【安価】安価ファンタジー冒険者で地の文多めのマジメなやつ

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5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 16:40:15.94 ID:bGfcTvGDO
18
6 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/04(水) 16:47:20.45 ID:DPnHy/wh0
【性別】 女
【年齢】 18


【冒険者になる前の職業】

初期能力に影響

例として農民だと筋力や体力に+
修道女だと精神力に大きく+
無職や家事手伝いなどの場合は満遍なく少量ずつ+

ファンタジー世界にありそうなら大体OK
ただし魔法が一般的じゃないので「魔術師」指定だと「占い師」程度にされます

↓1
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 16:47:55.83 ID:lC0CCZsF0
修道女
8 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/04(水) 16:51:20.05 ID:DPnHy/wh0
【性別】 女
【年齢】 18
【前職】 修道女


【主人公の来歴】

どこで生まれ、どうやって育ったか
簡単な一文でもいいし張り切って数行でもいい
ただし長すぎるとこちらで勝手に省略や要約する

初期能力に影響

↓1
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 16:53:24.91 ID:/Ur8/xfe0
国境沿いの辺境にある小さな町で生まれ育った
性格は気弱で大人しいが心優しい性格であり、誰かの為に働いてきた
10 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/04(水) 16:57:04.27 ID:DPnHy/wh0
【性別】 女
【年齢】 18
【前職】 修道女
【来歴】 国境沿いの辺境にある小さな町で生まれ育ち、誰かの為に働いてきた


性格は別安価なので削り


【主人公の性格】

そのまま性格
ストーリー全体と初期能力に影響

↓1
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 16:58:39.42 ID:bGfcTvGDO
気弱で引っ込み思案
12 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/04(水) 17:01:30.66 ID:DPnHy/wh0
【性別】 女
【年齢】 18
【前職】 修道女
【来歴】 国境沿いの辺境にある小さな町で生まれ育ち、誰かの為に働いてきた
【性格】 気弱で引っ込み思案


【主人公の目的】

なぜ前職を離れ冒険者を志したか
ストーリー全体と初期能力に影響(来歴や性格と一致しているほど効果大)

↓1
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 17:02:59.63 ID:Mx0g83Wu0
町に死にかけの冒険者が辿り着いた。懸命に看病したが救うことができず、平和な街で祈るだけの自分が許せず冒険者になることを決めた。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 17:03:16.51 ID:5cBcw+LZ0
攫われた妹を助ける為
15 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/04(水) 17:15:14.26 ID:DPnHy/wh0
【性別】 女
【年齢】 18
【前職】 修道女
【来歴】 国境沿いの辺境にある小さな町で生まれ育ち、誰かの為に働いてきた
【性格】 気弱で引っ込み思案
【目的】 平和な街で祈るだけの自分が許せず冒険者になることを決めた


以上から初期能力決定

★ = ☆x2

筋力 ★☆
敏捷 ★
耐久 ★★
感覚 ★★
精神 ★★★☆
幸運 ★★

情熱 ★★★★★(最高値)


筋力=力の強さ
敏捷=素早さ
耐久=体の丈夫さ
感覚=五感の鋭さ
精神=意志の強さ
幸運=運の良さ

情熱=冒険者という職に対する熱意 無くなるとゲームオーバー
16 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/04(水) 17:19:21.07 ID:DPnHy/wh0
【性別】 女
【年齢】 18
【前職】 修道女
【来歴】 国境沿いの辺境にある小さな町で生まれ育ち、誰かの為に働いてきた
【性格】 気弱で引っ込み思案
【目的】 平和な街で祈るだけの自分が許せず冒険者になることを決めた

【能力】

筋力 ★☆
敏捷 ★
耐久 ★★
感覚 ★★
精神 ★★★☆
幸運 ★★

情熱 ★★★★★


【主人公の名前】

この子に名前をつけてあげてください
明らかにアレな場合は下ズレ
出来れば西洋風

↓1
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 17:22:32.89 ID:7BGUsxeO0
ミア
18 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/04(水) 17:32:56.72 ID:DPnHy/wh0
諸々自動決定して、こんな感じの主人公


【名前】 ミア
【性別】 女
【年齢】 18
【前職】 修道女
【来歴】 国境沿いの辺境にある小さな町で生まれ育ち、誰かの為に働いてきた
【性格】 気弱で引っ込み思案
【目的】 平和な街で祈るだけの自分が許せず冒険者になることを決めた

【能力】

筋力 ★☆
敏捷 ★
耐久 ★★
感覚 ★★
精神 ★★★☆
幸運 ★★

情熱 ★★★★★

【装備】

主 メイス
副 ウォーピック
防 修道女の服
他 聖印

【技能】

手当 Lv1 自分や他者の負傷を回復
祈念 Lv1 一時的に幸運をブースト
栽培 Lv1 一部の草花系アイテムを一定期間毎に自動獲得
料理 Lv1 食べ物系アイテムの効果を自動的にブースト
信仰 Lv2 異教徒以外の人物の初期好感度にボーナス
19 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/04(水) 17:35:44.35 ID:DPnHy/wh0
キャラメイク終わり
ストーリーやらNPCやら整えてそのうち開始します
お疲れ様ー
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 17:41:33.27 ID:Mx0g83Wu0
乙。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 17:43:38.75 ID:bGfcTvGDO
乙です 期待してます
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/09/04(水) 17:52:42.76 ID:VuwGw40+o
おつ
期待
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 20:02:16.83 ID:46WG3OL/o
おつ
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/04(水) 20:54:52.95 ID:OpN1iH9JO
期待してる!
25 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:45:59.83 ID:JsU2vhmx0
とある国のとある土地。
隣国との境も近い小さな町にその女性はいた。

名前はミア。

町娘として何の変哲も無い響きの名前通り、彼女に取り立てて特別な所はない。
平均的な両親の下に生まれ、ごく普通に愛されて育ってきた女だ。
困った隣人が居れば手を差し伸べる優しさが取り柄と言えたが、いつも人の顔色を伺うような生来の気弱さとハッキリと主張の出来ない引っ込み思案が足を引き、人の目に留まるほどでもない。

つまりは平凡な人間だった。
輝かしさや華やかさといった言葉とは無縁で、町を探せば似たような人物は幾らでも見つかるに違いない。



ミアは町外れの修道院で暮らしていた。
これもまた、特別な理由がある訳でもない。

端的に言えば婚期を逃し他に道が無かっただけである。
要領の良い同年代の女達が手頃な男を捕まえる中、気弱なミアはそれに失敗した。
より正確に表現すると挑戦にさえ怖気づいてしまった。
明日こそは、次こそは。
先延ばしにし続けて……気付けば適齢期とされる14歳からの2年間が終わっていたという話。

諦めずに相手を探す者、開き直って独り身を貫く者。
そういった者も多いが、人の目を気にしやすいミアには出来ず、清廉と純潔を求められるために相手がいなくとも許される修道院に入ったのだ。
26 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:47:21.11 ID:JsU2vhmx0
とはいえ、ミアに不満は無い。
修道院の生活は彼女の性に合っていた。

厳しい規律に従う生活は、つまり何をすべきかが全て決まっているという事。
物事をすっぱり決められない性質のミアには逆に喜ばしいだけだった。

日の出とともに起き、信仰を捧げる神へ祈り、ささやかな食事を皆と作り、食べ、麦と果実を育てる畑を耕し、日が暮れれば眠る。

この繰り返しばかりの日々はミアにとって心地良いものだったのだ。
定期的に行う町での奉仕活動も含めて。
他者の助けになれる事を喜ぶ性分も十分に満たされる日々だ。



なのでその日もミアは穏やかな心地で働いていた。
ただし、心地は穏やかであっても苦労がないとは限らないが。


「へへっ、もーらい!」


快活な少女の声とともに黒いウィンプル(修道女が被るヴェール状の頭巾)がバサリと宙に舞った。

ここは修道院のうち、孤児の少女が暮らす区画。
町中にある孤児院を出る年齢になっても職や里親が見つからなかった者のうち、希望する者はここに入る事も出来る。
まだ修道女として道を定めるには早い彼女たちは労働の大半が免除され、その世話は修道女が持ち回りで行っている。

そして今日はミアの当番であり、その度に何かしらの悪戯をされるのは毎度のお決まりだ。
27 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:48:23.39 ID:JsU2vhmx0
「あっ、こ、こらヴィルマ! それはだめ、返して!」


などとミアにしては大きな声で言うもまるで効果が無い。


「ちょっとヴィルマ! アンタいい加減にしなさいよ!」

「うっせー! 欲しかったら取り返してみろよ!」


ミアに味方した数人の少女が同調してもお構いなし。
少女たちの中でも最も悪戯好きな少年じみた少女は笑い声を上げ、ウィンプルを自分の頭に被せて逃げ回る。

ヴィルマにとってミアは良い標的なのだ。
強く叱れず、怒ってもまるで怖くなく、世話役で一番年若いとなれば当然ではある。
勿論ミアにとってはたまったものではないが。

ただ幸いにしてこれが深刻な事態に発展することはない。
辺境ではあるが隣国との交易が盛んである影響から町は比較的に裕福で、孤児院への寄付も多い。
孤児と言っても飢える事もなく心身共に健やかに育ってきた者達だ。


悪戯者のヴィルマも子供らしく構ってほしいだけ。
しばらく皆で追いかけっこをすれば満足して謝りながら返すだろう。

仕方ない子だと、ミアは苦笑を浮かべて立ち上がる。
28 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:49:17.63 ID:JsU2vhmx0
だが、今日はどうやら走り回る必要はないらしい。


「ミア。ミアは居ますか?」

「はっ、はい、院長」


孤児院の扉が突然開き、一人の老婆がやってきた。
途端、ウィンプルを抱えたままのヴィルマは「ゲッ」と声を上げる。

名前を呼ばれたミアが応えた通り、老婆は修道院の院長だった。

僅かな歪みも無く伸びた背筋。
不機嫌そうに結ばれた口。
老いを感じさせない厳格な光を宿す目。
眉間に深く刻まれたシワ。
どれを取っても彼女の人格を読み取るには十分だ。


「ヴィルマ、またあなたですか。
 人の物を許可無く奪ってはならないと何度言えば分かるのです。
 先程の言葉遣いも……」

「うげっ、わ、分かりました!
 ごめんなさい!
 すぐ返します!」


印象通り低い声音にヴィルマは慌てに慌てた。
説教が始まってしまえば長いのだ。
声を荒げはしないものの威圧感のあるそれは悪戯っ子に的確に効く。
だからこそヴィルマはすぐさま謝り、押し付けるようにミアにウィンプルを手渡した。


「謝り、返す。
 それさえすれば何度繰り返しても許されるなどとは思わないことです。
 後でゆっくりとお話をしましょう」


彼女にとっては残念なことに、僅かな減刑にしかならなかったようだが。
29 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:50:02.07 ID:JsU2vhmx0
「あ、あの、院長……。
 この子もそこまで悪気があったわけでは……」

「黙りなさい。
 あなたもあなたです。
 悪童の一人も叱りつけられず何としますか。
 甘やかすばかりでは子は育ちませんよ」

「はい……申し訳ありません」


そして余計な助け舟を出したミアもまたジロリと睨みつけられる。

返す言葉もなく俯いた彼女の横で、女の子たちがこっそり目を合わせて肩をすくめた。
一緒に怒られるに決まってるんだから庇わなきゃいいのにね、と言わんばかり。
全くその通りだったとミアも同意する所ではある。
30 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:50:37.44 ID:JsU2vhmx0
「全く……まぁ、今はそちらは置いておきましょう。
 ミア、少し町まで行ってもらえますか」

「あ、はい、何をすれば……?」

「エルマーの店に発注をお願いします。
 またネズミが出て豆をいくらか齧られました。
 罠を、そうですね、五つほど」


院長の用件はどうやらお使いのようだ。
ミアもあぁと納得する。
同室のおしゃべりな修道女がそのような愚痴をこぼしていたのは記憶に新しい。


「分かりました、すぐに」

「えぇ、助かります。
 ここは私が代わりましょう」


断る理由は無く快諾し、そうしてミアは町へ向かった。
残念そうな子供たちの声に、出来るだけ早く戻るからと返して、いつも通りの気軽さで。
31 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:51:32.48 ID:JsU2vhmx0
閉まった扉から視線を外し、院長が子供たちに向き合う。
幼い顔はどれもが不満そうだった。
それを見ればミアがどれだけ子供たちに好かれているかはだれの目にも明らかだ。


「ミアは随分と慕われているようですね?」


院長が確認するように口に出すとすぐに返る肯定の声も多い。

中でも利発そうな少女がなぜだかしたり顔で声を上げる。
ヴィルマの悪戯に怒りを見せ、ミアの擁護に呆れていた子の一人だ。


「そりゃそうですよ!
 ミア姉、いっちばん優しいんですから」

「えぇ、そうでしょうね。
 そこは間違いなくあの子の美点です」


院長も頷き、日々の営みを思い返した。

任された仕事への懸命さは多く居る修道女の中でも指折り。
自分の仕事が終われば人手の足りない所を積極的に探し率先して手伝い、不満の一つも漏らさずに良く働く。
ミアの勤勉さと細やかさは院でも随一だった。

規律破りも一度も無く、祈りの時間にも院長に次ぐ真摯さを見せる。
理想的な修道女だと院長も太鼓判を押すところである。
32 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:52:17.06 ID:JsU2vhmx0
「後は、あの弱気が治ればなお良いのですが」


だからこそ院長は小さく溜め息を吐く。
他が完璧なだけに、そこだけが気がかりだと。

それに異を唱えたのは先程と同じ少女だ。
やっぱり同じくしたり顔で、笑みを深めて言う。


「違いますよ先生。
 ミア姉はそこがいいんです」

「……そうですか?」

「そうです。
 先生もきっとそのうちわかると思いますよ」


フフンと鼻息を強めて少女は得意げ。
なんと小憎らしい顔かと、院長は片眉をぴくりと震わせた。
33 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:53:21.72 ID:JsU2vhmx0
孤児たちはその境遇にも歪まず、小生意気ながらも健やかに育っている。

ミアが愛し、院長も良しと見守る日常の象徴のような光景だった。

慣れ親しんだ営み。
僅かに予定外の仕事が入るのもいつもの事。
修道院の生活は何一つ変わらずに続いていく。
誰もがそう思っていた日々はしかし、その日だけは違ったらしい。


明らかな非日常は、扉を乱暴に開く大きな音とともに現れた。
34 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:54:06.06 ID:JsU2vhmx0
余りに耳障りな轟音に眉をしかめ、院長は扉に振り向いた。
大きく開け放たれたその先には息を荒げるミアの姿。

無作法を叱りつけようという院長の考えは一瞬で消える。
大人しく規律に従順なミアがこうもなるなど明らかにおかしい。


「ミア、一体何が……」

「院長っ! ひと、人が……!」


尋ねる言葉さえ言い切らせず、ミアは必死に声を上げる。
顔を蒼白に染めて、震える体を扉に縋るように押し付けて。


「人が、血まみれで倒れています!
 皆を集めて下さい! 助けないと!」
35 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:55:03.29 ID:JsU2vhmx0

―――――
―――



その冒険者らしい男は、誰がどう見ても手遅れだった。

町外れの修道院からさらに外郭、森の中に踏み入ってそこで何かに襲われたに違いない。
そう断言できるのは「道」が出来ているためだ。


生い茂った緑の草の中でもハッキリと分かるほどに、真っ赤な鮮血の道が伸びている。


ここまで逃げてこられた事さえ奇跡と呼べる重傷だった。
人体としての正しい形は欠け、意識は朦朧としてうわ言を繰り返すばかり。
彼に対して出来る事があるはずもなく、急ぎ連れ出した修道女たちも立ち尽くすほかにない。


「大丈夫、大丈夫です!
 きっと助けます!」


叫び、深すぎる傷に布を巻くミアの声も虚しく空回る。
止血のためだろうその行動が何の意味もなしていない事に気付き、院長はそっと目を伏せた。

血は既に止まっていた。
もはや流れ出るものが無いためにだ。
36 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:55:35.33 ID:JsU2vhmx0
「…………ミア。離れなさい」

「っ!
 院長!」


助けなければ。
助かるはずだ。
そう訴えて見上げる瞳にも力は無かった。


「ミア、もう一度言います。
 離れなさい」


ミアと同じく男の横に院長が跪き、震える細い肩に手を添えれば、それでミアは引き下がった。
力尽きるように崩れ落ちて、間に合わなかった事に謝罪の言葉を呟いて涙を零す。
37 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:56:19.99 ID:JsU2vhmx0
それを横目に、院長は男の顔に耳を寄せた。

彼はもう助からない。
ならばせめて最期の言葉を聞くべきだ。
そしてそれは若く感受性に富むミアではなく、老いた自分の役割だと老婆は知っている。

血泡が混じり酷く不明瞭であったが、幾らかの単語は聞き取れた。

一つの場所と、一つの人名。
男は繰り返しその二つを呟き続けている。


「……」


院長は男の手に固く握られた物を見て、耐えるように一度だけ目を瞑る。
38 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:57:05.70 ID:JsU2vhmx0
だがそれもほんの一瞬の事。
すぐに顔を上げ、静かに、けれど明瞭に告げる。


「えぇ、必ず届けましょう」


言葉はどうやら届いたか。
男はそこでうわ言を止めた。
緩やかに目蓋が閉ざされ、手が力無くほどける。


「あなたの献身を主はきっと見ておられます。
 神の園にて、どうかゆっくりとお眠りなさい」
39 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:57:50.42 ID:JsU2vhmx0
何日かの後に男の葬送は恙なく終えられる。

最も心の負荷が大きかったであろうミアに与えられた休養が明けたのはさらに数日後。

それまでの期間をミアは、一度の例外を除いて自室を出ることなく過ごした。
40 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:58:28.29 ID:JsU2vhmx0
―――――
―――




そして今、早朝の院長室にてミアは院長に対面していた。


「来ましたか、ミア。
 調子は戻りましたか?」

「はい、ご迷惑をおかけしました……申し訳ありません」

「迷惑などではありません。
 あなたの心労は当たり前の情動であり、休養もまた当然の道理です。
 頭を下げるのはおやめなさい」


院長はそう促すもののミアは顔を上げようとしない。

これはもう幾日か休ませるべきかと院長は口元に手を当てる。
その考えが形をまとめ声になる前に、ミアが答えた。


「いいえ、上げられません。
 もうひとつご迷惑をおかけしてしまうのですから。
 ……私は、修道院を出ようと思います」
41 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 01:59:00.03 ID:JsU2vhmx0
「あなたは……。
 ……いえ。
 えぇ、そういう事もあるかとは思っていました」


口元に当てられていた手は、そのまま目元を覆い隠した。
院長は疲れたように細く息を吐く。
言葉の通り、院長の想像のうちにその考えはあった。

ミアは人一倍に優しく勤勉で、信仰にも篤い娘である。
それが瀕死の人間を第一に発見し、そして何もできずに助けられなかったとなればどうなるか。

修道院を出て医師や薬師の道を志す可能性はあるかも知れないと院長も考えはしていた。


「ならば一つ聞いておかなければなりません。
 それは贖罪のつもりですか?」
42 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 02:00:25.91 ID:JsU2vhmx0
院長は老いに霞む目をしかと開きミアを見つめた。

事前に考えに至っていたのだから、当然どうすべきかも考えていた。
これがもし罪の意識から、義務感に追いやられての決断ならば止めなければならない。
負の決意はいずれ心を壊すに違いないと。


「……いいえ。
 私はただ、助けたいと思ったのです」


しかし、どうやら杞憂だったと院長は悟る。

ようやく顔を上げたミアに負の感情は見えない。
気持ちにどう区切りを付けたかは本人にしか知り得ないが、あの凄惨な出来事はミアに正の決意を与えたらしい。



ならば院長に止める理由は無い。
安堵に小さく頷き、出来うる限りの便宜を図ろうと決めた。


「結構。
 では紹介状を書きましょう。
 エッカルトか、それともアガーテの所にしますか?
 どちらも腕と人格は私が保証しましょう」


院長は町に暮らす知人の名を挙げる。
前者はやや酒癖が悪いものの腕の良い医師であり、後者は声が大きすぎる以外に欠点の無い薬師だ。
二人ともにミアも面識がある上に十分に信頼もできる。
どちらに弟子入りしたとしても良き学びを得られるはずだと院長は確信している。

……だが、ミアはそのどちらも選ばなかった。
43 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 02:01:10.77 ID:JsU2vhmx0
その返答に、院長は思わずしばし放心した。
余りにも想定外が過ぎたためだ。
まさかよりにもよってとさえ思えない。

ミアがその道を選ぶなど一度たりとも考えた事などありえない。
およそ彼女とは最も遠い職のはずだと頭を振る。


「……もう一度、言ってごらんなさい」


出来うる限りの圧と怒りを籠め、院長は再度尋ねる。
気の弱いミアが折れて答えを変える事を期待して。


「……っ」


気圧されたミアは怯えたように口をつぐんだ。
足はミアが意識しないままに半歩下がり、体の正面で重ねられた手は酷く震えている。
44 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 02:01:56.28 ID:JsU2vhmx0
「あなた、剣を握った事は?」

「……あり、ません」


そうだろうと頷く。
睨みつける形に目を細め、追い打つように続ける。


「町を出て、いつ獣が現れるとも知れない道を歩いた事は」

「……ありません」

「力の限りに走って、力尽きても倒れる事を許されなかった事は」

「ありません」

「他者から殺意を向けられて、生き延びるために抗った経験は」

「……それも、ありません」


ミアにそのような経験がある訳がない。

平和な町に生まれ、平凡に育ち、流れるままに修道院に入った。
そこに荒事が差し挟まれる余地は存在しない。

ミアは正真正銘にただの娘だった。
45 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 02:02:36.00 ID:JsU2vhmx0
「ならば分かるでしょう。
 あなたに何が出来るというのですか。
 その決意はただの気の迷いです。
 冷静に――」

「私は!」


しかし、院長の説得は遮られる。

足は下がったまま。
手は震えたまま。
恐怖を克服などできないままに、それでもミアは言い切った。


「わ、私は、冒険者になります!」
46 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 02:03:16.14 ID:JsU2vhmx0
「何ができるとも思っていません。
 大それた事はきっと、一つも出来ないと思います。
 ろくに結果が出せなくて、ただ迷惑をかけるだけになるかもしれません」


でも、とミアは言う。


「それでも、絶対に何もできないとは、決まっていません」
47 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 02:04:11.89 ID:JsU2vhmx0
ミアは気弱で引っ込み思案で、そして人一倍優しい娘だ。
困った隣人が居れば手を差し伸べずにはいられず、いつも誰かを助けて生きてきた。

だから修道院での暮らしは彼女にとって満ち足りたものだった。

天上の神に人々の安寧を祈る事。
生活の合間に孤児の面倒を見る事。
時折町に入り人々への奉仕活動に勤しむ事。

この三つで十分に、人の助けとなっている自分を誇る事ができていた。

けれど、もうそんな日々には戻れない。
ミアは知ってしまったのだから。



死に際の男が握り、届けてくれと託した物。

それは森に潜む猛獣の臓器だった。
ある死病に対する薬の、その原材料の一つである。

もし臓器を諦め獣の解体をせず、戦闘後にすぐに引き返していれば。
危地に陥る前に逃げ帰っていれば。
いや、そもそも危険な依頼を受けていなかったならば。
彼は死なずに済んだかも知れないのに。

それでも森に踏み入って勇敢に戦い、最期まで人を救おうと足掻いたのだろう。


そんな人の、あるいはそんな人々の存在を、ミアはもう知ってしまった。
48 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 02:05:00.91 ID:JsU2vhmx0
「だから……私はもう、祈るだけの日々に耐えられません。
 ……お許しください」


語るミアに、院長は唇を噛んだ。

ミアの心は既に定まってしまっている。
どんな言葉も力を持たないに違いなく、たとえ力尽くで留めおいたとしても今度はいずれ心を病みかねない。


「申し訳ありません。
 きっと多くのご心配とご迷惑をおかけします。
 これまでの恩を仇で返す事になると思います」
49 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 02:05:39.36 ID:JsU2vhmx0

憧れも希望も抱かず、これより踏み込む世界に怯え、死にたくないと震えながら。


「それでも私は……冒険者になります」


鋼の決意を吐く娘を止める術を、院長は何一つ持っていなかった。
50 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 02:06:53.60 ID:JsU2vhmx0
プロローグ終わり
次から冒険者始まります
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/05(木) 02:07:24.62 ID:OpdJurA90
乙です、これは期待。
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/05(木) 08:17:51.10 ID:QH0i7xsIo

スレタイに偽りなし
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/05(木) 08:25:08.98 ID:cHgbgEdj0

これは期待
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/05(木) 08:44:29.18 ID:CMiESNv4o
おつ
きたい
55 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 21:47:05.82 ID:cOc3Nt7/0
やるよー
56 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 21:49:26.93 ID:cOc3Nt7/0

【冒険者の宿/喉笛破りの白犬亭】



院長、立場を同じくする修道女、自身を慕う孤児たち、そして両親。
皆の説得を終え荷物をまとめ旅立ったミアは今、生まれ故郷から遠く離れたとある都市の「冒険者の宿」に居た。


冒険者とはこの冒険者の宿に所属する者を指す。
その役割は、大小様々な困難……主に荒事を伴う可能性の高い困り事の解決だ。

例えば、凶暴な害獣の駆除。
危険な地域に棲息する動植物の確保。
開拓のための事前調査、そのさらに前段階としての探索。
また、大概の冒険者がある程度の戦闘技能を有するため商隊の護衛などを行う事もある。


素人では難しく、しかし国や領主が兵を動かすほどでもない。
そんな物事に当たる者たちの事である。
日常の中に居る傭兵、と言っても良いかもしれない。


そして冒険者たちを管理するのが冒険者の宿だ。

宿の主は冒険者に代わり様々な依頼を集め、安価な寝床と食事を提供し、代価として依頼報酬の一部を得る。
冒険者は報酬は減るものの、依頼探しや交渉などの雑事から解放される。

他にも幾らかの利点はあるが代表的なのはこの辺り。
百年ほど昔ならばともかく、現代では冒険者といえば宿に所属するのが当然とされる。
中には例外も居るが、それらの大半は賊と大差のないならず者だった。
57 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 21:54:23.88 ID:cOc3Nt7/0
「……なるほどねぇ」


カウンター越しに座る老爺はポツリとこぼす。
彼はこの宿の主であった。

隻眼にして隻腕。
恐らく元冒険者なのだろう。
歴戦を物語る多くの傷跡が残る肉体は老いてなお巌の風格を保っている。

ただ、それが無用な威圧にはなっていない。

好々爺然とした柔和な表情と声色のためだ。
どこかから小さな菓子でも取り出して「食べるかい?」と孫を甘やかす様がきっと似合う。
そんな想像を、ミアが思わず脳裏に描くほど。

老齢らしく真っ白な頭髪も併せて、宿の屋号にある白犬を思わせるような人物だ。
58 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 21:57:23.02 ID:cOc3Nt7/0
老爺……オスヴァルトと名乗った宿の主は手元には数枚の便せんを確かめるように読み返し、何度かミアと見比べていた。

それらは紹介状である。
院長はあの後、苦虫を噛み潰したような顔で紹介状をしたためてくれた。
どことも知れない、質の悪い宿に入られるよりはマシ。
そう言って半ば叩き付けるように渡されたのだ。


「うん、では幾つか。
 荒事の経験は無し。
 町の外にも殆ど出た事がなく、修道院でずっと暮らしてきた。
 間違いはないかな?」

「は、はい。
 それで間違いありません」

「ふぅむ……そうかそうか」


オスヴァルトは頷き、椅子の背にゆっくりともたれた。
古ぼけた印象の背もたれが大袈裟に音を立てる。
行儀よく体の正面で重ねられたミアの手に、不安から力がこもる。
59 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 22:00:05.00 ID:cOc3Nt7/0
「あの……やはり、無理でしょうか?」

「うん?
 いやいや、そんな事はないさ。
 君より悪い条件の者もよほど多い」


思わず問うたミアにオスヴァルトはからからと笑って返す。


「身一つ、着の身着のままで武器の一つも持たない。
 そんな様でやってきた子はもう何十人と見たとも。
 そこから懸命に這い上がって一人前の冒険者になった者も」


オスヴァルトは便せんを手に取り、シワだらけの顔に苦笑を浮かべて続ける。


「君はまだ若いしこれまでの経歴は然程重要じゃない。
 君がいかに勤勉かはここに書き連ねられている事だしね」

「……! で、では!」
60 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 22:04:27.19 ID:cOc3Nt7/0
オスヴァルトの肯定的な言葉に思わずミアは身を乗り出した。

冒険者になる。
そう啖呵を切ったミアであったが、冷静に考えて敷居は高いのだ。

一切経験が無く素養もまるで見えない。
いくら紹介があるとはいえ、そんな人物を本当に所属させてくれるのか。
乗合馬車に揺られこの都市を目指す間、不安は時と共に増大するばかり。

その果てにかけられたのがこの言葉であれば食いつくのも無理はない。


「いやいやまぁまぁ。
 気持ちは分かるけれども、まずは落ち着いてくれるかな?」

「あっ、し、失礼しました……」


だが、流石に無作法である。
オスヴァルトは笑みを深めて止め、ミアは恥じらいに俯いて引き下がる。
61 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 22:11:09.20 ID:cOc3Nt7/0
「うん。
 君の雇用を検討しても良いとは思っている。
 が、今はまだ判断の材料が足りていないんだ。
 紹介だけではなく、実際に見てみない事にはね」


そう置いてオスヴァルトは説明した。

宿に舞い込む依頼は前述の通り誰かが困っている何事かである。
解決に失敗したとなれば宿の評判を落とし迷惑をかけるだけでは済まされない。
依頼人に経済的な損失を与える事態に陥るケースも多く、失敗が命に直結する事さえある。

今現在の実力はともかく、才や熱意が全く無い者に任せられる依頼は存在しない。


「だからまずはそこを見よう。
 試験という事になるね」
62 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 22:17:26.17 ID:cOc3Nt7/0
「試験の内容だけれど……。
 今は誰の手が空いていたかな。
 全く、この年になると記憶が曖昧で困るよ」


オスヴァルトはおどけるように言って立ち上がり、宿の片隅にあるボードに向かう。
そこには幾人かの名の横に色付きのピンが刺してある。
どうやらそれで所属する冒険者の予定を管理しているようだ。

しかし、ミアはそれどころではない。
試験と聞いてからこちら、緊張に身を固くするばかり。

本当にやれるのか。
いや、大丈夫、やれるはずだ。
やらなければ。

内心ではこの三文がひっきりなしに飛び回っている。
63 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 22:25:06.72 ID:cOc3Nt7/0
と、その時。
宿の扉が開いて軋む音を立て、誰かの足音がそれに続く。

その音につられミアが振り返ると……。



1/むくつけきヒゲ面の大男が立っていた。

2/誠実そうな雰囲気の青年が立っていた。

3/軽薄な笑みを浮かべる女性が立っていた。

4/表情に乏しい少女が立っていた。



↓1
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/05(木) 22:25:31.66 ID:Lk9CUiQh0
1
65 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 22:41:40.39 ID:cOc3Nt7/0
そこには、むくつけきヒゲ面の大男が立っていた。


「おーう帰ったぞー。
 爺さん、なんかすぐ食えるもんあるか?」


宿の中に野太く張りのある声が響く。
その声の出元を見るために、ミアは大きく見上げなければならなかった。

まるで岩の怪物かなにかだ。
それほどに大男は巨大で、しかも分厚い。
体のありとあらゆる部位が重厚な筋肉で覆われているのだ。
見るからに頑強な肉の鎧は明確に野性的な脅威そのもの。


振るわれた腕に小突かれただけで吹き飛ばされる自分を空想し、ミアは息を呑む。

知らずのうちにカウンターに縋るよう、数歩も後ずさってしまっていた。
66 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 22:58:50.09 ID:cOc3Nt7/0
「あぁ、ヴォルフか、いい所に帰ってきた。
 ちょうどたった今頼みたい事ができたんだ」

「あん?」


その男にオスヴァルトが声をかける。
大男はどうやらヴォルフというらしい。
口ぶりからすると宿の一員……冒険者に違いない。

ヴォルフは途端にニヤリと顔を歪めた。
巨体に見合った大きな手でヒゲまみれの顎をゴリゴリと掻き、ちらりとミアを見やってから口を開く。


「新しい依頼か?
 確かにちょうどいいやな。
 腰も軽くなったとこで、一働きといくかい」
67 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 23:09:05.03 ID:cOc3Nt7/0
「うんうん、毎度頼もしいことだ。
 ただ、悪いが君が満足するような仕事じゃないよ。
 その子の試しをお願いしたくてね」


意気揚々。
そんな雰囲気だったヴォルフは虚を突かれたように目を見開いた。

その子というのはこいつか、とばかりにミアを指さし。


「依頼人じゃねぇのか?」

「うん、志望者だよ」

「……おいおい、冗談だろう」


そしてのしのしと大股で近付く。
まるで壁が迫ってくるかのような威圧感に、ミアは逃げる事さえできない。
68 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 23:23:06.59 ID:cOc3Nt7/0
離れていても見上げる程だった巨体である。
眼前ではその迫力も段違いだった。

当然の事ながら修道院には女性しかいない。
そのために数年を男とろくに接していなかったミアにとってはハッキリと異物だ。
漂う強い酒気もあいまって感じる恐怖はただただ高まっていく。

そんなミアを上方から、ヴォルフは面倒そうに見下ろしている。


「なぁおい、あんた本気か?
 ただ金が欲しいってだけならやめといた方がいいぞ?
 悪いがとても務まるようには見えねぇ」


ヴォルフの言葉は明らかにミアを侮り見下したもの。

しかし、残念ながら正当な評価だった。
人によってはミアが冒険者志望というだけで職自体を舐められたと怒り狂う者もいるかも知れない。
それを考えればヴォルフはまだしも有情と言えた。
69 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 23:29:47.13 ID:cOc3Nt7/0
「わ、私は本気です。
 軽い気持ちで、来ているわけでは……」

「お、おぉ……そうかぁ?」


懸命に返すミアの言葉にも説得力が足りていない。
間近にある男性らしすぎる肉体に気圧され端々が震えているのだ。
向けられたヴォルフも困惑するほかない。


「いや、いやいや、しかしよぉ……」


その困惑に任せるまま、ヴォルフがさらに動いた。
丸太のような腕が無造作にミアへと伸ばされる。
70 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 23:38:07.88 ID:cOc3Nt7/0
「この腕でか?」

「……っ!」


むんずとばかりに大きな掌がミアの細腕をつかみ取った。

遠慮など少なくともミアには僅かも感じられない。
好き勝手に撫で回し、確かめるように指が埋められる。

父親以外の男性に触れられた経験などろくにないミアにとってそれは酷く精神を圧迫する体験だった。
虫に這われたに等しい嫌悪感が急激に肌を粟立たせる。


「いや、マジでほっせぇな。
 おい爺さん、流石に無理があるだろうよ」


だがヴォルフはそんな様子に気付いた節もない。
顔だけをオスヴァルトに振り向かせ、呆れを多分に含んだ声を上げるだけ。
71 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 23:39:48.01 ID:cOc3Nt7/0

そんなヴォルフに対し、ミアは……。



1/何もできなかった。

2/力の限り抵抗した。

3/手を離すよう声をあげた。



↓1
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/05(木) 23:40:27.87 ID:qMCAlJPX0
3
73 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/05(木) 23:59:29.74 ID:cOc3Nt7/0
「……っ、は」


ヴォルフはミアの嫌悪に気付いた様子もない。
何も抵抗しなければ解放は当分先になるだろう。
それどころか悪化の可能性もある。
ならば声を上げなければならないのは当然だ。

しかし震える喉は上手く声を作ってくれない。
初めて経験する異性の脅威であり、しかも見上げる程の大男。
生来気弱なミアに奮い立てというのも酷な話だ。

形作ろうとした言葉はか細く抜けるばかり。
どうして私はこうなのかとミアは僅かに自己嫌悪にかられた。
74 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 00:07:11.38 ID:GlNQR5IG0
「はなして、くださいっ」


それでも幾度かの挑戦の後に抗議は成功した。
ミアは欠片ほどの勇気を必死にかき集め、なんとかその一言を発する。

そうしてしまえば、顔を上げて睨みつける事も意外と簡単だった。


「あー……。
 おう、悪かったよ」


無作法を責める言葉を続ける事は出来なかったものの、十分に意思は伝わったのだろう。
……たとえそれが子犬か子猫のようなか弱さであったとしても。

ともあれ、ヴォルフはバツの悪そうな顔でミアを腕を開放した。
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/06(金) 00:07:24.83 ID:YpvY/Hun0
別の選択肢が正解だったか
76 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 00:08:01.59 ID:GlNQR5IG0

――――――

精神経験点+

――――――
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/06(金) 00:09:12.35 ID:YpvY/Hun0
リロードしてなかった
失礼しました
78 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 00:16:34.52 ID:GlNQR5IG0
「はぁ、まぁしゃーねぇか。
 んで爺さん、俺は何すりゃいいんだ?」


それで何となく勢いを失ったらしい。
ヴォルフはミアの志望を取り下げさせる事を諦めた様子で尋ねた。
つまらなそうに肩を落とした姿は明らかにやる気が無さそうで、面倒ごとをさっさと処理しようという内心が窺える。

ミアとてその態度に反感を覚えはしたが、今は試される立場だ。
多少の不満は静かに飲み込んだ。
手が離れても未だ嫌悪感は強くこびりつき、出来るだけ関わり合いになりたくなかった……というのもある。
79 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 00:38:04.09 ID:GlNQR5IG0
「うん、それなんだけれど、やっぱり実地で見るのが一番だ。
 南の廃村近くで小鬼を見たという話があってね。
 新しい話だからそう数が居る事も無いと思うし、多少想定外があっても君なら相手にもならないだろう?
 ミア君を連れて探ってきてくれるかな」

「あー、わかったわかった、いつものな。
 ……ったく、これだから爺さんは」


しかし、どうやらここに嫌悪感に対する特効薬があったらしい。

オスヴァルトの語る言葉に、ミアは途端に顔を青くした。
性的な嫌悪などあっという間に吹き飛んでいる。


「素人の女子供にやらせることじゃねぇだろ。
 いかにもお人よしって面しといて」

「ははは、何を言ってるんだか。
 こんなに優しい事もなかろうに」


ミアの様子を横目で見ながらヴォルフが言い、オスヴァルトが笑って流す。
これ見よがしに巨体から吐き出された溜め息も老爺にはまるで効果が無いようだ。
80 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 00:59:44.08 ID:GlNQR5IG0
小鬼とは、一般にゴブリンとも呼ばれる者たちだ。

人の子供に近い体躯。
人とさほどに変わらぬ力。
野生の動物としては脅威の度合いが低く見える彼らはしかし、その気性と性質をもって評価が裏返る。

人を襲い、奪う事を彼らは何より好むのだ。
衣服、道具、住居、家畜。
全てを奪い去り我がものとした後に、尊厳までを奪うように長く長く人間を甚振り、殺す。

そこに容赦や呵責の類は僅かにも存在しない。
小鬼に捕えられたなら自由があるうちに舌を噛め。
古くから伝えられている言葉に誇張は含まれていない。


そんな彼らは人間を妬む事を本能に定められているかのような振る舞いから、魔物と呼ばれる生物のうちで最も人間に身近な種であり。


「最初に飛び切り怖い思いをしておけば、後々が楽になるだろう?」


そして人類の外敵の中で、最も多くの人命を奪っている脅威でもあるのだ。
81 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 01:01:05.68 ID:GlNQR5IG0

―――――――――――――――

Quest 1 村落跡のゴブリン退治

―――――――――――――――
82 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 01:03:16.91 ID:GlNQR5IG0
寝るー
筆はもうちょっと早くしたいけど慣れるまで我慢してください
出来るだけ頑張る
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/06(金) 01:08:35.27 ID:sayE64nU0
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/06(金) 01:09:09.74 ID:f2tOJ8O0o
あつおつ
好きな文体、焦らず自分のペースで頑張って
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/06(金) 01:10:50.54 ID:EAaTMkUm0
おつ
好きよ
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/06(金) 06:21:12.33 ID:I9o0MWwl0
乙です
87 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 22:22:54.63 ID:QNYSVY+z0
都市から見て南方には、豊かな草原が広がっている。

周囲を山に囲まれた盆地だ。
山々から流れる三本の川の合流点であるそこは、水の浸食により段丘と緩やかな台地が形作られていた。
険しさとは殆ど無縁。
牧歌的と言って良いのどかな風景が延々と続いている。

しかし、一見平和にも見えるこの土地には一つの町も存在しない。
付近一帯を治める領主の一族は過去に幾度か手を伸ばしはしたというが、全てが失敗に終わったらしい。


「っつーのも、川と山が曲者でな。
 少し雨が続けばすぐ溢れる上に、山は鉄が多すぎるときた」

「はっ、はぁ……そう、なん、っんぐ、ですか……」

「おう、ほれ、あっちの山見てみろ。
 山肌が真っ赤だろ?
 あんだけ赤いと鉄虫が湧き放題だ。
 ……連中は鬱陶しい癖に旨味がねぇんだよなぁ」


鉄虫とやらを思い出しているのか、ヴォルフはくしゃりと顔をしかめる。
だが、ミアにそれを確認する余裕は無かった。
88 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 22:38:59.16 ID:QNYSVY+z0
ゴブリン退治と聞いて顔を青くしたミアだったが、実際はそれ以前の問題だった。

村落跡とはつまりそのまま村落の跡であり、当然そこにはもう誰も暮らしていない。
当然の事として道の整備など行われていないのだ。
かつては道だったのだろうと思われる窪みは伸び放題の植物に覆われ、全く歩行を助けてくれない。
むしろ境目を見落とせば段差に足を取られるだけの余計な地形でさえある。

町中と修道院のみで暮らしてきたミアが簡単に踏破できる道程ではなかった。
体力はあっという間に底を付き、息もまともに整わない。
途中で痛み始めた足は麻痺してきたのか鈍い熱を感じるだけになってはきたが、それも良い事ではないだろう。


「ま、それを差し引いても美味しい場所でな。
 鍋回しの連中なんかにはここらの素材は高く売れる。
 依頼の少ない時期にはちょうどいい稼ぎになんだよ」

「はっ、はっ、ぅ、げほ」

「…………あー。
 そろそろ休憩するか」

「……っ、っ!」


ミアは声も出せずに頷く。
ヴォルフの話に耳を傾けて辛さを紛らわせるのもそろそろ限界だった。
89 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 22:52:10.84 ID:QNYSVY+z0
「ほれ、水だ。
 一気に飲むんじゃねぇぞ。
 少しだけ口に入れて、じっくり湿らせるようにしろ」


ヴォルフがざっくりと安全を確認した木陰に、ミアは倒れるように座り込んだ。
ずい、と差し出された革製の水筒は今の彼女にとって救世主に等しい。
礼の言葉を痛む喉からなんとか絞り出して受け取り含んだ水はどこまでも染み入るようであった。


「……マジで体力ねぇなあんた。
 まだ半分もいってねぇが、村までもつか?」


返す言葉も無くミアは俯いた。

擁護するならばミアが貧弱というわけではない。
町娘としては平均程度。
それが冒険者としては全く通用しない水準だったというだけだ。
90 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 23:12:51.83 ID:QNYSVY+z0
「おい、無理はすんな。
 どんな事情があるかは知らんし聞きもしねぇけどよ、生きてくだけならこんな稼業じゃなくてもいいだろ。
 なんなら俺が口利いてやってもいい」

「……」

「なぁ、引き返そうぜ。
 帰りは俺が運んでやるから」

「……あり、がとうございます」


巨体を縮めて視線を合わせるヴォルフにミアは頭を下げた。

初対面こそ悪かったものの、既にミアの中から悪印象は払拭されている。
彼が気遣いの人だというのはここまでの道中で知れていたのだ。
岩のような厳つい顔は表情を読み取りにくいが、今も真摯にミアを案じてくれているのが良く分かる。
91 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 23:21:00.34 ID:QNYSVY+z0
だが、ミアもそれに甘えるわけにはいかない。

絶対に人を助けると決意して修道院を飛び出したのだ。
まだ何も為していないうちに諦めるなど出来るわけがない。

むしろ逆効果だ。
萎えかけていた心に再度芯が入る。


「でも、大丈夫です。
 まだ、やれます」

「……あー、そうかい」


今度はヴォルフの頭が下がる番だった。
どうしようもねぇ、と言いたげにガックリと首が折れる。
盛大に吐き出された溜め息にミアは身を震わせた。


「……申し訳ありません。
 ご迷惑をおかけします」

「おう、気にしとけ。
 戻ったら取り立てる」
92 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 23:34:55.35 ID:QNYSVY+z0
「ただなぁ、流石に予定を変えた方がいいかもしれん」


ゴリゴリと頭を掻いたヴォルフは視線を合わせたまま今後の道程を語った。

今回の目的はゴブリンの発見と徹底的な駆除である。
それ自体は難しくない。
人の道具や住居を奪い利用する性質から、ゴブリンはほぼ間違いなく村落跡に潜んでいる。
その上に人間に対する常軌を逸した攻撃性を考えれば逃走の可能性はゼロに等しい。


「ぶっちゃけ、正面から突っ込んで向こうに発見させりゃ達成だ。
 小鬼相手なら百匹居ても俺は殺せる」


しかし問題はそこにミアを連れていかなければならない点だ。

ヴォルフいわく、彼の得意分野は単独突撃からの皆殺しだという。
護衛の類は殆ど経験が無いらしい。
93 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 23:45:36.66 ID:QNYSVY+z0
万全を期すためには事前の偵察は欠かせない。
そのためには途中から山に分け入って村落跡に近付き、高所から見下ろすのが最も確実だ。
ゴブリンは人間と同じく平地の生き物であり、山中で彼らと遭遇する危険も少ない。


「っつー予定だったんだが。
 当然山に入るなら道は今よりずっときつい。
 やれそうにないならこのまま進むって手もある」


その場合は背の高い草に隠れて周囲を探る事になるようだ。
村落跡に居を構えているのなら獣道を始め諸々の生活痕が存在する。
そこから数を推測する形だ。
94 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/06(金) 23:50:30.67 ID:QNYSVY+z0

考えを伝え終え、ヴォルフはミアの考えがまとまるのをじっくりと待っている。



1/山に入る。

2/このまま進む。



↓1
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/06(金) 23:56:08.13 ID:X8R/2b3DO
1
96 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 00:06:01.09 ID:FluA2bor0
始まるの遅かったので短めだけど寝るー
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/07(土) 00:10:04.81 ID:pRuVwhTNO
おつおつ
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/07(土) 00:23:06.77 ID:Ot422/GK0
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/07(土) 20:58:33.52 ID:1r+Dp/PDO
乙でした
次の更新も楽しみにしてます
100 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 21:16:02.82 ID:rjqTezbP0
「いえ……大丈夫、です。やります。
 予定通りでお願いします」


しばし考えた後にミアが出した結論はそういうもの。

冒険者になる。
それは当然、容易い道ではない。
無理や無茶はミアも覚悟の上だった。
山中からの偵察が確実というならやらねばならないと顔を上げる。

それに対しヴォルフは半ば睨むように目を細めた。


「よし、わかった。
 そっちの方が確実ではあるしな。
 ……やるつったんだから、しっかりやれよ」
101 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 21:26:33.90 ID:rjqTezbP0
―――――
―――



しかし、意気込みだけで何とかなりはしなかった。
ミアの足腰は山を登り始めてすぐに限界を迎えていた。

ミアとて山登りを甘く見ていたつもりはない。
だが想像が足りていなかった事は確かだろう。

足元が傾斜している。
その一点がこうも苦しいのかと震える足を抑えてミアは唸った。

一歩一歩に必要な力がここまでとは段違い。
道が無いのは同じだが、転ぶだけで済んだ平地と違い滑落の恐れもある。

その上。


「……っ!?」


ほう、ほう、と何かが鳴いた。
思いの外近かった音にミアは慌てて周囲を見渡すが、何も見つからない。
102 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 21:30:58.33 ID:rjqTezbP0
山中は生命の気配に溢れている。
自身の数倍はある針葉樹に囲まれ見通しの利かない視界には何も捕えられないが、時折こうして何者かが存在を示していた。
声はすれど姿は見えず。
本当に危険なものはヴォルフが対処すると分かっていても恐怖は抑えきれない。

そして、恐怖に竦んだ体というものは平時よりも遥かに消耗が早い。
途中で拾った杖……程良い太さと長さの枝が無ければミアはとうに倒れていただろう。

……それもどうやらここまでだ。
荒れる呼吸、意思に反して震える体。
視界は徐々に霞み異常な発汗も止まらない。

ついに杖が体を支えきれずに滑る。
預けていた体重が地面へ向けて崩れ、そして立て直す力などどこにも残っていない。

あっ、と思った瞬間には完全な手遅れ。

受け身の心得も無いミアに出来る事は、衝撃と滑落の予感に固く目をつぶる事だけだった。
103 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 21:43:22.64 ID:rjqTezbP0
「よっと。
 ま、ここまでだな」


だが予感に反してミアを痛みが襲う事はなかった。

全体重を支えながらこゆるぎもしない強靭な何かがミアの腹部を支えている。
恐る恐ると目を開けば、そこにあったのは巨大な腕だ。
言うまでも無くヴォルフのものである。

そしてそのまま、ミアはぐわんと持ち上げられる。
急激に流れる景色に悲鳴を上げて困惑し、行き付いた先は肩の上。
気付けばミアはまるで荷物のように担がれていた。


「悪いがこれ以上は無理だな。
 日が暮れると困る。
 このまま運んでくぞ」
104 : ◆a0UdM47R7d2e [saga]:2019/09/07(土) 21:46:48.53 ID:rjqTezbP0
いや、事実今の自分はただの荷物だとミアは実感する。
今意地を張って降ろされたところで、もう一歩も動けるとは思えない。

やれると言って志願したものの結果はこの様。
足手まといは当然とはいえ、己の情けなさにミアは俯いた。


「……申し訳、ありません」

「あー、いや、なんだ。
 ぶっ倒れるまで弱音も吐かないってのは、なかなか根性あるんじゃねぇか?」


フォローするヴォルフの言も、今のミアにはただ恥じらいを生むだけだった。



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能力判定/耐久

耐久 ★★

不可

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耐久経験点++

感覚経験点+

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