傘を忘れた金曜日には.

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475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 01:50:04.13 ID:dHsWKpbxo

「これは直接関係ないんですけど……マスターって、入婿なんですか?」

「……突然だね。違うよ」

「じゃあ、ご両親が離婚か何かされたとか?」

「……」

「もし違うなら、笑ってくれてかまわないんですけど……」

 俺は、ほとんど妄想に近い点と点をつないで、無理矢理に理屈をこじつけているのかもしれない。
 でも、無視できない何かがそこにあるような気がした。
 
「三枚目の絵は、俺の高校の文芸部室にあるんじゃないですか?」

 もし、違ったとしても、笑ってもらえればいい。
 それでも俺は、さくらを探さなきゃいけない。 
 デミウルゴスの別の絵を探さなきゃいけない。

 そして、少なくとも彼は、まだ笑っていない。

 結局、何かを取り戻したところで、俺は俺で、いまのまま、何もかもが弾性をもっていて、すぐにだめになってしまうのかもしれない。
 変われない、何も求められない自分を見つけるだけなのかもしれない。

 でも、本当にそうなのか? 俺にそう語ったのは、誰だった?

 ──佐久間茂だ。

 俺はずっと、彼が決めたルールのなかにいた。
 
「マスター、『薄明』の佐久間茂は、あなたですか?」

 彼は、ほんの少し怪訝げに目を細めたあと、どこか満足そうな顔で微笑んだ。

476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/09(水) 01:50:33.89 ID:dHsWKpbxo
つづく
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 02:26:56.65 ID:HH/IKhQ0o
めっちゃ面白い
おつおつ
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 07:13:39.98 ID:1MkIx8INO
さらに面白くなってきたな
乙です
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 08:26:41.69 ID:0BjF+piuO
おつ。
おーっと、こんなところにモブだと思った佐久間茂が出てくるなんて
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 23:16:56.41 ID:ysM/2/Yp0
おつです
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 00:44:53.20 ID:5tslsyVEo



「僕には、世の中がおそろしい」

 マスターは不意に、そんなことを言った。

「砂を噛むような思いで生きてきたよ、ずっとね」

 煙るような霧の中でで、マスターの体の輪郭は、かすかな光に覆われているようだった。
 まるで彼のすべてが、内側から滲み出して、徐々に大気と混じり合っていくように、俺には見えた。

「笑うかい?」

 彼はそう言って、いつものような落ち着いた顔で、俺を見た。
 なんでもないような顔で。

「赤の他人なら……うまく笑えたかもしれないですけどね」

 いいながら、俺は、彼の背後に広がる景色を見る。

 霧の粒のひとつひとつに点描のように滲む月明かり。
 版画のように影で塗りつぶされた高い建物。
 濡れた石造りの街路を照らすほのかなガス灯の光。
 
 どこかから聞こえる衣服の擦れる音、誰かの息遣いや咳払い。

 けれど視線をそちらに向けても、そこには誰も居ない。

『夜霧』のなかを、俺と彼はふたりで歩いている。

482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 00:45:19.66 ID:5tslsyVEo

「子供の頃から学校が嫌いでね」

「……意外ですね。マスターは……」

「マスター、じゃなくていい」

「……茂さんは、なんでもそつなくこなしてきたように見えるから」

「きみもそういうふうに見えるよ」

 そう言った彼の表情もまた、宵闇にまぎれて、よく掴めない。

 絵の中の人物みたいだった。

「昔からそうだったんだ。行ってしまえば、別に苦ではない。でも、行くのがどうしてもいやだった。
 週末がいつも待ち遠しかったよ。それだけを心の頼りにして、一週間をやり過ごして、でも、ふと気付いたんだ。
 平日をやり過ごして、休日を楽しみにして、でも、休日が終われば、また一週間が始まる」

「……」

「それがいつまで続くんだろう、って。それって、いつまでも終わらないじゃないか」

 靴音が夜の街に響く。向かう先も分からずに、俺は彼の少し後ろをついていく。
 迷子にでもなったみたいな気分だ。

483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 00:45:54.08 ID:5tslsyVEo

「……でも、今まで、生きてきたじゃないですか」

「そう、砂を噛むような思いでね」

「……」

「とても、他人には信じられないような話かもしれないけど、僕には自分らしい自分というものがないんだ」

「……どういう意味ですか?」

「よく言うだろう。好きな食べ物とか、好きな映画とか、女の子の好みでもいい。音楽や、小説でもいい。
 好きな遊び、好きな色、好きな街、好きな建物、好きな雰囲気、好きな植物……」

「……」

「僕には、自分の好きなものっていうのが、わからないんだ」

「……」

「自分が何をしたいのかも、よくわからなかった。そんな人間が、どうやってここまで生き延びてきたと思う?」

 俺が何かを答えるまでもなく、彼は勝手に続きを話した。

「誰かが望んでるとおりに振る舞うんだよ。そうすると、何も考えずに済む。
 考えてみれば僕は、自分で何かを選択することなんてほとんどなかった。“おまえはこうだろう”と誰かに決められていた。
 それで、べつに他にしたいことがあるわけでもないから、それに従い続けていたんだ」

484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 00:46:25.33 ID:5tslsyVEo

 靴音が響く。

「学校でも、家でも、なんでもね。相手の仕草や表情を見れば、相手がどんなふうに僕に振る舞ってほしいかはだいたい分かった。
 状況に合わせて、適当に振る舞うだけだ。そうしておけば角も立たない。幸い僕は、器用な方だったらしい。
 相手が何を自分にもとめているのかをその場その場で感じ取ることなんて、ほとんど無意識でやっていた。
 そう気付いたのは、ずいぶんあとで、当時は自分がそうしていたことになんて、気付いてもいなかったけど」

 気付かないというのが、厄介なところなんだ、と彼は言う。
 僕は自分がそんなことをしていたなんて、全然気付いちゃいなかった。
 ときどき、違和感を持つことはあったけどね。

 僕は平気で嘘をつけた。そして、その嘘を、自分で信じ込むことができたんだ。
 たとえば誰かがある映画を褒めているとして、僕がその映画を観たとする。
 すると、その人とほとんど同じ感想を持つんだ。

 あるいは、誰かがある音楽をけなしていたとする。すると僕は、その音楽をたしかによくないものだと感じた。
 そして、別の誰かとその音楽の話になったとき、その誰かがその音楽を褒めていたら、僕は一緒になってその音楽を褒めることができた。

 適当に口先だけで合わせるんじゃない、本当にその場で“そう思うこと”ができたんだ。

「そういうことをしていると、自分がうすっぺらな書き割りで、風景がすべて平坦で、他人がみんな霧に包まれたみたいに不可解なものに思えたよ」

 人と会ったり話しをしたりしたあと、ひどく疲れを覚える種類の人間だと気付いたのは、もっと前だった。
 もっとも、こんな話、特別珍しくもない、誰だって、大なり小なりやっていることなんだろうと思う。

 でもね、問題はそこじゃないんだ。

「ある人は、僕が何かを演じているんだと言った。別の人は、僕はいつも本心を隠していると言った。
 でも、違うんだ。僕は演じてるわけじゃない。その場その場で本当にそう思っているし、隠すほどの本心なんて僕にはないんだよ。
 他人が何かを言う。そうかもしれない、と僕は思う。別の誰かが、正反対のことを言う。ああ、それもそうだな、と僕は思う」

 つまり僕は、からっぽなんだ。
 建前はあっても本音がない、そういう生き物だったんだよ。

485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 00:47:03.98 ID:5tslsyVEo

「そういうふうに過ごしていると、ときどき、自分を眺めている自分を見つけることがある。
 僕の背後の少し上空から、僕を見下ろしている僕を見つける。そんなことが続くと、ある瞬間に、僕の意識は、僕を見下ろしている僕の方へと移っていった。
 これはたとえ話じゃなく、本当にそういうことがあったんだよ。……まあ、誰も信じちゃくれなかったけど」

 そういうことなんだ、と彼は言う。

「みんながみんな、周囲にある程度、適応して生きている。でも僕は、“本当はこうだ”という自分すらない。
 頼まれごとはたいてい引き受けた。大人受けはよかったし、同級生にも嫌われるようなことはなかったな。
 むしろ、誰かを嫌う側に回ることの方が多かった気がする。なにせ、みんなが誰かを貶めるとき、僕も一緒に貶めていたからね。
 誰かに合わせるというのは、風見鶏のように振る舞うことじゃない。より大きな流れのようなものを見つけて、それに乗ることなんだ。
 だから僕はきっと、“より同調すべき誰か”の視点に、常に合わせていたんだと思う。だからこそそういうことができたんだ」

 でも、ふとした瞬間に気付くんだ。
 ひとりになったときにね。

「僕は本当に、これが好きなんだろうか? 僕は本当に、この人が嫌いなんだろうか?
 そうなったとき、特にそんなことはないんじゃないか、というのが、決まった僕の結論だった。
 そうすると、普段の自分の言動や、感情さえもが、疑わしく思えてくる。そして、ついに結論が出た。
 僕は、周囲に、ただ、合わせていただけだったんだよ」

486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 00:47:42.43 ID:5tslsyVEo

 やがて、夜の街路は、果てに行き着く。

 煉瓦造りの高い壁、その合間に、大きな門扉が現れる。 
 その先の風景は、暗闇の中で、ぼやけてはっきりとしない。

「結局のところ、僕がそんなふうに振る舞っていることになんて、誰も気付かなかった。
 なにせ、僕自身も、僕が誰かに合わせているなんて自覚がなかったんだから、当然だ。
 友達もいたし、恋人もいた。趣味だって、あったように思えた。好きなものだって、あったように思えた。
 でも、それは……本当のところ、誰かに言われて、そうしていただけだという気がする。
 おまえはこうだろうと誰かに言われたことを、僕はそのまま、ずっと、こなしていたような気がする」

 門の前で立ち止まり、彼は後ろを振り返った。
 つられて俺も振り返る。
 
 そこにはただ、人の気配だけがざわつく、霧に包まれた夜の街があるだけだった。

「結局のところ」、と彼は言う。

「何が偽物で何が本物かなんて、誰も分かってないんだ。僕自身でさえもね」

 そう言ってしまうと、彼はその綺麗な手のひらで、門を押した。
 扉は、悲鳴のような軋みをあげて、押し開かれていく。

 その先は、森へと続いている。


487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/11(金) 00:48:56.35 ID:5tslsyVEo
つづく
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/11(金) 01:10:40.68 ID:RORJjY7fo
おつおつ
すごくおもしろい、わくわくする
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/11(金) 08:51:49.95 ID:hzO7roliO
乙です。
えーと、マスターのスワンプマンはまだ向こうにいるんだったよね。
あら?青葉はマスターの娘なのか。
いろいろこんがらがってきた
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/11(金) 12:02:25.32 ID:1MttAkyBO
おつです
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/11(金) 18:54:57.18 ID:6IwafWwjO
追い付いた
気付くのが随分遅くなってしまったけど、また読めて嬉しい
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/12(土) 01:17:02.02 ID:VSAQVLpi0
おつです
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 00:35:30.17 ID:tcCjf0HSo


 自分の意見がない。
 相手が何をしたいかを常に想像し、自分が何をしたいかをあまり検討しない。

 他人に合わせること。
 誰もが、程度はあれど、していることだ。

 けれどそれが"過剰"であれば……。

 たとえば食事を選ぶときに基準になるのは、相手が何を食べたいか、だけで、自分が食べたいものはない。
 少なくとも、なにもないと自分では思っている。

 自分と他人の境界線が曖昧で、他人から簡単に影響を受ける。
 自分自身の好みや、目標や、生活態度でさえ。

「他人に合わせること」に困難を感じる人種とは反対に、「他人に合わせすぎるが故に自分がわからない」。

"過剰同調性"と、そういうふうに言われることがある。

 空気を読む、という言葉がある。
 空気を読めない、という困難がある。

 そして、あまりに敏感に空気を読むあまり、相手の感情を掴み取ってしまうあまり、その相手に配慮し、自分の思うとおりに振る舞えない、ということもある。
 そのように振る舞っていると、やがて、"自分の思うとおり"というものが、どこかに隠されてしまう。

 結果的に、無自覚に、常態的に他人の顔色を窺い続けてしまい、強い疲労を感じる。
 自分自身は抑圧され、"ふるまい"だけが残される。
 
 HSP──ハイリー・センシティブ・パーソン。

 知られていないだけで、五人に一人が、そう呼ばれる傾向を持つとも言われている。
 それは"遺伝的性質"であり、生来的な傾向だとも言う。

  
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 00:36:21.74 ID:tcCjf0HSo


「いつも、死ぬことばかり考えていたよ」

 彼は、そう言って話を続けた。
 草茂る森の合間を、縫うように道が続いている。

「でも、死にたい自分が本当なのかもわからなかった。死にたいのではなくて、"こんな人間は死ぬべきだ"という、誰かの考えに合わせているような気もした。
 なにもかもが僕にはよくわからなくて、曖昧模糊としていたんだ」

 暗い森に風が吹き抜け、耳によく馴染んだ葉擦れの音が空間を泳いでいく。

「どこにも自分の居場所なんてないように思えた。自分が誰にも必要とされていないんだと思った。
 僕はからっぽで、なにもない。なにかに対する憎しみだけが強くなって、でも、自分が何をそんなに烈しく憎んでいるのかも分からなかった」

 わかるかな、と彼は俺を振り返った。どうだろうな、と俺は思った。

「だから僕はこの国を造ったんだよ」

「……"造った"」

「まあ、順番が違うかもしれない。もともと僕はこの国をイメージしていて……それを、成立させようと思った」

「……」

「理解できないって顔してるね」

「……イメージするまでは、分かりますけど」

「架空の人間を作り上げようとしたことはない?」

「……どういう意味ですか?」

「ひとりの人間を想像するんだ。具体的に。性別や、体格や、髪型、顔つき、性格や趣味、服の好みや、小物のセンスに至るまで。
 詳細であれば詳細であるほどいい。そして、"その人物がどんな部屋で生活するかを想像する"。
 そして、ひとつの部屋を用意する。それから家具を用意するんだ」

「……」

「その人物の好みの机、たとえば学生だったら、学生机があるかもしれない。制服が部屋のどこかに掛けてあるかもしれない。
 年齢によって、絨毯やベッドシーツ、枕のカバーなんかの趣味も違う。カーテンなんかもそうだね。
 本棚にはどんな本があって、CDがあって、どんな映画を見るんだろう。
 人によっては、たとえば、脱ぎちらした服がそのままにしてあるかもしれないね。そんなふうに……
 居もしない人間が、いまさっきまでそこにいたかのような、そういう部屋を作りたいと思ったことはない?
 ちょうどボルヘスの短編みたいにね」

「……何を言ってるのか、よくわからないです」


495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 00:36:50.33 ID:tcCjf0HSo

「僕がしたのはそういうことだよ。"あたかもその場所が存在しているかのように振る舞う"。
 そこから持ち帰ったものや、そこで起きたことを"捏造する"。
 どうやったと思う?」

「……」

「『薄明』を使ったんだよ。僕が高校生だった頃、文芸部の部員は二十人ほど居た。でも、僕以外の全員が、幽霊部員だったよ」

「……え?」

 それは、おかしい。
『薄明』には……佐久間茂の他にも、

「……」

「最初にしたのは、架空の文芸部を作り上げることだった。
 どんな人間がいるのかを最初に決め、どんな人間がどんな文章を書くかを決めた。
 原稿を出さないような部員のことも、詳細に設定した。最終的には、『盗作を行った部員』がいたかのような展開まで作り上げた」

「……」

「気付いたかな、きみは。読んだんだろう、あれを」

「……どうして、そんなことしたんですか?」

「どうしてかと言われると、どうだろう。それが僕にとってとても楽しい遊びだったからだよ」

 影絵のような森を歩きながら、その声に耳を傾けていると、徐々に現実感が失われていく。
 この感覚が、嫌に懐かしい。
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 00:38:01.28 ID:tcCjf0HSo

「意味がないと言えば、意味がない。でも当時の僕はそれを心の支えにするくらいには、他に何もなかった」

 俺には想像することしかできない。
 それなのに、どうしてもイメージできない。
 
 目の前のこの人が、そんなことをしていたなんてことが。
 そういうものなのかもしれない。

「僕は『薄明』それ自体に物語を付け加えることにした。今にして思えば、誰も気付かないだろうけどね」

「物語……?」

「部誌に参加しているメンバー……つまり、僕が作り上げた架空の部員たちの周辺に、奇妙なことが起きている。
 そういう物語だよ」

「……」

「そこまでは気付かなかったかい?」

「ええ」

「まあ、そうなんだろうな。結局のところ……誰もそんなに注意深く、誰かの作ったものを見たりはしない」

「……」

「ああ、べつに、がっかりしてるわけじゃない。そういうものだと、割り切ってるし……もともと、そんな気はしてたからね。
 でも、問題はそこじゃない。問題は、それが『起きた』ってことだ」

 彼の進む道は、やがていくつかに分かれていく。
 そのうちのひとつを、彼は迷うでもなく選んだ。

497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 00:38:28.31 ID:tcCjf0HSo


「僕は『薄明』を一年間、ひとりで作り上げた。そして、そのなかに物語を作った」

「どんな……物語ですか?」

「……そうだね」

 と、彼は短く笑って、

「それについては、自分で確かめてみるのがいいかもしれない」

 そして、彼の行く道はやがて森を抜ける。

 こんなにも、
 こんなにもあっけない、短い森だっただろうか?

 それとも、この森は、俺が囚われていたあの場所とは、違うのだろうか。

「結局のところ」と彼は言う。

「この歳になってこんなことを言うのも面映いけれど……結局、人はみんなひとりぼっちなんだと思う」

 俺のからだは森を抜け、空の色はもう闇ではなく、静かな藍色へと移り変わりつつある。
 声はすぐそばから聞こえる。

498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 00:38:55.16 ID:tcCjf0HSo

 木立の隙間に、大きな大きな水たまりが見える。

 湖が、広がっている。一歩進むごとに、日が昇っていく。
 湖面を覆う朝靄が、そのむこうを隠している。

 この人に、そんなことを、言ってほしくなかった。

 こんな人にまで、そんなふうに言われたら、これから先、なにを求めて生きればいいのかわからなくなる。

 そこまで生きて、辿り着く結論が、そんなことでしかないなら。

「僕は、みんなのことが好きだよ。愛してるって言ってもいいと思う。
 ちどりや……そう、きみのこともね。でも、ときどき全部がどうでもよくなる。そんな夜を、何度もやり過ごしてきた」

 後ろ姿だけが、振り向きもせずに進んでいく。
 
「でも……ひょっとしたら、僕も年を取りすぎたのかもしれないね」

 やがて、道は曲がっていく。湖畔に、小さな小屋が立っている。
 その脇を抜けて、彼はまだ進んでいく。
 湖に近付いていく。

「ずっと、靄がかかったみたいに、世界のことも、他人のことも、よくわからなかった。
 今にして思えば、そこにはたいしたものは隠されていなかったのかもしれない。
 本当のことは、まだ、わからない。人は結局、孤独なのかもしれない。
 でも、いまは……それでもかまわないような気がする」

 小屋の裏手に道は伸びている。その先に、古びた桟橋がある。

 小さなボートが繋がれている。
 揺れてはいない。
 
 波すらも、ない。

 凍りついているのだと、そのとき気付いた。

 不意に、湖のむこうに視線を走らせたとき、そのむこうに、何も見えないことに気付く。
 靄に隠れているのではない。
 なにもないのだ。

499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 00:39:21.02 ID:tcCjf0HSo


 あるのは水平線。
 空と海。
 
 視線をあげると、突然に、空が晴れ渡っている。
 夜が、ガラスのように砕けて消えた。そんな気さえした。

 遠く向こうに"何か"が見える。
 それがなにかは、分からない。

「結局、人はある意味ではずっと孤独で、安らぎなんて求めるだけ無駄なものかもしれない。
 あるいは、そんなもの、求めちゃいけないのかもしれない。人生に安らぎを求めると、不思議と、反対に苦しんでいくことになるから。
 でも、それを受け入れてしまうと……ふと、安らげたりする。本当に不思議なことに」

「……」

「見えるかな」

「……なにが、ですか」

「きみが探してるものは、このむこうにあると思うよ」

「……」

「友達がいるんだろう?」

500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 00:40:31.64 ID:tcCjf0HSo

「……俺には、わからないです」

「……なにが?」

「どうして、こんな世界ができあがったのか、この世界が、結局なんなのか。ぜんぜん、わからないままです」

 ふむ、と彼は息を漏らす。

「それはまあ、どうでもいいことだよ」

「……どうでもいい、ですか」

「迷惑をかけて悪いとは思う。きっと、きみにも、もしかしたら、ちどりや、他の子たちにもそうかもしれない」

「……ちどりのこと」

「ん?」

「気付いてたんですか?」

「……どういう意味?」

「……いえ」

 気付いていなかったのだろうか。
 佐久間茂。ストローマンは、気付いていた。

 言わないほうが、きっといいのだろう。

501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 00:40:59.02 ID:tcCjf0HSo


「……茂さんは、どうするんですか」

「帰るよ、僕は。……ここにはもう、用事はないから」

「本当にないんですか」

「うん。……見つかるといいね、友達」

「……」

 何を言えばいいんだ?

「……茂さん」

「……ん」

「本当に、人は孤独なんでしょうか?」

「……さあ?」

 靄に隠れた湖。 
 霧に紛れた街。
 見果てぬ水平線。
 葉擦れの音が響く森。
 鏡の中の国。
 人気のない場所。

 ここはどこか薄暗くて、ひとりぼっちの国みたいだ。

502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 00:41:25.77 ID:tcCjf0HSo

「たとえば、人と人との距離が……海と空みたいなものだったとしたら、結局、繋がりあえないかもしれないね」

 そう言って彼は、湖の……あるいは海の向こうを指さした。

 今は、凍てついて、静かに広がっている。

「もしかしたら、水平線のむこうで、つながることもあるかもしれない」

「……」

「きみが、たしかめるといいよ」

 そう言って、彼は俺の方を見た。その視線が、少しだけ、背後にブレる。

「……」

 なにかに驚いたように、彼の表情が止まる。
 振り返らなくても、そこに誰が立っているのか分かった気がした。

 けれど俺は、振り返らなかった。

「……じゃあ、俺は行きます」

 そう言って、茂さんの横を俺は通り過ぎた。
 振り返らずに、俺は、凍てついた湖の上を歩いていく。

 結局のところ、彼のことは、今の俺には関係のないことなのだ。
 どうして、ここに来たんだろう。

 でも、この先にきっと、さくらがいるような気がした。

 この凍りついた湖の先に、彼女がいる。
 彼女を見つけなきゃいけない。

503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/15(火) 00:41:57.23 ID:tcCjf0HSo
つづく
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/15(火) 01:29:02.75 ID:ifCcFmSeo

展開すごい
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/15(火) 07:17:03.90 ID:UL+zOH7xO
おつです
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/15(火) 07:49:42.47 ID:3IJzyfDwO
乙!
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/16(水) 00:59:37.82 ID:HkAggy5d0
おつです
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/21(月) 00:56:08.98 ID:Gk1k2fMuO
twitterアカもブログも消えちゃってるけど、どうしたんだ?
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/21(月) 22:12:07.00 ID:7waxFI99O
>>508
マジだった、過去作読めなくなるのは残念
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 00:11:19.07 ID:0+fDMj1R0
何かあったのでしょうか?続き楽しみに待ってます。
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 22:33:33.85 ID:1DXOvLAao

 これが湖なのか海なのか、もう、わからなくなっていた。
 
 空も水もどこまでも凍てついて、音も匂いもない。

 自分の息遣い、靴音が、やけに大きく聞こえる。
 それもやがて、徐々に曖昧になっていく。

 ここは静かで、何もない。

 ただ、空と海がある。

 行先には、空と海とが混じり合う、一本の線があるだけ。
 四方を見渡しても、元来た森は見当たらない。

 もう、どこまでも何もない。
 無音、無臭、無痛。
 あるのは光と景色だけだ。

 考えてしまう。

 俺は本当に、ここに来なければならなかったんだろうか。
 こんな何もない場所に、本当に来なければいけなかったんだろうか。

 そんな思考ですら、やがて消えていく。

 疲れや渇きも、いずれ消えていく。
 足を動かしているという感覚すらも徐々に消えていく。

sa
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 22:34:00.84 ID:1DXOvLAao

 最初に音が、
 次に時間が、
 最後に意識が消えていった。

 歩いている、歩いていると思う。
 歩き続けてきたのだと思う。

 歩いていることすら忘れながら、歩き続けている。
 
 いくつかの景色があらわれては消えていく。

 歩いているのだ。
 変化のない景色。
 どこに向かっているのかもわからない。何があるのかもわからない。

 どうして歩くんだろう。
 
 わからなくなっていく。
 何もかもがわからない。

 何を目指して歩いているのか。
 どうして歩いているのか。
 
 そんなことさえ、歩いているうちに、考えなくなっていく。

513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 22:34:27.39 ID:1DXOvLAao

 そして、ふと気付くと、目の前にそれがある。

 予期していたものだ。そこにはグランドピアノがある。
 この景色が『白日』なのだ。

 でもここに、いったい何があるんだろう。

 誰も居ない。
 さくらも、カレハも、佐久間も、"あいつ"も。

 どうして、茂さんは俺をここに連れてきたんだろう。

 わからない。

 空っぽの椅子、誰も見るもののいないグランドピアノ。
 おあつらえ向きに、無音。

 けれど俺はピアノを弾けない。

 ここで俺ができることなんてひとつもない、はずだ。

 けれど、いま、どうしてだろう。
 吸い寄せられるように、指先が、鍵盤のひとつへと伸びていく。

 その瞬間、響いた音が、凍てついた湖面から、空へと泳いでいった。
 
 その一瞬で、何もかもが動き始めた。
 不意に風が吹き、遠くから鳥の鳴き声が聞こえる。

 雲の影が動き始め、日は俺の影を長く伸ばした。
 
 やがて、足元から、ぴしりと音がして、

 悪い予感のすぐあとに、浮遊感に襲われる。
  
 氷が砕けたと思ったときには、水のなかに沈んでいく。
 体は鉛のように重たい。
 水は透明な膜のようにまとわりついて、俺の感覚を奪っていく。

 冷たさは感じなかった。

 ただ飲まれていく。

 長いようにも短いようにも思える混濁の果てに、どうしてか、
 俺は、高校の文芸部室に立っていた。

514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 22:34:56.42 ID:1DXOvLAao



 
 眼の前の壁には『白日』がある。戸棚には『薄明』が並んでいる。
 部室の中央に置かれた長机といくつかのパイプ椅子。

 窓の外から昼の日差しが差し込んでくる。
 
 少し薄暗い部屋の中で、やれやれ、と俺は思った。

 どうしたもんかな。

 とりあえず、今まで見てきた景色が全部夢だった、なんてオチではないのだろう、きっと。

 だとすれば、俺はここで何かをしなければいけない。
 でも、何かってなんだ?

 目を閉じて、深く息をつく。

 まあ落ち着けよ、と俺は俺に向けて言う。
 ここまで来ちまったんだ、もうやるしかない。

 どうしてこんな場所に辿り着いたのかはよくわからない。
 それでもやることは決まってる。

 ──もうすぐあなたの身にいくつかのことが起きると思う。
 ──それはあなたとは直接関係がないとも言えるし、そうではないとも言える。
 ──でもどちらにしても、あなたはそれを避けることができない。どうがんばったって無理なんです。

 ──あなたはこれからとても暗く深い森に向かうことになる。
 ──森の中には灯りもなく、寄る辺もなく、ただ風だけが吹き抜けている。
 ──あなたはそこで見つけなければいけない。彼女を探し出さなければいけない。

 あーあ、と俺は思った。

 あいつの予言もアテにはならない。
 まさか、そう言ってた本人を探すはめになるなんて、誰が思うだろう。


515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 22:35:31.12 ID:1DXOvLAao

 それでまんまとあの絵の中に入り込んだ。
 カレハの手紙にそう書いてあった。

 さくらは、デミウルゴスの絵の中、だ。

 茂さんの案内に従って、『夜霧』へと向かい、『朝靄』を抜け、『白日』を過ぎた。
 そして今、見慣れた東校舎の文芸部室に、俺は立っている。

 部室の隅の戸棚の中、『薄明』に目を向ける。

 ここで佐久間茂は、あの国を造り上げたのだろうか。

 今は、その中身を確認している状況ではない。

 とはいえどうしたものか。

 ここまで来て案内人もなしとなると、どうしようもない。

 まあ、それも仕方ないか。

 そもそもの話、ここまで来られたこと自体が奇跡みたいなものだ。
 ここで正解だったのかも、まだ、わからないけれど。

 それでもあいつは学校にしかいない。
 だからきっと、ここでいいんだろう。

 どんな理屈で氷が割れた先が高校なのかとか、そんなことはいまさら考えたって仕方ない。

516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 22:35:56.95 ID:1DXOvLAao

 最初から全部嘘みたいな話だった。

 俺にしか見えない誰かとか、人が消えるとか、絵の中の国とか、そんなもの。

 そんなあれこれの中で言ったら、むしろわかりやすいくらいだ。

「さて」と俺は声に出して呟いた。

 探すしかない。
 俺はそのために来たのだ。

 さくらを見つけて、『合一』とやらを果たす。
 どっちにしたって、そうしないとならない。

 でも……。

 どうして、そうしなきゃいけないんだっけ?

517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 22:36:42.47 ID:1DXOvLAao


 とにかく、周りには誰もいない。俺は部室を出て、廊下へと出る。

 なんだか不思議な違和感があった。
 それがなんなのか、最初はわからなかった。
 
 徐々にそれに慣れていき、やがてはっとした。

 人の声が聞こえる。

 誰かが喋っている。

 少し考えてから、それどころの話ではないことに気付いた。

 廊下に並ぶ文化部の部室から漏れる話し声。
 開けられた窓からは、中庭にいる誰かの笑い声。

 悪い冗談だ。
 
 どうして人がいるんだ?

 ここは現実か? それとも『むこう』か?

 ……手をこまねいていても、埒が明かない。

 埒を明かしたいのかい、と佐久間茂は言った。

 今は埒を明かしたい。

 そのために、まず、どうするか。
 ひとつずつ確かめるしかないだろう。

518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 22:37:09.60 ID:1DXOvLAao

 
 階段を降り、中庭を目指す。
 声が聞こえた中だと、そこがいちばん、気分的に近づきやすく思えた。

 そこに、さくらが立っていた。

 彼女は、俺を見て、俺も彼女を見た。

 それなのに、透明な壁があるみたいに、彼女の目は俺をとらえていないように思える。

 それでも彼女は、

「あなたは──」

 と、そう声をあげた。

「……どういうつもりで、ここに来たんですか?」

 そんな言葉が聞こえた瞬間、
 彼女の体が一瞬の瞬きの間に消えていた。
 
 光の粒になって辺りに溶けたみたいに。

 気付けば俺はひとりで立っている。

 笑い声はまだ聞こえている。
 
 今起きたことの意味が掴めない。
 
 ……結局のところ、どうにかして、あいつを捕まえるしかない。

 どういうつもりで?
 何のために?

 その答えは、まだ浮かばないけれど。

519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 22:43:08.23 ID:1DXOvLAao
つづく
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/24(木) 22:51:50.61 ID:MJ1h1ZDeo
おつです。
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/24(木) 22:53:31.47 ID:jYk23TcbO
おかえりなさい。もう戻ってこないかと思った
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/25(金) 00:05:59.27 ID:jdjgVqNa0
おつです
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/25(金) 00:19:36.92 ID:cnOTZINKo
おつです
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/25(金) 09:32:46.58 ID:f79pRk8hO
さくらいいぞー
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/25(金) 17:15:59.04 ID:1kXjxA5dO
おつです
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/02(土) 21:55:23.65 ID:Z2U+cUJn0
続き楽しみにしてます。
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/06(水) 00:12:10.04 ID:b3EeR47mo



 中庭に取り残されている。笑い声はまだ聞こえている。

 人々がいる。それが分かる。

 それなのに奇妙な感覚だった。
 
 この校舎のなかにいる誰もが、俺を認識していないという、確信に近い感覚。
 
 試しに俺はあちこちを歩きながら、いろんな生徒たちの様子を見てみた。
 一度は話しかけてもみた。けれど彼ら彼女らは俺の声にまったく反応を示さなかった。

 俺の姿は誰にも見えていない。

 それは当然のことだという気もした、けれど。


528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/06(水) 00:12:38.23 ID:b3EeR47mo

 渡り廊下には市川鈴音が居た。

「市川」
 
 と声を掛けてみるけれど、反応はない。

 校舎の廊下を真中とコマツナが歩いていく。

「真中」

 と声を掛けてみるけれど、やはり反応はない。
 
 追いかけるようにちせが走り抜けていく。

 図書室には大野がいる。
 
「大野」

 と声を掛けたところで、彼は顔を上げる素振りも見せない。

 自分が誰にも見えていない、自分の声が誰にも聞こえていないというよりは、
 世界中のすべてに無視されているような気がした。

529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/06(水) 00:13:06.23 ID:b3EeR47mo


 自分の居場所がどこにもない、自分がどこにいていいのかわからない。
 誰にも自分の声が聞こえていない。

 あの日のような感覚だと、ぼんやりと考える。

 この場所はいけない、と俺は思う。
 この場所は俺に何かを突きつけようとしている。
 
「さくら!」

 と、叫んでみたところで、どこからも返事はない。

 たしかに、さっき、姿を見たはずなのだ。
 あいつはどこかに隠れているはずなのだ。

 それなのに、どこからも返事がない。
 
 チャイムが鳴って人々が教室へと去っていく。
 散らかった部屋がひとりでに片付いていくみたいに、あるべき場所にみんなが戻っていく。

 俺には帰る場所がない。

530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/06(水) 00:14:51.70 ID:b3EeR47mo

 少しだけ考えて、俺はポケットの中の携帯電話を取り出した。
 
 電源は入っている。
 
 よくわからない状況だった。これがなにかに使えるのではないかという気がしたけれど、具体的には何も浮かばない。

 誰かに電話をかける? それでどうする?
 仮につながったとして、誰がこの状況をどうにかできるっていうんだろう。

 まいったな、と俺は思った。

 ここは異質だ。どう考えても、あの森とは別のルールで動いている。

 でも俺はここで何をすればいい?
 さくらを連れ戻しに来た。それはたしかなはずなのに。それだけだったはずなのに。

 このままでは、ただ帰るだけでさえ覚束ない。
 出口があるのかさえ、わからない。

 まいったな、と、そう思っていられるのは最初だけだった。

 授業が終わって、生徒たちが校舎にあふれる。
 そしてやがて黄昏をすぎ、夜が来る。

 校舎から人が減っていく。
 
 誰もいなくなってから、長い長い夜がやってくる。

 みんな気付いていないけれど、そうなのだ。
 本当に世界を支配しているのは、夜だ。
 
 人はまるでそれを克服したような顔をしているけれど、夜なのだ。

 夜はおそろしい。
 何が潜んでいるのかもわからない暗闇。

531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/06(水) 00:15:25.10 ID:b3EeR47mo

 夜の校舎を亡霊のようにさまよっていると、自分自身が自分自身ではなく、ひとつの現象にすぎないような感覚があらわれる。

 時間の流れがおそろしくゆるやかだった。
 
 夜の校舎は冷え冷えとした空気に澄んでいる。

 もう誰の声も聞こえない。
 
 窓の外には月だけが浮かんでいる。

 思い出すのは夜の森。

 ざわつく葉擦れの音、
 今に聞こえそうだ。

 今に……。

 現れるかもしれない。

 溜息をついて、やり過ごそうとする。

 真夜中の校舎に新鮮味なんてほとんどない。

 ただ明かりもなく暗いだけ。
 なにもない。

 寒々しい気配、
 聞こえる、
 聞こえる。


532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/06(水) 00:16:01.86 ID:b3EeR47mo

「……」

 今に現れる。

 そんなわけがないだろ、と俺は思う。

 俺は今歩いている。
 廊下を、教室を、渡り廊下を、亡霊のように歩いている。

 さくらはまだ見つからない。

 どこにもいない。

 早くしないと。
 早く見つけないと、さくらを早く見つけないと。

 早くしないと、現れる。

 あいつが……。
 あいつが来てしまう。


533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/06(水) 00:16:30.80 ID:b3EeR47mo

 森の中、葉擦れの音、
 あの景色はもう俺の視界のどこにもない。

 それなのに、近づいている。

 どうして今更思い出してしまったんだろう。

 あの森を平気で歩けた理由が、今はわかる。
 子供の頃、あの森をあんなに恐れていたのに、どうして今は平気で歩けたのか。

 ……でも、あれは本当なのか?

 あいつは……。

 あいつは、
 でも、今は夜だ。

 夜は暗い。夜は長い。夜はおそろしい。
 でも、あんなことは、全部……

「──人を悪者扱いするなよ」

「……」

 嘘だ、と思った。
 これは悪い夢なんだ。

 あいつは全部夢だったはずなんだ。

534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/06(水) 00:17:23.64 ID:b3EeR47mo

 あの森には俺しかいなくて、そこにはただ、月と梢の音が聞こえるだけだったはずなんだ。

「都合の悪いことから逃げる癖は治ってないみたいだな」

 それなのに、声が聞こえる。

「……そんな反応されると傷つくな」

「……」

「話をしようぜ、まあ、べつに大した話じゃないが」

「……」

「なんだよ、付き合い悪いな。いいだろ?」

 声は、俺の頭の中で響いている。
 スワンプマンや、カレハや、佐久間茂とも違う。

「──どうせ誰も、おまえのことなんて迎えに来ないんだから」

 逃げ切れない。逃げ切れなかった。
『夜』が来てしまった。



535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/06(水) 00:19:51.66 ID:b3EeR47mo
つづく
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/06(水) 00:29:12.92 ID:UNsqi8nR0
おつです
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/06(水) 06:49:34.86 ID:Soa/6DoQO
おつです。
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/06(水) 08:03:38.99 ID:ON6A8XeM0
おつです
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/06(水) 12:16:48.39 ID:OzDOAUMOO
おつに乙
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/06(水) 23:51:38.87 ID:NgGOUZjc0
おつです。ここにきて、また新たな登場人物が!?
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 00:25:46.28 ID:yhQ75zcUo


「ずいぶん懐かしいな」

 本当はずっとわかっていた。

「こうして話すのはいつぶりだろうな?」

 ずっとずっと気付いていた。

「つれないな。少しは反応しろよ」

 あの森がどうしてあんなに恐ろしかったのか、俺はずっと気付かないふりをしていた。

 葉擦れの音が、二重の景色が、あんなに怖かったのは、ただ、あそこに置き去りにされたからじゃない。
 この声が聞こえたからだ。

「どうだい?」

「……うるせえよ」

「聞こえてるんじゃないか」

 けたけたと笑うように声は言う。

「無視するなよ」

「……うるせえって言ったんだよ」

542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 00:26:29.64 ID:yhQ75zcUo


 息をついて、壁にもたれる。ここは教室だ。夜の教室。机が並んでいる。
 何年何組の教室かはわからない。それでも窓から空が見える。

 夜が覗いている。

「どうだい、調子は」

「おまえが来るまで好調だったよ」

「減らず口だな、相変わらず」

「……」

「なにか言いたげだな」

「喋るなって言ってるんだよ」

「ずいぶん強気になったな?」

「うるせえよ。……おまえなんて、俺の幻聴のくせに、うるせえんだよ」

「おまえらはいつもそうだな」と声は言う。

「都合が悪くなると、すぐに幻聴だとか、幻覚だとか言う。無意識の擬人化とか、そういうふうに、まるで自分の内部かのようなことを言う」

「……」

「佐久間とか言う奴もそうだっただろう。暗闇の中にはなにもないなんて言ってやがった。あいつは根本をわかっちゃいない」

「……」

543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 00:27:02.46 ID:yhQ75zcUo

「本当に暗闇に何もなかったら、ただの拗ねたガキでしかないあいつに、どうやってこんな世界が作れる?」

「うるせえって言ってんだよ」

「分かるだろう。ここは誰かの無意識でも自意識でもなんでもない」

「……」

「森は在る。俺が作ってやったからな」

「……わけわかんねえんだよ、バカ」

「今日はやけに喋ってくれるな。心細かったか?」

「……なんなんだよ」

「ん?」

「なんなんだよ、おまえは……」

「何でもないさ」

「……」

「何でもない。ただ在るだけだ」

「……それらしいこと言って誤魔化してんじゃねえよ。おまえは俺の幻覚だろうが」

「口調が荒いな。いつもの余裕はどうした? 何を言われたくなくて焦ってる?」

「……」

「そんなにショックだったか?」

「……」

「なあ、おまえが不貞の子だってことがそんなにショックだったかって訊いてるんだよ」

「デタラメ言ってんじゃねえよ……」

「デタラメなんて思ってないくせによく言うよ」

544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 00:27:33.84 ID:yhQ75zcUo


「……もう黙れ」

「勝手にしゃべるさ。おまえ、自分がどうして妹にあんなに縋ってるのか気付いてないわけじゃないだろ」

「……」

「だってそうだろう? 本当に両親から生まれた子供がいなかったら、おまえとおまえの両親のつながりなんて希薄なもんだもんな」

「……」

「ま、こんな話はどうでもいいさ」

「……信じねえよ、そんな話」

「そうかい?」

「おまえは俺の妄想だろうが」

「だから、そうじゃないって。前も教えてやっただろう? おまえが知らないことを、たくさん教えてやったじゃないか」

「……うるさいって」

「さんざん教えてやったじゃないか」

「何がしたいんだよ」

「ん?」

「何がしたくて俺にちょっかいかけてくるんだよ。……ほっといてくれ」

「そんなの決まってるだろ」

「……」

「俺はおまえみたいなガキが不幸になるのを見過ごせないんだよ」

545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 00:28:09.65 ID:yhQ75zcUo

「不幸?」

「だってそうだろ? 欲しいものもないやりたいこともない行きたい場所もない。
 目指す場所なんて最初からなくてただなんとなく生きてるだけ。それがなんともしんどいじゃないか。
 生きてる理由なんてひとつも思いつかない。誰かの劣化品でしかないし、そもそも自分が本物かどうかもわからない」

「……」

「不幸だよ、大層な」

「……」

「しんどいだけの日々なのに、どうせ死ぬまでそれが続くのに、なんでかそれを続けてる。
 ずっと引き伸ばしてる。しんどいのをやり過ごして、でもやり過ごしてもどうせまたしんどいんだ。
 なんでそれを続けなくちゃいけない?」

「……何言ってんだ、おまえ」

「何言ってんだよ、おまえの方こそ」

「……」

「それともおまえ、まさか本当に、おまえがこの森で何かを失くしたとでも思ってるのか?」

「……」

「前も教えてやっただろ。この森でおまえが失くしたものなんてひとつもねえよ。
 あいつも言ってただろ。すべては弾性を持ってる。ここでおまえが失くしたものなんておまえはとっくに取り戻してた」

「……」

「おまえは何かを失くしたんじゃない。最初から何も持ってなかったんだよ。
 何か理由があって何も欲しがれないんじゃない。何も求められないんじゃない。
 おまえは最初から何も求めてなんかいなかったのさ」

「……うるせえ」

「おまえには何もないよ」

「うるせえって。そんなこと……そんなこと、ねえよ」

「ないよ」

546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 00:28:55.72 ID:yhQ75zcUo

「何が無いっていうんだよ」

「何も無いって言ってるんだよ」

「……」

「おまえ、あのさくらとかいうやつを探してるんだろ?」

「……」

「あいつがいつか言ってたよな。おまえはすごく恵まれてるって。それなのにどうしてつまらなそうな顔をしてるんだって」

「……」

「そうだよな。おまえはすごく恵まれてる。周りには良いやつばっかりだ。なんにも悪いことなんて起きてない。
 結局全部おまえが満たされるように作られてる。だからだろ?」

「やめろよ」

「おまえはそれが嫌だったんだろ?」

「……」

「おまえは周囲に嫌な奴が居て欲しかったんだよな。自分に厳しい世界であってほしかったんだよな。
 だって周りが良い奴ばかりだと……自分が惨めになるもんな?」

「……」

「それに良い奴ばかりだと……死にたいなんて言いにくいだろ?」

「……」

 なんなんだ、
 なんなんだ、こいつは。

547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 00:29:27.61 ID:yhQ75zcUo

「だっておまえは何もほしくないのに、何もしたくないのに、生きてる意味なんてなんにも思いつかないのに、
 生きててしたいことなんて一個もないのに、生きてても自分の不出来が嫌になるだけなのに、
 なんにもできない自分が疎ましくなるだけなのに、自分より全然上手くできる奴らがおまえを許してたら、許されるしかないもんな」

「……」

「周囲が良い奴だと、おまえみたいなクズは弱音も吐けなくて大変だよな。
 いや……弱音を吐いて、弱ったふりをして、プライドを切り売りして、どうにか居場所でも作ってたか?」

「……」

「なあ、だから安心しただろ? ここに戻ってこられて」

「何言ってんだ、おまえ」

「あのときに言ってやっただろ、どうせおまえは生きてたってそのまんまだよ、良いことがあったってしんどいままだよって。
 だからもう森から出るなって俺は言ってやったじゃねえか。おまえが不幸になるだけだって。
 そんなことないっておまえはビービー泣いてたな。でもどうだ? 結果はどうだった? なあ、俺が訊いてるんだよ」

「うるせえよ」

「さんざん待ってやったんだ。答えくらい聞かせろよ。……なあ、どうだよ、救いとやらは見つかったか?」

「……」

「おまえはおまえを許せたかって訊いてるんだよ。……誰かがおまえを許すかどうかじゃなくてな」

 夜が、
 夜が続く。

 耳の奥に、誰かのすすり泣きを聴いている。

「勘弁してくれよ」と俺はひとりごとを言う。
 夜は始まったばかりなのだ。

548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 00:30:04.23 ID:yhQ75zcUo
つづく
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/07(木) 00:39:19.55 ID:Ky6Opdym0
展開に驚いた
乙乙
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/07(木) 08:02:44.96 ID:M9lRFpoAO
おつです
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 22:48:20.13 ID:yhQ75zcUo


「鴻ノ巣ちどりは駄目だ」と声は言う。

「あいつはおまえのことなんて見ちゃいない。あいつが見ているおまえはあいつが見ている理想像としてのおまえでしかない。
 あいつはおまえの弱さを受け入れられないし、おまえの弱さを美化しすぎている。だから鴻ノ巣ちどりは駄目だ」

 声は続ける。

「瀬尾青葉も駄目だ。あいつはおまえの弱さを知らない。知らなさすぎる。
 あいつはおまえという人間のろくでもなさを低く見積もりすぎている。その重さに気付いたらすぐに投げ出すさ」

 声は続く。

「大野辰巳はおまえを高く評価しすぎている。それはおまえの実像とは離れすぎている。
 だからあいつも駄目だ。あいつはおまえのことを変わり者だと思っている。仮におまえが助けを求めたって、あいつは変な顔をしておしまいだろうさ」

 声は続く。

「市川鈴音はおまえにさほど興味がない。当然駄目だ。ある意味付き合いやすくはあるだろうが、あいつはおまえが消えても興味を示さないだろう。
 だから市川鈴音も駄目だ。それにあいつはそもそも種類が違う」

 声は続いている。

「宮崎ちせもそのとおりだ。そもそもあいつにとってはおまえは人間じゃない。あいつにとっておまえはフィギュアみたいなもんだ。
 勝手に自分に都合の良い像を投影しているだけ。おまえがちょっとでもその像からはずれればすぐに失望するさ」

 声は、夜は、
 終わらない。

「泉澤怜はどうだ? あいつはエゴの自意識の塊だ。あいつにとっておまえらの存在なんて自分の力の二の次でしかない。
 あいつの好奇心はいつもおまえたちを置き去りにしてきた。あいつは人間に興味が無いんだ」

 途切れない。

「三枝純佳は一番駄目だ。あいつにとってはおまえの弱さが都合が良いんだ。
 あいつはおまえの弱さに安堵している。おまえが不安がれば不安がるほどあいつは嬉しいんだ。そんなのまともじゃない」

 呪詛は続いていく。


552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 22:48:52.49 ID:yhQ75zcUo

 六年前、あのときも俺はこうしてこの声を聴いていた気がする。
 もう、記憶のなかですら曖昧だけれど、こうなってみればはっきりと思い出せる。

 この呪詛はずっと降り続いていた。
 
 絶え間ない雨のように俺を濡らし続けていた。

 あの暗い森のなかで、俺はこの呪いをずっと浴びせられていた。

 こいつが何なのか俺は知らない。
 何がしたいのかもわからない。

 けれど耳をふさいでも無駄なのだ。

 葉擦れの音と、
 夜の空、
 それだけならばまだしもよかった。

 この声が……。

「人のせいにするなよ」と声は言う。

「おまえは最初から空っぽだろう」

 そうして声は続ける。

553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 22:49:47.35 ID:yhQ75zcUo

「さくらを見つけてそれでどうする? あいつを引き戻してどうするんだ?
 瀬尾青葉のときもそうだったじゃないか。あいつを見つけて、そのあとはどうする?
 それで全部おしまいだ。元通りになって、やっぱり空っぽな自分があるだけ。それを突きつけられて、誰かのせいにして……。
 でも、誰かのせいにしたところで、おまえが求めてるものなんてどこにもありゃしない」

「……」

「だから、なあ、全部やめにしちまおうぜ」

「……」

「もういいだろ。よく頑張ったよおまえは、何にもないくせによくそこまで生き延びたよ」

 俺は……

「疲れただろう? おまえは最初からずっと……」

 俺は、

「ずっと、ひとりになりたかったんだよな」

 そう、なのだろうか。

「周りがまともで優しければ優しいほど、つらかっただろ?」

 俺は、

「自分が駄目なんだって思わされて、優しくされればされるほど、自分がそこに居るべきではない気がして」

「……」

「自分がそこにいるべきではないような気がして、自分にふさわしい場所なんてどこにもないように思えて……」

「……」

「だからおまえは、ずっと、『自分の居場所じゃないような気がする』って思い続けてたんだろ?」

「……」

「誰が認めなくたって、おまえが頑張ったんだって、俺が認めてやるよ。
 ほら、もう休めよ。周りに人がいればいるほどおまえは孤独になっていく」

「……」

554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 22:50:49.92 ID:yhQ75zcUo

「べつにおまえは悪くないのに、何にも欲しくなくて、でもそんなこと言うとみんなに変な顔されるから。
 みんなが望むように振る舞って、何か望んでるふりをして、何かあるふりをして、この森のせいで変な音まで聞き続けて、
 それなのにおまえは拗ねずによく頑張ったって。でも、誰もおまえを楽になんてしてくれないんだ」

 おまえはどこにも行けないんだ。

「だからもういいだろ? なあ、俺は親切心で言ってるんだ。おまえは死ぬべきだって」

「……」

「『桜の森の満開の下』……あれがなんで孤独なのか、分かるだろ?」

「……」

「人と人とが触れ合おうとする、その距離に孤独は生まれる」

「……」

「だからここは孤独じゃないんだ。本当にひとりになったとき、人は孤独には決してなれない」

「……」

「だから永遠にここにいればいい」

555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 22:51:15.97 ID:yhQ75zcUo




 夜が明け、声が消えた。

 生徒たちの姿がまたあらわれはじめる。
 俺はその様子をただ黙って眺めている。

 相変わらず、誰も俺には気付かない。

 やり過ごした、と思った。
 
 体の感覚があるのが不思議だった。ものすごく眠たいのに、眠ることができない。
 体の節々が痛んでいる。

 どれくらいの間歩いてきたんだっけ。
 どのくらいの距離を歩いてきたんだっけ。

 もう思い出せない。

 さくらを見つけなければ、いけない。

 また夜が訪れる前に。

 むこうの時間はどうなっているんだろう。

 ここで夜が明けたということは……むこうでも同じくらいの時間が経ったということだろうか。

 ただでさえ眠らずに、何もできずに過ごす夜は長い。

 あんな声を聞かされ続けたら、まるで永遠に終わらないようにさえ思えた。

 それでも俺はまだ折れていないつもりだ。

 こんな夜は、今までだって何度も超えてきた。
 あんな言葉なんかで壊されていられない。

556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 22:51:48.32 ID:yhQ75zcUo

 考えなきゃいけない。
 
 どうしてさくらは俺の前に姿を見せ、すぐに消えたのか。

 いったいなぜ、さくらは俺に会ってくれないのか。

 さくらはそもそも、どうしていなくならなきゃいけなかったのか。

 そもそも──さくらはいったい、なんなんだ?

 仮説。

 一、ましろ先輩の『空想の友達』を、
 二、佐久間茂の『森』が具象化した。
 三、具象化された『さくら』のスワンプマンとして『カレハ』が生まれた。

 カレハもさくらも変な能力を持っている。そこに関しては、考えてもどうしようもない。 

 けれど……

 だとしたらどうして、さくらは『守り神』になんてなった?
 どうして、学校から出られない?

 推論。

 一、さくらはなんらかの理由で守り神として具象化した。
 二、誰かがさくらに守り神としての役割を与えた。
 三、単にさくらが守り神を自称している。

 いや……“違う”。

 ──……守り神さんか。

 ──なんです、それ。

 さくらは、自分のことを守り神だなんて、一度も言っていない。

557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 22:52:21.52 ID:yhQ75zcUo

 ──きみはいったい、なんなんだ?

 ──残念ながら、わたしはその問いの答えを知らないんです。

 さくらにはそもそも“何の役割も与えられてなんかない”。

 さくらはそもそも何者でもない。少なくともさくら自身は、自分が何者かなんてわかっていなかった。

 さくらは……。

 ──じゃあ、おまえは……人知れず、恋の手伝いをしているわけか?

 ──我が意を得たりとはこのことです。そのとおり。わたしは今そのために生きています。

“わたしは今そのために生きています。”

 どうしてだ?

 ──世界は、愛に満ちているんです。

 世界は愛に満ちている。

 そしてあいつは、からっぽになった俺に、からっぽじゃなくなった頃のことを思い出させると言った。

 けれど……。

558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 22:58:02.19 ID:yhQ75zcUo

 俺は、周囲の様子を見る。校舎のなか、騒がしく響く生徒たちの声。
 あいつはこれをずっと眺めていたという。
 それ以前の記憶はないという。

 それならば、どうして……この世界が愛に溢れてるなんて思えたんだろう。

 どうして、誰かと誰かを結びつけることのために生きようなんて思えたんだろう。

 さくらは……この景色に、何を見たんだろう。
 
 誰とも繋がれない場所で、どうしてあいつは、あんなふうにみんなを愛せたんだろう。

 そう思った瞬間、涙がこぼれそうなくらいに感情が溢れ出してきた。
 
 だってあいつは誰とも会えなかったはずなのだ。
 あいつの声はどこにも聞こえていなかったし、あいつの姿は誰にも見えていなかった。

 誰もあいつを知らないし、だから誰もあいつに感謝なんてしなかった。

 あの日俺は、暗い森でひとりぼっちだった。

 それよりもずっと長い時間、あいつは俺なんかよりずっと深い孤独のなかにいたはずだったのに。

 どうしてあいつは、平気でいられたんだろう。

 俺には分かりそうもない。

 言葉で理解できたとしても、実感できそうにない。

 ……考えても仕方ない。
 あいつが逃げるなら、俺は捕まえようとするしかない。

 でも俺は、あいつを見つけて、何を言えばいいんだろう。

559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 22:59:05.48 ID:yhQ75zcUo
つづく
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/07(木) 23:45:15.05 ID:kTxUzXKQ0
おつです。この先、一体どうなるのか……
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/08(金) 00:38:47.60 ID:BkLvGqS8O
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/08(金) 01:27:35.69 ID:ywgcW4kQ0
おつです
563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/08(金) 08:55:18.63 ID:3FG8qpivO
乙です
柚子だけコメントないのはわざとかな?
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/08(金) 10:04:33.30 ID:k1jfYocU0
おつです
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/14(木) 23:08:06.78 ID:VqaAuuzy0
続き楽しみにしてます。
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/15(金) 21:17:41.69 ID:moRpKdxQo


 結局俺は誰にも見えないままだ。

 誰に話しかけても、誰に会っても、誰も俺のことを見ない。

 いっそ誰かの内緒話でも聞いてみようか、それとも女子の着替えでも覗こうかと思ったが、
 既にそんなことを楽しむような余裕もない。

「さて、どうしたもんかな」

 と、努めて落ち着いたふうを装って、自分に訊ねてみる。

 ひとまず片っ端からさくらの居そうなところを探したけれど、残念ながら見つからない。

 最後に思いついたのが屋上だったが、鍵がかかっていた。

 学校帰りに『トレーン』に寄ったから、今の俺は制服のままだ。
 ポケットには屋上の鍵があるのに、どうしてかそれでは扉は開かなかった。

 開かないということは、そこになにかの意味があるということだ。
 それはたしかだと思う。

 とはいえ、それが何を意味するのかわからない。

 屋上に繋がる扉の前に、俺は座り込んだ。

567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/15(金) 21:18:17.18 ID:moRpKdxQo

 どうしても、何度もさくらのことを考えてしまう。

 さくらは何を思って、この校舎のなかで生きてきたんだろう。

 さくらが守り神になった理由。
 さくらが縁結びを始めた理由。
 
 そんなことばかりを考えて、それなのにどうしても答えが出てこない。

 今、それを考えることが必要な気がするのに。

 誰にも聞こえない、誰も触れられない。
 
 いま、この状態がさくらの経験していることだとしたら、さくらはどうしてあんなことを求めたんだろう。
 何かを変えられる力を持っていたから?

 からっぽじゃなかったから?

 堂々巡りの思考のうちに、約束のように日が暮れていく。

 
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/15(金) 21:18:43.82 ID:moRpKdxQo

 俺はいまさくらと同じような状況に陥っている。それでもさくらの気持ちはわかりそうにない。
 俺には過去があり、さくらにはそれがなかった。

 さくらは気がついたらこの学校にいた。誰からも何の説明も受けず、誰にも話しかけられず。

 そしてましろ先輩に出会う頃には、もう守り神だった。縁結びの神様だった。

 さくらはどこかで、その使命を帯びた。

 ……違うのかもしれない。

 さくらは、自分でそう決めたのかもしれない。

 自分の役目を自分で決めた。
 一度そう思うと、それ以外に考えられないような気がする。

 ──わたしは気付いたら、この場所にいました。そのことに疑問を覚えたことなんてなかった。
 
 さくらは気付いたら学校にいた。
 そして、さくらは誰にも会っていない、ましろ先輩以外には、さくらと話せる人間もいなかった。

 ──いつからここにいたのかなんて、覚えてない。わたしを見つけたのは、ましろが初めてです。
 ──少なくとも、覚えているかぎりだと、そうです。それまでわたしはずっとひとりだった。

 だとすればそうだ。

 さくらが自分で、そうしようと決めたのだ。

569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/15(金) 21:19:13.35 ID:moRpKdxQo


 どうしてあいつは、世界は愛でできているなんて、そんなふうに言えたのか?

 あいつは人の心が読めた。
 そして少しだけ、世界に働きかけることができた。
 それがどんな形だったのかはわからないけれど、あいつは、そうすることができた。

 ──わたしは、誰にも見つからないまま、小細工や、与えられた力のいくつかを使って、人と人とを結びつけてきました。
 ──誰に褒められなくたって、それがわたしのやるべきことだった。

 ──どうしてかは、知らない。ただそれは、わたしがそういうものだから、そういうふうに作られたから。生まれたときから、そういう存在だったから。

 けれど違う。

 ましろ先輩は、『さくらをそんな存在として作らなかった』。
 そうである以上、さくらは生まれたときからそうだったわけじゃない。

 あいつは誰かの心を読み、そして、偶然かどうか、誰かの想いを実らせた。

 それを自分の存在理由だと考えることにした。

 だって、それ以外に何もないのだ。

570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/15(金) 21:19:46.61 ID:moRpKdxQo

 ──わからないんです。なにも。自分が何者で、何のために生まれたのかも。

 本当に誰かから与えられた務めなら、そういう存在として生まれたなら、そんな疑問が生まれるわけがない。

 それまで何もなかったさくらに、『誰かの恋を実らせる』という理由ができた。

 そうだとしたら、あいつがあんなふうに、縁結びなんて変なことにこだわっていたのは、
 きっと、あいつが孤独だったからかもしれない。

 それ以外に、世界に関わる方法がなかったからかもしれない。

 だからあいつは、世界は愛でできていると言った。
 そのために自分がいるのだと考えることにした。

 自分は誰とも関われないままで、誰かを憎むこともせずに、ずっとひとりぼっちのまま、
 誰かの幸せを願い続けてきた。
 
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/15(金) 21:20:30.40 ID:moRpKdxQo


 どうして今さくらに会えないんだろう。

 さくらに何かを言いたくて仕方がないのに、何を言えばいいのかわからない。
 
 瞼を閉じて、これまでのことを考えた。
 
 真中が入学して、大野が入部して、市川が部活に出るようになった。
 さくらに会って、大野が文章を書けるようになって、部誌を作った。

 瀬尾がいなくなって、ちせと会って、怜が帰ってきて、
 ましろ先輩と会って、ちどりがいて、純佳がいて、
 瀬尾が帰ってきて、俺は変になって、

 さくらがいなくなった。

 こんな振り回されるだけの日々の中で、俺は本当に何かひとつでも自分の意思で行動してきただろうか。
 今まで俺は何かを求めてきたんだろうか。

 考えろ、と頭の中で誰かが言った。

 そうだな、と俺は答えた。

 不意にポケットの中で携帯が震えた。

 メッセージが届いている。

『さくらのこと、よろしくね』

 そんなメッセージが、今、不意に届く。
 やっぱりあの人は、超能力者か何かなのかもしれない。

『それが鍵の代金です』


572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/15(金) 21:21:00.00 ID:moRpKdxQo


「……」

 俺は、
 どうしたい?

 いつまでもぐだぐだと何もしたくないと文句を言ってばかりだ。
 さんざん甘やかされてきたくせに、それでも何にもしたいことなんて思い浮かばない。

 誰かと一緒に過ごすなんて重苦しくて嫌だった。
 周りのみんながいいやつばかりなのに、そうなれない自分が嫌いだった。

 誰かが俺を好きになるなんて信じられないし、自分で自分を好きになるなんて不可能ごとに思えた。

 いつも茶化してごまかしてきた。

 瀬尾が帰ってきたあと、自分にうんざりしたのは、そのせいだ。
 結局俺は、ただ、与えられた課題をこなしてきただけだ。

 誰かの立てた筋書き通りに動いていただけだ。
 だから、いざ自分で動けと言われると、何もできなくなる。

 今だってそうだった。

 でも、

 ──あなたは……どういうつもりで、ここに来たんですか?

 俺は、
 

573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/15(金) 21:21:50.16 ID:moRpKdxQo


「どうだい」と声が言った。

「そろそろここに住み着く決心がついたか?」

 夜が来た。
 どんな声も誰にも届かない、誰も迎えにこない、誰も自分を求めない、
 そんな夜だ。

 でも、それは、さくらがずっと居た場所だ。

「……なあ」と、俺は声をあげた。

「なんだよ。珍しいな、今日は返事をくれるのか」

「おまえ、言ったな。この世界を作ったのは本当はおまえだって」

「ああ、言ったばかりだろう、あんな拗ねたガキに世界を作る力なんてあるわけないんだから」

「……佐久間茂がこの世界を考えた。おまえがそれを作った」

「そうなる」

「ましろ先輩が、さくらを考えた。この世界が、さくらを作った」

「そうだな」

 だとしたらきっと、ここは、孤独が生んだ国なんだろう。

574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/15(金) 21:22:30.38 ID:moRpKdxQo

 ──味方ですから。兄がどんなにずるくても、ひどくても、たぶん許しちゃうと思うんです。

 ──じゃあ、ひいきなしでもマシな人間にならないとな。

 ……なんだよ、
 自分で分かってるんじゃないか。

 さんざん唸って、呻いて、喚いてきたのは、
 自分が思うほど自分がマシな人間じゃないからだ。

 何ひとつほしいと思えないのは、手に入れたところで離れていくとしか思えないからだ。
 声をあげたところで、誰も来てくれないと思っていたからだ。

 なるほど、オーケー、了解。

 ──先輩は、それでいいんですか。
 ──先輩は、柚子と、どうなりたかったんですか?

 ──おまえはどうなりたかったんだよ。どうしたかったんだよ、真中を。

 ──きみにも、探しものがあるんだと思うんだ。
 ──見つけてあげてよ。じゃないと怒るよ。

 ──自分がなにかくらい、きっと、自分で見つけてみせますから。
 ──でも、嬉しい。……約束ですよ。

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