男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目

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41 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/05(金) 22:06:45.31 ID:urXCLDkn0



男(自己責任。思えばその言葉が俺は好きなのだろう)

男(俺のトラウマ。からかわれて本気になって告白して玉砕して、心を守るために自己否定から恋愛アンチとなった)





男(別の選択肢もあったはずだ)

男(あの子のことを心の中で悪者に仕立て上げて『あいつが思わせぶりだったのが悪い、結局悪意を持って騙してたんじゃないか、くそっ死ね』と悪態を吐くことで心の均衡を保つことだって出来たはずだ)





男(なのにそうしなかったのは……もうそういう気質なのだろう。他人ではなく自分にばかり重荷を背負わせると)





男「俺は誰も信じない。そうやって今までも……そしてこれからも生きていくんだ」

男「だってその方が誰にも迷惑をかけないだろ」



姫「……そうですね。誰にも迷惑はかけないかもしれません。でも何かを成せるとも思えませんね」

男「え?」

42 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/05(金) 22:07:24.82 ID:urXCLDkn0



姫「私の母は立派な執政者でした」

姫「この都市を常に良くするように考えていて……しかし何もかもを自分でしようとはしていませんでした」

姫「今思うと自分一人で出来ることなんて、たかがしれていると分かっていたからでしょう」

姫「だから人を信頼して色々と託す。そうやって大きなこと、この独裁都市の運営をやっていたんだと思います」



男「そ、そうかもしれないが……別に俺は偉くなるつもりなんてないし……」

姫「男さんの意志がそうでも、現実は向こうから困難がやってくることもある場所です」

姫「今だって女さんが一人で近衛兵長に勝つことが出来るんだったら、男さんを頼りにしたりはしなかったでしょう」



男「で、でも……俺が女の期待に応えられるか分からないんだよ! そしたら迷惑がかかるだろ!」

姫「いいじゃないですか、迷惑かけたって」

男「は?」



姫「そもそも女さんに信じられて勝手に頼りにされて、男さんは既に迷惑がかかっているじゃないですか」

姫「だったら男さんだって女さんに迷惑かければいいでしょう」



男「そんなことしたら……」

43 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/05(金) 22:07:55.27 ID:urXCLDkn0



姫「二人はそれくらいで壊れる関係だって言うんですか?」

姫「迷惑をかける女さんのこと男さんは嫌じゃないんですか?」

姫「女さんが迷惑をかけられたくらいで男さんのことを嫌いになると思うんですか?」





姫「男さんは……本当に一人で生きていくつもりなんですか?」

姫「少なくとも私は本当の自分を誰にも明かせず、ワガママな姫様としてひとりぼっちで生きてきたこの二年間はとても寂しくて辛かったですよ」





男「……」

男(姫の言葉に俺は惑い)

44 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/05(金) 22:08:37.42 ID:urXCLDkn0



近衛兵長「食らえ!! 『聖なる全振り(ホーリーオール)』!!」



男(そのとき近衛兵長は限界まで体をひねり蓄えた体のバネを一気に解放)




男(剣がこちらまで聞こえるほどの風切り音を発しながら振られ、その軌跡に形成された先ほどまでとは比べものにならないほどの大きさの光が俺たちを押し潰さんと迫った)



45 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/05(金) 22:10:20.22 ID:urXCLDkn0
続く。

想定より長くなり決着ならず……次こそは。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/05(金) 23:31:09.34 ID:5JqJ+vdPO
乙!
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/05(金) 23:51:55.04 ID:yERhdR/j0
毎回こんな引きで区切りだと無駄に引っ張ってCM挟んで引き伸ばすTV番組みたいで萎える
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/06(土) 05:36:00.15 ID:HjBY9cQVO
乙ー
49 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/07(日) 23:11:37.33 ID:T7fsHoB20
乙、ありがとうございます。

>>47 執筆にいっぱいいっぱいで区切りについてまでは意識が行ってませんでした。今後は精進します。

投下します。
50 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/07(日) 23:12:06.21 ID:T7fsHoB20

男(迫る巨大な光にこれまで待ちの姿勢だった女は一転)



女「『竜の拳(ドラゴンナックル)』!!」



男(竜の力を宿した拳を突きだしながら臆することなく光に飛び込む)

男(力では竜闘士の方が上。とはいえ相手の大技に対して、こちらのスキルの出力は普通でちょうど拮抗する)



女「くっ……!」



男(女は痛みに耐えている。スキルで相殺しているとはいえ、相手の攻撃に腕を突っ込んでいるのだ。何もダメージが無いということは無いだろう)



女「だ……らぁぁぁっ!!!」



男(それでも女は気迫を絞り、拳を振り切って光を両断。割れた光が俺と姫の左右の地面を削り轟音を発する)

51 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/07(日) 23:12:34.64 ID:T7fsHoB20



近衛兵長「っ……破られたか!」

女「今だっ!!」



男(近衛兵長が驚いている間に、女は全速力で接近する)

男(大技を打った直後で隙が出来ている様子の近衛兵長は、俺たちを攻撃することで女の接近を封じることが出来ない)



男(大チャンスと見えたが、しかし女も拮抗した際にスピードが落ちたのが痛く、距離を詰め切ることが出来ない)

男(これだと女が拳を届かせる前に近衛兵長が体勢を整えて俺たちを攻撃するだろう)

男(そうなると防御に戻らないといけなく振り出しだ)



近衛兵長「甘かったな」



男(俺と同じ想定に至ったのだろう。近衛兵長がフッと小馬鹿にするように笑って)

52 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/07(日) 23:13:14.57 ID:T7fsHoB20



女「ううん、ここまで接近すれば十分!! 『竜の尾(ドラゴンテール)』!!」



男(女は不敵に笑うと、まだ近衛兵長との距離があるのに右手を振りかぶった)

男(俺が初めて見るそのスキルはどうやらエネルギー状の鞭を発生させるようで、半円軌道を描いた鞭の先端が近衛兵長にグルグルと巻き付く)



近衛兵長「何を……」

女「いっけえぇぇぇぇっ!!」



男(そのまま女は鞭を後方に向かって振り上げると、その動きに従い竜闘士の膂力によって近衛兵長が空中高くに放り出された)

53 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/07(日) 23:13:40.27 ID:T7fsHoB20

男(遠距離でも近距離でも駄目なら中距離)

男(女の接近の狙いは鞭の届く範囲に近衛兵長を捉えることだったようだ)



男(宙にいる近衛兵長はなすがままなあたり、聖騎士はどうやら空を飛ぶようなスキルは持っていないようだ)

男(ならば絶好の的である……かというと、そうではないようだ)



近衛兵長「考えたな……だが、みすみすやられたりはしない」



男(近衛兵長は鍛えられた体幹によって空中で姿勢を立て直す)

男(投げられた勢いで飛んでいるのは変わらないものの、あの状態なら攻撃も防御も十分に行えそうだ)



男(となると女が『竜の潜行(ドラゴンダイブ)』を当てに行こうとしても、近衛兵長は俺と姫を攻撃して防御を強制することが出来る)



男(この問題を解決しない限り俺たちの勝利はない)

54 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/07(日) 23:14:06.97 ID:T7fsHoB20



男(だからこそ女は俺に提案をして、近衛兵長を後方に放り投げたのだ)



男「なるほどな」

男(女の意図が読めた)



男(近衛兵長が飛ぶ方向の先にいる俺)

男(魅了スキルは効果範囲こそ周囲5mだが、光の柱と表現出来るように上空にはかなり長い射程がある)

男(そして近衛兵長は空中のため満足に動くことが出来ない)



男(つまり)



男「今の近衛兵長は魅了スキルを避けることが出来ない……!!」



男(女は提案通り見事魅了スキルをかける隙を作って見せたのだ)

55 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/07(日) 23:14:40.81 ID:T7fsHoB20

男(当たれば一撃必殺の魅了スキルが百発百中で絶体絶命の近衛兵長)

男(飛んでる勢いからしてあと少しで俺の上空を通過する)

男(俺はそのタイミングで魅了スキルを発動するだけでいい)



男(だが、一つだけ心配事があるのも確かだ)



近衛兵長「『聖なる一振り(ホーリーワン)』!!」



男(近衛兵長が空中で剣を振るいソニックブームを俺目掛けて放つ。不安定な空中なのに見事な照準だ)



男(女が後方に放り投げたため、位置関係として俺たちと女の間に近衛兵長がいることになる)

男(しかも魅了スキルの範囲に入りそうなほど俺に近くから攻撃出来るというわけだ)

男(近衛兵長は当然絶好の攻撃機会を逃さなかった)



男(近衛兵長の攻撃が迫る。回避行動を取るべき……だが、そんなことをしていたら魅了スキルを発動する余裕も無くなる)

男(だったらどうすればいいのか)

56 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/07(日) 23:15:07.54 ID:T7fsHoB20



男「簡単だ。女を信じればいい」



男(あれだけ忌み嫌っていたその言葉なのに不思議とすっと出て来る)



男(女の俺なら察せるという無茶振りに応えてやったんだ)

男(だったら今度は女が応える番だ)



男「…………」

男(決めたからには俺はもう動じない)

男(光からは目を切って、近衛兵長が上空を通るタイミングを計ることだけに集中する)

57 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/07(日) 23:15:44.78 ID:T7fsHoB20



姫「男さん……」



 集中する男は隣で姫が名前を呼んでいることも気付いていない。

 近衛兵長の攻撃が迫る中、危険なのは姫も一緒だ。

 魅了スキルに関与しない姫はこの場から逃げ出してもいい。

 だがそうやって逃げ出すのは負けを認めるようで……意地だけでその場に留まる。



 そして無防備に立つ二人に光が届こうとする――その直前。



女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」



 女の発した衝撃波がピンポイントで近衛兵長の攻撃を打ち落とした。

58 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/07(日) 23:16:12.75 ID:T7fsHoB20



近衛兵長「くっ……ここまでか」



 近衛兵長は次の攻撃体勢に入りながらも、既に負けを自覚しており。

 そのとき男から5mの範囲に到達した。



男「魅了スキル、発動!」



 男はスキルの発動を宣言。



 ピンク色の光の柱が宙の近衛兵長を捉え――その瞬間勝敗は決した。



59 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/07(日) 23:16:39.50 ID:T7fsHoB20
続く。
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/08(月) 00:49:07.20 ID:xvPbhTPYO
乙ー
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/08(月) 01:36:04.68 ID:faG71my90
乙!
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/08(月) 22:48:30.80 ID:fShfEtVC0
63 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 00:59:11.85 ID:3dlmMjRD0
乙、ありがとうございます。

投下します。
64 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 00:59:56.47 ID:3dlmMjRD0

女友「結界が晴れましたか」



女友(先ほどから神殿前広場を囲っていた結界が消失したことを確認します)

女友(私は何ら関与していないので、中の女がどうにかしたのでしょう)



女友「無事だとは思いますが早速安否を確認しないとですね」

女友(急いで私はそちらに向かおうとして)



ギャル「待……て……」



女友(後方で弱々しい声と共に立ち上がる者がいました)



女友「……まだやるんですか、ギャルさん」



女友(本気で戦うことの練習台)

女友(そういって始まった戦いは言葉通りのものに、私一人でも十分に戦えると自信を持てるようになりました)

女友(その結果倒れ伏して気絶しているレズさんと満身創痍のギャルさんが生まれたのですが……立ち上がれるとは正直驚きでした)

65 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:02:26.44 ID:3dlmMjRD0



ギャル「言ったでしょ……アタシは――」

女友「イケメンさんのために、とでも言うんですか? だとしたら滑稽ですね」



ギャル「……何が言いたいのよ」

女友「だってそうでしょう? 命令する者と従う者の関係が愛であるならば、王と奴隷は恋人だってことになるじゃないですか」



女友(イケメンさんが彼女であるギャルはキープで、本当は女に執着しているという話は男さんから聞いています)

女友(だとしたら彼氏だからと盲目的に従うギャルは体よく操られているだけです)

女友(男さんが魅了スキルを使ってしていることを、スキル無しでやってのけているのは才能なのでしょう)

女友(ちっとも羨ましくはありませんが)



女友(さて、ギャルさんは立ち上がりこそしたものの追ってこれるほどの体力はないでしょう)

女友(自分たちの関係を馬鹿にされて激昂される前にその場を去ろうとして)

66 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:03:02.62 ID:3dlmMjRD0

ギャル「分かって……るわよ」

女友「……?」





ギャル「馬鹿にすんな!! アタシだって分かってるわよ!!」

ギャル「イケメンが本当は……私のことを愛していないってことくらい!!」

ギャル「それでも……仕方ないのよ!! こうでもしないとイケメンは……私のことを見てくれないんだから……!!」





女友(私は足を止めて振り返ります)

女友(ギャルさんの表情は苦渋に満ちたものでした)

女友(私はそれを意外に思いながらも、ここで待ってやる理由にはならないと判断して)



女友「だったらなおさら自分のことを大事にしてください。あなた自身のために」



女友(敵としてかけられる最大限の慰めの言葉をかけて私は広場に向かうのでした)

67 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:04:10.04 ID:3dlmMjRD0

女友(広場に入ると戦いは終結しているようでした)

女友(そこかしこで『組織』の構成員たちが近衛兵によって拘束されています)

女友(私は人の集まっている広場の中央を目指して歩いていると)



近衛兵1「止まれ!!」

近衛兵2「何者だ、貴様は!!」



女友(近衛兵に制止の声を掛けられました)

女友(私のことを不審者だと思われているようで、どう釈明すればいいものか迷っていると)



姫「おぬしら、待つんじゃ」

近衛兵「姫様、不用意に出てこられては……」

姫「いいから黙っておれ! そこの少女、もしかして名を女友と申すのではないか」



女友(近衛兵に引き止められながらも、パレードでもその姿を見た独裁都市の姫が私の名前を口にします)



女友「そうです、私の名前は女友ですが……」

姫「ならば余の客人じゃ。無礼を働くでない」



女友(戸惑いながらも頷くと、何故か私は姫様に招待されるのでした)

68 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:05:02.68 ID:3dlmMjRD0



女友(近衛兵たちが事態の収拾にあくせくと動く中、私は姫様の隣でこれまでのことを話してもらいました)



女友「そうですか……パレードの後、男さんと姫様はそんなことに」

姫「はい。女友さんのことは男さんから聞いていたので。姿を見たときに、もしやと思いまして……」





女友(どうやら私たちと別れた後、男さんは想像以上に大変な目に遭っていたようです) 

女友(先に行かせた女は間一髪のところで男さんたちを救い、結界のせいで逃げられなくなり)

女友(首謀者である近衛兵長近衛兵長なる人物との勝負を避けられず、しかしそれも魅了スキルで虜にしたことで決着したと)





女友(その後は男さんが虜にした近衛兵長に命令をして、それに女も協力して残っていた『組織』の構成員を一掃、ほとんどを拘束したようです)

女友(その中には見覚えのある顔もいます。私は姫様に少し見てくる旨を伝えてからそちらに向かいました)

69 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:05:33.17 ID:3dlmMjRD0



女友「デブさんですか、久しぶりですね。駐留派、『組織』の一員になっているとは聞いていましたが」

デブ「女友さん……」



女友「結婚式襲撃部隊の方にいて捕まったということですか。逃げなかったんですね」

デブ「……ああ。竜闘士と聖騎士、バケモン二人から逃げられるわけないだろ」

女友「それもそうですね」



デブ「それに部隊には俺を慕っている部下がたくさんいるんだ」

デブ「やつらを置いて俺だけが逃げ出すわけには行かねえ」

デブ「殺されたやつがいることも考えると生きているだけで丸儲けだ」



女友(構成員が捕らわれている方を見るデブさん)

女友(元の世界、教室にいた頃には何も努力せず自分だけが不幸だと思いこみ世界を恨んで呪詛をかけるような、そういう陰湿な人間だったと記憶していますが……どうやら環境によって変わったようです)



70 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:06:19.56 ID:3dlmMjRD0



女友「クラスメイトのよしみとして、罰が軽くなるようにかけあっておきますよ」

デブ「助かる。それと図々しい頼みだが、そっちもどうにかしてやってくれないか?」



女友(デブさんの指した方にいるのはもう一人のクラスメイト、メガネです)

女友(女と交流があることから、私も良く知る人物ですが……)



メガネ「私を捕まえたからっていい気にならないことね!」

メガネ「絶対にイケメン様が助けに来るんだから!」

メガネ「そうよ、私はイケメン様に大事と言われた女なんだから……!」



女友(メガネはちょうど通りかかった近衛兵に文句を吐いているところでした)

女友(聞くとどうやら先ほどから誰彼構わず言っているようです)



女友(その内容については考えるまでもなく実現しないだろうと判断しました)

女友(イケメンさんがわざわざ危険な橋を渡って、駒の一つを回収しに来るとは思えません)





女友「駐留派はあなたのように魅了スキルを狙っている者とイケメンさんに騙されている者によって構成されていると考えていいですか?」



デブ「……知っていたのか。そういうことだ」



女友「なら理解している通りですよ。イケメンさんがメガネを助けに来ることはなく、ずっと叫び続けることになるでしょう」

女友「私にはどうにも出来ません」



女友(私は一つ頭を下げるとその場を離れて姫様のところに戻りました)

71 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:06:58.18 ID:3dlmMjRD0

姫「知り合い……共に異世界召喚された者との語らいは終わりましたか?」

女友(姫様は女神教の関係者、いや一番事情を知るものであり私たちが異世界から来たということも知っているようです)



女友「はい。それで姫様にお願いがあるのですが……」

姫「分かっています。あの者たちの処遇については一考します」

姫「彼らもまたいきなり呼び出された被害者であるとは理解していますので」



女友(姫様は聡明な方で、すぐに私の意図を察しました)



女友「ありがとうございます」

姫「それに……これからの独裁都市はそんな些事に構っている暇が無いくらい、忙しくなるでしょうから……」



女友(憂いの表情で呟いたことが気になりましたが、聞き出す前に)



姫「そんなことより女友さんに聞きたいことがあるんです」



女友(と話題を転換されました)

72 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:07:37.11 ID:3dlmMjRD0





女友「何でしょうか?」

姫「女さんのことです。彼女、本当は男さんの魅了スキルにかかっていないんでしょう?」



女友「……まさかそんなことないですよ。私と一緒でしっかり男さんの虜です」



女友(いきなり出された話題に内心ビックリしながらも、私の口はすらすらと嘘を述べていました)

女友(親友の秘密を私が暴露するわけには行きません)



姫「そうですか? 男さんからここまで異世界でどういうことがあったのかは聞きました」

姫「あのときは特に疑問に思いませんでしたが……本人に出会って分かったんです」

姫「女さんは虜になっていないと。そうすれば数々の疑問にも説明が付くと」



女友「違いますね。全部魅了スキルが中途半端にかかっているせいです」



姫「それも疑問に思っていました。魅了スキルについては女神教の大巫女である私が一番知っています」

姫「しかし、伝承の中には中途半端にかかった事例など一つもありませんでした」

姫「ならば嘘だと判断するのが合理的でしょう」



女友(姫様は詰め将棋のようにどんどんと寄せてきます。私は徐々に逃げ場が無くなっていくのを感じ)

73 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:08:45.30 ID:3dlmMjRD0



姫「どうしても認めないなら、この話を男さんにします」

女友「っ!? それは……」



姫「魅了スキルの使い手で当事者である男さんに意見を仰いだらきっとすごい参考になると思うんです」

姫「私としても男さんに手間をかけさせて心苦しいですが」



女友(こちらの事情を見透かし、完璧な王手を決められます)



女友(詰みだと判断した私は……ええ、こんな初対面の姫様に見抜かれる女が悪いんです、と心の中で言い訳してから、被害を減らすための最善手を)



女友「分かりました、認めます。女には魅了スキルがかかっていません」

姫「やはりそうですか。詳しく聞かせてもらえますか?」

女友「……はい」



女友(親友の秘密について洗いざらいぶちまけることにしました)

74 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:09:26.11 ID:3dlmMjRD0



姫「召喚される前から好きで、しかし行動には移せず、そんな折りに魅了スキルの効果範囲にいてしまって、誤魔化すために嘘を吐いたと……」

女友「そういうことです」

姫「その後は虜であるという偽りで男さんにアタックを仕掛けて……卑しい、卑しいです」

女友「否定は出来ませんね」



姫「………………」



女友(話を聞いた姫様は女のことを非難していましたが、ふと考え込み始めました)

女友(そして決心したように顔を上げます)



姫「女友さん、親友の秘密を勝手に暴くような真似申し訳ありませんでした」

女友「いえ、全部女の落ち度です。私は悪くありません」

姫「その開き直りはまた清々しいですね……えっと、それなのに図々しいですが私の話も聞いてもらえないですか?」



女友「……ええ、いいですよ」



女友(その表情には心当たりがある。悩みを抱えている顔だ)

女友(この異世界に来てから男さんと女相手に何度もやってきたお悩み相談。何の因果か今回は姫様が相手のようだ)

75 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:10:09.55 ID:3dlmMjRD0



姫「私は男さんのことが好きなんです」

女友「『まあ魅了スキルがかかっているからな』……と、男さんが聞いていたら言うでしょうね」



姫「私と男さんは魅了スキルによって引き合わせられましたから、理解はしています」

姫「それでも私は魅了スキルなんて関係なく好きだと信じていて……今日女さんと出会いました」



女友「……」



姫「最初の印象はいけ好かない人でした。まあ同じ殿方を取り合う以上、好意的には見られません」

姫「ですがその後、男さんと女さんのやりとりを聞いている内にビビッと来たんです」

姫「この人には魅了スキルがかかっていないと」



女友「女の直感……ですかね」



姫「たぶんそうです。それだけではなく女さんの想いの深さも実感して……」

姫「魅了スキルがかかっていなかったら、私も本当に同じように想えただろうかと疑問が浮かびました」



女友「……」

76 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:12:14.00 ID:3dlmMjRD0



姫「男さんの方もです。あれだけ偉そうに私の想いはストックホルム症候群だと指摘した癖に……」

姫「実際は男さんの方こそ私に対して、同じく軟禁された立場としての連帯感や好意を抱いたに決まっています」



姫「だってその証拠に……女さんといるときはあんなに自然に振る舞っているじゃないですか」



女友(姫様の視線を追うと、そういえば未だ姿を見ていなかった二人を見つけます)

女友(女と男さんは広場中央の鐘のところにいて――)





女「男君、ねえこの鐘って」

男「女神教の伝統なのか、結婚式のときに二人の関係が永く続くようにって鳴らすやつだ」

男「俺も姫と一緒に鳴らしたが……その直後に襲撃されたんだったか」



女「……ねえ、私も一緒に鳴らしてみたい」

男「いやそれよりまず被害の復旧が先だろ」

女「もうこんなに頑張ってるんだから、ちょっとくらいサボったっていいでしょ! ほら、行こっ!」

男「ああもう、引っ張るな……ったく」



女友(女が男さんの手を引いて鐘まで導きます。悪態を吐きながらも男さんの表情も満更では無さそうです)

77 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:12:46.26 ID:3dlmMjRD0



女友(久しぶりに見た男さんの元気な姿にホッとし、そして女とよろしくやっていることを嬉しく思いながらも、隣の姫様の相談中であるということは忘れていません)



女友「二人はここまで様々な苦難を乗り越えることで今の関係となりました」

女友「見守ってきた者として贔屓の感情が含まれていますが、男さんには姫様より女の方がお似合いだと信じています」

女友「申し訳ありませんが」



姫「……いえ。素直なところを言っていただきありがとうございます」

姫「私も……心の奥底ではそう思ってしまっているのでしょう」

姫「だからさっきもあんな後押しするような言葉を……」



女友「…………」





姫「女友さんに相談できて決心が付きました。私はこの気持ちを諦めます」

姫「ええ、そうですよ。ただでさえこれから独裁都市の再建のため私は頑張らないといけません」

姫「司祭と近衛兵長の二人がいなくなった今、私は自由に羽ばたけます」

姫「やりたいこと、やらないといけないことは山積みです」

姫「トップに立つ者として恋愛にうつつを抜かしている暇はないんです」



姫「私は母が愛したこの都市が、民が好きなのですから」



姫「だから……」

78 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:13:19.89 ID:3dlmMjRD0





女友「別にそれが恋を諦める理由になるとは思えませんね」

姫「え……?」





女友「親友の恋路のことを思うなら、恋敵が身を引く姿を素直に見送るべきだと……分かってはいるんです」

女友「しかしそんな苦しい顔をしているのを見過ごせるわけないじゃないですか」



姫「苦しい顔って……違います! 私は独裁都市のためにむしろ誇らしくこの想いを捨てて…………ひぐっ、ぐすっ……」



女友「ああもう、ほらついには泣き出したじゃないですか。意地を張らないでください」



女友(私は姫様の頭を抱えて、赤子をあやすように背中をポンポンと叩きます)



79 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:13:58.24 ID:3dlmMjRD0



姫「初めての恋だったんです! 初めて好きになったんです、男さんのことを!」

姫「でも……私が好きになったのは女さんによって変わった男さんなんです!」



姫「私の居場所が無いことは分かっています!」

姫「それでも……好きになってしまったんです! 仕方ないでしょう!」



女友「ええ、そうですね」



姫「女さんがいなければ良かったのに……女さんの代わりに私が男さんと出会っていたら……」

姫「そんな意味のない仮定が沸き上がっては心を乱して!」

姫「こんなに苦しいなら誰かを好きになりたくなかった!」



女友「でも好きになったからこそ幸せも感じたんですよね」



姫「男さんと結婚式をしたときは……それが敵の策略だと分かっていても、私は嬉しくて!」

姫「この幸せがずっと続けばいいのにって……でも……」



女友「分かります、分かりますから……全部吐き出してください」



女友(相手は一つの都市の長である姫様です)

女友(その立場だけでなく、今まで軟禁されていたこともあって、誰かに弱みを見せることなんて今まで出来なかったのでしょう)



女友(それでも潰れなかった精神的な強さは、トップに求められる資質です)

女友(だからといって何も溜め込まないわけがないのです)



女友(私は一人の少女がその思いの丈をぶちまける姿を、隣で優しく寄り添いながらしばらく聞くのでした)

80 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/10(水) 01:14:48.58 ID:3dlmMjRD0
続く。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/10(水) 04:36:38.37 ID:wi4FIK1fO
乙!
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/10(水) 05:28:47.98 ID:y6xENFIJO
乙ー
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/10(水) 18:06:29.02 ID:O/VcyM7JO
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/11(木) 12:47:49.46 ID:oKa9Cpu5O
85 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:13:40.30 ID:rxpms8Gr0
乙、ありがとうございます。

投下します。
86 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:14:24.54 ID:rxpms8Gr0

男(波乱と策謀の結婚式から一夜が明けた)



男(独裁都市の宝玉を手に入れたので次の町に向かうべきでもあるのだが)

男(都市の内情に関わりすぎたのと新たに判明した事実を整理するため俺たちはまだ留まっていた)

男(神殿の最上階、昨日まで軟禁されていた部屋には俺と女と女友、姫に近衛兵長の五人がいる)



男(新たな収穫というと一番は近衛兵長から聞き出した話だろう)

男(やつは俺の魅了スキルによって虜となっている)

男(嘘を吐かず全てを話せ、という命令で今回の事態の裏側に潜むもの、近衛兵長が王国の工作員であったことも含めて全てが明らかとなった)

男(今回逐一話を聞くため手を出せないように命令して同席させている)



姫「王国……ですか!?」

男「姫、何か知っているのか?」



姫「先の大戦の覇者で、ここらでは一番の領土と軍事力を持つ大国です」

姫「最近また領土拡大のため怪しい動きをしているとは聞いていましたが……」

87 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:15:00.01 ID:rxpms8Gr0



近衛兵長「我が主、王の目的は全てを支配することだ」

近衛兵長「私はそのためにこの独裁都市の弱体化を狙って潜入した」

近衛兵長「結果は上手く行き過ぎたと言っていいだろう。これもあの愚かにも自身が王となろうとした司祭のおかげだ!」



男(先に話は聞いていた。司祭が自分が王になるため、姫を執政者失格の烙印を押させるためにしたことの数々を)

男(その過程で独裁都市の力が弱まったのだ)



男(近衛兵長の言葉に同意できるところがあるのも確かだった)



男「ああ、そうだな。女の子一人犠牲にしておいて何が王だ」

男(司祭が姫にやっていたことは許せるわけがない)



姫「男さん……」

女「むっ……そんなことより、このままじゃ独裁都市が危ないのよね?」



男(姫が頬を赤く染め、女は少々苛立ちと共に話題を変える)

88 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:15:37.27 ID:rxpms8Gr0



女友「神殿の黄金化計画のために集めていたお金は、実のところ司祭さんが王になった後に軍事拡大をするために残していたと」

女友「しかし、その隠し場所を近衛兵長にも明かしてしまったため用済みとなり殺されたんでしたね」



近衛兵長「金は既に他に潜入していた部下の手によって運び出されている」

近衛兵長「私に命令しようとも取り返せないだろう。ありがたいことにな」



男(女友の確認に近衛兵長は腹正しいことを言ってくる)

男(虜になり俺への好意こそあるのだろうが、女友のようにコントロール出来ることは証明されているし)

男(命令に従うと言っても心までは変えられないので王国を崇拝する気持ちは健在だ)





姫「司祭と近衛兵長がいなくなった以上、これまでの愚策を撤回、新たに改革していくことで独裁都市の再建を果たすつもりではありますが……先立つものがないのは不安ですね」



女友「それでしたら当てが無いわけではありません」

姫「……?」

89 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:16:08.09 ID:rxpms8Gr0



女友「今回の事態を昨夜の内に早速古参商会に相談したところ、商会が独裁都市に融資をしてもいいという解答をもらえました」

姫「本当ですか!?」



女友「ええ。元々独裁都市の人口は多く、大きな市場となっています」

女友「高すぎる税により一度は支部を引き上げましたが、それも後ろ髪引かれる思いだったそうです」

女友「都市運営が健全化するならば、新たに支部を再開してもいいですし、そのための融資も惜しまないだそうです。ただ……」



姫「この苦難のときに助かります! ええ、交換条件は分かっています」

姫「官が発注するものは優先的に古参商会に回すようにします」



女友「分かりました。では返事を古参商会にしておきます」



男(女友はいつだって何もかも見透かしたように動いているがここまで用意周到だとは。久しぶりに会う俺も驚きだ)



姫「ありがとうございます、女友!」

女友「いえいえ、姫のためならばこれくらい」



男(礼を言い合う二人だが、どちらも名前が呼び捨てだ)

男(信頼感のようなものも見えるが、二人ともいつの間に仲良くなったのだろうか?)

90 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:16:42.36 ID:rxpms8Gr0



男「次は王国についても話しておきたいんだが」

女「そうね。この世界の統一……そのために各地で動いていて……」

女友「他にどのような動きがあるか知らないんですか?」



男(女友が近衛兵長に問う。近衛兵長には俺以外の質問にも嘘偽り無く答えるように命令してある)



近衛兵長「知らないな。私は一工作員でしかない。情報漏洩を避けるため、他の者の動きを教えられているわけないだろう」

女友「……なんでこの人こんなに偉そうなんですか?」

男「まあまあ、抑えろ。とりあえず分かることが一つ。こいつら、王国は宝玉に関心は無いということだ」



男(軟禁していたこの部屋に隣接する祈祷室の女神像に付けられていた宝玉)

男(もし近衛兵長が求めているならば、いくらでも取る機会はあったはずだ)



女友「宝玉の奪い合いこそ無いですが、各地に手の者を向かわせているとなると、今回みたいにまた対峙することがあるでしょうね」

男「帰還派、駐留派、復活派に続くとすると……支配派でいいか。第四の勢力だな」



男(前者三つはクラスメイトだけでなく魔族も含めて実のところこの世界の外から来た者たちである)

男(対して支配派はこの世界に元からいた者で、宝玉も求めていないと対照的だ)

91 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:17:20.13 ID:rxpms8Gr0



女「近衛兵長さん。王国が傭兵さんに昔やった表舞台から消し去ったって話が気になるんですが、詳しくは知らないんですか?」

近衛兵長「断片的な情報しか聞いていない。司祭ならもしかして詳細を知っていたかもしれないが闇の中だ」



男(女の質問に対する近衛兵長の答え)

男(同じ竜闘士として戦ったことのある身だ、気になったのだろう。俺も別れ際の言葉は印象に残っている)





傭兵『それに……個人的にこんな世界など滅ぶべきだと考えている』





男(あの言葉は、その出来事が原因なのだろうか?)

92 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:18:01.39 ID:rxpms8Gr0



女友「ところで話を聞く限りこの人の罪はかなり重いと思うんですが、罰の方はどうするんですか?」

姫「それについてはまだ考慮中ですが……」



男(女友が近衛兵長について姫に聞く。被害を受けた独裁都市の法に則って罰されるべきなのだろうが……)



男「なあ姫、こいつの処遇について俺に任せてもらうってことは可能か?」



姫「……近衛兵長がしてきたことはまだ表に出していません」

姫「全部包み隠さず明かせば、王国はそんなやつ知らない、言い掛かりだと因縁を付けてきて争いになるでしょうから、どうにも慎重に協議しないといけないので」



姫「正直未来について考えたいことが多すぎるので、過去を引きずっている場合じゃないと頭を悩ませています」

姫「そういうところもあって今なら私の一存で動けますし、男さんが対応してくれるならありがたいですが……一体どうするつもりなんですか?」



男「ちょっと考えがあってな」



姫「まあ男さんなら悪いようにはしないとは思いますが……」

姫「あ、そうです。では交換条件を呑んでくれたらってことでいいですか?」



男「俺に出来ることならいいぞ」

姫「大丈夫です。男さんは了承するだけですから」



男(交換条件、了承するだけ。姫が俺に求めることは何だろうかと……まあ姫のことだから悪いようにはしないだろうと――)

93 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:18:27.48 ID:rxpms8Gr0







姫「えっと男さんには死んでもらおうと思ってるんですけど、いいですか?」



男「……は?」







94 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/11(木) 22:20:04.86 ID:rxpms8Gr0
主人公死亡からの打ち切り完結エンドォォォォ!!



……嘘です、普通に続きます。
あと二話くらいで五章が終わる予定です。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/12(金) 02:21:43.99 ID:G8hgyWsoo
乙ー
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/12(金) 04:15:35.93 ID:obhLEDLeO
乙!
97 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 21:57:34.36 ID:iXuWKk1I0
乙、ありがとうございます。

投下します。
98 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 21:59:10.05 ID:iXuWKk1I0



女「ううっ……男君……」

女友「女……悲しまないでください」



女「女友……でも無理だよ。私には受け止めきれない」

女友「そんなの私も一緒です。しかしそれで天国の男さんが喜ぶんですか?」



女「それは……」

女友「私たちは犠牲になった男さんの分まで前に進まないといけないんです」



女「うん、そうだね! 私、頑張るから! 男君どうか見守っていてね……」



女は天を仰ぐ。想いよ届けと願いながら。



99 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 21:59:44.70 ID:iXuWKk1I0



男「……俺はここにいるぞ」



男(茶番に耐えきれなくなった俺は女の隣から声をかけた)



女「待って、男君の声が聞こえる……!」

女友「本当ですか!」

女「うん。えっと……『すまんな、女。でも俺は一生おまえのことを愛してるから』だって!」

女友「もう……死んでからやっと素直になったんですか。本当あまのじゃくですね」



男(二人は幽霊になった俺から声が聞こえた、と茶番を続行する)

男(どうでもいいが死んだのに一生っておかしくないか?)

100 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:00:24.16 ID:iXuWKk1I0

男「はぁ……」

男(二人が何故このような茶番をしているかというと、俺が独裁都市内では死んだことになったのを茶化してだろう)



男(昨日の話し合いの最後に出された姫の『えっと男さんには死んでもらおうと思ってるんですけど、いいですか?』という提案)

男(あれは本当に殺すというわけではなく、死んだ扱いにさせて欲しいという提案だったようだ。それを了承したためこうなっている)



男(現在俺たちがいるのは結婚式の会場ともなった神殿前広場だ)

男(あのときは満員だったが、今日は人がまばらにしかいない)

男(とはいえ死んだことになっている俺の顔を見られてはマズいのでローブに付いたフードを深く被り、女、女友と合わせて三人で聴衆としてこの場にいる)





男(さて何故姫が俺を死んだ扱いにしたかったのかというと、ちょうど壇上で話をしているところだった)

101 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:00:56.47 ID:iXuWKk1I0



姫「一昨日の結婚式。余の伴侶となるはずだった男は襲撃者の手に掛かって……死んでしまった」



男(姫が壇上でワガママな姫様モードながら悲壮感たっぷりに話す)

男(俺が姫と結婚したことは独裁都市中の住民が知っていることだ)

男(実態は司祭と近衛兵長によって強制された結婚なのだが、民はそのことを知らないし姫は今後も明かすつもりもないようだ)



男(俺は宝玉を集めるために今日の午後にもこの都市を出て行くつもりである)

男(となると姫が、あれ旦那さんはどこ行ったの? と疑問に思われるのは当然だ)



男(そのため面倒が無いように俺は死んだということにするらしい)

男(幸いにも結婚式に来ていた観客は襲撃が起きた時点で逃げ出したので俺が最後どうなったかは知らない)

男(近衛兵には姫が直々に事情を説明したようだ)



男(というわけで無事死んだことになった俺だが、これには一石二鳥の効果もあって)

102 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:01:24.26 ID:iXuWKk1I0



姫「余のことを良く思わない輩の犯行に最初は激怒した。それならばさらに民から搾り取ってやるかと」

姫「じゃが、余の腕の中で息も絶え絶えとなった男が言ったんじゃ。『彼らを恨むな。悪いのは姫おまえだ』と」

姫「自分の命が危ないというときに生意気にも余に説教をして」



姫「……じゃが、そうじゃ。男の言ったことは間違っていない。全部悪いのは余じゃと」

姫「すまぬ……今さら謝っても遅いかもしれない。じゃがこれから余は民のための政治を行う」

姫「死んだ男も愛していた、この独裁都市を守っていくために」





男(姫が感情を込めて語るデタラメな話)

男(中々に演技が上手いと思ったが、そもそもワガママな姫自体が演技であることを考えると納得だ)



男(『組織』のやつらは『姫の政治に不満を持って襲撃』と装っていた)

男(それに乗っかり死んだことになった俺との約束で改心したということにする)

男(それで今後は独裁都市のための政治をしていくつもりのようだ)

男(女が助けにくる前に俺が提案した死からの蘇生で改心したことにする策の改良版ということだ)

103 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:02:11.14 ID:iXuWKk1I0

女「でも本当のこと言っちゃ駄目だったの?」

女「今までの行動は司祭さんと近衛兵長さんに強制されていたんです、私は悪くないんです、って」

女「近衛兵長さんが王国の工作員だったって明かすと面倒だからそこだけは伏せておくとして」



男(茶番に飽きたのか普通に話しかけてくる女)



男「独裁都市の民は高い税金や連発された愚策のせいで姫に恨みを持っている」

男「私は悪くなかったんですと言われて納得するやつも中にはいるかもしれないが、『知るかボケ』ってキレる方が多いだろ」



男「それにそもそも釈明して何の得になる。姫が精神的安寧を手に入れるだけでしかないだろ」

男「民には一銭の得にもならない、過ぎた二年間は戻らないんだよ」



女「それはそうかもしれないけど……でも姫さんが悪い印象のままなのはかわいそうだよ」

男「だとしてもあいつはそれを背負っていくって決めたんだ。外野がとやかく言う必要はねえ」



男(結婚式前夜、魅了スキルで聞き出した姫の覚悟は固かった。茨の道だとしても姫ならやれると信じている)

104 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:02:41.91 ID:iXuWKk1I0

女友「まあでもここまで敵意剥き出しだと辛いですね」

男(女友が聴衆を見渡してつぶやく)



男(今まで姫が演説するときはこの広場に詰めきれないほどの人が集まったらしい)

男(というのも集まらなければ処刑だと担当者を脅して必死に集めさせていたからだ)



男(今の姫は当然そんなことはしない。そのため聴衆はまばらだ)

男(集まったのも自主的に演説を聞きに来ようと思った人か、いざ心変わりしたといっても本当は変わっていなくて、行かなければ悪いことが起きるんじゃないかという猜疑心の強いものなどである)



男(そんな中改心したという姫に聴衆から罵声が飛ぶ)



市民1「独裁都市を良くしたいっていうなら、まずおまえが辞めろ!!」

市民2「おまえのせいで何人が死んだっていうんだ!!」

市民3「今までの責任を取れ!!」



男(一人が堰を切ってしまえば後に続くのはすぐだった。壇上の姫に向かって誹謗中傷が雨あられと降り注ぐ)

105 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:03:10.09 ID:iXuWKk1I0

女「酷い……みんなで寄ってたかって……」

男「そう思えるのは俺たちが裏側を知っているからだ」

男「俺たちだってパレードの前、何も知らないときは姫様を悪者扱いしていただろ」



女「それは……」

男「ここまで虐げられてきたんだ。正当な権利だとは言わないが、罵声の一つや二つを投げてしまうのは正直仕方ねえだろ」



男(女を諭しながら、俺は姫の反応をうかがっていた)

男(どんなに辛くても諦めないとは言った。だが、それが現実目の前に起きても貫けるか)





男(見守る中、姫が壇から横に出る)

男(それは聴衆に見えるようにするためだったのだろう――自分が土下座する姿を)



男(流石に土下座しているところに罵声を浴びせるほどの畜生はいなかったようだ)

男(静かになったところで、姫はそのまま口を開く)

106 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:03:40.13 ID:iXuWKk1I0



姫「本当に、本当に申し訳なかった」

姫「どれだけ言葉を尽くしても許せないじゃろう」

姫「責任を取って辞めろという声も当然分かる――」



男(と、そこで姫が身体を起こす)



姫「じゃが辞めるつもりはない。責任を取るつもりが無いわけではなく、逆にここで辞めては無責任だからじゃ」

姫「余のせいで傾いた独裁都市を、余の手で立て直してこそ責任を取ったと言えるじゃろう」



姫「もちろんそれを気にくわなく思う者もおるじゃろう。じゃから余がこの独裁都市のトップとしてふさわしいかは民に直接問う」

姫「定期的に投票を行い、民の半数が余のことをふさわしくないと出た時点で即刻余はこの座から降りる」

姫「余は気づいたんじゃ。この独裁都市を愛していることを。先代、余の母のように独裁都市を今度こそ導いてみせる」



姫「余がワガママ姫と呼ばれているのは知っておる」

姫「そしてこれが余の生涯最後のワガママじゃ、どうか聞き入れてもらえるとありがたい」



男(姫は正面を力強いまなざしで見ながらそこまで言い切ると再び頭を地面に付けた)

107 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:04:09.93 ID:iXuWKk1I0

男(姫の迫力に押されたのかしばらく聴衆は無言だった)

男(しかし時が経つに連れて、発言の意図を理解していくにつれ声が溢れ出す)



市民1「結局権力に縋り付きたいだけじゃねえのか?!」

市民2「投票はいい、だがその結果をどこまで信じられる! どうせ票の不正を行うんだろ!」

市民3「おまえに取れる責任はすぐに辞めることだけだ!!」



男(反発の声は少なくない。どれだけ言葉を飾っても執政者を続けようとするのは、姫の表したとおりワガママだ。許せない者がいて当然)

男(しかし)



市民A「そこまで言うなら……ねえ」

市民B「今の感じからして上っ面だけの言葉だとは思えないし……」

市民C「ちょっとは信じてもいいかも……ちょっとだけど」



男(姫を擁護する声もちらほらだがあるようだ)

108 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:04:39.93 ID:iXuWKk1I0

男「まあこれなら大丈夫だろ」

男(少しだとしても味方がいるなら十分だ)



男(実際姫には王としての資質がある)

男(時間が経つに連れ姫が本当に独裁都市のことを思っていることは民に伝わっていくだろう)



男「これで独裁都市の住民も困らなくなる。女も心配じゃなくなるよな?」

女「あ……男君覚えてたんだ。うん、本当に良かったよ」





男(正常に回り始めた独裁都市)

男(これなら後顧の憂い無く旅立つことが………………いや、一つだけ)





男「そうなるとここでお別れってことだよな」





男(俺の視線の先には聴衆の言葉に真摯に答える姫の姿があった)
109 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/13(土) 22:05:12.77 ID:iXuWKk1I0
続く。

次が五章最終話です。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/14(日) 04:01:14.20 ID:GrD9YtmMo
乙ー
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/14(日) 09:55:34.43 ID:QTrO+HQw0
乙!
112 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:02:58.45 ID:FO9SZp+C0
乙、ありがとうございます。

5章最終話投下します。
113 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:04:26.32 ID:FO9SZp+C0

女(姫様の演説の後、時間を置いてから私たちは神殿最上階の執務室に向かっていた)

女(これから私たちはまた次の目的地に向かう)

女(その前に姫様がお礼とお別れの言葉を述べたいということで招かれていたのだ)

女(ただ)



女「そんなの無視して出発すればいいのに……」

男「何言ってんだよ、女。世話になったのに何も言わずに去るのは礼儀知らずだろ」



女(男君が至極真っ当なことを言う)

女(私だってそんなことは分かっている。男君が生き残ることが出来たのも、姫様と二人で協力したおかげだ)

女(そのことについては感謝している)



女(しかし、姫様は男君のことが好きだ。魅了スキルのせいだとしても、私のライバルであることには変わりない)

女(お別れの際に何かするのではないかと私は戦々恐々していた)



女友「はぁ……女も大人げないですね」

女「ど、どういう意味よ!?」

女友「そのままですよ。あまりおどおどせず、どっしりと構えてください」

女「……?」



女(馬鹿にされたと思ってつい声を荒げたけど、女友はどちらかというと呆れているようで首をひねる)

女(しばらくして執務室にたどり着き中に入った)

114 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:04:59.43 ID:FO9SZp+C0

男「よっ、姫邪魔するぞ」

姫「男さん!」

男「演説聞いたぞ」

姫「私も壇上から男さんの姿は見えていました!」



男「そうか。内容も中々良かったんじゃないか。もちろんこれからが大事だとは思うが」

姫「分かっています。この後も早速関係各所との話し合いがあって……」

姫「これでお別れなのにあまり時間が取れないのが残念です。もっとたくさんお話したいのに」



女(来客を感知した姫様がそそくさと立ち上がり男君の元に向かう)

女(んー、何か二人のムードが……)



男「二人で軟禁された一週間で十分満足するくらい話したと思うが。あのときは本当一日中暇を持て余していたし」

姫「それでもまだ足りないんです! ……ねえ、男さん。やっぱり考え直しませんか?」

男「その話こそ何回もしたじゃねえか」

姫「だとしても諦めきれないんです。男さん、これからも独裁都市に住んで、私と一緒に――」

115 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:07:20.91 ID:FO9SZp+C0



女「駄目ぇぇぇぇっ!!」

女(今にも抱きつこうとしていた姫様と男君の間に私は割って入った)



女「そんなの絶対駄目だから! 男君はこれからも私と一緒に旅をするの!」

姫「それを決めるのは男さんでしょう。何の権限があって男さんの行動を強制するんですか?」



女(良いところに邪魔が入った姫様はムッとした表情でこっちを見てくる)



男「コラコラ、二人とも争うなって」

男「すまんが姫、何度言われても俺の答えは変わらない」

男「俺は女たちと共に宝玉を集めるためこの都市を出て行く」



女「男君……!」

姫「っ……そうですか」



女(歓喜に染まる私と落胆する姫様)

116 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:09:00.28 ID:FO9SZp+C0

男「元の世界に戻るためだ、分かってくれ姫」

姫「……そんなの分かっています。でも、だとしたらこれが今生の別れということに……」



男「え、何言ってるんだ?」

姫「え?」



男「元の世界に戻る前にまた会いに来るに決まってるだろ。独裁都市がどうなるかも気になるしな」



姫「本当ですか!?」

女「ちょ、ちょっと男君!? 何言ってるの!?」



女(歓喜に染まる姫様と焦燥する私)



男「いや、宝玉を集めるのは駐留派と復活派がいることから急務だろ」

男「でもだからって集めた後に戻ることまで急がないといけないわけではない」

男「今まで回ってきた町を再訪するくらいのことはしたいって最初から思ってたし」



女友「そうですね。独裁都市だけでなく、最初の村や商業都市あたりもでしょうか」

女友「私たちを支援してくれた村長さんや古参商会長にもお礼を言いたいですし」

男「おお、そうだな。女友の言うとおりだ」



女「女友っ!?」

女(親友に背後から撃たれた格好だ)

117 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:09:53.93 ID:FO9SZp+C0



姫「分かりました! ではまた男さんが会いに来る日をお待ちしています!」

姫「もちろんそのときになって独裁都市に住みたい、私と一緒になりたいと心が変わったとしても、私は全然オーケーですからね!」



女「またそんなことを言って……うふふっ、知ってる? しつこい女は嫌われるのよ?」

姫「知ってますよぉ、嫉妬深い女が嫌われるってことくらい」



女(ぶちっ、と頭の中で何かがちぎれ飛ぶ音を幻聴した)



女「……ねえ、男君。ちょっとの間席を外していてくれない?」

姫「奇遇ですね、私も頼もうと思っていました」



女(醜い言い争いになることを予想した私は、それを見られないように男君に提案する。姫様も同じようだ)



男「お、おう……それくらいいいけど。あまり熱くなるなよ。女友はもしものときのブレーキ役頼む」

女友「頼まれました。その間男さんはどちらに?」

男「ちょうどいいから独房区画に行ってくる。出発前には戻ってくるつもりだから」

女友「なるほど、分かりました」



女(男君が執務室を出て行く)

女(バタン、とその扉の閉まる音が開戦のゴングだ)

118 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:11:05.93 ID:FO9SZp+C0



女「じゃあ言わせてもらうけど――」

姫「何でしょうか、本当は魅了スキルにかかっていない女さん」

女「な、何を言って……!?」



女(先制のジャブを放とうとした私は、カウンターのストレートにいきなり被弾した)



姫「あれ、違いましたか? てっきりその話をするために男さんを追い出したのかと思いましたが」

女「そんなわけないでしょ! だ、大体何を勘違いしているのか知らないけど、私は『状態異常耐性』スキルのおかげで魅了スキルが中途半端にかかっているだけで」



姫「それが嘘だとは女友の口から聞いてますよ」

女「ちょっと、女友!?」

女友「私は悪くありません。姫に悟られる女が悪いんです」



女(くわっと目を見開いて親友を睨むと、口笛を吹きながらそっぽを向いているところだった)

女(そういえば昨日から二人が名前で呼び合っていて気になったけど、二人が何らかの理由で親しくなっていてそのときに私の秘密の話をしたのかもしれない)

119 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:12:32.51 ID:FO9SZp+C0

女友「姫も女をあまりいじめないであげてください。その役目は私のものです」

女「あんたのものでも無いわよ!!」

姫「了解です。しかしここまで反応が面白いといじめたくなる気持ちも分かりますね」

女「分かるな!!」



女(私の頭上ごしに広げられる勝手な会話)

女(気づけば先ほどまでの緊迫ムードが霧散している)



女「で、でもどうして私が魅了スキルがかかってないって分かって……」

姫「見れば分かります。だって二人ともお似合いなんですもの」

女「お似合いって……」

姫「なのに私がちょっかいかけたくらいで取り乱して……本当大人げないです」



女(呆れたように首を振る姫様。展開に付いていけずポカンとなる私)

120 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:13:57.66 ID:FO9SZp+C0

女「どういうこと、女友?」

女友「女だって気づいているんでしょう。結婚式で助けて以来、男さんといい感じなことを」

女「それは……」



女(女友に言われるまでもなくだった)

女(男君との距離が近くなった感じはしていた)

女(ただ本当にそうなのか、私の自意識過剰かもしれないと表には出していなかったけど……)



姫「一緒に軟禁されている間も、男さんは女さんが助けに来るかずっと気にしている様子でした」

姫「それが本当に助けに来たものだから心を開いたというところでしょう」



女「……もう男君ったら」



女(この期に及んで男君は私に裏切られるかもしれないと不安に思っていたようだ。そんなことあるはずないのに)

121 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:14:52.64 ID:FO9SZp+C0





姫「お似合いの二人の強固な関係に、私は自ら身を引くことにしたんです」

姫「だからというわけではないですが、ちょっとくらいイジワルしてしまったのも流してください」





女(姫様が頭を下げる。そういうことなら私も正妻の余裕として流してやっても――)





女友「あれ? でもこの前姫も諦めないという話をしたばかりですよね?」

女「どういうこと?」





姫「――てへっ、バレましたか」

女(顔を上げた姫様は舌を出している)

122 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:16:04.49 ID:FO9SZp+C0



姫「男さんがまた会いに来るって話ですし、女さんを油断させておいてそのときに奪おうと思ったんですが……」

女「ふふっ、再訪するときには私と男君はラブラブな恋人になってるでしょうから」

女「姫様……いや姫さんの割り込む隙はありませんよ」



女(こんな人を食ったような少女に様をつけるのもバカバカしくなりさん付けで呼ぶ)



姫「それはどうでしょうか。未だに魅了スキルにかかっていると男さんに嘘を付いているような女さんに成し遂げられるとは思いませんね」

女「ぐっ……それは……」



姫「武士の情けで男さんには告げ口しないであげますが、また会うときに男さんがフリーなら本気で落としにかかりますからね」

女「……分かったわ」



女(姫さんの言葉は本気なのか、中々一歩踏み出せない私への発破なのか……判断は付かないけど、私の心に火が付いたのは確かだ)

123 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:16:36.62 ID:FO9SZp+C0



女友「さて。それはそれとして、戻ってくるまで男さんの話でもしませんか」

女友「軟禁中男さんがどんな様子だったか気になりますし、姫も男さんの話が聞きたいでしょう?」



女(女友が柏手を打ってから提案する)



女「それは気になるけど……」

姫「私もですね。一通りは本人から聞いたんですけど、自分の恥ずかしいところは絶妙に隠している様子でしたし」

女友「話が付きましたね。ちょっとミニキッチン借ります、お茶を入れたいので」



女(それからは女友の入れてくれたお茶を片手に、同じ人を好きになった者同士話が弾み)

女(先ほどまで言い争っていたとは思えないほどに穏やかな時間が過ぎていった)



124 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:18:32.72 ID:FO9SZp+C0



近衛兵「はっ、男殿。何か御用でしょうか!」

男「そんな敬礼までしなくても。この先の独房に用があるんですが」

近衛兵「承知しました。鍵を開けます!」



男(敬礼する近衛兵に若干引きながら俺は用件を伝える)

男(市民には死んだと伝えられたが、近衛兵は俺が生きていることを知っている)

男(姫がどのように伝えたのかは分からないが、俺の扱いは独裁都市トップの姫同様なほどであった)

男(ここに来るまでにあった近衛兵にも敬礼されたし)



近衛兵「全員房の中にいるので危険はないと思いますが近づきすぎないようにしてください!」

男「分かっています。それと近衛兵長については……」

近衛兵「兵長もまた男殿と同様に死んだ扱いになっているため、夜になって人目が少なくなってから動くつもりですが」

男「それなら大丈夫です。俺たちはこの後出発するつもりなので全ておまかせします」

近衛兵「はっ、承知しました!!」



男(一々リアクションの大きい近衛兵を置いて俺は独房が並ぶ通路を歩く)

125 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:19:14.25 ID:FO9SZp+C0

男(神殿内にあるこの独房は政治的に明るみに出せない者など特別な者を収容するために市民にも極秘に存在するそうだ)

男(結婚式のときに捕まえた『組織』の一般構成員は都市内にある普通の刑務所に入れられているが)

男(団結されないように離す意味でまとめ役であったクラスメイトたちや近衛兵長はこの独房に入れられているという。



男「つっても捕まったクラスメイトは二人だけだったんだよな……」



男(俺たちに対峙した太ったクラスメイトとめがねをかけたクラスメイトだけで)

男(女友が対峙したらしいギャルともう一人には逃げられたそうだ)



男(ということは宝玉を奪い争う相手である以上、また会う可能性はあるだろうが……)



男「そういえばギャルについては、女友が気になることを言っていたな……」



男(イケメンに騙されて利用されているだけかと思いきや、そのことを分かっている様子だったと)

男(そうでもしないとイケメンに見てもらえないからと言ったそうだが)



男「だとしたら…………まあ、今は関係ないか」

126 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:19:54.01 ID:FO9SZp+C0

男(近衛兵長は独房の最奥に収容されているようだ。かなり歩かされる)

男(一人で話す相手もいないためつれづれと思考が流れる)



男(そういえば次の目的地に行くとは言ったが、まだどこに行くかは聞いていないな。後で女友に聞いておかないと)

男(まあどんな場所だろうと大丈夫だ)

男(竜闘士の女と魅了スキルを持つ俺、幅広くサポート出来る女友の三人が入ればそう簡単に遅れを取るとは思えない)



男「………………」



男(女……女には今回の出来事を経て俺の中で大きく心象が変化したことを自覚している)

男(これまでだって信用はしていた。だが今は信頼できている。女にだったらためらわずに背中を預けられる)



男(そうだ、今回はわざわざ俺のために助けに来るなんてこともしたのだ)

男(しかも魅了スキルの命令をものともとしなかったことから、女自身が助けに来ようと思ったというわけだ)

男(そんな相手に騙されるなんて想像する方が馬鹿げている)



男(ただ一つ残念だとしたらその好意が魅了スキルによるものだということだ)

男(もし本当に女に好かれていたとしたら…………俺は……)

127 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:21:57.62 ID:FO9SZp+C0



近衛兵長「ニヤニヤしながら歩いてどうした?」

男「っ……!」



男(冷やかすような声をかけられる)

男(いつの間にか目的地に着いていたようだ)



男「おまえには関係ないだろ、近衛兵長」

近衛兵長「察するに恋愛ごとではないのか? だとしたら関係あるだろう。私はおまえの虜なのだからな」

男「……命令だ、これ以上下らないことを話すな」

近衛兵長「やれやれすぐ命令か。まあいい、ならば本題に入ってもらおうか」



男(近衛兵長は房の中から俺を揶揄するように笑っていた)

128 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:22:25.48 ID:FO9SZp+C0



男「ここに来たのは最終確認だ。これからおまえにしてもらうことのな」

男(近衛兵長に急かされるまでもなく、こいつと無駄話をするつもりはない。俺は早速本題に入る)



男(こいつを使って何をするつもりなのか、それには一つ警戒しているものが元になっている)

男(今回争うことになった王国。この世界の支配をもたらす彼の国とは、今後も関わることがあるかもしれない)

男(なのに無警戒でいるわけにはいかない。やれることはやっておく)

男(どのように動いているのか、その手の内を探るために――)





男「近衛兵長、おまえを逆スパイとして王国に潜入させる。王国の黒い部分には詳しいだろうしな」

近衛兵長「最初はこのまま処刑されるかと思っていたが……本当こうなるとはな」





男(俺は近衛兵長を見下ろす)

129 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:24:44.09 ID:FO9SZp+C0



男「もちろん拒否権は無い。おまえには徹底的に王国を裏切ってもらう」

男「そのためにありとあらゆる命令を既に施してある」



男(工作員としておそらく敵に囚われた場合の想定はあるのだろう)

男(何らかの符丁で自分の状況を知らせたり、助けを呼んだりなど)

男(その全てを魅了スキルの命令で封じる。姫から近衛兵長の扱いを預かって以来、時間を見ては命令をしておいてある)



近衛兵長「やれやれ手厳しい。王国に忠誠を誓った私が裏切り者になるとは」

近衛兵長「だが王国の方は裏切り者を始末することを躊躇しないぞ、私が魅了スキルで操られていることなどお構いなしだろう」



男「だろうな、だからおまえには最大限努力して王国を探るように命令する」

男「手を抜いてわざと捕まり王国のために命を殉じることも許させない」



男「それでも相手の方が上手で捕まってしまった場合は――そのまま死ね」




男(こいつは独裁都市を混乱させただけでなく、何人も殺した極悪人だ。その命令をすることに躊躇いは一切無い)

130 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:25:16.49 ID:FO9SZp+C0



近衛兵長「承知した、新しき主よ」



男(殊勝に従っているように見えて、こいつの心は未だに王国を崇拝しているだろう)

男(命令は解釈の余地が無いくらいに雁字搦めにしておかないと寝首をかかれるかもしれない)

男(その確認にやってきたのだ)



男(これまでにかけておいた命令を近衛兵長の口から復唱させる)

男(基本的には王国のことを調べさせて、俺たちに定期的に連絡するようにという命令だ)

男(だがあらゆる状況に対応できるように命令は多岐に渡っている)

男(考え得る限り大丈夫だと判断した俺は確認を終了した)



男「じゃあ今日の夜から行動開始だ。近衛兵の手引きに従って王国を目指せ」

男「有用な情報を少しでも掴めるようせいぜい頑張るんだな」



近衛兵長「人使いが荒いな。これなら前の職場の方がホワイトなくらいだ」

男「恨むなら魅了スキルにかかった自分を恨め」

131 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:26:33.32 ID:FO9SZp+C0



近衛兵長「……本当にそうだな。実際食らっても私が虜になるとは思っていなかった」

近衛兵長「もう少し本気で対策しておくべきだったか」



男「……?」



男(食らっても虜になるとは思わなかった……とはどういうことだろうか?)

男(いや、そういえば俺と姫が軟禁されているときに、やつはやけに強気にかからないと言っていた)



近衛兵長『それに……どうせまともに食らっても、私が貴様の虜になるとは思えん』



男(やつには何らかの虜にならないと思う理由があったとしたら……)



男「それはどういう意味だ? 魅了スキルの効果対象のことか?」

男「自分が『魅力的な異性』に当てはまらないと思っていたとか」



近衛兵長「何を言う。私ほど魅力的な女はいないだろう。柄ではないがハニートラップをこなしたこともあるぞ」

男「そんなこと知らねえよ。だったらどうして虜にならないと思ったんだ?」



男(近衛兵長の自信の源が気になり聞き出そうとして――)

132 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:27:15.05 ID:FO9SZp+C0





近衛兵長「『状態異常耐性』スキルだ」

近衛兵長「聖騎士に備わっているスキルで……そういえば貴様の仲間の竜闘士も持っていたんだったか」



近衛兵長「このスキルのおかげで私は並大抵の状態異常にはかからない」



近衛兵長「だから虜状態にもならないと思っていたが……」

近衛兵長「いや、そもそも固有スキル相手に普通のスキルで敵うと思ったのが間違いだったか」





男「………………は?」

男(俺の思考は完全に停止した)





133 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:28:22.88 ID:FO9SZp+C0



男「………………」



男(『状態異常耐性』スキル)

男(そのスキルは竜闘士の女に俺の魅了スキルが中途半端にかかっている理由のはずだ)

男(それなのに同じスキルを持っている近衛兵長には完全に魅了スキルがかかっている)



男「おまえっ!! それは本当なのか!?」

近衛兵長「……? 本当だが……何故動揺している?」



男(激しく狼狽えている俺に、近衛兵長の方が困惑しているようだ)

134 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:29:27.19 ID:FO9SZp+C0



男「………………」

男(落ち着いて考えろ)



男(女と俺の事情を知った近衛兵長が騙している……この可能性はない)

男(近衛兵長が俺たちの事情を知っているなら手紙のからくりに気付いただろうし)

男(女や女友が近衛兵長にわざわざその話をするとも思えない)



男(そもそも魅了スキルがかかっている近衛兵長が俺に逆らうことが出来ない)

男(近衛兵長自身も特に意図することがあってスキルのことを話したのではないようだ)





男(だとしたら――信じたくない、考えたくもない)

男(だが残された可能性は……)

135 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:30:22.46 ID:FO9SZp+C0








男「女が俺に嘘を吐いている……のか?」







男(女なら信じられると……共に進んでいくその先には輝かしいイメージがあったのに)

男(今や暗雲がかかっていた)

136 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/15(月) 13:31:29.66 ID:FO9SZp+C0

5章『独裁都市・少女姫』完結です。
開始からちょうど三か月かかって、約17万文字とこれまで以上に長い話となりました。

今回の話は『まさかヤンデレなのか!?』と『結婚式に乱入する主人公(ヒロイン)』をやりたくて構成しました。
姫様とはここで一旦お別れですが、その内また出番がある予定です。



6章は3歩進んだのに4歩戻りそうな男と女の関係にクローズアップして描く予定です。
8月を目標に戻ってくるつもりです。



乙や感想などもらえると作者がむせび泣いて喜ぶのでどうかよろしくお願いします。
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 17:55:16.87 ID:Ju8Z49gj0
乙!
この章も楽しませてもらいました!
次の章も楽しみに待ってます!!
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/15(月) 18:38:28.62 ID:QwdUaM9PO
乙ー
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 19:29:27.03 ID:lWQS7Jq00
乙ー
ネガティブな男さんが帰ってきたな!
次の章に期待
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/22(月) 20:37:19.63 ID:haO8NIQz0

ついに、魅了スキルにかかっていないことがバレてしまうのか!
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