海未「『ひとりぼっち』の、君となら」

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1 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:41:26.90 ID:L0ciGIt40
[AD 2013 08/15 09:43]

〜音ノ木坂学院:廊下〜

海未(今日の練習は十時からですが、早く来過ぎてしまいました…)

海未(今は練習に行くため、部室に向かっています)

海未(夏休み真っ只中ですが、まだ早朝なので涼しいですね)

海未「誰か来てますかね…」

ガチャ


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1534311686
2 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:42:58.06 ID:L0ciGIt40
初投稿です。
・あくまで「ことうみ」中心のパロディSS。
・途中より、多少呼び方の改変があります。ミスではございません。
3 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:43:32.78 ID:L0ciGIt40
ことり「♪」イヤホン

海未「…おや?ことりではありませんか」

ことり「あ!海未ちゃん!おはよ〜」

ことりはこちらに気付き、イヤホンを外した。

海未「おはようございます。ことり、何を聴いているのですか?」

ことり「これだよっ」スマホサッ

海未「カゲロウ…デイズ?曲ですか?」

ことり「まあ聴いてみてよ!多分びっくりすると思うから!」
4 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:44:04.04 ID:L0ciGIt40
〜〜〜視聴中〜〜〜
5 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:44:40.96 ID:L0ciGIt40
海未「…何と言ったらいいのか…ストーリー性があって凄いですね」

海未「VOCALOIDと言うものは知っていましたが、こんな曲もあるとは」

ことり「同じ投稿者さんの他の曲とも繋がってるの。音楽がストーリー仕立てになってるんだぁ〜」ニコッ

海未「そうなんですか。では他の曲も聴いた方がいいですか?」
6 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:45:07.02 ID:L0ciGIt40
〜〜〜『コノハの世界事情』視聴中〜〜〜
7 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:45:55.58 ID:L0ciGIt40
海未「確かに歌詞も繋がっていて、メロディーもところどころ似通っていますね」

ことり「の曲の参考にもなりそうだね。あと、小説や漫画もあるんだよ」

バタン!!

穂乃果「おっはよー海未ちゃん!ことりちゃん!」

すると、スーパーのレジ袋を持った穂乃果が、乱暴に扉を開けて入ってきた。

海未「おはようございます穂乃果」

ことり「おはよう穂乃果ちゃん!」

穂乃果「今日は暑いから飲み物買って来たよ!」

穂乃果「売り切れちゃっててこれしかなかったんだ。ごめんね〜」

穂乃果はレジ袋から『世界一有名な黒色の炭酸飲料』の缶を三つ取り出す。

海未「こっ、これは…!」
8 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:47:01.37 ID:L0ciGIt40
海未「炭酸ではありませんか!私は飲みませんよ!」

穂乃果「え〜せっかく買ってきてあげたのにぃ〜!」プンプン

穂乃果「ぅ絵里ちゃんにあげるからいいもん!もう海未ちゃんって呼ばないからね!」バタン!!

穂乃果はそう言い放つと、炭酸飲料の缶の一つを握り、開けっ放しになっていたドアを乱暴に閉めて廊下に出て行った。

海未「…はぁ…何を言ってるんですか…『海未ちゃんって呼ばない』とは…」

ことり「後で一回話せば多分大丈夫だよ。穂乃果ちゃんはいい子だから」ニコニコ

ことり「…あ、そういえば話が途中だったね」

ことり「練習の休み時間に他の曲も聞かせてあげるから!」

海未「解りました。それでは練習の準備を始めましょう」

ことり「うん!」
9 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:48:30.58 ID:L0ciGIt40
第一話「カゲロウデイズ」



[AD 2013 08/15 11:01]

〜音ノ木坂学院:屋上〜

パンパン!

海未「はい!休憩ですよ!水分補給をしっかりしてくださいね〜」

凛「あついにゃ〜!」ダッ!

穂乃果「死んじゃうよぉ〜!」バッ!

にこ「暑いにこ〜!」シュン!

絵里「今日も元気ね〜」ニコニコ

三人が猛ダッシュで日陰に向かうのを、絵里は遠くから笑って眺めている。
10 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:49:40.10 ID:L0ciGIt40
真姫「…見事に三馬鹿だわ…」ヤレヤレ

にこ「なぁっ!?真姫ちゃ〜ん?それは聞き捨てならないわねぇ!」

穂乃果「ちょっと真姫ちゃん!酷いこと言わないでよ〜」

凛「そうにゃそうにゃ!」

真姫「事実デッショー!?」

希「合宿の後最初の部活やけど、今日も皆平常運転やね〜」

ことり「私も暑いけど頑張るよ!」

海未「ふぅ…」

海未はペットボトルを右手に持ち、もう片方の手のタオルで汗を拭きながら、ことりのことを見つめていた。

海未(全く仲が進展しませんねぇ…私が積極的でないのが原因でしょうか…)

海未(私自身、嫌われたらどうしよう、とか断られたらどうしよう、って思ってるんですけど)

海未(まぁとにかく、今は練習を頑張って、学園祭でのライブを絶対に成功させます!)

「…海未?」

海未「?…あぁ、絵里。どうしたのですか?」

絵里「少し話があるの。来て?」

海未(何でしょうか?緊張しますね)

海未(まぁ、今すぐ異世界に飛ばされたりしても、冷静でいる覚悟は出来ていますからね。何のために武道をやっていると思っているんですか)
11 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:50:44.16 ID:L0ciGIt40
〜音ノ木坂学院:屋上階段〜

海未「…それで、何の用でしょう?」

海未はペットボトルに口を付ける。

絵里「…あなた、ことりのこと好きでしょ?」ニヤリ

海未「ブッ!」

絵里「ちょっと海未!急に吹き出さないでよ!量が少なくて良かったけど!」

海未「…すいません…驚いたもので…」フキフキ

海未「…そして、何でそれを知っているんですか!」

絵里「練習中の態度で解るわよ?ずっとことりを見てるじゃない?」

海未「うぅ…え、絵里だって!」

絵里「何?」ニヤニヤ

絵里も自分の水を飲もうと、口を付ける。

海未「…恋する乙女の顔でにこを見つめてるじゃないですか!」

絵里「ブッ!」

絵里「…はぁ…はぁ…何でそれを…」フキフキ

海未「…誰でも解りますよ、無自覚かもしれませんが!いつでもニヤニヤしながらにこを見ていますからね!」

絵里「フフフ…おあいこってところね…早く練習に戻るわよ」

絵里「あ、そういえば」

海未「…?」

絵里「ことりの一人称に気を付けて話をしてみたらどう?」

海未「…?」

海未「はい?」
12 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:51:16.82 ID:L0ciGIt40
[AD 2013 08/15 12:20]

〜通学路〜

練習終わり。

海未とことりは二人で炎天下の中を歩いていた。

海未「暑いですねぇ〜。何処かで休憩したいです」

ことり「もうちょっとで公園だから、一回休憩する?」

海未「そうしましょうか。暑くて倒れてしまいますよ…」

ことり「…ねぇ、海未ちゃん?」

海未「はい?何でしょう?」

ことり「海未ちゃんの一番好きなものって…なに?」

海未「…え?そうですね…」

海未「ことりとこんな風に話す、こんな日常が好きですよ」ニコッ

海未(よし、かっこいいことを言えました!)グッ

ことり「…そ、そう」シュン…

海未(え?何故?)

ことり「…あ!そういえば!」

海未「?」

ことり「今日の六時過ぎくらいに海未ちゃんの家に行くから!」

海未「どうかしたのですか?」

ことり「う、うん」

ことり「…言いたいことがあるの」
13 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:52:41.76 ID:L0ciGIt40
[AD 2013 08/15 12:29]

〜音ノ木公園〜

滑り台の頂上に座る二人。

黒猫「ニャーン」

黒猫がことりの膝の上に乗る。

海未「この辺りに猫とは。珍しいですね」

ことり「凛ちゃんがいるよ?」

海未「そういうことではないですよ…」

黒猫「ニャー」トテトテ

すると、黒猫は急に起き上がって走っていった。

ことり「あ!」

ことり「追いかけてみよっ!」

ことりは無邪気に、大通りの方に向かって走り出す。
14 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:54:40.76 ID:L0ciGIt40
海未「待って下さいよ〜!ことり〜!」

しかし、海未は少し進んだところで見てしまった。





『信号機が赤に変わっているのを』





海未(これじゃあまるであの歌と同じ…)

焦りながら走る速度を上げる。

少し先、黒猫が車道に飛び出していくのが見えた。

それを追ってことりも。
15 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:56:04.70 ID:L0ciGIt40
海未「はぁ…はぁっ!」ダッ

海未はやっとの思いでことりに追いつくが、案の定トラックが迫っている。

ことりはまだ気付いていない。

海未「危ない!ことり!」

ことり「え?海未ちゃ…あ」



クラクションの鳴る方を見て、呆然とすることり。



海未は手を強く伸ばした。やっとの思いでことりの手を握ったが、もう遅い。



全身に鈍い痛みが走る。



最期のその時、轟音と共に二人が見たのは、





大きな口のようなものだった。





[AD 2013 08/15 12:32]



第一話「カゲロウデイズ」



END
16 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:56:40.39 ID:L0ciGIt40
第二話「アウターサイエンス」

[×× ×××× ××/×× ××:××]
17 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:57:08.97 ID:L0ciGIt40
海未「ここは…?」



とにかく暗い場所だ。



右も、左も、上も下もない。



寒くもなければ暑くもない。



そんな場所だ。
18 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:57:56.62 ID:L0ciGIt40
『…願うか。愚かな人間よ』

唐突に耳元で、そんな言葉を囁かれたような気がした。

海未「…!」

海未「ここは何処なんですか?そして貴方は…」

海未「…そうだ」

海未「ことりっ!?」

???『…ことりとは、こいつの事か?』

急に闇の中から、蛇のようなものに纏わりつかれ、気を失っていることりが現れた。

少しだけ、涙が溢れる。

海未「どうしたら…どうしたらことりを返してくれるんですか!?」

少なくとも今は、得体の知れないこの声に縋るしか無かった。

すると、少しずつ闇が固まり何かの形を成していく。

気付けば、目の前には巨大な蛇の頭があった。

蛇はシュルシュルと舌なめずりをしている。
19 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 14:59:29.87 ID:L0ciGIt40
???『こいつが愛しいのなら、願え』

『「助けたい」と』

そう言われた途端、夢中になって願った。

海未「助けたい…ことりを助けたいです!」

大好きな人を助けたい、と。

???『そうか』

???『じゃあ「夢」の中のゲームを始めようか』

その瞬間、何故か、つい先程まであった意識が朦朧として来た。

何もかもが闇に溶け込んでいくような感覚。

途切れそうになる意識の中で、最後に聞いたその言葉が、消え入る心に染み付いた。



『ゲームをクリアすれば、お前は夢から目覚め、こいつを助けることが出来る』



『逆に言えば、クリアできるまでお前は夢から覚めることは無い。こいつも助からない』



『日が沈むまでに「終わらないセカイ」を壊せ』



『それが、こいつを助ける方法だ』
20 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:00:03.79 ID:L0ciGIt40
[×× ×××× ××/×× ××:××]

第二話「アウターサイエンス」

END
21 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:01:32.35 ID:L0ciGIt40
――――――――――
ここから夢の中に突入です。
建物や背景は基本的にシャフトっぽい感じと思っておいてください。
あと、描くタイミングが無かったので夢の中のストーリー開始時の学年を書いておきます。
ただし全員学校に行っているとは限りません。
海未:中三
ことり:中三
絵里:高一
にこ:高一
希:中二
花陽:中二
凛:中二
穂乃果:中一
雪穂:小六
亜里沙:小六
――――――――――
22 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:02:24.86 ID:L0ciGIt40
第三話「ことりの幸福理論」
23 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:04:36.32 ID:L0ciGIt40
海未「うわああああああああ!!」

勢いよくベッドから起き上がった。全身汗びっしょりだ。何が起きたか分からなくなっている。

海未「はぁ…はぁ…ふぅー…。はぁー…」

一旦落ち着いて深呼吸をし、情報を確認する。

海未(確かに、ことりと私はトラックに…轢かれました)

海未(急に見た『夢』の中で私は、ことりを助けたいと願った)

海未(そして、交差点に居たはずなのにどこか知らない、未来的な場所に寝ています)

海未(轢かれたのに、何処か身体が痛いわけでもないです)

海未(自分でも意味が解りません…とりあえずここが何処なのか知らなければ)

海未(…かなり広い部屋ですね…)キョロキョロ

海未(まず、時間を確認しましょう。今は…)

海未は時計を探し、辺りを見回した。

海未(向こうの机にはパソコンのデスクトップ、ハサミなど文房具の入ったペン立て…)

海未(ベッドの横には小さい机がありますね。…あ、デジタル時計がありました)

海未「え〜っと…え!?」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 15:07:12.20 ID:6iZStTzv0
つまらない
25 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:07:22.48 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 07/24 06:28]

海未(嘘…2198年…未来ではないですか…)

海未(そういえば、外の景色も未来的ですね…)

ドンドンドン!!!

急にドアが乱暴に叩かれた。

海未「ひッ!」ビクッ

ガチャ

穂乃果「お姉ちゃんうるさいよ!まだ六時半なのに!」プンプン

海未(穂乃果!?お姉ちゃん!?何でですか!?)

海未(どうやら『夢』の中では私の妹が穂乃果になっているようです!)

穂乃果「お姉ちゃん!聞いてるの!?お母さんがご飯作って置いてったから早く食べないと!中学校に遅れちゃうよ!?」

海未「…あ、ぁあそうですね、食べましょうか」

穂乃果「早く来てねっ!冷めちゃうから!」ドタドタ

海未(穂乃果には悪いですが、その前にもう少し情報が欲しいです)
26 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:08:18.17 ID:L0ciGIt40
海未(机の上には中三の数学の教科書…今私は中学生ですか…)

海未(部屋のレイアウトは変わっていないようですが、和室ではなくなっていますし、何より独創的でハイテクになっています)

海未(デスクトップに表示されたものが、大きな窓にも映し出される仕組みのようですね…)

海未(とにかく、朝食を食べて中学校に急ぎましょう。何か情報が得られるかもしれません)

海未は辺りを見回しながら階段を下りて行った。
27 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:09:49.66 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 07/24 07:27]

〜通学路〜

着替えて朝食を食べ、歯を磨いた海未。

穂乃果はまだ準備中だ。

海未(玄関を開けると、そこには奇抜な街並みが広がっていました)

海未(そして少しの時間通学路を歩いていると、ついに見つけたんです)

ことり「おはよ〜海未ちゃん!ちょっと遅れちゃった」

海未(ことりが生きている…)

海未(ここは現実でないとは解っていますが…良かったです)

海未(しかし…なぜ真夏なのに赤いマフラーをしているのでしょう?)
28 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:10:43.98 ID:L0ciGIt40
ことり「おーい海未ちゃん?どうしたの?」

海未「…あぁすいません、ちょっと考え事をしていまして」

ことり「早く行かないと遅刻しちゃうよぉ〜」

ことり「学校まで競争しよ!しゅっぱ〜つ!」ダッ

海未「あっ!待って下さい!」

海未(しかし…『終わらないセカイ』とは何なのでしょうか?)

海未(…後々解ることでしょう)

海未(今はとにかく、ことりを追いかけましょうか!)

海未は朝早い街並みの中を走り出した。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 15:11:12.41 ID:2WzEv8VC0
クソSSやな
30 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:13:20.15 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 07/24 11:28]

〜音ノ木坂中学校〜

サッシ越しに蝉の声が薄く聞こえる、クーラーの効いた教室で、ことりが後ろの自分のロッカーに物を仕舞う。

そして、ローファーが床とぶつかる音を鳴らしながら、自分の席へ戻ってきた。

海未はその姿を目で追っている。

校内での内靴はしっかりと指定されている訳ではないようだ。

ことり「…あの先生、きっとエイリアンだよね。何言ってるか全然分かんないもん」

ことりは座ってから辺りを見回したかと思うと、ヒソヒソとそう言った。

海未(外は快晴。明日から夏休みだからか、他の生徒たちもやる気が無いようですね)

海未たちはそれぞれ、教室の一番後ろの窓際の席とその隣に腰掛けている。

海未「あなたが授業を分かってないだけでしょう?教えてあげましょうか?」ハァ…

海未(この『夢』の中のことりは勉強ができないようですね。穂乃果みたいです)

ことり「別に海未ちゃんに教えてもらわなくてもできるもん!」プンプン

海未「でも、この前のテストも赤点だったらしいじゃないですか。このままだと夏休みは補習だらけになってしまいますよ?」

ことり「…それは嫌だ」

ことり「だってことりにも色々用事あるもん…」

ことり「海未ちゃんとだって遊びに行きたいし」ウワメヅカイ

海未「…!!///」ドキッ

海未「…教えてあげます。ここはこうで…」

夏休み直前の休み時間が進んでいく。
31 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:14:35.32 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 08/15 00:14]

〜海未の部屋〜

深夜の大都市には雨が降っている。

海未は部屋の電気を消してベッドに寝転がり、雨の音を聞いていた。

天井の模様はやけに手が込んでいる。

海未(これまでに手に入れた情報を整理しましょう)

海未(まず、この『夢』が『ゲーム』の中であること)

海未(最初のあの蛇の言葉から推測できますね)

海未(地理的には、ほとんど元の世界と一緒ですが、見た目が未来的になっています)

海未(家自体も和風ではなくなっており、道場はどこにもありません)

海未(穂乃果の家があったところは何の関係もない民家になっていました)
32 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:16:25.93 ID:L0ciGIt40
海未(次に、現実での記憶を保持しているのは私だけということ)

海未(試しにことりと穂乃果にラブライブのことを聞いてみたら知らない様子でした)

海未(インターネットや本で調べたりしても同様、何の情報もありません)

海未(あと、ことりと穂乃果以外にも出会えていませんね)

海未(あとは…現実より物覚えがいいくらいですかね)

海未(何日か前のことでも鮮明に思い出せます)

海未(…これは関係ないですよね。気のせいでしょう)

海未(やることは一つです)

海未(他のメンバーを見つけて、記憶の有無を確かめ「ヴーッ、ヴーッ」

海未「…?」
33 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:17:19.94 ID:L0ciGIt40
海未(…なんでしょうか。LINEが来ました)

ことり:夜遅くにごめん!

ことり:明日…いや今日か

ことり:車で多摩のほうに出掛けてくるよ

ことり:だから明日の勉強会は中止で!

海未:わかりました

海未:楽しんできてくださいね

海未:でも後でもう一回勉強会をしますよ

ことり:いいよ!おやすみ!

ことりは最後に小さい鳥が「OK」と言っている可愛らしいスタンプを送ってきた。

海未(ふふ…ことりらしいですね)ピッ

スマホの電源を切る海未。

海未(しかし、どうして明日多摩の方に…)

海未(…考えても流石に解りませんよねぇ…寝ましょうか)

海未(規則正しい生活はここでもしていますから)

海未(明日も普通に起きるとしましょう)

34 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:18:43.21 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 08/15 12:45]

〜園田家〜

雨が降っていて、少し暗い朝。

海未「…はっ!」

海未はベッドから飛び起きた

海未「寝坊してしまいました!」

海未(夏休みですけど、規則正しい生活は崩したくありません!)

急いで気に入っている部屋着に着替えを済ませ、一階に降りる。

リビングでは穂乃果が昼食を取りながら、お昼のニュース番組を見ていた。

穂乃果「あ、おはよう!お姉ちゃん見てよ」

穂乃果はテレビを指差す。

「多摩の方でさっき土砂崩れがあったんだって」

テレビではヘリコプターからの実況映像が放送されている。

そこには、雨によって崩れて山肌が剥き出しになった山と、巻き込まれたらしい数台の車が映っていた。

海未「…え」
35 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:20:01.85 ID:L0ciGIt40
『ことり:明日…いや今日か』



『ことり:車で多摩のほうに出掛けてくるよ』



瞬時に駆け巡る絶望。

その瞬間、考えるより先に足が動いた。

海未「ことりッ!」ダッ

穂乃果「あっ!お姉ちゃんどうしたの〜!」

玄関扉を乱暴に開けて外に出ると、夢中で走った。

お気に入りの服が濡れるのもお構いなしに。

新しい靴が汚れるのもお構いなしに。

またことりがいなくなってしまったら。

あぁ、でも最悪の事態は想定してはいけない。

本当になってしまうかもしれない。

そんなことを考えながら無我夢中で走って、ことりの家の前に辿り着いた。

海未「ことり!」



…見慣れた後ろ姿が、そこにはあった。
36 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:21:06.41 ID:L0ciGIt40
目の前には、傘も差さず、西の方を見て、道のど真ん中に突っ立っていることりがいる。

海未はすぐに駆け寄った。

海未「ことり…。良かった…」ギュッ

ことり「海未ちゃん…」

海未は振り向いたことりを抱きしめた。

ことり「『ことりは』大丈夫だよ、海未ちゃん」

海未「どうしてここにいるのですか?多摩に行ったのでは…」

ことり「今日朝起きたら、急に調子が悪くなっちゃって。『妹たち』に看病してもらってたんだ」
37 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:21:57.32 ID:L0ciGIt40
海未「…そういえば、お父様とお母様は?」

ことり「…連絡が取れないの」

ことり「巻き込まれたみたい」

海未「…悲しく…ないんですか?」





「悲しくなんかないよ」





ことり「妹たちに泣いてる姿を見せたらダメだもん」

ことり「だから…」

ことり「全然、悲しくないよ…」ニコッ

言葉に反し、ことりの目から雨に混ざって涙が滴り落ちる。

それを海未は、言葉をかけることもできずに、見ていることしか出来なかった。
38 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:22:32.25 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 08/15 13:02]
第三話「ことりの幸福理論」
END
39 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:23:14.02 ID:L0ciGIt40
第四話「追想フォレスト」
[054170 AD 2198 08/25 12:31]
40 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:24:23.98 ID:L0ciGIt40
〜デパート:エントランス〜

夏休み最後の日。蝉の声はまだ五月蠅い。

海未(今日は、ことりに誘われたので、少し古いデパートの屋上にある遊園地に行きます)

海未(宿題は勉強会をして終わらせましたし、心配ないですね)

海未(あの日…ことりが無理をしていないといいんですけど)

海未(勉強会のときはいつもの元気なことりでしたが)

海未(それより、かれこれ三十分ほど待っていますね。大丈夫でしょうか?)

すると、不意に元気な声が聞こえてきた。

ことり「海未ちゃ〜ん!おまたせ〜!」

ことり「遅れてごめん!」

ことり「海未ちゃんの為にお洒落してたら電車乗り過ごしちゃったんだぁ〜」

いつもの赤いマフラーをしたことりが笑顔で言った。

海未「そうなんですか。とても可愛いですよ、ことり!」ニコッ

ことり「えっ!///」パアッ

ことり「ありがと!嬉しい!」

海未「では、屋上に行きましょうか!」

ことり「うんっ」
41 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:25:55.56 ID:L0ciGIt40
〜屋上遊園地〜

屋上に直接行くエレベーターは無く、二人は階段を使って屋上に来た。

開けっ放しの鉄扉を通り抜けると、昼下がりの街並みが一望出来る。

海未「どうやらこのデパート、明日から改装工事で休業のようですね」

海未「店舗の全システムをコンピュータで制御できるように改装するらしいですよ」

ことり「ことりバカだから、コンピュータとか全然分かんないや…」

ことり「それよりそれより!あれ乗ろう!」ビシッ

ことりが指差した先には、レールの上を高速で走り回る絶叫マシンがあった。

海未「ちょ、ちょっと待って下さい!最初からあれでは…」

海未(この『夢』の中の私は、道場が無いせいか身体が貧弱なんです…!ん?元の世界でも同じだろって?胸の話ではありませんよ!?)

ことり「大丈夫大丈夫!早く行こう!レッツゴー!」グッ

海未「ぇえ…」ズルズル
42 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:27:22.34 ID:L0ciGIt40
――――――――――

海未「…はぁ…はぁ…」

息も絶え絶え、日陰のベンチに腰掛ける。

大きく深呼吸をするも、未だに三半規管は機能せず、船に乗ったような感覚が続いていた。

ことり「大丈夫?ごめんね…最初から絶叫マシンなんて流石に無理だよねぇ」

ことり「はい、お水買ってきたよ」スッ

海未「…あぁ、ありがとうございます…」

海未(そう!私は初デートで!ジェットコースターで酔い!)

海未(もどしたのですよ!)

海未(現実でも三半規管は貧弱でしたが、こちらではもっとひどいです!)

ことり「落ち着いたら次のアトラクション行こうね!」ニコッ

海未(もう何処にも行きたくないことは言ってはいけません…)

海未(だってことりは、お父様を失っているんですから)
43 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:29:04.50 ID:L0ciGIt40
結局あの後、ことりの父親は懸命な捜索がなされたが見つからず、行方不明扱いになった。

母親は少し怪我を負っていたが、命に別状は無かったそうだ。

海未(あの日、ことりは大丈夫と言いましたが、無理して笑っているはず)

海未(私が笑顔にしてあげなければいけないんです!)グッ

海未「……よし!」

海未「もう大丈夫です!さあ!次のアトラクションに行きましょう!」

ことり「じゃあ次!あそこ!」

指差した先には…。



『おばけやしき』



海未「え、ちょ、待って下さい」ガクガク

ことり「海未ちゃん!お化けからことりを守って?」ウワメヅカイ

海未「はうッ!?/////」ドキッ

海未「…わっ解りました!!行きましょう!!」

海未(私意外とビビりなんですよ?)

海未(しかし、ことりのために行くしかないです!)
44 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:30:18.41 ID:L0ciGIt40
海未(この後どうなったか皆さんは分かりますね?)

海未(あの上がったり下がったりするアレに乗せられたり)

海未(VRがなんだかとかいうアトラクションに乗せられたりして)

海未(心も身体もボロボロになりました)

海未(そしてそのまま、重大イベントが来てしまったんですよ…)

ベンチに座る二人。時間も遅くなってきている。もうすぐ閉園時間だ。

海未「…疲れました」

ことり「じゃあ、疲れない観覧車に乗ってから帰ろう?夕方だから多分キレイだよ!」

海未(ことりは何故ピンピンしているのでしょうか…)

海未「…そうですね、行きましょうか。休憩も出来そうですし」

二人はベンチから立ち、人ごみに入る。

海未「少し混んでいますね」ドンッ

観覧車に向かって人ごみの中を歩き始めると、人にぶつかってしまった。

海未「あっ、申し訳ありません」
45 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:31:09.70 ID:L0ciGIt40
すると、後ろからこんなことを囁かれた。

「…あまり姉ちゃんに近づくと容赦しないにゃ」ボソッ

海未「!?」ビクッ

海未(…後ろには誰もいない…?)

ことり「どうしたの?海未ちゃん」

海未「…いえ。なんでもありません」

海未(…今のは凛でしょうか。ことりを『姉ちゃん』と呼んでいることから推測すると、凛も記憶が無いようです)

ことり「海未ちゃん、本当に大丈夫?」

海未(今凛?を追いかけてもことりを放っておくことになりますね…)

海未「…」ウーン

海未「…大丈夫ですよ!さて、早く行きましょう!」
46 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:32:09.61 ID:L0ciGIt40
観覧車は頂上まで移動した。広大な都会の風景が美しい。

ベストな時間帯でもあり、夕焼けが更に街並みの美しさを高めていた。

海未(私とことりは隣り合って座っています)

ことり「海未ちゃん?」

海未「何でしょうか」

ことり「…ことりたち、いつまで一緒に居られるのかな」

ことりは窓の外を見ているため表情が読めないが、海未は自信たっぷりに言った。

海未「ずっと一緒です」

海未「少なくとも私は、ことりと離れたくありませんよ」ニコッ

ことり「…!」

ことりがこちらを向く。
47 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:32:48.39 ID:L0ciGIt40
ことり「海未ちゃん、ありがとう」



「ことりも、海未ちゃんとずっと一緒に居たいな」



ことりは、小さく笑った。

海未(その、夕焼けに照らされた笑顔を見たとき)

海未(あんなに「この子」を取り戻したかったのに)

海未(現実に戻りたかったのに)

海未(ずっと『夢』の中に居てもいいかな、とも思ってしまいました)
48 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:33:16.49 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 08/25 18:24]
第四話「追想フォレスト」
END
49 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:38:35.50 ID:L0ciGIt40
第五話「夕景イエスタデイ」
[054170 AD 2198 09/02 08:54]

50 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:39:04.82 ID:L0ciGIt40
〜通学路〜

朝早い街中を歩く人影が二人。

海未「まだ少し暑いですねぇ…残暑です」

ことり「そうだね〜。その暑そうなジャージで言われてもだけど…」アハハ

海未「う…」

ことり「でもとっても似合ってるよ♪」

海未「そうですか!褒めて頂けて嬉しいです」ニコッ

海未(私はタンスに入っていた青いジャージで、ことりはいつものセーラー服とマフラーで歩いています)

海未(今日は音ノ木坂学院高校の学園祭です)

海未(他のµ‘sメンバーにも会えるかもしれませんね)

ことり「あっ!海未ちゃん着いたよ!」

海未「おお、久しぶりに来ました」

目の前には街並みと同様、スタイリッシュに変貌した学校があった。
51 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:39:37.18 ID:L0ciGIt40
海未(どうやら基本的な造りは一緒のようですね)

海未「では、いろんな店を回ってみましょうか!」

ことり「うん!」
52 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:40:10.79 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/02 15:27]

〜音ノ木坂学院:廊下〜

海未「ふぅ〜。楽しかったですね。出し物も良かったです」

ことり「そうだねぇ。出店も良かったし!」

海未「…ん?」

海未(アイ研部室があるはずの場所の前に人だかりができていますね)

海未(江戸時代のような恰好の女性でいっぱいです)

海未「見てみましょうか」

ことり「…あっ!」

海未「どうしたんですか?」

ことり「いや、この前家に来てた先輩が居たから」

ことり「ここのクラスの担任、ことりのお母さんなんだよね。だから、ことりの家に作業しに来てたんだ」

そう言うとことりは、入り口の前に立って客の整理をする金髪の女子生徒に近づき、声を掛けた。

海未(あれは…)

海未(絵里…?)
53 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:40:49.09 ID:L0ciGIt40
絵里「―――!」アハハ

ことり「(^8^)!」チュンチュン

何を話しているかは遠いため解らないが、見慣れたブロンドの髪と優しい笑顔は、まさしく絵里だ。

海未(とにかく一度並んでみましょうか…)

海未はコスプレの女性たちの間をすり抜け、部室の中を見た。

中は薄暗く、明かりは二台置かれたパソコンのディスプレイと、蛍光塗料のようなものの淡い光でしか照らされていない。

海未(ディスプレイの前には、コスプレの女性と、心なしか疲れているように見えるツインテールの少女がいました)

にこ「はぁあ…」カカカカカッ

海未(にこですか!一気に二人発見しましたね。あのコントローラーの連打…早すぎです)

海未(しかし何故、死んだ目をしてゲームを…)
54 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:41:31.32 ID:L0ciGIt40
海未(…どうやらこのゲームは、武器を選んでモンスターと戦う仕組みのようです)

海未(キャラクターは、豪華絢爛な着物や、戦国風の鎧を纏っています)

海未(和風なゲームですね…。集まっている人たちはゲームの中身に合わせて町娘のコスプレをしているのですか)

口元にホクロのある黒髪ロングの少女「流石『Love Arrow Shooter』の全国二位YAZAWA様!おほーっ!痺れますわ〜!」

海未(にこは全国二位なのですか!)

海未(武器も日本刀など…。にこは脇差の二刀流使いですかね)

海未(というかなんですかその題名!まんまラブアローシュートじゃありませんか!)

海未(しかし、あの動き…)

海未(言いたいことは山ほどありますね)

考え込んでいるうちに、ことりが絵里と話し終えて戻ってきた。

ことり「海未ちゃん、これ対戦型アクションゲームらしいんだけど、やっていかない?」

海未には、何故か闘志がみなぎっていた。

海未(にこも上手いですが、私と比べれば大したことはないです)

海未(…本物の凄さを見せてあげましょう!)

海未「…勿論参加します。終わり次第帰りましょうか。並ぶ時間も込みだとちょうどいいでしょう」

ことり「うん!応援してるよ!ん〜と、ルールは…」
55 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:42:16.90 ID:L0ciGIt40
絵里「次のお客さんは入ってくださ〜い!どうぞどうぞ!」

海未「失礼します」

にこ「…」ズーン

絵里「―――」ミミウチ

にこ「!」バッ

絵里がにこに耳打ちをすると、にこは急に機嫌を取り戻したようだ。

にこ「あなたが次の挑戦者ですか?よろしくお願いします!ルールの説明、しておこうか?」

にこは先程までとは打って変わって、いつもの笑顔で言う。

しかし。

海未「結構です」

海未「…そしてあなたは武器の良さを活かせていません」

海未「ゲームも現実も一緒です」

海未「本当の使い方を教えてあげますよ!」ビシツ

海未は高らかに宣言し、にこを指差す。

にこ「…ふぅ〜ん」

にこ「にこに勝てるっていうのね…」

にこ「大銀河宇宙No.2剣士≪無双の歌姫・YAZAWA≫の名に懸けて、絶対に負けられないわっ!」ドンッ!!
56 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:43:06.90 ID:L0ciGIt40
にこ「あんたが勝ったら何でも言うこと聞いてやるわよ!なんならあんたの下僕にでもなって『お嬢様』って呼んであげたっていいからね!!」

少女たち「キャー!!!痺れるぅ〜!!!」

海未「そうですか、では私も言うことを聞いてあげましょう。まあ、負けるということはありえませんがね」

プッツン

にこ「あんた…ボッコボコにしてやるわ」キッ

海未「…受けて立ちます」

すると、絵里がにこに再び耳打ちをした。

絵里「―――」コショコショ

にこ「…はぁ!?」

にこ「これは真剣勝負よ真剣勝負!こっちも本気で行かせてもらうわ!ほら!入口に戻ってお客さんの整理しなさい!」

絵里「はぁ…」ヤレヤレ

絵里「あ、え〜っと、君?」

海未「…はい?」

絵里「あの子、凄い強いよ?頑張ってね」

そう一言呟き、絵里は客の整理に戻っていった。

にこ「…あんた?」

海未「はい」

にこ「モードは『MASTER』でいいわね?最高難易度よ」

海未「構いません」

にこ「それじゃあ行くわよ…!」ポチッ

にこがコントローラーのボタンを押すと、決戦の火蓋が切って落とされ、画面にモンスターが溢れかえった。
57 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:44:03.98 ID:L0ciGIt40
――――――――――

結果、にこはその日の自己最高得点を叩き出したが、敗北。

一方海未のディスプレイには「WIN」の文字に加え、「PERFECT!!」という金色の文字が表示されていた。

絵里も口を開けて結果を眺めている。

にこ「…つ、強い…」

にこは俯いてうわ言を言っている。

海未「約束は無しで大丈夫ですよ」

海未「…煽ってしまってすいませんでした。つい頭に血が上ってしまって」

海未「武士にあるまじき事ですね」

海未「では」

海未は教室を速足で出て行った。

海未(…)スタスタ

海未「…酷いことを言ってしまいましたぁ…」ハァ…

海未「後で謝らなければいけませんね…」

海未「あ、ことりは何処に行ったんでしょうか」

海未「もう帰る予定でしたし、玄関前で待っていれば大丈夫でしょうかね」

海未は無駄に天井が高い廊下を速足で進んで行く。

「ま、まってよぉ〜…!」
58 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:44:55.47 ID:L0ciGIt40
すると、後ろから息が切れた声が聞こえた。

海未「?」クルッ

海未(え、絵里?)

絵里「はぁ…はぁ…うぅ…」

海未(大きいし、重たそうですね…何かの標本でしょうか…)

海未(それより、絵里は大丈夫なんですか?わざわざここまで持ってきたということですよね?)

絵里「…はぁあ…」

絵里が海未にやっと追いついた。

海未「なんですか、これ?」

絵里「射的の景品なんだけど…。届けに来たの」

海未「え?」

絵里「だから…景品なのよ。えぇっと、あなたのものよ」

海未「…?」

海未「…まぁ景品というなら、一応貰っておきます」

絵里「…ありがとう!お礼に飲み物奢ってあげるわ!」

絵里は人混みの向こうのドリンク売り場のノボリを指差して笑う。

海未(貰ってくれたお礼とは…何か事情があるんでしょうか…)
59 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:45:32.57 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/02 15:56]

〜音ノ木坂学院〜

校舎各所に設置されたフリースペース。その内、玄関から程遠い簡易ベンチに、海未と絵里は座っている。

絵里「これしか残ってなかったわね」

海未「…」ジイッ

海未は自分と絵里との間に置かれた『世界一有名な黒色の炭酸飲料』の缶をじっと見つめていた。

結露した水滴が、涼しそうに缶の上部からベンチへと垂れていく。

絵里「どうしたの?飲まないの?」

海未「…飲んだことがないんです」

絵里「何でも挑戦してみたらどう?いいことあるかもよ?」

海未「…」

海未「…はぁ」

海未「解りましたよ…」プシュッ
60 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:46:30.41 ID:L0ciGIt40
海未「…」ゴクッ

海未「…!」ゴクゴク

海未は一心不乱に缶に口をつけている。

海未「…ぷはぁ…」

海未「…す、凄く美味しいですね、これ…!」パアァ…

絵里「ね?挑戦したらいいことあるって言ったでしょ?」

絵里「でもこれ、そんなに珍しいものじゃないわよ?」

海未「もちろん知っています。でもこんなに美味しいとは思っていませんでしたよ」

絵里「じゃあ、食わず嫌い…いや、飲まず嫌いだったわけね」

海未「…まぁ、そういうことですかね」ニコッ

海未「あ、この標本は妹にあげることにしました」

海未「妹は『変なもの』が好きなようなので」カンッ

海未はベンチ横のごみ箱に空容器を捨てた。

絵里「それにしてもあなた、ゲーム上手いわよね。何かの大会にも出たりしてるの?」
61 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:47:18.03 ID:L0ciGIt40
海未「あれは日々の鍛錬の成果です」

海未「ゲームでも現実でも、間合いを計って動きを見切り、精神を統一して行う。そうすれば勝てますよ」

海未「しかし、にことの勝負の時は調子に乗ってしまいました。あとで謝らなければ…」

絵里「そう。すごいわねぇ…。積み重ねが大事ってことかしら…」

絵里は驚いたような、悔しいような顔をしていた。

海未「…?」

海未「挑戦したいのなら、すればいいのではないですか?」キョトン

絵里「…え?」
62 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:48:05.33 ID:L0ciGIt40
海未「いや、だから、やりたいのならあのゲームでも何でも、やりたいことをすればいいんですよ。誰かに止められてる訳では無いんですよね?」

海未(絵里は自分のやりたいことをやるべきだと思いますから)

絵里「…と、止められてる訳じゃないけど…」

海未「では何でも挑戦してみたらいいのでは?私も一緒に調べてあげます…よ?」

海未は少し驚いてしまった。

絵里が目を輝かせてこちらを見つめているからだ。

絵里「よ、よろしくお願いします!」バッ

学園祭の終了アナウンスと同時に、絵里は勢いよく頭を下げた。
63 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:48:37.55 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/02 16:00]
第五話「夕景イエスタデイ」
END
64 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:49:04.02 ID:L0ciGIt40
第六話「lost days」
[054170 AD 2198 09/08 20:51]
65 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:49:38.32 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/08 20:51]

〜海未の部屋〜

海未はヘッドフォンをつけてデスクトップに向かっている。

戦闘画面は大きい窓にも映し出され、大迫力だ。

海未(今は絵里とゲーム中です)ズドン!

海未(ハロウィンが題材の、お化けを退治するシューティングゲームをプレイしています)ガガガ!

海未(あのときゲームをやったことで、新たな楽しみができました)ドシュウ!

海未(あっ、『キモかわいい』と評判のゾンビが現れましたね)カチカチ

ドガガガガ!

グオォ!

クリアー!オメデトウ!

海未(よし、撃破です)

海未(…さて、プレイ実況はここまでにしておきましょう)

海未(どうやら絵里はにこに対戦をお願いしたいらしいのですが…)
66 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:50:08.61 ID:L0ciGIt40
海未「弱いって思われたらもう対戦してもらえなくなるとか思ってますよね?」

絵里『う…。い、いいのよ!私のタイミングでお願いするから放っといてよ!』

海未「まあ、私の知ったことではありませんがね」フフン

ガチャ

穂乃果「…お姉ちゃん、ちょっといい?」

海未「部屋に入るときはノックしてください!」

穂乃果「あ!あのゾンビのやつやってる!やっぱりゾンビくんはかわいいなぁ〜」

海未はヘッドフォンを外す。

海未「今は人とやってるんですよ?あっちに行っててください」

穂乃果「な、なにさ、そうやって他の人とばっかり…。穂乃果とは全然やってくれないくせに…」

海未「だってあなた、負けると泣いたり殴ったりしてくるでしょう」

穂乃果「んんっ…」ウルウル

海未(これはやってしまいましたかね?)
67 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:51:22.25 ID:L0ciGIt40
穂乃果「…実はね、今日ゲームセンターに寄ったら、そこの店長さんが『来週末のイベントに出て欲しい。かわいい声だから人気者になれる』って言われて…」

穂乃果「私、一応お姉ちゃんに相談しておこうかなって思って…」

海未「ステージに立つということですか?」

穂乃果「穂乃果、もうそれやることにしたから!お姉ちゃんが何言っても聞かないからね!」バン!

海未(部屋を出てしまいました…)

海未(しかし、穂乃果がアイドルに…。どの世界でも必然なのでしょうか?私の夢だからかもしれませんが…)

海未「あっ」

海未「えっと、すいません、通話を忘れていました」カチッ

絵里『いいわよ、大丈夫。それより、妹さんは…』

絵里『親御さんに相談してみたらどうかしら…?』

海未「いえ、穂乃果がゲームセンターに行ったことを話したら、たぶん外出禁止になってしまいます」

海未(最近、穂乃果が異常に『人の注目を集めてしまう』んです)

海未(街を歩いたらすぐ人だかりができてしまって…)

海未(お母様も心配なのでしょう)

海未(あぁそういえば。私たちのお母様は、こっちの世界では私のお母様になっている様子です)

絵里『そう…。じゃあ私たちでどうにかするしかないわね』カチャカチャ

海未「…え?」

海未(何を調べているのでしょうか…?)

程なくして、絵里の声が聞こえた。

絵里『海未!』

絵里『来週末、ゲームセンターに行くわよ!』
68 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:52:31.07 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/12 13:32]

〜ゲームセンター〜

海未「絵里ぃ〜!」

海未(すごい人だかりです!すぐ絵里を見失いそうになってしまいます!)。

絵里「ここよぉ〜!」

海未は人の波を掻き分けて進み、絵里の待っている少し空いたスペースに辿り着いた。

海未「はぁ…はぁ…」

海未「…こんなに人がいるなんて聞いていませんよ!」

海未(穂乃果が出演を依頼されたイベントは、ちょうど私たちがプレイしていたお化けを退治するゲームの大会だったようです)

海未(集まった人たちは皆、思い思いの仮装をしています)

海未(私は吸血鬼、絵里はフランケンシュタインの仮装をして訪れています)

海未「でも、さっき一瞬穂乃果を見かけましたよ」

絵里「すごいわね。この人ごみの中で見つけるなんて」

海未「いや、簡単ですよ。一番変な恰好してるのを探せばいいんです」

絵里「…え?じゃあ、あの人?なによあれ…。頭からアルパカの足が…」

海未「…そ、それです!行ってきます!」
69 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:53:04.04 ID:L0ciGIt40
海未は人ごみを掻き分けて進んでいく。

海未「穂乃果!探しましたよ!」

穂乃果「…あ、お姉ちゃん」

穂乃果が冷たい声で言うのが聞こえた。

海未は穂乃果に駆け寄ろうとする。

海未(やっと会えましたぁ…!)

…しかし。

グッ

海未「!?」

海未「痛っ!」ドサッ

バツンッ!

海未(これは…照明のコードですか。周囲が暗くなっています)

周囲がざわざわとし始める。
70 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:53:39.20 ID:L0ciGIt40
係の人が駆け付けてきた。

係の人「大丈夫ですか?お怪我は」

海未「すいません、引っかかってしまいまして」

係の人「すぐに直しますので。注意してくださいね」

海未「はい…」

係の人が去ったところで、穂乃果が海未に歩み寄り、話しかける。

穂乃果「…穂乃果はステージに出るわけじゃなくて、『ちょうどいい声の人が見つからなかったから、カボくんの声だけやってくれないか』って言われただけなの!」

穂乃果「なのになんでわざわざ来て余計な事するの!?もうお姉ちゃんって呼ばないからね!」

海未「…え」

穂乃果はまた人ごみの中に紛れてしまった。

酷く哀しそうな顔をした海未を見かねたのか、絵里が人混みを掻き分けて横に駆け寄って来た。

絵里「大丈夫?海未」
71 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:54:43.56 ID:L0ciGIt40
海未「あぁ、絵里…。私、やらかしてしまいました…」ズ〜ン

絵里「まぁまぁ、それはしょうがないわよ。それで、穂乃果ちゃんはなんて言ってたの?」

海未「『もうお姉ちゃんって呼ばない』って…。はは、笑ってしまいますよね…」

そう言うと、海未は燃え尽きたと言わんばかりに、近くの柱に背中を付けて体育座りをした。

海未「私…もうお姉ちゃんじゃないんですよ。なんだか信じられません。あぁ…絵里。私、今どんな感じに見えてますか?」

海未(よくよく考えると、最初は穂乃果の姉になっていることに驚いたのに、今は妹になった穂乃果に嫌われて悲しんでいる…。随分この世界に馴染んでしまいましたね)

絵里「えぇと…。ちょっと気持ち悪い感じに…」アハハ…

海未「あぁ、そうですか。もうダメです。絵里もどうぞ今後は私のこと『お姉ちゃんじゃなくなった海未』って呼んでやってください。はは…」ドヨ〜ン

すると絵里は海未の隣にしゃがみ込み、笑顔を見せる。

絵里「でもほら、こんなところで座り込んでてもしょうがないでしょう?それに、穂乃果ちゃんを何とか説得しないと…」

海未「あぁ、それなんですけど、私たちは勘違いしていたようですね。ほら、あれ…」
72 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:55:20.92 ID:L0ciGIt40
海未がそう言いメインステージを指差すと、会場の中心にあるステージ脇からバニーガールの格好のお姉さんとカボくんが登場した。

お姉さんはステージ中央に立つと、軽快な口調でイベント参加の最終呼び込みを始める。

呼び込みが終わった後、カボくんは「パンプキーン!」と言いながらファンシーなポーズを取った。

周囲の観客からは声援が上がる。

すると絵里は、何かに気付いたような顔をした。

海未「気付きましたか?あの『パンプキーン』って声だけ録らされて、穂乃果の役目はおしまいだったらしいです。なんかちょうどいい声の人がいなかったらしくて」

絵里「とにかく、大事にならなくて良かったわ。それで、この後はどうするの?」

海未「あぁ、散々付き合わせてしまったので、もう絵里は自由にしてください」

海未「私はもうお姉ちゃんも辞めたし、柱にでもなってますよ。はは、硬いですね」ゴンゴン

ワアアア

そんなことをしていると、会場から大きな歓声が上がる。
73 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:56:00.56 ID:L0ciGIt40
海未(ん…?)クルッ

海未(いつの間にか、カボくんの横には例のキモいゾンビの巨大ぬいぐるみがあります)

海未(ぬいぐるみには、「優勝賞品」と書かれた襷がかけられていますね)

すると絵里が、何かを思いついたような顔をした。

絵里「…ねぇ海未!あれをプレゼントすれば、穂乃果ちゃんも喜ぶんじゃないかしら?」

海未「確かにそうですね…。穂乃果はあのキャラクターが好きですし、それにこのゲームのアーケード版はタッグ制です。二人で出れば優勝できるかもしれません!」

絵里「海未、一緒に出ましょう!このチャンスを逃す手はないわ!」

二人は急いでエントリー受付へと向かう。

途中ですれ違った「二人組の魔女の女の子」には、二人とも気づいていなかった。
74 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:56:45.51 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/12 15:37]

〜ゲームセンター〜

絵里「…どうしましょうか」

海未「全く不運な一日です…」

海未(先程にこから絵里に電話がかかってきました)

海未(『今日はことりの誕生日だから、海未が何処にいるか教えて欲しい』という内容です)

海未(そりゃ慌てますよ!でも穂乃果も心配です)

海未(電話は上手く誤魔化して、私たちは順調に勝ち進み、遂に決勝に進出しました!)

海未(しかし、もう一回の準決勝を見ていて、一つ大問題が発生します)

海未(ことりとにこも出場していたのです!)

海未(今は幸い貸し出されていた仮面舞踏会のようなマスクで誤魔化せていますが、いつバレるか解りません!)

海未(とにかく、バレる前に勝利して、ゾンビのぬいぐるみを勝ち取ります!)

海未(…さて、ゲーム筐体は対面式なので、私の向こうにことり、絵里の向こうににこという構図です)
75 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:57:39.49 ID:L0ciGIt40
絵里「海未…」

海未「なんでしょうか?」

絵里「わ、私、にこと戦うのは初めてだわ…!」

海未「大丈夫ですよ」

海未「いつもの調子でやれば絶対勝てます。頑張りましょう!」

海未「今、発作が起こるわけないですし」フフッ

海未は冗談めかして言う。

海未(私は絵里の身体が生まれつき弱く、発作が起きたりすることをつい何日か前に知りました)

海未(それからは、絵里をもう少しだけ労わって生活することにしたんです)

絵里「ふふっ…そうね」

絵里「ありがとう。頑張るわ!」

海未(少し懐かしい感じがします)

海未(あのオープンキャンパスの時も…)
76 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:58:32.36 ID:L0ciGIt40
――――――――――

絵里「…緊張してきたわ…」

海未「絵里先輩、どうしたのですか?」

絵里「…海未ちゃん…でしたっけ?私、μ'sとしては初めての本番だから緊張しちゃって…」

海未「大丈夫ですよ」

海未「いつもの調子でやれば絶対成功します。頑張りましょう!」

絵里「ふふっ…そうね」

絵里「ありがとう。頑張るわ!」

――――――――――
77 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 15:59:17.15 ID:L0ciGIt40
海未(…そうだ)

会場の照明が落とされる。

海未(私は今まで、ことりの事だけ考えていた)

海未(ことりが一番大切な人なのは事実です)

海未(でも、ことりのことだけ考えて、他人を顧みないことを、彼女が望むわけがない!)

海未(他にもたくさん、夢の外に大切な人がいる)

海未(絶対に帰ってみせます)

海未「…絶対にこのゲームをクリアしてみせます」

絵里「うん、そうね。絶対勝ちましょう、海未」

海未「…あっ」

海未「はい」
78 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:00:09.70 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/12 17:24]

〜矢澤邸〜

海未(私、ことり、絵里、にこ、穂乃果の五人は矢澤邸のにこの部屋にいます)

海未(何故かというと、ことりの誕生日パーティーという事で、にこが沢山ミニケーキを作ってくれたので食べているんです)

海未(ことりは家に帰ってもパーティーがあるので、食べる量を調節できるものにしました)

海未(そして、どうやらにこの弟妹の存在も消えています)

穂乃果は、『満面の笑み』とはこのことを言うのだろうというほど、嬉しそうに笑っている。

穂乃果「ね、ね、お姉ちゃん。これホントのホントに貰ってもいいの?」

海未「何度も言わせないでくださいよ」

穂乃果「本当にありがとうございますっ!絢瀬先輩!」

絵里「そんなに何回もお礼言わなくても大丈夫よ?」ニコッ

にこ「にしても絵里、事情があるんならちゃんと言いなさいよ。今回は穂乃果ちゃんのためだから許すけど」ギロリ

絵里「はい…解りました…」シュン…
79 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:01:31.38 ID:L0ciGIt40
ことり「別にいいんじゃない?こうやって穂乃果ちゃんとも仲良くなれたんだし!」

にこ「それはそうだけど…」

海未「それにしても狭いですね…九月なのに暑くなってきましたよ」

にこ「はぁ!?にこの部屋が狭いって言ってんの!?」

海未「…にこ。それより、早く食べないと穂乃果に全部食べられてしまいますよ?」

穂乃果「ホントに美味しいね〜このケーキ!矢澤先輩の料理の腕前はすごいです!」モグモグ

にこ「えぇ!?もう五分の一くらいないわよ!?食べるの早っ!」

ことり「私はチーズケーキだけで大丈夫だからね〜」

絵里「私も早くチョコケーキ食べないと!」

にこ「ぬわぁんでよ!にこの分も残しなさ〜い!」

ワイワイガヤガヤ
80 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:02:23.94 ID:L0ciGIt40
海未(さっきは早く帰らなければいけない、と思いましたが、楽しそうな皆を見ていると、そんなことも忘れてしまいますね)

海未(一刻も早く帰りたいのは事実です。しかし『終わらないセカイ』の手掛かりが見つからない以上、今は楽しんでおくべきですね!)

海未(よし!)

海未「私にも分けてくださいよ!」

にこ「んん?じゃあ勝負で決めましょう!ジャンケンするわよ皆!」

エーハヤイモノガチデモイイジャナイ

ヌワァンデヨ!

アハハハハハ!

音ノ木の夜は更けていく…。
81 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:03:11.96 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2198 09/12 17:49]
第六話「lost days」
END
82 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:03:53.03 ID:L0ciGIt40
第七話「透明アンサー」
83 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:04:28.12 ID:L0ciGIt40
それからは、ただ楽しかった。
84 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:05:05.21 ID:L0ciGIt40
――――――――――

[054170 AD 2198 12/21 12:23]

〜雪合戦〜

海未「それっ!」

バッ

にこ「きゃっ!冷たっ!…やったわねぇ〜!」

絵里「いくわよぉ〜!」

ことり「えいっ!」

――――――――――
85 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:05:40.26 ID:L0ciGIt40
――――――――――

[054170 AD 2199 02/13 14:34]

〜バレンタイン〜

海未「大丈夫なのでしょうか…?」

絵里「早く食べたいわね〜」

にこ「もうちょっとでできるからあっち行ってなさい!」シッシッ

ことり「よ〜し!もう少しだよ!」

――――――――――
86 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:06:18.41 ID:L0ciGIt40
――――――――――

[054170 AD 2199 04/06 15:43]

〜入学式〜

絵里「海未、ことり、入学おめでとう!」

ことり「はぁ〜良かった!ギリギリでしたから!」

海未「私が勉強を教えましたからね!」

絵里「にこもギリギリ合格じゃなかったかしら?」

にこ「にこはぶっちぎりで合格よ?」フフン

絵里「え〜?嘘よね〜?」ニヤニヤ

にこ「ぬわぁんでよ!」

――――――――――
87 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:07:08.24 ID:L0ciGIt40
――――――――――

[054170 AD 2199 06/14 14:56]

〜音ノ木坂学院〜

海未「また100点ですか…」

海未「この答案はあげますよ」

ことり「うん。じゃあ、こうしてこうして…」

ことり「…はい完成!折り鶴!」

ことり「海未ちゃんにあげる!」

海未「…ありがとうございます」ニコッ

――――――――――
88 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:07:50.97 ID:L0ciGIt40
――――――――――

海未(でも、その日は突然訪れた)

――――――――――

[054170 AD 2199 08/15 17:27]

〜音ノ木坂学院:廊下〜

夕方前の長い廊下。

海未「いや〜今日の補修も疲れましたね。難しくはなかったですが」

ことり「…ことり、全然分かんなかったよ…。海未ちゃん、後で教えて?」

海未「いいですよ!あなたの成績が下がったら、私も困ります」

ことり「ありがと、海未ちゃん!」

海未「…さて、今は何時でしたっけ…」ガサゴソ

海未「…あれ?」

ことり「どうしたの?今は五時過ぎだけど…」

海未「スマホを教室に忘れました!」

海未「取りに行ってきます!玄関で待っててください!」

ことり「分かった!行ってるからね〜」
89 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:08:38.32 ID:L0ciGIt40
〜海未の教室〜

海未「…ん〜っと…。…ありました!」

海未「早く戻らないと。ことりが待っています!」

海未は廊下を走る速度を上げる。曲がり角に差しかかる。

すると。

ドンッ!

海未「うわっ!?」

「痛った!」

にこ「ちょっと!どこ見て走ってんのよ!」プンプン

海未「申し訳ありません。にこでしたか」

にこ「あぁ、海未じゃない。どうしたの?ことりちゃんと帰るんじゃないの?」

海未「教室にスマホを置き忘れまして。ことりは玄関で待たせてしまっています」

にこ「あぁ、そうなの。…そういえば」

海未「?」
90 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:09:40.91 ID:L0ciGIt40
にこ「絵里は大丈夫?補修にも来てないじゃない」

海未「昨日行ったときは元気でしたよ?何か伝えておきましょうか?」

にこ「あぁ、そうね。これ、渡しといてくれる?」バッ

にこは保冷バッグを取り出した。

海未「これは…?」

にこ「絵里の大好物だから」

にこ「あとで行く、って言っておいて」

海未「はい。解りました」

にこ「あとさ、」

海未「…?」

にこ「…もうちょっとことりちゃんのこと気にかけてあげて」

にこ「多分喜ぶから」

にこ「…聞いたなら早く行きなさい?待たせてるんでしょ?」

海未「…」

海未「…ありがとうございます」

ダッ

海未(あのとき、声をかけておけばよかったみたいですね…)
91 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:10:34.41 ID:L0ciGIt40
――――――――――

少し前の夕方。綺麗なマジックアワー。

海未(私は用事があり、帰りに教室前の廊下を通りかかりました)

海未『…さて、帰りましょうか。…ん?』

海未(ことりが窓際の自分の席で、外を眺めながら涙を流しているのが見えました)

海未『どうしたんでしょうか…?』

海未(でも、話しかけたくても、声が出なかった)

海未(どう話を切り出せばいいか、解らなかった)

海未(私はその場を立ち去るしかありませんでした)

――――――――――
92 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:11:28.75 ID:L0ciGIt40
海未(あの時の事を聞かなくては)

海未「ことり〜!」

ことり「あっ!来た!」

ことりは、優しい笑顔でこちらに手を振っている。

海未「すいません、遅くなりました」

ことり「大丈夫大丈夫!急いで来て海未ちゃんが怪我とかしたら大変だもん」

ことりが笑う。

海未「…ことり」

ことり「?」

海未「…ッ!」

海未(あのことを聞いたら、ことりの何かが壊れてしまうかもしれない…!)

海未「…やっぱりいいです」

ことり「…?」

ことり「…じゃあ、気を付けて帰ってね」

海未「ん?ことりは帰らないのですか?」

ことり「さっきお母さんに用事があるの思い出して」

ことり「だから先に帰ってていいよ♪」

海未「わかりました。今日は絵里の家に寄ってから帰りますね」

靴を履き替え始める海未。

その時。

ことり「…あの、」
93 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:12:58.30 ID:L0ciGIt40
海未「…?」

ことり「いつもありがとう」

ことり「ずっと、一緒だよ」

海未「…?どうしたのですか急に…。私はことりと一緒に居たいですよ?」

ことり「そうだよね…安心した」

海未「…ではまた明日、補修で会いましょうね!さようなら」

ことり「うん、分かった!じゃあね、海未ちゃん!…」

帰り際に一瞬だけ見せた、ことりの寂しそうに見える笑顔が、何故か海未の目に『焼き付いて』いた。
94 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:13:47.44 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2199 08/15 17:56]

〜絢瀬家〜

夕方近くなっても、蝉の声が五月蝿い。

海未はクーラーの効いた洋室のドアを開けた。

海未「お邪魔します。…こんな時間になってしまってすいません」

海未(絵里は最近、ずっとベッドの上にいます)

絵里「あぁ、海未。今日もありがとう。今日は暑かったでしょ?」

海未「いや、暑いなんてものではありませんでしたよ。今年の最高気温なのではないですか?」

海未はベッドの横の椅子に腰を落とし、顔を手で扇いだ。

絵里「身体壊したらダメよ?」

海未「はは。大丈夫ですよ。あ、そうだ。これ、渡してほしいと頼まれて」スッ

海未「チョコレートです。にこの手作りですから、どうぞ」

絵里「そうなの!ありがとう!早速頂くわ…」モグモグ
95 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:14:32.46 ID:L0ciGIt40
絵里「…『美味しいわね』!後でにこにお礼を言わなくちゃ!」

海未「…にこがここに来たことはあるんですか?」

絵里「…それが、無いのよねぇ」

絵里「にこ、元気そうだった?」

海未「はい、心配していましたよ。あとで行く、とも」

絵里「…そう」

絵里は窓の外を見つめている。

しかし暫くすると、目線を下に落とした。

絵里の顔が、みるみるうちに青ざめて、深刻になっていくのが解った。

海未「…え、絵里?」
96 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:15:12.05 ID:L0ciGIt40
絵里「…はっ」

絵里は我に返ったようだ。

海未「誰か呼んできます!」

部屋の外に出ようとする海未の腕を、絵里が掴んで引き留めた。

絵里「大丈夫…わ、解るの。これは大丈夫だから」

そう深刻な顔をして言う絵里に、海未は思ったことをそのまま言った。

海未「だ、だって絵里…」

海未「辛そうではないですか…」

そう言って、海未は絵里の背中をさする。

絵里「はぁ…はぁ…」

海未(絵里は何度か深呼吸をすると、徐々に調子が戻ってきたようでした)

海未「…早く、よくなるといいですね」
97 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:16:25.94 ID:L0ciGIt40
海未がそう呟くと、絵里は少し迷ってから、こう言った。





「よくなんて、ならないわよ」





海未「…え?」

絵里は海未の方を絶対に見ず、窓の外を見ていた。

海未は絵里を心配そうに見つめて言う。

海未「…な、何言ってるんですか絵里。ほら、最近暑いから、きっとそのせいで…」

絵里「違う。…違うのよ、海未」
98 : ◆tHYtfyUBW. [sage saga]:2018/08/15(水) 16:18:06.60 ID:L0ciGIt40
絵里「私、死ぬの。もう何日も生きられないと思う。海未と仲良くなる、ずっと前から解ってたの」

絵里「海未、私ね、こんなに仲のいい『友達』ができたの、生まれて初めてだった」

絵里「だから、海未には本当に幸せになって欲しい。この先どんな辛いことがあっても、私の分まで長生きして欲しいの」

海未「…!」

夕暮れの色が濃くなり、部屋中が橙色に染め抜かれていく。

絵里は、傍らの時計を一瞥してから海未に声をかけた。」

絵里「ごめんね、海未。今日はもう帰ってもらってもいい?時間もあれだし…」

海未「私…」

つい、口が動いてしまった。
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