他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
関裕美「魔法の手鏡」
Check
Tweet
1 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 09:39:48.50 ID:1zrb/YD+0
裕美「あ。このガラス玉、きれいだな……」
アクセサリーの材料を探していた私は、表通りからすこし裏路地に入った所で、小さなお店を見つけました。
ショーウインドーを覗くと、そこにはキラキラした素敵な小物がいっぱい。
そのお店の名前は……
裕美「魔法を売る店……?」
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1533429588
2 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:19:03.23 ID:bBMqw/ks0
裕美「現在休店中? 閉店しました、とか、閉店時間中とかじゃなくて?」
開店時間も書いていないそのお店は、『現在休店中』の札がかかり、鍵もかかっていました。
裕美「やってない……みたいだね。残念だな」
ガチャッ。
その時です。中から男の人が出てきたかと思うと、かかっていた『現在閉店中』の札をひっくり返しました。
P「やれやれ。ようやく到着しましたか」
裕美「あ、あの」
P「? はい」
裕美「お店……その、やってるんですか?」
P「はい。しばらく閉めておりましたが、また今日から」
裕美「見せてもらえますか!?」
P「もちろんです。どうぞ……魔法を売る店に」
3 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:24:27.31 ID:bBMqw/ks0
裕美「うわあ……!」
お店の中は、不思議で、そしてキラキラした小物でいっぱいでした。
宝石みたいなガラス玉、不思議な模様の描かれたプレート、小さなお人形さんたち。
裕美「きれい……」
P「本日は、どのようなものをお求めで?」
裕美「あ、うん。最初はあのガラス玉がきれいだな、って思ったんだけど」
お店の人は、なんだかつまらなさそうに私の指さしたガラス玉をひょいと手にしました。 と、親指と人差し指の間に挟まれていたガラス玉が、人差し指と中指の間、次は中指と薬指の間というふうに、次々と増えていきます。
裕美「手品?」
P「いえ、魔法です」
真面目にそう応えるお店の人が、私はなんだかおかしくなりました。
魔法?
そうか、お店の名前が、魔法を売る店なんだもんね。そういうことにしておかないと。
うふふ。
4 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:28:53.20 ID:bBMqw/ks0
P「なにか?」
裕美「ううん、なんでもないの。それより……あれ?」
気がつくと、私の手の中にはさっきのガラス玉があります。
P「よろしければ、お持ち下さい」
裕美「あの、いくらですか?」
P「魔法のガラス玉は、お代をいただかないことになっております。いくらでも増やすことができますので」
裕美「いくらでも?」
P「いくらでも」
そう言ってお店の人は、両手いっぱいのガラス玉を私に見せます。
あれ? 今さっきまで、この人なにも持っていなかったんじゃなかったっけ?
?
5 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:31:43.74 ID:bBMqw/ks0
P「それよりも、他に色々な品をそろえておりますよ。火を噴く翼のあるの蛇ですとか、触れた液体をメロンソーダに変える黄金の指、蛙を使役できる金の鞠、コンニャクも両断できる刀……」
裕美「私、そういうのはいいかな。あ、手鏡」
小さなコンパクトの手鏡が、私の目に入りました。
綺麗に装飾された、可愛い手鏡です。
P「ほほう、なかなかお目が高いですね。それはあの有名な……あ、いやいや、前歴はお客様には関係ないことでした」
裕美「?」
P「いずれにいたしましても、なりは小さくなりましたが間違いのない逸品です」
裕美「? よくわからないけど、すごく素敵。これは、いくらですか?」
P「1000万円」
裕美「え!?」
6 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:33:07.80 ID:bBMqw/ks0
P「が、元の値段でしたが、1000枚に割り分けたのでひとつあたりは1万円で」
なんのことだかわからないけど、それにしても1万円かあ。
これだけ綺麗な手鏡だと、やっぱりそれぐらいはするよね。
裕美「それじゃあ、私には無理かな」
P「……ではいかがでございましょう。本日は、久々に店を開けました記念すべき日。そして貴女はその第1号のお客様、ここは!」
裕美「まけてくれるの?」
P「ローンでいかがでしよう。いや、頭金に1000円だけ入れていただいて、残金は払えるようになってから……つまり出世払いというのは」
裕美「そんなことできるの?」
P「本日は、特別に」
裕美「それができるなら……うん、この手鏡欲しいな」
P「ありがとうございます。では……はい、1000円は確かに。残りはまた、いつかお願いいたします」
裕美「うん! この鏡、大切にするね!」
7 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:36:19.80 ID:bBMqw/ks0
家に帰った私は、さっそくコンパクトを開いた。
実はこういう手鏡が前から欲しかったんだ。
私は目つきがきつい。
人からよく「怒ってるの?」とか言われてしまう。
鏡を見ると、自分でもそう思う。
でもだからこそ、小まめに自分でも鏡を見て、恐い顔になっていないかチェックするようにしている。
少しでも可愛く見られるように、努力しなくちゃね。
裕美「本当に綺麗だな、この手鏡……あれ?」
鏡面がなぜか、すこしピンク色になった。
映ってる私の顔も、すこしピンク色になる。
裕美「どうしたのかな? あ、戻った」
鏡は一瞬で、もとに戻っていた。
なんだろう?
裕美「そういえばこれ、お店の人が『魔法の手鏡』って言ってたっけ。お店の名前も、魔法を売る店だったし……もしかして本当に、魔法の手鏡なのかな?」
私はちょっとした冗談のつもりで、手鏡に話しかけてみた。
8 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:40:59.27 ID:bBMqw/ks0
裕美「鏡よ鏡、鏡さん。世界で1番可愛いのはだあれ?」
鏡「それは……関裕美ちゃんです」
裕美「きゃっ!」
驚いた私は、あやうく鏡を落としてしまうところでした。
しゃべった!? 今、鏡が喋ったの?
裕美「今……しゃべったのはあなた?」
返事はない。
そもそも、鏡がしゃべるはずもないけど……
裕美「じゃあ……世界で1番可愛いのは……だあれ?」
鏡「それは……関裕美ちゃんです」
裕美「しゃ……!」
しゃべった!?
鏡の中には……
裕美「私……?」
9 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:43:17.45 ID:bBMqw/ks0
P「不良品?」
裕美「うん。あ、いやそうじやないんだけど……」
P「?」
裕美「この鏡、しゃ……」
P「しゃ?」
私は周囲を確認し、店内に誰もいない事を確認してから店長さんに話しかけた。
こんなこと……誰かに聞かれたら、ヘンな娘だと思われちゃうかも。
裕美「しゃべったの」
P「ああ、はい」
裕美「……」
P「……」
裕美「え?」
P「?」
裕美「しゃべったんだよ!?」
P「ええ、はい」
10 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:43:47.09 ID:bBMqw/ks0
裕美「おかしくない?」
P「魔法の手鏡ですから……しゃべらないというなら、返品にも応じますが……しゃべったから返品したいというのは、理解に苦しみますね」
私はびっくりして店長さんを見る。
どう見ても真剣な表情だ。
じゃあ……?
裕美「……あの」
P「はい?」
裕美「ここってもしかして、本当に……」
P「本当に?」
裕美「魔法を売る店……なの?」
P「はい。それはもう、店の名前にあるように」
裕美「じゃあ……この手鏡も……」
P「はい。魔法の手鏡で、ございます」
私は言葉が出なかった。
魔法の手鏡?
だから、しゃべったの?
……でも。
11 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:44:30.88 ID:bBMqw/ks0
裕美「これ……壊れてるよ。魔法の手鏡」
P「なんですって?」
裕美「私の質問に……」
P「質問に?」
裕美「……」
P「要するに、質問にちゃんと答えなかった、と?」
裕美「……うん。絶対に間違ってる答えを言ったんだもん」
P「具体的には?」
裕美「え?」
P「検証してみねばなりません。もしお客様の言葉が本当なら、私とこの店『魔法を売る店』の沽券に関わる問題でありますから」
裕美「えーと……あのね」
P「はい」
12 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:47:29.07 ID:bBMqw/ks0
裕美「世界で1番可愛いのは……誰か、って聞いたら」
P「なんと答えました? この魔法の手鏡は」
裕美「その……あの……ね、うーんと……」
P「はい」
裕美「それは、関裕美ちゃんだ……って……」
P「ふうむ」
裕美「……」
P「もしかして……」
裕美「え?」
P「その関裕美、というのはお客様……あなたのお名前では?」
あ、そうか。
私、自分の名前を話してなかったんだ。
裕美「……うん」
P「そうだと思いました。ならばこの魔法の手鏡、壊れてはおりません」
裕美「え?」
13 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:50:29.53 ID:bBMqw/ks0
P「世界で1番可愛いのは、お客様……関裕美様です。間違いありません」
裕美「え!? ……あ……り、がと……う……」
顔が赤くなる。
この人、今……私の事を可愛いって言ってくれた?
世界で1番?
P「私見はともかく、この魔法の手鏡が言うのです。間違いありません」
「え?」
……鏡が言うから?
それだけ……?
裕美「信じられないよ、そんなの」
14 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:51:15.55 ID:bBMqw/ks0
P「なんですと?」
裕美「私、目つきがきつくていつも人から『怒ってるの?』とか言われて……自分でも、鏡を見ると恐い顔してるな……って」
P「私にはそちらの方が、信じられませんね」
裕美「だって!」
P「わかりました」
?
店長さんは、なにがわかったんだろう?
15 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:53:38.68 ID:bBMqw/ks0
P「私にはここ、魔法を売る店の店長として責任があります」
裕美「責任?」
P「お客様からの商品についてのご懸念は、すなわちこの店と私に対する信用問題でありますから」
裕美「?」
な、なんのことかな?
難しい言葉が多くて、よくわかんないよ。
P「アフターケアと、お客様からのご指摘の検証とを兼ね、私とこの店とその商品が間違いない事を確かめてみせましょう」
裕美「えーっと……それって?」
P「要は、関裕美様。あなたは可愛い、その事を証明すればよろしいのです。さすれば、この鏡の正しさもご納得いただけるはず。そうでしょう?」
裕美「それは……でも、そんなのどうやって?」
P「それを考える前に、まずはこれを」
店長さんは、昨日私がお店に来た時に時にかかっていた『現在閉店中』の札を手にしていました。
P「わすが1日だけの開店となってしまいましたが、致し方ありません。この、魔法を売る店の信用がかかっているのですから」
店のドアに、またあの札がかけられました。
もしかして昨日までも、同じように店長さんはこの店の商品の為に休んでいたのかな?
16 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 16:56:34.84 ID:bBMqw/ks0
P「さて、それでは取りかかりましょう。関裕美様、あなたが可愛いと証明する作業に」
裕美「それって、どうするの?」
P「ふうむ……あなたはいかがです? どうなったら、自分が可愛いと信じられます?」
裕美「どうなったら、って……」
目つきの悪い私が……可愛いとか……
人から「怒ってるの?」とか「睨まれた」とか「恐い」って言われちゃう私が……
アイドルみたいに可愛いって、言ってもらえるようになれるの……?
17 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:00:09.00 ID:bBMqw/ks0
P「どうです?」
裕美「私がアイドルみたいに可愛くなれるなんて、やっぱり信じられないよ」
P「ほう」
裕美「だからね、もう手鏡の事はいいから……」
P「アイドルですか」
裕美「あ、でもお代はいつかちゃんと……え?」
P「なるほど。アイドル。うむ、アイドルですか」
裕美「あ、あの……店長さん?」
P「関裕美様が、アイドルになる。それもトップアイドルに。そうすれば1番可愛い、ということになりますね」
裕美「え? あの、でも、それは無理かな、って……」
P「あなたがそう思っているからこそ、証明になるのではありませんか?」
裕美「それは……まあ……うん」
それは確かにそうかも知れない。
知れないけど、この人本当に私をアイドルにするつもりなの!?
18 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:01:06.63 ID:bBMqw/ks0
P「では少々お待ちを。調べてみましょう、アイドルのなり方」
店長さんは、ポケットから小さな瓶を取り出した。
と、コルクのフタを外す。
すると中から、煙がモクモクと湧きだしてきた。
裕美「きゃっ!」
煙はそのまま、恐そうな顔の形になった。
P「魔神よ、汝に問う」
魔神「未だ時は至らず。致し方ない、なんでも貴様の質問に答えてやろう。ほう? その娘っこはワシへの生贄か?」
P「馬鹿者! この方はお客様だ。それより我が質問に答えよ」
魔神「言うがいい。契約の時が来る前に」
P「問いたいのは、アイドルのなり方」
魔神「なんだと?」
P「アイドルのなり方、だ!」
煙の中の魔神は、眉をひそめる。
もういい加減、このお店のこういう事では驚かなくなってきたけど、店長さん聞く相手間違えてない?
魔神がアイドルのなり方とか知ってるの?
魔神「まず芸能事務所とマネジメント契約を取り交わす必要がある」
裕美「え?」
19 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:03:03.78 ID:bBMqw/ks0
P「それ以外に方法はないのか?」
魔神「芸能事務所との契約は、必要な条件だ。無論、個人事務所であったりする場合もあるが、いずれにせよアイドル活動を支援する者は必須となる」
この魔神さん、アイドルに詳しいんだ……
P「その者は? なんと呼ばれるのだ?」
魔神「プロ……デューサーと呼ぶがいい。それがアイドルを支援する者の名だ!」
P「理解した。では、今日から私がその名を名乗ろう。私がプロデューサーだ!」
裕美「……え? えー!?」
P「ただ今より関裕美様、私の事はプロデューサーとお呼び下さい」
20 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:04:52.38 ID:bBMqw/ks0
店長さん……じゃなかった、プロデューサーはその後色々と準備があると言われ、私は家に帰った。
そして翌日、私がお店に行ってみると……
裕美「魔法を売る……プロダクション!?」
P「やあ、関裕美様。お待ちしておりました。ようこそ、魔法を売るプロダクションへ」
裕美「表の看板、あれやっぱり本当なんだ。ねえ店長さん」
P「店長ではありません」
裕美「え?」
P「私は、プロデューサーです」
裕美「……もういいよ、そういうの」
P「なんですと?」
裕美「私、このお店が好きなの。綺麗で、キラキラしていて、不思議で、でも楽しくて」
P「……」
裕美「だから、私の為にお店をやめたりしないで」
21 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:05:22.23 ID:bBMqw/ks0
P「ご心配には及びません。この店の本質は、なんら変わっていません。ただ、名義上プロダクションとして登録をしただけです」
裕美「そ、そうなの?」
P「魔法の手鏡の言った事が間違いでなかったと証明されたら、また名義も店に戻します。まあ、手続き上事務所ということにしただけです。アイドルにプロダクションは必要ですから」
それを聞いて私は少し、安心した。
うん。私、このお店が本当に大好きになってるんだ。
P「その笑顔」
裕美「え?」
P「私はまた、確信しました。やはり、魔法の手鏡は正しい」
笑顔?
私、笑ってた?
いっつも「怒ってる?」って聞かれる私が?
22 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:08:17.43 ID:bBMqw/ks0
P「さて、手続きや申し込みから取りかかりましょう」
裕美「ほんとかな……」
P「あの、手続きから……」
裕美「……」
P「関裕美さま?」
裕美「え? あ! う、うん。なに?」
P「この魔法を売るプロダクションと、正式に契約を交わしていたただきます」
裕美「あ、うん」
P「判子などはお持ちで?」
裕美「ううん、持ってないけど」
P「ならば自著で結構です。デイジー、バイオレット、ここへ」
店長さんの言葉に応えるように、手にペンを持ったお人形さんが2体、トコトコと歩いてやってきた。
23 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:11:24.66 ID:bBMqw/ks0
P「これから私が口にすることを、書面に書きとるように」
デイジーちゃんとバイオレットちゃんは、コクリと頷くとそれぞれが紙を机に置く。
P「魔法を売るプロダクションとその代表である私、魔法を売るプロデューサー、かっこ以下甲とするは、関裕美様、かっこ以下丙とすると、以下のマネジメント契約を取り交わす」
デイジーちゃんとバイオレットちゃんは、よどみなく同じ動作で同じ事を紙に書き留めていく。
P「ひとつ、甲は丙に対し魔法の手鏡が正しく機能している事を証明するため、誠心誠意プロデュースに努めるものとする」
P「ふたつ、具体的には甲と丙は魔法の手鏡の言うとおり丙が可愛い事を証明する為トップアイドルを目指すこと」
P「みっつ、契約の期間は上記の証明がなされ、かつ丙よる魔法の手鏡の未納代金分の支払い完了をもって終了するものとする」
あ! そういえば私、まだ手鏡の代金を払いきってなかったんだ。
なるべく早く、払わないとね。うん。
P「関裕美様、これでよろしいですか? よろしければサインを」
裕美「うん。……これでいいの?」
P「こちらにもサインを。……はい、結構です。この同じ文言の両者のサインのある契約書は、お互いが1枚ずつ持つこととなります。これでマネジメント契約完了です」
裕美「じゃあこれで、私はこの魔法を売るプロダクションの所属アイドルなの?」
P「左様でございます。以後、あなた様がトップアイドルとなられるその時まで、よろしくお願いいたします」
裕美「うん、よろしくお願いします」
私はきちんと頭を下げた。
私の為にがんばってくれるんだから、当然だよね。
24 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:14:53.25 ID:bBMqw/ks0
P「それでは次に、準備に取りかかりましょう。アイドルに必要なもの」
裕美「アイドルに必要なもの?」
P「まずは衣装ですね」
裕美「そうか。うん、アイドルってみんな可愛い衣装を着てるんだよね」
P「まずは一着、作ってみなければなりません」
裕美「作る? どうやって?」
P「無論、魔法で」
店長さんは、戸棚から絨毯を引っ張りだしてきた。
裕美「きれいな絨毯……絵が織ってあるんだね」
絨毯には、アラビア風? の絵が織り込まれている。
真ん中で女の人が踊っていて、まわりの人たちがそれを楽しそうに見ている絵だ。
25 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:17:12.54 ID:bBMqw/ks0
P「正確には織ってあるのではなく、絨毯の中に入っているのです」
裕美「え? それってこの踊り子の人が?」
P「そうです。彼女ならば、衣装のことにも詳しいし、後々役に立ってくれるはず。出よ、ジニー!」
何も起きない。店長さんも首をひねる。
P「ジニー?」
やっぱり何も起きない。
裕美「どうしたの?」
P「ジニーが出てきません。妙ですね」
ちょっと前の私だったら「絨毯から女の人が出てくるはずないよ」って、言ってたと思う。
でももう、さすがに私もなれっこになってきた。
26 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:17:46.43 ID:bBMqw/ks0
裕美「どうしてジニーさん、出てきてくれないのかな」
鏡「それは、音楽がないからです」
裕美「きゃっ! あ、この手鏡、またしゃべった」
P「おお、そうだった。ジニーを呼ぶ出すのは久しぶりだったので、音楽の事を忘れていました。うむ、やはりこの手鏡は優秀な逸品だ」
裕美「そういえば……」
私は、初めてこの魔法の手鏡がしゃべった時のことを思い出した。
裕美「この手鏡、私の質問に答えないこともあるんだけど」
P「それはどんな質問ですか?」
裕美「えっとね、確か『今しゃべったのはあなた?』って聞いた時だと思う」
P「この魔法の手鏡は、知り得る限り全ての質問に対する答えを教えてくれますが、例外が2つあります」
裕美「それって?」
27 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:18:20.64 ID:bBMqw/ks0
P「まずは、この魔法の手鏡の知らないこと。知らないことには答えようがありませんから」
裕美「それはわかるよ。でも、この手鏡って、そんなに色々な事を知ってるの?」
P「魔法の手鏡は、世界中の鏡と繋がっています。つまり世界中の鏡が見聞きした事を、この鏡は全部知っているのです」
なるほど。それは確かに、物知りなはずだ。
あれ? でも……
裕美「じゃあ、鏡のない所のことはわからないの?」
P「おっしゃる通り。人の手の及ばぬような土地ですとか、なんらかの事情で鏡のない場所で起きていることはわかりません」
そして店長さんは続ける。
P「同様の理由で、魔法の手鏡は未来の事が予見できません。今の状況を知ることはできても、それが今後どうなるかという事を考えたり判断したりはできないので、知ることができないのです」
裕美「じゃあ、明日の天気とかは答えてくれないんだ」
P「その通りです。その質問には、答えてくれないでしょう。ただ、テレビの天気予報がどう言っていたのか、ですとか天気の専門家がどう判断しているのかという質問には答えてくれるはずです」
要は使い方ということかな。
でも……
28 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:18:51.86 ID:bBMqw/ks0
裕美「私が『しゃべったのはあなた?』って聞いたのに答えてくれなかったのは?」
P「例外の2つ目は、自分で自分の事については答えられない、という事です」
裕美「そう……なの?」
P「これは魔法の手鏡に限らず、そして魔法の働きの有無に限らず、自分のことは自分でもわからないものです。そういった意味では、先ほどの『知らないことには答えられない』と同じ理由と言えるかも知れません」
そういうものなのかな?
でも、店長さんは魔法の手鏡のことがあるにしても、私が可愛いと言ってくれる。
私自身は、それがとても信じられない。
それと同じなのかな……?
P「答えられない事に関して、魔法の手鏡は『答えられません』とは言ってくれません。聞いても返事がない時は、先に述べた2つの理由のどちらかに該当するとお考え下さい」
裕美「わかった」
P「さて、音楽でジニーを呼び出さねば……魔法の白い鳥たちに歌わせるか」
店長さんが手を叩くと、どこからか小鳥たちが飛んでくる。
裕美「わ、可愛い小鳥さんたち」
P「7羽の姉妹です。左からドナ、レベッカ、ミーナ、フランチェスカ、ソフィア、ララ、シエラです」
裕美「よろしくね」
29 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:21:44.13 ID:bBMqw/ks0
P「彼女たちは、踊りにあわせて綺麗な音色で歌うことができます」
裕美「え?」
P「踊りにあわせて綺麗な音色で歌うことができます」
裕美「その踊りって、誰が踊るの?」
P「それはジニーに」
裕美「ジニーさんは、音楽がないと出てこないんじゃないの?」
P「なのでそれは魔法の白い鳥たちに……あ!」
私は吹き出してしまった。
店長さん、ちょっとドジなところもあるんだ。
うふふ。
P「弱りましたね。ジニーはアナログの音楽でないと、出てこれないのです……そうだ」
裕美「いい考えがあるの?」
30 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:22:55.29 ID:bBMqw/ks0
P「関裕美様、お願いいたします」
裕美「え?」
P「歌ってください」
裕美「わ、私!?」
P「アイドルになるのですから、手始めに」
え。ええー!?
私そんな、人前で歌ったことなんてないよ。
P「難しく考える必要はありません」
店長さんはそう言うけれど……
その時、私はあのコンビのお人形さん、デイジーちゃんとバイオレットちゃんと目が合った。
31 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:26:05.74 ID:bBMqw/ks0
裕美「お人形さん♪ お人形さん♪
あたしの 大好き お人形さん♪
いつもいつも 可愛い お人形さん♪」
デイジーちゃんとバイオレットちゃんはビックリしたようにお互い顔を見合わせると、クスクスと笑い出した。
良かった。お礼の気持ち、伝わったのみたいだ。
裕美「青い目と黒い目♪
髪はブロンド♪
お肌はセルロイド♪
お洋服はおそろいの シルクの赤♪」
と、デイジーちゃんとバイオレットちゃんじゃないお人形さん達が、次々とテーブルの上に登りだした。
裕美「みんな可愛いお人形さん♪
とっても可愛いお人形さん♪
みんな大好き お人形さん♪」
次に鉛の兵隊さん達が現れた。
規律正しく行進して私に敬礼してくれた。
裕美「お人形の兵隊さん♪
とっても強そうな兵隊さん♪
お人形さんをまもって 今日も行進♪
かっこいい兵隊さん♪
みんなの兵隊さん♪
私も大好き 鉛の兵隊さん♪」
その瞬間、あの7羽の小鳥さんたちが歌い出した。
私の歌は、和音になって輪唱になり、ボイスパーカッションも加わる。
裕美「魔法のお店のみんなが 大好き♪
魔法のお店もみんなが 大好き♪
今日も楽しい みんなのお店♪」
お人形さん達も、兵隊さん達も踊り出す。私も一緒になって小躍りをした。
そしてついに、あの魔法の絨毯から女の人が飛び出してきた。
髪をボニーテールにした、綺麗な女の娘だ。
32 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:28:04.03 ID:bBMqw/ks0
ジニー「ひょっほーぅ☆ なんだか楽しそうだねっ! アタシも踊るよっ☆」
裕美「はじめ まして ジニーさん♪
私は裕美です♪
どうかよろしく お願いします♪」
ジニー「これはこれはどうも♪
ご丁寧 いたみいります♪
アタシはジニー♪
バニーじゃありません♪
魔法の絨毯の精霊です♪」
P「いや、素晴らしい。即興の歌で、みんな関裕美様に惹きつけられました。そして、ジニー、ようやく出てきましたね」
ジニー「はーい、お久しぶりですっ☆」
裕美「みんな可愛いから、なんとなく歌っちゃった。こんなの始めて」
P「これは予想以上に上手くいくかも知れませんね」
33 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:31:45.94 ID:bBMqw/ks0
ジニー「それでっ? アタシになんのご用ですかっ☆」
P「まずはこの方の衣装を作る事だ」
ジニーさんの着ている衣装は、アラビア風のちょっと大人向きだ。
わ、私もこんな衣装を着るの?
裕美「あ、あの!」
ジニー「こちらの方だと、少し布を多めでフリルとかも多めがいいですよねっ☆」
P「任せる。その為に呼んだのだから。ん? 関裕美様、なにか?」
裕美「え? あ、えーと、そういう衣装でお願いします」
P「? 心得ました。ジニー取りかかれ」
ジニー「じゃあ、アタシの絨毯からちょっと糸を拝借して……そーれ! チクチクチクッ☆」
ジニーさんは、手にした針で目にもとまらない動きで衣装を縫っていく。
34 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:32:27.62 ID:bBMqw/ks0
裕美「でもそんなに糸を使っちゃって、ジニーさんの絨毯なくなっちゃわないのかな……?」
鏡「魔法の絨毯は、月の光を紡いだ繭の糸なので月の光を浴びればまた元通りになるのでなくなりません」
裕美「あ、そうなんだ。良かった」
ジニー「うんっ☆ でも、心配してくれてありがとうねっ!」
私とジニーさんは、目を合わせて笑った。
うん、やっぱりこのジニーさんもいい人だ……まあ、人かはわからないけど……
私このお店、大好き!
ジニー「はい、完成っ! ほらほら、着てみて」
裕美「う、うん」
ジニーさんが縫い上げたのは、本当に可愛い衣装。
これ、私が着てもいいのかな……
P「では、私は席を外しましょう。その間に、せねばならぬ用を済ませます」
そう言うと、店長さんはお店から出ていった。
ジニー「ほらほらほらっ☆」
裕美「ど……どうかな?」
35 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:36:07.30 ID:bBMqw/ks0
https://i.imgur.com/Rlz6mWQ.jpg
https://i.imgur.com/MWxVfGj.jpg
関裕美(14)
https://i.imgur.com/3FfKmVV.jpg
ジニー(?)
36 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:37:57.12 ID:bBMqw/ks0
ジニー「うんうん。すっごく可愛いよっ☆ それじゃあ続いて、踊りの練習っ!」
裕美「ダンスレッスン……私にできるかな」
ジニー「大丈夫だよっ☆ さっき魔法の白い小鳥さんたちが歌っていたのは、あなたが踊ってくれてたからだから」
裕美「そう……かな」
ジニー「じやあ、かるーく準備体操からっ!」
裕美「うん」
ジニー「ムキムキ体操、はじめーっ☆」
裕美「え?」
ジニー「ちょうちょだって鍛え上げりゃモスラぐらいなーれるんだっ☆ はい!」
裕美「え? ちょ、ちょーちよだって鍛え上げりゃモスラぐらいなー……なれるかな?」
ジニー「疑問に思っちゃダメ、ダメー!」
裕美「は、はい!」
ジニー「トカゲだって鍛え上げりゃゴジラぐらいなーれるんだっ☆」
裕美「トカゲだって鍛え上げりゃゴジラぐらいなーれるんだ♪」
37 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:38:56.24 ID:bBMqw/ks0
〜2時間後〜
ジニー「いいよ、いいよー! そーれ、四国だって鍛え上げりゃオーストラリアぐらいなーれるんだっ☆」
裕美「四国だって鍛え上げりゃオーストラリアぐらいなーれるんだ♪」
P「……なれますかね?」
ジニー・裕美「なれるよ!!!」
P「……意気投合されたようで、結構です。ではジニー、今後とも関裕美様の衣装とダンスレッスンを頼む」
ジニー「がってん! がってん!! がってんっ☆☆☆」
店長さんは、いつの間にか帰ってきていた。
38 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:40:39.29 ID:bBMqw/ks0
P「次にメイクの練習ですが……」
裕美「メイクかあ。お母さんに教わって、ちょっとだけならお化粧もやったことあるけど」
P「アイドルとしてですから、プロの道具や技術や心得が必要になります。これは私にはわからない、そして知り得ないものでして」
裕美「じゃあやっぱりジニーさんに教えてもらうの?」
P「次善の策としてはそれも考えておりますが、更に適任がおります。私としてはそちらにお願いをしたいのですが、なにぶん気難しい女でして……」
ジニー「あ! じゃ、じゃあアタシは絨毯に戻りますっ!」
裕美「え?」
店長さんが迷うような女の人かあ、ジニーさんもなんだか急いで帰っちゃったし、私うまくやっていけるかな……?
P「とにもかくにも、頼んでみるとしましょう。カンタータ!」
店長さんが呼ぶと、お店の奥からガシャンという大きな音がした。そしてそれは、どんどん近づいてくる。
ガシャン! ガシャン!! ガシャン!!!
現れたのは、真っ黒な西洋風の鎧だった。
普通なら中に誰か入っているんだと思うけど、このお店のことなのでこういう鎧の人なのかも知れない。
裕美「関裕美です。メイクのこと、色々と教えてください」
私が頭を下げると、鎧のカンタータさんは首をかしげる動作をした。
39 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:41:51.13 ID:bBMqw/ks0
P「違います、関裕美様」
裕美「え?」
P「カンタータは、武器庫の番人です。武器庫は扱っている品に危険な物が多いので、彼のような頑丈な者が番をしております」
裕美「そ、そうなんだ。勘違いしてごめんね、カンタータさん」
私が再び頭を下げると。カンタータさんは、ガチャガチャと大きな音を立てて肩を揺すった。
たぶん、笑って許してくれたんだと思う。
P「カンタータ、ゴルゴンの盾を持ってきなさい」
カンタータさんは頷くと、また店の奥に戻っていく。
P「この間にどうぞ、これを」
裕美「緑のサングラス? これをかけるの?」
P「左様でございます。これは魔法の品ではない、ただのエメラルドのサングラスですが、十分に効果はあります」
裕美「効果って?」
P「ゴルゴンの盾のメデューサを見た者は、石になっていまうのです」
裕美「石に!?」
40 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:43:19.80 ID:bBMqw/ks0
そうこうしている間に、カンタータさんは大きな盾を持って戻ってきた。
盾には女の人の上半身が彫られている。ううん、きっと彫られているんじゃなくて……
ドン――
メデューサ「ちょいと! 乱暴に置くんじゃないよ!! まったくここの男どもはレディに対する礼儀がなっちゃいないんだから!!!」
やっぱり。この盾の女の人がきっと、私にメイクを教えてくれるメデューサさんだ。
P「メデューサ、あなたに頼みがあります」
メデューサ「なんだって? 頼み? それならそれなりの態度ってもんを見せてもらおうじゃないか。あたしに頭を下げてごらんよ。店長であるあんたが、このあたしに頭を下げるなんて屈辱的な……」
P「この通りです。頼みを聞いてください」
メデューサ「……なにさ、頼みってのは」
P「こちらの女性に、メイクの仕方を教えて差し上げて欲しいのです」
メデューサ「へえ、あんた名前は?」
裕美「あ、せ、関裕美です。よろしくお願いします!」
メデューサ「あんた、メイクなんて要らないだろうに」
41 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:45:33.09 ID:bBMqw/ks0
P「この方は、アイドルを目指しているのです。その為に必要なのです」
メデューサ「ふん」
裕美「あの……あのね、メイクが必要ないっていうのわかるよ。私、目つきが……きつくていつも人から『怒ってる?』って聞かれるし、顔もそんなに可愛くないし……」
メデューサ「……」
裕美「髪だってこんなだし……」
メデューサ「……綺麗な髪だよ。あんたのはね」
裕美「え?」
メデューサ「サングラス、外してごらん」
裕美「え? うん」
P「関裕美様、お待ちを……」
店長さんが何かを言い終わる前に、私はサングラスを外しちゃってた。そしてその私の目がメデューサさんを見る前に、メデューサさんの手が私の視線を遮ってくれた。
白くてきれいな手だった。
42 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:49:21.42 ID:bBMqw/ks0
メデューサ「鏡は持ってるかい?」
裕美「うん。魔法の手鏡なら……」
メデューサ「それに映して、あたしの顔を見てごらん」
私は言われた通りにした。
エメラルドのサングラス越しじゃないメデューサさんは、びっくりするぐらいの美人だった。
そして――
裕美「髪は1本1本が蛇さんなんだ!」
メデューサ「そう。しかも毒蛇。どうだい、あんたの髪の方が綺麗だろ?」
裕美「うーん……でもこの蛇さんも、かわいいよ」
鏡越しにお互いが顔を見ているので、私とメデューサさんは隣に並ぶ形になる。と、メデューサさんの髪の蛇が、私の顔をのぞき込んでウインクをしてくれる。
私は人差し指で、その蛇さんの頭をなでた。
メデューサ「……そうかい」
裕美「メデューサさんを見ると石になっちゃうって聞いたけど、サングラスをかけたり鏡越しに見れば大丈夫なのはどうしてなの?」
P・鏡「それは、偏光です」
裕美「? 偏光って……」
メデューサ「ああ、男どもの言うことは放っておきな。男なんてもんはね、女の顔をあれこれ言う割には何にもわかっちゃいないんだから」
裕美「でも、店長さんは……」
メデューサ「ん?」
43 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:50:57.10 ID:bBMqw/ks0
裕美「私を、その……可愛いって……」
メデューサ「……どれ、あたしがその可愛い娘っこを、舞踏会に行くようなレディに仕上げてやろう」
裕美「うん。お願いします」
メデューサ「道具は? 用意してあるんだろうね!?」
P「魔法の化粧箱を用意しております。中に必要な物は、一通りそろっているかと」
メデューサ「どれどれ? なんだいこの口紅の色は。この娘の歳格好ってもんを考えなよ」
P「そういうものなのですか?」
メデューサ「こりゃ大人用だろ!?」
P「しかし虹を溶いた一級品の……」
メデューサ「高価な品ならいいって思うのが、男の浅はかさだね。海色の口紅があったろ、あとついでにガマニオンと銀星砂も持っといで!」
P「わかりました」
44 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:52:42.39 ID:bBMqw/ks0
裕美「え、あの店長さん……いいのかな?」
メデューサ「いいのさ。好きにやらしておやり。ついでにあんたに、化粧の心得ってもんを教えてあげようかね」
裕美「うん、お願い」
メデューサ「自信を持ちな」
裕美「え?」
メデューサ「自信がない者ほど、あれこれ弄るのさ。本当は必要ないんだけど、一応やってやる。それぐらいの気持ちで化粧はするんだよ」
裕美「自信?」
メデューサ「それに化粧ってのは、自分を相手に見せる……つまり差し出す行為。堂々とやんなきゃ負けだよ。媚びるような真似は、卑しいからね」
裕美「うーんと……よくわからないけど私、自信はあんまりないかな……」
メデューサ「これ!」
裕美「えっ?」
メデューサ「あんたは、わかってないよ。あの唐変木で慇懃無礼な店長のやつが、あんたの為にあたしに頭を下げたってことの凄さがね」
裕美「そうなの?」
45 :
◆hhWakiPNok
[saga]:2018/08/05(日) 17:54:21.95 ID:bBMqw/ks0
メデューサ「あいつは店長、あたしは品物。それを考えたら、あいつはあたしに命令さえすりゃいいんだ。それを事もあろうに人もあろうに、あたしの言う事を本気にして頭を下げやがった。それを汲んでやんなきゃ、今度はあんたの女が廃るよ」
メデューサさんの言っていることは、なんとなくはわかる。
でもこの、両親以外の誰からも可愛いなどと言われたことのないこの私には、それをいっぺんに理解するのはなかなか難しい。
メデューサ「それに今、あいつはあたしに言われて嬉々として小走りに品物を取りに行ったろ? あいつはあんたの為に喜んで使役してる。なら、あいつの為に綺麗になっておやんな。とりあえずは、それでいい」
アイドルになるということは、どこの誰とも知らない人に自分を可愛い、素敵だと思ってもらうことになる。それがどういうことか、私にはまだよくわかっていないけど、今は彼女の言うことに……うん、従おう。
P「持って来ましたよ。これでよろしいので?」
メデューサ「ああ。じゃあメイクが終わるまで、あんたはすこっんでな」
P「は? いやしかし、私は関裕美様のプロデューサーですが?」
メデューサ「レディが身支度してるとこを、ジロジロ見るのはマナー違反だよ! さあ、出て行きな!!」
店長さんは、少し残念そうに微笑んでお店の外に出て行ってくれた。
それからメデューサさんは、私にメイクを教えてくれた。
メデューサ「口紅は、あんまり濃く塗るんじゃないよ。この口紅はここを回せば色んな海の色に変わる。最初は朝焼けの映る海がいいだろ」
裕美「こう?」
100.95 KB
Speed:0
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)