相棒×聲の形「灯台下暗し」

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100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:41:18.59 ID:1GsLvrze0
石田「な……なんだよ?何の用だよ?」

島田「インガオーホーの続き……」

石田「え…?」

島田「だから、昨日のインガオーホーの続き」

石田「…!」


島田の言葉に石田の表情が青ざめた。

要するに、昨日特命係に中断させられた暴行の続きを、今から始めようと言われたのだ。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:42:19.98 ID:1GsLvrze0
石田「お、おい……こんな所で続きやるの、まずいんじゃねぇか……?」

島田「だから、今から場所移すんだよ……広瀬!」

広瀬「おう!」


島田に命令され、広瀬は石田を押さえつける。


石田「や、止めろよ…!明日でもいいだろ?!」

島田「そうやって逃げようたってそうは行かねぇよ」


考えを見透かしたかのように返す島田。

そして抵抗虚しく、何処かに連れて行かれそうになる石田。


だが……
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:45:17.35 ID:1GsLvrze0


???「ちょっと、そこの君達ぃ〜」

103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:45:48.54 ID:1GsLvrze0
突然、自分達以外の男性に呼び止められ、彼らはその声がした方向を振り返る。


島田と広瀬「「!」」


振り返った瞬間、2人は驚きの表情を見せる。
何故ならそこには、昨日自分達の石田へのいじめを止めてきた冠城亘がいたからだ。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:46:26.62 ID:1GsLvrze0
冠城「その子を何処へ連れて行く気かな?」

島田「え…あ……」

広瀬「そ、それは……その………」

冠城「もしかして、昨日僕達のせいで出来なかった喧嘩の続きかな?」

島田と広瀬「「………」」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:48:18.68 ID:1GsLvrze0
冠城「駄目だなぁ……」

「君達みたいな年頃になると色々あるのは分かるけど、だからって喧嘩は良くないよ?仲良くしなきゃ〜」

広瀬「お、おい…!島田……」

島田「に…逃げろ!」


何でまた邪魔が……!

と悔しさを感じたものの、今この場で捕まっては元も子もない。

そう言う訳で、広瀬と島田は一目散に逃げて行った。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:48:58.03 ID:1GsLvrze0
冠城「…………」


この場から立ち去る彼らを見た後、冠城は「大丈夫かい?」と石田に声を掛ける。

彼らから解放された石田は、何も言わずにさっさとその場から立ち去ろうとした。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:50:49.77 ID:1GsLvrze0
冠城「石田将也君だね?」


石田「!?」


だが、冠城に自分の名前を呼ばれ、石田は驚き、足を止めて彼を見た。

何故、彼は自分の名前を知っているのだろうか?

昨日、少し顔を合わせただけで、一言も会話していないのに……
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:51:27.52 ID:1GsLvrze0
冠城「やっぱり……君が石田君なんだね?」

石田「あ…アンタ、一体……?」

冠城「話したいのは山々だけど、ここだとちょっとまずい……場所を移そう」

石田「あ…あ、あぁ……」


冠城の提案に流されるままに乗っかる石田。

こうして、彼を連れて移動を開始しようとする冠城であったが……
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:53:59.95 ID:1GsLvrze0
冠城「?」


その時、後ろの方を見ると、硝子が遠くからこちらを見ている事に気付く。
しかも良く見てみれば、彼女の目線は石田の方にも向けられているようにも見えた。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:55:26.48 ID:1GsLvrze0
冠城「…………」


冠城はその様子が少し気になったものの、
今は石田の方が優先であった為、その場を立ち去るしかなかった。

こうして冠城は、石田を連れて近場のファミレスに入り、
そして隠れるのに最適そうな席に腰掛けた。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:56:46.01 ID:1GsLvrze0
冠城「ここなら、向こうの席からはすりガラス越しで君の姿は良く見えないし」

「外からも、僕の陰になって君の姿は誰にも見えない」

「唯一の目撃者は店の人とそこの監視カメラだけど……」

「店員が他の客に君の事を話すわけないし、監視カメラの映像だって一般人が見れるものじゃない」

「そもそもこんな店、子供だけで入れやしない……」

「どうだい?彼らから身を隠すには、打って付けだろ?」


そう言ってウインクしてみせる冠城。
だが、石田は彼に対する不信感を拭いきれなかった。

そんな中、店員の女性が冠城が注文したオレンジジュースを石田に持って来る。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:57:33.87 ID:1GsLvrze0
冠城「ほら……喉乾いただろ?」

石田「け、けど……」

冠城「僕からのおごりだ。遠慮しないで飲めって」

石田「………」


冠城にそこまで言われると、石田は半ば仕方なしにオレンジジュースに口を付ける。

そして、彼が全部飲みきったあたりで、冠城は表情を切り替える。
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:58:48.84 ID:1GsLvrze0
冠城「自己紹介がまだだったね。僕はこういう者だ……」


そう言って冠城は、自分の手帳を見せる。


冠城「警察手帳……一度くらいは見た事あるだろ?」

石田「! じゃ…じゃあ、アンタは……!」

冠城「僕は、東京の警視庁から来た刑事だ」

「名前は、冠城亘……」

石田「冠城亘……」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 15:59:50.19 ID:1GsLvrze0
冠城「さて、どうして僕があそこにいたのかだけど……」


身分を明かした冠城は、昨日島田達のいじめを止めた後、
右京と共に色々と調べて回った事を石田に明かした。


冠城「そうして君の事を調べていく内に、君が西宮硝子ちゃんをいじめていた事が分かったという訳だ」

「だから、あそこで君を待っていたんだ。その事を詳しく聞く為にね」

石田「…………」


事情を聞かされた石田の表情は重かった。

当然だろう、自分の所業がこんな形で警察に知られるとは、思ってもみなかったのだから。

そして、冠城がその事を咎めに来たのだろうとも考えた。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:01:58.60 ID:1GsLvrze0
冠城「言っとくけど、僕は君を咎める為に話しを聞こうってわけじゃないんだ」


予想外の言葉に石田は「え…?」と疑問符を浮かべる。


冠城「君、今いじめられているでしょ?」

石田「い、いや…それは……」

冠城「隠さなくたっていい。昨日のあれは、どう見ても喧嘩なんかじゃない」

「無抵抗な相手をリンチにして痛めつける……立派ないじめだ」

「さっきだって、そうなり掛けていたんじゃないのかい?」

石田「……」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:03:47.09 ID:1GsLvrze0
冠城「しかし、何故硝子ちゃんをいじめる側だった君が、今度はいじめられる立場になったのかっていう疑問があってね……」

「僕は最初、硝子ちゃんをいじめた事に対する報復だと思ったんだけど……」

「ウチの上司は、他の可能性も疑ってるみたいでね……君に直接聞いて来いって言われたんだ」

石田「…………」

冠城「だから…正直に話して欲しい」

「今君がいじめられているは、硝子ちゃんをいじめた事に対する報復なのか?そうじゃないのか?」


真剣な面持ちで、石田と顔を合わせながら冠城は問い掛ける。
一方石田は、そわそわした様子で答えようとしない。

答えるべきかどうか迷っているようだ。

そこで冠城は、次のような事を言った。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:04:22.81 ID:1GsLvrze0
冠城「話したくないのなら、それで構わない」

「一般人……それも子供から強引に事情を聞き出すなんて、警察のする事じゃないからね」

「けど……それでいいのかい?」

石田「え…?」

冠城「君は今、担任の先生からの助けも得られない状況に陥っているんじゃないのかい?」

石田「どうして、そのことを?」

冠城「昨日、学校でたまたま見たんだよ。君が、先生に相手にされていない現場を……」

石田「…………」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:06:22.25 ID:1GsLvrze0
冠城「それに、被害者が被害に遭ったと認めてくれなければ、僕達警察も手の出しようがない。事件性が、認められないからね」

「しかも僕らは違う所轄の刑事だ……この市には長くはいられない。いつ、警視庁に呼び戻されてもおかしくないんだ」

「そうなったら、君を助ける大人はいなくなるだろうね」

「それでも乗り切れる……後悔しないという自信があると言うのなら、僕達は引き下がるつもりでいるけど」

石田「……!」
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:07:23.90 ID:1GsLvrze0
冠城の言葉に、石田は表情を曇らせる。

少しばかり脅すような真似をして冠城は心を痛ませたが、間違った事は言っていないつもりだ。

このまま石田が何も話さなければ……救いを求めてくれなければ、意味がない。

6年生と言えども、彼はまだ子供……大人の助けがなければ生きていけない年頃だ。

だから尚更、彼自身が自分達大人に救いを求めてくれなければ、その時点で終わってしまう。

それこそ、昨日今日といじめから救ったことすら無意味になる。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:08:10.17 ID:1GsLvrze0
冠城「大丈夫……君から聞いた事は、上司以外には誰にも話さない」

「僕の上司も、同じ対応を取ってくれるだろう」

石田「ほ、ホント……か?」

冠城「僕達は警察だ……秘密は守るよ」


秘密は守るという冠城の言葉……

この一連の流れで、石田の心は揺れ動く。

そして……
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:08:38.75 ID:1GsLvrze0


石田「じ、実は……」

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:09:30.31 ID:1GsLvrze0
―西宮家―


結絃「姉ちゃんお帰り」

硝子「おきゃ…えり……」


学校から帰って早々、待ち構えた結絃に硝子は呂律の回らない声で「お帰り」と返してみせる。

ランドセルも下ろし、手も洗い、少し落ち着いた頃合いを見計らい、
結絃はいよいよ、気になることを聞き出そうと動く……
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:10:07.09 ID:1GsLvrze0
結絃「姉ちゃん…ちょっと聞きたい事あるんだけど」


手話を交えて聞いて来る妹に、硝子は「なに?」と手話で返す。


結絃「昨日、刑事さんが石田がいじめられてて、姉ちゃんがそれ見てたって言ってたけど……」

「一体、どうしてそんな事してるんだ?石田に何が起きてるんだ?」

硝子「…………」


その事を聞かれた途端、硝子はまた昨日の時の様に手話をする手を止めて黙ってしまう。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:10:44.34 ID:1GsLvrze0
結絃「ね、姉ちゃん……?」


何も答えない姉を不思議がる結絃。

一方、本人は手話で「宿題やってきます」と伝え、足早に自室に行ってしまった。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:11:21.38 ID:1GsLvrze0
結絃「姉ちゃん…!」

いと「ゆず…どうしたんだい?」

結絃「婆ちゃん……姉ちゃんに、石田がいじめられてる事を聞いてみたんだけど」

「何も答えてくれなかった……」

いと「そうかい……」

結絃「どうしてだよ……何で話してくれないんだよ?」

「なんか…アイツのこと庇ってるみたいだ……」

いと「……………」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:13:14.42 ID:1GsLvrze0
一方その頃……

ファミレスで話しを終えた冠城は、石田を彼の自宅まで送り届けていた。


石田「この辺でいい。ここまで来れば、アイツらには会わないから」

冠城「そうかい?じゃあ、気を付けて……」


こうして、石田に背を向けてその場を立ち去ろうとする冠城。
そんな彼に対し、石田は「待って…!」と言って彼を引き止める。


冠城「ん……?」

石田「さ、さっき話したこと……」

冠城「…………」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:13:48.13 ID:1GsLvrze0



「何の事かな?」


128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:14:37.89 ID:1GsLvrze0
石田「え…?」

冠城「僕は、喧嘩沙汰になりそうになった君を助け、君を家の側まで送った……」

「それ以外に何もしていない」

「つまり、君は僕に何も話していない……」

「そうだろう?」


すっとぼけた風に言って見せた後、冠城は改めてこの場から去っていく。

彼の受け答えに、石田は絶対に彼は秘密を守ってくれる……

自分の味方だという確証を得るのだった。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:15:17.90 ID:1GsLvrze0
冠城「…………」

こうして、石田を送り終えた冠城は、泊っている旅館の部屋に戻ってみると、
そこには既に右京がおり、ちゃぶ台の上のお茶を優雅にすすっていた。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:16:04.46 ID:1GsLvrze0
冠城「そろそろ、紅茶が恋しくなってきたんじゃないですか?」

右京「やっと戻りましたか。僕はずっと、ここで待っていたのですが……」

「一体何処で油を売っていたんでしょうかねえ?」

冠城「せっかく戻って来て、そりゃないじゃないですか〜」

右京「では、君はちゃんと石田君から話しを聞く事が出来たんですか?」

冠城「もちろんです。下校時間を狙って正門で待ち構え、捕まえました」

「その際、例の2人にまたいじめられそうになってたので、助けてあげましたよ」

「そちらは?」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:17:18.18 ID:1GsLvrze0
右京「石田君のお母様……石田美也子さんから、話しを伺うことが出来ました」

冠城「お母様にですか……」

右京「どうやら、シングルマザーのようで……」


右京の答えに「そうだったんですか……」と冠城は納得する。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:18:16.98 ID:1GsLvrze0
冠城「で?彼女は、なんと?」

右京「その前に、君が石田君から聞いたことを話して下さい。何を聞いたかは、その際お話しします」

冠城「分かりましたが……その前に、ひとつ聞いて宜しいですか?」

右京「何でしょうか?」

冠城「朝は特に気にしていませんでしたが、わざわざ別々に行動する必要あったんでしょうか?」

「2人で石田君のお母様に話を伺って、その後石田君に話しを聞く……」

「それでも、問題なかったと思うんですが……」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:19:36.98 ID:1GsLvrze0
右京「大の大人……それも男2人が揃って話しを聞くよりも、一対一で話した方が向こうも話しやすいだろうと判断しました」

「それに、あのようなお子様から証言を引き出すのは、僕よりも君の方が向いていると思いましてねぇ……」

冠城「つまりそれは、俺の能力を買ってくれたので?」

右京「それはともかく、早く話してくれませんかねぇ……」

冠城「そこは『はいそうです』って言って下さいよ……」


そう言って残念そうにしつつも、冠城は石田から聞いた話を語り出す。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:20:31.32 ID:1GsLvrze0
何でも石田は、今まで島田や広瀬と言った学校の友達と一緒に、
よく馬鹿騒ぎして遊んでいたのだが、今年に入りその2人が
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:21:22.93 ID:1GsLvrze0


『いい加減危ないから』


『来年の中学校への進学に向けての勉強を進めたいから』

136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:21:49.76 ID:1GsLvrze0
などの理由で、石田の馬鹿騒ぎの輪から離れて行ったのだという。
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:22:22.75 ID:1GsLvrze0
冠城「それで石田君、凄く退屈だったそうで…」

右京「その矢先に、硝子ちゃんがやって来た……」

「石田君のお母様も、友人とつるまなくなったのが関係していると言ってしましたが……」

「彼女に手を出したのはやはり、普段の行動の延長線上のようなものだったわけなのですね」

冠城「えぇ…彼が言うには、最初は自分にとっての非日常……。悪く言えば、退屈しのぎの道具みたいに見ていた様なんです」
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:23:29.65 ID:1GsLvrze0
最初はただからかっていただけだったものを、面白がって続けてい行く内にエスカレート。
からかいから嫌がらせへと変わっていったのだと、冠城は語った。

6年生と言えども、石田はまだやんちゃ盛りの子供……

調子に乗って事を大きくしてしまうのは、彼でなくとも十分あり得る。

だが、そう考えると『担任に止められなかったのか?』という疑問が出てくるが……
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:24:29.00 ID:1GsLvrze0
右京「そして、彼の担任はその事を黙認していた訳ですか……」

冠城「良く分かりましたね」

右京「学校からは『硝子ちゃんいじめの犯人は石田君である』という事実しか聞かされなかった……」

「石田君のお母様は、そう仰っていました」

「それに、昨日の硝子ちゃんのお婆様の話しを聞いた時から、その時点で教員が止めなかったのかという疑問があったもので……」

冠城「さすがです。まさにその通り……」

「しかも、石田君の担任……昨日我々が見たあの人、竹内というんですが……」

「問題はいじめの黙認だけではないらしいんですよ」

右京「と、言いますと?」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:25:28.74 ID:1GsLvrze0
冠城「……………」

「どうやら彼、硝子ちゃんが石田君のいるクラスに入った時点で、彼女の世話を生徒達にやらせていたそうなんです」

「要するに、丸投げですね」

「それが原因で、6年2組の授業はいつも遅れていて、生徒達はその事で梢子ちゃんを忌々しく思っていたみたいなんです」


石田が硝子へのいじめをエスカレートさせたのも、それが一因しているのだと冠城は語った。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:25:57.18 ID:1GsLvrze0
冠城「それと、竹内先生は確かにいじめの黙認はしましたが、一応注意はして来たそうですよ」

右京「ですが、軽い注意しかしなかった……」

冠城「ご名答」

「石田君が言うには、彼は注意してくる事はしてきたものの……」
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:27:34.81 ID:1GsLvrze0


『やり過ぎは良くない』


『こんな事を続けていると、いつか自分に返って来るぞ』

143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:29:23.59 ID:1GsLvrze0
冠城「と、忠告めいた事を言ったくらいで、それ以上の事はしなかったと………」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:34:34.27 ID:1GsLvrze0
注意しかしなかった……

つまり、竹内は硝子いじめを黙認したばかりか、必要最低限の対応しか取らなかった事になる。

その上、硝子の世話を生徒に押し付けていたとは……


他人の子供を預かっている以上、教員は彼らの身の安全と教育の場を保証出来なければならないはずだ。

しかし、竹内は硝子に対し、それが出来ていなかった……

生徒を指導する立場の人間がして許されることではない。
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:35:44.67 ID:1GsLvrze0
冠城「で、話しはここからなんですが……」

「実は、あの学校でクラス対抗の合唱コンクールが行われたそうでしてね……」

「その事で、『喜多』という教師と竹内先生が『ある事』で揉めていたんです」

「その『ある事』と言うのが、硝子ちゃんをコンクールに参加させるかどうかでした」
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:36:35.57 ID:1GsLvrze0
何故竹内と喜多が、そのような事で揉めたのか?

理由は言わずもがな、硝子は耳がよく聞こえず、声も上手く出せないからだ。
そのような人間が合唱コンクールに入れば、どうなるか……

結果は言うまでもない。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:37:01.97 ID:1GsLvrze0
冠城「まあでも、喜多先生の強い推しで、結局硝子ちゃんも参加させられたんですが……」

「結果は言うまでも無く、6年2組の惨敗」

「それをきっかけに、6年2組の生徒達のフラストレーションが爆発……」

「石田君の硝子ちゃんいじめに積極的に、参加するようになっていったそうです」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:38:50.10 ID:1GsLvrze0
そうして石田は、硝子の机に落書きしたり、
教科書や靴を隠したり、筆談用ノートに落書きした上で校内の池に捨てたり、
そして例の補聴器を破損・紛失させたりなどと言った事件を、起こしてしまったのだという

しかもこの件には石田だけでなく『植野直花』という女子生徒を始めとした、多くの生徒が関わっていたそうだ。

直接手を出していない生徒も、彼らの行いを止めるどころか、遠くから笑っていたり、
中には『川井みき』の様に必要最低限の注意にとどめ、後は安全圏に避難しているような者もいたのだという。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:40:03.98 ID:1GsLvrze0
冠城「その時、石田君はとても楽しくて……それでいて、嬉しかったそうです」

「『クラスのみんなを苦しめる相手に制裁を加えるだけで、離れて行った友達が戻って来たから』と……」

右京「彼からして見れば、そうだったのかもしれませんねぇ……」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:42:18.06 ID:1GsLvrze0
だが右京は、石田の行いを肯定する気はなかった。

今まで共に遊んできた友達が離れて退屈だったのも分るし、
それを理由に、何かに手を出したくなってしまう気持ちも分かる。
そして、健常な人間に囲まれて生きてきた石田にとって、硝子は大変珍しい存在に映った事だろう。

だが、先程の冠城の言の通り、石田は硝子の事を人間として見ていなかった節がある。

それでいて、この所業。

これはただのいじめ……犯罪だ。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:43:27.51 ID:1GsLvrze0
だが、それ以上に右京が許せなかったのは、周りの人間の行動であった。

竹内は硝子への対応を生徒に丸投げし、石田の行動に対しては軽く注意しただけ。
障がい者児童への理解を乞うべき人物がそれを放棄したことが原因なのに、
生徒達は硝子に対してストレスを溜め、石田と共謀する始末……

この時の6年2組の教室は、硝子に対するいじめが横行する無法地帯と化していたのは想像に難しくない。

それでも竹内は、彼らを止めなかったのだろう。

これだけでも充分悪質であったが、そんな右京の怒りに更に火を点けるような話が冠城の口から語られる……
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:45:29.87 ID:1GsLvrze0
冠城「けど、そんな事も長く続くはずがなく、補聴器が8回紛失・破損させられた事で西宮家が学校側を訴えた」

「ところが、犯人捜しのために行われた生徒会で、いきなり竹内先生が『硝子ちゃんいじめの犯人は石田君だ』と言い出した」

「竹内先生は、自分が何度も注意したのに石田君がそれを聞かなかった事にし……」

「自身の注意不足を有耶無耶にしたどころか、生徒達が石田君に加担した事すらなかった事にしてきたんです」

「6年2組の生徒達も、その流れに乗って自分達の責任を石田君に擦り付けた……」

「結果、硝子ちゃんの補聴器の件で生じた賠償金170万円を、石田君の母親一人が支払う事になった」

「おまけに、学級裁判で6年2組がカーストになった事で、生徒達は石田君をいじめるようになった……」


「……と言うのが、石田君があの2人から暴行を受けていた事の真相です」

「同時に、これがあの学校で起きた、硝子ちゃんいじめの実態でもあります」

「彼らは、全ての責任を石田君に押し付け、まるで何事もなかったかのように学校生活を続けているという訳です」
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:51:23.99 ID:1GsLvrze0
右京「…………」


冠城から聞かされた、水門小学校での石田と硝子の詳細な状況に、
右京は表情ひとつ変えなかったものの、何となく怒気らしきものが滲み出ているのを感じた。

それを察した冠城は「ところで…そちらは他に何か聞きませんでしたか?」と無難に尋ねた。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:52:12.04 ID:1GsLvrze0
右京「……………」

「このようなことを、仰っていました……」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:54:01.93 ID:1GsLvrze0
〜回想〜


右京「違う?それは、どういう事で……?」

美也子「………」

「実は私、補聴器の賠償金170万円を西宮さんに払ってきたんです」

右京「賠償金を?」

美也子「えぇ…それが、私があの家族さんに出来る、せめてもの償いでしたから……」

「だから、この件はもうケリが付いているんです……」

「悪い言い方をすれば、刑事さんの出る幕は無いと言う事になります……」

右京「…………」


そう語る美也子の様子に、さすがの右京もこれ以上問い質すのは酷だろうと判断した。
しかし、それでも聞いておきたい事があった。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:54:37.12 ID:1GsLvrze0
右京「お気持ち、察しします…」

「ただ……最後にひとつだけ、お伺いしてよろしいですか?」

美也子「何ですか?」

右京「実は昨日…息子さんが、同じ学校の児童から暴行を受けている現場を目撃しました」

「この事から、彼は学校内でいじめを受けている可能性があります」

「あなたは、その事をご存知ですか?」


右京の問いに、美也子はそこまで動揺する様子はなかった。
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:55:18.89 ID:1GsLvrze0
右京「…ご存知なのですね?」

美也子「学校から聞かされた訳ではありませんし、本人が話していわけでもありません」

「むしろ、あの子は『学校ではしゃぎ過ぎたんだ』と言ってましたが……」

「私も母親です…心配かけまいと誤魔化しているのは分かります」

「明らかに、いつもより酷い有様で帰って来る事が多くなりましたから……」

右京「学校には訴えなかったんですか?」

美也子「出来るならそうしたいです。けれど、将也はよその子をいじめてしまいました……」

「そのような子の母親が声を上げたところで、かえって反感を買われるだけです……」


そうは語るものの、彼女の顔からは悔しさややり場のない怒りなど、
様々感情が複雑に入り混じっていた。

その表情から、我が子を助けられない自分に対する
歯がゆさが滲み出ているのを、右京は感じた。


〜回想終了〜
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:56:17.74 ID:1GsLvrze0
冠城「確かに、加害者の身内は加害者と同列に扱われるもの……」

「石田君のお母さんが手を出せずにいるのも、無理はありませんね………」

右京「…………」

冠城「…右京さん?」

右京「…冠城君。君は、この話しを聞いてどう思いましたか?」

冠城「どうしたんですか?急に……」

右京「いいから答えて下さい」


急に意見を求めてきた上司に、冠城は少しばかり動揺したが、
右京の真剣な表情に並々ならぬものを感じ、素直にこう答えた。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:57:40.38 ID:1GsLvrze0
冠城「許せない…と言うのが正直な感想です」

「最初に手を出したのは石田君である事は確かだし、硝子ちゃんにした事も擁護出来たものじゃない」

「裁きを受けるのは当然です」

「けどそれは、いじめに加担した生徒や原因を作った竹内先生も同じはずなのに、彼らは石田君の非を利用して自分達だけ責任逃れた」

「おまけに、クラスの順位がカーストになった責任すら、いじめという形で石田君に押し付ける始末です」

「こんな事やってるんだ……硝子ちゃんいじめも、誰かが石田君に代わって継続させている可能性が高い」

「彼らにも思うところがあったのかもしれませんが……」
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:58:10.18 ID:1GsLvrze0



「そうだとしてもこんなこと、間違っていると思いますよ」


161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 16:58:59.50 ID:1GsLvrze0
右京「その通りです。こんなこと間違っている……」

「彼らに裏切られたのは石田君の自業自得ではあります」

「しかし、6年2組の生徒達と竹内先生が石田君にした事は、石田君が硝子ちゃんにしたこと以上に許しがたい……」

「全ての真実を明らかにし、彼らを自身の罪と向き合わさなければ、何も解決しませんよ……!」

冠城「…………」


強い口調で言い放つ上司の姿に、冠城は自分と彼の意思が一致していると確信した。
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 17:03:42.02 ID:1GsLvrze0
冠城「お互い意見が合いましたね……」

「しかし……ひとつ、大きな問題があります」

「どうやって彼らの罪を暴くのかです」

「石田家と西宮家の示談が成立している今、うかつに手出しできないし……」

「生徒達や竹内先生を攻めようにも、こちらは証拠がない……」

「石田君いじめから事を進めようにも、俺達は島田君達と何度か顔を合わせている」

「これ以上、不用意に嗅ぎ回りでもしたら、彼に対するいじめをかえって助長する恐れがある」

「はっきり言って、お手上げですよ」


と言いながら、本当に両手を上げて見せる一方で、
「けど、あなたの事だから、何か手は考えてあるのでしょう?」とも聞いてみせた。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 17:04:43.90 ID:1GsLvrze0
右京「君も察しが良くなりましたねぇ……」

冠城「という事は、ビンゴですか?」

右京「そんなところです」

冠城「それで?どんな手、考えてるんです?」


冠城の問いに右京は「水田校長を利用します」と答えた。
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 17:05:26.80 ID:1GsLvrze0
冠城「あの校長を、ですか?」

右京「冠城君……昨日僕達の質問に対して彼、何と答えましたか?」

冠城「……そう言えば、硝子ちゃんいじめの事隠しましたね」

右京「そう……彼は我々に対し、いじめなどのトラブルはなかったと嘘の証言……即ち、偽証を図ったのです」

「ここまで言えば、分かりますね?」
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 17:06:03.98 ID:1GsLvrze0
冠城「………………」


「彼の偽証から事を進め、そこから芋ずる式に6年2組のいじめ問題を引きずり出そうというわけですね」
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 17:09:09.55 ID:1GsLvrze0
右京「そういう事です。彼が、今回の件を何処まで把握しているかは分かりませんが……」

「一度示談で決着を着けたと思っていた問題に、別の問題が隠れていると知れば、否が応でも事の真偽を確かめたくなるはずです」

「警察が6年2組に立ち入ることをあの方に許可させれば、それで問題ない……」

冠城「しかし、どのみち証拠は必要になりますよ」

右京「そこで僕に考えがあります」

冠城「考えって?」


右京は、冠城に自分の考えを話した。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 17:10:09.17 ID:1GsLvrze0
冠城「確かに、それを調べさせるのが確実そうですが……」

「そう都合良く今も保管していますかね?」

右京「だからこそ、君にも動いてもらおうというわけですよ……」
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 17:11:02.53 ID:1GsLvrze0
冠城「………………」

「分かりました」

「ただ、俺らの顔と身分は割れていますからね……別の奴にやらせる事になりますが、構いませんか?」

右京「構いませんよ……元より、そうさせてもらうつもりです」

冠城「んじゃ、明日朝一番に『アイツ』に連絡入れてみますかね……」

右京「頼みますよ」


そうして、右京の考えを実行に移す事となった冠城。

6年2組のいじめ問題に終止符を打つべく、ついに特命係が動き出した……
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 17:12:34.79 ID:1GsLvrze0
2日目(第2話)はここまで。

途中で中断しなければならないアクシデントがありましたが、何とか書ききれました……

ただ、都合良く詳細が明らかになり過ぎかな?

次回は、問題解決の仕込みを開始します。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/27(日) 17:13:58.77 ID:1GsLvrze0
そして、脱字を発見……

×「けどそれは、いじめに加担した生徒や原因を作った竹内先生も同じはずなのに、彼らは石田君の非を利用して自分達だけ責任逃れた」→〇「けどそれは、いじめに加担した生徒や原因を作った竹内先生も同じはずなのに、彼らは石田君の非を利用して自分達だけ責任を逃れた」
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/27(日) 17:17:21.06 ID:gSRzgvDvO
乙。
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/27(日) 23:20:29.78 ID:3kHUDDmWo
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/28(月) 01:08:54.01 ID:iLUTQ06c0
乙です
冠城君は法務省の、それも行政職員出身という変わり種ですね
警察官になった後も、しばしばその経験が活用されています(劇場版3、「少年A」他)
そして、「聲の形」はいじめ、差別が関わる話としても有名な作品ですね
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/30(水) 08:42:31.64 ID:yOQtWqrDO

相棒のドラマ見てるみたいで面白い
是非完結させて下さい
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/30(水) 16:31:16.20 ID:BmcsDMdUO
別の人が書いたので壮絶な奴があったな。こちらも若干視点が違ってて面白い。
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:03:33.49 ID:5sCMbn110
皆さんレスありがとうございます。
>>60でも書いた通り、完結はさせたい所存です。

そういう訳で続きですが、その前に……
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:04:26.37 ID:5sCMbn110


今回は結構不快な表現が含まれるので、苦手な方はご注意下さい。

178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:06:05.58 ID:5sCMbn110
相棒×聲の形 〜3日目〜


―翌日―


硝子は、水門小学校へと足を進めていた。

いつも通りの、通い慣れた道。

しかし、その表情はどこか曇りがちだ。


右京「おっと!これは失礼……」

硝子「…!」


その時であった。突然、右京が通り掛かり、彼女と軽くぶつかってしまった。
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:08:00.33 ID:5sCMbn110
硝子「あ…!」


そんな彼を見送ったその時であった。
硝子は、足元に一枚のハンカチが落ちている事に気付く。
見た所、大人の男性が使っていそうなデザインであり、硝子は先程ぶつかった際に右京が落とした物なのではないかと考える。

そこで彼女は、急いでそれを拾い上げ、急いで右京の下に駆け寄る。


硝子「あ…あ、にょ……!」


何とか追い付いた硝子は、スーツの裾を引っ張りながら呂律の回らない声で右京を呼び止めた。


右京「どうしました?」

硝子「こるぇ……」


振り返った右京に、硝子はハンカチを差し出した。


右京「おやおや…これは僕のじゃありませんか。拾ってくれたんですか?」


と言いながら手話を交えると、硝子は首を縦に振った。
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:10:37.72 ID:5sCMbn110
右京「どうもありがとう……君も学校で頑張って下さいね」


ハンカチを受け取りながら、手話を交える右京。
それを見た硝子は、一瞬複雑な表情になったが、すぐに愛想笑いを浮かべて頷くと学校の方へと歩みを進める。


右京「…………」


だが右京は、その表情が心配を掛けまいと作った顔である事を見抜いていた。
そしてどういう訳か、その際髪から見え隠れした彼女の右耳を注視する。

その後、硝子が拾った自分のハンカチに少しの間目を向けたのち、ポケットにしまい込みながらある場所へ向かった。
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:15:22.23 ID:5sCMbn110
―西宮家―


いと「はい……あら?」


呼び鈴が鳴ったので、いとは顔を出すとそこには右京が立っており、彼女に対して深々とお辞儀をする。
それから、彼はまたリビングに案内された。

この時間、硝子はもちろん彼女の母親もいなかった。


結絃「あれ?刑事さんまた来たんだ」


そこへ、結絃が奥の部屋から姿を現した。


右京「おや……君もいたんですか?」

結絃「え?うん、まあ……」

右京「学校に行かないんでいいんですか?」

結絃「そ、それは……」


右京の問いに結絃は言葉を詰まらせた。


いと「刑事さん…ゆずは硝子の事で色々とありまして………」

右京「…………」


いとの一言で、右京は察した。

結絃は、姉の障害をネタにいじめに遭い、不登校になったことを……
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:18:44.33 ID:5sCMbn110
右京「なるほど……知らなかったとはいえ、辛い事を聞いてしまい申し訳ない」

結絃「いいんだよ。元はと言えば、アイツが……」

「母さんが、姉ちゃんをちゃんとした学校に連れて行かないのが悪いんだから!」

いと「これ、ゆず!」

結絃「だってそうじゃんかよ!そのせいで姉ちゃん何度もいじめられてんのに、アイツはその事まるで分かっちゃいない!」

「おまけに姉ちゃんに解決させるとか何とか言って今まで助けもしなかった癖して」

「今回に限ってはちゃんと石田の母さんに補聴器の弁償させて……」

「まったくわけ分かんないよ!」

いと「ゆず……!すみません、刑事さん……」

右京「いえ……構いませんよ」

「しかし、彼女とお母様はあまり仲がよろしくないんですねぇ……」
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:19:55.89 ID:5sCMbn110
結絃「当たり前だよ!姉ちゃんの事中々助けようとしなかったばかりか、髪まで切って補聴器を見えるようにしようとして……!」

「そんな事したら余計いじめられるって分かんねぇのかなあ?」

いと「ゆず!ちょっと外に出てってもらおうかしら?刑事さんが落ち着いて話が出来ないでしょう」

結絃「ちぇ…!しょうがねぇな……」


さすがのいとも、他人の前で結絃が愚痴々言うのを良しとせず退室を命じると、結絃は渋々と部屋を出て行った。
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:21:01.60 ID:5sCMbn110
いと「本当にすみません。孫が、お見苦しいところを………」

右京「いいえ……彼女が愚痴をこぼすようなきっかけを作ってしまったのは、こちらです」

「あなたが頭を下げる必要はありませんよ」

「それに……お母様が硝子ちゃんに何をしてきたのか、それが少しばかり分かりました」

いと「八重子がしてきたこと……?」
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:21:46.79 ID:5sCMbn110
右京「…………」

「今の結絃ちゃんの話しを聞く限り、彼女は硝子ちゃんに対し、結構な無茶振りをなさっていたようですね?」

「硝子ちゃんが普通の小学校に通っているのも一昨日の厳しい態度も、それが関係している……違いますか?」

いと「……………」


右京の問いの、いとはしばし黙ったのち、こう答えた。


いと「娘は……八重子は、本当はあんな娘じゃないんです……」

「昔から不器用で、周囲から誤解される事がしょっちゅうあるもんで……」

「それに、好きでああやっている訳でないんですよ」

右京「と、仰いますと?」
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:23:05.90 ID:5sCMbn110
いと「…………」

「あれは、13年以上前の事です……娘は、1人の男性と結婚しました」

「その男性と結婚して最初に産まれたのが、硝子でした……」


その時の八重子は、実に幸せだったのだといとは語る。

だが……


いと「硝子が産まれてから3年後……あの娘の幸せは終わりを告げました」

「ある日、硝子の様子がおかしい事に気付いたんです。こちらの声に、ほとんど反応しなくなって……」

「そこでお医者様に診てもらったところ、高難度難聴であると診断されました」

右京「硝子ちゃんが障害を持っていると分かったのは、産まれてから3年経った後だったのですか……」

いと「産まれた直後はまだある程度耳が聞こえていたらしく、最初の検査の段階で見逃されていたようで……」

「おまけにお医者様の話によると、『先天性風疹症候群(せんてんせいふうしんしょうこうぐん)』の可能性が高いと……」

右京「先天性風疹症候群……母親の持つ風疹ウィルスに由来する障害ですか」

「ということは、八重子さんは硝子ちゃんを身ごもった当時、風疹ウィルスを発症していた……」

いと「えぇ……」

「心当たりがないか聞いてみたら、夫と子作りをした後、調子が悪くなった時期があったと言っていました」

「そこで、夫の持っていた菌が移ったのではないかと思い、八重子は硝子の障害の件も含め、彼にその事を話しました」

「しかし………」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:24:29.42 ID:5sCMbn110
八重子がそうしたところ、夫は態度を一変させ、
『八重子が予防接種を怠ったせいだ』などと言い出し、自分の責任を八重子に押し付け、
その上硝子が聴覚障害を患ったことを理由に、彼女を毛嫌いし始めたのだ。

彼だけではない……彼の両親もだ。

彼らは自分達の息子の非を咎めるどころか、彼に肩入れし……
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:25:08.61 ID:5sCMbn110


『障害を抱え、国などから補助を受けて生きる子供など要らない』


『責任逃れをする世間知らずな親の子は、きっと世間知らずに育つ』


『不満があるなら1人で育てろ』

189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:25:56.41 ID:5sCMbn110
などと散々文句を言って硝子や八重子を毛嫌いした末、
八重子に硝子を押し付け、そのまま別れてしまったそうである。
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:27:36.98 ID:5sCMbn110
いと「以来、彼らが何処で何をやってるか……今はもう分かりません」

「八重子は、その時のことを酷く悔やみました。『私がもっと強気に出ていれば、硝子を守れたのに』と……」

「私もあの娘の事を庇い切れなかったので、『あなた1人のせいではない』と言ったのですが、それでも彼女は自分を責めました」

「そして、お腹に結絃がいると分かった頃からでしょうか?」

「あの娘は、涙を捨てて硝子を『障害に甘えない強い子に育てる』と誓ったんです」

「こうして八重子は、硝子達に対して厳しく接するようになった訳なのです」

右京「硝子ちゃんが普通学校である水門小学校に通っているのも、その一環のようなものだったのですね?」
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:28:17.29 ID:5sCMbn110
いと「はい……」

「しかし、刑事さんの言う通り無茶振りが過ぎるところがありましてね……」

「この6年間、硝子は他の学校でも補聴器を紛失したり不適切な扱いを受けました」

「それでも八重子は、硝子自身が強くなり、自力で解決出来るようになる事を望み、普通学校に入れるのを止めませんでした」

「その一環として、先程結絃が話した通り、硝子の補聴器がはっきり見えるよう髪を切ろうとまでして……」

「結絃が、男の子の様に振る舞う様になってしまったのも、それが原因です」

「あの娘は、八重子から硝子を守る為、自ら髪を切って女の子らしく振る舞う事を捨ててしまった……」

「ただ……さすがの八重子も、今回の石田君の所業は見逃せなかったようですがね」

右京「硝子ちゃんは今年で6年生……小学校生活も残り僅かですからねえ」

「『今回ばかりはしっかり解決しなければいけない』と考えたのでしょう」

いと「えぇ、恐らくは……」

右京「………」
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:31:13.31 ID:5sCMbn110
今の話を聞き、右京は八重子の中に宿る意思の正体を理解した。

彼女は、夫の不備を押し付けられ、それに対して抵抗が出来なかったのだろう。
だからこそ、絶対に弱みを見せないと心に誓った。

娘達を強く育てようと手厳しく接しているのも
自分の二の舞を踏ませたくないという意図がある事も充分考えられた。

しかしそれは、母としては苦渋の決断でもあったに違いない。
真面目にやればやるほど、かえって理解されなくなるというリスクもない事はないのだ。
結絃が彼女に反感を持っている事からも、それは明らかだ。

それでも八重子は自身の信念を曲げず、今日まで彼女らを育ててきたのだろう。

並の人間なら、途中で挫折してもおかしくない……

そう考えると、八重子は親としては立派な人物と言えよう。

しかし……
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:31:45.90 ID:5sCMbn110
右京「お婆様……八重子さんがどれ程の覚悟を持って、硝子ちゃん達と接して来たのか理解出来ました」

「彼女があそこまで厳しい態度を取るのは、旦那様一家の押し付けから硝子ちゃんを守れなかった弱い自分を隠す為……」

「硝子ちゃんを守れなかった自分に対する、一種の責任と戒めの表われでもあった」

「障害を患うお子様を持つ親は、周囲から見下される事も多い」

「旦那様もおらず、あなた以外に頼れる人間がいなかった彼女は、そうするしかなかった……」

「その決意は、生半可なものではない……だからあなたは、今までずっと彼女のやり方を見守ってきた」

いと「…………」


何の返事を返さないいとではあったが、否定をしているわけではない事はすぐに理解出来た。
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:33:52.48 ID:5sCMbn110
右京「しかし……本当に八重子さんのやり方に、問題はなかったのでしょうか?」

いと「え…?」

右京「人は完璧ではありません。例え真っ当な理由で動いているつもりが、知らない間に間違いを犯すことがあります」

「この13年間、八重子さんを見守ってきたあなたは、そう感じることがあったのではありませんか?」

「例えば、先程申した無茶振りとか……」

いと「…………」


右京の問い掛けに、いとは思い当たる節がある様な表情を浮かべた。


右京「あなたも、理解なさっているとは思いますが……」

「子供という存在は、いじめに対しては無力です。そこに障害の有無は関係ない……」

「結絃ちゃんが健常な人間であるにもかかわらず、いじめに耐えかねて不登校になってしまっている事からも明らかです」

「人がいじめられる理由は色々とありますが、一番分かりやすいものとしては、『自分達と異なる存在を受け入れられない』というものが挙げられます」

「今回の件はまさにそれです。これまで、硝子ちゃんに対して不当な扱いをしてきた者達は、彼女の障害を理解し、歩み寄ろうとしなかったのでしょう」

「しかし何故、そんな事になってしまうのか?」
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:34:59.87 ID:5sCMbn110


「それは、硝子ちゃんが同じ人間でありながら、彼らと異なる点があるからです」

196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:36:41.13 ID:5sCMbn110
右京「人は、自身と異なる存在を見ると、それを排除しようとしてしまう……ある意味、本能のようなものです」

「健常な人間の多い普通学校では、そのような思想の人間が特に多い」

「障害を持つ人間が、普通学校で上手くやっていけたという事例はない事はありませんが……」

「硝子ちゃんの事を理解出来る人間がいなければ、どんなに強くあれと望んだところで、それは意味を成さなくなる……」

「彼女に歩み寄り、理解しようとする人間がいなければ、硝子ちゃんに対するいじめがなくなる事はないでしょう」

「何故硝子ちゃんはいじめられるのか?何が駄目なのか?」

「そして、どのような学校に入れれば、彼女がいじめられる確率が減るのか?」

「今一度、八重子さんと話し合ってみてはいかがでしょうか?」

いと「…………」
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:38:46.55 ID:5sCMbn110
右京の話しを聞き、いとの表情は複雑であった。

八重子は今は二児の母……子供ではない。

母親の自分が、今更干渉すべきではないと考えているのだろう。

それ故、娘と孫の領域に必要以上に足を踏み込んではいけないと、
今まで自制を掛けてきたことは想像出来た。

しかし……それでも右京は、このままにすべきではないと考えていた。
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:40:53.86 ID:5sCMbn110
右京「…………」

「僕も無茶な事を言っているのは分かっているつもりです」

「母として、大人になった娘さんの意思を尊重してあげたい気持ちも分かります……」

「しかし、硝子ちゃんは来年で中学生……大人への道を歩み始める頃です」

「それなのに、八重子さんは自身の誤りに気付かず、お孫さん達も彼女の真意を知らず、溝を作ったまま……」

「果たして、このままでいいのでしょうか?」

「場を取り持つ為、中立の立場を保つのも大事ですが……」

「時としては、踏み込んだ対応を取っても罰は当たらないと思いますよ」

いと「…………」


右京のいう言葉を、いとはただ黙って聞いていた。
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/01(金) 05:43:26.43 ID:5sCMbn110
右京「…………」

「申し訳ない。僕とした事が、年上の方に対し、なんと説教じみたことを………」

いと「……そんな事、ありません。久し振りに、いい話しを聞かせてもらって感謝しています……」

「ここまで真摯な言葉を掛けてくれる男の人に会うのは、何年振りでしょうねぇ……」

「私も、長生きして色々知ってるつもりでいたけれど、まだまだだったのかもしれません……」
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