男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目

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1 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:47:41.31 ID:TTVCF0vB0

この話はクラスメイト丸ごと異世界召喚された主人公の高校生『男』が元の世界に戻るために奮闘する冒険ファンタジー時々ラブコメな話です。



以下、物語序盤の簡単な流れ。

クラスメイト全員と異世界に召喚された男

召喚された際に全員不思議な力を授かっていて、男はその中でも特異な魅了スキルを授かっていた

そのスキルを誤って発動させるとクラスメイトの『女』とその親友『女友』が虜になる

しかし男は恋愛がトラウマになるような過去を持っており、二人に迫られるその状況から逃げ出してしまう

逃げ出した先に現れたのはクラスメイトの『イケメン』。イケメンは魅了スキルを持った男を、女性を支配出来る道具として見ており、力でもって男を屈服させようとする

抵抗も出来ず男が諦めかけたそのとき女が助けに入る。その身に授かった力でイケメンを退ける。

男は助けてもらった恩として、女の求めに応じパーティーを組むことを了承。女友も加えて三人で元の世界に戻るため異世界での冒険が始まった。



と、大体こんな感じです。
気になった方は下の1スレ目から読んでください。このスレは3スレ目です。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1541083316/


この作品は『小説家になろう』でも投稿しています。なろう版はこちらです。
http://ncode.syosetu.com/n3495fc/



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1561906061
2 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:50:07.44 ID:TTVCF0vB0

ここからは既に読んでいる方向けの振り返り用の人物・キーワード紹介です。
紹介文は全て現時点、五章途中時点での内容です。


帰還派……元の世界に戻るため宝玉を集めるクラスメイトたち。古参商会がバックアップしている。


この作品の主人公。どんな異性も虜にして命令に従わせる魅了スキルを持つ(条件あり)恋愛アンチだが、徐々に改善されている様子も見られている。


この作品のヒロイン兼第二主人公。その身に授かった竜闘士の力は、比類する者がほとんどいない強さである。
男のことが異世界に来る前から好きなため、魅了スキルの条件により虜にならなかったが、それを明かすと好きであることがバレるため、虜になっているフリをしているというややこしい状況である。

女友
女の親友でパーティーの一員。魔導士であり、様々な魔法を使える。
女の事情を全て分かっておりからかったりアシストしたりする役得かと思えば、放っておくとすぐに悩みを抱える二人のサポートに忙しく実は苦労人である。

気弱
4章武闘大会で出会ったクラスメイトの少年。騎士の職を持つ。
気が弱いがやるときはやる。姉御に想いを伝えて現在ではカップルに。志を新たにして元の世界に戻るために奮闘している。

姉御
4章武闘大会で出会ったクラスメイトの少女。職は癒し手。
姉御肌の豪快な少女とみせかけて、乙女な一面も持つ。気弱と付き合ってからはその面が顕著に表れるようになった。

3 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:51:03.96 ID:TTVCF0vB0

駐留派……授かった力でもって異世界で好き勝手して生きていこうというクラスメイトたち。男の魅了スキルを狙う者たちとイケメンに協力するよう囁かれた者たちがいる。
異世界での地盤を確保するため『組織』という犯罪結社の一員になっている。



イケメン
駐留派の中核。男の魅了スキルを手に入れて、女を支配することを狙っている。
職は影使いで普通のクラスメイトとは一線を画する力を持つ。しかし女の竜闘士はその更に上を行くため、対抗するために宝玉を集めて悪魔を呼び出そうとしている。

チャラ男
4章武闘大会で登場、イケメンとは親友。職は盗賊。
面倒なことは御免がモットー。恋愛観も同様のため、付き合ったり別れたりを繰り返している。そこが一人の女に執着するイケメンとは決定的に違う点。

ギャル
イケメンの彼女で心底から惚れているが、当のイケメンは見てくれだけはいいからキープしているという扱い。
『組織』の仕事として以下の三人と共に独裁都市に出張っている。

デブ
クラスメイトの一人。魅了スキルのおこぼれに預かるためイケメンに協力中。

メガネ
クラスメイトの一人。イケメンに騙され協力中。

レズ
クラスメイトの一人。女でありながら女が好きなため、魅了スキルのおこぼれに預かるためイケメンに協力中。

4 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:52:38.15 ID:TTVCF0vB0

復活派……宝玉を使って現在虚無の世界に封印された魔神を蘇らせようとしている。



魔族
太古の昔、魔神と共にこの異世界を滅ぼしかけた一人。魔神が封印された後、元いた世界に戻った他の魔族とは違ってこの世界に一人残った。
種族として固有スキルという他とは一線を画す力をそれぞれ持つ。この魔族が持つのは『変身』で看破することが不可能な隠蔽スキル。
濃い褐色肌で頭には二本の角が付いている女性。



傭兵
先の大戦で英雄的な活躍をしたが、その後行方不明となっていた。武闘大会にてその姿が久しぶりに確認される。
職は竜闘士で、同じ力を持つ女と力は同等。
最終的に世界を滅ぼすつもりの魔族に協力している。
歳30は過ぎたおっさん。

滅んだ故郷、王国との関わり、魔族とどう出会ったのか、などは今後語っていく予定。

5 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:53:44.59 ID:TTVCF0vB0

キーワード



女神
太古の昔、仲間と協力して魔神を封印した一人の女性。魅了スキルの持ち主だった。
その功績から女神教という彼女を称える宗教が存在する。
男たちクラスメイトをこの世界に召喚したその人。



魔神
太古の昔、この世界を滅亡寸前まで追い込んだ存在。そのときの出来事は『災い』と呼ばれている。
現在魔族が復活させようとしている。



世界
男たちが元いた世界、召喚された異世界、その他にも世界とは数多に存在する。



宝玉
世界を渡る力を持つ物質。数を集めることで力が増すという性質から、一カ所にまとめて保管しては危険と、各地の教会の女神像につけられて分散管理されていた。

二つからゲートを開くことが出来るが、繋がる先の世界を指定することが出来ない。
四つで繋がる先の世界にどれだけの力があるのか、繁栄しているのか指定できる。
六つで完全にどの世界に繋がるか指定できる。しかし不安定のためわたれる人間は一人か二人が限度。
八つでゲートが安定して多数の人間でも通れる。
十個で高位存在を呼び出せる。
十二で神も呼び出すことが出来る。



強さ
異世界での強さは職に依存し、大まかな階層がある。

伝説級……女や傭兵の竜闘士が該当。
最強級……女友の魔導士やイケメンの影使いが該当。
達人級……その他クラスメイトが該当。
一般級……異世界の一般人の強さ。

男は戦う力を持っていないためさらにその下となる。

6 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:54:24.99 ID:TTVCF0vB0

というわけで振り返りはここまでです。

ここからは本編、5章独裁都市編の二スレ目からの続きになります。



それではどうぞ。

7 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:55:03.09 ID:TTVCF0vB0

男(現れた事態の元凶とクラスメイト二人)

男(近衛兵長は俺に問いかける)



近衛兵長「竜闘士……手紙によってこの都市を出て行った姿は部下に確認させていた」

近衛兵長「なのにどうしてこの場にいる? 貴様が何かしたのか?」



男「俺がしたことはちょっとした仕掛けだけ。後は全部女の功績だ」



男(手紙に関係なさそうな命令を追加することで、自分の陥った現状を知らせ助けに来れる状況を作ったが)

男(女の助けたいという気持ちが無ければ全部水泡に帰していた)



女「も、もう……そんな照れるよ〜」

男(らしくない俺の褒め言葉にこそばゆそうにしている女に)



メガネ「女……あなた本当に変わったわね」

男(メガネは苦々しい面持ちだ)

8 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:55:44.60 ID:TTVCF0vB0

女「変わったってどういうこと?」



メガネ「それも分からないようじゃ重症よ!」

メガネ「どうしてそんな冴えない男に惚れている現状がおかしいと思わないのよ!」



女「……」



メガネ「魅了スキルが全部あなたを狂わせたんだわ!」

メガネ「私が駐留派に入ったのは一番にイケメン様のため、そして二番目はあなたを解放するというその意志に賛同したからよ!」



男(おそらく異世界に来る以前の女と交流があったのだろう)

男(メガネの叫びに、俺は心の中で「さもありなん」と同意する)



男(俺が冴えない男だというディスリは俺自身が認めるし)

男(そんなやつに惚れさせられてる状況を見れば助けようという気持ちは分かるところだ)



男(俺だって魅了スキルが解除出来るなら今すぐにでも解除を………………うん、まあ)

9 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:56:19.49 ID:TTVCF0vB0



女「そうね、私が魅了スキルにかかっているってことを考えればメガネの気持ちも納得出来る」



男(心の中で言い淀んでいると、女は正面からメガネを見据えていた)



女「でもね。それを差し引いて考えても……他人の想いを否定する権利なんて誰にもあるわけが無いのよ!」

メガネ「だからそう思っていること事態が魅了スキルの影響だわ!!」



男(女の主張は納得できる)

男(しかし、俺の魅了スキルはその想いすら変えてしまうため、メガネの主張も否定できない)





女「……ごめんね、メガネ。私が悪いのに心配させて」

女「本当は事情を明かすべきなんだろうけど、今のあなたとは対峙する立場だから……」



男(女が何かぼそっと呟くが聞き取れない。苦渋の表情を見るに自嘲の言葉だろうか)

10 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:57:18.01 ID:TTVCF0vB0



デブ「そんなことより近衛兵長さん! 司祭はどこに行ったか聞いていないか!」

デブ「あの人が警備の誘導をしてわざと穴を作る予定だったはずだ!」

デブ「なのにその仕事を放棄したせいで、部下が想定以上に損耗している!」



男(太った少年が近衛兵長に食ってかかる)



男(その言葉に俺も結婚式始まってからずっと司祭の姿を見ていないことに気付く)

男(同じ陣営なのにこのタイミングで聞く少年からして、俺たちの前には三人一緒に現れたがちょうど合流直後で話す時間が無かったというところだろうか)



男(少年の激しい剣幕も何のその、近衛兵長は涼しい顔して衝撃の言葉を吐いた)

11 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:57:48.52 ID:TTVCF0vB0



近衛兵長「司祭か……やつは死んだぞ」

デブ「……なっ!?」



近衛兵長「正確には私が殺した、だがな」

デブ「ど、どうして……」

近衛兵長「さあな。事情を教えることは契約に含まれていないはずだ」





男「……」

男(独裁都市と『組織』が一枚岩ではないとは思っていた)

男(しかし、近衛兵長が司祭を殺したとなると独裁都市内も一枚岩では無かったようだ)



男(近衛兵長はこれまでに何人も殺しを行ってきた。それが今さら一人増えたところで驚くことはない)

男(だが、どうして司祭を殺したんだ? 付き従っていたのはフリなのか? 裏切るにしてもどうしてこのタイミングで……?)



男(考えても分からないことばかり。そして近衛兵長も説明するつもりは無さそうだ)

12 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:58:25.05 ID:TTVCF0vB0



近衛兵長「竜闘士の乱入は予想外だったが、やるべきことは変わりない」

近衛兵長「姫様、あなたの命を貰い受けます」



姫「ひっ……」

男(近衛兵長の殺気に姫は短く悲鳴をあげて、俺の後ろに隠れる)



男「いや、俺を盾にされても庇いきれないんだが……」

男(おそらく俺ごと貫かれるのがオチだろう)



姫「そ、そう言われましても……!」

男(震える姫が後ろから抱きついてくる。それだけ恐怖を覚えたのだろうが、動きにくい上に……)



女「ねえ男君、よく分からないけど敵の狙いって姫様なんでしょ。今からでも差し出して逃げようよ」



男(女がじとーっ、とした目で見てきて何とも罪悪感を刺激される)

男(その言葉は冗談のはずだ…………本気じゃないよな?)



男(戦場でいちゃついてるとも取れる行動に怒っているのが半分、もう半分はヤキモチだろう)

13 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:59:11.95 ID:TTVCF0vB0



近衛兵長「何を言っている。私の狙いはそちらの少年もだ」

近衛兵長「魅了スキル、その規格外の力に我が主の覇道が邪魔される可能性を摘んでおくためにもな」



男(近衛兵長が俺にも殺意を向ける)

男(監禁していた間は構うのも面倒だから殺すという感じだったはずだが、今は明確に俺相手に殺意を向けている)



男(我が主……殺された司祭ではないはず。一体誰なのか?)

男(近衛兵長に何らかの背景があることは間違いない。色々と聞き出してみたいが……)





デブ「どういうことですか、男を殺すって!?」

男(その発言に敵対する陣営であるはずの太った少年の方が動揺していた)



メガネ「何言ってるの、デブ。どうせあいつは魅了スキルの力で女に命令していかがわしい行為をしたに違いないわ」

メガネ「汚らわしい……そんなハレンチなやつ、死刑よ、死刑」



男(メガネをくいっと上げ、俺を見下すメガネ)

男(全くの濡れ衣なのだが、思春期の少年が異性を好き勝手出来るとあって何もしていないと主張しても信じられないだろうことは理解している)

14 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/06/30(日) 23:59:44.70 ID:TTVCF0vB0

男(しかしあのデブが動揺している理由は……そうか、やつはおそらくイケメンと同じ目論見なのだろう)

男(俺の魅了スキルを手に入れて女性を好き勝手支配したいと)

男(だから近衛兵長に俺を殺されては困ると)



近衛兵長「……いいだろう。可能ならばあの少年は生け捕りにする」

近衛兵長「『組織』に借りを作っておけば今後も便利だろうしな。交渉は後ほどだ」



男(近衛兵長はそれを汲み取ったのかは分からないが、方針を変更した)





女「さっきから勝手なことを」

女「男君を殺すだったり、生け捕りにするだったり……そんなことさせるわけないでしょ!」



男(女が激高する。俺を守るように前に立って絶対に退かない覚悟のようだ)



近衛兵長「二人とも下がれ。少女の方は結界の維持に努めろ。やつらに逃げられたくない。少年はその護衛だ」



男(近衛兵長もデブとメガネの前に立つ)

男(どうやら一騎打ちの様相のようだ)

15 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/01(月) 00:00:30.07 ID:p3RZb0+r0



男(女が拳を構える。近衛兵長が剣を構える)

男(緊張感が高まる中、女が口を開いた)



女「構えを見ただけで分かります。厳しい鍛錬を積んできたことと相当な強さを」

近衛兵長「竜闘士に言われると皮肉だとしか思えないな」

女「あなたの力は正道の物です。なのにどうしてこんなに人を殺して……邪道なことをしているんですか!?」

近衛兵長「知りたければ勝ってこの身を拷問にでもかけろ。吐くつもりは無いがな」



男(近衛兵長が冷たく言い放つ。会話はここまでのようだ)

16 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/01(月) 00:01:00.68 ID:p3RZb0+r0





女「分かりました。その行動には納得行きませんが、力に敬意を表して名乗りを。竜闘士の女、参ります!!」



近衛兵長「……いいだろう。聖騎士の近衛兵長、参る!!」





男(こうして竜闘士と聖騎士。この独裁都市の運命を賭けた一戦が始まった)



17 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/01(月) 00:01:50.36 ID:p3RZb0+r0
続く。

投下遅くなり申し訳ありません。
次は水曜日に投下します。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/01(月) 01:44:52.72 ID:CYC62Hoa0
乙!
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/01(月) 02:00:55.21 ID:zuyPA6ZIO
乙ー
20 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/03(水) 23:27:46.20 ID:sx+cbxUe0
乙、ありがとうございます。

投下します。
21 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/03(水) 23:28:21.57 ID:sx+cbxUe0

男(竜闘士対聖騎士)

男(初動は竜闘士からだった)



女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」

男(女は指向性の衝撃波を近衛兵長に向けて放つ)



近衛兵長「っ……!」

男(近衛兵長は左手に装備した盾で防御をする。少し押されて後退したがダメージは無さそうだ)



男(勝負前に言っていた近衛兵長の聖騎士という職)

男(名前からして騎士の上位職だとすると、防御は得意なのだろう)

男(武闘大会で竜闘士傭兵の猛攻を粘り強く耐えた気弱のことを思い出す)

22 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/03(水) 23:29:06.22 ID:sx+cbxUe0



女「防御は固そうね……でも、一気に勝負を決めさせてもらうよ!」

女「『竜の息吹(ドラゴンブレス)』!!」



男(追尾するエネルギーの球体をばらまいて、自身は特攻する女)



近衛兵長「くっ……」

男(近衛兵長はその一つ一つの対処に追われて女の接近を止めることが出来ない)





男「明確な力量差があるな……」

男(俺の見立てではあるが近衛兵長はかなり強い。魔導士の女友や影使いのイケメン同様に最強級の力はあるだろう)

男(しかし、女はそのさらに上を行く伝説級の力の持ち主だ)



男(武闘大会では同格の傭兵さんに敗北こそしたものの、その敗戦によるショックは些かも感じられない)

男(俺を守るという意志の元、気力も十分のようだ)

男(いわば完全体である女が近衛兵長に遅れを取るとは思えない。赤子の手を捻るように勝ちを拾うだろう……なのに)

23 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/03(水) 23:29:37.83 ID:sx+cbxUe0



男「どうして近衛兵長はこの勝負を受けたんだ……?」



男(力量差は本人こそが一番に自覚しているはずだ)

男(連携を取るような性格ではないだろうが、それでも複数人ではなく一人で挑むのは無謀としか言いようがない)

男(ならばこの状況を覆す手が何かあるというのか……?)



男(疑問に思う間も戦況は推移する)

男(近衛兵長がブレスを裁ききったそのとき、女は大分接近していた)

男(女は拳をめいいっぱい引いて『竜の拳(ドラゴンナックル)』を放つ構えだ)



男(その拳が飛んでくるまでに近衛兵長には一手ほど打つ時間はあるが、何をしようにも叩き伏せて女は拳を届かせるだろう)

男(それでも何もしないわけにもいかなく、近衛兵長が起こした行動は)



近衛兵長「『聖なる一振り(ホーリーワン)』!!」



男(スキルの使用と同時に剣を振ることだった)



男(まだ女が接近していないタイミングのため空振りするが、それでいいようだ)

男(剣の軌跡をなぞるように半円状の光が形成されて飛ぶ。いわゆるソニックブームというものだろう)



男(遠距離攻撃で女の接近を阻止する狙い……だと最初は思ったが、それにしては狙いがおかしい)

男(女の脇を通るような軌道で光は飛んでいるため、当然女は無視して接近して――)

24 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/03(水) 23:30:12.29 ID:sx+cbxUe0



男「危ないっ……!」

姫「きゃっ!」



男(咄嗟に俺は姫を抱えて横っ飛びに体を投げ出した)

男(そうだ、デタラメな方向に放たれたと思われた近衛兵長の攻撃)

男(それが実は女ではなく、俺たちに狙いをつけた攻撃だったのだ)



男(俺たちが先ほどまでいた空間を光は通り過ぎる)



女「なっ……!」

近衛兵長「ちっ、外したか」



男(女もその状況に気付いたようだ。驚いて振り向く女と舌打ちする近衛兵長)

25 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/03(水) 23:30:46.95 ID:sx+cbxUe0

女「まさかあなたの狙いは……!」

近衛兵長「私の狙いは最初から姫様の命だ」

近衛兵長「少年の方も……別に可能ならば生け捕りするくらいにしか考えていない」



女「ひ、卑怯ですよ!」

近衛兵長「弱者が強者に勝つためには弱点を突くしかない。『聖なる一振り(ホーリーワン)』!!」



男(近衛兵長は目の前にいる隙だらけの女ではなく、またも俺たち目掛けて光を放つ)

男(そちらの方がさらに有利になると判断してだろうか)



女「っ……『竜の翼(ドラゴンウィング)』!!」



男(剣を振り終えて無防備な近衛兵長だが、女は攻撃せずに翼を生やしてトップスピードで後退する)

男(そして今まさに俺たちに襲いかかろうとしていた光の前に身を投げ出して庇う)

26 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/03(水) 23:31:23.16 ID:sx+cbxUe0



女「いたっ……!」

男「女っ!!」

女「大丈夫……だから!」



男(衝撃に顔がゆがむ女に俺が反射的に声をかけると、心配をかけさせまいとニッと口の片端をあげた)



近衛兵長「まだまだ行くぞ」

近衛兵長「『聖なる一振り(ホーリーワン)』! 『聖なる一振り(ホーリーワン)』!! 『聖なる一振り(ホーリーワン)』!!!」



男(剣を振り光を連射する近衛兵長。その狙いは全て俺と姫に向けてのものだ)



女「『竜の鱗(ドラゴンスケイル)』!!」



男(俺たちを守るため回避を封じられた女は防御スキルを発動する)

男(しかし、このスキルは使用した後少し動けないため、反撃の行動に繋げられない。このままではジリ貧だ)

27 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/03(水) 23:32:05.18 ID:sx+cbxUe0



男「くそっ……近衛兵長のやつ、最初からこれが狙いだったのか!」



男(格上である女が抱えた一つの弱点が俺たちを守らないといけないということである)

男(そこを存分に突いてきている。最初女の接近を許させたのも、俺たちから離すためだったのだろう)



男(聖騎士という職。そして使用するスキルの『聖なる一振り(ホーリーワン)』)

男(近衛兵長の力は聖に属するもののようだ)

男(なのに戦い方は弱者を狙い続けるという外道もいいところ)



男(だが、その手段が効果的であることは否定できない。このままでは女はこの場を離れられないからだ)

男(遠距離攻撃で応戦するのは、最初の攻撃を防がれたことからして互角だろう)



男(ならば俺たちがここから離れて安全な場所に向かうべきかというと、それも不可能だ)

男(結界のせいで広場からは出れないし、広場内には安全地帯が未だ存在しない)

男(そこかしこで近衛兵と『組織』の構成員が戦っている最中だからだ)

男(戦う力を持たない俺と姫が巻き込まれては危ないことに変わりない)

28 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/03(水) 23:32:33.90 ID:sx+cbxUe0

男(こうして女に守られているこの場所が一番安全だと……分かっているからこそ歯痒い)

男(俺の想定が甘かったせいでパレードのときに近衛兵に捕らわれた)

男(そのため女はわざわざ俺を助けに来ないといけなくなった)

男(こうして助けに来てもらったその場でもまた女の枷になってしまっている)



男「俺は……どれだけ女に負担をかけさせてるんだよ……!」

男(悔しくて、情けなくて、泣きたくなってくる)



女「そんなことないよ」



男(女が防御を続けながらも背中越しに俺を慰める言葉を告げた)



女「私は男君のことを負担になんて思ったことはないから」

男「でも、こうしてわざわざ助けに来させてしまって……大変だったんじゃないのか!?」



女「全然。それどころか少し嬉しかったくらいだったよ」

男「……え?」

29 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/03(水) 23:33:07.60 ID:sx+cbxUe0



女「だってあの手紙のSOSって私が魅了スキルの外で助けに来ることを想定して……私のことを信じての行動でしょ」

女「やっと私のことを頼ってくれたって、嬉しかったんだよ」



男(言葉の間も近衛兵長の攻撃が連射されている。守られている俺は女の表情を見ることは出来ない)

男(それでも声音から……女が本当に喜んでいることは分かった)



男(分からない。どうしてそんなことで嬉しいのか)

男(手紙だって駄目で元々の精神で出したものだ。女を信じるなんて気持ちは………………)



男(いや、逆なのか?)

男(女を信じる気持ちが僅かにも無ければ、手紙を出そうという手段を思いつきもしなかったはずだ)



男(女が俺を助ける行動に何の得も、理も、意味も無かった)

男(それでも助けてくれるかもしれないと思って行動に移した)

男(これが……信じるということなのだろうか)

30 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/03(水) 23:34:02.00 ID:sx+cbxUe0



女「それで一つ提案があるんだけど」

男「……何だ?」



男(渦巻く感情の中、女の真面目な声に俺は思考を切り替える)



女「男君が私を信じてくれるなら、あの近衛兵長さんを倒す方法があるの」

男「……どういうことだ? 俺が応援してくれるならって精神的な意味か?」



女「ううん、違うって。助けに入る直前のことは見ていたよ」

女「男君あの人相手に魅了スキルをかけようとしていたでしょ。避けられてたけど」

男「ああ、そうだが……って、まさか」



男(言わんとすることを察知して、女もまさにその通りのことを言う)

31 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/03(水) 23:34:29.67 ID:sx+cbxUe0





女「私が魅了スキルをかける隙を作る。そして虜にしてしまえば、その時点でこっちの勝ちでしょ?」





32 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/03(水) 23:34:59.04 ID:sx+cbxUe0
続く。

次回決着。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/04(木) 00:25:11.37 ID:KLGGXsonO
乙!
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/07/04(木) 10:18:17.16 ID:swL5s/o3O
乙ー
35 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/05(金) 22:02:56.93 ID:urXCLDkn0
乙、ありがとうございます。

投下します。
36 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/05(金) 22:03:30.57 ID:urXCLDkn0

男(竜闘士対聖騎士の現状は女が決め手を欠いている)

男(近衛兵長が俺と姫を狙って攻撃するという邪道な策を使っているからだ)

男(そのせいで防御に回らないといけない女は接近出来ず、遠距離攻撃の撃ち合いはやつの防御能力の高さからどうしてもジリ貧になってしまう)

男(竜闘士は近距離攻撃の方が火力が高いのだ)



男(その足りない火力を補うために女が提案したのが、魅了スキルをかける隙を作るというもの)



男「本気か?」

女「うん。私的には一対一のつもりだったけど、先に男君を巻き込んだのはあっちの方だから」

女「といっても男君が反対するなら他の方法を考えるけど」

男「……ちょっと考えさせてくれ」



男(成功して近衛兵長を虜にすれば、武装解除、降伏を命令してたちまち勝利が確定するだろう)

男(しかもそれだけでなく、勝負前に言っていた気になる情報についても「嘘を吐かず俺の質問に答えろ」と命令して聞き出すことが出来る)

男(一石二鳥の策)

37 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/05(金) 22:04:12.03 ID:urXCLDkn0

男(ただしそれが成功するかどうかと言われると微妙だ)



男(魅了スキルの条件、効果対象である『魅力的な異性』に近衛兵長が当てはまるかというとギリギリだが大丈夫なはずだ)

男(やつが俺たちを脅かしていた敵だとか、何人も殺してきた大罪人だということからは必死に認識の外に追いやろうと先ほどから努めている)



男(問題なのはやつが魅了スキルを詳細まで知っているため警戒していること)

男(先ほど女が助けに来る直前に発動したときは、光を見てから効果外に出るという身体能力の高さも見せられた)



男(女が隙を作ったとしても、そんな相手に魅了スキルを当てられるだろうか?)



男(それだったら他の策……例えばこっちもやつの弱点、結界を張っているメガネのクラスメイトを攻撃するとかはどうだろうか)

男(結界を解除させれば女が俺と姫を抱えて飛んで逃げればいい)

男(そもそもこちらに積極的に戦わないといけない事情はないのだから)



男(だが……近衛兵長は気にせず俺たちに攻撃を仕掛けてきそうでもある)

男(俺と姫と違って、あちらのデブとメガネのクラスメイトは戦闘能力があるという点も違うしな)

男(女の攻撃くらいなら耐えられるだろうと考えるとますますその可能性は高くなる)

男(そしたら攻撃の隙を突かれてさらに女が不利になるだろう。却下だな)

38 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/05(金) 22:04:38.21 ID:urXCLDkn0

男「……」

男(他にも色々考えてみるがいい方法が思いつかない)



男(これまで宝玉を手に入れる方法などの行動方針は基本的に俺が決めてきた)

男(だが女は竜闘士の力と同時に戦闘センスなども授かっている。そうでなければ普通の女子高生がここまで戦えるわけない)

男(だとしたら戦場において従うべきは俺の方で、女の提案に乗るべきなのだろう)



男(別にそのことに異論は無い。気になっているのは……)



女『男君が私を信じてくれるなら……あの近衛兵長さんを倒す方法があるの』



男(俺が女を信じられるなら……信じることが出来るのだろうか?)



男(自分のことなのにまるで他人事であるかのように想像が全く付かない)

39 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/05(金) 22:05:14.70 ID:urXCLDkn0

男(だが、近衛兵長の攻撃は激しさを増す一方でおちおちと考えている余裕は無さそうだ)

男(対案も出せないのに否定するのは良くない)



男「分かった、女。とりあえずその提案の中身を聞かせてくれ……」

女「うん、えっと……」



男(そのためまずは話だけでも聞こうとしたところで)



近衛兵長「のんきにおしゃべりとは……その余裕無くしてやろう」



男(近衛兵長は剣を腰に構えて体を大きく捻った。大技を放つつもりであることが俺でも分かる)



女「あれは…………でもチャンスかも! 男君、よろしくね!」

男「よろしくって……いや、まだ俺了承してないし、何をするかも聞いてないんだが!?」

女「大丈夫、大丈夫! 男君なら察せるって信じてるから!」



男(そんな無責任なことを言うと女は正面の近衛兵長を見据えて相手の動きを窺っている)

男(その集中を崩すわけにもいかず、どうやら抗議の機会は失われたようだ)

40 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/07/05(金) 22:05:54.82 ID:urXCLDkn0

男「ったくマジかよ……俺が合わせられなかったらどうするんだよ。何考えてるんだ?」

姫「何も考えてないんだと思いますよ」



男(俺と同じく女に守られている姫が口を開く)

男(女と姫は犬猿の仲だ。そのため悪態を吐いたのかと思いきや、姫の顔は真剣だった)



男「姫……どういうことだ?」

姫「分かるんです。女さんは男さんが合わせられなかったときのことを考えていません」

姫「何故なら男さんなら絶対に合わせられると信じているから」

男「本当に無責任なんだな……」



姫「ですが信じるということはそういう面も含みます」

姫「誰も信じず一人ですることは良く言えば全ての責任を自分で負うということでもあります」

姫「信じて誰かに託すということは悪く言えば誰かに押しつけるということでもありますから」



男「……そうだな」

男(姫の言葉がストンと俺の胸の内に入ってくる)
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