男「この俺に全ての幼女刀を保護しろと」

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7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 18:24:58.51 ID:rSVVCRzg0
客人「我々は奴との交戦の後に悟りました……奴の目的は恐らく児子炉以外の全ての幼刀の破壊。しかしながら皮肉なことに幼刀をいなす事ができるのもまた幼刀のみ」

客人「そして恥ずべきことに我々はこの唯一保護に成功した愛栗子ですら真の力を解放するに至らなかった」

紺之介「真の力?」

客人「柄を握ることで幼刀に込められた魂を刀から解放し露にする力……露離魂-ろりこん- にございます。『大好木様と共通する志を持つ者』とも……それがもし紺之介殿の胸の内にもあるのであればぜひこれを振っていただきたいと」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 18:29:27.95 ID:rSVVCRzg0
紺之介(共通する志……?)

紺之介は疑念を抱いた。この客人同じく幼刀情報部隊とやらは元を辿れば幕府の犬の家系。ならば『共通する志』とやらは客人たちにもあるのではないかと。
更にそれが客人たちにないだけならまだしもなぜ幼刀児子炉の所持者が露離魂を持っていたのかと。

紺之介(幼刀……露離大好木……それに関連される志……)

紺之介「まさか」

しばし顎に指を当てていた紺之介が手を顎から離したのを見て客人は問う。

客人「何か心当たりが?」

9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 18:29:59.59 ID:rSVVCRzg0
紺之介「あんた、少女を愛でる趣味はあるかい」

客人「……い、いえ。私には既に愛する女房と息子がおります故、今さら浮ついた心で女遊びをする気にはとても……」

手を横に振りながら苦笑いを浮かべる客人を見て紺之介は一人確信する。『露離魂』とは即ち……

紺之介「なるほど、少女を愛でる者のことか」





10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 18:30:27.07 ID:rSVVCRzg0
紺之介はやにわに両手で腿を叩き座布団の上に立つと若干驚いて見える客人へとおもむろに距離を縮め愛栗子の柄を握り込んだ。

紺之介「残念ながら俺に少女を愛でる趣味はないが、俺はこの刀を好いている。 黙ってこの刀を俺に貸せ。さすれば必ずや児子炉の所有者を斬り伏せ、残りの幼刀も保護してやる」

紺之介は客人を見下ろしながら彼の持っていた愛栗子をそのまま抜刀した。瞬間、刀身が眩い光を放ち少女の影をうつしだすと客人の握る鞘を残して刀は全て少女の一部となった。



11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 18:31:02.75 ID:rSVVCRzg0
客人「なっ……」

愛栗子「ふぁぁ……んぅ〜〜? なんじゃおぬしは」

水色の着崩れた浴衣に巨大な蝶を作った白い帯、栗色の髪に黒の手ぬぐいを兎の耳のように結んだその少女は大あくびをしてもまだ尚その美を崩さない。
その姿をとらえた紺之介の瞳は薄気味悪く笑みを浮かべた。

紺之介「ヒヒッ……見ろよあんた」



紺之介「どうやらコイツは、俺を選んだみたいだぜ」



12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 18:33:23.70 ID:rSVVCRzg0




幼刀 愛栗子 -ありす-



13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 19:19:55.72 ID:lWRr9JM2O
控えめに言って将軍度しがたいヤベー奴だな
良いぞもっとやれ
14 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2019/03/07(木) 05:03:43.28 ID:ThCWRdKl0
すみません>>5>>6の間を抜かしていました


紺之介「これが大好木が生前もっとも愛したとされる少女が封印されし刀……愛栗子-ありす-……この美しき刀を俺に譲渡すると……!」

正座の状態から興奮気味に身体を前に乗り出した紺之介に対し客人は持っていた愛栗子の鞘を少し後ろに引いた。
15 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2019/03/07(木) 05:57:14.84 ID:ThCWRdKl0
つづき
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 05:57:45.44 ID:ThCWRdKl0
幼刀保護の旅に出た紺之介と愛栗子は伝説の幼刀七本が内の一つ幼刀乱怒攻流 -らんどせる-を求め、情報部隊の控え書きを元に都から十里ほど離れた隣街を目指していた……のだが

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 05:58:43.22 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「紺、わらわは団子が食べたいぞ」

二人はまだ都すら出ておらず、昼間は毎日十人ほどの行列ができるほどだという都一の茶屋を前に愛栗子は容姿相応の駄々をこねていた。先を急がんとする紺之介の着物の裾を内に引きしわを作る。

紺之介「何故刀が団子をせびる。お前ら幼刀のその姿はもはや可視できる霊体といっても過言ではない。食わずとも倒れぬだろう」

愛栗子「霊体とはまっこと失礼なやつじゃな! このわらわの美麗な脚が見えぬと申すのか!?」

『脚ならある』とその場で跳んだり跳ねたりを繰り返す愛栗子を見て紺之介は口元を左に引きつらせた。

紺之介(まるで野兎だな)
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/07(木) 05:59:17.72 ID:ThCWRdKl0

紺之介には先を急ぎたい理由があった。まず第一にしてこの愛栗子を一刻もはやく収蔵品に加えたいということ。そうしてもう一つは今も浴び続けている町民の視線から逃れること。

大好木に魂を封印された第一の幼刀にしてその根拠から彼が最も愛した絶世の美少女と謳われる愛栗子は茶屋に並ぶ者たちの視線すら集めていたのである。その様子まさに凝視の行列。まだ茶屋に並ぶと決めていない二人は並んだところで当然最後尾なのだが、そこに並んだ人々が皆目的地の茶屋とは逆方向を向いているという異様な光景であった。

紺之介(流石伝説の一刀……)

さほど『女』というものに興味を示さない紺之介ですらその光景を前に愛栗子の美を再確認した。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:00:37.41 ID:ThCWRdKl0

さてこれらの理由から延々と立ち往生する訳にもいかず、だからといって子どもの躾のように置いて先を行ったところで大して付いていく理由のない愛栗子はここに残るであろうことを紺之介は予測できていた。なんならこの娘、己の美とそれに向けられる視線を自覚していないはずもなく放って行こうものならば今行列を構成している誰にでも団子をせびろうとするであろう。

愛栗子「そうけちけちするでなぃ。わらわは知っておるのだぞ? 紺おぬし今、確か羽振りよく振る舞えるはずじゃろう?」

愛栗子は紺之介の胸に肩から寄りかかると手を口に小声で囁いた。

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:02:53.31 ID:ThCWRdKl0
紺之介(っ、この小娘……!)

仕方なく折れた紺之介は渋々茶屋へ並ぶも顔には早くも旅に疲れた表情が伺える。この愛栗子の鞘と共に腰に吊るした巾着に重々しくあるのは確かに百両。特に遊びと商いに手を出さぬならば何もせずとも暮らせる金でもあるが、これには旅賃も含まれているのだ。

今までまともな仕事をしておらずその上刀の収集に手入れといったことを趣味にしているためか財産の殆どをそちらに当てている貧乏侍はどんな些細な無駄遣いでも避けたいというのが本音であった。

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/07(木) 06:03:56.62 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「よかったのう紺。わらわのような絶世の美少女と共に団子を頬張れるのじゃ。このようなことどんな遊廓に転がり込んでも叶わぬことぞ?」

その一方で愛栗子は久しき現代の露離魂町を満喫していた。その顔はとてもこれからどのようなことが起こるとも分からぬ幼刀収集の旅に赴こうという表情ではない。愛栗子の顔にほだされて旅の気が抜けぬよう紺之介はすっかり彼女の高飛車冗句を無視して並んでいる間に控え書きに改めて目を通していた。

紺之介(幼刀は愛栗子を含めて全てで七振り……)
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:04:28.31 ID:ThCWRdKl0

『大好木に最も愛されたとされる少女の魂が封じられし刀、愛栗子』

『舞うような剣さばきで怒涛で独特の攻め方と切れ味を持つ刀、乱怒攻流-らんどせる-』

『魚のように水に溶け水さえ切る刀、透水-すくみず-』

『血で染まる赤い頭巾に身を包む刀、奴-ぺど-』

『刀身は平たく、その硬度はもはや盾に近しいと謳われる刀……俎板-まないた-』
(児子炉によって破壊される)

『相手の剣士を必ず屈服させ、相手剣士が刀身を力なく降ろす様が『まるで相手の刃を踏みにじるような制圧力』だと言われたことからその名がつけられた刀、刃踏-ばぶみ-』

『依頼の発端の刀、児子炉-ごすろり-』

23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:05:33.33 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「ふむぅ……懐かしい名ばかりじゃの〜」

愛栗子が控えを持つ紺之介の腕を掴んで下ろした。

紺之介「この控えは封じられた幼刀の順に書かれてるらしいな。やっぱりお前が一番大好木に可愛がられてたのか」

大好木が幼刀を作ったのは少女たちの魂を永遠のものとする為……故に最も愛した愛栗子を最初に封印するのは妥当だと考えた紺之介であったが返された愛栗子からの返答は予想外のものだった。

愛栗子「はてさて、それはどうじゃろうな〜」

紺之介「は?」

24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:07:44.81 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「好かれておったのは事実じゃろう。大事にされておったのも事実じゃろうて。しかしそれは他のやつらも同じ……そしてわらわは美し過ぎたが故に最も将軍様の愛からは遠い存在じゃったのではないかの」

またも高飛車冗句かと一瞬呆れかけた紺之介であったが愛栗子の表情が先ほどのものと全く違うことに気がつき思わず詳細を求めた。

紺之介「どういうことだ?」

愛栗子「絵画と同じじゃ……わらわは他の者ども以上に美しく着飾られたが、同じく他の者以上に触れられることはなかった。それでも将軍様はわらわを愛してくださっておると自惚れておったわ」

愛栗子「じゃが一番最初にこの身にされてようやっと気付かされた。将軍様はただこの世で最も美しかったわらわを手中に収めておきたいだけじゃったのだとの。それと同時にわらわの将軍様への想いも幻想だったと気付かされたのじゃ。わらわもまた同じじゃった……美しき己と釣り合う男は将軍様だけじゃと思い込んでいたに過ぎんかったというわけじゃ」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:09:17.11 ID:ThCWRdKl0

愛栗子は掴んでいた紺之介の腕を更に引いて抱いてみせた。

愛栗子「のぅ、紺……もしこの身体でもまだ叶うならばわらわはまことの恋愛というものをしてみたい。心から人を愛してみたいのじゃ……おぬし露離魂の持ち主なのであろう? ならばここは一つ刀集めなぞやめてわらわと駆け落ちしてみぬか?」

一時は興味本位で愛栗子の話に耳を傾けた紺之介であったがその根本に潜むものが恋に恋するうら若き乙女心であったことを知り適当に受け流すと再び控え書きに目を落とした。

愛栗子「のぉ〜」

それでも袖を揺さぶる愛栗子に紺之介は彼女の頭に手を置いて言ってきかせる。

26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:11:55.64 ID:ThCWRdKl0
紺之介「それは劇場の見過ぎというやつだ。それに俺には少女を愛でる趣味どころかもはや女を抱くことすら十一のときに飽きている」

愛栗子「なんと!」

紺之介「俺が子どもの頃はまだ武士が刀を握るだけでそれなりの地位を保てていた時代でな……父は護衛業一本で銭を重ねて母は無理することもなかった。そのとき父は何人かの妾を雇っていて、その内の三人くらいを十のときに俺も頻繁に抱かせてもらっていた」

紺之介「俺が女に飽きた頃に丁度時代も移り変わり、父は仕事が減ったのと同時に趣味だった収蔵品の刀だけを残してある日ぱったり姿を消した。そこからは母に育ててもらったが恩も返せぬ内に病気で亡くなった」

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:12:44.47 ID:ThCWRdKl0
女に飽きた理由以降は完全な自分語りであったがその時なんとなく紺之介の口は饒舌となっていた。彼は全てを話した後、誰かに自分の話をしたのは初めてだったことを思い出した。

紺之介(唐突に刀収集の趣味や剣術を買われたり、誰かに自分語りをしてみたり……俺もまた慣れん風に乗せられているのか。何十年ぶりにこの地に足をつけたこの小娘とさほど変わらんな)

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:13:45.09 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「ほぉ〜? しかしそれを聞いて確信したわ。おぬしやはり露離魂じゃの」

紺之介「俺は刀には酔っても女には酔わん。お前を解放できたのはお前を惚れたわけではなくあくまで幼刀愛栗子-ありす-に惚れたからだと考えている」

愛栗子「それはありえぬ。露離魂を持つ者は例外なく童女を好む。昔抱いたのがどのような美女だったかは知らぬが『少女』の味はまだ知らぬであろう……?」

愛栗子が崩し浴衣の肩を更に露出して見せる。

紺之介「そんなに俺を『お前に惚れている』ことにしたいのか。とんだませ娘だな」

紺之介がため息をついて愛栗子の肩を戻そうと浴衣に手をつけたときだった。

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:18:36.55 ID:ThCWRdKl0
紺之介「っ! 伏せろ!」

反射的に愛栗子を抱き寄せて地に伏せる。すると彼らの頭上を短いドスのようなものが通り抜けていきそのまま地に落ちた。刃物が通り抜けたその後には不穏な緊張感だけが残り彼ら以外の茶屋の客列は悲鳴嬌声を上げて散り散りとなった。

愛栗子「お、おぉぅ……? 思ったより大胆にきたのぅ……」

紺之介「ぬかせ」

刃物が飛んできた方向を向きながらおもむろに立ち上がってみるとそこには顔に古傷を走らせた丸刈りの男とその取り巻きだと思われる何人かのならず者が低い笑い声をあげながら立っていた。

30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/07(木) 06:21:06.53 ID:ThCWRdKl0
丸刈りの男「そいつ、幼刀なんだろ? ウチの宝刀マニアがその兄ちゃんの腰につけた碧色の鞘に目ぇつけてよ……それを大人しく譲るってんなら痛い目には合わせねぇぜ?」

紺之介「いかにもといった連中だな。白昼堂々しかも民の集まる茶屋でとは……直ぐにでも警備隊が飛んでくるぞ?」

丸刈りの男「それまでに終わらせるだけの話よ」

紺之介「俺としてもそっちの方がありがたいな」

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:22:03.51 ID:ThCWRdKl0
紺之介が腰につけたもう一つの鞘から自らの刀を抜刀し構えたと同時にならず者たちも活気を増す。

「調子こいてんじゃねーぞゴラァ!」

「テメェら! 久しぶりの血祭りだ!」

愛栗子「……紺、こやつらもわらわに見惚れた連中か?」

紺之介「愛栗子、お前は先に茶屋で団子でもはんでいろ」

後ろ目で愛栗子に避難を促した紺之介であったがそれに対して愛栗子本人は不思議そうな顔をしていた。

愛栗子「わらわを使わぬのか?」

紺之介はその問いに対して目を合わせることなく返すと勢いよく前へ駆け出した。

紺之介「収蔵品に傷をつけるわけにはいかんからな」




32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:23:21.64 ID:ThCWRdKl0
紺之介が振り上げた刀は取り巻きの内の一人の得物をかち上げた。続けて大振りに振り返り背後から襲い来る輩の脇を峰打ちにする。
その隙を突かんと紺之介の左を遮る影に裏拳を叩き込み最後に丸刈り男の吠え面に刃を向け新たな浅傷を作ると彼らはその場で尻もちをついて降伏した。

紺之介「愛栗子、警備隊が来る前に茶屋に隠れるぞ」

再び納刀し自分の元へと戻ってくる自称剣豪の男……そんな彼の雄姿をしっかりと瞳に焼き付けた愛栗子は小さく呟いた。


愛栗子「……なるほどの」



33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:23:58.62 ID:ThCWRdKl0



紺之介「? これはなんだ」

紺之介の口元には三色団子の一番上が差し出されていた。彼にその串を向けた愛栗子はそれを褒美と語った。

愛栗子「ほれ、はよう食わんか。このわらわが三つしかない内の一つをおぬしにくれてやると言うておるのじゃぞ?」

いまいち理解できず困惑した表情の紺之介だったが団子がそのまま唇に押し付けられたことを機にその顔のまま団子を口に入れた。

愛栗子「紺、わらわはぬしが気に入ったぞ」

紺之介「ならばこの先は駄々をこねず大人しくついてこい」

愛栗子「そうじゃのぅ……この後は共に劇場でも行かんか?」

紺之介「……話を聞け」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/07(木) 06:24:47.77 ID:ThCWRdKl0
続く
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/07(木) 17:32:04.97 ID:WInpL4e5o
いいぞもっとやれ
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/09(土) 13:50:13.61 ID:RxprZZ56o
クソみたいな設定からしっかりしたストーリーの練り込みと丁寧なキャラ立てするのやめろww
37 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2019/03/10(日) 22:30:16.02 ID:xzpENjoO0




幼刀 乱怒攻流 -らんどせる-


38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/10(日) 22:31:31.22 ID:xzpENjoO0
露離魂町から十里ほど離れた街、『夜如月-ようじょづき-』ここにて乱怒攻流の詳細な在り方を探るため紺之介ならび愛栗子は情報を集めていた。

39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/10(日) 22:32:33.00 ID:xzpENjoO0
愛栗子「ふむふむ、ここのきな粉わらび餅はなかなかのものじゃな〜」

茶屋の娘「まことにございますか! あなたのような綺麗なお方に褒めていただき光栄でございます! ご無礼ながらお聞きしたいのですが、もしやあなたはどこかの姫君で……?」

茶屋の娘の絶賛にて愛栗子は得意げに懐の扇子を広げて見せた。

愛栗子「ふふん。くるしゅうない」

因みにこの扇子は都散策にて彼女が紺之介にねだったものである。

愛栗子「わらわの名が知りたいか? わらわの名は……」

とまで言ったところで紺之介の手が愛栗子の頭頂部を覆う。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/10(日) 22:34:57.22 ID:xzpENjoO0
紺之介「お前の名は面倒ごとの種になる。まくな」

控え書き通りここに幼刀の噂があるならばそもそも幼刀の存在自体がこの街の民にとっては周知の宝刀。愛栗子がここにあると知られればその噂もまた瞬く間に広がり正確な情報源の妨げとなりかねぬ。客観的にて紺之介の判断正しけれど愛栗子は不満げに頬を膨らませた。

愛栗子「それくらい分かっておるわ。じゃからわらわにふさわしき姫名を新たに見繕うと思うておったのじゃ」

紺之介「なんなんだそれは……」

呆れながら茶をひとすすりした紺之介はひとまずじゃじゃ馬娘との徒労話を切り上げて少し残念そうな様子を見せる茶屋の娘に質問を振った。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/10(日) 22:38:18.69 ID:xzpENjoO0
紺之介「すまん。ここには幼刀の噂を聞きつけて遥々都からやってきたのだ。何か知っていることがあれば教えてはくれんか」

茶屋の娘「幼刀……ですか。風の噂で耳にしたことはあったんですけど私はあまり刀には関心がなくて……」

紺之介(ここは外れか)

紺之介「そうか、詰まらん質問をしてしまったな」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/10(日) 22:39:33.27 ID:xzpENjoO0
愛栗子「ご馳走になった! ここはよい店じゃ。また来るからの」

二人分の金額を置いて茶屋を後にしようとしたところで娘は二人を呼び止めた。

茶屋の娘「あ……! 待ってください!」

紺之介「? 銭が足りなかったか」

茶屋の娘「いえ、夜如月に刀を進んで収蔵している人がいるんです。なんかここでは変わってる人という扱いなんですけど……その人だったら何か知ってるかもしれません」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/10(日) 22:41:02.09 ID:xzpENjoO0
茶屋での休憩のち娘の情報を頼りに二人は例の刀趣味の者の住居を目指し歩き始めた。

夜如月も中枢部ではないにしろ都を取り巻く街の一つ。商いは都に負けず劣らずの盛んさを見せ、昼間は民で賑わっている。
それが起因して紺之介は肩をすぼめていた。そう。またも視線の雨霰……幼刀愛栗子は刀からも只ならぬ異彩を放つが、刀に盲目的酔いを見せる紺之介ですらもうはや感づいてきている。

紺之介(どうにかしてこいつを刀の姿に戻せぬものか)

大多数の視線を避けることができるのはどう考えても刀の姿の方であるということ。そのことを彼女にも間接的に伝えるため紺之介は愛栗子に相談を持ちかけた。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:43:11.62 ID:xzpENjoO0
紺之介「一度魂を解放した幼刀は二度と刀には戻らんのか?」

愛栗子「ん〜、それはあり得ぬ。幼刀の所有権は柄を握るものに常々移り変わるのじゃが……露離魂を持たぬ者が柄を握れば刀のままじゃ」

愛栗子「あとこれはついでに言っておくが魂を解放された幼刀は好意に所有者を傷つけることが叶わぬ」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:44:04.57 ID:xzpENjoO0

歩きながら愛栗子の下から上を順に眺める。

紺之介「……柄とはどこだ」

愛栗子「〜……足首かの?」

なるほどと思いつつもそれではまだ根本的な解決には至らぬとして紺之介は次の質問に移った。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:45:22.73 ID:xzpENjoO0
紺之介「所有権を持つ露離魂が任意で刀に魂を閉じ込める方法はないのか?」

その方法さえ分かれば視線を避けられ、愛栗子の駄々からも逃れ、美しき刀を腰に携えて歩く優越感に浸れる。紺之介からすれば良いことづくめであったがここでこの男しくじってしまう。

47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:46:16.75 ID:xzpENjoO0
愛栗子「……むぅ」

紺之介「なんだ。知っているなら早く教えろ」

愛栗子「教えぬ」

紺之介「なっ……!」

愛栗子は扇子を前にして首を露骨に彼から背けてみせた。
顔に出てしまっていたのである。紺之介の思惑、願望、そして欲望……その全てが。

48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:47:47.17 ID:xzpENjoO0
愛栗子「にしても刀好きの変人とは……ぬしと一緒ではないか。類は友を呼ぶとはよー言ったもんじゃのぅ」

首が前を向いた時にはもう話題すらすり替えられており紺之介自身も今揺さぶりをかけても無意味と見てひとまず納刀を諦めた。

紺之介「案外そいつが乱怒攻流を持っていたりな。もしそいつが筋金入りの刀収蔵人ならば同じ街にて幼刀の噂が広まっているのにいてもたってもいられまいよ」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:49:58.38 ID:xzpENjoO0
愛栗子「わからんのぅ……わらわは簪に封じられた方がまだよかったわ」

手を横に首を振る愛栗子の態度が紺之介の刀狂心に若干の火をつけたが、語っても分からぬであろう愛栗子には分かりやすく簡潔に伝えた。

紺之介「漢の刀は女子にとっての簪と同じということだ」

愛栗子「そう思っておるのはもうおぬしら特異な人種だけじゃと思うがの」

紺之介(どこまでも生意気な小娘め……)

紺之介の簡潔な例えも虚しく逆に皮肉で返され、どうにかしていち早く愛栗子を納刀状態にもっていかねばと眉を歪ませる彼の元に一人の恰幅の良い男が話しかけてきた。
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:51:27.09 ID:xzpENjoO0
「あの〜、そこの方……」

紺之介「ん、なんだ」

「失礼ですがそれはもしや……愛栗子た……幼刀愛栗子-ありす-の鞘では……」

その言葉を耳にした瞬間紺之介は腰の刀の柄に手をつけた。それを見た男は大変驚いた様子で手を前に出して頭を伏せた。

「ひっ! す、すみません! 実は某……刀収集を趣味にしている者で……!」

紺之介「! ではこの街の刀を収蔵している変わり者というのは」

庄司「へ? あ、はい……某以外にはいないかと……庄司と申します。某に何か用で?」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:53:51.52 ID:xzpENjoO0
紺之介「この街にあると噂の幼刀の情報だ。愛栗子の鞘に一目見ただけで気がついた辺り、全く何も知らない……ということはなさそうだな」

紺之介が刀の柄から手を離し要件を伝えると庄司と名乗った男は先ほどの穏やかさを何処かに潜め目の色を変えて背を向けた。
紺之介は見逃さなかった。その際彼が一瞬だけ愛栗子にその目のまま目配せしたことを。

紺之介(こいつ……今愛栗子を)

庄司「こっちです。某も貴方のその鞘には興味がありますので」

紺之介「……行くぞ」

愛栗子「のぅ紺。これはもう情報を聞き出すまでもなく当たりかもしれぬぞ」

紺之介「俺もそう考えている。気を抜くな」

52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:55:46.07 ID:xzpENjoO0
と、かなりの警戒心を持って庄司の家へと上がり込んだ紺之介であったがその引き締まった緊張感は彼の家に飾られた数多の刀を前に雲のように霧散した。
特に広座敷の掛け軸前に飾られた木刀は彼の瞳に童の光を与えた。

紺之介「これは名刀『星砕-ほしくだき-』!? 金剛樹という樹齢1万年の大木から作られた妖刀・星砕の由来を持ち、真剣を上回る強度や硬度を誇りそれを捜し求めて刀狩りを行う者までいたとされている伝説の一振り……!」

庄司「さすが! いやぁ某は分かってもらえる方に出会えて嬉しいですぞ」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:57:37.76 ID:xzpENjoO0
紺之介「ふむ……俺ほどではないが、中々の刀蔵だな」

庄司「ほう? それほどまでとは某も貴方の収蔵刀に興味がありますな」

紺之介「俺も見せたいのは山々だが何しろそれらは今都にて留守番を任せていてだな……なんなら時間はかかるが俺の家までくるか?」

完全に刀談義に華を咲かせている彼らに呆気に取られた愛栗子は一人紺之介の隣を立ち彼の袖を軽く引いた。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:58:38.18 ID:xzpENjoO0
愛栗子「紺、しばしわらわは花を摘んでまいる。そこの……庄司と言ったか? 口頭でよい、場所を教えてくれ」

庄司「あ、はい。そこの廊下を行って突き当たりの右です」

愛栗子「礼を言う。ではの〜」

紺之介(刀の癖に排泄を行うのか?)

紺之介は愛栗子がぺたぺたと廊下へ出て行く音を聞きながら一人不思議がっていると次第に自らが何かを忘却しかけていることに気がついた。
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:00:21.32 ID:xzpENjoO0
紺之介「そうだ庄司。幼刀の話だが……」

そう口を開けた瞬間廊下の方向で只ならぬ物音が響き渡った。

紺之介「何事だ!」

庄司「あーあー……派手に暴れてくれる」

紺之介「は」

庄司は深くため息を吐くと掛け軸裏から紅色の鞘を取り出し

庄司「納刀」

と呟いた。
すると瞬時に鞘口に光が集まりそれは形となってやがて柄と鍔として固まった。その様子に全てを悟った紺之介も見よう見真似で碧色の鞘を握り「納刀」と口にする。すると幼刀愛栗子-ありす-は再び刀の光となりてそこに納刀された。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:02:25.55 ID:xzpENjoO0
庄司「全く……幼刀愛栗子-ありす-に傷をつけたらどうするんだ。乱怒攻流たん」

庄司が抜刀した刀からは見慣れぬ形の紅の背嚢を背負った少女が姿を現した。それに合わせて愛栗子の安否を確認するために紺之介も再び抜刀する。

紺之介「愛栗子、傷はないか」

愛栗子「まあの。簡単に斬られるほどわらわも貧弱ではない。……にしても乱よ、とても親友の再開とは言えぬ挨拶じゃのう」

愛栗子に乱と呼ばれたその少女こそ大好木の創り出した第二の幼刀、乱怒攻流-らんどせる-である。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:04:16.18 ID:xzpENjoO0
乱怒攻流「誰がいつどこであんたを親友だなんて言ったのよ! ……庄司、あたしにいい刀をくれるあんたには出来るだけ協力しようと思ってたけど……やっぱりコイツだけは無理! もうムカつくもん! 叩き折ってもいいわよね」

庄司「ダメだよ乱怒攻流たん。愛栗子たんも某の収蔵刀としてこの家に飾るんだから」

紺之介「たん……? 何だか知らんがそれは無理な相談だな。何しろこいつはもう俺の刀だからな」

紺之介が愛栗子の前に出て刀を構える。その姿は都の時と同様に愛栗子の瞳にはまたも勇ましく映ったが、乱怒攻流はその彼の雄姿をみて鼻で嘲笑った。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:06:09.59 ID:xzpENjoO0
乱怒攻流「あんた正気? 人間が幼刀に勝てるだなんて……本気で思ってるの?」

紺之介「俺としては正気を疑っているのはそちらの男の方だ」

紺之介の言葉に庄司は核心を突かれたかのようにハッと目を見開く。

紺之介「折角自らが所有している幼刀と今から手に入れようという幼刀を擦り合わせて削るなぞ俺にとっては言語道断だな」

庄司「っ……煩い! 乱怒攻流たん! やっちゃってくれ!」

乱怒攻流「はーい。まぁいいわ……そんなに死にたいなら愛栗子の前にあんたの背骨からへし折ってあげる」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:09:49.07 ID:xzpENjoO0
微笑を浮かべた乱怒攻流が背から明らかにその背嚢には収まらぬ長さの刀を二本取り出した。そしてその様子を目の当たりにした紺之介の軽い驚愕の表情が消えぬ内に一気に畳をけって距離を詰める。

乱怒攻流「ふんっ!」

紺之介「っ」

まず右の一撃を見切った紺之介は刀を中央から殆ど動かさずに若干の傾きでそれをいなすと本筋と見た左側の刀を打ち返すようにして弾く。

乱怒攻流「あっ」

その太刀打ち見事なり。あっという間に乱怒攻流から一本を無力化すると彼女に息を呑ます間にもう一本も素早くはたき落とす。
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:12:43.31 ID:xzpENjoO0
両手が空いたことによりもうはや決着かと刃を突きつける体制に入ろうとした紺之介だがそこで乱怒攻流の余裕の表情が引っかかる。
『まだ何かある』と瞬時に判断し直した彼の判断はやはり正しく、乱怒背流の背嚢からは新たな刀が投げられるようにして振りかざされた。

間一髪それをかわした紺之介の横畳に深く刃が突き刺さる。しかしその常人の意表を突いた一撃は乱怒攻流が人間から距離を取るには十分な時間稼ぎとなった。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:14:20.66 ID:xzpENjoO0
乱怒攻流「ふーん。なかなかやるじゃない」

そう言いながら彼女は背嚢から新たな二振りを取り出す。ここまで見れば最初は若干の驚きを見せた紺之介も流石にその可能性を認めざる得ないとした。

紺之介(こいつの刀……何本はたき落としても背から生えてきやがるな)
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:15:38.39 ID:xzpENjoO0
しかしこの男やはり剣豪を自称するだけある。
乱怒攻流が彼の腕を見誤っている限り、これだけの手数不利さえもその気になれば瞬時に覆し乱怒攻流の首を跳ねることなど容易い。だが彼の目的はあくまでも保護であり破壊ではないこと。そのことがこの両者の実力を均衡とする枷となっていた。

乱怒攻流がそのことにいち早く気づき真髄を発揮するか、その前に紺之介が彼女をただの童女に変えてしまうか……この場でただ一人、愛栗子はこの勝負の肝を悟っていた。

愛栗子(まぁ、いよいよとなればわらわが手を貸すがの……あの男には死んでもろうては困る)
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:18:27.89 ID:xzpENjoO0
座敷の中では早くも二度目の衝突が繰り広げられていた。乱怒攻流の跳飛は二人の身長差を軽々と埋め、その中で上下段に行き来する怒涛なる剣先の軌道が多彩さ攻め手を生み出している。

その様相まさしく乱舞。さすがの紺之介も防戦一方となり攻めあぐねていた。

だがその嵐のような剣舞の中でも紺之介は含み笑いをこぼしていた。

64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:20:10.70 ID:xzpENjoO0
乱怒攻流「随分と余裕そうな顔してるじゃない! それとも何? 自分の死を悟って笑うしかなくなっちゃったのかしら!」

紺之介「乱怒攻流……確か庄司はお前に刀をくれたと言っていたな」

乱怒攻流「! それが何」

不敵に笑う紺之介を前に彼女はもう一度距離を取った。彼が己の底を見定めたかと感づいたからである。

そう、彼女の背嚢から出る刀の数は無数ではあるが無限ではない。あくまでその中に事前にしまわれた本数しか扱うことができないのである。もし紺之介がその事実に気がついたのであれば如何に効率よく彼女の手から刀を奪うかの勝負となる。

ここまで負ける気など毛頭なかった乱怒攻流であったが、そのこめかみからは微量の冷や汗が溢れ始めた。察し始めたのである。目の前の男の圧倒的技量に。となれば見せるしかない……己の真の力を。

65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:21:15.81 ID:xzpENjoO0
乱怒攻流「庄司……アレ、使っていい?」

それまで二人のやり取りを固唾を呑んで見守っていた庄司がハッとして反応した。

庄司「だ、駄目だ乱怒攻流たん! ここでアレを使ったら部屋中がめちゃくちゃに……!」

乱怒攻流「でも多分……こいつアレ使わないと倒せない」

庄司「えぇ」

66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:22:01.29 ID:xzpENjoO0
二人の会話に紺之介が割って入った。

紺之介「なんの話をしているのか知らんが乱怒攻流……俺はお前が欲しくなった。保護対象としてではない。俺のものになれ、乱怒攻流」

乱怒攻流「は……」

愛栗子「紺、それは聞き捨てならん台詞だの」

後ろでは愛栗子が不機嫌そうに腕を組み眉を顰めていたがそんなことはお構いなしに紺之介は続けざまに語った。

67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:24:52.18 ID:xzpENjoO0
紺之介「お前がその姿で旅について来てくれるならば刀収集を趣味とする者としてこれ以上はない! その不可解な造りの背嚢があれば旅路にて見つけた素晴らしき刀を見限りをつけず購入、持ち運びすることができる!!!」

いつになく静けさを消し興奮して語る紺之介だったが結局のところ幼刀たちには理解が追いつかず一人は困惑の表情を浮かべもう一人は苛立ちそっぽを向いた。

だがそれは意外にも今まで口数の少なかった庄司の心にだけ業火の炎を灯した。

68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:26:25.52 ID:xzpENjoO0
庄司「っ!!!乱怒攻流たんは某の幼刀! 同士として紺之介殿には絶対に譲れんッ! 幼刀 乱怒攻流 -らんどせる- ! その者を八つ裂きにしろォ!」

乱怒攻流「よく分かんないけど……本気出していいってことね」

庄司の許可を得た乱怒攻流は両手の二刀をその場に捨てると背嚢から刀でも鞘でもない、いくつかの穴が開けられた棒を取り出してその先端を咥えこんだ。

紺之介(なんだ……あれは……)
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:28:05.53 ID:xzpENjoO0

もう一度両者互いに身構えた静寂の中に、甲高い旋律の音色が響く。

紺之介(縦笛?)

愛栗子「紺! ボサッとするでない!」

愛栗子の声に反応して横に跳んだ紺之介の背後から全くの平行軌道で刀が横切る。その柄は誰にも握られていなかったが明らかにして何者かが投げた軌道ではない。

紺之介が刀の軌道先を目で追っていくとそこには信じられない光景が広がっていた。

紺之介(刀が……浮いている!?)
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:29:20.75 ID:xzpENjoO0

縦笛を吹く乱怒攻流の周りをいくつもの刀が魚のように宙を泳いでいる。瞬時に周りを見渡したが先ほどまで畳に突き刺さっていた何本かも完全に姿を消している。恐らく宙を泳ぐが内のその一本一本がそれらなのだろう。

紺之介「面白い。その笛の音色もさることながらまるで美刀の展覧会ではないか」

乱怒攻流(まだ笑えるのね。ならその減らず口にぶっ刺してあげる!!!!)

71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:31:24.93 ID:xzpENjoO0
紺之介が駆け出したことによりついに二人の最後の攻防が幕を開けた。宙を舞い的確に紺之介を狙う刀に対して彼は出来るだけ低い姿勢を保ったまま接近し、襲い来る刀を間合いぎりぎりまで引きつけてかわす。

再び畳を裂いた刀を今度は紺之介が抜いて振り上げた。また一刀、また一刀と宙を舞う刀がはたき落とされていく。

乱怒攻流(あ゛ーもう!)

徐々に距離を詰めた紺之介の刃はついに乱怒攻流に届く間合いを捉えた。接近した低い姿勢のまま身長差のある彼女にも確実に届く超低空の下段払いが乱怒攻流の足首を打った……かに思われたが。

乱怒攻流(ばーかっ!)

跳飛を取り入れた剣術を操る乱怒攻流にとって瞬時にそれをかわすなど容易いことであった。再び浮かせた拾い刀の雨が天井で紺之介の背に狙いを定めた瞬間だった。

72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:33:28.74 ID:xzpENjoO0
乱怒攻流(えっ)

浮いた足首を紺之介が素早く掴み取った。そのことによって姿勢を後ろに崩しかけた乱怒攻流の背を、刀を捨てた彼の手が支えた。

紺之介「おっ、と」

その場で乱怒攻流を抱きしめた紺之介の背に天井に浮いたまま行き場を失った刀共が襲い来るもそれらは二人の上に展開された見えない壁に遮られるようにして全て弾き飛ばされた。

73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:34:28.13 ID:xzpENjoO0
焦った庄司が鞘を握りて何度も「納刀」と叫んだがその言葉は乱怒攻流の身体に届かず無意味に座敷に響くだけとなった。

紺之介「どうやら、所有権が移ったようだな」

乱怒攻流「あ、ぁ……ちょっとぉ!」

乱怒攻流に両手で突き飛ばされた紺之介だったが彼はそのまま庄司の方を向いて高らかに宣言した。

紺之介「俺の勝ちだな。この刀もその鞘も、この剣豪紺之介が貰い受ける」

74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:35:31.25 ID:xzpENjoO0

…………………………

庄司の家を後にした紺之介は興味本意に乱怒攻流の背嚢をいじり倒していた。

乱怒攻流「ちょっと! 将軍様に貰ったあたしの大切な鞄にベタベタ触らないでよ!」

紺之介「中は深い井戸のような暗闇だな。これを取り外すことはできないのか?」

乱怒攻流「これを自由に出現させられるのはあたしだけよ」

その様子をまだ不機嫌そうな顔つきで見ていた愛栗子は紺之介の興味を乱怒攻流から遠ざけるためか自らの口でその詳細を語った。

75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:36:59.12 ID:xzpENjoO0
愛栗子「それはそやつの『刀』じゃ。幼刀はみなその名を授かるにあたった力を持っておる。先ほどの縦笛も乱の『刀』の一つじゃな。一つだけの奴もおれば複数持っておる者もおる」

紺之介「お前も持っているのか」

愛栗子「まぁそうじゃの。見てみたいか?」

紺之介「興味はあるが……お前は暫く納刀だ。連れて歩くのはそこの赤背嚢だけで十分だ」

乱怒攻流「は? 言っとくけどあたしはまだあんたに付いて行くだなんて一言も言ってないか!」

紺之介「あ、おい!」

乱怒攻流「悔しかったらまた捕まえてみなさい!」

76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:39:27.79 ID:xzpENjoO0
颯爽と逃走を図る乱怒攻流の後ろ姿にため息を吐きながら彼女の鞘を握った紺之介であったが彼が『納刀』と口に出す前に何処からか飛んできた謎の黒紐が乱怒攻流の身体を巻くように絡みつき彼女を往来に転かした。

乱怒攻流「ふぎゃっ」

紺之介「なっ……」

愛栗子「どうやら乱を縛って歩く係が必要なようじゃの」

黒紐の出所を目で探るとそこには黒い手拭いを頭から外した愛栗子が得意げに構えていた。

紺之介「そうか。なら頼んだ」

乱怒攻流「ちょっとぉ! 愛栗子……! これ、外しなさいよぉ!」

続いて三人は幼刀透水-すくみず-の在り処を求めて港を目指す。

少しだけ愉快になった幼刀保護の旅は、まだ始まったばかり。


77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 23:41:05.96 ID:xzpENjoO0
続く
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/10(日) 23:46:44.15 ID:0ze3Yn4oO
おつおつ。シリアスな笑いが……w
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/10(日) 23:48:55.18 ID:JZPA7X0f0
ふざけた設定なのに何故か読み居ってしまう
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/11(月) 02:10:54.97 ID:MdgA9mR40
乙!
このノリ良いね!
81 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2019/03/13(水) 18:08:04.23 ID:BBwPih0C0




幼刀 透水 -すくみず-



82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:09:26.37 ID:BBwPih0C0
潮風に撫ぜられる港町 導路港-どうじょこう-
その名の通り海に浮かぶ数多の船に人々を乗せ航路へと導いてきた国の扉である。

南蛮の民との貿易航としても頻繁に機能するこの町はこの国で最も世界に近しいとも語られていた。

海と空、二つの青混じり合う空を滑空するかもめたちの鳴き声に連れられ、紺之介たちも無事この港に到着していたのであった。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:10:13.65 ID:BBwPih0C0
紺之介「ほう。この刀なかなかだな……欲しい」

しかしこの男、まともな散策もなしに情報収集建前刀屋に寄り道をかましていた。店内数多の鋼の煌めきがそのまま彼の瞳孔を輝かせる。
実力、嗜好。二つ合わせて剣豪語る紺之介、呆れ返る幼刀二人をよそに気前良さげな店員に刀の値を聞く。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:11:32.81 ID:BBwPih0C0
刀屋店長「あんさんそれに目をつけるとはお目が高い……なんと今なら八十両!! ここで買わねばいつ買うんだい」

因みにここの店主南蛮の民にも数多の刀を売りつけた百戦錬磨の商い匠である。

紺之介「ヒヒヒッ、口の上手い男よ。いいだろう……買っ「あほう」

その商談、あまりにも円滑。さすがの紺之介も有り金の殆どを叩いてまで刀の購入を試みるなぞありえんと高を括っていた愛栗子だったが彼の刀狂いは彼女の範疇をそれはそれは大きく超えていた。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:12:12.54 ID:BBwPih0C0
しかしこの男、彼女に背を殴られてもなお己の愚行を疑わない。

紺之介「何だいきなり。まさか同じ刀として売り物に嫉妬を抱いたのではあるまいな」

愛栗子「なわけなかろうが。なぜわらわが只の鋼板に嫉妬せねばならんのじゃ」

乱怒攻流「……愛栗子、こいつって馬鹿なの?」

夜如月からここまでの道のりで薄々気が付いていた乱怒攻流……ここに確信を果たす。

86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:12:52.43 ID:BBwPih0C0

紺之介「九十二両一分三朱だ。あと銅貨か何文か〜……」

愛栗子「なぜわらわを茶屋に連れてくのを渋りその刀に金が出せるのじゃ!」

愛栗子ついぞ声を荒げる。だがそこに刀屋店長ここぞとばかりに紺之介の肩を持つ。

刀屋店長「あらあらお嬢ちゃん店内ではお静かに。刀の良さがわからねぇ娘はこれだからいけねぇ」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:13:45.56 ID:BBwPih0C0
紺之介「まぁそう吠えるな。いざとなれば乱の背負った庄司の刀がある」

乱怒攻流「ちょっと何あたしの刀売ろうとしてんのよっ! っていうかあたしが振ってるのはそんな安物よりよっぽど高いんだけど!」

紺之介「なるほどそれはいいことを聞いた」

紺之介の口元が緩んだのを見て乱怒攻流思わずまたも駆け出したい衝動に駆られる。震える肩ぐっと堪え背嚢を守るようにして手を後ろに隠す。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:14:45.36 ID:BBwPih0C0
乱怒攻流「いや……おかしいでしょ。何あんた実はいい刀の価値もよく分かってないの……?」

紺之介「千両刀ともなればさすがに共通認識にもなりえるが、刀に対して真眼を持つ剣豪たる俺の眼は他の凡人とは異なるのでな……例え庄司が良しとした刀全てを俺も肯定するとは限らんのだ」

乱怒攻流「呆れた。もうあたし付いていかないから」

紺之介「……しかたあるまい。ならば今だけは価値観を揃えてやるとするか。店主、この店で一番の刀をくれ。俺が気に入ればそれを買うこととする」

乱怒攻流「いやそういうことじゃないんだけど!」

内暖簾手前で突っ込みを入れる乱怒攻流と延々と茶屋を強請り続ける愛栗子をそっちのけに男二人はまた商談に入った。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:16:07.34 ID:BBwPih0C0
刀屋店長「一番の刀ですかい……実は昨日入ったばかりの曰く付きがあるんですけどねぇ」

店主の男は一人奥へと入っていくと一分程後に両手に抱えた四尺程の木箱を紺之介の前に出して見せた。その中開けて覗き込むとそこには鞘のない生身の太刀が一振り……そして紺之介の刀狂心に稲妻駆け巡る。

紺之介(これは……!)

初めて愛栗子の鞘を見た時程ではないがそれに近しい衝撃が彼の中で木霊していた。殆ど理性無くして思わずそれを口に出す。

紺之介「欲しい」
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:16:51.30 ID:BBwPih0C0
刀屋店長「いやぁやっぱり分かりますかい? これですねぇ……実は妖の宿る刀らしいんですわ」

紺之介「ふむ、妖刀ということか」

幼刀とはまた違う興味に煽られた紺之介が詳細に耳を傾ける。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:18:16.59 ID:BBwPih0C0

刀屋店長「昨晩店仕舞いしようって時間にここいらを張る海賊共の船長が来店したんでさぁ」

紺之介(海賊……? なるほど有名な貿易港だからな。そういう輩も湧くわけか)

刀屋店長「もう何事かと叫ぶ準備に息を深く吸ったところでその男の只ならぬ雰囲気に気がついたんでさぁ……そして箱ごと差し出されたのがこれ。なんでも魚の水揚げをしていたら引っかかったんだと」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:20:08.83 ID:BBwPih0C0
そこから刀屋の店主は露骨に声を潜めて手のひらを口の横に立てて話し始めた。

刀屋店長「でよ? なんでもこの刀の柄を握ったやつは死の呪いにかかるんだと。その海賊の船長もいつもは威張り散らかしたロクでもねぇやつなんだがそのときばかりは浮かねぇ顔をしてたもんで話を聞いたらこれを握った仲間の一人がポックリあの世に逝っちまったんだとよ」

刀屋店長「んでまぁ綺麗な刀だがもう船に置いとくには気味が悪いってんでウチに売りつけてきたんでさぁ。最初は迷いもしたんですがぁね……こんないいモンを百両ポッキリで売ってくれるってんで、店に飾っておくことにしたんですよ。勿論柄には怖くて触れませんがね……ヘヘッ」

軽く戯け笑いを浮かべ店主は続けた。

刀屋店長「でもまぁ、あんさんがどうしてもと言うなら二千両でどうだい」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:21:17.60 ID:BBwPih0C0

紺之介「二千両か……」

格好つけて顎に手を添える紺之介だったが当然この男にそこまでの即金が用意できるわけもなく

紺之介「これ程の刀……二度も三度も出会える気はしないが仕方ない。今回は先を見送るとするか」

二十秒ほど考える素ぶり見せども当然のごとくそれを諦めた……ところだった。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:21:46.26 ID:BBwPih0C0
愛栗子「紺、これは幼刀じゃぞ」

紺之介「は……?」

彼の隣から木箱を覗き込んだ愛栗子が耳を疑う発言を口にした。

乱怒攻流「そ、そうね……まさかこんなところにあるだなんて……」

紺之介が一度疑った己の耳に追い打ちをかけるように乱怒攻流がそうこぼした。

95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:22:27.85 ID:BBwPih0C0
…………

愛栗子「む、よい塩大福じゃの。程よい塩味があんの甘味を引き立てておる」

港茶屋の老婆「ここは新鮮で質のいい塩を使っていてねぇ……」

幼刀と判明したところで一度市場に出てしまったものは金がなければ始まらんというのが世の常なり。
結局三人は刀屋を後にして茶屋へと撤退し一度相談に入った。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:23:04.49 ID:BBwPih0C0
乱怒攻流「なんで引き返しちゃったのよ。あたしたちがあれを幼刀だっていってるんだから手紙でも小切手でも使って依頼主に請求してやったらよかったじゃない。お偉いさんなんでしょ?」

紺之介「それも考えたが……通らぬ可能性がある」

乱怒攻流「なんでよ」

紺之介「鞘がなかったからだ。大金を巻き上げといて半端ものを送ってみろ……例え残りの幼刀全てを差し出したとて許しを得れるかは紙一重だ」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:23:52.75 ID:BBwPih0C0

乱怒攻流「それで許してもらえるなら別にいいじゃない」

まだ何処が問題なのかを分かりきっていない乱怒攻流に紺之介が目を燃やして答えた。

紺之介「そうなればお前らの委託……いや譲渡も通らなくなる。それだけは許容できぬ」

愛栗子「ふふ、それでこそわらわの認めた男じゃ」

「天晴れ」と扇子を広げ陽気に笑う愛栗子と謎の野望を語る紺之介の二人に挟まれて淀んだ息苦しさに包まれた乱怒攻流であったが二人が己の思考では測りしれぬ輩だと割り切ると呆れながらにして本題に入った。

乱怒攻流「で、どうするのよ」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:24:45.13 ID:BBwPih0C0

紺之介「どうもこうも……用意するしかないだろう。二千両」

紺之介は決意固くして塩大福を口に入れ茶を押し込むように流し込んだ。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:25:33.23 ID:BBwPih0C0
乱怒攻流「はぁ? あんたそんな簡単に言うけどねぇ」

愛栗子「なんじゃ刀を担保に両替商に一時的に借り入れでもするのかの?」

乱怒攻流「ちょっ……! あたしの刀は貸さないわよ!?」

愛栗子「おぬしの鈍じゃと……? あほう。即日二千両借り入れるならぬし自身を刀身にして差し出すくらいでないとの」

乱怒攻流「ばーかっ、なーんであたしが担保にならなきゃならないのよ! あんたが担保になりなさいよ! 刀になっても綺麗なんでしょ? あんたなら一万両は引き出せるんじゃないの〜??」

ものの数秒で二人の皮肉のつねり合いは激化し、やがてそれが物理的になりて茶屋の他客の視線が紺之介に痛くささり始めた。

一分間の激闘の末、茶屋の老婆の咳払いが二人の動きを静寂へと導いた。
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:26:45.01 ID:BBwPih0C0
紺之介「はぁ、心配するな。そのようなことは元からする気もなければ、幼刀を差し出して幼刀を手にしたところでそれは問題を先延ばしにしたにすぎんだろう」

紺之介「それにこの俺が故意に万が一にでもお前らを一時手放すと思うか?」

愛栗子「ふふ、ありえぬの」

紺之介の両手を頭に置かれた内の一人が嬉々とした表情でそれを否定した。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:27:29.75 ID:BBwPih0C0
紺之介「算段ならある」

しかしながらこの男、世に生を受けてやってきたことと言えば剣術と刀弄り以外に何もなし。そうして効率よく稼ぐノウハウなぞあるはずもなく、彼の知る内で彼に出来る大金稼ぎの方法と言えば……

紺之介「護衛業だ」

これしかなし。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:28:46.95 ID:BBwPih0C0
まだ不安気な顔色が取れない乱怒攻流を見て紺之介は補足を付け加えた。

紺之介「ここは国の扉とも言われている。物を運ぶ者おれば貴族の姫君すら移動手段としてここを用いることが多い。それが災してか海賊供も群がるそうだ」

紺之介「ここを拠点にそんな客層を狙って雇ってもらう。俺の腕が足らんということはないだろう」

愛栗子「なるほど考えたのぅ!」

紺之介「そうと決まれば客探しだ。行くぞ」

席を立ち料金を払って意気揚々と茶屋を後にする紺之介と愛栗子の後ろ姿を見た乱怒攻流だったが……

乱怒攻流(一体どれほどこの地に止まるつもりなのかしら……)

その顔から不安の顔色が引くことはなかった。

103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:29:31.24 ID:BBwPih0C0

…………

紺之介「待たれよ、そこの姫君」

しかしながら紺之介の目の付け所自体は悪くはなく、三人は早速明日の船に乗る予定だと言う華蓮と呼ばれた姫の一行をつかまえた。

華蓮「はい?」

付き人「何者だ貴様」

少女との間に割って入った付き人に臆することなく紺之介は自己紹介に入った。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:30:24.30 ID:BBwPih0C0
紺之介「俺は紺之介と申す。剣豪をやっている護衛業の者だ」

乱怒攻流(剣豪をやっているって剣豪が職業みたいになってるじゃない……)

紺之介の胡散臭さ漂う自己紹介に付き人早くも警戒心を強めるもそれでも臆することなく紺之介は話を通し続ける。

紺之介「そこで貴女らの明日の予定の立ち話を耳にしてな。そこの島へ渡るとこまででいい。俺を雇ってみないか?」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:31:05.80 ID:BBwPih0C0
付き人「……結構だ。姫様の護衛役は私一人で間に合っている」

紺之介の船上護衛計画、あっさりと轟沈す。

乱怒攻流(これは駄目そうね)

乱怒攻流が首を振り、付き人が華蓮の手を引いてその場を後にしようとしたときだった。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/13(水) 18:32:22.72 ID:BBwPih0C0
華蓮「つきひと、もしかしたらこの方はとても頼れる方かもしれませんよ? ほら見てください。……紺之介さま? そこのお綺麗な方も貴方が護衛なさっているお方なんですか?」

華蓮が立ち止まって愛栗子に興味をしめした。見た目からして彼女らは年齢も近く、そして何より愛栗子の美が少女の目を引き寄せたのだ。

紺之介この機を逃す手は無し。早速先ほどまで扇子を仰いでいただけの愛栗子に話を合わせるよう仕向ける。

紺之介「あぁそうだ。こいつ……いやこの方も俺の腕を買ってくれた姫君の一人よ」
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