D.CUIgnorance Fate【オリキャラ有】

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

20 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/24(土) 15:43:00.03 ID:ocV8lRAh0
ななか「おーい、義之くーん!」

遠くから、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。この声は、ななかかな?

ななか「やっほ、義之くん」

俺の近くまで歩いてくる。その隣には、小恋もいた。

小恋「何してるの、義之」

義之「いや、この人と話してたんだ」

話していた子に目を向ける。

小恋「誰?この子」

義之「いや、実は……」

ななか「桜木……さん?」

義之「え?」

突然、ななかがそう言った。

桜木「こんにちは、白河さん」

その子も、ななかに挨拶する。

義之「知り合い?」

二人を交互に見ながら、聞いてみる。

ななか「わたしのクラスメイトだよ」
21 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/24(土) 15:46:06.88 ID:ocV8lRAh0
桜木「あ、そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたね。桜木花穂(さくらぎ かほ)と言います」

ぺこりと、俺と小恋にお辞儀をする。

小恋「初めまして。月島小恋です」

小恋もそれに習うように挨拶。

義之「俺は桜内義之。よろしく」

俺は簡単に挨拶を済ます。

ななか「どうも初めまして、白河ななかです」

花穂「ふふっ、白河さんは三人とも面識あるんじゃない?」

ななか「いやー、この流れなら挨拶しなきゃかな?って。んじゃ、行こっか、小恋」

小恋「あ、うん。じゃあね、義之、桜木さん」

二人は元々用事があったのか、あっさりと行ってしまった。

義之「えーと、桜木?」

花穂「はい?」

義之「いや、今更になって名前を知ったからさ……」

ようやく名前を知ることができたな。昨日まで色々邪魔が入ったからなぁ。

花穂「あなたは、桜内さん……ですよね」

義之「君は、俺のことを前から知ってたの?」

俺からはずっと名前を聞きそびれていたけど、桜木の方は俺に名前を聞くタイミングはいくらでもあったよな。

花穂「ええ、まぁ。校内でも随分有名人ですので」

ふふっ、と小さく笑っている。
22 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/24(土) 15:48:02.33 ID:ocV8lRAh0
義之「いやぁ〜はは、なんか一方的に知られてるのって結構恥ずかしいもんだなぁ」

花穂「……あ」

腕時計で時間を確認した桜木は、いきなり小さく声を出した。

義之「ん?どうかした?なにか用事でもあるの?」

花穂「はい、ちょっと……。すみません、今日はこれで失礼します」

会った時と同じように会釈をすると、その場を立ち去った。

義之「あ、ちょっと!」

それを、呼び止めている自分がいた。

花穂「はい?」

立ち止まって、振り返る。

義之「明日も、俺ここにいるから。通りかかることがあったら話しかけてよ」

自分でも不思議だった。なんでこんなことを言ったんだろう。でも、

花穂「はい、わかりました」

なんだか楽しい冬休みになりそうだと、そんな気がしていた。
23 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/24(土) 15:50:52.96 ID:ocV8lRAh0
桜木 花穂(さくらぎ かほ) パーソナルデータ

誕生日 12月24日

風見学園付属3年2組在籍。ななかのクラスメイト。クリパ当日の夜、枯れない桜の木の前にいるところを義之に目撃される。

性格は控えめで、少々恥ずかしがりや。基本的に礼儀正しい。

消極的ではあるが、自分の中にしっかりとした芯を持ち、それに反するようなことはしないし、一度決めたことは貫き通す強さも持ち合わせる。

しかしその性格が災いし、融通の利かないところもある。アクセサリー類が好きで、その手の店によく行っている。しかし買ったアクセサリーの大半は身に着けず、自分の部屋に飾っている。
24 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/24(土) 15:51:52.40 ID:ocV8lRAh0
本日はここまで

桜エディション発売前には完結まで行きたい
25 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 22:54:58.41 ID:4gqNM10m0
                                         12月29日(水)

音姫・由夢「お邪魔しまーす」

玄関から音姉と由夢の声が聞こえてくる。

音姫「お、弟くん!?」

由夢「に、兄さん!?」

居間に顔を出した二人は、声を揃えて俺を見た。

義之「いらっしゃい。ほら、朝ごはんできてるよ」

ちょうどご飯を盛った茶碗も全て置き終わって、自分の定位置に座る。

義之「そうそう。今日はさくらさん、学校で仕事があるからって朝から出てるよ」

音姫・由夢「………」

俺の話を聞いているのかいないのか、二人は居間の入り口でぽかんと口をあけたままだった。

義之「どうかした?」

由夢「兄さん、どうしてこんなに早起きなんですか?」

音姫「明日は冬の雨でも降るのかな〜……?」

二人は割と本気でそんなことを言っているようだった。

義之「失礼だな二人とも。俺だって休みの日もたまには早起きくらいするよ」

二人の言動に苦笑する。そんなにめずらしかったか?
26 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 22:56:03.02 ID:4gqNM10m0
三人手を合わせ、いただきますの挨拶。

音姫「弟くん、今日はなにか用事ある?もし暇だったら、由夢ちゃんと三人で買い物にでも行こうよ」

音姉がそんな提案をしてくる。うーん、用事かぁ……。

義之「えーと……あるといえばあるし、ないと言えばないとも言い切れないような……」

曖昧な返事。

由夢「兄さん、下手な嘘ならやめなよ。ただ単にわたしたちの買い物に付き合うのが面倒なだけでしょ?」

ジト目で睨まれる。

義之「いや、本当なんだって」

昨日のことを思い出す。

義之『明日も、俺ここにいるから。通りかかることがあったら話しかけてよ』

今思えば迂闊な発言だったよなぁと後悔する。

音姫「えー、弟くんと買い物行ーきーたーいー!」

駄々をこね始めたよ……。

音姫「よし、それなら言い方を変えよう!弟くん、今日はわたしと由夢ちゃんに付き合いなさい!」

強制ですか!?

義之「いや、俺には俺の都合があるというか……」

音姫「だって弟くん、休みに入ってからずっといないんだもん。ちょっとは家族サービスだと思って、付き合いなさい!」

由夢「そーだそーだ!」

由夢も音姉の援護攻撃に回る。こ、これは厄介だな……。

「ごめん!せめて明日にしてくれ!」

箸をおいて、両手を合わせて謝る。

由夢「……むー」

音姫「そっかぁ……。弟くん、今日は都合が悪いんだね。わかった……」

二人とも不満そうだ……。ってか音姉、そんなにしょんぼりすることないじゃん……。なんだか罪悪感……。
27 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 22:58:18.31 ID:4gqNM10m0
*          *          *

桜木に告げたとおり、昨日と同じ場所に座り、何をするでもなくただぼんやりとする。

義之「うーん、考えてみれば考えてみるほど不審者な気がしてきた……」

桜公園のベンチに座ってただぼんやりとしてるだけだもんな。通報されてもおかしくないかもしれない。

義之「そもそも俺、なんでこんなとこにいるんだろう?」

根本的な疑問にぶつかった。えーと確か、クリパの夜に枯れない桜の木の前に女の子がいて、その女の子と何回か偶然出会って、そしてその子の名前を知って、それで今に至る……と。

……あれ?それ、俺がここにいることと関係なくね?

ダメだ。頭がこんがらがってきた。

義之「帰ろう……」

帰って自分の部屋でゲームでもやろう。それが一番いい。そう考えてベンチから重い腰を上げる。

義之「う〜、さむっ!」

途端、身震いが襲ってきた。天気はいいのに、めちゃめちゃ寒いな……。

手をこすり合わせ、家へと歩き始める。
28 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 22:59:06.60 ID:4gqNM10m0
花穂「こんにちは、桜内さん」

そこで、背後から声をかけられる。

義之「うん?」

振り返ると、頬に暖かいものが当たった。

義之「ぅおおうっ!?」

その感触に驚き、その場から二、三歩あとずさる。

花穂「ふふふ……」

そこには、黒く長い髪の少女……桜木がいた。その手には、暖かそうなタイヤキがあった。さっきの暖かい感触はそれかな?

義之「さ、桜木か……。びっくりさせるなよ……」

頬を押さえて、そう口にする。いや、今のはびびった……。

花穂「ふふ、ごめんなさい。はい、これは寒い中待っててくれたささやかなお礼です」

手の中のタイヤキを差し出す。

義之「あ、どうも」

厚意に甘え、それを受け取る。と同時に、かぶりついた。

義之「……うめぇ」

作り立てなのか、中はまだほかほかで、冷えた体には丁度いい感じだった。
29 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:00:13.25 ID:4gqNM10m0
花穂「こんな寒い中、来るかもわからない人をずっと待っていたんですか、あなたは」

微笑を浮かべながら、何気にひどいことを言ってくる。

義之「いや〜、まぁ、そういうことになるのかな?」

だが間違ってはいないので肯定する。……今正に帰ろうとしていたのは、もちろん内緒だ。

花穂「う〜ん……これからもこんな曖昧な約束じゃ困りますね」

義之「それじゃ、携帯番号でも交換しとこうか?」

ポケットから携帯を取り出し、かざす。

花穂「え?あ、ええと……」

それに若干戸惑いを見せ、

花穂「それじゃ……」

おずおずと携帯を取り出した。赤外線通信で、簡単に済ます。

義之「これで、いつでも連絡取れるね」

花穂「そ、そうですね……」

顔を赤らめながら、うつむき加減でそう答える。

義之「どうかした?」

花穂「え、あ、いっいえ、そのっ……」

一目でわかるくらい明らかに動揺し、しどろもどろに手を動かす。

花穂「お……、男の方とこういうやり取りをしたのは初めてなものですから、どうしたらいいのかわからなくて……」

ぼそぼそと、ぎりぎり聞き取れるくれるくらいの声量でそれだけ話す。

義之「……あ、そう……」

深くは突っ込まないようにしよう……。
30 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:00:56.03 ID:4gqNM10m0
花穂「それでは、わたしはそろそろ行きますね……」

またもおずおずと歩き出す。

義之「いつも桜公園を通っていくけど、どこかに通ってるの?」

素朴な疑問をぶつけてみる。

花穂「ええ、はい。予定のない日や時間の取れる日は必ず行っている場所が」

重要なことは伏せて、それだけ答える。

義之「そっか。暇なら一緒にどこか行こうと思ったけど、それならいいや」

花穂「事前に約束するのでしたら、いいのですが……」

またも顔を赤らめながら、控えめにそう話す。

義之「そう?」

……とは言ったものの。俺自身、知り合って間もない人とアポをとるなんてしたことないしなぁ。

義之「それじゃ、明日からこの時間帯、ここか高台の上に俺を見つけたら、必ず話しかける、でいい?」

そんな提案を出す。

花穂「はい、わかりました。それでは」

最後に穏やかな笑顔を見せ、俺に会釈すると歩いて去ってしまった。

義之「とりあえず明日は無理だけどね……」

その場から桜木が離れたところで、ぼそっとそれだけつぶやいた。
31 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:02:19.20 ID:4gqNM10m0
                                         12月31日(金)

その日は、朝から気だるかった。

音姫「ほーら弟くん、起きる起きる!」

目が覚めても布団から出れないでいた俺を、頼んでもいないのに音姉が布団ごと剥いでくれた。

義之「あー音姉!なんてことをーー!」

朝のこのひと時が一番幸せだって言うのに!

音姫「問答無用!今日は大晦日だから、芳乃邸と朝倉邸の大掃除をします!それに伴って布団も全部洗濯するんだから、もさもさしてると夜までに乾かないんだよ?」

目覚めたばかりで回転の遅い俺の頭に、色々な言葉を叩き込んでくる。

義之「えー、今日は大掃除で、芳乃邸が朝倉邸の大晦日をするから、布団ももさもさして夜にしないと、洗濯が乾かないって?」

音姫「何寝ぼけたことを言ってるの弟くん!ほら、洗面所に行って顔を洗ってくる!」

義之「ふぁーい……」

大あくびをしながら、階段を下りる。
32 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:04:14.51 ID:4gqNM10m0
大あくびをしながら、階段を下りる。

さくら「うーわ、義之くん、寝癖で髪ボサボサだよ。そんなんで大掃除できるの?」

一階に下りると、さくらさんの声が聞こえてきた。

義之「あー、さくらさん……?はい、だいじょーぶですよー。さくらさんは年末もお仕事ですか?」

若干頭の回転が良くなってきた。

さくら「うにゃー……そうなんだよ〜。だから、年越しは家ではできないんだよね〜……。寂しいね〜……」

だ〜っと涙を流しながら、玄関へと向かっていく。

義之「それじゃさくらさん。お仕事で大変だと思いますけど、よいお年を〜」

さくら「うん、ありがとう、義之くん♪」

さくらさんを見送り、洗面所に向かう。
33 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:05:13.46 ID:4gqNM10m0
*          *          *

義之「つ、疲れた……」

自分の部屋に戻り、力なくベッドに倒れ付す。何が疲れたって、何よりこの真下にある本の死守に疲れた……。

義之「今、何時だ……?」

ベッドに置いてある目覚まし時計を見て時刻を確認する。

俺と音姉、由夢ががんばったおかげで、夕飯の買い物に行く時間くらいはありそうだな。今日は大晦日なんだし、ちょっとだけ豪勢に行こうかな。
34 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:07:18.25 ID:4gqNM10m0
*          *          *

音姉と由夢がそれぞれ自分の部屋を掃除している隙を突いて、俺は一人で夕飯の買い物に出かけた。

義之「今日は鍋がいいかな〜。あ、それと年越しそばも買っておかないと」

いつものスーパーで、必要なものをポンポンと買っていく。

*          *          *

義之「ちょっと買いすぎたかな」

でも、ま、いいだろ。大晦日なんだし。

袋をがさがさと持って歩いていると、数日前の出来事を思い出す。

義之「前は由夢の買い物だってんで行かされたんだよな」

そして、ちょっとした腹ごしらえの為に桜公園に……。

義之「………」

いかん。これはいかんぞ。腹が減ってきた。夕食までそう時間もないのに!

空いてる手で周りの人に気づかれないように、桜餅を出してそれを食べる。空腹を紛らすのだ!

食い終わる。

義之「……腹減った」
35 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:09:19.74 ID:4gqNM10m0
*          *          *

桜公園で、クレープをひとつ買う。

義之「………うまい」

自分の意思の弱さを呪うぞ、こんちくしょう。

なかば自暴自棄になりながら、買ったクレープを平らげる。

義之「ま、これで夕飯まで持つだろ」

足元においてあった袋を持ち上げて、帰路に着こうとする。が……

義之「あれは……」

見覚えのある長い黒髪を、前方に確認する。あれは恐らく、桜木だな。

義之「今日はずいぶんと遅いんだな」

後ろから声をかける。

花穂「ひゃっ」

桜木はびくっとして、慌てて振り返る。

花穂「さ、桜内さんっ!?」

義之「よ、桜木」

俺の呼びかけによほどびっくりしたのか、手で心臓を押さえている。
36 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:09:58.35 ID:4gqNM10m0
義之「どうしたの?俺の顔になにかついてる?」

俺の顔を見たまま硬直しているようだった。

花穂「あ、いえ……。一昨日、ここか高台にいるという話をしていたはずなのに、昨日も今日もいつもの時間にいなかったものですから……」

義之「あー、ごめん。昨日も今日も家族との用事が会ったから」

花穂「そうだったんですか」

安堵したようにため息を漏らす。

義之「桜木んとこは、もう大掃除は終わったの?」

花穂「えーと、いえ、はい、まぁ」

なんだか曖昧な返事を返してくる。

義之「そっか。じゃ、俺そろそろ帰らなきゃ。音姉たちももう掃除終わってるころだろうし」

花穂「あ、お引止めしてしまいました?」

義之「いや、そんなことないよ。それじゃ桜木も、よいお年を」

花穂「はい、桜内さんも、よいお年を」

行儀良く、お辞儀をする。

義之「それじゃね」

最後に手を振って、桜木と別れる。
37 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:11:22.53 ID:4gqNM10m0
*          *          *

年越し10分前、俺は部屋の窓から空を眺めていた。頭の中に思い浮かべるのは、なぜか桜木の顔だった。

義之「………」

窓辺に肘をつき、ひたすら空を仰ぐ。やがて、除夜の鐘が鳴り響いた。

義之「年が明けた……か」

除夜の鐘が鳴り終わると、俺の携帯からメール着信音が鳴り響く。

携帯を確認する。毎年恒例の、あけおめメールだった。何件か続けて送られてくる。

From:板橋 渉

『ハッピーニューイヤー義之ちゃん♪今年もよろしくねん♪』

義之「気持ち悪いな……」

From:月島 小恋

『明けましておめでとう!今年もよろしくね!」

義之「おお、さすが小恋。スタンダードだな……」

次々と送られてくるあけおめメール。その中に、桜木からのものもあった。

From:桜木 花穂

『明けましておめでとうございます、桜内義之さん。今年も一年よろしくお願い致します』

義之「堅苦しいな……」

カチカチと、桜木に返信メールを送る。

To:桜木 花穂

『堅苦しい堅苦しい(笑)友達同士のメールなんだから、もっとくだけた感じていいって!まぁそれはそれとして、こちらこそよろしく!』

義之「送信……っと」

桜木のほかにも送られてきた全員に返信すると、眠気がやってきた。

義之「ふわぁぁ……。さて、寝ようかな……」

布団を深く被り、そのまま眠気に身をゆだねていった。
38 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:12:52.02 ID:4gqNM10m0
                                         1月1日(土)

年明け初日の目覚めは、なかなかに快調だった。

義之「音姉〜」

呼びかけながら居間へと降りる。しかし、返事はなかった。

義之「由夢〜?」

今度は由夢。しかし、これまた返答なし。誰も来ていないのか?

居間をあけても、誰もいなかった。

義之「うわ〜、寂しいな〜」

新年から誰もいないとは……。

ふと見ると、テーブルの上に重箱が5つ置いてある。

義之「音姉かな?」

重箱の上には、メモが置いてあった。

『弟くんへ あけましておめでとう。神社の巫女のバイトがあるからいってきます。おせち料理、食べてもいいけど、好物ばかり食べちゃダメだよ? 音姫』

義之「ああ、そういや巫女のバイトがどうのって言ってたような気がするな」

後で、神社に行ってみるか。
39 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:14:50.35 ID:4gqNM10m0
*          *          *

音姉特製のおせち料理を十分に堪能し、準備を済ませて家を出る。

義之「う〜、寒いな〜」

外は気持ちよく晴れていて、その分気温は低かった。肩をすくめながら歩いていく。

神社に到着。あたりは当然のごとく初詣に来た人が結構いる。辺りに視線を巡らせる。と、長い黒髪が視界に移った。

義之(あれは、桜木?)

その人物を追って、人の中を進む。

義之「おーい、桜木ー!」

呼びかけると、桜木が振り返る。

花穂「あ、桜内さん。明けましておめでとうございます」

恭しく頭を下げてくる。

義之「あ、どうも。あけましておめでとう」

つられて、俺も頭を下げる。

花穂「初詣ですか?」

義之「うん、まぁ、そんなとこ。桜木は一人?」

花穂「は、はい、そうですけど……」

義之「そっか。それなら、一緒にお参りしない?」

俺も一人だし丁度いいかな、なんて思う。

花穂「いいんですか?なら、ご一緒させていただきます」

そう言って、俺の隣に並ぶ桜木。なんか傍から見たらデートっぽく見えてるかもしれないな。まぁ、桜木もいいって言ってるし、大丈夫だろ。
40 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:16:44.45 ID:4gqNM10m0
建物の近くまでくる。

音姫「あ、弟くん!来てくれたんだぁ」

巫女服を身に纏った音姉が俺の所まで駆け寄ってくる。手には、おみくじの箱だろうか?小さな木箱を持っていた。

音姫「あれ、その子誰?」

俺の隣にいる桜木に気づく。

花穂「おはようございます、朝倉先輩。明けましておめでとうございます」

音姫「明けましておめでとうございます」

条件反射で挨拶を返す音姉。

花穂「わたしは、桜木花穂っていいます」

音姫「桜木さんね。わたしのことを知ってるって事は、風見学園生?」

花穂「はい、そうです」

二人が挨拶をすませる。
41 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:17:29.59 ID:4gqNM10m0
音姫「弟くんも、隅に置けないねぇ。お姉ちゃんに黙って彼女さんを作っちゃうなんてさ」

少しむくれた顔で、とんでもないことを言う。

義之「いや、いやいや!彼女じゃないからっ!」

それを全力で否定する。ちらりと桜木の方を見てみる。顔を真っ赤にして俯いていた。

音姫「あれ、そうなの?あ、あはは……それは、失礼しました〜……」

ごまかし笑いを浮かべながら、俺たちとの距離を離していく音姉。

音姫「あ〜いけない。巫女のバイトに戻らないと〜」

明らかに棒読みだった。

音姫「それじゃあね〜弟くん」

ごまかし笑いのまま、音姉は逃げていった。

義之「全く、早とちりなんだから……」

ため息をつきながら、音姉を見送る。

花穂「か、彼女さんに見えちゃうんでしょうか……?」

桜木がぼそりとつぶやいた。

義之「あ、ごめん、桜木。嫌だった……よね」

音姉の代わりに謝る。

花穂「い、いえ。わたしは別に構わないんですが、桜内さんに迷惑なのでは、と思いまして……」

義之「迷惑?いや、俺は別に迷惑じゃないけど……」

花穂「そっそうですか。でも、また間違われるのもちょっとアレなので、わたしはこれで失礼します」

早口でそういい残して、桜木は帰ってしまった。

義之「やっぱり嫌だったよな……」
42 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:20:14.44 ID:4gqNM10m0
                                         1月2日(日)

翌日、なんとなく気まずいまま別れたからいつもの場所に行くのも若干躊躇われたが、意を決して行く事にした。

義之「来ないなぁ……」

高台のベンチに座って既に30分。今日はいつもの時間に来たけど、桜木は姿を現さなかった。

義之「………」

待つこと更に30分。

義之「……来ない」

もう今日は来ないのかな。諦めて、今日は帰ることにした。

*          *          *

そのまた次の日。昨日と同じく、一時間ほど高台のベンチに座って桜木の姿を探す。

義之「今日も来ないなぁ……」

昨日の夜、音姉になんとなくこのことを話すと、

音姫「ごめんね弟くん!わたしが早とちりなんかしたばっかりに!」

なんてえらく責任を感じられてしまった。別に音姉が悪いわけじゃないんだけど……。

桜木に会えないまま、一週間が過ぎた。

渉や小恋たちもスキー旅行から帰って来ているが、桜木のことが気がかりだった俺は渉たちとは連絡を取らずに、その子と会えることを祈って毎日のように桜公園や高台に訪れていた。
43 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:21:14.72 ID:4gqNM10m0
                                         1月9日(日)

花穂「あっ……」

今日、約一週間ぶりに会えた。

花穂「こ、こんにちは……」

俺の姿を視界に捉えた桜木が、半歩ずつ後ずさりながら挨拶をしてくる。

俺の方はというと、内心安堵していた。このまま会えないんじゃないか、と思っていたから。

義之「よ、桜木。久しぶりだな」

花穂「は、はい……」

なにやら気まずそうにしながら、手で髪をかきあげる。

義之「もしかして、俺のこと避けてた?」

気になったことを直球で聞いてみる。

花穂「いっいえっ!そ、そんなことは決してなきにしもあらずというかなんというかその……!」

いきなり聞かれたくないことを聞かれたからなのか、珍しく桜木が慌てている。

義之「音姉の言ってたことなら気にしなくていいよ。当の本人がめちゃくちゃ気にしてたからさ」

花穂「で、でも、桜内さんの方が迷惑なんじゃあ……?」

義之「俺?俺は前も言ったとおり全然気にしてないよ。むしろ勘違いされて嬉しいくらいだしね」

花穂「え……えぇぇっ?」
44 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:21:51.83 ID:4gqNM10m0
義之「だから、俺の事は大丈夫。桜木さえ嫌じゃなきゃ、今まで通りにしてほしいんだけど」

花穂「そうですか……。わかりました」

俺が言いたかったことを全て伝えると、桜木もわだかまりがなくなったのか表情に翳りがなくなっていた。

義之「それじゃ、俺はもう帰るわ。正直、朝からここにいるから体冷え切っててさ……」

言葉にすると、本気で寒気が襲ってきた。ああ、これはやばいな。風邪引かなきゃいいんだけど。

花穂「あ、それじゃ」

桜木が手に持っていた袋をがさがさと漁り、その中からタイヤキをひとつ取り出した。

花穂「これをどうぞ」

にっこりと笑いながら、それを差し出してくる。

義之「え、いいの?」

花穂「ひとつくらいなら、構わないですよ。作り立てですから、中までほかほかですよ」

そう聞くと、口の中によだれが溜まるのがわかった。

義之「それじゃ、遠慮なくいただきます」

差し出されたタイヤキを受け取り、前と同じようにかぶりつく。熱すぎず、それでいて冷めてもいなく、絶妙な温度だった。

義之「暖まる〜」

思わず顔が緩んでいるのが自分でもわかる。

花穂「ふふ。それじゃ、わたしは行きますね。桜内さんも、風邪を引かないように気をつけてくださいね」

義之「おお、それじゃ〜」

手を振って、桜木と別れる。うん、今日は桜木と会えてよかった。
45 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:23:23.55 ID:4gqNM10m0
*          *          *

夜。なんとなく携帯を手にとって、桜木にメールを送る。

To:桜木 花穂

『明日、よかったら二人でどこかに行かない?』

義之「送信……っと」

何気なくメールを送ったけど、これデートの誘いのメールだよな……。

義之「うわ〜、なんかそう考えると恥ずかしくなってきた〜」

断られたらどうしよう?とか、返信来なかったらどうしよう?とか、マイナスな方向にばかり考えてしまう。

俺がそんな風に悶々としていると、携帯が着信を告げる音を鳴らした。すぐにかぶりつくように携帯の画面を見る。

From:桜木 花穂

『はい、いいですよ。明日は丁度冬休み最終日ですから、何かしたいなとは思っていたので』

その文面を見てすぐ、体の至る所から力が抜けていった。

義之「よかったぁ〜……」

とりあえず、約束は取り付けることができそうだ。
46 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:32:36.76 ID:4gqNM10m0
                                         1月10日(月)

冬休み最終日。桜木と約束した時間に、高台のベンチで待つ。

義之(うーん、変に意識しすぎかな俺)

桜木とは、あくまで友達として一緒に遊ぶだけだと、自分にそう言い聞かせる。

花穂「お待たせしました、桜内さん」

義之「おう、桜木」

とりあえず、二人並んで歩き出す。こうして歩くと、またカップルと見間違われるんじゃないだろうか。

そうなったらまた桜木……。いや。実際にそうなればいいな、と思う。

桜木は俺のことをどう思っているかはわからないが、少なくとも俺は桜木のことが好きだ。

それは、桜木と会えなかった先週に感じていたことだ。

会えなかった時はずっと不安というか、落ち着かなかった。その後久しぶりに桜木を見た時には、随分と安心した。

だから、桜木さえ嫌じゃなきゃ……。
47 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:33:06.95 ID:4gqNM10m0
花穂「……さん?」

義之「え、あ、え?」

花穂「どうかしました、桜内さん?」

義之「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」

いかんいかん。ボーっとしてたみたいだ。

花穂「そうでしたか。桜内さんは、どこか行きたいところとかありますか?」

義之「俺?俺は特にないよ」

花穂「なら、今日はわたしの行きたいところに付き合ってもらえますか?」

義之「うん、いいよ。なら、俺が荷物持ちだな」

花穂「いいんですか?」

義之「全然」

花穂「それじゃ、お願いします」
48 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:33:46.48 ID:4gqNM10m0
*          *          *

桜木と一緒に、商店街の中を歩いていく。

花穂「……ふふっ」

隣を歩く桜木は、さっきからずっとこんな調子だった。

義之「随分と楽しそうだな、桜木」

花穂「え、そう見えますか」

義之「ああ。なんか、見ててこっちまで楽しくなってくるよ」

花穂「ふふ、そうでしたか。でも、親以外の誰かと一緒に出かけるのってこれが初めてだから、とっても楽しいですよ」

義之「初めてなの?」

花穂「はい。わたし、友達といえるような人ができたことはないものですから。桜内さんが、わたしの初めての友達ですね」

そう話す桜木の横顔は、とても嬉しそうで、陰などは全く垣間見えなかった。辛い過去、というわけでもないようだ。

義之「初めての友達、か。じゃあ、たくさん集まってわいわいしたことってーのはないんだな」

花穂「うーん、そうですね。今まで学校のクラスなどで集まったことは何回かありますけど、学外でそういうことをしたことはないですね」

義之「それなら今度、俺の友達を紹介するよ。みんな騒がしいけど、楽しいやつらだから」

花穂「そうですね。楽しみにしてます。あ、見えてきましたよ」

そう言って桜木が指すのは、一軒のアクセサリー店だった。

義之「へぇ〜、桜木はよくここに来てるの?」

花穂「そうですね〜。よくではないけど、結構な常連さんだとは思ってます」

話しながら、店内に入る。
49 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:34:29.57 ID:4gqNM10m0
*          *          *

義之「………」

アクセサリー店に入って、既に一時間近く。桜木は店内のあちらこちらを何回も行き来し、しかし同じアクセサリーは二度取ることなく物色していた。

義之(相当なアクセサリー好きなんだな……)

関心しながらも、なんとなく安心していた。桜木も内向的ではあるが、しっかりとした趣味もあるんだな。

今まで黙々と物色していた桜木だったが、何かに気づいたようにハッとして、俺の方を見てきた。

義之「どうかした?」

花穂「す、すみません。ついいつもの癖で夢中になってしまって……」

義之「ああ、そのことか。俺のことは気にしなくていいよ」

女子の買い物なら、音姉や由夢のおかげ(せい、と言った方が正しいのだろうか?)で慣れっこだしな。

花穂「でも、それじゃ一緒に来た意味が……」

義之「うーん、そう言われてもなぁ……」

正直なとこ、アクセサリーには興味ないしなぁ、俺。

義之「じゃあ、こうしよう。桜木が気に入ったアクセサリーを、逐一俺に見せる。俺はそれに何かひとつコメントを言っていく」

花穂「わ、わかりました」

桜木はそういうと、今まで物色して手に持っていたアクセサリーを一つずつ俺に見せてきた。

義之「って、いつの間にそんなにもってたんだ!?」

よく見るとその手には、半端な数じゃないアクセサリーがあった。

花穂「……厳しいんじゃないですかね?」

ああ、相当厳しいとも。

花穂「それじゃ、一緒に見て回る、でいいですよ」

桜木に気を使われてしまった……。

義之「なんかごめん……」

とりあえず謝っておく。
50 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:35:07.46 ID:4gqNM10m0
*          *          *

それから更に30分ほどその店に滞在して、桜木が気に入ったものを購入して店を出る。

義之「いっつもこれくらいの量買ってるの?」

袋をがさがさと持ちながら、当然といえば当然の疑問を口にする。

花穂「い、いえ。いつもはもっと少ないですよ。ええ、はい」

わずかな動揺を見せながら、否定する。目も泳いでいた。嘘のつけない性格なんだなぁ。

花穂「それよりも、桜内さん。さっきはわたしが行きたいところにいきましたから、次に行くところは桜内さんが決めてください」

義之「え、そう言われても」

特に行きたいところなんてない。

花穂「どこでもいいですよ」

義之「そう?それなら……」
51 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:35:36.35 ID:4gqNM10m0
*          *          *

俺の提案で来たところはというと。

花穂「桜公園ですか」

義之「うん、桜公園」

おなじみの場所だった。適当なベンチに座って、話をする。

花穂「そういえば、最初に桜内さんと会った場所がここでしたね」

義之「ああ、そうだったね」

あの時は天枷に邪魔されて名前を聞きそびれたんだっけな。

花穂「桜内さんのことは学校の関係で知っていましたけれど、お友達が多いんですね」

義之「そうかな〜。多いって思ったことはないけど」

これが俺の普通だし。

花穂「正直な所、友達の多い桜内さんが少しだけ羨ましかったりしました。あんな風にわいわいするのって楽しいんだろうなー、なんて」

義之「でも、ななかとは知り合いだよね?」

花穂「それは、やっぱりクラスメイトの顔と名前くらいは覚えていますから」

義之「あ〜、そりゃそっか」

花穂「だから、桜内さんのお友達を紹介してくれるっていうのは、楽しみにしてますよ」

義之「期待に添えるかは微妙なとこだと思うけどね」

二人で笑い合う。ああ、最初はどうなるか不安だったけど、これなら大丈夫そうだ。
52 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:36:29.10 ID:4gqNM10m0
*          *          *

花穂「それじゃあ、次はわたしですね」

義之「どこでもついてくよ」

花穂「そうですね〜。それじゃあ、露店に行きましょう」

義之「露店?」

花穂「はい。そこも最近わたしがよく行ってる店なんですけれど。商店街の隅で営業している店なんですけれど、見かけたことはありますか?」

義之「商店街の隅、ねぇ……」

全く記憶にないな。

花穂「とりあえず、行きましょうか」

桜木の提案で、その露店に向かう。
53 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:40:12.88 ID:4gqNM10m0
*          *          *

花穂「こんにちは、アイシアさん」

アイシア「いらっしゃい、花穂ちゃん」

この二人は知り合いなのかな。

花穂「ほら、桜内さん。この人、露店主のアイシアさん。最近知り合ったんですよ」

義之「どうも、桜内義之です」

アイシア「はじめまして。少ししかないけど、ゆっくり見ていってね」

にっこりと笑う店主のアイシアさんは、得意そうに両手を広げる。

店に並んでいる商品は、桜木が好きなアクセサリーというよりはおもちゃといったほうが正しいようなものが多かった。

中にあるアクセサリー大の大きさの物も、ちょっとした仕掛けがあって、中々に面白い。

義之「俺も、なにかひとつ買っていこうかな」

花穂「本当ですか!?」

俺がそうつぶやくと、すぐに桜木が反応する。

義之「ここの物は面白いものが多いしね」

アイシア「ありがとう、義之くん。何でも買っていってね」

桜木の隣に並んで、商品を眺める。
54 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:40:43.68 ID:4gqNM10m0
義之「……ん?」

その中に、一際目を引くものがあった。

義之「これは……?」

それは桜の花びらを模したもので、白とピンクの二種類があった。

義之「へぇ。おしゃれだな」

手にとって、率直な感想を述べる。

アイシア「あ、それは……」

アイシアさんがぼそりとつぶやいた。

義之「これが、どうかしました?」

アイシア「あはは。それね、ちょっとした仕掛けもないただのアクセサリーなんだよね」

まぁ、見たところ確かに仕掛けらしい仕掛けもないよな。

アイシア「まぁ、ちょっとした普通じゃない仕掛けはあるんだけど……」

義之「普通じゃない仕掛け?」

なんだ?非常に興味を引く話じゃないか。杉並辺りが聞いたら即決で買いそうな話だな。

義之「よし、じゃあこれを買っていこうかな」

アイシア「えっ?そんなものでいいの?」

アイシアさんは驚いているようだった。

義之「うん。その普通じゃない仕掛けって言うのも気になるし。あー、その仕掛けについては何も聞かないから。そのほうが面白いでしょ?」

実際はただの興味本位なんだけどね。

花穂「それなら、わたしもひとつ買って行きます」

桜木は二つあるうちの、ピンクの方を手に取った。自動的に、俺は白の方を手に取る。

アイシア「ありがとう、二人とも。ひとつ600円になります」

財布から600円を取り出し、アイシアさんに払う。

アイシア「ありがとうございまーす」
55 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:41:27.48 ID:4gqNM10m0
*          *          *

アイシアさんの露店を後にして来たところは、高台の上だった。気がつくと日は既に傾いており、赤い夕陽が差していた。

花穂「今日はありがとうございます、桜内さん」

義之「お礼を言われるほどじゃないよ。俺も楽しかったし」

花穂「それで、その。一つだけ提案があるんですが……」

義之「なに?」

高台の手すりを後ろ手に掴みながら、俺の方を振り返る。

花穂「さっき買った花びらのアクセサリー、ありますよね?」

義之「ああ、持ってるよ」

そのまま受け取ったアクセサリーを、ポケットから取り出す。

花穂「それ、わたしが買ったものと交換しませんか?」

義之「え?あ、いいけど……。もしかして、ピンクより白の方がよかった?」

花穂「そういうわけではないんですけれど……」

どこか言いずらそうに髪をいじりながら、視線を泳がせる。

花穂「さ、桜内さんの物を持っていたい、といいますか……」

どきん、と心臓がはねた。

義之「あ、そ、そう……。俺は、構わないよ……」

そうして桜木と、さっき買ったばかりのアクセサリーを交換する。

花穂「ありがとうございます。これ、大切にしますねっ!」

顔を少しだけ赤らめながら、満面の笑みを浮かべる。
56 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:42:18.83 ID:4gqNM10m0
義之「桜木。俺からも、ひとつ、いいか?」

花穂「なんですか?」

義之「今日、俺と一緒に遊んで、楽しかった?」

今日一日中、ずっと頭の中にあったことを聞いてみる。

花穂「はい、とっても楽しかったです!お友達って、いいものですね」

またもや満面の笑みを浮かべながら、心底嬉しそうに言ってくれる。

義之「うん、そっか。それならよかった。また、一緒に出かけてくれる?」

花穂「それはもちろん!」

三度笑みを浮かべ、俺の問いに頷いてくれる。

義之「そ、その……こ、今度は、友達としてじゃなくて……」

その笑顔に照れくさくなってしまって、俯き加減で声も小さくなってしまった。

花穂「なんですか、桜内さん?」

聞き取れなかったのだろう、桜木が顔を近づけてくる。ち、近い近い!

半歩後ずさりながら、意を決して話す。

義之「こ、今度は友達としてじゃなく、こ、こ……」

だ、ダメだ。恥ずかしくてそこから先が言えないっ!

花穂「友達としてじゃ、なく……?」

俺の言わんとしている事を考えているのだろう、桜木が思案顔になる。

義之「こ……恋人として、デートがしたいんだけど」
57 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:42:56.32 ID:4gqNM10m0
言った。言ったぞ。言い切ったぞ!

花穂「……え?」

少しの間を置いて、桜木が停止する。

義之「お、俺と、付き合ってほしい。俺は、桜木のこと、好きだ」

俺の、素直な気持ちを告げる。

花穂「………」

桜木は、ただ黙っている。

義之「返事はすぐじゃなくていい。ただ、俺は桜木のことをそう想ってるってことだけは、覚えておいてほしい」

きっと今の俺は、顔が真っ赤だろう。すごく顔が熱いのが、自分でもわかる。

義之「……じゃ、じゃあ俺はもう帰るな!明日から学校だし……」

花穂「桜内さん」

俺の言葉を、静かな桜木の言葉が遮る。

義之「……な、何?」

花穂「わたしは……嫌じゃないです。だ、だから……」

義之「OK……ってこと?」

俺の問いに、顔を真っ赤にしながらこくりと頷く。
58 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:43:30.61 ID:4gqNM10m0
義之「ありがとう、桜木。……いや」

ここは、下の名前で呼んだほうがいいかな?

義之「ありがとう、花穂」

花穂「は、はい」

義之「とりあえず、これからよろしく」

花穂「こっこちらこそよろしくお願いしますっ」

緊張しているのが、言葉だけでわかる。なんだか、可笑しく感じてしまった。

義之「……ぷっあはははは!」

思わず、吹き出してしまった。

花穂「え、え?なにか可笑しかったですか?」

義之「い、いやごめん。なんだか急に可笑しくなって……」

笑いを堪える俺を、おろおろとしながら花穂が見守っている。

義之「……それじゃ、帰ろうか」

花穂「はい。えと……よ、義之さん」

僅かに俯きながら、俺の隣に並ぶ。その手を、やさしく握る。

花穂「っ……」

びっくりしたのか少しびくっとしたが、やがて力を抜いていく。
59 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:44:14.14 ID:4gqNM10m0
*          *          *

桜公園に着いたところで、花穂が手を離した。

花穂「それでは、わたしはこっちですので」

今まで俺が持っていた荷物を、花穂に渡す。

花穂「それじゃ明日、学校でまた会いましょうね。義之さん……」

義之「ちょっと待ったっ!」

花穂「えっ?な、なんですか?」

義之「『さん』じゃ、なんか余所余所しいな。せっかく付き合ってるんだから、もっと親密に呼んでくれると嬉しいんだけど」

花穂「そ、それでは……。よ、義之くん、で、いいでしょうか?」

義之「そっちの方がいいかな。今度からはそう呼んでよ。あ、それから、そんなに丁寧な言葉遣いじゃなくてもいいよ」

花穂「よ、義之くんと呼ぶのはいいですけど、後者はもう癖みたいなものだから、それを意識的に直すのは難しそうです……。で、でも、義之くんがそっちのほうがいいっていうんなら、頑張りますっ」

義之「まぁ、無理しない程度にね」

花穂「はい、わかりました。それじゃ、また明日学校で会いましょう、義之くん」
60 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:44:49.96 ID:4gqNM10m0
義之「ああ、それともう一つ」

少しだけ開いていた距離を詰めて、花穂に歩み寄る。

花穂「な、なんですかっ?」

その花穂の問いには答えずに、手を花穂の後頭部に持っていくと、引き寄せ、おでこに軽く触れる程度のキスをする。

花穂「え?え?えぇぇっ?」

すぐに離れると、何をされたのかを理解したのか、空いている手でおでこを押さえている花穂の姿が見えた。

義之「じゃあね、花穂」

照れくさくなってしまった俺は、まだテンパッている花穂を置いて先に歩き出す。

花穂「………」

花穂は、俺の後姿をぼーっとしながら見送ってくれていた。
61 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/11/25(日) 23:46:12.38 ID:4gqNM10m0
今回はここまで
ずいぶん昔に書いたものを推敲しながら投下してるんですが、今読むと展開早いなーと思ってしまう
結構な長さになるので、お付き合いしていただける方いましたらよろしくお願いします
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/26(月) 07:04:46.90 ID:mVtCjBQpO

D.Cとか懐かしすぎて泣きそう
63 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:30:35.87 ID:niNWykBH0
投下します
64 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:32:13.48 ID:niNWykBH0
*          *          *

夢を見ている。それが、夢としっかりと認識できるものだった。

(ここは……?)

辺りを見ようとしても、首が回らない。どうやらまた誰かの夢が流れ込んでいるようだった。でも、この景色は見たことがある。

枯れない桜の木の前に、夢の主がへたり込むように座っているようだ。やがて、夢の主がいるところから木を挟んで反対側から、声が聞こえてきた。

「……………誰?」

「こんばんは」

この声の主は……。

「初めまして」

もしかして……?

「…………う〜んと」

さくらさん……?

「サクライヨシユキ。キミの名前だよ」

………。

「寒くない?」

「……寒い」

「お腹は?」

「……空いた」

「そっか。それじゃあ、温かくてご飯の食べられるところに行こっか♪」

「うん」

覚えてる。俺の記憶の海の、一番深い部分。

「えーっと、ボクはさくら。芳乃さくら。よろしくね」

さくらさんと初めて出会って、初めて朝倉邸に行った日のことだ。

「それじゃあ、行こうか」

足音が二つ、遠ざかっていく。この夢の主は、その場に取り残されてしまったようだ。あの時、桜の木の反対側に誰かがいたというのだろうか?

「………寒い……な」

夢の主が、呟く。二つの足音が去ってからしばらくして、また足音が二つこの桜の木に向かってきた。そこで、俺の意識は覚醒してきた。
65 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:33:14.27 ID:niNWykBH0
                                         1月11日(火)

義之「………」

なんだろう。なんだか、とても大切な夢を見ていたような気がする。あの夢の主は、一体……?

義之「ふわぁぁぁぁぁ……」

寝起きの頭は、思っているよりも回らなかった。とりあえず起きるか……。
66 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:33:59.86 ID:niNWykBH0
*          *          *

音姫「行くよ〜、弟くん」

玄関から、音姉の急かす声が聞こえてくる。

義之「今行くって〜!」

準備を済ませ、家を出る。

音姫「全く、だからあれほど言ったのに」

義之「それは朝からずっと謝ってるじゃん……」

不機嫌な音姉をなだめつつ、二人で学校に向かっていく。由夢はと言うと、俺たちを置いて先に行ってしまっていた。

まあ、俺が寝坊したのが悪いんだけどさ。
67 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:34:47.77 ID:niNWykBH0
団地の道との合流地点で、花穂と、ばったり会った。

花穂「……あ」

俺の顔を見るなり、いきなり停止していた。目の前で手のひらをひらひらとさせてみる。

花穂「………」

反応は返ってこない。

音姫「弟くん。この人って確か……?」

義之「うん、そうだよ。前に音姉が勘違いした人」

そう説明してから、肩をポンポンと叩いてみる。

花穂「…………!あ、義之……くん……」

反応を示した。

義之「おはよう、花穂」

花穂「お、おはようございますっ」

なぜか非常に緊張しているようだった。
68 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:35:16.97 ID:niNWykBH0
音姫「えっと……桜木さん、だったわよね」

俺の隣から音姉が話しかける。

花穂「はい、そうです」

音姫「ごめんね、この前は。わたしが早とちりなんかしちゃったばっかりに」

今までずっと気にしていたであろう事を、花穂に謝る音姉。

花穂「ああ、そのことなら気にしないでください、朝倉先輩」

音姫「あ、ありがと〜。ずっっっとこのことが気になってたから、そう言ってもらえると助かるよ〜」

花穂に許してもらったと思うと、すぐに音姉が泣き始めた。

義之「気にしすぎなんだよ、音姉は。俺たちのことはそんなに心配することないって。な、花穂?」

花穂「そうだね、義之くん」

顔を見合わせて、笑い合う。
69 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:36:06.88 ID:niNWykBH0
*          *          *

渉「おい、義之!」

義之「お、渉。久しぶり。スキー旅行、どうだった?」

渉「え、いや〜、楽しかったよ。義之も来ればよかったのにな〜」

義之「そっか。写真も撮ったんだろ?今度、現像して見せてくれよ」

渉「ああ、それはもちろん」

話が終わったのか、渉が俺の席から離れる。

渉「って違う!俺が話したかったのはそんなことじゃない!」

乗り突っ込みの要領で、びしっと手を突き出す。

義之「じゃ、なんだよ」

渉の意図が読めない。

渉「義之お前!見知らぬ女子と楽しく過ごしてたって本当か!?」

見知らぬ女子?ってもしかして。

義之「花穂のことか?」

渉「誰よその花穂って!ねぇ義之ちゃん?まさかもしかしてなんて思うけど彼女なんてできちゃったりなんかしちゃったの!?」

テンション高めの渉がうざい。
70 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:37:25.17 ID:niNWykBH0
義之「まず、誰から聞いたんだよ?」

こういうのは根元から潰しておくに限る。

渉「えーと、天枷だろ、由夢ちゃんだろ、杏だろ、茜だろ……」

ね、根元から……

渉「あと、月島も言ってたぞ。さぁ、白状したらどうなんだ義之!証拠はもう十分上がってるんだぜ?」

……そういや、いろんなやつらに見られてたんだっけ……。

渉「で、で、誰?そいつ誰なのよ?」

義之「ななかのクラスメイトの女子だよ。冬休み中に知り合ったってだけ」

付き合ってるって事は当然伏せておく。こいつに知れたら瞬く間に学校中に知れ渡ることになる。新学期早々晒し者はごめんだ。

渉「冬休み中に知り合っただけ、だと?それならなんで悉くが二人でいるんだよ!?知り合い以上の関係になっちゃったりしてんの、ねぇ?」

なんでこいつはこんなに知りたがるんだよ……。
71 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:39:02.26 ID:niNWykBH0
杏「ダメよ渉。義之はこういうことは直接聞いても答えるわけないわ」

茜「そーそー。こういうことは、ねぇ?」

小恋「板橋くん、詮索はよくないと思うよ」

雪月花も俺たちの会話に入ってくる。

杏「当事者がもう一人近くにいるんだから、そっちに聞いてみたほうがいいわよ」

そう提案するのは杏。厄介な奴だな。

渉「当事者がもう一人?」

渉がそう言って、教室の周りを見渡す。そしてその視線は、教室の出入り口で止まった。

ななか「やっほー、小恋!」

ななかがこっちの教室に来たところだった。

渉「おお、ちょうどよかった、白河。ちょっと、クラスに戻って、こいつと一緒にいたってやつを連れてきてくれよ!」

しこたま俺を指差して、力強くななかに言う。

ななか「……え、えーと。もしかして、桜木さんのこと?」

直接渉に聞くのを避けるためか、小恋のほうを向いて質問している。

小恋「うん、そう。板橋くん、義之と桜木さんの関係を疑っているみたいなんだよね……」

渉「だって気になるじゃん!月島は気になんねぇの?茜は?杏は?気になるだろ!?」

必死そうな渉が、今度は茜や杏にまで聞いている。
72 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:39:43.37 ID:niNWykBH0
杏「そうね。確かに気になるといえば気になるわ」

茜「でも、わたしたちは二人が一緒にいるところを実際に見てるわけで」

小恋「別に恋人とか、そういう感じじゃなかったよ」

ななか「うんうん。なんか、名前も知らなかったみたいだし」

雪月花とななかが俺のことを弁護してくれる。

茜「結局のとこ、桜木って子が気になるだけなんじゃないの〜?」

茜が渉ににじり寄る。

渉「う……そ、そりゃ気になるだろ!?俺は健全な男子生徒ですよ!?」

開き直った!!

ななか「それじゃ、ちょっと連れて来るね」

ななかがそう言って、教室から出て行く。本人が来たらまずいかもな……。
73 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:40:27.34 ID:niNWykBH0
花穂を連れ添ったななかが戻ってくる。

ななか「改めて紹介するね。わたしのクラスメイトの桜木花穂さん」

花穂「は、初めまして……」

花穂がおずおずと頭を下げる。

渉「おー桜木ちゃん!俺、義之の唯一無二の親友の板橋渉!よろしく!!」

花穂が来たら、更にテンション上がったな、こいつ……。

茜「わたしたちは、休み中に一度会ったよね?わたしは、花咲茜」

杏「わたしは雪村杏よ」

二人が花穂に自己紹介する。

義之「で、俺が桜内義之」

なんとなく俺も流れに乗る。

花穂「あなたのことは知ってますよ、義之くん」

クスクスと笑っている。
74 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:41:21.42 ID:niNWykBH0
渉「で、で、桜木!ひとつ聞きたいことがあるんだが」

早速と言わんばかりに、ズズイっと渉が花穂ににじり寄る。

渉「ぶっちゃけたところ、義之とはどんな関係なのよ!?」

……あーくそ、こんなことになるんなら事前に花穂に言っておけばよかったかな。

当の花穂はというと、何と答えたらいいのかわからず困っているようだった。

花穂「よ、義之くんとはその……お、お付き合いを……」

ぅおおおいいぃ!言っちゃうのかよ!!

渉「へ?なんだって?」

気の抜けた渉の声。

花穂「だ、だから、その、お、おつ、お付き合いを……させていただいています……」

そう言い切った花穂は、顔が真っ赤だった。

みんな「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

渉のみならず、小恋やななか、茜まで教室中に響くほどの声を上げて驚く。
75 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:42:08.42 ID:niNWykBH0
渉「ま、マジですか!?」

花穂「ま、マジです……」

茜「いつの間にいつの間に!?」

花穂「き、昨日の夕方から……」

こうなったらもう引っ込みがつかない渉たちは、ひたすら花穂に質問攻めを行っている。

杉並「大変そうだなぁ、桜内よ」

花穂を中心にしてあれやこれやと話しているところで、杉並が声をかけてきた。

杉並「それにしても、桜内がこうも簡単に彼女を作るとは思いもしなかったぞ。それも、我々非公式新聞部も全くのノーマークの人物だとはな。やるではないか、桜内。俺は嬉しいぞ」

笑顔でそう言う杉並。それは、俺のことを褒めていると取っていいのだろうか……。

義之「花穂は普通の女の子だよ。少なくともお前らみたいなやつにマークされるような子じゃないって」

杉並「ふむ、そうか。まぁ、安心しろ桜内。お前ら二人の恋路は邪魔せんよ」

杉並は「はっはっはぁ!」と高らかに笑いながら、すぐにどこかに行ってしまった。
76 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:42:50.45 ID:niNWykBH0
渉「くそ〜、お前のことを信じてた俺が馬鹿だったよ!この裏切り者!俺というものがありながら〜!!」

花穂への質問攻めは終わったのか、渉はダーッと涙を流しながら俺にそう言ってきた。

義之「俺とお前はなんもないだろ」

花穂「疲れました……」

すっかり質問攻めで疲れた花穂が、俺の近くに歩み寄ってくる。

茜「ふむふむ、こうして並んで立ってるところを見ると、なかなかお似合いって感じね♪」

義之「お前ら、あんまり花穂をいじめるなよ?俺の大事な彼女なんだから」

もう俺は開き直ることにしてやる。
77 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:43:51.98 ID:niNWykBH0
*          *          *

渉「義之〜。昼飯食いに行こうぜ〜」

昼休みに入るなり、渉がそう言ってきた。

義之「裏切り者と一緒に飯なんか食っていいのか?」

茶化し半分でそう返す。

渉「まぁまぁ、俺と義之の仲じゃないの。そんなことで俺たちの友情は崩れたりしないって♪」

にんまりと笑いながらそう言う。

義之「調子のいい奴だな。ま、いいや。行こうぜ」

渉「おう!」

小恋「あ、わたしたちも一緒に行く!」

そう言ってきたのは、雪月花の三人だった。

杏「ふふ、いいのかしら義之?できたばっかりの彼女を放っておいて」

義之「もうその話はいいよ。早く行こうぜ」

小恋「いや、そういう意味じゃないよ義之……ほら、教室の入り口」

小恋が遠慮がちに指をさす。その先を目で追う。

義之「花穂……」

教室の入り口では、花穂がどうしたものかとしどろもどろとしていた。

杏「いってやんなさい、義之」

義之「悪い」

渉「ちぇ、なんだよ」

悪態をつく渉を三人に任せて、花穂のところまで歩み寄る。
78 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:44:26.18 ID:niNWykBH0
義之「よ、花穂」

花穂「お昼です、義之くん。一緒に食べよう?」

そう言ってスッと出したのは、一人分にしては大きい弁当箱だった。

義之「もしかして、俺の分もあったりする?」

花穂「もちろん」

義之「やった!それじゃ、中庭ででも食うか」

花穂「わかりました」

花穂を連れ立って、教室を後にする。
79 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:45:02.20 ID:niNWykBH0
*          *          *

花穂「はい、義之くんの分」

ナプキンをといて出てきた弁当箱のうち、大きいほうを差し出してくる。

義之「おお、サンキュ花穂」

なんか、感動だ。

義之「それじゃ、いただきます!」

両手を合わせて、花穂にいただきますをする。

花穂「どうぞ、義之くん」

返事を受けて、まずは一口、じっくりと味わうように咀嚼する。

花穂「どう?おいしい?」

姿勢を正したまま、俺に聞いてくる。

義之「ん、美味い」

花穂「そうですか。頑張って義之くんの分も作ってよかった……」

ほっとしたのか、肩から力を抜いて、花穂も自分の分の弁当を食べ始める。
80 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:45:33.36 ID:niNWykBH0
義之「花穂に作ってもらいっぱなしってーのも悪いから、明日は俺が作ってこようか?」

花穂「え、いいの?」

義之「花穂さえ嫌じゃなきゃ、作ってこようと思うんだけど」

花穂「んー、それじゃ、お願いしちゃおうかな?」

口元に人差し指を置いて少しの間思案して、そう答えた。

義之「よし、わかった。それじゃ、放課後は買い物だな」

明日の弁当の食材と、今日の夕飯の買い物もしないと。

花穂「あ、それなら、わたしと一緒に商店街、行きます?」

義之「花穂も、なにか買い物あるの?」

花穂「ええ、ちょっとしたものだけど」

義之「そっか。それじゃ、放課後は一緒に行くか」

花穂「はい!」

その後は、花穂の作った弁当を楽しんだ。
81 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:46:05.08 ID:niNWykBH0
*          *          *

一日の最後の授業が終わった。

渉「よぅし、放課後だぜ!義之、帰りにどっか寄っていこうぜ!」

渉が、昼休みよろしくそう言ってくる。

義之「今日は先約があるんだ」

渉「んだよ、また愛しの桜木か?お熱だねぇ、義之は」

義之「悪いな、渉」

渉「いいよいいよ、行ってやれ」

なんだかんだ言っても、渉はいい奴だった。

渉「そして、俺のカッコよさを桜木に教えてやれ」

義之「………」

訂正。こいつ、アホだ。
82 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:46:39.29 ID:niNWykBH0
カバンを持って、教室を後にする。

義之「花穂のクラスは確か、2組だったよな」

ななかと同じクラスだって言ってたしな。

2組の教室の前までくると、ちょうどHRが終わったところのようだった。入り口から教室の中を見渡して、花穂の姿を探す。

……いた。窓際の一番後ろという、授業中に居眠りするにはうってつけの場所だった。

義之「花穂ー!」

そう呼ぶと、花穂はこちらに視線を移してきた。そして俺と目が合うと、にっこりと微笑んでカバンを持ち、こちらに近づいてきた。

花穂「早いんだね、義之くん」

義之「うちのクラスはいつもこんなんだよ。じゃ、行こっか」

花穂「うん」

花穂と肩を並べて、教室を後にした。
83 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:47:29.37 ID:niNWykBH0
*          *          *

義之「花穂は、何を買いにきたの?」

スーパーに到着すると、花穂に尋ねる。

花穂「ええ、お線香を買いに」

義之「線香?」

とすると、誰かのお墓参りに行くのだろうか?まぁ、深くは聞かないことにしておこう。

ふと、花穂のカバンの一所に視線を移す。

義之「あ、そのアクセサリー。カバンにつけてるんだ」

小さなポケットのチャック部分に、まるでキーホルダーのように鎖をひとまとめにしてくくりつけてあった。

花穂「うん。これは、義之くんとの大切な思い出だから」

嬉しそうにそう話す花穂に、ちょっとだけ照れてしまった。

花穂「そういう義之くんは、持ち歩いてるの?」

義之「ああ、ここにあるよ」

そう言って、腕をまくって手首にくくりつけたアクセサリーを見せる。花穂と付き合うきっかけになったものだ。もちろん、大切に持ち歩いている。

花穂「ふふ、学校にそんなものをつけていったら没収されるんじゃない?」

義之「まぁ、そうなるだろうから、見せびらかせたい気持ちを抑えてこうして制服の袖に隠してるんだけどね」

花穂「大切にしてね、そのアクセサリー」

義之「花穂もね」

二人顔を見合わせ、笑い合う。
84 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:48:04.80 ID:niNWykBH0
*          *          *

買い物を済ませ、店を後にする。

義之「ちょっと買いすぎたかな……」

手には、三つほどの大きな袋。

花穂「ふふ、明日、楽しみにしてるからね、義之くん」

クスクスと笑いながら、俺の様子を見守る花穂。

義之「あと、どこか行きたいところとかある、花穂?」

花穂「うーん、ちょっとお腹空いたかな」

義之「それじゃ、桜公園に行こうか」

桜公園へと足を向ける。
85 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:48:43.42 ID:niNWykBH0
*          *          *

義之「はい、花穂」

チョコバナナを二つ買い、高台まで来たところでひとつを花穂に手渡す。花穂に手渡したのは、前と同じイチゴ味。

俺はというと、これまた前と同じペパーミント味。

花穂「えっと、悪いんだけど……」

義之「ん、何?」

花穂「そっちの方をもらってもいい?」

義之「こっち?」

ペパーミント味の方をご所望のようだ。

義之「いいよ、はい」

差し出す手を左に変える。

花穂「ありがとう、義之くん。前に義之くん、こっちを食べてたから、わたしも食べてみたかったの」

俺から受け取り、早速口に運ぶ。

花穂「うん、おいしい」

花穂の笑顔を見届けて、俺も食べ始める。
86 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:49:20.34 ID:niNWykBH0
義之「そういえばさ、花穂」

チョコバナナを味わいながら、花穂に話しかける。

花穂「なに?」

花穂も、耳を傾けてくれる。

義之「前に、たくさんアクセサリーを買ってたけど、それはどこにあるの?」

花穂「そ、そんなに沢山買ってないけど……」

苦笑いでそう言いながらも、少々戸惑う。

花穂「あれは、わたしの部屋に飾ってあるの。わたし、アクセサリーが好きだから。部屋に飾ってあるだけでも、わたしは満足なの」

にっこりと笑い、そう話してくれる。

義之「へぇ……」

あの大量のアクセサリーを、飾る、ねぇ……。ちょっと、想像できなかった。
87 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:50:18.60 ID:niNWykBH0
辺りはあの時と同じく、夕暮れ時となっていた。

花穂「昨日と同じだね、義之くん」

義之「ああ、そうだね」

俺と花穂が付き合い始めた昨日と、同じ。

花穂「昨日は、もうびっくりしたよ。義之くんが、わたしと同じ気持ちだったなんて、考えもしなかったことだから」

義之「あ、それじゃあ、花穂も俺のこと、好きだったんだ?」

花穂「え……あっ!」

自分が何を言ったのかを悟った花穂が、顔を真っ赤に染めた。そして、真っ赤な顔のままこくんと頷いた。

義之「いつから、俺のことを好いてくれてたの?」

花穂「えと、それは……」

返答に戸惑いつつも、答えてくれる。

花穂「じ、実は、義之くんと知り合う前から、気になってはいたの。ほら、義之くん、学校でも何回も騒ぎを起こしていたでしょ?」

義之「あ〜……まぁ」

花穂「でも、正確に意識し始めたのは、やっぱりお互いに知り合った後……かな」

先ほどよりは幾分か収まったが、まだ顔は赤かった。

花穂「わたしが思っていたよりも、義之くん、カッコよかった……」

そこまで言うと、俯いてしまった。な、なんかそう言われるとこっちまで恥ずかしくなってくるな……。

義之「あ、ありがとう、花穂」

思わず、お礼を言ってしまう。
88 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:50:57.23 ID:niNWykBH0
義之「……な、なぁ、花穂」

呼びながら、花穂を真っ直ぐ見つめる。

花穂「な、何、義之くん?」

花穂は少しだけ緊張したような面持ちで、そう答える。

正面から花穂の肩に手を置いて、そっと引き寄せ、抱きしめる。

花穂「え、え、義之くん?」

動揺しているのだろう、花穂はどうしたらいいかわからないといった様子で、体を硬直させていた。

体を少し離し、至近距離で花穂の顔をまじまじと見つめる。

義之「……花穂」

口の中が急速に乾いていくのがわかる。花穂の肩に手を置き、もともと近くだった顔を更に近づける。

花穂「よ……義之……くん……」

花穂はか細くそれだけ言うと、そっと目を閉じた。その唇に、そっと自分の唇を重ねた。
89 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:51:35.46 ID:niNWykBH0
………。

重ねた唇を、そっと離す。

義之「……ごめん。いきなりで」

何と言ったらいいのかわからず、とりあえず謝る。

花穂「う、ううんっ!嬉しいよ、すごくっ!嬉しい……」

花穂はそう言いながら、目尻に涙をいっぱいに溜めていた。

義之「え、な、ご、ごめん!泣かないでくれよ、花穂!」

いきなりの出来事で、動転する。

花穂「ご、ごめっ……泣くつもりは、なかったんだけど……。よ、義之くんが、キスしてくれたのが、すごい嬉しくて……!」

口元に手を当て、嬉し涙を流す花穂。

義之「あ、ありがとう、花穂。でも、人目もあるし、泣かないでくれ、花穂」

この構図は、間違いなく俺が泣かせているように見える。それだけは勘弁だ。

花穂「う、うん。大丈夫、もう泣かないよ」

涙をポケットから取り出したハンカチで拭き、笑顔を見せてくれた。
90 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:52:24.80 ID:niNWykBH0
*          *          *

自然と二人手をつなぎ、家路に着く。

花穂「ちょっと前までなら、想像もできなかったことだよね」

花穂が、おもむろに口を開いた。

義之「そうだな」

なんたって、付き合い始めたのは昨日だしなぁ。

花穂「でも、これだけは自信を持って言える。わたしは、義之くんと付き合えて、本当に嬉しい」

夕陽に照らされた花穂の顔は、心の底からの笑顔のように見えた。

義之「そっか。花穂がそう思ってくれて、俺も嬉しいよ」

それに、俺も花穂と付き合えて、本当に嬉しいし。

心の中に、くすぐったいような感覚が広がっていくのが感じられた。幸せな、それでいて照れくさい、そんな感覚。

花穂「それじゃ、わたしはここで」

義之「うん。また明日ね、花穂」

小さく手を振って、花穂と分かれた。この先は、団地が建っている場所だ。と、言うことは、花穂は団地に住んでいるのかな?

義之「ま、いいか。俺も、早く帰って晩御飯の準備をしないと。由夢に文句を言われるな」

花穂の後姿を見送って、俺も自分の家に帰る。
91 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/02(日) 21:53:44.86 ID:niNWykBH0
本日の投下は以上です
勘のいいひとなら、今回投下の冒頭でなんとなーく桜木花穂というキャラがどういうキャラなのかわかったのではないかと思います
92 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:08:45.49 ID:qAUny/1z0
投下します
93 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:09:39.02 ID:qAUny/1z0
                                         1月12日(水)

午前の授業が終わり、昼休みになる。俺はカバンの中から弁当を二つ取り出して、教室を出た。

渉「おーい義之……っていねぇ!?」

背中越しに渉の声が聞こえたが、まぁ放置で問題ないだろう。

2組の教室に入り込む。

義之「花穂ー」

花穂「義之くん。今行く!」

花穂は机の上に置いてあった教科書を机にしまい込み、俺の近くまで駆けてくる。

義之「昨日と同じ場所でいい?」

花穂「うん」

昨日と同じように、花穂を連れて教室を後にする。
94 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:10:39.39 ID:qAUny/1z0
*          *          *

中庭の空いているベンチに座る。

義之「昨日の約束どおり、作ってきたよ」

花穂に弁当箱ひとつを渡す。

花穂「わあ、楽しみ!」

花穂はわくわくした様子で、弁当箱をあけた。

義之「俺のクラスの奴ら曰く、『義之スペシャル』だそうだ」

花穂「おいしそう!それじゃ、いただきます!」

もう我慢できないといった様子で、両手を合わせると弁当に箸をつけた。

義之「どう?実は、結構自信があったりするんだけど」

花穂「おいしい〜!義之くん、お料理上手なんだね!」

ほんわかとした笑顔を浮かべながら、嬉しそうに弁当を食べている。そんな花穂の様子を見届けて、俺も食べはじめる。

う〜む、我ながら上出来なり。
95 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:11:51.88 ID:qAUny/1z0
花穂「ごちそうさま!お腹空いていたから、もう食べ終えちゃった」

俺が自分の弁当を半分ほど食べたところで、花穂はごちそうさましたようだった。

義之「もしかして、少なかった?」

それなら悪かったかな。

花穂「いえ、そんなことはないですけど」

義之「よかったら、俺の弁当もつついていいよ」

花穂「え、でも、義之くんは大丈夫?」

義之「俺なら大丈夫」

後でこっそり売店で何か買って食うし。

花穂「そ、それじゃあ……ちょっとだけ」

恐縮しながら、俺の手の中にある弁当に箸を伸ばしてきて、玉子焼きを持っていった。

花穂「義之くんの作った玉子焼き、おいしい〜」

どうやら玉子焼きがお気に入りのようだった。口の中で咀嚼しながら、幸せそうな笑顔をする。

こんなに喜んでくれるなら、作った俺も気持ちがいいというものだ。
96 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:13:56.07 ID:qAUny/1z0
花穂「ごちそうさま、義之くん」

義之「お粗末さまでした」

きれいに平らげた弁当箱を俺に返してくる。

花穂「また作ってくれたら嬉しいな」

義之「花穂の望みなら、いつでも作ってきてあげるよ」

気持ちのいい笑顔を見せてくれたし。

花穂「本当っ?やったー!」

嬉しそうにはしゃぐ花穂が、可愛かった。
97 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:15:55.06 ID:qAUny/1z0
                                         1月13日(木)

朝、今日は音姉も由夢も先に行ってしまったから、一人での登校中。団地との合流地点で、またも花穂とばったり会った。

花穂「あ、おはよう、義之くん」

一昨日は会ってすぐに停止していたが、今日は普通に挨拶をしてきた。

義之「おはよう、花穂」

自然と隣に並んで、学校に向けて歩き出す。

義之「花穂の家って、アパートなの?いつもあの道から来るけど」

花穂「うん、そうだよ」

義之「じゃあ、まゆき先輩とかと会ったりするんじゃない?」

花穂「副会長さん?たまに見かけるけど、お互い顔を合わせることはないよ」

義之「ふーん、そっか」

そういや、まゆき先輩も花穂のことは知らなさそうな様子だったな。
98 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:17:08.43 ID:qAUny/1z0
花穂「それより、義之くん」

義之「うん、なに?」

花穂「今日のお昼はどうするの?」

義之「あー、今日は弁当作ってきてないよ。今日は食堂で食べようかなと思ってたから」

花穂「わたしも、一緒に食堂で食べてもいい?」

義之「もちろん。あー、でも渉とか雪月花とかいると思うよ」

花穂「いいよ。そのほうが賑やかで楽しそうだし」

義之「そっか。わかった。じゃあ、午前の授業が終わったら、うちのクラスに来てよ。待ってるから」

花穂「うん、わかった」

花穂と話していると、すぐに学校に到着した。
99 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:18:12.40 ID:qAUny/1z0
*          *          *

昼休みとなる。

花穂「義之くん!」

教室の入り口から、花穂の呼ぶ声が聞こえてきた。教室の中に入ってくる。

渉「なんだ、また桜木か〜。最近お前付き合い悪いぞ?」

渉が不機嫌そうに漏らす。

義之「渉たちは、今日も食堂?」

渉「ああ、そうだけど?」

義之「今日は俺たちも食堂なんだ。一緒に行こうぜ」

茜「え、そうなの?」

茜が聞いてくる。

義之「ああ。花穂も、弁当を作ってきてないらしいから」

茜「ふ〜ん、そっか。それなら、沢山お話を聞きながら食べられるねぇ」

意味深な笑みを浮かべながら、あまり歓迎できないことを言っている。
100 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:21:50.22 ID:qAUny/1z0
義之「あんまり花穂を困らせることは聞くなよ?」

杏「あら、随分とご熱心ね、義之」

杏も会話に入ってくる。

茜「ラブラブだねぇ〜。お熱いですなぁ〜」

渉「くそー!義之ばっかり羨ましいぞこのヤロ〜!」

このまま放っておくと、食堂の席が無くなりそうだ……。

義之「ほら、早く行こうぜ。話なら、飯を食いながらでもできるだろ」

花穂や渉たちを連れて、食堂へと向かう。
101 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:23:26.46 ID:qAUny/1z0
*          *          *

適当に昼飯を食いながら、渉たちの質問攻めに付き合う。

茜「馴れ初めはどうだったんですか?」

義之「インタビュー形式なのかよっ!」

思わず突っ込んでしまった。

杏「義之に黙秘権はないわよ。もし使ったりしたらどうなるか……わかるわよね?」

義之「………」

こいつなら、本当にないことないこと言いふらしそうで怖いな……。

茜「で、もう一度聞くけど、馴れ初めはどうだったんですか?」

義之「……花穂」

答えてもいいものか花穂に視線で聞いてみる。少しだけ楽しげにこくんと頷いた。

花穂は花穂でこの状況を楽しんでいるのか……?
102 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:25:03.73 ID:qAUny/1z0
義之「最初に会ったのは、公園のチョコバナナ屋の前だよ。俺が買ったのがその日最後のチョコバナナで、その後ろに花穂が並んでいたんだ」

茜「ふんふん、それで?」

茜が身を乗り出して聞いてくる。

義之「で、よかったら俺が買っちゃった奴をあげようと思って花穂に聞いたんだよ。ちょうどそのときに、天枷が乱入してきたんだ」

杏「あ〜、その時が初めて会った時だったんだ……」

杏が、合点行ったと言う感じで頷いている。

杏「そのときの話は美夏から聞いていたからね。義之には悪いことをしたって反省していたわよ」

義之「へぇ……」

あの人間嫌いの天枷がねぇ……。
103 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:26:15.28 ID:qAUny/1z0
渉「で、きっかけってのはなんだったのよ?」

ここで、今まで話を聞きながら一人黙々と素うどんを食べていた渉が口を開いた。

義之「それは……これ、かな」

そう言って、制服の袖を捲り上げる。ピンク色の桜の花びらのアクセサリーが姿を現した。

小恋「あ、いけないんだぁ義之。学校にそんなものつけてくるなんて」

そう言ってくるのは小恋。

義之「話の腰を折るなよ……」

渉「で、そのアクセサリーがなんなのよ?」

渉が更に詮索してくる。

義之「これと色違いのアクセサリーを、花穂と交換し合ったんだ。な、花穂」

花穂「はい。義之くんはピンク、わたしは白を持ってます。あ、わたしのはカバンにキーホルダーみたいにつけているんだけどね」

嬉しそうに話す。
104 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:27:07.38 ID:qAUny/1z0
小恋「それ、どこで買ったの?」

小恋が聞いてくる。

義之「これは……えーと」

そういや、どこだっけ?

義之「花穂、覚えてる?」

花穂「あそこですよ、ほら……」

考えているのか、花穂の動きが止まる。そして、少しして口を開いた。

花穂「……どこだっけ?」

花穂も覚えていないようだった。

小恋「なにそれ〜?付き合うきっかけになった物なのに、どこで買ったのか覚えてないの?」

呆れ口調の小恋。ま、まぁ確かに呆れられてもしょうがないかな……。

それにしても、なんで二人揃って覚えてないんだろう?不思議なこともあるもんだ……。
105 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:29:24.28 ID:qAUny/1z0
                                         1月14日(金)

義之「今日はこれから、どうする?」

放課後になり、花穂と合流して、そう聞く。

花穂「わたしは行くところがあるんだけど……」

義之「あ、そうなんだ」

それなら俺は、今日はおとなしく家に帰るかな。

花穂「義之くんは、予定はないの?」

義之「ん、俺はないよ」

花穂「それなら、わたしに付き合ってもらってもいいかな?義之くんもいつか連れて行こうと思ってた場所なんだけど」

義之「うん、わかった」

花穂「一旦家に帰って、着替えを済ませてからでいい?」

義之「いいよ。それじゃあ、桜公園で待ち合わせかな」

花穂「うん」

そう決めて、途中まで一緒に帰ることにする。
106 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:30:40.66 ID:qAUny/1z0
*          *          *

家で着替えを済ませ、桜公園で花穂を待つ。

義之(どこに行くのかな……)

見当もつかないことを考えていると、花穂がやってきた。

花穂「お待たせ、義之くん」

いつもとは、少しだけ落ち着いた感じで話す花穂。

義之「いや、全然」

返事をしながら、ベンチから立ち上がる。

義之「それじゃあ、行こっか」

先に歩き出した花穂の半歩後ろをついていく。

義之「どこに行くの?」

花穂「一緒に来たらわかるよ」

目的地を直接言わないところを見ると、あまり楽しい場所ではなさそうだ。それに、花穂自身いつもより口数が少ない。

それでも俺が話を振ると、それには答えてくれた。
107 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:32:01.36 ID:qAUny/1z0
そうして、着いた場所は……。

花穂「今日も来たよ、お父さん、お母さん」

しゃがみこんで、そう話しかける。

『先祖代々ノ墓 桜木家』

花穂が話しかけたものには、そう刻み込まれていた。

義之(両親のお墓……か)

不謹慎だったかもしれない。花穂と二人だからといって、少し浮かれていた自分が恥ずかしかった。

花穂は持っていた小さなカバンの中から線香を一本とマッチを取り出し、線香に火を灯す。それを立てて、両手を合わせて目を閉じる。

花穂「………」

長い沈黙。やがて、花穂は目を開いた。

花穂「ほら、お父さん、お母さん。この人が、桜内義之くん。わたしの恋人さんだよ」

墓に向かってそう話しかけて、俺の方を向く。
108 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:33:15.94 ID:qAUny/1z0
花穂「義之くんも、わたしの両親に挨拶して?」

義之「ああ、わかった」

花穂の隣にしゃがみこむ。

義之「初めまして、花穂のお父さん、お母さん」

俺がそういうと、花穂は嬉しそうに、少し寂しげな笑顔を浮かべる。

花穂「お父さん、怒らないでね。義之くんはわたしの大切な人だから」

穏やかな口調で、両親に話しかける花穂。俺は、その様子を黙って見守っていた。
109 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:35:18.77 ID:qAUny/1z0
*          *          *

花穂「今日はありがとう、義之くん」

お墓参りの帰り、花穂がそんなことを言ってくる。

義之「いや、気にしなくていいよ。俺も、花穂の両親に挨拶できたし」

それに、もともと用事もなかったし。

花穂「それで、この後なんだけど」

義之「うん?」

まだどこかに行くのだろうか?

花穂「もしよかったら、うちに来ない?」

義之「え?花穂の家?」

花穂「うん」

いきなりの提案に、少し戸惑う。

花穂「もしかして、都合悪い?」

返答に困っていると、花穂が申し訳なさそうに聞いてきた。

義之「いや、都合とかは悪くないんだけど……」

花穂「それなら、来てくれると嬉しいな」

そう言って、ほのかに笑う。

義之「そうだな。じゃあ、お邪魔させてもらうかな」

花穂「ありがとう、義之くん」
110 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:36:06.88 ID:qAUny/1z0
とりあえず、音姉にメールだけ入れておこう。

To:朝倉 音姫

『今日は帰り遅くなるから。ごはんは先に食べてていいよ』

メールを打ち終わり、花穂に聞いてみる。

義之「花穂の家に、なにか用事あるの?」

花穂「ううん、特に何があるってわけじゃないけど。いつもお墓参りをして家に帰ったら、なにか複雑な気持ちになるの。
   だから、誰かがそばにいてくれたら嬉しいな、なんて思って。それが恋人さんなら、なおさらでしょ?」

ああ、そういうことか。

義之「もしかして花穂って、今は一人暮らし?」

ふと思った疑問を聞いてみる。

花穂「うん、そうだよ。お父さんとお母さんの遺産で今は暮らしてるの」

義之「そっか」

俺と同い年の子が、一人暮らし、か。大変なんだろうな、やっぱり。
111 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:37:03.90 ID:qAUny/1z0
*          *          *

団地の、花穂の家に到着する。

花穂「どうぞ、入って」

義之「お邪魔します」

花穂に促され、中に入る。……考えてみたら俺、今彼女の家に来てるんだよな。それも、ふたりっきりだし。

うわ〜なんかそう考えたら緊張してきた〜。

花穂「座って。義之くん、何飲む?」

花穂に言われたとおり、ソファに腰掛ける。

義之「なんでもいいよ」

花穂「それじゃ、わたしと一緒でコーヒー淹れるね」

少しの間を置いて、カップを二つ持った花穂が台所から出てくる。

花穂「はい、義之くん。それと、お菓子も持ってきたよ」

そう言って出されたのは、クッキーだった。

義之「どうも」

コーヒーを一口飲み、クッキーもありがたくいただく。
112 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:38:26.47 ID:qAUny/1z0
花穂「この家にわたし以外の人が入るのも、随分と久しぶりだな」

カップを持ちながら、花穂が呟いた。

花穂「両親が亡くなってから、誰も入ることはなかったから」

義之「花穂の両親が亡くなったのって、いつぐらいなの?」

不意に、そんな質問が口を突いて出た。

義之「ああ、嫌なら話さなくてもいいよ」

念のためそう言っておく。

花穂「ううん、嫌じゃないよ。わたしの両親が亡くなったのは、わたしが風見学園に入学した年。だから、もう二年近くになるかな」

義之「………」

話に聞き入る。

花穂「もともとお父さんもお母さんも体が弱かったの。二人が知り合った場所も、病院だったって聞いたことあるし。それで、わたしが風見学園に入学してから半年で亡くなった」

昔を思い出しているんだろう、花穂は遠い目をしていた。
113 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:40:25.01 ID:qAUny/1z0
義之「……それからは、ずっと一人で?」

花穂「うん。あ、でも、わたしのことを気にかけてくれる人は今もいるよ。その人には、自分のことはあまり口外しないでって言われてるんだけど」

義之「気にかけてくれる人?」

って、もしかして花穂のことが好きな人ってことか?ま、まさか、ライバル出現!?

義之「そ、その人について、ひとつだけ聞いたらダメかな?」

花穂「え、うーん……当たり障りのないことなら、答えられると思う……けど」

義之「その人って……まさか、男の人?」

恐る恐る聞いてみる。その質問を聞いた花穂が一瞬ぽかんとして、そして

花穂「……ぷっ、あははははは!!」

盛大に笑い出した。

義之「え、え?なんで笑うの?」

花穂「も、もしかして、義之くん、ライバル出現とか考えたの?あ、あはははははっ」

お腹を抱えて苦しそうにしている。そ、そんなに面白いこと言っただろうか?

義之「いや、だって気になるだろ!?」

花穂「だっ大丈夫だよ、義之くん。その人、女の人だからっ」

未だに笑いが止まらないようで、目に浮かんだ涙を拭いながらそう答えてくれる。

義之「あ、そ、そうなんだ……」

あ、安心した……。
114 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:41:14.56 ID:qAUny/1z0
花穂「義之くんって、面白いよね」

ようやく笑いが収まった花穂が、そう言ってくる。

義之「そ、そう?」

それは褒められてるのだろうか……。

花穂「大丈夫だよ。その、わたしのことを気にかけてくれる人って言うのは、わたしの後見人みたいなひとだから」

義之「そ、そうなんだ」

それにしても、内緒にされたら余計に気になるな。その花穂を気にかけてる人って、誰だろう?

花穂「でも、基本的には一人暮らしだからやっぱりちょっと寂しいかなぁ。今はもうだいぶなれたけど」

コーヒーを一口飲み、部屋を見渡す。確かに、一人暮らしにしては広いよな、この部屋。

まぁ、芳乃家も俺とさくらさんが二人で暮らすには広いけど。
115 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:42:58.37 ID:qAUny/1z0
コーヒーを飲み干し、時間を確認する。8時ちょっと前だった。

義之「俺、そろそろ帰ろうかな。あんまり遅くなると音姉に怒られそうだし」

花穂「え、もう帰っちゃうの?晩御飯くらい食べていってよ。わたし、作るから」

引き止められる。……どうしようかな。

義之「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

花穂「よかった。座って待ってて。準備するから」

ぱたぱたと寝室と思われる部屋へ行き、エプロンを持ってくる。

俺は花穂に言われたとおり、座って待つことにした。
116 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:43:59.58 ID:qAUny/1z0
*          *          *

花穂「はい、どうぞ、義之くん」

晩御飯がテーブルに並ぶ。

義之「おお、肉じゃが!」

花穂「わたしのお母さんから教わった料理の中で、わたしの一番自信のある料理だよ」

食欲をそそる匂いが辺りに漂う。

義之「いただきます!」

早速肉じゃがに箸をつける。

義之「……う、うまい」

正直、これは俺や音姉以上にうまいんじゃないかと言うほどだった。

花穂「ふふ、ありがと、義之くん」

花穂も、ご飯を食べ始める。
117 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:44:42.53 ID:qAUny/1z0
花穂「ねぇ、義之くん。ご飯食べながらでいいから、わたしの話、聞いて」

義之「うん?」

花穂「実はね、亡くなった両親の話なんだけど……。わたしの本当の親じゃないんだ」

義之「え……?」

本当の両親じゃない?

花穂「わたしがまだ小さい時に、枯れない桜の木の前で会ったの」

義之「枯れない桜の木……」

俺と同じってことか?

花穂「それに、不思議なことにそのとき以前の記憶がわたしにはないんだ。なんだか、気がついたらそこにいたっていうか。だから、本当の親の顔はわからないの」

義之「ちょっと待って。それ以前の記憶が、ない?」

それも、俺と同じじゃないか。

花穂「うん。あ、でも、わたしは今でもあの両親がわたしの本当のお父さんとお母さんだと思ってるんだ」
118 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:46:04.46 ID:qAUny/1z0
義之「不思議なこともあるもんだなぁ……」

花穂「うん、そうだね。それ以前の記憶がないなんて、信じてもらえないと思うけど……」

義之「いや、そっちじゃなくて」

花穂「え?」

きょとんとした顔をする。

義之「俺も、花穂と似たような……っていうか、ほとんど同じなんだよ。小さいころに、今の俺の保護者、さくらさんと会ったんだ」

花穂「えっ……?義之くん、も……?」

義之「ああ。それに、さくらさんと初めて会う以前の記憶も俺にはない。思い出そうとすると、ひどい頭痛がするんだ」

花穂「………」

花穂は絶句していた。そりゃそうだろうな。俺だって、花穂と同じ境遇だったなんて想像もしていなかった。

花穂「……不思議だね」

今まで絶句していた花穂が口を開く。

花穂「なんか、まるでわたしたち、運命だったみたい」

義之「……ああ、そうだな」
119 : ◆/ZP6hGuc9o [saga]:2018/12/23(日) 22:46:45.01 ID:qAUny/1z0
*          *          *

ご飯を食べ終えて、花穂と取り留めない話をする。

ふと時間を確認すると、9時を回ったところだった。

義之「そろそろ、本当に帰らないとまずいかもな」

花穂「ごめん、義之くん。なんだか引き止めちゃったみたいで」

義之「いや、楽しかったよ」

玄関まで、花穂が見送りに来る。

義之「また月曜に、学校で」

花穂「うん。気をつけて帰ってね、義之くん」

義之「ああ。じゃあな、花穂」

最後に手を振って、花穂の家を後にする。


夜の道を一人歩く。

義之(花穂の肉じゃが、うまかったな……。作り方、聞いとけばよかったかもな)

帰りも、頭の中で考えることは花穂のことばかりだった。
214.63 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)