【ラブライブ!】魔法少女 ほのか☆マギカ

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43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/29(金) 16:47:29.74 ID:/aTm9KfK0
こっからどんどんブラックに…
44 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/01(日) 00:28:12.97 ID:X9pwouQq0
QB「穂乃果の調子はどうだい?」

 キュゥべえはことりの肩に乗り、海未と絵里の顔を交互に視線をやった。ことりと海未は笑みを浮かべ顔を見合わせた。

ことり「いつも通りだったよ。ありがとうねぇ」

海未「本当に……あなたには何とお礼をしたらいいのでしょうか」

QB「僕も助かったからおあいこさ。今、前任の魔法少女がいなくなったせいですぐに新しい魔法少女が必要だったからね」

 廊下の真ん中で立ち話でも始めてしまいそうな雰囲気の二人と一匹。絵里は焦りが隠せず、会話を遮った。そう、二人と“一匹”なのだ。見られたら、まずい。

絵里「ちょ、ちょっと、待ちなさい、あなた、こんな所に入ってきたら追い出されるわよ」

 昨夜の談話室ならともかく、と言葉を続けようとしたところで、一人の看護師がこちらに歩いてくる。言ってる傍から、運が悪い。看護師は視線に気づいたのかこちらに顔を向けた。
45 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/01(日) 00:30:18.86 ID:X9pwouQq0
QB「ああ、それは大丈夫さ。僕は素質のある少女にしか見えないからね。ほら、こちらを見ている女性」

 キュゥべえはそれには動じなかった。看護師は歩みを止めず、こちらに近づいてくる。だが、一言「こんにちは」と挨拶をして、会釈をすると、そのまま隣を通り過ぎて行った。総合病院の廊下の真ん中で少女の肩に乗った見慣れない獣には目もくれない。

QB「気づかなかっただろう?」

絵里「そうね、ならいいわ」

 絵里は冷え切った肝を温めるよう、少しだけ息を吸い込み、止めた。本当に、この生物が何なのか分からない。

海未「絵里、そろそろ……」

絵里「そうね、ごめんなさい」

 海未に促され、売店に向かうことにした。とりあえず、誰かにキュゥべえを見つかる心配はないようだ。
46 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/01(日) 00:32:53.22 ID:X9pwouQq0
 売店に着くと、頼まれた物をカゴに入れていく。穂乃果のパン以外、全て飲み物だ。練習で鍛えているとはいえ、重いものは重い。三人で来て正解だ。

 他にももう数日入院する穂乃果に何か買って行ってあげようと、商品を見ていると、海未が唐突に口を開いた。視線はことり――ではなく、その肩にのったキュゥべえである。

海未「あの、先程の話が気になるのですが……」

QB「前任の魔法少女のことかい? 死んだよ。魔女との戦いに敗れてね」

 棚に伸ばしていたことりの手がぴたりと止まる。海未は薄々感づいていたようで、そうですか、と深く頷いた。どんよりと重くなる空気。キュゥべえはそんな空気が読めないのか。妙に明るい調子で言葉を続けた。

QB「でも大丈夫!君達はかなりの素質を持っている。慣れれば強い魔法少女になるだろうね」

 今までこの音ノ木坂の平和を守って戦っていた魔法少女はどのくらいの練度だったのだろうか。キュゥべえの言う“慣れれば”の基準が分からない。二人が心配だ。ぎらっと赤い瞳が絵里に向いた。
47 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/01(日) 00:35:24.54 ID:X9pwouQq0
QB「絵里はどうする?君もなかなかの素質だ。大人数で戦えば安全性は高まると思うんだ」

 安全性、という言葉。そうか、私も戦えば海未とことりが死ぬ確率も下げることができるかもしれない。じわじわと湧き上がる感覚。絵里はキュゥべえの言動に納得はしていても、信用はしていなかった。それは今も変わらない。

 それでも、二人の“万が一”を減らせるならば――

海未「大丈夫ですよ、絵里。どんな危険があるかはわかりません。私とことりだけで戦います」

 考えは海未に見透かされていたらしい。控え目な笑みを浮かべる海未の眼に射ぬかれ、ため息を吐いた。

絵里「……そう」

 きっと、行っても無駄だ。頑固なところがある彼女に何を言っても意味をなさないだろう。
48 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/01(日) 00:37:38.64 ID:X9pwouQq0
 買い物を終えた三人と一匹は売店を出た。穂乃果の病室に向かうべく足を進めていると、海未は窓の外を見て、歩みを止める。

海未「暗くなってきましたね」

 既に夕日は落ちかけている。今日は土曜日だ。本当は早い時間から見舞いに来たかったのだが、もうすぐファッションショーでのライブを控えている。休むわけにはいかない。七人で昼の練習をした後にようやく、穂乃果とにこの見舞いに来たのだ。元から時間があるわけではない。

海未「ことり、キュゥべえ、そろそろ行きましょうか」

QB「穂乃果のところへ行かなくてもいいのかい?」

 キュゥべえは海未とことりの顔を交互に見る。二人は同時に頷いた。

ことり「うん。泣きすぎちゃってきっと目も腫れてるから……」

QB「わかった。じゃあ、魔女の探し方から教えるね。着いてきて」
49 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/01(日) 00:40:04.49 ID:X9pwouQq0
 キュゥべえはことりの肩から床に飛び降りた。音も立てず、獣らしいしなやかな動きだ。彼はさっさと歩きだしてしまう。海未とことりは慌てたように手に持った袋に視線を向けた。持っている物さえ頭から抜けていたのか、と心配になる。

絵里「いいわ。私が届けるから」

 荷物を受け取ると、ずしりと手に重さが伝わった。九人分の飲み物。それに加えて穂乃果にと購入したパンやお菓子。

海未「すみません。私とことりの飲み物は穂乃果に渡してください。では絵里、失礼しますね」

ことり「絵里ちゃんありがとう。また明日ね」

 海未は頭を下げ、ことりは軽く手を振って。キュゥべえと共に病院を出て行く。

絵里「ええ。また明日、ね」

 呟きと、どうか無事に帰ってきてという祈りは病院のロビーに消えた。
50 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/01(日) 00:42:07.69 ID:X9pwouQq0
 絵里は少し苦労しながら、メンバーのいる病室へ戻った。練習で体を鍛えているとはいえ、広い病院をたくさんの荷物を持って歩くのは、骨が折れる。希にも一緒に来てもらえばよかった。そうしたら、この不安な気持ちを共有できたのに。ほんの少しでもいろいろなことが軽くなったのに。

絵里「遅くなってごめんなさい」

 部屋に入ると同時に向けられる六人分の眼。その中で、一番早く戻ってきた人数に疑問を持ったのは穂乃果だった。

穂乃果「あれ?海未ちゃんとことりちゃんは?」

絵里「用事があるからって帰ったわ。海未はお稽古。ことりは次のライブの衣装の材料を揃えるって」

 本当は魔女の討伐なんだけど。絵里は何も知らない穂乃果にいう訳にもいかず、尤もらしい嘘を吐いた。えー! という叫びと共に、穂乃果の眉は八の字になり、捨てられた子犬を連想させた。

絵里「そんな顔しないで。その代わりこれは私達からの奢りだから」

 パンといくつかの飲み物やお菓子程度で機嫌を取ろうと、穂乃果の物として分けてきた袋をベッドの上に置いた。

穂乃果「本当!?」

 ぱあっと輝く小さな太陽。純粋さの塊。そして、本当に他人を好いていると分かる瞳。海未とことりが日常を投げ打ってまで守りたかったものは、これだ。
51 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/01(日) 00:47:02.30 ID:X9pwouQq0
◆ ◆ ◆


海未「本当にこれで魔女が見つかるのですか?」

 海未は青く光るソウルジェムを訝しげに眺めながら、キュゥべぇに声をかけた。ことりの肩を我が物顔で陣取るキュゥべぇは頷く。

QB「うん。魔女の反応が強くなると光り方が変わって来るんだ。ほら、だんだん光が強くなっているだろう?」

ことり「本当だぁ……」

 ことりは海未の手のひらに乗った青の光を眺めて呟いた。海未も言われてみれば、と口にする。これからの戦いに気を張り過ぎていて、自身の手のひらの事に意識が向いていなかった。

 何かあった時、ことりを守るのは自分なのに。眼前の事に気が回らなかった事を内省し、少しだけ息を吐いた。

 二人と一匹は夜の音ノ木坂を進んでいく。ソウルジェムに導かれるまま、アスファルトを踏みしめ、徐々に魔女との距離を縮めていく。

 そして、キュゥべぇが制止の声をかけたのは、ブロック塀で挟まれた行き止まりだった。
52 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/01(日) 00:49:57.76 ID:X9pwouQq0
更新遅くて申し訳ないです
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/01(日) 20:49:55.95 ID:T+O52QFL0
がんばれぃ
54 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/02(月) 01:39:17.69 ID:rTx5yD1F0
海未「……何も居ませんが?」

 それらしきものは見当たらない。三方を囲む塀と、元来た道があるだけだ。キュゥべえはことりの肩から降りると、塀に向かって足を進めた。

QB「魔女は結界の中にいるんだ。結界に閉じこもり、いろいろなことをしている」

ことり「それで、人を殺しちゃうの……?」

 ことりの小さな消えそうな声に、キュゥべぇは「そうだよ」とだけ答える。他人の不安や恐怖など興味がないかのような態度に、海未は少しだけ腹を立てながらも、キュゥべぇの動向を見守ることにした。

 白い獣は行き止まりまで歩くと、前足で木製の塀を叩いた。

QB「ここだよ。ここから魔女の結界に入れる」
55 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/02(月) 01:40:57.68 ID:rTx5yD1F0
海未「いよいよですか……。不安ですか?ことり」

ことり「う、うん……」

 先ほどから落ち着かないようだったことりに視線を向ける。案の定、不安げな様子だった。

海未「大丈夫ですよ。穂乃果を救った貴女は私が守ります」

 視線の下がりつつあったことりの手を取り、穂乃果のために日常を差し出した彼女の目を見る。ことりの大きな垂れ目は、少しだけ見開かれ、細められた。

ことり「ありがとう、少しだけ勇気でたかも」

海未「では、行きましょう」

QB「こっちだよ。早く」

 キュゥべえに連れられ、二人は結界に飛び込んだ。
56 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/02(月) 01:43:32.87 ID:rTx5yD1F0

 ごてごてとした異様な空間を進んでいく。しばらく歩いて行くと、黒い小人のような何かとすれ違った。

ことり「きゃっ!何!?」

QB「今のは魔女の使い魔だよ。成長すると魔女になるんだけど……今は大丈夫みたいだ」

 使い魔は特に危害を加えようしないどころか、こちらに視線も向けず、去っていった。そうした使い魔はそれ以来見かけないまま。キュゥべえは足を止めた。

QB「魔女は近いね。この扉の向こうだ」

ことり「ひっ」

 ことりが小さく悲鳴を上げる。勇気が出たとは言ったもの、やはり恐怖は拭えていないようだ。海未はことりの前に立つと、左手でソウルジェムを握りしめた。

 そして、右手で扉を開け放つ。

57 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/02(月) 01:46:11.28 ID:rTx5yD1F0
海未「あれが魔女……?」

 想像していたものと違う。魔女という言葉だけ聞いていたため、海未の脳内に出来上がったイメージは、童話に出てくるような三角帽子に黒いマントを身につけた老婆だった。だが、眼前に居座るものはそんな普遍的なものではない。

 姿形はトカゲのような四足の爬虫類だが、背中から蛇が髪のように生えている。瞳は片方がこぼれ落ちていた。魔女というより、化け物だ。

QB「さあ、変身して戦うんだ!ソウルジェムを使って!」

 魔女を眺め、呆然としていると、キュゥべぇが檄を飛ばした。だが、変身のやり方がわからない。変身したい。変身しないと。そう思った時、ソウルジェムから眩い青い光が飛び出し、海未を包み込んだ。

 そして、光が動いた時、海未の姿は変わっていた。
58 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/02(月) 01:47:39.54 ID:rTx5yD1F0
 白い道着に青い袴、金の意匠の彫り込まれた胴当てをつけ、両手には胴当てと似た紋様の彫られた防具が嵌められていた。この金の紋様は防具だけではない。黒金の額当てにも彫り込まれている。

 腰には黒漆の鞘に収まった大小二本差し。

 美しく、どこか可愛さもある女剣士の姿になっていた。

 青い光は側頭部に集約し、青い宝石のついた髪留めとなる。

海未「これが魔法少女、ですか」

 体の奥から湧き上がってくる力。今なら普段の何倍もの動きができそうだ。
59 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/02(月) 01:49:35.84 ID:rTx5yD1F0
QB「海未、前!」

 キュゥべえの言葉に顔を上げると、魔女の背中から伸びた蛇が眼前に迫っていた。ただの蛇かと思えばそんなことはなく、ぎらりと光る刃に姿を変えた。

 海未は軽く息をとめ、軽く体をずらす。腰の刀を抜き、一閃。ぼとりと音がして、足元に刃が転がった。転がった刃は切断された蛇の頭部に姿を戻している。

ことり「海未ちゃん!」

海未「大丈夫ですよ、ことり。変身してみればわかりますが力が湧いて来るようです」

 心配そうな表情のことりに笑いかける。ことりは意を決したように灰色のソウルジェムをとりだした。
60 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/02(月) 01:51:17.48 ID:rTx5yD1F0
ことり「えいっ!」

 海未の時と同様、光が飛び出すとことりを包み込んだ。

 光が晴れると、天使のようにふりふりとしたフリルのついたエプロンをつけたメイドーーことりがいた。エプロンだけでなく、内側のワンピースの素材もやわらかそうだ。目を引くのは髪飾りだ。普段のリボンではなく、銀色のアクセサリーのついた小洒落たものに変わっている。

 腰には矢筒があり、ことりの手にはクロスボウがあった。ことりの武器のようだ。

 灰色の光は旋回し、エプロンの左肩のところで羽根の形の宝石となった。

 ことりの変身を見届けると、海未は魔女に視線を戻した。

海未「ことり……行きますよ」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/02(月) 01:58:42.68 ID:ZDhQuD4SO
もうなにもこわくない
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/02(月) 21:46:56.17 ID:SdzO5EZ30
ええぞ!
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/05(木) 22:38:01.15 ID:/GdNqjs00
待ってるぞ
64 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/05(木) 22:54:13.06 ID:RcghR3FE0

ことり「うんっ!」

 返事を聞くとともに、海未は魔女に向けて走り出す。伸びてくる刃。両手で持った刀に力を込め、振るう。

海未「はあっ!」

 ぼとり、ぼとり、海未の通った道を刃が示す。だが、戦いだ。思うようにはいかない。五本の刃がタイミングをずらして海未に襲いかかる。

 まずい。海未の体が止まった時、ふと、何かが頭に浮かんだ。

 目を閉じて、意識を集中する。もう一度、目を開いたとき、自分に向かう刃の動きが全て瞳に焼きついていた。視える。それに合わせて、刀を閃かせた。全ての攻撃を撃ち落とす。さらに、次の動きも視える。斜め後ろを走ることりに向かう刃。

海未「ことり!止まってください」

 止まることり。眼を見開いて自分に向けて動き出したものを見つめる。間に合ってください。海未は大きく足を踏み出し、跳ぶ。刃に向けて武器を振り下ろした。
65 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/05(木) 22:59:28.00 ID:RcghR3FE0
立ち止まり、痛みに備えて目をぎゅっと瞑ったことりが恐る恐る目を開く。

ことり「海未ちゃん、どうして?」

海未「おそらく魔法でしょう。魔女の動きが手に取るようにわかります……」

 動きを読む。これが海未に備わった魔法のようだ。厳密には視覚の強化だけでなく、感覚器全般の強化なのだが、海未はまだ知らない。

 ことりに付いてくるように促し、海未は道を切り開く。敵の動きを見切り、全て一刀で斬り伏せる。ことりを守らなければ。音ノ木坂の平和よりも、幼馴染のことが頭を占めていた。

ことり「海未ちゃん!この距離なら狙えそう!」

海未「わかりました。落ち着いて狙ってください。私が守ります」
66 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/05(木) 23:01:26.95 ID:RcghR3FE0

 ことりは不慣れな手つきでクロスボウに矢を装填した。ゆっくりと照準を魔女に合わせ、引き金を引く。

ことり「ラブアロー……シュート!」

海未「なっ!? ことり!?」

 突然のことりの言葉に海未の声が荒くなる。矢は魔女のめがけて飛び、本体に突き刺さった。そこから灰色の光がことりに向けて流れていく。それに伴い、魔女は手足が震え、わずか数秒で手足を投げだした。本体だけでなく、背中の蛇も頭を下げる。

 ことりの魔法は敵の力を吸い取ることらしい。走った際に少し息が上がっていたようだが、今は全く乱れていない。

 海未は駆け寄り、刀を魔女の頭に振り下ろした。



 ――瞬間。魔女は霧散し、世界は揺れ、あの路地裏に戻ってきた。
67 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/05(木) 23:04:53.67 ID:RcghR3FE0
QB「うん、初めてにしては上手いじゃないか」

 終わった。初めての討伐が終わった。ことりはゆっくりと地面に座る。服が汚れるとは言っていられないほど疲れているようだ。それもそのはず。どのタイミングで殺されてもおかしくはなかった。そんな緊張を初めて味わったのだ。誰だって糸は切れるだろう。

海未「これは……体というよりも心に来ますね」

ことり「怖かったぁ……」

QB「大丈夫だよ。これだけ戦えたんだ。討伐を繰り返していけばきっといい魔法少女になる」

 キュゥべえの言葉は本当だろうか。少しだけ先に不安を感じつつ、海未はことりの隣に座った。

ことり「今日は大変だったね」

海未「先ほども言ったはずですよ。ことり。私が貴女を守りますから」

ことり「うん、じゃあ、ことりも海未ちゃんを守るよ」

 変身を解くと。ソウルジェムがその手にあった。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/06(金) 16:46:08.81 ID:b7jUoVIB0
がんばれ
69 : ◆jXMHii2Ab6 :2018/07/08(日) 21:33:11.53 ID:L+BRz7jCO
◆ ◆ ◆

海未「……以上が昨日の魔女討伐の報告です」

 翌日、練習後。検査入院中の穂乃果と、今日退院したばかりのにこ以外の七人が部室に残っていた。海未とことりの魔女討伐の報告の後、静寂に包まれてしまった空気を、絵里の言葉が破った。

絵里「想像以上に危険なのね……」

 全員が絵里の言葉に近い感情を持ったはずだ。凛や花陽の表情は明らかに強張っている。だから、どんな事情があれど、こちら側には来ない方がいい。

海未「はい。ですから、皆さんは絶対に魔法少女にならないよう努めてください」

 海未はそう話を締めくくった。一番に口を開いたのは真姫だった。
70 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/08(日) 21:35:07.08 ID:pn2y4P2j0
酉間違えたっぽいですが1です
71 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/08(日) 21:37:59.86 ID:L+BRz7jCO
真姫「そうね……魔法少女、そう簡単になるもんじゃないのかもね」

 赤い癖のある髪を。指先でくるくると弄びながら、呟くように。

花陽「で、でも……」

 花陽は何か言いたげに、口ごもる。

凛「凛、二人だけ危険な目に遭うなんて嫌だな……」

 聞き分けのよかった真姫と対照的な反応の一年生二人組の言葉に、ことりは笑みを浮かべた。

ことり「ありがとう、かよちゃん、凛ちゃん。でも気持ちだけで十分嬉しいなぁ」

海未「はい。私達は穂乃果のために契約し、戦うことを選んだんです。そこに何の後悔もありません。それどころか、キュウべぇに感謝すらしています」

ことり「ことりも一緒。昨日はすごく怖かったけど……穂乃果ちゃんを救って手に入れた力だから……うーんと、嫌いじゃないかな?」

 ね、と海未に同意を求めることり。海未も目を合わせ、頷いた。

海未「私も魔法少女になったことを誇りに思っています。それに、街の人々のためにも力を振るえます。ですから、全て私とことりに任せてください」
72 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/08(日) 21:39:58.34 ID:L+BRz7jCO
 また、静かになってしまった部室。はあ、とため息が一つ。絵里だ。

絵里「わかったわ。二人が忙しくなる分、私達もできることは手伝うわ。海未、作詞に詰まったらいつでも声をかけてくれて構わないわ」

 それに触発されたように、花陽も口を開いた。続いて真姫も。

花陽「こ、ことりちゃん、私も衣装作りを勉強したいから、たくさんお手伝いするね!」

真姫「私も……いい曲を作るわ。歌詞も衣装もすぐにイメージできる曲を作るんだから!」

 魔法少女になる以外にも、二人を助ける道はある。絵里の言葉でそれを理解したメンバーは、それぞれのやるべきことを探していった。だが、花陽や真姫の様子を見ながら、凛は狼狽えた。

凛「凛は……えっと」

 できることが思いつかなかったらしい。「笑顔でいてくれるだけで十分ですよ」と海未は言ったのだが、納得がいかないようで、頭を捻り始める。それを見かねたのか、ずっと静観していた希が口を開いた。
73 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/08(日) 21:41:11.77 ID:L+BRz7jCO
 希の提案に、凛はぱっと顔を輝かせる。指針を示してくれただけでなく、さらっと褒められてもいることに嬉しくなったのか、席を立って座ったままの希の背後に回り込むと抱き着いた。

凛「うん! わかったにゃー!」

 もう一度、賑わいを取り戻していく部室。花陽は次のライブの衣装づくりを行う日をことりに聞き、真姫は曲のコンセプトを考え始めた。凛は希の首に腕を回したまま、今から考えると言い出し、窘められている。

 そんな、日常に近づいてきたメンバーを眺め、絵里は海未に視線を向けた。

絵里「みんなの意思よ。形は違えど、二人をサポートするわ」

海未「ありがとうございます……」

 もう一度、昨夜のように琥珀色とアイスブルーが交錯する。海未は笑顔を作ると、お礼の言葉を口にした。
74 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/08(日) 21:43:01.75 ID:L+BRz7jCO
QB「いいチームワークじゃないか。話がまとまったばかりで悪いんだけど、魔女討伐に向かって貰えるかい?」

 突如部屋に現れたキュゥべえにメンバーの動きが止まった。少しだけ椅子の音を立てて、海未とことりが立ち上がる。

凛「えー! 昨日戦ったばかりなのに!」

 凛が抗議の声を上げたが、海未は首を振る。

海未「今音ノ木坂を守れるのは、私達だけですから」

 行きましょう、と荷物を持ってことりとキュゥべえを連れて部屋を出る。穂乃果を救う、街の人々や、共に戦うことりを守る。常に命の危険にさらされることを帳消しにできるほど、海未にとって魔法少女の力は、有り難いものだった。

だから、園田海未は後悔などしていない。



第一話 終
第二話へ続く
75 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/08(日) 21:46:16.55 ID:L+BRz7jCO
次は二話を進めていきます。
まとめてになりますが、コメントありがとうございます。
76 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/08(日) 21:53:20.85 ID:L+BRz7jCO
第1話現在の状況

園田海未
衣装:白の道着と青の袴。金の模様がある黒い防具。
SG:青色。変身後は側頭部の髪留めの飾りとなる。
武器:日本刀(大小二本)
魔法:超感覚(固有)
願い:穂乃果の脳機能の正常化

南ことり
衣装:メイド服。フリル五割増しのエプロン。銀色の髪飾り。
SG:灰色。変身後は羽の形の宝石になり肩に装着する。
武器:クロスボウ
魔法:エネルギードレイン(固有)
願い:穂乃果を生き返らせる

東條希
衣装:?
SG:紫色。一部が欠けている。
武器:?
魔法:?
願い:?
77 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/08(日) 21:54:18.79 ID:L+BRz7jCO
第1話現在の状況

園田海未
衣装:白の道着と青の袴。金の模様が入ってある黒い防具。
SG:青色。変身後は側頭部の髪留めの飾りとなる。
武器:日本刀(大小二本)
魔法:超感覚(固有)
願い:穂乃果の脳機能の正常化

南ことり
衣装:メイド服。フリル五割増しのエプロン。銀色の髪飾り。
SG:灰色。変身後は羽の形の宝石になり肩に装着する。
武器:クロスボウ
魔法:エネルギードレイン(固有)
願い:穂乃果を生き返らせる

東條希
衣装:?
SG:紫色。一部が欠けている。
武器:?
魔法:?
願い:?
78 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/08(日) 21:55:57.00 ID:L+BRz7jCO
>>76 >>77

二回書き込んでしまいましたすいません
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 16:14:47.59 ID:w5LxvgZxO
>>73の前に何か抜けてないかな?
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/09(月) 18:54:03.26 ID:Qyvl5YZr0
>>79
俺はわざとな気がするが…作者が来ないとわからんな
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 20:48:46.28 ID:mhAp1L92O
設定借りてきて元作品に何の経緯もない二次創作やる奴は筆を追ってどうぞ
そこまでやるならオリジナルでやれよカス作者が
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/11(水) 23:38:56.97 ID:U6+X/R1Z0
気にせずやれよ
ワイは好きやで
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/12(木) 00:08:04.56 ID:+6e6hZrOO
俺は気にするし不快
84 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/12(木) 07:06:50.74 ID:5oZo9EYW0
>>79 >>80

>>73の最初一行目の希のセリフが抜けてました。正しくは以下です。ありがとうございます。


希「凛ちゃんはウチと一緒に振り付け考えよか?凛ちゃん運動神経いいから適役やん?」

 希の提案に、凛はぱっと顔を輝かせる。指針を示してくれただけでなく、さらっと褒められてもいることに嬉しくなったのか、席を立って座ったままの希の背後に回り込むと抱き着いた。

凛「うん! わかったにゃー!」

 もう一度、賑わいを取り戻していく部室。花陽は次のライブの衣装づくりを行う日をことりに聞き、真姫は曲のコンセプトを考え始めた。凛は希の首に腕を回したまま、今から考えると言い出し、窘められている。

 そんな、日常に近づいてきたメンバーを眺め、絵里は海未に視線を向けた。

絵里「みんなの意思よ。形は違えど、二人をサポートするわ」

海未「ありがとうございます……」

 もう一度、昨夜のように琥珀色とアイスブルーが交錯する。海未は笑顔を作ると、お礼の言葉を口にした。
85 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/12(木) 07:10:35.39 ID:5oZo9EYW0
二話投下します。
86 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/12(木) 07:11:27.38 ID:5oZo9EYW0
前回の魔法少女ほのか☆マギカ\デンッ!/

海未「UTXで地区大会予選を終えた私たちμ's。ライブの帰りに穂乃果とにこが事故にあってしまいました。意識もなく、心肺停止に陥った穂乃果を救うため、私とことりは突如現れた白い獣キュゥべえと契約しました。そして、穂乃果のお見舞いの後、初めての魔女討伐に出かけました。さて、これからどうなることやら……」
87 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/12(木) 07:16:15.49 ID:5oZo9EYW0
◆First and last live.


 やっと、μ'sの一員になれた気がした。

 見栄を張って、長く続いた嘘が本当になったことも、もう一人じゃないことも伝えられなかった。

 それでも夢のような奇跡が起きて、晴れて自分はμ'sとして宇宙No.1アイドルを目指すことを伝えることができた。

 夢のような奇跡、とにこは思うが、それは誰かによって作られたきっかけだった。リーダーである穂乃果の思いつきだったらしい。

 そして誓うことになる。宇宙No.1アイドルとして、ファンだけでなく、メンバーも笑顔にしようと。
88 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/12(木) 07:17:56.81 ID:5oZo9EYW0

◆ ◆ ◆


 入院中の穂乃果は濃いめのピンク色のゴムを咥えると思いっきり息を吹き込んだ。それに合わせて膨らんでいく。口を離すと綺麗な丸い風船が出来上がった。

穂乃果「よーしっ!やっと十個目。ファイトだよ!」

 一人で使う病室にはすでに膨らんだ風船がいくつも転がっている。明日のステージではたくさん使うため、まだまだ先は長い。

 明日はーー矢沢にこのゲリラソロライブだ。



 今日はラブライブ地区予選の結果発表日だった。

 穂乃果は病室を抜け出し、音ノ木坂学院アイドル研究部部室へ潜入した。海未には怒られたが、メンバーはみんなが結果を見るのは九人揃って、と考えていたのか、結局は花陽が操作するパソコンの画面を一緒に見つめたのだった。

花陽「ミュー…………ズ」

 その様子が夢と同じだったせいで不安だらけだったが、花陽の呟きで喜びが爆発した。
89 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/12(木) 07:20:40.14 ID:5oZo9EYW0
 事故のせいか全くライブの事は覚えていないのが少し寂しいけど。次に進めたことがとてもうれしい!

 学院全体で喜びを分かち合った後で、いつの間にか一人消えていることに気づいた。

 例の事故に穂乃果と共に巻き込まれたが軽傷、検査も問題なく、昨日退院済みの矢沢にこである。

 消えたにこを捜索するうち、最終的にはにこの家にたどり着いた。

 そして、無邪気に姉を信じる妹達と、μ'sとしてスクールアイドルの活動を始めたことを言い出せないスーパーアイドルのことを知り、帰り道で八人で頭を悩ませていた。

 にこが自分から言い出さない限りどうしようもないと思われていたが、ふと穂乃果の頭に名案が浮かんだ。

穂乃果「そうだ!にこちゃんのソロライブをしよう!こころちゃんと、ここあちゃんと、こたろう君を呼んで、その姿を見てもらおうよ!」
90 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/12(木) 07:27:33.59 ID:5oZo9EYW0
 話が決まると穂乃果は海未に病院に連れ戻され、他のメンバーは学校に戻りって準備を始めた。

 準備に加わりたいと言った穂乃果は帰り際に海未とことりが買ってきた風船を膨らませることになった。明日の昼に二人が取りに来るらしい。

 一年生達はセットを準備し、絵里と希は秋葉原で衣装を探しているようだ。海未とことりも各自でセットに使う小道具を作るとのこと。

 自分も頑張らないと!穂乃果は決意も新たに紫色の風船を取り出し、膨らませた。

 明日は上手く行くかな。穂乃果もライブしたいよ。早く退院したいな。大した怪我もしてないのに検査続きなんてひどい。来週の修学旅行は行けるのかな。なんて取り留めもなく考えていると突然破裂音がした。

穂乃果「うわぁっ!?」
91 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/12(木) 07:28:57.00 ID:5oZo9EYW0
 音とゴムが飛散した時の痛みに驚いて声が上がった。これじゃあ捨てるしかないや。ため息をついて破片を拾い、ベッドの脇のゴミ箱に捨てようと体を伸ばす。ふと気がつくと、既に膨らませてあった水色の風船と薄ピンク色の風船が萎んでいた。縛った口が緩んでいたようだ。

穂乃果「はあ……これ、明日までに終わるのかな……」

 萎んだ二つのうちの薄ピンク色を拾い上げるともう一度息を吹き込んだ。

 今度はきっちりと口を縛る。難しい。本当に間に合うのだろうか。

穂乃果「海未ちゃん!ことりちゃーん!」

 幼馴染に助けを求めても、誰もいるはずもなく。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/12(木) 22:51:00.65 ID:EqMfzWOF0
矢澤…
93 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/15(日) 03:59:32.17 ID:UJAmKxoa0
◆ ◆ ◆


 ガキンと硬質な音がした。二つの刃がぶつかり合い、凌ぎを削る。

 海未は握った日本刀を押し付けた。それを押し返すように西洋風の両刃剣を持った使い魔も力を込めるのがわかった。

 目を凝らす。使い魔が力を抜き、バランスを崩させて懐に入ろうとする動きが見えた。

 やはり魔法は人知の及ばないものだ。海未はそう強く思う。幼少から武道を学んできた彼女にはよくわかっている。ただ見るだけで相手の動きが分かってしまうなど、達人でもあり得ないことだ。

 息を詰め、力を抜き、体を逸らす。使い魔のしようとした行動を一手早く使う。剣にかけた力のまま前に飛び出す使い魔。そこに中段に構えなおした剣先を叩きつけた。

 すっと刃が敵の体を両断していく。切れた部分から霧散し、散りも残さなかった。
94 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/15(日) 04:00:54.45 ID:UJAmKxoa0
倒した。ため息を付き、日本刀を腰の鞘に戻した。血が付いていないため、拭う必要はない。

 足音が耳に入る。振り返ると同じく魔法少女になったことりがいた。その肩には白い獣ーーキュゥべぇが乗っている。

ことり「海未ちゃん、お疲れ様」

海未「ありがとうございます。ことり。魔女はどうなりましたか?」

 路地裏で偶然使い魔を見つけ、海未は戦うことを決めた。ことりとキュゥべぇは近くにあった魔女の反応を追うことになった。

 海未の目に映ることりの表情は優れない。

ことり「ごめんね。見つからなかった……」

 声を落とすことり。なんとなくではあるが、分かっていた。魔女と戦って倒して戻るには戻るのが速すぎる。そしてことりの表情がそれを確信に近づけた。
95 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/15(日) 04:02:55.00 ID:UJAmKxoa0
QB「逃げ足の速い魔女だね。早く見つけて倒さないと厄介だ」

 キュゥべぇはことりの肩から飛び降りるとアスファルトに着地した。海未とことりも変身を解く。

QB「それにしても、わざわざ使い魔を倒さなくてもいいんだよ。前にも説明したけど、こいつらはグリーフシードを落とさない。魔翌力の無駄遣いだ」

海未「ですが、魔女と使い魔が人々に危害を加えることは事実なのでしょう?でしたら可能な限りそれを排除するのはこの力を持つものの義務だと……私は思います」

QB「そうか。でも、見返りがない」

海未「構いません。もちろん定期的にグリーフシードを手に入れなければなりませんが……」

 少し不機嫌な表情になる海未。使い魔が減れば被害は減る。何が気にくわない。言葉には出さないが少しだけ恩人に不満が溜まる。
96 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/15(日) 04:04:11.29 ID:UJAmKxoa0

 そんな海未を見かねたのか、ことりが海未の右腕に手を絡めた。

ことり「大丈夫!今日みたいにことりが探せばいいんだから!」

海未「ことり……」

 初めての戦闘の際、怯えていた彼女ではない。穂乃果の元気な姿を見たら頑張れる。そう今日の討伐の前に言っていた。

海未「安心してください、キュゥべぇ。必ず魔女を倒しますから」

ことり「そうそう。それにグリーフシードが無いと私達も魔翌力が無くなっちゃうんだっけ?」
97 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/15(日) 04:05:11.92 ID:UJAmKxoa0
ソウルジェムは魔法を使うたびに穢れが溜まり、色が濁っていく。黒くなるほど魔翌力が扱えなくなり、最終的には戦えなくなる。そのような説明はすでにキュゥべぇから聞いていた。

 それを防ぐにはグリーフシードに穢れを移すしかない。魔女を倒すことでしか手に入れられないため、魔法少女としての活動を続けるには魔女と戦うことは避けられないことだ。

 なお、変身して魔法を使わなくても、時間経過で少しずつ穢れは溜まってしまうらしい。

QB「ちゃんと理解してくれているならいいんだ」

海未「いえ、ご迷惑をかけてすみません」

ことり「あっ、海未ちゃんもうこんな時間だよ!早く帰って明日の準備しないと……」

 時計を見ると、もう深夜だ。早く帰らなければ明日のにこのソロライブの準備ができなくなってしまう。二人と一匹はその場を後にした。
98 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/16(月) 01:13:49.32 ID:nTCsaFyh0
◆ ◆ ◆

 夢だと思った。普通の日のはずなのに。本当に夢が叶うなんて!

 全部、全部! あの子のおかげだ!


◆ ◆ ◆


にこ「その、ありがとね」

 ライブの後、アイドル研究部部室。普段よりも少し大人しい表情でにこは言う。その表情は喜びを照れ臭さが覆ってしまっているようだった。

穂乃果「にこちゃーん!お礼なんていいよ!にこちゃんのライブ、すごかったよ!」

 にこに駆け寄って飛びかかるように抱きつく穂乃果。それを避けられないにこ。二人は縺れるように床に投げ出された。

にこ「ちょ!何すんのよ!」

 体を起こすにこ。その背後に影が迫る。
99 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/16(月) 01:14:44.62 ID:nTCsaFyh0
希「怪我したばかりなのに元気すぎるのはちょっとお仕置きが必要やん?」

 ぐわっと両手を開き、にこのフラットな胸部を掴む。東條希必殺のわしわしMAXである。

にこ「の、希!あんたこそ辞めなさいよ!にこは事故にあったばっかなの!ていうか!なんでにこなのよ!」

 そして矢澤、完全なるとばっちりだ。

真姫「希、にこちゃんなら検査で何もなかったって分かってるから好きなだけやっちゃっていいわよ」

 呆れたような口調だが、明らかに加担する西木野総合病院院長の娘、真姫。彼女と同じ一年生の凛も便乗して騒ぎの元に駆け寄った。
100 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/16(月) 01:15:34.99 ID:nTCsaFyh0
凛「凛は穂乃果ちゃんに抱きつくにゃー!」

穂乃果「わわっ!凛ちゃん!」

 きゃっきゃと抱き合う二人。にこの周りとは大違いである。

海未「まったく……穂乃果は……」

花陽「凛ちゃん……」

 それぞれの幼馴染の呆れたようなため息と心配そうな呟き。それを聞いたのか穂乃果と凛はまた笑った。

 そんな笑顔を見たにこはくすりと笑いを零す。ようやく本当の仲間になれたんだ。ずっと願っても手に入らなかったものが、ようやく。
101 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/16(月) 01:24:10.90 ID:nTCsaFyh0
にこ「希もそろそろ離しなさいよ。そんなことしなくても、まだ安静にしてるわよ」

希「そう?にこっちは危なっかしいからなあ……」

にこ「それを言うならにこより絵里でしょ」

 不満げな表情でつぶやく。希はくすくすと笑った。

希「そうかもしれんね。えりちはたまに無理するからなぁ」

 そんなことないわよ、と呟いているが。そんなことあると希にはよくわかっている。にこですら知っていることを希が知らないわけがない。

 と、少し油断したところに穂乃果と凛が群がってきた。正直熱い。けど、悪い気はしない。もう後ろめたさもない。
102 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/16(月) 16:24:44.51 ID:nTCsaFyh0
穂乃果「にこちゃん? ライブの打ち上げはどうする?」

凛「ラーメン行くにゃー!」

にこ「ごめん、妹たちに夕飯作らないといけないから」

 ええー! と叫ぶ二人。本当に元気だ。特に穂乃果。数日前、トラックに撥ねられそうになったところを庇ってくれた恩人。ちょっと引っかかるところもあるが、元気で何よりだ。さて、あまり長居すると、妹たちがお腹をすかせてしまう。

にこ「じゃあ、私は帰るわ。打ち上げはまた今度にしましょ。九人揃えるときに」

 にこは妹たちを連れて部室を出て行った。残される八人
103 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/16(月) 16:26:05.43 ID:nTCsaFyh0
穂乃果「じゃあ、今からにこちゃんのライブの準備お疲れさま会を……」

海未「ダメです」

 がしっと穂乃果の肩をつかむ海未。とたんに穂乃果の顔は青ざめていく。

海未「もう病院に戻るはずの時間は過ぎています。帰りなさい」

真姫「そうね。病院のドクターから穂乃果がまだ戻らないって連絡が入ってるわ」

穂乃果「そんなあ!」

海未「まったく、もうすぐ退院できるのでしょう? 我慢しなさい」

 はーい、と力ない返事で出ていく穂乃果。彼女が学校を出たことを確認すると、他のメンバーはライブの片づけに取り掛かるのだった。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/16(月) 20:56:52.51 ID:3i7sG6+w0
待ってます
105 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/17(火) 00:34:16.98 ID:wJMsPx6W0

◆What is your wish?

 ステージの片付けも終わり、帰り道。真っ赤な太陽はだいぶ落ちていて、空が半分だけ紅い。そういえば、と海未は切り出した。

海未「穂乃果も明日には退院できるそうです」

凛「ほんと!?」

真姫「ええ。パパ達もようやく諦めるみたい」

 穂乃果の入院が伸びていたのは多数の検査が原因だ。心臓が止まった状態で搬送されてきた少女の奇跡的な回復。そんな奇怪な現象に西木野総合病院はなんらかの原因があるのではといくつもの検査を試したが、結果は得られるわけがなかった。

花陽「これでまたみんなでライブができるね!」

凛「楽しみだにゃー!」

ことり「穂乃果ちゃん、次のライブが楽しみでしょうがないみたい」

絵里「そうね。ファッショショーで歌うのは初めてだから、いいライブにしてファンを増やしたいところね……希?」
106 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/17(火) 00:36:37.08 ID:wJMsPx6W0

 絵里は、いつの間にか隣にいた希がいないことに気付き、辺りを見回す。すると、希はすぐに見つかった。メンバーから数歩下がって、笑みを浮かべて、六人を眺めていた。

 その笑みは慈愛に満ちていて、それでいて、どこか悲しげで――絵里は目が離せなかった。

希「ん? えりち、ウチの顔に何かついてるん?」

絵里「え? ああ、何でもないわ」

 どうしてあんな顔をするのだろう。違和感を覚えたが、聞いたところで飄々と躱してしまうに決まっている。

 それでも、あんな顔をされては気にならないわけがない。ここ数日、いつもそうだ。なぜか希はたまに寂しそうで、それでいて満たされた表情をするのだろう。まるで、何かを達観するよな――そんな表情だ。

 希がこんな表情をするようになったのは、あの日、例の事故が起きた日からだ。何かを隠しているのではと絵里は思うが、それが何かはわからない。そもそも気のせいかもしれない。だから、聞くに聞けない。

希「えりち」
107 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/17(火) 00:38:37.19 ID:wJMsPx6W0
絵里「どうしたの?」

希「みんな、楽しそうやね」

絵里「そうね。これで本当に九人が一つになれるんだから……」

 くすりと小さな笑いが聞こえた。視線を向ける。なぜだろう、夕日のせいか。目が潤んでいるように見えた。だめ、もう我慢ができない。

絵里「ねえ、のぞ――」

希「いきなりこんなこと言ってごめんね。だけど、ウチ、μ’sが好きなんよ。本当に大好き。もちろんえりちも、ね」

絵里「急にどうし――」

 言いかけた瞬間、何か流体に飲み込まれたかのような感覚がした。同時に視界が揺らぎ、眼前の光景がうねり、変わる。

真姫「何よこれ!」

 一番に声を上げたのは真姫だった。次に海未とことり。二人は卵型の宝石を取り出した。海未は深い青、ことりは白。それに気づいた瞬間、絵里を襲う寒気。そうか、これは話に聞いた魔女の結界だ。
108 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/17(火) 00:42:33.95 ID:wJMsPx6W0
1です。諸事情で数日更新ができません。(元々更新遅いですが)
あといつもコメントありがとうございます。ちょっと人を選ぶ内容も増えますが、 >>1 に書いてあることが大丈夫な方はお付き合いいただけると幸いです。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/17(火) 18:17:50.90 ID:CdGY756b0
了解
110 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/25(水) 07:24:56.38 ID:JC3Kq+jx0
また更新します
111 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/25(水) 07:27:10.31 ID:JC3Kq+jx0
絵里「落ち着きなさい!」

 うろたえる真姫と、それに影響されたのか青い顔をしていた凛と花陽、それと特に慌てた様子もない希に向けて声を上げた。

絵里「海未、ことり、これは例の魔女の結界ね?」

QB「大正解! さすが絵里だ。魔法少女として一緒に戦ってほしいくらいだ」

 答えたのはいつの間にか姿を現したキュゥべえだった。少しだけ、不快感を覚える。海未とことりは周辺を警戒している。その動作は慣れたものだ。

QB「おそらく僕たちは魔女の結界に引きずり込まれたんだろうね。魔女が人を襲うときは、結界の中から干渉するタイプと、結界に引きずり込むタイプの二種類があるんだ。」

 海未はしばらく辺りを見回すと、ため息をついた。

海未「魔女も出口も見当たりませんね……探すしかありません」
112 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/25(水) 07:28:19.74 ID:JC3Kq+jx0
 穂乃果やにこのいない時でよかった、なんて暢気なことは言えない状況だ。魔法少女二人に対し、足手まといの一般人五人。

絵里「私たちはどうすればいいかしら?」

海未「……私とことりから離れないでください。隠れられそうなところがあれば隠れてもらうかもしれませんが」

絵里「わかったわ」

 絵里は頷くと一年生達と希に声をかける。

絵里「だ、そうよ。慌てず騒がず、海未とことりの指示を聞きましょう。魔女のことがわかっているのは二人だけよ……希も。いい?」

 あたりに視線を巡らしていた希はにっこりと笑うと頷いた。
113 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/25(水) 07:29:31.92 ID:JC3Kq+jx0
 海未とことりに目を向けると、二人から放たれた光が収束していくところだった。魔法少女の服や武器は聞いた以上にすごいと、状況を忘れて考えてしまう。海未の腰の二本の刀も、ことりの矢も、今まで魔女やその使い魔を何体か倒してきた。だから大丈夫だ。

 大丈夫。

 嫌な予感がしたなんて考えない。そんなスピリチュアルなことを信じるのは希くらいだ。

 だから。
114 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/25(水) 07:31:37.75 ID:JC3Kq+jx0
 ▼

 絵里達は海未とことりに連れられ、魔女の結界をさまよっていた。

 四角い道が続く。道には所々部屋があった。割れた窓が付いていてその部屋の中が見えたが、中では人型の使い魔が遊んでいるだけだった。

 道の奥まで行くと、階段がある。この階段は先ほどから何度も登ってきたが、迷ったわけではないはずだ。道を奥まで行くと階段、次の階について、廊下を奥まで進むとまた階段、という構造になっている。そんな構造の結界のようだが、次の階段には違和感があった。熱い。

海未「近いですね」

 刀の柄に手をかける海未。

ことり「みんな、離れないでね」

 矢をボウガンにつがえることり。

 二人について階段を登って行くと、扉があった。向こうに、魔女がいる。ここまでくると魔法少女でなくてもわかる。

 海未とことりは顔を見合わせると、扉を蹴破って飛び込んでいった。二人から離れないようにしないと。いつ使い魔が襲ってくるかわからない。絵里も後を追って扉をくぐった。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/25(水) 18:32:23.77 ID:8T/OVj/m0
待ってたよ
マイペースによろしく
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/26(木) 21:19:40.00 ID:uddTRmrq0
がんばれよ〜
117 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/30(月) 02:50:00.25 ID:luvvoFLm0
 熱い。

 熱い。

 眩しい。

 眼前に広がる世界。異常なほどの明かり。開けた空間は柵で囲われていて、その向こうには何も見えず、炎が揺らめいている。そして、その中心に球形の黒い炎の塊があった。きっと、あれが魔女だ。魔女と聞くとウイッチハットとマントに身を包んだ老婆というのが定番のイメージだが、あれは人、いや、生き物の形すらなしていない。

凛「何あれ……太陽みたい」

 呆然と呟く凛の声。彼女の言う通りだ。まるで太陽。赤い球体が燃えている。時折球体が流動していることが首の後ろの不快感を煽られる。

花陽「ひっ」

 一際大きく球体の一部が盛り上がった。花陽の悲鳴。何故だろう。ただ表面が隆起しただけだというのに、冷や汗が止まらない。絵里は魔女について詳しく知らない。だが、直感でわかる。球体の中に何か、とてつもない力がーー。
118 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/30(月) 02:53:20.13 ID:luvvoFLm0
 海未とことりは……?絵里が視線を巡らすと、二人はすぐに見つかった。太陽のような魔女に気を取られて気づかなかったが、球体の周りに人型の黒い影ーー話に聞いた使い魔らしきものが現れ始めていた。黒いドロドロの液体が床に落ち、それがヒト型になっていった。

 少しずつ数は増え、八体。二人はそれと戦っている。だが、見るからに分が悪い。使い魔達はそれぞれ、刀、拳銃、槍、矢、槌ーー様々な武器を持っている。中には絵里の知識に存在しないようなものまで。使い魔は背中の管が魔女とつながっていて、魔女の一部のようだった。

凛「凛たち、見てるだけしかできないの……?」

QB「そんなことはないさ。契約して魔法少女になれば、いくらでも加勢できる。凛は何か願い事はないのかい?」

 キュゥべぇは凛の足元に寄った。マズい。優しい凛なら契約しかねない。

 いや、この状態で二人との約束を守る必要があるのだろうか?二人が穂乃果とにこ以外のメンバーに魔法少女にならないようにと釘を刺したのは、危険だから、それに尽きる。だが、今は緊急事態だ。むしろ二人の危険を防げるなら、そして自分以外が契約しなければ、魔法少女になって加勢しても……。
119 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/30(月) 02:58:10.02 ID:luvvoFLm0
絵里「キュゥべぇ」

QB「どうしたんだい? 契約する気になったってことでいいのかな?」

 ええ、と頷こうとした時、後ろから肩を掴まれた。使い魔!?と心臓が跳ねる。息を止めて顔を向けると、こんな状況だというのに笑った希がいた。



希「海未ちゃんとことりちゃんと約束したのに、契約しちゃダメやん? えりちも。みんなも」

 だから、と希は左手を出した。違和感。中指。普段は指輪なんてつけていないはずだ。じっと希の手を見ていると指輪から紫色の卵型の宝石が現れた。以前見せてもらった海未やことりのソウルジェムと似ている。違いといえば一部が欠けていることか。だが、その違いは頭に浮かんだ答えを消してくれるものではない。

絵里「希……! どういうことなの!? あの時、海未とことりと、契約しないって約束したはずじゃ……」

「ごめんね。実は、あの日の次の朝、キュウべぇと契約したんよ。だから、二人と約束した日にはすでに魔法少女になってたから……約束もなにもないんや」
120 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/07/30(月) 03:01:49.35 ID:luvvoFLm0
絵里「そんな、勝手に……もし怪我でもしたら、死んだらどうするの!?」

希「……本当は言わないつもりやった。キュウべぇにもみんなには内緒にしてもらったんよ。でもね。海未ちゃんとことりちゃんの二人だけが危険な目にあうのはやっぱり嫌やなーって。それに――」

 それに? と聞き返そうとしたが、希の視線が外れたことにより、その言葉は飲み込んでしまった。希の視線の先には肩から血を流すことり。ことりと彼女の傷の原因と思わしき刀を持った使い魔の間に海未が飛び込んだ。刀と刀がぶつかり合う。飛び散る火花。ことりが海未の名前を呼ぶ声が聞こえた。刀の使い魔の後ろに、いる。肩越しに海未に矢を向けようとする使い魔。

 ――海未!

 危険を知らせる声は出ない。喉が張り付いてしまったようだ。だが、希は、相変わらず、笑みを浮かべて。ぎりぎり聞こえるくらいの声で。未来を変えるんや。

希「へーんしん」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/30(月) 10:00:11.01 ID:KKFPXDdDO
早く続きを書いてくれたら、それはとっても嬉しいなって
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/30(月) 11:48:40.61 ID:Xjr5xqyrO
続きいらねえからやめろ
まどマギの設定使ってオ〇ニーやめろや
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/31(火) 08:06:45.57 ID:/sOYIjgl0
頑張ってくれたまえよ
124 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/05(日) 16:18:15.02 ID:646iZuY20
 つぶやいた声とともに紫色の光に包まれた。その光はすぐに晴れ、一人の魔法少女が現れた。

 藤色の袴の巫女。儀式でもするかのように金色の飾りを纏っていた。そのうちの一つ、紫色の宝石ーーソウルジェムは首飾りになって胸元にある。金の飾りは普段は二つ結びだが今は一つ結びとなった髪にも付いている。神々しい、一言で言うならそれに尽きるーーと絵里は思う。

 巫女服の魔法少女となった希は金の錫杖を鳴らした。しゃらん。澄んだ綺麗な音。杖の先端の輪のうち四つが空を駆けながら巨大化し、矢と刀の使い魔の腕と足をを拘束した。輪一つ一つが強い拘束力を持つらしく、タイルの床に転がされた使い魔達はもがくだけで動けない。

 捕まった使い魔は魔女の足元にいるが、熱の影響は受けないようだ。焼かれそうな熱だが原型を保っている。この空間も彼女の思うままなのか、魔女の元に垂れて形成された黒い液体の模様も消えていない。
125 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/05(日) 16:20:23.80 ID:646iZuY20
魔女と使い魔達から距離を取った海未とことり。そこに希は並んだ。

希「ほらほら、海未ちゃん。援護するからしゃんとしい。死んだらみんなが悲しむで」

海未「希……貴女という人は……」

希「ごめんごめん。二人が心配するかなーって黙ってたんよ。えりちにも行ったけど、二人に止められる前に契約してたから、約束を破ったわけやないんやで」

ことり「希ちゃん……そんなに叶えたい願いがあったの?」

希「んー……秘密」

 語尾にハートマークでも付いていそうな軽い口調で希は言う。そう、それが一番絵里の気にかかるところだった。

 貴女の望みは……?
126 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/05(日) 16:23:21.46 ID:646iZuY20
 ぼごっ、と太陽のような魔女の表面が隆起した。続いていた脈動かと思いきや、どうも様子がおかしい。ぼごぼごと表面が蠢き、やがて炎の龍の頭のようなものが現れた。

希「二人とも、あの頭は最初にことりちゃんをを飲み込もうとするから、ことりちゃんは全力で後ろに走って離れるんや。頭はあんまり伸びないから、伸びきった所をうちと海未ちゃんで叩こ」

海未「希?何故分かるのですか?」

希「ちょっと魔法を使っただけや」

 龍頭は痙攣するように震えた後、三人に襲いかかった。視線はメイド服の魔法少女、ことり。炎の龍は蛇のようにぐわっと口を開いた。
127 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/05(日) 16:24:43.96 ID:646iZuY20
 ことりは希に言われたとおり、踵を返して走り出した。溢れた血が床を彩る。十メートルほど龍に追われたところで、びくん、と龍は動きを止めた。

希「海未ちゃん!今や!」

海未「はい!」

 希の錫杖が頬を殴り飛ばし、海未の刀が半分ほど首に食い込んだ。

希「ことりちゃん!今のうちに魔法で力を吸い取るんや!」

ことり「うん、わかった!」

 ことりが矢を装填し、怯んだ龍に射出した。放たれた矢は眉間に刺さり、光った。光はことりの元へと帰っていく。それと同時に龍は大人しくなった。海未はそれを見逃さず、刀に力を込め、頭を切り落とした。
128 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/05(日) 16:32:48.05 ID:646iZuY20
希「二人とも、やるやん!」

 希はそう言いながら金の錫杖を振るいーー背後に忍び寄っていた槌を持った使い魔の攻撃を防いだ。

海未「希、加勢します!」

希「いーや、この子はうちに任せて。二人は本体を倒すんや」

 使い魔の持っていた小型の槌は巨大化し、取っ手が伸び、スレッジハンマーの形をとった。伸びた間合いと一撃の重量。希は分が悪い。

 敵がハンマーを持ち上げた隙。希は懐に飛び込んだ。錫杖の先端が音を立てて落ちる。光る細長い刃が現れた。仕込み薙刀。刃を短く持って使い魔の胸に突き刺した。

希「ごめんなぁ……」

 希が使い魔に投げた言葉。最後は小さくなり、端で見ているだけの絵里には何を言っていたのかがわからない。仕込み薙刀を使い魔から抜き、魔女の方に向き直った。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/05(日) 23:54:31.33 ID:o5/7DArk0
おお新しいの来てたか
よろしく〜
130 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/08(水) 02:04:54.53 ID:NJTx63px0
 海未とことりは腕が変形した使い魔と槍を持った使い魔の二体と戦っていた。

 苛烈な戦い。そうか。穂乃果を救うために、二人をこんなところに送ってしまったのか。そして、希も何らかの事情であちらの世界に行ってしまった。

 もどかしい。

 いつの間にか絵里の手には力がこもっていて、手のひらに爪が食い込んでいた。律儀に二人との約束を守ってしまった結果、契約して援護することもなく、黙って見ているだけだ。本当にこれでいいの? 何か三人の邪魔にならない援助ができればいいのに。

 そうだ、外から見える範囲であの魔女と使い魔の弱点を探せれば……。まず敵の数だけど、魔女一体と使い魔が八体でこちらの魔法少女の三倍。撃破した使い魔はハンマーを持った一体。少しずつ黒い液体に変わっていっている……? 刀を持ったのと矢を放つのは拘束されて動けないでいる。実質残りは6体だ。使い魔に戦わせているばかりで魔女はほとんど動かない。一度龍の頭を出したきりで……。あれ、そういえば、龍の頭を出した時、使い魔たちの動きは――
131 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/08(水) 02:06:10.20 ID:NJTx63px0
凛「絵里ちゃん!前!」

 凛の声だった。次いで花陽の悲鳴。思考の世界に入り込んでいた意識が現実に向く。横に黒い紐のようなものを持った使い魔がいた。――いつの間に!

 逃げようと足を動かしたが、使い魔の持っていた紐で体を拘束されてしまった。紐に力が加わる。ぎりぎりと音がして、体が千切れそうだ。幸い首に紐がかかっていなかったため、息はできる。だが、強い痛みのせいで呼吸などままならない。

 死ぬ。殺される。三人の助けにもなれず、ただの足手まといだった挙句、こんなにも容易く殺されてしまうというの?

 痛い。苦しい。

 希――!
132 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/08(水) 02:08:32.48 ID:NJTx63px0
希「えりち!」

 風のような感覚。体が軽くなった。息が出来る。力が抜けて床にへたり込んでしまった。助かった。その事実が呑み込めたのは、使い魔の死骸をどけるために体を動かしたあたりだった。動かなくなった敵を見て、ようやく、生きていると。そして、彼女が助けてくれたと。

絵里「希……」

 紐ごと切られた使い魔の体を避けながら、希が駆け寄ってくる。死骸を踏みつけることをしない優しい親友。

希「えりち、もう大丈夫やで」

 ふわりと髪を撫でる感覚。海とことりが戦っていることも、一年生達の前だということも忘れて、視界が揺らいだ。頬を熱いものがつたう。
133 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/08(水) 02:10:14.44 ID:NJTx63px0

希「大丈夫。大丈夫や。うちが必ず守ってあげるから、ね?」

 ぎゅっと抱きしめる温度、柔らかさ。首飾りの宝石の感覚は服を着ていても伝わった。いつからか、一番安心できたのは、自室にいるときでも、家族といるときでもなく、希のそばにいるときだった。笑いかけてくれる笑顔は暖かく、何よりも幸せな気分になれた。

希「ねえ、えりち」

 腕の力が強くなる。希の温度が近くなる。珍しい。どうしたの?そう聞こうとした。
それと同時に。

希「えりち。お願い。――て」

 希は何か、何かを言ったけれど、何発もの銃声が響き、何ていったのかよくわからなかった。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/15(水) 10:27:25.69 ID:L0ciGIt40
頼むぞ〜
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/23(木) 15:20:47.01 ID:Hk3nDNxRO
まどマギパロとはなんて俺得
更新楽しみにしてるぞ
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/08/23(木) 21:37:57.32 ID:UWm8Id910
おい…今日で何日や…
137 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/27(月) 03:29:08.53 ID:M2v5CK+c0
 暖かい赤と、体に寄りかかってくる冷たいもの。背中にもあった圧力はなくなり、ただ、冷たいものが体の上にある。

絵里「希?」

 誰かが嘔吐する声が聞こえた。たぶん真姫だ。

絵里「希? どうしたの?」

 響く花陽の悲鳴、凛の泣き声、海未の怒号。何? 何があったの?

絵里「希、何かあったみたい。少しだけ、離してもらうわね」

 希の腕から抜け出ると、希の体は地面に吸い寄せられるように倒れた。
138 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/27(月) 03:32:22.02 ID:M2v5CK+c0
 背中にはいくつもの赤。抉れた皮膚。赤く染まった白く神々しかった巫女服。

絵里「希?」

 希が動かない。踊ることが好きだった足も、たまに髪を撫でてくれた手も、優しく笑いかけてくれた頬も。

絵里「ねえ、動かないと、魔女が来るわ」

 希の指に手を伸ばす。ポロポロと何かが落ちた。紫色の宝石の欠片だ。自分の胸に目をやると、赤い染み、そこに付着した紫の破片。床に落ちた欠片の中にひときわ大きな黒い塊があった。拳銃の弾だ。

絵里「希、撃たれたの……?」

 ねえ、希。希のことだから、冗談なんでしょう?性質の悪い、悪戯。
139 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/27(月) 03:34:03.39 ID:M2v5CK+c0
絵里「弾が胸を貫通したのね……」

 だから、冗談でしたって言って起きてくれるんでしょう? それでまた、さっきみたいに凛々しく立ち向かって――

絵里「それが首飾りの宝石に当たったから私は生きてるのかしら……?」

 ねえ、違うって言ってよ。こんな冗談こりごりよ。海未とことりは戦ってるんだから、空気を読みましょう。ねえ。

絵里「希……」

 私を守ってくれたなんて。私のために死――。

絵里「嘘って言ってよ……」

 触れた手は硬く冷たくて。冗談だと思いたかったことはきっと全部本当で。世界の一部が崩れ落ちた。
140 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/27(月) 03:35:38.63 ID:M2v5CK+c0
 頭の中が気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

 何かが痛い。痛い。痛い痛い痛い!

 ああ、そうか。全部魔女のせい。

 絵里は希の握っていた小型の薙刀に手を伸ばした。冷たい。希の手を離し、薙刀を持つ。重い。けど――

 希の命に比べればこれくらい!

絵里「ああああああああああああッ!」

 吠えた声は自分のものに思えなかった。希の近くをうろついていた拳銃を持った使い魔に薙刀を振りかぶる。だが、武器なんて持ったこともない素人の一撃はなんなく躱されてしまった。

海未「絵里!やめてください!」

 拳銃を向けた使い魔との間に海未が割り込んだ。そして、刀の一振りで銃を持った手を切り落とす。
141 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/27(月) 03:38:48.04 ID:M2v5CK+c0
絵里「どきなさい!こいつは!希を!」

 武器は海未が落とした。だから、私がこいつを!

海未「あなたは希が守った命を無駄にするつもりですか!」

 海未の言葉に体が強張った。普段から冷静なはずの声は、いつになく荒れていて、今にも泣きだしそうだった。

 希が守った命……?

ことり「海未ちゃん! 絵里ちゃん! 離れて!」

 使い魔がびくりと動いた。海未はことりの言葉に従い絵里の腕を掴んで使い魔から引き離す。絵里は抵抗しなかった。する気力もなかった。海未とことりがあまりにも魔女を見つめるものだから、絵里もそちらに視線を向ける。魔女は痙攣するように震えていた。
142 : ◆PqgbKM/Cuk :2018/08/27(月) 03:41:44.24 ID:M2v5CK+c0
ことり「どうなるの……?」

 びくびくと痙攣する使い魔に繋がっていた管は太くなっていく。それに合わせて使い魔の形も変わる。龍の頭。発火。先ほど三人が倒したものと似たような形状になった。

ことり「どうしよう……」

海未「でも、どうにかしなければ、希の犠牲が無駄に! 何としてでも倒しましょう!」

ことり「うん、わかった」

 だが、二人の警戒と決意は無駄になる。

 成長した龍の頭は倒れていた希の死体を喰らった。一口で、飲み込んだ。すると、魔女の本体がさらに揺さぶられるようにと震え始め、空間が揺らぎだす。少しだけ、床に落ちていた黒い液体が蒸発して消えた気がした。

QB「魔女の結界が不安定になっている!」
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