海未「『ひとりぼっち』の、君となら」

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99 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:20:07.04 ID:L0ciGIt40
海未「私…え、絵里が居なくなるのは…い、嫌です…ッ!」

海未は涙を零しながら叫んだ。

絵里「私だって…」

絵里は出てくる言葉を抑えきれなくなったようだった。

絵里「わ、私だって死にたくないわよ…ッ!なんで…なんで私なの!?おかしいわよこんな…!」

絵里の涙が、布団に染みを作る。

絵里「どんどん身体もおかしくなって…ご、ご飯の味も、もう解らないの!」

絵里「さっき言った…チョコレートが美味しいって…それも嘘よ…ッ!」

絵里「こ…怖いわ…誰か!誰か助けてよ…!」





ピンポーン





一瞬の静寂。





絵里「!?」ビクッ
100 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:21:22.93 ID:L0ciGIt40
海未「…にこですかね」

絵里「…え?」

海未「邪魔してはいけないので、私はもう帰ります」

海未「にこにお礼を言ってくださいね」

絵里「…ありがとう、海未」

絵里は先程とは一転、満足げな表情を浮かべ、こう言った。

絵里「…さよなら」

海未「さよなら」ガチャ…バタン

海未はドアを開け、廊下に出た。

後ろは絶対に振り向かなかった。もっと涙が零れてきそうだったから。

海未は玄関の扉を開ける。

扉の前には、案の定にこがいた。
101 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:21:55.05 ID:L0ciGIt40
海未「…にこ」

にこ「…何よ」

海未「私に向けて」

海未「『こんなに仲のいい「友達」ができたのは、生まれて初めてだった』と、言っていましたよ」

にこ「…!」

にこ「分かった」キッ

海未「…頑張ってください」

海未は玄関を開けたまま、すぐに立ち去った。
102 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:23:03.93 ID:L0ciGIt40
(その後は、何も考えず着の身着のままベッドに寝転がり、目を瞑った)

(誰かがもうすぐいなくなってしまうと思うと、なんのやる気も起きなかった)

(聞こえてきた救急車の音は気にも留めなかった)

(そして次の日解った)

(ことりは自殺、絵里とにこは失踪)

(それを知った時は、叫ぶことさえ出来なかった)

(さらにお母様も病気で倒れた)

(唯一近くにいた穂乃果も家計を助けるために、スカウトされたアイドルになり、家に毎日は帰って来れなくなった)

(私はたった数日で、一人になった)

(学校でも、一人だった)

(毎日同じ時間に家を出て、誰とも話さず漂うように授業を受けて、家に帰って寝るだけ。その繰り返し)

(でも勉強はできた。持ち前の記憶力で)

(代わりに、最期に見た、ことりの寂しそうな笑顔と、絵里の満足そうな顔、そしてにこの真剣な表情が目に焼き付いて離れない)

(いつでも昨日のことのように思い出せて死にたくなる)

(反面、『夢』の外のことは忘れそうだった)

(今いる世界の人が死んだら元も子もないと思った)

(そんなことをしているうちに、月日が流れた)
103 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:24:24.75 ID:L0ciGIt40
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〜海未の部屋〜

海未(『夢』の中に来てからちょうど二年と一日経った)

海未はベッドから身体を起こし、机の前に座る。

海未(今日から夏休みだ)

海未(時間は過ぎるのが速い)

机には埃を被ったデスクトップと、ハサミなど文房具の入ったペン立て。

そして、去年貰った、『答案で作られた折り鶴』が見える。

海未(絵里とゲームをしたのが懐かしい)

海未(ことりに折り鶴を貰ったのが懐かしい)

海未(というか、久しぶりに自分の顔を見る)

デスクトップには、驚くほど変わっていない自分の顔が映っている。

海未(大事な人が死んでも、何も思わない)

こんなことを思うと、前までは泣いていたのに、既に涙腺は機能しなくなっていた。
104 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:25:39.38 ID:L0ciGIt40
海未「こんな馬鹿な人間…」

海未はペン立てからハサミを抜く。

そして両手で握り、切っ先を自分に向けた。

海未「必要ありません…!」グッ





海未は自分の喉元に、ハサミを突き立て









105 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:26:42.03 ID:L0ciGIt40
…ようとした。

正確には、『突き立てることが出来なかった』。
106 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:27:50.46 ID:L0ciGIt40
突然、電源が切れていたはずのデスクトップが、光り始めたのだ。

デスクトップには、『見慣れているが、何故か見慣れない』黒いツインテールが表示され、揺れている。

海未「…え?」



『死んだら二人とも悲しむわよ、「お嬢様」』



懐かしい声に、強く握っていたハサミを取り落とす海未。

デスクトップの中には、頼もしい友人の姿があった。

にこ?『「一緒に」助けるわよ。二人を』
107 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:28:32.98 ID:L0ciGIt40
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第七話「透明アンサー」
END
108 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:29:24.38 ID:L0ciGIt40
第八話「ニコの電脳紀行」
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109 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:30:23.79 ID:L0ciGIt40
海未「…つまり、にこの発言をまとめると…」

海未「にこの担任の南先生によって何らかの方法で身体と精神が分離させられて、精神がインターネット空間に放り込まれてしまったわけですね」

にこ?『そうよ。でもあの南先生は先生であって先生じゃなかった。南先生はもっと優しそうで、あんなに「冴えて」ない』

にこ?『あと、『覚める』だか『醒める』だか言ってたわね。よく分からないけど』

海未「それは調べる必要がありますね」

にこ?『…あぁ、それと、この状態のときの表記は「ニコ」にしといてね』

海未(…何の話でしょうか?)

海未「…まぁいいです。本題に入りましょうか」

ニコ『「なんでことりちゃんが自殺したのか」についてね』

ニコ『その為には、まず「能力」の話をしなきゃいけないわ』

ニコ『これを見て。ことりちゃんから』スッ

ニコは懐から便箋を取り出し、封を開ける。

すると、メールが画面に表示された。
110 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:31:01.24 ID:L0ciGIt40
海未「…こういうこともできるんですね」

ニコ『元大銀河宇宙No.2剣士≪無双の歌姫・YAZAWA≫を舐めるんじゃないわよ』フフン

海未「…そうですね。この状況には頼もしい限りです」

ニコ『そうでしょ?感謝しなさいよね』
111 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:31:51.12 ID:L0ciGIt40
From:south-chun-lo8ol

To:bguno2-yazawa-252521

件名:伝えておきたいこと

2199年8月14日 18:44

本文:急にごめんね。

そろそろ言っておこうと思って。

信じられないかもしれないし、ちょっと長くなるかもしれない。あと、しっかりまとまってないかもしれないけど、真面目に聴いて欲しい。

まず、『目の力』について。

私の三人の義妹…東條希・小泉花陽・星空凛は、8月15日にそれぞれ姉、兄、母と一緒に死亡し、得体の知れない世界に飲み込まれ、その後生き返って帰ってきた。

そして三人は、ひとりぼっちになってしまった。

飲み込まれた片方の人は、未だ見つかっていないの。

希は『自他の視覚情報を操る』、花陽は『他者の思考を読み取る』、凛は『強く思い浮かべた生物に見た目を変化させる』能力を持ってる。

聞いた限りだと、多分穂乃果ちゃんも、『他者の感覚を強制的に自分に惹きつける』能力がある。
112 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:33:03.80 ID:L0ciGIt40
お父さんとお母さんは、能力に関係があると思われる、多摩地域の伝承について調べてた。

だから、能力から三人を助けようとして、入っていた孤児院から引き取った。

そして、皆で暮らしてたんだけど、ある日迷子になった後帰ってきた花陽が『森の中で赤くて長い髪の女の子と会った』って言ってきたんだ。

会った場所は、その伝承が伝えられる地域と一致していた。

そして、出掛けるという名目で三人と一緒に森に行こうとしたのだけれども、私が熱を上げちゃって、妹たちは看病の為に留守番になった。それが去年の8月15日。

ここまでが、お父さんのレポートに書いてあった内容。



そしてここからが、私と凛で調べた内容。
113 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:33:33.57 ID:L0ciGIt40
お父さんとお母さんは、土砂崩れに巻き込まれて死んだ。

そして、8月15日に死ぬと飲み込まれる世界に入り、お母さんは能力を得た。

そいつは他の能力と違って、明確に人格を持ってる。しかもとんでもなく頭のいい。

だから、数か月間で東京のほとんど全体を掌握した。

その能力は、伝承の内容から予測すると「宿った人の願いを叶える」能力。

多分お母さんの願いは「もう一度お父さんに会うこと」だから、能力はどんな手を尽くしてでも願いを叶えようとするはず。

だから、明日そいつと話してみる。

もしダメだったら、海未ちゃんのこと、お願い。

絶対成功させるから。待っててね。

南 ことり
114 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:34:44.24 ID:L0ciGIt40
――――――――――

ドンッ!

海未は悔しそうに、泣きながら強く机を叩いた。

海未「…私と笑っている裏でこんなことが起こっていたなんて…」

海未「私は何も気づけなかった…!」

海未「私なんかに…ことりを好きでいる資格なんてありません!」

ニコ『…』





ニコ『後悔しても意味はないわよ?』





海未「…!」
115 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:36:26.11 ID:L0ciGIt40
ニコ『今は、どうやってことりちゃんを助けるのか考えないと』

海未「…そうですね…」

海未(ことりはまだ、『8月15日に死ぬと飲み込まれる世界』の中にいるはず)

海未(私が…『夢』の中のあなたを絶対助けます!)

海未「まず、去年の8月15日に何が起きたか調べましょう!手伝ってください!」

ニコ『ふふっ…ばっちりやる気になったわね!やるわよ!』





もう一度、園田海未の戦いが、始まる。
116 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:36:58.10 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 07/25 08:00]
第八話「ニコの電脳紀行」
END
117 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:37:29.44 ID:L0ciGIt40
第九話「人造エネミー」
[054170 AD 2200 08/14 16:00]
118 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:38:21.87 ID:L0ciGIt40
けたたましいアラームの音で目を覚ました。

心臓が一気に高鳴り、白い天井が目に映る。

状況を全く理解できぬまま、脇にある小さい机をなぎ倒しベッドから転げ落ちた。

小さい机の上の目覚まし時計も同時に床へと落下する。

海未「…ッ!」

右のすねを大きく打った。

焼けるような痛みが一瞬遅れて脳に伝達される。

痛みと爆音への恐怖で涙目になりながら、雪崩落ちた布団を手繰り寄せ身体に巻き付けると、アラームの音が止んだ。

ニコ『おはようゴザイマス!お嬢様』ニコッ!

海未「…あなたねぇ…」イラッ

ニコ『…まぁまぁ、昨日も徹夜だったし、いつもよりかーなーりー遅く起こしてあげたのよ?』

海未「…そこにはお礼を言いますけど、明日はもう8月15日。早く手掛かりを見つけないと、新しい犠牲者が出てしまうかもしれません…」
119 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:38:59.37 ID:L0ciGIt40
海未(私たちは七月下旬からインターネット等を使って情報を集めましたが、ことりの自殺や絵里の失踪についての情報は全くありませんでした)

海未(ニコも、身体の在処の心当たりが無い)

海未(次の方法として、ことりの妹たちと接触するため、ことりの家を調べましたが、ことりお母様以外が出入りしている様子は無かったです)

海未(そして、何の進展もないまま、8月15日は目前という状態になってしまったんです)

海未はキッチンから炭酸飲料とあんこパンを持ってきた。炭酸飲料を一口飲んでから、ニコと意見を交わす。

ニコ『やっぱりそれ食べるのね。てか合うの?それ』

海未「意外といけますよ?私が好きなだけかもしれませんけどね」

ニコ「は、はぁ…」

海未「…さて、今日はどうするんですか?」

ニコ『とりあえずまた外に出るしかないんじゃないの?』

海未はキャップを開けたままの炭酸飲料をキーボードの左に置いた。

海未「まぁそうでしょうねぇ…。インターネットに何の情報も無い以上、外出は不可欠です」

ニコ『でも今日は真夏日…昼は最高35℃だったってさ。もう夕方だけど、最近はあんたも疲れてる。ぶっ倒れちゃうかもしれないわよ?』

海未「そうですね…。流石に…」スッ

そう言いながら炭酸飲料の左にあるパンに、ノールックで手を伸ばす海未。

海未「倒れてしまうかもしれませんね…」コツン
120 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:39:59.09 ID:L0ciGIt40
すると、左手に嫌な感触がした。

ニコ『あぁ!海未!飲み物飲み物!』

海未「え?」

―――キーボードとマウスに飲みかけの炭酸飲料が注がれていた。

海未「あああああああああああ!」

海未は傍らにあったティッシュを慌ててキーボードに叩きつけた。
121 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:40:38.92 ID:L0ciGIt40
拭き取りを終え、各キーを入力するも、反映されるのは「i,m,u,n」のキーのみ。

海未「…うう…。結構長持ちしていたのに…これでは自分の名前しか打てません…」

ニコ『ちょうどいいんじゃない?』

海未「え?」

ニコ『ちょうど行くところもなかったし、デパートに行ってみたら何か変わるかもしれないわよ?』

海未「…まぁ、その可能性は限りなく低いですが…」

海未「行く価値はありますね」

海未はクローゼットを開け、青いジャージとカーゴパンツを取り出す。

着替え終わると、机に置かれていたスマホのコードをパソコンに繋いだ。

スマホにロード画面が表示され、「100%」になると、ニコが画面内に現れる。

海未「いつもみたいに、行きましょうか」ニッ

ニコ『そうね』ニッ

海未はスマホにイヤホンを挿してトランシーバーのように構え、部屋のドアを開けた。

[054170 AD 2200 08/14 16:59]
122 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:41:42.50 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/14 17:23]

海未たちは外に出て、一路デパートを目指している。

ニコ『あんた歩くのおっそいわね…』

海未「…つ、疲れました…あなたはスマホの中に入ってるだけですからいいでしょうけど…」

海未(元の世界とは身体の使い勝手が違いますからねぇ…)

ニコ『あ、もうちょっとでデパートの前に出るわ』

すると、交差点の向こうに巨大なデパートが現れた。

ニコ『あれみたいね。ちょっと前に内装工事が終わって新装開店したらしいわよ?』

屋上の少し古びたジェットコースターを見て、海未は思い出した。

海未「…あぁ」

海未(…そうだ…ここは…)
123 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:42:51.43 ID:L0ciGIt40
――――――――――

『どうやらこのデパート、明日から改装工事で休業のようです』

『店舗の全システムをコンピュータで制御できるように改装するらしいですよ』

『ことりバカだから、コンピュータとか全然分かんないや…』

『それよりそれより!あれ乗ろう!』

――――――――――
124 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:43:40.96 ID:L0ciGIt40
ニコ『…海未?どうしたの?』

海未「…はっ」

海未「…キーボードとマウスを買う前に屋上の遊園地に行きましょう」

ニコ『…?何で?』

海未「『もう一度』、行ってみたくなっただけです」

ニコ『…?…まぁいいわ。信号が変わったわよ』

海未たちは大きな交差点を渡り始めた。

ニコ『うわぁ…。凄いわね…。ここまで来るとデパートより城って感じね』

海未「そうですね。遊園地もありますし」

ニコ『まあにこはこんな状態だから、今行っても多分楽しくないけどねぇ〜』

海未(そうです…!ニコの身体も…。遊園地もありますが、手掛かりも探さないと…)

ちょうど横断歩道を渡り終えた海未は、考え事をしていたせいか人にぶつかってしまった。

海未「あ、わ、すいませ――」



顔を上げ、不意に会ったその『目』を見て…一瞬時間が凍り付いた。



海未「!」
125 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:44:46.62 ID:L0ciGIt40
真夏だというのに薄紫の長袖のパーカーを着込んでおり、深く被ったフードの下からようやく目線が覗けるという程度ではあったが、海未はすぐに誰なのか解った。

海未(の、希…!)

海未(そして何より赤い『目』…。能力者の存在は本当でしたか)

海未(下手に出るよりは謝ったようが良さそうですね)

海未は頭を下げて言う。

海未「すいませんでした。考え事をしていまして」

希「別にええよ。ほな」

海未「…!」

頭を上げた時には、もう既に希の影も形もそこには無かった。

海未(…周りには人が多いといっても一瞬で人が消えるような密度はない…。隠れ蓑になるようなものも存在しません)

海未「…『自他の視覚情報を操る』能力ですか…」

ニコ『「東條希」って子?』

海未「そうです。ここに居たという事はこの建物に用事があるという事です」

海未「ここに来て正解でしたね」ニッ
126 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:45:46.47 ID:L0ciGIt40
海未「おおお…。自販機です…!」

何故か、「ここに着くまでは…」と我慢していた飲み物を手に入れる時が来た。

財布から160円ちょうどを取り出し、自販機に吸い込ませていく。

狙うは、世界一有名な黒色の炭酸飲料。

ボタンが点灯すると同時に速攻で押す。その時間わずか0.3秒。神がかり的な速度だ。

ゴトン

取り出し口に落ちてきたボトルの音が耳を潤す。

おもむろに手を入れ掴み取ったボトルは、この世のものとは思えない程に冷え切っていた。

できるだけ中の温度が上がらないよう、ボトルの液体の入っていない部分を持ち、素早くベンチに座る。

いよいよキャップを掴み開ける。「プシュッ!」という音が再び耳を刺激し、弾ける炭酸の香りが鼻腔を撫で回す。そして、口を付け喉に流し込む…。

海未「ぷはぁ…ああぁ…」

ニコ『海未…』ヒキッ

海未「あなたも飲んだらこうなりますよ絶対!」

チーン

ぞろぞろとエレベーターから出てくる人を横目に、海未は炭酸飲料のペットボトルを飲み干し、ベンチ横のゴミ箱に空容器を捨てた。

ニコ『階段でしか行けないみたいよ?遊園地』

海未「それは知っていますよ。大丈夫です」
127 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:47:18.24 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/14 18:16]

海未「…!」

海未の前には、「工事中:着工08/16より:立入禁止」と書かれた看板が立っている。

ニコ『立入禁止みたいねぇ…』

海未「行きます」

ニコ『えぇ?いいの?』

海未「いいんですよ」

海未(こうでもしないと、『あの子』の事を忘れてしまうから)

看板の横をすり抜け、前は開けっ放しになっていた重たい鉄扉を開けると、懐かしい風景が広がっていた。

お化け屋敷や上がったり下がったりするアレなどが、所々錆びた状態で放置されている。

観覧車は流石に動いていなかった。
128 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:49:09.69 ID:L0ciGIt40
前も座ったことがある気がする日陰のベンチに腰を下ろし、空を見上げる。

綺麗なマジックアワーだった。

そのままそっと、『あの子』の名前を口にする。

海未「…ことり」

海未(『夢』の中のあの子はどうしているのでしょうか)

海未(『夢』の外のあの子はどうしているのでしょうか)

海未(そんなことが最近、頭から離れなくなった)

海未「絶対に助けます」

海未「…『夢』の中でも、『夢』の外でm『あの〜…』

海未「ッ!?」

ニコ『…なんか熱くなってるところ申し訳ないんですが…早く行きませんか…?』

海未「…」

海未「〜〜〜〜〜!」

海未「解りました!///行きましょう行きましょう!////」

海未は恥ずかしがりながら小走りになって、西日の入り込む階段を下りていった。
129 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:49:35.97 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/14 18:24]
第九話「人造エネミー」
END
130 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:50:03.73 ID:L0ciGIt40
第十話「RED(ANIME Ver.)」
[054170 AD 2200 08/14 18:29]
131 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:51:27.92 ID:L0ciGIt40
海未「おお〜!凄いですね!」

その空間は、一面ガラス張りの窓に覆われ、未来的なホログラムのオブジェが荘厳さを醸し出す、家電売り場とは到底思えないような場所だった。

窓からは、オレンジ色の夕光が入り込んでいる。

遠くを見ると、「マウス・キーボード」と書かれた吊り看板が見えた。

海未はレジのあるスペースや、「PCとスマホを繋いで高画質ビデオ通話!」と称した、やたらと大きい看板の特集コーナーを横目に、吊り看板の真下に向かう。

ニコ『あっちみたいね。さ、早く買いましょう。暗くなっちゃうわ』

海未「いや、折角希が居たんですよ!?もう少し探し回ってもいいのではありませんか!?」

ニコ『まぁそうね…早く選んで東條希を探しま…』





―――突然だった。





バンッ!

132 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:52:03.88 ID:L0ciGIt40
本当に突然、イヤホン越しでも十分すぎるほどの爆音がフロアに鳴り響き、同時に叫び声が方々から聞こえてきた。

海未「!?」ビクッ

ニコ『な、なに!?え、ちょ、待って、イヤホン外さn―――

海未は咄嗟に両耳のイヤホンを外す。

海未「いったいなんで―――!?」

狭い通路を警戒しながらエレベーターホール方面に逃げようとすると、鉄製の何かが崩れ落ちるような音がした。

音の出所であるエレベーターホールの方に目をやると、先程自分が通ってきた通路をシャッターが塞いでいる。

シャッターの手前、少し広くなっているレジの周辺を見ると、爆音の正体が完璧なまでに理解できた。

レジ側では拳銃を持った、黒服でサングラスの少女たちが、フロアにいた人々を着々と一箇所に集めており、人々は後ろ手に縛られていく。

黒服のリーダー「これで全員ですか?」

黒服の下っ端4「リーダー!あと一人居ルビィ!」ギロリ

黒服の下っ端4「捕まえルビィ!」

海未「…!」
133 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:53:38.87 ID:L0ciGIt40
海未は人々と同じように後ろ手に縛られてしまった。

海未(捕まってしまいましたね…流石に銃を持つ相手は…)

海未(しかし、勝機はあります)

凛「もうちょっとで隙ができるにゃ。安心して」

海未の隣で、何故か凛も捕まっていた。

海未「…凛!どうしてここに!」

海未(しかし、何分か隣にいたはずなのに、気付かなかったのは何故でしょうか…?)

凛「…?何で凛の名前を知ってるの?」

海未「…それは…その…とにかく!手伝ってくれませんか?」

凛「え?何か作戦でもあるのかにゃ?」

海未「はい、あります。絶対に成功する、とっておきが」

凛「…」ウーン

凛「まぁいいにゃ。さっきも言ったけど、もうすぐ明らかに奴らに隙ができる瞬間が来る。そこを狙って君の作戦を成功させるにゃ」

海未「…本当に信じていいんですか?」

凛「うん、保証する」

海未「しかし…!」
134 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:55:08.83 ID:L0ciGIt40
黒服のリーダー「さっきからごちゃごちゃうるさいですわ!」

黒服のリーダー「あなたには一足先に死んでもらいます!」カチッ

黒服のリーダーは拳銃の銃口を海未に突きつける。

海未「くっ…」

海未の身体は未だかつて感じたことのない恐怖心で、ガタガタと震えていた。

周囲の人質たちもざわざわとし出す。

しかし、退いてはいられない。



戦うんだ。



黒服のリーダー「見た感じ外にも出てないんじゃないの?」

黒服のリーダー「あなたのような引きこもりであれば、死んでも誰も悲しみませんわ!」

海未「…いてください…」

黒服のリーダー「はい?何を言っているんですか?よく聞こえませんわ!」

海未はサングラス越しのリーダーの目を見て、確かに言った。





海未「あなたみたいな人こそ…一生牢屋に引きこもっていてください!」





黒服のリーダー「は?」ポカーン
135 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:56:14.97 ID:L0ciGIt40
凛「みんな!」



そう凛の声が聞こえた瞬間、黒服たちのすぐ斜め上の壁にかかっていた大型テレビが、ものすごい音と共に床に叩きつけられた。

あまりにいきなりの事態に、その場にいた全員がそちらに注意を向ける。

続けてその下に並んだ大型スピーカーが「何もされていないにもかかわらず」次々に倒れだした。

黒服のリーダー「えぇ!?何が起こりまして!?」バッ

海未「ぐっ!」ドサッ

リーダーは海未を叩きつけるように放すと、拳銃を手に駆け寄る。

黒服のリーダー「そこに誰か―――!?」

そう言い終わりもしない瞬間、今度はリーダーの近くの商品陳列棚が、中身を撒き散らしながら倒れてきた。

黒服のリーダー「ですわぁぁぁぁぁ!?」

他の黒服たちも倒れた棚などに巻き込まれていく。

海未(姿が見えないという事は…希の能力でしょうね)

そして、倒れた棚の奥に、「PCとスマホを繋いで高画質ビデオ通話!」と書かれたやたらと大きい看板が見えた。
136 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:56:52.50 ID:L0ciGIt40
その瞬間、ふっと手の緊張が解ける。

凛「それじゃあよろしくお願いするにゃ〜」

後ろを見ると、凛は縛られていたはずの手を振りながら、ニコニコと笑っていた。

心臓が今日一番に高鳴る。今朝のアラームの時よりも、力強い高鳴り。

床に手をついて立ち上がり、散乱した商品や棚を飛び越え、全力で先程の特集コーナーのパソコンの前に走り込む。

元々店のスマホに繋がれていたパソコンのケーブルを抜き取り、自分のスマホに挿した。

カチッ

海未「頼みましたよ…ニコ!」

『ふふん!』

ニコ『や〜っと私の番ね!』

パソコンのスピーカーから、いつも通り元気な友人の声が聞こえた。

その姿が、一瞬で周囲全てのディスプレイを駆け抜けていく。
137 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:57:59.28 ID:L0ciGIt40
すると突然、少し見覚えのある薄紫のパーカーが目の前に現れた。

「君のおかげや」

海未「…!?」

続いて虚空から、『見慣れたサイドテール』と『赤くて長い髪の女の子』が現れる。

希「『メカクシ…完了』!」

赤い目の希は、海未の方に振り返って笑った。



閉まっていたシャッターが開き、フロア中に夕焼けが充満する。



疲れ果てたのか、だんだん目が回って、白い床に仰向けに倒れた。



一面ガラス張りの窓からは、燦々と空に散っていく夕映えが見え、意識が朦朧としていく海未の目に滲んでいったのだった。
138 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:58:52.32 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/14 18:51]
第十話「RED(ANIME Ver.)」
END
139 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:59:27.78 ID:L0ciGIt40
第十一話「失想ワアド」
[054170 AD 2200 08/14 20:56]
140 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:59:57.59 ID:L0ciGIt40
カチカチと室内に時計の音が響く。

時刻は、もう午後九時になろうとしているところだった。

打ちっぱなしで配管が露出した天井には所々裸電球がぶら下がり、明るすぎることのない絶妙な生活空間を演出している。

海未(私はあの後気を失いましたが、希たちに助けられ、デパートを脱出。そして、『メカクシ団』と名乗る、能力者たちの団体のアジトに来ています)

海未(私を助けてくれたし、なにより全員μ'sメンバーです。悪い方々ではないでしょう)

海未(結局ニコはNo.6、私はNo.7という形でメカクシ団に加入しました)

海未は心地良い疲れを感じながらソファーに腰掛けている。

が。

海未(…ちょっと待って下さい)

海未(いつの間にやら完全に友達の家にお泊りに来た感覚になっています!!)

海未(まぁ、前に合宿はしましたけどねぇ…)

穂乃果「んにゃ…もう食べられません…あ、やっぱ食べましゅ…」

海未の左では、涎を垂らした無惨な穂乃果が、幸せそうな表情で眠りに落ちている。
141 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:00:32.90 ID:L0ciGIt40
海未(穂乃果は学校に行く途中で能力が暴発して逃げていたら希と出会ったようです)

海未(その後、お茶をこぼされてしまってスマホが壊れ、デパートに買いに行ったら私と立てこもり犯たちに遭遇した。簡単に言えば、そういうことらしいです)

海未(今は皆さん自分の部屋で寝ていますが、私たち二人は寝場所が無いのでとりあえずソファーに座っているわけです)

希は六人分の食器を洗い終え、エプロンを外しながら穂乃果に歩み寄る。

希「ふぅ。流石に六人分は堪えるね〜。それより…」

希「穂乃果ちゃ〜ん?部屋で寝た方がええんやないの〜?」ペチペチ

そう言いながら希が穂乃果の頬を優しく叩くも、本人は「えあ〜、意外と食べれますね…」と、夢の中で食事を敢行しているようだ。

海未「穂乃果は一回寝たら朝まで起きません。放っといてもいいですよ?」

希「そういう訳にもいかないやん。しょうがないから運んで…ッ!?」ズシッ…

希「穂乃果ちゃん…ッ!意外と…ッ!」ノシノシ

希は穂乃果の予想以上の何かに顔を歪めたまま、自分の部屋へと穂乃果を運んで行った。
142 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:01:16.07 ID:L0ciGIt40
部屋に一人だけになった海未はスマホを取り出す。

海未「…ニコ?起きてますか?」

スマホ『』シーン

海未「…まぁ、もうじき帰って来るでしょうね」

バタン

海未がそう言ってスマホの電源を落とすと、ドアが閉まる音と共に、希が肩を回しながら戻って来た。

希「穂乃果ちゃんはご飯の量を減らした方がええかもしれんね…花陽もやけど…」ハァ…

海未「お邪魔してしまって悪いです」

希「ええんよ。ウチらもちょっと寂しかったし。久しぶりに賑やかになって嬉しかったで」

海未「…そうなんですか」

海未「あの…あなたたちって…」

希「ん?なに?」

海未は聞いていいものなのか言葉に詰まるが、疲れと眠気も手伝って口を開いてしまう。

海未「あなたたちのその『目』、やっぱり普通じゃないですよね。だいだいのことは知っていますが、もっと詳しいことを知りたいんです」

希はキョトンとした顔で海未の話を聞いていたが、話し終わった途端、温和な笑みを浮かべる。

希「そういえば、詳しく話しておくべきやったなぁ」ニコッ
143 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:02:14.34 ID:L0ciGIt40
海未「え、いや、別にいいんですが、やっぱり詳しいことが聞きたくて…」

希「いや、話すべきことなんやけど…この能力のおかげでウチらは虐げられもしたんや。だから、すぐに話すことはできなかった」

希「まず、ウチがこの能力を手に入れたときの話からや」

希は、瞬きをして自分の目を赤く染めてみせた。

希「ウチの能力は、自分や周りの物体への認識を薄くする能力」

そう言うと、希はテーブルに置いてあった雑誌を手に取った。雑誌にはでかでかと穂乃果のグラビアが載っている。

穂乃果の目は、フラッシュが眩しくて目を瞑ってしまったのか半開きになっていた。

希がそれをテーブルの下に隠して数秒すると、テーブルから出した手には何も無くなっていた。

希「発動の瞬間を見られてると効果が無いんや。だから隠したんよ」

希「『これ』を手に入れる前、ウチにも親が居た。と言っても母親は血が繋がってなかったけどね。酷い父親だったんよ。毎日遊んで回った挙句に会社は倒産。それでもって最期は家に火をつけた」

海未「ぇえ…そんなことが…」

希はその壮絶な過去を落ち着いた口調で語った。

希「はは、酷い話やろ?でも、本題はここからや」

海未「は、はい…」

希「父親が火をつけたとき、ウチとウチの家族は全員家の中に居たんや。ウチは姉と二人で逃げられなくなっちゃってね」

海未「し、死んでしまうではありませんか…」

希は海未が怯えているのに気づき、意地悪な笑みを浮かべて話を続ける。

希「そう、死んだんや。いよいよ息も出来なくなって、身体も燃えた」

海未「ひいぃ…」

希「そして、その時見たんや」

希「家の壁がぐにゃりと裂けて、大きい牙の付いた口みたいなものが拡がったのを!」

海未「うわぁあ!」

希はノリノリでそう話したが、一向にその先を話さず、腕を組んで得意げな表情をしていた。

海未「………それで?」

希「ん?終わりやよ?」
144 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:02:55.08 ID:L0ciGIt40
海未「え?」ポカーン

肩透かしを食らったような感覚に、開いた口が塞がらなくなる。

海未「じゃ、じゃああなたはその口みたいなものに食べられているはずでしょう!?それに能力が何なのかも解らないし…」

希「能力は家の焼け跡で目が覚めたら使えるようになってたんよ。負ったはずの火傷もある程度消えてるし、不思議な話やね」

海未「そ、そのぱっくり開いた口ってものは何だったんですか?」

希「それも姿を見ただけで、その後の記憶が何にも無いんや。恐らく飲み込まれたんやけど、助かったのはウチだけやし、一体何がどうなってこうなったのかは、よう分からんよ」

海未「なるほど…ってことはあなた達も案外よく分かっていないということですか」

希「うん。もちろん、お姉ちゃんの持ってた情報も含めて、調べられる限りのことは調べているつもりや」

海未(しかし、私がこちらの世界に来たときも、何か口のようなものに飲み込まれています。では、『夢』の外にも『夢』の中にも同じものが存在しているという事ですかね?)

海未「他の二人はどうなんですか?凛や花陽もその『大きな口』に飲み込まれたって言っているんですか?」

希「凛はまったく同じものを見たって言ってたけど、同じように記憶がないみたいや。花陽は川で溺れて以来らしくて、見たかどうかも曖昧みたいやね」

海未(それでは、穂乃果が能力者ならば、三人と同じことが穂乃果にも起きていたと考えられますね)

海未「今までの話をまとめると、あなたたちの言う目の能力は、死ぬ直前に見た『大きな口』が原因だと私には思えます」

希「ん〜…。あとなぁ…」

海未「?」
145 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:03:34.12 ID:L0ciGIt40
希「いや、ウチらは三人とも『誰かと一緒に』死にかけているんや」

希「でも、助かっているのはウチらだけ。しかも一緒に居た人間は『消失』してる」

海未「…!」

海未「あの、希の家が火事になったとき、一緒に居た家族はどうなったんですか?」

希「父と母だけ見つかった。ただ、姉は見つかってない。焼け跡から生きて発見されたのはウチだけや」

海未「ってことは…」

海未「あなたたちは、誰かと一緒に『大きな口』に飲み込まれて、その後それぞれ一人だけ能力を得て帰ってきた…?」

希「そして、一緒に飲み込まれた人間は誰一人発見されてない…。とすると、『大きな口』の中に飲み込まれたままになってるって考えるのが妥当やね」

海未(ん…?)

海未「…じゃあ、真姫は?真姫には能力があるんですか?先程の様子を見るに、何か人間をフリーズさせる能力を持っているんじゃ…」

海未「あの後すぐに倒れたので、一瞬しか見ることができていませんけどね」

海未(そういえば…何故か真姫が小さくなっていました…何時ぞや『夢』の外でも見ましたね。まぁ、何の影響も無いとは思いますが)

希「…!確かに…。真姫が能力を手に入れた経緯は分からんね…」

希「花陽が真姫を連れてきてから、能力に関してのことは聞いたこと無いよ」

海未「じゃあ、花陽から何か聞いていないんですか?」

希「いや、聞こうとすると、途端に悲しい顔をするから聞くのをやめといてるんや。多分、真姫の辛い記憶かなにかを能力で読み取ってしまったんやろね」

海未「…じゃあ、真姫の家に行ってみるのはどうでしょうか」

希はハッとした顔をする。

希「それや」

希「ウチらも後々行こうと思ってたんよ。でもなぁ…」

海未「でもなぁ…とは?」
146 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:05:02.46 ID:L0ciGIt40
希「明日はお姉ちゃんの命日やから、お墓参りにも行きたいし…」

希「それに穂乃果ちゃんの携帯の事もあるし、申し訳ないけどウチらはノータッチになってしまうかもしれへんなぁ…」

海未(やはりそうですよね…でも)

海未「…場所さえ教えてくれれば、私だけでも行きます」

海未(私は二人のことりを救わなければいけない。少しでも手掛かりがありそうなら…)

希「真姫は家の主やから絶対行くと思うし、花陽もついていくと思うよ」

希「さ、そうと決まれば明日は早起きや!早く寝た方がええで。それじゃあお休み〜」

希は、さっさと部屋から出て行ってしまった。

海未はソファーに力を抜いて座ったまま、薄暗い部屋に一人残される。

海未「今日は色々なことがありましたねぇ」

アジトには壁掛けの鳩時計やらデジタル時計やらが至る所に置かれている。棚の上に置かれた、よく解らない液体のようなものが垂れている機械も、時計なのかもしれない。

時計たちは、各々の方法で午後十時を示していた。

そんなことを考えていると、どっと眠気が襲ってくる。

海未「今日はここで寝てしまいましょうか…」

海未は、家のベッド以外で寝るのは合宿の時以来だなと思いながら、目を瞑った。
147 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:05:53.84 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/14 22:01]
第十一話「失想ワアド」
END
148 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:08:24.64 ID:L0ciGIt40
第十二話「シニガミレコード」
[054170 AD 2200 08/15 08:04]
149 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:10:45.43 ID:L0ciGIt40
海未「はぁ〜…疲れましたぁ〜…」ゴロン

海未は草の絨毯の上に寝転んでいる。

海未「…それにしても真姫はとんでもないところに住んでいたんですね。というか周りに何も無いではありませんか。食べ物などはどうしていたんでしょうか…」

花陽「ん〜っと…食べてなかったみたいだよ?飲み物は飲んでたみたいだけどね。私だったら、ずっと何も食べないなんて無理だよぅ」

木々の生い茂る森の中心部。

いや、中心部なのか分からなくなるほどに、ぐにゃぐにゃと複雑な進路の先にあった真姫の家に、海未たちは来ていた。

森の中に、急にこんな棒状の巨大な建物が現れたら、驚きを禁じ得ないだろう。隣には蔵のような建物もある。

海未「…それで、いつになったら中に入れるんですかね?」

花陽「真姫ちゃんが部屋を片付けるって言ってたから、しょうがないと思います…」

海未(…何故ここで友達の家に遊びに来た感が生きているのでしょうか…)

パタン

まき「遅くなってごめんね〜。もう入って大丈夫だよ!」

そんなことを考えていると、真姫がそう言って窓から手招きをしたので、海未と花陽は家に入る。

玄関を開けると、そこはまるで原寸大になったドールハウスのような空間だった。

部屋中を本棚が囲い、その中はびっしりと古書で埋め尽くされている。

まき「わたしはそっちの蔵の中を探してみるから、二人はこっちを探してね。疲れたら休んでてもいいよ!」

そう言うと真姫は、持っていた二つの鍵を鳴らしながら先程の玄関からトコトコと出て行った。

花陽「じゃあ、とりあえず座ろう?」

二人は部屋の中心にあるテーブルについた。
150 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:11:18.83 ID:L0ciGIt40
海未「ところで花陽」

花陽「はい?」

海未「そもそもあなたは…何故真姫と出会ったのですか?」

花陽「…は、はい」

花陽「ちょっと長くなるけど、話すね」

海未「…お願いします」

花陽「私の能力は他人の考えてることを読み取れる能力」

花陽「だから、どこに行っても虐げられたりしてきたんです」

花陽「ずっと一緒だったお兄ちゃんも、私が川で溺れたときに私を助けて、そのまま行方不明になっちゃったから、分かってくれる人がいなくなっちゃったんだ」

海未「…」

花陽「その後は孤児院をたらい回しにされちゃって…その時に希ちゃんや凛ちゃんと同じ部屋になって、追い出されないように三人で色々考えてみたんだけど、虐げられることに変わりはなかった」

花陽「そんな時に私たちを引き取ってくれたのが、ことりお姉ちゃんのお母さん。そこで、お姉ちゃんにも出会った」

花陽「そしたら、毎日がすごく楽しくなって。外で遊んでたら、いつの間にか森の中に迷いこんじゃってたんだ」エヘヘ

海未(遊んでいるだけで迷い込むものなのでしょうか?)

花陽「そんな時に、能力が暴発しちゃって。そしたら、声が聞こえてきたの」

花陽「『お願い。誰か、誰か助けてよ』」

花陽「『寂しいよ』って」
151 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:12:02.84 ID:L0ciGIt40
花陽「声のする方向に走っていくと、この家があって、ベランダに真姫ちゃんが居た」

花陽「それが、真姫ちゃんとの出会い」

花陽「そして、『今の』メカクシ団ができる時にアジトに真姫ちゃんを連れてきた。こんな感じだよ」

海未「…ん?」

海未「『今の』とはどういうことですか?前身があったという事に捉えられますが…」

花陽「あ、まだ誰も話してないんだ。もともとメカクシ団はことりお姉ちゃんが、私たちを楽しませるために『秘密組織ごっこ』として始めたものだったんだ」

花陽「その後、お姉ちゃんがいなくなっちゃって、私たちが家を出て行ったとき、今の団長の希ちゃんがその名前を気に入ってたから、そのまま使い始めたって感じかなぁ」

海未「…だから、ことりは赤いマフラーを夏でもつけていたんですね」
152 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:12:56.31 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 08:45]

まき「…怪しいよね?」

海未「…怪しいですね」

花陽「…怪しいね」

テーブルの上には、長方形の古びた木箱が置かれている。

海未(真姫が蔵の中から見つけて来たこれは、側面に鍵穴がついており、真姫が持っている鍵のもう一つと一致する形をしていました)

まき「…じゃあ、開けるよ」

海未「…はい」

真姫は鍵を鍵穴に差し込み、ゆっくりと回す。

カチャッ

すると、小気味のいい音が部屋中に響いた。

何が入っているかは全く解らないため、蓋を慎重に開けていく。

海未「…!」

中には、深い紺色の辞典のようなものが入っていた。

海未はそれを取り出し、テーブルの上に置く。

RPGなどに出てくる魔法書のような風体のそれは、ものすごい威圧感を放っていた。
153 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:13:54.02 ID:L0ciGIt40
海未「何年ほど前から使われているのでしょうか…」

まき「…少し曖昧だけど、百回くらい夏を数えたから、百年以上前からだと…」

海未「…ひゃ、百年!!?」

花陽「ピャア!」

海未「…すみません、驚いてしまって…」

海未「…それを信じるとすれば、百年以上の間、何をしていたんですか?だいたいご両親とかは…」

海未がそう言うと、真姫はビクッと肩を震わせ、膝の上で拳を握りしめた。

海未(何か聞いてはいけない事だったのでしょうか…)

海未「…も、もし尋ねてはいけないことだったのであれば…「いいの」

まき「海未ちゃんは初代団長さんを助けようと頑張ってるって、希ちゃんから聞いたの。だから何か役に立つと思うから、話すね」

花陽「…無理して話さなくてもいいんだよ?」

まき「大丈夫。わたしは海未ちゃんの助けになりたいの」

花陽「…うん」
154 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:14:23.59 ID:L0ciGIt40
まき「…ちっちゃい頃お父さんが死んじゃって、その後はお母さんと二人だった」

まき「でもわたしが言いつけを破って外に出ちゃったときに、そこに怖い人たちがいて、多分お母さんを連れて行っちゃったの」

海未「…そ、それってどういう…」

まき「えっと、お父さんは違うんだけど、わたしもお母さんも生まれたときから目が真っ赤で、お母さんは『私たちは絵本の中に出てくるメドゥーサなんだよ』って言ってた」

まき「『外の人は自分たちと違う私たちを怖がるから』って。だからお母さんは外に出ちゃダメって言ってたのに、わたし…」

海未「…」

花陽「…」

部屋がシンと静まり返る。

海未(ん…?)

海未(メドゥーサというのはギリシャ神話の蛇の怪物…。蛇と言えばあの伝承…)

海未(伝承の中身はニコと一緒にだいたい調べてあります)

海未(そして、真姫の母親が『いなくなった』と言う話)

海未(昨日の希の話を思い出します。もう少し詳しく聞きたいですね)

海未「…真姫のお母様がいなくなったのは何月頃でしたか?」

まき「う〜ん…。確か暑かった気がするなぁ…」

海未(やはり!)
155 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:15:01.02 ID:L0ciGIt40
――――――――――

『私の三人の義妹…東條希・小泉花陽・星空凛は、『8月15日に』それぞれ姉、兄、母と一緒に死亡し、得体の知れない世界に飲み込まれ、その後生き返って帰ってきた』

――――――――――
156 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:16:45.52 ID:L0ciGIt40
海未(真姫の母親も、夏に得体の知れない世界に飲み込まれている!)

海未(これなら真姫が『生き返って帰ってきた』ことになって、真姫が能力を持っている理由が証明できます)

海未(…しかし、それでは真姫の母親の目が赤いことが証明出来ません)

海未(…他にも聞いてみましょう)

海未「真姫とお母様は生まれた時から能力を持っていた、と考えていいんですか?」

まき「え?うん、そうだよ。ちっちゃい頃からお母さんに『使っちゃダメだよ』って言われてたけど」

海未(真姫と真姫の母親だけ、生まれた時から能力を持っている?希の話で能力の生まれ方には見当がついてきたというのに…)

海未「お母様がいるなら、お祖父様とお祖母様もいるはずです。何か知りませんか?」

まき「わたしは会ったことないよ。おじいちゃんは普通の人間だったから、おばあちゃんより早く死んじゃって、おばあちゃんは悲しんでどこかに行っちゃったんだって」

まき「その時のことは、お母さんも小さかったから、あんまり覚えてなかったみたい」

海未(祖母も何処かに行ってしまった…?自主的なものであるという事は、飲み込まれた訳ではない…?)

まき「それに、その本は日記みたいだよ。お母さんが毎日つけてたの。もともとおばあちゃんのものって言ってた」

海未「…!」

海未は目の前の深い紺色の『日記』を見た。

海未(…これを見れば、全てが解るという事ですか…?)

花陽「これって真姫ちゃんのみたいなものなんだし、先に真姫ちゃんが目を通した方がいいと思うんだけど…」

まき「別にいいよ。わたしは、皆の『辛いこと』がちょっとでも良くなるかも知れないなら、大丈夫」

海未「…解りました。では、拝見させて頂きます」

二人が海未の周りに集まる。

海未は、ゆっくりとその表紙を開いた。
157 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:17:29.19 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 9:23]
第十二話「シニガミレコード」
END
158 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:17:58.52 ID:L0ciGIt40
第十三話「エリの世界事情」
[054170 AD 2200 08/15 12:15]
159 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:19:08.05 ID:L0ciGIt40
〜東京:公園〜

まき「やっぱり、そうなっちゃうよね…」

海未、花陽、まきの三人は、天気がいい大都会、東京に戻ってきていた。

先程昼食を摂り、今は公園近くのベンチで『日記』の内容を論議している。

海未「真姫には悪いです。『自分のお祖母様が原因で皆に迷惑がかかっている』ということになってしまいますからね」

花陽「で、でもここまで正確に書かれてたら、信じるしかないよ」

海未「『日記』の内容は、大まかにまとめましょう」

海未「真姫の祖母は、世界が生まれる前から概念として存在していたが、ある日、自分が何者なのかを考えたことにより、身体と蛇の能力を手に入れることができました」

海未「彼女は自分のことを知るため旅に出た。しかし『化け物』として虐げられてしまう。彼女は、人間を嫌うようになります」

海未「そして、蛇の能力を使って『この世で一番人に注目されないような場所』を探し当て、そこに一人で居続けようとしたが、そこに真姫の祖父が現れます」

海未「彼女は、彼に『一人で家を作れ』という無理難題を課して追い払おうとしたが、彼は本当に家を作り始めました」

海未「家の建設の最中、なかなか帰ってこない彼を心配したりもし、彼女は彼に好意を抱き始めます」

海未「そして家の完成後、彼は彼女にプロポーズをし、二人はめでたく結ばれました」

海未「…ここまではいいんです」

海未「『能力』について書かれているここからが本題ですよね」

海未「ではもう一度、私たちが把握している能力のことについて話し合いましょう」
160 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:20:01.42 ID:L0ciGIt40
花陽「まず、『目を隠す』。対象への認識を薄くする、希ちゃんの能力だね」

まき「『目を盗む』は、相手の思考、記憶を読み取る花陽ちゃんの能力」

海未「『目を欺く』は、生物に見た目だけ変化する、『目を奪う』は対象の注目を集める能力。それぞれ凛、穂乃果のものです」

海未(能力については、伝承の説明と全く一致しましたね)

花陽「真姫ちゃんの『目を合わせる』を抜けば、今のところ分かってるのは四人だけど、海未ちゃんはまだいると思ってるんでしょ?」

海未「少なくともニコはそうです。詳細が語られなかった『目が覚める』か『目が醒める』のどちらかでしょう」

海未「そして、ニコの話を聞くには、穂乃果の担任であることりのお母様が、一連の事件の原因となっている能力者だと思われますね」

海未「あと、ニコはことりのお母様が『覚める』や『醒める』と言っていたところを聞いている…」

海未「ということはこの二つの能力はことりのお母様の実験に使われた能力だと推測できます」

海未「こういうことが出来る『目が冴える』は相当に手強いですね」

まき「『目が冴える』…その能力だけ明らかに他と違うもんね」

海未「他にも能力の定着には時間が必要だという趣旨の内容もありましたね。花陽はどうだったんですか?」

花陽「う、うん。私も能力を使えるようになったのが六歳くらいの時で、十五歳になったら急に操れるようになったよ」

海未「結果をまとめれば、『目が冴える蛇』が真姫のお祖母様を唆し、十の能力を使わせて『得体の知れない世界』を創らせた、ということになります」

海未(『得体の知れない世界』は、『目が冴える蛇』の言葉を信用すると、一生死なずにループし続ける、『終わらないセカイ』であると考えられますね)

海未(『終わらないセカイ』の手掛かりも、やっとありました)

海未(要するに、『「終わらないセカイ」を終わらせろ』ということは『ループを止めろ』という事ですか)

海未(このまま突き詰めれば、『夢』の外に帰れるかもしれません…)

花陽「ん〜…」

まき「どうしたの?」

花陽「なんか…『得体の知れない世界』だと呼びにくくないかな?」

海未「そうですね…」

うみぱなまき「う〜〜〜ん」

海未(8月15日に飲み込まれる、得体の知れない世界…)

海未(…!)

海未「……イズ」
161 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:20:57.49 ID:L0ciGIt40
まき「?」

花陽「何か思いついた?」

海未「…『カゲロウデイズ』というのはどうでしょうか」

花陽「…カゲロウ?」

まき「…デイズ?」

海未(あの世界の特性を鑑みれば、終わらない二日間を描いたあの曲にぴったりです)

海未「『カゲロウ』は現れてはすぐ消えるという意味でですね。『デイズ』には二つの意味があって、眩むという意味のdazeと、dayの複数形であるdaysをかけたものです」

まきぱな「お、おお〜」パチパチ



「あ、いたいた。海未ちゃ〜ん」



海未「?」

誰かに呼ばれ、後ろを振り向く海未。

後ろには希と穂乃果が立っていた。

海未「…希ですか。携帯は買えましたか?」

希「まぁちょっと混んでたけど買えたよ。な、穂乃果ちゃん」

穂乃果「う、うん。でも…」

まき「…どうして凛ちゃんがいないの?」
162 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:21:36.65 ID:L0ciGIt40
花陽「確かにそうだね…」

希「いや、レジの辺りまでは居たんだけど急にいなくなっちゃって、連絡もつかなかったから、とりあえず集合場所に来たんや」

海未「そうですか。後で探さなければいけませんね。しかし、相変わらずニコはいませんし…」



ピーポーピーポー



海未「ん?救急車ですか?」

希「大通りの方からやね」

穂乃果「見に行ってみる?」

海未「気になりますし、行ってみましょうよ」
163 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:22:28.97 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 12:32]

〜大通り〜

海未「何ですかね…」

見てみると、自分たちより少し下、中学生くらいの女の子が倒れている。

周りには人だかりができているため、誰なのかは判別できない。

人と人の間から、その中心にいる、自分より少し年上に見える少女の姿が見える。

海未「…!?」



その姿には見覚えがあった。

ブロンドの髪と、日本人離れした顔立ちは、着ている服こそ違えど、



まさしく絵里だった。



海未「…え?何で…絵里が?」

少女は駆け付けた救急隊員によって担架に乗せられ、そのまま救急車に運ばれる。

絵里らしき人物もそこに乗り込むと、救急車の後部扉が閉まり、絵里らしき人物の姿は見えなくなった。

海未「…くっ」

海未「あの救急車を追いかけます!ついてきてください!」

花陽「えぇっ!?急にどうしたんですかぁ!?」

海未「走りますよ!」ダッ

希「…まぁ、とにかくついていった方がええね!」

穂乃果「…あの人、どっかで見たことある気が…」ウーム

まき「えぇ〜っ!走るのぉ!?」

五人は、救急車を追って大通りを駆けていく。
164 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:23:28.81 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 13:21]

〜病院:診察室前〜

病院は大通りに面しており交通量が多いため、車のエンジン音が病院の中にまで聞こえてくる。

海未「本当に何も覚えていないのですか?」

海未「…絵里」

海未は、病院の診察室の前で待っていた絵里らしき人物と、会話を交わしている。

他のメカクシ団メンバーはロビーでダウン中だ。

エリ「…多分、いろいろ勘違いさせちゃってると思うチカ」

海未(…やっぱり変です)

海未(絵里はもっとこう…キリっとしているはずですが…)

海未(簡単に言えば、アホっぽいです)

海未(何故か語尾に『チカ』と付いていますし…)

エリ「どうしたチカ?」ズイッ

海未「!?」

海未(ちょ!顔が近いです!)

エリ「熱でもあるチカ?」

エリが自分の額を海未の額に当てようとする。

海未(えええええ!?)
165 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:24:34.60 ID:L0ciGIt40
その時。



ガシャン!



今にも額同士が触れそうな瞬間、エリが抱きかかえていた少女が運ばれた診察室から、大きな物音が聞こえた。

エリ「チカッ!?」

海未「!?」グイ

海未はエリを押しのけ、慌てて診察室の扉を開ける。

するとそこには、先程の少女が床に倒れ込んでいた。

海未「…!?」

海未「あなたは…ゆ、雪穂…!?」

倒れ込んでいる雪穂は四つん這いの姿勢から立ち上がろうとするも、立ち上がれないようだった。

海未「とにかく寝ておいた方がいいですよ!ほら!」

海未は雪穂に手を差し伸べるが、雪穂は怯えるように手を振り払う。

『夢』の中で初めて真っ向から見る雪穂の顔は、大量の涙で濡れていた。

海未(これは…)

海未(黒目が赤く染まりかけています…)

雪穂「誰…!?邪魔…しないでッ…!」
166 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:25:06.37 ID:L0ciGIt40
海未(まさか…『カゲロウデイズ』に…?)

雪穂は一度ふらつくも、その後しっかり自立し部屋の出口に向かって歩き出した。

海未「待って下さい!話だけでも…」

雪穂「亜里沙…亜里沙のところに行かなきゃ…」

海未「…亜里沙」

海未(この口ぶり、そして今の時刻…)

『8月15日の午後十二時半くらいのこと』

海未(亜里沙は『カゲロウデイズ』に飲み込まれた?)

そう考え込んでいるうちに、雪穂は部屋を出て少ししたところでエリと対面していた。

海未はそれに気付いて雪穂を追いかける。

雪穂「あんたのせいだ…あんたさえいなければ…」

エリ「…」

エリは言葉を返せずにいる。

雪穂「もういい。私が行く…行かなくちゃ…!」ダッ

そう言った瞬間、雪穂は休日で無人の病院の廊下内を駆け出した。

海未「あっ!待って下さい!」

エリ「雪穂、私のせいで怒ってるチカ…ついてきてくれない?」

海未「…は、はい。いいですよ。…でも追いつけるんですか?」
167 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:26:19.74 ID:L0ciGIt40
海未(雪穂はかなりの速度で走っている…あのまま走れば病院の敷地内を抜け出してしまうでしょう)

海未(…それに雪穂は『カゲロウデイズ』に接触したとみられます。そうなると能力を持っているはず。何の能力か分からない以上危険です。捕まえるしかない)

エリ「ごめんチカ。ちょっと痛いかもしれないけど…」グイ

海未「…う、うわああああ!」

エリは、海未を赤ん坊のように軽々と持ち上げ、肩に担ぐように乗せる。

エリ「いくチカ」

そうエリが呟いた瞬間、爆音と衝撃と共に、ものすごい勢いで廊下の風景が流れ出した。

海未「ぎゃあああああ!!!」

エリが足を踏み込み、その勢いで何十メートルもひとっ飛びしているのだと気づくのにおよそ二秒。

エリ「ご、ごめん。もうちょっと我慢するチカ」

エリは軽々と着地し、もう一度足を踏み込む。すると、今度は地面が一気に遠のいていく。

それは、上への大ジャンプだったのだ。

海未「……!!!」

海未は声も出せないまま、蝉の声が五月蝿く、蒸し暑い屋外へ飛び出した。

先程飛び出した窓が、既に小さくなり始めている。

エリ「あっ、みつけたチカ」

エリはそう呟くと、海未への衝撃に備えてくれたのか、担ぐような姿勢から脇の下に抱え込むような姿勢に切り替えた。

海未「…ッッッ!!!」

海未はギュッと目を瞑る。

ダンッ!!!

海未とエリは病院の前の横断歩道に降り立った。

しかし雪穂は全速力で、青信号が点滅する横断歩道を渡っていく。

エリ「あ、行っちゃったチカァ…」

すぐに信号は変わってしまい、信号無視して渡ろうにも、交通量の多さが邪魔をして渡れない。
168 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:27:00.96 ID:L0ciGIt40
エリ「ど、どうしよう…」アタフタ

海未「…ちょっと…降ろしてくださいぃぃ…」

エリの腕の中では、海未がグロッキー状態になっていた。

エリ「あ!ご、ごめんなさい!」バッ

海未「あ、はい…いいんですよ…」

海未はフラフラしながら立ち上がる。

ふとエリの目を見ると、その目は赤く染まっていた。

海未(やはりエリも能力者…名前からして『凝らす』の可能性は低いので、『覚める』か『醒める』のどちらかでしょうね)

「お〜い!」

すると、後ろから声が聞こえ、海未は振り返る。

希「海未ちゃ〜ん!」

海未「あぁ、希たちですね」

希たち四人が病院の入り口から、海未の元に歩いてきた。

海未(そうですね…希たちが居れば…)

希「…あれ?その人はどちらさま?」

海未「エリ、という名前らしいです。さっき倒れていた女の子の知人で、記憶がないんです」

エリ「よろしくお願いするチカ」
169 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:27:53.85 ID:L0ciGIt40
希「へぇ、記憶喪失…」

穂乃果「…やっぱりこの人、どっかで見たことある気がする…」

海未「どうやら、さっき倒れていた女の子は能力者のようです。先程見失ってしまったので、みんなで探そうと思いまして」

花陽「の、能力者…?だったら、捕まえないと大変だね」

まき「手分けして探すのがいいと思うよ?」

海未「そうですね。じゃあ、私、真姫、花陽と、穂乃果、希、エリの二チームに分けましょうか」

希「いい考えやね!」

海未「それでは、捜索を開始しましょう!」
170 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:28:35.31 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 13:27]
第十三話「エリの世界事情」
END
171 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:29:04.87 ID:L0ciGIt40
第十四話「夜咄ディセイブ」
[054170 AD 2200 08/15 16:49]
172 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:29:43.12 ID:L0ciGIt40
〜住宅街〜

海未「はぁ…とんだ失態です…」

海未(まさか探している最中に、真姫と花陽からはぐれてしまうとは…)

海未(スマホの充電は…)

『2%』

海未(…電話は無理ですね…。アジトで充電しておけば…)

すると、知人の後ろ姿が目に入った。

オレンジ色の髪と、小さな体躯。

海未「凛!」

凛「!?」ピクッ

海未「何故ここにいるんですか?」

凛「…海未ちゃん」ニコニコ

振り返った凛の顔は、『夢』の外での笑顔とそっくりだった。

しかし、何処か違和感がある。

海未(能力を使っているのでしょうか…)

凛「…知りたいなら付いてくるにゃ」

そう呟くと、凛は一人でどんどん進んで行く。

海未「あっ!待って下さい!」
173 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:30:50.02 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:06]

〜音ノ木坂学院〜

海未「こんな隠し階段があったんですね…」

海未と凛は、互いに一言も会話を交わさないまま住宅街を歩き、今は音ノ木坂学院内の隠し階段を降りている。

凛「…ここにゃ」

階段を降り終わると凛が照明を付けた。

すると目の前には、水槽の中で薬品漬けにされたにこの身体があった。

『やっと…戻れる…』

海未「…ニコ!?」

凛「ここにいるよ」

凛がスマホを見せると、ニコの姿が映し出されていた。

ニコはただ、呆然と自分の抜け殻を見つめている。

凛「戻るのには多少時間がかかる…その間に凛の昔話をするから」

海未「…はい」
174 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:31:47.30 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:06]

〜音ノ木坂学院〜

海未「こんな隠し階段があったんですね…」

海未と凛は、互いに一言も会話を交わさないまま住宅街を歩き、今は音ノ木坂学院内の隠し階段を降りている。

凛「…ここにゃ」

階段を降り終わると凛が照明を付けた。

すると目の前には、水槽の中で薬品漬けにされたにこの身体があった。

『やっと…戻れる…』

海未「…ニコ!?」

凛「ここにいるよ」

凛がスマホを見せると、ニコの姿が映し出されていた。

ニコはただ、呆然と自分の抜け殻を見つめている。

凛「戻るのには多少時間がかかる…その間に凛の昔話をするから」

海未「…はい」
175 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:32:33.31 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2199 05/15 17:21]

〜公園〜

凛はことりに『相談したいことがあるから公園にいて』と言われ、ブランコに座って考え事をしていた。

凛「一体何の話なのか…気になるにゃ」

凛「姉ちゃんは勉強のこととか、そういうことで相談してくるような人じゃない。まさか…」

凛「…恋愛、とか」

凛「いやいやそんなわけないよ!特撮ヒーローとか少年漫画しか見ないのにそんな少女漫画みたいな!」

凛「…そういえば」

凛「結構前に『いい友達ができた』って言ってたにゃ」

凛(去年はその『友達』と音ノ木坂学院の学園祭にも行ってたはず。尚且つ同じクラスになったらしい…)

凛「…そいつかにゃ?」

凛「もし姉ちゃんに手を出した日には…」

ことり「遅くなっちゃった!」

凛「!?」ビクッ

ことりは威勢のいい声と共に現れ、凛の座っていたブランコの右のもう一つに腰掛けた。
176 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:33:28.75 ID:L0ciGIt40
ことり「…?どうしたの?」

凛「いやいや、なんでもないにゃなんでも!」アタフタ

ことり「…?それより、いきなり呼び出しちゃってごめんね?」

凛「いいよいいよ。いきなりなんていつもの事だよ。で、話ってなんにゃ?」

ことり「あ、うん。えっと…」

凛「ど、どうしたの?」

ことり「いや、ちょっと言いにくいことでね。何から話そうかな〜って」アハハ

凛「…そんなに重い話?」

凛(凛がそわそわし出すと、姉ちゃんは決心がついたのか、口を開いた)



ことり「…いや、ね。お父さんの…死んじゃった理由、なんだけど」



凛「え?」

ことり「お父さんさ、土砂崩れに巻き込まれたって話だったでしょ?」

凛「うん。…その日、凛たちも行く予定だったよね」

ことり「私が熱を出したから…私たちは死ななくて済んだ」

凛「う、うん。…皮肉だけど、そうだよ。それと、何で凛たちもついていかなきゃいけなかったの?」

ことり「説明するためには、これを見た方が分かりやすいと思う」ガサゴソ

ことりはそう言って、学生鞄の中から大きな茶封筒を取り出した。
177 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:33:54.33 ID:L0ciGIt40
「伝承についての調査記録書」と書かれたそれは、随分色々な所に持ち歩かれたのか、よれよれになっている。

ことり「これ読んでもらう前に、ちょっとお話ししてもいい?」

ことりは、凛の目を覗き込みながら言う。

その目には覚悟を決めたような強い意志が感じられた。

凛「もちろん、何だって聞くにゃ!」

ことり「…ありがと。それじゃあ本題に入るね」

ことり「覚えてる?ちっちゃい頃皆で『秘密組織ごっこ』して遊んだこと」

凛「…『メカクシ団』のこと?」

ことり「そう。皆の『目の力』は私たち四人の秘密だったよね」

凛「なんでそんな昔の話するの?姉ちゃんの相談事と関係あるのかにゃ?」

ことり「…うん」

ことりは大きく深呼吸をし、再びゆっくりと語りだした。

ことり「お父さんね、『目の力』のこと、最初っから全部知ってたの。三人を『蛇の力』から助けるために、あの孤児院から引き取ったの」

凛「…う、嘘」

凛「必死で隠したのに…この家からは追い出されないようにって…!」

ことり「とにかく、この封筒の中身を読んで。花陽が言ってた『赤くて長い髪の女の子』らしきことも書いてあるの。ここ…」
178 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:34:35.40 ID:L0ciGIt40
――――――――――

[054170 AD 2199 07/09 17:28]

〜公園〜

ことり「…やっぱり、お母さんに取り憑いた『冴える蛇』、お母さんの願い事を叶えようとしてるみたい。『お父さんにもう一度会いたい』って願い事」

凛「そ、そんなことできるの?」

ことり「『こっちの世界』に『化け物』を創ればできるんだって。そしたら、『向こうの世界』の人に会える…!」

凛「そ、それ最高にゃ!凛たちも手伝お「ダメッ!!」

凛「…え?なんで…」

ことり「…『化け物』を創るためには、命の代わりになってる蛇を最低でも五匹、集めなくちゃいけない」

ことり「しかも五匹だけだと願いが暴走して、完全に制御できない。九匹でもダメ。だから…だから…お父さんを取り戻すには…必ず十匹分の蛇が必要なの…」

凛「…!」

凛「…じゃあお父さんを取り戻そうとすると…」

凛「凛たちが、死ぬってこと…?」

ことり「そう…!お父さんだったら、私たちの大好きなお父さんだったら、絶対にそんなことは望まない…!」

――――――――――
179 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:35:45.91 ID:L0ciGIt40
――――――――――

[054170 AD 2199 08/14 17:15]

〜公園〜

凛「姉ちゃんの先輩って…にこさんと絵里さん?」

ことり「そう、あの蛇、二人に向こうにいる残りの蛇を取り憑かせようとしてる。多分、あの世界に飲み込ませるんだと思う」

凛「それって人を殺すことになるにゃ!いくらなんでもそんなことしたら…」

ことり「…無理なの」

ことり「あの蛇はもう、お母さんの身体でたくさん悪いことをしてるの。病院も、警察も、学校も…他もみんな、あの蛇に協力してる」

凛「…そ、そんな…」

ことり「ねぇ、凛。私、あの蛇と話してみる。もう、それしかないから…」

凛「え…!?そんな…話なんて出来っこないよ!簡単に人を殺すような奴なんだから!」

ことり「そうかなぁ?逆に拍子抜けしておしゃべりしてくれるかも」

凛「ふざけないでよ!姉ちゃんまでいなくなったら凛たちは…凛たちはどうすればいいの!?」

ことり「大丈夫!平気だって!私は皆とず〜っと一緒に居るつもりだよ?」

ことり「だから、世界を嫌いにならないで?きっと、幸せになれるから」ニコッ

凛「…!」

――――――――――
180 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:36:31.64 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2199 08/15 18:24]

〜音ノ木坂学院:屋上〜

夕焼けの屋上には、親子が立っていた。

母の目は夕焼けのように、赤く染まっている。

娘の赤いマフラーは、屋上の強い風になびいていた。

ことり「…あなたは間違ってる!」

ことり母「…随分酷い言い様じゃない。私は願いを叶えようとしてるのよ?」

ことり「違う!」

ことり「お母さんは、皆が死ぬことなんて望まない!にこさんも、絵里さんも、家族の皆も、殺そうとしたりなんかしない!」

ことり母「確かにそうね。私の宿主はそんなこと望んではいないわ」

ことり母「しかし貴方たち人間にはつくづく呆れる。まぁ、それがいいところなんだけどね」

ことり母「…相応の願いには相応の犠牲が伴う。貴方たちだって口ではよく言うじゃない」

ことり母「私は願いを叶える能力よ?宿主の願いがあるから、能力である私は存在できる」

ことり母「私は自分が消えさえしなければ、他の事はどうでもいい」
181 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:37:48.02 ID:L0ciGIt40
「人の心も」

「命も」

「理想も」

ことり母「願いの前では等しく無価値なの。解る?」

ことり「…ッ!」ギリッ

ことり「…狂ってる…!」

ことり母「…!」

ことり母「それは光栄なことねぇ。そして貴方はどうするつもりなの?」

ことり母「まさか『誰も殺さないでください』でどうにかなるなんて思っていないわよね?」

ことり母「いくら貴方が馬鹿とは言っても、それじゃあまりにも、愚図ってものね」

ことり「…作戦ならあるよ?」

ことり母「…?」

ことり「…『こっちの世界』に全部の蛇が集まらなかったら、お母さんの願いは叶わないんでしょ?」

ことり母「…まぁそういうことになるわね」

ことり母「死んだ命を生き返らせるには、全ての蛇を司る『化け物』が必要不可欠よ」

ことり「…だったらさ」

ことり母「…?」

ことり「もしも私が蛇の能力の一つを手に入れて…」



「『向こうの世界』から戻ってこなかったらどうなるの?」



ことり母「…!」

ことりは後ろ歩きで屋上の柵の方まで移動していく。

心配になり、ずっと聞き耳を立てていた凛は、たまらず屋上のドアを開け放った。



バンッ!



凛「姉ちゃん!ダメにゃ!」
182 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:38:28.45 ID:L0ciGIt40
夕風が屋上の端に立つことりの髪とマフラーを棚引かせている。

辺り一面の橙に包まれたその姿は儚く、今にも消えてしまいそうに思えた。

ことり「凛…なんで…!」

凛「変な事言わないでよ!…ずっと一緒だって言ってくれたでしょ!」

ことり母「馬鹿なことはやめなさい?そんなことをしたらどうなるか…」

ことり「もう成功しないって分かった作戦なら、続ける意味は無い」

ことり「にこさんも、絵里さんも、家族の皆も、殺す意味なんて無くなるよね?」

ことりはフェンスの上に座り、空へ手を伸ばす。

すると、何も無い空間から沢山の蛇が現れた。
183 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:40:08.08 ID:L0ciGIt40
ことり「…死んだ人を引き込むんだよね、これ」

凛「やめてよ!姉ちゃん!」

ことり「ごめん、凛。やっぱりお姉ちゃん、カッコ悪いね。ちょっとだけ…」










怖いや。










(姉ちゃんは、そう言って、涙を零しながら、)



(落ちた)



(沢山の蛇が姉ちゃんの落ちて行った先に喰らいついていった)



凛「…あ、あぁ…」

凛「ああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!」
184 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:40:38.18 ID:L0ciGIt40
凛は、泣き叫びながら膝から崩れ落ちる。

ことり母「…はぁ、まさかこんなことになるとはね…。つくづく、貴方たちには呆れてものも言えないわ」

凛「…殺してやる…ッ!」

凛は立ち上がって、襟に掴みかかる。

凛「殺してやる殺してやる殺してやるッ!」グイッ

ことり母「貴方も分かってるでしょ?貴方の母親を生かしてあげてるのも私よ?だったら殺すも何も無いじゃない」

ことり母「…とはいえ、あの子のおかげで計画は失敗だわ。こっちに全ての蛇を集められなくなった以上、宿主の夫は連れ戻せないわね」

凛「だったらもう何もしないでよ!お母さんだけでも返してよ!」

ことり母「…やっぱり馬鹿ね」

ことり母「失敗したならやり直せばいいのよ、最初から」
185 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:41:20.44 ID:L0ciGIt40
凛「…え?」

ことり母「…そうねぇ」

ことり母「貴方、あの子の死体のフリでもしてたらどう?そういうの得意でしょ?」

凛「何言ってるの…」

ことり母「勘違いしないでね?貴方も、貴方の家族も、生かしてあげてるのは私なの」

ことり母「自分の家族が惨たらしく殺されるのが見たい?見たくないわよね?」

凛「う…あ…」

ことり母「貴方の能力はそこそこ使える。いう通りにしてれば悪いようにはしないわ」

ことり母「いい?貴方が何をしようと、運命は変わらないわ。家族そろって早死にしたくなければ、気を付けなさい」

凛「…あ、あぁ……」

ことり母「貴方たちは私の掌の上で生きてるのよ?忘れないで」
186 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:42:47.20 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:11]

〜音ノ木坂学院:地下〜

二人は薄暗い研究施設の廊下で座って話していた。

海未「…そんなことが…」

海未「…絶対に許せません。自分の利益のためだけに、誰かの大切な人を殺すなんて」

凛「…今、奴はこの建物内にいる。奴の下僕になってた時に聞いたよ」

海未「じゃあ、このまま奴を倒すことも出来るという事ですか…」

凛「そういうことにゃ」

凛「今は、協力してくれるみんながいる。知ってることは全部話すよ」ニコッ

凛は、『夢』の外と全く同じ、本当に晴れやかな笑顔でそう言った。

シューッ

すると、自動ドアが開く。

「先生も親切ね。制服がそのまま置いてあったわ」

海未「…!」

海未「にこ…!」

にこ「大銀河宇宙No.2剣士≪無双の歌姫・YAZAWA≫!ふっかーつ!」

にこ「…って訳だけど、何かあっちから穂乃果ちゃんの声聞こえない?」

『だって〜可能性感じたんだ』

『そうだ、ススメ〜』

海未(『ススメ→トゥモロウ』ですか。『夢』の中でも…)

海未「…とにかく奥に進んでみましょうか」

凛「そうにゃそうにゃ!行ってみた方がいいよ!」

にこ「そうね!」

三人は奥の方へと駆けていった。
187 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:43:56.75 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:12]

〜音ノ木坂学院:地下〜

海未「しかし…一体何処から聞こえているのか…」

すると。

ドガァン!

うみりんにこ「!?」

にこ「…何よ〜…あっちの方から?」

凛「あ!あれ!希ちゃんたちにゃ!」

廊下の奥の方に、少し明るくなっているところがあり、瓦礫が散乱している。

そこには希、穂乃果、エリ、雪穂、花陽、真姫の姿があった。

にこ「…え」

にこ「…嘘…絵里が…」

にこは目を丸くして突っ立っている。

海未「…にこ」

なるべくショックを与えないよう、語るように話す海未。

海未「あの絵里には記憶がありません。私との記憶も、あなたとの記憶も…」
188 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:44:31.72 ID:L0ciGIt40
にこ「そ、そうなの!?元には戻るの!?教えてよ!?」グッ!

海未に掴みかかるにこ。

海未「お、落ち着いてください!」

にこ「ご、ごめん…」パッ

海未「さっきの凛の話と照らし合わせれば、彼女の精神は『カゲロウデイズ』の中にあると考えられます」

にこ「じゃあ、『カゲロウデイズ』を壊せば…」

海未「彼女の記憶も戻るはず。今はどうやって壊すか、それを考えましょう」

希「海未ちゃん!良かった!」

希たち六人が駆け寄ってくる。

海未「色々なことが解りました。説明するので、皆さん聞いてください」

海未「今から、『カゲロウデイズ攻略作戦』を開始します!」
189 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:45:14.33 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:12]
第十四話「夜咄ディセイブ」
END
190 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:45:41.09 ID:L0ciGIt40
第十五話「チルドレンレコード」
[054170 AD 2200 08/15 17:16]
191 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:46:11.30 ID:L0ciGIt40
〜音ノ木坂学院:地下〜

学校の地下を駆けるメカクシ団。

にこ「つまりまとめると…」

穂乃果「私たちは雪穂ちゃんを捕まえたんだけど」

希「その後、白い服の人たちに捕まって、牢屋みたいな部屋の中に放り込まれたんや」

エリ「けど、ホノカの歌が聞こえたから私とハナヨとマキが助けに駆け付けて、私が部屋を壊して三人を助けたチカ」

雪穂「そういう事」

雪穂「あと、さっき能力で調べた通り、もう少しで『あいつ』がいる部屋に着くよ」

希「…あと、凛…」ジトー

凛「…!?」ビクッ

花陽「後でゆっくり、もう一回聞かせて。もうすぐ目的地なんでしょ?『全部終わってから』、ね?」

希「そうやね。今最優先なのは凛ちゃんのことじゃなくて、『カゲロウデイズ』の方や」

凛「みんな…」

凛「…うん!」

海未「とにかくもう少しで例の部屋です。気を引き締めましょう」

海未「エリは私の合図に合わせて扉を蹴破って下さい」

エリ「…解ったチカ」
192 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:46:56.43 ID:L0ciGIt40
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〜地下空間〜

そうして作戦を確認しているうちに、例の部屋の前に辿り着いた。

海未「凛。準備は大丈夫ですか?」

凛「全然オーケーにゃ〜」ニコニコ

凛の笑顔は少しだけ『夢』の外とは違っている。

海未「さて、私と凛とエリ以外は『隠れ』ましたね…」

海未「…それではエリ、頼みます」

エリ「…いくチカ!」グッ



ドガン!!



途端、ホルマリンの香りが立ち込める。

辺り一面には有色のケーブルが這い回り、研究機材が乱立していた。

他にも、夥しい数のモニターが光っている。

薄暗い研究室の最深部、海未たちに真向かうようにして「奴」は座っていた。



「…もう夕方よ?」



ことり母「学校で騒ぐなんて…教育がなってないんじゃないの?」
193 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:48:18.36 ID:L0ciGIt40
海未「気に食わないのなら説教でもしてみてください!」

海未は怯えた様子も見せずにことりの母に歩み寄っていく。

海未(この『作戦』なら…必ず成功します!)

海未「あなたの策略はもう解っています。『カゲロウデイズ』のことや、『化け物』のことも」

海未「どんなつもりかは知りませんが、もう終わりです。今すぐ降伏して、あなたの息がかかっている連中を全員止めてください」

海未「さもなくば、エリがあなたを酷い目に遭わせますよ?」

エリ「今の先生は先生じゃないチカ!絶対許さないチカ!」

すると、少しの間をおいて、ことりの母が立ち上がった。

ことり母「…ふふっ」

ことり母「…じゃあ、こういうのはどう?」

ことりの母は、おもむろに懐からハサミを取り出して両手で握り、自分の首に向けた。

凛「…な、何してるにゃ!」

ことり母「え?何って…」

「貴方の母親を殺そうとしてるのよ?」

凛「…!」

凛の顔はどんどん青ざめていく。

ことり母「さぁ、どうするの?貴方たちの命と宿主の命…どっちが大事?」

凛「…ッ!」

海未「…」

ことり母「…待たせないでくれる?さっさとしないと…」

海未「…だから、『もう終わりだ』と、さっき言いましたよね?」
194 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:49:14.36 ID:L0ciGIt40
ことり母「…え?」





「『メカクシ完了』…やね」





突如空間が揺らめいたかと思うと、眼前に紫色のフードが現れた。

続けざまに表れた赤髪の少女の瞳が、ことりの母の双眸を捉える。

一つの言葉も残さずに、ことりの母は動きを止め、握っていたハサミを取り落とした。

希「…ふぅ。どうやら上手くいったみたいやね」

凛「どう?凛の演技力!すごいでしょ〜」

希「能力使ってたやろ…」

海未「向こうが宿主の身体を人質にするのは予測がついていましたから。相手を慢心させるためにも、凛の存在は必要でした」

まき「じゃあ、この人を縛って、アジトに連れて行けばいいんだよね」

海未「はい。身体の自由さえ奪えば危機は避けられるでしょう。あとは煮るなり焼くなりして『カゲロウデイズ』の情報を吐かせますよ!」

凛「…言っておくけど、身体は凛たちのお母さんのものだからね?」

海未「はい?解ってますよ。さてエリ。そのワイヤーで縛っちゃってください」

エリ「チカッ」

エリは海未の指示を受けて取り出した鉄ワイヤーで、ことりの母の身体をグルグルと巻き始める。

雪穂「これで亜里沙を…」

にこ「やっと、これで終わり…!」
195 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:49:56.48 ID:L0ciGIt40
その場にいる全員が安心しきっていた。





しかし。





それは一瞬だった。

ことりの母の身体から黒くて長い『何か』が出現し、エリの身体に巻き付く。

エリ「え?」

海未「…!?」

エリ「ぐ…!に、逃げて…ッ!!」グルグルグル

エリが叫んだ次の瞬間、エリの身体からどす黒い影のようなものが飛び出し、その身体を縛り上げていく。

海未「…エリッ!聞こえますか!…くっ!一体どうなって…!」

今や黒い塊のようになったエリの身体は、ドクンドクンという音を立てながら変貌していく。
196 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:50:37.51 ID:L0ciGIt40
海未が近付こうとすると、塊の中から酷く歪んだ声が漏れ出してきた。

エリ「ダ…ダめ…チカ付かナイで…!」

海未「待っててください!今助けます!」

そう言って海未が塊に手を伸ばした瞬間、弾けるようにそれが霧散する。

塊のあった場所には、見た目こそエリと瓜二つだが、下卑た笑みを浮かべる少女が立っていた。

海未「え…?」

少女はゆっくりと口を開き、エリの声でこう言った。



「ゲームオーバーよ、園田海未」



海未「…な!?」

少女は落ちていたハサミを目にもとまらぬ速さで拾い上げ、握りしめる。

そしてそのスピードのまま、





…ハサミを海未の喉元に突き刺した。
197 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:51:32.41 ID:L0ciGIt40
海未「……?!」

海未「…あっ…がっ……はっ…はあっ…!」

目の前がだんだん暗くなっていく。



首元が熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。仲間たちの叫び声が聞こえる。



薄れゆく意識の中で、最期に見たのは、










大きな口のようなものだった。
198 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 17:53:03.68 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:35]










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