紬「フェアリーのFはフォーエバーのF…?合言葉?」

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11 : ◆a/VLka4bp3Eo :2018/06/30(土) 18:59:40.55 ID:KY+4F9Bu0
 ともかくも。
 妖精とは姫たちや天使たちとは違い、基本的に何か表だって行動するわけでもない。
 ただああでもない、こうでもない、と思索を巡らすものの、直接彼女らの想い人の部屋に殴り込んだり、殴り込んだアホどもを止めるために実力行使にでたりするわけでもない。
 当然ありあまる財力を持っていても、とある青年の部屋に盗聴器やカメラを仕掛けようともしないし、仕掛けようとした奴らを止めるためにやっぱり実力行使にでたりするわけがないのだ。
 つまるところ。

「私はあのくだりが気になったのですが。プロデューサーが貴音さんの尻を叩きたいという」
「ごめん……そういうのは……」
「……いや、うん。ミズキはおとなしい顔してすごいこというな……」
「なんでおしりをたたきたいんだ?貴音が何か悪いことやったってことか?」
「そういうことではないと思います……こいつら駄目駄目な気がするぞ」

 彼女らは、確かにめんどくさかったり、少々奇抜な部分はあるが、割と常識人の集まりなのである。
 ただし、一部を除いて。

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12 : ◆a/VLka4bp3Eo :2018/06/30(土) 19:00:17.79 ID:KY+4F9Bu0
 空にはまだ月はない。
 夕日は雲と眼下を染め上げている。
 見渡せば、ネオンや街灯がそこらに光を灯し、ビルもまたその中から光を放っている。
 すぐそばの道路でも、ヘッドライトをつけたばかりの車が走り始めていた。

 午後6時。そんな時間にこんなのんびりするのもなかなかない。
 特に劇場の屋上に出てたった一人で一休み、なんてことは稀だ。
 たとえ暇があっても、頻繁にこの劇場では誰かの相手をしている。

 そういえば、なぜ屋上にでる羽目になったのか。
 田中琴葉が思いつめた顔で屋上に向かっていたからだったか。
 それとも、いつも使っているデスクの前で篠宮可憐が自分の衣類に包まれてテンションを上げていたからか。
 はたまた、天海春香に何故か自分の目覚ましについて言及されて逃げてきたからか。
 あるいは、事務仕事が終わり、飲みたいなあー連れてってほしいなーという雰囲気を見せつけてきた馬場このみに一旦冷静になる機会を与えたかったからか。

 ―――いや。

 琴葉は探し物をしていただけで。
 可憐についてはいつものことで。
 春香に聞かれてやましいことなんて特にはなく。
 このみさんと飲みにはいくつもりだった。

 じゃあ、なんなんだろうな、と思って外から屋上の入り口に目を戻すと、

「―――あなた様」
13 : ◆a/VLka4bp3Eo :2018/06/30(土) 19:00:47.88 ID:KY+4F9Bu0
 なんだ、お前がよんだのか、とそう答えそうになった。
 浮世離れした、という言葉が大概浮世離れしている劇場の中でも最も似合う女がそこにはいた。

 四条貴音。
 苗字からして大概浮世離れしているが、名前もタカネときたものだ。
 高翌嶺の花。貴い音。まあアイドルとしては本名を芸名にしていいぐらいのインパクトのある名前である。
 昔はプロデュースできんのかこいつ、とも思ったが今は大分角もなくなって売り出しやすくなった。

「……ええ、わたくしが呼びました」
「嘘か」
「嘘です」
「心を読まれてるのかと思った」
「読心の術は未だ身に着けておりません」

 さよか、と思ったが話半分で聞いておく。
 この世は大概不思議であふれている。自分もそうだが、自分の担当するアイドルなんてもっと無茶苦茶だ。
 空に飛んでいく劇場とか一体なんなのか。劇場だけならともかく、アイドルが空を飛んだり深海にもぐったり、しまいには世界を壊したり。まあ夢の話だ。
 そんな中で、貴音は元から不思議の塊のような女である。心を読めても不思議ではない。

「実際心を読めていたらどうなんだろうな。
 俺が今何考えてるかわかるか、貴音」
「……面妖なっ!」

 突然顔を赤らめられても何がなんだか。
 別にいつも考えてることしか考えてない。
 こいつの尻ひっぱたきてえなあ、とかぐらいだ。
14 : ◆a/VLka4bp3Eo :2018/06/30(土) 19:02:10.80 ID:KY+4F9Bu0
「……考えてることがばれてるって怖いな。
 いや可憐も似たようなことできるけど」
「プロデューサーの視線が不躾だったからわかっただけにすぎません。
 わたくしはあの者とは違います」
「すげえよなあ……こっちが発情してるのが常にフルオープンとか。
 あいつに俺の心の中がモロバレって気づいた時は人生終わったと思ったんだけど、まあなんとかなるもんだな」
「あなた様はわりと心が口から洩れていますので」

 マジかーと思って空を見上げる。まだ夕暮れ時だ。
 篠宮可憐には本気で感情発情から細かな身体情報までわりとモロバレなので、こっちもフルオープンで接していたりする。
 一応周囲に他人がいる時は気を使っているけども、それも自分が適当なので限度がある。
 まあそのせいかしらんが、最近はあっちもフルオープンになってきている。
 多分俺のせいじゃないと思う。この環境が悪いのだ。環境が。
 つまり大体社長のせい。そういうことにしとけ。

「しっかしそうかあ。こりゃその内プロデューサー業もクビになるかもしれんな」
「そうしたらわたくしもアイドルを廃業せねばならなくなるかもしれませんね」
「嘘つけ。お前は俺が辞めてもアイドルを続けるよ」
「はい、嘘です」

 そっかあ、と言ってやっぱり空を見上げる。若干日は沈みかけている。
 悲しいとも特に思わない。
 四条貴音はそういうアイドルだ。本人の中で何らかの使命のようなものがあって、アイドルをしている。
 だからきっと、自分がいなくても彼女はアイドルをし続けるだろう。
 己の使命を果たすまでは。

「ですが、あなた様はきっとプロデューサーであり続けるでしょう。
 わたくしがアイドルを続ける限りは」
「意味がわからんなあ」
15 : ◆a/VLka4bp3Eo :2018/06/30(土) 19:02:51.34 ID:KY+4F9Bu0
 プロデューサー業に未練などない。
 やってることは楽しいし苦しいしやりがいはあるけど給料は人並みだ。
 きっと、高木という男に義理を感じていなければ、ここまでこの仕事を続けることはなかっただろう。
 アイドルは可愛いがそれだけでできる仕事でもない。当たり前だが。

「あなた様はわたくしたちにずっと一緒にいると頻繁に言ってるではないですか」
「俺が言った覚えはねえぞ。そもそもずっと一緒とか一番怖い言葉だと思うんだが」
「そうですか?心はそうは言っていないようでしたが」
「やっぱり心が読めるんじゃねえか」
「嘘です」
「嘘かー」

 ずっと一緒、という言葉をアイドルから言われることはよくある。
 アイドルというのは、テンションを限界まで高く保っていなければできない仕事だ。
 そりゃテンション高くなりゃ仲間をいとしく思うようになるし、踏み込んだ言葉もぽろっと出るだろう。
 それにしても春香はやりすぎだが。いや、俺も言い過ぎたけど。

「ずっと一緒ねえ……よく言われるが」
「あなた様はいけずです」
「やかましい。そもそもずっと一緒にいれるわけないだろ」
 アイドルったってそれこそずっと続けるわけじゃないし、俺だってその内この仕事辞めて別の仕事探さなきゃいけないかもしれん」
「その通りです」

 しかし、と銀髪を揺らして彼女は言う。

「それでも、永遠にともにいたいと思うのは間違いでしょうか」
「お前が言うとなあ……それこそ、お前の事情とか俺は何も知らんし。
 言っとくけど、俺が担当しているアイドルの中で一番先行き不安なのお前だからな?」
「ありがとうございます」
「ほめてねえよ、なんでそうなる」

 と、そこで電話が鳴る。
 携帯の着信音は、幸せを求める蒼い鳥を唄った歌。
 あるいは別れの歌だろうか。
 それを聞いて、貴音の顔は、悲しんだのだろうか。はたまた喜んだのだろうか。
 表情が動いたような気がしたが、それは読み取れなかった。
16 : ◆a/VLka4bp3Eo :2018/06/30(土) 19:03:33.86 ID:KY+4F9Bu0
「なんだ、律子?
 ……貴音?いるぞ、こっちに。え、電話しても出ない?
 急用……でもないのか。まあいいや、はいはい。
 わかってるよ、仕事はちゃんと終わらせるって。ああ、今日までだろ?はいはい……あいよ、じゃあな」

 言って、携帯の通話を終わらせる。
 さて、そろそろ時間だろう。
 ぼちぼち仕事を再開しないと、このみさんとの飲みにいけなくなる。
 赤かった空も、間もなく暗くなろうとしていた。
 空には月。―――そう、月がのぼりかけている。
 別に、月があったから、というわけではない。ただ、風が貴音の髪を揺らしただけだ。
 それで、わかった。四条貴音は、笑っていた。

「なんだよ、貴音」
「いいえ、やはり永遠、というものはあるのものかもしれない、と思いまして」
「なんだそりゃ」
「あなた様は、その曲が好きなのではありませんか?
 ずっと、変わらず。初めて聞いた時から」
「……あのなあ」

 はあ、とため息をついて歩き出す。

「そりゃずっと好きだけどな。それでも一年かそこらだよ。
 いつかは嫌いになるかもしれないだろ」
「ええ。でもずっと好きなのかもしれません」
17 : ◆a/VLka4bp3Eo :2018/06/30(土) 19:04:10.14 ID:KY+4F9Bu0
 ともかくも、これで妖精の話も終わる。

「永遠なんてあるはずがないって。
 そりゃあったらいいかもだけどな」
「その通りです。しかし――――」

 本当の妖精のごとく。のぼりかけた月を背に、はかなく、飛んで消えていきそうな彼女はそう言った。

「―――ふぇありーのえふはふぉーえばーのえふと、そう聞きました。
 なので、そのような思いが込められてるのかもしれない、と。
 ただ、そんなことを思ったのです」

 彼女の銀髪。月は、そこに輝いていた。


(紬「フェアリーのFはフォーエバーのF…?」あるいは、月の妖精との雑談・了)
18 : ◆a/VLka4bp3Eo :2018/06/30(土) 19:06:57.95 ID:KY+4F9Bu0
以上です。
HTML化依頼を出してきます。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/30(土) 20:18:16.21 ID:iBCnkUkHO

そんなに尻を叩きたかったのか…
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/30(土) 23:41:47.54 ID:n6WB0nE/o
グリー版の最初のイベントの記憶が……

レイドボスお姫ちんをみんなでぺちぺち
21 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2018/07/01(日) 03:14:45.20 ID:8o9iUPNG0
貴音のとこがメインだったか
乙です

>>3
天海春香(17) Vo/Pr
http://i.imgur.com/f6ombAr.png
http://i.imgur.com/Fno1zjw.png

星井美希(15) Vi/An
http://i.imgur.com/xchpLN2.png
http://i.imgur.com/nDeVr3Z.jpg

如月千早(16) Vo/Fa
http://i.imgur.com/fRks4gt.png
http://i.imgur.com/BGsfvrt.jpg

>>7
秋月律子(19) Vi/Fa
http://i.imgur.com/anoP91T.png
http://i.imgur.com/UFGcgDL.jpg

二階堂千鶴(21) Vi/Fa
http://i.imgur.com/YVJLq1z.jpg
http://i.imgur.com/LpcxebM.jpg

>>8
百瀬莉緒(23) Da/Fa
http://i.imgur.com/ZZv5cN0.png
http://i.imgur.com/fN2dY7Z.png

周防桃子(11) Vi/Fa
http://i.imgur.com/UST4RPI.jpg
http://i.imgur.com/3Gw96ND.jpg

水瀬伊織(15) Vo/Fa
http://i.imgur.com/Avg4Gn9.jpg
http://i.imgur.com/Yut9h0v.jpg

>>9
最上静香(14) Vo/Fa
http://i.imgur.com/9c8p7f7.jpg
http://i.imgur.com/Z1Ctgkh.png

北沢志保(14) Vi/Fa
http://i.imgur.com/gVLQiiV.png
http://i.imgur.com/kD3k0ji.jpg

白石紬(16) Fa
http://i.imgur.com/McbwTmk.png
http://i.imgur.com/G09quRI.png

>>11
真壁瑞希(17) Da/Fa
http://i.imgur.com/kRNfaHS.png
http://i.imgur.com/IIYSNlr.png

>>13
四条貴音(19) Vo/Fa
http://i.imgur.com/s1MMjEt.png
http://i.imgur.com/LY7Aqch.jpg
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/01(日) 07:24:09.18 ID:rh5vjHo/0
乙!
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/01(日) 14:51:44.53 ID:gofFZscDO

ジュニオールけしかけたりするついでに誰かが何かされたのかな
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