僧侶「勇者様は勇者様です」

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620 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/08/15(木) 20:35:05.24 ID:B6eGxfUL0
今日はここまでです。続き頑張ります。
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/16(金) 20:15:08.64 ID:m2te1SYDO
乙乙
続き待ってるよ!
622 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/09/11(水) 16:48:59.63 ID:zmSxpxYN0
>>621 頑張ります
623 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 16:50:14.88 ID:zmSxpxYN0





──ダンジョン目撃場所への道中


辻斬り「なあなあ、おねーさん」

目付きの悪い細身の女性「……気安く話しかけるな」

辻斬り「ヒュウ怖い」

辻斬り「元魔王軍にいたってことで、内通者騒ぎの時に疑われなかったの?」

目付きの悪い細身の女性「ふん、当然疑われた。今も監視がついている」

目付きの悪い細身の女性「裏切ろうにも“枷”のある今は不可能だと言うのにな」

共和国首都の聖騎士長「枷なんて言い方しなくても……」

目付きの悪い細身の女性「貴様もああいった自体を想定して施したのだろう? 用意だけは周到な男だからな」
624 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 16:52:14.82 ID:zmSxpxYN0
目付きの悪い細身の女性「お陰で必要以上の取り調べは無かった。そこは感謝しよう」

赤毛の術師「もう少し感謝が伝わるような言い方が出来ないの?」

目付きの悪い細身の女性「言い方一つで価値が変わるならば、それは真の気持ちと言えるのか?」

赤毛の術師「流石に屁理屈過ぎる……!!」

目付きの悪い細身の女性「何とでも言え」

目付きの悪い細身の女性「……しかし、裏切り者か」

目付きの悪い細身の女性「紅目のあいつも、そんな役をやる羽目になったな」

勇者「エルフさんのことを知って……って当然か」

目付きの悪い細身の女性「新生魔王軍としていまの軍勢が立ち上がった後、奴とは共に行動することが多かったのでな」

目付きの悪い細身の女性「……昔、弓も少々指南してやったな」
625 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 16:53:08.10 ID:zmSxpxYN0
目付きの悪い細身の女性「奴とは主に、仲間を増やすために各地を巡って回っていた」

目付きの悪い細身の女性「特に大戦後に多く捕らえられた亜人……エルフなどを探し回った」

目付きの悪い細身の女性「多くの者は故郷へと戻ったが、中には我の配下として下る物好き共も居てな……」

共和国首都の聖騎士長「西人街で戦った彼らですか……」

目付きの悪い細身の女性「そうだ」

目付きの悪い細身の女性「命も奪わず無力化し、人目につく前に故郷へ送り返すとは器用な真似をしてくれたものだ」

目付きの悪い細身の女性「……その件も、感謝している」

共和国首都の聖騎士長「どういたしまして」

赤毛の術師「…………」

暗器使い「しかし紅目のエルフのことを知っていたのに内通者であると密告しなかったのは何故だ?」
626 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 16:53:39.49 ID:zmSxpxYN0
暗器使い「昔の部下への温情か?」

目付きの悪い細身の女性「どうであろうな……温情、というのは違うだろう」

目付きの悪い細身の女性「やはり奴が紋章持ちとして選ばれたその意味を、見届けてやろうと思ったからかもしれんな」

辻斬り「紋章持ちとして選ばれた意味、か……」

暗器使い「…………」


それからしばらく続いた沈黙を破ったのは勇者だった。


勇者「聖騎士長さん。どうして外交官さんがあそこまで人外を毛嫌いするのか、その理由をご存知ですか?」

勇者「もちろん話せない内容でしたらこれ以上は聞きません」

共和国首都の聖騎士長「……いや、話しましょう」

共和国首都の聖騎士長「嬉々として言いふらすような事では決してありませんが、親しいものなら皆知っていることですので」
627 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 16:54:25.72 ID:zmSxpxYN0
共和国首都の聖騎士長「よくある話といえば、よくある話です」

共和国首都の聖騎士長「あの方が兵士として活躍されていた頃に、大規模な暴動事件が有りましてね」

共和国首都の聖騎士長「その際に奥様とお子さんを亡くしているんです」

共和国首都の聖騎士長「その暴動の中心にいたのが人外だった……という事です」

共和国首都の聖騎士長「国を、街を守るために戦ったが、家族を守ることは出来なかった……その事実があの方を縛り続けているんでしょうね」

共和国首都の聖騎士長「せめてこの国、この街だけは守らなければ、と」

共和国首都の聖騎士長「しかしこの国はご覧の有様です。広大な不毛の大地に加えて生き物の住まわない死の海域……おまけに地下資源にも乏しく多くは輸入に頼り切り」

共和国首都の聖騎士長「そんな最中に隣国の皇国で巨大な炭鉱が発見された」

共和国首都の聖騎士長「だからこの国はあんな馬鹿な真似をしてしまったのでしょうね」

勇者「皇国にある教会を利用した例の工作の事ですか」
628 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 16:55:09.70 ID:zmSxpxYN0
共和国首都の聖騎士長「命令とはいえ、関わった私にものを言える筋合いは無いのですがね」

暗器使い「工作活動の失敗による賠償に加えて魔国との戦争による更なる疲弊……」

暗器使い「首都があんな空気になっているはずだ」

辻斬り「ダークエルフの彼が言っていた、砂漠にいる彼らが放置されている理由……」

辻斬り「放置されていると言うより、そっちに手を回す余裕が無いって事なんだろうね」

猫又「みたいだね」

目付きの悪い細身の女性「不毛の大地と死の海域か……」

目付きの悪い細身の女性「あれらをどうにかする方法は無くはない……」

共和国首都の聖騎士長「何か知っているんですか?」

目付きの悪い細身の女性「……まあ、現実的な話ではない。忘れろ」
629 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 16:55:58.84 ID:zmSxpxYN0
目付きの悪い細身の女性「さて、そろそろ目的の場所が近いのでは無いのか?」

共和国首都の聖騎士長「ええ、例の遺跡が見えてきました」


聖騎士長の視線の先には砂風によって朽ち果てた太古の遺跡が見えた。

しかしそれは昔ながらの姿であり、ダンジョンのような異形の姿と化してはいなかった。


共和国首都の聖騎士長「これは報告通りですね……しかし……」

辻斬り「うん、確実に“何かいる”ね」

目付きの悪い細身の女性「……確実に奴の気配だ。精々気をつけるが良い」


事前の打ち合わせ通りに散開し、前衛と後衛がうまく連携できるように準備を進めた。

そしていよいよ、聖騎士長らが率いる前衛が遺跡へと進行を始めた。

そこで待ち受けていたのは遺跡の眼の前でじっと動かない、様々は獣が溶け合ったような異形の巨大な姿だった。
630 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 16:56:51.23 ID:zmSxpxYN0
共和国首都の聖騎士長「西人街での“偽物”とは大きさも力も比べ物にならないですね」

レライエ「当たり前だ。こんな怪物を完全に再現できるわけがなかろう」

レライエ「……まあ、まずは我に任せろ」

ベヒモス「……何者だ?」

目付きの悪い細身の女性「我だ」

ベヒモス「その声は…………レライエか? グハハハハ、久しいな」

勇者(このお姉さんの正体はレライエ……! やはり幹部級だったのか……!)

ベヒモス「今はいつだ? どれほどの時が経った?」

目付きの悪い細身の女性→レライエ「眠りについてから二百年少々だ」

レライエ「他の者は全て目覚めている。貴公は少々寝過ぎだ」
631 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 16:59:12.59 ID:zmSxpxYN0
ベヒモス「の、ようだな。遥か遠くから大きな戦の気配がする」

レライエ「目覚めが遅れたのは術の不具合か何かだとは思うが……」

レライエ「何故折角のダンジョンを崩壊させた? 我々後発組とは発生までにかけた年月が違う」

レライエ「完成したダンジョンの力も更に強大なものとなっていただろう」

ベヒモス「フン……あんな小細工がなくとも我は全てを屠れる」

ベヒモス「しばらくは我の望む戦いが無いと判断し、眠りにつくのも悪くはないと思ったから従ったまでの事……」

レライエ「ふう……貴公はそういう者だったな……」

レライエ「しかしそうだとしても、何故転移陣を使わずここで油を売っている」

ベヒモス「戦局の見極めだ。どう立ち回るのが一番面白いのか、それを知りたい」

ベヒモス「貴様がここに来てくれたことでだいぶ手間が省けたぞ」
632 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 17:00:01.46 ID:zmSxpxYN0
ベヒモス「…………貴様、人間に敗れたな?」

レライエ「…………」

ベヒモス「グハハハハッ、人間と共に行動する貴様を見ることが出来るとはな!」

ベヒモス「勝利は成長を促すが本質を変えることは無い。敗北は時に両方をその者に与える……」

ベヒモス「そういう事だろう」

レライエ「だとすれば、何だ?」

ベヒモス「グハハハハッ、決めたぞ! やはり我はこちらの陣営に残る! 人間とはいつの時代でも予想外の手を打ち、我らを楽しませくれるからな!!」

レライエ「そうか……残念だ」

レライエ「──今だ」

共和国首都の聖騎士長「魔導隊! 放て!!」
633 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 17:00:54.18 ID:zmSxpxYN0


聖騎士長の掛け声と共に、後方に控えていた魔導隊が練り上げていた術を一斉に解き放った。


赤毛の術師(西人街のダンジョンの件で貴様に術の類が有効であることは分かっている! 最大出力の雷槌に焼かれて死ねっ!!)


赤毛の術師や、他の術使いが放った雷が、炎が、氷がベヒモスに向かって一直線に降り注がれた。

ベヒモスが避ける間もなくそれらは全て直撃し、爆音とともに大量の砂が舞い上がった。


赤毛の術師「よし当たった……」

辻斬り(あのフードの集団、やはり一人一人が強い……だが)

赤毛の術師「まあ、この程度で終わるならこんなに入念な準備はいらない」


砂煙が晴れた先では、表情一つ変えずに同じ場所にベヒモスが鎮座していた。


赤毛の術師「それならもう一発……!」


赤毛の術師が手をかけたのは地面に突き立てられた巨大なランス。
634 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 17:01:58.32 ID:zmSxpxYN0
その表面にずらっと紋様が現れたその時、共和国首都の聖騎士長がそれを手に取りおおきく振りかぶってから投擲した。

ベヒモスに向かって一直線に飛んでくランスは、バチリと大きな音を立てて輝き出した。


ベヒモス「雷の槍か……面白い! 来い!!」


やはりベヒモスはそれを避けることはなく、体で受け止めた。

しかし聖騎士長の力で投擲された槍を無傷で受けきることなど無理な話で、腹部に深く突き刺さり、次の瞬間には体中を電撃が走り回った。


ベヒモス「ぬうううううううううううううううううううっ!!!!」


ランスの刺さった場所は勿論、最初の一斉攻撃による傷口からも血が滲み出ては焼け焦げた。

普通の相手ならばとっくに絶命しているであろう。

しかしそれでもベヒモスは一歩も動かず、そしてその瞳は勇者達を捉え続けていた。


ベヒモス「面白い。この時代にも優秀な術者共がこれ程に存在しているとは」
635 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 17:02:53.43 ID:zmSxpxYN0
ベヒモス「やはりまずはこちらの陣営で暴れた方が楽しめそうだ」

共和国首都の聖騎士長「ふう、そこまで平気そうな顔をされると困ってしまいますね」

ベヒモス「否。人間だけでよくもここまで出来るものだ」

ベヒモス「千年前と同様に驚かされる」

ベヒモス「しかし人間の主力の術者共はかの大戦終結の際にあの国ごと滅んだのでは無かったか?」

共和国首都の聖騎士長「……今は亡国と呼ばれる連邦国に接した魔導の国の事ですか」

暗器使い(亡国……あの半島にかつて存在していた国で大戦は終結したと言われているが、あそこが魔導師の国だったとはな)

共和国首都の聖騎士長「確かに国は滅び、民の殆どは死に絶えたと聞いています」

共和国首都の聖騎士長「ですが初代魔法使い様によって多くの術が体系化され、世に広められました」

共和国首都の聖騎士長「貴方がたの敵となりうる者が、千年前と同じ程度しか存在しないと思わない方が良いですよ」
636 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 17:03:31.27 ID:zmSxpxYN0
共和国首都の聖騎士長「彼女のように、亡国の民の生き残りの子孫も各地にいますしね」

赤毛の術師「…………」

ベヒモス「グハハハハッ、ますます楽しめそうで涎が滴る」

ベヒモス「まずは貴様らを屠ることで目覚めの一食目とさせてもらおうか」


痛みを感じていないのだろうか、腹に深く刺さったランスをずるりと抜き、その大きな口を歪めてニタリと嗤った。

その肩の傷口に、矢が刺さった。


ベヒモス「む…………?」


その矢は何の変哲も無い普通の矢で、鏃に猛毒などが仕込まれている訳でもない。

しかし、その矢を放った者が問題だ。


レライエ「そこまで深く抉られていれば、この細い矢も芯へと突き立てられる」
637 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 17:04:02.13 ID:zmSxpxYN0
ベヒモス「レライエ……貴様ごときの力では我を殺せぬという事を忘れたのか?」

レライエ「その油断を待っていたのだ」


その鏃に毒はない。

しかし、レライエが放った矢はその標的の体を侵食し、腐り落とす。そういう事になっているのだ。

次の瞬間にはベヒモスの臓物に到達した矢の周りが、ドロリと腐り始めた。


ベヒモス「何っ!?」

レライエ「今の我は……不本意ながら聖騎士長の使い魔という事になっている」

レライエ「術者の絶対的な支配下に置かれる代わりに、我の力は底上げされている」

レライエ「この力ならば貴様に届く」

ベヒモス「貴様……!」
638 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 17:08:14.27 ID:zmSxpxYN0


ベヒモスがこのまま腐った肉塊へと変わり果てる。そう思ったのもつかの間だった。


ベヒモス「グオオオオオオオッ!!」


ベヒモスは自らの腹の中に爪を立てた手をねじ込み、腐り始めたモツを引きずり出してしまった。


猫又「なっ!」

辻斬り「……! 避けろっ!!」


猫又は辻斬りに襟首を掴まれて投げ飛ばされた。


猫又「げほっ!」


先程まで猫又がいたところにはベヒモスの姿と、逃げ切れなかった前衛の兵士達……だった物がバラバラに転がっていた。

ベヒモスが口に含んだものぐちゃぐちゃと咀嚼すると、みるみる内に腹部を含めた全身の傷が回復し始めた。


ベヒモス「レライエェ……我を殺したくば心の臓を狙うのだったな」

ベヒモス「しかしその機会ももう巡って来るとは思わぬことだ」
639 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 17:08:56.88 ID:zmSxpxYN0
レライエ「チッ……!」

共和国首都の聖騎士長「やはり倒すことは出来ませんか……ならば」

ベヒモス「ダンジョンからの脱出用に用意されている転移魔法陣で我を突き返すか?」

ベヒモス「楽しくなってきた所だ、その手には乗らんぞ」

共和国首都の聖騎士長「……!!」

ベヒモス「聖騎士長と言ったか……貴様も楽しめそうだが、向こうには更に楽しめそうな気配を感じる」

共和国首都の聖騎士長(首都の方角……! この怪物をあそこに向かわせるわけにはいきませんね……!)

ベヒモス「レライエを使い魔として使役するとは、貴様の力はまだまだ底が見えるものでは無さそうだな」

共和国首都の聖騎士長「いえいえ、買いかぶり過ぎも困りますね……」

ベヒモス「無理矢理にでもそのヤワな面の下を拝ませて貰おう」

ベヒモス「さあ、始めようではないか……!!」
640 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 17:09:37.17 ID:zmSxpxYN0





──一方、共和国首都にて


共和国外交官の護衛「失礼します」

眼鏡の共和国外交官「……入ってください」

共和国外交官の護衛「報告です」

共和国外交官の護衛「勇者および聖騎士長らが目標との戦闘に入りました」

眼鏡の共和国外交官「それで、戦況は」

共和国外交官の護衛「劣勢、と言っていいでしょう」

眼鏡の共和国外交官「詳しく」

共和国外交官の護衛「通信術式の様子から推測しますと正騎士団長様は勿論、勇者殿一行の猛攻で何とか耐えているようですが」
641 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 17:27:33.20 ID:zmSxpxYN0
共和国外交官の護衛「ベヒモスはどれだけ傷つけられても立ち上がってくるそうです」

眼鏡の共和国外交官「やはり伝説の怪物はそう簡単には倒せませんか……」

共和国外交官の護衛「やはり“あの方”に出て頂く他ないのでは」

眼鏡の共和国外交官「それが出来れば早いのですが、やはりこの街を出るつもりは無いらしくてね」

共和国外交官の護衛「そうですか……」

眼鏡の共和国外交官(私が政治で国全体を、彼がその力で都市を護ると確かにあの日そう決めた……)

眼鏡の共和国外交官(だが……)


???「この街にも危害が加えられる可能性がある、か」


共和国外交官の護衛「い、いつの間にいらっしゃたのですか!?」

眼鏡の共和国外交官「お前……! 出てきていたのか」
642 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 17:28:38.57 ID:zmSxpxYN0


いつの間にか部屋に姿を現していたその男は、そのやつれた顔と、肌という肌に掘られた入れ墨のせいか異様な雰囲気を放っていた。

彼は三白眼の呪術師と呼ばれ、共和国最強の術者として長い間この首都を守り続けてきた男だった。


???→三白眼の呪術師「転移魔法陣で送り返すという算段は勘付かれたようだな」

眼鏡の共和国外交官「ああ……」

三白眼の呪術師「当然だ。向こうはあの伝説の怪物だ」

眼鏡の共和国外交官「だが、お前ならば戦えるはずだ」

三白眼の呪術師「この街を出ないという誓いを破るつもりはない。もし奴がここへと来るのであれば迎え撃つことは約束する」

共和国外交官の護衛「……た、たった今、追加の報告です!」

共和国外交官の護衛「ベヒモスがこの首都に向けて進行を開始したとの事です……!!」

眼鏡の共和国外交官「何っ……!?」
643 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 17:29:05.44 ID:zmSxpxYN0
三白眼の呪術師「……なるほど、準備はしておこう」

三白眼の呪術師「お前も軍の方と連絡を取って準備を進めておくといい」

三白眼の呪術師「周辺諸国との連携も考えた方が良いかもしれないな」

眼鏡の共和国外交官「た、帝国や皇国の力など……!」

三白眼の呪術師「……私情に流されて、“また”失っても俺は知らんぞ」

眼鏡の共和国外交官「ぐっ……」

眼鏡の共和国外交官「各位に通達の準備を……!」

共和国外交官の護衛「はっ!」

眼鏡の共和国外交官「……お前はどうする」

三白眼の呪術師「当然奴がここに現れた際の対策は進める……」
644 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/09/11(水) 17:34:49.42 ID:zmSxpxYN0
三白眼の呪術師「だが、もう一つやる事があってな」

眼鏡の共和国外交官「この緊急時に一体何を……」

三白眼の呪術師「数日前に自分の元にとある若者が訪ねてきていてな」

三白眼の呪術師「彼らにとあるものを託しておいた」

三白眼の呪術師「知っての通り俺の力は、そう使い勝手の良いものではない」

三白眼の呪術師「だからこそここで迎え撃つ必要がある」

三白眼の呪術師「だが彼らの力にちょっとした手助けをすることは出来る」

三白眼の呪術師「同じ……運命を司る者としてな」

眼鏡の共和国外交官「まさか、お前と同じような術者が……!?」

三白眼の呪術師「モノは違うがその本質は同じ、とだけ言っておこうか」

三白眼の呪術師「俺達みたいな老人はそろそろ引退して、ああいう若者に任せていこうじゃないか」
645 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/09/11(水) 17:35:56.46 ID:zmSxpxYN0
あと二回ほどで「不毛の大地」編は片が付きます
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/12(木) 00:54:28.84 ID:LgNyABaDO
乙乙
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/15(日) 12:04:38.14 ID:L72ZccVJO
何気に前回の話にお祓い師達らしき人達が出てる件
648 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/10/24(木) 20:13:59.70 ID:q4fF5FA70
>>646 ありがとうございます
>>647
649 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/10/24(木) 20:15:40.29 ID:q4fF5FA70





ベヒモスは何も、砂漠を駆け出した訳ではない。

しかしその大きな一歩ゆえに、全速力のアシダカドリに劣らぬ速度で共和国首都へと歩き始めていた。

その進行を止めようと聖騎士らが斬りかかるが、薙ぎ払われ、潰され、胃の中へと放り込まれてしまった。


ベヒモス「まだ足りぬ。大きな街に行けば腹も満たされるだろうか」

共和国首都の聖騎士長「あちらに行かせる訳にはいきません」

ベヒモス「手を抜いたままでは我を止めることは出来ぬぞ」

共和国首都の聖騎士長「……そうですね」

共和国首都の聖騎士長「あまりやりたくは無いのですが……」


剣を構えた聖騎士長の纏う雰囲気が先程とは変わった。

650 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:16:44.54 ID:q4fF5FA70
勇者(何だ……!? 別人みたいに……)

辻斬り(あれが真の力、って事なのか?)

レライエ「…………大丈夫なのか?」

共和国首都の聖騎士長「あまり時間はかけたく無いですね」

共和国首都の聖騎士長「行きますよ!!」


ダッ、と踏み出した先を周りの騎士たちは目で追うことが出来なかった。

辛うじてその姿を捉えていたのは、ベヒモスやレライエ、そして勇者と辻斬り、暗器使いらだけだった。

それほどに聖騎士長の動きは素早かった。

ずぷっ、という音がしたかと思うと、ベヒモスの右の手足が砂上に転がった。


ベヒモス「ぐっ!?」
651 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:17:17.21 ID:q4fF5FA70
勇者(何だ……!? 別人みたいに……)

辻斬り(あれが真の力、って事なのか?)

レライエ「…………大丈夫なのか?」

共和国首都の聖騎士長「あまり時間はかけたく無いですね」

共和国首都の聖騎士長「行きますよ!!」


ダッ、と踏み出した先を周りの騎士たちは目で追うことが出来なかった。

辛うじてその姿を捉えていたのは、ベヒモスやレライエ、そして勇者と辻斬り、暗器使いらだけだった。

それほどに聖騎士長の動きは素早かった。

ずぷっ、という音がしたかと思うと、ベヒモスの右の手足が砂上に転がった。


ベヒモス「ぐっ!?」
652 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:17:58.38 ID:q4fF5FA70
共和国首都の聖騎士長「まだです!!」


聖騎士長の猛攻がベヒモスを襲う。

その姿は果たしてAランクに収まる者の動きなのだろうかと、その場の誰もが思った。

そしてついにベヒモスは大きな音を立てて地面に伏した。

しかし。


暗器使い「……バケモノめ……」


その巨体は再びゆらりと立ち上がった。


ベヒモス「グ……グフ……グフフフフフフフ……」

ベヒモス「面白いぞ人間……! やはり、戦いはこうでなくてはな!!」

共和国首都の聖騎士長「いい加減倒れてくれませんかね……!」
653 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:18:39.06 ID:q4fF5FA70


聖騎士長が剣を構え直した時、その手に血がポタリと落ちた。

血は聖騎士長の口から流れていた。


共和国首都の聖騎士長「ごほっ……」

赤毛の術師「聖騎士長様っ……! 無理をしすぎです……」

共和国首都の聖騎士長「ごほごほっ……いやあ、そうみたいですね」

ベヒモス「……病持ちか」

共和国首都の聖騎士長「色々とありましてね」

ベヒモス「病人を嬲る趣味はない。しかし逃すには惜しい相手だ」

ベヒモス「その魂燃え尽きるまで戦え。さもなくば周りから屠るまでだ」

共和国首都の聖騎士長「そうは、させませんよ……」
654 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:19:17.52 ID:q4fF5FA70
赤毛の術師「駄目です……! 一旦引いてください!」

共和国首都の聖騎士長「私が引いては貴女達が、街の皆が危険にさらされる……」

共和国首都の聖騎士長「私は護るために騎士になったのです……」

赤毛の術師「ですが……!」

ベヒモス「魔導の国の生き残りよ。邪魔をするのであれば貴様から殺してやろう」

赤毛の術師「……来なよバケモノ……!」

共和国首都の聖騎士長「……! 駄目です!」

赤毛の術師「この紫電で骨の髄まで焼き尽くす……!」


ベヒモスが赤毛の術師に向かって飛びかかる。

彼女の手に纏わりついたイカヅチと、ベヒモスの獣の身体がぶつかりあう音が……。
655 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:20:03.54 ID:q4fF5FA70
聞こえることはなかった。


ベヒモス「ごっ……!?」

赤毛の術師「……ふう。正面しか見えていないの?」


ベヒモスを横に吹き飛ばしたのは、その小柄な体から打ち出されたとは思えないほど重い重い、勇者の剣の一撃だった。


勇者「僕は……“俺”は歴代でも出来損ないの勇者だが」

勇者「それでも勇者一族の末裔なんだ……!」

ベヒモス「面白い……! 受けて立つぞ末裔よ!!」


掠りでもすれば死にも繋がる攻撃を掻い潜り、勇者は剣を繰り出す。

僧侶が居ない今、重症を負えばそれで全てが終わってしまう。

それでも勇者はその手を、脚を止めなかった。
656 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:20:39.49 ID:q4fF5FA70
眼の前の敵は乗り越えなくてはならない壁だと感じていたからだ。

大きく空振ったベヒモスの腕を駆け上がり、その顔面に飛びかかった。

勇者の剣はベヒモスの瞳に深く突き立てられた。


ベヒモス「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?!?」

暗器使い(あいつ、また別人みたいな……!)

猫又「凄い……」

共和国首都の聖騎士長「やりますね……」


勇者の猛攻に怯んだベヒモスを見て、全員が「いける」と思ってしまった。

戦いに油断は禁物である。


勇者「……!? まずっ……!」
657 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:22:02.38 ID:q4fF5FA70
ベヒモス「逃さんぞォォォォ小僧ォ!!」


そう、ベヒモスは勇者の剣を抜かせんと瞼を強く閉じて固定してしまったのだ。

剣を握る勇者に、ベヒモスの腕が襲いかかる。


猫又「ぼさっとしてないで!!」


あと一瞬遅れたらミンチになっていたであろうという所で、猫又が勇者を抱えて救出した。

猫又に抱えられた勇者の瞳にはその光景が映っていた。


──勇者の剣が、バキリと二つに折られたのだった。


忌々しそうに剣を抜き取り勇者を睨むベヒモスの足元でキラリと何かが光った。

それは美しい靭やかさで繰り出される剣撃だった。

聖騎士長が切り落としたものとは別の手足がボロボロと身体から離れていく。
658 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:23:37.11 ID:q4fF5FA70
辻斬りはベヒモスの足元から離れて刃についた血を拭った。


辻斬り「どういうわけか俺は、あの伝説の剣士の紋章を任されているらしいんだよ」

辻斬り「この刃、かつての英雄達のようにあんたらに届かさせてもらう」


猫又「あいつ無茶を……!」

猫又「ああもう! これを使って!」


猫又が投げたものを受け取ると、それは一本の刀だった。

しかし何か違和感がある。


猫又「それは普通の刀から太刀程の長さまで変幻自在に化ける妖刀……」

猫又「並の剣士じゃ扱いきれないんでしょうけれども、あなたなら出来るでしょ」

辻斬り「なるほど……これならデカイの相手に丁度いいね」
659 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:24:17.25 ID:q4fF5FA70
辻斬り「それじゃあ行くよ!!」

ベヒモス「ぬうううっ!」


辻斬りの猛攻によって、わずかにでは有るが確実にベヒモスの動きは鈍り始めていた。

──そしてついにベヒモスが攻撃を避けた。

地面には一本の矢が刺さっている。


レライエ「フン……我の矢など効かぬのでは無かったのか?」

ベヒモス「レライエェ……!」

レライエ「流石にこの人数差ではやせ我慢も続かんか」

ベヒモス「レライエェェェェッ!!」


ベヒモスが飛びかかったその先にいたのはレライエと…………どこから持ってきたのか巨大な大砲の砲撃準備をしている暗器使いだった。

660 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:26:47.87 ID:q4fF5FA70
暗器使い「俺はな、武器なら何でも隠し持てるんだ。猪突猛進過ぎるぞデカブツ」

ベヒモス「ぬおおおおおおおおおっ!!」


ベヒモスは止まれない。その顔面にめがけて大砲が放たれた。

頭は血飛沫とともに弾け飛び、巨体が宙を舞った。

ぐしゃりと地面に落ちたそれは、それでも。


暗器使い「……いい加減死ねよ……」


それでもまだ動き出した。


ベヒモス「……終わりか?」

勇者「なんて底なしの生命力……」

共和国首都の聖騎士長「ふう……一体どうすれば殺しきれるんでしょうね……」
661 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:27:25.13 ID:q4fF5FA70
猫又「こんなの……勝てっこないじゃない……」

赤毛の術師「くっ……」


満ちる絶望の空気。

しかしその場に居た全員が気がついていないことがあった。

少し遅れてようやく、ベヒモス本人が気がついた。


ベヒモス「…………!!」

ベヒモス(ここは……馬鹿な! 偶然か!? いやそんなはずが……!!)


ベヒモスは今、転移魔法陣の真上にいる。

ダンジョン跡を離れ街に向かっていたはずが、いつの間にかスタート地点へと戻っていたのだった。

そこに、勇者達一行にはいなかった二つの影が姿を現した。
662 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:28:30.33 ID:q4fF5FA70


観光客らしき女「おぬしよ、今じゃ!!」

観光客らしき男「分かっている!! 転移魔法陣発動!!」


男の方が叫ぶと、ベヒモスの足元の魔法陣が輝き出した。


ベヒモス「ぐっ! しまっ……!!」

観光客らしき男「ここは取り敢えず退場してもらうぜ。もう二度と会わないことを願っておくぜ」

観光客らしき女「まったくじゃな。こんなのを相手にしては命がいくつあっても足りんわい」

ベヒモス「貴様らァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」


ベヒモスは雄叫びとともに虚空に消え、砂漠に一瞬の静寂が訪れた。

撃退に成功はした。しかしそれは多大な犠牲に見合う結果だったのかは定かで無い。


勇者「撃退できた……! あの伝説の魔獣を……」
663 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:29:25.12 ID:q4fF5FA70
勇者(でも……)

勇者(これだけの戦力で……これだけの犠牲を払って、撃退しか出来ない……)

共和国首都の聖騎士長「……」

暗器使い「チッ……」


今回の戦いで一同は、今起こっている戦争の厳しさを改めて思い知らされた。

そんな暗い雰囲気の中、転移魔法陣を発動したと思われる謎の男女は、衣服についた砂を払うと勇者達の方に歩いて寄って来た。


観光客らしき男「おー、何とも見覚えのある顔ぶれだな」


どこか氷の退魔師と雰囲気の似たその男は、勇者達を見渡してそう言った。
664 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:30:04.34 ID:q4fF5FA70





観光客らしき男「特に……お前が何でこんなところにいる?」


観光客らしき男は辻斬りをギロリと睨んだ。


辻斬り「これはこれは、お祓い師と狐神……だったかな」


辻斬りのおどけた態度に対して、お祓い師と呼ばれた男は一切表情を崩さなかった。


観光客らしき女→狐神「……おぬしよ」

観光客らしき男→お祓い師「分かっている。今のこいつが敵だって言うなら、事情を知っているはずの“アイツ”が同行しているはずがない」


お祓い師の言葉を肯定するように、猫又はため息をついた。


お祓い師「俺はただ本人の口から聞きたいだけだ。何でここにいるのかって事をな」

辻斬り「分かっている。ちゃんと説明するさ」
665 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:30:46.50 ID:q4fF5FA70


辻斬りはお祓い師破れた後帝国に逃げ延び、己を見つめ直すために剣術道場の門下生になった事。

そこで勇者や猫又に出会い、自分が剣を握りる理由のために彼らに同行することに決めたことなどを簡単に説明した。


お祓い師「……お前が剣士の紋章持ちに選ばれるとはな」

辻斬り「俺にもなぜかは分からない」

辻斬り「でも、選ばれたからにはこの役目を全うするつもりさ」

お祓い師「……そうか」


お祓い師と辻斬りの間のピリッとした空気に、入り込むタイミングを見計らっていた勇者がようやく口を開いた。


勇者「……お祓い師さん、お久しぶりです」

お祓い師「おう、大きくなったな」

勇者「お祓い師さんもなんだか変わったね」
666 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:31:22.63 ID:q4fF5FA70
お祓い師「そうか?」

お祓い師「それよりもお前……その剣……」


お祓い師は勇者が抱えている二つに折れた剣に目線を移した。


勇者「あはは……どうしよう、これ」

お祓い師「……俺も初代の勇者パーティーについては色々調べていてな。剣についての話も多少かじった」

お祓い師「俺の力では治せ無いが、破片は一つとして逃さず持って帰るようにしようか」

勇者「……うん、わかった」

暗器使い「知り合いなのか?」

勇者「うん。初代魔法使い様の末裔なんだ」

勇者「僕と僧侶とお祓い師さんの一家は昔から付き合いがあるんだ」
667 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:32:05.32 ID:q4fF5FA70
暗器使い「なるほどな」

暗器使い(つまりあの氷の退魔師の息子か……言われてみれば面影が有る)


暗器使いは大陸会議でその手腕を存分に発揮していたSランク退魔師の姿を思い出した。


お祓い師「あんたらも久しぶりだな」

共和国首都の聖騎士長「お久しぶりです。お元気そうで何よりですね」

赤毛の術師「あの狼男達も元気にやっているの?」

お祓い師「ああ。皆それぞれ為すべき事のために頑張っている」

赤毛の術師「そう……なら良い」

お祓い師「……そしてまさか、あんたまでいるとはな」

レライエ「……ふん」
668 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:32:51.08 ID:q4fF5FA70
お祓い師「ダンジョン攻略後、処分は親父に一任されていたと聞いていたが……」

共和国首都の聖騎士長「後処理はほとんど自分が任されてしまいましてね」

共和国首都の聖騎士長「お互いの利害が一致したので今はこうして使い魔契約の間になっています」

お祓い師「任されたって、あのクソ親父……」

共和国首都の聖騎士長「忙しい方ですから、まあ……」

お祓い師「仮にもあの時の共和国は“やらかした側”なんだから、もう少し考えられなかったのかよ……」

共和国首都の聖騎士長「私が言うのも何ですが、同意します」

暗器使い「(やっぱりあの氷の退魔師って男は無茶苦茶やっているみたいだな)」

勇者「(だ、だね……)」

辻斬り「(一度お会いしてみたいものだ)」
669 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:33:22.82 ID:q4fF5FA70
猫又「(この界隈は濃い人が多すぎる……)」

お祓い師「どうかしたのか?」

勇者「い、いや何でもないよ」

勇者「それよりそちらの方は?」

狐神「む、わしか?」

暗器使い「見たところ人間では無いようだが……」

狐神「ふむ、よくぞ聞いてくれた」

狐神「わしは皇国の峰々を守護しておった元神にして……」

お祓い師「なあーにが峰々だ。話を盛りやがって」

狐神「うるさいのう。初対面相手に見栄を張る事の何が悪いんじゃ」
670 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:34:51.52 ID:q4fF5FA70
お祓い師「そういう姿勢は後々後悔するぞ」

狐神「ごほん。とにかくわしは元山神であり、今は此奴の式神をしておる」

お祓い師「そして、俺の妻でもある」

勇者「え……ええっ!? そうだったんですか!? ご、ご結婚おめでとうございます!」

猫又「……人間と人外の番、か」

お祓い師「そう珍しい話でも無いみたいだぞ。現に“思ったよりも身近”に居たしな」

猫又「ん……?」

狐神「そういう訳で残念じゃったな泥棒猫よ。此奴はわしのものじゃ」

勇者「ど、泥棒猫……?」

猫又「まだ“あのこと”根に持っていたの? ちょっとした戯れじゃない」
671 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/10/24(木) 20:35:21.67 ID:q4fF5FA70
狐神「うるさいわい! この尻軽猫!」

猫又「あ、その言い方は傷付く!」


さっきまでの死闘が嘘のようにギャーギャーと騒がしくなった一行は、疲労した体を休ませてから首都を目指して出発したのだった。
672 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/10/24(木) 20:36:03.69 ID:q4fF5FA70
次回で《不毛の大地》編は終わります。
前作の同窓会みたいになりましたね。
673 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/25(金) 01:36:03.29 ID:Yoia043DO

待った甲斐があった次も頼むで!
674 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/11/26(火) 18:42:19.98 ID:s8Q2SDgy0
>>673 毎度お待たせして申し訳ないです
675 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 18:43:09.62 ID:s8Q2SDgy0





辻斬り「しかし……なるほど、ああいう場面ではあんたらの力は役に立つね」

暗器使い「その口ぶり……やはりベヒモスが偶然あの陣の上に移動したわけでは無かったんだな?」

お祓い師「ああ、そうだ。あれはコイツの力があってこその必然だったんだ」

暗器使い「ほお、一体どんな能力なんだ?」

狐神「簡単に説明すると……そうじゃな。目的地への道筋が頭に浮かんでくる能力、となるのかの」

狐神「じゃが使い方によってはこの道筋を辿ることを強制させることも出来るのじゃ」

お祓い師「俺はこの力は自分や他人の思考に介入するタイプのものだと思っていた」

お祓い師「だが共和国でとあるお方に出会って、それが間違っているという事が分かった」

共和国首都の聖騎士長「ふむ……もしや」
676 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 18:44:57.87 ID:s8Q2SDgy0
お祓い師「ああ。共和国最強の退魔師にして、退魔師ギルドを取りまとめている重鎮の一人、三白眼の呪術師様だ」

お祓い師「どうやら狐神の能力はあの方の術と近い仕組みになっているみたいでな」

共和国首都の聖騎士長「呪術師様と同系統の……?」

お祓い師「ああ。狐神の能力は“運命を司る力”の一種らしい」

暗器使い「運命を……」

お祓い師「術をかけた相手がどんな運命を辿るのか……それを場所に限定した力がこいつのものってことだ」

暗器使い「なるほどな」

共和国首都の聖騎士長「呪術師様後からは“術の対象の命を奪う”という力のはず……これも運命に関係しているのですか?」

お祓い師「“相手の命を奪う力なんて、この世には存在していない”」

お祓い師「いや、かつては一つだけ存在していたらしいが……」
677 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 18:45:46.87 ID:s8Q2SDgy0
共和国首都の聖騎士長「と、言いますと……?」

お祓い師「呪術師様の力は、“対象が死に至る運命に限りなく近づけていく力”なんだ」

お祓い師「つまり力が直接相手を殺すのではなく、対象が死ぬような運命を辿らせる能力ってことだ」

赤毛の術師「でもそれって、結局相手を確実に殺せる能力だよね」

赤毛の術師「なんで命を奪う能力ではないって言い方をしたの?」

お祓い師「運命なんて言い方をしているが、そこに確実なものはない」

お祓い師「精一杯抗えば運命なんていくらでも覆る」

お祓い師「そういう意味では、あの方の術は確実に相手を死に至らしめるものでは無いってことだ」

お祓い師「ただし」

お祓い師「術が解かれない限り、次々とその運命が襲いかかってくる」
678 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 18:47:11.93 ID:s8Q2SDgy0
お祓い師「それこそ死ぬまでずっとな」

勇者「心が折れて抗えなくなったら、そこまでってことか……」

お祓い師「ああ。俺の親父が大陸最強の術師だって言うのも頷けるぜ」

勇者「お祓い師さん達は呪術師様のところに居たんですね? 入れ違いだったのかなあ……」

お祓い師「俺達は恐らくお前たちよりも早く首都入りをしていたんだろう」

お祓い師「それからしばらくは呪術師様に力の使い方の講義を受けていた」

共和国首都の聖騎士長「ええ、お祓い師様方の方が大分早く来ていたみたいですよ」

共和国首都の聖騎士長「耳には入っていたのですが時間を空けられず、これが久方の再開だったというわけです」

勇者「なるほど……」

勇者「それにしても狐神さんの能力は凄まじいですね」
679 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 18:48:50.25 ID:s8Q2SDgy0
猫又「確かに。使い方によってはどんな格上でも渡り合えそうな気がする」

狐神「うむ、そうじゃろう!」

狐神「……と言いたいところじゃが、そう万能なものでもない」

狐神「此奴の先程の説明の通り、運命にはいくらでも抗うことが出来る」

狐神「格上の相手となると、やはりわし程度の運命操作力では強制することが難しいことあるのじゃ」

狐神「ベヒモスとやらを転移魔法陣まで導くことが出来たのは、おぬしらの猛攻であやつが疲弊していた事……」

お祓い師「そして呪術師様の力添えのおかげってわけだ」

勇者「力添え……?」

お祓い師「簡単に言えば遠隔から俺達の術のサポートをしてくれたんだ」

お祓い師「同じ系統の術だからこそ出来ることなんだが……」
680 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 18:51:12.22 ID:s8Q2SDgy0
共和国首都の聖騎士長「呪術師様が……珍しいこともあるものですね」

共和国首都の聖騎士長「あの方は持つ力は強大ですが、その活動域を共和国首都に限定しています」

共和国首都の聖騎士長「何やら色々と制約があるようでしてね」

共和国首都の聖騎士長「しかしなるほど……同系統の力を持つあなた達がいるからこそ、今回のような形での手助けが実現した訳ですか」

勇者「もし仮に呪術師様がベヒモスと対峙していたらどうなっていたんだろう……」

共和国首都の聖騎士長「あまり憶測でものを言うべきでは有りませんが……恐らくお一人で勝てたのではないでしょうか」

共和国首都の聖騎士長「ああいった単純に力を振るう相手には負けることは無いと思いますよ」

勇者「そ、そんなにお強いんですね……」


眼鏡の共和国外交官「奴がいるが故に、共和国首都は大陸で一番安全な都市と言えましょう」


勇者「えっ!?」
681 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 18:51:53.84 ID:s8Q2SDgy0
共和国首都の聖騎士長「外交官殿……なぜこのような場所に?」


首都に到着するまでにはまだ少し距離があり、見渡す限りの砂漠の真ん中を進んでいる最中であった。

それにも関わらず眼鏡の外交官は軍の兵士らをお供に連れて、眼の前に現れたのだった。


眼鏡の共和国外交官「主力の多くは戦線へと送り込まれていますからね。色々と人手不足なのですよ」

眼鏡の共和国外交官「なにやら首都近辺の砂漠で巨大な影が発見されたとの報告が相次いでいましてね」

眼鏡の共和国外交官「従軍経験のある私も臨時に指揮に加わったというわけです」

暗器使い「しかし巨大な影か……目的のベヒモスは転移魔法陣で追い返しちまったからな」

暗器使い「別の何かがいるってことか」

狐神「うむ……確かに何かいる気配が……」

狐神「近いのう……いや、近付いて来ておる!? 皆の者気をつけよ!」
682 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 18:52:37.81 ID:s8Q2SDgy0
お祓い師「何……!?」


大きな地鳴りと共に砂中から姿を現したそれは、その巨体をうねらせて一向に突進をしかけてきた。


勇者「サンドワーム!? いや、もっと大きい……!」

眼鏡の共和国外交官「キングサンドワーム……!! 全員回避してください!!」


通常のサンドワームとは比較にならないほど大きな体での体当たりを喰らえば無事では済まない。

更にはその口は全員を飲みん混んでしまえるほど巨大だった。


勇者(皆が消耗しているこんな時に……!)

勇者(それに僕は剣が……)


初撃何とか回避するが、その方向が間違いであったということに全員が気がついた。

キングサンドワームの巨体が描いたとぐろの中に追い込まれてしまっていたのだ。

683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/26(火) 18:54:54.79 ID:7jwLmLWu0
てす
684 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 18:55:16.14 ID:s8Q2SDgy0
猫又「逃げ場……なし。戦うしか無いね」

レライエ「やれやれ面倒な……」


レライエが弓を引くが、その指からは血が滴っっていた。

ベヒモスを確実に仕留めようと先の戦いで持てる力を出し切っていたのだ。


共和国首都の聖騎士長「あまり無理をしないでください」

レライエ「貴様ほどには消耗しておらん。立っているのが精一杯の癖に出しゃばるなよ」

暗器使い(チッ、このメンバーが万全ならこの程度は余裕のはずなんだがな……)

お祓い師「狐神……!」

狐神「ぐぬぬ……この状況を覆すには……」

狐神「……む!?」
685 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 19:00:21.70 ID:s8Q2SDgy0


狐神が何かに気がついたと同時に、キングサンドワームに対して複数の影が飛びかかった。

彼らの攻撃を受けて怯んだそれを、トゲの付いたツタが縛り上げてしまった。


勇者「ダークエルフの皆!?」

眼鏡の共和国外交官「何……!?」

村守護のダークエルフ「数日ぶりだな、勇者」

眼鏡の共和国外交官「何故ダークエルフがここにいるのですか……」

村守護のダークエルフ「何故ってそれは……」

共和国軍兵士A「外交官殿! 無事でありますか!」


ダークエルフらの背後から共和国軍の兵士らが駆け寄ってきた。


眼鏡の共和国外交官「何故我が軍がダークエルフと……これは一体どういうことですか?」
686 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 19:01:44.24 ID:s8Q2SDgy0
共和国軍兵士A「はっ! それが実は、首都防衛門の付近でこのキングサンドワームが出没いたしまして」

共和国軍兵士A「我々が苦戦していたところに彼らが駆けつけてくれまして……門前からは撃退に成功して、ここに至るという訳であります」

眼鏡の共和国外交官「馬鹿な……貴様らが我が軍を助けるメリットなど無いはずだ」

眼鏡の共和国外交官「長年一族を砂漠に追いやっていた国を突き崩すチャンスであったのでは無いのですか?」


心底不思議そうな眼鏡の外交官の顔を見て、思わずといった様子で村守護のダークエルフが笑った。


村守護のダークエルフ「はははは! 何を馬鹿なことを」

村守護のダークエルフ「そちらにその気がなくとも、我々は確かにこの国に守られていた」

村守護のダークエルフ「かの大戦から人外にとって生きにくい世の中が続いた」

村守護のダークエルフ「そんな中で見て見ぬふりとはいえ、きちんと一族で暮らす場が与えられた。感謝などはしないが、恨むこともあるまい」

村守護のダークエルフ「我々にとっての安寧の場となっているこの国が危機に瀕しているというのならば、手を貸さない理由はない」
687 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 19:03:32.90 ID:s8Q2SDgy0
眼鏡の共和国外交官「貴様らの祖先の多くは魔王の軍門に下ったのですよ?」

眼鏡の共和国外交官「再び我々人類に反旗を翻すという選択にはならなかったのですか?」

村守護のダークエルフ「奴ら……新生魔王軍はかつての魔王軍と違う」

村守護のダークエルフ「我々の祖先が共に剣を握ったかつての魔王軍とは、世代を重ねて聞き伝えられてきた軍勢とは目指している方向がまったく違う」

村守護のダークエルフ「あんなのに従うのは御免だ」

眼鏡の共和国外交官「…………」

眼鏡の共和国外交官「共に戦うというですか……我々と」

村守護のダークエルフ「勘違いしないでくれ。別に我々は新生魔王軍を打倒したいわけじゃない」

村守護のダークエルフ「人間とそれ以外とが、手を取り合って生きているこの土地を守りたいだけだ」

眼鏡の共和国外交官「……奴といい、揃いも揃って馬鹿馬鹿しいですね」
688 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 19:04:13.60 ID:s8Q2SDgy0
眼鏡の共和国外交官「人間と人外とが……? 馬鹿な、そんな事が出来るはずが……」

村守護のダークエルフ「後ろの連中を見てみろよ。皆第一歩を踏み出しているんだ」


眼鏡の外交官が振り返った先には、人間も人外も関係なく、大切なものを護るために立ち上がった者たちがいた。


眼鏡の共和国外交官「…………!」

眼鏡の共和国外交官(そんな子供の理想のような話を信じていては、現実を護ることは……)

眼鏡の共和国外交官(だが……)

眼鏡の共和国外交官「その向かう先に、この国平和があると思いますか?」

村守護のダークエルフ「そうするのが、お前らみたいな人間の仕事なんだろ?」

眼鏡の共和国外交官「……言いますね」

勇者(外交官さんが……!)
689 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 19:05:33.22 ID:s8Q2SDgy0
赤毛の術師(笑った……!?)


その背後で、もぞりと巨体が動いた。


村守護のダークエルフ「……! まだ息絶えていなかったか!!」


それに気が付くのに遅れたダークエルフらが慌てて武器を構えようとしたその時、キングサンドワームの頭部が綺麗に両断された。

剣を握っていたのは、眼鏡の外交官だった。


眼鏡の共和国外交官「これから忙しくなります。急いで首都に戻って準備に取り掛かりましょう」

共和国外交官の護衛「は、はっ!」

眼鏡の共和国外交官「まずは砂漠の民の戸籍を迅速に取るのです。内のことも把握せずに外とやり合うなどおかしな話だったのですよ」


眼鏡の外交官は護衛の兵士らを連れて踵を返して歩き出した。

残された者たちは暫し呆然として、後ろ姿を眺めていた。
690 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 19:06:02.31 ID:s8Q2SDgy0


暗器使い「あのオッサン、並み以上に強いんじゃねえか……!」

共和国首都の聖騎士長「従軍経験者とは聞いていましたが……まさかあれ程とは」

勇者「ま、まだまだ現役で行けそうだったね」

猫又「能ある鷹は、ってこと? なーんかヤラシイなあ」

レライエ「ふん。我らもさっさと帰るとしよう。また何かに襲われては面倒で敵わん」


そうして一行も眼鏡の外交官の後を追うようにして首都を目指して進み始めた。

勇者の抱える重大な問題と共に。
691 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 19:06:54.38 ID:s8Q2SDgy0





そして事件は起きた。

692 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 19:07:36.64 ID:s8Q2SDgy0



暗器使い「な……馬鹿な……」

共和国外交官の護衛「……残念ですが、たったま北方連邦国から直接入った確かな情報です」

勇者「そ、そんな……」

暗器使い「議長が……殺されただと……!?」


勇者らが連邦国に捕らえられた時に議会で顔を合わせた、大柄な熊髭の老人の姿を思い出した。

大陸会議にも出席をしており、短い時間では合ったが言葉も交わした。

勇者にとってはその程度の関わりではあるが、暗記使いにとっては違う。

彼の育ての親とも言える老人が、暗殺をされたというのだ。


勇者「それに隻眼の斧使いさんも重症だなんて……」

693 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 19:08:17.86 ID:s8Q2SDgy0
前勇者、つまり勇者の父親のパーティに属していた元戦士の紋章持ちの彼が重症を追ったという事実は、報告を聞いた全員を動揺させた。


暗器使い「エルフの馬鹿の裏切りが判明した後は、国境の警戒も厳重になっていたはずだ」

暗器使い「その網を潜り抜け、議長の暗殺に成功した上に斧使いのおっさんに重症を負わせただと……?」

暗器使い「そんな事を簡単にやってのける奴が居るっていうのか……?」

勇者「……ねえ暗器使い」

暗器使い「……どうした」

勇者「一旦国に帰りなよ。きっと君の力が必要になっているはずでしょ」

暗器使い「だが今の俺は勇者のパーティメンバーだ」

暗器使い「第一、剣が折れたお前の元を離れる訳にはいかないだろうが」

勇者「でも……!」
694 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 19:12:14.13 ID:s8Q2SDgy0
お祓い師「その点に関しては俺に任せてくれないか」

お祓い師「暗器使いが抜けた穴は、俺と狐神でカバーする」

お祓い師「剣の修復についても情報集めを手伝おう」

お祓い師「それに“これ”が、このパーティに加わる何よりの理由になる」


お祓い師の両腕には既にびっしりと何らかの印が刻まれていた。

それを避けてか、その首筋にくっきりと魔法使いの紋章が浮かび上がっていた。


勇者「魔法使いの紋章……! いつの間に……!」

狐神「例の呪術師に教えを受けていた頃じゃったかの」

お祓い師「俺達の力が、この大陸のために役立つって認められたんだろう」

お祓い師「だからここは一旦俺に任せて、あんたは国に戻れよ」
695 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 19:12:54.83 ID:s8Q2SDgy0
お祓い師「国が崩れちまったら、新生魔王軍には勝てない」

暗器使い「……すまねえ……しばらく暇をもらう……」

勇者「うん。気をつけてね」

暗器使い「……剣が治るまでは、代わりにこれを使っておけ」


暗器使いは能力によってどこからか取り出した一振りの剣を勇者に投げ渡した。


暗器使い「ナントカっていう有名な鍛冶師の打った剣だ。大きさも丁度良いぐらいだろう」

勇者「……ありがとう」

暗器使い「それじゃあ俺は行くぜ」

眼鏡の共和国外交官「北方連邦国に最速で向かえるルートと路銀になります」

暗器使い「何から何まで悪いな」
696 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 19:13:32.58 ID:s8Q2SDgy0
眼鏡の共和国外交官「国の危機を救った者をタダで返すわけにはいきませんから。ご武運を」


眼鏡の外交官からメモと金類を受け取り、お祓い師にパーティーについて色々と伝えると、暗器使いは首都を飛び出して行った。


勇者「暗器使い……」

お祓い師「心配なのは分かるが、今は自分のことだ」

お祓い師「その剣、治す手立てがあるとすれば……」

眼鏡の共和国外交官「南部諸島連合国、ですか」

お祓い師「ああ。その剣を打ったと言われている初代戦士の生まれ故郷だ」


それから数日後。

勇者は初めの頃とはまったく違う仲間──辻斬り、お祓い師、猫又、狐神らと共に、船に乗って南部諸島連合国を目指していた。

いつもの夢は、ついに見ることはなかった。
697 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/11/26(火) 19:15:02.34 ID:s8Q2SDgy0


《ランク》


S2 九尾 ベヒモス
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師 初代格闘家

A〜 黒い騎士

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 第○聖騎士団長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ  ゼパール 勇者(初代の力)
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い サロス

B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い 眼鏡の共和国外交官
B2 お祓い師 勇者 第○聖騎士副団長 褐色肌の武闘家
B3 猫又 小柄な祓師 紅眼のエルフ 村守護のダークエルフ キングサンドワーム

C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ 竜人 ゴロツキ首領 柄の悪い門下生
C2 トロール サイクロプス 法国の熱い船乗り 死霊騎士
C3 河童 商人風の盗賊  ウロコザメ サンドワーム

D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ 奴隷商 雇われゴロツキ 粗暴な御者
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ

不明 三白眼の呪術師


※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
 ※黒い騎士は特に条件変動が激しいためA〜とします。
※聖騎士団長は全団A1クラス
※聖騎士副団長は全団B2クラス
※前作「フードの侍」を「猫又」に変更。
※勇者(初代の力)は名前の通り、剣の力に頼った状態でのランクです。
※お祓い師(式神)は、狐神の力を借りている時のランク。
698 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/11/26(火) 19:17:21.48 ID:s8Q2SDgy0
《不毛の大地》編はここまでです。
Sランクのキャラも増えてきました。
次回は《心》編です。
時間が少し遡ります。あと短めです。
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/12/02(月) 00:46:17.05 ID:OFrAGycDO
キテター!!!!111乙乙乙!

>>674
こうして更新してくれてるのに何の不満が有りようか
700 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:12:37.81 ID:zIRINte70
《心》


──時間は勇者らがベヒモスと相まみえるより一月以上遡る。

──場所は、魔国。


僧侶「…………ここは?」


僧侶が目を覚ますと、見慣れない天井が目に映った。

自分の置かれている状況を即座に理解できないほど間抜けではない彼女は、深くため息をついた。


僧侶(とうとう魔国まで来てしまったってことなんですね)

一ヶ月前、勇者らは帝国領内で黒い騎士と遭遇し、辛い戦いではあったが追い詰めることに成功した。

しかし、紅目のエルフ裏切りによって取り逃がしてしまっただけではなく、僧侶は黒い騎士に連れ攫われてしまったのだ。

そして国境際の激戦区を越えて現在、魔国の中心部に僧侶はいるという経緯だ。
701 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:13:22.58 ID:zIRINte70


僧侶(皆さんはどうしているのでしょうか……)

僧侶(もし私を救出しようと無理でもしていたら……こんな敵陣の真ん中に来ては確実に殺されてしまう)

僧侶(そんな事態だけは避けなければ……)

僧侶「はあ…………私、足を引っ張ってばかり」

僧侶(いっその事ここで命を絶って、次の僧侶の紋章持ちに役目を引き継いで貰った方が……)

紅目のエルフ「なーーんて考えているんじゃないでしょうね」

僧侶「……エルフ、さん……」


僧侶が寝ていた部屋にはいつの間にか紅目のエルフが入ってきていた。

前はあんなに仲良く笑い合えたはずの相手を、僧侶はただ睨むことしか出来なかった。


紅目のエルフ「せっかく生かして捕らえた苦労が水の泡になっちゃうでしょ」
702 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:14:12.82 ID:zIRINte70
僧侶「それで貴方がたに嫌がらせが出来あるのであれば、検討に値します」

紅目のエルフ「やめておきなさいって。次の僧侶が現れても結果は同じ」

紅目のエルフ「命を使うほどの価値は無いわよ」

僧侶「……貴女は一体何が目的なんですか? この部屋も、寝具も、とても捕虜に与えるようなものでは無いです」


僧侶のいる部屋は外から鍵かかるという点以外は清潔でそれなりに広く、旅の道中の宿よりもよっぽど豪華に見えた。


紅目のエルフ「“貴女”だなんてよそよそしいじゃない。前と同じ様に読んでくれても良いのよ」

僧侶「ふざけないでください!」

紅目のエルフ「……別に、大した理由じゃないわ」

紅目のエルフ「貴女にはこれから、ここで働いてもらうんだから」

僧侶「働く……? まさか……」
703 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:14:41.84 ID:zIRINte70
紅目のエルフ「ええ。貴女には重症患者の手当をしてもらうつもり」

紅目のエルフ「特別ゲストにはそれなりの待遇をしないとね」

僧侶「そんな事に協力するわけが無いでしょう!!」

紅目のエルフ「するわ」

僧侶「何でそんな事が言い切れるんですか……!」


紅目のエルフ「──貴女の両親を殺した相手が、この城にいるわ」


僧侶「…………え…………」


その一言に、僧侶は目を見開いて固まった。


紅目のエルフ「治癒師として働く以上は貴女が処分されることは無い……」

紅目のエルフ「そうやって命を繋いで、何をしたいのか良く考えると良いわ」
704 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:15:22.05 ID:zIRINte70
僧侶「…………」

紅目のエルフ「……ほら、食事を持ってきたの。お腹が空いていたら力も十分に使えないでしょう」

紅目のエルフ「それじゃあ私は行くわね」


ホカホカと湯気が出ている美味しそうな料理は、野営時に紅目のエルフが振る舞ってくれたものと同じに見えた。
705 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:16:42.93 ID:zIRINte70





それからしばらく捕虜として生活して分かったことが幾つかある。

一つ目──ここは新生魔王軍の本拠点で、魔王城と呼ばれているという事。

二つ目──紅目のエルフが言っていた通り、今の所僧侶に危害を加えようという輩はいない。あくまで今のところは、だが。

三つ目は……。


僧侶「……また来たんですか?」

黒い騎士「仕方があるまい。これが今の俺の役割なのだから」


三つ目は、この黒い騎士が私の管理権限を持っているという事。

基本的に捕虜の扱いは捕らえた本人が幹部級であれば、その裁量に任される事が多いという。


黒い騎士「……今日も残さず食べたか」
706 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:18:30.65 ID:zIRINte70
僧侶「食べなかったら死んでしまいますもの」

黒い騎士「貴様は我軍にとって非常に有用であると判断されているからな……自決でもされては敵わないと俺がこうして監視を任されている訳だが」

黒い騎士「どうやらその心配はないようだな」

僧侶「……勇者の仲間を自陣の真ん中に置いておくという事の愚かさを、後でたっぷり思い知らせてあげます」

黒い騎士「やはり自由が効かないように、脚を使い物にならないようにしておいた方が良いか……?」


黒い騎士の冷たい視線に僧侶はぞわりと体を震わせた。


黒い騎士「とにかく馬鹿な真似は考えないほうが身のためだ」

僧侶「……わかっています」

黒い騎士「……さて、仕事の時間だ」


黒い騎士は僧侶の手枷に鎖を繋いで、部屋から連れ出した。
707 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:20:13.30 ID:zIRINte70
彼の手は両方とも健在だ。

勇者によって切り落とされたはずの腕は、その傷口も分からないほど綺麗に治療されていた。

僧侶の力は万能ではない。あくまで治癒を高速で促すだけであり、無くなった四肢を生やすようなことはできない。

しかし黒い騎士の場合は切り落とされた腕をきちんと回収していたために、無事繋げることが出来たのだ。

それが僧侶の初仕事だった。

そして今日も仕事が始まる。

僧侶の手によって怪我が完治した者の中には、心の底から僧侶に感謝をしているような人外も多かった。勿論全員ではないが。

感謝をされるという事には、敵とはいえ不思議と嫌な気持ちは起こらなかった。

しかしこうして元気になった彼らは、人間を殺すために再び戦場に向かっていくのだ。

僧侶は両親の仇を探すために、敵に協力し続けている。
708 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:20:59.74 ID:zIRINte70

僧侶(例えここを出られたとしても、皆さんに合わせる顔が有りませんね……)


紅目のエルフが言っていた事は嘘の可能性も十分にある。

仇の正体を言わない時点で僧侶をここに繋ぎ止めるための発言であることは明確だ。


僧侶(でも、それでも私は)

僧侶(お父さんとお母さんを殺めたヤツを見つけ出して……)


自治区五代目区長に渡されていた呪術を抑えるペンダント。

それに亀裂が走った事に僧侶は気がついていなかった。
709 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:21:37.40 ID:zIRINte70




黒い騎士「今日はここまでだ」

僧侶「……そうですか」


怪我人や病人が集められている棟と寝室との往復のみの毎日。

湯浴みの際は女性が見張りとして当てられるが、言葉をかわした事は無かった。

日が過ぎる毎に、忘れていたはずの痛みが体に戻ってくるような気がした。

自分を前線に連れて行けば良いのにと思ったこともあったが、前線で負傷した全員を治療しきれるほど力の容量があるのか、と一蹴された。

怪我を負ったことでここまで送られてくるのは、それなりの地位を持った者たちだ。

そうして患者の数は限られているため普段は城内で片がつくのだが、今日に限っては城の外に足を伸ばしていた。

というのも城に入れない巨大な竜兵が負傷したとのことで、城外に伏せていたそれの治癒に一日を使っていたのだ。
710 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:22:25.78 ID:zIRINte70
治療が済み、黒い騎士に連れられて寝室に戻ろうという時、雑多に積まれた木箱の影で動く影が視界に映った。


僧侶「……猫?」

黒い騎士「どこからか入り込んでいたのか」

僧侶「あ、後ろに子猫が……親子だったんですね」


よく見ると母猫の方は背中の毛を逆立てて威嚇をしているようだった。

その視線の先には……。


黒い騎士「小型の魔獣か。小型とはいえただの猫では太刀打ちできまい」


普通に考えれば勝負は見えている構図だが、母猫は唸り声と共に魔獣に飛びかかった。


黒い騎士「馬鹿な。獣は己の力量も分からないのか」

僧侶「……そういうことでは無いんですよ」
711 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:23:51.75 ID:zIRINte70
黒い騎士「何……?」


黒い騎士は僧侶の方に振り返るが、彼女はただじっと猫と魔獣の方を見ていた。

そして母猫の気迫に押されたのか、魔獣はどこかへと姿を消してしまった。

しかし母猫も無傷ではなく、赤く滲んだ毛が痛々しかった。

そこに歩寄る僧侶に母猫は唸り声を上げるが、癒やしの魔法をかけられると敵ではないと判断したのか、子猫を守る体勢は崩さないまま大人しくなった。


黒い騎士「何故そんな傷を追ってまで子を守るのか、俺にはわからない」

黒い騎士「母体が無事であれば子はまた残せる。そうすれば種は存続する」

黒い騎士「違うか?」

僧侶「……貴方は、愛というものをご存知ですか?」

黒い騎士「愛……」
712 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:24:24.61 ID:zIRINte70
僧侶「母から子への愛は、時に自分の命を投げ出してでも貫こうとするものなんですよ」

黒い騎士「……よく分からんな」

黒い騎士「猫が襲われている姿を傍観していた貴様は、これらへの愛というものが無いということか?」

僧侶「……もし私が猫を助けたら、あの魔獣は食べることに困って餓死してしまうかもしれません」

黒い騎士「結果として奴は食い損ねた。何が違うと言うのだ?」

僧侶「……争いは互いの正義がぶつかり合うものです」

僧侶「信念のない者はそこに参加する権利はないんです」

黒い騎士「信念のない者、か……なるほど」

黒い騎士「……戻るぞ」


それから近くを通る時には猫の親子を見に行くようになった。
713 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:24:56.53 ID:zIRINte70
僧侶が自分の食事を分けてあげていると、後日からは黒い騎士が自前で餌を持ってくるようになった。

彼曰く「僧侶の食事が減って健康状態に影響が出ると我々にとって不利益になる」という事らしい。
714 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:25:35.14 ID:zIRINte70





そうして、治癒、食事、湯浴み、睡眠のサイクルの中に、猫との戯れが追加されてしばらくが経った。

人間を憎むが故に僧侶に罵詈雑言を投げつけたりする者もいたが、現四天王の所有物であるため直接手を出されるような事はなかった。

中には僧侶のお蔭で死の淵から生還し、それ以来親しげに声をかけてくれる者もいた。

そんなある日、僧侶は城内の廊下で彼女に出会った。


妖艶な術師「貴女がウワサの僧侶ちゃん?」


すらっとして美しく、同性から見ても惚れ惚れする女性だった。

しかし僧侶はその瞳の奥に何か黒いものを見たような気がした。


僧侶「あの、貴女は……」

黒い騎士「我が軍一の呪術師で四天王の一角を任されている方だ」
715 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:26:08.52 ID:zIRINte70
僧侶「四天王……貴方と同じ……」

黒い騎士「いや、俺のような仮の四天王とは違う正式な立場だ」

僧侶「え、仮の……?」

妖艶な術師「そんな謙遜しなくても良いじゃない」

妖艶な術師「貴方は十分四天王としての力を有しているわ」

黒い騎士「……自分はまだまだだ」

妖艶な術師「ま、向上心が有るのは悪いことじゃないわ」

妖艶な術師「それにしても貴女……」


術師が僧侶の瞳を覗き込むように乗り出してきた。


僧侶「な、何か……?」
716 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:26:42.90 ID:zIRINte70
妖艶な術師「おかしいわね……だって貴女……」

妖艶な術師「ま、あとで百目に聞いてみましょ」


そう言って僧侶から離れると、クルッと振り返って歩き出してしまった。


僧侶「な、何だったのでしょうか……」

黒い騎士「彼女は参謀面でも重要な役割を果たしていてな。多忙が故か、今のような短時間の息抜きをしているのを見かける」

僧侶「随分と貴方の肩を持っていたようだけれど」

黒い騎士「そう見えたか?」

僧侶「少なくとも私には」

黒い騎士「……そうだとすれば自分の成果への自信、といった所だろうな」

僧侶「成果?」
717 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:27:18.36 ID:zIRINte70
黒い騎士「ああ」

黒い騎士「俺は彼女によって創られた存在だからな」

黒い騎士「話はここまでだ、戻るぞ」

僧侶「は、はい……」


部屋に戻ろうとした二人に新たに声を掛ける者達が現れた。


角長の化け猿「よう人間の嬢ちゃん、元気かい」

面長の化け猪「へへっ、騎士様もご一緒でしたか」

丸顔の化け蛙「仕事帰り?」

僧侶「あ、どうも……」


この三人は僧侶に親しくしてくれる人外の中でも特に言葉を交わすことが多い。
718 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:27:52.10 ID:zIRINte70
見ての通りの軽い性格で、周りからひょうきん三人組と呼ばれているのを聞いたことがある。


角顔の化け猿「大丈夫か? 少し顔が疲れてるな」

丸顔の化け蛙「頑張りすぎんなよ〜」

丸顔の化け蛙「頑張りすぎるとコイツみたいな顔になるぜ」

面長の化け猪「あ? 俺の顔が何だって?」

丸顔の化け蛙「のっぺりして溶けそうじゃん? おまけに豚みたいでさ」

面長の化け猪「なんだと!」

角顔の化け猿「豚顔なのは当たり前だろ! なはは!」

丸顔の化け蛙「そりゃそうだ!」

面長の化け猪「そ、そりゃそうか!」
719 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2020/03/02(月) 21:28:23.13 ID:zIRINte70
ひょうきん三人組「わははははははっ!」

黒い騎士「……行くぞ」

僧侶「あ、はい」

黒い騎士「あんなのと親しくしているのか」

僧侶「悪い人達じゃないんですよ?」

黒い騎士「……ほどほどにしないと馬鹿が移るぞ」

僧侶「酷いですね。移りませんよ」

黒い騎士「……お前も中々だぞ」

僧侶「え?」

黒い騎士「……いや、何でも無い」
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