男「この俺に全ての幼女刀を保護しろと」

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1 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2019/03/06(水) 18:13:53.17 ID:rSVVCRzg0
過去の戦国英雄、露離魂(ろりたま)幕府の将軍『露離 大好木』は自らが心から愛した少女たちを永遠のものとするべくその魂を刀に封じ込めた。
時は経ちおおよそ百年。
古きより伝わりし幼女の魂が封印された-幼刀-はもはや伝説の代物となっていた……



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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 18:16:35.93 ID:rSVVCRzg0
「なるほど。話は大体掴めた。つまりこの俺に全ての伝説の幼刀を保護しろと」

その場所、過去に露離魂幕府が拠点とした都『露離魂町-ろりたまちょう-』

その栄光は幕府が消滅した今もなおそこに住み着いた町民たちの人口が示していた。
その賑わう町の民家の一角、自称剣豪を語る男……紺之助のもとに刀を持った客人が一人
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 18:17:19.53 ID:rSVVCRzg0
客人「はい。仰る通りでございます。大好木様が所有していたとされていた幼刀はもはや世の宝と言っても過言ではありませぬ」

客人「10年前何者かの手によって世に放たれて以降我々は噂と情報を手繰り寄せ、ずっとその在りかを探っておりました。しかし先日その宝の一刀、幼刀俎板 -まないた- が幼刀児子炉-ごすろり-を持つ何者かの手によって破壊されたとの情報が入りました」


4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 18:19:26.40 ID:rSVVCRzg0
紺之介「その男を止めるため剣豪の俺のもとへ参ったということだな」

紺之介は得意げに腕を組むと目を閉じて二度頷いて見せた。美麗な刀の収集を趣味とし並びに剣術の腕にも磨きをかけていた紺之介であったが幕末以降武術がさほど権力を持たぬようになった今の世では彼は変人たる扱いを受けていた。即ち、誰にもその趣味と剣術を公に認められたことがなかったのである。

そこに国家権力に近しい輩からの依頼となっては本心舞い上がらずにはいられない。

腕を組み頷くといった側から見ればそれだけで高慢とみなされかねん素ぶりですらこの男からすればまだ古の侍魂由来の平常心を保てているつもりであった。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 18:20:55.66 ID:rSVVCRzg0
紺之介「して、報酬の話を伺うとするか。まさかこの俺を雇うのであれば銭を重ねるだけでは事足りぬことは承知だろうな」

客人「はい。一先ずこちらに百両ほど……これらには旅費も含まれております……そしてこちらが幼刀愛栗子-ありす-でございます」

紺之介「っ……!」

紺之介は客人が貝紫染めの刀袋から取り出した碧塗りの鞘にその目を奪われた。抜刀せずとも分かる『美』の頂……彼はそのことを鞘と鍔の間から今にも溢れんとする刀身の輝きをまなこに受けて感じとった。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 18:23:08.16 ID:rSVVCRzg0
客人「いえ、それはまだ。しかしこれを持って依頼を果たしていただいた暁には望み通りこの刀の委託と更なる報酬を約束しましょう。我々の目的はあくまで保護。大好木様の意思が安全な状態で保管されるのであれば都住まいで刀の収集癖があるあなたに預けておけば間違いはないでしょう」

紺之介「なんだがっかりさせてくれる。じゃあ何故今この場で出した。所有証明なら結構だ。さっさとしまってくれ……切りかかってでもあんたから愛栗子を奪おうとしてしまう」

依頼を達成した際の譲渡ではなく委託という言葉にも不満があった紺之介だが客人の機嫌を損ねまいとグッと腹に力を入れて堪えたのだった。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 18:24:58.51 ID:rSVVCRzg0
客人「我々は奴との交戦の後に悟りました……奴の目的は恐らく児子炉以外の全ての幼刀の破壊。しかしながら皮肉なことに幼刀をいなす事ができるのもまた幼刀のみ」

客人「そして恥ずべきことに我々はこの唯一保護に成功した愛栗子ですら真の力を解放するに至らなかった」

紺之介「真の力?」

客人「柄を握ることで幼刀に込められた魂を刀から解放し露にする力……露離魂-ろりこん- にございます。『大好木様と共通する志を持つ者』とも……それがもし紺之介殿の胸の内にもあるのであればぜひこれを振っていただきたいと」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 18:29:27.95 ID:rSVVCRzg0
紺之介(共通する志……?)

紺之介は疑念を抱いた。この客人同じく幼刀情報部隊とやらは元を辿れば幕府の犬の家系。ならば『共通する志』とやらは客人たちにもあるのではないかと。
更にそれが客人たちにないだけならまだしもなぜ幼刀児子炉の所持者が露離魂を持っていたのかと。

紺之介(幼刀……露離大好木……それに関連される志……)

紺之介「まさか」

しばし顎に指を当てていた紺之介が手を顎から離したのを見て客人は問う。

客人「何か心当たりが?」

9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 18:29:59.59 ID:rSVVCRzg0
紺之介「あんた、少女を愛でる趣味はあるかい」

客人「……い、いえ。私には既に愛する女房と息子がおります故、今さら浮ついた心で女遊びをする気にはとても……」

手を横に振りながら苦笑いを浮かべる客人を見て紺之介は一人確信する。『露離魂』とは即ち……

紺之介「なるほど、少女を愛でる者のことか」





10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 18:30:27.07 ID:rSVVCRzg0
紺之介はやにわに両手で腿を叩き座布団の上に立つと若干驚いて見える客人へとおもむろに距離を縮め愛栗子の柄を握り込んだ。

紺之介「残念ながら俺に少女を愛でる趣味はないが、俺はこの刀を好いている。 黙ってこの刀を俺に貸せ。さすれば必ずや児子炉の所有者を斬り伏せ、残りの幼刀も保護してやる」

紺之介は客人を見下ろしながら彼の持っていた愛栗子をそのまま抜刀した。瞬間、刀身が眩い光を放ち少女の影をうつしだすと客人の握る鞘を残して刀は全て少女の一部となった。



11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 18:31:02.75 ID:rSVVCRzg0
客人「なっ……」

愛栗子「ふぁぁ……んぅ〜〜? なんじゃおぬしは」

水色の着崩れた浴衣に巨大な蝶を作った白い帯、栗色の髪に黒の手ぬぐいを兎の耳のように結んだその少女は大あくびをしてもまだ尚その美を崩さない。
その姿をとらえた紺之介の瞳は薄気味悪く笑みを浮かべた。

紺之介「ヒヒッ……見ろよあんた」



紺之介「どうやらコイツは、俺を選んだみたいだぜ」



12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/06(水) 18:33:23.70 ID:rSVVCRzg0




幼刀 愛栗子 -ありす-



13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/06(水) 19:19:55.72 ID:lWRr9JM2O
控えめに言って将軍度しがたいヤベー奴だな
良いぞもっとやれ
14 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2019/03/07(木) 05:03:43.28 ID:ThCWRdKl0
すみません>>5>>6の間を抜かしていました


紺之介「これが大好木が生前もっとも愛したとされる少女が封印されし刀……愛栗子-ありす-……この美しき刀を俺に譲渡すると……!」

正座の状態から興奮気味に身体を前に乗り出した紺之介に対し客人は持っていた愛栗子の鞘を少し後ろに引いた。
15 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2019/03/07(木) 05:57:14.84 ID:ThCWRdKl0
つづき
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 05:57:45.44 ID:ThCWRdKl0
幼刀保護の旅に出た紺之介と愛栗子は伝説の幼刀七本が内の一つ幼刀乱怒攻流 -らんどせる-を求め、情報部隊の控え書きを元に都から十里ほど離れた隣街を目指していた……のだが

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 05:58:43.22 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「紺、わらわは団子が食べたいぞ」

二人はまだ都すら出ておらず、昼間は毎日十人ほどの行列ができるほどだという都一の茶屋を前に愛栗子は容姿相応の駄々をこねていた。先を急がんとする紺之介の着物の裾を内に引きしわを作る。

紺之介「何故刀が団子をせびる。お前ら幼刀のその姿はもはや可視できる霊体といっても過言ではない。食わずとも倒れぬだろう」

愛栗子「霊体とはまっこと失礼なやつじゃな! このわらわの美麗な脚が見えぬと申すのか!?」

『脚ならある』とその場で跳んだり跳ねたりを繰り返す愛栗子を見て紺之介は口元を左に引きつらせた。

紺之介(まるで野兎だな)
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/07(木) 05:59:17.72 ID:ThCWRdKl0

紺之介には先を急ぎたい理由があった。まず第一にしてこの愛栗子を一刻もはやく収蔵品に加えたいということ。そうしてもう一つは今も浴び続けている町民の視線から逃れること。

大好木に魂を封印された第一の幼刀にしてその根拠から彼が最も愛した絶世の美少女と謳われる愛栗子は茶屋に並ぶ者たちの視線すら集めていたのである。その様子まさに凝視の行列。まだ茶屋に並ぶと決めていない二人は並んだところで当然最後尾なのだが、そこに並んだ人々が皆目的地の茶屋とは逆方向を向いているという異様な光景であった。

紺之介(流石伝説の一刀……)

さほど『女』というものに興味を示さない紺之介ですらその光景を前に愛栗子の美を再確認した。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:00:37.41 ID:ThCWRdKl0

さてこれらの理由から延々と立ち往生する訳にもいかず、だからといって子どもの躾のように置いて先を行ったところで大して付いていく理由のない愛栗子はここに残るであろうことを紺之介は予測できていた。なんならこの娘、己の美とそれに向けられる視線を自覚していないはずもなく放って行こうものならば今行列を構成している誰にでも団子をせびろうとするであろう。

愛栗子「そうけちけちするでなぃ。わらわは知っておるのだぞ? 紺おぬし今、確か羽振りよく振る舞えるはずじゃろう?」

愛栗子は紺之介の胸に肩から寄りかかると手を口に小声で囁いた。

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:02:53.31 ID:ThCWRdKl0
紺之介(っ、この小娘……!)

仕方なく折れた紺之介は渋々茶屋へ並ぶも顔には早くも旅に疲れた表情が伺える。この愛栗子の鞘と共に腰に吊るした巾着に重々しくあるのは確かに百両。特に遊びと商いに手を出さぬならば何もせずとも暮らせる金でもあるが、これには旅賃も含まれているのだ。

今までまともな仕事をしておらずその上刀の収集に手入れといったことを趣味にしているためか財産の殆どをそちらに当てている貧乏侍はどんな些細な無駄遣いでも避けたいというのが本音であった。

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/07(木) 06:03:56.62 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「よかったのう紺。わらわのような絶世の美少女と共に団子を頬張れるのじゃ。このようなことどんな遊廓に転がり込んでも叶わぬことぞ?」

その一方で愛栗子は久しき現代の露離魂町を満喫していた。その顔はとてもこれからどのようなことが起こるとも分からぬ幼刀収集の旅に赴こうという表情ではない。愛栗子の顔にほだされて旅の気が抜けぬよう紺之介はすっかり彼女の高飛車冗句を無視して並んでいる間に控え書きに改めて目を通していた。

紺之介(幼刀は愛栗子を含めて全てで七振り……)
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:04:28.31 ID:ThCWRdKl0

『大好木に最も愛されたとされる少女の魂が封じられし刀、愛栗子』

『舞うような剣さばきで怒涛で独特の攻め方と切れ味を持つ刀、乱怒攻流-らんどせる-』

『魚のように水に溶け水さえ切る刀、透水-すくみず-』

『血で染まる赤い頭巾に身を包む刀、奴-ぺど-』

『刀身は平たく、その硬度はもはや盾に近しいと謳われる刀……俎板-まないた-』
(児子炉によって破壊される)

『相手の剣士を必ず屈服させ、相手剣士が刀身を力なく降ろす様が『まるで相手の刃を踏みにじるような制圧力』だと言われたことからその名がつけられた刀、刃踏-ばぶみ-』

『依頼の発端の刀、児子炉-ごすろり-』

23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:05:33.33 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「ふむぅ……懐かしい名ばかりじゃの〜」

愛栗子が控えを持つ紺之介の腕を掴んで下ろした。

紺之介「この控えは封じられた幼刀の順に書かれてるらしいな。やっぱりお前が一番大好木に可愛がられてたのか」

大好木が幼刀を作ったのは少女たちの魂を永遠のものとする為……故に最も愛した愛栗子を最初に封印するのは妥当だと考えた紺之介であったが返された愛栗子からの返答は予想外のものだった。

愛栗子「はてさて、それはどうじゃろうな〜」

紺之介「は?」

24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:07:44.81 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「好かれておったのは事実じゃろう。大事にされておったのも事実じゃろうて。しかしそれは他のやつらも同じ……そしてわらわは美し過ぎたが故に最も将軍様の愛からは遠い存在じゃったのではないかの」

またも高飛車冗句かと一瞬呆れかけた紺之介であったが愛栗子の表情が先ほどのものと全く違うことに気がつき思わず詳細を求めた。

紺之介「どういうことだ?」

愛栗子「絵画と同じじゃ……わらわは他の者ども以上に美しく着飾られたが、同じく他の者以上に触れられることはなかった。それでも将軍様はわらわを愛してくださっておると自惚れておったわ」

愛栗子「じゃが一番最初にこの身にされてようやっと気付かされた。将軍様はただこの世で最も美しかったわらわを手中に収めておきたいだけじゃったのだとの。それと同時にわらわの将軍様への想いも幻想だったと気付かされたのじゃ。わらわもまた同じじゃった……美しき己と釣り合う男は将軍様だけじゃと思い込んでいたに過ぎんかったというわけじゃ」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:09:17.11 ID:ThCWRdKl0

愛栗子は掴んでいた紺之介の腕を更に引いて抱いてみせた。

愛栗子「のぅ、紺……もしこの身体でもまだ叶うならばわらわはまことの恋愛というものをしてみたい。心から人を愛してみたいのじゃ……おぬし露離魂の持ち主なのであろう? ならばここは一つ刀集めなぞやめてわらわと駆け落ちしてみぬか?」

一時は興味本位で愛栗子の話に耳を傾けた紺之介であったがその根本に潜むものが恋に恋するうら若き乙女心であったことを知り適当に受け流すと再び控え書きに目を落とした。

愛栗子「のぉ〜」

それでも袖を揺さぶる愛栗子に紺之介は彼女の頭に手を置いて言ってきかせる。

26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:11:55.64 ID:ThCWRdKl0
紺之介「それは劇場の見過ぎというやつだ。それに俺には少女を愛でる趣味どころかもはや女を抱くことすら十一のときに飽きている」

愛栗子「なんと!」

紺之介「俺が子どもの頃はまだ武士が刀を握るだけでそれなりの地位を保てていた時代でな……父は護衛業一本で銭を重ねて母は無理することもなかった。そのとき父は何人かの妾を雇っていて、その内の三人くらいを十のときに俺も頻繁に抱かせてもらっていた」

紺之介「俺が女に飽きた頃に丁度時代も移り変わり、父は仕事が減ったのと同時に趣味だった収蔵品の刀だけを残してある日ぱったり姿を消した。そこからは母に育ててもらったが恩も返せぬ内に病気で亡くなった」

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:12:44.47 ID:ThCWRdKl0
女に飽きた理由以降は完全な自分語りであったがその時なんとなく紺之介の口は饒舌となっていた。彼は全てを話した後、誰かに自分の話をしたのは初めてだったことを思い出した。

紺之介(唐突に刀収集の趣味や剣術を買われたり、誰かに自分語りをしてみたり……俺もまた慣れん風に乗せられているのか。何十年ぶりにこの地に足をつけたこの小娘とさほど変わらんな)

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:13:45.09 ID:ThCWRdKl0
愛栗子「ほぉ〜? しかしそれを聞いて確信したわ。おぬしやはり露離魂じゃの」

紺之介「俺は刀には酔っても女には酔わん。お前を解放できたのはお前を惚れたわけではなくあくまで幼刀愛栗子-ありす-に惚れたからだと考えている」

愛栗子「それはありえぬ。露離魂を持つ者は例外なく童女を好む。昔抱いたのがどのような美女だったかは知らぬが『少女』の味はまだ知らぬであろう……?」

愛栗子が崩し浴衣の肩を更に露出して見せる。

紺之介「そんなに俺を『お前に惚れている』ことにしたいのか。とんだませ娘だな」

紺之介がため息をついて愛栗子の肩を戻そうと浴衣に手をつけたときだった。

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:18:36.55 ID:ThCWRdKl0
紺之介「っ! 伏せろ!」

反射的に愛栗子を抱き寄せて地に伏せる。すると彼らの頭上を短いドスのようなものが通り抜けていきそのまま地に落ちた。刃物が通り抜けたその後には不穏な緊張感だけが残り彼ら以外の茶屋の客列は悲鳴嬌声を上げて散り散りとなった。

愛栗子「お、おぉぅ……? 思ったより大胆にきたのぅ……」

紺之介「ぬかせ」

刃物が飛んできた方向を向きながらおもむろに立ち上がってみるとそこには顔に古傷を走らせた丸刈りの男とその取り巻きだと思われる何人かのならず者が低い笑い声をあげながら立っていた。

30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/07(木) 06:21:06.53 ID:ThCWRdKl0
丸刈りの男「そいつ、幼刀なんだろ? ウチの宝刀マニアがその兄ちゃんの腰につけた碧色の鞘に目ぇつけてよ……それを大人しく譲るってんなら痛い目には合わせねぇぜ?」

紺之介「いかにもといった連中だな。白昼堂々しかも民の集まる茶屋でとは……直ぐにでも警備隊が飛んでくるぞ?」

丸刈りの男「それまでに終わらせるだけの話よ」

紺之介「俺としてもそっちの方がありがたいな」

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:22:03.51 ID:ThCWRdKl0
紺之介が腰につけたもう一つの鞘から自らの刀を抜刀し構えたと同時にならず者たちも活気を増す。

「調子こいてんじゃねーぞゴラァ!」

「テメェら! 久しぶりの血祭りだ!」

愛栗子「……紺、こやつらもわらわに見惚れた連中か?」

紺之介「愛栗子、お前は先に茶屋で団子でもはんでいろ」

後ろ目で愛栗子に避難を促した紺之介であったがそれに対して愛栗子本人は不思議そうな顔をしていた。

愛栗子「わらわを使わぬのか?」

紺之介はその問いに対して目を合わせることなく返すと勢いよく前へ駆け出した。

紺之介「収蔵品に傷をつけるわけにはいかんからな」




32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:23:21.64 ID:ThCWRdKl0
紺之介が振り上げた刀は取り巻きの内の一人の得物をかち上げた。続けて大振りに振り返り背後から襲い来る輩の脇を峰打ちにする。
その隙を突かんと紺之介の左を遮る影に裏拳を叩き込み最後に丸刈り男の吠え面に刃を向け新たな浅傷を作ると彼らはその場で尻もちをついて降伏した。

紺之介「愛栗子、警備隊が来る前に茶屋に隠れるぞ」

再び納刀し自分の元へと戻ってくる自称剣豪の男……そんな彼の雄姿をしっかりと瞳に焼き付けた愛栗子は小さく呟いた。


愛栗子「……なるほどの」



33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/07(木) 06:23:58.62 ID:ThCWRdKl0



紺之介「? これはなんだ」

紺之介の口元には三色団子の一番上が差し出されていた。彼にその串を向けた愛栗子はそれを褒美と語った。

愛栗子「ほれ、はよう食わんか。このわらわが三つしかない内の一つをおぬしにくれてやると言うておるのじゃぞ?」

いまいち理解できず困惑した表情の紺之介だったが団子がそのまま唇に押し付けられたことを機にその顔のまま団子を口に入れた。

愛栗子「紺、わらわはぬしが気に入ったぞ」

紺之介「ならばこの先は駄々をこねず大人しくついてこい」

愛栗子「そうじゃのぅ……この後は共に劇場でも行かんか?」

紺之介「……話を聞け」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/07(木) 06:24:47.77 ID:ThCWRdKl0
続く
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/07(木) 17:32:04.97 ID:WInpL4e5o
いいぞもっとやれ
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/09(土) 13:50:13.61 ID:RxprZZ56o
クソみたいな設定からしっかりしたストーリーの練り込みと丁寧なキャラ立てするのやめろww
37 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2019/03/10(日) 22:30:16.02 ID:xzpENjoO0




幼刀 乱怒攻流 -らんどせる-


38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/10(日) 22:31:31.22 ID:xzpENjoO0
露離魂町から十里ほど離れた街、『夜如月-ようじょづき-』ここにて乱怒攻流の詳細な在り方を探るため紺之介ならび愛栗子は情報を集めていた。

39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/10(日) 22:32:33.00 ID:xzpENjoO0
愛栗子「ふむふむ、ここのきな粉わらび餅はなかなかのものじゃな〜」

茶屋の娘「まことにございますか! あなたのような綺麗なお方に褒めていただき光栄でございます! ご無礼ながらお聞きしたいのですが、もしやあなたはどこかの姫君で……?」

茶屋の娘の絶賛にて愛栗子は得意げに懐の扇子を広げて見せた。

愛栗子「ふふん。くるしゅうない」

因みにこの扇子は都散策にて彼女が紺之介にねだったものである。

愛栗子「わらわの名が知りたいか? わらわの名は……」

とまで言ったところで紺之介の手が愛栗子の頭頂部を覆う。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/10(日) 22:34:57.22 ID:xzpENjoO0
紺之介「お前の名は面倒ごとの種になる。まくな」

控え書き通りここに幼刀の噂があるならばそもそも幼刀の存在自体がこの街の民にとっては周知の宝刀。愛栗子がここにあると知られればその噂もまた瞬く間に広がり正確な情報源の妨げとなりかねぬ。客観的にて紺之介の判断正しけれど愛栗子は不満げに頬を膨らませた。

愛栗子「それくらい分かっておるわ。じゃからわらわにふさわしき姫名を新たに見繕うと思うておったのじゃ」

紺之介「なんなんだそれは……」

呆れながら茶をひとすすりした紺之介はひとまずじゃじゃ馬娘との徒労話を切り上げて少し残念そうな様子を見せる茶屋の娘に質問を振った。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/10(日) 22:38:18.69 ID:xzpENjoO0
紺之介「すまん。ここには幼刀の噂を聞きつけて遥々都からやってきたのだ。何か知っていることがあれば教えてはくれんか」

茶屋の娘「幼刀……ですか。風の噂で耳にしたことはあったんですけど私はあまり刀には関心がなくて……」

紺之介(ここは外れか)

紺之介「そうか、詰まらん質問をしてしまったな」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/10(日) 22:39:33.27 ID:xzpENjoO0
愛栗子「ご馳走になった! ここはよい店じゃ。また来るからの」

二人分の金額を置いて茶屋を後にしようとしたところで娘は二人を呼び止めた。

茶屋の娘「あ……! 待ってください!」

紺之介「? 銭が足りなかったか」

茶屋の娘「いえ、夜如月に刀を進んで収蔵している人がいるんです。なんかここでは変わってる人という扱いなんですけど……その人だったら何か知ってるかもしれません」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/10(日) 22:41:02.09 ID:xzpENjoO0
茶屋での休憩のち娘の情報を頼りに二人は例の刀趣味の者の住居を目指し歩き始めた。

夜如月も中枢部ではないにしろ都を取り巻く街の一つ。商いは都に負けず劣らずの盛んさを見せ、昼間は民で賑わっている。
それが起因して紺之介は肩をすぼめていた。そう。またも視線の雨霰……幼刀愛栗子は刀からも只ならぬ異彩を放つが、刀に盲目的酔いを見せる紺之介ですらもうはや感づいてきている。

紺之介(どうにかしてこいつを刀の姿に戻せぬものか)

大多数の視線を避けることができるのはどう考えても刀の姿の方であるということ。そのことを彼女にも間接的に伝えるため紺之介は愛栗子に相談を持ちかけた。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:43:11.62 ID:xzpENjoO0
紺之介「一度魂を解放した幼刀は二度と刀には戻らんのか?」

愛栗子「ん〜、それはあり得ぬ。幼刀の所有権は柄を握るものに常々移り変わるのじゃが……露離魂を持たぬ者が柄を握れば刀のままじゃ」

愛栗子「あとこれはついでに言っておくが魂を解放された幼刀は好意に所有者を傷つけることが叶わぬ」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:44:04.57 ID:xzpENjoO0

歩きながら愛栗子の下から上を順に眺める。

紺之介「……柄とはどこだ」

愛栗子「〜……足首かの?」

なるほどと思いつつもそれではまだ根本的な解決には至らぬとして紺之介は次の質問に移った。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:45:22.73 ID:xzpENjoO0
紺之介「所有権を持つ露離魂が任意で刀に魂を閉じ込める方法はないのか?」

その方法さえ分かれば視線を避けられ、愛栗子の駄々からも逃れ、美しき刀を腰に携えて歩く優越感に浸れる。紺之介からすれば良いことづくめであったがここでこの男しくじってしまう。

47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:46:16.75 ID:xzpENjoO0
愛栗子「……むぅ」

紺之介「なんだ。知っているなら早く教えろ」

愛栗子「教えぬ」

紺之介「なっ……!」

愛栗子は扇子を前にして首を露骨に彼から背けてみせた。
顔に出てしまっていたのである。紺之介の思惑、願望、そして欲望……その全てが。

48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:47:47.17 ID:xzpENjoO0
愛栗子「にしても刀好きの変人とは……ぬしと一緒ではないか。類は友を呼ぶとはよー言ったもんじゃのぅ」

首が前を向いた時にはもう話題すらすり替えられており紺之介自身も今揺さぶりをかけても無意味と見てひとまず納刀を諦めた。

紺之介「案外そいつが乱怒攻流を持っていたりな。もしそいつが筋金入りの刀収蔵人ならば同じ街にて幼刀の噂が広まっているのにいてもたってもいられまいよ」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:49:58.38 ID:xzpENjoO0
愛栗子「わからんのぅ……わらわは簪に封じられた方がまだよかったわ」

手を横に首を振る愛栗子の態度が紺之介の刀狂心に若干の火をつけたが、語っても分からぬであろう愛栗子には分かりやすく簡潔に伝えた。

紺之介「漢の刀は女子にとっての簪と同じということだ」

愛栗子「そう思っておるのはもうおぬしら特異な人種だけじゃと思うがの」

紺之介(どこまでも生意気な小娘め……)

紺之介の簡潔な例えも虚しく逆に皮肉で返され、どうにかしていち早く愛栗子を納刀状態にもっていかねばと眉を歪ませる彼の元に一人の恰幅の良い男が話しかけてきた。
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:51:27.09 ID:xzpENjoO0
「あの〜、そこの方……」

紺之介「ん、なんだ」

「失礼ですがそれはもしや……愛栗子た……幼刀愛栗子-ありす-の鞘では……」

その言葉を耳にした瞬間紺之介は腰の刀の柄に手をつけた。それを見た男は大変驚いた様子で手を前に出して頭を伏せた。

「ひっ! す、すみません! 実は某……刀収集を趣味にしている者で……!」

紺之介「! ではこの街の刀を収蔵している変わり者というのは」

庄司「へ? あ、はい……某以外にはいないかと……庄司と申します。某に何か用で?」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:53:51.52 ID:xzpENjoO0
紺之介「この街にあると噂の幼刀の情報だ。愛栗子の鞘に一目見ただけで気がついた辺り、全く何も知らない……ということはなさそうだな」

紺之介が刀の柄から手を離し要件を伝えると庄司と名乗った男は先ほどの穏やかさを何処かに潜め目の色を変えて背を向けた。
紺之介は見逃さなかった。その際彼が一瞬だけ愛栗子にその目のまま目配せしたことを。

紺之介(こいつ……今愛栗子を)

庄司「こっちです。某も貴方のその鞘には興味がありますので」

紺之介「……行くぞ」

愛栗子「のぅ紺。これはもう情報を聞き出すまでもなく当たりかもしれぬぞ」

紺之介「俺もそう考えている。気を抜くな」

52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 22:55:46.07 ID:xzpENjoO0
と、かなりの警戒心を持って庄司の家へと上がり込んだ紺之介であったがその引き締まった緊張感は彼の家に飾られた数多の刀を前に雲のように霧散した。
特に広座敷の掛け軸前に飾られた木刀は彼の瞳に童の光を与えた。

紺之介「これは名刀『星砕-ほしくだき-』!? 金剛樹という樹齢1万年の大木から作られた妖刀・星砕の由来を持ち、真剣を上回る強度や硬度を誇りそれを捜し求めて刀狩りを行う者までいたとされている伝説の一振り……!」

庄司「さすが! いやぁ某は分かってもらえる方に出会えて嬉しいですぞ」
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