男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目

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380 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/07(月) 00:38:55.61 ID:h+ooci3F0



男(……アア、ソウダ)

男(コノコエノショウタイナンテドウデモイイ)



幼女『お兄さんには力がある。なのにどうして使わないの?』



男(俺の力は人を狂わせるから)



幼女『だから遠慮するの? 他にも同じような懐かしい力を感じるけど……みんな全然遠慮してないよ』



男(同じ力……そうだ。イケメンやギャルはもちろん、女と女友だって異世界に来て授かった力を存分に使っている)

男(なのにどうして俺だけ、魅了スキルだけは遠慮しないといけないのか)



男(……いや、違う。魅了スキルが本領を発揮すれば他とは桁外れの力で――)

381 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/07(月) 00:39:26.75 ID:h+ooci3F0





幼女『お兄さんの大事な人を守るんでしょ! なら迷っている暇は無いって!』





男(………………)

男(………………)

男(………………)



382 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/07(月) 00:39:56.45 ID:h+ooci3F0





男「アア、ソウダナ」





男(俺のやるべきことが明確になっていく)

男(迷うことはない)



男(女を守る)

男(これ以上傷つかせない)



男(そのためならば――――)



383 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/07(月) 00:40:23.08 ID:h+ooci3F0







 ガチャリ、と。

 そのとき男の心のリミッターは外れた。

 否、外された。







384 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/07(月) 00:40:54.00 ID:h+ooci3F0



女「男君! さっきからどうしたの!!」



 女は戦闘しながら、男に対して呼びかける。

 先ほどから独り言が止まらない男に対して、流石に無視できなくなったのだ。



男「女。今から指定するポイントに向かってくれ」



 しかし、男はその心配に応えず、女に指示する。



女「っ……」

 その声を聞いて女に悪寒が走った。

 いつもなら男の声を聞くと安心するはずなのに……どこか違うように感じられたからだ。

385 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/07(月) 00:41:51.07 ID:h+ooci3F0



女「……分かったっ!」



 その違和感が気になりながらも、女は男の指示に従う。

 意図は全く掴めない。それでも男の指示を信じる。それが女という少女だ。





 そうしてやってきたのは図書室から望める中庭の上空だった。





実戦科生徒A「あの人たち……」

実戦科生徒B「竜闘士……?」

実戦科生徒C「もう一方は……」



 眼下にこちらを見上げる女子生徒たちの姿が女の目に入った。



女(この時間だと……確か実戦科コースの人たちが模擬戦をしているんだっけ)

女(私たちの戦いに気が付いて手を止めているみたいだけど)



女(実戦科というだけあって、生徒たちの実力はそれなりにあるはずだ)

女(この数の生徒たちが味方してくれたらこの戦いも五分かそれ以上に戻せるだろうけど……)

女(全く関係ない人たちを巻き込むわけにも行かない。あまり近づかないようにしないと)

386 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/07(月) 00:42:18.69 ID:h+ooci3F0



男「ここだ」



女(背中の男君の呟きが耳に入った)

女(ここって……ちょうど女子生徒たちが真下に入ったけど……それが何の……)



女「まさか……ねえ、男君! 止め――」



387 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/07(月) 00:42:55.95 ID:h+ooci3F0



 その瞬間、男の意図を察して制止の声をかけることが出来たのは世界中を探し回っても女だけだっただろう。

 急いでその場を離れようとしたが――もう遅かった。



 魅了スキルの効果範囲は周囲五メートルしかない。

 しかし、光の柱として現れる効果は上空にも……下空にも伸びる。

 つまり眼下の女子生徒たちも圏内で。





男「魅了スキル、発動」





 瞬間、ピンク色の光が戦いと無関係の少女たちを染め上げた。

388 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/07(月) 00:43:26.03 ID:h+ooci3F0
続く。

次が6章最終話となる予定です。
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/07(月) 02:59:14.33 ID:VKdew0sU0

どうしても展開が読める時はあるだろうけどそれ含めても面白いからずっと読んでる
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/07(月) 09:54:14.05 ID:OQSOh6A+0
乙!
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/10/07(月) 13:14:33.47 ID:0rtjXMZKo
乙ー
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/08(火) 01:17:44.40 ID:2D9pl/2y0
乙!
393 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:24:44.46 ID:dtaQhtJG0
乙、ありがとうございます。

>>389 ありがとうございます。

6章最終話投下していきます。
394 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:25:17.57 ID:dtaQhtJG0



女「男君……どういうつもりなの?」



女(私には男君の真意が掴めなかった)



女(男君は今まで魅了スキルを使うことに消極的だった)

女(そのためかこれまでの長い旅路に反して、虜になっているのは女友、古参商会の秘書さん、独裁都市の姫、王国のスパイで近衛兵長の四人だけしかいない)

女(それも私たちの使命である宝玉を手に入れるために止むを得ずということがほとんどだし、その場合でもなるべく多くの人にかけないようにした結果が4人という少なさなのである)



女(なのに今の魅了スキルによって地上の戦術科の女子生徒数十人が一度に虜となった)

女(今までの男君とは全く違う行動)

395 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:26:25.97 ID:dtaQhtJG0



傭兵「これは……」

女(敵対する伝説の傭兵も驚きの表情だ)



女(意図を問われた男君はというと)



男「女、傭兵の相手を頼めるか? 俺は下のやつらを使って女友の状況を確かめてくる」

男「何人か支援に残すつもりだからイケメンの横槍も含めて対処してくれ」



女(そんな戦闘指示を飛ばしてきた)



女「今はそんな――っ」



女(反射的に怒鳴り返そうとして私は押し留めた)

女(先ほどまで驚いた様子だった傭兵さんが攻撃態勢に入っている)

女(今は戦闘中だ、下らない話よりも目先の脅威に対処しないといけない)

396 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:27:10.42 ID:dtaQhtJG0

女(……と、頭では分かっているのに)



女「どうして魅了スキルを発動したの!? どうしてあんなにたくさん虜にして巻き込んだの!?」



女(気づけば私は男君に対して叫んでいた)

女(その質問自体の答えは分かっている)

女(虜にした生徒たちの力を使って戦況を一転させるためだと)

女(あのままでは私たちは負けていただろうから)



女(私が本当に聞きたいことは男君の変化の理由だった)

女(先ほどまでと一変した男君の様子に私はとても距離を感じていた)

女(それだけではなく、このままでは男君がどこか遠くに行ってしまうような予感さえも)



女(しかし、そんな心配も今の男君には届かないようだった)

397 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:27:55.04 ID:dtaQhtJG0



男「女……戦えないのか?」

女「……え?」



男「なら仕方ない……下の生徒たち全員を傭兵に当てて時間稼ぎしている間に、新たに虜に出来るやつを探して戦力を補充する」

男「女はどこか狙われないように身を隠して――」



女「……大丈夫。戦えるから」



女(さらに他人を巻き込もうとする男君に私はそう言うしかなかった)

女(どういう訳かは分からないけど、今の男君にはこの窮地を乗り切ることしか頭にない)

女(それ以外は全てノイズでしかない、ゴチャゴチャ言い出した私を戦えない状態だと判断するくらいには)

398 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:28:24.81 ID:dtaQhtJG0



男「そうか。なら頼んだ」



女(男君は言って、私の背中から飛び降りた)

女(未だ竜の翼によって空中にいるのにそれは自殺行為だ)

女(いつもなら慌てる私なのに……なんかもう全てが麻痺していた)

女(飛び降りた男君はというと、下の生徒に命令して風の魔法を使わせ、難なく着地し無事なようだ)



女「………………」

女(風魔法による着地の補助……どうして生徒の中にそんなことを出来る人がいると男君は知っていたのか?)

女(不可視(インビジブル)で男君の行動を追っていた私には、放課後になって男君が図書室でぼーっと戦術科の生徒たちの模擬戦を見ていたことを知っている)



女(そのときのことを覚えていたのか……だとしても手際が良すぎる)

女(もしかしたら最初からこういう事態になった場合を想定していたのだろうか?)

女(こうして魅了スキルによって他人を巻き込む選択肢も常に考えていたのだろうか?)

399 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:28:51.80 ID:dtaQhtJG0

女「…………」

女(分からない)

女(でも、私がやるべきことは分かっている)



傭兵「『竜の息吹(ドラゴンブレス)』」



女(傭兵がエネルギー弾を放つ)

女(その標的には地上の男君や命令されて敵意を向ける生徒たちも含まれている)

女(操られているからといって容赦するつもりは無いようだ)



女(私が任された役割は彼を抑え込むこと。それを遂行しないと)

女(男君は窮地をどうにかしようとすることに囚われている)

女(逆に言えばこの状況を脱しさえすれば、話を聞いてくれるはずだから)

400 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:29:23.93 ID:dtaQhtJG0



女「『竜のはためき(ドラゴンウェーブ)』!!」



女(エネルギー波を放ち攻撃を相殺する)



女「うらぁぁぁぁっ!」



女(男君が降りて心とは裏腹に身体だけは軽くなった)

女(さっきまでと段違いの速度で私は特攻する)



401 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:30:04.96 ID:dtaQhtJG0





女(それから30分ほど経った)





女(エネルギー弾に衝撃波、ピンクの光や氷柱の雨が飛び交う)

女(そんな熾烈を極めた戦いにも終止符が付いた)



女(男君が虜とした生徒たちは、練度こそ劣るものの数十人という数は圧倒的で、おかげで余裕の出来た女友が私と合流。魔導士のバフを受けた竜闘士が戦場を蹂躙した)

女(追い詰められた駐留派・復活派チームは)



魔族「義理は果たした。頃合いだろう。失敗した場合の取り決めは無かったな、宝玉はそのままもらっていく」

傭兵「……そういうことだ。続けたいならそちらだけでやってくれ」



女(復活派の二人、魔族魔族と傭兵が先に離脱を宣言)

女(二人はそもそも協力しているだけで、私たちと積極的に戦う理由がない)



イケメン「こんなはずでは……っ!」

ギャル「イケメン、逃げようって! 流石にヤバいよ」

イケメン「ちっ……覚えていろよ」



女(駐留派の二人。悔しげなイケメン君にギャルが必死に逃げるように提案)

女(その後影に溶け込むように消えていった)



女(こうして私たちに訪れた危機は何とか回避することに成功した)

402 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:30:32.05 ID:dtaQhtJG0

女友「何とか無事にやり過ごせましたが……これは……」

女「…………」

女(ホッと一息を吐いたものの、女友も私も安堵まではしていない)



男「戦闘終了。傷ついた人員に回復魔法をかけてくれ」



女(回復魔法使いに指示する男君)

女(戦術科といっても未だ修学中の身。無理矢理高いレベルの戦場に連れ出され戦わされた生徒たちの消耗は大きかった)

女(幸いと言うべきか命を落とした者はいないみだいだけど)



女友「私と離れて戦っている間で男さんに何があったんですか、女?」

女「分かんない。突然独り言を言い始めたかと思ったら、あの生徒たちのところに向かうように指示して、そこで魅了スキルを使って……」



女友「……ふむ。ちょっと見てみましょう。『真実の眼(トゥルーアイ)』」

女(女友が看破の魔法を発動する)

403 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:31:34.94 ID:dtaQhtJG0

女「あ、そっか」

女(男君の様子が急におかしくなったのは何か内的要因があったのかとばかり考えていたけど、この異世界では外的要因もあり得る)

女(いつどこでかという疑問は残るけど、もし様子をおかしくするようなスキルを食らっていたとしたら、この事態も理解できるわけで――――)





女友「やっぱり……男さんには今スキルがかかっていて…………」

女友「『囁き』? この固有スキルは……まさか……!?」





女(どうやら女友の予想通りだったみたいだけど……何を驚いているんだろう?)

404 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:32:05.66 ID:dtaQhtJG0

女「ねえ、女友。『囁き』って何?」

女友「それは――」



男「手が足りんな。女友、命令だ。こっちに来てこいつらの回復を手伝え」



女友「っ……分かりました」



女(普段の様子のせいで忘れそうになるが、女友は男君の虜となっている)

女(魅了スキルの効果によりその命令は絶対だ)

女(私の側から離れ、負傷者のところに向かっていく)



女「………………」

女(今だって命令しなくても、言ってくれれば女友も手伝っただろう)

女(感じが悪い)

女(でもどうやらそれは『囁き』ってスキルのせいでおかしくなっているだけ)

女(だったらどうにかして呼び戻して……)

405 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:32:37.31 ID:dtaQhtJG0



女「ねえ、男君」

男「……何だ、女」



女「えっと……ほら、何か今の自分に違和感とか覚えない?」

男「…………」



女「女友が言うには『囁き』ってスキルが男君にかかっているみたいなの。そのせいでいつもの自分と違うって思うでしょ?」

男「別に」



女「……認識まで改竄するスキルなのかな? とにかくどうにか解除してみせるから」

男「その必要はない」



406 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:33:11.67 ID:dtaQhtJG0



女「男君……自分が言っていることちゃんと認識出来ている?」



男「ああ。『囁き』ってスキルは初耳だが……そうかあいつのものか」

男「そのおかげで頭がスッキリして……やるべきことが明確になった」



男「今の俺はいつも以上に俺だ」

男「まあ、女が戸惑うことも想像が付くけどな」





女(自嘲気味に呟く男君にこれは本心なのだと直感で理解した)

女(理由はない……いや、いらない。好きな人のことが分からないはずがない)



女(スキルによって操られているわけではない……あくまでスキルはきっかけで、これが本来の男君なんだ)

女(こんなときでなければ、好きな人の新たな一面を知って嬉しく思えたんだけど)

407 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:33:58.28 ID:dtaQhtJG0



女「うん、分かったよ。今の男君が男君だって。でもだったらどうして無関係な人たちをこんなに巻き込んだの?」

男「巻き込んだらいけないのか?」



女「少なくとも私が知る男君はそんなことをしない」

男「じゃあ、知らなかっただけだな」



女「勉強不足だったね、ごめん」

男「俺は他人なんてどうでもいいんだ。ああ、そうでもなければボッチなんて出来るはずがない。俺は俺さえ良ければいい――」



女「……」

男「そのはずだったのに……女。俺はおまえが傷つくことに耐えられない。もう見たくないんだ。女が危険な目に会う姿を」



408 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:34:33.54 ID:dtaQhtJG0



女「でも宝玉を集める以上それは仕方ないことでしょ?」



男「これまではそうだった。ここからは違う」

男「俺が宝玉を集めるから。全て集めてみせるから」

男「だから女……おまえはもう全部終わるまでどこか安全な場所でゆっくりしていてくれないか?」



女「私の代わりに男君が危険な目に遭うってこと? その言葉に私が頷くと思う?」

男「思わない。だからこうする」



女(男君の言葉と同時に、背後から何か掴みかかる感触があった)

女(見ると女子生徒たちが私の行動を封じるように両手両足にしがみついている)

409 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:35:01.65 ID:dtaQhtJG0



女「いつの間に……っ!?」



男「戦いの最中にだ。新たに魅了スキルで虜にした普通の生徒たち。そいつらには死んでも女を離すなと既に命令してある」

男「竜闘士の力を使えば振りほどくのは簡単だろうが……そんな剛力使えば生徒たちも無事ではないだろう。女はそんな酷いことをしないって俺は信じている」



女「くっ……」



女(男君の言うとおりだ。私を拘束する戦術科ですらない生徒たち)

女(吹けば飛ぶような力しかない者たちが、必死に私の行動を制限しようとしている)

女(無理矢理に引き剥がせば傷ついてしまうだろう)

女(一人一人時間をかければどうにかなるかもしれないけど…………男君はその間に――)

410 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:35:55.64 ID:dtaQhtJG0



男「回復は終わったようだな」

女(男君は私に背を向けて、虜とした者たちの様子を確認する)



女友「男さん!! 一体どういうつもりですかっ!!」



男「話を聞いていなかったのか、女友?」

男「全ての宝玉を集める」

男「おまえは……そうだな、その力は役に立つ。俺に付いてこい」



女友「『森の鳥(フォレストケー)』――」

女(女友の判断は迅速だった。反射的に魔法を使って、男君を拘束しようとするが)



男「俺に反抗的な行動を禁じる、命令だ」

女友「……っ!?」



女(男君は女友の自由を無慈悲に奪う)

女(相手が熟練の魔導士だろうと関係ない。これが本来の魅了スキルの力)



男「命令だ、行くぞ」



女(男君は戦術科の生徒たち、そして親友の女友を連れて去ろうとする)

女(私は未だに力なき者にしがみつかれて追うことが出来ない)

女(声を上げることしかできない)

411 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:36:47.81 ID:dtaQhtJG0



女「ねえ、男君。私……こんなの嫌だよ。ずっと、ずっと隣にいたかったのに……どうして?」



男「今までの俺にも、今からの俺にも……俺にはおまえの隣にいる資格がないんだ」



女「資格って……」



男「だから……すまんな。気持ちは嬉しいけど、さっきの告白は無かったことにしてくれ。俺なんかが答える立場にあるはずが無い」



女「……」





男「女、おまえの気持ちは……俺以外のもっと大事だと思える人のためにとっておけ。……大丈夫、女ならきっとすぐにそんな人に出会えるだろうから」





412 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:37:23.62 ID:dtaQhtJG0






女(別れを切り出した男君の姿は遠く、私の声はもう届かない)

女(しばらくして私は自由を取り戻したが、そのときには学園の職員たちに取り囲まれていた)

女(事情を知らない者に善悪が分かるはずがない)

女(イケメン君たちから仕掛けてきた戦いだが、第三者から見れば私だって学園に騒動を巻き起こしたものだ)

女(事情の説明、潔白の証明には時間がかかった)

女(それから空を飛び周辺を探したが、男君たちの姿を見つけることは叶わなかった)



女(途方に暮れた私は帰還派のみんなに事情を知らせる手紙を送った)

女(男君だけではない。私の隣には女友もいなかった)

女(いつもなら女友がこなす連絡も私がやらねばならず、かなり手間取ったことでいつも助けられていたことに今さら気づいた)



女(そうして空虚さを覚えながらも、徐々に状況が落ち着いてきたのは騒動から一週間後のこと)



413 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:38:07.00 ID:dtaQhtJG0





女(ちょうどその日、大陸全土を震撼させるニュースが触れ回った)





女(先の大戦の覇者)

女(王国)

女(大陸一の武力を持ち、この大陸の盟主ともいえる)





女(その王国が陥落した)





414 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:38:41.87 ID:dtaQhtJG0





女(この革命の首謀者――男君は体制の崩れた王国を乗っ取り、新たに自身が王になると宣言した)





女(王国を陥落させた新たな王)

女(男君は強大な王国を崩壊させた畏怖の念により、いつしか民からこう呼ばれるようになる)





女(魔王と)





415 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/10/13(日) 22:41:40.35 ID:dtaQhtJG0



 6章学術都市編完結です。



 6章は当初の予定では魔族が変身で忍び込んだ中、誰が宝玉を盗んだのかというミステリー的な展開にする予定だったのですが、思ったより男と女の関係の亀裂が深かったのとミステリー展開がいくら練っても面白くならなさそうだったことから急遽変更してバッサリカット。女友にダイジェストで語らせました。
 どうにか二人の関係が復活して告白した矢先に、やつらが急襲してきて……急転直下な展開になりましたね。



 さて、物語の続きは最終章・王国編へと移っていきます。最終章です。
 風呂敷を畳みつつ、魔王となった男と一人になった女の行く末を描いていくつもりなのでよければ見てやってください。
 最終章ですがたぶん今までより長くなるのでまだすぐには終わりません。



 最終章の構想も既に出来ているので、そんなに間を開けずに投下できるよ思います。



 乙や感想などもらえると作者のモチベアップするので、どうか協力してもらえると助かります。



416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/13(日) 23:37:32.76 ID:wBaJI5Sm0

女神の祝福受けた魔王…
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/13(日) 23:52:25.18 ID:nzsrLU1DO
乙です
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/14(月) 05:24:18.94 ID:e4TbdvEn0
乙!
とうとう、最終章か……最終章も楽しみにしている!!
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/10/14(月) 10:36:27.14 ID:J/9nWpS9o
乙ー
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/14(月) 13:48:28.77 ID:1LYXY2AI0
乙ー
魔王でもありヒロインでもある男さんマジぱねえっす
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/15(火) 23:55:06.33 ID:uKWzyW9R0
乙です。
6章の最後で怒涛の展開ですね!
魅了スキルが効かないのは女しかいないように思えるけど、
男性陣との共闘もありえるのかな?
ワクワクしながら待ってます。
422 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/02(土) 01:50:03.58 ID:4SYDSyxP0
祝連載開始一周年&最終章開始!!

応援レスの数々ありがとうございます。
皆さんのおかげでここまで走ることができました。
このまま最後まで向かっていこうと思います。


というわけで『終章 王国』編を開始です。
423 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/02(土) 01:51:33.62 ID:4SYDSyxP0





女(独裁都市)

女(支配から開放された姫姫により復興が急ピッチで進むこの都市の中心、神殿最上階の執務室に)

女(私はいた)





女「ありがとう、姫さん。こんな場を用意してもらって」

姫「いえ、こちらも詳しい状況を窺っておきたかったですから。対岸の火事でもありませんし」

女(この場の主催者、姫さんに礼を言うとお気になさらずと返される)



女「秘書さんも参加ありがとうございます」

秘書「会長からは古参商会の持つ全ての情報の提供、ならびに必要ならば物資の準備もするように言われています。遠慮なさらずに」

女(私たち帰還派をバックアップしてきた古参商会からは会長秘書の秘書さんが参加している)

女(元はスパイであったが男君の魅了スキルにより暴かれた結果今は改心している)



女「他のメンバーが集まるまでは時間がかかりそうだけど……近くに気弱君と姉御だけでもいて助かったよ」

気弱「え、えっと……期待に応えられるように頑張ります!」

姉御「正直アタイはまだ状況も掴めて無くてねえ……まあ足を引っ張らないよう頑張るよ」



女(気弱君と姉御……武闘大会で共に戦い、その途中でカップルとなった二人がこの独裁都市の近くにいるということで集まってもらった)

女(他の帰還派メンバーが集まるまで待ちたかったが、その時間ももったいない事態だ)



女(私、姫さん、秘書さん、姉御、気弱君で五人)

女(それぞれが帰還派、独裁都市、古参商会の代表者で、今の私に集めることが出来る最大の勢力)

女(これでどうにかして男君を止める方法を考えないと)

424 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/02(土) 01:52:39.01 ID:4SYDSyxP0



姫「それではこれから現在大陸中を騒がせている世紀の事件、俗に魔王君臨と呼ばれる事件への対策会議を始めます」



女(司会進行は主催者ということもあり姫さんが取るようだ)



姫「まず時系列から確認しましょうか」

姫「この事件の首謀者……男さんが学術都市にて敵対する駐留派、復活派に襲われたのが八日前でしたよね?」



女「うん」



姫「その後女さんを置いて行方をくらまし、次に表舞台に現れたのが一週間後の昨日」

姫「王国を乗っ取り、自身が王になると大陸全土に対して宣言しました」



女(未曾有の宣言からは一日開けているが、それでも騒動による混乱は収まっていない)



姫「宣言と同時に女神教の教会があった場所に対して宝玉を引き渡すように要求がありました」

姫「要求に応じない場合いかなる手段を取ることも辞さないとも同時に記されています」



女(姫さんから大筋の説明が終わる)

425 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/02(土) 01:53:14.94 ID:4SYDSyxP0

姉御「順を追って確認したいねえ」

姉御「まず学術都市での襲撃ってやつだけど……駐留派の目的、魅了スキルを手に入れたいってのは分かっている」

姉御「襲撃をどうにか凌いで、なのにどうして女が置いてかれたのかい?」



女「男君自身の発言が根拠だから確証は無いけど、自分自身に素直になるスキルってのをかけられたみたいで」

女「宝玉を集めようとすることで傷つく私が見ていられなくて、自分一人で宝玉を集めるから私は追いていくって」



姉御「……はぁ? 意味分かんないねえ。そんなに大事なら隣で守ってやればいいじゃないかい」

気弱「まあまあ抑えてください」

426 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/02(土) 01:54:14.99 ID:4SYDSyxP0

姉御「で、それから一週間後の昨日に王国の乗っ取りを宣言したと」

姉御「でもそんなこと有り得るかい?」



姉御「王国の強大さは異世界の情勢に疎いアタイでさえ知っていることだ」

姉御「女友とその戦術科の生徒たちってのを連れて行ったとはいえ、一週間で攻略できるはずないだろ」

姉御「何かの間違いじゃないかい?」



女「そうかな? 私は男君なら可能だと思うよ」

女「さっき言ったスキルの影響のせいで、今の男君は魅了スキルを使うことに躊躇しないから」

女「全ての女性、世界の半分を支配できる上に、男君の指揮があれば簡単なことだよ」



女(今まで宝玉を手に入れるため率先と私たちを導いてきた男君の力について今さら疑うところはない)



姫「加えて近衛兵長……元この独裁都市の近衛兵長にして王国のスパイに、魅了スキルを使って逆スパイをさせて王国の情報を探らせていました」

姫「女さんと別れた後コンタクトを取り、その情報も使って攻略したのでしょう」

女(姫さんが補足する)



姉御「……二人とも男への評価が高いんだな。まあやるときはやるやつだったか」

女(姉御も納得したようだ)

427 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/02(土) 01:55:14.62 ID:4SYDSyxP0

姉御「で、男は王国を支配した……けど、なんでそんなことをしたんだい?」

姉御「王様になりたいなんて願望を持つやつじゃなかったと記憶しているけど」



女「男君の目的は簡単だよ。宝玉を集めること」

女「でもこれまで通りわざわざ教会の跡地を訪れて探すなんて面倒だと思った」

女「だから王国を乗っ取り強大な武力を嵩にして各地に宝玉を差し出すように言った」



姉御「ああ、そうかい。それが宣言と一緒に為された要求ってやつか」

姉御「…………ってことはなんだい? 宝玉を集めるためにわざわざ王国を支配したと」

姉御「何か目的と手段の大きさの違いがえらく歪だねえ」



女(言われてみればそうだけど……そんな手段もやすやす取れるくらい今の男君には力がある)

女(王国を、支配派を乗っ取った男君は今や帰還派、駐留派、復活派に一人で肩を並べる存在になったのだから)

428 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/02(土) 01:55:43.46 ID:4SYDSyxP0

姉御「まあ概要は分かったよ。アタイからの質問は以上だ」

姫「では、次は私から」



女(納得した様子の姉御に代わって、今度は姫さんが手を挙げる)



姫「先ほど女さんは男さんに何らかのスキルがかかっていたと話しましたが、実際いつどこで誰にどんなスキルをかけられたんですか?」



女「えっと……言われてみると私も疑問ばかりで。いつなのかって言うと駐留派と復活派との戦闘中だと思う」

女「でも男君を守るために背負いながら空中で戦っていたから、簡単にかけることは出来ないはずなのに……いつの間にかって感じで」



姫「戦闘中で警戒度MAXの竜闘士にも気付かれずですか。俄には考えにくい事態ですね」

女「その直前に男君は独り言を呟いていたんだけど、何か関係あるのかな?」

姫「独り言ですか。分かりませんが…………あ、ちなみにそのスキルの名前は何ですか?」



女「言ってなかったね。『囁き』ってスキルなんだけど――」

429 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/02(土) 01:56:09.53 ID:4SYDSyxP0



姫「『囁き』ですか……!?」



女(ガタン!! と、姫さんはイスを弾き飛ばしながら立ち上がった)



女(スキルの名前を聞いただけでこの反応。どうやら何か知っているみたいだけど…………でもそんなに驚くほどのことなのか?)



女「知っているの、姫さん?」

姫「当然です! だってそれは――魔神が持っている固有スキルなんですよ!?」



四人「「「「っ…………!?」」」」

女(姫さん以外の四人が息を呑む)

430 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/02(土) 01:56:44.18 ID:4SYDSyxP0

女(魔神)

女(太古の昔にこの異世界を滅ぼしかけた存在)

女(女神様によって別の世界に飛ばされ封印されたはずの存在が……どうして男君にスキルを……?)



女(同時に姫さんが知っていた理由も納得する)

女(彼女は女神教の大巫女。女神様にまつわる情報についてはこの世界で一番知る存在だ)





姫「私も自由を取り戻してようやく訪れることが出来た神殿の地下に秘蔵されていた書物から得た知識なんです」

姫「だから男さんにも話していなくて……」

女「今後のためにも魔神について知っていることを教えて欲しいんだけど」

姫「いいですよ。しかしちょっと待ってくださいね、私も整理してから話さないといけませんから」



女(姫さんは言うと思案顔になって、少し経って口を開く)

431 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/02(土) 01:57:26.01 ID:4SYDSyxP0



姫「魔神と呼ばれる存在。その始まりはこの大陸の小さな農村の平凡な夫婦、その間に生まれた一人の女の子だったそうです」



女(語り出したその内容は、最初から私の前提を破壊した)



女「女の子……え、でも? 魔神って……あれ、もしかして……」



女(この世界には魔獣と呼ばれる存在がいる。知性を持たない獣で、度々人間に被害を及ぼす存在だ)

女(商業都市近郊で戦ったドラゴンもその一種と言える)



女(だから魔神とはその親玉、得体が知れず破壊を振りまくモンスターだと思っていた)

女(復活派が世界を滅亡させると言っていたこともそのイメージを補強した)



女(しかし……考えてみればそうだ。神と呼ばれる存在……女神様だって元は人間)

女(だったら魔神も――)



432 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/02(土) 01:57:58.88 ID:4SYDSyxP0





姫「はい。魔神も元は偶然固有スキル『囁き』を授かった人間の女の子なんです」





433 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/02(土) 01:58:41.18 ID:4SYDSyxP0
続く。
状況説明のためスローペースなスタート。

書き溜め尽きるまでは隔日更新で進行します。
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/02(土) 02:52:42.79 ID:uVJ2FHST0
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/02(土) 04:36:08.87 ID:QuCGoejZO
乙!
待ってました!!
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/11/02(土) 06:54:22.67 ID:gtWKCaYqo
乙ー
437 : ◆YySYGxxFkU [saga sage]:2019/11/03(日) 23:12:21.85 ID:BIBN/nXW0
乙、ありがとうございます。

投下します。
438 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/03(日) 23:13:13.81 ID:BIBN/nXW0

女(魔神が女の子である)

女(衝撃的な情報ではあるが、各自どうにか飲み込むことは出来たようだ)



姉御「まあ女神様も人間ってくらいだからねえ」

姉御「それは分かったけど、疑問はまだまだある。話を続けてもらえるかい?」

姫「もちろんです」





姫「その女の子が授かった固有スキル『囁き』」

姫「その効果の全貌は不明ですが、明らかになっているものでいうと他人の秘めていた欲望を解放させて、それに従って生きるように唆すことが出来たそうです」



姉御「欲望に従って……つまり精神攻撃の類でいいのかい。そんなんで世界を滅亡させることなんて出来るかね」

姫「簡単ですよ。人間、誰だって欲望を理性で押し込めて生活しているんです」

姫「個々人がそれぞれの欲望だけに従って生きたら、社会は立ち行きません」

姫「直接破壊するよりもよっぽど簡単に世界を滅亡させることが出来ます」

439 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/03(日) 23:13:43.07 ID:BIBN/nXW0

女(姫さんの話はなるほどだ)

女(例えば何かを食べたいという欲があったとして。その欲を手っ取り早く満たそうとしたら、それを持っている人から奪えばいい)

女(しかし人の物を奪うのは良くないという理性があるから、お金を出してそれを買う。そういう風に社会は出来ている)

女(誰かが憎い。だから殺す。そんなことが横行する社会に未来はない)



女(男君の『今の俺はいつも以上に俺だ』という言葉もなるほどだ)

女(自分の欲望に従って行動する、それはある意味一番素に近い状態だから)

440 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/03(日) 23:14:29.54 ID:BIBN/nXW0

姫「さてそんな『囁き』のスキルを持った女の子ですが、幼き彼女にスキルの制御は出来ませんでした」

姫「周囲の人間に見境無くスキルをかけてしまう状態だったようで……」



姫「最初の犠牲者は女の子の父親でした」

姫「『囁き』を受けた母親が日頃の不満から来る仄暗い欲望を解放させて父親を刺したんです」

姫「次の犠牲者はその母親でした。父親を刺してしまった自己嫌悪をスキルが肥大させて自殺したようです」



姫「不幸中の幸いであるか災いであるかは判断が付きかねますが、幼き女の子には自分がしでかした事の大きさを理解する力も、善悪を判断する知性もまだ備わっていませんでした」



姫「そのため、二人を心配して様子を見に来た村人たちにも『囁き』はかかってしまい、悲劇は連鎖的に広がっていって……最終的にその村は女の子一人残して全滅しました」



441 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/03(日) 23:15:21.90 ID:BIBN/nXW0

姫「もちろんその時点で時の世の中も対処に動き出しました」

姫「大規模な被害を把握していて、その女の子をどうにか確保する算段は付いていたとも言われています」



姫「そういう意味では姉御さんの言ったとおり『囁き』だけでは世界を滅亡させるのは難しいというのも当たっていますね」

姫「しかし、ここで人類にとって最悪の出会いが起きました」

姫「女の子と魔族の集団が出会ってしまったんです」



姫「魔族は別世界の住人です」

姫「それがどうしてこの世界にいたのか……書物には推測として誰かが呼び出してしまったのだと書かれていましたが、真偽は不明です」



姫「その出会いによって魔族にも『囁き』がかかってしまい、その破壊衝動を思う存分に振るい世界が滅亡するか………………」

姫「といった直前、女神様とその仲間たちが立ち上がり魔神を封印した」



姫「これが太古の昔に起きた『災い』の全貌だそうです」

442 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/03(日) 23:16:05.41 ID:BIBN/nXW0

女(『囁き』。欲望を解放するスキルを持った女の子を中心とした悲劇が語り終えられる)

女(そう考えると魔族も巻き込まれた側ではあるのだろう)

女(欲望を持っていたことだけで罪になるわけではない)



女(しかし疑問が残る。私たちが出会った復活派の魔族。彼女が言っていた言葉)



魔族『魔族の悲願は一つ。太古の昔、封印された魔神を復活させてこの世界を滅ぼすことだ』



女(そのような大層な使命感はどうにもちぐはぐに思えてくるんだけど……)

443 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/03(日) 23:16:35.02 ID:BIBN/nXW0

秘書「大昔の出来事は分かりました。現代の話に戻りましょう」

秘書「話によると男さんに『囁き』がかかっていたということですが、しかし魔神は封印されているはずでしょう?」

秘書「ならば不可能ではないですか?」



姫「これは私の推測ですが、学術都市で女さんたちは宝玉を提供して研究に手伝ったそうですね」

姫「つまり集まれば集まるほど力を増す宝玉を長期間一カ所に留めてしまった」

姫「そのせいで周囲が他の世界と繋がりやすい状態になっていたのかもしれません」



姫「そして女神様の『魅了』と魔神の『囁き』は表裏一体のような存在です」

姫「愛を広める前者と欲を広める後者で」

姫「魔神と女神様は何度も戦場で相見えたそうです……そのときにスキル同士に繋がりが生じたのでしょう」

444 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/03(日) 23:17:02.94 ID:BIBN/nXW0

秘書「スキル同士に繋がり……そのようなことがあるんですか? 聞いたこともありませんが」



姫「ですから推測です。そもそも固有スキルは絶対数が少ないせいで不明なところも多く、女神様自身にも分からないところがあるとは書物に書かれていました」

姫「それでスキル同士の繋がりを起点に魔神は別の世界から男さんに語りかけて『囁き』のスキルをかけた」

姫「女さんが聞いたという男さんの独り言ももしかしたら魔神に対する応答だったのかもしれませんね」



女(言われてみると男君の独り言は誰かと話している……そんな感じだったようにも思える)

女(話をまとめると魔神は封印されたまま男君にスキルをかけることが可能だったというわけだ)



姫「『囁き』と魔神についての話はもう大丈夫でしょう。次は……」

秘書「私から話してもいいでしょうか」

姫「どうぞ」



秘書「話というのはこの一週間について。私はちょうど王国支部の方に視察の形で出向いていたんです」

姫「ということは……男さんがどのように王国を転覆させたのか見てきたんですか?」

秘書「ええ、その通りです」

445 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/03(日) 23:18:41.40 ID:BIBN/nXW0

秘書「商会というところは様々な情報が入ります。最初はちょっとした違和感でした」

秘書「いつも時間通りに来る人が来ないだったり、兵舎が騒がしい、武器の発注が多いなど」



秘書「それでも平穏は保っていて……しかしある朝方突然鳴り響いた爆発音に私は飛び起きました」

秘書「報告を受けるとどうやら王都内で兵士同士が戦っているようだと」



秘書「これは後の調査で分かったのですが、男さんは最初王国内で暗躍していたようです」

秘書「魅了スキルを使い軍の下の方から支配を出来るだけ広げていった」

秘書「女性兵士には問答無用、男性兵士には賄賂なりなんなりで寝返らせていく」



秘書「ですがあるラインからは国への忠誠心が高くなって工作が効かなくなった。だから直接の武力で打って出たと」



秘書「結果、王都で起きた内戦は凄まじいものとなりました」

秘書「流れ弾が罪もない民を襲い……万は下らない数の民を男さんは間接的に殺したと思います」



秘書「内戦は終始男さん側が優勢でした」

秘書「勢いのまま王都にある王城に雪崩れ込み、王とその臣下を虐殺して……こうして王都内乱は終結したようです」

446 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/03(日) 23:19:28.60 ID:BIBN/nXW0





女「………………」

女(語られた男君の所行に私は……)





姉御「話だけ聞くとよほどの大悪党だねえ。魔王と呼ばれるのも分かるというか」

気弱「姉御!!」

姉御「あっ……わ、悪い……」



女(気弱君が姉御の名前を呼ぶとハッとなって謝った)

女(二人は私が男君のことを好きだと知っている)

女(好きな人のことを悪く言われて、私が良くない想いをしないように配慮したのだろう)

447 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/03(日) 23:20:08.27 ID:BIBN/nXW0

女「ありがと。でも、大丈夫だから」

姉御「いや、でも……ほら、あれだ! 今の男は『囁き』のせいでおかしくなっているだけだし!」



女「違うよ。『囁き』はその人の本来の欲望を解放する」

女「今の男君はいつもと違うけど、おかしくなっているわけじゃない」



姉御「それは……」

女(姉御が二の句を継げなくなる。代わりに気弱君が質問する)



気弱「女さん。思えば話し合いが始まってから、ずっと違和感がありました」

気弱「男さんが魔王になって、離ればなれになって」

気弱「なのに今の女さんは落ち着きすぎている……と、僕は思うんです」

気弱「男さんとの間に何かあったんですか? 今の女さんは何を思って行動しているんですか?」



女「………………」

女(気弱君の質問は核心を突くものだった。本当に聡い子である)

女(気付けば私に注目が集まっている)

女(あまり本題に関係ないと思って黙っていたけど……こうなったら話すしかないだろう)

448 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/03(日) 23:20:38.99 ID:BIBN/nXW0





女「そうだね、これはまだ言ってなかったよね。駐留派と復活派の襲撃を受けた直前のことなんだけど……」



女「私、男君に告白したんだ」





449 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/03(日) 23:24:49.50 ID:BIBN/nXW0
続く。

今回投下内の補足で、種族としての魔族と、現在復活派で傭兵と共に行動している個体の名前としての魔族は別です。
ss化にあたって一般名詞に置き換えた影響でちょっとゴチャついてますね。
雰囲気で理解してもらえると助かります。
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/04(月) 01:07:45.37 ID:Kg6TKnU10
乙!
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/11/04(月) 03:14:26.66 ID:iyFJlGs/o
乙ー
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/04(月) 05:06:59.85 ID:6FftmfH60
乙!
453 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/06(水) 00:36:07.26 ID:4hEi4H0x0
乙、ありがとうございます。

投下します。
454 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/06(水) 00:36:42.88 ID:4hEi4H0x0

姉御「ほう……告白かい」

気弱「お、思い切りましたね」

姫「…………」

秘書「青春ですね」



女(私が男君に告白したと明かすと、姉御と気弱君はなるほどと頷き、姫さんは顔を伏せて表情を窺えなくて、秘書さんは暖かい眼差しになっている)



姉御「で、返事はどうだったんだい?」

女「それがね、本当ちょうど返事をもらえるってときに駐留派と復活派が襲撃をかけてきて」

姉御「ああもう酷いタイミングだねえ」



女「で、さっきも言ったようにその戦闘中に男君は『囁き』にかかったんだと思う」

女「それで戦闘の後、男君は私に言ったんだ」

女「私が傷つく姿を見たくない、宝玉は自分が全て集める、私の隣にいる資格がない、告白は無かったことにしてくれ、私の気持ちは他の人のために取っておけ…………って」



姉御「………………」



女「私は……男君に拒絶されたんだよ」

455 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/06(水) 00:37:10.48 ID:4hEi4H0x0

女(この一週間何度も思い返した男君の言葉)

女(資格なんて必要ない。ただ隣にいてくれるだけで良かった)

女(一緒に居れるなら私はどれだけ傷ついても構わなかった)



女(なのに、男君は私を一人置いていった)

女(私と男君が通じ合えていると……そう思ったのは幻想だったのだろうか?)



女(この会議に参加しているのも異世界を混乱させている事件に対処しないといけないという義務感から行動しているだけで、特に何か思いがあるわけでもない)



女(大事な会議で個人的な悩みを打ち明けたこと、未曾有の事件にどうにか頑張ろうとしているみんなに対して冷めている私)



女(何だか何もかもが申し訳なくて謝ろうとしたそのとき)

456 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/06(水) 00:37:47.15 ID:4hEi4H0x0



姉御「えっと……それはノロケかい?」

女「……え?」



女(姉御が顔を赤くして、頬をかきながら言ったことに理解が追いつかなかった)

女(気付くと気弱君も同じで、いつもクールな秘書さんでさえ少し赤くしている)



姉御「いやだから、女と男はこれだけお互いのことを思い合っている……って自慢なんだろ?」

女「ど、どうしてそうなるの!? 私は真剣に悩んでいるんだよ! 男君に拒絶されたって!!」

姉御「いや、その拒絶っていうのも…………ああもう、アタイには無理だ! 気弱頼んだ!!」

気弱「ええっ!? 僕ですか!?」



女(今にも顔から火を噴き出しそうな姉御が気弱君にバトンタッチする)

457 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/06(水) 00:38:37.16 ID:4hEi4H0x0

女「どういうこと、気弱君!!」



気弱「え、えっと……どう説明すればいいんでしょうか」

気弱「……そうですね、仮にですけど女さんは男さんが傷付く姿を見たらどう思いますか?」

女「そんなの見たくないよ!」

気弱「じゃあそれを防ぐための手段があるとしたら?」

女「迷わず実行する!」



気弱「それと全く同じ事を男さんもしているんですよ」

女「…………え? あれ…………そうなるの?」



女(好きな人の傷付く姿なんて見たくない。当然のことだけど……あれ、もしかして男君も同じで……)

458 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/06(水) 00:39:12.93 ID:4hEi4H0x0

気弱「そして確認なんですけど実際男さんは女さんのことを置いていった」

気弱「それは事実なんだと思いますけど……そのとき別に一緒にいたくないだとか嫌いだとか言ったわけじゃないんですよね?」



女「う、うん。俺には隣にいる資格が無いって言っただけで……告白の方も気持ちは嬉しいけど、無かったことにしてくれって」

気弱「いや、もう答え言ってるじゃないですか。気持ちは嬉しいって……嫌いな人から好かれて嬉しい人なんていませんよ」



女「……え? ……えっ!?」

女「で、でもだったらどうしてその気持ちは他の人のために取っておけなんて言ったの!?」



気弱「そのとき既に男さんは魔王になる決心をしていたんだと思います」

気弱「魅了スキルをフル活用しても茨の道であることは想像が付くその手段」

気弱「結果的に成功しましたけど、途中で倒れる覚悟もしていて」

気弱「そのときに好きな人の気持ちをずっと自分に縛り付けたくないからそう言ったんだと…………」



気弱「ああもう、解説する僕の方が恥ずかしくなってきたじゃないですか!!」



女(珍しく声を荒げる気弱君。姉御同様顔から火を噴き出しそうなくらい真っ赤だ)

459 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/06(水) 00:39:48.08 ID:4hEi4H0x0



女「ってことは……男君はそれだけ私のことを好きだってこと!?」

女(そう思うだけで、私の心は小躍りしたくなるくらいに舞い上がる)







気弱「はぁ……どうしてこんなことも分からなかったんでしょうか?」

姉御「……あーそういえば、女は元々恋愛においてはクソ雑魚メンタルだったねえ」

姉御「そして男は女友も一緒に連れて行ったんだろう? そのせいで外から指摘する人がいなかった」

気弱「なるほど……ってことは、女友さんはずっとこんなことしてきたんですか」

姉御「ということだろうねえ。今度会ったら労ってやろうか」

気弱「ですね」



女(気弱君と姉御が何か言っているけど、私の耳を素通りしていく)

460 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/06(水) 00:40:15.73 ID:4hEi4H0x0



姫「なるほど指摘はもっともかもしれませんが……現実問題として、女さんが男さんに置いて行かれた事実は変わりませんよね?」



女(そのときずっと黙っていた姫さんが口を開いて……その言葉は素通りしなかった。私は突っかかる)



女「聞いてなかったの、姫さん? 男君は私が好きだからこそ置いていったんだよ」

姫「ただの推測でしょう。本当は女さんに呆れて置いていった可能性だって否定できません」

姫「男さんは優しいですから言葉をオブラートに包んだだけです」



女「そっちこそ推測じゃない。男君は私のことが好きなの。それが決定事項なの」

姫「告白に答えてもらえなかったのに、ですか?」

女「ぐっ……それは……」



女(言い詰まる私に、姫さんはさらりと言った)

461 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/06(水) 00:40:43.06 ID:4hEi4H0x0



姫「結局男さんから直接言葉にされていない限り、状況証拠でしかありません。確証にはなり得ません」

姫「ですからさっさと告白の返事をもらってきてください」



女「……え?」

姫「女さんがさっさとフラれないと私がアタックしにくいじゃないですか」



女「で、でも……男君は告白を無かったことにしてくれって」

姫「そんなの聞いてなかった、で済ませればいいんですよ」

女「ご、強引すぎない……?」



姫「大体乙女が勇気を出して告白したのに、答えない方が悪いんですよ」

姫「男さんが100で悪い上に勝手なこと言ってるんですから、こっちだって勝手なこと言えばいいんです」



女「…………」

姫「何ですか、黙って」

女「えっと……ありがとね」

姫「礼を言われる筋合いはありません。私は私のために動いているだけです」



女(姫さんはそう言ってのけるとプイと顔を背ける)

462 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/06(水) 00:41:12.21 ID:4hEi4H0x0



気弱「あれ、姫様ってもしかして……」

姉御「あーそういえばあいつら独裁都市でも騒動に巻き込まれたって言ってたねえ」

姉御「何か支配されてた姫様を助け出したって話も」

気弱「そのときに男さんが姫様に惚れられた……ってことでしょうか?」

姉御「状況的にそうなんだろうよ。何とも罪作りな男だねえ」



463 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/06(水) 00:41:40.46 ID:4hEi4H0x0



女「……うん、そうだね。私、決めたよ!」

女「男君に告白の返事をもらいにいく!!」

女「そのため王国に、魔王城に乗り込む!!」



女(決意新たに私は宣言する)



姉御「まあ前向きになったことはいいことだよ。ただ、一人で乗り込むなんて言うんじゃないよ」

気弱「そうですね。今の男さんは王国の全てを掌握しています。いくら竜闘士といえど正面突破出来る勢力ではありません」

姫「そのためにも準備は整えないと、ですね」

秘書「古参商会もバックアップ出来ると思います。男さんの宣言以降、各地で起きている混乱は早めに静めたいところですから」



女(姉御、気弱君、姫さん、秘書さんの四人もそう言ってくれるのだった)
464 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/06(水) 00:42:32.58 ID:4hEi4H0x0
続く。
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/11/06(水) 01:03:46.47 ID:XJhjHzwHO
乙ー
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/06(水) 04:11:54.87 ID:r25qXZrpO
乙!
467 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/07(木) 23:21:00.23 ID:islyLKZY0
乙、ありがとうございます。

投下します。
468 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/07(木) 23:22:00.07 ID:islyLKZY0

女(魔王城に、男君のいるところに乗り込む)

女(今後の大きな方針が決まった)



女(そうだ、私は何をごちゃごちゃと悩んでいたんだろう)

女(はっきりとした言葉で拒絶されたならともかく、あんなふんわりとした言葉で私の長年の想いを否定されてたまるものか)



女(男君に告白の返事をさせる。返ってくる言葉は絶対にYESだ、みんなもそう言っているし)

女(そして恋人同士になった私たちは、色んな場所に一緒に行って、同じ気持ちを共有して、二人の思い出を紡いでいく)

女(そんな日が来るのが楽しみで…………楽しみすぎて……)



女「ねえ、今すぐ魔王城に乗り込んじゃ駄目なの?」



女(抑えきれずに私は提案していた)

469 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/07(木) 23:22:31.21 ID:islyLKZY0

姫「はぁ……話を聞いてましたか?」

姫「男さんは今や王国の持っていた軍事力を保有しているも同然なんですよ」

姫「内戦による同士討ちで少しは削れたかもしれませんが、いずれにしても竜闘士一人で敵う相手じゃありません」

姫「各所から対抗できるだけの戦力を集めるしかないわけで、それまでおとなしく待ってください」



女「その理屈は分かっているんだけど……実際そんな正面衝突になるのかなぁ、と思って」

姫「……はい?」

女「いや、だからね。男君は私のこと大事に思っているわけでしょ?」

女「だから案外私だけで王国に向かったら、叩き潰すようなこと出来なくて、魔王城までスルっと到達できるんじゃないかな……って」



姫「断言します。有り得ませんね」

470 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/07(木) 23:23:05.49 ID:islyLKZY0

女「いや、まあ姫さんがそう言いたいのは分かるけど……」

姫「鼻に付く言い方ですね……先ほど神妙に振る舞って損した気分ですよ」

姫「それと別に嫉妬で言っている訳じゃありません。男さんは女さん相手に手を抜くことは無いでしょう」

女「え、どうして?」



姫「その程度の覚悟で王国を支配するなんて出来るはず無いからです」

姫「女さんを置いていくことが正しいと思ったなら、簡単に翻すとは思いません」

姫「元々男さんは頑固な人ですから」

姫「私のときだって自分が犠牲になることが正しいと、どれだけ説得しても聞く耳持たずに貫こうとしましたし」



女「……そっか、そうだよね」

姫「加えて『囁き』がその思いをさらに強固にするでしょうから……本気で対抗してくると思いますよ」



471 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/07(木) 23:23:37.07 ID:islyLKZY0

女(男君は思いこんだら頑ななところがある)

女(そのせいで私と男君は何度も衝突してきて、それを乗り越えることで絆を深めてきた)



女(今回もそれと同じ……いや、それ以上だ)

女(『囁き』の影響だけじゃない、今まで男君は私に魅了スキルをかけてしまったという負い目をいつだってどこか感じていたはずだ)

女(しかし、今やその嘘も暴かれた)

女(本気でぶつかってくる男君はとても厄介になるだろう)



女(でもそれが私には嬉しかった)

女(障害が大きければ大きいほど、乗り越えた時の報酬も大きくなる……そう思うから)

472 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/07(木) 23:24:06.23 ID:islyLKZY0

姫「といっても男さんも今はまだ王国内外の対応に忙しいでしょうし、しばらくは私たちに何かする余裕も無いと思いますけど」

女「そっか、その内に準備を進めておきたいね」



女(男君がどんな手を打ってくるか、想像も付かない)

女(出来ることは早めにやっておかないと)



秘書「女さんが前向きになったようで何よりです」

秘書「古参商会としても各地で混乱が起きているこの状況では商売上がったりです」

秘書「何としてでも解決するよう尽力いたします」



女(秘書さんの言葉にふと疑問が沸く)

473 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/07(木) 23:25:01.42 ID:islyLKZY0

女「そういえば魔王君臨における各地の混乱って具体的にはどういうことなんですか?」



秘書「まずは単純に王国を乗っ取る勢力の登場による恐怖ですね」

秘書「王国の武力は誰でも知っていましたから、それを圧倒する力への畏怖が一つ」

秘書「もう一つは男さんの出した宣言、宝玉を差し出すように迫ったことによるものです」



女「宣言がですか? 王国が手段を選ばないって言っている以上、抵抗するのも難しいですから、みんな普通に差し出して終わりだと思ってましたけど」



秘書「ええ。宝玉の所在が分かっている地域はその通りの対応ですね」



女「……あ、そっか。私たちが観光の町で体験したように、宝玉がどこに行ったのか分からない地域もあって……」



秘書「そういう場所では血眼になって宝玉を探す者や、急ぎ避難しようとする者、行政に対してさっさと差し出すように詰めかける者もいて……軽いパニックになっていますね」

秘書「場所が分かっていても、所有者が首を縦に振らない場所などもあるようです」

秘書「安全のためとはいえ、宝玉は高価な宝石です」

秘書「差し出せと言われて、はい分かりました、とは行かないのが人間ですから」



女「思ったより大変なことになっているんだ……」

女(他者に迷惑をかけることを嫌がる男君らしくない手段…………いや、そういう遠慮を取っ払ったのが今の男君だ)

474 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/07(木) 23:25:31.43 ID:islyLKZY0

秘書「……。……。……」

秘書「とりあえずこれまでの会議の内容と急ぎ対抗戦力を集めるよう進言するため、私は一度商会に戻ろうと思います」



女(秘書さんが窓の外を眺めながら言った)



姫「はい。お願いします」

女「本当にありがとうございます!」

秘書「いえいえ、私に出来ることはこれくらいですから。それでは」



女(姫さんと私が礼を言うと、秘書さんはお辞儀をして執務室を出て行った)

475 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/07(木) 23:26:05.31 ID:islyLKZY0

姫「古参商会が全面的にバックアップしてくれるのはありがたいですね」

女「私たちが宝玉を順調に集められたのも、最初に商業都市で古参商会とのパイプが出来たおかげです」

姫「独裁都市としても復興にとても協力的で助かっていますね」



女「でも商売上がったりなのにそんな協力してもらって……何か悪い気もするね」

姫「まあそれこそが古参商会がここまで繁盛した本質なんでしょうけど」

女「……?」



姫「本来なら商会にとって今は絶好の稼ぎ時なんですよ」

姫「王国に武器を売って、不安になった周辺諸国にも武器を売って、緊張下で不足した物資を値段を釣り上げて売って……」

姫「お金を稼ぐだけならこんなにも楽なことはありません」



女「そっか古参商会も色々手広く商売しているから……」

姫「ですがそうやって一時的に儲ける代わりに顧客の不興を買えば、長期的に見るとマイナスになるに決まっています」

姫「商売に大事なのは信用。それを分かっているからこそ、この非常時に多くを助けるように活動しているんでしょう」



女「私たちに協力するのもその一環ってことか……なるほど」

女(古参商会の裏にある打算……とても暖かいものに触れて、私も嬉しくなる)

476 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/07(木) 23:26:44.52 ID:islyLKZY0

姫「とにかく早めに古参商会と連携を取れたのは助かりました」

姫「秘書さんを会議に呼んでくれてありがとうございます、女さん」

女「いえいえ、そんなこと。呼んだのは姫さんでしょう。こちらこそ助かりました」



姫「何言ってるんですか。秘書さんが女さんに誘われたって言ってたんですよ」

女「そちらこそ間違っています。姫さんに誘われたって言ってました」



姫「とにかく私は秘書さんに声をかけていません」

女「こっちこそ声をかけていません」



姫「………………」

女「………………」





二人「「………………?」」





女(二人とも首を傾げる)

女(この齟齬は……一体どういうことだろうか?)

477 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/07(木) 23:27:25.95 ID:islyLKZY0

姉御「何だい、何だい? 結局どっちが正しいんだ?」

気弱「ちなみに言っておくと僕たちも違いますよ。連絡を受けてこの独裁都市に急ぎ向かうので精一杯でしたから」

女(気弱君の補足)





女(誰も声をかけていないとしたら……秘書さんはこの会議のことをどこで知ったのか?)

女(どうして参加したのか?)





女(ちょうどそのとき執務室の扉がドンドンとノックされ、答える前に扉が開けられた)



古参会長「秘書!! 秘書はここにいるのか!!」



女(ドタバタと慌てた様子で入ってきたのは意外な人物。古参商会の長、古参会長だった)

女(商会の本部がある商業都市にいることが多いと聞いていたので、わざわざ独裁都市まで足を運ぶのが意外ということである)

478 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/07(木) 23:28:05.68 ID:islyLKZY0

姫「いつもお世話になっています。それにしても急な訪問ですね」

女(姫さんが立ち上がって一礼する。予定にない来客のようだが、復興の世話になっている恩もあって歓迎して当然だ)



女「秘書さんならさっきちょうど出て行って……あれ、タイミング的に鉢合っていると思ったけど」



古参会長「おぉ……良かった、良かった……! 秘書……生きておったのだな!!」



女(古参会長は感極まって涙まで流した)





女「……?」

女(事態がうまく飲み込めない。涙? 生きていて? でも……)

479 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2019/11/07(木) 23:28:50.17 ID:islyLKZY0

姫「ええと、事情を窺ってもいいですか?」

姫「思えば先ほどもノックに答える前に扉を開けるほど慌てていて……古参会長らしくない振る舞いでしたが」



古参会長「ああ、そうだな。説明すると……事の始まりは秘書が一週間ほど前から王国支部に視察に行っていたことからだな」

古参会長「四日ほど前から連絡が取れなくなって――王国で内戦が始まったからであろう」

古参会長「私はいてもたってもいられなくて、秘書の安否を確認しようと王国には入れないでも、周辺諸国で情報でも集めるためにこの辺りまでやってきて……」

古参会長「そしたら秘書がこの地にいると聞いてすっ飛んできたのだ」



女(この独裁都市はわりかし王国から近い位置にある)

女(思えば秘書さんは内戦に巻き込まれたと他人事のように語ったが、実際かなり危険だったということだ)

女(だからこうして古参会長も心配した)



女(なるほど…………と納得しそうになったが、そうなるとまた一つ疑問が浮かび上がる)

女(姫さんも同じ事を思ったようでそれを指摘する)

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