【ガルパン】鼎

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125 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/08(日) 21:48:09.97 ID:SiuTgLtJ0


船舶科

大洗のヨハネスブルグとか呼ばれる艦底から艦橋の上まで、という上下に幅広く住む者たちである。そしてその位置はそのまま、彼らの立ち位置と話の通じやすさを物語る

艦底側は自分たちで金を稼いで、さらにその金を奪うべく抗争している。一方で艦橋側は既にあるローテーションの下、日々8時間働いて6時間学校行って学費をチャラにしている

学園艦がなくなることで一番被害を受けるのもここである。学費がタダな分船舶科はどこも定員近いし、そもそも定員多くしてないから廃校になったとして彼らがそのまま転校先の船舶科に転がり込める保証はない

てな訳で廃校がらみになれば話を通しやすいところだ。だがそれを伝えていない現状で丸め込むとなると……
126 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/08(日) 21:50:41.01 ID:SiuTgLtJ0


「労働時間短縮だよな」

「そうね。それが早いはず」

「けど今までできてない」

その理由は単純だ。頭の数が足りないのだ。頭数はいるんだがな

船舶科は8時間3ローテで働いている。これを6時間4ローテにすると、艦長や航海士、通信士、機関長、機関士など専門職ももう1ローテ分用意する必要があるが、はっきり言ってそこら辺は中学の頃から勉強しまくって資格試験を突破した者達しかいない。一朝一夕で増やせるものではないし、数を増やそうとしたって応募者数が増えるものでもない

というより本当にそれがやすやすと出来る船舶科に来るような人は、だいたい他の私立や名門校に行く。大洗に来ている時点である程度は察せるレベルなのだ

艦底が出来てしまうのも、船舶科に多く必要なのが海技士資格を持った専門職であるのが大きい。専門職を配置した上で部員としてその部下を配置している
が、かといってそんなに部下を増やしすぎると管理不能になる。残りは職なしのあぶれ者にならざるを得ないから、というのがある
かといってそこの枠を不用意に縮小すると、学園の退潮を見せつけることになってしまう。技術的な省力化などを提示できれば別なのだが、もともと教育局からも船舶科削減は避けるようにとある
候補に入っている中で、表向きはそれに逆らうわけにはいかない

127 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/08(日) 21:51:45.11 ID:SiuTgLtJ0


「……将来的な改革案の実行で呑ませられないかな?」

「厳しいんじゃない?今の生徒にはメリットがなくなるんだし」

「そこだよね……」

有権者は利己的だ。結局自分たちに利益がなければ、こちらの求めるようには動かない

「……艦底にいるメンツの中で技能ある奴とか混じってたりしないかな?」

「いないんじゃない?じゃなかったら上で雇われてるでしょ」

「それも……そうか」

……まぁ、薄く期待するか

「なんだったら桃ちゃんに行かせたら?」

「かーしまにか……そうだな。可能性が僅かだとしても、探りを入れるだけなら悪くはない」

「それにしても、私のあの被服科の案は、将来的なら通るかね?」

「向こうが対応可能ならね。現場経験つけさせる、とか言えば悪い話にはならないと思うけど。学費も休み期間だけなら普通科より少し安くしたくらいにはできるだろうし。それが労働の対価として、となるなら、船舶科の先例もあるから普通科の反発もほぼないよ」


128 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/08(日) 22:08:50.56 ID:SiuTgLtJ0

「あとは……企業次第で航路が決められる可能性か……」

「そこら辺は割り切らないと金が手に入らないよ」

「そうだねぇ……」

こうしてみると地場産業に政治が左右されるのがよくわかるものだ。叛かれて町から出て行かれる方が損害がでかい

「難しいけど……私たちの後に、禍根は残したくない」

「それはそうだね」

そこに同意が得られるなら、もう心配や不安はない

「だから……やるか、小山」

「やろうよ、杏」

突き進もう

129 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/08(日) 22:09:21.59 ID:SiuTgLtJ0


ということでまず艦底の確認だ。かーしまを呼び出してお銀のところに行かせる。地下に資格持っている奴が転がっているのかの確認だ。かーしまの家の事情も考えて、仕事だからと機密費扱いにした
機密費の中身は公開する義務はしばらくないし、公開されても痛くも痒くも無い。必要なことだし、艦底に関してはもう風紀委員が喧伝してるから、そのこと絡みだなんだと言えば反論できまい

かーしまなら向こうでも顔なじみだから、護衛なしでも何とかなる。逆にかーしまが襲われるとかなれば、お銀派相手なら手を切るような事態だし、お銀派以外ならその派ごと壊滅させる
もっとも前者を取ると艦底は乱世に逆戻りだから、できればやりたく無いがね。そしたらお銀派が厳しくなるのも向こうは知ってるし

なんだか金王朝を思い出すが、向こうは束になってもモンゴルみたいに甲板には侵攻できない。流石に人口比と風紀委員を舐めてもらっちゃ困る。なんなら自警団を編成してもいい。向こうの陣地の艦底だとキツかったけど、こちらの陣地なら負ける道理はない

130 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/08(日) 22:09:59.38 ID:SiuTgLtJ0


そんなこんなでかーしまを送り込んだ結果、いるにはいる、となった。資格持ちでも3ローテの枠的にあぶれているものがちらほらいるようで、そういうのは派閥の参謀役とかを担っていることが多いらしい
ただ、もう1ローテ組める分の資格保有者がいるかは分からない、とのことだった。上もいざという時の代役で補佐役付けてたりするしね。そこを取ってくるわけにはいかないし

となると、各派閥に分かれていることになる。あとは上にいる余りも取り込めはするだろう。問題は……

「その参謀を各派が放出することに応じるか、だね」

「はい。壁はそこになるかと」

既に艦底ではそれなりに良い暮らしをしているであろう彼らが、果たして上で働くのに応じるか、もあるが、何よりそれを派閥に認めさせる必要があった。参謀とかなったらトップの腹心だったりするだろうしね

「……かーしま」

「はい」

「お銀は動かせそう?」

「……断固反対、までとはいかないでしょうが、厳しいかと思います。それなりに艦底側にメリットがないと……」

「艦底に……メリット、ねぇ」

そもそも存在しないに越したことはない艦底だ。我々にはメリットがない。なのに向こうに利を与えねばならないとなると……

131 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/08(日) 22:10:49.68 ID:SiuTgLtJ0

「風紀委員か」

「ですね。やはり下手に妥協して反発するとしたらそこかと」

風紀委員会にとって艦底は何度も鎮圧しようとした仇敵。それによって損害も受けてる。仮に艦底にメリット、例えば各派を公認しようとするとかなれば、何かしら反発してくるのは想像に難くない

「……そういえば、お銀派の参謀役って誰だっけ?」

「は、壊血病のロイヤル、とかいう奴です」

「壊血病ねぇ……なかなか海賊にしちゃ縁起の悪い」

「他も竜巻とかサルガッソーとかなので負けず劣らずかと」

「そうかい。で、どんな奴なの?」

「はい、それがですね、こいつなかなかの荒くれ者ですよ。参謀役なのに他派との抗争に自分から突入したりとかは聞きますし。頭はキレますが、何より見た目からして……」

「ふぅん……」

見た目は大した問題じゃない。だが現状に不満が溜まってそうな感じかな

「そういえばお銀派って他に頭のいい奴っているの?」

「下の学年には何人かいるみたいですね。そのロイヤルが目をつけて引っ張ってきた奴らで派閥内の雑務等を回しているようです。今のお銀派を支えているのは間違いなく彼女らでしょうね」
132 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/08(日) 22:12:44.59 ID:SiuTgLtJ0


なかなか官僚肌みたいだね。ということは、お銀派の実情についてもよく知っていそうだ

「……いけるね。そこからだ。そこからならきっと艦底側はいける」

「は、はぁ……」

「かーしま、このロイヤルって奴と話せる場所、とれるな?お銀派の幹部に知れないような場所で」

「お銀派の幹部にも、ですか……厳しいでしょうが、やってみます。ですが流石に向こうも上には出てこないでしょうから、艦底のどこかで私が同席する形になるかと……」

「オッケー。それでよろしく!あ、干し芋あげる」

「いりません」

いっちゃったか。貰えるものは貰っときゃいいのに、変に気を使う節があるんだよな。かーしま


133 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/08(日) 22:13:19.26 ID:SiuTgLtJ0

今日はここまで
134 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 20:54:58.58 ID:lhgD58Wa0
2100からやります
135 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 21:01:27.73 ID:lhgD58Wa0


そんなこんなでかーしまのおかげで手配は済んだ。結構気軽に応じたらしい。やはり機会はあるようだ

艦底の一角に、私もかーしまの案内で向かった。あいも変わらず治安が悪いというのは間違いないらしい。煙臭いし足元はゴミだらけ。これでもマシになったというのだから驚きだ

着いたのは薄暗く裸電球ひとつ照らす部屋。椅子がいくつか置かれているだけで他には何もなく、鉄板がそのまま光を反射している

「ここかい?」

「はい、ここなら色々と気づかれにくいだろう、とのことで……」

「ふーん」

確かにここの廊下は同じような部屋がいくつも並んでいる。ここだけに目を向ける人はいないだろう

136 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 21:02:42.25 ID:lhgD58Wa0


「済まないね。桃さん」

少しして、ノックして扉が重く開いた。お相手の到着のようだ

「案内するつもりだったんだがこの前の処理が遅れてね。悪い悪い」

小柄な少女が、その身に会わず低めな声でかーしまに近づく

「そうか、私がここ知ってたから大丈夫だったぞ」

「ありがとね。んで」

やっと顔がこちらを向いた。左目に眼帯をして?に縦長の傷が入っている。なるほど、見た目が厳ついのは事実なようだ

「こちらが次期会長様かい?」

「そ、そうだ。余り下手なことは……」

「しないよ」

そう言って私の向かいに椅子を置いて、座面を手で確かめてからドカッと腰掛けた

「で、角谷さんだっけ?よろしく」

「そう。そちらはロイヤルとでも呼べばいいかな?」

「なんとでも呼べばいいさ。んで、貴女が直々に出張ってきて、そして私にだけ……とはどのような要件かな?」


137 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 21:03:14.44 ID:lhgD58Wa0


「君、何か資格持ってる?」

直球で攻める。通じるところはあるはずだ

「……一級海技士の通信」

「一級……ってことは、この学園艦でも働き口はあるわけだ」

「……一応な。こんな事を訊いてくるとは、あれか。あんさん、もうひと枠船舶科のローテでも作る気か?」

頭の回転が速い、というのも嘘ではないらしい

「よく分かったね」

「ここでそんなの気にすんのは参謀にするか否か考える時しかないからな。生徒会に参謀役はいらんだろ?だとしたらこの資格がいるのは、私をまた上で働かせよう、という人間くらいだ。そして直近、上で人が欠けたって話はない」

「なるほど。それが分かるなら話は早い。君、上に戻る気はないか?」

「無理だね」

早いな

「……私は無理だ」

「どうしてだい?資格はあるんだろう?」

「もう切れてるよ。それにまた受けたって受かるわけがないんだ」

受かるわけがない……そこが重く来ている

「受かるわけがないって……」


138 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 21:04:00.81 ID:lhgD58Wa0


「身体検査」

かなりぶっきらぼうに言い放たれ、私の言葉は遮られた

「現役でもこれに引っかかったら仕事ができない。そして私はこの目だ。見るかい?」

そして彼女は、ロイヤルはその眼帯を外した。まさに紫に染め上がり、皺くちゃに閉じられた瞼。明らかに、光は入っていない

「これさ。通信士とはいえ、この目じゃどんな身体検査も通りやしない。私に上に戻る資格はないんだよ。
上で一緒に勉強して、そして私より出来の悪い奴らの下についてペコペコする部員になるくらいなら、こっちの方がまだマシだ。乱闘騒ぎも悪くないぞ、会長さんよ」

「ロイヤル……そういえばお前また出張ったそうだな」

「これだけは桃さんの頼みでも止めねぇですよ。安心してくださいや。私が飛び込むのは絶対勝てるから起こした騒ぎのみ。時々前線行かないと参謀は見放されちまうんでね」

なるほど、確かにこの怪我は直せる代物ではあるまい。かといってここで切るわけにはいかない


139 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 21:04:47.29 ID:lhgD58Wa0



「私はこうだが……」

と思っていたら、向こうから話し始めてきた

「他にやると言い出しそうなやつは、いるかもしんねぇなぁ」

「え、それは艦橋で働ける人?」

「そう。例えば西北会の向井。あいつは元々艦長候補だったやつだったな」

「西北会か……余り聞かないな」

「そりゃ、十数人のちっちゃい派閥のトップでしかねえっすから。でも相当の切れ者ですぜ」

艦長候補……そんな人が

「どうして……艦底に?」

「他の艦長候補の奴と大喧嘩して辞めてきたらしい。その後その西北会を作って、こうしてウチが他を押し込んでる中でも、のらりくらりと交わして上手くやってやがる
あいつがもうちょいデカい派閥にいたら、ウチらは結構ヤバかったな。頭の良さなら私より上だ」

使えるかな……


140 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 21:05:44.04 ID:lhgD58Wa0


「あいつは言動のせいで艦長になれなくて、他の艦長の下につきたくねぇ、って辞めてきたからな。他の艦長として肩を並べる、これなら妥協できるんじゃねぇか?
あとはそうだな……ほら、青森連合の鮫沼。桃さんも知ってるだろ?」

「ああ、あそこのか」

「あいつ機関の一級持ってたはずでっせ」

しかし……よく話すな。この人

「あとは通信の二級ならちらほらいたはず」

「君、よくそんなに話すね」

「そりゃ、ある意味商売敵だからな。上が吸い取ってくれるなら悪い話じゃない」

「で、君たちには?」

「ん?」

「この艦底のかなりを占めるお銀派だ。そういう人材もいるんだろ?」

「……私がこんな地位にいるんだぞ?」

「だが、いるんだろ?」

いないわけがない。ここまでデカくさせたのだ。頼る奴も増えてくるさ。向こうとしては他派の資格持ちに目を向けさせる気だったらしいが、その分お銀派にもいると示す結果になる


141 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 21:06:19.67 ID:lhgD58Wa0


「……そう言われちゃ、こっちは何も言えないね。きっと上のデータ調べりゃ出てくる話なわけだし」

「それを出せないかい?」

「引き換えに何をくれる?流石にタダじゃ他が納得しねぇ」

やはり、これくらいしかない

「各派の生徒会による公認」

「各派の、ねぇ」

「すなわち現状維持の承認だ。お銀派としちゃ現状最大勢力だし、そんなに悪い話じゃないと思うけどね」

「足りんな。もう一つだ」

「ほう……」

「各派人数は同じ、これでどうだ?」

「相対的にお銀派の負担を軽くしろ、と」

なかなか図々しいな

「抗争を防ぐならこれが大きいぞ?それに生徒会に近いところが相対的に強くなるなら、一番いいのは艦底管理したいあんたらじゃねぇか」

お銀派以外との関係は現状ほぼない。そうなるとこれも理屈として成り立ってしまう

「こっちとしてもお銀とかを説得せにゃならんのでね。あいつらは理屈より利益の方が早いぞ」

「ええい、わかった。それでいい!」

「会長!宜しいのですか?」

「希望者募集はかけるけど、それ以外は各派から同数集める形で進める!」

「なら乗った。それにしても……風紀委員はどうすんだい?」

「こっちで説得する」

「できんのかい?言っちゃなんだが、ウチらを最も毛嫌いしているところだぞ?」

「だからこそ、できる」

「……まぁいいか」


142 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 21:08:51.59 ID:lhgD58Wa0

ここまでトントン拍子に話が進んだところで、私は一つの疑問をぶつけてみた

「それにしても……」

「ん?」

「君さ、よく話に乗ってきたよね。そんなに艦底にとって都合のいい話じゃないのに」

「あんさんが言うか。まぁそうだろうけどさぁ……」

赤毛のウエーブをかけた髪を撫でながら、バツが悪そうに話しを続けた

「ウチらは、もうはっきり言って上に抵抗できる力は削られてきてんのさ。撃退こそしているが、風紀委員の鎮圧作戦もこっちにダメージがないわけじゃない。言いたかねぇが、あんたらからの援助金がなければ首が回らない、というのが実情だ。お銀すら話してもなかなか分かっちゃくんねぇがな」

艦底のこの地位の者が話しているところを見ても、やはり事実らしい。ありがたい話だ

「補給能力から考えて、総力戦でジリ貧になるのはこっちだ。そんな中で生徒会との関係悪化はあっちゃならんだろう?」

「それはその通りだ。まぁこちらとしても下手に関係悪くしたくはないけどね」

「それは助かる。私も今でこそこの地位だが、元は自棄っぱちになってこの艦底でお銀に助けられた身だからね。多少はこの場とお銀に恩返しせにゃならん」

「そのためにお銀派に少しでも有利な状況を、って感じかい」

143 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 21:09:21.50 ID:lhgD58Wa0


「そういうこった。その為の案をあんさんが呑んだし、その件に関してはこっちも協力する。私が隗となってもいい」

「かい?」

「お銀派の参謀として名が知られてる私が率先して賛成して参加すれば、他派も容易く拒否はできまいよ」

「ああ、まずは隗より始めよ、と」

「そういうこと。艦底の奴が艦長になるなら、私は部員にでもなってやろう」

「いいのかい?それを嫌ってるんじゃ……」

「ここでの苦しみを知ってる奴なら、まだ上手く付き合えるさ。艦長になるであろう向井の野郎の下なら、上の井上とかいう奴よりは百倍マシだ。それに……いつかはこんな場所、無くなった方がいい」

「そりゃそうだ。学生の本分を果たした方がいいさ」

「……ちげぇねぇ。折角こんな土地に故郷を捨てて住んでんだしな」


144 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/15(日) 21:09:50.34 ID:lhgD58Wa0


ここまでです
145 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 21:53:36.23 ID:pHc8oVAH0

2200からやります
146 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:04:27.28 ID:pHc8oVAH0


そしてそれと同時に、我が校はある一人の少女に触手を伸ばした。とはいえ案内書を黒森峰経由で送っただけだが。黒森峰ほどの有力校なら我々みたいなちっこいとこは気にも留めているまい。心付けとともに手紙と一緒にお送りしておいたし

ウチは今のところは戦車道をやると公表するどころか、やることすら決まってないからな

このことを辻氏に伝えたら、
『私からも伝えておきましょう』
とのことだ。きっとうまく行くだろう


西住みほ。今の所彼女を呼ぶのは学園内で孤立していると掴んでいる戦車道をやっているところぐらいだろう。それを彼女は断るはずだ。状況を考えれば当たり前だな
だから戦車道をやってない私たちからの誘いは目立つはず。普通戦車道をやってないところからしたら、本来わざわざ個別で誘う価値はないんだから
仮に彼女が来たとしても、彼女の思いとは裏腹にその才能は逃さないがな。なんとも言えない話しだが、我々としても政治家としてやるべきことをやっていかねばならないからね

やむを得ないさ

147 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:05:02.32 ID:pHc8oVAH0


そんな話もあったが、ともかくメインの話は結構トントン拍子に進んでくれた。ロイヤルがお銀やその側近を相対的にはむしろ勢力の拡大になる、と説得し、まずはお銀派がこの案を呑んだ。そしてロイヤルと他一級資格持ち1名を指名してきた
そうとなれば各派も人員を出すことを拒否することがそう簡単にできなくなる。お銀派に近い派はこれに同調せざるを得ないし、反発しているところも強制的にやられるのは嫌がる。そして強制的にやられたら実力的に勝ち目はない、というわけだ

そしてロイヤルが話していたように、思ったより資格持ちは多く、なんとか1級資格を持つ人は必要最低限揃うことが判明した。もっとも長きに渡る艦底暮らしで資格を取り消されている人が多く、その人たち再度試験を受けないとならない上に、次の代になれば人員そのものがかなりカツカツだ
だがともかくも4ローテ制にする下地は整った。だがここで思わぬところから反対が来た

148 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:05:33.11 ID:pHc8oVAH0


「何で向井の奴を艦長に加えなきゃいけないんですか!」

「あの艦底の奴らでローテを組む?船舶科は学園艦の運行を通じて、この都市の全ての民の命を預かる存在ですよ!あんな奴らに任せられるわけないじゃないですか!」

他の艦長を中心とした船舶科そのものである
前に4ローテ制にしないか、という話を流した時の感触は悪くなかったのだが、そのメンバーが艦底出身で揃えるとなった途端、他3ローテの艦長がまず生徒会室に駆け込んできた

「向井の性格をご存知なのですか!あいつ勝手に学園艦の運行方針改竄するわ、私たちの同意もなしに重要データ放棄するわ、迷惑が人間の皮を被ったような人間ですよ!あんな奴そもそも艦長の一員にしたくはありません!」

「というか艦底で酒ざんまいタバコざんまい暴力ざんまいの奴らを上にあげる!冗談じゃないです!」

こんな感じで結局一緒に働きたくないんだ、という感情論が強かったが、

「艦底の者たちで組を編成したとして、彼らが真っ当に仕事を完遂するかは、私共としても保証しかねるところです」

艦長代表の大橋ちゃんのこの発言から、私たちもしても断る、彼らを何としても受け入れろ、とは言えなくなってしまった


149 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:08:07.22 ID:pHc8oVAH0


「角谷課長が遂行されていることが我々に大きな利をもたらす事は承知しております。がしかし、彼女らは能力面のみならず、性格面も考慮して船員から外されているのです
能力面では十分だとしても、性格的に職務の遂行に適切とされていない者が、拗ねて艦底に向かう場合もあるのです。残念ながら彼女らだけで現行の我々と同等の仕事ができるとは思えませんね」

「そうかい……艦底メンバーだけじゃ無理と」

まぁ、上で雇われてないということはそういうこともあるってことだよな

「じゃあさ、君たちの休憩時間を2時間に伸ばすからさ、その隙間を埋める人材を下から確保して混ぜるのはどうだい?下の奴らにもある程度能力のある人材がいるのは疑いないんだからさ」

「ふむ……」

仕事しながら勉強だ。休憩は長いに越したことはなかろう。それを長きにわたって経験してきている艦長なら尚更だ

「それにさ、就労時間が良くなれば、募集できる人材の質も高まる。おまけに就労短くした分勉強や休息に回せる時間が増えた方がさ、成績上がって大洗女子学園そのものの質を高められる、ってなったら、学園艦、学園都市の存続に繋がるだろ?上につくものとして基盤は整えてもいいんじゃないかい?」


150 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:08:37.33 ID:pHc8oVAH0

「……部員までなら、考えましょう」

「そこより上は無理かい」

「船員としての登用は、私がここで首を縦に振っても、他のメンバーが納得しますまい」

「じゃあさ、今回はそれでいいから、今後4ローテ制移行に向けて準備を進めることは了承してもらえるかい?」

「わかりました。今の高校生で艦底にいる者が上がってくるのは厳しいでしょうが、その後の体制変更に向けての協力はしましょう」

その内容なら何とか合意を取り付けた。結局艦底から出てくる者たちは部員になったし、彼らからの反発もあった。だが結局全員働くわけじゃなく一部は予備に回ったりすることや、もともと再度資格を取り直すことから時間が必要であること。そして今後艦底からの段階的な重要ポジションへの抜擢を認めさせ、事なきを得ようとしていたところだった


151 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:09:09.70 ID:pHc8oVAH0


最後の関門の一つ、そのための話し相手がおかっぱのこの人である

「艦底の各派を公認する?冗談よね?」

「マジメな話さ」

園みどり子。次期風紀委員長が内定している者である。実際に艦底への鎮圧作戦にも同行したことがあるだけに、なかなか厄介そうだ

「あのね。授業はサボる、酒は飲む、タバコは吸う、環境を悪化させる、それで挙げ句の果てに暴行騒ぎ。ウチの学校がこんな状況にあるのを認めろっていうの?」

「そこまでじゃないさ。単に派閥の勢力図に関して現状維持を認めるだけさ。そこら辺の規制は風紀委員がやりたきゃやればいい」

「でもその極悪非道の根源は派閥そのものなわけでしょ?あそこからアイツらを追い出さない限り、止められないわよ?」

「かといって今まで追い出せてないわけだろう?しかも風紀委員も毎回10人単位の負傷者を出しながら、だ。果たして次また鎮圧作戦を行うとして、どのくらいの士気で取り組めるのかな〜?」

これに対してそんな訳ない、とは言えないよなぁ。何せ彼女らはその名前上武装には限界があるけど、向こうは瓶や鉄パイプ、ガラの悪いところだと糞尿の入った袋とかで抵抗してくるんだ。そしてそれは風紀委員内には出回っている話だ。そんな地獄に誰が好き好んで行くよ?

152 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:12:42.75 ID:pHc8oVAH0


「艦底での風紀委員の行動は認める。でも、艦底運営は基本各派の協力のもと行うよ」

「……武装強化を要求しても議会だ議会だで通らないんでしょうし……」

「まず間違いなくフォーラムが反対するね。そもそも甲板の人間にしちゃ艦底はそこまで身近じゃないさ。これ以上ははっきり言って無理だよ」

「はぁ……」

ここらがきっと限界なんだ

「それにさ、ソド子は知ってるか」

「園みどり子よ。何をよ?」

「山崎さん家での話」

顔色変わったね。覚えてたか

「ああ、あの話ね。覚えてるわ」

「あの話に関してなんだけどさ、まだ正式通知が来た訳じゃないけど、ほぼ確実にタイムリミットが迫ってる」

「まぁ、昨今の事情を見る限り全く有り得ない話じゃないとは思ってたけど、本当……なのね」

「私としては、できるだけ回避を狙っていくつもり。だけどその為の交渉とかの時に艦底は問題になりかねない」

「だとしたらガツンと抑え込んだ方がいいんじゃないの?」

「いや、そこには不必要な労力を割きたくない。変な行動を起こさないように安定化させるのが吉だろうね。やむを得ないけど、それが最善かつ問題をこれ以上大きくしない道だよ」

「……生徒会の方針は理解したわ。艦底に関しては監視は続けるけど、基本その方針に乗っかりましょう」

「助かるよ」

公認した結果調子に乗らないよう、監視の継続はプラスか。呑んでくれてありがたい


153 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:16:41.79 ID:pHc8oVAH0

「それとさ」

「どうしたのかしら?」

「このさ、山崎さんの話、今後正式通知が来た時も隠匿ってできる?」

「隠匿……って、誰相手によ」

「市民全員」

「は?」

ですよねー

「無理に決まってんでしょ?新聞やテレビは私たちに介入できる余地はないし、何より学園艦の外に出られたらそこからの情報の統制なんて不可能よ。要するに国から正式に告知されたら、止めようがないってこと」

「まぁ、そりゃそうか」

「だからハッキリ言えば、そのもの自体の隠匿は不可能ね。それの交渉する気で、その内容を伏せるくらいならなんとかなるかもしれないけど……3万人全員を監視する訳にはいかないし、なんらかの原因で漏れたとしても責任は取れないわ」

「じゃ、そこら辺のことまでなら協力してもらえると」

「理由は?」

「内部の不必要な混乱の回避、だね。退艦の準備を進められてて、仮に回避できた時の責任は背負うつもりさ」

実際にそうだ。今回の話は結局無理で来年度末で廃校、というのが一番よくある話だ。避けたいが可能性の話としては逃れられないし、それを非難できる筋合いじゃない。都市の民だって生活しているのだ

「回避って……何かするの?」

「条件を取り付けてもらうとか、かね。交渉して」

もっとも条件も知ってるんだけどね

「……まぁわかったわ。こちらで協力できる内容なら、手を携えていきましょう。私たち風紀委員会が風紀を維持する場所を守るために」

その存在意義を向こうが信じている限り、私は彼女らより優位に立てる

「今後ともよろしく頼むよ」

それを使ってでも、彼女らの手綱は握っておかねばならない。学園都市の治安、艦底に対する存在感、そしていざ反抗されたら生徒会で対処できない唯一の存在
もっとも最後に関しては向こうは分かってないのが救いだが、この関係もまた今の所崩すべきじゃないのだ

154 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/09/22(日) 22:17:11.31 ID:pHc8oVAH0

ここまでです
155 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:36:29.95 ID:M9TpCfmB0

新疆が全然wifi通じなくて更新できなくてすまないゾ

じゃけん今から更新しましょうね〜
156 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:39:02.61 ID:M9TpCfmB0


そして時期は冬休みまで秒読みに入っていた。学園艦も北上し、大洗の港の近くまで帰ろうとしている。だが今年の私にまともな冬休みは訪れないらしい

「そんなわけで君たちさ、フォーラムを手を組まない?」

「うーん……」

この会議室には私と田川ちゃん。そして3党の党首が集っていた

一人目はこの冬から正式に代表になった、大洗学園フォーラム代表、白石。二人目は海の民党首の小沢。そして最後は職人連合組合代表の明石。つまり私は、この3党に合同を持ちかけているのだ

「船舶科には今後の4ローテ制導入に協力させたから、今後法整備して進めるなら、手を組んだ方が得じゃない?労働時間削減は君らの宿願でしょ?」

「それはそうですが……」

フォーラムとしては願っても無いチャンスだろう。ここの二つを正式に取り込めれば議席総数は370近くなる。あとの数名取り込めば念願の議会過半数だ

「職人連合も船舶科ほど重くないですが、この就労システムを認めたら学費も普通科より下になりますし、そうなったら反発する理屈はないのでは?」

田川ちゃんは職人連合に調整を仕掛ける

「うーむ……」

職人連合はまだ案件が確定してないからわかる。だが艦長代表から合意を得ている中で海の民はなぜ呑まないのか

157 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:39:52.26 ID:M9TpCfmB0


「まぁ、そこのお二方が首を縦に振られないのは、我が党がこの案に賛成するか分からないから、でしょうね」

「珍しいね。フォーラムもこの二つはすり合わせた方がいいかい?」

「被服科の方はおそらく党内でも反発はないと思います。もっともこちらは被服科教員陣との調整が必要でしょうし、相手企業との合意が成り立たなければ動きようがありませんが。しかし……船舶科のものに関しましては、なんとも言えません」

「……労働時間短縮で学費相応の業務をしているのかの疑問かい?」

「そうですね……現行この制度で成立させてきた以上、労働時間削減で同等の価値があるのか。一部の者は総計負担を元手に反対するかと」

「何を馬鹿な。既に8時間業務をほぼこなしているのですぞ!休日なども考慮すればむしろ地上の正規労働者より労働時間が長いと言われているのに、何をためらうことがあるですか!」

とりあえず小沢ちゃんはこっちに付いてくれるようだ

「勉強とか休息を増やして欲しいから、私としても賛成してくれるようお願いするけどね」

「それと、船舶科教員陣はこれを受けて拡充するので?」

「4ローテにするし拡充はするよ。14〜15名の追加を見込んでるけど」


158 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:40:32.84 ID:M9TpCfmB0


「……現状のウチで人数維持はともかく、その数の新規教員を引っ張ってこれますかな?タダでさえ副担任導入で教員需要が増し、一方でその給与と残業から資格試験は前年割れ続きと聞きますよ?」

「その教員陣からも授業寝る奴サボる奴が多すぎるって苦情来てんだよね。ハッキリ言って休ませた方が生産性は高まりそうだけど
艦底も何とか今は鎮めているけど、今後も維持できるかは保証できないし、そこの奴らを引き上げて力を弱めるためにも、少なくとも将来的な方針にはした方がいいでしょ」

「人員を拡大したとして、給与は?」

「最悪債券発行も視野に入れてるよ。人が足りないなら給与を上げるしかない」

「……すみません。一度持ち帰らせてもらえませんか?」

ぐぬぬ。面倒な
これはあれか。党の内部に反発はあるし、私とあまりべったりしたくない気持ちが働くがゆえか

「……今年中に返事を頼むよ」

「分かりました。何らかの返事は致しましょう」

「じゃ、資料渡しとくからよろしく」

はぁ、めんどくさい。が、そもそもの仕事がこんなことばっかりだったから、別に疲れるわけじゃない

「いやぁ、すまんねお二方。わざわざ来てもらったのに」

「いえ、我々としては船舶科の幹部層も一定の支持をしている以上、その案件に賛成しましょう。しかし……フォーラムとの完全なる合流となりますと、反発するものが出るのは必至かと、というのが正直なところです」

ここもか。今後も公正会みたいなパターンは出てくるわけね

「じゃあさ、合流までとはいかなくても、この案件を他と調整して通すからさ、そしたら今年の予算案認めてくんない?」

「……すみませんが持ち帰ります」

「また今年中ね」

感触は悪くない。とりあえず戦車道やる目処を立てるのが優先だ

159 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:42:31.10 ID:M9TpCfmB0


「んで、被服科の件だけどさ、はっきり言ってどう見てる?」

最後は明石ちゃん

「……ウチがCやDランクだったらまだやりようはあるんだが……」

「ランク?」

「最低賃金のさ」

「そう。ここは大洗町の飛び地だから、最低賃金もBランクになる。だからもっと安い他の地方所属の学園都市より賃金競争で不利だ。被服科を働かせるならそこの分は保証せにゃ無理だぞ」

「うーん…だろうね。もちろんその分現状からの学費から引くよ。東京周辺への回航も増やしてそこへの売り込みの優位性をメリットにするとかもあるしね。母港が大洗だからそこまで手間じゃないし。その点でなら他には静岡の学園都市くらいしかか張り合うところはないよ」

「相手企業は?」

「国経由で信用あるとこにするつもり。もっともどこが来るかはわかんないけどね」

「……なら妥協の余地はありそうだが、この案件は被服科のみだ。農業科、栄養科、水産科出身議員相手は何とも言えんな。さらに来年度予算への完全同調はかなり難しいと言っていい」

「まぁ、補助金増額は厳しいしね……減額はしないとは思うけど」

「棄権か賛成か、なら可能性ありかね。こればっかりは党で方針決めても実際は反対する、なんてのもあり得るから断定はできん」

「まぁ、基本方針は賛同してもらえるでいいかい?」

「フォーラムを取り込んで学費負担削減に動くなら、ここら辺が妥協案になるだろう……とは考えている。だが党内にも完全対等を騙る強硬派がいるからな……全員賛成は無理と考えて欲しい」

難しいが、難しいということはやればできないこともない、ということだ。ならばやっていくしかない

160 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:44:56.31 ID:M9TpCfmB0


そして新学期の始まる直前、件の少女の転入依頼が来た。辻氏から聞いたところだと、辻氏からも口添えをしたらしい。黒森峰からも内々に感謝された
だが黒森峰ほどの学園が我が校が廃校候補になっていることを知らないということもないだろう。だから西住ちゃんも完全に手放す気は無いはずだ。ウチが廃校になった時期を目処に呼び戻す気だろう
一度放出せざるを得ないが、校内の雰囲気が落ち着くのを待ち次第取り返したいのが本音のはずだ

返さないがな

ともかくも土台はできた。あとは上を建物を誘導するだけだ

161 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:45:35.37 ID:M9TpCfmB0
undefined
162 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:46:12.84 ID:M9TpCfmB0


私は東京への出発準備をしつつ年末を迎えたのだが、白石ちゃんに

『もちろんだけどさ、春の議会選挙は全面協力するよ。校外の演説とかもどんどんやるよ!予定があったら教えてね』

と伝えると、年末ギリギリにだけどOKサインが出た。やはり小山とかが言っている通り私が支持率高いのは結構使えるようだ
だがこの支持率も秋の空。簡単に移ろいゆくもの。?ぎ止めるにはカバン、カンバン、ジバン除けば実績しかないのが政治だ。そして私はこの都市出身というわけでもないし、実家はただのペンキ屋だ。そのどれもない

予算に関しては幹部層との話をせねばならないだろうが、海の民が賛成に回れば改選後の議会でフォーラムから造反が出ても過半数を狙えると踏んでる

しかし来年からは市民議員も登場する。議員定数は50と全体の800からしたらそこまでの割合ではないが、そこは元公正会ルートと町内会支持でフォーラムがかなり固めている。学園都市を10地区に分けて各5人選出の大選挙区制だが、それでも35は取れるというのがフォーラムの選挙対策委員会の読みだ。私もどんどん春は出張るべきだろう

実を言えば今回の二つはこれを糧に2党を取り込めれば最善だったけど、議案を出すことそのものも大きな目的だった
この二つの方針を記した法案が可決されれば、少なくとも海の民は存在意義を失う。一方で否決されれば、海の民の実行力のなさを示すようなもの。彼らの宿願だしね。職人連合も響くかな

163 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:46:47.46 ID:M9TpCfmB0

そうなれば支持は実行力のあるところにまとまる。学園でなら圧倒的支持のある私と、私を推薦したフォーラム。こうして確実に『挙市一致』への体制を固めていく。学園内では過半数は取れずとも、何とか今以上の優位を確保したいところだね

もっともこれが出されてフォーラムが明確に反対するのは、船舶科支持層から総スカンを食らうし、普通科でも船舶科働き過ぎ問題は何かと騒がれてたから、なかなか厳しいものだと思うけどね。というかクラブも賛成するかもしれん。ま、そうなったらそうなったで

……ちょいと予算規模追加してクラブ誘う、って無理か。流石に現状の予算から拡大する力はない。だって私たちはこの冬休み終わったら




廃校を正式に通告されてるんだから

164 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:47:42.34 ID:M9TpCfmB0


3学期始まってすぐの、私が正式に生徒会長に就任してから初めての生徒議会は憤りに震えていた

「事前通達なしに来年度廃校は急すぎるではないか!」

「もう今年度の受験の願書を受け取っているんだぞ!来年廃校にしろと言いつつ、試験だけはやれというのか!今年の受験生に再来年度以降に関してはどう説明すればいい!」

「なぜ我々なのだ!そして正式な理由の説明も我が校独特のものではない!艦内治安は最近安定させたし、運営状況だって決して悪いわけじゃない!」

「この場がなくなって、町の住民にはどうしろというのか!勝手に出て行けというつもりか!」

「誰がどのような権限でそんなことを決められるというのだ!こちらで住宅の手配などあと1年で足りると思っているのか!」

最初の議会で出した廃校準備校への指定への非難決議は全会一致で可決。廃校阻止方針およびその際の大洗町、茨城県への協力要請も難なく通過した

大洗町からは即座に協力するとの返書が届いた。だがこれで何かしら効果があるわけではない。何もない。生き残りたいなら、我々が具体的な策を打ち出していくだけだ

165 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:50:09.46 ID:M9TpCfmB0


そしてこの危機は好機だ。学園の危機、これは挙市一致を創り出すにはこれ以上の機会はない。私は再度白石、小沢、明石に来てもらった

「……やはり組めないかい?」

「我が党としてもここまで危機的である以上、今後も存続するべく改革の意志は示さねばならない、と今回提出された改革案の双方に賛成する動きが加速しています。我が党の全面的な賛成は確実です」

白石ちゃんもサポートに回ってくれるが、やはり二人がなかなか縦に首を振らない

「我が党は相応予算の上での軽減なら結構賛同できるんですが、やはり強硬派の存在を抜きには語れません。それともう一つ、部分介入経済に関しては懐疑的な議員がそこそこいるんですよ」

部分介入経済。生徒に必要なもの、たとえば教科書、本、筆記用具、ノートなどには販売しているところに学園予算から補助金を出している。その分生徒には安く手に入るという算法だ

「被服科、農業科にも生徒会から援助はされていますが、普通科がメインにされているとの論調は根強く残っています。そうなると自分たちが普通科より多く払っている学費が、結局普通科のための援助に回っているという話になってしまいます
これは研修制度とは関係ないところです。この案で手を打つようなものでもありません」

「その系統の主張をしている議員は、仮にフォーラムと合流とかなったら……」

「まず間違いなく反発してクラブに流れますね。合わせたら恐らく……1/3は覚悟したほうがよろしいかと」

「ま、検討だけでもしておいてくれよ」

職人連合はそこそこ数に含めないほうがよさそうだ。それだけ離脱が出れば他もそう易々とは来るまい。全体的な流れというのはそれだけ恐ろしいのだ

166 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:50:39.43 ID:M9TpCfmB0


「海の民としてはほぼ問題ないと思います。やはり将来的とはいえ労働時間の削減に生徒会が務めるを示している。これだけでも大きいです」

「艦底の人材あってだけどね。何より教員募集の関係上来年も無理だ。早くて再来年からだね。しかも船員は後回しだ」

「それでもそこに手を繋げたのは大きいです。我々だけではどうにもならないので。部分介入経済に関しても、自分たちは学費をタダにしてもらった上で物価が安くなっているので、現状でも大きな反発はありませんね
我々としても職場が、それと引き換えとはいえ無償で学べる場がなくなっては困るので、ここを残せるなら可能な限り手は打ちたいと思います」

「法整備に関して通過すれば参加してくれるとのことでいいかな?」

「はい。我が海の民はこの学園廃校の危機に対し、角谷さんがその回避を願うなら大洗学園フォーラムとともに協力していきましょう」

「当たり前じゃん。私は学園都市の民に選ばれたんだよ?その母体を無くそうとするわけないじゃないか」

「もちろん、党の中からそちらの行動に関しては監視を続けますよ。結果が伴って欲しいですからね、こちらからしても」

「そこまで話が分かってくれれば十分だよ。じゃ、それぞれよろしくね」



167 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:51:11.70 ID:M9TpCfmB0


さて、これで次の選挙大勝すれば、私の議会での地盤はかなり固まってくる。街での選挙活動と称して小学校6年生も狙っておきたいところだが、果たしてうまくいくかな?
この危機を前にフォーラムも私とべったりしすぎるのは危険だ、とは言いづらくなってきているだろうな。私のやった改革という実績がある限り

「小山ー」

「な……どうしました?会長」

小山は私の正式な就任を機に呼び方と喋り方をまるっきり変えた。別にそれまで支え合ってきたんだからそんなに囚われなくても、とは伝えたのだが、上の者がより上の者に敬意を払わねば下の者は敬意を表しない、と突っぱねてきた。なかなか頑固だよね、かーしまもそうだけどさ

「ちょっと業務の終わりで悪いけどさ、みんな集めてくんない?」

「かしこまりました」

小山にはもう伝えてある。もう、それ以外ないのだ。ここのメンバーとして最低一年近く勤め上げてきている者なら、そのことはよーく理解できているはずだ
前々からグダグダ思っているように、ウチには強みがないのだ。他校に勝てる武器がないのだ。ならば一縷の望みをかけて武装する他ない

流石に急に呼んだからね。艦橋だから易々とブンヤは近寄ってこないだろうし、盗聴関係は対策済みだから問題ないだろうが、話が話だ。予測させない形にしたい。集まるまで10分以上かかることだって、それを考えれば致し方のないことだ

さて私が正式に生徒会長になった中で、こうして全員の前で訓示を行うのは初めてだ。就任挨拶はしたが、仲間は全くもって変わらないので流れ作業だったしね

168 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:52:42.16 ID:M9TpCfmB0

「みんな、仕事している間に手を止めてしまってすまない。だが先日学園艦教育局より伝えられた廃校準備校への指定は皆存じていると思う。私もこの乱暴な決定に怒りに震えているよ
私はこの都市の市民に、この学園の学生に支持されて選ばれたこの都市の代表だ。その仕事を全うするのが当然であり、その場であるこの大洗女子学園学園艦を残すためなら、手段を選ぶつもりはないさ」

「おおっ!」

ここで働く者たちからなら、同意を得ることなんて容易い

「そして私はこの学園都市を残すための、僅かだけどれっきとした可能性をつかむことに成功した!」

「おおおっ!」

国に抵抗する。それもそこに支えられている学園都市が。ある意味一種の絶望であったはずだ。親から放棄された赤子でしかなかった

だからこそ、これは何にも勝る、辿るべき道だ

「か、会長!そ、そんな方法が本当にあるのですか!」

「ある!」

「それはいったい……」

「戦車道だ!我が校にかつて繁栄をもたらしたあの戦車道で、勝つんだ。優勝するんだ」

戦車道。急だろう。そうだろう

だがこれしかないのだ!

「し、しかし……現状我が校に戦車道はありません。それで期限は来年。おまけに我が校に戦車を揃える金などありません。如何なさるおつもりでしょうか?」

「この学園艦に戦車はあるからそれで戦う!そして今年は伝で助っ人を呼んだ!それらで勝つ!そして我が校の全てを、今年は戦車道に注ぎ込むんだ、私自身を含めて
ここまでしてもかなり厳しいことはわかっている。相手になるのはあのサンダースとか黒森峰、プラウダだ。それらを撃破するのは至難の業に違いない」

なんども言うが、本当にその通りだ。財力、人材、その全てを鑑みても大洗は勝てん。こうして廃校回避の道ででもない限り、やらないでおくべきなのだ

「だけどこれしかないんだ!他に全国に名を広げて勝てるものは、そして期限の来年に間に合うものは、我が校にはない。今あるもののどれかに注ぎ込んだら、逆に他から総スカンをくらう。だったら、私たちの手で握れるものを作ったほうがいい」

「ううむ……」

169 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:54:38.57 ID:M9TpCfmB0

「そしてこれは、ただ戦車道の大会で勝つためだけじゃない。必要とあらば……」

間を置いた。私もあまりやりたくはない。が、やる意志は持たねばならないだろう

「……戦車道、風紀委員とともに、学園艦に籠城し、たとえ公認が得られずとも学園存続に全力を尽くす」

「なっ……」

要するに、国相手に戦争だ。ハナから勝ち目はないし、だったらやる意味もあるまい。それによって相手に損害が出ないならね

「我が校は守り抜く、なんとしても。それがこの伝統とともに、幾多の関係の中で繋がってきた大洗女子学園を受け継いだものの責任だ。そう信じている。戦車の砲火力は大きな抑止力になり得るはず
ただしこれは本当の本当に最終手段だ。そうならないようにしたい。だから……頼む!今年一年だけでいい!学園の持つものを戦車道に注ぎ込んで欲しい!」

「それしかなさそうですね」

即座に同調したのは学園課の私の後任、田川ちゃんだ。雰囲気的に纏まるか読めないときは同調して話を持っていきやすくしたい、と伝えてある
170 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:55:17.44 ID:M9TpCfmB0


「学園課で部活動の状況は監視していますが、これから来年までに全国区での名を残せるものはございません。その上で予算についてはがめついとこばかり。選挙対策の上でもあまり敵に回したくないのが実情です
ですがこの戦車道、選択必修科目になるとの理解でよろしいですか?」

「そうなるね」

「授業が相手なら部活の予算なぞ恐るるに足りません」

「しかし、それ抜きにしても財源は如何なさいますので?他の学科の補助金は削れませんし、この廃校が傍目からは不可避になっている中で金を貸す阿呆はいないでしょう」

「戦車道を始めれば、戦車道連盟から補助金が出る。あとはもう一つ、去年のうちに成立したのがあっただろう?」

これらを足したところでそうそう成り立つものではない。が、多少は心の安定を保つ材料になるだろう

「……OG会の組織化と寄付金上納、ですか」

「そうだ。学園の危機の中でかつての誇りを持ち上げる。それだけでも金を集める理由になる!そして……あとは実績待ちだね」

「いきなり自転車操業になりそうですね……こりゃ大変だ」

「だが今年中に最大の実績を出さなきゃならないんだ。途中でも勝たなきゃやっていけないさ。最後になるけど、そもそも戦車道が始められるようにならなきゃ話にならない
そこから苦労をかけるけど、学園を守るため、そして次代に繋いでいくためだ。頼む、協力して欲しい……」

命令で動かすこともできよう。しかしそれではいけないのだ。真に皆の心が一つの方向を向かねば、成り立たぬ

171 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:56:08.39 ID:M9TpCfmB0


「廃校となれば……どうなるんでしょうか」

「皆バラバラになるだろうね。ウチが小規模な方とはいえ、今からこれまで過ごした環境が違う3万人まるっと受け入れるとこなんてあるわけない。いくつかの学園都市に分散させる形になる。おまけに期間も1年だ。最悪受け入れ準備が整うまで地上で滞留かもね」

「そんなのお断りだ!この学園都市を放棄なぞ考えられない!」

「ウチらにも自治権がある!国にここまで命令されて、学生の運命を左右されて黙っていられますか!」

「やりましょう、会長!」

「大洗女子学園万歳!」

「角谷会長万歳!」

「大洗に自由を!」

動いた。生徒会の流れがきた

「ありがとう!私は諦めない、私は挫けない、私は立ち止まらない!大洗女子学園で選ばれた者として、最後まで戦おう!」

「おおーっ!」

これでやっと基盤である。4月に西住ちゃんが来たタイミングで始められなければ、なんら意味がないし、そこが始め得るタイムリミットだろう。なにせ大会は7月だ。これ以上遅くはできない

172 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/11(金) 23:57:49.79 ID:M9TpCfmB0

追いついたからここまでや
173 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/13(日) 22:35:25.53 ID:KckpjtdtO


やっていきますよー
174 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/13(日) 22:36:00.25 ID:KckpjtdtO


「はぁ?戦車道設置のための予算?」

白石ちゃんを中心としたフォーラム幹部層の前でその事実を伝えたが、予想通りそんなすぐに首を縦に降る気配はなかった

「戦車の新規調達はなしとかこれでも妥協した上での予算案なんだけどね」

「いやいや、廃校が来年までなのは存じてますけど、それで戦車道をやるかはまた別問題でしょう。ただでさえOG会の組織化から各派ともに予算の拡大を見込んでいるんですから」

「んなことするわけないじゃん。大幅に削りはしないけど、増やしもしないよ」

当たり前だ。予算の総規模が増えただけで、なにもしてない奴らの予算を増やしてやらねばならぬ道理はない

「しかし……これで纏められるかはなんとも言えませんな。いくら角谷会長の案とはいえこれほどの額を一つのもの、戦車道に投入するとなれば、市民の不満に繋がりますよ
フォーラムとしましても角谷会長と手を結んでいる以上、その人気低下はこっちの支持にも直結します。いくら角谷会長の案とはいえ、そのようなことに手を出したくないのも事実なのです」

175 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/13(日) 22:37:07.79 ID:KckpjtdtO


「……これが廃校回避のための唯一の手段だとしても?」

「それを説明できますか?我々相手ではなく、市民相手に」

説明ね……戦車道やっていると告知したら、西住ちゃんが敬遠する可能性もある。4月に大々的に発表するまで、校外には漏れぬように進めたい
おまけにこれで廃校回避を決めているとなれば、もっと良い条件をつけろ、現状あるもので話を進めろ、などと反発が起きるのは必至。この学園艦で焼き討ちされたらたまらないし、単なる学園の誇りの再興の程で進めねばならない。治安悪化は文科省に十分なほどの隙を与えるしね

「それと引き換えとなりますと、議員の中に造反しようとする者も出てきましょう。会長のおかげもあり我が党は現在党勢の拡大が進みましたが、それはあまりにも急に、です。内実はモザイクもびっくりの寄せ集め。崩壊の動きが出れば、簡単に元どおりになってしまうでしょう」

176 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/13(日) 22:37:46.62 ID:KckpjtdtO

「だけどこれを通さず、去年と同様の予算案を可決したところで、我が校はジリ貧だよ?なんなら君達の存在意義だってなくなる。そもそもの議会はおろか、学園すら無くなるんだからね」

「かといってこの船に乗っかるかは話が別です。船舶科絡みは普通科でも関心ある内容でしたし、からそこまで纏めるのに苦労はしませんでしたが、これほどのものとなりますと」

「だったらさ、議会は回避のための実効的な策を立ててくれるのかい?廃校回避の方針は議会で決まったろ?その換えがない限り、生徒会が立てたこれを使うしかないと思うけどね
予算がなきゃやれるもんもやれないし、来年度予算は今年度中に成立させなきゃならんでしょ?来年度末までだ。今決めなきゃいつ決めるっていうのさ」

そんなものあるわけない。お上の命令だ。お上に直接会って交渉し、譲歩を引き出してくるような奇跡を起こせる人間でもない限り無理だろう。私ですらレールに乗ってやっとここまで来ているのに

「……仮にこの方針が認められたとして、実際に廃校回避できるのはどのくらいの確率だとお考えで?」

「……10%」

「ですよね」

「もないね」

そんなにあるもんでもない

177 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/13(日) 22:38:36.88 ID:KckpjtdtO


「だって相手になるのがプラウダとか黒森峰とかだよ。そしてベスト4は固定化されているような世界だ。そのまんまじゃ勝ち目ないよ」

「……貴女ならこの案件を出してくる以上、そのまんまで挑むつもりはないのでは?」

まだ分かってるか

「一人助っ人呼んでる。彼女は半ば強制的にやらせるつもりだけど、そこの訴えが来ても無視するよう風紀委員に手配済み」

「……戦車道の大会っていつでしたっけ?」

「7月から8月だね。場所もコロコロ変えるから移動がめんどくさいんだよね〜。もういつもおんなじ場所でやってくれれば良いのに」

「なるほど。結構早いですし、決断するなら今でも遅いということは分かりました。確かに他に考えづらいのも事実ですが、一旦のタイムリミットは5月末……でしょうね」

「ほう」

「そこまでに強豪を撃破し得る力を得ているか証明しなければ、その先の優勝など夢物語でしかなくなってしまいます。そこまでにこちらでもより確率の高い方策はなんとか立ててきますので、その段階で戦車道が使えなければ乗り換える。それなら多少は譲歩の余地がありましょう。この案だと夏に負けたらそのまま廃校以外の道も無くなりますしね」

「ということは……練習試合かな」

「それを少なくとも強豪の一角とは言えるところを相手に、です」

作ってたった一月強で張り合え。なかなか無茶な注文だが、向こうの言う通りそうでもしないと優勝なんて狙いようもないというのもその通り

「それでも予算案を作らざるを得ない以上、交渉は難航しますね。予算委員会でも立ち上げて野党と話を通しておくにしても、そもそもの戦車道を曲げられない以上妥協は困難かと」

178 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/13(日) 22:46:53.85 ID:KckpjtdtO


「党内も厳しい?」

「さきほどの代案提示で当面は凌げます、多分。角谷会長に抵抗しながら話を進めるなんてのも事ここに至っては意味を成しません、と言えれば私も気が楽なのですが……件のモザイク状況ですからね
この先を巡る党内の議論は未だ紛糾したままです。挙げ句の果てにはもはや大規模な抵抗は起こさず、むしろ国の廃校作業に積極的に協力して廃校後の混乱をできる限り抑え込もうとする輩もいるほどで……
まだ元々海の民だった者が角谷会長に協力する意志を見せているのが救いですかね」

「……その国に協力しようなんて輩はどのくらいいるのさ?」

「議員の中でもある程度の数です。が、私がこうして幹部の前で話せているように、私の代の人事の際に主だった役職からは外してあります」

「ふーん……」

どこかでそこらへんを切っておきたいね。学園存続のための挙市一致を成り立たせるためにも。最悪野党も取り込んでの大連立とかでもいい。とにかくその面々がいながら現状の議会で議案を通さなきゃいけないのか……

「備品は艦上の戦車ショップを使ってそこ経由にしておきたいんだよね……地場産業育成を名目にさ」

「……それって値段向こうに釣り上げられません?窓口を絞らせるとこちらから文句は言えなくなります。それに一業種優遇となると他の反発は避けられませんよ?」

「ウチの生徒会の交渉術をなめてもらっちゃ困るよ。少なくとも定価にはするさ。じゃなきゃこの予算の範囲内にならないよ」

「それと……戦車の数ですが、現状では概算でしかありません。正式な数はわからないのですか?」

「最低1輌しか今は分からないけど、資料を遡れば5輌は確実。多くあれば12輌は掻き集められそうだね」

「20輌には満たないと」

「残念ながらね。それだけあればまだマシだったろうになぁ。数だけでも決勝で対等に戦えるし」

「……幹部会議で持ち込むだけ持ち込んでみましょう」

つれないねぇ。決算はちょっと詰めてきても良いんだけどさ、予算はこれで通してもらわないと
何か秘策ないもんかね……


179 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/13(日) 22:47:22.07 ID:KckpjtdtO


「どうしたもんだと思う?」

「いや、それを私どもに尋ねてきます?」

こうして人と会うことぐらいしかできることがないのだ

「干し芋食べる?」

「あ、いただきます。けど……それを頼みに来ますか……」

お茶はこの前辻氏から送ってもらった淹れ方を参考に、クラブの党本部の給湯室を借りた。干し芋にも合うので私も時々やってみている

「だってさー、この先考えるに言っといても良いじゃん。それでさ、上手く行かなそうなら頼れるものは頼ってみるもんでしょ」

「それで直接貴女が尋ねてきます?貴女と組むフォーラムとは不倶戴天の敵であるウチに」

鴨崎新大洗クラブ党首、目の前にいる彼女の名前と肩書きだ

180 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/13(日) 22:48:06.96 ID:KckpjtdtO


今日はここまでです

見てくださってる皆様もしいらっしゃいましたら今日もありがとうございます
181 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 20:56:31.67 ID:zgCDrjQ10


21時から始めます
182 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 21:00:36.29 ID:zgCDrjQ10


「貴女に党勢は押されてはいますが、いくらなんでも野党としてフォーラムと共同歩調は取れませんよ?貴女がたの予算案にだって同意するのは無理でしょうし」

「それは君たちはここの廃校を目前にしてその存在意義を失ってもいい、ということかい?」

「いや、そこまでは申しておりませんが……」

「だったらここで提示した戦車道再興、そしてそれで優勝以外の条件を文科省から取り付けられるのかい?」

このことは一応伝えた。流石にこの基盤なしに交渉は無理だしね。さて、クラブが文科省を動かすなんてのは無理だろう。そこで動くのなら私の仕事は必要なかった

「仮にそうでも我々としては賛成できません。今回の予算案は都市内のインフラ整備などへの増資などもせず、あいも変わらず補助金漬け政策を支持するものです。これに賛成してクラブなし、それが我々の意志です」

「だーかーら、学園を残す策があるのって話よ。こっちも削るだけ削ったし、それでもカネがある程度なきゃできないしさ」

「戦車道しかないとしてもこの予算案は飲めません」

戦車道をやること自体はそこまで問題でもない、ということか

「……私が思うにね、戦車道は始めたとしてもそう長くは保たない」

「何を仰りたいのです?」

「学園が存続した後の話。今回ね、計画としてはある意味タミフル剤みたいなのを投入するつもりなのよ。私としても何としても優勝したいからさ」

「タミフル剤、ですか……」

「でもそんなのに頼れるのはそんなに長い期間じゃない。直接で2年、影響を受けても4年間だ。そこから先は恐らくどうにもならないだろうね」

要するに西住ちゃんが直接いる時期と、その姿を間近で見た者が継承する時期、そこまでだ。それ以降は西住ちゃんは雲の上の存在みたいになってしまうだろう
ウチを優勝させたならさせたでその活躍から引っ張りだこになるだろうしね。戦車道連盟もメディアもこんな金づる放っておくわけがない

183 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 21:03:14.77 ID:zgCDrjQ10
undefined
184 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 21:03:48.19 ID:zgCDrjQ10


「ということは……戦車道再興は本当に廃校回避の手段以上のものではない、と」

「そうならざるを得ないと思うよ。今回優勝狙うといっても、それは有力校の隙を突いてなんぼだ。ウチが強豪校の枠に入ったら、金銭面で張り合えなくなるだろ」

「まぁ、ウチ公立ですから私立みたいに学費上げたりとかは無理ですからね。OG会からといったって卒業生的にそんなにバンバン金を出してくれる人ばかりじゃありませんし」

「あとブレが大きいだろうしね。広告収入とかを狙ってもそれは他所もやっていることだ。この前とかスポーツドリンクのCMに黒森峰の隊長さん起用されてたし」

「ああ、そんなのもありましたね。ではまた件のタミフル剤と同様なものを引っ張ってこさせるようにしたら……」

「……そんなに毎年のようにタミフル剤が出てくる業界なら、尚更お断りだね」

感謝もすれ、軽蔑もする。とはいえこれは私の感情だ。仕事人としてやるべきはその軽蔑する道しかない

185 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 21:04:21.77 ID:zgCDrjQ10


「問題はその学園が残った後、その猶予で何ができるかさ。結局のところウチが廃校候補に入っているのはなによりもこの少子化社会で将来性がない、と見られたことに尽きる」

「そこは同意ですね。政府の方針もあるでしょうが、留学生誘致でもしない限りいずれは選別の時が来る。それは間違いないとこちらも考えています。そして現状海外留学生受け入れなんて環境はウチでは作れません」

「そうなると道は二つ。一つが学園の教育的魅力を高めること。もう一つが都市の経済基盤を整えて自活できるようになること」

「いずれにせよ、現状維持を打破するには金がかかるというのは間違いありませんな。だからこそ民間を引き込み、その活力を引き出さねば……」

「まぁそこはおいおいだ。そう、君が言う通り金がいる。そして金は、戦車道に勝った時はそりゃ来るだろうさ」

「志望学生増による偏差値レベルの上昇。それだけ見てもメリットは大きいですね。もっともその時は時流か戦車道の拡大に動きかねないでしょうが」

「させないね。うちの経済力で続けられるとは思えないし」

「それで4年で区切る、と」

「そう。長くても5〜6年。それで余裕ができた資金は都市の経済基盤に投資するなり、教育設備を整えるなりに投入すればいい
まずはそもそもの財源確保。戦車道はそのためさ。そして被服科での企業誘致もしてさらに金を膨らます。その際に債権発行は場合によっては認めるけどね」

「債権発行……」

そう、それはフォーラムの相応経済の放棄と同じだ。まさかの一言だろう


186 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 21:05:11.37 ID:zgCDrjQ10


「学園存続の信用さえ得られれば、私は学園都市を担保に借金するのは、制限付きで許されて良いと考えているよ。企業誘致の基盤整備には大金がいるだろうしね」

「輸出入用の港湾設備の改修と工場との接続の改善に設備投資の支援と、あとは通勤通学ラッシュの解消と、ウチに金があって困ることはありません。借金はそこの固定資産税と社員の町民税で利子くらいは埋め合わせが効きますし、波及効果を考えればプラスなはずなのです」

経済面ではこっちの方がある程度分かっているか……使っていくしかない

「ウチの生徒会と生徒議会は大きく二つの役割を握っていると思うんだ」

「また藪から棒になんです?」

「なんだと思う?」

187 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 21:06:37.12 ID:zgCDrjQ10


「……学園と都市、二つの行政を握っているということですか?」

「だいたいそう。そしてそこが分かれていることが、フォーラムが勝ててクラブが勝てない要因」

「なっ……」

まずは怒らせる。気を高ぶらせて合理的判断をする力を弱める

「だって考えてごらんよ。フォーラムは基本学園をメインの政策に据えてる。部活の予算支援とか学生向けの物品への補助金政策。結局学生向けだ。一方でクラブの政策は都市メインだ。都市の経済発展のためのインフラ拡充とかね
じゃあここで都市民の比率を考えよう。知っている通りここでは学生の数が多い。なにより生徒議会の議員、そして有権者は生徒だ
確かに親と一緒にこの年に暮らしていて都市経済の発展を望む親の意見を汲む親孝行な子供もいるさ。でも勝てない。親の幅広さだけ支持層は広範囲になるけど、やはり数では負ける」

「うぬぬ……」

「そしたら君達が取るべきだった手は一つ。その都市経済発展を支持する層を議会に取り込むことだった。だから私も町内会系対策に苦労してきたわけだけどね
だけど君達はこの前の市民議員設置に反対した。自分たちが生きる道を潰したんだ。もっとも先んじて公正会が市民系に食い込んでたこともあったんだろうけど
だけどそうしなかった。だから君達は次も負けるのさ」

188 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 21:07:31.27 ID:zgCDrjQ10


何も言い返せまい。むしろ党の運営に関してあれだけの議員がいながら適切な方針を決定できていなかったのか。そこの点に関してはフォーラムに頼ってて正解だった

「じゃあこの市民議会となってどうするか。話を元に戻すけど、私は学園都市を学園都市として残すには、経済発展をしつつ学園の魅力を高める、それを同時並行で進めるしかないと思う
学園一方だけ進めた結果はこれだ。部活や学校の学科の発言力が嫌なほど高まり、何も決まらなくなった。だが都市だけ進めたら結果は単純だ。地上の都市に負ける」

「……そこは分かります。学園都市は物資搬入などの点で明らかに不利ですし」

「その通り。ならば学園だけでも都市だけでも学園艦は保てない。だからこれからは都市に対しても一定の施策はとる。だがそれ以前に」

「学園都市は廃校を回避しなければ意味がない、と……」

「そういうことだ。他に移って党を立ち上げて生きていける自信があるなら構わないけどね」

プレッシャーはかけた。あとは向こう次第だろう。鴨崎ちゃんはなかなかに頭を悩ましてからこう告げた

189 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 21:08:22.38 ID:zgCDrjQ10


「……我が党として賛成は無理でしょう。私が首を縦に振ったところで党内の幹部が賛成いたしますまい」

なら何も変わらない、か……流石に

「しかし我が党としては、です。私はそれ以外は断言しませんし、貴女をその点以外で妨害するつもりもありません」

何?

「ということは、こちらがそっちの内部に介入してもいいと?」

「……我が党があるのは、学園に依ります。そして事ここに至って学園を残すすべをお持ちなのは……」

「それ以上はいいよ」

……流石に酷すぎるというものだろう。自分の身と政党の未来を半ば犠牲にすることを認め、それを反芻させるというのは

「……ただし一つ条件が」

「なにさ」

それと引き換えならある程度の要求はしてくるだろう

「先ほどの件をフォーラムと生徒会の次期幹部と合意しておきたいのです。それを文章化して各党に代表のサインをした上で保管してもらいたく思います」

「ふむ……」

確約を得たい、と。フォーラムが党勢を強めた際に拒否されないように、か。そこに生徒会を巻き込むことで安定性も高めたい、と

「良いよ。なんとか引きずり込んでくるし、生徒会の次期幹部なら一言で集められるさ。本来、私自身は無所属だ。単に生徒会がフォーラムと提携しているだけに過ぎない。各党の今後の活躍に期待するよ」

「はい……」

190 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 21:09:55.88 ID:zgCDrjQ10


うなだれる彼女の肩を叩いて礼を述べてから、私はその場を去った。そしてすぐにケータイを取り出す

「田川ちゃん」

「会長、どうなさいましたか?」

「クラブの議員の懐柔を進めて。予算案を通せるようにするよ」

「はい?よりによってクラブですか?乗ってくるとは思えませんが……よろしいので?」

「やっちゃって!戦車道をやること自体は大きな反発はなさそうだしね!それと次期幹部クラスを集められるように!」

「え、この時期に次期幹部ですか?役職もなにもありませんよ?」

「候補生だけで良い!あとはフォーラムにも同様の要望出しといて!」

「は、はい!」

191 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 21:11:27.48 ID:zgCDrjQ10


その先に開かれた生徒会、フォーラム、クラブの次期幹部層による秘密会談で、来年度以降の運営における3派合意が交わされた。基本的な内容はそう変わるものではない

・戦車道は設立すれども必要以上の延命はしない

・戦車道勝利に伴い将来的な学園の存続に信用を得られる場合は、翌年度より都市債を発行し、それは都市開発にのみ充てる

・都市の経済発展、地場産業の育成により学生の都市残留を支援する

が内容だ。補助金面での支援はこれまでと同様の水準なら黙認する、もしくは反対はするがそれ以上の妨害はしない、ということを承認した。これでやっとこさ予算が通る道ができた

192 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 21:12:34.75 ID:zgCDrjQ10


これでやっと一つ報告ができる。二人には時間がかかったがやっとこさ前提条件は満たせたとの一報を入れた。反応は辻氏の方は了解の一言と単純なものだったが、竹谷氏はもう少し細かかった

「こちらは言い方は悪いが君たちよりは苦労せずにすんだよ。練習試合するなら言ってくれ。連盟への登録作業は済ませてある」

とのことだった。練習試合の舞台は大洗になるかな。開発のためにも早期にやったほうがいいだろう


時間はもうあまりない。4月には始めねばはならないのに、すでに3月の頭に入ろうとしたとき、2012年度予算案は賛成多数で議会を通過した。賛成370、反対342、棄権38。クラブの一部を棄権させてなんとか賛成多数を占めることができた
来年度の予算に関する合意と、クラブが廃校回避の対抗案を出せず、フォーラムと同じく廃校受け入れに賛同するものが現れる状況に一部が見切りをつけてくれた。離党までしたのは殆どいないけどね

これで来年度の予算のめどは立った。あとはこれを元手に勝ちを得るしかない

193 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 21:14:36.38 ID:zgCDrjQ10


これによって得たものは三つ。一つはさっきからずっと示しているように戦車道の設立の目処が立ったことだ。これだけが学園を生かす道。その茨の細い道のまず一歩を踏み出す権利を得た
もう一つは政党の形骸化を示せたことだ。フォーラム議員の一部造反こそあったが、一方でクラブの議員の離反と棄権が相次ぎ、他の職人連合、学生自治権党などからも賛成が出た。もはや政党の枠が大した意味を持たないとありありと伝えたのである
そして最後は、これで完全に学園の存続が方針として効力を持つ程度に固まったことだ。まだ廃校回避の件は公にはしてないし、戦車道設立も名目は学園の威信の再興だ。だがこれで、学園は存続されるべきであるということが、大洗の未来の指針となった

そして数で過半数を占めることならどんな手を取ることにも躊躇いがない、そうメディアの目に映ったせいか、私は大洗の女傑というよりも強引な指導者というイメージが付いてきているらしい。私が今回の件に関して、戦車道があまり話題になりすぎないよう予算案に関する取材を控えたせいもあるだろう
彼らの書いていることは間違いないね。これからもっとその印象を強めることになりそうだし


194 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/20(日) 21:17:25.98 ID:zgCDrjQ10

今日はここまでです
195 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/27(日) 22:12:12.71 ID:vwscS1ncO


2235からやります

196 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/27(日) 22:41:25.47 ID:vwscS1ncO


そしてその時期は、別れの季節でもある。大学進学を決めた山崎さんたちの卒業式が開催された。私が在校生代表として話をしたが、やることは大して違いはない。ただみなさんが卒業されるこの学園を、残さないという選択肢はない、その発表の場でしかない

帰り際、山崎さんは正装して私の前に来た

「角谷。お前色々と手を尽くしてくれているようだな。最近は何もしてないが、話だけでもよく聞くぞ」

「私ができることなんてそんな大したことでは……」

「いや、これで学園はいやが応にも挙市一致へ向けて進んでいけるはずだ。それに進むしかないと私も思っている。もっとも賭けるものが重すぎるけどね」

「ごもっともで」

「角谷。お前ならやれる。お前も来年にはこっちに回っているだろうが、その時に笑って終われるように頼んだぞ」

「……はい」

「お前が泣いて卒業する姿なんて見たくはないからな。お前にとって一番似合わない姿だ
笑え。笑って卒業しろ。そしてみんなと、仲間と笑ってから来い
これがこんな何も変えられない頼りない先輩からのたった一つの頼みごとだ」

黙ってただ差し出された手を握り返す。ずっと握って、握って、離さない。それが互いにとって最大限返せる返事だった
しかし笑って卒業しろ、か。確かに泣いて卒業なんてしたくはない。きっとその涙は廃校をどうしようもできなかった悲しみの末のものだろうからね

「角谷」

「はい」

「その戦車道で使う戦車、一緒に見てきてもらってもいいか?」

197 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/27(日) 22:42:26.59 ID:vwscS1ncO


そんな希望をうけ、普段はあまり人の立ち入らないグラウンドの奥も奥の煉瓦造りの建物にやってきた。もうここは卒業式の喧騒とは縁もなく、ただ向こうの木々が風に揺れているのみだ

「ここか……もう滅多に人が来ないところだな。私もここの中に入るのは初めてだ」

「私は視察の際に一度だけです」

重い緑の金属の扉に付けられた南京錠を開け、ギィと力を入れて片側を開ける。その奥で明かりを灯すと、中に鎮座する金属の塊が照らし出された

「……これが戦車か」

「はい。我が校の未来を決めるものです。調べたところ、ドイツのIV号戦車なるものだとか」

「ドイツか。敗戦国の、か。そして今のドイツを鑑みれば、這い上がらんとする我が校にとって縁起の悪いものではないな」

這い上がる、ねぇ。できれば勝ち組のままにこの先も生きていきたかったが、しょうがないものはしょうがないよね

「これが……ねぇ……うぇっ!」

山崎さんが車体に触れてすぐに手を離した。指先には真っ黒な汚れがこびりついている。ちょっと触れただけでこれだ。車輌全体なんて推して知るべしだ

「……洗ってないのか?」

「本来廃棄されているはずの車輌ですからね。堂々と表立って清掃するわけにもいきませんし」

「そ、それもそうか……」

乙女の道、ねぇ。これに護られるから女性の方が相応しいというが、ねぇ。試合などの映像も見てみたが、何時間も鉄の棺桶の中で重い砲弾を抱えて駆け回る。下手な男にすらしんどい作業に見えなくもない。無論伏せるけどね

「これ以外はどうするんだ?1輌では紅白戦すらできないじゃないか」

「学園艦内に10輌くらい隠されているようなので、発掘させます」

「誰に?」

「履修生に」

公にしたくない以上、これより前は人員確保すら覚束まい

198 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/27(日) 22:42:57.70 ID:vwscS1ncO


「まずは教材を集めて来なきゃならんのか。あまり受けたくない授業だな」

「逆に教職員連盟は丸め込んで単位数とか嵩増ししたんで、それでも人が来なきゃどうにもなりません。ウチの学生の愛校精神が足らなかっただけの話です。あとは機密費から食堂優待券を作らせました」

これを履修人数分だが、それでも額は10万くらい。値引きだけだからね

「それと学園の誇りとして能力高い人間集めなきゃならないので、一人有能な奴に目を付けてます。それ用の秘策も一応」

一個下に面白い奴がいた。家計的にも飯の話と絡めれば釣れる、と思う

「やるねぇ……」

「極め付けはこれです」

ちっちゃな鞄から透明なクリアファイルに入れた一枚の紙をそのまま差し出す

「ん?これは……必修選択科目の申し込み用紙か……こりゃまた大胆な」

「まぁ、見習ったところが見習ったところなんで、褒められるものではないですが」

「この戦車の故郷、からか」

「単に選択ですし、中身も国家併合ほどのものでもないですから」

戦車道の選択欄のみ他の欄よりめっちゃくちゃでっかくした記入用紙だ。これに西住ちゃんがチェックしてくれれば楽なんだけど
目は……笑えないですよね。なんかやばい代物を目覚めさせちゃったな、そんな感じだろうか

「角谷」

クリアファイルをこちらに返しながらその目を緩めた

「なんども言うが、お前に任せてよかった。私にはここまでは無理だ」

「ありがとうございます」

「ここまでやるんだ。後任には慎重になっとけよ」

「後任を設けられればの話ですがね」

199 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/27(日) 22:43:30.92 ID:vwscS1ncO


「あれ、人がいる」

「ここに?」

奥の扉から二人の少女が私たちを見つけた

「しかも角谷会長ですか」

「ナカジマちゃん?」

自動車部の人だ。黄色いツナギを着ているから薄暗いこの倉庫でも結構目立つ。もう一人はホシノちゃん。結構焼けてるよね

「卒業する人への挨拶とかはいいのかい?」

「ウチらの先輩、一人しかいらっしゃいませんから」

「すぐに終わったと……」

私も他の人に挨拶しなきゃな……

「そうなれば下手に感傷に浸るより私たちは車いじってる方が性に合ってますから」

「なるほどねぇ……それで、ここには何の用?」

「あれ?あの連絡は会長からじゃなかったんですか?」

「へ?」

「ほら、IV号の整備の案内書類置いとくから、整備してくれっていう話。これ置いてってくださったじゃないですか」

こちらに近づいてナカジマちゃんが見せてくれたのは、表紙に女性の顔が書かれた説明書だ。中身をチラッとみてみると、内容の詳細はわからないが、図面から見るに整備のための本のようだ

「これ以外にも何冊か別の戦車の整備書類置いててくださいましたけど、あれらも違うんですか?」

「私は知らないよ?」

「そしたら誰が……」

どういうことだ?

200 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/27(日) 22:44:17.82 ID:vwscS1ncO
undefined
201 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/27(日) 22:44:47.41 ID:vwscS1ncO


「戦車の整備は初回の授業の時に履修生に混じって手伝ってもらうから今日は大丈夫。それでさ、ちょっと他のも見せてもらえる?」

「今部室に残り置いてあるんですよ」

「じゃ、部室にお邪魔してもいい?」

「わ、私は少し手を洗ってくるとするよ」

こうして手をしっかり洗った山崎先輩とともに、よくわからない工具が大量に転がった部屋だった。部室で待ってたスズキちゃんに踏まないように気をつけて、と言われても、慣れてない人にはなかなか厳しいものがある
そしてその奥の机の上の書類の束、それが件の案内書のようだった

「朝方にこれとこの紙が入った紙袋がドアノブに掛かってたんですよ」

「ふーん……」

ホチキス留めされた書類を一つ一つ見てみると、残りはフランスのB1bis、ドイツのポルシェティーガー、日本の三式中戦車のものだった。これらは……我が校が書類をごまかしてまで残そうとしている戦車の一部だ
ウチが書類をごまかしてまで戦車を残していると知っている人の中で、その車輌まで把握しており、かつそれでいてウチの助けになるものをくれる人……

「しかしこのポルシェティーガーっていう奴、案内書見ただけでも骨が折れそうですよ。これ本当に70年前の車輌なんですか?」

「構造的に足回りめちゃくちゃ弱そうだし、本当に乗ろうとするなら根本から改造しなきゃダメないんじゃない?」

「見る限りこの中だとIV号が一番乗りやすいんじゃないかな。このB1bisってやつは砲塔に一人しか乗れたいみたいだしね」

「は、はぁ……」

戦車の構造について話に花を咲かせる3人とそれに全くついていけない山崎さんの横で、私は一つの結論に辿り着いた

202 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/27(日) 22:45:17.93 ID:vwscS1ncO


「多分ウチの戦車ショップの人が適当にくれたんじゃないかな?お礼は私の方から言っとくよ
それで整備に関しては前に話した通り、後日で頼むよ。この先も世話になるだろうしね」

「ウチらとしちゃエンジン付いてるものをいじれるのでむしろ喜ばしいんですが、そしたら代わりに予算増やしてくださいよ」

「ダメダメ。もう予算通しちゃったんだから、恩恵受けたきゃ戦車道履修しな」

「えぇ〜……」

「功績次第で来年は考えるからさ」

その書類は自動車部に預けて、私は同封された紙だけ貰っていった

その書面には一言

『大洗女子学園のさらなる奮闘に期待する』

とだけあった

「角谷。何とかなるかもしれんな」

山崎さんのその言葉は、私が心の中に浮かんだ言葉と同じだった

203 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/10/27(日) 22:45:59.56 ID:vwscS1ncO


きょうはここまでです


最近こんなのつくりました


https://sp.nicovideo.jp/watch/sm35864029?ref=my_history

204 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/04(月) 00:09:52.48 ID:FyYcOIvY0


そして春休み。宿題も特にないので、私が当たるべきは一つ

選挙対策である

今回から私が通した選挙改革案、『生徒議会基本条例改正案』に基づき、生徒議会が市民議会へと名を改め、学園内部のみならず都市でも選挙戦が展開される。選挙管理委員会も慣れぬ仕事に追われている。この選挙の成功如何も私の実績に含まれる

ルールとしては日本の選挙法と同様だ。だが何せいわゆる市民議員の数が数だ。これまで都市全体で行っていた選挙での候補者は、多くても15人、つまり大洗町議会選挙だ
それが今回選挙区は分けられているとはいえ定数は50人、立候補者は100人近い。議会を金曜日の夜にするとかしたのが功を奏している

もっとも今は町内会がバックについた議員が多い。町内会は無理矢理な廃校回避には若干懐疑的な節がある。廃校、退艦となるなら早めに話を決めておいてほしい、それが本音のようだ。要するに廃校を回避して仕舞えば問題ない

これだけの数のポスター、パネル、幟、拡声器。準備するだけでも大変だ。そしてこの宣伝、政党をバックにした議員が政党名を呼ぶことは、結果として各教室を選挙区とした選挙にも影響する。学生は学園艦に住んでるわけだしね

すなわち各党この都市での選挙活動に手を抜くわけにはいかない。そしてその時有利なのは、元々都市民との関係の強い公正会を取り込み、開校以来の歴史の中で選挙戦の経験を積み、議会第一党で資金力のある大洗フォーラムなのである

私も入学式、始業式以降3日間に渡る選挙戦では遊説にも行くし、応援演説にも入る。その間に別の仕事もあるけどね

205 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/04(月) 00:10:32.81 ID:FyYcOIvY0


そしてこの選挙戦にて、私は禁じ手の一つを発動しようとしていた

「ということで竹谷町長。市民議会選にて私と大洗フォーラムへの公認をいただきたい」

「我が党としても長年にわたり大洗町政を支えてこられた竹谷町長の公認を頂ければ、都市内での影響は計り知れません。こちらとしても都市内での町長及び近い町議会議員への支援はお約束します」

大洗町政と大洗女子学園市民議会の結託。これまで都市の自治の独立を宣言してきている以上、飛び地扱いとはいえ町政とは距離を取るのがしきたりだった。しかし学園存続は学園都市、大洗町ともに必要なことだ。そしてその方針を決めたのは生徒による政党。生徒の自治は乱していない

「悪くない」

皮の椅子に深く腰掛け、足を組んで話を聞いていた竹谷町長から聞けたのは、まずはそれだけだ

「角谷くんが色々と改革を進めているのは聞いているし、学園存続の為にも角谷くんと私たちは手を組むべきだ。戦車道再興も支持しているし、その試合会場としてこの大洗の町の登録を進めている」

「なら……」

「だが、フォーラムと組むメリットはあるのか?予算案の時に造反が出てガタガタに見えるのだが。そんな不安定なところに私を支持している議員を支持されると、逆にその不安定性が移って来かねん」

つまり自分の力だけで通せる。必要以上の繋がりはいらない、と

206 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/04(月) 00:11:02.48 ID:FyYcOIvY0
undefined
207 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/04(月) 00:11:31.76 ID:FyYcOIvY0


「それに必需品への補助金政策。あれも必要とは思えん。必要だから既に文房具屋とコンビニは進出しているし、そこらの間の競争で値段も本来は地上と大して変わらん。そこに補助金を出してさらに押し下げることに意味はあるのか?」

「ですから、この学園に来る学生の出自、生活環境は多様です。それらを問わず勉学を続けられる環境を提供する。それはこの都市が公立の学園都市であり、その与党である限り取るべき日本共通の善であると思案します」

白石ちゃんがハッキリと言い切った

「補助金額相当の引き下げをせず、差額分を取り込んで経営を保っている零細もあるという。そういうところはむしろ市民の学費、税金を恣意的に使っているとは言えんか?そういう店があるというのはこちらは把握済みだ。ただそちらの自治の意向を受けてこうして勧告だけに留めているがね」

「もちろん販売状況に関する精査は入れております。仮にそのようなことをしている店があるとしても、彼らもこの都市に住む住民です。そのような利用を止めるなら我が校としてこれ以上口を出すことではないかと」

あまり触れて深掘りして欲しくないんだよな、そこは。うん……

「こちらもそれを認めている政党だから不安だ、という意見もあるし、何より最近まで議会の1/3すら取れていなかった。それを市民の代表として町長の私が公認するのは無理がないか?」

「現在は1/3を超えております。そして得票率そのものは決して低くありません。今回の角谷会長と組むことにより、得票率の増加も見込めますし、市民議員は此方に近いものもいます。今よりは格段に議席数を増やせると見込んでおりますが」

「それはそちらの想定でしかないだろう?選挙は水物だ。結局開票結果が出るまで誰も結果は知らない。君たちだって選挙速報とかのニュースとかを見てる時に、当初の予想と違う議員が当選してるのを見るだろう」

208 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/04(月) 00:12:08.87 ID:FyYcOIvY0


フォーラムは都市の自治の独立を主張し、時に町からの要請にも反して政策を実行してきた。その距離感は私がいたところで拭えるものでもない。つまるところフォーラムが信頼されてないわけだ
私との関係だけなら一年だけだ。来年以降万が一政権与党が変わる事態になっても、政党と繋がってなければ新しい生徒会長支持に簡単に乗り換えられる

めんどいなら、妥協するだけだ

「それなら、この形ならどうです?」

一枚のメモ用紙を我々の間にある机に置いて、簡単に大きく四角形を描いた

「これを選挙ポスターだと思ってください。まず候補者の写真を載せて……その右下に私の写真と私が推薦していることを書きます」

「ふむ、普通だな」

「そして『私の写真の下に』竹谷町長推薦を書きます。つまり竹谷町長が推薦しているのは私、その体裁を取るならいかがです?」

来年以降万が一があるなら、向こうは生徒会長の写真と政党名を変えて別で作ればいい。フォーラムと町長の仲立ちが私、となれば向こうにも受け入れやすいと思う

「……だめだ。今回の選挙でそれは認めん」

ううむ、手厳しいな。やはりフォーラムを絡めるのは厳しくなるのか……
その後も交渉は進めてみたが、先ほどの案が拒絶された以上、フォーラムのポスターに町長の名前を載せるのは許されない。そうじゃないなら、この選挙での意味はない

それなら、もう一つの禁じ手を使って勝ち筋を作るのみだ


209 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/04(月) 00:12:47.12 ID:FyYcOIvY0


4月5日、始業式及び入学式。午前に始業式、午後に入学式の日程が取られる。今年度も無事倍率は1.03と辛うじて1を超えていた。正式に不合格を出した人数は全学科合わせて92人しかいない。もともとは1.4くらいあったのだが、廃校の話を受けて結局辞めるという人が多く出たのだ
そして今回入学している人の中にも、一年生のうちでより良い成績を取ることで廃校後の割り当てでさらに上を目指そうとしている者もいるだろう

だがその願いは挫かねばなるまい。私は彼女らに6年間で多くのことを学び、感じ、そして表現していってください、と挨拶した。親御さんもいる前でだ。彼らも巻き込んでやるしかない
私も今日から高校3年生。泣いても笑っても最後の一年になる。そしてそれは猛烈な誹謗中傷から幕を開けた

210 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/04(月) 00:13:24.73 ID:FyYcOIvY0


「この戦いは大洗女子学園、この足元にある学園艦を守るのか、捨てるのか、それを本当に選ぶものでございます!あちらの〇〇は学園の誇りを取り戻すことに反対し、廃校準備校指定についても、受け入れ及び退艦へ準備せよと言ってやがるのでございます!
この愛校精神への反逆!設立以降の伝統の放棄を堂々と宣う者に、学園都市の未来を託してはなりません!廃校回避学園都市の維持はなされるべきであり、この危機を目の前にして、我々は都市を挙げて団結して立ち向かわねばならないのです!それが廃校準備校指定に対する非難決議を真に実行することなのです!
口では最早止まらない。やらねば、やらねばならないのです!
どうか大洗学園フォーラムの????!????に清き一票をお願いいたします!」

「皆さんも考えてみてください!期限は来年なのです!一年後には国からここから出ねばならないと通達を受けているのです!最早それは眼前の事実であります!
角谷会長は廃校回避廃校回避と壊れたレコードのように繰り返しておりますが、果たしてそんなことをひっくり返せるのですか!
国と争い、戦車道とやらに誇りだからなんだと金を注ぎ込み、そして乱して乱しまくった挙句のうのうと来年卒業しようとしてる!あの軽々しい口に騙されてはなりません!
無所属の〇〇、〇〇に清きでも汚なきでも構いません!あなたの一票をよろしくお願い致します!」

211 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/04(月) 00:14:08.98 ID:FyYcOIvY0


「事ここに至って頼るべきはどこか!それは偉大なる同志のいるプラウダ学園にございます!我が校が生き残るには、国との対立は避けられぬことは皆さんも承知のはずです!ならばこの国の暴虐には学園都市で力を合わせ対峙するほかありません!
ならばその盟主たるのは、学園都市最大規模にして国への抵抗を主張するプラウダ学園以外にないのでございます!そしてその各都市共和発展の指針に向け、我々も足並みを揃える時が来たのでございます!
どうか人民による大洗の議員候補に投票をよろしくお願いします!」

「民主主義は堅持されるべきでございます!このままフォーラムに安定議席を渡してしまっては、その先は角谷政権独裁の道でございます!そしてその先にあるのは学園都市の経済拡大に目を向けないフォーラムの方針の完全な履行です
仮に廃校を回避できても、それではまた同じことの繰り返しでしかありません!必ずや、その不安定性によってトドメを刺されるでしょう!
それは止めねばならない!企業を呼び、産業育成を為して始めて、この大洗女子学園学園都市は未来まで安定するのでございます!
どうか新大洗クラブ、新大洗クラブに清き一票をお願いします!」

212 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/04(月) 00:14:47.49 ID:FyYcOIvY0


「この危機を変えるものは何か!それは真なる自治の獲得!クラス、学科の自治権、裁量の拡大に尽きるのでございます!それを拒み生徒会の権限を強化せんとする角谷会長は、ここで止めねばなりません!」

「こんな選挙は無駄だ!こんな選挙は滅ぼせ!政治に頼ったってなんっにも変わりはしないんだよ!」

「え〜、全世界学園都市経済共同体とは……唯一神△△の名において……その威光の下に全ての学園都市を参画させ……」

後半はどうだっていい。ここで出てきた無所属議員、ついこの前まではフォーラムの議員だったのだ。ならばその彼女を非難している彼女は?

213 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/04(月) 11:58:39.02 ID:FyYcOIvY0


私が送り込んだ刺客だ

白石ちゃんに近い人が要職を、それも選挙対策課を抑えていたのが効いた。党に対する造反を理由に、予算案に反対した議員の公認を取り消したのだ。そして党員からアンケートを取って刺客となる候補を決めていった
内部分裂そのものだが、今なら勝てる。これで勝つのだ。学園都市は廃校回避に向けて一枚岩にならねばならない

214 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/10(日) 22:26:23.26 ID:UUFfWz5YO


2240から始めます


215 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/10(日) 22:39:21.80 ID:UUFfWz5YO


私も遊説に立ったりする日々が続く。朝は学校に先に来てから荷物を置いて学校の前で演説。授業を受け終礼をダッシュで抜け出してタスキをかけ、通学路の帰り道に立つ。それが終わったら今度は自転車に乗って町巡りだ
車は一台借りるのが精一杯だったようで、日中から選挙活動ができる市民議員の支援を優先する。私も合流したら車の上に立ってまたまた演説だ。それを夜8時、制限時間のギリギリまで続けるのだ

市民からの反応は悪くない。そこは市民議員の創設がいい感じに働いているのだろう。ここで働いている人たちからの支持はほぼ完璧に近い
そして帰りがけの生徒の反応は、市民ほどではないがある程度ある。もっとも私の演説なんて式典関連で見飽きて聞き飽きている、といった風に通り過ぎる生徒も多いけどね

216 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/10(日) 22:41:19.71 ID:UUFfWz5YO


そしてそんな最中、2日目の放課後では必修選択科目の追加科目、戦車道のガイダンスが行われた。読み上げ担当は小山だから、私は生徒の反応を見ながら干し芋をつまむ

「戦車道……それは健全な婦女子を育成し、世に役立つ人物を送り出す為の、伝統的なスポーツです。乙女の目指すべきは自己鍛錬と相手への敬意、そして照準器の先に見据えた己の心なのです……」

この資料は生徒会で作ったもので、戦車道連盟にも協力してもらったものだ。なんか参考になるものはないか、とお願いしたところ、ちょっと前に作った宣伝用のビデオを送ってきたので、内容を削って初心者が見たらめっちゃくっちゃ伝統のあるまともなスポーツに見えるようにした
現実?西住流と島田流って名前が付いてて、かつ西住ちゃんみたいな存在が生まれる世界だ

なぁに、嘘はついてないよ、嘘は。仮にそんなスポーツなんだと思ったら、君たちの知識不足と騙されるだけの解釈する力の無さを恨むがいい。むしろ批判的精神を養った方がいいんじゃないかい?
現実を知ったところで単位と引き換えなら手を切るのはそうやすやすとはいかないさ。戦車道を履修している人を減らすわけにはいかないからね
そしておまけに小山からは遅刻見逃しとか食堂優待券、単位数爆高を含む戦車道履修のボーナスを通達した。そしたら本当に分かりやすいね。場の空気がパアッとこちらに傾いた。一人暮らしの人も多いから、その人たちにとっちゃ食費が抑えられるだけでもメリットは大きいしね

217 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/10(日) 22:41:47.70 ID:UUFfWz5YO


その後必修選択科目の紙が高校の各クラスに配られた。無論戦車道だけ一番でっかくしてある。いかにもこれにチェックを入れろ、といった感じだ
そして次の日の休み時間、まだ期限は来てないからおそらく科目を決めてはいるまい。そこら辺は優柔不断なところがあると黒森峰からの説明にもあったしね。西住ちゃんのいる普通科2年の教室に小山とかーしまを連れて向かう

「なぁ、かーしま」

「どうしました?」

「抜かるなよ」

「は、はい」

役割は分担済み。かーしまはその見た目と背の高さ、そして口調で西住ちゃんを直接威圧する役目だ。それを実行する場に立ち入る。中には生徒が多くおり、私を見て口々に小声で話している。誰に、何の用か。主にそんなことのようだ
そして目的の人は、2人ほどの他の少女と話しながら、その真ん中にいた

「やぁ、西住ちゃ〜ん」

「は、はい!」

「ちょっと廊下に来てもらおうか」


「あ、あの、一体何の……」

「必修選択科目なんだけどさ、戦車道、やってくんない?」



念押しはそれで済ませて2日後の4月8日、選挙の投開票日だ。だが学生も午前中だけ学校に来てクラスごとに投票を行っていく

そして一般投票も並行して行われ、体育館には朝から箱の中身を覗こうとする人たちが並び、投票が行われていった

218 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/10(日) 22:43:47.80 ID:UUFfWz5YO


19時50分、私は白石ちゃんらフォーラムの政権幹部、そして公認候補者らとともに、校内の大教室を借りてテレビをつけていた。茨城には県営放送はないのだが、代わりにNHK水戸放送局が開票結果を速報してくれる。何かしらの動物番組が流れているが、明日になって何の動物についてやっていたかを覚えているものはいるまい

「……どう見てる?」

「感触は悪くありません。他の党が地盤とするところでも、2番手には結構食い込めている印象です」

隣にいるのは選挙対策課の松本ちゃんだ。今回の刺客の選抜、擁立に協力してくれている白石ちゃんの腹心だ。こういうところを廃校回避派で占められているのは大きなプラスだ

「あとは……クラス両議席確保がどれだけできるかと、市民議員の数次第だね……」

「クラブの戦車道支持派と合わされば過半数は容易でしょう。しかし問題は……」

「フォーラムの単独過半数」

「そこに関しては何とも言えない状況です。複数擁立したばかりに、そこに割ってクラブや人民とかが入ってくる可能性もあります。話は分かっていますが、その弊害だけはどうにも……」

「人民ねぇ……」

革命派が党の議会での躍進により勢いを失ってくれればまだマシかな

単独過半数。それがあればこの先かなり楽になるし、総合局は生徒会一の閑職になるだろう

「プラウダがウチに手を伸ばしてくるとは思えませんし、そこまで気にしなくてよろしいのでは?」

「でも一応ね……国との争いが消耗戦と化してきそうなら、ちょっと警戒がいるかもね」

「なるほど。クラブを通じてサンダースがなんたらという話も聞きませんし、大丈夫だとは思いますけどね」

219 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/10(日) 22:44:48.19 ID:UUFfWz5YO


「角谷会長!」

そんな話の最中、奥の扉を開けるが早いがこちらにダッシュで駆け寄りつつ口を挟んで来たのは、新聞部の王とかいった子である

「新聞部の王大河です。間も無く開票開始となりますが、ご自身としてこの選挙、どのように考えていらっしゃいますか?」

一度息と姿勢を整える

「私の生徒会長としての行政の1/4における評価であるも考えております。アメリカの大統領の評価も最初の一年が肝と申しますし
この結果が廃校回避を志向することへの市民、学生の皆様方の判断だと受け止める所存です」

「ありがとうございます。松本選挙対策課課長。この選挙における目標などは設定なさっておられるのですか?」

「そうですね。フォーラムは角谷会長をサポートする立場におりますゆえ、それを支えられるメンバーにて過半数を目指しております。その後は学園都市行政の改革および適切な遂行に力を尽くしてまいります」

「ありがとうございます。以上、大洗学園フォーラムの幹部の皆様のおられる505教室よりお伝えいたしました!」

そしてサッと後ろに下がっていった。待つのは彼女らも同じ、20時である


「30秒前……」

時間が近づいてくると、どこからかカウントダウンが始まる。楽しみであり、不安である時が徐々に近づいてくる

「20秒前……」

私の道が正義となるか。それが市民によって示される時だ。やるべきはやった。だがそれでも不安と恐怖は拭いきれない

「10秒前、9、8、7、6、」

むしろ早く来て欲しい気持ちすらある

「5、4、3、2、」

私の頬を、汗がつたう

「1、0!」

『NHKニュース速報』

まずはそれの存在を伝える音と点滅からだ。唾を飲み込む


220 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/10(日) 22:45:14.02 ID:UUFfWz5YO


短いですが今日はここまでです

221 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/17(日) 21:54:53.37 ID:KovH2OtNO


2200から始めます
222 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/17(日) 22:00:45.58 ID:KovH2OtNO


『大洗女子学園学園都市、市民議会選挙速報
大洗学園フォーラム、過半数獲得か。角谷生徒会長の送った「刺客」も多数当選確実』

「おおおおおおおお!」

「いよっしゃぁぁぁ!」

画面の一番上に現れた文字に、歓喜が応じた

そしてネット上にはすぐに開票状況および当選確実の情報が出ていた

大洗学園フォーラム 347
新大洗クラブ 129
職人連合組合 40
人民による大洗 39
学生自治権党 18
無所属 102

未確定 125

「よーしよしよし」

その画面を覗き込んだ松本ちゃんも満足げだ。この議席獲得数で未確定が分け与えられれば、フォーラムは過半数獲得だ。旧町内会系の離反しそうな奴も切ったから、ちょいと無所属が思ったよりかは増えそうだが、何よりクラブが退潮しているのが効いたな

「まだ未確定があるから確定じゃないぞ」

まだ慢心を避ける言葉は出るが、黒板に貼り付けた候補者一覧にはどんどん名前の上に赤丸が付けられていく。そしてそれが10人くらいまとまって壇上に上がり、周りからの万歳三唱に合わせて頭を下げる

「普通一科高校2年12組組高林町江さん、当選確実!」

「水産科高校1年2組大船渡霞さん、当選確実!」

「普通一科中学3年7組永田咲希さん、当選確実!」

「ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!」

クラスによっては刺客と旧フォーラムの無所属が張り合う形になっているようだ。二番手に食い込む形もしっかりできているし、二番手や落選だと予想していたところで優勢なところもあるようだ

223 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/17(日) 22:02:39.34 ID:KovH2OtNO

「中一の情勢はどう?」

「無所属が他学年より多めなのは避けられませんでした。しかし小学校の伝手を使わせて中一を少々取り込んだだけあり、例年より政党への得票が多く、フォーラムが議席を多く獲得できそうです」

学園の危機を知りながら入ったもの達。即座に廃校からの放逐とはなりたくないか

「市民議員の方は?」

「公正会を取り込んだのが功を奏しましたね。確定で10議席です。残り30議席以上未確定ですからいい感じですが、情勢についてはそれ以上はなんとも……」

よしよし

「市民議員の方の混乱は?」

「町議会の延長として選管も同様の処置で処理したようです。開票開始も3ヶ所全てで開始されてます!」

大成功、だろうね。今のところは

224 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/17(日) 22:04:13.57 ID:KovH2OtNO


翌日早朝、ついに全ての確認作業が終了した。各クラス、各選挙区での各候補の得票数が決定され、選挙管理委員会より正式な当選者、落選者の発表がなされた


無所属 123

人民による大洗 51

職人連合組合 46

学生自治権党 29

新大洗クラブ 149



そして

大洗学園フォーラム 402


思ったよりギリギリであったが、大洗学園フォーラム、単独過半数獲得である

「やりましたね、角谷会長」

一晩をここの教室で過ごしていて、片付けを急ピッチで進める中、白石ちゃんが話を向けてきた

「一応、ね。問題はこの402人が完全に一致しているか」

「大丈夫だとは思いますよ。こうして結果としても出てきたわけですし。刺客の対戦成績も15勝3敗13分。少なくとも角谷会長の方針が妨害されることはないかと」

「だけど数人離反されたら単独過半数はあっという間におしまいだ。動きは注視してよ」

「了解です」

私の指示に了解です、か。本当にできるとは思っていなかったが、やっと……フォーラムは私に従った

225 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/17(日) 22:05:31.17 ID:KovH2OtNO


だが世の中そうもうまく回らないもので、良いことがあれば悪いこともある。寝不足のせいかあまり食欲もないので眠気覚ましに栄養ドリンクを流し込みながら、昼休みも生徒会長室でここ一週間のちょっと溜まった書類に印鑑を押していた。それを初めて間も無く、かーしまがいきなり飛び込んできた

「会長!」

「なんだかーしま、そんな大声で。一旦落ち着け」

こーいう時、かーしまはまず一度落ち着かせればだいたいまともに話してくれる

「は、はい。申し訳ありません。とりあえずこちらをご覧いただければお分かりになるかと……」

そう言って手持ちの紙を書類を避けて机の上に置いた

「ん?これは……」

226 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/17(日) 22:07:17.66 ID:KovH2OtNO


「これはどういうことだ?」

「どうしてこうなるかねぇ……」

昼休み。今日が月曜日なんで必修選択科目の希望の提出は今日だ。そして彼女はその日の朝、ちゃんと提出してきた

ハッキリ言って西住ちゃんがこの内容を提出するのは想定済みだ。経緯を考えればある意味当然とすら言える。だが問題は彼女にオマケが二人ついてきたことだ
入り口で呼び出したのは西住ちゃんだけだから二人の立ち入りは認めない、と言ったようだが、その制止も聞かずズカズカと踏み入ってきたらしい

名前は五十鈴華と武部沙織。普通科の高校二年生で、西住ちゃんと同じクラスだ。五十鈴という子が黒髪、武部という子は茶髪だ。入ってきて顔を見て思い出したが、私たちが教室に入った時に西住ちゃんの両脇にいたな、そういえば

「すみません……私、戦車道はできません……」

出来る出来ないではない。やってもらわねばならないのだ

「貴様は私たちからの話は聞いていなかったのか?できないわけがないだろう」

「みほはやらないって言ってるのよ!」

「強制するのが生徒会のやり方なのですか!」

ウザいね、この二人。私たちの邪魔をするか

227 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/17(日) 22:11:55.43 ID:KovH2OtNO

「そんなこと言っていいのかな〜。そんなこと言っていると、三人ともこの学校にいられなくなっちゃうよ〜」

間違いない。西住ちゃんがいないということは戦車道は烏合の集だ。優勝なんて夢のまた夢。そしたら学園は廃校だ。三人ともこの学園には通えなくなる
もっとも、その意味でこの三人は捉えていないだろうけど

「脅しですか……」

「脅しではない。会長は常に最善の方法を言っていらっしゃるだけだ」

「ねね、やった方がいいと思うよ。会長もやるならそんなこと言わないからさ。これ以上面倒なことにならないうちに……」

物腰柔らかく小山が加勢する。さて、木刀の後に洗濯バサミだ。キツイがマシに思えてくるだろう?

「やらせること自体が間違いなのよ!」

「そこに生徒会が介入する道理はありません!」

抵抗しているのは周り二人だね。核心部は揺らいでいるな。さて、どうするか。もう一押し何かあればいいな
廃校の事情は……伝えたら尚更やらないね。だからパス。今から風紀委員を呼んで二人を追い出すか
それだね。私の言っていることが勘違いのまま進むようにしようか。彼女らには悪いが、これが私の役割なんでね

取り巻きの対応は二人に任せ、私は机の下のケータイから園ちゃんにブラインドタッチでメールを送る。内容はそのまま生徒会長室の不届き者を追い出せだ

そのメールの送信ボタンに指をかけた

228 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/17(日) 22:15:11.54 ID:KovH2OtNO


その時だった

「あのっ!」

奥のこの問題の中心が、取り巻きの手を両手それぞれで繋ぎながら、久しぶりに声をあげた

何だろうか。結果それでもやらないと言い出すんだろ

そう思っていたし、もう親指に力を入れていた

「私、戦車道、やります!」

だからこの言葉が耳に入った途端、私を含め周りの全員が一瞬呆気にとられた

「ええええっ!」

その中でも反応が早かったのが武部という子である。私もそれでことの進展を理解し、笑顔でうなづいた

こうして、道はできた。やると決まれば話は早い。頼むよと一言と紙の書き直しと前の紙をシュレッダーにかければ全て済むし、普通に返した。そしてついでと取り巻きの二人も希望を戦車道に変えていった。人はいるだけ損はない

229 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/17(日) 22:16:04.88 ID:KovH2OtNO


三人を返して少しして、園ちゃんに続いておかっぱ数人が生徒会長室に突入してきた

「……あれ?」

だがこの部屋にいるのは、干し芋を食べている私だけだ。かーしまも小山もそれぞれの仕事に当たっている

「角谷会長……これはどういうことかしら?」

「いや〜ごめんね。さっきまで不届き者は居たんだけどさ、もうそうなくなっちゃったから返しちゃったんだよね」

「……はぁ」

その通りなのだから致し方ない

「でもここにそのまま来てもらったからには要件が一つあってね。ちょっといいかい?」

「……何かしら」

相手がいなければ連れ出す仕事はない。捕獲用の棒を置いて園ちゃんはこっちに来た

彼女に二枚の紙を手渡す

「二人……ウチの学生ね」

「その二人の背後関係、漁ってくれない?」

「……理由は?」

「……可能性の話だけど、国、文科省とつながっているかもしれない」

自分の学園の生徒を疑う真似だ。だが……疑って何もないなら良し、何かあったら見つけた方が良しだ

「文科省と……廃校を進めようとしているところね」

「そう。彼らからしたら私たちが戦車道で何かしら実績を残したら問題になるだろう?」

「そうね。実績の度合いにもよるけど、本格的に廃校にしようとするなら問題になるでしょうね。実績を出したのに何でだ、と」

「世論が動く。私だって戦車道を誇りだけのために立ち上げたわけじゃない」

「実績の可能性を広げるためね。あれだけ廃校回避というなら、理由はそれしかないわ」

「その実績のためには、彼女が必要だった」

ここで紙をもう一枚

230 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/17(日) 22:16:38.57 ID:KovH2OtNO
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231 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/17(日) 22:17:49.00 ID:KovH2OtNO

ここで紙をもう一枚

「西住みほ……黒森峰からの転校生で、現在普通一科の高二……私立から公立だし、時期も時期とは変な転入生ね」

「私が呼んだんだよ。戦車道の強化のためにね。だけど彼女は戦車道をやりたがらないだろうとは思ってた」

「……あの話の不届き者って彼女らのことかしら?」

「結論を言えばそう。西住ちゃんに加勢して戦車道をやらせないように言って、ついさっきまでここに来てた」

「……その二人と西住ちゃんの個人的な繋がりの線は?」

「クラスが一緒とはいえ、西住ちゃんがその二人と会ってから学校に来る日は何回あった?」

「始業式にレクリエーション、そして金曜日と今日……多く見ても4回ね」

「それだけで来る?」

可能性はある。だがそれがない可能性もまた然り

「……あの二人が西住さんの背中を押してやらせないように仕向けた、と」

「そう見てる。もともとやりたくなかった西住ちゃんはその二人によって一旦は戦車道をやらないと決めた。だけど生徒会としてはそれは困る。だから呼び出して何とか説得したよ。その二人は邪魔ばっかしてきたけど」

「そういうことね……」

「西住ちゃんが戦車道をやらないことでメリットがあるのは誰か。一つは西住流だ」

「西住流……戦車道の流派で、この紙によるとその次期家元が彼女の母、と」

「そう。西住ちゃんの姉が今西住流の後継者だ。西住流がその姉ちゃんの地位を絶対のものにするために西住ちゃんの経験値を削ごうとする。考えられない話じゃない」

「ふむ……探るだけ探ってみるかしら」

「その五十鈴って子は今度は華道の五十鈴流の後継者だ。華道と戦車道。伝統ある流派の家元同士、伝手があってもおかしくない。でも私はこちらの可能性は弱いと思うけどね」

ま、去年の夏の西住ちゃんのやった事とそれに対する西住流と黒森峰の対応を考えればね

232 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/17(日) 22:18:20.76 ID:KovH2OtNO


「それを調べるならその線ね。もう一つは文科省が彼女らを使っていると」

「そう。西住ちゃんに戦車道履修を拒否させて、それをサポートしてウチらに拒否を認めさせる。現にその直前までわざわざ西住ちゃんの手を繋いで来てるわけだしね」

「考えられなくはないわね」

「そして気になるのが、西住ちゃんが履修を決めた後、二人も戦車道履修に変えた事なんだ。どういうことか推測つくかい?」

「……最悪の場合だと、戦車道の授業を荒らす、または試合の本番で味方を混乱させるような事をする。そこら辺が目的の可能性もあると」

「仮に文科省の策ならね」

「人数はいるだけ損はないし、来る人を拒否する表向きの理由が今はないから受け入れたけど、監視と背後は洗っといて」

「わかったわ。でも、もう二度とこんな煩わしい手段は使わないでちょうだい」

「わかってるって」

さて、黒と出るか白と出るか。それは分からない。疑って調べさせるなら、私も私でちょっと声だけかけてみようか


その日の夜、私は辻氏に一本のメールを入れた

『あなたの敵に警戒されたし』

と一言だけだけど。もっとも向こうにとっちゃ余計なお世話かもしれないが

233 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/17(日) 22:19:03.24 ID:KovH2OtNO


今日はここまでです

234 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/24(日) 23:43:22.86 ID:zo0Zh1CuO


戦車道最初の授業。件の奥の奥の倉庫だ。隣の草地は調べてみると昔戦車道の練習場だったらしい。戦車道が廃止されてもこの立地のせいで他のどこも使う気にならなかったらしい。農業科の敷地とも離れてるしね
それにしても、あれだけ丸をでっかくしても履修者はそんなに多くなかった。総員21名。この学園都市の高校生が9000人いるのを思えばかなり少ない

もっとも途中での履修の変更は可能だし、大会で二勝すれば途中からの履修だろうと単位が出るようにしてある。もっともこのことは伝えてないけどね
一応教職員連盟にはそう言ったが、まぁまともに見られるはずがないよねぇ。要するにベスト4狙いだもの。OKはくれたが教師の一部は鼻で笑っていた

だがそれにしても、この倉庫の前にいるのはなんともまとまりのない集団である。一部に至ってはまともに制服を着こなしているのか怪しいし、話を聞く気があるのかすら怪しい人もちらほら
ちなみにバレー部の磯辺ちゃんはウチに直接乗り込んできて、戦車道やるから単位とかの代わりにバレー部復活させてと注文してきたから、だいたいOKを出した
その行動力を気に入ったというのもあるけど、やってくれる数の水増しだね。運動部だから体力もあるだろうし

というか本当に体力使いそうなんだよね、この競技。砲弾は重いやつだと10kgとかあるし、何時間も狭い空間で行動したりするわけだ。精神力と体力はいるよ。だから最近ちょっと密かに鍛え始めてる

さて、またこの南京錠を開けて扉を開くと、前と同じく汚れに汚れたIV号戦車が現れた

235 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/24(日) 23:44:48.08 ID:zo0Zh1CuO

「汚〜い」

「ボロボロ〜」

うーむ、その通りな反応がちらほら湧いてくる。実際山崎さんが触って手を真っ黒にしているしな。だがその中で一人、そのIV号に向けて歩き出したものがいた

「見た目はこれだけど、足回りは問題なし。装備品も揃っているし、計器の類も異常なし」

その子はためらわずに車輌に触れた。呟きながらも視線は本物、なのか?

「これならやれるかも」

「おぉ〜」

西住ちゃんの一言だった。専門家の見る限り見た目より状態は良いようだ。周囲の表情も少し明るくなる

幸先は良し

「しかし、戦車はこれだけか?」

そしたら当然の疑問が

「今はね〜」

「え、じゃあどうするの?これじゃ紅白戦どころかまともに乗って練習もできないんじゃ……」

「探す」

それしかない

「生徒会の資料によると、学園艦には他にも放置された戦車があるとのことだ。現状場所は分からないが、それを発見し、洗車、修復の上で授業に用いる」

「えぇ〜めんどくさい」

「なんでそんなことするの〜」

「まーまー、私らだってこれ見つけてるわけだしさ」

「発見次第私に連絡するように。自動車部を通じて持ち出し、運搬等を行ってもらうからな。それでは全員捜索開始だ。解散!」

236 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/24(日) 23:45:25.59 ID:zo0Zh1CuO


だいたい授業はかーしまに仕切らせている。私はできるだけ戦車道に関しては遠巻きに見るようにしている

理由はいくつかあるが、一つは威圧感を与えないためだ。私の存在はメディアの手伝いもあって、なかなか強引な指導者という位置付けにされている
私個人としてはむしろ人の話を聞きに赴いて妥協することを目指しているのだが、そう思われている以上思いっきり前に出れば履修者は萎縮してしまう。履修者が戦車道に対して活発にならねばこの計画も終わりだ

もう一つは生徒会の本格的な肝いりとの話を避けるためである。それがあると来年以降生徒会と戦車道は切り離せなくなる。生徒会がなくならないなら、戦車道を自然消滅させる計画は上手く進まなくなる。金が必要以上に注ぎ込まれる未来は避けたいね

そして最後は、私の隙を作らないためだ。見るからに手を抜いていれば、そりゃできないだろ、となる。上手くなくても文句は出ない
しかし見るからに真面目にやっててもし私に才能が無ければ、私の隙だ。引き摺り降ろそうとする奴らに丁度いい材料を与えかねん

というわけで私は干し芋片手にこの授業に参加しているというわけだ

237 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/24(日) 23:46:05.59 ID:zo0Zh1CuO


発見の報告は思ったよりポンポンきた。西住ちゃんのところとかバレー部のところとか、授業前に固まってたグループごとに1輌ずつ見つけていた

しかしまぁ問題はここから。山の中の38tとかはそのまま木々の合間から運び出せばいいだけだったのでマシな部類
だが他である。池に入っていたIII号突撃砲は池から大型トラックで引っ張り上げて水抜きして電気系統まるっと錆びついていたから錆抜きから
ガケにあった89式中戦車とかはクレーンで車体ごと持ち上げる必要があった。もー業者を呼ばなきゃどうしようもできない状況だった
挙げ句の果てにウサギ小屋の中にあったM3Leeはウサギを避難させてからウサギ小屋を解体。そして運搬してウサギ小屋を組み直してウサギを戻す一大作業だった

20年くらい前の先輩の必死すぎる隠匿作業のお陰で、その日は我々生徒会の面々も荷物運びに動員されるわ、生徒会室を飛び出してした肉体仕事は深夜日付を超えるまで続くわ、と散々だった挙句、

「今日は中々刺激的な作業をありがとうございます!しかし我々だけではこのような規模だと手が回りきらず、またこうして皆さんにも苦労をかけしてしまうかもしれません」

とナカジマちゃんからススのついた顔で言われた。オモテは柔かだがウラは簡単で

「こんな面倒な仕事を押し付けんなボケ。こんなの流石に何度もできないし、もし次やるなら人増やすなりしろや。あと資金よこせ」

だろう。うん……燃料と車輌整備費ぐらいは出せる……かな?

結局そんな苦労をしたにも関わらず洗車も整備も出来ず、ただ倉庫にオンボロが4輌加わっただけとなった。そして車輌の割り当ては人数の都合上38tとIV号を逆にした以外は発見した集団に車輌を任せることにした。今ならピッタリだが、今後車輌が追加されれば増員も視野に入れないとな

238 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/24(日) 23:46:58.59 ID:zo0Zh1CuO


そして戦車を洗車する日を作って、水着姿の小山に水をぶっかけたり皆が体操着を真っ黒にする中で、私は別の案件を進めなくてはならなかった

学園都市行政の改革に関する条例をかなりのスピードで施行していくことにしたのである

理由としては色々あるが、まずは戦車道の優勝が廃校回避の条件だと公表していないことがある。つまりこのまま戦車道に頼りっぱなしだと、私はスポーツにうつつを抜かして本質的なことは何もしていない奴、となる
その悪評は避けねばならない
そして何より、私がもともといた総合局の仕事が思いっきり減らせたことがある。与党単独過半数はそれだけでも大きなボーナスだ
もっと二人だけっちゃ二人だけなんだけどさ
だから話を進めるのは今を置いて他にない。次がどうなるかどころか、次があるのかすら分からないしね

そして改革の姿勢を見せることで学園の廃校を阻止しようとしているという体裁を取れば、話としては納得してもらえる。それで戦車道の存在をある意味で誤魔化すのだ

4/27。第3回議会にて『被覆科研修及び誘致支援条例』、大洗学園フォーラムと新大洗クラブの賛成により可決。職人連合は反対したが、教職員連盟も支持の意向を示し、3年後の開始を目指して可決された
内容は前と話したのと大きく変わらない。企業の誘致と研修という名の労働、そしてその分の学費の軽減だ。学費の低減及び企業誘致による都市経済の活性化を狙った策だが、今は何も進められない。来年に廃校になるって学園都市に来る企業はないからね

239 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/24(日) 23:48:07.68 ID:zo0Zh1CuO


そしてその最中、他にも話を進めねばならない。一つはどうやら連盟から紹介された教官が派遣されるらしい

『大洗女子学園の戦車道連盟加盟は戦車道隆盛の道において誠に喜ばしいことである。大洗の戦車道の発展が高校戦車道全体の技術向上に繋がることを期待する』

という仰々しい児玉会長のお礼の文章とともに、現役自衛官が教官として派遣されることになった。名前は蝶野亜美、階級は一等陸尉。軍隊には詳しくないからどのくらいの階級かは分からないが、上に佐官と将官がいるんだしそこまででもないのかな?

と思っていた時期がありました。調べたらタダモンじゃないわこの人

なんか高校時代に15輌抜きとか12時間の激闘一騎討ちとかやってるヤバイ人なんだけど。なんでこんな人が戦車道始めたばっかりのウチに来るの?

階級はともかく、戦車道においては一級品の人材だろう。なんで来るのかは知らないけど、貰えるものは貰っておこう。もしかしたら私たちみたいなガチ新参に送るだけの理由があるのかもしれないけど

240 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/24(日) 23:48:38.07 ID:zo0Zh1CuO


あとは外交だ。ウチ単独で国と張り合う以上、いざという時にこちらについてくれるバックグラウンドは欲しいところ
候補は戦車道の強豪4つだけど、黒森峰とサンダースは本拠地が九州だから遠すぎて提携しづらい。学園艦だとはいえこの大海原、そんなに簡単に近づけるものでもないし
プラウダはウチが人民と敵対しているから厳しい。となると、答えは自ずと一つに絞られる

聖グロリアーナ女学院

横浜に母校がある←同じ関東圏であり協力が容易
民主主義←ウチと同じで思想的な隔絶がない
議院内閣制で保守党政権が安定←協約を結べればそうそうひっくり返されない

お嬢様学校と公立校という違いを除けば、関東にいる上で手を結んでおくに越したところはないところだ。もちろん体面と誇りを守ろうとするところも、協約結んでひっくり返されないようにする理由の一つだけどね

そして今の隊長のダージリンとやらは保守党に近いチャーチル会に所属しているから、戦車道から政府系の伝手に広げやすいのも理由の一つだ

かといって外交とはこちらだけが求めて成り立つものでもない。何が与えられるか……練習試合の場所確保とか向こうからしたらすぐできることだし、港湾利用優先の保証だってそもそも関東の港からしたら絶対グロリアーナ優先だ。経済規模的にね

グロリアーナも国の自治権への介入には苦慮しているみたいだし、そこで手を繋ぐ道を探すしかないかなぁ

241 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/24(日) 23:49:18.30 ID:zo0Zh1CuO
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242 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/24(日) 23:49:53.29 ID:zo0Zh1CuO


そんな訳で挨拶を兼ねて校外交流担当局の者を付けて、広報の肩書を持ったかーしまを使者として送った。ちょうど近場に停泊してたしね
正直上手くいくとは考えづらかった。向こうにこちらと手を組む利益が見えなかったからね。国相手にするっていったってウチがいる程度じゃいないも同義。なら何のために?となってしまう
そして試合を組もうにも5月や6月は大会を見据え戦力を図るための練習試合が多く組まれる時期。強豪グロリアーナだったら他との予定も有るだろう。一月前の今からウチらが食い込む余裕なんてあるのか?

ところがどっこいそんな不安とは裏腹に、かーしまはスコーンで腹一杯となった体と共に、練習試合の予定をとりつけてきた。しっかりと5月末にね
なんでも向こうは話を切り出すや笑顔で了承してくださったそうだ。面白い試合になることを期待します、という言葉も添えて。幸いこの時期に他の学園との練習試合もなかったとのこと。おまけに大洗の近くまで来ることすらOKだという
あとは場所の受け入れの確認、日程の最終調整、ルールの詳細を詰めた上で向こうに確認を取るらしい

また理由は分からないが助けられたな、こちらに取って都合良すぎるくらい。西住ちゃんを呼んだのがある意味評価されてんのかもしれないね。そんくらいのことならGI6経由で把握しているだろうし
ま、こちらの利はこちらの利だ。進むっきゃないか。こちらも大忙しになるしね

243 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/24(日) 23:51:14.87 ID:zo0Zh1CuO

そんなこんなで私は竹谷氏と連絡を取り、住民の誘導と配置、屋台企画の範囲と出店業者の安全確認と身元調査、パブリックビューイングの会場整備及び警備のための人員派遣などを詰めねばならない。それに生徒会とか風紀委員とかを山ほど動員する必要も出てきた

結果としてパブリックビューイングの場所は、試合会場予定が西部の台地と中心街としたため、市街地から多少離れた北側の大洗公園に設定した。町を言葉の意味でも物理的意味でも巻き込む一大イベント。こんなのを練習試合のたびに組まされるとは……
戦車道をやるには金も勿論だが行政処理能力も必要になるな。生徒会全面協力させてよかった……それなきゃ無理だこんなの
会場側からしたら連盟からの補助金とかも含め、このイベントそのものもやりたい理由の一つになるのだろう。早速町のホームページと県のホームページのトップ画面で宣伝され始めた
……いつか学園艦巻き込もうかな

あと園ちゃんに依頼していた調査は、全く繋がりの見込みなし、の一言だけ書かれた紙を渡されて終わりになった。実際数度の練習の中であの2人妨害してくることはおろかマジメにやってるし、西住ちゃんのサポートを良くしている。尾行などの結果を見ても、単なる友人関係だったようだ
いやー、よかったよかった。やらなきゃいけないとはわかっていても、ウチの生徒を長い間疑いたくはないからね


244 : ◆ujHylXatJU [saga]:2019/11/24(日) 23:52:10.48 ID:zo0Zh1CuO


ここまでです


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