【SW】ジェダイ「私を…弟子に、してください…」【オリキャラ】

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129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/21(木) 00:51:11.18 ID:E/nMGKEr0

 ――キャッスル・クマモッテ城下、倉庫街。


シンノ「フンッ!」ブンッ

ストームトルーパーA「ぐわあっ!?」ズバッ

リズマ「やあっ!」ブウンッ

ストームトルーパーB「ぎゃあ!?」ズバッ


 シンノの振るう青い刃が輝き、リズマの持つ緑色の刃が閃く。
立ち塞がった帝国軍のトルーパーたちは次々と斬り伏せられ、残る者は怖気を成して逃げていく。


ミコア「バスタ!結局シャトルはどこにあるのです!?」

バスタ「はいミコア様!あそこに見えるマスドライバーの下の倉庫でございます!」

アジアス『コノ短イ時間デ飼イ慣ラサレオッテ……』

シンノ「マスドライバーの下だな、急ぐぞ!」


 一行は慌ただしく倉庫街を駆け抜ける。
地震は一層強まり、彼らの足元を揺さぶり続けた。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/21(木) 00:52:12.35 ID:E/nMGKEr0

シンノ(大丈夫だ、まだ大丈夫……)ダダダ


 シンノは焦燥に駆られつつも、心中で自分に言い聞かせる。


シンノ(シャトルを発進させてドロイド工場に戻る。ドロイド工場でネーアを探す……)


 目当ての倉庫に到着する。
大きな金属の引き戸が入口を塞いでいる。


シンノ(いや、ネーアなら向こうからこちらの居場所を探知できるはずだ。あいつを拾って、すぐにこの星を出る)


 ミコアが指図する。
バスタが脇のコンソールに走り寄り、電子ロックを解錠する。


シンノ(残る難関は帝国軍の包囲網くらいのものだ。尋問官が戦線離脱した今、そのくらいならなんとでも……!)


 金属扉が振動し、酸性雨で錆びついた巨体を振るわせつつ、ゆっくりとスライドする。
その奥、倉庫内に広がる暗闇に、光が差し込む。


シンノ(――)


 息が止まる。
倉庫の中に、見知った人影があった。
黒いローブ。
銀色の仮面。
その奥に覗く、四つの黄色の瞳。


テイティス「……」


 ダース・テイティス。
ねめつける視線に、殺意が滲む。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/21(木) 00:52:44.26 ID:E/nMGKEr0

 ミコアが何か指示した。
バスタとアジアスが退き、二人のジェダイが残される。
シンノは敵から視線を逸らせぬまま、呻くように言う。


シンノ「……バカな……なぜ、ここで……今になって、奴が!」


 心の中で組み立てた都合のいいスケジュールが、ガラガラと音を立てて崩れていく。


リズマ「――戦いましょう、マスター」


 暗闇に吸い込まれそうなシンノの心を、リズマの言葉が辛うじて繋ぎとめる。
鞘走るは緑の光刃、堅牢なる第三の構えも勇ましく!


リズマ「もとより、いずれは決着を付けなければいけない相手!」

シンノ「……畜生……畜生!そうだ!諦めやしないぞ、畜生!」


 道標を得て、ジェダイ・マスターの意地が燃焼!
ライトセーバーが蒼の輝きを取り戻す!


シンノ「全部救ってやるぞ、俺たちが!全部だ!」

テイティス「……もはや策謀は無用。よって手心も無用」


 シス卿は冷然とそう言い放ち、懐から金属筒を取り出す。
その一端から赤い刃が発し……残る一端からも、同じ光が生じた。
ダブルブレード・ライトセーバー。
これまでの戦いでは温存されていた真の武器!


テイティス「貴様らジェダイが全てを救うなら、シスたる私は全てを闇に堕とそう」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/21(木) 00:53:32.26 ID:E/nMGKEr0

 自動扉が開き切って停止すると同時に、倉庫内の照明が点灯。
タングステン灯の青白い光が空間を支配する。
青と緑、赤の光はその中で霞み……赤が、閃く!


テイティス「――シイッ!」ブウンッ

シンノ「くおっ……!?」チュインッ


 次の瞬間、テイティスはすでにシンノの眼前にいて、ライトセーバーを振り抜いていた。
遅れて火花が散る。


シンノ(ガードが一瞬遅れたら死んでいた……!)

リズマ「ヤアッ!」ブウンッ

テイティス「フンッ!」チュインッ


 横合いからのリズマの斜め太刀!
テイティスは最小限の動きで防御し、セーバーを回転させてもう一方の刃で斬りに行く!


テイティス「ハアッ!」ブオンッ

リズマ「くうっ!」チュインッ


 リズマはかろうじて自分の武器を合わせる!


シンノ「タアッ!」ブウンッ

テイティス「!」ザッ チュインッ


 シンノが素早く姿勢を回復し、致命的な軌道の反撃を繰り出す!
テイティスは一歩下がり、逆手側の刃で防御!
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/21(木) 00:54:18.43 ID:E/nMGKEr0

シンノ「逃がさんッ!」ブウンッ


 剣を斬り返し、追撃!
神速の水平斬撃!


リズマ「セイヤアッ!」


 同時にリズマが鋭い斬り上げで逃げ道を塞ぎに行く!


テイティス「ッ!」ダンッ


 テイティスは地を蹴り、後方へジャンプして回避!
ジェダイたちから五メートル離れたところで、靴の裏を床に擦り、煙を上げつつ静止する。
彼の黒ローブの裾は切り裂かれ、ブスブスと煙を上げていた。


シンノ(退かせた……刃が届いた。戦える。俺たちは、成長している)


 シンノの脳裏に惑星ヤクシムでの敗北の記憶が浮かび、消えていく。


リズマ「勝てますよ、マスター」


 リズマが敵から目を離さぬまま言う。


シンノ「ああ。一人では無理でも、二人なら!」


 シンノもまた、たしかに前を見据えたまま答える。


テイティス「ほざくがいい!」


 テイティスが右手を前に突き出す!
シンノとリズマは跳躍して空中へ退避!
コンマ一秒後、シスの手の平から噴出した火炎がフロアを薙ぎ払う!
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/21(木) 00:55:05.22 ID:E/nMGKEr0

医務トルーパーA「どけどけ!救急だ救急だ救急だ!」ガラガラガラ


 惑星クマモッテ上空、帝国軍旗艦インフェルノ艦内。
大勢の医務トルーパーたちが一つのストレッチャーを囲み、通路を慌ただしく移動する。
ストレッチャーの上に寝かされているのは――尋問官、ナインス・ブラザーである!


ナインス「シンノ……シンノ……シンノ・カノス……!」


 凶悪な尋問官も今は満身創痍。
血みどろの装甲服も痛々しく、酸素マスク越しにうわ言を繰り返す。


医務トルーパーB「尋問官殿!ここがどこかわかりますか?」ガラガラガラ

医務トルーパーC「この指は何本かわかりますか?」ガラガラガラ

ナインス「黙れ……!俺は、殺す……!殺さねば……セラ!セラはどこだ!」

医務トルーパーC「セラ?」

セラ「チッ……」


 彼らに大きく遅れて通路を歩いていたマンダロア兵が、しぶしぶ駆け足になって彼のもとに近寄る。


セラ「何ですか、尋問官殿」

ナインス「シンノは……シンノ・カノスはどうした!死んだか!?いや死んじゃいない、まだ俺が殺していないから……」

セラ「今は治療に専念なさることですな。内臓がズタボロですから、大がかりな機械化手術も考慮すべきかと。さもないと、死にますよ」

ナインス「死ぬ!?シンノがか!?俺がか!?俺が死ぬのは……ゴホッ!ゲホッ!俺は、死ねない!殺せないじゃないかっ!ゲホーッ!」

医務トルーパーA「セラ殿、申し訳ないがこれ以上患者に喋らせるのは危険だ!」

セラ「こちらももううんざりだ」
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/21(木) 00:55:43.54 ID:E/nMGKEr0

 ストレッチャーはセラを残して走り去る。
おそらくバイタル区画にある集中治療室に搬送されるのだろう。
一介の兵士では受けられないとうてい受けられない手厚い処置だ。


セラ(ヴェイダーの使い走りとはいえ、元ジェダイのフォース感応者……特殊技能者というわけか)

「彼はもう死なせた方が帝国のためかと思うのですがねェ……精神異常が度を越していらっしゃるゥ」


 セラは横からヌルリと現れた人物を見やる。
ひょろ長い体躯を帝国保安局の黒い制服に包んだ男。


セラ「……今のは問題発言ではありませんか、エージェント・サギ」

サギ「おや、録音していらっしゃったんですかァ?」

セラ「そういうわけではありませんが」

サギ「そうでしょうねェ。まあ録音していたところで、貴方の報告が皇帝陛下のお耳に入るとも思えませんが。ついさっき後ろ盾も失ったようですしねェ?」

セラ「貴様ァ!」グイッ

サギ「ヒヒィ!?」


 セラは激昂し、サギの胸倉を掴み上げる!


セラ「シカーグ総督を!シカーグ総督の死を、愚弄するか!」

サギ「ヒィィ、よっぽど問題行動ですよこれは!早く離しなさい!」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/21(木) 00:56:23.90 ID:E/nMGKEr0

 ガゴオン!ゴゴオン!


セラ「きゃあ!?」
サギ「ヒィ!?」


 突如、艦全体を揺さぶる振動!
巨大にして堅牢を誇るスター・デストロイヤーは、ミサイルの直撃を受けてもこれほど揺れはしないはずだった。
セラは冷静を取り戻し、近くの窓から外を見やる。
眼下に広がる惑星クマモッテ。
その表面を覆う灰色の雲の向こうからごく小さな影が飛び出したかと思うと、たちまち接近し、大きくなる!
激突!
再びの激震!


サギ「ヒィィ!?分離主義者の秘密兵器ですかァー!?」ブルブル

セラ「いや、あれはミサイルじゃないし……ましてや砲弾でもない」


 セラは豊富な実戦経験、その中で得た様々な惑星の自然環境の知識から、飛来物に関して一つの推論を得る。


セラ(……まさか、火山弾か?)


 あれほど巨大な火山弾が、相次いでこの高度まで飛来する……


セラ(惑星クマモッテの地下に、何が起こっている?)

サギ「わ、私はバイタル区画に避難します!帝国保安局の権限です!」ダダッ

セラ「ま、待て貴様!一人だけ逃げる気か!?」タタッ


 惑星爆発まで、あと十五分!
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/21(木) 01:03:03.00 ID:E/nMGKEr0
>>128
/ご明察、>>1がヘッズなので時々忍殺が顔を出してしまっています
/できるだけ平易な文章を心がけておりますので、苦手な方はご容赦下さい
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/23(土) 02:36:44.93 ID:g8ip+YsT0

テイティス「ぐおお……!」ガラガラガシャンッ


 テイティスはフォース・プッシュに吹き飛ばされ、倉庫の床をゴロゴロと転がった。
近くにあった金属缶の山が滅茶苦茶に崩れ、粉塵が舞う。
幽鬼はその中からゆらりと身を起こし、土埃に塗れた自らの服を見やる。


テイティス「この私に……土を、付けるとは……」

シンノ「ハーッ……悪いが、一敗地に塗れるだけじゃ済まさないぜ」


 シンノは光剣を油断なく構えつつ、ジリジリと間合いを詰める。


シンノ「あのホロクロンは、真性のシスが持つには危険すぎる……貴様の探索の旅は、ここで終わりだ……」

リズマ「惑星ヤクシムでの蛮行も、償ってもらいます……!」

テイティス「ホロクロン……ああ。そういえば、そういう話になっていたな……もはやどうでもいい口実だが」

シンノ「何?」

テイティス「フンッ!」ブウンッ


 テイティスが手を振るう。
その掌中に炎が生じて撚り合わさり、長大な炎の鎖を形成!
鎖はシンノの横を掠めて飛び、リズマの全身を絡め取る!


リズマ「ぐうっ!?」ビシイッ
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/23(土) 02:37:14.46 ID:g8ip+YsT0

シンノ「リズマ!?」

テイティス「カアッ!」ジャラランッ


 テイティスは鎖を引き絞り、リズマの体を振り回して投げ放つ!
行く先は、床に空いた大きな廃棄孔!


リズマ「うわあああっ、あ!」ガシッ


 リズマはかろうじて縁にしがみつき、ぶら下がる。
しかしその手からライトセーバーが零れ落ち、眼下の暗闇の中に消えていく。


リズマ「し、しまった……!」

シンノ「ハアッ!」ブンッ

テイティス「フッ……!」バチュンッ


 一方シンノはテイティスに攻撃を仕掛けていた。
さらなる時間を稼ぐべく、鍔迫り合いの姿勢で口を利く。


シンノ「ホロクロンが、どうでもいいだと?わざわざキャッスル・クマモッテに来て、四天王を焼き殺したくせにか?」

テイティス「妄言も大概にするがいい。私は貴様らがここに来ることを初めから予知していた……なぜあのガラクタの山に出向く必要がある?」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/23(土) 02:37:50.49 ID:g8ip+YsT0

リズマ「やああああっ!」


 直後、リズマがフォースの力で高く跳躍してテイティスに襲いかかった!
その手には、マスター・ヨーダのライトセーバー!


テイティス「何!?」


 テイティスは泡を食ってシンノを押しのけ、ガード姿勢!
しかし軌道を見切り損ね、ダブル・ライトセーバーを真っ二つに切断される!


シンノ「はあっ!」ブンッ

テイティス「ぐおおっ!?」ドガッ


 立て続けに、シンノの前蹴りがクリーンヒット!
テイティスは吹き飛ばされ、廃棄孔の横に駐機されていたシャトルに背中から激突!


テイティス「ハアーッ……!」


 しかしシス卿、さしたる隙を見せず!
左手をジェダイたちのほうへかざす!
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/23(土) 02:38:36.54 ID:g8ip+YsT0

シンノ「!リズマ!」

リズマ「マスター!」

テイティス「消えろ……!」ボボボウッ!


 フォース・ファイアー、最大出力!
超常の炎の奔流、破壊エネルギーの青白い輝きが倉庫を満たし、天井を破壊して空へ立ち昇る!


テイティス「ッハ、ハハハ……!少しは鍛えたようだが、結果は変わらない……!」


 シス卿は自らも熱風を浴びつつも、仮面の裏で笑う。


テイティス「私は貴様よりも優れている。私だけがあのお方の、後継者に――」


 炎が上方へ抜け、煙が晴れる。
ジェダイたちが居たところに、畳大のコンクリートの壁が出現していた。


テイティス「――これは」


 その裏から今、人影が跳び出す。


シンノ「はあああーッ!」ブウンッ


 ジェダイの刃が、シスの刃を潜り抜け――その向こうに、届く!


テイティス「――!」ズバッ


 テイティスの左腕が肩口で切断され、ライトセーバーごと宙を舞った!
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/23(土) 02:39:24.45 ID:g8ip+YsT0

シンノ(今だ)


 シンノの時間感覚が鈍化し、視界がスローモーションに変化する。
テイティスがフードの陰、仮面の奥で四つの目を驚愕に見開いている。
しかし同時に地を蹴り、側方への退避を始めている。
対応が早い。
片腕を削いだことは、決定打になっていない。


シンノ(奴を倒すのは、今)


 シンノは一歩、踏み込む。
ジェダイたちは、フォースで床材を剥がして防御壁を作ることでフォース・ファイアーを攻略した。
二度通じる手ではない。
テイティスがリズマの奇襲で苛立ち、大ぶりな一撃を選択したからこそ間に合った対応策だ。


シンノ(この機を逃がさず)


 二歩、踏み込む。
すでに片腕とはいえ、敵は無類の戦闘巧者。
次に隙を突けるのはいつかわからない。
それまでに分離主義者の何らかの企みがが発動してしまえば、自分たちはおそらく無事ではいられない。
ネーアを救い出し、ミコアとともに無事でこの星を去るためには――


シンノ(奴の息の根を、完全に――!)


 三歩。
見開かれていたテイティスの目が、細まった。
敵の右手が何かを手繰る。
シンノは自分の右手に――ついで他の四肢に、高熱を帯びた何かが絡みつくのを感じた。
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/23(土) 02:39:57.37 ID:g8ip+YsT0

テイティス「――その焦りが!」ジャラランッ


 テイティスは右手で炎の鎖を四本まとめて手繰る!


テイティス「命取り!」ブウンッ

シンノ「ぐわあああ!?」バアンッ


 シンノの体は大きく振り回され、背中から壁に叩きつけられる!
鎖はテイティスの手を離れて壁に食い込み、ジェダイを磔の形で拘束する!


リズマ「マスターッ!」

テイティス「ハハ、ハハハ……!」


 テイティスはフォースでライトセーバーをキャッチし、残るリズマに斬りかかる!
腕を一本失っていながら、その攻撃はなおも苛烈!


シンノ「くそっ、くそ……!」ガチャガチャ


 シンノは全力でもがくが、凝縮した炎の鎖は彼を強固に固定して放そうとしない。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/23(土) 02:41:34.22 ID:g8ip+YsT0

テイティス「ハハハ……これは、避けられるか!」ブウンッ


 テイティスがライトセーバーを投擲した。
その狙いはリズマではなく、背後のシャトル。
シンノたちの持つ唯一の脱出手段。


リズマ「ッ!」ダッ


 リズマは渾身の力で跳躍。
ギリギリのところでライトセーバーとシャトルのあいだに割り込み、上へ弾き飛ばす。
しかし着地に伴い、姿勢が大きく乱れた。


シンノ「――や」


 テイティスが踏み込む。
徒手、マーシャルアーツ。
リズマは顎を殴りつけられ、後頭部を背後のシャトルの装甲に打ちつけた。
四肢が一瞬、脱力する。
その一瞬に、テイティスのライトセーバーが落ちてくる。


シンノ「やめろ」


 シスはそれを右手でキャッチし、起動。
リズマが目を見開く。
その瞳に、赤い閃光が反射した。


シンノ「――やめろおおおおおおおおおおーッ!」
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/11/23(土) 02:42:33.23 ID:g8ip+YsT0

「……」


 ぴくりと眉を動かし、振り返る。
顧みるは、シャトルが隠匿された倉庫。
その中でライトサイドのフォースの気配が一つ、消滅した。


(……そろそろ見物しに行くとするか)


 ライトセーバーを懐に収め、歩き出す。
後にはニモーディアンとジオノージアンの斬殺死体が残される。


(まったく、マクシャリスの小僧のせいで散々だ……期待通りの結果に終わるといいんだが)


 その背後で地割れから光芒が溢れ、宇宙へ立ち昇る。
倉庫街が、ヒュガーが、否、惑星全体が綻び、崩れていく。
惑星爆発まで、あと十分。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/23(土) 11:27:19.12 ID:6WH6qbJhO
【決講】可奈「飛べ飛べ神鳥〜♪る〜ぐ〜ちゃん〜♪」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1574466531/
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/23(土) 16:02:40.54 ID:8+r9y8ND0
リズマ逝ったああ
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/01(日) 02:21:55.60 ID:G7vf32xb0

シンノ「あああああッ!」ブウンッ

テイティス「ぬうん!」バチバチバチ


 シンノは光刃を振るい、猛然と逆襲を仕掛ける。
彼を拘束していた鎖は、直前にリズマが投擲したライトセーバーによって断ち切られていた。
しかし今は、彼女は地に伏して動かない。


シンノ「貴様は……貴様は、何だ!?何がしたくて俺たちを!リズマを!」バチバチバチ

テイティス「ジェダイが義憤に駆られて女の敵討ちか。ドラマチックだな。だがナンセンスだ」バチバチバチ


 テイティスは仮面の奥で四つの目をギョロリと動かし、競り合う光刃越しにシンノをねめつける。


テイティス「シディアスの流派ならいざ知らず、我らがヤマタイト・シスの教えは少し腹を立てたくらいでは到底破れん。腕一本のハンデなど問題にならんぞッ!」ブウンッ

シンノ「ぐうっ!?」バチュンッ


 テイティスは右手一本でおそるべき怪力を発揮し、シンノを弾き飛ばした。
ライトセーバーを握る手を上向け、そこに浮かんだ拳大の火の玉に息を吹きかける。


テイティス「フウッ!」ボボボボボ


 火の玉は震えて、無数に分裂。
青白い火炎弾の弾幕と化してシンノに襲いかかった。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/01(日) 02:22:40.43 ID:G7vf32xb0

シンノ「くうっ!」ダッ


 シンノは逸る殺意を抑えて回避に転じた。
彼が跳躍し、三角跳びする軌跡を、一瞬遅れて炎が焼き尽くしていく。
床を転がって着地、パッと身を起こしたところに、かわし損ねた最後の火炎弾が脇腹を捉える。


シンノ「ぐあっ!?」ボンッ

テイティス「のろい!」ブンッ


 テイティスが躍りかかり、空中回し蹴りを仕掛ける。
シンノはカッと目を見開き、姿勢を転回。
蹴り足を脇腹と腕で捉える。


テイティス「何!?」ガシッ

シンノ「なめるなあッ!」ブウンッ


 シンノはそのまま敵の体を振り回し、投げ飛ばす。
シスはまたしても金属缶の山に頭から突っ込み、派手に金属音と粉塵をまき散らした。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/01(日) 02:23:31.36 ID:G7vf32xb0

シンノ「リズマ、リズマ……!」ガシッ


 シンノはリズマのもとに屈み込み、地面から抱き起こした。
まだかろうじて息はある。
しかしその表情と呼吸は弱弱しく、いつもの気丈さは見る影もない。


リズマ「……マス、ター……申し訳、ありません……不覚を……」

シンノ「ああ、いいんだ、いいんだ、そんなこと……ああ……」


 ジェダイマスターは弟子を抱えたまま無様に狼狽した。
彼の戦士としての経験は、テイティスの一撃がどうしようもなく致命傷だと宣告していた。


シンノ「何でだ、どうして……嫌だ、ダメだリズマ。俺を置いていかないでくれ……」


 視界がぼやける。
情けない言葉が勝手に口から流れ出す。
思考は一向にまとまらず、リズマとともに過ごした記憶が走馬灯のように流れていく。
惑星ハクカ、衛星砲台ラグナロク、惑星ハンカッタ、惑星デジム、スノークの暗礁宙域。
惑星ヤクシム、惑星タンガシム、そして惑星クマモッテ。


シンノ「俺の荷物を背負ってくれると……守ってくれると、言ったじゃないか……」


 シンノ・カノスは、物心ついたときにはすでにジェダイだった。
その人生は、プライドは、オーダー66とクイナワ戦によって二度にわたり粉微塵に打ち砕かれていた。
たった一つの支えは今、死の闇の中に永遠に失われようとしている。


シンノ「俺を、俺を……一人にしないでくれ……」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/01(日) 02:24:31.75 ID:G7vf32xb0

リズマ「……一人には、しません……私は、フォースと……一体になります」

シンノ「何だよ、それ……分からないぞ……行かないでくれ、頼む、頼むから……!」

リズマ「……わからなくっても……見えなくっても、いつも……一緒です」


 リズマが震える手を伸ばし、師の頬を撫でる。


リズマ「だから……泣か、な、いで……」


 言葉が途切れる。
項垂れる面影。
指先は思い人を離れ、地に落ちた。


シンノ「……」


 シンノは底の見えない暗闇に突き落とされたかのような感覚を味わった。
体の内側から急速に温度が抜けていく感覚。
なぜ彼女は目を覚まさないのか?
なぜ彼女は話さないのか?
その目元に、口元に、生の痕跡を見出そうとするが、叶わない。


テイティス「死んだか。見たところ、ただのアプレンティスではなかったらしいな」


 その言葉は鮮明に聞き取れた。
一本きりの腕にライトセーバーをぶら下げ、悠然と歩いてくるテイティスの声。
リズマの仇。
こいつさえいなければ。
胸の内の闇に蝋燭のような小さな火が灯り、たちまち溶鉱炉のごとく燃え上がった。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/01(日) 02:25:16.28 ID:G7vf32xb0

テイティス「自分たちの定めたルールすら守れないとは。破戒僧は地獄行きだぞ」

シンノ「――れ」

テイティス「何?」

シンノ「黙れ」


 地震が轟音と共に倉庫を揺さぶる。
シンノはリズマの遺体を静かに横たえ、立ち上がった。
天井の照明ユニットの一つが傾ぎ、火花を散らしながら彼の背後に落下。
男の輪郭が逆光の中で影絵となって映し出される。


シンノ「貴様は殺す。今ここで」


 光と闇のコントラストの中で、ライトセーバーの青い刃が冷たい輝きを放つ。


テイティス「……」


 テイティスは仮面の奥で不快そうに眉をしかめた。
敵はジェダイとしては手練れだが、ダークサイドの技術は素人。
感情をぶつけ合う土俵の下でなら、自分が一歩先を行く。
先を行くはずだ。
ならばこのプレッシャーは何だ?
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/01(日) 02:26:25.39 ID:G7vf32xb0

テイティス「……無理だな、手負いの貴様一人では……だが安心するがいい、その女にはすぐに会える」


 テイティスは微かな疑念を振り払い、隻腕でライトセーバーを構えた。


テイティス「同じ者に同じ武器で殺されれば、同じ地獄に落ちようからなッ!」ブウンッ

シンノ「ダアッ!」ブウンッ


 チュインッ!
赤と青の光が火花と共に交錯し、飛び離れる。


テイティス「ぬうんっ!」ジャララランッ

シンノ「ハアーッ……!」ダダダッ


 テイティスが振り返りざま放った幾筋もの炎の鎖。
シンノは床を走り、壁を走ってその追跡を免れる。
ムーンサルトで廃棄孔を飛び越え、空中から敵に襲いかかる。


シンノ「ガアアッ!」ブウンッ

テイティス「フンッ!」ブウンッ


 シスはこのアクロバット攻撃に反応し、自らのライトセーバーで受け止めた。
シンノは着地と同時に、左手で腰のブラスター・ピストルを抜く。
ナインス・ブラザーから奪ったものだ。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/01(日) 02:27:15.40 ID:G7vf32xb0

テイティス「小賢しいわ!」ブンッ

シンノ「ぐうっ!?」ドガッ


 テイティスは射撃に先んじてブラスターを持つ手に蹴りを浴びせた。
銃は持ち主の手を逃れて床を滑り、廃棄孔の中に落下。
交錯するライトセーバー越しに両者の視線が交錯する。
テイティスの目はサディスティックな優越感に満ちる。
シンノの目は、一層殺意を燃え上がらせていた。
テイティスは一瞬、怯んだ。


シンノ「ダアッ!」ブンッ

テイティス「がッ!?」ドガッ


 その刹那、シンノの頭突きが命中した。
姿勢が崩れた隙に左手で敵の襟首をつかみ、引き寄せる。


シンノ「ヌウアッ!」ブンッ

テイティス「ごッ!?」ドガッ


 再び命中。
テイティスの顔面へ、金属の仮面越しに衝撃が通る。
シンノはライトセーバーを切り返し、振り上げる。
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/01(日) 02:28:20.76 ID:G7vf32xb0

シンノ「ゼアッ!」ブウンッ

テイティス「ぐわあッ!?」バチュンッ


 斬り上げがシス卿の顔面を捉えた。
苦悶の声、火花が散る。


テイティス「貴様ああッ!」ボウッ

シンノ「チッ……!」ダッ


 テイティスは怒りに震え、フォース・ファイアーを滅茶苦茶にまき散らした。
シンノは舌打ちしつつ火炎放射の射程外に飛び退く。
やがてガス欠のように炎が途切れ、仇が再び姿を現した。


テイティス「ハアーッ……ハアーッ……!」


 真っ二つに斬れた仮面がその顔からずれて、落下する。
その奥にあったのは、醜いエイリアンの顔。
目は四つあったようだが、左の二つは仮面もろとも焼き切られて潰れていた。


テイティス「おのれ……おのれ、貴様……貴様ァーッ!」ダッ

シンノ「ガアアアアーッ!」ダッ
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/01(日) 02:28:59.49 ID:G7vf32xb0

 シンノとテイティスは再び交錯する。
赤い光が輝き、青い光が閃く。


テイティス「……」

シンノ「……」


 両者はライトセーバーを振り抜いた姿勢で着地した。
一瞬の静寂。
テイティスが身を起こし、振り返る。


テイティス「……ありえん……こんな、ことは」


 その上半身がずるり、と横にずれる。
シス卿の肢体は腰のところで水平に両断されていた。


テイティス「ありえん。私だけが、あのお方の……ダース・グレイヴスの……」


 下半身がふらつき、膝からくずおれて、横合いに倒れ込む。
上半身は廃棄孔の縁に落下し、傾いで、そのまま闇の中へ落下していった。
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/01(日) 14:29:13.70 ID:jwUfhlYnO
闇堕ちクルー?
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/14(土) 02:16:45.89 ID:35EuomrY0

 地震の揺れは極限に達しつつあった。
倉庫内に積み上げられた資材の山が次々に崩れ、衝撃が走るたび壁の亀裂が大きくなっていく。
しかしたった一人残ったジェダイは、もはや脱出する精神力すら失っていた。
リズマのもとに座り込み、その亡骸をかき抱く。


シンノ「頼む、頼むよ、目を開けてくれ……もう嫌なんだ、こんなのは……もう二度と!」


 彼の意識にいくつもの記憶がフラッシュバックする。
シカーグ将軍の遺体を抱くユスカ。
自らのマスターとの永遠の別れ。
それに、ずっと昔、遠ざかる誰かの背中。
彼の繊細な精神は、あらゆる別離の記憶を鮮明に刻みつけていた。


シンノ「意味ないんだよ、こんなんじゃ……いくら殺せたって、守れないんじゃ……!」


 最後の照明ユニットが落下し、タングステン灯の光が完全に途絶える。
残ったのは、フォース・ファイヤーが穿った穴から落ちる、スポットライトのような一筋の光。
今、そこに小柄な人影が姿を現す。


「――そうだ、その感情だ。私はこの時を待っていた」


 その声は幼いが、口調には老獪なものが覗く。
胸元のホロクロンが、緑色にきらめく。


ミコア「否、全てを仕組み、招き寄せた。私が。このダース・グレイヴスが!」
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/14(土) 02:17:39.55 ID:35EuomrY0

シンノ「ミコア……姫……」


 シンノは彼女にうつろな目を向け、静かに絶望した。
あれが自分を苛んでいる全ての元凶だ。
本人の言葉だけでなく、フォースの波動からも明らかなことだった。
それを必死になって守り、あまつさえ敵の手から救い出そうとしていたとは。
俺はなんて愚かだったのか。
これは俺の愚かさへの罰なのか。


グレイヴス「リズマに会いたいだろう。もう一度手を触れたいだろう、言葉を交わしたいだろう?」


 これまで、ミコアの言動には幼くも厳格な王族の気風があった。
しかしそれは全て偽物に過ぎなかった。
今、シスの暗黒卿ダース・グレイヴスは鳥の雛を前にした蛇のようにサディスティックな笑みを浮かべ、狡猾な言葉を投げかける。


シンノ「……どういう意味だ、それは……」

グレイヴス「言ったはずだぞ。ヤマタイトの教えには、死者を蘇らせるものもあると」

シンノ「……リズマを、蘇らせることができるというのか」

グレイヴス「お前が私を受け入れれてくれるならば、な」


 降り注ぐのはきっと、遠くで燃える戦火の光。
シス卿はその中から、暗闇の中にいるシンノのほうへ手を差し伸べる。


グレイヴス「シンノ・カノス、私の弟子になれ。リズマも加えて三人で、暗黒面の道を往こうじゃないか」
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/14(土) 02:18:46.90 ID:35EuomrY0

シンノ「……ふざけたことを、ほざくな!」


 シンノの胸の中に残る最後の感情のひとかけらが爆発した。
亡骸を抱えたままライトセーバーを振りかざし、伸ばされた手を拒絶する。


シンノ「お前のせいじゃないか。全部全部、お前の嘘のせいじゃないか!この上また俺を騙すつもりか!」


 シンノは反駁しながらも、目から涙が溢れだすのを止められなかった。
こうして意地を張ったところで、シカーグ将軍も、リズマも帰ってきはしない。
今の彼にとって道理と正義はあまりにも虚しかった。


シンノ「これ以上そのくそったれの口が誰かを傷つける前に、俺がお前を、この手で……!」

グレイヴス「……シンノ、それ以上自分を傷つけるのはやめろ。見ていられん」


 グレイヴスは呆れたような、哀れむような微笑を浮かべ、悠然と歩み寄った。
シンノの震える手からライトセーバーをもぎとり、刃を収める。


グレイヴス「嘘はもう打ち止めだ、今の私は丸裸だよ……それに、今までもすべて嘘というわけでもない」


 シスは白魚のような手でシンノの頬に触れる。
その肌は柔く、ひんやりと冷えて心地良かった。


グレイヴス「クイナワで、そしてこのクマモッテで、私はお前の精神と才能を信じた。必ず助けに来ると。そしてお前はそれに応えてみせた」


 グレイヴスが目を細め、表情を優しげに綻ばせる。


ミコア「――だから、シンノ様。私は、あなたの仲間になれてよかった。あなたはとってもすごいお方です」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/14(土) 02:20:46.20 ID:35EuomrY0

 シンノは自分の中で何かが砕け散る音を聞いた。
理解者を自ら遠ざけ、あるいは死によって別れ、報われない疲労を極限まで積み重ねた今の彼にとって、グレイヴスの言葉はまさに麻薬だった。


「――だから、他の誰でも」

「自分自身さえお前を信じられなくとも」

「私だけは信じよう」

「私だけは、お前を愛そう」


 ジェダイは、屈した。
抱いた亡骸を地面に横たえ、伏してこいねがったのだ。


シンノ「ダース・グレイヴス……グレイヴス卿」

シンノ「私を……弟子に、してください……」
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/14(土) 02:23:05.22 ID:35EuomrY0
/エピソード9公開まであと2週間です!
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/14(土) 03:28:43.40 ID:ckQU8EUuO
堕ちたか…
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/31(火) 17:49:48.41 ID:ur4JsFWG0

ネーア「ぶっはあああ!死ぬかと思ったのじゃ……!」


 ネーアはマンホールから暗い部屋の中へ這い出し、そのまま床に突っ伏した。


ネーア(いやしくもシスの暗黒卿である妾が……水の中に落ち、かませ四号に追い回され、ドロイドに襲われ、こんな無様な……おのれ分離主義者どもめ、奴らも妾の敵じゃ!)


 憎しみをエネルギーにしてどうにか動き出し、壁に手をついて立ち上がる。
手さぐりでスイッチを入れると、青白い金属灯が室内を照らした。
眩む目であたりを見回す。
今は使われていない倉庫のようで、だだっ広い空間にゴミやガラクタが散らばっている。


ネーア「……ん?あれは……」


 そんな中、壁面のシャッターのそばにあるものがシス卿の注意を引いた。
黒く塗り上げられたXウィング。
テイティスが乗っていたものだ。


ネーア「……」


 テイティスがここに降りたならば、キャッスル・クマモッテに来れたはずはない。
ならばなぜ、ミコアは彼が四人目の四天王を殺したと言ったのか。
本当にやったのは誰か。


ネーア「……ミコア……ミコアか!おのれ!あのメスガキめ!一杯食わせよった!」ガンガン
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/31(火) 17:50:34.88 ID:ur4JsFWG0

 シス卿は憤懣やるかたなく、Xウィングの装甲を繰り返し蹴りつけた。
しかし地震に急かされ、方向指示器をへし折って怒りを収める。


ネーア(シンノはどこじゃ?一刻も早くこのことを……待て、近い!)


 ネーアはフォースを通じてシンノの居場所を探り、倉庫を出て廊下を移動した。
息を殺し、開け放しの扉から別の部屋を覗く。


グレイヴス「ついでに言えば、クイナワの反乱軍基地の場所を帝国軍に通報したのも私だ」

シンノ「……一体、何のため……ですか」


 そこには新たなシスの師弟の姿があった。
弟子の腕の中ではリズマが力なく抱かれ、二度と目を開けそうにない。
ネーアは自分の帰還が遅すぎたことを直感した。


グレイヴス「当然、お前に試練を課すためだ。本来あそこで帝国軍に攫われてやる予定だったが、もう一押しが足りないと思って残ったんだ。そのせいで後でテイティスに出張ってこさせる羽目になったが」

シンノ「……全部マスター・グレイヴスの手の内、か……」

ネーア(グレイヴス?ダース・グレイヴスか!)

シンノ「この星にいるのも……」

グレイヴス「……いや、これは分離主義者のせいだ。マクシャリスの仕業よ」


 グレイヴスは壁面のスイッチを操作し、シャッターを解放する。
外から熱風が吹き込み、ネーアの頬にまで届いた。
二人はそばに駐機されていたシャトルの中に乗り込む。
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/31(火) 17:51:45.90 ID:ur4JsFWG0

グレイヴス「奴には思い知らせねばならん。シスを裏切り、あまつさえ帝国軍を釣る餌にした報いをな……」


 グレイヴスは操縦席につき、慣れた手つきでコンソールを操作した。
機体後部のタラップが格納され、ジェネレーターが唸りを上げる。
シンノは浮遊感を覚え、窓越しに遠ざかる景色を見て、不意に目を剥いた。


シンノ「降りろ……降りろ!船を降ろせ!」ダッ

グレイヴス「うっ、何をする?放せ!」バッ

シンノ「ぐわっ!」ドタッ


 疲れ果てた体を強いてグレイヴスに組み付くが、容易く振り払われて尻餅をつく。
恐るべき黒幕はパイロットシートの上に立ち上がり、威厳に満ちた仕草でシンノを睥睨した。


グレイヴス「少し甘くしすぎたか?反抗は許さんぞ。マスターである私と、後ろに転がっているあれがこれからのお前の全てだ。よく覚えておくがいい」

シンノ「ネーアが……ネーアがまだ、あの星に……」

グレイヴス「ネーア?……ああ、なんだ、あのガキのことか。今更迎えに戻ることなどできんぞ。後ろで見てみろ」


 グレイヴスは席に戻り、キャビンの後方を指し示す。
シンノは底知れない悪寒を覚えてそれに従い、機体後部の窓に取り付いた。
シャトルは急速に高度を上げており、彼はそこから惑星クマモッテの全貌を見ることができた。


グレイヴス「古代シスの兵器と同じだ、何が起こるか察しはつく」
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/31(火) 17:52:20.51 ID:ur4JsFWG0

 薄汚れた星は急速にひび割れ、空気の抜けたボールのように歪んでいく。
そしてぶるぶると震え、その周波が極限まで高まったとき――
惑星クマモッテは内側から火を噴き、木っ端みじんに爆発した。


シンノ「……あ……ああ」


 シンノは膝から崩れ落ちた。
微かに蘇った感情を絶望が打ち砕く。
飛び散る星のほうから何か、形のないものが押し寄せてくる。
シンノはその冷たさに怯み、恐れて、嘔吐した。


グレイヴス「断末魔だな。星の爆発で死んだ奴らの」


 頭に冷たい手が触れるのを感じる。
撫でてくれている。
シンノは震えながらも少し冷静さを取り戻して、速度の感覚が消えたのに気づいた。
ハイパースペースに突入したのだ。

 
グレイヴス「ネーアとかいうのも死んだだろうが……まあ、すぐに気にならなくなるとも」
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/31(火) 17:53:03.39 ID:ur4JsFWG0

ネーア(妾が星の爆発くらいで死ぬと思っているのか。お生憎様ぞよ!)


 ネーアはその床下で邪悪にほくそ笑んだ。
彼女はシャトルが離陸する直前、その着陸脚にしがみつき、キャビンのすぐ下の領域に潜り込んでいたのだった。


ネーア(シンノの奴は妾と何年も付き合っててどうしてああも鈍いのじゃ。鈍いと言えばミコア、もといグレイヴスの奴も――)

グレイヴス「ふむ、ネズミが潜り込んだようだな」

ネーア「……」


 頭上でライトセーバーが鞘走る音がした。
永遠にも思える数秒。
着陸脚にしがみつくネーアのすぐ横に、赤い光が降ってくる。
赤い光が虚空で火花を散らした。


ニンジャコマンドーA『ピガーッ!』ガシャンッ


 そこの壁面にしがみついていたニンジャ・コマンドーが、急所を貫かれた状態で出現した。
たちまち機能を失い、着陸脚格納ハッチの上に落下する。
ネーアは思わぬ同居人がスクラップと化して足元に転がるのを恐々と見下ろした。


ネーア(……セ、セーフぞよ)


 そして気が抜けると、手が着陸脚に張り付いたまま動かせないのに気づいた。
凍りついている。
ここは極寒の宇宙と金属板一枚を隔てただけで、暖房もない極限の空間なのだ。


ネーア(セーフじゃないのじゃ……!まずい、寝たらダメじゃ、寝た……ら……)


 冷気はシス卿の全身を包み、疲労と合わさって、その意識を闇の中へ引きずり込む。
シャトルは白く輝くハイパースペースを抜け、暗黒の宇宙へと消えていった。
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/12/31(火) 17:53:45.16 ID:ur4JsFWG0

ユスカ「はあっ!」ガバッ


 ユスカは布団をはねのけて身を起こした。
ひどい頭痛がする。
それに全身汗だくだ。


ユスカ「はあ、はあ……何これ……」


 扉が開き、暗い部屋に明かりが差し込む。
ユスカは弾かれたように枕元のブラスターを取った。


C7-BDB『オ、オイ待テ!撃ツナ、俺ダ!』
 
ユスカ「……はあーっ、あんたか。驚かせないでよ」ガチャッ


 しかし入室者の正体は見知った料理人ドロイドだ。
ユスカは武器を置き、汗を拭った。


C7-BDB『何ダッテ何ダヨ、水持ッテキテヤッタノニヨ』

ユスカ「水?何でよ」

C7-BDB『スゲーウナサレテタゼ、部屋ノ外カラデモ聞コエルクライニナ。何ノ夢ミテタンダ?』

ユスカ「……夢……」


 たしかに何か、ひどい悪夢を見ていた。
暗闇。
地響き。
赤い光。
聞き覚えのある誰かの声と、涙。
その先を思い出そうとしたとき、腹に焼けつくような痛みが走った。


ユスカ「……リズマ?」
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/01(水) 15:29:26.03 ID:AnyqFUkO0
いきてたかーのじゃ
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/06(月) 23:57:38.41 ID:cbIKMmWF0

 ――数日後。
QC宙域はセンターリムから遠く離れた辺境だが、惑星オイタットはその中でも最果ての領域に位置する。
そして今、その衛星軌道上に、惑星クマモッテを離脱した分離主義勢力の主力艦隊が集結していた。


マクシャリス「貴様らには失望したぞ」


 その中心、旗艦ヴェンジェンス。
マクシャリスは艦内の私室に座し、コムリンク通信機に向かっていた。


マクシャリス「よもや、まだ人形どもと遊んでいたとは……」

『申し訳ないっス、ボス!――ザザザ――とおっ!はあっ!』


 ノイズ混じりの立体映像が、ライトセーバーを振るうエイリアンの女性を映し出す。
その周囲にはチラチラと奇妙なドロイドたちが映り込み、主役に襲いかかっては返り討ちにあっていた。


『このベップーのザザッ、思った以上に下に広くて!今地下65、いや66階っス!墓守どもも増えていく一方で――ザザザ』

マクシャリス「思った以上にだと?貴様が土地勘があるというから寄越したんだぞ」

『適当なこと言いました、申し訳ないっス!――寄るなって!はあっ!――こう深いとスキャナーも役に立たないし、通信も超長波ですらこの通りザザザザザ』


 マクシャリスが顔をしかめていると、机のコンソールが赤いランプを点滅させた。
来客のサインだ。
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/06(月) 23:58:25.46 ID:cbIKMmWF0

マクシャリス「もういい、ノイズ混じりの言い訳は聞くに堪えん。とにかく一日でも早くベップー遺跡を制圧しろ、今の我々にはそこの設備が不可欠だ」

『ラジャラジャっス!ASAPでやります!ザザザッ』


 舌打ちしてから通信を切り、コンソールを操作して入口の扉を開ける。
来客は金属の脚で照明の下に進み出て、金属の手で敬礼した。


カラーニ『先遣艦隊司令官、からーに。参上シマシタ』


 緑と金に彩られたボディをもつスーパータクティカル・ドロイドだ。
マクシャリスはさっきまでの苛立ちを完璧に覆い隠し、最高指導者にふさわしい余裕に満ちた微笑で応対した。


マクシャリス「呼びつけて申し訳ありません。それと、役不足な露払いを強いてしまったことも謝罪しなければなりますまい」


 カラーニは元々別の残党グループを率いていたが、比較的最近になってQC宙域の分離主義勢力に合流した経歴を持つ。
マクシャリスはこのドロイドの存在をバスタ・ガスターやアジアス・ジ・アーチに対して隠蔽し、彼らを謀殺した後の準備を整える隠し玉として扱っていたのだった。


カラーニ『衛星軌道上ニオケル土着文明ノ自律兵器トでぶりノ排除、オヨビ補給すてーしょんノ設置。イズレモ重要ナみっしょんデス、役不足ニハアタリマセン』

マクシャリス「そう言っていただけると安心します。スター・サクリファイス作戦で本拠を失った今、我々にとって新天地の整備は何より優先すべき課題です」

カラーニ『……現時点デ、すたー・さくりふぁいす作戦ノ戦果ハドノ程度確認デキテイルノデショウカ』

マクシャリス「確実なのはQC宙域総督タクージン・シカーグの戦死のみです。作戦完了直前にスター・デストロイヤー四隻が被害半径内に留まっているのはわかっているのですが」

カラーニ『イズレモ帝国ニハ十分補填可能ナ損害デス』

マクシャリス「惑星クマモッテを犠牲にしたことに疑問を感じていらっしゃるのですか?」

カラーニ『損失ヲ有意義ナモノトスルタメ、今後一層しびあナ戦略ガ必要トナリマス』


 マクシャリスを三つのアイセンサーが見据える。
カラーニの眼差しには、他の戦術ドロイドにない高い知性が見えるようだった。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/06(月) 23:59:15.09 ID:cbIKMmWF0

マクシャリス「ちょうどよかった。犠牲を払ってもスター・サクリファイス作戦を決行する意義……今日説明申し上げて、ご理解いただきたいと思っていたところです」

カラーニ『どろいどノ私ニ、デスカ』

マクシャリス「伯父上が重用していたドロイドのあなたに、です」


 マクシャリスは席を立ち、背後の大窓を顧みた。
ジャングルに覆われた惑星オイタットの緑を背景に、分離主義の艦隊がシルエットとなって浮かぶ。


マクシャリス「……ずいぶん数が減りました。クローン戦争が始まったとき、惑星セレノーで見た観艦式に比べれば」


 若き最高指導者は端正な顔立ちを物憂げに歪める。
彼の並外れた才能をもってしても、時代の主流から追いやられた軍団を維持することは容易ではなかった。


マクシャリス「あの時の私は子供でした。しかし今の私は違う。指導者としてすべきことを理解しています」

カラーニ『共和国ヲ倒スタメニ、デスカ』

マクシャリス「共和国との戦いは終わりました。惑星ムスタファーで……そしてそこで、新たな戦いが始まったのです」

カラーニ『何ノ勢力ト敵対スルモノデショウカ』

マクシャリス「シスの暗黒卿です」


 マクシャリスの語調が余裕を失して、無表情なものとなる。
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/06(月) 23:59:51.91 ID:cbIKMmWF0

マクシャリス「私は電子的記録とフォースの両面からクローン戦争を分析しました。その真実は、シスが伯父上と分離主義の全てを使い捨てたということだった」

カラーニ『シカシ、アナタノ伯父上……どぅーくー伯爵モしすデシタ』

マクシャリス「その通りです。よくご存じだ」


 しかしそれはごく短い間だけのことだ。
振り返った彼は物腰柔らかな態度を取り戻し、穏やかな微笑を浮かべている。


マクシャリス「しかし矛盾はしますまい。私はダース・ティラナスの後継者ではなく、ドゥークー伯爵の後継者なのです」

カラーニ『……じぇだいますたートシテノ伯爵ノ後継者、トイウコトデショウカ』

マクシャリス「どちらかといえばそうです。もっとも、私はジェダイになる心算はありませんが」


 マクシャリスはマントの裏から金属筒を取り出し、側面のスイッチを操作する。
筒の一端から金色のプラズマが噴出し、光の刃を形成した。
その輝きの向こうにかつての持主、ひいてはその主君の影を見る。


マクシャリス「今、ダース・シディアスは帝国というシステムを通して銀河に圧政を敷いています。それは分離主義という思想そのものへの挑戦です」

カラーニ『デハ、くまもってヲ爆破シタノモ』

マクシャリス「我々の唯一にして真実の敵を相手取った開戦の狼煙……あるいは宣戦布告です。犠牲をいとわず成功させる必要がありました」


 マクシャリスはセイント・セーバーを一振りして、虚空を割く。
伯父の後を継ぎ、星を爆破した男の本願。


マクシャリス「……シスは絶滅しなければなりません。いかなる手段を使ってでも」
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/07(火) 00:00:25.80 ID:bqtpp+FN0

ネーア「絶滅ぅ!?」ガバッ


 ネーアは布団をはねのけて身を起こした。


ネーア(な、何か突拍子もない夢見た気がするぞよ……しかし、ここは……)


 腕に刺さった点滴を引っこ抜きつつ、あたりを見回す。
自分のベッドをハイテクな治療器具と医療ドロイドが取り囲んでいる。
正面の壁には無菌室のような窓があり、外の廊下が見える。
今、白い装甲服を着た一団がそこをどやどやと横切った。
大いに見覚えのある装甲服だ。


ネーア(……まさか)

「――おや、ちょうどお目覚めのようだな」


 ネーアはぎょっとして声のする方を見る。
その主は入口のドアを背に、数名のストーム・トルーパーを従えて立っていた。
 

ワイマッグ「久しぶり、というべきかな……シスの暗黒卿、ダース・ネーア」

ネーア「そ、そなたは……!」


 セード・ワイマッグ。
かつて衛星砲台ラグナロクを巡る戦いで、シンノやネーアと相対した帝国軍将校だ。


ネーア「……えーっと、誰じゃったっけ?」

ワイマッグ「よし、ハクカ基地の監獄に移送しろ」

ネーア「ま、待て!顔はわかるんじゃ、名前が出てこないだけで!」
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/07(火) 00:07:31.06 ID:bqtpp+FN0
/後半はスーパーネーア卿タイムです
/エピソード9はよくまとまっていると感じました
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/07(火) 03:11:46.65 ID:ZejAclYB0
やったー
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 01:07:55.91 ID:Qn86HnYM0

グレイヴス「七百年前、私は弟子のダース・メドーに殺された……しかし滅びはしなかった。何故かわかるか?」

シンノ「……わかりません、マスター」

グレイヴス「暗黒面の力だ。シスの秘術によってここ、惑星ヤマタイティアの王族の血筋に、魂を焼きつけていたのだ」


 ヤマタイト王国の宮殿は、惑星ヤマタイティアの首都に存在する。
グレイヴスとシンノはその最深部、秘匿された領域にある巨大なエレベーターで下降中だった。
それは古代文明の産物と思しく、壁を持たず床だけが上下する奇妙な構造だ。


グレイヴス「私はシスの嫡流を離れ、独り研究を続けた。その成果をもってヤマタイトに隆盛をもたらし、それによって新たな研究材料を収集してきた」


 四方の壁面にはエキゾチックな壁画がびっしりと描き込まれている。
炎の剣を持った男と、それに導かれる人々。
稲妻を噴いて飛ぶ船団。
侵略。
征服。
収奪。
かつて銀河全域にその名を轟かせたヤマタイトの歴史が、下方から現れては上方へ消えていく。


グレイヴス「だが血統は時間と共に汚れ、薄まる……私はかつて自分が編み出した技を使うことができなくなっていった。一つ、また一つ。要する素質が高いものから順にな」


 壁画は平穏や文化の興隆をアピールするものへ変わり、やがて途切れた。
あとはまっさらな石の壁が流れていくばかりだ。
グレイヴスは首から提げたホロクロンを固く握りしめる。


グレイヴス「私は弟子を取ることにした……ヤマタイト・シスの教えを今一度完全なものとするために。なぜそれが必要かわかるか」

シンノ「……わかりません、マスター」

グレイヴス「支配するためだ。古代の強大なシスでさえ成し得なかった銀河全域の支配……それを伝統の技術でなく自分自身の力でなすため、いくつもの肉の義体を使い捨てて生きてきたのだ」
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 01:08:40.99 ID:Qn86HnYM0

 やがてエレベーターは減速し、停止する。
二人の目の前には重厚な両開きの扉が出現していた。
グレイヴスが手をひらりと動かすと、それはひとりでに動き始め、石の擦れる音とともに道を開く。
やがて四角形の暗闇がぽっかりと口を空けた。


シンノ「……」


 シンノは魂が抜けたようになっていたが、ここに及んで危機感を覚えた。
惑星キイでシスの遺跡を前にした時よりなおひどい悪寒に身震いする。
この奥に踏み込んで、戻ってくることはできるのか?


グレイヴス「どうした。暗いところは怖いか?」


 シス卿はその恐れを見通す。
シンノは彼女の眼差しの冷たさに怯み、唾を呑んだ。


シンノ「……マスター。この奥に……何があるんですか?」

グレイヴス「さっき説明しただろう。私の七百年の研究成果だ」


 シス卿は溜め息をついたあと、表情をがらりと変えた。
クイナワで、ヤクシムで、彼とともに笑い、戦い、ときに彼を諭した幼くも聡明な仲間が、束の間だけ帰ってくる。


ミコア「それがリズマさんを死の闇から救うのです。もう少しだけ頑張りましょう、私が一緒です」


 シンノにもそれが欺瞞だとすぐにわかった。
しかし今の彼は、彼女の表情に、声に、どうしようもなく安らぎを感じてしまっていた。
シンノは進む。
亡骸を収めたチルド・カプセルを押して、師となるべき人物に誘われ、底知れぬ闇の中へ……
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 01:09:11.15 ID:Qn86HnYM0

ワイマッグ『一両日中にも、ヴェイダー卿がハクカ基地にいらっしゃるらしい』

マーズ「ダース・ヴェイダーがここに!?何故です!?」

ワイマッグ『むろん、昨日そちらに移送した捕虜を尋問するためだ』


 ネーア覚醒の翌日。
惑星ハクカにある帝国軍基地の司令室にて、マーズはホロネット通信機に向かっていた。
青白い立体映像のワイマッグ司令官は、悩ましげな表情で言を続ける。


ワイマッグ『卿が自分たち以外のフォース使いに多大な関心をお持ちなのはお前も承知のはずだ。特にQC宙域のジェダイは反乱軍と連携していることが明らかだからな……』

マーズ「しかし閣下、あれはジェダイではありません。シスです」

ワイマッグ『どちらでも同じことだ。いやむしろ、シスのほうが敏感になるのではないか?』

サギ「ヒヒィ、仰る通りですゥ」


 横からエージェント・サギが合いの手を入れる。
彼は惑星クマモッテの爆発を無傷で生き延び、早々とハクカに引き上げてきていた。


サギ「私の記憶が正しければ、ダース・ベインが定めた掟により、シスの暗黒卿はつねに師と弟子の二人のみ……三人目がいるとなれば、沽券にかけても殺しにくることでしょォ」

ワイマッグ『もちろん拷問で四人目がいないことを確かめてから、だろうがな』


 マーズはサギの横槍を咎めようとしたとき、恐ろしいことに気づいた。


マーズ(私があれに弟子入りしようとしたのは、皇帝とヴェイダー卿に成り代わろうとする行為だったのか……とすると、もしもヴェイダー卿がそれを知ったら……!)


 以前かの暗黒卿に首を締めあげられた感覚が蘇った。
全身から血の気が引き、眩暈が襲う。
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 01:10:21.52 ID:Qn86HnYM0

ワイマッグ『私はしばらくクマモッテ星系から離れられん。第一艦隊が壊滅した原因を突き止めるまではな……だからお前はヴェイダー卿が到着するまで、くれぐれも例の捕虜が脱走なぞしないよう……』

マーズ「――します」

ワイマッグ『ん?今なんと言った?』

マーズ「殺します!ダース・ネーアを!」ビシューンッ


 マーズは突然ライトセーバーを起動した。
エージェント・サギと司令室内の一般兵たちが慌てて飛び退る。


サギ「ヒィィ殿中!殿中ですよマーズ第二艦隊司令官付補佐官殿!」

ワイマッグ『落ち着けマーズ、何故そうなる!その物騒なものをしまえ!』

マーズ「フウーッ、フウーッ……!」

ワイマッグ『いいか、深呼吸しろ……ゆっくりとだ……そしてライトセーバーのスイッチを切り……元あったように腰に提げる。よし』
 

 ダーク・ジェダイは主人になだめられて平静を取り戻した。
凶悪な武器はジット・セーバーは鞘に戻ると、司令部要員たちは囁きを交わしながら自分の職務に戻る。


マーズ「……申し訳ありません、取り乱しました」

ワイマッグ『……ヴェイダー卿と顔を合わせづらい気持ちはわかる。しかしあの重要な捕虜を独断で殺したりしてみろ、私もいい加減かばいきれんぞ』

サギ「ヒィィ、まったくですゥ……奴は反乱軍とも繋がりがあるのでしょォ、反乱軍の基地の在処も聞き出せるかもしれないのですよォ。値千金ですゥ」

マーズ「反乱軍の……基地……」
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 01:11:35.37 ID:Qn86HnYM0

 マーズの頭の中で化学反応が生じた。
唐突に踵を返して司令室から出ていこうとする。


ワイマッグ『おい待て、どこへ行く!?』

マーズ「ダース・ネーアを尋問します」

サギ「ヒィィ、やっぱり殺すつもりだァ!」

マーズ「黙れ……!」バッ


 マーズが振り返り、サギのほうへ手をかざす。
見えざる力が彼の首を締め上げる。


サギ「ぐぐっ、く……!?」

マーズ「さっきからぎゃあぎゃあうるさいぞ、帝国保安局のチクり屋風情が……!」グググ

ワイマッグ『ジヒス・マーズ!貴様、いい加減にしろ!』


 チクられるまでもなく見ていた上官がそれを遮った。
マーズはびくりと肩を震わせ、サギはフォース・チョークから解放される。


サギ「ぐがっは、げほっげほっ……!ヒィィ、なんたるDV……!」

ワイマッグ『いいか、そこは貴様の遊び場じゃない!銀河帝国の軍事基地だ!いかな特殊技能者とはいえ、これ以上軍規を乱すようなら今すぐ処罰するぞ!』

マーズ「……あ……ああ……!」


 その叱責は、マーズの動揺した精神に深々と突き刺さった。
ダーク・ジェダイはがくりと膝をついたかと思うと、ワイマッグへ向けて土下座した。
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/11(土) 01:13:00.74 ID:Qn86HnYM0

マーズ「申し訳ありません!申し訳ありません!私が間違っていました、私が愚かでした……!」


 ワイマッグとサギ、他の司令部要員たちは揃って肝を潰し、その異様なさまを眺めた。
マーズは何かしらの過去の記憶のフラッシュバックに襲われ、頭を床に擦り付けたままとめどなく涙を流した。


マーズ「悪いところは直します、改めますから、私を捨てないでください……お願いします、お願いします……!」

ワイマッグ『お、おい……お前……どうしたんだ?』

サギ「……あ、あのう、ワイマッグ司令官……実は私、今の、そんなに苦しくはなかったかな、なんてェ……?」

ワイマッグ『あ、そうなのか……?じゃあまあ、ほら、マーズ。そんなに謝ることでもないだろう……』

マーズ「許していただけるんですか……?」

ワイマッグ『ええと……まあ、とりあえず、保留とする』

マーズ「……あ、ありがとうございます……寛大な処分、ありがとうございます!」


 マーズは急に立ち上がり、軍服の袖で涙を拭って、泣き腫らした顔で笑ってみせた。


マーズ「この分は必ずお役に立って見せます。捕虜に反乱軍基地の在処を吐かせることによって!今度こそ!」


 そして高らかにそう宣言し、呆然とする一同を残して速足で司令室を出ていった。
しばしの静寂の後、エージェント・サギがおずおずと口を開く。


サギ「ワ、ワイマッグ司令官殿ォ……彼女が、その、ああなるのは、初めてのことで?」

ワイマッグ『……いや、思えばラグナロクでも……最近は落ち着いていたが、ヴェイダー卿のことがトリガーになって再発したということか……』
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/11(土) 19:18:01.07 ID:uj0D1bFT0
なんか何かにつけてミコアモードを強請ってバブるシンノを想像してわらた
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/12(日) 19:55:42.09 ID:Ccl2OtFM0

 ヤマタイト王宮、最奥の間。
青白い炎の燭台だけが照らす薄暗闇の中、ダース・グレイヴスは円形の祭壇に向かい、その縁に筆で呪文を書き込んでいく。
シンノは傍で見守っていたが、不意に生物質な悪臭を感じる。
シス卿は何かの血液をインク代わりにしているようだった。


グレイヴス「……よし、魔方陣はこんなものでいいだろう」


 グレイヴスは筆と墨壺を傍に置き、あらためて祭壇を眺めた。
中央にはリズマの亡骸が仰向けに横たわり、血で描かれた幾何学模様と呪文がそれを取り囲む。
不気味な黒衣の従者がグレイヴスに近づき、手のひら大の瓶を差し出した。
シンノはその瓶に、何か忌まわしいような感覚を覚える。


シンノ「……マスター、何ですか……その」

グレイヴス「これか?これは『ネガ・クロリアン』だ。伝説のシス卿、ダース・ヴォロスの遺産。フォースの暗黒面の力を、大いに引き出す……」


 シス卿はそう説明しつつ、瓶の中身を少し手に取った。
どす黒い液状のそれを、一息に飲み込む。


グレイヴス「――ウグッ、ガハッ!ゲホゲホッ!」


 とたんに目を剥き、猛烈に咳き込み始めた。
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/12(日) 19:56:13.85 ID:Ccl2OtFM0

シンノ「!?ミ……マ、マスター!大丈夫ですか!?」

グレイヴス「ゴホッ、ガッハ!ペッ!」


 グレイヴスはシンノや従者が駆け寄るのを待たず、黒い液体を吐き出した。
苦渋の表情で口元を拭う。


グレイヴス「チッ、もう体が受け付けんか……シンノ。見ての通り、この薬の過剰なパワーはほとんどの生者には毒となる。しかしそうでない者の体には、ちょうどいいカンフル剤だ」


 シス卿は祭壇に登り、勺のようなもので亡骸の口をこじ開け、その中にネガ・クロリアンを注いだ。
シンノは気が気ではなかったが、彼の師は涼しい顔だ。


グレイヴス「これで準備は完了だ。儀式を始めるぞ」

シンノ「は……はい」


 従者は幽霊のように音もなく退室し、残る二人は並んで祭壇に向かった。
グレイヴスは繊細な装飾が施された黒ローブを纏い、ホロクロンを手にする。


グレイヴス「――『マラコアの星』」


 ホロクロンがぎらりと輝き、魔方陣の一部が青白く燃え上がる。
同時にシンノは何かおぞましい気配を覚えた。
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/12(日) 19:57:20.22 ID:Ccl2OtFM0

グレイヴス「『鉄の果実』。『嗤う骸骨』。『ダソミアの雲』。『聖者の血』。『エグザ・キューンの影』……」


 呪文の一節ごとに火は広がり、やがて魔方陣が炎の軌跡となって亡骸を取り囲んだ。
気配は急速に鮮明になっていく。
地の底から何かがこちらを睨みつけ、向かってくるようなイメージが浮かび上がる。


グレイヴス「開け。世界と生命の狭間。大いなる力の連環の間隙。我は霞み、溶けるものを呼び、引き戻す者」


 超自然の炎はいよいよ激しく燃え上がり、生贄を焼くような冒涜的な光景が展開する。
この段階になって、シンノは気づいた。
彼が恐れている気配が、幼いころから親しんできたものであることに。
マスターから教えられ、自分の道を拓いてきた力が今、反転して顕現しつつある。


シンノ(これが……フォースの、暗黒面……!)

グレイヴス「エクセゴルの匣のもとにあらゆる理はなし。今再び自らを明らかならしめ、呼び覚ませ、フォースの外表を往く者よーー!」


 祭壇から一際猛烈な火炎が噴き上がり、天井を炙った。
唐突に暗闇が訪れる。
シンノはその中で、さっきまで接近していた気配が消失するのを感じた。
やがて目が慣れて、燭台と祭壇の残火だけが照らす薄暗闇が戻る。


シンノ「……マスター、何が……何が起こったんですか?」

グレイヴス「ハアーッ……自分の目で、確かめるがいい……」


 グレイヴスはやや大儀そうにそう言い、ホロクロンを懐に収めた。
シンノは祭壇に近づき、弟子の亡骸を注意深く観察する。
何も変化はない……いや違う。
指先が痙攣し、瞼が微動する。
顔の前に手をかざすと、空気が通っているのが感じられる。
呼吸している。
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/12(日) 19:58:11.34 ID:Ccl2OtFM0

シンノ「……なんということだ、これは……これは!」


 シンノが呻くように言って後ずさったとき、死体が目を開けた。
手をつき、身を起こす。


リズマ「……」

シンノ「……リズマ……リズマなのか」

リズマ「……マ、スター」


 目はうつろで、声色は淡い。
しかしリズマだ。
二度と会うことができないと思っていた彼女が、今、目の前にいる。


シンノ「ああ、リズマ……リズマ!」バッ


 シンノは彼女の膝に取りすがった。
肌越しに、さっきの気配を感じた。
亡骸の中には、それしかなかった。


リズマ「マスター」

シンノ「二度と……もう二度と、いなくならないでくれ……」


 彼女の手が触れるのを感じる。
それはひどく冷たいが、今はそれだけで十分だ。
その他のことは、何も考えたくない。


シンノ「俺は……俺は、弱い。独りは、怖いんだ……」


 どうせ誰も、自分のところに戻ってきはしないのだ。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/12(日) 19:59:09.55 ID:Ccl2OtFM0

グレイヴス「さあ、シンノ・カノス……私は務めを果たしたぞ。次はお前の番だ」 


 背後からシス卿が進み出る。


リズマ「マスター」

シンノ「ああ、リズマ……わかっている。わかっているとも」


 リズマがぎこちない動作で促す。
シンノは名残惜し気に彼女の下を離れ、グレイヴスに向き直り、跪いた。


シンノ「……マスター……マスター・グレイヴス。私はあなたに、忠誠を誓います」

グレイヴス「うむ、よろしい……暗黒面の神髄には今なお謎が多い。しかし二人で探求すれば、そこの者により鮮やかな命を吹き込む術も見つかろうぞ」


 グレイヴスは自らのライトセーバーを抜き放ち、騎士叙勲式のごとくシンノに差し伸べた。
その刃は血よりなお赤い、闇夜の到来を告げる落陽の色だ。


グレイヴス「お前をヤマタイト・シスの座に迎えよう、我が弟子よ……今この時より軟弱なジェダイの名を捨て、ダース・カイウスと名乗るがいい!」

カイウス「イエス……マイ、マスター……」
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/12(日) 20:00:08.41 ID:Ccl2OtFM0

ネーア「へえーっくしょん!」


 物語は同じヤマタイティア星系内、惑星ハクカの帝国軍基地に戻る。
ダース・ネーアは独房に閉じ込められたうえ、磔刑のようなポーズで厳重に拘束を受けていた。


ネーア「ウー、何だか嫌な予感がするぞよ……まるでこの宙域を丸ごと揺るがすレベルの軟弱者が爆誕したような……」

セントリードロイドA『オイ、騒グナ』


 監視役のドロイドがネーアの独白を遮る。
生身のトルーパーでないのはフォースによる精神攻撃への対策と思われた。


セントリードロイドA『捕虜ハ捕虜ラシク従順ニ振ル舞ウノガ賢明ダゾ』

セントリードロイドB『ソウダ。帝国軍ハ反逆者ニ慈悲ナド持タナイ』

ネーア「へえっ、人形風情が一丁前な口利きおって!お前らみたいなブリキ野郎の相手はクマモッテでもう十分ぞよ!」


 その時、突如独房の扉が開いた。
姿を現したのは、ネーアが見知ったダーク・ジェダイだ。


マーズ「……ダース・ネーア……ずいぶん威厳のある姿だな」

ネーア「チェッ、誰かと思えばヴェイダーの飼い犬の土下座女か」


 たちまちマーズのこめかみに青筋が浮く。
しかしこのとき彼女は感情を抑え、尋問する立場にふさわしい態度を保った。
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/12(日) 20:02:28.42 ID:Ccl2OtFM0

マーズ「……フン、ラグナロクの時とは立場が逆だぞ。懇願するのはお前の方だ」

ネーア「そんなことより、なんで妾はそなたらに捕まっとるんじゃ?ダース・グレ……もとい、ミコア姫のシャトルに乗ってたはずなんじゃが」

マーズ「フフッ、クックック……そんなこと、私がわざわざ教えてやるとでも……」

セントリードロイドA『第一艦隊ノ壊滅ニ際シテ非常線ヲ展開シタトコロ、みこあ姫ノしゃとるガ引ッカカッタノダ。検問自体ハ問題ナカッタガ、離艦ニアタッテオ前ヲ――』

マーズ「あああああ!貴様!」ビシューンッ ズバッ

セントリードロイドA『ピガーッ!?』ガシャンッ


 失言を犯したドロイドはジット・セーバーで切り裂かれ、スクラップになって床に転がった。
ネーアはマーズが以前にもまして精神的に不安定になっていることを感じ取りつつ、冷静に状況を分析する。
どうやら自分は、ミコア姫のシャトルが帝国軍の艦艇に収容されて検問を受けた際、着陸脚から振り落とされたらしい。
しかしその際トドメを刺されなかったところを見ると、グレイヴスは自分のことに気づいていないようだ。


ネーア「へっへっへ……まあ何にせよミコア姫が無事でよかったのう。あれが今後もそなたらにとって無害な傀儡かどうかは保証しかねるが」

マーズ「口の減らない奴め……!」


 ダーク・ジェダイは自分のセーバーを収め、別のものを取り出した。
ネーアのライトセーバーである。
赤い刃を出力し、シス卿の喉元に突きつける。


マーズ「見ろ、これを。二度とお前の手の内には戻らんぞ……ヴェイダー卿に縊り殺されるまでな!」

ネーア「……ふ、ふん、そんなものはただの道具じゃ……ジェダイでもあるまいし特別な感慨なぞ抱かんわ。何ならそなたにやろうか?誰もが羨むファンアイテムじゃぞ」

マーズ「ぐぐ……!ええい、お喋りはもう沢山だ!」
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/12(日) 20:04:58.24 ID:Ccl2OtFM0

 マーズはライトセーバーを投げ捨て、空の手をネーアの眼前にかざした。
たちまちダークサイドのフォースの力場が生じ、シス卿の脳を締め上げる。


ネーア「ぐがっ……そ、そなた……!」

マーズ「見せろ……見せろ、私に……仲間の居場所を。反乱軍の基地の在処を……!」

ネーア「ぐ、ぎぎぎ……!言うわけ、なかろうが……!」

マーズ「ククク……辛いだろう、苦しいだろう。だが誰も助けに来はしないぞ、お前は独りだ……絶望し、屈服しろ……!」


 ネーアは苦しみながらも、シスの技術で思考を読み取られることを防いだ。
さらには反撃に転じる。
フォースの流れを遡り、ダーク・ジェダイの精神を見通しにかかったのだ。


ネーア「……見える、見えるぞよ……そなたこそ、独りぼっちじゃ」

マーズ「!?何を言っている、貴様……!」


 マーズは動揺しつつも、フォースをより強く行使してネーアを痛めつけた。
シス卿はそれに抗い、ダーク・ジェダイの目を見返す。
二人が汗さえ流して得体の知れない戦いを繰り広げるさまを、残る一体のセントリー・ドロイドは怪訝そうに眺めた。
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/12(日) 20:06:15.28 ID:Ccl2OtFM0

ネーア「フフッ、クックック……そうか、今度はワイマッグに服従したか……だがまあ、利用されているだけじゃろうな……」

マーズ「バカな、何を根拠に……!ふざけた妄言を!」

ネーア「妄言なものか、今までもそうだったじゃろうが……そなたに愛を説いたものは、いざもろとも危機に陥れば、ことごとくそなたを見捨てた」

マーズ「違う、母さんは、父さんは……マスターは、私のことを思って……!」

ネーア「そなたもちゃんとわかっておる。だから妾から基地の在処を聞き出して手柄を立て、ヴェイダーの罰から逃れようとしている」

マーズ「違う、違う……私は……!」

ネーア「いいや違わん、そなたは独りじゃ。どれだけ暗闇の中に迷おうと、誰も!そなたを!助けない!」

マーズ「ああ、うう……うああああ!」


 フォース比べは暗黒卿に軍配が上がった。
ダーク・ジェダイはすっかり恐慌に陥り、わけのわからないことを喚きながら独房から逃げ出していった。


ネーア「ふーう、久々に悪いことをしたぞよ。暗黒卿冥利に尽きるが、ちと疲れたな……」


 残されたネーアは満足げに一息吐いたあと、足元の床にあるものを見た。
マーズが投げ捨ていった、自分のライトセーバーだ。


セントリードロイドB『……?』


 ドロイドはネーアの視線を追って落とし物を発見し、拾い上げる。
その瞬間、シス卿はフォースでライトセーバーのスイッチを入れた。
光の刃がドロイドの中枢部を貫く。


ネーア「しかし、もうひと仕事じゃ」
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/12(日) 20:59:44.13 ID:CsGtRT9b0
ざる警備
またやらかしてるという
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/15(水) 23:26:14.42 ID:X0/YIPRT0

サギ「決まっています、分離主義者の新兵器ですゥ!自分の惑星を爆破して第一艦隊を巻き込んだのですよォ!」

ワイマッグ『しかし、今の奴らが自分から本拠地を犠牲にする意味合いは薄いんじゃないか?』


 司令室ではサギとワイマッグが通信機越しに議論を重ねていた。
ワイマッグの艦隊はいまだに第一艦隊壊滅の真相を掴みかねているらしい。


サギ「カルトなりに何か目的があったのでしょォ。とにかく、惑星クマモッテの爆発は自然災害などでは断じてありません!」

ワイマッグ『それは明らかだが……私は第三勢力の介入を疑っているんだ』

サギ「帝国でも分離主義者でもない何者かが、一網打尽を狙って惑星クマモッテを爆発させたとォ……?」

ワイマッグ『ああ。あくまで可能性の話だが――』

マーズ「ワイマッグ司令官……!」ダダッ


 そこへダーク・ジェダイが戻ってきた。
司令室に緊張が走る。


ワイマッグ『ど……どうしたマーズ。もう反乱軍基地の場所を聞き出したのか?』

マーズ「いいえ……いいえ司令官。奴のフォースは強大です。私などではとても……その思考を読むことはできない……」

ワイマッグ『それほどまでにか!?』

マーズ「やはり下手なことをせずヴェイダー卿に任せるのが一番……」

サギ「……?あのォ、マーズ補佐官殿……」

マーズ「何だ」

サギ「さっきは、ライトセーバーを二本お持ちではありませんでしたかァ……?」


 サギはひょろっとした手でマーズの腰を指差した。
今、ベルトのストラップには、ジット・セーバーだけが吊り下げられている。
マーズは目を見開く。
そしてパッと踵を返し、走り出した。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/15(水) 23:27:01.94 ID:X0/YIPRT0

トルーパーA「おい聞いたかよ、第一艦隊のこと。惑星の爆発に巻き込まれて全滅したらしいぜ」スタスタ

トルーパーB「ああ、スターデストロイヤー四隻が修復不能の被害ときた。とんだスキャンダルだぜ」スタスタ


 ハクカ基地の倉庫区画にて、二人のストームトルーパーが巡回しつつ噂話に興じる。
近くの建物の陰から、その様子を伺う人影がある。


ネーア「……」コソッ


 ダース・ネーアだ。
トルーパーたちはヘルメットの視界の悪さもあって彼女に気づくことなく通り過ぎていく。


トルーパーA「この宙域の任務は気楽だが、こういうケースではさすがに緘口令が厳しい」スタスタ

トルーパーB「ラグナロクの時以来か。まあ総督が殺され、尋問官も重傷を負ったからな」スタスタ

トルーパーA「またワイマッグ体制に戻るのかどうか……」スタスタ

ネーア(クマモッテが爆発か……帝国も分離主義者に一杯食わされたようじゃのう)コソコソ


 シス卿はメイルーラン・フルーツのコンテナの陰を伝い、人目と監視カメラを避けて移動する。
倉庫区画を抜け、隣にある巨大な建物に裏口から潜り込む。


ネーア(……さて、ここに来るのは二度目じゃ。勝手はわかっておるぞ……)


 そこに収納されているのは、TIEファイターや輸送シャトルといった航空機。
格納庫である。
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/15(水) 23:30:08.99 ID:X0/YIPRT0

マーズ「――ダメだ」


 独房はもぬけの空だった。
見張りのドロイドは二体ともスクラップになっている。
拘束器具も、ドアロックも、ライトセーバーで破壊されていた。


マーズ「ダメだ、ダメだ、ダメだ……!」


 自分が置き忘れたライトセーバーでだ。
自分の失敗だ。
彼女の頭の中を最悪の想定が支配し、精神ストレスが極限に達する。


トルーパーA「おい大変だ、監房区画の監視係が殺されてる!」ドタドタ

トルーパーB「何だと!?また反乱軍が入り込んだのか!?」


 二人のストームトルーパーが廊下を通りかかった、その時。
独房の中から何かを猛烈に叩きつけるような音が響いた。
一度ではなく二度、三度と続き、それに伴って叫び声。


マーズ「衛兵!衛兵――ッ!」ブオンブオン ガチャンガチャン


 ダーク・ジェダイはジット・セーバーを抜き、独房の設備や壁を滅茶苦茶に破壊していた。
トルーパーたちが竦み、引き返そうとしたとき、基地内全域に警報が鳴り響いた。


『現在、何者かが発着場からTIEファイターを強奪し北北西へ逃走中!防空部隊スクランブル!』


 そのとたん、マーズはぴたりと破壊を止め、独房を飛び出した。


マーズ「どけえっ!」ドカッ

トルーパーA「うわっ!?」ズデッ

トルーパーB「だあっ!」ズデッ


 そしてトルーパーたちを押しのけて疾走する。
自らも発着場を目指して。
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/15(水) 23:30:50.34 ID:X0/YIPRT0

サギ「ヒィィーッ!まさか、よりによってあの重要な捕虜が……!」


 視点は再び司令室に戻る。
サギはヴェイダーがネーア脱走に激怒するさまを想像し、身震いして、レーダー士官の背中につかみかかった。


サギ「取り逃がしたら私の首も危ういぞォ!奴のファイターの追跡はできてるんだろうなァ!」

士官A「大丈夫です!トラッキング装置は破壊されましたが、対空レーダーで捕捉できています!」

サギ「航空管制!追跡部隊はまだかァ!」

士官B「今準備中です!それと、マーズ補佐官殿が出撃なさるらしく……」

サギ「何だとォ!?」


 サギが驚愕して大窓から飛行場を見やると、狙いすましたようなタイミングで一機のTIEファイターが離陸。
猛然たる勢いで強奪された機体の後を追った。


士官B「今出撃なさいました!」

サギ「見りゃわかるわァ!――ワイマッグ司令官、私も航空機で追跡を……!」

ワイマッグ『いや、待て。何か臭う』


 立体映像のワイマッグは、顎に手を当てて考え込む。


ワイマッグ『これほど何の工夫も無く逃げたところで、すぐに撃ち落とされるのは敵もわかっているはず……あれは自動操縦の囮の可能性がある』

サギ「囮!?バカな、ではダース・ネーアは本当はどこから脱出を……」

ワイマッグ『エージェント・サギ、君は捕虜が地上、もしくは地下から逃走したと仮定して捜索してくれ。私もすぐそちらへ戻る』

サギ「ヒヒィ、承知いたしましたァ!」

ワイマッグ『いいか、敵はフォース使いだ。もし奴を発見したらマーズを呼び戻し、協力して事に当たれ。こうなれば最悪の場合殺害してもかまわん、逃げられるよりよほどましだ!』
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/31(金) 02:52:24.79 ID:pBXRg8gE0

ネーア「ぶっはあああ!」


 ネーアはマンホールから暗い路地の中へ這い出し、そのまま地面に突っ伏した。
彼女はTIEファイターを自動操縦で飛ばして囮とし、自分は下水道からハクカ基地を脱出したのだった。


ネーア(ああもう、最近こんなのばっかりじゃ。一生分下水道歩いたぞよ……ええい、なにくそ!)


 自分を強いて立ち上がり、路地の外を見回す。
外は夜空の下、ネオンのきらめく繁華街だ。
ヒューマノイドとエイリアンの入り混じった雑多な人ごみの向こうに、二人のストームトルーパーの姿がある。
ネーアの姿を映した3D映像を手に、通行人に聞き込みを行っているようだ。


ネーア(地上にも追手が……囮の効きがいまいちよくないのう。反乱軍に迎えに来てもらう猶予はなさそうじゃ)


 シス卿は自力での脱出を決意し、路地伝いに移動を開始した。
どこかで宇宙船を調達せねばならない……それも帝国軍の追手を振り切れるような、高性能なものだ。
ネーアはそういった船を所有している人々を知っている。
シンノがそうだったからだ。


ネーア(密輸業者……どういうところにいるかは、察しがつくぞよ)


 彼らを雇う金はない。
後をつけて船を見つけたら、ライトセーバーで奪うのみだ。
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/31(金) 02:52:55.39 ID:pBXRg8gE0

クネー「邪魔する」ギイッ

店主「おお、クネー!久しぶりだな!」


 女賞金稼ぎは店内を見回した。
バカ騒ぎするチンピラ。
それにまけじと金管を噴き散らすブラスバンド。
隅のブース席で後ろめたい商談に励む密輸業者。
ここはハクカでもっともいかがわしい酒場だ。


クネー「相変わらずだな、この店は」

店主「それがウリだからな。ケッセルでいいか?」

クネー「ロックでな」

ナイン「×××××」ギイッ

店主「ようナイン・ナン!トルーパーから逃げてきたか、ええ?」

ナイン「××××?」

店主「基地の監獄から脱走者があったらしいんだ。女のガキを探してるみてえだぜ」

クネー「女のガキ……」


 クネーの脳裏にネーアの姿が浮かぶ。
彼女ならば反乱軍の情報も持っているかもしれない。
帝国軍が捕虜にする価値がある女児といえばあれくらいではないのか。
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/31(金) 02:53:52.88 ID:pBXRg8gE0

クネー「おいマスター、そのガキ、惑星クマモッテで捕まったとかじゃないだろうな」

店主「あ?知らねえよ。ていうかクマモッテは吹っ飛んだって話だろ?分離主義者と帝国軍もろとも」

クネー「吹っ飛んだ!?何でだ!?」

店主「う、噂だと、地殻変動か何かで内側からボカンと……どうしてそんなに気にする?」

クネー「いや……つい最近まであそこにいたものだからな」

店主「へえーっ、あそこは相当な鉄火場だったって話だろ?大したもんだな!」

ナイン「×××?××××?」ズイッ

クネー「な、何だ?サラスタン語はわからん」

店主「ハハハ、おいナン!反乱軍の情報収集ならヨソでやれよ」

ナイン「××××!」

店主「あーあー、そうだったな!お前は大した一匹狼だよ!」

クネー(クマモッテが、爆発……とすると、あいつらは……)

「クネー?お前クネーじゃねえか!?」


 クネーは肩を震わせた。
聞き覚えのある声だ。
その主が今、人ごみをかき分けて姿を現す。


イシュメール「クイナワ以来だなあ!」

クネー「イシュ、メール……」


 クネーの神経が、その男にくぎ付けにされた瞬間。
彼の声を聴きつけたと思しき第三者が走ってきて、ジャンプし、クネーの顔に飛びついた!


ネーア「クネェェェ!この裏切り者があああああ!」ガシッ

クネー「うおおおお!?」ドタッ

イシュメール「何だこいつ!?――あっ、ネーアじゃねえか!」

店主「知り合いかよ!?早くはがしてやれ!」
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/31(金) 02:54:54.97 ID:pBXRg8gE0

 同時刻、首都郊外。
市街地の一角が瓦礫の山と化して煙を上げている。
その中心には、TIEファイターの残骸があった。


マーズ「どこだ……どこに隠れた……!」ガシャガシャ


 ジヒス・マーズは素手で瓦礫をかき分け、撃墜した敵機の搭乗員を探す。
早くも野次馬が集まり、その鬼気迫った行動を遠巻きに眺めていた。
一人のジャワがその中から飛び出して、近くに駐機されていたマーズのTIEファイターから方向指示器をむしり取ろうと試みる。
マーズの懐でコムリンク通信機が鳴った。


マーズ「!はい、マーズです!」ピッ

ワイマッグ『私だ』


 ダーク・ジェダイが応答スイッチを押すと、青白い立体映像で彼女の上司の姿が映し出された。


マーズ「ワイマッグ司令官……!私はすでに脱走者のTIEを撃墜しました。ネーアは生きて脱出したか、死体が機外に放り出されたと思われ……」

ワイマッグ『いや、そこに奴はいない。エージェント・サギが下水道で奴の痕跡を発見した』

マーズ「下水道!?では奴は!」

ワイマッグ『繁華街へ向かったようだ。正確な位置は間もなくサギが突き止めるはずだ、お前も繁華街に飛べ!』

マーズ「承知しました!」


 マーズは通信を切ると、もはや墜落後にはなんの関心も払わず踵を返した。
ジャワをフォースで縊り殺し、さっと遠のく野次馬を無視してTIEファイターに乗り込み、離陸する。
ダークジェダイは己の罪を雪ぐため夜空を駆けた。
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/02(日) 00:49:54.51 ID:jrBhtQ+x0

イシュメール「するってーと、何か?」


 イシュメールとクネー、ネーアは、酒場のテラスに移動していた。
密輸業者はグラスをくるくる回しつつ、怪訝そうな顔で確認する。


イシュメール「ネーアちゃんは500年の眠りから覚めた悪の魔法使いで」

ネーア「うむ」

イシュメール「ミコア姫も実は同じ悪の魔法使いで、クイナワの反乱軍基地の位置を帝国にチクったのも彼女」

ネーア「うむ」

イシュメール「そのうえシンノのやつをたぶらかして弟子にしたから、連れ戻しに行かないといけないって?」

ネーア「そうじゃ」

イシュメール「なんだそりゃ!?この時代にそんなオカルトな茶番をマジでやってんのかよ!?」

クネー「……しかも、そのせいでクイナワやクマモッテで大勢人死にが出てるってことになるが」

ネーア「シスは一子相伝。優秀な弟子はそのくらいの骨折りに値するぞよ」

イシュメール「自分が敵に捕まって助けられるのを待ったり、戦闘に巻き込まれたりする骨折りにもか!?」

クネー「……あー、イシュメール」

イシュメール「しかもそのために今まで育ててきた先代の弟子も犠牲にするって?そいつをもっと訓練するほうが早いだろうが!」

クネー「イシュメール、その辺にしておけ。何か変な方向に流れ弾が行ってる」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/02(日) 00:50:25.11 ID:jrBhtQ+x0

ネーア「ええい、理解が難しいならしなくても構わん!そなたらはただ妾を反乱軍の基地まで連れていけばよい」

イシュメール「俺は船を持ってない」

ネーア「チュクチャク木材のアガリはどうしたんじゃ?」

イシュメール「サバックですった」

ネーア「無能か貴様」

クネー「私も船は持ってない」

ネーア「嘘をつけ!WウィングをR3もろとも分捕っていったじゃろうが!」

クネー「チッ、いいだろう。いくらだ?」

ネーア「慰謝料でプラマイゼロじゃ!もちろん船も返してもらうぞよ」

クネー「はあ?そんなのが通るならな、私だってテイティスから慰謝料をガッポリせしめてるところだ!」

ネーア「そんなの知ったこっちゃないぞよ!」

クネー「おチビちゃんよ、お前は知らないかもしれないが、私たちの間じゃ交渉のときの暗黙のルールってのが……」

ネーア「何が暗黙のルールじゃ、その前に筋を通せ筋を!」

イシュメール「なあネーアちゃん、向こうのナイン・ナンに頼んだらどうだ?あいつは反乱軍とズブズブって噂で……」

ネーア「そなたは黙っておれ!」
クネー「あんたは黙ってて!」

イシュメール「な、なんだよ……」


 三人は会話に夢中になるあまり、気づかなかった。
酒場の周囲にストームトルーパーたちが展開していることに。
帝国軍はすでにネーアの居場所を突き止めていたのだ。
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/02(日) 00:51:52.55 ID:jrBhtQ+x0

肩当トルーパー「エージェント・サギ、各分隊配置につきました。酒場の包囲、完了です」

サギ「ご苦労ォ」


 二人は酒場の向かいの建物、その屋上にいた。
サギは双眼鏡でテラス席の三人の姿を視認する。


サギ「奴がここに逃げ込んだということは、あそこは反乱軍の巣窟だァ……私がネーアを始末し次第酒場に突入し、残りの連中を全員逮捕しろォ」

肩当トルーパー「承知しました……あの、お言葉ですが、やはりマーズ補佐官の到着を待ったほうがいいのでは?」

サギ「中尉、お前はあんなサイコ女に手柄をくれてやる気かァ?あれは正気じゃないぞォ」

肩当トルーパー「しかし、ワイマッグ司令官は……」

サギ「司令官は『殺しても構わん』と仰った。捕まえるのは手こずるかもしれないが、殺すだけなら私でも十分可能だァ」


 サギは双眼鏡をしまい、代わりにブラスターライフルを取り出した。
狙撃モードにセットし、手すりから身を乗り出して、スコープ越しにネーアたちのいるテラスを覗き込む。


サギ(ちょろいもんだぜェ)


 サギはイシュメールとクネーを無視し、ネーアに照準を定める。
標的は小柄なので手すりが少し邪魔ではあるが、隙間から頭を狙える位置だ。


サギ(死ね、ダース・ネーア……その小ぎれいな顔を吹き飛ばしてやるゥ!)


 おそるべきISBのエージェントは精神を殺意で研ぎ澄まし、ついに引き金を引く。
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/02(日) 00:52:48.10 ID:jrBhtQ+x0

ネーア「へーっくしょん!」


 その瞬間、シス卿は盛大にくしゃみをした。
光弾は狙いを逸れる。


クネー「ぐおっ!?」チュインッ


 そしてクネーの脚を掠め、背後の窓を破壊して店内に飛び込んだ。
たちまちフロアは恐慌に陥る。


ネーア「うおっ、何じゃ何じゃ!?」

イシュメール「おのれ、誰だ!よくもクネーを!」ジャキッ バシュバシュバシュ


 密輸業者は激昂し、凶弾が飛来した方向に自分のブラスターピストルを連射した。
夜闇の向こうでひきつったような叫びが聞こえて、ついで何かが地面に落下する音が響いた。
その直後、店内にストームトルーパーが乱入する。


トルーパーA「帝国軍だ!全員壁に手を付け!」ジャキッ

トルーパーB「第二分隊、俺に続け!テラスを制圧する!」ドカドカ


 酒場の中はカオスの極限に達した。
裏口や窓から逃走する人々、トルーパーに組み敷かれる人々、スタンレーザーに撃たれて倒れる人々。
それをかき分けて一隊のストームトルーパーが三人のほうに向かってくる。
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/02(日) 00:53:26.35 ID:jrBhtQ+x0

ネーア「うおお、もう妾の居場所が!?」

クネー「痛つつ、ネーア!やっぱり脱走者はお前だったか、よくも巻き込みやがって!」

ネーア「そなたがあそこで逃げなければシンノもリズマも無事だったかもしれんのじゃ、お互い様ぞよ!」

イシュメール「ええい、どっちにしろもう俺たちだけ言い逃れは利かねえ!二人とも飛び降りろ!」


 三人は相次いでテラスから飛び降り、転がるように走った。
そして裏庭を抜けた先の路上に、のたうち回る黒服の男を発見する。


サギ「ぐああああ!痛い!痛い!これがシスの技か!おのれダース・ネーアめェ!」ゴロゴロ

ネーア「さっき撃ってきたやつじゃ!」

クネー「あの服、帝国保安局のエージェントだぞ!」

イシュメール「ちょうどいい、捕まえろ!」バッ


 ほんの数秒後、向かいの建物から数人のトルーパーが走り出てきて銃を構えた。
イシュメールがサギを後ろ手に捕まえて盾にする。


サギ「ぐわああ、やめろ、撃つなァ……」

肩当トルーパー「貴様、人質とは……!」

イシュメール「これは皇帝の手先、貴様らの上司だろうが。撃てるもんなら撃ってみやがれ!」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/02(日) 00:54:24.33 ID:jrBhtQ+x0

ネーア「今じゃ、食らえい!」ブオンッ


 その隙にネーアはフォースを使い、近くにあったゴミ箱をトルーパーたちに投げつけた。


トルーパー「「「ぐわあああ!?」」」ガシャーンッ


 金属塊の直撃を受けて吹っ飛ぶトルーパーたち。


イシュメール「ヒャッホーいいぜネーアちゃん!」

クネー「二人とも、こっちに来い!スピーダーがある!」


 三人は帝国のスピーダーを奪い、サギをトランクに放り込んで、いっさんに逃げ出した。
繁華街のネオンと喧騒が猛スピードで通り過ぎていく。
クネーは生ぬるい風を浴びつつ、今日あの酒場を訪れたことを深く後悔した。


クネー「ああくそ、どうしてこんなことに……!」

イシュメール「なあ、人質作戦がどこまで通用するかな!?」

ネーア「もう無理そうじゃ、あれを見ろ!」


 ネーアが摩天楼の向こうの夜空を指差す。
TIEファイターが一機、暗闇を切り裂くようにして高速で接近してくる。


イシュメール「ああ、まったく今日は俺の人生で最高の一日になりそうだぜ!」


 イシュメールは半ば自暴自棄に言い放ち、スピーダーをハイウェイのほうへ走らせた。
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/02(日) 18:57:22.69 ID:F5psNJPo0
銃の構え方が酷そうなエージェント
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/04(火) 00:35:41.50 ID:vSDG+UvM0

マーズ「逃がさんぞ……!」


 ダークジェダイは両手の操縦桿を引き絞り、地上を睨んだ。
帝国のスピーダーが一台、行き交う車両をかわしつつ街道を駆け抜けていく。
そこにダース・ネーアの気配を感じる。


マーズ(こうなったら殺すしかない……あいつの首をヴェイダー卿への手土産にしてくれる!)


 マーズはロックオンを待たずに引き金を引いた。
TIEファイターの機関砲から無数の光弾が連なって飛び出す。
イシュメールはバックミラーを見て目を剥いた。
弾着の土煙が猛然と追ってくる。


イシュメール「うわわわわ……!ヤバいぞ、おい!」

クネー「くそっ、対空ミサイルとか積んでないのか!?」ガチャガチャ

ネーア「ええい、どけい!」ダッ


 ネーアはクネーを押しのけてトランクの上に立ち上がった。
マーズとネーアの視線がキャノピー越しに交錯する。
光弾が、届く。


ネーア「ぬうあああーっ!」バッ


 シス卿は両手を掲げ、自分の正面にフォースを放射した。
弾着がスピーダーを越え、前方へ通り過ぎる。
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/04(火) 00:36:18.70 ID:vSDG+UvM0

イシュメール「ああ、神様仏様ウィルズ様……あ?」


 密輸業者は自分がまだ生きていることに気づき、再びバックミラーを見た。


ネーア「ぬうう……ぬうっふっふっふ……!」グググ


 シス卿はこめかみに青筋を浮かべ、脂汗を垂らしながらも、笑っていた。
スピーダーに命中するコースで降り注いだ光弾は、そのすべてが、彼女の目の前の空中で静止している――
否、彼女から見て相対的に同じ位置に固定されているのだ。
ネーアが見えない腕で掴んでいるかのように。


マーズ「バカな、何だあれは……!?」


 ダークジェダイはTIEファイターを旋回させつつ地上を見下ろし、驚愕した。
機銃掃射を食らわせたのに、敵車両が無事なまま装甲し、光弾の群れがそれにくっついていく。


ネーア「返して、やるぞよ……!」グググ


 ネーアは側面上方の敵機を睨み、掲げた手のひらをゆっくりと捻る。
空中の光弾がゼンマイ仕掛けのように緩慢な動きで回転し、TIEファイターのほうに向き直る。
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/04(火) 00:36:48.94 ID:vSDG+UvM0

マーズ「!?まさかッ!」グイッ

ネーア「今じゃあ!」パッ


 ネーアはフォースの放射を止めた。
光弾は本来の速度を取り戻し、ハクカの夜空を切って飛んだ。
その輝きがダークジェダイの機体を貫通し、破壊する。


マーズ「お、おのれ……おのれーっ!」


 マーズはとっさの回避で機関部への被弾と爆発を避けていた。
しかしそもそもTIEファイターは防御の薄い機体。
機関部以外への被弾だけでもその機能を奪うのに十分だった。
ダークジェダイの機体はコントロールを失い、黒煙を引きながら、ビル街に墜落していく。


イシュメール「ワオ!マジかよお前、信じられねえ!念力でブラスターを弾き返しやがった!アメージングだ!」

クネー「……ま、まさかお前……本当にシスの暗黒卿、なのか?」

ネーア「ぜえ、ぜえ……だから言ったじゃろうが……さっきのあいつみたいなシスもどきじゃない、本物ぞよ……」


 シス卿は強気なことを言いながらも、顔色は真っ青で、手はぶるぶる震えていた。
よろめきながらどうにか座席に戻る。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/04(火) 00:37:48.88 ID:vSDG+UvM0

ネーア「で、でも今のは、ちょっと疲れた……ガス、欠」ガクッ

イシュメール「……おい、ネーアちゃん?ネーアちゃん!?死んだ!?今の、命を賭けた大技的なアレだったのか!?」

クネー「いや、気絶してるだけのようだ……イシュメール!横合いから来るぞ!」


 密輸業者がその声に応えてパッと横を振り向くと、追い越し車線から三つの影が飛び出した。
スピーダーバイクに跨ったスカウト・トルーパーだ。


トルーパーA「こちら第3パトロール、ポイント66で脱獄囚を発見。これより攻撃します」ブオンブオン

トルーパーB「囲め囲め!」ブオンブオン

トルーパーC「逃げられるとでも思うのか!」ブオンブオン

イシュメール「うおおお!一難去ってまた一難か!」


 トルーパーたちは肉食獣のようにイシュメールたちに追いすがり、バイクの機銃で集中砲火を浴びせた。
火花が飛び散る中、密輸業者は半泣きで喚く。


イシュメール「うおおおお!ネーアちゃん起きてくれ、無敵のシスマジックでなんとかしてくださいよーッ!」

クネー「あいにくさっきので打ち止めらしいな……頭を低くしていろ!」ガシャコン


 今度は女賞金稼ぎの見せ場だ。
スピーダーに載っていたブラスター・ショットガンをコッキングし、手近なトルーパーにぶっぱなす。


クネー「ふんっ!」ドウンッ

トルーパーA「ぐわっ!?」ガシャーンッ


 スカウトトルーパーの一人が胸を撃たれて転落し、バイクもろともあっという間に後方へ消える。
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/04(火) 00:38:52.74 ID:vSDG+UvM0

クネー「さすがは帝国、いいマスターキーだ」ガシャコン

トルーパーB「おのれ!」ブオンブオン

クネー「近づくな!」ドウンッ

トルーパーB「ぎゃあっ!」ガシャーンッ

トルーパーC「やってくれたなあ!」ブオンッ


 さらに一人を仕留めるも、最後の一人がコッキングの隙を突いて急加速。
自分のバイクをスピーダーの後部に激突させる。


イシュメール「うおっ!?」

クネー「ぐうっ!?」

サギ『アアーッ!?何が起こってんだァ!?』


 エージェントがトランクの中で喚く。
クネーがショットガンを取り落とす。
三人目のトルーパーが乗り込んできて、それを路面へ蹴り落とした。


クネー「貴様……!」

トルーパーC「来い、ゴロツキ女!ファックされるのはスピーダーだけじゃ済まねえぞ!」


 スカウトトルーパーは電気トンファーを構えて挑発した。
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/07(金) 18:51:31.71 ID:k5pfulbl0

クネー「ほざけ――はあっ!」ブウンッ


 女賞金稼ぎはエレクトロ・カタナを抜き、横殴りに斬りつけた。


トルーパーC「ぬうん!」ガキン ブオンッ


 敵は自分の得物で防ぎ、垂直に振り下ろしてくる。


クネー「かあっ!」バチッ ブンッ


 それを弾き、斜めに切り返す。


トルーパーC「ぐおっ!?」バチュンッ


 肩に入った。
クネーは敵の体勢が崩れるのを見て、追い打ちをかけるべく踏み込む。


クネー(ぐっ!?)ズキッ


 サギに撃たれた足が痛み、その動作を鈍らせた。
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/07(金) 18:51:58.15 ID:k5pfulbl0

トルーパーC「オラアッ!」ブウンッ

クネー「ぐあっ!?」ドガッ


 次の瞬間、電気トンファーが彼女の胸を打ち据えた。
敵の起死回生の一撃だ。
クネーはよろめき、膝をつく。


クネー(し、しまっ……!)

トルーパーC「俺様に歯向かったのが間違いだ!」


 スカウトトルーパーが武器を大きく振りかぶる。


イシュメール「野郎!」ジャキ バシュッ

トルーパーC「ぐうっ!?」バスッ


 しかし密輸業者がハンドルから向き直り、ブラスターを発砲した。
光弾がトルーパーの脇腹を撃ち抜く。


クネー「だあっ!」ガバッ

トルーパーC「おわっ!?」ドガッ


 立て続けにクネーのタックルが命中し、敵をスピーダーから叩き落す。
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/07(金) 18:52:30.30 ID:k5pfulbl0

トルーパーC「あああああ!貴様ら!覚えていろーッ!」ズダッ ゴロゴロ


 手練れのトルーパーはあえなく路上に投げ出され、捨て台詞を残して、時速数百キロで遠ざかっていった。


クネー「……フーッ」


 女賞金稼ぎは業物を鞘に納め、シートに戻る。
吹き付ける風、対向車のヘッドライトの輝き、都市の喧騒と微かなサイレン音。
イシュメールが前を向いたまま口を利く。


イシュメール「なあ、クネー!」

クネー「何だ」

イシュメール「このゴタゴタが片付いたら、また一緒に――」

クネー「……待て。何か聞こえないか」

イシュメール「何ぃ?」


 密輸業者は耳を澄まし、奇妙な響きが接近してくるのに気づいた。
リパルサーリフトの浮遊音だ。
そう理解した直後、ビルの陰から航空機が低空で姿を現す。


イシュメール「げえっ、ガンシップ!」

クネー「かわせ!脇道に飛び込めーっ!」


 ミサイルが着弾し、街道は爆炎の赤に染まった。
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/07(金) 18:53:04.52 ID:k5pfulbl0

 帝国軍は首都キタクシーに戒厳令を発した。
市外へ通じるすべての街道が封鎖され、その包囲の内側をストームトルーパー部隊が走り回る。
彼らの手元にはネーアとイシュメール、クネーの3d映像があった。


トルーパーD「おい、こっちだ!」ブオンブオン

トルーパーE「こりゃあひどい」ブオンブオン

トルーパーF「重機が要るんじゃないか?」ブオンブオン


 そんな中、三人のスカウトトルーパーがスピーダーバイクに跨り、ある区画に到着した。
ビルが崩壊して炎上し、その中心にはTIEファイターの残骸が微かに覗いている。
本日二機目の墜落現場だ。


トルーパーD「なんにせよ、この様子ではマーズ補佐官の命はなさそうだ……」

トルーパーE「いや待て、あれを見ろ!」


 瓦礫の一つが微動したかと思うと、勢いよく吹き飛んだ。
その陰から、黒い人影がのっそりと姿を現す。


マーズ「ハアーッ、ハアーッ……!」


 ジヒス・マーズだ。
軍服は焼け焦げ、髪は乱れ、頭から血を流しながらも、確かな足取りで瓦礫の山を下りる。


トルーパーD「マーズ補佐官!?お体の方は――」

マーズ「どけっ!」ドカッ


 ダークジェダイはトルーパーの一人からバイクを奪って走り出した。
今や彼女のフォース感覚は極限まで研ぎ澄まされ、何の情報もなくともダース・ネーアの居場所を探知することができたのだ。
三人のトルーパーは何の迷いもなく疾走していく上官の姿を呆然と見送った。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/07(金) 18:53:49.16 ID:k5pfulbl0

 クネーの隠れ家は中庭に離着床パッドを備えた、ありふれたドーナツ型の施設だった。
逃亡者たちのスピーダーは無残に傷つき、黒煙を吹きつつ、どうにかそこへ辿り着いたのだった。


イシュメール「あー、ひどい目に遭った!」


 密輸業者はネーアを背負ってきてソファに寝かせ、疲れ切った様子でぼやく。


イシュメール「あんな大立ち回りは二度と御免だぜ、映画の主役じゃあるまいし!俺みたいな脇役にあんな鉄火場は荷が重すぎる!」

クネー「何一仕事終わったような口を利いてるんだ。まだ安心できないぞ……おい、もっときりきり歩け!」

サギ「ヒィィ、こんなこと許されないぞ!絶対にィ!」


 クネーは遅れてやってきた。
手錠で後ろ手に拘束したエージェント・サギを追い立てている。


クネー「イシュメール、私は船を準備する。お前はそこのアストロメクを起動して、そっちのコンピュータと一緒に持ってきてくれ」

イシュメール「わかった……あれ?このドロイド、どっかで見たことあるような」

クネー「最近手に入れた戦利品だ。そら、歩け!向こうの船に乗るんだ!」

サギ「おのれ、後で吠え面かくなよォ……」


 クネーとサギが中庭に向かう一方、イシュメールは彼女が指し示したアストロメク・ドロイドの電源を入れる。
赤い頭のR3タイプだ。
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/07(金) 18:56:41.53 ID:k5pfulbl0

R3-C3『――ピポ?プパピポポ』

イシュメール「おう、お目覚めか。さっそくだが敵に追われてる、船を飛ばすのを手伝――」

R3-C3『プアアアア!ピポポプパパピポ』バンバン

イシュメール「うおお、何だ何だ!?痛ってえな、やめろ!」

R3-C3『ピコピコプパパピポプウウー』バチバチ

イシュメール「反乱軍?基地?密告?裏切り者?何のこと――ああっそうか、てめえシンノのドロイドだな!どうしてここにいる!?」

R3-C3『ピポピポプピポ』バチバチ

イシュメール「だからやめろ、俺じゃねえよ!何があったかしらねえが、俺のせいじゃねえ!何もしてねえって!」

R3-C3『プウウー…ピポポ?プアアア!』


 ドロイドは唐突にイシュメールの下を離れ、ソファの方に向かった。
アームを伸ばし、そこに寝かされている少女の頬をペチペチと叩く。


ネーア「うむ……何じゃあ……」

R3-C3『プパパピポポプウウ』

ネーア「むう?そなた、R3か!?おお、おお!よくぞ無事で!」ナデナデ

R3-C3『ピポピポプパパ』ガタガタ

ネーア「いや、密告者はミコア姫じゃった。奴の正体は妾の師のそのまた師のシス卿、ダース・グレイヴスだったのじゃ」

イシュメール「その話本当にマジなんだな……ていうか、俺のこと密告者だと思ってたのか?謝れよ」

ネーア「嫌じゃ」

イシュメール「謝れ」

ネーア「いーやーじゃ!」
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/21(金) 18:59:56.36 ID:G4JAHlDg0

クネー「おい、遅いぞ!一体何やって――」タタッ

イシュメール「てめえ、このクソガキ!今すぐ帝国軍に突き出してやったほうがいいみてえだな!」ギリギリ

ネーア「いてててて、やってみるがいいぞよ!そっちだってただじゃ帰れんじゃろ!」ゲシッゲシッ

R3-C3『ピポピポピポ』バチバチ

イシュメール「叩けば埃の出る身の上だあ!?てめえら、それが命の恩人に対する口の利き方か!?」ドタバタ

ネーア「ほざけ、それを言うならクイナワでは――」ジタバタ

R3-C3『プアアアー!』ギュルンギュルン

クネー「貴様ら!!モメてる場合か!!」


 女賞金稼ぎは二人と一機の尻を蹴飛ばしつつ、中庭へ戻った。
そこに駐機されているのは当然、シンノのWウィング。
クネーが惑星クマモッテで持ち逃げしたものだ。


ネーア「フン、まだ壊さずに済んどるようじゃのう。見た限りでは」

クネー「その嫌味は今じゃないとダメか?」

イシュメール「まったく大した暗黒卿だぜ」


 次の瞬間、外に面したドアが吹き飛んだ。
無人のスピーダー・バイクが室内に突っ込んできて、壁に激突して爆発。
今まで居たダイニングに黒煙が渦巻く。
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/21(金) 19:00:37.78 ID:G4JAHlDg0

サギ「ヒヒヒヒヒ、もうお迎えが来たようだなァ!」


 機内でエージェント・サギが勝ち誇って喚く。


クネー「ええい、言わんことじゃない!早く船に乗れ!」

イシュメール「なに、また露払いのトルーパーだろうが。相手してやる!」ジャキッ

ネーア「いや、この気配は……!」

R3-C3『ピポポ!ピポポ!』ウィーン


 R3-C3はあわてふためいて機内に入り、ドロイド用ソケットに収まると、すぐさま行動に出た。
Wウィングの尾翼に据え付けられたブラスター砲を制御し、ダイニングの煙の中へ光弾を連射する。
ほとんど盲撃ちだが、密集隊形のストームトルーパーであれば薙ぎ倒せる攻撃だ。


イシュメール「やったか!?」

ネーア「まだじゃ――伏せろ!」


 煙の向こうから赤い光が飛来した。
一秒前までイシュメールの頭があった場所を横切り、尾部機銃に突き刺さる。
密輸業者は肝をつぶして飛び退き、その凶器が再び宙を舞うのを目にした。


「――思えば初めから、他の選択肢などなかった」


 黒煙の向こうから、軍服の女が姿を現す。


サギ「今の武器は……!マーズ第二艦隊司令官付補佐官殿ォ!」


 赤い刃のライトセーバーは回転しながら来た道を戻り、彼女の手に収まった。


マーズ「死ね、ダース・ネーア。私の弱さとともに」
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/21(金) 19:01:29.09 ID:G4JAHlDg0

ネーア「――一人でやっとれ!」ズバアッ


 シス卿は両手からマーズに向けて稲妻をほとばしらせた。
しかしその輝きは細く、か弱い。
直前の戦闘での消耗が回復していないのだ。


マーズ「フンッ……!」バチバチ


 ダークジェダイはライトセーバーを斜めに構え、電光をたやすく受け止めた。


ネーア「こ、小癪な……!」ズバババ

イシュメール「このクソアマァ!」ジャキッ


 シス卿が放電を続ける一方、密輸業者が燃料缶の陰からブラスターを構えた。
マーズは目をぎらりと輝かせ、左手をそちらに向ける。


イシュメール「ぐがっ……!?」ギリッ


 フォースがイシュメールの首を締め上げ、空中に吊り上げる。
ブラスターはあらぬ方向を撃った後、主の手から零れ落ちた。


マーズ「フウーッ……!」グググ


 マーズの目が血走り、額に汗が浮く。
さらに集中を深め、右手の光剣で受け止めている電撃を収束し、偏光して、シス卿に反射する。
ジヒス・マーズは今、精神的・肉体的な苦境の中で、フォース使いとして最高のポテンシャルを発揮していた。


ネーア「な、あばばばば!?」ビリビリ

イシュメール「や、やべ――」ギリギリ
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/21(金) 19:02:09.18 ID:G4JAHlDg0

サギ「補佐官殿!危ないィ!」


 Wウィングの中からエージェント・サギが警告する。


マーズ「!」サッ

クネー「喰らえ!」ジャキッ バシュッ


 マーズが二人を解放して飛び退き、ライトセーバーを構えて防御姿勢を取った。
直後、クネーが機内から姿を現し、ブラスター・ピストルを発射する。
その狙いはダークジェダイではなく、その傍にある燃料缶だ。
爆発が巻き起こり、炎と煙が着床パッドを荒れ狂う。


イシュメール「ゲホゲホ――この爆発なら!今度こそやっただろう!」

ネーア「その流れはもう十分ぞよ!」

クネー「早く乗れバカども!この惑星からおさらばする!」


 三人が機内に転がり込むと、R3-C3がWウィングを離陸させた。
間一髪、隠れ家に踏み込んできたトルーパーたちが黒煙を抜けて姿を現す。
こちらを見上げて銃撃してくるが、重戦闘機の装甲の前には何の脅威にもならない。


サギ「マーズ補佐官殿!?まさか、そんな!貴様ら本気かァ!」ジタバタ

イシュメール「捕虜は捕虜らしくしてろい!」ゲシゲシ

ネーア「やーい、バケツ頭ども!ここまでおいで、なのじゃ!」ヤンヤヤンヤ

クネー「待て、下から何か……」
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/21(金) 19:03:01.69 ID:G4JAHlDg0

 燃料缶の黒煙の中から何かが飛び出した。
人だ。
中庭に面した壁を蹴ってWウィングに飛びつき、風防にしがみつく。


マーズ「逃がさんぞ……!」


 ジヒス・マーズだ。
いくらか火傷を負っているようだが、その目に宿る殺意は少しも衰えない。


ネーア「げええっ!貴様!」

イシュメール「女にしてもしつこすぎだ!」

サギ「ヒハハハハ、帝国からは逃れられんぞォ!ヒハハハハ!」

クネー「!?こ、こいつ、操縦桿を……!」グググ


 マーズはトランスパリスチール越しにフォースを行使して、クネーの握る操縦桿を操っている。
Wウィングは失速し、右に旋回しながら降下していく。
地上ではストームトルーパーたちが手ぐすね引いて待っている。

 
マーズ「墜ちろ……!」グググ

クネー「ま、まずい……!二人とも、墜落に備え――」

R3-C3『ポポピーポ!プアアー!』


 R3−C3が電子言語の絶叫とともに、無理矢理ロケットブースターを噴射した。
三人はシートに押し付けられ、サギは機体後方へ転がる。
機体は炎を噴いて前方へ急加速し、中庭に面した壁へ向かって突進する。
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/21(金) 19:03:45.30 ID:G4JAHlDg0

マーズ「何!?」

イシュメール「うおあああ!クネー何してるっ!?」

クネー「違う、ドロイド野郎が!」

ネーア「R3!キレたか!」

サギ「ヒイイイイ!これは狂気の沙汰――」


 衝突。
三人は勢いよく前につんのめり、そろって一瞬気絶した。
サギもスマキのまま前方へ吹っ飛び、シートの背面に激突する。


クネー「――っづ、おのれ……」フラッ

ネーア「ぐぐぐ、ムチウチになっちゃうのじゃあ……」

イシュメール「いてて、だがチャンスだ!上昇しろ、この隙に!」


 ダークジェダイの姿は消えていた。
壁に空いた大穴の向こう、降り積もった瓦礫の下敷きになったのかもしれない。
Wウィングは急速に上昇し、隠れ家から完全に脱して、大空へ舞い上がる。


クネー「近くにTIEファイターはいないようだな……」

イシュメール「外縁部の警戒に駆り出されてるんだろうぜ」

ネーア「とにかく最速で宇宙に出ろ、速攻でハイパースペースに逃げ込むんじゃ!」


 三人は風防越しに上方、ほの暗い宇宙を見上げる。
そこに突如、楔型のスター・デストロイヤーが出現した。


クネー「何!?」
イシュメール「んなバカな!」
ネーア「ぎゃああああああああ!」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 23:54:17.24 ID:WzysAjBa0

艦長「提督、スキャナーが復旧しました。キシュー上空から急速に上昇してくる船を補足」

ワイマッグ「間一髪、間に合ったようだな……」


 それはセード・ワイマッグの座乗艦、ヴェネター級スタ・デストロイヤーの「ヘファイストス」であった。
若き司令官は立体映像越しにWウィングを見やってほくそ笑む。


艦長「このタイミングで一隻だけ戒厳令を破り、脱出を図るとは……」

ワイマッグ「ああ。まず間違いなく、あの中にネーアが乗っている」

艦長「TIEファイターをスタンバイさせておいて正解でした。ただちに全中隊を出撃させます」

ワイマッグ「パターン66の包囲隊形を取らせろ。本艦のトラクター・ビームの射程内に追い込むんだ」

艦長「はっ!」


 艦長は手元のコンソールを操作して命令を伝達しつつ、司令官の様子を窺う。
表情も口調もごく平静ではあるが、額には微かに汗が浮いているのが見て取れた。
ダース・ネーア……多少特別な力があるとはいえ、たかが小娘一人。
それを取り逃がしただけでなく再び捕まえることにも失敗したのは、マーズやサギが無能だったからなのか。
あるいは何かイレギュラーの介入があったのか。
それともその両方か?


艦長(何にせよ、ここで取り逃したら……我々は、ヴェイダー卿に処罰されずにはいられまい)


 艦長は唾を呑む。
こんなときコマンダー・コーチがいてくれたら、という儚い願望が脳裏をよぎった。
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/02/25(火) 23:55:25.30 ID:WzysAjBa0

クネー「おのれっ!」グンッ


 TIEファイターの編隊が猛禽の群れのごとく襲い来る。
女賞金稼ぎは毒づきながら操縦桿を捻り、Wウィングの機体をローリングさせた。
緑色のブラスター弾が雨霰のごとく降り注ぎ、偏向シールドを削り取っていく。


ネーア「こ、これはヤバいのじゃ!」

イシュメール「そっちから来るぞ、9時から!わかってるのか!?」

クネー「ああ見えてる!」カチカチ

R3-C3『プアアアアー!』

クネー「ドロイド!貴様は騒いでいないでジャンプの計算をしろ!」グインッ


 振盪ミサイルの雨をかわし、敵艦の間合いギリギリを掠めるようにして飛ぶ。
先走って距離を詰めてきた敵機が勢い余ってその内側に入り込んだかと思うと、急制動して母艦の方へ吹っ飛んでいった。


イシュメール「うおおっ、もうトラクター・ビームで狙ってきてやがるぞ!」

ネーア「ターボレーザーじゃないだけマシぞよ!突っ込め!」

クネー「言われなくても!」グイッ


 Wウィングは横合いから飛来する弾幕をすり抜けて旋回。
トラクター・ビームの再照準に先んじてスター・デストロイヤーのそばをすり抜けようとする。
敵艦はそれを阻むべく、青く光る電光を発射し始めた。


ネーア「ぎゃああ!イオン砲が!イオン砲が!」

イシュメール「当たったら回路を焼かれるぞ、わかってるのか!?」

クネー「ああもう、黙っていろ貴様ら!助かりたいのか邪魔したいのかどっちだあ!」グインッ
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