傘を忘れた金曜日には.

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624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 20:59:46.27 ID:J7JQGDwio

 そして、ふとした一瞬のうちに、自分がどこにいるのかが分かった。

 ここは『トレーン』のテーブル席だ。俺は頭を突っ伏して、眠っていたらしい。

 話をしているのは……。

「ずいぶん眠っていたようだけど、大丈夫?」

 茂さん。

「隼ちゃん、来てからずっと眠ってましたよ」

 ちどり。

「やっぱり、疲れが溜まってるんだろうね」

 怜。

 それから……。

「まあ、無理もないか」

「……大野?」

「大丈夫か? 目の焦点があってないけど」

「いや……うん」

 さて、大丈夫か、大丈夫かと問われれば、どうだろう?

625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:00:13.03 ID:J7JQGDwio

 重苦しいほどの虚脱感がある。

 とても深い眠りから醒めたのだという実感はある。
 
 というより、これはいっそ、
 俺が今まで睡眠だと思っていたものは本当に睡眠だったのだろうか、と感じるほど、眠ったのだという実感がある。

「……あたま、ぼんやりする」

「しばらくは無理するなよ」

 大野の声が妙にやさしくて、そのせいで俺は、やっぱり今この瞬間のほうが夢なんじゃないかという気がした。

「……なんで、大野がいるんだよ」

「なんでって……おい、ほんとに大丈夫か?」

「そのうち意識がはっきりしてくるよ」と言ったのは怜だった。

「隼は昔から寝起きがひどいからね」

「……なんで、怜もいる」

 ふう、と彼女は溜息をついて、

「さっさと目を覚ましてくれると助かるな。それとも、純佳を呼んで起こしてもらったほうがいいかな」

「……いや、いい。自分で思い出す」

「隼ちゃん、無理しないでくださいね」

 ちどりはそう言うけれど、俺はまだ、自分の体の感覚すらも取り戻せない。
 腕も首もしびれているように重く鈍く、動かせない。

 頭がまったく回らない。

626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:00:39.32 ID:J7JQGDwio


「時間がかかりそうだから、僕が言おう」と、茂さんは言った。

「今日は木曜。きみは月曜の放課後から二晩の間家に帰らず行方不明だった」

「……ゆくえ」

「そう。行方不明。そして水曜、つまり昨日の朝、なんでか自宅のベッドにいたらしい」

「……その記憶、ないんですが」

「じき思い出すよ。まあ、二日間でいろいろあったんだろうね。もちろん、僕らには推し量ることしかできないが」

 ああ、そうだ、と茂さんは声をあげ、

「ちどり。そういえば昨日買ってきたプリンがあったんだ」

「はい?」

「ええと、厨房の冷蔵庫の中に箱がある。みんなで食べよう」

「……? わかりました」

 ちどりは文句ひとつ言わずに、厨房へと下がっていった。

627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:01:29.46 ID:J7JQGDwio

「……じゃ、改めて話をしようか」と、そう、茂さんは言った。

「……話、というと」

「さすがにちどりには聞かせられないからね、"むこう"のことは」

"むこう"。
 
 そう、俺は"むこう"にいた。思い出せる。

 そこで俺は……。

 ああ、
 思い出してきた。

「怜ちゃんと大野くんは、知ってるんだったね」

「ええ」

「はい」

「だったら、大丈夫。隼くんとは、ちょっとまとまった時間をとって話さないといけなかったからね」

「……ええと、すみません。俺、自分がなんでここにいるのか。いま、金曜って言ってましたか?」

「そう。きみは昨日の朝帰ってきて、今日は学校にも行って、その帰りにここに来た」

 ……思い出せない。
 いや、そんなことはない。

 覚えている。……ようやく意識がはっきりしてきた。

 ふと目がさめたら、自分の部屋にいた。体が重くて、すぐに寝直した。
 それで、気がついたら夕方で、純佳が学校から帰ってきて、あいつは俺を見て一通り文句を言ってからぐすぐす泣いた。
 
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:02:03.34 ID:J7JQGDwio

 次の日は学校にも行って……そうだ、それが今朝だ。

 瀬尾たちにいろいろ事情を聞かれたけれど、うまく説明できなくて、
 真中は相変わらず俺と話そうとはしなくて、
 そもそも意識も記憶もやっぱり曖昧で、
 どうしても眠くて、でも、怜に『トレーン』に来るように言われて、
 危なっかしいからと、大野が俺に付き添ってくれた。そうだった。

「……店に来て座ってすぐに寝ちゃったからね。まあ、それは仕方ないかと思って、目が覚めるのを待ってたんだ」

「……そう、ですか」

「まだすっきりしないかい?」

「……はい、なんでか、わかんないですけど」

「そっか。……続くようなら困りものだね。でも、まあ、仕方ないか」

「……それで、茂さん、話って?」

「きみはたぶん、試してないから、一応伝えておこうと思って」

「……はい」

「"むこう"、もう行けなくなったみたいだ」

「……」

 むこう。
 行けなくなった。

「それは……どうして」

「わからない。僕もそうだし、怜ちゃんもそうだって言う」

「うん。ぼくも、行けなくなった」

 ……行けなくなった?

629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:02:30.86 ID:J7JQGDwio

「どうしてですか?」

「さあ? きみが帰ってきてからそうなった。なんでかは、僕にもわからない」

「怜も?」

「そうだね。ぼくも最初は気付かなかったけど」

 ……。

「まあ、とはいえ、それで何が困るってわけではないんだけど、何か知ってたら、隼くんに話を聞きたかったんだ」

「……俺は」

 むこう。
 俺はたしかにむこうにいた。

 でも……俺はむこうで何をしていたんだっけ?

茂さんは柔らかく微笑んだ。

630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:02:59.16 ID:J7JQGDwio

「……それで、どうするんですか」

 と、俺が訊ねると、茂さんは不思議そうな顔をした。

「どうするって?」

 そう問い返されて、こちらがあっけにとられてしまった。

「だって、行けなくなって……」

「うん」

「それで……」

 ……行けなくなって、それが?

「べつに困らないだろう?」

「……」

 たしかに、そうだ。
 たしかにそうだ、あの場所に、用はない。今のところ。

「……さくら」

「……?」

 怜が首をかしげるのが見えた。

 さくらはどこだ?

631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:03:30.92 ID:J7JQGDwio




 ちどりが持ってきたプリンをみんなで食べたあと、

「疲れてるみたいだから、今日は早めに休むといい」

 と茂さんが言ってくれた。その言葉に甘えて、俺は頷く。

 外は雨が降っていた。

 鞄の底に、折りたたみの傘が入れっぱなしになっているはずだ。
 そう思って鞄をあさったけれど、見つからない。

 ……雨が降ったときに一度使って、そのまま出しっぱなしにしていたのだろうか。

 そう思ったとき、なんだか少し前にも、こんなことがあったような気がした。
 雨が降ったときに、鞄の底の傘を探して、見つからなかったことがあったような。
 
 ……いつのことだったっけ?

 そんなことを考えたとき、不意に入り口の扉が開いた。

「おじゃまします」と言いながら、片手に傘を持った純佳が現れた。

「純佳」

「ちどりちゃんに連絡したら、ここにいるということだったので、迎えに来ました」

「……なんで?」

「雨が降っていたので。傘、忘れていったみたいだったので」

「……そっか」

 そっか、とうなずきながら、なんだかいろいろなことがよくわからない気持ちのまま、俺は純佳に近付いた。

 ひさしぶりかな、と怜が言って、おひさしぶりです、と純佳が言った。

「じゃあ、俺も帰る。無理するなよ」

 大野はそう言って、俺達より店を出ていく。

 追いかけるように、慌てて俺も店を出る。

「それじゃあ、帰ります」

「またね」と怜が言って、ちどりは何も言わずに手を振った。

「またのお越しを」と茂さんが言った。俺はまだ混乱していた。

632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:03:57.72 ID:J7JQGDwio

「帰りが遅くなるなら、連絡くらいしてください」

 ひとつの傘のなか、俺と純佳は並んで歩く。

 記憶が判然としないままだったけど、俺は素直に、

「ごめん」

 と謝った。

「兄は、言葉足らずです」

「そうかな」

「そうです。急にいなくなるし……」

 雨がたしかに降っていた。
 傘を打つ雨粒がリズムを刻んでいる。こんな雨の降る夜道を歩いていると、なんだか世界から隠されてるような気がした。

「わたしが……」

「ん」

「いえ……」

 言いかけた言葉の続きを、純佳は言わなかった。
 俺は聞き返さなかった。
 
 なんとなく、言いたいことがわかるような気がしたのだ。 

633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:04:24.56 ID:J7JQGDwio


「悪かった」

 そう謝ると、純佳は顔を上げてこちらを見上げる。

 泣き出しそうな顔に見えた。

「……わたしが」

「……うん」

「わたしが、どれだけ心配したと思ってるんですか」

「……うん」

「今度こそ、帰ってこないんじゃないかって……」

「……」

「どこにも行かないって、言ったじゃないですか」

「……うん」
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:04:56.07 ID:J7JQGDwio

 こんなとき、何を言えばいいんだろう。
 どんなふうに言えばいいんだろう。

 心配をかけて、迷惑をかけて、そればっかりだ。
 
 どんな言葉も言い訳になってしまう。

"むこう"に行けなくなったんだと、怜も、茂さんも言っていた。

 でも、それとは無関係に、俺はもう"むこう"に行かないほうがいいのだろう。
 行けるようになったとしても、行くべきではないのだろう。

 帰ってこられるかわからない場所。 
 今回は、本当にそうだった気がする。

 そんな場所との境界を、今まで俺が平気で渡ってきたのは、きっと、
 帰ってこられなくてもいいと、心のどこかで思っていたからじゃないだろうか。

 今は、でも……。

635 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:05:22.90 ID:J7JQGDwio

「もうどこにも行かない」

「……どうせ嘘です」

 前のときと同じみたいに、純佳は俺の言葉なんて全然信じなかった。
 仕方ないことかもしれない。

 雨が降ってる。

 傘を叩く音が聞こえる。

 ……そうだな、と俺は思った。

 嘘かもしれない。

 どうだろう。

 いや、
 どうだっていいや。

「どこにも行かない。つもりでいる」

「つもりって、どういうことですか?」

636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:05:55.80 ID:J7JQGDwio

「先のことはわからないって意味」

「……先のこと、ですか」

「そう」

 今までだって、どこにも行ったりしないと決めていた。
 他人に関わって、踏み込んで、そんなの面倒で誰のためにもならない。

 でも気付いたら、そんなことすっかり忘れていた。

「……仕方ないですね」

「ん」

「兄はばかですから」

「……まあ」

 そういうことになる。

 純佳はそれから黙り込んでしまった。
 俺と彼女はふたりで雨に濡れたアスファルトの上を歩き、その間に何かを考えていた。
 
 何かを考えていたと思う。
 わからないけれど。

637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:06:30.13 ID:J7JQGDwio


 まっさきに考えなければならないことは、ふたつ。
 とはいえ、確認しないことには始まらない。

「純佳」

「はい?」

「ちょっと出かける」

「……はい?」

「学校に忘れ物をした」

「……」

 あきらかに、疑わしそうな目を純佳は向けてきた。
 
 ……それはそうか。
 さっき、どこにも行かないと言ったばかりなのだ。


638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:07:17.15 ID:J7JQGDwio

「わたしも行きます」

「……ふむ」

 だめです、と言いかけたけれど、仕方ない。

「いいよ」

「え、いいんですか?」

「うん」

「……え、どこに行くんですか」

「学校だって」

「……校門しまってますよね?」

「……ああ、そうか」

 いや、

「十分だろう」

「……ほんとに学校に行くんですか?」

「それが最初だな」

「……?」

「そのうち全部話すよ」

 純佳はちょっと、警戒するような目をした。
 
「そうしないと納得しないだろ?」

「まあ、そうですけど」

 ……まだ少し意識がぼやけている。
 でも、何をすべきかははっきり覚えている。

 とはいえ、大事なのは順番だろう。

 ひとつひとつ、済ませなければ。
 手品は下準備が命だ。

639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/10(日) 21:07:53.74 ID:J7JQGDwio
つづく
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/10(日) 21:42:00.26 ID:9itivIleo
おつん
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/11(月) 14:25:02.23 ID:Vidb0t370
おつです
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/12(火) 00:53:09.47 ID:MBnQihBB0
おつです
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/12(火) 15:17:44.85 ID:08CiIAJjO
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 20:58:55.80 ID:tPIsQ6zzo


 高校に繋がる坂道を登りながら、俺達は無言のままだった。

 街の灯りが雨粒に滲んで絵の中の国みたいに見える。
 でもここは現実で、今日は金曜日で、明日は土曜の休みだ。
  
 覚えているかぎりだと明日はバイトが入っていて、でも俺はこっちに帰ってきたばかりで、未だに感覚が不鮮明なままだ。

 とはいえ……そんなのは、あとで考えればいいことだ。

 校門のそばには桜の木がある。もう、花を散らすような時期じゃない。

 夜の雨の中で見る桜というのは、なんとも言えない不思議な気分がした。

 そこに……

「なにしにきたんです?」

 当然のように、さくらはいる。

「一応確認にな」

「……兄?」
 
 怪訝そうな声を、純佳が隣であげた。
 
「昼間も会ったじゃないですか」

 さくらはそう言った。
 たしかに、そういう記憶はある。けれど、それが実感として馴染むまでには、まだ時間がかかりそうだった。

「ようやく落ち着いてきたところなんだ」

「それなら、仕方ありませんね」

 そう言って彼女は、校門のむこうから俺を見た。

 
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 20:59:25.91 ID:tPIsQ6zzo

 さくらは学校の敷地から出ることができない。

「これから、どうします?」

「ん」

「何から始める気ですか?」

「そうだな、まあ……」

「兄?」

「……」

 さて、

「帰るか」

「……誰と、話してたんですか?」

「そうですね。来週、話しましょう」

 両方から話しかけられて、混乱する。
 さっき、全部話すと言ったばかりだが……まあ、あとでいいか。

 いや、まあ、どうせだ。

 俺は純佳の方をみて、

「神様」

 と、そう答えてみた。

 純佳は蛇のぬけがらでも踏んだみたいな顔をした。

646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 20:59:55.34 ID:tPIsQ6zzo





「……さて」

 まずはひとつ、どうしても優先的に片付けなければならないことがある。
 
 翌週月曜の放課後、授業を終えたあとの教室で、俺はひたすらに待っていた。

「三枝、部活は?」とクラスの奴に声をかけられる。

「もうちょっとしたら行く」

「ふうん?」

「三枝、病み上がりなんだから無理すんなよ」

 と、そう言ったのは陸上部の女子だった。

「おかまいなく」

「会話を会話らしく成立させる努力くらいはしろ」

 そもそも俺はべつに病み上がりではないのだが、言ったって仕方のないことではある。その説明が一番わかりやすい。

「……ところで」

「ん」

「ひとつ聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:00:44.85 ID:tPIsQ6zzo

 俺がそう訊ねると、ふたりのクラスメイトはきょとんと不思議そうな顔をした。

「何だ、その顔は」

「いや、三枝からそんな質問をされると思ってなくてな」

 男のほうが頭をかきながらそう言った。

「俺だって質問くらいする」

「そりゃそうだろうけどな。……で?」

「ああ、うん」

 さて、どう訊ねるべきか。

「あのさ……この学校に七不思議とかって、ある?」

「七不思議?」

 きょとんとした顔をされてしまった。

「……なに、急に」

「ちょっと調べ物」

「似合わな」と女のほうが言った。

「ほっとけ。七不思議じゃなくてもいい。その手の与太話に心当たりは?」

「……ないな」

「そうか。じゃあもう用はない。さっさといけ」

「あ、ひとつあるよ」

「ん」

「縁結びの神様」

「……それだ」
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:01:11.54 ID:tPIsQ6zzo




 少しして、さくらが教室にやってきた。

 偶然なのだろうが、それまで話していたふたりは「じゃあ部活行くから」といなくなってしまう。

「何かお話していたんですか?」

 俺は頷いた。

「後で話す」

「そう言ってあなたが話してくれた試しがあったかどうか」

「俺自身も覚えてない。……それで?」

 はあ、とさくらはため息をついて、じとっとした視線をこちらに向けた。

「……ずいぶん偉くなったものですね。人をパシリにしておいて自分は座って休憩ですか」

「役割分担だ」

「誰のために動き回ってると思ってるんです」

「感謝してるって」

「まったく感じ取れません、その感謝が」

「嘘だろ?」

「……そんな素直な目で驚かれても困ります」

649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:01:43.98 ID:tPIsQ6zzo

 それからさくらは仕方なさそうに笑った。俺は頷いて立ち上がる。

「真中は見つかった?」

「こっそり女の子の行方を探るなんて、ストーカーもいいところですよ」

「たしかに」

「もっと男らしくいったらいいじゃないですか、最初から他人をあてにしないで」

「そういうキャラじゃねーだろ」

「たしかに」

 納得されてしまった。

「話が進まん。真中はいたか?」

「さっきは、渡り廊下近くの自販機のところにいましたよ」

「ふむ」

「つかぬことをお聞きするんですけど」

「ん」

「普通に電話すればよいのでは? どうしてわざわざわたしに探らせるんです?」

「警戒されるだろ」

「そうですか?」

「そうだよ」

650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:02:19.37 ID:tPIsQ6zzo

 そんなわけで、俺は渡り廊下近くの自販機のあたりまで移動する。

 さくらは俺の斜め後ろをとことことついてきた。もし真中が移動していなければ、そこにいるはずだ。
 そして彼女はそこにいる。

 さくらが様子をうかがっていたのだから、ある意味では当然。

 さて、もう考えているような場合でもないだろう。
 自販機の横に背中をもたれさせて、彼女はぼんやりと渡り廊下のほうを眺めている。

「やあ」

 と、適当に声をかけると、真中は一瞬だけちらりと俺の方に視線をよこす。
 そしてすぐにそらした。反応らしい反応なんて、浮かべる気配もない。

「どうしたの」と真中は言う。

 以前と比べると、やはり、そっけない。

 それも仕方ないことなのかもしれない。

 とはいえ、
 そうは言っても、
 ここから始めるべきなのだろう。

「……わたしは、ちょっと離れてますね」

 そうしてもらえると助かる、と心の中だけで返事をした。
 あまり人に聞かれたいような話でもない。

651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:03:29.11 ID:tPIsQ6zzo

 どこから話したものだろうな、とはいえひとまず、

「元気か?」

 なんて、世間話にすらなっていないような一言から始めるしかなかった。
 
 仕方ない。

 俺が真中に話しかける。それ自体、何か話があるという宣言のようになってしまう。
 そのことに、真中も俺も気付いている。だから、仕方ない。
 こんなあからさまな場繋ぎの台詞から始めるしかないのだ。

 呆れられても仕方ないような言い方だったのに、真中はくすっと笑って、

「元気だよ」

 と、仕方なさそうに言った。
 
「そっか。元気がいちばんだな」

「似合わないね」

 自分でもそう思った。

652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:04:26.00 ID:tPIsQ6zzo

「何か用事?」

「そうだな」

 取り繕ったって仕方がない。

「……わたしが惜しくなった?」

「……」

「ね、せんぱい。先週は……どこに行ってたの?」

 どうしてだろう。
 そんな質問に、少しほっとしている自分を見つける。

 もうそんなふうに、何かを話したりしてくれないものだと思っていた。

「ちょっとな」

「また内緒?」

「……」

「どうせ、また、誰かのところに行ってたんでしょ」

 責めるというよりは、からかうみたいな口調だった。

「いつも独断専行。秘密にして、嘘ついて、ごまかして、ひとりで全部済ませちゃう」

「……まあな」

「否定しないんだ?」

 否定したところで仕方ない。
 今までは少し、違うような気がしていたけれど……はっきり言ってそれは事実だ。
 事実を否定しても仕方がない。

653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:04:56.67 ID:tPIsQ6zzo

「ま、そうだな」

 結局そう頷いた。

 自販機に小銭を入れる。

「なんか飲む?」

「おごり?」

「そ」

「じゃあ、カフェオレ」

「カフェオレな」

「……せんぱい」

「ん」

「何かお話?」

「……何話そうと思ったんだったかな」

「ばかみたい」

 たしかに。

654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:05:56.40 ID:tPIsQ6zzo

 真中に、何を言えばいいだろう。

「……おまえさ、言ったろ」

「んー?」

「俺が、瀬尾のことが好きだって」

「あ、うん」

「あれは違うな」

「……そう?」

「ていうか、おまえが言ったんだろ」

「なんて」

「俺は誰のことも好きにならないって」

「……そうだっけ?」

「そうだよ」

 その場その場で適当なことを言うのは、俺と真中の両方ともだ。

「……でも、それ嘘だ」


655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:06:24.92 ID:tPIsQ6zzo


「……ん。そうかな」

「違う?」

「わかんない」

 真中はほんとうにわからないと言うみたいに、カフェオレのパックにストローをさして口をつけた。
 その様子を俺はぼんやりと眺めながら、自分の分のジュースを買った。

 オレンジジュースにしておこう。なんだか今日はそんな気分だ。

 渡り廊下の窓から吹き込む風も、差し込む日差しも、もうあたたかだ。

 季節が変わろうとしている。

「どうでもいいよ」

 と真中は言った。

「わたし、もう関係ないもん」

「そう?」

「……ちがうの?」

「違うかもな」

「まーた、そんなふうに言う」


656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:06:51.94 ID:tPIsQ6zzo

 思ったよりもずっと柔らかい態度で、俺は逆に戸惑ってしまう。
 何を言ったらいいんだろう。

「真中」

「ん」

「ちょっといろいろあったんだ」

「うん」

「……」

「なあに?」

「なんだったかな」

「へんなの」

「自分のことが……」

「ん?」

「よくわかんないんだよ、俺」


657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:07:21.51 ID:tPIsQ6zzo


「……へんなの」

 と真中は繰り返した。

 どうなんだろう?

 わからないという気もするし、わかるという気もする。

 何もほしくない、と思う。
 何かがほしい、とも思う。

 自分が好きじゃないとも思う。べつにそこまででもないとも思う。
 
 一貫性がない。

 誰のことも好きになるべきじゃないとも思う。
 でもそう思うのは、どうしてだったっけか。

 その理由は、今も俺の手元にあるんだったか。

 よくわからない。

 俺は真中を好きなのだろうか。
 それはちょっと自信が持てない。
 
 そんなふうに断言できるほど、誰かを好きになるという感情について、自分が理解できている感じもしない。


658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:08:17.24 ID:tPIsQ6zzo

「真中は、俺が誰のことも求めてない、必要としてない、好きにならないって言うけど」

「……うん」

「そんな気もするし、そうでもないだろって気もする」

「……うん」

「でも」

 でも、どうなんだろうな。
 
 中学の頃から、真中と過ごした。
 真中柚子と三枝隼は付き合ってる。

 そんなふうに言われながら、当たり前みたいに過ごした。

 真中は気付いていたんだろうか。

 人気だった真中と付き合っているということで、俺は相当他の男子に睨まれたし、妬まれた。
 けっこうあからさまに、嫌がらせを受けたりもした。

 俺が本当に、ただ善意だけで、そんな仕打ちに耐えていたと、真中は思えるんだろうか。
 なにもかもがどうでもいいから、真中と付き合っているふりを続けていたなんて。

 ──本気でそう思うんだろうか。

 これを口にするべきなのかすら、俺にはもう判断がつかない。
 
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:08:53.47 ID:tPIsQ6zzo

 子供の頃、俺は怜を探偵みたいだと言った。

 そうしたら、そのとき怜はにっこり笑ってこう言ったのだ。

「ぼくが探偵なら、隼は怪盗……」

 そう、そのとき怜は言いかけて、いや、と楽しそうに頭を振り、

「……詐欺師ってとこかな?」

 そんなふうに笑ったのだ。

 詐欺師。
 ひどいやつだと、そのとき思った。

 でも、そうなのかもしれない。

 嘘と韜晦と誤魔化し。取り繕いと言い逃れ。

 本当のことなんて、言葉にしようとしてもどうせ言葉にならない。
 だから適当に喋っているだけだ。

 何かを話すことは、話さないことよりも悪い。
 話す人間は、話さない人間に遅れをとっている。

 結局のところ、俺が本当のことを話さない人間だと思われるのも、
 秘密主義者だと言われるのも、
 嘘をつく人間だと言われるのも、全部、同じ理由だ。

 俺は最初から、正確で明晰な言語化なんてしようともしていなかったのかもしれない。
 正確さなんてほどほどでいい。それが責められるなら、茶化して誤魔化しているほうがいい。

 でも、今は、

660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:09:44.69 ID:tPIsQ6zzo

「せんぱいは、自分で言ってたよ」

「なにを」

「『俺が俺だ』って。わたしが思うせんぱいとは無関係に、せんぱいだけが自分なんだって」

「……」

「わかんないっていうほうが、わかんない」

「……そんなこと、言ったっけ?」

「記憶、ない?」

「ない、かもな」

「かも?」

「どうもはっきりしない」

「……そか」

「でも、そんなら、いいのかな」

「なにが?」

「……」

 いいのかもしれない。

661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:10:34.94 ID:tPIsQ6zzo


「真中、俺は……」

「……なに」

「ホントは、俺はさ」

「……うん。なに?」

 当たり前みたいな顔で、真中は俺をまっすぐに見つめてくる。
 それを俺は、不思議な気持ちでみている。

 俺よりも低い背丈。
 細い手足。細い髪。
 俺は、

 ……本当に、言ってしまっていいんだろうか。

「……どうしたの、せんぱい」

 俺は、真中が言うような、浮世離れしたみたいな仙人のような存在ではない。
 霞を食べて過ごすような無欲な人間ではない。

 俺が本当に何も欲しがっていなかったなら、どうして怜と自分を比べて劣等感にさいなまれる必要があっただろう。
 ちどりと比べて、自分が何も上手くできないと思う必要があっただろう。
 ふたりと俺との間に、微妙な距離を感じることがあっただろう。

 俺が何も欲しがらない人間だったなら、どうして真中と付き合ったふりを続けたりしたのだ?
 面倒を嫌うなら、最初からかかわらなければよかったのに。

 俺は、みんなに好かれていた真中と嘘でも付き合っているという事実に、優越感を覚えてはいなかったか?
 自分が真中と親しい存在であるということに、自意識が満たされてはいなかったか?
 
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:11:16.96 ID:tPIsQ6zzo

 あの葉擦れの森の中で、声を枯らして誰かを呼んでいたのは確かだ。
 呼ばなくなったのは、単に諦めたからだ。

 あるいはむしろ、
 欲望があまりにも強く大きすぎるあまり、その欲望を達成することが著しく困難であるため、
 その完璧な達成を諦めると同時に、欲望そのものを投げ捨てた。

 真中は、俺が真中を好きにならないと思ったから、俺と一緒にいてくれた。
 だから俺は、真中を好きにならないように気をつけていた。

 どうして?
 
 真中と一緒にいるために。

 最初から、そうだ。
 
 複合的な理由。
 俺の居る場所が、俺のための場所だと思えなかったから。
 誰かを好きになるほど、自分のことが好きじゃないから。
 
 だから俺は真中を好きにならない。

 真中と一緒にいるために、俺は真中を好きにならない。
 俺が真中を好きだと言った瞬間に、真中は俺から興味を失うかもしれない。
 だから俺は真中を好きにならない。

 だから俺は、そうだ。
 真中が俺から離れていかないように、真中に興味なんてちっともないような振りを続けなきゃいけなかった。

 その時点で、最初から俺は真中が好きだった。
 好きだった?

 少なくとも……。

「本当は……なに?」

「めんどくさいな」

「なにが」

「……話すの」

663 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:11:49.11 ID:tPIsQ6zzo


「……」

「なんでもかんでも、言葉にしないとだめかな」

「……じゃあ、大事なことだけ、言ってよ」

「うーん……」

 さて、どう言ったものだろうな。

「……ほんとはちょっと、悲しかっただけなんだ」

 と、真中はそう言った。

「なにが?」

「青葉先輩のことも、ましろ先輩のことも、いろんなことも、いろいろ、あって」

「うん……?」

「知れば知るほど、わたし、せんぱいのこれまでの人生に、どこまでも無関係な人間だなって」

「……」

「一緒にいたのに、ほとんどなんにも知らなかった。せんぱい、何にも話してくれなかったし」

「……」

 そうかな。

「『俺の振る舞いが全部おまえの想定内に収まるくらいおまえは俺のことを知っているのか?』」

「……」

「せんぱいは、そう言ってた。……わたし、なんにも答えられなかった」

664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:12:29.92 ID:tPIsQ6zzo

 そんなこと、言ったっけな。
 言ったんだろうな、きっと。 
 そんな記憶が、いま、蘇ってくる。

「すっごく、悔しかった」

「……そっか」

「せんぱいの幼馴染さんとか、青葉先輩とか、ましろ先輩とか、それに、ちせとか……」

「……」

「せんぱいの周りにはいろんな人がいて、みんな、せんぱいのこと、知ってるみたいな顔がするのがいやだった」

 真中は、恥じ入るみたいに顔を俯ける。
 俺はそれを黙って聞いている。

「わたしがいちばんじゃないといやだ。せんぱいのこと、いちばん知ってるの、わかってるの、わたしじゃないと、いやだ。
 わたしの知らないせんぱいを、他の誰かが知ってるなんて、やだ」

「……なんだ、それ?」

「……なんでもない。言ってみただけ」

「ん」

 当たり前みたいに、真中は俺の言葉を待つ。

 俺は真中のことが好きだ。

 けれど、真中はやっぱり、俺のことを分かっていない。

665 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:13:14.18 ID:tPIsQ6zzo

 真中もちどりも純佳も、瀬尾も怜も大野も、分かっていない。

 どいつもこいつも、俺がまるで無欲な人間であるかのように誤解している。
 俺自身でさえ、そんなふうに考えている。

 でも今は、違うような気がする。

 共犯意識、恩を着せているような得意な気持ち、
 人に懐かない猫が自分にだけすり寄ってくるような優越感、
 あるいは、もっと純粋に、魅力的な女の子と一緒にいられるという役得。
 もっと単純な、性欲。

 すべてが絡み合っている。 
 すべてが絡み合っていて、
 真中が離れていくと考えるだけで、俺は待てよと言いたくなる。

 ふざけるなよと誰にともなく言いたくなる。

 好きだとか、一緒にいてほしいとか、そんな殊勝な気持ちなんかじゃない。

 勝手に離れてるんじゃねーよ。
 ふざけてんじゃねーよ。
 
 じゃないと俺はまた、あの森の中でひとりだろうが。

 好きだなんて、そんな単純なものじゃない。
 その単純な一言の中に、いろんなものがないまぜになって絡み合っている。
 欲望、劣等感、優越感、孤独、空虚、寂しさ、庇護欲、承認欲求。

 そんなすべてが含まれた感情を、俺は純粋な好意だと思えなかった。

666 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:14:06.87 ID:tPIsQ6zzo

 真中が離れていかないように、真中を突き放した。……それは事実だ。
 でも、そんなないまぜになった感情を抱く自分が嫌で、綺麗な気持ちじゃないのが嫌で、真中を突き放した。……それも事実だ。
 きっと全部が絡み合っている。
 
 それが愛なら、たぶん全部が愛なんだろう。
 世界は愛でできているんだろう。

 俺は言葉の使い方が雑だから、それを愛と呼んでやってもいいんだけど、
 でも今は、いつもみたいにそんなごまかしをつかったら、取り返しがつかないような気がした。
 
 ──きみはね、恋がしたいんだよ。
 ──恋がしたいから、困ってるんだ。

 それが本当だったのかもしれないと思うけれど、好きだなんて言葉ではどこにもいきつかない。

「……せんぱい?」

 自販機の脇に、真中はもたれている。
 仕方ないから俺は、

 とん、と手を突いて近付いた。

「……なにしてるの、せんぱい?」

「……壁ドン?」

「……最近あんまり聞かなくなったね?」

「……だな」

 とりあえず、十五センチ圏内に真中のからだがある。

667 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:14:32.94 ID:tPIsQ6zzo

 いろんなものがないまぜになっているのかもしれない。

 それがなんだ。

 綺麗なだけの感情じゃないかもしれない。

 それがなんだ。

 俺が好きだと言ったら、真中が離れていくかもしれない?
 
 ふざけてんじゃねえよ。

「真中」

「はい」

 と、真中はなんでか敬語だった。
 あっけにとられたみたいな、ちょっと慌てたみたいな、高い声だ。
 それが珍しくて、俺はなんだか、慣れないこともやってみるもんだな、と思う。

 さて、なんて言えばいい?

 必要だ、というのとは違う。
 好きだ、というには混乱している。
 ましてや、愛してるなんてお笑い種だ。

 だからって、茶番をもう一度繰り返したいわけでもない。

668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:17:06.69 ID:tPIsQ6zzo

「……いくじなし」

 と真中が言った。
 
 うるせえよ、と俺は思って、
 すんなりと言った。

「俺はおまえが欲しい」

 それが一番、感覚としては近かった。

 んだけど、

「……は?」

 と、不審そうに見られてしまった。
 それもまた仕方ない。

 レディコミの男役か、と言いたくなるような台詞だった。我ながら。

 真中は、十秒くらいたっぷり黙り込んで、俺の方を見上げていた。
 そして、ふきだすみたいに笑う。

「なぜ笑う」

「笑うよ、これは」

「……俺らしくない?」

「……うん。とっても」

669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:20:51.00 ID:tPIsQ6zzo

 欲しい。
 
 思い通りに動かしたい。
 所有したい、とすら思う。

 これが純粋な好意だなんて、最初から思ってない。

 真中は、呆れたみたいに俺を見上げて、
 猫みたいに、にんまり満足そうに笑う。
 
 頬にほんの少し朱がさしていて、それを綺麗だと思った。

「わたしが、欲しい?」

 少し震えた声で、真中はそう言った。

「欲しい」

「……ふうん?」

 油断しちゃいけない、とずっと思っていた。
 油断したら、この表情に全部もっていかれる。

 そう思っていた。
 手遅れだ。最初から。

「簡単にはあげないから」

 そういって彼女は、俺のもう片方の手をそっと持ち上げて、自分の頬にもっていった。
 すりよせられるように頬の感触を感じ、てのひらに、真中の睫毛があたるのが分かった。

「……だから、もっと欲しがってよ」

 ……結局これだ。
 完敗だ。

 こうなるのが分かってたから、俺は気取られたくなかったのだ。
 そんな後悔を覚えたけれど、もう手遅れだ。

 俺はこいつを欲しがっている。ほかの誰でもなく。

670 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:21:36.32 ID:tPIsQ6zzo

「……からかってる?」

 そう訊ねると、真中は柔らかく首を振った。

「もっかい言ってよ」

「なんて?」

「わたしがほしいって」

「……あのな」

「なんかね、なんでだろう。なにが、ちがうんだろうな……」

「……?」

「言い慣れてない感じが、せんぱいだなって気がしたよ」

「……何の話?」

「なんでもない」

 と真中は笑った。

 俺と彼女はそれからしばらく、誰も来ないのをいいことに、もぞもぞと動く貝になったみたいに、黙りあったままそこにいた。


671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/15(金) 21:22:03.66 ID:tPIsQ6zzo
つづく
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/15(金) 23:43:40.20 ID:Xb9b5CRZO
おつです。いいですねぇ。
673 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/16(土) 00:10:42.01 ID:R2UE3L2No
おつおつ
674 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/16(土) 23:43:02.44 ID:uclklhEE0
おつです
675 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/17(日) 11:29:03.48 ID:CSFZJr2GO

ニヤニヤする
676 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/20(水) 00:35:35.25 ID:5P8sYMU/o





 部室に行くまでのあいだ、真中はずっと俺の制服の裾を掴んですぐ後ろを歩いた。


677 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/20(水) 00:36:33.31 ID:5P8sYMU/o



 部室についてからも、真中は制服の裾を離さなかった。
 
 大野と瀬尾と市川は既にそこにいて、それだけで察したみたいに何も言わなかった。

「歩きにくい」

「恥ずかしいの?」

「それもある」

 なんて会話を、俺は沈黙が広がる文芸部室のなかで繰り広げなければいけなかった。

 俺は荷物を机の上に置いてから、部室の隅の戸棚に近寄る。
 
「どうしたの?」

「調べ物」

 そう言って俺は『薄明』の平成四年版を手に取る。

 茂さんが作り上げた架空の書物、架空の文芸部、架空の歴史。
 今から俺はそれを足がかりに、大掛かりな嘘をつかなければならない。

678 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/20(水) 00:37:01.86 ID:5P8sYMU/o


 手にとって読んでみても、やはりそれをひとりの人間が作り上げたのだという感じはしなかった。
 収められている文章はどれもこれも巧拙や筆致に差異があるように見える。

 つまり、彼はそれほどの書き手だったということだろう。

 それだけのことが俺にできるだろうか?

 わからない。

 とはいえ、今重要なのは、そんなことではない。

 問題はひとつ。

 佐久間茂が作り上げたこの『薄明』のなかに、どんな物語が隠されているのか、だ。

 なのだが。

「……真中」

「ん」

「近い」

「うれしい?」

「……」

 うれしくないこともなかったが、集中できない。

「今日はあっついねー」と瀬尾があからさまにわざとらしいことを言う。

「夏だからな」と大野が答えた。
 
 市川は黙ってノートに絵を描いている。

679 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/20(水) 00:37:34.16 ID:5P8sYMU/o

 ……とりあえず、『薄明』に視線を下ろす。

 平成四年度に発行された部誌は全部で四冊。
 春季号、夏季号、文化祭特別号、冬季号。

 そのうち、佐久間茂という名前があるのは、春季号と夏季号のふたつのみ。
 以降のふたつには彼は参加していない、ことになっている。

 読むものが読めば、春季号と夏季号に佐久間茂が寄稿した文章は盗作だとはっきりわかる。
 だからこそ、茂さんは、佐久間茂の名前を文化祭特別号以降には載せなかった。
 
 この一連の捏造された事態にはひとつのメッセージがあるように受け取れる。

 これは、『佐久間茂の作品は盗作である』という宣言だ。

 そして、佐久間茂の作品というのは、この四冊の『薄明』を指し示しているともとれる。

 何の盗作なのか?
 
 もちろん本人に聞くのが早いけれど、既に俺はその答えを知っている。
 
『トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス』。

 彼は、ボルヘスのあの短編の着想を模倣し、それによって架空の部員たちの存在を捏造した。

 これはもちろん、本来ならば紙の上で起きただけの出来事にすぎない。
 けれど、本当にそれだけで済んだのだろうか。

680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/20(水) 00:38:00.65 ID:5P8sYMU/o

 机の上に並べた『薄明』に順番に目を通しながら、俺は考える。

 佐久間茂の想像に過ぎない『むこう』は、その存在を現実に映し出し、今にまで影響を与えている。
 それによって、瀬尾青葉がこの場にいて、さくらが生まれ、カレハも生まれた。

 だとすれば、佐久間茂が捏造したこの部員たちは、現実に何の影響も与えなかったのだろうか?

 もちろん、部員たちが本当に生み出されたというようなことはなかっただろう。……おそらく。
 少なくとも茂さんは、そんなことを言っていなかった。

 だが、他の部分はどうか?

 たとえば、茂さんが言っていた、この部誌に仕込まれた『物語』。

 たとえばそれが、なんらかの形で現実に影響を与えたということは、ないだろうか?

 たとえばそれが……。

 ──さくらはいつのまに、守り神なんかになっちゃったんだろうね?

 他の何かと噛み合ってしまった、ということは、ないだろうか。

681 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/20(水) 00:38:33.51 ID:5P8sYMU/o

 じっくりと目を通しているうちに肩が凝ってくる。
 そもそも俺は文章を読むのが得意ではない。

 こんな調子でやっていけるかどうか不安だけれど、俺は約束してしまった。

 さくらの居場所の作り方なんて、正直なところ見当もつかない。

 そもそも、どうなったらさくらの居場所ができたことになるのかもわからない。

 それでも俺は大言壮語を吐いてしまった。今更飲み込み直すこともできない。

 少なくとも……彼女が甲子園を見に行けるくらいにはしてやらないといけない。

682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/20(水) 00:39:53.56 ID:5P8sYMU/o

 と、少し休憩しているところで、真中がじっと俺のことを見ていることに気づく。

「……なに」

「なんでもない」

 なんとなく変な気分で、俺は両手を机の下に垂らすように伸ばした。

 すると真中は、不思議そうな顔で俺の手の甲に指先で触れた。

 ほんの少しなぞるような感触に、肌がざわつくみたいに動揺した。

 何かを言いそうになったけれど、どうしてか声を出せない。
 周囲の様子をうかがうと、みんなそれぞれが別々のことをしていて、こちらを気にする様子はない。

 真中もまた、みんなの様子をたしかめたあと、静かに俺の手に視線を戻して、指先だけでたしかめるように俺の手を撫でた。
 
 俺が文句を言わないのを見て取ると、真中の指の動きはそれまでよりも大胆なものに変わった。
 手の甲全体を手のひらで包むように動かし、かたちをたしかめるように何度も往復する。

 くすぐったい。

 彼女はテーブルの上に載せた本をもう片方の手でもって、何食わぬ顔でそちらに視線を向けている。

 負けてたまるか、いや、何に負けたことになるのかはわからないけれど、などと考えながら、俺は視線をページに戻す。
 真中はまるで俺の我慢を試すみたいにしばらくその動きを続けた。
 
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/20(水) 00:40:49.40 ID:5P8sYMU/o

 
 やがて彼女の指先が、俺の手のひらの内側に忍び込んでくる。
 彼女の指が、俺の指の一本一本の根本の間を、爪の先でひっかくみたいにくすぐる。
 
「……」

 当然、俺は集中できないけれど、真中は片手で器用に文庫本のページをめくった。
 指先が絡められる。

 ああもう、と俺は思った。

 彼女の指と指の間に、自分の指を滑り込ませ、黙らせるみたいに握ってやると、一瞬真中が驚いたのが手のこわばりだけでわかる。

 それでも真中はかたくなに手を離さず、顔色も変えない。
 こういうことに関しては、真中は慣れきっているのだ。

 それは俺だって同じだ。数年間ずっと、葉擦れの音が聞こえ続けるなかで生活してきたのだから、さして難しくない。
 そのはずだ。

 真中はしばらく、俺の手の中でじたばたあがくみたいに指先を動かしていたけれど、やがて諦めたみたいにされるがままになった。
 ようやく静かになった、と思って、俺と彼女は互いの手のひらをそのままに、それぞれに文章を読み始めた。

 
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/20(水) 00:41:17.02 ID:5P8sYMU/o




 佐久間茂の文章の物語。仕掛け。

 それはさして難しい秘密ではなかった。
 別人名義の編集後記や、ところどころの短編小説や散文に、その影を推し量ることができる。

 当然、さまざまな人間が書いた文章という体裁なので、全体像を把握することは難しい。
 
 それでもはっきりと、隠された物語を見つけ出すことはできた。

 それは、『守り神』についての話だった。
 人と人とを結ぶ縁の神。

 少女の姿をした神様は、普段は制服姿で生徒たちの間に隠れ、ひっそりと人々の縁を結ぶ手伝いをしている。
 彼女は誰からも見ることができず、彼女の声は誰にも聞こえず、彼女は学校から出ることができない。

 校門近くの大きな桜の樹。その樹の精だという噂もある。

 その精霊の噂話が、あたかも本当に生徒のあいだでまことしやかに語られていたかのように、ところどころで触れられている。

『さくら』はましろ先輩の空想の友達だ。それはたしかだろう。
『さくら』を連れたましろ先輩が『むこう』に行ったことでカレハが生まれたのだとしたら、そうだ。

 だとすれば、『さくら』が生まれたのは……。

 佐久間茂の書いた『薄明』。
 ましろ先輩の『空想の友達』。
 そして、『夜』と『むこう』。

 その三つが複合的に絡み合った結果なのではないか。
『夜』によって叶えられた『むこう』。そこに踏み込んだ『ましろ先輩』。その『空想の友達』。
 そしてその『空想の友達』、眠っていた空想の友達が、ましろ先輩がこの学校に入学したことで、
『守り神』としての形を持って再構成された。

 ──わたしはこう思ってる。さくらはあの学校にずっと居たわけじゃない。
 ──あの学校にずっと居た、という記憶を持って、ある日突然あらわれたんだって、そう思ってる。

 やはり、ましろ先輩が言っていたとおりなのだろうか。

685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/20(水) 00:41:55.26 ID:5P8sYMU/o

「……いや」

 と、思わず独り言を言うと、瀬尾がちらりとこちらに視線をよこした。

「なんでもない。少し考え事だ」

「……そ?」

 納得のいかないような顔だったけれど(俺は瀬尾に隠し事ができないらしいので仕方がない)、あえて何も聞いては来なかった。

 ……だとすると、カレハはどうなる?

 カレハが生まれたのは、ましろ先輩がむこうにいったとき、そのはずじゃないか。

 ……。
 けれど……。

 そもそもカレハは、どうして、瀬尾がいなくなった頃に、俺の前に姿を見せたんだろう。

 むこうの俺は、六年前からずっと、あの場所に置き去りだったはずだ。
 そのときからカレハが居たなら、カレハが俺の前に現れるのは、もっと前でもよかったはずだ。

 だとすると、こうだ。

 まず、『俺がさくらを見つけた』。
 
 そして、『カレハがむこうの俺の前に現れた』。

 カレハもまた、ずっとあっちに存在していたのではなく……。
 俺がさくらを見つけたから、俺の前に現れることができるようになったんじゃないのか?

 ……さすがに、頭が混乱してきて、パイプ椅子の背もたれに体重を預けて息をつく。

 この仮定が本当だったところで、どう判断したものか。
 ふと、真中が俺の手をぎゅっと握った。俺はされるがままにしておいた。

686 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/20(水) 00:42:22.38 ID:5P8sYMU/o
つづく
687 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/20(水) 00:51:19.82 ID:hZv4zwpOo
おつおつ
続きが気になる
688 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/20(水) 10:08:34.49 ID:B6sQ61W+0
おつです
689 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/20(水) 22:37:06.01 ID:36JIBwBg0
おつです
690 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/27(水) 22:36:50.49 ID:zBDZg6OAo





「ね、三枝くん。お願いがひとつあるんだけど、いいかな」

691 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/27(水) 22:37:17.74 ID:zBDZg6OAo



 部活を終えて帰ろうという段になったとき、瀬尾にそう声をかけられて、俺はいくらか面食らった。

「いいけど……なに?」

 瀬尾はほんの少しためらいがちに、俺の近くにいた真中を見る。
 真中の方はそのまま瀬尾を見返していた。

「……お願い?」

 なんとなく硬直した空気をいさめるつもりで俺が聞き返すと、瀬尾はこくんと頷いた。

 うなずいてからも、瀬尾は言いにくそうにもじもじと視線をそらしている。
 瀬尾が俺に頼み事をするのも珍しいが、こんなふうに落ち着かない様子でいるのも珍しい。

「お願いって?」

「えっとね……」

「うん」

「……せんぱいって」と、黙っていた真中が口を挟んだ。

「ん」

「青葉先輩にはやさしいよね」

「……」

 俺と瀬尾はそろって真中の方を見た。

「……なんでそうなる」

692 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/27(水) 22:37:44.97 ID:zBDZg6OAo

「だって、そんな感じするし」

「そんなことないと思う」

 と、瀬尾と俺の声は揃った。

「……失礼なやつだな」

「や、べつにそういう意味じゃなくて……」

「どういう意味だよ」

「三枝くんはみんなに優しいじゃん」

「……」

 俺と真中は顔を見合わせた。

「……せんぱい、どんな弱みを握ったの?」

「俺はどんな人間だと思われてるんだ?」

「……わたし変なこと言った?」

 瀬尾は不思議そうに首をかしげた。
 
「変というか……」

 俺が何かを言うのも違う気がして、話を戻す。

693 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/27(水) 22:38:15.70 ID:zBDZg6OAo


「で、結局お願いってなに」

「あ、うん」

 そこで瀬尾は真中の方をちらりと見た。

「……わたし、邪魔?」

「邪魔だってさ」

「や、や。邪魔ってことはないけど」

「いい。せんぱい、今日は先帰るね」

「はいはい」

 俺のうなずきを待たずに、真中はあっさりと去っていった。
 相変わらずのペースで、かえって面食らってしまった。

694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/27(水) 22:38:47.56 ID:zBDZg6OAo


「……えっと、ふたり、どうしたの?」

 瀬尾にそう訊ねられても、俺はうまく答えられずに肩をすくめるしかない。

「どうというか……まあな」

「あらためて付き合うことになったの?」

「そう言っていいものか」

「よくわかんないね」

「複雑なんだ」

 まあとはいえ、事実だけを言えば、俺から告白したようなものか。
 
「よかったの? 帰らせちゃって」

「真中がいたら話しづらい話題なんだろ」

「そうだけど……」

「変な気を使うな」

「……さっきまでベタベタしてたくせに」

 それはまあ、そうなのだろうけど、ここで真中を追ったところで、良いビジョンがあまり見えないのが不思議なところだ。

『今日は先に帰るね』と真中は言った。
 
『また今度一緒に帰ろう』という意味だろう。

 経験上、そういう意味だと思う。

 それからたぶん、このあとに起きることも聞かれるのだろう。
 不思議なものだ。

695 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/27(水) 22:39:28.41 ID:zBDZg6OAo


 と、思っていたところで、携帯がポケットのなかで震えた。

 真中から、

「ばか」

 と来た。

「……」

 ごめんと返すと、またすぐに、

「節操なし」

 と来る。

「はくじょうもの」

「うわきもの」

「ごめんて」

「ゆるす」

 許すんだ。

 良い子かよ。

「良い子」

「えへへ」

 ……えへへってなんだ。誰だこれ。

696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/27(水) 22:40:03.26 ID:zBDZg6OAo

 とりあえず対応に困ったので、返信をせずに携帯をしまう。

 それから瀬尾のほうに向き直った。

「それで?」

「あ、うん……。連れてってほしい場所があるんだ」

「……ふむ」

 まあ、ちょうどいいと言えばちょうどいい。
 俺も瀬尾に話さないといけないことがある。

 ちせと、ましろ先輩。
 それから……市川にも。

 とはいえそれはひとつひとつだ。

「じゃあ、とりあえず行くか」

「……うん」

697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/27(水) 22:40:35.59 ID:zBDZg6OAo



「……えと、ね」

 校門を抜けたところで、瀬尾は言いにくそうに口を開いた。

「どうした」

 と訊ねても、やっぱり困ったような顔をするだけだ。

 甘えるような目でこちらを見ている。
 
「なんだよ」

「ちょっとまってね」

 と言って、瀬尾は深呼吸をした。

「まだ、迷ってる部分もあって……」

「……ふむ」

「えと……」

「うん」

 こんな瀬尾も珍しいな、という気持ち以上に、もっと不思議な違和感のようなものがある。
 この感覚を俺は知ってる。

「……『トレーン』」

「え?」

「『トレーン』に、連れて行ってほしいの」

698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/27(水) 22:41:06.63 ID:zBDZg6OAo

 ああ、そうだ、と俺は思った。
 
 今の瀬尾は……さっきの言葉も、そうだ。

 ちどりに似ている。どことなく。

「ほんとはすごく迷ってるの」

「……だろうな」

「だけど、でも……そうしないと、進めない気がする」

 進むって、どこに。

 そう訊ねたかったけど、やめた。

「だけど、ひとりじゃいけない。だから……」

「俺に付き合えって?」

「……だめかな」

「……駄目じゃないよ、べつに、もちろん」

「そ、そう?」

 瀬尾がいいなら、いいのだろう。

「瀬尾は……」

「ん」

「すごいな」

「……なに、急に」

「あとで牛乳プリン買ってやるよ」

「……それ、約束だからね」

「俺は嘘をつかない」

「……それは嘘」

 瀬尾はぎこちなく笑った。
 
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/27(水) 22:42:02.76 ID:zBDZg6OAo
つづく
700 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 22:48:49.95 ID:dLSrOJbU0
おつです
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/28(木) 00:08:15.15 ID:FYh3U4650
おつん
702 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/28(木) 16:48:26.65 ID:aAjGkucG0
おつです
703 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:12:22.89 ID:DGAy5fz9o




『トレーン』の扉を開けるといつものようにベルが鳴る。

 夕方の店内には、何人かの客の姿があった。応対をしていたマスターは、ちらりとこちらに目を向けると静かに笑った。

「いらっしゃい」

 瀬尾は俺の背中に隠れ、店内の空気をたしかめるように呼吸をした。

「どうも」とだけ声をかけて、俺は奥のテーブル席へとむかう。
 瀬尾は黙ったまま俺を追いかけた。

 席についたところへ、いつものようにちどりがやってきた。

「いらっしゃい、隼ちゃん」

 そう言って、いつものように俺を見てから、瀬尾の方へと視線をうつし、
 その表情が不可解そうに揺れた。

 なにか不思議なものを見たような、
 そんな顔だ。

「……あ、えと。お友達ですか?」

「ん。まあな。……忙しそうだな」

「ええ、まあ、いつもよりは、少し」

「そうか」

「注文は……」

「ブレンド。瀬尾は」

「あ、同じで」

「かしこまりました」

 そう言って、ちどりは小さくお辞儀して去っていく。

704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:13:12.56 ID:DGAy5fz9o

「……」

「ずいぶん緊張してるな」

「まあ、ね」

 来たいというから連れてきたものの、俺は瀬尾が何をするつもりなのか知らない。
 ちどりはもちろん、茂さんも瀬尾の存在を知らない。
 
 茂さんなら、瀬尾を見れば何が起きたかを感づくだろうか。

 それもそうかもしれない。
 俺はひょっとして、瀬尾をここに連れてくるべきではなかったのか。

 ……いや。

 瀬尾青葉の判断は、瀬尾青葉の判断だ。

 俺がどうこうできるものじゃない。

 ましてやそれは、ややこしい変な出来事のせいで制限されていいものでもないはずだ。
 おそらくは。
705 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:13:51.17 ID:DGAy5fz9o


「……」

「なんか、顔赤いな」

「ん。や、まあ……」

「どうした」

「や。……ほんとに敬語だったなあって」

 恥じ入るみたいに、瀬尾はテーブルに両肘をついて顔を手のひらで覆った。

「……なんでおまえが恥ずかしがる」

「……三枝くんにはわかりませんことよ」

「そりゃ、べつにいいけどな。いいじゃないか、敬語」

「そう?」

「似合ってる」

「そうですか?」

「……」

「……」

「似合わないな、不思議と」

「不思議ですね……」

 ちょっとやけになっているみたいだった。

706 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:14:19.30 ID:DGAy5fz9o

「それで……?」

「ん……」

「どうする気でここにきたんだ」

「ん。まあ、いろいろ考えてたんだけど。ひとまず……忙しそうだし、あとにしよっか」

「……」

 忙しそうだし、というからには、やはりちどりと話したいのか。
 いや、話してみたいのか。

 それはそう、かもしれない。

 瀬尾にとってちどりは可能性そのものだ。

「それより、三枝くんこそ、わたしになにか話があるんじゃないっけ」

「……俺、そんなこと言ったっけ?」

「あれ、言ってないっけ?」

「まあ、あるのはホントだけどさ」

 言ってなかったとしても、瀬尾とももう長い付き合いだ。
 こいつなら見透かしてもおかしくないかもしれない。

 今となっては瀬尾は、俺を取り巻く状況について、いちばん知っている人間だとも言える。

707 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:14:50.03 ID:DGAy5fz9o

「さくらのことだ」

「さくら……」

 瀬尾は、一瞬きょとんとした顔になって、

「あ、さくら!」

 と、声をあげた。周囲の客がこちらに視線を寄せてくる。俺は唇の前に人差し指を立てた。

「声が大きい」

「ごめんなさい」

「素直でよろしい。覚えてるみたいだな」

「ん。今の今まで忘れてた。戻ってきてから、わたし、姿を見てないよ。……見えなくなっちゃっただけ?」

「いや。たぶん、姿を見せてないだけだろう」

「……そうなの?」

「ああ。さくらはいる」

「……そっか。すっかり、頭から抜けてた。……うん。さくらね」

「そう。さくらのこと」

「……さくらが、どうかしたの?」

「ま、いろいろあったんだけど、ややこしいから過程は省略する」

「省略するんだ」

「説明が面倒でな」

「……ま、三枝くんらしいけどさ。それで?」

708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:16:03.05 ID:DGAy5fz9o


 説明、そう、説明だ。
 それが必要だ。……俺に、できるだろうか。

 そもそも俺は、自分が何をしようとしているのか、ちゃんと理解できているのだろうか。

 目的。

 さくらの居場所を作る。

 手段。

“夜”を利用する。

 さくらの居場所をこの世界に書き足す。

「……『薄明』を作りたい」

「……ん。なに、突然」

「フォークロアを作る」

 俺の言葉に、瀬尾は目を丸くした。

「ごめん、順番に説明してくれる?」

「……だよな」

 まあ、仕方ない。話せる部分だけ、話してしまおう、と、そう思ったところで、声をかけられた。

709 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:16:41.51 ID:DGAy5fz9o

「おまたせしました。ブレンドふたつですね」

 ちどりがやってきた。

 俺と瀬尾が話している間に、客は少しずつ減っていた。
 周囲を見ると、いくらか落ち着いた雰囲気だ。

「……あの、鴻ノ巣ちどり、さん?」

 不意に、瀬尾がそう声をかけた。

「……あ、はい」と、戸惑ったふうに、ちどりが返事をする。

「あの、わたし、瀬尾青葉っていいます」

「……あ、はい。はじめまして、ですよね」

「……うん。三枝くんから、いつも話は聞いてる」

「……ほんとに?」

 と、なぜかちどりは俺を見た。

「なんで」

「だって、隼ちゃんが誰かにわたしの話をするなんて、思えないです」

「……」

 たしかに、と思うと同時に、瀬尾が『たしかに』という顔をした。

「……や、まあな」

「三枝くんとは文芸部で一緒で、いろいろ話をしてるうちにね」

710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:17:18.87 ID:DGAy5fz9o

 そんなふうに誤魔化しながら、瀬尾はちどりに笑いかける。
 やっぱりいくらか、緊張した様子だ。

 それにしても……ふたりはやっぱり似ている。
 瓜二つ、とまでは言わない。

 それでもやはり、似ている。

「前から、ちどりちゃんに興味があったんだ」

「興味……ですか」

「うん。あのね、もしよかったら……わたしと、友達になってくれない?」

「……ともだち、ですか?」

「うん。……駄目かな」

 ちどりは、いくらか戸惑った顔を見せた。

 無理もない、といえば、無理もない。
 初対面の相手に、そんな言い方をされたら、普通はそうなる。

 でも、

「駄目なんてこと、ないです。隼ちゃんのお友達なら、大歓迎です」

「……」

 瀬尾は恥ずかしそうに目を覆った。

「どうした」

「や……自分のことじゃないのに、この無垢な信頼が恥ずかしい」

「……そう言われると俺のほうが恥ずかしい気がしてくるな」

「えっと?」

「あ、ごめんね。……うん。じゃあ、わたしと、おともだちになってください」

 そんなふうに瀬尾は、ちどりに手をさしだした。

 ちどりはその手を受け取った。
 
711 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:18:05.04 ID:DGAy5fz9o





 
 瀬尾とちどりが話をするのを聞きながら過ごして、店を出たとき、まだ外は明るかった。
 夏が近い。

 俺は瀬尾に訊ねずにはいられなかった。

「どうしてだ?」

「ん」

 少しほっとした様子の瀬尾を見て、俺は不思議に思う。
 どうして、ちどりと友達になりたかったんだろう。

 それは瀬尾にとって、もしかしたら、とても残酷なことなんじゃないか。

「……わたしはさ、瀬尾青葉だからね」

「……うん」

「瀬尾青葉だから。鴻ノ巣ちどりじゃない。でも、なんだか、こうしなかったら、いつまで経ってもわたしは、本当の意味でわたしになれない気がする」

「……よく、わかんないな」

「わかんない、かもね。『三枝くんの幼馴染』に興味があったのも本当だし……でも、ちょっと説明がむずかしいかな」

「うん」

712 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:18:31.91 ID:DGAy5fz9o

「わたしは……わたしとして生きる。だから、鴻ノ巣ちどりは、ちどりちゃんは、わたしのともだち」

「……」

「だめかな?」

「……いや」

 俺がどうこう言うことじゃない。
 きっと、たくさん考えたんだろう。

 ああでもないこうでもないと、もがいてあがいた結果なんだろう。

 だとすれば、それを俺が認めるとか認めないとかいう次元の話じゃない。
 
 瀬尾青葉は瀬尾青葉として生きる。

「……ホントはずっと、悩んでたんだ。鴻ノ巣ちどりとしての記憶を持ってる自分が別人として生きるって、絶対変だから」

「……」

「でも、決めた。『それ』を含めて、わたしはやっぱり瀬尾青葉なんだって」

「……そっか」

「今、わたしがここにある。そこに至るまでのすべてがぜんぶわたし。そう思ったらすっきりしたから」

 だからだろう。
 瀬尾の表情が澄み切って見えるのも。

713 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:19:21.81 ID:DGAy5fz9o


「だからね、“隼ちゃん”」

「……」

「これからもよろしくね」

「……まあ、好きに呼べよ」

「つめたーい。わたしのこと好きって言ってたくせに」

「なんだそれ、記憶にねえよ」

「覚えてないの?」

「いつの話だ」

「ずっと昔」

「そっか」

 ここに至るまでのすべて。

 経験。
 記憶。
 歪み。
 痛み。
 ありとあらゆる感情。

 今ある混乱。 
 そのすべてが自分であるならば……。

714 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:19:49.97 ID:DGAy5fz9o

「大丈夫だよ。柚子ちゃんとのこと、邪魔したりしないから」

「そんな心配、してない」

「……そう?」

「ああ」

「ちょっと残念かも」

「なんで」

「隼ちゃんには、わかんないですよ」

「……」

「……なに?」

「いや、ちょっと今……」

 ちどりみたいだった、と、またそう言ったら怒るだろうか。

715 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:20:28.92 ID:DGAy5fz9o

「ちどりちゃんみたいだった?」

「……うん」

「それはそうだよ」

 と、瀬尾はなんでもないように言う。

「それを含めて、わたしはわたしだからね」

 瀬尾青葉は本当に、強い人間だと思った。

「それで……さっきの話だけど」

「ん」

「フォークロアを作るって?」

「……ああ」

 そうだな、
 その話を始めなきゃいけない。

 他のことはすべて、もう、一段落した。
 最後の仕上げをしなきゃいけない。

716 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/02(火) 23:20:55.44 ID:DGAy5fz9o
つづく
717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/02(火) 23:36:28.06 ID:sv9LSuKLo
ちどりと青葉が会うのドキドキした
乙乙
718 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/03(水) 07:36:23.61 ID:WMGt4U9+0
おつです
719 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/03(水) 22:39:47.31 ID:qSiUdSAW0
おつです
720 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/04(木) 02:31:47.89 ID:7l+6ad+Io
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/05(金) 01:37:39.98 ID:iNQmpNLTo




 佐久間茂はあの森を作った。
 
 夜の力を借りて。

 夜は現実に影響をきたした。
 その結果、『薄明』を通じてさくらが生まれた。

 これが最初の仮定。

 そしてこう続く。

 仮に『薄明』がさくらのディティールを作り上げたのならば、
『薄明』によってそれを書き換えることは可能ではないか。

 佐久間茂がデミウルゴスなのだとしたら、夜はデウス・エクス・マキナだ。

 これはもはや呪術的儀式に近い。

 佐久間茂の『薄明』、その『後日談』を描くことで、『さくらのディティールを書き換える』。

 矛盾なく、さくらを揺らがせないように、慎重に。
 さくらを今のさくらのままで保ちつつ、さくらを書き換える。

 そのためには、佐久間茂がそうしたように、
『薄明』を作らなければいけない。

『薄明』そのものを物語にしなければならない。

 そのとき夜は、昼の世界に静かに侵食するだろう。

『薄明』。

 夜明け前のほのかな明かり。

722 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/05(金) 01:38:12.56 ID:iNQmpNLTo

 


「……突拍子もないこと考えるね」

「まあな」

「本当にできると思う?」

「わからん」

「でも」

「ん」

「おもしろそう」

 そう言うと思った。

723 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/05(金) 01:38:56.24 ID:iNQmpNLTo




 『薄明』平成四年春季号

 目次

 
 1.小説

『ゆりかごに眠る / 赤井 吉野』
『白昼夢  / 佐久間 茂』
『空の色 / 弓削 雅』
『悲しい噂 / 酒井 浩二』
『ひずみ / 峯田 龍彦』
『ハックルベリーの猫 / 峯田 龍彦』
『許し / 笹塚 和也』



 2.散文

『ちょうどいい季節 / 酒井 浩二』
『神様の噂 / 赤井 吉野』
『偏見工学 / 峯田龍彦』
『恋人のいない男たち / 笹塚和也』 

 3.詩文

『冬の日の朝に思うこと / 赤井 吉野』
『夕闇 / 弓削 雅』
『たちまちに行き過ぎる / 弓削 雅』
『成り立ちについて / 弓削 雅』
『作り方 / 佐久間 茂』


 編集:赤井 吉野  弓削 雅
 表紙:赤井 吉野


 編集後記:赤井 吉野

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