曜「たとえみんなが望むとしても」

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1 : ◆EU9aNh.N46 [sage]:2019/04/05(金) 03:20:59.71 ID:xnInN/pyO
浦の星女学院の生徒も部活動へ精を出し、統合しても元から静真高校へ通っている娘達に悪い影響をもたらすことはない

それを証明すべく行われた沼津駅前のライブイベントは、両高校のみんなが手を取り合い協力してくれたのもあり大盛況となった

結果、PTAからも認められた新生aqoursの6人は改めて活動を再開

静真高校のみんなからも私達は受け入れられた、かに思われていたが……

このお話はあれから半月後の3連休の間に起こった、私渡辺曜とaqoursの6人に降りかかった恐るべき事件の話である

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1554402059
2 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:22:36.86 ID:xnInN/pyO
【曜side】

三連休初日

この日は金曜日だけど、静真高校は開校記念日で休みとなっている

私は千歌ちゃんから「押し入れの整理してたら、すんごーいモノ見つけたから来て!」と電話がきたので、朝から彼女の家までバスで向かったのであります

どのみち、GWに市民会館で沼津市内のスクールアイドルが集まっての合同ライブイベントが開催されるので、その打ち合わせもする予定なんだけど

曜「えーっと、この青い上下着てるのが私で、こっちの赤と黄色のボーダーなのが千歌ちゃんだよね?」

千歌「そうでーす! っていうか、いつも着てた服だしねっ」

曜「んで、この白いワンピースに麦わら帽子の娘は──」

梨子「はい! 私、桜内梨子です!」

曜「えっ!? やっぱり?」

私と千歌ちゃんが昔、梨子ちゃんと出逢っていた

その時に撮った写真が残っていたなんて確かに「すんごーいモノ」だなぁ、うん!

梨子「うん。私、小1の夏休みに一度内浦へ来てたの。……すっかり忘れてたけどね」

にしてもズボンを履いている私達と比べ、梨子ちゃんは当時から清楚で女の子女の子した印象があるなぁ
3 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:23:49.82 ID:xnInN/pyO
千歌「奇跡だったんだね♡ わたし達がちっちゃい頃に一度会ってたのって」

曜「あはは、千歌ちゃんの言うとおりかもね。だから初対面のはずなのにすぐ馴染めたのかも」

梨子「運命だったのかな、私と千歌ちゃんが結ばれたのは♡ あの時出逢ってからそう定められて──」

曜「うわぁ、まーたトリップしてるよ」

梨子「いいでしょ! 私は千歌ちゃんが大好きなんだから♡」

ラブライブの決勝戦の後に自由時間があり、その時に千歌ちゃんの方から梨子ちゃんへ告白して……晴れて2人は恋人同士となった

以来、それまでと比べて梨子ちゃんの方から千歌ちゃんへ好意を示すのが多くなったような気がする

以前は千歌ちゃんのアピールに対して、梨子ちゃんは素っ気なく返していたような印象があったのに

いやはや、人は変われるものだね

千歌「でもわたしは好きじゃないなぁ」

梨子「へっ!? 千歌ちゃん……私のこと、嫌いになっちゃったの……ううっ」

千歌「いや、ごめん梨子ちゃん。そういうことじゃなくて」

梨子「……どういうこと?」
4 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:24:56.57 ID:xnInN/pyO
千歌「最初っから運命は決まっていた、って考え方」

曜「ああ、そっちね」

運命の人か……私はそういうの考えたことなかったなぁ

何せずっと「ある人」のことだけを想い続けていたから

千歌「昔会ってようとも会ってなくとも、スクールアイドル活動を通して色々あったから、わたし達は仲良くなれたんだから。ねっ♡」

梨子「もうっ、千歌ちゃんってば変なところでリアリストなんだから〜」

梨子ちゃんがほっぺをプクーっと膨らます

なんだか段々と仕草まで千歌ちゃんに似てきてません?

千歌「いいでしょ〜。それにあの出逢いが運命だっていうんなら、梨子ちゃんと曜ちゃんが結ばれた可能性だってあるんだし」

ようりこ「「あっ」」

そこに気付くとは……やはり千歌ちゃんは普通なんかじゃないよね!

千歌「ねっ。まっ、もしそうなってたとしても、わたしは二人の仲を応援してたと思うよ」

梨子「うーん、千歌ちゃんが言うような未来もあり得たかもね。曜ちゃん、卒業式の日に『だーーーい好き♡』って告白してくれたし♡」

曜「いやいや、アレは別にそういう意味の告白じゃないから」

一時期は2人の仲へ疎外感や嫉妬心を抱いたこともあったけど……梨子ちゃんだって共にスクールアイドル活動に励んできた大切な親友だよ!
5 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:25:56.76 ID:xnInN/pyO
曜「っていうか千歌ちゃんいる前でそのこと話すのは──」

千歌「ああ、その件については梨子ちゃんから聞いてるからお構いなく〜」

曜「って話してたの!?」

梨子「何か問題でも? あの後で『千歌ちゃんのことなんて忘れて私のモノになりなよ♡』とか耳元で囁かれたりしてたら問題だったけど」

曜「私はそんな鬼畜じゃないから!」

っていうか私ってSなのかな? それともMなのかな?

考えたこともなかったなぁ

千歌「そうだよー。とにかくあの頃は惚れたとか恋したとか関係なく、3人仲良くしてた。でしょ?」

梨子「ふふっ、そうね」

曜「ほんと、千歌ちゃんのそういうとこには敵わないなぁ」
6 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:26:57.95 ID:xnInN/pyO
曜「やっぱり関係あるの? 梨子ちゃんがここへ引っ越して来たのと、昔ここへ来てたのって」

梨子「うん。今の家、元々おばあちゃんとおじいちゃんが暮らしてて、あの時はおじいちゃんのお葬式のために来てたの」

なるほど、祖父母が暮らしていた持ち家を相続したって訳だね

千歌「そっか、辛かったんだね……っていうかあの2人、梨子ちゃんのおばあちゃんとおじいちゃんだったんだね!」

曜「まあ名字が違うからね。ついでに私も初耳だし」

1年間も一緒にいても、家族関係は知らないというのは珍しくないかも

月ちゃんのことなんてその典型だし、なかなか親戚について話すことってないよね

千歌「何にせよ、あの時のわたしと曜ちゃんが梨子ちゃんの力になれたみたいで良かったよ」

梨子「千歌ちゃん……ありがと、2人とも」

ようちか「「どういたしまして」」

辛い思いをした幼い頃の梨子ちゃんの心を癒す助けになれていたのなら、とても喜ばしいことだよね
7 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:28:01.82 ID:xnInN/pyO
千歌「そういえば中学の頃におばあちゃんも亡くなったんだよね……」

曜「……そうだったね。その時も梨子ちゃんこっちへ来てたの?」

梨子「ううん、行かなかった。ピアノコンクールに出てたから」

曜「いや、良かったの?」

梨子「亡くなる1ヶ月くらい前に『私に何かあっても、自分の夢を優先しなさい』って電話が来てたから」

千歌「なんか夏の予備予選の時そっくりなやり取りだね」

「予備予選に出る」つもりでいた梨子ちゃんへ「ピアノコンクールに出てほしい」と千歌ちゃんが背中を押した話は、私も千歌ちゃんと「ぶっちゃけトーク」した際に聞いている

梨子「あっ、本当ね。おばあちゃんも千歌ちゃんみたいに周りのことよく見てる人だったから」

千歌「もしかしてわたしに惚れたのって、おばあちゃんに似てたから?」

梨子「別におばあちゃんは関係ないから。何度も背中を押してくれたからだし、可愛いところもいっぱいあるからだし♡」

千歌「いや〜// 可愛いだなんてそんなぁ〜//」

私は断片的にしか知らないけど、この2人には色々なことがあったのだ

家が隣で、作詞作曲で共同作業をすることもしばしばな千歌ちゃんと梨子ちゃんには……

私だって、梨子ちゃんが知らない千歌ちゃんをいっぱい知っているのに──、
8 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:29:18.80 ID:xnInN/pyO
曜「このバカヨウっ!」

千歌「どうしたの、曜ちゃんっ? いきなり首をブンブン振って」

曜「う、ううん。何でもないよ」

いい加減出ていってよ!
自分本位な私!!

千歌「悩みがあったら何でも言ってね。1人で抱え込んじゃダメだよ」

梨子「千歌ちゃんの言うとおりよ。私達、親友なんだからね」

2人が私の震える手を包み込むようにぎゅっと握ってくれた

親友達の優しい想いが伝わってくる

曜「う、うん。ありがと。でもほんとに何でもないからね」

千歌「そっか、了解」

梨子「……ならいいけど」

千歌ちゃんはともかく、梨子ちゃんには絶対見透かされてる気がするなぁ

やたらと察しがいいもんなぁ、やっぱり東京で多くの人に揉まれて暮らしてるとそうなるのかな?

もし私が「千歌ちゃんと付き合いたい!」って宣言したら、梨子ちゃんはあっさり身を引きそうな感じがする……なんとなくだけど

自分が嫌になる

梨子ちゃんは私と千歌ちゃんがギクシャクしちゃった時、力になってくれたっていうのに……
9 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:30:25.41 ID:xnInN/pyO
イベントの打ち合わせが一段落した頃には、時刻は午後5時半を回っていた

曜「さてと、私はそろそろ失礼しますかな」

千歌「そっか、お疲れさま。今日はありがとね」

梨子「お疲れさま。あと明日、私と千歌ちゃんとで駅前の方までショッピングへ行くんだけど」

間違いなくデートだよね?
いちいち報告しなくてもいいのになぁ

2人の仲は認めてるんだから……いやいや「認める」って何様だよ

曜「そうなんだ、楽しんできなよ」

梨子「曜ちゃんも一緒に来ない?」

曜「いや、でも──」

千歌「曜ちゃんもいた方が楽しいって! ねっ?」

曜「あっ、そうだ。私も明日はルビィちゃんと予定が入ってたんだ」

これは本当
1年生の衣装はルビィちゃんを中心に1年生だけで製作するが「生地選びとかのアドバイスがほしい」と誘われている

そして何より私も、今ルビィちゃんとお付き合いしている身なんだし
10 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:31:24.23 ID:xnInN/pyO
梨子「じゃあルビィちゃんも入れて4人で」

千歌「なんなら善子ちゃんと花丸ちゃんも誘って6人でも──」

曜「いやいや、別に休日までみんな一緒でなくちゃ、ってことはないでしょ!」

千歌「だよね〜、うん……あうっ!?」

梨子ちゃんさぁ「諦め早いわよ!」って肘打ちはどうかと思うよ

梨子「本当にいいのね?」

曜「若い2人の間に、この老いぼれが入るのもどうかと思うしのう。ほっほっほっ」

千歌「老いぼれって、わたしと誕生日3ヶ月しか変わらないじゃん」

曜「んなっ!?」

渾身のボケにツッコミ入れられたし!

梨子「……わかった。じゃあルビィちゃんと仲良くね」

曜「うん。悪いね、千歌ちゃんも梨子ちゃんも」
11 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:32:26.13 ID:xnInN/pyO
十千万を後にして、最寄りのバス停から帰路につく

曜「はぁ〜、相当気を遣われてるんだな、私」

2人とも、夏の予備予選前の一件から半年以上経った今でもなお、私のことを過剰とも言えるほど心配してくれている

さっきみたいに2人きりでどこかへ行く前に、いちいち「お伺い」する、みたいな

曜「私のことなんて……もう気にしなくていいのに」

そういう態度を取られるから……胸の奥に燻っている嫉妬の炎へ薪をくべるような真似をするから──、

ああ、ヤダヤダ!
そうやって「自分の狭量さ」を他人のせいにする私がさぁ!

千歌ちゃんはもし「私と梨子ちゃんが付き合う」としても応援してくれると宣言した

梨子ちゃんも「私と千歌ちゃんが付き合う」としても同じように応援してくれるに違いない

対して私は……私だけが未だに心の底から「千歌ちゃんと梨子ちゃんが付き合っている」のを祝福し、応援できずにいる

「仮定」と「現実」を比べるのもおかしな話だけど……やっぱり情けないよ、私

その日は夕飯を食べてシャワーを浴びたら、自己嫌悪を振り払おうとすぐに床についた
12 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:33:26.16 ID:xnInN/pyO
【梨子side】

三連休二日目

私、桜内梨子はばっちりおめかしを決めた上で、十千万へと向かいました

梨子「おはよう、千歌ちゃん」

千歌「おはよう、梨子ちゃん……ってその格好は──」

梨子「うん。あの頃みたいなイメージで選んでみたの」

白いワンピースにキャペリン帽子、そして髪型も久しぶりにツインテールにしてみました

幼い頃、初めて千歌ちゃんと曜ちゃんに出逢った時を彷彿とさせるコーディネートだけど──、

梨子「どう、似合う?」

千歌「もちろん! すっごい似合ってるよ!」

梨子「ほんと?」

千歌「うんっ! まるで天使様がわたしの下へ舞い降りて来てくれたのかと思ったよ!」

梨子「んなっ!?」 

天使様だなんて……そこまで褒められたの、これまでかけてもらった中で最上級の賛辞かも♡

梨子「んもうっ// 褒めたって何も出ないわよ//」

千歌「ははっ、梨子ちゃんってば顔真っ赤。照れてるんだ〜、可愛いよ♡」

梨子「ほんと、バカチカなんだからぁっ//」

千歌「むうっ、梨子ちゃんまでそう呼んでぇ〜」
13 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:34:23.00 ID:xnInN/pyO
対する千歌ちゃんはボーダーのTシャツに、Gパンというかなりボーイッシュな格好です

梨子「千歌ちゃんったらせっかくのデートなのに、そんな男の子みたいな格好で」

千歌「デートだから、だよ」

梨子「へっ?」

千歌「わざと男の子っぽく見えるようにしたんだよ」

梨子「なんでよっ!?」

千歌「やっぱりさ『女の子同士はおかしい』って見なす人は多いしさ」

梨子「……あっ」

普段は女子校に通っているから意識しないでいられるけど、世間では未だに「女性同士でお付き合いする」ことへの偏見は大きい

「男の子に見られれば、周囲から奇異の目で見られないだろう」という千歌ちゃんなりの配慮なんだろうなぁ

千歌「でも気にしなくていいよ。わたしだって梨子ちゃんみたく『あの頃風』を意識してみたんだし」

梨子「まあ、そう見えなくもないね」

あの写真の娘が10歳くらい年をとったら、きっとこんな風になる……と言えなくもないかな?

千歌「でしょ〜、だからいいの。『10年越しの再会』ってフレイバーなの!」

梨子「ふふっ。ほんと、変な人」

千歌「変な人で結構」

私の彼女さんは、案外ロマンチストだったりするのです♡
14 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:35:28.75 ID:xnInN/pyO
ロマンチストといえば、千歌ちゃんは最近私の写真を入れたロケットを、いつも首に掛けていたりします

「いつも梨子ちゃんにわたしを見守っててほしいから」とのことで

「そうね、でないと宿題サボっちゃうもんね」ってからかったら「そんなことないもん!」ってほっぺたを膨らませて拗ねちゃったの

ちっちゃな子どものようにふて腐れる仕草も可愛いよ、千歌ちゃん♡

梨子「そろそろバスが来る時間になるし、行きましょ!」

千歌「うん。今日1日楽しもうねっ♡」

梨子「うん♡」

外は雲1つないいい天気
午後からは曇ってくるそうだけど、天気予報によれば雨は降らないらしいです
15 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:36:21.61 ID:xnInN/pyO
私達はまず駅前のショッピングモール内にある、文房具店へと向かいました

私達と同じく女子高生のペアもそれなりにいるので、私も千歌ちゃんも「恋仲に見られる」ことへ意識過剰してたのかもね

千歌「嘘っ!? 40ページしかないのにこんなに高いのっ!?」

梨子「確かにこれで980円はちょっと……って感じね」

昨日、曜ちゃんが帰った後で「交換日記を始めよう」って話になりました

千歌ちゃんが「どんな出来事があったのか、いつでも見返せるようにしたい」って提案したのがきっかけだったりします

千歌ちゃんが手に取ったそのノート、表紙のキラキラした装飾だけで値段の9割くらい占めていません?

千歌「だよね? 駅前の喫茶店のキャラメルマキアートRXサイズと同じ値段だもんね」

梨子「なぜ比較対象がキャラメルマキアート!?」

千歌「っていうかアレだって、原価考えたら相当なぼったくりだし」

その発言、この手の喫茶店全般へ喧嘩売ってるよね?
16 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:37:40.77 ID:xnInN/pyO
梨子「ああいうのって、施設の利用費も込みなんだと思ってたけど」

千歌「なんだろうね。スタバのコーヒーとか8割はシャバ代だっていうし」

梨子「……シャバ代ってマフィアじゃないんだから」

千歌「えっ、普通に言わない? とにかくアレ持って帰るなんて、イコール8割ドブへ捨てるようなもんだよ!」

梨子「理屈はわからなくはないけど、ドブへ捨てるはないんじゃないかな? ちゃんと飲むんだから」

千歌「かもね。飲みたいところで飲むのが一番だよね」

結局はそれが一番大切なことだと思う

私の彼女さんは、自分の気持ちへ正直な人なのです♡

梨子「ところでどれにしよっか?」
17 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:38:23.24 ID:xnInN/pyO
千歌「もういつも歌詞書いてるヤツでいい気がしてきた」

梨子「ええーっ!? あの3冊100円のアレ?」

千歌「うんっ。一番コスパいいし♡」

梨子「コスパがいいのは認めるけどさぁ」

かくいう私も学校ではあのノートのお世話になっておりますし

日常的に使う物に余計な装飾は必要ないんだし

千歌「嫌なの?」

梨子「せっかくの交換日記なんだから、こういう時くらい奮発してもバチは当たらないんじゃない?」

千歌「うーん、だよねぇ。でも実用性を考えると──」

梨子「千歌ちゃんって、結構ケチくさいよね〜」

さっきのキャラメルマキアートの件も含めて

「少ないお小遣いを何とかやりくりしなくちゃいけないから」っていうのには同意するけど
18 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:39:24.22 ID:xnInN/pyO
千歌「んぐあっ!?」

梨子「やっぱりアレ? 旅館の娘だから金勘定にはうるさいクチなの?」

千歌「いいじゃんか〜! このご時世、節約志向が大切なのです!」

梨子「わかるけど、やっぱり出す時は出さないと。ねっ?」

千歌「うーん……それもそっか」

人生メリハリをつけることが肝心なのです!

梨子「でしょっ♡」

千歌「じゃあこっちの金ピカノートを──」

梨子「さすがにそれは高過ぎ!」

いくらなんでも50ページで1,777は奮発し過ぎだからね!
19 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:40:05.75 ID:xnInN/pyO
文房具店でノートを買った後、私達は映画館で今流行りのアニメ映画を観ました

そしてたった今、上映が終わったところなのですが……

千歌「ううっ、○莉ちゃん。どうしてぇーっ……グスン」

梨子「真君を守るためだからって……あんまりだわ」

終盤、ヒロインの娘が身を挺して敵の攻撃から主人公の男の子を守り、彼の腕の中で息絶えるシーンで不覚にも号泣してしまいました

ベタだけどあんな展開ずるいわ……絶対泣いちゃうっての、ぐすん

千歌「梨子ちゃんはわたしが殺されそうになっても、庇ったりしなくていいからね」

梨子「千歌ちゃんこそ。私は私がいなくなっても、千歌ちゃんが幸せでいてくれたらそれでいいから」

千歌「イヤだよぅーっ。わたし、梨子ちゃんが隣にいないと幸せでいられないもんっ!」

梨子「私も。千歌ちゃんがいない世界なんて耐えられない!」
20 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:40:53.86 ID:xnInN/pyO
千歌「梨子ちゃぁーんっ!」

梨子「千歌ちゃぁーんっ!」

映画館の入り口で最愛の人と抱き合っていると──、

周りの人々「ジー」

ちかりこ「「はっ!?」」

係員「お楽しみいただけたようで何よりですが……館内の清掃がありますので」

ちかりこ「「すみませんでした」」

ペコリと頭を下げて、逃げるようにその場を後にしました
21 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:41:43.71 ID:xnInN/pyO
梨子「ううっ、やらかしたー」

千歌「いいじゃん、わたし達がラブラブなの見せつけられてさぁ♡」

梨子「よくないっ! っていうか周りがドン引きしてたわよ」

いわゆる「桃色結界」作り出してたよね? さっきの私達

千歌「いいよ、ドン引きされるくらいで。それこそ将来は『十千万名物のラブラブ夫婦』って噂になるくらいにさぁ♡」

梨子「私達が名物になって客が増えて嬉しいの?」

千歌「んっ? お客様が増えてその分儲けになるなら結果オーライだよ!」

まーたコスパ厨発言が出たし

やっぱり家族からお金の大切さをきっちり叩き込まれたからかな?

梨子「わからなくはないけど、むしろマイナスになるんじゃ」

千歌「なるの?」

梨子「なるかもしれないよ」

千歌「どんな風に?」
22 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:42:49.58 ID:xnInN/pyO
梨子「例えば旅館案内サイトのレビューで『ここの若女将と奥さんが所構わずイチャイチャしているので、リア充爆発しろ! と嫉妬の炎が鎮まりません。せっかく日頃の疲れを癒しに来たのに、逆にイライラが募り全く癒されませんでした』ってな感じの悪評が広まって──」

千歌「所構わずイチャイチャなんてしないから! 仕事なんだし!」

梨子「そういうところはメリハリ付けるつもりなのね? 所構わず『スクールアイドルやろうよ〜梨子ちゃ〜ん♡』って誘ってきたのに」

まあ、その連日のお誘いがあったからこそ「今の私」があるのは事実だけどね♡

千歌「えへへぇ〜、だって梨子ちゃんへ一目惚れしたんだもんっ♡」

梨子「作曲できるからでしょ?」

千歌「うぐあっ!?」

梨子「それと数合わせ」

千歌「はぐわぁっ!? ……そりゃ最初はそうだったけどさぁ」

コスパ厨な彼女だけど、決して金勘定だけで物事を捉えてなんかいない

私の彼女さんは、誰よりも人情を重んじる人なのです♡
23 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:43:50.20 ID:xnInN/pyO
梨子「わかってる。千歌ちゃんが私を『作曲マシン』みたいに見なしてた訳じゃないって」

千歌「梨子ちゃん……」

梨子「私もそんな優しい人だってわかったから、千歌ちゃんとスクールアイドルやろうって決めたんだよ♡」

千歌「ううっ……ありがとね、梨子ちゃん」

そうでなかったら、こうして隣を歩んでいきたいなんて思う訳がありませんからね!

千歌「ところで映画観てて思ったんだけどさぁ」

梨子「どうしたの?」

千歌「もし実際に明日世界が終わっちゃうとしたら……梨子ちゃんはどうする?」

実は私も同じこと考えてました

あの映画の場合「隣接する平行世界からの侵略者によって、主人公達の世界の人々が虐殺されていく」って相当えげつない展開だったけど

梨子「なんか聞かれるかもとは予想してたけど、答える必要あるの?」

千歌「えーっと、つまり?」
24 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:44:50.70 ID:xnInN/pyO
梨子「1日中ずーっと千歌ちゃんと一緒に過ごしたい。もし授業があるならサボっちゃう!」

というより他に何かありますか?

千歌「おおーっ、なんだかワルだねぇ〜」

梨子「明日で世界が終わっちゃうならワルも何もないわよ。っていうかみんながわかってるなら、そもそも授業だって休みになりそうだけど」

千歌「あっ、確かにそうだね」

梨子「その手の背景設定へ熱いこだわりがある千歌ちゃんとしてはどうなの?」

千歌ちゃんは設定厨なところもあります

以前、中学生の頃に書いたというオリジナルRPGの設定ノートを見せてもらったのですが……善子ちゃん顔負けのそれはそれは膨大なものでした

もしかしたら、あのノートを他の誰かへ見せて馬鹿にされた経験があったから、善子ちゃんの「堕天使」をすんなり認められたのかも

千歌「そこは梨子ちゃんへお任せします」

梨子「って投げちゃうの!?」

思ってたほど設定厨じゃなかったの?

千歌「それで、わたしと何をして過ごしたいの?」

千歌ちゃんのあどけない顔がグイッと近付いてきました

ちょっぴり酸味のあるみかんシャンプーの香りが、私の鼻腔を刺激します//
25 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:45:46.59 ID:xnInN/pyO
梨子「うーん……その時になってみないとわからないかな?」

千歌「そっか、それもそうだよね〜」

梨子「まあ、色々思いつきはするんだけど」

飲み物をストローでかき混ぜた時に出来る無数の泡のように、千歌ちゃんとやりたいことが次々と浮かんできました

千歌「どんなどんな?」

梨子「今日みたいにショッピングしたり、映画を観たり、美味しいものいっぱい食べたり」

千歌「本当に普通のデートって感じだね」

梨子「でしょ」

だから私としては、今日の晩に「おやすみ」って眠りについて、そのまま目覚めることがなかったとしても「それはそれでいいかも」とか思わなくもなかったり

もちろん、遺された千歌ちゃんのことを想ったら胸が苦しくなるから「2人とも亡くなる」のが大前提で

梨子「……って考えたんだけど」

千歌「考えたんだけど?」

梨子「みんなが『明日世界が終わる』ってわかってたら、誰も働かないと思うの」

千歌「だよね〜、みんな『仕事なんてやってられるか! 自由に過ごすぞー!』ってなっちゃうよね〜」
26 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:47:22.82 ID:xnInN/pyO
梨子「ねっ。でも『私と千歌ちゃんだけが気付いてる』って設定ならイケるけど」

千歌「うむ、その手のこだわりは大切じゃぞ」

梨子「はぁ、どうして私の周りは設定厨だらけなのか」

千歌ちゃんと善子ちゃんはもちろん、読書家の花丸ちゃんなんかもそうだし

お父さんが船乗りの曜ちゃんも架空戦記の妄想とかするし

スクールアイドルオタクのルビィちゃんなんて、姉のダイヤちゃん共々閉校祭の振替休日に「クイズ大会の補習講座」を開いて(私や花丸ちゃんを含む)参加者一同をみっちりしごいたし

千歌「そりゃみんな自分が好きなものへのこだわりが強いから、でしょ?」

梨子「ああ……かもね」

千歌ちゃんだってみかんの知識が凄まじかったりするし

「口にしただけでどこ産かわかる」人、そうそういないだろうなぁ

千歌「かくいう梨子ちゃんだって壁クイへの熱意は凄まじいんだし」

梨子「そ、そうかな?」

千歌「そうだよ。この前プリクラ撮った時だって『顎の引き方がおかしい』って7回も撮り直したし」

https://i.imgur.com/sQlqCjC.jpg

梨子「はうぅっ//」

すみません、私も大概設定厨だったみたいです
27 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:48:39.34 ID:xnInN/pyO
千歌「こだわりといえば唯澪本とまどほ○本だって何十冊もあったし」

梨子「推しカプの本は何冊あっても困らないんです!」

世間では律澪とか杏さ○が幅を利かせていようとも、私はこの2組を支持してるんです!

誰が何を好きになろうとその人の勝手なのです♡

千歌「ええーっ!? そうかなー?」

梨子「作者ごとの違った解釈を見られるのが楽しいの!」

千歌「それってガワだけ同じの別キャラなような──」

梨子「そういうのは言いっこなしです!」

みんな違ってみんないい、それでいいじゃない!!
28 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:49:35.37 ID:xnInN/pyO
千歌「推しカプ本の話聞いてて思ったんだけどさ」

梨子「なぁに?」

私の彼女さん変な人なので、やっぱり時々変な事を思い付きます

でもそうやって色んな話題を振ってくれるので、話してて楽しくなります♡

千歌「平行世界ってさ、1つだけじゃないのかもね。あの映画だと1つだけだったけど」

梨子「3つとか4つとか? そもそも平行世界自体、実際にあるのかなんてわからないけど」

千歌「まあね。ただあるとしたらそんなもんじゃなくて、それこそ何万何億……無限にありそうな気がする」

それこそ小さなコップの中に生じた泡どころか、世界中の海に浮かぶ船のスクリューの回転で生じた泡のように
気が遠くなりそうな話です

梨子「で、その中の1つ1つに私と千歌ちゃんがいるってこと?」

千歌「うん。だとしたら、その中には『梨子ちゃん以外の誰かと付き合っているわたし』がいてもおかしくないんじゃないかな……ってさ」

梨子「曜ちゃんとか?」

やっぱり彼女の存在が真っ先に浮かんでしまいました

私の方が彼女のこと、未だに気にし過ぎているのかな……
29 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:50:27.58 ID:xnInN/pyO
千歌「うん。あるいは果南ちゃんとか、普通に男の人とか。もしくは誰とも付き合ってないわたしなんかも」

梨子「ふふっ、乙女ゲーの個別シナリオみたいだね」

千歌「でしょ。んでそういうのを考えていったらさ」

梨子「考えていったら?」

千歌「こうしてわたしと梨子ちゃんが付き合っているのって、実は相当なレアケースなんじゃないかなーって」

梨子「えーっと、つまり全ての平行世界で千歌ちゃんが誰とお付き合いしてるのか調べていったら『私とお付き合いしている世界』の割合はかなり低い、と?」

千歌「うん。なんとなく、ね」

もしかしたら千歌ちゃんも「自分は順当にいけば曜ちゃんと付き合っていたはずだ」と考えているのかな?

千歌「だからこそ……ううん、そんなもしものこととか関係なく、梨子ちゃんとこうして隣にいられる時間を大切にしたいな♡」

梨子「千歌ちゃん……うん、私も♡」

平行世界がどれだけ存在していて、それらの中で「私と千歌ちゃんが付き合っている世界」がどの程度の割合で存在しているかなんて確かめようがありません

「仮定」の話をして不安になるよりは、目の前にある温もり溢れる「現実」を大切にしていきたいです♡
30 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:51:19.54 ID:xnInN/pyO
千歌「ところでお昼どうしよっか?」

梨子「なんかポップコーンでお腹いっぱいになっちゃった」

千歌「えへへ、実はわたしもなんだけど」

梨子「じゃあこのまま家電屋さんまで行く?」

千歌「うん、そうしよっか」

映画館を出た私達は、腹ごなしも兼ねて駅前通りをゆっくり歩いて行くことにしました

千歌「うーん、なんだか曇ってきたね」

梨子「予報通りだね。雨は降らないみたいだけど」

千歌「そっか。あっ、あれって──」

アッシュグレーのふんわりウェーブがかかったセミロングヘアーの娘が、ベンチに座っているのを見つけました
31 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:52:11.04 ID:xnInN/pyO
梨子「曜ちゃんかな?」

千歌「曜ちゃんだね。幼なじみのわたしが言うんだから間違いなく」

梨子「ふふっ。にしても、ルビィちゃんは一緒じゃないのね」

千歌「じゃあ行こっか、曜ちゃんのとこへ」

梨子「もちろん!」

曜ちゃんは嘘をついていたのかな?

元々ルビィちゃんとの約束なんてしていなくて、私と千歌ちゃんの邪魔になりたくないからって……

千歌「やっほ〜曜ちゃ〜ん!」

梨子「こんにちは、曜ちゃん」

曜「って千歌ちゃんに梨子ちゃんっ!?」

千歌「ごめんね、曜ちゃんっ!」

ご主人を発見した大型犬のように、千歌ちゃんが曜ちゃんへ飛びつきました

曜「わわっ!? いきなりハグしてこないでよ//」
32 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:53:07.19 ID:xnInN/pyO
千歌「えっ!? ダメ?」

曜「ダメも何も『彼女』がいる前で──」

梨子「ああ、私のことならお構いなく。あと私もハグしていい?」

2人が仲良くしている様を見ているのは、過去のすれ違いを知ってしまった身としては「わだかまりが解けて良かった」と嬉しいです

ですが、私だって曜ちゃんのことは大好きなんですからね♡

「恋仲」と「友情」は別腹じゃ駄目ですか?

曜「いやいや、梨子ちゃんも大切な親友だけどさぁ」

梨子「ふふっ、ありがと」

曜ちゃんの方もまた、私のことを認めてくれているのはこの上なく嬉しいです!

曜「っていうか今の『彼女』って梨子ちゃんのことじゃなくてだね」

梨子「私じゃなくて?」

???「ジーっ」

ああ、そっちの赤毛のツーサイドアップでちょっぴり背が低い彼女さんのことね

どうやら私達は早とちりしていたみたいです
33 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:54:04.81 ID:xnInN/pyO
千歌「あっ、ルビィちゃんもいたんだ〜♡」

ルビィ「……やっぱり曜さんにとって、千歌ちゃんが一番なんですね」

いや、何この普段より一段低いトーンは

曜「い、いや……そんなことはなくて、千歌ちゃんの方からハグしてきて……」

千歌「ご、ごめん」

千歌ちゃんが曜ちゃんから申し訳なさそうに離れました

ルビィ「ううん、ルビィは何も怒ってませんから♡」

無理矢理貼り付けたような笑顔に胆が冷えます

とにかく、まずは事情を説明しなくちゃいけないよね

梨子「ルビィちゃん、私達は『曜ちゃんが1人で来てた』と勘違いしてて……ごめんなさい」

ルビィ「だと思いました。大丈夫ですよ、梨子さん」

梨子「ふぅ、ありがと」

この様子だと、単にルビィちゃんがトイレに行っていただけかも

遭遇したタイミングが悪かっただけみたい
34 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:54:50.04 ID:xnInN/pyO
曜「だから昨日話したでしょ。『ルビィちゃんと2人で予定が入ってる』って」

千歌「そうだ。曜ちゃん、わたし達これから家電屋さんまで行くんだけど、一緒に来ない? もちろんルビィちゃんも」

曜「ああ、ごめんね。私達、これから手芸店へ行くから遠慮しとくね」

千歌「えっ!? でも──」

梨子「曜ちゃんには曜ちゃんの用事があるの」

千歌「はーい」

千歌ちゃんが渋々引き下がりました

案外曜ちゃんよりも千歌ちゃんの方が未練タラタラなのでは? と邪推してしまいます

でも曜ちゃんから告白してきたのを振ったのは千歌ちゃんで……

梨子「じゃあ私達はこの辺で失礼するね。行こっ、千歌ちゃん」

千歌「うん。また今度ね〜」
35 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:55:54.25 ID:xnInN/pyO
曜「うん。私のことは気にせず、2人とも楽しんで!」

千歌「ルビィちゃん、曜ちゃんをしっかりリードしてあげてね!」

千歌ちゃんの中ではルビィちゃんの方が曜ちゃんよりもしっかり者、と見なされているみたいです

まあ、函館でSaint Snowとの合同イベントを主催して以降、彼女が成長著しいのは誰の目から見ても明らかだし仕方ないかも

ルビィ「はいっ、任せてください!」

曜「ってリードされるのは私なの!?」

どっちが正しいのかな?
曜ちゃんへ気を遣うのと、曜ちゃんのこと気にしないの

彼女の本心がわかりません

でもこればっかりは、問い詰めたとしてもはっきり答えを出してくれなさそうな気がします

何となくだけど
36 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:57:15.40 ID:xnInN/pyO
【曜side】

曜「なんていうか、もう熟年夫婦感出てるなぁ。千歌ちゃんと梨子ちゃんは」

ルビィ「そうですね〜、出逢ってからまだ1年しか経ってないってのに」

曜「まああの2人の場合、色々あったみたいだからね」

2人はスクールアイドル活動を通して、悲しいことや辛いことも乗り越えてきた「同志」でもある

特別何かに夢中になって全力で取り組んだことがなかった千歌ちゃんにとっても

逆にピアノ一筋で特別親しい友人がいなかった梨子ちゃんにとっても

ルビィ「ルビィ達全員、色々ありましたよ。9人みんなが自分の物語の主役なんです」

他人とコミュニケーションを取ることが苦手だったルビィちゃんら1年生の3人にとっても

もちろん幼い頃から高飛び込みに精を出し、それなりに広い交友関係を持っていた私だろうとも、多くのことを感じ考えさせられた1年だったことは否定できない

曜「あはは、だよね。他の誰かになれる訳でもないんだからね」

ルビィ「そういうことですよ、曜さん。だから──」
37 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:58:06.89 ID:xnInN/pyO
曜「だから?」

ルビィちゃんが私の両肩をがしっと掴む

彼女の瑞々しくて柔かそうな唇へ目がいってしまう

ルビィ「ルビィの……わたしのこと、もっとちゃんと見てください」

あの2人だけならいざ知らず、ルビィちゃんまでなんてことを言い出すのだ

ただ、私達が付き合い始めた「あの日」のことを考えたら、こんな言葉を向けられても仕方ないんだが

曜「見てるよ、ルビィちゃんのこと」

ルビィ「今のままじゃなくて……『千歌ちゃんの代わり』じゃなくて、ですよ?」

上目遣いで私を見つめるエメラルドグリーンの瞳に私の姿が映る

曜「千歌ちゃんの代わり?」

ルビィ「はい」

曜「……ルビィちゃんまでそんなこと言うの?」
38 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:58:59.63 ID:xnInN/pyO
ルビィ「だって曜さん、ずーーーっと千歌ちゃんしか視界に入れてなかったですし」

曜「そ、そう……かな?」

中学時代の私ならともかく、今は一応そんなつもりないけどなぁ

ルビィ「今だって千歌ちゃんにハグされて、おもいっきり鼻の下伸ばしてましたし」

曜「はぐうっ!?」

いや、でも女の子から抱きしめられたら嬉しくなるでしょ! 同じ女の子としても

柔らかいし、あったかいし、いい匂いがするんだし

ルビィ「未練タラタラなんですね?」

曜「そ、そんなことないっての!」

千歌ちゃんに限らずaqoursのみんな相手なら、誰であろうとハグされたら嬉しいからね!

もちろん「友情」の範疇になるけど
39 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 03:59:53.25 ID:xnInN/pyO
ルビィ「色々聞いてるんですよ。例えば善子ちゃんからは『曜ってば、バスの中でも口を開けば半分くらいは千歌の話なんだから』って」

曜「善子、ちゃん?」

そうなの?
全く自覚なかった

ルビィ「果南さんからは『私だって曜の幼なじみなのに……鞠莉じゃないけど嫉妬ファイヤーしちゃうなぁ』とか」

曜「いや、果南ちゃんは歳が1つ違うからさぁ」

小学と中間とで学校へ一緒に通えない1年が2回もある以上、しょうがないと思うけどなぁ

向こうだって同学年の鞠莉ちゃんやダイヤちゃんと一緒に遊ぶことの方が多かったんだし

ルビィ「そして花丸ちゃんからは『マルはそもそも存在を認知されているのかすら怪しいずら。この前ランニングで遅れたら「全員いるね」って忘れられたから』という衝撃の報告が──」

曜「その件はごめん! 悪気はなかったから!」

もちろん気付いてからちゃんと謝っていますからね!

ただ、花丸ちゃんに関しては1年経った今でも、ちょっとどう接したらいいか掴めないでいるのは事実であって……
40 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 04:00:47.62 ID:xnInN/pyO
曜「っていうか、そんなに私『千歌ちゃん千歌ちゃん』言ってる?」

ルビィ「お姉ちゃんの『ですわ』ぐらいには」

曜「『ぶっぶーですわ!』や千歌ちゃんの『奇跡だよ!』の比じゃないよね? そこまでくると」

まさか口癖どころか語尾レベルの頻度とは

ルビィ「ほらっ、また千歌ちゃんで例えた!」

曜「はぐわっ!?」

ルビィ「まっ、10年以上も片想いしていたそうですから仕方ないですけどね。『曜さんの半分は千歌ちゃんで出来ている』と言っても過言じゃないですし」

曜「いやいや、どこぞの風邪薬じゃないんだから。……勇気を貰ってきたりはしたけど」

千歌ちゃんは自分のこと「普通怪獣ちかちー」などと卑下するけれど、全然普通なんてことないからね!

aqoursのみんなの閉ざされた心を開くきっかけを作り、自分自身もまたaqoursの活動を通して自信を持てるようになれたのだから
41 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 04:01:49.62 ID:xnInN/pyO
ルビィちゃんと話しながら、私は千歌ちゃんへ意を決して告白した時のことを思い出していた

◆◆◆

それは閉校祭前日の晩、校門前でのことだった

曜「千歌ちゃん!」

千歌「んっ? どうしたの?」

こっちが一世一代の告白をしようというのに、普段と変わらず呑気なものだ

曜「私……千歌ちゃんのことが──」

千歌「わたしのことが?」

心拍数が全力疾走した直後のように高くなる

心臓がバクバク唸りはち切れそうだ

「ううん、何でもないよ」と中断したくなるほど息が苦しくなる

だけど……それでも言わなくちゃ!

そうでないと、私はいつまでもヘタレのバカヨウのまま変われないから!

「一番欲しいものは、勇気を出さなくちゃ決して手に入らない」ってわかっているから
42 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 04:02:42.73 ID:xnInN/pyO
曜「──好きです!」

言って、しまった

なんだか胸のしこりが取れたように呼吸が楽になる

千歌「うんっ! これからもいい友達で──」

曜「い、いや。そうじゃなくて」

千歌「そう、じゃない? どういうこと?」

他人が悩みを抱えているのには敏感なのに、どうしてこういう場面では鈍感なのやら

曜「『恋愛対象』として好きってこと」

ランナーズハイに近い高翌揚状態に入ったためか、さっきまでなら躊躇っていたであろう言葉でもすんなりと宣言できてしまった

千歌「ふへっ!?」

彼女がその場でフリーズしてしまうも、数秒後に──、

千歌「ええーっ!?」

とすっとんきょうな声をあげた
43 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 04:03:40.99 ID:xnInN/pyO
千歌「ちょっ!? いや、で、でも……だけど、わたしは……」

彼女の顔が今まで見たことがないほど真っ赤に染まる

そしてモジモジと俯いて独りごちた

曜「千歌ちゃん?」

千歌「曜ちゃんの気持ち……すっごいすっごい嬉しいよ。ありがとう」

大粒の涙をこぼしながら、彼女がぎこちなく笑顔を作ってくれた

「よしっ!」と心の中でガッツポーズを取った

ところが……
44 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 04:04:40.59 ID:xnInN/pyO
曜「じゃあ私達──」

千歌「だけど……ごめんなさい」

喜びの絶頂に舞い上がったのも束の間、一瞬で奈落の底へ叩き落とされた心持ちになる

えっ?
嘘でしょ?
聞き間違いだよね?
たった今嬉し泣きまでして、笑顔だって向けてくれたよね?
なんで?
どうして?

いくつもの疑問が浮かんでは破裂してゆく

そして最後に残ったのは「私は千歌ちゃんから振られた」という圧倒的な事実だった

曜「あ、ああ……」

千歌「曜ちゃんっ!?」

頭の中が真っ白になり、足下がふらついた私へ千歌ちゃんが駆け寄って支えてくれた
45 : ◆EU9aNh.N46 :2019/04/05(金) 04:05:32.25 ID:xnInN/pyO
千歌「曜ちゃんが嫌いって訳じゃないよ。っていうか『どうやったら嫌いになれるの?』って感じだし」

曜「あ、ううっ……」

振った側だというのに、千歌ちゃんは涙をぽろぽろこぼしながらも私を精一杯フォローしてくれる

千歌「でも……わたし、好きな人がいるから」

曜「う、うん。わかってる、梨子ちゃんのことだよね?」

私が駄目だっていうのなら、他に可能性があるとすれば彼女以外にいるまい

千歌「う、うん。だから、ごめん。ごめんね、曜ちゃん」

誠意を示した私を傷付けることへの申し訳なさで涙を流してくれた千歌ちゃん

礼を尽くして謝ってくれた彼女を責めるなんてこと、とても私にはできなかった

曜「それで、梨子ちゃんへいつ告るの?」
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