、背中、最後に後頭部。
続いた衝撃に眩んだ意識が戻るとミアの眼前には、空とゴブリンの体があった。


「……ぁ、あぁ、いや、いやぁ……!」


地に押し倒されて跨られ、反抗の自由を奪われた。
事実を認識できず……いや、理解したくなく。
ミアは幼い子供のように頭を振り何の意味も持たない言葉を上げる。

そこからの回復を、ゴブリンが待ってくれるはずもない。


「ギ、ヒ、ギィッ!」

「あぐっ、ぎっ、うぁっ!」


怯え切ったミアの顔へと、握られた拳が振るわれた。
一撃、二撃、三撃。
その度にゴブリンは喜悦に身を震わせる。
裂けるように開かれた口からは汚らしく唾液がこぼれ、組み敷いたミアの体へと滴った。
138 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 23:21:20.68 ID:c4RcVj2E0

今やミアはただ嬲られるだけとなった。
次々に拳が振り下ろされ、その度に口内に血の味が広がっていく。



1/首と頭を守り、防御に徹する。

2/なんとか反撃の糸口を探す。



↓1
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/08(日) 23:26:28.52 ID:WgORnvbDO
要求される能力は1は耐久で2は感覚かな?
とりあえず安価下
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/08(日) 23:31:24.76 ID:Jaxckb3ro
2
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/08(日) 23:31:25.87 ID:T8eIffZ5o
現実は非常である
1
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/08(日) 23:31:30.10 ID:EpgSs5ty0
1
143 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 23:43:22.18 ID:c4RcVj2E0
それは、ミアが初めて直面する死の危険であった。

しかもただの死ではない。
囚われたのなら舌を噛め。
古くからそう伝え続けられるほどの過程を経ての死だと、ミアは思い出してしまった。

心の底、心の臓の奥の奥。
ミアの最も原始的な部分が軋み、あらゆる知性はこの瞬間失われた。


「あああぁぁぁあ!! うああぁあぁ!!」


ただ叫ぶための叫びがミアの口から迸り、がむしゃらに腕が振るわれる。

一刻も早く、自分を殺すであろうゴブリンを排除するために。
偶然でもまぐれでも良い。
運良く一撃でも当たって怯んでくれれば反撃の糸口もあるはずだと。
144 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/08(日) 23:52:41.11 ID:c4RcVj2E0
……しかし、それは事態の悪化を招くだけだった。

ミアには技術も力も備わっていない。
何の変哲も無い町娘の細腕ごときで、野の獣を下せる道理は無いのだ。


「ギィ、ヒヒ、ヒッ、ヒヒヒ!」


渾身の拳は容易く受け止められた。

当然、それだけでは終わらない。
捕まれた左の拳はゴブリンの手が添えられ。
固く固く、力の限りに握ったはずのそれはじりじりと開かれていく。

それはミアの手が開かれきっても止まらなかった。
細く白い指に、褐色のひきつった指が絡み、反るように力が加えられ……。



底知れぬ憎悪が満たされる瞬間を予感して、ゴブリンが黄土の眼を三日月に歪めると同時に。

ペキリ。

と、乾いた音が草原に響いた。
145 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/09(月) 00:00:33.87 ID:6t8bRQCC0
「―――――――ァァァ!!!」


新しい絶叫は言葉でさえなかった。

ミアの指はゴブリンの手の中で、歪に折れ曲がっていた。
可動域を超えて反りかえった小指と薬指は手の甲に沿って力無く垂れさがっている。

それで終わりだった。
あらゆる反撃の目は失われた。
左の手が使えない、というだけではない。

ミアの心も同時に折れたのだ。


戦闘は終わった。
これから続くのはただの蹂躙である。
あらゆる痛苦、あらゆる凌辱の後に命を落とすだけの獲物であると、既にミアは決定されたのだ。



勿論、この場に居るのがミアとゴブリンだけだったなら、という仮定における話だが。
146 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/09(月) 00:07:52.34 ID:6t8bRQCC0
「っこの馬鹿野郎が!!」


怒声と共にミアの上からゴブリンが消えた。

代わりに現れたのは丸太のような豪脚だ。
革の防具に守られたそれはヴォルフのもの。
勝負がついたと判断した瞬間に接近し、蹴り剥がしたのだろう。

その一撃で脅威は容易く取り払われた。
先のものと違い、今度は飛ばす蹴りではなく殺す蹴りだったのだろう。
肋骨を砕き折られたゴブリンは転がりながら血泡を吐き、勢いが消えた頃には既に命を亡くしていた。


「首と頭を守って動くなと、言っただろうが!!」


青筋と、そして焦燥を浮かべたヴォルフが怒りを吐く。

ミアはそれでようやく、自分が助かったのだと理解した。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/09(月) 00:11:30.82 ID:JNa6dRhf0
なんか選択肢悪手ばっかり選んでるな…考えたくないけどわざと間違った選択肢選んでる?
148 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/09(月) 00:17:01.52 ID:6t8bRQCC0

「……っあぁ、クソ!」


ヴォルフは悪態とともにミアの上半身を抱き起した。
痙攣するようにガクガクと震える体を支え、焦点を失ったミアの瞳を覗き込む。

ミアの状態は酷いものだった。
涙、鼻水、涎、血。
顔から流せるものを全て垂れ流し、ひっ、ひっ、としゃくりあげている。

その弱い心にどれだけの圧がかかったかは余りに瞭然としていた。


「うっ、うぁ、ひ、ぐ。
 あぁぁうあ、ぁうぅぅぅぅ」

「よし、よし、もう終わった。
 いいな。
 もう終わったんだ。
 もう大丈夫だ」


ミアはヴォルフに縋りついた。
赤子が母を求めるように体を押し付け、本能に任せるままに言葉にならない声を上げる。

それをヴォルフは静かに受け止め、僅かでも心が安らぐようにとその背をさするのだった。
149 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/09(月) 00:20:26.11 ID:6t8bRQCC0

――――――――

耐久経験点+++

精神経験点+++

――――――――
150 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/09(月) 00:21:55.44 ID:6t8bRQCC0
今日はここまで

>>147
ぶっちゃけほぼ負けイベントなんで気にしないで良いです
一般町娘が一念発起した程度でどうにかなるはずもないやつ
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/09(月) 00:22:15.56 ID:Sm6x+zJzo
おつおつ
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/09(月) 00:25:35.09 ID:LQ94/iuk0
乙でした
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/12(木) 21:17:28.63 ID:92ENHjs/0
更新再開待ってます
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/11(月) 19:03:08.80 ID:WKrLwV220
ローラとヒカリのマホリオメンバーと協力してヒカリの悩みについて調べてみる
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