放火魔「今夜はベッドで燃え上がろうぜぇぇぇ!!!」嫁「……暑苦しい」

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44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 18:49:45.32 ID:ki89SNUd0
黒服「とはいえ、俺みたいな親しい人間じゃなきゃ、あんたの本質は分からねえ」

黒服「噂だけ聞いたんじゃ、あんたを殺し屋の類だと思う奴も多いだろ」

放火魔「何がいいたいんだ?」

黒服「今ある刑事が、あんたの周辺を嗅ぎまわってる」

放火魔「! 刑事が……」

黒服「おそらくあんたを犯人だと思ってるんだろう」

黒服「警察が、検挙率アップのためなら、どんなことでもしてくるってのは俺もよぉく知ってる」

黒服「あんたが冤罪逮捕を喰らうのは見たくねえ……だから、気をつけてくれ」

黒服「俺にできることはこれぐらいしかねえからよ」クルッ

放火魔「おう! ありがとよ!」

放火魔「…………」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 18:51:14.60 ID:ki89SNUd0
< 放火魔の家 >

放火魔「……ってわけだ」

放火魔「もしかしたら、この家にも刑事がやってくるかもしれない」

放火魔「くれぐれも用心してくれ」

嫁「うん、分かった」

放火魔「んじゃ、今夜は燃え上が――」

嫁「お断り」

テレビ『……続いてのニュースです』
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 18:52:44.45 ID:ki89SNUd0
テレビ『本日、またもや放火事件が発生しました』

テレビ『防火設備の整ってない老人ホームが狙われ、死傷者はお年寄りや職員など、十数名……』

テレビ『警察では同一犯の仕業と見て捜査を……』



放火魔「噂をすれば、だな」

嫁「あなた……」

放火魔「心配すんな……俺はやっちゃいねえんだからよ」

放火魔「だが、俺の裏社会での通り名は“放火魔”……れっきとした犯罪者だ」

放火魔「“連続放火事件”と“放火魔”……刑事が俺を第一容疑者にするのも無理はねえ」

放火魔「だが、やってもねえことで捕まる気はねえ!!!」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 18:55:04.81 ID:ki89SNUd0
数日後――

< 公園 >

放火魔「…………」

パチパチ… メラメラ…

刑事「今時たき火とは珍しいな」

放火魔「なんだ?」

刑事「私はこういう者だ。貴様と話がしたい」サッ

放火魔「!」

放火魔(警察手帳……いよいよ来たか……。一人で来るってのはちょいと意外だが)
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 18:57:22.69 ID:ki89SNUd0
刑事「用というのは他でもない」

放火魔「それより焼き芋でも食わないか? ちょうどよく焼けてきたとこだ」

刑事「食わん」

放火魔「だろうな……で、俺になんの用だ?」

刑事「貴様に……依頼したいことがある!」

放火魔「!?」

放火魔「俺に……依頼?」

刑事「そうだ」

刑事「貴様に連続放火犯を退治してもらいたい!」

放火魔「!!!」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:00:32.10 ID:ki89SNUd0
放火魔「どういうことだ。俺を逮捕しに来たんじゃないのか」

刑事「貴様のことは調べた……」

刑事「裏社会で“放火魔”と恐れられる凄腕だが」

刑事「人を死なせるような放火は絶対しない、ということはよく分かったつもりだ」

刑事「そして今、実際に貴様を見て、同じ印象を抱いた」

刑事「貴様は、人を死なせるようなことをする人間ではない、と」

放火魔「そりゃ光栄だな。でも、なんだって俺に放火犯退治をさせる?」

放火魔「そんなことは警察の仕事だろうが」

刑事「俺たちの力では……ヤツを逮捕することはできん!」

刑事「だが、貴様なら……貴様なら、ヤツの犯行を未然に防ぎ、捕まえることができる」

刑事「……そう考えたんだ」

刑事「それが……ここ数日間悩んで得た結論だ」

放火魔「毒をもって毒を……ならぬ、火をもって火を……ってやつかい」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:02:44.93 ID:ki89SNUd0
放火魔「……仕事なら依頼料をもらうぜ」

刑事「それはできん。刑事として、犯罪者に金を払うことなどできん」

刑事「なにより……俺に貴様への仕事料を払う経済力はない」

放火魔「おいおい、俺をナメてるのか?」

刑事「だが、代わりの見返りを用意した」

放火魔「見返り?」

刑事「今後、俺は……貴様に干渉することはしない!」

刑事「たとえ、貴様の放火の証拠をつかんでも……逮捕しない! 絶対に!」

放火魔「……ほう」

放火魔「人を死なせてないだけで、俺だってれっきとした犯罪者なのに、見逃すってことか」

放火魔「あんたは刑事失格だな」

刑事「……そうだ。俺は刑事失格だ」

放火魔「ふっ、ハハハハハッ! アハハハハハッ! おもしれえ!!!」

刑事「!」

放火魔「あんた、気に入ったぜェ! 燃えてきた! 燃え上がってきたァ!」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:04:57.86 ID:ki89SNUd0
放火魔「刑事さん……あんたの心意気に免じて“俺を見逃す”って話は聞かなかったことにしてやろう」

刑事「なんだと?」

放火魔「俺も“放火魔”として、ヤロウは許せなかったからなァ!」

放火魔「この仕事は見返しなし! タダで引き受けてやる!」

放火魔「こんなに燃える仕事は……久しぶりだァ!!!」メラメラ…

刑事「…………!」

刑事(この男……犯罪者ではあるのだが、やはり普通の犯罪者とは違う)

刑事(何らかの信念を持って、裏社会に身を置いているという顔だ……)

刑事(この男ならあるいは――……!)
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:06:48.09 ID:ki89SNUd0
< 放火魔の家 >

放火魔「これが刑事さんから借りた、捜査資料だ」バサッ

嫁「こんなの外に出しちゃって、大丈夫なの?」

放火魔「もちろん大丈夫じゃねえ。クビ覚悟だってよ。だからこそ、報いてやりてぇ」

嫁「……そうね」

放火魔「この地図には、連続放火犯の今までの犯行現場が記してある。手口の詳細もな」

嫁「……見事に防火設備が整ってない場所が狙われてるわ。それも人の多い」

放火魔「ああ、古いアパートだったり、商店だったり……」

放火魔「しかも、逃げ場をなくすように放火してやがる……まったく鬼畜の所業だ」

放火魔「俺は炎で商売してる人間として、こいつを許せねえ! 次の犯行は絶対食い止めてみせる!」

嫁「近辺の、防火設備の整ってない施設をリストアップするしかないわね」

放火魔「さっそく地図に印をつけていこう!」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:12:49.77 ID:ki89SNUd0
放火魔「……こんなとこか」

放火魔「あとは、この中のどこを狙うかを推理できれば……」

嫁「だけど、このぐらいのことは警察もやってるはずよ。こんなことで捕まえられるとは思えない」

放火魔「うーん……だろうな」

放火魔「当然、そういう場所は警察も警戒を強めてる。そうそう放火できるわけがねえ」

嫁「犯人が狙うなら、もっと穴場のはず」

放火魔「穴場……」

放火魔「穴場といっても、どこを……?」

嫁「……高級マンション」

放火魔「ん?」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:13:48.99 ID:ki89SNUd0
嫁「この間、近所の奥さんから聞いた愚痴に気になる内容があったの」

嫁「見た目は立派だけど、スクリンプラーが誤作動したり、防火扉の前に荷物が置かれてたりで」

嫁「防火設備はお粗末だって……。これが写真」

放火魔「こんな要塞みたいな立派なマンションがねぇ……」

放火魔「だけど、もしここが狙われたら、今までにない大惨事になるな」

嫁「ええ、死者は軽く数十人は出るわ」

放火魔「ようし……ここにヤマを張るか!」

嫁「刑事さんには?」

放火魔「内緒だ。こういうことはお互い別々にやった方がいい」

嫁「そうね」

放火魔「決まりだな! よっしゃ、燃えてきたァ!!!」

嫁「今だけは、暑苦しいとはいわないわ」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:15:47.80 ID:ki89SNUd0
次の日――

< 街中 >

ワイワイ… ガヤガヤ…

刑事「A地点、そっちはどうだ?」

『異常ありません!』

刑事「B地点、不審人物の情報は?」

『異常なしです!』

刑事「今までの法則からして、今日あたり放火が行われることは間違いないんだ!」

刑事「絶対食い止めろッ!」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:18:18.00 ID:ki89SNUd0
……

…………

?「クックック、バカな警察どもは今頃、古い住宅地や施設をマークしていることだろう」

?「だが逆だよ、逆」

?「今日はこの真新しい高級マンションを……派手に火葬してやるとしよう……」

?「このライターで……」シュボッ…





「ちょっと待ったァ!!!」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:20:03.44 ID:ki89SNUd0
グサササッ!

?「ちっ、ライターにマッチが刺さって……!」

?「……何者です?」





放火魔「俺か? 俺は……“放火魔”だよ!」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:23:07.76 ID:ki89SNUd0
?「…………!」

?「ほう……もしかして、先日山小屋を延焼させずに燃やしたのはあなたですか?」

放火魔「! ……なんで、あの事件を知ってるんだ?」

?「私もあの事件の検証には立ち会いましたからね」

?「いやぁ、実に見事な手際でした。ぜひ一度あなたにはお会いしたかったんです」

放火魔「そのわりに、刑事っぽくねえな……さてはお前、消防士か?」

消防士「正解です!」

消防士「私、消防士にして放火魔でもあるんですよ! アッハッハ、面白いでしょう?」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:25:46.60 ID:ki89SNUd0
放火魔「消防士が放火とか……笑えねえよ。まったくの正反対じゃねえか」

消防士「そうでしょうか?」

消防士「優秀な医者は凶悪な殺人鬼になりえる、優秀なプログラマーは狡猾なハッカーになりえる」

消防士「同じように優秀な消防士は……世にも恐ろしい放火魔になりえるのですよ」

放火魔「…………」

消防士「あの愚直な刑事を焚きつけて、あなたを逮捕させ、罪をかぶってもらうよう仕向けたのですが」

消防士「それは失敗に終わったようですね……」

放火魔「あの刑事さんは、お前が思うほどバカじゃなかったってことだ」

消防士「そのようです。彼もまた優秀だったということでしょう」

消防士「しかし、これは困りましたね……」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:28:37.17 ID:ki89SNUd0
消防士「そうだ! あなたも同じく放火を生業とする身、ここは見逃して下さいませんか?」

消防士「いえ、いっそ手を組んで、二人で新しい放火を――」

放火魔「ふざけんなッ!」

放火魔「俺は人が死ぬような放火はやらねえ……そう決めてんだよ」

放火魔「どっちかが燃え尽きるしかねえんだ……今、ここでな」

消防士「なるほど、仕方ありませんね……」

消防士「私とあなたは、炎を交えるしかなさそうです!!!」

ブンッ!

ギュオオオオオッ!

放火魔(火炎瓶ッ!)

放火魔「ふん、こんなもんにビビってたら、放火魔は務まらねえ!」パシッ

消防士(ほう、あっさりキャッチとは!)
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:30:22.18 ID:ki89SNUd0
放火魔「今度はこっちからいくぜっ! マッチ投げ!」シュバババッ

グサササッ!

消防士「ぐあっ……!」

放火魔「これくらいも避けられねえのか。消防士のわりに運動神経は鈍いんだな」

消防士「ぐっ、さすがですね……」

消防士「ならば……私も本気でいくとしましょう」バサァッ

放火魔(一瞬にして、消防服に着替えやがった!)

消防士「これが私の……最終兵器です」ニィィ… ガチャッ

放火魔「!?」

放火魔(な、なんだありゃ……。あんなのアリかよ……!)
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:31:35.71 ID:ki89SNUd0
放火魔(火炎放射器じゃねえかッ!!!)

消防士「ファイヤーッ!!!」





ゴォワァァァァァッ!!!
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:33:43.96 ID:ki89SNUd0
放火魔「マジかよ……! どうやってそんなもん……!」

消防士「闇ルートで入手したんですが、まさか使うことになるとは思いませんでした」

消防士「どうです? すごいでしょう? この火力!」

ゴォワァァァァァッ!!!

消防士「ご存じかもしれませんが、火炎放射器による炎は、単なる炎ではありません」

消防士「いわば、炎を宿した液体をぶちまけるようなもの! 浴びれば一巻の終わり!」

消防士「いくら放火を極めたあなたでも、どうしようもないでしょう!」

ゴワァッ!!!

放火魔「……ちっ!」
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:35:45.53 ID:ki89SNUd0
放火魔「そんなもん振り回してたら、すぐ誰かが飛んでくるぞ!」

消防士「ご心配なく! このマンションの防音設備は完璧で、一度入ればこのくらいの音は漏れません!」

消防士「音が漏れる時、イコール、このマンションが燃え尽きた時、というわけです!」

消防士「その時には、あなたも丸焦げになってるというわけですねぇ!」

ゴワッ!!!

放火魔「あっぶね……」

消防士「まだまだァ!」

ゴワァァッ!!!

放火魔「くっ……!」

消防士「トドメですッ!」





ゴォワァァァァァァァァッ!!!
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:38:14.65 ID:ki89SNUd0
ジュワァァァァァ…

消防士「火炎が……消えた!?」

放火魔「……助かったぜ! ナイス消火!」

消防士「何者だ!?」バッ

嫁「放火魔の嫁よ」

嫁「夫が放火魔なら、私はいわば消火魔。私特製の消火剤に、消せない火はないの」

消防士「なんだとォ……!? 消火魔……?」

放火魔「自慢の嫁だよ」

消防士「貴様、放火魔でありながら、消火を得意とする女なんかと結婚したのか!」

消防士「失望させてくれる! この放火界の……恥さらしがァ!!!」

放火魔「放火界ってなんだよ……」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:40:29.88 ID:ki89SNUd0
消防士「優秀な放火魔である貴様に敬意を表して、死体ぐらいは残してやろうと思ったが、やめだ!」

消防士「こうなれば……バカな嫁ともども焼き尽くしてやる! ――骨までな!」

消防士「最大火力……ファイヤーッ!!!」カチッ



グオアァァァァァッ!!!



放火魔「危ねえッ!」バッ

ドザッ!

嫁「ありがと、あなた」

放火魔「あの火力は……さすがにお前でも消しきれねえな」

嫁「……そんなことない」

放火魔「強がるなって。今はかわすことだけ考えろ!」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:42:44.37 ID:ki89SNUd0
消防士「燃え尽きろォッ!!!」



グオアァァァァァッ!!!



放火魔「こっちだ!」バッ

嫁「うん」バッ



消防士「ふん! 避けるだけか! 逃げるだけかァ! 腰抜け夫婦がァ!」



放火魔「こりゃあ、正面からまともに戦うのは無理だ……!」

嫁「……どうする?」

放火魔「大丈夫、俺たち夫婦が力を合わせりゃ、どんな炎だって突破できる!」

放火魔「ましてや、あんなゲス野郎の炎になんか負けるわけねえ!」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:45:03.95 ID:ki89SNUd0
放火魔「いくぞ!」ダッ

嫁「ええ」ダッ

消防士「バカめ、わざわざ燃やされに来るとは……ファイヤーッ!!!」



グォアァァァァァッ!!!



放火魔「大盛りマッチ投げ!」シュバババババッ

消防士「マヌケが! んなもん、こっちに届く前に燃え尽きちまうよォ!」ゴォッ

消防士「――――!?」

ボボボッ

消防士(いや!? 何本かのマッチが、燃え尽きずに炎を突き破ってきた――!)

消防士「う、うわぁぁぁぁぁっ!!!」

グササッ!
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:47:39.48 ID:ki89SNUd0
消防士「ぐああっ……! あああっ……!」



放火魔「作戦成功!」

嫁「この人のマッチに……私の消火剤をミックスさせたのよ」

放火魔「マッチを大量に投げりゃ、何本かは届いてくれると信じてたぜ!」

放火魔「その腕じゃ、もう火炎放射器は使えねえ……観念しやがれ!」ブオンッ

バキィッ!

消防士「ぐほあぁっ!」ドザッ…

消防士「あぐ、ぐぐぅ……!」

放火魔「さてここで、お前に俺の考える“炎を扱う資格”ってやつを教えてやろう」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:50:52.81 ID:ki89SNUd0
放火魔「俺が考える炎を扱う資格は三つ」

放火魔「一つは火を愛してること、二つ目は火を恐れてること……」

放火魔「そして、三つ目は……火はちゃんと後始末すること」

放火魔「お前はどれも満たしてねえ……」

放火魔「ただ放火と人命を奪うことを楽しんでるだけの、正真正銘のクズだ」

放火魔「お前には、マッチの火すら扱う資格がねえッ!」

消防士「ぐうっ……!」

消防士(クソが……せいぜい勝ち誇って、脳みそまで燃え上がってやがれ!)

消防士(こっちには最後の切り札が残ってるんだ!)

消防士(あと一歩、あと一歩近づいてきたら……この小型の火炎放射器で――)
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:53:04.83 ID:ki89SNUd0
放火魔「……残念だったな」

消防士「!?」

放火魔「近づかねえよ」

消防士「な、なんで……!? なんでこっちの狙いが……!?」

放火魔「いつも燃えてる俺だが、たまには冷える時もあるんだよ」

消防士「冷える時……!?」

放火魔「それはな――」

放火魔「俺の嫁をバカにされた時だ」ヒュバババッ


グサササッ!


消防士「ぎぃやぁぁぁっ!!!」

放火魔「人の嫁を“バカ”呼ばわりしやがって……おかげですっかり冷静になっちまった」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:55:24.42 ID:ki89SNUd0
消防士「あぐぅぅぅ……痛い……あうぅぅぅ……!」

放火魔「今度こそ終わりだな……あとは残り火を始末して、刑事さん呼べば――」

嫁「ちょっと待って」

放火魔「ん?」

嫁「私……この人を許せない」

嫁「あなたを焼き殺そうとした、この人を……絶対許せないわ」メラメラ…

放火魔「!?」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 19:58:20.19 ID:ki89SNUd0
放火魔(ま、まずい……俺に冷える時があるのと同様、妻にも“燃える時”があるんだった!)

嫁「この人、許せない、許せない、許せない」

嫁「許せない、許せない、許せない、許さない。絶対、許さない」

嫁「逮捕して裁判にかけるなんて生ぬるいわ。税金の無駄遣いよ」

嫁「私、この人の命を消火しちゃいたい。していいわよね? しちゃいましょう」

消防士「ひっ、ひぃぃぃぃっ!」

放火魔「ちょっ、待て待て待てっ!!!」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 20:00:08.93 ID:ki89SNUd0
放火魔「あまり燃えるな……」ギュッ…

嫁「!」

放火魔「燃えるのは俺の役目、だろ。お前はいつも冷えててくれ……」

嫁「あなた……」

放火魔「だって、俺はこうして元気なんだから、な?」

嫁「……うん」



消防士「あう、あう、あうぅ……」ガタガタ…

消防士「なんなんだ、この夫婦はぁ……」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 20:03:26.44 ID:ki89SNUd0
< 公園 >

ウー… ウー…

刑事「まさか……消防士が犯人だったとは……」

放火魔「…………」

刑事「少し屈折したところがあったとはいえ、優秀な消防士だと思っていたから……残念だ」

刑事「そして……放火を未然に防いでくれてありがとう」

刑事「俺がお偉いさんだったら、貴様に警視総監賞をくれてやりたいよ」

放火魔「ハッハッハ、んなもん辞退するよ! のこのこ受け取りに行ったら逮捕されちまう!」

刑事「ふふっ、この手には乗らんか」

刑事「いずれまた……。刑事と犯罪者は引かれ合う宿命だからな」

放火魔「やめてくれ! もう二度とあんたのような優秀な刑事とは関わりたくねえ!」

刑事「俺も同じ気持ちだよ」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 20:05:53.77 ID:ki89SNUd0
黒服「……お疲れさん」ザッ

放火魔「あんたがなぜここに?」

黒服「例の放火犯を退治したって聞いて飛んできたんだよ。さすがだな」

放火魔「俺一人の力じゃない……嫁の消火があってのことだ」

黒服「へっ、あんたらは……砂漠よりも暑くて南極よりも寒い世界一の夫婦だよ!」

黒服「また燃やしたいものができたら、頼むぜ!」

放火魔「おう! その時はちゃーんと手順踏んでくれよ!」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 20:11:42.03 ID:ki89SNUd0
子供「お兄さーん!」タタタッ

放火魔「ん?」

子供「ぼく、やったよ! 100点取ったよ!」ピラッ

放火魔「やったじゃねえか!」

子供「あのテストを捨てなかったから、次のテストこそ頑張るぞってなって取れたんだ!」

子供「これもお兄さんのおかげだよ!」

放火魔「よせやい」

放火魔「これからも勉強頑張って、世の中に明るい火をともしてくれよ!」

子供「うん!」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 20:14:44.95 ID:ki89SNUd0
< 放火魔の家 >

放火魔(放火犯を退治できたし、今日は最高の一日だった……)

放火魔(今夜はあいつとベッドで燃え上がりたいけど……)チラッ

放火魔(いっても断られるだけだろうな……やめとくか)

嫁「ねえ、今夜はベッドの上で燃え上がらない?」

放火魔「えっ、いいの!?」

放火魔「お前から言い出すなんて、珍しいこともあるもんだ! 雪でも降るかな?」

嫁「たまには……ね。私も火がついちゃったから」

放火魔「そうかそうか! じゃあ気が変わらないうちに! すぐ支度しまぁっす!」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/24(火) 20:16:25.11 ID:ki89SNUd0
……

…………

嫁「ねえ、もっと……もっとお願い」モゾ…

放火魔「ちょ、ちょっと待ってくれ……!」

放火魔「もう疲れちゃって……。休もう、少し……」

嫁「まだまだ……寝かさないんだから」

放火魔(俺としたことが忘れてた……!)

放火魔(一度燃え上がった俺の嫁を冷やすのは、並大抵の大変さじゃないってことを……!)

放火魔(今晩、俺は燃え尽きちまうかも……)







― おわり ―
80 : ◆xvk52ylD8k [saga]:2018/04/24(火) 20:17:05.17 ID:ki89SNUd0
以上で完結となります
どうもありがとうございました!
81 : ◆xvk52ylD8k [saga]:2018/04/24(火) 20:17:39.01 ID:ki89SNUd0
※気づいたので一ヶ所訂正させて頂きます
>>54『×スクリンプラー → ○スプリンクラー』です
大変失礼いたしました…
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 21:18:47.42 ID:7i2/1Mfuo
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 22:17:32.96 ID:epApQ4u90
ひさびさにいい話を見た
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 23:26:43.83 ID:JW1yxWFGO
乙乙
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 01:29:25.80 ID:Ix7jDSXgO

中編も上手いね
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 02:27:24.46 ID:9GhLPwOJO
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 03:32:51.51 ID:f3ur9YdMO
下は大火事、上はヒエヒエ、これなーんだってのはこいつらの事だったのか
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 03:42:41.68 ID:yuBp/HUsO


うまい構成ですた
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 12:29:44.16 ID:U0mdfyWzO
マッチってすごい
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 21:22:14.62 ID:sKp1oznA0
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/26(木) 09:57:31.13 ID:8mTDFlPQ0
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/27(金) 09:05:11.04 ID:o1Zrg7jAo
燃えも冷めもあるあったかいSSだった
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/04(金) 17:59:42.81 ID:gsZ5p6y+O
うまいことまとめたなぁ
すげぇ面白かったよ乙

またなんか書いてくれ
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