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【ガルパン】みほ「私は、あなたたちに救われたから」
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275 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/02(日) 00:04:08.76 ID:z9x6Xcan0
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決勝が二日後と迫ったある日の昼下がり、いつも戦車たちが出番を待つばかりで静かな車庫の中は騒々しい賑わいを見せていた。
全チームが各々の車輛の整備、清掃に奔走して、来るべき決勝へと備えている。
優花里「マークWスペシャル!それにヘッツァーも!!良いですねぇ!!」
そんな賑やかな車庫の中でも一際大きな優花里の歓声が響き渡った。
優花里の目の前には砲身の換装とシュルツェンを増設したW号戦車と、『元』38tが並んでいた。
38tはその車体上部を丸々交換し、元々の戦車然としたシルエットから四角錐台に砲塔が生えているといったような見た目へと変貌を遂げ、その名もヘッツァーへと変わっていた。
強化された二輌をじっと見つめるみほの後ろに杏と柚子と桃がやってくる。
杏「決勝進出が決まって義援金が結構集まってねー。ヘッツァー改造キット買っちゃった」
柚子「その義援金ももうすっからかんだけどね……」
桃「だが、それでも何もしないよりはマシだ。打てる手は全て打っておく、最善を尽くすのが今の私たちに出来る事なのだから」
杏は一歩前に出てみほの隣に並ぶ。
杏「ホントはさ、西住ちゃんに相談するべきだったんだろうけどね。時間が無くてさ、悪いけどこっちで勝手に決めちゃったんだ。ごめんね」
みほ「いえ、これで正解だと思います。戦車が増えても乗員を探している暇はありませんし、なら今ある戦車の強化に努めるべきです」
杏「そっか。なら良かった」
それで、会話が途切れる。
金属が鳴らす音、慌ただしく動く足音、あれこれと話す声。
騒がしい車庫内なのに、二人の間には静寂が流れる。
それが耐えられなかったのか、杏はヘッツァーを見つめながらいつもの様に気の抜けた声を出す。
杏「にしてもヘッツァーって面白い形してるねー。実物を見ると猶更そう思うよ。これ上手い事突っ込めばジャンプ台にならない?」
みほ「それはちょっと厳しいかなーって……」
杏「うーん、残念」
しかしながら杏の小ネタではみほとの間に会話のラリーを繋げられず、また黙り込んでしまう。
いい加減どうにかするべきだろうかと柚子と桃が心配になってきた辺りで、また杏が声を出す。
今度は、真面目に、静かに。
杏「……色々あったけどさ、それでもここまでこれたのは西住ちゃんのおかげだよ」
みほ「……それでも、私のしたことが許される訳じゃありません」
杏「……それも、私のせいだから」
みほ「違います。私がやったことは、全部私のせいなんです。あなたの思惑は私がみんなを騙した事とはなんの関係もありません」
先ほどとは真逆に、間を置かず即座に返球されたことに杏は内心で苦笑する。
杏「……西住ちゃんは頑固なんだね」
みほ「……」
その言葉に、みほは返答しなかった。
276 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/02(日) 00:15:40.37 ID:z9x6Xcan0
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そんな二人をM3の整備をサボってあやが見つめていた。
みほの正体が判明したあの日以来みほと杏はいつも重い空気を纏っていて、正直言って辛気臭いとあやは思っていた。
事情は分かったが、だからといってあんな風に陰鬱とした雰囲気は一年生らしい後先考えず目の前の出来事を軽く受け止め大いに楽しんでいるあやには随分と奇異で、近寄りがたく写っていた。
そして、そんな辛気臭い空気を纏った人が身近にいる事もあやの頭痛の種となっている。
埃と煤に汚れたメガネを拭きながら、一心不乱に整備をしている梓に声を掛ける。
あや「梓―いい加減隊長と仲直りすれば?」
その言葉に、梓以外の面々も手を止め、目を合わせて同意する。
優季「そうだよーせっかく頑張ろう!ってなってるのに空気悪くなっちゃうー」
梓「別に、仲直りしなくても試合は出来るから」
桂利奈「あいぃ……」
優季の同調に梓は手を止めず抑揚のない声で拒絶する。
その冷たい声に桂利奈が恐れ慄き口から怯えた声が漏れてしまう。
あゆみ「まぁ梓だって好きでツンケンしてるんじゃないからさ。今はそっとしておこうよ」
これ以上突っ込んでもケンカになるだけだと判断したあゆみが、そう言って皆を宥めるも、
あやは納得いかないといった様子で唇を尖らせ、ため息をつく。
あや「はぁ……あんなに先輩!先輩!って懐いてたのに」
梓「私が好きだったのはエリカ先輩だから。あの人は違う」
若干嫌味を込めた言葉も梓には響かなかったようで、ただただ冷たい拒絶だけが帰ってくる。
もちろん、あやも梓の気持ちは分かっている。
なんだかんだ今日まで6人でつるんできた仲で、彼女が逸見エリカという先輩にどれだけ入れ込んでいたのかも近くで見てきたのだから。
その気持ちが裏切られたと思うのも当然で、簡単には仲直りなんてできないだろうというのもあやには分かっているが――――だからと言ってそのせいで自分に被害が出るのは御免被りたいというのが本音だ。
あや「梓ー……」
紗希「……」
不満を露わに梓の名前を呼ぶと、その肩をポンポンと紗希が叩く。
振り向くと、ゆっくりとその首を横に振りあやに意見する。
それでもう、あやはお手上げとなった。
あや「……わかった。もう言わないってば」
あやとしては心残りではあるものの、今ある友情にヒビをいれてまで解決したい問題ではないのだ。
まぁ、時間が解決してくれるよね。
そう、後回しにしてあやは綺麗に拭き終わったメガネを装着し、再び整備へと挑んだ。
277 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/02(日) 00:44:47.32 ID:z9x6Xcan0
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夕暮れの車庫でみほは一人W号と向き合っていた。
履帯のゆるみが無いか、増築したシュルツェンに不備はないか。
W号だけではなく、ほかの戦車も見回って不備が無いかチェックしていた。
沙織「まだやってるの?」
みほ「え……?」
突然後ろからかけられた声に振り向くと、そこには呆れたような顔でこちらを見つめる沙織と、
心配そうに見つめる優花里たちがいた。
沙織「整備、皆頑張ってたし大丈夫じゃない?」
みほ「別に、それを心配しているわけじゃありません。ただ……」
沙織「ただ?」
みほ「……何もせずにいられないだけです」
その呟くような声に、優花里がため息交じりに感嘆する。
優花里「西住殿は真面目ですねぇ……」
みほ「違うよ。ただ、こうやって無心で戦車をいじっている時だけは、私がしたことを考えなくて済むから」
そういうと沙織たちから視線を外し、再び目の前のW号の点検を始める。
みほ「罪悪感に潰されるのも、自分への怒りへ飲み込まれるのも、全部終わってからにしたいから。だから……」
沙織「ねぇみほ。明後日、決勝が終わったら何しよっか」
みほ「え?」
そんなみほの目の前に割り込むかのように沙織がW号に腰かける。
何をしているのというみほの視線をあえて無視して、沙織は小首をかしげて思案する。
沙織「私は……うーん、どうしよう。とりあえずお風呂入って、ご飯食べてー……」
優花里「それいつもの事じゃないですか」
優花里が即座に突っ込んで沙織はそれにむー!と頬を膨らませる。
すると、今度は華が両手の指先を合わせて思い付いたように頭頂部のくせ毛を揺らす。
278 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/02(日) 00:46:49.70 ID:z9x6Xcan0
華「決勝後なんですからもっとこう、いつもと違う事がしたいですね」
麻子「寝る」
沙織「それこそいつもの事じゃん……」
相変わらずな麻子に沙織はジト目で呆れると、その視線を未だ状況を理解してないみほに向ける。
沙織「ねぇみほ。何がしたい?」
みほ「……そんなの、考えてられませんよ。だって、決勝で勝てなかったら……」
沙織「それでも、だよ」
みほの言葉が言い終わる前に沙織は言葉をかぶせてくる。
沙織「勝っても負けても明日は来るんだから。だから、何をしようか考えるの」
車庫の天井を見上げて、沙織は嬉しそうに語る。
沙織「勉強でもいいし、遊びでもいいし、とにかく予定を立てるの」
華「なら私、行ってみたいレストランがあります」
優花里「それたぶん一人前が4人分とかそういうところですよね?」
麻子「打ち上げするならちゃんと予約しないとな」
優花里「あー生徒会に頼んで良いところ予約してもらいますか」
華「アンツィオの皆さんに頼めたら良いですね……料理、とっても美味しかったですから」
優花里「頼めばやってくれそうなのがあの学校の凄いところですね……」
あれやこれやと好き勝手に語りだす面々に沙織は再び頬を膨らませる。
279 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/02(日) 00:54:41.02 ID:z9x6Xcan0
沙織「もー!ご飯の事ばっかじゃなくてさー!!ほら、旅行とかそういうの!!」
麻子「めんどくさい」
華「あまり、どこに行きたいというのは……」
優花里「あ、自衛隊の総火演行きたいです決勝後にありますし。プロが動かす戦車は迫力満点です!!」
沙織「また戦車ぁ?」
優花里「聞いたの沙織殿じゃないですかっ!」
沙織「はぁ……ま、いっか。とりあえずその方向で」
優花里「やったー!!」
蚊帳の外のままいつのまにか話が纏まっている事にみほがオロオロとしていると、
沙織は悪戯っぽく微笑んでみほに語り掛ける。
沙織「みほ、決勝頑張ろうね」
みほ「……私に出来る事なんてたかが知れてますけどね」
沙織「もぉ……」
相変わらず自虐的なままのみほをどうしたものかと沙織が腕を組むと、優花里が拳を握って力説しだす。
優花里「西住殿の力があったからこそ、ここまでこれたんですってば!」
麻子「謙遜も過ぎれば嫌味になるぞ」
みほ「……ごめんなさい。でも……」
申し訳なさそうに頭を下げるものの、一向にその表情に明るさが灯る事は無く、
沙織はもういいと言わんばかりに、ジェスチャーで頭を上げるよう伝える。
沙織「わかったわかったから!そんな落ち込まないでよ」
華「気落ちしたところで芽吹くものはありませんよ」
みほ「はい……」
気遣われるばかりで、何も出来ない自分をみほが恥じて俯く。
それを見かねて沙織たちが口々に励ましの言葉をかける。
ようやくみほが顔を上げようとした時―――――コンクリの床を何かが打つ音がした。
280 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/02(日) 00:57:18.45 ID:z9x6Xcan0
その音がした方にみほたちが振り向くと、夕日を背負って立つ人影があった。
その顔は影になって見えない。
「ここにいたのか」
けれども、その声を、その姿を、みほは良く知っている。
みほ「え……?」
知っているが、だけどその人物はここにいるはずのない人のはずだ。
また一つ、床を打つ音がする。
その音は、影が履いているローファーの底が鳴らしていた。
「勘というものもバカにならないな。まぁ、お前がいそうな場所なんて見当がつくが」
ふっと、鼻で笑う音が聞こえる。
その声色は嘲るかのように上ずっている。
そしてその言葉とは対照的にみほがどんどんと青ざめていく。
281 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/02(日) 00:59:51.59 ID:z9x6Xcan0
みほ「なん、で……」
「ん?ああ、せっかくだからな。決勝で戦う隊長さんと話をしようと思って」
呆然と、息も絶え絶えなみほの姿をまるで気にせず、影は世間話でもするかのように返答する。
そんなみほの姿を見て影はまた一つ、鼻で笑う。
「どうした。そんな驚く事ないだろう?試合前じゃゆっくり話せないだろうからな。……まぁ、なんにしても」
その靴底が、最後だと言わんばかりに大きく音を刻む。
倉庫の明りに照らされその表情が露わになっていく。
光に照らされ、夕日を背負うその影は、
まほ「久しぶりだなみほ。元気そうで何よりだよ」
侮蔑と、怒りを露わにするように牙を剥いて笑った。
282 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/02(日) 01:01:39.19 ID:z9x6Xcan0
ここまでー。
アマプラにガルパンのシリーズ全部来てたのでまたマラソン始めてしまいました。
来週はまほさん大暴れ回です。
また来週。
283 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/02(日) 01:33:36.44 ID:z3Diwbcy0
お姉ちゃん……流石に皆の前で殴ったりはしないよね……?いや、今のお姉ちゃんは何でもしそうだからな……来週が楽しみだ
284 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/02(日) 06:12:54.15 ID:EXBiv0+F0
お姉ちゃんが悪者扱いされそうでもう心が痛い…
みほのエリカ猿まね遊びの1番の被害者お姉ちゃん説
285 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/02(日) 07:53:37.59 ID:z/zqS1uAO
口調がもどってるの即バレるなあ...
もうしらね
お疲れ様でした!
286 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/06/02(日) 17:53:51.70 ID:Sctsnb2w0
決勝戦が終わった後にみほが行方不明になるなんて、あのガルパンssみたいなオチはやめてくれよ。
287 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/02(日) 22:12:08.17 ID:iuAmQCzF0
お姉ちゃんからしたら弱いままでいられたみほをずっと許せなかっただろうからな
とはいえみほがエリカになった時点でまほがどうにか出来た問題でも無かっただろうしどうなるかなぁ
288 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/06/04(火) 14:28:07.80 ID:y4Z24JuV0
ヒェッ……
乙
>>1
ーシャ
289 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/06/08(土) 19:01:03.25 ID:bb7UCRFU0
まだ?早く更新してほしいんだけど。
290 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/06/09(日) 00:19:20.78 ID:yV50ERjy0
まあまあ……ドリタンでもやって落ち着けよ……
おすすめは10式でセンチュリオンをひたすらボコり続けることだ 心が洗われるぞ
291 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/09(日) 00:23:40.17 ID:r9PzCrqV0
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・
昼下がりの隊長室。
黒森峰の戦車道チームをまとめ上げる者のみが使える部屋で、まほは一人机についていた。
片手でペンを弄びながら気だるそうに書類を眺めていると、に荒々しく扉を開く音がこだました。
まほ「ノックぐらいしたらどうだ?」
手元の書類から目を離さず、まほは来客に向かって声を掛ける。
「堅苦しい事言うなよ。私とお前の仲だろ?」
「ごめんなさい突然……でも、私たち隊長に言いたい事があってきたの」
入ってきたのは二人。一人は短髪の活発そうな少女。もう一人はお淑やかな長髪の少女だった。
普段の彼女たちを知っている者ならばその様子が決して穏やかなものでは無いと察することが出来ただろう。
片方は目じりを険しく吊り上げ、もう片方は憔悴したように、心配している様に陰を写していた。
まほ「決勝の事なら心配ない。万全を期している。それはお前たちもよくわかっているだろう?」
「とぼけんなよ。私たちが言いたいのはそんな事じゃねぇ。お前……最近無茶しすぎだ」
短髪の少女はそういって爪先で床を叩く。
その音にまほは苛立つように眉根を寄せるものの、やはり書類からは目を離さず答える。
まほ「……練習量の事なら決勝前なのだから多少負荷をかけるのは仕方が無い。お前たちも納得してるだろう」
「私たちの事じゃねぇ。お前の事だ。それと……赤星も」
まほ「……どうしてだ」
「お前の乗員が訴えてきたよ『隊長がこのままじゃ倒れちゃう』って。あんま乗員に心配かけさせるものじゃないぞ」
292 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/09(日) 00:36:02.50 ID:r9PzCrqV0
小さく舌打ちが聞こえた。
まほ「……余計な事を」
忌々しさ、苦々しさを隠さず顔をしかめるまほにたち短髪の少女が前に出ようとするも、その肩を長髪の少女が掴んで止める。
そして入れ替わるように前に出ると、優しく、気遣う様な声をかける。
「あなたが一生懸命なのはよくわかるけど、だからって今のやり方はおかしいわよ」
まほ「……私が乗るフラッグ車のメンバーなんだ。私の指示についてこれるよう他の隊員以上に練習するのは仕方がない」
「だからっ!!そうじゃねぇって言ってんだろっ!?」
我慢できなくなった短髪の少女が机を叩いて体を乗り出す。
額同士がぶつかるほどの距離でも、まほはまったく表情を変えない。
「お前、昨日はいつ寝た?食事はちゃんとしてるのか?」
まほ「……お前には関係ない」
「目元、クマが酷いぞ」
その指摘の通り、まほの目元にはクマが濃く表れている。
目は充血し、髪はツヤが無く、短く切りそろえているからこそ辛うじて人前に出られる程度には整えられている。
そんなまほの様子に長髪の少女が懇願するように両手を胸の前で握りしめる。
「お願い隊長、ちゃんと休んで……みんな、心配して……」
まほ「問題ない。この程度なら決勝でも問題なく戦える」
「お前っ……」
「……なら、せめて赤星さんを止めて。あの子はある意味……あなた以上に危ういわ」
今にも殴り掛かりそうな短髪の少女を手で制しながら、長髪の少女がそう訴える。
今のまほには説得が届きそうにはない。ならせめて、後輩の事だけでもなんとかしておきたい。
そんな彼女の考えを知ってか知らずか、まほはまるで心配した様子もなく、
まほ「……普段の練習はしっかりやってる。副隊長としてもまぁ……及第点だ。私から言う事は無い」
「お前の目は節穴か?あいつ、今にもぶっ倒れそうだぞ」
まほ「……まぁ、それならそれで仕方ないさ」
「あ?」
まほが軽く、まるで明日の天気でも伝えるかのように言った言葉に、低く唸るような短髪の少女の声がぶつかる。
まほ「言って聞くようならそもそもあそこまでにはならないだろう。それに……」
まほ「別に、副隊長なんていてもいなくても変わらないさ。私がいれば充分なんだからな」
293 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/09(日) 00:43:04.61 ID:r9PzCrqV0
殴り掛かろうとしたその拳はまほの目の前で掴み止められた。
短髪の少女は震える拳を更に握りしめて、それを遮った長髪の少女を睨みつける。
けれどもその視線に返事はなく、長髪の少女はまほをじっと見つめている。
「……隊長、いえ西住さん。今のは聞かなかったことにするわ」
まほ「……」
その言葉には返事をせず、まほは席を立つ。
掴む手を振り払って短髪の少女がその背中を声で引き留める。
「おい、どこ行く」
まほ「悪いがおしゃべりはここまでだ。実家に行く用があってな」
「んなもん後にしろ。まだこっちの話が終わってないんだ」
まほ「私は最初からお前たちと話すつもりは無いよ」
「っ……」
ドアノブに手をかけたまま、まほは振り返らず答える。
まほ「安心しろ、ちゃんと優勝させてやるさ」
「……お前は、それでいいと思ってるのか」
「西住さんあなただってわかってるでしょ?このままじゃ……」
まほ「お前たちに、私の何がわかる」
声色が変わる。
深く、重く、怒りと悲しみを混ぜ合わせた色を二人は感じ取った。
まほが振り返る。
二人に近づき、その眼を見つめる。
視線だけで眼球が押しつぶされるかと思うほどの迫力に、二人はたじろいでしまう。
その姿にまほは興味を失ったのか、あるいは怒りを通り越したのか。見下すように冷たい視線を向けて再びドアノブに手をかけ、扉を開く。
まほ「私の気持ちがわかるやつなんてもう、この世にはいないんだ」
その言葉を最後に扉は閉ざさた。
扉の外からコツコツと床を鳴らす音が聞こえ、段々と小さくなっていき―――聞こえなくなった。
主のいなくなった隊長室に、二人は無言でたたずむ。
そして、
「――――――クソッ!!」
閉まった扉を前に一歩も動けず、そんな自分への苛立ちを込めて短髪の少女は机を殴った。
294 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/09(日) 01:08:52.94 ID:r9PzCrqV0
・
・
・
まほ「お母様に報告するために家に帰ろうとしたんだが、たまたまこの学園艦が近くにいると知ってな。せっかくだから寄らせてもらったんだ」
大洗女子学園の車庫。
夕陽が窓から入り込む中で、まほは世間話でもするかのようにみほたちにそう語る。
けれどもその雰囲気には一切の喜びも、あるいは気楽さも感じず、
気安い態度から発せられる刺すような緊張感がみほたちを竦ませる。
特に沙織はその空気に耐えきれず、逃げるように後ずさりをした。
その様子にまほは口だけ笑顔を作ると、指でみほを指す。
まほ「おいおい、そんな怖い顔をしないでくれ。別にこいつをどうこうする気は無いさ」
「沙織さん……大丈夫ですから」
沙織「でもっ……」
まほ「……ああ、やっぱりあのふざけた真似事はやめたのか」
「お姉ちゃん……」
みほの態度から自分の推測が正しいと確信すると、まほは蔑むようにみほを見つめる。
まほ「仲間たちの前で嘘を暴かれて、それでも嘘を貫けるような面の皮は持っていなかったようだな?」
みほは何も言い返せず、俯く。
そんなみほを庇おうと、麻子がまほの視線を遮って前に立つ。
麻子「嫌がらせに来たのなら帰ってくれ。私たちは忙しいんだ」
まほ「あなた……確かこいつの友達だったわね。おばあ様の容態はどう?」
麻子「……おかげさまで元気だ」
警戒を解かず睨みつけてくる麻子に対してまほは優しく、嬉しそうにその表情を緩ませる。
まほ「そう、それは良かった。本当に……家族は大事だものね」
麻子「……ああ」
先ほどとは打って変わって気遣う様な素振りをみせるまほを怪訝に思いつつも、麻子はみほをまほの視界に入らないようその小さな体で隠し続ける。
すると、まほの視線は麻子―――その後ろのみほから離れ、今度は隣に並ぶ沙織たちに向けられる。
295 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/09(日) 01:30:54.43 ID:r9PzCrqV0
まほ「そういえば……そこの3人も前に見たな。お前の戦車の乗員か?」
みほ「……友達、だよ」
麻子をそっと手でどかし、みほが震える声を出す。
まほはまた、先ほどと同じく蔑むようにみほを見つめる。
まほ「へぇ?4人も友達が出来たのか。凄いじゃないか。こっちにいた時よりも随分社交的になったんだな?」
その軽口にみほがなんと答えようかと逡巡するも、答える前に新たな質問がかぶせられてくる。
まほ「それで?次は誰になるんだ?」
みほ「え……?」
自然と喉から漏れた声。
まほが何を言っているのかみほには理解できなかった。
まほ「エリカになれなくなったのなら、今度はそこの中から選ぶんだろう?ルーレットか?くじ引きか?それとも四人一役か?」
みほ「お姉、ちゃん……」
まほ「もっとも……そんな事したってお前はまた逃げ出すのだろうけどな」
まほがみほに近づく。
みほが後ずさると、その後退は先ほどまで整備していたW号によって止められた。
厚く冷たい鉄の感触と、それ以上に冷たい汗が伝うのを背中に感じた。
まほ「まさかお前のようなクズが決勝にまで出られるとは思わなかったよ。実力もだが何よりも心が弱いお前がな」
みほはもちろん、麻子も沙織も優花里も華も、まほの気迫に動けなくなる。
まほ「途中で嫌になって逃げださなかったのを誉めてやろうか?あははっ、それは気が早いか。明日にでも逃げてるかもしれないしな」
嘲りを、侮蔑を、怒りを隠さずまほは笑う。
その姿は、その嘲笑にはみほの知っている姉の姿はどこにもない。
296 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/09(日) 02:18:53.69 ID:r9PzCrqV0
まほ「貧弱な戦車と、素人を集めてお山の大将は楽しいか?やりたいようにやって、好き勝手振舞うのはさぞかし楽しいだろうなぁ?」
そう言って隣で震えて縮こまる沙織たちに目を向ける。
まほ「お前たちも災難だな?こんなのにそそのかされて、たまたま運が良かったばかりに大舞台で笑いものにされるんだから」
みほ「お姉ちゃんっ!!」
友達を馬鹿にされ、みほがたまらず叫ぶ。
すると、まほの表情から笑顔が消え不機嫌そうにため息を吐く。
まほ「……今さら正気に戻ったつもりか?なら、もう遅い」
みほ「お姉ちゃんっ……私はっ!!」
まほ「あの時こう言ってたな?『大洗に来て友達がたくさんできた』って。なぁ、みほ。エリカから奪った名前と、エリカから奪った姿と、お前の空っぽの中身で作った友達はどうだった?」
みほ「お姉ちゃんっ……私の友達は、みんなはとても素敵な人たちなのっ!!だからッ」
まほ「黙れッ!!」
みほ「っ!?」
突然、弾けるようにまほの怒りが轟く。
怒りのあまり目元に涙を浮かべ、まほはみほを睨みつける。
まほ「全部全部偽物だっ!!お前もっ!!その友達もっ!!」
空気を薙ぎ払うように腕を振って、弾劾するようにみほたちを指さしていく。
まほ「エリカが亡くなったのは不幸な事故だ……それだけなら皆悲しみを受け入れられた。だがみほっ!!お前は、エリカの全てを奪ったんだっ!!
エリカの家族からッ!!私からッ!!みんなからッ!!」
慟哭が、激昂が、車庫に響き渡る。
あるいは呪詛のようにみほへと向けられたその言葉は、他でもないみほが実感している事だった。
まほ「お前は……お前がッ!!エリカをもう一度殺したんだッ!!」
実感していた、はずだった。
297 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/09(日) 02:31:28.88 ID:r9PzCrqV0
呼吸が乱れ、肩を揺らすまほ。
その眼前でみほは虫の息のようにか細い呼吸しかできなくなっていた。
みほ「お姉……ちゃん……」
それでも何とか声を出す。
その言葉が自らを指し示している事が不快だと言わんばかりにまほは顔をしかめる。
まほ「なんだその顔は?『そんな事思ってもいなかった』とでも言うつもりか?だとしたら、お前は本当に救えないな」
みほ「……ごめ、んなさい」
絞り出すようにそう告げると、その胸倉をまほが掴み上げる。
勢いのままW号に押し付けられ、ただでさえか細かった呼吸が更に小さく、絶え絶えになる。
けれども、まほの激昂は止まらない。
まほ「今さらなんだッ!?それで許してもらうつもりかッ!?それでッ!!エリカに顔向けできると思ってるのかッ!?」
まほを掴むみほの手からどんどん力が抜けていく。
だけど、まほの声はどんどんクリアに、まるで脳内に直接響いてるかのように伝わってくる。
その怒りが、哀しみが、どうしようもないぐらい伝わってくる。
だから、
まほ「エリカの……私の大切なものを奪ったくせにッ!!お前がッ!!全部壊したくせにッ!!なのにお前はッ!!」
もしもまほがこの怒りのまま自分を裁いてくれるのならそれで姉が満足してくれるなら。
みほが諦めではなく、そう望んだ時、
沙織「やめてッ!!」
298 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/09(日) 02:55:28.14 ID:r9PzCrqV0
まほの手がみほから引きはがされ、離れていく。
磔のようにされていたみほはそのまま膝から崩れ落ち、意志とは無関係に荒い呼吸を繰り返し酸素を取り込む。
優花里「大丈夫ですか!?」
駆け寄ってきた優花里の気遣いに答えようとするものの、未だ呼吸を繰り返すばかりで満足に声を出す事も出来ずみほは手をあげる事で無事を表現する。
そのみほの前では沙織と華がまほにしがみつき、麻子が先ほどのようにみほの前に立ち両手を広げてまほに立っていた。
まほは沙織たちを振り払おうともがくものの、無理やり引きはがそうとはしない。
まほ「離せッ!!部外者は引っ込んでろ!!」
沙織「部外者じゃないっ!!」
その言葉に、まほの動きが止まる。
今度はゆっくりと沙織たちの手を離していき、みほではなく、沙織を睨みつける。
突き刺さり、体の内側で暴れているのかと思えるほどの視線。
それでも沙織は逃げずに視線をぶつけ、食らいつく。
沙織「私は……私たちは、みほの友達ですッ!!」
その言葉を鼻で笑う。
まほ「……こいつの名前も素性もついこの間知ったばかりなのに友達か?」
沙織「違うっ!!私たちは、みほと出会ってた!!初めて会った時からずっと、私たちが過ごしてきたのは西住みほだよ!!」
恐怖に負けないよう必死で拳を握る。
気圧されないように瞬きすらせず睨みつける。
沙織「名前を知らなくたって、素性を知らなくたって、私たちはっ、今日まで一緒に戦ってきたみほの友達だッ!!」
沙織は喧嘩なんてしたことが無い。あるとすれば精々そこで座り込んでいるみほの頬を叩いたぐらいだ。
だけどもし、まだまほがみほに危害を加えようとするのなら、立ち向かうつもりだった。
そしてそれは他の3人も同じだ。
華も優花里も麻子も。その瞳には先ほどまでの怯えは一切なく、まほへ揺るがぬ視線を突きつける。
みほを守るように周りを囲む沙織たちを見て、まほが目を閉じる。
空気から重さが消え、刺すような緊張感が解けていく。
そして、まほがゆっくりと目を開きみほを見つめる。
299 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/09(日) 02:56:39.87 ID:r9PzCrqV0
まほ「……ここが、お前の居場所なのか。あの子たちはお前にとって大切なものなのか」
敵意のこもってない声にようやく整った呼吸でみほはたどたどしく返す。
みほ「……私は、何もかも投げ出して、逃げ出してここに来た。嘘をついて、誰かを傷つけて、その先でまた誰かを騙して傷つけた」
許さる事ではない、許されてはいけない事だ。
自分がした事を考えればそれは当然の事だ。
それでも、
みほ「それでも、私が嘘をついてた時から、沙織さんたちは優しくて、強くて……私は、私はずっと憧れてた」
嘘が白日の下にさらされても、彼女たちは自分を案じてくれた。
何一つ真実なんて知らなず、嘘で塗り固められた自分を本気で心配して、それでも友だと言ってくれた。
だから、
みほ「だから、だから……こんな私を見捨てないでくれるのなら、友達だと言ってくれるのなら……私も、それに応えたい」
償いから逃げ罪だけを重ねてきた。
けれども、もう逃げたくない。
みほ「空っぽの私が、それでも皆の為に何かできるのなら……私の全てを尽くしたい」
未だに、大洗を居場所だとは思えていない。
思うつもりもない。
こんな自分に彼女たちがいる『世界』は相応しくないから。
今ここにいる事さえおこがましいから。
だから、みほはせめてもの恩返しをしたいと思った。
みほ「お姉ちゃん……私のした事、許せなくて当然だと思う。あなたは何も悪くないのに、私は自分勝手にあなた達を傷つけた」
姉の気持ちは痛いほどわかる。
己のしたことを考えれば姉の態度はむしろ優しいとまで思えた。
みほ「だけど……決して私は黒森峰に、お姉ちゃんたちに敵対するつもりはないの。ただみんなの為に、出来る事がしたいの」
300 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/09(日) 03:00:39.63 ID:r9PzCrqV0
床に手をつき、額を付ける。
差し出せるものなど何もなく、プライドも何もない自分の土下座なんて何の意味も無いとみほはわかっている。
それでも今はこうすることしか出来ないから。
みほは額をこすりつける。
みほ「手加減してとか、許してくれとかじゃなくてただ……決勝が終わるまで待ってください。それさえ終われば……私はどんな報いでも受けます」
まほがじっと自分を見下ろしているのを感じる。
やがて、そっとまほが跪き、みほを起こした。
姉の行動に動揺するみほを立ち上がらせ、その肩を押し沙織たちの下へとやると、ゆっくりと目を閉じる。
何かを考えるかのように天井を見上げ、ゆっくりと目を開く。
まほ「……みほ、訂正するよ。お前の友達は偽物なんかじゃない。本当にお前の事を大切に思ってくれている」
ちらりと瞳だけで沙織たちを見ると、
その口元に微笑みが浮かぶ。
瞳が嬉しそうに潤む。
まほ「そしてお前もまた、ここにきて何かが変わろうとしてるのかもな。自分勝手に生きてきたお前が、皆の為に何かをしたいだなんて……良かった」
感慨深そうにそう頷くと、まほは右手で目を覆う。
手の隙間から零れた涙がコンクリートの床を濡らした。
そして、
みほ「お姉ちゃん……」
まほ「ああ、良かった。本当に……本当に……」
その涙を乱暴に拭う。
隠れていた表情が露わになる。
真っ赤に充血した瞳が、
裂けそうなほど吊り上がった唇が、
まほ「だって……だってこれで、お前に罰を与えられるんだからなッ!!」
どす黒い歓喜を称えていた。
301 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/09(日) 03:03:50.53 ID:r9PzCrqV0
憎しみを喜びで包み込んだらこんな表情になるのだと、
こんなにもおぞましいものになるのだと、
みほたちは初めて知った。
まほ「空っぽの偽物を壊したところでなんの報いにもならない。お前が、本当に大切なものを見つけたというのなら。居場所を見つけたというのなら、全部叩き壊してやる」
みほ「お姉、ちゃん……」
まほ「知ってるよみほ。明日の決勝に負けたら、大洗は廃校になるのよね?」
うっとりと、思いを馳せるようにまほの笑顔に艶が入る。
みほたちを見ているのにまるでみほたちを見ていない。
恐らく、まほが見ているのは未来――――決勝の日。その結末。
まほ「くふふっ……その時お前はどんな顔をするんだろうな?今度はどんな言い訳で自分から逃げ出すんだろうな?」
我慢しきれないといった風に口の端から笑い声が漏れる。
その口元をおさえ、粘土細工でもするかのように唇を結ぶと、今度はしっかりみほを見つめる。
その瞳に宿る感情に、みほはようやく理解する。
―――自分の罪が、ここまで姉を変えてしまった、と。
まほ「覚悟しろ。私が、お前から命以外の全部を奪ってやる」
そう言い切ると、再び我慢できなくなりけらけらと笑いだす。
まほ「ふふっ、あぁ……楽しみでしょうがないよ。……みほ。もう一度、全てを失え。それが――――お前への罰だ」
最後通牒。
―――お前を、許さない。
元より姉はそのつもりだったのだとみほは理解した。
夕陽の中呪いのような笑い声をあげながら去って行く背中にみほは、みほたちはただ立ち尽くし、目を逸らす事も出来なくなっていた。、
302 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/09(日) 03:05:40.95 ID:r9PzCrqV0
遅くなりましたがここまでー
次回から決勝に入る予定ですが…来週は別のガルパンSSを投稿したいのでこっちはお休みします。
ちょっとだけ待っててください。
一応内容だけ言うとみほとエリカが友達じゃない話です。
303 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/09(日) 03:59:35.18 ID:3Kz+urJX0
お姉ちゃん頑張れ!
304 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/09(日) 04:24:28.30 ID:demKR+/6O
乙でした
お姉ちゃん荒ぶってるなぁ…誰かお姉ちゃんも救ってあげて
305 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/09(日) 04:56:16.75 ID:jPXv/KEh0
乙でした!
最初から最後まで緊張感マックスな展開で胃が擦り切れそう
久しぶりの単発楽しみにしてます!
306 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/09(日) 07:40:48.44 ID:ou9CUYTgO
このままではいずれ殺される気がする
気をつけろみぽりん!
もはやお姉ちゃんは修羅ぞ
307 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/09(日) 09:17:03.63 ID:04/mPBWi0
おつおつ
どう考えても修復不可能なんですが…
お姉ちゃんがこのまま過労死したらみほにはお姉ちゃんになってもらおう(提案
308 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/09(日) 22:49:00.49 ID:RsAP6VmI0
やべえよやべえよ・・・。
命だけは取らないって言ってるけど、正直それも怪しいな。
309 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/10(月) 01:06:33.13 ID:2z7ozHNDO
乙です
まほはみほが生きて苦しむ様を見続けたいのだから殺しはしないでしょう
まほがさらに精神的に壊れたらその限りでは無くなるだろうけど…
310 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/10(月) 04:22:42.61 ID:fyviDJdN0
カチューシャ相手に怒りぶちまけてた頃はまだ、理性も姉妹愛も残ってたろうに
しほさんが子育てセンスなさすぎる所為で… なんとか言えよこの家元(未就任)
311 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/10(月) 09:45:04.75 ID:tuPqG0GX0
大洗学園絶対潰すマンと化した姉御。
この分だと仮に廃校回避できたとしても、文科省に「大洗を潰せ」って直談判して、辻を逆にドン引きさせそう。
312 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/11(火) 00:09:28.46 ID:k/f852Bi0
こういう壊れた女の子見ると勃起を抑えられない
313 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/11(火) 12:19:34.48 ID:J/ntnUCf0
罰も何もエリカが氏ぬ前からずっとみほに嫉妬して奪おうとしてたじゃんお姉ちゃん…
よっぽどからっぽのすっからかんだよ
314 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/12(水) 04:35:59.52 ID:Q8NA5/340
>>311
大洗を…潰してやる!
315 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/13(木) 11:30:53.13 ID:e8LuSTjZO
このまほは小梅ちゃんが倒しそう
鈍器のようなもので
そろそろサスペンス劇場に突入しても違和感ないぜ
316 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/13(木) 13:00:01.05 ID:nWqwRRGbo
お姉ちゃんの方が死にそう
317 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/13(木) 21:46:58.19 ID:oM9HV9CIO
「おやおや、これは気になりますねぇ?」
318 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/06/22(土) 21:51:25.72 ID:FlpKlbLw0
早く更新してくれ。待たせるのもいい加減にしろ
319 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/23(日) 00:17:05.10 ID:+nuVNca90
・
・
・
西住邸。その一室でしほはまほ向かい合っていた。
本来ならまほは夕方には来ていたはずだったが用事があったとの事で遅れ、今はもう夜になっていた。
まほ「……お母様、次はいよいよ決勝です」
しほ「ええ」
最初に切り出したのはまほだった。
全国大会の決勝。今までの、今の黒森峰にとってその言葉が示す意味はとても重い。
前年度の優勝を逃し、今年度こそという士気は確かにある。
まほ「まさか、大洗が勝ち進んでくるとは思いませんでしたが所詮は素人集団。黒森峰の敵ではありません」
しほ「……」
まほ「ましてや隊長が逃げ出したやつだなんて……これ以上無様を晒させないためにもしっかりと終わらせます。……もっとも、あいつが決勝に出ない可能性もありますが」
はっ、と鼻で笑うまほ。
侮蔑と嘲りの混じった表情とは対照的にしほの頬は、目じりはピクリともしない。
しかしテーブルの下で握りしめた手には痛いほど力が込められていた。
自分の娘がその妹を嘲笑う。
そんな日が来るだなんて思ってもいなかった。
けれど、そんな現実から目を逸らせるほどしほは弱くは無かった。弱く、なれなかった。
320 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/23(日) 00:20:48.96 ID:+nuVNca90
しほ「……まほ」
まほ「なんですか」
なんと言えばいいのか、どの言葉を選べば伝わるのか。
これが、戦車道の事であれば誰よりも的確な言葉が言えるのに。
しほは内心で自嘲しながら、それでも伝えたい事を伝えるために選んだ言葉を告げる。
しほ「……戦車道は、復讐の道具ではありません」
まほ「……」
しほ「ましてや、あなたとみほは姉妹なのですよ」
まほ「それは、西住流の師範としての言葉ですか?」
冷たい問いかけ。
そこには一切の感情は乗ってない。
だから、しほは精一杯の温度を乗せて答える。
しほ「……あなた達の母としての言葉です」
その返事に、まほは興味を失ったように目を逸らす。
娘の拒絶に胸を掴まれたように心臓が跳ねる。
それでも、諦めるつもりはなかった。
もう一度、まほに伝えようと口を開いたとき、ため息をつきながらまほが立ち上がる。
まほ「……お母様、私はそろそろ戻ります。雑魚相手とはいえ、準備を怠るわけにはいきませんから」
しほ「待ちなさい、まだ話は終わってません」
引き留めようと立ち上がるしほを、まほは瞳で押しとめる。
まほ「……黒森峰は優勝します。……これ以上必要ですか?」
しほ「違います。まほ私はあなたの事を心配して……」
まほ「今さら母親面?」
しほ「っ……」
今度は明確な感情――――侮蔑がそれに乗る。
321 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/23(日) 00:31:47.87 ID:+nuVNca90
まほ「お母様は……お母さんはいつだって、私たちに勝利を望んでたでしょ?今回だってそうするよ。それでいいんでしょ?」
しほ「……まほ、勝利の為に犠牲を厭わない。それは確かに西住流に必要なものです。ですがそれは他者を……自分をみだりに傷つけて良いという理由にはなりません」
まほ「理由ならあるよ。あいつはエリカを騙った。私に、唯一残ったものを奪った」
まほは、わなわなと震える手を胸にあて、握りつぶすように掴んでその震えを止める。
怒りに染まった瞳はしほを見ているようで見ていない。
きっと、『あの子』を見ているのだと、しほは察した。
まほ「全部あいつが悪いのに、誰もあいつを裁かない。なら、私がやる」
しほ「……エリカさんを理由にしたって、あなたが苦しんでいい理由にはなりません。エリカさんだってそれを望むような子じゃ……」
まほ「何も知らないくせにエリカの事を語らないでッ!!」
まほの叫びに押し込まれそうになるも、唇を噛みしめぐっとこらえる。
その姿に何を思ったのか。
まほは戸に手をかけると、しほを見ずに伝える。
まほ「家元、決勝見に来てください。あいつが『終わる』瞬間を見届けてください。それが……あなたの義務です」
しほ「……ええ。元よりそのつもりです」
まほ「ならよかった」
しほ「まほ」
僅かに震える声がまほを引き留める。
信じて欲しいと、向き合って欲しいと、懇願する。
しほ「…………私に、チャンスをくれませんか」
まほ「……もう、元通りになんてならないんだよ」
まほは吐き捨てるように呟くと、振り向くことなく出て行き、冷たく閉ざれた戸を開いてその背中を追う事が、しほには出来なかった。
322 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/23(日) 00:39:44.32 ID:+nuVNca90
短いですけど今日はここまででごめんなさい。
ちょっと2話見たら振ってきたネタを投稿しちゃいたいので。
また来週。
323 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/23(日) 00:40:46.35 ID:UxB25gZ7o
乙です
324 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/23(日) 00:41:13.18 ID:+nuVNca90
【ガルパン】エリカ「パラレル対談会?」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1561217761/
こちらになります。
登場人物はエリカさん他一名です。
325 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/23(日) 00:54:37.54 ID:0NxAWNlk0
乙
そりゃあアンタがちゃんと母親をやってくれれば二人ともここまでこじれて壊れることは絶対になかっただろうになぁ…
326 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/23(日) 01:01:51.89 ID:Y81fhGKto
乙。勝っても負けても悲劇しか見えない件
327 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/23(日) 01:06:58.11 ID:VJYKfZ6n0
乙ーシャ!
ご自分のペースで構いませんよー
328 :
◆eltIyP8eDQ
[sage saga]:2019/06/23(日) 02:22:59.38 ID:+nuVNca90
>>321
まほは吐き捨てるように呟くと、振り向くことなく出て行き、冷たく閉ざれた戸を開いてその背中を追う事が、しほには出来なかった。
↓
まほは吐き捨てるように呟くと、振り向くことなく出ていった。
冷たく閉ざれた戸がまほの心のようには見えるも、戸を開け、その背中を追う事が、しほには出来なかった。
上記のように訂正します。
329 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/23(日) 05:21:50.76 ID:khqiStFZO
ああ、なるほどパラレル対談よんでて気がついたよ
この世界線のエリカさんは異世界転生して生きてるんだね?
よかったよ。
いやもしくは過去転生して本来なら有り得なかった可能性として再び生を受けたのだろう。
あんこうの誰かとか小梅ちゃん(957週目)とかにダウンロードされてんだろう。
うん。素敵やん。
330 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/23(日) 10:42:12.84 ID:He5TkIO50
お姉ちゃん、かつてのみほみたいになっちゃってるよ…
こんな状態の西住姉妹を戻せるのもきっとエリカなんやろうなあ
331 :
◆eltIyP8eDQ
[sage saga]:2019/06/23(日) 16:46:40.87 ID:+nuVNca90
あ、誤字発見。
>>321
まほ「家元、決勝見に来てください。あいつが『終わる』瞬間を見届けてください。それが……あなたの義務です」
↓
まほ「師範、決勝見に来てください。あいつが『終わる』瞬間を見届けてください。それが……あなたの義務です」
上記のように訂正します。
332 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/24(月) 18:09:45.26 ID:6R364Hp70
自業自得とはいえ流石にちょっと、しほりんが可哀想になってきたな。
333 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/26(水) 10:39:40.48 ID:gx/rDpCs0
パラレル対談会面白かった、その後にここ読み返すと頭が混乱しそうだw
334 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/26(水) 12:31:44.95 ID:7SHbpSu5o
>>330
エリカはもう居ないんだ……
335 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/27(木) 17:12:52.08 ID:NMqOcxucO
小梅ちゃん先々週からスタンバってそう
336 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/30(日) 00:13:19.16 ID:GvqkCp0m0
・
・
・
夢のような時間だった。
『みほ』
彼女がいて、私がいて。
それだけで、『世界』が輝いていた。
だから、それが『終わった』時、夢は、悪夢に変わった。
どれだけ泣いても、どれだけ叫んでも、悪夢から覚めることは無く。
気が付くと、夢はもう遠く、小さくなって、代わりに空っぽの私だけが残されていた。
だから私は、永遠に眠り続けるために、夢を見続けるために、私を捨てた。
それしか考えられなかった。
そして、
『だって……だってこれで、お前に罰を与えられるんだからなッ!!』
ようやく理解した。これは、夢なんかじゃない。現実なのだと。
私が、姉の現実を悪夢に堕としてしまったのだと。
『もう一度、全てを失え。それが――――お前への罰だ』
脳裏にこびりついたその声が、その表情が、私のしたことを理解させる。
あんな表情をする人じゃ無かった。あんな、憎悪に満ちた怨嗟を発する人じゃ無かった。
自分が、そうさせてしまった。
ならば、どう償えばいいのか。
わからない。だって私はまだ、何一つその術を見つけられていないのだから。
今の私には、命さえ自由に出来ないのだから。
私に、道を示してくれる人はもう、いないのだから。
337 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/30(日) 00:22:23.13 ID:PTO3S7Hqo
はじまった、期待
338 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/30(日) 00:29:18.80 ID:GvqkCp0m0
・
・
・
甲高いチャイムの音が、みほの意識を浮上させる。
どれだけ深い眠りについていようとも否応なしに目覚めを引き起こすその音は、ある種の条件反射を引き起こすのかもしれない。
一回。
二回。
チャイムが押されると、今度は扉の向こうから声が聞こえてきた。
沙織『みほー!!もう行くよー!!』
その聞きなれた声は、けれども今聞こえるには不自然で、みほは布団を跳ねのけるように起き上がるとまだ寝ぼけている頭を揺らしながら玄関に向かい、扉を開けた。
沙織「あー!まだパジャマなのー?良かった迎えに来て……」
扉の前で待っていた沙織は呆れと安心を混ぜ込んだようなため息を吐く。
対してみほはあっけにとられたまま目を見開いていた。
みほ「なんで……」
突然の訪問はみほの予定には無かった。
もちろん今日が決勝の日だという事は承知しているが、今までの試合と同様集合場所に各々集まる予定だと思っていたからだ。
みほが驚きと疑問で漏らした呟きに沙織は一瞬目を伏せると、眉尻を下げて微笑む。
沙織「……みほさ、お姉さんの事で色々悩んでそうだし、ちょっと朝起きるの辛いかなって。麻子はゆかりんたちに起こしに行ってもらってるよ」
先日のまほの訪問。その場には沙織たちもいた。
怒りなんて言葉では足りないほどのまほの激情を彼女たちも目の当たりにしていたのだ。
そしてその原因は他でもない自分で、つまり沙織たちはただただ巻き込まれただった。
だからみほはまず頭を下げた。
みほ「……ごめんなさい、迷惑かけて」
沙織「良いよ。迷惑かけてくれた方がずっと良い。何も言わずに、どっかいかれるほうがずっと嫌だから」
微笑みながら言われたその言葉に、みほは何も返すことが出来なかった。
唇を噛みしめ、ただじっと頭を下げる事しか出来なかった。
そんなみほの肩を沙織はポンと叩くとそのまま部屋に押し戻そうとしてくる。
沙織「……ほら!さっさと着替えて!!髪も梳かして!!朝ごはんにお弁当作ってきたからみんなで食べよう?」
みほ「……はい」
そのあまりにも真っすぐで優しい笑顔に、みほはただ力なく微笑み返した。
339 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/30(日) 00:51:51.01 ID:GvqkCp0m0
・
・
・
大洗の港から駅に向かい戦車を輸送できる特別列車に乗り込んでそのまま数時間。
大洗女子学園の面々がたどり着いたのは、富士の膝元にある東富士演習場。
今日行われる第63回戦車道全国高校生大会の決勝、黒森峰女学園対大洗女子学園の試合が行われる会場である。
優花里「戦車道の聖地!!まさか選手として来られるだなんてっ……!」
試合会場を見下ろしながら優花里が感激の極みといった様子で打ち震える。
優花里ほどではないにしろ沙織たちも同じことを思っていたようで、緊張、喜び、あるいは不安。
それらの感情が混ざった複雑な表情をしていた。
そして、そんな彼女たちの隣でみほだけは、無表情でじっと空を見つめていた。
340 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/30(日) 01:05:46.95 ID:GvqkCp0m0
・
・
・
決勝の試合会場にはそれまでの試合会場よりも更に大きいモニター、席数の増えた観覧席が設置されている。
そしてその裏では様々な出店が立ち並んでおり、試合前にそれらで楽しむ観客たちと共に文字通り祭りの様相を呈していた。
そんな喧騒から距離を取って。
試合会場の一角に置かれた整備場所(パドック)では、大洗女子学園の面々が間近に迫った決勝に向けて自車輛の最後の点検に勤しんでいた。
ナカジマ「一応西住さんのチェックもお願いしていい?」
みほ「あ、はい」
パドックの一つではあんこうチームの車輛であるW号が、あんこうチームと大洗の車両整備の責任者であるナカジマによる最終点検を受けていた。
刻一刻と迫る決勝を前に時間はいくらあっても足りず、少しでも、一つでも不備や不安の残らないよう皆集中していた。
「ミホー!!」
そんな時、唸るようなエンジン音と共に明るく、陽気な声がみほの名を呼んだ。
みほが振り向くと、みほたちの前にジープが停車し、ドアを飛び越えて降りてくる人物。
みほ「ケイさん……」
ケイ「久しぶりねミホ!!」
金髪を揺らし朗らかに笑うのは、サンダース大付属高校の隊長、ケイ。
ジープのハンドルを握ったままこちらを見つめる副隊長のナオミと、ケイとは逆にどこかしおらしい様子でドアを開け降りてきた同じく副隊長のアリサ。
3人と会ったのは一回戦ぶりであり(優花里はしばしばサンダースに出入りしていたので久しぶりというほどでもない)、しかしみほが気まずそうに目を伏せたのには別の理由がある。
ケイもそれを察したのか、先ほどまでの明るさを収めて静かに微笑む。
ケイ「今更だけど……ミホ、で良いのよね?」
みほ「……はい」
341 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/30(日) 01:19:54.06 ID:GvqkCp0m0
彼女たちに名乗った名は『西住みほ』ではなく、『逸見エリカ』だ。
ケイの口ぶりからみほは自分の現状はもう知られているのだと察し、降参するように頷く。
元より、ケイとナオミ……アリサも自分の正体なんて知っていたのだろうとはわかっているが。
やはりケイの瞳を見つめられないままそんな事を考えていると、
ケイ「ならミホ。……ごめんなさい」
みほ「え?ちょっ、何……」
ケイと、その隣に立つアリサが深々と頭を下げる。どういうことかとみほがとハンドルを握ったままのナオミを向くと、ナオミもまた申し訳なさそうに頭を下げた。
いよいよ混乱してきたみほの前で、頭を下げたままケイが声を出す。
ケイ「アリサを庇ってくれてたのね」
みほ「え……」
ケイ「本当にごめんなさい。何も気づかなくて。あなたに汚れ仕事させて」
その言葉の意味をみほは直ぐに察した。
サンダースとの試合、その中で対戦相手であるアリサが行った無線傍受。
戦車道のルールには反さないものの隊長であるケイの主義に反するその行い。
バレたらタダでは済まないという事はアリサも覚悟していた。
だからみほは、それを庇った。
口汚い言葉でアリサを、サンダースを罵り、自分に怒りを向けさせることでアリサのしたことを隠した。
それが結果的にアリサに重いものを背負わせ、それを見ていたあんこうチームの面々にも愁傷を抱かせてしまった。
だから、こうやってケイたちに頭を下げられてみほはむしろ申し訳なく思ってしまう。
ケイの隣で同じように頭を下げているアリサに向かって、みほは寂しそうに笑う。
みほ「……言っちゃったんですね」
アリサ「ミホ……ごめんなさい。あなたの気遣いを無為にした」
みほ「……良いんですよ。元々私が勝手にやった事なんですから。むしろ、余計な事しちゃいました。私が変に庇い立てたせいで拗らせちゃったんじゃ……」
アリサ「違うっ!!」
みほの言葉を、遮るようにアリサが声を張り上げる。
目元に涙を浮かべ、唇を噛みしめ、それをゆっくりと解く。
アリサ「違うわミホ。私は……」
その先は言葉にならず、嗚咽交じりに謝罪を繰り返すアリサ。
その肩をそっと抱いてケイがみほに向き直る。
342 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/30(日) 01:32:28.12 ID:GvqkCp0m0
ケイ「……アリサが、話したい事があるっていうから聞いてみたの。無線傍受の事、それをあなたが庇ってくれた事。それと……なんでアリサがそんな事したのか」
みほ「……」
ケイ「いっぱい怒ったわ。なんでそんな事したのか。なんで言ってくれなかったのか」
みほ「……アリサさんは、ケイさんのために」
それ以上言わないで。と、ケイは手みほの言葉を遮る。
ケイ「わかってる。わかってるわ。だから……たっぷりと反省会をしたわ。アリサと、私の二人でね」
ようやく泣き止んだアリサが、顔を上げて赤い目でみほを見つめる。
その姿を見てケイは嬉しそうに微笑む。
ケイ「アリサの気持ちに気づけなかったことを謝った。これからどうしたいのか、どうして欲しいのか。たくさん話した。受け入れられることもそうじゃない事も。一つずつ」
ケイとアリサの視線が合わさる。
彼女たちが一体何を話したのか、どういう結論を選んだのか、
みほにはわからない。だけど、きっと確かな絆が、一回戦を終えた時よりも強固な絆がそこに生まれたのだと感じた。
ケイ「ミホ、私は……正々堂々のフェアプレイが好きだわ」
みほ「……とても素晴らしい事だと思います」
ケイ「でもね、私は知らぬ間にそれをみんなに押し付けてた。ううん、それならまだよかった。アリサの……みんなの意見を聞かずにそれが正しいってみんなハッピーだって思ってた」
アリサがその言葉に辛そうに唇を噛みしめる。
ケイ「だから、アリサのしたことは遅かれ早かれ起きてたと思うの。アリサじゃなくて他の誰かであっても」
その言葉をみほは否定しなかった。
ケイの言う通りだと思っているからではなく、ケイがアリサと向き合って出した結論を否定したくなかったから。
ケイ「ミホ、あなたに辛い真似させたこと本当にごめんなさい。でも……ありがとう。私たちが向き合える機会を作ってくれて」
343 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/30(日) 01:47:12.10 ID:GvqkCp0m0
ありがとう。
その言葉をみほは自分の中で反芻する。
そんな言葉は自分に相応しくないと、吐き出しそうになるのを必死でこらえる。
やがて、ゆっくりと深呼吸をし、ケイを、アリサを見つめる。
みほ「ケイさん、アリサさん。私は……あなた達のようになれませんでした」
みほは思い直したようにかぶりを振る。
みほ「いえ、なろうとすらしてなかった。何も言わず、何も伝えず、いつか来る破綻なんて目に見えていたのに何もせずにいて……当たり前のように壊れた」
それはきっと手のひらに落ちた雪のように儚い夢だった。
いずれ溶けて、消えていくだなんてことわかっていたのに。永遠であって欲しいと願うばかりで何もしなかった。
みほ「なのに大洗の皆はそんな私をまだ信じるって言ってくれるんです」
ケイ「……良い仲間と出会えたのね」
ケイがそう微笑むとみほは悲しそうに笑い返す。
良い仲間。それは、間違いない。
自分にはもったいないほど、大洗の皆は優しく、善良な人たちだった。
だから、
344 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/30(日) 01:52:34.32 ID:GvqkCp0m0
みほ「ケイさん、私の戦車道は勝つ事だ。……以前そう言いましたよね」
みほの言葉にケイは無言でうなずく。
みほ「それは、今でも変わりません。あの時は、エリカさんであるために。エリカさんが唯一褒めてくれた事を汚さないために」
ケイ「……なら、今は?」
その問いかけに、みほは決意と諦観を込めて答える。
みほ「……みんなのために。みんなが諦めてないから。私を、信じてくれるから。だから私は、燃えカスの私を最後の一片まで燃やし尽くします。勝利を、目指して。結果がどうなろうとも」
アリサ「……決勝が終わったらどうするの?」
尋ねたのはアリサだった。
先ほど泣いたばかりなのに、また泣きそうな瞳でみほを見つめる。
それはまるで、今にも崩れそうな積み木を見るような目。
その視線を受け止めたみほは何一つ感情の無い表情で口を開く。
みほ「……生きる」
たった一言。
それが、全てだった。
ケイも、アリサも、何も言えなくなる。
そんな二人を見てみほはうっすらと笑った。
みほ「今は、それしか言えないんですよ。これだけは守らないといけないから」
その約束だけが、今もみほと『彼女』を繋いでいた。
345 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/06/30(日) 01:53:58.54 ID:GvqkCp0m0
ここまでー。
もうちょっとイベント会話が続きます。
最終章のパンフ後編買いに行かないと…
また来週。
346 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/30(日) 02:28:20.68 ID:wJF2XuqD0
乙
完全お姉ちゃん派の俺としては、みほのスタンスが終始気に入らん。
悲劇のヒロイン気取ってるように見える。
エリカが死んで直ぐはまあ仕方ないけど、それからずっとそうだし、みほ自身に戻って心理描写が明瞭になった今はより一層そう思えてしまう。
347 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/06/30(日) 10:31:54.05 ID:13fmDWD/0
乙
>>1
ーシャ
エリみほ原理主義者過激派の俺としては両サイドの言い分憤りも分かるがまぽりんのは嫉妬から来てるってのがな
そんな羨ましいなら入ってくりゃ良かったやんと思う
踏み出せなかったのを転化してる分、不健全さではみぽりんのなりきりに劣るが、同じくらいこのキレ方は質悪い
348 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/01(月) 00:05:10.57 ID:BIUuwP4i0
>>346
>>347
みぽりんが悪い派と、姉御が悪い派か・・・。
それじゃあ間をとって、辻が悪いって事で。
349 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/01(月) 01:31:12.72 ID:00CQZqLq0
この話でここまで来たらもうそんな外部に原因を作って納得する事は出来ないよ
黒森峰も、大洗も
350 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/01(月) 23:05:43.08 ID:024Kn3Ek0
>>348
どっちかが悪いとかじゃないよ、どっちとも可哀想だしどっちとも面倒臭い子
みほのスタンスが気に入らないってだけ
351 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/02(火) 01:13:39.91 ID:hAhMzFBGO
誰が悪いかという話になるとみほとまほ2人とも悪いからね
というよりも、2人以外の殆どの人も大事な事を語ろうとしなかったせいでここまで拗れてきた訳だし
352 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/02(火) 11:20:05.25 ID:+6eS5Qxl0
誰がって、そりゃオトナが悪いよーオトナが
自分達の都合で従来の慣例押し付けて、見たくないモノ無視するために臭いものには蓋をして 少なくともみほ周りはそのやり方通してきた所為で
気づいた時には手遅れになってた感が大きい 原作からして、理不尽に押し付けられる逆境をひらめきと友情パワーで打破してく作品ではあるけど
353 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/04(木) 16:15:26.09 ID:Em5dcxR8O
生きる
このまるで目に光のないこの女の名前は西住みほという。一応、形式的にはこの物語の主人公である。
彼女は毎朝この道を歩いて職場に向かう。
一見端から見れば彼女は忙しそうなごく普通の社会人のようには見えるだろう。
しかし、それは大きな間違いである。
実際には彼女の心は全くの病的な状態にあり、その目にはなにも映ってはおらず、周囲に対しても完全に無感動そのものなのだ。
彼女はただ毎日機械めいて会社に出社しこの椅子に座って必要最低限の仕事をさも忙しそうにこなし他と一切の交流もなく椅子の人となる。
それがここ数年の彼女の全てである。恐ろしいことに他には本当に何もないのだ。
仮に彼女をそれなりに知る者であるならば、そこに虚無とでもいうのだろうか、言い知れぬような何か、もしくはもっと恐ろしいものの片鱗をかいまみることだろう。彼女は終始にこやかに何事もそつなくこなし微笑んではいるが、それはあくまで辛うじて整えた外面に過ぎず、事実、この西住みほという人間の一切合切は、生きているという演技なのである。
「西住くん、...君、やる気あるのかね?」
「...え...はい...すみません」
結論を言おう。この西住みほという人間は、今日から3ヶ月後の朝方、遺体で発見される。
死因は_自殺だ。
その前提の元、この物語は始まる。
これは西住みほ、最後の頑張り物語である。
ででーん。エンターエンターみっしょーん
354 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/04(木) 16:50:31.77 ID:A+Jw5l+8O
そんな未来が見える...
355 :
◆eltIyP8eDQ
[sage]:2019/07/06(土) 01:14:31.47 ID:pcRR3pBI0
ちょっと今晩の投稿難しそうなんで明日でお願いします!!
356 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/06(土) 18:39:16.43 ID:KEZyX9bNO
大佐!大佐アアア!(あ、はい)
357 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/06(土) 23:15:15.25 ID:lp86NVty0
今更だけど週一更新ってすっげえ有難いことだよな
しかも常にハイクオリティ
358 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/07(日) 10:08:18.48 ID:QABo4zqRO
偉大なるガルパンss聖人だ
359 :
◆eltIyP8eDQ
:2019/07/07(日) 23:42:51.86 ID:8KNquDFZ0
重く、深いみほの言葉は周囲の空気に重力を与える。
他でもないみほ本人が自分の言葉に膝をつきたくなるほどに。
アリサの顔はまたもや涙に濡れ、くしゃくしゃになる。
そして、いつもにこやかなケイもその表情を消し去り、じっと考え込むように目を閉じている。
これで、話は終わりか。
そう思ったみほが最後の点検に戻ろうとした時、ケイが口を開いた。
ケイ「……ミホ」
みほ「……なんですか」
ケイ「……いいんじゃないそれで?」
アリサ「はぁっ!?」
軽く、あっけらかんとした声に最初に反応したのはアリサだった。
アリサ「ちょ、ちょっと何言ってるんですかっ!?」
ケイ「えー?だってそれ以外言う事ないんだもの」
アリサが胸倉をつかまんばかりに詰め寄って抗議するも、ケイはめんどくさそうにアリサから目をそらす。
アリサ「なに言ってるんですかっ!?」
ケイ「大丈夫よ大丈夫。ノープロブレム!モーマンタイ!って事」
アリサ「広東語ですよそれはっ!!」
わめくアリサを無視してケイはみほへと向き直る。
その表情には笑顔と陽気さが戻っていて先ほどの重い空気は消え去っていた。
ケイ「ミホ、この世で最もポジティブな事って何だと思う?」
みほ「え……」
ケイ「それはね、生きてる事よ」
360 :
◆eltIyP8eDQ
:2019/07/07(日) 23:58:39.05 ID:8KNquDFZ0
どういう意味かとみほが尋ねる前に、ケイは指で数えながら楽しそうな声を出す。
ケイ「生きていれば好きなもの食べられるしポップコーンとコーラ片手に映画見られるしみんなでバーベキューが出来るわ」
アリサ「食べる事ばかりじゃないですか…」
わめき疲れたのか、息を切らしながらアリサが突っ込む。
そんなアリサにケイはウィンクで返事をすると、やっぱり楽しそうにみほに話しかける。
ケイ「楽しい事は、生きてないと出来ないの。なら、生きるって決めたあなたにはもう何も言う事ないわ。だって、今のあなたはとってもポジティブなんだからっ!!」
みほ「……何の目的が無くても、価値が無くても、それどころか罪を重ねていても、生きていればそれでいいって言うんですか」
ケイ「いいのよ。どんなにバッドな人生でも、明日になればハッピーな事があるかもしれないんだから」
そんな事ない。
エリカを失った日から、明日に希望を持てた事なんてなかった。
みほにとってエリカは全てだったから。
全てを失ったみほは、その絶望と怒り。そして、エリカの言葉で辛うじて生きているだけなのだから。
だから、ケイの言葉を否定しようとする。
私に、幸せなんて訪れない。そんな日が来てはいけないと。
だけど、
みほ「そんな事、そんなの……」
明日に希望なんて無いと分かっているのに。
他でもないみほが、明日の絶望を信じているのに。
なのにケイの笑顔は明日の幸福を信じている。
自分のだけじゃない、みほの幸福まで。
その眩しさに耐えられず、みほは目をそらす。
そんなみほの仕草にケイは微笑みながらうなずく。
361 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/07/08(月) 00:17:00.56 ID:4imz0c/d0
ケイ「良いわよ。いくらでも泣いて。明日も泣くのなら明後日、それでもだめなら明々後日。いつか笑えるわよ。幸せに消費期限なんてないんだから」
そんな事を言われたところで肯定なんてできるわけがない。
だけど、ケイを睨みつける事も否定の言葉を出すこともできず、みほは唇をかみしめる。
すると、ケイは目をそらしたままのみほの視線に回り込むと、立てた人差し指をグイと突き付ける。
ケイ「それじゃあ最後に、あなたにホームワークをプレゼントするわ!!あなたの戦車道を、今日の決勝で示して」
みほ「……」
ケイ「あなたがどうありたいのか、それが出来るのか。試合の中で表現して見せて。あなただけの輝きをみんなに見せて」
みほ「私だけの輝き……そんなの」
ケイ「いいえ、あるわ。きっと」
その表情に笑顔は無かった。だけど、『信じている』と、言葉よりも強く伝えてきた。
大して話したこともない自分になぜそんな表情が出来るのか、みほにはわからない。
わからないのに、わかってしまう。
ケイが自分を信じているのだと。
そんな自分の気持ちさえ伝わってしまったのか。ケイは満足げにうなずくと手を振りながらジープへと戻っていく。
ケイ「それじゃあ私たちはそろそろ行くわね!!ミホ、頑張ってねっ!!」
アリサ「ちょ、隊長待ってっ……頑張ってミホ」
ジープに飛び乗るケイの後をアリサが慌てて追う。
ハンドルを握っているナオミがみほに一礼すると、そのまま返事を待たずにジープは去っていった。
362 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/07/08(月) 00:28:35.53 ID:4imz0c/d0
・
・
・
サンダースの三人が去っていき、みほは祭りの喧騒の中、じっとケイの言葉を反芻していた。
みほ「……私の、幸せ。それに……私の戦車道」
どちらもみほにとってあり得ない、遠いものだ。
どちらもエリカがいないのなら、あり得ないものなのだから。
それで終わりのはずなのに、みほは考え込んでしまう。
どれだけ考えても結論は変わらないのに。
とはいえ、決勝前の大事な時間をいつまでも堂々巡りな思考に費やすわけにはいかない。
みほは首を振って無理やり頭の中を切り替え、点検に戻ろうとする。
すると、
「あ゛ー!!いたいたー!!見つけたぞ西住ー!!」
濁音の強い声がみほを呼び止めた。
声の方を向くと大きなツインテールを揺らしながら必死でこちらに走ってくる影が一つ。
その特徴的なツインテールに、遠くからでもその影が誰なのか察することが出来た。
みほ「安斎さん……?それに……」
ツインテールの影に隠れてもう一つの人影を捉える。
もう一つの影は確かペパロニと呼ばれていた事をみほは思い出していた。
アンチョビ「ほらさっさとこいペパロニ!!」
ペパロニ「ドゥーチェが出店に目移りしてたんじゃないっすかー」
アンチョビ「お前だっていつの間にか焼きそば買ってただろっ!?」
ペパロニ「パスタも良いけどたまにはこういうのも良いっすよねー」
アンチョビ「だなっ!ってちがーうっ!!」
バタバタと騒がしい足音とそれに合わせてバタバタと振り回されるツインテールがみほへと向かってきた。
よく見るとペパロニはパックに入った焼きそばを抱えていた。
ようやく二人がみほの元にたどり着くと、息を切らしている二人にみほは恐る恐る声をかける。
みほ「あの……安斎さん?」
アンチョビ「アンチョビと呼べっ!!……って今はまぁいい。それよりも西住今時間はあるか!?」
みほ「え、ええ。大丈夫ですよ。まだ試合まで時間はありますし」
念のためナカジマに視線で確認を求めると、ナカジマは両手で〇を作って許可を出す。
どうやら最終チェックを代わりにやってくれるようだ。
363 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/07/08(月) 00:45:26.23 ID:4imz0c/d0
アンチョビ「そうか!!……あれ!?カルパッチョはっ!?」
ペパロニ「カルパッチョならあそこっすよ」
抱えた焼きそばを食べながらペパロニが目線で促す。
すると、その先で金髪の―――カルパッチョと呼ばれている少女がカバさんチームのリーダーのカエサルと向き合っていた。
カルパッチョ「たかちゃーん!!」
カエサル「ひなちゃん!!」
二つの黄色い声は少し離れたみほたちの元へもはっきりと届いてきて、その仲睦まじさにみほが羨望も込めて苦笑する。
アンチョビ「もーっ!!……まぁ、あいつはいいか」
苛立たし気に釣り上げた眉をすぐに戻すとアンチョビはみほへと向き直る。
そして、ツインテールが跳ね上がるほどの勢いで頭を下げた。
アンチョビ「西住!!この間はすまなかったっ!!」
ペパロニ「本当に悪かった!!」
みほ「え、え」
アンチョビに続いてペパロニも頭を下げる。
本日二度目の謝罪にみほはやっぱり混乱してあたふたとしてしまう。
アンチョビ「こいつが迂闊にお前の名前を言ったせいで、迷惑かけて…」
みほ「そんなこと……」
アンチョビが謝罪した理由に確かに覚えはある。
あの時の自分は逸見エリカを騙ってて『西住みほ』の名は出したことが無かった。
だから、それを聞いていた沙織が気になって調べてしまい、一時的とはいえ沙織と華の離反を招く結果にはなった。
だが、それはあくまでみほ自身の問題故であって、ペパロニや、ましてやアンチョビの責任ではない。
なので謝罪をされる謂れなんてないと伝えようとすると、頭を下げたままのペパロニが申し訳なさそうに話し出した。
ペパロニ「前に、姐さんが悩んだ様子であんたの名前を言ってて……だから、調べて……」
みほ「……」
ペパロニを庇うようにアンチョビがその肩を抱く。
364 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/07/08(月) 01:35:07.49 ID:4imz0c/d0
アンチョビ「言い訳するつもりじゃないがあの時の私は、お前と、お前の姉のと……逸見の事でちょっと、な……つい、呟いたのが聞かれていたんだ」
みほ「……なんで、あなたが?」
みほやまほ、エリカの件にアンチョビはなんの責任も無い。
悩む理由なんてないはずなのに。
そんな疑問にアンチョビはあっけにとられた様子で答える。
アンチョビ「そんなの……気にするに決まってるだろ。仲間の事なんだから」
みほ「仲、間……」
その言葉を口の中でつぶやく。
アンチョビ「試合では戦っても、同じ戦車道仲間だ。それが、あんな事になって心配しないわけないさ」
みほはこの間の試合で始めて会話をした。
顔こそ黒森峰の中等部時代に合わせた事があるが、それっきりだった。
なのにアンチョビはそんなみほも仲間だと思っていた。
その事実が、みほの心を僅かに揺らした。
みほ「……アンチョビさん」
アンチョビ「なんだ?」
みほ「……ありがとうございます」
先ほどとは逆にみほが頭を下げる。
当然下げられた頭に、今度はアンチョビが慌てふためいた。
アンチョビ「うぇぁっ!?なんでお礼なんていうんだ!?」
みほはゆっくりと頭を上げ、けれどもうつ向いたままポツポツと声を出す。
みほ「あなたは、ずっと私の事を気遣ってくれました。勝手に落ち込んで、勝手に逃げて、勝手にたくさんの人を傷つけていた私に」
アンチョビ「……」
みほ「あなただけじゃない、ケイさんも。本当に、感謝してます。私なんかのために、そんなにも優しくしてくれて」
アンチョビ「『なんか』じゃない。そんな事言うな」
365 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/07/08(月) 01:59:25.10 ID:4imz0c/d0
遮った声にほんのわずかに怒りが滲んでいたことをみほは察した。
吊り上がった眉がみほを睨みつけ、固く結んだ唇が意志の強さを表している。
だけど、すぐに唇は緩み、眉は下がり、アンチョビはみほの肩にトンと手を置く。
アンチョビ「本気で戦って、一緒に食事した。ならもう、私たちは友達だ。だから、お礼なんていらないさ。だから……」
言葉の先が霧のように散っていく。
大きく見開いた目がみほではないどこかを見ている。
どうしたのかとみほが尋ねようとすると、アンチョビが悲しそうに笑った。
みほ「……アンチョビさん?」
アンチョビ「……この言葉を、あいつにも言えてたらな」
みほ「え……?」
みほがどういう意味かと首をかしげていると、アンチョビはやはり悲しそうな笑みを残したまま、みほへ視線を戻す。
アンチョビ「……すまん、なんでもないよ。それじゃあ私たちはもう行くな。頑張れよ西住っ!」
ペパロニ「優勝しろよー!!」
止める間もなくアンチョビたちは去っていった。
先ほどの悲し気な笑顔なんてかけらも感じさせない元気な後ろ姿に、みほはもう一度頭を下げた。
なお、途中でペパロニによって回収されたカルパッチョが悲劇のヒロインさながらに「カエサル様ああああああああああああー!!」と叫び、同じように「カルパッチョオオオオオー!!」と手を伸ばすカエサルがいたが、
その二人以外のアンツィオとカバさんチームの面々は冷めた目で彼女たちのシェイクスピアを観劇していた。
366 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/07/08(月) 02:01:27.94 ID:4imz0c/d0
ここまでー
早く梅雨明けしてほしいです。
また来週。
367 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/08(月) 02:39:00.50 ID:VtDxCRsXO
乙
ありがとうそしてありがとう
368 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/08(月) 02:40:41.36 ID:MC7MiuL8O
ケイさんの陽気力半端ねーす
みほちゃんを救うのはおケイだったか
こいつは僕も元気になっちゃうね
369 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/08(月) 11:38:49.66 ID:CN6ZeOfx0
更新乙
ケイもアリさも素敵
意外とキャラがよくわからないカルパッチョ
最新のドラマCDで、ペパロニに対して少し深堀されたのは嬉しい
370 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/08(月) 12:30:47.50 ID:yR3P4We+O
おつ
ケイはイイ女だよ
371 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/09(火) 21:21:13.56 ID:0yJET4lm0
乙です
「ケイさんが信じてくれている」ってことを信じられるんだから、絶対みほは立ち直れるよ
いくら時間がかかろうとも、いま自分を大切にできなくても、仲間や周囲の人々を信じられるのならまだ希望はある
天国からきっとエリカさんもみほとまほの平和を祈ってくれている……
372 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/07/14(日) 00:27:58.12 ID:LUa+0x7l0
・
・
・
アンチョビたちが人ごみに消えていった後もみほはじっとその方向を見つめていた。
みほ「それで、今度はあなたですか?」
みほは振り向かずに問いかける。
砂を踏みしめる音が返答をする。
みほ「ダージリンさん」
ゆっくりと振り向くと、そこにいたのはダージリンとお供のオレンジペコ。
決勝の熱気に充てられてるのかオレンジペコはせわしなく周囲を見ている。
対してダージリンはみほを見つめたまま、だけど時折視線を揺らしている。
みほは何も言わずにじっとダージリンを見つめ、彼女が口を開くのを待つ。
そして、
ダージリン「その……ごめんなさい」
開口一番、ダージリンの口から出たのは謝罪だった。
なんとなく想像はしていたがいざその通りになると流石に苦笑してしまう。
みほ「……今日は会う人みんな謝ってきますね。ダージリンさんはなんでですか?」
ダージリン「……あなたに、何もしてあげられなかった事」
冗談交じりに聞いたものの、返ってきた声はみほの知っているダージリンとは思えないほどしおらしく辛そうだった。
みほ「何もする必要なんてないのに?」
ダージリン「……その通りよ。これはただの自己満足。事実、あなたに謝ってちょっとすっきりしたわ」
みほ「現金な人ですね」
ダージリン「……そうね」
みほ「……調子狂うなぁ」
思わずついてしまった悪態に自分でも驚く。
それに、殊勝に、しおらしくうなずくダージリンにも。
みほが知ってる範囲ではダージリンはいつも余裕で人を食ったような態度しかとらず、おまけにある事ない事ふれ回るような人間だ。
なので、ダージリンに対してはみほは遠慮というか配慮に欠けてしまう。
とはいえ、今日のダージリンの弱々しい姿にキツ目の言葉を投げてしまった事にほんのわずかに後悔してしまい、フォローも兼ねてみほは自身の内心を吐露する。
みほ「ダージリンさん。言った通りあなたが何かする必要なんてないんです。事故の事も、その後の事も、今の私の事もあなたは何も気に病む必要なんてないんです」
ダージリンだけじゃないみんなそうだ。
みほの事をまるで自分の事のように気にかけ、心配して、胸を痛めている。
理解できない。そんな必要ないのに。
だけど、
373 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/07/14(日) 00:43:54.44 ID:LUa+0x7l0
みほ「だけど……そうやって気にかけてくれたことは感謝してます」
それでも、その気持ちを受け止められる程度には、
感謝の言葉を言える程度にはなっていた。
かつて、自身を思って優しくしてくれた人に酷い言葉を浴びせたのを思えば、多少はマシになったんじゃないか。
そう思うと同時に、こんなことすら碌にできなかった自分はやはりどうしようもないと自嘲してしまう。
すると、恐る恐るとダージリンがみほの顔を伺って尋ねてきた。
ダージリン「何か……私に出来る事はない?」
みほ「ありません」
即答すると、ダージリンは辛そうに唇をかみしめる。
―――しまった。また、刺々しくしてしまった。
みほは直ぐに次の言葉を探し、伝える。
みほ「……誰かに出来ることがあったのなら、きっと私はこんな事にはなってませんから。他でもない私が、差し伸べられた手を振り払ってきたんですから」
黒森峰にいたときからみんな優しかった。
自分だって自責の念に苦しんでいたのにそれを必死に押し殺してみほのために手を差し伸べてくれた人がいた。
それを、すべて無碍にしたのがみほだった。
近くにいた仲間に対してでさえその有様だったのに他校のダージリンに出来る事なんて無かっただろう。
差し伸べられた手を、自分はきっと口汚く罵って振り払っていただろう。
みほはそう確信していた。
みほ「あ、でも。私の事白雪姫ーって他校に言いふらしたことはちょっと怒ってますよ?」
ダージリン「ああそれは……謝るのはまだ早いわね」
みほ「え?」
重苦しい空気を何とかしようと軽口交じりに言った恨み言は少し余裕を取り戻した様子のダージリンによってさらりと躱される。
拍子抜けして間抜けな声を上げたみほをダージリンは舐めるように下から上へと視線を動かすと、 一瞬小さく笑って告げる。
ダージリン「だって……あなたはまだ白雪姫よ」
みほ「……どういう事ですか?」
ダージリン「眠ってるって事。いえ、目をつぶってるって言った方がわかりやすいかしら?」
得意げにほほ笑むダージリンに若干苛立ってみほが眉根を寄せる。
それを察したのか祭りの様子に嬉々としていたオレンジペコが慌てて、けれども澄ました様子でダージリンに忠告する。
374 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/07/14(日) 01:03:09.20 ID:LUa+0x7l0
オレンジペコ「ダージリン様。あんまり煙に巻くような話し方すると嫌われるってアッサム様にも言われたじゃないですか」
ダージリン「あら、ごめんなさい。……でも、わかるでしょ?」
みほ「……」
返答はしなかった。
それは今考えるべきことじゃなかったからだ。
ダージリンの言葉遊びに付き合えるほどの余裕は今の自分にはない。
なので、ここは無視をするのが正解だ。
……そんな内心の声を言い訳がましいと思う気持ちまでは無視できなかった。
ダージリン「それじゃあそろそろ行くわね。観客席から応援させてもらうわ」
みほ「……はい」
来た時のしおらしさはどこかへ捨ててきたのか、初めて会った時と同じ、余裕ぶった表情を取り戻したダージリンがオレンジペコを連れて立ち去ろうとする。
ダージリン「最後に。……みほさん、あなたにイギリスの格言を送るわ」
ああ、いつもの格言かとみほが呆れたように小さくため息を吐く。
それは隣に立つオレンジペコも同じなのか、ジトっとした目をダージリンに向けるとすぐに表情を引き締めダージリンの言葉を待つ。
けれども、彼女の口からいつもの気取った格言は出てこず、口を開いたままどこか上の空でみほを見つめていた。
オレンジペコ「……ダージリン様?」
どうしたのかと思ったのだろう、オレンジペコが心配そうに声をかける。
すると、ダージリンはゆっくりと口を閉じ、大きく鼻で息を吸って、大きく吐いた。
そしてもう一度大きく息を吸って、
ダージリン「……あなたの歩んだ道は、あなただけのものよ。過去も、今も、未来も。そして、過去も今も未来も、あなたを見守ってくれるわ。だから……頑張って進みなさい。あなただけの人生を」
そう言い切ると、スタスタと歩き去っていった。
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