【ラブライブ!】魔法少女 ほのか☆マギカ

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143 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/27(月) 03:44:03.14 ID:M2v5CK+c0
 今まで黙っていたキュゥべぇ。肩で息をついていた真姫は胃液で焼けた声でつぶやいた。

真姫「じゃあ、逃げれるの?」

QB「うん、きっとどこかに出口はある」

 キュゥべぇの言葉を聞いてから外の空気を吸うまでの絵里の記憶はほとんどない。

 いつの間にか海未とことりと一年生三人と魔女の結界から抜け出していた。

 あの凛でさえ息を切らしていたあたり、かなり長いこと魔女の結界の中を彷徨ったのだろう。

 今は、泣き声と嗚咽だけだった。希のために泣いているメンバーを見て、体の熱が抜けていくようだった。

 もう何も考えたくない。一人立ち上がり、仲間に背を向け、歩き出す。夜風が冷たい。まだ十月になったばかりだ。こんな夜なのに、星が綺麗で、理由のない苛立ちを覚える。

 どうしても、希に聞きたいことがある。でも、もう聞くことができない。

 ねえ、希。

 あなたはあの時私に何を言ったの?

 あなたの願いは何だったの――?
144 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/27(月) 03:48:51.09 ID:M2v5CK+c0
1です。所用で更新ができませんでした。すみません。また少しずつ更新していきます。
145 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/29(水) 07:19:34.64 ID:WPYe8Vto0
◆Living for despair.


◆ ◆ ◆


 息を切らせて走る。清々しい朝だ。久しぶりの学校!μ'sの練習!

 穂乃果は海未とことりとの待ち合わせ場所へ走った。秋の空は澄んでいて、少しだけ涼しい。

 だが、誰もいない。一番乗りだ。使い慣れたスマートフォンを取り出す。幼なじみ三人のグループチャットを開いてメッセージを打ち込んだ。

『一番乗り!海未ちゃんもことりちゃんも早く来て〜!』

 チャットで話しただけだが、昨日一昨日と少しだけ二人の様子がおかしく感じた。一昨日にこのライブが終わってから送ったメッセージには海未の味気ない丁寧な返事がついているだけだった。
 特にことりの返事はなかったが、昨晩ことりの方から宿題とか、修学旅行のこととか、日常の他愛ないメッセージを送ってきた。そんな話はいつもの事だけど、やけにメッセージが返ってくる時間が早かったし、量も多かった。


 ふと、画面の上部に表示されている時間に目をやる。あれ、珍しいな。待ち合わせ時間十分前。ことりはともかく、海未は必ず来ている時間だ。

 メッセージに既読はつかない。そのまま時間は流れる。待ち合わせ時間ちょうど、やつれた海未が現れた。
146 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/29(水) 07:21:14.73 ID:WPYe8Vto0
 メッセージに既読はつかない。そのまま時間は流れる。待ち合わせ時間ちょうど、やつれた海未が現れた。

海未「すみません、遅くなりました」

穂乃果「海未ちゃん……どうしたの? 具合悪そうだよ?」

海未「……作詞をしていたら時間を忘れてしまって、あまり寝ていないんです」

穂乃果「そうなの? 自分の体を大切にしないとダメだよ……」

海未「にこを庇ってトラックにはねられたあなたに言われたくありません」

 冗談めかして笑う海未。それでも、その笑みはどこか固くて。一緒に笑いたいのに、穂乃果にはそれができなかった。拭いきれない違和感。

 少しして、ことりが走って来た。ことりも目に隈が現れていて、寝ていないことがわかる。理由を聞いたら、衣装作りで夜更かししたとだけ。おかしい。そう思っても、何故かそれ以上追求してはいけない気がして、穂乃果は言葉を飲み込んだ。
147 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/29(水) 07:23:10.68 ID:WPYe8Vto0
 三人とも黙ったまま、音ノ木坂学院に着いた。一部の部活の朝練が行われていて、朝だというのに活気がある。

海未「すみません、書類を生徒会室に置いてくるので二人は先に部室に行っていてください」

穂乃果「穂乃果も行く!」

 久しぶりの学校。しばらく生徒会の仕事も海未やことりに任せっきりだった。せっかくだから生徒会室も顔を出したかった。この時間だと、誰もいないだろう。それでも、一つの自分の居場所を眺めたかっただけだ。

 じゃあことりも、と結局三人で生徒会室に行くことになった。たまにすれ違う生徒から声をかけられて照れ臭い。

 生徒会室に着いた時、海未が不思議そうな声を上げた。

穂乃果「どうしたの?」

海未「いえ……鍵が開いています」

 閉め忘れたはずは無いのですが……。海未は呟く。確かに自分ならともかく、海未がそういったことに抜かりがあるとは思えない。

 海未は扉に手をかけると、ゆっくりと開いた。

 風が吹き抜ける。

 乱された金髪を押さえる人物――絵里。普段海未が使っている机のそばで佇んでいた。
148 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/29(水) 07:26:03.06 ID:WPYe8Vto0
穂乃果「絵里ちゃん?」

絵里「ああ、お邪魔してるわね」

 絵里は髪を手ぐしで整えると、手を伸ばした。ゆっくりと指先で机を撫でる。

海未「絵里……そ、そこは私の机ですが……」

絵里「……そうね、ごめんなさい」

海未「いえ……」

 沈黙。海未も絵里も。ことりも。何も言わない三人。耐えかねた穂乃果は口を開いた。

穂乃果「絵里ちゃん? 生徒会室に用事? 忘れ物?」

絵里「あ、ああ、そうね。もうすぐあなた達は修学旅行でしょう? その間に少し生徒会の仕事を手伝おうと思って」

穂乃果「本当!? でも、迷惑じゃない?」

絵里「そんなことないわよ……ああ、もうミーテイングが始まるわね。行きましょ」

 絵里は三人の顔も見ずに生徒会室を出て行った。なんとなく、彼女がμ'sに入る前の誰にも、自分にも厳しかった頃の瞳に戻っている気がして、不安になって後を追った。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/29(水) 22:13:47.14 ID:gB9jnwqx0
このペースで頼むで…
続きが見たい
150 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/02(日) 05:02:09.37 ID:kVrTh/xJ0
にこ「おっそいわよ!新旧生徒会が揃って遅刻とかどういうつもりなわけ!?」

 部室の扉を開けると、椅子にふんぞり返ったにこの言葉が飛んできた。

真姫「仕方ないじゃない……みんな都合があるのよ」

 ため息をつく真姫。凛と花陽も来ているが、朝だからか元気がない。希はーーいない。

絵里「朝練の前に、少し伝えないといけないことがあるの」

 椅子に座ると、絵里が話し始めた。表情は暗く、声は氷のようだ。どうしたんだろう? 聞くこともできない。

絵里「落ち着いて聞いて。特に穂乃果」

 名指しされ、視線を向けられる。本当に、昔の絵里に戻ってしまったみたいだ。穂乃果はミーティング机に向かった。周りに座るメンバーの顔はどれも暗い。まるで、人でも死んでいしまったかのような――
151 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/02(日) 05:03:56.60 ID:kVrTh/xJ0
にこ「ねえ、その伝えないといけないことって、希のこと?」

絵里「……そうよ」

 実はね、と前置きして。少し長く息を吸って。絵里は話し始めた。

絵里「希が行方不明になったの」

穂乃果「え、どういうこと……?」

絵里「そのままの意味よ。実は昨日、希が学校に来なくて、連絡しても返事がなくて。風邪か何かで寝込んでるのかと思ってたんだけど……先生にも連絡が取れないから何か知らないかって聞かれたの。そのあとご家庭に連絡を入れてくれたみたいで、すぐにご両親が希の部屋に行ったそう――ああ、希って一人暮らしなの。それで、希のマンションはもぬけの殻で、捜索願が出されたの。一晩経ったけど、まだ連絡はないわ」

 絵里は時折、言葉を選ぶように話す。にこは「やっぱり」と呟いていた。

穂乃果「希ちゃん……」

 一昨日のにこのライブを行った日には元気だったのに。例の事故が起きてから、毎日とは言わなくてもお見舞いに来てくれたのに!
152 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/02(日) 05:06:30.79 ID:kVrTh/xJ0
穂乃果「そんなの嘘だよ! 希ちゃんが考えた冗談なんでしょ! 絵里ちゃ――」

絵里「私だって嘘だと思いたいわよ!」

 怒鳴り散らす声。その声は悲痛で、穂乃果の体を硬直させるには十分だった。

絵里「……ごめんなさい。私が怒鳴ったって現実は変わらないものね」

 自嘲気味に笑う口元。目は氷のようで、冷たくて、悲しそうで。

絵里「そう、それでね。今度のファッションショーのライブだけど、断りの電話を入れようと思うの。練習はしばらく軽い体力づくりだけにしましょう。海未やことり、一年生にはもう話したわ。にこは妹さんたちの面倒で早く帰っちゃったから言えなかったんだけど。希がいなければ、ライブなんて――」
153 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/02(日) 05:09:48.70 ID:kVrTh/xJ0
穂乃果「ダメだよ、絵里ちゃん」

首の後ろは寒くて、でも頭と目は熱い。心臓はどんどん早く動いている。急にこんなことになって思いがまとまらない。でもこれだけは言わないと。

穂乃果「――ライブ、しよう。だって、もしかしたら希ちゃんがどこかで見ていてくれるかもしれない。もしかしたら、そのライブを見て戻ってきてくれるかもしれない。だから……」

 絵里だけでなく、海未やことりの表情も暗い。誰も穂乃果と目を合わせようとしない。凛や花陽は穂乃果と絵里を交互に見て今後どうなるかと不安げな顔になっている、真姫は二人から視線を逸らしている。そういえば、さっき海未とことりは夜更かししたって言っていたけど、本当は希の事を考えて眠れなかったんだ。でも、ライブを成功させれば、きっと戻ってきてくれる!

絵里「でも」

 穂乃果はポケットの中の希から受け取った御守りを握りしめた。少しだけこの御守りの主が近くにいるような気がした。だから、言える。氷の視線に負けない!

穂乃果「お願い! 人が増えるわけじゃないから、衣装は大丈夫でしょ!? ダンスのフォーメーションは――振り付けを簡単なものにすればいい! それなら、今から変更もできるし、ライブの前に希ちゃんが帰ってきても、練習も楽になると思う!」

 なおも苦い顔をしていた絵里。それを見かねたのか、にこも口を開いた。
154 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/02(日) 05:11:01.43 ID:kVrTh/xJ0
にこ「フォーメーションを簡単にするっていうのは賛同する気はないけど、私もライブをすべきだと思う。メンバーが一人足りないからって何なのよ。どんな状況であれ、ライブをする。ファンのために。それがアイドルってものよ。ライブをしておくことは、帰ってきた希にマイナスに働くことはないはずよ」

 にこちゃん。賛成してくれるんだ。ありがとう。

絵里「……二人は、希が戻ってくると思ってるの?」

 何でそんなことを聞くの? 答えは決まっている。

穂乃果「もちろん! 希ちゃんはμ’sのメンバーだから!」

 絵里は穂乃果の目を見据えると、ゆっくりとため息をついた。

絵里「わかったわ。やりましょう。――私たちのライブ、希に届けましょう」

 他のメンバーの目にも、活気が戻っていた。希が名付けたスクールアイドルのライブ、きっと届けてみせる!
155 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/02(日) 05:13:53.18 ID:kVrTh/xJ0
◆ ◆ ◆

 こうして、八人でファッションショーのライブに望むことになった。二年生の修学旅行前の練習は順調。振り付けも舞台全体を使うようなものから手の動きを中心としたものに変え、衣装もセンターの穂乃果に合わせて発注した。大丈夫、希は帰ってくる。そう思いつつ練習に励んでいた穂乃果。

だが、現実は非情だった。



 ――修学旅行最終日、沖縄

穂乃果「帰れない!? どうにかならないの!?」

 ホテルの一室。穂乃果は引率の教員に縋りついていた。自然現象、台風。沖縄に台風が直撃し、飛行機がすべて欠航になってしまったのだ。そのため、本日飛行機で帰還する予定だった二年生は沖縄で足止めを食らうことになってしまった。ファッションショーは――明日。

「さすがに台風じゃあ……どうにもならないわ。とりあえず、部屋で大人しくしていてね」

穂乃果「そんな〜!」

 教員は穂乃果を振り払うと、他の部屋に向かってしまった。まだこのことを伝えるべきグループがあるのだろう。追いかけても邪魔になるだけで、どうにかなるわけでもない。

膝の力が抜け、崩れ落ちた。今まで様々な困難を破ってきた。だが、自然現象だけはどうしようもない。雨止めー!なんてこの修学旅行中に何度もやっているが、効果はない。
156 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/02(日) 05:15:17.67 ID:kVrTh/xJ0
海未「穂乃果……」

穂乃果「どうしよう。穂乃果が言い出したのに、希ちゃんに合わせる顔が……」

海未「……大丈夫です。きっと絵里たちがどうにかしてくれますよ」

ことり「そうだよ。にこちゃんもいるし、任せていいんじゃないかなあ?」

穂乃果「……うん」

 それから、夜中までトランプで遊んでいた。気を紛らわせるように。だが、不安な気持ちと皆なら大丈夫という安心が入り交じり、とてもじゃないが気がまぎれることはなかった。

 もう遊びのネタも尽きたという夜中。そろそろ寝ようか、と海未とことりと話していると、スマートフォンがなった。電話だ。こんな時間に誰だろう、と画面を見る。画面に表示されていた名前は――花陽ちゃん。



第三話へ続く
157 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/02(日) 05:26:28.15 ID:kVrTh/xJ0
第2話現在の状況

園田海未
衣装:白の道着と青の袴。金の模様が入ってある黒い防具。
SG:青色。変身後は側頭部の髪留めの飾りとなる。
武器:日本刀(大小二本)
魔法:超感覚(固有)
願い:穂乃果の脳機能の正常化

南ことり
衣装:メイド服。フリル五割増しのエプロン。銀色の髪飾り。
SG:灰色。変身後は羽の形の宝石になり肩に装着する。
武器:クロスボウ
魔法:エネルギードレイン(固有)
願い:穂乃果を生き返らせる

東條希
衣装:藤色袴の巫女服。金の装飾、髪飾り。
SG:紫色。一部が欠けている。
武器:錫杖(仕込みギミック有)
魔法:遊環を用いた拘束魔法
願い:?
備考:太陽の魔女との戦いで死亡

太陽の魔女
外観:黒い炎の塊。時折炎や黒い粘液が吹き上げる。粘液を固めて作った使い魔を従えている。
性質:「先導」
158 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/02(日) 05:30:55.27 ID:kVrTh/xJ0
次は三話を更新していきます。時系列で言うと二期五話のあたりです。

毎度まとめてになりますがコメントありがとうございます。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 06:23:01.37 ID:BYmiFaZl0
おつおつ
いつも楽しく読ませてもらってます
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/09/02(日) 22:49:02.73 ID:NPJ/P5cr0
いいゾ〜これ
頼むで!
161 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/03(月) 01:54:47.68 ID:72ZGFXXj0
三話投下します。
162 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/03(月) 01:56:36.91 ID:72ZGFXXj0
◆What I Want to Do is.


暗い、暗い、荒廃した世界。

壊れきった建造物が積み重なる世界に蝶の羽を持つ巨大な化け物。羽は蝶でも、上半身は人間。そして下半身は人魚のような魚。

砂煙が吹き荒れる世界に、一匹の魔女がいた。

そして、彼女に立ち向かうものも、一人。魔法少女だ。

水色を基調とした洋装を纏った魔法少女は、紺色のブーツの底を鳴らして魔女に向かっていく。カツン、カツン、と音を立て、倒れた建物の壁を歩く。黒いフードのついたマントが砂嵐に揺れた。フードを目深に被っていることと、紫の月のような紋様が入った仮面をつけているせいで、表情も素性もうかがえない。
163 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/03(月) 01:58:07.18 ID:72ZGFXXj0

魔法少女は右手で腰のホルスターから拳銃を抜き、魔女に向けた。拳銃に安全装置はついていない。トカレフと呼ばれる自動式のものだ。

スライドを引き、ハンマーを落とし、引き金に指をかけて魔女に向ける。狙いは魔女の胸部。

一発、撃った。音を立てて排出される空薬莢。片手で撃ったせいか、弾は急所を外した。

もう一発。また、弾は逸れて致命傷にはなり得ない部位に直撃する。魔女は痛みからか怒りからか吠えた。甲高い声は耳を塞ぎたくなるどころか、脳を揺らす。

だが、魔法少女は怯まない。銃の引き金に手をかけ、横たわる建造物の壁を蹴った。走り、魔女の眼前に跳ぶ。間近で見ると、魔女の顔は魔法少女の身長よりも大きかった。顔面に銃口を向ける。フロントサイトとリアサイトが重なった。引き金に力を込めようとした瞬間。魔女が吠えた。

先ほどとは比べものにならない殺意のこもった声。発生する衝撃波。魔法少女は後方に吹き飛んだ。走ってきたビルの壁を転がり、地に落ちる。風圧で跳んできた砂やガラス片が体を傷つけた。血を流しながら立ち上がる。右手に握った銃を魔女に向けて、仕返しとばかりに撃った。だが、痛みからか、弾は当たらない。舌打ち。両手でしっかり構えた方がいい。左手を動かした時、再度、いや、前よりも大きな咆哮。
164 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/03(月) 01:58:59.00 ID:72ZGFXXj0
パツッと耳の中で何かが破ける音。それだけではない。飛来する巨大ながれきやガラス片。一枚のガラス片が左手に直撃した。手首から先の感覚がなくなる。離れた左手は風に飛ばされて見えなくなった。流れる赤は共に後方へと消える。

声が止んだ瞬間、魔法少女は動いた。同時に、左手首から湯気が立つ。高速で無くなったはずの左手が形成された。切断部位だけではない。ガラスによる裂傷も、破れた鼓膜も、再生していく。

魔法少女は、もう一度、駆けた。積み重なるように倒れるビルの壁を跳び、魔女の眼前へと踊り出る。今度は発砲せず、顔面に飛びついた。異物を引きはがそうと、魔女は手を伸ばす。それより速く、魔女の口に拳銃を持った右手を押し込み、引き金を引いた。

一発。二発。三発。

三発目で魔女は動きを止めた。消えていく魔女の体。四発目。揺らぎ、戻っていく空間。五発目。魔法少女は、弾が切れるまで魔女を打ち続けた。八発の弾を撃ち尽くし、トカレフのスライドが動く。魔法少女はマガジンを取り出し、新しいものを装填すると、ホルスターに戻した。
165 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/09/03(月) 02:01:18.24 ID:72ZGFXXj0
QB「お疲れ様」

薄暗い路地裏。街灯はちらほらあるが、光は弱く頼りない。キュゥべえは魔法少女の足下に擦り寄った。

QB「海未とことりは出かけてしまっているし、助かったよ」

「そう」

魔法少女はそっけなくキュゥべえを足で払った。振り払われた白い獣は連れないなあと言いたげにその場離れ、少し離れた電柱の陰に転がった。

QB「それにしても、君は容赦が無いんだね。魔女の結界が壊れた後も攻撃を続ける魔法少女なんて初めて見たよ」

「興味無いわ。魔女は――私がすべて[ピーーー]。いつかは貴方も」

おお、怖い、とキュゥべえは立ち上がった。

QB「僕は行くところがあるから」

そう言って場を離れるキュゥべえ。魔法少女は薄暗い路地裏に取り残された。
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 21:30:34.66 ID:mD4Zmdeq0
続き待ってます
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/18(木) 17:25:42.64 ID:KpYMwhOk0
待ってるぜぇ
168 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/21(日) 00:41:30.92 ID:6YRfdPZh0
復活してたのでまた更新していきます。

とりあえず>>165のsaga入れ忘れの修正↓



QB「お疲れ様」

薄暗い路地裏。街灯はちらほらあるが、光は弱く頼りない。キュゥべえは魔法少女の足下に擦り寄った。

QB「海未とことりは出かけてしまっているし、助かったよ」

「そう」

魔法少女はそっけなくキュゥべえを足で払った。振り払われた白い獣は連れないなあと言いたげにその場離れ、少し離れた電柱の陰に転がった。

QB「それにしても、君は容赦が無いんだね。魔女の結界が壊れた後も攻撃を続ける魔法少女なんて初めて見たよ」

「興味無いわ。魔女は――私がすべて殺す。いつかは貴方も」

おお、怖い、とキュゥべえは立ち上がった。

QB「僕は行くところがあるから」

そう言って場を離れるキュゥべえ。魔法少女は薄暗い路地裏に取り残された。
169 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/21(日) 00:48:59.04 ID:6YRfdPZh0
◆Twirling Miracle.


凛「あの衣装可愛いかったな……」

ファッションショーのライブ前夜。凛は自室のベッドに寝転がってため息をついた。脳裏に焼きついたあの衣装は消えない。

あのウエディングドレスのような可愛い衣装に腕を通したら、髪飾りをつけたら――考えたところで首を振った。

凛「きっとかよちんの方が似合うよ。これでよかったんだよ。凛なんて……」

『うわ、星空がスカート履いてるぞ!』
『お前男みたいなんだからそんなの似合ってねーぞ!』

小学生の時にクラスメイトの男子から言われた言葉はスクールアイドルになった今でも忘れることはなかった。自分にはこんな可愛い衣装は似合わないけど、みんなも着てるから同じ衣装を着ないといけない。そんな正当化の中で活動をしてきた。

だが、今回の件は違う。一人だけウエディングドレスをモチーフにしたワンピース。残りのメンバーはタキシード。みんながドレスを着るなら凛も着れたはずだ。しかし自分一人では無理だ。せっかくほかのメンバーがリーダーに推薦してくれたのに。

そんな感情が頭の中で混沌と渦巻いているその中で小さく光る、衣装を見た瞬間から消えなかった思いがある。
170 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/21(日) 00:51:47.10 ID:6YRfdPZh0
凛「でも、ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから……」

QB「着てみたかったかい?」

突然凛の顔を覗き込んできた白い生物。キュゥべぇだ。

凛「にゃ!?」

心臓が強く鼓動し、腹筋を使って起き上がる。キュゥべぇはさっと凛の額をかわして膝下に移動した。

そんなに驚かなくても……、とキュゥべぇ呟くが、驚かないわけがない。突然閉め切った部屋に侵入してきた挙句、心を読まれたのだ。

キュゥべぇの言った通り、あの衣装を着たいという思いが抜けなかった。ずっと、目の裏に白と薄ピンク色の綺麗な布で作られたウエディングドレスがある。

凛「ど、どうしてこんなところにいるの!?ここは凛の部屋だよ!」

心を読まれた驚きはどうにか飲み込み、キュゥべぇに顔を近づけた。

QB「悩んでるみたいだったからね。僕で良ければ相談に乗るよ。海未やことりは遠くに出かけていて魔女討伐ができないから」
171 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/21(日) 00:55:06.31 ID:6YRfdPZh0
凛「え……暇つぶし……?」

少しだけ苛立ちながらも、考えは変わっていく。キュゥべぇは魔法少女と共に悪い魔女と戦っている正義の味方だ。それに、海未とことりの願いを叶え、穂乃果を救った張本人でもある。その力のせいで、希は死んでしまったけれど。

凛「キュゥべえなら話せるかも」

頷くと、ゆっくりと、浮かんだ思いを口にしていった。

凛「えっとね、凛、こんなに髪も短いし、女の子っぽくないんだけど、かよちんとか、μ'sのみんなみたいに普段から女の子っぽい服が着たいの」

焼付く女の子の憧れ、ウエディングドレス。でも自分には不釣り合いだ。

凛「でも、凛には向いてないから……スカートは似合わないし、髪も短いし……」

思い出される心無い言葉。泣きそうになりながらも、凛は思いを言葉にしていく。

凛「それに、せっかくアイドルっぽくなれるきっかけになったかもしれないのに、センター、かよちんに押し付けちゃった」

もしかしたらこれを機会にもっと可愛い服を着て歩けたのかもしれない。そう思ったのはほんの一瞬のことで、センターは花陽と決まった後だった。

凛「ごめんね、何言ってるかわからないよね」
172 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/21(日) 00:58:11.35 ID:6YRfdPZh0
ダメだよ、言いたいことがありすぎて、まとまらない。いつの間にか溢れていた涙を拭った。

キュゥべぇはしっかりと凛の思いを聞いていた。

QB「わかるさ。つまり、女の子らしくなりたいんだろう?」

凛「……うん」

QR「一つ、方法がある」

凛「ほ、本当に?」

突然の提示だった。方法?そんなことがあるのだろうか?見つめたキュゥべぇの目は赤く、無機質だった。

QB「僕と契約するんだ」
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 05:24:32.88 ID:7zF7xiJ60
再開乙
また楽しみにしてる
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 08:44:04.38 ID:xSmRyd230
続き楽しみ
175 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/24(水) 07:20:53.35 ID:mBe/gTmo0
凛「契約……って、魔法少女になるってこと?」

凛の表情が強ばった。ぞく、と背中が冷たくなる。

QB「そうさ。魔法少女になれば一つだけ願いが叶う。あの衣装を着ることもできる……新しい自分になれるんだ」

凛「新しい……自分?」

でも。でも。あのウエディングドレスとは別に、凛の脳裏から消えない光景がある。

凛「いや、いいよ……怖いもん。魔法少女になったら魔女と戦わないといけないし……希ちゃんも死んじゃった」
176 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/24(水) 07:26:03.99 ID:mBe/gTmo0
ぽろぽろと涙が落ちた。姉のように、母親のようにμ’sを支えてくれた人。μ’sの名前をつけてくれた人。lily whiteの活動では突っ走る海未とはしゃぐ自分をうまくまとめてくれていた。

そんな希は、つい先日。絵里を庇って魔女の使い魔に殺された。ぎゅっと親友を抱きしめて。すべての弾丸を受け止めて。真っ赤な血に染まって。連日夢に見るくらい頭から離れない。学校にいる間はとにかく練習に打ち込んでそのことを考えないようにしていたけど。ライブの事を考えて気を紛らわそうとしてはいるけれど。どうしてもあの真っ赤な希ばかりが思い出される。思い出すなら楽しいことがいいのに。

QB「希の遺志を継ごうとは思わないのかい?」

凛「できるわけないよ!」

QB「最近、この街には他と比べて魔女が多くなっている。原因は分からないけど。だから、この前のようなことが起きないとも限らない」

凛「で、でも、海未ちゃんとことりちゃんが、また守ってくれるし……」

QB「本当にそれでいいのかい? この前の魔女との戦いで、最初に二人に戦いを任せることに異議を唱えたのは君だったじゃないか」

たしかにそうだった。あの時は二対八で使い魔に圧倒される二人を見て、助けたくて仕方が無かった。それに、ちょっとだけ魔法少女になってみたかった。でも、魔法少女は簡単に死ぬ。それを見たら簡単に魔法少女になればなんて思えるわけがない。
177 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/24(水) 07:30:59.77 ID:mBe/gTmo0
QB「それに、魔法少女がいないときに魔女に襲われる時もある。そうしたらどうする? もし、花陽が襲われたら?」

凛「かよ、ちん……?」

QB「そうさ。なぜか魔女が集結しているこの音ノ木ではいつ誰が魔女に襲われて殺されてもおかしくない。もちろん、花陽だって。たとえば、帰り道で分かれて、そのまま二度と会えない、なんてこともあり得る。結界の中から干渉するタイプならともかく、結界の中に引き込んでしまう魔女だったら、死体も見れない。この前希を殺したあの魔女もどこへ逃げたかわからないしね」

ずっと傍にいた幼なじみ。アイドルとごはんが大好きで、さらさらとした髪は少しだけ毛先に癖があって、ほっぺたは柔らかくて、いつも柔らかく笑っていた。そんな花陽が傍にいなくなったらと思うだけで――

凛「凛が、かよちんを……守れる?」

QB「ああ、そうさ。君が花陽を守るんだ」

凛「でも、怖いよ」

QB「ことりだって最初は震えていたさ。力を持てば変わる。凛もきっといい魔法少女になるよ」

かよちんがいなくなったら、凛、生きていけないよ。だから。

凛「凛、魔法少女、やってみようかな」
178 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/24(水) 07:33:46.33 ID:mBe/gTmo0
いつの間にか、決意はできていた。恐怖はあるけれど、花陽のためならどんな魔女よりも強くなれる気がした。それに、小さなころアニメで見たような、魔法少女への憧れは心の片隅に残っている。女の子らしくて、可愛くて、強くて、誰かを守れる存在。

QB「じゃあ、どんな願いで契約するんだい?」

凛「凛、かよちんを守りたい!」

QB「……別に構わないけど、魔法少女になるだけで、魔女と戦う力は手に入るんだよ?」

そっか。じゃあ、ああ、そうだ、さっきキュゥべえに言われたあの願い。皆を守れて、夢が叶うなら、魔女と戦う勇気も手に入るよね? 穂乃果ちゃんを助けてくれた、あのキュゥべえがそう言ってくれるなら、大丈夫だよね?

凛「変わるきっかけがほしい。新しい自分になりたい!」

QB「もちろんなれるさ。それじゃあ、始めよう」

キュゥべえの赤い瞳。全身を駆け巡る痛みと黄色い光。それでもそんな光の中に、願い続けた夢が見えた気がした。


 ◆ ◆ ◆

穂乃果「花陽ちゃん?こんな時間にどうしたの?」

花陽『あのね、相談があるんだけど――』

 ◆ ◆ ◆
179 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/29(月) 03:09:08.41 ID:KfDOYE640
本当に機会は巡ってきた。きっかけが欲しいと願ったものの、特に何事もなくライブを行うファッションショーの会場へ着いた。


ライブに向けて、楽屋で準備を始めた時だった。可愛い服を着たモデルやアイドルを見て、より機会を待つ気持ちが高まっていた時、それは起こった。


自分の衣装はそこだと言われ、カーテンを開くと――あのドレスがあった。花陽が着るはずの衣装。つるつるとしたきれいな布。伸びた腰ひもは天使のようだ。


花陽「凛ちゃんは可愛いよ!抱きしめちゃいたいくらい可愛いよ!」
180 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/29(月) 03:10:04.98 ID:KfDOYE640
そして、大好きな幼馴染と、大好きな友人と、背中を押され、憧れを手の中に収めた。


その日みた景色は夢のようで、ずっと見たかったものだった。小さなステージとたくさんのギャラリー。テレビや雑誌の取材も来てるんだって。すべてのものがキラキラと輝いて見えた。


凛「いっちばん可愛い私たちを――見ていってください!」


凛、かわいくなれたかな。変じゃないかな。最初浮かんだ疑問はすぐに消し飛んでしまった。かよちんがそう言ってくれるなら。きっとそうに決まってる! だから、なりたい自分になっていいんだって。そう思えた。
181 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/29(月) 03:13:17.23 ID:KfDOYE640
翌日。

凛「うん、うん。じゃあ、いつもの公園で。えへへ、ありがとね、かよちん!」


凛は笑いながら電話を切った。ファッションショーの翌日。凛は花陽と街に出かける約束をしていた。今日の目的は、普段のボーイッシュなものとは違った、かわいい練習着を買うこと! それから、雑貨屋さんに行って、可愛いパフェを食べに行って……やりたいことがたくさんある!


箪笥に押し込んだピンクのワンピースを取り出した。どうにか勇気を出して買ってみたものの、結局着ることはできなかった。何度か部屋の中でこっそりと体に合わせてみたが、どうしても自分には合わないとすぐに片づけていた。


でも、それは昨日まで。今日からは、堂々とこのかわいい服を着て歩くんだ。
182 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/29(月) 03:14:43.51 ID:KfDOYE640
昨日、花陽と真姫、絵里とにこが励ましてくれた言葉がたくさん。たくさん。だから、たまに不安になっても大丈夫。四人の言葉の中でも、花陽の言葉は暖かくて、それさえあればずっと大丈夫だと思えたほどだ。


ワンピースに袖を通す。これを買ったときは、少しでもシンプルなものと思って選んだが、今改めて見ると少し物足りない気もした。


小さな鞄に財布と携帯と他に必要なものを詰め込むと、家を出た。




公園に付くと、花陽はすでに凛を待っていた。いつもの小さいベンチで、スマートフォンを触っている。かよちん、びっくりするかな、なんて思いながら。


凛「かーよちん!」
183 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/29(月) 03:16:28.49 ID:KfDOYE640
顔を上げた花陽はすぐに表情を綻ばせた。凛に駆け寄るとぎゅっと抱きしめる。暖かい。いい匂いがする。ほんのり花陽の頬がピンク色になった。


花陽「はぁ〜! 凛ちゃんすっごくかわいいよ! そのお洋服どうしたの?」


凛「ありがとにゃ……! このお洋服はねー。結構前に買ったんだけど、なかなか着れなくて」


花陽「そっか……でも大丈夫だよ、凛ちゃん。すごく似合ってる。すごく可愛い」


きゅうっと凛の顔が赤くなる。紅潮したほほを見られないよう、顔を背けて「いこっ」と花陽の手を引いた。
184 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/10/29(月) 03:17:58.10 ID:KfDOYE640
風に揺れるスカートも、きれいに整えた髪の毛も、暖かい花陽の手も、全部嬉しくて。未来のことを考えると、期待が高まって、胸が熱くなっていく。


凛「ねえ、かよちん」


花陽「どうしたの?」


凛「大好きにゃ!」


どうしても大好きだって言いたくなっちゃった!





◆ ◆ ◆


そして、奇跡はくるりんと簡単に、無情にも転覆した。
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 06:14:53.45 ID:xpe7GpZsO
希居なくなったのに普通にライブしてんのか
全員サイコパスだな
186 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/11/08(木) 00:25:26.43 ID:dgZfX2OD0
ハロウィンライブの案がなかなか決まらず、練習が少し早めに終わった日の事。凛と花陽は近所の公園へ向けて歩いていた。

本当は真姫も一緒の予定だったのだが、どうしても次の模試に向けて先生に質問をしたいらしい。ここ最近成績が落ちてきているんだとか。無理もない……と思う。地区予選の帰りから本当にいろんなことがあったから、勉強が手につかなくても仕方ないよね。


少し長くなるかもしれないとのことで、二人は先に公園に向かうことにした。今日はもう練習がないので少し公園でジュースでも買って駄弁ってから帰るという約束だ。しばらく一緒にいれば、真姫ちゃんも落ち着くかな?



二人が公園に着くと、人気は少なく、サッカーで遊んでいる近所の公立高校の制服を着た男子生徒が三人いるだけだった。


遊んでいた男子達はボールを手に取ると、こちらを見ながら小声で話を始めた。少し変な空気だった。それこそ悪い予感というべきか。
187 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/11/08(木) 00:30:14.49 ID:dgZfX2OD0
男子A「おい、やっぱり星空じゃねえか」


嫌な記憶がじわりと膨れる。振り向いちゃだめだという根拠のない警鐘。でもそれは正しかった。ここで振り向かずに走り出していたら、何か変わったのだろうか。


凛「ひ、久しぶりだにゃ……」


逃げ出したい気持ちと、少しの勇気を胸に男子生徒を見上げた。三人の男子高校生は小学生の頃、いつも凛を男みたいだとからかっていたグループだ。彼らとは学区の関係で中学校に入るまでの付き合いだった。それでも、言葉によって傷つけられた心はもとには戻ってはいない。


制服のスカートをはくことにだってなかなか慣れなかった。私服のスカートは全部捨てた。彼らと会うことがなくなって三年たっても、その心はつい最近まで残っていた。


男子A「それにしても……お前がスクールアイドルねえ」
188 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/11/08(木) 00:35:48.89 ID:dgZfX2OD0
凛「し、知ってたんだ……?」


男子生徒はしみじみと呟く。少しだけ期待しながら彼らを見た。凛だって変われたんだ。もうあの時の凛じゃない。だから、もうバカにされないかな? 女の子らしかったって言ってくれるかな?


そんな期待は打ち砕かれて。


男子A「いやいやいや、冗談にもほどがあるわ!」

男子B「お前笑うなよ。この前ファッションショーにも出てただろ」

げらげらと笑う声に急に首の後ろが冷たくなった。奥歯がかた、と小さく鳴った。笑いすぎて涙すら溢した男子生徒の声が何度も凛の心を殴りつけた。

凛「え、あ……なんで」


男子C「あ? ああ、この前のイベント、テレビで中継されてただろ? お前がスクールアイドルやってるとかいう噂聞いたから、みんなで見てたんだよ」


違う。そうじゃない。イベントの事なんてどうでもいいよ。なんで、笑うの? 凛だって……!
189 : ◆PqgbKM/Cuk [saga]:2018/11/08(木) 00:38:42.71 ID:dgZfX2OD0
男子B「そしたらまあ……いっぱしに女の振りしちゃってさ」

男子C「ホント面白すぎたわー。小泉とか、他のメンバーならともかく星空が『一番かわいい私たちを見て行ってください!』だもんな」


心臓どころか全身がぎゅうっと握りつぶされる感じがした。ああ、そっか。やっぱり凛には無理だったんだ。あんなにきらきら光って見えた世界が急に暗くなっていくのがわかる。あんなに暖かかった胸が完全に冷え切っていた。


花陽「凛ちゃん……」


花陽は何か言いたげだった。でも、もういいや。大丈夫、わかってるよ。胸はこんなに冷たいのに目の奥が熱い。泣いちゃダメだ。ダメなんだ。


花陽「凛ちゃん!」


花陽の声を背に駆けだしていた。凛は大丈夫。全部わかってるから。女の子らしくなりたいなんて、所詮は夢だったんだ。それも魔法少女になる契約をして、本来ならなかったはずのきっかけをもらって叶えた夢。だからほんの少しだけでも自信が持てただけで幸せなんだ。でも、目から熱いものがたくさん零れて、視界は揺らいで、曇って、世界が白黒に見えた。
190 : ◆PqgbKM/Cuk [sage]:2018/12/03(月) 01:26:11.76 ID:VB0mqiUFO
近いうちにまた書きます
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 21:12:56.25 ID:1pgu9iGB0
待ってるよ
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/28(金) 21:18:03.33 ID:YxYVtr2z0
まだかな
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