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D.CUIgnorance Fate【オリキャラ有】
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171 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:27:10.87 ID:Q+Bb88g90
ひと悶着ありながらも、朝倉家に到着する。
義之「………」
花穂が爆弾発言をしたせいで、俺まで緊張している。でも、このままでいるわけにもいかない。
とりあえずブザーを押す。
ぴんぽーん。
由夢「はーい」
やや間があって、由夢が出てくれる。
由夢「あれ、兄さん。……と、お客さん?どうしたんですか?こっちに来るなんて珍しいですね」
由夢も帰って来て間もないんだろう、制服姿だった。隣にいる花穂の姿を確認し、余所行きの顔で話してくる。
義之「ああ、純一さんに用があって来たんだ。いる?」
由夢「おじいちゃん?いますよ。上がってください」
促してくれる。
義之「ほら、花穂」
花穂「う、うんっ」
やはり緊張した様子であがる。
純一「おや、義之くん。いらっしゃい。どうかしたのか?」
居間では、純一さんがテレビを見ていた。
義之「ああ、はい」
さて、いざ花穂を連れて来たはいいけど、話の内容を花穂に聞かれるわけにはいかないんだよな。どうしたもんか。
純一「……おや。君は……」
純一さんが、俺の後ろにいる花穂に気づく。
義之「ああ、この人……」
純一「……ああ、そういうことか」
義之「え?」
俺が紹介する前に、なにかを納得したかのように頷く純一さん。もしかして、花穂のことを知ってるのか?
花穂の方に視線を移す。花穂自身も面食らっているようだった。
172 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:28:18.00 ID:Q+Bb88g90
義之「純一さん、花穂を知ってるんですか?」
純一「ん?ああ、いや、なんでもないよ。名前、教えてくれるかな」
花穂「え、あ、は、初めましてっ!わたしは、桜木花穂といいますっ!」
固いままで、純一さんに挨拶をする。
純一「ん、初めまして。義之くんから、話は聞いてるかな。音姫と由夢の祖父の、純一だ。よろしく、花穂ちゃん」
花穂「は、はいっ!よろしくお願いしますっ!」
純一「それじゃ、由夢」
傍らにいた由夢を呼ぶ。
由夢「な、なに、おじいちゃん?」
純一「花穂ちゃんを連れて、部屋に行ってなさい。わたしは、義之くんと大事な話があるから」
由夢「え、で、でも」
義之「俺からも頼む、由夢」
正直、渡りに船だった。純一さんも、俺が聞きたいことは察していたのかもしれない。
由夢「……わかりました」
花穂も特に反対するでもなく、由夢についていく。
純一「ああ、それと花穂ちゃん」
花穂「は、はいっ」
純一「今夜は、義之くんのうちで晩御飯食べていきなさい」
花穂「え、でも……」
ちらっと、俺の方に視線を送る。
義之「そうだな、そうしたらいいんじゃないかな」
俺もそれに賛成する。
花穂「は、はい。わかりました。それじゃ、お言葉に甘えさせていただきます」
ぺこりとお辞儀をして、由夢と一緒に二階へと上がって行った。
純一「……さて、それで?義之くん。わたしになにか、聞きたいことがあるんだろう?」
義之「ああ、はい」
いくつか聞きたかったことを、純一さんに尋ねる。
しかし、俺の知りたい肝心なところはかわされたように感じられた。
173 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:29:42.73 ID:Q+Bb88g90
* * *
純一さんとの話が終わると、空は少し暗くなり始めていた。
花穂「義之くん、どうだった?」
義之「うん、まぁ……得るものはあったといえばあったけど……」
花穂「そっか……」
俺のどこか濁した言い方に、あまり進展がなかったということを花穂も見抜いたのだろう。
義之「ま、別に急ぐようなことでもないだろ。それに、もしかしたら俺の考えすぎなだけかもしれないし」
花穂「うん、そだね」
芳乃家へと移る。とりあえずは、カバンを部屋に置いてくるかなぁ。
義之「花穂も、そのカバンを俺の部屋に置いてきなよ」
花穂「……え?」
いきなり硬直する花穂。
義之「どうかした?」
花穂「えっと……義之くんの、部屋?」
義之「……あ」
無意識のうちに、花穂に俺の部屋に来いよと言ってしまった。
義之「あ、別に、深い意味はないから!」
変に誤解されても困るので、そう言っておく。
花穂「う、うんっ、そうだよねっ!」
花穂もそれで強引に自分を納得させる。というか、花穂だって俺を私室に平気でいれたじゃん……。
174 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:32:37.54 ID:Q+Bb88g90
部屋に花穂のカバンと俺のカバンを置き、居間へと下りる。
丁度そこに、音姉と由夢、それにさくらさんがいた。
さくら「あれ……?花穂ちゃん!?なんでここにいるの!?」
さくらさんが、驚きを隠そうともせずに聞いてくる。
花穂「え、えーと……よ、義之くん」
義之「さくらさん、花穂のこと知ってるんですか?」
さくら「う、うん。そりゃ、ボクは風見学園の理事長だからね。全校生徒の顔は一応知ってるよ」
義之「あ、そうか。そうですよね」
別にさくらさんが花穂のことを知っていても、別に不思議はないか。
さくら「……もしかして、花穂ちゃん、義之くんと……?」
恐る恐るといった風に、さくらさんが花穂に聞いている。その質問に対し花穂は、赤く顔を染めながら、控えめに頷く。
さくら「………」
なぜかそこで黙り込むさくらさん。
音姫「え、ええーっ!?やっぱり付き合ってるの?」
音姉が横から口を挟んでくる。
音姫「だってだって、ちょっと前は付き合ってないって言ってたじゃない!」
義之「あの後、いろいろとあったんだよ。な、花穂?」
花穂「はしょりすぎだよ、義之くん……」
俺の説明に呆れ気味にため息をつかれた。
由夢「わたしは、桜木さんと部屋にいるときに色々と話を聞かせてもらいましたから、知ってはいるんですけど……」
義之「い、色々と?」
ちらりと、花穂に視線を送る。
花穂「……」
あからさまに、視線を逸らされる。一体、何を話していたんだろう……。
さくら「………そっか。義之くん、花穂ちゃんと付き合ってるんだ。これも、何かの運命なのかもね……」
さくらさんはさくらさんで、ぼそぼそと独り言を言っている。さて、俺も料理作らなきゃな。
義之「音姉。今日は俺が作るから、ゆっくりしてていいよ」
音姫「え、そう?」
由夢「なにかっこつけてるんですか、兄さんは」
不機嫌そうに由夢がつぶやく。
義之「かっこなんてつけてないって。花穂も、ここでゆっくりしててよ」
花穂を、いつも俺が座っている場所の隣に促す。
花穂「今日は義之くんの番、てことだね」
さらりと、花穂が爆弾を投げつけてくださった。
音姫「え?今日は……ってどういう意味?」
義之「さ、さぁーやらなきゃなー!」
大きい声でごまかしながら、台所へと向かう。うう、花穂の家に行ったのは隠してたんだけどな……。これじゃ、後で問い詰め地獄に違いない……。
175 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:35:05.40 ID:Q+Bb88g90
* * *
義之「あとは、煮込んで終わり、と」
目の前の鍋からは、食欲のそそるカレーの匂いが立ち上っている。
義之「………」
さて、どうしたものか。一旦居間に戻るのがセオリーなんだろうけど……正直、さっきの花穂の爆弾発言のおかげで、居間に顔を出すのが怖い。
もしかしたら台所に詰め寄ってくるかもとも思ったが、それが無かったぶん更に恐怖が上乗せされている。
義之「ここで待つ……それが最善の手段と見た」
ぐつぐつと煮えているカレーを前にいるのはそれはそれで空腹に響くものがあるのだが……音姉と由夢の追求に比べれば、なんのことはない。
義之「……」
ぐつぐつ、ぐつぐつ。
義之「…………」
ぐつぐつ、ぐつぐつ、ぐつぐつ。
義之「……そろそろいいかな」
時計で時間を確認。
カチッ。
コンロの火を止めて、皿に盛り付ける。
176 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:36:09.13 ID:Q+Bb88g90
* * *
花穂「うわぁ〜、おいしい!」
カレーを一口食べて、顔を綻ばせて喜んでくれる。
音姫「うんうん、さすがわたしの弟くんだよね」
なにがさすがなんだか。
さくら「にゃはは、義之くん特製カレーも、なんだか随分久しぶりに食べる気がするなー」
さくらさんも、笑顔で食べてくれる。今日は、おかしな様子はなさそうに見える。
由夢「でも、兄さんも水臭いですよね。彼女が出来たんなら、そう言ってくれればいいのに」
由夢は、ふてくされながらカレーを食べている。
義之「だって、彼女が出来たなんていったら二人ともうるさいだろ?だから、なるべくなら黙っておこうとだな……」
由夢「ふん、別にわたしには関係ないですけどね」
ご機嫌ななめだな、由夢の奴……。
音姫「でも弟くん、むやみに女の子の家に遊びに行くのはダメだからね?」
義之「別にいいじゃん、付き合ってるんだからさ」
音姫「そ、それとこれと話は別!」
花穂「お、音姫さん、そんなに怒らないでください。義之くんを家に誘ったのは、わたしなんですから」
由夢「桜木さん、あんまり油断しないほうがいいですよ。兄さん、けだものなんですからね」
義之「し、失礼なっ!こんなに紳士的な男はそんなにいないぞ!なぁ、花穂?」
花穂「ふふ、うん、そうだね。由夢さん、義之くんは紳士的な人だよ?」
由夢「桜木さんも、兄さんに毒されてしまったんですね……」
さくら「うんうん、仲がいいのはとっても素晴らしいことだよ」
花穂を交えての、なんだか久しぶりのような気のする賑やかな夕食時間。さくらさんも、笑ってくれている。
なんだか、今までうだうだと考えていたのが馬鹿らしくさえ思えてくる。
177 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:37:06.43 ID:Q+Bb88g90
* * *
晩御飯を食べ終えて、みんなでお茶を飲む。
花穂「……あ、そういえば!」
何かを思い出したかのように両手をパン、とたたき、花穂が立ち上がる。
花穂「そういえば、みなさんに食べてもらおうと思って、持ってきていたものがあるんですよ。義之くん。ちょっと、部屋に入らせてもらうね」
義之「ん?ああ、それなら俺も行こうか?」
花穂「う、ううんっ!一人で大丈夫だからっ!義之くんはここで待ってて!」
一緒についていこうとした俺を制止し、ぱたぱたと二階へと上がっていく花穂。
由夢「なんだろ?デザートかな?」
音姫「うん、楽しみだねー」
由夢と音姉は気楽そうに話している。さくらさんはさくらさんでマイペースにお茶を飲んでるし。
義之(……せっかくだし、俺も和菓子を出してこようかな)
そう思い立ち、立ち上がる。
義之「やっぱり、花穂の様子を見てくるよ」
花穂の後を追い、二階へと上がる。
178 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:37:59.28 ID:Q+Bb88g90
* * *
俺の部屋から、電気の明かりが漏れている。そのドアに手をかけたところで、俺の動きは止まった。
義之(……?)
隙間から、花穂の様子が見えた。それだけなら、別になんでもないのだが。花穂が何をしているのかというと……。
花穂「やっぱり、ケーキがいいかな……」
独り言をつぶやきながら、何も乗っていない紙皿に手をかざしている。目を閉じて、集中したかと思うと……。
義之「……!」
何も乗っていなかった紙皿の上に、イチゴのショートケーキが姿を現した。
花穂「……よし」
ぎい、と部屋のドアを開ける。
花穂「っ!よ、義之くん!」
義之「ごめん、花穂……」
驚いている花穂に、まずは謝る。
花穂「……もしかして、見てた?」
義之「ばっちりと見てしまいました」
俺がそう答えると、花穂は諦めたかのようにため息をつく。
花穂「うーん……まぁ、見られちゃったならしょうがないかな。別に、必死になって隠すほどのものでもないし」
姿勢を正して、テーブルに向き直る。
花穂「昔、ある人から教えてもらったものなんだけどね。わたし、手から洋菓子を出すことができるんだ」
そう言って、テーブルに置いてある紙皿に手をかざす。と、そこには先ほど出したショートケーキと同じものが出てくる。
花穂「こんなことが出来るのは普通じゃないと思って、隠してたんだけどね」
そう言い、寂しげな笑顔を浮かべる。
義之「……いや、普通だよ、花穂は」
花穂「え?」
自分の手を後ろに回す。
義之「俺だって、花穂と同じことができるんだから」
その手に桜餅を作り出し、前に戻す。
義之「ささ、どうぞ」
花穂「……え?」
話についていけないのか、きょとんとしている。
義之「まぁ、食べてみてよ」
俺がそういうと、とりあえずといった風に俺の手の上にある桜餅を、口に運ぶ。
花穂「……ん、おいしい」
そして一言、感想を述べる。
義之「俺だって出来るんだから、花穂は普通の女の子だよ。そんなに悲しそうな顔をしちゃだめだって」
花穂「……やっぱり、そう見えた?」
義之「見えた」
まぁ、なんとなく気持ちはわからなくもないけど。
花穂「……うん。ありがと、義之くん」
義之「お礼を言われることじゃないよ。それより、早く居間に戻ろう。さくらさんも、音姉も、由夢も、待ってるよ」
花穂「そうだね」
ケーキを持って、下へと降りる。
179 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:38:46.42 ID:Q+Bb88g90
* * *
花穂「わたしが大好きなケーキ屋さんのショートケーキです」
わざわざ包み箱に一度入れて持ってきていて、そこから取り出す。
知ってる人側としては滑稽かもしれないけど、でもそれでいいよな。魔法が使える一族は、なにも朝倉家だけじゃないってことだろうし。
由夢「うわぁ〜、おいしそう!」
音姫「本当にいいの、桜木さん?」
花穂「はい、気にせずにどうぞ」
音姫「それじゃ、いただきます」
音姉は恐縮しながら、由夢は特に遠慮もせず、さくらさんはそんな俺たちの様子を見守りながら、ケーキに口をつける。
由夢「うわぁ、おいしいです、桜木さん!」
まず、由夢がそう感想を述べる。
花穂「ありがとう、由夢さん」
音姫「うん、本当においしいー」
音姉も絶賛。
義之「じゃ、俺も食べようかな」
花穂が出してくれたケーキに俺も口をつける。
義之「ん、うまい!」
花穂の魔法も俺が使えるものと基本は変わらないと考えるのなら、味なども想像して作るはずだ。
その実物がおいしいのだから、きっと花穂も頑張ったに違いない。
音姫「ねぇ、桜木さん。これ、どこで売ってるのか教えてくれないかな?」
花穂「それは……き、企業秘密です」
苦し紛れにそうごまかす。
音姫「えー、いいじゃない、教えてくれてもー」
花穂「そ、そんなこと言われても……」
困ったように視線をこっちに移してくる。……なんて言ったらいいんだ?この場合。
さくら「音姫ちゃん、本人が言いたくないっていってるんだから、詮索はしないほうがいいと思うな、ボクは」
なんてフォローしようか考えていると、さくらさんがフォローしてくれた。
さくら「このケーキ、すごくおいしいし、ボクもできるなら教えてほしいなーって思うけど、花穂ちゃんが言いたくないっていうんなら、聞かないであげた方がいいよ」
おお、さすがはさくらさん。音姉をうまく説得してくれてるぞ。
音姫「うー……わかりました……」
落ち込みながらも納得する音姉。でも、こればっかりは仕方ないよな。
180 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:39:28.22 ID:Q+Bb88g90
* * *
花穂「それじゃあ、わたしはそろそろ帰りますね」
時刻は8時を回った頃。花穂が立ち上がり、そう言った。
義之「俺、花穂を送っていきます」
音姫「うん、気をつけてね、弟くん」
由夢「桜木さんも、気をつけてくださいね。主に、兄さんに関しては」
義之「まだ言うか」
さくら「義之くん」
義之「なんですか、さくらさん?」
さくら「帰ってきたら、ちょっと話したいことがあるんだ。だから、あんまり遅くならないでね」
話?……なんだろう?
義之「はい、わかりました」
三人の見送りを背に、花穂と外に出る。
義之「うー、夜になると一層冷えるなー」
身震いしながら、白い息を吐く。
花穂「そうだねー」
花穂と他愛ない話をしながら、通学路の分かれ道までやってくる。
義之「できるなら花穂の家まで行きたいけど、さくらさんが待ってるから、ここでな」
花穂「うん、わかった。義之くん、また明日ね」
花穂の後ろ姿を見送り、見えなくなったところで踵を返す。
181 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:42:25.83 ID:Q+Bb88g90
家に到着する。音姉と由夢ももう帰ったようだった。
義之「ただいまー、さくらさん」
さくら「うん、おかえり、義之くん」
さくらさんの正面に座る。
義之「それで、話ってなんですか?」
さくら「……うん。その前に、ちょっとだけいいかな?」
さくらさんはいつになく真面目な顔で話す。
義之「……はい」
その姿を見て、俺も姿勢を正す。
さくら「義之くんは……花穂ちゃんと付き合い始めたのは、いつから?」
義之「えっと……夏休み最終日からだから、一週間とちょっと前からです」
さくら「そうなんだ……。きっかけとかは、なにかあるの?」
義之「きっかけ、ですか。それなら、これですよ」
さくらさんにも、腕にくくりつけたアクセサリーを見せる。
さくら「………これを、どこで?」
そのアクセサリーを見て思案顔になり、更に聞いてくる。
義之「それが……覚えてないんですよ。どこで買ったのかは」
それは、未だに思い出せないでいた。
義之「でも、これがきっかけだったって言うのはしっかりと覚えてます」
さくら「………」
俺の話を聞いたさくらさんがまたも考え込む。これ、そんなに珍しいものなのかな?
さくら「……そっか。うん、わかった。それじゃ、本題。義之くんは……花穂ちゃんのこと、好き?」
義之「……え?」
さくら「あぁ、あらかじめ言っておくけど、からかうとか、そんなつもりはないの。ただ、義之くんの気持ちを、聞いておきたいと思っただけ」
義之「………」
さくらさんの眼差しは、真剣そのものだった。
義之「……はい。俺は、花穂のこと、好きです」
さくら「……そっか。なら、ボクがどうこう言うことじゃないね」
真面目な顔をしていたさくらさんの顔に、笑みが差す。
さくら「ひとつだけ、ボクに約束してくれるかな?」
義之「なんですか?」
さくら「花穂ちゃんと付き合っていって、たとえ何があっても後悔しないで欲しいんだ」
……どういう意味、だろう?
さくら「変な意味じゃないよ。ただ、それだけ約束して」
義之「……はい、わかりました」
さくらさんの言葉がどういう意味を持っているのかはわからないが、俺は何があっても絶対に後悔はしない。それだけは断言できる。
さくら「うん、ありがと。さーてと、それじゃボクはもう寝ようかな。明日も早いし」
義之「おやすみなさい、さくらさん」
さくら「うん、おやすみ、義之くん」
さくらさんは満足そうな笑みを浮かべて、寝床へと向かっていった。
さくら「……これで、ボクも安心していけるよ」
最後に、俺には聞き取れない声で何かを呟いていた。
182 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:44:43.87 ID:Q+Bb88g90
1月20日(木)
朝。目を覚まして、朝ごはんを作ろうと台所へと向かう。
義之「朝だから、軽めに……と?」
居間に入ったところで、テーブルの上に一枚のメモ紙があるのを見つけた。さくらさんかな?
紙を手にとって読む。
『ちょっとやることがあるので、出かけます。しばらく戻って来れないかもしれないけど、心配しないでね。
音姫ちゃんや、由夢ちゃんにもよろしく言っておいてください。 さくら』
義之「……やること、か」
また、島内を走り回ってるのだろうか?まぁさくらさんのことだ。心配はいらないだろう。
由夢「兄さ〜ん……よかった〜。もうおなか減っちゃって……朝ごはん食べさせて〜」
朝ごはんの準備をしていると、脱力しきった由夢が台所に現れる。
義之「音姉はどうしたんだ?」
由夢「お姉ちゃんなら、なんだかやることがあるとか言って先に行っちゃったけど?」
音姉もやることがある、か。
義之「なんだか音姉もさくらさんも忙しそうだな。わかった、そしたら由夢の分だけでいいんだな」
由夢「ありがと〜」
朝ごはんが食べられると安心したのか、居間へと戻っていく。
183 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:45:10.16 ID:Q+Bb88g90
* * *
音姉がいないから、由夢と二人の登校。
由夢「さくらさんもいないなんて、一体どうしたんだろうね」
義之「さぁな」
由夢の問いに、曖昧に答える。昨日のさくらさんの話は……まだ、黙っておいた方がいいな。どうにも意味深だったし。
時間を置いて、このことが忘れ去られた頃にでもなんとなく話すことにしよう。
団地の分かれ道に到着。花穂の姿はなかった。
由夢「桜木さん、いないね」
義之「うん。まぁ、今日はいつもより遅くなったから、先に行ったのかもしれないな」
分かれ道の向こうの団地を眺め、学校へと向かう。
184 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:45:36.23 ID:Q+Bb88g90
* * *
玄関で由夢と別れ、教室へと向かう。
渉「おう義之、オハヨー」
渉が話しかけてくる。
義之「おう、おはよう。花穂、見なかった?」
渉「桜木?いや、見てねぇけど?」
まだ来てないのか?それとも……。
185 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:46:19.75 ID:Q+Bb88g90
* * *
昼休みになる。しかし、花穂は姿を現さなかった。
渉「おーい義之。桜木来ないんなら、学食行こうぜ」
渉が誘ってくる。その隣には、杉並もいた。
義之「杉並も一緒か。なんか久しぶりじゃないか?」
杉並「ふむ。俺も最近は何かと忙しかったからな。だが、今日は昼に時間が取れたから、一緒に飯でも食おうというわけだ。俺がいなくて、桜内も寂しかったろう?」
義之「言ってろ」
忙しかった……か。もしかして、杉並は杉並で事件のことを調べてたのかな?後で聞いてみるかな。
義之「悪いけど、先に行っててくれないか?俺は花穂のクラスに顔出してみるわ」
渉「りょーかい。席は取っておくぞ」
義之「すまん、頼む」
渉、杉並と別れて、花穂のクラスに向かう。
ななか「あ、義之くん」
クラスの前まで来ると、ななかと鉢合わせた。
義之「ななか、ちょうどよかった。花穂、いる?」
ななか「桜木さん、今日はお休みだってさ。体調崩したのかな?」
義之「休み?」
昨日の夜は元気だったのに……?
義之「そっか、わかった。ありがとな、ななか」
ななかに礼を言って、俺も学食へと向かう。
186 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:48:04.03 ID:Q+Bb88g90
* * *
放課後、学校を出て真っ直ぐ花穂の家へと向かう。
ピンポーン。
数秒遅れて、花穂が出てきてくれる。
花穂「はい……あ、義之くん」
義之「大丈夫なのか、花穂?」
ドアから覗き込んできた花穂の顔は、元気がなかった。
花穂「え?……あ、うん、大丈夫。せっかく来たんだし、上がっていく?」
少しだけ開けていたドアをさらに開き、俺を中に招き入れる。
義之「体調は大丈夫?」
花穂「うん、大丈夫だよ」
俺を椅子に座らせて、コーヒーを出してくれる。
義之「どうして、今日は学校を休んだの?」
花穂「ん、うん……ちょっとね」
答えたくないことなのか、明らかに濁していた。
義之「答えたくないんなら……無理には聞かないけど」
花穂「ねぇ、義之くん。また、わたしの話を聞いてくれる?」
傍らに置いてあった皿にいくつかクッキーを手から出し、おもむろに花穂は口を開いた。こうしてお菓子を出すってことは、長くなるってことかな?
花穂「あ、わたしのことなら気にしないで、食べていいよ」
義之「あ、ああ」
そういわれながらも若干遠慮がちに、そのクッキーに口をつける。
花穂「前に、わたしの後見人みたいな人がいるって話、したことあったよね?」
義之「ああ、自分のことはあまり口外しないでくれって言われてるとか言ってたな」
花穂「うん、その人のことなんだけどね……やっぱり、義之くんには話しておいた方がいいと思って」
義之「え?」
もしかして、その人って俺にも関係のある人なのか?
花穂「今朝、その人がわたしのうちに来たの。そして、しばらくは会えなくなるかもしれないって、それだけ言い残して行っちゃったんだけど……」
義之「……今朝?」
さくらさんがやることがあるといって姿を消したのも、今朝だ。……もしかして?
義之「その人って……さくらさん?」
花穂「やっぱり、わかっちゃうよね。うん、そうだよ。なんでかはわからないけど、さくらさんは周りの人に知られるのを避けてたみたい。今日は、それで色々考えたいから休んだの」
義之「……うーん」
なんだか気になってきたな。さくらさん、一体何をやってるんだろう?
187 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:49:14.33 ID:Q+Bb88g90
義之「あー、そういえば」
ずっと前のことだったから忘れてたけど。
義之「花穂、ひとつ聞きたいことがあるんだけど」
花穂「何?」
義之「クリパの日の夜、花穂、枯れない桜の木の前にいたよね?」
花穂「えっ?」
いきなり話が変わり、花穂は意表を突かれたようだった。
義之「あー……、ごめん。盗み見るつもりはなかったんだけど」
花穂「あ、いや、別に怒ってるとかってわけじゃないよ。ただ……そっか。あの時のわたし、見られてたんだ……」
そういうと、花穂は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
義之「あの時、何やってたの?」
花穂「……うん。別に隠すようなことじゃないんだけど……。恥ずかしいかな……ちょっと」
恥ずかしい?
花穂「実は……あの日、わたしの誕生日だったの。だから、毎年12月24日にはあそこにいってるんだ。わたしの記憶の一番底にある場所は、あそこだから」
義之「誕生日……か。でも、その日以前の記憶がないのに、誕生日は覚えてたんだ?」
俺は、自分の誕生日は覚えてない。
花穂「ううん、覚えてたわけじゃないよ。この事を話すなら、ちょっと長くなるけど……いい?」
義之「うん、いいよ」
俺が頷くと、花穂はゆっくりと話し始めた。
花穂「わたしが、両親に出会ったのは、12月8日だったんだ。で、当時わたしの記憶はなんにもなくって、当然のように警察に連れて行かれたの。
それで、わたしの本当の両親を探してくれたんだけど……。結局、見つからなくて。
それで孤児院に引き渡されたんだけど、それからすぐにお父さんとお母さんが、わたしを引き取ってくれたんだ」
義之「………」
花穂「それが、12月24日。お父さんとお母さんが、そうだって決めてくれたの。
最初は、わたしと初めて会った8日とどっちがいいのかって考えてたんだけど、わたしが桜木の子になったのが24日だから、その日を誕生日にしよう、って」
義之「……そっか」
大変だったんだな、花穂も。
花穂「でも、なんで急にそんな前のことを持ち出したの?」
義之「いや、ふと思い出しただけだよ。別に、深い意味はないって」
それにしても……花穂が両親と出会った日が、12月8日、か。日にちまで、俺がさくらさんと出会った日と同じなんて。
188 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:49:56.23 ID:Q+Bb88g90
* * *
義之「じゃ俺、そろそろ帰るな」
花穂「うん。ごめんね、心配掛けちゃって」
義之「いや、花穂がとりあえず元気でよかったよ。明日は、学校来いよ」
手を振って、花穂の家を後にする。
義之(音姉、帰って来てるかな……)
早足で歩き、家に着く。
由夢「あ、兄さんお帰り」
家の中にいるのは、由夢だけだった。
義之「……音姉は?」
由夢「まだ、帰って来てないけど……」
義之「帰って来てない……か。わかった」
さくらさんも心配だが、音姉も心配だ。二人とも、一体どうしたっていうんだろう?
結局今日、音姉は顔を見せなかった。
189 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:50:47.23 ID:Q+Bb88g90
1月21日(金)
翌日の朝。
由夢「おはよ〜、兄さん」
今日も、由夢ひとりだけだった。
義之「……なんか聞かなくてもわかりそうだけど、音姉は?」
由夢「うん……今日も先に学校に行っちゃった」
もしかしなくても、俺、音姉に避けられてる?
由夢「兄さん、お姉ちゃんに嫌われるようなことでもしたんじゃないの?」
義之「う〜ん、正直全く身に覚えはないんだけどなぁ」
由夢と話しながら、朝ご飯を食卓に並べる。
由夢「なんか、お姉ちゃんもさくらさんもいなかったらこの食卓も寂しいね」
ご飯を食べながら、由夢がつぶやく。
義之「ん、大丈夫だろ。二人とも、案外明日にはけろっと姿を現すかもしれないし」
気休めを言う。
由夢「……うん、そうだよね」
由夢も、なんとなく頷いた。
190 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:51:59.13 ID:Q+Bb88g90
* * *
放課後。
義之「杉並。ちょっと時間、いいか?」
杉並「ん?どうした、桜内。お前の方から声を掛けてくるとは、珍しいではないか」
義之「まぁまぁ、いいだろ。ここじゃ話しにくいから、場所を変えよう」
杉並を連れ立って、屋上へと出る。
義之「ここなら、誰かに聞かれる心配もないな」
杉並「いやん、一体なんの話をするつもり?」
義之「前にお前から聞いた話のことだ」
杉並「前に、と言うと……不可解な事件のことか?」
途端、杉並の顔が真面目になる。
義之「ああ、そうだ。昨日の朝からさくらさんがやることがあるからって出かけてるんだ。杉並、さくらさんがどこにいったのかって知らないか?」
杉並「それは、島内の不可解な事件とは関係のあることなのか?」
義之「関係あるかどうかはまだはっきりしないけど、俺の考えでは多分関係してる」
杉並「……ふむ。これは桜内から何か言ってくるまでは黙っておこうと思ったのだが」
すっきりしないと言うような表情で、考え込むように言う。
義之「なにか、あったのか?」
杉並「これは先日入ってきたばかりの情報なのだが……学園長かどうかは定かではないのだが、枯れない桜の木の前に金髪のショートヘアの女性が姿を現したそうだ。
そして桜の木がざわ、と揺らめいたかと思うと、その女性の姿が忽然と姿を消していた、と」
義之「……それで?」
杉並「入ってきた情報はこれだけだ。それが一体何を意味しているのかは俺にもわからないが、桜内。この件、思ったよりも複雑そうだ。
これ以上首を突っ込む気であるのなら、気をつけたほうがいい。どうも、嫌な予感がしてならん」
義之「そっか、わかった。サンキュ、杉並」
俺では調べきれないことを教えてくれる杉並に、お礼を言う。
杉並「おい、桜内」
義之「ん?」
杉並「……まぁ、その、なんだ。がんばれよ」
義之「………。……ああ」
杉並の一言に励まされ、もう少しだけ頑張ってみようという気がわいてきた。
191 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:53:14.28 ID:Q+Bb88g90
1月22日(土)
今日は誰にも起こされなかったため、昼過ぎまで寝てしまった。
居間に下りる。当然、誰もいない。
義之「音姉はともかくとして……由夢もいないのか」
この家に一人というのが、なんだか不思議だった。考えてみたら、俺一人っていうのはあまりなかったんだな。
義之「……とりあえず、飯でも作るか」
この時間では、朝飯というよりは昼飯になる。
義之(由夢は、昼飯食えたのかな?)
音姉の様子がここ最近おかしかったから、ご飯も一人で用意しなきゃならないだろうし、ちょっと心配だ。
と、その時、家の扉が開かれる音が聞こえてきた。
由夢「……あ、兄さん」
音姫「………」
玄関には、由夢と音姉がいた。二人とも、なんだか元気がなかった。
由夢「ご、ご飯食べに来たんだ」
沈黙を破り、由夢が口を開く。
義之「あ、ああ。そんなとこにいないで、上がりなよ」
元気のない二人を上がらせる。
由夢「う、うん。ほら、お姉ちゃん、行こ」
二人が上がったのを確認し、台所に向かう。
昼ご飯の用意が終わり、食卓に並べる。
音姫「………」
由夢「………」
なぜか二人とも沈黙。
192 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:53:55.30 ID:Q+Bb88g90
義之「どうしたんだよ。音姉も、由夢も、様子おかしいぞ」
ご飯を食べながら、二人に聞いてみる。しかし二人とも、口を開こうとしない。ご飯にも手をつけずに、ただ黙りこくっていた。
音姫「……ごめん、弟くん。わたし、食欲ないからやっぱり帰るね……」
唐突に、音姉がそう言って立ち上がる。
義之「え?だ、大丈夫か、音姉?具合悪いんなら、休んだ方がいいよ?」
音姫「うん……わかってる。……ありがとう、弟くん……」
やはり元気のない声で答える音姉。……それに、今の『ありがとう』にはもっと別の意味も含められていたように聞こえた。
義之「……音姉、なんか更に元気が無くなってるな」
音姉を見送って、食卓に戻りながら由夢に話しかける。
由夢「うん……そうだね……」
由夢は由夢で、どこか上の空だった。
義之「おいおい、由夢まで具合悪いなんて言い出すんじゃないだろうな?」
由夢「……え?いや、そんなことはないけど」
自分に話しかけられているということにようやく気付いたのか、はっとしながら俺の質問に答えてくる。
義之「なにかあったのか、由夢?音姉も由夢も、様子がおかしいぞ」
由夢「……そりゃあんなことを知っちゃったら、元気も無くなるよ……」
由夢がボソッと、俺に聞こえない声で呟く。
義之「ん?なんか言ったか?」
由夢「ううん、なんでもない」
それだけ答えると、由夢は黙々とご飯を食べ始めた。俺も、由夢に続くようにご飯を食べ始める。
食卓には、音姉の分のご飯が置かれたままだった。
193 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:55:46.51 ID:Q+Bb88g90
1月23日(日)
今日は、なぜか朝早くに目が覚めた。部屋のカーテンを開ける。空は青く晴れ渡っていた。
義之「ん〜、いい天気だな」
大きく伸びをする。昨日はあまり天気がよくなくて調べられなかったが、今日は気持ちよく調べることが出来そうだった。
居間に向かう。当然というのもおかしいかもしれないが、誰もいなかった。
義之「とりあえず飯食ってからだな……」
出かける時間になっても音姉も由夢も来なかったら、メモだけは置いておこう。
結果から言うと、二人とも芳乃家には顔を出さなかった。俺が戸締りをして外に出ると、窓から音姉の姿が確認できた。
音姉は俺の姿を確認すると、すぐに姿を消してしまった。
義之「……はぁ〜」
俺、本当になんもやってないのか?なんだか、自分に自信がなくなってきたぞ……。
とりあえず音姉の方は後から追求することにし、商店街へと向かう。
194 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:57:13.60 ID:Q+Bb88g90
* * *
少し前までは多く起こっていた事件も、最近は落ち着いているようだった。商店街は平和そのものだ。
義之「やっぱり、俺の考えすぎだったのかな?」
独り言を呟く。
一通り回ってみたが、やはり平和そのものだった。商店街を後にする。
義之「学校にでも行ってみるかな」
学校へと足を向ける。
グラウンドでは、陸上部が練習をしているようだった。
義之「まゆき先輩に捕まる前に退散、と」
学校でも特に事件などは起きていないようだった。
時刻はお昼過ぎになる。
義之「さて、どうするかな」
そういえばと、思い出す。
義之(花穂は今、なにやってるのかな?)
なんとはなしに団地へと足を向ける。
桜木家の表札を見ながら、ブザーを押す。
………。
応答なし。
義之「いないのか……」
少し残念に思いながらも、その場を後にする。
義之(墓参りにでも行ってるのかな?)
195 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:58:24.06 ID:Q+Bb88g90
一人色々なことを考えながら、桜公園へと足を向けた。
義之「……?」
そこで、なにか違和感を覚えた。虫の知らせ、とでもいうのだろうか。妙な胸騒ぎがして、桜公園の奥、枯れない桜の木に足早に向かった。
義之「………」
そこには、枯れない桜の木に手を付き、力なく膝をついた花穂がいた。
義之「……花穂?」
近づいて、話しかける。
花穂「……よ、義之……くん……」
花穂は泣いていたのだろうか、真っ赤な目を俺に向ける。
義之「どうかしたのか?」
花穂「……あ、あの……」
よろよろと、木に手を付いたまま危なげに立ち上がる。
花穂「どうかしたって言うわけじゃ……ないんだけど……。なんだか、この桜の木に来なきゃならないような気がして、ずっとここにいたの……。
さくらさんの声が、この桜の木から聞こえたような気がして……」
義之「この桜の木から、さくらさんの声が……?」
先日に聞いた、杉並の言葉を思い出す。
杉並『これは先日入ってきたばかりの情報なのだが……学園長かどうかは定かではないのだが、枯れない桜の木の前に短い金髪の女性が姿を現したそうだ。
そして桜の木がざわ、と揺らめいたかと思うと、その女性の姿が忽然と姿を消していた、と』
義之「………」
やっぱり、間違いない。杉並が言っていた人は、さくらさんだったんだ。
義之「……花穂」
桜の木に付いていた花穂の手に、俺自身の手を重ね合わせた。
花穂「……よ、義之くん……?」
少しずつ、意識が薄れていくのを感じた。花穂もそれは同じようで、俺たちは眠るようにその場に膝をついた。
196 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 00:59:44.35 ID:Q+Bb88g90
* * *
………。
気がつくと、花穂と二人で桜の木の元に立っていた。時刻は昼間だったはずなのに、空は夜のように暗かった。
さくら「……二人とも、こんばんは」
俺と花穂の背後から、声が聞こえてきた。振り向くと、さくらさんが桜の木に手をついて立っていた。
義之「さくらさん……」
聞きたいことはたくさんあったはずなのに、言葉が出てこなかった。
花穂「さくらさん。これは、夢……なんですか?」
俺が黙っていると、隣に立っていた花穂がそう尋ねる。
さくら「……うん、そうだよ。これは、ボクの夢」
目を閉じ、ゆっくりとそう答えてくれる。
さくら「キミたちに、話さなきゃならないことがいっぱいあるんだ。長くなりそうだけど……聞いてくれるかな?」
俺と花穂は顔を合わせると、二人一緒に頷いた。
さくら「まず最初に……ごめんなさい。今、初音島で起こってる不可解な事件は、全部ボクのせいなんだ」
義之「………」
関わりがあるだろうとは思っていたが、さくらさんは自分が原因そのものだと言って来た。
197 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:01:05.96 ID:Q+Bb88g90
さくら「枯れない桜……。昔にも咲いていた枯れない桜は、二人とも知ってるよね?あれは、本当に人の願いを叶える力があったんだ。
正真正銘の、魔法の木。人が人を大切に想う力を集めて、困ってる人の為に奇跡を起こす。
願えば叶う、祈れば通じる……一人一人のちからは足りなくても、たくさんの心があれば、みんなハッピーになれる!
…………そんな夢みたいな桜の木があったの。でも……、その桜は枯れちゃった。ううん、枯らしちゃった人がいるんだ」
さくらさんはどこか悲しそうな、遠い目をしていた。
さくら「魔法の桜にはね、致命的な欠陥……コンピュータ的な表現を使うなら、バグがあったんだ。だから、枯らさないといけなかった。
そもそも、そんな力は間違ってるかもしれないね。願えば叶うなんて、夢みたいなものだもんね。でもね、ボクは……そんな夢があってもいいんじゃないかなって思ったんだ。
世の中には、本当に困ってる人がいる。だから、そんな人たちの助けに……力になれればいいって。
バグを直せば……ちゃんと正しく動作するようにすれば、きっとみんな幸せになれると、そう思ったんだ。
だから、ボクはアメリカでずっと……この『魔法の桜』の研究をしていた」
さくらさんは一呼吸起き、自分の側に力強く根付いている桜の木を見上げた。
さくら「……でもね。そうやってボクがこの桜の研究を続けている間にも、外の世界ではどんどんと時間が流れていっちゃってて……
ボク一人が取り残されたような、そんな孤独感に襲われたんだ。ボクの大好きだった人たちはどんどん結婚して、子供を作って幸せになっていくのに……
ボクは一体、いつまで独りぼっちなのかな……って」
義之「………」
花穂「………」
俺と花穂は、静かにさくらさんの話に聞き入る。
さくら「そしてね、本当はいけないことだったんだけど……。アメリカで作ったこのサンプルを、この初音島に持ち帰ってきて。願ったんだ。
ボクにも家族が欲しいです……って。『もしかしたらあったかもしれない現在の、もうひとつの可能性を見せてください』って、そう願ったの。
そして、その願いから生まれたのが……」
そこでさくらさんは言葉を区切る。ここまで話を聞けば、おおよその予想はつく。
198 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:02:50.11 ID:Q+Bb88g90
義之「俺と花穂……ってこと?」
さくら「……ちょっとだけ違う、かな。確かに、結果としてキミたち二人が生まれたんだけど、ね」
慎重に、言葉を選んでいるようだった。
さくら「ボクのその願いから生まれたのは、義之くん。キミだけだよ」
花穂「………じゃあ、わたしは?」
花穂が、疑問を口にする。
さくら「花穂ちゃんは、ね。この不完全な桜の木の力の、副作用によるもの。ボクが、この桜に願った時に、その副作用によって生まれた子。
義之くんが生まれる過程で、どこかでバグが起こって……花穂ちゃんが、生まれたの」
花穂「……バグ?」
さくら「うん、そう……。ボクの願いは、奇跡としてはとてつもなく大きなものだった。本来なら、絶対に不可能だった願い。
それを叶えるために、この桜の木は、奇跡を起こそうと、頑張ってくれたの。あまりいい例とはいえないけれど……
何かを作り上げる時に出てくる、副産物ってあるでしょう?花穂ちゃんは、それに当たるの」
花穂「………」
さくらさんの言葉を受けて、押し黙る花穂。
199 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:04:14.14 ID:Q+Bb88g90
さくら「キミたち二人は……この桜の木が起こした、奇跡。本来は、この世界に存在しない人間。この桜の魔法が届く範囲しか、存在できないの」
目を閉じ、何かを堪えるように淡々と語る。
さくら「…………でもね。この桜は、昔のオリジナルとは違う。願いを叶えるルーチンが不完全だったんだ。
純粋で、ささやかな願いだけじゃなく……誰の、どんな願いでも無差別にかなえちゃう。それが、どんな汚れた願いであっても……」
………。そういうこと、だったのか。初音島で起こってる、不可解な事件の全ては、誰かが願ったものだったんだ。
さくら「最初は小さかったんだけど……この桜は、人々の夢を集めて、どんどん大きくなる。
今まではボクが桜の木の力を制御してきていたんだけど……結局、抑え切れなくなっちゃって……。
不幸な事件が起こるのを、一生懸命止めようとしたんだけど……ボクの力だけじゃ、防ぎきれなかった」
俯くさくらさんの目から、涙が零れ落ちる。
さくら「ゴメン……本当に、ゴメン……!全部、ボクのせいで……!今はまだ、小さな事故で済んでるけど……
制御するものを失ったら、もっと多くの願いを無差別に叶え始めてしまう。
そうなったら、大変なことになる。だから、この桜を枯らせなければいけないんだけど……。でも、それをしちゃったら、義之くんと花穂ちゃんは……っ!」
義之「………。もしかしてさくらさん。音姉は、そのことを?」
さくら「……うん。この島の人たちを助けるために、桜を枯らさなきゃならないと考えて、悩んでるんじゃないかな」
義之「………」
それで、納得がいった。最近の音姉の様子がおかしかったのは、こういうことがあったから、か。
これは、誰かに相談できるようなことじゃ、ないよな。
さくら「……ごめんね。全部、ボクが悪いんだ。ボクのわがままで、島の人たちに、迷惑をかけて。義之くんや、花穂ちゃんや、音姫ちゃんにも……。
こんなに辛い思いをさせて……みんなを不幸にして……」
さくらさんが、嗚咽を漏らす。
さくら「……っ……ボクがっ……、余計なことさえ、しなければ……!」
余計なこと。……一体、なにが余計なことなんだ?確かに、島の人たちに迷惑はかけていたかもしれないけど……。
200 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:05:22.08 ID:Q+Bb88g90
義之「さくらさん。……俺は、感謝してますよ」
花穂「……わたしも、です。さくらさん。わたしもっ……感謝してます」
花穂の、俺の手を握る力が強くなる。
義之「だって、俺と花穂は、さくらさんのおかげで存在できたんだから」
さくら「……う、うぅっ……!」
義之「幸せでした」
花穂「わ、わたしもっ……幸せ、でしたっ……」
花穂は、堪えきれずに泣き出していた。
さくら「義之くん……花穂ちゃん……」
義之「普通の人よりもずっと短い時間だったかもしれないけど。家族や、姉妹や、友達や……大切な人に出会えて本当によかったって思ってます。
俺や、花穂に……こんなに大切な時間を与えてくれて、感謝してますよ」
万感の想いを込めて。
義之「……だから…………、ありがとう。母さん」
花穂「あ、ありがとう……お、お母さんっ……!」
花穂も、さくらさん……俺たちの、本当の意味での『お母さん』に、感謝の気持ちを伝える。
さくら「義之くん……花穂ちゃんっ……ありがとおぉ……っ」
とうとう堪えきれずに、両手で顔を押さえる。
201 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:05:58.10 ID:Q+Bb88g90
義之「……今、音姉は、どうしてるんです?」
さくらさんを見守り、ようやく泣き止んだ頃。音姉のことを、聞いてみる。
さくら「音姫ちゃんは……今、悩んでると思う。この桜を、枯らせるべきか否か。ボクが、完全に制御できればよかったんだけど、それは無理だったから」
義之「……わかりました。それじゃ、俺と花穂は、そろそろ行かなきゃ。音姉に、そんな辛いことはさせられない」
これは、俺と、花穂の問題だ。音姉にそんな重い十字架を背負わせることなんて、ない。
さくら「そっか。もっと一緒にいたいけど……これ以上、わがままを言うわけにはいかないよね。さよなら……、義之くん、花穂ちゃん」
義之「ええ……、さようなら」
花穂「さようなら……お母さん」
俺と花穂のその言葉を最後に、視界が白く染まる。
202 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:06:38.68 ID:Q+Bb88g90
* * *
桜の木を背もたれにし、俺たちは目を覚ました。
花穂「義之くん……」
花穂も目を覚ましたようで、俺の名前を読んでくる。
花穂「夢じゃ……なかったんだよね?」
確認するように問いかけてくる。
義之「いや……あれは夢だったよ。純粋な、一人の魔法使いが俺たちに見せた、夢」
花穂「……そっか。ねぇ、義之くん」
義之「なに?」
花穂「この桜……やっぱり、枯らさなきゃ、ダメなんだよね?」
義之「……ああ、そうだな。この桜の木が原因で、不可解な事件が起こってるんだ。それにこのまま置いておいても、いずれ音姉が決心して枯らしに来ると思う。
俺は音姉にそんな辛い思いはさせたくない。……この桜を枯らせるってことは……俺と花穂は、この世界から弾かれる事になるけど……花穂は、それでもいい?」
我ながら、最低なことを言ってる、と思う。だって、この桜を枯らせるってことは、花穂が死ぬって事と同義だ。
それに、俺だって死ぬのと同じ。
花穂「義之くんが決めたことなら……わたしは、それに従うだけだよ」
義之「……そっか」
花穂「でも、未練がましいと思われるかも知れないけど……。明日。最後に、学園生活を楽しんで、それからでも……いいかな?」
義之「……ああ、そうだな」
俺も、今すぐは決心がつきそうになかった。それに、学校の奴らに最後のお別れをしなきゃならない。
花穂「それなら、そのことを伝えなきゃね」
花穂は立ち上がり、俺の手を引っ張る。そして桜の木から数歩離れたところで、振り返る。
花穂「今日と明日を二人にとってのこの世界での最後の一日とし、明日の夕方にこの桜の木を枯らせます」
それは、誓いだった。俺と花穂を、この世界に存在させてくれていた一人の魔法使いへの。俺と花穂の、お母さんへの。
花穂「……いこ、義之くん」
義之「ああ」
そして俺は、花穂と手をつなぎ、その場から立ち去る。
203 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:08:04.19 ID:Q+Bb88g90
* * *
夜。今日は音姉と由夢に了承をもらって、花穂が俺の家に泊まりに来ていた。
二人は、俺と花穂のことをじっと見て、そしてゆっくりと頷き、花穂の宿泊を許してくれた。
……全部知ってるから、許してくれたんだろうな、音姉も、由夢も。
花穂「考えてみたらさ、義之くん」
義之「うん?」
俺の部屋、並んでベッドに腰掛けてお互いに無言だったが、不意に花穂が口を開いた。
花穂「わたしたち、正反対だったんだね」
義之「俺と、花穂が……ってこと?」
花穂「うん、そう。さくらさんは、わたしが副産物だって言ってた。それはつまり、義之くんが生まれるときに決められたことが、全部正反対でわたしに影響したってこと。
義之くんは男で、友達も多くて、手から和菓子が出せて。それと反対に、わたしは女で、友達はいなくて、手から洋菓子が出せる」
義之「そうか……そういう風にも考えられるか」
花穂「でも……お互いに、惹かれあった」
義之「そうだな。正反対っていうことは、お互いに足りないものを補い合う関係だったのかもしれない」
花穂「……うん」
花穂は頷くと、ゆっくりと仰向けにベッドに倒れこんだ。
花穂「なんだろうな……なんだか、妙に心が穏やかなの。なんでかな?」
義之「……今まではっきりとしなかったことが、色々とはっきりしたからだろうな。俺も、随分と穏やかな気分だ」
花穂「もう、みんなとは会えなくなるんだよね……?」
義之「そうなるだろうな」
花穂「じゃあやっぱり、最後にお別れは必要だよね」
花穂はまた、涙を流していた。
義之「……ああ、そうだな」
その花穂の涙を拭ってやりながら、静かに頷く。
明日が、俺たちの最後の日だ―――
204 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:09:04.95 ID:Q+Bb88g90
* * *
音姫「……ごめんなさい」
誰かの、謝る声。
音姫「ごめんなさい、おじいちゃん……。私……私、どうしても……!」
この声は……音姉、か。こんな時にこんな夢をみるなんて……。
純一「いいんだよ音姫。なにも泣くことなんかない」
微かにすすり泣く音姉をなだめるような、穏やかな純一さんの声。
音姫「だって……だって、私のせいで……」
純一「これはひどい孫娘がおったもんだな。まだ失敗すると決まったわけじゃないだろうに」
音姫「でもっ……!」
純一「信じなさい。お前のおじいちゃんは、そこまで弱くもオッチョコチョイでもないよ。それにね……」
純一さんの手が、音姉の頭をなでる。優しく、穏やかに。
純一「親ってのは、子供より先に死ぬもんだ。ましてや、孫だしな。おじいちゃんはもう、十分に生きたさ。
たとえ失敗したところで、なにも後悔はない。それに、かわいい孫娘の頼みだしね。喜んで引き受けるよ」
純一さんは穏やかに笑ってみせる。
音姫「おじいちゃん…………!」
音姉はなにか言いたいのか、必死で声を出そうとする。しかし、嗚咽ばかりが漏れて言葉にならなかった。
純一「だけど、もしおじいちゃんが失敗した時は……わかるね?」
純一さんの声が、穏やかながらも真剣な声になる。
音姫「……はい」
純一さんの問いかけに、ゆっくりと音姉が頷く。その返事を聞き、純一さんは満足そうに目を細める。
純一「……さて、と。それじゃ、幼馴染の尻拭いに出かけるとしますかね。今度の仕事はずいぶん、かったるい仕事となりそうだけど」
茶化すように笑って、純一さんはゆっくりと歩き出す。その背中を、音姉は泣きながらずっと見送っていた。
205 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:10:07.63 ID:Q+Bb88g90
1月24日(月)
義之「……んん……」
腕の中に、温もりを感じる。
花穂「……すぅ……すぅ……」
俺の腕の中で、花穂が静かに寝息を立てていた。
花穂を起こさないように気をつけながら、上半身を起こしあげる。
義之「………」
今まで見ていた夢を思い出す。
義之(……あれは……、何を意味してるんだ?)
音姉と純一さんの、深刻そうな会話の内容。
純一『親ってのは、子供より先に死ぬもんだ。ましてや、孫だしな。おじいちゃんはもう、十分に生きたさ。
たとえ失敗したところで、なにも後悔はない。それに、かわいい孫娘の頼みだしね。喜んで引き受けるよ』
純一『だけど、もしおじいちゃんが失敗した時は……わかるね?』
純一『……さて、と。それじゃ、幼馴染の尻拭いに出かけるとしますかね。今度の仕事はずいぶん、かったるい仕事となりそうだけど』
義之「………」
少し考えれば、何の話なのかはわかる。
義之「ん……?」
ふと、窓の外から視線を感じた。
音姫「………」
視線の主は、音姉だった。俺の部屋を真っ直ぐに見上げている。当然、俺と視線がぶつかった。
音姫「……弟くん……」
音姉の口元が、微かに動いたのがわかった。でも、何を言ったのかはわからない。少しの間沈黙し、そして音姉は朝倉家へと姿を消した。
206 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:12:29.69 ID:Q+Bb88g90
花穂「……んぅ……」
音姉を見送って部屋に視線を戻すと、花穂が目を覚ましたようだった。
義之「おはよう、花穂」
花穂「あ、義之くん……。おはよう」
花穂も上半身を起こしあげる。
花穂「今日で……終わりに、するんだよね?」
確認するように、花穂がたずねる。
義之「……ああ。そのつもりだ」
嘘を言ってもどうしようもないので、正直に頷く。
花穂「……っ」
花穂が、俺の服の裾をぎゅっと握る。
義之「花穂?」
花穂「っ……ううん、なんでもない」
気丈にそういうと、いつもの調子を保つようにベッドから降りる。
花穂「さ、早くご飯食べて学校に行こ、義之くん。最後に遅刻なんかしちゃったら、締まらないでしょ?」
義之「ああ、そうだな」
花穂が気丈に振舞っているんだ。ここで俺がそんな花穂を気遣うのは失礼な気がした。
二人で、居間に降りる。当然、誰もいなかった。音姉も由夢も、気を遣ってくれているんだ。
207 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:13:12.92 ID:Q+Bb88g90
朝の準備を済ませ、家を出る。
義之「ごめん、花穂。ちょっと、待っててくれる?」
花穂「え、うん」
花穂を置いて、朝倉家に寄る。
ピンポーン。
少しの間を置いて、純一さんが出てくる。
純一「ん、義之くんか。どうかしたかい?」
義之「あ、いえ……」
まだ、純一さんはいた。ということは、まだ行ってはいないということか?
義之「音姉と由夢は、まだいるんですか?」
純一「ん、あぁ。二人はもう行っちゃったよ」
義之「そうですか。わかりました」
純一「うん、いってらっしゃい」
一礼して、朝倉家を後にする。てっきり今朝の夢は音姉のものだと思ってたんだけど……。
あの夢は多分、純一さんがさくらさんと同じことをするって話だと思ってた。でも、まだ純一さんはいたから、音姉の夢じゃないのだろうか……?
義之「おまたせ、花穂。それじゃ、行こうか」
頭の中で答えは出なかった。芳乃家の前で待っていた花穂に、声をかける。
花穂「うん」
花穂と一緒に、風見学園へ向けて歩き出す。
208 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:14:43.78 ID:Q+Bb88g90
* * *
学園へと向かう途中に、由夢がいた。傍から見てもわかるほどボーっとしたまま、ゆっくりと学園へ向かって歩いていた。
義之「おーい、由夢」
由夢「っ!に、兄さん!」
俺が話しかけると、由夢はびくんと体を跳ねさせた。
由夢「………」
俺と花穂を見ると、由夢はもの悲しそうな顔をする。
義之「どうかしたのか、由夢?」
由夢「ううん……なんでもない。ごめんね、わたし、急ぐからっ……!」
話を中断し、由夢は走り去ってしまった。
花穂「義之くん……?」
義之「そっとしておこう」
俺の言葉に、花穂も頷いてくれる。
209 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:16:01.65 ID:Q+Bb88g90
* * *
花穂「それじゃ義之くん。放課後に、また」
義之「ああ、わかった」
今日一日は、クラスで過ごすことに決めていた。俺も花穂も、最後の別れを済ませようと決めたことだった。
義之「おはよー」
がらっと教室の扉を開けて、みんなに挨拶する。
渉「おう、おはよー。てめぇ、今朝も桜木と見せつけながら登校してたな!」
早速渉が絡んでくる。
義之「あ?ああ、まぁ、俺たちラブラブだし」
最早否定することもなく、そう答える。
渉「くそぉ、妬ましい!俺も彼女欲しいぃぃ!」
いつも通りのやりとり。
小恋「おはよう、義之」
義之「おう、おはよう小恋」
杏「ふふ、来たわよ罪作りな男が」
茜「恋とは、こうも人を残酷にするんですなぁ」
続けて、雪月花が俺の席の近くまで来る。
義之「何の話だよ」
茜「いやぁ、今朝、朝倉姉妹が元気ないのを見かけたからさぁ。もしかして義之くんがなにかしたんじゃないのかってね」
杏「そしたら、今朝も桜木さんと二人でラブラブ登校してたっていうじゃないの。あんまり桜木さんとばかりいると由夢さんと音姫先輩が可哀想よ」
周りの人が見てもわかるくらい元気がないのか。これは……もう時間はなさそうだな。
茜「義之く〜ん?」
義之「ん?」
茜「どうかしたの?なんか今、妙に真剣そうな顔してたけど……」
義之「あ、悪い。なんでもないよ」
茜「そう?それならいいけど」
危ない危ない。この事は誰にも悟られないようにしないとな。
杉並「おはよう、諸君!」
チャイム寸前に、杉並が姿を現した。
義之「ずいぶん遅かったな、杉並」
杉並「おう、同士か。いやなに、俺は俺で忙しいのだよ」
ふふん、と不敵に笑う杉並。こいつの方は、なにか新しい情報を手に入れたのだろうか?
杉並「桜内よ。昼休み、屋上で待っているぞ」
他の奴らに聞こえないように、耳打ちしてくる。
義之(……やっぱりなにか掴んだんだな)
まぁ、俺のほうからも言うことはあるし、ちょうどいい。
210 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:16:43.81 ID:Q+Bb88g90
* * *
そして、昼休み。
渉「義之〜、飯食いに行こうぜ〜」
義之「悪い、渉。ちょっと、今日は後から行く」
渉「また桜木かぁ?」
義之「いや、今日は違う。とにかく、先に行っててくれ」
渉「え?あ、おう」
渉を置いて、屋上へと向かう。さっと教室内を見渡したが、すでに杉並の姿はなかった。先に屋上に出ているのだろうか?
屋上には、やはり杉並がすでに来ていた。
杉並「待っていたぞ、同士桜内」
義之「ああ。なんかわかったのか?」
杉並「ふむ。残念ながら、こちらの方は進展はなかった。だが、桜内よ。他の奴らの目はごまかせても、この俺の目はごまかせん」
いつになく真剣な、杉並の声。
杉並「桜内の中で、なにかひとつの決心が固まったと、俺は見るが?」
義之「……まぁ、確かに、俺の中ではもう決心はついているよ」
はっきりと、そう答えてやる。
杉並「……うむ、そうか」
真剣な表情で、それだけ答える。
義之「なぁ、杉並。ひとつ、頼みがあるんだけど」
杉並「ん?なんだ?」
義之「今回のこと……一通り終わったらさ、杉並なりの考えで構わないから記事を書いて欲しい」
杉並「……それは、本当にいいのか?」
義之「ああ。是非」
杉並「ふむ……なんとなく釈然としないが、同士の頼みだ。いいだろう」
義之「サンキュ、杉並」
杉並「なに、気にすることはない。俺自身、今回のことは記事にまとめておきたいと思っていたところだ。
桜内がいいというのなら、遠慮なく書かせてもらうことにする」
これで、俺がこの世界に生きたということを残せる。
211 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:17:30.52 ID:Q+Bb88g90
* * *
放課後。
義之「悪い、花穂。ちょっと、俺に付き合ってくれるか?」
花穂「うん、いいよ。これで最後、だしね」
俺の頭の中には、もう二つやることがあった。
義之「とりあえず、先に天枷だ」
二年の由夢と美夏のクラスへと向かう。
教室の近くまで行くと、由夢と鉢合わせる。
由夢「あっ……兄さん……」
義之「よ、由夢。天枷はいるか?」
由夢「え、天枷さん?ちょ、ちょっと待ってて」
由夢も俺や花穂とは極力目を合わさず、教室へと戻ってしまった。
花穂「天枷さんって人に用があるの?」
義之「ん、ちょっとな。野暮用だよ」
少し待つと、由夢が天枷を連れて出てきてくれた。
義之「悪いけど、由夢……」
由夢「あっ、ご、ごめんなさい兄さんっ!わ、わたしは用事があるので、先に帰ってますねっ!」
由夢は俺の言葉を遮って、自分の言いたいことだけ言うとそそくさと去っていった。
義之「……ま、結果オーライか」
212 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:18:18.35 ID:Q+Bb88g90
美夏「なんだ、桜内。……それに……」
天枷が、俺の後ろにいる花穂を見て言葉に詰まる。
義之「ああ、いや、花穂は関係ない」
美夏「ん、そうなのか?」
義之「ああ。ちょっと、お前に頼みたいことがあるんだ」
美夏「美夏に頼みごとか?なんだ?」
義之「ああ。まぁ、機会があればでいいんだけど……。由夢にさ。俺が、ありがとうって言ってたって、伝えてくれないかな?」
美夏「ん??どうしてだ。お礼を言いたいんなら自分で言えばいいだろう?」
美夏が疑問を返してくるが、予想の範囲内だ。
義之「ああ、いや、だから、機会があればでいいんだ。それに、伝えることはその一言だけでもいい」
美夏「んー……?なんかよくわからんが、桜内が由夢にありがとうと言っていたと言う事を伝えればいいのだな?」
義之「ああ、そうだ」
美夏「なんだかよくわからんが、わかったぞ」
承諾してくれる。
義之「サンキュな、天枷。ほら、お礼のバナナだ」
カバンから一本のバナナを取り出す。
美夏「貴様……美夏を馬鹿にしているのか……?」
義之「いざという時のためだよ。ほら、いいから取っておけ」
美夏「むぅ……お礼といわれると断りづらいじゃないか……。しょうがない。受け取っておくとしよう」
渋々ながらバナナを受け取る。
義之「ん、それでいい。美夏も、ありがとな」
美夏「ん?あぁ、別に気にすることはない」
義之「じゃあな」
今のお礼の意図はわからくてもいい。ただの、俺の自己満足なんだから。
213 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:19:10.30 ID:Q+Bb88g90
* * *
今度は、音姉のクラスに向かう。今度は、目的の人物にすぐに出会えた。
まゆき「おっ、弟くん。どうした?音姫になんか用?」
まゆき先輩だ。
義之「いや、音姉には用はないんですけど……。まゆき先輩に用があってきました」
まゆき「あたしに用事?ずいぶんと珍しいこともあったもんだね。で、何?」
義之「ええ。今度、機会があったら、音姉に伝えて欲しいことがあるんです。ただ、ひと言。ありがとう、って」
まゆき「ん〜?なんだか意味不明なお願いだなぁ。音姫となんかあったの?」
義之「いえ、まぁ……色々と」
まゆき「色々と、ねぇ……。音姫の様子も最近はずっとおかしいし、プライベートなことならあたしも聞かないけどさぁ。
でもそういうことは、本人が直接伝えた方がいいと思うけどな、あたしは」
まゆき先輩が、真顔でそう言ってくれる。
義之「ありがとうございます。もちろん、俺もそのつもりですけどね。でも、まゆき先輩からも伝えて欲しいです」
まゆき「ん〜……なんかすっきりしない言い方だねぇ……。ま、わかったよ。その代わり、あたしからも一つ。音姫を泣かすような事だけはするなよ!」
笑顔で、まゆき先輩も承諾してくれる。
義之「なんだかまゆき先輩、音姉の彼氏みたいですね」
俺もつい苦笑する。
まゆき「おいおい、あたしも音姫も正常だっつの」
義之「ありがとうございます、まゆき先輩」
まゆき「おう」
手を振って、まゆき先輩と別れる。
214 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:19:36.12 ID:Q+Bb88g90
* * *
義之「ありがと、花穂」
花穂「うん。……義之くんは、いいね。友達がたくさんいて」
義之「花穂はそんな俺の友達なんだからさ、俺の友達は、花穂の友達でもあるだろ?」
花穂「そう……なのかな?」
義之「そうだよ」
歩きながら、最後の他愛ない話をする。もう、やるべきことは全部やった。
これで……未練がないといったら嘘になるけど、安心だ。
215 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:20:06.31 ID:Q+Bb88g90
* * *
桜の木の元に行く前に、花穂と二人で初音島を歩き回る。花穂との思い出をひとつひとつ、大切に思い出しながら。
芳乃家の手前、朝倉家近くまで来ると、話し声が聞こえてきた。
音姫「……ごめんなさい」
今朝の夢の、再現だった。
音姫「ごめんなさい、おじいちゃん……。私……私、どうしても……!」
音姉の、泣きながら謝る声だった。だとしたら、もう、時間がない。
義之「………。花穂」
花穂「……うん」
俺のその呼び声だけで、花穂は俺の意図を読み取ってくれたようだった。
そうして二人、音姉と純一さんを置いて桜の木の元へと足を運んだ。
216 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:21:08.96 ID:Q+Bb88g90
* * *
夕陽が、桜の木を照らしていた。ひらひらと舞い落ちる桜の花びら。その木のすぐ側に、花穂と二人で立つ。
花穂「……義之くん。これ、持ってきてるよね?」
おもむろに、花穂が手の中にあるものを俺に見せてくる。それは、いつかどこかで買った白い花びらのアクセサリーだった。
義之「ああ、持ってきてるよ」
腕輪のようにつけていたピンクの花びらのアクセサリーを取り出す。
花穂「これをさ、この木に……ほら、こうやってつけておこうよ」
花穂は、それを桜の幹に引っ掛けていた。
花穂「この桜の木を枯らせても、木そのものが無くなるわけじゃないよね?だから、この木にわたしたちがこの世界に確かに存在したっていう証を、残そうよ」
義之「そうだな、いいアイデアだ」
花穂に習い、俺も桜の幹に引っ掛ける。
義之「………」
さて……。やらなきゃ、な。
桜の木に、そっと手のひらを当てる。ざわ、と木全体が揺らめいたように感じた。
目を閉じて、桜の木が枯れるイメージを頭の中に浮かべる。
桜の木に当てた手の甲に、そっと、暖かいものが触れた。目を開けると、そこには花穂の手が添えられていた。
花穂「義之くんひとりに、やらせない……」
穏やかに、花穂がそういった。その瞬間。風がないのに桜の木はざわめき。その花弁を、急速に散らせていく。
義之「……っ」
花弁が散っていくのに比例して、体が重くなっていくような感覚を覚える。
そして―――桜の木は、最後の一枚まで、その花弁を散らせた。
217 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:22:14.00 ID:Q+Bb88g90
木から手を離し、その場に崩れるように座り込む。
義之「……大丈夫か、花穂?」
花穂「なんだろう……体が、重たいよ……義之くん」
花穂も、やはり一緒だった。
義之「……やったんだな。俺と花穂が、終わらせたんだ。これで、この島に取り巻いている、不可解な事件も終わる」
花穂「……そうだね」
義之「怖く、ないか?」
花穂「………」
俺のその問いに、花穂は押し黙る。
花穂「怖くないわけ……ないよ」
しかし、すぐに口を開いた。
花穂「でも……最後に、義之くんが側にいてくれるなら、怖いけど、なんだか安心感もある」
義之「……そっか」
次第に、視界も薄れていく。ああ、俺はこの世界から消えるんだな……。でも、これでよかったんだ。
花穂「最後に、これだけは言わせてね、義之くん。……ありがとう。わたしは、義之くんのことが、大好きだったよ―――
目尻に涙を溜めながら、精一杯に笑顔を浮かべて、花穂はこの世界から、その姿を消した。
義之「……ありがとう、花穂」
俺も最後に……これだけは願っておこうかな。桜の木はもう枯れてしまったけど、もしこの世界に本当の奇跡というものがあるのなら。
どうか、花穂だけでもこの世界に残してください……。
義之「俺はもう消えちまうけど、花穂だけは無事でいて欲しい―――
その言葉を最後に、俺の存在も消えていくのがわかった。
―――さようなら―――
218 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:23:02.65 ID:Q+Bb88g90
Epirogue
………。
音姫「由夢ちゃん。一体こんなところに何の用?」
由夢「うーん……別に用事があるってわけじゃないんだけどね。夢で見ちゃったから、なんとなく気になっちゃって……」
音姫「え?」
由夢「ううん、なんでもない。ちょっと、この桜の木を見ておきたいなって思っただけ」
音姫「そうなの?」
由夢「うん。ちょっと前までは一年中咲いてたけど、いざ枯れちゃったとなったらなんだか物足りなくてさ。今日は卒業式だし、見ておくのも悪くないかなと思って」
音姫「卒業式?って、誰の?」
由夢「えっ?いや、だから……ほ、ほら、板橋さんとか、杉並さんとか、先輩の卒業式じゃない」
音姫「まぁ、一応そうだけど……。あれ?由夢ちゃん、これこれ」
由夢「どうかしたの、お姉ちゃん?」
音姫「ほら、これ。こんなところに、二つ、アクセサリーが掛けられてるよ」
由夢「あ、本当だ。誰かが、いたずらで掛けたのかな?」
音姫「うーん、どうだろうね。でも、二つが寄り添いあうようになってて、なんだか微笑ましいね」
由夢「あはは、そうだね。……あれ?なんかこのアクセサリー光ってない?」
音姫「えっ?」
由夢「ほら、こうやって手で影を作ったら……」
音姫「あ、本当だ」
由夢「なんだか面白いね。なにか、特別な仕掛けでもあるのかな?」
音姫「うーん……どうだろうね。そろそろ時間だし、いこ、由夢ちゃん」
由夢「え、もう?」
音姫「そろそろいかなきゃ遅刻になっちゃうよ?ほら、急ぐ急ぐ!」
由夢「んー……気になるんだけどな……まぁいっか」
219 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:23:48.45 ID:Q+Bb88g90
………。
気がつくと、俺は桜の木に寄りかかって座っていた。俺の手には、暖かい温もりがあった。
花穂「義之くん……?」
義之「……花穂?」
二人、顔を見合わせる。
花穂「ど、どうして……?」
ふと、傍らに落ちていたアクセサリーが視界に入った。
義之「花穂。これ……」
花穂「え?……あ……」
花穂も、俺と同じ場所を見る。二つのアクセサリーは、粉々に砕け散っていた。
花穂「このアクセサリーが、わたしたちを助けてくれたのかな……?」
義之「……そうかもな」
花穂の問いに曖昧に答えながら、立ち上がる。ついさっきまで、この場所にいた姉妹の会話を思い出す。
義之「今日は、卒業式みたいだな。風見学園の」
花穂「うん、そうだね」
義之「……もちろん、行くよな?」
花穂「当たり前だよ、義之くん」
花穂は笑いながら、俺の手を取った。
俺と花穂の服装は、風見学園の制服だった。しかも都合のいいことに、カバンもすぐ側に置かれていた。そのカバンを持って、歩き出す。
今日は卒業式。俺と花穂は、それに出席するために、少し昔の風景を思い出しながら、風見学園へ向けて歩き出すのだった。
終わり
220 :
◆/ZP6hGuc9o
[saga]:2019/01/22(火) 01:25:48.12 ID:Q+Bb88g90
以上で、投下終了となります。ここまでお付き合いしてくれた方いましたら、ありがとうございます
最後の投下は大量かつ駆け足になってしまった
三日後には桜エディションが発売ですね
D.Cシリーズをプレイしながら、こんなSSがあったなーと思い出してくれたらうれしいです
では、またどこかのSSスレで会いましょう
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