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男「この俺に全ての幼女刀を保護しろと」
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553 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/24(月) 01:34:54.36 ID:7Hi8D/RJ0
愛栗子「ぬしを最後の刀としたのはぬしに永遠を生きて欲しい反面でまだ人であって欲しかったという裏返しだったのじゃ。将軍様はの、本当はぬしと共に生きて、ぬしとともに永眠りたかったに違いないのじゃ」
愛栗子は児子炉の瞳で澱む涙を指で拭うと光に包まれて世を去る少女に最後の言葉を送った。
愛栗子「ほれ、はよう将軍様の所へ行ってやれ。きっと、今頃ぬしを刀にしたことを後悔して寂しがっておる……」
554 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/24(月) 01:35:30.22 ID:7Hi8D/RJ0
児子炉「う、ん……」
微かに首を縦に動かすと児子炉は目を閉じて粉雪のように霧散した。
555 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/24(月) 01:36:08.73 ID:7Hi8D/RJ0
方や激闘の疲れを少しでも癒し、方や感傷に浸りて暫し座り込んでいた二人であったがその空気を読んでか読まずか乱怒攻流が庄司の刀を片付けながら紺之介を指でつついた。
乱怒攻流「ちょっと〜生きてる〜? 終わったことだし早く帰りましょ?」
紺之介「少しくらい休ませてくれ。あと暫くしたら軽く穴を掘る。手伝え」
乱怒攻流「え゛……」
556 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/24(月) 01:37:13.85 ID:7Hi8D/RJ0
言葉を詰まらせる乱怒攻流の後ろでおもむろに立ち上がった愛栗子は先ほどまで感傷に浸っていたのが嘘かのように扇子で軒下の黒猫と遊び始めた。
愛栗子「律儀なやつじゃの〜……ま、わらわはやらぬがの」
乱怒攻流「ちょっとっ!」
紺之介「ちなみに俺も全然動けん。なあ、屍も笛で動かせるのか?」
乱怒攻流「ぜったい嫌!」
まだ激闘の熱が仄かに残る戦場を冷たい風が優しく均す。
旅の終着、二つの弔い後彼らは露離魂町への帰路につく。
557 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/24(月) 01:37:53.85 ID:7Hi8D/RJ0
乱怒攻流「……というかあんたさ、二刀流の心得とかあったわけ?」
紺之介「いや初めてだった。だが剣術に関して剣豪に不可能はない」
乱怒攻流「ふふっ、なにそれ」
558 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/24(月) 01:39:39.34 ID:7Hi8D/RJ0
「ほんと刀馬鹿なんだから……」
559 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/24(月) 01:40:53.46 ID:7Hi8D/RJ0
続く
560 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/24(月) 01:41:42.98 ID:7Hi8D/RJ0
今日か明日か次で完結まで投下します
561 :
◆hs5MwVGbLE
[saga]:2020/02/25(火) 01:54:30.75 ID:h4Hvdco40
幼刀 Lolita sword
562 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 01:56:34.02 ID:h4Hvdco40
露離魂町への帰路の途中、彼らは再び助寺への石段を踏みしめていた。
ひたすら草履と石が擦れる音の中もう辛抱たまらずといった様子の乱怒攻流が嘆きをこぼす。
乱怒攻流「あ゛〜もうまたここを上ることになるなんてぇ〜……」
愛栗子「まったく情けないのぅ……真夏と違って動けば身体も温まり丁度よいではないか」
乱怒攻流より上の段で偉そうに語る高飛車少女だったが生憎彼女は紺之介の背に文字通りお高くとまっていた。
乱怒攻流「何よ偉そうに! 突き落としてあげるから今すぐ降りて来なさいっ! 」
透水「まぁまぁ……」
彼女らを取り持つ透水も内心今回ばかりは愛栗子に非があると思いながらも口には出さず。
563 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 01:57:25.75 ID:h4Hvdco40
乱怒攻流「はぁ……にしても透水あんた……見かけによらず体力あるわね……」
透水「えへへ、そうかな」
透水が上りながら照れくさそうに笑うと藍染が風に揺れる。
現状彼女の格好は珍妙な刀着一枚ではあまりにも悪目立ちするとしてその上から紺之介が買い与えた麻を羽織ったものであった。
それでも下の段の乱怒攻流から見れば彼女の引き締まった脚部や腰つきが見え隠れする。
その芸術的な曲線に乱怒攻流は人知れず彼女の有り余る体力の秘密に気づき納得したのであった。
乱怒攻流「……ふーん。なるほどね」
564 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 01:58:18.24 ID:h4Hvdco40
紺之介「着いたぞ」
一足先に到着した紺之介が一度下の二人に号令を入れてから先を急ぐ。
二度目の彼らの訪れに一番最初に出迎えてくれたのは紺之介を枝でつつき回した童であった。
「あ! こんのすけだ!」
駆け寄る童を前に紺之介は一先ず愛栗子を背から降ろし抱きついてくる彼の頭を撫でる。
紺之介「久しぶりだな……元気にしてたか」
「うん! またしょーぶしろ!」
紺之介「はは、元気なものだな」
表面上では彼に微笑みで返す紺之介であったがその内心はかなり複雑なものであった。
次第に透水、続いて乱怒攻流と上がりて童は初めて見る顔と前も見た顔にそれぞれ違う瞳の輝きを宿したが段々と不思議そうな顔つきになりとうとう紺之介にその原因を問うた。
「……フミおねーちゃんは?」
馴染みの顔に会えなかったからである。
565 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 01:59:18.13 ID:h4Hvdco40
愛栗子が顔を伏せ、乱怒攻流の気まずく落ちた肩を透水がさする。
その中で唯一断片的な事実を単刀直入に彼に伝えようとした紺之介だったが言葉は上手く喉を通らずただの呼吸となって侘しく気化した。
紺之介「悪いな。とりあえず、お前らの先生に会わせてもらえるか」
566 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:00:04.74 ID:h4Hvdco40
…………………………
茢楠「そう、ですか」
紺之介は助寺の別室にて茢楠に事実を語った。
だがそれに対して茢楠は涙することもなく一行を怒鳴ることもなくまた絶句するでもなくただ両手を合わせて「お悔やみ申し上げます」と、一言だけ口にした。
愛栗子の表情がさらに陰る。彼女はひしひしと苛まれる罪の情に耐えられずついに誰よりも先に謝罪を口にしようとした。
愛栗子「すま「すまなかった」
が、紺之介の土下座がそれより先をいった。
567 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:01:01.00 ID:h4Hvdco40
紺之介「あいつを壊してしまったのは全て俺の弱さ故だ」
愛栗子「紺……」
茢楠「そんな、顔をお上げになってください。仏の教えを乞う者からすればフミもフミの子も本当はもう世を去っているというのが理というもの……それにですね、紺之介さん」
顔を上げながらもまだ姿勢を低く保ったままの紺之介に茢楠が問いかける。
茢楠「今こうして私は子どもたちの前から席を外しているわけですが、この間一体誰がみんなの面倒を見てくれていると思いますか?」
無論紺之介がそのようなことを知るはずもなし。
彼は何を問われているのかすら理解あやふやにただひたすら茢楠を見上げた。
568 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:02:12.37 ID:h4Hvdco40
茢楠「……最近少しお兄さんお姉さんになった子たちが見ててくれてるんですよ。ちゃんと、育っているんです。ここには遺されているんですよ。フミが皆に与えた慈愛の教えが」
茢楠「そうして彼らがまたその意志を子に伝え、その子がまた孫に誰かを愛することの素晴らしさを教えてくれるでしょう。そうやってフミの生きた証はこれからも世に刻まれていくんです」
茢楠は紺之介の手を取り彼を立ち上がらせながら続けた。
茢楠「子どもたちに事実を受け入れてもらうのには時間がかかるかもしれませんが……そこはもう全て私に任せていただいて、貴方達は気にせず前を向いて進んでください。フミは優しい子です。彼女もきっと、それを望んでいるでしょう」
569 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:02:42.34 ID:h4Hvdco40
茢楠の彼らを慰め導く姿はまさしく聖職者の鑑と紺之介は感応した。
刃踏がこの世に遺したものの一番は今自分の目の前にあると彼は悟るのであった。
紺之介「……すまない。感謝する」
紺之介が謝罪と礼を告げると同じく心の重荷を救われた愛栗子も改めて茢楠を賞賛する。
愛栗子「まこと立派な僧じゃ。わらわからも礼を言うぞ」
570 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:03:08.23 ID:h4Hvdco40
茢楠「坊主冥利に尽きます……ですがまあ」
紺之介「ん?」
賞賛を受け茢楠はにこりと微笑んだ。
だが
紺之介「ぶはッ゛……!?」
透水「きゃあ!」
乱怒攻流「へ」
愛栗子「……」
あろうことか彼はその顔のまま紺之介を勢いよく殴り飛ばし、豆鉄砲を食らった鳩のように目を丸くしたまま床に伏す紺之介にやはりその顔のまま謝罪した。
茢楠「すみません。これくらいは許してくださいね」
571 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:03:35.22 ID:h4Hvdco40
………………………
別室を後にしながら紺之介は茢楠に殴られた頬をさすっていた。
愛栗子「男前が台無しじゃのぅ……」
透水「あのぅ……大丈夫ですか?」
乱怒攻流「ま、仕方ないわね」
各々の心配を向けられる中紺之介は一人思い出す。
紺之介(聖人君子とさえ思えたがそういえば奴は元荒くれ者だったな……)
572 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:04:01.75 ID:h4Hvdco40
ひとまず頬の鈍痛が引き始めたところでそれはさておきとして紺之介、建物の影に潜む気配に声をかける。
紺之介「もういいぞ。ずっとそこに居たのだろう」
透水「ふぇ?」
「……」
透水がなんのことかと周囲を見渡す中彼らの後方からそっと姿を現したのは迎えた童であった。
573 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:04:44.36 ID:h4Hvdco40
彼は俯いたまま今にも泣き出しそうな声をひりだす。
「しょーぶしろこんのすけぇ……フミおねーちゃんのかたきだ……」
紺之介「……いいだろう。来い」
フッと短い息を挟み紺之介も童の方を向く。その顔は子どもをあやすでもない真剣勝負の面持ちそのものであった。
乱怒攻流「ちょっと……!」
予想外に買って出る彼の対応に乱怒攻流が焦り割って入ろうとするもその肩を愛栗子が掴んで引き止める。
後ろで無言のまま首を横に振る愛栗子を見て乱怒攻流も不本意ながら仲裁を諦めた。
574 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:05:14.98 ID:h4Hvdco40
「うわああああ!!!!」
童が全力疾走で正面から紺之介に突っかかる。しかし彼が突き出した渾身の拳骨も虚しく紺之介はそれを手のひら一つで受け止めた。
「このっ! このっ! はなせぇ!」
左右に身体をひねらせ暴れながら抵抗する童の前髪を紺之介は片方の手でグッと掴み上げ強引に目を合わせるように仕向ける。
髪を引っ張られた童の顔はもはや涙鼻水まみれとなっていた。
575 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:06:01.23 ID:h4Hvdco40
紺之介「分かるな。今のお前では絶対に俺に勝てはしない」
「そんなごど、やっでみなくちゃ……」
紺之介「いいや無理だ。だから……」
無慈悲な現実を突きつける一方で紺之介は受け止めた彼の拳骨を開かせその手に幼刀奴の鞘を握らせた。
「なんだよ、ごれ」
紺之介「強くなれ。そして本当に勝てると思ったならば俺に会いに来い。そのときお前がまだこれを持っていたならば相手をしてやる」
そのことを伝えると彼は童から両手を離し幼刀三人を引き連れて石段を下り始めた。
特に何を言うでもなく紺之介についていく愛栗子に対し他二人は鞘を見つめ立ち尽くす少年を時折見返しながら下っていく。
576 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:06:28.48 ID:h4Hvdco40
乱怒攻流「ねぇ、何であんなこと言ったのよ。あの子が児子炉みたいになっちゃったらどうすんのよ」
紺之介「問題ない。やつがそれだけ本気ならば正しい力のつけ方も、力の振るい方も、きっと茢楠が教えてくれるだろう。それにもしこの先本当にやつが俺のもとへ来たのならそのときは斬らない程度に相手をしてやるのみだ」
紺之介「……それくらいのことはしたんだ。誰も、頬を一発殴られたくらいで許されたとは思っていない」
577 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:07:05.21 ID:h4Hvdco40
……………………
夜如月の平屋敷、季節は冬本番。
そんな中竹刀を素振りする恰幅のいい男が一人。
庄司「ふん! ふん!」
庄司 成逢 - しょうじ せいあい - ここ夜如月にて紺之介と幼刀 乱怒攻流をかけた戦いに敗れた刀趣味の青年である。
それなりの気品漂う庭の中彼が声を張り上げるその辺りだけが異様な熱気を放っていた。
そこに野良猫のように塀を越え少女あらわる。
乱怒攻流「……うげ、なんであんたまで紺之介みたいになってんのよ」
578 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:07:39.95 ID:h4Hvdco40
庄司「え……ら、乱怒攻流たん……!? どうしてここに……」
夢にまで見たと言わんばかりに瞳潤わせ興奮気味に近寄ってくる庄司に対し乱怒攻流冷めた態度で挨拶を済ませる。
乱怒攻流「別に、ただ旅が終わって露離魂町に帰る途中で立ち寄ったからちょっと見に来ただけの話よ」
579 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:08:44.85 ID:h4Hvdco40
庄司「ということは乱怒攻流たんはまだ紺之介殿と?」
乱怒攻流「そうよ」
庄司「なるほどそれは良かったといいますか、安心したといいますか……紺之介殿ほど刀を解る同志ならば乱怒攻流たんを安易に傷つけたりはしないと某確信しているので」
乱怒攻流(……なーんだ)
表ざたでは塩対応の乱怒攻流であったが内心では少しばかり拍子抜けといった様子であった。というのも彼女は『庄司は自分を手放してしまった後すっかり意気消沈してしまったのではないか』と思い込んでいたからである。
580 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:09:12.70 ID:h4Hvdco40
ところがどっこい実際目にしてみれば彼は自分といたときより活気溢れんばかりと見える。
それどころか自分がいまだ紺之介の所有物であることに納得さえしているではないか。
乱怒攻流不可思議を抱えつつ彼に問う。
乱怒攻流「で、何してんの」
庄司「よくぞ聞いてくれましたな! 某紺之介殿に敗れてからというもの誓ったのですぞ。必ずやいつの日か、次は己の力で乱怒攻流たんを紺之介殿から取り返すと! 今や週三回道場通いの身。最初こそタコ殴りにあいましたが最近では試合にも……」
乱怒攻流「あーもうわかった! わかったから……」
一度熱が入ると急に饒舌になり始める彼に何処ぞの剣豪を重ねた彼女は既視感から来た拒絶反応か強引に語りを終わらせると呆れ気味に庄司を落ち着かせた。
581 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:10:18.82 ID:h4Hvdco40
乱怒攻流「とにかく……まあ、元気そうでよかったわ。それじゃあね」
庄司が息災であったことに安堵しつつも要らぬ世話をしたと思いながら乱怒攻流はまた塀へとひとっ跳びで上がる。
さてここを降りれば茶しばきの愛栗子らと合流するのみと彼女が考えているときだった。
庄司「あ……」
乱怒攻流「!」
庄司がついもらしたうら淋しくか細い声が乱怒攻流の後ろ髪を引く。
乱怒攻流が後ろを振り返ると声の主はついやらかしたという様子で口を閉じきまり悪そうに視線を斜め下に落とした。
そんな彼の様子に乱怒攻流少しばかり顔をほころばせる。
乱怒攻流(なによ。やっぱりそうなんじゃない)
582 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:10:59.31 ID:h4Hvdco40
乱怒攻流「しょーじ!」
庄司「え、ぁ、はいっ!」
乱怒攻流「なんだかよく分かんないけど、せいぜいがんばりなさいよっ」
庄司「承知!」
激励を賜り姿勢を低くする庄司を見た乱怒攻流はくすりと笑うと、今度は小さく手を振り改めて告げた。
乱怒攻流「……じゃあね」
583 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:12:24.42 ID:h4Hvdco40
すたりと身軽に着地しさてさてと身体の向きを変えた乱怒攻流だったが、目の前には既に紺之介ら三人の姿がそこにあった。
乱怒攻流「うゎえぁ……は、早かったわね」
紺之介「そっちこそ、用事は済んだのか?」
乱怒攻流「まあね」
584 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:12:57.06 ID:h4Hvdco40
「さあ行くわよ」と露骨に先立って歩こうとする彼女の横顔を透水が覗き込んだ。
乱怒攻流「……なによ」
透水「ふふ、乱ちゃん……なんか嬉しそうだなって。用事ってなんだったの?」
乱怒攻流「べつに」
乱怒攻流が顔をそらしたところに愛栗子が後ろから口を挟む。
愛栗子「これこれ透水、探ってやるでない。昔の男とあっておったのじゃぞ? それはもう……逢引に決まっておろう」
透水「えっー!」
乱怒攻流「そんなんじゃないわよっ」
585 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:13:58.65 ID:h4Hvdco40
不意な煽りに顔を火照らせる乱怒攻流に薪をくべるかのように愛栗子がたたみかける。
愛栗子「あのような男が好みとはぬしの嗜好も変わったものよのぅ」
乱怒攻流「だから違うって言ってるでしょうがっ! 私が好きなのは……その、将軍様みたいにかっこよくて、強くて……? あとは……」
彼女がそこまで言ったところで愛栗子は紺之介の腕を抱き飄々とした顔で割り込んだ。
愛栗子「なんじゃ、紺はやらぬぞ?」
乱怒攻流「誰もそいつの話なんかしてないわよ!」
透水「えっー! 乱ちゃん二股なの?」
乱怒攻流「……あんた、このあたしをからかおうっての?」
ギロリと睨みをきかせる乱怒攻流に透水は腰をひかせつつ両手を振って否定する。
透水「あわわ……だ、だって乱ちゃん素直じゃないとこあるから……」
少女三人が黄色い声を響かせる夜如月の大通り。紺之介は突き刺さる視線の雨霰に久しく旅の始まりを思い出しながら懇願の音を上げた。
紺之介「頼むから静かにしてくれ……」
586 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:14:42.62 ID:h4Hvdco40
………………………
客人「……」
紺之介「……」
旅の発端となった客人が再び紺之介、そして愛栗子と目を合わせる。
その客人の二度目となる来訪は紺之介一行が露離魂町へと帰還してから報告の後、二日後のことであった。
587 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:16:00.26 ID:h4Hvdco40
客人「まずは改めて長旅ご苦労様でした。こちら先ほど運ばせました千両になります」
一先ず客人が差し出した千両箱の中身を確認した紺之介であったが、彼は別段大金に顔色を変えることもなく顔を上げるとむしろ声色低くして問い質した。
紺之介「して、本題だが」
客人「……ええ、委託保護の件にございますね」
紺之介「そうだ」
今度こそ紺之介の額に汗が浮かぶ。
彼はこのために旅を続け、死線をくぐり抜け、今に至るのである。当然の反応といえた。
588 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:17:03.53 ID:h4Hvdco40
戦場とはまた違う緊張感の中、客人がついに彼らに審判を下す。
客人「この度の紺之介殿の活躍には我々十二分に感謝しております。故に先ほどの報酬は勿論全額支給いたします。しかし幼刀を保護するにあたっての信頼はまた別となります」
雲行きの怪しい空気の中、乱怒攻流と透水が彼らのいた客間へと入室する。
透水「はぅぅ……やっと終わりましたぁ」
乱怒攻流「ちょっと紺之介! いきなり収蔵刀をあたしに入れようとか言い出したかと思ったら何よあの量は! ……って何これ? せ、千両箱!?」
紺之介「今大事な話をしている。お前らもとりあえずここに座っていろ」
紺之介は二人を座らせると咳払いをする客人にもう一度話をふった。
紺之介「すまんな。続けてくれ」
589 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:21:17.15 ID:h4Hvdco40
客人「紺之介殿が保護に成功した幼刀は今ここにいる愛栗子、乱怒攻流、透水……の三振りで間違いないですね?」
紺之介「ああ」
客人「俎板を除いて今回依頼した幼刀の数は全部で六振り。三振りということはその半分を欠損した……ということになります。我々はこの結果を信頼するに足らないとして幼刀はやはりこちらで手厚く保護することが決まりました」
客人のその言葉を耳にしたとき、紺之介と愛栗子は何かを決心したかのように立ち上がりて千両箱を乱怒攻流の中へと押し込むと彼女らも立たせて一言口にした。
紺之介「行くぞ」
乱怒攻流「へ……ちょっと……」
透水「紺之介さん?」
愛栗子「もたもたするでない」
590 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:22:05.76 ID:h4Hvdco40
彼らが立ち上がった瞬間はただただ彼らが落胆し気分を害して席を外そうとしたのかと思った客人も千両箱を詰める手際さすがに異様な空気に声を荒げる。
客人「紺之介殿……な、何を」
客人が立ち上がったとき、ついに彼らは走り出した。
困惑気味だった二人も愛栗子紺之介それぞれに腕を引かれその場の空気に乗せられて廊下を駆け抜ける。
591 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:26:31.08 ID:h4Hvdco40
とうとう宅を抜け外へと繰り出す彼らの後方大声が響き渡り何事かと町民が騒ぎ立てる。
追われ追われて人混みの中、息も絶え絶えに乱怒攻流が嘆く。
乱怒攻流「もぉ〜なんなのよぉ〜! これどこ向かってるわけ〜!?」
愛栗子「華蓮といった姫君を覚えておるか? わらわはあやつと再会の約束を交わした仲なのじゃ。あのとき船で話に聞けばここより北におるらしくての。一先ずそやつをあてに流浪の用心棒として日銭を稼ぎながら東山道へ向かう。また紺を護衛として雇えと言って城に転がりこもうという算段じゃ」
乱怒攻流「確かにあんたはあの子に相当気に入られてたみたいだけどそんなにうまくいくわけ?」
592 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:27:33.22 ID:h4Hvdco40
ちぐはぐな計画に疑いを向けられた愛栗子だったが彼女はいたって涼しい顔で未来を描いた。
愛栗子「そのときはそうじゃのぅ〜……どうせまた道中で茶屋を巡ることになるのじゃ。そのときに肥やした舌を生かして紺を菓子職人にしてしまうのも悪くないの。なに心配するでない。行列必至の看板娘ならここにおるではないか」
紺之介「勝手に決めるな」
593 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:28:57.84 ID:h4Hvdco40
乱怒攻流ほどではないが駆けながらにして透水も不安を吐露する。
透水「あのぅ……おっきなお風呂は……」
紺之介「もし華蓮のとこに転がりこめたならばあるかもしれないな」
透水「いきますっ!」
だがその不安は一瞬で道の足跡と共に捨て置かれた。
594 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:29:55.74 ID:h4Hvdco40
乱怒攻流「あんたそれでいいわけ!?」
紺之介の意思とは別に最後まで決心がつかないといった様子の乱怒攻流に愛栗子が最後の後押しに迫る。
愛栗子「……で、ぬしはどうするのじゃ? まぁどう転んでも紺がぬしを手放すとは思えぬがの」
彼女の『あくまで自分はどちらでもいい』という様子に少しばかりむっとした乱怒攻流はついに腹を括った。
乱怒攻流「まあ……折角あいつが頑張ってるのにいざ紺之介に会いに来てみればあたしがいないなんてことになったらかわいそうだし……いいわよもうついていけばいいんでしょ〜!」
紺之介「決まりだな」
595 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:32:02.32 ID:h4Hvdco40
伝説の幼刀収集の旅は終われど彼らの足は止まることなく前へ進む。
お尋ね者の足跡として『少女を連れた腕利きの用心棒』の噂が新しい伝説を築き上げるのはまた後のお話。
七振りの幼刀と一人の剣豪の物語。
ひとまず、これにて……
596 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2020/02/25(火) 02:32:36.68 ID:h4Hvdco40
完
597 :
◆hs5MwVGbLE
[saga]:2020/02/25(火) 02:34:03.79 ID:h4Hvdco40
今回はこれにて終了です
ここまで読んでくださった方はありがとうございましたm(-ω-)m
598 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/25(火) 08:47:36.65 ID:CymSHVzWO
おつおつ。最後までシリアスだけど酷い話だったw
599 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2020/02/28(金) 08:29:06.48 ID:lyhBXHlk0
読み応えあってよかった。あっぱれ
600 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/03(火) 21:42:08.32 ID:QgRcvKEOo
乙でござる。
ふざけているようでしっかり最後まで読み込ませる文章力、まこと感服いたした。
601 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2020/03/04(水) 14:02:28.85 ID:wrx4RIoW0
乙にて候。
素晴らしい物語だった。
602 :
◆lur8gCzf6w
[sage]:2021/02/25(木) 07:15:04.74 ID:EWAzIrZy0
あ
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