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25 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/04(木) 20:50:53.06 ID:fDdchtmlO
>>24
南アフリカは失業率がアカンからなぁ……空治安も悪くなるわ、昨今じゃ白人地主の土地没収するというし……ジンバブエのそんなところパクらなくていいから(良心
始めます
26 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/04(木) 20:53:04.33 ID:fDdchtmlO
まぁここまでさんざん悪口を言ってきたわけだが、本来ならば都市内条例や予算などで問題改善に向けて働きかけていくのが基本だ。だがそうも上手くいかない。その要因が私のいる総合局のお相手、生徒議会である
27 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/04(木) 20:54:31.67 ID:fDdchtmlO
ミスった。こっちやなかったわ
日曜な!
28 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 20:57:00.10 ID:TyTHG5nhO
始めます
第3話 政党
29 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 20:58:09.74 ID:TyTHG5nhO
私がまだ総合局に配属されて間もない頃、ある法案を通す際に当時の上司の3つ上の先輩に一度尋ねたことがある
「なぜこの法案を通してしまわないのですか?」
と。返事は簡単だった
「無理だからだ」
30 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 20:59:04.78 ID:TyTHG5nhO
そこから先に聞いた話は私の耳にこびりついて離れない
まずそれぞれの政党の特徴から掴んでおこう。
先ほど述べた大洗フォーラムは普通科を支持基盤とする中道左派政党だ。
大洗女子学園でも有数の歴史を持ち、その支持基盤の大きさから長らく議会第1党にして政権与党を務めている。
最大政党だけあって、生徒会会長もこの党に近いものから公認を受けて出ることがほとんどだ。ここ10年以上変わらない
基本路線は相応予算と部分介入経済。身の丈にあった予算を組み、また負担は生徒が学習に必要なものの総計に応じて負担すべきとの立場をとり、議会や行政の都市経済への一定の介入を認めている。
実際学習必需品への援助金を予算に組み込んでいたりもするし、そんな予算を通してきた
31 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 20:59:51.55 ID:TyTHG5nhO
続いて新大洗クラブ。
開放経済と拡大予算を主張する中道右派の議会第2党。議席数はだいたい140〜150といったところだ。地方債を発行してまでもの財政拡大を主張する。担保は学園都市そのものだそうだ
2000年代に入ってから結成され、あまり科などに左右されず一定の支持を得る。だから支持層も幅広く、切り崩しは厄介だ
その主張からサンダースとの繋がりがある
32 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 21:00:22.20 ID:TyTHG5nhO
それと海の民と職人連合組合。ここを一纏めにしているのはその主張が似通っており、結構行動を共にするからである。
主張の軸は専門科への支援の拡大による普通科との学費格差の縮小。それぞれの科ごとの詳細で違いがあるが、大筋では変わらない
議席数はだいたい40〜50で、足して90くらい
33 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 21:02:58.25 ID:TyTHG5nhO
あとは人民による大洗。名前の通りプラウダ寄りの左派政党。党首が変わるとプラウダに挨拶に行くという習慣がある。
船舶科の労働条件の改善が基本だが、その革新方法をめぐり議会路線と一党独裁移行路線が対立している。
議席数は30弱。とっとと分裂しろ、暴力行為の予備罪とかで風紀委員投入するぞ。流石にプラウダと関係を拗らせたくないからしたくないけど
34 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 21:03:32.48 ID:TyTHG5nhO
他の公正会と学生自治権党は基本中道路線だ。
公正会が教員、都市民を含めた複合的議会の開催。学生自治権党はクラス、学科ごとの裁量拡大を主張している。
議席はそれぞれ20ほど、大した勢力ではない
35 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 21:04:10.45 ID:TyTHG5nhO
そして残りの約200人。これが無所属議員である。
その場その場で対応を変えてくる厄介な存在。どう動くか読めないため、ここの数を計算せずに案を通過させるのが理想だ
しかしそうもいかない。重要議案でさえ与党以外の無所属も全員賛成したら通ってしまう程なのだ。
要するにこの与党、拒否権すらまともにない。こんな与党が力を発揮できる訳がなかった。それを仲裁しなんとか案をまとめるのが総合局の大きな仕事だったわけ
36 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 21:04:55.34 ID:TyTHG5nhO
なぜこのような事態になるのか。それはクラスから2人ずつ選出する生徒議会の仕組みにある。
クラスから2人、となれば、同一政党の2人を選出することはほぼない。それはクラスの総意がその政党支持、と言っているようなものだからだ。流石に心理的に避けてくる
普通科ならフォーラムとその他どこかの政党の候補が一人ずつ選出されているクラスが多い。普通科の中でフォーラムで独占できているクラスなど、クラス数は200以上あるのに片手の指でも余るほどだ
37 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 21:05:34.22 ID:TyTHG5nhO
それに選挙が行われるのは4月の頭、入学したての中学一年生からも選出される。政治の話も通じるか怪しいのに、各党がその学年に地盤を有せるはずもない。ここからは小学校時代の人気者などの無所属議員が当選しやすくなるのだ。彼らをいかにフォーラムに引き込むかも腕の見せどころだが
38 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 21:06:09.41 ID:TyTHG5nhO
結果無所属議員の拡大と少数野党の乱立を防げないし、与党も最大学科普通科の支持を固めるのが精一杯。
新大洗クラブのせいでそれすら危ういのが現状なのに、他の学科に支持を広げる余裕なぞない。やはり専門科はそこ地盤のとこが強いしね
39 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 21:10:47.50 ID:TyTHG5nhO
なら主張を取り込んで連立政権でも作って仕舞えば、と言いたくなるが、それもまた難しい。理由は連立政権となっても行政と立法が分裂している体制下では、与党と連立を組むメリットが少ないからである。
現在の日本のように議院内閣制を取っていれば、連立を組んだ党も大臣を出したりして影響力を示せる。しかし行政が別ではそうもいかない
40 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 21:11:13.40 ID:TyTHG5nhO
一応生徒会の者は政党所属が禁止されているが、大半は親大洗フォーラムだ。政権交代はそうそう望んでない。何より仕事の勝手もわからない奴らが政党の主張を実行するためとか理由をつけて毎年交代でぶち込まれては、回る仕事も回らない。
昔アメリカにそういう制度あったらしいけど、ウチらで導入する予定はないし、それをフォーラムはわかってくれている
41 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 21:12:08.56 ID:TyTHG5nhO
とにかくこうしてフォーラムしか絶対的な与党がいない以上、何かを通過させるには無所属議員や他の党の賛成を得なければならない。そうなると必然的にその党の主張などを取り込まなければならなくなる
42 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 21:13:07.40 ID:TyTHG5nhO
結果的に大規模な改革は進まず、予算も各党の意見を反映するものとなる。
だから各学科にも予算を分けるし、さらに無所属議員に影響力のある甲板上の町内会の意図を反映する形になる。
さらに体育会部活も文化系部活の予算も、さらなる躍進、ネームバリューの獲得を名目に要求を受ける形になる。
反対されたらクラスの支持が落ちて政権が転ばざるをえん。クラス選挙区というのはたった数人の反対で当選者が変わり得る世界なのだ
43 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 21:13:42.24 ID:TyTHG5nhO
この配慮に配慮を重ねた挙句に残る金など僅かだ。
この妥協に妥協を重ね緩みきった関係がずっと、そうそれは戦車を売っぱらうよりも前からズルズルと続いていた。
そして各団体が強力な後援を受けている以上、どうあがいても無碍にできない
誰もこれを変えられなかった
44 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/07(日) 21:14:53.63 ID:TyTHG5nhO
今日はここまでです
木曜はすまんな
45 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/14(日) 21:05:47.15 ID:hhlcIifg0
始めるで
46 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/14(日) 21:06:12.32 ID:hhlcIifg0
私には古くからの友人がいた。地元が同じ小山とかーしまだ。二人とも私と同期で生徒会に入り、小山は中3の時点で都市開発課インフラ整備局の局長補佐に付いて、かーしまは校外交流課の対他校局の一人だった。二人とも人の貸し借りの中で学園のこともやってたりしたけどね
結局かーしまが初めて役職らしい職に就いたのは高2の夏。よーするに仕事はできるが上には立てなかったのだ。実際そうだと思う
47 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/14(日) 21:08:32.91 ID:hhlcIifg0
だがその二人には色々と助けられてきた。私が疎かった学園都市の内政状況を把握して、他との交渉材料に使えるようになったのは、間違いなく小山のおかげだ。そして時に、私の隣で力強く押してくれた。それは相手の心の芯であり、私の心の核でもある
かーしまは弱い奴だが強い奴だ。すぐに心折れて泣き出すくせに、次の日には変わらずに仕事に戻る。そして、船舶科の状況が改善に向かっているのは、迷い込んだかーしまの功績だ。
半ば犬になる勢いの忠誠心は受ける身としても悪くないしね。生徒会にいるだけで雰囲気が変わる、そんな力があった。
もちろん生徒会の企画の中でもふざけあえる仲間だったね
48 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/14(日) 21:11:34.39 ID:hhlcIifg0
私が学園課の課長に就いていた高校2年の夏、もうすぐ夏休みに入ろうとしていた頃、当時の生徒会長の山崎さんから一つの話を打診された
「角谷いるか?」
「はい」
課長といっても部下より書類仕事は減るし、だいたいその少ない書類を元手に下に指示出すだけだ。その時も干し芋片手にお茶を飲んでた時だった
「突然で悪いが、お前都市開発副の小山と組んで私の後を継いでもらえんか?」
「はあ」
「フォーラムがお前なら推薦を出す、と言っている。私としてもお前の指導力なら後を任せられる。お願いできないか?」
「構いませんが」
49 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/14(日) 21:12:44.12 ID:hhlcIifg0
「やけにあっさりだな……」
「そりゃ、私以外にできるとも思えませんしね」
「……はっきり言うな」
残念ながら他の課長級と比べても、誰が訊いても私になってしまう。仕事量、実務貢献、統制指揮、その全てにおいてね。自分で言うのもなんだけどさ。ま、今は指揮一辺倒だけど
「5割がたその通りだけどさ。じゃ、受けたってことで話進めとくぞ。公約とか考えておけよ」
私の公約。まぁ、学園を変える、とか栄光を再び、とかがよくある話だが、どうにもできそうな話ではない。どうにかするための予算が組めないのだから致し方ないのだ
はてさて、どうしたもんかね
「と、そうだ。角谷」
また山崎さんに呼び止められるまで、そんなに時間はなかった。
「健闘を祈願するには早いかもしれんが、飯食いに来ないか?」
断る理由はない
「……構いませんが」
「よし決まりだ。それじゃ、私は小山を呼んでくる」
一人暮らしの私にとって、先輩方と食事に行くのは実に合理的だ。要するに向こうがもっと出してくれる可能性がある
50 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/14(日) 21:14:05.99 ID:hhlcIifg0
呼び出されたのは甲板上の公園、そこには私しかいなかった。
時間を確かめたが、予定の5分前である。他に一人くらいくるのかと思っていたが、誰もこなさそうだ。まだ少々日も高いしな。
さて、生徒会長か。こうして学園のために、と働いてきた。そして変えるための手は打てる限り打った。たとえ人から後ろ指を指されそうなことでもやってきた。それが愛する大洗と学園のために必要だと知っていたから
だがこれ以上、これ以上何ができる……
「おお、角谷。きてくれてたか」
「山崎さん」
「そら、行くぞ」
連れられるままについて行ったが、行き先はある一軒家というか、山崎さんの住む家である。そのくらいデカイ。私のアパートとは訳が違う
「そら、上がれ上がれ」
「お邪魔します」
鍵を閉めて上り込んだ先の家は、玄関もかなり広かった。足元には小学生のものと思われる靴などが並んでいる。この学園艦に住んでいる人が、やはり生徒会には多い
比率的に高いのは親も住む地のために働こうとするからだろうか。その点では私は当てはまらない
51 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/14(日) 21:16:03.06 ID:hhlcIifg0
「で、だ。早速で悪いが、料理を手伝ってくれんか?」
「料理、ですか?」
「そうだ。今日は結構人をたくさん呼んだのだが、私だけじゃ料理を作る手が足りん。妹たちも部活やら友達と遊んでくるやらで帰ってくるのが遅いし、親は陸に行っている。
ということで料理が得意らしい、という角谷。お前に手伝って欲しい」
「いや、健闘を祈られる人間が祈る料理を作るんですか?」
「まぁいいだろ、細かい話は。美味けりゃなんでもいいじゃないか。15人分くらい作るからな。早速始めようか。荷物はそこの和室にでも置いておいてくれ」
「15人、ですか」
「そうだ。多いだろ?」
私が和室の隅に荷物を置いている間に、山崎さんが手を洗ってエプロンをちゃっちゃと付けていた。
「まぁ、ちょっとしたパーティーみたいになるのかもな、アハハハハハ」
「はぁ……」
課長を掻き集めても10人にすらならない。となると、他の客がいることになる。誰だ?フォーラムの幹部層か?
まぁ家でやるのは賛成だ。店でやって何らかの話が漏れる可能性があるのは非常にやりづらい
「ということで、冷蔵庫にだいたい材料ぶち込んであるから、使ってくれ」
「は、はい」
「そうだな……時間のかかりそうなオーブンで焼きそうなやつから始めるか……」
その後は一心不乱に料理に没頭していた。他の人がぼちぼち集まってきたのは夕方7時ごろ。その頃になって2時間ほど続いた料理はひと段落を迎えた。流石の私も腕がキツくなっていた
52 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/14(日) 21:17:29.48 ID:hhlcIifg0
「角谷杏の生徒会長選挙出馬に感謝し、その勝利を祈願して、乾杯」
山崎さんが音頭をとり、ジュースの波が正面でぶつかる。
「そうかぁ、杏ちゃんかぁ」
「まぁ、だろうなぁとは思ってたけど」
「いやぁ、これでフォーラムも政権も一安心だな!よろしく頼むぞ、新会長!」
「まだまだ私の時代だよ」
「そうだったそうだった。会長もこれからもよろしくな!」
集まっていたのはそうそうたるメンバーだ。
生徒会長、山崎
副会長、玉丘
学園課長、角谷
校外交流課長、峰口
都市開発課長、山縣
保健衛生課長、三森
税務管理課長、藤峰
住民福祉課長、牧野
産業振興課長、林田
以上生徒会課長級以上9人。
大洗フォーラム代表、青嶋
大洗フォーラム副代表、白石
公正会会長、赤城
生徒議会議長、真崎
風紀委員長、志津川
風紀副委員長、園
大洗学園都市の有力者6人
計15人
このメンバーが、ここに集った。大洗女子学園の政治の根幹を成し得るメンバーである
53 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/14(日) 21:20:11.56 ID:hhlcIifg0
最初は学園の政治がらみの話も、半ば笑い話として話題に乗った。議会など政治の場でさえなければ、別にそこまで対立する必要もないし、していないのである
「この前の議題の時のそちらの今田の質疑、イヤーなところ突いてきよりましたね」
「でしょ〜。アイツが現状ウチの若手のホープよ!これからアイツの時代が来たら……覚悟してくださいよ」
「うっわ〜。党首討論持ち込まれたらキツイわ〜」
「だからって逃げないでくださいよ!」
「わーってるよ」
和気藹々……かね?
54 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/14(日) 21:27:14.43 ID:hhlcIifg0
飯がだいぶ進んできたころ、誰かが言った
「それで……会長。このメンバーを集めて、何を話される気でしょうか?」
場の空気がさっと冷める。きっと冷めねばならなかったのだ。
「……まぁ、非常に良くない知らせだね」
山崎さんの声も低くなった
「……というと?」
「……最近、お上が学園艦縮小に舵を切り始めている。歳出縮小を掲げる中で、学園艦への援助金の規模が問題視されているらしい」
「で、大洗がその『縮小』の候補に入ったってところか?」
「おおかたその通りだ。正式じゃないがな。おっとそうだ、これはまだ内密に頼むぞ。情報元が知れると厄介だ。特に風紀委員、この件に関してはこの先も隠匿したい。協力して欲しい」
「漏れたらそれだけで新入生を減らしかねません。学園の未来に関わりますね。分かりました、全力を尽くします。いいな、そど子」
「はい」
「それで何をなさろうと?」
「……昨今の志願者数、学園艦人口の縮小。開発の不振。余剰資金の少なさも不名誉なことに学園艦トップクラス。
どうにも上手くまとまらないのは、この政党乱立っぷりとそれをまとめきれない体制にある。が、これまで誰も止められなかった。正直このまま進めたところで、この先の滅亡を回避できるとも思えん。
ということで、私は『挙市一致政府』の設立を目指したい」
挙市一致政府。名前がやるべきことを示しているね
55 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/14(日) 21:30:00.93 ID:hhlcIifg0
今日はここまでです。また来週もよろしくお願いします
56 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/21(日) 20:21:11.95 ID:vpHvUw910
undefined
57 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/21(日) 20:21:37.27 ID:vpHvUw910
「挙市一致政府、ですか」
「もはや生徒の自立のための自治の維持やら市民民主主義育成のための少数意見の吸い上げやらにこだわる段階ではない。学園艦がなくなるとなれば、それどころではないんだ。地面がなくなりかねんのだ、文字通りな
全てを巻き込んだ革新。それを起こさねば、これをしのげたとしても我々はこの少子高齢化を含めた荒波を生き残れん」
話に耳を傾けていた面々は複雑に頭を傾け、唸り始めた
「……題目は分かりましたが、どうするというのです?」
「議会に市民議員を入れる。その結果議員数拡大に繋がってもいい」
「ほう……公正会としては支持するのもやぶさかではないですね」
「しかし議長として厳しい面もありますね。市民議員を入れるとはいえ専門職とするわけにはいきません。そんな給料は捻り出せません。兼業を許可するとなると、議事の時間に制限がかかりますよ?」
「夕方以降にならざるを得ませんね」
「もう一つ。こちらフォーラムとしては議会規模の拡大による党の影響力低下を懸念します。フォーラムが与党として居続けるには、市民からの支持層確保の確実性が必要です」
「そこでだ。公正会、ウチと組まんか?正直これが成されたらウチと対立する理由はないだろう?こちらとしては市民支持のために、経験のあるそちらの支持を受けたい」
大丈夫なのかそれは……連立は無理だぞ?合併しかないが……それまで争っていたものたちの合併には問題がつきまとう
58 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/21(日) 20:22:26.85 ID:vpHvUw910
「……それには懸念が。まず、公正会内部の合意が得られるか、です。残念ながら、造反が出る可能性は否定できません
恥ずかしいことですが、我が党は都市民の政治参加を求める、その一本のみで集まっているようなところです。他の思想では党員の間でも溝がありますし、結構自主投票も指示してます。それゆえ、フォーラムと完全に統合となると……厳しいかと」
「だろうな……多少はやむを得ないが、できるだけ説得してまとめるしかないか。いや、そうせねばならん」
「もう一つがこの改革案が議会を通過するかどうか。少なくともフォーラムとしてこれを出すならクラブの合意はどう考えても得られませんし、他も影響力低下を恐れるでしょうから、そうこちらには靡きますまい」
59 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/21(日) 20:23:04.99 ID:vpHvUw910
「町内会の支持を得て無所属を取り込む。町内会支持層もフォーラムと公正会の連合に取り込んで行くしかないだろう。それでな、角谷」
「は、はい」
「これ、お前がまとめろ」
突然振られた話だが、思ったよりか混乱はしていない
「は」
「次の生徒会長は都市を纏め、全てを纏めることになる。お前は基本今まで裏方だったから、ここではっきりした箔を付けとけ」
箔、か。新たな選挙民とする市民相手だと、そういうのも必要か。それ抜きでもメディアなどに顔を出す機会は欲しい
「小山と河嶋、二人を使え。都市関係の調整と他学科の巻き込みには二人がちょうどいいし、友人たちで指導層を固めとけば気兼ねいらんだろう」
「……わかりました。なんとかしましょう」
「そう言ってくれると助かる。しないと思うが、癒着と疑われそうな行為に注意しろよ」
受け入れた。むしろ拒否する理由はない。やっておくべきか
「しかし……学園もここまできてしまったか」
「逆にここまでされねば動けなかった、ともいえますけどね」
「単に党利党略で動くモノにはその足場を把握する余裕なんてない、ってことじゃないの?」
「違いない」
「あとは議会を拡大するなら、夕方開催に関する議論ですね。必修選択科目が夕方までやる可能性がある以上、それ以降という形になりますが」
「そうだな。そっちの方が市民側も都合つけやすいだろ」
「それと……市民向けの公約ですね。それも実現可能と思わせられる」
「そこらへんは都市開発とかが軸で組んでくれ。インフラや商業支援が核だろうが」
「市民の投票に関してはどうしましょう。生徒はもはや投票はオリエンテーションに組み込まれて義務のようなものですが、市民相手にはそうはいきません」
「学園の変革を見せるには、やはり投票率が高くないといけないわけか……」
「そちらが高まらないと今後の議席数の参考にもされかねませんからね。議会の大勢を変えるにもやはり必要になりますね」
「時間もないですね……」
「まあ、やるしかないよ」
60 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/21(日) 20:23:51.86 ID:vpHvUw910
その後の奔走は本当に地獄のようであった。町内会を通じてその影響下にある無所属議員を法案支持に取り込み、そしてかーしまを通じて艦底から船舶科を切り崩しにかかった
そもそも風紀委員による度重なる排除作戦も地の利を生かした頑強な抵抗で失敗していた中で、かーしまから作ったお銀系へのツテを利用し、そこに支援をする事で一強状態にして間接的に艦底影響力を持つのが、生徒会の基本政策だったのだ。私はその綱を登っていったに過ぎない
お銀系は艦底のバー『どん底』を基点に勢力を持っていた、そのバーの仕入れ先となる物流拠点の一つを握っていた中堅勢力だった
かーしまを受け入れ連絡相手として支援を行った結果、その勢力は艦底のトップ勢力となった。かーしまに連絡を集中させたのは、向こうがこちらの意向に従わなくなり万が一手を切らざるを得ないときは、そこを区切りさえすれはよくなったからである
親友の交友関係相手にそんなことはしたくないし、現状しなくても大丈夫だろうけど。向こうは生徒会による援助漬けにしておけばいいし、報告によるとそうなってきている。あげた金は武装とノンアルに消えているらしいが、そんな非生産的なものに消えていても安定するならこちらの勝ちだ
実際それで上手くいっていたし、下からの切り崩しはこれで進んだ
それと艦長らトップ層への仕事の話、要するに彼らの職場がなくなる危険性を説いて団結する必要とかを言い続けたのだ。支持層から海の民を揺るがしにかかり、そしてそれは功を奏した
61 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/21(日) 20:24:51.87 ID:vpHvUw910
「今後の町内会のためにも必要では?」
「ではそれでそちらになんのメリットがあるというのだね?」
「町内会は我が学園艦を支える一員。その力あって学園都市は初めて一つにまとまります。少子化、震災、状況がめまぐるしく変わる今日、もはや情勢は急を要するのです」
などといった有力者との対談に夏休みを完全に塗りつぶされ、夏休みが終わってからもナポレオンのような実務生活を送って、小山と一緒に人という人に会いまくってなんとか成し遂げたのが、9月末の『生徒議会基本条例改正案』の可決であった
9月の頭から始まった議会では、その開催方針や市民に割り当てる議席数、そしてもともとこの法案への反対が渦巻いていた。私からしたら裏で手を回しつつ、表向きは話を聞いて受け流したりさばいたりする他なかった
大洗フォーラムを中心に公正会、海の民の一部に無所属議員、その他にも都市民に近い新大洗クラブの一部も造反させ、結果は賛成381。棄権もいるのを考えても、なんとか形作った過半数であった
前段階がそれだからもちろん採決は荒れた。職人連合組合、学生自治権党、新大洗クラブが強硬に反対し、公正会からも反対に流れる者がいた
無論海の民や町内会系の無所属議員からも離反者はいた。各党、そして議員一人当たりの影響力の低下を懸念したのである。特に支持基盤が強固な職人連合とかは造反になびこうとする気配すらなかった
62 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/21(日) 20:26:41.07 ID:vpHvUw910
だがともかくもこの学園内での合意は果たされた。そしてその話は学園新聞を通じて皆の目と耳に触れることとなった。
新聞記者は度々私を取材し、『大改革をとんでもない速さで成し遂げた女傑』と書きたてた。どっかの運動部が関東大会に出場したのとかを?き消す勢いだった。それも初戦負けだったしね
私は話しかけてくる奴は存分に利用してやった。そして向こうはこちらの2割くらいホラの混じった話でさえ嬉々として書き留めて、ばら撒いていった
こうして私には議会と箔が付いてきたわけだ。そしてまもなく始まった大洗女子学園生徒会長選挙。大洗フォーラムと公正会の推薦を受けた私も小山と遊説に回ったが、もう勝ちは目に見えていた。始まってすぐの世論調査でも圧勝だ
スローガンは『あれに見ゆる都市へ』
そう、大洗がかつて戦車道の名門と称された時代の繁栄を、ここに取り戻さんと言わんばかりのものだった。
古今東西を問わず、『〜を再び』や『〜を取り戻す』というのはそれだけでメッセージになる。かつて栄光ある時代あった事実すら曖昧でいい。実際大洗に住んでた私の記憶にすらあるわけじゃないしね
私もそれに乗っかった。そしてそのメッセージは学園艦を巻き込む動き……とまではならなかった。残念。ま、全部上手くはいかないね
甲板の上のあちこちで私はマイクを握った
「大洗は改革の時を迎えているのです!ありとあらゆる問題が山積しているのです!その問題に生徒会の一員として向き合ってきて、なおかつそれを変えられる力がある!大洗フォーラム公認の角谷杏、角谷杏をどうぞよろしくお願い致します!」
63 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/21(日) 20:27:09.32 ID:vpHvUw910
いずれにしてもその2週間後、私は次期生徒会長になることが、クラブや人民の候補者に対する圧倒的勝利によって決定された。開票速報が始まってすぐ、開票率0%の段階で当選確実となっていた
一応万歳三唱こそして支持への感謝やら今後奮闘する所存やらを述べたが、すでにこれからのことを考え続けていたのだ。感傷に浸る暇はない
私の双肩に、学園の未来がのしかかってきているのだ
64 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/21(日) 20:29:50.67 ID:vpHvUw910
今日はここまでです。
選挙中継見ときますわ
65 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/28(日) 21:25:01.07 ID:qysBQ0dR0
始めていきますよ〜
さて将来は決まったが、今はまだ課長である。そして何より、先ほどの案件はまだ実行できるわけではなく、二つの条件を乗り越える必要がある。一つは非常に容易いが、もう一つはなんとも言えない。
それは、前者が全町内会の許可、後者が大洗町、町議会の承認であったからである
当然と言えば当然だ。自治権を認められているとはいえここは大洗町の飛び地。飛び地単独でこのような議案に完全な結論を出せるはずもない。結果的には上が判断を下す立場となる
私はその案件を認めてもらうべく、新会長としての挨拶も兼ねて大洗へと上った。風の冷たさが?から沁みてくる11月のある祝日のことだった。私も学校があるから、向こうが配慮してくれるらしい、と山崎さんから聞いた
66 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/28(日) 21:25:34.49 ID:qysBQ0dR0
大洗の町役場は松並木の並ぶ海辺から一歩入ったところにある。こうして向かいやすいのは今後も考えると非常にありがたいのだろう。だが海岸では未だ先の震災の傷跡が各地に残る。
荒れたままの海岸近くの並木の下に土の見えたままの花壇。奥に進めば未だ崩れたままのブロック塀などかある。復旧が進むのは港が中心だ。それだけでもかつての車がとっちらかり、船が乗っかった埠頭とかがあるよりはマシになった
だが震災前から続く人口減少は止まらず、高齢化率も30%を超えるところまで迫ってきた。
私が生まれたこの街には何かが必要だった。街の誇りとなり、その名を轟かせられる何かが。母港の衰退は学園都市への物流の縮小、そして学園都市の魅力の低下に繋がる。新会長として何かしら手を打つ必要があった
雨よけを抜けて門をくぐり、たちまち私は会議室へと誘導された。私たちの持つ会議室とそこまで差はないようである
67 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/28(日) 21:26:12.57 ID:qysBQ0dR0
話すべき人は私が座って正面を見つめる中、少し遅れて入ってきた
「すまないね。君が角谷くんかね?」
白髪で頭が覆われた老人であった。そこそこの歳だろう。立ち上がり挨拶に応じる
「はい。私が来年度生徒会長として県立大洗女子学園学園都市を管轄致します、角谷です」
「ふむ、噂はかねがね聴いておるが、君が『大洗の女傑』か」
「いえいえ、そんなご大層な者ではございません」
「ふむ、そうかね。おっと挨拶が遅れたな。大洗町長の竹谷という。まずは次の一年間、大洗女子学園をよろしく頼む」
「お任せください」
差し出された手を握り返す。シワがあって乾燥していたが、私からしたら指先すら覆えない
68 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/28(日) 21:27:01.11 ID:qysBQ0dR0
「とは言いたいところだが、お互い状況は楽ではない、か」
「……ですね。昨今の学園艦縮小を目指す動きとも絡んでいるでしょうが」
「こちらも何もできん。水戸へ、そして東京へと若者は学園艦を経由して吸い取られるしかない」
「学園都市か大洗の残留に対する支援は考えておりますが、なにぶん学園都市の産業基盤が弱いもので……」
「そこは今更言っても始まらん。やるとしても10年20年はかかる話だ。その点君がやってくれたという議会改革はそこそこ即効性があるし有効だろう、と思っている」
「あ、ありがとうございます!」
「学生以外の市民に都市民としての意識を持たせる、という点では良い手だろうし、今後の学園艦はそうせざるを得ないだろうな」
「誠にその通りです。そして、その改革案は……」
69 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/28(日) 21:28:52.79 ID:qysBQ0dR0
「問題ないだろう」
大きな息の塊が口から噴き出した。
「町議会議員の動向に即座に関わるものでもないしな。それに学園都市改革は内部から求められてはいたが、自治を認めている以上こちらからおおっぴらに指示できないからな。そっちからやってくれるんだ。実現不可能であったり内容に問題があったりするのでないならば、ノーと言う奴はいない」
「な、なるほど……」
「その点に関しては安心してくれ。あちらに確認も取ったしな」
「学園艦教育局、ですか」
「その通りだ。だから施行に関しては大丈夫だ。とはいえ根本的ではないしさらに何かすぐにできるわけでもないがな」
「……おっしゃる通りで」
「ところで、新会長に就任するにあたって公約は出していただろうが、実際にやる気があるものはあるのかね?」
「真っ先にOG組織の体系化、ですね。もうアヒル大統領よりも崩壊しそうなくらいてんでバラバラなので、ここを組織し直して学園の尊厳の継承を掲げます」
「で、実は金か」
流石はこの町で私が幼稚園児の頃から町長を務めた方。洞察は流石のものだ
「寄付金の上納体制を簡略化する、というのはあります。いざという時にOG組織があると便利ですしね」
「賛成だ。そこに所属する人に町に帰ってくることへの支援金などは考慮してもいいかも知れん。市場の規模拡大を狙っても共有できる点があれば団結できるしな」
「その周知にもあって損はないかと」
70 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/28(日) 21:29:23.43 ID:qysBQ0dR0
その後も私の政策案に関する話が来た。否定も来たが、口振りとしては私が政治の真髄を理解していない、というかのようなものだった
当然だ。もともとどちらかといえば私は官僚側の人間だ。政治力など限界がある。だが同時にこの先道を変える以上は先達の話を聞くに損はない。かの方曰く、政治とは世論と喧伝、そして慣れだそうだ
全く耳に入れたくないし受け入れたくもない話だが、正解だなぁ。そうするのが最善だ。最後だけはどうしようもないだろうが
「まぁ、ここら辺にしよう。そもそもの話が通じる人間で助かるよ」
お茶が運ばれてきて少ししてから、向こうがダメ出しを辞めた。これしきで終わるほど精神的に脆いわけじゃないが、ない方が気分がいい
「正式な任命は正月前になるし、私からはここまでなんだが、この後は空いてるか?」
「は、はぁ……時間自体はありますが、一体……」
天地がひっくり返ってもこんなチビで貧相でちんちくりんの身体を求めてくるわけじゃあるまいし
「君にも引き合わせたい客人がいる。この店だ。行けば会える」
町長は鉛筆でのメモ書きを一枚私に手渡した。見かけたことがある街の中の店である。ここからそこまで遠くはない
「宜しいかな?」
「……はい」
晩飯を奢ってくれるなら乗ってもいい。というかこちらは高校生だ。流石に自腹は切らせないだろう
71 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/07/28(日) 21:30:03.47 ID:qysBQ0dR0
短いけど今日はここまでです
72 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/04(日) 20:55:08.17 ID:0Sd2UHCP0
9時からやります
よろ
73 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/04(日) 21:00:09.70 ID:0Sd2UHCP0
示された店はお高い店として町民に知られているところだった。実を言うと私の実家からもそう遠くないし、近所付き合いが無いわけじゃないのだが、本当に入ったことはない。
日も暮れて数少ない街灯がその店の少し手前を照らす中、私は渡された紙と店を三度ほど確認してから、中を覗きながらゆっくりと戸を開けた
予約済みらしく、店員に町長の名字を伝えると奥まった座敷に案内された。内装は木を主体としている明るめな高級懐石店
本当に奢ってもらえねば財布の中身はおろか財布ごと売り払わねばならないだろう。思わず壁にある絵なども眺めてしまう
何事だろうかと待ちながら渡された温かい茶を喉にゆっくり流す。飯を食おうにも相手も誰もいない4人がけの座敷。何もできるはずがない
74 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/04(日) 21:01:04.41 ID:0Sd2UHCP0
待つこと20分。ただひたすらに暇であった私の前に、やっと二人の男が現れた。一人は先ほどまで顔を見合わせていた男、町長の竹谷氏だった
「待たせたね」
「こんばんは。いえいえ、お気遣いなく」
しかし一人ではなかった。もう一人灰色のパーカー姿の、少しは若いと思われる男も後ろにいた
「さ、どうぞどうぞ」
何処にでもいそうな身なりだし、こちらの方がよくよく見ても若いようだが、その割に竹谷氏が気を使う方のようだ。偉いのか?
「そちらの方は?」
返事を返される間も無く、その人は奥に腰掛け、手を拭いてじっとこちらを見据えていた
「……彼女が、ですか」
「はい?」
「いえ、失礼。ここは問題ない場所なのですか?」
見据えていた割には私の返事には興味がないようだ
「はい。私どもと縁のある店ですゆえ。味も、特に大洗の海鮮は保証しますよ」
「なるほど、ではまずはそれから頂きましょう」
誰かもわからずに同じ部屋にいる男とともに多様な小皿に盛られた先付けを摘む。眼鏡の奥の目がなかなか見通せない
箸だけ飯を口に運ぶ。味がしない。向こうには味がわかるようで舌鼓を打っているが、向こうも食事の話しかせず、こちらに話を振ろうとしない
75 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/04(日) 21:03:36.35 ID:0Sd2UHCP0
そのまま人参と茸の煮物、鯛や鮪に鮃といった刺身と何も話のないまま、酒のない懐石というのも合わさって、この奇妙な食事会は続いた。私たち以外に店に入る人もなく、食べ終わると皿はすぐに取り替えられ、蓮根などの炊き合わせがやってきていた
「本当に……問題ないようですね」
「言った通りでございましょう。私たちからしたらその話に乗らない手はないのですから」
「……少し疑いすぎましたかね」
「それに今日は祝日。貴方がどこへ行こうと問題ではありますまい。私も仕事時間外ですし、ここの店も町の経済に左右される所の一つですからね。話は付けてあります」
「それもそうですか」
「それに自分で言うのもなんですが、選挙もないのにこの田舎町までわざわざ探りに来る人間はいないでしょう。いたとしても私と貴方なら学園艦の寄港なんたらで済みますし」
76 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/04(日) 21:04:34.38 ID:0Sd2UHCP0
「……では、話を始めましょうか。申し遅れました、角谷さん。私、学園艦教育局の辻と申します」
一瞬思考が止まった。それが事実だと判別できたのは、彼が直後に名刺を差し出してきたからである
辻廉太
文部科学省学園艦教育局局長
そこにはまさしくそう書かれていた
77 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/04(日) 21:06:16.39 ID:0Sd2UHCP0
「は、あ、ありがとうございます。お初にお目にかかります。私、大洗女子学園生徒会学生課課長の角谷と申します」
カバンの中から新品の名刺入れを取り出し、かーしまの実家で作った名刺を手渡そうとした。しかし印字がすでに生徒会長だったのでそのまま引っ込めようとした
「えーと、課長の……」
「その名刺で構いません」
カバンを半ば開けっ放しにしたまま手を止めた
「私は『大洗女子学園生徒会長の』角谷杏氏と話しに来たのですから」
何だ。とうとう直々に候補に入った話か?だとしたら何故こんな直接このお偉いさんが私服で足を運んでくる?
「……そんなお偉い方がウチのような小規模学園艦に何の御用でしょうか」
カバンを締め、名刺を手渡してから本題を促した。こんなに楽しくない食事というのも久方ぶりだ。終わらせるに限る
それに上に立つ存在だからこそ、下手にへりくだっては向こうの思う壺だ。私を学園都市の主人と見ている以上、隙を突かれては市民の不利益になる
「こ、これ、角谷くん……」
「そんなに気を張らなくていい。私もこの身なりです。たまたま同じ店で相席になった程度、それで構いません」
自己紹介しておいてそれはない。しかしこの格好ということは、この訪問は公式のものではない、ということだ。こんな人物から非公式に伝えられるもの……そんなもの、あるだろうか
「今日は角谷さん、貴女に悪い話と良い話をお伝えしに参りました」
78 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/04(日) 21:07:35.39 ID:0Sd2UHCP0
「悪い話と……良い話ですか。悪い話というと…….自動車部の免許関係ですか?」
多分違うが、とりあえず振っておく。聞きたくない話を先延ばしにしているだけだが
「いやいや。むしろそこは県外から生徒も呼べてますし、事故でも起こさない限りこちらも気にしませんよ。現在は気にする余裕もない、という方が近いですがね」
「それは何よりです」
「ま、それを支える母体が怪しくなるのですが……」
「それは……つまり……」
「……そこは私からにしようか」
話をやめていた竹谷氏がここに加わった
「そうですね。それはそちらでお願いしましょう」
「わかりました。角谷くん、恐らく君も察しているのだろう?」
無言はYESの代替えだろうが、それをもって私は返事とした
79 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/04(日) 21:10:33.23 ID:0Sd2UHCP0
「大洗女子学園学園艦は……このままでは廃艦となる可能性が高い……そうだ。期限は来年度末」
「そう……ですか」
予想より期限が早いが、わかっていたことであった。抑えているものもあるとはいえ、問題だらけの学園都市だ。統廃合を進めるという国の主張に則るなら、ウチは廃の字が一番適しているだろう
「そうですかではないぞ!学園そのものも無くなるのだぞ!」
「かといってですね、金銭面や産業面、そして政治面。実務を遂行してきた者として問題は山積しているのを見てきております。そしてそれを解決する金はない
この学園都市の規模から見ても、条件的に廃校候補には入り得るかと存じます」
「し、しかしだな……」
「それでは良くないのです」
今度は辻氏だ
80 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/04(日) 21:11:18.62 ID:0Sd2UHCP0
「大洗はこの流れを乗り切ってもらわねばならないのです。角谷さん、貴女には……これを阻止して欲しい」
「はい?」
思わず変な返しになってしまった。私単独で国に抗えというのか?
「貴校の水産技術は、特に深海魚の養殖産業に関しては世界にも並べるクラスです。廃艦によりこの技術者層が各地に分散するのは非常にいただけません。
深海産業の関連技術は我が国が将来的に資源開発を進める中でその良きサンプルとなり得ます。その環境もある中で放棄するのはよろしくない」
メタンハイドレートとかその辺りか。私も詳しくないが、日本のその広大な排他的経済水域を考えれば方針としてはアリ……か
「他にも自動車部や選択必修科目、また生徒の学業成績を見ても、決して存在価値が薄いわけではありません。さらに昨今は治安や体制などを改革する節も見られます。実際公立校の中では現状だとマシになっている部類ですね」
「この先を生き残る気概が見られる、といったところですかな」
「生徒感情から見ても全面編入ではなく分割編入、学園解体となるのは良いものではありませんしね。現状全面編入を認める学園都市はおりませんから、半ば無理やり進める形になります」
81 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/04(日) 21:12:05.35 ID:0Sd2UHCP0
学園を褒められるのは悪くないが、それでも前提と世論が厳しいことには変わりないはず
「……とはいえ阻止すると申されましても、国という組織に対して我々に何ができましょう。我々がなんとか茨城県議会でも動かして非難決議を出させたとて、それで動く代物ではございますまい」
「ええ、その通りでしょう」
茨城県は現在でも野党が衆議院で議席取ってるしね。ウチのところは与党が当選したけど、人口比率的に気にしなくてもいい、との目論見だろう。原子力対策といえばここら辺だと耳触りいいしね
「それに何より、貴方はそれを官僚側として執行する側のはず。それでなぜ貴方がそれを阻止しようとなさるのです?そこに大きな矛盾を感じざるを得ません」
きっと裏がある。私にだけ都合のいい話などそうそう転がっているわけがあるまい。きっと誰かがもっと利を得るためのものだ
「だ、だがな角谷くん。これが真に執行されるとなれば、我が町としても損失が痛すぎるのだ
県内では我々の他にも日立や北茨城、神栖などが飛び地として学園艦を有しているが、我が町の飛び地として所属する学園艦は君たちだけだ。つまり学園都市が解体となれば、君たちは他の町や市の民になる」
なぜ受け入れたのが女子校だったのか。町の男女比率が狂っているのもこのせいだ。ま、これのおかげで不純異性交遊の取り締まりは楽らしいんだが……そこと運命共同体になったのは先人のミスだろう
「我が町の本土はもうすでにボロボロだ。こっちだけなら高齢化率が50%近いし、観光需要もアクアワールドで保っているようなもの。海水浴は安定した収入にならんし、そもそも観光は雇用にならん。
漁業も放射能関連で輸出が詰んでるし、企業は明太子屋がいるのみ。そこに先の震災だ。そのせいで内陸所属の学園艦も千葉や神奈川に母校を移し始めている
地上に中学、高校がない以上、もはや学園艦は旺盛な若者の場所は町を保つ最後の砦なのだよ。産業面、税収面共にな」
若者は……ここでは学園艦、他の学園艦を含む場所を経て都市へと向かっていく
82 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/04(日) 21:15:08.60 ID:0Sd2UHCP0
「それはこちらとしても把握しております。しかし期限が来年度末である以上、根本的な解決は不可能です。チマチマしたもので国を変えられるわけがありません。
それに何より、私が先ほど提示された疑問は解決されておりません。これが進まない限り私は易々と首を縦に振るわけにはまいりません」
「……私が真に君たちを廃校にするつもりなら、この格好で訪れたり、こんなことを言ったりはしません」
「真意は何です?私も学園都市の民から選ばれた者です。それが解決可能なら可能な限り手を打ちます。しかし大規模な財源の確保も困難な状況で、問題を改善させる手立てを見つけるのは厳しいかと……」
「……その答えなら、もう貴女が使っているではないですか。それが良い話です」
「使っている?」
「貴女の選挙を見て、答えがありましたからね」
私の選挙?圧勝したという支持か?確かにそれがあるのは大きいが、過半数を占められていない議会がいる以上根本は変わらない。別にそれを元に強引に政治ができるようになったわけでもないしね
「私の……選挙?」
だとしたら何?何もないし、何も特にしていないんだよ?
「……西の黒森」
竹谷氏の口からポロリと溢れた言葉。それが全てだった
「……東の知波単」
続けた。私も知っている言葉だ。いや、使おうとしたものだ
「あれに見ゆるは大洗」
そう。それはかつての大洗の誇り
「……戦車道、ですか」
箸をつける余裕もない炊き合わせが、未だに机の上にはあった
83 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/04(日) 21:15:36.10 ID:0Sd2UHCP0
今日はここまでです
84 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/11(日) 22:56:38.17 ID:tP2Lrtg70
遅くなったけどそろそろ始めまスゥゥ
85 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/11(日) 23:01:51.65 ID:tP2Lrtg70
「もしや……戦車道を復活させよ、と仰るつもりですか?」
「端的に言えばその通りです」
何をバカなことを。戦車道があったのは20年近くも前だ。私自身そんなに詳しくないが、戦車道が金食い虫だってことはわかる
「無理を仰らないでください。今の我が校にそんな代物を運用する金はありません」
「昨今、戦車道連盟は新規参加校への間口を広げてましてね。するとなれば補助金が出ますよ」
「ならばその前段階です。戦車もない、人材もない。そしてそれを支えられる金は補助金とサービス業収入のみ。それでかのプラウダや黒森峰のような大戦車部隊を持てと?実に滑稽な話です」
86 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/11(日) 23:02:24.97 ID:tP2Lrtg70
「……あるのでしょう?戦車は」
辻氏の言葉に少し詰まった。あるにはあるのだ、多分
「書類上すでに全車輌廃棄となってます」
「誤魔化すのにこんな時期に汗をかくのは感心しませんね」
「すみません。最近忙しくて体調が万全じゃないもので」
我ながら誤魔化し方は下手だと思う
「……そちらの書類は確かにこちらに来ましたが、その時に処理されたとされる業者が、同時期に他の学園艦の戦車を処分していることが判明したのです。おそらく口裏合わせた偽造でしょう
そして部品の移転先も一切不明。明細も来ていません。いくら損傷が激しくとも、車輌の部品一つすら売却していないのは不自然でしょう。金が必要なはずの大洗なら尚更ね」
無理だよな。だがこちらだって無理だ
「……確かに学園艦内に存在する可能性はあります。しかしそれらは売り手がつかなかったもの。付いたものは全て売却されています
そちらからしたら残念でしょうが、それだけは確実です。そのようなオンボロしかない状況で戦車道をやれと?」
「そこで名を残せれば、廃校回避を考えうる要素にはなるでしょうね。さらに知名度が高まれば志願者数を増やせるでしょう」
「ハッ。仮に戦車があるとしても、それらはオンボロでしかない上に、人材もいなければ練習もまともにできない。そんな状況で名を残せる成績は残らないでしょうね。黒森峰かプラウダ辺りにボッコボコにされて終いです。名前なんて世の中に知られようがないでしょうね」
87 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/11(日) 23:04:18.77 ID:tP2Lrtg70
「そこで私が少し協力しよう、と考えているのですが……」
真意は聞けていないが、というより向こうが言うつもりがないようだが、この辻氏はなぜか我々を助けようとしてくる
本当に味方かを考えるのはやめた。果たして本当に学園の未来に役立つかどうか。判断基準はそこでいい。話だけは……
「何です?」
と私はこの先へ一歩進んでいた
「丁度いい人材を一人ですが紹介できましてね。要するに転校させてもいいということです。腕の方は保証しますよ?むしろ高校生最高クラスの方です」
「……どれほどなのですか?学年は?」
「現一年生。新学期からなら二年生になりますね。一年生にして主力に加わる以上のことをやってのける逸材です」
2年間居られるわけか……
「それほどの方がなぜウチに来るんですか?わざわざ戦車道が現状ないウチに」
「事情がありましてね、学校の方針的に置いておきたくないそうです。で、親御さんからも転校に関する話は伺っておりましてね、あなた方を勧めることも可能です」
複雑そうだな。立場によっては最悪その前の学校との関係が悪化することも考えられなくはない。亡命を認めるようなものだしね
88 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/11(日) 23:04:47.50 ID:tP2Lrtg70
「ふむ……となると、彼女をウチに呼んでも戦車道をやらないのでは?」
「やらせるしかないでしょうね」
「……ちなみに名前をお伺いしても?」
「西住みほ」
「西住、となると……西住流ですか」
名前くらいしか知らないが、戦車道の中では有数のものだったと記憶している
「その次女ですね。後継者ではない方の。姉のまほが隊長で、今年の夏まで彼女は副隊長でした。西住流といえば黒森峰ですが、今年の黒森峰がどうなったかはご存知ですね?」
「確か……夏の大会で10連覇を逃したとは伺ってますが」
「その時決勝で負けた際に、そのみほさんが川に落ちた戦車道の仲間を助けに行き、その最中に自車輌が撃破されて終了したそうなんですよ。そのせいで敗北の原因が彼女にあるとされてしまったようでして。
西住流というのは勝利を重んじる流派である上に、内部の、特に3年生からの反発が大きいらしくてですね、西住流としても扱いに困っているそうです。さらに学園の体面を保つためにも、黒森峰側もあまり置いときたくないそうで」
一回の負けでここまで追い込むとは……大人の身勝手というのも嫌なものだ。実際の3年生からしたら負けたせいで自分たちの推薦も危かったりするだろうから、そうも言ってられないのかもしれんが
「それで……ウチに来るという話になると。確かに黒森峰の副隊長ともなれば技術は相当なものでしょうね。一つ疑問なのは、黒森峰がそこまで毛嫌いする存在を受け入れても問題ないのか、という点ですね」
「厄介者を受け入れてくれた、とのことで収まると思いますよ」
89 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/11(日) 23:05:50.63 ID:tP2Lrtg70
「それと……やはりそれだけのことがあるのなら、ウチに来ても彼女は戦車道をやらないのでは……」
「もう一度言います。やらせなければあなたの学園に未来はない」
やらせる?生徒の自主性を重んずるべき学園都市で、選択の名がつくものを強いるだと?
「今から、しかも来年までに他の部活動で優秀な成績を残せるならば考えますが、そうなると資金面の優遇はできないですね」
確かに他に道はない……気がしてしまう
「我々としても戦車道を導入してもらうことにはメリットがある」
ここで竹谷氏が口を挟んだ
「戦車道で破壊されたものは連盟からの補助金により修復可能だ。先の震災での復興が万全でない今なら、大洗で市街戦をしても連盟からさほど嫌な顔はされないし、町としてもその資金で区画整理を実行できる。
ちょうどマリンタワーから大洗駅までを直接結ぶ道の建設計画があってね、それのために一掃しておけば建設が楽になる。場所は多少移れど、ほぼ無償で建て直されるなら町民からの反発も少ないしな」
観光面を再興するためにも必要、か
「それに戦車道の試合による観光収入も僅かではあるが無視できない。そこを起点に大洗をアピールすることもできる。同じレベルのものが開けるなら話は別だが、流石に無理があろう」
「確かにそうですが……」
だがこの決定は一人の見知らぬ少女の運命を決めてしまうことになる。しかも自主独立のための学園都市で。良心が足を引っ張る
90 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/11(日) 23:09:45.21 ID:tP2Lrtg70
「角谷さん」
思考の中に入ろうとするのを、辻氏の声が止めた
「彼女に対する良心の呵責で悩んでいるなら、それは素晴らしい。人間ならどこかで持っていてほしいものです」
そりゃそうだろう。人間なんだから
「だがそれを持ち出すのは今ではない。君は選挙で一年間大洗女子学園学園都市の民を代表する者とされたのだ。その責務を果たす義務が君にはある」
「それもまた政治の真髄の一部なのだよ、角谷くん
当選した以上、支持層の求めには応じなければならないし、自分を支えているのは世論であることを理解しなければならない。世論、いや組織そのものと少女一人、天秤にかけるまでもないだろう?」
「天秤に……」
人の運命、それを天秤に乗せる。その言い方に憤りはあった。だが可能な限り学園は残さねばならない。それは大洗女子学園に通い、その地に住み、その母港に実家を持つ者としても当然の帰結だった
91 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/11(日) 23:10:40.41 ID:tP2Lrtg70
「そして今、我々3人にはそれぞれメリットがあるのです。私は戦車道の普及を一歩進められ、深海産業に関わる知的財産を、国益を守ることができる。竹谷氏から見れば、戦車道導入は大洗再開発の支柱になるし、学園存続は町に必要なものだ」
そうなのだ、話に乗るのが早い。が、どうも乗せられている気がするのだ。少女の運命を変える云々を抜きにしても
「そして君は、その実績如何では危機に瀕している学園を守ることができる。名が知られて大洗港の修復に世論の支持が傾けば、君らにも大洗町にもメリットは大きい。
この三方よしの状況で、君が断る合理的な理由は無いはずだ」
そうだ……私は政治家になったのだ。あの干し芋片手の気軽な返事からその道に踏み込むことを決めてしまったのだ。そして何より、そこにしか実際可能性はない
92 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/11(日) 23:11:28.97 ID:tP2Lrtg70
部活には良くも悪くも受け継がれたものがある。彼らにこれまでとは桁違いの実績を求めるのは酷だろう。むしろ無理やりすれば反発を受けるし、急にどこかを贔屓したら他から総スカンを食らう
ある意味これまでなんの継承もなく、かつ生徒会が直接下部におけるもの。それがかつての栄光の時代、いや、新たな時代を生きる大洗女子学園の未来に繋がるなら……そしてその学園で……生徒が笑える時代を護れるのなら
「認めざるを得ないのでしょう。これまで何代と受け継がれた学園の伝統と気概を守る。それもまた……役目である、と」
運命を変えるとしても、変え方というのもあるだろう。決して悪い方向に一方通行ということもないはずだ。廃校まで時を刻みながら泣いて過ごす未来が良いはずがない
「分かりました。何としても導入してみましょう」
しぶとく粘り続けてやろう
93 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/11(日) 23:12:15.93 ID:tP2Lrtg70
「その通りです。これで大洗女子学園の戦車道導入に関してこの3人で合意ができました」
辻氏が不敵に笑う。やはり何かしらの裏がありそうだが、裏があったとしても乗るのが得策なのだ。逆に裏の目的があって向こうが実行しなければならない、という方が助かる
「その通りですな。互いに事がなされるまではこの内容を話さないこと。各自各々の目的を果たすこと。これに関しては約束しても良いですかな?」
今度は竹谷氏が信用に関する取り決めを示した。私としても問題ないし、むしろやって欲しい
「私としてはその取り決めで問題ありません」
「私も、ですね。では角谷さん、西住さんに安心してきてもらうために、戦車道導入の正式発表はできるだけ遅くしてくださいね。学園に関してはこちらからオススメした後、関係者に説明しに熊本まで来ていただければ問題ないかと」
遠いな……だが必要な人材を確保するためなら安いか。機密費から出せばいい
「彼女がいなければ話になりませんからね。何とか秘匿し、人材を派遣しましょう」
「こちらも連盟に試合会場可能な場所として申請を出さねばな」
「連盟に関しては私から取り次ぎしましょう。世界大会関連でツテがあるのでね」
「辻さん、何かと申し訳ありません」
「良いのですよ。皆の利あってのものなのですから」
不気味だとしても、乗っかるしかないな。戦車道が無理ならこの道を諦めるしかないが
そのあとやっとこさ蓮根の炊き合わせに箸をつけられたが、多少美味しく感じられた
94 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/11(日) 23:13:28.57 ID:tP2Lrtg70
酒を交わさないとのことで八寸を抜きにして出汁のきいた吸い物をいただき、香の物を摘めば、あとは菓子のみだ
めちゃくちゃ美味しいお茶とともに餡の入った和菓子をいくつかいただいている最中、竹谷氏が口を開いた
「角谷くん」
「……はい」
先ほどの件に絡むことだろうか。かといって戦車道をやるまでは大したことはできないはずだが
「大洗町は……大洗女子学園により強力な政権が誕生することを認める用意がある」
「はい?」
だが聞こえたのは本当に関係なさそうな話だった
「……君たちの改革が急務なのはわかっただろう。スピードが求められる中、議会だの何だので話が纏まらなかったら意味がない。だから君がより大きな権力を持ってくれた方がこちらとしては有難い」
95 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/11(日) 23:14:05.08 ID:tP2Lrtg70
「……およそ民主主義国家の日本で出てくる言葉とは思えませんが」
「違うな。君も選挙で選ばれている以上、単に大統領により近づけ、というだけだ
今は事情が事情だろう。こっちの議会も大して反発するまい。戦車道導入とかで揉めたりしないよう、遠慮なくやりたまえ」
確かに……現状大きな壁となるのが戦車道の導入そのものと予算の合意が得られるかだ。どちらもクラブや職人連合辺りが強硬に反対してくるのが予想できる。もしそこら辺が抵抗し得なくなるなら、私のやっていた役目をやらなくて良くなるわけだ。手間が減る
だがそれは同時にこの前改革した議会の意味を薄れさせる、ということだ。一度手放した議会がどうなるか、将来に不安を残す形になりかねん
定期的に、それも頻繁に指導者を入れ替えざるを得ない学園都市においては、継承に正統性がある民主主義の方が吉なはずなのだ
「それ抜きでもこちらとのねじれや体制的に揺れることは避けて欲しいのだ。生徒会長が主導権を握ったとしても、生徒の自治という面は決して変わらないしな」
「……考えておきましょう」
それが精一杯の返事だ。直近の情勢は下に確認を取る必要がある。この先のことも含めてね
それ以降は深入りした話はなかった。私の財布から金がなくなることもなかった
「今後はよろしく頼むよ」
辻氏、竹谷氏から電話番号を貰って告げられた言葉も、かなり簡単なものだった。バラバラに帰ったまま、連絡一本入れてこの日は実家に帰ることにした
96 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/11(日) 23:14:49.19 ID:tP2Lrtg70
今日はここまでです
読んでくださる奇特な方、アリシャス!
97 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/18(日) 23:46:30.90 ID:IVBb+05k0
始めます
私は実に運のいい人生を送ってきたと思う。別にさっき飯を奢ってもらえたとかそういう意味ではなく、これまで特に人間関係とか学業で苦労した記憶もないし、こうしていつのまにか学園都市のトップまで登りつめていた。じゃんけんに負けたことがないことよりもそっちの方が大きいだろうな
今回も運がいい部類に入るのだろう。廃校一直線から外れる道を、それを本来執行すべき官僚から提示されているのだから。同じように候補に入っているであろう他校に対しても同じようにやっているのかもしれないが、ウチがそうであるだけでもプラスだ
だがこれを一人で背負うには重すぎた。私だって人だ。高校生だ。そして背負うのは学園都市3万の民の未来だ。秘密にしろと言われても、誰かと共有せねば私が潰れる
98 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/18(日) 23:47:06.48 ID:IVBb+05k0
たまらず久々に寝転がったベッドの上で電話を取り出した。掛ける先は小山だ。ただ、幼い時からの付き合いがあり、私のことをよく知っていて、それでいて客観的に評価できる彼女に確認が取りたかった
「もしもし。杏、どうしたの?」
向こうはこちらの夜遅くの電話に多少困惑しているようだ。そもそも私自身今日は単に町長に挨拶するだけの予定だったのだ。それでいて電話。何かあるのかと考えたのだろう
「あぁ、小山。そっちは大丈夫か?」
努めていつも通りに話しかけた
「大丈夫かって……別にそんな大した案件どっちにもなかったでしょ?インフラなんて北部の道路修復工事くらいだし、学園課だって予算まで目立った案件無いじゃない」
「そうだけど、今日一晩そっち空けることになるしさ、確認だよ確認」
「ふぅん……で、何かあったの?予定だったら帰って来るって言ってなかった?」
「いやそれがさ、話をした後に食事に呼び出されちゃってさ。しかも町長直々にだよ……断りにくいじゃん」
「あぁ……確かにね。でもそれは、杏が信頼されていることの証明じゃないの?」
「それならそれでいいんだけどね……」
99 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/18(日) 23:47:35.89 ID:IVBb+05k0
しかし……どう切り出したものか。廃校の話はできない。リークされた情報を伝えるには環境に不備がありすぎるし、信用の観点から見て公開されるまで出来るだけ留めねばなるまい
じゃあ戦車道か?それは学園課に問い合わせるしかない。そもそも戦車がまともに残っているのかも分かっていない
そうしたら、訊くこと、共に持ってもらうべきものは一つに絞られた
「なぁ……小山」
「どうしたの?」
「私は……独裁者になれると思うか?」
言い方は違うかもしれない。だが学園艦の政治情勢を考えれば、そう捉えられてもおかしくないことをやらねば達成はできないはず
「……どういうこと?」
「町長から……生徒会長の権限を拡大するのを容認する用意がある、と言われたんだ。この先生き残るには改革を進めていかないかんだろう、とね。実際その通りなはずだ
だけどさ、現状を考えると私がさらに権限を握るには、もはや独裁まがいのことでもしていかなくちゃいけなくなるだろ?」
「……そう……ね」
「小山、率直に言って欲しい。私にこれが出来ると思うか?」
向こうはしばらく沈黙し続けた。こんな話をいきなり振られてどう答えるべきか迷っているのだろうか
100 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/18(日) 23:48:25.27 ID:IVBb+05k0
「……人としてなら、できる」
「前置きはともかく、その心は?」
「杏は相手がどれだけ上でも臆せず対応できる。今の大洗で学園外とも張り合える人だから、権力を握っても外部の協力を得ていけるはず、というのが一つ
そして……私は杏がやるなら、どこまでも支えたい」
強いね、やっぱり小山は。人に対してそんなことを簡単に言える人間はそうそういないよ
「……ありがとね。それで、前置きをしたのは?」
「その議会をまるごと敵に回しかねないのは、厳しいものがあるんじゃない?」
「……そこか、やっぱり」
「だね。生徒会はフォーラムと組んでるからやっていけてる。けど、いくらフォーラムといえど、私たちが議会権限を縮小する、とかし始めたら流石に無理があるよ」
「今から新党立ち上げとかは?」
「今から切り崩しはいくらなんでも無理でしょ。それにそこにリソース取られたら改革も進まないよ」
「そりゃそうだ。まずはOG会関連からやらないといけないしね。だとしたらできるのは……」
「フォーラムを……生徒会に従わせる。やれるとしたらこれくらいかな」
101 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/18(日) 23:48:59.16 ID:IVBb+05k0
「フォーラムを……生徒会に従わせる。やれるとしたらこれくらいかな」
あの大与党を私の下に……か
「……かなり無理じゃない?すでに支持層もあり、支持基盤もあるからできたら強いけどさ。向こうも選挙対策とか幹事長クラスには2年生使ってるし、下から上がってくる奴もいるってことでしょ?」
「でもフォーラムだって今後も議会過半数は自力じゃ取れないだろうから、それに近づけるなら杏と組み続けるメリットは大きいはずでしょ
やはり都市内で杏の人気が高さがものをいうよ。投票率が80%以上という中で得票率7割近く。他に候補がいなくて、という消極的要素はあったとしても、そこまでの大勝利なら自身の権限強化しても都市民からは大きな反発は起きないと思う
都市民の反発がないなら、フォーラムだってその世論にはそうそう逆らえないよ。議会の範囲を市民にまで広げた今なら尚更ね」
「だからといって私の命令に従うようになるかは別じゃないかい?」
「そこなんだよね。現状実際に議会に影響力持っているのはフォーラムなわけだし、かといってフォーラムの力を落としてクラブとかが躍進されても困るし……」
「……ま、いろいろ考えてみるよ」
だが向こうは電話を切ろうとしない
102 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/18(日) 23:49:32.09 ID:IVBb+05k0
「ねぇ杏」
「どうしたのさ?」
「……その力で、何をする気なの?」
「え?」
「だって直近でそんなに大規模な改革、少なくとも議会で調整できそうにないものってないじゃない。OG会の統合だって予算の増加を考えたらどこも反対なんてどこもするわけないし、この前の議会改革以上に敵を作りそうな案件なんてそうそう無いでしょ」
そう来たか……来てしまったか……
「……これからきっと、大規模な改革が必要になるからさ」
これで……誤魔化せてくれ。戦車道のことを言いだすには早すぎる
「ふーん……そう。じゃ、また明日」
「あ、ああ……」
まぁいい、確認取るまでだ。しかしなぁ、小山にもかーしまにもいえぬ秘密を抱えるとは……あんまり気分いいもんじゃないね。流石にちょいと話したから潰れはしないけど
103 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/18(日) 23:49:59.49 ID:IVBb+05k0
しかし……今まで学園の道を決めてきた議会、その力を奪うのはやはり厳しいものがあるね。そもそもの選挙区からの選び方も絡むし、組織力と支持基盤もある。そこら辺をうまく削りつつ、野党も封じ込めていくしかないか……
クラブ……かねぇ。あとは職人辺りをなんとか切り崩すか……今日得たツテも使って考えてみるか
さて、次だ。今度は別の番号にかける
「はい」
相手は学園課の副課長の田川。年は一個下だ
「あー、田川ちゃん。私私」
「課長。こんな時間にいかがなさいましたか?」
「急で悪いんだけど、ちょっと一つだけ確認取って欲しいものがあるんだけど、明日私が帰る前にお願いできる?」
「……確認ですか?」
「そーそー。書類があるかってくらいでいいから」
「その程度なら構いませんが、何の書類ですか?」
「昔やってた戦車道の書類、集めといてくれない?」
104 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/18(日) 23:50:36.15 ID:IVBb+05k0
今日は短いですがこんなところで
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/20(火) 16:12:44.43 ID:TLefAi200
おつ
106 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/25(日) 22:33:05.89 ID:eRVMqIM00
>>105
ありがとうございます!
そろそろ始めます
107 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/25(日) 22:40:09.79 ID:eRVMqIM00
始めます
帰った私は田川ちゃんから貰った資料を読み込んでいく。時折最終決定を求められることもあるが、だいたい内容の予測はついてるうえ、ほぼ問題なく通過するから、さほど時間は取られない
さて、貰った資料を漁ってみる限り、戦車はあるにはありそうだ。売れなかった戦車や一部は意図的に売らせなかった戦車を学園艦のあちこちに隠しているらしい。向こうの辻氏の予想していた通りだったわけだ
しかしその数はほとんどない。隠す手間かけるだけ数は増やせなかったのだろう。おまけに資料には件の売却したことにしてある会社と戦車の名前しかなく、倉庫に1輌ある他は場所すらわからない
とにかく今回の資料で目算がついただけでも7輌。資料に残さなかったものを含んだとしても、10輌いけば御の字だろう
108 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/25(日) 22:40:36.71 ID:eRVMqIM00
つまり無理だ
ハハハ、この状況で戦車道で名を残せだと?nice jokeにも程があろうに
調べたところこの高校生の戦車道の全国大会、テレビ中継されるのは決勝のみ。つまり決勝戦まで行かなければ我が校は全国区にはならない
で、その手前の準決勝の最大車輌数は15。決勝だと20になる。対してウチは多くて10。しかも早くても4月から掻き集めただけの素人たち。どう考えても幼い頃から鍛え上げているメンツの集まる黒森峰、プラウダの精鋭には勝てん……でしょ、実際問題
いやだってさ、今から弱小校を来年の甲子園で優勝させるとかさ、考えてごらんよ。無理
109 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/25(日) 22:41:07.93 ID:eRVMqIM00
そしてかつての財政状況も確認しているが、戦車道が財政を圧迫していたのは事実のようだ。もっとも成績が良かった時代は多少の使いすぎも黙認されていたようだが、バブルがはじけて金が足りなくなってそこを追求され、あっという間に廃止となったらしい
だろうな、当時の私が同じ立場だったとしたら、これは多分切る。理念や題目のためにも学園は存続させねば話にならないし、当時は湾岸ジュリアナの覇権の後で戦車道は退潮気味だったんだからなおさらね
戦車道は一にも二にも十にも百にも金がかかる。練習するだけでも練習用弾薬、燃料、車輌整備費用。そして戦車は大概燃費がクソ悪い。それを何輌も動かしたらあっという間に何十Lものガソリンが排気ガスに変わってしまうようだ。試合になったら何だ。学園艦動かして試合会場まで自前で運んで来いだ
で、それでいて本来そこまで都市にメリットはない。軍隊に生産性を求めないのと同じで、別に都市の経済状況を好転させるわけじゃない。金食い虫にもかかわらずね。ま、試合開催での観光くらいか?
だからこそ今戦車道ができるのは金がある私立ばっかりだし、大金を握っている有力な学校が毎回ベスト4以内を占めるということになっている。権威の象徴といったところか
これが学園都市の治安維持に役立つとかならまだ多少の支出も目を瞑れるが、ウチにはそれはいらん。その点は風紀委員で何とかなる
つまり大洗に戦車道を導入するメリットは、学園の廃校回避さえなければ正直ないのである
110 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/25(日) 22:44:46.12 ID:eRVMqIM00
さて参った参った。ああ言ってしまった以上できる限りはやらねばならないが、ハッキリ言ってフォーラムすらこの話に乗ってくるかは疑問符がつく他の党なら尚更だ。こうなっては予算が通らなくなる
いやそれ以前だな。生徒会内部すら纏められるか……
だが好材料もないわけじゃない。件の西住みほ、という少女に関してだ
この少女、日本の高校生の中でも5本の指に入る逸材なのは間違いないらしい。本屋で見つけたちょいと古めの戦車道雑誌にも、彼女のことは結構しっかりと書かれていた。で、辻氏が話していた西住流や黒森峰の対応もその通りのようだ
正直気分のいい話じゃないが、きっと元老層の反発を考えると流派としてはそうせざるを得ない、って感じかな
確かに彼女を引き込めれば大きい。だがそれだけだ。彼女一人で勝ち進めるほど甘くはない
なにせ彼女の姉、高校生最優秀選手の西住まほが黒森峰の精鋭を率い、今年その黒森峰を破った立役者のカチューシャがプラウダを率い、そして物量のサンダースに古豪聖グロリアーナ。だいたいここら辺に5本の指の残り4本はいる。このうち最低一つを破っていかねばならないし、しかも他の学園もある
111 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/25(日) 22:45:23.80 ID:eRVMqIM00
やっぱり無理じゃん
有用な点もなければ道も全て塞がってるよこれ
はぁ……しかし約束は約束だし、他に学園を残せる道があるわけじゃないんだよね。他で実績を残すのは無理だし、学園艦で籠城戦するわけにもいかん。今から急に来年の志願者数が倍増するとも思えないし、釣る餌を準備できるわけでもない
やるしかないとなれば……どうにかして戦車道の有用な点を示すか……いや、それともフォーラムをこの案に取り込むか……
フォーラムにこの案を呑ませる。それはかなり厳しいだろう。支持基盤が普通科とか情報科、商業科だけに、一般生徒が所属している部活動の援助額に響きうるこの話は、易々と受け入れられる話じゃないはずだ
戦車道に大金を割くのは彼らの党是である相応予算とも合わないし、私と完全にべったりと示すのも有権者受けが悪い
かといってフォーラムと手を切るのも少なくとも今じゃない。生徒会内部にも隠れた支持者がいるから、そこら辺が面と向かって手切れされるのも痛いし、野党第一党のクラブはあまり信頼できない。向こうもこれには流石に乗ってこないだろう
それに何といってもフォーラムは総議員数281人とでかくなったとはいえ、未だ過半数を取っていない。前に通せたのは海の民やクラブからも造反がいたからだし、何より町内会系の無所属をほぼまるっと取り込めたのが大きい。
しかし今回ばかりは町内会系も全員OKとはなるまいし、そんなに造反させられまい。そうじゃなきゃ野党が廃るとか言い出すだろう。さてどうしたものか
112 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/25(日) 22:46:10.18 ID:eRVMqIM00
「……またどっか取り込めないかねぇ〜」
「どうしたんですか?課長」
悶々としていると、近くを通りかかった一個下の部下に独り言を聞かれたらしい
「ん?あぁ、いや。ちょっと考え事」
「なんか問題ですか?だーいじょぶですって。課長が生徒会長なら大概の問題は市民の支持得られますって」
「そうかね?」
「そりゃそーですよ。それじゃなきゃあんな得票率来ないですよ」
「それもまぁそーかもしれないけどさぁ」
「それに私みたいに4年も5年も側にいる人間からしたら、課長なんてなんでもサラッと干し芋食べながらやっちゃってる人に見えますから、きっとそのまま会長に就任されて、そして退任されますよ」
「そうだといいねぇ……」
「なんですか。課長らしくないですねぇ」
「いやさ、この立場になっちゃうと学園のお先が見えてるから怖いんだよ」
「こりゃ驚きましたね。課長ほどの方にも怖いものがあったんですねぇ」
113 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/25(日) 22:46:36.76 ID:eRVMqIM00
「フォーラムがもうちょい強ければこうも悩まなくて済むんだけどさ……なんかできない?」
「フォーラムをですか?いやぁ、きついんじゃないですか?会長の選挙制度改革で取り込めた無所属が精一杯かと思いますよ。それ以外のところは支持基盤あるところだらけですからねぇ……」
支持基盤か。無党派層が流れがちなのはクラブぐらいだが、それはクラブもそこそこ大きいから惹きつけられるわけだ。他の支持基盤はその党に自分たちの願いを託しているから、その本質には切り込みづらい
「支持基盤……ねぇ」
私の中に一筋の光が宿った。かなりの技だ。だが、これができれば……やれる……かもしれない
だがこれにより第1党が確立されれば、そこの権力も自動的に強まる。敵対したら私を阻む議員条例案、という形のフリーハンドを渡すこともできてしまう
それでも、やるしかなさそうだ。まずは年度中に勝負を決めるしかないんだから。冬休みをまた亡き者としてまでも
「……やるか」
「何をです?」
「今再びの大改革さ」
114 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/08/25(日) 22:47:02.88 ID:eRVMqIM00
今日はここまでです
115 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/09/01(日) 23:35:47.54 ID:3wYCeXjw0
すまんがぱっぱとやっていきます
116 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/09/01(日) 23:36:33.69 ID:3wYCeXjw0
まずは直近の休みの日、標的に近い備品管理局長と小山を呼んで考えを伝えてみた。備品管理局長の三崎ちゃんによると、まずこの方針を支持基盤に呑ませるのがかなりの難題だろうとのことだった
被服科、農業科のローテーション実習システム導入による学費格差の是正
すなわち設備などの理由から学費が普通科より高めのそれらの学科の学費を、彼らの短期研修名目の実習による生産と引き換えに取り消すというものだ
これにより表面上の学費が対等になれば、職人連合はフォーラムへの抵抗の意義を失う。結果としてそれを実現したフォーラムに接近する、公正会の時に近い技だ
だがハッキリ言って裏は見えているようなものだ。それに何より……
「被服科の教員陣がこれに同意するか見通せません。ローテーションということは授業時期にも時間差が出ることになりますので」
「各期間の教員の負担はクラスが減るから減る、それでなんとかならないかい?」
「そうなると現状組んでる授業スケジュールを大幅に組み替えることになります。被服科だけでも教員が100人以上いるんですよ?その全員の合意を得て進めるのは、しかも今年中は……」
117 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/09/01(日) 23:37:06.86 ID:3wYCeXjw0
「それに杏、これだと研修で利益出さなきゃいけないでしょ?農業科は農協に卸せばいいけど、被服科は企業呼び込んでやるなんて可能なの?」
「そこに関して、またその相手企業も信頼できるところでないと、説得はできないでしょうね。さらに農業科は既に実習を行ってますから、そこからさらに拡大することへの反発も避けられません」
「被服科ならまだその点は進められるかもしれないけど……それ抜きでも今年中は厳しすぎるよ」
時間がない
今はもう11月下旬。ここから4月の開始は教員陣の説得で精一杯、というのが2人の見解だ。来年のスケジュールは結構埋まっている。これを学科一つ分ひっくり返すのだから無理もない
118 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/09/01(日) 23:37:42.05 ID:3wYCeXjw0
「……時間ね」
「少なくとも来年度から導入は避けるべきでしょう。それとこの人員ローテーションを呑んでくれる企業の確保。そこ次第かと。それ抜きでもかなり厳しいでしょうが」
「……分かった。話が聞けてよかったよ」
「……はい」
だが……
「企業はアテを探ってみるよ。あとは学科への持ち込みも」
「は」
「え?やるの?」
「……他に……職人連合をフォーラムに取り込む上で有効な策があったら聞くけど」
「職人連合を……ですか?」
「杏……」
「そうだ。私の代で、学園の闇には霧散していただくしかない。その為にも……フォーラムを強くさせつつ、恩を売る
これさえ通れば普通科と農業科、被服科の学費の差はほとんど無くなる。そしたら職人連合がフォーラムと対立する理由は無くなるさ
その為に他にできることがあれば聞くよ?」
「た、確かにこれができれば大きな恩を売れるかもしれません。しかし……できなければ意味がありません!」
119 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/09/01(日) 23:38:09.84 ID:3wYCeXjw0
「……杏」
小山が一際低い声で私を呼んだ
「本当に……何を……考えているの?」
「簡単な話さ。私たち生徒会が予算の主導権を握る。部活とか学科とか、そういう枠があるから議会だと妥協した代物しかできない。
真に改革を成すには、私たちが決められる状況を整えるしかない。その為には……フォーラムを強くした上で貸しを作るのが早い。
結局のところ政治はゼニさ。何をやるにしてもその為の金がなきゃ始まらない」
「それができたら確かに大きいよ。でもそもそもの改革は何をするの?」
早いが……小山相手だったら潮時か
「三崎ちゃん、話をありがとう。すまないけど、戻っていてくれるかな?」
「……分かりました。しかし私からその案がかなり不可能に近いものである、とお伝えしたことはお忘れなく」
手厳しいね。流石は生徒会の部下だ。官僚として現実主義じゃなきゃやっていけまい
だが政治は半ば理想主義だ。まず一度理想を立てて、その後にそれを現実と調整する。そうしなくちゃその組織は現状維持、そして衰退しかできない
120 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/09/01(日) 23:38:50.69 ID:3wYCeXjw0
「で、杏。何をする気?」
「……何を言っても驚かないかい?」
「……杏が私にさえ言いたがらないってことは、よっぽどのことだろう、とは思うけど……」
「よっぽどのことさ。なにせ戦車道を復活させようっていうんだから」
「戦車道?」
「そう」
とりあえず一回理解の追いついてない小山は置いておこう。本題はここからだ
「……何のために?」
「学園の威信と象徴的存在の確保。そしてそれを生徒会直轄にすることによる生徒会の影響力拡大」
これらが欲しいのも嘘ではない。風紀委員会は治安維持には必要だが、反発されたら抑えられないのも事実だしね
「それだけ?」
「戦車道やると戦車道連盟から補助金が出るし、寄付金回収の名目としても大きいね。大洗の住民にせよOGにせよ、戦車道の栄光の時代は輝かしい記憶だろうし」
だとしても苦しいね。そんなのがあっても戦車道やる事と比べたら微々たる利でしかない
「やるとしても……人材は?」
「選択必修科目で」
「……戦車そのものは?」
「廃止される時に隠された車輌がある。書面上そうなってるし、倉庫にあるのは私が確認済み」
「……確かに戦車道をやろうとするなら、フォーラムの拡大は必須になるね。だけどこれを取引の材料にするのは……」
121 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/09/01(日) 23:39:21.28 ID:3wYCeXjw0
「だけどさ、小山」
「はい」
「現行の部活の中でいきなり名を残せるところってある。いや、部活だけじゃなくていい。学園の諸々の中で広く名を売れるものって、ある?」
「ないね」
即答するなよ。悲しくなってくるだろう
「はっきり言ってウチの一番の問題は知名度と強みがないことだ。そして無理に作れるだけの権限も今はない。だとしたら、その二つを同時に捌く策がいる。というわけで考えたのが今回のやつってわけ」
「そういう事だったのね」
「あとは戦車道をやってるところってだいたい有力校だから、ウチみたいな弱小がそこらと外交的な繋がりを作れるのも利点かな。というか、作らざるを得なくさせるんだけど」
「でも……どちらも実現性低いよね」
「そりゃそうさ。だがそうしてでも私は、この学園をより長く生き延びさせる道を作りたい」
「そこはそうだけどさ……」
出まかせばっかりだ。半分以上はそうだと言っていい。こんなもので小山を説得できるかは疑問だが、新副会長という立場もそうだし、友人としてどうしても味方に引き入れたい
122 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/09/01(日) 23:40:00.04 ID:3wYCeXjw0
「戦車道に関して話は分かったけど、それでもやはり被服科と農業科は急には厳しいと思う」
そこは厳しいんだが……
「だったら他を切り崩したり、将来的な補償にしたりした方がいいんじゃない?」
「小山……」
「杏が考えなしにこんなことするとは思えないし、なら私は……言った通りどこまでも協力するよ」
「こんなことって……」
「勝算、あるんでしょ?」
あんまりないんだなこれが
「……多少はね」
「それにしても、杏の方針自体は悪くないはず。支持基盤を切り崩してフォーラムに合流させ恩を売るっていうのは、生徒会の議会に対する発言力を高めていくならいい案だと思う」
「というかそれくらいしないと脆弱な与党は変わんないよ」
「それはそう。だから、被服科と農業科も見据えつつだけど、まだあるでしょ。専門科」
「あとは……船舶科と商業科、情報科、栄養科、水産科くらいかい?でも商業科、情報科は学費格差ほぼないし、栄養科は農業科に近いし……」
「だとしたら……船舶科だね」
「船舶科……ね」
123 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/09/01(日) 23:40:32.52 ID:3wYCeXjw0
ここまで!終わり!
124 :
◆ujHylXatJU
[saga]:2019/09/08(日) 21:22:41.63 ID:K3qc3rNVO
そろそろ始めます
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