男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目

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90 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:16:42.36 ID:rxpms8Gr0



男「次は王国についても話しておきたいんだが」

女「そうね。この世界の統一……そのために各地で動いていて……」

女友「他にどのような動きがあるか知らないんですか?」



男(女友が近衛兵長に問う。近衛兵長には俺以外の質問にも嘘偽り無く答えるように命令してある)



近衛兵長「知らないな。私は一工作員でしかない。情報漏洩を避けるため、他の者の動きを教えられているわけないだろう」

女友「……なんでこの人こんなに偉そうなんですか?」

男「まあまあ、抑えろ。とりあえず分かることが一つ。こいつら、王国は宝玉に関心は無いということだ」



男(軟禁していたこの部屋に隣接する祈祷室の女神像に付けられていた宝玉)

男(もし近衛兵長が求めているならば、いくらでも取る機会はあったはずだ)



女友「宝玉の奪い合いこそ無いですが、各地に手の者を向かわせているとなると、今回みたいにまた対峙することがあるでしょうね」

男「帰還派、駐留派、復活派に続くとすると……支配派でいいか。第四の勢力だな」



男(前者三つはクラスメイトだけでなく魔族も含めて実のところこの世界の外から来た者たちである)

男(対して支配派はこの世界に元からいた者で、宝玉も求めていないと対照的だ)

91 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:17:20.13 ID:rxpms8Gr0



女「近衛兵長さん。王国が傭兵さんに昔やった表舞台から消し去ったって話が気になるんですが、詳しくは知らないんですか?」

近衛兵長「断片的な情報しか聞いていない。司祭ならもしかして詳細を知っていたかもしれないが闇の中だ」



男(女の質問に対する近衛兵長の答え)

男(同じ竜闘士として戦ったことのある身だ、気になったのだろう。俺も別れ際の言葉は印象に残っている)





傭兵『それに……個人的にこんな世界など滅ぶべきだと考えている』





男(あの言葉は、その出来事が原因なのだろうか?)

92 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:18:01.39 ID:rxpms8Gr0



女友「ところで話を聞く限りこの人の罪はかなり重いと思うんですが、罰の方はどうするんですか?」

姫「それについてはまだ考慮中ですが……」



男(女友が近衛兵長について姫に聞く。被害を受けた独裁都市の法に則って罰されるべきなのだろうが……)



男「なあ姫、こいつの処遇について俺に任せてもらうってことは可能か?」



姫「……近衛兵長がしてきたことはまだ表に出していません」

姫「全部包み隠さず明かせば、王国はそんなやつ知らない、言い掛かりだと因縁を付けてきて争いになるでしょうから、どうにも慎重に協議しないといけないので」



姫「正直未来について考えたいことが多すぎるので、過去を引きずっている場合じゃないと頭を悩ませています」

姫「そういうところもあって今なら私の一存で動けますし、男さんが対応してくれるならありがたいですが……一体どうするつもりなんですか?」



男「ちょっと考えがあってな」



姫「まあ男さんなら悪いようにはしないとは思いますが……」

姫「あ、そうです。では交換条件を呑んでくれたらってことでいいですか?」



男「俺に出来ることならいいぞ」

姫「大丈夫です。男さんは了承するだけですから」



男(交換条件、了承するだけ。姫が俺に求めることは何だろうかと……まあ姫のことだから悪いようにはしないだろうと――)

93 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:18:27.48 ID:rxpms8Gr0







姫「えっと男さんには死んでもらおうと思ってるんですけど、いいですか?」



男「……は?」







94 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:20:04.86 ID:rxpms8Gr0
主人公死亡からの打ち切り完結エンドォォォォ!!



……嘘です、普通に続きます。
あと二話くらいで五章が終わる予定です。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/12(金) 02:21:43.99 ID:G8hgyWsoo
乙ー
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/12(金) 04:15:35.93 ID:obhLEDLeO
乙!
97 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 21:57:34.36 ID:iXuWKk1I0
乙、ありがとうございます。

投下します。
98 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 21:59:10.05 ID:iXuWKk1I0



女「ううっ……男君……」

女友「女……悲しまないでください」



女「女友……でも無理だよ。私には受け止めきれない」

女友「そんなの私も一緒です。しかしそれで天国の男さんが喜ぶんですか?」



女「それは……」

女友「私たちは犠牲になった男さんの分まで前に進まないといけないんです」



女「うん、そうだね! 私、頑張るから! 男君どうか見守っていてね……」



女は天を仰ぐ。想いよ届けと願いながら。



99 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 21:59:44.70 ID:iXuWKk1I0



男「……俺はここにいるぞ」



男(茶番に耐えきれなくなった俺は女の隣から声をかけた)



女「待って、男君の声が聞こえる……!」

女友「本当ですか!」

女「うん。えっと……『すまんな、女。でも俺は一生おまえのことを愛してるから』だって!」

女友「もう……死んでからやっと素直になったんですか。本当あまのじゃくですね」



男(二人は幽霊になった俺から声が聞こえた、と茶番を続行する)

男(どうでもいいが死んだのに一生っておかしくないか?)

100 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:00:24.16 ID:iXuWKk1I0

男「はぁ……」

男(二人が何故このような茶番をしているかというと、俺が独裁都市内では死んだことになったのを茶化してだろう)



男(昨日の話し合いの最後に出された姫の『えっと男さんには死んでもらおうと思ってるんですけど、いいですか?』という提案)

男(あれは本当に殺すというわけではなく、死んだ扱いにさせて欲しいという提案だったようだ。それを了承したためこうなっている)



男(現在俺たちがいるのは結婚式の会場ともなった神殿前広場だ)

男(あのときは満員だったが、今日は人がまばらにしかいない)

男(とはいえ死んだことになっている俺の顔を見られてはマズいのでローブに付いたフードを深く被り、女、女友と合わせて三人で聴衆としてこの場にいる)





男(さて何故姫が俺を死んだ扱いにしたかったのかというと、ちょうど壇上で話をしているところだった)

101 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:00:56.47 ID:iXuWKk1I0



姫「一昨日の結婚式。余の伴侶となるはずだった男は襲撃者の手に掛かって……死んでしまった」



男(姫が壇上でワガママな姫様モードながら悲壮感たっぷりに話す)

男(俺が姫と結婚したことは独裁都市中の住民が知っていることだ)

男(実態は司祭と近衛兵長によって強制された結婚なのだが、民はそのことを知らないし姫は今後も明かすつもりもないようだ)



男(俺は宝玉を集めるために今日の午後にもこの都市を出て行くつもりである)

男(となると姫が、あれ旦那さんはどこ行ったの? と疑問に思われるのは当然だ)



男(そのため面倒が無いように俺は死んだということにするらしい)

男(幸いにも結婚式に来ていた観客は襲撃が起きた時点で逃げ出したので俺が最後どうなったかは知らない)

男(近衛兵には姫が直々に事情を説明したようだ)



男(というわけで無事死んだことになった俺だが、これには一石二鳥の効果もあって)

102 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:01:24.26 ID:iXuWKk1I0



姫「余のことを良く思わない輩の犯行に最初は激怒した。それならばさらに民から搾り取ってやるかと」

姫「じゃが、余の腕の中で息も絶え絶えとなった男が言ったんじゃ。『彼らを恨むな。悪いのは姫おまえだ』と」

姫「自分の命が危ないというときに生意気にも余に説教をして」



姫「……じゃが、そうじゃ。男の言ったことは間違っていない。全部悪いのは余じゃと」

姫「すまぬ……今さら謝っても遅いかもしれない。じゃがこれから余は民のための政治を行う」

姫「死んだ男も愛していた、この独裁都市を守っていくために」





男(姫が感情を込めて語るデタラメな話)

男(中々に演技が上手いと思ったが、そもそもワガママな姫自体が演技であることを考えると納得だ)



男(『組織』のやつらは『姫の政治に不満を持って襲撃』と装っていた)

男(それに乗っかり死んだことになった俺との約束で改心したということにする)

男(それで今後は独裁都市のための政治をしていくつもりのようだ)

男(女が助けにくる前に俺が提案した死からの蘇生で改心したことにする策の改良版ということだ)

103 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:02:11.14 ID:iXuWKk1I0

女「でも本当のこと言っちゃ駄目だったの?」

女「今までの行動は司祭さんと近衛兵長さんに強制されていたんです、私は悪くないんです、って」

女「近衛兵長さんが王国の工作員だったって明かすと面倒だからそこだけは伏せておくとして」



男(茶番に飽きたのか普通に話しかけてくる女)



男「独裁都市の民は高い税金や連発された愚策のせいで姫に恨みを持っている」

男「私は悪くなかったんですと言われて納得するやつも中にはいるかもしれないが、『知るかボケ』ってキレる方が多いだろ」



男「それにそもそも釈明して何の得になる。姫が精神的安寧を手に入れるだけでしかないだろ」

男「民には一銭の得にもならない、過ぎた二年間は戻らないんだよ」



女「それはそうかもしれないけど……でも姫さんが悪い印象のままなのはかわいそうだよ」

男「だとしてもあいつはそれを背負っていくって決めたんだ。外野がとやかく言う必要はねえ」



男(結婚式前夜、魅了スキルで聞き出した姫の覚悟は固かった。茨の道だとしても姫ならやれると信じている)

104 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:02:41.91 ID:iXuWKk1I0

女友「まあでもここまで敵意剥き出しだと辛いですね」

男(女友が聴衆を見渡してつぶやく)



男(今まで姫が演説するときはこの広場に詰めきれないほどの人が集まったらしい)

男(というのも集まらなければ処刑だと担当者を脅して必死に集めさせていたからだ)



男(今の姫は当然そんなことはしない。そのため聴衆はまばらだ)

男(集まったのも自主的に演説を聞きに来ようと思った人か、いざ心変わりしたといっても本当は変わっていなくて、行かなければ悪いことが起きるんじゃないかという猜疑心の強いものなどである)



男(そんな中改心したという姫に聴衆から罵声が飛ぶ)



市民1「独裁都市を良くしたいっていうなら、まずおまえが辞めろ!!」

市民2「おまえのせいで何人が死んだっていうんだ!!」

市民3「今までの責任を取れ!!」



男(一人が堰を切ってしまえば後に続くのはすぐだった。壇上の姫に向かって誹謗中傷が雨あられと降り注ぐ)

105 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:03:10.09 ID:iXuWKk1I0

女「酷い……みんなで寄ってたかって……」

男「そう思えるのは俺たちが裏側を知っているからだ」

男「俺たちだってパレードの前、何も知らないときは姫様を悪者扱いしていただろ」



女「それは……」

男「ここまで虐げられてきたんだ。正当な権利だとは言わないが、罵声の一つや二つを投げてしまうのは正直仕方ねえだろ」



男(女を諭しながら、俺は姫の反応をうかがっていた)

男(どんなに辛くても諦めないとは言った。だが、それが現実目の前に起きても貫けるか)





男(見守る中、姫が壇から横に出る)

男(それは聴衆に見えるようにするためだったのだろう――自分が土下座する姿を)



男(流石に土下座しているところに罵声を浴びせるほどの畜生はいなかったようだ)

男(静かになったところで、姫はそのまま口を開く)

106 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:03:40.13 ID:iXuWKk1I0



姫「本当に、本当に申し訳なかった」

姫「どれだけ言葉を尽くしても許せないじゃろう」

姫「責任を取って辞めろという声も当然分かる――」



男(と、そこで姫が身体を起こす)



姫「じゃが辞めるつもりはない。責任を取るつもりが無いわけではなく、逆にここで辞めては無責任だからじゃ」

姫「余のせいで傾いた独裁都市を、余の手で立て直してこそ責任を取ったと言えるじゃろう」



姫「もちろんそれを気にくわなく思う者もおるじゃろう。じゃから余がこの独裁都市のトップとしてふさわしいかは民に直接問う」

姫「定期的に投票を行い、民の半数が余のことをふさわしくないと出た時点で即刻余はこの座から降りる」

姫「余は気づいたんじゃ。この独裁都市を愛していることを。先代、余の母のように独裁都市を今度こそ導いてみせる」



姫「余がワガママ姫と呼ばれているのは知っておる」

姫「そしてこれが余の生涯最後のワガママじゃ、どうか聞き入れてもらえるとありがたい」



男(姫は正面を力強いまなざしで見ながらそこまで言い切ると再び頭を地面に付けた)

107 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:04:09.93 ID:iXuWKk1I0

男(姫の迫力に押されたのかしばらく聴衆は無言だった)

男(しかし時が経つに連れて、発言の意図を理解していくにつれ声が溢れ出す)



市民1「結局権力に縋り付きたいだけじゃねえのか?!」

市民2「投票はいい、だがその結果をどこまで信じられる! どうせ票の不正を行うんだろ!」

市民3「おまえに取れる責任はすぐに辞めることだけだ!!」



男(反発の声は少なくない。どれだけ言葉を飾っても執政者を続けようとするのは、姫の表したとおりワガママだ。許せない者がいて当然)

男(しかし)



市民A「そこまで言うなら……ねえ」

市民B「今の感じからして上っ面だけの言葉だとは思えないし……」

市民C「ちょっとは信じてもいいかも……ちょっとだけど」



男(姫を擁護する声もちらほらだがあるようだ)

108 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:04:39.93 ID:iXuWKk1I0

男「まあこれなら大丈夫だろ」

男(少しだとしても味方がいるなら十分だ)



男(実際姫には王としての資質がある)

男(時間が経つに連れ姫が本当に独裁都市のことを思っていることは民に伝わっていくだろう)



男「これで独裁都市の住民も困らなくなる。女も心配じゃなくなるよな?」

女「あ……男君覚えてたんだ。うん、本当に良かったよ」





男(正常に回り始めた独裁都市)

男(これなら後顧の憂い無く旅立つことが………………いや、一つだけ)





男「そうなるとここでお別れってことだよな」





男(俺の視線の先には聴衆の言葉に真摯に答える姫の姿があった)
109 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:05:12.77 ID:iXuWKk1I0
続く。

次が五章最終話です。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/14(日) 04:01:14.20 ID:GrD9YtmMo
乙ー
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/14(日) 09:55:34.43 ID:QTrO+HQw0
乙!
112 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:02:58.45 ID:FO9SZp+C0
乙、ありがとうございます。

5章最終話投下します。
113 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:04:26.32 ID:FO9SZp+C0

女(姫様の演説の後、時間を置いてから私たちは神殿最上階の執務室に向かっていた)

女(これから私たちはまた次の目的地に向かう)

女(その前に姫様がお礼とお別れの言葉を述べたいということで招かれていたのだ)

女(ただ)



女「そんなの無視して出発すればいいのに……」

男「何言ってんだよ、女。世話になったのに何も言わずに去るのは礼儀知らずだろ」



女(男君が至極真っ当なことを言う)

女(私だってそんなことは分かっている。男君が生き残ることが出来たのも、姫様と二人で協力したおかげだ)

女(そのことについては感謝している)



女(しかし、姫様は男君のことが好きだ。魅了スキルのせいだとしても、私のライバルであることには変わりない)

女(お別れの際に何かするのではないかと私は戦々恐々していた)



女友「はぁ……女も大人げないですね」

女「ど、どういう意味よ!?」

女友「そのままですよ。あまりおどおどせず、どっしりと構えてください」

女「……?」



女(馬鹿にされたと思ってつい声を荒げたけど、女友はどちらかというと呆れているようで首をひねる)

女(しばらくして執務室にたどり着き中に入った)

114 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:04:59.43 ID:FO9SZp+C0

男「よっ、姫邪魔するぞ」

姫「男さん!」

男「演説聞いたぞ」

姫「私も壇上から男さんの姿は見えていました!」



男「そうか。内容も中々良かったんじゃないか。もちろんこれからが大事だとは思うが」

姫「分かっています。この後も早速関係各所との話し合いがあって……」

姫「これでお別れなのにあまり時間が取れないのが残念です。もっとたくさんお話したいのに」



女(来客を感知した姫様がそそくさと立ち上がり男君の元に向かう)

女(んー、何か二人のムードが……)



男「二人で軟禁された一週間で十分満足するくらい話したと思うが。あのときは本当一日中暇を持て余していたし」

姫「それでもまだ足りないんです! ……ねえ、男さん。やっぱり考え直しませんか?」

男「その話こそ何回もしたじゃねえか」

姫「だとしても諦めきれないんです。男さん、これからも独裁都市に住んで、私と一緒に――」

115 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:07:20.91 ID:FO9SZp+C0



女「駄目ぇぇぇぇっ!!」

女(今にも抱きつこうとしていた姫様と男君の間に私は割って入った)



女「そんなの絶対駄目だから! 男君はこれからも私と一緒に旅をするの!」

姫「それを決めるのは男さんでしょう。何の権限があって男さんの行動を強制するんですか?」



女(良いところに邪魔が入った姫様はムッとした表情でこっちを見てくる)



男「コラコラ、二人とも争うなって」

男「すまんが姫、何度言われても俺の答えは変わらない」

男「俺は女たちと共に宝玉を集めるためこの都市を出て行く」



女「男君……!」

姫「っ……そうですか」



女(歓喜に染まる私と落胆する姫様)

116 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:09:00.28 ID:FO9SZp+C0

男「元の世界に戻るためだ、分かってくれ姫」

姫「……そんなの分かっています。でも、だとしたらこれが今生の別れということに……」



男「え、何言ってるんだ?」

姫「え?」



男「元の世界に戻る前にまた会いに来るに決まってるだろ。独裁都市がどうなるかも気になるしな」



姫「本当ですか!?」

女「ちょ、ちょっと男君!? 何言ってるの!?」



女(歓喜に染まる姫様と焦燥する私)



男「いや、宝玉を集めるのは駐留派と復活派がいることから急務だろ」

男「でもだからって集めた後に戻ることまで急がないといけないわけではない」

男「今まで回ってきた町を再訪するくらいのことはしたいって最初から思ってたし」



女友「そうですね。独裁都市だけでなく、最初の村や商業都市あたりもでしょうか」

女友「私たちを支援してくれた村長さんや古参商会長にもお礼を言いたいですし」

男「おお、そうだな。女友の言うとおりだ」



女「女友っ!?」

女(親友に背後から撃たれた格好だ)

117 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:09:53.93 ID:FO9SZp+C0



姫「分かりました! ではまた男さんが会いに来る日をお待ちしています!」

姫「もちろんそのときになって独裁都市に住みたい、私と一緒になりたいと心が変わったとしても、私は全然オーケーですからね!」



女「またそんなことを言って……うふふっ、知ってる? しつこい女は嫌われるのよ?」

姫「知ってますよぉ、嫉妬深い女が嫌われるってことくらい」



女(ぶちっ、と頭の中で何かがちぎれ飛ぶ音を幻聴した)



女「……ねえ、男君。ちょっとの間席を外していてくれない?」

姫「奇遇ですね、私も頼もうと思っていました」



女(醜い言い争いになることを予想した私は、それを見られないように男君に提案する。姫様も同じようだ)



男「お、おう……それくらいいいけど。あまり熱くなるなよ。女友はもしものときのブレーキ役頼む」

女友「頼まれました。その間男さんはどちらに?」

男「ちょうどいいから独房区画に行ってくる。出発前には戻ってくるつもりだから」

女友「なるほど、分かりました」



女(男君が執務室を出て行く)

女(バタン、とその扉の閉まる音が開戦のゴングだ)

118 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:11:05.93 ID:FO9SZp+C0



女「じゃあ言わせてもらうけど――」

姫「何でしょうか、本当は魅了スキルにかかっていない女さん」

女「な、何を言って……!?」



女(先制のジャブを放とうとした私は、カウンターのストレートにいきなり被弾した)



姫「あれ、違いましたか? てっきりその話をするために男さんを追い出したのかと思いましたが」

女「そんなわけないでしょ! だ、大体何を勘違いしているのか知らないけど、私は『状態異常耐性』スキルのおかげで魅了スキルが中途半端にかかっているだけで」



姫「それが嘘だとは女友の口から聞いてますよ」

女「ちょっと、女友!?」

女友「私は悪くありません。姫に悟られる女が悪いんです」



女(くわっと目を見開いて親友を睨むと、口笛を吹きながらそっぽを向いているところだった)

女(そういえば昨日から二人が名前で呼び合っていて気になったけど、二人が何らかの理由で親しくなっていてそのときに私の秘密の話をしたのかもしれない)

119 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:12:32.51 ID:FO9SZp+C0

女友「姫も女をあまりいじめないであげてください。その役目は私のものです」

女「あんたのものでも無いわよ!!」

姫「了解です。しかしここまで反応が面白いといじめたくなる気持ちも分かりますね」

女「分かるな!!」



女(私の頭上ごしに広げられる勝手な会話)

女(気づけば先ほどまでの緊迫ムードが霧散している)



女「で、でもどうして私が魅了スキルがかかってないって分かって……」

姫「見れば分かります。だって二人ともお似合いなんですもの」

女「お似合いって……」

姫「なのに私がちょっかいかけたくらいで取り乱して……本当大人げないです」



女(呆れたように首を振る姫様。展開に付いていけずポカンとなる私)

120 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:13:57.66 ID:FO9SZp+C0

女「どういうこと、女友?」

女友「女だって気づいているんでしょう。結婚式で助けて以来、男さんといい感じなことを」

女「それは……」



女(女友に言われるまでもなくだった)

女(男君との距離が近くなった感じはしていた)

女(ただ本当にそうなのか、私の自意識過剰かもしれないと表には出していなかったけど……)



姫「一緒に軟禁されている間も、男さんは女さんが助けに来るかずっと気にしている様子でした」

姫「それが本当に助けに来たものだから心を開いたというところでしょう」



女「……もう男君ったら」



女(この期に及んで男君は私に裏切られるかもしれないと不安に思っていたようだ。そんなことあるはずないのに)

121 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:14:52.64 ID:FO9SZp+C0





姫「お似合いの二人の強固な関係に、私は自ら身を引くことにしたんです」

姫「だからというわけではないですが、ちょっとくらいイジワルしてしまったのも流してください」





女(姫様が頭を下げる。そういうことなら私も正妻の余裕として流してやっても――)





女友「あれ? でもこの前姫も諦めないという話をしたばかりですよね?」

女「どういうこと?」





姫「――てへっ、バレましたか」

女(顔を上げた姫様は舌を出している)

122 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:16:04.49 ID:FO9SZp+C0



姫「男さんがまた会いに来るって話ですし、女さんを油断させておいてそのときに奪おうと思ったんですが……」

女「ふふっ、再訪するときには私と男君はラブラブな恋人になってるでしょうから」

女「姫様……いや姫さんの割り込む隙はありませんよ」



女(こんな人を食ったような少女に様をつけるのもバカバカしくなりさん付けで呼ぶ)



姫「それはどうでしょうか。未だに魅了スキルにかかっていると男さんに嘘を付いているような女さんに成し遂げられるとは思いませんね」

女「ぐっ……それは……」



姫「武士の情けで男さんには告げ口しないであげますが、また会うときに男さんがフリーなら本気で落としにかかりますからね」

女「……分かったわ」



女(姫さんの言葉は本気なのか、中々一歩踏み出せない私への発破なのか……判断は付かないけど、私の心に火が付いたのは確かだ)

123 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:16:36.62 ID:FO9SZp+C0



女友「さて。それはそれとして、戻ってくるまで男さんの話でもしませんか」

女友「軟禁中男さんがどんな様子だったか気になりますし、姫も男さんの話が聞きたいでしょう?」



女(女友が柏手を打ってから提案する)



女「それは気になるけど……」

姫「私もですね。一通りは本人から聞いたんですけど、自分の恥ずかしいところは絶妙に隠している様子でしたし」

女友「話が付きましたね。ちょっとミニキッチン借ります、お茶を入れたいので」



女(それからは女友の入れてくれたお茶を片手に、同じ人を好きになった者同士話が弾み)

女(先ほどまで言い争っていたとは思えないほどに穏やかな時間が過ぎていった)



124 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:18:32.72 ID:FO9SZp+C0



近衛兵「はっ、男殿。何か御用でしょうか!」

男「そんな敬礼までしなくても。この先の独房に用があるんですが」

近衛兵「承知しました。鍵を開けます!」



男(敬礼する近衛兵に若干引きながら俺は用件を伝える)

男(市民には死んだと伝えられたが、近衛兵は俺が生きていることを知っている)

男(姫がどのように伝えたのかは分からないが、俺の扱いは独裁都市トップの姫同様なほどであった)

男(ここに来るまでにあった近衛兵にも敬礼されたし)



近衛兵「全員房の中にいるので危険はないと思いますが近づきすぎないようにしてください!」

男「分かっています。それと近衛兵長については……」

近衛兵「兵長もまた男殿と同様に死んだ扱いになっているため、夜になって人目が少なくなってから動くつもりですが」

男「それなら大丈夫です。俺たちはこの後出発するつもりなので全ておまかせします」

近衛兵「はっ、承知しました!!」



男(一々リアクションの大きい近衛兵を置いて俺は独房が並ぶ通路を歩く)

125 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:19:14.25 ID:FO9SZp+C0

男(神殿内にあるこの独房は政治的に明るみに出せない者など特別な者を収容するために市民にも極秘に存在するそうだ)

男(結婚式のときに捕まえた『組織』の一般構成員は都市内にある普通の刑務所に入れられているが)

男(団結されないように離す意味でまとめ役であったクラスメイトたちや近衛兵長はこの独房に入れられているという。



男「つっても捕まったクラスメイトは二人だけだったんだよな……」



男(俺たちに対峙した太ったクラスメイトとめがねをかけたクラスメイトだけで)

男(女友が対峙したらしいギャルともう一人には逃げられたそうだ)



男(ということは宝玉を奪い争う相手である以上、また会う可能性はあるだろうが……)



男「そういえばギャルについては、女友が気になることを言っていたな……」



男(イケメンに騙されて利用されているだけかと思いきや、そのことを分かっている様子だったと)

男(そうでもしないとイケメンに見てもらえないからと言ったそうだが)



男「だとしたら…………まあ、今は関係ないか」

126 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:19:54.01 ID:FO9SZp+C0

男(近衛兵長は独房の最奥に収容されているようだ。かなり歩かされる)

男(一人で話す相手もいないためつれづれと思考が流れる)



男(そういえば次の目的地に行くとは言ったが、まだどこに行くかは聞いていないな。後で女友に聞いておかないと)

男(まあどんな場所だろうと大丈夫だ)

男(竜闘士の女と魅了スキルを持つ俺、幅広くサポート出来る女友の三人が入ればそう簡単に遅れを取るとは思えない)



男「………………」



男(女……女には今回の出来事を経て俺の中で大きく心象が変化したことを自覚している)

男(これまでだって信用はしていた。だが今は信頼できている。女にだったらためらわずに背中を預けられる)



男(そうだ、今回はわざわざ俺のために助けに来るなんてこともしたのだ)

男(しかも魅了スキルの命令をものともとしなかったことから、女自身が助けに来ようと思ったというわけだ)

男(そんな相手に騙されるなんて想像する方が馬鹿げている)



男(ただ一つ残念だとしたらその好意が魅了スキルによるものだということだ)

男(もし本当に女に好かれていたとしたら…………俺は……)

127 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:21:57.62 ID:FO9SZp+C0



近衛兵長「ニヤニヤしながら歩いてどうした?」

男「っ……!」



男(冷やかすような声をかけられる)

男(いつの間にか目的地に着いていたようだ)



男「おまえには関係ないだろ、近衛兵長」

近衛兵長「察するに恋愛ごとではないのか? だとしたら関係あるだろう。私はおまえの虜なのだからな」

男「……命令だ、これ以上下らないことを話すな」

近衛兵長「やれやれすぐ命令か。まあいい、ならば本題に入ってもらおうか」



男(近衛兵長は房の中から俺を揶揄するように笑っていた)

128 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:22:25.48 ID:FO9SZp+C0



男「ここに来たのは最終確認だ。これからおまえにしてもらうことのな」

男(近衛兵長に急かされるまでもなく、こいつと無駄話をするつもりはない。俺は早速本題に入る)



男(こいつを使って何をするつもりなのか、それには一つ警戒しているものが元になっている)

男(今回争うことになった王国。この世界の支配をもたらす彼の国とは、今後も関わることがあるかもしれない)

男(なのに無警戒でいるわけにはいかない。やれることはやっておく)

男(どのように動いているのか、その手の内を探るために――)





男「近衛兵長、おまえを逆スパイとして王国に潜入させる。王国の黒い部分には詳しいだろうしな」

近衛兵長「最初はこのまま処刑されるかと思っていたが……本当こうなるとはな」





男(俺は近衛兵長を見下ろす)

129 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:24:44.09 ID:FO9SZp+C0



男「もちろん拒否権は無い。おまえには徹底的に王国を裏切ってもらう」

男「そのためにありとあらゆる命令を既に施してある」



男(工作員としておそらく敵に囚われた場合の想定はあるのだろう)

男(何らかの符丁で自分の状況を知らせたり、助けを呼んだりなど)

男(その全てを魅了スキルの命令で封じる。姫から近衛兵長の扱いを預かって以来、時間を見ては命令をしておいてある)



近衛兵長「やれやれ手厳しい。王国に忠誠を誓った私が裏切り者になるとは」

近衛兵長「だが王国の方は裏切り者を始末することを躊躇しないぞ、私が魅了スキルで操られていることなどお構いなしだろう」



男「だろうな、だからおまえには最大限努力して王国を探るように命令する」

男「手を抜いてわざと捕まり王国のために命を殉じることも許させない」



男「それでも相手の方が上手で捕まってしまった場合は――そのまま死ね」




男(こいつは独裁都市を混乱させただけでなく、何人も殺した極悪人だ。その命令をすることに躊躇いは一切無い)

130 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:25:16.49 ID:FO9SZp+C0



近衛兵長「承知した、新しき主よ」



男(殊勝に従っているように見えて、こいつの心は未だに王国を崇拝しているだろう)

男(命令は解釈の余地が無いくらいに雁字搦めにしておかないと寝首をかかれるかもしれない)

男(その確認にやってきたのだ)



男(これまでにかけておいた命令を近衛兵長の口から復唱させる)

男(基本的には王国のことを調べさせて、俺たちに定期的に連絡するようにという命令だ)

男(だがあらゆる状況に対応できるように命令は多岐に渡っている)

男(考え得る限り大丈夫だと判断した俺は確認を終了した)



男「じゃあ今日の夜から行動開始だ。近衛兵の手引きに従って王国を目指せ」

男「有用な情報を少しでも掴めるようせいぜい頑張るんだな」



近衛兵長「人使いが荒いな。これなら前の職場の方がホワイトなくらいだ」

男「恨むなら魅了スキルにかかった自分を恨め」

131 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:26:33.32 ID:FO9SZp+C0



近衛兵長「……本当にそうだな。実際食らっても私が虜になるとは思っていなかった」

近衛兵長「もう少し本気で対策しておくべきだったか」



男「……?」



男(食らっても虜になるとは思わなかった……とはどういうことだろうか?)

男(いや、そういえば俺と姫が軟禁されているときに、やつはやけに強気にかからないと言っていた)



近衛兵長『それに……どうせまともに食らっても、私が貴様の虜になるとは思えん』



男(やつには何らかの虜にならないと思う理由があったとしたら……)



男「それはどういう意味だ? 魅了スキルの効果対象のことか?」

男「自分が『魅力的な異性』に当てはまらないと思っていたとか」



近衛兵長「何を言う。私ほど魅力的な女はいないだろう。柄ではないがハニートラップをこなしたこともあるぞ」

男「そんなこと知らねえよ。だったらどうして虜にならないと思ったんだ?」



男(近衛兵長の自信の源が気になり聞き出そうとして――)

132 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:27:15.05 ID:FO9SZp+C0





近衛兵長「『状態異常耐性』スキルだ」

近衛兵長「聖騎士に備わっているスキルで……そういえば貴様の仲間の竜闘士も持っていたんだったか」



近衛兵長「このスキルのおかげで私は並大抵の状態異常にはかからない」



近衛兵長「だから虜状態にもならないと思っていたが……」

近衛兵長「いや、そもそも固有スキル相手に普通のスキルで敵うと思ったのが間違いだったか」





男「………………は?」

男(俺の思考は完全に停止した)





133 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:28:22.88 ID:FO9SZp+C0



男「………………」



男(『状態異常耐性』スキル)

男(そのスキルは竜闘士の女に俺の魅了スキルが中途半端にかかっている理由のはずだ)

男(それなのに同じスキルを持っている近衛兵長には完全に魅了スキルがかかっている)



男「おまえっ!! それは本当なのか!?」

近衛兵長「……? 本当だが……何故動揺している?」



男(激しく狼狽えている俺に、近衛兵長の方が困惑しているようだ)

134 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:29:27.19 ID:FO9SZp+C0



男「………………」

男(落ち着いて考えろ)



男(女と俺の事情を知った近衛兵長が騙している……この可能性はない)

男(近衛兵長が俺たちの事情を知っているなら手紙のからくりに気付いただろうし)

男(女や女友が近衛兵長にわざわざその話をするとも思えない)



男(そもそも魅了スキルがかかっている近衛兵長が俺に逆らうことが出来ない)

男(近衛兵長自身も特に意図することがあってスキルのことを話したのではないようだ)





男(だとしたら――信じたくない、考えたくもない)

男(だが残された可能性は……)

135 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:30:22.46 ID:FO9SZp+C0








男「女が俺に嘘を吐いている……のか?」







男(女なら信じられると……共に進んでいくその先には輝かしいイメージがあったのに)

男(今や暗雲がかかっていた)

136 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:31:29.66 ID:FO9SZp+C0

5章『独裁都市・少女姫』完結です。
開始からちょうど三か月かかって、約17万文字とこれまで以上に長い話となりました。

今回の話は『まさかヤンデレなのか!?』と『結婚式に乱入する主人公(ヒロイン)』をやりたくて構成しました。
姫様とはここで一旦お別れですが、その内また出番がある予定です。



6章は3歩進んだのに4歩戻りそうな男と女の関係にクローズアップして描く予定です。
8月を目標に戻ってくるつもりです。



乙や感想などもらえると作者がむせび泣いて喜ぶのでどうかよろしくお願いします。
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 17:55:16.87 ID:Ju8Z49gj0
乙!
この章も楽しませてもらいました!
次の章も楽しみに待ってます!!
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/15(月) 18:38:28.62 ID:QwdUaM9PO
乙ー
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 19:29:27.03 ID:lWQS7Jq00
乙ー
ネガティブな男さんが帰ってきたな!
次の章に期待
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/22(月) 20:37:19.63 ID:haO8NIQz0

ついに、魅了スキルにかかっていないことがバレてしまうのか!
141 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:53:40.00 ID:hzAdYJe00
乙、ありがとうございます。
8月になったので6章開始します。

>>137 期待に応えられるよう頑張ります。

>>139 ここ最近ポジティブでしたからね。

>>140 どうなるか!

章の開始でしばらくはスローペースで進むことを先に謝っておきます。
というわけで投下します。
142 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:54:40.17 ID:hzAdYJe00



 犯罪結社『組織』本部、幹部に与えられた一室にその二人はいた。

 魅了スキルを追い求めるイケメンとその彼女であるギャルだ。

 この異世界に留まり好き勝手する事を目的とする駐留派の中核メンバーである。



ギャル「この前の任務どうだったの、イケメン」

イケメン「……ああ、散々だったよ」



 ギャルが恭しく聞くと、イケメンはソファに寝転がったまま「はぁ」と溜め息を吐いた。



ギャル「苦労したってのは聞いてるけど」

イケメン「僕たちは今、魅了スキルによって掌握した仲間を持つ男たち帰還派と宝玉を奪い合っているというのは知っているだろう?」

ギャル「うん、それくらいは」

イケメン「ただ敵はそれだけじゃない。魔神復活のために動く魔族と伝説の傭兵のコンビ、復活派。彼らとかちあったのさ」

ギャル「っ……!」

143 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:55:23.39 ID:hzAdYJe00



イケメン「全く、竜闘士を圧倒するために悪魔を呼び出そうと宝玉を集めているのに」

イケメン「その過程で竜闘士と争っていたんじゃ意味が分からないね」



ギャル「そ、それでどうなったの!?」

イケメン「もちろん敵うわけないだろう。目的としていた宝玉は復活派に奪われた。骨折り損のくたびれ儲けさ」



ギャル「復活派は……報告によると今まで宝玉を二つ集めていた。ってことはこれで三つ目よね」

イケメン「ああ、対して駐留派は僕もギャルも奪取に失敗したけど、もう一つ別働隊が手に入れたおかげで、どうにか四つ目だ」

ギャル「そして帰還派が持っている宝玉は五個……必要量が一番少ないのもあってこのままだとマズいよね」

144 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:55:57.36 ID:hzAdYJe00

 二人が話している通り、現在それぞれの勢力が持つ宝玉の数は、帰還派が五個、駐留派が四個、復活派が三個だ。



 そして宝玉は数が集まるほどにその力を増す。



 二つならランダムな世界に通じるゲートが、

 四つである程度指定してゲートを、

 六つで完全に指定できるが強度の低いゲートが開けて、

 八つでその強度が上がり、

 十で高位存在も召喚することが出来て、

 十二で神さえも呼ぶことが出来る。



145 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:56:47.16 ID:hzAdYJe00



イケメン「帰還派の必要数は僕らクラスメイトを全員帰還させることだから8個」

イケメン「対して悪魔を呼び出したい僕たちが10」

イケメン「魔神を呼び出したい復活派は12のはず」



ギャル「そうなるとそれぞれ集めないといけない残りは3個、6個、9個……」

ギャル「復活派が一番遠いけど、だからってギャルたちが近いわけでも無いか」

イケメン「『組織』の力も借りて各地でどうにか集めているけど……目標達成は遠そうだな」



 イケメンは思考する。

 このまま順当に行けば、帰還派が一番最初に宝玉を必要数まで集めて、元の世界に戻る準備を整えるだろう。

 そうなれば魅了スキルによって、自身がこれまであった女の中で一番だと確信する女を支配する機会は永遠に失われる。

 だったらどうすればいいか。

 逆転するための一手は――。

146 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:57:19.48 ID:hzAdYJe00



イケメン「これしかないか」

ギャル「イケメン……?」



イケメン「そうと決まれば行動だな。ギャル、僕は行くよ」

ギャル「行くって……ど、どこになの!?」



イケメン「偵察隊によると、どうやら今度はやつらがかち合うようだからね。ちょっとそこに行ってくるよ」



イケメン「そう――――」



147 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:57:50.11 ID:hzAdYJe00



魔族「――以上が今回の段取りだ」

傭兵「承知した」



 某所にて。

 魔族の語った今回の計画について、伝説の傭兵は頷く。



魔族「変更があればその都度連絡する。何も無い間は自分の判断で動け」

傭兵「分かっている……ただ今回は予測不可能なところが多そうだな」

魔族「ああ……やつらも来るんだったな」



 魔族が思い浮かべるのは、あの忌々しい女神の力、魅了スキルを引き継いだガキの顔。

 女神教の力も削ぎ、ようやく魔神様復活のために動き出した自分たちを妨害する女神の悪足掻き。

 だが宝玉の多くをやつら召喚者に抑えられている現状を考えるとその策は成功している。



148 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:58:19.84 ID:hzAdYJe00



傭兵「この前はあの少年少女とは袂を分かったらしい『影使い』の少年と争ったが……」

傭兵「彼は見事に力に溺れていたな。昔を思い出した」



魔族「昔というと……私と出会う前のことか」

傭兵「ああ。力さえあればどうにでもなると、何をしてもいいと……腹正しい」

魔族「私としてはそちらの方が御しやすいがな」



傭兵「……まあいい。私情を挟むつもりはない。好きに命令しろ」

魔族「それはありがたい」



149 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:58:54.02 ID:hzAdYJe00



 魔族には余裕があった。

 固有スキル『変身』、絶対にバレない隠蔽スキルを使って各所に潜入できる彼女は様々な情報を持っており、当然それぞれの勢力が持つ宝玉の数も把握していた。



 復活派と呼ばれる自分たちが集めた宝玉の数で出遅れていることは分かっている。

 それでも他の二勢力が誤解していることから、最後に勝つのは自分たちだと信じていた。



傭兵「さて、ここからは別行動だな。武運を祈るぞ」

魔族「ああ、任せろ」



 そして二人が進む、その地は――。



150 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:59:31.85 ID:hzAdYJe00





女「いやー、長旅だったね!」

女友「ほら、男さん、着きましたよ」

男「……そうか」





 女と女友の後を付いてくように男も馬車を降りる。

 三人が次に求める宝玉があるその地にたどり着いたのだ。



151 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 19:59:58.50 ID:hzAdYJe00





女友「学術都市……ここに次の宝玉があるんですね」





152 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/01(木) 20:00:52.44 ID:hzAdYJe00
続く。

6章『学術都市』編もよろしくお願いします。

153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/08/01(木) 23:46:59.46 ID:dLAEpBxvo
乙ー
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/02(金) 00:32:37.46 ID:E2LtBDlCO
乙!
新章待ってました!!
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/03(土) 00:32:32.98 ID:Az/0t9/p0
乙一
156 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:40:33.44 ID:PrwhD2pU0
乙、ありがとうございます。

投下します。
157 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:41:12.89 ID:PrwhD2pU0

女友(私たちが今回訪れたのは学術都市なる場所です)



女友(この世界における魔法学の権威とも言える大学がここには存在します)

女友(附属として初等部から、中等部、高等部もこの都市にあり、一貫した教育がそのレベルの高さを生むようです)

女友(町造りも学園を中心として成り立っています)



女友(私たちは古参商会の紹介で、その内の一つの研究室を訪れていました)



室長「これがこの町にあった宝玉だ」

室長「女神教の教会を取り壊す際に、作業員が回収したものがこの研究室にまで回ってきたもので」

女友「拝見します」



女友(室長が差し出した青い宝石を私は手に取って見つめます)

女友(中に魔法陣が刻まれた、私たちにとって馴染みが深い宝玉そのものです)

158 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:41:41.73 ID:PrwhD2pU0



室長「それで君たちも宝玉を持っているって話を聞いたんだけど……」

女友「はい、女出してもらえますか?」

女「あ、うん。ちょっと待ってね」



女友(代表して管理している女がこれまでに手に入れた宝玉五個を取り出して室長に渡します)



室長「おおっ、宝玉が五個も!? 最初は三個だと話は窺っていたのですが……」

女友「それから新たに二つ手に入れた分ですね」

室長「なるほど、そういうことですか」



女友(古参商会は随分前からアポを取っていたようで、私たちが独裁都市で手に入れた分と仲間のパーティーが手に入れた分の二つは勘定に入ってなかったようです)

女友(仲間が手に入れた分はここにたどり着く前に、古参商会を伝って私たちに届けられたため、帰還派がこれまでに手に入れた宝玉は全てがここにあります)

159 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:42:15.77 ID:PrwhD2pU0



室長「宝玉を一箇所に集めると…………やっぱり!! 中の魔法陣の輝きが増して……!」

室長「この仕組みを解明すれば新たな魔法理論の構築も可能に…………」

室長「うおおおっ! テンション上がって来たぁぁぁっ!!」



女友(室長が吠えるように叫びます)



女友「申し訳ありません、話をしてもいいですか?」

女友(このままでは進まないので私は水を差します)



室長「……あ、すいません。研究者として未知を既知に出来る機会につい……」

女友「お気になさらず」



女友「では確認です。私たちの持つ宝玉五つを研究のため貸し出します」

女友「そして研究が終われば、元からあなたたちが持っていた一つも含めて六つを返してもらうと……」

女友「この条件で構わないでしょうか?」



室長「ああ、もちろんさ!」



女友(室長が勢いよく頷いて、これでこの町の宝玉を手に入れる算段が付きました)

女友(宝玉を貸し出して待つだけ。これまで苦労してきたことを考えると何とも簡単なものです)

160 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:42:55.78 ID:PrwhD2pU0

室長「ただ、ちょっと研究に時間がかかりそうだけど……」

女友「どれくらいでしょうか?」

室長「そうだねえ…………かっ飛ばして不眠不休で研究して…………二週間くらいは見積もってもらえると」



女友「分かりました。では一ヶ月待ちます」

室長「え……? いいのかい?」



女友「大丈夫です」

室長「……恩に着るよ!! おおっ、君は女神だ!!」



女友(室長に過剰に感謝されます)



女友(もちろん本音としては急かしたいところです)

女友(誰かが奪いに来る可能性を警戒するために、私たちは宝玉を預けている間もこの地に留まる予定です)

女友(その間に駐留派と復活派が各地で宝玉集めを進めていくでしょう)

女友(それを考えると足踏みしている余裕はありません)



女友(しかし、急いては事を仕損じるです)

女友(ここまでハイペースで宝玉を集めてきた私たちには、一旦休憩が必要だと独自に判断しました)

女友(というのも)

161 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:43:28.99 ID:PrwhD2pU0



女友「二人もそれでいいですね?」



女友(同行者の二人、女と男さんに確認を取ると)



女「私は構わないよ。ね、男君」

男「…………」



女「男君、聞いてる?」

男「え、あ、すまん……何の話だ?」



女「だから宝玉の研究に一ヶ月かかるって話。その間私たちもこの地を離れられないけどいいかな、って女友が」

男「…………うん、まあいいんじゃないか」

女「そう……」



男「…………」

女「…………」



162 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:44:00.73 ID:PrwhD2pU0



女友(ぎくしゃくしたやり取りをする二人)



女友(少し前……正確には独裁都市を出発した日、それも私と女と姫姫が談笑しているところに独房から帰ってきたときから、男さんの様子がおかしくなっていました)



女友(軟禁状態のピンチから女が救ったことで、二人の仲も急接近したと傍目には見えていたのですが……一体何があったのか)



女友(親友、女は既に問いつめて特に何もしていないと言質は取ったので、問題はおそらく男さんにあると踏んではいますが……)



女友(ちょうどいいのでこの一ヶ月の間にどうにか解決したいところです)



163 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:44:28.77 ID:PrwhD2pU0



室長「しかし一ヶ月の間ただ待たせるのも悪いよな……あ、そうだ!」



女友(そのとき室長が何か思いついたようにポンと手を打ちます)



女友「どうしましたか?」



室長「君たち、魔法額に興味は無いかい!?」

室長「もし良ければだけど、学園に一ヶ月の間体験入学出来るように取り計らってみるよ!!」



164 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/03(土) 22:45:43.02 ID:PrwhD2pU0
×魔法額 → 〇魔法学
ミス申し訳ありませぬ。

続きます。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/03(土) 23:47:49.12 ID:aEURjwQZ0
乙!
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/03(土) 23:53:34.30 ID:I8Gh1H480
乙ー
敵にさらわれて救出されたと思ったら新事実発覚で拗らせてたものぶり返しちゃうとは
ホント男さんのヒロインっぷりは半端ねーぜ
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/08/04(日) 11:34:56.38 ID:SuK1KcE8o
乙ー
168 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:05:44.22 ID:jCtuVPPF0
乙、ありがとうございます。

>>166 ヒロイン力限界突破!!

投下します。
169 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:06:11.00 ID:jCtuVPPF0

先生「昨日は魔法の基本を学びましたね。覚えているかなー?」

生徒「はーい、先生! 空気中の魔素を取り入れて自分の身体の内で魔力に変換することです!」

先生「そう、その通りよ! じゃあ今日はその先をやっていきましょうね!」

生徒「はーい!」



男(学術都市、初等部の教室。)

男(先生の呼びかけに応える元気な子供という光景は世界が変わっても存在するのかと)



男「…………」

男(同じく初等部の生徒として体験入学した俺は現実逃避するように考えていた)



男(周りに5、6歳の子供しかいない中に混じるのはやっぱりキツいとはいえ)

男(魅了スキルしか持たない俺が魔法の教育を受けるとなると、レベルとしては初等部と一緒になるので仕方ないことであった)

170 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:06:45.09 ID:jCtuVPPF0

男(俺たちが学術都市にたどり着いたのは先日のこと)

男(俺たちが持つ宝玉を貸し出す代わりに、持っていた宝玉を譲ってもらう)

男(交渉が成立した後、研究室長の体験入学をしないかという提案に俺たちはせっかくだしということで乗ることにした)



男(この学園には初等部から大学まである)

男(体験入学するにしてもどこに入った方がいいのかを計るために、俺たちは事務局でステータスを開示した)



事務員「魔導士ですか! これは……凄まじいですね!」

女友「ありがとうございます」



男(事務員は女友のステータスを見て興奮していた)

男(どうやら女友ほどの魔法の使い手はこの学術都市にもいないらしい)

男(女友は大学で専門的な教育を一通り受けた後、宝玉の研究について手伝うことに決まった)

男(『これで一ヶ月より早く研究が終わるかもしれないですね』と女友が言っていた)

171 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:07:16.28 ID:jCtuVPPF0

事務員「そちらの少女は竜闘士ですか……自前のスキルもあるでしょうし、魔法が使えても仕方ないとは思いますけど……」

女「そうですね……あ、でも敵が使ってくる魔法の種類とかよく分かってないし、そういうのを学べたらいいんですか」

事務員「となると実戦魔法コースですね」



男(女もとんとん拍子に決まって)



事務員「そちらの少年は魔法に関して…………えっと初等部で基本から教わるというのがオススメになってしまいますが……」

男「可能ならばそれでお願いします」



男(随分と言葉を選んだ事務員に、俺は一も二もなく頭を下げた)

男(元の世界では高校生だった俺が小学生扱いされてるわけだが、実際魔法についてはずぶの素人だ。当然の扱いだろう)



女友「初等部とは……大丈夫ですか、男さん? 周りが小学生くらいの子供ばかりってことなんですよ?」

男「逆に初等部に俺なんかを混ぜてもらえる方がありがたいことだ」



男(と、心配する女友に対して強がって見せたことを早くも後悔することになるとは思ってもいなかった)

172 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:07:46.17 ID:jCtuVPPF0

男(先生による魔力から魔法に変換する説明も終わり実践練習の時間となった)

男(異世界人である俺でもちゃんと練習すれば魔法が使えるようになるらしい)

男(その言葉に心躍っていた俺だが……実際には魔法発動の第一プロセス、空気中の魔素を取り入れるというところから俺は躓いていた)

男(だいたい魔素って何だよ、本当にそんなもの存在するのか?)



生徒「出来た!」

先生「あら、すごいわねー!」



男(しかし子供たちの中から成功させる者が出てきて、俺の言い訳もつぶされた)

男(大人しく試行を繰り返す)



男「…………」

男(正直に言って、俺が魔法を使えるようになったところで何かが変わるとも思っていない)

男(今練習している初級魔法『火球』はその名前の通り小さな火の玉を一つ飛ばして相手にぶつける魔法だ)

男(しかし衝撃波を飛ばしたり氷塊の雨を降らせる仲間たちがいるのにそんなことが出来て何になるというのか)



男(分かっているのに俺がこんなところにいる理由……それは悩み事から気を紛らわせるためという側面が大きいだろう)

173 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:08:25.76 ID:jCtuVPPF0

男(独裁都市での一連の出来事により、女への心証が変わってきた矢先の出来事)

男(王国のスパイ、聖騎士の近衛兵長が、状態異常耐性スキルを持っていると明かしたのだ)

男(それによって虜状態になることを防げると思っていたが、実際には魅了スキルの支配下において王国に対して逆スパイとして潜入させている)



男(そうなると同じく状態異常耐性スキルのおかげで魅了スキルが中途半端にかかっているという女の発言がおかしくなる)



男(……おそらく女が嘘を吐いて、俺を騙しているに違いない)

男(その発想に至った瞬間、俺の精神がズンと沈むのを感じられた)

男(思っていた以上にダメージは大きかった)



男(すぐにでも女を問い詰めようと思ったが、すんでのところで思い留まる)

男(というのも気付いたからだ。どう考えても辻褄が合わないことに)

174 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:08:51.91 ID:jCtuVPPF0

男(状況を整理しよう)

男(まず近衛兵長の発言により、女に中途半端に魅了スキルがかかっていることが否定される)



男(となると女の本当の状態として考えられる可能性は二つ)

男(魅了スキルが完璧にかかっているか、完璧にかかっていないかだ)



男(どちらであるかを考えて、俺はすぐに後者だと判断した)

男(これまでに何度も女は命令を無視した実績があるからだ)

男(魅了スキルにかかっていてはそんなこと出来るはずがない)



男(ここまでは理詰めで考えられる。だがここからが分からない)

男(というのも女は現状、俺の魅了スキルにかかっていると言っているからだ)

175 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:09:18.39 ID:jCtuVPPF0

男(その嘘を吐く意味が理解出来ない)

男(魅了スキルにかかっているフリをしても、俺に好意を持っているように見せたり俺の命令に無駄に従ったりしないといけないだけだ。何ら得がない)



男(逆だったら分かる。本当は魅了スキルにかかっているのに、俺に命令されたくないためにかかっていないと嘘を吐くのなら)



男(そんな非合理的な嘘を吐いたのには……何らかの事情があるのだと)

男(決して俺を悪意で持って騙そうとしているのではないのだと……そう思ったから、未だに行動を共にしている)



男(相手が女でなければ嘘を吐かれたということだけで失望し、後先考えずに縁を切って独りになっていたかもしれない)

176 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:09:44.39 ID:jCtuVPPF0



男「…………」



男(とはいえすぐに今まで通り接することは難しい)

男(昨日も女とのやり取りがぎくしゃくしたことは自覚している)



男(幸いにも学術都市にいる間はこれまでよりも女とは顔を合わせずに済む)

男(日中は違うコースだし、夜も今までは節約のため同じ宿の部屋に泊まることが多かったが、今回は先方の厚意で女子寮の一室と男子寮の一室が割り当てられたため違う部屋に寝泊まりしているからだ)



男(女が抱える事情とは何なのか、今後どうするべきか、俺はどうしたいのか?)



男(一人でゆっくり考える時間が持てるのはありがたかった)

177 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/06(火) 01:10:12.13 ID:jCtuVPPF0
続く。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/06(火) 04:17:27.90 ID:LIjnSeyMO
乙!
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/08/06(火) 08:21:51.44 ID:e/MMIP23O
乙ー
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/06(火) 19:32:48.46 ID:O4SzFtPm0
181 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:35:58.78 ID:x/JedQkZ0
乙、ありがとうございます。

投下します。
182 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:36:50.54 ID:x/JedQkZ0

女友「本当の、本当に心当たりはないんですね?」

女「もう、だから何回も言ってるでしょ。私だって訳が分からないのに」



女(学術都市女子寮の二人用の部屋にて)

女(私は、ここ数日何度も同じ質問をする女友に辟易していた)



女友「男さんも地雷が多いですから知らずに踏んでしまったとか」

女「……それも無いと思う。女友の方こそ、男君に何かしたとか無いよね?」

女友「私も心当たりありませんよ」



女(女友は力なく首を振る)

女(話題はここ最近の男君の様子についてだ)

女(私と接する際に明らかにぎくしゃくしている状況。女友とはそんな様子は見られないのに)



女(独裁都市で男君を助けて以来いいムードだったというのに、急転直下の展開に私は失望よりも困惑の方が大きかった)

女(男君の変調の理由が全く検討付かなかったからだ)



女(女友とは普通に会話出来ているのに、私とだけはぎくしゃくしてしまう理由)

183 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:37:25.18 ID:x/JedQkZ0

女「もしかして……」

女友「やっぱり何かミスしてたんですか?」

女(口を開いた瞬間失礼なことを言い放つ女友)



女「どうして女友は私が失敗した前提で話すの?」

女友「今までの経験からです」

女「……とにかく、私分かったの! 男君がおかしくなっている理由!」



女(もうこれしかないというほどドンピシャの理由に思い当たった私は興奮しながら女友に話すが)



女友「……何の手がかりも無い状況ですからね。女の戯れ言に付き合ってもいいでしょう」

女(女友は塩対応だ)

女(まあでもこの名探偵女の見事な推理を聞けば『素敵!』と態度を翻すだろう)



女友「それで女の考える理由とは何ですか?」



女(先を促す言葉に私は自信満々に答えた)

184 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:37:58.17 ID:x/JedQkZ0





女「独裁都市の時に颯爽と助けに来た私を見て、男君は私のことが大・大・大好きになっちゃったんだよ!」

女「だから私と話すときも意識しちゃってるんだって!!」





女友「…………」

女(女友は無言で頭を抱えている)

女(きっと私の考えの素晴らしさに感銘を受けたのだろう)



女「好きな人の前で緊張するなんて、男君もお茶目なところがあるよね!」

女友「……どちらかというと男さんの様子は照れているというよりは、陰がある感じでしたが」

女「それはあれだよ! 『陰のある男はカッコいい』ってことで私の気を引こうとしてるんだよ!」

女「はあ……ひとまず謝ってください。男さんはあなたほど単純な人じゃないです」



女(女友は何だか不服そうだ)

女(……あ、そうか。私と男君がいい感じになると、三人で旅している以上女友が仲間外れみたいになってしまう)

女(独りぼっちになるのが嫌なのだろう)

185 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:38:46.94 ID:x/JedQkZ0

女「大丈夫だよ、女友。もし男君と付き合うことになっても、親友であることには変わりないから!」

女友「……一応ありがとうと言いましょうか。そしてよく分かりました」



女「でしょ? 男君の変調の理由は……」

女友「そうではなくて、女。あなたがすごい浮かれていることに」



女(女友がビシッと私を指さす)



女「浮かれるってこんな感じ? 『竜の翼(ドラゴンウィング)』」

女友「狭い部屋なのに翼を出さないでください! ああもう、そうやってノリが軽いのが浮かれている証拠ですよ!!」

女「はーい」



女(女友に怒られて、私は翼を引っ込める)

186 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:39:17.66 ID:x/JedQkZ0

女友「女が浮かれるのも分かります。ようやく男さんと上手く行きそうだったんですから」

女友「今まで応援してきた私も本当なら手放しで賞賛したいところです」

女「でしょ!」



女友「ですが。だからこそ一転して今の状況に陥ってしまったことに危機感を覚えているんです」

女友「よっぽどの理由があるはずですから、対処を誤れば男さんとの関係はご破算ですよ」



女「だからその理由は男君が私のことを好きになったからじゃないの?」

女(私の再三の言葉に女友は考え込む)



女友「正直急な変調という点だけを見ると、状況からして女の考えも有力なのが悩ましいところなんですよね……」

女「ほら!」

女友「いえ、惑わされないでください、私。この単純野郎に引っ張られています。男さんの今の状況を見るに違うのは明らかです」



女(女友が自分の頭を握りこぶしで叩いて正気に戻るように努めている)

女(私が人を堕落させる何かのように扱われていて酷い話だ)

187 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:39:49.72 ID:x/JedQkZ0

女「そんなに私の意見を否定するなら、女友の方こそ何か意見を言ってみせてよ」

女友「そうですね……女の嘘が男さんにバレたとしたら今の状況も分かるんですが」

女「嘘……っていうと、私が魅了スキルにかかっているという嘘?」



女友「はい。過去のトラウマから人に裏切られることを極端に恐れている男さんですから、女が信頼できる人物だと思った矢先に騙されていることに気付いたらショックを受けるでしょう」



女「それは……いつか打ち明けないといけないと思っているけど……」

女友「ええ分かっています。ですが女も不自然な点ばかり晒していますから」

女友「前回も魅了スキルの命令を無視して助けに行きましたし。男さんが自力で気付くのはあり得る可能性です」



女「そうは言うけど、今まで何だかんだバレなかったのに、そんな急に露呈するかな?」

女友「……やっぱり延々と考えても埒が明きませんね」

女友「よし、分かりました。私が直接男さんに話をします」



女(決心したように女友が立ち上がる)

188 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:40:31.91 ID:x/JedQkZ0



女「……でも、大丈夫かな。男君、私が昼ご飯一緒に食べようって誘っても、まだ学校に慣れなくてなって断るし」

女「放課後一緒に遊ぼうとしてもちょっと復習したいって……明らかに避けられてるし」



女友「大丈夫なはずです。女と違って私とは普通に話せていましたし」



女「おおっ! じゃあ、任せるからね!」

女「もし男君が私のこと大好きで止まらないって言ってたらこっそりと教えてね」



女友「こっそりと教えるだけでいいんですか?」

女「というと……?」



女友「私なら男さんから女に告白するように仕向けることも可能です」

女「……女友様っ!!!!」



女(私は現人神の顕現に拝み倒す)

189 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/08/08(木) 00:41:01.30 ID:x/JedQkZ0



女友「苦しゅうない、苦しゅうない」

女友「やっぱり女も女の子ですからね。告白は男の子からされたいでしょう」



女「はい、その通りです!」



女友「何か女と話していると本当に男さんが女のことを好きで避けているのだと思い始めてきました」

女友「となればサクッと付き合わせて祝福することにしましょう!」



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