女「夢桜、どうか散らないでいて」

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134 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:04:36.57 ID:TGmOvz000

青年「それとっ!」

青年「その呼び方」

女「え?」

青年「あなた…というのも奥ゆかしくて好きだけど」

青年「二人のときは名前で呼んでくれてもいいんじゃないかい?」

女「……青年様?」

青年「君って人は……分かってるくせに」

青年「ね?」

女「………青年」

青年「なんだい、女」ニコニコ

女「……な、なんですかこれは……」

青年「何って、おかしなことはしてないだろう?」

青年「夫婦同士、名前で呼び合うなんて」

女「………」

女「…二人きりのときだけですからね?」

青年「十分さ」

青年「………」

青年「……女、こんな弱い僕を受け入れてくれてありがとう」

女「……」

青年「婚儀の日、僕の中で淀んでいた何もかもを全部ぶつけたのに、君は微笑んで抱き締めてくれた」

青年「今だから言えるけど、正直君に見限られる覚悟もしていたんだ」

青年「でも君は全て包んでくれた」

青年「そこで実感したよ。やっぱり妻にする女性は君以外考えられないって」


135 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:08:02.35 ID:TGmOvz000

女「………」

女「幸せにしてくださいね?」

青年「勿論っ!」

青年「あぁ…!ずっと待ち焦がれていたよ!君とこうやって過ごせること…!」

青年「ただ共に歩いてるだけなのに、世界がこんなにも違って見える…!」

女「大袈裟ですって」クスッ

青年「……ところで、僕らはどこに向かっているんだい?」

青年「見たところ、ここは君の家の近くだろうけど……」

女「はい。せっかくなので、見ておきたいものがありまして」

青年「見たいもの……珍しいね、普段おとなしい君が」

女「私にだってしたいことの一つや二つはありますよ?」

女「…きっと、青年が困っちゃうくらいには」フフッ

青年「…!」

青年「……望むところさ。それで女のことをもっと知れるのなら!」

女「ふふ…」

女「………あ」ピタ



(若葉の茂る大きな木)


136 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:09:04.74 ID:TGmOvz000

女「………」

青年「ん…?」

青年「この木……なのかい?」

女「…はい」

青年「随分と大きな……」

女「これは桜の木なのです」

青年「!そうか、もうすっかり葉桜になってしまったんだね…」

女「えぇ…ですが」





女「──この桜、とても綺麗でした」





青年「……想像できるよ。これだけ立派な木なんだ。さぞ荘厳な眺めだったろう」

女「咲く姿も、散る姿も、全てが幻想的で不思議な世界に誘われたような、そんな気持ちになるのです」

女「……思わずずっと見ていたくなるほどに」

青年「………」

女「………」

青年「…来年、共に見に来よう」

女「………」

女(………)





女「……是非」ニコッ




137 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:10:17.57 ID:TGmOvz000

ーーー高等学校卒業日ーーー

男「………」テクテク

男「………」テクテク

男(終わったんだな)

男(長いようで短かった)

男(この帰り道も、もう歩くことはないんだろう)

男「………」テクテク



ーーーーー

青年「──や、久しぶり」

男「青年……わざわざこの教室に寄ったのか?」

青年「だって今日が学生最後の日だろう?君に会っていかないと僕の学生生活は締められないからね」

男「俺のことなんて忘れてると思ってたよ」

青年「忘れるわけないさ!君の方こそ最終学年になって教室が変わったらめっきり顔を合わせてくれなくなったじゃないか」

男「……別に会う理由もないからな」

青年「薄情だなぁ。理由なんかなくても会いに来てくれよ。親友っていうんだぞ、僕ら」

男「お前……なんか変わったな。もっと落ち着いた奴じゃなかったか?」

青年「変に取り繕うのをやめただけさ。疲れるしね。それにこっちの方が皆の受けがいい」

青年「勿論、大人の前では猫を被るさ」

男「……ふっ。あぁ確かにその方が似合ってるな」

青年「だろ?」ククッ


138 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:11:18.17 ID:TGmOvz000

青年「………」

青年「…君にはね、心の底から感謝しているんだ」

男「……」

青年「あのとき君の言った言葉」

青年「──好きに生きればいい」

青年「それがあったからこそ、僕はありのままをぶつけて……」

青年「……彼女を迎えることが出来た」

青年「今こうしていられるのだってそうさ。僕がしたいように生きているんだ」

男「一人の人生を変えてしまったわけだ」

青年「そうそうその通り!誇張でも何でもないよ!」ニッ

青年「それはそうと、今日は一旦の別れを言いに来たんだよ」

男「別れ?」

青年「あぁ。父上の経営する会社の一つがここより遠い北にあってね。そこの補佐として働きながらノウハウを学ぶことになったんだ」

男「社長補佐……だよな?いきなり重役とは、さすが旧家の青年は違うなぁ」

青年「今更そんなからかい方はやめてくれよ」フッ


139 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:12:18.80 ID:TGmOvz000

青年「……向こうに越すのは明日なんだ」

男「おいおい、また急だな」

青年「急じゃないんだよ?結構前から決まってたことなんだけど、君に伝える機会がなかったから」

男「あー……そいつは悪かったな」

青年「いいさ。こうして今日君と話せただけで満足だ」

青年「金輪際会えなくなるわけでもないんだしさ」

男「……次会うときは、俺はお前を顎で使う身分になってるだろうな」

青年「ほう…そいつは楽しみだね」

男「………」

男「お前ひとりで行くのか?」

青年「……いや」

青年「女も一緒だよ。ご両親の許しももらっている」

男「そうか」

男(………)

男「……幸せにしてやれよ」

青年「!」

青年「…言われずとも!」ニカッ

ーーーーー


140 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:13:09.72 ID:TGmOvz000

男(……ふ、本当変わったな、あいつは)

男(あんなに楽しそうな顔して毎日過ごしてるのか)

男(……少し安心した)

男「……」テクテク



ガラガラ



男「ただいま」

男父「おぉ、おかえり、男」

男父「卒業おめでとう。一高を首席で卒業したんだろう?私は鼻が高いよ」

男「特別枠で入れてもらったんだから、それくらいしないとな」

男父「はっはっは。そんな簡単に出来るようなら、誰も苦労はしないだろうなぁ」

男父「それと、お前宛てに手紙が届いたぞ」

男「手紙?」

男父「しかも二通もだ」

男父「……いつの間に側室まで作っていたんだ?」ニヤリ

男「全く身に覚えがないんだけど」

男父「ほら、早く返事を書いてやりなさい。お前の部屋に置いておいたから」

男「いや多分知らない人からだと……」

男父「お前に一目惚れした子からの熱いメッセージかもしれないだろう?」

男「あー分かった分かった……読んでくればいいんだろ」



トッ、トッ、トッ




141 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:13:53.05 ID:TGmOvz000

ーーー男の部屋ーーー

男「……これか」

男(封筒が違う……)

男(こっちは新品のようだけど、こっちはちょっと古ぼけてる……?)

男(新品の方は名前が書いてないな……もう一つの方は……)

男「…!?」

男「男母……!」

男(母さんの名前…!)

男(父さんが悪ふざけでもしたのか…?)

男(いやこんな悪趣味なことはしないか)

男「………」



ガサガサ ペラ...


142 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:14:56.69 ID:TGmOvz000

『私の最愛の子 男へ

まだ顔も知らないあなたに、万が一を考えてこの手紙を残します。

いかがお過ごしですか?あなたは幾つになって、どこで何をしていますか?こうして筆を走らせてる今、あなたはまだ私のお腹の中なのにどんな風に成長していくのか楽しみで、想像が止まりません。

この手紙をあなたが読むということは、私はもういないのでしょうね。

ですが、絶対に自分を責めないで下さい。あなたを産めたことは私にとってかけがえのない幸せなのです。ですから、そのことでうじうじしているようならむしろ怒ります。

あなたに言っておきたいこと、教えたいことはたくさんあるのですが、その全部をここに書くのは控えます。生まれてきたあなたと直接話したいので!なので一個だけ、伝えておきます。

好きに生きなさい。

自分がしたいように生きるの。
楽しければ笑って。
悲しければ泣いて。
欲しければ手に入れて。
要らなければ手離して。
そうやって悔いのないように選択していくのが、人生のコツ。おかげで私の辞書に後悔なんていう言葉はないもの。勿論、人様に迷惑をかけてはダメよ?

私はいつまでも、男の幸せを願っています。
ちゃんと見てますからね。

……早く産まれてくるあなたの顔が見たいわ!

あなたの母より』


143 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:16:00.18 ID:TGmOvz000

男「……母さん……」

男(これ……本当に母さんが書いたのかな……)

男「………」

男「……こっちは誰からなんだろう」



ガサゴソ...



『拝啓 男様

女です。とても久しぶりですね』



男(っ……)



『この度この手紙をしたためたのは、あなたのお母様が生前残したあなたへの便りを送るためです。

もう読まれましたでしょうか?あなたが以前、大丈夫と話してくれていた通り、お母様はちゃんとあなたのことを想ってくれていたのですよ。

この手紙を見つけ出すのに1年程かかってしまいましたが、あなたに届けることが出来て良かった。

もう、あの悲しい目をしないで下さい。あなたはこんなにも望まれて生まれてきたのですから。

そういえば、第一高等学校を首席で出られたそうですね。本当に素晴らしいことだと思います。それを聞いたとき、私は交流会で見せてくれたあの間の抜けた音を思い出して一人笑ってしまいそうになりましたけど。

私は今、素敵な人たちに囲まれて暮らしています。きっとこれが幸せというのでしょう。あなたにも是非知ってほしい。

私とあなたの道はもう交わることはないでしょうけれど……末筆ながら私もあなたのお母様同様、願っています。

どうかお幸せに。

                  敬具

女』


144 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:16:55.73 ID:TGmOvz000

男「………」

男「………」

男「……………」

男(……………)

男「………ん?」

男(この手紙……よく見ると、小さな皺がそこら中に……?)

男「……」ジッ...

男(違う、皺というよりこれは……)

男(………筆跡)





男「──っ!」





ーーーーー

女「……」カキカキ

女「………」

グシャ

女「……」カキカキ

女「……」カキカキ

女「…………」

グシャ...

ーーーーー


145 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:19:20.78 ID:TGmOvz000

男(……どれだけ……)

男(どれだけ……書き直しをしたのだろう)

男(たった一枚の手紙を書くのに、どれだけの時間を費やしたのだろう)

男(………)

男「……女さん……」

男(……母さん……)





男父「──熱いメッセージだったろう?」





男「……」

男父「昼頃にな、若い女性が訪ねてきたんだ」

男父「その人は二通の手紙をお前に渡すよう言うと、名前も言わずに去っていったよ」

男父「そうだな……例えるなら……」

男父「──大和撫子という表現が似合う、そんな女性だった」

男(─!)

男「………」


146 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:20:32.79 ID:TGmOvz000

男「…父さん、この手紙は……?」

男父「あぁ、その女性から聞いた時は驚いた」

男父「まさか私も知らない間に母さんがお前に宛てた手紙を書き残していたなんてな」

男父「その筆跡は間違いなく母さんのものだ。よく見てきたから分かる」

男「………」

男「……母さんもさ、俺と同じで抜けてるんだな……」

男父「ん?」

男「だって……もしものときのために残した手紙なのに……俺と直接話すとか、俺の顔を見たいとか書いてるんだ……」

男「そんなの……無理じゃないか……!」

男父「……いいや」

男父「男、お前は知らないだけだ」

男父「そこに書いてある母さんの願望はな、実は叶っているんだよ。一つだけだがな」

男「え…?」


147 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:21:20.76 ID:TGmOvz000

男父「母さんはお前を産んだすぐ後に亡くなったと話したな?」

男父「……なにも産んだと同時に召したわけじゃない。お前の顔を見る時間くらいはあった」

男父「大声で泣き叫ぶ小さなお前を見て──満足そうに、眠っていったんだ」

男「──」

男「………」

男父「………」

男(………)



『あなたを産めたことは私にとってかけがえのない幸せなのです』



ーーーーー

女「──きっと伝わっていますよ、あなたのその想いは」

ーーーーー



男(そうか)

男(分かっていたんだ)

男(気付かないフリをしていた)

男(俺にとっての、君は………)

男「……」

男「………」グッ...


148 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:22:04.89 ID:TGmOvz000



コンコン!



男「!」

男父「む?」フリムキ

男父「誰か来たみたいだな…?」

男(……まさか……)

男「」ダッ

男父「おい!男!」



タッタッタッ



男(ありえない)



タッタッ



男(……けど、その戸の向こうに居るのは……!)



──ガラッ!





「あ……!」




149 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:23:16.24 ID:TGmOvz000

男「……君は」

男「女友さん、だよね?」

女友「はい…!覚えててくれたんですね!」

男「……まあ、ね」

男「印象深いお見合いの場だったから」フフッ

女友「う……その節はお父様が、すみません……」

男「はは、無遠慮かもしれないけど、あのとき少し女友さんの素が見れて楽しかったよ」

女友「男さん、その口調……」

男「え?……あ」

男「失礼…不快にさせてしまったかな」

女友「そんなことありません!」

女友「……その方が、男性らしくて素敵です……」ボソッ

男「…ところで、どうしたの?ここまで来るなんて」

女友「そうでした」

女友「その………」モジモジ

男「?」

女友「………男さんの、第二ボタンを頂けませんかっ!」

男「…!」

女友「……」ソワソワ

男「……」

女友「……//」

男「……」

男(……フッ)


150 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/08(木) 02:25:23.11 ID:TGmOvz000





男「──喜んで」





ー叶うもの叶わないもの 終わりー
151 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2019/08/08(木) 02:31:58.51 ID:TGmOvz000
以上で正規編は終了となります。

参考にしたのは「夢桜」という歌です。
なんでしたらスレタイは歌詞の一部です。

ですが完結ではありません。
そこはハッピーエンド至上主義。
別の結末を、後日投下致します。
152 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:17:25.25 ID:JDMl+INM0

2 ーーーーーーー



──ガシッ



女「…!!」

男「………」

女「男、さん……」

男「」グイッ

女「きゃ…!」



──ギュ



男「……」

女「……お、起きてらし──」





男「俺も、あなたが好きだ」





女「──!」

男「知人なんかじゃない」

男「今俺が抱き締めている女性は、失くしたくない、大切な存在だ」

女「ぁ………」


153 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:19:08.12 ID:JDMl+INM0

女「……」ツー...

男「……また泣いてる」

女「だって、あなたが……」ポロ..ポロ..

男「……」

男「……女さん」

女「はい…」

男「俺のために、全てを捨て去ってくれと言ったら、どうする?」

女「そのようなこと……」

女「出来ます……出来るに決まっています……!」

男(……)

男(その返事が聞ければ)

男(──俺はもう迷わない)

女「…ですが」

女「許されないのですよね……それは」

女「大丈夫です……分かっておりますから……」

男「………」

女「……ですから……」



...ギュー



女「もう少しだけ……このままで……」

男「……」ギュー...



.........




154 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:21:18.98 ID:JDMl+INM0

ーーー朝 男家ーーー

男「少し眠いな……」

男(………)



ーーーーー

女「──離れたくないよぉ……」

ーーーーー



男(……あの時俺の腕に落ちた涙は、熱かった)

男「……」



トントントン



男「父さん、起きてる?」

「……んー?なんだ?男、今日はやけに早く起きたな」

男「入るよ」

「あぁ」

ガチャ

男父「…少し寝不足か?疲れた顔してるように見えるぞ」

男「父さん」

男父「なんだ?」

男「……」





男「頼みがあるんだ」




155 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:23:32.56 ID:JDMl+INM0

ーーー翌週 女家ーーー

女父「……」カキカキ

女父「……」インカンペタッ

女父(………)

女父(…いよいよ明日か)

女父(女のあの精神状態で無事婚儀を迎えられるか不安だったが……)



ーー数日前ーー

女「──お父様、心配をおかけしました」

女「ようやく私のすべきことを思い出しました」

女「……次の週が、とても楽しみです」ニコッ

ーーーーー



女父(……うむ、これで良かったのだ)

女父(これが、お前の幸せだ)



コンコンッ!



「旦那様、急ぎの用件につき、失礼致します…!」

女父「召使か?構わん、入れ」

ガチャッ

召使「お仕事中申し訳ございません…」

女父「急ぎとは何事だ?」

召使「それが……」





召使「──例の、男という者とその父君が訪ねてきまして、お話がしたい…と」




156 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:24:58.97 ID:JDMl+INM0

女父「なんだと…!?」

女父「おい、私達に関わるなときつく言ってきたのだろうな!」

召使「は、はい!」

女父「すぐに帰ってもらいなさい!もう二度と顔を見せるなと念を押してな!」

召使「ですが旦那様、彼らは直接謝罪がしたいとおっしゃっておりまして…」

女父「謝罪だと?」

召使「はい。お嬢様と旦那様の両名にと」

女父「ふざけたことを…」

女父「そんなもの不要だ。とにかく早く去って──」

女父(……いや、待て。なぜ父親が出てくる?)

女父(単に謝罪に来たというだけなら男とやらの独断で来てもおかしくはないが……)

女父(彼らも第一高等学校に通う貴族の端くれ)

女父(このタイミングで、父親を連れ直にここへ来るなど……ただの謝罪ではない……か?)

女父(まさか私達を揺する気か……?)

女父(……無下にするわけにもいかないか)

女父「……分かった、通せ」

召使「!…承知しました」

女父「それと」





女父「……女を呼んできなさい」




157 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:27:57.06 ID:JDMl+INM0
忘れてました。>>152>>131の続きからです。
158 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:28:46.55 ID:JDMl+INM0

ーーー客間ーーー

男「………」

男父「………」

女「………」

女父「………」

女(これは、一体何なのでしょう…?)

女(謝罪……男さんが……?何に対して謝るというのですか…?)

女(それに男さんのお父様まで……)

女父「……ようこそいらっしゃいました、と言いたいところなのですが」

女父「以前、忠告したはずですね?我々に近づかぬよう……」

男父「はい。心得ております。今のあなた方にとって私達がどれほど忌むべき存在なのか」

男父「ですが承知の上で尚、こうして伝えたいことがあったのです。この愚息の言葉を聞いて頂きたい」

男父「私も、これの父としてお詫び申し上げます。今回の件、誠に申し訳ございません」ペコリ

女「……」

女父「ふむ……」

女父(他意はないように見えるが…)

女父(本当に謝罪しに来ただけだというのか?)

女父(……だが)



男「……」



女父(こやつが男か……不思議な目をしている)

女父(強い意志を宿した目……穏やかな雰囲気と相反する)

男父「男」

男「あぁ」

男「……」ジッ...

女父「………」

女「……っ」




159 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:30:38.30 ID:JDMl+INM0

ーーー女家 門前ーーー

女友「──あ」バッタリ

青年「──お」バッタリ

女友「……………」

青年「……………」



コクリ(二人頷き合う)



女友「……」ミアゲル

青年「……」オナジクミアゲル





(静かな女家の屋敷)




160 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:32:14.69 ID:JDMl+INM0

ーーー客間ーーー

男「──まずは、この度の非礼、申し訳ありませんでした」

男「お相手が既にいると知ってからも度々秘密裏に会っていたこと、一貴族として非常に愚劣な行為でありました」

女父「度々、な…」

女「!そ、それは──」

女父「口を閉じなさい、女。言われずとも分かっていたことだ」

女「………」

男「そして、事前の申し出もなく突然来訪してしまったこと……」

男「……これから重ねるさらなる非礼についても、謝罪致します」

女父「…なんだと?」

男「女父様は、そちらに座っている女さんがどれだけ優しく、強い心を持っているかご存知ですか?」

女父「……んん?」

男「他人を慮り過ぎる故、相手の気持ちを考えただけで涙を流してしまうような……そんな優しさ」

女(男さん、なにを……?)

男「常に利他を優先し、ブレることのない心の強さ」

女父「…男君、君が何を見て来たのかは分からないが、それしきのことを父である私が知らないとでも思っているのね?」

女父「所詮は赤の他人の付け焼き刃。よく私の前でそのような口がきけたものだ」

女父「まさかそれも謝罪の一貫と言うのではあるまいな?」


161 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:34:10.15 ID:JDMl+INM0

男「……」

男「……では」

男「女さんの本心についてはどうでしょう」

女父「……」

男「父親のあなたは、彼女を生まれてから今日まで絶えず見守ってきたはずです」

男「おっしゃる通り、私などより遥かに彼女のことを分かっていますよね」

女父「………」

男「……女さんは、わがままを言ったことがありましたか?」

女父「っ」

男「拗ねて、あなたを困らせたことがありましたか?」

女父「……」



ーーーーー

女「──私は、装飾品ですか」

ーーーーー



女父(……っ)

男「誰しもあれをしたいこれがしたいという願望は持っているものです。女さんとて例外ではないでしょう」

男「──なぜ見て見ぬフリをしてしまうのですか」

男「抑圧され折れそうになっている彼女の心を、誰が救おうとしていたのですか」

男「そうして何もかもをお膳立てした道を一人で歩かせるのが、彼女が望んだことだったのでしょうか?」

女「──」

女父「……………」


162 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:35:22.92 ID:JDMl+INM0

女父「……黙って聞いておれば知ったようなことをつらつらと……」

女父「よいか男君、この子の幸せは、この家の幸せだ」

女父「女は我が家の大切な娘。その価値を高めるためにどれだけの心血を注いでこの子を育ててきたか、君に分かるか?」

女父「元々素直なところもあり、この子は本当に素晴らしい娘に成長してくれた。もうどこに出しても恥ずかしくない自慢の娘だ」

女父「……この子は青年殿と結婚し、この家に安寧をもたらす。青年殿もこれ以上なく出来た方だ。必ずこの子を幸せにしてくれるだろう」

男「お言葉ですが、彼女の意思はどこにございますか?」

女父「それが愚問なのだよ」

女父「女性とはかくあるべきなのだ」

女父「これは世の常。我々貴族の間では当然のこと。女性はな、一人では何も出来ないほどに弱い存在だ。だからこそ私達が幸せへの道を敷いてやらねばならぬ。世間に認められるよう、その値打ちを高めてやらねばならないのだ」

女父「君のような者には分からぬかもしれないがな」

男「……女性と男性、同じ人間であるのに、どうしてここまで差があるのでしょう」

女父「哲学か?…すまないが、私はもう君達の問答に付き合うつもりはない」

女父「謝罪はしかと聞き届けた。男君が私に向けた言葉の数々も、不問にする」

女父「……二度と私達の邪魔をせぬと誓ってから──」

男「──直接、訊いてみては如何でしょうか」

女父「む?」


163 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:36:57.88 ID:JDMl+INM0

男「女さんが今、本当に幸せと感じているか、問うてみればよいのです。あなたのおっしゃる通りなら、彼女は淀みなく肯定できるはず」

男「…違いますか?」

女父「………」

女父(………)

女父「……女」

女「………はい」

女父「お前は、幸せか?」

女(……っ)

男「……」

女(………)

女「……………はい、勿論です」ウツムキ

男(……)

女父「………」

女父「……そういうことだ」

女父「お引き取り願おう」

男「………」

男父「………」



スッ(二人立ち上がる)



サッ、サッ、サッ



ガチャ



男父「失礼致しました」



パタン


164 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:38:46.78 ID:JDMl+INM0

女「……男さん?」

女父「…おい、なぜ君は出ていかぬ」

男「……」

女(どうして私の前に立って……)

男「……私は女性ではありません」

男「ですから、自分の幸せは自分で決めても構わないのですよね」

女父「何を言っているんだ……?」

男「……」

男「……走れるかい?」ボソッ

女「え…?」



...クイ



女(腕、掴まれて…!?)

女(──あの朝と同じ)

女父「さすがに悪ふざけが過ぎるぞ!それ以上娘に手出しすればこちらとて──」ガタッ

男「──誓います!!」

女父「!?」





男「俺がこの人を幸せにする!例え全てを捨てることになろうとも!」





女(ぁ──)

女父「な……にを……?」

男「女、走って!」ダッ!

女「え、えっ!?」ダッ

女父「な…」

女父「待たぬか!」ダッ



タッタッタッ...



.........




165 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:40:25.48 ID:JDMl+INM0



タッタッタッ



女(不思議)

女(全く疲れる気がしない)

男「」タッタッタッ!

女(あなたに引かれてる腕が、こんなにも熱いから…?)



タッタッタッ



女父「止まれ!止まらんか!!」タッタッ

女「!」フリムキ

女父「こんなことをしてどうなるか分からぬか!?」

女父「女!お前の人生が壊れていくんだぞ!!」

女「……」

女(……ごめんなさいお父様)

女(それでも私はこの方と)

女「」タッタッタッ!

女父「!」

女父「…この分からず屋が!」


166 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:44:34.72 ID:JDMl+INM0





召使「旦那様、何の騒ぎで……お、お嬢様!?」





召使(こっちに走って来る!?)

女父「召使!その二人を止めろ!絶対に行かせるな!!」

召使「は……え…?」



男「」タッタッタッ!

女「……っ」タッタッタッ!



召使(…!)

召使(お嬢様………)



タッタッタッ!



──スッ(召使を通り過ぎる)



タッタッタッ...



女父「何をしておる!棒立ちなぞ案山子の方がまだましではないか!!」

召使「……」

召使(……無理だ)



召使(あんな瞳を見せられたら……)



.........




167 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:47:24.22 ID:JDMl+INM0



タッタッタッ



女父「く……」タッタッ

女父(追いつけぬ…)



男「」タッタッタッ!

女「」タッタッタッ!



女父(だがよい。この先には門がある)

女父(いくら走ったところで逃げ場などない)

女父「……」タッタッ

女父(……ん!?)

女父「バカな…」

女父「──なぜ門が開いている!?」




168 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:51:23.06 ID:JDMl+INM0

ーーー門の開閉室ーーー

女友「……おーおー、愛の逃避行しちゃってるわねぇ」

女友「まったく、感謝しなさいよー?」

女友「たまにここへ遊びに来てる私だから、こんな手助けが出来るんだってことに」

女友「……」



ーー数日前ーー

女友「はーぁ…」テクテク

女友(女、最近元の調子が戻ってきたみたいだけど)

女友(…どうも、笑みに生気がないように見えるのよね…)

女友(……気のせいかしら)

女友「……」テクテク

女友(私もまた、お父様の選んできた相手とお見合いだし)

女友「……世の中パッとしないわね」





「女友さん」





女友「ひゃいっ!?」バッ

女友「……男、さん?」

男「……」

女友「ごめんなさい!人がいると思ってなかったものですから、驚いてしまって……」

女友(あれ、男さん顔に傷がある…?)


169 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:53:07.34 ID:JDMl+INM0

女友「…えーと、どうしたのですか、男さん?」

男「あなたを捜していました」

女友「え…!」

女友(それって……!)

男「女さんの無二の友人と見込んで、是非とも協力して頂きたいことがあるのです」

女友「協力、ですか?」

男「えぇ」

男「実は──」



.........





女友「──なるほど」

女友「そうしたら私が女の家の門を開けて、外へ出られるようにしておけばいいってことですよね?」

男「はい。お願いできますか…?」

女友「確かにあのお屋敷の門をどこで操作しているのかは知っています」

女友「……お返事の前に、尋ねたいことがあります」

男「…いくらでも」


170 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:54:00.57 ID:JDMl+INM0

女友「男さん、そのようなことを行えば、あなたもあの子もただでは済みません。それは百も承知ですよね」

女友「それでも、あの子を幸せにするために何もかもを失う覚悟があるのですね?」

男「当然です」

女友「生涯、女を愛し続けると誓えますか」

男「はい」

女友「絶対に泣かせたりしないと言えますか?」

男「……それは難しいかもしれません」

男「何せ、彼女は泣き虫なものですから…」クスッ

女友「………」

女友「幸せ者ね、女は」フッ

女友「こんなに強く想ってくれる人がいるなんて」

女友「男さん」

女友「実は私、あなたのこととても好きだったんですよ」

男「……」

女友「お父様はあんなに反対していたけれど、いつかあなたの元を訪ねてこの想いを打ち明けてしまおうかと思うほどには、惚れていました」

男「女友さん…」

女友「でも決めました!」

女友「私、男さんのように生涯愛し合える方と出会うまで絶対結婚は致しません!」

女友「お相手は私の意志で決めさせてもらうのです。お父様の言いなりはもうごめんですから!」

男「…!」

女友「──そういうことで」

女友「いいですよ。私で良ければ全力で力を貸します」ニコッ

男「……ありがとう」


171 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:55:16.92 ID:JDMl+INM0

女友(……女)



ーーーーー

女「──そしたらちゃんといつもの私に戻るから……安心して、女友」

ーーーーー



女友(嘘を吐いた代償は大きいわよ)

女友(あなたの未来が変わっちゃうくらい、ね)

女友「……けれど男さん」

女友「その……青年さんのことは、どうするおつもりなんです?」

男「あぁ、それは」

男「……彼にも話はつけてあります」ホオサスリ

女友「……!」

女友(その頬の傷は……)

女友(そういうこと)フッ...

ーーーーー



女友「……いいなぁ」ボソッ

女友(恋、か)

女友(それに捕まれたら、私もあんな風に変わるのかな)



バタン!



女友「!」フリムキ

従者「はぁ、はぁ……勝手に門を開けた不届きものめ、観念し──」

従者「あなたは……女友様…?」

女友「あー……」

女友「どうも、お邪魔しておりますわ」テフリフリ




172 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:56:55.95 ID:JDMl+INM0

ーーー玄関先ーーー



男「」タッタッタッ!

女「」タッタッタッ!



女父「ぐぅ……はぁ……」タッタッ...

女父(無理だ……私の身では……)ゼーゼー

女父「……誰か!誰かおらぬか!」

女父「誰でもよい!娘を奪おうとするあの輩を捕まえてくれ!」





「行かせてあげましょうよ、女父さん」





女父「!!」

女父「せ、青年殿…!」

青年「……」テクテク

女父「青年殿…これは、違うのです…っ。あの二人はその……」

青年「はは、落ち着いてくださいよ」

青年「僕は彼らの門出を見に来ただけですから」


173 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 05:59:22.79 ID:JDMl+INM0

ーー数日前ーー

青年「は…?」

青年「…なぁおい、君にしてはよく出来た物語じゃないか」

男「……」

青年「ここ数週間で女さんと密会を重ね?彼女をずっと愛していくために駆け落ちして?その協力を婚約者である僕に頼み込んで?」

青年「何とも皮肉のきいた冗談だね」

男「…冗談で言ってるわけないだろう。これは俺なりのけじめなんだ」

男「青年、お前の愛した女性に、俺は恋をした」

男「頼む。彼女のこと、俺に任せてくれないか」

青年「……………」

青年「………ふっ」

青年「はっはっはっは!」

青年「そうかそうか!ようやく合点がいったよ!」

青年「あの日交流会で見た彼女の陰り」

青年「彼女は葛藤していたんだな……君という存在のせいで」


174 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 06:00:05.82 ID:JDMl+INM0

男「……」

青年「……」

男「………」

青年「………」

青年「……いいよ」

青年「分かりたくないけど、分かった」

青年「女さんは君と居る方が望ましいだろうからね」

男「青年…!」

青年「……その代わりなんだけど、さ……」

男「…?」

青年「──少し、歯食い縛れ」



ゴスッ!



男「がっ…」ドサッ

青年「」ハァ..ハァ..

青年「おい男!」

青年「お前の命に誓え!」

青年「絶対に彼女を幸せにすると!!」

男「…!」

青年「……」グッ...

男「…あぁ」

男「誓ってやるさ!」

ーーーーー


175 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 06:01:30.28 ID:JDMl+INM0

青年(その言葉、嘘にしたら地獄の果てまで追い詰めてやる)

女父「門出…?青年殿、あなたは一体何をおっしゃって……」

青年「女父さん、あなたも見ましたでしょう?」

青年「──男に手を引かれる、女さんの表情」

女父「!」

青年「どんな顔に見えましたか?」

青年「少なくとも僕には……」





青年「これまで見てきた中でも、最も輝いていたように思えました」





青年「幸せな表情というのは、きっとああいうのを指すのでしょうね」

女父「………」

女父「……女……」




176 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 06:03:29.28 ID:JDMl+INM0

ーーーーーーー



タッタッタッ



タッタッ...



男「」ハァ..ハァ..

女「」ゼェ..ゼェ..

男「ここまで……来れば……ひとまず大丈夫だろう……」ハァ..ハァ..

女「ここは……どこなのです……?」ゼェ..ゼェ..

男「いや、適当に走ってきただけだから、なんとも……」

女「えぇ…?」

女(………)

女「……男さん、あなたは大馬鹿者です」

女「何をなさっているのですか…!これでもう、あなたもあなたの家も無事では済まされなくなってしまったのですよ!」

男「はは、そうだな……父さんにはもっと謝っておけばよかったかもしれない」

男「けど、言ったろう?」

男「俺は全てを捨てることになっても、あなたを幸せにするって」

男「……同じことを、あなたも言ってくれた」

女「──!」


177 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 06:05:16.64 ID:JDMl+INM0

男「……それに、この一件、女友さんと青年にも手を貸してもらっているんだ」

女「え…二人が……?」

男「その時に散々言われてしまったよ」

男「女さんを幸せにするようにとね」

女「あ……」

男「当然、そんなこと念を押されるまでもないんだけど」

男「──愛する人を幸せにすることなんて、当たり前だ」

女「………」

女「……私は……」

女「私は…あなたを好きでいていいのですか…?」

女「あなたの傍にいていいのですか?」

男「勿論」

男「そのためにあなたを攫ったんだから」

女「……」

女「──っ」



ダキッ!



女「」ギュー!

男「…ちょっと力入り過ぎてないかな?」

女「」ギュー!

女「……好きです……」

女「愛してます…!」

女「もうずっとずっと、一緒ですからね…!」

男「…俺も好きだ。ずっと、一緒にいよう」

女「……」


178 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 06:06:27.60 ID:JDMl+INM0



ポロ..ポロ..



女「……」ポロポロ

男「……よく泣くお姫様だね」

女「うるさいです……」ポロポロ

女「これは初めての涙なんです…!」ポロポロ

男「?」

女「だって生まれて初めて……」

女「──嬉しくて泣いてるんですもの」

男「!」

女「……ねぇ男さん」





女「幸せになりましょうね」ニコッ




179 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 06:07:49.62 ID:JDMl+INM0

ーーー二年後 のどかな農村ーーー



ガチャ



男「ふぅ、ただいま帰ったよ」

女「おかえりなさい、あなた」

女「また青年さんと女友から手紙が来てますよ」

男「今回はやけに早いな」

男「すごい嬉しいんだが、青年がなぁ……毎度毎度愚痴のような一文を挟んでくるから少し身構えてしまうんだよな。この間は、女のことを思ってまた酒の席で泣く女父さんを宥めてた…とか書いてあったし」

女「ふふっ、いつまで経っても子離れが出来ないんですよね」

男「それだけ女がかわいいんだよ」

女「かわいい……//」

男「」クスッ

女「今笑いましたね…?」

男「気のせいだろう」

女「むー……好きな人に褒められて喜ぶのは可笑しいですかっ」

男「そんなこと思ってはいないって」

男(それに今のは褒めたのとは少し違ったような)

男「……お望みなら好きなだけ言ってあげるから、手紙読ませてくれないかな?」

女「………どうぞ」スッ


180 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 06:09:32.24 ID:JDMl+INM0



ガサガサ ペラ...



男「………」

男「……………」

男「………そうか、向こうは卒業式だったのか」

女「はい。青年さん、首席で卒業されたみたいですよ。すごい方です」

男「あいつ、いつも俺がいなければ頂点を取れるとか言ってたけど……本当だったんだな」

男「……ん、女友さん、やっといい人に巡り合えたそうだよ」

女「あの女友のお眼鏡に適う方……やっぱり気になります」

男「また俺に似た人なのかな。それとも、ここへ来る気だったりしてな」フフッ

女「……男さんは私のものです。誰にもあげません」

男「分かってるよ。俺もあなた以外のものになる気はさらさらない」

男「しかし、青年たちが卒業したとなると……ここに来てもう二年になるのか」

女「そんなに経つのですね」

男「ここの人たちが皆優しい人で良かったよ」

女「本当に。何も持たず現れた私たちのことを深く詮索せずに受け入れてくれて……感謝しかありません」


181 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 06:10:31.93 ID:JDMl+INM0

女「……あなた」

男「ん?」

女「実は今日の手紙、それだけじゃないのです。私からもあなたに……」スッ

男「ほぉ……これは、恋文というやつかな」スッ

女「恋文ではありません。私の気持ちはいつも言葉で伝えてるじゃないですか」

男「ならどんなことを書いて……!」ガサゴソ

男「……こ、れは……」

女「……そうです」

女「正真正銘、あなたのお母様が残したあなたへの手紙です」

女「この村へ来る前から男さんのお母様について調べていて……やっと見つけることが出来ました」

男「………」



ペラ...



男「………」

男「………」

男「母さん……」

女「お母様は、やはりずっとあなたのことを大切に想ってくれていたのですね」

男「うん……」

男「……母さん、俺……」

男「俺のしてきたことって、間違ってなかったかな…?」

女「……」

女「男さん男さん」チョイチョイ

男「…?」


182 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 06:11:17.07 ID:JDMl+INM0





女「──好きに生きればいいんですよ」





ー夢じゃない幸せ 終わりー
183 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/08/11(日) 06:16:23.68 ID:JDMl+INM0
以上で完結となります。

昔、大正時代などでは女性はその家の贈り物としてどれだけ賞賛されるかが価値であり、顔も知らない男と結婚させられることも珍しくなかったようです。
その時代の女性は何を自らの幸せと感じていたのでしょう。

ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
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